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死からの復活――そんな最悪の目覚めをしようとも、朝の日差しは穏やかにそして平等に参加者に降り注ぐ。 はるか空高くある太陽には、地を這う人間のことなど――いや、神々のことすらも何も思わないのだろう。 どのような状況でも全てに対して平等であるのならば、物言わぬ太陽のほうが余程神然としている。 殺し合いを開いた――いや、開かざるを得なくなった哀れで人間的な神々のことを思って、ダテンは笑う。 「……嫌いだけど、もう一度好きになりたい……自分にもう一度振り向かせたい…………乙女かっての」 いや、神の何柱かは女だったな。 自分の発言を省みて、もう一度ダテンは笑う。 今の冗談みたいな状況全てをひっくるめて、ダテンは笑わざるを得ない。 現実と向き合うためには、現実逃避も時には必要となる。 逃げた先もまた、いつだって現実にたどり着くのだ。 「ハァ……ハァ……おっかしくてたまらねぇ……」 顔のニヤケはそのままに、ただ疲れてしまってダテンは声を上げて笑うのを止める。 笑い声に支配された空間は、再び他の音を受け入れる。 軽い足音。 靴と地面が軽く擦れて砂が舞い上がる音。 クスクスと女の笑い声。 「アンタもおかしくておかしくて笑ってんのか?」 「いいえ……今日はとてもおめでたい日なの」 ダテンの前方から向かってきていたのは、妙齢の女性だった。 ほんのりと赤く顔を染め、吐息を荒くし、そして何が楽しいのかクスクスと笑う女性は、 この異常な状況下でありながら、過剰なまでの色気を発していた。 「おめでたい……か、いや俺もよくわからないけど祝福するよ」 「ええ、ありがとう……この子もきっと喜んでいるわ……」 そう言いながら、妙齢の女性は愛おしそうに腹を撫で回す。 細身の体であるが故に一見した程度では気づけなかったが、その腹部は明らかに新たな生命のための寝具と成っていた。 「もうすぐかい?」 「ええ、もうすぐ生まれるの……」 「……クリムエールはいるかい?」 「遠慮しておきますわ、だってこの子のためにならないもの」 穏やかで幸福な会話、それを続ける二人がこの状況下においては逆に狂っているように見えた。 だが、そんな狂いなどは二人には関係のないことである。 ダテンは女性に対し、「そうかい、そりゃそうだ」と形見の鞄からクリムエールを取り出して一息に煽り、 女性はそれを微笑ましげに眺めていた。 全身に心地の良い酩酊感が回り、目の前の女性と同じように顔にほんのりと赤が差し込む。 かといって、ゲロゲロを吐くほどでもないし――もちろん、拒食もありえない。 ただ、酔いは肉体だけでなく精神の方にも回りこみ、ダテンにとある言葉を言わせる。 本来ならありふれた、つまらない言葉である。 だが、彼女に対してだけは――そして、それを察していたダテンには禁断の言葉に近い。 それでもその言葉を言ってしまったのは、 酔いのせいだけではなく、ダテンの性格によるものだろう。 「で?誰の子だ?」 「もちろん、夫の子ですわ……」 女性の表情は変わらない。 相変わらずの笑みのまま、腹が裂けた。 血しぶきが飛び、肉片がちらばり、女性がぐらりと倒れ、 「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」 子供が誕生した。 「元気な子だな」 「ええ……私の……自慢の…………子………………です」 @ 女性が己の名前を最後に呼んでもらったのは何時のことだろうか。 長命のエレアである彼女にとって1日も100年も大した差はない。 それでも彼女が自分の名を忘れてしまうほどの膨大な年月が流れてしまったはずである。 昔、彼女はありふれた冒険者で ごくありふれた出会いの末に、将来の伴侶を見つけた。 幸福だった。 幸福であるはずだった。 遺伝子を継ぎ、隣で微笑みかけてくれる男の子供を生むはずだった。 昔、妊娠という状態異常があった。 エイリアンという新たに出現したモンスター、奴は母体となる人間に己の子を植え付け、そして強制的に出産させる。 今では寄生と呼ばれ、対策もある程度わかっている。 だが、当時は――突如、現れたエイリアンにどう対処すればいいかわかるものはいなかった。 エイリアンは女性を妊娠させた。 女性はエイリアンの子を産んだ。 子は悲劇を生んだ。 何度でも甦れる者がいれば、死ぬままになる者もいる。 女性が前者であり、男は後者だった。 泣き叫び。 痛みにのたうち回り。 そして狂った。 今の状況は間違っている。 本来私は幸福であるべきだ。 男はどこかに行ってしまったが。 私には子供がいる。 そう、私と最愛のあの人の―― 妊娠が寄生と呼ばれるようになっても、彼女は優しく己の子が眠る腹を撫ぜる。 行き着くところまで行き着いた狂気度は、現実をねじ曲げさせる。 生まれでた怪物の画像はエレアの標準的な子供に差し替えられる。 怪物が街の住民を襲えば、それを元気に遊んでいると解釈する。 怪物がさらに子供を孕ませれば知らない間に兄弟が増えていると喜ぶ。 そしてガードに己の子が殺されれば――そんな子供など最初からいなかったのだ。 彼女のカルマは下がらない、彼女に罪はない。 全ては怪物の罪。狂気は罪ではない。 だから、そんな生活を彼女は続けていたし、 そしてこの場所でもこうなった。 @ 慈しみの視線を向ける母。 狂気の雄叫びを上げる子。 そして―― 「テレポートアザー」 事も無げにダテンは詠唱する。 子が何処かへとテレポートする。 「あら……?あの子……ったら……ど……こへいっ……たのか……しら?生……まれたば……っかり……だって……いうのに…………」 「遊びたい年頃なんでしょ」 「あ……ら……あ…………ら……」 「それより、アンタが心配だ」 「大……丈夫…………慣れていますから……」 「どっかベッドにでも寝かせたいなぁ、なにせ……」 こんなところで死んでもらったらつまらない、と言いそうになってダテンは言葉を呑み込む。 ダテンの性癖は歪んでいる。 ダテンは召喚したモンスターが他人を襲っている所を見ることに異常な興奮を感じる。 他人がモンスターを返り討ちにしている所を見ても興奮する。 パルミア王族がモンスターと戦っているところなど、思い出すたびにダテンは気持ちいいことを行う。 なお、この場合の気持いいこととはボランティアなどの清々しく気持ちいい事であり、変な意味ではない。 しかしサモンモンスターの杖もなく、丁度魔法も尽きていた現状では この密かな楽しみも行えないだろう、と諦めていた矢先のことである。女性と出会ったのは。 使える、そうダテンは判断する。 エイリアンが腹を掻っ捌いて宿主を襲うところで、気持ちいいことを3回は出来るだろうと皮算用すら開始する。 そのために、今目の前の子供を殺すことは躊躇ったし、宿主が死ぬことなど言語道断である。 「パルミアなら王様ベッドがある、どこまで再現してあるかわからないが……行ってみよう」 消耗故に気絶した女性をピアニスト特有の重量挙げで優しく担いで、ダテンはパルミアへと走りだす。 状況を問わず、狂ってしまっているのだ。 【E-6/中央/一日目・朝】 【ダテン@ジューア】 【職業:ピアニスト】 【技能・スキル:テレポートアザー】 【宗教:幸運のエヘカトル】 [状態]:健康 [装備]:なし [所持]:基本支給品、形見の鞄(不明支給品2アイテム) [思考・状況] 基本:他人がモンスターに襲われている所をおかずに気持ちいいことをしたい 1:パルミアの王様ベッドに女性を寝かす 【女性@エレア】 【職業:戦士】 【技能・スキル:不明】 【宗教:◦癒しのジュア 】 [状態]:妊娠(寄生)、出血、ダメージ(中) [装備]:なし [所持]:基本支給品、形見の鞄(不明支給品3アイテム) [思考・状況] 基本:どこまで何を認識できているのか不明 【備考】 ・エイリアンがエレアの子供に見えています ・狂っています ・エイリアンはテレポートアザーで何処かへ飛んでいきました、E-6内ではないかと思われます Buck :6 Next 何をしたいのか 投下順 何をしたいのか 時系列順 ダテン Next→ 女性 Next→
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投稿日: 02/07/26 23 05 00223 能力名 家族計画(ハッピーサマーウェディング) タイプ 精神操作・生体操作・条件強制 能力系統 操作系 系統比率 未記載 能力の説明 衣・食・住を保証するという誓約で婚姻届にサインした異性を操作する。 相手のプロフィールが解かっていれば婚姻届は自分で書いて、無理やり拇印を押させることでも契約は完了する。 誓約を破るか婚姻届を破いた時点で能力は解除される。 なお、重婚も可能だが経済的負担は大きい。 制約\誓約 - 備考 - レスポンス 類似能力 コメント すべてのコメントを見る 操作系 条件強制 生体操作 精神操作
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それは学校帰りのこと。珍しい光景を見かけた、電気石と虎目石ちゃんが手を繋いで散歩をしているのだ。 確かにあの二人は最近仲がいい。きっとどこか似たもの同士で惹かれ合うものがあるのだろう。 と、電気石が古びた薬局の前で立ち止まる。 「んー……?」 「どうしたの?」 「んー……あれ?」 電気石が指差す先には自販機らしき……って、あれは! 「あれは明るい家族を維持するために必要な道具」 「あかるい?」 「具体的に言うと……」 「ストップストーップ!」 この子はいきなり何を言い出すんですか。 「マスター」 「こんにちは」 「あ、うん。こんにちは」 うぅむ、やっぱりペースが掴めない……って、そうじゃないよ。 「虎目石ちゃん、外でそういう事話しちゃダメだよ」 「つまりあなたが家の中でいろいろと詳しい説明を――」 「ちがーう! そういうことは具体的に説明しちゃダメって、こ……と……うぅ」 街中で叫ぶなんて、僕は馬鹿か……周りの視線が痛い。うわぁ、薬局のおばちゃん睨んできてる。 しかし、いつかはこういうこともあるだろうとは思っていたけど、実際直面するとどうすればいいか分からないな。だいたい何で今どきこんな自販機が……。 「マスター」 「ん、どうしたの?」 僕の服を引っ張り、そして再びあの自販機を指差す。もう関わり合いたくないんだけどなぁ、あれと。 「あかるい?」 「知らない……」 「んー……いる?」 「いらないよ」 「あかるいの……ダメ?」 ……何が言いたいんだろう。少しだけ見当がつくけど。 「……暗い家族?」 「いや、全然暗くないよ。蛋白石も殺生石もいるし」 「ん……ずっと?」 「うん。ずっと」 「それを維持するために買うと」 「買いません。必要ありません」 虎目石ちゃんもホントよく分からない……と、僕が頭を抱えているところに、電気石が僕の服を掴んで見上げてくる。もう片方の手は虎目石ちゃんの手を握って。 「……明るい家族?」 「え、うん」 「……明るいの、好き。みんな、ずっと一緒」 あ、電気石笑ってるよ。 「私も?」 「うん」 「イインダヨー」 「ぐりーんだよー」 「そんな唐突に……まぁいいか」 電気石の笑顔か……初めて見たかもね。 「あかるい♪」 家族……他とはちょっと変わった家族だけど、明るいからいいよね。電気石だって笑ってるし、ね。
