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俺は幽霊だ。 幽霊の中には、生きてる頃の記憶があるやつもいるらしい。 が、俺には生前得たであろう知識以外、何の記憶もなかった。 別にそれで困ったことはないし、特になんの感情も持たない。 記憶がないことは、どうということはない。だが…… 「……っく……ぐすっ……」 目の前で泣いている少女に、何も出来ないことは、少し辛い。 生きていれば、涙を拭くことも出来るし、抱きしめることだって出来る。 でも俺は幽霊だから、ハンカチを持つことも出来ないし、少女に触れることすら出来ない。 さっきから奇跡が起きないかと、少女に触れようとしているが、全部少女を通り抜けてしまう。 それが悲しいのか、少女は余計に泣いてしまう。 何も出来ない自分が、とても悔しい。 俺は、どうして死んでしまったんだろう。 「ユウ?どうしたの?」 名前を呼ばれはっとする。 今のは夢だったんだろうか。幽霊でも夢を見るんだろうか。 そう考えていると、目の前の少女も同じことを思っていたのか、 「夢でも見てたの?幽霊でも夢を見るんだね」 そう言って、少女はにっこりと笑う。 泣いてばかりだった子が、少し変わった『友達』が出来て、人間は嫌いなままだけど、人間とも仲良くできるようになって、笑顔が増えた。 たまに泣くこともあるけれど、昔と違って涙を流しても、体温を感じることが出来るし、涙を拭いてくれる奴もいる。 それでも、たまになんで死んじゃったのか、と思うときはある。 生きていたら、人間を嫌って、人間から離れて暮らすようなこともなかったんじゃないか、と。 「さ、一緒にお散歩いこ!」 『あぁ』 けど、幽霊じゃなかったら、こんな風に笑いかけてくれなかったかもしれない。 幽霊だから笑顔に出来るんだ、と考えると、幽霊も捨てたもんじゃないな、と思う。 作者 銀
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ワンダープロジェクトJ2 any%RTAチャート ゲームクリアに必要な最小のイベントを表記しています。 通常プレイの場合、各イベントの表に数字が振ってあるイベントを進めればクリアできます。 RTA動画(3時間43分04秒) ゲームスタート 買い物&本のインプット&ステータス上げ あいさつイベント カッツェ(ネコ)イベント 料理イベント ガンテイベント サファイアイベント 映画イベント(1) 海神祭イベント 映画イベント(2) クララの病気イベント 格闘(ハーベン)イベント ダンス(ジャイケル)イベント ポッコイベント 革命団に加入&逃亡ダンジョン『セドナ・ブルー』 第2部ジョゼットの記憶ダンジョン(仮名) シリコニアン兵からの逃亡 チャート改善点 記事内の表記について コルロの表記は『Cに縦線2つ』ですが、チャート内では『C』で表記。 ドルフィン号はショップのある階を1Fとしています。 ゲームスタート チュートリアルをZボタン連打で終わらせる (最後に『もう一度、バードからのメッセージを聞きます?』でYESを押したらリセット) 買い物&本のインプット&ステータス上げ 【ドルフィン号1F】 初期所持金:5000C 売却:コルロの実(+5000C)購入:体力オイル×5、気力オイル×5、ツルハシ、国語の本、百科辞典、飛行機の本、船の本、メカマニュアル、料理の本、調味料×3(ー6800C)残金:3200C 国語の本をインプット→回収 気力オイル×3を飲む→空きビン×3を回収 料理の本をインプット→回収 調味料×3を食べる。門答は全てYES 気力オイル×3と体力オイル×6を飲んで両方の上限をMAXにする→空きビン×9を回収(体力オイルは格闘イベントのため) 【ドルフィン号B1】 百科辞典、メカマニュアル、飛行機の本、ツルハシを配置 ツルハシの使い方を覚えさせる(セドナ・ブルーでの魔物退治のため。バット振り、ツルハシ振りのどちらでも良いが命中率はツルハシ振りの方が高い) 充電→百科辞典をインプット、追加で5回読んで『頭脳回路・想像力』を上げる→回収 充電メカマニュアルをインプット(百科辞典を追加で読まないとインプット不可。船の本を読むため)→回収 充電→飛行機の本をインプット(同上。2回読まないとインプットされないので注意。実績率が上がるのを確認する。シーバイベントのため)→回収 充電して1Fへ*充電は1回50C消費(合計-200C)*百科辞典、メカマニュアル、飛行機の本を食べたらリセット 【ドルフィン号1F】 売却:体力&気力オイルの空きビン×12、メカマニュアル、飛行機の本、国語の本、ツルハシ(+1870C)購入:体力ドリンク×6、気力ドリンク×6、ネコちゃん、トレー、ダンベル、モップ、調味料×3(ー3100C)残金:1770コルロ*最初の買い物で調味料を6個買わないのは所持限界数が3のため ネコちゃんを蹴る動作を覚える(カッツェイベントのため) トレーの使い方を覚える(カレンイベントのため)追加で6回運んで『バランス回路』を上げる(セドナ・ブルーでの一本橋渡りのため)*ここまでで900C以上のものを食べられた場合はリセット 【ブルーランド市役所・職業登録課】 パールと会うイベント(シリコニアン空軍・ブルーランド駐屯地での総督赴任イベントのフラグ) ウエイトレス、修理工、ビラ配りの登録(料理イベント、シーバイベント、フェリーニ座イベントのフラグ)登録手数料800C(何も食べられていない場合、残り所持金は910C) あいさつイベント 発生条件 場所 内容内容&攻略手順 1 なし 1番ピア フィッシャと会話。「あいさつもしない子はチョットな」……と会話できず 2 2番ピア ジョゼットと会話「アイサツってなんだろう。なにか言わなきゃダメなの?」→ YES 「ウ~~ッス!」 → YES「今の……いいの?」 → YES「もしかして"ウ~~ッス!"と言うことだけがアイサツなの?」 → YES 3 1番ピア フィッシャと会話。あいさつが成功する カッツェ(ネコ)イベント 発生条件 場所 内容&攻略手順 1 あいさつイベントクリア 1番ピア カッツェが魚を盗むのを目撃する 2 エリア初期イベント カレンの居酒屋 居酒屋を出てきたサファイアに突き飛ばされる 3 『ネコちゃん』を蹴るものと学習 ゴミ捨て場 カッツェを蹴ってギャフンと言わせる 4 1番ピア フィッシャに報告し、500コルロを入手カッツェを蹴ったことをサファイアに責められる 5 エリア初期イベント 人工島広場 コルロ島を思い出しホームシックになる 6 人工島広場 サファイアに突き飛ばして悪かったと謝罪される 7 人工島広場 サファイアに弱いものイジメをしていると責められる 8 2番ピア やさしさ回路が一定以上で会話が追加(ネコちゃん1回以上抱きしめ)「もしかして私、あのネコにイケナイことしたのかしら?」 → YES 9 ゴミ捨て場 カッツェに謝る 10 人工島広場 サファイアとも和解し、友だちになる 料理イベント 発生条件 場所 内容 1 あいさつイベントクリア カレンの居酒屋 カレンにあいさつを成功する 2 市役所・職業登録課でウエイトレス登録 カレンの居酒屋 アルバイトしたいなら来るように言われる 3 『トレー』を手に持って運ぶものと学習 カレンの居酒屋 アルバイトをして、料理をするかと冗談を言われる 4 『料理の本』インプット カレンの居酒屋 料理を作る許可を得る 5 カレンの居酒屋 料理を失敗する。「オエーーーーッ!」 6 2番ピア 調味料を合計6個食べる(選択肢はすべてYES)そのあと『料理の本』を読んで味を理解する。ドルフィン号B2のコンロで2回練習 7 カレンの居酒屋 料理を成功させる 8 カレンの居酒屋 グルメン登場イベント 9 カレンの居酒屋 グルメンに料理を振る舞うが微妙な評価 10 2番ピア B2のコンロで4回練習4回目に『頭脳・想像力回路』が一定以上で会話が追加「今の私に~心をこめて作ることだけだわ」 → YES ガンテイベントのために『船の本』をインプットして充電 11 カレンの居酒屋 グルメンに認められる 12 カレンの居酒屋 漁師3人組からお礼を言われ、10000コルロを入手 ガンテイベント 発生条件 場所 内容 1 『メカマニュアル』『船の本』のインプット 1番ピア フィッシャにガンテを紹介してもらう 2 ガンテ深海船修理場 ガンテに会うが忙しいと袖にされる 3 市役所・職業登録課で『修理工』を登録 ガンテ深海船修理場 「何をもっているんだ?」に噛みあわない答えをする 2番ピア 『頭脳・想像力回路』が一定以上で会話が追加「仕事の技術を持ってるか?ってこと?」 → YES 4 ガンテ深海船修理場 ガンテに会って働くことを許可される スッカラ座 『マジメな労働者』『ミオロとリジュエット』『11のいましめ』を見る 5 ガンテ深海船修理場 アルバイトから逃げる 6 2番ピア 「私、そんなにマジメじゃないもん!」 → YES『まじめ回路』が一定以上で会話が追加(『マジメな労働者』1回分)「でも、がんばんないとなぁ……」が出たらOK 7 ガンテ深海船修理場 アルバイトをやり遂げる(5000コルロ入手) 8 ガンテ深海船修理場 アルバイト中に事故が起き、ガンテにギジンであることがバレる 9 『飛行機の本』のインプット ガンテ深海船修理場 シリコニアン兵がシーバを探している 10 ???? シーバを見つける(シューティングのミニゲーム解禁。RTAでは不要) サファイアイベント 発生条件 場所 内容 1 カッツェイベント終了済み 人工島広場 空を見て、ツバサに憧れるサファイアと会う 2 ガンテイベント終了済み 人工島広場 サファイアと一緒にシーバに乗る 3 人工島広場 サファイアがスナオになると宣言する 映画イベント(1) [スッカラ座] 『サウンド・オブ・ダンス』を5回、『バトル・オブ・シリコニアン』を4回見て『感性回路』『攻撃回路』上げる。2番ピアの問答は映画の感想以外は肯定する。 発生条件 場所 内容 1 エリア初期イベント シリコニアン映画撮影所 監督とアランが言い争うのを目撃する 2 映画をどれか1回見る シリコニアン映画撮影所 映画のオーディションの話を聞く 3 スッカラ座 『バトル・オブ・シリコニアン』を見る 4 オーディションの話を聞いた&全ての映画を視聴済みで、映画を見終わる毎に発生 2番ピア 「オーディションに出ていい?」 → YES 5 シリコニアン映画撮影所 掃除がわからず不合格になる 6 2番ピア 『モップで床をこする』動作を覚える(『頭脳・想像力回路』が一定以上必要) 7 2番ピア ドルフィン号B2で洗濯機を見る「グルグル回るとキレイになるの?」 → YES『頭脳・想像力回路』が一定以上で会話が追加「じゃあ、お水?」 → YES 8 2番ピア ドルフィン号B2で『流し台』を使い、顔を洗う「キレイになった?」 → YES 9 2番ピア モップを催促されるので再度使用し『掃除』を理解する 10 シリコニアン映画撮影所 オーディションに合格する 映画イベントをここから進めるには海神祭イベントを終わらせる必要がある。 海神祭イベント 発生条件 場所 内容 1 市役所・職業登録課の初期イベントでパールと会う(ポールとの会話で市長が新総督を迎えにいった話が出る) シリコニアン空軍・ブルーランド駐屯所 新総督着任イベント 2 人工島広場 アーノルドに会う 3 2番ピア アーノルドと会う 4 女神・セドナブルー アーノルドがシリコニアン兵にウワサを流す 5 人工島公園 (初期イベント)3人娘に無視される 2番ピア 「わたし、嫌われちゃったのかな?」 → NO 6 人工島公園 パールが3人娘を叱り、パールたちと友だちになる 7 人工島公園 Gが好きな子がいる、という雑談 8 人工島公園 おしゃべりのペースについていけないジョゼット 9 人工島公園 アーノルドと遭遇し、オカリナを見て驚かれる 10 人工島公園 パールと3人娘がアーノルドのウワサを話している 11 人工島公園 アーノルドに海神祭に誘われる 12 人工島広場 アーノルドと海神祭に参加して、ミスコンで2位になる 13 2番ピア パールに裏通りにいる人への伝言を頼まれる 14 サファイアイベント終了済み? 裏通り 不審者にからまれるがサファイアと???に助けられる 15 人工島公園 パールに無視される 映画イベント(2) 発生条件 場所 内容 11 シリコニアン映画撮影所 演技テストを受けるが失敗する 12 海神祭イベント終了済み 2番ピア 「アーノルドのことを思うとムネがドキドキする。これって、恋?」 → YES 13 シリコニアン映画撮影所 演技テストに合格し、撮影を始める 14 シリコニアン映画撮影所 完成した映画を公開するが、監督が捕まってしまう 15 シリコニアン映画撮影所 監督が解放される クララの病気イベント 発生条件 場所 内容 1 エリア初期イベント ブルーランドの森 謎の声を聞く 2 ブルーランドの森 クララの姿を見かける 3 『感性回路』が一定以上 ブルーランドの森 歌を歌い、クララに上手と褒められる 4 人工島病院 フィッシャの子供(赤ん坊)を見る 5 人工島病院 フィッシャの父親の臨終の場に遭遇する 6 ブルーランドの森 アーノルドからクララが病気だと聞く 7 人工島病院 クロヒゲが登場する 8 人工島病院 クロヒゲから、このままだとクララが死ぬと教えられる 9 ブルーランドの森 コルロの森からメッセージを受け取る 10 2番ピア 1.医学書を4回読み、『人の体』『赤ちゃん』『死』『抵抗力』について知る。『死』について理解すると悲しさがMAXになるので、プリンを食べて解消する。2.プロトン鉱石を食べて、異常なシゲキを感じる3.百科辞典を読む「クララちゃんはブルーランドの森で遊んでいたよネ? → YES「病気の原因はプロトンと関係あると思うの…」 → YES 11 人工島病院 クロヒゲと共に原因をつきとめ特効薬を作る 12 ブルーランドの森 クララからのメッセージを聞く 格闘(ハーベン)イベント 【ドルフィン号】 イベント前に『腕の力』を上げる ダンベルと体力オイルを設置し、ダンベル×4→体力オイル→ダンベル×4→体力オイル→……と繰り返して『腕の力』をマックスにする。『クサリなんかも、ちぎれそうよ!』のメッセージが出たら完了。 充電してHPを回復 発生条件 場所 内容 1 エリア初期イベント シリコニアン空軍・格闘場 革命団の公開処刑を見る 2 料理イベント(2)終了済み シリコニアン空軍・格闘場 男3人組がバトラーに抗議するが聞き入れられない 3 シリコニアン空軍・格闘場 抗議に対し俺を倒せ、それともお前らの代わりにジョゼットが相手になるのか?と挑発 4 2番ピア 「あの兵隊さんが、市民をいじめてるって本当だと思う?」」 → YES『バトル・オブ・シリコニアン』見ていると会話が継続し、戦うことを決意する 5 シリコニアン空軍・格闘場 バトラーの挑発をジョゼットが受ける 6 シリコニアン空軍・格闘場 バトラーと戦い勝つ。『手の力』『足の力』『攻撃回路』が高くないと負けるので注意。バトラーは処刑される 7 シリコニアン空軍・格闘場 ハーベン大佐に戦って欲しいと頼まれるが断る。「ハーベンさんと戦っても、勝てるわけないジャア~ン!」 → NO 8 シリコニアン空軍・格闘場 ハーベン大佐に戦って欲しいと頼まれるが断る。「ハーベンさんと戦っても、勝てないよね?」 → NO 9 シリコニアン空軍・格闘場 ハーベン大佐に戦って欲しいと頼まれるが断る。「ハーベンさんと戦っても、勝てないよね?」 → NO戦いを決意する 10 シリコニアン空軍・格闘場 ハーベン大佐との対戦を承諾する 11 (10)を終了済み海神祭イベント(14)終了済み? あやしい裏通り ファーテルが倒れているので助ける 12 あやしい裏通り ファーテルから修行を受ける(1回目) 13 あやしい裏通り ファーテルから修行を受ける(2回目) 14 あやしい裏通り ファーテルから修行を受ける(3回目) 15 あやしい裏通り ファーテルから修行を受ける(4回目)『免許皆伝』を入手 16 シリコニアン空軍・格闘場 ハーベンと戦って勝つ 【12~15】の間の細かな動き ドルフィン号で充電 修行1回目 ドルフィン号で充電 修行2回目 2番ピアで体力ドリンクを2本飲む 修行3回目 ドルフィン号で充電 修行4回目 体力調整の詳細(画像) + ... ※体力オイルを6本飲みHPを最大にすると2番ピアを58回ダッシュで往復できるため、最大HPを58としている。 ※修行は1回につき29消費する。 ※HPが4以下になると、赤ゲージになり移動速度が低下、ダッシュが不可になる。 修行②と修行③の間に飲む体力オイルが1本だと、修行③後に赤ゲージになるためタイムロスになる。 ※回復せずに修行し修理で回復した方がタイムは早くなるが、次のダンスイベントが発生しない現象が発生した(修理にマイナス補正があるのかは不明。要検証) ダンス(ジャイケル)イベント 発生条件 場所 内容 1 エリア初期イベント 役所前広場 人の多さに驚くジョゼット 2 役所前広場 フェリーニ座の宣伝をするザンパーニュに会う 3 職業登録課で『ビラくばり』を登録 役所前広場 ビラ配りのバイトをする 4 役所前広場 ジャイケルのダンスを見る 5 『腕の力』がマックス(『クサリなんかも、ちぎれそうよ』の状態) 役所前広場 ザンパーニュのクサリ千切り芸に参加し、クサリを千切る 6 (4)を終了済み スッカラ座 『サウンド・オブ・ダンス』を見る。映画鑑賞後、ジョゼットが踊るダンスが増える。最後の「サティスファクション!」まで出たらOK 7 (6)を終了済み 役所前広場 ジャイケルとダンスをする(1回目) 8 役所前広場 ジャイケルとダンスをする(2回目) 9 役所前広場 ジャイケルとダンスをする(3回目) ※ダンスは1回ずつ難易度が上がるわけではなく、1回目の発生条件を満たせば2、3回目は広場に行くだけでクリアとなる。 ポッコイベント 発生条件 場所 内容 1 海神祭イベント終了済み? 1番ピア ポッコと会い、アッカンベーされる 2 2番ピア ポッコが訪ねてくるが何も言わずに去る 3 パイプ通路の入口 ポッコからかけっこをしようと提案されるが拒否する「ポッコという子、ヘンな子!」 → NO優しさ回路が一定以上で会話が継続ポッコを許すことにする 4 パイプ通路の入口 ポッコを許し、かけっこの約束をする 5 パイプ通路の入口 ポッコとかけっこをする(『足の力』が一定以上必要) 6 カレンの居酒屋 ポッコが前作のピーノの生まれ変わりだという会話。ポッコがオカリナに勝手に触れてジョゼットが怒る 7 2番ピア ポッコが謝りにくるがジョゼットはつっぱねる「また、ムカついてきたわ!」→ NO『優しさ回路』が一定以上で会話継続「じゃあ、(プレイヤー)さんも、ポッコみたいにムシンケイなのっ!?」 → NOポッコを許すことにする 8 一度出て2番ピアに入り直す 2番ピア ポッコを許す 革命団に加入&逃亡 『正義回路』を上げるために、決闘イベントで入手した『免許皆伝』を読む(2回) 発生条件 場所 内容 1 上記のイベントを全てクリア 2番ピア ポッコが訪ねてきて、革命団に入らないかと提案されるが拒否する 2 ドルフィン号1F 「一緒に、戦った方がいいのかな?」 → YES『正義回路』が一定以上で会話が継続「(プレイヤー)さん! 私、革命団に入るわ!」 → YES 3 パイプ通路の入口 ポッコに返事をする。セドナ・ブルーに来てと言われる ダンジョン『セドナ・ブルー』 ▲:ハシゴ、矢印:階段、橋:一本橋、J:ジャンプ、モ:モンスター モンスターはツルハシが用意されているので『バット振り』や『ツルハシ振り』の動作で倒す 魔物(小)は上下しているのでタイミング次第で下をくぐれる。前作と違いジョゼットの身長が高い&魔物の感覚が狭いので倒した方が無難 発生条件 場所 内容 1 人工島広場 サファイアにガロンと会ったことを話す 2 2番ピア ポッコと会話。カレンの酒場に移動してイベント 3 2番ピア アーノルドと会話。ジョゼットがギジンだとバレる 4 ガンテ深海船修理場 ガンテと会話 5 人口島広場 サファイアと会話 6 人工島病院 院長&ナースと会話 7 人工島公園 パール&3人娘と会話 8 女神セドナ・ブルー入口 名無しの兵士と会話 9 カレンの居酒屋 カレンと会話 10 あやしい裏通り ゲドーを返り討ちにする 11 1番ピア フィッシャと会話 12 ブルーランド市役所・職業登録課 ポールと会話 13 ???(シーバの隠し場所) シリコニアン兵から逃げる 14 2番ピア プロトン採掘場で事故が発生。革命団が蜂起。ブルーランドから出発し、第一部終了 ゴミ捨て場、役所前広場、シリコニアン映画撮影所、プロトン採掘場、シリコニアン空軍・ブルーランド駐屯地、シリコニアン空軍・格闘場、ブルーランドの森、は行く必要がない。 第2部 イベントが中心で基本的にはメッセージを進めるのみ。 ここで2つの3Dダンジョンの『ジョゼットの記憶』と『シリコニアン兵から逃亡』(両方とも仮名)のマップを掲載しています。 ジョゼットの記憶ダンジョン(仮名) 1階 2階 ランダムに配置されたジョゼットを探して20の質問に答える。 ジョゼットが近くにいると笑い声が聞こえる。声の聞こえる範囲は上記マップで4マスほど 声の聞こえる範囲 + ... プレイヤーから見たジョゼットの位置で聞こえる方向が変化する。2~6時の方向にいると右から、8~10時の左から聞こえ、それ以外は両方のスピーカーから聞こえる。 位置関係の判定と実際に声が聞こえるタイミングには一秒ほど差がある。そのため判定直後に方向転換すると実際の位置とは違う方向から聞こえるので注意 シリコニアン兵からの逃亡 兵士は初期状態ではマップにいない。特定のポイントに侵入するとポップアップし、特定の方向に向かう。 2体出現する場合は、1体目が出現後、少し間を置いて2体目が出現。同じ方向に向かう。 ポップアップ判定ポイントが複数ある場合、1つ踏むと残りは消滅する ジョゼットに隣接すると射撃体勢を取る。射撃体勢になって3秒弱で銃撃。射撃体勢の距離からさらに近づくと、即銃撃を行う。 撃たれた場合は1Fからやり直し。コンテニューは無制限。何度やり直しても難易度は変わらない。 上がってきたエレベーターに入ると下の階に戻ることができる。ただし、兵士はリセットされず下の階にいる間も動き続ける。 移動の仕様移動速度はジョゼットより少し遅い 常に動き続け、立ち止まるのは射撃体勢になった時のみ ワープはしない 分かれ道にさしかかると後方以外の方向にランダムに移動。Uターンするのは突き当たりの場合のみ ジョゼット近距離にいると『追跡モード』(仮称)になる 『追跡モード』で分かれ道にさしかかると、ジョゼットのいる方向に中確率で、それ以外の道に低確率で進む 兵士の足音は下記のマップ(Nagisa381作成)で4マス、扉の開閉音は8マスほど届く 具体的な動きは動画でどうぞ。 各階のマップ + ... マップの記号 ▼:下りエレベーター(スタート地点)、▲:昇りエレベ―ター、オレンジ丸:兵士のポップアップ判定ポイント、『兵』と矢印:ポップアップ位置と移動方向 1階:兵士数1 2階:兵士数1 3階:兵士数2 4階:兵士数2 5階:兵士数2 6階:兵士数2 7階:兵士数2 8階:兵士数2 チャート改善点 1回目の買い物でトレーを購入。国語辞典を読む前に『バランス回路』を上げて転倒をなくす(約2分短縮) 体力&気力オイルをビンごと食べるようにさせる。モーション1回毎に1~2秒短縮。空きビン回収&売却もカットできる。(約1分短縮) 『腕の力』を鍛える際のHP管理を厳密に行う。ダンベル4回→体力オイル、だとムダに回復している可能性がある。 ジョゼットとの問答時、NOの際はBボタンを2回押す。1回押した時よりもモーションが短い(1回につき0.5秒ほど短縮) 第一部ラストの逃亡時、役所前広場、シリコニアン映画撮影所、プロトン採掘場、シリコニアン空軍・ブルーランド駐屯地、シリコニアン空軍・格闘場、ブルーランドの森、は行く必要がないのでカットできる(約2分短縮)
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【魔法の分類】 魔法は 属性 と 階級 で分類され、人によって得意とする属性は異なります 《属性》 属性は大きく火、水、雷、土、風、自然、闇、光の8種類に分かれます。※まれに分類不能な魔法使いもいるようです。例えばサイコキネシスとか瞬間移動とか。そういうのは特殊系って呼ばれたりします 一般に、同じ威力の同じような魔法をぶつけた場合の力関係は 火 水 雷 土 風 自然 火、闇=光と言われています。 《階級》 階級は初等魔法、中等魔法、高等魔法の3つです。 初等魔法は火や風を起こす、水を操る、といった基本的な魔法です。 中等魔法はそれを各属性ごとに発展させた魔法です。例えば風属性なら空を飛んだり、火属性なら魔力を爆発させたり、水属性なら氷を扱ったりします。 高等魔法はそれをさらに専門的に細分化したもの。雷属性ひとつ取ってみても、発生する雷の威力を極める者、微細な電気信号を流して身体を操る者、強力な磁場を発生させる者など様々です。 【魔法学校】 若い魔法使いは魔法学校に通って魔法を習得します。 魔法学校は3年制ですが、非常に難関なのでストレートに卒業できる者は殆どいません。 魔法学校で扱われる内容は、先に述べた8属性から光と闇を除いた6属性です。 一年生は初等魔法を学びます。エレメント(各属性の基本要素)を生成し、それをコントロールする能力を身に付けます。 二年生は中等魔法を学びます。一年生の内に魔法の適性を見極め、二年生になると属性でクラス分けされます。ちなみにアリスは二年生で、火属性のクラスに所属しています。 三年生になると、皆が自由に魔法を研究します。研究の成果が最後の試験で認められれば無事卒業。晴れて一流の魔法使いになれます。 アリスの適性は本当は 闇 です。ぶっちゃけ火属性は彼女に合ってません 一年生で落ちこぼれてたけど、色々あって本気出したら二年生になれました 二年生はもっと厳しいですが、猛勉強のお陰で成績は平均くらいをキープしてます。努力家です
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◆Tsun.uKDs2 今はカオスの作成に夢中? 新カオスに期待。アニソンにも期待。 Janne Da Arcの垂れ流しもしている。 ここから本人です。どうも Janneの方もやってます。ポルノの方が回数多いですが。 基本的に朝~7時くらいまで垂れ流してます。 楽しくがモットー。だから途中で変な曲入ったりするけどキニスルナ! 安価ミスは仕様です。なんと言っても仕様です。指摘されると傷つきます>< 人間×10も自分のせいでしたすんませn 【再生可】 シングル(カップリング含め全曲) アルバム全曲 インディーズ(大体の曲はおk) ロード88 Buzy 限界ポルノラジオ(ストリーミング分) LIVE音源結構あります。。。 他にもPOISONとかLASAKURAとか弾き語りとか。 多分スレでリクされる曲はいけるかな? 他にはJanneとかこなあああああああゆきいいいいいいいとか慎吾ママとか日英アクエリ(サントラ)とかハルヒ関連とかVIPSTARとかヒューザージとかアネハ蝶とk(ry リクあればどんどん流すんで。 【カオス曲】 デッサンシリーズMix デッサン#1Mix 黄昏Mix(普通とカオス)←これオヌヌメwwwwww ぽっぽっぽMix ぽっぽっぽ~これはひどいwwwwwMix~ 冷たいサーベス 渦Mix 他作成中・・・とかなんとか。垂れ流しをながら作ってるから いろんなものが流れてきます^^ 以上。イバァァァァァラキィィィィィィ。補正追加よろ
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「そ、そうかしら…」 「普通、大学生だったらお酒と出会うもんだよ。 それでもちゃんと法律を守ってお酒を飲まないなんてむぎちゃんは偉いっ!」 そういうものなのかしら。 私は普通に大学生活を送ってきたつもりだったけどお酒に出会う機会は滅多になかったし そもそも普通の大学生活を送っていたら未成年でもお酒は飲むものなのでしょうか。 「もしかして唯ちゃん、お酒飲んでるの?」 「少し、ね。だいたい飲み会とか、友達に誘われて…っていう感じなんだけど」 私としてもお酒に興味がないわけではありません。 「ね、唯ちゃん。お酒って美味しいの?」 「う~ん…美味しい、といえば美味しいのかな?私もよくわかんない。 でも、みんなで飲むのは楽しいよ!」 私はこのとき、唯ちゃんから魅惑の大人の香りが漂ってきたような気がしました。 「今度機会があったら、その時はお酒飲もう。澪ちゃんもりっちゃんも、あずにゃんも呼んでさ!」 「うん!楽しくなりそうね」 私は唯ちゃんとひとしきり話しこんだ後、帰りの終電に間に合うように駅まで送っていき、別れました。 久しぶりの友達との楽しい一日を過ごし、 私は寝る支度をしながら放課後ティータイムの想い出に浸っていました。 そして、お話は英会話教室に戻ります。 ○ ○ ○ 「雨、また少し降ってきたみたいですね」 英会話教室も何事もなく終わり、出口へ向かう所で琴吹さんに声をかけられた。 外の様子を見ると、暗がりではあったが確かにぽつぽつと雨音がする。 「明日から大雨だと聞いてるからなあ。このまま止みそうにないな」 「せっかく明日はお休みなのに、これじゃあんまり外に出たくありませんね」 琴吹さんは残念そうに笑った。言われるまで気付かなかったが、そうか、明日は大学は休みか。 思い返してみればここ数日多忙をきわめていたような気がしないでもない。紳士にも休息は必要である。 私はなんだか得したような気分になり、上機嫌で琴吹さんと外へ出ようとしたが、はたと気づいた。 愛用の傘がどこにも見当たらない。 奇怪なり。 私は一瞬思考を巡らせ、一呼吸置いた後、傘が盗まれていることを理解した。 愛用とは言ってもまだ数回しか開いていない新品同様の安いビニール傘であったが、 休日の喜びを補って余りある怒りに駆られたのは言うまでもない。 「先輩、どうかしましたか?」 急に動きを止めた私に琴吹さんが不思議そうに声をかけた。 「私の傘がない。きっと心ない者が盗んでいったんだろう」 私の不幸をよそに、外ではいっそう強く雨が降り続けている。 私は途方に暮れた。 「あの……私の傘、使いますか?」 「それでは君が帰れなくなってしまうだろう」 琴吹さんの心遣いはありがたかったが、相合傘でもしない限り2人が安全に帰ることはできないだろう。 むしろ相合傘によって私の精神構造が不安定に揺れ動くことは想像に難くない。 おもむろに妄想の世界へ羽ばたきかけた私であったが、 次の瞬間その妄想が現実になろうとは夢にも思わなかった。 「私の傘大きいので2人くらい入れますし、今度は私が先輩を送って差し上げる番です。 それに、一度先輩の家にも行ってみたいですし」 私は目眩がした。 いくらこの一週間でそれなりに親しくなったといっても、これではあまりに話が急すぎる。 何か大事な過程をすっとばしているのではないか。 私とて一つ傘の下、琴吹さんと仲睦まじく帰宅し、紳士らしく部屋へ招き入れるにやぶさかでない。 しかし私の暗黒面を限りなく凝縮したような四畳半空間へ、 それこそ穢れを知らない深窓の令嬢を誘致するとなれば話は別である。 私のなけなしの人間的尊厳と、四畳半の混沌すら意に介さぬ紳士的態度、 ひいては圧倒的な男性的魅力を思う存分発揮するチャンスだと思ったら、 それは大間違いのこんこんちきである。 そんな結構なものをこれみよがしに携えて琴吹さんを招いても、嘆かわしいほど双方に得るものがない。 しかしながら、私の冷静かつ客観的な分析とは裏腹に、 琴吹さんと2人きりで過ごすという耐えがたい魅力が脳裏をかすめていく。 次第に妄想は体中の欲望という欲望を吸い上げ爆発的に肥大化し、 一大勢力となって脳味噌を支配しようと暴れまわる。 意味不明の葛藤に苛まれることおよそ0.5秒、 スーパーコンピュータもかくやと思われる驚異的な思考速度の末に私が導き出した答えは 抗わないことであった。 全てを受け入れよう。 ありのままの自分をさらけだそう。 「ならばお言葉に甘えるとしよう。私が傘を持つよ」 琴吹さんは嬉しそうに笑った。 桃色遊戯の達人を目指す器でないなら、変に気取るよりも精一杯の誠意を示す他あるまい。 ざあざあと降りしきる雨の中、私は琴吹さんとくっつき、並んで歩いた。 深窓の令嬢の横で紳士らしく傘を携え、優雅にエスコートする映像がありありと思い浮かばれる。 私は全身に鳥肌が立つのを感じた。 決して自分と琴吹さんの間にある絶対的な違和感を感じ取ったわけではない。 灰色がかった人生の、かすかに残された希望の光へ向かっていく覚悟に震えたのだ。 そこでふと、琴吹さんの方へちらっと眼をやる。 彼女は相合傘という一大イベントの渦中にあっても、まったく意に介していないように静かに歩いている。 その横顔は凛としていて、薄暗い路地を背景に整った顔つきが美しく映えている。 気分を曇らせる雨が周りに打ちつけられていても、 その雨粒一つ一つが琴吹さんの艶やかな色気を演出していた。 私はごくりと生唾を飲み込み、その横顔からとっさに目を背けた。 言い知れぬ罪悪感がぞくぞくと込み上げる。私は未だかつて経験したことがないが、 これが美女の魔性なのかと恐怖に怯えた。もしかしたら彼女はその美貌で男を惑わす魔女なのではないか。 取って食われたらどうしようといらん心配をする必要もなく、 むしろ心置きなく取って食べられたい衝動に駆られた。 道中、私と琴吹さんの間には心地よい沈黙があった。 というのは体の良い言い訳であり、実のところ会話の切り口に迷って押し黙っていただけである。 当の琴吹さんも何か話しかけてくる様子もない。 隣に歩く彼女を直視できないせいで私は都合の良い客観的風景を想像した。 そこには紛れもなく繊細微妙で確固たる男女の仲が存在しているように思えた。 一人こそばゆい妄想に身を悶えさせ、紳士の面構えを保ったまま鼻の下だけ異様に伸ばすという 器用な顔芸をしていることに気付き、我に返った。 まあ、そんな具合の帰路だったと思ってもらって問題はない。 私と琴吹さんは湿っぽい下鴨幽水荘に到着した。 「ここが先輩の住んでいるアパートなんですね」 「見ての通り立派な建物ではないが、立地はわりと良い。私の部屋はこっちだ」 そう言ってかの四畳半へ案内した。 私にしてみれば見飽きた廊下の風景だが、 琴吹さんはしきりに辺りをキョロキョロと興味深そうに観察している。 それに、なぜか頬を紅潮させて少し興奮気味である。 私は部屋の前に着くと、琴吹さんに待ってもらうよう言った。 「部屋を片付けるから、少しの間ここで待っててくれ。すぐに終わる」 なるべく中を見られないように彼女の視界を遮りつつ、私は大して物がない四畳半に入った。 ひとまず卑猥図書を暗部に押し込み、散らかっているあれこれを隅っこに放り投げた。 そして私は琴吹さんを招き入れた。 「おじゃまします」 丁寧に靴を脱ぎ揃え、礼儀正しく部屋に上がり込む。 ふわりと浮くように髪をなびかせ、男汁の染み込んだ窮屈な空間に不釣り合いなほど 清楚な匂いを発散させていた。 琴吹さんはみすぼらしい私の部屋を、今にも「わぁ~」とでも言いたげな表情で見渡した。 この「わぁ~」は決して不快に身を引く「わぁ~」ではなく、少年が未知の存在と遭遇し、期待を込めて 感嘆するような「わぁ~」であることを読者諸君には理解していただきたい。 つまり私の部屋は琴吹さんにとって、まさに未知との遭遇だったのだ。 「むさ苦しい所だが、まあゆっくりしてくれたまえ」 「は、はい」 心なしか琴吹さんは緊張した様子でうやうやしく腰を下ろした。 その肩には妙に力が入っている。 改めて考えると、我が四畳半に一端の女子大生が面白みを感じるような変わった所などないように思えた。 しかし口をきゅっと結び、縮こまりながらも身を乗り出し 興味深そうにおわしましている琴吹さんを見る限り、それは杞憂にも感じられた。 琴吹さんは何か言いたげにそわそわとしているが、 私とてコーヒーの一つや二つ用意するくらいの礼節はわきまえている。 コーヒーメーカーを準備しようと流し台に向かおうとした時、 半開きになっている部屋のドアの前に小さな置き手紙を発見した。 私はしゃがみこんで内容を読んだ。 『先日お話した極寒麦酒の件ですが、運よく大量に仕入れることが出来ました。 師匠への貢物として買い溜めしたのですが、小津先輩も同じく大量に手に入れてしまったので 余った分を先輩に差し上げます。よろしければ貰って下さい。 明石』 私はドアを開け、廊下に置いてあった段ボール箱を見つけた。 明石さんが小津と共に師匠と呼ばれる人物の元に出入りしていたとは。 なんだか仲間はずれにされたような気もしたが、正体不明の師匠などについて行ったら これ以上踏み外しようもない人生をさらに逸脱するのは目に見えていたので、特に悔しいとは思わなかった。 私はコーヒー豆を放っておき、その段ボール箱を部屋に持ちこんだ。 「それはなんですか?」 琴吹さんが不思議そうに聞く。 「お酒……のようだな」 大きくない段ボール箱の中を開いてみると、見たこともないラベルの缶麦酒がずらりと揃っていた。 「これがお酒……」 琴吹さんが覗きこむようにして乗り出した。 「例の小津が余った分をこっちに寄こしたらしい。なんでもかなり希少な麦酒なんだとか」 そこで私ははたと思いだした。 極寒麦酒と呼ばれるこの麦酒は飲めばたちまち涼しくなるという魔法のようなお酒だと。 見れば琴吹さんはじわりと汗をかいていた。 それも当然である。ただでさえ湿気と気温で汗ばむほどの暑さであるのに、雨風が入ってこないように 窓を閉め切っていたのだ。残念ながらこの部屋にクーラーなどという便利な装置はない。 この極寒麦酒は彼女に不快な思いをさせないために神が与えたもうた好機であると考えた。 「せっかくだから酒でも飲んでみるかね?」 思ったことをそのまま口にした。 言った瞬間、男女二人が一室に居る状態で酒を勧めるという軽率な発言に自ら焦った。 まさに紳士の皮を被った変態野郎、下心がめくれて現れそうな危機感に襲われたが、 琴吹さんは予想外の反応をした。 「飲みたい!飲んでみたいです!」 目を輝かせて頷く彼女に、逆に私が戸惑った。 琴吹さんは私の顔に驚きの表情を見ると、気付いたように慌てながら目を逸らした。 