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今日、彼が知らない女と腕を組んで一緒に歩いているのを見かけた。 この親密さは、女友達というレベルではない。声をかけたいのを我慢してこっそり後をつける。 駅のホームで二人はベンチに座った。すぐ後ろの柱の陰にあたしがいることなど全く気づいていない。 耳を澄まして会話を聞いてみると、その女がペットも飼えるマンションに引っ越したので、 タブンネを引き取りたいということを言っているようだ。 「だいぶ長く預けちゃってごめんねー。タブンネちゃん元気にしてる?」 「元気元気!飼育係の○○さんがしっかり世話してくれてるからさ」 あたしの名前だ。飼育係? あたしが? あたしが彼から預かってるタブンネのことなの? まさか、まさか、まさか……。 「でもあんたわっるいわねー、自分じゃ飼えないからって人に世話押し付けるなんてさ」 「まあまあ、世間知らずのお嬢様にタブンネちゃんを世話する喜びを教えてあげたんだよ。 授業料払ってほしいくらいだぜ」 「ひっどーい」 あたしの頭の中がぐるぐる回り出す。世界が足元から崩れそうな気がした。 電車がホームに到着した音に紛れ、あたしはその場から逃げるように走り去った。 どうやって自分の家までたどりついたか、よく覚えていない。 泣き顔だけは人前で晒すまいと必死でこらえていたつもりだったが、それも自信がない。 とにかく家に帰ったあたしは玄関を閉めると、靴を脱いだところで、廊下にがくりと座り込んだ。 「そんな……どうして……」 思えば、確かに前々から怪しい兆候はあった。 私の家へ遊びに来た時に、「広くていい家だね」とやたら褒めていた事…。 それから間もなく、自分の所では飼えないからとタブンネを預けられた事…。 誰かと頻繁に、携帯電話でポケモンの話をしていたが、その口調も女に対するものだった。 「大学のサークルの女友達だよ」って言うからそれ以上追及しなかったけど…。 全てわかった。彼……いや、あいつはあの女のためにタブンネを預ける場所が欲しかっただけなんだ。 あたしは、甘い言葉に乗せられて有頂天になって、処女も捧げて、 タブンネの飼育係をやらされていただけだったんだ……なんてバカなあたし……。 涙で廊下がぐしょ濡れになるのも構わず、あたしは泣いた。 しばらくして携帯が鳴った。発信者を見てギクッとした。あいつからだ。 慌てて涙を拭い、できるだけ平静を装って電話に出る。 「もしもし……」 「よっ、俺だよ。突然で悪いんだけどさあ、明日タブンネちゃんを引き取りに行っていいかな。 実は預かってくれる人が見つかってさ。いつまでもお前に迷惑もかけられないし」 「うん……いいけど……」 「悪いな。明日10時に行くからよろしく、そんじゃ!」 言いたいことだけ一方的に言うと、素っ気無く電話は切れた。気遣いなど全くない業務連絡。 言葉には出さなくとも、もうあたしには興味がないのだとはっきりわかる。 (ああ、もう用済みなんだ。捨てられたんだ……) 惨めな思いがこみ上げてきて、あたしは携帯を取り落とすと、また涙に暮れた。 ひとしきり泣いた後、あたしはふらふらと立ち上がり、タブンネを飼っている部屋に向かう。 あたしの家はいわゆる旧家で、年季は経ているもののかなり広い。 両親が海外で駐在する仕事をしていて、帰ってくるのは年に一度か二度。 使っていない部屋も多く、タブンネが多少鳴き声を上げても近所に迷惑はかからない。 だからあいつに目をつけられたのだろう。あたしという飼育員つきの、格好の飼育小屋として。 タブンネを飼っているのは十二畳の和室。一隅に柔らかい毛布を敷き詰め、巣の代わりにしている。 側には一平方メートルくらいの平たい箱に砂を敷き詰めたトイレも用意してある。 親子5匹で使用するので、これくらいの広さが必要なのだ。 巣の側では、体長25センチ程の4匹のベビンネがじゃれあって遊んでいた。 そして巣に寝転がった母親タブンネが、その光景を目を細めて眺めている。 ベビンネ達はあたしの姿に気づくと「チィチィ♪」と口々に鳴きながら、私の足元にまとわりつく。 「ごはんちょうだい」のサインだ。乳離れしてオボンの実の味を覚えたからだ。 さらに催促するようにママンネも、手をパタパタさせ、ふわふわした尻尾を振る。 子供達同様に食事をせがんでいる。 タブンネ愛好家なら、たまらなく可愛らしい姿に見えただろう。 だが今のあたしの目には、それは飢えた豚の群れのように感じられた。 それに、半年間世話してみて、こいつらの性根がよくわかっていた。 こいつらは生まれながらに人に媚びる術を知っている。自分の容姿が武器である事を知っている。 ずる賢く餌をねだり、しかもそれを当然だと思っている連中なのだ。 ママンネのほうを見る。立ち尽くしているあたしに対し、まだ尻尾を振ってアピールしている。 その一見すると無心な目の輝きが、あたしに語りかけている。 「何やってんの、赤ちゃん達がお腹をすかせてるじゃないの、早くご飯持ってきなさいよ」と。 ああ、こいつらもか。あいつと同じだ。あたしをただの餌の運搬係だと思ってるんだ。 一方的に要求して自分の欲望だけを満たし、内心ではあたしを見下していたってわけね。 それでもあたしが突っ立ったままなので、ママンネは痺れを切らしたらしい。 ベビンネ達が遊ぶためのゴムまりを手に取って、あたしに投げつけた。左目を直撃する。 「痛っ!」 いかに柔らかいゴムまりとはいえ、目に当たってはさすがに痛い。あたしはうずくまった。 しかしそんなあたしの様子など全く気づかないのか、ベビンネ達は食事を催促し続けている。 左目を抑えながらママンネの方を見た。明らかに不機嫌な表情になっていた。 「もたもたしてるからそうなるのよ、この愚図!」とでも言いたいのだろうか。 (どいつも………こいつも………人を馬鹿にして………!!) あたしは自分の中に沸き上がる、どす黒い衝動を抑えられなくなっていた。 「いい加減に…しろおっ!!」 あたしは右足にまとわりついていた1匹のベビンネを鷲掴みにして、思い切り投げ飛ばす。 「ミギィィッ!?」ベビンネは壁に叩きつけられ、バウンドして畳に転がった。「チチィ…」と泣き出す。 驚く他の連中は逃げ出そうとしたが、間髪いれず3匹連続で蹴飛ばした。 「ヂヂッ!」「チィィ!」「ケホケホッ!」壁に跳ね返って転がり、腹を押さえ咳き込み、悶絶するベビンネ達。 ママンネが血相を変えて立ち上がった。「私の赤ちゃんに何をするの!」と言いたげだ。 ダッシュで捨て身タックルをかましてきた。あたしは軽くステップしてそれをかわす。 渾身の攻撃をかわされたママンネは、焦りの表情を見せながら、再び襲ってきた。 今度もあたしはかわすが、すれ違いざまにママンネの側頭部にハイキックを食らわせた。 自分自身の突進の勢いに、あたしのキックの威力が加わって、ママンネは壁に思い切り激突する。 「ミ、ミギィィッ…!」ふらついてこっちを向き直ったところで、今度は顔面に蹴りを見舞う。 ママンネは鼻血を噴き出しながら、もんどりうって畳に倒れた。 あたしはそのママンネを見下ろした。 「知らなかったでしょ?あたし、高校までずっと空手やってたのよ。全国大会で入賞したこともあるの。 乱暴な女だと思われたくなかったから、あいつの前では見せたことなかったしね」 言いながら、あたしはママンネの肉付きのいい腹に、右の正拳突きを叩き込む。 「ミボォォッ!」ママンネは呻き声を上げて悶え苦しむ。 「ねえ、あんた。もしかしてあたしが弱いってずっと思ってなかった? あんたがじゃれついてきた時、あたしが『うわー、やられた』とか言ってみせたもんだから、 あたしより自分がずっと強いって勘違いしてたんでしょ?餌係の奴隷だとでも思ってなかった?」 二発、三発、四発。あたしは容赦なく拳を腹にぶち込んでいく。 「ミグッ!グブ、グゲェ…ミィィ……!」ママンネはたまらず嘔吐した。 まだ消化しきっていない木の実などが混じった吐瀉物を畳の上にぶちまけ、吐きながらミィミィ泣き出す。 「もうっ!汚いわねっ!」 あたしはまだのたうち回っているベビンネを1匹つかむと、雑巾代わりにして畳を拭き始めた。 「チィ!チィィィ!」蹴られた痛みも回復しないうちに、乱暴に畳にこすりつけられたベビンネは泣き喚く。 「やめて!ひどい事しないで!」とばかりに、ママンネが助けようと手を伸ばそうとするが、 あたしはその横っ面に平手打ちを見舞った。 「ミミィッ!?」 「あんたが汚したんでしょ!?あんたの子に責任取ってもらうのは当然でしょ!」 ママンネはあたしにかなわない事を覚ったのか、ガタガタ震えてそれ以上逆らおうとしない。 ようやく畳を拭き終わる。雑巾ンネと化したベビンネはぐったりして「ミィ…フィィ…」と弱々しく泣くだけだ。 ピンク色の毛並みも母親の吐瀉物まみれとなって薄汚れ、悪臭を放っていた。 まだ起き上がれないママンネの回りに、残り3匹のベビンネが這いずりながら寄って来てチィチィ泣き始めた。 「ママ、いたいよぉ」「どうしてこんなめにあわなきゃいけないの?」とでも訴えているのか。 でもあたしの中の理性のブレーキはもう壊れていた。 もっともっとこいつらを苦しめなくては、地獄を見せてやらなくては気が済まない。 あたしは雑巾ンネを鷲掴みにしたまま立ち上がった。 「お願い、その子を返して」と言いたそうに、ママンネが手を合わせて哀願する。 「だったらあたしについて来なさい。その子達も一緒にね!」 冷たく突き放して、あたしはすたすたと歩き出す。 置いていかれては大変と、痛む腹を押さえてよろつきながらママンネが後をついてきた。 ベビンネ達もチィチィ泣きながら、ヨチヨチと母親の後に続いた。 あたしが向かったのは台所だった。 八畳ほどのスペースはあるが、一人住まいだし、あまり使っていない。 その隅に置いていた新聞袋から1週間分くらいの新聞を取り出し、雑巾ンネと一緒に、 ママンネの足元に放り出した。 「チィィ!」「ミィ、ミィ!」泣き声を上げる雑巾ンネを、抱き締めるママンネ。 だがお構いなしにあたしは命じる。 「さあ、この新聞紙を床に敷き詰めなさい。わかる?覆い隠すように敷くのよ」 我が子を取り戻した喜びも束の間、あたしの感情を読み取ったママンネは、 びくびくしながら新聞を広げて、台所の床に広げ始めた。 そう、しっかり敷きなさい。これからいろいろ汚すことになるんだから。 「逃げようなんて思うんじゃないわよ、いいわね」 あたしは言い捨てて、その場を離れた。 自分の部屋に戻り、外出着からラフなジャージとTシャツに着替えて、 道具箱からガムテープを取り出してから、再び台所に向かう。 油断のならないタブンネのことだから、隙を見せれば逃げようとするかもしれないが、 あの鈍重な体と短足で、しかも4匹のベビンネを抱えては逃げ切れまい。 連中は逃げてはいなかった。しかし、あたしが命じた作業を終えてもいなかった。 ママンネは新聞紙を敷くのを途中でやめ、雑巾ンネを舌でペロペロ舐めて、 吐瀉物と畳拭きで汚れた体の毛づくろいをしていたのだった。 たった2~3分、目を離しただけなのに、もう作業中断とは……。 あたしのこめかみに血管が浮かび上がる。 「サボってんじゃないわよっ!!」 あたしはママンネの顔面にサッカーボールキックを食らわせた。 「ミギィィ!!」悲鳴を上げたママンネは吹っ飛ばされ、壁に後頭部を打ち付ける。 「チィチィ!」「ミィミィ!」それを見たベビンネ達がまた、怯えて一斉に泣き出した。 あたしは、横たわって母親の愛を受けていた雑巾ンネを左手で引っつかみ、 右手でママンネの触覚を引っ張った。 「ミギィィ!!」敏感な触覚に激痛が走ったらしいママンネが、また悲鳴を上げる。 「1分で敷き終わりなさい!この子がどうなっても知らないわよ!!」 直にあたしの怒りが伝わってきたママンネは「それだけは許して」と言いたげに 手を合わせて謝り、ミィミィ泣きながら大慌てで新聞紙を台所に敷き詰め始めた。 「まったく…あたしの命令も忘れて、我が子を綺麗にするほうが優先ってわけね。 いいわ、じゃあもうちょっと綺麗にし甲斐があるようにしてあげようかしら。」 あたしは左手の雑巾ンネを、流しの中に顔面からドスンと叩き付けた。 「チギィッ!」一声呻いた雑巾ンネに、蛇口を捻って水を浴びせる。 そしてスポンジでゴシゴシと乱暴に雑巾ンネを洗った。 吐瀉物の汚れは落ちていくが、毛は毟られ、地肌を直に擦られ、水で息もできない。 「ヂィ!ミギィ、ゴボゲヒィィィ!!」様々な苦痛の入り混じった泣き声を雑巾ンネは上げた。 洗い終わって水を止めると、雑巾ンネは「ミヒィ…フィィィ…」ともはや息も絶え絶えだった。 それを尻目に、あたしはゴム手袋をつける。 この後の作業は、素手でやるにはちょっとハードなものになるからだ。 あたしは、さっき持ってきたガムテープで、雑巾ンネの両手をグルグル巻きにした。 両足も同じようにする。これでもう逃げることはできない。 そして冷蔵庫から、チューブ入りのねりからしとねりわさびを取り出した。 「チィ、チィィ…」許しを請うように雑巾ンネはいやいやをするが、その頭をあたしは左手で押さえつけ、 右手でねりからしのチューブを取り、雑巾ンネの体にありったけ絞って塗りたくる。次にねりわさびも。 そしてスポンジで思い切り擦って、ねりからしとねりわさびを雑巾ンネの体にすり込んだ。 「ミギャァァァァァァァァァァ!!!ピィィィギャァァァァァァァァァァ!!!」 その小さな体のどこから出るのかと思うくらい、激しい悲鳴を上げて雑巾ンネは暴れた。 雑巾ンネの悲鳴に、ママンネがぎくりとしてこっちを見るが、あたしに睨まれると視線をそらした。 しかしあたしはお構いなしに擦り続ける。水洗いでグチャグチャになっていた雑巾ンネのピンクの毛並は からしの黄色とわさびの緑色のツートンカラーが混じりあい、濁った黄緑色に染まっていく。 