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ミリP「俺とママの幸せ家族計画」 執筆開始日時 2016/03/31 元スレURL http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1459433838/ 概要 「パパ~~」 肩に小刻みな揺れを感じる。 耳に届くのは先日8歳になったばかりの娘が俺を呼ぶ声だ。 「パパってば~~」 揺さぶりが大きくなる。 すまんな、有希よ。 お父さんはな、死ぬほど疲れてるんだ。 「もうッ!」 そうだ、諦めて下に行くんだ。そしてママの作った朝ごはんを食べて……、うげっ! 「パパのねぼすけッ!」 とたとたとたと下に軽やかにかけていく娘の足音を聞きながら、俺は先ほどくらった娘のボディプレスの威力に悶絶していた。 タグ ^周防桃子 まとめサイト アニえすっ! あやめ2nd アムネジアss大全 えすえすりんくす えすえすログ だる速 ひとよにちゃんねる ポチッとSS!! SSまとめ みりえす!-ミリマスSSまとめブログ- SSちゃんねる SSびより SS 森きのこ! wiki内他頁検索用 Pドル いちゃコメ ミリオンライブ 周防桃子 数年後
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 幸せの連鎖 さて、本日は暖かい陽射しの中晴天に恵まれめでたくも高校卒業となったわけだが、 高校の卒業というめでたくも特別な日を涼宮ハルヒ率いるSOS団団員その一であり雑用係である おれが何事もなく過ごそうなどとやはり甘かったわけで、 ハルヒによるおれの親まで抱きこんだ手際良い策略により おれの知らないところで完璧に作成された婚姻届を市役所に提出して 晴れておれとハルヒは世間で言う夫婦関係となった。 まあ、簡単にいまの状況を説明してみたわけだが、市役所では突如制服姿で訪れ、婚姻届を提出しようと する俺たち二人に向けられる窓口のオヤジの好奇の視線に耐えたり、 その後の双方の親を交えた食事会で当事者であるおれより高いテンションで 孫は男がいい、いや女だ、だのたまごクラブだの子供の名付け辞典だのと 気が早すぎる親たちが騒いでいたり、妹がさっそくハルヒをお義姉ちゃんと呼び出し、この気に乗じて 妹のおれに対する呼称をお兄ちゃんに戻すべく画策してみたのだが、 「キョンはキョンでしょ。」 「キョンくんはキョンくんじゃない。」 などと意味のわからない理由であっさり却下されたことなどはどーでもいいことなので詳しくは割愛する。 そんなわけで今、長門の家でSOS団メンバー5人と名誉顧問である鶴屋さんにご足労願い、 結婚祝い&卒業記念パーティーの真っ最中なわけである。 SOS団での祝い事や記念日では恒例となっている鍋や鶴屋さんが手配して届けられた一流ホテルの 料理の数々に舌鼓をうち、こんなときくらいはいいだろうとこれまた鶴屋さんが持ち込んだ 高級そうなワインやらシャンパンやらで酒も入り、まさに宴のテンションは最高潮といっていいほど盛り上がっていた。 ハルヒはいつもの倍はあろうかというハイテンションで、同じくらいハイテンションな鶴屋さんとじゃれあい、 朝比奈さんはそんな二人をニコニコと眺めていて、長門はいつもと変わらない無表情ながら どこか柔らかな雰囲気を纏いながら黙々と料理を平らげている。 そんな光景をおれはこれまたいつもの0円スマイルの中にも楽しげな雰囲気を隠しきれてない古泉と眺めながら この和やかな雰囲気を満喫していた。 古「しかし、驚きました、式のあと姿が見えないと思ったらまさか入籍されていたとは…さすがに予想出来ませんでしたよ」 キ「おれだってそうだ。こんなこと予想出来てたまるか。」 古「それにしても我々はあなたには感謝しなくてはなりません。ありがとうございます」 キ「なんだいきなり、おまえんとこの怪しげな組織のことか? 別におまえらのためにしたわけじゃない。感謝される筋合いはないぞ」 古「いえ、僕の個人的な感謝です」 キ「ハルヒと結婚してなぜおまえに感謝されなきゃならん?バイトが減るからか?かならずともそうとは限らんぞ。」 古「いえ、そうではありません。僕はあなたに出会わなければ人との付き合いを利害や損得だけで 判断するような人間になっていたことでしょう。もしそうだとしたら このような幸福な時間を過ごすことなどなかったはずです。それを考えると感謝してもしきれませんよ」 キ「それならハルヒに感謝しておけ。おまえを連れてきたのはあいつだしな。」 古「もちろん涼宮さんにも感謝しています。ですが、涼宮さんを含め僕達全員を良い方へと導いてくれたのは あなただと僕は思っています」 キ「買い被りすぎだ。まぁ、こんな席だ、素直にどういたしまして、と言っておくさ。だから離れろ。 いつも以上に顔が近いんだよ、気色悪い。」 古「これは失礼。ついつい浮かれ過ぎてしまったようです」 そう言って今まで見たことない自然な笑顔で古泉は笑い出した。いつもそうしてろ。少なくとも腹は立たん。 古「それに浮かれているのは僕だけじゃないようですよ。長門さんを見て下さい。よほど楽しいのでしょうか、 いつもより食べるペースが早いようです」 なぜ食べるペースが早いと浮かれていると思うのかは疑問だが、確かに楽しげな雰囲気は見てとれる。 まぁ、そんな雰囲気を見てとれるのは長い付き合いの俺たちだからだろうが。思えば一番変わったのはこいつかもしれないな。 そんなことを考えながら長門を眺めていたら、今まで朝比奈さんをいじりたおしていたハルヒが長門に近付き、なにやら言い出した。 ハ「ねぇ、有希?」 長「なに?」 ハ「前から聞きたかったんだけどさ、有希ってこんな高そうなマンションに一人暮らししてるけど 有希のご両親てなにやってる人なの?」 相変わらず脈絡がないなこいつは。まあ、たしかに長門の正体を知らないハルヒからしたら当然の疑問かもしれない。 今まで聞かなかったのが不思議なくらいだし、それはたぶんハルヒがあえて踏み込まなかったからだろう。 酒とこの楽しげな雰囲気が少しハルヒの気を緩ませたのかもしれない。 しかし唐突すぎる。少し焦った。さすがに本当の事を言うわけにもいかないだろう。 見ると古泉の顔にも僅かながら緊張が見える。さて、このハルヒの疑問におれはどうフォローするべきかと考えていると 長門は少し視線を上にあげ何か思案するような仕草のあと口を開いた 長「いない。」 ハ「へ?いないって?」 長「両親はいない。」 ハ「いないって、その、もう亡くなってるとか…?」 長「そう。」 ハ「…それっていつごろ?」 長「六年前。」 ハ「六年前って、それじゃそれからずっとここに一人で住んでるの?」 長「そう。このマンションは両親が残してくれたもの」 六年前か。長門が生み出されたのもそのころと聞いた覚えがある。たしかにそうことにしといたほうが都合がいいかもしれない。 まさか本当のことを言うわけにもいかないし、 ハルヒには悪いが正体がバレれば長門はここにいられなくなるかもしれないし、それを考えると仕方ない。 しかし、急に空気がしんみりしちまったな。さて、どうしたものかな。 ハ「…そっか、…その、ごめんね。いきなり変なこと聞いちゃって・・・・・・。」 長「いい。大丈夫。それに…」 長門はかすかに首を横に振るとおれたち全員の顔を一人一人見渡した後、最後にハルヒに向かい静かに言葉を続けた。 長「今、わたしは一人じゃない。」 そんな長門の言葉に全員の動きが止まった。…いや、なんと言うか・・・。まさか長門の口からそんな言葉が聞くことが出来るとはとは思わず、 少し意表をつかれ、唖然としてしまったわけだが。 そんな中、いち早くフリーズ状態から復活した鶴屋さんが口を開いた。 鶴「そのとーりっ!有希っこは一人なんかじゃないっさ!SOS団が有希っこの家族みたいなもんだねっ!キョンくんもそー思わないかいっ?」 いきなり話を振られ少し動揺した、でもまあ、うん、そうだな。その通りだ。激しく同意する。 キ「そうですね。そう思います。おれにとってもSOS団はもうひとつの家族みたいなものです。 頼まれたって一人になんかさせませんよ。そうだろハルヒ?」 おれはそう言うと先ほどから顔を俯かせているハルヒに話を振った。ハルヒはハッと顔を上げ、おれを見て、それから長門に向き直った。 そして少し泣きそうな顔を浮かべていたが、やがて我慢出来ない、といった感じの笑顔なり長門に飛び付きだした。 見ると朝比奈さんも目に涙を浮かべて長門に抱きついていた。酒のせいか、少しテンション変わってないか? ハルヒのハイテンションもしんみりする前よりさらに上がったようで嬉しそうに長門と朝比奈さんを抱き寄せて頬擦りなんかをしている。 まったく、どうなることかと思ったがなにやら結果オーライだな。やれやれ。 …なんてのん気に考えていたわけだが、おれはこの和やかな雰囲気に油断しきっていて肝心なことを失念していた。 そう、テンションの上がりきったハルヒがこのままなにもせず終わるはずのないということにな。 