「その、私お酒を飲んだことがなくて……大学生なら飲むのが普通だと聞いたんです。 それに前々から興味があって……」 照れながら必死に弁解する様子がまたこそばゆい。 私は落ち着いて微笑むと、缶を2本取り出して自分と琴吹さんの目の前に置いた。 「確かに大学生ともなれば酒の一つや二つ知っておかなければならん。 これもいい機会だ。酒との付き合い方も学ぶにしても、飲まないことには始まらん」 私はそう言うと、残りをありったけ冷蔵庫に放り込み、琴吹さんと向かいあって缶を手に取った。 爽やかな音を立てて蓋を開け、琴吹さんにもそうするよう促す。 「記念すべき琴吹さんの初麦酒だ。遠慮せず乾杯といこう」 これはあくまで余興であり、酒を飲むなど特別なことではないという調子で言ったつもりだったが、 琴吹さんは真剣に私の振舞いを観察している。 「まあそう固くならずに」と言うと彼女は拍子抜けしたように眼をぱちくりさせ、静かに乾杯の音頭をとった。 私はぐいっと一口目を仰いだ。 刺激的な快感が口元から胃袋まで流れこみ、敏感な喉を荒く震わせる。 その過剰なまでの清涼感が全身を巡り、苦味とアルコールを感知した脳味噌が瞬く間に覚醒する。 自然と缶を持つ手が2口目、3口目を供給し、肉体という肉体に冷たく染み渡っていった。 極楽なり。 「う、旨い」 思わず声を漏らした。 これほどまでに旨い麦酒は飲んだことがない。 私はあっという間に500mlの缶を半分まで減らしていたことに気付き、驚きのあまり目を丸くした。 私は対面している琴吹さんを見た。 彼女はまるで古今未曾有の奇怪事を眼前に捕えたような不思議な顔をして麦酒缶を凝視していた。 その真面目とも驚きとも取れる表情がなんだか微笑ましい。 「初めての酒はどうだ」 「……嫌な味はしませんでした」 琴吹さんは静かに言った。 「でも、美味しい訳でもないんです。なんというか……とにかく不思議な感覚です」 そう呟く彼女は、美味しくないという不快感を表にすることもなく、ただ謎めいた感覚を考えている。 なんとも新鮮な反応だった。 「酒というのは旨さが分かるまで意外と時間がかかるものだ。 特に麦酒なんぞは最初はただ苦いだけの炭酸水だと思うかもしれないが、しばらく飲んでいれば慣れる」 そう言って私はもう一度、今度は豪快に飲んでみせた。 のどを鳴らしながら一気に流し込む。 私は実に気分良く飲みっぷりを披露し、これ見よがしに快感を演出した。 それを見た琴吹さんは姿勢を正し、同じように豪快に飲んだ。 そこから先はあっけないほど自然に会話が弾んだ。 琴吹さんはしきりに私の私生活に興味を持った。 学部の勉強に興味を示し、交友関係に興味を示し、狭い四畳半を大きく占める 本棚に興味を示し、棘だらけの過去に興味を示し、ギー太郎に興味を示した。 「えっ、先輩もバンドをしていらしたんですか?」 「大学のサークルに参加していたが、去年の冬に辞めて以来活動してないなぁ」 「それはなんていうサークルなんですか?」 「『ぴゅあぴゅあ』という、いかにもお花畑なバンドサークルだ」 「ぴゅあぴゅあ……そういえば私の友達もそんな名前の同好会に所属していたような」 その後も矢継ぎ早に質問されたが、その度に私は気前よく答え、饒舌さを増していった。 極寒麦酒のおかげでサウナのような湿気をはらむ部屋の空気でさえ涼しく感じられた。 酒が入っていたこともあって私はどんどん機嫌を良くし、調子に乗って偉そうに雄弁をふるっていった。 下手をすれば説教まがいの戯言を口走ることもあったが、 琴吹さんは実に器が広いようでそんな与太話にも熱心に耳を傾けてくれた。 かたや琴吹さんの具合はというと、私と同じくらい麦酒缶を空けていながらも まるで変わった様子を見せない。ふにゃふにゃと言動が怪しくなる私と違って平然としていた。 「琴吹さんは全然酔ってないみたいだな」 「はい~平気です~」 「酒は楽しいかね?」 「楽しいで~す」 少しずつ頭が回らなくなる中、琴吹さんもいささか酔っていることに気付いた。 今の彼女はいつも以上に言葉が伸びている。 かと言って朦朧とした口調ではなく、あくまでマイペースぶりに拍車がかかったということだろうか。 「あ……」 私は極寒麦酒を取りに冷蔵庫の扉を開けたが、既に切らしてしまっていた。 5、6缶は空けただろうか、もう私の体は十分清涼感に満ち満ちている。 極寒麦酒の役割はとうに終えたのだ。 しかしこれではどうにも中途半端ではないか。 私は冷蔵庫の扉を閉めると、ふらふらと部屋の隅を漁った。 「先輩?」 「……あった」 ごそごそと取りだしたのは、以前小津と一緒に酒盛りをした時に買ったウヰスキーだった。 「まだ酒が足りん」 不明瞭にぶつぶつと呟くと、私は小さなコップになみなみとウヰスキーを注いだ。 琴吹さんの手元にはまだ麦酒が残っていたのでウヰスキーを欲しがったりはせず、 邪気のない笑顔で私をニコニコと見ている。 流石にウヰスキーを一気に飲むことはしなかったが、麦酒を飲むよりも確実に酔いが回る。 私はその後も琴吹さんと大いに楽しく語らい、夢のような至福の一時を過ごしたはずなのだが、 まるで本当に夢を見ているようにふわふわと地に足が付いていない感覚に襲われた。 そう、まるで夢のように。 ……これは夢なのか? 薔薇色のキャンパスライフを思い描くあまり、私の脳がむにゃむにゃした挙句 ありもしない幻覚を見ているのではないか? そう言えば私は琴吹さんと何を話しているのか良く覚えていない。 私の目の前にいる可憐で繊細微妙なクリーム色の髪の乙女は天真爛漫に微笑んでいる。 その姿は次第に揺らめき、形を変えていった。 何かがおかしい。 その琴吹さんの像が消えてなくなったかと思うと、目の前にぬらりひょんが正座していた。 「ぎゃ」と飛び上がりそうになるのをこらえてよく見ると、それは小津であった。 もしかして英会話教室の琴吹さんは仮の姿であり、その皮をめりめりと剥けば 中に小津が入っていたのではないかと想像した。 ひょっとすると私は女性の皮を被った小津と相合傘をし、女性の皮を被った小津に交際の申し込み、 あわよくば合併交渉にまで思いを馳せるところだったのではないか。 「なんでお前がここにいる」 私はようやく言った。 小津は気取ったように頭を撫でた。 「なんでも何も、あなたが持ってる極寒麦酒を返してもらいに来たんですよ。 明石さんが変な気を利かせたみたいですが、あなたはいつも通りむさ苦しいこの部屋で 精神修行していればいいんだ。あの麦酒は師匠の物ですから」 どういうことか分からない。 「琴吹さんは?」 私はそこで初めて四畳半を見渡した。 外は明るい。時計を見ると午前九時とある。 「琴吹?何を寝ぼけたことを言ってるんですか。あの架空のメールアドレスが とうとう人格を持って貴方の目の前にでも現れたんですか?」 小津が辛辣に言い放った。 ますますわけがわからない。 「それで明石さんから貰った極寒麦酒、どこにあるんですか。返して下さい」 「そ、そうだ!私はもう極寒麦酒は全部飲んでしまったぞ!証拠に部屋に空き缶が散らかっているだろう――」 私は喚きながら辺りを見るが、琴吹さんと飲み交わした麦酒の缶など綺麗さっぱり無い。 「な……」 「あれ、どうやら本当になさそうですね」 小津は勝手に冷蔵庫やらを調べ、「ふん」と鼻を鳴らすと 「まあいいでしょう。この近辺に極寒麦酒はまだ出回っているみたいですし。 後で明石さんに確認しときますわ」 小津はそれだけ言うと部屋から立ち去った。 私は一人四畳半の中心で呆然としていた。 本当に琴吹さんは幻覚だったのか? 堂々巡りの思惑にふけっている内、段々と頭が痛くなってきた。 絶望の淵に立たされたように私は頭を抱え、その場にうずくまった。 昨日の出来事を思い出そうと必死に脳をこねくり回すが、かえって何も思い出せない。 そうしているうち、おぼろげな私の意識は「琴吹紬という人物は存在しなかった」という 結論を導き出そうとしていた。 なんという悲劇。 これほど残酷な仕打ちがあろうか。 私はもごもごと意味不明な言葉を口走り、布団にもぐりこんだ。 恐怖のあまり生まれたての小鹿のようにぷるぷると体を震わせ、仮想現実と区別がつかなくなった 人間の末路を想像し、ますます恐怖に打ちのめされていった。 いっそ狂人になってやろうかとも思ったが、その覚悟があるようなら私はもっとまともな人生を 送れるだけの気概があったに違いない。 結局、私は今の境遇に不満を持つだけで何一つ自ら動こうとしなかったのだ。 哀しい人生であった。 枕に顔をうずめながら誰にでもなく罵詈雑言をぶつけていると、不意にドアをノックする音が聞こえた。 また小津か、と顔をしかめていると、ドアが開かれた。 私は息を呑み、布団から飛び起きた。 琴吹さんであった。 「先輩、大丈夫でしたか?」 汗をかきながら私の方へ近寄ってくる。 私は固まったまま琴吹さんを見ていた。 「起きたら先輩がすごく苦しそうにしていたので、お薬と栄養剤を買ってきました。 あと飲み物も」 琴吹さんはそう言うと私にスポーツドリンクを差し出した。 口をパクパクさせていた私だったが、先程の頭痛が強く響いてきたのを感じると ペットボトルを闇雲に胃に流し込んだ。 飲み終わり、ぜぇぜぇと息を切らす私に琴吹さんは優しく声をかけた。 「二日酔いの時は水分を吸収するのがいいと聞きました」 二日酔い。頭痛。そして今更気付いたが、震えるほどの寒気。 私は琴吹さんが現れたことに安堵しながらも、今度は別の意味で布団に倒れ込んだ。 「こ……琴吹さんは二日酔いは大丈夫だったのか?」 「私は全然平気です。昨日先輩がウヰスキーを飲み始めたかと思ったらそのまま 横に倒れたので心配しました」 そうか。私は昨日アルコールを摂取しすぎたせいで意識が飛んでいたのだ。 「私も眠くなってその時は寝ちゃったんですけど、朝起きたら先輩が震えてるので どうしたのかと思って……。幸い友人が極寒麦酒について色々と知っていたらしくて 二日酔いと冷え性の併発の話を聞いてお薬と栄養剤を用意していたんです」 私は心の底から申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 紳士として情けないこと極まりない。 しかし琴吹さんが看病してくれるというこの状況は、これはこれで幸せだとも考えた。 「先輩、顔がニヤけています」 琴吹さんの背後から冷ややかな声が聞こえた。 「あ、明石さん!?」 私は驚きのあまり上半身を勢いよく起こし、目眩に襲われた。 「え?先輩、明石さんとお知り合いだったんですか?」 琴吹さんが私と明石さんを交互に見ながら目を丸くした。 「まったく、紬さんの知り合いが極寒麦酒を飲み過ぎて倒れたと聞いたので訪れたら 先輩だったのですね。阿呆なことです」 入口付近で静かにたたずみ、明石さんは厳しく言った。 横になりながら詳しく話を聞くと、琴吹さんと明石さんは1年生の時に 友達の友達として知り合ってから仲良くなり、以降頻繁に連絡を取り合っているのだという。 意外なところで繋がっているものだ。 「スモールワールドですね」と琴吹さんは言った。 死んだように横たわる私に気を配りながら、うら若き乙女二人は他愛もない世間話をしていた。 「明石さんも小津さんという方を知ってるの?」 「小津さんとはサークルも一緒でしたし、今は師匠の門下として兄弟弟子でもあります」 「そうなんだ。師匠だなんて、きっと立派な方なんでしょうね」 「師匠はそれなりに立派です。あくまでそれなりに。 それはそうと、紬さんは先輩とはどういう関係なのですか?」 「大学外の英会話教室で半年くらい前に知り合って、最近よくお話しするようになったの。 昨日たまたま遊びに来たら素敵なお酒を頂いたらしくて、せっかくだから飲んでみようって……」 「なるほど。それで極寒麦酒を無下に消費してしまったんですね」 「そういえば、明石さんは何故その麦酒に詳しいの?」 「そもそもこの部屋に極寒麦酒を提供したのは私です」 「まあ、そうだったの」 「この麦酒も、元はと言えば師匠の貢物として探し求めていたのですが中々見つけることが出来ず、 業を煮やした小津さんが何らかの手段でもって強引に集めたらしのです」 「何らかの手段?」 「聞いた話では、小津さんは大学中のありとあらゆる組織を動かすことが出来る影の支配者という 大層な噂があるのです。現に小津さんはひと夏どころかあと四回は夏を越せるくらいの極寒麦酒を どこからともなく入手してきました。私はその余りを先輩に分けようと思ったのですが……」 そこで明石さんは私を一瞥した。 予期せず目を合わせてしまった私は一瞬どきりとして慌てて布団に身を隠した。 これではまるで私が怯えているようではないか 4
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間もなくグレートアーチだという船員の合図と入港準備に走り回る複数の足音を耳にしながら、閑散とした船内食堂に陣取ったハリード、エレン、ポールの三人は神妙な面持ちで三方から向かい合っていた。 あの嵐から、現時点で五日が経っていた。 船団は若干の日程遅れと一隻の船の損害を出したものの、ただ一人の乗客を除いて乗務員を含めた全ての人間が無事にグレートアーチへと辿り着いた。 まともに立つこともままならないほどの暴風雨とあれだけの数の魔物の襲撃を受けた経緯を考えれば、この状況はこの上なく人的被害を抑えられたと言っていいだろう。 しかしそのような事実も、そのただ一人の犠牲者を身内に出してしまった彼らにとっては、何の慰めにもならなかった。 「・・・なぁ、あんた等はどうする」 沈黙が支配していた中、徐にポールが口を開く。するとそれに口では答えず、その真意を問うようにハリードが視線だけを投げかけた。 その隣のエレンはポールに向き合う気もないらしく視線を落としたままだが、ポールは構わず続ける。 「・・・カタリナさんが行方不明じゃ、ぶっちゃけここにきた意味は無い。というか、あんた等にしてみればついてきた意味が消えたと言っていいだろう?」 事実だけを直視したその言葉にエレンの表情が一層曇るが、これはどう言い繕っても仕方の無いことだ。 ハリードはその言葉を受け止めてふんと鼻を鳴らし、逆にポールに問いかけた。 「それはお前も一緒だろう。お前こそどうする」 逆に向けられたその問いかけに視線を険しくしたポールは、しかし勢い余って言葉を発するでもなく、ただ深いため息をついた。 「・・・俺は、ここで待つ。あのカタリナさんがこんな簡単にくたばるとは、思えない」 「お前、本気で言ってんのか? 確かにあいつは規格外の戦闘力だったが、しかし俺らと同じ人間だ。温海のど真ん中に身一つで放り出されて生きていられたら、それはもう人間じゃないぜ」 考えるまでもなく至極最もなハリードの意見に、しかしポールはゆっくりと首を横に振った。そんなことは分かっていると言いたいのか、単に事実を信じたくないのか。その仕草だけではハリードにはどちらとも見えかねたが、そのあとで向けられた視線は、冷静なものであった。 「あんとき、カタリナさんは確かに何かを叫んで俺らと逆方向にいった。俺らが脱出するところだったのも見えてたはずだし、船がやばいのももちろん分かっていたはずだ。だが、それでもこちらには来なかった。この行動自体は、絶対に考え無しに離れてったわけじゃないはずなんだ」 それに、と言葉を続ける。 あの時確かにカタリナは、何者かと一緒にいたのだ。こちらに向かって何かを叫ぶカタリナよりも先に逆方向へと向かっていった人影を、確かに脱出艇から身を乗り出したポールは見ていた。それ自体はハリード達も同じく目撃していて、三人の中では共通の認識である。しかしいざ避難を終えてから乗客の点呼をとった時には、その場にいない乗客リストの人物は何度数えなおしても、カタリナだけだった。 戦闘に混ざっていたポール達は、乗客の中では最後の最後まで船に残っていた。その彼らの後に船を脱出して避難先の船に移ったのはマゼラン船長と数人の水夫だけで、その中に乗客はいなかったとの言質も直接とっている。そうなると、カタリナと一緒にいた人物は船員でも乗客でもない誰かであり、それがカタリナがあの時すぐに脱出しなかったことに関係があるはずなのだ。 「あとは、ちっと気になる事を喚いている奴らがいてな・・・」 そう言ってポールがチラリと視線を向けた先にさり気なくハリードも倣うと、その先には此方と同じく沈痛な面持ちで項垂れる一団があった。その雰囲気とはちぐはぐに多少色合いの派手な衣服に身を包み、年齢層も疎らな集団だ。 ハリードがそれを眺めて眉間にシワを寄せると、ポールは小声で続けた。 「世界中を回っている、見世物小屋のキャラバンだそうだ。あいつ等も俺らと同じ船から脱出したクチでな。んで、あの小太りの男が座長だそうで、奴さん船を移ってからマゼラン船長にえらい剣幕で詰め寄っていてな」 「・・・そりゃそうだろう。恐らくは商売道具が全部海の底に沈んだんだろうからな」 肩を竦めながらハリードが冷たく言うと、ポールはそれに小さく頷いた。 「ああ、そうらしいな。んでまぁわんさか喚いていたんだが、なかでも一等捲し立てて繰り返し叫んでたのは・・・妖精って単語だ」 「妖精・・・ねぇ」 ハリードが半信半疑に怪訝な顔をする。確かにしきりに同じような事を繰り返していたのは彼も聞いてはいた。我々が苦労の末に手に入れた世紀の一大発見、本物の妖精が積んであったんだぞ、どうしてくれるんだ・・・とかどうとか。そんな事を只管叫び続けていたのは、確かにあのキャラバンの座長だった気がする。 「・・・俺の見間違いじゃなければ、あの時カタリナさんと一緒にいた奴の背中に、確かに何か不自然なもんがくっついてるのを見たんだ。あれが衣服の類ではなく・・・そう、羽だとすれば、カタリナさんはその妖精とやらと一緒にいた事になる」 「・・・成る程。それで・・・? よしんばそれが妖精だったとしたら、だからどうなるというんだ?」 話半分のつもりで重ねてハリードが問うと、しかし彼の期待に反してポールはそこで肩を竦めた。 「わかんねぇよ。でも、何か理由があってカタリナさんはそいつと行動を共にしてたんなら、単に逃げ損ねた・・・なんて展開はやっぱ考え辛いと思うんだ。それに、妖精は大気を味方につける種族だ。それと一緒なら、小舟の一艘でもあれば生き延びてる可能性は高いと思う」 夢物語にも近い単なる憶測だろうが、しかしポールはいやに確信的だった。 確かに妖精が大気を味方につけるというのも、彼の言葉なら頷ける部分はある。何しろ彼は現在、聖王遺物である妖精の弓の使用者だ。妖精族が聖王に献上したとされるその弓は風の流れを矢に載せて放ち、その威力は小型のサイズからは想像もつかない強弓なのである。 その彼の言葉に少し真面目に可能性を考えてふむと頷いたハリードは、ほったらかしてぬるくなってしまったエールを喉に流し込んだ。 「カタリナはなんて言ってた?」 「あん・・・?」 「グレートアーチに着いてからの予定だよ」 耳に入ってくる言葉にエレンがゆっくり顔をあげる横でハリードが空になったジョッキを置くと、ポールは片目を瞑りながら頭を掻いた。 「うーん、それがなぁ・・・。ほれ、ピドナからずーっとあの調子だったから、殆ど聞いてねぇんだよな。ただまぁ、なんかアテっぽいのはあったらしいけど・・・」 唸るポールに対して口をへの字に曲げたハリードは、ひとつ短いため息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。 