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「りっちゃんはさ、ここって何だと思う?」 私の決心を知ってか知らずか、菖が急に話題を変えた。 何だと思う、か。 何なのかは私にも分からない。 推測はしているけど、それがあってるかどうかは自信が無い。 でも、一つの答えは確かに私の胸の中にある。 私がその答えを言葉にするより先に、菖が自分の推測を声に乗せていた。 「私が最初考えたのはね、殺し合いのゲームなんだよね。 よくあるでしょ? 何処かから誘拐した二人を密室で殺し合わせて、生き残った一人だけを解放するってゲーム。 最初はそういうあれかなって思ってたんだ」 「いきなり物騒な事を考えてるな、菖は……。 まあ、可能性としてはありうるけどさ」 「でしょー? でも、すぐにそうじゃないって思ったんだ。 殺し合うにしても武器も置いてないし、黒幕の指令みたいなのも無いじゃん? よくある映画とかだと、私達が目覚めた後に殺し合いの指令を出すのがお約束でしょ? それで、これはそういうゲームとは違うんだな、ってすぐ思ったわけ。 ま、それで助かったけどね。 私、りっちゃんと殺し合いなんてしたくないもん」 「私だってしたくねーよ。 でも、そういう変なゲームじゃなかっただけ、不幸中の幸いって所だよな」 「だねー。 でね、次に思ったのがこの部屋が何なのかって事なんだよね。 こんな影も出来ない、天井の高さも分からない部屋が普通の部屋なわけないよね?」 「そういや、菖はここが宇宙船の中じゃないかって疑ってたよな。 ぶっちゃけ、こんな部屋を地球人が作ったって考えるより、 宇宙人が建造した宇宙船の中だって考えた方がリアリティがあるもんな。 今の人類の技術じゃ作れないだろ、こんな部屋。 でもさ……」 私は口ごもる。 ここがもし宇宙船の中だったとしても、私的にはそれで構わない。 むしろ宇宙船の中であってくれた方がすっきりするし、かなり助かる。 宇宙人が私達を監視してても、気分はそんなによくないけど別にいい。 そう考えてしまうのは、私の中の想像がそれよりも最悪な物だからだ。 私だけじゃなくて、多分、菖の想像も私と同じだと思う。 菖はそれについてどう考えてるんだろうか。 それを菖に訊ねるのは正直怖い。 でも、訊かないままで居るのも怖い。 だったら、訊いた方がずっとマシじゃないか。 私は意を決して、高鳴る心臓を抑え、それを菖に訊ねる。 「ここが宇宙船の中だって考えるのはいいけど、 それだと一つどうしても説明出来ない事があるよな? ……うん、私達の身体の事だよ。 私達、ここで目を覚ましてから何も食べてないだろ? 水だって一口も飲んでない。 なのに、全然腹減ってないし、喉だって渇いてない。 トイレにも行ってないし、汗だって一滴も出てないんだよ、あんなに動き回ったのに。 こんなの宇宙船の中でだってありえるか? そういう生理現象無しで活動出来るくらい、宇宙船ってのは便利に出来てるのか? いや、いくら何でも、どんなに科学力が進んでてもそれは無理だろ? だとしたら、私達の身体は……」 「死んでる……のかもね」 菖が何でも無い事みたいに簡単にそう言った。 まったく……、何でこいつはそんな言いにくい事を簡単に言えるんだ。 私と一緒に居て安心出来てるからって言ってたけど、そんなに安心出来るもんなのか? でも、菖の言葉は私の考えていた事でもあった。 持って回った言い回しをしたって意味が無いし、菖のやり方は別に間違ってない。 怖いと思っちゃうのは、単に私がちょっと臆病だからだろう。 大きく深呼吸。 震え始めた指を握り締め、拳を作る。 出来る限り表情を落ち着けてから、菖の髪を軽く弄って言ってやる。 「そんな言いにくい事をあっさり言うなよ、菖。 言うのに躊躇っちゃってた私がヘタレみたいじゃんか」 「でも、そう思ったから、 りっちゃんにちゃんと言っとかなきゃと思って」 「分かってるよ。 うん、怖がって目を逸らしてても仕方が無いよな。 多分、菖の言う通りだよ。 飲まず食わずで四日間も平気で居られるはずないもんな。 私達の身体がそういう生理現象を必要としなくなってるんだよ、多分。 例えばもう死んでるとか……。 そう考えれば、この空間の説明も出来るかもしれないよな。 この空間は宇宙船の中なんかじゃなくて、 死後の世界の魂かなんかが集まる場所で、私達はそこに閉じ込められてる。 何でここに閉じ込められてるのかは分かんないけど、 もしかしたら閻魔様の裁判の順番待ちの空間だったりとかしてな。 宇宙船の中だって考えるより、そう考えた方がよっぽど現実的だしな」 自分で言ってて、何だか嫌な気分になって来た。 だって、そうじゃんか。 何が嫌で自分達の死を認めるような事をしなきゃいけないってんだよ。 勿論、そうと決まったわけじゃない。 他の理由でこの空間に閉じ込められてるって可能性も勿論あった。 例えば私達の身体がいつの間にかサイボーグに改造されてて、 それで飲まず食わずで平気で活動出来てるとか、それとも、何もかも仮想現実だったとか。 どっちにしてもろくな考えじゃないし、両方とも死ぬのと同じくらい嫌な事だ。 「かもねー。 でも、閻魔様の裁判の順番待ちってのは考えてなかったよ。 私はもしかしたら自分が死んでるのかも、って考えてただけだったもん。 何だか本当にそんな気がして来たな。 もしかしたら、本当にりっちゃんの考えがあってるのかも」 輝く金髪を靡かせて、菖がまっすぐな視線を私に向けて言った。 その瞳には純粋な感心の色しか感じられなかった。 菖はやっぱりここで目を覚ました当初から変わらない。 自分が死んでるかもしれないって事が怖くないんだろうか? 私がそれを訊ねると、菖は軽く苦笑して自分の想いを口に出してくれた。 「失敬な。 私だって勿論怖いよ、りっちゃん。 まだまだやり残した事があるし、晶や幸とも遊び足りてない。 りっちゃんや唯ちゃん達とももっともっと遊びたいし、もっともっと仲良くなりたいよ。 冬物のファッションもチェックするつもりだったし、そろそろパーマも当て直しておきたいしね。 でもね、よく言うでしょ? 『人は一人きりで生まれ、一人きりで死んでいく』って。 私もよく分からないんだけど、その言葉が正しかったら、 人間は一人で生まれて一人で死んでいくものだって事になるでしょ? だから、思ったんだよね。 私だって死ぬのは嫌だし、もう死んでるなんて考えたくないよ? でも、私の隣にはりっちゃんが一緒に居てくれて、笑ってもくれてる。 だったら、私はまだ一人で死ぬしかなかった人生よりは幸せだったんじゃないかな、って。 ううん、私は幸せなんだよね、りっちゃんが傍に居てくれて。 こんな事言われても、りっちゃんは迷惑かもしれないけど……。 勿論、まだここから脱け出すのを諦めたわけじゃないよ。 まだやりたい事も多いし、りっちゃんと澪ちゃんを再会させてあげたいから!」 最後には力強い言葉で菖が宣言してくれてたけど、私は別の事を考えてしまっていた。 そうなんだろうか……。 私も菖と一緒に居る事で、どうにか混乱せずに平静を保ててるつもりだ。 今まで以上に菖の色んな一面を見れた事も嬉しい。 私はこれを幸せと感じていいんだろうか。 最期の時、一人でない事を喜ぶべきなんだろうか。 私は本当に一人で生まれ、一人で死んでいく人生を送るはずだったんだろうか……。 それはまだ、 分からない。 * 多分、五日目。 私も菖も口数は多い方だと思うけど、 流石に連続で五日間も二人きりで喋り続けていると、話す事が無くなってきた。 どちらともなく口数が減って、いつの間にか二人でしばらくぼんやりしていた。 そろそろ本気で自分達のこれからを考えなきゃいけないのかな。 この空間での永住の可能性を考えるべきか、それとも……。 そう私が思い始めた時、不意に菖が真っ白い床を軽く叩いた。 一度だけじゃなくて、二度、三度と両手でリズミカルに叩き続ける。 自分達の現状に苛立ったとか、何も出来ない自分自身に悔しくなったとか、 そういうある意味当然の感情で、菖がそうしたわけじゃないのはすぐに分かった。 「ちぇー……」 十何度か床を叩き終わった後、菖が残念そうに口先を尖らせた。 私だって口の先を尖らせたかったし、菖のその気持ちはよく分かった。 菖が残念そうな表情をしている理由……。 それはとても単純な理由だった。 床を叩いても何の音も出ないからだ。 特殊な素材だからなのか他の理由からなのか、 とにかく叩いても殴っても飛び跳ねても、床からも壁からも何の音も聞こえないんだよな。 正直、これは私達にとってかなりの大問題だ。 自分達の奏でるリズムを耳で確認出来ないなんて、ドラマーとしてはかなりの拷問だよ。 「うおりゃっ!」 菖に倣って、私も勢いよく自分の手を床に振り下ろしてみる。 かなりの速度で振り下ろしたはずだ。 だけど、床からはやっぱり何の音も出なかった。 それどころか、私の手のひらにも何の痛みも感じる事が無かった。 柔らかい素材じゃないはずなのに、痛さどころかろくな感触すら感じない。 前にテレビで観た衝撃緩和材の映像を思い出しちゃったくらいだ。 試そうとは思わないけど、ひょっとしたら頭を思い切りぶつけても無傷で居られるかもしれない。 ったく、全くわけが分からない。 とにかく、分かっちゃいた事だけど、結局、この空間は何でもありなんだな。 「勘弁してほしいよねー」 苦笑いを浮かべて、菖が私に視線を向けた。 私も苦笑しながら、肩を竦めてそれに応じる。 「だよなー……。 スティックが無いのは仕方が無いにしてもさ、 手で叩いたら床からくらい何か音出してくれてもいいじゃんかよー。 これじゃストレスが溜まっちゃうっつーの」 「うんうん、ドラマー泣かせだよね、この部屋。 ドラマー心を何も分かってないよ! ドラマーはドラムを叩いてない時でも、リズムを感じて生きてるんだもんね! リズムを取らずにはいられない生き物なんだから!」 「いや、そこまでは言ってないんだが……」 「あれっ? でも、りっちゃんも分かるでしょ、この気持ち?」 「分かるけど、何つーか……」 そこまで言ってから、私はちょっとだけ笑う。 苦笑じゃなくて、普通の笑顔になって、吹き出してしまう。 その私の笑顔を不思議に思ったらしく、菖が首を傾げて私に訊いた。 「私、何か面白い事言っちゃった?」 「いやいや、そうじゃなくてさ、 何つーか、菖もドラマーなんだなー、って思っちゃってさ。 そういや、私達ってドラマーなのに、二人で居る時はあんまドラムの話をしなかっただろ? 面と向かって改まって話すのが変な感じがしたから、ってのもあるけどな。 だから、新鮮なんだよな、菖とドラムの話をするって事が。 照れ臭い気もするし、妙な気分だけど、何だか嬉しいんだよな。 当たり前の事だけど、菖もドラムが大好きなんだよな」 「勿論だよ、りっちゃん。 私だって伊達や酔狂でドラムをやってるわけじゃないんだよ? 晶と一緒に演奏したくて続けてきたドラムだけどね、 でも、晶の事を抜きにしてもドラムの事は大好きだもん。 私が思いっ切り全身で動いて演奏のリズムをキープして、 それに晶のギターと幸のベースが合わせて音階を奏でてくれて……。 