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PREV:DM04-BS2 ヒストリー・デッキ 第十話「永遠の無双竜」 NEXT:DM04-BS4 ヒストリー・デッキ 第十二話「無限軍団の結成」? デュエマ各セットの背景ストーリーを元にした構築済みデッキ。新規カードも収録されている。 第十一話は聖拳編背景ストーリーにおける多色呪文の活躍が描かれている。デッキコンセプトはグラディエーター軸の【白青黒赤ライブラリアウト】。今回から多色呪文が初登場するが、友好色のみである。 新規カードは 《寿命と未来の切断》? 《炎槍と魔剣の裁》? の2種類。 収録カード ■収録カード 枚数 ■光文明 (14) 《予言者マリエル》 1 《聖皇エール・ソニアス》 1 《宣凶師ベリックス》 4 《宣凶師ベルモーレ》 2 《宣凶師ドロシア》 2 《予言者ファルシ》 2 《新星の精霊アルシア》 2 ■水文明 (5) 《アクアン》 1 《アクア・サーファー》 4 ■闇文明 (4) 《リバース・チャージャー》 2 《デーモン・ハンド》 2 ■火文明 (4) 《バースト・ショット》 4 ■光/水文明 (4) 《魂と記憶の盾》 4 ■水/闇文明 (5) 《寿命と未来の切断》? 4 《英知と追撃の宝剣》 1 ■闇/火文明 (4) 《炎槍と魔剣の裁》? 4 作者:切札初那 参考 エキスパンションリスト 名前 コメント
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朦朧とした意識の中、私は古手神社の石段の前に辿り着いた。 私は躊躇せずに階段を登り始める。 私を支配していたのは諦観だった。 そうきっと、それはある。 きっと本殿の前辺りにだろう。 そして私はそれを見つけ出して。 自分の無力さに、打ちのめされる。 それで私は、私を確認するのだ。 そして、 もはや私は、そんな私を傍観している。 一つ目の鳥居をくぐる。 もうすぐだ。 数段の石段の上に二つ目の鳥居がある。 鳥居は世界の境を示すものなのだ。 あれを越えれば世界は変わる。 もうすぐだ。 そして―― 私は境界を越えた。 【悪魔の脚本】 整理された道が終わり、砂利道がガタガタと車を揺らす。 今年は空梅雨だった。 しっとりとした雨を楽しめるはずの6月も、もう真夏の様な日が訪れている。 あの年も、こんな空梅雨の夏だった事を、彼は思い出していた。 彼の名は赤坂衛。 警察庁に勤める古株の刑事だ。 彼と雛見沢の縁はずっと過去に遡る。 彼はここ雛見沢で、大石と、そして古手梨花と出会った。 古手梨花が予言した自らの死の運命。 赤坂にとっては、この少女を運命から救い出せなかった事は、 今になっても尚、忘れられない痛恨の悔やみだった。 やがて彼は雛見沢大災害を知り、当時世話になった大石と再会。 少女を襲った惨劇を、雛見沢連続怪死事件の謎を、例え今からでも暴こうと誓い合ったのである。 だが雛見沢は気が遠くなる程の長い時間に渡り封鎖され続けていた。 よって赤坂達は自分達の持つ情報を手記にまとめて発表し、 読者に当時の記憶を辿ってもらって情報を寄せてもらう以上の事は出来ずにいた。 しかし、ようやく雛見沢村の封鎖は解かれた。 本来なら大石と来る予定だったのだが、大石の検査入院が急に決まり1人で訪れる事になった。 同伴している2人は、赤坂の後輩の男と、その元部下で雛見沢の封鎖中その任務に関わっていた男だ。 赤坂は自分の荷物から、切り抜き帳を取り出す。 ――角はもうよれよれになり、相当の劣化が伺えた。 「――では、鬼ヶ淵沼をお願いします」 ――了解しました。若い男が答える。 車が走り、森を抜けると。 土砂で埋め尽くされた不自然な土地が姿を現す。 沼どころか、水一滴もない――そこが鬼ヶ淵沼跡地だった。 「ははは、沼どころか、水溜まりもないな」 「大災害の後、初期に埋め立てられたと聞いています」 そこは、広大な森の空き地に現れた無垢の巨大な大地。 「――なるほど、これが所謂(いわゆる)未確認飛行物体の着陸場と云うやつか」 「そんな事云われてるんですか」 「オカルト愛好者の間じゃ有名らしいよ、政府がここで宇宙人と交流していたってね」 「わっはっはっはっは」 この沼があの6月末に突如湧き出した火山性ガスの発生場所だ。 致死性の極めて高い、硫化水素と二酸化炭素の混合ガスは深夜の内に村を丸ごと飲み込み、 雛見沢と云う村を一夜にして滅ぼしたのである。 そして封鎖された後、ここを管理していた政府によって沼は埋め立てられた。 「でも彼らにも彼らなりの論理があるらしくて、地質学的に云って、 ガスの発生源を塞ぐ為に、沼を埋め立てても何の意味もないらしいんだよ」 「そりゃ、そうでしょうね。火山口を埋め立てって話は聞かないですから」 近年、オカルト愛好者達の間でこの雛見沢大災害が話題なのだそうだ。 雛見沢大災害は火山ガスの噴出と決着したのだが、それは政府が事実を隠蔽する為に作った腹案で、 その実態は宇宙人による細菌攻撃だったと云う風説だ。 彼らが根拠とするのは、『34号文書』と呼ばれる秘密の文献の存在であった。 この『34号文書』は、雛見沢の診療所に勤務していた鷹野三四と云う看護婦が記した手記である。 (34号とはその名前をもじったものらしい) この女性は雛見沢に伝わる奇妙な鬼伝説の歴史を追い、 その伝説が何を意味するかを解き明かそうとする個人研究者であったとされている。 その内容によれば、あの年の雛見沢大災害は事前に予見されていた、と云うのである。 彼女の研究によるならば、雛見沢には太古の昔、 宇宙から飛来した未確認飛行物体が墜落し、鬼ヶ淵沼に沈んだと云う。 その未確認飛行物体には、地球に存在しない、宇宙の寄生生物が漂着しており、村人達に感染した。 この細菌に寄生された人間は凶暴化し、『鬼』と呼ばれるに相応しい存在と化したと云う。 鷹野三四はこれこそが、沼から湧き出した鬼の正体だとしている。 墜落した未確認飛行物体に乗っていた宇宙人は、地球人達が自分の持ち込んだ細菌の所為で、 大変な事になっているのを知り、その姿を村人達の前に現した。 ――これがオヤシロ様の降臨であるという。 宇宙人は、地球外文明の高度な方法で村人を治療したが、対処療法にしかならなかった。 その為、宗教的象徴として、オヤシロ様の名で崇められていた宇宙人は、 症状を悪化させない為に法を科したと云う。 細菌たちは雛見沢の風土にのみ馴染んでいたので、宿主が雛見沢を離れると症状を悪化させてしまう。 その為、村から離れるなと云う規則を作ったのだ。 これがその後の鬼ヶ淵村の仙人を巡る伝説につながっていく。 つまり、仙人達が持っていたと云う仙術や奇跡の技は、全て宇宙人がもたらした英知だったのだ。 「わっはっはっは。本当にオカルト愛好者達は、そう云った話が好きですよね」 「でも、鷹野三四は雛見沢大災害を予見したらしい。それは嘘じゃない。 確かにこの切り抜き帳に書いてある」 「そんな、まさか。あっはっはっは。・・・・――赤坂先輩それ本当に?」 仙人達の時代から長い時間を経る内に、人々に寄生した細菌は非常に安定したものになり、 人体に無害なものとなった。そして宇宙人も細菌も、人々の記憶から薄れていく。 だが宇宙人たちは御三家に守られながら何百年もの間、生き続けてきたと云うのである。 古手神社の秘密神殿の中で代々、ご神体として崇められて生きてきたのである。 その宇宙人は寄生している細菌たちを操り、その結果、村人達を何百年も支配していた。 その支配を取り戻すため、彼らは再び寄生細菌の太古の力を取り戻すべく、研究を始め―――。 後は諸説が入り混じり、結局は寄生細菌を地球規模でばらまき、地球の支配を目論もうとした、 宇宙人の地球侵略計画こそが雛見沢大災害の正体である――と云うらしい。 それで、実は日本政府内には宇宙人の侵略と戦うための秘密部門があって、 彼らは米国の秘密基地で訓練を受けていて―――。 そして、彼らが動き出し、この宇宙人の地球侵略を食い止めるため、 村を全て封鎖して毒ガス攻撃で完全に封殺した――と云うのである。 「わっはっはっは!!流石にそこまで来ると、冒険科学小説の域ですな」 「俺もここまで来ると滅茶苦茶だとは思う。 