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上書きのできぬ運命 3 ハッキリとしない意識の中で知盛は霞む視界に空を見つける。 海の中から見上げる空はこのように澄んでいたのだろうか… 望美の手を強く握りしめ、知盛はぼやける視界で瞳だけを動かし周りを見渡す。 「ここ・・・は・・?」 掠れた声が静かに響く。 「・・・知盛殿」 意識を戻した知盛に朔は声をかけた。 しかし朔の呼びかけには答えず、知盛は望美へ視線を向けた。 「・・・源氏の神子?」 しかし返事はない。 「・・・望美?」 今度は名で呼んでみるがやはり返事は戻ってこない。 少しずつぼやけた思考が鮮明になってくる。 「なぜ・・・俺はここに居るんだ・・・?・・・海に飛び込んだはずだが・・」 「俺と九郎とで、アンタと望美を船上に戻したのさ」 ヒノエが濡れた髪をかきあげながら応えた。 身体を起こそうと肘をついて動こうとするが水を含んだ鎧はその動きを妨げる。 己の傍らに眠る愛しい者の握り締めている小さな手を見つめた。 望美から視線を外さずに知盛は低く呟く。 「何故、助けた…」 「どうして、共に逝かせてはくれぬのだ!!!!!」 悲しみと怒りが混ざった叫びが響いた。 その悲しすぎる叫びを聞いて九郎は拳を強く握り締めながら俯き、 「…すまない」 と一言零した。 その様子を静かに見ていた朔は知盛へ近づくと強く頬を叩いた。 「共に逝かせてなど…そんな自分勝手な事言わないでください!!!!」 自分を叩いた朔を悲しみに染まった紫の瞳がゆっくりと睨む。 「知盛殿、あなたは望美の願いを聞いてはいなかったのですか?」 己を睨む紫の瞳に怯むことなく朔の漆黒の瞳は睨み返す。 「あなたに…生きてほしいと、望美は言いませんでしたか?」 「…」 「それを、あなたは聞き入れてはくれないのですか?」 「望美は…もう、居ない」 「…ええ」 「俺は戦で沢山の命を奪ってきた…だから…殺す事になんら思う事も感じる事もなかった」 重い身体を無理矢理起こし望美の冷たい頬を撫でる。 「でも、愛しい者の命を己の手で奪った…何も感じなかった心が悲鳴を上げるんだ」 瞳からとまる事のない涙は静かに零れその雫が望美の頬に落ちる。 自分の涙に濡れる望美の顔がどんどん滲んで見えなくなる。 「望美が居ないのに、俺の生きる意味は無い」 この人はそこまで望美のことを想っていたのか。 戦では冷酷極まりない、あの平の猛将が。 「海の底にあると言う理想郷へ共に、逝きたかった…」 「二人で…よりそって消え逝きたかった」 「なのにお前は俺を置いて、逝くのだな」 「俺だけ……生きていても…意味はないだろう…」 悲しみに染まった微笑みは見るものまでも苦しくさせた。 横たわる望美を胸にきつく抱き締める。 「俺を…置いて逝くな…頼むから、置いていくなら死なないでくれ…」 それは無理な願いだと解っている。 それでも、言わずにはいられない。 「お前の願いは…俺には辛すぎる」 「…望美。俺を見てくれ、その声で呼んでくれ、その柔らかな手で触れてくれ」 今はもう開かない瞼に口付けを落とす。 そこにはもう、平の猛将は居なかった。 ただ愛する者の死を、共に逝けぬ事を嘆く男しか… 「…神子?」 朔に抱かれていた白龍がふと、空を仰いだ。 その動きと同時に知盛の腕の中の望美が淡く白く光りだす。 「のぞ…み?」 望美の変化に皆の視線が集中する。 光は淡いまま輝き続ける。 ふと腕の中の望美が軽くなっていくのを感じた。 「っ!?」 知盛は望美を更に強く胸に抱き締める。 確かに今、腕の中に居るはずなのに重さはどんどんと消えていく。 そして、瞳に映る信じがたい現象に驚くしかなかった。 望美自ら発せられる光は小さな光の粒となり、砂流のごとく風に舞っているのだ。 消えていく望美の身体。 「神子は、この世界の人間ではないから…命が尽きると光となって消える」 それは望美の死を意識させる一言だった。 「存在していた事さえ、残らぬというのか…」 光の粒となって消え逝く望美を止める事もできず、ただ悔しく見つめる事しかできない。 光の粒は知盛を優しく包みこんだ。 『知盛さん…どうか、生きてください』 知盛の耳元で望美の声がした。 しかしそれは一瞬で光の粒は風に攫われて行った。 先ほどまで自分の腕の中に居た愛しい者の姿はなくなった。 ただ一つ、逆鱗だけを残して。 BACK / NEXT 【 あとがき 】 お待たせしました。第3話目です。 望美は光の粒となり、消えてしまいました。 これからどういう展開が待ち構えているのか、私にも分かりません(苦笑) 話を書き出すときっていつも最終は決まってないんです。 決まっているときもあるのですが、このお話は衝動で書き出した感じなので。 相変わらず暗く、誰にも優しくないです。 感想など、いただけたら嬉しいです。 2006 01 19 名前 コメント
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上書き第6話後編Bルート 上書き第7話Bルート 上書き第8話Bルート 上書き第9話Bルート 上書き第10話Bルート 1ルート 2ルート 3ルート
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《上書き詠唱》 カウンター罠 相手がカードの効果を発動した時に手札の魔法・罠カードを1枚捨てて発動する。その時相手が 発動した効果はこのカードの発動時に捨てたカードの効果になる。 part15-432 名前 コメント
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一部の武器種で起こる現象、バグ、もとい、それを利用した小技。 スライサーのモノが有名だが、実はライフルでも可能。 コンボの前段の攻撃がヒットする前に次の攻撃を入力すると、 前段の命中力が次段の命中力に上書きされる、というもの。 具体的には、スライサーでEX→Nとコンボすると普段ならまともに当たるはずのない 初段EXがほぼ確定でヒットしてしまう。ライフルの場合は距離を開けてEX→Nなどで 同様の事が可能。ライフルは遠くから撃った方が命中しやすくなるわけである。 恐らくはバグ、意図しない動作なのだろうが、これが実践的な戦闘技術として 武器や職業の評価にまで大きく影響をしているのが実に面白いところである。
