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メニュー トップページ カレンダー 第3回高麗川塾 更新履歴 更新履歴 取得中です。 @wiki FAQ @wiki 初心者講座 @wiki マニュアル @wiki 便利ツール @wiki
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ちさちさ chisatyと同意のキティ。
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前へ 愛理ちゃんとのやりとりを黙って見ていてくれたり、更に今も一緒に座れだなんて、今日の桃子さんは妙に優しいな。 やっぱり軍団長は大人なんだ。さすがだな。 そんな桃子さんにも申し訳ないから、もう僕は帰ります。 ありがとう桃子さん、なんて思っていたら、桃子さんが愛理ちゃんに話しかけているのが聞こえてきた。 「聞いたでしょ、愛理。この少年は愛理のこと特別に想ってるんだって。人気者だねぇ、あいりん」 僕の耳がピクッと反応する。 前言ちょっと保留。 桃子さんのちょっといやらしいその言い方。しかも、何かそんなことわざわざ言わなくてもいいのにってことを言っている。 これはたぶん、わざと僕に聞こえるように言ってるんだ。 それを無視することの出来ない単純な僕は、つい話しに割り込んでしまった。 「桃子さん!」 「あれ? なーんだ、こっちのテーブルにしっかり聞き耳を立ててるんだ。もう帰ります!!とか言ってたくせにw」 僕が振り向いたとき、桃子さんはすっごく楽しそうな笑顔だった。 その表情を見て僕はようやくわかった。 桃子さんは僕と愛理ちゃんのやりとりを黙って聞いていてくれてたんじゃない。 じっとタイミングを計っていたんだ。仕掛けるタイミングを。間違いない。 「少年、愛理のこと好きなんでしょ? いま言ったのはそういうことじゃないの?」 刺激的なセリフで僕を挑発する桃子さん。 僕には分かる。桃子さんが何を言いたいのか。 というか、桃子さんが僕に何をさせたいのかということが。 これはこの前お嬢様とご一緒した時と同じことなんだ。状況も同じなら桃子さんの表情も同じなんだから。 また僕をもてあそんだ挙句に、僕の気持ちを僕自身の口から大発表させようと誘導しているのだ。 なんでそんなことをするのかって? そんなの、もちろん桃子さんが自分で面白がるため。ただそれだけのために。 そう何度も同じ手を食うものか。 だから、桃子さんの挑発的な質問にも慎重に答える。 「違いますよ」 「なに?好きじゃないの? じゃあ愛理のこと嫌いなんだ」 「まさか! そんなわけないじゃないですか」 「ほら、好きなんじゃん。意味がわからないよ、少年」 だめだ、相手が悪い。 桃子さんの攻撃がじわじわと効いてくる。 でも、僕に愛理ちゃんの前で大発表させようとしているのは、また僕の舞ちゃんへ対する想いなんでしょと早合点したが、そうではないのかな。 いまずっと桃子さんが聞いてくるのは、ひたすら僕の愛理ちゃんに対する気持ちのことだ。 そうか、そっちでイジりに来たか。 今しつこく言ってきてるのは、愛理ちゃんに対して「好き」っていう言葉を僕から引き出そうとしているんじゃないだろうか。 だから桃子さん、「好き」の意味が違うんですよ! あの時説明したことの繰り返しになるだけなんですが、それをさせようとしてますか。 また長々と言葉の使い分けの違いを説明して、そしてお嬢様への僕の気持ちにも言及せざるを得なくなりry、って。 それをさせるのが狙いなんだろうか。 そんな説明、恥ずかしくてここで出来るわけがない。目の前にいるのはあの愛理ちゃんなんですよ。 お互い振り向きながらやりとりする僕と桃子さんを、愛理ちゃんがテーブルに頬杖をつきながら微笑を浮かべつつ眺めている。 桃子さんの後ろ側に見えるその光景に、また僕は固まってしまう。 ・・・無理。 僕の気持ちなんか、愛理ちゃんに知っていただく必要はありません。 僕の彼女へのファンとしての気持ちはさっき本人に直接言った通りだから、それ以上の余計なことは言う必要なし。 愛理ちゃんのこと だ け を考えている僕に対して、桃子さんがそろそろ御立腹のようです。 「こらー!! もぉのこと素通りして、後ろの愛理に見とれるとか、どういうことだ少年!」 そうですよね、ちょっと露骨に見入っちゃいましたから。 「謝りなさい、わたしに」 なーんだ。 いろいろ言ってるけど、僕が他の子に見とれていることに嫉妬してるんだな桃子さん。 ちょっと彼女のことを、かわいいな・・なんて思ってしまった。 「ご、ごめんなさい」 もちろん僕に見て欲しいなんて、そんなこと桃子さんが思ってる訳はないわけで。 ただ単に、他の子に見とれてるのが感情的に気に入らないだけで。 そして、それと同時に自分が優位な立場に立つための言葉のトラップなんだ、これは。 やばいぞ、この展開は。 桃子さんは意識的に誘導している。この会話の展開を。 今ので完全に主導権を桃子さんに握られてしまったようだし。 僕のかなう相手じゃないのだ、桃子さんという人は。 「Buono!のファンとしてあるまじき態度だよ。リーダーに対してそんな態度、許されると思ってンの?」 「許されるも何も、・・・そりゃ自分の推してるメンバーの方に見とれちゃいますよ・・」 「なに?声が小さくて聞こえない! 少年はこれからもぉと愛理のどっちを応援するわけ?」 「Buono!のときですか? 愛理ちゃんですね(キッパリ)」 挑発的な桃子さんとやりとりするうちに、僕もつい聞かれたことにムキになって答えてしまう。 「ちょっと、もぉと愛理のどっちが好きなの。ハッキリしなさい」 その答えは質問される直前に、これ以上無いぐらいハッキリと答えたじゃないですか。しつこいな。 舞ちゃん以外の人の誰が好きかなんて、その議論は意味がない。もうこの話しは終わりにしたい。 それでも容赦の無い桃子さんは、その口調と表情と仕草で僕を徹底してイライラとさせてくれる。 そして、意外な人の名前が出てきたことで、僕のイライラはピークに達した。 「あ、分かった! やっぱり一番好きなのはくまいちょーなんだぁ!!」 頭の血管がピキッ!と音を立てるのが聞こえた。 思わず頭に血が上ってしまい、思いっきり叫んでしまう。 「熊井ちゃんのわけないでしょ! 僕が一番好きなのは舞ちゃんなんですから!!」 僕の発言を聞いた桃子さんの口角がニヤーッと歪む。 その後ろで愛理ちゃんが、その大きな目をさらに見開いていた。 ・・・・・ 僕は、馬鹿なんだろうか・・・ 分かっていたのに、結局同じ手に引っかかってしまうなんて。 いや、違うよ。 恐ろしいのは桃子さんなんだ。罠に落ちないように気をつけていたのに。 分かっていも、桃子さんにはまるで歯が立たなかった。さすが、軍団長・・・ 周りのテーブルの人からもクスクス笑われている気配がする。 顔が真っ赤になっているのを自覚する。 この場の空気にもう耐えられない。 「ぼ、僕はこれで失礼します!!」 「えー・・・もう帰っちゃうのぉ? せっかくだから、みやも呼ぼうと思ったのにぃ」 そんな桃子さんのからかいももう僕の耳には入ってこなかった。 あわててカバンを掴んで、二人に頭を下げてその場を後にする。 恥ずかしかった。愛理ちゃんの前であんなこと宣言しちゃうなんて、恥ずかしすぎる。 そして、明日もこのカフェに来て場所取りしなければならいことを考えると、さらに恥ずかしさがつのる。 気が重いなぁ。でも、席取りをさぼったりしたら熊井ちゃんから怒られるからそれは出来ない。 まぁ、明日のことは明日のことだ。 それに、僕はいま意外とそれほど気分は落ち込んでいないのだ。 そう、思いがけず会えた愛理ちゃん。そのことが僕の顔を緩ませる。まさか愛理ちゃんに会えるなんて! 間近で見る愛理ちゃん、本当にかわいかったなあ。 ひょっとしてもぉ軍団とやらに関わるってことは、それほど悪いことでは無いような気もしてきたのだ。 だって、この間はお嬢様とお会いできたし、今日はこのように愛理ちゃんに会えたのだから。 うん、それだけおいしい思いが得られるなら、軍団と関わることで生じる多少の苦労は我慢できるんじゃないだろうか。 しかし、もぉ軍団がそれほど甘い集団では無いということ、それはこれからの未来が証明してくれることになるのだが、今の僕にはそんなこと知る由もなかったのだ。 次へ TOP
