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阻むもの全てを閃光で撃ち貫いた。 砲撃魔法―――ディバインバスターを以って瓦礫を軒並み吹き飛ばす。もうもうと立ち込める噴煙には逡巡の一欠片も見ることなく、その中に身を躍らせた。 最高速度。瞬きひとつほどの時間も無く視界は晴れて、望んだひとを視界に捉えた。 崩壊寸前の大地。そこらじゅうで地割れが起こり、黒い深淵が覗いている。 そしてその一角で独りくずおれる、黒衣の少女。表情は窺えないが、それでも呆然と眼下を見下ろしていることはなんとなく分かった。 状況は推し測るまでも無い。苦いものが心中に湧き上がるのを覚えながらも、それを抑えこむように努める。 時間が無いのだ。 「フェイトちゃん!!」 呼びかける。 「飛んで!こっちに!」 手を伸ばす。 見上げ返してきた表情は触れれば壊れそうなくらいに儚げだった。だが――それも束の間。 もう一度だけ下を見て、また見上げられた顔には確かにひとつの意思を浮かべて。 手が伸びる。 片や素手の、片や黒い手袋に包まれた二つのてのひらがゆっくりとその距離を詰めていき。 ―――刹那、世界が歪んだ。 最後に目にしたのは、明るい闇。 暗転した視界と、自分を取り囲む黄金の円環。 そして、彼方に映る、手を取り合い彼方へ去っていく自分達の姿。 それが示す意味など塵一つほどにも理解出来ぬまま、勢いを増す環の輝きに呑まれて。 高町なのはは、意識を失った。 Magical Girl Lyrical Nanoha Cross The Legend of Heroes “Sora No Kiseki” 意識を失ったのが不意の事態であったなら、それが取り戻されるのもまた唐突なものなのか。 倒れ伏していた身体を起こし、霞の掛かったような頭で周囲を見渡して、 とりあえず分かったのは自分が居るのが見たことのない場所だということだった。 屋内、ではある。かなり天井が高いのか、上を見上げても目に映るのは真っ黒な闇だけ。 床と左右の壁は青を基調にしていて、いくつかお情け程度に設置された照明と、模様のように走る光が辺りを薄く照らしている。 調度品の類は……皆無。 『時の庭園』。意識を失う直前まで居たあの場所でないことは明白だった。 次元震の只中で崩壊の一途を辿っていたあの場所とはあまりに違いすぎる。 風景の共通点などカケラも有りはしないし、あまりに整然としている ――長く人の手が入っていないのか、床には薄く埃さえ積もっているではないか――からだ。 (床に…埃?) ふとその単語が意識に留まる。自分はその床に倒れてたのではなかったか?しかもうつ伏せで。 その状況が意味するところに思い至り、視線を周囲から自分、顔よりも下に移して、そのあまりに予想通りの状況に……。 (わわっ!?) 絶句。 着衣の前面が存分に埃まみれになっていた。慌てて掌ではたき落とそうとして、それもふと止まる。 着慣れ見慣れた白い服。丸二年とさらに一ヶ月あまりの付き合いでいまさら見紛う訳もない、私立聖祥附属の制服である。 意識の途切れる前まで身に纏っていた筈の、バリアジャケットではなく。そして―――。 「…レイジングハート?」 呼び掛けは無為に、闇に溶ける。改めてあたりを見渡しても、求めたものは目に映らず。 バリアジャケットと同じくして手にしていたはずの愛杖の姿もまた、ありはしなかった。 「―――!ユーノくん!?クロノくん!?エイミィさん!?」 立ち上る不安と悪寒を振り払うように、声を上げる、念話で通信を図る。 共に決戦に挑み、或いは後方からの支援に臨んでくれた仲間たち。 呼び掛ける。何度も。声を絶やさないように。 しかし――――その誰からも応えは無い。一度声を出すのを止めれば辺りは瞬く間に静まり返り、鼓膜に、脳裏には何も届かない。 「フェイト……ちゃん」 何より、あの時には目の前にいたはずの相手の姿さえも無いことが、その事実を否応無しにまるで暴力のように見せ付ける。 「……………そんな…」 肩が落ちる。口をついたのは、呆けた様に力の無い声。 かたかたと歯が鳴る。心の臓を握り締められたような悪寒がして、自分で自分の身体をきつく抱きしめる。 ひとり。重圧のように圧し掛かる、その事実に。 喉元から、或いは瞼のうちから溢れ出そうとするものを、必至になって押さえ込んだ。 泣いてはいけないと、こんなところで泣いたらきっと何もかも諦めてしまうと、そう思ったから。 固く目を閉じて、口を閉ざして、それでも少しだけ涙が、嗚咽が漏れた。 押さえつけた心の中は嵐の海のように荒れて、決壊寸前なのが目に見えるよう。抑えきることなど到底叶わな―――。 きぃん―――。 小さな音が鼓膜を打った。 ――ご、ぉん――――キン――。 距離が遠いのか、静まり返ったこの場所でなければ気がつかない、そんな微かな音。 重いものが落ちるような、或いは鈴を鳴らすような、幾種類かの金属音が、確かに届く。 (誰かが…いる?) 耳を澄ますうちに、心はいつの間にか平静を取り戻していた。 立ち上がって、駆け出す。今いる場所――――真っ直ぐに伸びた通路を、その音のしたほうへ。 があん!!―――がっ、ギィン!―――。 走ること暫し。音源の場所に近づいているのだろう、届く音は耳を澄ますまでもなくはっきりと聞こえるようになっていた。 一際大きな重低音は最早轟音と言えるほどになっている。 通路が終わる。駆け抜けた先は大きな広間。その只中にいるもの、音の主たちを目にして―――――目を見張り、言葉を失った。 それは異形。機械の獣。大雑把に言ってしまえば、『庭園』で戦った傀儡兵たちと似たような存在だった。 人の何倍にも及ぶ体躯を満遍なく白い鋼が覆う。 蜥蜴か竜を模したようなフォルムは曲線が多用されており、その様は流麗とさえ言えるだろう。 だが無論、だからといってこれが何のために造り出されたものなのか、見誤る者などいないだろう。 踏みしめる脚は二対四本。さらに人馬の如く上半身にも赤と青、鍵爪のような二本の腕を併せ持つ。 その狂爪の、美しくも禍禍しい輝きを前に疑う余地などありはしない。 これは破壊するモノ。敵となる全てを焼き払い、打ち砕き、それによって遣わしたものの守護を成す。故に――――。 『《環の守護者》トロイメライ』 それがこの機械の獣に冠せられた名前であった。 鈍い音を立てて傀儡兵もどきの右腕が掲げられる。先端に在るのは鮮やかに赤い、鋼の爪。 それが振り下ろされるだろう先にはあるものにすぐに気がつかなかったのは、白い巨体にばかり目を奪われたからだろう。 複数の人影である。 倒れ伏した者。膝を屈している者。或いは己の足で立ち、手にした武具を構える者。 何れも苦悶の表情や、疲弊した様を見せている。 状況は――推測するまでもなく明白だ。傀儡兵と戦っていて、そして追い詰められている。 そこにこうして、自分は居合わせたのか。 決断は一刹那も無く下された。細かい状況までは分からない。それどころか自分の置かれた状況だって定かではない。 ――それでも、きっと自分がするべきことは決まっている。 眼前にてのひらをかざす。出来うる限りの速さで脳裏に術式を構築し、魔力を集中する。 中空に顕れる淡い輝き。瞬く間に膨れ上がり桜色の光球となる。 「ディバインシューター…」 愛用の射撃魔法。 普段ならば当たり前に組み込む誘導制御及び多弾射撃の機能をカット、一射の強化に魔力を集約。 拳大から一抱えほどに大型化した光球を、 「シュ――――――――トっっ!!」 言霊を引鉄に解き放つ。 宙を翔け、流星の尾を引いて迫る光。目指すのは天を掴まんとするが如き、鋼の腕。 サイズを考えれば最早『弾丸』ではなく『砲弾』であろうか。 実際、注ぎ込んだ魔力量は下手な砲撃魔法なら容易く凌駕するほどのものである。 直撃した暁にはその装甲を喰い破り、跡形も無く吹き飛ばすに違いない。 その自信があった。彼女の実力を心得た者ならば、差はあれどそれと遠からぬ予測を立てただろう。 ――――それは、知らぬがゆえのあまりに甘い予測。 光弾が炸裂。衝撃が振り下ろされる直前の凶爪を大きく撃ち弾き、巻き起こった煙が覆い隠す。 在らぬ方向に傾いだ腕のままぴたりと硬直する傀儡兵。その様子は、傍目にはいささか間抜けにも見えたかもしれない。 奇襲の一撃は目論見どおり、傀儡兵の動きを止めることに成功した。 だが、腕を包んでいた魔力煙が晴れて、その下からなお変わらぬ様の赤い爪が現れたとき、 そんな考えは瞬く間に塗り変わった。 (―――うそ…) 数瞬の間。それで不意打ちの衝撃から立ち直ったのか、傀儡兵が四足を鳴らせてこちらへ向き直る。 深手どころか目に見える損傷すらないその状態が信じられなかった。 ディバインシューター。多弾攻撃と誘導制御によって敵の行動を制することが本分である射撃魔法とはいえ、 自身の並外れた(としばしば言われる)魔力量を以って放たれる一撃は決して低い威力ではない。 『庭園』で交戦した傀儡兵――自分を大きく上回る力量の魔導師が造り出したそれ――のうち、 小型なものならば一撃で確実に撃墜出来る威力の魔法。まして先の一撃は数発分の魔力を一纏めに束ねたものだ。 その直撃を受けて、全くの無傷。命中手前で魔力防御を展開した様子もない。 それはつまり、純然たる装甲強度のみで容易く弾き返したということ。 戦慄と共に理解する。格が違う。ただ一度の攻撃で分かってしまうほど、圧倒的に。 もっとも。知れば当然ではあったろう。 《環の守護者》。この世界の根源『七耀』を司る女神の至宝がひとつ、その守り手。 力の一端のうちのさらに一端と言えど、神域の御業が造り上げた白き竜機。 ―――――それを前にして、只人の成す事が軽々しく及ぶ道理など有りはしない。 がごり。 またしても響く重い音。上体をもたげる傀儡兵。反り返った竜首の影から覗くのは、 「……………っ!!」 腹部砲門。その事実を理解した瞬間、術式を展開。はたして放たれたのは散弾のような無数の光だった。 無数に迫る焦熱。それが身に届く一刹那前に展開した魔法が発動される。眼前に波立つ光の幕。プロテクション。 間断無く撃ち込まれ、満遍なく防壁を叩く衝撃は圧力と言うに等しい。 阻まれてなお届く熱気が肌を炙り、輝きが視界を半ば以上に真っ白に染め上げる。 そして、注ぎ込んだ魔力が瞬く間に削ぎ落とされる感覚。 肌が粟立ち、肝が冷える。背が凍る。 守りが間に合わなければどうなっていたのか。或いは、維持できなくなったとすればどうなるのか。 明白だ。防御を通してもはっきりと伝わる焦熱。それが非殺傷性なわけがない。 直接触れれば肌を裂き、肉を灼き穿つだろう。ましてそれが無数に撃ちかれられるのだ。 黒焦げの蜂の巣が一つ出来上がるに違いない。 ―――――恐い。 その様を想像して、思う。目の前に迫った死をもたらすモノが、突きつけられる『終わり』が、この上なく恐ろしい。 今まで――この一ヶ月あたりを振り返ってみれば危険な状況に立ち会ったことは一度ならずあった。 だが、そのどれと比べても今の状況は別格だ。 はじめてジュエルシードの暴走体に遭遇し、魔法に触れたときは、状況を理解する間も無く行動を強いられた。 黒衣の魔導師との戦いは『本気の勝負』でありながらも、決して命の取り合いではなかった。 幾度と無くこなした封印作業の時も『時の庭園』での最終決戦の時も、 その手の愛杖の、或いは仲間たちの力を借りて切り抜けてきた――――切り抜けられた。 それゆえに。全てが真逆の、加えて実質初めてといえる命懸けの極限状況。 それは、たとえ如何に人並外れた魔導の才を持とうと、たとえ人の世の闇を駆けた武の家に連なる生まれであろうと、 自らが足を踏み入れたばかりの少女にはいささか荷が勝ちすぎるものであった。 そも常識の範疇で考えるならば、たかだか九歳の子供に切り抜けろということがもとより無理な話だろう。 光の暴雨が止む。遠退く衝撃と熱。しかし、気を抜くことは未だ許されない。 第二撃。大弓を射るように深々と引き絞られた鋼腕。――機体腕部のリーチからすれば届く距離ではないはずだが、構えを取るからには実際は届くのだろう。 自分の身長を上回るサイズ。おそらくはトン単位の質量。繰り出される一撃は鉄槌という表現すら生温いそれに違いない。 先の攻撃で疲弊したバリアで―――否、逸らし、いなすのが旨であるバリア魔法では例え万全の状態でも防げまい。 バリアを解除し、シールドを展開しても間に合わない。 バリアを維持したまま機動魔法での離脱を図ろうにも、現状では複数の魔法の同時起動は手に余る。 すなわち、結論は“詰み”。打開する手立ては、今の自分には無く、必死は必至であった。 恐怖が体を縛る。竦み、身じろぎひとつ叶わないほどに。 そんななかで出来ることは諦め、死ぬという結末を受け入れるか、 (――――嫌だ!) 或いは、例え無為に終るとしても足掻くか。 バリアの維持と強化に魔力を集中し、展開範囲を自分の体格をギリギリ覆いきらない程度まで縮小。 展開基点を敵攻撃の中心点から、数センチ逸れるはずの位置に設定し、基点の“周囲”を重点的に強度を高める。 座標の推測は目視。真っ向で受けて砕かれるか、範囲の端を抉り貫かれるか、 それとも上手く最高強度部分で受けとめて逸らしきるか。 逸らしきれるかも疑わしい、伸るか反るかの大博打。それに挑むべく目前の一撃を目を閉じず逸らさず見据える。 恐怖と緊張が何十倍にも引き伸ばした時間。実際は一秒にも満たない僅かなそれを経て、 ガアアアアァァアァン!!! 解き放たれた一撃は――――甲高い音を立てて、眼前に現れた何かに弾かれた。 何か―――ぼろぼろと崩れ落ちるのは、幾重にも折り重なった岩の壁。その先で、 カ、キン! 黒い剣閃がふたつ振るわれ、弾かれて宙空に浮いた鋼の爪を叩き落す。 「大丈夫?」 呆気にとられてそれを見ているところに、声が振る。いつの間にか傍らに歩み寄る人影がそこにあった。 真っ先に目を引いたのは強い意志を輝きに湛えた瞳だった。ツインテールにした栗色の髪。 右手に携えるのは身の丈ほどもある長い棒。左手には薄く光を灯す、懐中時計のようなからくり。 自分の姉と同じくらいの歳の女のひと。 いざないは金の輝き。招かれたのは蒼空のかなた。異郷の地、拓かれし時代。 そこで交差する幾多の運命のもとに、かくして星と太陽、二人の少女邂逅は果たされた。 目次へ 次へ
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+ 〔機械〕特性持ち一覧 Class Rare Name 剣 4 フランケンシュタイン 弓 5 源為朝 槍 4 哪吒 謎のアルターエゴ・Λ 術 3 チャールズ・バベッジ 殺 5 果心居士 4 加藤段蔵 狂 5 項羽 ガラテア 4 フランケンシュタイン 3 呂布奉先 分 5 メルトリリス キングプロテア 4 パッションリップ メカエリチャン メカエリチャンⅡ号機 月 5 BB(水着) 4 BB エネミー オートマタ系、ヘルタースケルター系、機械化歩兵、自動防衛装置、巨大メカ魔猪、メカノッブ系、ノブ戦車、ノブUFOイーター、サクラハンドラ、シェイプシフター、英霊兵、女中、魔導僧兵、傀儡兵、多多益善号、ポセイドンコア、ケルベロス、広域殲滅兵器、タロス、対人殲滅装置、アフロディーテ、デメテル、ゼウス、お手伝い人形グガランナ、ムネーモシュネー、、奇兵隊、アラハバキ、LWB-M8、HWB-M8
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午前8時30分 時空管理局地上本部 鉄人28号臨時対策作戦室。 鉄人の本局襲撃から1夜明けて、本局を追われた局員が大挙して訪れた時空管理局地上本部。 だが人手不足と言われる地上本部でも本局の職員全員を納める事は敵わず、各管理世界の地上本部へと分散する事となった。 そして辛うじて大破を免れた地上本部に鉄人28号臨時対策作戦室が設けられ、はやて、ヴォルケンリッター、なのは、フェイト、クロノ、エイミィ、マリーの計10人が集められている。 しかし鉄人への対抗策を講じるために召集されたこのメンバーであるが、先程から作戦室を支配しているのは重々しい空気と沈黙のみであった。 そんな中、現場指揮官であるはやてが口火を切る。 「アルカンシェルは全滅。本局も復旧の目処は立っとらんし、ミッドチルダの死傷者の数も今だ不明。 まぁ数千~数万人の死傷者が出たんは間違いないやろうけど。とりあえず当面の問題はあの鉄人にどうやったら勝てるんか、やな」 はやての言葉がその場に居る全員に重く圧し掛かる。そう、管理局は敗北したのだ。 だが敗北を引きずるよりも勝利を得るにはどうするべきなのか。今すべき事は勝つための手段を考える事。 彼女達が暗い表情で対抗策を捻り出そうとする中、マリーだけは余裕のある表情を見せていた。 「ちょっといいですか?」 マリーの声にはやては向き直り、その微笑みを浮かべる様子に困惑の色を露わにしていた。 「ええ、どうぞ」 戸惑い気味にはやては促し、マリーは席から立ち上がると照明を落としてから部屋の前方に設置されたモニターを起動した。 するとそこに表示されたのは、昨日鉄人が破壊していた時のミッドチルダの衛星画像であった。 ミッドチルダ首都部の全景が移された画像をよく見ると何やら電流の様な物が鉄人に向かって真っすぐ伸びているのが確認出来る。 マリーは画像に映っている電流を指さすと自信を湛えた顔で話し始めた。 「これは鉄人28号出現時に観測された非常に強い電波です」 「電波?」 はやてはマリーの言葉に訝しげと言った表情で聞き返す。するとマリーは待ってましたと言わんばかりの笑みを見せて話を続けた。 「そう、これは鉄人28号の操縦電波です」 「操縦電波ってどういう事や?」 今だマリーの解説を理解し切れないはやてであったが、むしろマリーは説明する事が嬉しい様で、笑顔の表情を崩しはしなかった。 「つまり鉄人28号は外部から操縦されるロボットと言う事なんです」 「あのさぁ」 今度はマリーの解説にヴィータが小さい手を振り、疑問を持っている事を主張するとマリーは手を向けてヴィータの回答を促した。 「よく分かんねぇんだけどさ。外部操縦だと、どうだってんだよ」 「簡単に言えば、わざわざ鉄人と闘わないで操縦者を潰せばいいんです。操縦者は外に剥き出しな訳ですから」 マリーの言葉にヴィータの表情は晴れたような笑顔を見せる。そう、鉄人本体を倒す必要など最初からなかったのだ。操縦者を叩けばいい。 そしてヴィータ以外の者も勝利への可能性が提示された事に表情を綻ばせていた。 操縦者さえ確保出来れば鉄人を攻略出来る。それは絶望の淵に立たされたはやて達にはこれ以上ないほどの朗報であった。 マリーは皆の喜ぶ様子を笑顔で見つめていたが、話はここで終わったわけではない。マリーは鉄人への対抗策の説明を始める。 「えっとそれでこの操縦電波の周波数ですが現在解析中です。周波数さえ分かれば逆探知が出来ますからあとは」 「操縦者を捕まえる。勝てるでこれは」 そう言って笑みを浮かべるはやては勝利を確信した。鉄人がいくら強くても操縦者はただの人間だ。仮に敵が高ランク魔道師でもこのメンバーで一斉に攻撃を仕掛ければ逃れられる者など居ない。 だが問題が一つある。次に鉄人がどこに現れるかという事だ。それが分からなければ対処のしようがない。 「せやけど相手がどこに現れるか、問題はこれやな」 会議室の一同ははやての一言に同意していた。何せ目的が管理局の破壊なら既に達成されてしまったのなら次はどう出るのか。 今だ地上本部が残ってはいるが、はやては鉄人が地上本部の破壊を行うとは思えなかったのである。 