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265 :上書き第5話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/17(土) 15 39 09 ID /Q0pBnTr 『誠人くん…あたしがちゃんと”上書き”してあげるから…大丈夫だよ…?あはははは!!!』 『あぁあああ!!!』 容易に想像のつく悲惨な末路、自分で想像しておきながらそのあまりに生々しく現実味溢れ、何より起きても納得してしまう光景に身震いする。 加奈ならやりかねない…。 きっと加奈にとっての問題は”傷”なんかではなく、自分以外の人間が俺に触れた”証”の有無なのだろう…傷でなくても加奈がそれを”傷”と捉えるかは置いておいて。 だから、たとえ俺の首元に付けられたのが”直接的外傷のない”キスマークであったとしても、それは加奈にとって十分”上書き”すべき対象なのだろう。 万が一にでもこのキスマークが見付かれば、加奈は容赦しない…首は少し傷付けるだけで簡単に命を落としてしまう事にも気付かず。 そうなったら、俺は間違いなく死ぬ…確かにそれはかなりの重要事項だ。 まだまだ俺にだってやりたい事は山ほどある。 だけど、それと同じくらい…いや、それ以上に俺が恐れているのは…加奈の弱さだ。 加奈は俺にあんな事をしてくるけど、それは加奈が我慢というものを知らないからだ…加奈は純粋過ぎる。 もし加奈が俺に”上書き”した後、自分のした事の過ちに気付いたりしたら…きっと加奈は壊れる。 一生立ち直れない程に壊れる、それこそが一番危惧すべき事なのだ。 何度も何度も俺を傷付ける…そんな加奈が好きなんだ。 勿論いつもの加奈も好きだ、誰よりもと断言してもいい。 低い背丈に童顔な顔つき、それと相反するように大人の魅力を釀しだす長い黒髪、いつも何か懇願するように見上げてくる真っ直ぐな瞳…幼馴染みながらも、ここまで自分の理想に担う相手は他にいない。 そんな加奈を愛しているのだが…時折見せる狂気的に色を失った瞳に見つめられるのも好きだったりする…その時加奈が俺を見ているのかは分からないが。 その瞳の奥にあるのが純粋に俺を好きでいる気持ちだって何となくわかるから。 どんな加奈でも好きだから、幸せになって欲しい。 もし、俺以上に加奈を幸せに出来るって奴が現れたなら、俺は喜んで加奈をそいつに譲るだろう。 加奈の幸せは俺の幸せ…。 加奈の幸せを、一時の過ちなんかで台無しにしたくない。 だから、絶対にこのキスマークは見られる訳にはいかない。 そんな俺の心中も知らず、島村は俺の手を引いていく。 新しい玩具を買って貰った子供のように楽しそうだ。 お前が悩みの種なのに…なんて恨めしそうに背中を見つめながら、神経質に俺は首元を隠すように制服の襟を立てた。 266 :上書き第5話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/17(土) 15 40 00 ID /Q0pBnTr 「誰もいませんね~?」 一回ドアをノックして反応がない事を確認すると、島村は堂々と保健室へと入って行った。 当然俺も引きずられるように。 島村の第二の命令が終わった事を確認すると、未だに手を繋いでいる事が妙に気恥ずかしくなり、大袈裟に島村の手を振り払う。 理由がなくなった以上、島村と手を繋ぐのはおかしい事だ。 しかし、ちょっと大袈裟にやり過ぎたらしい、島村が露骨にこちらを睨みつけてくる。 目をそらしてもピリピリと島村の視線を感じる。 それでもやはり島村の考えは読めない。 「女の子と手を繋ぐのは初めてでしたか?」 突然上機嫌に俺を嘲るようにクスクス笑い出す。 発言の内容から察するに馬鹿にされている。 さっきからいくら弱味を握られてるかと言ってこいつにはやられっぱなしだ。 かと言って抵抗して高校生活を棒に降る気はない。 せめてもの意地で、若干強めの口調になる。 「これでも俺は結構モテるんだ、小学生じゃあるまいし、手繋ぐくらい訳ない」 「成程、そんな自称モテる沢崎くんは当然童貞なんかじゃないですよね?」 …この女はどうしてこうまで人の奥を覗き込むんだ? 無言でうつ向いてしまった俺を見下すように笑いながら、それ以上言及する事はしなかった。 嬉しいような悲しいような…。 そんな俺をよそに、島村は慣れた感じで保健室を徘徊する。 勝手に持ち出していいのかわからないが、棚を開け中に収められている薬品等を凝視している。 見つめている物が薬品からなのかもしれないが、結構様になってるなと思った。 全体的に見れば肩にかからない程度のショートの黒髪だが、前髪が不釣り合いな程に長い。 ただでさえ縁なしで今時流行らなそうな大きいレンズの眼鏡をかけているのに、長い前髪が余計に表情を隠そうとしている。 しかし、何故かそれが俺視点からかもしれないが、物凄く似合う。 何と言うか、地味な意味ではなく”飾ってない”感じの顔にかなりそれがマッチしている。 そういえばこいつ、良く見ると化粧もしていない、それが妙な清潔感を生んでいる。 白衣でも着せたらきっとそのまま仕事出来るんじゃないか…? 「ありました!」 そう言って俺の方へ振り返りニコリと笑う島村。 こいつのこんな純粋そうな笑顔は今日の昼休み―つってもまだ昼休みだが―、俺の腕の傷が大した事ないってわかった時以来だな…。 同じ昼休み間なのに、その短い時間で随分と島村の本性を垣間見たからな。 そんな風に笑ってれば結構いける方だと思うんだけどな…ってそういえば腕の傷って…。 「それじゃ治療をしますか」 267 :上書き第5話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/17(土) 15 41 01 ID /Q0pBnTr そう言って島村は俺の右腕を掴んで自分がベッドに座る為にそこまで俺を引っ張った。 思い出した…首元に気を取られ過ぎてたけど、この腕の傷は純粋にかなりヤバいんだった。 思い出したら急に痛みを感じてきた。 島村の言った通り、早く治療しないといけない。 それにしても、さっきの白衣の妄想の続きだが、棚から取り出した消毒液を脱脂綿に染み込ませている姿を見ると、本当にナースのように見える。 まぁこいつは白衣を見に纏った悪魔なんだろうけど…。 「にしても、どうしてこんなに傷増えてるんですか?」 島村が俺の傷を不審そうに見ている。 しまった、言い訳を何も考えていなかった…。 こんなひっかき傷がどうしてつくのか…体育館裏で島村に言い訳を考えた時のように理由を探した。 しかし、今回はそれは無用だった。 「あっ!ごめんなさい。