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球場入りしてからの動きが速い。 外野でキャッチボール後、すぐさまノックへ。最初は佐和ちゃんが内野をノックし、佐伯っちが外野をノックする。 それからシートノックへ。俺は1球受けたらあがり、里崎君をキャッチャーに置いて、ブルペンで投球練習する。 んで、今度は相手方のシートノック。 俺らはベンチで、改めてオーダーを発表された。 今日のオーダーで変わっているのは、セカンドは岩村君ではなく誉になった。 岩村君の今大会のエラーは、3試合で5つ。 今日の試合は、1点を争うと予想した佐和ちゃんが、打てないが守備の良い誉を起用した訳だ。 そして相手のシートノックが終わり、少しの間があったあと、ベンチ前に両校の選手が並んだ。 球審の集合の声と共に、両校がホームベースを挟み、睨み合う。 「それでは試合を始めます。両校…礼!」 球審の声に両校が頭を下げ、しっかりと挨拶をする。 俺達は挨拶を済ませると、すぐさまグラウンドへと向かった。 今日の試合は、先攻蔵敷商業、後攻は我が山田高校となっている。 マウンドで投球練習をする俺。 やっぱり、誰にも踏まれてない、整備されたマウンドは気分が良い。 思いのほか、球が伸びているような感覚にとらわれそうだ。 さて一番の沖田が打席に入る。 初球はストレートを内角へ。そのサインに頷いて、一度大きく息を吐いて、思いっきり投げぬいた。 自分では最高の一球。それを相手は、平然と打ち抜いた。 マジか! 軽く動揺しつつ、素早く顔を動かし、打球の行方を確認する。すぐに打球を捉えた。一二塁間のちょうど真ん中辺りへの、強い当たり。 秀平は打球へと向かう。一塁ベースは現状がら空き。俺はダッシュで、一塁のベースカバーへと向かう。 秀平は限界まで走り、最後は飛び込むも、ボールは無情にもグラブの下を抜け、ライトへ。マジか! …っと思ったが、次の瞬間、誉が飛び込んでキャッチした。 そして素早く上体を起こした誉は、汚れたユニフォームを気にせず、崩れた態勢の状態で、ファーストに付近に居る俺に送球。 俺はがっちりと掴み、ベースを踏んでアウト。 いきなりヒットを許す所だったが、誉のナイスプレーで、なんとかアウトに出来た。 「サンキュー誉!」 「気にすんな! これも鵡川を惚れさせる秘策だぜ!」 などと冗談交じりに言う誉の言葉に、すっころびそうになった。 なんにしても、誉のおかげで助かったのは確かだ。 後続は、そのままの勢いで2番伊賀をサードゴロ、3番長谷井をファーストのファールフライに仕留め、何とか初回を乗り越えた。 さすがは県内強豪校。前の三校とは全然選手のレベルが違うぜ。 ≪前 HOME 次≫
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「しゃあす」 一度、球審とキャッチャーに挨拶をして打席へと入る。 そして、自分の足場を固める為に、左手で相手ピッチャーを待てと言うジェスチャーをしながら、足場を固めた。 「ふぅ~…」 一度息を吐いてから構える。無死満塁。城東戦と同じだ。 あの時のホームランの事は意識しなくていい。芯で捉えれば、ボールは飛んでいく。 最低でもゲッツーの間に三塁ランナーをホームインさせればいい。ここは長打を打とうと打たなくとも、点を入れるだけで相手チームに与えられるプレッシャーがかかる。 英雄は春の地方大会を制しているし、相手チームに感じる重圧は倍近くなるはずだ。 チャンステーマの夏祭りが球場に鳴り響く。 スタンドでは里奈が見ている。ここで打たなきゃ、あいつの彼氏なんて公言できやしない。 初球、インコースへのストレート。リードが変わってるな。 本来なら外角低めのストレートを主体に、スライダーと組み立てるリードだったはずだ。 それが内角へのストレートから始まってる。チャンスだから組み立てたのか? それとも打たれたから組み立てたのか? どちらにしろ、来た球を弾き返すのみ。 二球目、外に逃げるスライダー。 それを俺は叩いた。 快音と共に、歓声が沸きあがる。 