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ずっと話し込んでいたら、さすがに夜風で部屋が冷たくなってきた。舞波さんはクシュンと小さなくしゃみを1つすると、チェストからブランケットを引きずり出して、2人の足を隠すように広げてくれた。どうやら、まだ話は続くらしい。 「少し前に、お嬢・・・千聖のお父様の大きなお祝い事があって、それまで全く関わりのなかったうちの家族も、招待されたんです。 私はこんな状態だし、両親だけ行く予定だったけど、是非出席をとお願いされてしまって。そこで、初めて千聖と出会いました。」 ************ “「舞波ちゃん、勉強はどう?」 「忙しい時期でしょう?友達はできたの?」 某高級ホテルの、結婚式でしか使われないような庭園レストラン。 硬直するお母さんの手をテーブルの下で握りながら、私は目の前のご婦人に、学校には行っていないんです、返事をした。この人、誰だっけ。・・・父方の叔母さんの小母さん、だったかな。 さっきお母さんが、私が学校に行っていないっていう説明をしていたはずだけど・・・それでも私に、直接聞かなければ気が済まなかったのかな。変な人。 「まあ、可哀想。うちの姪子はね、舞波ちゃんと同い年で、おかげさまで進学校に合格して、今日は部活で忙しいから来れなかったけれど・・・あぁ、ごめんなさい。こんな話、辛いわよね?」 「いえ、別に。お気になさらないでください。」 私のリアクションが予想と違ったのか、その人はあからさまにつまらなそうな顔をして、目の前のテリーヌに乱暴にフォークを刺した。 やっぱり、来ないほうが良かったのかな。 自分が何を言われても別に大丈夫だけれど、お母さんやお父さんが辛そうなのは嫌だと思う。どうして私がこの宴に呼ばれたのかよくわからないし、気持ち悪くなったとか適当な理由をつけて、そろそろ退席する準備をしようかな。 せっかく東京に出てきたのだから、こんなところでモヤモヤしていないで、両親と観光に行った方がよっぽど楽しそうだ。 「ご歓談中、失礼いたします。石村舞波さんでいらっしゃいますか」 「あ、はい。」 そんなことを考えていると、ふいに後ろから声をかけられた。黒いスーツにリボンタイの初老男性――今日はあちらこちらで同じ服装の人を見かけるから、執事さんだろうか――が、振り向いた私に一礼して、スッと青い封筒を差し出してきた。 「千聖お嬢様から、こちらをお預かりして参りました。」 「私に?」 「出来れば、早めに目を通していただきたいとのことです」 「はぁ・・・」 私は横目で、上座に陣取る家族の方を伺い見た。 本日の主役である、精悍な顔立ちで存在感のある凛々しい旦那様。 次々挨拶に訪れる客人に、愛想良く対応する美しい奥様。傍らの揺り籠では、赤ちゃんが眠っている。 そして、その隣に座っているのが、この手紙の差出人である、千聖お嬢様だった。 男の子みたいに短くそろえられた髪。旦那様譲りの小麦色の肌。中学2年生と聞いていたけれど、それよりもずいぶん幼く見える。 せわしなくキョロキョロ動くビー玉みたいな目が可愛くてジッと見つめていると、思いっきり視線がぶつかってしまった。 「あっ」 「あっ」 かなり席は離れているけれど、同時ぐらいにお互い息を呑んだのがなんとなくわかった。 「舞波?」 「ちょっと、外出てくるね。」 私が席を立つと、視界の隅っこで、千聖お嬢様も慌てて立ち上がったのが見えた。ジュースでもこぼしちゃったのか、軽い悲鳴と奥様の叱咤の声が聞こえる。 その声を背に、一足先に私は中庭へと足を運んだ。 美しい草花に囲まれたベンチで目を閉じてぼんやりしていたら、さっきまでの少し沈んでいた気持ちが落ち着いてきた。 そろそろ、来るかな? なんとなくそう思って、目を開けて姿勢を正した。 ジャストタイミングだ。数秒遅れて、蔦の絡まる柱の陰から、千聖お嬢様がよたよたと歩いてきた。慣れないミュールのヒールが憎らしいのか、困った顔で何度も踵と地面を見比べている。 「千聖お嬢様、こんにちは。はじめまして」 「きゃっ!」 いきなり声をかけたから、驚かせてしまったらしい。小柄な体が派手によろける。 私はベンチから離れて、よろけた千聖お嬢様を受け止めるように手を差し伸べた。 「あ・・・」 一瞬、触れた肩が強張った。そっか、触られるのは苦手なのかな。あまり気を使わせないよう、なるべく自然に手を離して、「大丈夫ですか?」と声をかけた。 「えと、はい、大丈夫です。支えてくださって、ありがとうございます。」 緊張しぃなのか、お嬢様はほっぺたを赤くして、若干モゴモゴした口調になっていた。 「あの、舞波さん。ありがとうございます。」 「え?」 「だって、お手紙、すぐに読んでくださったのでしょう?だからここに・・・・」 そう話しだしたお嬢様は、私の手元に視線を移すと、不思議そうな顔をした。 「あら・・?読んでいらっしゃらないの?でも、それならどうして?」 しまった。もらった手紙を持ったままにしていたから、シールでしっかり封をした、開けられた形跡のない封筒が、お嬢様の目にとまってしまった。 執事さんに聞きましたとか、言い訳できなくもなかったけれど、なんとなくこのお嬢様には嘘をつきたくなかった。・・・というより、話してもいい、となぜか思えた。自分の、特殊な能力のことを。 「お嬢様。話半分で聞いていただきたいのですが、実は私・・・」 「・・・そう、だったの。とても勘がすぐれているのね。だから、千聖のお手紙の内容が、読まなくてもなんとなくわかってしまった」 丁度話の区切りがついたところで、お嬢様は微笑した。 ライトイエローのドレスから伸びるお嬢様の小麦色の足が、庭園の土を軽く蹴って、二人乗りのブランコが緩やかに動く。 「驚いたわ。お呼び出しした場所までわかるなんて」 「なんとなく、ですけど。イメージが沸いてくるんです。」 驚いたとはいうものの、私の能力の話を聞いても、お嬢様は特別大きなリアクションは起こさなかった。最初は両親でさえ軽くパニックを起こしたというのに、この反応は新鮮だった。 「まるで、魔法使いのようね。千聖のクラスにも、魔法に憧れている方がいるのよ。あんまり話したことがないけれど・・・きっと、すぎゃ・・彼女が聞いたら、うらやましがるわね。」 「でも、百発百中ではないんですよ。外れれば人に迷惑をかけるし、あんまりお見せするものではなかったですね。すみません、不注意でした。」 私が頭を下げると、千聖お嬢様は不思議そうな顔をした。 「どうして?失敗は誰にでもあることでしょう。千聖も走るのがとても得意だけれど、転んでビリになってしまうこともあるわ。舞波さんもせっかく素敵な力をお持ちなのだから、失敗を恐れることはないと思うけれど・・・ きっとその能力は、人を笑顔にする素敵なものなのではないかしら。・・・舞波さん?どうなさったの?」 「いえ、あの・・・」 あまりにも予想外なお嬢様の言葉が心に刺さって、私は身動きが取れなくなってしまった。ここ数年、淡々と、心を揺さぶられることなく生きてきた私にとって、リハビリもなにもかもすっ飛ばしたいきなりの激情だった。 「舞波さん?」 「あ・・・すみません、何かそんな風に言ってもらえるなんて、びっくりして、目から鱗っていうかっ」 何とか場をつなごうとして口を開くと、昂ぶっていた神経がそうさせたのか、いきなり涙があふれた。 「ごめ、ちょっと、すいません、私ったら」 「まあ。舞波さんたら、目から鱗じゃなくて涙が零れてしまったのね」 私の目じりを、お嬢様が優しくハンカチで拭いてくれる。バニラのいい香りがした。 「あのね、舞波さん。今日ここに舞波さんを強引にお誘いしたのは、私なの。」 「どうして・・・?」 「わからないわ。お父様から、遠縁の親戚で年の近い方がいるって聞いたときに、なぜか無性に会いたくなったの。きっと、素敵なお友達になってくださるような気がして。これは、きっと千聖の超能力ね。舞波さんに出会えてよかった」 お嬢様はそう言って、ウフフと笑った。 「よかったら、これから千聖のおうちに遊びに来ない?ここから近いの。車で10分ぐらいよ。せっかくお友達になれたのだから、もっと千聖のことを知って欲しいわ。」 「でも」 「お願い。ね、舞波さん?舞波さんのお父様とお母様にも、千聖からお願いしてみるから」 「ウフフ、わかりました。では、2人で交渉してみましょう。」 「本当?嬉しい。後で妹弟のことも紹介するわね。そうね、まずは、会場に戻りましょう。」 千聖お嬢様はパァッと明るい表情になって、勢いよくブランコを飛び降りた。 