ただ、この滅茶苦茶を書いた鷹野三四はあの年の6月中旬、正体不明の怪死を遂げる。 そして、その死の直前に、自らの死を悟ったかの様に、 村に来ていた1人の男性に、この切り抜き帳を預けて意思を託したと云うんだ」 その男性の名は『関口巽』。 「その男性も奇妙な行動をして、雛見沢大災害の前日に失踪している。 だが、残された切り抜き帳には1枚の紙が挟まっていて、それにはこの大災害を予言していたんだ」 「まさか!そんな事ありえない、偶然ですよ」 「わからないが、偶然ではないと思う連中に云わせると、その後の政府の対応がおかしいらしい。 例えば、この沼の埋め立てが一例だ。 さらに埋め立て前に、秘密の地質調査をしていたという封鎖に関わっていた者の証言もある。 否定派はそれを単にガスの発生地だから、危険に備えて立ち入りを制限していた主張するが――」 「それは、多分、否定派の云うのが正しいんじゃないかと思いますね」 「他にも雛見沢を封鎖していた関係者たちは定期的に血を抜かれて厳密な検査を受けていると云う。 それは、実は、細菌感染の陽性反応を見るものであったと云われている」 「矢張り、ガスが湧き出す危険があったから、健康管理に気を遣っただけじゃないですか」 「まあ、君の云う事ももっともだと思う。あと、他にもっと面白い話もあるぞ。 雛見沢大災害では火山ガスは発生していないと主張する連中もいる」 「火山ガスが発生していない?どういう意味ですか」 「つまり、元々火山ガスなんか噴出してなくて、ガス災害と云うのが政府の嘘だと主張しているんだ」 「それこそオカルト愛好者のこじつけですよ、一体何を根拠に?」 「封鎖解除後、オカルト愛好者が押し寄せて、未確認飛行物体説を補強するために調査したらしい。 連中の主張はこうだ、 『政府発表の火山ガス成分によるなら、硫化水素によって金属が腐食されたり、 自然体系に大きなダメージが残るはずだ。だが雛見沢にはその痕跡が残っていない。 よって、火山ガスが噴出したとは到底思えない』――だ、そうだ」 「もっとも、あれから何十年も放置された村だ、痕跡が発見できたかも疑わしいが」 「はっはっは、まあお話としては面白いですけどね――赤坂先輩はそれを信じてるのですか?」 「最初は信じなかったが、最近は俺もわからない。何割かは真実が含まれているかも、と思っている」 「赤坂先輩ともあろうお方が、未確認飛行物体説を信じるんですか?」 「この切り抜き帳。これが本物の『34号文書』だとしたら?」 「え?」 「あの年の6月、大災害の前日に失踪した、関口巽が所持していた、正真正銘の本物だ」 『34号文書』は雛見沢大災害の混乱で長い事行方不明だったが、私たちの出版した手記を見た、 あの日、関口巽と一緒に取材に来ていたという読者の男性が送ってくれたのだ。 (彼はカストリ雑誌の編集者でもあり、陰謀説の一翼を担っているらしい) 当時は妄想と思っていた大石すら、雛見沢大災害の後では決して笑い捨てられる内容ではなかった。 それは、雛見沢に土着の寄生細菌による風土病が『オヤシロ様の祟り』だったと云う部分だ。 もちろん、病原体は発見されてないので仮説の域を出てはいない。 「大石さんの仮説なんだが、御三家が過去の信仰心を村に取り戻すために、 大昔の毒性の強い病原体を研究していたのは本当じゃないか、って云うんだ。 雛見沢大災害はその結果の失敗じゃないかってな」 もちろんこの辺りには、風説や奇説や珍説も入り混じっている。 雛見沢大災害の直前に謎の死を遂げた診療所長。 そして、関口巽失踪の夜に惨殺された古手梨花と云う少女の謎・・・。 診療所の地下に秘密の研究施設があり、そこで入江は細菌の研究をさせられていたが、 罪の意識に耐えかねて自殺。 オヤシロ様の復活と云う宗教的な祭典の何らかの意味の為、梨花は宗教的儀式で惨殺され生贄に――。 だが、彼らが研究した細菌は失敗作だった。 ――それは村人達に寄生するどころか、そのまま死に至らしめてしまう殺人細菌だったのだ。 そして村は、一夜にして滅びてしまう事になる。 「ただのガス災害じゃない事は明白なんだ。ガスが湧く直前に、 1人の男性がそれを予記して失踪、さらに数人の村人が怪死を遂げている。 それを切り抜き帳にまとめた鷹野三四本人も含めてね。 あれを偶然の予見不可能な災害だとするには、どうにも腑に落ちない要素が少なくない。 この『34号文書』を読めば、それは明らかになってくる」 「じゃあ――、雛見沢大災害は自然的な災害ではなく、人為的な災害?」 「その後の長い封鎖は、その殺人細菌を調査するためじゃないかとも囁かれている」 「まあ、未確認飛行物体がって、説よりは狂信者集団の方が信憑性はありますね」 「――この跡地を見ていると、本当に未確認飛行物体が墜落した可能性もあるかもしれないな」 「馬鹿馬鹿しい――」 「それが馬鹿馬鹿しくて調べたくても、沼は埋め立てられて確かめる術もない。 地質学的には何も効果は期待できないはずの馬鹿馬鹿しい工事によってだ」 「赤坂先輩がそれを立証するには、あとはここの住民の生き残りを見つけて、 体内からその特殊な病原体ってやつを見つけ出すしか、ないんじゃないですか」 「――それも致命的だ。大災害の後、雛見沢出身者に対する魔女狩りのせいで、 今や出身者の存在は不明だ。彼らは名乗りなどあげない」 「じゃあ、お手上げじゃないですか」 「それでも諦めないのが刑事魂ってものだよ。 あれが自然災害じゃなかったって云う状況証拠はいくらでもあるんだ。 何か一つの具体的証拠で芋づる式に全てを白日に晒せるかもしれない」 「まあ、あれから大分経過してますからね。真相はあまりに深い闇の中かもしれません」 「そうだな・・・・・新世紀になった、今頃になってここを訪れても、何も解りはしないのかもな」 あの年の6月に。雛見沢で一体、何があったと云うのだ。 確実にわかっているのは、鷹野三四がそれを予見して怪死を遂げて。 さらにそれを予記した関口巽が失踪し、診療所の所長が怪死を遂げ、 オヤシロ様の生まれ変わりと信じられていた古手梨花と云う少女が、惨殺されたと云う事実のみ。 関口巽の残した紙にはこう書かれていた。 『私、関口巽は真相が解りました。 誰が犯人かは特定することが出来ません。 唯、解った事は、オヤシロ様信仰と関わりがある事です。 雛見沢連続怪死事件は連続ではありません。 そして、奴らが古手梨花を殺すのです。 それで、計画を実行するのです。 これを読んだ貴方。どうか真相を暴いてください。 それだけが私の望みです。 関口巽』 関口巽を真相に辿り着かせ、失踪させた、この切り抜き帳は一体何なのか。 内容が示すとおり、それは壮大な陰謀を暴いた一大告発書なのか。 当時、誰もが思った様に、唯の妄想のでっち上げなのか。 何が真相か解らなくなる時、この惨劇を見て誰かが楽しんでいるのを思う事がある。 この切り抜き帳は、そう、脚本なのだ。 数千人もの村人の命を一夜にして奪う、惨劇の舞台脚本。 人の死を見て笑う地獄の観劇者のための、悪魔の脚本。 この脚本を誰かが書いた、そして誰かが上演した。それを見て誰かが笑った。 くそ!!、あの年の6月に雛見沢で一体何が起こったって云うんだ・・・・!! 境目を越えると、 拓けた所に建物がある――本堂――本殿――本社―― 私はおずおずと近寄っていく。 近づくと入り口に影がある――影――陰――人影―― 瞬時に躰が緊張した、なぜならその数が多かったからだ。 その人影は4つ。 左から大きい影が2つ。 続いて小さな影が1つ。 一番右に大きな影1つ。 なぜ? 闇にまぎれて顔までは見えないのだが、確かに存在している。 在ったとしても、変わりはてた影が1つのはずなのに、 この影達はいったい何なんだろう? 「――――――」 小さな影が声にならない声をあげた――猿轡(さるぐつわ)でもされているのか? 一刻の間を持って、私は気付いた。 ああ、生きている。