女子トイレで腕がこんなになる程何してたかなんて訊くのは失礼ですよね」 口さえなければ…と他人に本気で思ったのは初めてだ。 それで納得してもらえるならひとまず良かった…大事なものと引き替えにしてる気もするが。 「さ!これでよし」 脱脂綿に消毒液が十分に染み渡り、満足そうな島村。 まぁ今は素直に嬉しい、保健室の皺でクシャクシャの顔の婆さんにやってもらえるは断然いい。 そう思ったのも束の間、島村は何の前触れもなくいきなり脱脂綿を傷に当ててきやがった。 「痛ッ!」 液の染込む痛切な感覚に俺が腕を引っ込めると、その反応を島村は口に手を当て喜んでいた。 こいつドSだな…。 そんな俺の憶測―ほぼ正解だが―に拍車をかけるように、島村が何かを思いついたのか両手を叩いた。 目を細めこちらを見つめてくる…具体的な想像は出来なかったが、かなり嫌な予感がした。 「沢崎くん」 「な、何だよ?」 「第三の命令です」 そう言うと島村は人差し指を立て、俺の口元に持ってくる。 「これから私が言いというまで、一切声を出さないで下さい」 「…」 声を出さない…それに一体どんな意味があるというのか? それを訊かなかったのは今までのやり取りから、これからたとえ質問であろうと一言でも声を発すれば何を言ってくるかわからなかったからだ。 小学生みたいな考え方だが、今のこいつに対しては非常に有効だ。 「声を出したら…分かってますね?」 体育館裏で俺を問い質した時のあの試すような目線を送ってくる。 目を合わるのが怖く、下を向く事で安全圏に入る。 しかし、そんな俺の考えは甘かった。 「―――――ッ!」 寸でのところで出そうになる悲鳴を抑え込んだ。 後もう少し島村の力が強ければ情けない悲鳴をあげていただろう。 島村は、消毒液たっぷりの脱脂綿をやっと血が固まってきた俺の傷口に思い切り当ててきたのだ。 ガキじゃあるまいし消毒液くらいでなんかと思うかもしれないが、今の不意打ちは正直やばかった。 もし島村に対しての俺の印象が少しでも緩いものだったらそこから油断が生まれて、間違いなく終わってた。 「うふふ…面白い!」 含み笑いを続けながら俺の傷口に脱脂綿を当て続ける島村。 いくらやられるとわかっていても、やっぱり傷口への消毒液はかなり沁みる。 腕は当てられる度に震えてしまう、その反応が島村の加虐的な心を更に刺激して自らの首を絞める結果になってしまう。 そう分かっていても、声を止める事だけでやっとである。 「声…出しちゃったら楽だと思いますけど?」 甘い言葉を投げかけてくる…俺の自制心がみるみる内に崩れ去っていこうとする。 心の隅ではまだ島村に対して幻想を抱いているのかもしれない…白衣の天使だと思っているのかもしれない…。 数分前に受けた体育館裏でのあの屈辱的な出来事を思い出し、それを必死に物色する。 「我慢している時の誠人くんって可愛い…」 男なんだから可愛いと言われても全く嬉しくない、女に逞しいですねぇって言うようなものだ。 一瞬変な違和感を感じたが、繰り返し送られ続ける苦痛の電流を前に、そんな疑念はすぐ消え去る。 声を出させようとする島村と、必死に堪える俺との攻防は3分にも及んだ…。 268 :上書き第5話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/17(土) 15 43 00 ID /Q0pBnTr 『シュッ!』 最後の最後で島村は十分消毒し終えた俺の傷口を守る純白の包帯を、これでもかというくらいキツく締めてきた。 呻き声が漏れそうになるが、今までの苦労が水泡に帰してしまう事を考え、何とか堪えた。 巻き終えて少々不満そうな顔をしている島村、こいつに対して初めて勝ち誇った喜びを噛み締める。 「あ~あ、つまらないですねぇ。もういいですよ」 言葉の意味を3回くらい頭の中で確認し、本当に許しが貰えた事を理解し溜息をつく。 これでも男、女に一方的にやられるだけやられる訳にはいかない。 それでも主導権はあっちが握っている事を思うと、いささか良い気分にはなれない。 何となく思ったんだが、島村が満足する時って、俺は一体何をすればいいんだ…? 「それにしても保健室の匂いが染み付いてしまいましたね。私この匂い嫌いなんですよね」 「俺に対して言われても、あくまでお前の命令で連れてこられた訳だから、自業自得だろ」 「あら、私が誰の為にここに来てあげたとお思いで?」 一瞬俺の為かなんて思ったがそんな訳ないとすぐにその甘い考えを振り払う。 あそこまで笑顔で俺を痛みつけてきた人間が、俺の事を思い遣っているなんて到底思えない。 「俺の痛がる瞬間が見たかったからだろ?」 俺の言葉を聞くと、一瞬島村の顔の雲行きが怪しく見えた。 睨む訳でもない、何だか物悲しそうに見えたのは気のせいだろうか? 「まぁそれもありますけどね…」 やはりそうじゃないかと追い討ちをかけたかったが、これ以上言うと島村の逆鱗に触れそうな予感がしたのでやめておく。 別に怒っている風には見えなかったのに、何で俺は”逆鱗に”なんて思ったんだろう…。 数秒自問して答えが見つからなかったのでその問題を頭の中で吐き捨てる。 パッと見て分からなかったら飛ばせという先生の指示を忠実に従う受験生のようだった。 「さて」 沈んだように見えた島村はすぐにいつもの少々ニヤけたような表情に戻す、というか俺に昨日健気に謝ってきた島村はこんな表情していただろうか? 今更そんな事を思う。 目の前にはベッドの上で足を組み俺を頑張って見下ろそうとしている島村がいるというのに…。 「何だ?」 「この保健室はどうなっているんでしょうね。ピンセットも見当たらないなんて」 それはお前は保健室の住人じゃないんだから当然だろと思ったが、口には出さない。 むしろ消毒液や脱脂綿を見つけておいてピンセットは見つけられないなんて妙な話だ。 そんな事を思いながら島村を見ていると、第三の命令を下した時のように人差し指を突き出した。 今回も俺の口元に近づけたが、立てる事はなくまるで挿し込もうとしている…ってまさか…。 「という事で第四の命令、この指から消毒液の匂いが取れるまで綺麗に舐め取って下さい。脱脂綿に触れていたせいで大変な匂いですよ…」 予感的中。 この女なら言いかねないと思っていたが、良くもまぁ堂々とこんな事を命令出来たもんだ…。 その図を客観視して、物凄いヤバイんじゃないかと思った。 「それはさすがに…。誰かに見られたらマズイだろ?」 「沢崎くんに拒否権はありませんよ?」 俺の言葉を無視して、ほらほらと言わんばかりに頬を突付いてくる島村。 「でもよぉ…」 「別に構いませんよ?