宴もハイテンションのまま進み、もう深夜と言っていい時間に差し掛かったころ、 名残惜しいがさすがにお開きにしたほうがいいだろうとハルヒを見ると、 さっきまでのハイテンションはどこへ行ったのかなにやら難しい顔で考え込んでいた。 先ほどのことをまだ引きずっているのかとも思ったがいずれにせよ、お開きににしたほうがいいだろうと ハルヒに話しかけたときだった。 キ「おい、ハルヒそろそろ…」 ハ「気が付いたっ!!」 ハルヒが突然立ち上がりなにやら叫びだした。なんだ一体? ハ「どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのかしら!」 おいおい、なんだろうね、この既視感。なにやらすごく嫌な予感がするのだが…。 ハ「家族みたいじゃなくて家族になればいいのよ!」 キ「おい、いったいなに…」 ハ「有希に両親がいないならあたしとキョンの養子にすれば本当の家族になれるじゃない!」 キ「ちょ、おまっ、突然なに言っt…」 古「いやぁ、それはいい考えですね、さすが涼宮さんです」 おまえは黙れ。いきなり同意するな、このイエスマンめ! 鶴「あっははははっ!さすがハルにゃん、目のつけどころがちがうねっ!」 朝「ふえぇぇ、すごいですぅ」 二人ともなぜそんな簡単に感心出来るんですか! キ「待て、色々と待て!ハルヒ!」 ハ「なによ、いい考えでしょ?」 キ「少し落ち着け、話が急過ぎる!」 ハ「あんたが言ったんじゃない、家族みたいなもんだって。それに有希だけ両親がいないなんて不公平で可哀想じゃない」 キ「だからって勝手に決めていいことじゃないだろ、長門の意思はどうなる!?」 ハ「それもそうね、どう?有希、あたしとキョンの子供にならない?」 長「わたしはかまわない」 おーい…、長門ー…。 ハ「有希もこう言ってるわよ。何が悪いのよ?」 キ「いくらなんでも、もう少し物事の順序ってもんを考えろ、飛躍しすぎだ!」 ハ「有希みたいな素直でいい子が娘になるのよ?嫌なわけ?」 キ「嫌とかじゃなくて、大体、親たちになんて説明するんだ!?いきなり同級生を養子にしました、なんて許してくれるはずがn・・・・」 ピ、ピ、ピ・・・・プルルルルル・・・・プルルルルル・・・・ ・・・あのー、ハルヒさん?携帯なんか出して、いったいどちらへおかけで・・・? ハ「・・・ああ、お義母さん?うん、まだ有希んち。かくかくしかじかー・・・で有希をあたしとキョンの養子にしようと思うんだけど、 ・・・やっぱり!?いいアイディアでしょ?うん、ありがとー、じゃあまたあとで。オーバー♪」 キ「・・・・・・おい、ハルヒ?」 ハ「さあ、お義母さんの許可は取ったわよ。これで文句ないでしょ?」 うちの親ってこんなアバウトだったのか・・・。どおりですぐハルヒと打ち解けたはずだ・・・。 キ「いや、しかしだな・・・、いくらなんでn・・・」 気が付くと全員の無言で期待に満ちたような視線が向けられている。 一体なぜ、こんな孤立無援の状況に陥っているのか、誰かここに来て説明してくれ。頼むから。 ふと、長門の方に目を向けるとその大きなクリアブラックの瞳が真っ直ぐにおれを見つめていた。 このときほど長門の表情を読むことに長ける自分が恨めしいと思ったことはない。 やめろ、長門、子犬の様におれを見つめるな、小首を傾げるな、その、いやなの?だめなの?的な視線を止めてくれ! 長「おとうさん?」 ・・・・・・・・・・・・いくらなんでもそれは反則じゃあないか?娘よ・・・。 キ「……わかった。好きにしてくれ」 ハ「やたーー!さあ、有希!これであたしはあんたのおかあさんよ!遠慮なくおかあさんって呼びなさい!」 長「わかった。ありがとう。おかあさん、おとうさん。」 古「いやあ、おめでたいことは重なるものですね。おめでとうございます」 鶴「ハルにゃんとキョンくんと有希っこは前から親子みたいだったからピッタリっさ!いやーめでたいめでたいっ!わはは」 朝「ふえぇぇ、長門さんよかったですぅ」 …まったく、結婚初日からこれじゃ先が思いやられるな。 でもしかたない、喜ぶハルヒと長門…いや、有希の姿をみて悪くないなんて思っちまったのが運のつきだ。 それにあんな風に゛おとうさん゛なんて呼ばれちゃ降参しないほうがおかしいだろ? これから色々頑張らんと、娘に頼りきりの親父じゃ情けないからな。…やれやれ。涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 幸せの連鎖
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※悪くない人生の続きです さて、本日は暖かい陽射しの中晴天に恵まれめでたくも高校卒業となったわけだが、 高校の卒業というめでたくも特別な日を涼宮ハルヒ率いるSOS団団員その一であり雑用係である おれが何事もなく過ごそうなどとやはり甘かったわけで、 ハルヒによるおれの親まで抱きこんだ手際良い策略により おれの知らないところで完璧に作成された婚姻届を市役所に提出して 晴れておれとハルヒは世間で言う夫婦関係となった。 まあ、簡単にいまの状況を説明してみたわけだが、市役所では突如制服姿で訪れ、婚姻届を提出しようと する俺たち二人に向けられる窓口のオヤジの好奇の視線に耐えたり、 その後の双方の親を交えた食事会で当事者であるおれより高いテンションで 孫は男がいい、いや女だ、だのたまごクラブだの子供の名付け辞典だのと 気が早すぎる親たちが騒いでいたり、妹がさっそくハルヒをお義姉ちゃんと呼び出し、この気に乗じて 妹のおれに対する呼称をお兄ちゃんに戻すべく画策してみたのだが、 「キョンはキョンでしょ。」 「キョンくんはキョンくんじゃない。」 などと意味のわからない理由であっさり却下されたことなどはどーでもいいことなので詳しくは割愛する。 そんなわけで今、長門の家でSOS団メンバー5人と名誉顧問である鶴屋さんにご足労願い、 結婚祝い&卒業記念パーティーの真っ最中なわけである。 SOS団での祝い事や記念日では恒例となっている鍋や鶴屋さんが手配して届けられた一流ホテルの 料理の数々に舌鼓をうち、こんなときくらいはいいだろうとこれまた鶴屋さんが持ち込んだ 高級そうなワインやらシャンパンやらで酒も入り、まさに宴のテンションは最高潮といっていいほど盛り上がっていた。 ハルヒはいつもの倍はあろうかというハイテンションで、同じくらいハイテンションな鶴屋さんとじゃれあい、 朝比奈さんはそんな二人をニコニコと眺めていて、長門はいつもと変わらない無表情ながら どこか柔らかな雰囲気を纏いながら黙々と料理を平らげている。 そんな光景をおれはこれまたいつもの0円スマイルの中にも楽しげな雰囲気を隠しきれてない古泉と眺めながら この和やかな雰囲気を満喫していた。 古「しかし、驚きました、式のあと姿が見えないと思ったらまさか入籍されていたとは…さすがに予想出来ませんでしたよ」 キ「おれだってそうだ。こんなこと予想出来てたまるか。」 古「それにしても我々はあなたには感謝しなくてはなりません。ありがとうございます」 キ「なんだいきなり、おまえんとこの怪しげな組織のことか? 別におまえらのためにしたわけじゃない。感謝される筋合いはないぞ」 古「いえ、僕の個人的な感謝です」 キ「ハルヒと結婚してなぜおまえに感謝されなきゃならん?バイトが減るからか?かならずともそうとは限らんぞ。」 古「いえ、そうではありません。僕はあなたに出会わなければ人との付き合いを利害や損得だけで 判断するような人間になっていたことでしょう。もしそうだとしたら このような幸福な時間を過ごすことなどなかったはずです。それを考えると感謝してもしきれませんよ」 キ「それならハルヒに感謝しておけ。おまえを連れてきたのはあいつだしな。」 古「もちろん涼宮さんにも感謝しています。ですが、涼宮さんを含め僕達全員を良い方へと導いてくれたのは あなただと僕は思っています」 キ「買い被りすぎだ。まぁ、こんな席だ、素直にどういたしまして、と言っておくさ。だから離れろ。 いつも以上に顔が近いんだよ、気色悪い。」 古「これは失礼。ついつい浮かれ過ぎてしまったようです」 そう言って今まで見たことない自然な笑顔で古泉は笑い出した。いつもそうしてろ。少なくとも腹は立たん。 古「それに浮かれているのは僕だけじゃないようですよ。長門さんを見て下さい。よほど楽しいのでしょうか、 いつもより食べるペースが早いようです」 なぜ食べるペースが早いと浮かれていると思うのかは疑問だが、確かに楽しげな雰囲気は見てとれる。 まぁ、そんな雰囲気を見てとれるのは長い付き合いの俺たちだからだろうが。思えば一番変わったのはこいつかもしれないな。 そんなことを考えながら長門を眺めていたら、今まで朝比奈さんをいじりたおしていたハルヒが長門に近付き、なにやら言い出した。 ハ「ねぇ、有希?」 長「なに?」 ハ「前から聞きたかったんだけどさ、有希ってこんな高そうなマンションに一人暮らししてるけど 有希のご両親てなにやってる人なの?」 相変わらず脈絡がないなこいつは。まあ、たしかに長門の正体を知らないハルヒからしたら当然の疑問かもしれない。 今まで聞かなかったのが不思議なくらいだし、それはたぶんハルヒがあえて踏み込まなかったからだろう。 酒とこの楽しげな雰囲気が少しハルヒの気を緩ませたのかもしれない。 しかし唐突すぎる。少し焦った。さすがに本当の事を言うわけにもいかないだろう。 見ると古泉の顔にも僅かながら緊張が見える。さて、このハルヒの疑問におれはどうフォローするべきかと考えていると 長門は少し視線を上にあげ何か思案するような仕草のあと口を開いた 長「いない。」 ハ「へ?いないって?」 長「両親はいない。」 ハ「いないって、その、もう亡くなってるとか…?」 長「そう。」 ハ「…それっていつごろ?」 長「六年前。」 ハ「六年前って、それじゃそれからずっとここに一人で住んでるの?」 長「そう。このマンションは両親が残してくれたもの」 六年前か。長門が生み出されたのもそのころと聞いた覚えがある。たしかにそうことにしといたほうが都合がいいかもしれない。 まさか本当のことを言うわけにもいかないし、 ハルヒには悪いが正体がバレれば長門はここにいられなくなるかもしれないし、それを考えると仕方ない。 しかし、急に空気がしんみりしちまったな。さて、どうしたものかな。 ハ「…そっか、…その、ごめんね。