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咲夜1 1スレ目 38 「咲夜さん!オレを第二のメイド長にしてください!」 1スレ目 179 咲夜さんに 「あなたの微乳は最高です!!」 って言って告白 命の保障はできないけど( A`) 1スレ目 199-202 「失礼します」 そう言って俺は目の前の重厚な扉を開けた。 扉の向こうは真紅の部屋。 中央に置かれた豪奢な椅子の肘掛に頬杖をつき、薮睨みの視線で僕を縫い止めているのがこの館の、そして俺達使用人の主であるスカーレット御嬢様だ。 白磁よりも白い肌と、紅玉よりも紅い瞳。 すらりとした切れ長の眉は意志の強さを如実に表わしている。 眉を通り、整った目鼻立ちの下にある柔らかそうな唇から覗くのは、明らかに人外の種である証の牙。 外見の幼さからは想像もつかない強烈な威圧感と、魔性の者のみが持ち得る傾国の美貌。 俺如き脆弱な人間風情には、濫りに近付く事さえ許されない――――俺がそんな錯覚を覚えるのに、十二分にしてお釣りが来る程の魅力を、スカーレット御嬢様は備えていた。 「何をしているの。さっさと入りなさい」 不機嫌さを隠そうともしない声で、萎縮してしまった僕を呼びつける御嬢様。 視認出切るほどの不機嫌オーラを纏う御嬢様に近付くのは、はっきり言って泣きたくなるくらい怖い。 俺は、使用人魂で恐怖をねじ伏せ歩を進めた。 それと同時に、僕は何故御嬢様の御部屋に呼ばれたのか考えていた。 俺の仕事は基本的に雑用や外回りの警備ばかりで、御嬢様の身の回りのお世話に直接関わるような機会は無い。 仕事では大きな失敗もしていないし、呼びつけられる様な原因が思いつかない。 しかし、それでも俺は外勤組の中では格段に御嬢様と出会う人間らしい。 一日に三度は廊下で擦れ違ったり視線が合ったりすると仲間内で話したら、皆一様に驚いていた。 曰く、外勤は一週間に一度御嬢様をお目にかかれたら上出来、なのだそうだ。 もしかしたら、その辺りが今回呼ばれた原因なのかもしれない。 余りにも顔を合わせる回数が多いから、サボってるんじゃないかと思われてたりして。 内心で首を捻る俺に、御嬢様は言い放った。 「単刀直入に聞くわ。貴方、咲夜に何をしたの」 心臓が跳ね上がった。口から飛び出たかと思った。 十六夜咲夜さん。 ここ紅魔館の使用人と侍女の頂点に立ち、人知を超越した能力を持つ、文字通り完全で瀟洒なメイド長。 御嬢様が紅魔館の象徴であれば、咲夜さんは紅魔館の中枢と言ってもいい。 「……い、いえ。特にこれといって何かをしたという記憶はありませんが」 俺の短い人生の中でも最大の集中力と精神力を振り絞り、可能な限りの平静を装って俺は答えた。 誰よりも御嬢様に忠節を誓う咲夜さんだけど、まさか咲夜さんてばあんな事まで御嬢様に言うのか。 俺は一週間前の出来事を思い出していた。 今、俺が咲夜さんと聞いて思い出すのはそれしかない。 一週間前――――咲夜さんに告白して、思いっきりフラれた事を。 勿論、OKなんてもらえるとは思っていなかった。 ただ、咲夜さんに自分の想いを知ってもらえればと、それだけが望みの告白だった。 この気持ちは、好きというより、むしろ憧れに近いものだったのだろう。崇敬と言い換えてもいいかもしれない、そんな一方通行の想いだった。 それでも返答が『そう……それじゃ』だけでくるりと踵を返して去ってしまったのは流石に多少傷付きもしたけれど。 ダメでもせめてもう少しリアクションが欲しかった。 高望みだとか無謀だとか言いつつも撃沈した俺に同僚達が奢ってくれた酒は少ししょっぱい味がした。 兎に角、あれ以来咲夜さんとは全く顔を合わせていない。 むしろ避けられているような風潮さえある。本当にちらりとも姿を見ないのだ。 現に、今だって普段は御嬢様の御付である筈の咲夜さんなのに、どこにも姿が見当たらない。 気が滅入りそうになるが、これはどう考えても嫌われてしまったと見るのが妥当なんだろう。 …………やばい、また涙が出そうになってきた。耐えろ俺。 だけど、よくよく考えてみると何もしていないというのは間違いじゃないのだ。 咲夜さんからしてみれば、俺はどうでもいい人間なのだから。自分で言うのも悲しいが、告白なんてされようが関係ないのだし。 そんな俺の発言に、しかし御嬢様は苛立たしそうに席から立ち上がると目にも止まらぬ速さで俺の眼前へと移動し、 「てぃ」 「ぅぁ痛゛ぁっ!!?」 デコピンを頂戴してしまった。 あまりの痛さに頭が割れたかと思った。 「お゛お゛お゛お゛お゛……」 そのまま御嬢様の前である事も忘れもんどり打って転げまわる俺。 鼻息を荒げ腕を組みながら御嬢様が言う。 「この私に嘘とはいい度胸ね。貴方が咲夜に何かけしかけたのはお見通しなのよ!」 「ええっ!?」 「私の能力を知らないの? いいわ、特別に貴方にも見えるようにしてあげる」 ぱちん、と御嬢様が指打ちをすると、俺の視界が一瞬、真っ赤に染まり―――― 気付くと、俺の腕といい首といい脚といい、身体中のありとあらゆる部分から、細長い糸が張り巡らされていた。 糸は部屋の壁をつきぬけ、思い思いの方角へと一直線に伸びている。 太さや色は様々で、緑、青、白、黄、紅、茶、黒、そして、 「……この糸だけ、やたら太っといですね。あの御嬢様、これは一体……?」 「俗に言う『運命の糸』って奴よ。貴方と周囲の人間のエニシを可視化したの」 成る程。これは確かに、運命を操る御嬢様にしか出来ない業だ。改めて御嬢様の力の一角を見せ付けられ、俺は感嘆した。 「視覚化ついでにちょっと手品を加えておいたわ。貴方、ちょっとその糸引っ張ってみなさい」 「え?はい」 俺は言われた通りに手首から出ている紅い糸、いやもう綱と言っていいようなそれを引いてみた。 部屋の窓際、紅色のカーテンの向こうに繋がっていた綱がぴんと張り、その次の瞬間。 「きゃっ!」 小さな悲鳴と共にカーテンの裏側から転げそうになって飛び出てきたのは、俺と同じく手首に綱を結わえた咲夜さんだった。 「あ……」 「う……」 何故そんな場所に隠れていたのか。 この糸の太さは何なのか。 そんな疑問を吹き飛ばして瞬時に蘇る一週間前の記憶。 赤熱化する頬が分かる。 対する咲夜さんはと言うと、一週間前と同じくあっという間に背を向けてこちらを見てもくれない。 呆然とする俺に、御嬢様が御不満ここに極まれリといった声で、とんでもない発言をしてくれた。 「この一週間、咲夜ったら酷かったんだから。掃除は手につかない、料理は失敗する、ぼーっとして私の言葉さえ聞き逃し、あまつさえこの咲夜が、咲夜がよ? まさか寝坊をするなんて思っても見なかったわ」 「おっ、御嬢様!」 その時、俺ははっきり見てしまったのだ。 反射的に振り返ってしまった咲夜さんの、あの氷のように澄んだ咲夜さんの綺麗な横顔が、真っ赤に染まってしまっているのを。 それって、つまり―――― 「咲夜さん、俺の事を嫌って避けてたんじゃなくて……」 「…………から」 「え?」 「ど、どんな顔をして貴方と会えばいいのか分からなかったから……」 この時、俺は初めて知った。 人間、理解能力の限界値を超えると意識が飛ぶって事を。 薄暗くなっていく視界の中、俺は慌てて俺の方に駆け寄る咲夜さんの姿を見たような気がした。 1スレ目 848 湖の真ん中に位置する紅魔館――そこのある一室に俺は倒れていた。 無論、誰かに倒されたと言うわけではない。ここで働いて数ヶ月、俺の身体の 一時的な限界が訪れていたというだけだ。 「あのメイド長…人を散々こき使いやがって…」 何故かここで働く羽目になっており、俺は有給やら昼寝やら休日やら そんな物が無いという、ある意味では地獄のような職場で働いている。 制服貸与と書かれていたが、それもよりにもよって始めはメイド服だったから 性質が悪い。今は執事用の服という物を着せられているが、当初はそれも埃を被っていた。 「…休日なしだからなぁ」 今日も警備やら図書整理の手伝いやら、タダ働きの割に合わない事をしないとならない。 そう、そのはずだったんだ。 「あら、今日はどうしたのかしら」 いつの間にか俺の部屋の中に、諸悪の根源が居た。 ベッドから起き上がらない俺を見て、メイド長――十六夜咲夜は不審そうな目で見ている。 「…誰かさんの忙しい予定のせいで、ちょいと身体を壊しただけですが?」 その言葉をたっぷりと皮肉をこめて返す。 「そう、それじゃあ」 起き上がって館内の警備に行きなさい、とでも言われるのかと思い言葉に耳を傾ける。 「今日は少し休んでいなさい」 ……何ですと? あの鬼のようなメイド長が休め?普通、メイド長が言う筈無いよな。 …もしかしたら夢かもしれない、いや、もしかしたらこのメイド長はニセモノか? 「何をそんなにじっと見てるのかしら?」 「…や、なんでもない」 この言う言葉に殺気を込めるやり方。間違いなく本物のメイド長だ。 「…ここで寝てなさい」 そう言って、メイド長は俺の部屋から出て行った。 「待たせたわね」 戻ってきたメイド長はいつものメイド長だった。 さっきとの唯一の違いは手にお盆と料理らしきものを持っていることくらいか。 「…で、何のつもりっすか?」 「せっかく人が厨房を借りて病人食を作ってきたんだけど、いらないのかしら?」 「………いりますよ。そりゃ」 館の中でもしかしたらこの人は最強かもしれない。 紅魔館の全てを統べるメイド長、十六夜咲夜。…なんか強そうだ。 「お嬢様にも言って許可貰ったからから、今日は休みなさい。この館のほとんど居ない男手なんだから」 「…りょーかい。で、その料理は食べられるんだろうな?」 嬉しい事は嬉しいんだが、万が一にも毒なんて盛られていたら、泣くに泣けない。 いやその前に亡くなってしまうこと確実だ、俺は妖怪じゃないんだから。 「…毒なんて盛ってないから安心しなさい」 「何で俺の考えてる事が!?」 「その間抜けな顔を見たら誰でも気付くわ」 そこまで分かりやすい顔してたのか… メイド長からそのお盆ごと受け取り、レンゲを手に取る。 「見ての通り、お粥だけどね」 「病人食なら普通だろ?」 レンゲでまだ熱々の粥をすくい、すぐさま口に運ぶ。 作法とかなんてこの際関係ない。ただ我武者羅に食べ続ける。 「どうかしら?」 「…さすがメイド長だと思うぜ。普通に美味い」 「そう、なら良かった」 心の底からホッとしたように、メイド長は安堵の息を吐く。 …その表情を、妙に可愛く見えた自分がいた。 夜になった。 いつもは夜になっても図書整理が終わらずに篭っているはずなんだが、 今日は休めといわれて、ずっと横になっている。 昼間に門番や図書館の館長やら司書やらが来て、見舞いをしてくれたから 暇は潰れたが、今は何も無い。 「暇だ…」 と言った所で何が変わるわけでもない。それにしてもいつも俺を玩具にして遊んでいる お嬢様が休みをくれた事が意外だった。メイド長が言ってくれたからか? 「入るわよ」 と言いながら既に入っているメイド長。 また粥を持ってきたらしい。飽きない味とは、ああいうものだろうな。 「…晩飯か?」 「えぇ、同じものになるけど、病人食だから仕方ないわよね」 「…ありがたく頂く」 俺がお椀を取ろうとすると、それをメイド長はお預けをするような形で持ち上げた。 その手はむなしく空を切って硬直する。 「もう少しくらい休みなさい。最初で最後の奉仕活動くらいはしてあげるから」 そう言って、レンゲで俺の代わりに粥をすくう。 「ほら、あーんして」 …そう来たか。 「…あんたは――」 「あら、恥ずかしいのかしら? 普段はもう少し素直なくせに」 「…分かったよ。 ったく、どういう神経してんだアンタは」 結局、俺の方が折れて口を開ける。素早く中にレンゲが入る。 正直言って、恥ずかしさのあまり味覚が麻痺したのか味は分からなかった。 「…あんた、いい嫁になれるぜ」 わざわざそっぽを向いて、ぶっきらぼうに言う。…無意味に恥ずかしいだけだが。 それにしても彼女――咲夜は子育てとか得意そうだ。それにあれくらい飯が美味ければ 申し分ない。 「そうね。あなたはお嫁に貰ってくれるかしら?」 「…はっ、あんたみたいな美人なら喜んで、だな」 まぁ、咲夜の事は嫌いじゃない…むしろ好きな部類に入る。 仕事に対して厳しいというか何というか、そこがネックだがそういうところも割と気に入っている。 「それじゃ、これにサインして」 と、一枚の紙を差し出した。 「…ってオイ! これ婚姻届だろうが!」 そんなものが幻想郷にもあることが驚きだ。 いや、もしかしてこういう隔離された場所だからこそあるのか? 「あんたの事は確かに好きだけどさ、もっと、こう…人を選んだらどうだ?」 「色々知っている人間を比べた上で、あなたに当たったのよ」 そりゃ嬉しい事で…。 と冗談で返せれば良かったんだが、咲夜の目は…本気だった。 結構長い時間、俺は黙っていた。今までの事を振り返りながら決断をしようとしていたのだ。 問題を先送りにするような事はしたくないし、答えは早く出すべきだから。 「…ま、あんたの事は嫌いじゃねえよ」 むしろ嫌いになんてなれるか。 「そう、なの」 「…安心しな。結婚しねえって言ってるわけじゃねえって」 「え?」 「アレだ。こう言うときは俺の方から言わせてもらった方が嬉しいんだけどな…」 まさか、先に言われるとは思ってなかったし 「あー…っと、メイド長…もとい、咲夜。あんたの事、結構好きだぜ? 俺にとっての嫌いじゃないと好きってのはイコールなんだ。だからさ、こき使われるのはヤだけど 俺は…あんたが好きだ」 「本…当?」 それだけ言い終わると、咲夜は口元を押さえて涙を流していた。 「…結婚、するか?」 「…えぇ」 俺は、彼女と共に永遠を誓う口付けをした。 1スレ目 951-953 「貴方、今まで相手した中で最低ね。試験を受けようと考えた事自体が間違いだわ」 …そうして彼は紅魔舘から暇を頂く事になった。要するにクビである。 きっかけは舘内の知らせで、『昇格試験の案内』という張り紙を見て目をとめたのが始まりだった。紅魔舘に就職し、メイド長の十六夜咲夜に一目惚れした彼は「試験監督‐十六夜咲夜」の項目に惹かれて即座に申し込んだ訳だが・・・。 結果は惨敗。いきなり戦闘力のテストをされて何も出来ずにダウン。余りの不甲斐無さにメイド長直々に解雇を言い渡される事となったのである。 里へ帰る途中、彼の中では変化が起こっていた。 自分の至らなさを恥じる心は他人への責任転嫁に。 一方的な憧れは一方的な憎しみへ。 メイド長の目に止まる事がなかった男は、里へ帰る事なくいずこかへ消えていった。 それから数年、紅魔舘に紅白や白黒以外の侵入者がいるという話が持ち上がる。 曰く、侵入者は投げナイフを得意とするらしい。 曰く、侵入者は門番に気付かれずに中へ入る事ができるらしい。 曰く、侵入者は一瞬で別の所へ移動できるらしい。 曰く、侵入者は毎月一度忍び込むらしい。 これだけの特徴を兼ね備えた人物を、紅魔舘では知らない者がいなかった。 しかしその人物はメイド長。侵入者を撃退する役目を持つ人である。 「咲夜。最近舘内に貴方のドッペルゲンガーが出没するって噂ね?」 深夜のティータイムに、レミリアが咲夜に半分からかい口調で話し掛ける。半分は真面目であることを察した咲夜は黙って頷いた。 「面白そうだけど、咲夜の問題みたいだしね。そうそう。・・・・私はもう寝るから、館の見回りをお願いね。今夜は「2人」が見回りするでしょうから、早く終わるでしょう」 そう言ってレミリアは寝室へと姿を消す。瀟洒な従者は主の意図をつかんだらしく、館内の見回りへと出かけて行った。 館内を一通り見回ったところで図書館へと向かう。しかしここにも異常はなかったため、残すは時計台のみとなった。扉を開けると柔らかな月光が降り注ぐ。 「そういえば、昨日は満月だったわね」 そう呟いた咲夜に、暗がりから声が帰ってくる。 「今夜は十六夜・・・と言うそうですね。満月の輝きには及ばないとされているが、充分に眩しく、そして美しい」 「それは月だけかしら?」 「いえいえ、どちらの十六夜も私には満月より輝いて見える」 「それは間違いね。満月より輝く月など存在しないわ」 言葉だけなら月下の語らい―――しかしその実は殺気の応酬である。 「眼鏡もかけているのですけどね。度が合わないのかな?」 「それは元から治すしかないわね。尤も、ここで倒されるから治しようがないけど」 「何、これで私には良いのですよ。治すにしてもこの後図書館でも行って調べます」 2人はどちらともなく距離をとりはじめ、ナイフを抜き合う。 「呆れるほど大した自信ね。なら――――」 「そのような瑣末な事より、今は――――」 「返り討ちにされるといいわ、黒き賊!」 「貴方を倒したいのですよ、瀟洒な従者!」 ―――――そうして、十六夜の月の下、2つの影が交差した。 3本同時投擲からの接敵、離れる時の目くらましに投げた内1本のみ相手の急所を狙う、1本だけと思わせて同じ軌道で2本目を投げる・・・ナイフの応酬は互角だった。いや、その戦いは余りに・・・・・互角すぎたのである。 「どういうこと・・・?まるで鏡に映したようにナイフが飛んでくる。お嬢様の言っていた冗談もこれなら本気にしてしまうわね・・・ならこれを使わせてもらうわ」 ――――幻世「ザ・ワールド」 世界が凍る。咲夜は今、時を止めた。紅魔舘メイド長の能力にして奥義である。 もちろん相手は微動だにしない。この世界で動けるのは咲夜を除いてはいないのだ。 「チェックメイトね、侵入者さん。中々面白い戦い方だったわ」 急所に向かって的確にナイフを投擲する。後は世界を開放すればお終いだ。自分と同じナイフ術には興味があったが、明日の予定を考えるとそれを詮索するのも手間に思えた。 男が立ち上がってくるまでは。 「・・・なぜ?急所に当たって倒れないなんて、貴方人間?」 自分の必殺パターンを崩されてか、咲夜は苛立ちを隠さずに男に問い掛ける。その様を見て男は満足そうに、不敵な笑みを浮かべて答えた。 「いいえ?どこにでもいる無様で「最低」な人間ですよ。ただ、ちょっと誤魔化すのが上手いだけです。・・・・防護魔法ってご存知ですか?狙ってくるのが確実に急所なら、そこだけを集中して防護すれば致命傷にはなりませんしね」 「・・・・ご高説感謝するわ。お代は地獄への片道切符で支払わせていただきますね」 ――――幻符「殺人ドール」 急所のみをガードしているなら無差別・乱反射のナイフに対応できる道理はない。全方位からの攻撃に、男は――― 「ありがとう。それでこそ貴方は十六夜咲夜だ」 と呟き、避ける動作も見せず。悔しそうな表情も浮かべず。ただ、微笑んで全てのナイフをその身に受けた。 「え・・・?ちょ、ちょっと!?」 余りのあっけなさに咲夜は男に近寄る。先ほどまで頭にあった明日の予定より、今はこの男の不可解さが気になって仕方がなかったからだ。 「・・・どうしました、そんな不思議な顔をなさって」 致命傷を負っていても男の態度は変わらない。その一貫した態度に腹が立ち、咲夜は男を怒鳴りつける。 「不思議な顔にもなるわよ!戦った相手にこんな事言うのも変だけど、あの攻撃は避けられたはずでしょう!?」 ヘイスト プロテクション 「ああ、さっきまでの私ならね。・・・速度増加も防護魔法も時間切れですし、そうでもしなければ貴方と戦う事すらできない。いつぞやの様に一瞬で倒されてしまう事でしょう」 「貴方は、あの時の・・!」 自分の事を思い出してくれたのか、男は嬉しそうに、しかし弱った声で話を続ける。 「ああ、今は貴方の瞳に私が映っている。私を見る事すら面倒に感じられたあの時に比べて、今はなんと幸せなのだろう。ドアを開けて私の声に反応する時など、体の震えが止まりませんでした」 複雑な表情で咲夜は男に話かける。 「馬鹿ね・・・そこまでして私に復讐したかったの?」 「・・・冗談を。私は貴方に一目惚れしてしまったのですよ。エゴですが、愛してると言ってもいい。そこまで慕う相手の瞳に映らない、まして仕える事もできないのなら、一瞬でも長く、私を意識し、見続けてもらうよう生きただけです」 「・・・・」 「憧れ、慕い続けた貴方の技を使いたかった。修行をしている時も、貴方に近づいていくようで楽しい日々でしたよ・・・最初は復讐のためだったのですけどね、『自分の技で死ぬがいい』って」 咲夜は何も答えない。自分のした事を後悔しているのか、男の行動に呆れているのか、自分でもわからないのである。 「さて、そろそろお迎えのようです・・・最後にもう一度顔を見せてくださいませんか」 咲夜が男を見直すと、不意に男は体を起こし―――咲夜に口づけをした。 「!?」 「―――――時よ止まれ、・・・貴方は美しい」 そこで男の時は止まった。 名も告げない、相手にとって1日にも満たない男の恋は報われたのだろうか? 咲夜は次の日、何事もなかったように仕事を進めている。 ただ、その日紅魔舘のメイド達は昼休みにこんな会話を交わしていた。 「侵入者が退治されたみたいですね。昨夜メイド長が夜の見回りの時に倒したそうです」 「あ、私丁度早番で起きてきた時にメイド長とすれ違いましたよ。私初めて見たんですが、倒した侵入者を抱えてました」 「・・・いつもは片付け、私たちにやらせるのに。『メイド服が汚れるでしょ?』って言ってましたしね」 「珍しい事もあるんですね・・・。綺麗好きで有名なのにどうしたんでしょう?・・・あ、そろそろ休み時間も終わりですね」 それきり、男の話題が出てくる事は無かった。ここでそんな話は日常である。侵入者をメイド長が退治した、ただそれだけの話。 ―――――――紅魔舘は今日も、概ね平和だった。
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咲夜8 うpろだ589 今思えば、私は嵌められたのだと思う。 「咲夜さん、これを」 それは普段着ているようなメイド服でもなく、柔らかくさらりとした手触りの光沢のある黒のドレスだった。 普通の女の子なら一度は憧れる代物だ。 身体のラインを強調するような黒のそれは太腿から深いスリットが入っていた上に、胸も必要以上に強調されるようなデザインになっていて、 それを着るには大分勇気を必要としたけれど、レミリアが着ろと言うのだから逆らうことも出来はしない。 美鈴に手伝ってもらいながら何とか四苦八苦してドレスに腕を通した。 「咲夜さん、凄く綺麗です」 そう言って、美鈴は軽くメイクを落としていく。咲夜さんの肌は綺麗ですね、だからあんまり弄らなくてもいいかな。 アイラインを引いて、口紅を差す。 いいですよと言われて目を開ければ目の前の姿見に見知らぬ女が映っていた。 揺るぎない銀の髪が辛うじて自分であることを知らしめる。 「これ、履いてってレミリア様が・・・・」 「・・・・分かったわ」 ドレスと同じ黒のエナメルの靴を履く。 大きく背中の開いたドレスといい、華奢な造りと高い踵の靴といい、全てが心許なかった。 「咲夜さん、その・・・・私たちの事・・・・」 「美鈴、留守を頼んだわよ。・・・・・さあ咲夜、行きましょうか?」 現れたレミリアにはいと頷く。 美鈴はどこか悲しそうな顔をして、私が連れて行かれるのを見ていた。 行きましょうか、と言われたものの、何処へとは聞けなかった。 聞いていいような雰囲気ではまかり間違ってもなかった。 飛行しながら、流れる景色をぼんやりと見つめながら思う。果たして私は、何処に行くのであろうかと。 数分もかからずにレミリアは地上に降り立った。 それを見てこちらもゆっくりと下降する。 先に降り立ったレミリアが促すようにその手を伸ばしてくる。 少し躊躇った後に指先を重ねて動きにくい靴と格闘しながらのろのろと歩いた。 きっと靴擦れが酷いことであろう。 目の前には数回訪れたことのある屋敷があった。 重厚な扉を開いて、人のいない廊下を歩く。 かつかつと信じられないほど大きく足音が響く。柄にもなく緊張しているのかもしれない。 どうしてこんな格好をしているのかは知らないけれど、これから会いに行く人物には心当たりがあった。 こんな屋敷で用のある人物といえば、ただ一人。 「待たせたわね」 思っていた通りの場所でドアを開けたレミリアに、ある種の落胆と絶望が滲む。 「・・・・・待つ時間っていうのは、どうしてこうも長いんだろうね。レミリア、咲夜」 「・・・・・・」 他の給仕も執事も、誰もいない部屋で彼は一人静かに佇んでいた。 明るい茶色の目と視線が合う、と思った瞬間にはすでに彼は目の前にいた。 いつの間にかレミリアに預けていた手は彼に繋がれている。 「最後に会ったのはあの悪魔の妹君と一緒の時だよね、咲夜」 「・・・・っ、△△・・・・」 「○○、だよ。咲夜が呼びやすい呼び方で呼べばいいけど苗字は駄目」 今日から咲夜は俺のお嫁さんになるんだから。 確かな笑みと共に吐き出された言葉に驚愕した。 そんなことは、知らない。 何かの間違いではないのかとレミリアを見遣ったが、ただ静かに微笑み返されただけだ。 それだけで十分だった。彼の言葉が紛れもない真実だということを思い知るには。 目の前が真っ暗になって、力が抜ける。 みっともなく床の上に崩れ落ちるかと思ったけれどそんな無様な姿になる前に、○○に腰を取られた。 そのまま抱え上げられてソファの上に横たえられる。 ふわふわと沈み込む柔らかな感触が、まるで浮世離れしているのではないのかという錯覚を起こさせた。 理由なんて分からない。 けれどこの格好はその為だったのかと合点がいった。 勿論分かったからといって嬉しくも何ともない。 「咲夜」 「レミリア・・・・様」 「こうなったのは私の責任よ。・・・・私が、彼に負けたから。恨む?」 「・・・・・・」 無言で首を振る。 嫌で嫌でたまらなかったがだからといってレミリアを恨むのはお門違いだ。 例え本当にレミリアの言うとおり彼女の行為の何かが原因だったとしても恨めるはずがなかった。 「・・・私は、いいんです」 「・・・私は貴女の幸せを心から願っているわ。貴女が嫌だと言うのならこの話は―――」 「レミリア」 静かな、威圧的な声だった。 ぞっと皮膚が粟立つ。 初めて出会ったとき、この男はこんな声はしていなかった。 震える拳をきつく握り締めて、真っ直ぐに見上げた。 薄らと笑う瞳と視線がかち合う。 それからレミリアを見遣った。・・・悲しそうな、顔をしていた。 「・・・いい、です。結婚でも、何でもします」 「咲夜・・・・」 「紅魔館の皆さんのことを、よろしくお願いします」 それだけしか言えなかった。 覚悟を決めても所詮はその程度ということだ、情けない。 温かなレミリアの手が頭に触れた。 そのまま小さな子供を宥めるように、くしゃりとひとつ髪を掻き混ぜられる。 たったそれだけのことで身を切られるような思いだった。 この温もりはもう二度と手に入れられないのかもしれない。 「○○」 「分かってるって、レミリア。ちゃんと幸せにするよ・・・咲夜」 のろのろと顔をもう一度○○に向ければ毒を持った笑みで返された。 幸せになんてなれるはずがない、美鈴もパチュリーもフランも小悪魔も敬愛する主君であるレミリアもいない世界に自分の望む幸せがあるとは到底思えなかった。 投げ出したままの左手を取って、その薬指に指輪を嵌められる。 細くて華奢でシンプルな指輪だ。 虹色の石が嵌っているがそれが何なのかは生憎と分からなかった。 「オパールだよ。綺麗だろう?似合うと思ったんだ」 そう言って指輪を嵌めた(彼のものになった)手をそっと握って、口付けられる。 そのまま強く指に歯を立てられた。 反射的に逃れようとしたら更に強く手を握られる。 おそらくは血が滲んだのだろう、赤く濡れたものが見えた。 「・・・・っ、あ」 「浮気防止に、もう一つ」 ぺろりと唇を舐めて、爽やかに笑う。 レミリアの表情は悲しげなまま凍りついたように動かない。 だから、それ以上彼女に負担はかけたくなくて、大丈夫ですと言えば無理矢理納得したような顔をしてそれでもしっかりと頷いてくれた。 「・・・・じゃあ、私はこれで」 「いつでも遊びに来ていいって、紅魔館のみんなに言ってあげて」 「お気遣い、結構よ」 それだけ言ってくるりとレミリアは後ろを向く。 その背中が全ての言葉を拒絶していて、だから何も言えなかった。 彼女の後姿がドアの向こうに消えて、その足音すら捕らえられなくなって、もう一度ソファに沈み込んだ。 靴はすでに○○によって脱がされていた。 思考が同じ所で停滞している、何もかも考えるのに疲れた。 張り詰めた神経が緩むこともなくそのままいつか切れてしまいそうだと思いながら、目を閉じる。 とにかく今は眠りたかった。 目が覚めたら全ては夢だったという都合の良い話はないだろうか。 瞼を閉じたらとうの昔に枯れたはずの涙が二粒、頬を流れ落ちた。 補足。 十六夜咲夜 元紅魔館のメイド長。 咲夜に目をつけた○○とレミリアの賭け戦闘でレミリアが負けてしまったため、○○の嫁になることを決定付けられる。 それ以降すこぶる腹黒な旦那に振り回される毎日を過ごすことに。 ○○にあまりいい感情を抱いていない(レミリアを負かしたので)。 ○○ レミリアより強い、最強?な○○。 性格はすこぶる黒い、とにかく黒い。腹の底まで真っ黒。 事実かどうかは分からないが全て計算づくの上で奸計用いて咲夜をゲットしたとかしなかったとかいう、そんな。 多分十中八九本当のこと。 意外にも結婚生活自体にはどちらかと言えば乗り気なようで、ことあるごとにあの手この手と咲夜を虐めては(困ってたり屈辱に打ち震えていたりする姿を見て)楽しんでいるらしい。 心の底から性悪ですね。 でも咲夜のことを本当に心から、 レミリア・スカーレット 親馬鹿、咲夜馬鹿。 ○○との戦闘に負けて泣く泣く咲夜を嫁に出すことになってしまった。 彼女が嫁に行った日は一人で枕を濡らしていたとか何とか。 ───────────────────────────────────────────────────────── うpろだ591 俺がプロポーズしてから一月ちょっと 彼女が十六夜に別れを告げて一月弱 特に変わったわけでもなく、ただいつものように、毎日が過ぎて行っている 正直に言えば彼女が来てから店の方も繁盛してるし、人でも増えて楽になった でもまだ何となく、その・・・嫁に来たという実感が湧かないのも事実だ いまだ恋人のまま、同棲しているような感覚 いったい結婚とはなんなのだろうか? 「幻想郷に・・・紅魔館に来て、お嬢様のお世話をして、パチュリー様にお茶を入れたり図書館の掃除をしたり、メイドたちをまとめたり、サボってる美鈴を怒ったり」 彼女はまるで遠い遠い昔の事ように話す、瞳は悲しげに、口調は柔らかく 「霊夢や魔理沙が遊びに来て、たまにそれを撃退したり歓迎したり、異変の時も色々と大変だったわ・・・それでも凄く・・・楽しかった」 俺があまり知らない彼女のメイド生活、だか実に解り易く・・・光景が目に浮かぶようだ 俺の知らない彼女を、見て見たいなんてすこし、思った 「このまま年老いて死ぬのも悪くない、むしろ恵まれているなんて思ってた・・・でも」 俺とであった、俺に恋をしてくれた、そして俺も恋をした 「まさか自分が普通の人間みたいに・・・人を好きになって、体を重ねて、プロポーズまでされちゃって・・・幸せすぎて、夢なんじゃないかって、でも夢じゃなくて」 もし夢でも、俺は夢から現実まで出張って、君をさらいに行くよ 「紅魔館にいたときが一番幸せなんだと思ってた、いろんな人に大切にされて、幸せだった、危険もあったけど、充実してたし、満足してた」 「・・・じゃあ、何で君は俺との生活を選んだ?」 俺は、彼女も俺とおなじ事を言ってくれると信じて、一つの質問を、投げかけた 「それは・・・私はあなたを愛してるから、そして彼方が私を愛してくれるから――」 俺も、同じ気持ちだ 俺達は愛し合ってる、だけどまだ夫婦ではない、まだ俺達は彼氏彼女なのだ 何か区切りが必要なのだ、人によって色々だが、最も一般的なのは結婚式だろう、それと 「・・・古くは蛤の殻などを渡していたらしいが」 「?」 「まぁ一般的に・・・これが一番だと思ってな」 いつ渡そうか、ずっと出番を待っていた控え選手 温めていた身体、待ちわびていた気持ち 「え・・・指輪・・・」 「あんまりいいものじゃ無いが(推定月収8か月分)外から取り寄せてもらうのに金が掛かっちまってな・・・」 「綺麗・・・白金?」 「ああ、君には銀が似合うと思ったんだが・・・まぁいつまでも色あせない二人の愛情と言う意味も込めて・・・白金で」 ああ、俺はなに言ってるんだ、よくもまぁ恥ずかしい台詞をいえたものだ、素面なのに 「あ、ありがとう・・・やだ、嬉しすぎて」 涙が、ぽろぽろと零れ落ちた 俺もつられて泣きそうになるが、其処は男ですから、しっかりと胸で受け止めてやらんといかん 「咲夜、結婚式とやらををあげようか」 「え?・・・な、なんで?」 「区切りをつけよう、それと・・・お世話になってる連中に、幸せになる、って宣言しなきゃ・・・な」 お嬢様と妹様と引きこもりと小と中国とメイドsと霊夢と魔理沙とアリスとそれから、それから・・・ 「そうね・・・うん、皆に自慢しなきゃね、私幸せですよ、ってね」 なんか違う気もするが、彼女はそれでいいのだろう、周りも、俺も・・・たぶん 陽気ぽかぽか、昼寝をするには丁度いい昼下がり あの人がいなくなって、怒られる回数は減ったけど・・・ちょっと、いやだいぶ寂しい 「美鈴、頑張ってるかしら?」 「・・・・・さ、咲夜さん!?きょ、きょうはどおして!?」 「ふふふ、ちょっとね」 久しく聞いたのは、偉く上機嫌で、透き通るように綺麗な声だった 「お嬢様、いらっしゃいますか?」 久しく聞いた従者の声、幻聴かと思ったが間違いなく、其処に姿があった 「咲夜!?まさかもう・・・別居!!?」 「ち、違いますよ!そんなことは全然」 あの男に任せて、良かった、そう思わざるを得なかった 咲夜がこんなに幸せそうに・・・ 少し、いや凄く悔しい 「今日はちょっとした、報告とお願いを」 「報告とお願い?」 「私達・・・結婚式を挙げる事にしました」 To be continued! ─────────────────────────────────────────────────────────── 11スレ目 58 理由は特に無かった。 人を好きになることに理由は要らないという言葉は本当らしい。 彼女を目で追い始めたのは何時からだったろうか。 ここは紅魔館のとある一室。 丁寧に掃除をしながら俺はいつものように彼女のことを考える。 十六夜 咲夜、俺の心を捉えて放さない人。 最初はそれほど気になる人ではなかった。 周りのメンバーの印象が強すぎて、常識人に見えたのが彼女くらいだった所為なのだろうが。 話せば長くなる成り行き上、ここで仕事をすることになった俺の上司。 ただ、彼女はそうであるはずだったのに。 何時からか変わっていた。 彼女の性格、仕草、言葉。 そういった何気ないものが俺にとって妙に気になるものになっていた。 