私は困りませんし」 ”バラされてもいいなら好きにしなさい”、脳内で後に続く文を付けたし、観念する事にした。 「わかったよ…」 その言葉を聞くと、島村は嬉しそうに指を動かす。 それにしても、指をくわえるなんて俺は小さい頃にもやった事がない。 ましてや他人、それも女のというのはかなり厭らしい気がする…。 それでもしなければならない、そう言い聞かせて俺は島村の細い人差し指を掴んだ。 「ん………」 この期に及んで、まだ抵抗感がある。 加奈以外の女の子に触れるなんて小学生のフォークダンス以来だ、しかもそれが指の消毒液の匂いを舐め取る為だなんて…。 自分の不幸を呪い、覚悟を決めた俺はとうとう島村の人差し指を口に咥える。 269 :上書き第5話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/17(土) 15 44 00 ID /Q0pBnTr 俺にはもう人としての尊厳とかはないのかもしれない…少なくとも、島村視点からすればそうなんだと思う。 「素直でよろしいですよ」 そう言って俺の髪を撫でてくる島村。 屈辱感の中に妙な快楽があり、流されそうになっている自分に叱咤する。 こんな事をするのは加奈へだけかと思っていたが、思わぬ伏兵がいたものだ…。 「…んっ………」 俺はただ口に咥えたままの状態で舌を動かしただけなのに、島村は恍惚な表情を浮かべ呻いていた。 俺そこまでの事してるか…なんて思いながらも、口に広がる消毒液独特の匂いが俺の思考を遮断する。 早くやってしまおう…そう思って早めにアイスバーを舐めるようにすると、島村の腕が一瞬反応した。 「あっ…」 馬鹿野郎、そんな色っぽい声出されたらどう対応したらいいのか分からないだろ? 微かに耳元に響く島村の声が、俺の脳の奥の奥を刺激する。 その甘ったるい声に恥ずかしい話だが、俺の”ナニ”まで反応してしまう。 これは酷い拷問だ、そう思いながらも徐々に真剣になっていってしまう…。 心の奥底で、”もっと”と思う気持ちが僅かでもあるという事に自己嫌悪を覚える。 人間の性とは恐ろしいものだ…そんな風に自分に呆れながら、個人的に背徳的な行為に浸りかけた………。 『ガラァッ』 「誠人くんいるぅ~!?………っえ?」 突如保健室のドアが開き、聞き覚えのある声が先程まで別の少女に魅了されていた耳を貫く。 その音に驚き、俺は慌てて島村の指から口を離した。 「か、加奈ッ!」 そこにいたのは加奈だった。 弁当を持っているところを見ると、どうやら俺を探していたようだ。 そういえば一緒に昼飯食うとか言ってたな、色々あって忘れてたっけ…でもそんな事はどうでもいい。 問題は”見られている”か”見られていない”かの一点につきる。 俺は頭の中で必死に「後者」を唱え続けた………島村の指と俺の口に、まるで”絆”のように繋がっている涎にも気付かず…。
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上書きのできぬ運命 2 「神子っ!!!」 二人が飛び込んだ海に追いかけるように白龍が駆け出す。 「白龍!!」 それを朔が追いかけ抱き締める。 「神子が……私の…神子が…」 大きな瞳に大粒の涙が溢れ出、流れ落ちる。 二人が沈んだ海面は望美の血で紅く染められていた。 その海面を見つめながら、朔も堪えていた涙を静かに流した。 望美…これが貴方の望んでいた未来なの? 皆を悲しませる未来を貴方は…望んでいたの? …いいえ、違うわよね? なのに…どうして…死を選ぶことしか出来なかったの? 命を投げ打ってまで生きて欲しいと願った相手は、貴方の願いを叶えてはくれなかった。 共に海へと沈んでいってしまった。 これは…誰の意思? ―――バッシャン!! 誰かが海へ飛び込む音が聞え、朔の思考は一旦途切れる。 視線を向ければ九郎とヒノエが海へ潜っていく姿が見えた。 どのくらい経ったであろうか白龍も朔も黙ったまま海面を見つめていた。 こうしている間にも戦は容赦無く続いている。 要の神子が消えて、源氏の将の九郎が海へ飛び込み源氏は不利な状況だった。 それでも、戦よりも何よりも皆の中で望美が優先だった。 あの強くも儚い少女を失いたくなかった。 うっすらと海面に人影が見え、ヒノエと九郎が顔を出した。 ヒノエの腕には望美が、九郎の背には知盛がいた。 急いで甲板に二人を寝かせると弁慶が脈を図る。 横たわる二人の顔に色はなく、まるで蝋人形のように見えた。 望美の体に流れる刀傷。 それは一見しただけでも致命的な傷だということが分かる。 朔は望美の手を握り締め祈った。 黒龍…お願い 今は居ない黒龍へ想いを叫ぶ 「望美を連れて行かないでっ!!!この子はここで死んではいけないの!!」 望美の隣に横たわる知盛に視線を向け 「望美は彼と共に…生きなくちゃ駄目なの!!」 妹の悲痛な叫びに兄、景時は朔の背をそっと撫ぜた。 「幸せにならなくちゃ…駄目なの…っ」 どうか、この異世界から来た白龍の神子を私の片割れを助けて… 必死に祈る朔の腕の中の白龍が力無く言葉を紡ぐ。 「…あぁ…神子の…氣が…」 「神子…の氣が……今…消えた」 絶望的な白龍の声を朔は静かに耳にした。 目の前が真っ暗になった。 この戦の行く末など、今ここにいる者達の頭にはなかった。 望美の横で微かに唸る声が聞えた。 皆の視線がそこへ集中する。 「――っがはっ」 望美が助けたいと、生きて欲しいと願った人物。 「知盛殿…」 苦しげに飲み込んだ海水を吐き出しながら紫の瞳がゆっくりと開かれる。 そして無意識になのだろうか、その手は何かを探すようにさ迷う。 その手を朔が取り、望美の手に重ねる。 探していたものを見つけたように、その手は望美の手を強く握り締めた。 BACK / NEXT 【 あとがき 】 んーどうなるんでしょうか? 書いている本人にも皆目見当がつきません。 長編になるかもです。 2005 07 17 名前 コメント
