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Ryou氏の短編シリーズ、小さな島の大きな物語シリーズの第3弾。Ⅰ,Ⅱと比べて武将数が増えているが、守備兵は少なめに設定されている。 シナリオ概要 あの短編シリーズの三作目です。 やはり簡単にどこでもクリアーできるので、初心者の方にもオススメです。 (OPメッセージより引用) 入手先 戦国史旧作シナリオ復興委員会 備考 シナリオデータ シナリオ名: 小さな島の大きな物語Ⅲ 作者: Ryou 現バージョン: - 最終更新: - 動作環境: SE○ FE○ 旧× 規模: 大鳥島(架空) 開始年月: 2007年5月 大名家数: 28 城数: 28 武将数: 122 攻略難易度表(難 S ~ F 易) S A B C D E F キャプチャ画像 リプレイサイト 関連項目 小さな島の大きな物語 小さな島の大きな物語Ⅱ 以下、加筆求む
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(投稿者:神父) 「……見事に、完治しておりますな」 年老いた主治医が、これ以上ないほど言いにくそうに呟いた。 「だから言ったろう、一ヶ月より先に退院すると」 それまで傷だらけの裸体を曝しておとなしく診察を受けていたイェリコは薄い胸をそらし、満足げに言い放った。 隊員として立ち会っていたロッサが肩をすくめる。 「それ、私が言ったんじゃなかった? しかも内容は脱走―――」 「ええい余計な事は言わんでいい。ともかく二週間で完治したんだぞ、ちょっとした記録じゃないか」 先ほど主治医が言ったように、イェリコの負傷は完治していた―――全治一ヶ月のところを、その半分のわずか二週間で。 「そのうち技術部かEARTHあたりの連中が大挙して押し寄せてくるんじゃないかしら。あなたの身体、どう考えてもおかしいわよ」 「この程度、大した事もあるまい。そんな事より早いところ出撃したいものだ……が、例の新装備はあと半月後ときた。困ったものだ」 「新装備? 何それ、初めて聞いたわよ。もしかして、飛行場で山のように武器を積み上げていたのはそれで?」 「何!?」 ヘッドボードに寄りかかっていたイェリコが勢いよく身を起こした。 ロッサがぎょっとして身を引いたが、彼女はそれに気がつく様子もなく立て続けに訊ねた。 「飛行場だと? 積み上げていたとはどんな武器だ? その武器で一体何をしていたかわかるか?」 「ちょ、ちょっと、そんなにいっぺんに聞かれても答えられるわけないじゃないの」 「貴様には修行が足りん、修行が。……まあいい、飛行場にいけばわかる事だ」 言うが早いかイェリコは新調した飛行服に着替え、これまた新造されたチタン製義足を取り付け始めた。 それまで装着していた義足はプレス鋼鈑の規格品だったのだが、彼女が新品を要求したところ、皇帝が即座に特注品を用意したのだ。 MAIDを愛する皇帝ならでは……と言うべきだろうが、実のところ最新鋭の技術であるチタン加工の実践という目的もある。 彼女に実地で使わせてみて、何か問題がないかを検証しようというのだ。 ちなみに機械義足を白竜工業に作らせようという案もあったのだが、高精度な製品は壊れやすい上にコストが引き合わない、という意見によって立ち消えとなった。 彼らは零細の町工場であるために、費用対効果という面での競争力はないに等しい。兵器とはただ紙の上での性能が高ければよいというものではないのだ。 そもそもイェリコの義足は本来、機械義足ですらない。彼女にとって、義足とは強度さえあれば動こうが動くまいがどうでもいいものだった。 ……実際のところ、彼女の義足の扱いは言語道断のとんでもないもので、最低限のクリーニングすらせずに泥と砂塵にまみれた戦線を走り続け、 構造強度を無視した急降下飛び蹴り―――としか表現のしようがない―――を日常茶飯とするような顧客は白竜側も望まないだろうとする危惧もあった。 「で、退院許可を待ってる暇がないから私に手続きを代われって言うんでしょ?」 「ほう、流石、わかってるな」 「まあね。じゃ、いってらっしゃい。私も後で見に行かせてもらうわ」 ロッサがひらひらと手を振り、病室の窓から飛び出したイェリコの背中を見送った。 それまで肩を落として沈黙していた主治医が目をむいて「なんと!?」と叫んだが、ロッサはまったく落ち着いたものだった。 ちなみにこの病室は建物の四階にあり、イェリコは飛行に不可欠な義翼を持たずに飛び降りた。そもそも義翼は病室まで送られていない。 「見物などしている暇があったら出撃せんか、馬鹿者!」 眼下12mほどの距離から罵声が届き、ロッサはのんびりと窓際に歩み寄った。 下を見ると、正門へ回る手間を惜しんだイェリコが三段跳びの要領で病院の塀を飛び越えたところだった。 「本当に元気ねえ。半月前はあんなにがっくり来てたのに。……多少元気がない方がよかったんだけど」 主治医は彼女の不謹慎な独り言を咎めようともせず、ただうなだれ、力なく首を振っていた。 SS本部には飛行場と滑走路の他、簡単な射爆場が併設されている。航空機や戦車による本格的な演習に使うわけではない。 MAIDが使う武器の威力は大抵の歩兵火器よりも上であり、普通の射撃演習場では危険があるためにスペースを広く取ってあるのだ。 その射爆場に、雑多な武器───と呼んでいいのかどうか怪しいものも含め───が積み上げられていた。 ハヴとシャムレットが副隊長のゼッケを前にあれやこれやと文句を垂れている。 「……で、そんなわけでこんな日中からひと風呂浴びる事になって」 「あいつらトマトと卵なんてベタなもん投げつけてきたんだよ? ひどくない?」 「食べ物を投げるなんてもったいないわ、本当」 二人を前に、ゼッケはいささか困惑していた───無理もない。 ハヴはいまだに斗国語の単語を修得しきっていないおかげで発言が要領を得ず、 シャムレットはそもそも頭の中身からして要領を得ないのではないかと彼女は思っていた。 ともかく何故か湯上りのさっぱりした顔で滑走路をうろついていた二人を捕まえて問いただしてみたところ、なんでも食堂で兵士とひと悶着起こしたらしい。 順を追って説明すると以下のようになる。 昼食を終えたハヴが空腹に耐えかねて厨房から適当な食べ物を失敬しようとしたところ、シャムレットが好奇心からそれについてきた。 当然の事ながら、二人は料理長に見つかった。 ここからが問題なのだが───料理長はシャムレットの姿を認めるや否や、「動物は出て行け」と怒鳴ったというのだ。 もちろんシャムレットは怒った。が、興奮して耳と尻尾を飛び出させたのがまずかった。 厨房にいたほかの人々がやってきて、「猫毛なんて冗談じゃない」「ノミを撒き散らすな」と口々に叫び、手当たり次第に食材を投げつけた。 そして、ハヴがトマトの直撃を顔面に受けたところで二人は逃げ出した。……ハヴによると、そのトマトはとても甘く美味だったそうである。 ゼッケは眉間を揉み、そもそも厨房に入り込んで食い物を失敬しようとは何事かと頭ごなしに叱りつけたくなるのを押さえた。 何せハヴは彼女より二年ほど年上だし、シャムレットも同年生まれなのだ。あまり強くは出られない。 「……まあ、厨房は清潔が第一だからな。その翼では仕方なかろう」 「ぶー。ノミなんているわけないのに。ゼッケもあいつらの肩を持つのぉ?」 「ねえ、副隊長。もしかして何か食べるものを持ってたりは……」 ゼッケはほとんど反射的にポケットから粒チョコレートの缶を取り出し、ハヴの手がひったくるに任せた。 ハヴと一緒にいるといつもこうなのだ。元々あまり甘いものが好きでなくて良かったと、ゼッケは心底から思っていた。……そのまま話を続ける。 「いや。そもそも亜人は少数人種だし、我々はMAIDだ。人々に好意的に接してもらえるなどと期待するべきではない。 ……肩を持つ、持たないの問題ではない。これは我々が生きている時代の問題なのだ」 「うーん? ……よくわかんないや。とりあえず厨房に入らなければいいんでしょ?」 「まあ、細かい事を抜きにすれば、そういう事になるな。……ところで、暇か? 時間があるならば、少し手伝っていってもらいたいのだがな」 「なぁに?」 「何なの?」 二人が同時に聞き返した。どこも似ていないように見えるが、これで案外似合いなのかもしれない。 ともかく、ゼッケは腕を振って武器の山を示した。 「これの試験だ。いや、試験と言うには若干いい加減だが……要するに、ここにある武器すべてについて、使い勝手がどうなのか、判断してもらいたい」 「全部って……全部? あの、ここに山になってるこれ全部?」 「ああ、そうだ。私だけでは間に合わん。こんな時にノインの奴は一体どこをほっつき歩いているのやら……」 「……なんか面白そう!」 と、新しいものがあるとすぐに飛びつこうとするシャムレットが武器の山を掘り返し始めた。 本当に様々な武器がある……これらすべてがSS技術部の試作品なのだから、彼らの暇さ加減が知れようというものだ。 「何これ……わ、重っ!」 シャムレットが木箱に納められていた何かを引っ張り出した。それは見たところ対G地雷を連結したもののようで、片端に鋼製のグリップがついていた。 