それをポールが視線で追うと、彼もまた頭を掻いて口を開く。 「まぁ文字通り乗りかかった船だ。お前がそこまで言うなら、もう暫くは付き合うさ」 「うん!」 ハリードの言葉に合わせてこれまでの様子から一変して元気に椅子を跳ね除けながら立ち上がったエレンと共に、ポールもニヤリと笑いながら腰を上げた。 「・・・よっしゃ。そうと決まれば、カタリナさんがここにくるまでしっかりバカンス・・・してたらキレられるか。何をアテにしてたかは知らねぇけど、何とかそれっぽい情報収集位は進めよう」 テーブルの傍らに置いてあった荷物を手早く纏め、一行は既に停泊準備に取りかかった船の外へと視線を向けた。 「うふふふふ、あは、こ、ここどこなのかしら・・・ふふふふふ」 「えっと・・・ジャングル、です・・・」 見渡す限りに鬱蒼と生い茂る熱帯地方特有の大きく育った草木の間をかき分けながら、道とも言えぬ道をカタリナとフェアリーの二人は進んでいた。 色鮮やかな鳥や蝶々が視界の隅を幾度も飛び交い、この熱帯雨林に生息する様々な動物たちの鳴き声が止むことなく木霊する中、フェアリーが先導する形で二人はかれこれ三時間ほどにも差し掛かる行軍の最中であった。 「あはは、ここがジャングルなのね!くふふふふ、わ、笑いが・・・止まらないわ」 「す、すみません・・・よく迷い込んだ人たちに仲間が食べさせていたから、大丈夫だと・・・。まさかワライダケだとは思わなくって・・・」 世界各地に童話や伝記にて名を残す中でも特に多く見られる記述によれば、非常に悪戯好きだとして伝えられる妖精族。彼らは不運にもジャングルに迷い込んだ現地人を様々な方法でからかっては、その驚く様をみて楽しむという。 しかし目の前の少女を前にそんな事など思い出しもしなかったカタリナは、海上漂流で数日の断食から漸く陸地に流れ着いたところで流石に限界を感じ、何か食べれるものはここにはないかと食料を欲した。そこでフェアリーが少し考えた末に人でも食べれるものがある、と言ってジャングルの中から持ってきてくれたキノコを食べてからこっち、彼女はずっとこんな調子だった。 「あははは、ぜーんぜんいいのよ。くふふふ、美味しかったわぁ。ふふふ、今思い出しても笑える味・・・うふふ」 「す、すみません・・・」 不気味に笑い続けるカタリナに流石に顔を引きつらせながら、フェアリーは先導して歩を進める。 近年の治安悪化はこのジャングルにも影響を及ぼしているようで道中ではアビスの瘴気にあてられた邪精や巨大植物などが襲いかかってきたが、其れ等は須らく高笑いするカタリナに瞬時に切り伏せられていった。 その様を見ながら、フェアリーは素直に感心したように声を上げた。 「・・・船でも拝見いたしましたが、とてもお強いんですね。妖精族にも戦士は居ますが、あなた程の使い手は見た事がありません」 「ふふふ、そんな事は・・・あるかしら、ふふ。これでも世界を背負って立つ立場だし、あははは・・・ひぃ・・・」 流石に笑い疲れてきたのか、腹部を押さえてぜぇぜぇ言いながらカタリナが応える。 漸くそれにも慣れてきたのか笑い声には反応しなくなったフェアリーは、ふとカタリナの言葉の内容に首を傾げた。 「世界を・・・ですか?」 「ふふ、そう・・・笑っちゃうでしょ・・・うふふふ・・・あは、はぁ・・・」 喋るうちに段々と呼吸が落ち着いてきたのか、横隔膜の震えを抑え込まんとするように腹部を抑えながらカタリナが言った。 「それではカタリナさんは、その・・・聖王様の後継者なのですか?」 パタパタと羽を忙しなく動かしながら器用にその場で止まって小首を傾げたフェアリーに、カタリナはうぅんと此方も首を捻った。 「どうかしら・・・。所謂宿命の子だとかそんなものではないらしいけれど、でも全くの無関係って立場とも言えない立ち位置、という曖昧な感じね。正直、それですら実感は湧かないけれど。聖王様のことは、私たちだけでなくフェアリーたちにも伝わってるのね・・・ふふ」 「・・・はい。私達は発生時に既に、直接記憶を共有して持っています。遠い昔に私達の長が、聖王様に協力しました」 この南方のジャングルの何処かに根城を構えるとされる四魔貴族の一柱である魔炎長アウナスが三百年前に聖王に討伐された時、妖精たちはジャングルに迷う聖王をアウナスのもとへと導き、更には全身が炎に包まれ触ることもままならぬとされるアウナスへの攻撃手段として妖精の弓を献上したという。 「・・・あの、このままアケまでお送りするつもりでしたが、もし宜しければカタリナさん。私達の長が貴女を、私たちの里へお招きしたいと言っています。ご案内しても宜しいですか?」 風に耳を傾けながら唐突にそう言ったフェアリーに、カタリナは目を丸くする。それは単純に唐突な申し出だったからというのもあるが、要はその真意を図りかねたのだ。 「・・・死蝕以降、このジャングルでもアビスの瘴気が急速に広がりつつあります。以前は、道中にあのような植物や邪精などもおりませんでした。ですのでこれには私達も非常に危機感を感じています・・・。そのタイミングで聖王様に連なる方がこうして現れたことに、長も何かお考えがあるのだと思います」 それに、とフェアリーが続ける。 まだ自分が助けられた礼もロクに出来ていないから、是非とも招きたいのだ、と。 一刻も早くグレートアーチに向わねばならぬのは勿論そうであるが、そうまで言われては多少の寄り道もやぶさかではない。 妖精族の長の考えとやらも気にはなったので、カタリナはこの際だからとお言葉に甘えることにした。 「有難うございます・・・! では、ご案内いたしますね!」 非常に可愛らしい笑みを浮かべながらフェアリーがそういってくるりと一回転すると、カタリナはこうした妖精の可憐さに惑わされて悪戯されてきた逸話の数々も頷けるなぁなどと場違いに思いながら、笑顔で返して道を進んでいった。 前へ 次へ 第五章・目次
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たどり着いた先は、かつて魔王と聖王だけが踏破したであろう、巨大な回廊であった。半永久機関でもって鳴動するように不気味に赤く点滅する床や壁。見たこともない奇怪な装置。細かに施された彫像の数々。 そして、アビスの瘴気をダイレクトに浴びた醜悪な魔物たち。 その中においてカタリナは次々と道を塞ぐ魔物を切り捨てながら、何かに取り付かれたかのようにひたすらにその回廊の最深部を目指していた。 先ほど癒えたはずの体力は、もうとうに限界を迎えた。だが、彼女の精神は今この瞬間、何者にも勝ると確信できるほどの屈強さでもって、肉体を凌駕していた。 (勝てる・・・。この程度の魔物に遅れを取るほど、今の私は無力ではない・・・) 三メートルをゆうに越す巨体とその背に見合う長大な剣を構えた巨人の右腕を、飛水すら断つかのような高速の払いで切り捨て、そのまま剣を巨人の左目に突き刺す。 「ガギャッ!?」 怯む巨人を尻目に地面に着地したカタリナは、地面に刺してあった大剣を引き抜き、勢いをつけて跳躍し、巨人の心臓部に向かって爆発にも近い衝撃音と共に大剣を叩きつけた。 声にならぬ叫びを残して絶命する巨人をちらりと確認すると、巨人の目から剣を引き抜いて穢れをはらい、カタリナは再び奥へと進みだした。 (私の頭に・・・体に・・・流れ込んでくる・・・戦いの記憶・・・。まだ・・・もっと私はこの記憶を使いこなせる・・・) 研ぎ澄まされた神経は彼女に、彼女すら知らない数多の戦の法をもたらしていた。 背中には大剣を、右手にはロングソードを、左手にはレイピアを。そして持ってこそいないものの、今ならば槍だろうが弓だろうが斧だろうが、彼女に操れない武器はなかった。 幾十もの魔物を葬り、カタリナは程なくして回廊の最深部、この中に渦巻く瘴気の生まれ出でる場所まで辿り着いた。 「・・・この先に・・・魔戦士公アラケスがいる・・・」 硬く閉ざされたその扉を前に、カタリナは確信を持って呟いた。 思えばカタリナはこの広大に入り組んだ回廊のなかを、ただの一度でも迷うことはなかった。彼女には、ここに至るまでの道筋が「分かっていた」のだ。だが、何故自分が奥を目指しているのかは、全く分かっていなかった。 しかし、もう自らの足を止める術は彼女にはなかった。今はもう伝説の中にしか語られぬ四魔貴族の巣食うアビスへと繋がるゲートが、この扉一枚先にあるのだ。それが分かった時には、カタリナはもう扉を両手で押し開いていた。 思いのほか軽快に開く扉。勢いをつければ簡単に最後まで開き、カタリナはその中へと一歩踏み出した。 「・・・・・・!!!?」 途端に、目の前の景色が変わる。そこは部屋の一室であるはずだというのに、奥が何処まで続いているのかも視認出来ず、天井すらも見えない。 目の前にはただただ禍々しい紋章が渦巻き、その中央に漏れ出でる光は、純白であるというのに未だかつて感じることのなかったほどの瘴気を生み続けている。 そして、彼女はこの空気を知っていた。 「・・・死蝕・・・」 やっとの思いでそれだけを呟く。幼い日にみた史上最悪の大災害、死蝕。あの時に体感した空気が、この場には満ち溢れているのだ。 何かに急かされるようにカタリナは部屋の奥へと進む。体は危険を訴えている。頭のどこかで先ほどまでの自分が引き返せと警告を出している。だというのに、彼女の両足は前に進むことしかしない。 そして紋章へと近づく彼女に、その声は放たれた。 『・・・久しぶりの来客だ・・・。三百年ぶりにもなるか・・・』 瞬間、恐怖に肌が震えるのを感じ、カタリナはその場で立ち尽くした。 『今度の宿命の子はどのような者かと待っていたが・・・お前は宿命に弄ばれし者ではないのだな。まさかこの場に宿命を背負いし者以外の人間が訪れることがあろうとは・・・』 部屋に響く言葉の一言一言が、気がふれそうなくらいの瘴気を纏ってカタリナの耳に届く。 『人間よ・・・己の力でここまで来た事は褒めてやる。なかなか出来ることではない。だがその勇敢さ故に、我の戯れにより死ぬことを悔やめ』 その言葉が終わると同時、カタリナの前にはあまりにも巨大な双頭の獣を鎖で従えた、真紅の槍を手にした魔神が立っていた。 「・・・・・・」 カタリナは、言葉を発することが出来なかった。 見た瞬間に分かってしまったのだ。この魔神に自分は殺される、と。何の抵抗も出来ることなく、この魔神の槍の一振りで自分の体はそれこそ跡形もなく消し飛んでしまうだろう。 『女よ、そう悲嘆するな。我は魔戦士公アラケス。戦士の身として我と合間見えた幸運、しかと感じるがよい』 アラケスが手にした槍を振りかざす。カタリナには、その槍の切っ先を見つめることしか出来なかった。 『血を流せ』 そして、槍が穿たれる。 「ぁ・・・ぁぁああああああああっ!!!!」 気がついたときには、カタリナは背中から引き抜いた大剣をその槍の切っ先にあてがい、甲高い金属音と共に一歩も怯むことなく弾き返していた。 『・・・・・・?』 槍を弾き返されたアラケスがさも不思議そうな顔をし、そして次にとても不満そうに顔を引きつらせる。 『貴様・・・我は血を流せといった。何故抵抗をする』 アラケスの言葉と同時に、鎖につながれた巨獣が地の底から響き渡るような唸り声を上げる。だがカタリナは全くそれに怯むこともなく、大剣を構えてアラケスを見据えた。 「・・・生憎・・・私はまだ死ぬわけには行かないわ。少なくともこの手にマスカレイドを取り戻し、ミカエル様にご返上するまでは・・・」 汗でにじむ柄を握りなおし、カタリナは少しずつ間合いを広げる。 最初に合間見えた時点で、実力の差が歴然としているのは分かった。カタリナの得物も相手の槍に大きくは引けを取らぬリーチのある大剣であるが、お互いの必殺の間合い同士で闘えば、彼女の死は明白だった。 だが、あの時はここに至るまでのカタリナであるからこそ死ぬと思ったまで。今の彼女はそれまでの彼女ではない。恐怖に一瞬全てを忘れてしまったが、今の彼女ならばどうにかする方法を思いつくかもしれない。 『・・・この我を目の前に、口を開けるのか。面白い・・・。問おう。何のためにここに訪れたのだ?人間よ』 驚嘆したようにアラケスがかぶりを振る。それが何の冗談かは知らないが、カタリナにはそんな言葉に真面目に付き合っている余裕はなかった。この場をいかに潜り抜けるかが先決である。カタリナはアラケスのその言葉に上面だけ応えながら、必死にそれを頭の中で模索し続けた。 「生憎とね、私だって来たくてきたわけじゃないわ。気がついたら、ここに案内されていたのよ」 それこそアラケスには意味の分からないことだろうが、カタリナとしてもそのくらいしか説明がつかないので仕方が無い。 『そうか。では、我がさらにこの地の先、冥府への案内を買って出てやろう。光栄に思え』 カタリナの態度が気に入ったのか、アラケスは先ほどよりもずっと上機嫌な声音でそういった。そして次の瞬間には、アラケスの手から解き放たれた巨獣がカタリナに襲い掛かる。 「く・・・・ぉぉおおおお!!」 巨獣を真っ向から睨みつけ、気合の一声と共にカタリナは地面に大剣を突き立てた。途端に、目前まで迫っていた巨獣の体が地を這う幾重もの衝撃波に切り刻まれる。 「ガグァァァァァァッ!!」 断ち切るほどのものではなかったが、外装を切り刻まれて悶え、巨獣が足を止めた。それを好機とみたカタリナが突き立てた大剣をそのままに素早くレイピアを抜き、目にも止まらぬほどの勢いで以て強力な突きを繰り出す。 電光石火の突きは寸分の違いなく巨獣の片方の頭の片目を貫き、巨獣はさらに絶叫する。 レイピアを巨獣から引き抜いたカタリナは加速しながらさらに突きを数度見舞い、巨獣が怯むのを確認すると地面に突きたててあった大剣を引き抜き、口元から一気に胴体ごと払いぬける。 ガキンッ しかし鈍い金属音と共に、その大剣の軌道は獣の牙によって止められていた。 「なっ・・・!?」 瞬間的に蹴りを繰り出したカタリナは、それを巨獣の顔面にあてて大剣を離させ、同時に距離をとる。 手負いの巨獣は痛みにもがき苦しみながらも、さらに猛威を増すかのように大地すら震えるような狂気の雄たけびを上げ、再びカタリナに襲い掛かった。 耳に劈くような叫びをなんとかやり過ごして再び地面に大剣を突きたてるが、地を這う衝撃波も二度は通じない。巨獣はその身に似合わず軽やかな跳躍をし、上空からカタリナに向かってその凶悪なかぎ爪を突き立てにきた。 だが、カタリナはそれを先読みしていたかのように既に上空に視線を向け、抜き放ったロングソードを手に巨獣を睨み付けた。 「甘いわよイヌっころ・・・!」 巨獣の前足をかいくぐるように態勢を低くしたカタリナは、下段から遠心力を利用した強力な跳ね上げの一撃を見舞い、さらに勢いを殺さずに腕を捻ってさらに一撃を放つ。その様まるで荒れ狂う龍の尾の如き二段の強力な切り上げは、今度こそ巨獣の二つの首を切断していた。 『・・・ほぅ。やるではないか、人間よ』 その戦いを後方から何もせずに眺めていたアラケスは、場に似合わない感心したような声をあげてみせた。 巨獣の返り血を拭いながらその姿をみたカタリナは、まるで自分がこの魔神の手の平で踊っているに過ぎないような錯覚に襲われた。 (・・・いや、錯覚じゃない・・・。今の攻防だって・・・あいつが加わっていたら私は確実に死んでいた・・・。こっちの必死な姿をみて楽しんでいるんだ・・・) 巨獣の亡骸を乗り越えてアラケスに対峙する。彼女の中には今も次々と戦いの記憶が流れ込んできているが、残念なことに、それでも今のところは到底この魔神に勝てる要素は見当たらなかった。 『単なる人の身においてその戦ぶり、賞賛に値するぞ。我が直々に手を下してやろう・・・人間の女よ、名を名乗れ』 真紅の槍を構えながら、アラケスがカタリナを見据える。瞬間、アビスから流れ込む瘴気が何倍にも膨れ上がったかのようにカタリナには感じられた。 「・・・ロアーヌの騎士、カタリナ=ラウラン」 名乗りながら、大剣を構えてカタリナもアラケスに正面から向き合う。全身が冷や汗をかき、四肢は震え、瞳はアラケスの持つ真紅の槍を見つめ続けていた。 ゆっくりと大剣を下段に構えたカタリナは瘴気を振り切り、五感全てを使ってその槍の軌道を見極めようと徹する。 『・・・その名、覚えておこう』 次の瞬間には、アラケスの姿はカタリナの目の前まで迫っていた。 「・・・!!!」 真紅の槍が再び穿たれた。必殺の軌道を持って放たれたその切っ先は、吸い込まれるようにカタリナの心臓へと差し込まれる。 キンッ しかし必殺のはずのその槍は小さな金属音と共にカタリナの心臓からそれ、斜め後方の壁を貫いていた。 大きく跳躍したアラケスは再び先ほどまでの立ち位置に戻る。見れば、カタリナは先ほどまでの場所から一歩も動いてすらいない。 『・・・』 アラケスの見つめる先では、カタリナはやはり大剣を下段に構えたままの姿で冷や汗を流しながらこちらを見つめている。それは先ほどまでの光景となんら変わらぬものだ。 『・・・無行の位、といったか。研ぎ澄ます五感の全てを回避にのみ集中させ、最小限の動きで全てをいなす』 槍を再び構えながらアラケスが呟いた。 しかしカタリナはその言葉にも答えない。一瞬たりとて彼女にはほかの事に意識を向けている余裕はなかった。この構えがそんな名前であることすら彼女は知らなかったが、最早そんなことはどうだってよかった。次の一撃を避けることだけを今は考えていればいい。 『過去にあの若造が使っていたな・・・面白い。我の槍、何処まで避けられるか試すのもよかろう』 アラケスは大きく身を捻らせ、ただでさえ強大なその力をさらに溜め込むように震動を湛えながら動かなくなる。 そして次の瞬間には、手にしたその槍を投擲していた。 槍はアラケスの斜め上方に弧を描くように投げられ、その槍は高速回転をしながら軌道を変え、カタリナに向かって信じられぬほどのスピードで襲い掛かる。それは単なる槍の一撃ではない。それは真紅に燃え盛り、アビスの瘴気を纏い、そしてアラケスの持つ白虎の力を凝縮させた一撃。まともに喰らえばそれこそこの肉体など消し飛んでしまうような威力をもった一撃だろう。 だから、ここしかないのだ。 「ッ!!!!」 全身のバネをフルに使った可能な限りの最大スピードで、カタリナはただの一歩だけアラケスに向かって飛び出した。 そして襲い掛かる槍に大剣の切っ先をあてがい、その強大な波動を大剣に乗せ、渦巻きうねる力の暴風に身を任せるように、アラケスに向かって跳躍する。 『・・・!!』 その瞳には、アラケスがこの場ではじめてみせる驚嘆の表情が映し出された。力の奔流を利用して瞬間的に超加速されたカタリナの身体は瞬く間にアラケスの目前に迫り、彼女は両手で握り締めた大剣に己の全てを賭けた。 「ォォォオオオオオッ!!」 空気を切り裂くような甲高い音が、空間に響き渡る。先ほどのロングソードで放たれたものとは比べ物にならぬ、大気を切り裂くほどの神憑り的な破壊力を持った刹那の二段斬り。それは確実にアラケスを捉えていた。 ドンッ!!! 勢いを殺しきれずにそのまま壁に激突したカタリナが全身の痛みを堪えて振り向くと、そこには右腕を切り飛ばされてこちらを振り返るアラケスが見えた。 (・・・な・・・!確実に首を捉えたと思ったのに・・・!) 立ち上がることも出来ぬまま、カタリナは絶望に彩られた表情でアラケスがこちらに完全に向き直るのを見ていた。 アラケスは己の槍をその左手に持ち替え、静かにカタリナを凝視している。 