「昨日鉄人はまず地上本部を襲撃した。せやけど完全に破壊するチャンスがあったのに鉄人はそれをせぇへんかった。 本局を壊滅させながら何故地上本部を残したのか? 私にはそれが理解出来へんのや」 はやての言う事はもっともだ。もしも時空管理局の転覆を狙っているのなら昨日の段階で地上本部も壊滅させるはずだ。 しかし犯人はそれをしなかった。つまり目的は地上本部の破壊ではなくもっと別の何か。 その場の全員が地上本部が生き残った理由について思案に耽っていると、それを払うようにクロノが一言発する。 「その件について何だが」 勿体ぶったような口調のクロノに、はやてはやや急かすような口調で催促した。 「なんか分かっとるんか?」 そう問われてクロノは戸惑った。何せクロノ自身確証のある自論ではないからだ。 もしも予想が外れていたら待望の視線を送る彼女達の期待を裏切る事になる。仲間の落胆する様子を思えば自信も削がれるという物だ。 クロノは期待の眼差しにプレッシャーを感じながらも重々しく口を開いた。 「ああいや、昨日本局で見てた時なんだが、あの鉄人は何かを持って飛び去ったんだ。 そう、地上本部のロストロギア保管庫。あそこにあった何かをだ」 「じゃあ鉄人はロストロギアを?」 何故ロストロギアを? そんなはやての問い掛けに答えたのはクロノではなく彼の隣に座るエイミィであった。 「クロノに言われて調べてみたんだけど、持ち去られたのは昨日の朝発見されたロストロギアらしいの。 なんでも廃棄都市の解体中に現れたらしくて、軽く調査をしてロストロギアの疑いありって事で詳しい調査までの間、保管処置にされたらしいんだけど」 エイミィの説明によれば昨日、廃棄都市で発見されたロストロギアを狙って犯人は鉄人で強奪に来たらしい。 しかし解せない。そんな物が発見された当日に盗まれるとはどう考えてもおかしいと思い、はやては考え得る仮説を口にした。 「そないな物を昨日の今日で盗んだ言う事か。せやけど一体どういう事や」 「だが問題は誰が盗んだかだ。そしてそのロストロギアが一体どう言った物なのか」 クロノの意見も、もっともな物である。確かに誰が何の目的でそのロストロギアを盗んだのか? もしも強力なロストロギアであれば、それこそ鉄人と合わせてこちらの勝ち目はなくなってしまうかもしれない。 僅かな希望が見え始めた時に、姿を見せた絶望の因子。それを齎す者の名は。 「一連の犯人、スカリエッティかもしれへんな……」 はやてのその言葉に場の空気は完全に凍りついた。そう、誰もがその答えに納得したのだ。この事件はスカリエッティの犯行だと。 スカリエッティが脱獄してから既に1ヶ月が経過している。何かをする準備期間には十分だと言ってだろう。 それに鉄人28号。スカリエッティほどの天才科学者ならば、あれほどのロボットを作る事も不可能ではないかもしれない。 「もしもそうなら確実に捕まえなあかん。あの男の事や、ろくでもない事考えてるんは分かる」 はやての言に皆は頷いた。そう、何としてもあの男を捕まえなければ。こんな事をこれ以上許しておく訳にも黙って見ている訳にはいかない。 改めて一同が決意を新たにしていれば今だモニターの前に立つマリーが言う。 「今度鉄人が現れるなら必ずこの電波が確認出来るはずです。この電波を観測して追尾すればそこに操縦者と」 「鉄人が居る言う事か。よし私達は鉄人の襲撃に備えるで! なんとしても犯人を捕まえるんや!」 『了解!!』 今度はこちらが逆襲する番だ。そう胸に誓ってその場に居る全員がはやての言葉に返答の声を上げていた。 彼女達の視線に強い闘志が宿る中、ただ1人フェイトの表情だけは作戦会議が終わる最後まで曇っていた。 ―魔法少女リリカルなのは 蘇る闇の書― 第3話「鉄人28号奪還作戦」 会議が終わり、メンバーが解散した後。なのはは足早に退室したフェイトの様子が気になって彼女を追いかけていた。 少し歩いて廊下に見慣れた金髪を見つけるとなのはは、声を掛ける。 「フェイトちゃん!!」 その一言にフェイトは振り返ってなのはを認めると先程よりも不安の色を強くしているように見えた。 フェイトの様子にやはりおかしい物を感じたなのはは、フェイトの正面に立ち、真っ直ぐに真紅の瞳を見据える。 なのはは目を見ればフェイトの心境程度なら読み解く事が出来たのだ。そしてなのはが出した結論は不安と恐怖の感情。 ありとあらゆる負の感情がフェイトの奥に渦巻いているようになのはには感じられた。何故そんな眼をするのか、まるで初めて会った時の様な悲しい眼を。 「フェイトちゃん……私が傍にいるよ」 不安と恐怖は自分の笑顔で吹き飛ばそう、傍に寄り添う事で、抱き締める事で癒してあげたい。 なのははありったけの笑顔でフェイトに問い掛ける。 「そう……」 だけどフェイトの表情は一向に優れない。それどころか視線を逸らしてしまう。 どうしてそんな顔をするのか、どうしてそんなに辛そうなのか、なのはが考え付いた答えはフェイトが昨日見た悪夢。 それがフェイトを縛る鎖となり彼女を締めつけているのだろう。どれほど、もがいてもその鎖が断ち切れないからこんな表情をしているのだ。 俯いてなのはを見ようとしないフェイトは、彼女の横を通り過ぎて、そのまま歩き出してしまう。 なのはは、去ろうとするフェイトに追い縋るように声を上げた。 「フェイトちゃんの悪夢は私は撃ち砕くから!」 なのはのその一言にフェイトは上半身だけを彼女に向き直した。フェイトから見えるなのはの表情は確固たる決意を湛えているようだった。 その目じりには涙が溜まり、蒼々とした瞳をサファイヤの様に潤み輝かせている。 「フェイトちゃんを泣かせる物なんて私が壊すから! 私もフェイトちゃんを守るから! 私もフェイトちゃんの盾になるから!」 「なのは……」 フェイトが掛けてくれた言葉「この世の全てが敵だって君だけの盾になる」なのはも大切な友を守りたい想いは同じである。 しかしフェイトにとってなのはの言葉は喜ぶべき物とは言えなかった。自分を守るために無茶をされたら本末転倒ではないか。 本人は慰めのために言っているんだろうが、そんな事を聞かされる方は堪った物ではない。 とにかく高町なのはが無事で居る事がフェイト・テスタロッサ・ハラオウンが望む全てなのである。 だから誰よりも守りたい存在ではあれど自分を守ってもらう事などフェイトは望んでいなかった。 「そんな事……しなくていいよ」 「なんで!? ほっとけないよ! そんなに、そんなに辛そうなのに!」 フェイトの拒否をなのはが素直に受け入れるはずもなく、どうして守ってはいけないのか? そんな想いがなのはを満たしていく。 それを知ってか、それとも気が付かないふりをしているのか、フェイトはなのはに向き直ると一言。 「私は平気だよ。気にしないで」 そう微笑みを残すとフェイトは踵を返してから、なのはの元を去ろうとしていた。 なのはは追い掛けようとしたが、何故かフェイトの背中がそれを拒んでいるように見えたのである。 フェイトの様子になのはは、その場で立ち尽くして彼女を見送る事しか出来なかった。 「そう、自分の悪夢は自分の手で壊すから」 この役目を負うべきはフェイト自身。フェイトは自分の見た夢ならそれを打ち砕ける物は自分しかいないだろうとそう考えたのである。 なのはが死んでしまう悪夢を打ち砕くためなら、なのはを守るためなら、なのはの幸せと笑顔を守れるならどんな敵が相手でも戦って見せると。 だが、この選択が後に二人の運命を大きく狂わせていく事。そしてフェイトとなのは、二人の永久の別れがすぐそこまで迫って来ている事をまだ誰も知らない。 午前10時00分 ミッドチルダ山岳地帯 ジュエル・スカリエッティはこれからの活動用にミッドチルダの山奥にアジトを建造していた。 それは以前使っていたアジトと同じように、天然の洞窟を改造して作られた物である。 そのアジトの深部、特に大きなスペースを誇る格納庫にそれは眠っていた。そう、たった一機で管理局を翻弄した人型最高兵器鉄人28号。 格納庫は全体が金属製の壁板で覆われ、整備用の機械設備に満たされており、ここだけ見れば誰も洞窟の中に作られた物だとは思いもしないだろう。 その無機質な空間の中でスカリエッティは、眼前にそびえる巨大な姿に見惚れていたのだった。 立っているだけ、ただ立っているだけなのに、何と威厳に溢れているのだろうか。 「素晴らしい。まさかこれほどの力とは……連中が目を付けるのも頷ける」 「ですがこの力、奴等には相応しくありません。そう、ドクタージェイル・スカリエッティ貴方にこそ相応しい物です」 スカリエッティの後背、そこに立つウーノは嬉々とした様子で語った。敬愛するスカリエッティが望んだ力。 ウーノにとってスカリエッティの幸せこそが己が幸福。スカリエッティの野望こそが己が夢。スカリエッティの傍に居る事が己が快楽。 狂喜を湛えた科学者に奉仕する事がウーノにとって生まれた意味にして生きるための理由その物。この身を捧げる事こそが何よりも幸せなのだ。 例え罵られようとも、この身に鞭を振るわれようとも本望! スカリエッティの行動その全てががウーノにとって愛しく堪らないのである。 スカリエッティはウーノに振り返ると優しい視線を投げ掛けながら言を発した。 「ウーノよ。君にも苦労を掛けたねぇ。私のためによくここまで尽くしてくれた」 スカリエッティが感謝の言葉を述べている。それはウーノにとって何よりも望んでいる言葉。親愛なる男から掛けられた労いに、ウーノはスカリエッティの前に跪いた。 「いえ苦労などと! 私はドクターのお傍に居られる事だけで幸せなのです。ドクターの為なら、例え我が身が地獄の業火に焼かれようとも構いません!」 「君の様な腹心が居て私は幸せだよ。さて、本局も潰した事だしそろそろあれの回収を進めねばなるまい」 スカリエッティは眼前の鉄人を見上げると邪悪な微笑みを浮かべて、昨日の夜を思い出していた。 管理局を壊滅させた楽しい時間。本局が炎に包まれる中、慌てふためく本局魔道師と管理局員達の滑稽な立ち振る舞いは見ていて実に愉快な時間だった。 そして地上本部から持ち出したロストロギア『封印カプセル』これこそが世界に最後を齎す破壊の力。 「ではドクター」 跪いたままウーノは顔だけ上げてスカリエッティを見つめる。その表情に浮かぶのは終末を思わせる狂気の笑み。 だが、誰が見ても禍々しい感情をウーノは恍惚として見惚れていたのだ。まるで愛おしい物を愛でる様な柔らかな笑みで。 そして喜色満面の表情を見せるスカリエッティは、呟くようにしかしウーノの耳には届く大きさで発した。 「ああ今夜だ。今夜決着を。そう、世界が燃え尽きる日がもう、すぐそこに!」 無機質な天井を仰ぐスカリエッティとウーノ。思い描くのは間もなく訪れる最後の時。 破壊に支配された世界の様子は、スカリエッティにとって何よりも愉快な未来であるのだろう。 ただただ滅びの時を思い描いてスカリエッティは微笑んでいた。 午後19時10分 ミッドチルダ首都中央部。 ミッドチルダの夜は静寂に包まれていた。普段なら活気付いている時間帯であるが、昨日の鉄人襲撃事件の影響で街には人の姿は見られなかった。 昨夜の襲撃でほとんどの市民が外に出る事が危険だと思い家に閉じ籠っている状態なのである。 しかしはやて達にとってこの状況はむしろ好都合とも言えた。万が一鉄人との交戦になれば街への被害を気にしている余裕はない。 そうなれば自ずと犠牲者も出てしまうかもしれないが、これだけ閑散とした街であれば市民への被害を考えずに心置きなく戦えるという物だ。 「さぁどこに居るんや」 そう呟いた八神はやては、高層ビルの屋上から双眼鏡で街を見下ろしていた。 今から約10分ほど前に、鉄人の操縦電波と思しき電波がミッドチルダの首都中央部で確認され、はやて率いる捜査チームが偵察に来たのである。 今回のメンバーは隊長のはやて。それからヴォルケンリッターシグナム、なのはにフェイトである。 ヴィータも作戦に参加すると言い張っていたのだが、昨夜の戦いでグラーフアイゼンが大破したため、はやての説得でクロノ達とバックアップに回る事となったのだ。 そしてほんの数分前に4人が現場に着いたのだが、こうして監視を続けていても一向に鉄人が現れる気配はない。 はやてが操縦電波の観測が間違いなのかと思い掛けたその時、僅かにはやての足元が揺れる感覚がしたのだ。一瞬何事かと思ってはやてが視線を落とすが足元には何もない。 やがてもう一度はやての立つビルが振動する感覚。今度は微かに地響きのような音も聞こえる。その音は確かに聞き覚えのある物で、さらに地響きは一定の間隔を保って徐々に大きくなっていった。 はやてが双眼鏡で眼下に広がす街に見やる。すると距離にしておよそ2キロほどの地点に激しい土埃が舞い上がっていた。 もしや思って、はやてが双眼鏡のズームを最大にして土埃の上がる地点を凝視してみると巻き起こる粉塵の中に見えたのは、巨大な体躯を持ったロボットの姿。 その姿にはやてが警戒心を強めた。あの姿を見間違えるはずがない。それは昨日自分達に辛酸を舐めさせた因縁の相手。 「あれは鉄人……鉄人28号」 そう、その巨大な鉄で出来た姿は、紛れもなく鉄人28号の物だった。リンディによればこの世に終わりを齎す者。世界を破滅へと導く大いなる力。 昨日自分達に敗北を与えたロボット兵器。このミッドチルダにおいてロボット兵器は実用化不可能のオーバーテクノロジーである。 しかしジェイル・スカリエッティは、実用化不可能と呼ばれた技術を振るって管理局に戦いを挑み、見事に勝利を得たのだ。 たった1機、たった1機のロボットに時空管理局本局は壊滅させられた。それは、はやて達にとって寝耳に水の出来事であり到底信じられる物ではなかった。 だが、それが真実だ。はやても本局壊滅の知らせを聞き、リンディの世界が滅ぶという言葉を実感せざるを得なかったのである。 「マリーさん、操縦電波は!」 とにかくあの化け物を今夜こそ仕留める。そう誓ったはやては通信装置を起動して地上本部から後方支援を担当しているマリーを呼び出した。 マリーの話によれば操縦電波を逆探知すればそこに操縦者が居るとの事である。つまりはそいつを叩けばいいのだ。 今回の作戦ではやて達は、地上本部の作戦司令室を借りており、そこでバックアップのメンバー達はエイミィとマリーを中心として操縦電波の逆探知を行っていた。 地上本部の作戦室は本局の物よりも狭かったが、形状は似ていてセクションごとに階層が分かれている。 司令室の前面には巨大なモニターが設置されており、電波の逆探知の結果が表示されているが、その結果は彼女達の予想とは全く異なった物であった。 「こ、これは一体……」 マリーが見た物、それはモニター状に無数に走る電波線。数え切れないほどの操縦電波が飛び交うこの状況は全くの想定外である。 「まさかダミーの操縦電波を」 「その通り!」 マリーの予想は操縦電波の逆探知を恐れた相手が、ダミーの操縦電波を大量に流して特定を困難にしているという物。 そしてモニターの光だけを灯にした部屋で声を紡いだスカリエッティは、青白く照らされた笑みを浮かべて、鉄人が街を闊歩する様子を見つめていた。 「鉄人が外部操縦式のロボットである事がばれるのは最初から想定内。だからこそ、こうしてダミーを流したという訳さ」 スカリエッティが流しているダミー操縦電波の数は数百を超える。その全てを解析して本物の位置を割り出すには、かなりの時間を有する事は明白であった。 「それに周波数も鉄人と全く同じにしてあるからね。よほど精密に検査しないと偽物かどうかも分かるまい」 そう、スカリエッティにとってこの計画は完全。あとは確実に仕事を片づければいい。早くもスカリエッティは確定的な勝利の余韻に浸っていた。 「そんな……また先手を取られるなんて」 呟くマリーの頭を過るのは昨日の本局壊滅の光景。結局スカリエッティに先手を打たれて何も出来ずに本局は壊滅させられてしまった。 どう足掻いても何をしてもスカリエッティはその先を行ってしまう。まるで手に取るようにはやて達の行動が予測され、突破口を巧妙に塞いでいく。 だが、そんな物に屈してなる物か! そう胸に秘めたエイミィはまだ希望を捨ててはいなかった。 「はやてちゃん。鉄人は操縦者が鉄人の見える場所で操縦するしかない。そうなれば」 「おのずと本物の場所は限定される」 エイミィのしたり顔の発言に、はやても微笑みを漏らしていた。エイミィはこの状況においても鉄人28号の弱点を冷静に分析していたのだ。 鉄人28号が外部操縦式のロボットなら安定して運用するためには操縦者が見通しのいい場所から操縦しなければならない。 このミッドチルダ首都部は高層ビルのジャングルだ。そうなればビルが遮蔽物になって鉄人の姿が隠れやすい訳だから操縦に適した場所は限定されてくる。 「せやったらおそらくは高層ビルからの操縦。鉄人がいる位置をよく見通せる位置のビルに犯人は居るはずや」 はやての推測に地上本部に居るエイミィも同意していた。エイミィは手元のキーボードを叩き、はやての予想したデータを入力する。 対象は首都部でも特に高く、尚且つ遮蔽物に邪魔されずに鉄人が居る場所をよく見通せる角度にあって操縦電波が発信されているビル。 エイミィが打ち込んだ条件に合ったビルが司令室の前面に設置された巨大モニターに表示されていく。 「はやてちゃん。条件に合うビルは10棟! 急いで捜索して!」 エイミィの知らせを聞いてはやては思案した。本当ならば今回のメンバーで一斉に奇襲して敵を確保したい所。 そもそも今回のメンバーが少数精鋭なのは奇襲作戦を仕掛ける前提があったからである。操縦者の場所が分かっているなら大隊を放り込んでもしょうがない。 敵が高ランク魔道師であれば、大隊を送り込んだら逆に動きを察知され、転移魔法で逃げられる可能性があるのだ。 だからこその少数精鋭なのだが、この状況では逆に人数が少なく、敵を探し出すのは困難であった。 それに4人しかいない戦力を分散させるのも非常に危険な行為である。相手が単独でも高い戦闘力を持っていれば確保どころの騒ぎではない。 だが、ここで鉄人を操っている犯人を取り逃がすわけにはいかないのだ。はやては意を決してなのは達に指示を出す。 「よし各自散開してビルを捜索するんや! 絶対に犯人を逃がしたらあかんで!」 その指示に後方に控えていたなのは、フェイト、シグナムがそれぞれ魔力光を纏って飛び出した。飛翔した3人は眼前に通信機を起動して、条件に該当するビルをモニター上に映している。 やや遅れて、はやても純白の魔力光を身に纏い空へと舞い上がって行った。彼女も通信機を起動してビルを画面上に表示する。 それぞれ捜索対象のビルには1~10までの番号が振られており、はやてはそれを見ながらどのビルに誰を送るかを検討していた。 「みんなよく聞いてな。私は1番ビルを捜索する。なのはちゃんは2番。フェイトちゃんは3番。シグナムは4番や。 各自探索終了後、状況を報告。もしもそこに操縦者が居なかったら私がまた指示するからそのビルへ向かってな。ええか?」 『了解!!』 10番までのどのビルに犯人が潜伏していてもおかしくはない状況。はやては結局番号順にビルを捜索する事にしたのだ。 犯人潜伏の可能性が10か所とも同程度ならこの判断も妥当と言えよう。なのは達はそれぞれが持ち得る最高速度で捜索対象のビルへと向かった。 しかし犯人にこちらが見つかってしまっては奇襲の意味がなくなる。そのためなのは達は首都部の全貌を捉えられるほどの高高度を飛行していた。 そんな中はやては、いち速く捜索対象であるビルの頭上1000メートルほどの位置に到達。