木箱には「KMi44 KettenMine」という字がステンシルで大きく書き込まれている。 「連鎖( ケッテン )……地雷( ミイネ )? 使い方は……えーとぉ」 連結された地雷をずるずると射爆場の中へと引っ張り込み、シャムレットは移動標的のあるラインへ入った。 ゼッケがその背中に声をかける。 「いきなり動目標か? まあいい、スイッチを入れるぞ」 「はぁい。えっと、安全ピンを抜いて……」 若干おぼつかない手つきでシャムレットがグリップに差し込まれていたピンを引き抜き、レヴァーを握り込んだ。 後はグリップを放せば、時限信管が作動する仕掛けになっている。つまり、このわけのわからない武器は投げて使うのだ。 移動標的がシャムレットの方へじりじりと近づき始めた。 「さぁ来ーい! 戦い方をぉ、教えてやるぅ!」 ……ゼッケにもハヴにも意味のわからない掛け声とともに、シャムレットは勢いよくKMi44を放り投げた。 実に120kg近い巨大鉄鎖を投げ飛ばせるのは、彼女がMAIDだからに他ならない。とはいえ、彼女にとっても限界に近い重量だ。 鉄鎖は丸太を束ねた移動標的に絡みつき、半秒の後、炸裂した。 「にゃっ!?」 「きゃあ!?」 「ぬおう!?」 三者三様に驚きの声を上げる。ゼッケは無闇やたらとじじむさい声を上げてしまった事に気づいたが、幸い、他の二人には聞こえなかったらしい。 間近で炸裂を体感したシャムレットがゼッケに抗議した。 「ちょ、あれ、あんな危ないものだなんて聞いてないよぅ!」 「いや、すまん、私もあれほどの威力だとは思わなかった」 「お……驚いてチョコレート落としちゃった……」 泣きそうな顔をしているハヴは当然のように無視された。どの道、これ以上食べ物など誰も持ち合わせていない。 ……もうもうたる硝煙が晴れると、そこにはずたずたになった丸太の成れの果てが散乱していた。 「タンカーか、否、ヨロイモグラ相手でも一撃で殺れそうだな。大した威力だ……」 ゼッケが顎に手を当てて考え込む。と、そこに背後から声がかかった。 「ほう、君たち、精が出るな。それは我々の……ま、そこそこの作なんだが」 痩せぎすで長身の、SS制服の上に白衣を羽織った技術士官が彼らの後ろに立っていた。 いつから見ていたのか、三人とも気づかなかった。そのくらい存在感が希薄な、影のような人物に見えた。 階級章を見たゼッケが慌てて敬礼する。 「ジークハイル、技術大尉殿。ええと……確か、マイネッケ大尉……で?」 「正解、ブルクハルト・マイネッケだ。ハヴ、シャムレット、君たちも覚えておいてくれたまえ」 「はあ、マイネッケ大尉……ですか」 「ブルクハルト……じゃあブルちゃんでどぉ?」 初対面のシャムレットが提案した突拍子もないあだ名にブルクハルトは一瞬顔を引きつらせたが、にやりと笑った。 「実に独創的だな、君。だがまあ遠慮しておこう……ところで、先ほどのKMi44はどうかね?」 「うぅん……重い」 当然だ。重量120kgなど、MAIDの武器としてもいささか巨大すぎると言うしかない。 「予想通りの答えだな。他には?」 「あれほど重くて隙を曝すのに、一度しか使えないのはどうかと思いますけど……」 遠慮がちに切り出したのはハヴだった。 重心の関係から全身を使って投げる必要があるために、ほとんどKMi44に振り回される格好になるのだ。 「確かにそうだな。あれを敵前まで引きずっていく労力を考えると、いささか徒労を感じずにはいられまい。……あれは過大火力気味でな」 「連結数を減らしてはいかがか?」 これはゼッケだ。十三基もの地雷を連結してあるのだから重くなるのは当然、というわけだ。 が、ブルクハルトは首を振った。 「そうすると今度はGの甲殻に絡みつかなくなる。投擲( リリース )と同時に爪を展開するようにもしたんだが、やはり十二基以下ではきちんと固定できん」 「……なるほど。では、一個一個を小型化するというのは?」 「それも無理だ。KMi44を構成している地雷……TMi44は自己鍛造式でな、直径と侵徹距離がほぼ比例する。小型化すると甲殻を貫徹できなくなるのだ。 何より、これのための専用地雷を生産するラインなど到底開けられん状況だ」 「なるほど、最終的には費用対効果の問題と。……世知辛いものだ」 「そう腐るな。我々も君たちにできるだけいい武器を運用してもらいたいからな、努力はしているんだ。 ……他にもまだまだ使っていない武器はあるぞ、試してみたまえ」 「では、そうさせて頂こう」 ゼッケは武器の山に歩み寄り、ぐるりと一周した。 本当に用途のわからない武器から当たり前の銃器に見えるもの、あるいはどう考えても冗談としか思えない巨大火器など、色々ある。 と、同じく山を検分していたハヴが声を上げた。 「……これ、何ですか?」 彼女が指差したものは、どこからどう見ても普通の航空用爆弾だった。複数の大きさのものが並べられ、順に10kg、25kg、50kg、100kgと書いてある。 ブルクハルトは山を回り込み、彼女が示したものを確認した。 「ああ、それは燃料気化爆弾だな。Gに対して……というか、生物すべてに対して極めて有効な爆弾だ。大きさの割に加害半径も広い」 「燃料……?」 ハヴが首を傾げる。 「燃料気化爆弾、だ。蒸気爆発によって霧状の燃料を広範囲に散布し、しかる後に着火する。 凄まじい爆圧が発生する───10気圧以上の爆風が四方八方から襲いかかり、呼吸器から入り込んで内臓を叩き潰し、壊死させる。 無論、視覚や聴覚も確実に破壊されるし、関節部などの脆弱な部分からも圧力は浸透する。人間であれば皮膚も充分に脆弱と言えるな。 ……いかなGであろうとも、体内まで装甲する事はできん。これは実に効果的だ」 凄惨な状況を顔色ひとつ変えずに描写してみせるブルクハルトに、ハヴが恐る恐る質問した。 「た……試したんですか?」 「ああ、無論だ。最初は動物実験で、それから死刑囚を使った。対G試験はまだだが、威力は保証しよう」 ブルクハルト以外の三人が同時に口元を押さえた。その死刑囚の死に様を想像してしまったのだ。 が、当の本人はなんでもない様子で続けた。 「加害半径は10kgのものでも100mほどになる。ただし、鼓膜が破れる危険を冒したくなければ500mは離れるべきだろう」 「……」 「投下してみるかね? なかなか壮観だぞ、あれは」 「え!? いや私は、ちょっと……」 ハヴがちらりとゼッケに目をやる。が、ゼッケもぎょっとした様子で首を振った。 少し手元が狂っただけで自分が無残な死に様を曝すような爆弾など投下したくない、というわけだ。 ……と、そこにツィダとジョーヌが連れ立って現れた。それぞれ、燃料切れのザトゥルンと弾のないネーベルヴェルファーを手にぶら下げている。 ツィダはよく知ったブルクハルトの姿を認め、さらに武器の山に目を移し、それから三人のMAIDを順番に眺めてからぶっきらぼうに言った。 「副隊長へ報告。ロッテ6、ツィダ及びジョーヌ、只今帰投。……これは何事か」 「武器の試験だそうだ。実際に使って、勝手を確かめて欲しいと」 「ふむ。……マイネッケ技術大尉、これは空戦MAIDのための兵器なのか?」 ツィダの目つきは険しかった。彼女は空戦MAIDではない───燃料が切れれば普通のMAIDと同じく、地上を走り回らなければならないのだ。 無論、ロッテ3のノインも同じ事だし、小隊長のロッサはそもそも戦闘機がなければ飛べないのだ。立場が似たような者は少なくはない。 ともかく彼女は空戦MAIDが特別扱いされる事に我慢ならないのだ。しかし、ブルクハルトの答えはツィダを安心させるものだった。 「いや、我が国の空戦MAIDは極少数だ。それこそSS飛行隊が唯一のまともな戦力と言えるだろう。 つまり我々が君たち空戦MAID専用に武器を開発しても、大した役には立たんという事だ。まあ、多少の外貨は得られるだろうがね」 「……私は空戦MAIDではないが」 「おっと、すまない。だが、広義では君も例のベーエルデー型も空戦MAIDという扱いになるものでね」 「……ふむ」 「まあ、聞き流してくれたまえ。それともそこから適当な武器を見繕って私の頭を吹き飛ばしてみるか?」 微かに肩をすくめるツィダに向かってブルクハルトはにやりと意地の悪い笑みを浮かべ、山を指差した。 実際のところ、ツィダとブルクハルトはSS技術部で彼女が生まれた時からの付き合いだ。 あまり社交的とは言いがたい彼女にとって、信頼するに足る人物はブルクハルトくらいのものであった。 「私はあまり大型の武器を持ち運ぶには向いていないが……懐かしいものが見えるな。ザハーラに送り忘れたのか」 木箱を検分していたツィダがそのうちの一つを引っ張り出した。EARTHのロゴと、「13.5mm PtUzB」との文字が書き込まれている。 それまで黙っていたジョーヌがエテルネ訛りの声を上げた。 「あら、EARTHですって。SSの技術部なのに何故このようなものがあるのかしらァ?」 「SS技術部のうち、MAIDを研究していた班がEARTHの前身となったために彼らとの間には繋がりがある。何も知らない奴は黙っていた方がいい」 「な……なんですってえ!?」 ツィダの反応は素早く、そしてジョーヌを逆上させるには充分だった。 