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少女地獄◆PatdvIjTFg ◇ 「ねぇ、死神様ってしってる?」 ◇ カチ。 シャープペンシルがノックされる音。 カチ。カチ。 私の目の上で芯が伸びていく音。 カチ。カチ。カチ。 目を閉じる。 カチ。カチ。カチ。カチ。 無理やり、目を開けさせられる。 カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。 「しけい」 カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。 や、え グヂュ。 ◇ 「では今日は、転校生を紹介します」 存在しない街の某小学校――四年二組は、極一般的な小学生の集まった教室である。 つまり、人を殺さず、性交をせず、窃盗、その他犯罪行為には手を出さず、見える範囲でのいじめもなく、生徒全員で授業のボイコットをすることもない。 そんな平和な四年二組に、この時期になって転校生が訪れた。 「えっ、どんな子?」 「かっこいい?」 「女子だろ、俺見たんだぜ」 思い思いに声を上げながら、生徒の誰もが皆、廊下で待機する転校生を盛大な拍手を送る。 手製の打楽器に迎えられて、ざっ――と、音を立てて扉が開く。 「はじめまして――」 息を呑む。 時が止まる。 どのように形容すべきだろう、彼らは皆、十二歳の少年少女でしかなかった。 美しい――たった、それだけのことを表現するだけだというのに、脳髄のどこを探しても彼女を形容するに相応しい言葉が浮かばない。 「蜂屋あいです」 パチ。パチ。パチ。 まばらな拍手が響き渡る。 手を動かす余裕など無かった、それでも彼女に嫌われぬために意識を振り絞って拍手を行ったのだろう。 少年少女の全ては、彼女を瞳に焼き付ける――ただ、それだけのために、捧げられていた。 彼女が微笑む。にこり、と。 担任教師に案内されて、己の席へと向かう。 歩く度に、異邦人を思わせるストロベリーブラウンの髪がゆれる。 匂う。 甘い、甘い、匂いが。 理性を狂わせる毒の匂いが。 教室中の全ての目を奪って、歩く。 誰かが呟く。 「……天使様」 言った本人は、己の発言の後に気づいた後、顔を赤らめ、ぶるんぶるんと首を振った。 だが、それは的を射た発言だったのかもしれない。 神秘学【オカルティズム】が、人に理解出来ぬ現象を仕舞いこんでおくための箱であるというのならば、 彼女という存在もやはり、人に永遠に理解できぬ天使という括りに入れてしまうべきだったのだろう。 彼女が、微笑む。 まさしく、それは天使の微笑みに他ならなかった。 酩酊から覚めたかのように、素面へと戻った少年少女達は天使――蜂屋あいを取り囲む。 転校生とはすなわち、四年二組にとっての異邦人である。 分解されぬ未知は恐怖に他ならない。 質問が飛ぶ、蜂屋あいは笑って質問に答える。 それは、好きなテレビ番組の話であり、好きな本の話であり、好きな料理の話であり――だが、大した話ではない。 ただ、彼女も同じ人間だと確認し、彼女を分解するための取っ掛かりを見つけ、そして彼女を理解していくための必須手順。 そして、蜂屋あいはクラスに馴染んでいき、いつしか転校生であるという彼女の特異性も薄れていく。 それだけの話である。 それだけの、ただそれだけの、つまらない、話。 一週間が、経過した。 蜂屋あいは四年二組に馴染み、四年二組もまた、彼女を受け入れた。 僕たちは仲間だ、一緒に思い出を作っていこう、と。 彼女は微笑んだ。 放課後、夕日は世界を丸ごと焼きつくしてしまいたいかのように紅く燃えていた。 冬だった、あるいは凍てついた世界を否定したいのかもしれなかった。 「……ぐすん」 四年二組、教室の隅、ロッカーに寄りかかって、一人の生徒が泣いていた。 四年の春、初恋で失恋だった。 彼女は同じクラスの男子生徒に惚れていたが、その男子生徒が他のクラスの女子とキスするのを見てしまった。 燃えるような思いは、失恋の衝撃で彼女の心をどろどろのケロイドハートに変えていた。 彼女とその男子生徒の家は隣同士だった、帰りたくなかった。 排出される涙と一緒に自分もどこかに流れてしまいたかった。 泣く、泣く、泣く、泣く、泣く。 「どうしたの?」 見られていた、元々真っ赤になって泣いていた顔が、さらに赤くなる。 振り返る、涙で視界がぼやけていた。 ただ、目の前の少女が白いワンピースを着ていたことしかわからなかった。 涙を手で拭う、ハンカチが差し出されていた。 ありがとう――そう言えたかはわからなかった、涙と鼻水で声までぐじゅぐじゅだった。 ハンカチで、涙を拭う。 白い、白い、ハンカチ。 「……ありがとう」 今度ははっきりとお礼を言うことが出来た。 「ううん、いいの」 相手は、蜂屋あいだった。 やはり彼女は天使なのかもしれない、と少女は思った。 夕日を背に立つ彼女は――まるで、宗教画のように神々しかった。 「わたしでよかったら、おはなし聞くよ?」 思いがこみ上げてきて――少女はもう一度泣いた。 そして、いかに幼馴染の少年のことが好きだったかを、切々と語った。 蜂屋あいは、何も言わず、頷くだけだった。 話し終えると、もう一度ハンカチを借りるまでもなく、少女はいつの間にか泣き止んでいた。 もう、どうにもならないけれど、吹っ切っていけるような、そんな気がした。 「ねぇ、死神様ってしってる?」 天使の――その言葉を聞くまでは。 ◇ 死神様は、最近この小学校を中心として広まるようになったうわさ話だ。 その内容はありふれたもので、つまり殺したい人間を死神様が殺してくれるというものである。 少女は、蜂屋あいの言葉を聞いた瞬間、走りだしていた。 「何で気付かなかったんだろ!私、私、私、私、まだ、間に合う!」 恋人がいなくなれば、自分にもチャンスが生まれる――至極簡単な帰結だった。 再び着いた恋の炎が、彼女の倫理観を燃やし尽くす。 殺してでも、愛されたい。 死神様を呼ぶのに必要なものは、死体だ。 猫、犬、虫、何でも良い。 とにかく、死体を十三個集めて、校舎裏にある動物の墓に供え、死神様と三回呟いた後、殺したい人間の名前を大声で三回言う。そして最後に殺して、と叫ぶ。 そうすると、死神様が殺してくれると、そういう噂だ。 何故、死神様という噂が誕生したのか、その由来は明らかになっていない。 だが、飼育小屋のウサギだけに留まらず、とにかく場所に困った動物を埋葬する、この場所が、 あるいは近年、起こっている奇妙な事件が、 または、そのような噂を作り、信じこまなければならなかった程の誰かの憎悪が――そのような噂を作ったのだろう。 死体は全て、虫だった。 首無し死体の方が効力が良いという噂を聞き、首は足で潰しておいた。 少女は虫を嫌っていたが、それ以上に幼馴染を奪った少女が嫌いだった。 「死神様」 自分の恋が叶う、そう考えると人を殺すというのに奇妙な高揚感すらあった。 「死神様」 息が荒くなる、息が荒くなる、息が荒くなる、心臓が高鳴る。 「死神様」 とうとう、言う。 告白の言葉は言えなかったけれど、この殺し文句は確実に言い切る。 「森小春!」 自分から幼馴染を奪った、憎い相手。 「森小春!!」 死んでしまえば良い、私が想像も出来ないような苦しい死に方で。 「森小春!!!」 彼の隣にいるべきは私なんだ!! 「殺してッ!!!!!」 「まかせて」 ぞう――と、鳥肌が立つ。 周囲を見回しても、誰もいない。 しかし、声だけはあったのだ。 それでも、少女は笑った。 「やったあ」 死神様はいたのだ。 翌日、森小春という少女が刃物でめった刺しにされて死んでいた。 しかし、休校にならなかったのは他でもない。 彼女の家族も皆死んでいたために、誰も学校に連絡するものがいなかったからだ。 翌々日、担任教師の訪問で、事件は発覚することとなる。 ◇ 森家の葬式が終わり、幾日かの臨時休校も終わり、それでも日常には戻れない。 森小春の恋人だった少年は、涙ごと心まで流し尽くしてしまったようだった。 そんな彼を慰めようとする、幼馴染にも何も思えない。 ただ、時間が解決するその時まで、彼は機械のように生活を続ける。 「ねぇ、死神様ってしってる?」 そのはずだった。 隣のクラスの死んだ彼女の机の上に置かれた花瓶、 集団下校のための教室移動の途中で、彼はそれを見るために2分程、ぼう――と立ち止まる。 それを憎々しげに見る隣の幼馴染にも気づかずに。 少年の手を取り、無理にでも連れて行こうとする少女の手を払い、彼はただ、立ち尽くす。 何度かそのやりとりを繰り返した後、少女と共に教室へ向かうはずだった。 その日、少女は風邪を引いて学校を休んでいた。 だから、少年はぼう――としていた。 そんな、少年を見て天使が――蜂屋あいが近づく。 