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133 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/06/23(水) 17 18 17.17 0 「凄く……場違いに見える」 休日のある日。制服に身を包んだ私はある学校の正門前に立った。 近隣の学校からは一目置かれている学校。何と言ってもその歴史が長い。新鋭の学校に通 う私としては目の前の正門が侵しがたい聖域への重厚な扉に見えてきてさえいる。 「あっ! 中島さんや~」 「光井さん」 面識のある人物の登場に私は胸を撫で下ろした。何処か力の抜けた関西弁。 「30分前やで~。早過ぎるんとちゃいます?」 「慣れて無い場所に行くのに迷うと困るからつい」 「すまんけど先輩方がまだ揃って無いねん。そうや! 校内案内でもしよか?」 「あ、お願いします」 「ほな行きましょ」 並んで歩き出す。彼女はこの学校の生徒で同学年の光井愛佳さん。 舞ちゃんの私達寮生とお嬢様以外での友達。舞ちゃんの事を好奇な目で見ることも媚びる 事も無く接していた人らしい。今ではお嬢様に嫉妬させる程の舞ちゃんとの仲だ。 「学校の方、忙しく無いですか? 副会長って聞いたんやけど」 「それなら天然会長ともう一人のしっかり副会長。後は舞ちゃんがいるから」 「あぁ~納得~。確かに舞がいたら平気そうやな~」 「あの……聞こう聞こうと思ってたんですが私でいいんですか?」 134 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/06/23(水) 17 19 01.83 0 ◇ ◇ ◇ それは先月のある日の事。姉妹校として提携を結んでいるこの学校の生徒会から手紙を受 け取った。 『文化祭で演じる劇に是非参加して頂けないでしょうか』 二期制であるこの学校は一学期に文化祭を二学期に体育祭を行う。その文化祭に私が招致 されたのだ。渋る私を皆が説得して(舞にはヘタレとまで言われた……)承諾し今日が初 顔合わせとなった。 ◇ ◇ ◇ 「うちの会長が其方の学校がボランティア活動で演じてた劇を見てビビビッときたらしん ですよ~。中島さんに~」 「それは…あの……光栄です」 「あの人、集会の時とか台詞噛み噛みだし頼り無さげなのになぁ~」 「ははは……」 光井さんが和ませようと話してくれているのは分かるんだけど苦笑いしか出ない。 だってこの学校の会長さんって名門と言わしめている合唱部に一年から主力扱いでしかも ソロまでやってしまう様な人。愛理が「尊敬してるの」って何時になく真剣な目で話す程 の人なのに。 ちなみにボランティア活動というのは地域交流の一環で行っているもの。主に生徒会が中 心で生徒参加は希望者のみ。成績に影響するいう特別待遇は無くて本当にやりたい人だけ って事で募ってるんだけど結構集まるし評判もそこそこ良い。 135 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/06/23(水) 17 20 03.83 0 「でも……大丈夫かなぁ」 「うちは平気だと思ってはりますよ~。舞からのメールでも太鼓判でしたし~」 「メール?」 「あぁ! 言ってもうた~。内緒にしておいて言われたんに~~」 「光井さん?」 「あんなぁ、中島さんの事を舞が褒めてたんです。『ヘタレだけどそれ以上に負けず嫌い の努力家だ』って。『なっちゃんがいるから舞は遠慮無く強気に出られるんだ』って」 「舞ちゃんが……そんな事を?」 劇への参加を決めて皆がたのばって来なねと言ってくれる中で一人 (o・v・)<これで千聖と過ごす甘い時間を邪魔するライバルが減ったでしゅ。居心地 が良かったら編入してもいいんじゃないでしゅか? なんて悪態を付いた舞ちゃん。仕返しとばかりにめぐに頼んで来ちゃったんだけど。 ……うん。自業自得だよね。私とめぐの相性の良さを把握しきれていない舞ちゃんがいけ ない。 「あ、そろそろ生徒会室の方に行きましょか? もう揃ってるでしょ」 「あ、お願いします」 「そやっ! あんなぁ~頼み事あるんやけど聞いてくれます?」 「え、あ、はい。可能な範囲であれば」 「敬語無しで話しません? 同い年やし。それになっきぃって呼びたいし」 「……分かった。じゃあ私はみっつぃって呼ぶから」 「おおきに~。ほな行こか」 階段を上がり最上階の角部屋へ。そこは… 136 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/06/23(水) 17 21 14.07 0 ◇ ◇ ◇ 「今日はわざわざありがとうなぁ~」 「……はぁ」 返してッ! 生徒会室の前に立った時の緊張感を返してッ! そう思わんばかりのこの場のゆるい空気の流れ。みっつぃは「な?」って顔をしてるし。 「あ……あ…な、何すればええんやろ?」 「基本の自己紹介からじゃない? 愛ちゃん」 「! ほ、ほやな。ほんなら私から」 そう言って最初に自己紹介を始めたのは生徒会長で愛理が尊敬する高橋先輩。 ……イメージが違い過ぎるんですけど。TVでちらっと見た事のある歌う姿。トップに立つ 様な人って普段は頼り無さげになるものなのだろうか。みぃたんもこんな感じだし。 自己紹介は順々に進みみっつぃも含めた八人の自己紹介が終わると私の番となった。 「ご招待頂き有難うございます。中島早貴です。宜しくお願いします」 「オォ~。コノ子、高橋先輩ヨリ頼リガイ有リソウダヨ~」 「ちょっ!? ジュンジュンッ!」 「ソデスネ~。私モソ思イマス~HAHAHA」 「リ、リンリンまでッ!」 「あっし…自信無くなってきたわ~」 気落ちした高橋先輩とそれを宥める新垣先輩。思った事をはっきり言うタイプの留学生の 李純先輩に注意する亀井先輩に道重先輩に田中先輩。愛理と同じ自爆タイプに見える留学 生の銭琳さんに辛口コメントのみっつぃ。 ……強い。うちの生徒会以上に個性が強い。前途多難の予感がする。 137 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/06/23(水) 17 22 12.50 0 「あ、あの……」 「あぁ! 忘れてた…って忘れてない忘れてないから! ……中島さん。早速だけど台本 の読み合わせしよか。劇の後半部分に中島さんの役が出てくるから今日はそこをな。出番 少ないけど物語を進める上で重要な役だから」 「はい。あ、あの」 「ん? 何や?」 「みっつぃ…光井さんにも聞いたんですけど私を選んだのが高橋先輩だって」 「あぁ、それな。うん、中島さんの演技を見た時に来たんよ。ビビビッとな」 「はぁ……」 自信満々な顔で言われても私には全然分からないんですが。 「愛ちゃん。それじゃ中島さんに分からないって。あのね、表情が良かったんだって」 「表情……ですか?」 「場面事に感情の切り替えが出来るし間の取り方も上手いって」 「いや…そんなに褒めてもらえる程の事は」 台本を読んで思ったままに演じる…演じるは大袈裟かな? 思ったままに動いているだけ のつもりなんだけど。 「簡単そうな事だけど難しい事なんだよ、それって。自信持っていいから」 「あ、ありがとう…ございます」 「ほな、これ台本な。じゃあ皆! 始めるで~」 「「「「「「「は~い」」」」」」」 手渡された台本。そして『始める』と言われた瞬間に変わった空気。 その空気に触れて私は軽く両頬を叩いて気持ちを引き締めた。……うん。たのばろ!! 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ フカフカのシート。静かで空調の効いた車内。高級車はやっぱり造りが違うな。 深く腰掛けてくつろいでいると、すっかりラグジュアリーな気分に包まれてしまう。 お嬢様のような上流階級の方が普段感じているのは、こういう感覚なのかな、なんてのんきに考えていた。 しかもいま同じ車内には、とてつもなく美人の3人が一緒なのだ。 この状況で、幸せ一杯胸一杯にならない方がどうかしている。 起きてしまったことはもう仕方が無い。 悪い事ばかり思っていては気分が下がるだけだ。 だから、今お嬢様方が一緒に来てくださるのは嬉しかった。 この状況で気持ちが高まらないわけがないから。これは有難かった。落ち込んでちゃいられないだろ。 もともと楽天家の僕は、すでに気持ちを切り替えることが出来つつあった。 