そしてジョーヌが素早く頭を巡らせ、最も効果的な挑発の言葉を探し出す前にゼッケが注意した。 「よさんか、二人とも。……それで、その13.5mmなんとかというのは一体どういう代物なんだ、ツィダ?」 「13.5mm試作対G狙撃銃───欠陥品だ。威力は充分だが、ボルト周りが複雑で故障しやすい。それと、空を飛ぶには少々荷が勝ちすぎたな」 その辛辣な言葉とは裏腹に、ツィダは箱を開けてしげしげと巨大ライフルを眺め始めた。 懐かしげに───それも当然の事だ。何せ、この銃はザトゥルン計画とほぼ同時期に開発され、彼女もこれを扱った事があるのだから。 「ふむ。では、ザハーラに送り忘れたとはどういう事だ?」 「先ほど言ったように、これは欠陥品だ。私も扱った事があるが……ペイロードを圧迫しすぎる。空戦どころか陸上でも取り扱いに困る代物だった。 そういうわけでEARTH及びSS技術部は少数生産されたこの銃を無用と判断し、ザハーラのMAID向けに武器供与の一環と称して押しつけた」 「なるほどな。ザハーラもいい迷惑だろうに……それとも向こうでは武器が足りていないからありがたがられているか?」 「そこまではわからない。……久しぶりに撃ってみるか」 その場にザトゥルンを降ろし、13.5mmPtUzBを引っ張り出す。ツィダはペイロードのある方ではなく、2mを超える銃とその弾倉はあまりに重かった。 慎重な動きでシューティング・レンジへ入るツィダの背中に、ジョーヌが小声で悪態をついた。 「あらまァ、欠陥MAIDに欠陥銃とは、実によくお似合いですこと」 「ジョーヌ、よせと言ったろうが」 「……欠陥か。我々も努力しているんだ、そうきつく当たらないでもらえんかね?」 「ワタシは事実を率直に述べただけですわ。欠陥があるとわかっているなら、まずは直さなければならないでしょう?」 「……我々のできる範囲で、な」 ……予算や資源、基礎技術の不足が、彼らの足を引っ張っている。こればかりは一介の技術屋風情が努力したところでどうにもならないのだ。 が、ブルクハルトはその事を指摘しなかった。複雑極まる経済学や政治力学をMAIDに教えたところで、理解できるとは思えない。 「ま、そんな事はいいとして。ワタシも何か面白いものがないか探してみましょう」 言うが早いか、ジョーヌは積み上げられた山から小物を取り除けて長物を物色し始めた。 イェリコが使っていたのと同じFlaK18やその後継のFlaK43、口径50mmのFlaK41、さらに88mmの大口径高射砲FlaK37まである。 「とはいえネーベルヴェルファーくらい使い勝手のいい武器はそうそうあり……あら?」 山から木箱を取り除けていくうちに、彼女はその山の真ん中に何か巨大な箱が鎮座している事に気づいた。 ひょいひょいと───日頃から大型ロケット砲を扱っている腕力は伊達ではない───箱をのけてみると、確かに馬鹿でかい箱が空間を占有している。 箱にはアルトメリア連邦から輸入された事を示す文字とガリング・エレクトリック社の社章、さらに「GAU-8 Avenge-Gaunt」の文字が刷り込まれていた。 「アヴェンジ・ガント……瑛語? なんですの、これ?」 その箱はとてつもなく巨大だった。緩衝材を抜きにしても、中に収められたものの全長は6mはあるだろう。 ひどく手の込んだ梱包が中身の重さを想像させた。 「ああ、これは皇帝陛下の命によって取り寄せられたものでね───」 「それか! 私の武器は!」 突如として響き渡った大音声に、その場の全員が振り返った。 声の主は、無論、イェリコである。 「うわー、イェリコ隊長だ。入院してたんじゃなかったっけ?」 「あら本当。アナタはあと半月は寝ているはずだと聞きましたがねェ」 「イェリコ……脱走してきちゃったの?」 「生きていたのか。元気そうで何よりだな、隊長殿?」 ゼッケ以外の隊員四名が口々に、祝辞と取れなくもなさそうな程度の言葉を述べる。 イェリコの眉間に深々と縦じわが刻まれ、軽く息を吸い込む音が聞こえ───怒鳴られる前に慌ててゼッケが割り込んだ。 「あ、ああ、隊長、早く戻ってきてくれて本当に助かる。完治したのか?」 「無論治ったに決まっている。陛下より一ヵ月後と言われていた新兵器が試験されていると聞いて飛んできた次第だ」 「そ、そうか。だったら試験に参加するのが道理だろうな。……マイネッケ大尉?」 「なんだね?」 「これらは隊長のための武器と?」 「いや、とりあえずありったけ倉庫からかき集めてきた。そこのGAU-8と新型の義翼を除いては、だが」 「何故そのような事を?」 「無論、君たちの隊長に好きなものを選んでもらうためもあるし、君たちの武器を更新するのも悪くはないと思っての事だ。 ともかく、陛下が取り寄せさせたこれは……」 と、ブルクハルトは思案顔で木箱に歩み寄り、ぽんと表面を叩いた。 「重量が2t近くある。選択肢がこれ一つではいくらなんでも無茶苦茶だろう」 「技術大尉、私は陛下の命によるものであれば何であれ喜んで賜るつもりでいる」 ブルクハルトの言葉に対し、イェリコは即座に応じた。 型式番号GAU-8、愛称アヴェンジ・ガント……その口径実に30mmに達する、回転式七砲身機関砲である。 本体質量は281kgとFlaK18とさして変わらない───それだけでも充分な質量だ───が、問題は弾薬や給弾システムを含めた全備重量だ。 1174発の30mm砲弾を弾倉に詰め込んだアヴェンジ・ガントは総重量1830kgの怪物と化す。 しかも毎分4200発もの発射速度を誇るこの砲は、その弾薬を20秒足らずで使い果たすのだ。 そして見ればわかる通り、全長は6.4mに達する。これを使いがたいと言わずして何と言うのか。 だが、イェリコにとってはそのような事は些事に過ぎなかった。 「ともかく、撃ってみればわかる事だ」 彼女は木箱に手をかけ、バールもなしで釘の打たれた蓋を引き剥がした。 「報復手甲( アヴェンジ・ガント )……なんだか嫌な名前ね」 この場にいる面子の中でまともに瑛語を解する者の一人、ハヴが呟いた。 もう一人はブルクハルトだが、いかんせん研究のために瑛語を学んでいるだけであって、例えばAvengeとRevengeの厳密な区別まではつかない。 巨大どころではない火器を担いで射爆場に入るイェリコを見送りながら、ジョーヌが言った。 「報復ですって? “主言い給う。復讐するは我にあり、我これを報いん”……神罰が下るとは言いませんけど、彼らに構っている暇があるのかしら?」 「Avengeにはね、ただの個人的な復讐ではない、仇討ちって意味があるのよ」 「……エリノルの事は残念に思いますわ。だからと言って黒旗を叩き潰す事に血道を上げていてはGの駆逐が間に合わなくなるでしょう?」 「そこは隊長次第、ね……」 言葉にこそ出さないが、ゼッケやシャムレット、ツィダも何がしか、思うところはあるのだろう。 特にツィダは、いわゆる狭義の空戦MAIDではなかったエリノルが撃墜された事をベーエルデーの陰謀だと断じて息巻いていたほどだった。 結果的に陰謀だったという点では彼女は正しかった。ただ、その組織の立場からすると真逆であったが。 「隊長が射撃姿勢に入ったぞ。そろそろお喋りをやめて、心構えをしておけ。……あれほどの火器だ、一体どれだけの爆音を立てる事やらな」 ゼッケは一度だけ、ガリング・ガントを装備したMAIDが機銃掃射を行っているところに出くわした事があった。 後で聞いたところ、そのヴァージョンの手甲( ガント )は20mm砲弾を毎分6000発の速度で発射できるものだったという。 その20mm口径のものですら筆舌に尽くしがたい音を立てたのだ。質量比で四倍になる30mm砲弾ではどうなる事か想像もつかなかった。 ……不幸にして前方に気を取られていた彼女らは、ブルクハルトがポケットから出した耳栓をそっと詰めていた事に気がつかずじまいであった。 「照準よし……安全装置解除。動力接続!」 巨大なバッテリに繋がれたモーターが唸りを上げ、砲身を駆動し始めた。 回転力の反動でイェリコの上半身が一瞬だけ揺れたが、彼女はしっかりと砲を握り直した。 「発射( フォイア )!」 ───直後、五名のMAIDが難聴を訴えて医務室を訪れた。その中の亜人MAIDなどは何があったのか完全に毛を逆立てていたと医師は証言している。 さらに近隣基地でのちょっとした用事から帰投しようとしていたノインが本部上空で危うく失速しかけ、 イェリコの退院手続きを終えて滑走路へ向かっていたロッサは空を斜めに横切る閃光と爆音とを目撃、 わずかな休暇を楽しもうと新市街へ繰り出していたレイリ、ピアチェーレ、ハルキヨの三名は周りの人々とともに落雷のような轟音を聞いた。 「……うむ、まあ、予想はしていたがね、これはとんでもない失敗作だな」 (いや、大尉、ただ慣れの問題だ) 「そうかね? 訓練弾ですら「禿山二番」を穴だらけにしたと言うに、実弾で同じ事をやったら大変な事になっていたぞ」 イェリコの耳は他の隊員同様おかしくなっていたが、彼女はそれに構わず手信号と読唇術と筆談をちゃんぽんにしてブルクハルトと会話を続けていた。 (あれの質量そのものがある程度反動を吸収してくれる。