打球は、ライトポールの右に大きく逸れていくファール。 タイミングが遅かったかな? まぁなんにしても、次、ストライクが入れば、それを叩けば良い。 三球目は、外角低めのボールになるストレート。 俺はそれを見逃してから、一度、打席から外れ素振りを2回ほどする。 これでカウントは1ボール2ストライク。追い込まれてはいるが、追い込まれている気分は全くしない。 次で四球目。ピンチの場面では、縦に落ちるスライダーを投げてくると言っていたが、縦のスライダーを投げる気配は無い。 だが油断は出来ない。一応頭の隅に入れておこう。 再度打席へと入り、軽くバットの先でホームベースを突付いてから、ゆっくりと構える。 ジッとマウンドに居る投手を睨みつける。 そして四球目、放たれたのは…。 …インコース高めへのストレート。 そう判断した俺は、スイングを開始する。 だが、ボールはそのまま落ちた。 「ストライーク! バッターアウト!」 球審の声が耳に入る。 俺は呆然と、その声を聞いているだけだった。 ストレートと同じ球筋から落ちる球…これが縦のスライダーか? なんつう切れの良さだよ。前にも縦のスライダーは見たが、ここまで鋭く無かったぞ。 「大輔…どうだった?」 続く打者の英雄が聞いてくる。 俺は少し悩み答えた。 「ストレートと決め付ける事はすんなよ」 そうひと言しか、俺はいえなかった。 ≪前 HOME 次≫
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山田高校の攻撃も終わり、俺はショートの守備位置から、一塁ベンチに戻りながら、山田高校のベンチを見る。 山田高校は昨年、俺らがコールドで破ったチームだ。 山田高校、どうして1年でここまで強くなれたんだよ? …そう言えば、この回から俺の打席か。…相手はやっぱり佐倉さんなんだろうな。 去年、俺はスタンドから応援していただけだった。 そこで見た先輩達が三振を取られていく姿。 マウンドに居た佐倉さんの顔は笑っていた。 …あの時から、あの人が有名になるかもしれないと思っていたのかもしれない。 でも、中国大会優勝投手ってどんだけ凄いんだろうか? ベンチに戻ると、同期の佐山が泣いていた。 マウンドでは見せなかった涙。もし俺が佐山なら、ひざまずいていただろう。 でも佐山はひざまずかず、最後まで投げぬいた。 本当に凄い奴だよ。 そして俺は打席へと向かう。 相手が中国大会優勝投手だろうと、負けられないんだ! 打席に入るなり、俺はマウンドに居るピッチャーに恐れを感じた。 なんていうか威圧感って言うのだろうか? 佐倉さんが大きく感じる。 初球、インコースへのストレート…だと思う。 俺は反応できず棒立ちのままになっていた。 球審の声で我に戻ったわけだし。そして一つ分かった事がある。 あの人は…次元が違う…。 マウンドに居る人間は、俺らのような甲子園出場を夢見るような人間じゃない。 当然のように甲子園優勝出来ると思っている奴だ。 恐れるものは無く、立ちはだかる者は居ないと豪語できるタイプだろう。 目指しているものから差が出ていると言うのに、どう打てと言うのだ。 …結局、俺は何も出来ず、見送り三振だった。 呆然としたまま、俺はヘルメットとバットを置き、バッティングローブをベンチに投げ捨てた。 あの人は、絶対にプロに行く。そして活躍するはずだ。 マウンドで颯爽と投げるその姿を見て、凡人の俺は憧れていた。 あの境地まで辿り着くと、何が待っているのだろうか? 俺にはいくら努力しても、才能の壁によって、その境地には辿り着けないだろう。 だからこそ憧れ、求めるのだと思う。 「ストライーク! バッターアウトォ! 集合!」 球審の声と共にベンチから飛び出す。 試合は負けた。でも目標は出来た。 俺は佐山に肩を貸し、泣きじゃくる佐山と共に整列する。 礼をし終えた時、佐倉さんが、佐山の前に来た。 「泣くな。お前は十分立派だよ、無四球だったんだからな。打たれた事を恥じるな、お前はまだまだ成長する」 そう佐倉さんは、佐山の肩に手を置き、笑顔で言った。 「来年は、俺らの高校を脅かすような存在になってくれよ。んじゃ頑張れよ!」 最後に佐倉さんは、佐山の肩をポンポンと叩いて、自分のチームの輪へと戻っていった。 ≪前 HOME 次≫
