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第0話 第1話 第2話 第3話 第4話 第0話 お月見 第0話 月下の狩人 AP5 カルデアゲート 推奨Lv.10 絆P 230 EXP 550 QP 2,800 報酬 ムーンセル・オートマトン Ev-0-1 剣8 1/3 ウェアウルフLv3(剣)HP1,381 ウェアウルフLv3(剣)HP1,381 2/3 ウェアウルフLv5(剣)HP2,072 ウェアウルフLv5(剣)HP2,072 ウェアウルフLv5(剣)HP2,072 3/3 ウェアウルフLv5(剣)HP2,072 ウェアウルフLv10(剣)HP12,665 ウェアウルフLv5(剣)HP2,072 ドロップ ウェアウルフ 月見団子 1個 1枠 ウェアウルフ[3B] 特選団子 2個 1枠 備考 サポートはNPCミス・オリオン(選択時点では名称不明)Lv33のみ(※)の報酬はプレゼントボックスに直接付与されます。 第1話 お月見 第1話 アントワネットご一行さま AP5 カルデアゲート 推奨Lv.10 絆P 230 EXP 550 QP 2,800 報酬 呼符×1 Ev-1-1 剣1 騎1 殺1 1/1 マリー・アントワネットLv13(騎)HP21,304 デオンLv10(剣)HP13,558 サンソンLv10(殺)HP10,050 Ev-1-2 剣1 術1 殺1 1/1 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトLv15(術)HP27,785 サンソンLv10(殺)HP10,050 デオンLv10(剣)HP13,558 ドロップ マリーモーツァルト 特選団子 3個 1枠 デオンサンソン 月見団子 2個 1枠 備考 特選団子10個で解放サポートはNPC ミス・オリオンLv33のみ(※)の報酬はプレゼントボックスに直接付与されます。 第2話 お月見 第2話 海岸線の戦い AP5 カルデアゲート 推奨Lv.15 絆P 00 EXP 00 QP 3800 報酬 呼符×1 Ev-2-1 騎2 殺1 1/1 ゲオルギウスLv25(騎)HP36,255 マルタLv15(騎)HP20,177 小次郎Lv15(殺)HP12,124 ドロップ ゲオルギウス 特選団子 3個 1枠 マルタ小次郎 月見団子 3個 1枠 備考 特選団子40個で解放サポートはNPC ミス・オリオンLv33のみ(※)の報酬はプレゼントボックスに直接付与されます。 第3話 お月見 第3話 荒城の月 AP5 カルデアゲート 推奨Lv.20 絆P 430 EXP 00 QP 4800 報酬 呼符×1 Ev-3-1 剣1 狂1 1/1 カエサルLv20(剣)HP38,936 カリギュラLv20(狂)HP47,013 Ev-3-2 剣1 騎6 1/1 ワイバーンドレッドLv8(騎)HP5,700 アルテラLv25(剣)HP62,872 ワイバーンドレッドLv8(騎)HP5,700 ワイバーンドレッドLv8(騎)HP5,700 ワイバーンドレッドLv8(騎)HP5,700 ワイバーンエビルLv8(騎)HP8,294 ワイバーンエビルLv8(騎)HP8,294 ドロップ カエサル 特選団子 3個 1枠 カリギュラ 月見団子 3個 1枠 ワイバーンドレッドワイバーンエビル 月見団子 2個 1枠 アルテラ 特選団子 3個 1枠 備考 特選団子100個で解放サポートはNPC ミス・オリオンLv33のみ(※)の報酬はプレゼントボックスに直接付与されます。 第4話 お月見 第4話 月の女神はお団子の夢を見るか? AP5 カルデアゲート 推奨Lv.25 絆P 530 EXP 2770 QP 5800 報酬 呼符×2 Ev-4-1 弓1 1/1 ミス・オリオンLv33(弓)HP98,989 備考 特選団子200個で解放(※)の報酬はプレゼントボックスに直接付与
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小気味の良い、丸木を断ち割り、転がる音が、早朝の学院の薪置き場に響く。 それを響かせるのは一人。 屈んだ姿勢で鉈を振るう、ざんばらに切った黒髪の少年。 群青色の下地に、白地の布をパッチワークに、後ろのフードと一体の、このハルケギニアには存在しないであろう、 未知の生地布で作られた服の腕を捲くり、一つ、また一つと丸木を使いやすい形に変え、薪の山にくべる。 「ふぅ。」 まだ夜と早朝が肌寒い季節ではあるものの、薪割りで、自然と吹き出た汗を拭う。 少年の名はサイト。彼自身は平賀才人と名乗っている、この学院の使用人である平民の一人。 今日は休日を示す『虚無の曜日』。朝早くに、毎日割り当てられた薪割りの仕事をこなし、休日を楽しむべく、鉈を振るって いたのである。 「うし、後はこいつだな。・・・ったく、こんなの取ってくる時に厳選しろっつーの。」 愚痴を言いつつも、一際太い、本来ならば斧が必要な丸太を台に乗せると、先程まで右手に持っていた鉈を左手に持ち替える。 布を軽く絞り込む音をさせ、握りしめると、左手に刻まれた文字が、光を帯びて浮かび上がる。 もし此処に、ミカヤを知る者がその文字が輝く光景を見ていたならば、既視感を感じたか、驚愕したことだろうが、生憎と 観衆が存在しなかったため、それは行われた。 「しっ!」 サイトが左手の鉈を高く掲げた後、一気に振り下ろすと――――― そこには見事に、縦割りに八分割された薪が転がった。 「ふっ、つまらん物を斬ってしまった。」 目視が困難な速度で、四度も振り下ろされたのだ。 調子の良い性格のこの少年。一人、誰もいないはずである置き場で格好をつけてみた。 「何をやってるのよ、サイト。」 「・・・・・あはは、姉さん見てたのね?」 しかし、それを窘める女性の声に、乾いた笑いを浮かべながら振り返る。 エメラルドグリーンの髪の美しい、眼鏡をかけた女性が眉を顰め、頭痛を抱えるように右人差し指を額に当てている。 学院長付秘書のロングビルだった。 ファイアーエムブレム外伝 ~双月の女神~ 第一部 『ゼロの夜明け』 第九章 『休日の街』 普段の彼女を知る学院関係者ならば聞くことは決して無い、おそらく此方が地であろう、砕けた口調で話す。 「まったく。今の光景をあの好色爺やコッパゲに見られたらどうするんだい?」 「ごめん。でも、斧振るったら今の俺じゃ粉砕しちゃうし。」 オスマンとコルベールのことを不敬な物言いで呼ぶロングビルは、目の前で起こった現象に心当たりがあるために、 そう忠告する。 頭を掻きつつ、謝るサイト。 「それはそうだけど、もう少ししっかりしなさい。 サイトが『ガンダールヴ』であることも、あの子が『担い手』であることもみだりにバラすわけにはいかないんだから。 あの子の出自も考えれば、知られれば尚更まずいんだし。」 彼女は何の変哲の無いはずの目の前の少年と、それに連なる彼女の妹分が如何なる存在かを知るがため、危惧する事項を 伝える。 学院長付秘書であるロングビルは、『フェニアのライブラリ』に立ち入る権限をオスマンから得ている。 その為、サイトの左手に刻まれているルーン文字を調べる機会があった。 その時に導き出した答えは、彼女を驚愕させ、納得させるものであった。 ―――神の楯『ガンダールヴ』。 あらゆる武具を使いこなし、そのルーンから得られる力でもって振るわれる技は天下無双。 始祖ブリミルを守り、万敵を退けたとされる、不敗の騎士の使い魔。 ミカヤのいた『テリウス』ともまた異なる世界から召喚されたのがサイトだった。 特殊な出生の過去を持つ彼の召喚者は、人と関わりを持つことを憚られるが為、ロングビルと共に育った孤児院から外に 出られない生活を送っていた。 同じ孤児院の中でもロングビルを除けば最年長であるため、自らの出自を恐れない友人を欲し、『サモン・サーヴァント』 を行使したことにより、彼は現れた。 サイトも召喚当初は困惑し、元の世界に帰れない事を嘆いたこともあったが、暴漢が孤児院に押し入って来た時、薪割りに 使っていた鉈一振りで守ったことから、元来の前向きな性格も後押しし、友人として、守人として契約を交わした。 その契約者は傾国の、と例えても大袈裟では無い掛値無しの美少女であり、何よりサイトが好む、女性の誰もが羨むであろう 神懸り的なプロポーションを誇っていた。 何分に年頃の少年だったが故に、下心抜きでは無かったことは否めなかった。 「俺が伝説の使い魔だって言うけど、何か自覚無いんだよな。 確かにこのルーンが刻まれてから、左手に「武器になり得る物」を握ると、すごい力が出るんだけど。」 物心ついて以来、異世界で武具や凶器とは無縁の生活をして成長して来たサイトは、その類の扱いの心得を持っていなかった。 二人が酒場で給仕として働いている時に客として訪れたオスマンに目をかけられ、学院に秘書として、使用人として 雇われるまでの間、危険な目に遭うことが多々あり、それを潜り抜けられたのは一重に、このルーンの力によるところが 大きい。 「私から言わせれば、素人が動きが早くなって、腕っ節が強くなった程度でしかないね。 この学院まで連れて来るにも、危なっかしくて冷や冷やものだったんだから。」 「まぁ、そうだけどさ・・・・・。」 そう言い切るロングビルにぐうの音も出ないサイト。 ちょうどその時、馬車を引く音が聞こえる。 「お?シエスタ?」 貴族の外出の為に馬車を手配したであろう、使用人仲間の少女を見かけたサイトは目を凝らす。 すると、それを待っていたように、一組の女性と少女が乗り口まで歩み寄るのが見える。 