推力を残りの反動抑制に回せばそれなりに安定した空中発射も不可能ではない) 「だが空中で足を止める事になるぞ」 (ハエだろうがトンボだろうが、いや、例え空戦MAIDであってもあの火線の前で何ができる?) 「それもそうだが……まあいい、ともかくこれには少しだけ改修が必要だ。それまで実戦運用は控えてもらいたい」 (どこを改修するのか?) 「動力だ。こちらを先に持ち出すべきだったろうが……君の新型義翼の方はほぼ完成している。実際に飛ばしての微調整を残すのみだ。 それでだ、シルガイリス製内燃機関式義翼、Si110VにはFo227搭載エンジンの派生型が搭載されていてな。 ここから油圧と電力を抽出してGAU-8に回す事であれの重量を多少削減する事ができる」 (そう言えば……ガリング手甲( ガント )は無動力で稼動するのではなかったか?) 「それは運用するMAIDに操作系能力適正があった場合だけだ。誰にでも使えるわけではない……残念だが、君には……」 (なるほど、諒解した) 「あっさりしているな。まあいい、ともかくエンジンから動力を持ってくればわずかながら使い勝手は向上する。 義翼がなければ稼動できないのが難点だが、君も義翼抜きで出撃するつもりはないのだろう?」 (ああ、あれはもはや私の身体の一部となっていた。……この半月というもの、文字通り羽根をもがれた気分だったな) 「ほう、君が冗談を飛ばすとは珍しい。早速お披露目といこうか。 観客がいないのが残念だが……まあ、君が空に復帰すれば否応にも注目は集まろうと言うものだ」 ……そして、ブルクハルトの言葉通り、彼女の復帰はある種の耳目を確実に引きつけたのだった。 SirenenGeheul BACK NEXT
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説明文 ヤーナムの少女から預かった、小さなオルゴール 両親の思い出の曲が流れるらしい 蓋の裏の紙片は、どうやら古い手紙のようで かろうじて2人の名前が読み取れる それはヴィオラと、そしてガスコインであろうか 情報 最大所持数 1 最大保管箱格納数 99 使用タイプ 何度でも 水銀弾消費 - 能力補正筋力 技術 血質 神秘- - - - 必要能力値筋力 技術 血質 神秘- - - - 効果 ガスコイン戦で使用すると動きを止めれる 使用するたびに獣化になりやすくなる 入手法方 ヤーナムの少女から受け渡される 関連 ヤーナムの少女 ガスコイン神父 ヴィオラ 戻る 名前 コメント すべてのコメントを見る
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先輩と氷の張るいつかへ 「先輩、最近めっきり寒くなりましたが、カイロなどいかがでしょうカイロ」 「いらない」 「私が寒いんです!」 「話の流れおかしくないかな」 寒い。 絶対に寒い。 正面から吹きつける北風の冷気に、俺は学園制服の襟を引き寄せていた。そうする手からもみるみる熱が奪わ れ、拳の皮が突っ張っていくのが分かる。寒いどころかもはや冷たい。 ほうと吐いた息が白くなっているのを確かめて、俺はどこか安心にも似た感情を抱いた。これで白くなかった らと思うと何とも切ないではないか。 今年初めて実感できた、冬の到来だった。 「おかしい? 今、おかしいっておっしゃいましたっ?」 このクソ寒いのに、後輩は今朝も元気いっぱいでうざい。普段何を食っていたらこんなテンションでいられる んだろ……。まさか一般にそうは口にしないようなものを常食しているんじゃないだろうな。何かの幼虫とか。 「おかしくなんて、ありませんよ。よく雪山で遭難した方たちがやってるじゃないですか。ふたりでぎゅーっと 抱き締め合って、お互いの体温を奪い合う、あれ! あれがやりたいです!」 「最悪な表現の仕方だな」 「フッ……愛とは奪い合うもの」 「そういうこと言ってんじゃないんだよ」 迷走気味で不毛なやり取り。寒さで頭が働かず、ツッコミも覚束ない。おお寒。木枯らしに怯えて、首が襟の 中に引っこむ。 そんな俺の隣でくるくる動く後輩は、カイロほどではなくても、確かにここらで一番お手頃な熱源だっただろ う。サーモグラフィーとかで見たらそこだけ浮いてそうだ。……ただでさえ普段の言動で浮いてるのに。 「とにかく、私たちも手と手を取り合えば嬉し恥ずかし赤外線通信で心も体もぽかぽか温かくなるに違いありま せん。ほら先輩、お手っ!」 「その台詞でお前の手を取るのはMっ気あるやつだけ――」 「ちょ、あなたじゃないですよ、わんわん先輩。……あっ……、やめて、はっ、はなしてっ!」 「!?」 ちょっと目を離した隙に、どこからともなく合流したわんこ系演劇部員久遠荵が、後輩の手をひしと掴んでい た。指と指ががっぷり組み合った、いわゆる恋人繋ぎだ。 訂正する、Mっ気あるやつだけじゃなかった。世の中には色んなやつがいる。差し出された手にむしゃぶりつ かずにはいられないやつとか。 「よいではないかーよいではないかー野良犬に噛まれたと思って」 「保健委員に、通報しますよっ」 それって保健委員会の管轄だったのか。初めて知ったぜ。 「おはよっ」 「おはよう」 うーうーもーもー唸りながら、絡みついた指を一本一本引き剥がしに掛かる後輩を尻目に、俺も久遠と軽く挨 拶を交わす。 「どうしたーサッキー・ザッキー? テンション低いねっ」 やたら愉快なニックネームをちょうだいするが、ツッコんでいくエネルギーがない。 「お前らがハイすぎるんだ」 「犬は喜び庭駆け回るっ」 わおーん。久遠荵はこの寒さをも楽しむというのか。こたつで丸くなっていたい派の俺とは相容れない。 ……しかしなるほど、案外、最初からこれくらい開き直って飛び出したほうが、おっかなびっくり外に出るよ りマシなのかもしれない。ある程度までは心の問題でもある。 ちょっと感心している横で後輩が息を切らしていた。 「固い、固すぎです……。さすが一度噛みついたら離さないブラックドッグ。……先輩、マッチを、マッチを売 ってください。火で炙ったら逃げてくかも」 「ヒルみたいだな」 当然ながら、俺のような綺麗な肺をした高校生の持ち物の中に火種などあるわけもない。不思議な事情で持っ ていたとしても、怖くて後輩にだけは貸せないが。 「ぐぬぬ、……わかりました。私の負けです。降参します。だからわんわん先輩、そっちの手もください」 「うん?」 「にくきゅう! にくきゅう!」 「ぎゃー」 後輩が久遠の手のひらのツボを圧しまくってどうにか拘束を振りほどき、そのままダッシュで学園の正門を走 り抜ける。 「まてー!」 背を向けて逃げる者あらば追わずにはおれない肉食獣の習性をいかんなく発揮して、久遠荵も駆け出した。 白い息に霞んだそんな光景を微笑ましく眺めながら、俺自身も気持ち早足になっていたことに気づく。 冬の到来である。 氷が張るのはいつだろう? そんなことを考えた。 おわり 前:]] 次:[[
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§第四章§ ――12・a―― 「目覚めはどう?」 直後に俺が感じたのは、それがいつも聞く妹の声じゃないってことだった。 違和感。でも眠くてまだはっきりとしない。 目をこすり身を起こす。……何か薄暗い気がする。まだ夜なのか? 「何言ってるの。朝よ。ちゃんとね。七時過ぎ。いつもあなたはまだ起きてない時間なのかしら?」 夢か。そうか、でなきゃこのトーンの声が聞こえてくるはずはないな。そうかそうか。では二度寝するとしよう。 「起きて。せっかく驚かそうと思って入ってきたのに、台無しじゃないの」 両肩をつかまれて半身を起こされる。柔らかい感触。温かい気配。 「朝倉……」 おぼろに影を捉えた瞬間、俺はまともに立ち上がりもせずめちゃくちゃな声を上げて壁まで後ずさった。 「朝倉! どうしてお前――」 「なぜって? だって、長門さんも涼宮さんも常にあなたにつきまとってるじゃない? あなたと二人きりで話したいなぁって思って」 ね? と首をかしげるおなじみの仕草。俺、この場で殺されるのか? 目覚めた直後に永眠するなんてシャレになってないぜ。遺言を残す時間くらい与えてくれるんだろうな。 「あなた、わたしの話聞いてなかったの? 残念だけどわたしはあなたを殺せないのよ? 指示さえなければ今すぐにでもやっちゃいたいところなんだけどね。だから安心して」 やはりこいつ相手に油断していてはいけないのだ。俺は気力を総動員して壁に背をつけたまま立ち上がる。最悪の目覚めだ。……ここ一年でダントツである。 周囲はいつぞやと同じように薄暗い。一面灰色で、無機質な表面。 情報制御空間――。 「あなたに会いに来るのに結構手間取ったんだから。準備に丸一日使っちゃったわ。長門さんがわたしの知らない間に負荷と防御コードを仕込んでいてね。ふふ。さすがよね、あの子も」 あっけらと言い放つが、つまりそれは長門の防御策を突破したってことだろう。今俺を守るものは何もないってことだ。長門のバックアップでも何でもないこいつは、確実に以前よりパワーアップしている。 「新しい手段をテストさせてもらうわ。あなたの近くにいる人を次々消していくのも悪くないかなって思ったんだけどね、それじゃ効果を得られるまでに時間がかかりそうだから」 俺が警戒する間もなく朝倉は俺の眼前に瞬間移動し、直後俺は朝倉に何事かささやかれた。 