何て言うか、それがすっごく気持ちいいんだよね! だから、私はドラムが大好きなんだ」 嬉しくなってくるくらい明快な言葉だった。 考えてみりゃ、私よりずっと上手いドラム捌きを見せる奴なんだ。 それが当然なのかもな。 私も菖に負けないくらい、いいドラマーになってみせたいな……。 どんどん上手くなる澪やムギと、 まあ、一応、唯も含めてやって、皆の足手纏いにならないように。 まだまだ皆と演奏し続けたいからな。 と。 不意に菖が私の肩に腕を回して笑った。 「りっちゃんだって、ドラムの事が大好きなんでしょ? 分かるよ、りっちゃんのドラム、すっごく楽しそうだもん。 私もりっちゃんみたいに思い切り自由に叩いてみたいなー」 褒められてるのか貶されてるのか分からない言い方だったけど、 菖の今の表情から考えると、本気でそう思ってくれてるんだろう。 まだまだ未熟な私だけど、菖にそう言ってはもらえるくらいの演奏は出来てるのか……。 勿論、腕の差ははっきりしてるけど、何だかとっても嬉しかった。 私も照れ隠しに菖の方に腕を回して、肩を組んでから笑ってみせた。 「褒めるな褒めるな。 そりゃドラム大好きで仲間思いの律さんだし? 自由に楽しく演奏出来るのは当然って言うか? でも、私だって菖のドラムが好きだぞ。 上手いし、あの晶と幸を引っ張れてるじゃん。 ぶっちゃけた話さ、いつも凄いなーって思ってんだよな。 うん、ある意味で目標だよ、菖のドラムはさ。 私も菖に負けないように頑張らなきゃな」 すぐに菖の調子に乗った突っ込みが来るだろうな、って私は思ってた。 『そんなに褒めても何も出ないよ、りっちゃん!』なんて軽く叩かれるはずだって。 でも、どれだけ待っても、私の予想してた菖の突っ込みは来なかった。 何かあったのかな、と思って肩を放して、菖の表情を確認してみた私は驚いた。 菖が顔を真っ赤にして、私を見つめていたからだ。 「あの……、菖さん……?」 私が何か変な事を言ってしまったんだろうか? 不安になって訊いてみると、菖がはっとした顔で早口に捲し立てた。 「もも……、もう! りっちゃん、いきなり褒めるからびっくりしちゃったじゃん! そ、そりゃ私だって頑張ってるし、それなりに叩けるようになって来たと思うけどね。 でも、でもでもね、やめてよね、もう! 私って、あんまり褒められるの慣れてないんだから!」 言い終わった後、菖は私から顔を逸らして口を閉じた。 でも、顔を逸らしていても、菖の頬がまだ赤く染まっているのは分かった。 何だかよく分からない内に叱られてしまったみたいだけど、 菖が何を言いたいのかは私にも何となく分かった。 菖はきっと本当に褒められ慣れてないんだろう。 晶は素直じゃないから、人を褒めるようなタイプじゃない。 幸は菖の事を褒めてくれるだろうけど、 優しくて控え目な幸だからそう言ってくれてる、って考えてしまっていたのかもしれない。 褒められる事に慣れてないんだ。 菖はいつも元気だけど、何となくそういう所がある気がする。 胸がAカップだって事も気にしてるみたいだし、 ファッションや髪型にこだわるのも、ひょっとしたら自分に少し自信が無いからかもしれなかった。 だからこそ、褒められると戸惑う事もあるんだろう。 私にはそれが分かる気がする。 多分、私もそうだから。 私も人から褒められる事に慣れてない。 澪がたまに褒めてくれても、恥ずかしくなって本気で取り合えない。 どんどん上達する皆の演奏を聴いてて落ち込む事も、最近になってよくあった。 自分にあんまり自信が無いんだと思う、私も。 多分、菖と同じで。 でも、それが分かったからと言って、二人で慰め合うのは何だか違う気がした。 私はそんなの求めてないし、菖だってそんな事を求めちゃいないだろう。 私達が求めているのはもっともっと違う事だ。 瞬間、私は不意に一つだけいい事を思い付いた。 慰め合うんじゃなくて、気休めの言葉を掛け合うわけでもない。 でも、今の私達にぴったりの、元気になれる方法。 それは……。 私は一人で頷くと、学園祭の時からずっと着たままの衣装のシャツを脱ぎ始める。 「ちょ……っ! 何やってんの、りっちゃん!」 多分、さっきまでと違う理由で顔を赤くして、菖が私に動揺の言葉を掛ける 私はそれを無視して、次は衣装のズボンも脱いで下着姿になった。 思った通り、服を脱いでも暑くも寒くもなかった。 だったら、何も問題無い。 私は脱いだ衣装を畳んで、真っ白い床に重ねた。 強く、二回叩いてみる。 トン、トン。 ちょっと間の抜けた音だけど、贅沢は言ってられない。 私は菖に出来る限りの笑顔を向けると、言ってやった。 「よっし、準備完了!」 「じゅ、準備って何の……?」 「ドラムだよ、即席ドラム。 床から音が出ないんじゃ、他の物を叩いて音を出すしかないもんな。 自分の足を叩いてもいいけど、それは何か違う気がするし。 しかし、服を重ねる事で、私はこうして即席ドラムを完成させた! 誰の仕業かは知らんが、こうして私のドラマー殺しのこの空間に打ち勝ってやったのだ! ははっ、ざまーみろ!」 私の言葉が終わった後、菖はしばらく呆然とした表情で私を見ていた。 うっ……、流石に馬鹿っぽかったかな……? 結構、いい方法だと思ったんだけどな……。 ちょっと不安になったけど、私は菖の横顔を見ながら次の言葉を待つ事にした。 これが私の空回りだったとしたら仕方が無い。 その時はちゃんと菖に謝らないと……。 そう思い始めた時、菖がその服を重ねただけの即席ドラムの前に陣取った。 トントントトントントントトントン。 菖がスティック無しで軽快なリズムを叩く。 音こそ間抜けだけど、床自体を叩くよりは何倍もよかった。 私の顔を見て一息吐いてから、菖が不敵に笑った。 「うん、床を叩くよりずっといいじゃん。 私、こんなの思い付かなかったなー、やるじゃん、りっちゃん! ありがとね、これで少しはドラムを叩けないストレスが無くなりそう!」 「どういたしまして」と頭を掻きながら、私も即席ドラムの空いたスペースを叩いた。 音は間抜けで、スティックも無くて、叩きにくいったらありゃしない。 我ながら酷い即席ドラムだ。 でも、無いよりはずっとマシだったし、気持ちもかなり楽になった。 あんまり自分に自信が無い私。 褒められ慣れずに、色んなコンプレックスを抱えてる菖。 それを乗り越えるために必要なのは、多分、慰めの言葉や傷の舐め合いじゃない。 どんな形でも少しずつ前に進んでるって思える事。 こんな形でしかなくても、ドラムの練習を続けられる事。 自分の好きな事を努力し続ける事。 それしかないんだと思う。 その先に何も無くたって、私はこんな自分と一緒に前に進みたい。 不安に満ちたこの空間。 もう死んでるかもしれない私達。 だけど、今だけは前に進めて笑顔になれた。 それだけで今は十分だった。 とにもかくにも、私には仲間が居るんだって事が分かったから。 それから、多分三時間以上、 私と菖は間抜けなドラムを笑顔で叩き続けた。 * 不意に、私は目を覚ました。 何だか長い夢を見てた気がする。 夢の中では私はまだ高校生で、梓を含めた五人でライブをしてた。 それ以上の事は思い出せなかったけど、結構楽しい夢だった感覚だけは残ってる。 楽しかっただけに、振り返るとちょっと辛い。 どんなに望んでも、私があの時間に戻れる事はもう無いんだ。 当たり前の事だけど、今はそれが辛かった。 梓は勿論、私はもう澪達とも再会出来ないかもしれない。 こんな真っ白い空間にずっと閉じ込められ続けるかもしれないんだから。 大きく溜息を吐いて身体を起こすと、 私の隣で寝息を立てている菖の顔が目に入った。 綺麗な金髪を輝かせる菖は、その目の端も輝いていて……。 瞬間、私は動揺してしまった。 菖の目の端を輝かせてるのが涙だって事に気付いたからだ。 いや、欠伸かもしれない、と考えて、すぐに首を横に振る。 菖の目の端を濡らしている涙の量は、欠伸なんかで出てくる量じゃなかったからだ。 大粒って程じゃないけど、それなりの量の涙が溢れて、たまにこぼれ出している。 どんな夢を見ているのか分からないけど、とにかく何か悲しい夢を見ているんだろう。 それとも、私の前では我慢してた涙が、眠っている時に溢れ出しているのか。 とにかく。 泣いているんだ、菖は。 こんなにも、いっぱいの涙を流して……。 考えてみれば当然だった。 こんな異常事態が平気な人間なんて、そう居るもんじゃない。 ずっと明るく振る舞ってたから、気付かなかった。 いや、気付かない振りをしてたんだと思う。 菖が元気だから私も元気になろう、って無理矢理に自分に言い聞かせてただけだ。 菖が元気で居てくれないと、自分も元気で居られそうでなくて怖かったんだ。 菖のおかげで、無理して元気を出せてたんだ。 そんなはずないってのに……。 私は胸に痛みを感じて、頭を抱える 駄目だ、やっぱり……。 こんなに菖に頼り切ったままじゃ……。 もう見て見ぬふりなんて出来ない。 考えなきゃいけないんだ。 もう元の生活に戻れないかもしれないって可能性を。 「晶……、幸……、ごめ……ん……」 消え入りそうな声が聞こえて、驚いた私はもう一度菖の顔に視線を戻した。 菖の目蓋はさっきと変わらず閉じたままだった。 どうやら寝言だったらしい。 どうも晶と幸の夢を見ているみたいだ。 何が『ごめん』なのかは分からない。 もう二度と会えないかもしれない事の謝罪なのか、 それとももっと他の理由からの二人への謝罪なのか。 それは私には分からなかったし、もしかしたら菖自身にも分かってないのかもしれなかった。 そして。 「ごめん……、澪ちゃん……」 その言葉を最後に、菖の寝言は聞こえなくなった。 夢も見ないくらいの深い眠りに入ったんだろう。 多分、それでよかった。 私の勝手な願いだけど、今だけは菖に苦しまずに眠っていてほしい。 それにしても、澪の名前が出て来るとは思わなかった。 寮ではあんまり絡みがあるようには思えなかったけど、 ここに来てから妙に気にしてたみたいだし、澪に対しては何か思う所があるんだろう。 ひょっとして、好き……とか? 何となく複雑な気分だけど、菖が澪の事を好きだってんなら私も応援してやりたい。 きっとそれがこの空間で菖に救われ続けた私に出来る事だろう。 でも、その前に私達は話し合わなきゃいけない。 これからの私達が選ぶべき道を。 それがどんなに残酷で辛い道だとしても。 4