「ミヒ!ミ、ミギュァァァァ!!ピィィィィィィィィ!!!!」 あらかたすり込むと、あたしは泣き叫ぶ雑巾ンネの首根っこをつかむ。 そして、ようやく新聞紙を敷き終わったママンネの前に放り捨てた。 激痛で雑巾ンネは暴れる。両手両足をガムテープで縛られているので、海老のような動きしかできないが。 ママンネは抱き寄せて、先程と同じように、舌で舐めて我が子を綺麗にしようとする。 「ミィッ!?グハァ!!」 ところが、思わずママンネは雑巾ンネを取り落としてしまった。舌を突き出してハァハァ言っている。 そりゃそうでしょうね。人間の家の中で、甘い果実ばかり食べてヌクヌク生きてきたあんたにとっては、 こんな辛さは初めて出会う感覚なんだろうから。恐怖心すら呼び起こしているかもしれないわね。 だが母性本能のなせる業か、涙を流しつつも舌の苦痛をこらえ、ママンネは雑巾ンネに近づいた。 しかし今度は「ミヒィ!!」と叫んで鼻を押さえて尻餅をついた。辛い空気をもろに吸ったようだ。 チィチィ泣き叫びながら激痛にのた打ち回る雑巾ンネの目からは、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。 痛みだけではなく、助けてくれない母親に対する絶望感が心を押し潰さんとしているに違いない。 「ママ!ママ!いたいよぅ!たすけてよぅ!どうしてなめてくれないの!?」 雑巾ンネの心の声が聞こえたような気がして、あたしは残酷な笑みを浮かべた。 あたしは冷蔵庫から1本の小ビンを取り出す。ジョロキアソースだ。タバスコの数百倍辛いという代物である。 ジョロキアの瓶の蓋を取り、1滴ずつしか垂らせないようにしてある瓶の口のプラスチックのカバーを外した。 「あーらら、冷たいママでちゅねえ。ボクが苦しんでるのに、好きな味じゃないから舐めたくないんですって。 酷いでちゅねー。こんなママにはバイバイしちゃいまちょうねー。」 そして床の上でのた打ち回っている雑巾ンネの喉首をつかむと、その両方の瞳めがけて、ジョロキアをぶっかけた。 「ミギャァァァァァ!!!!!!ィィィィィギァァァァァ!!!!!!」 サファイアのような青い瞳が、一瞬で真っ赤に変わって血の涙が流れる。 激痛によるショックで、毛細血管が破裂でもしたのかもしれない。 しかしあたしは容赦なく、ジョロキアの瓶を雑巾ンネに咥えさせると、残りを全部ドボドボ流し込んだ。 人間だってこんなことしたらただでは済むまい、ましてや小さな体躯のタブンネでは……。 「ミヒィ――――――ッッッ!!!!! ピィィィ――――――ッ!!!!!!!」 まるでお湯が沸騰した時の笛吹きケトルにそっくりな、甲高い悲鳴を雑巾ンネを絞り出した。 それこそ火を噴きそうな声で、雑巾ンネは狂ったかのように、ガムテープの拘束も引き千切らんばかりに暴れる。 「ヒィィ―――!!!!!……ィィィ……―――……!!!!」 しかし悲鳴は途中からかすれて聞こえなくなった。喉が焼けて、もはや声が出なくなったに違いない。 そして、おろおろするママンネの目の前で、ゴボッと血の塊を吐いたかと思うと、 雑巾ンネはそのまま動かなくなった。内臓がジョロキアで焼け爛れたか、ショックで心臓が止まったか。 いずれにせよ苦痛に満ち満ちた死に顔だった。30分ほど前には綺麗なピンクの毛皮をまとっていた体は、 今や薄汚れた黄緑色と血に染まった、それこそ酷使されたボロ雑巾のような姿になっていた。 「ミ……ミ…?……ミィィ……!」 ママンネは動かなくなった雑巾ンネに恐る恐る近づき、触覚を当てた。 「もう手遅れよ」 「ミ……ミッ………ミェェェェン……!」 あたしに言われるまでもなく、雑巾ンネから命の気配が途絶えたことがわかったのだろう。 ボロボロになった雑巾ンネを抱き締めて、さめざめと泣き出した。 「ミッ!ケホッ、ケホッ!ミィィ…」 辛い匂いに時々むせながら、物言わぬ我が子に何やら話しかけているようだ。 あたしはしゃがみこんで、ママンネの耳元で言った。 「何を今更。さっきはその辛さが嫌で、助けるのに二の足踏んだくせに。この死に顔見なさいよ。 ちょっとでも我慢して舐めてあげてれば、こんな絶望した顔にならなかったでしょうね。 『ママ、どうして助けてくれなかったの』って、あんたを怨みながら死んでいったんでしょうね」 「ミィ!?ミィミィ!!」 ママンネは「違う!違う!」と言いたそうにいやいやと首を振る。 その様子を見てあたしは溜飲が下がる思いだった。さて、次はどう料理しようかしら。 (つづく)
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訪問日 2016/08/08 住所 北京东路2号 グレンラインブル 公和洋行設計の鉄筋コンクリート造り7階建。英国新古典派ルネサンス様式。 1922年竣工。
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今日、彼が知らない女と腕を組んで一緒に歩いているのを見かけた。 この親密さは、女友達というレベルではない。声をかけたいのを我慢してこっそり後をつける。 駅のホームで二人はベンチに座った。すぐ後ろの柱の陰にあたしがいることなど全く気づいていない。 耳を澄まして会話を聞いてみると、その女がペットも飼えるマンションに引っ越したので、 タブンネを引き取りたいということを言っているようだ。 「だいぶ長く預けちゃってごめんねー。タブンネちゃん元気にしてる?」 「元気元気!飼育係の○○さんがしっかり世話してくれてるからさ」 あたしの名前だ。飼育係? あたしが? あたしが彼から預かってるタブンネのことなの? まさか、まさか、まさか……。 「でもあんたわっるいわねー、自分じゃ飼えないからって人に世話押し付けるなんてさ」 「まあまあ、世間知らずのお嬢様にタブンネちゃんを世話する喜びを教えてあげたんだよ。 授業料払ってほしいくらいだぜ」 「ひっどーい」 あたしの頭の中がぐるぐる回り出す。世界が足元から崩れそうな気がした。 電車がホームに到着した音に紛れ、あたしはその場から逃げるように走り去った。 どうやって自分の家までたどりついたか、よく覚えていない。 泣き顔だけは人前で晒すまいと必死でこらえていたつもりだったが、それも自信がない。 とにかく家に帰ったあたしは玄関を閉めると、靴を脱いだところで、廊下にがくりと座り込んだ。 「そんな……どうして……」 思えば、確かに前々から怪しい兆候はあった。 私の家へ遊びに来た時に、「広くていい家だね」とやたら褒めていた事…。 それから間もなく、自分の所では飼えないからとタブンネを預けられた事…。 誰かと頻繁に、携帯電話でポケモンの話をしていたが、その口調も女に対するものだった。 「大学のサークルの女友達だよ」って言うからそれ以上追及しなかったけど…。 全てわかった。彼……いや、あいつはあの女のためにタブンネを預ける場所が欲しかっただけなんだ。 あたしは、甘い言葉に乗せられて有頂天になって、処女も捧げて、 タブンネの飼育係をやらされていただけだったんだ……なんてバカなあたし……。 涙で廊下がぐしょ濡れになるのも構わず、あたしは泣いた。 しばらくして携帯が鳴った。発信者を見てギクッとした。あいつからだ。 慌てて涙を拭い、できるだけ平静を装って電話に出る。 「もしもし……」 「よっ、俺だよ。突然で悪いんだけどさあ、明日タブンネちゃんを引き取りに行っていいかな。 実は預かってくれる人が見つかってさ。いつまでもお前に迷惑もかけられないし」 「うん……いいけど……」 「悪いな。明日10時に行くからよろしく、そんじゃ!」 言いたいことだけ一方的に言うと、素っ気無く電話は切れた。気遣いなど全くない業務連絡。 言葉には出さなくとも、もうあたしには興味がないのだとはっきりわかる。 (ああ、もう用済みなんだ。捨てられたんだ……) 惨めな思いがこみ上げてきて、あたしは携帯を取り落とすと、また涙に暮れた。 ひとしきり泣いた後、あたしはふらふらと立ち上がり、タブンネを飼っている部屋に向かう。 あたしの家はいわゆる旧家で、年季は経ているもののかなり広い。 両親が海外で駐在する仕事をしていて、帰ってくるのは年に一度か二度。 使っていない部屋も多く、タブンネが多少鳴き声を上げても近所に迷惑はかからない。 だからあいつに目をつけられたのだろう。あたしという飼育員つきの、格好の飼育小屋として。 タブンネを飼っているのは十二畳の和室。一隅に柔らかい毛布を敷き詰め、巣の代わりにしている。 側には一平方メートルくらいの平たい箱に砂を敷き詰めたトイレも用意してある。 親子5匹で使用するので、これくらいの広さが必要なのだ。 巣の側では、体長25センチ程の4匹のベビンネがじゃれあって遊んでいた。 そして巣に寝転がった母親タブンネが、その光景を目を細めて眺めている。 ベビンネ達はあたしの姿に気づくと「チィチィ♪」と口々に鳴きながら、私の足元にまとわりつく。 「ごはんちょうだい」のサインだ。乳離れしてオボンの実の味を覚えたからだ。 さらに催促するようにママンネも、手をパタパタさせ、ふわふわした尻尾を振る。 子供達同様に食事をせがんでいる。 タブンネ愛好家なら、たまらなく可愛らしい姿に見えただろう。 だが今のあたしの目には、それは飢えた豚の群れのように感じられた。 それに、半年間世話してみて、こいつらの性根がよくわかっていた。 こいつらは生まれながらに人に媚びる術を知っている。自分の容姿が武器である事を知っている。 ずる賢く餌をねだり、しかもそれを当然だと思っている連中なのだ。 ママンネのほうを見る。立ち尽くしているあたしに対し、まだ尻尾を振ってアピールしている。 その一見すると無心な目の輝きが、あたしに語りかけている。 「何やってんの、赤ちゃん達がお腹をすかせてるじゃないの、早くご飯持ってきなさいよ」と。 ああ、こいつらもか。あいつと同じだ。あたしをただの餌の運搬係だと思ってるんだ。 一方的に要求して自分の欲望だけを満たし、内心ではあたしを見下していたってわけね。 それでもあたしが突っ立ったままなので、ママンネは痺れを切らしたらしい。 ベビンネ達が遊ぶためのゴムまりを手に取って、あたしに投げつけた。左目を直撃する。 「痛っ!」 いかに柔らかいゴムまりとはいえ、目に当たってはさすがに痛い。あたしはうずくまった。 しかしそんなあたしの様子など全く気づかないのか、ベビンネ達は食事を催促し続けている。 左目を抑えながらママンネの方を見た。明らかに不機嫌な表情になっていた。 「もたもたしてるからそうなるのよ、この愚図!」とでも言いたいのだろうか。 (どいつも………こいつも………人を馬鹿にして………!!) あたしは自分の中に沸き上がる、どす黒い衝動を抑えられなくなっていた。 「いい加減に…しろおっ!!」 あたしは右足にまとわりついていた1匹のベビンネを鷲掴みにして、思い切り投げ飛ばす。 「ミギィィッ!?」ベビンネは壁に叩きつけられ、バウンドして畳に転がった。「チチィ…」と泣き出す。 驚く他の連中は逃げ出そうとしたが、間髪いれず3匹連続で蹴飛ばした。 「ヂヂッ!」「チィィ!」「ケホケホッ!」壁に跳ね返って転がり、腹を押さえ咳き込み、悶絶するベビンネ達。 ママンネが血相を変えて立ち上がった。「私の赤ちゃんに何をするの!」と言いたげだ。 ダッシュで捨て身タックルをかましてきた。あたしは軽くステップしてそれをかわす。 渾身の攻撃をかわされたママンネは、焦りの表情を見せながら、再び襲ってきた。 今度もあたしはかわすが、すれ違いざまにママンネの側頭部にハイキックを食らわせた。 自分自身の突進の勢いに、あたしのキックの威力が加わって、ママンネは壁に思い切り激突する。 「ミ、ミギィィッ…!」ふらついてこっちを向き直ったところで、今度は顔面に蹴りを見舞う。 ママンネは鼻血を噴き出しながら、もんどりうって畳に倒れた。 あたしはそのママンネを見下ろした。 「知らなかったでしょ?あたし、高校までずっと空手やってたのよ。全国大会で入賞したこともあるの。 乱暴な女だと思われたくなかったから、あいつの前では見せたことなかったしね」 言いながら、あたしはママンネの肉付きのいい腹に、右の正拳突きを叩き込む。 「ミボォォッ!」ママンネは呻き声を上げて悶え苦しむ。 「ねえ、あんた。もしかしてあたしが弱いってずっと思ってなかった? あんたがじゃれついてきた時、あたしが『うわー、やられた』とか言ってみせたもんだから、 あたしより自分がずっと強いって勘違いしてたんでしょ?餌係の奴隷だとでも思ってなかった?」 二発、三発、四発。あたしは容赦なく拳を腹にぶち込んでいく。 「ミグッ!グブ、グゲェ…ミィィ……!」ママンネはたまらず嘔吐した。 まだ消化しきっていない木の実などが混じった吐瀉物を畳の上にぶちまけ、吐きながらミィミィ泣き出す。 「もうっ!汚いわねっ!」 あたしはまだのたうち回っているベビンネを1匹つかむと、雑巾代わりにして畳を拭き始めた。 「チィ!チィィィ!」蹴られた痛みも回復しないうちに、乱暴に畳にこすりつけられたベビンネは泣き喚く。 「やめて!ひどい事しないで!」とばかりに、ママンネが助けようと手を伸ばそうとするが、 あたしはその横っ面に平手打ちを見舞った。 「ミミィッ!?」 「あんたが汚したんでしょ!?あんたの子に責任取ってもらうのは当然でしょ!」 ママンネはあたしにかなわない事を覚ったのか、ガタガタ震えてそれ以上逆らおうとしない。 ようやく畳を拭き終わる。雑巾ンネと化したベビンネはぐったりして「ミィ…フィィ…」と弱々しく泣くだけだ。 ピンク色の毛並みも母親の吐瀉物まみれとなって薄汚れ、悪臭を放っていた。 まだ起き上がれないママンネの回りに、残り3匹のベビンネが這いずりながら寄って来てチィチィ泣き始めた。 