でも、僕以外の方は表情も固く、みんな黙りこんでいる。 そんなクルマの中は、何とも重い空気だった。静まり返ってしまっている。 そんな空気のなか、僕は今もう一つ嬉しい思いがこみ上げてきていたんだ。 だって、さっきのことだけど、あれ、熊井ちゃんは僕を守ってくれようとしたんじゃないか。 迫ってきた危機から僕を守ってくれようとしたっていうのか、熊井ちゃんが・・・・ ちょっと感激しながら、そんなことを考えていた。 隣に座る熊井ちゃんが、ふいに僕の顔をじっと見つめてきた。 思わず緊張が走る。な、なんでしょう? 何故か悲壮感が漂っている彼女のその表情。 そして、いつになく真面目な声でこう言ってきた。 「何も心配しないで」 「え?」 「こうなった以上、うちが責任とってあげるから・・・・」 ・・・・・・ それ、どういう意味なんだろう・・・ その言い方ってさ、それってまるで・・・ なーんてw そんなこと言ってくるから妄想をさせられてしまうじゃないか。 もちろん彼女は僕が妄想したような意味でその言葉を言ったのではないんだろう。当たり前のことだけど。 それでもその言い方は・・・ さっきからジェットコースターに乗っているかのように僕の心は揺さぶられっぱなしだ。 まさか今日がこんなに刺激に満ちている一日になるとは。 「傷物にしちゃった責任があるし、うちはリーダーなんだから・・・ちゃんと最後まで面倒は見てあげる」 面倒を見るって、僕のことをペットか何かとでも思ってるんじゃないだろうか。 そこも含めて、その最初の所から全面的に突っ込み所満載の熊井ちゃんの今の言葉。 ジョークを言ってるんだよねそれ、と思うほどだけど、この人はもちろんいつだって大真面目です。 「いや、だから違うから。責任取るなんて考えなくていいから」 僕の言ったことに再び加勢してきたのは、その後ろ姿も美しいこの人だった。 「そうだよ。熊井ちゃんは悪くないよ。私のことを止めようとしたんだから。悪いのは私なんだから、責任は私が取るから・・・」 なんということでしょう! お姉ちゃんまで僕にプr(ryしてきた!!!! 凛々しいお顔のお姉ちゃんにそんなこと言われて、僕は爆発しそうになった。 一瞬にして、僕の脳内では、その言葉を端緒にここから始まる僕ら2人の幸せなストーリーが紡がれていく。 だが、さすがに空気も読まずそんな能天気な妄想をしている場合ではない。 「ですから、皆さんそんなに重く考えないで・・」 「舞美のせいじゃないよ。こいつのことはうちに責任があるから。だから責任はうちが取る!」 「あの、熊井ちゃん?・・・・聞いてる? あと、お嬢様もそんな顔をなさらないで下さい」 「でも、これはうちの敷地での出来事ですから、申し訳なくて」 お嬢様がそのかわいいお顔を俯かせてしまう。 いや、お嬢様、あれは門の前だから境界的には敷地の外のことですし、ってそこは引っ張らなくてもいいか。 あぁ、もう・・・ みなさん、本当にやめて・・・・ 「あの、本当にみなさんが責任とか感じなくていいですよ。これはもともと痛めてたところで、いつかはこういうことが起こるだろうと思ってたので」 それでも、そう言った僕のことを皆さん真面目な顔のまま見つめている。 そんな光景が目の前にあるんだから、この状況は僕にとって美味しすぎるだろ。 熊井ちゃんにお嬢様にお姉ちゃん。そんな美しい人達がみんな僕を見ているんだ。これを美味しいと言わずして何と言う。 この状況でそんなこと考えているぐらいだったりしている僕。 このように、当事者の僕が一番楽観的なんだ。 だから、皆さん、本当に責任なんか感じる必要は無いのに。 ところで、いま熊井ちゃんはお姉ちゃんに向かって“マイミ”って言ったな。(よびすけかよ!) そういえば、お姉ちゃんの名前を僕は今まで知らなかった。 つい、今聞いたその名前を口にしてしまう。 「マイミさん?」 「はい?」 お姉ちゃんが僕に振り向いてくる。 「あ、いや何でも無いです・・・」 マイミ、っていう名前だったのか。 姉が“マイミ”で、妹が“マイ”なのか。 またずいぶんと姉妹で似たような名前をつけたもんだな。 つい、その名前をもう一度繰り返してしまった。 「マイミさん?」 「はい?」 再びお姉ちゃんが振り向く。さっきと全く同じ表情・全く同じ動作で。 振り向いた彼女の顔を見つめたまま僕は固まってしまった。 思わず、そのまま見つめあってしまう。 お姉ちゃんは、意味も無く名前を呼んだ僕の事を訝しがることもなく、その善人オーラを全身から発しながら僕を見ていた。 そんな彼女から、どうしても視線を外すことができない。可能ならその美しい瞳をいつまででもずっと見ていたくなるぐらい。 この人を見たら、誰だってそうなってしまうだろう。見た人全てを引き付けてしまう、その絶対的な美貌。 こうして、彼女の名前を僕は初めて知ることになった。 マイミさん。 僕の義姉になる人。 次へ TOP
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更衣室で一人着替えを済ませ、店内へ出ようとドアへ足を向けた時だった。 間に合ったと声がしたかと思うと、千奈美が慌てて更衣室へ入ってきた。 室内に私がいるのが見えると、千奈美は途端に表情が明るくなり、走って近寄ってきた。 「久しぶり。元気してた?」 電話で話したときも体調が悪そうには思えなかったので、元気な顔をみて少し安心した。 欠勤したのは、欠勤前にパートのトップと揉めていたから、大方それが原因と考えてよさそうだ。 「久しぶりじゃないわよ。あんたこそ元気にしてたの?」 「元気に決まってるじゃん。熊井ちゃんに会えなくて寂しかったくらいで後は問題なしかな」 呆れて言葉も出ないとは今みたいな心境を言うのだろう。 ほんの数秒だが確実にどう返事をしたらいいのか全くわからなずにいた。 千奈美にはありがちだが、こちらの気も知らないでよくもこんな言葉が言えたものだ。 「復帰する気になったのは熊井君のおかげってわけね。向こうもあんたのことを心配していたし、よかったじゃない」 「え、えぇ~マジで? やった~嬉しいなぁ~私だけ本気で好きになっちゃってたのかと思ってた」 千奈美がさらっと熊井君の名前を出したのに嫉妬したのか、冷たく言い放っていた。 どんどん若返る千奈美に比べ、どんどん老けこんでいく惨めな自分。 熊井君と恋愛関係になってから千奈美は自信に満ち溢れ、最近では下着まで布地の小さなものを着用している。 それに引き替え、私はストレスと共に溜まっていく脂肪に包まれ、とてもじゃないが身につけるなんて出来ない。 私も恋の一つや二つでもすれば、こんなにも変わることが出来るだろうか。 「茉麻、聞いてる?」 ロッカーを閉める音に驚き、千奈美の方へ向き直る。 考え事をしている間に着替えまで済ませていたようで、千奈美はエプロンの紐を結び終えたところだった。 頬を膨らませ、ご立腹気味の千奈美は軽く溜息をついて、先に歩き出す。 「な、何を!? 何か話してたの?」と、なるたけ低姿勢な印象を与えるよう努めた。 「全然聞いてなかったわけね。こっちがあれだけ一生懸命に話してたって言うのにさ。損しちゃった」 「ごめん。今度はちゃんと聞くからお願い。教えて」 千奈美は後ろを振り向き、人差し指を突き出し、「今度はちゃんと聞くんだね」と返されてしまう。 「うん。聞く聞く。だから、教えなさいよ」 「よろしい。今日、仕事終わった後に熊井ちゃんをデートに誘おうかなって言っただけ」 そう言って、千奈美が店内に消えていくのを追いかけ、私も店内へと入っていった。 後はレジに立ち、お客さんが持ち込む商品をバーコードで読み取って、値段を読み上げるだけの作業になる。 自分が機械になったつもりでやらなければ、こんな作業は続かない。 時々千奈美が熊井君に合図を送りながら作業を続けるのを見届けるのは、いつもよりも何倍も辛かった。 そんな思いをしたせいか、釈然としないものを抱えて帰り支度を整え、職場を後にする。 いつもと変わらない帰宅ルートを利用して帰る、それだけなのに気が重い。 日も暮れかかっていることも、ナーバスな今の私には作用しているのかもしれない。 だから、千聖君をみつけたときも一瞬誰かさっぱりわからなかった。 時刻は17時を回ったこともあるので、梨沙子との勉強会を終えて駅前にいてもおかしなことではない。 ただ、この時の彼が少しでも変わった様子をみせなければ、そのまま後をつけようとは考えもしなかっただろう。 千聖君は人目を気にしながら歩いているのか、きょろきょろと忙しなく周りの人目を注意している。 