「さて、こんなものか」 部屋の隅から隅まで掃除し終えた俺は部屋に置いてあった椅子に腰掛ける。 その状態から椅子にもたれかかり、天井を見上げる。 「何やってんだろう、俺」 彼女を想い続け、数年が経った。 何時までこんな半端な状態を維持するつもりなのだろう。 何度も彼女にこの想いを伝えようと思った。 その度に俺の中にある理性が必ず警告するのだ。 断られればそのあとはどうなるのか、と。 咲夜さんと今までのように接することができなくなる。 それどころか、俺は告白する覚悟など持ち合わせていないのだ。 現状維持――その言葉がいやに俺の頭の中を駆け巡る。 どんなに悩んでも変わらない、もどかしい状態が続いてきた。 彼女を見ていると何時だって俺という存在が霞む気がした。 大した力も無い、ドジを踏む、融通が利かない、器量も普通。 それに比べて彼女は完璧と呼ぶに相応しい。 そんな俺が彼女と共に居たいと思うとはなんともおかしな話だ。 「は、自虐が過ぎるか」 そう弱気な自分を一蹴してみてもやはり皮肉の言葉が沸きあがってくる。 「ああ、畜生。どうしてこんなに愛おしいんだ。どうしてこの感情を伝えられないんだ。どうしていつも踏みとどまっちまうんだ」 自分でも気がつかないうちに言葉が勝手に紡がれる。 少しずつ声が大きくなっていく。 分かっているのに、抑えられなかった。 ガタ…と部屋のドアから音がした。 誰か居るのかと思ったころにはもう遅く、既にその誰かへと呼びかけていた。 「誰だ?」 言い終わった直後に気配を消しながら音を立てずに素早く動きドアを開ける。 そこに居たのは驚いた顔で俺を見つめる、先ほどまで俺が思いを馳せていた咲夜さんその人だった。 「咲夜さん?どうしてここに?」 いきなりドアが開いたことに対して咲夜さんは驚いているようだ。 それもそうか、時間を止めようとしている間にこうなれば。 「え、あ…その…そろそろ掃除が終わったかと思って様子を見に来たのだけれど…」 戸惑いながらも彼女はここに来た理由を告げる。 しかし、何故か妙に落ち着きが無い。 本来の彼女なら既に平静を取り戻しているはずなのに。 ……嫌な予感がする。 俺はその嫌な予感を確かめるために彼女に一つ質問をした。 「あの、さっきの言葉……聞いていましたか?」 「い、いえ。聞いてないけど」 嘘だと直感した。 何故だか分からないが、俺と同じような感じがしたのだ。 「嘘ですね。そもそも、この部屋には防音加工が施されていないですし、あれくらいの声ならば聞こえてもおかしくは無いはずです」 「っ!」 咲夜さんの一瞬見せたその顔で俺は確信した。 「図星ですね」 彼女が慌てて取り繕ってももう遅かった。 それからしばらく言いようの無い、居心地の悪い静寂が辺りを包んだ。 「その・・・ごめんなさい」 「いえ、別に構いませんよ」 言葉が続かない。 さっきからバクバクと早鐘を打つ心臓が酷くうるさい。 彼女に聞かれていた恥ずかしさと、今後の彼女との関係はどうなるのだろうという不安が綯い交ぜになって、本当に落ち着かない。 「あの、私でよければ相談してくれないかしら」 なんとなくわかっていた。 彼女ならそう言うのでは、と。 その言葉を聞いた途端に彼女との距離が遠くなった気がした。 「そういうこと、私には経験が無いけど、私ができる範囲内なら協力してあげるから・・・」 そう言って微笑んだ彼女の表情はまさしく俺を連想させた。 本当に悲しそうで、本当に辛そうな、秘めこんで消してしまおうとする表情を見て、俺はただ、ここで何かを言わなければならない気がした。 「いえ、その必要はありませんよ」 自分の心を奮い立たせて言葉を紡がせる。 何を戸惑う、ここで言わなければ全てにおいて後悔する。 それで本当にいいのか。 「え・・?」 「聞かれていたのなら、もう踏みとどまる必要はありませんからね」 さあ、言おう。 秘め続けたこの想いを。 ただ、その為に今の俺はここにいる。 「咲夜さん、俺は貴女のことが好きです」 一度溢れたら、もう流れは止められない。 なんと思われようが構うものか。 今この瞬間だけはこの想いをぶつけたい。 「咲夜さんの声をもっと聞きたい、咲夜さんの笑顔をもっと見たい、咲夜さんの心に少しでも触れたい、 咲夜さんに少しでも近づきたい、咲夜さんを近くで感じたい、咲夜さんのことを知りたい、咲夜さんを愛したい。――――」 俺の言葉は止まるところを知らなかった。 最初は口をぽかんと開けて呆けた表情を浮かべていた彼女だが、次々と述べられる言葉を理解していく内に、その顔が徐々に赤く染まり、 遂には視線を泳がせて慌てふためき始めた。 「あ、う・・あ、あの・・その・・・」 もはや彼女は、完全に落ち着きを失っている。 その様はいつオーバーヒートしてもおかしくない程だ。 対して俺は、自分の心から次々と湧き上がる言葉をただただ口に出すことに必死なので、まったくといっていいほど彼女の様子を気にしていなかった。 「こんなことをいきなり、しかも勝手に言って迷惑なのは承知しています。けれど・・・駄目でしょうか」 「っ、そんなことない!」 ほぼ即答だった。 「私だって、あなたのことが・・!その・・す、好き・・」 段々と消え入りそうになる声。 しかし、最後の言葉ははっきりと聞こえた。 そう言われて俺は気がついた。 彼女も同じだったのだと。 そう分かると、なんだか顔が一気に熱くなってきた。 たぶん耳まで真っ赤なのだろう。 「えっと・・本当、ですか?」 「嘘でこんなこと、言わないわよ・・っ!」 ああ、これではっきり分かった。 そして、なんとなく顔が綻んでいるのが自分でも分かる。 再び沈黙が辺りを包んだが、今度はあの居心地の悪いものとは違う、どこかむずがゆいような…まあ、悪くない沈黙だった。 「えーっと、咲夜さん、ってあれ?!」 気づいた時には、彼女はもうそこにいなかった。 恐らく時間を止めて何処かに行ったのだろう。 「・・・まあ、いいか」 そう、まだ時間はたっぷりある。 ようやく進展したのだ。 もう恐れる必要は少なくとも無い。 さっそく、彼女を探しに行こう。 どんな顔をして会えばいいか分からないが、とにかく会いたい。 そう思った瞬間、彼女との距離が近づいたような気がした。 さあ、行くか。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 8スレ目 207 う~ん、今日はヒマだなー 黒白も紅白も来ないし、毎日こんなだといいなー って咲夜さん!?いつからここに? え?ヒマだなーの辺りですか?いや確かにヒマだっていいましたけどサボってたわけじゃ…… ちょ、咲夜さんナイフはやめてください! ~少女説得中~ はあはあはあはあ、た、助かった…… それにしても咲夜さん今日はやけに機嫌、悪いですね さては○○さんと何かありました? え?何で分かったかって?そりゃ分かりますよ これでも私咲夜さんの何倍も生きてるんですからよ 恋をしたことだってありますし結婚だってしましたよ、子供は……できませんでしたけどね …………そんなに珍獣を見たみたいに驚かないでくださいよ まあ彼は人間でしたからもう死んじゃったんですけどね 悲しくなかったのかって?そりゃ当時は泣きましたよ、泣いて泣いて泣いて それこそ泣かなかった日なんてないぐらいでした でも、それでも私はあの人と結ばれたことを後悔はしていません だから、咲夜さんも後悔はしないでくださいね これは人生の先輩からのアドバイスとでも思ってください ○○さん、もう咲夜さん行っちゃいましたよ 私の話、聞いてましたよね?だったら私の言いたい事分かりますよね 咲夜さんにも言いましたけど後悔だけはしないで下さいね ふぅ、二人とも世話が掛かるなぁ でも、あの二人を見てると昔のわたしたちを思い出すなぁ…… あなた、私は今日も元気であなたを愛しています 美鈴は妖怪で長生きだから昔結婚しててもおかしくないんじゃないか? って事で書いてみた美鈴しか喋ってないけどwwww ─────────────────────────────────────────────────────────── 8スレ目 430 「フラン!早く部屋に戻りなさい!!」 「やだっ!もうあんな暗いところは飽き飽きよ!!」 紅魔館の中を縦横無尽に走り回るスカーレット姉妹、どうやら妹様があの部屋から脱走なされたようだ 「○○!フランを止めなさい!」 「ええっ!?私が!!?無理です!無理です!!」 「ゴメンね○○」 俺の横を抜ける時に妹様は確かにそういった すぱっ、っと綺麗に腕を切られてしまった 「ちぃっ!あのバカ妹!!」 そう言ってレミリア様も何処かへ行かれてしまった 「・・・切られ損・・・左腕どうしようかなぁ」 俺は吸血鬼(出来損ない)なのでこれぐらいはなんとも無いが・・・痛いorz とりあえず切られた左腕を拾って途方にくれた 「パチュリー様、治癒魔法って使えます?」 仕方がないので図書館へと足を運んだ 紅魔館の頭脳!引きこもり!エレメントマスター!喘息患者! 魔法使いパチュリー・ノーレッジ 彼女に聞けば大抵の問題は解決してしまうのだが 「咲夜に頼めば?彼女裁縫は得意よ?」 「いや・・・治癒力が弱いもので・・・」 「貴方腐っても吸血鬼でしょ?表面さえくっつけば遅くとも1日ぐらいで治るはずよ」 彼女はすぐに読書に意識を向けた、こうなってはもう言葉も届かないだろう 仕方がないので咲夜さんの所へ 「腐っても吸血鬼か・・・ほんとに腐ってるから笑えないなー腐った死体に改名しようか」 「何をブツブツ言ってるのよ、怪しいわよ」 「あ、咲夜さん、丁度いい所に」 「?」 これまでの経緯を説明し左腕の表面をくっつけてくれるようにお願いした 腕の接合なんて嫌がられるかと思ったがすんなり受けてくれた 「貴方も吸血鬼何だから避けるなり受けるなりしなさいよね」 「は、ははは・・・」 「ちょっと!?こんな事で落ち込まないでよ!」 「いや・・・此処に来てから一度も役に立ってないな、と思って」 妹様に逃げられる、侵入者を止められない、掃除も料理も並以下 出来るのは夜の見回りとメイド達が出来ない力仕事ぐらい 「はぁ・・・俺は、駄目だなぁ」 「・・・少なくとも、メイド達は貴方の事頼りにしてると思うわ」 「そう、ですか?」 「優しいし、何でもよく気付くし、力持ちだし、家具の移動とか楽になったわ」 「・・・少しでも役に立ててるなら幸いです」 「私は・・・貴方が此処に来て最初は胡散臭いと思ったけど・・・今は、大好きよ」 「へ?・・・え?大好きってその・・・」 「さぁ、腕もくっついたし、仕事に戻りましょ!」 「あ、ありがとうございます、あ、あの、咲夜さん?」 「ん?」 「それってどういう 彼女は優しく微笑んで部屋から出て行った、俺はその笑顔があまりにもまぶしくて思わず見とれてしまった それ以上に自分で何を言われたかまだ理解できないでいた 「―ッ!」 彼女の言葉と微笑を、理解したと言うか、思い出したというか とたんに恥ずかしくなってその後は仕事にならなかった 「LOVEなのかvery LIKEなのか・・・うーん」 ─────────────────────────────────────────────────────────── 8スレ目 671 「いらっしゃい・・・なんだ、君か」 里のはずれの方に建つ一軒の怪しげな家、いや正確には店、か 「お客になんだとは失礼ね」 其処に訪れたのはメイド服のパッdげふんげふん、十六夜咲夜だった 「頼んでいおいたのは出来てる?」 「ばっちり、あまり乱暴に使うなよ、すぐ刃毀れするからな」 そう言って数十本の短剣を渡した 「わかってる、けど投げナイフはもともと消耗品でしょ」 代金を払い、短剣を鞄にいれた 「・・・」 「・・・」 じっと見つめあう、よくわからないが張り詰めた雰囲気だ 「わかったよ、お茶飲んでいきなお嬢さん」 「ありがと♪今日もゆっくりしていくわ」 ナイフ研ぎで2時間も3時間も粘られるとは・・・しかし常連さんなのである 「・・・帰らなくていいのか、吸血鬼のお嬢様が待ってるんじゃないのか?」 「いいのよ、今日は一日休みだから」 「ふ~ん、お前さんにも休みがあるんだな」 「○○なんて毎日休みみたいなものじゃない、お客も私ぐらいでしょ?」 「そんなことは無い!へんな爺さんとか二刀流の幼女とかも来るぞ」 数年に一度だがね、週一で来るのは咲夜ぐらいだろう、客が少なすぎるが生活になんら問題はない 「それじゃ帰ろうかな」 「ん、気をつけてな」 店を出て、帰路に着いた 「・・・引き止めてはくれないか」 ため息を吐きながら、自然と言葉が出た 「やだ、これじゃまるで」 そう、彼に・・・恋してるみたい 「いつか、○○のほうから・・・お茶に誘ってくれないかな」 吐く息が白くなる、私の隣は空のままだ ─────────────────────────────────────────────────────────── 8スレ目 677 「○○ここの荷物を4倉庫にお願い」 「はい、解かりました」 最近は咲夜さんにあごで使われてばかりだ 掃除も料理もお茶も駄目な俺は重量級の荷物整理、深夜の雑草ぬき、深夜の門番 これぐらいしか仕事がないもんだから暇でしょうがない 暇な時間はフラン様の話し相手をしたり、レミリア様から有難い講釈を受けたり パチュリー様から実験のサンプルを取られたり、そんな感じ 「お疲れ様、休憩にしましょう」 彼女は本当によく出来たメイドだ、一言で言えば堅い でも、時折見せる少女のような一面に、おれはメロメロ(死語)だった 休憩時間のことだった、窓の外に話しかけてる咲夜さんをみた 霊夢さんとでも話してるのかと思ったら、小鳥に話しかけてた いやもう、かわいいね、やばいよあれは けっこう華奢でね、腕なんかすごーく細いのよ 前に大きめの荷物を持とうとしてね、持てたんだけど重くて足の上に落しちゃったみたいなんだよ すっごい涙目でね、でも我慢してるんだよ 人目を忍んで痛かったーとかいってるのよ いや、もうね、あのギャップ、惚れたよ 普段は完璧なメイドを演じてて、実はか弱い年相応の少女ってのはね、おじさんぐっと来るね 「○○ー!この荷物をー」 「はいっ!ただいま」 いけね、へんな妄想をしてしまった 「これとこれを、終わったら今日はおしまいよ」 せっかく腕力があるんだから、こういう仕事でがんばるしかない 咲夜さんが小さい荷物を運ぼうとしててを滑らせた 「ッ!」 落としたのはこの前と同じ足の上 「あ、この前と同じとこ・・・」 「み、見てたのね!?この前私が―」 「わーごめんなさいごめんなさい、偶然見たんですよー」 頭を庇って、下を向いた・・・あれ? 「咲夜さん!?血!足血がでてます!」 咲夜のエロいじゃなくてきれいな足の甲から血が滲み出ていた 「あら、ほんと・・・大丈夫よこれぐら「救護班!手当てをー」 「ちょ!?○○!?」 音より速く、咲夜を抱えて(もちお姫様抱っこ)救護が出来るメイドの所へ駈けた 「はい、これで大丈夫ですよ、意外ですねメイド長がうっかりミスで怪我だ何て」 咲く夜は少し恥ずかしそうに、俺は横で心配そうに、メイドは何だかニヤニヤしながら 「それじゃ私はこれで、あまり足に負担をかけないでくださいね」 「ありがと・・・ほかの子には黙っててよ」 「ふふふ、解かりましたよ」 「・・・よかったー」 「○○さん」 メイドにが耳元でボソッとしゃべって言った 「○○GJ!咲夜フラグげとー!」 意味不明な呪文を呟いて部屋を出て行った、何だあれは? 「○、○○・・・その・・・あ、ありがと」 これはヤヴァイ、いつも気丈な咲夜が、頬を染めて、素直に、礼を言ってる 少し申し訳なさそうな感じが可愛さを更に引き出して、これは・・・がんばれ理性! 「い、いえ、当然のことをしたまでですよ」 「・・・そうね、そうよね、貴方は誰にだって優しいよね・・・」 なぜそんな悲しそうな顔をするんだ、俺は君の笑っている顔がすきなんだ 曇った顔は、暗い顔は 「咲夜さん?なにか・・・」 「はは、なんでもないの、仕事に戻りましょ」 部屋を、出て行こうとした彼女の手を、握った、俺は彼女を引きとめた 「俺で、俺でよければ・・・話してください」 「そう、ね・・・私、好きな人がいるんだけどね、そいつは鈍くて、何処か抜けてるけど・・・とても優しいの、誰にでも・・・誰にでも優しいのよ」 咲夜さんに好きな人?俺は・・・いやだ、そんなのは嫌だ、でも・・・彼女は 「そいつ・・・幸せな奴ですね!咲く夜さんにこんなに想われてて」 黒い感情を押し殺した、でないと俺はきっと酷い事を言ってしまう、醜い 「・・・そうよ、こんなに想ってるのに、あの莫迦鈍くて・・・」 彼女の瞳を涙が濡らす、泣いている姿をみて、不謹慎にも、綺麗だと思った 「咲夜さん・・・泣かないで」 「誰のせいで泣いてると思ってるのよ!!ばかー!!!」 ぱしーん、と勢いよくびんた、そのまま彼女は走っていった いたい・・・なんで俺が 「誰のせいで・・・・鈍くて・・・誰にでも・・・・・・」 彼女の言葉を思い返して整理して 「え・・・俺?もしかして、もしかしなくて俺?」 いや、この結論に至った事を妄想乙とか言われても構わない 彼女の言葉からは、行動からは、それが最も正しい― 「はっははは、俺が・・・咲く夜さんが俺を」 生まれて初めて、嬉しくて泣いた、嬉しすぎて笑った 笑いながら泣いた、そして走って行った十六夜咲夜の後を追って走った ─────────────────────────────────────────────────────────── 8スレ目 747・750 「なぁ咲夜、俺は・・・お前の事が―」 ぴぴぴぴぴぴぴがちゃ 「ん・・・夢だよね、あの人がそんな事・・・」 もう少し時計が鳴るのが遅ければ、あの人のセリフを 溶けるくらい甘いセリフが頭をよぎった、自分で恥ずかしくなった、馬鹿馬鹿しいと思って 「早く着替えなきゃ、仕事が」 すぐに着替え、身支度を済ませ仕事へと向かった 部屋を出た、瞬間何かにぶつかった 「きゃっ!」 どす、っと堅いものにぶつかった・・・あれ? 「大丈夫ですか!?咲夜さん?」 ○○さんの胸、らしい、頭のすぐ上から○○さんの声がする・・・ 「ご、ごめんなさい、私ったら急いでて・・・その」 あんな夢を見てすぐに○○さんに会っちゃうなんて、恥ずかしくて顔が見れない 「咲夜さん?どうしたんですか!?顔が赤いですよ?熱でも」 「大丈夫です、大丈夫ですから」 なんでもないからそんなに近づかないで!今は― 俯いてるのに○○さんの顔が正面に見えた・・・え? おでこが、おでこが あの例のあれ(おでことおでこで熱を測るの) ぱたっ 私は私の倒れる音を聞いた 「あ、メイド長、気がつきましたか」 「ここ、は?」 「医務室ですよ、メイド長いきなり倒れたんですよ?」 「そうだ、○○さんは!?」 とんだ失態を見せてしまった、というか恥ずかしくてしょうがない 「かっこいいですよねーメイド長を軽々と抱えて医務室まで来られたんですけど」 私が知らないうちに私はいい思いをしてたらしい、意識がないのが悔しい所ね 「すっごくあわててましたよー、お姫様抱っこって絵になりますよね」 おおおおお姫様抱っこ!??きゃー 「もう大丈夫ですよ、熱中症という事にしておきますから」 メイドはさっきからニヤニヤしている 「ニヤニヤしないでよ、私だって恥ずかしいんだから」 「あ、いえいえ、そういうことではなくてですね・・・メイド長、いえ咲夜さんは○○さんにとってとても大切な人なんだなぁって」 「な、なにを」 「だっていつもクールで優しい彼があんなに取り乱して、あれだけ思われてる咲夜さんが羨ましいですよ」 「そんなこと・・・ないわよ、彼は誰にだって優しいわ」 「・・・まぁいいですけど、思ってるだけじゃ思いは想いのままですよ?」 「・・・ありがとう、仕事に戻るわ」 「はい、がんばってくださいね咲夜さん・・・陰ながら応援させてもらいます!」 「ふふ、ありがと」 「これからどうなるかwktkしますね」 「わくてか?」 きにしないでください 「咲夜さん!もう動いて大丈夫なんですか!?」 「ええ、全然大丈夫です、すいません、朝から迷惑ばかり」 「いえ、咲夜さんが元気ならそれでいいんですよ!迷惑だなんて、ぜんぜん」 この人が私を好き?私の大好きなこの人が、私を好きでいてくれるの?本当に・ 「○○さん・・・今日は何時まででしたっけ?」 「仕事ですか?確か5時半までだったと」 「・・・6時に・・・中庭で、その・・・待ち合わせしませんか?」 「何か相談とか、ですか?」 「え、ええそんな所です、いいですか?」 「構いませんよ、それでは6時に中庭で」 その後はいつもどおりに仕事をした、仕事をすることで、少しでも気がまぎれればと思った 「メイド長!」 「な、なに?いきなり」 「○○さんを誘ったんですね~!」 「き、聞いてたの!?」 「聞いたんではありません、聞こえたんです、不可抗力であって自己の意思による選択の(ry」 「・・・今朝も言ったけど他のメイドには秘密だからね!?わかってる?」 「ええ、ちゃんと把握してますよ、こういう秘密は秘密にするからこそ面白いんですよ」 「・・・今夜は・・・がんばるわ、どんな結果であれそれを受け入れる」 「がんばってくださいね、私は咲夜さんを応援してますよ」 ほーほー ふくろうが鳴いてる、今は5時45分、私は少し早く来てしまった 待ちきれなかった、期待と不安に押しつぶされそうだった、早く楽になりたかった 楽になれるといいのにな 「せっかちさんですね、約束まであと十分ほどありますよ」 ○○さんが、来た 「呼び出しておいて遅れるの失礼だと思って」 「そうですか・・・それでなぜ私を?」 言おう、言うぞ、言えっ! 「私はっ・・・」 声が震える、上手く声がでない、なんで!? 「私は」 恐怖か不安か、黒い感情で声が震える、悔しくて涙が出た 今朝とは違う、衝突ではなく抱擁、私は、彼に抱きしめられた 「何があってどういうことなのかは解かりません・・・でも泣かないでください」 あったかい、人肌がこんなに心地いいなんて 「○○さん・・・私・・・あなたの事が好きです、大好きなんです」 「咲夜さん・・・俺も言いたい事があるんですけど、いいですか?」 「は、い」 拒絶か、怖くなって身構えた、衝撃で、壊れないように 「俺は、○○は、十六夜咲夜が好きで好きでしょうがない、大好きだ・・・だから」 「○○さん・・・」 また抱きしめられた、いや今度は違う、お互いに、抱きしめ合った 私は、私たちは、自然と、お互いの唇を求め合った 「・・・よかったですねメイド長!ぐすぐす」 遠くから二人の様子を見守っていたメイドがぼろぼろ泣きながら喜んでた レミリア様に朝早く咲夜の部屋を出て行く○○が目撃されてしまうのは別の話・・・ ─────────────────────────────────────────────────────────── 8スレ目 807 「いらっしゃいませ~」 「こんにちは」 此処は調味料、珍味、漢方原料取扱店「ヰ茶主列度」 「こんにちは咲夜さん、今日は何をお求めですか?」 「パチュリー様の要望でね、この紙に書いてある物を」 「かしこまりました」 十六夜咲夜は既に買出しを終えたらしい、持っている荷物の量からするとうちが最後か 「大変ですね、買出しからお遣いから、館のあれこれ」 「もう慣れたわ、流石にね」 世間話をしながら商品を探し、揃えていく 守宮の尻尾~蜥蜴の青尾~♪コウモリこうもっり♪るるるー 「これで全部です、お化けきのこは切らしてるので、申し訳ない」 「じゃあそう伝えておくわ・・・」 …流石の咲夜さんもお疲れのご様子で 「これオマケしときますね」 「なにそれ?」 「栄養ドリンクヰ茶磨れすぺしゃる、です」 「…怪しすぎる、大丈夫よね?」 「少し飲んでみて駄目だったら門番か魔法使いに上げてください」 拳大ほどの瓶に容れられたワインレッドの液体・・・ とりあえず貰える物は貰う、ポケットにそっと仕舞った 「あの・・・えっと・・・来週がですね・・・その、休みなんですよ」 「久しぶりの休みですね、ゆっくり出来るといいですね」 「そうじゃなくて・・・その・・・よかったら、いえ、時間があればでいいんです!私と・・・その・・・」 ガラス細工を触るように、咲夜の唇に触れた、指だよ? 「お嬢さん、来週もしお時間が有れば、この私と、過ごしてもらえませんか?」 「あ・・・は、はいっ!喜んで!」 その晩、暗い部屋に一人、明かりを灯し瓶を眺める少女 「早く来週にならないかなぁ」 瓶の中で、真紅の液体がころがった ─────────────────────────────────────────────────────────── 9スレ目 411 ドアの閉まる音に首を向けると咲夜が立っていた。 「あれ、レミリア様のところにいなくてもいいのか?」 「ええ。なんだか体調が優れないとか言って、早々に寝ちゃったわ」 「ふうん。――ま、座れよ。紅茶と珈琲どっちがいい」 「それくらいなら私が……」 「いいって、俺にも少しはやらせろよ。で、どっちだ?」 「じゃあ……紅茶。美味しく淹れなきゃだめよ」 悪戯っぽく咲夜は笑う。いつも張り詰めたままの表情も年相応に見えた。 震える手で紅茶を渡すと、微笑んでそれに口をつけた。 「まあまあね。ま、ぎりぎり及第点って所かしら」 「……厳しいなぁ。結構自信あったんだぜ?」 「自信があっても結果が伴うとは限らないのよ。精進することね」 「妙に実感篭ってるな…。――まさか咲夜も昔は?」 「何のことかしら?」 「はは、じゃあ気にしないでおくぜ」 月が照らす部屋で俺と咲夜は小さな声で笑った。 誰が聞くこともない、笑い声が部屋に染み込んでいった。 「なんで私がここに、とは訊かないのね」 「恥ずかしいからな。あえて、だ」 「ふふふ、そう。じゃあ、恥ずかしいついでに踊りましょうか」 「おいおい、俺はステップなんて知らないぜ?」 「大丈夫、私が教えてあげる」 「そうか、なら安心だな」 「今宵、私の時間は貴方のもの。踊りましょう、日が昇るまで」 ───────────────────────────────────────────────────────────
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■咲夜1 「咲夜さん!オレを第二のメイド長にしてください!」 1スレ目 38 ─────────────────────────────────────────────────────────── 咲夜さんに 「あなたの微乳は最高です!!」 って言って告白 命の保障はできないけど( A`) 1スレ目 179 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「失礼します」 そう言って俺は目の前の重厚な扉を開けた。 扉の向こうは真紅の部屋。 中央に置かれた豪奢な椅子の肘掛に頬杖をつき、薮睨みの視線で僕を縫い止めているのがこの館の、そして俺達使用人の主であるスカーレット御嬢様だ。 白磁よりも白い肌と、紅玉よりも紅い瞳。 すらりとした切れ長の眉は意志の強さを如実に表わしている。 眉を通り、整った目鼻立ちの下にある柔らかそうな唇から覗くのは、明らかに人外の種である証の牙。 外見の幼さからは想像もつかない強烈な威圧感と、魔性の者のみが持ち得る傾国の美貌。 俺如き脆弱な人間風情には、濫りに近付く事さえ許されない――――俺がそんな錯覚を覚えるのに、十二分にしてお釣りが来る程の魅力を、スカーレット御嬢様は備えていた。 「何をしているの。さっさと入りなさい」 不機嫌さを隠そうともしない声で、萎縮してしまった僕を呼びつける御嬢様。 視認出切るほどの不機嫌オーラを纏う御嬢様に近付くのは、はっきり言って泣きたくなるくらい怖い。 俺は、使用人魂で恐怖をねじ伏せ歩を進めた。 それと同時に、僕は何故御嬢様の御部屋に呼ばれたのか考えていた。 俺の仕事は基本的に雑用や外回りの警備ばかりで、御嬢様の身の回りのお世話に直接関わるような機会は無い。 仕事では大きな失敗もしていないし、呼びつけられる様な原因が思いつかない。 しかし、それでも俺は外勤組の中では格段に御嬢様と出会う人間らしい。 一日に三度は廊下で擦れ違ったり視線が合ったりすると仲間内で話したら、皆一様に驚いていた。 曰く、外勤は一週間に一度御嬢様をお目にかかれたら上出来、なのだそうだ。 もしかしたら、その辺りが今回呼ばれた原因なのかもしれない。 余りにも顔を合わせる回数が多いから、サボってるんじゃないかと思われてたりして。 内心で首を捻る俺に、御嬢様は言い放った。 「単刀直入に聞くわ。貴方、咲夜に何をしたの」 心臓が跳ね上がった。口から飛び出たかと思った。 十六夜咲夜さん。 ここ紅魔館の使用人と侍女の頂点に立ち、人知を超越した能力を持つ、文字通り完全で瀟洒なメイド長。 御嬢様が紅魔館の象徴であれば、咲夜さんは紅魔館の中枢と言ってもいい。 「……い、いえ。特にこれといって何かをしたという記憶はありませんが」 俺の短い人生の中でも最大の集中力と精神力を振り絞り、可能な限りの平静を装って俺は答えた。 誰よりも御嬢様に忠節を誓う咲夜さんだけど、まさか咲夜さんてばあんな事まで御嬢様に言うのか。 俺は一週間前の出来事を思い出していた。 今、俺が咲夜さんと聞いて思い出すのはそれしかない。 一週間前――――咲夜さんに告白して、思いっきりフラれた事を。 勿論、OKなんてもらえるとは思っていなかった。 ただ、咲夜さんに自分の想いを知ってもらえればと、それだけが望みの告白だった。 この気持ちは、好きというより、むしろ憧れに近いものだったのだろう。崇敬と言い換えてもいいかもしれない、そんな一方通行の想いだった。 それでも返答が『そう……それじゃ』だけでくるりと踵を返して去ってしまったのは流石に多少傷付きもしたけれど。 ダメでもせめてもう少しリアクションが欲しかった。 高望みだとか無謀だとか言いつつも撃沈した俺に同僚達が奢ってくれた酒は少ししょっぱい味がした。 兎に角、あれ以来咲夜さんとは全く顔を合わせていない。 むしろ避けられているような風潮さえある。本当にちらりとも姿を見ないのだ。 現に、今だって普段は御嬢様の御付である筈の咲夜さんなのに、どこにも姿が見当たらない。 気が滅入りそうになるが、これはどう考えても嫌われてしまったと見るのが妥当なんだろう。 …………やばい、また涙が出そうになってきた。耐えろ俺。 だけど、よくよく考えてみると何もしていないというのは間違いじゃないのだ。 咲夜さんからしてみれば、俺はどうでもいい人間なのだから。自分で言うのも悲しいが、告白なんてされようが関係ないのだし。 そんな俺の発言に、しかし御嬢様は苛立たしそうに席から立ち上がると目にも止まらぬ速さで俺の眼前へと移動し、 「てぃ」 「ぅぁ痛゛ぁっ!!?」 デコピンを頂戴してしまった。 あまりの痛さに頭が割れたかと思った。 「お゛お゛お゛お゛お゛……」 そのまま御嬢様の前である事も忘れもんどり打って転げまわる俺。 鼻息を荒げ腕を組みながら御嬢様が言う。 「この私に嘘とはいい度胸ね。貴方が咲夜に何かけしかけたのはお見通しなのよ!」 「ええっ!?」 「私の能力を知らないの? いいわ、特別に貴方にも見えるようにしてあげる」 ぱちん、と御嬢様が指打ちをすると、俺の視界が一瞬、真っ赤に染まり―――― 気付くと、俺の腕といい首といい脚といい、身体中のありとあらゆる部分から、細長い糸が張り巡らされていた。 糸は部屋の壁をつきぬけ、思い思いの方角へと一直線に伸びている。 太さや色は様々で、緑、青、白、黄、紅、茶、黒、そして、 「……この糸だけ、やたら太っといですね。あの御嬢様、これは一体……?」 「俗に言う『運命の糸』って奴よ。貴方と周囲の人間のエニシを可視化したの」 成る程。これは確かに、運命を操る御嬢様にしか出来ない業だ。改めて御嬢様の力の一角を見せ付けられ、俺は感嘆した。 「視覚化ついでにちょっと手品を加えておいたわ。貴方、ちょっとその糸引っ張ってみなさい」 「え?はい」 俺は言われた通りに手首から出ている紅い糸、いやもう綱と言っていいようなそれを引いてみた。 部屋の窓際、紅色のカーテンの向こうに繋がっていた綱がぴんと張り、その次の瞬間。 「きゃっ!」 小さな悲鳴と共にカーテンの裏側から転げそうになって飛び出てきたのは、俺と同じく手首に綱を結わえた咲夜さんだった。 「あ……」 「う……」 何故そんな場所に隠れていたのか。 この糸の太さは何なのか。 そんな疑問を吹き飛ばして瞬時に蘇る一週間前の記憶。 赤熱化する頬が分かる。 対する咲夜さんはと言うと、一週間前と同じくあっという間に背を向けてこちらを見てもくれない。 呆然とする俺に、御嬢様が御不満ここに極まれリといった声で、とんでもない発言をしてくれた。 「この一週間、咲夜ったら酷かったんだから。掃除は手につかない、料理は失敗する、ぼーっとして私の言葉さえ聞き逃し、あまつさえこの咲夜が、咲夜がよ? まさか寝坊をするなんて思っても見なかったわ」 「おっ、御嬢様!」 その時、俺ははっきり見てしまったのだ。 反射的に振り返ってしまった咲夜さんの、あの氷のように澄んだ咲夜さんの綺麗な横顔が、真っ赤に染まってしまっているのを。 それって、つまり―――― 「咲夜さん、俺の事を嫌って避けてたんじゃなくて……」 「…………から」 「え?」 「ど、どんな顔をして貴方と会えばいいのか分からなかったから……」 この時、俺は初めて知った。 人間、理解能力の限界値を超えると意識が飛ぶって事を。 薄暗くなっていく視界の中、俺は慌てて俺の方に駆け寄る咲夜さんの姿を見たような気がした。 1スレ目 199-202 ─────────────────────────────────────────────────────────── 湖の真ん中に位置する紅魔館――そこのある一室に俺は倒れていた。 無論、誰かに倒されたと言うわけではない。ここで働いて数ヶ月、俺の身体の 一時的な限界が訪れていたというだけだ。 「あのメイド長…人を散々こき使いやがって…」 何故かここで働く羽目になっており、俺は有給やら昼寝やら休日やら そんな物が無いという、ある意味では地獄のような職場で働いている。 制服貸与と書かれていたが、それもよりにもよって始めはメイド服だったから 性質が悪い。今は執事用の服という物を着せられているが、当初はそれも埃を被っていた。 「…休日なしだからなぁ」 今日も警備やら図書整理の手伝いやら、タダ働きの割に合わない事をしないとならない。 そう、そのはずだったんだ。 「あら、今日はどうしたのかしら」 いつの間にか俺の部屋の中に、諸悪の根源が居た。 ベッドから起き上がらない俺を見て、メイド長――十六夜咲夜は不審そうな目で見ている。 「…誰かさんの忙しい予定のせいで、ちょいと身体を壊しただけですが?」 その言葉をたっぷりと皮肉をこめて返す。 