「ママ、いたいよぉ」「どうしてこんなめにあわなきゃいけないの?」とでも訴えているのか。 でもあたしの中の理性のブレーキはもう壊れていた。 もっともっとこいつらを苦しめなくては、地獄を見せてやらなくては気が済まない。 あたしは雑巾ンネを鷲掴みにしたまま立ち上がった。 「お願い、その子を返して」と言いたそうに、ママンネが手を合わせて哀願する。 「だったらあたしについて来なさい。その子達も一緒にね!」 冷たく突き放して、あたしはすたすたと歩き出す。 置いていかれては大変と、痛む腹を押さえてよろつきながらママンネが後をついてきた。 ベビンネ達もチィチィ泣きながら、ヨチヨチと母親の後に続いた。 あたしが向かったのは台所だった。 八畳ほどのスペースはあるが、一人住まいだし、あまり使っていない。 その隅に置いていた新聞袋から1週間分くらいの新聞を取り出し、雑巾ンネと一緒に、 ママンネの足元に放り出した。 「チィィ!」「ミィ、ミィ!」泣き声を上げる雑巾ンネを、抱き締めるママンネ。 だがお構いなしにあたしは命じる。 「さあ、この新聞紙を床に敷き詰めなさい。わかる?覆い隠すように敷くのよ」 我が子を取り戻した喜びも束の間、あたしの感情を読み取ったママンネは、 びくびくしながら新聞を広げて、台所の床に広げ始めた。 そう、しっかり敷きなさい。これからいろいろ汚すことになるんだから。 「逃げようなんて思うんじゃないわよ、いいわね」 あたしは言い捨てて、その場を離れた。 自分の部屋に戻り、外出着からラフなジャージとTシャツに着替えて、 道具箱からガムテープを取り出してから、再び台所に向かう。 油断のならないタブンネのことだから、隙を見せれば逃げようとするかもしれないが、 あの鈍重な体と短足で、しかも4匹のベビンネを抱えては逃げ切れまい。 連中は逃げてはいなかった。しかし、あたしが命じた作業を終えてもいなかった。 ママンネは新聞紙を敷くのを途中でやめ、雑巾ンネを舌でペロペロ舐めて、 吐瀉物と畳拭きで汚れた体の毛づくろいをしていたのだった。 たった2~3分、目を離しただけなのに、もう作業中断とは……。 あたしのこめかみに血管が浮かび上がる。 「サボってんじゃないわよっ!!」 あたしはママンネの顔面にサッカーボールキックを食らわせた。 「ミギィィ!!」悲鳴を上げたママンネは吹っ飛ばされ、壁に後頭部を打ち付ける。 「チィチィ!」「ミィミィ!」それを見たベビンネ達がまた、怯えて一斉に泣き出した。 あたしは、横たわって母親の愛を受けていた雑巾ンネを左手で引っつかみ、 右手でママンネの触覚を引っ張った。 「ミギィィ!!」敏感な触覚に激痛が走ったらしいママンネが、また悲鳴を上げる。 「1分で敷き終わりなさい!この子がどうなっても知らないわよ!!」 直にあたしの怒りが伝わってきたママンネは「それだけは許して」と言いたげに 手を合わせて謝り、ミィミィ泣きながら大慌てで新聞紙を台所に敷き詰め始めた。 「まったく…あたしの命令も忘れて、我が子を綺麗にするほうが優先ってわけね。 いいわ、じゃあもうちょっと綺麗にし甲斐があるようにしてあげようかしら。」 あたしは左手の雑巾ンネを、流しの中に顔面からドスンと叩き付けた。 「チギィッ!」一声呻いた雑巾ンネに、蛇口を捻って水を浴びせる。 そしてスポンジでゴシゴシと乱暴に雑巾ンネを洗った。 吐瀉物の汚れは落ちていくが、毛は毟られ、地肌を直に擦られ、水で息もできない。 「ヂィ!ミギィ、ゴボゲヒィィィ!!」様々な苦痛の入り混じった泣き声を雑巾ンネは上げた。 洗い終わって水を止めると、雑巾ンネは「ミヒィ…フィィィ…」ともはや息も絶え絶えだった。 それを尻目に、あたしはゴム手袋をつける。 この後の作業は、素手でやるにはちょっとハードなものになるからだ。 あたしは、さっき持ってきたガムテープで、雑巾ンネの両手をグルグル巻きにした。 両足も同じようにする。これでもう逃げることはできない。 そして冷蔵庫から、チューブ入りのねりからしとねりわさびを取り出した。 「チィ、チィィ…」許しを請うように雑巾ンネはいやいやをするが、その頭をあたしは左手で押さえつけ、 右手でねりからしのチューブを取り、雑巾ンネの体にありったけ絞って塗りたくる。次にねりわさびも。 そしてスポンジで思い切り擦って、ねりからしとねりわさびを雑巾ンネの体にすり込んだ。 「ミギャァァァァァァァァァァ!!!ピィィィギャァァァァァァァァァァ!!!」 その小さな体のどこから出るのかと思うくらい、激しい悲鳴を上げて雑巾ンネは暴れた。 雑巾ンネの悲鳴に、ママンネがぎくりとしてこっちを見るが、あたしに睨まれると視線をそらした。 しかしあたしはお構いなしに擦り続ける。水洗いでグチャグチャになっていた雑巾ンネのピンクの毛並は からしの黄色とわさびの緑色のツートンカラーが混じりあい、濁った黄緑色に染まっていく。 「ミヒ!ミ、ミギュァァァァ!!ピィィィィィィィィ!!!!」 あらかたすり込むと、あたしは泣き叫ぶ雑巾ンネの首根っこをつかむ。 そして、ようやく新聞紙を敷き終わったママンネの前に放り捨てた。 激痛で雑巾ンネは暴れる。両手両足をガムテープで縛られているので、海老のような動きしかできないが。 ママンネは抱き寄せて、先程と同じように、舌で舐めて我が子を綺麗にしようとする。 「ミィッ!?グハァ!!」 ところが、思わずママンネは雑巾ンネを取り落としてしまった。舌を突き出してハァハァ言っている。 そりゃそうでしょうね。人間の家の中で、甘い果実ばかり食べてヌクヌク生きてきたあんたにとっては、 こんな辛さは初めて出会う感覚なんだろうから。恐怖心すら呼び起こしているかもしれないわね。 だが母性本能のなせる業か、涙を流しつつも舌の苦痛をこらえ、ママンネは雑巾ンネに近づいた。 しかし今度は「ミヒィ!!」と叫んで鼻を押さえて尻餅をついた。辛い空気をもろに吸ったようだ。 チィチィ泣き叫びながら激痛にのた打ち回る雑巾ンネの目からは、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。 痛みだけではなく、助けてくれない母親に対する絶望感が心を押し潰さんとしているに違いない。 「ママ!ママ!いたいよぅ!たすけてよぅ!どうしてなめてくれないの!?」 雑巾ンネの心の声が聞こえたような気がして、あたしは残酷な笑みを浮かべた。 あたしは冷蔵庫から1本の小ビンを取り出す。ジョロキアソースだ。タバスコの数百倍辛いという代物である。 ジョロキアの瓶の蓋を取り、1滴ずつしか垂らせないようにしてある瓶の口のプラスチックのカバーを外した。 「あーらら、冷たいママでちゅねえ。ボクが苦しんでるのに、好きな味じゃないから舐めたくないんですって。 酷いでちゅねー。こんなママにはバイバイしちゃいまちょうねー。」 そして床の上でのた打ち回っている雑巾ンネの喉首をつかむと、その両方の瞳めがけて、ジョロキアをぶっかけた。 「ミギャァァァァァ!!!!!!ィィィィィギァァァァァ!!!!!!」 サファイアのような青い瞳が、一瞬で真っ赤に変わって血の涙が流れる。 激痛によるショックで、毛細血管が破裂でもしたのかもしれない。 しかしあたしは容赦なく、ジョロキアの瓶を雑巾ンネに咥えさせると、残りを全部ドボドボ流し込んだ。 人間だってこんなことしたらただでは済むまい、ましてや小さな体躯のタブンネでは……。 「ミヒィ――――――ッッッ!!!!! ピィィィ――――――ッ!!!!!!!」 まるでお湯が沸騰した時の笛吹きケトルにそっくりな、甲高い悲鳴を雑巾ンネを絞り出した。 それこそ火を噴きそうな声で、雑巾ンネは狂ったかのように、ガムテープの拘束も引き千切らんばかりに暴れる。 「ヒィィ―――!!!!!……ィィィ……―――……!!!!」 しかし悲鳴は途中からかすれて聞こえなくなった。喉が焼けて、もはや声が出なくなったに違いない。 そして、おろおろするママンネの目の前で、ゴボッと血の塊を吐いたかと思うと、 雑巾ンネはそのまま動かなくなった。内臓がジョロキアで焼け爛れたか、ショックで心臓が止まったか。 いずれにせよ苦痛に満ち満ちた死に顔だった。30分ほど前には綺麗なピンクの毛皮をまとっていた体は、 今や薄汚れた黄緑色と血に染まった、それこそ酷使されたボロ雑巾のような姿になっていた。 「ミ……ミ…?……ミィィ……!」 ママンネは動かなくなった雑巾ンネに恐る恐る近づき、触覚を当てた。 「もう手遅れよ」 「ミ……ミッ………ミェェェェン……!」 あたしに言われるまでもなく、雑巾ンネから命の気配が途絶えたことがわかったのだろう。 ボロボロになった雑巾ンネを抱き締めて、さめざめと泣き出した。 「ミッ!ケホッ、ケホッ!ミィィ…」 辛い匂いに時々むせながら、物言わぬ我が子に何やら話しかけているようだ。 あたしはしゃがみこんで、ママンネの耳元で言った。 「何を今更。さっきはその辛さが嫌で、助けるのに二の足踏んだくせに。この死に顔見なさいよ。 ちょっとでも我慢して舐めてあげてれば、こんな絶望した顔にならなかったでしょうね。 『ママ、どうして助けてくれなかったの』って、あんたを怨みながら死んでいったんでしょうね」 「ミィ!?ミィミィ!!」 ママンネは「違う!違う!」と言いたそうにいやいやと首を振る。 その様子を見てあたしは溜飲が下がる思いだった。さて、次はどう料理しようかしら。 (つづく) 名前 コメント すべてのコメントを見る
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あたしはねりからしとねりわさびで汚れたゴム手袋を外して、次の獲物の品定めをする。 残りのベビンネ3匹は、雑巾ンネの死体を抱き締めて泣いているママンネに寄り添い、 一緒に泣いていたが、あたしの視線を感じたのか、ギクリとして後ずさりし始めた。 「さあて、ど・れ・に・し・よ・う・か・な」 1匹は怯えて腰を抜かし、2匹目は涙目でいやいやしている。だが3匹目は少し違った。 最初は恐怖で顔をひきつらせていたが、「ミ、ミィ♪」と無理に作ったような笑顔を見せた。 そしてあたしに背を向けると、尻尾をフリフリしながら「ミッミッ♪ミッミッ♪」と踊り出したのだ。 どうやら踊りであたしの怒りを鎮めようとしているらしい。 「ねぇねぇ、かわいいおどりでしょ、おこらないで♪」とでも言いたいのだろうか。 普通の人間なら、その可愛らしい動きに思わず頬を緩めていたかもしれない。 しかし今のあたしにとっては、その媚びる姿勢は逆効果でしかなかった。 あんたの兄弟を殺した人間に、何でご機嫌取ってるのよ。仕返ししようとかいう意地はないの? 自分さえ助かればいいのかしら。どこまで腐った生き物なんだろう……。 だったら、もう媚びられないようにしてあげるわ。 あたしは流し台にあった包丁を手に取り、ベビンネの尻尾をつかむと、その根元からスッパリ切り落とした。 「チギャァァァァァァ!!ピィ!ピィ!ピィィィィ!」 血が噴き出して、ベビンネは絶叫しながら床の上を転がり回った。新聞紙の上が点々と血で染まる。 あたしは切り落とした尻尾をしげしげと眺める。 ホイップクリームみたいにふわふわとか言われてるらしいけど、ただの毛玉じゃないの。 しかしタブンネ族にとっては大事なチャームポイントらしく、ベビンネは這いつくばって涙を流しながら 「かえして……ぼくのしっぽかえしてよぅ……」と言いたそうに、手を伸ばしている。 ママンネと2匹のベビンネは顔面蒼白でおろおろするが、助けに入ろうものなら、 自分に怒りの矛先が向くと思っているらしく、震えながら見ているだけだった。 「いらないわよ、こんなの」 あたしが尻尾を放り捨てると、ベビンネは立ち上がり、ヨロヨロと走ってきてそれを拾った。 そしておしりにくっつけようとする。無論くっつくはずがなく、ポトリと床に落ちた。 それでも諦めず、またくっつけ、また落ちる。あたしは嘲笑した。 「バッカじゃないの、もうくっつくわけないでしょ」 何度か繰り返し、ベビンネも二度と尻尾が元通りにならないことを悟ったのだろう。 へたり込んで尻尾を抱き締めて頬ずりしながら、「ミィ…ミィィ…」と泣き始めた。 その姿を見ている内に、あたしはまた残酷なアイデアを思いつく。 あたしはフライパンをガスコンロにかけ、火をつける。そしてベビンネから、再び尻尾をひったくった。 「さっきまであんなに元気がよかったくせにだらしないわね、ほら!」 意地悪く、手を伸ばせば届くかどうかの高さで見せびらかす。 「かえして!かえしてよう!」と言わんばかりに、ベビンネは泣きながらぴょんぴょんジャンプする。 まだ血が出てるようだけど、大事な尻尾を返して欲しくて必死なので、それどころではないようだ。 あたしは右手に尻尾を持ち、左手でベビンネの首根っこをつかんで、宙に持ち上げた。 そして「ほーら、ほらほら」と、尻尾とベビンネを近づけたり遠ざけたりを繰り返す。 尻尾が近づく度に、ベビンネは精一杯手を伸ばし、足をバタバタさせて無駄な努力を重ねていた。 尻尾欲しさのあまり、あたしに捕まっているという恐怖心さえ忘れているようだ。 そうしている内に、ガスコンロのフライパンが白い湯気を立て始めた。 あたしはベビンネを流し台の上に着地させた。そして尻尾をフライパンに投げ入れる。 尻尾に完全に気を取られているベビンネは、周りの状況が全く目に入っていない。 「チィィ!チィィィ!」と叫びながら、とてとて走って、フライパンの縁に短い足をかけ、乗り越えようとした。 だが既にフライパンは十分熱されている。 「ヂィィィ!!ヂビ゙ィィ!?」 足の裏を焼かれたベビンネはひっくり返った。苦痛で流し台の上をゴロゴロ転がる。 しかし、煙を上げ始めた尻尾が目に入ると、諦めきれないらしく、今度は手をフライパンの縁に伸ばした。 そして今度は手を火傷し、のた打ち回る。あたしはその間抜けな姿を見て大笑いした。 