幸い、私が先に気づいたこともあって、みつかる前に素早く身を隠すことが出来た。 あれではかえって人目を引いてしまう気がするが、おかげで私は気づけたのだから良かったとも言える。 彼は小走りに進み、徐々に人気がない場所へと入っていく。 彼が入っていった路地裏は治安が悪く、一歩でも踏み込めば何かあった場合、誰も助けてくれる人がいなくなる。 大人でも入るのを躊躇う場所を彼はどんどん奥へと進んでいくのを見過ごすわけにはいかない。 私がここで見て見ぬふりをして何かあったら、大変なことになる。 同じ年の子供を持つ親として、彼のご両親のことが気になり、仕方なしに路地裏へと入る。 彼はこの路地裏へは何度通っているのだろう。 迷うことなく進み、目的地へとたどり着いたようで、あっという間にビルの中に消えた。 私はここで恐喝に合う程度は考えていたのだが、彼の選んだルートのおかげか一度も合うことなくたどり着いた。 彼の入ったビルは汚らしい外観の古いビルで、周りも似たような年数の経つビルが並んでいる。 ビルのテナントに何があるか看板もないため、さっぱりわからないので困った。 こんな場所に習い事に来ているとも思えないし、私としてはすぐにでもビルの中に入りたいのだが、怖くて踏み込めない。 ビルを見上げ、途方に暮れている私を背後から呼ぶ声がしたのはこの瞬間だった。 「先ほどからうちの会社のビルを眺めているようですけど、どうされました?」 「はい!?」 振り返ると、そこには長身で金髪の青年が微笑みを携え立っていた。 まるでホストを思わせる風貌の青年に、私は全身が警戒して強張るのを感じた。 私がとっさに警戒したのに気づいたか、青年は先ほどよりも優しげに微笑みかけてきた。 「突然声をかけたものですから驚かせてしまったようですね。実は私、こう言う者です」と、名刺を差し出してきた。 彼の差し出してきた名刺を受け取り、私は益々困惑してしまった。 千聖君がこの青年とどんな関係なのか、想像も出来なかったからだ。 彼の差し出してきた名刺の会社名を見れば簡単なことなのに、私には千聖君があんなことをする少年には見えなかった。 彼が出張ホストをする少年だとは・・・ ←前のページ 次のページ→
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前へ 「さ、そろそろ次の場所に移動しよっか!お嬢様、お腹は空いてないですか?おやつありますよ」 「ウフフ、まだ大丈夫です。お昼ごはんをたっぷり食べたから」 「・・・それより、動物園出たらその被り物取ってよね」 キリンとレッサーパンダのヘアバンドを気に入ってしまった2人は、それぞれイメージにあった動物のやつを、みんなへのお土産に決めたみたいだった。(私は鹿の角のを買わされそうになったので全力で抵抗した) 動物園の次、最後は千聖のリクエストで、アイドルグッズのお店に行く事になっていた。 現在時刻は15時30分。ここからそのショップまでの移動時間、さらにショップから門限どおりに寮に戻る時間を合わせても、2時間近い時間の余裕がある。 動物園で帳尻を合わせたから、なっきぃの栞の時間はきっかり守っている計算になる。でも、考えてみたら、アイドルショップに2時間ってどうなの?そんなにやることなくない? 「ねえ、千聖。C-uteグッズ見るの30分ぐらいにして、服でも買いに行かない?ほら、近くにファッション専門のビルがあるから。ももちゃんがよく制服に合わせてるベストとかリボンとか売ってるお店も入ってるよ。」 「あら、そうなの?でも、ももちゃんの制服のようになるなら、あまり購買意欲はわかないわね。ウフフ」 「あ、お嬢様。でもそこのお店なら、えりも好きだって言ってましたよ。結構いろんなテイストの服売ってるみたいだし、必ずしも桃子みたいにはならないかと」 「えりかさんが?それなら安心ね」 ――ももちゃん、ご愁傷様。 「でも、舞。30分ではC-tueのグッズを十分に見る事は難しいと思うわ。私、通信販売で買い溜めてはいるけれど、まだまだ持っていないグッズがたくさんあるのよ」 そう、最近の千聖が時代劇の他にハマッているのが、このC-uteというグループ。その中でも丘井ちゃんというメンバーが超お気に入りらしい。 「だったら、お店の人に“丘井ちゃんに関係のあるグッズ全部ください”って言えばいいじゃん。で、自分が持ってるやつはそこから除けば」 「もう、舞ったら。私は、何も丘井さんの全てのグッズが欲しいというわけじゃないの。ちゃんと選んで、厳選したものを大事にしたいわ」 「・・・千聖って、お金持ちのくせに欲がないよね」 「あら、そうかしら?」 考えてみれば、千聖の部屋はかなり広いけど、そんなに物は置いていない。寮もお屋敷も、ゴテゴテしたいかにもお金かかってますって感じの内装じゃなくて、仕立てのいい調度品で落ち着いた雰囲気を出している。 お屋敷の外に出る機会がそうそうないっていうのもあるだろうけど、これだけ金銭感覚がしっかりしているなら、将来的に舞のところにお嫁に来ても(以下妄想)。 「舞、それなら、1時間ぐらいでどうかしら?残りの時間を、服を見る時間に当てるのは?」 「んー・・・まあいいか。でも、なるべく早くしてよね!おそろいの服とかアクセサリー買いたいし」 「いいねいいね!お嬢様と舞と私がおそろいの服かぁ」 ――お姉ちゃん、空気読んでおくれやす。 アイドルショップは駅から歩いて5分ぐらいの場所にあった。店内は結構広いけど、休日だけあって、かなり混雑している様子。少しすくのを待とうかという話になって、店内が見える位置にあるベンチに座った。 「すごい人気ですねー」 男の人ばっかりかと思ったら、親子連れや同年代の女の子たちもいたりする。姉妹ユニットのBerrys工房のグッズも扱っているらしく、どっちかにしなさい!なんて怒られて泣いてるちびっこもいる。 お店の外では、くじ引きかなんかで当たった写真を、自分の好きなメンバーのと交換してもらうための“臨時交換取引所”みたいなのまで即席で作られていた。・・・なんか、アイドルショップって、雰囲気が独特。 「こんなにたくさんお客さんがいて、丘井さんのグッズ、ゆっくり見れるかしら?私、何だか緊張してきたわ」 「えっ緊張ですって!そんなときはまかせてお嬢様!舞美の七つ道具、アメちゃん!どうぞ召し上がれ!バナナもありますよ」 「え、あの・・・むぐぐ??」 「ちょっと、ここ飲食禁止だから!」 お姉ちゃんは登山用リュックから取り出した食べ物を次々に千聖の口に押し込む。やめて!周りの人の目線が痛い! 黙って佇んでいれば、そこらへんのアイドルなんて勝負にならないほど美人でかっこいいお姉ちゃんなのに、服装込みでどう考えても不審者。さわやか笑顔が逆に怖い。 あぁ、何てもったいない!違うの、普段はもう少しまともだから!制服の時のお姉ちゃんを目の肥えたヲタさんたちに見せ付けてやりたい・・・! しばらくすると、お店の喧騒が少し収まってきた。依然人は多いものの、混雑の切れ間になったらしい。 「行こう」 「ええ、そうね」 舞美ちゃんの暴挙で、緊張も若干ほぐれたらしい。千聖はすっくと立ち上がると、一直線にお店の入り口へ足を進めた。 「ちょ、ちょっとぉ!勝手に行ったら・・・」 「ん?手つなぎたいの?しょうがないなあ、舞は甘えん坊将軍だ!とかいってw」 「違うよ、もう!千聖一人にしたら危ないじゃん!あんな男の人ばっかりのとこに・・・」 女子校育ちの私も舞美ちゃんも、決してこういう雰囲気に慣れてるわけじゃないけど、千聖は私たち以上に免疫がないはず。 入り口近くのモニターで、ライブDVDを見ながらめっちゃ激しく踊ってる人、どういうつもりか写真に話しかけている人、○○の方が○○より可愛い!みたいなケンカをしてる大の大人・・・なかなかカオスな光景だ。 「千聖は?こんな光景見たらショックで倒れちゃってるんじゃない?大丈夫なの?」 「ん?お嬢様ならあそこで・・・」 舞美ちゃんが指差す先には、丘井ちゃんの写真の前で、熱心にメモを取る千聖。ほしい写真を厳選している真っ最中で、勉強の時とかには絶対に見せないような集中力を発揮しているのが傍目にも伝わってくる。どうやら心配は無用のようだった。 「なんかさ、丘井ちゃんって、どことなくお嬢様に似てるよね。雰囲気が」 「確かに。丘井ちゃんの元気で明るいところが、千聖が“こうなりたい”って思う理想の女の子に近いんだってさ」 あんなに夢中になっちゃって、本当に好きなんだなあ。ま、相手は芸能人だし、この場合は別に嫉妬の対象にはならないんだけどね。 