「そう、それじゃあ」 起き上がって館内の警備に行きなさい、とでも言われるのかと思い言葉に耳を傾ける。 「今日は少し休んでいなさい」 ……何ですと? あの鬼のようなメイド長が休め?普通、メイド長が言う筈無いよな。 …もしかしたら夢かもしれない、いや、もしかしたらこのメイド長はニセモノか? 「何をそんなにじっと見てるのかしら?」 「…や、なんでもない」 この言う言葉に殺気を込めるやり方。間違いなく本物のメイド長だ。 「…ここで寝てなさい」 そう言って、メイド長は俺の部屋から出て行った。 「待たせたわね」 戻ってきたメイド長はいつものメイド長だった。 さっきとの唯一の違いは手にお盆と料理らしきものを持っていることくらいか。 「…で、何のつもりっすか?」 「せっかく人が厨房を借りて病人食を作ってきたんだけど、いらないのかしら?」 「………いりますよ。そりゃ」 館の中でもしかしたらこの人は最強かもしれない。 紅魔館の全てを統べるメイド長、十六夜咲夜。…なんか強そうだ。 「お嬢様にも言って許可貰ったからから、今日は休みなさい。この館のほとんど居ない男手なんだから」 「…りょーかい。で、その料理は食べられるんだろうな?」 嬉しい事は嬉しいんだが、万が一にも毒なんて盛られていたら、泣くに泣けない。 いやその前に亡くなってしまうこと確実だ、俺は妖怪じゃないんだから。 「…毒なんて盛ってないから安心しなさい」 「何で俺の考えてる事が!?」 「その間抜けな顔を見たら誰でも気付くわ」 そこまで分かりやすい顔してたのか… メイド長からそのお盆ごと受け取り、レンゲを手に取る。 「見ての通り、お粥だけどね」 「病人食なら普通だろ?」 レンゲでまだ熱々の粥をすくい、すぐさま口に運ぶ。 作法とかなんてこの際関係ない。ただ我武者羅に食べ続ける。 「どうかしら?」 「…さすがメイド長だと思うぜ。普通に美味い」 「そう、なら良かった」 心の底からホッとしたように、メイド長は安堵の息を吐く。 …その表情を、妙に可愛く見えた自分がいた。 夜になった。 いつもは夜になっても図書整理が終わらずに篭っているはずなんだが、 今日は休めといわれて、ずっと横になっている。 昼間に門番や図書館の館長やら司書やらが来て、見舞いをしてくれたから 暇は潰れたが、今は何も無い。 「暇だ…」 と言った所で何が変わるわけでもない。それにしてもいつも俺を玩具にして遊んでいる お嬢様が休みをくれた事が意外だった。メイド長が言ってくれたからか? 「入るわよ」 と言いながら既に入っているメイド長。 また粥を持ってきたらしい。飽きない味とは、ああいうものだろうな。 「…晩飯か?」 「えぇ、同じものになるけど、病人食だから仕方ないわよね」 「…ありがたく頂く」 俺がお椀を取ろうとすると、それをメイド長はお預けをするような形で持ち上げた。 その手はむなしく空を切って硬直する。 「もう少しくらい休みなさい。最初で最後の奉仕活動くらいはしてあげるから」 そう言って、レンゲで俺の代わりに粥をすくう。 「ほら、あーんして」 …そう来たか。 「…あんたは――」 「あら、恥ずかしいのかしら? 普段はもう少し素直なくせに」 「…分かったよ。 ったく、どういう神経してんだアンタは」 結局、俺の方が折れて口を開ける。素早く中にレンゲが入る。 正直言って、恥ずかしさのあまり味覚が麻痺したのか味は分からなかった。 「…あんた、いい嫁になれるぜ」 わざわざそっぽを向いて、ぶっきらぼうに言う。…無意味に恥ずかしいだけだが。 それにしても彼女――咲夜は子育てとか得意そうだ。それにあれくらい飯が美味ければ 申し分ない。 「そうね。あなたはお嫁に貰ってくれるかしら?」 「…はっ、あんたみたいな美人なら喜んで、だな」 まぁ、咲夜の事は嫌いじゃない…むしろ好きな部類に入る。 仕事に対して厳しいというか何というか、そこがネックだがそういうところも割と気に入っている。 「それじゃ、これにサインして」 と、一枚の紙を差し出した。 「…ってオイ! これ婚姻届だろうが!」 そんなものが幻想郷にもあることが驚きだ。 いや、もしかしてこういう隔離された場所だからこそあるのか? 「あんたの事は確かに好きだけどさ、もっと、こう…人を選んだらどうだ?」 「色々知っている人間を比べた上で、あなたに当たったのよ」 そりゃ嬉しい事で…。 と冗談で返せれば良かったんだが、咲夜の目は…本気だった。 結構長い時間、俺は黙っていた。今までの事を振り返りながら決断をしようとしていたのだ。 問題を先送りにするような事はしたくないし、答えは早く出すべきだから。 「…ま、あんたの事は嫌いじゃねえよ」 むしろ嫌いになんてなれるか。 「そう、なの」 「…安心しな。結婚しねえって言ってるわけじゃねえって」 「え?」 「アレだ。こう言うときは俺の方から言わせてもらった方が嬉しいんだけどな…」 まさか、先に言われるとは思ってなかったし 「あー…っと、メイド長…もとい、咲夜。あんたの事、結構好きだぜ? 俺にとっての嫌いじゃないと好きってのはイコールなんだ。だからさ、こき使われるのはヤだけど 俺は…あんたが好きだ」 「本…当?」 それだけ言い終わると、咲夜は口元を押さえて涙を流していた。 「…結婚、するか?」 「…えぇ」 俺は、彼女と共に永遠を誓う口付けをした。 1スレ目 848 ─────────────────────────────────────────────────────────── 「貴方、今まで相手した中で最低ね。試験を受けようと考えた事自体が間違いだわ」 ・・・そうして彼は紅魔舘から暇を頂く事になった。要するにクビである。 きっかけは舘内の知らせで、『昇格試験の案内』という張り紙を見て目をとめたのが始まりだった。紅魔舘に就職し、メイド長の十六夜咲夜に一目惚れした彼は「試験監督‐十六夜咲夜」の項目に惹かれて即座に申し込んだ訳だが・・・。 結果は惨敗。いきなり戦闘力のテストをされて何も出来ずにダウン。余りの不甲斐無さにメイド長直々に解雇を言い渡される事となったのである。 里へ帰る途中、彼の中では変化が起こっていた。 自分の至らなさを恥じる心は他人への責任転嫁に。 一方的な憧れは一方的な憎しみへ。 メイド長の目に止まる事がなかった男は、里へ帰る事なくいずこかへ消えていった。 それから数年、紅魔舘に紅白や白黒以外の侵入者がいるという話が持ち上がる。 曰く、侵入者は投げナイフを得意とするらしい。 曰く、侵入者は門番に気付かれずに中へ入る事ができるらしい。 曰く、侵入者は一瞬で別の所へ移動できるらしい。 曰く、侵入者は毎月一度忍び込むらしい。 これだけの特徴を兼ね備えた人物を、紅魔舘では知らない者がいなかった。 しかしその人物はメイド長。侵入者を撃退する役目を持つ人である。 「咲夜。最近舘内に貴方のドッペルゲンガーが出没するって噂ね?」 深夜のティータイムに、レミリアが咲夜に半分からかい口調で話し掛ける。半分は真面目であることを察した咲夜は黙って頷いた。 「面白そうだけど、咲夜の問題みたいだしね。そうそう。・・・・私はもう寝るから、館の見回りをお願いね。今夜は「2人」が見回りするでしょうから、早く終わるでしょう」 そう言ってレミリアは寝室へと姿を消す。瀟洒な従者は主の意図をつかんだらしく、館内の見回りへと出かけて行った。 館内を一通り見回ったところで図書館へと向かう。しかしここにも異常はなかったため、残すは時計台のみとなった。扉を開けると柔らかな月光が降り注ぐ。 「そういえば、昨日は満月だったわね」 そう呟いた咲夜に、暗がりから声が帰ってくる。 「今夜は十六夜・・・と言うそうですね。満月の輝きには及ばないとされているが、充分に眩しく、そして美しい」 「それは月だけかしら?」 「いえいえ、どちらの十六夜も私には満月より輝いて見える」 「それは間違いね。満月より輝く月など存在しないわ」 言葉だけなら月下の語らい―――しかしその実は殺気の応酬である。 「眼鏡もかけているのですけどね。度が合わないのかな?」 「それは元から治すしかないわね。尤も、ここで倒されるから治しようがないけど」 「何、これで私には良いのですよ。治すにしてもこの後図書館でも行って調べます」 2人はどちらともなく距離をとりはじめ、ナイフを抜き合う。 「呆れるほど大した自信ね。なら――――」 「そのような瑣末な事より、今は――――」 「返り討ちにされるといいわ、黒き賊!」 「貴方を倒したいのですよ、瀟洒な従者!」 ―――――そうして、十六夜の月の下、2つの影が交差した。 3本同時投擲からの接敵、離れる時の目くらましに投げた内1本のみ相手の急所を狙う、1本だけと思わせて同じ軌道で2本目を投げる・・・ナイフの応酬は互角だった。いや、その戦いは余りに・・・・・互角すぎたのである。 「どういうこと・・・?まるで鏡に映したようにナイフが飛んでくる。お嬢様の言っていた冗談もこれなら本気にしてしまうわね・・・ならこれを使わせてもらうわ」 ――――幻世「ザ・ワールド」 世界が凍る。咲夜は今、時を止めた。紅魔舘メイド長の能力にして奥義である。 もちろん相手は微動だにしない。この世界で動けるのは咲夜を除いてはいないのだ。 「チェックメイトね、侵入者さん。中々面白い戦い方だったわ」 急所に向かって的確にナイフを投擲する。後は世界を開放すればお終いだ。自分と同じナイフ術には興味があったが、明日の予定を考えるとそれを詮索するのも手間に思えた。 ・・・・男が立ち上がってくるまでは。 「・・・なぜ?急所に当たって倒れないなんて、貴方人間?」 自分の必殺パターンを崩されてか、咲夜は苛立ちを隠さずに男に問い掛ける。その様を見て男は満足そうに、不敵な笑みを浮かべて答えた。 「いいえ?どこにでもいる無様で「最低」な人間ですよ。ただ、ちょっと誤魔化すのが上手いだけです。・・・・防護魔法ってご存知ですか?狙ってくるのが確実に急所なら、そこだけを集中して防護すれば致命傷にはなりませんしね」 「・・・・ご高説感謝するわ。お代は地獄への片道切符で支払わせていただきますね」 ――――幻符「殺人ドール」 急所のみをガードしているなら無差別・乱反射のナイフに対応できる道理はない。全方位からの攻撃に、男は――― 「ありがとう。それでこそ貴方は十六夜咲夜だ」 と呟き、避ける動作も見せず。悔しそうな表情も浮かべず。ただ、微笑んで全てのナイフをその身に受けた。 「え・・・?ちょ、ちょっと!?」 余りのあっけなさに咲夜は男に近寄る。先ほどまで頭にあった明日の予定より、今はこの男の不可解さが気になって仕方がなかったからだ。 「・・・どうしました、そんな不思議な顔をなさって」 致命傷を負っていても男の態度は変わらない。その一貫した態度に腹が立ち、咲夜は男を怒鳴りつける。 「不思議な顔にもなるわよ!戦った相手にこんな事言うのも変だけど、あの攻撃は避けられたはずでしょう!?」 ヘイスト プロテクション 「ああ、さっきまでの私ならね。・・・速度増加も防護魔法も時間切れですし、そうでもしなければ貴方と戦う事すらできない。いつぞやの様に一瞬で倒されてしまう事でしょう」 「貴方は、あの時の・・!」 自分の事を思い出してくれたのか、男は嬉しそうに、しかし弱った声で話を続ける。 「ああ、今は貴方の瞳に私が映っている。私を見る事すら面倒に感じられたあの時に比べて、今はなんと幸せなのだろう。ドアを開けて私の声に反応する時など、体の震えが止まりませんでした」 複雑な表情で咲夜は男に話かける。 「馬鹿ね・・・そこまでして私に復讐したかったの?」 「・・・冗談を。私は貴方に一目惚れしてしまったのですよ。エゴですが、愛してると言ってもいい。そこまで慕う相手の瞳に映らない、まして仕える事もできないのなら、一瞬でも長く、私を意識し、見続けてもらうよう生きただけです」 「・・・・」 「憧れ、慕い続けた貴方の技を使いたかった。修行をしている時も、貴方に近づいていくようで楽しい日々でしたよ・・・最初は復讐のためだったのですけどね、『自分の技で死ぬがいい』って」 咲夜は何も答えない。自分のした事を後悔しているのか、男の行動に呆れているのか、自分でもわからないのである。 「さて、そろそろお迎えのようです・・・最後にもう一度顔を見せてくださいませんか」 咲夜が男を見直すと、不意に男は体を起こし―――咲夜に口づけをした。 「!?」 「―――――時よ止まれ、・・・貴方は美しい」 そこで男の時は止まった。 名も告げない、相手にとって1日にも満たない男の恋は報われたのだろうか? 咲夜は次の日、何事もなかったように仕事を進めている。 ただ、その日紅魔舘のメイド達は昼休みにこんな会話を交わしていた。 「侵入者が退治されたみたいですね。昨夜メイド長が夜の見回りの時に倒したそうです」 「あ、私丁度早番で起きてきた時にメイド長とすれ違いましたよ。私初めて見たんですが、倒した侵入者を抱えてました」 「・・・いつもは片付け、私たちにやらせるのに。『メイド服が汚れるでしょ?』って言ってましたしね」 「珍しい事もあるんですね・・・。綺麗好きで有名なのにどうしたんでしょう?・・・あ、そろそろ休み時間も終わりですね」 それきり、男の話題が出てくる事は無かった。ここでそんな話は日常である。侵入者をメイド長が退治した、ただそれだけの話。 ―――――――紅魔舘は今日も、概ね平和だった。 1スレ目 951-953 ─────────────────────────────────────────────────────────── 声が響く。 時と場を支配する、彼女の声が。 「極意『デフレーションワールド』」 時間が砕ける。 空間が引き裂かれる。 縮小する現在と過去。 膨張する現在と未来。 目くるめく螺旋の回廊を果てしなく。 時は駆け上り、場は駆け下る。 一切が同一であり、 一切が無二であり、 ただそこにあるのは、咲夜という少女の意思のみ。 ならば、それを否定し弾劾し排斥する達意は何ぞ。 唱えよう。 我が、最高のスペルカード。 おお主よ、今のみ黙示の時の先触れ告げること許したまえ。 「極意『トゥ・メガ・セリオン』」 獣が吼える。 なぜ、よりにもよって人間であるこの僕にそんな役目が回ってきたのか。 どう考えても不釣合いなその役目とは、レミリア様の護衛だった。 紅魔館の厨房でゴーヤ入りカレーの製作に精を出していた僕は、なぜか咲夜さんに呼ばれて配置換えを言い渡された。 「あなたは今日から、私と一緒にレミリア様の護衛をしてもらうわ。いいわね」 「はあ」 はあ、としか答えようがなかった。 人選を間違えているとしか言いようがなかった。 よりにもよってただの人間が、あの生粋の吸血鬼であるレミリア・スカーレット様をお守りいたしますですって? 僕より強い妖怪なら、紅魔館に溢れている。 門番の美鈴さんだって、この前森で怪異・お化けキノコに追いかけられていた僕を助けてくれた。 それも弾幕でなく、ただの正拳一発で。 「大丈夫でした? 森は危ないから一人で歩くのは駄目ですよ」 そういって優しく助け起こしてくれた美鈴さんに、危うく惚れそうになったのは内緒だ。 たとえ妖怪でも、女の子に男が助けられたなんて。 嬉しいような、トラウマになりそうな。 魔女パチュリーさんによると、人間にしか扱えない魔術や呪術はあるそうだけれども、そんなものにも僕は縁がない。 せいぜい発火や発光の魔法がちょっと使えるくらいだ。 「魔人にでもなれっていうんですか?」 「ええ、そう。私の肩書きは『完全で瀟洒な従者』。あなたはそうね………… 『異邦の魔人』でやっぱり結構ね。是非そうなってもらうわ」 「ご冗談を」 「残念ながら、本気」 いつもと同じ、一部の隙もなくメイド服に身を包んだ咲夜さんの顔は、たしかに冗談を言っているようには見えなかった。 「でも、見てのとおり僕はただの人間で……しかもこれといった魔術も体術もないんですけど」 「心配ないわ。魔術はパチュリー様が、体術は私が教えるから。 あなたには素質があるの。外から来たものだけが持つ幻想郷にない素質がね」 咲夜さんに真剣にそう言われては、この昇進の機会に僕は頷かないわけにはいかなかった。 「……分かりました。よろしくお願いします」 「ええ、こちらこそ」 咲夜さんが優雅にその右手を差し出したので、僕は軽く握手をした。 けれども。 咲夜さんがたとえ握手という形であれ、誰かに自分の体を触らせることなど滅多にないということに、 僕はそのとき気づいていなかった。 それから、僕の護衛としての訓練が始まった。 もっとも海兵隊の訓練学校のような地獄の厳しさなどはなく、ただひたすら基礎の徹底と強化が繰り返された。 朝は日の出とともに起床して朝食を摂り、湖の周辺をランニング。 戻ってきたら筋トレを一式と、咲夜さんと体術の訓練。 終わったら図書館に行ってパチュリーさんに魔術の講義を受け、午前中はそれで終了。 昼食を食べ終わったら、今度は厨房に戻って夕食の仕込を行い、夕食の後は再び短い講義と軽い実技。 多少の変更はあるけれども、それが大まかな流れだった。 最初の二週間はさすがにきつかったけれども、人間の適応力はすごい。 結果的に規則正しく健康的な生き方も手伝って、僕は徐々に護衛のスキルを身に着けつつあった。 それにしてもすごいのは咲夜さんだ。 朝も僕より先にいつも起きてきているし、講義とか体を休めているときもてきぱきと忙しく館の中を駆け回っているらしい。 時間を止めて体力を回復させているとしても、その意志力は半端じゃないと思う。 つくづく、尊敬に値する人だ。 僕の方も咲夜さんに見習おうと、魔法の勉強に精を出した結果だろうか。 「たいしたものね。この勢いならすぐにスペルカードだって取得できるわよ」 パチュリーさんはそう言って誉めてくれた。 僕はどうも魔術とは相性がよいらしくて、パチュリーさんの説明する魔法概念はわりと頭に入ってくれる。 その日も、図書館の奥で僕はパチュリーさんに講義を受けていた。 「いい? 魔法というものは個人個人で全く根幹から異なるものなの。使い手が自分の心の内をこの世界に投影した影響、それが魔法。 心の中なんて二つと同じものはないでしょう? 心の純粋なカタチである魔法もそれと同じ。 だから私は木火土金水と日と月を用いた精霊魔法を使うけれど、教わるあなたがそれと同じものを使う必要はないわ。 個々で自分に最適の属性を選ぶ、それが練達の基礎なの。あなたは、自分の心が投影するものとして何を選ぶの?」 「パチュリーさんと同じ精霊魔法じゃ駄目ですか? わりと実戦向きですけど」 「いいえ、それはやめたほうがいいわ。私と同じ属性を選ぶと、既にアデプトである私に影響されて自分の属性が引きずられる。 私を真似ようとして、本来私と違うはずのベクトルが私に無理やり傾いてしまう。それはあなたにとってよくないわ。 何か別の―――そうね、あなたの元いた向こう側の知識をなぞったものがいいわ」 「向こう側の――ですか」 僕は立って、本棚に近づいた。 莫大な量の書物が、暗くてよく見えない天井までひたすらに続いている。 手に取ったそれが、目に付いたそれが、僕の属性だったら面白いかもな。 まるで、運命が出会うように導いたかのように。 僕は、とりあえず無作為に一冊の本を手に取った。 終わりの方をめくってみる。 ―ここに、知恵が必要である。思慮のある者は、獣の数字を解くがよい。 その数字とは、人間をさすものである。そして、その数字は六百六十六である― 懐かしいな、学生時代に読んだことのあるヨハネ黙示録か。 これを、僕の属性に選んだらどうなるだろうか。 神に牙を剥く恐ろしい獣と悪魔たち。そして審判の時を告げるラッパを吹く天使たち。 たしかに、ここ幻想郷にはない概念だ。 よし、これを僕はスペルカードにしてみよう。 僕の魔法の行き着く先は、そのとき決まった。 「咲夜さん、それも僕が持ちますよ。重たいでしょ」 「いいえ。その必要はないわ。これくらい平気よ」 「でも…………」 「自分は男だから、ということで気を遣う必要はないわ。私は従者だから、こういう仕事を受け持つのは当然よ。 荷物を持ってもらうのはお嬢様のような方。私たち同士ではそんなにかしこまらなくてもいいわ」 ある日、僕と咲夜さんは二人で買出しに出かけていた。 石鹸や掃除用具など、日常品は紅魔館の中ではまかなうことはできない。こうして数週間に一度まとめて買出しに行く必要がある。 お互いに両手がふさがるほどの荷物を抱えながら、紅魔館への道を歩いて帰っていく。 飛んでいくこともできないこともないが、少々目立つ。 僕は咲夜さんの分も持とうと言ったけれども、あっさりとかわされてしまった。 親切心から言ったんだけどな。 ……でも、たしかに咲夜さんはメイドだ。僕が荷物を持ってしまったら、それはメイドの仕事を奪うことになってしまうだろう。 きちんと線引きができているところが、咲夜さんのえらいところだ。 「でも、時間が余りましたね」 「そうね。思ったよりも手早く済んだわ。……この格好じゃどこか休憩するのも難しいし…………」 咲夜さんが首をかしげるのももっともだ。 咲夜さんはいつものメイド服だし、僕は一応外出用にと執事の服を着ている。 町では少々目立ってしょうがない。 「なら、香霖堂へ行きませんか。あそこは色々品物だけはあって見ていて飽きませんよ」 あの店は奇妙な店だけれども、幻想郷では見られない外の世界の品物を扱っているのだ。 故郷が懐かしくなったときはよく行ったものだけれども、そういえばこのところトレーニングでごぶさたしている。 「あそこ………。ちょっと、胡散臭い店なのよね」 「いいじゃないですか。ただ見るだけですし」 僕が熱心に勧めると、やがて半ば仕方なさそうに咲夜さんはうなずいてくれた。 よし、善は急げだ。 早速香霖堂へと足を運んで敷居をまたいだ僕たちだが、やっぱりその店はいつもどおりだった。 誰もいない店内で、店主の霖之助さんだけがのんびり本を読んでいる。 「こんにちは。少し見てますよ」 「ああ、適当にどうぞ」 と向こうは本から顔も上げはしない。この店、本当に商売する気がゼロだ。 咲夜さんはちょっと呆れたような顔をしたけれども、意外とこまめに陳列棚の中を一つ一つチェックし始めた。 僕も咲夜さんとは反対側の棚から見ていく。 相変わらず節操なく色々なものがある。 ビデオデッキの横にフランス人形。 その上にはトランジスタラジオとチェスの駒が一式。でも肝心の盤がない。 そうやってぼんやり見ているうちに、一つのものが目に留まった。 懐中時計だ。 古い作りのぜんまい式だけれども、デザインはシンプルかつ実に洗練されている。 手にとって見ると、驚くほど軽い。 蓋を開けて文字盤を見ても、うっすらとガラスが埃をかぶっているほかはまるで新品のようにきれいだ。 こりゃ掘り出し物だな。 「すみません、これいくらですか」 僕は懐中時計を手に、店の奥にいる霖之助さんに声をかけた。 「ああ、その懐中時計か。わりと安価かな」 と霖之助さんは値段を告げた。 一瞬聞き違えたのかと思ったほど、その値段は安いものだった。 「そんなに安いんですか? だってこれかなり立派なものですよ」 「ああ、そうだね。でもそれは幻想郷のものなんだ。製作者もはっきりしているし、用途と名称なんか当然知っている。 僕は外から来た品物に興味があってね。あまりそれは興味がわかないんだ」 自分の興味のあるなしで品物に値をつけるとは。 誓ってもいい。 絶対にこの店は繁盛しない。 「じゃ、これ買います」 「あら、個人で?」 いつの間にか、隣に咲夜さんがいた。 「ええ、無論。そうそう、それ、ちゃんと箱に入れて丁寧に梱包してくださいね」 「はいはい、珍しいね。いつも君は包装を嫌がっていたのに」 「…………まあ、心境の変化ですよ」 とっさにそう答える。ちらりと横にいる咲夜さんを見たけれども、幸い気づいていないようだ。 「よし、できたよ」 とカウンターに置かれた小箱を取り、僕は財布からお金を払った。 そして、そのまま。 「はい、いつもトレーニングしてくださる感謝をこめて、咲夜さんに」 隣に立つ咲夜さんに、そっと差し出した。 「プレゼントです。受け取っていただけますか?」 あっ、珍しい。 心底驚いた顔の咲夜さんなんて、始めて見た。 別に、これといった理由はない。 ただ、自分のトレーニングにいつも付き合ってくれて、かつ色々と指導してくれる咲夜さんに何かお礼をしたかっただけだ。 紅魔館にいては、なかなかそれはできない。 ちょうど今、それがチャンスだと思ったのだ。 「いかが…………でしょうか」 さすがに沈黙が少し痛い。 もしかして、懐中時計はお気に召さなかったかな。 なんて思っていた頃、ようやく咲夜さんは僕の差し出した小箱を受け取ってくれた。 「いいの…………?」 「はい、気に入っていただけたら幸いです」 にっこりと、咲夜さんは笑う。 その笑顔が、胸に沁みた。 「ありがとう。こんな言い方しかできないけれど、嬉しいわ」 飾らない一言だったけれども、どんなお礼の言葉よりもそれは僕にとっても嬉しかった。 結局、僕の方もまたプレゼントをもらってしまった。 小さな銀色の十字架のペンダントだ。 聖書神話の概念をスペルカードの基盤としている、と咲夜さんに以前言ったからだろう。 「残念だけど、私は神を信じていないんだけどね」 なんて言いながら。 「僕だって、そんなに信心深くはないんですけどね」 でもありがとうございます、と僕は大事に受け取った。 僕たちのやり取りを見て、霖之助さんがニヤニヤ笑っていたのが気になるけど、気にしないようにしておこう。 いくらなんでもプライベートという語くらいは知っているだろう。 知らなかったら、文々。新聞に『香霖堂全焼!?』の記事が載るだけだけど。 日が徐々に西に傾き始め、空が徐々に夕暮れの赤に染まっていく。 ゆっくりと、僕たちはやっぱり二人で歩きながら紅魔館への家路を一歩一歩埋めていく。 なんか、すごくほっとする時間が二人の間を流れていた。 「でも、ありがとう。こんな風に形のある贈り物をもらうのって、本当に久しぶりだわ」 隣の咲夜さんが、もう何度目だろうか、僕のあげた懐中時計の入った小箱を見ながら言う。 「僕だってプレゼントをもらうのなんて久方ぶりですよ。ましてロザリオなんて」 「ふふっ、あなたになんとなく似合いそうだったから」 「もう気に入っています」 早速僕はペンダントを首にかけていた。大きさも形も、目立たなくてちょうどいいくらいだ。 大きすぎたら神父にされてしまう。 「私も、大事に使わせてもらうわ」 「そう言ってくれるとプレゼントした甲斐がありましたよ」 よほど気に入ってくれたのだろう。 感謝の気持ちって言うのは、ちゃんと形にするべきなんだと僕はつくづく感じた。 「あなたも、だいぶ腕を上げたわ。鍛錬を続ければ、もうじき私の腕に並ぶでしょうね」 ふと、咲夜さんは僕からも小箱からも視線をはずして、どこか遠くを見た。 「そんな。まだまだ咲夜さんにはかないませんよ。実戦で相手してもらってもまだ一回も勝てていないんですよ」 「今はね。でも、いずれあなたは私に勝つ。そうなれば、私から教えることはなくなるわ」 「咲夜さん…………」 なぜだろう。 僕たちはそれを目指していたはずだった。 でも、僕の訓練の終わりが近いことを告げた咲夜さんは、どこか寂しそうだった。 そしてなぜだろう。 僕も心のどこかで、何かを寂しく感じていた。 その寂寞が、なぜ生まれたのかも分からないままに。 「傷符『インスクライブレッドソウル』!」 咲夜さんの両手に持ったナイフが凄まじい勢いで振られると同時に、僕の放った頁は尽く寸断されて散った。 文字通りの紙ふぶきが紅魔館の庭に舞う。 相手の動きを封じ、魔力を奪い、無力化せしめるはずの聖書を書写した頁が。 ただのメイドの持つ、銀のナイフ二振りによって。 空気さえも切り刻むそれは無数の真空を生み出し衝撃波となり、僕自身に襲い掛かってくる。 「聖壁『巡礼の迷路』!」 とっさにスペルカードを宣言と共に展開させる。 周囲に無数の頁が現れ障壁を形成するが、それらも片っ端から切り刻まれて散っていく。 何だよこの威力は。咲夜さんの実力ってどこまであるんだ? 手持ちの頁の殆どが意味を成さない紙くずと散ったとき、既に咲夜さんの姿は目の前から消え、 「はい、チェックメイトよ」 すっと、僕の首筋に後ろからナイフが当てられた。 「また同じ。こちらの攻撃に防御一辺倒。カウンターを狙う気がないの?」 「…………すいません」 時間を止めるメイドは、僕の後ろからひょっこりと姿を現した。 軽くため息をついてから、ナイフをしまう。 「そこさえ改善できれば、あなたはもっと強くなれるのに」 厳しいけれども優しく、咲夜さんは少し居心地が悪い僕を見て告げる。 最初は手も足も出なかった咲夜さんだけれども、最近ようやくまともに戦えるようになってきた。 けれども実力差は見てのとおりだ。まだ一度も勝つことはできない。 どんなにこちらが攻撃しても、一瞬で戦況はひっくり返される。 あの時間を止める能力からは、森羅万象は逃れられない。 「精進します…………」 「でも腕はますます上がっている。それは事実よ。そのことは誇りに思って」 「はい」 「頑張って。――あなたには期待しているわ」 「そうやって励ましてくれると、少しは自信が付きます。ありがとう」 素直に例を言うと、少し咲夜さんは照れたみたいだ。 「べ……別に…………。お嬢様をお守りするにはそれなりの力がないと困るから」 何だか頬も赤くなったような気がするのは、ひいき目だろうか。 「少し休みなさい。魔力の減少は即体調に出ないから無理しがちだけど、しっかりと休まないと後が大変よ」 「分かりました。お疲れ様です」 「ええ、またね」 咲夜さんが紅魔館に戻っていくのを横目で見ながら、僕はとりあえず手近にある樹に背中をもたせ掛けて座り込んだ。 後どれだけ、僕は強くなればいいんだろう。 そして―――― 後どれだけ、僕は咲夜さんと共にいられるんだろう。 だんだんと、僕は気づいてきた。 このトレーニングを通して、僕は咲夜さんのことが好きになりつつある。 あの一部の隙もない、まるで人形のような作り物めいた美しさ。 触れることのできない、ショーウィンドーの向こうの宝石のような可憐さ。 どこまでも、完全で勝者であり続けられる少女。 気がつくと、僕は咲夜さんのことが好きになりつつあった。 だから内心思っている。 いつまでも、このトレーニングが続けばいいな、と。 そうすれば、ずっと咲夜さんと共にいる理由がある。 そうでもしなければ、忙しい咲夜さんのことだ。とても僕のような個人を構ってくれることなどないだろう。 でも、それは勝手な願いだ。僕は強くなって、護衛の任に付かなければならない。 ならば後、どれだけこんな満ち足りた時間が続くんだろう―――― 「お疲れ様です~」 僕がぼんやり空を眺めていると、いきなりそんな声と共にひょいと覗き込まれた。 「あ、美鈴さん」 「えへへ~、ずっと見てましたよ。最近どんどん腕を上げてすごいなーって思ってました」 門番の美鈴さんはにこにこしながら腰をかがめて僕に視線を合わせる。 この人も妖怪らしからぬ人だ。美人だしスタイルもいいし、実は結構こまめで気が利く。 そもそも、最初に行き倒れていた僕を森で拾ってくれたのもこの人だったよな。 「どうしました?」 尋ねた僕の目の前に差し出されたのは、急須に湯のみ、それに饅頭の乗った皿が置かれたお盆。 「休憩するんでしょ。ご一緒にどうですか?」 お茶に誘われて断る理由などない。 「もちろんです。いやむしろご一緒させてください」 「はい、じゃあ、お隣よろしいですか?」 と美鈴さんは僕のとなりにちょこんと腰を下ろす。 門番の業務はいいんだろうか。まあ、こんなのどかな日に紅魔館を強襲する敵なんかいないだろうけど。 魔理沙も霊夢も今日は家でのんびりしているころだろう。 急須から注がれたお茶は日本茶だった。 「てっきり烏龍茶かジャスミンティーかと思っていましたよ」 「ここに来てから覚えたんですよ。この方が受けがいいですし。あなたも日本人ですから紅茶とかよりいいかなって思って」 一口口に含んでみると、爽やかな香りがいっぱいに広がる。 「おいしいです。苦味も少ないし僕は好きですよ」 「ありがとうございます。そう言っていただけると煎れた甲斐がありました」 さっそく饅頭にぱくつきながらもごもごと笑う美鈴さん。 僕もまた、遠慮なく皿に手を伸ばして饅頭をほお張ることにした。 しばらく無言で味覚を楽しませているうちに、ひょいと美鈴さんがこっちを見た。 「さっきの続きですけど、本当にあなたは強くなりましたよ。もう咲夜さんとかかなり焦っているくらい」 「そんな。まだまだ余裕でしょ」 「いいえ。私は咲夜さんと付き合いが長いから分かりますけど、咲夜さんって追い詰められても顔にも態度にも全然出さないです。 だから、ほんの少しの雰囲気の違いで見分けるしかできないんですけど、私の目から見たらだいぶ焦ってましたよ。 やっぱり思い入れがある人を育てるって大事なんですね。それだけ身を入れて教えられるからちゃんと育っているんですよ」 うんうんと美鈴さんはうなずいている。思い入れ? どういう意味だそれ。 「何ですかそれ? 僕はお嬢様の護衛を任じられたから、それに見合うようにトレーニングしてもらっているだけですけど?」 妙なことを美鈴さんが言うと思って聞き返すと、逆に美鈴さんのほうが妙な顔をした。 「お嬢様の護衛ですって? そんなものいりませんよ。全然そんな話私知りません」 「ええ? 僕はてっきりみんな知っていると思って…………」 「全く話題に上ることもないですよ。誰から聞いたんです、そんなガセネタ」 足元に、突然穴が開いたかのような気がした。 いったい、どういうことなんだ。 なぜ、僕はこんなことをしていたんだろう。 「ねえ、誰からなんです?」 自分でもギクシャクしていると分かる動きで、美鈴さんの方を見る。 「さ、咲夜さんからですけど…………」 「ええええっッ!? ど、どうして咲夜さんそんなことを? だって、護衛なんてレミリア様は十分お強いし、それに咲夜さんが既にいるのに…………」 「僕に聞かないで下さいよ。本当に、護衛なんて話はないんですね?」 「ええ、レミリア様からもそんな話は一切聞いていないです。私はてっきり、咲夜さんがあなたに個人レッスンをしているんだとばっかり………」 お互いの顔を見合わせても、そこには疑問以外の何の感情もない。 どういうことなんだ。 咲夜さんの言った、護衛の役というのは全くの嘘だったのか。 美鈴さんが僕をだますことはないはずだ。その必要がない。 でも、それは咲夜さんだってそうだ。だます理由も必要もない。 いたずらならとっくにばらしてもいいはずだし、何よりもこんな大掛かりないたずらをしたら咲夜さんのほうが大変だ。 だったら、なぜ咲夜さんはそんなことをしたんだろう。 わざわざ僕に嘘の昇進をさせて、多忙の合間を縫って僕に付き合って。 「もしかしたら………咲夜さんってあなたのことが好きなのかもしれません」 突然美鈴さんがそんなことを言い始めて、僕の頭は一瞬真っ白になった。 