「もう、お嬢様ったら、ミュールで危ないですよ」 「大丈夫よ。早く行きましょう、・・・舞波、ちゃん」 「もう、そんなに急かさないでくださいって。・・・・千聖。」 一歩間違えれば大変な無礼にもなるけれど、きっと、これがお嬢様の望み。案の定、お嬢様・・千聖は少し目を丸くした後、目をくしゅっと細めて笑った。 「やっぱり、舞波ちゃんはすごいのね。千聖の自慢のお友達だわ。」 まるで羽でも生えているように、軽やかな足取りで、千聖は走る。その背中を見つめ追いかけながら、私は初めて、この能力を持って生まれてきたことに心から感謝した。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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更衣室で一人着替えを済ませ、店内へ出ようとドアへ足を向けた時だった。 間に合ったと声がしたかと思うと、千奈美が慌てて更衣室へ入ってきた。 室内に私がいるのが見えると、千奈美は途端に表情が明るくなり、走って近寄ってきた。 「久しぶり。元気してた?」 電話で話したときも体調が悪そうには思えなかったので、元気な顔をみて少し安心した。 欠勤したのは、欠勤前にパートのトップと揉めていたから、大方それが原因と考えてよさそうだ。 「久しぶりじゃないわよ。あんたこそ元気にしてたの?」 「元気に決まってるじゃん。熊井ちゃんに会えなくて寂しかったくらいで後は問題なしかな」 呆れて言葉も出ないとは今みたいな心境を言うのだろう。 ほんの数秒だが確実にどう返事をしたらいいのか全くわからなずにいた。 千奈美にはありがちだが、こちらの気も知らないでよくもこんな言葉が言えたものだ。 「復帰する気になったのは熊井君のおかげってわけね。向こうもあんたのことを心配していたし、よかったじゃない」 「え、えぇ~マジで? やった~嬉しいなぁ~私だけ本気で好きになっちゃってたのかと思ってた」 千奈美がさらっと熊井君の名前を出したのに嫉妬したのか、冷たく言い放っていた。 どんどん若返る千奈美に比べ、どんどん老けこんでいく惨めな自分。 熊井君と恋愛関係になってから千奈美は自信に満ち溢れ、最近では下着まで布地の小さなものを着用している。 それに引き替え、私はストレスと共に溜まっていく脂肪に包まれ、とてもじゃないが身につけるなんて出来ない。 私も恋の一つや二つでもすれば、こんなにも変わることが出来るだろうか。 「茉麻、聞いてる?」 ロッカーを閉める音に驚き、千奈美の方へ向き直る。 考え事をしている間に着替えまで済ませていたようで、千奈美はエプロンの紐を結び終えたところだった。 頬を膨らませ、ご立腹気味の千奈美は軽く溜息をついて、先に歩き出す。 「な、何を!? 何か話してたの?」と、なるたけ低姿勢な印象を与えるよう努めた。 「全然聞いてなかったわけね。こっちがあれだけ一生懸命に話してたって言うのにさ。損しちゃった」 「ごめん。今度はちゃんと聞くからお願い。教えて」 千奈美は後ろを振り向き、人差し指を突き出し、「今度はちゃんと聞くんだね」と返されてしまう。 「うん。聞く聞く。だから、教えなさいよ」 「よろしい。今日、仕事終わった後に熊井ちゃんをデートに誘おうかなって言っただけ」 そう言って、千奈美が店内に消えていくのを追いかけ、私も店内へと入っていった。 後はレジに立ち、お客さんが持ち込む商品をバーコードで読み取って、値段を読み上げるだけの作業になる。 自分が機械になったつもりでやらなければ、こんな作業は続かない。 時々千奈美が熊井君に合図を送りながら作業を続けるのを見届けるのは、いつもよりも何倍も辛かった。 そんな思いをしたせいか、釈然としないものを抱えて帰り支度を整え、職場を後にする。 いつもと変わらない帰宅ルートを利用して帰る、それだけなのに気が重い。 日も暮れかかっていることも、ナーバスな今の私には作用しているのかもしれない。 だから、千聖君をみつけたときも一瞬誰かさっぱりわからなかった。 時刻は17時を回ったこともあるので、梨沙子との勉強会を終えて駅前にいてもおかしなことではない。 ただ、この時の彼が少しでも変わった様子をみせなければ、そのまま後をつけようとは考えもしなかっただろう。 千聖君は人目を気にしながら歩いているのか、きょろきょろと忙しなく周りの人目を注意している。 幸い、私が先に気づいたこともあって、みつかる前に素早く身を隠すことが出来た。 あれではかえって人目を引いてしまう気がするが、おかげで私は気づけたのだから良かったとも言える。 彼は小走りに進み、徐々に人気がない場所へと入っていく。 彼が入っていった路地裏は治安が悪く、一歩でも踏み込めば何かあった場合、誰も助けてくれる人がいなくなる。 大人でも入るのを躊躇う場所を彼はどんどん奥へと進んでいくのを見過ごすわけにはいかない。 私がここで見て見ぬふりをして何かあったら、大変なことになる。 同じ年の子供を持つ親として、彼のご両親のことが気になり、仕方なしに路地裏へと入る。 彼はこの路地裏へは何度通っているのだろう。 迷うことなく進み、目的地へとたどり着いたようで、あっという間にビルの中に消えた。 私はここで恐喝に合う程度は考えていたのだが、彼の選んだルートのおかげか一度も合うことなくたどり着いた。 彼の入ったビルは汚らしい外観の古いビルで、周りも似たような年数の経つビルが並んでいる。 ビルのテナントに何があるか看板もないため、さっぱりわからないので困った。 こんな場所に習い事に来ているとも思えないし、私としてはすぐにでもビルの中に入りたいのだが、怖くて踏み込めない。 ビルを見上げ、途方に暮れている私を背後から呼ぶ声がしたのはこの瞬間だった。 「先ほどからうちの会社のビルを眺めているようですけど、どうされました?」 「はい!?」 振り返ると、そこには長身で金髪の青年が微笑みを携え立っていた。 まるでホストを思わせる風貌の青年に、私は全身が警戒して強張るのを感じた。 私がとっさに警戒したのに気づいたか、青年は先ほどよりも優しげに微笑みかけてきた。 「突然声をかけたものですから驚かせてしまったようですね。実は私、こう言う者です」と、名刺を差し出してきた。 彼の差し出してきた名刺を受け取り、私は益々困惑してしまった。 千聖君がこの青年とどんな関係なのか、想像も出来なかったからだ。 彼の差し出してきた名刺の会社名を見れば簡単なことなのに、私には千聖君があんなことをする少年には見えなかった。 彼が出張ホストをする少年だとは・・・ ←前のページ 次のページ→
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前へ 「何も悪いことじゃないんだけどねぇ」 「そう、別に悪いことじゃない」 ライブを率先して盛り上げるのは素晴らしい心がけだし、現にお客さんたちだって喜んでいる。 だからこそ、この行き場のないおかしな感情は、私と千奈美の中でくすぶっていて、排出口のないままガスを溜めているのだ。 バラードはいつの間にか終わり、今度はポップなイントロが流れ、照明も黄色やピンクの可愛らしいものに変化している。 不思議な事に、梨沙子の声援は消えていた。 疲れてしまったのか、バラードで叫んでしまったことを反省して自粛しているのか。その胸の内はわからなかったけれど、そのことも何となく引っかかった。 “みなさぁーん!ちゃんとついてきてますかぁ~???” 私の心を見透かしているかのように、ももの声が響き渡る。・・・おお怖い、常に客席の端から端まで見えているのかお前は。アイドル超人め。 「あー、ももうっぜ。・・・よし。整理しようぜ、茉麻」 「おう」 「だからぁ、何でみやびが張り切ってるとうちらがへこむのかって言うとぉ・・・あ、てかみやびやっぱ上手いよね、歌。うわ、ももの声うっぜ。あいりんちゃんもふわふわしてていいね。てかもものMCうっぜ」 「・・・本当、桃子のこと好きだね君は。じゃなくて、話飛びすぎだから。整理するんでしょ?」 常に関心のある方向へと脱線しまくるのが千奈美の癖だから、こうなると私が軌道修正を図るのがいつものパターン。 「あ、やっぱあとでいいや。ライブ見たいし」 「なんじゃそりゃ」 気まぐれに振り回されつつも、今はステージ見たいっていうんなら仕方ない。ま、もともとそのために私たちはここにいるんだしね。 私もひとまず難しいことを考えるのはやめにして、前方に注意を向けることにした。 