『・・・我が必殺の一撃を逆に利用してこの身に傷をつけたか。無行の位はそのための囮だったのだな・・・人間よ、実に美しい剣戟であった』 左手に槍を構えたアラケスは、身動きのとれぬカタリナの目前までゆっくりと歩み寄った。 『さりとて我がアビスの波動、人間の身には堪えるであろう。最早立ち上がるもままならぬようだな』 そして槍は振りかぶられた。カタリナはその切っ先を、最早持ち上げることすら叶わぬ大剣を握り締めて見つめる。 『先の死蝕は、我に更なる力を与えた。この槍、最早あの男ですら避けられぬはずであっただろう。それを貴様は避けたばかりでなく、我に対する刃と成した』 アラケスは過去を思い出すようにどこか遠くを見つめ、そしてカタリナに向き直った。その表情は歓喜に満ち溢れている。 『強き人間よ。我に至福の時間を与えたこと、褒めて遣わす』 その言葉と共に自らに向かって振り下ろされた槍の切っ先を見つめたのを最後に、カタリナの意識はそこで途切れた。 蔓延る魔物を飛び越え、吹き抜けを貫通する階段を駆け上がる。その先にある祭壇を必死の思いで走りぬけ、トーマスとシャールは魔王殿の入り口を這い出すように飛び出した。 長い下り階段の手前まで辿り着いた二人は、同時に魔王殿にむかって振り返る。見上げるその巨大な城は、うねるように周囲の空気を豹変させながら鳴動していた。 「馬鹿な・・・こんな瘴気の渦などありえない・・・何が起こったというのだ・・・」 息を切らせながらシャールが呟く。同じように息を切らせたトーマスもその異様の光景を見て愕然としている。 「・・・まさか、アビスゲートが開くとでもいうのか・・・」 普段の丁寧な口調すら忘れ、トーマスもそう呟いた。 未だ鳴動を続ける魔王殿は、最早その存在自体が生き物であるかのように脈打っているようにも見える。 最下層を目指していたシャールとトーマスは、丁度玉座の間に辿り着くかつかないかの頃にこの鳴動の始まりを察知し、恐怖に駆られるままにやっとの思いでここまで逃げ出してきたのだった。 「・・・とにかくこのままではいつピドナ全体がこの馬鹿げた瘴気に包まれてもおかしくは無い・・・。一刻も早くミューズ様の元に戻り、この地を離れなければ・・・」 この状況では、既にカタリナの捜索どころではなかった。あのまま魔王殿の中にいれば、二人の命などそれこそこの瘴気の渦にいとも簡単に押しつぶされて消えていただろう。 それはトーマスも十分に理解していたのだろう。階段を急いで駆け下り始めるシャールを、無言で追いかけた。 長い階段を駆け下り、無駄に広い庭園を突き抜けてピドナの旧市街に辿り着いた時、背後に渦巻くその瘴気はもはや最高潮に達していた。 旧市街の住民もその魔王殿の光景に恐怖し、既に騒然とした雰囲気に包まれている。魔王殿の入り口付近に集まった住民をかき分けてミューズの待つ家へと二人が急ぐと、そこには不安そうな表情で家の前に立っているミューズとミッチ、そしてゴンの姿があった。 「ミューズ様っ!ここは危険です、一刻も早く離れましょう!」 出会い頭にシャールはミューズに駆け寄りながら言った。ミューズは恐がって自分に抱きつくミッチとゴンを護るようにして立ち尽くし、二人を出迎える。 「何が・・・何が起こったのシャール・・・。こんな禍々しい空気は、死蝕以来はじめてだわ・・・」 彼女自身も不安なのだろう。子供二人を抱える手は細かく震え、青白い顔で魔王殿の方向を見つめながらシャールに問いかける。 「・・・わかりません。カタリナ殿を探していたら、突然瘴気が暴走を始めてしまったとしか・・・」 恐がるミッチとゴンを撫でながらシャールが答える。それにあわせてトーマスも二人に歩み寄り、魔王殿に視線を向けながら口を開いた。 「我々よりも奥には、おそらくカタリナ様しか行っていません・・・。何かがあったとすれば、あるいはそれはカタリナ様が関係しているのではないでしょうか・・・」 何かの間違いで、カタリナが魔王殿最深部に眠るアビスゲートを開いてしまったのではないか。トーマスはそう言いたいのだろう。この状況を見る限りでは、実際可能性としてはそれが一番濃厚ではあった。 「・・・とにかくこのままでは瘴気がこの町を覆い尽くすのは時間の問題でしょう。ミューズ様、シャール様の仰るとおり一刻も早くここを離れたほうがいいです。取り急ぎ用意できる家となると限られてしまいますが、私がご用意します」 心配そうな表情でこちらを見つめるミューズに向かい、なるべく安心させるよう勤めて抑えた声色でトーマスが喋る。 「シャール様も、今はそれでいいですね?」 「・・・すまない。ここはお言葉に甘えるしかないようだ」 そういってシャールが立ち上がった、その時であった。 魔王殿から発せられる瘴気の一部がまるで殻を破ったかのように弾け飛び、それは巨大な獣の姿をとって空に飛び出したのだ。 「な・・・!?」 その波動を感じ取ったトーマスとシャールが上空を見上げた時には、その巨大な獣らしきものは空中に大きく瘴気の弧を描いて飛翔し、幾度かの瞬きの間にトーマスたちの居る家の前の小さな広場に音もなく降り立った。 雄雄しく、そしてあまりにも禍々しい瘴気を身に纏ったその双頭の獣は、ゆっくりとトーマスたちに振り返る。だがその瞳は何も映してはおらず、頭の一方の片目は何か刃物に貫かれたように抉り取られていた。 慌ててシャールとトーマスが、ミューズと子供たちを守るようにその獣と対峙する。だが、二人ともこの獣が自分たちでは間違いなく勝てぬほどの力を持っていることを、見た瞬間に理解してしまっていた。 だが不思議なことに、先ほどまで魔王殿から発せられていた瘴気はこの瞬間にはたち消え、町全体を押しつぶすような威圧感はすっかりなくなっていた。だからこそ二人も、即座にこの獣に反応して対峙する態勢をとることができたのだ。 「・・・まって、二人とも。この獣は私達を傷つける意思はないみたい・・・」 何を思ったのか突然、ミューズはシャールとトーマスに声をかけ、獣の前に歩み出た。 「ミューズ様・・・!?」 驚いたシャールがミューズを引き下げようとするが、ミューズは首を振ってそれを拒否すると、ミッチとゴンをシャールに任せて一歩獣の前に歩み出た。 何を喋るでもなくミューズがその場に立つと、獣は頭をたれ、そして口を開いた。 『覚えのある気かと思えば、あの男の従者の子か・・・まぁよい。お前に任せよう』 獣の口を通じて、別の何者かの声が響き渡る。その声は地の底から響き渡るような重苦しい響きで、聞いているだけで気分が悪くなるようだ。 『この者を生かせ。あの男を越えるほどの存在なれば・・・今の我を更に楽しませることもいずれできよう。これは我が現界するまでの戯れに過ぎぬ。我の手により消えるまで、生きるがよい』 一方的にそれだけいうと、獣は途端に色を失った。 そのままミューズが疑問符を浮かべながら見ていると徐々にその巨体は風に吹かれて崩れ始め、最後には塵となって消えてしまったのだ。 そして直前まで獣のいた場には、全身ボロボロの姿で左肩から大量の血を流して倒れているカタリナの姿があった。 「カタリナ様っ!!」 その姿を確認したトーマスがすぐさま駆け寄る。抱き起こしてみるがカタリナに意識はなく、微かに呼吸をしていることがなんとか分かるという程度にまで弱りきっていた。 「・・・いけない、早く治療しないと・・・とにかく家の中に一端運びましょう」 ミューズがその容態をみて自分の家を指差しながら言うと、それに頷いたトーマスは素早くカタリナを抱き上げた。 「・・・瘴気がすっかり消えた・・・。あの獣を城の外に出すためだけにあの渦を作り出したというのか・・・。まさか、今のは魔戦士公だとでも・・・?」 家にカタリナを運び込むトーマスを横目に、魔王殿を見つめながらシャールが呟く。だが今はカタリナの容態を見極めるのが先決である。未だ混乱の冷めやらぬ外の喧騒を背に、シャールもすぐに家の中へと入っていった。 前へ 第一章・目次
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以前は1 ◆VVQPu1etk2だったが 最近は(゚∀。) ◆VVQPu1etk2 になってることが多い。 初期はおどおどしてて弱気な人だったが、いつの間にか性格が変わっていた。 地獄のようなカオスを得意とする。耳がおかしくなり医者に行った人までいる。カオス曲はその場で複数のプレーヤーを使って流しているようだ。 ポルノ以外にもアニソンやゲームソング、ネタソングなど、様々な曲を持っている。 リストの曲名を変に伏せるのは彼から始まった。 ポルノの曲でのカオスも多分彼から。 ポルノ単独スレが定期的にたつようになる前から ポルノ、アジカン、BUMP、ELLE+αというスレで頻繁に垂れ流していた。 ライブドアでの垂れ流しを頻繁にしていたため、計3回のアク禁をくらったことがあるw最近は自作PCで自鯖を立てて流そうと計画中らしい。 なお、ライブドアからのアク禁のことは「ライブドア事件」と呼ばれている。 たまに喋ることもあるが、恥ずかしがり屋なのか、ほとんど喋らない。 ちなみに、一緒にラジオをしている相方は、クレヨンしんちゃんの野原ヒロシ似の声である。ネトラジのときは相方がよく喋り、物真似などをしてくれる。 ↓ここから本人↓ どうも(゚∀。)です。カオスばかりやっているように思われがちですが、きちんとした放送もしていますwポルノはもちろん、アジカン、ELLE、BUMP、ホルモンなども数多く取り揃えているつもりなので、聴きたい曲はとりあえずリクしてみてくださいw ちなみにブログもやっているのでこちらもよろしくお願いします http //blog.livedoor.jp/vip_ktkr1119/?blog_id=1804859 【不可曲】
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夜。 太陽が沈みほとんどの人が家に帰る時間。薄暗い路地を私は走っている。心臓がばっくんばっくんと打って要求している。動くことをやめるように。走ることをやめるように。 でもそんなこと今は聞いていられない。肺の中の酸素をすべて使い切っても、腕や足がぼろぼろになったとしても、私は走らないといけないんだ。だって、そうでしょ? 私の後ろには私を喰らわんとする化け物がいるんだから。 「……はぁ……はぁ……んく……うあ……」 口からはもうまともな言葉も出て気やしない。だらしのなく出てくるよだれもぬぐう暇さえない。ひたすら走って、走って、走るのみ。それ以外私にはどうしようもできなかった。その化け物を一目見て直感でわかった。逃げなくてはいけないんだって。理由なんてわかんない。ただ、変だ、って。そう思った。異質。異常。異なっている。根本的に私とは違うものだって。 「ん……くっ……んん……あっ!」 空き缶。どこかの誰かが捨てたのであろうそれを踏んだ。気をとられてしまい私の足は互いにもつれ合いあっけないほど簡単に転んでしまった。 「いっ……た……」 ひざ、ひじといった部分から伝わってくる痛み。すりむいたんだ、きっと。でも、もうそんなの関係ない。体はとうに限界を迎えていた。足も心臓も肺も何もかもが。立ち上がれない。動けない。逃げられない。 「いや……やぁ……」 目から涙が流れる。痛みのせいなんかじゃない。これから襲いくることへの恐怖が。私の心を芯から染めきっていた。ひたすらに怖くて、仕方がない。震えが止まらない。何もできない。 顔を上げるとそこには。 化け物が立っていた。 目が覚めると地面に寝転がっている。こんな癖、私にあっただろうか。いやない。それではなぜ。 しかし、いくら考えてもその答えは分からない。とりあえず周囲の状況を確認してみることにしてみた。 とりあえず、空が暗い。つまり夜だ。記憶に残っている最後の景色も夜であったことからそんなに時間は経ってはいないはず。 「いったい……何が……?」 服についた汚れを払い、落ちていた荷物を拾い上げる。念のため中身を見てみたが何も盗られていないみたいだ。なぜ、倒れていたのかはわからないが何事もなかったみたいなので気を取り直して家に帰ろうと、一歩前へ進んだそのときだ。 「ふぇ?」 軽い。あまりにも軽すぎる。荷物のことだけではない。とにかく体全体がまるで風船でできているのではないかと疑うほどに軽い。そのことに思わず自分でも間抜けな声を出してしまった。 「気のせいじゃ、ない……?」 実験だ。とりあえずその場で軽く垂直に飛んでみよう。 「およ?」 その場でジャンプしたにもかかわらずほとんど音が立たない。それどころか力を入れた瞬間自身の体は下から誰かに押し上げられたように浮き上がり約一メートルほど飛んでいたのだ。 おかしい。私自身体力に自信があるわけではないし過去にここまでの跳躍したこともない。というよりここまで飛び上がれるものは本当に人間なのか、とそこまで疑える。 けど数分が経過しているが特に体に痛みが出ているわけでもないしこのよくわからない力を利用するのも悪くはないかもしれない。 と、そうこうしているとのどが渇いてきた。 どこかに、自動販売機でも置いてないかな。 なんか飲みたくてしょうがない。 そうだ、珍しく紅茶でも買おう。家に帰ったら、 赤ワインでも飲もう。 「う、ううん……」 地面にうつぶせになって倒れている私。何が、あったんだっけ。とにかくいつまでも寝ているわけにはいかないし、立ち上がらないと。 「よっこら、っと……え?」 立ち上がってみてびっくりした。だって、私の着ている制服が血まみれなんだから。びっくりした私は思わず服を脱いで確認した。ここ、路地裏だし大丈夫だよね……? 「うわどうしよこれ……」 首周りから胸にかけて汚れているようでまだ少しぬれていることから時間はそこまで経っていないみたいだけど。でも、なんで? 不思議に思った私はとりあえず首をさすってみた。すると、予感はしていたが液体の残っている感触があり、その手を見てみるとやはり血でぬれていた。 「え、ていうかこれ大丈夫なの? もしかしたらやばい?」 いったい私は気を失っている間にどれくらいの血液を失ってしまったのだろう。三分の一失っただけでショック状態になるとか聞いたことある気がするけどどうだっけ? けれども今のところ私の体に異常はないし大丈夫、なのかな。あ、服どうしよう。下に着ていたセーターは大丈夫だったからそれでいいかな。いいよね。どうせ家は近いんだし。 「帰ろうっと」 落ちていた通学かばんを拾い上げていざ歩こうと足を前に出す。うん、大丈夫。ぜんぜん大丈夫じゃん私。あれ? そういえば怪我したような気がするけど傷とかないや。まぁいいよね。それになんか変なことがあったにもかかわらずすごく気分がいい。 それにしてもなんか忘れてる気がするけど……忘れたってことはたいしたことないよね。 あーなんかお腹空いちゃった。それにのども渇いちゃったし。 あ、そういえばダイエット用に野菜ジュース買っといたんだ。 赤い、色の、野菜ジュース。 早く、飲みたいなぁ。 おそらくもし私を見ている人がいたら不審に思うだろう。浴びるようにペットボトルの中の紅茶を飲んでいる変な人がそこにいるのだから。すでに三本目。気づけば私は二千円分の紅茶を買い、そしてもう半分以上を飲み上げてしまっている。 理由はいたって簡単なもの。のどが渇いているからだ。乾いている。渇いている。干からびている。 それこそ砂漠の中にある砂のように。いくらつばを飲み込んでもその渇きは癒えず、とうとうつばさえもでなくなり紅茶をがぶがぶ飲む始末。 それでも、渇きは癒えない。それどころかどんどん酷くなる一方だ。胃の中が紅茶でいっぱいになっているだろうにもかかわらずだ。明らかに異常なこと。けど対処の仕様がない。わからない。 「飲みたい……」 何を? と思わず心で問う。もちろん答えは返ってこない。 「飲みたい……」 いいながらもその口は今もなお紅茶を含んでいるはずなのに。 「ノ……ミ……タ……イ……」 かすれた、音にもならない声が、私にだけ染み渡る。それは、まるで私自身へ私自身が要求しているように。 「AAAAAAAAAAAAAAAAA!!」 気づけば私はガムシャラに走っていた。声という音域を外れ、獣じみた叫びを放ちながら。 頭の中でささやく。甘く、芳醇に、私を誘う。 チヲ、ノメ、ト。 アタタカク、アカク、アマク、イケルモノノ、チ。 チヲ、ノメ、ト。 「ただいまー」 ドアを開き、玄関で靴を脱ぎ、家に上がる。と、ここで向こうからいい匂いが漂ってくる。それは私の鼻をくすぐって、つい反射で口の中でよだれが出てきてしまう。この匂いはたぶんビーフシチュー、なのかな。 「お母さーん、今日ってもしかしてビーフシチュー?」 「そーよー。よくわかったわねそこからー。玄関でしょ今いるの?」 そういえばそうだ。私って、こんなに鼻がよかったっけ。 「まぁいいわ。そんなことよりさっさと着替えて着なさいねー」 はーいと返事をして私は階段を上り自室へ向かう。リズムよくトン、トン、トンと。 部屋に入ってひとまず着ている服を脱ぐ。するりと衣が脱げ落ちていく。人が自分を繕うためにつけている人間としての鎧が。 今の私は下着姿。この状態で部屋の外をうろつけば確実に軽蔑の視線が私に向けられるだろう。 「軽蔑……」 って私はいったい何を考えてるの! そんなの変態じゃない変態! 露出狂じゃあるまいし…… 「……あーもー! そんなことよりご飯、ご飯!」 思わず出てきた邪まな考えを振り払いちゃっちゃと着替えを済ませると部屋を逃げるように飛び出した。 「あらあら。いくらおなかが空いたからってそんなにあせらなくても誰も盗らないわ」 あまりにもどたばたと駆け下りたためかお母さんがそんなことを言い出す。息を整えながらイスに着いて料理が出されるのを待つ。 「うふふ、誰に似たのかしらねぇ。お父さんかしら?」 「もうそんなのどうでもいいよぅ……あ、それよりお姉ちゃんは?」 「多分、勉強中よ。あの子は今大事な時期だから。邪魔しちゃだめよ」 お姉ちゃん。私より二つ上で、いわゆる受験生。今、すごく忙しいみたいで、いっしょにご飯を食べることすら滅多にない。いい大学目指してるんだって。 「さ、ご飯にしましょう? 今日はビーフシチューよ? って、知ってるわよね」 「あぁもうお腹ぺっこぺこだよ! いただきまーす!」 全力で走っている私。人間では到底出せそうもないスピードで動くこの体は目的もなくただひたすらに走り回る。 むしろ、考えたくはなかった。私の頭を巡りに巡る思考回路を封鎖するために。自身がそうではなくなる恐怖。いつのまにか人道から外れたことを考え、そして実行してしまうそうな。そんな思考。 走っても走っても、逃げども逃げども、ソレが離れることなどない。なぜなら、それは私の頭の中で生きているからだ。ソレは腐っていて、それでいて、魅惑な息を私の脳髄に吹きかける。落ちてしまえば楽だろう。いや、楽に違いない。けれども、私に残されたヒトカケラの"人"が。ソレをかたくなに拒み続けていた。 走りに走って、いつのまにか路地裏の方に来てしまっていた。ここまで来るのに時間はそんなにかかっちゃいない。三分か、四分くらいだろう。それでも心臓はほとんど正常に鼓動を繰り返している。 どうかしている。普通じゃない。体も、心も。 「どうなっているのか……全くもって……」 途端。心臓の衝動。誰か、いや、何かからの非道なまでの圧力によって締め付けられている。 「アッ……ガッ……ケハ……」 止まる。心臓が。コドウが。イノチが。