「……」 「さぁ、一日が始まるわよ。よろしくね」 ――12・b―― 「目覚めはどう?」 俺は学校への坂道を登りつつ、その言葉を聞いていた。朝倉の言葉だ。今、隣で俺と坂道を登っている。 「寝ぼけてるの? しっかりしてよね」 俺の右腕をつかむ朝倉は、そう、どうして俺と歩いてるんだっけ? 「あなたはわたしの彼氏でしょう? いつも一緒に登下校してるじゃないの」 ……そうだっけか。春。坂道。俺は何年生だっけ。 「二年五組。わたしと同じクラスじゃない。もう、本当に大丈夫かしら」 「あ、朝倉! おはよう!」 「涼宮さん、おはよう」 「あれ、キョンはまた寝ぼけてんの? まったくしょうがないわね」 後頭部を何かで殴られる。鞄か? いてぇじゃねぇか。 「アンタがそんな眠そうにしてるからよ。どうしてこんなのに朝倉みたいなのがくっついてるのか、さっぱり分からないわ」 お前に言われる筋合いはねぇな。誰がなんと言おうと俺と朝倉は普通の高校生カップルだ。 「あっそう。じゃぁね。急がないと遅刻するわよ」 ハルヒが坂道を駆け上がっていく。うん。いつもの風景だよな。 「……ねぇ、本当に大丈夫? どこか具合が悪いとかじゃないわよね?」 大丈夫だ。何ともない。ただ頭がぼんやりするだけだ。 「そう、ならよかった」 朝倉はにっこりと微笑んだ。 そう、俺にはこんなに素敵な彼女がいる。 授業が始まる頃には寝ぼけていた俺の頭もすっかり回復し、まぁ、板書や内容理解ははかどらないけどもだ。 変わらぬ日常風景が今日も幕を開けた。 「しかし、お前と朝倉が付き合っちまうとはなぁ」 休み時間に谷口が言った。 「やられたぜ。先を越されたとはこのことだ。やっぱりお前は隅に置けねーよな」 「僕も意外だったな。僕はてっきりキョンは涼宮さんのことが好きなんだと思ってた」 おいおいお前達。いくら俺でもあんな変てこかつ奇矯かつ傲慢な女に惚れたりしないっての。 まぁ、ハルヒは確かに面白い奴だ。だがな、俺はそれだけでいつ爆発するか分からない火薬無限の不発弾を持つような真似はしないのさ。彼女にするならもっと真っ当な性格を持つ人間にしようと前々から決めていた。 「へっ。あんな妙ちきりんな集団に入っておいて言う台詞かよ、それ」 谷口は吐き捨てるように窓から半身を乗り出して言った。SOS団か。……確かに。今にして思えば、どうしてあんな団に身を置いているんだろうな俺は。 「涼宮に引っ張られて無理矢理入れられたんだろ。お前のお人よしにも愛想がつきるぜ」 「キョンは巻き込まれると中々はっきり断れないからね」 谷口の言葉に国木田が相槌を打つ。そうだったな、うん。 「……」 「どうしたの? キョン」 何だろう。何か引っかかるな。無理矢理、お人よし。……ふむ。 「何? まだ頭がぼーっとするの?」 そう言って入ってきたのは朝倉だ。穏やかに笑う。それだけで俺は心の安寧を得られるというものだ。 「どうも暖かすぎるんだな。このボケた頭をどうにかせんとな」 俺は側頭部にノックを入れた。同時に予鈴がなる。 「しっかりしてよね。あなたはわたしの大事な人なんだから」 耳元で谷口や国木田に聴かれないように朝倉はささやく。あぁ、幸せだ。谷口は今どんな表情してるだろうな。 そう、これが俺の日常じゃないか。どこに不満があろう。真っ当な毎日バンザイである。 「キョン、あんた、今日部室に来る?」 ハルヒの言葉だ。四限終了間際。 「何でそんなこと訊くんだ?」 俺は伸びをしつつハルヒに答えた。どうも今日は眠くていかんな。 「何でって、あんた最近全然顔出さないからよ。朝倉と付き合いだしてからずっとね。……あんた、まさかSOS団を辞めたりしないでしょうね?」 確かに、ハルヒに言われなきゃ俺は今日も普通に朝倉と下校してただろうな。 「どうだろうな。場合によっちゃそうなるかもな」 俺は弁当を取り出そうと鞄を持ち上げる……前にハルヒにブレザーの襟首をつかまれる。何だよ。 「ねぇ、あんたそれ本気で言ってんの? 少なくともあたしは冗談のつもりで言ったのよ。分かってる?」 うるさいな。放っておけ。俺はお前の下僕でも召使いでも執事でも秘書でもないぞ。お前とくっついてなきゃならん理由なんぞ、大宇宙を端から端まで探しても見つからん。 そう言うと、ハルヒは下唇を噛んで俺を睨みつけ、盛大に平手で俺の頬をひっぱたいた。 「ハルヒ……?」 「もう……知らないわよ」 そう言うなりハルヒは自分の鞄をひっつかんで廊下に飛び出した。何か悪いこと言ったか、俺。 そういえばあいつポニーテールだったな……。今頃気付いた。 「どうしたの? 涼宮さんと何かあった?」 クラスの視線を集める中、朝倉が俺の傍にやって来た。 「別に何でもない。ハルヒがどうかしてるんだ」 そうさ。物事は移り変わってゆくのさ。いつまでもSOS団なる学内非公認団体を続ける理由など俺にはない。ハルヒがどうしてあの謎の集まりにこだわるのか、それこそが俺には理解できないね。あいつの言うように、やる気がないならさっさと辞めちまうのも手かもしれんな。 「そう? あまりケンカしちゃだめよ。これまで一緒にやって来た仲間なんでしょ」 朝倉は心から心配しているような表情をした。俺からすれば朝倉、お前の方がよっぽど大切な存在さ。 ハルヒはその日の授業がすべて終わっても姿を見せなかった。 「一緒に帰りましょ」 朝倉が言った。……俺は部室に行こうかわずかに迷っていた。 「どうしたの? やっぱり涼宮さんが心配?」 何だろうな。何か俺はおかしなことをしている感じがするんだ。ちぐはぐな。それでいてどこが狂ってるんだかよく分からないような。 「春だものね。たまには散歩でもしない? きっと気も紛れるわ」 朝倉に従って俺は校門を目指す。 教室を出た直後――、 「……」 「……長門か?」 それは確かに長門有希だった。眼鏡をかけて、無口な。いつもの……長門。 「お前、クラスはどこだっけ?」 「六組」 長門は言った。当たり前だ。別におかしなところはないだろう。学年が変わっても隣の教室だってだけだ。 ……そうだろうか。 俺は違和感をまた感じる。何か気持ち悪い感じだ。本当に俺の環境ってこんなだったか? 何か、あらゆるものが微妙にずれてしまっている感じがする。 「行きましょう」 朝倉に手を引かれる。長門は部室方面へと足を向ける。 「なぁ、朝倉」 「なぁに?」 「俺たちっていつから付き合ってるんだ?」 俺の問いに朝倉は無表情になった。 「……どうして?」 朝倉は俺に問う。どうしてってお前、はっきり覚えていないからさ。 「そんなに大事なことかしら、それって」 いや、そう言われると大したことじゃないような……。でもな、実際いつだったか気になるんだよ。 朝倉は一息つくと、穏やかな口調のまま話し出す。 「つい最近よ。わたしがこっちに帰ってきて、それからあなたが告白してきたの」 俺が? お前に? 「そうよ。忘れちゃったのかしら……かなり真剣な顔してたけど」 思い出せない。どうしてだ? 俺はそんな最近のことも忘れちまうくらい白痴になっちまったのか? 「とりあえず、外の風に当たりましょうよ。話はそれから。ね?」 朝倉に付き添われて昇降口までやって来る。 「あ、キョンくん」 見ると、朝比奈さんがこの世の光をすべて一点に集めたような神々しさでこっちに……。ん? 何だろう。 朝比奈さんは小動物チックにかくんと首を傾げて言う。 「また部室には来ないんですか?」 いえいえ、朝比奈さんのお茶を飲むためだけでも、あの部室には行く価値が……。 あれ。何だ。またか。 「ねぇ、さっきからどうしちゃったの? 早く行きましょう?」 朝倉……。 「それじゃぁさよなら、キョンくん」 はい、さようなら……。 「……」 このまま見送ってしまっていいのだろうか。何だかものすごく惜しいことをしている気分だ。 「行くわよ? ねぇったら」 制服の袖を引く朝倉に構わず、俺は考えていた。 違う。 何かが決定的に異なっている。 それこそ、この状況が、まるごとすべてずれている。 「ちょっと?」 「朝倉、すまんが今から俺は部室に行く。今日のところは一人で帰ってくれ」 そう言って振り向かずに俺は部室棟へダッシュする。待ってろ。ハルヒ、長門、朝比奈さん。 ……まだ何か足りない。 廊下を走るなという小学校からの警句を全力で無視し、俺は旧館三階まで全速力で駆け抜ける。 このモヤモヤも、そこまで行けば正体がつかめるはずだ。急げ。 俺は階段を駆け上がってドアノブに手をかける。開く。 ……! ――12・c―― 「キョン!」 ハルヒの声だ。 「しっかりしてよ! 目を覚まして!」 「あーあ、意外と早く効果が切れちゃったのね。所詮テストプログラムだったかぁ」 朝倉!? 部室に来て何をする気だ? くそ、目が開かない。……身体が重い。 「キョ……キョンくん! だ、大丈夫ですかぁ~、うぅぅぅ、しっかり、ふえっ、えっ」 間違いない、これは朝比奈さんの声だ。 「朝倉、あんた一体」 「下がっていて」 ハルヒの声に続くのは長門だ。……これで全部か? 「キョンくん……うぇぇぇぇえええん」 朝比奈さん、泣かないで下さい。俺なら平気ですから。どういうわけか身体とまぶたが動かないんですが、心の方はこの通りピンピンしてます。