「ねぇ、死神様ってしってる?」 それだけで、十分だった。 少年は、少女の死が発覚する前日、担任教師が朝礼で死神様のことを注意していたことを思い出した。 くだらない噂に踊らされて、命を玩具にするな、と。 何故、忘れていたのだろう。 いや、恋人が死んだのだ――細かいことなど覚えていられるはずがなかった。 それは小学生らしいあまりにも突飛な発想であった。 死神様の儀式が行われていた、だから恋人と家族が死んだ。 あまりにもバカバカしい、イコールで結ばれるはずがない。 だが、彼は真実がどうであれ、それを真実と決めつけた。 何故ならば、彼は少年だからだ。 彼女の仇を取ろうとするならば、自分の手に負える相手でなければならないからだ。 蜂屋あいの言葉に、少年は返答もせずに駆け出した。 死神様を行った犯人を、絶対に見つけ出して――殺す。 ただ、それだけしか考えられなかった。 天使は笑った。 ◇ 翌日の放課後、少年とその友人達、蜂屋あい、そして少年の幼馴染の少女は橋の下に集まった。 いや、幼馴染の少女に関しては呼び出された――という方が正しいか。 少年の友人達が集まったのは、まさしく正義のためである。 腑抜けていた少年が犯人を探すと言い出した、ならば友人のためにも、そして亡くなった少女のためにも、 そして、どこかワクワクする非日常感のためにも、犯人探し、そしてクライマックスに協力するのが筋というものだろう。 「お前が――死神様を呼んだのか」 「ちがう……私じゃない!」 少女が儀式を行った姿は誰にも見られてはいない、ならば誰もその犯行を特定できないはずである。 しかし、虫を集める彼女の姿を目撃した者は何人かいた。 疑わしきを罰する――例え、幼馴染だといっても、それが全てだ。 重要なのは、犯人が裁かれることだ。 「お前だろ」 「虫取ってたろ」 「謝れよ」 「死ね、ブス」 「そうだ、死ねよ、死神様呼んだんだろ」 「死刑だ」 「死刑」 「しーけーい」 「しーけーい」 「しーけーい」 「しーけーい」 「しーけーい」 「まって」 柔らかな声が、少年たちを止めた。 蜂屋あい――天使の言葉だ。 「魔女狩りって、しってる?」 まるで、童話を語るかのような優しく甘い声だった。 「魔女はみずにうかぶんだってね」 丁度、川の側で、橋の下だった。 行わない理由が無かった。 「わかったよ、俺信じるよ、お前のこと」 「ほ、本当……?」 これほど空虚な信じるもないだろう、それ程に少年の瞳は乾ききっていた。 だが、それを信じなければならないほどに、少女は恐れていた。 魔女狩りという響きを、自分が辿りかねない運命を。 だから、少年の言葉に信じて媚びなければならなかった。 「抑えつけろ」 少年の言葉と同時に、少女は逃げ出そうとした。 だが、少年の友人がまっさきに掴んだのは少女の腕だった。 犬がリードの範囲以上に走れないように、少女もまた囚われた。 「信じるから、川に顔付けろよ……浮かばないように、ずっと、ずっと」 「えっ、ちょっ……」 少年の友人達に抑えこまれ、少女は川の中に顔を沈めることとなった。 息が出来ない、力尽くで抑えこまれているため、顔を上げることも出来ない。 いや、必死に暴れて顔を上げようとすれば、もしかしたら、水から抜けられるのかもしれない。 そして、それは浮く、ということになる。 浮けば魔女で、沈めば魔女ではなくなる。 いつまで息が持つかはわからない、それでも精一杯頑張ろう、と少女は思った。 少年に信じてもらいたい――それだけが望みだった。 あんな女のために、少年に嫌われてたまるか、そう思った。 「ぶく」 「ぶく」 「ぶく」 「ぶく」 「ぶ」 息が、1分も持たなかったこと。 そして、少女はそのために酷く暴れたこと、そこまでは覚えている。 「やっぱ、お前じゃん……死ねよ、ヒトゴロシ」 それ以降は、少女の記憶に無いし、刻み込まれることもない。 ◇ 蜂屋あいは、人の心の色が見えた。 青く燃える炎の色、蝋燭の炎のようにきらめくオレンジ、そして黒色。どす黒い闇の色。 心が揺れると、その色もそれに合わせてゆらゆらと変わる。 だから、少女は人の心を変えるために――教室を作った。 少女は決して、直接手を下すこと無く、命令することもなく、扇動することで誰かがいじめられ続ける教室を。 しかし、表面上では完璧で優秀な教室を。 小学生の行いではなく、 いや、人間の行いでも無かったのだろう。 彼女は悪魔だった。 天使のような微笑みを浮かべた、悪魔だった。 だが、悪魔はある少女――黒い天使によって、とうとう表舞台へと引きずり降ろされることとなる。 詳細は語るまい、少女たちは戦い――そして、結果は黒い天使の勝ち、ということになるのだろう。 彼女の意思を引き継ぐ者、彼女の作ったシステムを残し、彼女は奈落へと消えた。 気づけば、彼女は街にいた。 そして、彼女は――別のシステムを作った。 死神様――願うことで、好きな人間を殺すことが出来るシステム。 聖杯戦争が本格化すれば、このシステムを稼働し続けることが出来なくなるだろう。 それでも、彼女のサーヴァントと利害が一致した。 彼女のサーヴァントは人を殺したがっている――おともだちを欲しがっている。 彼女はこのシステムによる心の変化が見たい。 「だから、アリスちゃん。わたしたちきっと、いいおともだちになれるわ」 「うん、きっとね」 ◇ 「だから、みんな、死んでくれる?」 【クラス】キャスター 【真名】アリス@デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト(及び、アバドン王の一部) 【属性】中立・悪 【パラメーター】 筋力:E 耐久:E 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:C 宝具:E 【クラススキル】 陣地作成:A 魔力及び死者のマグネタイトを利用することで、彼女のための不思議の国(ワンダーランド)を形成することが出来る 道具作成:C 魔力及び死者のマグネタイトを利用することで、トランプの兵隊、偽アリスを生産することが出来る また、このスキルによって拷問具(アイアンメイデン等)を召喚することが出来る 【保有スキル】 堕天使の寵愛:A 彼女は堕天使ネビロスの寵愛を受けているために、 屍体を蘇生し彼女のおともだちにすることが出来、また呪殺魔法に優れる。 魔王の寵愛:A 彼女は魔王ベリアルの寵愛を受けているために、 魔力のパラメータに関して、+の補正を受ける。 精神汚染:E 彼女の常識を、人間のそれと思ってはいけない。 単独行動:D 彼女は保護者である魔王と堕天使から離れて、たった一人ワンダーランドで過ごしていた。 【宝具】 『不思議の国のアリス(アリス・イン・ワンダーランド)』 ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:??? 最大捕捉:??? 彼女が創りだすは不思議の国の遊園地、女王様は当然アリス。陣地作成スキルによって作り出される遊園地。 完成が進むにつれて、陣地作成、道具作成に有利な補正がかかり、陣地作成ならばミラーハウスやメリーゴーランド、 道具作成ならば、大量のトランプ兵やアリスを生み出すことが出来る。 また、彼女の逸話からこの街の中で死者が増えれば増えるほどに、この宝具が完成するまでのスピードが早くなる。 【人物背景】 魔王と堕天使の寵愛を受けた永遠の少女 【サーヴァントとしての願い】 おともだちをつくる 【マスター】 蜂屋あい@校舎のうらには天使が埋められている 【マスターとしての願い】 みんなの心の色を見る 【weapon】 特になし 【能力・技能】 小学生離れした身体能力と知能を持つ。 【人物背景】 人間の心を「色」に例えて見る感受性の持ち主であり、 いじめによってクラスメート全員の心を弄ぶことで「心の色」が次々変わっていくことを楽しんでいた。 【方針】 色を見る BACK NEXT -012 星輝子&ライダー 投下順 -010 高町なのは&キャスター -012 星輝子&ライダー 時系列順 -010 高町なのは&キャスター BACK 登場キャラ NEXT Happy Birthday! 蜂屋あい&キャスター(アリス) 000 前夜祭 012 燃えよ花