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728 :上書き第4話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/12(月) 19 53 37 ID laI97l2T マズイ、絶対にマズイ! まだ女子トイレ内にいる俺を見ながら固まっている島村。 状況を理解し切れていないのか、微動だにしない体に反し目がきょろきょろとしている。 それがせめてもの救いだった、この場で悲鳴でもあげられようものならその瞬間俺の高校生活は幕を閉じる。 軽蔑の眼差しを常に受けながら無視され続け、友達も思い出もないまま俺の青春が終わる。 そんな情景を思い浮かべて思わず身震いしてしまう。 絶対にそれだけは免れなければならない、俺はその一心で島村の左腕を掴む、加奈によって上書きされた右腕で。 痛みは先程より若干増しているが、それどころではない。 「えっ!?」 一瞬周りに誰もいない事を確認すると、驚く島村と顔を合わせないように前を向き、俺は掴んだ手を引っ張る。 とにかく今はこの場を去った方がいいだろう、島村が事を理解しない内に。 「ちょっと、どこ行くんですか?」 島村の言葉を完全無視して強引に連れて行く、人気のなさそうな場所へと。 729 :上書き第4話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/12(月) 19 54 52 ID laI97l2T 早走りさせる事数十秒、俺と島村は体育館裏にいる。 人気のない場所で体育館裏というのもベタだが、ここより安全なところはそうないだろう。 とりあえずここなら誤解を解く前に叫ばれても誰にも聞こえない。 息切れしたのか、胸を押さえて俯いている島村。 表情が読み取れない事に不安を覚えつつ、その思いを振り払う。 今は一刻も早く説明をしなければならない時だ。 「島村…」 返事はない、というより出来ない様子だ。 どうやら無意識の内にかなり走らせてしまったらしい。 僅かに覗く島村の眼鏡の縁が光っているのが妙に気になりつつ、もう一度呼び掛けようとした。 しかし、俺の声は突如顔を上げた島村の言葉に遮られる。 「…変態………」 思い切り胸に突き刺さった。 まだ肩で呼吸している島村のまじまじと俺を見つめる、もとい睨む目線がかなり痛かった。 何となく驚いた、俺は島村とはほとんど面識はないが、結構おとなしめの子だろ思ってた…そりゃ昨日は突然叫び出したりしたけど、それを入れたって信じられなかった。 島村が、こんな相手への尊厳をまるでなくしたかのような視線を送れるなんて事が…。 こんな対応をされるなら、まだ泣きながら発狂された方が何倍もマシだと思った。 しかし、もっと驚いたのはこの後だ。 「なんですね、沢崎くんって」 突然島村が笑顔になったのだ。 さっきまで幻滅したと言わんばかりの表情だったのに、突然手の平を返したように明るくなった。 何が何だか分からないが、とりあえず島村の言葉は否定しなければならない。 「ち、違うんだ島村っ!」 「何の前触れもなく女子トイレから出てきた男のどこが変態じゃないんですかね?」 こいつ…昼飯前までは散々俺にペコペコ頭下げてたくせに、急に偉そうになっていやがる。 いや、俺が悪いからなんとも言えないんだけれどもさ…。 最初こそ暗かったものの、島村は今はくすくす笑っている…女子トイレから出てきた男がそんなに可笑しいのか? 「これにはなぁ、色々と訳があってだなぁ…」 「訳ってどんな訳です?相当な理由でないと私は納得しませんよ?」 730 :上書き第4話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/12(月) 19 55 39 ID laI97l2T 試すように俺の顔を見つめてくる島村…俺の考えを読み取ろうとするかのようにジッと視線を外そうとしない。 困ったな…素直にそう思った。 本当の事は口が裂けても言えないし、かと言って相当な理由なんて即興で思いつくはずがない。 女子トイレから出てきて許されるのは小学校低学年がいいところだ。 声変わりもした男臭い高校生が女子トイレから出てきて正当化される理由って………? 先生から何かしらの罰で掃除してたってのは先生に訊けばすぐバレるし、落し物したって言ったって俺は今ペンの類を持ち合わせていない。 妙な予感がしてなんてのはどうだ!………いや、変態プラス電波ってレッテルを貼られてしまう。 女子トイレのタイルを急に舐めたくなって…って落ち着け俺! どんどんおかしい方向に行っている事にいい加減気付け、とにかく…とにかく………。 「やっぱり、理由もなく女子トイレに入ったって訳ですね」 俺が押し黙っているところを島村が追い討ちをかけてくる。 何故だか楽しそうにしているのが腹が立つ…でも、言い逃れは出来ない。 「いや…その………」 「見苦しい言い訳は結構」 ビシッと俺の事を指差す島村、完全に形勢逆転してしまったな…始めっから不利な状態だったけど…。 「私、言い訳する人は好きじゃありませんね。素直に謝ればとりあえずは誰にも言いませんよ?」 言い訳うんぬん以前に女子トイレから出てくるような男を好きになる女なんて天然記念物並の希少な存在だろ、と思ったが口には出さなかった。 ”とりあえずは”というのが引っ掛かったが、今は謝罪する他ない。 「す、すまないっ!」 プライドは捨て自分より小さな少女の前に跪き、土下座をする。 頭を地面に擦り付けないのはちっぽけな意地だ。 「謝ったって事は、認めるんですね?”入りたくて女子トイレに入った”って事を」 一瞬反論しようとしたが寸でのところで思い止まった。 今は感情的になってはいけないと必死に自分に言い聞かせる。 この場はもう島村が主導権を握ったと言っても過言じゃない。 「返事は!?」 「…は、はい………」 生まれて今までで多分一番の屈辱だったと思う。 別に男尊女卑の気なんてないけど、やっぱり女に頭を下げるのは抵抗のある事だ。 それでもこれで許してもらえるなら…と思っている自分が悔しい。 731 :上書き第4話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/12(月) 19 56 26 ID laI97l2T 「はぁ…まさか沢崎くんがそんな事する人だったとは…」 わざとらしく溜息をつく島村、頭は下げたままの状態だからはっきりと表情は読み取れない。 「いつまで土下座してるつもりですか?」 許しの印かと思い頭を上げようとすると、後頭部に衝撃が奔った。 思い切りのある力に今度は地面に擦り付けられてしまう。 何事かと思って視線だけを見上げると…一瞬信じられなかった。 あんなに謙虚な態度の…まぁ俺がそう思っていただけかもしれないが、その島村が俺の頭を靴で踏みつけているのだ。 「誰がやめていいと言ったんです?」 もう俺は島村の事が分からなくなっていた…それは確かに島村の事は昨日の事があるまでは名前しか知らなかった。 特に関わりがあった訳でもないから何とも言えないのだが、土下座した人間を踏みつけられるような女が同じクラスにいた事が信じられない。 