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お兄ちゃんの体中から、あの女の匂いがするよッ!! 出典 Duel Savior (戯画) 意味 「リリィさんの…匂いがする。体中に、ついてる…未亜の、匂いを、つけたはずなのに… リリィの…匂いがするッ!お兄ちゃんの体中から、あの女の匂いがするよッ!!」 主人公の妹、当真未亜が抱き合ってキスしようとした矢先に兄に向かって言った強烈な一言。 キモウトが現在の意味で使われるようになった名言。
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少女性、少女製、少女聖杯戦争 女の子の世界は砂糖とスパイスと地獄で出来ている 俺ロワトキワ荘にて進行中の亜種聖杯戦争企画。 企画者は◆PatdvIjTFg。 2015/03/17に登場話SSの募集が開始され、2015/05/03にOPが投下、2015/05/05より企画開始となった。 企画の特徴としてマスターとして登場するキャラクターが少女のみに限られたことが挙げられ、 作品全体から漂う陰鬱さから、同時期に立った二つの聖杯スレと並び、暗黒三聖杯の一角と称される。 参加者 No. マスター サーヴァント 名前 出展作 クラス 真名 出展作 No.01 木之本桜 カードキャプターさくら セイバー 沖田総司 Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚 No.02 中原岬 NHKにようこそ! セイバー レイ ドラゴンクエストIV 導かれし者たち No.03 大井 艦隊これくしょん -艦これ- アーチャー 我望光明 仮面ライダーフォーゼ No.04 海野藻屑 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない アーチャー 森の音楽家クラムベリー 魔法少女育成計画 No.05 シルクちゃん 四月馬鹿達の宴 ランサー 本多・忠勝 境界線上のホライゾン No.06 フェイト・テスタロッサ 魔法少女リリカルなのは ランサー。 綾波レイ 新世紀エヴァンゲリオン No.07 江ノ島盾子 ダンガンロンパシリーズ ランサー 姫河小雪(スノーホワイト) 魔法少女育成計画 No.08 双葉杏 アイドルマスターシンデレラガールズ ランサー ジバニャン 妖怪ウォッチ No.09 星輝子 アイドルマスターシンデレラガールズ ライダー ばいきんまん 劇場版それいけ!アンパンマン No.10 蜂屋あい 校舎のうらには天使が埋められている キャスター アリス デビルサマナー 葛葉ライドウ対コドクノマレビト No.11 高町なのは 魔法少女リリカルなのは キャスター 木原マサキ 冥王計画ゼオライマー No.12 桂たま 天国に涙はいらない アサシン ゾーマ ドラゴンクエストIII そして伝説へ… No.13 大道寺知世 カードキャプターさくら アサシン プライド(セリム・ブラッドレイ) 鋼の錬金術師 No.14 山田なぎさ 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない アサシン クロメ アカメが斬る! No.15 ララ D.Gray-man アサシン ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド(バネ足ジャック) 黒博物館スプリンガルド No.16 白坂小梅 アイドルマスターシンデレラガールズ バーサーカー ジェノサイド ニンジャスレイヤー No.17 雪崎絵理 ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ バーサーカー チェーンソー男 ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ No.18 諸星きらり アイドルマスターシンデレラガールズ バーサーカー 悠久山安慈 るろうに剣心 No.19 輿水幸子 アイドルマスターシンデレラガールズ クリエーター クリシュナ 夜明けの口笛吹き No.20 玲 ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス エンブリオ ある少女 さいはてHOSPITAL 外部リンク 支援サイト 少女性、少女製、少女聖杯戦争@wiki スレッド 少女性、少女製、少女聖杯戦争 少女性、少女製、少女聖杯戦争 二章
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私ハ、アルゼンチンノスラム街デ一人暮ラシテイタ・・・ 5歳ノ時、両親ニコノ街ニ捨テラレタ、毎日明日ヲ生キル為、食料ヲ探シニ辺リヲ彷徨ウ日々 食料ヲ見ツケルモ住ミ着イテイル他ノ住人ニ奪ワレル事モアル ヒドイ時ハ意識ガ朦朧トナルマデ殴ラレタ・・・ 誰モガ食料ニ飢エテイルノダ──、 耳ガ痛クナル話ヲスレバ・・・・コノ街ニ住ム少女ノ約半数以上ガ子ヲ妊娠、出産ヲシテイル。 食ベ物ヲ得ル為、仕方ナク自ラノ身ヲ売ル行為ニ走ッテイルノダ 時ニ、アル少女ハ“エイズ”ニ犯サレ死ヲ迎エ、マタアル少女ハ身ヲ売ッタ男ニ薬物投与サレ売春、二度ト戻ッテ来ナカッタリモシテイル ソンナ事ガ日常茶飯事ニ起コッテイルノダ、ソレ程ココハ瘴気ニ溢レテイル、 警察モコンナスラム街ノ為ニ調査ナドシヨウ筈ガナイ、モハヤ無法地帯トイウ所ダ モシカシタラ私モ何時カハ人攫イニ会ッタリ身ヲ売ル行為ニ走ッテシマウカモ知レナイ・・・ 怖イ 常ニ恐怖ヲ感ジテイタ・・・ダガ、助ケテクレル人ハ誰モイナイ、皆自分自身ノ事デ精一杯ダ・・・スグニデモココカラ出テ行キタカッタ シカシココ以外行ク当テガナイ私ハ、今日モマタ食ベ物ヲ探シ街ヲ彷徨ウ─、 両親ニ捨テラレ約2年・・・何トカ生キ長ラエタ私ニモ限界ガ来タ・・・ アル日ノ事ダ、丸二週間食ベ物ヲ口ニスルコトガ出来ズ、私ノ体ハ衰弱シテイッタ 「ア・・・・・ゥァ・・・・・」 道端デ倒レコンダ私ハ、起キ上ガルドコロカ言葉モロクニ話セナイ状態ニ陥ッテイタ 死ヲ覚悟シテイタノカモシレナイ、モハヤ食ベ物ナドドウデモヨクナッテイタ 不思議ト怖クナカッタ・・・人攫イ等デ死ヘノ恐怖ガソレヲ上回ッテイタカラナノダロウカ ソモソモ生キテ私ハ何ガシタカッタノカ ワカラナイ──、 何故生キヨウトシテイタノカ 皆ガソウシテイルカラ真似ヲシテイタノダロウカ・・・ソコニ私ノ意思ハ? モウソレスラモワカラナイ──、 意識ガ遠ノク中、私ノ心ガ徐々ニ晴レテイクヨウナ感ジガシタ・・・ナゼナラ ヨウヤクコノ瘴気ニ満チタ世界カラ開放サレルカラ──、 モウイイ・・・所詮私ハコノ世界ニ生マレテクルベキデハナカッタノダ、息絶エテモ誰モ悲シンダリハシナイダロウ、死ンデゴミ同様ニ捨テラレル筈 私ハソット目ヲ閉ジタ サヨウナラ───、 ・・・・・・ソンナ時ダッタ 「何だこいつ、邪魔な野郎だな・・・くっせぇ上きたねぇ!ぺッ!」 “誰カ”ガ私ノ頭ニ唾ヲ吐キカケタ 私ハ目ヲ開イタ、ソコニ立ッテイタノハ── 「と、・・・統真様!何をなさっているんですか!?いけませんよそんなのに近づいては!」 「うっせぇな!指図してんじゃねぇよ付き添いの分際でよ!」 当時10歳ノ早乙女 統真様ダッタ、面白半分デコノスラム街ニ住ム人々ノ生キ不様ナ姿ヲ見ニ来テイタノダ ソノ時モ統真様ニハ世話係ノ人ガ付キ添ッテイタ、男性ノ──、 「う・・・も、申し訳ございません・・・」 「決めた、お前はクビだ・・・今すぐ消えろ」 「なっ!・・・そんな統真様!」 「クビにされたくねぇってか?・・・ハッ!じゃ一つだけチャンスをくれてやってもいいぞ?」 「チャ・・・チャンス・・・ですか??」 「あぁそうだ・・・・ん~、そうだな・・・」 ソウ言イナガラ統真様ハ、私ノ方ニ目ヲ向ケタ 「ふっ・・・そうだ、おい!1ヶ月以内にこのきったねぇのを扱き上げてこの俺様の世話役として付かせてみせろ!そうしたら許してやる」 「えっ・・・ぇえ!!?しょ、正気ですか統真様!?いくらなんでもそんな・・・・」 「じゃ消えろ」 「うっ・・・・わ、わかりました、やります・・・・ですが統真様、この子のご両親と・・・あと旦那様にはどのように?」 「知るか、てめぇで考えろ・・・じゃ俺様はホテルに戻るからな」 彼ラノヤリ取リヲ聞キナガラ、私ハ意識ガ薄レテイッタ・・・ ━15歳、少女の孤独━ 当時ノコトヲ昨日ノヨウニ思イ出セル、アノ一ヶ月、生キ抜ク機会ダト感ジ、死ニ物狂イダッタ・・・ソノ結果、統真様ノ世話役ニ任命サレタ ソシテ8年ノ月日ガ流レ、今、私ハ佳美トイウ少女ヲ人質ニ取リ──、“ライカ・ラスポート”ト決闘(デュエル)ヲ行ッテイル コレヲ命ジタノハ無論統真様デアル・・・統真様ハ余程コノ女性ガ気ニ入ラナイラシイ ソレモソウダ、隣町ノデュエル大会デ大勢ノ前デ統真様ニ恥ヲカカセテイルノダ アノ時モ私ハアソコニ居タ・・・何カアッタラ閃光手榴弾ヲ投ゲルヨウ統真様ニ言ワレテダ 閃光デノ目クラマシ後、家ニ戻ラレタ統真様ハ私ニカードキーヲ渡シ今マデ奪ッテキタデッキノ処分ヲ命ジテキタ・・・ 偶然ト言エド、アノ時救ッテクダサッタ統真様ノ為ナラ、私ハドンナ事デモ厭ワナイ覚悟ガアッタ・・・シカシ、 “カードキー”ヲ手ニ持ッタ瞬間、何カノ“重サ”ガ私ノ手ニノシカカッテキタ・・・ソシテ、 “処分シテイイモノダロウカ”・・・ソノ言葉ガ私ノ脳裏ヲ過ッタ 気ガ付クト、私ハライカ・ラスポートニ処分スル筈ノデッキガ収マッタ金庫ノ“カードキー”ヲ渡シテイタ・・・ 自分デモ何ヲシテイルノカ・・・何ガ起コッテイルノカヨク分カラナカッタ、ソノ“重サ”ガ私ヲココマデ導イタノダロウカ ソノカードキーヲ渡シタ時、不思議ト安心感ガ芽生エタ・・・・ シカシ2日経ッタ時ダ、統真様ニ呼ビ出サレタ私ハ急イデ部屋ヘト向カッタ、ソコニ居タノハ何時ニモ増シテ怒リヲ露ニシテイル統真様ノ姿ダッタ・・・ 「ア・・・アノ・・・ドウナサレマシタカ?」 私ガ恐ル恐ル聞クト統真様ハユックリト口ヲ開イタ 「エマぁ・・・・お前、俺が処分するよう言っといたデッキはどうしたぁ?」 「・・・・エ?」 ソノ言葉ヲ聞イテ・・・・私ハ、血ノ気ガ引イタ・・・ 「このゴミクズがぁ!!!」 《ドコォッ!!》 「ガァッ!!」 顔ヲ殴ラレタ・・・ソレカラダ、ソノ一撃デ意識ガ朦朧トスル私ヲ躊躇イモナク統真様ハ何度モ私ヲ殴リ、蹴リ飛バシタ 腹ニ衝撃ヲ食ラワサレ、私ハソノ場デ嘔吐スル・・・シカシソンナコトデ統真様ノ怒リガ治マル筈ガナイ 殴ラレ続ケ、ソノ鼻血ヤ吐血デ嘔吐物ガ赤ク染マリ、統真様ハ私ノ顔ヲソレニ擦リ付ケタ 「・・・・銀行の奴から俺とお前以外の奴が俺のカードキーを持ってきたって言ってやがった、もしやと思ってあのカードショップにガキどもを見に行ったらデッキが戻っていた・・・説明してみろ・・・!」 「ウ・・・ウグッ・・・・ッ!」 「貴様ぁ、雇われの身で俺様の言いつけを守らねぇで勝手なことするたぁどういうことだ?・・・・ぁあ!?」 「ウグ・・・モ、申シ訳ゴザイマ・・・セン・・・」 「何ならまたあのゴミ臭漂う吐き気のする場所に帰るかぁ?おいコラ・・・ッ!」 統真様ハ、私ニ対シテノ暴力ヲ振ルイ続ケタ・・・ソノ間意識ガ薄レ、 気ガ付クト、私ノ体ハ起キ上ガレナイ程痛メツケラレタ 顔ニハ吐キ出シタ嘔吐物ト血ガ混ザッタモノガヘバリ付キ、着テイタ仕事着ノスーツモ暴力ヲ受ケテイル最中ニ破レ、ボロボロニサレタ 「ウ・・・・ック・・・・ッ!」 