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南家のリビング。テーブルには空になったコップが二つ。いつものように藤岡椅子に座る千秋。 春香も夏奈も外出中である。 千秋が笑顔で呼び掛ける。 「藤岡~」 藤岡も笑顔で応える。 「なんだいチアキちゃん」 「すりすりしていいか…?」 「うん、いいよ。チアキちゃんのしたいようにしていいんだよ」 その言葉を聞くと、千秋は藤岡の胸元に頬を擦りつけだした。 まるで動物が自分のテリトリーに匂い付けをするかのように… 「藤岡の匂いがする…」 「汗臭かったかな」 藤岡の言葉に慌てて千秋は答える。 「そんな事はない、藤岡の匂いは…その…私は好きだぞ」 そう言うなり頬だけでなく、顔全体を藤岡の胸元に擦りつける千秋。 揺れる髪の間から見える耳元が赤くなっているように見えるのは気のせいだろうか。 目の前では千秋の頭が揺れている。藤岡は千秋の髪に顔を埋めると、息を吸い込んだ。 鼻腔一杯に千秋の髪の匂いが広がる。 シャンプーの香りと千秋自身の匂いが交じり合うその匂いに陶然となる。 「僕もチアキちゃんの香り、大好きだよ」 その言葉に千秋は胸元から顔を上げずに問い返す。 「本当か?」 優しく暖かい声が耳元で囁かれる 「本当だよ、僕がチアキちゃんに嘘ついた事ないだろう?」 限界だった。二人は崩れる様に折り重なったまま床に倒れ込んだ。 帰宅した春香が見たのは、「高級ジュース」で酔い潰れた藤岡と千秋の姿だった。 細工をして中身をすり替えていた事がバレ、夏奈が春香にお仕置きされたのは言うまでもない。 名前 コメント 10スレ目 4989氏 保管庫
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檜の匂い ひのきのにおい (名)嗅ぐとエチな気分になる匂い。兄のイロ本が檜のタンスに隠してあったことから、条件反射でそうなったという。
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お兄ちゃんの体中から、あの女の匂いがするよッ!! 出典 Duel Savior (戯画) 意味 「リリィさんの…匂いがする。体中に、ついてる…未亜の、匂いを、つけたはずなのに… リリィの…匂いがするッ!お兄ちゃんの体中から、あの女の匂いがするよッ!!」 主人公の妹、当真未亜が抱き合ってキスしようとした矢先に兄に向かって言った強烈な一言。 キモウトが現在の意味で使われるようになった名言。 以下その後未亜の発言 「あああああ!ああああああああ~~~っ!!!」(凄まじい弓乱射) 「あああああ!もう、もうっ!嫌、いや、イヤ…」 「…こんな残酷な世界はもう…いやああああああ」 「全部…いなくなっちゃえぇぇ~~~っ!!!」 「作り替えるの…世界を、正しく、作り替えるの…」 「未亜と、『本当のお兄ちゃん』だけの、正しい世界へと…」 「見つけた…リリィ」 「どうしてあなたは…未亜の大切なものを奪おうとするの?」 「ずるいよね…ずるいよね…?ずっと嫌いだっていってたくせに」 「未亜なんかよりも10年以上もあとに割り込んできたくせに」 「ほんのつい最近、ちょっと気が変わっただけなのにぃ!」 「いらない…あなたが一番いらない!」
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ふと、並木を歩いていると、小学校からの下校中か。黄色のカバーで覆われた真新しいランドセルを背負ったゆっくりの子供が目に入った。体付きとそうでないゆっくりが居て、体付きゆっくりがれみりゃ、そうでないゆっくりがふらんの様だ。 この子供達は遠くから観察してみるに、何やら咲き誇る桜の木の花を花軸ごと取って遊んでいるみたいだ。用事はあるものの、とりわけ急がなければならないものでも無いので少し立ち止まり観察をする事にした。 「うー、ふりゃん! 春なんだどっ!」 体付きのゆっくり、れみりゃが叫ぶ。木の枝からむんずりと丸ごと桜の花を取り、もう一人のふらんに差し出しながら見せて笑いかける。 こらこら、むやみやたらに花を取ってはいけませんよ。 まあ、子供特有の感受性を妨害したくはないし、もっとこの様子を見ていたいから言わないけれど。 もう片方のゆっくりは体が無いためか花を取るのに悪戦苦闘している。木から少し離れ駆け上がり木に登ろうとするものの、うまく登れずに拗ねてしまったのかややふてくされた表情を浮かべている。 その様な様子のふらんを、れみりゃが『うー、元気だして!』とあやしている。しかし、どうもふらんの機嫌は直らないままでれみりゃはおどおどと戸惑うばかりだ。 …なるほど。れみりゃが花を差し出したのは、木に届かないふらんにあげるためだったのか。 しかし、いつまでもふてくされた様子を変えないふらんを見かねて諦めたのか、れみりゃは顔をうつ伏せてとぼとぼとおぼつかない足取りで前に進み始める。 そのれみりゃを見て、さらに涙ぐむゆっくりふらん。 置いていかないで、と言わんばかりにぴょんぴょんと跳ねれみりゃの背後を追い掛けようとするも、一重に決心がついたのか先ほどまでとは違ったどっしりとした腰構えでふらんが木に登る! なんとか花の場所にまで届き、口で加えた! しかし、足場が無いためそのままどすん! と下に落ちてしまう。 音が聞こえたのか様子に気が付いたれみりゃが目をギョッとさせ、一目散にふらんに駆け寄っていく。 ふらんは打ちどころがまだ良かった方なのか、痛そうにしているものの問題なく体を起こす。近づいてきたれみりゃに笑いかけて、こう言った。 「うー、ふらんね、春をいっぱい取っちゃった!」 思わず、頬があがってしまう感触がした。 「うー! 雨なんだどっ!」 リビングに付いている窓越しから見せ付けるように、空からしとしとと嫌らしく雨が降り注いでいる。 むしむしとべたつく部屋内。湿気で曇った窓を指でなぞると、その部分だけ曇りが拭き取られ外の景色が鮮明にはっきりと映る。そこから外を覗き込むと、嫌にも曇天の空から打ち付ける雨が目に入った。 4月の陽気の面影も無く、まるで梅雨の時期に入ったかの様などこか寒気のする天気。窓に向かいほうっと息を吐くと、元々曇っていた窓が一層湿りを濃くし、窓全体を塗りつぶす。 雨は、嫌いだ。 洗濯物も干せないし、外に出かけることも出来ない。厳密には問題なく出かけられはするが、服が濡れるなどの面倒、デメリットを考えると動くのがおっくうになる。 誰とも会いたくなく、一人で居たい時なら雨でも気に障りはしない。しかし、あくまで気に障らないだけであって、好きだとか、好んだりはしない。 そのような時でも、どうせだったら気軽に動ける晴れの日の方が好きだからだ。 …雨だと、嫌にアンニュイな思考を巡らせてしまうという理由もある。目じりを指で潰し、手を額に当てて思考を切り替える。 …私の足元に座り、手のひら全体で曇った窓をなぞりきゃいのきゃいのとはしゃいでいるこの肉まんのおちびちゃん。どうやら、れみりゃは突然やってきた雨の訪れを喜んでいるようです。 私は、胸に抱いた疑問をれみりゃに投げかけます。 「れみりゃ」 「うー?」 れみりゃが私の呼び掛けに反応し、興味を示していた窓から視線と体を私に向けます。 もたもたと立ち上がり、そのまま倒れてきて私のお腹にぽふんと顔をうずめてすりすりと顔を擦り付けてきました。 一生懸命背伸びをしても、私の胸にすら届かない身長のれみりゃ。私はれみりゃに向かい立て膝をし、抱き締めてれみりゃの顔を肩に乗せて頬擦りをします。 「う、うー…。こしょばゆいど、おねーさんっ!」 「れみりゃは、嫌ですか?」 「う、うう…」 抱き締められた状態から顔を赤らめ弱い力で嫌々をするれみりゃでしたが、私が嫌かどうかを聞くと赤らめた顔色を一層赤くして俯き、体を私に預けるままにしました。 全く、素直じゃないんだから。れみりゃの頬を甘噛みしていると、恥ずかしさに耐えられなく逃げるかの様に私に尋ねてきました。 「うああ、おねーさんっ! おねーさんは、なんでれみぃを呼んだんだど?」 「…あ、えっと。れみりゃは、なんで雨が好きなのですか?」 「うー? 雨の匂いが、好きだからだどおっ♪」 れみりゃが体をよじらせてはにかみながら応えます。 …雨の匂い、雨に匂いなんてあったっけ? あるにはあるがどぶ臭く嫌になる臭いがして、どうも私は好きになれそうに無い。 れみりゃは、その様な臭いが好きなのでしょうか。 「ふりゃんも、雨が好きだどお♪」 れみりゃが、顔は私に向けたままぷにぷにの腕ををふらんの方に向けて喋る。ふらんは隣の和室で頭に枕、お腹にタオルケットをかけてすやすやと眠っています。 タオルケット1枚では寒そうな気もしますが、まだ春だと言うのにしばらく暑い日が続いていたし、ちょうどいいのでしょう。 気持ちよさそうに目を細めて、口を開けてぐっすりと眠るふらん。端からはよだれが垂れちゃっています。 んもう、はしたないですね。しかし、むにゃむにゃと小さな口を動かしている様子がとてつもなく愛らしいのもまた事実。タオルケットも崩していないし、そっとしておきましょう。 「う~…。