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【神の情報開示】 緊急要項第1号 自然発生的末期発症者(以下L5と表記)が確認された場合、 施設長はL5が異常的社会行為を起こす前に迅速に事態を収拾しなくてはならない。 ただし、機密保持に厳重に注意する事。 その際、施設長は機密保持部隊に対し応援を要請できるものとする。 機密保持部隊は、確保に当たり必要と判断した場合は発砲許可を施設長に対し申請する事ができる。 L5の確保は極力、生体である事が望ましいが、機密保持上の理由でそれが困難な場合、 生死を問わないものとする。 全てにおいて機密保持と外部発覚を最優先する事。 ただし、機密保持は外部発覚阻止に優先するものとする。 緊急要項第34号(複写・持出・許可なき閲覧――厳禁) 本要項は最高決裁者の決裁によってのみ適用される。如何なる簡易決裁もこれを認めない。 また決裁者は本要項適用の決裁に当たっては可及的速やかに判断する事。 対処不能な事態が発生し最高決裁者がそれを認められる場合、機密保持と外部発覚阻止の為、 入江機関(以下、機関と表記)は最終的解決をしなければならない。 最終的解決とは以下を指す。 L2以上の潜在患者全員の収拾 機関施設の完全な証拠隠滅 本要項の適用の隠蔽 施設長は上記を事態発生から48時間以内に遂行しなくてはならない。 不測の事態により施設長の指揮が困難な場合、長官がこれを兼務する。 最終的解決は以下の手順で遂行される。 ガス災害偽装、及び交通の遮断 交通封鎖部隊は警察官に偽装し、雛見沢地区を外部より遮断する。 その際、自然ガス災害であるよう偽装する事。 (略) 通信手段の遮断 (略) 潜在患者の集合 機密保持部隊本隊は雛見沢地区災害集合場所に潜在患者全員を集合させる事。 集合手順は別紙参照の事。集合後は厳重に点呼を行い全員の集合を確認する事。 (略) 潜在患者の対処 機密保持部隊本隊は集合させた潜在患者への対処を行う事。 対処にあたっては、ガス災害偽装を疑われないよう注意する事。 (略) 機関施設の隠蔽 (略) 村内捜索 機密保持部隊は村内の完全捜索を行い、生存者がいない事を厳重に確認する事。 (略) 完全撤収 全ての作戦を終了し、機密保持部隊は雛見沢地区から撤退する。 後続の一般部隊に不信感を持たれない様厳重に注意する事。 なお、機関施設は秘匿区画の完全撤去が終了するまで継続警備とする事。 <女王感染者ト一般感染者ニツイテ> 病原体ハ蟻ナドノ社会型生物ト同ジ習性ガアルモノト推定。 女王蟻ニ当タル女王感染者ガ常ニ1人オリ、ソレガ古手家代々ニ受ケ継ガレテイルモノト推定。 マタ、一般感染者ハ女王感染者ヲ庇護スル傾向ガ強ク、其レヲ容易ニ観察デキル。 マタ、女王感染者ノ半径ニ束縛サレル一般感染者トハ違イ、 女王感染者ハ土地ニ束縛サレルモノト推測。 (略) <感染者集落ノ崩壊ニツイテ> 前途ノ理由カラ、女王感染者ガ死亡スルヨウナコトガアッタ場合、 感染者集落ハ集落単位デ末期症状ヲ引キ起コスモノト推定。 末期症状ハ急性ナラバ早クテ二十四時間以内、遅クトモ四十八時間デ発症スルタメ、 四十八時間以内ニ最終的解決ヲ行ナワナカッタ場合、騒乱ハ極メテ甚大ニナルモノト推定。 マタ、集落規模カラ見テ、警察、憲兵程度デハ此レノ鎮圧ハ容易ナラザルモノト推定。 反国家武装蜂起ト位置付ケ、緊急ニ軍ヲ以ッテ鎮圧スルノガ最モ適当ト思ワレル。 昭和二十年一月吉日 宛最高戦争指導会議 小泉大佐殿 高野一二三記ス 「ご存知の通り、アルファベット計画は戦後の日本の国際的な地位向上を目的としたものです。 そして、我が国は世界への平和的貢献を模索し、国際的地位を確立するに至りました。 日本は国際社会において重要な地位を担う国家として成熟し、さらにその存在感を強める事でしょう。 よって、現在、時代に即した形になるよう、アルファベット計画の見直しを進めています」 「そして、この4月に新体制の理事会が発足し、全計画に対する新方針が決定されました。 この入江機関の研究目的は二つありました。 一つは雛見沢症候群の研究と治療法の確立。もう一つは多面運用の模索です。 新生理事会はこの後者の、多面運用の模索については即時の中止を決定しました。 これらの研究開発が国内で行われていた事実と痕跡は、今後はむしろ醜聞になりかねません。 入江機関は直ちに、これに関わる全ての研究を中止し、一切を破棄してください」 「また、入江機関につきましては、最長3年を目処に、研究の収束を図ってまいります。 私どもにとっての最大の目的は、軍事目的の研究が行われていた事の完全な破棄です。 よって、雛見沢症候群と云う特殊現象が研究されていた痕跡と、 そもそも存在していた事実についても隠蔽すべきであると考えます」 「誤解ないようにして頂きたいのは、 私どもはあくまでも研究を直ちに中止させようと云うのではなく。 円満な形で研究を終了させようと云う事です。この違いをご理解ください」 物事が想像よりも悪くなる事は遭っても、良くなる事は少ないのが私の人生である。 その観点から見ると、矢張りこれも悪い事に当てはまるのかも知れない。 私は暗闇の中、少女を拉致した影達と対峙していた。 そして――私は吃驚(びっくり)していた。 どうしよう。 それが私の中に遭った感情だった。 相手は3人、私は1人。 しかも私は丸腰だ。 しまった。 これが私に新たに生まれた感情だった。 私はお世辞にも、体力がある訳でもない。 せめて、武器になる様な物を持ってくれば。 どうしようもない。 右の影が――残念と呟き、首を振った。 左の影達が手に握った何かを私に向ける――銃か? ああ、私はここで死ぬのか?――そう死ぬだろう。 私は目を瞑り、その時を待ちかまえた――せめて苦しまずに。 矢張り京極堂の云うとおり、大人しく東京に帰れば良かったのだ。 ああ、雪絵に一言謝りたかった。 私はこの時間が、永遠に続くかと思った。 【決意表明】 願いを成就し、望む未来を紡ぐ力。 紡がれる糸の強さは、意志の強さ。 気高く強き願いは必ず現実となる。 それは小さな胸に宿る、大きな決意。 人の命が、もしも地球より重いなら。 私の小さな決意は、地球よりも重い。 運命は個人だけじゃなく、人を、世界を支配する絶対の力。 それはつまり、もはや運命。 私が紡ぐのは、運命。 実現の約束された願いは、もはや願いとは呼ばない。 私の絶対の意思が、絶対の未来を紡ぎ出す。 誰にも邪魔できない、誰にも覆せない。 サイコロの1なんて認めない。 全てのサイコロを6にしてやる。 それは生きながらにして神に至る。 それに気づいた時、私は解放される。 そう。私は神の域を超えるのだ。 サイコロの目など私は越える。 サイコロの目は私が決める。 運命すらも、私が決める。 挫けぬ絶対の意思で。 永遠に続くかと思われた時間は、音によって破られた。 甲(かん) かん?――「バン」じゃないのか? 甲(かん) まただ――これは?――跫(あしおと)? 甲(かん) 私は後ろを振り返る。 鳥居の向こうにあいつの上半身が見える。 甲(かん) 雲に隠れていた月が、不意に丸い姿を現す。 奴がやって来たんだ、物語を終結させる為に。 劇的。 余りに劇的、 まるで活劇。 そして―― 月光を背に、 黒衣の殺し屋が登場した。 物語の世界において、(少なくともその中では)作者は神と言っても構わないでしょう。 ならば神として、この言葉を使う時、神託を告げる刻(とき)が来たようです。 今ここに、全ての情報が提示されました。 これまでに、紡ぎ出されたカケラたちを、理で繋ぎ合わせれば、一つの形を示すでしょう。 ここで私が問いたいのは、 「誰が犯人かを推理する問題」ではなく、 「誰が神なのかを証明する問題」なのです。 ここは小説やゲームなどと言った、一方的な世界ではありません。 貴方は傍観者ではなく、観測者にもなりうるのです。 (そして、この世界では観測者は神と言いかえる事も可能でしょう) さて、 親愛かつ敬愛なる、読者の皆様の解答を心よりお待ちしております。 「後神の刻(とき)」~神降ろし編(出題編)~ <完> 次回予告 ひなびた寒村で起こった連続怪死事件。 そこを訪れた、へっぽこ文士・関口巽に襲いかかる怪奇たち。 物語が混迷の度を極めた時、ついに現れた黒衣の殺し屋。 奴は神か、悪魔か、はたまた妖怪か。 黒衣の殺し屋が理を語る時、世界は一つに集束する。 疾風怒濤、快刀乱麻、驚天動地な解答編。 「後神の刻~神貶(おと)し編~」 12月12日(土)本スレッドにて投稿予定。 関口巽の明日はどっちだ!