それにしても・・・本当に大盛況だな。今日のステージ。 学園内はまだわかるんだけど、よその学校の制服の女子や男子、はたまたちびっ子からおじーちゃんおばーちゃん世代まで、大変な人数のお客さんが体育館を埋め尽くしている。 「あ、ちょっと見て茉麻。ぷぷっ」 大人しくライブを楽しんでいたはずの千奈美が、ぐいぐい腕をひっぱってくる。 指さす方向に目を向けると、そこは舞台袖。 そのカーテンの端っこから、小さな頭がぴょこんと飛び出して、ステージの3人をじーっと見ている。 「・・・千聖お嬢様じゃん」 「だよねー!顔ちっさ!てか、さっきからずっとああやって見てんの。子犬みたい」 まるで、ちびっこが憧れのおもちゃに見入るような熱視線。 お嬢様は恍惚の表情を浮かべて、生首状態のまま微妙に揺れたりハミングして楽しんでいる様子だった。 「・・・ぷっ」 「ひひひ、写真撮って記事に載せてやろ。梨沙子怒るだろーなー。“岡井さん職権乱用だもん!”とかいって」 今年、ステージ係を引き受けたお嬢様が、Buono!に夢中になっているのは知っていた。 生徒会の仕事中も、ふと気づけば楽曲を口ずさんでいる。それについて突っ込めば、嬉しそうにBuono!のうんちくを教えてくれる。 そんなお嬢様だから、今日のステージも裏から全力で楽しむんだろうなとは思ってたけど・・・出てますやん、顔。思いっきり。 「かーわいーなぁ」 そうこうしているうちに、舞ちゃんが一瞬だけ顔を覗かせて、不機嫌そうに千聖お嬢様のお顔にカーテンをかけてしまった。 抵抗するかのように、お嬢様は再び顔を出す。そこに舞ちゃんのカーテン。負けずにお嬢様の顔ズボ。舞カーテン。 しまいには超大きな手がぬーっと現れ、2人の頭をガシッと掴んで引っ込めてしまった。・・・熊井、乙。 「わはは、お嬢様にあんなしつれーなことできるのって、萩原さんと熊井ちゃんぐらいだよね」 「まー、お嬢様Buono!ヲタだから、舞ちゃん的には嫉妬の対象なんだろうねぇ。熊井ちゃんはフリーダム」 お嬢様が夢中になっちゃうのもよくわかる。何ていうか、3人は特別輝いている存在だから。 身内びいきもあるかもしれないけれど、3人ともそこらのアイドルに引けを取らないぐらい可愛くて、歌も上手くて、華やかで。 1部熱狂的支持層(Sぎゃさん)なんて、芸能界デビューだって夢じゃないもん!などと熱弁していたっけ。んま、それはさすがに言いすぎだと思うけど・・・。どうなんだろう。 もちろんパフォーマンスだけでなく、キャラ立ちだって完璧。 観客全員を自分の虜にせんとばかりにアピールを欠かさない桃子に、意識せずとも自分の世界に人を吸い寄せてしまう愛理。 雅は要領がよくて、なおかつ俯瞰で物事を見れるタイプだから、その時々の状況に応じてグループのバランスを・・・ 「・・・あっ!」 「え、何、びっくりしたぁ」 「わかった、千奈美。私・・・いや、私たちが感じていた違和感」 突然、頭の中に電光石火のひらめき。 ラスト1曲!の雅の掛け声を耳にキャッチしながらも、私はそっちには気をやらず、千奈美をまっすぐ見つめて肩をガクガクと揺さぶった。 「まーさん、落ち着いてけろ。何いきなり」 「・・・雅が元気に、今日のステージを盛り上げることは何の問題もないんじゃん。うん、いい事!これはいい事!でしょ?」 語りながらチラッと見たステージ上の雅のその表情、その熱視線は、私のその仮説を裏付けているかのようで・・・。 「問題は、その雅のパフォーマンスがどこに向かっているのかっていうこと」 「どこにって」 「雅はさ、何気にいつも俯瞰で物を見るじゃん。個人プレーに走ってるように見えても、誰かが過剰に得したり損したりしないように、調整をかけてくれてる」 「ごめん、まあさん、話が見えないんだけど」 「ステージだってそう。桃と愛理の全然スタンスの違うパフォーマンスを、雅が1歩引いてバランス取る事で辻褄を合わせているの。いや、いたの。去年はね。・・・でも、今年は違う」 そこまで一気に喋ると、私は手元のお茶を一気に飲み干した。 「雅は多分、今日、誰か一人のために歌っている。声援に応えるのも、ファンサービスも、上手くいえないんだけど、その“誰か”に向けてやっているように見える。全然、見えてないの。周り」 ♪生まれてきてオメデトー なんて言われたいじゃない? 軽やかにそう歌い上げる雅の視線&指さしは、やっぱり確実に、どこか一点に定まっている。 「・・・男、できたんかな」 「いや、雅は男子にはあんなに愛想よくしないから。もっと厄介な存在のような気がする。つまり」 ね、そうですよね。・・・って、あれ? 一方的に同意を求めようと、視線を向けた最前列。そこに、いるはずのあの子がいなかった。 「・・・梨沙子がいない」 「え?あー、ほんとだ。お便所じゃね?」 「まさか。梨沙子に限って、それはない。雅のステージ中にそんなとこ行くくらいなら、いっそ・・・」 「何それ怖い」 「ごめん、心配だから、見てくる」 もー、なんなの茉麻!という叫びを背に、私は出口へ足を向けた。 雅のことも気がかりだけど、可愛いベビーちゃんの梨沙子も心配でたまらない。 「なんなんだ?今年に限っていろんなことありすぎ・・・」 次へ TOP
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前へ 「さ、そろそろ次の場所に移動しよっか!お嬢様、お腹は空いてないですか?おやつありますよ」 「ウフフ、まだ大丈夫です。お昼ごはんをたっぷり食べたから」 「・・・それより、動物園出たらその被り物取ってよね」 キリンとレッサーパンダのヘアバンドを気に入ってしまった2人は、それぞれイメージにあった動物のやつを、みんなへのお土産に決めたみたいだった。(私は鹿の角のを買わされそうになったので全力で抵抗した) 動物園の次、最後は千聖のリクエストで、アイドルグッズのお店に行く事になっていた。 現在時刻は15時30分。ここからそのショップまでの移動時間、さらにショップから門限どおりに寮に戻る時間を合わせても、2時間近い時間の余裕がある。 動物園で帳尻を合わせたから、なっきぃの栞の時間はきっかり守っている計算になる。でも、考えてみたら、アイドルショップに2時間ってどうなの?そんなにやることなくない? 「ねえ、千聖。C-uteグッズ見るの30分ぐらいにして、服でも買いに行かない?ほら、近くにファッション専門のビルがあるから。ももちゃんがよく制服に合わせてるベストとかリボンとか売ってるお店も入ってるよ。」 「あら、そうなの?でも、ももちゃんの制服のようになるなら、あまり購買意欲はわかないわね。ウフフ」 「あ、お嬢様。でもそこのお店なら、えりも好きだって言ってましたよ。結構いろんなテイストの服売ってるみたいだし、必ずしも桃子みたいにはならないかと」 「えりかさんが?それなら安心ね」 ――ももちゃん、ご愁傷様。 「でも、舞。30分ではC-tueのグッズを十分に見る事は難しいと思うわ。私、通信販売で買い溜めてはいるけれど、まだまだ持っていないグッズがたくさんあるのよ」 そう、最近の千聖が時代劇の他にハマッているのが、このC-uteというグループ。その中でも丘井ちゃんというメンバーが超お気に入りらしい。 「だったら、お店の人に“丘井ちゃんに関係のあるグッズ全部ください”って言えばいいじゃん。で、自分が持ってるやつはそこから除けば」 「もう、舞ったら。私は、何も丘井さんの全てのグッズが欲しいというわけじゃないの。ちゃんと選んで、厳選したものを大事にしたいわ」 「・・・千聖って、お金持ちのくせに欲がないよね」 「あら、そうかしら?」 考えてみれば、千聖の部屋はかなり広いけど、そんなに物は置いていない。寮もお屋敷も、ゴテゴテしたいかにもお金かかってますって感じの内装じゃなくて、仕立てのいい調度品で落ち着いた雰囲気を出している。 お屋敷の外に出る機会がそうそうないっていうのもあるだろうけど、これだけ金銭感覚がしっかりしているなら、将来的に舞のところにお嫁に来ても(以下妄想)。 「舞、それなら、1時間ぐらいでどうかしら?残りの時間を、服を見る時間に当てるのは?」 「んー・・・まあいいか。でも、なるべく早くしてよね!おそろいの服とかアクセサリー買いたいし」 「いいねいいね!お嬢様と舞と私がおそろいの服かぁ」 ――お姉ちゃん、空気読んでおくれやす。 アイドルショップは駅から歩いて5分ぐらいの場所にあった。店内は結構広いけど、休日だけあって、かなり混雑している様子。