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英雄の腕から放たれた球は、低い唸り声を上げながら、インコースへと向かってくる。 そしてボールは、加速したような錯覚を覚えながら、減速せずに哲也のミットに収まった。 大きく息を吐いて、俺は一度、打撃フォームを崩す。 その間にサインを確認。監督のサインは…送りバント。 まぁ定石通りだよな。こっちは負けてるし。 だけど、今は英雄と対戦したいかな。 そういう事は言わないけどさ。 打席に入り、バントの構えをする。 英雄と対戦したくても、監督の命令には拒めない。 2球目の少し高めのストレートを転がす。 我ながら、上出来なバントだ。 全力で一塁ベースを走るも、やっぱりファーストに捕られてアウト。 まぁ送りバントだし、末国を送れれば、それで良いかな。 「ナイバン!」 ベンチに戻るなり、控えの河野が笑顔で迎えてくれた。 俺は河野から渡されたタオルで顔を拭いた。 河野は選抜でレフトを守っていた。 しかし、選抜終了後の県予選の試合途中で、肉離れをしてしまった。 その為、今大会は控えで、俺がレギュラーとして出ているわけだ。 「中々、レフトの守備もさまになってきているな」 「そうかぁ? まだまだだと思うけどなぁ」 本来、俺の本職はサードで、たまに練習試合でショートやファーストを守るくらいで、外野など野球を始めてから、一度もやった事が無い。 だから、外野を本職とする河野に褒められて、内心嬉しかった。 キィィィィィィン!!!!! 河野と話していると、快音がグラウンドから鳴り響いた。 俺らは揃って、グラウンドへと目を向けていた。 九番の谷村が、センターへとヒットを打ったのだ。 二塁ランナーの末国は、三塁ベースを蹴ってホームへ。 センターからショート、ショートからホームへの返球も、末国はホームイン。 「しゃあぁ!」 俺は思わずガッツポーズをしていた。 これで1点差、まだまだ逆転出来る! 「英雄…俺達を甘く見るなよ」 そう俺は呟きながら、マウンドで帽子を脱いで、汗をアンダーシャツでぬぐう英雄を見つめた。 ≪前 HOME 次≫
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宿泊中のホテルに戻り、私服に着替えてから、近くのファミリーレストランへと足を向ける。 宿泊しているホテルは、格安のビジネスホテルなので、飯がない。一応朝飯は出るが、俺達が満足できる程ではない。 なので、こうして部員一同でファミレスでの食事となる。 ファミレスの奥の方を山田高校野球部が陣取る。 一応学校からは1人500円の支給だが、当然足りない。なので、それ以上は自費となっている。まぁここまでしてくれてるのだから、文句は無いけどね。 さて全員のメニュー注文が終わり、暇だ。 とりあえず座席を確認。俺の正面に大輔、左に哲也、何故か右に志田後輩。 さて、どうしたものか。 「英雄、明日の事だけどさ…」 「あぁん?」 最初に話しかけてきたのは哲也。 今はやる事がないので、哲也と話す。 「承徳のチーム出塁率って知ってる?」 「あぁ? …3割ぐらいか」 「その上、4割1分1厘」 「…マジか」 これがどれくらい凄いかと言うとだな。 1人の打者で考えよう。打率3割の打者なら、大体の出塁率は3割5分。好打者で4割くらいだな。 んで、出塁率の算出方法は以下の通りだ。 出塁率=(安打+四球+死球)÷(打数+四球+死球+犠飛) 上の計算式を見る限り、四死球や犠牲フライ数も含まれている。 まぁ要するにだ。選球眼が良い選手がそろってるって事。 しかもチーム平均と言うことは、ほとんどが選球眼が良いという事。 なんという優秀なチームだ。 ちなみに浜野高校の出塁率は3割8分だそうだ。 浜野高校も優秀だという事。 我が校の出塁率は2割後半だ。情けないね。しょうがないね。 「承徳の選手は1番から9番まで、四球が多い。