はやては通信を地上本部の回線に繋いだ。 「こちら八神はやて。捜索対象のビルに到着。エイミィさん犯人の潜伏している階は分かりますか」 エイミィははやてからの通信が入るや否や甲高いタイプ音を鳴らしながらキーボードを高速で叩いていた。 その指は餌を懸命に啄ばむ鳥の様で、モニター上に滑るような速度で次々に電波逆探知の結果が表示されていく。 やがて電波の逆探知が完了し、ビルの66階付近から操縦電波が発生しているという事が判明した。 「そこの66階! そこから電波を観測!」 「了解! 突入します!」 エイミィからの通信に、はやては単独での突入を覚悟した。はやては、単独戦闘を得意としてはいないが、なのは達もそれぞれ別のビルを捜索している。 仮にこのビルから発信される操縦電波がダミーであった場合、貴重な時間を無駄にしてしまうのだ。 もしここに犯人が居ても、なのは達の足ならこのビルまで数分と掛かるまい。はやてもその程度の時間稼ぎなら高ランク魔道師相手にも出来る自信があった。 はやては、突入の覚悟を決めると上空から一気に急降下した。先程までいた場所には漆黒の羽が滞留し、空気を切り裂く音が高速で飛行するはやての耳を劈く。 だが、はやては速度を緩める事なく目標の階まで近付いて行き、そこに辿り着くと進行方向をビル側へ急転換。 そのままのスピードで、はやては両腕で顔を庇うとガラスを突き破って目標である66階へと突入した。 猛スピードでビル内に突入したはやては、でんぐり返しの要領で何回転かして突入時の勢いを殺し、片膝をついた状態で静止するとすぐに愛杖であるハーケンクロイツを構える。 しかしそこは会社のオフィスらしい様子で、机が規則的に配置されているだけで誰も居なかった。どうやら犯人はこの部屋にはいないようである。 はやては立ち上がって走り出すと突入した部屋の扉を十数cmほど開けた。扉の隙間から外の様子を窺うも誰も居ない。 そのまま扉を開けて廊下に出たはやては足音を殺しながら走り始める。少し走ると、はやての目の前に扉が見え、そこに犯人が居るかもしれないと考えたはやては勢いよく扉を開けた。 「なんや?」 しかしはやてが扉の中で見たのは、からっぽの部屋に置かれた2メートルほどの金属製の装置。 形状は円柱状で床にしっかりと杭の様な物で固定されており、本体にはミッドチルダ語で「ドカーン!!」という文字が白いペンキで書かれている。 状況を飲み込めないはやてが部屋の中を見渡すと他にも小型のアンテナ装置が設置されており、はやてが通信機を起動して操縦電波の送信位置を確認するが、間違いなくこの装置から送信されていた。 その状況にはやては愕然とする。額には脂汗が滲み出て、頬には冷や汗が伝っていた。動揺からその濃い蒼の瞳孔は収縮と拡大を繰り返している。 「やられた」 全てを悟ったはやてがそう呟いた時、円柱状の装置から眩い閃光が走り、その刹那ビルの66階部分を猛炎が支配した。 爆発の衝撃でその階のガラスは粉々に砕け散り、ビル内に収まり切らなかった炎流がガラスの割れた窓から激しく噴き出している。 そして突如響いた爆音に離れた位置に居るなのは達が目をやる。数瞬の時間状況を理解出来ずにいたが、すぐに気が付いた。そう、爆発したビルがはやての突入したビルであった事に。 その様子は地上本部でバックアップを務めるエイミィ達の元へも届けられていた。巨大なモニターに映るのは変わり果て炎に包まれるビルの姿。 「はやてちゃん……そんなぁ……」 目に涙を浮かべながら、俯いて拳を握り締めるエイミィ。その場の誰もが同じような反応を見せており、クロノも沈痛な表情を浮かべて肩を震わせていた。 ヴィータに至っては、呆けた顔でその場にへたり込むのが精一杯で、何かしらのアクションを起こす事も出来ないでいる。 「ハハハハハハ! やはり短絡的だな八神はやてぇ!」 燃え盛るビルをモニター越しに見つめて薄暗い部屋にスカリエッティの高笑いが響き渡っていた。 「わざわざその場に行って操縦するわけがないだろう! そんなことにも気が付かんとは愚かを通り越して道化と言った所かぁ!? ハハハハハハハハハハハ!」 燃え盛るビルの付近、そのすぐ傍を飛ぶ数台のガジェットドローンの姿。スカリエッティは本拠地からこのガジェット達から送られて来る映像を頼りにして操縦を行っていたのだ。 敵が操縦電波の存在に気が付く事は予想が付いていたし、操縦者が見通しのいい場所から操縦している事がばれるのも想定済みである。 だから現場の近場にダミーの電波発信機。はやて達が探しそうな操縦に適したビルには爆弾を設置しておいたのであった。 この映像送信用のガジェットにもクアットロの固有技能『シルバーカーテン』が施されており発見は非常に困難であり、スカリエッティの作戦が気取られる心配もない。 「あ……あ……主はやてぇぇぇ!!」 そして現場でその光景を見たシグナムの激しい感情が叫びとなって喉から発せられると、彼女は犯人の捜索など忘れて爆風が今だ渦巻くビルへと飛翔した。 亜音速にも迫ろうというスピードでビルに辿り着いたシグナムは、最も炎が激しく損傷の酷い部屋を選ぶとそこへ飛び込んだ。 爆心地と思しき部屋は完全に焼かれており、炎と黒煙と瓦礫以外の物は何もないように見える。しかしシグナムはその中にはやての姿を見つけようと懸命だった。 「はやて! はやてぇ! 返事をしてください!! はやてぇ!」 声帯が張り裂けんばかりにシグナムは声を上げて主の名を呼ぶ、しかしその声に答える者はそこに居なかった。 瓦礫の下に埋まっているのではないかと思い、肉体強化を最大にして瓦礫を退かしていくがはやてを姿を見つける事は出来ない。 まさか爆発で身体がバラバラになってしまったのか。シグナムの脳裏を主の死と言う最悪の可能性が過ぎる。そしてそれは普段冷静沈着なヴォルケンリッターの騎士を狂気させるのは十分な物だった。 「鉄人……鉄人28号ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 怒りのぶつけ所の分からなくなったシグナムは咆哮と共にレヴァンティンを構えて鉄人へと突撃していく。その様子を見たなのはとフェイトもシグナムに追従した。 冷静さを欠いた状態で勝てるほど鉄人は弱い相手ではない。闇雲に攻撃を仕掛ければ返り討ちに合う事ぐらい簡単に予測が付いた。 「シグナムさん落ち着いて!」 「シグナム!」 なのはとフェイトが制止の声を掛けるがシグナムの意識にその言葉が入り込む事はない。目の前の憎い敵を斬り裂く! もはやシグナムにはそれ以外の事を考える事は出来なかった。 仕方なしになのはがバインドでシグナムを止めようとするが、既に鉄人が突進してくるシグナムに対して戦闘態勢を取っていた。 もしもバインドでシグナムを縛ればその隙に鉄人がシグナムを殺してしまうだろう事は想像に難しくない。 鉄人とシグナムの距離はもう100メートルもなく、なのはとフェイトはこのまま自分達も突撃して鉄人と戦う事を決意していた。 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 雄たけびを上げながらシグナムはカードリッジを2発ロード、レヴァンティンの刀身に炎を纏わせ振り上げると鉄人との距離を詰め、斬り付ける。 だが鉄人は仁王立ちの体制から動こうとしない。シグナムはガードの体制さえ取らない鉄人に努色を強めると頭部に渾身の力で燃え盛る刀身を叩き付けた。 瞬間、甲高い金属音が響くが、鉄人の装甲が傷付く事はない。シグナムがどれほど腕に力を込めようと刃は微動だにしなかった。 「シグナムさん退いて!」 なのはの声にシグナムが振りかえると鉄人の30メートルほど上空で、なのはがレイジングハートを砲撃モードに切り替えてチャージを始めている。 いくらシグナムが頭に血が上っている状態と言っても、なのはの砲撃に巻き込まれれば確実に墜落するだろう事は理解出来た。 射線を開けるべくシグナムは急上昇、なのはは歯を食い縛りながらチャージを続行する。この砲撃はなのはにとっても賭けであった。 鉄人が飛行されれば一瞬で詰められる距離でのチャージ。しかし少しでも鉄人を撃破出来る、足止め出来る可能性があるならこれに掛けるしかない。 そう、操縦者を見つけるまでの時間が稼げればいいのだから。 「フェイトちゃんは操縦者を探して!!」 声を荒げるなのはに、その隣を滞空するフェイトは戸惑いを隠せないでいた。たった2人で鉄人と戦える訳がない。もしも自分が行けば確実に待つのは死。 フェイトの中で夢の光景が蘇っていく。それはなのはを失ってしまう恐怖。親友がこの世から居なくなってしまうのは、フェイトにとって絶対あってはならない事態だった。 「で、でもなのはとシグナムだけじゃ」 「行って!」 今にも泣き出しそうな顔をしているフェイトに、なのはが激を飛ばす。この中で一番速いのはフェイトだ。彼女なら9個のビルの探索に10分と掛かるまい。 なのはは、フェイトと言う魔道師をそして友を誰よりも信じている。もしもフェイトが操縦者を見つけられなければ殺されてしまうだろう。 だからこそ、なのははフェイトに命を預けたのだった。フェイトなら手遅れにある前に必ず操縦者を見つけてくれる。 今なのはに出来る事は時間を稼ぐ事。フェイトを信じて、この化け物相手に10分戦い、生き延びる事。 「行って! フェイトちゃん!!」 フェイトにしか鉄人を止める事は出来ない。なのはの執念にも似た感情をぶつけられたフェイトはようやく自分の役目を理解して飛び立とうとした。 意を決して全速力で飛び出したフェイトは雷光の様な魔力を纏い、満月が煌めく夜空へと飛翔する。まずは2番ビル、そこに向かって操縦者を探索する。 その様子をなのはが振り返りながら見送って、鉄人を捉えるべく正面に向き直ったその時だった。 「高町!!」 シグナムの悲鳴にも似た声が夜闇の首都に響き渡り、既に安全圏まで離脱していたフェイトが何事かと振り返ると。 「なのはぁ!!」 「て……鉄……人?」 なのはの正面、そこにそびえる鋼鉄の巨躯。呆然と呟いたなのはがその姿を認識すると同時に、シグナムが飛び出し、フェイトも方向を急転換する。 鉄人の姿に、なのはは死の恐怖を感じていたが、それ以上に戦う事を考えていた。今この距離で砲撃を撃てば鉄人に多少でもダメージを与えられるかもしれない。 それは限りなく0に近い可能性だったが、なのはにとってはフェイトが操縦者を探す時間さえ稼げるならそれでよかったのである。 シグナムも愛剣を振り上げ、鉄人に猛然と突き進んでいた。主の敵を討てるなら、少しでも時間を稼げるならそれでいい。 フェイトもバルディッシュを構えて鉄人に向かうがなのはとシグナムとの距離が離れすぎている。最高速で飛んでも2人が鉄人に攻撃を仕掛けるタイミングには間に合わない。 「ディバイン!」 「おおおおおおおおおおお!」 決して退かない、絶対逃げない! なのはとシグナムが鉄人に敢然と戦いを挑もうとした時、鉄人は両手を上げて構えていた。 「ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」 そして鉄人が耳を引き裂くような咆哮を上げた時、その鋼の身体から激しい電流が迸った。 青く光るそれは溢れんばかりに広がって、周りにあるビルに直撃するとその窓ガラスを次々に叩き割って行く。 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 鉄人の周囲を電流が満たすと突如街に響き渡った若く可憐な声による悲鳴。その声の主を見たフェイトは泣き叫ばんばかりに声を上げていた。 「なのはぁぁぁ!!」 今なお続く鉄人の電撃、彼の数メートル圏内の距離に居たなのはとシグナムはその直撃を受けていたのだ。激しい電流の焼けつく感覚がなのはの白い素肌を冒していく。 ガラスを叩き割る電流の電圧は雷を上回ると言われているのだから、バリアジャケット越しとは言えその破壊力はとても人間の耐えられる物ではない。 やがて鉄人の電流は空中に青い粒子を残して止むとなのはとシグナムは力なく地上へと落下していった。 如何になのはのような高ランク魔道師と言えど、数十メートルの高さから受け身も取れずに落ちたら大怪我をしてしまう。 フェイトは、まずシグナムの落下地点にクッション代わりの魔法陣を展開、フェイト自身はソニックムーブを使ってなのはに向かって急速飛行する。 フェイトの雷光とも見間違えるほどの音速に迫る機動は、地面から1メートルほどの距離でなのはを横抱きにキャッチして着地。少し遅れてシグナムも魔法陣のクッションで落下の衝撃を和らげていた。 着地して、しゃがみ込んだ状態のフェイトに抱かれているなのはの身体からは白煙が上がり、フェイトの手に焼けるほどに熱せられたなのはの体温が伝わってくる。 なのはの身体は痙攣を起こし、瞳孔も完全に開き切っている。痙攣に交じって時々喘ぎ声にも似た声を上げて身体を大きくビクつかせたりもしていて、傍目に見ても危険な状態であった。 フェイトは懸命になのはの体を揺すり、彼女の意識を取り戻そうとしていた。 「なのはぁ! しっかりして! 目を開けてよ! なのは!!」 抱き締める身体に力はなく、なのはの痛々しい姿にフェイトは嗚咽を止める事が出来なかった。 涙をぼろぼろと流してフェイトは、なのはの燃えるように熱くなった身体をより強く抱き締めると、その豊満な胸に顔を埋めた。 フェイトの行動は、もはや現実など見たくないという心理の表れ。なのはの胸に隠れて、ただ状況をやり過ごそうと必死なのである。 最愛の友が自分の目の前で墜落したショック。夢の中の出来事が現実を侵食していく感覚。それはフェイトの戦意を奪うには十分過ぎる物であった。 「なのはぁ……なのは……起きてよぉ……」 心が砕けかけたフェイトにとどめを刺そうと上空から鉄人がゆっくりとフェイトの前に降り立った。ガジェットの送る映像で様子を窺うスカリエッティは実に満足げな表情を浮かべている。 「1年前のあの日、君は随分私を痛めつけてくれたねぇ? だが、君は私にとって可愛い子供の様な物。せめてもの情けだ。大好きななのはと一緒に葬ってやろう」 鉄人は右の拳を振り上げてフェイトとなのはに狙いを定める。何かを感じたフェイトが顔を上げると目の前には巨大な拳で狙い澄ましている巨人の姿。 この時フェイトは全てを悟っていた。自分は死んでしまうのだと。鉄の化け物に殺されてしまうのだと。なのはを守る事が出来なかったのだと。 こんな近くまで距離を詰められた状態で、なのはを抱いて退避するのは現実に考えても不可能に近い。 フェイトは諦めたように顔を上げると視線の定まらないなのはを顔を見つめた。そして優しく、けれどしっかりとなのはの身体を抱き締める。 これが最後の抱擁になるのだから、痛みに震えるなのはを少しでも楽にしたいから、最後の瞬間も触れ合っていたいから。 「ごめんね。私弱くて……」 そっとフェイトが呟いた瞬間、鉄人はその鋼鉄の拳をフェイト達目掛けて突き出した。 フェイトは瞳を閉じて、間もなく訪れる死を受け入れるしかない事に絶望していた。大切な親友を守れない自分。弱くて、情けなくて、無力。 死後の世界はどんな風になっているのか。こんな暗闇が支配する世界なのだろうか。そんな世界になのはを連れて行きたくない。 だけど抗う力なんて持ってない。この悪夢を討つ砕く力なんてない。力が欲しい、どんな敵をも砕く力が。 フェイトは暗闇で願い続けたのだ。力が欲しいと、なのはを守れる力が欲しいと、大切な友達を守れる力を手に入れたかった。 願い続けるフェイトの肌に押し付けられるような空圧と巨大な轟音が近付いてくる。この空圧がもっとも強くなる時、この轟音が耳にもっと深く入り込む時、その時自分は死ぬ。 もうフェイトは生き残る事を諦めていた。暗闇の中で死が近付いて来るのを待つだけの時間、永遠の様で一瞬の様な時間。 死はすぐそこまで近付いている。この場に守ってくれる人は居ない、居ないはずなのに何故だろうか。フェイトは背中に温かい物を感じていた。 腕に抱くなのはではない。ならこの温もりは何だろう。それは自分にとって大事な人の物によく似ていた。 「母さん……助けて」 フェイトが温もりの正体に気が付いて呟いた時、凄まじい金属音と衝撃を纏った暴風がフェイトの身体を打ち付けた。 自分は死んだのだろうか、そう思うフェイトだが身体に一切の痛みはない。不思議に思ってふと眼を見開くとそこにあったのは。 「な、こ、これは!?」 フェイトの目の前にあったのは自分に向けられた鉄人の拳、そしてフェイト達を守る様に鉄人の拳を阻む巨大な黒い手。 何事かとフェイトが振り返ると巨大な体を持った黒い巨人が立っていた。 「ギュイィィィィィィィィ!」 独特の咆哮を放つ黒い巨人は、鉄人に匹敵する体躯と黄色く光る眼、頭頂部に赤い逆三角のカラーリングの施された頭部に2本の角の様な物を持ち、そのシルエットはまるで無敵の兵士を阻むあらぶる黒牛の様である。 その姿にフェイトは驚愕以外のリアクションを取る事が出来ず、ただ呆然と2体の巨人が向かい立つ姿を見つめるしかなかった。 この突然現れた黒い巨人の存在は、クロノ達の居る地上本部のモニターとガジェットが送る映像を見て操縦しているスカリエッティにも届けられ、彼らも驚きを隠せないでいたのである。 クロノはあまりの出来事に唖然とし、エイミィは泣き腫らした顔を上げ、マリーは新たなる興味の対象が現れた事に歓喜し、スカリエッティは額から冷や汗を流していた。 特にスカリエッティにとってこの突然の襲撃者は完全に想定外の物で、さすがの天才科学者もごく僅かではあるが焦燥を覚えていたのであった。 しかし計画に変更はない。スカリエッティは操縦機で鉄人の出力を上げる。すると黒い巨人は足元のアスファルトを削りながら鉄人の怪力に徐々に後退していった。 だが突如黒い巨人の眼が光り、黒い剛脚が力強く一歩を踏み出す。すると今度は鉄人がその力に押されて後退していく。 作戦司令室のモニターに映るその様子をクロノは信じられないと言った様子で見つめていた。 「な、なんて力だ。鉄人と互角に渡り合っている」 それは鉄人に対抗する力の出現と言う考えられない状況であった。たったの1機で時空管理局本局を壊滅させた鉄人と互角の力。 今ミッドチルダには世界を変える程の力が、時空管理局本局を相手に互角に戦える程の力が2つ存在しているという事になる。 そんな事があり得るのか、地上本部司令室に居る全員がただ呆然として鉄人と闘う黒い巨人の姿を見つめていた。 「そんな、鉄人に匹敵するロボットはもう残っていないはず!? それなのにどうしてあんな物が!? 」 それはスカリエッティも同じであった。突然現れた鉄人と匹敵するロボットの姿。普段は冷静さと冷酷さを併せ持つスカリエッティだが今回ばかりは意表を突かれたと言っていい。 黒いロボットは、鉄人の拳を掴む手を思いっきり突き出した。その勢いに鉄人は後方へ吹き飛ばされ、転倒を防ぐために両足を肩幅よりも広げ、衝撃に耐える。 鉄人の身体が制止すると同時に黒いロボットは両手を開いて前へ出すと指先に銃口の様な穴が開き、そこから黒い霧を噴出し始めた。 霧は残留性が高いらしく地面から空中へと滞留しながら広がって行く。そして霧は瞬く間に鉄人と黒いロボットの周囲を完全に覆ってしまった。 濃い黒の霧は目くらましなのか、霧の中に取り残されたフェイトは数メートル先も見る事が出来なかった。 遠く離れた自分のアジトで鉄人を操縦するスカリエッティも霧で機体を隠され、思うように操縦が出来ない状況である。 