「お前はもうクビだ・・・言うこと聞かねぇ家畜なんぞ置いとく必要ねェからな・・・とっとと失せろ!」 「ウ・・・ウゥ・・・・ト、統真様・・・・ッ、オ、オ許シクダサイッ・・・・!」 「はぁ?」 「マ、魔ガ・・・・差シテシマイ・・・コノ様ナ事ヲシテシマイ・・・申シ訳・・・ゴザイマセン・・・」 「知るかクソがッ!!とっとと出て行け!!」 《ドスッ!!》 私ノ腹ニ統真様ハ力強ク蹴リ込ンダ ソノ勢イデドアマデ飛バサレタ・・・・ソコカラ動ケズ、蹲ッテイタ 「グッ・・・・!」 「今すぐ俺の視界から消えろ・・・このゴミクズが!」 マタアノ生活ニ戻サレル・・・・ソウ考エタトキ私ノ体ガ恐怖デ振ルエ上ガッタ、 戻サレタラ最後、今度コソ生キテイケナイ気ガシタカラダ、 シカシ統真様ハ、一点張リ・・・私ハ何トカ許シヲ乞ウ為声ヲ出ソウトシタ 「ト・・・・・・・・・・・・・トウ・・・・・サ・・・・・・・・マ・・・・・・・」 ダガ、全身ニ激痛ガ走ルセイカ、ウマク喋ルコトガデキナカッタ ソシテ部屋ノ物音ヲ聞キ付ケ、屋敷ノ清掃ヲシテイタメイド達ガ統真様ノ部屋ヘヤッテキタ 「と、統真様!一体何事ですかこれは!?」 「なんだおまえらか・・・・おい、この腐れ潰れたボロクズを今すぐ屋敷の外に放り出せ!」 「腐れ潰れたって・・・・エマ様をですか!?彼女今虫の息じゃありませんか・・・!」 「だったらどうした、そんなのがくたばろうが俺の知ったことじゃねぇ」 「ですがこれでは本当に・・・・ッ!」 「ト・・・・トウ・・・・・マ・・・・・サ・・・・・マ・・・・・オユル・・・・・・・・・シクダサ・・・・イ・・・」 「エマ様・・・喋ってはいけません!」 「・・・・・・・・・・・・・・ッ」 私ノ声ヲ聞キ入レテクレタノカ、統真様ガソバヘヤッテキタ 「おうエマ、そんなに許してもらいてぇのかこの俺に?」 「・・・・・・ゥ・・・・ァ」 「ほぅ・・・・そうか、じゃチャンスをくれてやってもいいぞ?」 「・・・・・・・・。」 ソシテ今現在、デュエルニテ私ノターンガ終ワリ、ライカ・ラスポートノターンガ始マル 「ターンを進める前にエマ、あんたに一つだけ聞いておきたい事がある。」 「何デスカ?」 「あんたのそのデッキ、あの大会の時に早乙女が使ってたものでしょ?」 「!?」 彼女ノ話ヲ聞キ、耳ヲ疑ッタ── ソウ、私ガ今使ッテイルノハアノ大会デ、統真様ガ使ッテイタ“ドラゴン族を主体にしている”デッキデアッタ 「その驚きようだと間違いなさそうね、っとするとそれは本来“トリシューラ”ではなく“F・G・D”を呼び出し速攻でカタをつける、言わば“パワーデッキ”」 「・・・・・・・・・。」 「だからあいつは“トリシューラ”の効果をあまり理解していなかった・・・あれは“ドラゴン族”だったから一応デッキにぶち込んでいたんでしょうね」 「ソレガ分カッタカラト言ッテ何ニナルンデスカ?、コノ状況デ」 ソウ、今私ノフィールド上ニハ──、 “F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)”ト“メテオ・ブラック・ドラゴン”ガ存在シテイル、ドチラモ高イ攻撃力デソウ簡単ニ破壊ハ出来ナイ筈 ソレニ彼女ノフォーチュンレディハ功/守共ニ“?”、ツマリ効果ガナイ場合ハ“0”・・・彼女ハ壁ノ為ニセットスル裏側守備表示ノカードヲ伏セテクルハズ、ソコヲ一気ニ終ワラセル為、 私ハ罠カード“竜の逆鱗”ヲ場ニ伏セテイタ・・・・・ “竜の逆鱗”━、 自分フィールド上に存在するドラゴン族モンスターが守備表示モンスターを 攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える永続罠。 ソウ思ッテイタ時ダッタ──、 「・・・あんた私に“ドラゴン族デッキ”で挑んできたのがそもそもの間違えよ・・・・」 「・・・・ハ?」 「言っておくけど、あんたがいるその“地点”、私はとうに通過してんのよ・・・、もうあんたに次のターンは永久に来ない」 「!?」 「魔法カード!“二重召喚”発動!!」 “二重召喚”━、 通常魔法 このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。 「私は“二重召喚”の効果で手札に存在する“フォーチュンレディ・ライティー”2体を通常召喚!」 “フォーチュンレディ・ライティー”星1/光属性/魔法使い族 攻 ?/守 ? このカードの攻撃力・守備力は、このカードのレベル×200ポイントになる。 また、自分のスタンバイフェイズ時、このカードのレベルを1つ上げる(最大レベル12まで)。 このカードがカードの効果によってフィールド上から離れた時、 デッキから「フォーチュンレディ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。 効果で攻/守200の“フォーチュンレディ・ライティー”2体がライカのフィールド上に並ぶ 「そして、魔法カード、“ブラック・ホール”!」 「ナッ!?」 “ブラック・ホール”━、 通常魔法(制限カード) フィールド上のモンスターを全て破壊する。 「これであんたの“F・G・D”と“メテオ・ブラック・ドラゴン”は破壊する、“ライティー”と一緒にね!」 「(シマッタ、イクラ5000ノ攻撃力デ光族以外ノ破壊耐性ヲ持ッテイル“F・G・D”デモカード効果デハ破壊サレテシマウ!マサカ初手デ“ブラック・ホール”ヲ握ッテイタナンテ・・・・ッ!)」 互いのフィールドから“F・G・D”、“メテオ・ブラック・ドラゴン”、“フォーチュンレディ・ライティー”2体が破壊された──、そして 「“ライティー”の効果!デッキから“フォーチュンレディ・アーシー”、“ダルキー”を特殊召喚!!」 「ッ!」 “フォーチュンレディ・アーシー”星6/地属性/魔法使い族 攻 ?/守 ? このカードの攻撃力・守備力は、このカードのレベル×400ポイントになる。 また、自分のスタンバイフェイズ時、このカードのレベルを1つ上げる(最大レベル12まで)。 このカードのレベルが上がった時、相手ライフに400ポイントダメージを与える。 “フォーチュンレディ・ダルキー”星5/闇属性/魔法使い族 攻 ?/守 ? このカードの攻撃力・守備力は、このカードのレベル×400ポイントになる。 また、自分のスタンバイフェイズ時、このカードのレベルを1つ上げる(最大レベル12まで)。 このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、 自分フィールド上の「フォーチュンレディ」と名のついたモンスターが 戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、 自分の墓地の「フォーチュンレディ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚できる。 ライカのフィールド上に攻撃力2400の“フォーチュンレディ・アーシー”、攻撃力2000の“フォーチュンレディ・ダルキー”が特殊召喚された 「叩き潰せ」 「ア・・・ァアッ!!」 《スドドオオオッ!!》 “フォーチュンレディ・アーシー”“ダルキー”の攻撃がヒットした エマ LP4000 ⇒ LP0 エマが“F・G・D”、“メテオ・ブラック・ドラゴン”を出してきたにも関わらず、ライカはたった1ターンでケリをつけた。 「・・・・・・クッ!」 「約束よ、佳美ちゃんを返してもらうわ」 「ライカ、あんたやるわね!あの攻撃力の高い“F・G・D”共々蹴散らした挙句、1ターンで勝負決めるなんて」 「あたしも前までドラゴン族使っていたから、あいつの伏せてたカードが“竜の逆鱗”であったことなんて、手に取るようにわかったわ」 「・・・・・・・・・・」 「ちょっと聞いてんのあんた?早く渡しなさい」 その瞬間、エマは立ち上がり、佳美ちゃんを抱え・・・・・・・・ 「ちょ、ちょっと!あんた何やってんの!!?」 なんと、身を乗り出すギリギリのところで佳美ちゃんを抱きかかえたままエマが立ち止まった 地面までの高さは約30mある、ここから落ちればまず助からない 「あ、あんた!バカな真似やめなさい!」 「クッ・・・クルナッ!私ハ、負ケテシマッタ・・・負ケテシマッタ以上ッ!モウ統真様ノ所ニハ帰レナイ、勝ッテアナタノカードヲ取リ上ゲル筈ダッタ・・・」 「シカシ、負ケタ場合、命ニヨリコノ子ト一緒ニ死ネト言ッテイタ・・・!ダカラ、私ハ・・・・ッ!」 統真様ハコウ言イ放ッタ 『エマ、だったらチャンスをくれてやる、あの“ライカ・ラスポート”とデュエルしてこい方法はてめぇにまかせる』 『・・・・エ?』 『お前が勝って奴のデッキをとりあげてきたら、今回の件は水に流してやろう・・・しかし、もし無様に負けたなら・・・』 『マ・・・マケタラ・・・?』 『死ね』 「はぁ!?何言ってんのあんた!?・・・ってちょっとライカ!あんた黙ってないで何とか言ってあいつ止めなさいよ!」 ネネがライカに振ってきた・・・・それに対しライカは 「・・・・もういいんじゃない?好きにさせて・・・・」 「え!?あんたまで何言ってんのよ!!」 「大体さ、タカが“カードゲーム”で死のうとしているバカ助けたってこの先生きていけないに決まってるでしょ?」 「ちょ・・・そんな・・・じゃ佳美ちゃんはどうすんのよ!あの子関係ないじゃないの・・・ッ!」 「そうねぇ~・・・佳美ちゃんは関係ないわね~・・・スー・・・」 ライカは大きく息を吸い込んで大声を出した 「じーちゃーん!っというわけだから!その黒い子が抱えている子供取り上げてぇ!!!」 「ッ!?」 次の瞬間、大きな影がエマの前に現れ、抱えていた佳美ちゃんを奪い、鉄骨を渡ってライカのところまでやってきた 「はっはっはっ!・・・・ライカよ!ちと呼ぶの遅すぎやせぬか?座り続けておったせいでわし腰を痛めてしもうたぞい!」 「しょーがないでしょ、あのエマってやつにおじいちゃんの存在を知られないようにしていたんだから・・・」 「・・・・・え?ちょ、ライカ・・・の、じいさん!な、何でココにいんのよ!?」 「こっち来る前に私が携帯で呼んどいた、こう見えておじいちゃん、昔山で修行をしていたせいか身体能力が人間離れしてんのよ・・・年取ってもその筋力は健在」 「・・・人間離れって・・・あれじゃまるで忍者じゃないの!」 「おお!そうじゃぞ!わしは忍の道を極めるために山で修行しておったんじゃからな!おかげで70超えてもこの通りピンピンじゃ!はっはっはっはっ!」 「・・・・・はははははっ(つ、ついていけない・・・)」 「そんなことより佳美ちゃんに被せてある袋取りましょう・・・ネネが突っ込みいれてる間に死ぬわよこの子・・・」 「いやねライカ、その突っ込みを出させてる原因作ってんのあんたらでしょ・・・・ったく!」 そういいライカは佳美ちゃんに被せていたビニール袋を取り除いた 顔、体等には目立った外傷は無かったが念のため病院へ連れて行くことにした 「ゲホ・・・ゲホ・・・・ハァ、ハァ」 「おじいちゃん、ネネ、佳美ちゃんを病院へ連れて行って頂戴、私はまだあいつに話があるから・・・」 「ウ・・・・」 「ちょっとライカ、エマは今追い詰められてんのよ?それなら私も・・・」 ネネはその場に残ろうとしたがおじいちゃんがネネの腕を取り引き止めた 「ネネちゃん、わし一人でこの子を連れて行ったらこの子泣き出してしまうじゃないか・・・ネネちゃんにも来て欲しいんじゃがの?」 