この学院では既に貴賎問わず名の知れた銀髪と桃色髪の二人。ミカヤとルイズだった。 「すげぇ・・・・・。」 噂に違わぬミカヤの美貌に、たちまちに魅了されるサイト。最も、彼の場合は彼女のことを別の形で知っていたこともあり、 噂以上と評価を修正していたが。 ―――――サイトの世界には彼女の姿似の絵が存在し、『科学』と彼が呼ぶ魔法じみた技術でもって造られた、 テリウス大陸の戦史を追体験できる遊具が存在している。 彼はその中の一幕をミカヤの立ち姿を通じて思い返し、郷愁の念を浮かべていた。 余りにも遠い所に来てしまったのだと痛感させられると同時に、何故、「あちらの世界」での「仮想の人物」がいるのか、 疑念を抱く。 「見とれてないで。 ノルマはこなしたんでしょう。私達も馬を借りに行かないと時間がないよ。」 すると、ロングビルから、頭に軽い小突きが落ちた。 「いて、そうだった。確かトリスタニアで武器を買うんだったっけ?」 「そう。早く行くよ」 気を取り直し、腕まくりした衣服を正すと、踵を返す彼女に続くサイト。 「ツテがあるから、私の知っている武器屋に行くけどいいかい?」 「ああ。姉さんが選んだものなら間違いないし、お願いするよ。出来れば・・・、タルブ製の剣なんかとか欲しいんだけど。」 「ヒヨっ子が贅沢言わないの。」 そんなやり取りをしつつ、学院内の宿馬場へと二人は歩いて行った。 「本当に助かりました、シエスタ。」 「馬車の手配も付き人として来てくれるのも助かるけど、どうして私達に?」 一方、ミカヤとルイズは馬車を手配してくれたシエスタに礼を言い、軽い自己紹介を終えたところで、今回の同行の理由を 聞いていた。 「ミカヤさんへの感謝の気持ちでもありますし、何より私も王都に用がありますので。 それに、ミカヤさんの主人であるミス・ヴァリエールにも、一度は御挨拶に伺いたいと思っておりましたから。」 「そうなの。改めてよろしくね、シエスタ。」 「此方こそ、ミス・ヴァリエール。」 召喚されてから、自身を導く道標となっているミカヤとの触れ合いにより、平民との当たり方も丸くなりつつあるルイズ。 柔らかな笑みを向け、そう話す彼女にシエスタは笑顔で返す。 そのまま彼女は御者台に乗ると、二人に催促をする。 「さぁ、参りましょう。」 手綱を握るシエスタにミカヤとルイズは頷くと、馬車へと乗り込み、一路王都へと向かった。 ―――――トリステイン王国王都トリスタニア。 城下の繁華街ブルドンネは、休日の賑わいを見せていた。 道路には人々が行き交い、子供達が笑いながら駆け回り、道なりに店舗が垣根を連ね、商人が品物の売り込みに 声を張り上げる。 その光景に、二人と共に大通りを歩きながらミカヤは、復興後のデインでの暮らしを思い返した。 老若男女、貴賎、種族を問わず、ヒトが溢れた懐かしき故国の街。 行幸からの帰国では必ずと受けた、栄光を賛美する声と熱烈な出迎え。時には民らに混じり語らい、宴においては杯を交わし、 歌う。 街並みを眺めつつ、この国もそうあればと願わずにはいられなかった。 「ねぇ、ミス・ミカヤ。」 右隣につき、歩くルイズの声に思考を戻すミカヤ。 「何、ルイズ?」 「ミス・ミカヤは他に何か欲しいのは無いの?」 そう聞かれ、思考するミカヤ。 旅の為に用意していた最低限の持ち物以外持っていなかったミカヤは、まずはルイズとシエスタ達とで、着衣その他の日用品の 購入を済ませていた。 「日用品は此方でも購入出来たけれど、魔導書や杖の方は替えが無いわ。」 魔導書と杖は魔法や力を行使する度に磨耗していき、やがて負荷に耐えられなくなり、魔導書は燃え尽き、杖の宝珠は 砕け散る。 特に使用頻度が多い魔導書と杖は予備が欲しいところではあったが、このハルケギニアでそれを求めるのは無理だろうと 考えていた。 手元には決戦の折に女神の加護により固定化と神性を付加された、最上位の光の精霊魔法である『レクスオーラ』の書が あるが、鍛え直している最中の自身が扱うには負担が大きい。 「あ、それでしたらミカヤさん。」 そこに、何かを思い出したように言葉を挟んだのは後方に控え、荷物を持つシエスタだった。 「私がお世話になっている武器屋にこれから行きたいんですけど、もしかしたら掘り出し物があるかも知れません。 ミス・ヴァリエールも、良ければ。」 「武器屋?それがシエスタの用事なの?」 「はい。」 ルイズにそう返すシエスタの提案に、暫し黙考するミカヤ。 テリウス大陸の武器屋ならば魔導書、杖も売られていた。もしかすれば、誤召喚等でテリウスから流れ着いた、この世界では 文字通り、掘り出し物が存在する可能性があった。 「そうですね。では、案内をお願いします。」 「はい。ピエモンの秘薬屋の近くの裏通りにあります。」 「え~、あそこに入るの?」 ミカヤの了承を受けて、シエスタの告げた場所に不満を漏らすルイズ。 貴族である彼女は、歓楽街は元より、貧困層が住む裏通りに踏み込みたがらない。 「ルイズ、私が初日に食堂で話したこと、覚えているわね?」 「あ・・・・・。」 向き直り、真剣な表情で諭すように告げたミカヤに、ルイズははっとする。 そう、末端と言われる一人一人に至るまで心を砕き、その人々の痛み、求めるものを共有するからこそ、 『貴き一族』―――貴族なのだと説いた彼女の言葉。 それを思い出した。 「・・・ごめんなさい、ミカヤお姉さま。 シエスタも、ごめんなさい。」 ならば知らねばならない。 末端として、富める者達を支える者達の、もう一つの姿を。 『姉』の教えに従い、頭を下げたルイズ。 「そう、それでいいの。」 「ミス・ヴァリエール、そうお気になさらないで下さい。」 素直な彼女にミカヤは優しい笑みを向け、シエスタは感銘を受けたように目を細め、微笑む。 「では、参りましょう。此方です。」 シエスタがそう告げ、3人は裏通りの入り口へと足を向けた。 ―――――神の頭脳と神の楯、神の楯の左腕はここに邂逅する。
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――――――魔法学院での使い魔としての初日において、騒動に巻き込まれたミカヤ。 メイジの名門グラモン家の四男ギーシュに、因縁をつけられた。 決闘はハルケギニアにおいて、古来から貴族の誇りと、掛け替えの無いものを守るために、 命を懸けて行われるメイジ同士の一騎打ち。 そのため、ここトリステインにおいて、「女王から授かった命を無駄にすることの無きようにする」措置として、 決闘禁止法が敷かれていた。 しかし、その法は平民との間、または他国のメイジには適用されていない。 そこをギーシュは逆手に取り、自らの誇りを取り戻す名目で、決闘を申し込まれた。 ミカヤの召喚者であり、姉のように慕うまでに信頼を寄せるルイズには、許容出来るものではなかった。 食堂の給仕の手伝いの過程で、親交を築いたメイドのシエスタも、メイジの魔法を使えることの恐ろしさを知るが故に、 二人はすぐさま静止しようとするものの、ミカヤはそれを断り、決闘へと赴く。 大鏡で事を見守る、オスマンとコルベールを除く、当事者であるミカヤ自身すらも、この決闘が真に何を意味するかを 未だ知らない。 この決闘こそが全ての始まりになることを―――――― ファイアーエムブレム外伝 ~双月の女神~ 第一部 『ゼロの夜明け』 第六章 『神の頭脳(ミカヤの章)』 『風』の塔、『火』の塔の間にある広い中庭、ヴェストリの広場。 日中に関わらず、あまり日の差さないこの校庭は、決闘騒ぎを聞きつけた生徒が溢れ、その中心に大きな円を作っていた。 その中心に、自らこそが、これから行われる劇場の主役であるかのように振る舞い、観衆にアピールするギーシュ。 「諸君!決闘だ!!」 青銅であしらった紅薔薇の花弁をつけ、細部すらも忠実に再現した、指揮棒程の長さの杖を右手に持ち、掲げての大音声。 生徒達も歓声をあげ、はやし立てる。 「ギーシュが決闘するぞ!」 「相手は平民のメイジだ!」 「新入りのメイドらしいぞ!」 歓声に優雅に左手を振るギーシュ。しかし――――― その歓声も、広場に響いた、澄んだ金属音に静まり返る。 振り向く一同の視線が、一ヶ所に集中するとそこにはメイド服を纏った銀髪の女性。 しかし、その服装にはあまりにも物々しい、本を数冊納め、杖を下げたホルダーを腰に巻き、右手には明らかにつくりが 異なる、美しくも神々しい長杖。 先程の金属音は、この長杖が地面をついた音だった。 一歩一歩、杖をつきながら静かに歩む姿に、生徒達は目を奪われ、彼女の道を開く。 『雪風』の二つ名を持つ、真っ直ぐな空色の短髪の少女、タバサは興味が無さげに本を読むふりをしつつ、 ミカヤを赤い楕円縁の眼鏡越しに、その鋭い視線で注意深く観察している。 「全く、ギーシュも馬鹿よね。ミス・ミカヤに決闘だなんて。」 その右隣にはキュルケが呆れたように、台詞を投げかける。 タバサを挟む位置にルイズ。 「どうして止めないのよ!?」 自身だけでは止められないと考えたルイズは、ミカヤと面識を持ったキュルケに、仇敵に頭を下げてでも止めようと思い、 声をかけた。 その後、キュルケはタバサに事情を話し、共に中庭に来たのである。 「だって、止めたら面白くないもの。」 一縷の期待を裏切るように、そんなことを事も無げに言ってのけるキュルケ。 彼女にしても、退屈な日々の娯楽を欲していたのだ。 「あの人・・・、戦いを知っている・・・。」 「どういうこと?タバサ。」 「え?」 自身の親友とも言える少女が、感情の読めない声で話し始めるのを聞く。 ルイズも初めて会話の機会を持った、この無機質な表情の少女の言葉を聞く。 「・・・あの身のこなし、現役を退いて長い。でも、あの人は幾つもの戦いを潜り抜けているように見受ける。」 