「そ、それはどういう意味なんですか中国さん!?」 「名前を間違えないで下さい! 私は紅美鈴です中国じゃありませんひどいです!」 「あっあっごごごめんなさい! でもいきなり好きだなんてそんなわけがないと思ったらつい混乱しちゃって」 頭を下げて何度も謝ると、少々むくれていたけれども美鈴さんは「じゃあ、しょうがないですね」と機嫌を直してくれた。 「えーとですね、咲夜さんって無駄なことはしない人なんですよ。だから、いたずらとかかつぐ目的とかじゃないです。 それに、私は門番だからずっと見ていましたけど、すごい咲夜さんの指導って熱が入っていたんです」 ああ、それは同感だ。たしかにとても熱心にあれこれと教えてくれた。 ほんと、最初は体術のイロハもダメだった僕がここまで成長できたのも、ひとえに咲夜さんのおかげだと思う。 「こう言っちゃっていいのかな、もう真剣そのもの。あなたは特別な人ですって気がばっちり見えちゃってましたよ」 「気ですか?」 「ええ、私の能力です。感情とか思いとかって気に表れるんですよ。咲夜さんは普段はクールで誰に対してもちょっと冷めているんです」 「僕のときでも同じでしたよ」 「それは自分を抑えているから。気は偽れません。咲夜さんの気の流れは、あなたのときだけは全然別でした。 あなたに関心を持っていることなんて、私から見たら丸わかり。あなたにはちょっと信じられないかもしれませんけど、私には分かります。 誰に命令されるでもなく、あなたの訓練をしているなんて、これはあなたのことを好きだとしか私には思えませんよ」 「僕を………好きだと…………」 「嫌でした? もしかして咲夜さんのこと嫌い?」 「いえ、その…………むしろ………僕も好きかな…………と」 「うわぁ、それって最高じゃないですか。両思いですよ両思い」 手を叩いて喜んでくれる美鈴さんだけれども、僕は突然のことにどう反応していいのか分からない。 あくまでもこれは憶測だけれども、咲夜さんとは両思いになれたのだろうか。 だとしたら、すごく嬉しい。 だとしたら………… 「ならば、きちんと訓練をつんで、咲夜さんを負かしちゃうんですよ」 美鈴さんはそう強く言ってこぶしを握り締める。 「咲夜さんのことですから、生半可なことじゃ気持ちは伝わりません。ここまであなたに付き合ってくれたんですから、 しっかりとその気持ちにこたえなきゃダメですよ」 目が合うと、美鈴さんはうん、と大きくうなずく。 そうだ。 たしかに、そのとおりだ。 だとしたら、僕はなおさら強くならなくては。 咲夜さんの期待に応えられる人にならなくては。 その暁には、きっと。 僕は、咲夜さんに好きだと伝えられるのかもしれない。 「咲夜さん、あなたに伝えたいことがあります」 「…………私も、あなたに言わなければならないことがあるわ」 頁が袖口から引き出される。 ナイフが腰から引き抜かれる。 「始めましょうか。完全で瀟洒な従者!」 「始めましょう。異邦の魔人!」 全てのスペルカードを、突破した。 「時符『プライベートスクウェア』!」 「出でよ、天使召喚『ヨフィエル』!」 止まる時間は、翼を広げ祝福を与える天使の加護によりほぼ無効化する。 「幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』!」 「来たれ、堕天使召喚『エリゴール』!」 無数に交錯しつつ飛び交うナイフは、甲冑をまとり槍を手にした堕天使がなぎ払う。 初めてだ。 ここまで戦いが長く続いたのは。 けれども、どちらも体力と精神力を限界まで消費している。 「強く――――なったわね」 「咲夜さんの………おかげですよ」 肩で息をしながら、僕はそれでも笑って見せた。 「変わらないわね。そういうところ」 対する咲夜さんは、傍目から見ると息一つ乱れていないように見える。 けれども、美鈴さんじゃないけれども僕には分かる。 何回となく、スペルカードとスペルカードをぶつけ合わせてきた僕には分かる。 おそらく、これが最後。 咲夜さんが僕に教えるべき、最後の試練。 「ならば、見せてあげる」 引き抜かれる、最後であるはずのたった一枚残ったスペルカード。 「これにあなたが耐えられるならば、もはや全てが終わり」 右手の中で、カードは輝きながら消えていく。 「私があなたに教えられる、最後にして最大のスペルカード――」 静かに、こちらに向けられるナイフ。 咲夜さんが手を離す。 ナイフは地に落ちることなく、ゆっくりとこちらに向かって宙を進んだ。 僕は見た。 宙を這うように進むナイフが、2本に分裂したのを。 2本が4本に。 4本が8本に。 8本が16本に。 16本が32本に。 32本が64本に。 64本が128本に。 128本が256本に。 倍々に増え続けていく。 目の前を覆いつくし、増殖し空間を埋め尽くしていくナイフ。 1024本が2048本に。 生み出される、過去と未来の姿。 あり得たかもしれない可能性を、強制的に引き出し形としていく。 ただの一本のナイフが、決して回避を許さない無慈悲な布陣と化す。 16384本が32768本に。 32768本が65536本に。 65536本が131072本に。 これが、彼女の最高のスペルカードか。 そして、宣言が響く。 「極意『デフレーションワールド』」 世界が、彼女の意思に従う。 時空が縮小する。 誰も知りえない、あまりにも異様な感覚に五感が悲鳴を上げる。 過去、現在、未来が混在して同居して一度に自己を主張する。 逃げ場がない。 今ここにいる自分なんていう明確なものがなくなる。 今? ここ? 自分? それは何だ? 全ては咲夜の世界。 彼女のみが観測を許される絶対固有空間。 ナイフが―――― 空を埋め尽くし、地を埋め尽くし、宙を埋め尽くすナイフが―――― いっせいに、こちらを向く。 全てが同時に襲い掛かる。 分かっているけれども、回避も防御もできはしない。 時空が彼女の支配下に置かれている。 排除されるべきは自分。 だが、唯一支配されていないものがある。 それは、僕自身の意志だ。 応えよう。 彼女の思いに、応えよう。 ならば告げるべし。 我が、究極のスペルカード。 ヨハネの幻視した終末を、ここに具現させる。 おお主よ、我に汝の僕と同じ幻影目にすること許したまえ。 「極意『トゥ・メガ・セリオン』」 ―わたしはまた、一匹の獣が海の中から上って来るのを見た。 これには十本の角と七つの頭があった。それらの角には十の王冠があり、 頭には神を冒涜するさまざまの名が記されていた― 世界が書き換えられる。 いつか起きるべきものなのか、もう既に起きてしまったのか。黙示の時が立ち現れる。 周囲は無限に広がる海。 そこから、一匹の凄まじく巨大な獣が上ってくる。 様々な姿かたちの混ざり合った奇怪な姿の獣が。 その姿は獅子。 その姿は熊。 その姿は豹。 その姿は蛇。 その姿は猿。 その姿は王冠を頂く人。 それは―――― 七頭十角の大いなる獣。 神にさえ牙を剥き、人の世を惑わす悪魔の化身。 「神様なんて(゚⊿゚)イラネ」とか「聖書(・へ・)ツマンネ」とか書いてあるのにはげんなりするけど。 吼える。 七つの頭を振り上げ、獣が吼えた。 人の蛮声にも似た絶叫が森羅万象を怯えさせ、終末の時は来たれりと告げ知らせる。 世界が、砕けた。 十六夜咲夜という個人の支配する世界など、大審判の時には何の意味があるだろうか。 ガラスが割れるかのように、デフレーションワールドが崩壊した。 彼女の意思の支配する世界が終わりを告げ、黙示録の獣に飲み込まれていく。 いつかは、僕たちの住む世界もああなってしまうのだろうか―――― 張り詰めた五感が、正常な世界に戻ったことを教えた。 やがて海は去り、獣の姿は見えなくなる。 そこは再び、いつものトレーニングをしていた紅魔館の庭だった。 立ち尽くすのは、僕だけ。 咲夜さんは、地に倒れていた。 僕は、初めてこの人に勝つことができた。 「あ、気が付いたんですね」 芝生に横になった咲夜さんが眼を開けたので、僕は側に座ったまま身を乗り出した。 「あなた…………」 「よかった。たいした傷もなくてほっとしましたよ。美鈴さんに治療してもらいましたから、あとはしばらく寝ているだけです」 気を操る美鈴さんは、治療だってできる。 いつになくぼんやりとした様子で、咲夜さんはこっちを見ていた。 まだ、この人に勝利したという実感がわかない。 時空を縮小させ、過去と未来を同時に混在させ、それら全てを同時に襲い掛からせる極意「デフレーションワールド」。 けれどもそれは、僕の極意に敗れた。 極意「トゥ・メガ・セリオン」。 黙示録の時を一時的に呼び出し、あらゆる魔法を破壊しあらゆる結界を粉砕する圧倒的なスペルカード。 よくもまあ、そんな大それた魔法を身につけることができたものだ。 あの日、咲夜さんが僕を存在しないはずの護衛の役に任じたときから、何もかもは始まった。 いったい、どうして…………。 僕が黙ったままじっと咲夜さんを見ていると、咲夜さんは視線を逸らして真上を見上げた。 今日も、紅魔館の外はいい天気だ。 「何も聞かないのね」 「え…………?」 「知っているんでしょう。本当は護衛の役なんてないってこと」 きょとんとして咲夜さんを見つめたまま固まっていると、ちょっとだけ笑って 「なんとなくよ。こうして刃を交えているとね、色々なことが分かってくるの。だからなんとなく、そうじゃないかって思って」 「ええ、知っていました。だとしたら、どうしてこんなことをしたんです?」 尋ねると、咲夜さんはごろりと向こうを向いてしまった。 「…………見たかったのよ」 「何をです?」 「あなたが………強くなっていくのを」 何も言えずに、僕は咲夜さんの独白を聞いていた。 「恥ずかしい話だけどね。あなたのことが気になって仕方がなかった。ずっと、あなたのことを考えていた。 でも、私はメイド長であなたは料理係。一緒にいることなんてできない。だから、私は嘘をついたの。 護衛役が回ってきたとしたなら、あなたと私が一緒にいてもおかしくない。 あなたと一緒にいられる理由ができるって、そう思ってしまった。 だって…………私はあなたのことが、好きだから」 「咲夜さん…………」 「変な話よね。こんなの職権乱用だって分かってる。でも……でも…………、 こうするよりほかに、あなたといられる方法なんて思いつかなかった…………」 ああ、そうだったのか。 僕は、どうして気づかなかったんだろう。 ずっと、咲夜さんは完全な人だと思っていた。 人形のように精緻で、華麗で、一部の隙もない完璧な従者だと。 でも、そんなのは間違いだ。 咲夜さんだって、一人の人間だった。 ドジだってするし、迷いもすれば間違っていると分かっていてもやってしまうこともある。 その内面は、普通の女の子だった。 どうして、僕はそれに気づかなかったんだろう。 ただ、咲夜さんの表面しか見ていなかった。 もっと、この人の思いを酌んでいれば、こんなに思いつめることなんてなかったのに。 「咲夜さん、聞いていただけますか」 優しく声をかけると、咲夜さんはゆっくりとこっちを向いてくれた。 少し緊張するけど、目を見てはっきり言った。 「僕も、咲夜さんのことが好きですよ」 咲夜さんの目が、大きく見開かれた。 「……本当、なの……?」 「はい。最初は分からなかったですけど、今ならはっきり言えます。こうやって、咲夜さんとずっといたから言えるんです。 僕は、咲夜さんのことを愛しています」 はっきりと、告げることができた。 決して、咲夜さんとのトレーニングは無駄なものじゃなかった。 ここまで時間を共にできたから、こうして告白することができたのだ。 「受け取って…………いただけますか?」 咲夜さんは、うなずいた。 「はい。喜んで」 その笑顔に、また心が痛いくらいに震わされる。 泣いてしまいそうなくらいに、嬉しさを感じて。 照れ隠しに、僕は立ち上がった。 「よしっ! ならばこのことを紅魔館じゅうに報告しましょう」 言って倒れたままの咲夜さんの背中とひざの裏に手を伸ばして、 「きゃっ!?」 一気に抱き上げた。俗に言うお姫様抱っこという形だ。 「『僕たち付き合うことにしました!』ってね。きっと祝ってくれますよ」 「ちょっ、ちょっと、そんなの恥ずかしいわよ」 「いいじゃないですか。隠すようなことはないですよ」 こうやって人一人を抱き上げる筋力だって、咲夜さんとのトレーニングで培ったものだ。 咲夜さん、あなたのしてくれたことは、決して無駄なことなんかじゃなかったんですよ。 抱き上げると不意に、咲夜さんは僕の首に手をやった。 「あら、これ…………」 「ええ、いつもつけていますよ。咲夜さんからの贈り物ですから」 例の十字架の首飾りに、咲夜さんは指を滑らせた。 「私も、あなたからもらった時計はいつも使わせてもらっているわ」 「よかった。実際に使えてこそ時計ですから」 かすかに咲夜さんは笑った。 「こんなふうにあなたにめぐり合えたなんて……ちょっとは神様も信じていいかもね」 「あはは、実は信心深くはないですけどね、僕も」 僕たちはそのまま、どんどんと門をくぐって紅魔館のほうへ向かっていく。 咲夜さんは最初恥ずかしがっていたけれども、やがて諦めるように苦笑した。 「もう、仕方のない人ね。でも………そんなところが好きになっちゃったんだけど」 そして、そっと僕の頬に。 頬に触れた唇の感触は、完全で瀟洒な従者からの贈り物ではなく、 十六夜咲夜という女の子からの贈り物だった。 2スレ目 42 ─────────────────────────────────────────────────────────── 2スレ目 42 おまけ その日、上白沢慧音は血相を変えて転がり込んできた猟師二人を、自分の庵に保護した。 二人とも里で名の知れた猟師で、この付近の山ならば知り尽くしているベテランだ。 それが、慧音の庵に逃げ込んだときは、まるで恐怖に怯える子供のようだった。 「どうした、何をそんなに怖がっている。熊でも出たのか?」 最初、二人の猟師は文字通りの錯乱状態で、庵に駆け込むなり部屋の隅までゴキブリのように逃げ込み、 そこで四肢を丸め頭を覆い、ひたすら何かに怯えているような様を示していた。 後から主人の後を追って庵に飛び込んだ猟犬三匹も、様子はほぼ同じだった。 三匹とも狂ったように駆け回り、口から泡を吹いて死なんばかりの怖がりようだ。 これを見て、さすがに慧音も何か異常な事態が起こったのだと感じた。 妖怪の類が出たのかと庵から顔を出して周囲をうかがってみたが、何か強力な妖気のようなものは感じられない。 「慧音様……庵から出ちゃあならねえ…………奴に食われちまう…………」 入念に気配をうかがう慧音の背中に、猟師の一人の声がかけられた。 普段は、 「ほれ、慧音様も一つ召し上がるといいだ。精が付いていいぞ。がははははは!」 といった無遠慮な大声と共に、鉄砲で撃ち殺した雉や野兎を投げ与えるような大男が、今はまるで瀕死の病人のようだった。 「奴だと?」 振り返ると、青ざめた顔ががくがくとうなずいた。 まるで、二回りも痩せてしまったかのようだ。 恐怖というものは、ここまで人を醜くしてしまうものなのか。慧音は少しぞっとした。 「そうだ。…………化け物が出た。黒い……群れが出た…………」 もう一人の猟師も、こちらは完全に虚ろになった目でどこかあらぬ方向を見ながらぶつぶつと呟いている。 「しっかりしろ。里で名の知れた猟師がそんなことで怯えてどうする。奴とは何だ?」 「…………分からねえ…………最初は人だと思ったから、鉄砲を下ろした。…………けど、 いきなり人だと思った影が溶けて…………群れが俺たちを襲ってきた…………」 軽く肩に手をかけてゆすぶっても、猟師は全く反応を示さずにただぶつぶつと呟き続けている。 「山犬……大蛇……猪……鹿……鷲…今まで俺たちが殺生してきた獣たちが一度に俺たちに向かってきた …………ああ、あれはきっと山の神様が俺たちに罰を与えに来たんだ…………。 恐ろしくて恐ろしくて…………食われちまうって本気で思って必死で走ったら……やっとこの庵が見えて…………」 ぎゅっと猟師は両手で自分の肩を抱くと、そのまま動かなくなってしまった。 慧音が何度呼びかけても、完全に反応はなくなった。 まるで、重度の自閉症の患者のような姿だった。 仕方なく、慧音は二人のその日の歴史を消去して、二人を助けてやることにした。 もちろん、あのかわいそうな犬たちもだ。 「何だ…………黒い、群れだと…………?」 日も落ち、ろうそくの明かりの下書物を読みながら、慧音はもう一度首をかしげた。 さっぱり分からない。人のようにも見え、かつ群れとして獲物に襲い掛かるらしい。 構成要素は様々で、狼や蛇、それに鹿なども含まれているとか。 なぜそこに草食動物が混じる? 「心当たりのある妖怪はいないのだがな」 あの猟師の怯え方は半端ではなかった。彼らが遭遇したものは、今まで一度もお目にかかったものではないのだろう。 しかし、彼らはベテランだ。 おまけに、それなりの魔よけも持ち合わせている。 そんな二人に魑魅魍魎が襲い掛かり、しかも発狂寸前まで追い詰めたのだろうか。 「ありえない話だが、そうとしか結論付けはできないか」 せめて満月の夜ならば、幻想郷全ての歴史を把握するハクタクの力でもってその元凶を確かめることができるのに。 「ワーハクタクといえど、万能とは程遠いな。情けない…………」 慧音は一人、やるせない思いを抱えたまま、自分の力の至らなさを実感していた。 想像せよ。 遍く三千世界に満ちる、命の輝きを。 何人も知りえぬ摂理に従って、それらは寄り集まり一つの型を描く。 すなわち、それは大いなる系統樹。 理解せよ。 一つ一つの命の存在を。 比類なきそのきらめきは、夜空に満ちる星の如く。 すなわち、それは天恩の証。 構築せよ。 命を理解し、命を配置し、命を蒐集する。 この身を、ありとあらゆる命の渦巻く一つの世界とする。 すなわち、それはたゆたう原初の海。 我を知るか、人よ。 我は666の獣の数字を解きしもの。 我は666の獣の因子を宿すもの。 我は――――混沌(カオス)なり。 「あら、どうしたんですかその犬?」 すっかり日の落ちた夜。湿気が強くじめじめとした空気は体にまといつき、門番の制服を肌に張り付かせる。 まさに、魔夜という言葉にふさわしい、そんな夜のことだった。 消灯時間には未だ早い。 見張り役の美鈴は、門をくぐろうとした青年が連れている犬に目を留めた。 足を止めない青年の足元に、一匹の黒い犬が影のように付き添っている。 どこに行っていたんだろう。今まではこんなに夜遅くまで出歩くことはなかったのに。 呼び止められた青年は、足を止める。 風が、コートの裾をはためかせる。 いつの頃からか、この青年は闇夜のような色のロングコートを身にまとうようになった。 今日はこんなに蒸し暑いのに、コートのボタンは全部しっかりと止められている。 「ああ、飼うことにしたんですよ」 青年はそう言うと、軽々とその犬を抱き上げて美鈴の顔に近づけた。 大きい。 シベリアンハスキーよりもさらに一回り大きいくらいだ。 しかも、その全身から放つ鬼気。 とても、飼いならされている犬とは思えない。狼の類だろうか。 けれども全身真っ黒の狼なんて聞いたことがない。 「結構可愛いでしょ?」 青年はけろっとしているが、どう見ても獰猛極まりない獣の鼻面を突きつけられた美鈴としては、 「ええ、とっても」 とは言えない雰囲気だった。 犬が口を開ける。 異様なことに口の中まで黒い。 だらりと長い舌が伸びて、美鈴の顔を舐めた。 「ひっ……………………」 一歩後ろに下がる美鈴。必死に頭を捻って、何か口にしようともがく。 「レ、レミリア様がいいっておっしゃらないかも…………」 「おやおや、それは困ったな」 青年は心底困ったような顔で犬を足元に下ろした。犬はこちらを赤く光る目で睨みながら、彼の足元に控える。 「実は、一匹だけじゃないんですよ。たくさんいるんです」 なんか、今日のこの人は変だ。 ようやく、美鈴はそう感じ始めた。 物腰はいつもと同じだ。丁寧で静かな、ごく普通の好青年。 それは、初めて出会ったときと変わらない。 でも、何かが違う。 こっちを見る目が、どこか違う。 「困ったな。もう僕にすっかり懐いて一緒にいるっていうのに」 はっきり言って、あまりにも不気味だった。 「ど……どこに? どこにいるんです?」 「おや、気づかないんですか。ここにいるじゃないですか。沢山沢山」 人ではない、むしろ妖怪のような気の流れ。 いや、妖怪なんてレベルのものじゃない。 青年の言葉に、美鈴は震えながら周囲を見渡す。 けれども、足元の犬以外には一匹も獣の姿は見えない。気さえも感じない。 けれども、青年は沢山いるという。途方にくれた顔で青年をまた見ると、彼はにっこりと笑った。 「仕方がないな。ならばお目にかけましょう」 コートのボタンが、ひとりでに外れる。 その隙間から見えるものは、周囲の闇と同じ質感のない黒。 美鈴は、自分が後ずさりしていることに気づいた。 この、禍々しいまでの気の流れ。 ああ、この気はまるで―――― 「僕の蒐集した命たちを――――六百六十六の渦巻く生命の深海を」 黒の中から、光る目。 目。目。目。目。 こちらを睨みつける、獣たちの目。 ずるり、とコートの隙間からその黒が溢れ出す。 地面に流れ、這い、形を徐々に持って立ち上がる。 狼。蜥蜴。豹。熊。 ようやく、美鈴は理解した。 この気の流れは、レミリア様にそっくりだ。 吸血鬼と、そっくりだ。 理解してから、美鈴は悲鳴を上げた。 自分が、たった一人でおびただしい数の獣の群れに囲まれていることを理解してしまって。 彼女の悲鳴に呼応するかのように、獣たちがいっせいに吼える。 そして青年は、呟く。 「さあ――――まずは館ごと前菜といきましょうか、咲夜さん」 獣の臭いが、周囲に満ちている。 廊下のあちこちに転がる紅魔館のメイドたち。 彼女たちに群がるのは、様々な獣だ。 抵抗するものはいない。 時折、思い出したかのように数人が小さな声を上げるが、それもじきに静まる。 阻むものもいなくなった長い廊下を、悠々と一人の青年が歩いている。 長身を長い黒のロングコートに包み、両手には何も持ってはいない。 ただ、不可解なのはコートの隙間から覗く彼の体だ。 まるで、コートの中には何もないかのように、そこには妙に質感を持った暗闇だけが広がっている。 青年の目はまっすぐ廊下の向こうを見据えたまま。 廊下を埋め尽くす獣と、横になったメイドたちには目もくれない。 「僕の可愛いペットたちは気に入ってくれました?」 一言、かすかに呟く。 「たとえ警備が万全であったとしても、この群れを阻むことはできない」 突然、廊下の向こうから激しい光が押し寄せ、辺りがまぶしいくらいに照らされた。 群がる獣たちの姿が、いっせいにはっきりと照らし出される。 それは―――― 「僕に従う百を超える結束を解放して生まれる結界、愛玩『猫好きの楽園』」 それは、おびただしい数の子猫だった。 白、黒、斑、三毛、縞々、長毛、短毛、ありとあらゆる種類の子猫がいる。 その猫たち全てが、メイドたちにまとわり付いて首を擦り付け、喉をゴロゴロ鳴らしているのだ。 ふかふかの子猫が四方から取り囲み、いっせいに擦り寄り、なかにはそのままころんと手の中で眠ってしまうものまでいる。 ああ、これほど強力な結界があるだろうか。 ちょっとでも動いたら、今胸元で寝息を立てている子猫が目を覚ましてしまうかもしれない。 いや、それよりもあらゆる寝具を上回るこのふかふか感。 もはや、これに捕らえられたメイドたちは決して動くことができないのであった。 猫と一緒に寝てしまったものまでいる。 しかし、唐突に廊下をぎらぎらと照らすこの光の源は。 「図書館へは、行かせないわ」 「いや、図書館じゃなくて咲夜さんがどこにいるのか知りたいんですけど」 「咲夜ならこの上の階。とにかく、この先は進ませないわ。さっさと帰って」 太陽がそこにあるとさえ錯覚する輝きが、彼女の手にある。 動かない大図書館、あるいは知識と日陰の少女、パチュリー・ノーレッジ。 いつものネグリジェのような衣装と、護符の留められた帽子。 そして、片手には分厚い魔導書。 「そっちに行けば近道なんですけど」 「絶ッッッッ対に駄目! 動物が図書館に入ってくるだなんて………考えただけでおぞましいわ。 本を齧るし、ところかまわずマーキングするし、臭いが付くし……絶対に進ませない」 想像しただけで怖気がするのか、パチュリーは普段からは考えられないほどの大声で青年の言葉を否定する。 想像を振り払うかのように、頭を必死で左右に振っている。 「もし進むって言うなら………この場でウェルダンに焼いてあげる」 「僕は昔はウェルダンが好きだったんですけど、こんな魔法使ってから急にレアが好きになったんですよ。なぜです?」 「当たり前よ。あなた使い魔として体に獣なんかくっ付けているからそんなことになるの。 さっさとはずしなさい。そのうち好きでもないのに獣と一体化してしまうわよ」 「使い魔?」 「そう。自分の肉体と偽って獣の体を肉体に補充しているんでしょ。体を削ってわざわざくっつけるなんて、ちょっと野蛮よ」 その言葉に、青年はなぜか口元に笑みを浮かべた。 笑いとは、もともと攻撃的な動作であるとか。 「これを使い魔とおっしゃいますか、パチュリーさん」 コートの裾が、風もないのにはためく。 青年はコートの襟に手をやり、ぐっとその隙間を広げる。 見えるのは、闇。 その闇の中から、のっそりと姿を現した獣がいる。 三頭の豹だ。 今産まれたばかりであるかのように、豹は首を振り、頭を上げて空気を嗅ぐ。 「まあ、行ってみて」 その言葉と共に、三頭は疾風となった。 一頭はそのまままっすぐに。 もう一頭はジャンプして頭上へ。 そして最後の一頭は、信じがたい膂力で壁を走り横から。 同時に、三方向からパチュリーに襲い掛かる。 けれども、パチュリーは動きもせずに一言だけ口にする。 手の中の光の球が消える。 「土符『トリリトンシェイク』」 彼女の操るものは、万物の構成要素。 瞬時に紅魔館の廊下を構成する石材が形を変える。 一瞬で突き出す無数の結晶のような形の杭が、三頭の豹を貫いた。 断末魔のもがきさえない。 まるで水を入れた風船であるかのように、豹は形を失い溶けて流れる。 青年は、笑みを浮かべたままパチュリーの方を見る。 パチュリーもまた、青年の方を見る。 「ならば見せてあげましょう。この生ける混沌の力を」 「ならば見せてもらおうかしら。あなたの魔法の力を」 青年の影が形となって次々と猛獣たちが姿を現す。 這い出る鰐。唸り声を上げる狼。前足で床を掻く猪。 互いに間合いは離したまま。 遠距離の攻撃を軸とする魔法使いらしいスタイルだ。 生み出された猛獣たちはひるむことなくパチュリーにむかって突進する。 けれども、書物を手にした少女はまるで意に介さず、淡々と自らのスペルカードを引く。 「火符『アグニシャイン』!」 蛇行する炎の列が、一匹残らず突進した猛獣たちを液体に変える。 「次よ。水符『ベリーインレイク』!」 上空に向かって噴水のように吹き上がるウォーターカッターが、滞空しつつ攻撃の機会を狙っていた鴉たちをまとめて叩き落す。 けれども、まだ青年の操る獣たちはストックがあるらしい。 「それじゃ、出番だ」 角を振りかざす鹿。疾走するチーター。なぜかのそのそ出てくるゾウガメ。 「金符そして水符『マーキュリポイズン』!」 空気中に突如出現した六価クロムをベースとした毒素が、獣たちの動きを止める。 「ええと………ならこれ!」 影が丸ごと持ち上がるなり、廊下を埋め尽くさんばかりの巨大な鮫の姿となる。 辺りの置物をなぎ倒しながら、鮫は牙を剥いてパチュリーを飲み込もうとして大口を開ける。 「焼き魚にしてあげるわ、日符『ロイヤルフレア』!」 まばゆい閃光が一薙ぎした後には、廊下には黒焦げの干物のようなものが転がっていた。すぐに溶けて流れる。 「あらら…………やっぱり耐久力が弱いな。どうも」 さすがに出尽くしたのか、青年の方からは獣の応酬はない。 どうやら、打つ手なしか。パチュリーは勝手にそう結論付けた。 なるほど、たしかに彼のレベルは上がった。これだけの数の獣を使い魔として使役するのはなかなかの実力だろう。 でも、ただ単にこれは獣をけしかけているだけ。 落ち着いて対処すれば、全然怖くなんかない。 パチュリーは余裕を見せる意図もこめて、わざと魔導書を開くとそこに目を落とした。 「ほら、見なさい。ただの獣じゃこの程度でおしまい…………きゃっ!?」 突然全身を濡らす液体の感触に、パチュリーは飛び上がった。 「うぇ………なにこれ?」 顔から滴る白濁の液体。実はどうにも苦手な臭い。 「ミ、ミルク…………?」 「そう、子猫の大好物です」 はっと前を見ると、どこから持ち出したのか両手に牛乳瓶をやたらと持った彼がいる。 蓋が全て開いて、中身はない。これをいきなりぶっ掛けたのか。 なんてことを、とパチュリーが怒りを覚えるその前に、 「行け、今度こそ出番だ」 突然、今までただの液体だったあちこちに広がる黒い塊が爆ぜた。 無数の滴となって散ったそれは、空中でおびただしい数の子猫に姿を変える。 いっせいに、四方八方からニャーニャーという心に訴える鳴き声と共にパチュリーに殺到する子猫たち。 「きゃ………きゃあああああああんッ!?」 たちまち、子猫にまといつかれて床に転がるパチュリー。 後から後から子猫はパチュリーにのしかかり、よっぽど空腹なのか体中に付いたミルクをその舌で次々と舐め始める。 「い……いやあああッッ! ちょっ! そんな……ザラザラが………やだ、もう…………くすぐったい…… ……あ、足の裏は…………だ、だめ…………そこぉ…………!」 じたばたともがいているが、もはや子猫たちの結束は固い。 猫たちの舌に全身をくすぐられているパチュリーは、明らかにもはや戦闘不能だった。 「これはね、使い魔なんかじゃないんですよ」 その横で、聞いていないにもかかわらず青年は律儀に説明をする。 「僕と一体化した混沌の中に澱み凝る命たち」 ずるずると、他の黒い塊が青年の影の中に消えていく。 「いわば、六百六十六の群体みたいなものなんですよ。だから個を倒しても、残り六百六十五が生きていますから無意味」 猫団子となってもがくパチュリーを尻目に、青年は奥に向かって歩いていく。 「さて、咲夜さんに通じるでしょうか。どう思います、パチュリーさん?」 無論、返事はなかった。 ただ、ぴちゃぴちゃという舌の舐める音だけが、いつまでも廊下に響いていた。 「ああああッッ! な、なんてことを…………!」 これぞ必殺、とばかりに作り上げた我が結界、愛玩「猫好きの楽園」。 選りすぐりの人懐っこい猫のみを集め、解放と同時にいっせいにまとわり付かせて、いかなるものも無力化するはずのスペルカードだ。 それが、それが………… 「メイド秘技『操りドール』!」 木の葉のように飛び交う無数のナイフにスライスされ、元の混沌に返っていくかわいい子猫たち。 いくら混沌に戻れば再び蘇生するとはいえ、これは僕の方が傷つくよ咲夜さん。 今、分かった。 このスペルカードは、返されるとこっちの方に心理的ダメージが行く。 僕、猫大好きだし。 「ど、動物虐待ですよ咲夜さん!」 心が抉られるようだ。ああ、あんなに僕に懐いていたミケちゃんまでナイフの餌食に…………ごめんよ、頼りないマスターで。 「あら、でもあなたの中に戻れば大丈夫でしょ?」 「そ、そりゃあそうですけど…………もしかして咲夜さん、猫嫌いなの?」 咲夜さんは、ナイフを繰る手を休めずに言い放つ。 「私、動物アレルギーなの!」 頭を、鈍器で殴られたかのような衝撃。 そーだったのかー。 せっかく格好つけて「我は六百六十六の獣なり」なんて言ってみたけど、実際使えるのはせいぜい獣を飛ばしたり、猫を操ったり。 ましてや、咲夜さんは動物アレルギーだとか。 それじゃあ、せっかく作った子猫の結界だって無意味じゃないか。 ショックだ。 何のためにここまで苦労して混沌を練り上げ、我が身と同化させ、一つの世界まで作り上げたんだろう。 そして、こんなに沢山の猫を集めたんだろう。 実は…………混沌の性能がいまいち微妙で、再生に時間がかかる。 もう、手持ちの獣はせいぜい五十頭前後。 見境なく乱射しても、たぶんナイフの餌食だろう。 「奇術『ミスディレクション』!」 「ひえぇ…………なんてひどい」 「当然よ。もうくしゃみが出そうで仕方ないわ」 ついに、子猫たちは一匹残らず混沌に戻ってしまった。正直、涙が出てきそうだった。 「さあ、殺し合いましょうか」 「いや、そんなナイフ逆手に持って殺人貴みたいにポーズ決めないで下さいよ」 ていうか、咲夜さん知っているんですね月○。 ええい、でも向こうがリクエストしているなら、原作に沿ってみるか。 「さあ…………生を謳歌しろ!」 うわ、我ながら声が全然合わない。でも、こうなればやけだ。 すでに、愛玩「猫好きの楽園」が敗れた僕は、実質咲夜さんに負けているんだけど。 体に残った五十頭の獣たちが、それでも寄り集まって鎧となる。 無駄に高まる体力と破壊力。でも心は寂しいままだ。 ああ、やっぱり駄目だ。子猫たちの幻影が胸をちらつく。 「ミケ、トラ、タマ、その他大勢の敵ぃ――――!」 やけくそに叫びながら、突進。 無意味にスピードだけある。 床が砕け、衝撃波が壁を引き裂いていく。 咲夜さんは、瀟洒に立ったまま。 絶叫しながら、貫手を突き出す。 瞬間、指先が音速を超えて焼け焦げる。 当たる―― と思ったのは幻影か。 伸ばした手は、空を切る。 頭上か。 そう理解できたのは、僕の頭のてっぺんに咲夜さんの手が触れたのとほぼ同時。 空中で、恐らく倒立する咲夜さん。 そして、スペルカードの名が。 「極死『七夜』」 ごき、と。 手が捻られ、同時に首が…………嫌な方向に曲がった。 死の点を突くのではなくて、こっちですか。 薄れゆく意識の中、僕は心底後悔した。 やっぱり、ネタのパクリはやめよう、と。 極意「トゥ・メガ・セリオン」開眼の前に、こんなことがあったとかなかったとか。 2スレ目 174 備考: 50 51 50 名前: 前スレ951な人 投稿日: 2005/11/15(火) 03 00 50 [ xqEixf7g ] 42 戦闘シーンかっこいいよママン・・・ 俺もこれくらい書き込める能力があれば。 主人公がスペル形態を選ぶ時に666の文字が出てきたので、つい混沌な教授になるのかと思ってしまった(゜∀。) 51 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2005/11/15(火) 08 27 49 [ gl6EvV4. ] 42 思わず時間も忘れて見入った。なんてかっこいいんだ戦闘シーン。 思慮のあるものは―の下りは某混沌教授でしか見たこと無かったから 俺も混沌教授ぽくなると思ってしまったw(。A。)^(゚∀゚ ) ……混沌『武装999』?