つまり選球眼が良いって事だね。今日の試合でも、相手の鳥取西条学園のピッチャーのフォアボール数は9個。 ツーストライクになるまで、打ちに来ないから、ボール先行のピッチングをすれば、無駄に球数を増やす事になるし、フォアボールになりやすい。明日は積極的なピッチングで行く予定だけど、英雄はそれで良い?」 そう長々と説明する哲也に、俺は口を開いた。 「強豪校相手なんだ。後手に回ってたら、勝てるわけがないだろう。ボール先行なんて言う甘い考えなんて、俺には最初からねぇよ。明日はストレート中心の組み立てを頼むぞ」 「…英雄。…確かにそうだね。分かった! 明日は強気のリードで行こう」 ってな事で、明日の試合の話は終了となった。 「佐倉先輩、明日も頑張ってくださいね!」 哲也と会話が終わるなり、右隣の志田後輩が話しかけてきた。 「任せとけ! 相手が強いほど燃えるぜ!」 すでにやる気は十分だ。後は試合で頑張るだけだぜ! この後、食事となったが、正面の大輔が、やはり大量の飯を食っていた。 一年の頃から、こいつの食いっぷりは見てきたが、やはり凄いな。 改めてそう思うのだった。 ≪前 HOME 次≫
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さて準決勝。相手は昨年の秋に7対4で勝利した荒城館。 とりあえず先攻である荒城館の先頭3人を凡打にして、攻撃へ。 っと言っても、初回は一番恭平が空振り三振。二番耕平君がショートフライ。三番龍ヶ崎が空振り三振で、無安打で終わってしまったが。 さて二回、右打席に入るのは、この回先頭の四番の遠藤。 こいつは昨年の秋に、俺から満塁ホームランを打った打者だ。打たれたのは、甘く入ったスライダーだったはずだ。 まぁ昨年の借りは返しておかないとな。俺の気分が晴れねぇ。 ロージンを軽く触れてから、プレートを踏む。 哲也のサインは、外角低めへのスライダー。昨年、俺が打たれたコースだったはずだ。 なるほど。哲也の野郎、強気じゃないか。 これだから哲也とバッテリーを組むのが止められない。 思わず笑ってしまいそうなのを堪え、集中する。 一度息を吐いて、テンポを確認してから、大きく腕を振りかぶった。 そして何も考えず、哲也のミットだけを見て、投げた。 乾いたミット音と、空を切るスイング音。そして球審の声。 まずはワンストライク。哲也から返球されたボールを、再び左手の上に乗せた。 二球目。今度はアウトコース低めに決まるストレート。 俺は頷き、いつものテンポで球を投じる。 放たれた球に、遠藤は遅れてバットを振るも、当然タイミングが合わず空振り。これで追い込んだ。 そして三球目…。 俺は哲也のサインを見て頷き、そして大きく腕を振り上げた。 左腕から放たれる白球は、相手の体を貫くように、インコースを抉(えぐ)る。 遠藤はタイミングすら取れず、そのまま見送った。 「……ストライーク!」 球審の右手が高々と上がり、思わず俺は左手で、小さくガッツポーズした。 打席で呆然と立ち尽くす遠藤。マスク越しからでも分かる哲也の笑顔。 約8ヶ月ぶりの借りは、しっかりと返させてもらったぜ。 ≪前 HOME 次≫
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初回、我が山田高校の攻撃は、恭平の空振り三振から始まった。 「くっそぉ~、なんだありゃ…ずっとボールが見えないと思ったら、急に出てきて驚いたぜぇ…あぁちきしょー!」 ベンチに戻るなり、ぎゃーぎゃー喚く恭平。 やはり高梨のフォームは出所が分かりづらいようだ。今打席に居る耕平君も、明らか遅いテンポでバットが出てるしな。 結局、耕平君はサードゴロ、龍ヶ崎はピッチャーフライで倒れて、初回は、無安打無得点で終わった。 「良いか! 打てなくても焦るなよ。今日の試合は焦ったら負けだぞ!」 「はい!」 一同がグラウンドに散らばる前に、佐和ちゃんが檄を飛ばす。 それに全員が、力強く返事をした。 「おっしゃー! この回もファインプレー見せてこーぜー!」 などと空振り三振したのに、元気に恭平は言いながら、ショートへと向かう。 