だから、そんな本気で泣くようだと、俺の方が参っちまいますよ。 「彼に何をした」 怜悧な声は長門のものだ。平坦ではない。険がこもっている。どうなってんだ、くそ。目が開かない。 「何て言ったらいいかしらね。端的に言えば幻覚を見ていてもらったんだけど。どう? 涼宮さん、彼が心配? 大丈夫よ。死にはしないから」 「朝倉……これ、あんたがやったの!? ねぇ、有希! これって一体……」 「あなたは黙っていて。彼の傍を離れないこと。朝比奈みくるも離さないこと」 長門の声がいつになく鋭く響く。何が起きてるんだ。どうして身体が動かない。それどころか、全身の感覚がまったくない。時間も温度も分からない、触覚すらまったくない。朝倉、てめぇ何しやがった。ハルヒに朝比奈さんに長門に、ちょっとでも手を出したら許さないからな……。 「キョン、しっかりして! 目を覚まして! ねぇ、キョン!」 「無駄よ。そいつは完全に意識も神経機能も失ってる。分かりやすく言えば植物状態かしらね」 バカな。じゃぁどうして俺はこうやって考えていられるんだ? それに、耳だけなら生きてるぜ。 「さ、決着をつけましょうか。今回は絶対に負けないからね」 朝倉はかつてないほどに冷たい声で突き刺すように言い放った。やめろ。何をする気だ! ハルヒの前で妙なことを起こすな! 「長門さん、よろしくお願いします」 突如、聞き覚えのある声がした。が、即座に誰と判断できない、状況が状況だからな。耳しか使えないってのもある。 ……! 次の瞬間、俺はひさびさにあの感覚を味わった。すべてをグルグルと巻き込んで、そして俺のあらゆる感覚を持っていってメチャクチャにかき乱してしまう、アレだ。ただし、今の俺は聴覚情報でしかそれが分からない。既にさっきまでいた場所にいないことは明白だった。そう、時間移動――。四ヵ月以上のご無沙汰だな。今度はどこへ向かっているのだろう。鼓膜が、空気が四方八方に飛び交う音を伝えてくる。他の感覚が麻痺しているためか、気持ち悪さはない。こんなのは初めてだな。いや、気持ち悪さがあっても脳が受けつけていないだけかもしれん。……目的地に着いた瞬間吐いちまうなんてのはごめんだぜ。 突然びょうびょう言ってた空気の波が止んだ。どこに着いたんだ? 「着きました。……ごめんなさい。私はもう行かなければなりません。この手紙を読んで、その通りに行動して。彼の無事も、あなた達二人に懸かっているわ。頑張って……」 ――13―― 喧騒とまではいかないガヤガヤをBGMに、その声は言った。ここに来てはっきりと分かった。今のは大人版朝比奈さん で間違いない。おそらく、窮地に陥っていた俺たちの元に現れて、どこか別の時間に跳躍したのだろう。 「あの、あなたは……?」 ハルヒが言った。 「私のことはいいの。今は彼を救うことだけ考えて。いい?」 「……あのっ! あの!」 急きこんでそう言うのは朝比奈さん(小)である。それも当然だと思う。彼女はずっと抱いてきた疑念の答えを、今、ほとんど完全な形も同然に提示されているのだ。……たぶん。視覚に頼らなくともそれくらいは推察できる。 しばしの間を空けて、 「この件が終わった時、あなたに話します。今は、彼を」 大人版朝比奈さんは鋭い口調で言った。こんなに緊張感のある朝比奈さん(大)の声は初めてだ。部下に指令を送る上司の緊迫感そのままである。 「あっ! えっ、えっ!」 と、声にならない声を朝比奈さん(小)が発する間に、おそらく、大人版朝比奈さんはいなくなった。まるで姉妹のやりとりを聞いているようであったが、それも何か違うな。何せ同一人物なのだ。本来顔を合わせてはいけないはずだ。 「あら、今の人は? どこに行ったの?」 ハルヒの声がする。……ハルヒ。 ハルヒ!? ちょっと待て。ってことはあの朝比奈さん(大)はハルヒともどもどこかの時代にワープしたってことか? 一体どういうつもりなのだろうか。ハルヒに超常現象を認めさせてしまってはマズいのではないだろうか? それこそ宇宙全体がめちゃめちゃになるという古泉の説明を思い出す俺である。 「それでみくるちゃん、その手紙にはなんて書いてあるの?」 ハルヒはどこか冷静さを感じさせるような声で言った。……一体今こいつは何を思っているのだろう。こんなSFど真ん中直球ストレートな状態に、ついにこいつが巻き込まれてしまったわけである。ハルヒが望んだから起きたなどと俺は思わない。だったらとっくにこの宇宙は崩壊寸前まで法則とやらを乱しているはずだ。ハルヒの認識範囲におかしな現象が及ばないよう、俺たちはギリギリまでごまかし続けていたのが、今回ばかりは隠しようがないんじゃないか。 しかしハルヒは朝比奈さんに対し余計な疑問を呈するようなことはしなかった。どうやら手紙を朝比奈さんから取って開いたらしい。……ハルヒが見てしまっていい内容なのだろうか。ハルヒは内容を読み上げ始めた。 「朝比奈みくる様。まず一番初めに書いておきますが、あなたの目の前にいる彼は無事です。まったく意識がないだけで、命に別状はありません。一時的に凍結状態に置かれていると考えてください。これから提示する手段に従って行動してください。優先度はコードの通り。急ぎすぎることはありませんが、油断も禁物です。涼宮さんにこの手紙を見せてしまっても構いません。どうしてあなた達がここに来たのか、それについて考えるのは後です。まずはどちらかが長門有希さんの自宅へ行って、彼女をここに連れてきてください。彼女ならば彼を目覚めさせることができます。以降の指示はそれから読むこと。まずは、長門さんの家へ――」 数秒間、二人は何も言わなかった。 ……やがて、 「あたしが行ってくる。みくるちゃんはここにいて」 ハルヒが立ち上がる音がする。そういえば、俺は一体どこでノビてるんだ? 聴こえてくる音からして、外にいることは間違いなさそうだが……。 「あ、えっ、でも! 涼宮さ――」 朝比奈さんが呼びかける間にハルヒはすごい速度で走り去った。あっという間に足音が遠ざかる。 俺としても不安なことこの上ないが、一度目標が定まったハルヒの行動スピードたるや、初速だけで宇宙空間まで飛び立てそうなほど凄まじい勢いであるのは、この一年で俺も散々味わってきた。それが時に助かるんだけどな。……例えばこういう時にさ。 「キョンくん……。どうして……」 朝比奈さんの声が近い。吐息が顔にかかっているくらいじゃないかと思うのだが、なにぶん生きているのが耳だけなので距離感しかつかめないのが残念というか。いやはや。 「ごめんね。あたし、また何にもできなくて……っ」 朝比奈さんは今にも曇りから小雨に変わってしまいそうな声色をしている。くそ、どうして動けないんだ。今すぐにでもこの金縛り状態を解いて彼女を抱きしめてあげたいくらいなのに。 「……涼宮さん……。ちゃんと長門さんとこに行けるかなぁ」 朝比奈さんの途切れ途切れな声が、彼女が悲しんでいる様子を物語っている。俺の精神状態だけ無事なのにも何とももどかしい気分だ。 長門……。 長門? そうだ。あいつは今どこにいるんだ? さっきまでいた場所には、朝倉と俺、長門、ハルヒ、朝比奈さんがいたはずだ。どうなってる。長門は今ここにいないのか? ……。 俺はハルヒが長門の家に向かったことに思い当たる。長門に助けを求めに行ったってことは、やはりあいつは今この場にいないってことになる。長門は無口だから、声が聞こえないだけということもあり得るかと思ったが、様子から察するにそうではない。ならば、さっきまでいたはずの長門は一体どこへ行ったのか。 ……簡単だ。元の時空に留まったのだ。朝倉と一緒に。 長門が今回も無事に朝倉に勝てるなんて楽観的な予測を俺はしない。もちろん無事でいてほしいが、前回だって俺から見れば結構接戦だったのだ。それなのに、今回の朝倉はあの時以上に予想を上回ることばかりしている。 そんな朝倉から長門はSOS団を守ったのだ。危険を顧みずに。 無力感を感じる。俺がどんなに長門に負担をかけまいと思っても、結局それは何らかの形であいつに返ってしまう。 ……ふいに、廊下で交わした言葉を思い出す。 わたしは古泉一樹を守ることができなかった。……わたしの責任。 俺は結局、あの時長門に何も言ってやれなかった。今まで忘れちまってた、なんて言い訳はしない。 長門、お前に責任なんかない。そうやって自分を責めるのも、そろそろやめにしようぜ。……そう言いたかった。だって、俺たちは仲間じゃないか。お互いを助けるのは当然なんだ。それは義務なんかじゃない。好意だ。互いが、互いをかけがえのないものだと思っているからこその、好意……。 あいつはまだ人間としての感情の整理に慣れることができないのだろう。ある時は感情が大きくなりすぎ、ある時は十分すぎるくらいの貢献にもかかわらず、まだ頑張ろうとする。あいつに今一番言ってやりたいことは、無理はするなの一言だ。だが、あの場所に残った長門は朝倉と戦っている。そして今度こそ、俺はその場にいる長門に何もできないのだ。戦いに傷つき、倒れたあいつを、助け起こしてやることすら……。 「うぇっ、っく、ふぇっ……」 急に聴覚が戻ってきたかのように気がついた。 朝比奈さんが泣いている。 またしても動けなくなっちまった俺を前にして、たぶん、わけも分からないままで悲しんでいる。 