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咲夜13 うpろだ1430 門番に賄賂を渡し、一気に走り抜けるとそこは愛しの桃源郷。 大福2個とは、紅魔館の門も安いものだ。 妖精メイドと軽く挨拶を交わすと、目当てのその人が見えた。 「さっくやさーーーん!」 声をあげると、彼女が気づいてくれた。 「あら、いらっしゃい。」 「こんにちは咲夜さん。紅茶を――」 「ごめんなさい。いまちょっと忙しいの」 本当に忙しそうな表情で、笑えるほどの即答だった。 「それなら仕方ない。日を改めますか」 肩をすくめ、そういって踵を返すと、不意に声をかけられた。 「待って。せっかく来ていただいたお客様を手ぶらで帰らせては、紅魔館の名が廃ります。 幸いもうすぐ終わりそうですし、そうね……図書館で待っていてくださる?」 「喜んでぇっ!!」 そんなことをにっこりと言われたら、これ以外の選択肢はない。 予想外の展開だ。今日は何かいいことがあるに違いない。 諸君、私は本が好きだ。漫画が好きだ。小説が好きだ。歴史本が好きだ。学術書……はあんまり好きじゃない。 魔理沙からこの図書館を聞いたときは心が躍って、体まで踊りだしそうだった。 そうだ、咲夜さんに始めて会ったのもあのときが最初だったな―― 「何やってるの○○?ぼーっとして」 「あ、パチュリー様。」 図書館の主に声をかけられ、トんでいた意識が戻ってくる。 「いえ、ちょっと昔を思い出していて…」 「なにジジくさいこと言ってるのよ。私よりずっと幼いくせに」 そうだった。見た目にだまされがちだけど、この屋敷の人々は大半が年上なんだ。 備え付けの椅子に腰掛けると、小悪魔が紅茶をくれた。礼を言って喉を潤す。 「で?今日は何を借りるの?」 「あ、今日は借りません。咲夜さんのお仕事の終わりを待たせていただきます」 「あらそう?」 なんだか残念そうな顔をされた。 と思いきや、真剣な顔つきになっている。今日は表情の忙しい日のようだ。 「ねえ」 「ん、何ですか」 「あなたって、咲夜が好きなの?」 紅茶吹いた。 「……行儀が悪いわよ。」 「すみません……でも、いきなりなんですか」 「いきなりかしら?私は、切り出すのにずいぶん時間をかけたつもりよ」 心なし、不機嫌な顔をしている。 考えてみれば、そうかもしれない。半年、いや、もっとか。彼女に会ってから、俺は―― 「返事が無いのが、一番失礼よ」 顔を上げる。どうやら、また呆けていたらしい。 「で、どうなの」 やたら真剣な表情でこちらを見つめてくる。これは―― 「…パチュリー様。俺、実は――」 ――これは、答えないわけにはいかない類の話だ。 「実は、メイドさん萌えなんです」 「…………は?」 「ヘッドトレスとかエプロンドレスとか、そういうものになんかこう…リビドーを感じるんです」 「ちょ、いや…え?」 困惑している。まあそりゃあそうだろうな。 だけど、こうなりゃ意地だ。止めるわけにはいかない。 「この図書館に来て、彼女に会って……始めはもの珍しさで。 だんだん、ヘッドトレスを見てると、綺麗な銀髪やかわいいみつあみに目が行って、 エプロンドレスを見てると胸に目が行って、さすがにまずい、と顔を上げると目が合って……。 そうこうしているうちに、もう目が離せなくなっちゃったんです」 パチュリー様は黙って聞いている。下を向いていて、表情は見えない。 「動機は不純ですけど、道理は純粋です。俺は……彼女が、十六夜咲夜が好きです」 俺が黙ってから、図書館はしばらく静かだった。 こんな空気は嫌いだった。昔からこんな空気になると、壊してしまおうと適当なことを話していた。 今は違う。これは、俺が壊していい空気じゃない。 パチュリー様が、何かを言おうとしているのが感じて取れた。 「あの子は……レミリアの大事なもの。貴方が適当な人なら、あの子はきっと壊れてしまうと思った。 そうなればレミィはとても、とても傷つく。 なんてこと。この私が杞憂なんてすると思わなかったわ」 「……」 びしっ、とでも擬音の付きそうな指を突きつけられた。 「合格点にしておいてあげる。頑張りなさい」 「……はい」 自然と、笑みが顔に浮かんだ。 「そろそろあの子の仕事も終わっているでしょう。いってらっしゃい」 返事をして椅子から立ち上がる。 「それと、今貸してる本に紅茶なんかかけないでよ?」 信用が無いのか。思わず苦笑が浮かんだ。 「本当なら、貸し出しなんかしてないのよ?貴方は特別。あの黒白から本を取り返してくれたんだから」 「大丈夫ですよ。――いってきます」 扉をぬけ、ロビーを目指す。 ○○が図書館を出たら、私は一人になってしまった。 小悪魔には仕事を言いつけていたから、きっと奥のほうにいるのだろう。 「……はぁ」 彼が出て行った扉に額を寄せる。 『私は?』 それが聞けない私は、きっと長く生きすぎて臆病になってしまったのだろう。黒白がうらやましい。 「そうよ。貴方は……特別、なんだから」 ため息は、冷たい扉が吸い込んでくれた。 涙は、絨毯に染み込んでいった。 「あら丁度いい。これから呼びにいこうと思ったところよ。」 廊下を走っていると、妖精メイドに走るなと怒られた。 仕方ないので早歩きをしていると、曲がり角で咲夜さんに出くわした。これはなんだ。運命か。 「じゃあ、テラスにでも行きましょうか。」 春の二時過ぎの陽気は、人をやわらかくする何かがあると思う。 そんな優しい日差しの中で、好きな人と紅茶を嗜む。なんという幸福だろう。 これは俺が始めて紅魔館に来たときに、パチュリー様の『咲夜の紅茶はおいしいわよ』の一言から始まった。 それが本当においしくて。 たしかにおいしいけど、なんだか最近は手段と目的が入れ替わってる気もする。まあいいか。 「魔理沙に連れてこられたのよね、あなた」 いまの話題は、俺がここに初めて来たときの話だ。 「そんな拉致みたいな言い方……でも、そうです。面白い図書館があるからこないか?って。 もともと本が好きでしたし、断る理由も無くて」 「そういえば、どうやってあいつから本を取り返したの?まさか力づくってわけじゃないでしょう?」 「それはですね、あの直前に宴会があったでしょう?」 ふんふん、と咲夜さんは話に食いついてくる。気にされてるって、いいなあ。 「酔っ払ってるうちに、こう持ちかけたんです。『なあ魔理沙、お前が持ってる本、貸してくれないか?』」 「……それ、やってることは一緒じゃない?」 あ、あきれた目してる。 「失礼な。正当な持ち主に返しただけですよ。」 「それもそうね。パチュリー様も助かってるし」 ああもう、ほんとうに咲夜さんは笑顔が似合う人だ。 ああ、本当に幸せだ。いつまでもこうしていたい。 けど、俺は今、この手でこの幸せを壊そうとしている。 「ところで、咲夜さん」 一か無か。 懸けてみるのも――悪くない 「今、好きな人とかいますか?」 なにを言われたのか、よくわからなかった。 好きな人?なにを言っているのだろう、この人は。 そんなこと、考えたことも無かった。 本当に? 思い返してみる。いつの間にか、彼がいるのが日常になっていた。たった半年程度なのに。 あるいは、それだけ彼が大きな存在になっていたのかもしれない。 ○○が来ない日は注意が散漫になっていた。 来ないと事前に聞かされたのに、時計を何度も確認したりした。 「私、は……」 言いよどむ。だって―― ――こんなの、初めてなんですもの 「……わからない。」 期待した答えでも、最悪の想定でもなかった。ある意味、一番困る。 そして、それが顔に出てしまったらしい。 「そんな顔しないで。私だって、わからないことくらいあるわ。自分のことなんて、特に。 教えて。あなたを見てるとどきどきするの。 あなたが来ないと不安になるの。 あなたがいると、安心するの。 これは――好きってことなの?」 小さな机で助かった。 その答えを聞いた瞬間、机越しに抱きしめてしまっていたから。 「……紅茶、こぼれちゃうわ」 「拭けばいいさ」 背中に手が回ってきた。 「私、普通じゃないのよ?」 「普通の人間がじゃない、十六夜咲夜が好きなんだ。」 力を込める。あわせて、強く抱きしめられる。 「教えて。あなたは、私が好き?」 「好きだよ。世界中の誰よりも」 見詰め合えば、あとは一瞬だった。 二つが一つになるのに、時間なんて概念は無粋なだけ。 能力なんて使わなくても、時は止められた―― 「これがあの人と私の馴れ初めよ」 老婆は二人の孫に語りかける。おしどり夫婦として評判だった私たちの話に興味を持ったらしい。 「それから!?それから!?」 少女は興味津々なのか、目を輝かせて続きを促す。 「おねぇちゃん、きっともうおばあちゃん疲れてるよ。ぼく達ももう寝よう?」 男の子は優しく姉を諭す。 少女は、しぶしぶといった風に、つかんでいた私の服を離し、おやすみなさいを告げた。 たくさん喧嘩をした。それ以上に愛し合った。 少し前にその旦那に先立たれてからも、子供たちのおかげで寂しいことだけは無かった。 孫の成長も見れた。思い残しなんて何も無い。 ああ、○○。愛しい私のあなた。 もうすぐ、そちらへ行きますわ。 瞳を閉じ、肘掛に手をやる。 その手は空を切り、力なく垂れ下がった。 冥界にうっとうしいカップルができた、と西行寺が八雲に愚痴をこぼすのは、また別のお話。 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1489 「・・・ぅん」 新年早々、寝不足だ 今日が楽しみで眠りが浅かったか、子供じゃあるまいし 時間に遅れるといけない、そう思いベットから出ると、とても寒い カーテンを開け、外を見た 「・・・ホワイトロックが頑張ってるわね」 これだけ積もっていれば寒いのは納得だ 着替えを済ませると、外出のために、少し用意をした 「咲夜さん明けましておめでとう御座います!」 部屋を出ると美鈴と出会った 「おめでとう、今日は冷えるわね」 「外は辛いですよ~。あ、そういえば○○さんがいらしてますよ」 ちょうど約束してたぐらいの時間か 「ありがと・・・行ってくるわね」 言ってらっしゃいという美鈴の声を背に受け、私は彼の元に向かった 「やぁ咲夜、明けましておめでとう」 「お、おめでとう御座います」 一昨日あったはずなのだが、少しの緊張 しかし、新しい年に出会う彼は、いつも通りで少し、安心した 「あ、○○さん、少ししゃがんでもらえますか?」 「ん?」 私は彼の髪についていた雪を払った どうやら雪が降っているようで、溶けていないという事はまだ来たばかりと言う事か 待たせなくて良かった、なんて思ったり 「ありがとう・・・じゃあ行こうか」 「あら、珍しいものを見たわ」 思わずそんな台詞が口からこぼれた 「初詣なんて柄じゃないでしょうに・・・やっぱり男ができると違うわね」 「ち、ちがっ!?」 「ああ、違うの」 「いやちがわなくもないことも・・・・」 顔を赤くして何やらごにゃごにょ言ってるが、独り身としてはちょっと嫉妬しちゃうわね 「・・・まぁその幸せを分けると思ってお賽銭のほうよろしくね」 「お、霊夢、あけましておめでとう」 「ん、おめでと・・・ほら二人でなんか願掛けでもしてきなさい」 もうちょっとからかっていたかったが、今年は忙しいのだ、特に金銭面で重要な一日である 賽銭箱に向かう二人を見送りながら、小さなため息をついた ちゃりん がらんがらん ぱん ぱん 「何をお願いしました?」 彼が熱心に祈っていたようなので、気になってきいてみた 「今年も面白おかしく異変を眺めていられますように、ってね」 なるほど、彼らしいといえばそうか 彼は私はなにを?ときいてきたが、それは恥ずかしくていえない 食い下がる彼に、乙女の秘密です、と言ったのだがそれのほうが恥ずかしかった お神酒を飲んで、お守りを買って、甘酒を飲んだ おみくじも引いた こんな普通の人間みたいな事をしている自分を、不思議に思う 少し前ならば考えられなかっただろう、隣が、暖かいなんて 「あの・・・○○さん・・・これどうぞ」 神社からの帰り道、彼にあるものを渡した 「?・・・おお、マフラーか」 袋から出して全体を繁々と見ている、私も改めて見てみる どこか不出来なほうが編み出しか、最後のほうはだいぶ上手くなっているが・・・アンバランスだ 「ちょっと長いね、最後のほうはコツがつかめてきて思わず余分に編んだって感じかな」 完全にお見通しのようだ この寒いのに体が熱くなる、もしかしたら湯気が出ているのではないだろうか 「○○、さんが首元が、さむそうだったから・・・」 「・・・ありがとうな、咲夜」 彼は首にいろんな感じで巻いて試行錯誤するが微妙な長さが残る 「・・・嗚呼、こりゃあ良いな」 何を思いついたのか私の隣に来ると、そのマフラーを私の首にも回した 「え?え?ふ、二人でするには短いです、よ?」 「ほら、こうやってくっつけば、ちょうど良いだろ?」 彼と私は、非常に密着した状態である 「ああ、歩きづらくないですか?」 「問題ない・・・この方があったかいじゃん」 心臓が2倍速ぐらいで鼓動しているようだ どきどきと、彼と触れている場所をいしきしてしまう 「咲夜、どきどきしてるな」 そう言って笑うと、最後に俺もだよ、とつけたした 雪が積もった道を、二人でぎこちなく歩く 歩き辛いけど、暖かくて この動き辛さも良いかもしれないと思った だってその分長く、彼とこうしていられるのだから ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ47 ―紅魔館 咲夜「お疲れ様○○。あとは私がやっておくから、そろそろ休みなさい」 ○○「ああ、でも咲夜さんも休んだほうが・・」 咲夜「私は大丈夫よ、ずっとやってきてる事ですから。」 ○○「じゃあ、甘えます。お疲れさまっす」 紅魔館で働くようになってから数ヶ月経つけど 咲夜さんっていつ休んでるんだろうか・・ 夜中もお嬢様の相手だし、24時間働いてるんじゃ・・ 要領が良く、無駄も無く、隙も無く、一度も疲れた顔すら見せない彼女。 ○○「メイド長の鑑なんだろうな、憧れるなあ」 それでもやっぱり心配ではある。 無理してポーカーフェイスしているんじゃないかとね。 俺は与えてもらった部屋へ足を運ぶ。 ○○「あー疲れたぁ、今日はもう早めに寝よう。」 俺は布団にもぐりこみ、死んだように眠りに付いた。 その時、なんの夢を見たかは覚えていなかったが すごくいい匂いがして、そしてすごく居心地がいい。そんな夢を見た。 ―早朝。 ガチャ ドアの開く音で目が覚める。 入ってきたのは紅魔館の主、レミリアお嬢さんだった。 レ「あれ~?いないか~」 ○○「・・ん。どうしたんすか、まだ朝早いっすよ」 レ「ああ寝てたの、ごめんごめん、ところで咲夜見なかった?」 ○○「咲夜さん?いや、知らないけど・・」 レ「そっかー、いやね、昨日の晩からずっと居なかったのよね~ 今までこんな事なかったのに。」 ○○「はぁ。確かに珍しいすね・・」 レ「なのよー。んでこっちに来てないかと思ったんだけど、 まあ、邪魔したわね、それじゃ」 バタン ていうか、こんな所に居るわけないのにな。 それだけレミリアお嬢さんも必死って事か・・ でも本当にどうしたんだろう、あの後、夕方くらいに別れて、その後姿を消したのかな。 まさか過労で嫌になって・・ ハハ、咲夜さんに限ってそんなわけないか。 まだ少し早いのでもう少しだけ横になろう・・ふぁ・・あぁぁ~。 俺はもう1度布団にもぐり横になった。 ・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・ 寝返りをうつと鼻先に生温かい風が当たった。 目を開けると、そこには熟睡している咲夜さんの顔があった。 咲夜「すぅ・・すぅ・・」 ○○「・・!!!!!?????」 ワケが分からなかった。 なんで俺のベッドに咲夜さんが・・?そしてこのゼロ距離! ○○「え・・ちょ・・咲夜さん!?何でここに・・!?」 咲夜「・・ん、なんか騒がしいわね・・」 目を覚ました咲夜さんと目が合う。 キョトンとした咲夜さんの目。普段みせた事のない表情。 そして次第に顔が赤くなっていく咲夜さん。 咲夜「えっ・・!? えぇぇぇーー!?なんでなんで!?」 ○○「・・俺の台詞っすよ・・」 咲夜「って、なんで朝になってるの!?って何で○○が動いてるのよっ」 こんなに取り乱す咲夜さんは初めてみたかもしれない。 しかし何をわけのわからない事を言っているのやら・・ 咲夜「・・こんな事って・・。・・・まさか・・あ、やっぱり・・」 ○○「・・・もしかして・・・ 時間を止めたつもりで、ちゃんと発動してなかったとか・・?」 後ろ向きに座り込んだままの咲夜さんが、小さくコクっと頷いた。 ○○「は・・はは、咲夜さんもそんなミスするんだ・・」 咲夜「う、うるさいわねっ、多分疲れてたから発動忘れたのよっ はぁ~、もうなんでこんな情けない所を・・しかも貴方に見られてしまうなんて・・ あ”ぁ~~~もう最悪よーーーーー!!」 自分の頭を両手でくしゃくしゃ掻きながら悶える咲夜さん。 その姿がまた可愛かった。 ○○「いいじゃないすか、俺は安心しましたよ。」 咲夜「どういうイミですか・・」 頭がボサボサになって言う咲夜さん ○○「咲夜さんもやっぱり人間だったんだな~って、 人間らしいミスもすれば、人間らしく体力も限界があって」 咲夜「・・あなたずっと私を妖怪と思ってたのね・・失礼ねえ・・」 ○○「あ、はは、そんな事ないすよ、・・あ、でもちょっと思ってたかも。」 咲夜「もう・・これ内緒よ・・?特に美鈴とかに知られたら何て言われるか・・ はぁ・・私の完璧なメイド長が・・こんな所で崩れてしまうなんて・・」 ○○「・・・・」 俺は苦笑した。 ―そして 咲夜「お嬢様、申し訳ありませんでした。ただいま戻りました」 レ「おかえり咲夜、○○もおはよう」 ○○「おはようございまっす」 レ「あ~、さっそくだけど最近この椅子がキシキシ言うから 新しいのと取り替えて欲しいんだけど、あ、それとこのテーブルあちこち傷が・・あとは、」 咲夜さんに今までどこで何していたかレミリアさんに問われると思ったが・・ 咲夜さんもそう思ってたのか、不思議そうな顔をしていた。 ―昼休み。 ○○「モグモグ、そういえば咲夜さん」 咲夜「ん?何かしら」 ○○「寝る時は毎晩、俺の部屋で時間止めて寝てるんすか? いやぁ、なんで俺の部屋なのかなーと思って。」 咲夜「・・・・・」 そう聞くとみるみる咲夜さんの顔が赤くなっていったと思ったら ○○「咲夜・・さん・・?ってうお!」 ヒュン! カッ! カッ! カッ! カッ! ○○「ひぃ!?」 咲夜さんが顔を真っ赤にしながらナイフを飛ばしてきた。 俺は慌てて逃げる ○○「うわぁああああ!ちょっと~~、えぇー俺何かマズイ事言ったかなぁー!?」 メイド妖精1「こら~、廊下走るとメイド長に怒られますよー?」 メイド妖精2「あ、あれ?今、メイド長も一緒に走っていったような・・」 メイド妖精3「えー、まさかぁ~」 今日も紅魔館は騒がしい。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ54 豪奢な調度がいたるところに置いてあるホテルのロビーで、○○は自分一人が浮いた存在のように感じていた。 場違いもいいところじゃないかと……。 紫主催の『神無月限定外界デート』に申し込んだところ咲夜がこの日じゃなくてはダメだと押しに押してきたため その日に決めたのはいいがまさかこんなホテルだったとは○○は思わなかった。 ○○は分不相応な気がしてロビーの隅っこで俯き加減に固まっていた。 「○○、おまたせ」 不意に咲夜の優しげな声が聞こえて、○○は顔をあげた。 と、同時に口をぽかんと開けて、目の前の女性を食いいるように見つめる。 そこには、ドレスアップした咲夜の姿があった。 彼女は、一見素顔のようなナチュラルメイクを施し、瀟洒なドレスを身にまとっていた。 細い鎖骨と片方の肩をおしげもなくさらけだしている。 肩を覆った側の袖は大きく膨らみ、まるで中世の姫君のようだ。 襟元は繊細なレースがいく重にも折り重なっており彼女の胸を優しく覆っていた。 裾は長く、彼女の足元まで覆っている。ここにも襟元と同じ種類のレースが存分にあしらわれている。 「綺麗……です」 不意に○○の口から正直な感想がもれでた。 たちまち、咲夜の頬がバラ色に染まる。 「……あ、ありがとう」 はにかみながら、咲夜は○○にそっと手を差し伸べた。 ○○は己の心臓が高まるのを感じながら、そのほっそりとした小さな手を握りしめる。 まるで骨がないように柔らかだった。 「さ、今夜は存分に楽しみましょう」 特別な夜が今、始まろうとしていた。 「あ、あの、俺こんな豪華なところ来るの初めてなんですけど……」 「私だってそうよ」 「でも咲夜さん平気そうじゃないですか」 「いつもお嬢様の傍に付き添っているからこういう雰囲気に慣れているだけよ」 緊張でがちがちになっている○○に普段と変わらない咲夜。 二人は窓際の席に座っていた。 大きな観覧車を中心に、色とりどりのネオンが煌めいているが、その光の瞬きを楽しむ余裕が○○にはいっさいなかった。 (うへぇ……テーブルマナーなんて俺知らないぞ) ずらりと目の前に並べられたカラトリーを不安そうに見つめる○○。 そんな彼に笑いかけると、咲夜はささやいた。 「大丈夫よ。そんな緊張しなくても。食べ方やマナーなら私が教えてあげるから。せっかくの料理が美味しく感じられないのはつまらないじゃない?」 シャンパングラスを手にすると、咲夜は○○に向かってその手を差し出した。 ○○も慣れない手つきでグラスを手にして、彼女のグラスに近づける。 澄んだ音を立ててグラス同士が軽く触れ合った。 前菜が運ばれてきて、優雅な咲夜の仕草を見よう見まねで○○は必死にナイフとフォークを動かす。 そんな様子を、咲夜は目を細めてうれしそうに眺めている。 「う……? ど、どうしたんですか? そ、そんなに見て……。どこか変ですか?」 「ねぇ、何で今日を選んだか分かる?」 考えつくかぎりでは○○の頭には何も浮かばない。 その様子から分かってないと察した咲夜は軽くため息をついて○○を睨んだ。 「あのね、今日はあなたと私が出会ってちょうど1年になるのよ」 「あ……!」 「……まぁ、今回は許すけど、次忘れたら承知しないわよ……?」 咲夜は射るような視線を○○に向け微笑む。 場所が場所ならナイフが飛んできただろう。 ○○は絶対忘れないようにしようと肝に命じた。 咲夜は、うっとりとした表情で夜景を眺めている。 ネオンが彼女の群青の瞳に映ってゆらぐ。 「今日までいろいろあったわね……良いことも、悪いことも」 「悪いことって俺が間違えてお風呂に入ってきたことですか?」 咲夜が○○の言葉に噴き出した。 広い大浴場で誰が入っているかなどは解るはずもなく、みごとに中で鉢合わせしたのであった。 思いっきり頭に桶をぶつけられたのは言わずもがな。 「まったく……そういうどうでもいいことは覚えているんだから」 そう微笑むいつもの咲夜がそこにいた。 「ケンカもたくさんしたわね。でも、いつも○○から謝ってきてくれて。私、我が強くて自分から謝れなくて…… あと、風邪引いたときも看病してくれたわね。初めてにしては悪くなかったわ……あの御粥。 美鈴と一緒に薬草取りに行っただけなのにやきもち焼いて困らせたわね。 それから……」 次から次へと彼女の口からは、二人の思い出が紡ぎだされる。 ○○もそのときのことを思い出しながら何度も何度もうなずく。 どれ一つとして全てが一致する思い出などはない。受け取る人によって、思い出の細部はまるで変わってくるからだ。 気がつけば○○の緊張は完全にほぐれていた。 ただ、ひたすら夢中になって彼女と出会ってから今に至るまでの話に花を咲かせる。 おいしい料理にワインを楽しみながら、二人は二人だけのまったりとした特別なひと時を過ごしたのだった。 フルコースを堪能した二人は、今ホテルの最上階に来ていた。 予約してあった部屋は、なんとスイートルームだった。 今まで紅魔館で働いていた仕事の量から換算して紫から円に換金してもらったらしいのだが、まさかこれほどとまでは○○は思わなかった。 広さはレミリアの部屋と同等くらいあるだろうか。 天井は高く、えんじ色のじゅうたんはふかふか。凝った細工がいたるところにちりばめられているいかにも高そうな調度品がそこここに構えている。 ホテルの部屋を予約している。その意味するところは一つしかないだろう。 ○○ははるか彼方に広がる夜景を見つめながら、体を硬直していた。 「シャワー終わったわ。○○も浴びる?」 咲夜の涼やかな声がする。窓ガラスは夜景を存分に楽しめるよう、全面ガラス張りになっているため、咲夜の全身も映っている。 ガウンを羽織った彼女が○○にゆっくりと近づいてきた。 不意にふわりと彼女の両手が○○に差しのべられた。 咲夜はそのまま背中から手をまわすと、彼をそっと抱きしめた。 咲夜の濡れた髪としなやかな手と、密着した乳房を背中に感じて更に体を硬くする。 「ふふっ、そんなに緊張しなくても」 「あぅあぅ……。今日の咲夜さん大胆ですね……」 「んー? 酔っているからかしら?」 咲夜が○○の耳もとで熱い吐息まじりの声でささやいた。 ○○はぞくりとして首をすくめる。 咲夜のつややかな声が耳から侵入して、彼の体全体へとひろがっていく。 「○○、抱いて……」 「はははは、はいぃっ!?」 咲夜がつぶやいた言葉に○○は絶句した。あまりにもストレートな愛情表現だったからだ。 ○○は窓ガラスに映る咲夜の姿を食い入るように見つめる。 その目をまっすぐに見つめ返してくる咲夜の目は熱っぽく大きく潤んでいる。 「私、○○のこと、好きなのかもしれない。こういうこと初めてだからよくわからない……。 けどあなたはもう私の中で欠かせない存在なの……好きって言葉じゃ足りないくらい……そうね、たぶん愛しているって言った方がいいかしら……」 かすかに震えているのだろう。肩が小刻みに揺れている。 初めての告白に咲夜も緊張しているのだろう。 ○○は振り返ると咲夜の細く、火照った体を力いっぱい抱きしめた。 「ずるいですよ……。俺だって咲夜さんのこと好きで好きで堪らないのに……そんな告白の後じゃ何言っても陳腐にしか聞こえないじゃないですか」 「そんなの気にしないわ……。あなたの言葉で私に伝えてくれればいいの」 「……好きです。大好きです。あなたのこと、好きすぎて狂ってしまいそうなくらい……」 「ああ……うれしい。好きよ○○。大好き……」 頬を真っ赤に染めた咲夜が胸の中で幸せな表情を浮かべる。 ○○は彼女の顔を上に向かせて、唇を寄せた。 柔らかな互いの唇を感じながら、二人は情熱的に舌を絡めていく。 唾液が絡み合い、舌は生き物のように口内をまさぐる。 「んっ……ふぁっ……んぅっ!」 吐息まじりの喘ぎ声が咲夜の口からもれでる。 ○○は彼女の下唇を軽く甘噛みしながら、ガウンのベルトに手をかけた。 緩く結んであるだけのベルトは、すんなりと床に落ち、同時に咲夜の前衣が大きくはだけた。 純白のブラジャーやショーツに派手な装飾はない。それが咲夜の美しさに拍車をかけている。 すらりと伸びた脚は黒のガーターベルトとストッキングをまとっている。 白黒のコントラストが妖艶で、なおかつ清らかさをけして損なわない品のある最高のデザインの下着を身につけた咲夜はひどく魅惑的だった。 「さぁ、これから先は私の時間は○○のもの……。好きなように私をあなた色に染め上げて……」 ○○がゆっくりと咲夜をベットに横たえたところでプツリと映像が途切れた―― 「はいざんねん!! ここから先はそこまでよ! になるので映像はおしまいでーす」 「えーーーー!!!!」 宴会で各々のデートシーンが流され、他のカップルもそうだが自分たちの番になって紫はこんなところまで見ていたのかと改めて彼女のデバガメ癖に気がついた。 酔いまくった酔っ払いどもの大ブーイングの中、○○は俯いて震えている咲夜に声をかけた。 「だ、大丈夫ですか?」 「ええ、大丈夫よ。ちょっとあの妖怪を黙らせてくるから」 ゆらりと立ち上がった咲夜を慌てて羽交い絞めにする。 「さ、咲夜さん! 落ち着いてください!!」 「は、離して○○! あの紫ババア一回痛い目みせてやらないと気が済まないのよー!!」 暴れる咲夜を止めるため○○は彼女の弱点を攻撃した。 ふぅっ、と耳に息を吹きかけささやく。この間のデートで見つけた咲夜の弱いところだ。 びくびくっと身体を震わせポロリとナイフが手から落ちる。 「ダメですよ。あんまり暴れちゃ」 「いやぁん、でも○○これじゃオチがつかないわ……」 「もうこの状態で十分落ちてますよ」 あむあむと耳を甘噛みされるたびに猫撫で声をあげ、身をくねらせる。 「ああん、そういう強引なところもすきすきぃ。もっと噛んでぇ」 完全に別世界に行ってしまった二人の空気にやられ、早々と宴会はお開きになりみんな自分のうちでイチャイチャはじめたそうだ。 ───────────────────────────────────────────────────────────
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咲夜 概要 R-ウィングにおける正統派の幹部であるパンク風の男。 本名は佐久間安男。 ボサボサ頭にスカルのタンクトップにクロスのパーカー、下は傷だらけのダメージジーンズ。 ナイフを所持している。 授業とコンパと作戦会議には遅れて現れる男。 羽田家の近く(風見ヶ丘)に住んでいることから、もしかしたら実家は比較的裕福なのかもしれない。 学生・佐久間安男 後に発売されたドラマCDセカンドシーズンでは、なんと美空学園の学生(2年B組所属)であったことが発覚。 同じクラス・同じ美化委員の玉泉日和子とはどうやら犬猿の仲のようだ。 人気投票記念SS『フラグの折れたエンジェル』においても彼の名前は頻繁に登場している。 「♪胸パット~胸パット~!」 名前 コメント