トマル。オワル。 「ウ、ア、コン、ナ、ノッテ……クヒッ」 カエルがひしゃげたような音を出しながら、私の体は落ちていく。路地の、冷たいアスファルトの上へ。 さようなら。 誰に言うわけでもないが、なんとなく、頭の中でそう呟いていた。 さようなら。 「あーあ。今日ももう終わりかー」 そんなことを、私はお風呂場で誰に言うわけでもないけど、言っていた。 「また明日も学校……あー休みたーい」 口ではこうは言っているが、実際は冗談だ。 もしも、明日いきなり台風が来て学校にいけなくなったりとか、大雪が降っていけなくなったりとか、インフルエンザが急に流行って臨時休校になったりするんだったらいいけど。 どうせ、そんなことはおきっこないんだから。だから、半ば諦めがちに学校に通っている私。 いかなきゃいけない。そう自分に言い聞かせて、毎日、登校する。 「はぁ。やんなっちゃうなぁ」 私は普段はこんなこと、考えない。だってせっかくの晴れてる心も一気に台無し。曇り空。 そういえば私、なんでこんなこと考えちゃったんだろ……? 「う~……あぁもう! 分かんないからパス!」 ぱしゃとお風呂の中に顔だけ潜ってネガティブな思考はシャットダウン。ぶくぶくぶくと泡が出ている。ほんとはお行儀悪いけど誰もいないんだから気にすることはないよね。 「おーい、いもうと~」 「っひゃあ!」 予想だにしていなかったのは私も姉ちゃんもおんなじみたいで向こうも驚いたようで。 「ちょ、ちょっと何、大丈夫!?」 「あ、ごめん驚いちゃってそれで……えへへ」 「まったく……どうせあんたのことだからお風呂でぶくぶくしてたんでしょ」 ばれてる…… 「ど、どうして分かったの?」 「だって昔はよくいっしょに入ってたじゃない。あんたいつもやってたし」 「そんなにしてたっけ?」 「してたしてた。それはもうぶくぶくぶくぶく。しまいにはよく母さんにしかられたかな」 そういえばもう何年くらい入ってないのかなお風呂。小学校くらいまではいっしょに入ってたけど二人とも中学にあがってしばらくしたら、いつのまにか入ることはなくなってた。 「いつのまにか、いっしょに入ることなくなったよね」 「え? ああ、そりゃいつまでもいっしょってわけにはいかないでしょ?」 「まぁそうなんだけど……あ、そういえばさっき私のこと呼んだけどなんだったの?」 「いきなり話が変わったわね……そういえば、なんだっけ。ああ次私入るからって言おうとしたのよ」 「なんだ、それだけなのか」 「あのねぇ……それだけなのに話を伸ばしたのはあんたの方でしょ」 「えへへ、ごめんごめん。もうちょっとしたらあがるから」 ほんとに頼むわよ、と言うと姉ちゃんはそのまま洗面所を立ち去っていった。 私も、もう上がらないとね。 もちろん風呂上りは、ダイエットのためのトマトジュースを思いっきり飲み干す。 いつもは、にんじんジュースだけどね。そういう気分なんだ。 そういう、ね。 一つの体が、そこにあった。 薄暗く、ひんやりとした空気がじめっと肌に触るそこはいわゆる路地裏と呼ばれている場所。 その体はピクリとも動きはせず、もしも誰かがそれを見たら救急車を呼ぶかそれともその状態を確かめに行くか。人によっていくらでも取る行動はあるだろう。 だが、もし勘の鋭いものがそれを見たとしたら。おそらくほとんどの者がこうするだろう。 "全力で逃走する" しかし幸か不幸かそれを目撃したものは誰一人としていなかった。 "それ"が、至って平然と立ち上がる姿を目撃したものも。当然いなかった。 「けひ……キひゃ……」 鳥か獣がか細く啼いたような、そんな音が体の口から洩れた。 体は、周囲に散乱していたプラスチックの群れを全く認識していないのか。踏み、蹴散らし、時にはすっ転びそうになりながら。その場を後にしようとした。 そのとき、体はその動きを停止し、辺りを見回し始めた。 当然その辺にゴミ屑同様に撒き散らされているプラスチックの塊を探しているわけではない。 鼻をヒクヒクと震わせて、何かのニオイを嗅ぎ取ろうとしている。 と、ある一点を向くと、それらの動きを全て停止させた。 そこには、女がいた。 制服を着ていて、通学かばんと思わしき物から携帯電話を取り出している。どこから見ても学生なのは明らかだった。 しかしそんなことはカレにはなんの関係もなかったのだった。 「あ、メール。 なんだお母さんか。 えっと……"ご飯できたから早く帰りなさい"……はいはい。わかってますよーだ」 少女は、そのメールを読み終わるとすぐさまその返事を打ち込み始めた。 「"りょーかいいたしましたお母様。すぐさま帰宅いたします"……っと」 内容を打ち終わりそれを送るべく送信ボタンを押す。携帯電話の画面には、紙が折られ紙飛行機になり、それが飛んでいくという映像が流れている。それが三度ほど繰り返されたとき、画面には"送信完了"の文字が映っていた。 「もぉーこのぐらいでいちいちメールなんか送ってこなくていいのにー」 そう言いながら携帯電話を折りたたむとかばんの中にテキトーに突っ込んだ。 家に帰ろうと、視線をかばんから戻すべく顔を上げると そこには、見たこともない男の顔があった。 「あーやっぱりお風呂上りはこれだよねー!」 お風呂から上がって早速私はトマトジュースを飲み干していた。よく友人などからは味の事をたびたび聞かれるけどそれはまったく問題ない。なぜならこのトマトジュースを含んだ野菜ジュース類は母が考案しそして何度も行われた細かい調整でようやく完成したジュースなのだ。(そのときの失敗作は私たち姉妹が強制的に始末させられたのだけど)もちろんまずいわけはない。 「そう言ってくれるとこっちも嬉しくなるわねー」 キッチンの流し台でお母さんは今日の晩御飯に使われた食器を洗い流している。手伝ってあげようかとも思ったけど私がお風呂に入っている間にほとんど終わってしまっていたようなので今日はやめておいた。 「それにしてもまたパパ帰りが遅いわ……ここのところいつも残業ばっかり。食事用意してるこっちの身にもなってほしいわ!」 そう言うとお母さんは頬を膨らませる。いい年してるのにって突っ込むと怒られるからしないけど。 「でもさぁ、そういうときって普通先に言っておくもんじゃないの?」 「確かにそうなのよね……ま、今日はたまたま残業が入っちゃったってことにしておくわ。そして食器洗い終了っと」 見てみると確かに流し台には一枚も食器は残っておらずそして全てがきれいに拭かれていた。 と、突然お母さんが欠伸をし始めた。それを見て思わず私も欠伸がうつってしまった。 「あらもう欠伸する時間帯……? 一日ってほんと短いのよね」 背伸びをしながらそんなことを言うお母さん。言ってることは共感できるけど。 「じゃ、私もう寝ちゃうから早百合もさっさと歯磨きして寝なさいね?」 「は~い」 口ではこうだけど実際はそんな気は毛頭ない。だってテレビ見るんだもん。夜更かしは学生の特権なんですって誰か言ってた気がするし。どうしても見たいし。別にいいよね。 すでにお母さんは自分の寝室に移動している。つまりここのテレビ独占し放題。バレると後が怖いけどね。 前に友達に聞いたんだけどわりと自分の部屋にテレビがある人も多いらしく私としては羨ましいの一言。ズルイぞ。 「さてさて、まずはスイッチを……オン!」 プツン、というなんだか歯切れのいい音がなり徐々にテレビの画面が明るくなる。なんかこういう瞬間ってドキドキするの私だけ? 「おっとっと音を下げて……っと。これでよし。何から見ようかな……」 そのとき、あまりテレビから聞くことのないプーンという音が二度すると、画面上部にはニュース速報の文字が流れている。 「こんな時間に速報かー。あれかな。地震とか?」 というより他に思いつかなかっただけなんだけど。 ゆっくりと流れてくるニュース。しかし私の予想に反して、"地震"の二文字はなく。代わりにこの二文字が流れていた。 「殺……人?」 "連続猟奇殺人事件" 普段全くお目にかかることのない文字が勢ぞろいで、私の目に飛び込んできた。 薄暗かった路地に月明かりが差し込む。 劇場の舞台にスポットライトが当てられたように、彼らに光が当てられる。 うつ伏せに倒れた少女と、そこに馬乗りになって少女に抱きついているように見える男。 月明かりの美しさ。それによりさらに極まるその行為から垣間見える異常さ。 よく見れば少女の首筋から血が流れており男はおぞましくもその血を音を立てながら啜り飲んでいた。 「キヒ……キヒヒヒャハ……」 ユラリとよろめきながら立ち上がる男。 淡い青色の月光と、病的なまでに白い肌と、口元にべったりと付いた赤朱色のコントラストはどこか芸術的な絵画のような。そんな印象を思わず抱いてしまうほど、月明かりは美しかった。 「ヒヒヒヒャハハハハハハハ……ヒヒハハハハハハハハ!!」 ケタケタとニヤニヤ笑いながら上に、空に向け、高笑う男。 一度膝を曲げたかと思うと普通では考えられない跳躍で跳び上がると、そのままこの場を風のように去っていった。 男の高笑いは、いつまでもその場にこだまし続けていた。 この倒れている少女が起き上がるのは実にそれから数分後のことである。 しかし一方で、こことは違う場所に話は移る。 「んで、着いた訳なんだよな。相棒?」 「……相棒というのは止して頂けませんか。一応、指揮権は僕にあるので」 そこには、二人の人間がいた。 ただいるだけならばそこまで気にすることはない。問題は彼らの見た目である。 まず一人は、長身で赤色の髪、銀色に輝くそれは見事な鎧を装着し、腰には長めの剣と思わしきものまで差している。 もう一人は、低身長気味で水色の髪、鎧とまではいかないが丈夫そうな革服と胸当てや肘当てといったものを装備し、腰には先ほどの剣よりぐっと短く、おそらくレイピアのようなものを差していた。 二人が並ぶとその身長差はよりはっきりと目立ち、もう一人の方はまるで子供のように思えて仕方がない。 「まあなあ、そりゃこんな見た目じゃどっちが上かなんて人目見ただけじゃ見抜くのは一苦ろ」 「それ以上僕の容姿について言及するということは覚悟ができていると思っていいんですよね?」 ジロリと睨むその蒼眼に思わずたじろいでしまう長身の人。流石にこれはまずいと咄嗟に言い繕う。 「あっははははは……冗談っすよ冗談……ったくちょっと触れただけですぐコレだからな……」 「何か、言いましたか?」 ボソッと呟いた筈の文句がなぜ耳に届いたのか、相手には見えぬよう苦々しい顔をしながら返事を返す長身の人。 「いえいえほんとになんでもありませんよほんとうに」 「……どうやら、任務より先に上の者への口の聞き方を教育しなければならないようですね?」 長身の人、それを聞くと今度は深々と頭を垂れ、実に丁重な雰囲気で言葉を述べ始める。 「……先ほどからのご無礼お許しください。どうやら自分は初任務に舞い上がり多少冷静な判断に欠けていたようで……」 低身長の人、一つため息を吐くと、怒る気力がなくなったような、それでいて重々しく。 「あなたの言葉に付き合っても無意味なので、この件はなかったことにします。ですが」 「もちろんこのことは今後一切口には出しません。誓ってでも」 「よろしい。それじゃ早速行動を開始します」 そういうと、彼らはその場を後にした。 後に残ったのは、ただ静けさばかりだった。 私は、テレビの画面に釘付けになっていた。 そのとき流れていた映像は全てどこかに吹き飛び、映るのは文字だけだった。 "今日午後10時ごろ、浦歩市内で血まみれの死体を見たという人が相次ぎ警察が調査をしたが死体は見つからず 見間違いだと思われていたが一人の警官が死体を発見したと通信機で同僚に報告したがその警官は行方不明に 現在その警官を捜索するとともに今回の騒動の真相を探っている" 「血まみれ……」 そう、私にも覚えがある。あのとき、路地で倒れていたとき。私は少しではあったけれど血が流れていた。 もしかして、何か関係があるのだろうか。そのときの記憶はあいまいなんだけど……できるなら思い出したくない。 なぜかはわからないんだけど、怖い。思い出そうとすると、黒い影がチラチラと頭を横切る。怖くって仕方ない。 「こらっ!」 「ひゃあ! テレビ勝手に見ててごめんなさいごめんなさいごめん」 「バーカ、わたしだよわ・た・し」 後ろから突然怒鳴られた私は思わず自分でもマヌケなほどに飛び上がってしまった。 見てみればお母さんじゃなくてお姉ちゃんだし。 「もう……脅かさないでよ」 「あっはははごめんごめん。あんまり真剣になってテレビ見てるからつい」 「つい、じゃないよもう。ほんとに心臓止まるかと思った」 「悪かったって、ごめん。んで、何か面白そうな番組でもあったの?」 連続殺人事件があったんだってー、なんて、言えるわけない。勉強に集中したいだろうし。それに今私が言わなくたって明日のニュースとかで見るだろうし、今言うべきことじゃないと思った。 「え、あ、ううん……別になかったよ」 「え~? 本当かな~? あんなにまじまじ見てる早百合珍しいと思ったけどね~?」 「ほ、本当だよ! そ、それよりお姉ちゃんは何しに来たのさ!」 なんか私ってごまかすのが下手な気がする……けど、お姉ちゃんはそのことを気にした様子もなく答えた。 「私? いやちょっとのどが渇いたからさ。ジュースでも飲みにきたってわけ」 「そっか。ところでなに飲むの?」 「もちろん母様特製スペシャルジュースに決まってるでしょ! あれ美味しいんだよねー」 スペシャルジュースというのはお母さんがお姉ちゃんの健康を気にして作り出したある意味お姉ちゃんのためのジュースだ。そのせいかお姉ちゃんもそれを一番のお気に入りにしているみたい。 「やっぱりそうだと思った。あーあ私ものど渇いちゃったなぁ」 「じゃあ飲めばいいんじゃない?」 「だって入れるのめんどくさいし……あ、そうだお姉ちゃんついでに私のも入れてよ」 「やーだよめんどくさい自分でやりな」 「むー、けちー」 「それに私の分はすでにやっちゃったからね」 気づくとお姉ちゃんはすでにコップを持っていてその中にはオレンジ色の液体が入っている。いつのまに。 仕方がないのでぶつぶつ文句を言いながらも私はキッチンの冷蔵庫に向かう。すぐそばでお姉ちゃんが飲んでいるのはどう見ても私に対するあてつけだ。全く私の分くらい入れてくれたっていいのに。 とりあえず何を飲むか選ぼう。えーと、うーむ、そうだ。トマトジュースにしよう。お風呂上りにも飲んだけど。 「お、トマトジュースなんて珍しいね。もしや、ダイエット中?」 私が冷蔵庫からトマトジュースの入ったボトルを取り出しているとそんなことを言ってきた。 「違うよ! なんていうか気分?」 「ふーん。あっそ」 それだけいうとさっさとまたジュースを飲み始めた。私も気にしないでさっさと飲むことにした。 不思議と飲み終わるのに大して時間はかからなかった。大きいコップを使ったはずなんだけどな。 隣を見るとお姉ちゃんがまだ飲んでる。 そういえばお姉ちゃんって結構スタイルいいんだよね。でもモテるなんて話し聞いたことないなぁ。 細い。お姉ちゃんの体って。よくこんな体で生きていられるよね。 ほんと、この首なんて、力を入れると折れてしまいそうで。 「ん? どうしたの?」 「っ!?」 急に振り返ったお姉ちゃんに気づいて慌てて私は手を引っ込んだ。 今私なに考えてたの? どうしてお姉ちゃんの首を触ろうとしたの? 「あ、う……」 「さ、早百合? どうしたの、顔色悪いよ?」 「ご、ごめんなんでもない……ちょっと外の空気、吸ってくるね」 「あっ、早百合!」 一分一秒も早くこの場から逃げ出したかった。何もかもが恐ろしくてたまらなかった。何より、私自身に。 私……いったいどうなっちゃったの? 「ったくキリがねぇぜこりゃあよ!」 「確かにこのままでは埒が明きませんね」 人通りの少ない少々寂れた商店街。そこに普段より多くのニンゲンがいた。 いや、正確にはニンゲンの形をしたモノ。とでもいえばいいのだろうか。 なぜなら彼らの動きは明らかに人という枠を超えたまさしく人外と呼ぶに相応しいものでまたそれに対峙している二人も人智を超えた目を疑うような光景を繰り広げていた。 剣を持つ二人の人間に対して老若男女の七体の化け物。しかしそのうちの三体はどういうわけか氷漬けにされている。 残りの四体はバラバラの動きで二人を仕留めようと彼らに襲い掛かる。あるモノは上から、あるモノは回り込んで後ろから、またあるモノは正面からとそれぞれの動きはバラバラながらもそのどれもが強力なパワーで攻めてくる。 それを主に捌いているのが長い剣を持った男。ときどき捌ききれないのがきたらもう一人と見事な連携で立ち回っていた。 「そこまで冷静に言うかフツーよォォ! アイツらはまだ7体もいるんだぞ!?」 「……ちょっと時間を稼いでください。まず僕が奴らの足止めをします……十数秒ほどですが」 「それで! どんくらい! 持たせりゃ! いいんだ!」 そういっているうちにも相手は休むこともなく攻め続けてくる。それを切り払ったり押し返したりしながら長身の男は聞いた。 「そうですね……20……いや15秒持たせてください。何とかしてみせます」 「何でもいいから早いとこ足止めって奴を! こっちは持ちそうにねぇんだぞ!」 「わかりました!」 そういうと手に持っていたレイピアに形状の似た剣を何かの絵を描くかのように振り回し始めた。 そしてさらに何かを唱えている。 水の神よその偉大なる業を我の前に示し給えいかなる時であろうとも我と共に在れ―――― イル・オン・ディヌ・ミカノズミ―――― 「フリージス・ミストッ!!」 その言葉を唱えると、化け物たちの周りを薄い霧のようなものが包み込み始める。 それを意に介せず再び攻撃を仕掛けようとする化け物だが、不思議なことにその体は全く動こうとしない。いや、動こうにも動かすことができないのだ。なぜなら、その体は瞬く間に凍りついているからだ。 そして、数秒もしないうちに七個の少々気味の悪いオブジェが出来上がっていた。 「ふぃー。助かったぜぇ……」 「僕は今のうちに次の呪文に取り掛かります。ですから……」 「んなことはわかってんだよォ!!」 そう言うと再び剣を構えなおし七個のオブジェどもへと向かって駆け出した。 しかし、普通ならば凍っている物を斬るというのは簡単なことではない。が、長身の男はそれを気にしている様子はない。 「見せてやるよ。俺のフレイム・エンチャントの力を!」 突如、彼の持っている剣を包み込むように淡い火が出たかと思うと、瞬く間に紅蓮に揺らめく炎へと変わった。それは一見、その剣自体が燃えているようにもとれるがそうではない。あくまでも剣の周りに炎が現れたに過ぎないのだ。 「アンタには悪いがよ、跡形もなく消えてもらうぜ? 後始末が面倒なんでな!」 一番近くにいた化け物へ、紅蓮の剣を頭部へと、振り下ろす。 その炎は、氷を、髪を、皮膚を、肉を、骨を、脳を、何もかもを、焼き尽くした。 剣が完璧に振り下ろされたそのときには、そこにオブジェはなく、ただ少量の水と炭が下に落ちていた。 「か~、やっぱり俺もまだまだって奴か……なんて、無駄口言っている場合じゃねぇな!」 そして彼は突撃する。残りの化け物どもを殲滅するために。 と同時に彼は気づいていた。化け物どもを封じ込めている氷がすでに融け始めていることに。 それでも彼は走る。自身の任務を遂行するために。何より、彼と共にきた相棒を死なせないために。 「オラオラオラァァァッ!!」 横に、縦に、斜めにと剣を振る。