少しすくのを待とうかという話になって、店内が見える位置にあるベンチに座った。 「すごい人気ですねー」 男の人ばっかりかと思ったら、親子連れや同年代の女の子たちもいたりする。姉妹ユニットのBerrys工房のグッズも扱っているらしく、どっちかにしなさい!なんて怒られて泣いてるちびっこもいる。 お店の外では、くじ引きかなんかで当たった写真を、自分の好きなメンバーのと交換してもらうための“臨時交換取引所”みたいなのまで即席で作られていた。・・・なんか、アイドルショップって、雰囲気が独特。 「こんなにたくさんお客さんがいて、丘井さんのグッズ、ゆっくり見れるかしら?私、何だか緊張してきたわ」 「えっ緊張ですって!そんなときはまかせてお嬢様!舞美の七つ道具、アメちゃん!どうぞ召し上がれ!バナナもありますよ」 「え、あの・・・むぐぐ??」 「ちょっと、ここ飲食禁止だから!」 お姉ちゃんは登山用リュックから取り出した食べ物を次々に千聖の口に押し込む。やめて!周りの人の目線が痛い! 黙って佇んでいれば、そこらへんのアイドルなんて勝負にならないほど美人でかっこいいお姉ちゃんなのに、服装込みでどう考えても不審者。さわやか笑顔が逆に怖い。 あぁ、何てもったいない!違うの、普段はもう少しまともだから!制服の時のお姉ちゃんを目の肥えたヲタさんたちに見せ付けてやりたい・・・! しばらくすると、お店の喧騒が少し収まってきた。依然人は多いものの、混雑の切れ間になったらしい。 「行こう」 「ええ、そうね」 舞美ちゃんの暴挙で、緊張も若干ほぐれたらしい。千聖はすっくと立ち上がると、一直線にお店の入り口へ足を進めた。 「ちょ、ちょっとぉ!勝手に行ったら・・・」 「ん?手つなぎたいの?しょうがないなあ、舞は甘えん坊将軍だ!とかいってw」 「違うよ、もう!千聖一人にしたら危ないじゃん!あんな男の人ばっかりのとこに・・・」 女子校育ちの私も舞美ちゃんも、決してこういう雰囲気に慣れてるわけじゃないけど、千聖は私たち以上に免疫がないはず。 入り口近くのモニターで、ライブDVDを見ながらめっちゃ激しく踊ってる人、どういうつもりか写真に話しかけている人、○○の方が○○より可愛い!みたいなケンカをしてる大の大人・・・なかなかカオスな光景だ。 「千聖は?こんな光景見たらショックで倒れちゃってるんじゃない?大丈夫なの?」 「ん?お嬢様ならあそこで・・・」 舞美ちゃんが指差す先には、丘井ちゃんの写真の前で、熱心にメモを取る千聖。ほしい写真を厳選している真っ最中で、勉強の時とかには絶対に見せないような集中力を発揮しているのが傍目にも伝わってくる。どうやら心配は無用のようだった。 「なんかさ、丘井ちゃんって、どことなくお嬢様に似てるよね。雰囲気が」 「確かに。丘井ちゃんの元気で明るいところが、千聖が“こうなりたい”って思う理想の女の子に近いんだってさ」 あんなに夢中になっちゃって、本当に好きなんだなあ。ま、相手は芸能人だし、この場合は別に嫉妬の対象にはならないんだけどね。 一通り写真を選び終えた様子の千聖は、背が小さいから譲ってもらえたのか、はたまた実力で勝ち取ったのか、今は最前列でうっとり丘井ちゃんの写真に見入っている。 っていうか、何か「お会いできて嬉しいわ」「ええ、もちろんです」とかいって楽しそうにおしゃべりしているみたい。写真と。か、会話ってあんた・・・さっきの一方的に話しかけてる人よりレベル高くね? 「あはは、お嬢様は大丈夫そうだねー。」 「いやいや、全然大丈夫じゃないじゃん!むしろ頭がダメな感じになってるじゃん!」 「まあまあ、細かいことはいいじゃないか!それより、舞はグッズ買わなくていいの?私、リーダーの写真ちょっと見たいなあ」 「んー・・・」 そう、巷で人気のC-ute、私たちも例に漏れず、それぞれごひいきのメンバーがいる。 千聖は明るくてムードメーカーな丘井ちゃんが好き。 お姉ちゃんは天然でさわやかなリーダーの麻衣美ちゃんが好き。 私も千聖ほど熱心じゃないけど、最年少で小悪魔っぽいキャラの麻衣麻衣がお気に入り。 もちろんなっきぃやえりかちゃん、栞菜に愛理も好きなメンバーがいて、結構寮で盛り上がったりすることもある(鬼軍曹は知らんけど、いかにも好きそうなキャラのメンバーがいるから多分・・・) 「ウフフ、千聖ね、今度舞台を鑑賞させていただくの。ええ、とても楽しみ」 千聖の楽しげなトークはまだ続いていた。 うわっ・・・我が愛しのハニーとはいえ、あいつマジキメぇ・・・。あれを放置するのも(逆の意味で)気が引けるけど、とりあえず周りに危害を加えることはないだろうし、よもやあんな覚醒状態の千聖に絡もうという勇者もいますまい。 さっきまで良識的な楚々としたお嬢様だったのに、大好きな丘井ちゃんグッズに囲まれるという非日常的な出来事は、千聖のテンションメーターをぶっちぎってしまったみたいだった。 「・・・お姉ちゃん、ちょっと別行動ね」 「ん?うん、わかった!」 まあ、せっかくめったに来れないアイドルショップに来たわけだし、私も麻衣ちゃんグッズを物色してみることにした。 へー・・・写真の他にも、文房具なんてあるんだ。タオルとかTシャツは、コンサートで使うのかな?たしかにこれは、厳選してグッズを買うとなると、30分じゃ無理だろうな・・・。 店内をぐるりと見渡すと、さっき踊ってる人がいた、C-uteのDVDの前に、人だかりができていた。コンサートのDVDでよく見る、掛け声つきで盛り上がっている。 何が起こっているのかは見えないけど、近くにいる人の話を盗み聞きしたところ、可愛い女の子達がノリノリで踊っているらしい。・・千聖といい、C-uteのマジヲタさんって元気だなぁ。 ***裏デートツアー*** 「ドタバタしててもラミラミラミラミ」 「メチャクチャしたいのラブ・ミー・ドゥ!!!」 ――あああ・・・やめてやめてやめて!お願いだからやめて! C-uteのオフィシャルショップ。ツアーDVDが流れるプロジェクターの下で、栞菜とめぐぅが激しくラミラミしている。アホか!何であえて目立つ行動取ってるんだYO! アイドルのお店になんか来たら、美少女大好きな栞菜がおかしくなるっていうのは十分想定できていた。 でもめぐぅもいるし、2人がかりで取り押さえれば・・・なんて考えていたら、めぐぅもハッスルハッスルしてしまった。そうだ、こいつは目立ちたがりやなんだった!すっかり忘れていた。 めぐぅも栞菜も身内びいきなしでかわゆいから、またたく間に店内のオタさんたちが集まって、軽いライブみたいな状態になった。めぐぅの無駄にキレのいいダンス、栞菜の「ええい、美少女はいねえのか!」という女王様ばりの恫喝に、会場(?)もヒートアップしていく。 おまけに、今日の私たちは不必要に目立つ格好をしている。色合い的に、ヲタTならぬヲタトレーナーで来訪した痛いファンのようにも見えるから、余計に手厚く迎えられてしまったみたいだ。 「ほら、えりも一緒に!わっきゃなぁい」 「「「ゼエエエエット!!!」」」 「ウチのことは放っておいてください・・・」 這う這うの体でその輪から抜け出すと、私はヨレヨレになりながら、柱の影に身を寄せた。 そこそこ広いお店でよかった。舞美も舞ちゃんもお嬢様も姿が見えないから、この動乱には気づいていないみたいだ。それぞれひいきのメンバーのグッズを見ているんだろう。 「この時間に、服買いに行きたいよぅ・・・」 もうお気に入りの埋めさんグッズは手に入れた。尾行以外の理由で、これ以上ここにいる理由は別にない。 ここ見た後はもう寮に帰る予定だったはずだし、ほんの5分だけでも!だめかな・・・? 「あら・・・?えりかさん・・・?」 甘い誘惑と戦っていると、急に目の前に見知った顔が現れた。 「わぁっ!お嬢様!」 「えり?」 「・・・と、舞美」 ショップの紙袋を手に提げた2人が、目をパチクリさせて私を見ている。バ・・・バレてもーた!レジにいたとは! 「あの・・・ごめんなさい!決して邪魔するつもりでは」 「・・・ウフフ。もう、えりかさんたら心配性なんだから。そのお洋服、動物園もお楽しみになったみたいね」 「えっ、えりも動物園にいたの?一人で?奇遇だねー!」 「いや、舞美・・・」 舞美はともかく、お嬢様は尾行されていたことに気がついたみたいだった。だけど特に怒っている様子もなく、「素敵なトレーナーね」なんてのほほん笑顔で私の傷をえぐってくる。 「うぅっ・・・お嬢様ぁ、実はかくかくしかじかで」 「まあ、そうだったの。災難だったのね。でも、大丈夫よ。後でめ・・・村上さんに染み抜きを頼みましょう。千聖のコートをお貸ししたいけれど、サイズが合わないかしら」 半ベソ状態の私を、お嬢様は優しく慰めてくれた。お姉ちゃんモードになると、とたんにしっかり者になるのが不思議なところだ。 そんなお嬢様につられたのか、目をらんらんとさせた舞美が力強く肩を叩いてきた。 「えり、安心して!私こんなこともあろうかと、ちゃんと着替え用意してきてるから!舞美の服貸してあげるっ」 「え、あると思ってたんかい」 「さ、こっちこっち!ずっとここにいたら舞にバレちゃうから。トイレで着替えよう!」 「ウフフ、いってらっしゃい。あせらなくて大丈夫よ」 あの、気持ちは嬉しいけれど、舞美のモサフリワンピはちょっとうわやめろ何をする! 栞菜たちにどう説明しよう、なんて場違いなことを考えながら、私は登山リュックを背負った舞美に引きずられて強制連行されていった。 次へ TOP