「あっはっはっはっ!ああ、おかしい!でも、もたもたしてていいの?大切な尻尾が燃えちゃうわよ」 あたしはからかうが、火傷の恐怖と苦痛でベビンネは、完全にすくみ上がっており、前に進めない。 フライパンの側に立ち尽くして、めらめらと炎に包まれつつある尻尾を呆然と見守るだけだった。 「何よ、諦めちゃうの?せっかく火傷までしたんだから、最後までいきなさいよ」 あたしはそう言うと、ベビンネの背中をどんと突き飛ばした。 「ヂュヂィィァァァーーーッ!!!!」 フライパンに頭から突っ込んだベビンネは、凄まじい悲鳴を上げる。 その姿を見たママンネが「ミィ!ミィ!ミィィ!」と何か叫んでいるが、あたしは聞く耳など持たない。 「もうやめて!」とでも言っているのだろう。しかし、あたしを恐れてそれ以上近づいてこなかった。 「ピィピィィィ!!!!ヂチィィィァァァァ!!!!!」 ベビンネは死に物狂いでフライパンから飛び出ようとするが、あたしは菜箸を手に取り、ベビンネをなぎ倒した。 真後ろにバッタリ倒れたベビンネの顔に、炎を上げて燃え盛る尻尾を菜箸でつまんで押し付ける。 「ミギャァァァァ!!!!ピーッ!!!!ピィィィ!!!!!!!」 「ほーら、せっかくだから尻尾持っていきなさいよ、大切な尻尾なんでしょ?」 ベビンネはそれを払いのけようとするが、炎はそのピンク色の毛皮に引火していた。 ふわふわした毛皮に火が燃え広がり、ベビンネはたちまち全身火だるまになる。 ジタバタ暴れるが、あたしは菜箸で押さえつけて起き上がることを許さない。 「ヂィィィィィッァァァ!!!!!!!ーーーァァァーーーーーーァ!!!!!!!!!!」 さすがに煙くなってきたので、換気扇のスイッチを入れた。ベビンネを包む黒煙が換気扇に吸い込まれていく。 毛皮だけではなく、体にも燃え移ったらしく、肉の焼ける匂いがしてきた。 「ヂィ!……ヂィ……ヂ……」 ベビンネの抵抗が弱まり、悲鳴が小さくなってきた。炎に包まれた手が弱々しく虚空に伸び、そこで硬直する。 「ミヒィィィァァァァ!!」 ママンネが背後で号泣していた。あたしは鼻で笑って、ガスコンロの火を止めた。 火を止めてもフライパンの上のベビンネは、ジュージューと音を立ててしばらく燃え続ける。 消火器を出さなくてはならないかと思っていたが、燃える部分が全部燃え尽くしたのか、炎は弱まり自然に鎮火する。 フライパンの上に残ったのは、もはや目鼻の区別すらつかぬ、黒焦げンネだった。 あたしはまだブスブスと煙を上げている黒焦げンネを皿に乗せると、ママンネの前に置いた。 「ほら、できたわよ。食べる?」 ママンネは抱き締めていた雑巾ンネの死体をそっと置き、恐る恐る黒焦げンネに手を伸ばした。 もしかするとまだ生きているかも、などと一縷の望みを抱いているようだ。 だがその願いも空しく、ママンネが触れると、黒焦げンネの炭化した耳と触覚がポキリと折れて皿の上に落ちた。 「ミ、ミィィ!!ミィィィィ!!」 それでようやく、目の前にあるのが無残な焼死体だと理解したのか、ママンネは顔を覆って泣き崩れる。 それを尻目にあたしは、残り2匹のベビンネに視線を送った。両方とも蛇に睨まれた蛙のような顔をしている。 そして片方が恐怖に耐え切れず、ガクガク震えながらお漏らしした。新聞紙の上に水たまりができる。 だらしない子ね、次のターゲットはあんたに決めたわ。あたしはお漏らしンネを引っ掴む。 「チィィーッ!!」「ミィミィミィ!!」 恐怖の悲鳴を上げるお漏らしンネ。これ以上我が子を奪われまいとママンネは手を伸ばすが、 あたしはその顔面に前蹴りを見舞った。 「ミギャアッ!!」 吹っ飛ばされたママンネは壁にぶつかり、跳ね返って床に倒れる。運悪く、倒れたのは黒焦げンネの皿の上だった。 大半が炭化していた黒焦げンネの死体は、押し潰された衝撃でバラバラに砕けた。 「ミ……ミ?…………ミヒャァァァ!!」 自分の腹の下で砕けたのが、黒焦げンネだと気づいたママンネは、涙を流しながらバラバラの破片を拾い集める。 一方あたしは、お漏らしンネを流しの中に放り込み、排水口にプラスチックカバーで蓋をした。 そしてチィチィ泣き叫ぶお漏らしンネの四肢を、流しにガムテープで貼り付けて固定する。 「ピィィピィィ!!チィチィーーー!!」 大の字で磔にされたお漏らしンネは、何をされるかわからない恐怖で半狂乱だ。 あたしはキッチンタイマーを用意して、3分に数字をセットする。これで次のショーの準備完了だ。 後ろを見るとママンネは、まだ黒焦げンネの残骸を拾い集めている。残り1匹のベビンネは泣き疲れたのか放心状態だ。 あたしはそのベビンネをつかまえると、首筋に包丁を突きつけた。 「チィィーッ!!」「ミ、ミィィッ!?」 恐怖で体を硬直させるベビンネと、最後の子供まで奪われ茫然自失のママンネ。 あたしは意思がしっかり伝わるように、ゆっくりと言葉に出してママンネに命じる。 「抵抗するんじゃないわよ、ここに来なさい。」 ママンネに逆らう術はなく、おずおず歩いてきて、あたしの指定した場所に立ち止まった。 流し台まで30センチくらい、ちょうど磔にされたお漏らしンネと、お互いの顔が見えるくらいの位置だ。 母親の顔が見えたお漏らしンネは、助けに来てくれたと思ったのか、チィチィピィピィ泣き喚く。 「ママ、たすけて!うごけないよう、これとってよう!」といったところか。 ママンネもその姿を見て手を伸ばしかけるが、包丁を突きつけられたベビンネと、あたしの表情を見て手を引っ込めた。 お漏らしンネには、自分をすぐにでも救い出せる位置に立っているママンネが、 なぜ手を引っ込めてしまったのか理解できないのだろう、一層声を張り上げて泣き叫んだ。 あたしは笑みを浮かべながらママンネに言った。 「さあ、ゲームをしましょ。これから3分間、このキッチンタイマーが鳴るまで、 あんたがそこから一歩も動かなかったら、子供は返してあげるわ。今日のところは助けてあげる」 ママンネは「ミィミィ!」と言って懸命にこくこくうなずき、承諾の意思を示した。 3分間動かないだけなら楽勝だと思ったのだろう。だがあたしは、ママンネの触覚をつかむと付け加えた。 「その代わり、少しでも動いたら負けよ。あんたも子供達もその瞬間に皆殺しにするからね!わかった?」 あたしの鬼の形相を見てママンネは震え上がり、「ミィミィミィ!」とうなずく。 「さて、いきましょうか。ゲームスタート!」 あたしはキッチンタイマーのボタンを押した。数字がカウントダウンを始める。 そして水道の蛇口を少しひねった。ごく細い水が流れ、お漏らしンネにかかる。お漏らしンネがビクッとした。 蛇口を動かし、お漏らしンネの口に入るようにする。 「ピヒッ!?…チ、チィチィ…♪」 お漏らしンネは最初は驚いていたが、うれしそうに水を飲み始める。食事も与えていないし、喉も渇いていただろう。 「ミィ……」ママンネもお漏らしンネの喜ぶ声を聞いて、安堵の表情を浮かべる。 はあ……バカじゃないの、あんたら? あたしのさっきまでの仕打ちを忘れたのかしら。本当に脳内お花畑ね。 あたしは蛇口を思い切り開く。小さいお漏らしンネにとっては、殴りつけるような水量が襲い掛かった。 「ゴボッ!?ピビィィィ!!ガバゴベベボ、ヂィィィ!!!」 排水口に蓋をされ、行き場のない水が渦を巻き、磔にされたお漏らしンネの体はたちまち水没してゆく。 20秒足らずで水はお漏らしンネの体より高い位置まで来た。 辛うじて動かせる首を必死で持ち上げるお漏らしンネだが、それでもギリギリ呼吸できない水位だ。 あたしはそこで水を止める。ここまでで40秒経過。さあ残り2分20秒、耐えられるかしら。 お漏らしンネが最初に試みたのは、やはりママンネに救いを求めることだった。 水中から見えるママンネに向けて、お漏らしンネは苦しげな顔で必死に叫ぶ。 「ミゴボガボ、ゴボ!バボボ!ビビボボォ!!」(ママたすけて!くるしい、おぼれちゃうよぅ!) だがママンネは顔を強張らせ、身を乗り出してはいるものの、ぎゅっと拳を握り締めてその場を動かない。 「ミィ!ミ、ミィミィミィ!!」 おそらく「あと少しの辛抱よ、お願い、我慢して!」とでも言っているのだろう。 しかしお漏らしンネにとっては、3分間おとなしくしていれば助けてやるという、 あたしとママンネの約束など知る由はない。助けようとすれば、自分も兄弟もママンネもみんな殺されることも。 したがってお漏らしンネの目に見えるものは、すぐ手の届く場所にいる母親が、溺死寸前の自分を、 助けようとしないという事実だけだった。 「どうしてたすけてくれないの?ひどいよママ!」とでも思っているのだろう。 お漏らしンネの顔が絶望に歪んだ。 ママンネが頼りにならないと知って、お漏らしンネは自力でなんとかするしかないと思ったらしい。 なんとゴクゴク水を飲み始めた。自分の周りの水を飲み干して無くそうというのか。 「ンクンクッ!!ンムゥゥ!!ゴハッ!!」 必死で飲もうとしては戻し、また飲み続ける。お腹がプクッと膨れてきた。 あたしは思わず吹き出した。健気というか馬鹿丸出しというか……。そんなのであと1分35秒もつのかしらね。 ママンネはママンネで「その調子よ、頑張って!」と言わんばかりに、目をウルウルさせていた。 子が子なら親も親だ。本当におめでたいわ。 お漏らしンネの下腹部が持ち上がったかと思うと、水中にピュッと黄色い水の流れができる。 水の飲みすぎでまたも失禁したのだろう。せっかくの努力も文字通り水の泡だ。 口からも水と、吐瀉物まで吐き出す。明らかに『飲み干し作戦』には無理があったのだ。 汚物で汚れた水でいよいよ呼吸ができなくなったお漏らしンネは、死力を振り絞って暴れる。 もちろん、非力なお漏らしンネがいくら必死になっても、ガムテープの粘着力には勝てない。 さて、残り1分。もうちょっとの辛抱よ。辛抱できればだけどね。 お漏らしンネは最後の望みを再びママンネにかけた。 暴れるのをやめ、今更ながら息を止めて我慢しつつ、つぶらな瞳でママンネに助けを求める。 「ママたすけて!しんじゃうよう!おねがい、たすけて!」とでも訴えているのか。 ママンネは動かない。もちろんそれが正しい選択であり、お漏らしンネが残り30秒耐えればいい話だ。 しかしそれはお漏らしンネにとっては、ママンネが自分を見捨てたとしか映らなかったのだろう、 残ったわずかな気力を打ち砕いてしまったようだ。 コポッ、コポッと小さな泡が口から漏れる。そして大きい泡がゴボッと出てきたかと思うと、 その瞳からすっと光が消えた。お漏らしンネは力尽きてしまったのだ。残り10秒だったのに。 「5、4、3、2、1、終了!」 キッチンタイマーのアラームが鳴ると同時に、「ミィィ!!」と叫びながらママンネが流しの中に手を突っ込んだ。 必死でガムテープを剥がして、お漏らしンネを救い出そうとする。 あたしは手伝う義理もないので、嘲笑しながら見物することにした。 ようやくガムテープを剥がしたママンネは、ずぶ濡れのお漏らしンネを抱き締めた。 「ミィミィ!ミィミィ!」と声をかけている。「よく頑張ったわね」か、「苦しかったでしょう」か。 しかし返事があるわけがない。抱き締めても口からゴボッと水があふれるだけだ。 「ミ……ミィ?…ミィ!?」 ようやく異変に気づいたのか、ママンネはお漏らしンネを揺さぶった。小さな首がガクンと垂れる。 さっきの雑巾ンネの死に顔も苦痛と絶望に満ちたものだったが、お漏らしンネの顔はそれを上回っていた。 自分を見捨てたママンネに対する怨みと怒りで、その幼い死に顔は、あたしにもわかるくらい醜く歪んでいたのだった。 ママンネもそれに気づいたのか、ガタガタ震えだした。あたしは耳元で追い討ちをかける。 「あらぁ、怖い顔してるわねえ。きっとこう言ってるわよ。 『ママ、よくもぼくをみごろしにしたな。ママなんかきらいだ、だいきらいだ』ってね」 「ミヒィィィン!!」 それを聞くやママンネはお漏らしンネを放り出した。ずぶ濡れのお漏らしンネの死体がビシャッと新聞紙の上に落ちる。 「ミィッ!!ミィッ!!」と耳を塞ぎ、頭をブルブル振ってあたしの言葉を否定しようとするが、 虚ろなお漏らしンネの瞳が自分を睨んでいるように思ったのか、我が子から目をそらしてしまい、 体を丸めて「ミィ、ミィ…」と許しを請うように泣き出した。あたしは満足の笑みを漏らす。だいぶ気が晴れた。 「さあ、今日はここで終わりにしてあげるわ。さっさと新聞紙を片付けなさい」 あたしはママンネに命じるが、ママンネはまだ震えながら泣いている。 子供3匹が無残な最期を遂げ、その内2匹が自分を怨みながら死んでいったとあっては、正気を保つのも難しかろう。 だがあたしは全く容赦しない。ママンネの背中に蹴りを入れると、ママンネはつんのめって床に倒れた。 「早くしなさい!この子ともお別れしたいの?」 あたしはまだ人質としてつかまえていたベビンネに、再び包丁を突きつけた。 「ミィィ!!ミィィ!!」 最後の希望を奪われたくないママンネは、あたしに謝りながら床に敷いてあった新聞紙を片付け始めた。 雑巾ンネの尻尾から流れた血の斑点、暴れた時についたねりからしとねりわさび、 黒焦げンネの炭化した体の破片、お漏らしンネの失禁した水たまりなど、様々なもので汚れている。 やっぱり新聞紙を敷かせておいて正解だったわね。 ママンネは新聞紙を片付け終えた。ただし、3か所を除いて。 雑巾ンネ、黒焦げンネ、お漏らしンネの死体が置いてある部分だった。 「何やってるの、まだこことこことここが残ってるでしょ!?」 「ミッ!ミィミィ!!」 ママンネは必死であたしに訴える。おそらく子供たちの亡骸だけはそっとしておいて、とでも言いたいのだろう。 「却下よ」 あたしは無慈悲に言うと、ママンネの顔を蹴り飛ばした。 倒れ伏したママンネに、人質にしていたベビンネを放り投げてやると、抱き合ってミィミィ泣いている。 