一通り写真を選び終えた様子の千聖は、背が小さいから譲ってもらえたのか、はたまた実力で勝ち取ったのか、今は最前列でうっとり丘井ちゃんの写真に見入っている。 っていうか、何か「お会いできて嬉しいわ」「ええ、もちろんです」とかいって楽しそうにおしゃべりしているみたい。写真と。か、会話ってあんた・・・さっきの一方的に話しかけてる人よりレベル高くね? 「あはは、お嬢様は大丈夫そうだねー。」 「いやいや、全然大丈夫じゃないじゃん!むしろ頭がダメな感じになってるじゃん!」 「まあまあ、細かいことはいいじゃないか!それより、舞はグッズ買わなくていいの?私、リーダーの写真ちょっと見たいなあ」 「んー・・・」 そう、巷で人気のC-ute、私たちも例に漏れず、それぞれごひいきのメンバーがいる。 千聖は明るくてムードメーカーな丘井ちゃんが好き。 お姉ちゃんは天然でさわやかなリーダーの麻衣美ちゃんが好き。 私も千聖ほど熱心じゃないけど、最年少で小悪魔っぽいキャラの麻衣麻衣がお気に入り。 もちろんなっきぃやえりかちゃん、栞菜に愛理も好きなメンバーがいて、結構寮で盛り上がったりすることもある(鬼軍曹は知らんけど、いかにも好きそうなキャラのメンバーがいるから多分・・・) 「ウフフ、千聖ね、今度舞台を鑑賞させていただくの。ええ、とても楽しみ」 千聖の楽しげなトークはまだ続いていた。 うわっ・・・我が愛しのハニーとはいえ、あいつマジキメぇ・・・。あれを放置するのも(逆の意味で)気が引けるけど、とりあえず周りに危害を加えることはないだろうし、よもやあんな覚醒状態の千聖に絡もうという勇者もいますまい。 さっきまで良識的な楚々としたお嬢様だったのに、大好きな丘井ちゃんグッズに囲まれるという非日常的な出来事は、千聖のテンションメーターをぶっちぎってしまったみたいだった。 「・・・お姉ちゃん、ちょっと別行動ね」 「ん?うん、わかった!」 まあ、せっかくめったに来れないアイドルショップに来たわけだし、私も麻衣ちゃんグッズを物色してみることにした。 へー・・・写真の他にも、文房具なんてあるんだ。タオルとかTシャツは、コンサートで使うのかな?たしかにこれは、厳選してグッズを買うとなると、30分じゃ無理だろうな・・・。 店内をぐるりと見渡すと、さっき踊ってる人がいた、C-uteのDVDの前に、人だかりができていた。コンサートのDVDでよく見る、掛け声つきで盛り上がっている。 何が起こっているのかは見えないけど、近くにいる人の話を盗み聞きしたところ、可愛い女の子達がノリノリで踊っているらしい。・・千聖といい、C-uteのマジヲタさんって元気だなぁ。 ***裏デートツアー*** 「ドタバタしててもラミラミラミラミ」 「メチャクチャしたいのラブ・ミー・ドゥ!!!」 ――あああ・・・やめてやめてやめて!お願いだからやめて! C-uteのオフィシャルショップ。ツアーDVDが流れるプロジェクターの下で、栞菜とめぐぅが激しくラミラミしている。アホか!何であえて目立つ行動取ってるんだYO! アイドルのお店になんか来たら、美少女大好きな栞菜がおかしくなるっていうのは十分想定できていた。 でもめぐぅもいるし、2人がかりで取り押さえれば・・・なんて考えていたら、めぐぅもハッスルハッスルしてしまった。そうだ、こいつは目立ちたがりやなんだった!すっかり忘れていた。 めぐぅも栞菜も身内びいきなしでかわゆいから、またたく間に店内のオタさんたちが集まって、軽いライブみたいな状態になった。めぐぅの無駄にキレのいいダンス、栞菜の「ええい、美少女はいねえのか!」という女王様ばりの恫喝に、会場(?)もヒートアップしていく。 おまけに、今日の私たちは不必要に目立つ格好をしている。色合い的に、ヲタTならぬヲタトレーナーで来訪した痛いファンのようにも見えるから、余計に手厚く迎えられてしまったみたいだ。 「ほら、えりも一緒に!わっきゃなぁい」 「「「ゼエエエエット!!!」」」 「ウチのことは放っておいてください・・・」 這う這うの体でその輪から抜け出すと、私はヨレヨレになりながら、柱の影に身を寄せた。 そこそこ広いお店でよかった。舞美も舞ちゃんもお嬢様も姿が見えないから、この動乱には気づいていないみたいだ。それぞれひいきのメンバーのグッズを見ているんだろう。 「この時間に、服買いに行きたいよぅ・・・」 もうお気に入りの埋めさんグッズは手に入れた。尾行以外の理由で、これ以上ここにいる理由は別にない。 ここ見た後はもう寮に帰る予定だったはずだし、ほんの5分だけでも!だめかな・・・? 「あら・・・?えりかさん・・・?」 甘い誘惑と戦っていると、急に目の前に見知った顔が現れた。 「わぁっ!お嬢様!」 「えり?」 「・・・と、舞美」 ショップの紙袋を手に提げた2人が、目をパチクリさせて私を見ている。バ・・・バレてもーた!レジにいたとは! 「あの・・・ごめんなさい!決して邪魔するつもりでは」 「・・・ウフフ。もう、えりかさんたら心配性なんだから。そのお洋服、動物園もお楽しみになったみたいね」 「えっ、えりも動物園にいたの?一人で?奇遇だねー!」 「いや、舞美・・・」 舞美はともかく、お嬢様は尾行されていたことに気がついたみたいだった。だけど特に怒っている様子もなく、「素敵なトレーナーね」なんてのほほん笑顔で私の傷をえぐってくる。 「うぅっ・・・お嬢様ぁ、実はかくかくしかじかで」 「まあ、そうだったの。災難だったのね。でも、大丈夫よ。後でめ・・・村上さんに染み抜きを頼みましょう。千聖のコートをお貸ししたいけれど、サイズが合わないかしら」 半ベソ状態の私を、お嬢様は優しく慰めてくれた。お姉ちゃんモードになると、とたんにしっかり者になるのが不思議なところだ。 そんなお嬢様につられたのか、目をらんらんとさせた舞美が力強く肩を叩いてきた。 「えり、安心して!私こんなこともあろうかと、ちゃんと着替え用意してきてるから!舞美の服貸してあげるっ」 「え、あると思ってたんかい」 「さ、こっちこっち!ずっとここにいたら舞にバレちゃうから。トイレで着替えよう!」 「ウフフ、いってらっしゃい。あせらなくて大丈夫よ」 あの、気持ちは嬉しいけれど、舞美のモサフリワンピはちょっとうわやめろ何をする! 栞菜たちにどう説明しよう、なんて場違いなことを考えながら、私は登山リュックを背負った舞美に引きずられて強制連行されていった。 次へ TOP
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旦那様と奥様、ご子息方様ご一行は、昼過ぎぐらいにバタバタと戻ってきた。 私は完全に初対面になるけど、今日はゆっくりご挨拶なんて雰囲気じゃない。執事さんたちに荷物を預けた旦那様達は、一息入れる間もなくお嬢様の部屋へと向かった。 「ほら、村上さんも」 「わ、私?」 「あなたはお嬢様のお世話がメインでしょう」 メイド長さんに促されるまま、私は大家族の後ろにひっついて階段を上がっていった。 部屋の中では、まだお嬢様と舞波さんが一緒にいるみたいだった。奥様と旦那様は、思いのほか和やかな空気だったことに安心したみたいで、「千聖。」と軽く声をかけてドアを開けた。 「失礼しまーす・・・」 私も続いて中に入る。 「大お姉様、声でないんだって??何で?」 どことなくお嬢様に顔立ちの似た、若干小柄な弟様が、突然の来訪に驚くお嬢様にタックルをくらわせてジャレはじめた。・・・なんていうか、お姉ちゃんの一大事なのにあんまり心配していないらしい。 「ご無沙汰しています、おじ様、おば様。」 「舞波ちゃん・・・ごめんなさいね、千聖が迷惑をかけてしまって」 一方、弟くんと取っ組み合いを始めたお嬢様を尻目に、舞波さんと奥様達は穏やかに話を始めた。私も加わるならこっちだろう。そう思って、さりげなくソファの後ろに移動してみたんだけれど・・・ 「メイドさんも遊ぼう!」 「うわっ」 テンションの上がっているらしい、弟様に引っ張られて、お嬢様の大きなベッドの方に連れて行かれる。 「ちょ、ちょっと」 気がつくと右手を次女の明日菜お嬢様に取られていた。なすすべもない。私は仏頂面のお嬢様の前に座り込んで、無言で見つめあった。 「あの・・・旦那様達と、お話しなさらないでいいんですか?」 そう問いかけると、お嬢様は少しうつむいて、首を振った。 「お姉様?」 明日菜様が心配そうに顔を覗き込む。すると、お嬢様は画用紙を取って、明日菜様に差し出すようにして何か書き始めた。 こうして2人が並んだ顔を見てみると、何か不思議な感じだった。 