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私が呆れた感じに呟いてやると、急に菖が「何をー!」と叫んで私に飛び掛かって来た。 勿論、私を押し倒そうとしたわけじゃない。 単に照れと自分の涙を隠すために飛び掛かって来ただけだ。 私は腹と腰に力を入れて、菖の身体を正面から抱き留めてやった。 菖の体温を感じる。生きている熱を感じる。 菖の心臓の音が強く聞こえる気がするのは、菖が緊張してるからだろうか。 それとも……。 「もう……。 りっちゃんったら、抵抗しないんだね……。 私の事を信じてくれてるんだ……」 菖が私の胸の中で小声で呟いた。 「当たり前だろ?」って言いながら、私は菖の綺麗な金髪を撫でた。 パーマが当てられてるから凄くサラサラってわけじゃない。 でも、十分過ぎるくらい指通りのいい髪質だった。 何だ、やっぱり菖も十分可愛い女の子じゃん。 もうしばらく菖の髪を撫でていたかったけど、菖が不意に胸の中で震える声をまた出した。 今までみたいに緊張してるわけじゃなくて、 何かを申し訳なく感じてるみたいな声色だった。 「ありがとう……。 でも、ごめん、りっちゃん……」 「いきなり何の話だ?」 「私ね、思ったんだ。 この真っ白い部屋って、結局、何なんだろうって。 部屋自体より私達の身体の方が変になっちゃってるこの部屋……。 私達がもう死んじゃってるって考え方も出来るけど、 私、一つ心当たりって言うか、想像しちゃった事があるんだよね。 ひょっとしたらね……、 ここは私の心が創っちゃった心の中の世界なんじゃないかって」 「心の中の世界……?」 「漫画とかでよくあるでしょ? 何か辛い事があった時とか、現実から逃げたい時とかに誰かが心の中に世界を創るって漫画。 私はそんなに辛い事があったわけじゃないけど、もしかしたらって思うんだよね。 さっきも言ったけど、こんな事でもないと、 私、りっちゃんに好きだって言う事は無かったと思う。 これでも墓場まで持ってくつもりだったんだよ? りっちゃんは絶対澪ちゃんと付き合ってるって思ってたしね……。 だから、思ったんだ。 この白い部屋は、私がりっちゃんと仲良くなりたくて無意識に創った部屋なんじゃないかって。 りっちゃんを独り占めしたくて、創り上げちゃった部屋なんじゃないかって。 だからね……、ごめん……」 私の胸の中で菖が身体を震わせ始める。 真偽はともかくとして、菖は本気でそう思い始めているらしい。 言われてみれば、その可能性は確かにあった。 この白い空間が人間の手で作られた物じゃないのは見るからに明らかだ。 何より、私達の身体の異常が、この空間が現実世界じゃないって証明してるようなものじゃないか。 私達の意識が死んだ後に残ってるって考えるより、 ここが菖の心の中の世界って考えた方がかなり理屈に適うしな。 そう言えば、菖はこう言っていた。 『私は幸せなんだよね、りっちゃんが傍に居てくれて』って。 それは言葉通りの意味だったのかもしれない。 私の傍に居たくて、菖の心の中にこんな白い空間が出来ちゃったのかもしれない。 小さく溜息を吐いてから、私は胸の中に居た菖の両肩を掴んだ。 そうやって自分の身体から引き離して、真正面から辛そうな菖の瞳を見つめてやる。 菖は今にも泣き出しそうな顔をしていたけど、私から視線を逸らさなかった。 何を言われても私の言葉を受け取める覚悟があるって事なんだろう。 私は大きく頷いて、その言葉を菖に届けた。 「だったら、この空間の名前は『殺女フィールド』で決定だな」 「……えっ?」 「勿論、あやめは殺す女って書くやつだぞ。 かなりいいネーミングだと思わないか? いやー、困ってたんだよなー、この空間の呼び方が決まらなくてさ。 ああでもないこうでもない、って結構悩んでたんだぜ? 何はともあれ、名前を決められてよかったよ」 「えっ? えっ?」 菖が今まで見た中で一番間抜けな表情を浮かべて、戸惑いの声を何度も上げる。 ネーミングセンスを褒めてくれなかったのは残念だけど、 私は口の端をニヤリと曲げてから、悪い笑顔で話を続けてやった。 「むー、何だよー。 折角、いい名前が決まったんだから褒めてくれよ、菖ー」 「別にそんなにいい名前じゃな……じゃなくて、りっちゃんったら何を言ってるの? この部屋は私の心が創っちゃった部屋なのかもしれなくて、 それにりっちゃんが巻き込まれちゃってるのかもしれないんだよ? だったら、もっと……」 「もっと……、何だよ? この『殺女フィールド』は確かに菖が創った空間なのかもしれない。 私と仲良くなりたくて創っちゃった空間なのかもしれない。 でもさ、それって可能性だろ? ねえ、菖さん? 可能性に踊らされるほど、私は単純じゃなくてよ?」 「で、でも、一番高い可能性だと思うよ? こう考えれば色んな事に説明が出来るし、 りっちゃんとずっと一緒に居られて嬉しかったのは本当だし……。 私、りっちゃんと二人きりになりたいって何度も思ってたし……」 「でもさ、菖は晶や幸ともまた会いたいだろ?」 私が言うと、菖ははっとした表情になって言葉を止めた。 言っていいものなのか迷ったけど、私は昨日寝ていた時に見たものを伝える事にした。 「私、見たんだよな。 菖がさ、昨日寝ながら泣いてたのを。 それも晶と幸の名前を呼びながらさ。 それってやっぱりまた晶達に会いたいからだろ? 晶達だけじゃない。 澪や唯やムギや家族ともまた会いたいだろ? 私だって会いたいよ。また皆と会って遊びたいよ。 なあ、菖……、私も思ったんだ。 菖は私と一緒に居られて嬉しかったって言ってくれた。 二人っきりになりたいって何度も思ってたって言ってくれた。 でも、菖の中の想いはそれだけじゃないだろ? 菖は好きな人以外の皆も大切にする奴だろ? 迷惑かもしれないけど、私の中では菖はそういう奴なんだ。 友達や仲間を大事にする奴なんだよ。 そんな菖が私だけを一人占めして喜ぶわけないよ。 皆と一緒に楽しみたいはずなんだ。 『君さえいれば他に何もいらない』。 ……なんてよく聞くフレーズだけど、実際はそんな事無いよな。 私だったら嫌だな。欲張りなんだよ、私。 誰か一人だけ居れば他の物はいらない、って言えるほど謙虚じゃないもんな。 仲良くなった皆といつまでも仲良くしてたいんだ。 一人だけなんて選べるかよ。 ……菖は違うのか?」 「私……、私は……」 菖が視線を彷徨わせる。 私の言葉に自分の本当の気持ちを見失いそうになってしまってるのか。 いや、そうじゃない。 本当は気付いてるはずなんだ。 菖だって大勢の大切な仲間を持ってる奴なんだから。 しばらく経って、菖が視線を私の瞳に戻した。 瞳を強く輝かせて、私を真正面からじっと見つめて強く言ってくれた。 「うん、私もまた晶や幸と遊びたい。 澪ちゃんや唯ちゃん、ムギちゃん達とだってもっと仲良くなりたい。 りっちゃんと一緒にまた外で遊びたいよ。 特にりっちゃんとショッピングとかしたい! りっちゃんをもっともっと可愛くしてあげて、皆をびっくりさせたいし!」 それはちょっと勘弁してほしかったけど、菖の意志が固まったのならそれでよかった。 菖が私の好きな菖で居てくれて、本当によかった。 私は少しだけ微笑んでから、胸の中に菖の頭を抱き留めて言った。 「だったら、それでいいんだよ、菖。 ここが菖の心の中なのかどうかなんてどうでもいいよ。 もし本当に菖の心の中でも、菖がここから出たいと思ってくれてるんなら、その内出られるだろうしな。 だからさ、絶対、ここからどうにかして脱出してやろうぜ? ショッピング……も、まあ、気が向いたら付き合わないでもないぞ? 多分な!」 「えー、ショッピング行こうよ、りっちゃーん! りっちゃんをもっと可愛くしてあげたいよー!」 「うーん……、じゃあ、こういうのはどうだ? この『殺女フィールド』から脱出した後、ドラムで対決するってのは。 勝った方が負けた方に何でも一つ命令出来るって事で。 二人ともドラマーなわけだしな!」 「あ、言ったね、りっちゃん。 この前の学園祭の結果を忘れたのかなー?」 「いや、あれはバンド対決だったからな。 別に私と菖の対決じゃなかったわけだし、私を甘く見てたら痛い目見るぜ?」 そう言った後で、私はまた菖の頭を強く抱いた。 菖は私の胸の中で笑ってくれてるみたいだった。 この空間に閉じ込められて初めて、これでいいんだってやっと思えた。 私達はこの空間から脱出してみせる。 その先に何が待ってたって、私達は脱出してまた皆で遊んでみせるんだって。 * また三日ほど経った。 菖は私に想いを伝えてくれたけど、私と菖の関係はそう変わってなかった。 菖が私の事を自然に『好き』と言うようになったくらいだ。 勿論、まだ菖のその想いについて返事はしてない。 ン系なんていきなり変わるもんでもないし、二人とも口に出さなくても決めていた。 私達の関係を本当の意味で変えるのは、この空間から脱出してから。 その時にこそ、本当の意味で私達の関係を始めるんだって。 ぶっちゃけた話、もうちょっと時間も欲しいしな。 だけど、私がそう思っていたのが悪かったんだろうか。 何かは変わらないように見えても、少しずつ確実に変わっている。 気付いた時には大きな変動が起こってしまってる事も多いんだ。 私達はその事を深く実感させられて、途方に暮れてしまっていた。 いや、正直、こんな事が起こるなんて想像もしてなかった。 「何だろうな、これ……」 「いくら何でもこれはねえ……」 二人して立ち竦んで、突然この空間に現れたそれを見つめる。 それ、と言うのは大きな穴の事だった。 床にぽっかり空いた一畳分くらいの長方形の穴だ。 さっき目を覚ましたら、先に起きていた菖がその穴を見て立ち竦んでいたんだ。 菖曰く、目を覚ましたらいつの間にか穴が開いてたんだそうだ。 こんなの、いくら何でも唐突で理不尽過ぎるだろ……。 「出口……かな?」 菖が自信無い感じで呟いていたけど、私はそれに反応出来なかった。 菖の質問に答えられるだけの判断材料が無かった。 この空間の何処かにスイッチを見つけて、それを押したから開いた穴とかならまだ分かる。 そっちだったら、何の躊躇いもなくこの穴の中に二人で飛び込んで行けるだろう。 もしそうなら、どんなによかっただろうか。 でも、残念ながら、事態はそう単純じゃなかった。 何せ寝てる間にいつの間にか開いてた穴なんだ。 こんなのいくら何でも胡散臭過ぎる。 間違いなく嫌がらせの罠か何かだ。 つーか、寝返りを打った時に、穴に落ちちゃってたらどうする気なんだよ……。 「出口だと思うか?」 「ど、どうかなー……? 絶対、誰かの罠の気がする……」 私が訊ね返すと、菖もやっぱり首を横に振りながら言った。 そりゃそうだ。 ここから脱出する気は満々だったけど、 こんな形でこれ見よがしに穴を開けられても信用しろって方が無理だ。 「でもなあ……」と私は口を尖らせる。 罠じゃない可能性もあるし、罠だったとしてもこの穴に入らなきゃ話が始まりそうにない。 今までどうやったってここから出る方法は見つからなかったんだ。 この空間から出られる可能性が出来た以上、罠でも飛び込んで行くしかない。 そんなの分かり切ってる事だ。 私は隣で立ち竦む菖に、宣言するみたいに言ってみる。 「罠でも……、飛び込むしかないよな……?」 それに対して菖は何の反応も見せなかった。 ただ深刻そうな表情を浮かべて、全身を震わせているように見えた。 いくら何でも突然の事態だし、先の展開が未知過ぎる。 皆と遊ぶ決心をしていても、やっぱり怖いんだと思う。 私だって怖い。 身体の芯から震えが起こり出しそうだ。 だから、私は独り言みたいに呟いてみる事にした。 「罠かどうかは分かんないけどさ、多分、罠なんだろうな。 映画のお約束とかであるじゃん? 密室を抜け出せたと思ったら、そこからが本当の惨劇の始まりだった、ってやつ。 