「そ、そそそうなの。」 「なら、ギーシュには勝てるわよね?」 その言葉に、ルイズはどもりつつも、内心安堵する。 キュルケの問いに当然、というように軽く頷くタバサ。 「・・・長年退いていた身体の反応と、培ってきた戦場の勘の摺り合わせが終わった時、決着。」 「あらら。」 タバサの言葉に、ミカヤの正体を知れば、更に愉快なことになろう、とキュルケは笑みを強めた。 ルイズもミカヤの勝利を疑ってはいないが、自身の大切な『姉』に怪我が無く終わることを願った。 「ミカヤお姉さま・・・・・。」 闘技場の舞台のようにミカヤとギーシュを囲む生徒達の前では、幕前の寸劇が繰り広げられている。 「とりあえず、逃げずに来たことは褒めてやろうじゃないか。」 「退けない理由がありますから。」 あくまで貴族らしく、地位の高い者としての大柄な口調で告げるギーシュに、そう返すミカヤ。 「ほう、それは何かね?元は貴族であったろう君が平民に身をやつしたことに関わるのかな?」 このハルケギニアにおいて、メイジは貴族。始祖ブリミルの御世から、魔法を与えられた人々の子孫故に、 力と名声を持つ。 その貴族が平民に下る時は、咎を成した者か、出奔した者になるということ。 自身は末男とは言え貴族。そうした驕りの感情でミカヤを愚弄する。 「友人のため。今はそうと申しておきます。」 そんな言葉の毒を気に止めず、淡々と告げる。 実の所ミカヤは、シエスタの思いつめた想念を感じなければ決闘を受けることはせず、穏便に済ませようとした。 だが、シエスタがミカヤの為に、ここトリステインにおける大罪、メイジ殺しを自ら被ろうとしたのだ。 そして同時に、彼女のルーツが『こちら』―――テリウス側の、自身が最もよく知る者であるということも。 だからこそ、この決闘を受諾した。 さらには、今後ルイズを守る為には、嘗ての戦場の勘を取り戻し、自らを再び、戦向きに身体を鍛えなおす意味合いもあった。 決闘の後は、シエスタに自分の予想が正しいかを聞くことを考え、思考を決闘に戻す。 「ふっ、麗しいことだ。 では―――――、始めようか。」 そんな思慮も知らず、ギーシュは薔薇の杖をミカヤに突きつけ、開幕の為の名乗りを上げる。 「僕はギーシュ・ド・グラモン!名を表すは『青銅』! 誇り高き魔法将軍の家系、グラモンの末男!」 それに合いの手を入れ、ミカヤもまたギーシュに聖杖『マトローナ』を向ける。 「私はミカヤ。 名乗るならば、私の名を表す二つ名は―――――」 自らを寄り代とした女神が、嘗てあるべき姿の時呼ばれたもの。 民の、ヒトの解放の証。 幾つかの二つ名で呼ばれた中で、一つを取り、名乗りを上げた。 「―――――闇夜を晴らす暁。すなわち、『暁光』。」 「・・・・・なんだって・・・!?」 ギーシュはその名乗りに、そう小さく呟き、内心かなり動揺するものの、誇りと虚栄心でひた隠しにする。 ミカヤの召喚に立ち会った彼は、その姿、雰囲気。全てを覚えていた。 眩いばかりの銀髪に、暁を思わせる金色の瞳。 改めて見れば正に眼前のメイド服を着た女性は、『ゼロ』と蔑んだルイズが召喚した『女神』そのもの。 しかし、彼女が仮にそうであったとしても、既に賽は投げられた。 「・・・ほう、『ゼロ』のルイズが呼んだ、彼女には余りにも釣り合わない『女神様』の名と瓜二つとはね。」 貴族の誇りに懸け、退くことは叶わない。 「しかし、罪人のメイジには過ぎた二つ名と名前だ。この決闘で返上してもらおうか!」 そう言い放つと同時に、杖を横へ振りぬく。 それにより舞い散った青銅で出来た幾つかの花弁が、鎧を纏った女神を象った、人間と同身長の、美しい造形の青いゴーレムを 作り出した。 その数、7体。 「僕の系統は『土』。『錬金』で生み出せし僕の武器、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手しよう。」 剣を、槍を、斧を持ち、ゴーレム達は此方を威嚇する。 それを見届けたミカヤは表情を落とし、読まれないよう俯く。 「ミスタ・グラモン。貴方は一つ、言ってはならないことを言いました。」 静かに震える心の中にあるものは、『怒り』。 「この世界で出来た、私の大切な『妹』の心を踏みにじる・・・」 それに呼応するように、額に刻まれた文字が光を帯び、浮かび上がる。 「『ゼロ』と言う言葉を告げたことです。」 引き締まった表情の面を上げると同時に、光はいっそうの輝きを纏う。 そして、轟、と音を立て、風が吹いた。 ミカヤの怒りに、神の頭脳の力に応え、活性化した光の精霊達が彼女を金色に染め、ベールが如く、尖塔が如く纏う。 銀髪が舞い上がり、正しくその姿は、眼前の愚者に裁きを下す、『女神』。 「ご安心を、オールド・オスマン。」 『遠見』で此方を見ているであろうオスマンに、告げつつ、左のホルダーから『ライト』の書を取る。 「彼を傷つける事無く、終わらせます。」 長杖を軽く右下へと振り抜くと、眼前の『ワルキューレ』を鋭く見据えた。
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オラクルシンクタンク - ノーブル グレード〈3〉 ノーマルユニット (ツインドライブ!!) パワー 11000 / シールド - / クリティカル 1 起【V】【LB4】:[SB3,あなたの《オラクルシンクタンク》のリアガードを1枚選び、呪縛する]2枚引き、あなたの手札から1枚選び、捨てる。そのターン中あなたの手札1枚につき、このユニットのパワー+1000。そのターン中、この能力は使えなくなる。 永【V】 あなたのソウルに「満月の女神 ツクヨミ」があるなら、このユニットのパワー+2000。 永【V/R】 盟主 フレーバー:満月はやがて新月へと至る。 順位 選択肢 得票数 得票率 投票 1 弱いと思う 2 (67%) 2 使ってみたいと思う 1 (33%) 3 強いと思う 0 (0%) 4 面白いと思う 0 (0%) その他 投票総数 3 ↑似たような能力のアルテミスと比べて、呪縛コスト込みでやってる事がほぼ変わらないしな…(自動と起動の違いもターン中1回制限で無いも同然だし) (2014-09-30 08 30 38) しんげつって「新月」と書きませんか? (2014-10-04 11 08 56) コメント
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「う~ん・・・。つまり―――・・で、ここは――・・・・・、・・―――?」 「少し違うわ。ここの小節の言の葉が少しニュアンスが異なるでしょう?だから、・・・―――。」 ルイズは自室の机で羊皮紙を広げ、羽ペンを右手に持ちつつ、唸っていた。 その隣で、ミカヤは自身で即席で作った、数枚の羊皮紙のつづりの中の1ページに記された文章を説明している。 初日の夜に約束した『古代語』を教授する為に作り上げた手製の教科書と、隣には魔導書。 それを使った二人だけの授業は、夜の就寝前の貴重な一時であった。 「う~~~・・・。」 艶のある桃色の髪を乱暴に撫でながら、眉を顰めるルイズ。 異世界の言葉であり、精霊に語りかけることが出来、先住の民達が用いたという『古代語』は、魔法学院でも勤勉と評される ルイズでも難解だった。 知らない言語を基礎から始めるのだから、尚の事である。 そんな彼女を笑みを湛えながら見つめ、落ち着かせるように右肩に自身の右手を乗せる。 「大丈夫よ。ルイズは飲み込みが早いから、補助詠唱くらいは直ぐに覚えられるわ。」 「・・・そうかしら?」 そんなミカヤの励ましに首を捻りつつも、それを嬉しく思うルイズだった。 ファイアーエムブレム外伝 ~双月の女神~ 第一部 『ゼロの夜明け』 第七章 『穏やかなる日々』 ギーシュとの決闘から早数日。 二人を取り巻く環境は大きく変貌した。 まずは朝。 洗濯物をシエスタが取りに来るようになり、ミカヤはメイド服に着替えてから彼女に続き、洗濯をしつつ、 朝の語らいをすることが日課になった。 そうした中で、彼女にアイクの縁者であるかを訊ね、シエスタはアイクの孫であることを告白した。 心を読んだことで得た推測が確信に変わり、彼や自身の故郷であるテリウスの事を話した。 祖父から、幼い頃より寝物語に聞いていた話が真実だったことが分かり、何より嬉しかったと言っていた。 彼女の故郷である村―――「タルブ」では鍛冶業が発展しており、祖父、そして共に流れついた、祖父亡き後は厳しくも優しく 接してくれた小父によってもたらされた、テリウス大陸製に近い武器が生成されている。 知っていた小父も知識のみであり、現物以外無かった為か、試行錯誤が数十年の間、幾度と無く繰り返された。 現在は、青銅や精鉄、純鋼、耐久力は低いものの、刃物にすると抜群の切れ味を持つ加工銀等で出来た―――所謂 タルブ製の武器は信頼性が高く、トリステインの平民の持ちうる最高の武器となった。 工房が小さく、出荷数は少ない為、城下町に並んだ次の日にはたちどころにに品切れになってしまうと言う。 「私の従姉は、王都の歓楽街の酒場で働いているんですよ。 中々お暇が合わなくて会えないんですけど、手紙の交換で近況を知らせていますわ。」 「大変ですね。歓楽街だったら揉め事も多いんじゃあないかしら?」 手を休める事無く、二人は会話に花を咲かせる。 「ええ、この間も性質の悪い強盗を締め上げたらしくて。 衛士詰所から褒章を貰った、て書いていました。」 困ったような笑みで、そんなことを語るシエスタ。 その従姉は話によれば、彼女より気が強いらしく、例えメイジ崩れの強盗の脅しにでも一歩も退かないとのこと。 大切なものを守る為ならば、シエスタ自身も同様であろう。 