そして鉄人の姿を写すはずのモニターにも突然ノイズが走り始め、スカリエッティは戦いの状況を知る手段を完全に失っていたのだ。 焦ったスカリエッティはモニターを調整して状態を回復させようとするがまるで効果がない。原因不明の不調にスカリエッティは困惑した。 「映像が映らん!? あのロボット一体、一体何を!」 完全に翻弄されているスカリエッティと同じく現場でその様子も見るフェイトも現在の状況を掴み切れずに恐怖を覚えていた。 霧の中からは激しい金属同士の衝突音が何度も聞こえており、その音が周囲に轟く度にフェイトの不安を煽るのであった。 一体この霧に中で何が起きているのか、あの黒いロボットの正体は? 先の見えない暗黒でフェイトはただ不安に身を委ねるしかない。 やがて一際強烈な衝突音が響くと黒霧を吹き払うように鉄人の巨体が宙を飛んでいた。黒いロボットの右拳は伸び切っており、おそらくその拳が直撃した結果なのだろう。 力なく滞空する鉄人は、黒いロボットの位置から30メートルほど先の地面に墜落。その衝撃にアスファルトは悲鳴のような激突音を上げて大きな陥没を作った。 それはまるで隕石が地面に衝突したかのような光景で、フェイトが座り込む地面にも地震と取り違えてもおかしくない程の巨大な振動が伝わってくる。 「な、なんという。これほどの物とは……」 ノイズが走るモニターでも鉄人が殴り飛ばされた事はスカリエッティにも十分に理解出来た。 普通に考えれば鉄人を相手に、その身を遠方に殴って飛ばすなど通常のロボットに出来る物ではない。 出来るとしてもそれはロボットの中でもほんの一握りのロボットに限られるだろう。そして恐らく鉄人と対峙するこのロボットはその一握りの中の一体。 「それにあの霧……電波撹乱か」 モニターの不調の原因。それはあの黒い霧が空気中に多量に散布された事による電波障害であるとスカリエッティは睨んでいた。 もしもそうだとしたら霧がある以上、モニターの映像が回復する事はないのだから、戦闘は鉄人と黒いロボットの動きが把握出来ない最悪の状態で行わなければならない。 鉄人と互角の力に電波撹乱機能。スカリエッティは敵の予想外の性能に驚嘆を覚える以外になかった。 このまま戦い続けても鉄人に勝ち目はないかもしれない。ここに来てスカリエッティは決断を迫られていた。 「仕方がない。鉄人退却だ!」 スカイエッティの一声に、地面に倒れたままの鉄人は起き上がると、ロケットエンジンを点火して空へと飛び去って行った。 その突然の出来事に、地上本部の面々は唖然呆然と言った様子。あの鉄人が敗走をしている。それは、その場の誰しもが想像しなかったが、誰もが望んだ光景であった。 現場で一部始終を見ていたフェイトも突然過ぎる出来事に開いた口が塞がらない状態で、逃げる鉄人と鉄人を倒した黒いロボットの姿を見つめる事しか出来ずにいる。 「あ、あれは……あれは一体」 「フェイト」 呆然と呟いたフェイトの後方から聞こえた聞き覚えのある声。その声にフェイトは思わず振り向いた。 「その声は、まさか母さん!?」 フェイトが振り向いた時、そこに居たのは彼女の義母リンディ・ハラオウンの姿。そのリンディの右肩に頼る様にしてやっとの思いで立っている八神はやての姿もある。 「それにはやて!」 「無事か、フェイトちゃん」 驚きを隠せないと言った様子で声を上げるフェイトに、はやてはおどけた笑顔を見せながら左手を振っていた。 先程このビルの爆発に巻き込まれたはやての騎士甲冑は所々破れ、そこから本来見えるはずの美しい白い素肌も今は傷だらけで真っ赤に染まっている。 騎士甲冑とセットの帽子も頭からの流血で赤く染まり、完全に閉じられた左眼からは涙の様に血を流していた。右目は開かれているがやはり出血が見られ、内臓を傷つけたのか口からは鮮血が滴っている。 まるで絵に書いたような満身創痍のはやてをリンディは申し訳ないと言った様子で見つめていた。 「本当に大丈夫はやてさん? ごめんなさいね、来るのが遅れて」 「大丈夫です、ゴフッ! はぁはぁ……もう少し、早いとよかったかも……しれませんが、ガッ!ゲホゴホッ!あふ……はぁはぁ……あかんさっすがに全身痛いわ」 咽る度に血を吐き出し、喘息の様な息遣いのはやての背中をリンディはそっと撫で始めた。よくこんな状態になるまで戦ってくれたと敬意を込めながら触れるように優しく。 「あの本当に大丈夫なんですか? 早く病院に行った方が」 今にも死んでしまってもおかしくなさそうなはやてを心配するのは少年の声。フェイトが聞き覚えない声に目をやるとリンディの隣に一人の少年の姿があった。 年齢は10歳程度、整った顔立ちに黒い髪。グレーのジャケットに赤いネクタイ、濃いグリーンの半ズボンと服装からしても如何にも育ちの良さそうな少年である。 この場に似つかわしくない少年の登場にフェイトは動揺を隠せないでいた。それに黒いロボットの正体も気になってしょうがない。 「母さんこれは一体どういう! その子は? それにあのロボットも」 フェイトの問いにリンディは戸惑いを覚えていた。そう、全てを話せばフェイトの人生に暗雲が立ち込める事となるだろう。 だがそれでも言わねばならない。この事件の真相にまつわる事を。それが我が子を苦しめる事になろうとも言わねばならないのである。 だがリンディは、それを表情に出そうとはせず、あくまで淡々とした口調でフェイトの問いに答え始めた。 「紹介するわね彼は金田正太郎君。あの鉄人と黒いロボットの操縦者よ」 「えっ! て、鉄人の! こんな小さい子が!?」 リンディから語られた真実。それはこの幼い少年があのロボット鉄人28号の操縦者であるという事実。 しかしどうしてリンディと面識のありげな少年のロボットが自分達を襲うのか。そして何故自分のロボットと戦っているのか。フェイトにとって疑問の尽きない答えであった。 だがそんなフェイトの様子を見ながらもリンディは変わらぬ口調で語り始めた。 「そしてあの黒いロボット。あれが鉄人28号に対抗し得る唯一のロボット。その名を黒い牛『ブラックオックス』」 「ブ、ブラック……オックス?」 リンデブラックオックスの名。それは鉄人に唯一対抗し得る力。これ以上の敗北は許されない。 これからリンディ達が手に入れるのは勝利。何としてもあの鉄人をスカリエッティの魔手から解放出ねば。 そのためのオックス、そのための正太郎。次に戦う時、それがスカリエッティの命運尽きる時だ。 「私達は今からブラックオックスと正太郎君に協力してもらって鉄人28号を奪還します!」 リンディが決意の声を上げるとフェイトは、ある確信を強くしていた。それはもしからしたら鉄人に勝てるかもしれないという淡い希望。 「鉄人28号奪還作戦」 フェイトが呟いたその言葉にリンディは頷く。そう、やられるばかりではない、今度はこっちの番だ。 午前8時30分 時空管理局地上本部医務室。 鉄人襲撃から1夜明け、その医務室ではフェイトを除く出動メンバーが治療を受けていた。 ビルの爆発に巻き込まれたはやては、左目眼底骨折に瞼の裂傷、肋骨が5本粉砕骨折、全身打撲と身体中に火傷と擦過傷を負っており、治癒魔道師でもある守護騎士シャマルから絶対安静を言い渡されていた。 はやて自身現場に出て戦いたくはあったが、この怪我では他のメンバーに迷惑がかかるだろうと治療に専念する事を決断。今はシャマルの看護を受けて地上本部に設置された治療室に入院している。 一方なのはとシグナムは、鉄人の電流の直撃を浴びていたが目立った外傷はなく、検査でも異常は見付からなかったが、一応療養のため数日の入院が決まっていた。 しかしなのはもシグナムも入院の命令に黙って従うような人間ではない。シグナムは無理を言って既に退院。なのはも退院の準備を進めていた。 「なのは本当に身体大丈夫? もう少し休んでも」 医務室のベッドに座るフェイトは、部屋に備え付けられたロッカーの前で教導隊の制服に着替えるなのはに声を掛ける。 本当なら数日は安静にしているべきなのだが、なのははいつ鉄人が現れるかもしれないとシャマルの反対を押し切って独断で退院手続きを取っていたのだ。 そんな状況に不安げな表情を見せるフェイトに、なのはは赤いタイを締めながら振り返ると笑顔を向けた。 「大丈夫だよ。ほら元気、元気!……いったっ!」 そう言ってなのはは両手で小さいガッツポーズを取って見せる。しかし直後、なのはの顔は苦痛に歪み、床に座り込んでしまった。 「なのは!!」 驚いたフェイトはなのはに駆け寄り、しゃがみ込んでその華奢な身体を抱き締める。フェイトより一回り小さい身体は痛みに震え、蒼い瞳は涙で潤んでいた。 「無理だよ。もう少し休まないと」 「でも戦わないと……」 何故戦おうとするのか。何故これほどまでになのはが戦おうとするのかフェイトには分からなかった。 これまでの戦いでなのはの身体はダメージが蓄積してきている。ゆりかご戦の後遺症も今だ治っておらず、その上昨日あれだけの攻撃を受けたのだ。 なのはの身体はゆりかごの後遺症だけでも数年の療養を必要とするほどにボロボロになっている。そこに昨日受けたダメージが抜け切らない状態で戦闘に出ればどうなるか。 恐らくその答えは戦闘経験のない素人でも分かる事だろう。満身創痍の状態で戦い続ければまた9年前の様な事になりかねない。 だが、それでもなのはは笑顔なのだ。痛みに耐え切れないだろうに、意識も朦朧としているだろうに。しかしなのはは、フェイトの不安を溶かすように笑みで彼女を見つめている。 「約束したでしょ? フェイトちゃんの悪夢は私が壊すって」 確かに昨日なのははそんな事を言っていた。だがフェイトはそれを断っている。無茶をしてほしくないし、自分の悪夢は自分で壊すとそう思ったからだ。 それなのに、なのはは笑顔で約束したと言う。でもそれはなのはが勝手に決めた事で約束なんかではない。頑なな、なのはの様子にフェイトは怒りと苛立ちを感じていた。 「だからそれはいいってば!」 「よくない! 守ってもらってばっかりは嫌だよ! 私だってフェイトちゃんが苦しい時には助けたい! 守ってあげたい!」 声を荒げるフェイトに負けじとなのはも声を張り上げる。譲れない意思のぶつかり合い、互いに頑固な面があるフェイトとなのはがこうなってはどちらかが引くという事はない。 普段冷静な時ならこんな言い合いには発展しないのだろうが、精神的にも肉体的にも追い詰められた2人に自分の意見を曲げたり、譲歩する余裕はなかった。 「私は別になのはに守ってもらいたくなんかない! 私はなのはが幸せで居てくれればそれで」 「嫌だよ! こんな辛そうなフェイトちゃん見たくない。フェイトちゃんが苦しんでるのに私だけ幸せになんかなれないよ!」 フェイトが腕に抱き締めるなのはの表情は苦しみに歪んでいる。だがそれは痛みにより物ではない。大切な親友が辛そうな顔をしているから、だから苦しかった。 昨日からフェイトは悪夢に苦しんでいる。彼女の話を聞けばあの鉄人が暴れる光景を夢に見たのだろう事は想像に容易い。 フェイトは、なのはにとって大切な人だから助けたい。もしも辛いならその重荷を自分にも分けてほしい。泣いてる顔なんか見たくない。 そう、昨日からずっとフェイトは泣きそうな顔を見せ続けている。なのはにとって身体を蝕む激痛よりもフェイトの悲しそうな姿の方が胸を締めつけるのだった。 「フェイトちゃんはヴィヴィオがさらわれた時、泣いてる私を抱き締めてくれて、励ましてくれて、だから私頑張れた。 フェイトちゃんが傍に居てくれたから、フェイトちゃんが抱き締めてくれたから、2人で一緒にって言ってくれたから、私はフェイトちゃんが居てくれたから戦えたんだよ」 1年前のあの夜、ヴィヴィオがさらわれ、泣き崩れる事しか出来なかったなのはをフェイトは抱き締めていた。辛い物なら2人で背負おう、苦しみも2人で一緒に乗り越えよう。 なのはは、フェイトの前でだけ泣く事が出来たのだ。フェイトを誰よりも信頼してるから、この人なら自分を受け止めてくれると思ったから。 どんなに辛くても傍に居てくれる。何があっても助けに来てくれる。初めて二人で一緒に戦った時、初めてヴィータと戦った時、そしてヴィヴィオがさらわれた時。 なのはが辛い時、苦しい時、フェイトは必ず助けてくれた。傍に居て、命を掛けて守ってくれた。だからお返しがしたい。自分も守りたい。 フェイトにとってのなのはが誰よりも大切な存在なら、なのはにとってもそれは同じ事。大切な親友が苦しんでいるなら今度は自分がフェイトを助ける番なのだ。 「だから、フェイトちゃんを守りたい。ずっと私の事守ってくれたから。どんな時でも必ず守ってくれたから。 一昨日の夜誓ってくれたよね。私の盾になってくれるって。どんな時でも傍に居てくれるって。 私もフェイトちゃんに誓うよ。私もフェイトちゃんだけの盾になる。そして、フェイトちゃんを守るために全てを撃ち抜いて見せるから」 そう言ってなのはは、フェイトの胸に顔を埋めて身体を抱き締め返した。胸に伝わる優しい吐息と身体を包むその温もりにフェイトは涙が溢れそうになる。 そう、どうしてこんなになのはは、健気なんだろうと。初めて出会った時もなのははフェイトに声を掛け続けていた。名前を呼び続けて、助けようとしていた。 その理由はフェイトが寂しそうな眼をしていたから、たったそれだけの理由で高町なのはは、自分に刃を向ける相手を助けようと懸命になっていた。 なのはは、あの時から何も変わらない。大人になっても自分ではなく他人の心配ばかりする。自分の意志を曲げる事なく、相手のために戦い続けてきた。 たくさん傷付いて、こんなになるまで戦って、他人が助かればそれでいいという顔を見せる。そんななのはの無茶な所に、フェイトが今までどれだけ泣かされた事か。 自分なんかのために戦って傷付く姿なんて見たくない。だからフェイトはなのはの言葉を拒絶する事を決意した。 「私なんかのために戦わないでよ」 「なんかなんて言わないで!」 フェイトの呟いた言葉に、なのはは顔を上げると怒声をぶつけてきた。その表情は抑え切れる怒りが漏れ出しているように見える。 だがすぐに柔らかい笑みを浮かべると突然の怒りに唖然とした表情をしているフェイトを見つめながらなのはは、呟いた。 「自分の事をなんかなんて言わないで。私にとってフェイトちゃんは大事な人だから」 何故なんだろう。どうして自分の事をここまで心配してくれるんだろう。もうフェイトは何も言えなくなっていた。 そして笑みを浮かべたままなのはは、フェイトの腕からすり抜けて立ち上がる。今だ床にしゃがみ込んだフェイトに優しい視線を送るなのはだが、フェイトは目を逸らしていた。 「約束だよ。私もフェイトちゃんを守るから」 なのはの言葉にフェイトは無言で答えるしかなかった。それを見たなのはは医務室の扉を開け、フェイトを残して出て行った。 午前10時30分 時空管理局地上本部 鉄人28号臨時対策作戦室。 先日、はやて達が鉄人への対抗策を話し合った臨時対策作戦室。ここで鉄人へ対抗すべく召集されたメンバーが集まり会議を行っていた。 しかし重傷を負ったはやては欠席。代役としてリンディが作戦の指揮を執る事となった。 会議室に居るメンバーは、はやて、シャマルを除いて、昨日と同じメンバー。それから新たにリンディとそしてリンディが連れてきた正太郎、その隣に中年に差し掛かった男性が座っている。 正太郎と同様に男性も高級そうな四角い枠縁の眼鏡に仕立ての良い茶色のスーツを着ており、やはりそれなりの家柄の出身であろう事は、誰の目に見ても明らかであった。 突然作戦会議に現れたこの2人をその場に居る全員が好奇の眼差しで見つめているが、正太郎と男性はどうも居心地が悪そうにしている。 そんな様子に見兼ねたリンディは、言葉を紡ぎ始めた。 「改めて紹介するわね。今回私達に協力してくれる金田正太郎君と彼の後見人の敷島博士よ」 「よろしくお願いします」 年相応とは言えぬ落ち着いた物腰で正太郎は椅子に座った状態で軽く頭を下げる。その隣に座っている敷島も正太郎と同様の対応をした。 「彼、正太郎君は本来の鉄人の操縦者よ。そして博士は鉄人を作り上げた科学者の一人なの」 「あの~」 リンディの言葉に割って入る様になのはが小さく手を上げて言を発した。リンディは首を少し傾げながらなのはの方へと向き直る。 「どうしたのなのはさん?」 「正太郎君だよね? 君の操っていたあのロボットは一体」 なのはが漏らした疑問。それは昨日自分達を助けてくれたロボットの正体について。 リンディもよくよく考えればフェイト以外にその事を伝えていない事を思い出し、しまったという表情をしている。 あの戦いでフェイト以外のメンバーは鉄人にやられてしまったのだから、ブラックオックスの事を一切聞かされていない。 よくよく思えば当然とも言えるなのは達の疑問に、敷島が説明を始めた。 「ああ、あのロボットはね、ブラックオックスと言って、戦時中鉄人に対抗して設計されたロボットなんだよ」 「あの、戦時中ってどういう事ですか?」 戦時中、その言葉が気にかかってマリーは聞き返していた。そもそも鉄人やオックスの様なロボット開発技術は次元世界に存在しないと思われていた。 その技術が存在し、ましてや実用化されていたとなるとこれは次元世界の兵器の歴史が根底から覆る大事件と言う事になる。 マリーが科学者としての好奇心を纏わり付かせた目で敷島を見つめると、敷島はやや重々しく口を開いた。 「いやそれは……」 戸惑いを隠せない敷島にマリー達は訝しげな表情浮かべている。敷島は鉄人が作られた真実をどこまで話していいのか迷っていたのだ。 全員が好奇心を露わにして敷島を見つめているが、リンディは戸惑う敷島に本日2度目の助け船を出した。 「まぁその詳しい説明は後ほど。とにかく今は鉄人を取り戻す事が先決よ」 「でもどうやって取り返すのですか? 相手は遥か遠方から鉄人を操縦しています。操縦者が現場に居ない限り確保は困難ではないかと」 クロノの意見はもっともである。操縦者が現場に居ないのであれば確保は困難極まるだろう。 逆探知をすれば敵の本拠地を探り当てる事も不可能ではないだろうが、ダミー電波がある限り、結局昨日と同じ轍を踏まされる可能性もある。 「それについては問題はないわ。犯人は必ず現場に現れるはずよ」 「それは一体どういう」 自身に満ちたリンディにクロノは釈然としない物を覚えた。これほどまで勝利を確信する表情、一体どんな隠し玉を持っているだろうか。 「スカリエッティは必ず来る。私達はそれを抑えればいい」 やはりそうなのか。リンディの発言に作戦会議室のメンバーが心の中で頷いたのだ。一連の事件の犯人やはりスカリエッティ。 しかし同時に皆が疑問に思うのは、何故その事をリンディが知っているのか? もしも前もって知っていたならなぜ最初から教えてはくれなかったのか? 当然と言えば当然の疑問である。今のリンディの口ぶりはスカリエッティが今回の事に関与している事を知っている風であった。 リンディ自身も彼女等が疑惑を居抱いている事は肌に感じていたが、あえてそれに気が付かない振りをして言葉を紡ぎ始める。 「今夜必ずスカリエッティは現れるわ。私達は総力を結集してあの男を確保します」 今だ疑問は尽きないし、新たな協力者についても謎が多い状況。彼女達にとって不安要素ばかりが残ってしまった作戦会議であったが、今夜鉄人が来ると言うなら捕まえる。 これ以上被害を増やす訳にはいかないのだ。それに時空管理局のエース、エリートと呼ばれているプライドもある。 今夜全てに決着を。そう決意するメンバーであったが、まさかこれが終わりではなくこれから起こる戦いの始まりであるとはこの時、誰も想像していなかったのである。 