「え?・・・・う・・・」 「ネネ、佳美ちゃんについてあげて頂戴、大丈夫・・・後はなんとしておくから」 「・・・・・・・・・・、分かったわ、行きましょうじいさん!」 「おぉ!そう来なくてはな!」 すぐさま2人は佳美ちゃんを連れ病院へと向かった 「さて、これで邪魔者はいなくなったわけだから・・・後はあんたの好きにしたら?エマ」 「・・・・・・・・ゥ、ゥゥ」 おじいちゃんの出現で最初は何が起こっていたのかわからなかったエマだったが、次第に今のおかれた状況を理解したのか、力が抜けたようにその場に座り込んだ 「・・・ソウデスヨ・・・・アノ子ハ・・・・カ、関係ナンテナカッタノニ・・・・私ハ・・・・・ウ、ゥゥ・・・」 「・・・・・・・」 「ヤッパリ、私ハコノ時代ニ嫌ワレテイルンデスネ・・・・モウ、ツカレマシタ・・・・ハハ・・・・ハ・・・」 エマの嘆きを聞きながらライカはポケットからテープレコーダーを取り出した 「エマ、そっから飛び降りるって言うんなら別に止めはしない・・・でもね、それをする前に預かっていたものがあるから、これを聞いてからにして頂戴」 「・・・・エ?」 そういい、ライカは床にテープレコーダーを置いて再生ボタンを押した 『始まっているのかな・・・?』 『もう録音ボタンおしてるよ』 『わっ!・・・・・あ、えー・・・!』 そのテープレコーダーに記憶されていたものは子供たちの声だった 『えっと、エマさん、ライカ姉ちゃんからききました・・・僕らのデッキを返してくれてありがとうございます、この恩は絶対に忘れません』 『本当にありがとうございます、このデッキには、転校する友達からもらったカードや、死んだじいちゃんから誕生日プレゼントでくれたカードなど』 『思い出がいっぱいに詰っていて、他では手にはいらないカードばかりだからです』 『取られた時、なんだか、心に大きな穴が開いてしまったような、とても悲しい気持ちになりました』 『でも無事にカードが戻ってきてくれたおかげで、今は悲しくありません・・・またその楽しい思い出が蘇ってくるからです』 『今度エマさんと一緒にデュエルしてみたいです、一緒にデッキを構築したり、エマさんとお話をして仲良くなりたいです。』 『テープでしかお礼を残せないのがとても残念です、でも僕らは、いつでもカードショップにいます、よかったらきてください・・・待っています』 テープレコーダーの再生はここで終わった 「エマ、子供らにはあんたがあの統真の使用人だってことは伝えていない・・・それはあんたの口から伝えるべきだと思ったからよ、伝える伝えないはあんた次第だけどね」 「ウッ・・・・・・・・・・・・・・ウゥ」 テープレコーダーを聞き終えたエマの目から大粒の涙が零れ落ちた 今まで人から感謝をされたことなく、報われることのない事を引き受けてきたエマにとっては、このテープは何よりも大きく、そして何よりも暖かいものを感じたからだ 「ゴメンナサイ・・・ゴメンナサイ・・・ッ・・・彼ヲ・・・統真様ヲ止メルコトガ出来ナクテ・・・ッ!彼ノソバニ居ナガラ、不甲斐ナイ私ガ・・・全テイケナカッタンデス・・・ッ!」 「本当ハコンナ事ニナラナカッタ・・・狂イハジメタンデス・・・全テアノ時カラ・・・・ッ!!ウワアアアアアアアァァァッ!!」 「・・・・。(あの時?)」 声をかけることなく、ただエマの泣く姿を見据えていたライカ・・・・しかし もしかしたら、この瞬間が“ライカ・ラスポート”の運命を分けたのかもしれない━━
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畳の匂い。強んちでの飲み会に行くと付く匂い。あまりに酒を飲むと酒臭くて相殺される。
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少女たちの青春診療録 ◆EAUCq9p8Q. ☆玲 「ええっ!? 小籠包がバクバク美味しくて今日は緊急回鍋肉!?」 「はは、また盛大に聞き違えたな」 アルミ製のキッチンカウンター越しに、ふわふわとした少女と快活な女性が言葉を交わす。 少女は、喋った内容のなにがそんなに恐ろしかったのか、口元に手を当ててわなないている。 その様子を見ながら、女性は豪快に笑ったあと、少女の聞き間違いを訂正した。 「小学校が爆発事故で、今日は緊急放校。つまり、今日はもう終わりってこと」 「終わり?」 「ああ。学校も終わり。玲には悪いけど、食堂も終わり。危ないからさっさと帰れってよ」 玲と呼ばれた少女は、説明でも事態を把握できなかったらしく、少しの間ぽかんと口を開けて止まった。 玲は、この食堂が好きだった。 料理は全部美味しいし、食堂の調理師である女性も接しやすくて大好きだった。 時々高校に遊びに来るときは決まってこの食堂を利用していた。 今日も学校の様子を見るついでにここで食事をしようと考えていたのだが。 よく見れば、いつも元気よく立ち込めている煙もない。人も少ない。いい匂いもしない。 つまり、本当の本当に、今日ここで料理は作られないのだろう。 残酷な世界の真理に気づいてしまった玲は、がっくりと項垂れ、声にならない声を上げた。 「もうだめだあ~……」 「まあ、気を落とすなよ。これ上げるからさ」 落ち込んだ玲を見かねてか、調理師の女性はカウンター越しにタッパーを手渡した。 >*肉じゃが を手に入れた。 受け取った玲の手に、ぬくもりが伝わってくる。 こっそりタッパーの蓋を開けてみると、とってもいい香りがあたり一面に広がった。 「今日の賄いの残り。俺が作ったのだから、金はいらねえよ。その代わり白ご飯はつかないけどな」 玲が顔をあげると、女性はやはり笑っていた。でも、今度はとても優しい笑顔だった。 玲もつられて笑い、大きくお辞儀をする。 「ありがとう、つばめさん!」 「じゃあな。変なもの食べて腹壊すなよ」 「うん! つばめさんも、おなか、気を付けてね!」 つばめと呼ばれた女性は、手を振りながら食堂を後にする玲を見送った。 ☆ 食堂を出た後、玲はそのままふらふらと校舎のほうまで歩いてきていた。 放校というのはどうやら本当らしく、校舎内はすでに人が居なかった。 一人ぼっちで廊下を進んでいると、掃除道具の入っているロッカーがあった。 こっそり隠れてみた。誰も通りかからないけど、なんだかすごくドキドキした。 教室に忍び込んでみると、誰かが置いていった勉強道具があった。 中身はちんぷんかんぷんだけど、椅子に座って机に教科書を広げて黒板を眺めていると、本当に高校生になれたような気がして、とても嬉しかった。 思うままに、無人の高校を堪能していると、ふ、と遠くからかすかな人の声が聞こえてきた。 声に導かれて窓際に寄り、校門に面した窓ガラスに触れる。 心地いい冷たさが指先から伝わってくる。 でも、目に入った光景は、全く心地良くなかった。 皆、皆、家に帰っていた。 皆が、高校に居る玲を置き去りにするみたいに、校舎から離れて行っていた。 「……」 胸が苦しくなる。 知らないはずの何かが、頭の奥で疼いている。 振り返ると、さっきまではなんともなかった校舎の中がとても薄ら寒いものに思えた。 二秒、三秒。少しだけ立ち止まり。 「……桃本、心配してるかな」 誰にも聞こえないつぶやきが長い廊下で反響する。 その反響すら、玲にはなんだか不気味に聞こえた。 玲が立ち尽くしていると、無人の校舎にベルが鳴り響いた。 その音を聞いた玲は、弾かれたように走りだした。 何も居ないのに何かに追われるように。 いや、『何も居ないこと』から逃げるように。 来た道ではなく、皆が向かっている校門に向かって。 しばらく、人の流れに乗って歩いてみた。 耳をすませば爆発事故についても情報が聞こえてくる。 『小学校の屋上が爆発した』。 『小学校のグラウンドが爆発した』。 少しすると『山の方でなにか大きなものが居た』なんてのも混ざり始めた。 不思議な事もあるなあ、と思いながら、コンビニで買ったアメリカンドッグを食べながら道を歩く。 別に行き先は考えていない。 桃本の待つさいはて町への帰り道は、『ここにあるといいなあ』と思ったところにいつだってあった。 だから、気が済むまで散歩して、その後で帰ろうと思った。 あっちへぶらぶら歩き、そっちへふらふら歩き。 時々コンビニで食べ物を買い食いしながら、街の中を文字通りぶらつく。 数十分もそうしただろうか。 もらった肉じゃがのタッパーがすっかり冷えきったことを知り、そろそろ帰るかと思って路地を曲がった時、玲はとても不思議な少女に出会った。 「どうしたの? お腹痛いの?」 蹲っている少女に駆け寄り、声をかける。 返事はない。 大丈夫かと尋ねても、何かあったなら話を聞くと提案しても、少女は、ずっと蹲ったままだ。 耳を澄ませば、くすんくすんとしゃくりあげるような嗚咽が聞こえる。 よく見れば、小さな肩も震えている。 そこでようやく、玲はその少女が、泣いているのだと気づけた。 予想していなかった展開に、ややたじろぐ。 道端で蹲って泣いている人を見るのは(少なくとも玲にとっては)生まれて初めての事だった。 奇人四天王が居る、と桃本が言っていたが、彼女もまたその一人なのかもしれない。 『土下座ウォーカー 立川』なんて名前ならば桃本にも負けない衝撃を与えられるだろう。 そんなインパクト重点な出会いに少々面食らいながらも、やはり玲は少女に声をかけ続けた。 玲が置いていけば、彼女はきっと、独りぼっちになってしまう。 玲の中で、それは、なんとなく嫌な話だった。 それに、一人ぼっちで泣くのはとても辛い。それだけは、なぜだかはっきりと分かった。 できることはないかもしれないけど、側にいてあげたい。 きっとそれは、見ず知らずの玲にだって出来ることのはずだから。 声をかけてみた。背中をさすってみた。 何をしても、少女はずっと泣いたままだった。 どうしようもなくなって、少女の側に座り込む。 体の動きに合わせて、玲のふわふわな髪が揺れる。蹲った少女の前でふわりと踊る。 「輝子さん―――?」 その髪に、顔を上げるだけの何かを感じ取ったらしい。 そこでようやく少女が顔を上げた。 少女の顔は、涙で濡れていて、よく見れば土や砂利で汚れていて。 でも、とても可愛らしい、地面に頭を突いて泣くのなんて似合わない、そんな顔だった。 突然の展開に、お互い少し言葉を失う。 数秒見つめ合い、先に口を開いたのは玲だった。 「……ごめんね、輝子ちゃんって子じゃないんだ」 「……すみません、友達に、似ている気がしたので。まったく、似てなんかないのに……」 そう言って、少女は立ち上がり、服についた汚れを気にすることもなく、どこかに向かって歩き出した。 玲は慌ててその少女を追い、追いながら、コンビニで買ったフライドチキンを差し出す。 「なんですか」 「美味しいよ」 「いりません」 「でも、美味しいよ」 「美味しかったら、なんなんですか」 「……美味しかったら、私は、嬉しい……かなあ」 「知りません。ついてこないでください」 突き放すような言葉が、玲に向かって投げつけられる。 言葉こそ穏やかなものだが、そこに込められている気持ちは、『拒絶』以外にない。 それでも、玲は彼女の後を追い、彼女に対して食べ物を差し出し続けた。 「チキンが駄目なら、肉じゃがもあるよ。肉まん、フランクフルト、たこ焼き、唐揚げ、アメリカンドッグ……」 玲はこういう時、なんと言えばいいのか知らなかった。 人を励ます方法がわからなかった。 頑張って、なんて無責任な言葉は言えない。少女はきっと、頑張って、頑張って、それでも駄目だったから泣いているのだから。 