いきなり変なこと聞いちゃって・・・・・・。」 長「いい。大丈夫。それに…」 長門はかすかに首を横に振るとおれたち全員の顔を一人一人見渡した後、最後にハルヒに向かい静かに言葉を続けた。 長「今、わたしは一人じゃない。」 そんな長門の言葉に全員の動きが止まった。…いや、なんと言うか・・・。まさか長門の口からそんな言葉が聞くことが出来るとはとは思わず、 少し意表をつかれ、唖然としてしまったわけだが。 そんな中、いち早くフリーズ状態から復活した鶴屋さんが口を開いた。 鶴「そのとーりっ!有希っこは一人なんかじゃないっさ!SOS団が有希っこの家族みたいなもんだねっ!キョンくんもそー思わないかいっ?」 いきなり話を振られ少し動揺した、でもまあ、うん、そうだな。その通りだ。激しく同意する。 キ「そうですね。そう思います。おれにとってもSOS団はもうひとつの家族みたいなものです。 頼まれたって一人になんかさせませんよ。そうだろハルヒ?」 おれはそう言うと先ほどから顔を俯かせているハルヒに話を振った。ハルヒはハッと顔を上げ、おれを見て、それから長門に向き直った。 そして少し泣きそうな顔を浮かべていたが、やがて我慢出来ない、といった感じの笑顔なり長門に飛び付きだした。 見ると朝比奈さんも目に涙を浮かべて長門に抱きついていた。酒のせいか、少しテンション変わってないか? ハルヒのハイテンションもしんみりする前よりさらに上がったようで嬉しそうに長門と朝比奈さんを抱き寄せて頬擦りなんかをしている。 まったく、どうなることかと思ったがなにやら結果オーライだな。やれやれ。 …なんてのん気に考えていたわけだが、おれはこの和やかな雰囲気に油断しきっていて肝心なことを失念していた。 そう、テンションの上がりきったハルヒがこのままなにもせず終わるはずのないということにな。 宴もハイテンションのまま進み、もう深夜と言っていい時間に差し掛かったころ、 名残惜しいがさすがにお開きにしたほうがいいだろうとハルヒを見ると、 さっきまでのハイテンションはどこへ行ったのかなにやら難しい顔で考え込んでいた。 先ほどのことをまだ引きずっているのかとも思ったがいずれにせよ、お開きににしたほうがいいだろうと ハルヒに話しかけたときだった。 キ「おい、ハルヒそろそろ…」 ハ「気が付いたっ!!」 ハルヒが突然立ち上がりなにやら叫びだした。なんだ一体? ハ「どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのかしら!」 おいおい、なんだろうね、この既視感。なにやらすごく嫌な予感がするのだが…。 ハ「家族みたいじゃなくて家族になればいいのよ!」 キ「おい、いったいなに…」 ハ「有希に両親がいないならあたしとキョンの養子にすれば本当の家族になれるじゃない!」 キ「ちょ、おまっ、突然なに言っt…」 古「いやぁ、それはいい考えですね、さすが涼宮さんです」 おまえは黙れ。いきなり同意するな、このイエスマンめ! 鶴「あっははははっ!さすがハルにゃん、目のつけどころがちがうねっ!」 朝「ふえぇぇ、すごいですぅ」 二人ともなぜそんな簡単に感心出来るんですか! キ「待て、色々と待て!ハルヒ!」 ハ「なによ、いい考えでしょ?」 キ「少し落ち着け、話が急過ぎる!」 ハ「あんたが言ったんじゃない、家族みたいなもんだって。それに有希だけ両親がいないなんて不公平で可哀想じゃない」 キ「だからって勝手に決めていいことじゃないだろ、長門の意思はどうなる!?」 ハ「それもそうね、どう?有希、あたしとキョンの子供にならない?」 長「わたしはかまわない」 おーい…、長門ー…。 ハ「有希もこう言ってるわよ。何が悪いのよ?」 キ「いくらなんでも、もう少し物事の順序ってもんを考えろ、飛躍しすぎだ!」 ハ「有希みたいな素直でいい子が娘になるのよ?嫌なわけ?」 キ「嫌とかじゃなくて、大体、親たちになんて説明するんだ!?いきなり同級生を養子にしました、なんて許してくれるはずがn・・・・」 ピ、ピ、ピ・・・・プルルルルル・・・・プルルルルル・・・・ ・・・あのー、ハルヒさん?携帯なんか出して、いったいどちらへおかけで・・・? ハ「・・・ああ、お義母さん?うん、まだ有希んち。かくかくしかじかー・・・で有希をあたしとキョンの養子にしようと思うんだけど、 ・・・やっぱり!?いいアイディアでしょ?うん、ありがとー、じゃあまたあとで。オーバー♪」 キ「・・・・・・おい、ハルヒ?」 ハ「さあ、お義母さんの許可は取ったわよ。これで文句ないでしょ?」 うちの親ってこんなアバウトだったのか・・・。どおりですぐハルヒと打ち解けたはずだ・・・。 キ「いや、しかしだな・・・、いくらなんでn・・・」 気が付くと全員の無言で期待に満ちたような視線が向けられている。 一体なぜ、こんな孤立無援の状況に陥っているのか、誰かここに来て説明してくれ。頼むから。 ふと、長門の方に目を向けるとその大きなクリアブラックの瞳が真っ直ぐにおれを見つめていた。 このときほど長門の表情を読むことに長ける自分が恨めしいと思ったことはない。 やめろ、長門、子犬の様におれを見つめるな、小首を傾げるな、その、いやなの?だめなの?的な視線を止めてくれ! 長「おとうさん?」 ・・・・・・・・・・・・いくらなんでもそれは反則じゃあないか?娘よ・・・。 キ「……わかった。好きにしてくれ」 ハ「やたーー!さあ、有希!これであたしはあんたのおかあさんよ!遠慮なくおかあさんって呼びなさい!」 長「わかった。ありがとう。おかあさん、おとうさん。」 古「いやあ、おめでたいことは重なるものですね。おめでとうございます」 鶴「ハルにゃんとキョンくんと有希っこは前から親子みたいだったからピッタリっさ!いやーめでたいめでたいっ!わはは」 朝「ふえぇぇ、長門さんよかったですぅ」 …まったく、結婚初日からこれじゃ先が思いやられるな。 でもしかたない、喜ぶハルヒと長門…いや、有希の姿をみて悪くないなんて思っちまったのが運のつきだ。 それにあんな風に゛おとうさん゛なんて呼ばれちゃ降参しないほうがおかしいだろ? これから色々頑張らんと、娘に頼りきりの親父じゃ情けないからな。…やれやれ。 家族の絆へ
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※悪くない人生の続きです さて、本日は暖かい陽射しの中晴天に恵まれめでたくも高校卒業となったわけだが、 高校の卒業というめでたくも特別な日を涼宮ハルヒ率いるSOS団団員その一であり雑用係である おれが何事もなく過ごそうなどとやはり甘かったわけで、 ハルヒによるおれの親まで抱きこんだ手際良い策略により おれの知らないところで完璧に作成された婚姻届を市役所に提出して 晴れておれとハルヒは世間で言う夫婦関係となった。 まあ、簡単にいまの状況を説明してみたわけだが、市役所では突如制服姿で訪れ、婚姻届を提出しようと する俺たち二人に向けられる窓口のオヤジの好奇の視線に耐えたり、 その後の双方の親を交えた食事会で当事者であるおれより高いテンションで 孫は男がいい、いや女だ、だのたまごクラブだの子供の名付け辞典だのと 気が早すぎる親たちが騒いでいたり、妹がさっそくハルヒをお義姉ちゃんと呼び出し、この気に乗じて 妹のおれに対する呼称をお兄ちゃんに戻すべく画策してみたのだが、 「キョンはキョンでしょ。」 「キョンくんはキョンくんじゃない。」 などと意味のわからない理由であっさり却下されたことなどはどーでもいいことなので詳しくは割愛する。 そんなわけで今、長門の家でSOS団メンバー5人と名誉顧問である鶴屋さんにご足労願い、 結婚祝い&卒業記念パーティーの真っ最中なわけである。 SOS団での祝い事や記念日では恒例となっている鍋や鶴屋さんが手配して届けられた一流ホテルの 料理の数々に舌鼓をうち、こんなときくらいはいいだろうとこれまた鶴屋さんが持ち込んだ 高級そうなワインやらシャンパンやらで酒も入り、まさに宴のテンションは最高潮といっていいほど盛り上がっていた。 ハルヒはいつもの倍はあろうかというハイテンションで、同じくらいハイテンションな鶴屋さんとじゃれあい、 朝比奈さんはそんな二人をニコニコと眺めていて、長門はいつもと変わらない無表情ながら どこか柔らかな雰囲気を纏いながら黙々と料理を平らげている。 そんな光景をおれはこれまたいつもの0円スマイルの中にも楽しげな雰囲気を隠しきれてない古泉と眺めながら この和やかな雰囲気を満喫していた。 古「しかし、驚きました、式のあと姿が見えないと思ったらまさか入籍されていたとは…さすがに予想出来ませんでしたよ」 キ「おれだってそうだ。こんなこと予想出来てたまるか。」 古「それにしても我々はあなたには感謝しなくてはなりません。ありがとうございます」 キ「なんだいきなり、おまえんとこの怪しげな組織のことか? 別におまえらのためにしたわけじゃない。感謝される筋合いはないぞ」 古「いえ、僕の個人的な感謝です」 キ「ハルヒと結婚してなぜおまえに感謝されなきゃならん?バイトが減るからか?かならずともそうとは限らんぞ。」 古「いえ、そうではありません。僕はあなたに出会わなければ人との付き合いを利害や損得だけで 判断するような人間になっていたことでしょう。もしそうだとしたら このような幸福な時間を過ごすことなどなかったはずです。それを考えると感謝してもしきれませんよ」 キ「それならハルヒに感謝しておけ。おまえを連れてきたのはあいつだしな。」 古「もちろん涼宮さんにも感謝しています。ですが、涼宮さんを含め僕達全員を良い方へと導いてくれたのは あなただと僕は思っています」 キ「買い被りすぎだ。まぁ、こんな席だ、素直にどういたしまして、と言っておくさ。だから離れろ。 いつも以上に顔が近いんだよ、気色悪い。」 古「これは失礼。ついつい浮かれ過ぎてしまったようです」 そう言って今まで見たことない自然な笑顔で古泉は笑い出した。いつもそうしてろ。少なくとも腹は立たん。 古「それに浮かれているのは僕だけじゃないようですよ。長門さんを見て下さい。よほど楽しいのでしょうか、 いつもより食べるペースが早いようです」 なぜ食べるペースが早いと浮かれていると思うのかは疑問だが、確かに楽しげな雰囲気は見てとれる。 