午前11時10分 時空管理局地上本部 リンディの臨時オフィス。 「母さんこれは一体どういう事なの!? 私には全然分からないよ!」 本局壊滅の煽りを受け、鉄人への対応に際して指揮権を譲渡されたリンディは地上本部に臨時のオフィスを構えていた。 現在スカリエッティが狙っているのはミッドチルダにあるカプセルと呼ばれるロストロギアである事が判明している事から、地上本部に拠点を置く事が最善だとリンディは判断していた。 そんな真新しく清潔感溢れるオフィスで、リンディの養女であるフェイトは新品のデスクを叩いてリンディに詰め寄っている。 会議が終わってから数時間の後、リンディが何も語ろうとしない事に腹を立てたフェイトがオフィスに押し掛け、現在ではこのような状況になっているのだ。 「ええそうね。確かに。でもねこの世には知らない方がいい。そういう事だってあるのよ」 だがそれでもリンディは、はやてに話した時と同じく真相を語ろうとしなかった。それは彼女達、未来のある者を暗い闇の支配する世界へと招かないため。 もしも一度踏み入れれば二度とそこから出る事は敵わない。未来永劫、罪を背負い生きていかねばならないのだ。 それは到底常人に耐えられる物ではない。まして若く活力に満ちた若者に話すような事ではないのである。 「でも母さん! 私は何も知らないよ、分からないんだ。正太郎って子の事もそうだし、それに鉄人やオックスの事だって……分からない、分からないよ」 リンディが座るデスク、その前で涙ぐんだ様子で俯いているフェイト。リンディは椅子から立ち上がるとフェイトに近付き、身体を抱き寄せた。 血は繋がってはいないが紛れもなく二人は親子である。親は子が自分の目の前で泣いていたら放って置くなど出来ない。 自分の身勝手な想いが娘を傷つけている事をリンディ自身よく理解していた。だが真実を話す事でフェイトの人生は間違いなく狂っていく事になるだろう。 そんな事リンディは耐えられない。娘が苦しんでいる姿なんて見たくはないのである。 「貴方は何も知らないでいいのよ。これはお母さんの問題だから」 「どうして……どうしてなの母さん。どうしてこんな事に」 リンディはフェイトの背中をそっと撫で続けていた。愛する娘が泣いている。だけどそれをどうする事も出来ない歯痒さ。 全てを話せばフェイトは納得するだろうか? いや恐らくは失望するだろう。この最低の母親に。 「ごめんなさい。いつか全てを話すから。その時まで待ってちょうだい」 リンディは恐れていた。最愛の娘が自分を拒絶する事が。恐らく自分はフェイトに拒まれてもおかしくない事をしてきてしまった。 だから真実を話すと言う事はフェイトの拒絶を覚悟すると言う事。まだリンディには、その覚悟が出来ていなかった。 フェイトとリンディは血の繋がっていない親子である。だがリンディはフェイトの本当の娘の様に思い、実子であるクロノと分け隔てなく愛情を注ぎ、大切に育ててきた。 その娘に拒絶される様子は、想像するだけでも耐えられる物ではない。愛する娘からの拒絶を受け入れられるほどリンディは強くないのである。 「母さん……私、分からない」 それはフェイトも同じ事。愛する母が何かを自分に隠している。信頼していた母が秘密を持っている事、それがフェイトには我慢出来なかった。 本当の母親だと思っていた。本当に自分を愛して娘だと思ってくれていると。そう思っていた。 「フェイト、何があったとしても私はあなたの母親よ。今までもこれからも」 普段なら心地の良いリンディの言葉も今のフェイトにとっては信用の出来る物ではない。ひょっとしたらこれも嘘なのでは? 本当の気持ちを隠すために適当にあしらわれているのではないのか? フェイトは疑心暗鬼に陥り、母さえも信頼出来なくなってしまったのだった。 「嘘だ!! 母さんお兄ちゃんには話してたんでしょ!? それにはやても何かを知ってる! 何も知らないのは私だけ!! なんで私にだけ本当の事を話してくれないの? 私が本当の子じゃないから? そうだ、だから信用出来ないんだよね!? そうなんでしょ!?」 「馬鹿な事言わないで!!」 フェイトの言葉に、頭に血が上ったリンディが反論する。いくら娘とは言え、このようなセリフを吐かれて黙っているほどリンディもお人好しではない。 リンディはフェイトの両肩に手を置いて身体を離すと真紅に染められた眼を見つめた。そこにあるのは、ただ困惑の色を見せるフェイトの瞳。 ただ混乱が支配する真紅の眼。それを見たリンディに湧き上がる怒りは既になかった。ただ娘が哀れで、悲しそうにしている姿が痛々しい。 「ごめんなさい怒鳴って……。でも、悲しい事を言わないで。信用してない訳、愛してない訳ないじゃない?」 「だったら教えてよ母さん・……。私もう分からないよ」 フェイトの震える声にリンディは抱き締める腕に力を込める。我が子を悲しませる親は最低だ。 その最大の要因である自分の立場に、恨めしさを感じつつもリンディにはやらなければならない事がある。 例えそれが我が子を欺く行為だとしても。全てを話す事は出来ないのだ。 「今日全て終わるわ。その時が、その時が来たら全てを話すから」 今日全てに決着を。だがリンディは不安を覚えていた。そう、果たして自分の行いが許されるのかと。 これまで侵してきた数々の罪、その罰を何時かは受けねばければなるまい。ならその時は、何時なのか? すぐそこに迫る審判の日。リンディ・ハラオウンの罪は彼女の最も望まない形で、最もその心を傷つける形で清算される事となる。 そう、愛する娘の死という最も望まない結末で。 午後20時20分 ミッドチルダ首都中央部 廃墟都市。 先日鉄人28号によって徹底的に破壊されたミッドチルダ首都中央部。そこに突如響いたのは大地が割れんばかりの轟音だった。 一定のリズムで鳴らされる音はしばらくしてから止み、今度は何かを砕くような音が聞こえる。その音の正体は、スカリエッティによって盗み出された無敵の兵士、鉄人28号による物だった。 鉄人はその圧倒的な力によって廃墟と化した首都中央部で、アルファルトの道路を掘り返している。やがて鉄人が地面より掘り出したのは、泥に塗れた数メートル程のカプセル。 その形状は円柱状で全体が泥で汚れてはいるが、埋められてからそれほど時間が立っているようには思えなかった。 「ドクタァ~なんでこんな埃臭い場所に私が来ないといけないんですかぁ~」 鉄人から2キロほど離れた位置、そこに壊れてはいるが、ある程度形状を留めている高層ビルがあった。 瓦礫と土埃が蔓延するビルの内部でクアットロは腰をくねらせながらスカリエッティに抗議している。 「すまないねクアットロ。だがあのオックスが居ては遠隔操作は難しいからねぇ。こうして現場に出向くしかないのさ」 そう言うスカリエッティは特に悪びれた様子はなく、それ見たクアットロは尚も身体をくねらせてふざけながら抗議している。 しかしスカリエッティには、クアットロの冗談に付き合う様な気分ではなかったのだ。操縦機を握る手には汗が滲んでおり、常に周りに視線を配っていた。 これほどまでスカリエッティが恐れている物の正体は、ブラックオックスの電波撹乱剤であった。ブラックオックスの出力は鉄人よりもやや劣り、特に機動性の面では鉄人に大きく後れを取っている。 つまりロボットの基本的なスペックを見ればオックスは鉄人に劣っている面があるのだが、それを補って余りあるのが電波撹乱剤である。 これはあらゆる電波を遮断する特殊な薬品で、さらに濃い黒の薬剤を大量に撒く事で相手への目くらまし効果も持っているのだ。 「それに鉄人を使えば必ずオックスが来るはずだ。その場合は、目視での戦闘をしなければこちらに勝ち目はない」 「あら……結構本気なんですねドクター」 呟くクアットロは、先程とは打って変わって冷酷な彼女の本性を表すかのような冷たく、黒い物を孕んでいる笑みを浮かべている。 クアットロの言葉に、口元を釣り上げながらスカリエッティが振り返りと、そこに突如紫の閃光が飛び込んで、スカリエッティから少し離れた位置に着地した。 「ドクター操縦電波のダミー設置完了しました。次のご指示を」 そう言ってスカリエッティの前に跪いているのは、戦闘機人ナンバーズ3『トーレ』高速機動を得意としたナンバーズ1の武道派戦闘機人である。 「ご苦労だったねトーレ。あとはここで成り行きを見ながら臨機応変に動いてくれればいい」 「しかしドクター。連中の操縦者を潰せばこちらに有利。私が金田正太郎を始末しますが」 「やめなさい。下手に動けばこちらが見つかる。それに向こうも唯一の対抗手段だ、警護もある程度居るだろう」 今回の作戦、スカリエッティはトーレにクアットロと言う必要最低限のメンバーしか連れていなかった。理由は単純で、あまり多人数では相手に発見されやすく、逃走も人数が増えるだけ難しくなるからだ。 だからナンバーズでも戦闘能力に一番優れるトーレと逃走時の偽装能力に長けたクアットロの少数精鋭の構成となっている。 もしも発見されたとしてもトーレの高速機動『ライドインパルス』にクアットロの『シルバーカーテン』による偽装工作をすれば逃げ切れる可能性は高い。 自分の考えた作戦は完璧であるはず。それに目的の物は既に手に入れた。スカリエッティが長居は無用とばかりにアジトに帰ろうとしたその時、夜闇をさらに黒く染め上げる黒霧が立ち込めた。 スカリエッティが突如現れた霧を見つめるとその中に巨大な影を見つけた。黒い霧の中を進む黒く巨大な影、それ見たスカリエッティは焦燥と喜びという相反した感情を抱いていた。 そう、スカリエッティが霧の中に見た影の正体、それはまさしく鉄人最大の宿敵の姿。 「ギュイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」 「来たなぁ!!ブラァァァァック、オックスゥ!!」 霧の中から姿を現した巨体、ブラックオックス。その輝く瞳が鉄人を見つめれば、それに答えるように鉄人も睨みを利かせる。 鉄人は戦いには邪魔だと言わんばかりに掘り起こしたばかりのカプセルを投げ捨てた。手が塞がっている状態で勝てる相手ではない事はスカリエッティも重々承知していたのである。 廃墟と化した街で対峙する鉄人とオックス。両雄は今まさにぶつかり合わんとする様に立ち尽くしていた。 「やはりスカリエッティはあのカプセルを」 やや離れた位置から鉄人を見るリンディはその腕に抱えられているカプセルを見つめて呟いていた。 そのすぐ傍に控えているのは、なのは、フェイト、シグナム。前回と同じく今回も少数精鋭による奇襲作戦を取る事となった。 今回リンディ達にはスカリエッティの居場所を確実に掴む秘策があったのである。故に前回同様奇襲を掛けて、操縦機を奪還するこの作戦が一番効果的であると判断されたのだ。 人海戦術による一斉包囲もリンディは視野に入れていたのだが、相手がステルス迷彩持ちである以上、こちらの動きを読まれて逃走される可能性を減らしたいという考えもあった。 もちろんブラックオックスが登場した時点で、こちらの介入は向こうにもバレているのだが、逆に言えばそちらに釘付けに出来る。 スカリエッティがカプセルを回収しようとしている以上、そのカプセルを持つ鉄人をオックスで捕らえれば、簡単に逃げはしないだろう事は予想出来た。 オックスをおとりとして伏兵を送り込む、正にスカリエッティが本局に対して行った戦術のオウム返しをリンディはしようとしているのである。 リンディは薄い微笑みを浮かべながら1つの高層ビルを見つめている。それは数キロ離れた位置にある壊れかけた高層ビル。 そのビルを指さしながら、リンディは隊員達に指示を出した。 「スカリエッティが居るビルはあそこよ! 全員スカリエッティを確保してください!」 『了解!』 リンディの指示にフェイト達は頷き、それぞれが魔力光を纏って飛び出した。動きを悟られない様、高高度へと飛翔していくフェイト達をリンディは見送る。 「なのはさん、シグナムさん、フェイトを頼むわね」 『リンディ統括官、こちらも配置完了だ』 そんなリンディの呟きを掻き消すように、突如割り込んできた通信。その主は、はやての守護獣ザフィーラの物。 獣ではなく人間の形態を取るザフィーラは、リンディの右舷に存在する高層ビルに居り、そこにはシャマルとそしてオックスの操縦機を持った正太郎も立っている。 ヴォルケンズの中でも防御や後方支援に特化した2人はリンディの指示で正太郎の護衛となっていたのだ。 リンディは遠目に彼らの姿を確認すると通信装置を起動して正太郎に声を掛けた。 『分かりしました。正太郎君、鉄人は任せたわ。なんとか操縦者発見まで持ちこたえて』 「はい!」 魔力を一切持たない正太郎だが、魔力がなくても使える専用の通信装置が渡されており、そのデザインはリンディ等が使用する物と寸分の違いもない。 初めは空中に突如として現れる通信装置に驚いていた正太郎だが、子供特有の学習能力の高さからなのか、すぐに通信装置の扱いにも慣れていった。 正太郎は通信装置の電源を落とすと手に持つオックスの操縦機を構え、数キロ先に立つオックスを見やりながら叫んだ。 「行くぞオックス! 鉄人を抑えるんだ!」 そう言って正太郎は、操縦機の電源を起動する。それと同時にオックスは天高く両手を掲げ、瞳に仕込まれたサーチライトで満月の輝く夜空を照らしながら咆哮した。 「ギュイィィィィィィィィィ!!」 「ガオォォォォォォォォォォ!!」 オックスの咆哮に答える様に、鉄人も眩いばかりの電流を纏い、両手を上げて咆哮する。2つの咆哮が廃墟と化した街に呼応すると2体のロボットは両手を突き出して構えた。 そうして向かい合った鉄人とオックスは一歩一歩を踏みしめるように距離を詰めていく。彼等が一歩踏み出すだけでビルに振動が伝達して、道路は砕けていった。 やがて2体の距離がゼロになってビル街に響くのは、大地を揺らす金属音。それは鉄人がオックスが互いの手をぶつかり合い、握り合わせた事により発生した音。 互いに全力で力比べをする鉄人とオックス。計り知れぬ力と力のぶつかり合い、頑丈に作られたアスファルトの道路もその質量と圧倒的な力の伝達で、2体の巨人の脚を中心にヒビ割れが広がり始めている。 「ギュイィィィィィ!!」 「ガオォォォォォォ!!」 咆哮を交わし合い牽制する鉄人とオックス。金属が擦れ、軋む音、アスファルトが上げる悲鳴がこの空間の音階を支配している。 そしてその膨大なパワーが最高潮に達した時、2体の巨人が立つ大地は、崩落の旋律を奏でながら直径数十メートルに及ぶクレーターを作り出した。 尚も地面に沈み込んでいく2つの巨体だが、それでもどちらかが力を緩める事はない。自身が持ち得る最大限の馬力をぶつけ合い、有利な態勢を得ようとする。 この力比べで勝った者が戦いの主導権を得る事になるのだ。既に圧倒的なパワーの所為で完全に砕け散ったアスファルト、そこには既に地盤が見ている。 そして巨人達の最大出力は、その地盤がまるで底なし沼でもあるかのように、鉄人とオックスの脚がどんどんと大地に沈み込ませていくのだ。 「ギュイィィィィィィィィィィィ!!」 「グルル!!」 だが性能差は覆す事は出来ないのか。徐々にオックスが鉄人を押される格好となっている。オックスは鉄人に比べてもやや出力が低い。 正太郎もオックスとは数度に渡り戦った経験があるからその事は分かっていた。このまま力任せにやっても勝てる相手ではない。 正太郎はトランシーバー型の操縦機に取り付けられたレーダーを起動。そこには簡易的な光点で鉄人とオックスの位置が表示される。 「オックス! 鉄人と距離を取るんだ!」 「ギュイィィィィィィ!!」 オックスは正太郎の操縦に咆哮で返答すると腕部と脚部に渾身の力を込めて鉄人を突き飛ばした。出力で上とは言っても瞬発的にオックスの最大出力を浴びた鉄人は体勢を崩してしまう。 数歩後ろに後退した鉄人だが、すぐにオックスとの距離を詰めようと大きく踏み込んだ。しかしオックスはその瞬間を狙い澄ましたかのように両手を前に出して構えている。 「やれオックス!!」 正太郎が叫ぶとオックスの指先から黒い霧、電波撹乱剤が大量に噴射された。撹乱剤の濃い黒は、すぐさま鉄人とオックスの居る空間を満たしていく。 ものの数秒で黒い霧に支配された一帯は、完全に視界が閉ざされ、正太郎自身も霧の内部状況を把握するには、操縦機のレーダーに頼るしかない状態である。 対するスカリエッティは、鉄人とオックスの位置と行動を把握する事は不可能。霧の中では、あらゆる無線機器を使用する事は出来ないのだから映像を遠く離れた操縦者に届ける手段は存在しない。 完全に鉄人とオックスが見えない状況で正太郎はレーダーを頼りに鉄人の位置を示す光点へと近付いて行く。光点は殆ど交わる距離にまで近付き、正太郎がオックスに鉄人への攻撃を指示しようとしたその瞬間。 突如にして爆発音にも似た音が辺りを支配すると、鉄人とオックスを覆っていた霧が晴れたのである。突然の事に正太郎は声を上げて驚いていた。 「き、霧が!」 一体何事なのかと混乱を見せる正太郎。よく見れば鉄人がロケットで3メートル程の高度を飛行しながら、その噴射炎で霧を払うように1回転していたのだ。 如何に空気中への残留性が高い撹乱剤でも鉄人のロケット噴射の前までは吹き払われざるを得ない。ロケットの勢いで完全に周囲の霧は払われ、実に良好な視界となっていた。 「2度も同じ手は食わんよ! やはり所詮は子供、考える事は浅知恵か!」 鉄人の勝利の確信を覚えたスカリエッティは、その顔に笑みを貼り付かせていた。これでオックス最大の武器は無効化した言っていい。 鉄人がオックスに遅れを取る要素は、全て排除されこのまま戦えば鉄人の勝利は、ほぼ間違いないだろう。 正太郎も撹乱剤による目くらましが使えなければ、鉄人との戦いは楽な物とは言えなかった。だが正太郎の役目は、鉄人に勝利する事ではなく、あくまでスカリエッティ確保までの時間稼ぎである。 だから相手の方がスペックが上回っていようと真っ直ぐに向かっていくしかない。それに鉄人とオックスの性能差は操縦者の技量と戦法次第でいくらでも覆す事が出来る程度の物だ。 少なくとも互いの操縦者の技術が同等であった場合、鉄人とオックスそのどちらが勝っても不思議ではない。とにかく立ち向かうしかないと正太郎はオックスを大きく踏み込ませて右拳を構える。 真っ直ぐに放たれた拳は鉄人を捉えんと猛進する。鉄人がこれを右手で受け止めると激突の瞬間、重いのだが、しかし甲高い金属音が響いた。 そんな光景をスカリエッティは双眼鏡を使って実に楽しげ表情を浮かべながら鑑賞している。その表情はおもちゃで遊ぶ無垢な子供のようである。 「なかなかやるじゃないか。さすがに本来の操縦者だけはある。だが」 パンチを受け止められたオックスは2撃目を放つべく拳を掴む鉄人の手を振り払う。オックスは解放された右腕をすぐに構え直し、2撃目を放った。 鉄人はこれを左腕で受け流すとその勢いを生かして右腕を突き出す。巨拳から繰り出された拳打はオックスの顔面を捉え、18メートルの巨体は面白いように宙を舞った。 正太郎は突然のカウンターに受け身を取る事が出来ず、オックスは30メートルほど吹き飛ばされると無防備な体勢で背中から地面に叩き付けられた。 オックスが墜落したアスファルトは、その質量と衝撃に耐え切れず大きな亀裂を走らせながら砕け散り、再び首都部に巨大な陥没を生み出す。 「オックスしっかりするんだ!」 「ギュイィィィ!!」 正太郎の言葉にオックスは両腕に力を込めて、その巨体を起こそうとしている。だが間髪を入れずに鉄人が右の拳を構えて追撃すべくオックスに走り寄る。 