ファインプレーを見せるって事は、俺が打たれるって事じゃねぇか。 打たれてたまるかよ! 二回の表、先頭の4番田上をセカンドゴロに抑えると、続く5番高梨を空振り三振、6番大川をショートゴロにして、この回も無失点で切り抜けた。 二回の裏、この回、最初に打席に入るのは大輔だ。 あいつが打席に入ると、どうもホームランを期待してしまう。 まぁ奴は、現在、今大会の全試合で、ホームランを打っているような化け物だからな。 一発に期待してもおかしくないだろう。 「大輔ぇ! 一本頼むぞ!」 ネクストバッターズサークルに腰下ろして俺は大輔に声をかける。大輔は、打席に入る前に右手の親指を立てて、俺の声に返事をした。 ネクストバッターズサークルから見る大輔の構え。 いつも見る風景だが、決勝と言う舞台だと、また変わった雰囲気が出ている。 初球は低めへのストレート。 大輔はタイミングを取っただけで、打ちにはいかなかった。 さすがの大輔も、出所の見えないフォームには、お手上げか? …そう思っていた時期も私にはありました。 二球目のストレート。 それを豪快に引っ張り、サードと、三塁線の間を、ライナーで抜いてレフトへ。ラインぎりぎりで落ちたが、判定はセーフ。相手チームも、ここまで引っ張ってくるとは思わなかったらしく、守備位置は流し方向より。つまり長打コース。 思わず数秒、体が硬直した。 スイングのスピードが、いつも以上に速く感じた。 …おいおい、化け物にも程があるぜ、こんちきしょう。 大輔は二塁でストップ。 無死二塁で、俺に打席が回ってきた。 ゆっくりと打席に入り、一度、守備位置を確認する。 大輔と違って、内野は後ろに下がっていない。油断されてるなぁ。 んで初球、俺は思わず苦笑してしまった。本当にボールの出所が分からねぇ。 ポンッと出たと思った瞬間に、パァンと鳴ってる感じだ。 良く出所が分からないのに、大輔の野郎、豪快に引っ張れたな。 二球目、今度は外角低めへのストレートをギリギリ当てるも、打球は三塁線の左側を、コロコロと転がるファールとなった。 まだタイミングが掴めてないな。でも次で何とかなるかな。 そして三球目。今度も外角へのストレート。 俺は、さっきよりも速いタイミングで、スイングに入る。だがボールは変化した。そうスライダーを投げてきやがったわけだ。 豪快に空振りする俺。まさかの空振り三振で無死二塁から、一死二塁になってしまった。 結局、この後も凡打で終わり、点を入れられずにチェンジした。 ≪前 HOME 次≫
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「さっきの三振、マウンドまで引きずるなよ」 などと、マウンドに向かうときに佐和ちゃんに言われた俺。 だが、俺にとって、マウンドと打撃成績は別物だ。 マウンドでは、しっかりと集中して三者凡打にする。 ピッチングの方は問題は無いが、バッティングが問題だな。 3イニング目の攻撃、案の定だが哲也と誉が、2者連続三振になった。 んで1番に返って恭平も、恭平は2打席連続三振になる。 「マズいな」 思わず俺は独り言を呟いていた。 隣でベンチに座る佐和ちゃんは「まったくだ」と、俺の独り言に反応した。 「ここで三者連続三振か。これ以上、高梨を乗せると打つのも困難になりそうだな」 佐和ちゃんも独り言のように呟いた。 俺と同じ考えだ。三者連続三振した高梨のピッチングにテンポが出来始めてる。テンポが出来れば、そのテンポを壊すのは難しい。 そうなると高梨を攻略するのも難しくなる。 いくら未だに失点していない俺でも、2試合分の疲れがあるのは否めないし、勢いに押されて失点する場合もある。 出来れば2点欲しい。贅沢すぎるか? 最低でも1点あれば、勝てると思う。油断は出来ないけど。 4回、さっき良い当たりを打っている沖田が、この回も良い当たりをレフトへ打つも、レフト正面のアウト。 この打席もストレートを捉えられた。完璧にストレートのタイミングが合っているな。 続く2番伊賀を見送り三振、3番長谷井をライトフライに仕留める。 なんとか、ピッチングの方は、まだ十分平気だな。 さて問題のバッティングだ。 この回が最初の分岐点だろう。 それは佐和ちゃんも分かっているはずだ。 「この回、テンポ良くチェンジになったら、その時点で俺達の勝ちは無くなるつもりでいろ。出塁しなくても良いから、ファールで粘って球数を稼げ! そうすれば、きっと攻略の糸口が見えるはずだ」 「はい!」 攻撃が始まる前に、ベンチ前で円陣を組み、佐和ちゃんのお言葉を一同がしっかりと聞いて、返事をした。 分岐点の4回が始まる。 ≪前 HOME 次≫