まぁ、そんな雰囲気を見てとれるのは長い付き合いの俺たちだからだろうが。思えば一番変わったのはこいつかもしれないな。 そんなことを考えながら長門を眺めていたら、今まで朝比奈さんをいじりたおしていたハルヒが長門に近付き、なにやら言い出した。 ハ「ねぇ、有希?」 長「なに?」 ハ「前から聞きたかったんだけどさ、有希ってこんな高そうなマンションに一人暮らししてるけど 有希のご両親てなにやってる人なの?」 相変わらず脈絡がないなこいつは。まあ、たしかに長門の正体を知らないハルヒからしたら当然の疑問かもしれない。 今まで聞かなかったのが不思議なくらいだし、それはたぶんハルヒがあえて踏み込まなかったからだろう。 酒とこの楽しげな雰囲気が少しハルヒの気を緩ませたのかもしれない。 しかし唐突すぎる。少し焦った。さすがに本当の事を言うわけにもいかないだろう。 見ると古泉の顔にも僅かながら緊張が見える。さて、このハルヒの疑問におれはどうフォローするべきかと考えていると 長門は少し視線を上にあげ何か思案するような仕草のあと口を開いた 長「いない。」 ハ「へ?いないって?」 長「両親はいない。」 ハ「いないって、その、もう亡くなってるとか…?」 長「そう。」 ハ「…それっていつごろ?」 長「六年前。」 ハ「六年前って、それじゃそれからずっとここに一人で住んでるの?」 長「そう。このマンションは両親が残してくれたもの」 六年前か。長門が生み出されたのもそのころと聞いた覚えがある。たしかにそうことにしといたほうが都合がいいかもしれない。 まさか本当のことを言うわけにもいかないし、 ハルヒには悪いが正体がバレれば長門はここにいられなくなるかもしれないし、それを考えると仕方ない。 しかし、急に空気がしんみりしちまったな。さて、どうしたものかな。 ハ「…そっか、…その、ごめんね。いきなり変なこと聞いちゃって・・・・・・。」 長「いい。大丈夫。それに…」 長門はかすかに首を横に振るとおれたち全員の顔を一人一人見渡した後、最後にハルヒに向かい静かに言葉を続けた。 長「今、わたしは一人じゃない。」 そんな長門の言葉に全員の動きが止まった。…いや、なんと言うか・・・。まさか長門の口からそんな言葉が聞くことが出来るとはとは思わず、 少し意表をつかれ、唖然としてしまったわけだが。 そんな中、いち早くフリーズ状態から復活した鶴屋さんが口を開いた。 鶴「そのとーりっ!有希っこは一人なんかじゃないっさ!SOS団が有希っこの家族みたいなもんだねっ!キョンくんもそー思わないかいっ?」 いきなり話を振られ少し動揺した、でもまあ、うん、そうだな。その通りだ。激しく同意する。 キ「そうですね。そう思います。おれにとってもSOS団はもうひとつの家族みたいなものです。 頼まれたって一人になんかさせませんよ。そうだろハルヒ?」 おれはそう言うと先ほどから顔を俯かせているハルヒに話を振った。ハルヒはハッと顔を上げ、おれを見て、それから長門に向き直った。 そして少し泣きそうな顔を浮かべていたが、やがて我慢出来ない、といった感じの笑顔なり長門に飛び付きだした。 見ると朝比奈さんも目に涙を浮かべて長門に抱きついていた。酒のせいか、少しテンション変わってないか? ハルヒのハイテンションもしんみりする前よりさらに上がったようで嬉しそうに長門と朝比奈さんを抱き寄せて頬擦りなんかをしている。 まったく、どうなることかと思ったがなにやら結果オーライだな。やれやれ。 …なんてのん気に考えていたわけだが、おれはこの和やかな雰囲気に油断しきっていて肝心なことを失念していた。 そう、テンションの上がりきったハルヒがこのままなにもせず終わるはずのないということにな。 宴もハイテンションのまま進み、もう深夜と言っていい時間に差し掛かったころ、 名残惜しいがさすがにお開きにしたほうがいいだろうとハルヒを見ると、 さっきまでのハイテンションはどこへ行ったのかなにやら難しい顔で考え込んでいた。 先ほどのことをまだ引きずっているのかとも思ったがいずれにせよ、お開きににしたほうがいいだろうと ハルヒに話しかけたときだった。 キ「おい、ハルヒそろそろ…」 ハ「気が付いたっ!!」 ハルヒが突然立ち上がりなにやら叫びだした。なんだ一体? ハ「どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのかしら!」 おいおい、なんだろうね、この既視感。なにやらすごく嫌な予感がするのだが…。 ハ「家族みたいじゃなくて家族になればいいのよ!」 キ「おい、いったいなに…」 ハ「有希に両親がいないならあたしとキョンの養子にすれば本当の家族になれるじゃない!」 キ「ちょ、おまっ、突然なに言っt…」 古「いやぁ、それはいい考えですね、さすが涼宮さんです」 おまえは黙れ。いきなり同意するな、このイエスマンめ! 鶴「あっははははっ!さすがハルにゃん、目のつけどころがちがうねっ!」 朝「ふえぇぇ、すごいですぅ」 二人ともなぜそんな簡単に感心出来るんですか! キ「待て、色々と待て!ハルヒ!」 ハ「なによ、いい考えでしょ?」 キ「少し落ち着け、話が急過ぎる!」 ハ「あんたが言ったんじゃない、家族みたいなもんだって。それに有希だけ両親がいないなんて不公平で可哀想じゃない」 キ「だからって勝手に決めていいことじゃないだろ、長門の意思はどうなる!?」 ハ「それもそうね、どう?有希、あたしとキョンの子供にならない?」 長「わたしはかまわない」 おーい…、長門ー…。 ハ「有希もこう言ってるわよ。何が悪いのよ?」 キ「いくらなんでも、もう少し物事の順序ってもんを考えろ、飛躍しすぎだ!」 ハ「有希みたいな素直でいい子が娘になるのよ?嫌なわけ?」 キ「嫌とかじゃなくて、大体、親たちになんて説明するんだ!?いきなり同級生を養子にしました、なんて許してくれるはずがn・・・・」 ピ、ピ、ピ・・・・プルルルルル・・・・プルルルルル・・・・ ・・・あのー、ハルヒさん?携帯なんか出して、いったいどちらへおかけで・・・? ハ「・・・ああ、お義母さん?うん、まだ有希んち。かくかくしかじかー・・・で有希をあたしとキョンの養子にしようと思うんだけど、 ・・・やっぱり!?いいアイディアでしょ?うん、ありがとー、じゃあまたあとで。オーバー♪」 キ「・・・・・・おい、ハルヒ?」 ハ「さあ、お義母さんの許可は取ったわよ。これで文句ないでしょ?」 うちの親ってこんなアバウトだったのか・・・。どおりですぐハルヒと打ち解けたはずだ・・・。 キ「いや、しかしだな・・・、いくらなんでn・・・」 気が付くと全員の無言で期待に満ちたような視線が向けられている。 一体なぜ、こんな孤立無援の状況に陥っているのか、誰かここに来て説明してくれ。頼むから。 ふと、長門の方に目を向けるとその大きなクリアブラックの瞳が真っ直ぐにおれを見つめていた。 このときほど長門の表情を読むことに長ける自分が恨めしいと思ったことはない。 やめろ、長門、子犬の様におれを見つめるな、小首を傾げるな、その、いやなの?だめなの?的な視線を止めてくれ! 長「おとうさん?」 ・・・・・・・・・・・・いくらなんでもそれは反則じゃあないか?娘よ・・・。 キ「……わかった。好きにしてくれ」 ハ「やたーー!さあ、有希!これであたしはあんたのおかあさんよ!遠慮なくおかあさんって呼びなさい!」 長「わかった。ありがとう。おかあさん、おとうさん。」 古「いやあ、おめでたいことは重なるものですね。おめでとうございます」 鶴「ハルにゃんとキョンくんと有希っこは前から親子みたいだったからピッタリっさ!いやーめでたいめでたいっ!わはは」 朝「ふえぇぇ、長門さんよかったですぅ」 …まったく、結婚初日からこれじゃ先が思いやられるな。 でもしかたない、喜ぶハルヒと長門…いや、有希の姿をみて悪くないなんて思っちまったのが運のつきだ。 それにあんな風に゛おとうさん゛なんて呼ばれちゃ降参しないほうがおかしいだろ? これから色々頑張らんと、娘に頼りきりの親父じゃ情けないからな。…やれやれ。 家族の絆へ
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家族計画~心の絆~ 【メーカー】インターチャネル 【発売日】2005/2/24 動作報告 HDA SCPH-5k(V10)番 マクの120G7200回転 問題なし SCPH-50000V9 メモカHDL 一通り問題なし SCPH-50000V9 メモカHDL オリジナルのみ起動、ウルトラISOで再構築した場合には起動不可でした。 50000 V9 メモカHDL 一通り問題なし SCPH-30000V4 メモカHDL 製品版から実機インストール この条件下でゲーム中にセーブを行うと、セーブデータ内に何らかの不具合が起こり、セーブ/ロード時のリスト読み込みでフリーズするようになる。一旦この状況に陥ったデータは、製品版で用いても同様にフリーズする。但し、製品版などで作成した正常なセーブデータであれば、ロードすることだけは可能。MODE選択#1-8、全て回避不能。50000 V9 メモカHDLの環境では、この問題は発生しない模様。 クチコミ一覧 #bf