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車は夕暮れを切り裂く。 そして古手神社の前に停まる。 「エンジンは掛けたまま、待っていてくれ」 そう云うと、私は階段を駆け上がる。 急げ――今なら間に合うだろう。 息が切れる、鈍りきった体だ。 裏手に回ると、小屋があった。 鍵はかかってない、中に入る。 1階は倉庫の様になっていた。 私は迷わずに2階に上がった。 そこに――少女はいた。 窓際に腰かけて、片手には葡萄色の飲み物を持っている。 そして――少女は云った。 「関口、"また来てくれたの――"」 「ぎ、ぎみをざらういにきた」 私は噛んだ、意味は伝わらなかっただろう。 だが構わない、人を攫(さら)う時には同意は必須ではない。 私は少女を無理矢理抱きかかえると、 少女を攫った。 少女を連れて戻ると鳥口は驚いていた。 「うへえ、先生何をするんですか」 「いいから、車を出すんだ鳥口君」 ――立つ鳥跡を濁さずですよ。 鳥口は訳のわからない事を云って、車を発進させる。 少女は私の膝の上で、喜怒哀楽の喜と怒と哀が混ざった様な顔をしていた。 これでいい、このまま東京に帰ればいい。 あいつらも、東京までは追っては来ないだろう。 ガタガタ 振動を感じた。 少女の形を感じた。 私は以前、矢張りこうして抱いたことがある。 それは妄想だ。遥か前世の記憶のように朧げな。 私はその肌の温もりを吸い取るように、実にゆっくりとした動作で彼女を抱きしめた。 これでいい――そうこれでいい。 東京に帰ろう――この娘も一緒に。 そうだこれいい――これで全ていい。 いきなりこの娘を連れて帰ったら、雪絵は驚くだろうか? 私と、雪絵と、一緒に暮らすのも悪くないのかもしれない。 そんな気がする。 私がくだらない妄想に浸っていると。 私の膝の上に座っていた少女が云った。 「関口。気持ちはとても嬉しい――けど、 矢っ張り未来は決まっているのですよ」 少女は何故か、泣き出しそうな表情だ。 「大丈夫だよ――僕には全てが解った」 私が答えると、少女は。 「今回の関口は、今までで一番格好いい――でも」 ――どういう意味だ? その時、車の前方で破裂音。 刹那に、平衡(バランス)が崩れる。 ――うへえ!! 鳥口の間抜けな叫び。 制御を失った車は脇の雑木林に―― 私は咄嗟(とっさ)に少女の頭を抱え込んだ。 そして―― 激突。 【交信】 「――本部より鶯(うぐいす)、男性2名がRを奪取した。 車にて逃走。これを阻止し、Rを奪還せよ」 「――鶯1より本部、任務了解、発砲許可を申請」 「――本部より鶯1。発砲を許可する」 「鶯1より狙撃班、発砲を許可する。R確保のため、障害を阻止、排除せよ」
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KYに定評のある紅雲です 久しぶりの河童です Deck Leader Lv4 河城 にとり 2x 昔のことは気にせず 1x 逢魔が刻 1x 幻想郷縁起 3x レーザー避け 3x 光学「オプティカルカモフラージュ」 3x 洪水「ウーズフラッディング」 3x 光学「ハイドロカモフラージュ」 2x 河童「のびーるアーム」 1x 漂溺「光り輝く水底のトラウマ」 3x 水符「河童の幻想大瀑布」 3x 河童「スピン・ザ・セファリックプレート」 2x 解体 1x 修理 3x 河童の工廠 3x 空中魚雷 3x 芥川龍之介の河童 3x 光学迷彩スーツ
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コメント 《彩華「崩山彩極砲」》+サポートからの攻勢を安定させるために《根性避け》を搭載。 実際には有れば嬉しいという場面で引けず、逆に減らした《ピンポイント》を持て余す事態に。 出典:綿矢りさ著「蹴りたい背中」 …彼女らに蹴られたら痛いじゃ済まないと思う。 蹴られたい背中 スペル22枚 《夢符「二重結界」》3 《彩符「彩光風鈴」》2 《彩翔「飛花落葉」》3 《幻符「華想夢葛」》3 《華符「破山砲」》2 《彩華「虹色太極拳」》3 《彩符「極彩颱風」》3 《彩華「崩山彩極砲」》3 サポート6枚 《紅砲》3 《連環撃》3 イベント12枚 《ピンポイント》1 《根性避け》2 《霊撃》3 《肉弾戦》3 《一蹴》3
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ここに作品タイトル等を記入 更新日:2021/11/25 Thu 13 23 40 タグ一覧 セブンスカラー 紫水龍香 魔龍少女 今回のあらすじを担当するレグルスだ。前回は……クソ!思い出しただけでも腹立たしいが、赤羽、雪花、黒鳥の三人と絶戦を繰り広げたカストル。だがついに三人がカストルを撃破したのだ! おのれ奴らめ!しかし私の敬愛するプロウフ様も何やら動いているようで…… きっと素晴らしい考えをお持ちなのだろうな…… 続きが気になる!どうなる第二十一話! 「龍斗。正しくありなさい。誰かに優しく寄り添い、肩を貸せる人間になりなさい。」 子供の頃、親から事あるごとにに言われた言葉。綺麗事を凝縮した吐き気がする程甘い言葉。 けれど子供の時はそれを素直に受け入れていた。足の不自由な姉のために尽くした。親の期待に添えるよう尽くした。友達のために尽くした。 ……あの男と会うまでは。 「龍斗。貴方の従兄弟の龍賢君よ。龍賢君、龍凛、龍斗の二人と仲良くしてね。」 「はい。」 「はいお母様。よろしくね。龍賢。」 「…うん。」 従兄弟の龍賢。アイツは……俺よりも優れていた。賢かった。強かった。今まで俺に向けられていた視線をアイツは一気に掻っ攫っていった。 その癖アイツは優しかった。俺の隣に立ち続け、声をかけてきた。 「龍斗。一緒に遊ばないか。父さんが新しいゲームを買ってきてくれたんだ。」 「龍斗、良い釣り堀を見つけた。きっと大物が釣れる。」 「お前は将来絶対凄い奴になる。俺にはわかる。」 なんの疑いも、曇りもなく微笑んでアイツは俺に言う。 ……俺は、お前のその優しさが嫌いで仕方なかったよ。龍賢。 ザァザァと降る雨が窓を打ち付ける音が響く館の廊下をアンタレスが歩いていると、ふと窓をジッと見つめる魚のような怪物、アルレシャがいるのに気づく。 「どうしたの?柄にもなく考え事?」 「んお、アンタレスか。」 アンタレスが声をかけるとアルレシャが反応してアンタレスの方を向く。 「いや、ちょっと考え事をな。」 「考え事?」 そう言うとまた思案し始めたアルレシャにふと、アンタレスが思い出したように尋ねる。 「そう言えば、アンタ確か紫水の身内の一人と融合していたわね。」 「あぁ。そうだが。」 「いや、アンタがあの男と意識を残したまま、浸食じゃなくて融合するのを不思議に思って。アンタあの男を見下していたでしょうに。」 そう、アンタレスの言う通り龍香達によって肉体を失ったアルレシャは今その身内、龍斗と一体化している。 あれ程までに心底見下していた人間と一体化するとはどういう心変わりなのか。 「まぁ、確かに最初は乗っ取ってやろうと思ったさ。けどよ。コイツの中に入った時、中々面白いものを見ちまってよ。」 「面白いもの?」 余程面白かったのかククク、と思い出し笑いをしながらアルレシャはアンタレスに言う。 