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咲夜9 11スレ目 189 「咲夜さーん!俺とつがいになって!!」 「こ、断らせてもらいますっ!」 ここは幻想郷、幻想になったモノが集まったりひっちゃかめっちゃかな場所・・・ 「咲夜さん!俺の愛の歌を聴いてくれっ!!」 どれだけ走っても追いかけてくる男、名前は○○というらしい 「十六夜咲夜さん!俺の名前は○○と言います!結婚を前提に御憑き愛シテクダサイ!!」 「え、ええと・・・その・・・ごめんなさい」 うん、確かそんな出会いだった ○○は里に行くたび、正確に言えば私を発見するたびに、追いかけてくる ナイフを投げようが、時を止めようが、お構い無しに きっと亡霊か何かなんだ、だから物理攻撃は効かないんだ・・・あれを人間とは認めたくない 「嗚呼チクショウ、今日も逃げられた・・・咲夜さーん!まったねー」 彼なりの精一杯の譲歩なのか、紅魔館には入ってこない、買い物中も追いかけてこない 私は買い物をした帰り道に紅魔館まで逃げ切れれば勝ちなのだ、生存的な意味で 「・・・はぁ、疲れるなぁ」 「どうぞ」 「あら、ありがと・・・」 差し出された水は良く冷えていておいしかった・・・あれ? 「うわ、びっくりした、気配を消して背後に立たないでくれる?」 背後には銀のトレイを持ったメイドが・・・でも彼女は救護担当では? 「あらあら、メイド長が息を切らしてご帰還なされたのでせめて冷たいお水を、と思った私のおせっかいでしたね・・・およよよよ」 「も、もう人をおちょくるのもいい加減に」 「およよよよ」 今どきおよよよよなんて泣く人はいない、絶対にいない 「・・・水美味しかったわよ、ありがとう・・・これでいい」 「はい、それでいいんですよメイド長」 部下におちょくられるなんて・・・私もまだまだ 「あ、そうだ救ちゃん」 「はい、何でしょう咲夜さん?」 「じつはかくかくしかじかで」 「しつこくつきまとう男を撃沈し滅するにはどうしたら良いかですって?」 「い、いや、そこまでは・・・」 「あ、咲夜さーん、こんにちは!お買い物ですか?」 「・・・」 「元気ないですか?ど、何処か体が悪いとか」 「・・・い、いい加減にしてくれない?私も暇じゃ無いのよね」 「咲夜・・・さん?」 メイドに教わったとおりに、憶えた言葉をつむいでいく 「いい加減ウンザリなのよ、毎回毎回しつこく付き纏ってきて、私の身にもなってくれないかしら?」 「・・・そうですよね、俺みたいなキモ男の愚図の無職野郎に付き纏われて、そりゃ気持ち悪いし煩わしいですよね」 「え、いや・・・そこまでは」 「すいません、迷惑だとは思ってましたが・・・いけませんね、自分のノリを他人に押し付けて・・・ははは、やっぱり俺は生まれてこの方・・・」 ふらふらと、背を向けて歩き出した、そのとき私は始めて彼の背中を見た 彼は最後に今までご迷惑おかけしました、申し訳ない そう言ってとぼとぼとリストラされた50代後半のサラリーマンのように、歩いていった 「あ・・・ま、待ちなさいよ!」 「・・・え?」 思わず呼び止めた、しかし言うべき言葉は何も考えていない、これはしまった 「え、ええと・・・そ、その程度なの!?私に拒絶されたぐらいで消える愛だったの!?私が拒もうがなに言おうが付き纏って、頑張りなさいよ!」 「さ、咲夜さん??」 自分でもなに言ってるかわからない、さっきとは真」逆のことを言っている、これではまさにあべこべ蛙だ 「私が諦めるぐらいまでがんばりなさいよ!むしろ私を惚れさせてみなさいよ!!どうなの!?」 「・・・」 ○○完全に沈黙 そりゃそうだ、自分でもなに言ってるか解らないのだから、どっちをどう受け取ればいいか混乱もするだろう 付き纏うなといったり、付き纏えといったり 「咲夜さん・・・」 もしかして怒らせてしまったのかもしれない、嫌われたかもしれない、それは少し、寂しい気がした 「え、えっとね○○、何が言いたいかというとね」 「咲夜ぁぁぁぁぁ!!好きだぁぁぁあああああ!!!愛してる!俺と夫婦に!仲睦まじい夫婦になってくれっ!!」 条件反射で私は走り出した、紅魔館に向けて 「待て、俺の話を聞いてくれ!!まず俺が君の何処に惚れたかをだな」 「いい!聞きたくない!」 「まず几帳面な所だ!しかし里に降りてきて雑貨屋などで可愛らしいアクセサリーを見つけたりすると周りを確認してちょっと着けてみたりなんかして」 「や、やめて!というかなんでそんなことまで!!?」 「俺はその雑貨屋の息子だぁぁ!!」 紅魔館はもうすぐだ、門の内に入ってしまえば、美鈴に撃退してもらうなり、なんなりとできる 「おお!?」 「はぁ、はぁ、はぁっ・・・今日も逃げ切ったわよ」 「ぐ・・・残念無念・・・また明日」 とびきりの笑顔で、彼は笑った、そして大きく手を振って帰っていった 「・・・嵐というより竜巻のような、男ね・・・」 「咲夜さん・・・アレはいったいなんなんですか?」 呆気にとられて動けないでいた美鈴が、やっと話せた一言は、当然の疑問だった 「それで、結局元に戻ったというより、余計にパワーアップさせちゃったわけですか」 「わ、笑うなら笑いなさい、私だって莫迦な事をしたと思ってるわ」 莫迦な事をした、そういう割には、いい顔をしていらっしゃる 私を惚れさせてみろ、か・・・なんだ、とっくに・・・ 「・・・咲夜さん、きっと毎日楽しいですよ、今までどおり、これからも」 「救、ちゃん?」 「人生は短いんですから、全力疾走で楽しみましょう」 「太く短く生きろって奴?」 一度きりの人生、彼のように色恋に生きるもよし、私のように人をおちょくるもよし、咲夜さんのようにいっぱいいっぱいでも、それでもよし 「それじゃあ救ちゃん・・・いろいろありがとね、仕事に戻るわ」 ほかの子にはナイショよ、そう言ってメイド長は救護室から出て行かれました 私としてはもう少しドタバタしたほうが面白いと思うのですが、残念な事にあっさりとカップル成立のようです、正確に言えばまだ成立はしてませんが 「あー・・・個人的には傍観が一番楽しいと思うのですがねぇ」 いつも見てばかりですが見られる側をした事が無いのでなんとも言えません でもメイド長を見ていれば、恋とか愛とかも、悪くないのかもしれません 「咲夜さーん!大好きですッ!」 「私もよッ!!」 「・・・・ええっ!!?ちょ、おま」 ─────────────────────────────────────────────────────────── 11スレ目 271 「……何だ、これ?」 紅魔館の周りを散歩していた所、小さくて円柱状のビンが落ちていた。 いや、落ちていた、というよりは置かれていた、という表現の方が正しいだろうか。 中には液体が入っていた。誰が置いていったのだろうか。 もしかしたら、危ない物とか? どちらにしろ、この怪しい物を放っておく訳にはいかない。 こういうのに詳しそうなのは……パチュリーさんかな。 「……ごめんなさい。これは私には分からないわ」 図書館へと伸びている廊下を歩いているとき、咲夜さんを見つけたのでこのビンについて聞いた所、残念な回答と共にビンが返ってくる。 「そうですか……」 「パチュリー様なら知ってるかもしれないわ」 そう言いながら、咲夜さんは図書館があるであろう方へと目を向ける。 もちろん、俺の目的地は最初からそこだった。そもそもパチュリーさんに聞く予定だったのだから。 「じゃあ、パチュリーさんに聞いてみます。呼び止めてすいませんでした」 咲夜さんの脇をすり抜けて、本来の目的地へと向かう。 「――ちょっと、待っていなさい」 咲夜さんのいた場所から声が聞こえた。 しかし、その声を聞いている間に咲夜さんはいつの間にか俺の目の前にいる。 その手に、ビンを持ちながら。 おかしな話である。 咲夜さんが目の前にいるのに、別の場所から声が聞こえるのだから。 しかも、手に持っていたビンはいつの間にか目の前の人に渡っている。 でも、それはこの人だから出来る。 「……時間弄ったんですか」 自分でも分かるほどに呆れていた。 そんな簡単に時間弄っていいのだろうか。 「えぇ、ここからは少し遠いから……それよりもこのビンの事、パチュリー様から聞いてきたわ」 咲夜さんはそっぽを向きながら話す。 その頬が、少し紅く染まっている気がするのは、気のせいだろうか 「聞いてきてくれたんですか? 何て言ってました?」 俺が聞くと、咲夜さんはその頬の熱を感染拡大させたのか、顔中を紅くした。 何か面白い事でも聞けたのだろうか。そうでも無ければ、いつも冷静に仕事をしている咲夜さんがこんな顔をするはずがない。 しかし、その回答は予想に反した。 「その……パチュリー様にも分からなかったみたい」 ……そうですか。 「でも、毒は無いから、飲んで確かめてみるのが早いと」 ……そうなんですか。 「だから、あなた飲みなさい」 なるほど、俺が飲んで確か――え? 今、なんと仰いましたか。 「ほら、早く飲みなさい」 相変わらず、そっぽを向いたまま、ビンを俺に突き出してくる咲夜さん。 いや、その。 「の、飲めと言われましても」 「だ、大丈夫よ、害は無いんだから、死ぬことは無いわよ」 俺だって疑う人間ですから。 毒は無いけど、何の効果か分からない液体。 そんな物。 「の、飲めるわけじゃないですか! そんなの飲んで変なことになったらどうするんですか!?」 こんなのを疑いも無く飲むなんて、人間としてどうかしてる。 いや、存在するものとして、かな? 「……飲まなかったら一週間不眠不休で働かせるわよ」 「なっ……!?」 どこまで飲ませたいんだ、この人。 メイド長の指導の下で、不眠不休の仕事。 少しでも休もうものなら、問答無用で殺人ドール。 生きていられる訳が無い。 だったら、毒は無くても飲んだほうがいい、の、か? 「わ、分かりましたよ……飲めばいいんですよね?」 「えぇ、よく分かってるじゃない」 瞬間、満面の笑み。顔は相変わらず真っ赤だけど。 ビンを受け取り蓋を開ける。 えぇい、何だ。この間、誰のかも分からない血を原液で飲まされたばかりじゃないか。 そんなのに比べれば、これくらい! ――ゴクッ。 味はしなかった。ただ、少しヌメリとした感触がある。味はしないはずなのに、喉に少し残る感じがある。 あまり、良い気分はしない。一口で飲みきれる量だったのが、せめてもの救いだ。 効果は、その後すぐに現れた。 急激な目眩。立っていられなくなってその場に倒れた。 咲夜さんが顔色を変えて寄ってきた。 飲ませたのは貴女でしょうに。 咲夜さんが呟くように言った。よく聞こえなかったけど、確かに聞こえたのは"言ってなかった"。 くそぅ、やっぱり答え聞いてきたな!? どんな答えかは知らないけど、ここまで苦しむとは思ってなかったのだろうか。 全く、人を何だと思っているんだ。 負の思考全開で苦しみ抜いて、やがて引いてくる目眩。落ち着いた頃には、廊下の天井をボーっと眺めていた。 「う……あ……」 喉が痺れているようで、しっかりと声を出せない。 身体を起こそうとしても、気だるくて起きられない。 どう考えたって、毒入りだった。騙されてしまった訳だ。 横を見ると、咲夜さんがこちらを見ていた。 皮肉気味に笑みを作る。が、上手くいかない。 笑えてはいるんだけど、その大事な「皮肉」部分を表現できていない気がする。 やがて、咲夜さんは呟いた。 「……可愛い」 は? 一人の男に向かって"可愛い"ですと? いつでもどこでもかっこよさを求めている男に向かって"可愛い"は男としてのプライドをひどく傷つけることになる。 もちろん、俺もしっかりとした男ですから、凄く凹む訳でして。 凹んでいると、抱きしめられていた。 全身をしっかりと腕の中で包み込まれて、咲夜さんの中にいる状態。 凄く良い匂いがする。忙しくても、その辺は気を使っているんだなぁ。 相変わらず、すっぽりと包み込まれてしまっている。 ……あれ? 俺そこまで小さかったっけ? しばらくそうしていて、喉の痺れと、全身の気だるさが取れてきた。 「あ、あの……咲夜さん?」 咲夜さんの中から何とか抜け出し、声を出す。その声は、いつもの俺の声ではない。 確かに俺の声に似てはいる。けど、声は高くて、まるで声変わりの前のようで―― 「……うわ!」 自分の身体を見回して状況把握。 ――身体が、巻き戻ってる。 つまり、子供になってしまった。 「ちょ、咲夜さん……この状況、説明してもら……」 目の前の人を見る。 その人の目に、いつもの完全で瀟洒な従者の目は無かった。 これは、ヤバい。この人からは逃げたほうがいい。 本能から警鐘が鳴っている。 「し、失礼しました!」 それに従い、咲夜さんとは逆方向に駆け出してこの場から逃げる。 いつもよりも、地面が近い。 走る足が、いつもより遅い。 巻き戻ることによって、こんなにも不便になるとは。 自分の部屋はどこだったか。ここの突き当たりを右に曲がって最初の扉……! 突き当たりの廊下を曲がったところで、何かにぶつかった。 予期しない衝撃に速度を殺せず、その大きな反動に尻餅をついてしまった。 「ごめんなさ――」 「どうしたの? そんなに慌てて」 「…………」 目の前にいたのは、我らのメイド長、咲夜さま。 また、時間を止めたんですね。 俺が苦笑を浮かべると、 その人は満面の笑みを浮かべながら俺を抱き上げた。 気付けば、メイド服姿で咲夜さんの部屋にいた。 言われて気付いたけど、俺は身体が小さくなっている訳だから服とかぶかぶかな訳で。 「それはそれで凄く萌――いえ、何でもないわ。とりあえず、新しい服を用意してあげるわね」 そんな風に言いくるめられ、まずは咲夜さんの部屋へ。 そして出てきたメイド服に批判したところ、人様には言えないような事をされ、みっちりと身体に仕込まれた。何が、とは言わない。 メイド服は着せられ、一人称を"僕"に改められた。しかし、地まではさすがに調教できないだろう。俺は"俺"である。 更に、咲夜さんの事は名前の後に「おねーさん」を付ける事に。 短時間でここまで仕込まれた。もう俺の心身の八割は咲夜さんに染められている。 「いよいよ最後の仕上げね!」 そう言う膝立ち状態の咲夜さんの表情は今までに見ないくらい、楽しそうだった。 もう逆らえない身体となってしまっている俺は、これで最後、と言う事に対する安堵と、この最後に何をさせるのか、という恐怖感で一杯だった。 ちなみに、咲夜さんの膝立ち状態と俺の立っている背は全く同じである。 「○○、次の言葉を言いなさい。いいわね?」 「いいわね……?」 いや、待て。そこは復唱する所じゃないだろ。しかも首を傾げるオプション付き。 自分でも突っ込んでしまうほど、色々とみっちり仕込まれてしまったらしい。 これは呆れられたか、お叱りかな、と思っていたのだが。 「あぁ、もう可愛い!」 銀髪の弾丸が飛んできた。瞬く間に腕の中へ。 「もう大目に見ちゃう! おねーさん大目に見ちゃう!!」 「…………」 この溺愛ぶり。何と返せばいいのか、分からない。 何というか、新鮮だった。 あの完全で瀟洒だった咲夜さんが、こんな風に変わるなんて。 そんな咲夜さんの違った一面が見れて、何となく嬉しい気持ちになっていたのかもしれない。 気付いたら、俺は既に戻れない状況に立たされている事に気付かないまま。 とりあえず、この状況から一刻も早く抜け出したい。 「あの、咲夜おねーさん。さっきの続きを――」 俺が言うと、咲夜さんはハッと我に返り、俺から離れると膝立ちの状態で言った。 そして、少し焦れ気味に先ほどの続きを始めた。 「『僕のお嫁さんになって下さい』。はい、復唱」 「え、えぇ!?」 何を言わせますか、このメイド長。 とても楽しそうな顔で。 とても期待に満ちた眼で。 その顔が、今はとても怖い。 「はい、復唱」 もう一度、促す。 既に調教し尽くされているこの身体はいとも簡単に言うことを聞いてしまう。 「さ、咲夜おねーさん、僕のお嫁さんになって下さい」 だから、変なオプションを付けるな、と。 変な所でツボ突いちゃダメだろ。 知らない自分が、更に上を目指している。 「あぁ、もう可愛すぎる! しかも名指しなんて!」 そして二発目に打たれた銀髪の弾丸。狙いはもちろん、俺。 今度は頬ずりされながら腕の中へ。 「もうお嫁になっちゃう! おねーさん何度でもお嫁になっちゃう!!」 何度でもお嫁って、結婚して離婚して結婚して離婚してを繰り返すつもりですか。 それはそれで疲れる話だ。 「さぁ、もう一度言うのよ!」 「咲夜おねーさん、僕のお嫁さんになって下さい」 「もっとよ!」 「咲夜おねーさん――」 何度もせがむので、その度に同じことを言ってあげた。 最後の方はほとんど機械的になってしまったが、鼻血を噴いていたので、きっと問題は無いだろう。 で、大変な事になったのはその後で。 咲夜さんは止まらない鼻血を手で押さえながら、興奮冷めやらぬ様子で俺に言い放ったのだ。 「あなたはこの部屋から出ることを一切禁じます。安心しなさい、食事は用意してあげるから」 食事とそういう事が問題なんじゃない。この部屋から出られない事が問題なんだ。 しかし、既に調教完了されている俺にそんな事を言えるはずも無く。 「分かりました。咲夜おねーさん」 と笑顔で答えるしかなかった。 咲夜さんは美人だし面倒見も良いからこれでも良いかな、なんて少しでも思ってしまった自分がいた。 で、これは一体いつになったら戻るんだ? ─────────────────────────────────────────────────────────── 11スレ目 481 「・・・ぐっすり寝てるじゃ無いか」 ここは紅魔館、明日は(日付が変わったので正確には今日)クリスマス! 俺は愛しのメイド長にプレゼントを渡すためこうやって侵入しているのだ!! 「靴下は・・・無いなぁ、下げとけっての」 とりあえず枕元はなんなんで横のテーブルの上にマフラーやらなんやら詰まった袋を置いといた 「さて、もうちょっと寝顔を見てたいけど・・・退散しますか」 「んっ・・・え?・・・し、侵入者!!」 寝間着のはずなのにどこからか取り出したナイフをこちらに投擲する、何とか避けたものの頬を掠っていった 次々に投げられる銀のナイフ、雪に喩えるには鋭すぎるそれを何とか避ける 部屋から出てもまだ追ってくる、いっそ窓を突き破って逃げようか、でも空飛ぶそりも天かけるトナカイもいないのだ ぐっすりと寝ていたら物音がした 部屋を見渡したら真っ赤な服で髭もじゃの男が部屋を物色していた 「なっ!」 返り血で真っ赤に染まった服、長い髭と狂気を孕んだ眼 一瞬で解った、不法侵入者だと ベットの下に隠し置いてあるナイフを取り、投げた しかし男はそれを難なくかわすと脱兎の如く部屋を飛び出していった 「逃がすか!」 私は寝間着のままナイフのホルダーを持って男を追った サンタ服は凄く動きにくい、ブーツは愛用のものをはいてきたのだが・・・ ヒュッ 風を切る音と同時にナイフが飛んできた、角で引き離したと思ったんだがもう追いつかれたらしい 「ヘイ嬢ちゃん!この格好見てわかんないか!?俺はサンタだ!サンタクロースだ!アンダスタン?」 「ああなんだ、それは失礼しました・・・なんて言う訳ないでしょ!!」 「うをっ!?おま、死んだらどーする!!?」 相手をするより逃げた方が得策、そう思って背を向けて走り出した 「え?」 前方後方いや、輪のようにナイフが俺を囲んで― 「殺人ドール・・・殺った」 赤い服はズタズタに切り裂かれ、体に無数のナイフが 「・・・び、びっくりした」 「!!?ふ、不死身!?あれ・・・そういえばこの声・・・あれ???」 「ちゃーんす!!」 窓の外に木を見つけた、これを逃す手は無い 「さよならお嬢さん、良い子はゆっくりおやすみ」 ぱりーん・・・がさがさどすん 「・・・○○・・・よね、あの声」 あんな変な格好をしてたし、髭で顔がよく見えなかったけど・・・全然気付かなかった 「・・・・・・サンタのつもりだったのかしら」 随分赤黒い服だったし、ブーツは軍人みたいだったし、挙動不審でにやにやしてたし 「・・・もしかして・・・プレゼントとか・・・期待してもいいのかしら」 ○○が私の部屋にあの格好で侵入するなんて ①いやらしい目だったから、夜這いかしら ②サンタの格好してたし、プレゼントしかないでしょ 莫迦な考えをしながら部屋に戻った、投げたナイフを回収して 「・・・②か」 テーブルの上にはラッピングされた袋が置いてある、幸運にも傷一つ無い がさがさ、ごそごそ マフラー、たんぜん・・・ぬくいなぁ、丁度欲しかったのよー マフラーを巻いてみようと広げた時、床に何かが落ちた 音からして何か重いもの、金属か石? 「あ・・・」 拾い上げたのはお月様のペンダント ガラスか水晶かダイヤか、違いは解らないし、そんな事はどうでもいい ドッグタグみたいな飾りの裏に「Merry Christmas!」とだけ書いてあった 「・・・初めて、クリスマスプレゼント・・・」 寝ないといけない時間だけど、嬉しくて目が覚めた それに、こんなに涙が溢れているのに眠るのはむずかしい この気持ちをもう少し噛み締めていたと言う思いもあったから 「あー・・・寒い、咲夜に殺されるところだったぜ、やっぱり紅魔館へいく時はチェーンメイルが欠かせないな」 ずたずたに切り裂かれたコートを羽織って、ゆっくりと歩いていく 外じゃ「ホワイトクリスマス」何て盛り上がるんだけど・・・黒幕頑張りすぎ 「はぁ・・・喜んでくれるといいんだけど・・・ねぇ」 ぼすぼすと音を立てて雪道を踏みしめ、えっちらおっちらと家に帰るのだった メイド曰く メイド長がメイド服の上からたんぜん羽織ってマフラーしてた、何か凄く不自然だった 門番曰く 凄く暖かそうなのでちょっと貸して欲しいといったら殺されかけた、よほど大切なものなのか 匿名曰く 以前より怒らなくなった、柔らかくなった?と言う印象を受けるようになった 匿名希望 怖くないメイド長というプレゼントをありがとうサンタさん! ─────────────────────────────────────────────────────────── 11スレ目 503 今日は12月25日。所謂クリスマス。 もっとも、ここ紅魔館においては関係のない話だけれど。 数年前までは物珍しさからか毎年パーティが行われていたのだが、やはり吸血鬼がクリスマスを祝うのは おかしいと思ったのか、そもそもクリスマスというイベント自体に飽きたのかは定かではないけれど近年は特に何事もなく過ごされている。 まあ、その方が私も楽ができるので特に問題はない。 「○○、そこの掃除が終わったら休憩に入っていていいわよ。」 年末に向けて大掃除に励む○○に一声かけておく。彼のことだから、きっとそれなりの時間働き詰めだろう。 全く、某門番も彼の十分の一でいいから真面目だと嬉しいのに……。 「いえ、今日は少し用事があるのでなるべく早く片付けてしまいたいのですが……。」 「それなら別に良いけど。あまり根を詰め過ぎないようにね。」 「はい、有難う御座います。」 そう言って廊下の奥へ消えていく彼を見送る。 そういえば今日がクリスマスということは、彼がここに来てからもう一年が経つのか。 確か、初めて会ったのも今日のような重苦しい曇り空の下だった。 里へ買い物に行った帰り妖怪に襲われている彼を見つけ、気まぐれに助けたのが全ての始まり。 外の人間だと聞いて、お嬢様への手土産にでもしようと思い連れて行ったのだが、館の人妖に妙に気に入られてしまい執事という形で雇う事になった。 本人曰く、一流のホテルで働いていた、というだけあって立ち振る舞いは洗練されているし、非常に役立ってくれている。 実際彼が来てから随分と仕事が楽になったと思う……そのせいで余計に妖精メイド達が働かなくなった気もするけれど。 一年前にはこの館に存在さえしていなかったというのに、今では彼のいない紅魔館なんて考えられないような気さえするのだから本当に不思議なものだと思う。 「クリスマス、か。」 自然と溜息が漏れる。パチュリー様によるとクリスマスというのは恋人と二人きりで過ごすものなのだとか。 彼と二人で過ごせたら……なんて、全くもって似合わない。 結局彼に惹かれ始めたのはいつだったのだろう。今年の春ここに残る事を選んでくれたときか、それとももっと前から……。 「あら、咲夜が溜息なんて珍しいわね。」 「お、お嬢様?!申し訳ありません少し考え事を……。」 聞きなれた声に思考に沈みかけていた意識が急速に引き上げられる。 見苦しいところを見せてしまった。お嬢様に声をかけられるまで気付けないとは、そうとう重症かもしれない。 「○○の事で頭が一杯なのはわかるけれど、もう少し周りに気を配ったほうが良いんじゃないかしら。」 「なッ、何を仰るんですか?!私は別に……。」 ニヤニヤと、それこそ悪魔のような笑みで問いかけてくるお嬢様。最近はこの話でからかわれっぱなしだ。 そして毎回無駄だとわかってはいるが必死の抵抗を試み、余計に楽しませるはめになるというパターンを繰り返している。 いい加減飽きてほしいのだけれど、この分だと当分はこのままかもしれない……本当に溜息が出る。 「それはともかく、私は●●のところに行ってくるから。今日はもう自由にしていていいわ。」 「畏まりました。行ってらっしゃいませ。」 クリスマスは恋人と、か……お嬢様が少し羨ましい。 「あ、そうそう。咲夜もこの機会に○○に告白の一つでもしてみたらどうかしら。」 「え……?」 「やっぱり想いは伝えないと、でしょう?」 「え、え?」 「せっかくこんな良いイベントがあるのだから、有効利用しないと駄目よ。」 「あ、あの、お嬢様?」 「それじゃ、頑張りなさいよ。」 言いたい事だけ言って、さっさと飛んでいってしまう。無責任すぎる、と言っても結局無駄なんだろう。 正直いきなり告白なんて言われても、どうすればいいか……でも、お嬢様の言う事も正しいだけに無視は出来ない。 クリスマスも残りはあと数時間になってしまっている。 彼と二人きりで、彼の作ったディナーを食べる。それ自体は別に珍しい事ではない。 お嬢様や美鈴と一緒に夕食をとることはないし、妹様やパチュリー様にいたってはそもそも自分の領域から出てくる事が稀だ。 だから彼と二人での夕食という事自体には慣れている、慣れてはいるのだけれど……お嬢様のせいで妙に意識してしまう。 「メイド長、どうかされましたか?」 「え、いや、何でもないわ。大丈夫。」 「それなら良いのですが……。」 声をかけられただけなのに、心臓が飛び出るかと思った。きっと美味しいだろう夕食の味もほとんどわからない。 私は彼のことが好きだ、それははっきりと自覚している。でも、こんな状態では告白はおろかまともに会話すら出来ない。 これで『完全で瀟洒な従者』とは自分で自分が情けなくなる。目の前ではすでに食べ終わった彼が片付けを始めたところだった。 全く、こちらの気も知らないで、というのは少し自分勝手過ぎるか。 「メイド長……少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか。」 「何、かしら。」 食事が終わり、紅茶を飲んでくつろいでいると唐突に彼から声をかけられた。 少し珍しい真剣そのものの彼の表情に一気に心拍数が上がる。もしかしたら、なんて思うのは自惚れ過ぎか。 「これを。」 彼の言葉とともに差し出される綺麗に飾られた小さな箱。 「開けてもいいかしら?」 「ええ、もちろん。」 期待と不安で心が破裂しそうになるのを抑え、丁寧に包装をはがしていく。 「ネックレス……?」 「今日はクリスマスでしょう?いつもお世話になっているお礼です。」 「ありがとう、大切にするわ。」 私の答えに満足したように微笑む、彼。 『いつもお世話になっているお礼』か、あまりに都合の良い期待をしていた自分が情けない。 それでも、少なくともある程度良い感情を持たれているのはわかった。それだけでも充分嬉しい。あとは少し勇気を振り絞るだけ……。 行くしかない、と決意を固めた瞬間彼がポケットから再び小箱を取り出す。 「……」 「あの、○○……?」 『開けて』と視線で促され、先程と同じように包装をはがしていく。 中身を見る。あまりにも有り得ない出来事に頬をつねりたい衝動に駆られるが、彼の前なので我慢する。 しかし、これは……つまりそういう意味だと受け取ってもいいのだろうか。いや、やっぱり有り得ない、そんな訳はない。でも、もしかしたら……。 「指輪……気に入ってもらえましたか?」 「え、ええ……これも『いつものお礼』……というわけではない…わよね?」 「これは……私の気持ちです。」 箱の中に入っていたのは、ダイヤのあしらわれたシンプルな指輪。 デザインこそシンプルだが、非常に精巧に出来ている。幻想郷でこれだけのものを買うとなればそれなりに高額になるだろう。 ここまでくれば流石に疑いようもない。 「咲夜さん、私はあなたのことを愛しています。」 指輪と同じようにシンプルなプロポーズ、それでも私の涙腺を決壊させるには充分な威力だった。 「……私も……あなたの事が…好き。」 半分鼻声になりながらそれだけ言うのが精一杯で、そのまま彼に優しく抱きしめられる。 「……良かった。」 心底ホッとしたような彼の声にさっきまで悩んでいた自分が馬鹿らしく思える。こんな事ならさっさと告白でも何でもしてしまえば良かったのに、と。 まあ、そんな事が出来れば苦労はしていないし、彼からのプロポーズの言葉が聞けたので良しとしよう。 しばらくして落ち着くと、私は彼へ何も贈るものを準備していない事に気付く。 こんなことならクリスマスプレゼントの一つでも用意しておけばよかった、と今更ながらに後悔するがどうにもならない。 彼はそんな事は気にしないのだろうけれど、これでは私の気がすまない。 「○○、ごめんなさい。私は何も準備していなくて……。」 「別にいいですよ、見返りが欲しかった訳じゃないですから。」 「でも……。」 彼は少し考えるような素振りを見せ、何か思いついたようで再びこちらに向き直る。 「それじゃあ、今日の残り数時間、ずっと傍にいて下さい。」 「そんな事で良いの?」 「ええ。クリスマスは恋人と二人きりで、なんて素敵じゃないですか。」 少し恥ずかしそうに笑う彼。その意見には賛成だけれど、結局私からは何もあげられていない。 だから、せめて。 これからもずっと。 命尽きるまであなたを愛すると誓おう。 聖なる夜に誓いの口付けを。 「あなたが望むなら……今宵私の時間はあなたのもの。」 ─────────────────────────────────────────────────────────── 10スレ目 478 ――俺は、最高の幸せの瞬間にいる 〇〇の時間は、私だけのもの 〇〇の存在する空間も、私だけのもの 〇〇は、私のことだけを考えたまま、凍り付いた時と空間で存在し続ける 最高の方法だ。 片時も離れることがなく、片時も心が通じ合った瞬間が終わらない ついでに、人間として老い、醜くなる私の姿を〇〇に見られることもない。 ――俺は、最高の幸せの瞬間にいる 「ねぇ、咲夜。最近〇〇を見ないけど、人里に帰したの?」 「里にはいないと聞いてますわ。元々外の住民ですから、里心でもついてそちらに帰られたのでしょう」 ─────────────────────────────────────────────────────────── 10スレ目 530 この時間帯なら咲夜さんも空いているだろうか…。 ちょっと会ってこようかな・・・・・。 あ!さ、咲夜さん・・・!えぇっと、その・・・・。 ず、ずっと前から好きでした!ぼ、僕と付き合ってください!! ───────────────────────────────────────────────────────────
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咲夜7 初めてのチュウ 咲夜受編(うpろだ419) 「愛してる」 「え? あ、あの……」 そう呟き、青年は己の身体を使い、少女を壁に追い詰める。 少女は背を壁に密着させ、2人の距離は僅か20センチ程度。その距離が ゆっくりと縮まってゆく。 少女は脇から逃げようとするが、青年は少女の背後にある壁に片腕を立てて、少女の逃亡を阻止した。 間髪入れず、もう片方の手を少女の頬に添えて、少女らしく瑞々しい唇に情欲のまま自らの唇を重ねる。 「~~~~ッ!?」 少女の瞳が大きく見開かれ、声にならない叫びが響き渡った。 想いの丈をぶつけられるように、唇が強く……だが優しく押し付けられる。 仄かに匂う青年の匂いが、麻薬のように少女の精神を惑わしていった。 少女は青年が押しつけてくる唇を、首を振りもぎろうとする。 だが、その動きには、ほとんど力が込められていない。 少女は、スラッとした細い両腕で青年彼を引き離そうと、その胸を押す。 だが、その動きにも、ほとんど力が込められていない。 青年は少女が本気で嫌がってはいないことを理解していた。 少女がその気になれば、この状態から脱出することはおろか、青年を叩き伏せることなど造作もないからだ。 にもかかわらず、少女は青年のされるがままに、その唇を貪られ か細く身を震わせる。 既に、少女の頬は紅潮し、その吐息は熱く上気していた。 青年の温かい吐息が頬に、首筋にかかり、その心地よさにゾクゾクと背筋を震わせる。 じわじわと湧き上がる甘い快楽に、少女が身を任せようとした矢先―――― 「ん……ぅ……!?」 少女の瞳が再び、驚きに見開かれる。 青年の舌が少女の口の中までを侵略しはじめたのだ。 既に、心臓の鼓動音はドクン、ドクンと彼女自身の耳に聞こえるほどに激しく高鳴り 少女は――――これ以上されたら自分はどうなってしまうのか――――という恐怖を表情に孕ませる。 その間にも、青年は思うがままに少女の口腔内を嬲り者にしていく。 まずは、唇の裏側を撫で回し、次いで優しく歯と歯茎の間に沿って舌を滑らせる。 そして、最後に少女の脳髄が蕩かされ痺れたように動かない舌を優しく蹂躙し、痺れを解きほぐしてゆく。 少女の四肢から、力が抜けてゆき、膝がガクガクと力なく震える。 けれども、少女が抱いていた恐怖は期待に塗りかえられ、少女は青年の唇と舌に貪られるままになってしまっていた。 少女自身の舌がもみゃくちゃに、めちゃくちゃに掻き回され、彼女は 氷が溶けるように じわじわと痺れが溶けてゆくのを実感していた。 「…ん……ぅ…」 青年は少女の腰に左手を回し、ともすれば崩れ落ちそうになる少女の体を支えた。 そして、少女の左手首を優しく掴み、そのまま己の指を滑らせ少女の指に絡める。 少女が、自らの舌をおずおずと、だが自ら青年の舌に絡めようとしたその時…… ――――! ――――……! 少女の茹った意識に、何者かの声が届く。 「―――――!!」 はっとして視線を声が聞こえた方向に走らせるが、そこには誰一人いない。 しかし、声は次第に近づいて来ている。 このままでは、十秒と経たずに青年と少女にはち合わせるだろう。 もし、このまま見つかったら。と恐ろしい想像が少女の頭をよぎった。 僅かに残った総動員させ、甘く蕩かされていた思考を必死で修復していく。 そして、さらに声が近付いてきた その時―――― 「ありゃ……」 青年が間の抜けた声を上げた。 それもそのはず、今の今まで腕の中に抱いていた少女が一瞬で消えてしまったからだ。 「やり過ぎたかな?」 その一秒後に、ニ人のメイドが曲がり角から姿を現すのを青年は見た。 ・ ・ ・ 一方、こちらは紅魔館のとある一室―――― 「……何やってるのよ 咲夜、ノックもなしに」 突然の乱入者に、少女の主――――レミリアは僅かに不機嫌そうな声をあげた。 ただ、その瞳には怒りの色はほとんど無く、どこか咲夜の姿を楽しんでいるような節がある。 「はぁ……はぁ……は…ぁ…」 咲夜は、荒い息をつきながら、閉じられた部屋の扉を背に座り込んでしまっていた。 その顔は耳までもが紅色に染まっており、レミリアに言葉を返すこともできない。 ○○の手から逃れ、手近にあった空き部屋に飛び込んだのだが、何故主がここにいるのかと不思議に思う。 しかし、やはり今はそれどころでは無かった。 未だフルスロットルで激動する心臓の鼓動を止めるのに精一杯だ。 「はぁ……」 しばらく時間がたち、ようやく落ち着いたのか、まずは「も、申し訳ございません、レミリア様」と、座り込んだまま頭を下げ一言。 「……部屋の外で、あの男とよろしくやっていると思ったら」 「――――!!??」 主にはすべて見透かされている。 その事実に再び咲夜の心臓の鼓動が跳ね上がった。 「ううっ……」 弱々しい呻き声をあげ、茹った顔を主に見られまいと俯く。 そんな従者の貴重な姿を生温かい視線で見守りながら、レミリアはふと首を傾げた。 何故、咲夜はいつまでも座り込んでいるのだろうか――――と。 「どうしたのよ、いつまでも座り込んじゃって?」 「い、いえ……それがその……」 「?」 「こ…腰が……」 ほのかに想いを寄せる男に強引に唇を奪われた時、あまりの驚きと、喜びと、心地よさのために、腰が砕けてしまったのだ。 その事実をレミリアに告白することを恥じ、俯きながらボソボソと口を濁す。 咲夜は――――時を止めた世界で動けるのは、彼女のみであることに――――己の能力にこの上なく感謝していた。 必死で這いずり、手近の部屋に逃げ込む無様な姿、見られたらたまったものでは無い。 たとえそれが、愛しいあの男であったとしても。 「ぷっ」 あまりの可笑しさと、咲夜の愛らしさにレミリアは噴き出す。 瀟洒で常に氷のように表情を崩さない自分の従者がずいぶんと変わったものだ、と。 そして、咲夜の背後に視線を移して―――― 「――――だそうよ、○○」 「え?」 咲夜が引き攣った顔でゆっくりと背後を振り返る。 いつの間にか、背後の扉は開かれており…… そこには先程まで咲夜の唇を思うがままに蹂躙していた男が彼女をニヤニヤと見下ろしていた。 とたん、咲夜の心臓の鼓動が三度跳ね上がる。 「い、いつの間に!?」 「ほら、○○……咲夜を介抱してあげなさい」 レミリアが、○○に勝るとも劣らない程度に顔をニヤつかせて命じる。 「はいよ」 無論、○○がレミリアの命令を拒む理由などは無い。 むしろ、やるなと言われてもしただろう。 ○○は、両腕をそれぞれ咲夜の背と膝の下に回し、軽々と持ち上げた。 「や、ちょ、ちょっと! 降ろして! 降ろしなさい!」 「ヤダね」 抱えあげられながら、腕の中で咲夜は足をじたばたさせてもがく。 そんな彼女を笑顔で見つめながら、○○は子供のようにペロリと舌を出し片目をつぶる。 しかし、未だ彼の腕の中では、再び頬を紅く染めだした少女が暴れていた。 だから、○○は僅かな悲哀を表情に滲ませて―――― 「……嫌なのか?」 と、一言。 とたん、叱られた子供のように咲夜は大人しくなる。 悲哀が一杯に織り込まれた○○の表情と言葉に、抵抗する気概さえも挫かれてしまったのだ。 「…ぅ……」 この男は本当にずるい、そんな顔で、そんな聞き方をされたら断れないじゃない――――と、咲夜は心の中で呻き声をあげた。 「それじゃあ失礼します、レミリア様」 ○○はレミリアに退出の礼を尽くし、開いていたドアから外に出ようとする。 無論、彼の腕の中には咲夜姫が抱えられたまま。 「え、ちょっと……どうして外へ…?」 「ん? いや、だから咲夜の部屋に行って介抱するんだが」 あまりの衝撃に咲夜の目の前が真っ暗になった。 咲夜の部屋は、今彼女がいる部屋から歩いて5分程度。 この館の中ではそれほど遠いわけではないが、今の咲夜にとっては その距離も時間も那由他に等しい。 もし、こんな姿 誰かに見られたら――――と考えると、何のために必死に○○から逃げたのかわからない。 