「あたしぃ、うっ、もっと……ちゃんとし……しないと、いけ、いけないのに……っ」 泣かないで下さいよ朝比奈さん。俺までもらい泣きしちまいそうですよ……。 くそ。どうしてだ。何で誰も彼も自分を責めるようなことばっかり言いやがる。 一番しっかりしないといけないのは俺……いや、これも言い訳にすぎないな。俺がどれだけ自分を責めようと、今ここにいる朝比奈さんの涙さえ、止めることができない。 じゃぁ、誰が悪いんだ? ……朝倉か? すべてを生まれ変った急進派と朝倉のせいにしちまえば、俺たちが持ち寄った憂鬱は全部晴れてくれるのか? ……そうじゃない。あの朝倉ですら、本当の意味で悪じゃあないんだ。あいつ自身も言っていた。朝倉は役割を忠実にこなしているだけだ。 まったく感情移入はできないが、哀しい存在であるのかもしれない。こんな事を言ったら、朝倉に命ひとつじゃ足りないくらいのナイフを突き立てられそうだが。俺はそう思う。あいつが、本当にただのクラスメートだったらどれだけよかったことか。普通に友達と笑って、勉強して、部活やってたりして、休日はちょっと遠くに出かけたりするような、ごく一般的な女子生徒だったら……。 俺は非日常たる生活を望んでいたし、これまで色々あったあれやこれを、ひっくるめて楽しかったと言えるくらいにまでなっていた。はずだった。 だが、今回はどうだ? お前は、この状況を楽しんでいるか? 何が楽しいんだ。誰か教えてくれよ。 古泉は消えちまって、長門は別の時間に置き去りで、朝比奈さんは泣き止まない。そして俺だけのうのうと自省してるこんな状況の、どこが楽しいって言うんだ。 誰も悪くないのに、みんなが自分を責めやがる。 言ったはずだ。俺は灰色もブルー色も好きじゃないって。 どうせ倒れるなら前がかり。続けていくなら楽しく笑っていられる時間を、だ。 俺はどんなことが起きようと立ち向かうと決めたはずだ。 ……だから、今は悲しんでいちゃいけないんだ。 俺がしっかりしないでどうするんだよ。 そうさ、まだ何にも終わっちゃいない。 感動のラストなんか……まだ受けつけてない。 「有希! こっちこっち! 早く!」 朝比奈さんの鳴き声に混じって、叫ぶ声がした。間違いない。ハルヒのものだ。帰ってきた、俺たちの団長様が。 長門も連れてきたらしいな。……そういえば、ここはいつなんだろうな。長門が無事な時間……、過去のどこかだろうか。 「みくるちゃん、泣いてる場合じゃないわ。あたしたちにはすべきことがあるの。しっかりして」 声にならない声を上げる朝比奈さんにハルヒが言った。 「有希、キョンが動かないのよ」 続けてハルヒの声。……こいつ、さっきまでいた場所にも、ここにも長門がいて、どうして冷静でいられるのだろうな。 長門の声はしない。が、誰かが近付く気配がする。 かすかに服がすれるような音が聴こえる。何かしているのだろうか。 「治せるの……?」 ささやくようなハルヒの声。朝比奈さんの嗚咽も今は止んでいる。 「コード解析。解除プログラム検索――該当なし。同期――不能。言語分析。再生成。推定所要時間、一ヶ月」 長門の声に間違いはなかったが、俺がこれまで聞いたどの長門の声より無機質で無感情だ。発達した機会音声が喋っているんじゃないのかというくらいに。 「一ヶ月……って、その間待たないといけないの? そんなに長く?」 ハルヒが驚きと呆れの色を帯びた声で言った。俺がこいつの立場でも同じような反応をしたことだろう。長門は何でもないように言うが、俺はひと月も考える葦状態のまま風に吹かれにゃならんのか? 「未知の言語により生体そのものが凍結されている。それより短時間での解凍は不可能」 それとも俺は冷凍貯蔵庫のマグロだろうか。だとすればさながらここは競り市か。 「あっ」 声を出したのは朝比奈さんである。長門が来たことに気を取られたのか、どうにか泣き止んでくださったようだ。 「えぇっと。あの……長門さん? 今っていつだか分かりますか? その、時空間座標のコードを……」 最後の部分だけ朝比奈さんは聞きとれるか否かの小声だった。ハルヒに聞こえないよう、長門にささやいたのかもしれない。 対する長門は何も答えない。また衣服のこすれる音のみがわずかにした後で、 「ありがとうございます。……とすると、うん。あの、長門さん」 決意したように言う朝比奈さんに対し長門は返事すらしない。無反応にも程があるな。一体今はいつなんだ? 「キョンくんをお願いできますか」 台詞だけさらえば長年手塩にかけて育てた娘を嫁にやる時のような言葉に聞こえなくもない。だが俺は朝比奈さんの娘でもなければ女でもないし、朝比奈さんは父親でも母親でもない。 朝比奈さんの声は真剣だった。かつて川沿いのベンチでハルヒに関するトンデモ話を聞かされた時のような、緊張の色。 「ちょっとみくるちゃん? それって一体――」 ハルヒの声に朝比奈さんは、 「涼宮さん、すぐに済みますから。ちょっとだけ待っててもらえますか」 ハルヒに指示をする朝比奈さんなんてものを俺は初めて見た。いや、聞いた。 また数秒沈黙があった。おそらく、長門が音にならない反応をしているのだと思う。 「ありがとうございます。それじゃ……お願いしますね」 「みくるちゃん? どういうこと?」 ハルヒの問いに、朝比奈さんは別の答え方をする。 「涼宮さん、少しの間目を閉じてもらえますか?」 やや躊躇するようではあるものの、朝比奈さんの声は相変わらず真剣そのものだった。ハルヒもよもや朝比奈さんからこうしろと指示されるとは、まったくもって想定外だったらしく、しばらく「え?」とか「えっと」とか挙動不審そうなことを言って、ようやく 「目をつむればいいのね。こうかしら」 「それじゃ長門さん、よろしくお願いします。えっと、涼宮さん……ごめんなさいっ」 「えっ?」 直後、空気を払うようなヒュッという音が聴こえ、それきりハルヒの声も朝比奈さんの声もしなく――。 「……」 猛烈な眠気と共に、俺は急速に意識を失った。 第五章
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■ 英語学習アプリ「鬼桃語り」の攻略サイト■ 鬼桃語り攻略メニューへ戻る -漆黒ノ音ト霧 > 海を覆い尽くす霧・火 > 小さな荒ぶる者 タップ 発音 おにぎり -14 -14 Score 100 82 獲得小判 2052 2052 獲得経験値 491 778 宝桃 0 2 バトル① あかクラゲ、ちびあか子影、ちびうさきの子 バトル② 小あか鬼火、小赤葉たま バトル③ 赤うきこカメ×2、フェアリーフォーク 最終バトル 亥 ■ 英語学習アプリ「鬼桃語り」の攻略サイト■ 鬼桃語り攻略メニューへ戻る
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「ショウゴ!」 「おぉー、ハル!お疲れさん!」 「悪いな、今日も部活出れなくて。」 「まったくだ、おかげさまで毎日毎日俺は先輩達にしごかれて…」 「はは…悪い悪い、今度何か奢るからそれでチャラしてくれ。」 「お、言ったな!?それはつまり駅前のラーメン屋『大将』の特別メニュー、 得盛チャーシューメンをトッピング増し増しで奢ってくれるっつーことだな!? いやー、悪いねぇハルちゃん。」 「は!?そこまで言ってねぇし!」 「うるせー!奢るっつったなら何でも奢れよ!」 「確かに奢るっては言ったが、あれ1000円以上すんだろ!?お前、 俺の財布事情を知ってる癖にそれを頼むのか!」 「よーろーしーくーなー!」 「ぐ………はぁ…はいはい、分かったよ。そーいやショウゴ、この前のサバゲーどうだったんだ?」 「あぁ、あれか。あんなの余裕余裕、ハリのない相手だったなー。もうここらじゃ、 俺らのチームが一番だって言ってもおかしくないぜ。」 「そーやって調子乗ってっと、今に痛い目見るぞ?」 「大丈夫だって、次の相手だって余裕で勝てるさ。」 「へぇ、もう次の練習試合の相手決まってんのか?」 「ああ。まっ、どうせ試合にならないだろうけどな!」 「おいおい、そういう油断してるとだな・・・」 「ハルは心配性だなー、俺が大丈夫つったら大丈夫なんだよ。」 「だといいけど。」 「チハル、」 「ん?」 「…あ、」 「もう、玄関で待ってたのに…やっぱりここでショウゴくんと話してたのね。」 「ご、ごめん、つい話に夢中になってな…」 「お疲れフユカちゃん。」 「お疲れ様、…今日文化祭実行委員会が無いから、久しぶりに一緒に帰れると思ってたのに…」 「だ、だからごめんって…忘れてたわけじゃないんだからさ、そのー…なんだ…」 「…ストロベリーパフェ一個!それで許してあげる。」 「げっ」 「奢ってやりなよ、か・の・じょだろ?」 「ショウゴてめ…!」 「っふふ、…じゃ、帰ろ?」 「…あぁ、帰るか。それじゃあな、ショウゴ。」 「ん、また明日…っと、チハル。」 「なんだ?」 「部活のことは俺に任せといていいが…彼女のこと、気にかけてやれよな。 文化祭ので忙しいのは分かるけどよ、最近フユカちゃんどっか暗いから。」 「…分かってる、あいつに寂しい想いはさせねぇようにするからさ。んじゃ!」 「おう!ラーメンよろしくな!」 「それは断る!!」 いつかの会話 「…そういえば、フユカちゃんなんで今日実行委員が無いこと知ってたんだ?」 (これがショウゴとチハルの最後に交わした会話で) (数日後、彼は学校を辞めた)