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12月23日。 22日には、終業式で冬休みで迎えた今日。佐和ちゃんの急用で練習が休みになった。 そんな朝、俺は目覚めが悪かった。 と言うのも、昨夜見た夢の内容が最悪だったのだ。 ホモになった哲也に追われる俺。必死に逃げて、T字路の右に曲がると須田が登場。あわてて左を選ぶと、恭平登場。 思わず恭平にすがると、恭平が急に服を脱いだ。 「英雄! 俺はお前が好きだ! 突き合ってくれ!」 そう叫んで抱きついてくる恭平。それからは、さすがに話したくない。 そんなクソッたれな夢を見たおかげで、いつもより不機嫌になってリビングへと入る。 リビングには、テレビの音、台所で流れる水、外から聞こえる廃品回収の車のアナウンスが立ち込めており、やけに騒がしく感じた。おかげで余計に不機嫌になった。 「っち! ここは喧騒の宝石箱かよ」 なんて事を言いながら、ふとソファーを見る。 岡倉がいた。奴はテレビを見ながら、大声を出して笑う。俺を見て「おはよう英ちゃん!」と、当たり前のように挨拶をしてきた。 その姿が、無性にしゃくに障った。 「ってんめぇ! なに、エクストリーム不法侵入してんだよ、ゴラァ!」 岡倉の頭をげんこつでグリグリする。 痛い痛い! と叫ぶも、今の不機嫌の俺を止める理由にはならなかった。 「痛い痛い! 英ちゃん! これ以上グリグリしたら責任とって嫁さんにしてもらうよ!」 そんな事を叫ぶ岡倉。反射神経が、グリグリする動きを止めていた。 グリグリされなくなったのに、なぜか落ち込む岡倉がいた。マゾなんですか? 「ってか、なんで俺の家にいるんだよ! 龍ヶ崎の家行け! 龍ヶ崎の事だから、今頃一人でザンダムのプラモデルをやってるだろし」 なんて事を言いながら、台所にある冷蔵庫から牛乳を取り出して、コップに注ぎ一気に飲み干す。 ちなみにザンダムとは、簡単にいうとロボットアニメのロボットの名前だ。だがザンダム好きに、この説明を聞かれたら間違いなくぶんなぐられるだろう。奴らはロボットと言われるのが嫌いらしい。意味わからん。 まぁ話はそれたが、母上が、やけにニヤニヤと笑いながら、俺を見ている。そしてこそりと、俺の耳元でささやく。 「あんた、沙希ちゃん以外にも、手をかけるなんてねぇ。あんまり唾つけると、後で大変よ?」 唾つけてねぇし、手もかけてねぇよ。そもそも沙希に、手をつけようとしたら、手が無くなってるはずだ。唾なんかつけたら、朝日が拝めなくなっちまうよ。 「そんなんじゃねぇよ。野球部のエース様とマネージャー。それだけ」 面倒くさかったので、適当に母上に言って、リビングへと戻る。 後ろから「昔の青春ドラマの定番ねぇ~」とか言っているが無視する。 「達也君は、一人のほうが絵になってるからいいよ。私は英ちゃんと居たいし」 可哀想に龍ヶ崎。遠まわしに一緒にいたくないって言われてるぞ。 やっぱりあいつは、少しぐらい積極的にならないと無理だな。うん。 「わぁーい、そんなこと言ってもらえて嬉しいわー。感動して涙がちょちょぎれそうだわー」 「もっと感情こめて言ってよ!」 俺の名演技にケチをつける岡倉。 何故文句が出てくるか。これは棒読みと言う、逆に演技が上手い人には高度な技なんだぞ? 「感情こめてって、別にお前に一緒にいたいって言われても嬉しくねぇし」 「そんなこと言って英ちゃんは、照れ屋なんだからぁ~」 そういってニコニコする岡倉。…こいつ。 無意識のうちに、ゲンコツぐりぐりを開始していた。 