何故かいきなり変な怪物に襲われる展開になったり、 急に密室じゃなくて迷宮脱出アドベンチャーな展開になったり、とかさ。 手垢が付き過ぎてて、そんなに映画を観ない私だって飽きちゃってるお約束だよ。 もしかしたら……、この穴に飛び込んだ途端にそんな事になっちゃうのかもな……」 菖は何も言わない。 もしもここが本当に菖の心の中だったとして、 自分の深層心理がそんな事にするのか思いを巡らせているのか。 それとも、この空間は自分の心の中じゃないんだと考え直しているのか。 その真意を掴めないまま、私はまた話を続けた。 「このまま穴に飛び込まないって手もあるよな。 この空間の中に閉じこもっていれば、とりあえず命の危険は無いもんな。 お腹も空かないし、トイレに行く必要も無いしな。 安全を考えるんだったら、この穴に飛び込まない方が利口なのかもしれないぞ。 だって、ほら……」 言いながら伏せて、ぽっかりと空いた穴を覗き込んでみる。 予想通りだったけど穴の中は真っ暗で、 何があるのかどころか底が深いのか浅いのかすら分からなかった。 こう言うのも何だけど、絶望への入口みたいに見えたくらいだ。 「どうする、菖?」 私は立ち上がってもう一度菖に訊ねてみる。 菖はまだ少し震えてるみたいだった。 これだけ不安材料を並べてみたんだ。 不安を感じない方が無理って話だった。 だけど……。 私は、菖を信じたい。 いや、菖を信じてるから。 じっと菖の次の言葉を待った。 どれくらい経っただろう。 一分か、五分か、それ以上か……。 とにかくそれくらい長い時間が経った時、菖が私の方を顔を向けて言った。 強い意志のこもった視線を向けて、言ってくれた。 「飛び込もうよ、りっちゃん。 何があるのか分かんないけど、りっちゃんと約束したもんね。 一緒にショッピングに行こうって。 ショッピングに行って、りっちゃんをもっと可愛くしてあげるって。 それが出来なきゃ、りっちゃんと二人きりで居られても嬉しくないしね!」 その言葉が聞きたかった。 我ながら意地悪だと思ったけど、菖自身に決めてほしかったんだ。 どんなに怖くても、どんなに不安でも菖に決めてほしかった。 菖は私と二人で居れば幸せだと言ってくれた。 でも、それでいいはずないんだ。 皆と手に入れられる幸せこそ私と菖の本当の幸せだと思うから。 二人だけじゃなく、皆と一緒に居られる幸せに勝るものは無いはずだから。 私は嬉しくなって笑顔になりながらも、 それを悟られないように菖の頭を軽く叩いてやった。 「ショッピングの約束はしてないだろ、菖ー。 私達が約束したのはドラムの対決だけだろ? 過去を勝手に改竄するのはやめい!」 「あれ? そうだったかなー?」 「そうだそうだ! そんな事言ってたら、ドラムの対決もやめにしちゃうぞー?」 「あはっ、ごめんごめん。 でも、ドラム対決の勝敗ってどうやって決めるの? 部長達にでも判断してもらう?」 「部長達に任せるとろくな事にならなそうだからやめとこうぜ……。 そうだな……、自己申告でいいんじゃないか? 自己申告で負けを申告した方が負けって事でさ」 「えー、自己申告ー?」 菖が頬を膨らませながら笑う。 ちょっとは不満もあるみたいだけど、それで納得してくれたみたいだ。 こんな事を考えるのも情けないけど、ドラム対決は私の負けで終わるだろう。 私と菖のドラムのテクニックにはそれくらいの差があるって事くらい、自分でも分かってる。 それでもいいかなって思う。 これは私達の一つのけじめのつけ方でもあるんだから。 曲がりにもドラマーとして……な。 勿論、ただ負けるつもりはないけどな。 精一杯戦ってやって、その結果負けたならそれでいいと思う。 もし万が一勝てたとしたら、その時は菖に私のショッピングの荷物持ちでもしてもらう事にしよう。 「りっちゃんもそれでいい?」 それでいい? と言うのは、ドラム対決の事じゃなくて、この穴に飛び込んでいいのか、って事だろう。 私は菖の顔を見つめてから、笑ってみせる。 輝く髪と輝く笑顔を持ってる菖に負けないように、精一杯の笑顔で。 「勿論だよ、菖。 罠だとしても飛び込んでやろうぜ。 おのれー、『殺女フィールド』めー! こんな物で私達が怯むと思ったら大間違いだぞー!」 「その名前で呼ばないでってば。 でも、りっちゃんの言う通り! 私達はこんな罠に負けたりしないんだからね!」 菖が笑い、私も重ねて笑った。 どちらともなく手を重ねて、握り締め合う。 これから先どうなるのかは分からない。 どんな困難が待ち受けているのかも分からないし、不安ばっかりだ。 それをよく分かっているからこそ、最後に菖が私に確認してくれた。 「ねえ、りっちゃん? りっちゃんは本当にこの穴に飛び込んでもいいの? もしかしたら、ここに居た方が安心して暮らせるかもよ? 娯楽は全然無いけど、少なくとも危険が無くて安全な暮らしが出来ると思う」 「分かってるって。 そっちの方が安心だって事も、これから先が不安ばっかりって事もさ。 でも、私、考えてた事があるんだよ。 この前、菖は言ったよな? 『人は一人きりで生まれ、一人きりで死んでいく』って。 実際、そうなのかもしれないけど、思ったんだ。 人は生まれる時も死ぬ時も一人でも、生きてる時は一人じゃないはずなんだってさ。 一人で生きてるわけじゃないんだよ、私達。 考えてもみてくれよ、私達がこの空間に閉じこもってたらどうなると思う? それこそ、生きてるけど死んでるようなもんなんじゃないか? この空間の外がどうなってるのかは分かんないけど、 もしここから出る事を私達が諦めたら、私達自体はともかく、 外で私達の帰りを待ってくれてるはずの澪や晶達は、私達が死んだんじゃないかって思うはずだよ。 多分、泣かせる事になっちゃうと思う。 自分に生きてる価値があるのかどうかなんて分かんないけど、 少なくとも澪達に悲しい思いをさせたくないって思うんだよな。 そう言う意味で私達は生きている間は一人じゃないんだよ」 「うん、そう……だね。 そうだよね! 晶もさ、ああ見えて涙脆いから、私が死んだら泣いちゃうと思うな。 晶の泣き顔は面白いけど、悲しくて泣かせるのは私だって好きじゃないもん。 晶が泣いていいのは、私がからかった時だけなんだから! だから……、 こんな所なんてさっさと出てやらなきゃね!」 「その意気だ」 笑い合って、二人で強く手を握り合う。 これから先は不安に溢れてるけど、怖いけど……。 でも、二人なら、何とかやっていけると思う。 どんな罠や困難が待ってたって乗り越えてやる。 まあ、意外と穴に飛び込んだ途端に、寮に戻ってたりもするかもしれないしな。 だから、私達はこの穴に飛び込んで、この空間を後にしてやるんだ。 そうして私達は「せーの!」と声を上げてから、 「さらばだ、『殺女フィールド』!」 「だから、その名前はやめてよー!」 二人で笑顔を浮かべて、その穴に飛び込んでやった。 皆と再会するために。 ドラム対決をして、菖との関係を一歩進めるために。 輝く笑顔を見せてくれる大切な菖の笑顔を、もっと輝かせてみせるために * 「ねえ、りっちゃん、憶えてる?」 「んー? 何を?」 「ドラム対決だよ、ドラム対決。 折角またドラムを叩けるようになったんだから、早く対決しちゃおうよ! 私、もう行きたいお店決まってるんだよねー。 それとも、ドラム対決の約束、忘れちゃったの?」 「忘れてねーよ、菖。忘れるもんか。 よっしゃ! じゃあ、今から部室で対決すっか! ぎゃふんと言わせてやるから、覚悟しとけよ、菖ー!」 「そっちこそ、覚悟しててよー!」 おしまい 戻る
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作品名:魔法少女育成計画 使用者:クミクミ(= 立野 玖美子) 魔法少女育成計画に登場する武器。 刺した無機物を立方体に分解・再整形するツルハシ 武器についての詳細物体分解&再整形 使用者との関連性創作系魔法少女 魔法の支援 関連項目 関連タグ リンク 武器についての詳細 物体分解&再整形 突き刺したものを立方体に分解・再整形する魔法のツルハシ生物に対しては単純な凶器。 ボロボロになりながらも逃げようとする一体の前にクミクミが立ちはだかり、掬い上げ るようにツルハシを振り上げ、ホムンクルスを突き刺す。クミクミのツルハシは無生物を 立方体に分解するが、生物に対しては魔法の効果が無く、直接的な武器と化す。 + パワードクミクミフォートレスモード 廃材を再整形して組み上げた強化外装駆動系にはクラシカル・リリアンの糸を使用。 全長ニメートルで疑似魔法少女と化したホムンクルスを薙ぎ払う戦力を持つ。 リリアンが織り上げた魔法の編み糸を使うことで関節部のスムーズな動作を可能とし、 力の伝わり方も三倍を超える効率性を実現した。鎧の中に納まったクミクミが、巨大な手 や足を自分の身体のように動かすことができるのだ。 ここまでくれば、最早ただの鎧とは呼べないだろう。全長二メートル、強化装甲と呼ん でも差し支えない完成度を誇る作品だ。 + ドラゴンのオブジェ 学園祭用のドラゴンのオブジェ戦闘用に作ったものではない。 攻防の度にドラゴンのパーツが欠けていくためリリアンの編んだロープで補強されている。 振り下ろされた手斧をドラゴンの頭でガードし、くるくると回りながら背後から襲いか かってきた手斧はドラゴンの尻尾で叩き落した。先程までは魔法もかかっていないただの オブジェでしかなかったドラゴンが、生きているように躍動し、クミクミを守っている。 使用者との関連性 創作系魔法少女 もの作りの素養がある人間の時の素養が魔法に影響している。 校長からのお達しによりクミクミは魔法を使うことができない。しかしクミクミのよう な創作系の固有魔法を持っているということは、元々その方面の素養があるという場合が 殆どだ。(以下略) 魔法の支援 魔法使いの魔法を受けて強化される分解したものに触れることなく再整形できる。これによりドラゴンのオブジェを生物のように動かせている。 出ィ子が姿を現し、蹴りつけ、すぐに消え、また現れ、殴って、消える。魔法の使用速 度がかつてなく速い。クミクミはつるはしで削った瓦礫に触れることなく壁を作って雷を 止め、リリアンがクミクミの作ったオブジェに糸を引っ掛け高速移動、メピスの声を無視 できる者は一人もおらず、近付いたところをテティが普段より力強く掴み、がっしり握り、 潰す。 (*1) 関連項目 関連タグ グレイブ ツルハシ 再整形 強化外装 武器 物体操作 物質分解 魔法少女育成計画 リンク
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01-022 名前:崩壊した世界 カード種類:Story 妨害修正:4 コスト:1 アクション条件: 黒のキャラクターのみで、総合演技力が12以上になるようにアクションに参加している。 ボーナス効果: エキスパンション:第一弾 作品:X レアリティ:N