「ま、それは冗談として…」 呆気に取られている俺をよそに、島村の足の力が緩む。 何となく未だに不安で島村の顔を伺っていると、手を微妙に上げる動作をしてきた。 どうやら、これで本当に許してもらえたようだ…と思ったのは俺だけだった。 「じゃあ、俺はこれで」 「待って下さい」 立ち上がって即座にこの場を立ち去りたかった俺の動きを言葉で制す島村。 丁寧語だが俺には明らかに命令口調に聞こえる、勝手にそう脳内変換されてしまう。 俺のこいつに対しての印象はどうやら180度変わってしまったらしい。 「本当に謝罪の意があるなら、態度で示すべきだと思いませんか?」 「だから土下座したんじゃ…」 「別に沢崎くんが土下座したからといって私が得をした訳ではありません」 「そりゃそうだけど…」 物凄く嫌な予感がした。 こういう時、大抵パターンは決まっている…でも、まさか島村に限って…有り得るな。 心の中を絶望感が支配する中、予想通りの事を島村は口にした。 「これからしばらくは私はご主人様、沢崎くんは奴隷ね」 笑顔で肩を叩きながらまた試すような視線を送る島崎。 逆らったら皆にバラすとか言うんだろうな…ある意味もう終わったと言っていいな…。 「”しばらくは”って、いつまでだよ?」 「私が満足するまでです」 当然といえば当然の返答…まぁ島村が満足すれば俺の高校生活はとりあえずは安泰になるんだ…安く思おう…。 こんな事考えるなんて、きっともう感覚が麻痺してしまったんだろうな。 732 :上書き第4話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/12(月) 19 57 08 ID laI97l2T 「分かったよ…」 「それじゃ早速、一つ目の注文」 「もうかよ…」 意気消沈する俺…でも覚悟は出来ている、どんな理不尽な要望でも了承する覚悟はある!…女子トイレ入る以外ならな。 「一歩こっちに来て下さい」 腕組をしながら命令する島村に、情けないほどげっそりとした俺は渋々一歩前進する。 ぶたれるのかな…なんて暗い想像をしていた。 「まずは”首輪”を付けないといけませんね…」 そう言った瞬間、島崎は俺の首を掴んで思い切り引き寄せてきた。 あまりの勢いに、倒れそうになる俺を島村が支えたかと思うと、首元にひんやりとした感覚が奔った。 変態と言われた時よりも…軽蔑の眼差しを送られた時よりも…踏みつけられた時よりも…多分一番驚いた。 島崎が俺の首元に自分の唇をつけてきていたのだから。 抵抗する気力も起きない…というかどこから抵抗したらいいのか分からなかった。 俺が想定していた光景とはあまりにもかけ離れている、何の脈絡もないこの行動に俺は何も言えずにいた。 茫然自失の俺を置いてきぼりにしひたすら首元を蹂躙している島村。 永遠にも感じられた何十秒の後、ようやく島村は唇を離した。 「これで良しっ!」 満足そうにさっきまで繋がっていた部位を見つめてくる島村。 心なしか、濡れているその部位から唾液の香りまで漂ってきそうだ。 ようやく意識を取り戻した俺は、同時に恐怖を覚えた。 「おまっ、まさかつけたのか!?」 頼むから否定して欲しかった…そんな俺の期待虚しく、島村は笑顔で言い放つ。 「勿論、くっきりとキスマークついてますよ」 その言葉を聞いた瞬間、最悪の未来像が俺の頭の中を駆け巡った。 「さ、これで第一の命令はお終い。第二の命令は一緒に保健室にくる事です」 そう言って島村は最初とは逆に俺の腕を掴み引っ張った。 しかし、そんな事は今の俺にはどうでもいい事だった…頭の中にはもう最悪の想像しか浮かばない。 (もしこいつが、加奈に見つかったら………俺は…)
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659 :上書き第3話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/11(日) 20 15 22 ID AcKNDcu5 ――――――――――――――――――――――――――――――― 「それじゃ!」 そう言ってあたしは誠人くんと別れた。 本当はもっと一緒にいたいけど、クラスが違うから仕方がない。 普通恋人同士なら、学校でも一緒にいたいって気持ちは普通だと思う。 だけど誠人くんは違う。 ”お互い学校での付き合いってのもあるだろ”と極力会わない様に仕向けてくる。 あいさつは勿論交わすし、時々は一緒に弁当食べてくれたりもしてくれるから誠人くんがあたしを好きでいていくれるのはわかるけど、 でもやっぱり足りない。 あたしにも友達だっているし、友達と話してたりしている時は楽しけど、誠人くんと一緒の時間に比べれば他愛ないものだ。 誠人くんと一緒にいられるなら他に何もいらない、そう思っているけど誠人くんは”今しかできない事”を全うしたいらしい。 本当はもっと恋人らしい事をしたい、もう付き合い始めて八年にもなるんだ。 そう思うのはおかしい事じゃないはず、誠人くんにもそう思って欲しいのにな…。 660 :上書き第3話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/11(日) 20 16 28 ID AcKNDcu5 昼休み、あたしは隣のクラスへと向かう。 四時間目の授業の時、誠人くんとメールしてお昼を一緒に食べる事になったのだ。 誠人くんとのお昼は久しぶり、承諾してくれるか不安だったけど何の問題もなく了承してくれた。 弁当箱を大事に抱えながら、軽くスキップする。 誠人くんはやっぱり優しい。 確かに微妙にすれ違っていたりはするけど、誠人くんはあたしを愛してくれている。 今はそれだけでいい、誠人くんがあたしのものだけってわかれば何でも我慢できる。 そんな事を思いながら教室へ入ると、誠人くんが誰か女子と話していた。 あたしに気付いていないみたい、ちょっと脅かしてやろう。 そんな悪戯心で足音を立てず誠人くんにそっと近づくあたし。 誠人くんの背後まで忍びよっていって、いよいよびっくりさせてやろうとした時、突然誠人くんが制服の上着を脱ぎ始めた。 「な?大した傷じゃないだろ?」 ………傷?どういう事?そんなもの昨日はなかったはず…あっ、そっか。 誠人くんいつも上着着てたから、見えなかっただけか…てそんな事はどうでもいい…それ何の傷? 「…良かった………」 誠人くんと話していた女子が胸を撫で下ろして安堵の表情を浮かべている………誠人くんが傷を見せてそれでこの女が安心する理由って……… そんなの一つしかない! 