化け物は一体、また一体と焼失していく。だが、よく見ると彼の剣を包んでいたはずの炎が化け物を斬るたびにだんだんと弱まってしまっている。それに伴って彼自身も、たった数回剣を振っただけなのにも関わらずまるで全力疾走で400mを走ってきたように呼吸が荒くなってしまっていた。 パキィンといった、何か薄いものが割れるようなそんな音が響いた。 見ると化け物どもは自分を覆ってしまっているその氷を、強引に力業で破り、体の自由を取り戻していた。 そして、長身の男を獲物として確認すると、三体の化け物が、彼に向かって襲い掛かる。 それに対する彼は疲労困憊してしまっているのか剣を構えることもなくだらりとした様子でうつむいていた。 「後は任せても、いいんだよな?」 「ええ、もちろんです」 化け物どもの頭上。そこには、コンクリートなどで固められた巨大な塊ができあがっていた。 よく見れば周囲にある建物の一部の壁などが大きく削れていたり剥がれていたりしている。 重力の影響を受けてそれが落下すると、下にいた化け物どもはその塊に押し潰されてしまった。 「……俺たちの完全勝利……ってところ、だな」 「どうも危なかったようにも見えたのは気のせいですか?」 「あ、あれはほら、演出だ! 演出!」 「その割には本当に疲労していたように見えましたけど……まぁそれはそれとして」 と、ちらりと巨大な塊を見やると困ったような顔をする。 「これ、放置しておくにも行かないので後片付けお願いしますね」 「ちょちょ、おい! さっきの戦いで疲れてるんだぞ! できるわけないだろ!」 「あれ? それは演出じゃなかったんですか?」 「ぐ……わかったよやるよやればいいんだろ! クソ!」 「口の利き方」 「りょ、了解しました……」 「あの塊は僕の方で解除しておきますのでそれの片付けと下敷きになってる体とかも焼いてください」 「……人使い荒くないか」 「それじゃがんばってくださいね」 そこまで言うと言いたい事は全て言ったとでもいうようにその場を離れ商店街の出口の方向へ歩いていく。 「あ、おいちょっと待て……畜生、後で覚えてやがれよ……」 振り返ってその巨大な塊を見て、しばらくそれを眺めているだけだったが、一言だけボソッと呟いた。 「あぁ……帰りてぇ」 「あぁ……帰りたいよもぅ……」 あのとき、お姉ちゃんから逃げ出した私は家から飛び出して当てもなく一人町を彷徨っていた。 流石にパジャマで出たわけじゃないけどそれでも薄着で寒い。玄関にかけてあったコートを着て出たけどそれでも寒くて仕方ない。 「でも、あんなことがあった後で帰れるわけないじゃん……」 自分で自分が、いやになる。ていうか、本当に私はどうしちゃったんだろう。さっきから変なことを考えてる。 家に帰る前も、家に帰ったときも、お風呂のときも、お姉ちゃんのときも。 「ほんとなんでなのかなぁ」 そう口に出してみたけど、本当は違う。心の奥深くで、誰かが叫んでる。今はまだ小さくて聞こえないけど薄々気づいてる。 ただそれに耳を傾けたくないだけなんだ。だって、それを聞いてしまったらもう。 今の私に戻れないような気がして。 「……あ、ここ……」 考え込んでて気づかなかったけど、私はここを知っている。 錆付いてしまったアーチ上の看板と、両端にたくさんのお店が並んでいて。 小さいとき、それも保育園とか小学生のときにお母さんに連れられ一緒に買い物に来た商店街。このころはまだお姉ちゃんとも一緒だったっけ。 「まだあったんだこの商店街……看板が錆びちゃってて何ていう名前なのか結局今もわかんないけど」 子供の頃の足だとなんだか遠く感じていたこの場所も、今となっては数分で着いてしまう。そのことを思うとなんだか感慨深いような気がした。 懐かしさに誘われるままに私は商店街の通りへと歩みを進めていた。右に肉屋さん、左に八百屋さんとそれこそテレビや漫画で出てきそうなそんなお店が立ち並んでいる。他にも居酒屋さんとかあるけどそのどれもが古臭さを感じさせるほどに壁がひび割れていたりシミができていたり。 しばらく歩いていると少し奇妙な物を見つけた。大小と様々な大きさの瓦礫が道路に散らばっているのだ。周囲を見回してみると付近の建物の壁が所々壊れていておそらくそれが瓦礫となったのだろうと考えられるけど。 「でもなんで? 地震とかあったわけじゃないし、普通こういうのって誰かが片付けるもんじゃ……」 いくら考えても答えなんか出るわけもなく。ただむなしく時間が過ぎるだけ。 「というか寒っ……流石にちょっと薄着だったかなぁ」 いつまでも外をぶらぶら歩いてたって仕方ないよね。うん、いい加減帰らないとね。お姉ちゃんも心配してるよきっと。 そう思って今まで来た道を戻ろうと、振り返る。振り返った私の視線の先に誰かがいる。見た感じ男の人だ。でもなんだろう。私はこの人を知っている……というより、見たことがある……? アレコレ考えているうちに男の人はこちらの方向に近づいている。おぼつかない足取りというか少しふらつきながら。お酒でも飲んで酔っ払ってるのかな。なんて考えていた。 それは、あっという間の出来事。気が付いたそのときには男の姿が消えていて。 私が状況を把握しようとしたそのときには男の姿が目の前に現れていて。 「あ……あ……」 思い出しかけていた記憶が一気にフラッシュバックした。私は帰り道の途中に出会っていたんだ。あの化け物に。 そして、小さくもはっきりと聞こえてしまったんだ。 チヲ、アタタカイチヲノメ、って。 男の顔が月明かりに照らされる。あの時見たのと変わりのない青白い顔。でも、一つだけ違っていたものがあった。 それは、私がそれを見ても。 異質だとは感じなかったことだった。 「ちょっと横にズレてもらえるかいお嬢さんよ!」 大きく響き渡る男の人の声。でもそれは目の前の化け物から発せられたものじゃない。むしろ後ろから聞こえている。 咄嗟の判断で横に飛びのいた私は慣れないことをしたせいか転んでしまった。 「いったた……そ、それより、今のは一体何?」 化け物がいる方を見てみるとそこには変な格好をした人がいる。鎧とか剣とか着けて、髪も赤いし、まるでどこかのゲームから抜け出してきたんじゃないかと思うほどの格好。どんなコスプレでもここまで精巧にはできないんじゃないか。 茫然自失としているともう一人、私の方に近づいてくる。 「大丈夫、ですか」 小さめの身長で青い髪をした人が話しかけてきた。私と同い年、いやもしかしたら年下かも…… 「う、うん大丈夫……というかあの人助けなくてもいいの?」 「ええ、どうせ相手は一体、問題ないでしょう。それに、あの人元気が有り余ってるみたいですしね」 「?」 くすくすと笑ってるのはちょっと理由はわかんないけどとにかく問題ないらしい。 それにしても不思議だ。本当に私は現実を見ているんだろうか。人が剣を振り回して化け物と戦うなんて。とてもじゃないけど信じられない。 そもそもこの人たちは一体何者なんだろうか。 「あの、あなたたちは一体……」 「何者か、ですか。確かに気になることです。しかし言ってしまってもいいのか……」 「言っちゃってもいいんじゃねーの?」 いつの間にか、赤髪の人はすでに化け物を倒してしまったようだ。化け物の姿はもうどこにも見えない。何をしたのか見てればよかったかな。 「今回のことを含め、私たちの存在は知られてはならないと言われているのを忘れましたか?」 「だけどよ、もう完全に色々見られちまったし手遅れじゃないか?」 「忘却の術を使えればいいのですが生憎僕は使えませんしその術者はいるのは向こう側ですからね。事態を軽く見すぎていました」 なんだか、私を置いて話がどんどん進んじゃってるけど、どうもこの人たちとは関わってはいけなかったみたいで…… あれ? もしかして私大変なことに巻き込まれてるとか……? 「あと、もう一つ気がかりが残ってるんですよ。彼女について」 「え? わ、私?」 「ええ。そうです」 「おいおい。別にこの子は単なる一般市民ってやつだろ? 特に気になることなんてないんじゃあ?」 そう。私はどこかの秘密捜査官でもないしスーパーヒーローってわけでもない。これといって目をつけられることなんてないはずなんだけど。 ただ、今私が気になっている点を除けばの話だけど。 「なぜあなたは生きているんですか?」 いきなり何を聞いているんだろう。なぜ生きてるって言われても説明できないんだけど。 「なぜ生きてるって言われても……心臓が動いているから?」 「いえ、そうではなく、あの怪物を前にしてなぜ生き延びているかということです。何の力もないはずのあなたが、どうしてです?」 「そ、それは……」 言ってしまってもいいのだろうか? 私が抱いている一つの仮定。それはとても不確かなものだし誰かに言ったとしても信じてもらえそうにもないほどだ。 でもこの人たちなら? どこかのゲームや漫画から抜け出てきたような「まるでファンタジー世界」なこの人たちなら? いやでも待って。この人たちの目的はどうみてもあの化け物を退治すること。 もし、もしも私がその仮説を話しちゃったら…… 「ん? そりゃ単純に俺たちの発見が早かったからだろ? 何の問題も」 「1分40秒。私たちが彼女を発見してからそこに向かうまでの時間です」 「それがどうかしたのか? というかよく計れたな」 「効率的に考えるのは重要なことだと思っていますから。そんなことより問題はその時間です。考えてみてください。あの怪物たちは満たされることのない欲求を満たすために常に獲物を探し回っているんですよ。そこに格好の相手が現れたら。もうわかりますよね」 「……おい。そりゃ本気で言ってる、ってのかよ……」 「はい。本気も本気ですよ僕は」 そして、ゆっくりと私の方へ向き直る。ああ、とうとう言われてしまうんだ。でも不思議だ。そのことに対しての恐怖はないのだから。 きっと薄々自分でもわかっていたから。今まで悩んでいたのはそれを受け入れる勇気がなかったからなんだって。 これが私の出した結論の答えあわせだ。 「あなたは……恐らくあの怪物と同等の存在。つまり……」 ――吸血鬼、なんですよ。 覚悟はしていた。そうであろうとは思っていたし受け入れようとも思っていた。だけどやっぱり現実って言うのは思い通りになんて行くわけはなかったようで。はっきりと明確に告げられた解答を聞いた私は内心、というかすでに足まで震えて動揺しまくりだった。 「ちょっと待て! もし彼女がそうだとして、だとしたら今頃彼女も人を襲ってるんじゃないのか!?」 「恐らくと言ったのはそこが気になるからです。こればかりは彼女から聞き出さないといけないんですが……いいですか?」 その「いいですか」というのが自分にあてられたものだと気づいた私は慌てて返事を返す。 「は、はい。 といっても私自身も混乱してるから説明しにくいんだけど……」 私はこれまでのいきさつを彼らに話した。 帰り道の途中に化け物、彼らの言う吸血鬼に会ったこと。 家に帰ってから変な思考が浮かんでしまうこと。 お姉ちゃんを傷つけてしまいそうになったこと。 家を飛び出してあの吸血鬼と再び会ったこと。 全てを話し終わると彼ら二人はなにやら考え込んでいるようだった。 「なぁ、これってどういうことなんだ?」 「彼女の話から思うに吸血鬼に咬まれているのは間違いないでしょう。ですがどういうわけか彼女はこうして正気を保っている。といっても非常に足場の悪い状態ですが」 「吸血鬼化するのは個人差はあってもほとんどの人間が一時間以内でなることは確認されてるんだろ?」 「はい。しかしすでに数時間は経過してます。通常ならありえないことですが彼女に限っては例外のようです」 「それってこの子は吸血鬼にならないってことか?」 「それは違うでしょう。現に襲われてませんしそれにそれらしい症状のようなものも出てるようですしね」 「だったらいったい……」 「ただの仮説にしか過ぎませんが、もしかしたら彼女には"抵抗力"があるのかもしれません」 「"抵抗力"……?」 あれ、なんだろう。眠くなってきちゃった。ああそういえば今って深夜なんだっけ。とんでもないものを見たせいで忘れてた。 それにしても私が吸血鬼か。人の、もう今は人じゃないみたいだけど。人生っていうのはこうも簡単に変わっちゃうのか。 ごめんねお姉ちゃん、お母さん、お父さん。私もう会えなくなっちゃうかも。 特にお姉ちゃんには、一言謝りたいなぁ。 ごめんって。一言でいいから。 ああ、コレが実は夢で起きたらベッドの上。 ってならないよねうん。 さようなら。みんな。 「一種の抗体みたいなものがあると思っています。だからこそああしていられるのでしょうね」 「……んで、どうするんだい。この子をさ。気が付いたら名前も聞かないうちに眠っちまってるし」 「抗体があろうとなかろうと連れて行くのは決めていました。色々と見られてしまいましたし、それに……」 「それに……なんだ?」 「い、いえ何でもありません! き、気にしないでください!」 「その慌てっぷり……なかなかレアだな」 「そんなニヤニヤと僕のことを見ないでください! み、見ないでったら!」 「クックック……いやぁ今日はいい物を見られたな本当」 「い、いつか酷い目にあわせてやるんだから……!」 ――先日起こった奇妙な失踪事件についてのニュースです。新しく入った情報によりますと現時点で失踪者数は40名を超えており今回の調査で新たに、東野 輝美さん、岡島 正志さん、中山 治朗さん、下塚 早百合さん、吉山 晴海さんが今回の事件に関係していると―― 終
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―ロシア連邦飛び地 サンクトペテルブルク PM11:25― 「ファム、どう見える?」 「どうも何も脳みそをぶちまけた死体だが?」 「プロかズブの素人か」 「プロ。口径はロシア製の9mm×18弾」 ファムは床に落ちていた真鍮の空薬莢を一個つまんだ。 ロジャーは先ほど売店で買った名も知らぬロシア産のタバコを一本つまんで火をつけて口に含む。 「マズイな」 「タバコが?それとも状況が?」 「両方だ。情報提供者が店ごと消されるのは・・・些か大胆な犯行だとは思うが」 彼ら二人がいるのはサンクトペテルブルク市内のストリップバー。 ここで落ち合う予定だったのは元FSBの情報提供者だった。 今床の上で脳髄を外にはみ出している奴がそうだ。 「まさか店ごと襲うとは。サンクトペテルブルク警察はなんて言ってる、ファム」 「二人組が事件後に黒のBMWで逃走。行方をくらました。本部の衛星で時間軸逆上りゃ追えるんじゃないか?」 ロジャーは頭をボリボリと掻いた 「マザーボードに報告する。俺達の装備じゃ無理だ」 「今日に限って拳銃しか無いからな。無難な選択だ、ロジャー」 二人は現場を後にした ―PM11:30 TR本部海上リグ― 『俺たちが会う予定だった元FSBのイゲティ・ロフドニーは最近ロシア軍関連の兵器管理委託を任されている会社に勤めてた。やつから上がってきたんだ。古いつきあいでな』 電話をとったアレンは聞き直した。 「情報がか?」 『ああ。ロシア軍内部で妙な動きがあったらしい』 「妙な動き?」 『実はロシア陸軍の防疫関連施設に勤めてた若いエレオノーラ・ブルコバという女性研究員がイゲティにタレ込んだのがそもそもの始まりだ』 アレンはタブレットパソコンを引き出しから出してメモ帳のアプリを起動した。 「続けてくれ」 『ブルコバはイゲティの職歴を知ってタレ込んだらしい。内容はきちんとメモしてくれ。あとこれ盗聴防止されてるか?』 「ガジェットチームの出してるデータを入れてたらな」 『オーケーだ。タレ込んだ内容はロシア陸軍幹部のイワノビッチ・グレコフ少将のASAとの癒着。これだけだ』 「グレコフ?何度か仕事をした。ロシア国内でのTR理解者の一人だ。作戦を穏便に済ますために何度か協力してもらった。奴がか?」 『ああ。詳細を話す前にブルコバは愛車のフィアット内で黒焦げの消し炭になって見つかってる。昨日だ。消された線が強い』 「酷いな」 『ASAだからな。そしてブルコバの線を洗い、イゲティにたどり着いたんだろう。イゲティもブルコバが消された後に自分で調べてたみたいだがその詳細も消えた』 「どうすればいい」 『チームを何人かと武器装備を送ってくれれば片がつく。あと衛星の使用許可だ』 アレンは頬を掻き 「わかった。二人送る。それでいいか?」 『ああ。宜しく頼んだ』 アレンは電話を切ると内線につないだ。 「アレンだ。誰かサンクトペテルブルク付近にいるTR全隊員で誰かいないか?」 『現在行動中の部隊はサンクトペテルブルク付近には存在せず。私用で行動中の隊員二名はヨーロッパに存在』 「誰だ」 『TR01ジャン・クルーガー軍曹とTR03フィオナ・ウィンチェスター巡査です』 「ジャンはドイツか」 『はい。ウィンチェスター巡査はイギリスです』 「両方私用で間違いないな?」 『はい。クルーガー軍曹はご息女関連。ウィンチェスター巡査は旅行です』 「よし。ありがとう。」 アレンは内線を切って別の固定電話を使った。 ―ドイツ連邦共和国 ベルリン市内 現地時間:PM11 25― 「寝ちゃったみたいね」 「ああ」 娘と外に遊びに行った後俺は寝てしまった娘を元妻のソフィアに渡した 「ジャン、あなた優しくなったわ。何かあったの?」 「さぁね。今からでもやり直せるかな」 ソフィアは笑った。 「ええ。でもまだ考えさせて・・・」 ジャンも笑った。 「今は海外赴任が多い仕事についてるから前よりも会えないんだ」 ソフィアは訝しむような目で見た。 「自動車工を辞めたの?」 「ああ。今は多国籍企業に居るんだ」 ソフィアはなるほどという顔をした 「ある時期からか、あなたからの送金が増えたのはそういうことなのね」 「ウン」 ソフィアは俺の腰に目をやり 「携帯電話、鳴ってるわ」 「え?」 気づかなかった。 「ありがとう」 俺は携帯をとった。 発信元はアレン大尉 「た・・・いや、なんです?」 大尉(Kapitän)などと言ったらいけない。 『ジャン、仕事頼めるか?』 「私用は、今終わりました」 『ブランデンブルク国際空港でサンクトペテルブルク行きの航空券を取ってある。タブレットから印刷してくれ』 「了解」 『詳細は機内で』 携帯が切れる。 「どうかしたの?」 「いや、取引先が納品したものが壊れたから直ぐ来てくれとさ」 ソフィアは少し残念そうな顔をした。 「あなたと学生時代よく行ったバーにビールでも飲みに行こうと思ったのに」 「また今度にしよう」 ―翌日 AM7:00 プルコヴォ空港― 「大尉、到着しました」 『TR03のフィオナ・ウィンチェスターを?』 「なかなか男勝りな女性警察官とは聞いていますが」 『この先のカフェで待ってる。無線はオープンにしておけ。秘匿回線だ』 「了解です」 ターミナルは早朝の客でごった返している。 間を縫うように進んでいき、アメリカ資本のカフェを見つけたので店内に入った。 店はそこそこ繁盛しているようだ。 冷戦終結後、ただでさえ欧米文化の浸透していたこのサンクトペテルブルクは資本主義文化に侵食された。 このカフェもその1つだ。 入り口からその様な感じの女性を探してみるが見当たらない。 「大尉、それらしいのがいません」 『今ウィンチェスターにこの回線を教えた。自分たちで探しあえ』 「了解」 ブッと無線が途絶える。 『こちらフィオナ・ウィンチェスター。ジャン・クルーガー?』 「こちらジャン。どこに居るんだ?」 『ちょうど化粧直ししてたのよ。