元気を出して、なんて言えればいいんだけど、そんな言葉で本当に元気が出るなら彼女はこんなに傷ついていない。 だからただ単純に自分がしたいこと、されたいこと、元気になれるだろうことをするしかなかった。 そして、どんなことをやってでも、一人ぼっちの彼女を、一人ぼっちのままにはしたくなかった。 少女を追い、数メートルもついて歩けば、ついに怒号が飛んできた。 「ついてこないでくださいって言ってるじゃないですか!」 「でも……」 「迷惑なんです! なんなんですか、さっきから!!」 跳ね除けるように腕が振るわれ、差し出していたフライドポテトが道路に散らばる。 少女はまた泣いていた。まだ泣いていた。 可愛らしい顔を怒りで歪めて、真っ赤な目が玲を睨みつける。 その気迫に、縮こまりそうになってしまうが、それでも、玲が引き下がることはなかった。 「でも……泣いてばっかりだと、悲しいよ」 「貴女には関係ないじゃないですか!」 玲の反論とも言えない反論に、少女が声を荒げて食らいつく。 そして、堰を切ったように少女の瞳から大粒の涙が溢れた。 「関係ないじゃないですか……なんで、一人にしてくれないんですか」 ぼろぼろと音が立つくらい、真珠くらいに大きな涙が、少女の服に吸い込まれていく。 ずっと涙を吸っていたであろう襟首は、すでにふやけてぐしゃぐしゃだ。 大きな涙が頬をつたい、もう一粒、また一粒と襟首に落ちる。 それを見るたび、なんだか、少女の心も涙を吸って、ふやけて崩れていくみたいで。 玲は堪らなくなり、声を上げた。 「だって、だって! だって……関係ないなんて、ないよ」 説明はできない。少女と玲にどんな関係があるかなんて、玲にも分からないのだから。 それでも彼女を見過ごせない。 心のどこかが、すっぽり抜け落ちている何かが、玲にとって大切な部分が、彼女を見捨てることを良しとしない。 灰色の世界に囲まれて、一人で泣いている彼女を見捨てれば、玲はきっと後悔する。死にたくなるくらい後悔する。 頭よりも心よりも深い場所が、玲にそう伝えていた。 怒鳴る力をなくしてまた泣き出した少女の顔を、コンビニで貰った紙ナプキンで拭く。 土汚れを丁寧に拭きとれば、やっぱり、少女は可愛かった。 ☆ 泣き崩れてしまった少女の涙を拭き、背を撫で、呼吸が整うまで側に寄っておく。 すんすんと鼻をすする音だけが、ふたりきりの灰色の世界に水玉模様を飾っていった。 だんだんと、音が消え、灰色の世界が帰ってくる。 「見苦しいところを見せちゃって、ごめんなさい」 「なにかあったの?」 「なんにもありません。貴女には関係のないことです」 泣き終えた少女は、もう取り乱すようなことはなかったけれど、それでも可愛い顔には似合わない仏頂面のままだあった。 なんにもなかったら泣かないよ、なんて切り出せる状況ではないというのは玲にもなんとなく理解できた。 「ボクは帰ります。よくわからないけど、ありがとうございました」 「あ、ま、待って!」 「……今度はなんですか」 「こ、こっち! こっちに来るといいことあるかもよ!」 「え、ちょっと……なにを」 再び一人ぼっちになろうとした少女の手を強引に取り、歩き出す。 玲ではあまり彼女の力になれなかったけど、桃本ならなにか力になってあげられるかもしれない。 桃本のいる場所にたどり着くことを願いながら、近くの曲がり角を曲がる。 曲がり角の先に願いどおりにあった標識を通り抜け、入り口をくぐる。 入り口の先にあったのは、高校や路地よりも見慣れた景色。 屋根の上に乗った人、河の中に住んでいる人、車もないのに交通整理している人、新作を推敲するアーティストたち。 さいはて町、まんなか区の住宅街だ。 【???/さいはて町 住宅街/1日目 夕方】 【玲@ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス】 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備] [道具] [所持金] [思考・状況] 基本行動方針:街で日常生活を楽しむ。聖杯戦争を終わらせたくない。 1.泣いている少女(幸子)をなんとかしたい。 2.とりあえず桃本に会いに行く。 [備考] ※聖杯戦争についてはある程度認識していますが、戦うつもりが殆どありません。というか、永遠に聖杯戦争が続いたまま生活が終わらなければいいとすら思っています。 【輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ】 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]なし [道具] [所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー [思考・状況] 基本行動方針:――― 0.――― [備考] ※ランサー(姫河小雪)、フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)、 キャスター(木原マサキ)、バーサーカー(チェーンソー男)を確認しました。ステータスは確認していません。 ※商店街での戦闘痕を確認しました。戦闘を見ていたとされるNPCの人となりを聞きました。 ※小梅と輝子に電話を入れました。 ※『エノシマ』(大井)とメールで会う約束をしました。 また、小梅と輝子に「安否の確認」「今日は少し体調がすぐれないので学校を休む」「きらりを見かけたら教えて欲しい」というメールを送りました。 ☆雪崎絵理 道路は血に濡れていた。 周囲は傷跡でいっぱいだった。 警察、救急、いろんな人が集まっていた。 電信柱の側には小さな花束が添えられていた。 呆然と立ち尽くしている間に、現場は、見違えるほど変わっていた。 テレビ局の報道員が寄ってたかって現場を映し、カメラに向かってがなり立てる。 『凶刃現る』。 『夕闇を切り裂くチェーンソー』。 『女学生を襲った悲劇』。 文面こそ違えど、それぞれが誰かの死を、センセーショナルな言葉で飾ってはやし立てている。 ここに何が居たのか、絵理も知っている。 チェーンソー男が居た。 そして、誰かを殺した。チェーンソー男が、誰かを。 再び、世界に悲しみが刻まれてしまった。 絵理はその予兆に気づいていながら、間に合うことができなかった。 「……」 どん、と人の波に身体が押され、絵理はそこでようやく我を取り戻した。 そして、自身の中に渦巻く感情をまとめ上げ、一つの決意に変える。 もう、白坂小梅に頼ろうだなんて言っている場合ではない。 聖杯戦争という催しについても、チェーンソー男の出現の変化についても関係ない。 野放しには出来ない。これ以上被害者を出してはいけない。 被害者が出てしまった以上、なんだかんだと言い逃れてはいられない。 倒さなければならない。 チェーンソー男を見つけることが出来るのは、絵理だけなのだから。 ☆ いつもよりも早い帰宅を知らせる戸の音に答える人は誰もいない。 家の中は、いつも通り空っぽだった。 慣れてしまった閑散とした空気に少しだけ感傷を抱きそうになるが、頭を振って弱気な心をはじき出す。 とりあえず、気を落ち着けるためにコーヒーメーカーのスイッチを入れて、コーヒーを沸かす間に準備を整える。 ナイフの数を数え、刃の状態を確認し、ガーターに仕込む。 ついでにタンスの奥にしまっておいた『あれ』を取り出す。 「使わせてもらうね、山本くん」 ビニールに包まれたままの、冗談みたいな鎖帷子に袖を通す。 なんだか重いし、脇が窮屈な感じだし、サイズは合ってない。 歩けばかすかに音がなる。悪目立ちしそうだ。 それに、相手の武器はぎゃんぎゃん唸りを上げて高速回転をするチェーンソーだ。 もし真正面から切りつけられればこんなちゃちな市販の鎖帷子程度で防げるわけがないだろう。 でも、いい。 役に立たなくたっていい。 重くたって、動きにくたって、構わない。 こんな下らないものでも、大切な人がくれた宝物だ。 あの日以来、他人がくれた唯一の誕生日プレゼント。絵理にとって、この世界に残された、唯一の形ある幸福だ。 チェーンソー男と戦ってきてなんとなく分かっていたことがある。 チェーンソー男は、絵理が落ち込めば落ち込むだけ強くなっていく。 絵理のテストの成績が下がると強くなる。 絵理に後ろめたいことがあると強くなる。 そして、絵理が前向きになればなるだけ弱くなる。 山本と一緒に居るようになってから……正確には、山本のことを絵理が意識するようになってから、チェーンソー男はその力を弱めていっていた。 どういうわけかは知らないが、奴の強さは絵理の精神状態に左右されているらしい。 それは、聖杯戦争やサーヴァントという白坂小梅が齎した情報よりも確かな、絵理自身がつかんだ情報だ。信憑性は高い。 だったら新たに悲しみを刻ませてしまった今、チェーンソー男はどれくらい強くなっているだろうか。 ひょっとしたら、絵理の身体能力では既に勝てないくらい強くなってしまっているかもしれない。 チェーンソー男は強い。 今までだって強くて、追い返すのが精一杯だった。 その上さらに強くなった奴を倒すとなると、ただ戦うだけでは絶対に無理だろう。 だから、身にまとう。 絶望を押し隠すように。 ちょっとの悲しみでは傷つかないように。 そして、これ以上あいつに好き勝手させないように。 雪崎絵理は、持ちうる限りの幸福で武装して、この世の果てで待ち受ける悲しみに立ち向かう。 その幸福こそが、『鎖帷子』なのだ。冗談みたいな話だが。 少し考え、制服の上に鎖帷子を着込み、その上からジャケットを羽織って見る。 制服の下に着込もうかとも思ったが、鉄の輪が肌に当たる感覚がどうにも気持ち悪かったからやめにした。 大切なのは着ているという事実だ。 着たままの状態で少し体を動かしてみる。 ちゃき、ちゃき、ちゃりん。 動くたびに、鉄同士の擦れる音がする。なんだか本当に、馬鹿みたいだ。 準備が終わってキッチンに戻れば、丁度コーヒーが出来上がっていた。 コーヒーを飲み干し、マグカップを洗う。 こんなこと、する意味があるかどうかはわからないけど。 でも、もし帰ってこれなくなった時、最後に思い出すのが洗えていないマグカップのことだなんて結末は考えたくない。 水を切り、食器用布巾で残った水を拭き取り、元あったように食器棚へと戻す。 並んだマグカップはくすんで見えた。絵理を取り巻く世界は、あの日から止まったままだった。 少しだけ弱ってしまった心に活を入れるように頬を叩き、心残りがないかを確認しなおし、大事なことをしていないと思いだした。 靴を脱ぎ、ダイニングまで戻って手元にあった便箋に筆を走らせる。 何を書こうか少しだけ迷ったけど、ありのままを書くことに決めた。 突然の出来事で申し訳ないという謝罪から始まり。 突然チェーンソー男のルーチンが切り替わったこと。そのせいで被害者が出てしまったということ。 絵理はこれから、決着をつけるために戦いに行くということ。 一緒に戦ってくれたのにそれなりに感謝していたということ。 山本と一緒にすごした日々は、馬鹿らしくもあったけれどとても楽しかったということ。 そして最後に、絵理の好きな相手についてで締め、筆を置く。 手紙の内容を、会って話したり電話で伝えられたりしたらどれほど楽かはわからない。 返事を聞ければ、チェーンソー男をもっと弱らせることだってできるかもしれない。 でも、もし、絵理のありのままを伝え、山本にそのありのままを否定されてしまえば、絵理はそのまま悲しみに負けてしまうだろう。 