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発売日 2002年12月27日 ブランド D.O. タグ 2002年ゲーム D.O. キャスト 北都南(高屋敷青葉),杉沢淳子(高屋敷準,久美景),佐々留美子(高屋敷春花),片瀬唯(高屋敷末莉),MIWAKO(高屋敷真純),比留間狂ノ介(高屋敷寛),十文字隼人(劉家輝),鎌田千歳(劉楓),柿本智也(ウェルカム),白井綾乃(山名順子),野上奈々(山名由利),結城みづほ(園長),加仁礼(小夜),本宮享(添田達也),脇坂武(中里良太),綾部広司(大場康之),朝勃伊知朗(伊佐坂),天野和仁(順子の夫),甲本洋一(良太の父) ,乃嶋架菜(良太の母),桂木慶三(司の父),神保康(少年),久代厳(老人),戸田純(オヤジ) スタッフ ディレクター:藤沢龍一郎 キャラクターデザイン/原画:福永ユミ シナリオ:山田一 ゲームデザイン/コーディング:囲智之 背景原画:平郡真鴫,紫川弓夜 彩色:久保田精一,谷口洋一,尾本裕美,山辺高志,谷本光庸,岡田智,前田英憲,望月精一,闇乃羊,どみ太 プログラム:ムサくん 画面デザイン:藤二娘,たて^2,シャドウ・ザ・レッド,ジくん,吉田信人 ムービー制作:神月社(es-dev.) ムービー制作補助:I-Saint,千鳥雷夜,ヌスイ,はなじろ 音響監修:高橋秀紀 BGM制作:中澤伴行(I ve),WATA(I ve) 効果音:高橋秀紀 レコーディングディレクター:藤沢龍一郎 レコーディングアシスト:竹岡雅巳 ロゴデザイン:尾 パッケージデザイン:尾 マニュアル編集:健太 地獄のデバッグ部隊:下山伸市,鎧(ガイ),勘太郎,がんばっちゃった!?,阿久津誠司 プロモート:鮫島寛明 Webサイト広報:たか坊 SPECIAL THANKS:猫科の人々,幡山基晃,ブレード・ムタ プロデューサー:村上智右 制作・著作:株式会社ディーオー predented by D.O. 主題歌 「同じ空の下で」 作詞:モモ/高瀬一矢(I ve) 作曲:高瀬一矢(I ve) 歌:KOTOKO 「philosophy」 作詞:KOTOKO/高瀬一矢(I ve) 作曲:高瀬一矢(I ve) 歌:モモ
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「あれー、今、帰り?ロボ」 日も落ちかけた秋の夕暮れ時、駅の改札を出るとばったりと制服姿のニコに出くわした。 「うん、ニコも?」 半年ほど前、ニコと数年ぶりの再会を果たし、それまで言葉を交わすことのなかった日々が 嘘のように、付かず離れずな不思議な関係を取り戻していた。 「ねぇ、土日は特に予定ないよね?家にいる?あたし、遊びに行ってもいい?」 畳み掛けて自分から、聞いといて 「あ、返事はいいや。どうせこれといった予定もなくてヒマしてるだろうから、適当な時間に覗くわ」 昔ながらの少しばかり生意気な性格はちっとも変わっていない。 それでも少女らしい可愛さの中に女らしい雰囲気が感じられるようになったのは俺も認めざるを得ない。 「ロボんちのお母さん、元気にしてるの?もうそろそろ訪ねてくる頃なんじゃない?」 「それは言わないでくれ……」 近頃の母ちゃんは愛しのカン様のファンの集いはもちろんだが、 それ以外たいした用事があるわけでもないのに気まぐれに我が家に顔を出す。 ヒマを持て余しているのか? 「いつも何かしら文句言ってるけどさ、ロボの世話焼くの楽しそうだよ」 とニコは屈託なく笑って言うけれど。 頻繁にやって来るということは、当然ニコとも鉢合わせするわけだが、 俺が若い娘をたぶらかして部屋に連れ込むなんて考えは毛頭持ち合わせていないらしく それどころか母ちゃんはニコとは気が合うようで何かといえば彼女の肩を持つ。 まあ、仲が良くてなによりってことだけどさ。 「じゃ、ここで。また、あした」 「ん、気をつけて帰れよ」 バイバイと手を振るニコと別れて、馴染みの店で調達した惣菜の袋を提げて商店街を歩きながら 今夜はどのロボットのご機嫌を窺おうかと頭を捻っていると、ポンと後ろから誰かが俺の肩を軽く叩く。 「え…あ、ああぁ~~~!で、出たぁ~!!」 そこらじゅうに響き渡る叫び声をあげる俺。 「なんて驚き方してるんだ、人をバケモノみたいに」 振り向いた先には、ニコが予言したある人物が澄ました顔して佇んでいた。 「母ちゃん!!」 「はいはい、そのとおり母ちゃんだよ。またまたお邪魔するよ。 それより威一郎、その手にぶら提げている小さな包みは晩御飯かい?」 うんと頷く俺に母ちゃんは大きな溜息を吐いて 「給料日までまだ日にちはあるっていうのに例のおもちゃにつぎ込んで、とっくにお金が底をついて、 ロクなもの食べてないんだろ?社会人として情けなくはないのかい?おまえは」 ズバッと言い当てられ、通りの真ん中で説教される始末。 「母ちゃんが栄養のつくうまいもの食べさせてやるから、さっさと帰るよッ ほら、荷物持っておくれ。重たくて仕方ないんだよ」 母ちゃんのカバンの重量まで俺のせいにされそうで、不満たらたらに帰路につく。 突如来襲した母ちゃんによって、ロボット達と共に過ごす有意義な週末は脆くも崩れ去った。 「こら、威一郎!テレビばっかりに集中しないでよく噛んで食べなきゃダメだろッ」 朝から忙しなく動きまわり、俺のペースは乱れっぱなし。 「あーっ、何で切っちゃうんだよ!今、いいとこだったのに~」 ふいに視界から行方を晦ませたマックスロボにご飯粒を飛ばしながらの抗議もどこ吹く風。 「早いとこすませるんだよ。なかなか片付かないじゃないか。朝どころかもうお昼だっていうのに。 お天道様もとうにお目覚めだよ」 ブツブツ言いながら母ちゃんは卓袱台に頬杖をつくと 「休みだからって、ダラダラといつまでも布団の中にいるような堕落した生活は改めなきゃいけないね。 ま、しばらくやっかいになるから、母ちゃんがおまえの緩みきった根性を叩き直してやるよ」 「しばらくって、いつまで居るんだよ?」 「なんだい、不満なのかい?30近いいい歳した息子の面倒をみてやろうっていう こんな優しい母親がどこにいるっていうんだ。贅沢いうもんじゃないよ!」 「う……」 それを言われると…。母ちゃんに心配かけっぱなしなのはわかっちゃいるけどさ。 母ちゃんの愛しい永遠の君、カン様とやらに対する未だ冷めやらぬ熱烈ぶりはうちに来ても いつ何時お構いなく発揮され、当然テレビは四六時中カン様に占領される。 時の流れは残酷で世間では一時的に持ちはやされてとっくに忘れ去られた過去のモノに扱われがちで。 現に母ちゃんのファン仲間もかなり減ったらしいけど、ニコに言わせれば 「周囲に惑わされずにずっとひとつのことを好きでいられるロボのお母さんは素敵で格好いい」 のだそうだ。そんなもんなのか? なら俺だってずーっとロボット一筋だけど? まあそれは置いといて、あと数日は母ちゃんがここに居座っているというのは変えようのない事実。 ああ、さよなら俺の穏やかな日常。 「それはそうと今日はニコちゃんは来るのかい?」 「多分。来るとは言ってたし、母ちゃんのことは一応連絡はしといたけど。何、ニコに用事でもあんの?」 「ん?まあ、ちょっとね。……フフフ」 ……ゾクッ。 うわッ。ど、どうしたんだ?全身に寒気が…。 ヤバいな。何か妙なこと企んでるんじゃないだろうな? 茶碗を持つ手にごく小さな緊張を覚えながら、意味深な微笑を浮かべる母ちゃんに眉をひそめる。 「威一郎、おかわりは?」 「あ、うん」 言われるがまま、差し出して戻ってきた茶碗を受け取ろうとした時 軽快なリズムで階段を駆け上がってくる音がして、 「こんにちはー」 とニコが爽やかな挨拶で玄関の扉を開けた。 「あらー、いらっしゃいニコちゃん。また一段と可愛くなって。さあ、あがってこっちへお座んなさい。 ほら、おまえはよそ見してないでさっさと食べる!」 おじゃましますと一言告げて、丁寧に靴を揃えているニコの動きをぼーっと 目で追っていた俺に母ちゃんのゲキが飛ぶ。 ちぇっ。どうでもいい扱いされてるよな、俺って。 「ロボ、今お昼なの?うわぁ、おいしそうなのがたくさん並んでる~」 ニコは卓袱台の上をひとしきり見渡したあと、俺を見てぷっと声を漏らして表情を崩す。 「ご飯粒ついてるよ、ロボ」 「へ、どこに?」 ここにとふいに伸びてきた手が顎のあたりに触れたかと思ったら、ニコがそれを躊躇うことなく 自分の口の中へと運んだ。 「え!?」 ちょっと待ってくれッ。それはマズいでしょ!? こういうの子供の頃母ちゃんにしかされたことないから、どう切り返したらいいかわかんないよ~。 なんかドキドキしてきた。 なのに緩やかに脈打つ動悸を加速させた張本人は何食わぬ顔をして、ちょこんと座っていて 明らかに俺だけが焦っている。 「あらあら、本当に子供みたいだねぇ、おまえは。 今からニコちゃんの手を煩わせるなんて、先が思いやられるよ」 あ、そうだった。母ちゃんがいたんだ。お、落ち着け、俺! ん?今からって、どういうこと? 「ニコちゃんは食事はすませてきたのかしら?よかったら、一緒にどう?」 「えー、いいんですか?実を言うとこの時間帯を狙って来てたりして…」 と、小さく呟くと可愛く舌を出して笑った。 「抜け目ないなぁ、ニコ」 素直に感心する俺に向かって 「だってさ、ロボのお母さんの作る料理はどれもこれもおいしいんだよ」 「まあまあ、どうしようかしら。そんなに褒められて」 「ほんとですよ。ロボも料理はうまいけど、それはお母さんゆずりだから、あたりまえのことなんですよねー」 「うまいわねぇ、ニコちゃんたら」 用意してきたニコの分の器を手渡しながら嬉しそうな母ちゃんは艶のある顔色で 「その言葉、素直にありがたく貰っておくわね。…そのかわりと言ってはなんだけど、 後で私の頼みを聞いてくれるかしら?」 「何ですか?痛いとか怖い思いするとか余程のことじゃなかったら構いませんけど」 「ありがとう。それほど苦痛なことじゃないよ。詳しくはこの後でね。さあ、食べて」 「はい、いただきます」 頼みってなんだろう?イヤな予感がするんだよなぁ。うーん……。 気分がモヤモヤして晴れないまま、途切れることのない会話は次第に二人だけのものになり 「あの、この間教えて貰った筑前煮、家で作ってみたんです」 「あら、そう。どうだった、ご家族の評判は?」 俺の存在は無視されて和やかに談笑は続く。 「あたし的にはイマイチかなと思ったんですけど、他の皆はおいしいって言ってくれて」 「ニコちゃんは元々素質があるのよ」 「いやー、そんなことないですよ~」 楽しそうに話に花を咲かせるニコと母ちゃんは友達のようで親子にも見えて。 先月だったか、仕事が終わって家に帰ると何の連絡もなしに来ていた母ちゃんとニコが一緒に 台所に立っていてビビったことがあったっけ。 こういう状況で微妙な空気を醸し出していたら、やっぱ大変じゃん? 会社の結婚している同僚の話では男は右往左往するばかりで、気苦労が耐えなくて すげー敏感な問題みたいだからなぁ、嫁姑の関係って。 …はっ!?いやいやいやッ、ちがーう!嫁姑って、ナンだ!?おかしいだろ!? だいだい俺とニコはまだ付き合ってもいないだろ~。 うわーっ、まだって何だよ、まだって!? 「…威一郎、おまえ、何やってるんだい?とうとう頭がおかしくなったのか」 慌てふためく心の内を打ち消すように激しく首を振る俺に母ちゃんの呆れた視線が突き刺さる。 