お嬢様は凛々しくて精悍な顔立ちの旦那様似で、明日菜様は小動物みたいな目元にスッキリと優しげな顔立ちのお母様似。全然似てないように見えるけど、しぐさや表情はそっくり。面識がない時に、姉妹当てクイズとかやってたら、多分見破れたと思う。 「ええ・・・そうですね・・・ええ、明日菜もそう思います」 そんな可愛らしい目をくるくるはためかせながら、明日菜様はお嬢様の手元に見入っている。通じるかな?わかるかな?と不安そうに顔を見るお嬢様を安心させるように、何度も強くうなずいて、励ますように手を握っている。 お嬢様がかなり子供っぽい分、その振る舞いは大人びて見えて・・・どっちがお姉ちゃん?と私は心の中でひそかに突っ込んだ。 「メイドさん」 「はっ、はい」 ボーッとその光景に見入っていたら、いつのまにか私の目の前に明日菜様が来ていた。 「千聖お姉様が、メイドさんと2人で話したいそうなので。」 まだ遊びたい!とわめく弟様の首根っこを掴んで、明日菜様は旦那様たちの方へ行ってしまった。千聖お嬢様と私だけが取り残される。 「千聖お嬢様・・」 声をかけようとすると、“待って”とばかりにお嬢様は片手を前に突き出し、私を遮った。ジェスチャーで、「終わるまで、見ないで」と示しながら、また画用紙に向かってペンを走らせ出す。 手持ち無沙汰になった私は、聞き耳を立てるべく、舞波さんや旦那様たちの座るソファの方へ体を傾ける。 “もともと通っていた私立学校に、来月から・・・” “復学試験を受けて・・・” もうお嬢様の声についての話は終わったらしく、わりと和やかな雰囲気で、談笑しているみたいだ。 チラチラと私たちの方へ視線が向けられるものの、旦那様も奥様も、お嬢様に話しかける素振りは見せない。どうしてこういうことになってしまたのか、もう何となくわかっていらっしゃるのかもしれない。 冷たい、という風には感じなかった。とてもお忙しいらしいのに、こうしてお嬢様の一大事にお屋敷にお戻りになるぐらいだ。他人にはわからない、家族間の絆というのがあるんだろう。お嬢様もいつもより落ち着いて見える。 「旦那様、奥様。ご無沙汰しております」 しばらくすると、舞美さんと愛理さん、それから萩原さんが、うっすら開いたドアを押して、室内に入ってきた。 「あ、私、お茶を・・・」 立ち上がりかけたところを、お嬢様にエプロンのリボンを掴まれる。 「お嬢様、でも、萩原さんたちが・・・」 「・・・」 お嬢様は顔も上げずに、私を捕まえたまま、まだ黙々と何か書き続けていた。 お嬢様がこれだけ夢中になって、周りが見えなくなるぐらい打ち込んでいることって言ったら・・・・察しのいい萩原さんが、視界の隅で眉間に皺を寄せたのが見えた。 「・・・」 程なくして、お嬢様の手が止まる。 ソファにお尻を向けて、私に画用紙を見るよう促してくる。内容は、見るまでもなくわかっていたけれど・・・ 「・・・お嬢様。」 案の定、そこには“舞波ちゃんを、引き止めて”と書かれていた。 次のページには、お嬢様がどれだけ舞波さんを好きなのか、溢れ出しそうな思いをたくさん綴ってあった。 舞波さんと出会ったことで、一人ぼっちじゃなくなったこと。 お嬢様扱いしないで、“千聖”って呼んでもらえて嬉しかったこと。 舞波さんを傷つけた人たちが住んでる場所に、舞波さんを帰したくないこと。 だから、どうしても引き止めてほしいと、震える文字で、お嬢様は必死に訴えかけていた。 「・・・ダメだよ、お嬢様」 だけど、私はやっぱり、その思いを残酷に断ち切った。みるみるうちに、お嬢様の顔が、怒りと悲しみに染まっていく。 「っ・・!・・・・っ!!!」 ボロボロと涙を零しながら、画用紙を持ったまま、何度も私の体に拳をぶつけてくる。 「千聖・・・」 「止めないでください!誰も来ないで!」 慌ててこちらに来ようとする奥様達を、私は大声で振り切った。 雇われてる分際で、こんな偉そうな口を利くなんてありえない。だけど、真剣に私を頼ってくれて、心の中を見せてお嬢様に、中途半端な気持ちで応えるなんて私にはできなかった。 メイドじゃなくて、一個人として。お嬢様のことも舞波さんのことも大好きだから、ちゃんとぶつかり合いたかった。 「お嬢様、聞いて」 連日の篭城で、すっかり痩せてしまった細い腕を、両手でそっと握りしめる。 「・・・大丈夫だから。離れていても、舞波さんはお嬢様を忘れたりなんかしない。ここにいた時と同じ気持ちで、好きでいてくれるから」 けれど、お嬢様はかたくなに首を横に振るばかりだった。私は少しずつ、自分の頭がカッカと熱くなるのを感じた。 「みんな、お嬢様のこと心配してるんだよ。わからないの?」 「めぐさん・・・」 私の腕に落ちたのは、自分の涙なのか、お嬢様のなのか。もうよくわからない。 「・・・私は、舞波さんが声の出ないお嬢様を置いて去っていくのは、冷たくて薄情だって思ってた。でも、それは違ったの。舞波さんはお嬢様のこと思って泣いてた。 このままじゃ何も変わらないから、たとえ一時お嬢様を傷つけることになっても、離れなきゃいけないって。舞波さんはお嬢様のためにそう決断したの。お願い、舞波さんの気持ちをわかってあげてよ」 「っ・・・」 それでもお嬢様は、声にならない泣き声を漏らすばかりだった。 誰も何も言わない。異様に静まり返った空間で、私の荒い息とお嬢様の泣きじゃくる音だけが響く。 「なんで・・・舞がいるじゃん・・・・」 萩原さんがそうつぶやいて、部屋を出ようとするのが目に留まった。慌てて舞美さんが引き止める。お嬢様はそれも追いかけようとせず、未だ声を発することのできない口を懸命に動かして、私に必死に訴えかけてきた。 お嬢様の、小さな唇がはっきり綴る。 “私には、舞波ちゃんしかいないの” ――プツッ―― 自分の頭の中で、何かがキレたような気がした。 「・・・いーかげんにしろっ!舞波ちゃん舞波ちゃん舞波ちゃん舞波ちゃんって、そんなに舞波さんが信用できないの!?」 「ちょ、ちょっと、めぐさん」 「だってそうでしょ。舞波さんがお嬢様のことを好きだって信じられるなら、少し距離ができたぐらいで友情が壊れるなんて思わないでしょ!舞波さんのこと信じてない証拠じゃん! 大体、旦那様も奥様も明日菜様達も、お嬢様のために戻ってきたのに。舞美さんや愛理さんが毎日お見舞いに来てくれたのだって、知ってるでしょ?萩原さんなんて寮に入ってるわけじゃないのに、すっごく心配して来てくれてるんだよ。 なのに、なのに、何で舞波さんがいなくなったら一人ぼっちなんて悲しいこというんだよ。何で皆の気持ちがわからないの?このっ ばか!」 ―――あ・・・・・・・ 言ってしまった・・・ 「あ、あの・・・」 考えなしに発言して、後悔するのはいつもの悪い癖。だけど、これはいつものとレベルが違う。 私・・・バカっていった?仕えてるお屋敷の、お嬢様に?バカって??メイドの分際で? 旦那様も、奥様も、奥様の腕の中の下の妹様も、明日菜様も、弟様も、舞波さんも、愛理さんも、萩原さんも、舞美さんも、激しく泣いていたお嬢様さえも。みんな目を丸くして、口をOの字にぽかーんと開けて、私を見ていた。 「ち、違っ・・・いや、これは・・・・」 なぜか舌がもつれる。普通に立ってるつもりなのに、床がどんどんせりあがってきて、足元がフラついた。な、何だこれ? 「めぐさん!?」 いつになく慌てた顔の舞波さんが手を伸ばして、こっちに走ってくるのが見えた気がした。でももうよくわからない。 ゆっくり世界が暗転して、私の意識は途切れた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 「また鏡を見つめてるううう~ああどぉしてこんな顔よぉ~」 ――は?喧嘩売ってんのかテメエ。 客席の女子達からそんな無言の殺気を感じて、私は他人事ながらぶるっと身震いをした。・・・そうよねそうよね、あんなお人形みたいな顔の女の子がそんな歌詞歌ったって、ただの皮肉にしか聞こえないもんにー。 午後13時15分。 本来ならみやびや鈴木さん、嗣永さんがライブを行っているはずのステージ上で、なぜか熊井ちゃんと梨沙子がミニライブを行っていた。・・・いや、正しくは、梨沙子の歌に熊井ちゃんがウリャオイウリャオイと奇妙な合いの手を入れている。 「ねー・・・Buono!は・・・?」 「何で菅谷さんたちが?」 当然、お客さんたちも困惑して、ざわざわと不穏な空気が広がっていく。 何が何だかさっぱりわからないけど、宇宙人の熊井ちゃんはともかく、みやびのキモヲ・・・熱狂的ファンの梨沙子が、大事なステージを邪魔するはずがない。 