だから会わない。最後だからこそ、会わない。 もし口で伝えたいなら、すべて終わった後でいい。 靴を履き、家を出る。 夜になれば山本が来るかもしれないから、鍵は閉めない。 「いってきます」 空っぽの家に向けて声を掛け、背を向ける。 以降、振り返ることはなかった。 振り返ればきっと、幸せの中に別の感情が混ざってしまうから。 家の中は、幸せなあの日の続きを待つように、あの日のままで。 そして、ただひとつだけ、彼が読んでくれるかもしれない手紙を、あの日以降に積み上げられた恋という名の『幸福』を残して。 絵理はまとわりつこうとする悲しみを振り払うように力を振り絞り。 ただ、ただ、目的地に向けて駆けた。 目的地はもう分かっている。 今日何度も起こっているような突発的な出現とは違い、夜の日課の時のように。 チェーンソー男が今夜現れる場所が、いつもどおり予め感覚でわかる。 道なりに進んで。 ふたつ目の信号を右。 目についた路地に入って。 真っ直ぐ進む。 「行き止まりです」 程なく行き止まりに辿り着いた。 しかし、絵理には分かる。 チェーンソー男の現れる場所はこの『行き止まり』の先だ。 直線で突っ切れればと思って最短コースで来たが、回り込む必要があるかもしれない。 一応、側に居た不思議な生き物(工事現場のマスコットかなにかだろうか)に尋ねてみる。 「この先に、用があるんだけど」 「しょうがないにゃぁ……いいよ」 標識のそばに浮いていたよくわからない生き物が道を譲れば、壁だったはずの場所はぽっかりと口を開けた。 目の前には、変わらず商店街が広がっている。 どういう原理かは分からない。 でも、チェーンソー男なんてものが居るんだ。壁によく似た扉があってもおかしくない。 扉を潜り抜けた先、血のように赤黒い夕焼けに染め上げられた商店街を駆け抜ける。 向かう先は当然、奴が居ると感じている場所だ。 夜の帳が降りれば、その場所にチェーンソー男は現れる。 そして、その時、絵理はまた戦うのだ。 悲しみを振りまくチェーンソー男と、青春を賭して。 ちっぽけな幸福で着飾った死にたがりの青春が、決着に向けて走りだす。 【???/一日目 夕方/さいはて町 商店街】 【雪崎絵理@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】 [状態]魔力消費(?)、ショック(大)、決意 [令呪]残り三画 [装備]宝具『死にたがりの青春』 、ナイフ、鎖帷子 [道具]スマートフォン [所持金] [思考・状況] 基本行動方針:チェーンソー男を倒す。 1.チェーンソー男との決着を。 [備考] ※チェーンソー男の出現に関する変化に気づきました。ただし、条件などについては気づいていません。 ※『死にたがりの青春』による運動能力向上には気づいていますが装備していることは知りません。また、この装備によって魔力探知能力が向上していることも知りません。 ※白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)を確認しました。真名も聞いています。 ※記憶を取り戻しておらず、自身がマスターであることも気づいていません。 ※もしかしたらルーラーも気づいてないかもしれません。 ※聖杯戦争のことは簡単に小梅から聞きました。詳しいルールなどは聞いてません。 ※出典時期はチェーンソー男が弱体化したあと~山本の転校を聞く前です。 ☆★☆☆☆★ 目と耳を塞いで朝日から逃れ。 射した西日をカーテンで遮り。 膝を抱えて俯こう。 壁に体を預けよう。 うつ伏せになって息苦しさを覚えよう。 世界の誰にも見えぬ傷口を治すために。 世界に向かってもう一度踏み出せるようになるために。 最果ては、いつかの昔に立ち止まってしまった人のためにある。 チェーンソーの刃は怖いけれど。 世間は金にうるさいけれど。 それでも、見守ってくれるその世界は。 傷を治せる唯一の病院で。 傷を増やさない唯一の殻で。 傷と向き合える唯一の町だ。 目の前で大切な誰かを失った少女。 遥か昔に大切な誰かを失った少女。 どこかで誰かを失ったままの少女。 少女たちは最果てへと至る。 これから先、いつか傷を癒やすために。 尊い人を思いながら、千年の喪に服すために。 ☆★☆☆☆★ BACK NEXT 028 三人目 投下順 030 ティー・パーティーをもう一度 027 尊いもの 時系列順 BACK 登場キャラ NEXT 027 尊いもの 輿水幸子 思い出が窮屈になりだしたこの頃の僕らは 026 ALL HAZARD PARANOIA/オール・ハザード・パラノイア 雪崎絵理 033 青春にさようなら 024 きっと世界は君のもの きっと世界は僕のもの 玲 思い出が窮屈になりだしたこの頃の僕らは
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昨日一緒にお風呂に入って隅々まで ぴっかぴかにしてもらいました/// おかげでお肌がつるつる じゃなくて、 お風呂上がった後に 雲雀さんに頬擦りされたり頭をさんざん触られたりとゆう感じで べたべたと触られました 何してるのかと聞けば 「僕の匂いを染み込ませてる」 雲雀さんの匂い・・・? クンクン パジャマとかの匂いをかいで見るが 雲雀さん匂いとゆうか・・・ シャンプーとか洗剤の匂い・・・ 「雲雀さんの匂いも何も俺たち一緒な銘柄のシャンプーとか使ってるんですからもともと一緒な匂いなのでは?」 「一緒な匂い・・・?」 「はい」 「じゃ、あの駄犬とは違う匂いがする?君から」 若干意味の分からない発言だが、要するに獄寺君に嫉妬してたのかな? 戻る -
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13 夏の匂い 前へ 戻る 次へ 朝起きて窓を開けたら、ラベンダーの優しい香りが部屋の中まで漂って来た。 教会の周りに毎年咲く、早咲きのラベンダーが、もう花開いているのかも知れない。 私は思わず目を閉じ、香りを体中で感じようとした。 ――もう、夏がそこまで来ているのね……。 バスルームで顔を洗った後、パジャマを脱いで、母さんが縫ってくれた ノースリーブのワンピースを着てみた。 綺麗な空色のワンピースで、コットンの肌触りがひんやりしていて心地いい。 髪を結んで、部屋履きからサンダルを履き替え、一階のダイニングルームまで小走りに降りていく。 「おはよう、ゼシカ」 ダイニングルームの大きなテーブルには、母さんが席に付いて、朝食が出来上がるのを待っている。 私は「おはよう!」と言って、母さんの向かいの席に座った。 メイドたちが焼きたてのパンとスープ、そしてサラダを持ってきて、私たちの目の前に置いてくれた。 「いただきまーす」 私は小さなバケットを半分にちぎり、バターを塗って食べていた。 焼きたての温かさと香りが口の中に広がってゆく。 美味しいくって、私は思わずニコニコしてしまったわ。 ふと目の前にいる母さんを見たら、食事をせずに、ただ私を微笑んで見つめていたのよね。 「……どうしたの、母さん。食べないの?」 私の問いかけに、母さんは目を細めて答えた。 「そのワンピース、似合ってよかった、と思っていたのよ」 「ああ、これ……」 「ちょっと大人っぽいかしらって思ってたのよね……。旅に行く前のあなたは、サーベルトにちょこまかと ついて歩いてばっかりいて……ちょっと子供っぽいところがあったから」 私はちょっとムッとしたわ。「子供っぽい」っていう言葉に反応しちゃったのよね。 母さんはスープを一口だけ口にすると、話を続けた。 「でも、旅から帰ってきたあなたは、まるで見違えたようだったわ!すっかり大人になって帰ってきて…… わがままなところがあったのに、人をきちんと思いやれるようになってたんですもの。 家のメイドたちも、すっかりあなたのことを見直したのよ」 私は母さんの話を聞きながら、サラダのトマトを一切れ、ぱくっと食べた。 「メイドたちだけじゃないわ……村の人たちがみんな噂してるのよ。 ゼシカが突然大人っぽく、女性らしくなって帰って来たから…… 本当にあなたは綺麗になって帰ってきたんですもの」 母さんはサラダにドレッシングをかけながら、話し続けている。 「ねぇ……誰か好きな人でもいるの?もしそうなら、一度家に呼んで……」 「――ごちそうさま!」 私は母さんの言葉を断ち切るように、椅子から立ち上がり、口元をナプキンで拭いた。 「……兄さんのお墓と、塔の辺りの見回りに行ってきます」 そう言って母さんに背を向け、部屋を出ようとした。 すると母さんが「待って!」と立ち上がり、私の後ろまで追いかけてきたのよ。 「もしゼシカに好きな人がいないのならね……ぜひ紹介したい人がいるのよ。 今日の午後、ここへお呼びしようかと思っているの。ある国の名家のご子息でね……。 サザンビークのラグサットさんとの婚約は無くなってしまったけど、今度はあなたも納得して……」 「……母さん」 私は母さんに背を向けたままで言った。 「私……結婚なんかしないわよ」 「何言ってるの?あなたはこのアルバート家唯一の後継者なのよ!そのあなたがこの家を継がなきゃ――」 「いってきます!」 母さんの話を無理やり振り切り、私は足早に玄関へ向かった。 教会の横にあるサーベルト兄さんのお墓へ行くと、ポルクのおばあちゃんがお墓の前に立っていた。 「おはようございます!」 私がおばあちゃんの後ろから挨拶をすると、おばあちゃんは私の方へ振り向き、 皺だらけの顔をもっとしわくちゃにするように、笑顔になったわ。 「おや、ゼシカお嬢様、おはようございます」 おばあちゃんの横に立って、私は家の周りで摘んできた花をお墓の花立に挿し、 目を閉じて、おばあちゃんと一緒に祈りを捧げた。 祈りを止め、目を開けてふと隣を見ると、おばあちゃんが私をじっと見ていた。 「おばあちゃん、どうしたの?」 おばあちゃんのいつもの優しい顔のままではあったけど……妙に真剣な眼差しだったのよね。 「ゼシカお嬢様……何か……辛いことでもあるのかい?」 「……え……?」 私はおばあちゃんの突然の言葉にドキッとしてしまい、思わずおばあちゃんから目を逸らした。 「村のもんはみんなゼシカお嬢様を『綺麗になった』と言って噂しとるけど…… わたしにはゼシカお嬢様が、何かに苦しんでいるようにしか見えないのですよ」 おばあちゃんはそう言うと、少し目を伏せた。 そして兄さんのお墓の前にしゃがみこみ、お墓の前に生えていた雑草を抜き取り始めた。 「まぁ……もし何かあったら、わたしにでも相談してくだされや。 こんな婆ぁですが、何かのお役には立ちますでしょうよ」 おばあちゃんはそう言うと、顔を上げ、私に微笑んでくれた。 私もつられて笑顔になってしまう。 「……ありがとう、おばあちゃん」 私はおばあちゃんに別れを告げ、村の入り口へと向かった。 村の入り口の辺りでは、ポルクとマルクがいつものように見回りをしてくれていた。 男手が足りないこんな小さな村では、遊びの延長とはいえ、小さな子供も十分な見張り番になるのよね。 「あっ、ゼシカ姉ちゃん!」 私を見つけたマルクが声を上げた。 ポルクも私の姿を見て、マルクと一緒に私の元へと駆け寄ってきたわ。 私は二人の目線に合うようにしゃがんで、二人の頭を撫でた。 「あんたたち、今日もちゃんと見回りしておくのよ!」 私の言葉に、ポルクが顔いっぱいに笑みを広げて答えた。 「うん!ゼシカ姉ちゃんは、塔の見回り?」 