瞬間あたしは誠人くんの傷のある右腕を掴む。 弁当を落とした事なんかどうでもいい。 また付けられた、また汚された、あたしだけの誠人くんが、他の人にっ! あたしがいる事に気付いた誠人くんが見上げてくる。 心なしか、何だか怯えているように見えるけど…そんな事どうでもいい。 早くこの傷”上書き”しなきゃ!、その思いだけがあたしを支配している。 冷静でいられず手が震える…早く!早く! 「ちょっと来て」 あたしは腕を掴んだまま誠人くんを強引に椅子から引き上げる。 早くしないと、あたしだけの誠人くんが汚れていっちゃう、早く早く早く!!! 661 :上書き第3話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/11(日) 20 17 34 ID AcKNDcu5 勢いに任せ女子トイレに入って行く。 「おい!加奈ここ女子トイレ…」 誠人くんの言葉を無視して一番遠い方の個室に押し込める。 今どんな顔してるのかわからないけど…誠人くんやっぱり怯えている。 ごめんね…でもこうするしかないの! 「誠人くん…」 子供のように弱々しい目の誠人くんを一瞬だけ安心させるためにあたしは誠人くんにキスをする。 呆気にとられている誠人くんをよそに舌も入れてみる、こんなの初めてだった。 人形のように動かない誠人くんの口の中をひたすら貪る。 絡めた舌がありえないほどの熱気を帯びている、すごく興奮する…。 ありたっけの唾液を吸い尽くし、やっと口を離す。 あたしも誠人くんも息が荒い。 目を合わせるのが恥ずかしくなり俯いてしまう、誠人くん今どんな気持ちなんだろ…でも、今はそれどころではない。 「あたし…誠人くんが好き」 確認を要求してあたしは言う。 いい答えを期待して必死に笑っているけど、ちゃんと出来てるか不安…。 「俺もだよ…!」 良かった、ちゃんと笑えてた。 良かった、誠人くんはまだあたしの誠人くんだ。 「ありがとう…。でも、あたし短気なのかな…?他の人に誠人くんを触らせたくない。 その傷が…他の人が誠人くんに触れた証拠があるのが耐えられない! そんなの見てるとあたし壊れちゃうよ!!!」 さっきまで押さえ込んでいた感情が爆発する、もう駄目だ、限界だ。 誠人くんの右腕にある傷、誠人くんを蝕もうとしている諸悪の根源! それを見つめながら、一歩だけ後ろに下がる。 「…ハハ…こんな、こんな傷があるのがいけないんだよ…?あたしも誠人くんも悪くない…”この傷”がいけないんだよ!?」 そう、あたしは悪くない、誠人くんも悪くない、この傷なんだ! あたしの誠人くんを”他の人が触れた”という事実で汚そうとしているこの傷がいけないんだ。 こんなものさえなければ、いつものあたしでいられるのに………この傷が! あたしは我を忘れ、その傷を引っ掻き始める。 瘡蓋が剥がれるけどまだ駄目だ、まだ根は潰し切っていない。 もっと深く、根から摘み取ってやらなければならない! そうしないと幾らでも再生する…二度と寄生しないように、奥の奥まで抉り取ってやる! 誠人くんが悲痛の叫びをあげている、痛そう…ごめんね。 でも、大丈夫だよ…もうすぐ終わる…。 「大丈夫大丈夫大丈夫…すぐに消えるから………傷も、痛みもすぐに消えるから!」 子供をあやすように優しく囁く、その声は誠人くんの悲鳴によってかき消されていった…。 662 :上書き第3話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/11(日) 20 18 19 ID AcKNDcu5 あたしの爪から指にかけては血だらけだ。 それはあたしが傷を上書きしてあげた証、これで良かったんだ。 誠人くんは確かに痛い思いをしたけど、そうしなければあたしだけの誠人くんじゃなくなってた。 あたしたちの仲を取り持つにはこれしかなかったんだ…。 「痛い?誠人くん…ごめん………こんなあたしでごめん…」 それでも罪悪感は感じる、他に方法がないとはいえ、こんなに誠人くんは血だらけになっている…。 呆然としている誠人くんを見つめながら、何度も許しを乞う。 「あたしが弱くてごめん…。ホントごめんなさい!あたし誠人くんが好きなの!好きで好きで…ごめんなさい…」 嫌われたくない! 伝わって欲しい、流れる血はあたしの誠人くんへの想いだって…。 さっきまで無言だった誠人くんがようやく口を開く。 「き、気にすんな。俺も怪我しないように気をつけるから」 分かってくれた、あたしの想いを分かってくれた! 自然に笑顔がこぼれてしまう。 許してきれてありがとう…誠人くんも同じ気持ちなんだ、きっと! 朝はちょっと不安だったけど、やっぱり誠人くんはあたしのもの。 何者にも汚させはしない、絶対に。 その為なら、何だってするから、安心してね…誠人くん。 ――――――――――――――――――――――――――――――― 663 :上書き第3話 ◆kNPkZ2h.ro [sage] :2007/02/11(日) 20 18 57 ID AcKNDcu5 「動ける?」 加奈は誠人に手を差し伸べる。 「あぁ…ちょっと保健室行って来くるから、先食べててよ…」 「あ、そっか!弁当食べるんだ…って弁当!?」 加奈はようやく誠人と一緒に食べるはずだった弁当の事を思い出す。 「あたしどこに置いてきちゃったっけ?」 焦って問い詰めてくる加奈を笑いながら誠人は頭を左手で掻く。 「教室の俺の机んとこに落としてたよ」 それを聞きホッとする加奈。 そんな加奈に一安心した誠人は、右手の傷口をハンカチで押さえながら立ち上がった。 痛みはさほど感じていない、もう慣れたようだ。 「あっ、あたしも一緒に保健室行くよ!」 「何言ってんだよ、俺の事より弁当を保守しときな」 誠人の事に気をとられ、またしても弁当の存在を忘れていた加奈が口に手を当てる。 数秒心の中で葛藤して、頭を下げる。 「ごめんね、待ってるから」 そう言い残して加奈は去っていった。 取り残された誠人も出て行こうとした時、かなり重大な事に気がついた。 「おい…嘘だろ…?」 認めたくない事実に、もう一度座り込みたくなってしまった。 「ここ女子トイレじゃねぇか…」 そう、誠人が今いるのは女子トイレ、男子禁制の場所だ。 それを理解して急に押し黙ってしまう誠人。 (物音一つだって立てられない…) さっきまで大声で喚いていた人間が考えるとは思えない事を考えている。 (万が一出て行こうとした時に誰か入ってきたら…俺は卒業まで変態として避けられちまう…) 沈み込む誠人、こんなんなら加奈と一緒に出ればよかったと後の祭り尚且つ筋違いな事を思う。 (で、でも、慎重に行けば多分…どの道次の授業までには出なきゃならないんだ!) 誠人は意を決した。 強い決心の割りにはゆっくりと扉を開ける。 誰もいない事を二回も三回も確認する、青信号の状態で三回確認してから渡る子供のように。 (よしっ!) 誠人は一気に女子トイレを出ようとする、焦る気持ちを何とか押さえ込む。 (もうちょいもうちょい!) 本当にもうすぐのところだった、しかし不運な事に誠人は遭遇してしまう。 「さ、沢崎くん…?」 「なっ!島村…」 二人の間に重苦しい沈黙が舞い降りた。