「自分で、自分を絞め殺している様さ。」 アルレシャが龍斗の中に入った時、龍斗がもう一人の龍斗を殺害している様子に出くわしたのだ。 動かなくなった自分を見下ろす龍斗をアルレシャが見つめていると、彼はアルレシャに気づいてこちらに歩み寄る。 その目は以前のような、中途半端な男の目ではなく……ドロリと闇を濁らせた悪意を全身に染み渡らせた男の目であった。 あまりの変貌ぶりにアルレシャは思わず尋ねる。 「…お前、あのボンボンじゃねぇな?誰だ?」 「俺は本物の龍斗。紫水龍斗……。こんな中途半端な奴じゃない。俺は、俺の手でアイツを……紫水龍賢を……殺す。邪魔はさせないぞ。」 「へぇ。…成る程。これが本来のお前、か。初対面よりも好印象だぞ。」 龍斗のドロリとした闇にアルレシャは興味を惹かれる。 「俺も龍賢とやらにくっついているトゥバンをブチのめす……お互い、今のところ目標は一致しているな。にしても、お前は何故あの男を恨んでるんだ?」 「何故…?」 アルレシャの問いに龍斗は目を大きく見開き身体の中に溜まりに溜まった憎悪を吐き出すように叫ぶ。 「アイツは俺から全てを奪った!アイツがいるだけで……俺は……!だから、俺はアイツを殺す!俺を否定する全てを……!」 叫ぶ顔はまさに悪鬼の如し。おどろおどろしい生の感情をぶつけられたアルレシャは、その様子をしばらく見た後、スッと手を差し出す。 「良いだろう。少しだけ、貴様のことを気に入った。その憎悪と俺が手を組めば……無敵だ。」 「………。」 龍斗はその差し出された手を無言のまま握る。その瞬間、龍斗の肉体に変化が起き、水を溢れさせ骨を砕き、肉を潰したような音が鳴り響く。そしてそこには更に禍々しく、凶悪な外見に変化したアルレシャがいた。そしてその口を開く。 「「俺達は、“一心同体”だ。」」 アルレシャの話に、アンタレスはへぇ。と感心する。あのアルレシャの心を動かす程の憎悪……最初は利用されるだけの頼りないボンボンかと思ったが、予想以上のポテンシャルを秘めていたらしい。 アンタレスが感心していると、今度はアルレシャがふと、尋ねてくる。 「……ところで、俺も一つ質問があるんだが。」 「なんだ?」 「二年前の襲撃……アレを手引きしたのは、誰だ?」 「?ソイツじゃないの?」 アンタレスがアルレシャ…龍斗を指を指す。しかし、アルレシャは首を振る。 「コイツの行動ログを見たが、レグルスの野郎が事前に知っていた情報とは大分違っていた。」 「?じゃあ私以外にスパイがいたとか?」 アンタレスがそう言うと、アルレシャはまたも首を振り…アンタレスに耳打ちする。 「……これは仮説で、もしかしたらだが。あの事件、俺達シードゥス、そして“新月”とは違う第三勢力が絡んでいるかもしれねぇ。」 「……第三勢力?」 「そうだ。あの戦い、おかしな点がいくつもある。誰がレグルスに情報を流した?それに、レグルスもアホじゃない。裏取りだってしたハズだ。なのに俺達ツォディアは半壊、他の奴らの被害もかなり出ている。」 「……なに、つまりアンタはこう言いたいの?あの戦いは“誰かに仕組まれた”ことだって。」 アルレシャの推測にアンタレスは怪訝な顔つきになる。だが、アルレシャはあくまで推測だ、と言う。 「だが気をつけた方がいいことは確かだ。…スピカ、カストルが死んだことさえ、仕組まれたことかもしれねぇ。」 アルレシャはそう言うと、また雨が降り頻る窓の外を見やる。 雨は更に勢いを増し、窓の外は何も見えない白い世界が広がっていた。 「……ちょっと。しばらく出撃不可ってどういうこと?」 ツンと鼻をつくアルコール臭が漂う白く清潔な病室のベッドの上で横たわって上半身だけを起こす赤羽が不満げに風見に言う。 風見は林檎を剥きながらはぁとため息をつくと。 「当然でしょ?“雨四光”の損傷具合もそうだけど、アンタ自分の身体見てみなさいよ。」 「……これくらい、何ともないわ。健康よ。」 「どこの世界に全身包帯だらけの健康があるの。アンタのその状態は世間一般では怪我人って言うのよ。」 風見の言う通り、赤羽は至る所に包帯を巻かれ、ガーゼを貼られ…控え目に言っても健康とは真反対に位置する状態となっていた。 「全身に擦り傷に痣を拵えて、挙句の果てには骨にヒビが入っているのよ。安静にしときなさい。」 「ちっ……あのパチモン、今度会ったらタダじゃおかないわ…。」 赤羽は風見が剥いた林檎を一切れ口に運びながらブツクサと文句を言う。 「な、何かごめんなさい……私の偽物が…。」 《お前が謝ることじゃないだろ…。》 「まぁ、怪我して何も出来ない気持ちは私分かるけど、今くらい休憩したっていいんじゃない?だって幹部の一人を討ち取ったんだし、私達。」 「藍、それ赤羽のだぞ…。」 龍香が申し訳なさそうに目を伏せ、カノープスが注意し、風見が剥いた林檎一切れを横取りしながら雪花が言い、黒鳥がそらを嗜める。 「カノープスの言う通り、別に貴女は謝らなくていいわよ……。」 赤羽ポスっと布団に身体を沈ませて、龍香を見るとふと、あの偽物……白龍香が言っていたことを思い出す。 『私は普段表に出ていないもう一人の龍香、って訳。』 あの歪んだ笑みをする一面を目の前の少女がするとは思えない。 (いや……もしかしたら。) もしかしたら本当に龍香の中にはあの恐ろしい感情が眠っているのかもしれない。だが、それは何も龍香に限った事ではない。人間誰しも憎悪と怒りの感情を持つ。 ここにいるメンバーの境遇を考えれば、持つなと言う方が無理な話だ。 「……普段大人しい人程溜め込む、か。」 「?アカチン、何か言った?」 「別に。何でもないわ。それより林檎頂戴。」 「はいはい。」 「にしても、シードゥス由来の装備つけてるアンタ達ちょっと羨ましいわね。ちょっと時間置いたらすぐ治るんでしょ?」 雪花が林檎を食べながら龍香、黒鳥、赤羽を少し恨めしそうに見る。 《まぁ、龍香と黒鳥は肉体も回復出来るし装備も変化だからなぁ。》 「そうそれ、ホント羨ましいわ。だって私と赤羽が一々装備のメンテナンスの時間あるのに、アンタ達は特に気にしなくてもいつでもどこでも、でしょ?」 「あら、それはアタシ達に対する嫌味かしら?」 「アタシは事実を言っただけだしー、メンテナンス時間かかって面倒なのは事実じゃん。ねぇ赤羽。アンタもそう思うでしょ?」 雪花が赤羽に話を振る。赤羽は少し間を置いて。 「いや、いつもメンテナンスしてくれる風見や林張さんに感謝の気持ちはあれど、面倒だなんてことは一回も思ったことはないわ。」 白々しく若干棒読みでそう答えた。 「そう思ってるのはユッキーだけみたいよ?」 「嘘ッ!絶対嘘じゃん!!見てよあの顔あの態度!絶対面倒くさいって赤羽も思ってるってちょ、まっいだだだだだだだ!!?こめかみグリグリはやめいだだだだ!!」 何てやり取りをしていると、龍香の携帯に着信がかかる。 「あ、龍香携帯鳴ってるわよ。」 「ホントだ。誰からだろ?」 そう言って龍香がポケットから携帯を取り出して電話をかけた人の名前を確認すると、驚く。 「えっ、お兄ちゃん?」 龍香は確認するやいなや、ぴっと着信ボタンを押して、携帯を耳に当てて電話に出る。 「あっ、もしもしお兄ちゃん?」 『龍香。今何か取り込んでいるか?』 「いや、特にないよ。今赤羽さんのお見舞いに来てるの。どうかした?」 