「や…ダメ! お願い それだけは許して!」 「いいじゃん、見せつけてやれば」 「やっ、やめ――――!」 外に出ると、いきなり通りがかったメイドと鉢合わせした。 彼女は○○の腕の中に咲夜が抱きかかえられているのを見て、あんぐり口を開ける。 まるで、鳩が豆鉄砲を喰らったかのように。 咲夜が覚えているのはそこまでだった。 あまりの羞恥と――――本人は気付いてはいないが――――それに勝るとも劣らない喜びに気を失ってしまったのである。 そして案の定、向こう2カ月は紅魔館はその話題でもちきりになってしまった。 天狗の少女のカメラにその場面を抑えられなかったのが、不幸中の幸いとも言えた。 『初めてのチュウ 咲夜受編』end 7スレ目 800 「咲夜さん!あなたに会ったその日から、俺の時間は止められてしまいました!!」 返事は 「私があなたの時間を止めたのならなら今度はあなたの時間を動かしてあげる」 ってもらいたいな 10スレ目 133 拝啓 木々の紅葉も日ごとに深まってまいりましたが、 貴方にはますますのご隆昌のこととお慶び申し上げます。 また、採用試験の節には皆様方に大変お世話になり、ありがとうございます。 そのうえ、採用内定をいただきまして誠にありがとうございます。 早速、採用承諾書をお届けいたしますので、どうぞよろしくお願いします。 なお、本採用までの残り少ない日々をさらなる勉学に当て、完璧な従者になるためにがんばります。 そして、従者になった暁には少しでもお役に立てるような執事になれるように努力を怠らないように心がけます。 今後ともご指導くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。 貴方のいっそうのご繁栄と皆様のご健勝をお祈りいたしまして、お礼のご挨拶とさせていただきます。 敬具 平成××年 ○月△日 丸々 ○○ 紅魔館 当主 レミリア・スカーレット 様 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「ふぅ・・・」 俺はペンを置き、ぐっと伸びをした。 集中し物事に取り組んだ後に来る脱力感が気持ちいい。 先日、あの真っ赤な真っ赤な紅魔館に就職試験を受けに行った。 何故あの紅の悪魔のいる紅魔館なのかというと、その・・・なんだ、一目惚れってやつだ。 三ヶ月ほど前、里でのバイト中に見かけた銀髪でメイド服の少女。彼女に恋をしたから。 その後は毎日大変だった。 執事になろうと決めた。 周りの友人達は馬鹿にしたので〆た。 執事の勉強をしようと独学で頑張った。 ただ彼女と同じ場所で、同じ時間の中働きたいと思ったから。 だが独学には限界がある。 そんな時、紅魔館の図書館の事を知った。 幸い紅魔館の図書館は一般人も入れたので、勉強ついでに下見もできた。 感想・・・広い、綺麗、広い、紅い、紅い。多少目に悪い気もしたが、慣れればどうってこと無い。 それからは里と図書館を行き来する日々が続いた。 そんなある日、館内で彼女と会話を交わすことができた。 何時ものように図書館で勉強していた時に、声をかけられた。 「執事になりたいんですって?普通の人間ががんばるわね」 俺は緊張のあまり、しどろもどろで言いたい事も言えなかった。 彼女はそんな俺を見て言った。 「まともに話が出来ないんじゃあ、執事なんて無理ね」 その一言で俺は落ち込んだ。情けないと思った。 やはりこんな男が紅魔館で執事など馬鹿げている。 彼女はさらに続けた。 「でも、貴方はこのところ毎日ここに来て勉強しているらしいじゃない。努力は何時か実るものよ、がんばりなさい」 やる気再浮上。 その日は図書館から20冊ほど本を借りていったので、司書さんが結構驚いていた。 そして運命の日、採用試験の日がやってきた。 受験するのは俺一人でなんだか心細かったが、門の前では中国風の・・・そう、美鈴さんから激を入れてもらった。 「緊張しないで。○○さんなら絶対受かりますから!」 何度も図書館に通う内に、門番の美鈴さんと仲良くなっていた。 美鈴さんのその言葉と笑顔に自分の緊張が大分和らいだ。 館に入ると、内勤の妖精メイドさんに待合室に案内された。 待合室は他の部屋と比べて質素だった。恐らく集中するために無駄な装飾品を取っ払ったのだろう。ありがたい配慮だ。 時が来るまで何度も何度も脳内でイメージトレーニングをする。 ・・・あれ? 戸って押し戸、引き戸? ・・・・・・あれ? 当主の名前なんだっけ? ・・・・・・・・・あれ? 俺やばくね? 助けてメイド長。 「えー○○さん、準備が済みましたので、出てすぐ左手側の部屋へ行ってください」 「は、はい!」 来た。 素早く案内状の当主の名前を確認し、身形をもう一度整え、さらにもう一度名前を確認し決戦の場へと向かった。 「いやー、緊張してたな俺」 面接時のことは全て忘れてしまった。 確か面接官には図書館の小悪魔さんと副メイド長と、彼女がいた。それしか覚えていない。 精一杯自分をアピールできたと思う。 変なミスは・・・・歩く時手と足が同時に出ていた事ぐらいだ。 彼女はどう見てくれたのだろうか。 今目の前に採用内定書があるが、やはりこんな紙切れよりも本人から直接どうだったかを聞きたい。 「そういや来週からか・・・」 来週から研修期間に入る。実際に館内での仕事を体験し、執事になるための本格的な勉強をする期間。 恐らく彼女と接する機会がぐっと増えるだろう。 そして研修を乗り越え本採用が決まれば、さらに彼女との距離が縮まる。 何年かかるか解らないが、執事長となり彼女の隣に立つ事も夢ではない。 「っしゃ! やる気出てきた」 この想いがあればどんな苦しい時でも頑張れそうだ。 一目惚れから始まったこの恋物語、今やっと序盤が過ぎたところだ。 目指すはゴールの職場結婚のみ。他のフラグは全部無視だ。 「うおおおおお!!! 待っててくれマイスウィートォォォォ!!!」 「おい○○! こんな夜中に五月蝿いぞ!!」 「あ、すみません」 隣の家のハクタクに怒られた。 10スレ目 281 「ちょっと・・・もう少しどうにかならないの?」 「だから無理だって!これ以上は」 里のとある店、軒先に並べられて商品からして雑貨屋、万屋であろうか 薬に服、履き物、鍋だの装飾品だの一貫性がない 「もうちょっと・・・ね?いいでしょ?」 メイド服のリボン?をするりと解き、胸元をはだけてみせる 「・・・乳でかくして出直しな」 「っ!もういいわよっ!お邪魔しました!」 会計に座っていた俺の頬を銀のナイフが掠っていった 「こえー・・・あ・・・代金」 しょうがないので紅魔館に請求書を、そんな風に考えたときナイフが貫いているのは壁だけでないことに気づいた 「あ、お金・・・お金をナイフで刺すなと何度言えば・・・」 壁のナイフを引き抜いて、お金を回収、こんな状態でもちゃんと使えるのが幻想郷のいいところだな 「しかし・・・俺の理性はいつまで持つかなぁ」 強がって見せても、さっきのはだけた胸元が、目に焼きついてしまっているのだった 「・・・私ってやっぱり魅力ないのかなぁ?」 胸は無いけど、スタイルも悪くないと思うし 何よりメイド服といえば問答無用のリーサルウェポンって言ってたのになぁ(byパチュリー 何処かの誰かも「胸が無い?馬鹿だな、そこがいいんじゃないか!!」って言ってたし 「あ、そうか」 お嬢様に頼んでみよう 「お色気むんむんな服ぅ?」 「はいっ!どうしてもTKOしてやりたい奴がいるんです!」 お色気むんむんなTKO?話がまったく見えてこないわ 「それと!明日おやすみをください!」 「え、ええいいわよ好きになさい」 ありがとうございますと一礼し、十六夜咲夜は退室した 「・・・勢いでOKしたけど・・・明日紅魔館は機能するのかしら?」 はぁ・・・あの咲夜が、何事だろうか? 「おはよう美鈴!行ってくるわねっ!」 「い、いってらっしゃいませ・・・」 翌日朝、勢い良く館を出て行く咲夜、それを何事かと噂する妖精メイド そして驚き桃の木山椒の木で一日を迎えた美鈴、そんなこんなでメイド長不在の紅魔館は一日を乗り切れるのか!!? 「あれ?まだ閉まってるのね・・・どうせ鍵掛けてないんでしょ」 予想通り裏口のドアは簡単に開いた、泥棒でも入ったらどうするつもりなのかと小一時間 「おはよう・・・暗いわね」 部屋どころか家が暗い、この家の主はいまだ目を覚ましていないらしい 「寝室は何処かしら?」 襖を開けるとすぐにわかった、布団の敷いてるのだから当然か 「・・・あ、寝てるのね」 寝息が聞こえる、上下する胸・・・起きる気配はない 何を思ったのか、私は彼のいる布団にもぐりこんだ 「あ、暖かい・・・・・・」 何だろうこの暖かさ、すごく、安心できる―― 「ん・・・」 朝か、少し寝過ごしたかな、だいぶ明るい・・・なんか腕が重・・・ 「え?・・・・え?」 現状を整理しよう、俺は今目を覚ました、昨日まで、寝付くまではこの布団には俺しかいなかったはず なのに俺の腕の中には見覚えのある少女、十六夜咲夜が?・・・居るねぇ 夢なはずはない、今起きたんだから 「・・・・事後?」 彼女は俺の腕の中にすっぽり納まる感じで、でも微妙に隙間風が・・・うーさむ、いやそういうことではなくて 「んん・・・あれ・・・?」 ばっちりと目が合った、完全に、お互いに固まった 「お、おはよう・・・」 「お、おはようございます」 とりあえず布団を出た、続いて彼女も 「あー・・・着替えるから台所の方に行っててくれるか?」 「は、ひゃい!」 噛んだな 「まぁつまりお布団暖かそうだなぁ、と思って、気付いたらすやすやと・・・そういうことだな?」 「はい・・・ごめんなさい」 「いや、謝らなくても別に・・・美味そうな朝食と君の抱き心地で十分」 「ば、ばか!」 あ、また赤くなった、まぁそれはおいといて・・・和食も上手だなぁ、メイドなのに 「・・・ごちそーさん」 「おそまつさまでした」 また沈黙、台所には食器を洗う音のみ 沈黙に耐えかねた俺は 「ねぇ」 「・・・なんだ?」 先に話しかけてきたのは彼女の方だった 「今日・・・お店の手伝いしてもいいかしら?」 「は?いや、俺は別に構わんが・・・せっかくの休みだろ?」 「ええそうよ、私の休みなんだから私のしたいことをするの、だから今日は貴方のお手伝い」 「ふむ、まぁ・・・いいけどな」 「ありがとーございましたー・・・十六夜、今ので食油切れたから倉庫から出してきてくれ」 「幾つあればいい?」 「うーん、5つあれば大丈夫だろ」 「わかった」 昼過ぎ、なかなかどうして今日は儲かっている 塩と油の在庫が尽きるかもしれない、寒くなってきたからなぁ、油の方は相当売れる、食油も売れる 「一月分の売り上げが今日だけで・・・」 「いらっしゃい、油?ちょっと待ってくれ、もう直ぐ」 「○○ー持って来たわよ」 「お、丁度来た、ありがと十六夜、早速一つ」 持って来た油が直ぐ売れた そういえばさっきからお客さんがニヤニヤと、生暖かい目で見てくる 「そういえば噂になってるのよ、○○ちゃんが嫁さん貰ったって」 「はぁぁぁああああ!!?なんで?いったいどこから」 「え?彼女は違うの?」 十六夜咲夜のほうを、みて、おばちゃんはそう言った 「え?わ、私はそういうのじゃ」 真っ赤になって照れながら否定する十六夜、その様子を見て更にニヤニヤするおばちゃん おばちゃんは去り際に 「非のないところに煙は立たないわね、んふふふふ」 といって去って行った 「あー・・・」 気まずい空気、今朝のような感じだ 「なぁ十六夜・・・いや、咲夜」 「えっ?な、に?」 「前々から言おうか悩んでたんだがな、今日を逃したら言えないような気がするんだ、だから言わせてくれ」 いつの間にか常連になっていた彼女、安くしろオマケしろと五月蝿いメイド、何だかんだでいつの間にか 「俺は君が好きだ、愛してる・・・俺と結婚してくれないか?」 「え、あ、そ、その・・・お、お嬢様に聞いてみないと」 「咲夜!・・・俺は君の気持ちが知りたい」 「あ・・・はい、不束者ですが、よろしくお願いします」 「咲夜・・・此方こそ、これからもよろしくな」 俺は今度こそしっかりと、彼女を抱きしめた、もうそこに隙間風なんて通らないように 「!?おねー様?何で泣いてるのっ?」 「嗚呼フラン・・・娘が嫁にいくときの両親の気持ちが、痛いほどわかったわ」 「おねーさま・・・でも悲しんでいられないでしょ?咲夜がいない紅魔館が荒れ放題じゃ咲夜も安心してお嫁にいけないよ?」 「そうね・・・小悪魔を司書からメイド長にしてがんばってもらうしかないわね」 「(いや、あんたががんばれよ)」 哀れ小悪魔、仕事量が一気に増えるけど君なら乗り切れるはずだ!がんばれ小悪魔!負けるな小悪魔! ~新婚生活はまだ始まったばかりだ!~ 10スレ目 356 「咲夜、今夜出かけようか」 客の途絶えた昼時 ぼーっと店番をする俺は、昼飯の片づけをしている咲夜に、話しかけた 聞こえているとは思うが返事がない 少し間をおいて 「いいけど・・・変な事したら駄目だからね」 たぶん台所で赤くなっているのだろう ほんとに初心な娘だ、思わずからかいたくもなるが・・・我慢 「ほら、今夜は十六夜だろ?月見しようぜ」 結局その後客はあまり来なかったので早めに店じまいした 「けど大丈夫かしら、こんな夜に山に登るなんて・・・妖怪とか」 「大丈夫だって、お前と俺のデュエットなら妖怪なんて楽勝さ」 「コンビ、もしくはタッグ・・・だと思うけど」 今はまだ夕方、俺は背中に酒瓶、片手にランタン 咲夜は弁当と・・・シーツを持っている 後1時間もあれば日も暮れるだろう 「荷物持とうか?」 「ん、大丈夫よ」 山とはいえ一応道になっているので歩きづらい事はないが・・・ 「歩きづらかったら言え、おぶってやる」 「大丈夫・・・貴方って過保護なのね」 前にも言われたぞそれ、お嬢様並みに過保護って言われたなぁ・・・はぁ 「おお・・・ギリギリ夕焼けも見れたな」 「ほんと・・・綺麗」 山頂に着くとシートを広げて寝転がった 手近な木にランタンを下げ明かりをとる、思ったよりは明るい、やはり山頂は違うな 「はい、どうぞ」 「ん、いただきます・・・うん、美味い」 さんどうぃっちと熱い紅茶、吐く息が白くなる・・・程ではないがやはりは寒いのに変わりない 「咲夜、コッチにおいで」 夕食を食べ終わり、後片付けを済ませた咲夜を呼び寄せた 何も言わず、寄り添うように 肩が軽く触れるぐらいの距離 遠慮がちに距離をつめる、俺はそれがじれったい 「ああもう!よい、っしょ」 胴に手を回し、持ち上げて、抱き寄せた 「ッ~!?」 俺の腕の中にすっぽりと納まってしまう咲夜、小さい・・・こんなに小さかったんだなぁ 「ほら・・・ソラを見て」 高く上がった月、満月 彼女と同じ・・・十六夜 「わぁ・・・綺麗」 言葉を交わすのも忘れて、丸い丸い大きな月に、魅入ってしまった 「今までありがとう・・・ばいばい」 「どうした?」 「十六夜にね、今までお世話になりました、って言ったの」 「?」 「もうこんな機会ないだろうから」 「またくればいいだろ、年に一回ぐらいは見に来ればいいさ」 「違うわよ・・・十六夜の私が見る最後の十六夜ってこと」 「?」 「だから!・・・これからもよろしくね、アナタ」 「っ!?あ、ああ・・・よろしく、咲夜」 俺達は口付けを交わした、自然と、そうなった 「ひゃっ!や、やだ、んっ」 咲夜は俺に背中を預けるかたちで座っている、つまりまぁ・・・無防備なわけで 首や、鎖骨に口付けしたり、下を這わせてみたり、色々と調子に乗ってみた、言い訳するなれば月のせいだと言っておく 「ここがいいの?」 「や、ち、違んっ」 リボンを解いて胸元をはだけさせた 「咲夜・・・その・・・いいかな?」 「・・・こんなにも月が綺麗だから、い、いいよ」 「出来るだけ優しk「たーんたーんたーぬきの・・・きん・・・た」 藪から上機嫌で飛び出してきたのはどっかの屋台の雀 「え、あ・・・・お邪魔でしたか?お邪魔ですね、あはは」 みすちー は 逃げ出した 「・・・」 「・・・」 完全に、空気をぶち壊してくれた 「えーと・・・咲夜?」 「あ、あはは」 そういうムードでもなくなったので、そそくさと退散する事にした 山を降りて、静かな里の通りを歩く、何処も寝静まっている 神社の方で明かりが見えたので宴会でもやっているのだろう 「ねぇ○○」 「ん?どうした?」 「ぎゅーって・・・して?」 「・・・」 「んー・・・ありがと」 「・・・さ、もうすぐ家だ」 「ええ、帰りましょう」 手を繋いで、夜のお出かけを名残惜しむように、ゆっくり、ゆっくりと、歩んでいった 「そうだ咲夜」 「何?」 「鶏肉が食べたいなぁ」 「それじゃあ飛びきり息のいい雀を捕まえてきますね♪」 まださっきの事を根に持ってました みすちー は 逃げ出した! しかし回り込まれた END 7スレ目 830 「俺はな、お前の時計を動かす鍵になりたいんだ」 7スレ目848 咲夜さん、さーやって呼んでもいいですか? 「何故部下に呼び捨てにされなければならないのかしら。」 …スミマセン。じゃあさーちゃんで 「ちゃん付けにされるのはガラじゃないわ。」 …ナカナカテゴワイデスネ。じゃあ可愛くさっきゅんなんてどうでしょう? 「私はパチュリー様ではないのですよ?」 ……ソーデスカ。わかりました、みんなと同じメイド長と呼ぶことにします。 「…。(それでは愛が感じられないわ)」 どうかしましたか? 「だめよ、あなたは今まで通り名前で呼びなさい」 こんな咲夜さんですか? 7スレ目 952 ――ガタガタ。 紅魔館の数少ない窓ガラスが、量と反して大きな音を立てている。 嵐だった。それも、数年に一度というほどに大きな、風と雨の合奏である。 「ねぇ、○○」 「……はい」 そんな紅魔館の中に存在する従業員たちの私室の一室にて、二人分の声が蝋燭の火を揺らしている。 その度に二つの影が揺れ、まるで外から響いてくる乱暴な音楽に、身を躍らせているようだった。 それが、二人の僅かな恐怖心を燻らせている。 「ちゃんと、そこに居るわね?」 「あぁ、ちゃんと――」 少女の問いに答えた青年の声が、近くに響いた雷鳴に遮られる。 その合間に僅かな悲鳴の音を聞いて、青年は微かな笑みと保護欲を心に滲ませていた。 「大丈夫ですか? 咲夜さん」 「だ、大丈夫……よ」 強がりを隠しきれていない、普段とは違う咲夜を前に、青年は今度こそ微笑を顔に出してしまった。 幸い、暗い部屋の中では気付かれなかったようである。 青年は今、咲夜の私室にある椅子の上に座していた。 全ては一瞬で、雷鳴と同時に青年は、この部屋に運び込まれていたのである。 そして、青年は少女らしさの残る咲夜の姿を前に、部屋に残ることしか出来なかった。 それは正に、惚れた弱みというものなのである。 「――っ!」 刹那、狭くは無い部屋の中を、白光が塗りつぶしていた。 泣きそうな咲夜の顔が、雷のそれに照らし出される。 遅れて届く雷鳴と共に訪れた暗闇の中、青年は引きずられるようにベッドへと倒れこんだ。 「咲夜……さん?」 「手……繋いでて……お願い」 普段の姿からは想像もつかない弱音を、咲夜は溢していた。 力強い姿からは想像出来ない細い体躯、凛とした姿とは矛盾した泣き顔。 そんな年相応の少女が、青年の目の前に存在していた。 湧き出す粗野な衝動を、僅かな理性で必死に押さえ込む。 咲夜の髪からは、甘い香りがした。 「いいんですか」 「……」 「俺、男ですよ……」 「――貴方なら、いいわ」 その言葉が、留めていた理性を打ち砕いてしまった。 獣の意思を持った腕が、白い肌をすべる。 少女の身体は温かかった、誘うような甘い香りがした。 そして何より、咲夜の身体は震えていた。 肌を滑り、下着の感触を得た指先が、止まる。 「――あ」 鈍い音を聞きながら、青年は腹部に重い衝撃を感じた。 止まっていた指先が、痛みと共に咲夜のから離れていく。 「そこまでしろとは……言っていないわ」 「ご、ごめん……俺」 脂汗と冷や汗が、同時に青年の背を濡らす。 嫌われただろうかと、指先は僅かな震えを見せていた。 「でも、ちゃんと止めてくれたわね」 暗闇の中、咲夜が微笑む気配を近くに感じた。 思わず、青年は顔を上げる。その唇に、微かな感触を覚えた。 「これでお預け……信用してるからね」 「……は、い?」 長い嵐の夜、熱のこもった青年は眠れそうも無かった。 そして、紅魔館の最上階に閉じこもる吸血鬼の泣き声は、夜明けまで続いたという。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 10スレ目 731 「あ、○○」 長い廊下を歩いていると、何処からともなく声をかけられた 「?」 見回してみるが誰もいない こんな長い廊下、隠れる場所など・・・? 「こっちよ」 この声は咲夜さんか? しかしどこ・・・え? 「さ、咲夜さん!?そんなところで何を?」 窓の外側からぴょこっと頭だけが出ている 「何って割れた窓を直してたのよ・・・あんまり近づくと灰になるわよ」 「え・・・危ない危ない」 うっかり日の光を浴びそうになる、まだ自覚が足りない証拠だ 「よっ、と」 窓を乗り越えて廊下に着地 乗り越える時にスカートの中が見えtげふんげふん 「ねぇ○○・・・今夜時間あるかしら?」 「え、こ、今夜ですか?何か作業が入れば解りませんが、今のところ空いてます・・・何かあるんですか?」 「ちょっとした宴会よ、博麗神社で」 「ああ、噂に聞く宴会ですか・・・面白そうですね」 「でしょ?それじゃあ行けそうだったら日が暮れてから私の部屋に来てちょうだい」 「はい、解りました」 「それじゃあお互いにがんばりましょ」 用件が済んだのか、変な工具類を持って足早に廊下の角を曲がっていった 「・・・宴会かぁ・・・どんな人が来るのやら」 博麗の巫女さんは人間の時に見たことある 鬼がいるらしいけど・・・俺も鬼の端くれだから、友達になれるといいなぁ 紫様には会いたくないな、聞いた話レミリア様より怖いらしい 「おっと、仕事仕事」 俺は足元に置いた荷物を抱えなおした 速めに仕事を終わらせてしまうために、がんばろうではないか 後10分もすれば外に出れる程度の暗さになるだろう レミリア様は行かないらしい フラン様はいつもどおり外出禁止 そういえば・・・パチュリー様は? まぁ大人数で集まるのは苦手そうだし、そもそも外に出るのは嫌いらしいからな こんこん、乾いた木の音が響く 「咲夜さーん、きましたよー」 「○○?ちょっと待ってねー」 言われた通りちょっと待った 「ごめんなさい、待たせたわね」 「いえいえ、問題ないです・・・」 なんか違うと思い、じっくりと見てみた スカートがちっと長い?リボンがちょっと派手? 手首になんかアクセサリーが・・・珍しいと言うか、女の子みたい、じゃなくて女の子だったな 「な、なに?」 「あ、いや、えっと・・・似合ってますよ」 「え?・・・ありがと」 何気ない一言で、ここまで上機嫌になってくれるのか そう思えば、世のモテル男はこれを無意識でやってるんだなぁ、凄いな 「お、メイド長のお出ましだぜ」 「あら、遅かったじゃ無い」 白黒の不法侵入者と、紅白の巫女が出迎えてくれた、その後ろではわいわいがやがやと、いかにも宴会らしい騒ぎ声 「お?○○じゃ無いか、宴会は初めてか?」 「よう魔理沙、酒は飲めるが腹の方が減ってる」 「えっと・・・誰?」 なんと、巫女さんのほうは俺をご存じなかったらしい 館で何度か遭遇してると思うんだが、まぁ扱い的には雑魚の束ね役の雑魚て感じだし 「紅魔館で執事をしている○○です、以後よろしく」 「博麗霊夢よ、ここの巫女をしてるわ・・・よろしく「れーいーむー熱燗マダー」 「・・・まぁゆっくりしていってね」 「さて・・・まあ飲むでも喰うでも早く行かなきゃな、なくなっちまうぜ」 「そうね・・・行きましょ○○」 「は、はい!」 手を引かれて皆の輪に入った いつの間にか握られていた手に、少しどきりと、した この鬼・・・いつになったら潰れるんだ? 最初は気さくに話しかけてきた伊吹さん(年齢不詳) 酒蔵が潰れるぐらいの量を飲んだのではないか?それに酒が入るにしたがって饒舌に・・・五月蝿くなって来る 出来れば酔いつぶれてくれるとありがたいのに・・・全然だ チクショウ!八岐大蛇だって酔いつぶれたのに!! 「どうしたの○○く~ん全然飲んでないじゃんYO!」 「大丈夫ですよ!伊吹さん!どうぞどうぞ!」 「あ、どもども~・・・んぐんぐ」 ちょ、ざるってレベルじゃねぇぞ!? このまま頑張るっきゃないなぁなんて思っていたら、嬉しい助け舟が来てくれた 「ちょっと○○を返してもらうわよ?」 「あー咲夜ずるーい」 ずるずると引き摺られて、端の方に腰を下ろした 「咲夜さん、助かりました」 「ふふ、お疲れ様」 あれ?なんか雰囲気が・・・? 「咲夜さん?なんか酔ってません??」 「酔ってる?私が?・・・大丈夫よ、ふふふ」 大丈夫に見えないです、うふふって笑ってます、何が楽しいんですか? ニコニコしてますよ?上機嫌ですね 「ねぇ○○」 「な、なんですか?」 ちょ、近い近い、顔が近いですって よくみたら目の焦点が合ってないじゃ無いですか?大丈夫ですか? 「ちゅー」 「え?ん、ぐ」 何が起こったか解らなかった だって完全に油断していたから、だってあのメイド長だぜ?酔ってるからと言えこんな破廉恥な、その・・・キスを 「んちゅ、んんっ」 官能小説で言う所の淫らな水音がしております もうなんかドロドロで、べたべたで・・・ 「ぷぁっ」 「ぷはっ・・・ふぅ」 「えへへ、○ー○ー♪」 「おわっ」 咲夜さんは俺に体をあずける様なかたちで抱きついてきた 「さ、咲夜さ・・・ん・・・ね、寝ちゃった?」 抱きつかれたまま固まる俺、抱きついたまま寝てしまった咲夜さん そして・・・周りからの痛い程の視線 「・・・」 「大胆ねぇ」 「写真に収め済みです♪」 「言っとくけどここ神社よ」 色々と終わった、俺の命とか人生とか でもちょっと儲けもん?だって、腕の中の感触と、さっきのキスだけで、お腹いっぱいだぜ、だぜ 今のうちにと、腕の中で眠る咲夜さんを抱きしめておいた ───────────────────────────────────────────────────────────
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.,〟__,rnmnm、_____ ,... ´ .. .. 丶、´¨ `¨` .. .. - 、 . . .`丶 /´´ .. .. .. .. . .. .`¨ }.. .. .. .. .. . .. . `丶 . . . 丶 ,∠/ . . .. .. .. .. . .. .. .. .. . ..|i . . ... .. .. .. .. .. .. `ヽ . . . .` / .//./ . .. . .. ../ . .. . ..; .. ..|i .. . .. .. .. .. . .. . . .. .. ..ヽ . . . .`丶 / //// /; ; ;/ ; i}i ;.i} . . . . . .ソ /´ {i /// { ; ; ;/ i i}=ソソソソ彡= i|ヽ . . . / ゝ、 ソγ {; ;{ ; ; / / /} i} i ミミミ |.. .丶. . ./ 丶、r ii i{ { ; {i {i //ソ ソ 、 ミミ |i ヽ. ../ .丶 .|; ;ソ{ リ /ソ/ソ i} `=-- | |. . .ヽ `ヽ´ 丶|i;{ | ;; i; ;{ソ .,x=≦ ×≧x..| .||. . .丶. ヽ まだ誰も帰ってきていないし、 ∧{ ゞ;;;;ソ| |亡 叨 .亡叨 | .i } |、. . .丶} ゝ ヽソ .| i 、 /i |´ | i | . . .ヽ 被害も分からないのに、 ノ .乂 | .入 .斤| | i .| . . .ヽ / ノ . .. .| i > ー ./| ;;| ;;;| .|. .| . . . ヽ 村長さんまで・・・ ./ /.. . ./ {| |;;;;;;;;;;`个 . .,.イ .|;;;;} ;;} ;;;| } { . . . .// /_{;i i∬{;;;;..⊥. .⊥;}; ;;};;;;| .| .i . . . . . .ヽ /´ .,〝´¨三≡{|Ⅳ/ ´ }.} | }`¨丶、. .| . . . . . . ヽ /. . .γ 从彡乂/-、丶___ ,|.|ミミミ.ソ `.、 . . ./. . . { .| ..》´/ レゞ∥}{}{}{}{}{}.|.|ヾ`ソ } . . . . . . . .ヽ . . . . | .| ∨ /{ ´.,/ヽ夂γ、}.| |ヾソ , / |. . . . . . . .| |、ー´┘、} i´ヽ`ヽ ` 、_.|_ .i /. .i . . . . . . . . ヽ . . . . | / ◎ 人 |ヽ` /´¨ |/,. . i . . . . . . .. . . . `ヽ 咲夜 バイパー村住民・ひこにゃんの嫁 (AA出典 Milky way:御影咲夜) ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
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咲夜14 新ろだ100 秋晴れの風が気持ちいい日。紅魔館の庭では咲夜が洗濯物を干していた。 白いシーツが秋風になびき、鼻歌が風に乗る。 「ん~♪ ふんふ~ん♪ ふふ~ん♪」 「ご機嫌ですね。咲夜さん」 そこに執事長の○○がやってきた。 しかしいつもの燕尾服ではなくつなぎにTシャツ、手ぬぐいを頭に巻いたまるで用務員のような格好だった。 「そうね。天気がいいから久しぶりにいっぱい洗濯物を片づけたわ」 「お嬢様にはあまり良いとは言えませんけどね」 「そうね。○○は?」 「庭の手入れです。結構枝が伸びていたので剪定を」 しばらく軽い世間話を続け、ふと空白がうまれ二人の視線がからまる。 顔を赤らめて、○○に近づくと咲夜は彼と口づけを交わす。 「……んっ」 ○○が目を開けると爪先立ちで肩に手を置いて懸命にキスをする咲夜の顔が近くにある。 ふんふんと鼻で息をして上気した顔は普段の凛としたメイド長からは考えられない可愛さだった。 「んっ、んん、ちゅっ……んふぅ、くちゅっ……ふうんっ、ちゅぴ、んんん……んっ」 どれ位の時が経ったのであろう。名残惜しげに咲夜の唇が離れると頬を赤くしたままはにかむ。 「うふふ……」 指で唇を撫で笑顔になる彼女を見て○○も笑みがこぼれる。 胸の前で握りしめているのが自分の下着だというのもなんだか照れくさい。 そこに一陣の風が吹き、洗濯物が翻ると―― 目を丸くした小悪魔がいた。 「ひゃわああぁぁあぁぁっ!?」 「はひぃいいいぃぃっ!?」 両者驚きで声をあげて真っ赤になる。咲夜なんて茹でダコのようになり、わたわたと○○の下着を振り回し小悪魔も洗濯カゴを持ったままモジモジとしている。 確かにここまで接近されていれば洗濯物など遮蔽物にすらならないだろう。 「こぁ? どこまで見てたんだい?」 「はははは、はいいっ! さ、咲夜さんがは、鼻歌を歌っていたところからですっ!」 つまり全部見られていたということか。 「わわわ、私のことはお気になさらずどうぞごゆっくり~~~~!!」 すごい速さで駆けていってしまった。 「…………」 しばらく二人とも恥ずかしさで動けなかった。 咲夜の紅茶の入れる手つきは慣れたもので優雅さと気品さが溢れ、最近では優しさも追加された。 「その紅茶は誰に持って行くんですか?」 「パチュリー様に頼まれたのでこれから持っていくのよ」 紅茶の良い香りが漂い、○○はカップに鼻を近づける。 それを咲夜はそっと手で制す。 「行儀悪いわよ。これ運び終わったら入れてあげるわよ」 「ああ、ありがとう。咲夜さんの紅茶は美味しいから」 「○○も腕は悪くはないけどね。精進すればまだまだ伸びるわ」 と、またしても視線が絡む。 今度は○○から咲夜に口づけをする。 「……んっ」 彼女の吐息はまるで最高級の紅茶のような香りがした。 しかしそのなごりを楽しむ猶予もなくパチュリーの睨む視線に気づく 「きゃあぁぁあああっ!?」 今度は咲夜だけが声をあげる。 ○○はまたか、という顔だしパチュリーは未だ○○と咲夜を睨んでいる。 「……遅いと思ったらやっぱり乳繰り合っていたわけね」 「ちちちち、乳繰り合ってなんか!」 「パチュリー様、いったいどうしたんですか?」 「ああ、魔理沙が来たからもう一杯紅茶を頼むわ。今度は早めにね」 言いたいことをいうとパチュリーは台所を後にするが最後にドアのところで振り向いて忠告をした。 「それと、所かまわずちゅっちゅしてたら色ボケ夫婦にしか見えないわよ」 その忠告に咲夜はまた気落ちしてしまう。 ○○は変わらないが。もう完全に開き直っている。 「あうう……」 ○○が買出しに向かうということで咲夜は必要なものを纏めたメモを読み上げていた。 「と、早急に必要なものはこれくらいね。はい、これメモね」 渡されたメモを受け取る時、○○と咲夜の指が触れる。 少しあかぎれがあるがそれでも柔らかく、細い指が透けるように白い。 またしても視線が絡まる。そうなればやることは一つだ。 「あ、あと、これもお願いね……」 ポケットから新しいメモを取り出す。 ○○はそのメモを覗き込む。 「……す、少しでいいから」 「……少しでいいんですか?」 「……うん、…………んっ」 今回は軽く触れるだけのキス。 これなら誰にも見つかることはないはず……だったのだが扉から顔を覗かせているフランがいた。 声はあげなかったがずざざざっと○○から遠ざかる咲夜。若干涙目なのが潤んだ瞳から分かる。 やれやれとため息をついてフランに○○は近づいた。 「どうしました? 妹様?」 「あ、え、う、うん……○○がお買いもの行くって聞いたからお菓子買ってきてほしかったの」 「分かりました。いつものでいいですか?」 「うん、いいよ。……○○と咲夜、ちゅーしてたの?」 「はい、そうですよ」 もはや隠す気もない○○。 フランはほにゃっと可愛らしい表情になった。 「いーなー。私もちゅっちゅしたいー」 「そのうち誰か妹様を好きになってくれる人が現れますよ」 「そうかな?」 「そうです」 「早く会えるといいなー。私だけのひと」 そのまま機嫌良く、スキップしながら去っていくフラン。 ○○はヘナヘナと崩れ落ちていた咲夜に手を差し出し、起こしてあげた。 「はぁ……どうしてこう……」 「それじゃ今後いっさい口づけしないことにします?」 その言葉を聞いた咲夜は見る見るうちに不安げな顔になっていく。 今にも泣きそうな咲夜を見て、慌てて○○は取り消す言葉を口にする。 