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エーリカ「にぃにぃ、来なかったね」 ウルスラ「…忘れちゃったのかな」 すんと鼻をすする音がハルトマン家のリビングに転がった。 ソファの上にパジャマ姿の幼女が二人、カレンダーを見つめて座っていた。 4月19日の二人の誕生日の少し前から、俺は姿を見せていない。 俺が部屋にこもって早2ヶ月。 大好きな両親に聞いても笑ってごまかされるだけ。 小さな二人の胸は、兄に見放されてしまった寂しさでいっぱいだった。 それでも、夏になれば来てくれるかもしれないという淡い希望を胸に、 今日までずうっと夜更かしを続けてきたが、玄関扉は鳴きもしなかった。 エーリカ「ケーキも作ってくれなかった」 あの優しい兄が、誕生日に作ってくれなかったのは初めてで ウルスラ「虫取りもしてない」 遊ぶことも、虫籠いっぱいの虫を図鑑と比べることすらやってない。 エーリカ「それに」 エーリカ・ウルスラ「星も見てない」 天体観測が夏の夜の日課。星を見て、兄の説明を聞いて、 それを子守唄に眠るのが大好きだった姉妹にとって、 俺不在の2ヶ月はどうしようもなくつらい、空っぽなものだった。 エーリカ「にぃにぃのばかあ…」 そう呟いて、また鼻をすすって。泣きだす寸前のエーリカと、 じっと唇をかみ、姉の手をにぎるウルスラ。 しばらくそうしているうちに、振り子時計のぼおんという音が部屋にひびいた。 これ以上はさすがに母に怒られてしまう。 ウルスラ「ねえさま。もう時間」 エーリカ「うん……」 「エーリカ、ウルスラ!いるか!?」 眠気が一気に吹き飛んだ。 聞き覚えのある声。というより話の中心、つまり俺の声が飛びこんできた。 バッと、二人は勢いよく後ろに振り向いた。 エーリカ「にぃにぃ……なんで」 俺「何でって、今日は君たちの誕生日じゃないか」 ウルスラ「今、7月……」 俺「………ちょっと寝坊しただけさ」 一瞬固まり、平静を装いつつ歩いてくる。 頬には木炭を擦り付けたような汚れ、ワイシャツはまっくろ。まるで暖炉に潜ったような汚れ方。 ウルスラ「なにを調べてたの?」 俺「ああ。この間サンタさんの話をしただろう?」 二人の手を取り、優しく微笑む。 十二月の頃に聞いた、サンタさんにあったという兄の話。 大きな大きな吹雪の晩に、赤く光る鼻で道を照らしたトナカイ。そして帰り際の虹色の雪。 俺の話す珍しく堅くない話だし、なにより、二人はこの話が大のお気に入りだった。 エーリカ「トナカイさんの?」 俺「そうだよ。エーリカは偉いな」 ウルスラ「…覚えててくれたの?」 俺「もちろん。誰が忘れるものか」 不安そうな彼女たちの金糸の髪を撫でつける。 久しぶりの兄の手に、二人はうっとりと目を細めた。 すると、とんとんとんと、階段を下りる音。 ハルト父「やあ俺君。ようやく終わったのかい?」 扉が開くと、いつも誤魔化していた父が悪戯っぽく笑っていた。 隣にいる母と共に、まるで全部知っていたような口ぶりで俺と言葉を交わす。 すっかりのけものにされた二人は、ぷうと頬を膨らませた。 ウルスラ「とうさまも、かあさまもずるい」 エーリカ「ぶぅー、なんでだまってたのさ!」 ハルト母「ふふ。俺君の心意気を尊重して、かしら?」 ハルト父「そういう事。俺君、熱中するのもいいが、まわりも見る事だな」 俺「あはは……ご迷惑おかけしました」 ばかー、と笑いながら、双子が腰に飛び付いてくる。 ころころ変わる表情に笑みが零れた。 俺も、両親も、長い付き合いで家族同然になっているのは確かだった。 俺「では、行って来ます」 エーリカ「…え?」 ウルスラ「どこに?」 二人の手を両手でしっかりにぎる。 ついて行けていない二人が、俺を見て、両親を見上げる。 ハルト母「早めに帰ってくださいね。エーリカ、ウルスラ、行ってらっしゃい」 ハルト父「三人とも気を付けて。しっかり祝ってもらうんだよ」 ◇ エーリカ「いいの?」 俺「今日はちゃんと許してもらったから大丈夫」 真夜中の外は初めてではない。だが、これからどこかに行くなら別だった。 そして、あれだけ聞いたのに両親が答えてくれなかった理由も気になった。 ウルスラ「にいさま、どこに行くの?」 俺「んー?あそこだよ」 指を指した先の丘。 含み笑いの両親と、今だ見えない俺からのプレゼント。 二人はますます首を捻った。 ◇ ◇ 大人から隠れるにはもってこいの小高い丘。 俺と幼い二人は、それこそ色んなことをした。 ピクニックに訪れたり、花を摘んだり、虫を取ったり、こっそり夜に抜けだして季節の星を眺めたりした。 意地の張り合いをしてけんかをした日、もう話さないと言ったのに、みんな登ってきていて笑ったこともあった。 実験につまった俺がごろんと昼寝していることもあったし、 遊び場を争って近所の悪ガキ共と、大立ち回りを演じたこともあった。 この控えめな丘が、三人の思い出だった。 青臭く、生ぬるく、それでいて温かく、柔らかい場所だった。 カールスラントはネウロイに奪われてしまって、丘はそこにあるが、 今行くことは叶わない。その二年後に行ったのが最後になった。 そうやって時間は流れていく。 そんな真夜中、登り始めると見えてくる小川を飛びこえて、 青く濃い夏の匂いを胸一杯にすいこんで、 俺はウルスラとエーリカの手をひいてゆっくり、けれど早足に登っていった。 丘の上には大きな木。いつからか、10より下の子供は登ってはいけない決まりがあった。 そんな木に、俺は二人を何も言わずに登らせた。 初めて登る嬉しさと、木の高さとで足がすくむが、なんとか上の、頼もしい枝までたどり着いた。 エーリカ「わあ…空を飛ぶってこんな感じなのかな」 さえぎるもののない空は光にあふれていた。 見ればなんともない星々だった。眩しくもなければ、珍しいものでもない。 こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブに始まる大三角。 こぐまのポラリス、まだ知らない小さな星、さそりのアンタレス、ペガススのニエフ 残念ながら俺が好きなオリオンはまだいない……それでも、いつもそこにある光だった。 思わず星に手をのばすが、エーリカの手は空をつかむだけ。 だがそれさえも、幼い彼女には嬉しくてたまらなかった。 ウルスラ「にいさま、怒られちゃう」 ウルスラがそう言って俺の袖をひく。 俺「ウルスラは心配性だなぁ…平気さ」 ウルスラ「でも、にいさまが…」 俺「大丈夫。何が来ようとも、オレにお任せあれ。……さぁさ、お立会い」 ウルスラの頭を一撫ですると、俺がぱんと両手をうつ。 そして二人の手を取って、交互に顔を見て、 俺「これから起こることは奇跡でも何でもない、正真正銘の科学の魔法さ 裾を持って、そう、落ちないようにしっかりね」 二人がそっとワイシャツの裾をにぎった。 横目で確認して、祈るように両手を合わせる。 エーリカ「なにするの?」 俺「見てからのお楽しみさ」 俺が目をつむると、ざわざわと青葉がささやき、細かい風が吹いてくる。 まるで俺を中心に、世界が浮き立ったような気がした。 それは忙しい両親の代わりに俺がいつも隣にいて、 すっかりお兄ちゃん子になってしまった二人の感じた幻かもしれなかった。 俺「ファーゼン、ウバガン」 じっと青い電流がはしると、あたり一面、パッ、と昼間のような明るさに包まれた。 その音もさることながら、衝撃波が風にのり、木やら花やらをごうごうと波打たせる。 何を言っても聞こえなかったし、突然の光で目はちらついて、まともに立っていられなかった。 俺「二人とも、目を開けてごらん」 裾をつかんだ手を取られる。 見えなくても分かる大きくて硬くて、温かい手。 あれだけの突風でどうして立っているのだろう。すぐ隣の俺に安心すると、ふっと疑問がわいてきた。 目を開けると、ちょうど俺がシールドをしまった所。 俺「誕生日おめでとう。エーリカ、ウルスラ」 とびきりの笑顔でふりかえる。が、返事がない。 二人の顔を見ると、目を見開いて、口を開けてぽかんとしていた。 まるで天の川に飛びこんだような光の洪水。 顔はきらきらとかがやいて、小さな手が震えるのが分かった。 エーリカ「…すごい……すごいすごい!すごいよにぃにぃ!」 少し怖かった高さも忘れ、俺に飛びつく。 受け止め、ふらついた所で木の高さを思い出し、俺は慌てて足に力を入れた。 エーリカ「サンタさんの通ったあとみたい!」 俺「はは、エーリカは詩人だね。…この位お安いご用さ」 そう言って胸をはった俺を見て、エーリカとウルスラはぷっと吹き出した。 ウルスラ「うそはだめ」 俺「なっ…本当だよ!」 エーリカ「うそが下手だもん。服もきたないし……二ヶ月も待ったんだよ?」 俺「う……き、きっと君たちはこういうものの方が好きだと―――」 エーリカ「にしし、うそだよ!にーいにぃ!」 俺「ああ嘘か、そっか………えっ?」 ウルスラ「にいさま、ありがとう」 煤だらけのワイシャツに顔をうずめた。 けむたい匂いと、色んな薬品の混ざった良く分からない匂いに、大好きな兄の木みたいな匂い。 枝に腰をおろして、細かな粒子の風をうける。 今だ爆発の中心からは虹色の粒子が流れ、夏の夜空に虹色の雪がふる……そんな風に見えた。 エーリカ「サンタさんのお話ってこんなふうなの?」 俺「ああ。どうしても二人に見せたくて……まあ、トナカイとサンタさんはいないけどね」 落ちないように二人を支えて、鼻を光らせる俺が笑った。 ―吹雪の夜にサンタさんを待っていたら、真っ赤な鼻のトナカイと、虹色の雪がふって来た― どうしても見せてやりたかった。 書斎をひっくり返して、教授に教えをこうて、二ヶ月もかかったけど見せられるまで漕ぎつけた。 範囲を図って、規模を計算して、泥のように疲れ切った体。 しかし、そんなものは二人の笑顔を見たら吹き飛んでしまった。 すると、ついと袖をひかれた。 ウルスラ「…にいさま、私、もっと知りたいです」 彼女はそう言って、俺の方を見た。 ウルスラ「もっと、科学を知りたい」 どうやったの、と聞かれるのかと思った。 教えて、はいつものことで、そこまでで終わりだった。 そんないつものことだと思ったが、ウルスラは落ち着いていた。 俺は彼女との距離が無くなった気がした。 それほど彼女はまっすぐに俺を見つめていた。 俺「ウルスラなら、出来るよ」 ◇ ◇◇ そんな夢心地のプレゼントの光が止んだころ、 手伝ってやりながら二人を木からおろすと、俺が言った。 俺「明日は川に行きます」 エーリカ「本当!?」 ウルスラ「遊んでくれる?」 嬉しいような、迷うような目で俺を見上げる。 俺はベルリンの大学に呼ばれているとかで、度々いなくなってしまう。 だから今回も、もしかしたらと思っていた所はあった。 俺「今は夏休みだよ?それに、レポートも一段落したからね」 エーリカ「やったあ!にぃにぃ大好き!」 ウルスラ「…うれしい」 ぱっと咲いた笑顔とともにエーリカが抱きつく。 全身で喜ぶ彼女とは反対に、ウルスラは静かに口元をほころばせていた。 俺「……よし、家まで競争!!」 ウルスラ「あ、にいさま!」 俺「早くおいで!」 手早くエーリカを下ろすと、俺は風を切ってなだらかな丘をかけて行った。 すぐに追いかけようとしたけれど、俺には追い付けないし、何より、姉であるエーリカの方が足がはやい。 待って、と言おうとしたけれど、のどがつまったようになって、うまく言葉が出なかった。 ウルスラはつらくなってうつむいた。 すると、こちらに伸ばされた手。 エーリカ「いこ、ウルスラ」 ウルスラ「…うん」 手を取ると、嘘みたいにはやく走れた。 いっしょに走る先で、俺がふっと笑った。 ウルスラ「ねえさま、にいさまの通った道の方が草が少ない!」 エーリカ「よしきた!まーてーにぃにぃー!!」 ◇ ◇ ◇◇ 半分うとうとして、夢を見ているような感じから目が覚めた。 なんとなしに右腕を動かして、その重さに長い息を吐く。 季節は夏だが、妙に暑い。 頭を動かせば、右にウルスラ、左にエーリカ。 ガッシリと両腕にしがみ付かれ、寝がえりすら打てない状況。 明朝にウルスラが帰るからと、三人で寝ることになり、結局川の字で落ち着いたのだ。 俺「ずいぶん大きくなったんだな…」 小さくて、後ろをついて来た二人はもういなかった。 もう俺を頼らず、二人とも別々の道を選んでいった。 誇らしいと思うと同時に、胸にはもやもやと、寂しさにも似た何かが浮かんでくる。 俺「離れられないのは俺じゃないか」 俺は思わず苦笑いをして、目を瞑った。 あの日も丁度今日だった。間に合わせようと必死になって、カレンダーを捲ることすら忘れていた。 面と向かって祝ったのはもう何年も前になる。 今から言っても許してくれるだろうか?…もっとも夢の中だろうが 俺「誕生日おめでとう。エーリカ、ウーシュ」 ページ先頭へ