「そうよ」 「最近さ、塔の周りや中にに魔物が増えてるっていうから、気をつけてよ!」 「はいはい、ありがと!」 リーザス塔までは、小走りで行くと私の足でも10分もかからず行ける距離なのよ。 私は息を切らさない程度に走って、塔の前門まで辿り着いたわ。 そして門の扉を押し上げて、塔の前庭に入った。 塔の周りの、膝丈ほどに生え揃った草むらには、色とりどりの野花が咲いていた。 ポピー、千鳥草、タンポポ、撫子に黒種草……。 ゆっくり奥へと歩みを進めていくと、サンダルを履いた素足にさらさらと草が当たり、何だかとてもくすぐったい。 そのまま塔を昇っていくと、途中ではポルクの言ってた通り、確かに少し魔物が増えていたようだった。 でも鞭で簡単に追い払える程度だったから、大したこと無いみたい……。 塔の最上階へ着くと、私はリーザス像の前へ進み出た。 リーザス像の瞳には、美しい赤い色の宝石がはめ込まれていて、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。 この宝石は……グラン・スピネルを使わせてもらったお礼にって、 ハワードさんが村に寄付してくれたものなのよね……。 私はリーザス像に向かい、ご先祖様であるリーザス様と、 この場所で亡くなった兄さんのために祈りを捧げたわ。 お祈りを終えると、私は塔をゆっくりと降りていった。 塔を降りる時、私は前門へ向かう出口へは向わず、もう一つの出口の方へ向った。 そこから塔の裏手に出た私は、花の咲き誇る草むらの上にごろんと体を横たえた。 仰向けになった私の目の前には、雲ひとつない青空が広がっていたわ。 こんな空を見ていると、トロデーン城が復活したあの日の空―― レティスを見送りながら見上げた空を思い出しそうだった。 澄んだ青い空に、レティスとその子供の魂が、白い光の筋を二つ描いて飛んでいったあの日――。 あれは……秋の終わりのことだったのよね……。 リーザス村に帰ってきて以来、旅で使った服や道具は全て、 クローゼットの奥に仕舞い込んだままになっている。 ――旅のことは、もう思い出さないように……って……。 すうーっと息を深く吸うと、撫子の甘酸っぱい匂いが私を包み込んでいく。 一輪、撫子を摘み取り、匂いを嗅いでみた。 甘い香りが体中に広がり、私は突然ゾクっと首筋に走るものを感じた。 ――ククール……。 最後に別れたあの日、彼が残した感触は……まだ消えない。 時間が経てば、忘れてしまって、こんな感触もすぐに消え去ってしまうと思ってたわ。 ……でも……この感触は薄れもせず、かえって強まっていくばかりで……ずっと私の心を縛り続けてる。 ククールが唇を付けた跡にあわせて、指先で首筋をそっとなぞってみる。 また首筋に稲妻のような感覚が走った。 体が、不気味なくらいに熱くなる。 私はゆっくり息を整えて、その感覚を遠ざけようとした。 すると次第に、あの日からずっと思い続けている後悔の気持ちが、心に押し寄せて来たのよ。 ――あの最後の日、リーザス村の前で、どうして言えなかったの? ただ、「一緒にいて」って一言、言えばよかったのに。 ……それだけで、よかったのに……。 ……彼がベルガラックにいるっていうのは判ってるんだもの、 キメラの翼を使えば、いつだって会いに行ける――最初の頃はそう思ってたわ。 でも、何の理由もなく会いに行く勇気は……私には、無かった。 ……もし行ったとしても、いろいろ誘惑の多いベルガラックだもの、ククールはきっとあの町の女の人たちと 一緒にいるに違いないし、そんな彼を見てしまったら……。 そう、私は……ずっと嫉妬しているのよ。 何の衒いもなく、ククールと話したりベタベタしたり出来る女の人たち……みんなに……ね。 私は彼女たちみたいに、そういうことが……出来ない。 自分からククールを求めることを、心の中にいる別の私が必死に抑えてる――。 「アルバート家の娘として育ったこの私が、そんなはしたないことをするの?」 「大体最初に私に言い寄って来たのはククールの方でしょ? それなのになんで私から彼を追いかけなきゃいけないの?」って……。 そういうのをプライドって言うなら……バカバカしいわよね。 本当は彼女たちのように、ククールを追いかけ、しがみついて、離れたくないくせに……笑っちゃうわ。 だから、いつか彼の方から会いに来てくれるかもしれない―― そんな勝手な期待を抱いたりしたりもしたのよ。 でも、それは結局、私の都合のいい思い込みに過ぎなかった。 そんな風に、ただ物思いに耽って過ごすだけの毎日――。 そしたら、いつのまにか、夏が巡って来ようとしている……のね。 今、私に起こっているのは……彼にずっと会えずにいる、っていうことだけよ。ほんとにそれだけ。 たったそれだけのこと……じゃない? それなのに……こんなにも……苦しい。 こめかみに、水滴が流れ落ちるような感覚があった。私は知らないうちに、泣いていた。 「ゼシカねーーーちゃああーーん!!」 突然ポルクの叫び声が聞こえ、私はびっくりして体を起こした。 涙を急いで手で拭い、塔の前門まで走って行くと、ポルクが焦ったように駆けて来た。 「ど、どうしたの?ポルク……」 私が尋ねると、ポルクはぜいぜい息を切らしながら答えた。 「とろ……トロなんとかっていうお城から……ゼシカ姉ちゃんに用が……あるって人が……来たんだよ!」 「……え?」 それってきっと……トロデーン城のことよね? 私はポルクと一緒にリーザス村まで急いで帰り、家に戻ると、 玄関にいたメイドがほっとしたような顔で私を迎えた。 「お、お嬢様!急いでお二階へ!北にあるトロデーン城から、国王陛下の使いの方がいらしてますよ!」 私はポルクへいつもの見回りに戻るように伝え、メイドに案内されながら階段を駆け上った。 二階へ行くと、兵士の格好をした初老の男性がお客様用の椅子に座り、 その向かい合わせにある椅子に母さんが座っていた。 私はその男性に挨拶をして、母さんの隣の椅子に腰掛けた。 その人は、私宛にトロデ王からの手紙を預かって来ていたのよ。 ――ミーティア姫様がサザンビーク王国のチャゴス王子と、近々サヴェッラ大聖堂で結婚式を挙げること。 教会までの道のりの警護を、私たち旅の仲間にお願いしたいこと。 その警護が、近衛隊長に昇進したエイトの初仕事であること……。 手紙にはそういったことが達筆な字で書かれていて、数枚のキメラの翼が添えられていた。 手紙を読み終えた私に、トロデ王の使いの人はうやうやしく言った。 「陛下と旅をご一緒された、他のお二人からは既にご協力いただけるとのお返事を頂いております。 ゼシカ様からも出来れば今お返事を伺い、国王陛下にお知らせしたいと思っておりますので……」 他の二人……ヤンガスとククール……。 ククールに……会える……? 私は自分の鼓動が、飛び跳ねるみたいに高鳴っていくのを感じていた。 使いの人に返事も出来ず、ただトロデ王からの手紙をぎゅっと握り締めている私を見て、 母さんが突然口を開いた。 「……行ってみたらどう?あの旅から戻ってきてから、あなたはずっと暗い顔をしているものだから、 私も少し不安だったのよ。旅をご一緒したみなさんに、久々に会って来たら? 国王陛下も王女様も、待ち望んでいらっしゃるご様子よ?」 「……でも、私がいないと、この村の警備も大変だし……」 私は思いつきの言い訳を口にした。すると母さんは、まるでそれを見透かしたかのように、クスッと笑った。 「それなら心配要らないわ。ほら、午後からあなたに会いに来る男性―― テオドールさんとおっしゃるんだけど…… その方にあなたのいない間、 この村の見回りやいろんなことをお願いしてもいいと思っているのよ。……どうかしら?」 そんな母さんの言葉に諭されながらも、私はまだ迷っていたわ。 会いたい人に会えるチャンスだっていうのに、「会いたくない」って叫んでる自分が、心の隅にいる――。 ククールに会えないだけで、こんなに打ちのめされている自分を……彼に見せたくなかった。 「どう……いたしますか?」 使いの人は、私を急かすように問いかけて来た。 母さんは私の肩に手を置き、静かに囁いた。 「気分転換……と思えばいいのよ。陛下や王女様には失礼かも知れないけど……」 母さんの言葉に、私はこくんと頷いた。 私はやっとの思いで使いの人へ顔を向け、返事をした。 「……分かりました。トロデ王……国王陛下に、協力させていただくと伝えてください」 ◇ 夕方も近くなったその日の午後に、例のテオドールという男がやって来た。 ……何なの、こいつ? ラグサットといい、こいつといい、母さんの男の人を見る目って……どうなっちゃってんの? 私より少し身長が高いぐらいで、ガリガリのやせっぽっちで、 顔は……サザンビークのチャゴス王子よりは少しマシ……いいえ、どっこいどっこい……だし。 服のセンスもラグサットに負けず劣らずでアレだし……。 一応年齢は20歳だって言うけど……どう見てもヤンガスよりもずーっと年上に見える……。 そいつはうちの玄関で私に会うなり、いきなり私の右手を取って片膝を付いた。 「はじめまして、ゼシカさん!オークニスの町長の息子のテオドールと申します! ……いやぁ、光栄だなぁ……あなたのようなボン、キュッ……じゃなく、 あなたのような馨しいほどの美しく聡明な方にお会い出来るなんて……。今夜は眠れそうにありませんよ!」 ――一生寝ずに過ごしたら?……っていう言葉が喉のすぐそこまで出かかったけど……必死で我慢したわ。 とりあえず気持ち悪かったから、すぐにそいつから手を離したわよ! 後ろを振り向くと、母さんがニコニコ顔で私を見ていた。 「テオドールさん。突然の申し出で申し訳ありませんが、先程お願いした話――ゼシカが旅に出てしまう間、 村のことをよろしくお願いしますわね」 母さんがご自慢のマダムスマイルでテオドールに言うと、テオドールはすくっと立ち上がり、突然叫び始めた。 「ゼシカさん!あなたのいない間、この村はもう無事も当然です! 何故なら……僕のあなたへの愛がこの村を守るからですよ!!!僕に任せて下さい!!!!!」 ――任せてらんないわよ……。 子供だけど、ポルクやマルクの方がよっぽど役に立ちそうじゃない……。 その夜、そいつと一緒に家で夕食を摂ったんだけど……あの顔見てると、食欲が無くなっちゃったのよね。 私はそそくさとダイニングルームを抜け出し、夜風に当たるために、カーディガンを羽織って外へ出た。 家から村の中心に続く緩やかな下り坂をゆっくり降りて、水路に架かる小さな橋を渡ると、 ポルクのおばあちゃんが一人、畑の横に立っていた。 私が走り寄っていくと、おばあちゃんは私に気づき、驚いた顔をして言った。 「ゼシカお嬢様……どうしたかね?こんな時間に……。 確か……遠い大陸の国から、お嬢様のお婿さん候補が来てるんじゃなかったかね?」 私はちょっと肩を竦めて、答えた。 「……何か嫌になっちゃって……食事抜け出して来ちゃった」 「そりゃあ……大変なことで……」 おばあちゃんはやれやれ、という顔をして首を横に振った。 おばあちゃんは地面に何か草のようなものを積み上げていて、それを紐で結わいていたわ。 その横で、私は後ろに手を組んで、地面にあった小石をこつんと蹴飛ばした。 「ねぇ、おばあちゃん……私、また旅に出ることになったの。 今度はそんなに長い期間じゃないんだけど……ね」 「おお、そうでしたか!ゼシカお嬢様はこんな小さな村でじっとしているよりも、 外で元気に動かれる方が向いておりますよ!」 