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【検索用 せかいけいしょうしょとちいさなしょうねん 登録タグ 2014年 VOCALOID せ セカイ系P 初音ミク 曲 曲さ】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:セカイ系P 作曲:セカイ系P 編曲:セカイ系P 唄:初音ミク 曲紹介 曲名:『セカイ系少女と小さな少年』(せかいけいしょうじょとちいさなしょうねん) セカイ系少女シリーズ第4弾 セカイ系P6作目 歌詞 「ねぇ、恋したんだ」ってキミは言う。 大抵はいつだって笑えない 頭ん中ゆらりゆれるリズムに酔うんだ 「でも、恋したんだ」ってキミの言う 恋愛はいつだって空回ってさ 独り善がり、独善的な愛を語りだす。 「ねぇ、恋したんだ」って微笑むキミに 「恋したんだ」って言えない僕は 鈍感でさ 本音に気づけないんだ ねぇ 屋上見れば キミが立ってて 羽を生やして泣いている 小さな少年が僕の街に爆弾をひとつ落とした 当たり前の感情なんかじゃ届かない それでも階段を駆ける僕を見て キミはまたからり微笑んだ 作られたキミの表情は 笑えないな 「ねぇ、どうしたんだ」って僕は問うけど 「後悔はないよ」ってキミは言うだけ 「ねぇ、恋したんだ」って僕は請うけど 「もう愛はないよ」ってキミは言うだけ 大事そうに翼を撫でて 「化け物でしょ」と 太陽が二つ、空では咲いてた それだけつぶやいて少女はふわり羽ばたいて宙に浮いたんだ キミの言う「セカイ系」なんかはわからない それでもキミがいないこの街で生きるなら 僕はただキミと死にたいんだ 「行かないで」そっと手を取った 小さな少年が僕の街に爆弾をひとつ落とした 抱きしめたキミの体温すらわからない そのまま住み慣れた風景が溶けて 思い出に消えていったんだ 聞き飽きたキミの恋愛観 なつかしいね コメント いい! -- 名無しさん (2014-03-05 21 59 06) ハイセンスで好きです! -- DMP (2014-03-16 02 03 01) 名前 コメント
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氷の小さな妖精 サプライ 図書館と霧の湖 分類 スペルカード 攻撃 - 体力 - コスト ⓪ スペル効果 このカードを引いたプレイヤーは、即座にこのカードを公開し効果を発動させます。すべてのプレイヤーは、次のサイコロをふらずに9マス進む。カードを1枚引く。 イラスト まるろーに 処理 スペル効果 使い方 共通山札戦 デッキ構築ルール 関連するQA 相性のいいカード
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参加者達の残りはわずか五名。殺し合いの意志を持つ者はもういない。 そんな時、全てが暗転した。 きっと誰もが思っただろう。『まるで最初の時みたいだ』とーーーーー。 五名の参加者が集められたのは一軒のマンション。 それは『相克スル螺旋』ーーーつまり、荒耶のフィールドとでもいったところか。 『ようこそ、我が城へ』 「荒耶宗蓮ッ……」 「……姿を現しなさい!荒耶!!」 『我が目的についてまず話さねばなるまい。私の目的は莫大な負のエネルギーによる『根源の渦』への到達ーーーー。だが。そのエネルギーは既に回収できた。つまり』 『貴様等はもう用済みという訳だ』 どたどたどたっ。 大勢の足音がして、瞬く間に数百人もの人間が彼らの周りを囲んでいた。 「くそっ!戦うしかないか!そこの二人!俺は岡部倫太郎!そっちは牧瀬紅莉栖にシャルロット・デュノアだ!」 「ーーー私は暁美ほむらよ。こっちは一方通行」 最低限の、本当に短い自己紹介。 それが終わるや否や、一方通行は首筋のチョーカー型電極のスイッチを入れる。 彼の前に立っていた人々を気流の砲弾で吹き飛ばす。 背後から襲いかかってきたなら、『反射』で腕を折る。 単純な、だが絶対的な戦闘のスタイル。 その内に、一方通行はあることに気付く。人体のベクトルさえ操作できる能力者だからこそ気付けたこと。この者たちには心音がない。 「オマエら!こいつらはハナっから生きてなンざいねェ!荒耶のクソッたれの人形みてェなモンだ!容赦なンざいらねェ」 ほむらはそれを聞いた直後には、すでにAK-47を取り出していた。時間を停止しての一斉掃射。まさか魔女退治以外にこんなことをすることになるとは微塵も思っていなかった。 無数の弾が人形を的確に射抜き、倒していく。 岡部たちも、非力ではあるが銃器での射撃によって徐々に数を減らしていく。 勝てる、と誰もが思った直後。 ダァン! というもはや聞き慣れてしまった音がした。 視線の先に見たのは。胸に赤い華を咲かせて崩れ落ちるシャルロットの姿であった。 第二に見たのは、岡部倫太郎が最も憎む相手。 ーーーSERNの構成員、桐生萌迦。 「萌迦ァァああああああああああああああああああッ!!」 飛びかかっていこうとしたが、桐生の姿は霧のようにぼやけて、消えていく。 「りんた…ろう…みんな…」 「シャルロット!目を開けろよ!シャルロット!」 「岡部!デュノアさんの想いを守るためにも、ここは進むわよ!」 「キリがねェ…ここは進むのが善策だ」 ベクトル操作した気流が横薙ぎに人形を薙払い、そのまま道を作る。 気味の悪い、不安を覚えさせるような螺旋階段を駆け上がる。 ベクトル操作は無造作には打てない。バッテリーが切れれば、荒耶には勝てない。 ほむらの射撃でわずかな追っ手を倒し、どんどん階を上っていく。 そしてその先に居たのは、さっきと同じ量の人形たち。 「邪魔なンだよォォおおおおおおおおおおおおッ!!」 背中から黒い翼が噴出し、一気に蹴散らしていく。 「(鹿目の奴…この翼のオンオフを可能にしたのか。ありがてェこった)」 「容赦ないわね」 一度流れに乗ったならもう止まらない。 荒耶の待つ最上階へと、歩みを進めていく。 ◆ 「……ふむ。思ったより手間取ってしまったとはいえ、まさか貴様等が上ってくるとはな。一人欠けたとはいえ上出来だ」 荒耶の眼前に立つのは、四人の生存者。 会話などは無い。怒りを堪えきれなかった『最強』の黒い翼が荒耶の右腕を毟り取り、他三人の一斉射撃が荒耶を蜂の巣にしていく。 「無駄だ。もはや私に攻撃などは通じない」 ◆ 「私は今から時を越える」 「手段は暁美ほむらのようなものではない」 「SERN…と言えば分かるな?」 「タイムマシンを入手した」 「まあ、その為に組織の『ラウンダー』なる連中は皆殺しにしてしまったが」 「桐生萌迦は私の生み出した幻だ。さすがに人形には出来なかった」 一方的な荒耶の言葉が続く。 そして、荒耶の背後から照らす『タイムマシン』に荒耶は乗り込み。 ーーーそのまま、消えていった。 ◆ 「これが、帰還装置か」 岡部の指さしたのは、座席だった。 皮肉にも紅莉栖の作ったタイムリーブマシンにそっくりの装置がついた座席。 しかし、その席数は三つ。 これが意味するのは、最悪の答えである。 ーーーーー誰か一人は、帰れない。 正確には、この世界に留まることは不可能であった。 現に、岡部たちの居る部屋は崩れていき、白い世界に呑まれ始めている。 世界の崩壊。 主を失った世界は崩れていき、やがて消えていく。 「俺が残ろう」 岡部は、きっぱりと言い放った。その瞳には、冗談の色は欠片もない。 「駄目よ!そんなことしたら、あんたは…」 「止めるなよ、助手……いや、紅莉栖。お前には未来があるんだからな」 岡部は座席に近付くと、そのままキーボードを叩いた。 画面には、 『牧瀬紅莉栖』『一方通行』『暁美ほむら』以上三名を生還させますか? カチッ 帰還装置が起動した。三人が粒子のように少しずつ消えていく。 「岡部!嫌、嫌ぁあ!!」 「助手よ!もしも、運命石の扉(シュタインズ・ゲート)が俺達を選んだなら!」 「貴様には、再び未来ガジェット研究所ラボメンナンバー4を与え、そしてまたラボの頭脳として活躍してもらおう!フゥーハハハ!!」 世界が消えた。 今ここに、一つの物語が終わりを告げる。 【シャルロット・デュノア@IS】 【岡部倫太郎@Steins;Gate】 死亡 【牧瀬紅莉栖@Steins;Gate】 【一方通行@とある魔術の禁書目録】 【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】 【以上三名、アニメ・ロワイアルより生還】 【GAME END】 『すくわれるもの』 投下順 「これもまた、運命石の扉の選択…ふふっ、馬鹿みたい」 結集する心 シャルロット・デュノア GAME OVER 結集する心 岡部倫太郎 GAME OVER 結集する心 牧瀬紅莉栖 「これもまた、運命石の扉の選択…ふふっ、馬鹿みたい」 結集する心 一方通行 「…抗ってやる。どンなルールにだってなァ」 結集する心 暁美ほむら 「交わした約束、忘れないよ」 第一回放送 荒耶宗蓮 逃走