その隙にあたしは可燃ゴミ用のポリ袋を取り出した。新聞紙ごと丸めて、ベビンネ達の死体をゴミ袋に放り込む。 「何するの、返して!!」と言わんばかりにママンネが飛びついてきたが、回し蹴りを食らってあえなく吹っ飛んだ。 あたしはゴミ袋をゴミ箱の側に置き、梱包用の紐とハサミを取り出した。 そしてうつ伏せに倒れているママンネに馬乗りになり、短い両手を後ろ手に縛り上げる。 「ミィミィミィ!」と騒ぎ立てるママンネ。「助けてくれるって言ったのに!」とでも抗議しているのだろう。 その態度がまたあたしをイラつかせた。 「うるさいわね、ごちゃごちゃ言うなら今すぐあの世に送ってあげてもいいのよ!」 あたしは馬乗りになったまま、紐をぐるりとママンネの首に巻くと、思い切り締め上げた。 「ミグッ!…ヒィ、ミヒィ!……ギュワ…!」 ママンネは口から泡を吹いて悶え苦しむ。ベビンネが「チィーッ!チィーッ!」と叫びながらあたしの足にすがりついた。 「あんたもうるさい!ママと同じ目に遭いたいようね」 あたしは紐をほどいてママンネを解放すると、今度はベビンネの首に紐を巻きつけて左右から引っ張った。 「チィィ!…ピ…ピ…チィ…!」 小さな手足をバタつかせて苦しむベビンネ。ママンネは「ミヒュゥ、ミヒュゥ…」と息をつくだけで手一杯だ。 もちろん本気を出したら、たちどころに首が折れてしまうだろうから、だいぶ手加減してはいるし、 この場で殺す気はない。あたしが力を緩めると、ベビンネはぐったりして床に倒れた。 「手間かけさせないでよね。さあ、おやすみの時間よ」 ベビンネの首根っこを掴んで持ち上げ、まだ荒く息をついているママンネについて来るよう促した。 後ろ手に縛られているため悪戦苦闘しながらママンネは立ち上がり、ふらふらとあたしの後について来る。 あたしはタブンネ一家の住処である十二畳の和室に来た。毛布で作られたタブンネの安息の場所がある。 「今日はもう終わりよ、寝なさい」 あたしの言葉は伝わったらしく、ママンネはほっとした表情を浮かべた。 だが「ミッミッ」と言いながら後ろを向いて、縛られている両手を見せた。当然ほどいてくれると思ったのだろう。 「寝なさいとは言ったけど、ほどいてあげるなんて言ってないわ。それからね、今夜のベッドはこっちよ」 あたしはママンネを、巣の代わりの毛布ではなく、その隣の砂箱トイレの方に突き飛ばした。 よろめきながらママンネは、顔から砂の中に突っ込む。それもよりによって、まだ始末されていない糞尿の中に。 いつもなら外出から帰ったあたりで、あたしが排泄物の片付けをしているのだが、 今日は片付けることなく虐待を始めてしまったので、朝から垂れ流していたものが満載だ。 あたしは近付くと、ママンネの顔をさらに糞尿の中にぐりぐりと押し付けた。 「どう、お味は?自分の出したものくらい自分で始末するのが常識ってものなのよ、わかった!?」 「ミゴホッ!!ミヒィ!!ミヒィイィ!!」 砂と排泄物で顔を汚し、むせ返りながらママンネは泣き喚いた。その顔の横に、ベビンネを放り捨てる。 そしてあたしは、タブンネ一家の巣にしていた毛布を片付け始めた。タブンネの匂いが染み付いていて不愉快だ。 「ミ、ミィィ…」「チィ、チィ…」 ママンネとベビンネは身を寄せ合いながら、あたしの撤去作業を絶望に打ちひしがれた顔で見守る。 ママンネはまだ小さいうちからここで育ち、ベビンネもここで生まれた。 その思い出の我が家を一瞬で取り壊されたのだから、2匹の顔が絶望に暗く沈むのも無理はない。 土台代わりに敷いていた段ボールも撤去すると、その一角はきれいさっぱりと、ただの畳敷きになった。 ああ、せいせいした。そしてあたしは今日の作業の仕上げとして、ママンネの両足をきつく縛った。 「ミッ、ミィ…」とわずかに抵抗の意を示すも、もはや諦めたのか暴れようとはしなかった。 ベビンネはあえて拘束しない。子供だけを自由にさせておけば、腹が減ったと駄々をこね、 ママンネを苦しめることになるだろうと計算したからだ。 いつの間にか夕陽が傾いている。あたしは家中の雨戸を閉めて、厳重に戸締りをして回った。 これで万一、ママンネがベビンネだけでも逃がそうとしても脱出は不可能だろう。 もっとも非力なベビンネでは、和室の障子を開くことすら難しいだろうが。 戸締りを終えて戻ってみると、ベビンネが砂まみれになったママンネの腹部を探り、乳を吸おうとしている。 空腹に耐えかねたのだろう。朝飯をあげてから半日以上経過しているし、子供には厳しいはずだ。 時々口に砂が入り、「ペッペッ」と吐きながら、なんとか乳が出ないかと必死でチュウチュウ吸っている。 ママンネは糞尿と砂で汚れた顔に涙を流し、「ミィィ…」と悲しげな声を上げていた。 あいにくそれは無理というものだ。既に離乳期を過ぎて、ママンネの母乳はもう止まってしまっているのだから。 せがむだけ無駄だし、乳が出ないことがわかっているママンネを責め苛むだけなのに。馬鹿な子ね。 「もうおやすみ。そのトイレ以外の場所で粗相してみなさい、ただじゃ済まないわよ」 あたしは言い捨てて障子を閉めた。「ミィミィ…」「チィチィ、チィ…」という切なげな声が聞こえた。 お腹が空いたくらい何よ、せいぜい親子の時間を楽しんでおきなさい。 あたし言ったわよね、『今日のところは助けてあげる』って。今日のところは、ね……。 (つづく) 名前 コメント すべてのコメントを見る
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あたしはねりからしとねりわさびで汚れたゴム手袋を外して、次の獲物の品定めをする。 残りのベビンネ3匹は、雑巾ンネの死体を抱き締めて泣いているママンネに寄り添い、 一緒に泣いていたが、あたしの視線を感じたのか、ギクリとして後ずさりし始めた。 「さあて、ど・れ・に・し・よ・う・か・な」 1匹は怯えて腰を抜かし、2匹目は涙目でいやいやしている。だが3匹目は少し違った。 最初は恐怖で顔をひきつらせていたが、「ミ、ミィ♪」と無理に作ったような笑顔を見せた。 そしてあたしに背を向けると、尻尾をフリフリしながら「ミッミッ♪ミッミッ♪」と踊り出したのだ。 どうやら踊りであたしの怒りを鎮めようとしているらしい。 「ねぇねぇ、かわいいおどりでしょ、おこらないで♪」とでも言いたいのだろうか。 普通の人間なら、その可愛らしい動きに思わず頬を緩めていたかもしれない。 しかし今のあたしにとっては、その媚びる姿勢は逆効果でしかなかった。 あんたの兄弟を殺した人間に、何でご機嫌取ってるのよ。仕返ししようとかいう意地はないの? 自分さえ助かればいいのかしら。どこまで腐った生き物なんだろう……。 だったら、もう媚びられないようにしてあげるわ。 あたしは流し台にあった包丁を手に取り、ベビンネの尻尾をつかむと、その根元からスッパリ切り落とした。 「チギャァァァァァァ!!ピィ!ピィ!ピィィィィ!」 血が噴き出して、ベビンネは絶叫しながら床の上を転がり回った。新聞紙の上が点々と血で染まる。 あたしは切り落とした尻尾をしげしげと眺める。 ホイップクリームみたいにふわふわとか言われてるらしいけど、ただの毛玉じゃないの。 しかしタブンネ族にとっては大事なチャームポイントらしく、ベビンネは這いつくばって涙を流しながら 「かえして……ぼくのしっぽかえしてよぅ……」と言いたそうに、手を伸ばしている。 ママンネと2匹のベビンネは顔面蒼白でおろおろするが、助けに入ろうものなら、 自分に怒りの矛先が向くと思っているらしく、震えながら見ているだけだった。 「いらないわよ、こんなの」 あたしが尻尾を放り捨てると、ベビンネは立ち上がり、ヨロヨロと走ってきてそれを拾った。 そしておしりにくっつけようとする。無論くっつくはずがなく、ポトリと床に落ちた。 それでも諦めず、またくっつけ、また落ちる。あたしは嘲笑した。 「バッカじゃないの、もうくっつくわけないでしょ」 何度か繰り返し、ベビンネも二度と尻尾が元通りにならないことを悟ったのだろう。 へたり込んで尻尾を抱き締めて頬ずりしながら、「ミィ…ミィィ…」と泣き始めた。 その姿を見ている内に、あたしはまた残酷なアイデアを思いつく。 あたしはフライパンをガスコンロにかけ、火をつける。そしてベビンネから、再び尻尾をひったくった。 「さっきまであんなに元気がよかったくせにだらしないわね、ほら!」 意地悪く、手を伸ばせば届くかどうかの高さで見せびらかす。 「かえして!かえしてよう!」と言わんばかりに、ベビンネは泣きながらぴょんぴょんジャンプする。 まだ血が出てるようだけど、大事な尻尾を返して欲しくて必死なので、それどころではないようだ。 あたしは右手に尻尾を持ち、左手でベビンネの首根っこをつかんで、宙に持ち上げた。 そして「ほーら、ほらほら」と、尻尾とベビンネを近づけたり遠ざけたりを繰り返す。 尻尾が近づく度に、ベビンネは精一杯手を伸ばし、足をバタバタさせて無駄な努力を重ねていた。 尻尾欲しさのあまり、あたしに捕まっているという恐怖心さえ忘れているようだ。 そうしている内に、ガスコンロのフライパンが白い湯気を立て始めた。 あたしはベビンネを流し台の上に着地させた。そして尻尾をフライパンに投げ入れる。 尻尾に完全に気を取られているベビンネは、周りの状況が全く目に入っていない。 「チィィ!チィィィ!」と叫びながら、とてとて走って、フライパンの縁に短い足をかけ、乗り越えようとした。 だが既にフライパンは十分熱されている。 「ヂィィィ!!ヂビ゙ィィ!?」 足の裏を焼かれたベビンネはひっくり返った。苦痛で流し台の上をゴロゴロ転がる。 しかし、煙を上げ始めた尻尾が目に入ると、諦めきれないらしく、今度は手をフライパンの縁に伸ばした。 そして今度は手を火傷し、のた打ち回る。あたしはその間抜けな姿を見て大笑いした。 「あっはっはっはっ!ああ、おかしい!でも、もたもたしてていいの?大切な尻尾が燃えちゃうわよ」 あたしはからかうが、火傷の恐怖と苦痛でベビンネは、完全にすくみ上がっており、前に進めない。 フライパンの側に立ち尽くして、めらめらと炎に包まれつつある尻尾を呆然と見守るだけだった。 「何よ、諦めちゃうの?せっかく火傷までしたんだから、最後までいきなさいよ」 あたしはそう言うと、ベビンネの背中をどんと突き飛ばした。 「ヂュヂィィァァァーーーッ!!!!」 フライパンに頭から突っ込んだベビンネは、凄まじい悲鳴を上げる。 その姿を見たママンネが「ミィ!ミィ!ミィィ!」と何か叫んでいるが、あたしは聞く耳など持たない。 「もうやめて!」とでも言っているのだろう。しかし、あたしを恐れてそれ以上近づいてこなかった。 「ピィピィィィ!!!!ヂチィィィァァァァ!!!!!」 ベビンネは死に物狂いでフライパンから飛び出ようとするが、あたしは菜箸を手に取り、ベビンネをなぎ倒した。 真後ろにバッタリ倒れたベビンネの顔に、炎を上げて燃え盛る尻尾を菜箸でつまんで押し付ける。 「ミギャァァァァ!!!!ピーッ!!!!ピィィィ!!!!!!!」 「ほーら、せっかくだから尻尾持っていきなさいよ、大切な尻尾なんでしょ?」 ベビンネはそれを払いのけようとするが、炎はそのピンク色の毛皮に引火していた。 ふわふわした毛皮に火が燃え広がり、ベビンネはたちまち全身火だるまになる。 ジタバタ暴れるが、あたしは菜箸で押さえつけて起き上がることを許さない。 「ヂィィィィィッァァァ!!!!!!!ーーーァァァーーーーーーァ!!!!!!!!!!」 さすがに煙くなってきたので、換気扇のスイッチを入れた。ベビンネを包む黒煙が換気扇に吸い込まれていく。 毛皮だけではなく、体にも燃え移ったらしく、肉の焼ける匂いがしてきた。 「ヂィ!……ヂィ……ヂ……」 ベビンネの抵抗が弱まり、悲鳴が小さくなってきた。炎に包まれた手が弱々しく虚空に伸び、そこで硬直する。 「ミヒィィィァァァァ!!」 ママンネが背後で号泣していた。あたしは鼻で笑って、ガスコンロの火を止めた。 火を止めてもフライパンの上のベビンネは、ジュージューと音を立ててしばらく燃え続ける。 消火器を出さなくてはならないかと思っていたが、燃える部分が全部燃え尽くしたのか、炎は弱まり自然に鎮火する。 フライパンの上に残ったのは、もはや目鼻の区別すらつかぬ、黒焦げンネだった。 あたしはまだブスブスと煙を上げている黒焦げンネを皿に乗せると、ママンネの前に置いた。 「ほら、できたわよ。食べる?」 ママンネは抱き締めていた雑巾ンネの死体をそっと置き、恐る恐る黒焦げンネに手を伸ばした。 もしかするとまだ生きているかも、などと一縷の望みを抱いているようだ。 だがその願いも空しく、ママンネが触れると、黒焦げンネの炭化した耳と触覚がポキリと折れて皿の上に落ちた。 「ミ、ミィィ!!ミィィィィ!!」 それでようやく、目の前にあるのが無残な焼死体だと理解したのか、ママンネは顔を覆って泣き崩れる。 それを尻目にあたしは、残り2匹のベビンネに視線を送った。両方とも蛇に睨まれた蛙のような顔をしている。 そして片方が恐怖に耐え切れず、ガクガク震えながらお漏らしした。新聞紙の上に水たまりができる。 だらしない子ね、次のターゲットはあんたに決めたわ。あたしはお漏らしンネを引っ掴む。 「チィィーッ!!」「ミィミィミィ!!」 恐怖の悲鳴を上げるお漏らしンネ。これ以上我が子を奪われまいとママンネは手を伸ばすが、 あたしはその顔面に前蹴りを見舞った。 「ミギャアッ!!」 吹っ飛ばされたママンネは壁にぶつかり、跳ね返って床に倒れる。運悪く、倒れたのは黒焦げンネの皿の上だった。 大半が炭化していた黒焦げンネの死体は、押し潰された衝撃でバラバラに砕けた。 「ミ……ミ?…………ミヒャァァァ!!」 自分の腹の下で砕けたのが、黒焦げンネだと気づいたママンネは、涙を流しながらバラバラの破片を拾い集める。 