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第三回オンラインイベント 崩壊した都市 開催期間9/8~9/22 ある日、要石が放置されていた大地のひび割れを震源に突然地震が起きた。その結果、預言者の町が壊滅。攫われの集落も津波で流されてしまった。 そして3人の子供も再び行方不明に。さらには周辺地域の地形も変えてしまい今まで行けなかった場所へと通じる道が出来た。 この地域は元々地震が少なく、地震は人為的に起こされた事は明々白々であった。幸運にも人的被害は無かったものの人々は住む場所を 失っていた。彼らのためにも寄付金を集めよう。一口一万円で寄付する事が出来、同時にくじを引ける。当たりの場合は等に合わせて景品を選べる。 寄付金が1億円に達するとイベント終了から一週間、全ての敵から得られる経験値が1.5倍に増える。 七夕イベントの時とは違い、ボスは倒してもすぐに再戦できる。イベントが終了してもボスは存在し続ける。 くじの景品 1等 神珠 2等 ルビー、クリスタル、黒色の薬 3等 博麗アミュレット、ハイヒール、懐中時計、サードアイ、五十鈴、ゴールドピアス 4等 天狗の葉団扇、緋想の剣、フェムトガード、霧雨の剣、守矢のお守り、金鉱石×20、砂金×30、蓬莱の実×10 5等 ファイアストーン、アクアストーン、ウィンドストーン、アースストーン、アイスストーン、サンダーストーン(貰える個数は全て10) 追加ダンジョン 沈没船(推奨レベル 1~2F Lv60~ 3F以降 Lv70~) 大地のひび割れ3F~(推奨レベル 3F Lv55~ 4F以降 Lv65~) 未踏の森林(推奨レベル 1F Lv65~ 2F以降Lv75~) 沈没船 攫われの集落から行ける洞窟は亡霊が巣食う沈没船へと繋がっていた。今までのダンジョンとは違い、様々な謎解き要素があるため 道中の難易度は指折りの高さ。預言者の町跡地にヒントをくれる人がいるがそれでも難しい。 ここのボスはあらゆる技が通用しない。即死技も飛んでくる。正攻法から反則技まで試してみると活路が見出せるかもしれない。 謎解きが難しいという人のための攻略法。 +海底洞窟の攻略法 まずは道なりに進む。黒い部分に接触すると下に落とされてしまうので落ちないように奥まで進もう。最奥に魔法陣がある。 魔法陣から次のエリアに移動し、道に沿って進むと樽があるので調べてスイッチを押す。すると色の付いた橋が架かるので今度は左に移動して 同様に樽のスイッチを押す。これが終わったら来た道を引き返し魔法陣で前のフロアに戻る。そして魔法陣から右へ二つ目の穴に落ちると 沈没船への出入り口前に移動できる。 +岩のパズル 未完成 設置されている岩を蹴って動かし、輝く床の上に置いた状態で猫に話しかけると先に進めるというギミック。全部で三つある。 非常に頭を使うためここが最難関と言える。岩の動かし方によってはハマってしまう場合があるが、もし出口を塞ぐなどをして 出られなくなった場合はセーブしてタイトル画面からやり直すと岩は元の位置へと戻る。 <パズルその1> +突破手順 2つの岩のうち片方を下側に持っていく 中央の通路を確保するために、下の岩を避難させる 2つ目の岩も同様に下側に持って行き そのまま上側の指定床まで押し上げる もう1つの岩も中央の通路から指定床まで押し上げると完成 <パズルその2> +突破手順 下側の岩を右側の指定床まで持っていく 左側の岩を隣マスの指定床に置く 残った岩を空いている指定床まで移動させると完成 <パズルその3> +突破手順 上側の岩を右側に移動させる 下側の岩を動かし、それぞれの岩を独立させる 下に移動した岩をそのまま上に移動させる 左から回りこませて左上の指定床に配置する 左側の岩を左下の指定床に配置する 右側の2つの岩をそれぞれ残った指定床に配置する +出入り口が無い部屋 入り口が無い部屋が幾つか存在するが、ここへは壁の中にある見えない通路を通って入る事になる。斜め方向に移動しながら進むと分かれ道を 発見しやすい。張り紙には「目に見えるものだけに騙されてはいけない。」と書かれてある。まさにその通りで、床に矢印が書かれているが これは罠。矢印の先に道はあるものの最終的には行き止まりに行き着く。正しい道は矢印の下方向にある隠し通路。途中で宝箱のある部屋に 辿り着ければ正解の道。焦らずしっかり奥の魔法陣を目指そう。 +パスワード ここを突破すればボスは目の前。宝箱に5桁の数字を半角で入力する。宝箱の傍にはヒントとなる壁紙が貼ってある。 大層な言葉が書かれているがパスワードとは関係ない。注目すべきは漢字の配置である。漢字だけを見ればパスワードが分かる。 +ボス 正しい知識を持った慧音先生がおられましたら、間違っているところの修正を宜しくお願いします。 ボスは亡霊ヤッサ。パズル要素の強い道中だっただけにヤッサ戦も頭を使わされる。 前はHPが200しかなかったが桁が間違っていた事が判明。修正パッチにより本来の体力へと戻されたため体力が倍増している。 更に、このボスはあらゆる攻撃を無効化にするという厄介な能力を持っている。 またヤッサが1ターン目で繰り出す「いなだ貸せ」(嘆きの怨念を呼び出す)という技を出す前に攻撃を加えると即死技が飛んできて 問答無用で殺される(近接・遠距離問わず)。 レアドロップとして金のロザリオを落とす。ルビー、クリスタルも1%の確率で落とす。しかし魔法攻撃で倒すとドロップ判定が消滅し 何も落とさなくなるので注意。 攻略法の例を挙げる。 てゐのチェンジザセオリーを使用する。するとボスの無効化能力が自分たちのものになり、あとは殴るだけでボスが死ぬ。 ※ただし「いなだ貸せ」発動前の場合は未検証。 ↑今は通用しなくなってるっぽい?要検証 設置系の固定ダメージを使う。しかし先述のとおりHPが増大しているので円滑に倒すのは難しい。 以前は回復技でダメージ判定が出ていたが、修正されたため現行バージョンでは使用不可。 ↑とあるがリリーのヒーリングホワイト(全体回復技)はダメージが通る。修正ミス? 大地のひび割れ3F 地震により新しい道が開かれた。そこは溶岩が煮えたぎる灼熱地帯だった。火属性の敵が多く、対策を怠れば丸焼きにされかねない。 奥には巨大な火の鳥が待ち構えている。自らのHPを回復させた後に超強力な全体攻撃を放つという。とてつもない破壊力だが行動パターンは 決まっているので上手く防御と回復が出来れば…。 伊吹瓢、ルビー 要石のペンダント 未踏の森林 地震による地形変化で、誰も立ち入った事が無かった森へ行けるようになった。昼は昆虫たちが跋扈し、夜は凶暴な動物が森を支配する。 全ダンジョンで唯一昼夜の概念があり、AM9 00とPM9 00を境に昼と夜が入れ替わる。ボスも昼と夜で違う。 最奥に居るボスは1体のみだが、ボスが討たれそうになるともう片方のボスが援護に来る事も…。 未踏の森林3 兎のにんじん 装飾 移動後の行動ゲージ初期値が多い 参加条件 本編のクリア。未クリアの場合は地震が発生していない状態となる。 名前 コメント
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壊れているのは、世界?それとも、僕達? ――――― ――― ― 「……」 俺は何も語らなくなってしまったユラを、ずっと隣で見守り続けた。 恋人よりも愛おしく。家族よりも大切で。俺の世界の核を構成する、たった一人の人間であったユラを。 そんな彼女の瞳は無機質に世界を反射するだけで。 その心は美しく恐ろしく儚く弱弱しくあっけなく虚しく寂しく哀しく切なく愛おしく狂おしく。悲惨に凄惨に無残に無尽に微塵に無謬に無様に十全に純然に純粋に――壊れていた。 意識は、ある。ただ、反応しないだけ。呼吸は、している。ただ、動かないだけ。 「ヤクザみたいなおっさんがね……この連鎖を止めるって言ってたよ。君の迷いを、断ち切るためにも。君を幸せにさせるためにも」 「黒いのがね。随分君の事を大切にしていたよ」 「それに、アッシュが待ってるよ……君が元気になるのを」 「ねぇ、ユラ……」 「ユラ……」 俺の呼びかけに応えるかのように。 ただ風だけが。周囲で軽く舞い、小さく音を立てて消えた。 「起きてるんだろ……?早く……戻って、こいよっ……!」 ぱたりと。乾いた地面に黒い染みができる。 「ユラ……目を覚ませよ……!!俺はっ……お前がいなきゃ――!」 ぎしりと。骨が軋む音が聞こえるくらいに俺はユラを抱きしめる。 ぽっかりと空いた胸の穴を埋めるかのように。消えない寂しさを、、消すかのように。 「お前がいなきゃ……ダメなんだよ……」 そっと、彼女に口付けをした。 俺の流す涙がユラの頬にも伝わる。 だけど反応は、ない。 「……ユラ」 そして先ほどとは違い。俺は優しく、ユラを抱きしめた。 しばらく俺はユラを抱きしめ続けていたが、夜色に染まった空が、淡い光を帯びてるのに気付き、顔を上げた。 空に浮かぶは、きらきらと光る無数の流星群。 「――そうか、今日は」 無意識に俺は、星空へと手を伸ばす。 届かない事を知りながら。それでも短い腕で星を掴もうとしていた。 流れゆく星屑は俺の指の隙間を縫うように、現れては消え、消えては現れる。 そして星の動きにあわせるかのように、何もない空中で拳を握る。 そんな事を、俺は流星群が消えるまで繰り返していた。 ――誰かが、俺達の壊れた世界を壊してくれることを、願って。 ≪Crazy-Love Rhapsody≫ is the END.