おねーさん、れみぃの話無視する! ぷんっ」 「え、ああ、ごめんねれみりゃ」 無視したつもりは無いけれど、結果的に無視した事になってしまいれみりゃを拗ねさせてしまいました。 謝りの言葉を口にしてれみりゃの頭を撫でなだめますが、れみりゃは頬を膨らませツンとそっぽを向いたままです。 ううん、どうしよう…。 「…外ににいくど」 「へ?」 「外に出て、雨の匂いを探しにいくんだどっ!」 れみりゃはぽてぽてとタンス前まで歩き、引き出しを引いて中からレインコートを取り出しました。下のズボンを履き、上をそのままはおろうとしますが中々うまく腕を通らないみたいで、着るのに悪戦苦闘しているれみりゃ。 何も言わずれみりゃに近づきレインコートの襟袖を持って、手伝ってあげます。 「う、うああ…」 れみりゃは言い出しっぺなのにレインコートを着るのに手伝って貰ったことが恥ずかしいのか、目の力を弱めながら身をよじります。 そしてすぐれみりゃは玄関へと続くドアを勢い良く開け、玄関前まで走ります。 「うー! おねーさん、早く早くっ!」 「…はいはい、今行きますよ」 れみりゃは足をじたばたし、今すぐにでも来て欲しいという素振りで私に振り向き言いました。 んもう、少したりとも待てないのですから! ふらんが一人になるし、私自身寝巻きのスウェット姿だから着替える時間が欲しいのですが…。 「うー、早くっ!」 …子供に待たせる程罪な事はありませんね。人から甘やかしと言われるかもしれませんが、せっかくの外出で気を滅入らせるようなことはしたくありません。 和室に行きふらんに行ってきますの挨拶とキスをして、テーブルにメモがきを置く。リビングのドレッサー前に行き、サッと引き出しからハンカチとティッシュを取り出しポケットに入れて、髪だけ整えて玄関へと向かいます。 「はーい、今行きますよ! 先に長靴を履いて、外にでて待っていてくださいれみりゃ!」 お気に入りのかえるのブローチを髪に結わえながら、すっぽりと長靴を履いたのは良かったもののやっぱり鍵を開けるのに悪戦苦闘しているれみりゃ。 代わりに鍵を開けてあげます。その時に、私用の長靴を履いておきます。 れみりゃはまたもや恥ずかしそうにたじろぎ、後ろから私の腰にぽふんと、ぎゅう~っと抱き付いてきました。れみりゃの手を取り、空いている手でドアを開けそのまま傘を持ち私たち二人は外へ出ました。 ☆ 「うあうあ、うーっ♪ 雨さんがいっぱいなんだどぉ!」 れみりゃはマンションを降りて外に出てからうきうきと元気いっぱいに辺りを跳ね回っています。私は傘を差していますが、れみりゃはレインコートを羽織っているため何ら問題はありません。 雨もどしゃ降りという程ではなく、変なたとえですが丁度いい具合の雨加減です。 行く道に水溜りを見つければ、わざわざジャンプして水溜りの中に入っていくれみりゃ。そのままパシャパシャと足を動かし感触や反応を楽しんでいるようです。 れみりゃの履いている黄色の長靴が自分の出番だと、誇らしげに光っています。 れみりゃがどうしてもとせがむから買ってしまったあの長靴、…正直出番が来て少しほっとしています。 まあ、買った一時でもれみりゃが喜んでくれれば良かったのですが。一応雨の日にはそこそこ使っているようなので新品と言えるほどピカピカでも無いですが、まだまだ新人、現役です! 「れみりゃ! 転ばないように、気をつけるのですよ! 振り向いたり、足元を見ていないときは足を止めるのですよーっ!」 「うあ? …うーっ!」 ほら、やった! れみりゃは私の方を振り向きながらも足を動かしているものですから、足を踏み外してしまいどってーんと大きな尻餅を付いてしまいました! 全く、言ったそばからやらかすなんてとんだお馬鹿さんなんですから! れみりゃは痛そうに打った腕を押さえて体を震わせながら目に涙を溜めています。 れみりゃの側に駆け寄り、ハンカチで涙を拭ってあげます。打った腕をさすってあげると、れみりゃは少し堪えた後、そんなの気にしないと言わんばかりに笑顔を取り戻しまた元気いっぱいに足をじたばたし始めました。 …私のそばで始めたものですから、私のスウェットはびしょびしょになってしまいましたが。 「…こぉるああああああ~! 私のスウェットに、何てことをするのですか~!」 「キャー、おねーさんくすぐったいんだどお~♪」 私はれみりゃの体全体をまさぐります。その度にただでさえ活発なれみりゃが動き回るので、バシャバシャとスウェットに水が掛かってしまいますが、後でクリーニングに出せばいいのです。 今は、遊ぶことが先決です! ☆ 「う! あそこにカタツムリさんがいるどぉ!」 今の時期にしては少し早い時期に咲いているあじさいの葉に、かたつむりが2、3匹乗っています。 れみりゃはあじさいに駆け寄り嬉々とかたつむりを観察します。つんつんとかたつむりの殻を突付いたり、葉っぱを揺さぶったり。 うーん、確かに幼児特有の多大なる物事の興味や感受性、微笑ましく思います。しかし、これは注意しないといけません。 れみりゃに目線を合わせるためひざ立ちをし、れみりゃに話しかけます。 「こら、れみりゃ。かたつむりさんをいじめちゃいけません」 「うあ、どうして? れみぃ、カタツムリさんをいじめてる訳ではないど?」 「例えれみりゃにいじめている気が無くとも、行為を受けている当人たちは嫌に思っているかも知れません。例えですが、私がれみりゃに良かれと思ってれみりゃに頬を叩くとしますが、れみりゃは叩かれるなんて嫌でしょう?」 「う? ううー…」 「端的に言えば、自分の嫌がる事を相手にやってはいけないのです。れみりゃはかたつむりさんにとってとてつもなく大きいのです、れみりゃもゴジラに突付かれたら嫌でしょう?」 「うー…。…うあ! れみぃは、自分がやりたいからやっているんだどぅ♪」 れみりゃは得意げに腰を振って私にダンスを見せつけます。 …全く、私の真似をして! 「どうせ、私が普段言っている事を適当に言っているだけでしょう?」 「う゛っ!?」 「…全く!」 私はれみりゃの頭を小突いてやります! …成長、なのかなあ。 子供は知らないところで、親を見て成長すると言うけど、ううん。感慨深いというか、れみりゃもただ日々を過ごしているだけではないんだな~、と、その…。 れみりゃは、あどけない表情で小さな舌をペロリと出しウインクをしてきます。さっきまでかたつむりが3匹乗っていた葉っぱには、新たにもう1匹かたつむりが乗っていました。 私はまたれみりゃの小さくてやわっこい右手を私の左手で包み、引き連れてあても無く次の場所へと歩き出しました。 傘にぶつかってパラパラと聞こえる軽く降る雨の音が、なんだか心地よく感じます。 ☆ 「うーっ! 空が割れてるどお!」 …家に居たときには気付きませんでしたが、外に出て空を見上げると既に一筋の光が、覆っている雲の隙間から顔を覗かせています。れみりゃには、これが割れているように感じたのでしょう。 れみりゃは空を指したしたまま嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて、筋を追うように道路を駆けて行きます。 こらこら、車が来るかもしれないですし、危ないですよ。私がのんびりれみりゃの元へ向かっていると、れみりゃが立ち止まり『早く早く!』と急かして来ました。 …もう一度、空を見上げる。さらさらと小粒になってきた雨を、光が照らすように差してきて、くっきりと浮かび上がってきます。 雨の、匂いかあ。 「はーい、今行きますよ、れみりゃ!」 雨は、好きになれそうもない。しかし、…何らかのきっかけを作ってくれる。 どんどんと遠くなるばかりのれみりゃを追い、私たちは別の場所へ向かいました。 おまけ 「ぶぇっくしょい! ああん、喉が渇いたよ、ふらん…」 「ふんだ! ふらんを、置いて行くからだもんね! 風邪なんて引いて、当たり前だい! ふんだ、すんだ! つーん!」 「うええ、れみりゃ…」 「うああ、…zzz」 「ああん、頭が痛いよ、寝付けない、誰か、ああ…」 名前 コメント