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上書きのできぬ運命 何度逆鱗を使って運命を書き換えようとも、彼の死を阻止する事ができない。 こんなにも…救いたいのにっ…死なせたくないのにっ!! 何度も何度も、彼が海へ身を沈める事を止める事が出来なくて… 望美はその度に胸の奥に小さな針が刺さる感覚をおぼえる。 この戦で流れた血。 それを望美は嫌というほど、この時空に飛ばされてから見てきた。 どうして人は戦を起こすのだろうか。 誰もが幸せになれるように…そう願わずにはいられない。 そして、胸に広がる彼への想いもまた…望美を苦しめる。 この苦しい想いを受け入れた自分。 それゆえに、この運命に逆らいたい。 例え、想いが…届ける事が出来なくとも。 生きていて欲しい。 望むのはそれだけ。 どうか…生きて… 「クッ…待っていたぜ、源氏の神子」 「知盛さん…」 嬉しそうに自分との戦いを望む瞳。 自分はそれに答えなくてはいけない。 「俺を、愉しませてくれよ」 「…っ」 知盛の真っ直ぐな眼差しが望美を射抜く。 動けなくなる。 そんなに真っ直ぐな瞳で見つめないで。 私は今から貴方を愉しませる事とは逆の事をしようとしているのだから。 まるで舞を舞っている様な望美の剣舞。 それを愉しそうに瞳を細め受ける知盛。 「お前だけが、俺を愉しませてくれる」 本当に愉しそうな知盛の表情。 でも、貴方を生かす為に私はその表情を崩させてしまう。 ごめんなさい… 貴方を死なせる事は出来ない。 知盛が大きく剣を振り下ろす。 その太刀筋を望美は避けることなく、受け止めた。 ―――ザッシュッ!!! 「―――っ!!」 望美の身体に肩から腹部にかけて一つの流れる大きな線が出来る。 辺りには深紅の液体が飛び散り、望美の身体を染めていく。 「神子っ!!!?」 白龍が望美の元へ駆け寄ろうとするが、それを望美が止める。 「白龍…こないで…」 その声はか細く、今にも消え入りそうで… しかし、そこに望美の強い意志が込められているのも感じ取れた。 「何故…わざと受けた?」 知盛の声には怒りが込められている。 「…」 「お前なら…避けられていたはずだろう?」 望美は微笑んだ。 苦しいだろう、その状態にも関わらず微笑んで…。 「もう…貴方が海に身を投げる姿をみるのは…我慢…で‥きな…い」 上がる呼吸が望美の状態の悪さを感じさせる。 「平家‥とか源氏とか…関係な‥く…人が目の前で死んで…いく‥のが嫌な…の」 「綺麗事…を」 「うん…分かっ‥て…る」 それでも、と言葉を紡ぐ。 「私は…貴方を……死なせた…くない」 「どうせ平家は滅びる。死ぬ事も怖くなどない」 「それでも…私が…嫌だ‥か…ら」 傷口からはとめどなく血が流れて。 望美の倒れている地面に大きな染みを作っていく。 「敵に情けなど‥」 「そんなん…じゃ‥ない…よ」 知盛の瞳は反らすことなく、望美を見つめ続けている。 「私…貴方が…知…盛さん‥が好きだ‥から」 その言葉に、知盛の瞳にわずかにだが驚愕の色が見える。 「愛しい人に…死んで欲しいなんて…思わな‥い」 望美の力なき腕が知盛へと伸ばされる。 しかしその腕は空を切り、地面へと落ちる。 「私の…我侭‥なの…で…す…っ」 望美の両目から熱い雫が溢れ出す。 涙で視界が歪む。 それでも、望美は瞳に知盛の姿を焼き付ける。 「…」 愛しい眼差しで、知盛を見つめ微笑む。 「どうか…生きて‥くだ…さ…い‥」 精一杯の願い。 それは知盛の生。 涙を流しながら自分を見つめる望美を見ている事が出来なくなる。 そんな顔で…声で… 慈しみを込めた想いが…知盛の胸に響く こんなに他人に想われた事などあっただろうか… 親以外の人間に… 多分、望美が初めてだろう。 戦の中でしか愉しみを見つけられずに居た自分。 しかし、望美に出会って彼女と剣を交える事がどんなに心踊っていただろう。 考えるは、望美の剣舞。 それを思い出すたび、心の奥底で何かが燻っていた。 「…」 知盛は反らした瞳をまた望美へと向ける。 そこに映るのは、今にも消え逝きそうな姿。 「かはっ…!」 口から血がこぼれだす。 知盛の心が震えだす。 望美を失ってしまうという恐怖に。 「っ!!」 横たわる望美を腕に抱き、白龍の元へと歩み寄ろうとする。 しかし望美は首を緩やかに振る。 自分はもう、助からないと… そう瞳が告げていて… そんな望美に知盛は痛みに耐えるような表情を見せ喉に詰まる声を絞り出す。 「俺の愉しみが消えてしまったら…どうすればいい?人には死ぬなと言っておいて…お前は逝くのか?」 知盛の大きな手が望美の頬に触れる。 そっと撫でれば望美の瞳からまた大量の雫が溢れて。 「この胸の燻りが何なのか分からないが、お前を失うのは…嫌だと…胸が痛む」 痛々しい知盛の瞳が望美を見つめる。 ゆるゆると望美は手を伸ばし知盛の頬に触れ微笑んだ。 しかしそれは一瞬の出来事。 すぐに手は重力に従い、垂れ下がる。 「…源氏の‥神子?」 呼びかけるが、返事はない。 「…いつも‥そう…なんだ」 掠れた低い声が波の音に重なりながらも聞こえてくる。 「俺は…失ってから…気付くばかりだ」 知盛の瞳から一筋の涙が流れた。 「…敵としてではなく、ただの男と女として…出会いたかったものだな」 少しずつ冷たくなっていく望美の身体を優しく抱き締め、頬をよせる。 「これが、愛しいというものなんだな…望美…」 そんな知盛の姿を八葉は無言で見つめる事しかできず… ―――ドボンッ!!! 望美を抱いたまま、知盛は海へと消えていった… 生きて欲しいという望美の願いは…叶わず。 NEXT 【 あとがき 】 うわー、痛い痛い _| ̄|○ ごめんなさい…こんなはずj(ry プレイもしたことないのに書いてしまいましたねぇ。知盛×望美ファンの方から見たらきっと『違う!』 とか言われそうな予感が…。 自己満足なんで許してくだされ! 2005 07 17 名前 コメント