一方あたしは、お漏らしンネを流しの中に放り込み、排水口にプラスチックカバーで蓋をした。 そしてチィチィ泣き叫ぶお漏らしンネの四肢を、流しにガムテープで貼り付けて固定する。 「ピィィピィィ!!チィチィーーー!!」 大の字で磔にされたお漏らしンネは、何をされるかわからない恐怖で半狂乱だ。 あたしはキッチンタイマーを用意して、3分に数字をセットする。これで次のショーの準備完了だ。 後ろを見るとママンネは、まだ黒焦げンネの残骸を拾い集めている。残り1匹のベビンネは泣き疲れたのか放心状態だ。 あたしはそのベビンネをつかまえると、首筋に包丁を突きつけた。 「チィィーッ!!」「ミ、ミィィッ!?」 恐怖で体を硬直させるベビンネと、最後の子供まで奪われ茫然自失のママンネ。 あたしは意思がしっかり伝わるように、ゆっくりと言葉に出してママンネに命じる。 「抵抗するんじゃないわよ、ここに来なさい。」 ママンネに逆らう術はなく、おずおず歩いてきて、あたしの指定した場所に立ち止まった。 流し台まで30センチくらい、ちょうど磔にされたお漏らしンネと、お互いの顔が見えるくらいの位置だ。 母親の顔が見えたお漏らしンネは、助けに来てくれたと思ったのか、チィチィピィピィ泣き喚く。 「ママ、たすけて!うごけないよう、これとってよう!」といったところか。 ママンネもその姿を見て手を伸ばしかけるが、包丁を突きつけられたベビンネと、あたしの表情を見て手を引っ込めた。 お漏らしンネには、自分をすぐにでも救い出せる位置に立っているママンネが、 なぜ手を引っ込めてしまったのか理解できないのだろう、一層声を張り上げて泣き叫んだ。 あたしは笑みを浮かべながらママンネに言った。 「さあ、ゲームをしましょ。これから3分間、このキッチンタイマーが鳴るまで、 あんたがそこから一歩も動かなかったら、子供は返してあげるわ。今日のところは助けてあげる」 ママンネは「ミィミィ!」と言って懸命にこくこくうなずき、承諾の意思を示した。 3分間動かないだけなら楽勝だと思ったのだろう。だがあたしは、ママンネの触覚をつかむと付け加えた。 「その代わり、少しでも動いたら負けよ。あんたも子供達もその瞬間に皆殺しにするからね!わかった?」 あたしの鬼の形相を見てママンネは震え上がり、「ミィミィミィ!」とうなずく。 「さて、いきましょうか。ゲームスタート!」 あたしはキッチンタイマーのボタンを押した。数字がカウントダウンを始める。 そして水道の蛇口を少しひねった。ごく細い水が流れ、お漏らしンネにかかる。お漏らしンネがビクッとした。 蛇口を動かし、お漏らしンネの口に入るようにする。 「ピヒッ!?…チ、チィチィ…♪」 お漏らしンネは最初は驚いていたが、うれしそうに水を飲み始める。食事も与えていないし、喉も渇いていただろう。 「ミィ……」ママンネもお漏らしンネの喜ぶ声を聞いて、安堵の表情を浮かべる。 はあ……バカじゃないの、あんたら? あたしのさっきまでの仕打ちを忘れたのかしら。本当に脳内お花畑ね。 あたしは蛇口を思い切り開く。小さいお漏らしンネにとっては、殴りつけるような水量が襲い掛かった。 「ゴボッ!?ピビィィィ!!ガバゴベベボ、ヂィィィ!!!」 排水口に蓋をされ、行き場のない水が渦を巻き、磔にされたお漏らしンネの体はたちまち水没してゆく。 20秒足らずで水はお漏らしンネの体より高い位置まで来た。 辛うじて動かせる首を必死で持ち上げるお漏らしンネだが、それでもギリギリ呼吸できない水位だ。 あたしはそこで水を止める。ここまでで40秒経過。さあ残り2分20秒、耐えられるかしら。 お漏らしンネが最初に試みたのは、やはりママンネに救いを求めることだった。 水中から見えるママンネに向けて、お漏らしンネは苦しげな顔で必死に叫ぶ。 「ミゴボガボ、ゴボ!バボボ!ビビボボォ!!」(ママたすけて!くるしい、おぼれちゃうよぅ!) だがママンネは顔を強張らせ、身を乗り出してはいるものの、ぎゅっと拳を握り締めてその場を動かない。 「ミィ!ミ、ミィミィミィ!!」 おそらく「あと少しの辛抱よ、お願い、我慢して!」とでも言っているのだろう。 しかしお漏らしンネにとっては、3分間おとなしくしていれば助けてやるという、 あたしとママンネの約束など知る由はない。助けようとすれば、自分も兄弟もママンネもみんな殺されることも。 したがってお漏らしンネの目に見えるものは、すぐ手の届く場所にいる母親が、溺死寸前の自分を、 助けようとしないという事実だけだった。 「どうしてたすけてくれないの?ひどいよママ!」とでも思っているのだろう。 お漏らしンネの顔が絶望に歪んだ。 ママンネが頼りにならないと知って、お漏らしンネは自力でなんとかするしかないと思ったらしい。 なんとゴクゴク水を飲み始めた。自分の周りの水を飲み干して無くそうというのか。 「ンクンクッ!!ンムゥゥ!!ゴハッ!!」 必死で飲もうとしては戻し、また飲み続ける。お腹がプクッと膨れてきた。 あたしは思わず吹き出した。健気というか馬鹿丸出しというか……。そんなのであと1分35秒もつのかしらね。 ママンネはママンネで「その調子よ、頑張って!」と言わんばかりに、目をウルウルさせていた。 子が子なら親も親だ。本当におめでたいわ。 お漏らしンネの下腹部が持ち上がったかと思うと、水中にピュッと黄色い水の流れができる。 水の飲みすぎでまたも失禁したのだろう。せっかくの努力も文字通り水の泡だ。 口からも水と、吐瀉物まで吐き出す。明らかに『飲み干し作戦』には無理があったのだ。 汚物で汚れた水でいよいよ呼吸ができなくなったお漏らしンネは、死力を振り絞って暴れる。 もちろん、非力なお漏らしンネがいくら必死になっても、ガムテープの粘着力には勝てない。 さて、残り1分。もうちょっとの辛抱よ。辛抱できればだけどね。 お漏らしンネは最後の望みを再びママンネにかけた。 暴れるのをやめ、今更ながら息を止めて我慢しつつ、つぶらな瞳でママンネに助けを求める。 「ママたすけて!しんじゃうよう!おねがい、たすけて!」とでも訴えているのか。 ママンネは動かない。もちろんそれが正しい選択であり、お漏らしンネが残り30秒耐えればいい話だ。 しかしそれはお漏らしンネにとっては、ママンネが自分を見捨てたとしか映らなかったのだろう、 残ったわずかな気力を打ち砕いてしまったようだ。 コポッ、コポッと小さな泡が口から漏れる。そして大きい泡がゴボッと出てきたかと思うと、 その瞳からすっと光が消えた。お漏らしンネは力尽きてしまったのだ。残り10秒だったのに。 「5、4、3、2、1、終了!」 キッチンタイマーのアラームが鳴ると同時に、「ミィィ!!」と叫びながらママンネが流しの中に手を突っ込んだ。 必死でガムテープを剥がして、お漏らしンネを救い出そうとする。 あたしは手伝う義理もないので、嘲笑しながら見物することにした。 ようやくガムテープを剥がしたママンネは、ずぶ濡れのお漏らしンネを抱き締めた。 「ミィミィ!ミィミィ!」と声をかけている。「よく頑張ったわね」か、「苦しかったでしょう」か。 しかし返事があるわけがない。抱き締めても口からゴボッと水があふれるだけだ。 「ミ……ミィ?…ミィ!?」 ようやく異変に気づいたのか、ママンネはお漏らしンネを揺さぶった。小さな首がガクンと垂れる。 さっきの雑巾ンネの死に顔も苦痛と絶望に満ちたものだったが、お漏らしンネの顔はそれを上回っていた。 自分を見捨てたママンネに対する怨みと怒りで、その幼い死に顔は、あたしにもわかるくらい醜く歪んでいたのだった。 ママンネもそれに気づいたのか、ガタガタ震えだした。あたしは耳元で追い討ちをかける。 「あらぁ、怖い顔してるわねえ。きっとこう言ってるわよ。 『ママ、よくもぼくをみごろしにしたな。ママなんかきらいだ、だいきらいだ』ってね」 「ミヒィィィン!!」 それを聞くやママンネはお漏らしンネを放り出した。ずぶ濡れのお漏らしンネの死体がビシャッと新聞紙の上に落ちる。 「ミィッ!!ミィッ!!」と耳を塞ぎ、頭をブルブル振ってあたしの言葉を否定しようとするが、 虚ろなお漏らしンネの瞳が自分を睨んでいるように思ったのか、我が子から目をそらしてしまい、 体を丸めて「ミィ、ミィ…」と許しを請うように泣き出した。あたしは満足の笑みを漏らす。だいぶ気が晴れた。 「さあ、今日はここで終わりにしてあげるわ。さっさと新聞紙を片付けなさい」 あたしはママンネに命じるが、ママンネはまだ震えながら泣いている。 子供3匹が無残な最期を遂げ、その内2匹が自分を怨みながら死んでいったとあっては、正気を保つのも難しかろう。 だがあたしは全く容赦しない。ママンネの背中に蹴りを入れると、ママンネはつんのめって床に倒れた。 「早くしなさい!この子ともお別れしたいの?」 あたしはまだ人質としてつかまえていたベビンネに、再び包丁を突きつけた。 「ミィィ!!ミィィ!!」 最後の希望を奪われたくないママンネは、あたしに謝りながら床に敷いてあった新聞紙を片付け始めた。 雑巾ンネの尻尾から流れた血の斑点、暴れた時についたねりからしとねりわさび、 黒焦げンネの炭化した体の破片、お漏らしンネの失禁した水たまりなど、様々なもので汚れている。 やっぱり新聞紙を敷かせておいて正解だったわね。 ママンネは新聞紙を片付け終えた。ただし、3か所を除いて。 雑巾ンネ、黒焦げンネ、お漏らしンネの死体が置いてある部分だった。 「何やってるの、まだこことこことここが残ってるでしょ!?」 「ミッ!ミィミィ!!」 ママンネは必死であたしに訴える。おそらく子供たちの亡骸だけはそっとしておいて、とでも言いたいのだろう。 「却下よ」 あたしは無慈悲に言うと、ママンネの顔を蹴り飛ばした。 倒れ伏したママンネに、人質にしていたベビンネを放り投げてやると、抱き合ってミィミィ泣いている。 その隙にあたしは可燃ゴミ用のポリ袋を取り出した。新聞紙ごと丸めて、ベビンネ達の死体をゴミ袋に放り込む。 「何するの、返して!!」と言わんばかりにママンネが飛びついてきたが、回し蹴りを食らってあえなく吹っ飛んだ。 あたしはゴミ袋をゴミ箱の側に置き、梱包用の紐とハサミを取り出した。 そしてうつ伏せに倒れているママンネに馬乗りになり、短い両手を後ろ手に縛り上げる。 「ミィミィミィ!」と騒ぎ立てるママンネ。「助けてくれるって言ったのに!」とでも抗議しているのだろう。 その態度がまたあたしをイラつかせた。 「うるさいわね、ごちゃごちゃ言うなら今すぐあの世に送ってあげてもいいのよ!」 あたしは馬乗りになったまま、紐をぐるりとママンネの首に巻くと、思い切り締め上げた。 「ミグッ!…ヒィ、ミヒィ!……ギュワ…!」 ママンネは口から泡を吹いて悶え苦しむ。ベビンネが「チィーッ!チィーッ!」と叫びながらあたしの足にすがりついた。 「あんたもうるさい!ママと同じ目に遭いたいようね」 あたしは紐をほどいてママンネを解放すると、今度はベビンネの首に紐を巻きつけて左右から引っ張った。 「チィィ!…ピ…ピ…チィ…!」 小さな手足をバタつかせて苦しむベビンネ。ママンネは「ミヒュゥ、ミヒュゥ…」と息をつくだけで手一杯だ。 もちろん本気を出したら、たちどころに首が折れてしまうだろうから、だいぶ手加減してはいるし、 この場で殺す気はない。あたしが力を緩めると、ベビンネはぐったりして床に倒れた。 「手間かけさせないでよね。さあ、おやすみの時間よ」 ベビンネの首根っこを掴んで持ち上げ、まだ荒く息をついているママンネについて来るよう促した。 後ろ手に縛られているため悪戦苦闘しながらママンネは立ち上がり、ふらふらとあたしの後について来る。 あたしはタブンネ一家の住処である十二畳の和室に来た。毛布で作られたタブンネの安息の場所がある。 「今日はもう終わりよ、寝なさい」 あたしの言葉は伝わったらしく、ママンネはほっとした表情を浮かべた。 だが「ミッミッ」と言いながら後ろを向いて、縛られている両手を見せた。当然ほどいてくれると思ったのだろう。 「寝なさいとは言ったけど、ほどいてあげるなんて言ってないわ。それからね、今夜のベッドはこっちよ」 あたしはママンネを、巣の代わりの毛布ではなく、その隣の砂箱トイレの方に突き飛ばした。 よろめきながらママンネは、顔から砂の中に突っ込む。それもよりによって、まだ始末されていない糞尿の中に。 いつもなら外出から帰ったあたりで、あたしが排泄物の片付けをしているのだが、 今日は片付けることなく虐待を始めてしまったので、朝から垂れ流していたものが満載だ。 あたしは近付くと、ママンネの顔をさらに糞尿の中にぐりぐりと押し付けた。 「どう、お味は?自分の出したものくらい自分で始末するのが常識ってものなのよ、わかった!?」 「ミゴホッ!!ミヒィ!!ミヒィイィ!!」 砂と排泄物で顔を汚し、むせ返りながらママンネは泣き喚いた。その顔の横に、ベビンネを放り捨てる。 そしてあたしは、タブンネ一家の巣にしていた毛布を片付け始めた。タブンネの匂いが染み付いていて不愉快だ。 「ミ、ミィィ…」「チィ、チィ…」 ママンネとベビンネは身を寄せ合いながら、あたしの撤去作業を絶望に打ちひしがれた顔で見守る。 ママンネはまだ小さいうちからここで育ち、ベビンネもここで生まれた。 その思い出の我が家を一瞬で取り壊されたのだから、2匹の顔が絶望に暗く沈むのも無理はない。 土台代わりに敷いていた段ボールも撤去すると、その一角はきれいさっぱりと、ただの畳敷きになった。 ああ、せいせいした。そしてあたしは今日の作業の仕上げとして、ママンネの両足をきつく縛った。 「ミッ、ミィ…」とわずかに抵抗の意を示すも、もはや諦めたのか暴れようとはしなかった。 ベビンネはあえて拘束しない。子供だけを自由にさせておけば、腹が減ったと駄々をこね、 ママンネを苦しめることになるだろうと計算したからだ。 いつの間にか夕陽が傾いている。あたしは家中の雨戸を閉めて、厳重に戸締りをして回った。 これで万一、ママンネがベビンネだけでも逃がそうとしても脱出は不可能だろう。 もっとも非力なベビンネでは、和室の障子を開くことすら難しいだろうが。 戸締りを終えて戻ってみると、ベビンネが砂まみれになったママンネの腹部を探り、乳を吸おうとしている。 空腹に耐えかねたのだろう。朝飯をあげてから半日以上経過しているし、子供には厳しいはずだ。 時々口に砂が入り、「ペッペッ」と吐きながら、なんとか乳が出ないかと必死でチュウチュウ吸っている。 ママンネは糞尿と砂で汚れた顔に涙を流し、「ミィィ…」と悲しげな声を上げていた。 あいにくそれは無理というものだ。既に離乳期を過ぎて、ママンネの母乳はもう止まってしまっているのだから。 せがむだけ無駄だし、乳が出ないことがわかっているママンネを責め苛むだけなのに。馬鹿な子ね。 「もうおやすみ。そのトイレ以外の場所で粗相してみなさい、ただじゃ済まないわよ」 あたしは言い捨てて障子を閉めた。「ミィミィ…」「チィチィ、チィ…」という切なげな声が聞こえた。 お腹が空いたくらい何よ、せいぜい親子の時間を楽しんでおきなさい。 あたし言ったわよね、『今日のところは助けてあげる』って。今日のところは、ね……。 (つづく)