『いや、少し手伝って貰いたい要件があってな。』 「手伝う?」 兄からの急なお願いに龍香は思わずキョトンとする。 『実はな……』 「だぁーっ!またハズレだぁ!」 桃色の髪をクルリと後ろで纏めた少女、桃井かおりはそう叫ぶと手にしていたゲーム機をポイっとベッドの上に放り投げる。 「確率渋すぎでしょ、ゲームやるってレベルじゃないわよもぉ……」 どうやら上手いことゲームが進行しなくてもブツクサ文句を言いながら部屋で項垂れていると、コンコンと部屋の扉をノックされる。そして続けて母がかおりを呼ぶ。 「かおりー?いるー?」 「なにぃー?」 「お友達が来てるわよー。」 「友達?うん、分かった。今行くー。」 自分の母の言葉にかおりは今日遊ぶ約束してたっけな?と小首を傾げながらトテトテと階段を降り、玄関の扉を開ける。 「はーい。誰ですかー?」 そしてかおりが扉を開けると……そこには親友の龍香と、その兄の龍賢が白い紙袋を持ってそこにいた。 「へ?」 「かおり。突然だけど遊びに来ちゃった!」 「突然の訪問ですまない。これは手土産だ。お口に合うと良いんだが…。」 「え、あ、これはまたご丁寧にどうも……じゃなくて、何でお兄さんが!?」 かおりが何故親友の兄が来ているのか尋ねると、龍賢は申し訳なさそうに微笑んで。 「いや、君には以前記憶喪失の時に世話になったからな。それに、俺がいない間龍香を支えてくれた事もある。少しゴタゴタしていて遅れてしまったが、一度キチンと礼を言いたくて。」 「そ、そんな。支えたのは私一人じゃないし、それに全然私大したことはしてないですし、こんな大層な……」 畏まった態度の龍賢にかおりが慌てていると、龍賢は少しシュンとした顔になる。 「その……もしかして迷惑だったろうか。」 その表情にかおりはうぐっと揺さぶられる。このいじらしさは間違いなく龍香の兄だな…となるがとは言えこうまで言われてしまっては龍賢の気遣いを無碍にするのも気が引けた。 「わ、分かった分かりました!だからそんな顔しないで下さい!」 根負けしたかおりがそう言うと、兄妹の顔が明るくなる。 (ホント可愛いわねこの兄妹……) なんてやっていると家の奥の方からかおりの母が顔を出す。 「あら、龍香ちゃん、それと……」 「申し遅れました。龍香の兄の龍賢と言います。かおりさんには妹が随分とお世話になっているそうで……そのお礼の方を言わせて貰いたいと思い。」 「あらあら、そうなの?わざわざご丁寧にありがとうございます。」 龍賢はそう言って菓子折りを包んだ袋を母に渡す。そして、受け取ったかおり母は頬に手を当て。 「こちらこそ世話になっているのに申し訳ないです。かおりったらずっと龍香が龍香が、って家でも言うものですから。」 「ちょっ、お母さん!」 かおりが抗議の声を上げるが、一度世間話というアクセルを踏み込んだ母が止まることはない。 「龍香ちゃんには私がついてないと、とか龍香ちゃんと何して遊んだのかを話す時はとても嬉しそうにするもので…。」 「えっ…なんか、照れるなぁ。」 赤裸々に暴露される自分の事情に、かおりは顔を真っ赤にして、龍香は照れる。 「もーっ!!お母さん!!」 そう叫ぶとかおりは靴を履いて龍香の手を取って家を出る。 「え、か、かおり?」 「ちょっと外出てくる!」 「お夕飯までには帰ってくるのよー。」 「分かった!!」 そう言うとのしのしとかおりは龍香を連れて、どこかへ行ってしまう。 すみません、とペコリとお辞儀をして龍賢もそれに続く。 その様子を微笑んで見送りながら、母は仲良さげに手を取り歩いていく二人を見て、微笑むのであった。 「今度は貴方が出る……ですか?」 「あぁ。カストルがやられたんだ。黙ってこのまま静観なんて言うなよ。」 蝋燭の灯が照らす部屋の中で椅子に座るプロウフにアルレシャが言う。 アルレシャの顔をプロウフはジッと見つめた後。 「良いですよ。」 「……お前ならそう言うと……なんだって?」 まさかプロウフが許可するとは思っていなかったようでアルレシャは思わず聞き返す。 「良いですよ、と言ったのです。カストルに勝ったとは言え、満身創痍の今なら“新月”メンバーも満足に動けないでしょう。」 「…どう言う風の吹き回しだ?」 「貴方いつも攻撃したがっていたじゃないですか。…勿論、こう言った手前前回のような失態を許す気はありませんが。」 「……嫌味な野郎だな。」 アルレシャがそう言うと、パチンとプロウフが指を鳴らす。その合図を皮切りにプロウフの背後から一人の少女が現れ、その少女の出現にアルレシャは面喰らう。 「なっ、何故お前が……」 「どーも。よろしくね♡」 そこにいたのはカストルが作り出した人形……白いドレスを纏った紫水龍香だった。カストルが死んだ事で龍香も消えたもの…と思っていたアルレシャにプロウフは言う。 「彼女を私が少し手を加えましてね。きっと役に立つでしょう。」 「お前……。」 「“本懐を果たしなさい”。吉報を持ち帰ればそれで良し。これ以上の失敗は許しませんよ。アルレシャ。」 ギロリ、とプロウフは威圧するような瞳でアルレシャを見据えた。 「もぉー!!お母さんったら!!ホントデリカシーないんだから!」 ぷりぷりと怒りながら文句を言うかおりに龍香はあはは…と苦笑いをする。 「でも、何かかおりがそこまで私を思ってくれたのは嬉しいな。ありがとう。」 「も、もう。改めて言わないでよ!結構恥ずかしいんだから!」 なんて二人がキャイキャイしているのを龍賢が眺めていると龍賢の中のトゥバンが話しかけてくる。 《おっ、あの時の女か。アイツは面白い女だぞ。何せただの人間の癖に俺に張り手をする位にはガッツがある。しかも他人のために、だ。》 「それは俺も見ていた。…龍香は良い友を持ったようだな。」 龍賢とトゥバンが話しているとポスンッと足に何かが当たる感触がする。 「?ボール?」 足元に転がってきたサッカーボールを龍賢が拾い上げると、向こうのサッカースタジアムから声がする。 「あっ!すみませーん!」 すると向こうから一人の茶髪の少年が走ってきた。 「君達のか。ほら、返すよ。」 「すみません、ありがとうございま…あれっ、龍香と桃井?」 その少年がふと、龍賢から少し離れた場所にいた二人に声をかけると二人は反応して。 「あれ?藤正君?」 「何してんの?」 二人は龍賢と藤正の所へとやってくる。 「知り合いか?」 「うん!私の、学校のクラスメイト!」 龍香と仲良さげに話す龍賢を見ながら、藤正は桃井に訪ねる。 「…なぁ、この人誰?」 「ん?あぁ。アンタ知らなかったっけ?この人が龍香のお兄さんよ。」 「この人が!?」 驚愕する藤正に龍賢はニコリと笑って手を差し出す。 「君が藤正君、か。龍香が世話になったと聞いている。これからもよくしてやってほしい。」 「あ、ど、どうも。」 藤正は差し出された手を恐る恐る握り返す。それに龍賢が満足そうにしていると、電話の着信音が鳴る。 「すまないな。」 龍賢はそう言うと携帯に出て、ふんふんと電話口の相手と何やらビジネス用語で会話をすると、一旦電話を切り。 「すまないが、少し用事が出来た。桃井さんや、藤正くんとはもう少し話したかったが…また今度とさせて貰う。龍香、友達は大事にな。」 「うん。」 そう言うと龍賢はその場から去ってしまう。龍香が龍賢に手を振ってる間に、藤正はかおりにこそこそと話しかける。 (な、なぁ俺失礼なこととかしてなかったよな!?) (何よ急に…してなかったわよ、全然。) (ほ、ホントに!?ホントにそうか!?) (うっさいわねー…。) なんてやり取りをしている時だった。 「おーい!遅いぞフジマサー!何してんだー!?」 「あっ、悪い悪い。知り合いに会ってさ…。」 サッカースタジアムから声がして藤正はそちらの方へと向かう。何となしに龍香とかおりも観戦するかとそちらの方に向かうと。複数人の子供達に混じって、龍香にとって見覚えのある赤茶の髪の少女が藤正を呼んでいた。 「全くー、コーナーキック頼むぞー。アタシのクロスシュートでまた点数を取ってやるから!」 「あいよ。」 藤正の肩をバシバシ叩くその少女、シオンの姿を見た龍香は思わず声をかける。 「シオンちゃん?」 「んー、その声……龍香!?」 声をかけた龍香に気づくと、シオンはすぐさま龍香に駆け寄ると、ムギューと挨拶代わりと言わんばかりの熱烈なハグをする。 「龍香ー♪また会ったな!約束もなしに会えるなんてこれはもはや運命かもしれないな!」 「ちょ、ちょっとシオンちゃん…は、恥ずかしいよ…」 「「は、はぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」 ギュッと龍香に抱きつくシオンを見て、藤正とかおりは絶叫する。 「ちょ、ちょちょ龍香!凄い仲良さげだけど誰!?誰なのその子!?」 「り、龍香って、もしかして女の人の方が好きなのか!?」 「ふえぇっ!?ち、違うよそう言うんじゃなくて…!」 「龍香は私の命を救ってくれた恩人だからな!そして、唯一無二の友だ!」 龍香に抱きついて、目を輝かせながら言うシオンに龍香はあはは…と苦笑いしながら尋ねる。 「でも、何で藤正君達とサッカーを?」 「んー、何か楽しそうだったから入れてくれるよう頼んだ!そしたらオッケーしてくれたからな!」 あっけからんと言うシオンに藤正が言う。 「…龍香と知り合いだったのか…。でも、実際ソイツ凄いぜ。めっちゃサッカー上手いんだよ。何か習ってたのか?」 「いや、全然?今日やるのが初めてだけど。」 キョトンとした様子でそう言うシオンに藤正は驚愕する。 「えぇ!?い、いやそれは嘘だろ!あのドリブルとか、シュートとか、絶対初心者じゃ無理だって!」 「うーん、テレビとか見てたら覚えたって感じ。」 「み、見て覚えたって…。」 「まぁまぁ、そんなことより皆待たせてるし、続きを早くやろう!あ、龍香も入る?」 「い、いやー。私は観戦させて貰おうかなーって…。」 「あ、そう?なら龍香!観客席でアタシの凄いプレーを見ててよ!」 「う、うん。」 そう言うとシオンと藤正はグラウンドに戻ってゲームを再開する。 「凄い知り合いが出来たのね、アンタ。」 「う、うん。まぁちょっとした成り行きって奴かな…」 《初めて見る顔だな、いつ会ったんだ?》 「あー、そっか。カノープスも会ってないんだっけ?カノープスが……その、私のこと丸くなったって言った時の…。」 《あー、…いや、あれはすまんかった。あれは流石に無神経だった。》 「その時に何かお腹すいて倒れてて…それで、ご飯をあげたら懐かれちゃった。」 「桃太郎か何かの話してる?」 「じ、事実なんだよ!それに、何かあの子の家すっごいお金持ちみたいで…助けたお礼、って言ってあの子のおじいちゃんにすごく高い喫茶店に連れて行って貰ったりして…」 《聞けば聞くほど何か胡散臭い話だな。》 「いや、ホントなんだって!雪花ちゃんや黒鳥さんもいたから!」 なんて龍香が二人に懐疑的な目を向けられている中、必死に事情を説明しているその時だった。 サッカーグラウンドからワァッと歓声が上がる。三人が目を向けるとそこには藤正からのパスを受け取ったシオンがまるで脚にボールが吸い付いているのではないかと思わせる程の華麗なドリブルで次々とボールを奪おうと向かってくる子供達を避けていた。 「す、すっご…」 その足捌きはサッカーにあまり興味のないかおりでさえも感嘆させる程で、龍香もプロと遜色がないような動きに見える。 「そぉれっ!!」 そしてあっという間にゴール手前まで来ると、思い切りボールを蹴り上げる。そして蹴り上げられたボールは凄い勢いでゴールネットに向かい、そして網を突き破らんばかりに突き刺さると、ポトっと落ちる。 「ご、ゴール!!」 審判役の誰かが言うとまたもやうおおおっと歓声が湧き上がる。 「す、凄いよシオンさん!」 「マジでスゲー!!プロじゃん!」 「へへん!どんなもんよー!」 周りの子供達がシオンを褒め称える。 《…子供にしちゃえらく動くな。》 「最近の子って凄いんだねー。」 《むぅ……》 カノープスは怪訝な目をシオンに向ける。だがシオンは皆からの賛美を程々に受け取ると、龍香に近づいてくる。 「どう?龍香!見てた?アタシのシュート!凄かったでしょ?」 「うん。見てたよ。凄かった!」 「えへへぇ。」 龍香が褒めるとシオンはえへへ、と嬉しそうににへら、と笑う。 「さぁて、見ててね龍香!またスゴイシュートを…」 シオンがそこまで言いかけた瞬間だった。ポーンポーンと公園の時計が四時になったことを伝える電子音が流れる。 それを聞いたシオンはビクッとなって慌てて時計を見ると。 「あ、もう四時!?うぅ〜もうちょっと遊びたかったけど、しょうがない…悪いけど、アタシもう帰らなきゃ!」 「えっ、もう帰るのか?」 「帰らないと怒られちゃうから!あっ、龍香!」 「何?」 シオンは龍香に顔を近づけ、紅いほっぺにキスをすると公園の入り口へと駆け出して。 「じゃあね、龍香!また今度!」 「あっ、シオンちゃ……もう。」 小さくなって消えていく後ろ姿を龍香が苦笑しながら見送っていると。 「り、りりりり龍香!!あ、あんアンタほっぺにち、ちちちちゅーを…!?」 「えっ、あぁ。初めてやられた時にはビックリしたけど、外国だと普通なのかなぁって。」 「り、龍香!や、やっぱりお前は女の人が好きなのか!?」 「いやだから違うって!!」 《うーん、まぁ俺は良いと思うぞ。俺がとやかく言う事ではないだろうが。》 「誤解だよぉー!!」 シオンの凶行にびっくりした三人に詰め寄られた龍香の抗議の声が公園に響き渡るのだった。 一人の青年と少女が公園を歩いていた。 「………。」 ゆらゆら、ゆらゆらとまるで海に揺蕩う藻屑のように頼りない足取り。だが、その目。黒く濁ってはいるが抱えきれぬ憎悪と狂気的な妖しい光が渦巻いていた。 《随分とご機嫌だな?そんなに今から戦えるのが、嬉しいのか。》 「それは、お互い様だろう。」 《確かにな。》 青年……龍斗は自分の中から話しかけてくるアルレシャにそう返す。そんなやり取りをしていると、プロウフが適当に見繕った私服に着替えていた白龍香が龍斗のズボンの裾を引っ張る。 「って言うかさぁ、喉乾いたんだけど。」 龍香の視線の先には車を屋台代わりにしている出店があった。 《今から戦いだってんのに、何言ってやがるクソガキ。》 「だからこそ、だよ。英気を養うんだよぉ。ねぇ。いいでしょう?」 「まぁ、そのくらいいいだろう。」 龍斗はそう言うと、白龍香と一緒に出店で飲み物を購入する。 「わぁい!さっすがお兄ちゃん♡話が分かる♡」 《随分と甘いようで。》 「後からゴネられるよりかはマシだ。」 二人はストローから飲み物を啜りながらさらに歩を進めて、適当なベンチに腰掛ける。 