何より、あの『勇者』の孫なのだから。 「彼女もそうですが、その強盗は大丈夫だったのですか?」 「はい。でも私より腕が立つから、むしろ手加減していたと思いますよ?」 「まぁ。」 ミカヤの問いに、謙遜しつつもそう嬉しそうに話すシエスタに、彼女は苦笑を禁じえなかった。 洗濯と会話を楽しみ、それを終えると、次はルイズを起こす。洗濯を終えたままのメイド服姿で起こした時は当初、 かなりびっくりしたとはルイズの独白。 時には、朝が弱いルイズを着替えさせ、身支度をし、日頃の他愛ない話をしつつ、食堂へ。 「おはようございます。料理長、皆さん。」 「おう、『我らの乙女』ミカヤ!今日もよろしく頼むぜ!」 厨房へ入り、朝の挨拶をマルトー達と交わす。 あの決闘以来、ミカヤは平民の使用人達から『我らの乙女』という称号でもって呼ばれることがある。 厳密には違えど、メイジでありながら平民達に心を砕く姿勢と、貴族相手に一歩も退かず、勝利したことを称え、 そう呼ぶことにしたと聞かされた。 全ての貴族連中もミカヤのようであれば、という愚痴を何度も聞き、それに苦笑する日々。 更には男子学生達を中心に、彼女のメイド姿を気に入られ、いつの間にか食堂の看板になっていた。 「ミス・ミカヤ!僕の所にも配膳を!」 「何を言うんだ!次は俺の順番だろう!」 そうして男子学生達が言い合う光景も、今や日常の一幕。 「はい、ただ今。」 純粋な意思でもって接する彼らに笑みを向けつつ、配膳をしていくミカヤ。 そんな光景を頬を膨らませ、ぶつぶつと不満げに文句を言いながら眺めるルイズの姿も日常と化す。 「全く、ミス・ミカヤと私がお話出来ないじゃないのよ・・・。」 「あらあら、妬いてるの?大事な「お姉さま」が引っ張りだこになって。」 「うるさい!」 あれからルイズとキュルケ、タバサの3人はよく会い、つるむようになった。 食事中は二人が良く、ルイズの隣に掛けるようになり、こうしてキュルケがルイズをからかい、それをタバサが眺めることも また日常。 ルイズの拗ねた姿も実に愛らしいらしく、母性本能をくすぐられるとはキュルケの談。 「・・・。」 独特の匂いと苦味がある、食べる人間を選ぶハシバミ草のサラダをついばみながらミカヤを眺めるタバサ。 しかし、彼女に向ける視線には、何か迷いを感じさせる。 ―――まるで、胸の内に抱える悩みを話すことを躊躇うかのように。 「いい加減にしないか、諸君!僕達は貴族なんだぞ? そのように下心丸出しな、粗野な振る舞いは為すべきではないだろう?」 騒ぐ同期達を戒めるように一喝するギーシュ。 あの決闘で、人間的な意味合いでミカヤに惚れ込んだ彼は、自身を見つめ直し、心と魔法の研鑽の日々を送っている。 かつての傲慢さは鳴りを潜め、真の貴族たらんとする振る舞いは、今までより多くの少女達の心を掴んだ。 「申し訳ありません、ミス・ミカヤ。貴族らしからぬ姿をお見せしました。」 「いいえ、気にしてはいませんよ。 このくらいは大目に見る度量もまた、貴方の目指す「貴き一族」と思いますが?」 頭を下げるギーシュにそう返すミカヤ。 それに苦笑いをうかべつつ、彼は頭をかいた。 「変われば変わるものねぇ。」 そんな様子を見つつ呟くモンモランシーは、ギーシュに惚れ直したという。 同時に、彼を変える切欠を作ったミカヤに感謝していた。 食事が終わり、装束に着替えると、次は授業。 系統の魔法から地理、歴史、国語に至るまで、テリウスとの相違を検証する日々。 その過程でハルケギニア語と文字を学んだが、基礎から習得するにはかなり苦労した。 ミカヤ自身は今まで気がつかなかったことだったが、学習の過程で、自身が話していた言葉はハルケギニア語に、聞き取る 会話はテリウス語に変換されていたことが判明した。 文字の綴り等を学び、ハルケギニア語の文章作成をもって魔導書の解読を行い、ルイズとの就寝前の授業に当てている のである。 午前の授業が終わり、昼休み。 「はぁっ!」 「ふっ!」 金属同士を幾度も打ち鳴らす快音が広場の裏庭に響く。 シエスタが刃を溢した訓練用の大剣を両手持ちし、胴目がけ右横一文字に払い抜けるが、ミカヤは体を左に流し、右手の杖で 逸らす。 逆に脳天を打ち据えようとするが、その場で彼女は勢い良く回転し、大剣を横にしたまま頭上に上げたことにより、阻まれる。 鍔迫り合いを嫌って後退したミカヤを追撃をかけず、そのまま間合いを取った。 「・・・・・今日はここまでですね。」 「何時も・・・、ありがとうございます・・・。」 そう言い合うと、二人は各々の得物を収める。 互いに肩で息をしていることから、激しい打ち合いだったことが見て取れる。 昼休みの時間を利用し、ミカヤは毎日欠かさぬ精霊との対話の後、シエスタと白兵戦の鍛錬をしていた。 テリウス大陸の、大賢者以上の魔道士や神官は杖術を習得出来、杖を行使した直後の護身、迎撃に使う。 更に実戦を積んだ強者になれば、ミカヤのように魔法との連携も駆使する。 自身の実戦訓練になるとシエスタが快諾してくれ、現在、この鍛錬で戦場で培った反応や勘、体力を取り戻すべく奮闘 している。 その後は、平民用のサウナ風呂で汗を流しつつ、会話を楽しむのであった。 ―――――こうして、かつてミカヤが経験したことの無い、賑やかで穏やかな日々は流れる。 ある日、何時ものようにシエスタと共に、早朝の洗濯に勤しんでいた時だった。 ミカヤの背後から、きゅるきゅると鳴きつつ、近寄ってくる大トカゲ。 キュルケの使い魔であるサラマンダーのフレイムだった。 「あら、あなたはフレイム?どうしたの?」 向き直るミカヤに、フレイムは口に銜えている長方形の包み―――手紙の封筒を見せるように、此方に向ける。 自身に当てたものであることを言いたげに向けてきたものだったため、それを受け取ると、フレイムは踵を返し、そのまま 去って行った。 「どうしたんです?」 「ミス・ツェルプストーからの使いで来たみたいですが、この手紙を私に・・・。」 そう言いつつ、開封すると、『錬金』で作ったであろう、一枚の鉄のプレート。 そこにはツェルプストー家の家紋のレリーフと、焼付けで描いた、ハルケギニア語の一文で、こう記してあった。 ―――――親愛なるミス・ミカヤへ。今夜互いの親睦を深め合いたいと思うので、是非お時間を。 灯火の晩餐へご招待致します。 『微熱』のキュルケより友愛を込めて―――――
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半円階段状に配置される石机のある教室の講堂。 デイン王立の学院よりも大きいと、ミカヤは見立てる。 既にメイド服とカチューシャは、巫女装束とサークレットに着替えている。 朝食は厨房のまかない食のシチューで済ませたが、非常に美味だった。 ルイズと共に中に入るとすでに、他の生徒達が集まっている。 此方に気がついたのか、一様に生徒達は驚きの表情と思考を向けてきた。 無論、思考もほぼ一致していた。 『ゼロ』のルイズが女神を連れて来た、と。 彼らの思考は分からないでもないが、快く思えない。 その中で今朝方、ミカヤと面識を持ったキュルケは落ち着いており、右手を軽く振り、笑みを浮かべつつ挨拶。 そんな気さくな彼女に苦笑し、少し気を持ち直した。 一方のルイズは周囲の使い魔を見比べながら、此方が注目され、満悦だった。 何しろ、今まで魔法の行使を一度たりとも成功できなかった自分が、今回の使い魔召喚で「大当たり」を 引き当てたのだから。 眼球の姿をした魔物、バグベアー。蛸と人魚を掛け合わせた怪物、スキュア。 一睨みで生き物を石に変える石化のトカゲ、バシリスク。 巨大な蛇や、梟、烏に猫。 いずれもミカヤの神聖さ、美しさには敵わない。 目の前の、ミカヤに馴れ馴れしく手を振る仇敵であるキュルケのサラマンダーも、羨ましくはあるが及ばないと、 胸を張って言える。 「ミス・ミカヤ、此方にいらして。あんた達、そこをのきなさい。」 周囲にはべらせていた男子達をキュルケはすげなく追い払うと、ミカヤとルイズ、二人分の席を確保した。 「さ、遠慮はいりませんわ。 それとルイズ、あんたはミスのおまけなんだから。 私の傍で授業を受けられるのを精々ありがたく思うことね。」 「何よそれ!?」 先程までの思考を見透かしたかのような、相変わらずの意地の悪い笑みでそう言われ、おまけ扱いされたルイズは 憤慨するものの、ミカヤはキュルケの、二人を好奇や揶揄の視線から外そうとしている心を汲み取り、 礼を返す代わりに笑みを浮かべ、好意を受け取る。 「ルイズ、キュルケの好意に甘えましょう。私が二人の間に座ればいいでしょう?」 「う~~・・・。」 唸りつつも、ミカヤお姉さまが言うことならば、と従い、席に着く。 召喚されて短期間で、姉妹のように絆を深めている二人に目を細めるキュルケ。 正直、羨ましいと考えていた。 こうして、ミカヤは右にルイズ、左にキュルケと、間に挟まれる形で席につく。 メイジ以外は席に座ることが出来ない席に、ミカヤがかけることに誰も文句を言うことはない。 学院でも指折りの実力と実績を持つキュルケが席をすすめた相手。 更には怒りを買えば裁きを下しかねない、神聖さを持つ彼女を咎めることは大いに憚られたからであった。 壮年の女性のメイジの教師が教室に入ってきた。 メイジの卵達の、魔法の授業が始まる。 ミカヤはルイズの系統を見極め、正しく導く指針とするために真剣に取り組もうと考え、ルイズから貰い受けた 羊皮紙と羽ペンを取った。 ファイアーエムブレム外伝 ~双月の女神~ 第一部 『ゼロの夜明け』 第五章 『失敗の意味』 「皆さん、春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。 このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見ることがとても楽しみなのですよ。」 紫のマントを纏い、いかにも優しそうな女性の教師―――『赤土』の二つ名を持つメイジ、シュヴルーズは周囲を見渡すと、 満足そうに一しきり頷く。 その中で、ルイズとミカヤを目に止め、こちらに感嘆の意思を向けつつ、語る。 「ミス・ミカヤ。貴女のことはオールド・オスマンから伺っております。 何でも、異郷よりミス・ヴァリエールに召喚された、特殊な系統に精通されたメイジであると。 ミス・ヴァリエール、そして皆さん。くれぐれも粗相のないように。」 彼女の言から、オスマンの根回しがあったことに気づき、ミカヤは感謝の念を抱いた。 しかし、メイジとは言え女神でないならば、そう恐れることもないと考える愚か者がいた。 ―――『風上』の二つ名を持つ、風を操るにはあまりにも締まらない、たっぷりとした体躯の少年、 マリコルヌ・ド・グランドプレはルイズへのからかいの言葉を口にした。 「『ゼロ』のルイズ!実のところ召喚できなかったから、ミス・ミカヤを代理にしたんだろう!?」 「違うわ!ミス・ミカヤは私の召喚に応えてくれたのよ!」 それにムキになり、反論するルイズ。 「嘘をつくな!お前に『サモン・サーヴァント』なんて・・・、ひぃっ!」 更にからかい、ルイズを辱めようとするが、二つの怒りの視線が向けられたことで情けない声を上げ、絶句する。 一人はミカヤ。そしてもう一人はキュルケ。 特に、歴戦の英雄の鋭い視線は効果覿面だった。 魔法が使えないルイズへの優越感からなる、誤った自負心をもっての心無い中傷。 このハルケギニアで出来た『妹』へのそれを、ミカヤは許しはしない。 ルイズへの中傷はミカヤへの無礼。そして、悪友とは言え、友人であるルイズへの侮辱にキュルケは、愚かな行為をした マリコルヌに侮蔑と怒りの意思を向けたのだった。 最も、ミカヤがこの場にいなければ、この感情を前面に出せなかったと、後にミカヤに語ることになるのは、別の話である。 隣に座るルイズは、何故、キュルケまで自分への侮辱に怒りの意思を示したか分からず、狐につままれた気分だった。 「はい、そこまで! お友達を『ゼロ』だの何だのと、不名誉な二つ名で呼んではいけません。 ミスタ・マリコルヌ、分かりましたか?」 「は、はい・・・。」 シュヴルーズの言葉に従うマリコルヌ。 教師が生徒を治めるのを見て、一度瞑目したミカヤは、意思を授業へと向ける。 「では、授業を始めますよ。」 シュヴルーズはそう切り出し、杖を軽く振る。 すると、『土』の魔法で生成された握りこぶし大の石礫が幾つか出現する。 「私のは二つ名は『赤土』。『赤土』のシュヴルーズです。 『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。」 にっこりと笑みを浮かべながら、講義を開始する。 「魔法の四大系統はご存知ですね、ミスタ・マリコルヌ?」 「は、はいっ、ミセス・シュヴルーズ。 我らが行使する、始祖ブリミルからハルケギニアにもたらされた 魔法四大系統。 『火』、『水』、『土』、『風』のことです!」 マリコルヌの質問に対する応答に、その通り、と頷くシュヴルーズ。 「始祖ブリミル御自身が使われていた、今は失われた系統魔法である 『虚無』を合わせて、全部で五つの系統。 これがハルケギニアの五つの力を司るものになります。」 この解説に、ミカヤは召喚された時の、契約の呪文の一節を思い出す。 ―――五つの力を司るペンタゴン。 すなわち、五つの系統の点を、線で結ぶことで星と成す。 これは後述される『系統複合』に関わる。 ここでミカヤは、羊皮紙に今のシュヴルーズの解説を書き込み、授業を聞きつつ、考察する。 ルイズの該当する系統の模索、見極めのためである。 「その系統の中で『土』は最も重要なポジションを占めていると、私は考えます。 それは私が『土』系統だから、という身びいきではなく、万物の組成を司る、重要な魔法であるからです。」 要約すると、『土』とは「造る」ことに長けた系統である。 貴金属の精製加工から、建造物に使用する岩石等の石切、農耕作業に至るまで、生活に密接に関わっている。 テリウス大陸の農耕、建造技術は原始的であり、ハルケギニアの魔法が、ここまで人々の生活に関わっていたことに驚く ミカヤ。 同時に、選民思想と平民軽視の温床になっていることにも気づく。 「今から皆さんには『土』系統の基本である、『錬金』の魔法を覚えてもらいます。 1年生の時に出来るようになった人もいるでしょうが、基本は大事です。 もう一度、おさらいすることに致します。」 そう言うとシュヴルーズは、石礫に向けて杖を振る。 すると、ただの石礫が光沢を持つ真鍮に変化した。 「ゴゴ、ゴールドですか、ミセス・シュヴルーズ!?」 「いえ、ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラス。 私はただの・・・、『トライアングル』ですから・・・。」 興奮を隠せないキュルケに、謙遜した物言いで返すシュヴルーズ。 ここで質問の挙手をするミカヤ。 「はい、ミス・ミカヤ?」 「先程の話に出た、『スクウェア』、『トライアングル』とは何でしょう?」 ミカヤの質問に頷き、答えるシュヴルーズ。 「そうですね。では、おさらいを兼ね、生徒達に答えてもらいましょう。 ミス・ツェルプストー?」 「はい、ミセス・シュヴルーズ。 一人のメイジの、複合出来る系統の、総数の基準のことですわ。」 質問に優雅美麗な笑みをたたえつつ、解答するキュルケ。 同時に、どうだ、と言わんばかりにルイズに意地の悪い笑みを見せる。 ミカヤへの点数稼ぎと取ったルイズは、キュルケを睨みつける。 それに満面の笑顔で続けるシュヴルーズ。 「そうです。それにより、メイジのクラスを分け、実力の基準としています。 単一系統の『ドット』、二つ以上を『ライン』、三つ以上を『トライアングル』。 そして、四つの系統を複合出来る『スクウェア』になります。 複合出来る系統数により、より高度な魔法を使用できます。 複合する系統が重複する時も同様ですね。」 その解説に納得がいったように頷くミカヤ。 『トライアングル』はメイジ人口でも少数の実力者であり、『スクウェア』になればさらに一握りの者だけになるのである。 このことから、目の前のシュヴルーズの実力の程が測れる。 ―――では、ルイズはどうだろうか? 魔法の失敗が爆発現象になるかを聞くか否かを黙考している。 魔法の行使を正しく行えないことは気づいている。 そして、今のルイズの思考はその解説から後ろ向きになり、その『失敗』はことごとく、爆発現象に帰結することも。 しかし、人の心を読めることも含め、表立って聞けばルイズを傷つけてしまいかねない。 ルイズからは、自身の魔法の『結果』について聞いてはいないのだから。 そうして悩んでいる間に、シュヴルーズは、生徒に実践の指名をした。 「では、実際に皆さんもやってもらいましょう。 ミス・ヴァリエール。」 「え、私、ですか?」 まさかいきなり自身を指名されたしまったことに、慌てるルイズ。 「ミセス・シュヴルーズ、やめといたほうがいいと思います。 ミス・ヴァリエールに魔法を使わせるのは危険です。」 「危険?どうしてですか?」 キュルケは顔面蒼白にしての進言に、シュヴルーズは首を傾げつつ訊ねる。 「ミス・ヴァリエールに講義をするのは初めてですよね?」 「ええ。でも、彼女が努力家だということは聞いています。 さぁ、ミス・ヴァリエール、気にしないでやって御覧なさい。 失敗を恐れていては何も出来ませんよ?」 なんとかしてシュヴルーズに、ルイズの魔法の行使を思い止まらせようと、キュルケは進言を続けるが、生徒を思って、 実践をさせようとする。 「・・・やります。」 しかし、その膠着を解いたのは、他ならぬルイズだった。 「ルイズ、貴女だけじゃないのよ?ミス・ミカヤにまで怪我をさせるわ。 お願い、やめて。」 「うるさいわね、やると言ったらやるのよ。 それに、・・・・・成功するかも知れないじゃない。」 キュルケに止められ、更にムキになるルイズ。 その言葉は、ミカヤを召喚できた今の自分ならば、成功できるかも知れないという、一縷の望みに賭けるものだった。 「キュルケ、やらせてあげてください。」 「ミ、ミス・ミカヤまで・・・・・。」 その心を受け取ったミカヤはキュルケにそう告げた。最早頭を抱えつつも、椅子の下に隠れるしかなかった。 この後に起こることを理解している生徒達もそれに、続く。 「頑張ってね、ルイズ。」 「・・・・・、うん。」 ミカヤの笑みを受け、勇気を貰ったルイズは、一度笑顔で頷いた後、真剣な表情で教壇の前に立つ。 ミカヤの応援を受けたならば、失敗は許されない。 覚悟を決めたルイズの隣に、シュヴルーズが立ち、指導する。 「ミス・ヴァリエール、錬金したい金属を、強く心に浮かべるのです。」 その指導を受け、石礫に向き合い、『錬金』の呪文を詠唱する。 周りが椅子の下に避難する中、ミカヤは身じろぎせずにルイズを見据える。 そして、杖を石礫に振り下ろした次の瞬間――― ――――閃光と共に、轟音と爆風が教室を満たした。 とっさに身を屈め、強い耐魔力を持つマントと魔力障壁で魔力の奔流から身を守ったミカヤの、光に眩んだ視界が元に戻ると、 教室は惨状と化していた。 今の爆発現象に驚いた使い魔達は暴れ出し、キュルケのサラマンダーが火を吐き、マンティコアが窓ガラスを割りながら 外へ飛び出した。 そこから大蛇が入り込み、烏を丸呑みに。 「だから言ったでしょう、ミス・ミカヤ。