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* 「ねえねえ、りっちゃん、梓って誰なの?」 六日目(仮)。 菖にどう話を切り出そうか悩みながら眠りに就いて、 目を覚ました途端、私は食い入るように菖に問い詰められていた。 いきなり何が起こってるのか分からない。 私は寝惚け眼と半覚醒の頭を抱えながら、どうにか訊ね返してみる。 「何の話だよ……?」 それが消え入るような言葉だったせいか、菖が頬を膨らませて私の頬を軽く抓った。 抓られた場所は痛くなかったけど、何だかちょっと不機嫌そうだ。 何かあったんだろうか? 綺麗な金髪を揺らして、菖が不機嫌そうに続ける。 「寝言で何度も梓って呼んでたよ? 「梓、その水着似合ってるぞー」とか、 「梓ったらまた真っ黒に日焼けしちゃって」とか。 ねえねえ、誰なの? ひょっとしてりっちゃんの本命の子だったりして? 駄目だよ、りっちゃん! 澪ちゃんって相手が居ながら浮気なんて!」 「どうしてそうなる……」 頭を掻きながらぼやくみたいに呟く。 何でこいつは女子高にそんなイメージを持ってるんだ……。 それにしても、私も寝言を言っちゃってたのか。 高校時代の事を懐かしく思ってたから、それでまた夢に見ちゃったのかもしれないな。 しかも、何故か合宿の時の事を。 まあ、今年は海じゃない合宿になっちゃったから、それが心残りだったのかもな。 ともあれ、これはちゃんと説明しないと、菖も納得しそうにないな。 私は二回自分の頭を叩いて、意識をちょっとだけはっきりさせてから口を開いた。 「言ってなかったっけ? 梓ってのは、高校時代の軽音部の後輩だよ。 小さくて生意気だけど、ギター担当で結構頼りになる奴だったな」 「「水着が似合ってる」とか言ってたのは……?」 「ああ、梓とは海に合宿に行ってたりもしたからな。 それでそういう寝言が出ちゃったんだろうけど……。 つーか、何でそんなに梓の事が気になってるんだよ?」 「だって、りっちゃんの口から聞き覚えの名前が出て来たんだもん。 そりゃ気になるよー?」 「そういうもんか? まあ、そんなわけで梓はうちの軽音部の後輩だよ。 今は部長として軽音部を引っ張っててくれてるはずだと思うぞ。 答えはこんな所で満足か?」 私としては完璧な応対をしたつもりだったけど、 菖はまだ納得のいってない様子で頬を膨らませたままだった。 何がそんなに不満なんだ……。 上目遣いに私の瞳を見つめながら菖が続ける。 「梓ちゃんって子はりっちゃんの本命じゃないんだよね?」 「本命とか何の話だよ……」 「答えてってば」 「あ……、ああ、そうだよ。 大切な後輩だけど、本命とか恋する相手とかそういうんじゃないぞ。 寝言に出ちゃったのは、単に高校時代が懐かしくなったから、ってそれだけだと思う」 「本当に?」 「本当だって」 私が言うと菖はまたしばらく私の瞳を上目遣いで見ていて、 十秒くらい経ってからやっと安心したような微笑みを浮かべて言った。 「よかったー、りっちゃんが浮気してなくて。 りっちゃんには澪ちゃんって決まった相手が居るもんね。 澪ちゃんを悲しませるような事をしちゃ駄目だよ!」 また澪の話だった。 澪の事は私だって大好きだけど、本命や恋する相手としてって意味じゃない。 幼馴染みとして好きなんだ、って菖にはもうここに閉じ込められた初日に伝えてるしな。 でも、やっぱりどうにも菖は澪の事を気にし過ぎだった。 寝言でも口にしてた事だし、よっぽど澪の事が好きなんだろう。 それが恋愛対象としてなのかどうかは分からないけど、 これからの私達の未来のためにも確認しておいた方がよさそうだ。 もしも菖が澪の事が大好きでまた会いたいって言うんなら、 この空間からの脱出法を何が何でも探す方向で動いた方がいいだろうしな。 にしても、こんな恋バナなんてあんまりした事無いから、ちょっと緊張するな……。 私は二回深呼吸をしてから、真剣な表情を菖に向けて口を開いた。 「なあ、菖。 私が寝言で梓の名前を呼んでたみたいだけどさ、 菖だって寝言で私達のよく知ってる奴の名前を呼んでたぞ?」 「えっ、本当? 晶とか幸とか?」 「ああ、晶と幸の名前は確かに呼んでたよ。 でもな、意外な名前も菖の口から出て来たんだ。 ひょっとしたらだけど、菖はそいつの事が好きなんじゃないか?」 「だ……、誰かな……?」 菖が顔を真っ赤にして私から目を逸らす。 その菖の様子で色恋には疎い私にも分かった。 誰なのかはともかくとして、菖には好きな誰かが居るんだって。 追い詰めるみたいで気が進まかったけど、これからのためにも確認しておくべきだ。 私はわざとニヤリと笑って、何でも無い事のようにその名前を言ってやった。 「菖が寝言で名前を呼んでた奴……、何とそれは澪だったんだぜ! それで思ったんだけど、私じゃなくて菖の方こそ澪の事が好きなんじゃないか? 付き合いはまだ短いし、何処が好きになったのかは分かんないけど、でも、澪はいい奴だよ。 私が保証するぞ!」 言い終わった後、私は自信満々に胸を張った。 恋愛の事には詳しくない私だけど、この答えには自信がある。 いつも澪の事を気にしてた菖、寝言で澪の名前を呼んでた菖。 ここまで証拠が揃えば間違いない。 菖の好きな相手は澪だったんだ。 何処を好きになったのかは分かんないけど、高校時代はファンクラブもあった澪なんだ。 何処かしら好きになる要素があったのかもしれない。 ……と思っていたのに、菖はちょっと溜息を吐きながら口を開いていた。 「違うってば、りっちゃん……。 澪ちゃんの事は友達として好きだよ? どうして寝言で呼んだのかは分かんないけど、私の好きな相手は澪ちゃんじゃないんだよね」 「……ありゃ? いや、菖はマジで澪の事が好きだと思ってたんだけどなあ……。 でも、本当かよ? 私に遠慮しなくてもいいんだぞ? 前も言ったけど、私は澪の事を幼馴染みとして好きなだけで、恋する相手ってわけじゃないんだ。 だから、菖の恋が成就するかどうかはともかく、澪の事は好きでいていいと思うぞ? もし振られたら、私が残念パーティーを開くしさ!」 「だからー……、違うんだってばー……」 菖が悲しそうな表情になって絞り出すように呟いた。 この菖の様子を見る限りじゃ、澪の事が好きだと思ってた私の考えは間違ってたみたいだ。 おかしいな……、絶対そうだと思ってたんだけど……。 澪の事をあんなに気にしてたのに違うとかどういう事なんだ? 私が首を捻っていると、菖が軽く苦笑して私の頭に手を置いた。 その瞳は何処か潤んでるように見えた。 「もー……、りっちゃんてばひどいなあ……。 わざとなの? 天然なの? とっくの昔に気付かれてる気がしてた私が何だか間抜けじゃん……」 「天然……なのか、私?」 私が訊ねると、菖が更に瞳を潤ませて私の瞳を正面から見据えた。 頬を赤く染めて、迷いと決心を同時に抱いてるみたいな表情をして。 菖は、その話を始めた。 「こんな話をされても、りっちゃんは迷惑かもしれないって思ってたから言えなかったんだ。 でもね、勘違いされたままってのも嫌だから言うね? 私が澪ちゃんの話ばっかりしてたのはね、 りっちゃんは澪ちゃんの事を気にしてるはず、って思ったからなんだよね」 「私が……、澪の事を……?」 「あっ、まだ気付いてないなー。 それがりっちゃんのいい所でもあるんだけどねー。 もしかしたらだけど、寝言で私が澪ちゃんの名前を呼んじゃったのも、それが理由かもね。 澪ちゃんの大事な幼馴染みの傍に私が居てごめんね、って心の何処かでそう思ってたのかも。 だから、澪ちゃんの名前を寝言で呼んじゃってたのかもしれないね」 流石にそこまで言われて気付かないほど、私だってそんなに鈍くない。 でも、どう反応していいか分からなかった。 こんなの想像もしてなかったんだから。 急に心臓が変に動きを速めていく。 結局、それから私が出来たのは、自分自身を指し示して首を傾げる事だけだった。 失礼な行動だったかもしれないけど、菖はそんな私を見て笑ってくれた。 頬を染めながらも、何処かすっきりした笑顔で話を続ける。 「うん、そうだよ。 私の好きな人はりっちゃんなんだよ。 りっちゃんったら全然気付いてなかったみたいだけどね。 ごめんね、こんな形で伝える事になっちゃって……」 綺麗な金髪を輝かせて、同じくらい輝く笑顔を菖が見せた。 ずっと内緒にしてた事を言葉に出来て、どんな形でも清々しい気分になれたんだろう。 軽く苦笑を浮かべる。 「参っちゃったなあ……、 こんな事が無かったらずっと内緒にしてるつもりだったんだけどね。 私の気持ち、迷惑だったらちゃんと言ってくれていいからさ」 私は言葉を失って、菖の瞳をただ見つめる。 何て言えばいいんだろう。 こんなの完全に想定外だ……。 私の無言を悪い意味に受け取っちゃったんだろう。 表情を曇らせて、菖が掠れた声を絞り出した。 「ごめん……ね? やっぱり迷惑だった?」 「いや、迷惑ってわけじゃないんだけどさ……」 即答しちゃってたけど、それは私の本音でもあった。 予想外だけど、困ってるわけじゃない。 驚いてるけど、迷惑なわけじゃない。 自分でもこの感情をどう表現していいのか分からない。 でも、黙ったままで居るなんて、そんなの想いを伝えてくれた菖に失礼だ。 そんな事、しちゃいけないよな。 私は自分でよく実感出来るくらい戸惑いながらも、思った事を何とかそのまま口にした。 「どうして、私なんだ?」 それが私の中で一番強くなってる思い。 菖の事は勿論友達として好きだ。 一緒に居ると楽しくて、面白くて、退屈しない。 寮でお互いの部屋に隠れて泊まったのなんて、一度や二度じゃない。 菖も私と同じ様に考えてくれてるはずって、自意識過剰かもしれないけど思ってた。 だからこそ、分からない。 菖が私の事を好きだって言う理由が。 「私じゃ駄目って事かな?」 残念そうに菖が呟いたから、私は慌てて首を横に振った。 私が言いたいのは、伝えたいのはそういう事じゃない。 上手く伝えられる自信は全然無い。 でも、伝えなきゃいけないから、私はまた口を開いて言葉を菖に届けた。 「駄目とかそういう事じゃなくて、単純な疑問だよ、疑問。 だってさ、そんな素振りは全然無かったし、私達、まだ知り合って半年くらいだぞ? 女同士だからそういう事を考えもしなかったってのもあるけどな。 まあ、その辺の議論は置いとくとして、 普通は好きになるんなら晶とか幸とか……、 そういうずっと自分の傍に居た奴とかなんじゃないか?」 「晶と幸は友達だよー、りっちゃん。 二人の事は大切だし仲間だと思ってるけど、恋する相手ってわけじゃないんだよ。 大体、それを言うんだったら、 りっちゃんこそ澪ちゃんに恋してなくちゃいけないんじゃない?」 「それもそうだな……」 「恋ってね、出会ってからの長さとか関係ないって思うんだ。 自分でも分からない内に落ちちゃうものなんだよ、きっと。 私だってまさか自分が同級生の女の子の事を好きになるなんて思ってなかったもん。 高校の頃まではクラスで騒がれる男子の事とか気になってたしね。 勿論、付き合うどころか好きだったわけでもなくて、 皆が騒いでるから何となく気になってるってだけだったんだけど。 だからね……、こう言うのも恥ずかしいけど、 こんな気持ち、りっちゃん相手が初めてなんだよね」 「そう……なのか……?」 私は照れ臭くなって自分の頭を強く掻いた。 不格好かもしれなかったけど、仕方ないじゃないか。 こんなの私だって初めての経験なんだ。 女子高出身だし、同級生から告白された経験なんて勿論無い。 放課後ティータイムの皆の事は大好きだけど、それは恋愛感情とは違うと思うしな。 