「一旦打ち合わせの方をしておこう……。お前は龍香を。俺は龍賢が狙いだ。そこまではいいな?」 「うん、そうだね!」 「だが、今回は龍賢の奴には俺の息がかかった連中が一旦呼び出してるから、いるのは龍香と金髪のガキと黒いのと赤いのだろう。」 「へぇ、もう手回ししてたんだ。」 「あぁ。今回の戦いは出来る限り奴らの頭数を減らす。そのために、お前は龍香の足止めをしていろ。残りは俺達がやる。」 「三対一になるけどぉ、大丈夫?」 「心配ない。」 龍斗はそう言うと飲み干した空の容器をグシャッと握り潰した。 「今の俺達に油断も、慢心もない。そうだろう?」 《あぁ。俺様達の本気を見せてやる。》 「ふーん…。ま、お兄様が言うなら任せるわ。」 「なら早速作戦開始だ。これを。」 そう言うと龍斗は紙切れを取り出し、白龍香に渡す。 「何これ。」 「その紙に書いてある通りにしてくれれば、いい。」 尋ねる白龍香に龍斗は薄暗い怨嗟の焔で歪んだ笑みを浮かべて言い放つ。 「それが奴らの終わりへの第一歩になる…!」 「なんかあの子と絡むとドッと疲れるなぁ…」 「いやー、だっていきなりその…チューしたら誰でもビックリするわよ…。」 龍香とかおりがわいわいと雑談しながら帰路に着く。シオンが帰った後もしばらく観戦していたが、なんとなくお開きムードになったのでかおりと一緒に帰ることにしたのだ。 そんな風に今日あったことを二人が話しながら歩く帰り道。ふと前を見ると向こうから見覚えのある二人がやってくる。 「あれ?」 《雪花と黒鳥か?》 何か急いでいるようにこちらに走ってくる二人を龍香が眺めていると、段々とこちらに近づいてきて…そしてかおりと一緒にいる龍香に慌てた様子で尋ねる。 「龍香!敵は!?シードゥスは?」 「え?」 「この辺に手強いシードゥスがいるのか!?」 「え?え?何の話?」 焦ったように捲し立てる二人に何がなんだか分からない龍香は困惑する。 すると、その様子に二人も頭の上に?マークを浮かべ、怪訝な顔つきになる。 「えっ、アンタが私達に電話で言ったじゃない。一人では手に負えないシードゥスがいるって。」 「えっ、言ってない言ってない。私、そもそも電話してないよ?」 「……どう言う事だ?」 食い違うお互いの主張。三人がどう言うことだと考え始めたその時だった。 「こう言う事よ♡」 聞き覚えのある声。三人が一斉にその声がした方向に振り向くと、そこには白いドレスに身を包んだ龍香……白龍香がいた。 「あなたは…!!」 「えっ!?り、龍香が二人!?」 姿形どころか声までそっくりな白龍香にかおりは驚愕する。黒鳥、雪花の二人も驚くが、すぐに険しい顔つきに戻る。 「成る程。アンタが赤羽が言ってた偽物ね。通りでアイツとは思えない程ふてぶてしい面してるわ。」 「何のつもりかは知らないが。そちらの出方次第では…」 雪花と黒鳥が構える。それと同時に二人の言葉に白龍香のこめかみに青筋が浮かぶ。 「アンタ達も、バカなのかしら…?」 白龍香が殺気立ち、二人も応戦しようとした瞬間。 「あまり、妹をいじめないで貰おうか。」 スッと白龍香の後ろから一人の青年が現れる。その青年の顔を見た龍香は目を見開く。 「龍斗……お兄ちゃん…?」 《お前……ッ!》 「久しぶりだな。?三人か。てっきりあの赤いのも来るかと思ったんだが。」 「アンタは…ッ!!」 その青年は紫水龍斗…龍香の兄だった。龍斗の登場に彼の所業を知る雪花は怒りに顔を歪ませる。 「何?また龍香を苦しめるつもり…!?アンタ龍香の家族なんでしょ!?何でまた…!」 「……家族が全て幸せとは限らない。中に憎しみ合う家族も、分かり合えない家族もいる。」 龍斗の言葉に黒鳥は顔をしかめる。そして龍斗はスッと前に手を出して言う。 「……言っておくが、俺はあの時の中途半端な俺ではない。…アイツを、紫水龍賢を殺すためなら…。」 龍斗の身体が地面から湧き出た水に包まれる。そしてギュッと圧縮したかと思うと弾けて水滴が散らばる。 そこにいたのは以前よりも凶悪な顔つきになった魚の怪物が立っていた。 「龍香。お前の死すら厭わない。」 「──ッ」 龍香が思わず後ずさる。だが、代わりに雪花が“マタンII”を構える。 「なんだか知らないけど、もう一回痛い目を見たいって言うなら…!!」 雪花はそのまま怪物と化した龍斗へと向かっていき、そして“マタンII”を振り上げる。 「もう一回ぶっ潰してやる!」 「……馬鹿め。」 振り下ろされた“マタンII”が龍斗にぶつかる直前、雪花の腹に目にも止まらぬ速さで龍斗は水を纏った拳を叩き込む。 「がっ──」 そして拳の水が轟音と共に弾けたかと思うと雪花は大きく吹っ飛ばされて地面へと叩きつけられる。 「雪花ちゃん!?」 「藍!?」 打ちのめされた雪花はピクリとも動かない。あまりの剛腕に驚く三人を見ながら龍斗は拳を緩めて、三人を見据える。 「まずは──一人。」 To be continued……。 関連作品 (セブンスカラー
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雪の面白く降った朝、ある人のところへ用があって手紙をやるに、雪のことには一言もふれなかったところが、その返事に、「この雪を何と見るかと一筆申されぬほどのひねくれた野暮な人のいうことなんか聞いて上げられましょうか、どこまでも情けないお心ですね」とあったのは、興があった。今はもう亡き人のことだから、こればかりのことも忘れ難い。
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后《きさき》などがお産の時に、甑《こしき》を落すのは、必ずしなければならないことではない。お胞衣《えな》が早くおりない時の咒《まじない》である。早くおりさえすれば甑落しはしない。本来下賤の社会からはじまったので、別だんに根拠のある説も無い。大原の里の甑をとくにお求めになる。古い宝物蔵の絵に、下賤の者が子を産んだ所で、甑を落しているのを描いていた。
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五月五日、加茂の競馬を見物に行ったが、車の前に、雑人《ぞうにん》どもが多数立ちはだかって見えなかったから、一行はそれぞれ車を下りて埓《らち》のそばへすり寄ったけれど、特別に人が混雑していて割りこまれそうにもなかった。 こんな折から樗《おうち》の木に坊主が登って、木の股のところで見物していた。木に取っつかまっていて、よく眠っていて落ちそうになると目をさますことが度々であった。これを見ている人が嘲笑して「実に馬鹿な奴だなあ、あんな危い枝の上で、平気で居眠りしているのだから」と言っていたので、その時心に思いついたままを「われらが死の到来が今の今であるかも知れない。それを忘れて、物を見て暮している。この馬鹿さかげんは、あの坊主以上でしょうに」と言ったので、前にいた人々も「ほんとうに、そうですね、最も馬鹿でしたね」と言って、みな後をふり返って見て 「こちらへお入りなさい」と場所を立ち退《の》いて呼び入れた。 このくらいの道理を、誰だって気がつかないはずはなかろうに、こういう場合思いがけない気がして思い当ったのでもあろうか、人は木石ではないから時と場合によっては、ものに感ずることもあるのだ。