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キモチが壊れる瞬間、空気の色は確かに変わる。それは初雪の日の朝に、鼻をつく 真新しく痛みのある空気と似ている。 イメージ。壊れるという言葉は私の中でいつも特別な意味を持つ。 壊れることにより生まれる、別の新しい何かは 戸惑いのような曖昧なものでは無い。何時何分何秒、きっかりその瞬間から、違う景色を持つ新しい風景が表れるのだ。 いつも同じ位置に置かれたその油絵は いつも驚きに満ちている。放課後、美術室の窓際の位置に置かれたその絵を 学校の帰りにそっと覗くのがユリの日課だった。 其の年 はじめての雪の日、ユリのクラスの斜向かいにある美術室に 放課後、いつも同じ位置に置かれたその絵は、普段の色鮮やかなものと違って 木とベニヤで作ったキャンバスをただ白いペンキで塗りつぶしただけに見えた。 しかしその絵はなぜか教室の隅で力強い存在感を放っていた。 ある日の放課後、ユリはいつもと同じ場所にあるその絵を見ていた。いつもは教室の外からそっと覗いていたその絵を、その日に限ってどうしても側で見たくなった。いつもと違っていたもの、それは真っ白い絵の置かれた足下に、バラバラに引き裂かれた同じような白い絵が散らばっていたことだった。 「だれも、いないよね?」ユリはそう呟くと そっと ところどころに色の落ちた美術室に足を踏み入れた。油絵の具の匂いと シンナーのような匂いが複雑に混じりあい、窓から入る西日にあたためられて蒸発し、ユリの鼻をくすぐった。 「なんだろう、懐かしい匂い。」 ユリは小さい頃住んでいた小さなアパートを思いだした。 町のはずれを流れる 川の近くにあったその家のあたりは 当時道路もまだ鋪装されてはいなく、土の上に隣の工事現場の砂利の山からこぼれた 小さな石が ごろごろ転がっていた。 使わなくなった木製の電柱が積まれた空き地は、雨の日の後にはコールタールが流れ落ち、水たまりを虹色に染めていた。裏庭には廃車になったガラスの入っていない車の山。今だと町内会やPTAが問題視しそうな危険が一杯の其の場所でユリは良く遊んだ。そして其の場所が大好きだった。 「そうだ、あの場所の匂いがする。私の、秘密基地のにおい。」 そう、あの場所も夕方、日射しが照りつけると同じような油の匂いがしたっけ。 そういえば、あのときいつも一緒に遊んだ男の子は なんて言う名前だっけ? 私がまだ3つの時だから、もう、14年前。 記憶の隅に追いやられた筈の名前は意外と簡単に口をついた。 「じゅんくん、だ。」 懐かしい。一体彼はどうしているだろう。 (ガラガラ、、ドアの開く音) 次の瞬間、ふと目の前にある現実に引き戻された。其処にあるただの白いキャンバスと思っていた絵は、砂利や鉄の細かい屑を白く塗った上から ありとあらゆる白が塗り込められ、光の角度によって色々な白を放っていた。 氷のような、雪のような、水たまりの 虹色のような、、、。 ユリ「きれい」 純「ありがとう」 思わず口をついた言葉に反応する声を聞いた瞬間、ユリは驚いて飛び上がった。 おそるおそる声のする方を見ると ひとりの少年がこっちを向き照れくさそうに微笑んでいた。 純「絵、好きなの?」 ユリ「、、、、、、」 純「2年生だよね?」 ユリ「はい」 純「俺。去年までここの美術部にいたんだけど、一年の終わりに学校辞めた。絵、もっと、描きたくってさ。勉強とかしてる時間 勿体無くって。 でも時々お世話になった美術部の先生に絵を見てもらいにくるんだ。 先生の事だけは今でも尊敬してる。その他はつまんないことばっかりだったけど。」 ユリ「そう、なんだ。じゃあ、同じ年」 純「うん。」 ユリ「わたしのこと知ってたの?」 純「うん。憶えて、無いの?」 ユリ「うん?」 純「まじで?それに、、、、、」 ユリ「それに?」 純「小さいころ、良く遊んだじゃん」 ユリ「あ、、、、」 鮮明な映像が突然ユリの脳裏に浮かび上がった。 裏庭につもった真っ白い雪の山を、毎日近所に住んでいた男の子と二人でかき分けて踏みならし、3メートル四方程の広さを 絵の具の赤で印をつけ、毎晩熱湯をかけては固めて作った小さなスケートリンク。それは日に日に固まり、なめらかになり、二人の一番の宝物になった。 きらきらと雪が反射する。時々余りの美しさに目が眩む。はじめて買ってもらった白いスケート靴のひもを 手をかじかませながらきゅっ、きゅっと締める。スケート靴の不安定な靴底で そおっと氷の上にしゃがむ。おそるおそる立ち上がろうとすると たいがい片足のバランスを崩す。其の瞬間を待っていたように純はしっかりとユリの腕の付け根をもって支え、ゆっくりとたちあがらせる。そしてユリの両ひざがぴんとのびると、大丈夫だよ、というようににっこりと笑う。その表情を見て、ユリは初めてリンクの上を安心して滑りはじめることが出来たのだ。 それは小さいながらも ユリにとっては一番の至福の時だった。 でもある日を境に毎日ユリを迎えに来ていた純はぴったりとこなくなり、そしてユリもあのリンクへ二度と行くことも無く春を迎えた。それでもユリの心の中では愉しい想い出だけが鮮明に残っていた。 純「これ」 想い出にほころばせた頬をそのままにユリはじゅんの方を向く 純「今度、個展に出す作品なんだ」 ユリ「個展、やるの?」 純「うん。この学校からの決別、なんてね。嘘。本当は俺この場所が嫌いじゃ無かったよ。」 ユリ「じゃあ、何で辞めたの?」 純「俺」 ユリ「、、、」 純「描きたかった。一瞬一瞬の鮮明な映像を、このキャンバスの上に全部。俺、どうしてユリを迎えにいかなくなったか知ってる?」 ユリ「ううん」 純「あのスケートリンク、俺の親父が壊したんだ、物置きから鉄のスコップもってきてさ、ガツン、ガツンって何かを責めるみたいに。 理由は未だに分からない。でもそれを見かけた時、俺、心を壊されたって思った。何か親父としても嫌なことがあったんだろうけれど、、、許せなかった。」 ユリ「そう、、、、、、。」 純「俺、どんな理由があったって、人の幸せを壊す権利なんて無いと思うんだ。たとえ自分の幸せが壊れたとしても、、、、。でも。」 純「ユリと作ったスケートリンクで遊んだ想い出ではまだ俺の中にしっかりと残ってる。楽しいかったな。だから、俺、そういう瞬間を絵で表現したいんだ。それを見ると其の時がいつも其処にあるような絵を描きたいと思った。」 ユリ「すごい。」 純「え?」 ユリ「私にはそれを形にすることは、まだ、出来ないと思う。でもきっと、写真やビデオで記録を残すよりも それはきっと鮮明で きっと 物凄く正確に其の時間を刻んでくれるんだと思う。」 純「、、、、、この絵」 ユリ「うん?」 純「何枚も何枚も描いてやっとこれができたんだ。一枚一枚描いて行く度に、小さいころの記憶がどんどん蘇って、、、。」 ユリ「、、、、。」 純「最近、やっと親父を許すことができた。何かが壊れる瞬間を人は嫌でも沢山経験する。やけになることだって、ある。でもその度に新しい、何かとてつもなく優しい感情を一つ一つ貰っていける気がするんだ。 ユリと会わなくなってから、色んなことあったよ。愉しいことも、辛い出来事も、、、、。 だから俺はそれを一杯持ってる。たくさん傷付いた分、たくさんの優しさを。 だからそれを一つ一つこれから描く絵に塗り込めていくんだ。」 ユリ「、、、、おめでとう。」 純「え?」 ユリ「個展、見に行くね。新しいスタート、だもんね。」 純「うん、、!、、、、、、、、ありがとう?」 ユリ「うん?」 純は足下に散らばった引き裂かれた絵を書き集めて言った 純「去年の冬、今日みたいな初雪の日に。上手く行かなかったこの絵を引き裂いた。 其の時美術室を覗くユリを見つけたんだ。そうしたら、何か物凄く良い絵が描ける気がした。だから小さいころ遊んだあの場所で、鉄くずや砂利を書き集めてこの絵に塗り込んだんだ。あの頃の思いと一緒に。」 雪の匂いがする。大きな雪が降り出した窓を見つめたまま、、、、、。 2005/10/11 radio drama novel=Ree. voice act=Ree./masaru yamada
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花の匂い(はなのにおい) 2008/11/01(着うたフル) c/w - 前曲 HANABI 次曲 fanfare Mr.Childrenの配信シングル。Mr.Childrenとしては初の配信限定シングル。 東宝系映画『私は貝になりたい』(2008年版)主題歌で、Mr.Childrenが映画主題歌を担当するのは、『旅立ちの唄』以来約1年ぶりとなる。 メロディーはタイアップのオファー前から存在していたという。桜井和寿は「『私は貝になりたい』を観て、同時に父親が亡くなったって言うのもあったんで、それがこう……いい具合に命の尊さみたいなもの、あとは死んでもなお誰かの心の中で生き続ける命っていうのをタイミングよく乗せられた」と語っている。