「べ、別に!何でもないよ。大丈夫」 「そうかい、だったらいいけど」 少し怪訝そうな面持ちでそう言うと再びニコと話は弾んで、やがてその合間にカン様なる単語が ちらほらと紛れるようになり、母ちゃんのボルテージが段々と増していくようになると、 勘の鋭いニコは何かを察知したのか、相槌をうちながら俺のほうへ度々目で合図を送る。 これはまずいと隙を狙って、母ちゃんに呼び掛けてはみたものの 「話かけるんじゃないよッ。今、カン様の魅力をニコちゃんに説明している 大事ところなんだから、邪魔するな!」 あえなく一蹴され、やっぱり相手にされない。 「はあ~、ニコちゃんとお喋りしていたら、楽しくて時が経つのも忘れてしまうわ。 やっぱり持つべきものは女の子よねぇ。うちは男だけの一人っ子だから、余計にそう思うわ。 小さな頃は可愛いけど、大きくなったらなんの面白味もないからね」 チラリと俺を見て、あてつけがましく言い放つと 「でもいいわ。いずれニコちゃんがうちのお嫁さんに来てくれるんだから、 私にも待ちに待った娘ができるわ」 「え?」 「は?」 ほとんど同時に声が被る。 たった今、聞き捨てならないことを言ったような……? 「あ、あの、母ちゃん?その今なんて言っ…」 「なんだい、食べ終わったのかい?ニコちゃんも?じゃあ済まないけど後片付け手伝ってくれるかしら」 俺の質問には耳を貸さずにニコを伴い素早く立ち上がる。 そうこうしているうちに台所仕事を終えた母ちゃんは姿勢を正すとようやく本題を切り出す。 「それで、ニコちゃん。頼みって言うのはね…」 「はい、どうぞ」 「ちょっと、あっちへ行きましょうか」 奥の部屋を指差してニコの動きを急かす。 「威一郎、母ちゃんがいいって言うまで部屋を覗くんじゃないよ」 俺にはしっかりとクギをさして。 「え、あぁ…うん」 母ちゃんの意図することが、全く理解できないのだけれど一応返事だけはしておく。 次の指示を待ちながら、俺は仕方なく食事中に消されたマックスロボの続きに見入っていた。 背後から襲ってくるなんとも形容しがたい不穏な空気を感じながら。 「おい、威一郎!おまえはこれに着替えといておくれ」 突然、降りかかった声に顔を向けると何やらコートらしき衣装を渡される。 それに、青いマフラーとメガネ……?これはいったい?? 「そうそう、これも忘れてたよ」 「わッ!?」 茶色い物体が母ちゃんの手から、飛んできて顔面を直撃して落下した。 「何だよ、もう~。……て、え?これはまさか……ヅラ?」 拾い上げたそれは、まさしく疑いようもないカン様のヅラだった。 「ああッ、カン様~!カン様~!!」 保存版の宝物『冬のソナチネ』ポスターを広げて見ているこっちが恥ずかしいぐらいに 黄色い歓声をあげ、頬を摺り寄せている母ちゃんに唖然とするより他はない。 「ほーら、早く着替えて。つっ立ってる場合じゃないだろ」 「あのさ、このポスターのマフラーと俺にくれたやつ色が違うんじゃない? これじゃ、完璧なカン様にはなれないよ?だから母ちゃんの要望に答えられないと思うんだけど」 「つべこべ言うんじゃないよッ。今日はこれでいいんだよ。 そうだ、ほっぺにもホクロ書いとかなきゃいけないね。はい、じっとして。これでカン様に変身変身と」 「ちょっ…やめろって!」 驚異的なパワーで押しまくる母ちゃんと決死の攻防を繰り広げている最中 「あの~、こんな感じでいいでしょうか……?」 戸惑いがちに間に割って入ったニコの声に振り返ると 「あぁ~~!ニコちゃん!すごいわッ」 「ええ~~~!!?」 な、な、何が起こってるんだ!? 俺の目の前に現れたのはニコであってニコじゃない……。 そのどこかで見覚えのある容姿はもしかして? 「ステキだわ!よく似合ってる。まさしくヨジンそのもの!」 そう今のニコはこのポスターのカン様に寄り添う女性・ヨジンのそっくりの衣装を身につけていて 「あ、はあ、そうですか…似合ってますか…」 「母ちゃん!何のマネだよ、これは~」 詰め寄る俺にどさくさに紛れてメガネとヅラを強引に装着させ、してやったりの母ちゃん。 「何のマネって、カン様の恋人のヨジンじゃないか」 「だ~か~ら~」 こんなものわざわざ用意してきたのかよ!?まさか今回の目的はこれか! 「この間から、冬のソナチネを観ていたら、ヨジンの少し俯いた横顔がニコちゃんに似ていると思ってね。 どうして今まで気付かなかったんだろうねぇ」 「似てないだろッ」 つい口答えしてしまった俺に眉間に皺を寄せて 「いつまでもネチネチと往生際が悪いよ。男らしくないぞッ、威一郎!」 「そういう問題じゃない!」 「ならどういう問題なんだい?言ってみろ。さあ、早く」 俺の反発は口先だけのものだと最初からわかりきっている母ちゃんは屈するこもとなく ピクリともせず睨みを利かせている。 「あのッ、ロボもお母さんも程ほどにしておいたほうが…ケンカはよくないです」 なかなかケリがつきそうにない諍いを見るに見かねた(呆れた?)ニコが俺達親子を嗜める。 「ニコ、イヤならイヤだって言わなきゃダメだろッ。 甘い顔するとすぐつけあがるんだからな、うちの母ちゃんは」 「まーた、おまえは生意気にそうやって知ったふうな口を聞く」 「何年親子やってると思ってるんだよ。母ちゃんの性格なんてイタイほど身にしみてるんだからな」 おかげで何度ヒドイめにあったことか。 「もう、ダメダメダメ!ロボ、あたし全然平気だから、お母さん責めないのッ」 少しきつい口調で二人の間隔を遠ざけると、俺を見て 「正直いうとコレに着替えてって言われたとき、変なコスプレでもさせられるのかなって一瞬考えてさ。 やっぱりロボのお母さんだな、血は争えないなぁて思ってたんだ。 だけど、渡された服を見たら、予想に反して普通のモノだったから安心したっていうのがホントのところで まさか女優さんに変身するなんてびっくり」 「そんなこと思ってたの?コスプレだなんて、私は威一郎とは違うよ」 心外とでも言いたそうに俺を流し見た後、ニコをそっと覗き込む。 似たようなもんだろと口に出してブチまけたいけれど、ここはグッと我慢して心の中で悪態をつく。 「でも、やっぱり似てます。なんて言うかうまく説明できないけどホントはお互いわかりあってて 物凄くあったかいところとか、お母さんとロボみたいな関係……あたし好きです」 「ありがとう。私はともかく、世の中からズレてるようなバカ息子をわかってくれるのは貴女だけよ」 にっこりと微笑み、ニコのヨジン仕様の服装を綺麗に整える。 その姿は知らない人が見たら、本当に仲睦まじい母と娘に映るかもしれない。 そんな二人を前にしていたら、さっき母ちゃんが言った“お嫁さん”という言葉がふっと脳裏をよぎって、 変に意識してしまい、カァと身体中の血が熱くたぎる気がして 「そ、それで母ちゃんッ、この後どうすんの?俺とニコにこんな扮装させてさ。 これで気が済んだんなら、もう脱いでもいいだろ?」 早々に終わらせようと母ちゃんをせっつく。 「まあ、待て。そう慌てるもんじゃないよ。まず記念撮影は忘れちゃいかん。 それで最後のメーンイベントは……」 不気味な笑みをこぼしてテレビの前に陣取ると慣れた手付きで再生ボタンを押す。 「あ、カン様……ス・テ・キ」 窒息でもするんじゃないかと思うほど、微動だにせずに恍惚として見つめる先には その名に偽りなくのカン様の姿が。 「ああ~、これこれ、ここだよ」 母ちゃんが指さした画面には、その昔、大事な大事なマックスロボのビデオに重ね撮りされた 冬のソナチネのとあるシーンが流れていた。 「ここが私が一番のお気に入りなんだよ。この場面をおまえとニコちゃんに再現してほしくてね」 はい?幻聴?再現って… 「えーっ!お母さん、あたしとロボがやるんですか?このドラマの二人を!?」 「そうよ。お願いできない?」 予想外の申し出に目を丸くするニコに母ちゃんは臆面もなく答える。 「いいかげんにしろよ、母ちゃん!俺達、役者でもなんでもないんだぞッ」 「いいじゃないか。本物に会うのは無理だから、似ている人間でもいいんだ。 母ちゃんだって夢みたいんだよ。親孝行だと思ってさ」 マジですか?あのシーンの二人って、どの角度から見ても抱き合ってるだろ… あれをやれと?勘弁してくれよ~。 「あ、ほらほらニコちゃんの立ち位置はこっちだね。で、おまえはこう背中を向けて…」 って、おいおい、やるなんて誰も言ってないのに早速指導かよッ。 「よし、準備OK!そうだ、一回セリフの確認をしとかないとね」 リモコン片手に朗々としている母ちゃんを視界の隅に置きながら 「どうするよ、ニコ?本当にやるのかよ。無理しないで今のうちに逃げてもいいんだぞ? 何も母ちゃんに気使うことないんだからな」 さすがのニコもこの展開は選択肢にはなかったようだが、時間が経つにつれ落ち着いてきたのか 「うん…。でも、ここまできたら今更、後に引けないというか…。 本物じゃないのはお母さんの承知してるんだし、さわりだけやっても納得してくれるんじゃないかなぁ」 「いいの?ウソだろ?」 ヒソヒソと小声で囁きあう俺達に母ちゃんの気合の入った声が掛かる。 「じゃあ、このシーンからいくよ。……よーい、スタート!」 …名監督気取りだな。あーもう、こうなりゃヤケだ! 『お願い。チュンサン…』 てな、ニコ=ヨジンの懇願するセリフがあって、こう俺が振り返ってだな… あれ?えーっと、次どうするんだったっけ?そうそう、抱きしめるんだったよな?抱きしめる……。 い、いいのか?いいんだよな?演技だから、仕方ないし。うん。 そう自分に言い聞かせると、ええいッ、なるようになれッ!とニコの背中に腕をまわして引き寄せた。 女の子と…ていうかニコと触れ合えるなんて、振って湧いたまたとないチャンスなのに 何が悲しくて母ちゃんの前でラブシーンをやらなきゃいけないんだよ~。 なんて羞恥プレイ……! ニコも同様に緊張しているのか、微かに震えているように思う。 腕の中にいるニコは暖かくて想像していたよりも華奢でとてもいい匂いがして。 なんだろう?柑橘系の甘くて優しい香り……。 ああ~、このまま時が止まってしまえばいいのに。 「ロ…ロボ…」 胸のあたりで息苦しそうなニコの呼吸が夢見心地の俺を呼び覚ます。 「な、なに?」 「…セリフ、抜かしてるよ」 へ?セリフ?このシーンはまだだった?早すぎたのか。は、恥ずかしすぎる…。バカな俺。 