「じょ、冗談ですよ」 「……言っていいことと悪いことがあるわ」 膨れっ面で腰に手を当てて可愛らしいスネかたをする咲夜であった。 「それじゃ行ってきます」 「気をつけてね」 「分かりました」 門まで見送りに来てもらい○○は扉に手をかけるがキョロキョロと辺りを見渡し誰もいないことを確かめると不意打ちで咲夜の唇を奪う。 「きゃっ」 「油断してましたね」 そしてもはやお約束。お手洗いから帰ってきた美鈴と鉢合わせする。 いきなり姿が消えたかと思うと咲夜は美鈴にナイフを突き付けていた。 「いいいい、いきなり何するんですかぁ!?」 「いい? 今会ったことは忘れるのよ。いいかしら?」 「わわわ、分かりました!」 解放され息をつく美鈴。 「そんなに恥ずかしいのならしなければいいのに」 「それじゃ我慢できないんだよ。俺も咲夜さんも」 「ひゃーラブラブですねー。羨ましいです」 「それじゃもう一回みせてあげようか?」 「はいっ!」 「えっ!? ちょっ!」 咲夜に近づき顎をくいと持ち上げ上向きにさせるとじっと瞳を見つめる。 咲夜は顔を赤くして目を閉じると○○のキスを今か今かと待ちわびる。 ○○は顎からすっと手を離し門を開ける。美鈴と咲夜はぽかーんと間の抜けた顔をしていた。 「ふふっ、ああいうものは何度も見せるものじゃないんです。だからさっきのでお終い」 「なっ! き、期待させておいてそれはないでしょ!!」 「咲夜さん! 励むのです!! ○○さんがメロメロになるまで励むんです!」 「ええ! 貴女に言われるのは癪だけど!」 二人のやり取りにくすっと笑うと○○は里に向けて歩き出した。 「……ところで励むってのは……よ、夜の営みのことかしら……?」 「え? もうそこまでいったんですか!」 「わー!! く、口が滑っただけよー! こ、これも忘れなさい!!」 みなの話を聞いてレミリアはため息をついた。 「まったく、あの二人はしょうがないわね。暇さえあればちゅっちゅちゅっちゅして」 「で、どうするの? レミィ」 「決まってるでしょう? 二人を引き離して私が○○を『異議ありです!!』咲夜っ!?」 ドカーンとけたたましい音を立てて扉を開け咲夜が乗り込んでくる。 「いきなりなんでそんな展開になるんですか!」 「いいじゃないの! 咲夜のものは私のもの、私のものは私のものなのよ!」 「どこのガキ大将のセリフですか!」 結局いつものやりとりが始まる。 レミリアも○○のことが気にいっていたのだが、咲夜に先を越されてしまったため何かと理由をつけ○○を奪おうとする。 もはや日常じみた二人の口喧嘩に他のメンバーは静観する。ヒートアップしてきた二人はだんだんマズいことを口走る。 「だいたいその胸はなによ! 詰め物まで入れてまで大きく見せたいの!? ああ、そうでもなきゃ○○が振り向く訳ないわよねぇ」(そこまでよ!) 「これは自前です! ○○が弄ってくれたおかげで詰めなくてもよくなったんです!! それよりお嬢様みたいな幼児体型じゃ彼を満足させることなんてできません!」(そこまでっていってるでしょ!) 「ふん、味わってみなければこの身体の良さは解らないわ! むしろ幼女じゃなきゃ欲情できなくさせてあげるわ!」(ちょっと聞いてるの!) 「おっぱいって触ってくれる人がいないと邪魔なだけですよね」 「肩こりの原因の一つですしね」 二人を止めようと息巻くパチュリーと何処かズレた話を始める美鈴と小悪魔。 そんな中ドアを開けてフランが中を覗き込む。 「やっぱりみんなここにいたんだ。またいつもの喧嘩?」 「あ、妹様。何か御用ですか?」 「うん。○○がおやつ作ったからどうですか、だって」 「それじゃ二人は放っておいてお茶にしましょうか」 「ほらパチュリー様も行きましょう」 「は、離してっ! 私は秩序を守るのよーっ!!」 この言い争いは明け方まで続いていく…… 「ふぅ、お嬢様にも困ったものだわ……」 「あはは」 ○○は睦み合った後にこうして布団の中で話を聞く。主に咲夜が淡々と愚痴を零すのだが○○は嫌な顔一つしない。 それが彼女のストレス発散になっているのだし、聞いてあげることで少しでも負担が軽くなればいいと思っているからでもある。 「ごめんね……毎回愚痴ばっかりで」 「いいですよ。それで咲夜さんの気が晴れるなら」 「……そういうとこ、好きよ。甘えたくなるじゃない」 胸に顔をすりよせ微笑む。○○はすっと手を伸ばして何もつけてない胸をつんと指で突く。 大きくはないが柔らかく張りのある乳房がぷるんと揺れる。 「やんっ。えっち」 「だって咲夜さんが可愛いから」 「褒めてもなにも出ないわよ」 胸板に顔を埋めて上気した顔でほう、と息をつく。 「○○、愛してるわ」 「俺もです」 「眠るまで顔見つめていていい?」 「いいですよ」 「それじゃおやすみ……いい夢を」 しばらくして彼女の重みと温もりに包まれてすうすうと寝息を立てる○○を見つめ、何度か起こさぬようにキスをして咲夜も眠りにつく。 この二人にさすがお嬢様のグングニルも割り込むことはできないようだ。 ─────────────────────────────────────────────────────────── うpろだ1509 音もなく、動くものもなく、心なしか色もない、寂寞とした――けれど見慣れた世界。 能力を使えばすぐにでも展開される、私以外の如何なる存在も停止する世界。 私だけの、世界。 それが、これほどまでに口惜しく思えた事はない。 「…………○○」 目の前にいる――いや、「在る」青年。最近、執事としてこの紅魔館に迎え入れた、何の変哲もない普通の人間。 普段なら、そんな者をこの館が受け入れる事はない。ここは悪魔の住処、ただの人間のいるべきところではない。 では何故、彼がこの館に迎え入れられたのか。 決まっている。 お嬢様が、御気に召したからだ。 「……○○……」 解っている。 彼は、お嬢様のモノで。 私は、お嬢様の従者。 その所有はお嬢様のもので、 その自由は、お嬢様が握っている。 ――解っている、のに。 「○○…………」 今、彼はお嬢様と妹様の間に挟まれ、冷や汗をかくような表情を浮かべている。 おそらく、いつものように御二人が○○を取り合い、それを宥めようとして失敗しているのだろう。御二人は今にも弾幕を展開しそうな状態だ。 そしてそのまま、動かない。 動かない。 ――そう。 「○○……○○……」 私が今ここで、どんなに呼びかけても、 「○○、○○」 どんなに叫んでも、どんなに想っても、 「○○っ、○○っ、○○っ!!」 私の心が、彼に届く事はない。 解っている。 そしてそれは、たとえ時が止まっていなかったとしても、同じ。 解っている。 解っている。 ――けど、だからこそ。 「○、○……っ!」 だから、せめて。 せめてこの「時」だけは、私の。 私だけの―― 「――愛してるわ、○○……」 彫像のようになっている彼にそっと口付け、彼の体を抱き締める。 そしてそのまま安全な場所まで移動して、能力の展開を終了する。 再び時が動き始めた後、彼がどんなリアクションを取るか。そんな事を思いながら。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ227 2夜連続で行われた紅魔館でのクリスマスパーティー それも咲夜さんと俺を残して皆潰れてしまうという形で終わりを告げた。 そして今は2人で片付けをしている。 「日にち的な意味ではクリスマスが終わりましたね、咲夜さん」 「えぇ、でもまだパーティーの後片付けが終わってないわよ?」 『パーティーは片付けるまでがパーティーなの』 そういわんばかりにテキパキと皿を片付けていく咲夜さん、流石瀟洒なメイド長 確かにそうですね、でも今は・・・・・・ 「咲夜さん」 「なに?」 「渡したい物があるんです」 今だけは、この時だけは、俺とあなたの時間にさせてください。 「これは・・・・・・?」 俺は執事服のポケットに大事にしまっていた小箱を咲夜さんに渡した。 「最初は指輪にしようとしたんですが、仕事の邪魔になるかと思ったんでちょっと趣向を変えてみました」 中身は咲夜さんの象徴、時計とナイフを銀や宝石の欠片で模した小さなペンダント 「中々苦労しましたよ。両方の形を崩さないでうまく組み合った物にするのは」 パチュリー様や魔理沙、アリスなど、そういう技術に詳しそうな人に知恵を拝借してようやくだった。 「そう・・・つけてみてもいい?」 「えぇ。というかつけてもらわないと、せっかく作ったんですから」 ふふっ、そうね――と咲夜さんは嬉しそうにペンダントを身に着けた。 「・・・・・・どう?」 「似合ってますよ」 「よかった。これで似合ってなかったらあなたに悪いもの」 それはない。だってそれは咲夜さんを想って咲夜さんの為だけに作られたもの。 似合わないはずはない。 「ありがとう・・・○○」 瞬間―――心臓が止まるような錯覚に陥った。 咲夜さんが笑ったのだ。 今まで見たことないような笑顔で。 「それじゃあ私からもプレゼント」 「えっ?」 咲夜さんが俺にプレゼント? ―――――シュル 能力を使ったのか、気づけば首に温かみを感じた。 これは・・・ 「マフラー?」 「そうよ。あなた、いつも首が冷えて寒いって言ってたじゃない」 あぁ、そういえばそんなこと言ってたような。 「・・・・・・暖かい、すごく」 「うん。後これはおまけ」 チュ――――― 唇に柔らかいものが触れたのが、咲夜さんの唇だと気づくのに時間がかかった。 「さ、ささささきゅやさん!???」 「うろたえないで、私も恥ずかしいんだから」 確かに咲夜さんは頭で湯が沸かせそうなほど赤くなっていた。 いや、俺もだろうか。 「・・・・・・(//_//)」 どうしよう、なんか気恥ずかしくなってきた。 こんな時は素数を落ち着くんだ、2、3、5、7、11・・・。 「あっ・・・」 頭が冷えたのか、一つ思い出した。 そういえば、まだ言ってなかったっけ。 「咲夜さん、言っておきたいことがあるんですが」 「奇遇ね、私もあるわ」 「じゃあ同時に」 「そうね。わかったわ」 「「せーの」」 「少し過ぎちゃいましたが、咲夜さん。メリークリスマス」 「少し過ぎてしまったけど、○○。メリークリスマス」 来年はきっと過ぎずに言えますよね?咲夜さん。 そう思いつつ、俺は咲夜さんと片付けを再開した。 最愛の瀟洒なメイド長が作ってくれたマフラーのぬくもりを感じつつ・・・。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ241 騒がしさを劈く大声が、今日は頭の芯に響く。 今月の二十五日という日は紛れもなく、かの有名な某の誕生を祝う日であり、向こうの騒ぎもそれが故だ。 もっとも、某の誕生を祝う気持ちや心など誰も持ち合わせてはいない。 酒と肴、そして飲みあう仲間さえ居れば、後は名を借りて騒ぐのみ。 ――どこへ行っても、一人は独り。 くずかごの中に積まれた歪な鼻紙を見て、昨日見た外の光景が頭に浮かんだ。 塵も積もれば山となる。人里も、神社も、森も、山も、そしてこの紅い館も、皆が皆、白銀の世界。 小さな明かりが里を彩り、大きな喧騒が館を暖め、どこかの家では眠れぬ夜を愛で語り明かす人達がいるのだろう。 騒ぎ合って、真に結構。 愛し合って、真に結構。 そんな今日ほど、虚しい日はない。 突然、僕には縁のないざわめきが、部屋にずかずかと入り込む。 華奢な造りの扉に目をやれば、今日は休む暇も無く齷齪働いているはずのメイド長が一人。 開けられた扉はすぐ、音も無いまま喧騒のみを締め出した。 「どうかしら○○、具合のほうは」 「あまり」 ベッドの傍の椅子に座し、先程のものとは対照的に、深く包み込むような柔らかい声で咲夜さんは僕に問うた。 自分は今日、その返事を曖昧に濁した。食事の度に様子を見に来てくれる咲夜さんへ、三度も。 「あまりあまりって、今日はそればっかりね。本当に」 「よりにもよってこの日とは……油断、してました」 「熱は」 がさついた自分の手を当てるよりも早く、きめ細かい手を咲夜さんは僕の額に添えてきた。 心地良い冷たさ。この時期にしては殆ど荒れていない、しなやかな肌の感触。 両方とも、いつかは何の気遣いもなく感じれるようになりたい。その決意が、僕には欠けていた。 「……あんまり下がってないわね。明日まで長引くようなら、永遠亭にでも」 溜息と共に自分の額を離れた手は、銀白の前髪に隠された額へとたどり着く。 まだ余韻が残るこちらの額を感じる最中、ふと、自分の腹から不機嫌な音が漏れ出た。 「あー、その……」 「いいわよ。朝も昼も殆ど食べなかったんだから、当然よ」 小さく屈み、一杯になったくずかごの袋の端を結びつつ、咲夜さんは僕の食の細さを嗜めた。 ここに来て三ヶ月ほど経つが、どうやら僕には咲夜さんから弟のように見られている感がある。 一人っ子の自分が咲夜さんに惹かれた根底には、そういった事も流れている。 「ああ、それと。執事が居ないのは適当に誤魔化しておいたから、私以外はここに入らないわ」 あまり人が来ては、落ち着かないでしょうしねぇ―― 咲夜さんの気遣い。一言残されてすぐ、また独りとなった。 今まで咲夜さんを支えていた椅子の上にお盆が一枚。 その上に湯気の立つお椀と蓮華の一組が、所在無さげに佇んでいる。 やがて騒がしさは影を潜め、廊下から妖精メイド達の疲労を帯びたおしゃべりが細々と耳に入ってくる。 数少ない窓があるこの部屋から遠目に見る人里に、もう明かりはない。 熱は、館に静寂が押し迫るのとは反対に、徐々に引きつつあった。 「あ、そうそう、おゆはんの感想を聞いておきたいんだけど」 食器を下げに来たついでか、今晩の感想を咲夜さんからねだられた。 今後の参考にでもするのだろう。しかし、思った以上に言葉は出ない。 見た目、温度、塩加減、それらが全体の均衡を崩さず、見事に調和していた卵かけのお粥。 好みまで考慮された点も含め、正直なところ、一分の隙もないからだ。 唯一隙を突くとすれば、舌の一部分がうまく機能していない所為で、味がぼやけていた点だろう。 ただそれは、咲夜さんの隙ではなく、僕のものであるのだが。 「美味しく、なかった?」 少し八の字に眉を歪め、不安に満ちるその瞳で、咲夜さんは黙り込む僕を見つめる。 本当に美味しい物にはえも言えないが、うんうん唸り、まだ微熱に浮つく頭で無理に吐いた。 「よく、わからなかったです。でも……ずっと、食べていたい味、だった、かな」 「参考にならないですよね」こう付け足し、その場を誤魔化すように笑った。 御椀の湯気はいつの間にか消え去り、後は時の経過に従って冷める一方にある。 「頭おかしい人に聞いても、やっぱり何の参考にもならないわね」 研がれた言葉で乙に澄まされる。瀟洒の名も伊達ではない。 傍からみてもやはりおかしいらしいから、今日は早く寝よう。 枕に頭を横たえて見る咲夜さんは、常にあるどこか凛とした空気を、纏ってはいなかった。 「……ずっと食べさせてあげないことも、ないわ」 十二時の鐘と言葉の始まりが、寸分違わず重なった。 鐘の音がそのように聞こえさせたのか。少なくとも自惚れる自分だけはそう聞こえた。 意味深いような言葉に思わず身を起こし、咲夜さんの顔を見上げてみる。 目の前に立つ人はおくびにも出さず、深く紅い瞳が僕だけを見下ろしている。 「それはありがたいですが、毎日お粥はちょっと」 「鈍いのは、熱のせいかしらね」 鳴り終わった後のそんなやり取り。 咲夜さんの言葉に、僕は気づかされた。 ……いつか打ち明けるはず想いが、不本意な形で伝わってしまったのは合点がいかない。 いずれ、もう一度。熱に惑わされない、真っ直ぐな心を、せきららな言葉で。 「……そろそろ、お嬢様が呼ぶ頃じゃないですか?」 「そうね、もう行くわ。でもその前に」 そう言って腰を屈め、僕が身を横たえるベッドに咲夜さんは左手をついた。 秋波を送り、僕の顎に右手を添え、下に誘われてから少し驚いた僕に、咲夜さんの口の両端が小さくつり上がる。 程なくずいと鼻と鼻が触れぬばかりに近づけられ、甘い吐息が鼻腔を撫ぜ返す。 後には、額に麗しい唇の感触だけを残し―― 「……早く、私を見つけられるといいわね?」 靴は残さず、今日も瀟洒な従者は紅い悪魔の傍へと戻り着く。 窓硝子の外に広がる夜空からは、皓々と輝く氷輪の光が優しく部屋に差し込んでいる。 この光はこの冬限りで、もう少し経てば見れなくなるだろう。 それまでに、きっと―― 一年後の孤独のホワイトナイトに、別れを。 ─────────────────────────────────────────────────────────── 新ろだ253 「あら、博麗神社の穀潰しじゃない。まだ巫女に追い出されていなかったの」 「ふん。何の用だロリコンメイド。お嬢様中毒は大丈夫なのか?」 もはや日常と化した咲夜と○○の口喧嘩。 今日も出会い頭に罵詈雑言の弾幕ごっこが開幕した。 「何よその態度? 三枚目が何を格好つけてるのかしら?」 「三枚目なのはお前だろ。主にその服の下」 「……ハリネズミになりたいのかしら? このヒモ」 「誰がヒモだ。食い扶持くらい自分で稼いでる」 「その割にはろくなものを食べてないみたいだけど?」 「何を偉そうに。米つきバッタの分際で」 バチバチと火花を散らしながら、○○と咲夜が睨みあう。 外の世界から迷い込んできた人間である○○は、博麗神社に居候している間に、すっかり幻想郷に馴染み、帰ることが出来なくなってしまった。 そんなわけで、人里で仕事をこなしつつ、博麗神社に住み続けている。 人柄の良さが幸いしてか、人妖問わず好かれ、里の人間にも歓迎されるほど、信頼も厚い。 そんな○○と珍しく仲が悪いのが、同じ人間であるはずの咲夜だった。 全く腹立たしい。あいつに会ったおかげで最悪の気分だわ。 咲夜は鼻息荒く紅魔館の門をくぐる。用事も済ましたし、早くお嬢様のお姿で気持ちを落ち着けなくては。 それもこれもあいつに会ったせいだ。 今度と言う今度はこのナイフでハリネズミにしてやる。 そんな物騒なことを考えながら、玄関を通ると、パチュリーが人目を気にしながら、一つの部屋に入っていくのが見えた。 パチュリーが図書館から出てくる、しかもこそこそと。 これがおかしなことなのは、ここのメイドならばすぐに分かること。 いぶかしく思った咲夜は音を立てないように、その部屋に近寄る。 「パチェ遅いわよ。……咲夜には見つからなかったでしょうね?」 「ええ、聞かせるわけにはいかないから」 聞こえてきたのは、主のレミリアと、先ほど部屋に入っていったパチュリーの声。 「でもレミィ、本当なの? ○○が咲夜に惚れてるって」 「ええ、本当も本当、大本当。霊夢からの情報よ、間違いないわ」 ……今、なんて? 耳を疑う咲夜。 「信じられないのよね。あんな喧嘩ばかりなのに」 「好きな娘には素直になれないっていうのがお約束じゃない」 「まあ、どっちでもいいけど、もし本当だとしたら、○○も馬鹿よね。咲夜なんかに惚れるなんて」 「普段喧嘩ばかりだしね。もし咲夜が知ったら、どうなるか予想つくわ」 「さんざんにこき下ろすでしょうね」 「○○もそれを分かっているみたいね。咲夜のことを考えては悶絶してるそうよ」 「悪い奴ではないんだけどね」 「むしろいい方なんじゃないかしら。基本お人好しだし、真面目だし」 「受けた恩は、利子つけて返さないと気がすまないのよね、あいつは。それが仇に対してもそうなのが玉に瑕なんだけど」 「悪口言われると黙ってられないのよね。惚れた相手に対しても」 「まあ、その真っ直ぐなところは、見ていて気持ちいいけどね」 「霊夢がぼやいてたわ。重症だって。口喧嘩した後の負のオーラといったらないらしいわ」 「咲夜に惚れたのが運の尽きね。なんとかして諦めてもらうほかないんじゃないかしら」 「相手が咲夜だしねえ」 部屋の中から二つの溜め息が聞こえる。 どうやら、喧嘩相手だった○○は、自分に気があるらしい。 ……そう言えば、聞いたことがある。心を許したい相手に、素直になれないタイプの人間がいると。 思い当たる節が幾つもある。 ……まさか、本当に? ○○は義理堅い働き者だということは知っていた。 ハクタクからも信頼されているし、二人が言ったようにどこまでも真っ直ぐだ。 喧嘩ばかりだった理由。 いつだったか、「冷たすぎる」と指摘された自分になかった暖かさを、彼は持っている。 それが、とてもまぶしかった。 ……本当は、とてもうらやましかった。 そう自覚した後に生まれたのは、恋慕。 「……わたしも、ずいぶんひねくれ者ね」 まったく、とんだ災難だったぜ。 あそこであんな奴に出会ってしまうとは。まあ、仕方ない。茶でも飲んで落ち着こう。 博麗神社に戻った○○は、すぐにお茶を入れ、お帰りの一服を決め込んだ。 「咲夜のことよ」 「いきなり来て何を言い出すのかと思えば」 「音速が遅いにも程があるぜ」 そこに聞こえてくる三者三様の声。霊夢に魔理沙にレミリアといったところか。 女三つで姦しいとはよくいったもんだ。 しかし、咲夜? あの女がなんだって? 「そろそろ決着ついてもらわないと困るのよ。屋敷がまともに機能しなくて」 「しかし、○○も本気で気付いてないとしたら、恐ろしく鈍感だな」 「地獄行きよ。あんなに大きな好意に気付かないなんて」 ……はい? 「咲夜ったらもう、時を止めるのも忘れてぼんやりして仕事が進まないし。 そう言えばこないだの朝なんかナイフの雨霰だったわ。なんであんな奴が夢にー!? なんて絶叫しながら」 「いっそのこと全部○○にばらしたらどうだ?」 「無理ね。あいつのことだし、罠だとか俺は騙されないとか言い出すわよ」 「全く、咲夜ってば何であんな奴に惚れちゃったのかしら?」 「瀟酒な従者の名が泣くぜ」 「でもまあ、実際仕事振りは見事よね」 「当然。自慢の従者だもの」 「ああいうのに気に入られた奴は、きっと幸せになるんだろうな」 「信じた相手は裏切らないわよね。他人には冷たいけど」 「何だかんだでいい娘だと思うんだけど……」 「○○が気付けば万事解決なんだがな」 「無理無理。好意に対する鈍感を煮詰めて漢方薬にしたような奴よ」 「本当、なんとかならないものかしらねえ」 ……冗談、だろ? あの咲夜が? 恋患い? しかも、相手は俺!? ……そう言えば、聞いたことがある。心を許したい相手に、素直になれないタイプの人間がいると。 思い当たる節が幾つもある。 ……まさか、本当に? ああ、確かにあいつはいい女だよ。悔しいがそれは認めるさ。 だけど、あの愛想の無さはありえない。 ……いや、それこそが、本心の裏返しだとしたら? ひょっとして、俺は酷い思い違いをしていたのかもしれない。 咲夜の気持ちを踏みにじっていた。謝らなければ。 ……違うな。謝るだけじゃなく、咲夜を知りたい。 俺は彼女を知らなすぎる。 だからこそ、今まで平気で喧嘩を売って…… 会いたい、咲夜に。 話したい、咲夜と。 「こんな形で気付かされるとは。……俺も、まだまだだな」 「っ!○○!?」 「のおっ!?」 唐突に聞こえた声は今まで夢想してた少女のもの。 「……咲夜?」 「なんでここに?」 「いや、俺ここに住んでるわけで」 「あ、そうか」 忘れてたわ、と頭を抱える咲夜。 「むしろなんで咲夜がいるんだよ?」 「……お嬢様を迎えに来たのよ。……悪かったわね」 「あ、……いや。……お疲れ様」 「な、なに? 突然」 いつもとは違う反応に戸惑う咲夜。 それを見て顔を赤らめる○○。 「あ~……その」 気まずい沈黙が場に降りる。 「ほ、ほら、レミリア迎えに来たんだろ」 「え、ああ、それじゃあ」 取り繕うように○○が言うと、取り繕うように咲夜は去っていく。 「……まいった。いい女じゃないか」 その後ろ姿に見惚れながら○○はつぶやいた。 最近仕事に身が入らなくて困る。 気が付くと時間を止めて机に向ってる自分がいるのだ。 「……これも違う! どうやって書いたら、この思いを全部網羅するのよ」 「咲夜?」 「お、お嬢様!?」 いつの間にか後ろにいた主に驚く咲夜。 「珍しいわね。仕事をさぼって自室にこもりきりなんて」 「……え? 時間、ああっ!」 「能力を忘れるくらい集中して、一体何を書いていたのかしら?」 「……申し訳ありません」 「休みがほしいのなら、一日くらいはなんとかなるわよ?」 「……いえ、大丈夫です。なにか?」 「ちょっと人里までいってきてほしいの」 「ひ、人里……いえ、かしこまりました」 内心の動揺を隠しつつ、時を止め準備を済まし戻る咲夜。 「それでは行ってまいります」 「あら? ずいぶん丈が長いのね」 着替えたメイド服は、見慣れない膝下までのロングスカート。 「その…… あまり短すぎるのも下品ですし……」 「いままで気にもしてなかったのに? まあ意外な姿にときめく男もいるかもね」 「そ、そんなつもりじゃ」 「はいはい。頼んだわよ」 「……行ってまいります」 そそくさと屋敷を出ていく咲夜を見送りながら、レミリアはほくそ笑んだ。 「ここまでうまくいくなんてね。さあ、最後の仕上げっと」 言いながら、咲夜の部屋へと足を運んだ。 「……眠い」 このところずっと眠りが浅い。 寝付いたと思うと咲夜が夢に出てくる。 一回「そこまでよ」な夢を見た夜なんか、本気で自分を滅したくなった。 「だらしないぜ。霊夢が感染ったか?」 「夜中いつまでも起きてるからよ。なにごそごそ何やってるわけ?」 「いや……まあ、眠れないから気晴らしに、な」 ……咲夜への想いを書きなぐってるとは流石に言えない。 「ということは○○もみたんだよな、さくや」 「は?」 「さくやは綺麗だったなって」 「ああ、そうね綺麗だったわ、さくやは」 突然べた褒めを始める二人。 「お、お前ら何言ってるんだよ」 「お前は思わなかったのか? さくや、綺麗だって」 「いや、……だからな」 「どうなのよ、○○。わたしも知りたい。さくやを、どう思った?」 まさかこいつら、分かってて遊んでるんじゃなかろうな? だがしかし、そうやすやすとからかわれる俺ではない。 「……べ、別にどうとも思わなかったね」 ……からかわれる俺ではない。 「そうか? ○○なら分かると思ったんだがな?」 「そうね。いままで意識してなかったけどあれはあれで良かったわ、十六夜」 「……ぐっ!」 「本当は気付いてるんだろ? 十六夜の良さに」 「言っちゃいなさいよ。さくやは良かったって」 「お前ら……!」 いい加減にしないと本気で…… 「いい眺めだったな。昨夜の十六夜月」 「……は?」 「そうね。満月の後があそこまで風情が有るとは思わなかったわ」 「……なんだよ。月のことか」 「あら、なんだと思ったの?」 「え……? あ、いやなんでもない。なんでもないんだ!」 危ない。バレるところだったぜ。 「変なヤツだな。まあ、いいや。それじゃ頼んだぜ」 「なにが?」 「あ、ごめん。言うの忘れてたけど、今日ここで宴会」 「……そうかい。俺の仕事は決まったわけだな」 「そ。準備よろしく」 「……はいよ」 ○○が去った後二人は顔を見合わせる。 「で、首尾は?」 「ばっちり。ちょっと探ってみたら出るわ出るわ。大量の書き損じと一緒に」 「こっちもだ。レミリアから貰ってきたぜ。同じような感じだったらしい」 「ここまで見事に釣れるなんてね」 「宴会が見物だぜ」 霊夢と魔理沙は心底愉快そうに笑った。 ……最悪だ。まさかこんな時に咲夜と一緒なんて。 準備の手伝いをレミリアが咲夜に命じたために、二人つまみを作るハメになった。 嫌なわけじゃない。嫌なわけではないが…… 「あの」 「なんだ」 「……お酒は」 「……さっき外にありったけだしたじゃないか」 「……あ、ごめんなさい」 「……」 「あのさ」 「なに?」 「味付け」 「もう塩を入れたじゃない」 「……あ、悪い」 「……」 こんな感じできまずいことこの上ない。 おまけに何やら生暖かい視線が気になるし。 ええい。無視だ無視。 「……出来たし。持ってくか」 「え、ええ」 ぎこちなく、体を外に向ければ、ニヤニヤとこちらを見ているのが三名程。 「な、なんだよ」 「いやいや」 「気にしないでいいわよ」 「初々しいわね、咲夜も○○も」 「何言ってんだよ」 とっさに言い返せば、それに続いて咲夜も言い返す。 「誰がこんなやつ」 「む……」 そんなバレバレでまだ意地張る気かこいつ。 咲夜の方を向くと、あちらも俺を睨んでいた。 「おい」 「なに?」 「一言余計なんじゃないか? わざわざ言う必要もないだろう」 「そっくり返すわ。一言余計なのはあなたの方よ」 「……ふん。いいのかそんなこと言って。 今のお前じゃ、俺には絶対勝てないだろ」 「勝てないのはあなたよ。○○。貴方の心は私の物」 「何言ってんだ、お前? お前が俺に惚れてるんだろ」 「……冗談じゃないわ」 「俺だって」 「どこまでも強情ね」 「そっちこそ」 バチバチと火花を散らし睨みあっていると、視界の隅で霊夢が紙切れを掲げているのが見えた。 「○○、これ、なにかしら?」 「え?」 どこかで見た覚えが…… 「って、それは!」 「なにこれ?」 「ぎゃああっ! 見るなーーっ!」 紙を受け取った咲夜の顔が勝ち誇った笑みに変わっていく。 中身は眠れない夜に想いをぶつけた、恥ずかしい言葉の塊。 所謂、恋文。 頭を抱えてると、目の前に再び紙切れ。 「こっちはお前用だな」 「あ、それは!」 受け取って開くと、そこには歯の疼くような甘ったるい文句が書かれた俺宛の恋文だった。 「……」 「……」 「さて二人とも、何か言いたいことは?」 ニヤニヤと、いやニタニタといやらしく笑いながらレミリアが言う。 「……この、悪魔」 「いかにも悪魔だけど?」 よくもいけしゃあしゃあと…… 「……○○!」 突然強い口調で咲夜が切り出す。 「こ、この手紙のことだけど、う、うう、受け入れてあげるわ。 か、勘違いしないでよ。こんなことを書いたあなたが、可哀想なだけだからね」 「お、お互い様だろう。お前こそなんだよこれ。気の毒でしょうがないし、こ、恋人になってやるよ」 申し出は嬉しいが、毎度毎度余計だって言ってるだろう。 「なによその言い方。ありがとうくらい言ったら? まあ、態度でしめしてもいいけど」 「逆だろ。しめして欲しいんじゃないのか」 「あなたこそ逆じゃない。素直になったらどうなの?」 「そっくり返してやるよ、意地っ張り。だいたいお前はさ……」 なし崩し的に展開される口喧嘩。 なぜこんなことになってるのかと我に返り、横を見てみると…… 「いいたいことは言ってしまいなさい。不満を遠慮なく言い合えるのは、理想の仲よ」 「……」 このままでは埒が明かない。こうなったら…… 「よくも恥をかかせてくれたな、咲夜」 「誰のせいよ。恥かいたのはこっちだわ」 「だから……」 反撃の代わりに、咲夜の唇を奪った。 「仕返しに、これからたっぷりと恥をかかせてやるからな」 突然のことに真っ赤になる咲夜に言えば 「やってみなさいよ。返り討ちにしてやるわ」 勝気な笑みでそう返してくる。 近くで歓声が上がっているが、そんなものはもう聞こえない。 今はただ、目の前の咲夜と一緒に…… 生涯続く喧嘩相手と結ばれた初めての夜のことだった。 ───────────────────────────────────────────────────────────
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基本情報 デッキ名:PAD4つは詰めすぎ。 作成者: ゆき 最終編集日:2010/2/10 デッキ構成 Leader Lv4 十六夜 咲夜 3x 奇術「ミスディレクション」 3x 幻象「ルナクロック」 2x 幻幽「ジャック・ザ・ルドビレ」 3x 幻符「殺人ドール」 2x 奇術「エターナルミーク」 3x 幻葬「夜霧の幻影殺人鬼」 3x 傷魂「ソウルスカルプチュア」 3x 時符「シルバーアキュート360」 2x 逢魔が刻 3x 時間減速 3x パターン避け 2x 根性避け 3x 霊撃 2x 離剣の見 3x 時間停止 戦法 5幕になってアキュートや霊撃が登場し、貧弱だった咲夜のおっぱ……いや、 火力が向上したおかげで出てきた、攻撃重視タイプの咲夜4です。 火力はAカップからBカップぐらいにはうわなにするやめ(ry そのかわりこのデッキで戦う場合、 咲夜のもう一つの主戦法であるデッキアウト勝ちは望めなくなります。 アキュートは受けに使っても非常に優秀で、序盤はあきゅんやミスディレクション・ ルナクロックなどで受けたり、時間減速を相手のスペルに貼って足止めしながら 様子を見て戦います。 このデッキは基本、序盤は受けに回り、中盤以降攻撃に転ずるというのが主戦法ですが、 チャンスがあれば、序盤からミスディ・ルナクロックで相手の体力やデッキを ちくちく削っていきましょう。 相手のキーカードが落ちてくれると、なおさらラッキーですよね (むしろそれが重要かも)。 呪力のたまる中盤以降は、咲夜の飛車角である夜霧の幻影殺人鬼や ソウルスカルプチュアで殴っていき、時間停止で相手の攻撃・迎撃を足止めし、 最終盤、霊撃で止めを刺す、というのが理想の展開です。 夜霧で戦う場合、受けを主に考えがちですが、防壁1・高速移動2という 優れた基本能力を持っていますので、殴った方が得しそうだ、という局面では じゃんじゃん殴っていきましょう。 最終盤、アキュートでトドメを刺しに行く時は、4つPADを詰め…いや何でもない… 4回アキュートの特殊能力を使うと貫通と誘導弾が自動的に付くため、 根性避けやレーザー避けなどに気をつけなければなりません。 離剣の見・咲夜のリーダー能力・スカルプの特殊能力など、命中補正のイベントや 能力がたくさんあるので高回避指向キャラが相手だとかなり戦いやすくなります。 それほど大きな打点がない、というのを逆用する形で、強力なデッキ構成として 注目を浴びている諏訪子3神奈子1辺りも、有利に戦いを進めることができるでしょう。 弱点 貫通を持っているスペルが夜霧しかないので、高防壁キャラは苦手になります。 紫3↑あたりだと漱石枕流を1・2回我慢すればなんとかなる時もあるかもしれませんが、 にとり3↑で大瀑布がブン回る展開になったら、ほとんど勝ち目がありません。 負けたら「それが盟友に対する仕打ちか!」と負け惜しみを吐いて納得しましょう。 かなり改善されたとはいえ、決定的な打点力不足はいかんともしがたく、 大きなダメージを与え合うような大味な宴になると、かなり厳しいと思います。 応用 紅魔館メイド隊 不足しがちな火力の補給に。 紅魔の住む館 強いと思うのですが、いかんせん消費呪力が重たく、 現環境だとシーン先貼りしたほうが不利になりがちなので (お互いにシーンを握っていることが多いため)、ロマン程度に……。 咲夜の世界 名前といい、効果といい、全国1千万人の咲夜ファン垂涎、 ロマンカードの最高峰です。 ただ、よっぽど呪力が有り余る展開にならないと使いどころが……。 カードゲームはロマンだZE☆と男前なあなただけに。 名前 コメント