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「……驚きましたね。ウィンドマイスターが関わって来るとは」 どこともつかぬ場所で、ヴァイスは呟いた。他でもない、凪とか言う少女の様子を見に行く途中、明らかに自分のことに気が付いていた男のことだ。 風真……風を操る先天性の能力者であり、その実力は折り紙つきの強者。噂だけは聞いていたが、まさかこんな街にいるとは予想外だった。調査不足か。 (趣味はともあれ、人格者でもある……意外と厄介なのが敵にいましたね) オタク趣味と言う欠点(?)はあるものの、面倒見が良いため意外に仲間は多い。本人も感知力が高く、しかも攻撃範囲が広い。ヴァイスにとっては相性最悪とも言うべき男だった。 (白波 シドウはあしらいやすかったのですが、これはそうも行きませんか) 凪を狙うならば、どうしても彼が邪魔になる。出て来られたら御破算だ。最悪、シギも諦めて逃走せねばならない。 (それでは本末転倒ですねぇ……) とはいえ、彼を恐れてあんな「逸材」をみすみす逃すのはさすがに惜しい。あれほど強くまっすぐな者は、なかなかに得がたい存在だ。ならば、どうアプローチをかけるか? そもそもどうやって壊しにかかるか? (ふむ……) ヴァイス自身は実のところ、壊した後には興味がない。壊すこと自体でもない、壊れる「瞬間」を求めているのである。それは例えば、子供達が冬の道路に張った氷を踏んで割って遊ぶのに似ている。 もちろん「歪む」のを見るのも楽しいが、「壊れる」時を見届けるのもなかなかに面白い。 そして、今回の相手は歪みそうにはない。壊してしまうのがいいだろう。では、どうやって? (……どんなに強い人間にも、アキレス腱になる部分がある。そこを突ければ、あるいは……) 歪める、壊す対象に対して、知識を得ることは惜しまない。少なくともそういう意味では、ヴァイスは人間を誰よりも理解していた。凪のアキレス腱は何だ? (って、考えるまでもありませんか) 一緒にいた少年に間違いないだろう。彼をどう使うか……。 しばらく考えて出した結論は、 「……古典的な方法(テンプレート)で行きますか。あの手の性格なら、これが一番効果的だ」 そして、 「ついでですから、あの機械兵も使ってみますか……ク、クククッ」 翌日放課後。僕は出際に鉢合わせた凪と話しつつ、家路についていた。 トキコも見たけど、話をしようにも質問攻めにあってしまって不可能だった。泣く泣く明日に回したのはここだけの話。 心身ともに調子は最高……だったんだけど、午前中がまるまる無断欠席扱いになっていたため、評定が落ちてしまっていた。あと、携帯を確認した所アルトからの着信があったため、「心配なく、みんな元気なので」とだけメールを返しておいてある。個人的には信用できるが、周りの人間を考えるとそれが限界だろう。 「とほほ、世の中上手く行かないなぁ」 「そりゃしょーがないって。アオイちゃんが血相変えて走ってたの見たぞ」 「ああ、聞いた。心配かけちゃったな、実際」 (んー、全部話したいところだけど……) 僕の知る限り、凪は能力者ではない。僕自身はウスワイヤにもアースセイバーにも属していないが、一般人を不用意に巻き込むのは倫理に反する。だからこそ、全てを話すことは出来ない。 幸い、能力関連の話を抜かしても筋の通る経緯だったので、特に怪しまれてはいないようだ。 「それにしても、噂のドジもそこまでいくと神がかりだな。いきなり倒れるとは」 「これはドジとは関係なーい! ていうか僕はドジじゃ……うわっと!?」 「……コケた。言ってる傍から」 な、なんでこうなるんだ……何にもないところなのに。 「やっぱりドジだ、お前」 「だーかーら、違うって言ってるだろーっ」 と言いつつ、最近では自覚せざるを得ない状況が続いていたりする。うぅ、何でこんなことに。 「ぷっ、はははっ……?」 「凪ーっ、笑うなよーっ! ……ん?」 起き上がって文句を言おうとしたその時、誰かが凪に何かを渡しているのが目に入った。 見たことのない男で、渡したのは手紙か何かのようだ。 何なんだ、とぶつぶつ言いながら、凪が中身を開いて目を通す。と、 「―――!!」 一瞬で顔色が変わった。な、何だ? 「凪? 何て書いてあっ―――」 「な、何でもない! 何でもないから!」 「ちょ、凪!?」 尋ねた途端、凪は首を振って一目散に駆け出して行ってしまった。明らかに様子がおかしかった……どうしたんだ? 「………何か、起こったのか」 「……ぅ……」 冬也が気付いた時、そこはどこか知らないビルの中だった。中を見回すと、調度品や家具、備品に類するものは全くなく、どころか壁紙の一枚もない、明らかな廃墟だった。 「ど、どうしてこんな……うっ!?」 思わず身じろぎをしようとして、身体の違和感に気付いた。―――手が動かない!? 「やっと目が覚めましたか」 「!?」 突然声をかけられた。肩を跳ねあげて視線を向けると、そこに立っていたのは、黒い帽子に黒いコート、黒い服に黒い靴、手袋まで黒で染め上げた怪人。唯一、帽子から覗く長髪だけが、色あせたように白い。 「な、なんだあんた……一体何が!?」 「おやおや、思い出しませんか? 最後に何が起こったか」 「!? ……」 慌てて記憶を探る冬也。謎の手紙を受けて学校を飛び出し、着いた先で突然意識が消え……。 「そう、ワタシが操ったのですよ」 「!?」 「ワタシの能力は、他者の意識を操る事と、他者に能力を目覚めさせること。そして目的は、他者の壊れる瞬間を見ることです」 「な………」 狂っているとしか思えないその言動に、アースセイバーの一員として以前に、個人として冬也は絶句する。 そんな彼には構わず、怪人は言う。 「さて、こうしてアナタを御招待したのには理由が在るのですが……説明しましょう」 「……」 「ワタシはついこの間、とある少女を見かけました。芯の強く、真っ直ぐそうな感じがしましたね」 いきなりの暴露に、冬也の背筋を冷たいものが伝う。 (まさか……!!) そして、それは的中する。 「なので、ワタシは彼女を『壊す』ための第一段階として、アナタをここに連れて来たわけですね」 「そ、それは……その人は、まさか……」 「凪、とか言いましたかね」 「!!!」 最悪の、形で。 「あ、あんた!! 凪姉をどうする気だよ!!」 「おや、たった今説明したはずですがね。壊すのですよ、もちろん」 「や、やめろ! そんなことさせてたまるか!」 必死で身を揺するも、背後の鉄柱に手錠で縛りつけられた体はその場を動いてくれない。 「大人しくしていてくれませんかね。ま、そのままでもいいですよ。どっちみち、彼女はとっくのとうに呼び出しましたから」 「なっ!!」 「さぁて、手筈通りに行くとしますか……ククク、早く来ないとワタシの方から出向いてしまいますよ? クク、ククククク……!」 もはや冬也には一瞥すらくれず、怪人は含み笑いを響かせながらその場を後にした。 「ま、待て……く、そぉっ……」 後には、ただ無力な少年だけが残されていた。 「さて、そろそろですかね」 外に出たヴァイスは、その場所……跡地に立っていた。何が起きてもおかしくないこの場所だ、自分がいても別にいいだろう。 無論待つは、呼び出しをかけた一人の少女。 「っと」 帽子の下から片方だけの視線が見つめる先に、目的の人影が姿を現した。 限りなく黒い緑の髪を持った、少女。 「言われたとおりに一人で来たぞ! 冬也はどこだ!」 「唐突ですね。まあいいでしょう、神は拙速を尊ぶ……と言いますし」 「どこだと聞いてるんだよ!」 「怒鳴らなくともお教えしますよ。ワタシの背後のビル、その4階の階段から数えて6番目の部屋です。もっとも、簡単には通しませんが」 言い、黒い薄手の手袋をはめた指を一鳴らし。瞬間、彼と少女……凪を阻むように、大群が現れた。 それは、無数の目と銃器を持った、命なき機械の兵士ども。 「その部屋に往くのなら、この『パニッシャー』を突破することです」 「……上等だ。相手になってやる」 言う凪の目が水色に変色し、右手に氷のサーベルが現出する。それを見て、ヴァイスは一歩下がる。 「おっと、ワタシは失礼しますよ。まだやることがあるのでね」 言い残すと、殺戮機械と戦い始める氷の剣士を横目に、人間離れした跳躍でその場を去った。 これで第一段階は終わった。パニッシャーの本体……端末である兵器部分を統括するAI部分、それを偶然発見したのはまさに僥倖だった。擬似的なものであろうと、判断する力があるなら「マニピュレイト」で操れる。 これほど融通の効く手駒はそうはあるまい。 「さぁ、て……次の段階へ入りますか」 閉じることのない機械の右目を光らせ、足音高く笑う道化師。 いつの間にか、空には月が昇っていた。 月光を跳ね返し、透徹の刃が舞う。 「っああっ!」 一閃する氷の剣に断ち切られ、一機が煙を吹いて沈黙する。「パニッシャー」とか言う機械は、狙いこそ正確だったが動きがバラバラだった。撃って来るタイミングが滅茶苦茶なせいで、同士討ちさえ何度か起こっている。 動きの遅い奴から順番に狙って行けば、剣を使う凪でも十分に戦えた。 とはいえ、 「ちっ、数が多い……」 これが唯一の問題だった。倒しても倒しても減らない。統制はないも同然だったので脅威ではないが、邪魔だ。 (時間がかかり過ぎる……冬也は!?) 見上げるビルに囚われている弟分が心配だった。あの黒ずくめの男、冬也をどうするという宣言や、自分に対する要求はしなかった。せいぜいが夕方渡された、「相方の少年を預かりました。地図の場所へ一人で来るように」という手紙くらいだった。だが、それが返って不気味だ。何の要求もないということは、何をするかわからないということでもある。その形のない不安が、凪の判断力を摩耗させる。 ―――だからと言って、それが致命的になるような状況でもなかったが。 「どけぇぇっ!」 焦りがさらなる力を呼ぶ。右手に持っていたのと同じ形状の剣が、振り切られた左手にも現れる。 まるでそれが自然な姿でもあるかのように、縦横無尽に、しかし淀みなく二振りの刃が閃く。 放たれる銃撃はしかし、正確ゆえに当たらない。狙って撃った時、既にそこに凪はいない。 その場にいた機械兵が全て沈黙するまでに、10分はいらなかった。 「全滅ですか。まあ、予定通りですがね」 配置した機械兵は倒されることが前提だ。「準備」の時間を稼ぐのと、凪の判断力・思考力を摩耗させるのが目的だ。ああいう手合いに効果的な「壊し」方はいくつかあるが、ヴァイスが今回選択したのは、その中でも最高にタチの悪いものだった。 「さて……そろそろ出番ですよ。クククク……」 笑う道化師の前に、少年は為す術を持たない。 「はぁっ、はぁっ……」 パニッシャーを全て撃破した時、凪の手に剣はなかった。最後の一機を止める際に折れ飛んでしまったのだ。 上がり切った息を何とか整え、冬也の所へ向かうべく走る。戦っている内に距離が離れてしまったらしく、目標のビルは存外遠くに。 脳裏に浮かぶのは、いつか自分が言った言葉。 『私がお前のナイトになってやる!』 だったら、今、自分が行かないでどうするのか。 「待ってろ、冬也……―――!」 ビルの入口が目視できる距離まで来た所で、凪の足が止まった。入口から中を遮る闇から抜け出るように、拍手をしながら黒ずくめの男が出て来たからだ。 「いや、素晴らしい。さすがの力ですね」 「嬉しくもない賞賛どーも。……私の弟分返してもらおうか」 「おや? ワタシは『倒せたら返す』などとは一言も言っていませんが」 「何!!」 反射的に声を荒げると、男は大袈裟な身振りでわざとらしく、 「おお、怖い怖い。怒鳴らないでくれますかね、ワタシはこれでも臆病なので」 などと言ってのけた。心底楽しそうに。 (コ、コイツ……) 「冗談はさておき、探し人ならこちらですよ」 男がすっ、と身を引くと、入れ替わるようにしてふらふらと歩いて来る人影があった。 暗くて見えづらいが間違いない、冬也だった。 「冬也!」 呼びかけて走る。一方の冬也の方は、疲労しているのか答えず、動きもどこか危なっかしい。 その肩を掴み、凪は呼びかける。 「冬也、怪我とかしてないか? 私が来たからもう安心だぞ」 「………」 「? 冬――――」 銃声。 「!? な……」 一瞬何が起こったのかわからなかった。一瞬先に不穏な空気を感じ、横に飛び退ったのが幸いした。が、代償に左手が霜に覆われ、凍てついていた。押さえつつ、無意識に後ずさる。 「冬、也、何を……!?」 「………」 答えない冬也。その手に握られるは……白を基調に青いラインが走る、拳銃のような武器。 それが何なのかは、いつの間にか入口の屋根に飛び上がっていた男から解説が来た。 「『アイスブラスター』という武器ですよ。能力犯罪者の鎮圧用に開発されたのですが、いかんせんアースセイバーだと使いようがないとのことでしてね。ちなみにそれは、あなたの家から頂いてきたのですよ」 「!?」 「おや、知らないのですか? ま、知らないならそれでいいでしょう」 それ以上男は口を開くことはなく、入れ替わりに冬也が攻撃を再開した。 のろのろとした動きで「アイスブラスター」を構え、凪をポイントして放つ。 「ッ!」 感覚のない左手を抱えつつ、かわす。動きが動きなので当たらない自信はあったが、それだけだ。 さっきまでとは全くわけが違う。守ると約束した弟分を傷つけるなど、考えた事もない。確かに、何回か因幡の白ウサギだの何だの言った事はあるが、本気でそうしようと思ったことはない。 そして、凪をもう一つ驚かせたのは、冬也の射撃能力だ。 (なん、だ、この正確さ!?) 瞳は虚ろながら、その銃撃は正確に手足を狙って来る。動きが遅いせいで避けるのは容易いが、いつまでもは持たない。 「どうす……なっ!?」 息つく間もなく次の衝撃が襲う。十数発目の銃撃をかわしたところで、突然冬也が自分のこめかみに銃口を向けたのだ。 「っ、何やってんだっ!!」 まさに電光石火。一瞬で走りこんだ凪の右手は、銃口を弾いて空に向けていた。一瞬遅れて青いマズルフラッシュが閃く。 「一体……」 「知りたいですか?」 屋根の上から声。男は、信じ難い事実を語る。それはそれは、楽しげに。 「彼にはあなたをその銃で攻撃する事と、もう一つ、いつまでもあなたが手を出さない場合、自分の頭を撃つよう暗示をかけてあります。いくら鎮圧用とはいえ、ゼロ距離で頭に撃ち込めば……わかりますね?」 「!! こ、の、外道……ッ!!」 「ああ、それです、その顔です。いいですねぇ、それが見たかったのですよ。手間をかけた甲斐があるというものです」 凪の怒りなどどこ吹く風と言った調子で、男は楽しそうに嗤う。 「ですが、まだ足りません。ああそうそう、暗示を解く方法はワタシが解くか、彼を殺すかのどちらかですので、よろしく。ついでに言えば、ワタシは言わない事はあっても、嘘をつくことは基本ないですから」 「――!!」 「では、さようなら。ワタシは遠くで観戦しますので、お気遣いなく殺し合って下さい」 言うが早いか、男は漫画のような跳躍力で屋根を蹴り、夜に紛れて姿を消した。 「待て、こ……くっ!」 追おうとした凪の前に、冬也の放った銃弾が着弾する。さっきまでの挙動を見るに、どうやら男の言った事は本当らしい。このままやられるわけにも行かない、だからと言って冬也を傷つけるのも論外。が、攻撃しなければ冬也は自殺してしまう。 まさに、八方塞がりだった。しかも懸念はさらに発生する。 もしここで凪が倒されれば、攻撃がなくなって冬也の自殺のトリガーが引かれてしまう。つまり、このままではどの道冬也は助からない。 「………」 「冬也、しっかりしろ! 私がわからないのか……!?」 答えは返らず、来るのは銃弾。 やむを得ずかわすと、今度は銃口が冬也自身に向く。 「っ!」 断腸の思いで蹴りかかると、銃口がゆっくりと凪に向けられる。が、 「!」 銃撃が放たれる前に、冬也の体は後ろになぎ倒されていた。 それでも表情一つ変えず、起き上がって凪に銃口を向ける。 「なんで……なんでだよ、冬也……何でこんなことに……!!」 状況は悪くなる一方。切り拓く術を持たないまま、刻一刻と破滅へのカウントダウンは進んでいく。 「…………」 一人佇み、瞑目し、能力を最大解放する。 (溶けて、合わせて、広がれ、『私』) その姿が、夜に紛れるように薄れ、消える。 どこまでも、どこまでも、自分が広がっていく、そんな感覚。 流れる視界の中に、「その人」を捉える。 「――――『見つけた』」 「!?」 「その声」が凪の耳に届いたのは、右手に再び剣を握ろうとした、その瞬間だった。動きがないために銃口を自分に向けようとしていた冬也の腕が、何かに押されるように後ろに流れ、それに引っ張られるようにしてたたらを踏む。 「落ちついて。方法はある」 「お前は……」 突然横に現れた少女に、凪は見覚えがあった。以前、「みんなを助けて」と泣きながら訴えて来た、あの女の子だった。 「あなたは、スザクを、みんなを助けてくれた。だから、私があなたを助ける、今度は」 「スザク……?」 「そう。でもそれは後。まず、冬也を止める」 言って、その少女はすっ、と指を差す。 「暗示を解く方法は、『三つ』ある」 「三つ?」 「一つは術者が解除すること。もう一つは対象者を殺害すること。三つ目は意識を失わせること」 一見矛盾しているようなその論理にも、少女は説明を加える。冬也に対して、機械兵の残骸を蹴りつけながら。 「暗示のレベルが低い場合、三つ目の方法が使えるのは。見る限り、あれは意識をなくした所にかけられている。夢遊病に近い状態。だから、気絶させれば目を覚ました時に解ける。パソコンを再起動するのと理屈は同じ」 「叩き起こせ、ってことか」 「……まあ、間違ってはないけど」 少々呆れたような口調で少女は呟き、すぐさま表情を元に戻す。 「方法は、あの銃を奪い取ることから」 「アイスブラスター、とか言ってたけど……」 「暗示の内容によるけど、あれを奪い取れば指示が実行できなくなって混乱するはず。そこを狙えば行ける」 「……わかった、やってみよう」 頷き、凪は今度こそ自らの意志で、冬也に向けて地を蹴った。 