私は今日のライブを梨沙子がどれだけ楽しみにしていたのか、よくわかっている。 みやびうちわ(アンオフィ)にみやびハッピ(アンオフィ)、みやびちゃんボイスキーホルダー(密・・・録・・・?)など、パンチの効いたキモ・・・熱いグッズに身を固め、最前を陣取っているその姿は、ドン引きを通り越してもはや神々しいといっても過言ではなかった。 熊井ちゃんにしたって、ステージ係として、千聖お嬢様とかと一緒に夜遅くまで残って頑張っている姿を何度も目にしている。 そんな2人が、ステージジャックなんてことは絶対にありえないのだ。 「でも、だったらなんで・・・」 「何かトラブルがあったね、これは」 「うおっ」 突然、私のわきの下から、佐紀ちゃんがずぼっと頭を覗かせてきた。 「いやー、間に合った。クラスの仕事押しててさー」 「おー、そりゃよかった。・・・ってか、何?トラブルって?みやびたちに、てこと?」 「わかんないけど、じゃなきゃ本人たち出てきてるっしょ。他の2人はともかく、桃子がこんな暴挙を許すはずがないもんね。もぉ軍団とはいえ、熊井ちゃんたちが勝手にこんなことはじめてるんだったら、ギターで殴りかかってるでしょ、桃子の場合」 ――てめーら、このやろー、ロックなめてんじゃねーぞコラ! あのアニメ声で、ドラムセットやキーボードまで持ち上げて暴れまくる嗣永さんを想像して、私はついにやにやしてしまった。 どうも、あの人はキャラ作りがすぎるっていうか・・・新聞部的にはいつかバケの皮はいでやりたいっていうか・・・。 閑話休題。 「じゃあ、その、何らかのトラブルってのの時間稼ぎに、熊井ちゃんたちはこんなことやってるってこと?」 「多分ね」 “あなたが好き~胸が痛い~” “りーさこ、おいっ!りーさこ、おいっ!” ステージ上では、相変わらず梨沙子のパワフル歌唱と熊井ちゃんのくまくまボイスが交じり合った歌謡ショーが繰り広げられている。 確かに、梨沙子は歌が上手い。ぶっちゃけ、こういうミニライブで人を集められるだけの才能もあると思う。 だけど、今ここにいるお客さんは、Buono!を見に来ているわけであって・・・。例えるなら、Per○umeのコンサートに行ったら、前座でSuperf○yがマジ熱唱してたって感じだ。うん、ウチうまいこと言った! 「リシャ様!リシャ様!お・し・お・き(ry」 熊井ちゃんは自分の中で超盛り上がっているのか、両手の人差し指を立てて、右に左に天を指差す奇妙なダンスつきで隣の梨沙子にがっつき、梨沙子も熊井ちゃんに手を振り替えしてあげたり、もはや2人の世界だ。・・・なにやってんだこいつら。 「キメェ・・・・いや、てかさ、前座のつもりなら、もっと盛り上がる曲にすればいいのに!チョイスおかしくね?大体、ウリャオイッって感じの曲じゃないじゃん!お客さんとまどってんじゃん」 「おっしゃるとおり。二人とも、自分の世界に走りすぎなんだよ。だから、ね」 佐紀ちゃんはおもむろに、着ていたジャージのファスナーに手をかけた。 「ちょちょちょ、こんなとこで着替えとか・・・・はあぁ!?」 私は思わずのけぞって、佐紀ちゃんを思いっきり指さしてしまった。 ブルーのフリフリキャミに、セクシーなホットパンツ。 それは、昨日のダンス部の衣装だった。 「何それ?私服?佐紀ちゃんそれ私服にしてるの?痴女?露出魔なの?」 「あーうるさいうるさい!私はね、形から入るタイプなんだよっ」 「はへ?」 あっけにとられているうちに、佐紀ちゃんは人垣をかきわけて、ずんずん前に進んでいってしまった。 「おーい・・・」 そのまま、まっすぐステージに上がって、梨沙子と熊井ちゃんの前に仁王立ちになる。 「すとーっぷ!!!」 小柄な身体からは信じられないほど、大きな声で、佐紀ちゃんは2人を制した。 歌唱と、ヲタ芸と、ついでに音楽もピタッと鳴り止む。 やりすぎた、と気づいたんだろう。我に返った梨沙子が、今にも泣きそうになっている。 そんな梨沙子の気持ちをやわらげるかのように、佐紀ちゃんはふっと笑って、梨沙子のことをギュッと抱きしめた。 “頑張ったね” きっとそんな言葉をかけたんだろう。みるみるうちに表情が和らいでいく。 「さーすっが、キャプ・・・じゃなくて、副会長殿」 ・・・余談ですが、この間、熊井ちゃんは楽しそうに一人でくまくましていました。 「・・・さて、Buono!のライブにお越しの皆様、お待たせしております!」 梨沙子から借りたマイクで、佐紀ちゃんが喋りだす。 「ね・・・あれ、ダンス部の・・・」 「ホントだ、でも、なんで?」 生徒のざわざわを打ち消すかのように、佐紀ちゃんがさらに声を張り上げる。 「御清聴願います!・・・えー、開演時間が遅れてしまい、まことに申し訳ありません!」 ――そうそう、こういう挨拶をしてから、前座をやるべきでしょうが、もぉ軍団ったら! 「お目汚しとなってしまいますが、準備が整うまで、こちらの演目をご覧ください!・・・いくよっ舞美!」 「ええっ!?」 次へ TOP
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前へ 桃子「こんにちはぁ~ 遊びにきたよ~」 千聖「あら桃子さん ご機嫌よう」 桃子「あらあら ご丁寧にどうもぉ~ っておい」 舞美「ちょっとコッチ来て」 桃子「なによぅ 遊びに来ただけじゃん」 舞美「桃はこの状況をみて何も感じないの?」 桃子「べつに 千聖はいつものお姉ごっこでしょ?」 舞美「違うのよ・・・」 桃子「まさか・・・ やっぱりニューハーフだったの!」 舞美「そうそう 彼ったらスゴイのを・・・」 桃子「舞美 混乱してるね」 舞美「もうね ほんと どうしていいのか」 桃子「でさ どうしちゃったのよ実際」 舞美「実は・・・・」 桃子「なるほどね 階段から落ちたショックでか・・・」 舞美「これは内緒だからね」 桃子「マネには伝えたの?」 舞美「無理 コッチだって都合があるんだから」 次へ TOP
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前へ 寮の食堂で朝食を食べ、お屋敷へ赴くと、何となくいつもと様子が違っていた。 「おはよー、えりかちゃん」 「あ、おはよー。・・・ねえ、今日ってなんかあるの?」 制服姿の栞菜。 私からの問いかけに、軽く首をかしげる。 「何の話?学園?」 「じゃなくて、お屋敷。なんだろう、ソワソワしてない?気のせいかな」 いつもどおりちゃきちゃきと廊下を雑巾がけしているめぐぅはともかく、あの気弱そうな若い執事さんまで、真剣な眼差しで、何やらメモに目を落としている。 「んー・・・旦那様たちが帰ってくるとか?おいオメー、何バタバタやってんだよ。お嬢様が落ち着かないだろうが」 「ひぎぃ!そう言われましても・・・不手際があっては岡井家の評判に関わることですし」 「ああん?」 さっそくチンピラモードの栞菜に絡まれた若執事さん、胃を抑えながら恨めしげな視線をこちらへ向けてきた。 「何わけのわかんないこと言ってんだかんな」 「あれ・・御存じないんでしょうか。昨日執事長から矢島さんにお話したと伺ったのですが」 少し考え込むような顔をしたあと、若執事さんはオホンと咳払いをして、交互に私たちを見た。 「今日は近くにお住まいのお嬢さんたちが、夕方から職業体験でお屋敷にいらっしゃるんですよ。1泊なさる予定になっています」 ――いや、聞いてない。全く聞いていない。 舞美のやつめ、相変わらず伝達ミスが多いんだから。話聞いといてよかった。 「ウチら、何か気をつけることあります?」 「いえいえ、梅田さんは普段どおりになさっててください」 「梅田さん“は”?」 ギロリと、栞菜の大きな目が鈍い光を放つ。 「あばばば・・・ですから、あのですね、これは地元の皆さんとの交流会のようなものですから、問題のないようにしたいんですよ」 「はーん?オメー、参加者の中に美少女がいたら、あたしが暴走するとでも思ってんだろ」 「だって、今までのことを考えれば・・・」 「まったく、見くびられたものだかんな。この世界のアリカンともあろう者が、千聖お嬢様を悲しませるような真似をするとでも?」 「え・・・ということは」 「まあ、当然ハッスルハッスルするかんな!世の中の美少女はみんな俺の嫁!ガハハハ」 「あぁ~・・・」 大丈夫大丈夫、執事さん。 栞菜はこれで結構人見知りだから、言うほど大胆な行動には出られないはず。 それに、こういう軽口を叩いてるっていうのは、信頼してるって証拠だと思うし・・・んん? ということは、もしかしたら若執事さんと栞菜が将来的に付き合っ・・・ええもうそんなどうしよう!