「危険」だって。」 溜め息混じりに、隣のキュルケは立ち上がりつつ告げた。 「もう!ヴァリエールは退学にしてくれよ!」 「俺のラッキーが食われた!ラッキーが!」 生徒達も、使い魔達の暴れぶりに混乱をきたしていた。 ルイズの安否が気になり、見やると、気絶しているシュヴルーズと、衣服がボロボロになり、うずくまり、泣いている ルイズの姿が。 「っ・・・、っ・・・!どうして・・・?召喚は上手くいったのに・・・っ。」 そんなルイズに追い討ちをかけるように、他の生徒達が怒鳴りつける。 「どうしてじゃないだろ!『ゼロ』のルイズッ!」 「何時だって成功の確率、殆どゼロじゃないかよ!」 生徒達が口々にゼロ、ゼロ、と連呼する度に下唇を強く噛み、うつむくルイズ。 その時だった。 「静まりなさい!」 突如聞こえた、憤りを込めた声が教室に響き、生徒が、そして暴れていた使い魔達すらも、そこに視線を向ける。 そして思い出したのだ。 今、声を発した存在が何者かで、誰に召喚されたかを。 弾かれたように、ルイズも顔を上げる。 「貴方達に、彼女を愚弄する資格はありません。」 ミカヤは言い切り、ルイズとシュヴルーズの傍まで歩み寄ると、 左のホルダーの頭に取り付けていた、治癒の杖『ライブ』を左手で引き抜く。 右手の、聖杖『マトローナ』から持ち替え、それを二人に向け、掲げる。 杖からほのかな光があふれ、二人の軽い切り傷を癒していく。 「・・・・・。」 傷が癒え、未だ呆けているルイズ。 だが、徐々に思考が正常に回るようになり、ミカヤの一連の行為、発言を思い返すと、ひしと、ミカヤにすがり、 声を殺して泣いた。 「今一度言います。」 そんなルイズを抱きしめながら、ミカヤは告げる。 「ミス・ヴァリエールへの心無い言葉は、使い魔である私が許しません。」 そんな二人を見て、沈黙することしかできない生徒達。 キュルケは、ミカヤに抱きすくめられ、宥められている姿を、不謹慎ながらも羨ましいと感じていたのだった。
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繁華街から離れれば、そこは貧困層の平民達が住む裏通り。 あちらこちらに葺かれていないあばら家が散見され、ゴミが散乱して不衛生な通りはぬかるみ、 その道に身体が不自由な老人が腰掛けて物乞いをする。 「・・・・・っ。」 目を背けたくなる衝動を抑えながら、ミカヤ、シエスタと共に歩を進めながらルイズは思考する。 自身の故郷であるヴァリエール領では、このようなことは無かっただろうか? 父たる公爵はどのように領内の政を行っていただろうか? その様子を見るミカヤの視線は、彼女の貴族として、一人の人間としての成長を傍らで見守る優しいものだった。 暫く歩くと、一枚の銅製の看板が見つかる。 「あちらが私がお世話になっている武器屋です。」 見つけたシエスタが一軒の家屋を指す。 そこには剣の形の看板を下げた、如何にも武器屋といった佇まいの一軒屋。 「そう言えばシエスタ、どうして貴女みたいなメイドが武器屋に?」 ルイズは此処に来るまでに疑問に思っていたことをシエスタに訊ねる。 すると、困ったようにしつつも、誇らしい笑みを浮かべながら彼女は答える。 「死んだお祖父ちゃんが私に剣術を教えてくれたんです。自分の身を守れるように、て。」 「あ・・・、そっか。ごめんなさい、余計な事を聞いて。」 触れてはいけないものに触れてしまったような罪悪感を感じたルイズはシエスタに謝罪する。 亡き彼女の祖父の事に触れたこともそうだが、何よりも彼女は平民であり、女性。 自衛の為に武器を取ることはそう珍しいことでは無いのだ。 「お気になさらないでください。」 しかし気にした様子は無く、此方を逆に気遣うシエスタはそう話す。 石段を上がり、羽扉の前に立つと、彼女は二人に声をかける。 「店長は馴染みの客の人以外には気難しい人なので、失礼をして先に入りますわ。」 「ええ。」 「いいわ。」 ミカヤとルイズがそう返したのを確認すると、シエスタは先に店内へと入った。 ファイアーエムブレム外伝 ~双月の女神~ 第一部 『ゼロの夜明け』 第十章 『魔剣デルフリンガー(ミカヤの章)』 「こんにちわ。」 シエスタが挨拶をしつつ羽扉を開くと日中にも関わらず薄暗く、壁に棚にと多くの武器が陳列され、 ランプの明かりをともす店内が見える。 店の奥には如何にも偏屈そうな、齢は50程になろう店主らしき男性がカウンター内に腰掛けていた。 「おや、いらっしゃいシエスタちゃん!今日はお休みかい?」 「はい。今日の掘り出し物を探しに来ました。」 常連客である彼女を確認した店主は笑顔になり、濁声で声をかける。 シエスタに続き店内に入って来たミカヤとルイズ。 身に着けているマントは各々形が違えど、彼女達がメイジであろうことが分かる。 店主は彼女達を一度見やると、シエスタに尋ねる。 「其方の若奥様方は奉公先の方々かい?」 「はい。御奉公先でお世話になっているミス・ヴァリエールと、仕事仲間のミカヤさんです。」 「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールよ。」 「ミカヤと申します。」 シエスタの紹介からルイズは貴族らしく胸を張りつつも棘のない笑みで名乗り、ミカヤは慈母の微笑で会釈する。 二人を値踏みするように二人を注視する店主。 自身の眼鏡に適った者以外の客には二束三文の粗悪品を売るという、詐欺紛いの商売をしている彼ではあるものの、 それだけに観察眼は鋭い。 「こいつはご丁寧に、若奥様方。狭苦しいとこではありやすが、ゆっくりしていっておくんなせぇ。」 店主はミカヤ達を『客』として認め、笑みを向けた。 「若奥様方用に念込め済みの杖や杖剣がございやす。掘り出し物も御所望でしたら、珍しい杖や魔道具もお見せしますぜ?」 「ええ。見せてもらえる?」 「お願いします。」 杖や魔道具を売っていると聞き興味を持ったルイズと、自身が求める魔導書や杖があるかも知れないという望みから そう申し出るミカヤ。 「承りましたぜ。少しお待ち下せぇ。」 そう告げると一度奥へと入り、カウンターの上に奥から持ってきた幾つかの剣や杖、杖剣、魔道具等を広げて見せる店主。 「鉄に鋼、ましてや銀ではタルブ物には勝てる物ぁ無ぇから、あちこちから見たこと無ぇ掘り出し物を買い上げて来たんだ。 どうだい?」 「そうですね・・・。」 一振りずつ鞘から抜き、シエスタは丁寧に品定めをする。 「へぇ・・・。」 その一方でルイズは杖を幾つか手に取り、ハルケギニアにおける魔法の根源―――精神力の精通を比べている。 そんな彼女達を他所に、ミカヤは一冊の魔導書らしき書物を取った。 「・・・!」 軽く息を飲み、危うく手から落としそうになるのを堪える。 彼女は手元にあるものに対する驚きの表情を隠せないでいた。 使えずとも馴染み深い、紅蓮の炎をシンボルにした赤の表紙。 テリウス大陸にしか存在しないはずの炎の上位の精霊魔法『ギガファイアー』の書だった。 他の書も手に取り、自身の額に刻まれた神の頭脳のルーンの力により、次々に情報を読み取る。 間違い無く、手に取った内の数冊はテリウスの精霊魔法の魔導書であり、手に取るうちにもう一つの発見があった。 (理の精霊達が契約を望んでいる・・・・・。) テリウスの精霊魔法を行使するには、精霊と契約し、自らの魂を分け与えることが必要。 稀に精霊に愛され、此方に契約を望まれる場合もある。 ミカヤは女神の巫女であった為後者に当たるが、女神の眷属たる光の精霊の加護を受ける者は自然の理を司る 三精霊―――――炎、風、雷の精霊達、または闇の精霊との契約の重複は本来不可能なのだ。 しかし、通常の人間には目視出来ないが、本来なら意思の疎通すら適わない三精霊達が活性化し、 ミカヤに語りかけてきていた。 あらゆる魔道具を行使することを可能にする『ミョズニトニルン』のルーンが、魔法を行使出来るようにしている可能性が あった。 これらを購入することを決断したミカヤは早速、店主とルイズに持ちかけた。 「これらの書物を戴けませんか?ルイズ、いいかしら?」 「おや、これですかい?それなら一冊新金貨5枚で結構でさぁ。」 「それぐらいならいいわ。シエスタ、お財布を。でも・・・、随分魔導書にしては安いわね?」 ルイズは了承し、シエスタに預けていた財布から新金貨を取り出しながら店主にそう訊ねる。 通常、安価で求められる魔導書でも新金貨10枚は下らない。これほどに製本のしっかりとしたものならばその倍はついても 可笑しくはない筈の代物が一冊新金貨5枚は破格も良いところだ。 「へぇ、書かれてる小節がハルケギニア語で無くて解読も出来無ぇときて、飾りもんにしかなんねぇんでさ。」 テリウスにおいても『古代語』の習熟には充分な知力と努力を要する。 初見の者では読めなくても、至極当然であろう。 ミカヤは頭を下げて感謝しつつ、約束を取り付けた。 「ありがとうございます。 もしよければ、またこの型の魔導書を手に入れたら取っておいていただけませんか?」 「心得ました。こっちこそありがとうございやす。」 ルイズは新金貨を20枚取り出し、ミカヤの取った四冊を買い取った。 ちょうどその時、羽扉が開かれ、新たな来客を告げる。 「いらっしゃい!おや姐さんかい。」 「こんにちわ。」 「どうも。」 「あら、サイトさんに、・・・ミス・ロングビル?」 シエスタは不可思議な取り合わせの二人の客―――サイトとロングビルを見た。