今から出るわ』 目線をトイレに向けると中から短い茶髪の女が出てきた。 ゴリゴリの女ゴリラを想像していたがそうでもない。華奢だ。 「フィオナ・ウィンチェスター?」 「ジャン・クルーガー?」 俺は手を差し伸ばした。 向こうも。 「はじめまして」 「こちらこそ」 彼女は手で自分の席を指して 「席で話しましょう」 「ああ」 「詳細は聞いている?」 俺はうなずき 「どちらにせよロジャーとファムを待たなきゃな」 「ええ。ここに来る予定よ」 俺はメニューを手に取り 「じゃあその間コーヒーでも飲もうや」 「経費で落とせるならね」 「何を飲む」 ウィンチェスターはメニューを手に取り 「カフェ・モカかな」とつぶやいた。 「了解」 俺は店員を呼びノーマルのコーヒーとカフェモカを注文した。 「待たせた。会うのは初めてだな。ロジャー・スミスだ」 かなり高価なスーツを身にまとった男と野暮ったいコンバットジャケットにジーンズを着合わせた東洋系の女が奥のブース席に入ってきた 俺が手を差し出してスミスと握手をするとかすかに、金属が擦れる音がした。 ショルダーホルスターを装備しているようだ。 ウィンチェスターのほうはファムと握手をした。 こいつは武器を携帯していそうだが、おそらく直で腰にでも差しているのかもしれない。 「会ってなんだがここじゃ誰でも話を伺えっからな。バンを用意してる。そっちに来てくれ」 空港駐車場の端っこに駐車されていた配送業者用のバンに乗り込んだ。 「装備は、持ってきてくれたか」 「ああ。だがアンタのじゃなくてファムのだぞ」 俺は持ってきたライフルケースをファムに手渡した。 彼女は指紋認証のパネルに指を押し付けてケースを開けた。 中から出てきたのはVSS特殊作戦用狙撃銃だった。 「俺はグロックで十分。さて、詳細はこの車内でなら可能だ。外部からの通信を完全に遮断してる」 「なるほど。研究員が死亡、そしてその研究員が担当していた兵器を管理する会社の元FSBが死亡。こういうわけか」 「過不足なくそのとおりだ」 俺がハーベーを手にとって一本咥えるとスミスがひとつくれといった。 渡して火をつけてやる。 それを見てウィンチェスターも自分のタバコを取り出して咥えた。 「これからどうする」 「暗殺者の線は今諜報部の連中に洗わせてる。衛星から追跡してな。俺達は警察如く這いずりまわって捜査するしかあるまい」 ―AM8:12 サンクトペテルブルク市警察部― 「え、エレオノーラ・ブルコバとイゲティ・ロフドニーの遺体ですか?」 「ああ。調べてもいいか」 サンクトペテルブルク警察にはTRのスポンサーの"企業"からの圧力が入っており俺達部外者でも調べることが可能だった。 「いいですけどゲロ袋は入り口ですよ」 検死医は入り口を開けた。 「女達は外に―」 俺が言いかけるとスミスが制止をかけた 「ファムはこの程度で吐くようなタマじゃあない」 ファムは無表情な顔で 「タマはないぞロジャー」 と言い返す。スミスは顔をウィンチェスターに向け 「配慮するならそっちの姉ちゃんだ」 ウィンチェスターが言い返した。 「警察官よ。エグい死体は見慣れてる」 スミスは死体置き場の1つの保存ケースを出した。 黒い死体袋に入っているそれはイゲティ・ロフドニーとロシア語綴りで辛うじて読めた。 スミスはためらいなくそのジッパーを開けた。 眉間に綺麗に一発。 スミスは検死医を一瞥し 「死因は?」 「我が国の9mm×18口径弾を使用した射殺。威力から見てマカロフ拳銃にサプレッサーを取り付けたものかと。バーの客もほとんどそれで死んでました」 「持ち物は?」 検死医は肩をすくめ 「身分証以外何も」 スミスは隣のケースに手をかけた ケースにはエレオノーラ・ブルコバと記名されている。 ケースをスライドさせるとやはり黒い死体袋。 「開けるぞ」 ジッパーを下げると黒焦げの女だろうと辛うじてわかる焼死体が姿を表した。わずかに焦げた臭がする。 「死因は高温にさらされたことによるショック死」 遺体の頭部にはまだ金髪が残っているがかつてあったかもしれない美貌は失われ、今残っているのは焼けただれ醜い姿になったエレオノーラ・ブルコバだ。 俺は端末を取り出して遺体の表面を少し削って端末で読み取らせた。 つぎに無線をつないでガジェットチーム長であるルート・バーンスタインを呼び出す。 「ルート、聞こえるか?」 『モチ。どうした』 「今から送るヒト細胞が何で焼かれたか調べてくれ」 『了解・・・っと。上がったぞ』 「なんだ?」 『サーメート手榴弾だ。化合物的にロシア製だろうな』 そっくりそのままスミスに伝えた。 「つまりエレオノーラ・ブルコバはサーメート弾を投げつけられ絶死したのか・・・」 ファムがおもむろに遺体にコンバットナイフを突き立てた。 「おい!」 検死医が止めようとしたがファムが睨んで動きが止まった。 胸に突き立てると切り裂いていった。 内臓器もほとんどが炭化していて切り裂くというよりケーキを切り分けるような感じだ。ボロボロと体細胞だった炭化物が崩れる。 「ロジャー!」 手をその穴に突っ込んで何かをロジャーに投げつけた。 「SDメモリー、だな。飲み込んだか」 ファムは手を流し台で洗いながら 「彼女の手に解けたSDメモリーケースがこべり付いてた」 SDメモリの中身はどうやらイゲティ・ロフドニーに渡すもののようだった。 Wordで制作されたレポートにはロシア軍上層部のイワノビッチ・グレコフ少将が主導となりASAに旧式化学兵器を横流しする旨が綴られていた。 そしてこれ以上の情報は安全を考え、彼女の妹が経営するパソコンショップに預けたとあった。 ―AM10:28 サンクトペテルブルク市内 コンピューターショップ― 「エレオノーラは姉です。そんな、死んだなんて・・・」 「アイリーナさん、お姉さんから預かり物とかありませんでしたか」 泣いているエレオノーラの妹アイリーナにスミスは同情の声色で聞いた。 「ええ、これを」 またSDカードだった。 「よしジャン、こいつを端末に―」 ファムがスミスを押し倒した。 そして俺も、気配に気づいてウィンチェスターを押し倒した。 即座に店内に銃撃が加えられた。 目の前でアイリーナが頭を撃たれて壁に倒れこんだ。 店員たちも尽く撃たれていく。 俺たち4人組はカウンターに隠れて様子をうかがうことにした。 もちろん手には拳銃を持って。 「中尉、武器を店員にもたせました」 「よし、店内をくまなく探してデータを探しだせ」 スミスが全員に目配せする。 4人が一斉にスライドを引いてカウンターから身を乗り出し、外にいる暴虐者に拳銃を撃った。 バタッ、バタッと全員が倒れる。 「クリアクリア、確認する」 俺はそう言うと倒れた連中に駆け寄り武装解除を施す。 スミスはその乗り込んできた連中の装備を探った。軍属のように見える。 そして懐から出たものにスミスが驚いた。 「おいおいこいつら陸軍の治安介入部隊だ」 それは陸軍がこの件にやはり一枚噛んでいることを露骨に表していた。 ―AM10:55 サンクトペテルブルク市内 車内― 「何が出てきた」 「明確な化学兵器受け渡しの日時及び場所。警備員数も判明。4人でやれる内容じゃないぞ」 ブルコバ姉妹が残したSDカードはサンクトペテルブルクの海岸沿いに存在するロシア陸軍保有の対テロ演習用に購入された 旧式の貨物船。とはいえ大型のものでヘリポートも存在する。 「ここの使用者は件の治安介入部隊だ。さっきこの介入部隊を調べた」 スミスは端末を取り出した。 「陸軍少将イワノビッチ・グレコフが提案、認可された特殊部隊に近い組織だ。サンクトペテルブルクを拠点にロシア国内でのダーティーワークを 担う。そのほとんどが政府役人の私的な内容を対処するいわば暗殺部隊的な意味合いが強い。ロシア政府が認可したのもこの旨味があるからだろう。 公式名は存在せず、構成員はロシア陸軍出身。たいした訓練は受けてない。ただ撃ち殺すだけのならず者部隊。だが、人数がネックだ。30人の構成員を保有している」 ファムが言葉を続ける 「グレコフの私兵部隊であるこいつらは明後日に貨物船でロシア軍の管理から意図的に漏れた旧式の毒ガス兵器をASAに売るようだ」 俺はやや伸びてきたひげを触り 「4人で解決できるとは思わない。TR01のアレン大尉に増援を聞いてみる」 俺は無線を繋いだ。 「30人の武装部隊か、面白くなってきた。分かったTR01を動員する。お前達はそのまま加われ。明後日取引だな?明日までに全員をそちらに投入できるだろう」 『了解です、ありがとう御座います』 アレンは無線を置き、別回線に繋いだ。 「レイク、稼働可能の隊員を総動員しろ。30人の武装したロシア人を叩き潰す」 『了解』 「あと別の班から狙撃手を連れてこい。任地が海上だ」 『了解しました』 つぎに内線電話でTR02に電話をかけた。 「ジェイド、赤の広場に飛んでくれ」 『一体また、なんで?』 「ロシア陸軍の少将、イワノビッチ・グレコフを拘束しろ。ロシア政府には話を通す」 『了解。任せておけ』 「別作戦と連動して行う。早まるなよ」 『心配するな、フォスター』 電話を切るとアレンは武器ケースを開けて拳銃のスライドを引いた。 「俺もそろそろ行くかね」 ―2日後 AM2:00 サンクトペテルブルク沿岸― 『こちらオイヴァ、誘ってくれてありがとうな。久々の狙撃だ』 『こちらレイク、オイヴァ私語を慎め。仕事の時間だ』 『了解』 『引き続きレイクより報告。貨物船の甲板にロシア製の民間ヘリが到着した。降りてきた連中を照合した結果ASAの末端組織の東欧戦線メンバーと判明。 対面したのは治安介入部隊の指揮官だ。犯罪歴は15、ほとんどが暴行罪。以上』 アレンは空の雲を見ながら無線を返した 「了解。甲板の警備は?」 『10名前後。主に甲板後部に集中。対テロ規範書通りだ』 アレンが笑う 「俺達が規範通りに来ると思っているらしいな。一泡吹かせよう。レイク達はその位置で狙撃できるな?」 『もちろんだ』 アレンがレイクとトウーッカ・オイヴァ・ユーティライネンを配置したのはサンクトペテルブルクの港にあるクレーン屋上。 ここから海上を一望できる。 もちろん貨物船も。 「俺達もそろそろ出るぞ。ボブ、出せ」 「おう、楽しませてもらうとしよう」 MV-22オスプレイを操るボブはどことなく新型機に触れれるからか嬉しそうだ。 俺は武装を確かめた。 なるべく軽装にしたかったのでMP7を1丁、ベネリM4スーペル90を1丁、拳銃はいつもはP8を携行するが狭いところだしCQB戦闘に少し不向きなのでワルサー社製P99を調達した。 「再確認する。我々はあえて甲板後部ではなく、正面から突入する。MV-22には固定武装を装着し、モニカ・ハワードで使用し援護しろ」 「了解」 「援護も悪くない」 二人が返事をする。 「突入直前にレイクらの狙撃チームが甲板の衛兵を排除する。我々は突入後、貨物船の貨物エリアに突入する。敵がガスを発生させる可能性を踏まえ最初からガスマスクを装備して戦闘に挑むから注意しろ。 船内を制圧したらガス爆弾を確保。また、ASAメンバーを確認した場合はなるべく殺すんじゃないぞ」 ―同時刻:ロシア連邦 モスクワ郊外 イワノビッチ・グレコフの別荘付近― 「TR02はグレコフの確保を行う、奴は治安介入部隊の一部を私兵化し、邸宅を警備させている。我々はこれを叩く。奴を殺すな、生かせ」 ジェイドの指示を聞いたTR02のメンバーは頷き、各々が装備を取り出し始めた。 TR01の攻撃と同時に作戦を遂行する手はずだ。 ―AM2:15― 空域にひっそりとMV-22が近づいてくる。 もちろん甲板の兵士からは筒抜けになる。 だからオイヴァとレイクの狙撃が必要になるのだ。 オイヴァはフィンランド生まれの狙撃手でレイクには劣るものの優秀なスナイパーで通っている。 「レイク、そろそろだ」 「ああ・・・標的はさっき選んだとおりだ」 オイヴァはレミントンRSASSのトリガーに指をかけた。 距離は600m 哀れな奴。 狙われてるとも思わない。 そのままくたばれ。 レイクの指示が出た 「撃て」 サプレッサーによる減音 1発の弾丸が貨物船後部に居た一人を斃し、もう一人はレイクが砕いた。 ドシュッ、ドシュッ 海の上に幾つもの銃声が響いた。 『こちらレイク、制圧』 「わかった。ジャン、ジャマーを作動させろ」 俺は手に持っていた広域ジャミング装置を作動させ、敵の無線を不通にさせた。 「時間は稼げる、な」 オスプレイは空域へ無事接近した。 「後部タラップ解放、ロープを蹴り出せ」 ボブがコックピットから指示を出す。 後部タラップが開かれるとハートが素早く太い降下用ロープを蹴りだした。 「全員、ガスマスクを装面しろ」 全員がガスマスクを被る。 「ファストロープは大尉だ」 ロングTシャツに簡単なプレートキャリアを装着したスミスが笑いながらアレン大尉に道を譲った。 その後ろにはコンバットジャケットにワークパンツ、そしてプレートキャリアを装備したファムが待機している。 ファムの手にはVSSが握られているが対してスミスは手ぶらだ。拳銃だけで行くつもりらしい。 大尉がロープを握りこみ、滑り降りた。 続くTR01の隊員ら。 そして自分の番が来てそのまま降りた。 前方甲板より降下、そして進軍路の確保。 「甲板入口を発見。事前に打合せたとおりのメンバーで突入する。もう一般は後部甲板より入れ」 大尉の指示通り部隊が2つへ。 アレン指揮のアルファとアルバート指揮のブラボー。 俺はアルファだ。 貨物船の扉に取り付き、ドアブリーチ用のミニ爆薬を俺が取り付けた。 大尉が指三本を立て、1つづつ閉じていく。 握りこまれた時が爆発のタイミング。 点火器をクリックし、扉が吹っ飛んだ。 「突入!」 階段を大尉を先頭に駆け下りていく。 階下に何事かとふらふらと出てきた兵士を大尉がアサルトライフルの掃射で薙ぎ払った。 「敵沈黙、進め!」 階下にたどり着き、左右を確認する。 「敵なし、敵なし!進め!」 順調そのものだ。 長い船内の廊下の突き当りから二人の敵が駆け足で到達した。 大尉がやはり素早く薙ぐ。 「リロード、カバー!」 俺が代わりに前に出る。 直ぐに敵の増援が一人走ってきたのでベネリM4を構えてぶっぱなした。 「敵射殺!」 『こちらアルバート。敵と交戦しているが後部から貨物エリアに到達するのは構造的に不可能』 「こちらアレン、了解。甲板まで上がってこっちのルートで入って合流しろ」 『了解』 貨物エリアと思われる水密扉は相当重厚だ。 「ジャン、ハート、例の爆薬を仕掛けろ。残りは残弾確認!」 俺は持ってきたリュックを下ろし、水密扉でも吹っ飛ばせるサーメート爆薬を取り付けた。 高温でどろどろに溶かしながらふっとばす。 ハートの手伝いもあり、20秒で仕掛けれた。 「準備完了」 大尉が頷き 「全員退避!」 通路脇の部屋に全員が退避した。 爆炎は通路を焦がすからだ。 「点火用意」 「点火用意」 「点火」 「点火!」 バフゥン!と爆音がし、外を伺うと思ったとおり扉は消し飛んでいた。 最適の量だったことは作戦前に爆薬量を調節してくれたTR03の旧友、ヴィルに感謝しなければならない。 ふと異質な音がなっているのに気づいた。 大尉の腰からだ。 大尉は腰のそれを手に取ると 「敵が毒ガスを起爆させたようだ。心配ない、皮膚から摂取しても問題ない。だが長時間はマズイ。ガスマスクをしっかり付け直せ、死ぬぞ」 吹き飛んだ水密扉を越えると抵抗に遭った。 「敵は重機関銃を対岸に設置してる!ファム、VSSで奴を撃ち抜け!他はついてこい!」 Kordかなにかの重機関銃を貨物の中層階デッキに設置したらしい。 毒ガスは白くこの室内を漂っている。 ファムはVSSを構えて素早くトリガーを引いた。 機銃手が沈黙したのは俺からでも確認できた。 「全員散らばれ、各個撃破するぞ!」 貨物エリアは複雑に入り組んでいて面倒な作りになっていた。 MP7を構えながら進んでいくと起爆させたらしいガスのケースが有った。 素早く蓋を閉める。 「こちらジャン、ガス発生装置に蓋をし―」 抜かった。 後ろから背後を感じた時にはすでに首を絞められていた。 ただでさえガスマスクだ。息苦しい。 「やばっ、落ちっ」 横から誰かが走ってきて後ろのやつを突き飛ばした。 「ジャン、抜かったわね!」 ウィンチェスターだ。 彼女は華麗な手さばきで俺の背後をとったやつを押し倒し、ガスマスクを剥いだ。 「ぐあがっ!」 口から泡を吹き出して倒れる。 「助かった・・・ゲホッ!」 「少しガスを吸ったわね?もう戦闘は終わったから早く出ましょう」 ―ほぼ同時刻 ロシア連邦モスクワ イワノビッチ・グレコフのダーチャ― 「突入!」 イヴァノフが扉にタックルしてグレコフの別荘に突入した。 1Fから入ったのはジェイド・マイヤー・イヴァノフ 残りは2F天窓を突き破った。 1Fの玄関に居た黒服のSPが持っていたコーヒーを落した。 馬鹿な、警報すらなってないぞ。 そう思う前にマイヤーのG3で脳みそが外に出てしまった。 すでにTR02がシステムにハッキングし、システムは意味をなしてはいなかった。 「イヴァノフ、保安室を銃撃。他は1F制圧だ。地獄へ送ってやれ」 イヴァノフが頷いてPKMを保安室とロシア語で書かれた部屋を撃ちまくった。 サテライト偵察で2分前までイワノビッチ・グレコフが自室である地下にいるのは調べが付いている。 徹甲弾が装填されているため木製の壁はただの紙扱いだ。 ジェイドはそれを右目で見送りつつ奥に入った。 テーブルを盾にしたSPが3人ほど、無意味に抵抗をしてきた。 「面倒なことを」 室内用のMk3手榴弾をベルトのラックから取って投げ込んだ。 バゴン!と破裂した音が響いたのを確認してライフルで掃射した。 部屋を隅々見て回るがもう敵はいない。 2Fを制圧したらしいエレナ達も降りてきた。 ジェイドはエレナを一瞥し、リロードしながら 「エレナ、上はどうだった?」 顔から血を垂れ流しているがそれは獲物の柳葉刀で敵を切り伏せたからだろう。 「完全に制圧。下だけだ」 「わかった。ヴォイテク!下に突入する。援護してくれ」 ジェイドはマガジンを装填した。 地下室の扉をぶち破ろうかと配置につこうとした時に銃声が響いた。 「ああっ!」 ジェイドが扉をぶち破ると座椅子に座りながら死んだイワノビッチ・グレコフが居た。 「くそ!」 ジェイドが悪態をつくが 「大尉、ここに情報ありそうですよ」 リオネルが部屋を見渡した。 ASAとの接触予定などが刻まれた予定表はそのままだ。 サムが部屋を好き放題に荒らし始めるまでそう時間はかからなかった。 「わかったジェイド、可能な限り資料を持ち帰れ」 『了解、フォスター。すまない』 「情報を持ち帰れるだけマシだ」 アレン大尉はそのまま無線を切った。 「フィル、ジャンはどうだ」 呼び止められたフィルはうん?といった顔をして 「ちょっと吸っただけです。問題ありません」 「わかった。よーし、全員撤収用意だ」 ―3時間後 TR本部海上リグ― 全員の体の洗浄とメディカルチェックが終わった。 俺は少し吸ったため抗生物質を軍医に渡されおとなしくそれを飲んで自室に戻ってベッドに座った。 ニュースではさっきの事件を軍の演習事故と位置づけたようだ。 ロシア陸軍上層部もイワノビッチ・グレコフが死亡したためそれ以上トレースは出来なかった。 サムがダーチャを荒らしたためだ。 ASAに関する情報は一切合切全て持ち帰れたのでTR指揮官のサンダース大佐は喜んでいると聞いた。 「やっと終わりか」 俺は枕に顔を埋めた。 名前 コメント