鉄人がオックスに迫る事を理解出来ても正太郎は、オックスの態勢を立て直せずにいた。防御姿勢を取れずに鉄人のパンチを受ければ、如何にオックスと言えど装甲を破壊される可能性もある。 せめて受け流すか、踏ん張りを利かせて防御したい所であるが、その時間さえも正太郎には与えられていない。遠方の高層ビルから様子を窺うスカリエッティは勝利の確信に微笑みを浮かべていた。 「惜しいよ! これほどの力、壊すには実に惜しい! だがね私を阻むと言うならそれも仕方があるまい!」 そう言ってスカリエッティは操縦機のレバーを倒す。この一撃で全てが決まる、彼はそう思っていたのだ。 しかしその刹那、突如ビル内部に爆発音が響くと巻き起こる噴煙が室内を支配した。何事かとスカリエッティが後方を見るとそこにあったのは大量の瓦礫と人影が3つ。 煙が晴れて姿を現した3人の少女にスカリエッティは完全に虚を突かれたと言った様子で声を上げた。 「た、高町なのは!?」 「おとなしく捕まりなさい! ジェイル・スカリエッティ!」 スカリエッティの目の前に現れたのは、なのは、フェイト、シグナムの3人。3人の頭上にある天井には大きな穴が空いており、そこから満月の月明かりが差し込んでいる。 それを見て彼は何が起こったのかを悟ったのだ。そう、恐らくはなのはが砲撃で天井を破壊、そのままこのビルに突入して来たのだと。 だがスカリエッティには、分からない事があった。それは、何故なのは達がここに居るのかである。 「どうやってここを?」 スカリエッティの疑問の声になのはは、得意げに笑みを浮かべて口を開いた。 「確かに電波は大量に飛び交っている。だけどその全てが鉄人に指示を出している訳じゃない。だから鉄人本体に向かって送信されている電波を辿ったら」 「ここに来たと言う訳か。迂闊だったよ」 なのは達が思い出すのは作戦直前に開かれたブリーフィングでの事。その時、鉄人の開発者である敷島はダミー電波の対抗策について説明をしていた。 「いいかね。確かに鉄人の周りには大量の電波が飛び交っているが、その全てを受信すれば鉄人は暴走してしまう。 だから鉄人が受信している電波は恐らく1本だけだ。そしてその1本を辿れば操縦者の元へ行けるはず」 鉄人の操縦電波の受信装置は非常に精度の高い物である。だが同じ周波数の電波を複数受信した場合、特に電波の強い物を優先するか最悪、暴走する危険もあった。 恐らくスカリエッティならば、そう言った事は既に調べているはずと敷島とリンディは推理していた。昨日の戦いで鉄人がちゃんと動いていた事を考えると鉄人が受信している操縦電波は一つだけと考えていい。 数分前の作戦開始直前、エイミィとマリーがその条件で操縦電波を逆探知。そして辿り着いたのがこのビルだったのである。 今度ばかりは完全に先手を取られたスカリエッティだったが、その表情は笑顔で、なのは達にはこの男が追い詰められている現状を楽しんでいるようにも見えた。 スカリエッティは不気味な空気を持った笑みを纏わり付かせたまま、なのは達を見つめ、ハッとしたように言葉を紡ぎ始めた。 「なるほど、そういう事か。まさかとは思っていたが、どうやら君達には優秀なサポートが付いているようだね。恐らくは敷島博士か?」 「な、ど、どうして博士の名を!?」 スカリエッティの口から出た名前にフェイトは驚愕として叫んでいた。何故スカリエッティが敷島博士を知っているのか? その疑問がフェイトを含めた3人の頭を過ぎったのである。 そんなフェイトの様子にスカリエッティは肩を震わせ、笑いを堪えている。しかし堪え切れなくなったのか、ついにスカリエッティは噴き出し、嘲笑を禁じえなかった。 「アハハハハハハハハハ! これは傑作だ! 実に傑作だ! ハハハハハハハ!」 「何が可笑しいんだ!!」 子供の様に楽しげなスカリエッティにシグナムは剣を向け、殺気をぶつけていた。大切な主を傷つけた罪人が笑っている姿はシグナムにとって不快その物。 だがスカリエッティの笑い声が止む事はなく、その釣り上った目尻には笑い続けた所為で涙が溜まっていた。 「ハハハハハハハハ! フフフフフフ!。君達は何も知らないのか!? ならリンディに聞く事だな! 彼女は私よりも多くを知っているぞ!」 「母さんが!? そんな、じゃあやっぱり……」 やはりリンディは何かを知っている。フェイトはその事実に落胆を覚えていたのだ。母は自分に隠し事をしている。 実の子であるクロノはまだしも、赤の他人であるはずのはやてにまで話したのに、娘である自分は何も聞かされていない。 そんなフェイトに追い打ちを掛けるようにスカリエッティは言った。 「そうか、その様子だとリンディは何も話していないようだな。彼女が一体何をしていたのか!フェイト、君の母親は偽善者の罪人だよ。私以上にね!!」 「お前と母さんを一緒にするな!! 母さんはお前みたいな犯罪者じゃない!! お前みたいに人の命を弄んで笑顔で居られるような人じゃない!」 フェイトはスカリエッティの言葉に憤慨し、それを否定した。フェイトにとってリンディはヒーローのような存在なのだ。 幼い自分を引き取り、仕事と子育てを両立して、ここまで育ててくれた恩人であり、最愛の母親でもある。プレシアに向ける愛情と同じようにフェイトはリンディを母として愛していた。 その母が目の前の下劣な犯罪者と同じであるはずがない。あんなに意思が強く、心の優しいリンディが間違っても犯罪を犯す事などないのである。 母を侮辱されたから激情からかフェイトは明らかな敵意を持ってバルディッシュをスカリエッティに向けた。それに合わせてなのはとシグナムも身構える。 「君達3人を相手にするのはいささか分が悪いか。なら」 スカリエッティはそう言って突然走り出し、窓ガラスを突き破って外に飛び出してしまった。スカリエッティを追うように紫色の軌跡が走り、さらにクアットロもそれに続いた。 スカリエッティが見せた行動に一瞬呆気に取られてしまうフェイトだったが、すぐに我を取り戻して窓枠から外を見る。 するとおよそ十数メートルほど離れた空中を飛ぶ影が3つ。フェイトは、すぐにそれがスカリエッティ達である事を悟った。 「さて厄介な事になって来たね。しかし退く訳にも行くまい」 トーレに抱えられた状態で飛ぶスカリエッティが眼下を見下ろすとオックスによって鉄人が取り押さえられているのが見えた。 鉄人の右腕はオックスに掴まれて地面に押し付けられており、頭部もオックスの左手で抑え付けられている。 さすがに鉄人と言えどオックス相手にこうも綺麗に押さえ込まれると抜け出すのは至難の業である。苦しい状況にさしものスカリエッティも舌打ちをした。 「ドクター!」 不意を突くように耳をに入って来たトーレの声にスカリエッティが後ろに振り返る。 見えるのは、フェイトとジグナムの姿。そして自分達が先程まで居たビル、そこに煌めく桃色の光。 「まさか!?」 「全力全開!」 スカリエッティが驚愕の声を上げる中、彼の居た廃ビルで、なのははレイジングハートを砲撃モードに切り替えて、狙いを澄ましていた。 目標はおよそ500メートル先。十分になのはの射程圏内である。なのはがカードリッジを2発ロードして瞬発的に魔力を高めると桜のような色合いの魔力光は一際強く輝き出したのだ。 これまでスカリエッティの手に掛かり数多くの仲間が殺された。はやてもヴィータも傷つけられて、そしてフェイトを泣かせた。 そんな憎い敵に送る高町なのはの全身全霊、全力全開、最大威力のお返し。 「ディバイィィィィィィィィンバスタァァァァァァァァァァ!!」 なのはの咆哮と共に放たれた桜色の砲撃。夜の廃墟を光で満たしながら一直線に進む魔力は、スカリエッティを撃ち落とさんと猛烈な勢いで空を駆け抜ける。 狙いは完璧、直撃コース。この威力の砲撃を防ぐ手立てをスカリエッティは持っていないはず。エースオブエース高町なのはがそう思った瞬間、ディバインバスター直撃を示す爆風が中空に広がった。 「やった!」 小さく喜びの声を漏らしたフェイトは、今だ空に残留し続ける爆風へと飛んで行く。だがフェイトに追従して飛ぶシグナムは、妙な胸騒ぎに囚われていた。 何故だろうかシグナムには今の現状を喜ぶ事が出来ないのである。これで終わったとは思えない、何かまだあるのではないか。 やがて爆風が少しずつ晴れていくとそこに浮かぶのは巨大な影。予想外の出来事に驚きを見せるフェイト。予感が的中したと思ったシグナムは顔をしかめていた。 「鉄人か!?」 シグナムは寸での所で鉄人が砲撃を防いだのかと思い、急停止して剣を構える。シグナムのその声にフェイトも静止してビル街の方を見てみるが、そこには確かにオックスに取り押さえられた鉄人の姿があった。 「ううん鉄人じゃない! あれは」 そのフェイトの言葉を遮る様に突如着弾点に広がる爆風が切り裂かれた。見ればそこには鉄人やオックスと比肩するほどの巨大な姿。 全身はまるで西洋の甲冑をそのまま大きくしたようであり、手には身の丈に迫る両刃の斧を持っている。 突然現れた巨大な敵に、シグナムは動揺を露わにしていたが、フェイトはその巨大な姿に見覚えがあり、11年ぶりに見たそれに呆然と呟いた。 「く、傀儡兵」 目の前にそびえる巨大な甲冑、それは紛れもなくフェイトの母プレシア・テスタロッサが外敵からの防衛用に使役していた傀儡兵の物であった。 久しく見なかった姿にフェイトはただ驚きを隠せずにいる。それに傀儡兵は大型の物もあるがせいぜい3メートル程度の物が一般的だ。 これほど巨大な傀儡兵はフェイトもほとんど目にした事はなかったのである。それにどうして魔力を持たないスカリエッティが傀儡兵を使役出来るのかもフェイトには分からなかった。 戸惑いを見せるフェイトを傀儡兵は見ると両手に持った斧を振り上げ、それをフェイト目掛けて打ち下ろした。 突然の攻撃にフェイトは、身を捩ながら回避するとまるで台風のような風圧を纏った斧がフェイトの数十センチ近くを通り、巻き起こる強風がバリアジャケットを擦り付ける。 直撃を受ければただでは済むまいと判断して、フェイトは一旦安全距離まで後退する事を決め、音速にも迫る速度で敵の射程内から離脱をした。 「フェイトちゃん!!」 「テスタロッサ!」 その様子になのははビルから飛び出し、フェイトの元へと飛んで行く。それはシグナムも同じで傀儡兵から間合いを取ったフェイトの隣に向かって飛んでいた。 数キロ離れた地点でそれを見ていたリンディも肝を冷やしており、なんとかこの傀儡兵を倒す手段をと、思考を巡らせていた。 「このままじゃ……正太郎君!」 「はい!」 リンディから突然の通信。恐らく新たに表れたロボットの様な物に対しての事だと正太郎は予想していた。 実際その予想は的中しており、リンディは戸惑うような色を見せながら、苦い物を噛み潰すような声を上げた。 「鉄人を……鉄人をこのまま破壊して!」 「えっ!?」 鉄人を破壊せよ。正太郎に取って思いもよらない言葉であった。この作戦は鉄人を取り戻すための物ではないのか? そのために自分はここに居て戦っているのではないのか! 正太郎にとって最愛の鉄人を破壊する。 たった一人の家族を破壊する事は、如何に正太郎が少年探偵として名を馳せているとは言え、まだ幼い少年に出来る事ではなかった。 「そんな鉄人を壊すなんて……僕には出来ません!」 「一時的に動けなくしてくれればそれでいいの! とにかく今はあの傀儡兵を」 涙ながらに懇願する正太郎だったが、それでもリンディも引き下がる訳にはいかなかった。 確かに正太郎の言い分はもっともである。正太郎に鉄人を破壊しろと言うのは酷かもしれない。 しかしこのままではリンディの大切な娘であるフェイトの命が危ないのである。 こんな事に巻き込んだ責任は感じて居ても、たった1人の娘と修理の効くロボットであればリンディは前者を取るしかないのだ。 「お願い正太郎君! 鉄人を破壊して、あの傀儡兵をオックスで! オックスで何とかして!」 リンディの願いを正太郎も出来る事なら聞き届けたい。だが無理なのだ。正太郎には肉親を破壊する事は出来なかったのだ。 「ごめんなさい……僕には、僕には、僕には鉄人を壊すだなんて出来ません」 涙の交じった声で呟いた正太郎。その瞬間、オックスの動きは一瞬止まり、それを見たスカリエッティは鉄人の出力を最大にしてオックスを振り払った。 力なく、まるで糸の切れた人形のように仰向けに倒れ込んだオックスに、鉄人が跨ると黒い頭部を巨大な右手で包み込む。 握り潰そうとする鉄人の出力が上昇するにつれてオックスの頭部はギシギシと軋みを上げながら、鉄人の指が当たる部分から装甲がひしゃげて陥没していく。 「ギュイィィィ……ギュイィィィ」 「オ、オックスが……」 まるで痛みに耐えかねるような咆哮を聞いて、正太郎はオックスを見る。 既にオックスの頭部は大きく歪んでおり、鉄人の最高出力に耐えられなくなったのか、突如右の瞳はガラスが割れるような音を立てて砕け散った。 「いけないオックスが!」 鉄人に押されているオックスの様子を見たフェイトはソニックムーブを発動。傀儡兵を避けて操縦機を持つスカリエッティへと突進する。 これを見たトーレは回避行動を取ろうとするが、何せスカリエッティを担いだ状態だ。最高速度に達したフェイトを避けられるほどの機動性を生み出す事は出来ない。 バルディッシュを振りかざして射程まで近付いたフェイトはスカリエッティが持つ操縦機目掛けて薙ぎ払った。 すると小さな金属音を立ててスカリエッティの手から操縦機が離れたのである。フェイトは地面へと落ちていく操縦機に手を伸ばした。 だがそうはさせまいと傀儡兵はフェイト目掛けて斧を振り上げて、それを見たなのはは自身が持ち得る最高速でフェイトへ飛翔する。 振り下ろされた傀儡兵の斧は正確にフェイトを捉えており、このままでは確実にフェイトは直撃を受けてしまう。 なのはは、レイジングハートを傀儡兵に向けて手に持つ斧に狙いを付けていた。なのはと斧の距離はせいぜい10~20メートル前後。 チャージをしていては確実に間に合わないし、この距離であれば威力減衰もないからチャージの必要はないと判断したなのはは、ディバインバスターを速射する。 真っ直ぐに飛ぶ魔力砲撃は、傀儡兵が振り下ろす斧に直撃して爆発、その激しい衝撃で斧は、フェイトから数十センチ横に外れて振り抜かれた。 なのはの援護で間一髪、傀儡兵の攻撃を回避したフェイトは、左手を伸ばし、ついに鉄人の操縦機を掴んだのであった。 「やった!」 そう声を漏らしたフェイトがなのはに目をやるとどうも様子が変であった。笑顔では居るのだが、フラフラとおぼつかない様子で空に浮かんでいる。 「あれ……なんで?……」 額に汗を滲ませてながらなのはも自分の異変に戸惑っていた。呼吸も荒く、視界も歪んだり、ぼやけたりを繰り返している。 瞼は鉛で出来ている様に重く、姿勢の制御も普段は簡単なのに、それがとても難しい事のように感じられていた。 やがてなのはが気が付いたのは身体中を駆け巡る激痛。普段左腕を蝕む痛みの何倍もの激痛が全身に広がっていたのだ。 1年前ヴィヴィオを助けた時の後遺症。大威力砲撃魔法を連射した負担。鉄人に放電を浴びた時のダメージ。それらの負荷がこの瞬間、一斉に訪れたのである。 全身を支配する痛みと襲い続ける睡魔にも似た感覚。なのははそれらと戦う事に限界を感じて、フェイトを助けた安堵感も手伝ってなのか、その意識を手放す事を決断した。 そうすればきっと楽になれる。1年間苦しみ続けた痛みからも解放される。身体はもう限界を超えているし、大切な人を守る事は出来た。任務も完了した。自分が頑張る必要はもうない。 空から落ちていく感覚。普段なら恐怖でしかないそれが今は自分に安らぎを与えてくれるようで。もう楽になってもいいのかもしれない。 (私死んじゃうんだ。もうすぐ死ぬとは思ってたけど……今日死ぬんだ) なのはの中でフェイトやヴィヴィオと過ごした日々が蘇ってくる。ちょっと厳しい自分と大甘のフェイト。3人で過ごす日々は短いけど楽しい物だった。 もしも自分がここで死んだとしてもヴィヴィオは、きっとフェイトが面倒を見てくれるはず。 最初ヴィヴィオは自分の死を悲しむだろうけど、でも悲しみは何時か癒える物だから。きっとフェイトが傍に居て癒してくれるだろうから。 「フェイトちゃん……ヴィヴィオの事お願いね」 なのははそっと呟いた。フェイトは優しいからきっと「うん」と言ってくれるはず。 ちゃんとヴィヴィオを立派に育ててくれるはずだから、自分はそれを見守って行こう。 「そんなの嫌だ!!」 だが聞こえてきた声は、なのはと想像は全く違った物だった。まるで自分を叱咤するような怒りの声。 そして身体を包み込む温もりを感じる。気が付けば身体を打ち付ける強風も穏やかな微風となっていた。 「約束したでしょ。2人で一緒に育てていこうって」 次に聞こえた声は先ほどとは打って変わって優しく穏やかな口調だった。それはとても心地よくて、ずっと聞いていたい声。 「それに私は言ったはずだよ。この世の全てが敵だって」 「私だけの盾になってくれる」 なのはが笑顔で瞳をそっと開けるとそこに居たのは、ちょっと怒ってるけど、でも優しくて暖かい笑顔を浮かべている人。 ――私の大切な親友。 「フェイトちゃん」 「なのは」 地面に正座の姿勢で座るフェイトに、なのはは抱き抱えられる形で、既に地上に降り立っていた。 微笑みを浮かべているフェイトに、なのはは痛みを堪えながら両腕をフェイトの背中に回して抱き付く。 するとフェイトもすぐになのはを抱き締め返す。フェイトの腕に込められる力は弱ったがそれでもなのはの身体に痛みを与えるには十分な力であった。 だがなのはは痛みを感じていながらもフェイトから離れようとはしない。抱き締める腕に力を込めれば比例して痛みも強くなるが、それでもなのはは、力強くフェイトを抱き締めていた。 「操縦機は?」 しばらく抱き合ってからなのはは、一旦身体を離して気になっている事をフェイトに聞いた。思えば自分を抱き締めるフェイトは操縦機を持っている様子はない。 「心配しないでシグナムに渡してあるから」 フェイトはなのはを助けるために降下する寸前、操縦機をシグナムに渡していたのだ。 4対1では分が悪くもあるがトーレはスカリエッティを抱えて実質戦闘不能。スカリエッティとクアットロも戦闘員としてはさほどの強さではない。 警戒すべきは傀儡兵のみでシグナムクラスの実力者であれば、逃げに徹すれば十分敵の追跡を振り切れると判断したのである。 フェイトの説明になのはは安堵の表情を浮かべ、痛みに堪えながらゆっくりと身を起こした。 「じゃあスカリエッティを捕まれば任務完了だね」 なのはに言われてフェイトは気が付いた。夢中になってなのはを追いかけていたから気が付かなかったが、先程まで居た空にスカリエッティや傀儡兵の姿はない。 恐らくはシグナムを追跡して行ったのだろうか。もしそうだとしたら、ここでのんびりとしている時間はないのだ。 急いでシグナムと合流して鉄人の操縦機を正太郎に返さねば。 「うん。とりあえず皆の所に帰ろうなのは」 「そうはいかないよフェイト!!」 スカリエッティの声が突如中空から響いた事に驚いて、フェイトとなのはが見上げてみるとそこ居たのは傀儡兵の姿。 フェイトとなのははスカリエッティがシグナムを追っているものと思っていたため、完全に虚を突かれる形になってしまった。 「スカリエッティ!」 フェイトはそう叫んで辺りを見回してみるが、どこにもスカリエッティの姿はない。 スカリエッティが居るならそこへ飛んで叩く事も出来るが、位置が分からない以上どうする事も出来ない。 それになのはの身体は触れるだけで激痛が走る状態である。