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ファイアーエムブレム外伝 ~双月の女神~ 第一部 『ゼロの夜明け』 第十章 『魔剣デルフリンガー(サイトの章)』 「あれ、シエスタ?どうして武器屋に?」 純朴と優しさを絵に描いたシエスタが武器を持つことなど想像することが出来なかったサイトが、開口一番にそう問う。 「およしなさい、サイト。」 しかし、ロングビルがそれを咎める。 「私達平民が護身の為に武器を持つのは当然のこと。外見だけでそれを否定するのは失礼よ。」 「あ、ご、ごめん。」 彼女の言葉がいかなる重みを持つか、サイトもこの世界に召喚されてから嫌という程理解している。 シエスタに慌てて頭を下げる。 「気にしないで、サイトさん。故郷の皆にも武器が似合わない、て良く言われます。」 しかしシエスタは気にした様子は無く、笑みで答える。 「シエスタ、ミス・ロングビルの隣の彼は?」 自身とさほど変わらない年頃の少年―――サイトに親しそうに話すシエスタを見てルイズは聞く。 「はい、ミス・ヴァリエール。使用人仲間のサイトさんです。 ミス・ロングビル、サイトさん、ミス・ヴァリエールとミカヤさんです。」 「はじめましてミス・ミカヤ、お噂はかねがね。学院長付秘書のロングビルですわ。」 「才人です。平賀才人。よろしく。」 「はじめましてミス・ロングビル、それと、サイト・・・ううん、才人ね?私はミカヤです。」 サイトの名前の発音を訂正しつつ自己紹介するミカヤ。 それに驚いたサイトはびっくりしたような表情を浮かべるも、まだルイズの自己紹介が終わっていない為、感情を抑える。 「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールよ。それにしても・・・。」 「な、なんです?」 名乗り、如何にも小市民然とした出で立ちのサイトにルイズは上から下まで観察する。 彼の十指におおよそ入ろう美少女にじっと見られて赤面するサイトに、彼女は思わずこう洩らす。 「・・・随分と冴えないのね。」 「ぐっ・・・。」 思わず呻くサイト。 初見で女性から言われ慣れていることではあるが、正面から言われるのはやはり堪えた。 その様子をニヤニヤしながら眺めていた店主が切り出してきた。 「へっへっへっへっ姐さん、そっちの坊やは燕かい?」 「もう少し惚れ惚れする子だったら良かったのだけれどね。今日の私からの紹介客よ。」 「姉さんまで・・・。」 その上ロングビルにまで店主のからかいにこう切り替えされては、もう涙目になるしかなかった。 「ふぅむ、この坊やが武器をねぇ・・・・・。」 サイトを観察しつつ逡巡する店主。 召喚された当初よりかは修羅場を幾つかくぐり、それなりに肉体も鍛えられてきたが、 細い長袖の異国の服―――サイトの世界ではパーカーと呼ばれるもの越しからは確認するのが困難な細い腕では、 精々がレイピアを持たせることぐらいしか思いつかなかった。 その時だった。 『やめとけやめとけ。そんな細ぇ腕じゃあ剣を振るよか棒っ切れを振るほうがお似合いだぜ。』 「なんだと!?」 積み上がった武器の一角からする低い男性の声。 いきり立ったサイトが思わず声のする方向を振り向くが、人の姿は見当たらない。 『おぅおぅ何処探してんだよ?手前ぇの目は節穴か?』 その声と共に金属が震え、カタカタと鳴る音が聞こえる。 声をかけて来たのは一振りの―――全身が刃こぼれし、刀身をボロボロに錆び付かせた片刃の、サイトと同身長の 全長を持つ大剣だった。 「け、剣が喋った!?」 思わず後ずさるサイト。店主がそれを見て錆びた人語を解する魔剣―――インテリジェンスソード・デルフリンガーに 怒鳴りつける。 「やいデル公!お客様の前では黙ってろって何時も言ってるじゃねぇか!!」 しかし、それに物怖じした様子も無く、憤懣やるかたないと言った口調でデルフリンガーは話を続ける。 『おいおい親父、耄碌したのか?こんなろくに剣も振れなそうな小僧っ子がお客様?おでれぇた。 やい坊主、その耳ちょん切ってやるから顔を出しな!』 混沌とした状況の中、ルイズが話を切り出す。 「インテリジェンスソードなの?随分と珍しいじゃない。」 「そうでさぁ、若奥様。剣に喋らせるなんて一体何処のメイジの方が始めたのやら。」 ほとほと困り果てたような物言いで返す店主。この口さがない魔剣は客に悪口雑言を吐いて怒らせ、帰してしまう事が 常である為、彼にしてみれば商売あがったりの困り物であった。 『おでれぇたか、娘っ子?これでも俺ぁ六千年の時を生きてきたんだぜ。 知恵持つ魔剣デルフリンガー様たぁ俺のことよ。』 「六千年!?始祖ブリミルの御世から存在していると言うの!?」 自慢するような魔剣の自己紹介に目を見開くルイズ。 「・・・・・。」 ミカヤも声には出さなかったものの、驚いたようにデルフリンガーを注視する。 始祖ブリミルの時代から六千年もの長きに渡り存在する魔剣ならば、見てくれは悪いが由緒ある物である可能性がある。 彼女の知る、女神の与えた双つの神剣のように何らかの加護や力を与えられたものだろうか、と思考する。 『おうよ。ただ長生きしてるせいかどうにも忘れっぽくなっていけねぇ。来歴とか俺のウリとかもあったんだけどよ・・・。』 そう言って考え込むように沈黙するデルフリンガー。 それを見ていたサイトは面白いと思った。 ―――古から存在する語る剣。見てくれこそ悪いものの、まるで書物の中にある勇者の剣のように感じた。 錆を落としたらもしかしたら名剣のようになるのか? そんな想像に胸を膨らませつつ、デルフリンガーの柄を左手で逆手に握り、ロングビルに購入の意思を告げる。 「姉さん、こいつにするよ。」 「いいの?こんな五月蝿いボロ剣よりはマシな物は買えるのよ?」 『おい姉ちゃん、俺を捕まえてボロ剣は無ぇだろ?っつーか坊主、とっとと離しやがれ! 俺は手前ぇに買われるなん・・・ざ・・ぁ?』 サイトに握られ、カタカタと喧しく鍔元の口のようになった部分を鳴らし、彼とロングビルに抗議するが、 暫くすると沈黙した。 そして、長年別離していた友に再会したかのように自身を取る少年に語りかける。 『こいつぁおでれぇた。見損なってたぜ。手前ぇ、『使い手』だったのか。』 「え?『使い手』?」 自身のことを剣からそう呼ばれるとは思わなかったサイトは呆けたように返す。 『ふん、自分の実力も知らんのか?まぁいいや、手前ぇを認めようじゃねぇか。これからよろしくな。 新しい俺の相棒よぉ、名前は?』 「あ、ああ、才人だ。平賀才人。こっちこそよろしくな。」 手の平を返したように馴れ馴れしく話すデルフリンガーに戸惑うも、この世界で自身の命を預ける相棒にそう名乗った サイト。 それを見たロングビルは頭痛に頭を抱えるようにしつつ、購入を申し出る。 「あれはお幾ら?」 「そいつは新金貨百枚で良いぜ。こっちにして見りゃあ厄介払いみたいなもんさ。」 そう言った店主にロングビルは新金貨を取り出し、言い値通りの枚数を渡す。 それを受け取ると一つの鞘を取り出し、サイトに渡す。 「どうしても五月蝿いと思ったらこの鞘にこうして入れりゃあ大人しくなるぜ。」 「有難う、おっちゃん。」 受け取った鞘を左肩から斜め掛けに下げ、それにデルフリンガーを収めると店主に礼を言った。 こうして買い物が終わり、馬を停めている駅に着く頃には、既に日は傾いていた。 それぞれの休日は終わり、馬車と馬に別れて学院への帰路に着く。 ―――――舞台の役者は集い、運命の歯車が音を立てて廻り始めた。
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ファイアーエムブレム外伝 ~双月の女神~ 第一部 『ゼロの夜明け』 第十三章 『真実と追憶(ミカヤの章)』 「ミス・ミカヤの額に刻まれたルーンの正体、それは始祖ブリミルに仕えた伝説の使い魔が一たる 神の頭脳『ミョズニトニルン』の印じゃ。」 ミカヤにそう告げるオスマンの表情は硬い。 ハルケギニア五大系統魔法の開祖にして信仰の対象である賢者―――始祖ブリミル。 その者のみが扱うことが出来た失われた系統『虚無』を担い、四体の使い魔を率いていたという。 『ミョズニトニルン』はその中の一角に名を連ねている。 「その力はありとあらゆる魔道具を使いこなし、それにより得られた膨大なる英知で始祖の導き手となったと 伝承から伝わっておる。」 「伝説、ですか・・・。」 オスマンの言葉にそう呟いたミカヤは納得したように頷く。 触れただけで杖や魔道具の解析が出来、本来ならばありえない理の精霊との対話を可能にした力の正体。 それが自らの額に刻まれたルーン。 精霊に呼びかける為の魔道具たる魔導書に触れることでそれらが成立していたのである。 その中で気がついたことをミカヤは訊ねる。 「それが正しいならば私は『虚無』の使い魔、ということでしょうか?」 「ご明察です、ミス。」 彼女の質問に、コルベールが答える。 「ミス・ミカヤのご想像の通りです。『虚無』の使い魔を率いる事が出来るのは『虚無』の担い手のみ。 即ち、ミス・ヴァリエールの系統が『虚無』であることの証・・・。」 「・・・・・。」 真実を明かすコルベールの苦い表情を察したミカヤは押し黙る。 自身の推測が的中したことと、世界は違えどルイズもまた自らと同じ様に古の伝説たる力を内包していたこと。 それらは一つの答えを導く。 「・・・私達の出会いは必然で、この後に起こる事への先触れだったのかも知れませんね・・・。」 二人にそう話すミカヤの面持ちは優れない。女神もかくやと言われるその美貌を、ある種の危機感が歪ませる。 自身の血統も伝説の英雄達から受け継がれてきたもの。そして「伝説」と「英雄」の存在は時として、 世界をも巻き込む大きな戦乱を告げる狼煙となることを身をもって知っているからだ。 更にはテリウス大陸からの様々な漂流物に、この地に受け継がれた『勇者』の系譜。 