えりか心の準備できてないっ! 「・・・えりかちゃん、またくだらない事考えてるでしょ。この恋愛脳が」 「てへぺろ」 ま、これ以上突っ込むとロクなことにならないのは経験上わかっているし、ここらで一旦口を噤んだほうが良さそう。 「あら、ごきげんよう、えりかさん」 「おはようございます、千聖お嬢様」 そうこうしているうちに、広間の大階段から、お嬢様がしずしずと下りてきて、私に可愛らしい笑顔を向けてくれた。 「今日のリップはオレンジ色ですね。ラメが入っててかわいい」 「あら、ウフフ。えりかさんはメイクを変えるとすぐ気がついてくださるから、嬉しいわ」 高等部に進級してからというもの、お嬢様は急激に大人びて見えるようになった。 今までも身だしなみはきちんとしていたけれど、許容範囲のオシャレ(ケロキュフッ)も嗜むようになって、整ったお顔立ちをより華やかに魅せている。 「ふふん、ちしゃとったら、お客さんが来るからって張り切ってるんだよ。 放課後なんだから、今からおめかししたって意味ないのに」 「もう、舞ったらフガフガ。早く学校へ行きましょう。えりかさんも、お気をつけて」 「ハァーンお嬢様ぁん、かんなもご一緒するかんな」 ・・・まあ、舞ちゃんたちのおかげ(せい?)で、中身はそんな、いきなり楚々としたレディになったりはしてないんだけれど。いつものふわふわお嬢様。 「では、ウチもそろそろいきまーす。お仕事、がんばってくださいね」 「はい、御丁寧にどうも。梅田さんもよい一日を」 はぐれ(ryさんたちがかかわらなければ、普通の好青年風な若執事さんと丁寧に挨拶を交わすと、私は寮へと直行した。 その勢いのまま、ベッドにダイブ。・・・ふっふっふ、今日の講義は午後からなのだ。たっぷり二度寝できる。 ああ・・・高等部までと違って、自分で時間割を組み立てられるのが素敵。 服装もなっきぃ委員長の指導が入らないし・・・あれ、てか今日の課題・・・ああ眠・・・ * * * * * 「やってもうたあああぁあ!!」 絶叫とともに、寮の大階段を駆け下りる私、梅田えりか。 現在、時刻は16:40。はい、突っ込まないでください。つまりですね、二度寝がですね、携帯のアラームがですね、なんというかですね、 「もー、やばい、どーしよー」 動揺のあまり、右手にキティちゃん抱きまくら、左手に携帯という不審な出で立ち。 ロビーまで走りこんだところで、漸く自分の置かれている状況を理解して、へなへなとその場に座り込んだ。 「・・・もー、どうしてウチってこうなんだろ」 寮長なのに、ドジで遅刻魔で泣き虫で・・・あ、やばいまた泣けてきた。 いっそ、実家に戻って暮らしたほうがいいんだろうか。寮長は舞美に任せて。 そんなネガえりかのまま、ソファに伏せっていると、ふいに後ろからトントンと肩を叩かれた。 「なっきぃ?悪いけど、ウチは今失意のズンドコにいるんだよ。少しそっとしておいてくれると嬉しいな」 「・・・まぁちゃんはなっきぃじゃないです」 「んん?」 聞きなれないその声。 顔を上げると、これまた見慣れない顔が、私を至近距離でじーっと見つめていた。 「えええ!?何?誰?」 うちの学園のものじゃないけれど、その濃紺のワンピースタイプの制服には見覚えがある。 真野ちゃんが以前生徒会長をやっていた、姉妹校の初等部のものだ。 利発そうな顔をしている。勉強めっちゃできそう。切れ長の目と、キュッと引き結んだ唇に、どことなく近寄りがたい雰囲気を覚えた。 「えっと、寮に用事でもあるのかな?」 「特にないです」 「え・・・あ、そ、そうですか」 ――じゃあ、一体何しに来たんですか。 「名前、教えてくれる?」 「名前。まぁちゃんです」 「え?・・・いや、あだ名じゃなくて」 「・・・佐藤」 「あ・・・はい」 やばい。変な汗かいてる、ウチ。 噛み合ってる様で全然噛み合ってない会話。見るからに賢そうなのに、全然話が伝わらない、この感じ。あれだ、まるで、某大きな熊さんのような・・・・・ 「まぁちゃん、いたいた!」 その時、天の助けとばかりに、入り口の大扉が開かれた。 「失礼致します」 生真面目に一礼したその人は、ずんずんと此方へ向かって歩いてくると、「顔近すぎや」とまぁちゃんさんの肩をぐいっと引いた。 「すいませんね、ちょっと目を放した隙に。ほら、マサキもちゃんと謝って」 「はーい。こんにちはー」 「違うやろ」 えっと・・・お姉さんでしょうか。 顔立ちだけならキリッとしている妹さん(?)とは対照的に、犬顔でほわーんとした印象の彼女。 だけど口調は結構ビシビシ系で、こちらはこちらでギャップのあるタイプのようだった。 「えーと・・・それで、どういったご用件で?」 「ああ、スミマセン。えっと、岡井さん家に伺ったんですが、入り口はこちらで?」 「いえ、ここは学生寮です」 そう答えると、お姉さん(仮)は、目を丸くして軽くため息をついた。 「すごいなぁ。学生のうちからこんなとこ住んで、感覚狂っちゃわない?」 「えっと・・・」 「やっぱりお金持ちさんは寮って施設の捉え方も違うんかな、すごい考えやな」 おお、なかなか、突っ込みの厳しい・・・。 私はともかく、気の強いタイプとかち合ってしまったら、ちょっと大変な事になるんじゃないだろうか。例えば・・・ 「えりかちゃん、なにしてんの?」 「おお、噂をすれば!」 「噂?何、舞の話?なんでよ。てか何?お客さん?」 悪い予感というのは当たるもので、眉間に皺を寄せながら入ってきたのは、わが寮随一の戦闘民族・エリートサ○ヤ人の舞様だった。 「えっとね、舞ちゃん・・・」 なるべく穏便に、と説明をしようとしたところ、背後から“ドゴゴゴゴゴ”と聞きなれない音が響き渡ってきた。 「うええ?」 「いえー、ドラムー!」 見れば、マサキちゃんは飾り棚を勝手に開け、中にある銅製の鈴を、どこからか取り出したドラムスティックでカンカンバチバチとやり始めていた。 「こら、何やってんの!」 「あー、まぁちゃんのドラムスティックだよ!」 「そんなん聞いてへんわ!」 ――もう、なんなの、この人達・・・ 私は半泣きで、舞ちゃんの様子を伺った。 「・・・あれ?あいか?」 意外なことに、舞ちゃんは特に怒っている様子はなかった。 それどころか、渦中の犬顔さんのところへ小走りで駆け寄っていく。 「あいか?あいかだよね?」 「おー、舞!久しぶりやね!」 次へ TOP
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前へ いつものように僕をおもちゃのように扱う桃子さん。 僕はいつだって気が付くとこの人の手のひらの上で踊らされてしまっている。 そんな桃子さんを目の前にして、実はさっきからずっと僕はドキドキとした思いを彼女に抱いていた。 だって、今日の桃子さんは、見た目の雰囲気がいつもの彼女とは少し違っていたんだ。 さっき、やって来た桃子さんを一目見て、僕はちょっとびっくりしてしまったぐらいで。 僕の前に現れたのは、とても大人っぽい桃子さんだったから。 今日の桃子さんは、いつものツインテールではなく髪を下ろしている。 この髪型の桃子さん、僕は結構好きなんだよね。 こっちの髪型の方がずっと似合ってると思うんだけどな。 そして、彼女にしては珍しく原色を使っていないその服装。 それも相まって、今日の桃子さんはとても落ち着いて見えるのだ。大人の女性って感じがして。 さっきから僕の目を釘付けにしているのは、まだ理由がある。 桃子さんは、小柄だけど、あのですね、何ていうか、桃子さんってとても女性らしいスタイルですよね。柔らかそうな、っていうか。 夏らしい格好だと更にそれがよく分かる。そう、まさに今がそれだ。 桃子さん、出るところは出てるし・・・ゴホン。 まいったな。 本当にドキドキするよ。 腕とか足とか露出が多いから、つい目が行ってしまうし・・・ゴホン。 なんかどこからか殺気を感じるので、これ以上触れるのはもうやめますけど。 こうやって改めて見ると、桃子さんって本当にかわいらしい人だよな。 普段は殊更にブリブリしてるから、それに惑わされてしまうけど、こうやって普通にしていれば普通にかわいい人だと改めて思う。 そんな桃子さんが僕の隣りで僕の話しを聞いていてくれるんだ。この至近距離で。 そりゃドキドキもするし、彼女から視線を外すこともできなくもなる。 そんな、すっかり見とれてしまっていた僕に桃子さんが言った。 「そう? そんなにもぉのことカワイイって思ってくれてアリガト」 「な、なんでそれを・・・」 「あ、本当に思っててくれたんだ」 「少年は本当に分かりやすいなぁw」 桃子さんが楽しそうに笑う。 