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―仲直り大作戦会議の前日― 「舞美どうしたの?最近不調じゃーん」 放課後の部活中、800mの測定を終えて休憩していると、千奈美が横に腰を下ろして話しかけてきた。今日のバド部は外練らしい。ラケットを振り回しながら、顔を覗き込まれる。 「わかっちゃう?」 「そりゃあマブダチのことですからー。・・・なんかあった?舞美さ、へこんでるとすぐ走りに反映されちゃうよね。うちでよければ話聞くよ?」 千奈美は暴走しまくるキャラに見えて、意外と人の変化に敏感な子だ。いつもどおり振舞ってるつもりだったのに、私の心模様を読み取ってくれた。何だか無性に甘えたくなる。 「私さ、鈍いじゃん。」 「うん」 千奈美即答。 「ええっフォローなしかい!・・・まあ、それでなんかね、寮生の舞がね、急に千聖お嬢様を嫌いだなんて言い出して・・・でもすごい無理してるっぽいから何か事情が・・千奈美?」 私が2人の名前を出した途端、千奈美の顔色があからさまに変わった。鈍感な私が気付くぐらいだから、相当動揺させてしまったのだろう。 「千奈美?」 「・・それ、多分うちらのせいだ・・・・」 「えっ、うちらって、どういうこと?何か知ってるの?」 千奈美はわたしが知ってるかぎり、お嬢様とも舞ともこれといって接点はなかったはず。でも今口ごもる千奈美の様子からすると、とても無関係とは思えない。 「千・・」 「みぃたん、その人から離れて!!!」 その時、いきなり背後から大声で名前を呼ばれた。振り向くまでもない、その甲高い声は・・・ 「ちょ、待って待って!なっきぃ落ち着いて!」 「なっきぃ!」 さらにえりたち寮のみんなも後からやってきた。 「私、新聞部を絶対に許さない。よくもあんなひどいこと・・・!今日から新聞部はお嬢・・・寮の敵だから。離れて。」 千奈美がなっきぃのあまりの迫力にあとずさる。もしオーラというものが見えているなら、なっきぃはスーパーサイヤ人みたいな状態だろう。 なっきぃは生徒のお手本の模範生で、いつもみんなの生活態度には人一倍気を配っている。曲がったことの大嫌いな子だから、時にはまったく知らない生徒を叱りつけるような強い一面も持っている。 でも今のなっきぃは、叱るとかそんなレベルじゃない。完全に激怒している。こんななっきぃは初めて見た。誰も声をかけることができず、私たちの周りだけ時間が止まってしまったかのように静まり返ってしまった。 「・・・新聞部は、敵だから。」 もう一度なっきぃがつぶやいた。そのほっぺたに涙が落ちると同時に、千奈美も口を覆って走っていってしまった。 「千奈美!」 「みぃたん!」 「ごめん、何があったかわからないけど、千奈美は私の友達なの!敵なんかじゃないよ。話あとでちゃんと聞くから、今はごめん。生徒会室で待ってて。」 私はカミカミになりながら一気にまくしたてて、千奈美を追いかけた。 「・・・いた。」 「まぃ”み”ぃ・・・・」 グラウンドの裏手の水道の前で、千奈美は両足を抱えてうずくまっていた。私を見上げた表情にいつもの明るさはなくて、胸がズキンと痛くなる。 「何か、ごめんね。って私が謝っても仕方ないんだけど。」 「ううん。中島さんの言うとおりだよ。新聞部が悪い。萩原さんと千聖お嬢様を、うちらがぐちゃぐちゃにしちゃったんだ。・・・ねぇ舞美、こんな部はもう廃部になったほうがいいのかな?最低だよね。みんなを楽しませるはずの学校新聞なのに。」 千奈美の話によると、どうも新聞部の暴走記事で、お嬢様を中傷するネタがあがっていたらしい。それを嗅ぎつけた舞と部長の間で一悶着あったということみたいだ。 「うち、全然知らなかったんだ。メインの記事は担当してなかったし、バド部もあるから情報遅くて。だから記事の内容も結局詳しくは知らないまま。ただ、相当おかしな内容だったのは確かだよ。いまだに誰もその話したがらないもん。」 千奈美は手持ち無沙汰に、前の水溜りに小石を投げながら語り出す。 「おかしいよね、最近の学校新聞。ほら、先月も三年の美人な先輩尾行して、彼氏とデートしてる一部始終掲載したりしてたでしょ。その前は嫌いな先生ランキングとかやったり。 うち本当そういうの嫌で、新聞部さぼりがちになっちゃってるの今。ごめんね、舞美にまで気を使わせて。」 「そんな・・・・千奈美が謝ることじゃないよ。その記事を書いたのは、千奈美じゃないんでしょ?私は千奈美を敵だなんて思わないから。 新聞の内容は、なんていうかそこまで気にして読んでなかったから何も感じてなかった。だめだ、また鈍感まいみぃだね。 後で今までのちゃんと目を通してみる。部員がおかしいと思うような状況なら、生徒会として少し口出しさせてもらわなきゃいけないのかもしれないし。 でも千奈美、できたらこれからも記事書いて?私、いつもあれ楽しみにしてるんだよ、千奈美の担当コーナー・・だじゃれをいうのはだれじゃ!」 千奈美の投げてる石が変な方向に落下した。 「ふはっ!・・・もー、舞美ってさぁ・・・・・」 「えっ、な、何?何か変なこと言った?」 「ううん。・・・ありがとうね。そろそろ行こうか!ランニングさぼってるのバレたら怒られちゃう。」 いつもの千奈美スマイルで、私の肩を手すりがわりにシューズを履き直す。 「それじゃ、私は生徒会室行くから。」 校舎まで見送ってくれた千奈美は、ふと表情を緩める。 「・・・くれぐれも、副会長様によろしくね。このままじゃうち、なっきぃだけに、亡っきぃ者にされちゃう!」 「・・・あははははは!超ウケる!」 「でしょ!今の自信作!どうよ!」 「私、千奈美のダジャレはもっと評価されるべきだと思うんだけど!」 「そんなこと言ってくれるの舞美だけだよー!クラスとか、もう失笑の嵐ですよ!」 そんな場合じゃないのに、ついついバカみたいに大笑いしてしまった。うん、やっぱり千奈美は元気をくれる! 「あとでメールか電話するね!」 バイバイした後も楽しい気持ちの余韻が胸に残っていて、私は鼻歌まじりに生徒会室前まで来た・・・の、だ、が ドア越しにも感じる重苦しいオーラに、思わず中へ入るのをためらってしまった。 ―いやいや、私は生徒会長!あらゆる問題に正面から立ち向かっていかなくては! 深呼吸を一つして、私はドアノブをゆっくり引いた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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Berryz工業とキュー学の縄張りの丁度真ん中らへん。とある月極駐車場ででBerryz工業嗣永桃子は、キュー学の中島、岡井、萩原と鉢合わせした。 嗣永「これはこれはどうもどうも、キュー学の三賢者さん達じゃないですか。三人揃ってまた何か賢いことでもやってんの?」 岡井「うるせーなぁ。何か文句あるの?」 中島「テメェこそこんなとこで何やってんだよ。」 嗣永「別にぃ。イチイチアンタ達に断る必要ないでしょ。」 萩原「おい嗣永。テメェあんまりチョーシ乗ってんなよ。ももちだかすだちだか知らねーけどなぁ、キュー学舐めてっと潰すからな。」 嗣永「ほぉ。面白いじゃない。矢島鈴木の金魚の糞の、誰が私を潰すって?オメーがやんのか萩原?それとも中島か?あ!?」 岡井「あたしがやってやんよ!!」 言うが早いか岡井は嗣永に殴りかかった。 ボコッ 嗣永「痛ェ。おい岡井、休戦協定破ったのはオメーだからな。ボコられて泣きべそかくなよ。このボンクラ!」 岡井「上等だよ。テメェこそ吐いた唾飲むんじゃねーぞ!オラァ!」 