そう判断するには情報の断片は充分に揃っていた。 「だからこそ、ミスにお願いがあるのです。」 思考するミカヤに、真剣な表情で言葉をかけるコルベール。オスマンもまた同様の表情で、彼の話を繋ぐ。 「願わくばミス・ヴァリエールと共に平穏に天寿を全うしていただきたいが、恐らく時の潮流がそれを許さぬ。」 それが、オスマンが一番憂慮していることだった。行く行くは戦乱の渦が二人を飲み込んでいくであろうことは必定とも 言える。 「故に、どうか彼女が宿命に負けぬよう守ってやって欲しい。」 「ミス・ヴァリエールの事を、何とぞ・・・。」 そう言いつつ真摯な表情の面を向け、オスマンはミカヤに頭を下げた。 コルベールも苦渋の面持ちでそれに倣う。 「・・・・・私は誓いました。彼女と共に在り、共に生きると。」 ミカヤの言葉に顔を上げるオスマンとコルベール。 彼女の表情は決意に満ちつつも、柔和な表情を浮かべていた。 「・・・・・そうじゃったな。」 「・・・ミスには愚問でしたな。」 互いにそう言葉を交わして顔を見合わせると、安堵しつつ二人は頷きあう。 「ミス・ヴァリエールと共に宿命を乗り越え、争乱の風に立ち向かうことを誓います。」 ミカヤの心からの宣誓に、再び老メイジと壮年の教師は深々と頭を下げるのだった。 「あの人もあの子達と同じ、『伝説』か・・・・・。」 会議室の扉の前で一人、鎮痛な面持ちで佇む女性―――ロングビルは扉越しに室内での会話に耳を傾けていた。 先程のミカヤ達の話を反芻し、思考する。 ―――自身の大切な妹分と、異世界から来た頼りなくも楽しい弟分。彼等は図らずも『伝説』の一端を担っていた。 ミカヤが桃色髪の少女と共に立ち向かうと誓った『宿命』に、自分達は果たして杖を向けているだろうか? 「どっちにしても急がないといけない、か。」 扉側から視線を外すと、そう嘆息しつつ思考を切り替える。 学院長付秘書として、手に持った書類を保持し直してオスマン達が退室してくるのを待つ。 ―――悲壮感を滲ませた呟きを残して。 「あの子に引越し準備をさせないとね・・・。」 ―――そして、次の日を迎える・・・。
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ファイアーエムブレム外伝 ~双月の女神~ 第一部 『ゼロの夜明け』 第十二章 『会議』 ―――――トリステイン魔法学院会議室。 そこでは張り詰めた空気に包まれていた。 会議室の四方枠状に組まれたテーブルの上座の席に学院長のオスマンがかける。その左隣には秘書のロングビルが 控える。 その左右の席には昨夜の騒動を受けて教職員会議に召集された、真剣な表情の教師達。 最後に末席である学院長席と向かいの席にミカヤとルイズがつく。 「さて、ミセス・シュヴルーズ。昨夜の件について聞かせてもらえるかね?」 「はい、オールド・オスマン。昨夜の事件の事を報告させていただきますわ。」 オスマンの促しを受けてシュヴルーズは、正式な書類にのみ使用する高級紙で書き上げた報告書を広げる。 「まず、深夜ミス・ミカヤとミス・ヴァリエールが宝物庫前にて魔法の練習を行っていた所、学院に侵入した何者かが ゴーレムを召喚。二人によりゴーレムは破壊、撃退されていました。」 報告を聞きつつ、早朝にシュヴルーズが現場で検分した内容を記載した書類に目を通す教師陣。 「その時に残骸となった周囲の土を『ディテクト・マジック』で詳しく調べたところ、かなりの濃度の魔力残滓を 確認。 襲撃者は私の見立てでは恐らく、『土』系統の『トライアングル』クラスのメイジと思われますわ。」 「では、巷を騒がせている『フーケ』の可能性があるのでは?」 シュヴルーズの報告に口を挟んだ男性教師から出た人名に、周囲はいろめき立つ。 ―――怪盗『土塊』のフーケ。 二つ名が示すように、『土』系統の魔法を操る盗賊。その手口は大胆にして繊細。 強固な『固定化』をかけられた宝物庫の壁を『錬金』で崩し、土塊へと変えてまんまと値千金の宝物を盗み出す。 かと思えば30メイルに及ぶ巨大なゴーレムを操り、白昼堂々魔法衛士隊を蹴散らして王立銀行の金庫ごと莫大な預金を せしめてみせる。 特に価値ある魔道具を標的としており、狙うのは裕福な貴族のみであることから平民達からは義賊として 名が知られている。 「ならば宝物庫の壁に罅を入れたのはフーケと仰るか、ミセス・シュヴルーズ?」 そう詰問するようにシュヴルーズに聞いたのは、長い黒髪で漆黒のマントを羽織った 男性教師―――――『疾風』の二つ名を持ち、学院でも希少な『スクウェア』メイジであるギトーだった。 彼の講義は自身の系統の『風』こそが四大系統の至上であり伝説の『虚無』すらも凌ぐという自論を持ち、 それを前面に押し出すことから快く思わない教師や生徒が多い。 「ゴーレムの腕と思しき残骸が罅のある壁に積もっていたことからも、間違いないかと思われますわ。 ただ侵入した賊がフーケと断定するには資料が少なく、難しいかと。」 陰鬱な雰囲気を出しながらのギトーからの問いに、やや顔をしかめて返答するシュヴルーズ。 昨夜の戦闘でミカヤの魔法で破壊されたゴーレムの拳と思しき残骸が、偶然にも罅が入った外壁付近に積もっていた。 「ふん、では当直だったミセスはどう責任を取るつもりかね?対応に遅れ、すでに襲撃者は撃退済み。 今回の一件はミセスではなくミス・ミカヤの手柄ではないか。」 「それは・・・。」 厳しい追及を続けるギトーにさすがのシュヴルーズも、思わず口を噤んでしまう。 「これ、ミスタ・ギトー。あまり女性を苛めるものではない。責任を取らねばならぬのは我々学院職員全員じゃ。 無論の事、わしもじゃ。」 そうオスマンはギトーを嗜め、席の一同を見渡す。 「さて諸君、今回の賊の侵入についてじゃが「我々は魔法を使えるから」という慢心から起こってしまった事じゃ。 この国にはかの『蒼炎の狼』が『スクウェア』すらも討ち取った前例があるにも関わらず、な。」 トリステインのメイジにとっての恐怖の代名詞を上げられ、うつむく教師一同。 それを聞き、ミカヤは『蒼炎の狼』―――アイクの足跡をおぼろげながらも知ることが出来て内心苦笑する。 「では、ミス・ミカヤとミス・ヴァリエール。現場で賊と対峙した状況を説明してくれるかの?」 「はい、オールド・オスマン。私からご説明します。」 オスマンから話を振られ、立席して証言を始めるミカヤ。 「私はミス・ヴァリエールに乞われて、宝物庫外壁前の庭で魔法の練習に立ち会っていました。 襲撃があったのは、その目途が立った矢先のことです。 おおよそ30メイルはあろう巨大なゴーレムが私達の背後から出現。宝物庫に真っ直ぐ向かってきました。 ミス・ヴァリエールが先制して魔法を行使。ゴーレムを中破させましたが、途中精神力を使い果たして戦闘不能に。 その後私が魔法での攻撃を加えて、ゴーレムの完全破壊に成功しました。」 「何、ミス・ヴァリエールが?」 ミカヤの証言に口を挟んだのはギトー。 魔法を一度も成功させたことが無いルイズが『トライアングル』クラスのゴーレムを中破させるほどの破壊力を持つ ものを行使できたことに懐疑的だった。 「はい、ミスタ・ギトー。今までの魔法行使の失敗による爆発を魔法として制御することに成功しました。 私はそれでゴーレムに攻撃をしたんです。」 「まぁ、あれを御することに成功したのですか?」 それに答えたのはルイズ。初日の講義においてその効果を目の当たりにしていたシュヴルーズは驚きを隠せなかった。 他の教師陣も同様の反応を示していた。 「・・・・・。」 「・・・・・。」 対して、複雑な表情で黙して様子を見ているコルベール。 オスマン同様真実を知る身の彼はルイズ自身の『系統』について話さねばならないか、何時話すかで思考が 空転していた。 ロングビルもまた、ルイズを複雑な面持ちで見ていた。 目の前の少女が成し得たことは『土』系統のメイジである彼女には「文字通り」他人事では無い。 「っ!?」 その時、ルイズの隣にいるミカヤから視線を感じて注視してしまうロングビル。 金色の眼は全てを見通し、あたかも心までも見通すかに感じた。 視線を合わすまいとし、周囲から怪しまれないようにオスマンを伺う。 それを見て取ったミカヤは瞑目し、視線を戻す。 「まだまだ論議せねばならぬ事項が多々あるが、窃盗は未遂に終わって何よりじゃ。 ミス・ミカヤとミス・ヴァリエールには何らかの褒章をさせてもらおう。 諸君らには今後の警備箇所、巡回ルートは外壁周辺も含めて厳重にすることを命じる。努々慢心をせぬようにな。」 こうしてオスマンの総括で纏められ、教師陣の「杖に懸けて」と貴族の誓いを唱和することでこの議題は 締め括られた。 会議終了後にミカヤだけ残るよう言われ、一旦ミカヤ達は退室させられることになった。 ―――――会議終了後、オスマンとコルベール。そしてミカヤが会議室で向かい合う。 「さて、ミス・ミカヤを残したのはちとわしの話に付き合うてもらいたくてな。 実は・・・、『テリウス』からの来訪者に一度わしは会っておる。」 「何故今になってその話を?」 ミカヤの質問に椅子に深くかけ、追憶にふけるように瞑目するオスマン。 そして、暫しの沈黙の後にオスマンは一人の人名を挙げた。 「サナキ・キルシュ・オルティナという方を知っておられるかな?」 「!?」 その名は祖母の血を分けた無二の妹だった。動揺を隠せないミカヤ。 同時に昨夜の夢を思い出し、オスマンの思考を読み取ると脳裏に浮上した推測は確信に変わる。 一呼吸置き、二人に告げるミカヤ。 「・・・・・サナキは、祖母からの血の繋がりを持つ妹です。」 ―――目の前の老メイジとの世界を超えた深い縁。追憶と共に夢は現と重なる。