おばあちゃんは地面から顔を上げて微笑んでくれたけど、私の顔を見るなり、 心配そうな顔に変わってしまった。 「――どうなさった?浮かない顔をして……」 私は空に手を伸ばし、背伸びをゆっくりとした。上を見上げると、半分欠けた月がぽっかりと浮かんでいる。 「……今度の旅でね、久々に会いたい人に会えるかも知れないんだけど…… 会いたいのに、いざ会えるとなると……何だか会いたくなくなっちゃたりするのよ……。変よね?」 その私の言葉を聞くと、おばあちゃんは突然、ケラケラと笑い出した。 そして曲がった腰をピンと伸ばし、私の顔をじっと見つめた。 「それは……ゼシカお嬢様が格好つけている証拠でしょうよ」 「……え……?」 私はおばあちゃんの答えに驚いてしまった。 ――格好つけてる?私が? おばあちゃんはまたゆっくりと腰を曲げて、地面に積まれたものを触りながら言った。 「会いたい人に会えるのであれば、素直に会えばよろしい。せっかく会えるのに会いたくないというのは…… 相手の人に自分の全てを見せていないからではないですかね?せっかく会えるのでしたら、 お嬢様のその『会いたくない』という気持ちも含めて、全てその人に曝け出して来るのがいいでしょうな」 ――私の気持ちの……全てを……曝け出す……。 おばあちゃんの言葉は、私の頭の中で響き渡っていた。 私に……出来るかしら? ククールに私の思いを――全て……伝えられる? 私はじっと、その場に立ち尽くしていたわ。 少し冷たい夜風が吹いてきて、私の結わいた髪の束を揺らした。 「――そうじゃ、これをお嬢様に……」 そう言いながら、おばあちゃんは地面に積み上げてたものを少し分けて、私に手渡した。 すると爽やかな香りが、私の周りをふわっと包み込んだ。 「これ……ラベンダー?」 「そうですよ。今晩のお風呂に入れようかと、たくさん摘んでおったところなのです。 ラベンダーの香りは、心を落ち着かせてくれるもんと、昔から言われておりますからねぇ」 私は手にしたラベンダーの束を、そっと鼻先に持っていった。 毎年夏には嗅ぐ香りなのに、何だか今年はいつもと違うように感じる。 私を優しく慰めてくれているような、そんな感じに……。 香りを感じるままに心を委ねていると、香りがまるで魔法のように私の心の中に入って来て、 強張った気持ちを解きほぐしていくような気がした。 すると突然、頭の中に、楽しかった思い出が蘇って来たのよ。 みんなで笑って、旅をしていたあの頃の思い出――。 馬になってしまっていたミーティア姫を、いつも優しく気遣っていたエイト。 トロデ王と本当の親子みたいにいつも口喧嘩していたヤンガス。 そして……私を優しく見つめていたククール……。 ――会いたいよ……ククール……。 私の体から、ふっと無駄な力が抜けていった。 私はラベンダーの束に顔を埋めてみる。 「夏の……匂いね……」 そう言うと、おばあちゃんはうんうんと頷きながら答えた。 「そうですよ。――お嬢様が旅立たれる時には、もう夏がやって来てるでしょうな」 ――そうね、彼に会える頃には、もう夏は始まっているかも知れない……。 そう思いながら、私はもう一度、夏の訪れを感じる香りを胸いっぱいに吸い込んだ。 前へ 戻る 次へ
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少女の幸運と少女の不幸 ◆FbVNUaeKtI 古手梨花がそれを見つけたのは、山を下り始めて三十分ほど経った頃の事だった。 (くすくす・・・随分とまた無用心ね) 進行方向の向かって正面。大木の根元に小柄な影が蹲っているのを確認し、梨花はほくそえむ。 尻尾のような飾りと見たこともない服装だが、おそらくは自分と同年代か少し上程度の少女だろう。 地面に色々な道具――おそらくは支給品だろう――を広げている。 (さて、どうしようかしら。利用するのもいいけど・・・) そう考えながら少女の様子を見る。 ・・・どうやら手に持ったものをいじくるのに夢中で、こちらにはまったく気づいていないようだ。 (やっぱり、殺せるときに殺しておかないとね) 鞄からゆっくりとスタンガンを取り出し、軽く構える。準備は万端だ。 一呼吸の間をおいて、少女に向かい一歩を踏み出す。そして・・・ 「・・・!?」 「っ・・・!」 二歩目を踏み出そうとした瞬間、少女がこちらへと振り返った。 その視線に怯えと警戒の色を察知し、軽く歯噛みする。 (気づかれた!?・・・いえ、落ち着きなさい、クールになるのよ梨花。まだ充分に挽回できる状況よ) さりげなくスタンガンを後ろ手に隠しながら、すぐに強張っていたであろう表情を笑みへと変えた。 「みー、やっと人を発見したのですよ」 笑顔は元々、獣の行う威嚇という行為だった・・・何処で聞いたのかも解らない雑学を思い出しながら、 長きを生きる魔女は少女を安堵させるべく、巧みに笑顔と言葉を連ねる。 「大丈夫なのです、ボクは怖い事をする気は・・・」 その言葉を遮るように、少女が手にした物体をこちらに投げつける。 孤を描いた小さな“それ”は梨花の体に当たり、そのまま足元へと転がる。 「みー、本当に大丈夫なのですよ?」 「・・・・・・ぅぅ」 梨花は不安げな顔を作り、少女へと一歩歩み寄る。 しかし、返って来たのは微かな声と投擲の第二波、第三波。 こんなに入るのかと思うほどの荷物が飛んできたのだ。 飛来する傘やらペットボトルやらを梨花はなんとか避ける。 (そもそも、傘などはこちらまでの飛距離すら稼がなかったが) やがて、梨花が『やはりこの娘はここで殺しておこうか』などと考え始めたとき、不意に少女が動きを止めた。 投げられる物が尽きてしまったのだろう。じっと鞄へ視線を送っている。 (ふふ・・・よくも、てこずらせてくれたわね) 後ろ手でスタンガンを握りなおしながら、ゆっくりと少女に近づく。 「怯えなくても大丈夫なのですよ。にぱー」 もちろん、笑顔は絶やさない。邪気の無い笑みを装いながら、少しずつ歩を進める。 その時・・・少女が鞄の中から鋼色の何かを取り出すのが見えた。 (しまった!?) 死の予感に思わず目を瞑ってしまう。雛見沢での日々が脳裏を駆ける。 程なく身体を襲う衝撃に、古手梨花の意識は奪われ・・・ 「あれ?」 ・・・なかった。目を開くと、少女の姿が忽然と消えている。視線を落とすと、足元に転がるのは黒い鞄。 その場に残されたのは散乱する道具と呆然と佇む梨花。そして草を掻き分ける微かな音のみ。 逃げられた・・・よほど恐ろしい顔をしていたのか、こちらの殺気とやらを読んだのか・・・ (なんにせよ、うかつだったわね) 逃げられたことに微かな不安と怒りが込み上げるが、頭を振ってそれを追い払う。 殺気のような物を読まれたとしても、決定的と言える証拠は無かったはずである。 だから、逃げられてもそんなに問題視することは無い。 それに命の代わりと言ってはなんだが、少女は数多くの物を残していってくれたのだ。 「大漁大漁なのです。にぱー」 雰囲気を打ち消すように呟き、梨花はその場に転がっている物を拾い集め始めた。 パンや水を袋にいれ、支給品であろうタイマーと傘を手に取り・・・傘の異様な重さに気づく。 (くすくす・・・こんな物騒な物まであるのね・・・私には無用の長物だけど) 傘の内部に仕込まれた銃に、思わず自虐的な笑みを浮かべる。 おそらく使いこなせはしないだろうが、それでも何かの役には立つだろうと鞄に突っ込む。 傘はつっかえる事もなくスムーズに鞄の中に消えた。 「・・・・・・・・・」 目の前で起こった異様な事実を軽く無視して、梨花はもう一つの物体へと目を注ぐ。 それは一番最初に投げられた物体。掌に余るくらいの大きさのタイマーらしきものだった。 (時報の機能でもついてるのかしら?まあ、陽動くらいには使えるかもね) そんな事を考えながら、魔女は自分のツキに笑みを浮かべる。 (6とまではいかないけれど、順調にいい目がでてるわね。私の運も捨てた物じゃ・・・) と、そこまで考えたとき・・・梨花の手元からポンッという間抜けな音が響いた。 『おっぺけぺ~のぺ~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』 後方から聞こえた物凄く大きな声に、森の中を走っていたアルルゥは首をすくめ、その動きを止めた。 恐る恐る後ろを振り向き、何の気配も無いことを確認すると再び山を駆け下り始める。 その手に抱えられている物は鋼色に輝く扇子。 ついさっき、見知らぬ少女から逃げるときに持ち出した、たった一つのもの。 (ちなみにアルルゥが逃げ出した原因は・・・単なる人見知りである) 「おとーさん・・・」 それの持ち主である仮面の青年の姿を思い浮かべながら、少女は麓へと駆け下りてゆく。 ・・・アルルゥは全く気づいていなかった。 聞こえてきた奇声が先程、自分に話し掛けてきた少女の声で、 奇声をあげた原因が自分がいじっていた支給品―時限バカ弾にあるという事を。 【C-6山中 1日目 深夜】 【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】 [状態]:時限バカ弾で混乱、数秒程度で通常復帰 [装備]:スタンガン [道具]:荷物一式×2、ロベルタの傘@BLACK LAGOON [思考・状況] 1:おっぺけぺ~のぺ~ 2:南下して町へと向かう 3:ステルスマーダーとしてゲームに乗る 基本:自分を保護してくれそうな人物(部活メンバー優先)、パーティーを探す 最終:ゲームに優勝し、願いを叶える 【C-6山中 1日目 深夜】 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:健康 [装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの [道具]:なし [思考・状況] 1:ハクオロ等の捜索 2:ハクオロに鉄扇を渡す 基本:ゲームには乗らない ※アルルゥの支給品『時限バカ弾』は破裂して失われました ※梨花の奇声はエリア周辺に響いたと思われます ※『時限バカ弾』 時限タイマーを巻いた状態で対象に貼り付けて使用。 制限時間が来ると破裂し、貼り付けられた対象がバカな事を叫んだり踊ったりする。 おそらく、数秒程度で普通の状態に戻ると思われる。 時系列順で読む Back 少年の決意 Next 薔薇の風 投下順で読む Back 少年の決意 Next 薔薇の風 03 彼女の最適解 古手梨花 59 「友達だ」 アルルゥ 54 従わされるもの