嗣永「ダラァ!」 岡井と嗣永の壮絶な殴りあい。その決着は意外な形で訪れた。 嗣永「オラオラァ、さっさと詫び入れろや。」 駐車場のブロック塀と自分の尻の間に岡井の顔を挟んだまま嗣永が岡井にギブアップを要求する。 岡井「チクショー、チクショー…。」 その様子を見ていた中島が歩みより嗣永の面前に立った。 中島「そこまでよ。」 嗣永「あっ?テメェマジか?」 ガンッ バタッ 中島の手に握られた石の塊。嗣永は一撃で気を失った。 岡井「ナカジありがとう。助かったよ。」 萩原「でもヤバイよ。タイマンに割って入って、挙げ句に武器で一撃とかさぁ。ウチらの中じゃ御法度じゃん。」 中島「金魚の糞とまで言われちゃ黙ってられないわよ。二人ともいい?ヤジや愛理には絶対内緒だからね。」 岡井・萩原「うん。わかった。」 翌日午後。Berryz工業。機械科。実習室。 夏焼「桃がやられた?誰に?」 須藤「キュー学の岡井だってさ。」 熊井「あたしが午前中に病院行って話聞いて来たんだけど。桃はまだ興奮のせいかちょっと話の要領を得ないのよ。」 徳永「熊井ちゃん相手じゃ素面でも厳しいよw。」 熊井「…ごめん。」 夏焼「ちょっと笑い事じゃないわよ。佐紀は何か聞いてないの?」 清水「何も聞いてないわ。」 夏焼「仕方ないわね。じゃぁ今日にでも桃の所に行って話を聞きましょう。」 清水「あっ、私今日ちょっと用事が…。」 そう言って清水は何事か夏焼に目配せする。 夏焼「そう…、分かったわ。」 徳永「あっ、ウチも用事が…」 夏焼「アンタは駄目。茉麻と一緒にお見舞い品でも買って来て。熊井ちゃんは、目印。18時に寺田病院前ね。」 須藤・徳永・熊井「うん。わかった。」 それからちょっと後。キュー学。普通科。教室。 矢島「それで?」 中島「それでー、結局ちさが嗣永をKOしたの。」 矢島「凄いじゃない。ちさ。」 岡井「でへへ…。」 鈴木「でもどうするの?結局ベリ工と戦争するの?」萩原「そんな必要ないんじゃない?ちさが嗣永にタイマンで勝ったってだけなんだから。」 中島「そうよ。リベンジマッチならいざ知らず。全面戦争なんて。ねぇ?」 岡井「うん。」 鈴木「じゃぁ休戦協定は?」 矢島「筋を通して喧嘩したんなら何もビクつくことはないわ。ただ、向こうと話つけるまでは、夜討ち朝駆けには注意してね。向こうはどういうつもりか分からないから。それから1人きりでの行動は…」 中島「ハイハイ。じゃぁ取り敢えず祝勝会の場所とりでも…」 その時、矢島のガラケーが鳴った。 萩原「誰から?」 矢島「分かんない…。もしもし…」 清水「Berryz工業清水佐紀よ。矢島さん?」 矢島「…そうです。」 清水「この度はウチの嗣永がご迷惑おかけしました。つきましては、ケジメ取らせて頂きたいんですけど。」 矢島「…分かりました。」清水「それでは、本日18時、寺田公園までいらして下さい。詳細はその時に。」 矢島「了解しました。」 清水「それでは後程…。」 岡井「誰から?何だって?」 矢島「ベリ工の清水から。何か嗣永のケジメとるとか何とか…。」 鈴木「ケジメ?嗣永の?リベンジって事?」 矢島「多分そう…。」 一同「…。」 矢島「嗣永の仇を清水が討つ…か。じゃぁ私が迎えうっても問題はないわね。」中島・岡井・萩原「うん。」 鈴木「(…何かおかしい。)」 18時。寺田病院。一般病棟。大部屋。 徳永「嗣永ちゃん元気~?」 嗣永「うん、元気~って、元気な訳ないでしょ。馬鹿。」 夏焼「乗りツッコミする元気があるなら大丈夫そう。」 熊井「随分落ち着いてるのね。午前中はケジメ取るケジメ取るって鉄パイプ振り回しながら大騒ぎしてたのに。」 嗣永「うん。さっき電話があって佐紀がケジメ取りに行ってくれたから。」 徳永・須藤・熊井「えっ!?」 夏焼「あら、気づかなかったの?佐紀がこの状況でのんべんだらりと遊んでる訳ないでしょ。アンタ達もまだまだね。」 嗣永「まだまだね。」 夏焼「Berryz工業キャプテンの清水佐紀がケジメ取るって言ってんだから任せておけばいいわ。」 嗣永「いいわ。」 徳永・須藤・熊井「うへぇ。」 17時30分。キュート学園。駐輪場。 鈴木「舞美。」 矢島「なぁに?」 鈴木「みんなの前では言わなかったけど、何かおかしくない?」 矢島「何が?」 鈴木「何がって。ちさが嗣永に正々堂々タイマンして勝ったとかさぁ。」 矢島「ちさはやる時はやる子よ。別に不思議はないわ。」 鈴木「そうだけど。」 矢島「事実がどうであれ本人達が言ってる事を私は信じるわ。信じる事が出来なくなったらリーダー失格だもの。」 鈴木「…。」 矢島「あっ、ほら皆来たわ。よし。みんな~出発するよ~。せ~のッ。」 一同「キュートだぁ!当たると痛ぇぞ!!」 18時。寺田公園。雨。 岡井「あっ、居た。清水だよ。」 矢島「みんなはここで待ってて。」 中島「ヤジ…。気をつけて…。」 矢島「うん。」 清水「単刀直入に言います。矢島さん。嗣永をボコった三人にヤキ入れてもらえます?。」 矢島「ヤキ?話が見えないわ。ウチの岡井が嗣永に勝った。その返しに来た訳じゃないの?」 清水「ふーん。そういう事か。なら仕方ないね。ウチの嗣永の借りアナタに返してもらうわ。」 矢島「望む所よ。」 清水「じゃぁ行くわ…。オラァ!」 矢島「フンッ」 18時30分。寺田公園。大雨。 矢島「フウッ。そろそろ観念したら?あなたじゃ私には敵わないわ。」 清水「ハァハァ。うるさい!ウラァッ!」 矢島「見切った!ハイッ!」 ドンッ 矢島「どう?まだ?」 清水「クッ。まだだよ。ダラァッ!」 19時00分。寺田公園。更に大雨。 矢島「どうして…。何だってそこまで頑張るの?」 清水「ヒュー、ヒュー。」 矢島「Berryz工業のため?嗣永のため?自分のため?」 清水「ヒュー、ヒュー。…全部だよ。バカヤロー。」矢島「!」 同時刻。少し離れた場所 鈴木「ヤバイよぅ。舞美が人殺しになっちゃうよぅ。アンタ達何とかしなさいよッ!」 岡井「もう止めてよぅ。」中島「…。」 一瞬速く、中島が走り出し、続いて岡井が鈴木が萩原が走り出す。 矢島「清水さん。アナタ凄い人ね。」 清水「…。」 矢島「でも、キュー学は敗けられない!!」 矢島は尻もち体制の清水の顔面目掛け、渾身のローキックを放つ。 ドンッ 瞬間矢島の身体が宙に浮いた。見物していた中島がタックルで矢島のローを止めたのだ。 しかし矢島は倒れない。いつもの様に腰を切り中島のタックルをこらえる。 矢島「ナカジ…。どうして…。」 中島「ヤジ…、もう止めて…。もう止めて…。」 矢島を押し込みながら中島が懇願する。しかし、矢島は倒れない。 岡井「ごめんなさい。私が全部悪いのぉ。」 萩原「ちさのせいだけじゃない。私だって…。」 中島「みんな、もういいよ。ヤジ…聞いて…。」 タックルの体勢を解き矢島に正対し中島は事の顛末を話出す。 バシッバシッバシッバシッ 中島・岡井・萩原・鈴木を矢島が張り倒す。 矢島「愛理!」 鈴木が矢島を張る。キュート学園の掟、連帯責任。 矢島「清水さん。この勝負私の、いえキュー学の敗けです。近いウチに詫び入れに行きます。すいませんでした。」 清水「分はっとわ」 折れた歯と腫れた唇で開かなくなった口で清水が呟く。 清水が去った後もキュート学園メンバーは泣き続けた。 少女達の涙を洗い流すように雨はいつまでも降り続けた。 あれから3日後。午後2時。喫茶てらだ。禁煙席。 矢島「えっ。引き分け?何故ですか?」 夏焼「ウチの桃子が岡井ちゃんに敗けてウチらの一敗。あなたがウチのキャプテンに敗けてウチの一勝。一勝一敗で引き分け。おかしくないでしょ。」 矢島「…納得、出来ません。」 夏焼「ふぅ(頑固だねぇ…)。それよりあなた達、やっぱり強いのね。」 矢島「えっ。私…達ですか?」 夏焼「そう。あなた達。佐紀が言ってたわ。全面戦争になったら多分敗けてたって。それぐらいあなた達は絆が強いって。そういう打算があるんだけど。」 矢島「清水さんが…。」 注文していたレスカを飲み干し、夏焼が席を立つ。 夏焼「まぁ本当の理由を言うとそれだけじゃないの。モー商相手にするのには仲間は多い方がいいとか。スマとかj農とか厄介な奴らも増えてきたし。」 矢島「仲間…。」 夏焼「じゃぁ、そういうことだから。」 伝票を持ってレジへ向かう夏焼。 夏焼「それから…」 立ち止まって夏焼が振り返る。 夏焼「佐紀が今度喧嘩する時は、雨の日は勘弁してって。服が汚れちゃうからって。」 ウィンクしながら手を振り夏焼は店を出た。 喫茶てらだ。夏焼の去った後。 矢島「…私は、私は、雨女じゃない!」 パリン 矢島のアイスコーヒーグラスが割れた。 火種はまだ燻っていた。 ベリ工業VSキュー学 完