「はい、ストップ!ダメだろ、威一郎。ここぞというときにセリフを忘れるなんて。NGだよNG。 使えない子だねぇ、まったく」 「うるさいなぁ~。しょうがないだろう」 素人の演技にケチつけるなんて、見当違いだっつーの。 「今はチュンサンとヨジンに成りきるんだよ。 熱い抱擁なり接吻なりは後で素に戻った時に思う存分いくらでもやっておくれ」 げッ、何言いだすんだよ~、この母親は! 「ちょっと!こっち来てくれ」 「あぁ?どこに行くっていうんだい?」 慌ててニコのそばから引き離して奥へと連れて行くと、不服そうな母ちゃんに 「あのな、母ちゃん。俺は息子だからさ、こんな柄でもない芝居の真似事なんて百歩譲って我慢するよ。 でも、ニコは関係ないだろ?変なことに巻き込まないでくれよ」 「おまえは妙なとこで頭が固いんだから。ニコちゃんはもう少し経ったら私の娘になる子だよ。 家族も同然じゃないか」 あの、さっきからお嫁さんとか娘とかいったい?? 「ニコちゃんみたいないいお嬢さんがおまえとお付き合いしてくれるなんて、奇跡としかいいようがないよ」 待て。いつ、どこで、誰がニコと付き合ってるなんて言ったよ!? いくらなんでも飛躍しすぎだよ、母ちゃん……。 「数年後には二人が結婚して、新しい命が授かって可愛い孫に恵まれる。そんな日が待ち遠しいんだよ。 まあ、おまえがヘマして逃げられないことが大前提だけどな。 それまでは母ちゃんはカン様で夢見とくんだよ」 肝心な当事者たちは置き去りにして、意気揚々と独りよがりな将来設計をひけらかす母ちゃん。 危ない。こりゃ暴走する前に訂正しておくべきだなと口を開きかけたら、何か物体が落下した鈍い音が響いて、 その方向へと意識を傾けると 「あ…ご、ごめん。マックスロボ落としちゃって……あはは…」 手が滑ったのかニコは足元に落ちているマックスを拾おうとするが取りこぼしてまた床に転がる。 見るからに動揺しているようで、ごめんねと謝罪を繰り返すその視線は落ち着きなく泳ぐ。 あー、聞こえちゃったかな、今の話。低く小声で喋っていたつもりだったけど、ニコに筒抜けか。 「ニコちゃん、そんなおもちゃは放っておきなさい。邪魔になる所に置いている威一郎が悪いんだよ」 「母ちゃん!あいつにはなぁ、魂が宿ってるんだぞ!それをおもちゃなんてッ」 よく知りもしないで勝手なことを~!俺にとっては本当にただのロボットじゃないんだからな! 「訳がわからない事言うんじゃないよ。……おっと、電話じゃないか」 俺の憤りなんか眼中にないようで、はいはい、ちょっと待っておくれよと独り言を呟きながら、 自分のカバンから携帯を探り出す。 「おや、これはカン様の愛のテーマ。父ちゃんからだな。ハイ、もしもし」 愛のテーマ?へぇ~、それを父ちゃんからの着信にしてるんだ。 なんだかんだいって仲いいよなぁ、父ちゃんと母ちゃんは。 俺もああいうふうになりたいなって、最近特にそう思う。 それはニコの存在が俺の中で必要不可欠になっているからだと気付いたから。 だから、母ちゃんの誤解もありがたくはあるけど複雑な気持ちで、あの豪快な懐の持ち主に 首突っ込んで引っ掻き回されたら、まとまるものもまとまらないですべてが空回りしそうな気がする。 いや、ちょっと違うか。そう考えるより先に俺自身が一歩踏み出さなくてはいけないはずで。 「ちょいと突然で悪いけど、これから家へ帰ることにしたから」 「え、どうしたんだよ。何かあったの?父ちゃん?」 急なことに事態を飲み込めずにいる俺に母ちゃんは 「ああ、腰をやったんだとさ。もう若くないんだから、無理するなって言ってるのに。 息子の世話はおろか父ちゃんまでとは、なかなか楽じゃないねぇ」 やれやれといった顔でそう言うと慌ただしく荷造りを始める。 見送りはいいからと頑な母ちゃんを、じゃあ階段下までと言い伏せて 「バタバタして迷惑かけてごめんなさいね、ニコちゃん。 今度来たときにゆっくり貴女のご両親に挨拶に伺うわ」 「え、あ、はあ」 「あー、母ちゃん、忘れ物ない?」 帰り際のいきなりな言動に困惑して、曖昧にそれに頷くニコから話を逸らそうと咄嗟に聞いた俺には目もくれず 「ニコちゃん、頼りない息子でどうしようもないだけど、いたらないところがあったら 遠慮しないで厳しくやって頂戴。 貴女がそばにいてくれたら私は何も心配することはないわ。どうか末永くよろしく頼むわね」 ま、また、母ちゃん!そういうふうに押し付けられたらニコが困るだろ… 「……はい、お母さん」 え…?はいって…ニコ? すぐ隣で微笑みあうニコと母ちゃんには女同士にしかわからない相通じるものがあるのか 要領を得ない俺はただ漠然と二人を眺めていた。 「威一郎、おもちゃ…もとい、ロボット弄りもいいがニコちゃんも大事にしてあげるんだよ。 いざというときに好きな女も守れないような男は本物の男とはいえないからなッ」 と肩を握り締めた拳でつかれて 「うぐぅ……いってーなぁ、少しは手加減しろよな~」 相変わらず半端ないなぁ。わかってるよ、そんなの。 「大丈夫です、お母さん。ロボは情けないときのほうが多いけど、 困ってる人は絶対見て見ぬ振りなんてできないし 少なくともあたしには信頼できて頼りになる人です」 「ニコ」 そう語りながら彼女のまっすぐに俺に向けられる真剣な眼差しが何を表しているのか 女心に疎い自分でも気付かないはずはなくて。 気持ちは通じ合ってる?これからも同じ道を歩んでいける? じっと逸らすことのないニコのはにかんだような柔らかい笑顔にぼんやりとした予感は確信に変わり、 俺の顔も自然と綻ぶ。 「あんたたちー、ケンカしないで仲良くするんだよ~!」 距離をおいてこだまする声にハッとしてすぐそばにいた影を捜す。 「母ちゃん!風邪ひくなよー、身体に気をつけろよー」 「また、来てくださいねー。待ってますからぁ!」 振り返ることなく上げた手を左右に振って小さくなっていく後姿は凛として格好よかった。 「あっというまに行っちゃった。口ではああ言ってたけどさ、 お父さんのこと心配でたまらないんだろうな。お母さんらしいね」 「そうだな」 好き勝手やっているようにみえるけど、それなりに微妙なバランスを保っていて家庭円満だよなと いつまでも見送りながら、つくづく思っていた。 一夜限りとはいえ、俺とロボット達の生活を脅かした元凶はあっけなく消えて平穏を取り戻したというのに なぜだか気の抜けたような、落ち着かないガランとした部屋が物足りなく感じた。 「ロボ、お母さん帰っちゃって寂しいんでしょ?そう顔に書いてあるよ」 「はあ!?なあに、バカなこと言ってくれてんのかなぁ。冗談でしょ?うるさいのがいなくなって、清々するよ」 「そうなんだ、ふーん」 ニヤニヤしながら俺の反応を探るニコにはすべてがお見通しのようで。 だったらと軽くお返し。 「俺はニコが居てくれるなら、それでいい。寂しくなんかないよ。ずっと一緒にいたい」 間違いなく嘘偽りのない本心をこのときとばかり告げてみる。 案の定、ニコは顔どころか耳まで赤く染まっていく。 「あの、その…あ、そうだ、今日の夕食はお母さんの代わりにあたしが腕を奮っちゃおうかな!」 照れ隠しなのかわざとらしい大声をだして、冷蔵庫を漁り始めて、あれこれと献立を組み立てている。 「俺、ニコが作った筑前煮が食べたいな。うまくできなくて自信ないみたいなこと言ってたけど これまでニコが作ってくれた料理でまずいものなんて何一つなかったよ。だから、食べたい」 「…ほんとに?じゃあ、わかった。そのかわり万が一まずくても全部食べてよね。 絶対だからね!残したら許さないから」 勢いよく身体をこちらへ翻したニコはまだちょっぴり頬が赤い。 そのくせ勝気な笑みは絶やさずに俺に念を押す。 するとニコがあっと表情を変えて 「…ねえ、ロボ。あたしら、すっごい変じゃない?」 「変?」 どこが?とニコの問いかけに内心首を捻りつつもしばし互いを観察しあう。 数秒後、思いっきり吹き出した。 それもそのはず、俺達は冬のソナチネコスプレのまま不自由さを感じることもなく過ごしていたのだった。 いやに身体に馴染んでてすっかり忘れてた!いつまでこの格好してんだよッ。 「母ちゃんがいたら大喜びしそうなシチュエーションだなぁ」 「そうかも」 渇いた笑いを交わしながらそそくさと普段の姿に戻るはめに。 「んじゃ、あたし買出し行ってくる」 玄関先で靴を履きかけるニコの後に続くと 「俺も行くよ。ニコ一人じゃ寂しいでしょ、俺がいないとね~」 「な!そんなことないよ。それはロボのほうじゃん!もう、早く行くよッ。ほら、テレビ消して」 「はいはい」 やや乱暴に背中を押されて、リモコンを向けた画面には幸せそうな家族の映像が。 若い両親との小さな小さな愛の結晶。 「可愛いねぇ、赤ちゃんって」 そのまま見とれていた俺の横でいつのまにかニコが目を細めている。 「うん、ちっちゃくて可愛いよな」 目前の情景が未来の自分とニコに重なって、ふとある言葉を思い起こす。 『二人が結婚して、新しい命を授かって可愛い孫に恵まれる』 母ちゃんの思い込みから生まれた家族計画がまるっきりの夢物語じゃなくなる日も遠くないのかもしれない。 どうして俺とニコがデキてると思ったのか聞きそびれてしまったけど、今となってはもうその必要はないか。 そのうち機会があれば聞いてみようか。などとあれこれ考えていたら 「ロボ。今、このテレビ画面を邪まな気持ちで見てたでしょ!?」 「エッ?言ってる意味がびた一文わかりません」 唇を尖らせて、問い詰めるニコに何が何やら。 「可愛いって言いながら、赤ちゃんじゃなくて若くて美人で綺麗なお母さんのほうに目線がいってた」 「はあ?そんなことないよ、あるわけないだろう?バカも休み休み言えよ~」 そりゃ見ていたのは否定しないけど、それはニコと重ねて見ていたからで やましい感情なんてこれっぽっちもありませんてばッ! 「何よ…バカって!いいもんッ、お母さんに言いつけてやるー!」 「えぇ!?ちょっ、ニコ!」 恐ろしい捨てゼリフを残して走り去るニコを追いかけて、もつれそうになる脚を引きずりながら 部屋を駆け出していく。 この先、俺はニコと母ちゃんの強力タッグに頭を悩ませることになるのだろう。 けど、それもある意味理想の形で幸せの巡り合わせに思えてくるからおもしろい。 「おーい、ニコ~、待ってくれよ~!」 あかるい未来はすぐそこに? 終わり