いくらバリアジャケットを着ていても急速加速には恐らく耐えられないだろう。 「私とした事があのシグナムとかいう騎士を見失ってしまったよ。だが操縦機を君達に渡す訳にはいかないのだよ! そうだ、私にはまだやらなければならない事が残ってるんだ。なぁリンディ! 大切な娘がひき肉になって棺桶に入るのは嫌だろう!?」 この状況、フェイトとなのはは、スカリエッティの人質となってしまったのだ。空を飛んで逃げる事も出来るだろうがなのはを抱き抱えた状態でどこまで出来るか。 それに高速で飛行すればなのはの身体を痛めつける事になる。触れるだけであれだけ痛がるのだから、最高速で飛行すればどうなるか分からない。 しかも敵の実力は嫌と言うほど味わっていた。傀儡兵の斧は高機動魔道でさえ容易く捉える精度を持っている。なのはを抱いた状態で逃げるのは難しいだろう。 「こうなったら私がおとりになって……」 「そんなのだめ!」 フェイトがポツリと漏らした言葉をなのはは声を張り上げて否定した。そう、そんなことしても恐らくなのはは、言う事を聞かないだろう。 当たれば一撃で落とされる。確実に回避出来るか? そう考えているフェイトだが確実に回避する自信はなかった。 「でも……避ける自信ないかな」 「フェイトちゃんだけでも逃げて」 なのはは泣きそうな顔でフェイトを見つめてくる。その口調はもはや懇願と言ってもよかったが、フェイトはなのはを抱き締める力を強くするだけだった。 「なのは私は君の盾だよ。逃げるなんて出来ないよ」 「フェイトちゃん1人なら逃げられる! だから……」 尚もなのははフェイトに逃げるよう食い下がる。だがフェイトは傀儡兵の持つ斧に視線を注いでいた。 敵が仕掛ける一撃。これを交わせば一気に逃げるチャンスが生まれる。失敗は絶対出来ない。障壁でも防御出来る代物ではないから、とにかく回避しかない。 「私は逃げない。それに」 傀儡兵は両手に持った斧を頭上に高く掲げ、フェイトとなのはに狙いを定めていた。チャンスは一度きり。この攻撃を避けて全力で逃げる。 タイミングを誤れば敵にやられる。勝負は敵の斧が振り下ろされて自分に直撃するほんの僅かなタイミング。軌道修正が効かない程、斧の軌道が安定した瞬間。 その瞬間フェイトは最高速で一気に戦線を離脱。リンディと合流出来ればこの傀儡兵に対抗する策があるかもしれない。 「来る!」 フェイトがそう言うのと同時に傀儡兵は掲げた斧を振り下ろした。フェイトは飛び立とうと身構えるが予想以上になのはが重く戸惑っていた。 なのはは華奢な体型なのだが高機動魔道師にとって、体重40キロ以上の荷物をぶら下げて飛ぶのは機動力を著しく低下させる要因に他ならない。 「上がって!!」 願うように声をを吐き出しながら懸命に飛行しようとするフェイトだが速度は思うように上がらない。 斧は、既に風を切り裂きながらフェイト達に振り下ろされており、数秒もしないうちに直撃を受ける事になるだろう。 加速の度合いから言っても回避が間に合わない可能性の方が高い。諦めまいとフェイトが懸命に飛ぼうとするが直撃まで時間がなかったのだ。 傀儡兵の斧は、既に目の前まで迫って来ており、フェイトの身体も宙に浮いてはいるが今だ斧の射線から逃れる事は出来ずにいる。 このままではやられると、死を間近にしてフェイトとなのはが覚悟を決めようとしたその時だった。突然金属音が響いたかと思えば襲い来る斧の動きが止まったのである。 「え!?」 何事かとフェイトが見ると斧は傀儡兵に匹敵する巨人によって受け止められていた。フェイトは一瞬ブラックオックスであるかと思ったが、そのシルエットは全く異なる物である。 フェイトとなのはは眼前の光景が信じられなかった。何故なら自分達を助けてくれたのは先程まで対峙していた敵。 ミッドチルダを破壊し、時空管理局本局を破壊し、仲間を命を奪った敵。悪魔の手先と最強の兵器と無敵の兵士と呼ばれたそれが、今はフェイトとなのはを守る様にして立っているのである。 「て、鉄人28号?」 傀儡兵の攻撃を防いだのは、紛れもなくあの鉄人28号であった。見れば左腕を盾の様にして傀儡兵の斧を受け止めている。 だがフェイトには、何故鉄人が自分達を庇うようにして立っているのか分からなかった。フェイトが思考を巡らせて答えを探しているとある一つの可能性に行き当たる。 それはシグナムが鉄人の操縦機を既に正太郎に手渡したのではないかと言う事。それならばこうして自分達を守る様にしているのにも納得がいく。 「くっ! 既に向こうの物となってしまったか! ええい、こうなっては! 傀儡兵、鉄人を破壊しろ!!」 一方で傀儡兵から数キロ離れた高層ビルの屋上に隠れるスカリエッティは、苦々しい表情を浮かべていた。鉄人の力は壊してしまうには惜しい。 だが敵に奪われ、ましてこの戦力で奪い返すのは不可能と言ってよかった。敵の作戦を配慮しての少数精鋭であったが完全に裏目に出てしまったのである。 ならば鉄人はもはや最大の障害にしか、なり得ないのだ。と来ればここで破壊してしまう以外に道はない。 スカリエッティは歯痒い想いに駆られていたが、これから成さねばならない事を考えればそれも仕方がなかった。 スカリエッティの目的は鉄人を使って管理局と戦う事ではない。そう、なんとしても果たさなくてはならない目的があり、障害は排除するのみ。 傀儡兵は身の丈ほどもある斧を振り上げ、鉄人に打ち下した。鉄人は左腕を差し出して、これを受け止めると摩擦による火花と劈くような金属音が廃墟の空間に撒き散られる。 一撃でダメならばと傀儡兵は、再び斧を掲げて鉄人を斬り付けるが先程同様、左腕に阻まれてしまう。しかし傀儡兵は諦める事なく斧を振り続けた。 しかし鉄人の腕は壊れるどころか傷一つ付かない綺麗な物で、何度斧で打つ付けようとも結果は変わらなかった。 「すごい」 もはや頑丈と言った次元のレベルではない。正に文字通りの鉄壁を持つ鉄人を見て、フェイトは驚嘆と恐怖を覚え、リンディは微笑みを浮かべている。 「そう、どんな攻撃にも耐え得る鉄の鎧に身を固め」 リンディがそう呟く中、傀儡兵が何度も斧で鉄人を叩いているがまるで効果がない。むしろ攻撃を加える度に斧の刃が潰れてしまう始末だ。 このままではダメージを与えられないと傀儡兵は高く斧を振り上げ、勢い良く打ち下ろした。渾身の力を込めた一撃、しかし鉄人は涼しげな顔でこれを右手で受け止める。 驚くように見る傀儡兵だったのだが、そんな事はお構いなしと言った様子で鉄人は、受け止めた刃をまるで薄いアルミ板でも相手にしている様に握り潰した。 鉄人は既に武器としての機能を失った斧を掴んだまま、傀儡兵の身体を引き寄せようとする。傀儡兵は斧を手放して踏み込み、鉄人に右の拳を放った。 「計り知れぬ力で居並ぶ敵を叩いて!」 リンディの言葉と共に鉄人も右の拳を構えて、敵の攻撃を迎撃すべく、拳を突き出した。2つの拳、鋼鉄の拳がぶつかり合って。 「砕く!!」 激しい衝突音と共に砕け散ったのは傀儡兵の拳。正確に言えば肘から下、腕その物が粉砕されており、痛みに堪える様に傀儡兵は左手で傷口を覆った。 押さえる腕からは流血の様に夥しい量のオイルが流れ出ており、アルファルトの道路は文字通り血の海と言った様子である。 傀儡兵は鉄人に恐怖している様に右腕を押さえながら後退した。しかし痛々しい敵の姿に鉄人が何かを感じる事もなく、ただ一歩一歩踏みしめる様に歩を進める。 そう、鉄人は強い。リンディは自信に満ちた口調で語り続ける。 「決して倒れる事もなく、死ぬ事もない。ただひたすら操縦者の意のままに戦い続ける不死身の兵士!!」 次第に傀儡兵と鉄人の距離が詰まっていく。一歩近づく毎に鉄人は右拳を構え、狙いを澄ましているようだった。 そして鉄人が傀儡兵を追い詰め、射程圏内に捕らえた時、鋼鉄の巨腕が打ち出され、傀儡兵の胴体部分へと迫って行く。 鋭い衝撃音を纏って傀儡兵を打ち据えた鉄人の右拳は、その装甲がまるで段ボールか何かで出来ている様に、簡単に貫いてしまったのだった。 「海であろうが!」 貫かれた傀儡兵の腹からはオイルが噴き出し、まるで返り血の様に鉄人の身体を赤く染め上げていく。 返り血を浴びた鉄人の眼光は、普段の黄色から血の様な赤に変わり、もはや機能停止寸前の傀儡兵を見つめていた。 「空であろうが!」 リンディの言を遮る様に空気を切り裂くエンジン音が響き渡り、鉄人の背中に取り付けられたロケットエンジンが火を噴くと2つの巨体を遥か上空へと運んで行った。 「戦う場所を選ばない!!」 リンディが空を仰ぐと鉄人は空中で傀儡兵の胸の装甲板を引き剥がして、内部を弄り始めた。 鉄人が傀儡兵の内部機関に掻き回す度に流血が飛び散り、傀儡兵はその都度痙攣を起こして苦しんでいるような様子を見せていた。 恐らく傀儡兵が言葉を発せるなら「速く一思いに殺してくれ」と懇願する所だろう。そして鉄人は傀儡兵の内部から何かの機関を引っ張り出した。 それは傀儡兵の魔力動力炉で、傀儡兵が動力炉に手を伸ばすと鉄人はこれを容赦なく見せつける様に握り潰す。その刹那、夜闇を閃光が走り、傀儡兵は爆発を起こした。 炎の奔流が鉄人の身体を飲み込むと四散した傀儡兵の燃え盛る破片がフェイトの前に落ちてくる。その様子をフェイトは恐れを持って見るが、むしろリンディは笑みを浮かべながら言葉を紡いでいた。 「それが、それが、勝利することのみを目的とした完全なる兵器……鉄人……」 やがて炎の渦と爆風が収まり、鋼鉄の巨体が姿を現す。鉄人は徐々に高度を下げて地上に居るフェイト達の前に降り立った。 フェイトの前は傀儡兵の破片で既に炎の海となっており鉄人はその中に立ち尽くしている。リンディはそんな鉄人を見て、実に嬉しそうに声を上げるのであった。 「鉄人28号!!」 リンディの声が首都部に響くと同時に、鉄人は天高く両手を上げて咆哮を轟かせる。身体からは電流が溢れ出し、雄々しく立つ姿はまるで勝利を誇示するようにも見えたのだ。 しかしフェイトは怖かった。例え自分を守るために動いているのだとしても鉄人が怖かったのである。フェイトにとって返り血で染まったその姿は、まるで悪魔のように見えた。 そう、これはやはり自分が夢に見る正義の味方などではない。破壊を殺戮しか齎す事の出来ない化け物だ。 こんな物を認める事は出来ない。例えどれほど強い力を持っていようとフェイトにとって鉄人の存在は許容出来る物ではないのである。 「母さんどうして」 だからフェイトは信じられなかったのだ。遠く離れたビルの上に立ち、こちらを見つめているリンディが浮かべている感情が信じられなかったのである。 その表情は自分にいつも向けてくれる表情だから。燃え盛る街を見て、リンディはフェイトに向けるのと同じ表情を浮かべているのだ。 「どうして」 フェイトにはそれが分からなかった。どうして母がそんな表情をしているのか。どうしてそんなに。 「笑ってるの?」 嬉しそうなのか。 数時間後。既にミッドチルダの夜は明けていた。再び鉄人によって廃墟と化したミッドチルダ首都部。朝日に照らされるそれは、もはや廃棄都市と呼ばれる区画と差異はない。 元々はビルであったコンクリートや窓ガラスの破片がひび割れた道路全体に散乱している。アスファルトも鉄人がある居た場所は完全に陥没しており、高層ビルも原形を留めたまま傾斜している物もある。 そんな廃墟に立つフェイトとなのはは、目の前にそびえるこの破壊をたった1機で行った鉄人28号をただ呆然と見つめていた。 ついに、ついに、鉄人28号を取り戻す事が出来たのである。だがフェイトとなのはの表情は晴れない。そう、払った犠牲は大きすぎたのだ。 「フェイト、なのはさん」 聞き慣れた呼び声に2人が振り向くとそこには腕を組みながらゆっくりと近づいてくるリンディの姿があった。最愛の母の登場に喜ぶべきなのだろうが今のフェイトにそんな余裕はなかった。 フェイトにとって結局この事件は何も分からない事だらけである。何故こんな事になったのか、どうして鉄人が街に来たのか、何故スカリエッティは鉄人を手にしたのか。 それに、どうしてリンディが鉄人の事を知っているのか。フェイトはスカリエッティに言われた言葉を思い出していた。 『君の母親は偽善者の罪人だよ。私以上にね!!』 もしかしたら今笑顔で近付いてくるリンディはスカリエッティの言うような人間なのかもしれない。偽善者の罪人、フェイトはその言葉を頭から払う事が出来なかった。 あのリンディの表情、誇らしげに鉄人を見て微笑んでいたリンディがフェイトの脳裏に焼き付いている。自分が執務官試験に合格した日、その時と同じような笑顔。 『よくやったわねフェイト』 そう、まるで褒め称えるようなリンディの笑み。あんな化け物に自分に向けるのと同じ笑顔で誇らしげにしているなんて、それはフェイトにとって許せる事ではない。 「よくやってくれたわフェイト、なのはさん」 そう、この笑顔だ。確かにリンディはこの笑顔を鉄人に向けていた、フェイトにとってそれはあの化け物と同じような扱いを受けている様で。 「やめて母さん。ちっとも嬉しくないよ」 だからフェイトは拒絶した。俯いて眼を合わせようとしないフェイトにリンディも困惑の色を見せる。 リンディは純粋に、頑張った娘を褒めただけだったのに、どうして、どうしてこんな悲しそうなのだろうと。 「フェイト」 だからリンディはそっと名前を囁きかけてみる。愛しい娘を優しく、包み込むような声で。だがフェイトはその声に顔を上げると後ろに振り返った。 そこに居るのはリンディではない。鋼鉄で出来た兵士、鉄人28号。その表情は絶望と怒りが混在して、感情が狂わんばかりだった。 「こんな、こんな化け物。私は、認めないから」 瞳を涙で潤ませて鉄人を見つめるフェイト。真紅の眼が孕んでいるのは敵意。それには命のない機械、全て壊す化け物、こんな物は認めないという強い意志が宿っていた。 これが後に唯一無二のパートナーとなる鉄人とフェイトの出会い。この日を境に2人は押し迫る戦争と言う名の荒波に立ち向かっていく事となる。 そう、これから後に鉄人28号奪還作戦と呼ばれる今日この日。まだこの時のフェイトは知らなかった。自分が鉄人と運命と共にする、その事を。 続く。 前へ 目次へ 次へ
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我思う、故に我有り』。彼女が垣間見たとある世界の思想家の言葉。 存在する物について他者と自分は同じ物を同じ物として認識しているとは限らない。 だが、対象を認識した自分の意識、思考を否定することはできない。否定できないものが我であり、自我そのものである。 自分が存在することは理解できる。今、ここにある存在が自分だ。自分自身だ。 では、ここにいる自分はいったい何なのか? 人でもない。動物でもない。機械でもない。兵器でもない。植物でもない。 自分として認識する存在が、いったい何なのか、何になるのか、何になるはずだったのか。 分からない。何でもないにもかかわらず、存在だけは確立された。 だからこそ悩む。彼女は思考する。『自分はいったい何であるのか』という答えを知るために。 正解をくれる創造主はない。自分を創造した存在は、もはや過去の存在になってしまった。 自分は『過ち』。本来なるはずだったのものから、かけ離れている。けれど、本来なるはずだったのものも分からない。 彼女は、胎内に納められた虚数空間跳躍能力を使い世界を回る。 目的は2つ。『自分が何になるはずだったのか』『過ちとはなにか』。 世界に『過ち』を起こす。自分がいなければ起こる『そうなるはず』だった事象をゆがめ、『過ち』というものを観測する。 気が遠くなるほどの時間、彼女は答えを知るため、思考と試行を繰り返す。 どこかにある正解を求めて、今日も世界に『過ち』を呼ぶ。 新たな世界への虚数空間跳躍の最中、彼女はあるものを見つけた。 漆黒の闇と、容赦なく熱を奪う風が吹きすさぶ時空間の狭間。周囲の闇に決して溶けず温かな光を放つ何か。 寄る辺もない彼女は、何を思うわけでもなくそれに近付き、そっと眺めてみた。 「これ、は……」 宝石のように輝く、カッティングされた輝石が9つ。数字を刻まれ、膨大な魔力を秘める物質たち。 だが、その場にあったのはそれだけでなかった。黒い闇にまぎれて、一人の女性の遺体が何かを掻き抱くように漂っていたのだ。 虚数空間では、長時間いれば体の時間軸がずれることがある。 女性の体は頭部などはまだ瑞々しさを保っていたが、体は穴が開くように朽ちた部分が点在していた。 女性が掻き抱いていたものを見る。2m以上はある円筒の中は培養液で満たされており、金色の髪をした幼い少女が漂っている。 次元の狭間に落ちた母親と、医療ポッド。彼女はそう最初は考えた。 だが、すぐにその考えを改める。 女性のそばにあったこの異常な魔力塊9つの理由がつかない。 これほどのものをわざわざ肌身離さず持っていたとは考えずらい以上、何か特別な理由があったのだ。 そう考えれば、このポッドの意味は大きく変質する。治療でない、とするならばこのポッドの中に浮かぶ少女はなんなのか。 生き物で言うのならば、『好奇心』と呼ぶべきものが彼女の中で首をもたげた。 期待するわけではない。 だが、もしも、もしもこの少女が『作られたもの』であるならば。 それも、『破棄されたもの』であるならば。 自分の答えを探す一端になるのかもしれない。 ありえないような可能性を胸に、彼女はその場にあったもの全てを回収した。 この日の出来事により、彼女の行動は変化することになる。 のちにJS事件と呼ばれる出来事があった、少しあとの10月末。 彼女は、動き出した。 ◇ ◇ ◇ 多くの方向で波紋を呼んだジェイル・スカリエッティの起こした事件は、無数の禍根、そして憂いを残しつつも一応は解決した。 管理局最高評議会の死亡。レジアスにより露呈した、管理局が事件に関与していた現実。壊滅した地上本部。 しかし、それらは管理局の崩壊を意味するものではない。 予言で記された破滅の未来は、多くのストライカーの尽力もあり、別のものへと変化した。 だれもが、これで全てを終わらせないように力をあわせ、平和の維持に務めている。 機動六課の隊舎もまた復旧され、通常の業務も可能になった。 「なのは、本当にもう大丈夫?」 復旧した隊舎で、心配そうな声でフェイトはなのはに声をかけた。 事件で「ブラスターシステム」を開放し、数年の療養を薦められるほどの後遺症を抱えているにもかかわらず、 相変わらずフォワード陣の指導などを精力的に行なっているなのは。 頑固というより、一度決めたら無理でも無茶でも一途に突き通す同棲相手に、もう一度確認する。 「大丈夫だよ、フェイトちゃん。もう少ししたらヴィヴィオも帰ってくるんだから、このくらいでまいってられないよ」 「そう、そうならいいんだけど」 「みんなもがんばってるからね。私もそうだよ」 相変わらず心配そうなフェイトの顔を見て、なのはは笑う。 お互い幼いころから一緒の仲だ。向こうも自分のことは分かっているのだろう。 それに、ヴィヴィオがもうすぐ退院だ。 あの事件ののち、正式に自分たちが引き取ることなった娘を頭にフェイトは思い浮かべる。 正式に家族の一員となるヴィヴィオ。ヴィヴィオも喜んでくれていた。 それにしても、と少し諦観のこもった息を吐く。 フォワード陣の皆が頑張るのはいいが、少し心配になる部分もどうしてもある。 訓練中のティアナの一件もあり、しっかり訓練の意味も理解して頑張ってくれるのは嬉しい。 しかし、あれだけのことをしたのだ。少し、休みを増やして疲れを抜いてもいいんじゃないかとも思ってしまう。 エリオは、特にそうだ。