考えてみりゃ、今の今まで私は特に恋とか関係無く生きて来たのかもしれない。 だからこそ、どうしていいか分からなくて、私はまた菖に間抜けな質問を投げ掛けてしまっていた。 「どうして、私なんだ?」 さっきと同じ言葉の質問だったけど、結局はそれに尽きた。 私が誰かから好きになられる理由が全然思い付かないんだよな。 好きだと言ってくれるのは嬉しいけど、理由も分からず好きだと言われても何だか不安になる。 好きだって言葉に理由を求める事自体が間違ってるのかもしれない。 菖に凄く失礼な事を言っちゃってるのかもしれない。 言った後になって私の胸が嫌な感じに鼓動し始めたけど、菖は明るく笑って答えてくれた。 「りっちゃんがりっちゃんだから」 「何だよ、それー」 「りっちゃんと居るといつも楽しいし、面白くて笑えるもん。 晶や幸と一緒に居る時も面白いけど、 りっちゃんと一緒に居る時はもっと笑えてる気がするんだ。 すっごく楽しいし、すっごく面白いんだよね」 「珍獣扱いって事かよー……」 「あはは、そうかもね。 でも、これが私の素直な気持ちだよ、りっちゃん。 これがりっちゃんを好きな理由じゃ、駄目?」 そんなもんでいいのかと思わなくもなかったけど、 ひょっとしたらそんなもんでいいのかもしれない、って不思議と思わされた。 菖の屈託の無い笑顔にはそんな魅力があった。 輝く金髪によく似合った菖の輝く笑顔。 その笑顔が菖の気持ちの全てを物語ってる気がしてくる。 気が付けば、私は苦笑してしまっていた。 浮かべたのは苦笑いだったけど、呆れてるわけでも困ってるわけでもない。 自由な振りして結構頭が固かった自分の間抜けさが面白かっただけなんだ。 誰かが誰かを好きな理由を深く考える必要は無いんだな……。 理由はさておき、菖は私の事を好きで居てくれてる。 ただそれだけの事なんだろう。 ……ん? そこで私は不意に変な事を思い出した。 訊いていいものなのか迷ったけど、元々隠し事の少ない私達なんだ。 疑問に思った事を素直に菖に訊ねてみる事に決めた。 「そういや、菖。 この前、天井を調べる時、肩車替わってくれなかったよな? 単に重いのが嫌なのかなって思ってたけど、ひょっとして……」 私が訊くと、菖が顔を真っ赤にして視線を俯かせた。 それでも、消え入るような声で私の質問に応じてくれる。 「りっちゃんを肩車なんて……、無理だって……。 自分が肩車されるならともかくさ、 首筋にりっちゃんの太股の感触を感じるなんて、ドキドキしちゃうよ……。 そんなの……絶対無理だってー……」 衝撃的な答えだと思うべきか。 それとも、予想通りの答えだと思うべきなのか。 でも、とにかく私は妙に納得してしまっていた。 それで菖はどんなに頼んでも私と肩車を替わってくれなかったわけだ。 誰かに恋をするって事は、そういう緊張を感じてしまうって事でもあるんだな。 という事は……。 「じゃあ、昨日、私が服を脱いだ時も……?」 重ねて私が問い掛けると、菖はその小さな身体を余計に縮こまらせた。 林檎みたいに頬を真紅に染めて、視線をあっちこっちに彷徨わせ始める。 そんなに恥ずかしい事を訊いちゃったんだろうか。 そう思いながら十秒くらい菖の次の言葉を待っていたら、開き直ったのか菖が急に声を張り上げた。 「そうだよ! ドキドキしたよ! ドキドキしましたよったら! だって、仕方ないじゃん! 好きな子が下着姿で居るんだよっ? ドキドキするなって方が無理な話だって!」 よっぽど恥ずかしかったんだろう。 そう言った菖の目尻は軽く涙で濡れていた。 うーむ……、誰かに恋するってのは大変な事なんだな……。 その恋の相手が自分自身だって実感はまだあんまり無いけど、何だか身体がこそばゆくなった。 背中がちょっと痒くなってくる気分だな……。 と。 不意に菖がまた視線を伏せた。 また何か恥ずかしい事を思い出したのかと思ったけど、そうじゃないみたいだった。 申し訳なさそうに菖が声を絞り出して続ける。 「ごめんね、りっちゃん……」 「……何が?」 「こんな事、考えてる奴が傍に居たなんてやっぱり迷惑だよね?」 「どうしてだ?」 「だって……、りっちゃんはこう考えたりしない? りっちゃんの太股の感触や下着姿にドキドキしちゃう私だよ? 何か変な事しちゃいそうじゃん……? 例えばりっちゃんの寝込みを急に襲ったり……とか……」 「別に迷惑じゃないよ、菖。 菖の好きな相手が私だって事には驚いたけど、嫌じゃないって」 「な……、何で……?」 「だって、私の寝込みを襲ったりとか、菖はそんな事しないだろ?」 私がそう言った途端、菖の身体が一気に硬直した。 まさかそんな言葉を返されるとは思ってなかったんだろう。 今までとは逆に、菖の方が戸惑いの表情を浮かべて私の瞳を見つめていた。 私も菖の瞳をまっすぐに見つめ返す。 まだ菖が私の事が好きだって実感は無い。 誰かの事を好きになるって感情もまだ分からない。 私が菖の好きだって気持ちに応えられるかどうかも分からない。 でも、一つだけ確信してる事がある。 菖は絶対に私の嫌がる事も、誰かの嫌がる事もしない奴なんだって。 からかったりくらいはするけれど、本気で嫌がるような事はしないんだって。 出会ってまだ半年くらいだけど、私の中の菖はそういう奴だった。 明るくて楽しくて無邪気で元気で面白い事が大好きで、 でも何も考えてないわけでもなくて、晶や幸や仲間の事を大切に思ってる。 出会ってまだ半年の私達の事も大事にしてくれてる。 この空間に閉じ込められてからだって、 菖は私の気持ちを尊重してくれていたし、私を大切にしてくれていた。 私に迷惑にならないように、自分の気持ちも押し込めてずっと言わずにいてくれた。 だから。 それだけは私の中の真実なんだ。 「も、もー……、りっちゃんったら……」 言いながら、菖が自分の目元を右の手のひらで隠す。 もしかしたら、泣いてるのかもしれなかったけど、私はそれには触れなかった。 続く菖の声がとても明るいものだったからだ。 「恋する乙女のパワーを甘く見ちゃ駄目だってば……。 乙女は無敵で暴走しがちなんだから、そんなに信用しちゃ駄目だよ……! 特に私はこう見えて恩那組の裏のリーダーなんだからね! 実は高校時代もあんまりにも無敵だから、 殺す女と書いて『殺女』って呼ばれて恐れられてたんだよー?」 殺す女と書いて『あやめ』……? ああ、『殺』める『女』で『殺女』か。 何て酷いネーミングセンスなんだ……。 人の事は言えないけど。 つーか、『殺女』って当て字を考えたのは幸なのかな。 『恩那組』って名前を考えたのも幸らしいし。 これはいつか絶対幸に訊いてみなければなるまい。 「しかし、『殺女』ねえ……」 5
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79 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 16 05 51.54 ID ??? そんなことやる奴がGM決定におとなしく従うはずないだろ おとなしく従うような奴ならプレイ前に聞いてるって 言わずにプレイするのは プレイ中にGM裁量に対してごねる→空気が悪くなるのを嫌ってGMが譲歩 を狙ってるんだから 81 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 16 20 42.57 ID ??? 79 被害妄想過多でGM続けると困になっちゃうから休んだ方がいいよ 過去に何か実害あったのなら報告よろ 84 名前: ◆JesclICE5U [sage] 投稿日:2011/09/04(日) 17 10 31.31 ID ??? 81 79とは違いますが、プレイ前にあるPLにバランスがおかしくなるような解釈を言われ、 「その解釈はおかしいから止めて」と言ったのに、実プレイ中にその解釈をごり押しされて、 キャンペーンの最終バトルがつまらないモノになってGMであるこちらが非難された事があります。 挙げ句の果てに「決めた事に従えないGM」「何でも却下するGM」などと言い続け、 自身のした事は「GMを試しただけで悪くない」と言い、後輩にも中傷めいた事を吹聴して、 こちらの話を全く聞かせないように根回ししていました。 かなりの年月が経っていますが、似た事をするPLが居るので、怖くてGMが出来ません。 85 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 17 13 53.53 ID ??? GMを試すのは悪いことだよな、普通に。 86 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 17 23 29.18 ID ??? それはルール解釈云々よりサークル内の力関係をゲームに持ち込んでる方が問題な気が 87 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 17 29 11.89 ID ??? 86 それのできない人間のなんと多いことよ 88 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 17 45 51.49 ID ??? >解釈が微妙なルール うちにいるPLで事前にその辺りの確認をしないのがいる。 後からできないってなると時間の無駄だから思いついたらまずGMに確認取ってってしつこいくらい言ってるんだが絶対に口を濁して確認しようとしない。 どうも確認したら潰されると思っているらしいんだが、実際やる時になってからでも駄目なものは駄目なんだから結局は容赦無く潰されるから隠蔽は無意味だというのに。 とにかくPCの情報を開示するのを嫌がる。 何かトラウマでもあるんだろうか。 89 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 18 06 35.53 ID ??? 88 うちにもいるな。 うちのはトラウマじゃなくて頭が悪いんだと解釈してる。 何度トラブルになって何度自分の解釈がGMに却下されて何度行動が潰されても、土壇場で「●●だと思ってた」が直らないんだよなぁ。 ゲームの事なんかならいいけど、「自分の予定は黙っていても全員に伝わると思ってた」とかそういうレベルでのトラブルが直らない。 90 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2011/09/04(日) 18 06 56.70 ID ??? そういう話しだとDX2ndの《絶対の恐怖》+《天性のひらめき》を思い出す うちの鳥取でまっぷたつに意見割れて、持ち回りセッションとかが面倒になった スレ282
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崩壊した採掘所 出現MOB 名前 属性 Lv HP 攻撃力 防御力 ドロップ 備考 ガス蟲 地 330 920 11 0% ガス羽 - BOSS 名前 属性 Lv HP 攻撃力 防御力 ドロップ 特殊行動 備考 シガイ 闇 370 3000 16 0% 闇石 反撃で盲目&ウィザー&毒Ⅱ(15秒) 動きが速い ???(ネタバレ防止) 攻略等 ボスは反撃で盲目などにしてくる。焦って間を詰めてしまって殴られないようにしよう。 このダンジョンに繋がっているエリア ハイデル鉱山地帯 ※旧バージョンの情報はこちら→廃街の廃坑※ 名前 コメント