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僕があの力に目覚めたのは中学一年の時です。 突然、僕の頭の中を膨大な数の映像が駆け回り、僕はそのまま気絶しました。 訳の分からぬまま学校に通っていました。 あの恐ろしいまでの映像が流れてくることがたびたび起こりました。 そのたび僕は失神して、余りの恐怖に失禁することもしばしばありました。 そんな狂った僕をクラスメイト達は明らかに避け始め、 僕はとうとうクラスの中で孤立していました。 僕は言われもないいじめを受け、気持ち悪がられ、そして殴られました。 もともと人当たりのよいほうでしたから、友達は多かったのです。 今までの日常とのギャップは僕の精神を蝕んでいきました。 それに加え、あの映像が流れる現象の頻度は増加していきました。 僕は恐怖の余り、泣き叫び、そして狂っていきました。 母親に助けを求めても、母はなにもできず、ただただ泣くばかりでした。 どうしたら元の自分に戻れるのか。 気がついたら僕は死ぬことだけを考えて生きていました。 学校にも行かず、部屋にこもり、なにをするでもなく、ただ死が訪れるのを待ちました。 しかし、死はいっこうに迎えにきませんでした。 当時、僕は中学一年生ですから、死ぬことに対する恐怖は想像を絶するものがありました。 どうしようもなくなって、僕は寝ることだけをすることにしました。 寝ているときも、あの奇妙な映像は流れ続けます。 僕は次第に睡眠不足となり、そして心が音を立てて崩れていきました。 奇声を上げ、部屋で暴れました。 父親が止めに入ると、僕は遠慮もなしに父親を殴りました。 それでも父親が止めるので、僕は寝ることにしました。 僕は気違いだと両親に思われ、そして精神病院に入院することになりました。 僕は突然夜にあの忌まわしい映像に襲われ、たびたび発狂していました。 あの映像にはこの世界に対する、 憎悪、哀愁など言葉には言い表せないほどの感情が渦巻いていました。 そして、一人で佇み、泣きながら歌い続ける少女が時折映像として混じっていました。 それ以外は負の感情を具現化したような気味の悪いものが僕を襲い続けました。 砂嵐のような耳鳴りが延々と続き、たまに少女の声が混濁して入ってきました。 「寂しい」 僕の知らない声でした。綺麗な、そして優しい声でした。 僕はその少女がとても気になりました。 僕はなんとなくですが、その少女のいる場所が分かる気がしました。 病院を深夜に抜け出すと、僕はその場所へと走っていきました。 その場所へとつき、僕はなぜかすべきことが分かっていました。 手をかざし、心を少女とつなぐことが条件でした。 僕には簡単でした。なぜなら、僕にはその少女しか心を許せる人はいなかったのです。 あの、優美な声で僕を慰めてくれた、少女。 少女以外の声は僕の耳へは届きませんでした。 全てが砂嵐のような雑音と、悪魔のささやきだけが聞こえました。 とても、暗く、陰湿で、僕を地獄へと連れて行く声でした。 僕は僕でなくなっていきました。僕は崩れていってしまったのです。 そんな中で、あの少女の声は僕の安らぎでした。 「寂しい」 そう、少女は素直だったのです。 僕はその言葉を忘れていました。僕はすでに一人だったのです。 僕は少女に慰めて欲しかったのです。 不思議な空間へと僕は迷い込みました。 灰色の、空虚な空間です。それは僕と少女の気持ちを代弁しているようでした。 そこからの話は簡単です。 僕はそこで、『機関』の人たちと出会いました。 そして僕は救われました。また、僕の苦しみを分かってくれていました。 そしてみんな、少女の声のおかげで、自殺せずに済んでいたのです。 ――現在 「顔が近いぞ気持ち悪い!」 「はは、あなたも冗談がお得意だ」 「古泉くーん、例の件準備できた?」 「はい。手配しました」 「ありがとう。やっぱり古泉君は役に立つわね」 涼宮さんは今日も笑顔です。 「まったく! キョンとは大違いだわ!」 「うるさい! お前に言われたくはない!」 「ん? 古泉君どうしたのそんなに見つめて? なんか私についてる?」 「いや、何でもありませんよ」 僕は笑顔を涼宮さんへと向けた。 ありがとう、涼宮さん。涼宮さんの笑顔は僕を守ってくれました。 「そ、じゃあいいわ! てか、死ねー! キョン!!」 おしまい。
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「・・・おはようございます。」 「おや、お早いですねぇ。おはようございます、ハークスさん。」 普段より早くなった陽が昇り始めた頃、居候の一人がキッチンにやってきた。 この世界、聖域(サンクチュアリ)の南半球・・・ここより北に位置する大陸と季節が真逆だから、恐らくそうなのだろう・・・に位置するローイア諸島は今、真夏の年の瀬を迎えていた。とは言っても、 常夏の楽園と謳われるここでは、あまり季節の変化を感じられないのでいまいち実感が湧きにくいのだが。 「・・・いい匂いですね。こんな早くから朝餉の支度ですか?」 キッチンに入ってきたハークスの鼻をくすぐったのは、ほんのりとした出汁の匂いだった。 みると目の前の男・・・ムヴァの前に備えてある包丁とまな板の上には、水で戻した椎茸が細切りにされている。 「いえ、これは今晩の下準備なんです。忙しいですからね、今日は。」 「ああ・・・。」 そういえば昨日、この旅籠すべてを大掃除するのだと言っていた。 ここでは毎年、一気にその年最後の日に大掃除をするらしい。宿泊業を営んでいた影響だろうか、だとすれば経営していたころはもっと大変だったと思う。 そんな感じにハークスが思い出して考えていると、ムヴァはくすりと笑っていった。 「今、コーヒーを淹れます。朝餉までゆっくりしていて下さい。」 「あ、いえ。それくらいは自分が・・・。」 「いえいえお気になさらず。」 しかしその隙を与えることなく、ムヴァはすぐにコーヒーを淹れる準備を始めた。既に湯は一度沸かしてあったのだろう。コンロにあらかじめ置かれていたやかんにすぐに火をつけると、程なくして暖かげな湯気がやかんの口から吹き出す。 ハークスはキッチンからでて近くの椅子に腰掛ける。先ほど椎茸の匂いを思い出しながらぼんやりとする。 旅籠の景観には似合うとは言いにくいが、しかし優しくどこか懐かしい匂いだった。あれで今晩は何を作るのだろうか。 そんなことを考えていると、ムヴァが淹れたてのコーヒーを持ってきてくれた。 先ほどの和風の匂いとは打って変わった、金縁に白いカップだった。 青い空、白い雲、澄み渡るエメラルドグリーンの海、きらきらと差し込む陽。 ジュニアとテトが同時に窓を開け放つと、それらが一気に今まで閉じこまっていた部屋に入り込んできた。 旅籠の大掃除はまず、今は使われていない客室のドアと窓をすべて開け放って空気の通りを良くすることから始まる。 彼女たちにとってこちらが身近な大晦日であり、雪降る寒空の下の年末、元旦は今まで写真の向こうの世界の出来事だった。 数年前、ふとした出会いから二人はローイア諸島から世界各地を少しずつ知ることになり、ローイア諸島だけでは体験できなかったことを経験してきた。今では白い冬も、白い吐息も少しは身近なものとして感じることができる。 「絶好の大掃除日和ー!」 「ええ、ほんとね。」 開けた窓から潮風を受け、二人は眩しそうに目を細めた。 しかしこれから二人・・・といっても召喚獣たちもいるのだが・・・がやらなければいけないことは自室を含めた沢山の客室の掃除である。 「・・・さ、ジュニア。窓は全部開けたから、まずは各部屋のものを全部外に運びましょ。」 「んー、後5分・・・。」 「そんなお寝坊さんみたいなこと言わないの。さ、早く終わらせて夕食までゆっくりしましょ。」 「はーい。」 姉のいうことを素直に聞いて、窓辺に組ませていた腕を解いて背筋を伸ばす。 すると・・・。 「テト様、ジュニア様、水拭きのバケツをお持ちしまっ・・・ウワアアアアッ!!!!!!」 どんがらがったばっしゃーん!!! 「フ、フラディーっ!!」 「ヘンリーィィィィッ!!!」 「きゅいーっ」 そんな慌ただしい音が次々と廊下の方から聞こえてきた。 テトとジュニアは目をまんまるにして顔を見合わせてから、思わず同時に笑い出した。 そんなこんなで大掃除を進めていく一行。 水拭き、窓拭き、掃き掃除、洗濯、整理整頓。 埃にまみれ、同じ体勢にたえたり、休憩を挟みながら、時には記憶の片隅に忘れていたものを引っぱり出したような気持ちになって盛り上がったり、誰かが知り得ないエピソードをぽつぽつ喋っていったり、思い出を話し、一年を振り返りながら。 そうして旅籠の大掃除は、月が笑い出した頃、ようやく終わったのであった。 「つっかれたぁ〜・・・・。」 「なんとか今年も終わりましたな・・・。」 「きゅぅーぃ?」 「はいはいヘンリーもお疲れ様。」 「今年は人手が増えたからねぇー。ほんと楽。」 「助かりました、ハークスさん。」 「へっ?」 最後にぎりぎりまで干していた洗濯物を一つにまとめ、畳み終わって全員は食堂に向かってそれぞれが話し合っていた中、突如声を掛けられたハークスは思わずすっとんきょうな声を出してしまった。 その様子をみてくすりと笑ったジュニアに、はっと我に返るとすぐに頭を下げた。 「いえ、お礼をされるような事はなにも・・・当然の事をしただけです。」 「またまたー。」 「遠慮・・・しすぎ・・・。」 「うっ、むう・・・。」 困ったような声をだして身体を傾げる彼に、また微笑ましい笑いが零れた。 そうして食堂に入ると、ふわりと一同の鼻をくすぐるいい匂い。 「・・・今年はお疲れ様でした。さ、どうぞ席についてください。」 微笑んでムヴァが待っていた先には。 細かい山菜や根野菜と高野豆腐やあぶらあげが入った昆布出汁のみそ汁、ぷりっと身が引き締まった数々の魚がのった寿司、色とりどりの野菜にからりとあがった唐揚げとフライドポテト、ローストポーク・・・。 テーブルに沢山並べられたそれに、歓声があがった。一日中動いてすっかりお腹を空かせた一行はすぐにそれぞれの席につく。 「ちゃんとセーブして食べて下さいね。後でお蕎麦をいただくんですから。」 ムヴァが微笑んでだしたその注意を守れる自信があるものはいなかった。 ハークスが席につくと、それぞれの席に添えられた箸や小皿の他に、もう一つ蓋がされた茶碗があった。 それを何気なく開けてみると、ふわりと香るのはあの椎茸の匂い。 湯気をたてて、黄色の身の上に金色の栗や渦巻き鳴門、鮮やかな緑に仕上がったほうれん草がのっていた。茶碗蒸しだ。 「ハークス、フライング。」 茶化すようなジュニアの声に、またハークスは我に返って慌てて頭を下げた。 そうしてすぐに始まった今年最後の夕餉は、とても賑やかで美味しかった。 珍しくテトの召喚獣全匹を含めた食事だから、単純に大所帯だったこともあるだろう。それだけ今日は特別な日なのだ。 聞くと、この変わった具だくさんのみそ汁と茶碗蒸しがこの旅籠の大晦日の定番らしい。思えばこれらのメニューはハークスが居候を始めてからこれまで見たことがなかった。 そしてこの具だくさんのみそ汁、薇や蕗が入ってるこれ。確か好き嫌いが激しいテトはこれらが食べられなかったはずだが、それでも普通に箸を進めているのは、そういった理由があるからかもしれない。 甘めの味付けの茶碗蒸しを食べ進めると、下の方に糸こんにゃくと鳥のささみ、そしてあの椎茸の細切りを醤油で味付けしたのがあった。なるほど、今朝準備していたのはこれだったのか。 あれだけあった料理達も、大人数にかかればあっと言う間に無くなってしまった。 それでも楽しい時間はまだまだ終わりそうにない。 それらの光景をしみじみと眺め、ふとハークスは身内のことを思った。特に自分の弟は、今どこで何をしているのだろうか。 「ハークスさん。」 そうしていると、声をかけられた。僅か12歳の少女、小宇宙を閉じこめたようなきらきらの瞳が、こちらを見ている。それが長い睫毛に閉じられると、にっこりと微笑んだ。 「来年も、宜しくお願いします。」 「・・・・こちらこそ。」 自分は居候の身で、まさか来年まで居座るつもりもないしそうできるとも思えない。自分の大人として自立した意志というものがある。 けれど、今この時を楽しんだっていいのだ。 それはまるでぼんやりとした微睡みの中で、未来をさぐるようなものだけれど。 今は、ここでいい。ここがいい。 さくさくに揚がった大きな海老天麩羅が乗った年越し蕎麦を啜りながら、一行は元旦を迎えた。