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このあしあとは、どのニャンコのあしあとかな? ※正解は、ごろにゃんの庭を見てくださればわかりますw 悔しい思いをここで清算!(2015.12.25) クリスマスイベントで未使用だった18枚のエクステリア交換チケット。 使う前に新しいイベが始まって、消えてしまいました(泣) ……ま、課金しないで遊んだイベントだし、いいか(ふんっ)。 さて。 いよいよ1年間の総決算イベントが開始ですね! 今回のイベントのポイントは、ズバリこれ。 もらい損ねたアイテムを、もう一度狙えるチャンス! ごろにゃん的には、楽園温泉とか、カワウソを強化するヘルウォーターとか、 ……いや、数えるとキリがないくらい欲しいものがいっぱい♪ もちろん、既に持っていても再入手できるアイテムもありますよ。 大人気だったアスカさんⅡとか、欲しいですよね^^ なにかと物入りで、財布がどんどん軽くなる年末。 課金するかどうかは悩ましいですが、 今回も狙いを絞って、可能な限りかんばってみます! みんなも、ガンバレー^^ 名前 コメント 追記 「ピヨールコイン70枚」が目安かな ひつじ村2度目の「ゆく年くる年」イベント。 今回の概要は次の通り。 ひたすら花のリースを作りまくる ピンクのガーベラを基本にして、 白のガーベラを1~2株(お手伝い分)植えるのがいいかも。 お礼にもらえるコインをひたすら集める 個人的には「ピヨールコイン70枚」が一つの目安かな(笑) 70枚で交換できるものの中に、 「アスカさんⅡ」(AP回復やデニー稼ぎになるアイテムを届けてくれる)や 「天使の祭殿」(クリック1回でピヨメタル3個、20回でBP回復薬1個) といった重要アイテムがあるわけで、 ごろにゃんは恥ずかしながら祭殿が無いのでぜひ欲しい(笑) 福引券を貯める コインクエストや、EVP達成報酬でもらえる福引券は 年明けの福引に使えるので、きちんと貯めておく。 ひつじ村はイベント続きですが、 中には今後のプレイに大きな影響を及ぼす報酬がもあえるイベントもあります。 今回はそういった重要報酬がひつじ村を始める前のものだったり、 残念ながらもらい損なっていたりする人に、取得の機会を設けたイベント。 ぜひぜひ、「ピヨールコイン70枚」を目安に、がんばってみてくださいね! 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shnbatu/pages/39.html
「100の位切捨て」「20,000点持ち/25,000点返し」 1) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (無題.png) 答)以下反転 4位 -19 3位 -13 2位 -1 1位 +33 2) #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (点数2.png) 答)以下反転 4位 -30 3位 -22 2位 -7 1位 +59
https://w.atwiki.jp/idressngo/pages/73.html
いつもお世話になっております。 FROG代表ダムレイです。 このたびポレポレ・キブルゥ様のとりおこなった。ハリコゴーレムの配布費用の寄付の清算が行われ、その寄付金からハリコゴーレム配布費用を除いた、資金26億をFROGにご寄付いただきました。 この寄付は、多数の方々と、各国各団体様からの善意の結晶です。 以下に、寄付をされた方のお名前を挙げさせていただきます。 以下順不同(敬称略) 瀬戸口まつり ポレポレ・キブルゥ 涼原秋春 久珂あゆみ 霧賀火澄 黒崎克耶 矢上ミサ 霰矢蝶子 矢神サク 久堂尋軌 玄霧弦耶 アポロ・M・シバムラ 黒霧 矢上麗華 よんた ユーラ 瑛の南天 いも子 たらすじ 乃亜・クラウ・オコーネル 守上藤丸 星月 典子 花陵 伊能 誠人 士具馬 鶏鶴 はる 高原鋼一郎 比野青狸 日向美弥 蓮田屋 藤乃 黒埼紘 東 恭一郎 INUBITO 平 祥子 みぽりん 吾妻 勲 御鷹 ミーア 花井柾之 よっきー ホーリー えるむ 初恋運輸~ふぁーすとらぶ・えくすぷれす~ 株式会社バンライス きみプロ!事務所 万屋ポーレポール ハニーキッチン ゴロネコ藩国 神聖巫連盟 涼州藩国 アイテムショップ 寄付を取りまとめていただいた、ポレポレ・キブルゥ様、多数の寄付をしてくださった方々に感謝いたします。 本当にありがとうございます。 この御恩をわずかばかりでもお返しできるよう、一所懸命働いてまいります。 いただいた善意が善意を生みNWにひろがるように、FROGメンバー一同より一層の努力をしてまいります。 これからもFROGをよろしくお願いいたします。
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清算主義VSリフレ主義 近年の経済論壇で最も話題になった書物の一つは、間違いなく竹森俊平氏(慶應大学教授)の『経済論戦は甦る』(東洋経済新報社)であろう。この本は、ジョセフ・シュンペーターの「創造的破壊」という考えに代表される「清算主義」と、アービィング・フィッシャーの債務デフレ論から導き出される「リフレ主義」という対抗軸を設定することによって、1930年代の大恐慌をめぐる論争と現在の日本のデフレ不況をめぐる論争の相似性を見事に明らかにしている。 この竹森氏のいう清算主義とは、資本主義経済において不況が生じるのは不可避であり、むしろ不況という「破壊」を通じてこそ非効率な企業や雇用の淘汰が進み、新たな成長の基礎が準備されるという考えである。 それを最も典型的に体現するのは、大恐慌時のアメリカのフーバーの政権で財務長官を務めていたアンドリュー・メロンによる、「労働者、株式、農民、不動産などを清算すべきである。古い体制から腐敗を一掃すれば価格は適正になり、新しい企業家達が再建に乗り出すだろう」という発言である。 実際、フーバー政権は、大恐慌の最中に銀行や企業が次々と潰れていくのを静観するのみで、積極的な景気回復策を何もしようとはしなかった。その結果、アメリカの国内景気はさらに悪化し、失業率は遂には20%を超え、GDPは半減するまでに至ったのである。 竹森氏の上記著作は、大恐慌期に各国で行われた清算主義派とリフレ派との間の忘れ去られた論争を、現代に生き生きと甦らせている。しかし実は、忘れ去られている興味深い人々は、そのほかにも大勢いるのである。 清算主義の先駆者たち 筆者は現在、若田部昌澄氏(早稲田大学助教授)、田中秀臣氏(上武大学助教授)、中村宗悦氏(大東文化大学助教授)らとともに、日本の昭和恐慌期前後に行われた論争を再検討するプロジェクトにかかわっている。その論争は一般には、旧平価での金本位制復帰の是非をめぐる「金解禁論争」として知られている。しかし実は、それは本質において、清算主義とリフレ主義との間の論争であった。というのは、旧平価金解禁派が唱導していたのは、旧平価での金本位制復帰それ自体というよりも、そのようなデフレ政策を通じた企業の清算(当時の言葉でいう財界整理)であり、それに対抗する新平価金解禁派が問題にしていたのも、旧平価での金本位制復帰によって必然的にもたらされることになるデフレの弊害であったからである。 当時の論争を調べてみると、デフレや構造改革をめぐる現在の論争とのあまりの親近性に驚かざるを得ない。そのことは既に、やはり上記プロジェクトのメンバーの一人である安達誠司氏(クレディスイスファーストボストン証券会社経済調査部エコノミスト)の論考「蘇る70年前の経済論戦」(『日本経済ウィークリー』2003年2月7日)において明らかにされている。そこに示されているように、野口悠紀雄氏、池尾和人氏、榊原英資氏などの現代の反リフレ派経済学者たちや、首相その他の政府首脳および日銀総裁などによって語られてきた構造改革主義的=親デフレ的=反リフレ的言辞のほとんどには、昭和恐慌時の論争の中にその先駆を見出すことができるのである。 特に興味深い人物を、二人だけ紹介しておこう。一人は、上記の安達論考にも頻繁に登場する勝田貞次なる民間エコノミスト(野村證券経済調査部長から時事新報景気研究所長)である。もう一人は、慶応義塾大学教授であった堀江帰一である。両者とも、当時の代表的な旧平価金解禁論者であった。近いうちに、勝田については若田部昌澄氏による、そして堀江については田中秀臣氏による詳細な研究が明らかにされる予定である。したがってここでは、両氏の研究に依拠して、この二人がいかに典型的であったのかだけを紹介しておきたい。 堀江の清算主義者ぶりは、その論説「不景気を最極点まで徹底せしめよ」(『中央公論』1925年3月号)において最もよく明らかになる。その内容は、その表題のとおり、「我国の経済社会に不景気を徹底し、不景気をして其最極点に上らしめる」ために、旧平価金解禁を梃子に金融および財政の引き締めを実行せよとするものである。堀江のこの「政策提言」は、その約5年後に、浜口雄幸民政党内閣の蔵相・井上準之助の手によって現実化することになる。しかし、1927年に病没した堀江が、その帰趨を目の当たりにすることはなかった。 それに対して、勝田貞次は、旧平価金解禁後の昭和恐慌当時に、石橋湛山や高橋亀吉といったリフレ派と積極的に論争を行っていた人物である。その勝田は、昭和恐慌の最中の1930年に行われた「金輸出再禁止問題討論会」において、石橋や高橋らに対して、「大恐慌を大いに促進したいのです」と言い放っている。彼もまた、堀江に劣らぬ清算主義者だったのである。 清算主義の現実形態としての無作為主義 筆者は、本連載第二回「『構造』なる思考の罠」において、「構造」を強調する古今の議論は、構造は根本的かつ一挙に変革する以外にはないという「根本主義」と、構造は堪え忍ぶしかないという「我慢主義」によって特徴付けられることを指摘した。近年の構造的デフレ論は、その典型である。 私見によれば、清算主義とは、筆者のいうこの根本主義のことに他ならない。そして、清算主義の対となるような、筆者のいう我慢主義に対応する概念をここで新たに名付けるとすれば、それは「無作為主義」と表現するのが適切であろう。すなわち、清算主義=根本主義であり、無作為主義=我慢主義である。これは、一挙的変革を説く根本主義の現実的形態が、堪え忍んでその変革の機会をじっと待つ我慢主義であったのと同様に、清算主義の現実形態は無作為主義であったことを意味する。 実際、古今東西の清算主義者たちの「政策提言」の内容をつぶさに吟味してみると、結局のところ、アンドリュー・メロンの「労働者、株式、農民、不動産などを清算すべきである」、堀江帰一の「不景気を最極点まで徹底せしめよ」、そして勝田貞次の「大恐慌を大いに促進したいのです」に典型的であるように、何もせずに状況が悪くなるがままにまかせよという無作為主義の主張に帰着してしまうのである。 しかし、清算主義の清算主義たるゆえんは、むしろその先にある。それは、そのイデオロギーが常に、単に経済状況の悪化を無作為のままに放置せよとするだけではななく、経済状況を積極的に改善する目的で行われる政策=「作為」の一切を拒否するような、強い否定の意志を含んでいるということである。したがって、この局面における清算主義は、無作為主義というよりも、作為を積極的に妨害するような非・作為主義と言い表した方がより正確であろう。 そのことは、過去においてだけでなく、今現在においても確認できる。実際、現代日本の構造改革主義者たちの多くは、デフレに耐えよと無作為を説く一方で、「小手先のマクロ政策」という作為を批判することに余念がないのである。 革命=体制変革としての清算 構造改革主義を特徴付けるこのような心情は、その目指すところは正反対ではあるが、体制内での漸進主義的改革を改良主義と蔑んできた、かつての教条的マルクス主義のそれときわめて近い。マルクス主義にとっては、すべての体制内改良は、資本主義の延命をもたらすにすぎないがゆえに、すべからく反階級的=反動的な試みとみなすべきものなのであった。資本主義は、あくまでもその「再極点まで」腐朽するにまかせられなければならないのである。したがって、彼ら革命的マルクス主義者たちにとっての敵は、多くの場合において、ブルジョア階級そのものよりも、体制内改良を計ろうとする、こざかしい日和見主義者たちであった。