冬也の手から銃を奪う。それは、言うは易し、行うは難しを地で行く作業だった。凪からすれば、冬也を無用に傷つけるのは絶対に受け入れられない。つまり、アイスブラスターをピンポイントで狙わなければならないのだが、実戦経験の少ない彼女にそれは困難に過ぎた。 「く!」 押さえこめば簡単なのだが、どういうわけか普段とは段違いの膂力を発揮する冬也にそれは不可能だった。 マナと名乗った少女によれば、暗示の副作用で肉体のリミッターが緩んでいるためらしい。つまり、長引かせるのはどちらにも危険。凪のすべきことは、より迅速に、より正確に、銃だけを奪い取ると言う神業だった。 しかし、それでもやる。やらなければならない、ではない、やる。 約束したのだ、守ってやると。だから、 「絶対に……助けてやるからな、冬也っ!!」 気合と共に一閃した左手―――凍りついたことによる感覚喪失を強引に引き戻したそれは、至近距離で向けられた青い銃を見事にかすめ取っていた。 「! ? !?! ?」 瞬間、冬也の動きが明らかに鈍る。誤作動を起こした機械のように、意味のない挙動を続ける。そしてそれこそ、二人の意図した変化だった。 「ごめんっ!」 言って一瞬、首筋に鋭く手刀を打ち込む。命令系統が混乱を起こした冬也の体は、糸が切れたマリオネットのように崩れ落ち、その動きを止めた。 「冬也!」 「……大丈夫、解けた。目が覚めたらもとに戻ってる」 マナの言葉に、凪は泣きたくなるような安堵を覚えた。視界がくしゃり、と霞む。 「そうか……よかった……」 「……ただ、この記憶はおぼろげながら残ってるはず。多分、目を覚ましたらその事を聞いて来ると思う」 「え……」 だから、とマナはまっすぐに凪の目を見つめ。 「隠し事はしないで、話してあげて。悪い方には、変わらない。それは、絶対に、絶対」 「………」 しばらくの逡巡。そして、 「……わかった」 軽く頷いて、凪はそう答えた。そんな彼女に、マナは言う。 「その銃はあなたが持っているといい」 「え、でも」 「氷の力を持つあなたが、一番上手く使える。普段はこうして」 凪の足下に転がる銃を拾い上げ、グリップを銃身に収納して銃口を引っ込める。 「携帯式のライトとして使えばいい。ロックをかけておけば暴発の心配もない」 「……まあ、考えとくよ」 別のビルの屋上で一連の流れを見届けたヴァイスは、あからさまな落胆のため息をついた。 「またしても失敗ですか……しかも」 その表情が、ここ数年なかったものへと変わる。 「彼女が介入して来るとは……忌々しい。あの場所に引きこもっていればいいものを」 それは、紛れもない、怒り。 「何度も……何度も、ワタシの邪魔をする。そんなに惜しいですか、『これ』が……」 とは言いつつ、ヴァイスの手には何もない。 「そう簡単には―――」 『―――「見つけた」』 「!」 声が響いたと思ったその瞬間、目の前から溶け出すように、一人の少女が現れていた。 名は、夜波 マナ。波動を操り、自らをも波動と化し、いかせのごれに浸透させることで情報を集め、どこでも自在に行き来を可能とする、ヴァイスの天敵。 「やはりアナタでしたか……」 「当然。シドウさんから話を聞いた時、まさかと思ったけど……やっぱりあなただったのね」 見つめ返すマナの瞳に宿るのは、怒りと、少しの憎悪。口調も、いつものどこか無機質なものではなく、感情を乗せた人の言葉。 「どこまで追おうと無駄なことですよ。ワタシは、ワタシのやりたいようにやらせていただきます」 「止めて見せる、必ず。そして、返してもらう」 「言うだけならタダですがね。これ以上話をする気はありません、これにて」 言うや、ヴァイスはその場から一跳びに消えた。残されたマナは、それを追うでもなく、ただ呟く。 「……私は、あなたを許さない。絶対に」 「運が悪ければ、また会いましょう」 騎士の選択、少女の目的 (騎士は道を選択し) (少女は敵を捉えた) (道は少しずつ、交錯し始める)
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つゆのにおい【登録タグ つ 修造 曲 波音リツ】 作詞:修造 作曲:修造 唄:波音リツ 歌詞 あの日から数え切れないほど夜を一人きり過ごした ただただ薄れていく君の横顔 まるで掃き溜めのような部屋の窓から微かに差す朝日は 今の僕には眩し過ぎて目を逸らした 消したい 消えない この気持ちを 風に溶かしてくれ 梅雨の匂い 傷つかぬ様に 悲しまぬように 立ち止まって君を突き放した 降り止まぬ雨をただ待ち続けよう 部屋の中一人きり いつも横で笑う顔でもたまに見せる泣き顔 頭の中いつまでもこだましている 薄汚れた色の壁に飾られた写真に 映る僕は眩しすぎて塗りつぶした 確かに感じたのはひとつだけ 風が運んでくる 梅雨の匂い 当たり前のように優しさに甘え 立ち止まって君を突き放した 響くことの無い声で叫んでる 部屋の中一人きり 流れる涙は頬を伝って 二人の笑顔に静かに落ちた 時計の針は確かに時を刻んでいく 進むことの無い僕を残して いつも感じてたあの温もりさえ 今はもう届かない星の様で 汚れてしまった手を伸ばしている いつまでも 傷つかぬ様に 悲しまぬように 立ち止まって君を突き放した 降り止まぬ雨をただ待ち続けよう 部屋の中一人きり コメント 名前 コメント
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「あのね」 君は長いまつげを伏せたまま言った。 プールの金網に寄り掛かって青い空を仰いだ俺は、眩しさにやられ間抜けなくしゃみをひとつした。 「あの」 君は一度唇を結び、ゆっくりと白い手のひらを差し出した。 「とりあえず、返そっかそれ」 僕が着た君のスク水から、――夏の匂いがした。 https //twitter.com/chisell3/status/214653921568886784 基本情報 テンプレ名:「夏の匂いがした」 テンプレジャンル:E 概要・使い方 文末を「夏の匂いがした」と締めるSS形式。 流行った時期 2012年6月~7月 元ネタ 初出は以下のツイート 「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?」 「え、分かんなーい!」 「答えは、これさ」 パン、パン――闇夜の空で、色鮮やかな花火が刹那の輝きを放ちながら、僕達の体を照らし出し始めた。 「わあ、きれい……」 僕は彼女の手を握り、ゆっくりと深呼吸をした。夏の匂いがした。 https //twitter.com/km170/status/212139851594735616 で、局所的に流行した。 上記以外の使用例 「浴衣の下って何も着けないんだろ?」 「はぁ?そんな勘違いしてるのアンタだけだよ」 でも、僕は知っている。君がぱんつ穿いていないことを。不機嫌そうに下駄を響かせ人混みに溶けていく浴衣の袖を、そっと掴んでみる。 「人の居ない所に行こう」 振り返る君の後れ毛から、――夏の匂いがした。 https //twitter.com/sakurano_subaru/status/214665355883319296 「知ってる?ずっと昔、あの戦争の前、月はまん丸だったんだって。もっともっと綺麗だったんだって。」 君の鮮やかな緑色の指先が、茶色くふやけた月を指さす。 「ねぇってばー」 拗ねたようにこちらを見つめる瞬膜に覆われた深紅の瞳孔に思わず息を飲んで。 君と過ごす今は、夏の匂いがした。 https //twitter.com/dustpost/status/214694652119486464 街の花火大会が終わり、君と二人、帰り道にある公園。 浴衣姿で子供みたいにはしゃいであたりを駆け回る。 少し疲れてその場に座り込むキミと僕。 小さな小さな、二人だけの花火大会を始めよう。 僕はポケットから取り出したライターに火を点ける ーー夏の匂いがした。(マリファナを炙り始める) https //twitter.com/fuwafuwa_Fuaru/status/215032214122016768 「ピザって10回言って」「ピザピザピザ……ピザピザ」「じゃあ、ここは?」 彼が肘を指差すと、幼い頃の記憶が甦ってきた。転んで膝を擦り剥いては、手を差し伸べられた日々。でも、もう私は転んだりなんかしない。雨の音が耳を劈く中、濡れたアスファルトをしっかりと踏み締めた。夏の匂いがした。 https //twitter.com/km170/status/214278767072382976 その他 夏の匂い、感じるTL。 http //togetter.com/li/322923