「そ、そんなに僕って分かりやすい男なんでしょうか・・・」 「うん、とっても分かりやすいね」 桃子さんが即答する。 「それにね、見てるだけでも分かりやすいのに、少年たまに思ってること無意識に口にしたりしてることあるよ。それに気付いてないの?」 「無意識に口に出してる・・・・」 「そうだよー。それ気をつけた方がいいよ、他の人の前では」 「ま、もぉとしては面白いからいいんだけどね。風紀委員長さんの名前が出てくるたびにネタが増えるしw」 口にしてるって、そんな固有の人の名前までハッキリと口にしてるというのか、僕は・・・ 「それでね、最近はもぉの知らない人の名前が出るようになってきたのね」 「知らない人の名前?」 「そうだよ。くどぅとかまーちゃんとか。それは誰なの?」 「そっ、それは・・・初等部のハル・・・じゃなくて、誰なんでしょう? 桃子さんの聞き間違いじゃないでしゅか?」 「何で舞ちゃんの口マネ? まぁ、いいけど。初等部の子なのね。やっぱり学園生なんだ」 「いや、それは遥ちゃんで、まぁちゃんは姉妹校の初等部で、、、あっ・・・」 「・・・・ふーん?」 思ってることをすぐ口に出してしまう僕のこのクセは本当に何とかしないと。 この分なら無意識のうちに口に出してるってのも、有り得ることなのかもしれない。 しかも桃子さんにそれを聞かれてバレバレとか・・・ 衝撃的な事実を自覚させられ絶句している僕に桃子さんが言葉を続ける。 「でも、初等部の子って・・・少年、あまりいいんちょさんの血圧を上げたりしないようにね」 「・・・桃子さんにだけは言われたくないですけどね」 「そういえばね、それで思い出しちゃった」 そう言った桃子さんの表情が少し真面目な感じになった。 「あの地震のとき、私たち一緒だったじゃない」 決して忘れられないあの日の出来事。 あの日、僕はこの人と一晩ずっと一緒に過ごしたのだ。 そして、僕はたぶん一生憶えているだろう。あの時のことを。 「それでね、その時も、寝言で名前言ってたよ」 桃子さんはそこでニヤニヤとした笑いを浮かべた。 「次々と女の子の名前を口にするんだもん。少年はホント多情なんだねw」 寝言で女の子の名前を次々と? それはマズすぎるだろ!! なんてこった・・・ よりによって桃子さんの前でそんな・・・ 「もぉの名前も呼んでくれてありがと。しかも三番目に呼んでくれるとか。もぉ嬉しいよ。そんなにもぉのこと思ってくれて」 「次々と女の子の名前を・・・ 桃子さん、それ憶えてますか? どういう順番だったんでしょう・・・」 「一番最初はね、ウフッ・・・知りたいの? 誰だったと思う?」 なに、その言い方は。 ひょっとして誰か意外な人の名前だったんだろうか、まさか。 そんな僕の反応を楽しんでいる桃子さん。 「一番はね、舞ちゃんだったよ」 ちょっとホッとした。まぁ、当たり前だけど。 でも、自分を自分で少し褒めてやりたい気分だった。 「二番はちさとね。そんな順番で呼ぶなんてさ。だから少年は本当に分かりやすいって言われるんだよw」 「それで、三番目が桃子さんだったんですか? 何で桃子さんが・・・」 「なんだとー! あによ、その不満そうな言い方は!自分で口にしたことでしょ!」 そう言ったあと、桃子さんはニヤリと微笑んだ。 「でも最後の最後に出たのがあの人の名前とはねえ・・・もぉ、ちょっと驚いちゃった」 誰の名前だったのだろう。 僕の反応を楽しむような桃子さんのその表情。 「最後の最後で、しかも2回も繰り返し名前を呼ぶし。そんな待遇なのは舞ちゃんとその人だけだったよ」 ・・・・・・・ まずいじゃないか。そんなの桃子さんに聞かれるとか、マズすぎる。 いったい誰の名前だったんだろう。 そんな僕を見て、桃子さんが楽しげに話しを続ける。 「そんなに心当たりがいっぱいあるんだ。ふーん」 「驚いたよ。まさかあの子の名前が出るとはねえ、あの状況で。しかも、ご丁寧に間をためたりしてたからね。そんなに感情込めちゃったりしてウフフ」 ますます顔が引きつってきたのを自覚する。 「えっ?分からないの? じゃあヒントね。その人は、もぉ軍団の人でーす。ウフフ。もぉじゃないからね。もぉは三番目に呼ばれてたからね」 ってことは、対象になるのはもうその時点で2人しかいないじゃん。 楽しそうな桃子さんを前にして、僕の緊張は頂点に達した。 「夢から覚める前、最後に名前を呼ぶのはね、その人のことが・・・」 その桃子さんの言い出した言葉に、何故か僕はパニくってしまった。 話しの流れが危ない方向に進みそうな気配を感じるのだ。 話題を変えなきゃ!! 桃子さんの言葉を遮るように慌てて質問を繰り出した。 「もっ、桃子さん、今日はおひとりなんですか?!」 桃子さんは僕のその剣幕にちょっと驚いたふうだったが、あえて僕の言ったことを覆すでもなかった。 僕の聞いたこと、それはそれで遊べそうと思ったのかもしれない。 桃子さんって、掴み所の無い人だよ、ホント。 そんな桃子さんの顔が再び楽しげな微笑になる。 「もぉが一人だったらどうするの。もぉとデートでもする?」 そんなことを言ってからかってくる桃子さん。 今日の大人っぽい桃子さんにそんなこと言われると、都会っ子純情な僕はドキドキしてしまう。 「少年はホントからかい甲斐があるから面白いね、ウフフフ」 「でも残念ながら違いまーす。もうすぐくまいちょーとりさこが来るはずなんだよね。この店の前で待ち合わせしてるの」 「そ、そうですか」 話題を変えたのに、そこでもまたその名前なんだ・・・ でも、桃子さんはそこにはそれ以上突っ込んでは来なかった。 今日はこの辺にしておくか、って言われているような、桃子さんの余裕綽々というその感じ。 僕は桃子さんにはホントかなわないんだな・・・ って、もぉ軍団が待ち合わせしているのか! ここで!! 次へ TOP
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真月みさとをお気に入りに追加 真月みさととは 真月みさとの48%はツンデレで出来ています。真月みさとの33%は海水で出来ています。真月みさとの10%は理論で出来ています。真月みさとの6%は蛇の抜け殻で出来ています。真月みさとの3%は世の無常さで出来ています。 真月みさとの報道 TBS女子アナ「性格いい」調査で上位独占! 田中みな実や宇垣美里を“反面教師”に局が方針転換 (2021年12月9日) - エキサイトニュース 翔太の修羅場に黒島×どーやんの手つなぎも 『あなたの番です』SPドラマの場面写真公開 - リアルサウンド 視聴率は『ベストアーティスト』、注視率は『FNS歌謡祭』のねじれ現象はなぜ?(鈴木祐司) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 宇垣美里が語る、マンガから学んだ生き方 「自分を嫌いになっても変えられないから、好きになるしかない」 - リアルサウンド TVerで『北京オリンピック』ほぼ全ての競技をライブ配信! - テレビドガッチ 本日放送「FNS歌謡祭」第1夜のタイムテーブル&全歌唱曲発表(音楽ナタリー) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 豊川悦司、中村倫也、木村佳乃が語る 『No Activity』“憎めない”刑事コンビの魅力(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 『2021FNS歌謡祭』第2弾出演アーティスト&豪華企画発表 スピッツ、松田聖子、東京事変、浜崎あゆみ、King Gnuら登場(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 真月みさとのウィキペディア 真月みさと 真月みさとの掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る 真月みさとのリンク #blogsearch2 ページ先頭へ 真月みさと 宝塚歌劇団 このページについて このページは真月みさとのインターネット上の情報を時系列に網羅したリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新される真月みさとに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。