彼らにとってみれば、ブルジョア階級はむしろ、資本主義の腐朽を押し進める「進歩的」な存在だったのである。 同様に、清算主義者たちは、それがいかに善意の試みであったとしても、経済状況の改善を目的として行われる政策のすべてに、原理的に反対せざるを得ない。というのは、それは、不況の招来を先延ばしすることで、結果として「古い体制」や「腐敗」の温存に手を貸してしまうことになるからである。彼らの考えによれば、「健全なる資本主義」は恐慌という清算=革命を通じてのみ実現されるのであるから、恐慌の発露を阻止しようとする試みは、いかなるものであれ反動そのものであり、否定の対象でしかあり得ないわけである。 このように、マルクス主義者と清算主義者の思考様式は、「体制」や「構造」の一挙的変革を指向し、漸進的問題解決への強い忌避によって特徴付けられるという点で、まったく相似的であるといってよい。そして、現実世界においても、マルクス主義者はしばしば、清算主義者として発言し、行動した。 上述の竹森俊平氏の著書『経済論戦は甦る』は、かつてのドイツにおいて、大恐慌の最中にデフレ促進的な政策を最も熱心に推進し、ドイツ国民に塗炭の苦しみを与え、結果としてナチスの登場を促したのは、最も正統的な立場のマルクス主義者たちであったことを明らかにしている。 日本の清算主義的マルクス主義者たち 実は、そのような図式は、日本においてもまったく同様に成立していた。若田部昌澄氏の論考「昭和恐慌をめぐる経済政策と政策思想:金解禁論争を中心として」によって明らかにされているように、日本の昭和恐慌期の論争においては、マルクス主義者たちの一部は、明確に清算主義の側に立って発言した。 最も典型的なのは、戦前の日本を代表する経済学者であり、同時にマルクス主義者であった河上肇(京都帝国大学教授)である。その河上は、昭和恐慌期においては、現実に行われつつあった蔵相・高橋是清によるリフレ政策を最も手厳しく批判し、リフレ派の領袖であった石橋湛山と果敢に論争を行うような、徹底した清算主義者であった。それは、マルクス主義者たる河上にとっては、不況は資本主義の必然であり、不良事業を温存するにすぎない不況対策は無意味だからである。さらに、金本位制は資本主義にとって不可欠であり、その廃止は資本主義の枠内では不可能だと考えられるからである。 河上は、1932年2月21日付の自著の追記において、同年2月9日に暗殺された井上準之助の業績を悼み、「資本主義はもはや斯かる‘正常な’療法を主張する医師を再生産しえざる程度の末期に進みつつある」と記している。河上が賛美するこの井上準之助の業績とは、いうまでもなく、日本経済を未曾有の危機=昭和恐慌に陥れた、あの旧平価金解禁のことにほかならない。 若田部氏の上記論考は、マルクス主義者の思考様式が、本質的に清算主義的であり、かつ無作為主義的であることを示す、もう一つの事例を挙げている。それは、日本の代表的マルクス経済学者であった大内兵衛(東京大学教授)によってなされた、いわゆる証券不況期(1965年)における座談会発言である。あまりにも典型的なので、以下にそのまま引用しておこう。 「もちろん、放っておけば、恐慌(クライシス)がいま起きるということはあり得る。多少の出血はある。それは原因があるのだから、起こるのはしかたがない。過剰の生産設備は恐慌によってその設備の一部を破壊すればよい。それが出血であるが、これによって旧式な、不生産的な設備がつぶれればあとはよくなる。それ以外にそれをなおす方法はない。そこで恐慌が起こるなら、いま起こしたほうがいい。それは将来起こらねばならない恐慌と比べれば、小さな恐慌で済むからだ。原因がある以上、熱は抑えない方がよい、輸血もしない方がよい。自然療法がいちばんよい」。 清算主義の「プチ清算主義」としての現実 ところで、清算主義の勇ましい掛け声とは裏腹に、その現実の末路は、情けなさに満ちているのが常である。 大恐慌が起きた当初、上記のアメリカ、日本、ドイツも含めた多くの国々は、その危機的な状況の中で、むしろ経済的収縮を増幅させるような、緊縮的なマクロ政策を発動した。1930年1月11日に実施された日本の旧平価金解禁は、その典型的な例である。それらの政策が、恐慌を押し進めることで腐敗を一掃し、資本主義の健全性を取り戻すという、清算主義的な理念を背景として行われたものであったことは、いうまでもない。 しかし、その後の経済状況の急激な悪化の中で、当初の清算主義は、企業や銀行の個別的な救済や延命に奔走する、リフレ政策なき「プチ清算主義」に堕していく。 そもそも、恐慌の最中にデフレ促進政策を行うのだから、企業の倒産や銀行の破綻が頻発するのは当然である。しかし、もし清算主義の理念を本気で貫徹しようとするのなら、それをそのまま放置しておくのが筋というものである。ところが、現実においては、そのような「純粋な清算主義」は、ほとんど実現されることはなかった。その典型は、旧平価金解禁を断行した井上準之助である。その政策は常に、建前としての清算主義と、実態としての救済主義=延命主義によって特徴付けられていた。 もちろん、いくら政府が個別の企業や銀行を救済したとしても、マクロ経済の悪化を放置したままでは、しょせんは焼け石に水にすぎない。企業や銀行の救済は、不況の結果としての倒産や破綻を取り繕う、事後措置としての「不況対策」でしかない。マクロ的な状況がそれによって改善するわけではまったくない。そして、マクロ経済が回復しない限り、政府は、企業や銀行の救済をなし崩しに続けていくしかないのである。 実は、事態のこのような推移は、われわれがごく身近に経験していることでもある。 記憶を少々さかのぼれば、政権成立当初の小泉政権が、驚くべき高い支持率を獲得するにいたったのは、「痛みに耐える構造改革」とか「米百俵の精神」といった我慢主義的スローガンをメディアに浸透させることによってであった。とりわけ、小泉ブームの頂点であった2001年7月22日に行われた「ジェノヴァ・サミット内外記者会見」での質疑応答における、「景気が回復したら、改革する意欲がなくなってしまう」なる小泉発言は、この政権の清算主義的体質をきわめてよく表していた。 しかし、経済状況が刻々と悪化する中で、小泉政権の政策路線は、明らかにプチ清算主義へと移行していく。そのことを典型的に示したのが、2002年1月のダイエー救済である。これは、その直前の2001年12月に倒産した青木建設については、「構造改革が順調に進んでいる現れ」といったような、まさに清算主義そのもののコメントを小泉首相が口外していただけに、政権の路線変換を明瞭に印象付けた。 さらには、2003年5月に決定された、りそな銀行への2兆円の公的資金投入である。小泉政権は、2002年9月末に行われた小泉内閣初の内閣改造において、竹中平蔵・経済財政担当相の金融相兼任を決定した。しかしこの人選は、政府による強引な企業選別・淘汰=清算への懸念を強めたことで、いわゆる竹中ショックと呼ばれる株価の暴落を引き起こしていた。それだけに、りそな銀行の救済は、「やはり政府は大銀行を潰すことはない」という確証を市場に与えることに大いに寄与したように思われる。 このようにしてみると、小泉政権の歩みもまさに、「問題企業」の淘汰を押し進めようとする清算主義から、積極的な景気対策こそ行わないが、個別企業および銀行の救済はいとわないプチ清算主義への、なし崩しの移行であったことが分かる。そしてそれは、多くの現実の清算主義が辿ってきた道を、ほぼそのままなぞったものにほかならなかった。 清算に熱狂する人々 ところで、きわめて滑稽であると同時に悲劇的なのは、現実世界においては、清算主義の言説やスローガンは、しばしばメディアや一般大衆の側における過剰なまでの支持を取り付けがちであるということである。 その点において最も典型的だったのも、やはり浜口雄幸=井上準之助の旧平価金解禁断行コンビであった。1929年に成立した浜口雄幸内閣は、その年の8月に、金解禁と緊縮財政に対する国民の理解を得るため、1300万枚の宣伝ビラとラジオ放送を用いて、大宣教活動を行った。巷ではその後、「金の解禁立て直し、来るか時節が手を取って」という歌詞の金解禁節が流行し始めることになる。また、かねてから「旧平価による金解禁の即時断行」のキャンペーンを行っていた『大阪毎日新聞』、『大阪朝日新聞』といった当時の大手メディアも、浜口内閣による旧平価解禁を諸手を挙げて歓迎した。そして、その紙面において、さかんに政府方針支持の論陣を張った。 その旧平価金解禁を主導した井上準之助自身の考え方は、その著書『国民経済の立直しと金解禁』(千倉書房、1929年)および『金解禁—全日本に叫ぶ』(先進社、1929年)の中に端的に現れている。それは、「平価切り下げによって一時を糊塗すすれば、従来の虚偽をそのまま永続することになる」、「人々の経済再生への努力心を消失させ、解禁問題解決の目的を忘れさせる結果になる」、「結局、財政の緊縮、財界の整理という過程を一度は経ねばならない」、「いずれにしても同じ苦痛を免れないとすれば、多少の犠牲は覚悟して、旧平価による解禁という常道を選び、これに向かって邁進するのが最も賢明であり、妥当である」といった内容である。まさに、典型的な清算主義であったことが分かる。 この浜口=井上の緊縮断行路線に対し、当時の一般大衆がいかに熱狂したかについては、有名な逸話がある。井上準之助は、旧平価による金解禁の実施にあたり、日本全国を行脚し、旧平価解禁をテコとした「痛みに耐える」緊縮政策の必要性を説いてまわった。その井上の演説を聴いていた一人の老婆は、感激のあまり、井上に向かって賽銭を投げたというのである。小泉政権発足当初の、マスメディアや一般世論の「小泉フィーバー」ぶりを彷彿とさせる逸話である。 実際、小泉政権の誕生時には、メディアの多くが、あたかも政権の広報誌であるかのように、「痛みに耐える構造改革」の必要性を説いていた。とりわけ、小泉首相個人の人気はすさまじく、ブームの頂点であった2001年5月から7月にかけては、20冊以上もの「小泉本」が出版された。まさしく、「金解禁節」で人々が踊った浜口雄幸内閣の成立時に比較されるべきフィーバーぶりだったわけである。 世間知と歪んだ道徳感情の混淆 清算主義の持つこうした強烈な訴求力は、実に深刻かつ破壊的である。というのは、これまで明らかにしてきたように、清算主義はほぼ常に、無作為主義、すなわち経済状況の悪化を無為に放置することを正当化するイデオロギーとして作用し、実際にそのような役割を果たしてきたからである。もちろん、上述のように、現実における清算主義は、やがては、個別救済を伴うプチ清算主義として、幾分かは無害化されるのが常である。しかし、清算主義そのものは、人々の経済生活を破壊するような政策に積極的な意義を見出そうとするような考え方であるから、それがそのまま現実化し続けた場合の危険性は、まさに計り知れないのである。 問題は、人々はなぜここまで、破壊を説く考え方に魅せられるのかである。私見によれば、そこには二つの要素がある。一つは、「良薬は口に苦し」というような格言を安易に経済問題にあてはめてがちな、経済についての一見もっとらしい「世間知」である。そしてもう一つは、清算主義の持つ、一見すると道徳的な装いである。 竹森俊平氏の上記著作が、その問題に関する現代的研究を紹介することによって指摘しているように、「経済成長のためには不況が必要である」といった清算主義命題=シュンペーター・テーゼが現実に妥当してるような証拠はほとんどない。現代的研究が明らかにしているのは、むしろその逆であり、不況は単に資源の一時的遊休をもたらすだけでなく、経済の将来的な生産能力そのものも低下させるということである。それが、この問題についての、現時点における「専門知」である。にもかかわらず、多くの人々は、「明るい将来」のためには、現在の「苦しみ」や「痛み」が必要だと信じて疑わないのである。 確かに、経済問題の多くは、制約のもとでの選択の問題であり、その選択はトレード・オフによって特徴付けられるから、良薬は口に苦しという世間知がそのまま妥当する状況は数多くある。しかし、経済問題の中にはまた、善が善を呼び、悪が悪を呼ぶという正のフィードバックによって特徴付けられる問題も数多く存在するのである。そしてそれは、資源の遊休や不完全雇用という状況と不可分の関係にあるマクロ経済問題においては、とりわけよくあてはまる。 清算主義のもう一つの魔力は、それに常にまとわりついている「苦しみ」や「痛み」という我慢主義のスローガンが、しばしば人々の道徳的感情を呼び起こしがちだという点にある。 とはいえ、その「道徳」を額面通りに受け取るべきではない。というのは、多くの場合、その道徳的感情の実態は、自らを律するという本来の意味での道徳というよりは、「バブルに浮かれていい思いをしていた連中」に対する庶民的反感あるいは妬みといった方が正確だからである。 おそらく、この「道徳」の本質を最も鋭く見抜いていたのは、金解禁論争において「新平価解禁四人組」の一人として名をはせ、石橋湛山や高橋亀吉の朋友として活躍した山崎靖純であろう。これも、上記の若田部論文に紹介されている文章であるが、山崎は、旧平価金解禁を通じた財界整理論の背後にあるであろう感情を、以下のよう言い当てている。 「苦しむがよいのである。日本の財界は戦時以来あまりに不真面目すぎた。だから大いに苦しんで其処に始めて財界の合理化が実現されよう」。 おそらく、この山崎靖純の表現は、「戦時以来」を「バブル以来」に、そして「財界」を「銀行やゼネコン」に替えれば、現代日本にそのまま通用するのではないだろうか。 (了)