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前へ 私、有原栞菜は今ある悩みを抱えていた。 お小遣いが足りないのだ。 この夏休み、いろいろと遊びに出かけたうえに、物欲のままに次々と出るアイドルの写真集を買いすぎた。 その結果、こうやって悩むことになっているわけで。 困った。まだ今月は長いというのに。 まぁ、あれだ。 支出が多くて小遣いが足りないのなら、その分の収入を得ればいいわけで。 その論理的な思考に、私って本当に頭がいいな、と思う。 しかし、そうは言うけど収入を得るということはそれなりに大変なこと。 お金を稼ぐには、この私の貴重なる時間を奪われるということでもあるし。やはりそこが問題だろう。 そう、それにより美少女と関わる私の趣味の時間が奪われたりするのは耐え難いこと。それだけは絶対に避けたい。 それに、私はかよわい女の子なのだ。 つらい労働をしてお金を稼ぐなんてことには、ひょっとしたら耐えられないかもしれない。 私はめぐのようにフルメタルマッチョryな人間というわけではないのだから。 頭のいい私としては、もう少し効率的に事を運んで目的を達成させたいところだ。 無駄な労力は使いたくないかんな。 さて、どうしたものか・・・・ そんなことを考えながら、通学路を歩いていると・・・・・ いるよ、今日も。 おまえいつもいるな。 新学期早々こいつの顔を見るとはね。 誰がいたのかって? 女子校の通学路をいつもうろついてる変態野郎といえばこいつしかいない。 ついこのあいだまでも夏期講習で毎日見ていたこの男子生徒。 夏休みがあけるやいなや、待ってましたとばかり学園にやってきているのか。 よくもまあ飽きずに。 そんなに会いたいのか萩原に。 あいつに会ったって微笑んでくれたりする訳でもないだろうに。 物好きというか何と言うか・・・・ 私には全く理解できないかんな。 でも、ちょうどいいところに来てくれた。 まさに、飛んで火にいる夏の虫だかんな。 私の頭の中で、目の前のこいつと、先程の懸案事項がリンクした。 思いついたその素晴らしい考え。 我ながら見事な発想だと思う。 自分の優秀な頭脳に感謝したくなる。 これから行うことに思いを馳せると、私の顔には自然と笑みが浮かんでくるのだった。グヒョヒョヒョ。 でもまぁ、その本件に行く前に、ちょっと遊んでやるとするか。 ------------------------- さゆみさんという人のところに行くという小春ちゃん優樹ちゃんと別れて、僕は帰宅の徒に就く。 これから帰れば、僕がちょうどバスを降りるころに、下校している学園生もそこを通りがかるはずだ。 久し振りにお目にかかる学園の人たち。誰に会えるかな、楽しみだなあ。 ひょっとしたら、いきなり舞ちゃんに会えたりして。お嬢様も一緒に会えるかな。 そういうところ、意外と運があるんだよな、僕は。 そんな期待感で胸を膨らませている僕の目に入ってきた最初の学園生は、この人だった。 ・・・・・・・・・・・・・・有原。 よりによって、栞菜ちゃんかよ。カンベンしてくれ。 だって、この夏休み中も夏期講習で彼女とは連日顔を突き合わせて、そのたびに僕はいろいろな被害を被ったりしていたわけで。 だから今、やってきた彼女の姿を見ても、何のトキメキも感じない。むしろ飽き飽きとした気持ちが湧き上がってくるぐらい。 舞ちゃんに会えるのを期待していたら、やってきたのは有原とか。 なんだよこれ、最悪の展開だろ。 ・・・・・なんて、こんなことを思っていられるのも、今はまだ彼女との距離があるからだ。 この距離なら僕の思っていることを読まれたりすることもないだろう。 だんだん接近してくる彼女。ここからは危険区域に突入だ。 だから、その時点から僕は務めて心を無にして平静を保つよう意識する。 やってきた栞菜ちゃん。彼女の方もここにいる僕に気付いたようだ。 彼女のその顔。僕を見てあからさまに口許をゆがめた。 いつもの、僕を見下している感がありありと浮かんでいるその歪んだ笑顔。実にいやな表情だ。 絡まれたりするのは願い下げなので、目線を合わさず静かに通り過ぎようとしたら、そんな彼女から声を掛けられる。 「おいオメー、ちょっとこっちに来い」 いきなりそう言われて、栞菜ちゃんに人気の無いところへと連れ込まれた僕。 な、なんだよ、まるで人目を避けるようにこんな路地裏に引っ張り込んだりして。 狭い路地裏で学園の女の子と2人っきり。 なんなんだ、この状況は。 その狭い路地裏のことゆえ僕と彼女の間には、近すぎる!と思うぐらいの距離しかなくて。 ・・・・うわぁ、なんかドキドキしてしまう。 相手はあの有原だけど、そんな栞菜ちゃんだって見た目だけは美少女だからさ。 こんな距離で相対してしまうと、心の平静を保つのは難しい。 うん、例え相手が有原であっても心臓が高鳴ってくる。これは男の性ってやつ。どうしようもないこと。 そんな場所で栞菜ちゃんは僕をじっと見てきた。 な、なんだよ、そのねっとりとした視線は。 ひょっとして・・・・・・ まさか、僕へ告白でもしてくるつもりじゃないだろうな・・・・ ・・・・なーんて。 そんなこと、思うわけないだろ。 目の前にいるこの人は、有原さんなのだ。 僕がそう思った瞬間に脳内の考えを読みとって、それをネタにして絡んでやろうという考えなんだろう。 その手には乗るかっていうんだ。 「おい、いい加減にしとけよ」 「は?」 「だから、この私が優しくしているうちに調子に乗ったこと考えたりするのはやめろ、と言ってるんだよ」 「だ、だから、いま僕は自分の妄想に対して、ちゃんと自己否定したじゃないですか・・」 「まったく、オメーは・・・ もうちょっと強めの調教で追い込んでやったほうがいいのかな」 そう言って彼女は「分かってないな・・・(ヤレヤレ)」というようなゼスチャーをする。欧米か。 しっかしこの人、また訳分からないことを言い出してるよ。 これだから、いつだって恐怖心が湧き上がってくるんだ、この人と一緒にいると。 「それに、今のその前のもそうだよ」 「な、なんのことでしょうか?」 「私との距離が離れていれば心を読まれないとか思ってたみたいだけど、それ距離は関係ないから」 「な、な、なんで・・・いや、そんな・・・」 「萩原じゃなくて私に会えるなんて、そんな素晴らしい幸運に素直に感謝できないとか、人としてどうなんだよオメー」 もういやだ。 早くこの場から立ち去りたい。 そんな強いストレスを感じている僕に、栞菜ちゃんが不意に真面目な声で聞いてきた。 「オメー前から一度聞きたかったんだけど、萩原のどこがいいんだかんな」 「な、なんだよ、突然・・・・」 「不思議なんだよ。あんな協調性のかけらもないような中2病のやつの、どこを見て好意を抱いたわけ? ま、確かに顔はいいけど」 「舞ちゃんのことをそんな言い方するな!!」 脊髄反射で腹を立てる僕の反応に、満足気な顔をする有原。 とても愉快そうな彼女が更に話しを続けた。 「分かってないなー。だってさ、知ってるの? あいつ、かなり腹黒いぞ?」 「栞菜ちゃん、笑っちゃってるから・・・・ そんなこと言って僕をからかってさ!!」 僕のことをわざと挑発するようなこと言って、その反応に揚げ足を取って楽しもうっていうんだろ。その手には乗らないから。 だから、僕は彼女の言うことは聞き流して、あくまでもマジレスで返答する。そう、舞ちゃんのことなんだ。そこは僕の本心を。 「あのやさしそうな笑顔を見ていちころだったんだよ。まさに天使の笑顔でしょ。 見ているだけで暖かさに包まれる優しい笑顔、耳にするだけで心が休まる柔らかい声色。まさに癒し系美少女・・・」 「優しい笑顔、柔らかい声色に癒し系って・・・・・・ それ、誰のこと言ってるんだ?」 僕の言ったことに一瞬絶句した栞菜ちゃん(なぜ絶句する?)が、言葉を続ける。 「あいつが優しい? あの殺戮ピryが? 前から思ってたけど、オメー感性が相当おかしいかんな。熊井ちゃんに対する信頼感なんかもそうだけどさ」 「熊井ちゃんに対する信頼感? 僕が熊井ちゃんに? 栞菜ちゃん、なに言ってんの?」 「またまたぁw ま、それは今はいいや。その件についてはおいおい、なww」 いちいち意味ありげな冷笑を浮かべて僕を見下す栞菜ちゃん。 話しの主導権を握っているのは、あくまでもこの人。 「まぁいい。それよりも今は・・・・ 次へ TOP