「痛い痛い痛い! ごめん英ちゃん! 嘘だって!」 涙目になりながら謝る岡倉。 まぁ許してやるか。この程度で怒る俺も大人げないな。反省。 「そうだ英ちゃん! 英ちゃんの部屋を見せてよ!」 「はぁ?」 朝の食事を摂っていると、岡倉が笑顔で言ってきた。 この前も沙希に見せたし、なんなの? 俺の部屋、国宝指定でもされてんの? 「やだよ」 「えー! 見せてよぉ!」 俺の腕を掴んで、駄々をこねるような動きをする岡倉。 それをほほえましそうに見ている母上に、殺意を抱きながらも、俺は自分で作ったトーストの最後を、口の中に放り込んだ。 「ガキじゃねぇんだから諦めろ。今度、おもちゃ買ってあげるから」 「私は子供じゃないもん!」 そう言いながらも、子供ように反論をする岡倉。 まったく説得力が無かった。 「それに俺の部屋は、汚いから入れないよ」 「それでもいいよ。英ちゃんの部屋に入ってみたいの!」 「無理だ帰れ。今度、山田駅近くのデパートの屋上の遊園地に連れてってやるから」 何度も駄々をこねる岡倉に、俺は適当に返答をする。 それでも引き下がらない岡倉。あまりの頑固さに、俺は大きく溜め息を吐いた。 「デートしないと許さない!」 「しゃーねぇな。部屋見せてやるよ」 俺は腰を浮かす。岡倉はポカンとした表情の後、寂しそうな顔をしてから、笑顔で俺の後についてきた。 「ねぇ英ちゃん」 「うん?」 自室へと向かう階段で、後ろから岡倉はポツリと、俺の名前を呼んでくる。 「英ちゃんはさ。やっぱり彼女とかいらないの?」 この岡倉の言葉はおかしい。 だって、高校入学してから、俺は常に彼女ほしいと公言してきた。 だから、高校で知り合ったばかりの岡倉が、「やっぱり」と使うのはおかしいのだ。 高校で知り合う前から俺を知っていた? それとも岡倉のアホ言動か? …どっちでもいいか。 「彼女は欲しいさ。ただ、年上で絶世美女ですべて完璧なんだけど、少し抜けてて、ちょっとツンデレっぽい感じな人しか募集してないだけさ」 ここで息を吐くように嘘をついた。 本当は彼女なんていらない。居ても、絶対に迷惑がかかるからだ。 絶対と言う言葉を使ってしまうほど、付き合ったら迷惑がかかると目に見えていた。 それは俺の性格からして、周知の事実だと思う。 常に野球のことを考えてる俺に、彼女の人は絶対に不安や心配をする。自分のことが好きじゃないのかもと思うだろう。 逆に、野球のことを考えてる俺の世話をしようと、下手にマッサージするなんて言っても、絶対に俺は断る。マッサージの仕方も知らない奴に、俺の筋肉は触らせたくないからな。 野球ばかりの日々だから、デートなんてのもしないと思う。 そんな俺が、彼女を作ると言うことは、彼女にかなり迷惑がかかるわけだ。 「じゃあ英ちゃん! 私なんてどう! 英ちゃんの御眼鏡にかなってると思うんだけど!」 ………はぁ? 「ちょっと何言ってるか分からないです」 何故俺の嘘の理想像から、その結論に達したのかよくわからん。 だって、だってだよ? まず岡倉は笑顔は可愛いとしても絶世美女じゃないじゃん。ってか、美女言うより美少女やん。 それに全て完璧じゃないじゃん。岡倉欠点だらけじゃん。 抜けてるって部分だって、ちょっとどころじゃないですか。 ツンデレっていうより、デレデレですし。 よって… 「岡倉、一度御眼鏡にかなうって意味を辞書で調べてきなさい。今回は誤用ですよ」 「むー! 私は完璧だもん! 絶世美女だもん!」 自分で完璧だの、絶世美女だの言うやつ初めて見たわ。 「ついでに完璧と、絶世、美女の三つの単語の意味も調べとけ。お前が間違った使い方してるのがわかるからな」 満面の笑みで言う俺を見て、岡倉はさらに頬をふくらました。 その子供っぽい動作を見て、まずこいつはお姉さんタイプになれないと判断した。 この後、少し岡倉と俺の部屋で馬鹿話した後、家の前まで送って終了。 寝起きは不機嫌だったが、岡倉と別れるころには、ほっこりとした気持ちに変わっていた。 おそらく、これが岡倉の良いところなのだろうな。 なんて思いつつも、シャドーピッチングにいそしむ俺だった。 ≪前 HOME 次≫