シグナムにも実戦式の訓練をお願いしていたり、根を詰めているように見える。 もちろん、エリオとキャロの意思を確認してよければだが、フェイトとしては学校に行ってほしいな、と考えていた。 やはり自分の経験からしても、学校に行くというのはいいものだからだ。 なんとも子供に心配症なフェイト。ヴィヴィオの時など、なのはに「フェイトママは甘すぎ」と言われる所以だ。 保護者として……母としてどうしても子供が心配なのは、おかしなことでもないとフェイトは思っているが。 「そういえば、フェイトちゃん。はやてちゃんに呼ばれてたんじゃなかった?」 首肯。朝の仕事をしたあと、フォワード陣の朝の訓練を終えたなのはと朝食をとっている最中だった。 険しい顔で部隊長のはやてがこちらに連絡を寄越したのだ。曰く、ロストロギア関係の事件で話があるということだった。 機動六課は、本来の設立理由は別にあるとしても、表向きはレリックなどロストロギア絡みの事件を受け持つ組織。 専門として追っていたレリック事件が解決しても、それで終わりというわけでない。 つまり、そういう事件が舞い込んでくることもおかしくないわけだが……いったいどんな事件なのか。 小さく手を振り、テスクワーク行くなのはと分かれて、部隊長室へ向かう。 「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です」 ドアを軽くノックし、そう告げて部屋に入る。そこには、見知った親友であり、部隊長の八神はやてが座っている。 彼女もまた、大切な親友の一人だ。お互い、気安い仲だと思っている。 外を見ているようだったが、こちらに気付いて椅子をこちらにはやては向ける。 はやては、少し戸惑うような仕草を見せ、黙っていた。 機動六課を作ろうとフェイトとなのはに打ち明けたときのように、こちらに何か遠慮しているように見える。 しばらくフェイトも黙っていたが、彼女が小さく笑いかけると、はやても少し表情を柔らかくした。 それでも、かなり硬いものだったのだが。 「昨日、封印するため運送していた『ジュエルシード』が強奪されたんや」 指揮官として、背筋を真っ直ぐに伸ばしはやてが言った。 「ジェイル・スカリエッティが盗み出したものや。それも、ただ襲われただけやない。 犯人グループは、かなりの戦力を使い、一気に盗み出した後、空間転移で撤退してる。 その戦力量も問題なんやけど、その一味が使用した兵器は……」 空間に浮かぶウィンドウをはやてが叩く。 一、二度操作したところで、フェイトの前に、おそらく襲撃時のものと思われる映像が投影された。 何気なく視線を落とす――絶句する。 「これ……!?」 映し出されていたのは、細部が違い、動きも俊敏になっているが間違いなく傀儡兵。 かつて、とある人物が使っていた、自立駆動型の魔法兵器だ。 フェイトの表情を見て、察したはやてが僅かに目を伏せた。 「やっぱり、そうなんやね」 さらに、はやてがキーを叩く。さらにポップアップする映像。 そこに写っているのは、管理局員の魔導師たちと……小さな男の子だった。男の子に向け、管理局員たちはデバイスを向けている。 その子を見て、フェイトが真っ先に連想したイメージは、青いエリオ。 としかさもちょうどそのくらいだったし、髪の長さも同じくらい。瞳の色は分からなかったが、髪の色は紫に近い青。 そして、その手に握られているのは、群青色の槍。髪の色よりも青みが強い。ストラーダに比べると随分無骨なフォルムだ。 デバイスを向けられているというのに、まったく男の子は動じない。構えるわけでもなくうつむいて立っている。 管理局員による呼びかけ。 「なぜ、こんなことをする!? 運送されているものがどれだけ危険か知っているのか!?」 少しの静寂ののち、男の子が口を開いた。 「知ってますよ。 でも、僕を造ったお母さんが、アルハザードに行くためには、9個じゃ駄目なんです。 本当の自分を取り戻すにはジュエルシードがもっともっといる。 こういうの、好きじゃないですけど、渡してくれないなら……すいません。いくよ、ヒュポクリシス」 男の子のもつ長槍の正体は、デバイス。『ヒュポクリシス』はデバイスの名だろうか。 独特の機械音声が流れ、その足元に青い魔方陣が展開される。 構える護衛の管理局員たち。食い入るようにフェイトはその映像を見るが、次の瞬間、眩い光が溢れ、映像は途切れてしまった。 「異変を知って後続の部隊がついたときには……もう、ジュエルシードは奪われた後やった」 はやての声を、ほとんどフェイトは聞いていなかった。 『傀儡兵』 『僕を造ったお母さん』 『アルハザードへ行く』 『本当の自分を取り戻す』 『ジュエルシード』 「な……ぜ?」 昔、フェイトがハラオウンの姓を名乗ることになる前にあった、とある人物の起こした、とある事件と一致しすぎている。 とある人物とは、プレシア・テスタロッサ。とある事件とは、P・T事件。 そう、フェイト・テスタロッサの母であるプレシア・テスタロッサが『あるはずだった本当の幸福』を求め、 『アルハザードへ行く』ため『彼女が作った』フェイトを使い、『ジュエルシード』を収集しようとした事件だ。 だが、この事件ははるか昔に終わったはずだ。 フェイトが伸ばした手をプレシアは取らず、そのまま9個のジュエルシードともに虚数空間へ落下していった。 事件の顛末はこれで間違いない。フェイト自身、その瞬間を見ている。 なのに、今になって何故、こんなことが。これでは、まるで母が生きているかのようにしか見えない。 現実味があまりになかった。一瞬、今自分が硬い地面の上に立っていることすら信じられなかった。 頭が揺れて、まっすぐ立つことができない。 「フェイトちゃん!」 はやてが椅子から立ち上がり、フェイトの肩を支えてくれていた。 そこで、やっとフェイトは我に帰った。きっと、今の自分の顔は信じられないほど青ざめていただろう。 動悸がする胸を押さえ、机に手を突き、どうにか立つフェイトが、 しっかりと自分の足で立てるようになるまで、はやては何も言わずに待ってくれていた。 「……とにかく、こんな事件が起こったんや。残りの封印処理をしてあるジュエルシードを守らなあかん。 それで、この一味の捜査とジュエルシードの護衛任務が六課に回ってきたんや」 はやての言葉にフェイトも頷く。 この事件を追えば、自然この集団の謎は解け、首謀者が露わになるだろう。 この母の起こした事件と酷似した事件を起こした理由もまた、同じこと。 「戦力が戦力でな。気絶してた局員に聞いてみたんやけど……相手の戦力は大きく分けて3つ。 傀儡兵。子供の姿をした魔導師。あと、大型の傀儡兵を元に改良したと思われる巨大な質量兵器」 彼女自身、傀儡兵のことは知っている。母が作ったものは、一騎一騎がAランクの魔導師に匹敵する。 はっきり言ってその他の量産兵器の枠に収まるレベルではない。陸戦魔導師は平均してB程度。 つまり、同数でぶつかり合えば、戦術その他でいくらでも結果はかわるだろうが、単純な攻防に限れば傀儡兵に軍配が上がるほどだ。 そして、P・T事件のころの自分と同じように魔導師としての力を持つ子供。造られた、人造生命。 映像はないそうだが、大型の質量兵器のもととなった傀儡兵にも心当たりがあった。 かつて、なのはとフェイトがともに力を合わせて撃破した、あの大型をベースに改造したのだろう。 「これは、機動六課向けの事件や」 機動六課向けというその言葉は多くの意味を含む。 ロストロギアがらみの事件で動くことを創設目的とし、 Aランク魔導師と同等の実力をもつ傀儡兵を分散しても叩けるだけの実力を持ち、 何より過去それらと酷似した存在と戦った経験者が所属する。 確かに、これ以上はないだろう。 だが、しかし。 自分なりに、母のことを含めあの事件のことは受け入れたつもりだ。 だというのに、抑えきれない様々な思いが体を駆け巡る。フェイトは、全身を覆う不安、懸念をかき消そうとした。 それでも、消しきれぬ悪寒。 首謀者が、もしも母だったら? 母だったら、どう自分は向き合えばいい? もう二度と会うことはないと思っていたもう一人の母が、『死者』が再び自分の前に現れたとき、 自分を冷静に保てる自信は、フェイトには……まったくなかった。 ◇ ◇ ◇ 「ラリアー、デスピニス……御苦労でした」 彼女は、ジュエルシードを手に戻った自分の娘と息子に声をかけた。 彼女の前には、槍を持つラリアーと呼ばれた青い髪の男の子と、杖を持ちデスピニスと呼ばれる長い巻き毛の髪を揺らす女の子。 どちらも、まだ10歳になるかならないかという外見だ。 「体に異常はありますか? 『ヒュポクリシス』と『エレオス』の調子に変化は?」 「大丈夫です、怪我してません。デバイスの調子も特に」 「私も、疲れていますけれど、平気です……」 子供たちとそのデバイスの調子を聞き、彼女は小さく目を瞬かせる。 「ティスの『テュガテール』と『パテール』は不調の気配があるとのことでしたが、お前たちは問題ないのですね?」 「あの、ティスは、どうしてもデバイスの扱いが荒くなるから……だから、だと思います……」 デスピニスがおずおずとそう言うと、暗闇の影からもう一人、誰かが姿を現した。 肩までより少し短い、桃色の髪の少女。やはり、デスピニスとラリアーと同じくらいの年だ。 不機嫌そうに腕を組んでいる。少女の姿を見て、ラリアーは、声をかけた。 「ティス、君も今、帰ったの? 怪我はない?」 「当たり前だよ、あんな連中あたいの前じゃ……ってじゃなくて!」 ピシリとデスピニスのほうを指差す。びくりと体を小さく振るわせたデスピニスに、ティスと呼ばれた少女は言う。 「あたいのは、いつも全力で殴り潰しと体当たりなんだから扱いが荒くなるのは仕方ないだよっ!」 「ご、ごめんなさい……」 明るく快濶なティスと、消極的で大人しいデスピニス。 二人のやり取りはおおむね毎回こんな調子だ。それを知る彼女は、何も言わずに静かに収まるのを待つ。 すぐにこのやり取りは終わる。なぜなら、 「二人とも、そんなこと言ってもしょうがないでしょう。それに、お母さんの前ですよ」 ラリアーが必ず仲裁に入り、場をおさめるからだ。 日頃の押しは弱いが、家族が傷つくようなこと、争うようなことを極端に嫌うラリアー。 姉妹の喧嘩――というかティスがデスピニスにほとんど言いっぱなしになっているが――を一人息子が止める。 三人を作ってもう何年も経つ。いつもの光景を今日も彼女は見守っていた。 静かになってから、彼女は口を開いた。 「体の調子が悪くはないようですが、全員調整ポッドに入りなさい」 「え、デバイスの整備は……」 「そろそろ『テュガテール』と『パテール』はフルメンテナンスが必要でしょう。 その時、お前たちの『ヒュポクリシス』と『エレオス』のメンテナンスも私がすべてやっておきます。 貴方たちは今日の晩に備えて休むのです。特にデスピニス。疲れが残っているとのことだったので」 その言葉で、顔を見合わせた後、彼女の前へデバイスを差し出す三人。 三人の顔を見回し、彼女は言う。 「昨日のように運搬部隊を襲うのではありません。保管場所を襲撃する以上、万全の準備を怠らないように」 彼女の言葉を聞き、嬉しげにティスが手のひらを拳で叩く。 「やっとあたいの出番だね!」 彼女の言葉を聞き、デスピニスは、曇った顔でつぶやく。 「私は、痛いのも、痛くするのも本当は嫌……」 彼女の言葉を聞き、ラリアーは芯の通った声で宣言する。 「戦うのは、好きじゃないけど……それが皆を守ることになるなら」 彼女の言葉―― 「これからが、始まりなのです。私が生まれた場所へ……生まれた意味を知るための、本当の始まり」 これは、二組の親子の物語。 目次へ 次へ
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『四本の角』って知っているかい? モンスターの名前? 確かにらしいが、そうじゃないんだ。 コイツはある魔道師の二つ名なんだよ。聞いた事がないって? まぁ、アンタみたいなお行儀の良い管理局員には縁が無い奴だ。 奴は管理世界でも紛争が続いているような世界で仕事をしてる。いわゆる傭兵って奴だ。 そうだろ、お前も思うよな? 『腕が良いなら何処でも仕事ができるだろう?』って。 でも出来ないんだよ。アイツは『手加減』をしらねえからさ……『非殺傷設定』だって!? ハッハッハ! そんな器用なことが出来るんならあの腕前だ。とっくにお前さんの同僚になってるさ。 四本の角を市街地で使ったら成果1に対して10の残骸と死傷者を出すぜ? だからアイツは人がゴミくらいの価値しかなくて、碌な建物なんてない場所でしか仕事をしないんだ。 そうとも、お察しの通りさ。片足を潰して魔道師引退させてくれたのは四本の角さ。 ―ある元傭兵魔道師の供述― 「で? その四本の角っちゅう凶悪な魔道師がクラナガン入りすると?」 「そういう事。本局調査部の情報だから信じて良いよ」 八神はやて一等陸尉はクラナガンに程近い次元航行船発着港湾、略して『次港』のターミナルで、とある旅客船の到着を待っていた。 隣に立つ飄々としたイケメンはヴェロッサ・アコース捜査官である。 「確かにソレは宜しくない事態やけど、地上本部に黙って動く理由はあるん?」 「どうやら四本の角を呼び出したのが地上本部、しかも上層部が秘密裏にらしい」 「っ! なるほど……」 二つ名と危険な性質のみが伝えられる魔道師を地上本部が極秘裏に呼び出す。確かに何か有りそうな匂いがプンプンする。 若いながらも色々と積みたくない経験も多大に積んでいる二人としては無視できない内容だった。 「その為に地上本部が手配したのがもうすぐ到着する『CDT クラナガン次元輸送』の37便と言うわけだ。 ちなみにこれが乗客名簿だよ」 「本当に抜け目ないな~ロッサは」 はやては手渡された資料をペラペラと捲る。そこには魔道師である可能性を持つ人物に印が着けられていた。 推測は至って簡単。デバイスは基本的に手荷物扱いで次元航行船には持ち込めない。テロの可能性があるからだ。 故にデバイスは乗船時に預け、下船時に返却される。その預かり証が添付されている人物が魔道師、強いては四本の角である可能性が高いと言う事になる。 「けど四本の角を見つけてもこっちは勤務時間外や。緊急性を要する事もない。何も出来ないとおもうんやけど?」 「もちろんその通り。僕はただ見てみたいだけなんだ。監察官としてではなく、一個人として。 管理局の意向の及ばない場所に存在する強者の姿って奴をさ」 任務もヘラヘラしながらこなすくせにこんな時だけ真面目な顔をする友人に、はやては大きくため息を吐く。 だがそれが嫌いと言うわけではない。それすらも好ましく思えてしまうのがこの男の魅力だった。 「ほんまに物好きやな。でも私を呼び出したのはどうしてなん?」 「う~ん、好奇心を満たすのと同時に君と次湾デートと洒落込もうかと思ってさ」 次元航行船を降りてきた者が最初に通る税関、その向かいにあるカフェにて二人は座す。 身を包むのは何処にでもあるお互いの私服であり、間にはカップが湯気を立てていた。 傍から見れば何処にでもいるカップルが、搭乗する便を待っているように見える普通の光景。 だがそれも一つのアナウンスにより劇的な変化を生む。微笑み合っていた二人の目に一気に鋭くなる。 ターゲットのご到着を知らせるアナウンス。彼らの目の前の窓口へ船から降りてきた人々が順に列を作り始めた。 「あの船に乗っていた魔道師は3人や」 束から取り出された3枚の書類。それぞれ顔写真とある程度の個人情報、デバイスの特別預かり書が添付されていた。 「さっそく一人目だ」 まずは金髪にサングラス、スーツとコートに身を包んだキャリアウーマン。 確かに仕事は出来そうだが埃っぽい紛争メインに仕事をしているように見えない。 「う~ん、ちょっと違うかな。名前は……リニス?」 はやてはもう一度写真に目を落とす……趣味の悪いネクタイ。黒地に派手な黄色の稲妻なんて正気を疑う。 そう言えば親友に一人居たな……こんな趣味の人。 「ちゃうねん……」 「そうだね。ちょっと違うかな」 二人の間には僅かにニアンスのズレが生じていたりする。 数分後、受付に現れた二人目の魔道師は筋骨隆々な大男だった。 禿げ上がった頭に浅黒い肌。そこには無数の傷が刻まれている。 唯のチンピラでない事はその身から滲み出る風格で解る。ちなみにデバイスはベルカ式。 「これは当たりかな?」 「う~ん、でも近接戦闘を得意とする刀剣型のアームドデバイスや。 これじゃあ市街地じゃ戦えないなんてこと無いと思うんよ」 「確かに」 ベルカ式のスタンダートであろう戦闘スタイルが、非殺傷設定を出来ないようには見えない。 つまり噂の四本の角である可能性は低いだろう。名うての魔道師である事に代わりは無いかもしれないが。 「……と言う事は消去法であの子が四本の角と言う事なんか?」 「まさか……」 三人目の魔道師は小柄な少女。桃色のワンピースを着て、頭には真っ白な縁の広い帽子。 背中にはリュックサックを背負い、犬や猫を移動させるためのケージを持っていた。 都会や人混みには馴れないようで、あっちにフラフラ・こっちにフラフラしている。 「デバイスは……ブーストデバイス? 単体での戦闘は無理やな」 「ハズレだね。調査部の情報が間違っていたのか、四本の角がアポを蹴ったのか」 契約を破るというのも無法の傭兵魔道師なら充分にあり得る可能性だ。残念そうにロッサは自分のカップに口をつける。 はやてもそれに習い、悪友との休日のイタズラが終了した事を知る。だが落ち着かない様子だった少女が気になり、そちらへと目を向ける。 「誰かと待ち合わせかなぁ」 キョロキョロと辺りを見渡しては、時計を気にするその様子。 そう言えば足元に置いたカゴが激しく揺れている。中のペットが暴れているのだろう。 『田舎育ちの少女が都会で暮らす親類や兄弟でも尋ねてきた』そんな平和なシナリオをはやては脳内で描く。 幼い頃から肉親と言う存在が遠かった彼女らしい憧れに似た感情。だがそれは少女を迎えに来た人物によって壊される事になる。 「ロッサ……あの子」 「え?」 自分で口にしたのだが手に持ったカップが震えているのをはやては認識する。 その恐ろしい事実に確証を与える者こそが少女を迎えに来た人物。 彼女の中では親や親戚、もしくは兄や姉が迎えに来るはずだった。だが来たのは…… 「気付かれんようにゆっくり振り向いてえな。あの迎えに来た女性、プレイボーイとしては忘れられん顔やろ」 尋常じゃないはやての様子にヴェロッサは視線をズラして、驚愕する。 現れたのは鋭い目付きと鉄仮面をサングラスで隠し、何時もの管理局の制服からスーツに変えてはいるが忘れられないだろう女性。 「驚いた……オーリス・ゲイズじゃないか」 地上本部のトップ、レジアス・ゲイズの娘にしてその右腕、つまり地上の実質的№2。 四本の角を呼び出したとされるのが地上本部の上層部。そしてオーリスと接触している少女こそが…… 『非殺傷設定を知らず、市街地で使えば一の成果に十の被害を生む魔道師』 「あの子が四本の角や」 はやてとヴェロッサを驚かせたオーリスだが、彼女自身も驚愕を隠しきれずにいた。 面倒な案件を始末する為に地上本部の上層部が秘密裏に雇ったフリーの魔道師。 一般的には名前を知られておらず、その実力を折り紙つき。そんな魔道師を探してみれば出てきたのが『四本の角』と言う二つ名。 コンタクトに成功し、報酬でも折り合いがついた。そしてクラナガンに呼び出し、都会慣れしていないと言うから迎えに来てみれば…… 「わ~! 大きな建物~」 彼女が運転する車の助手席で、目を輝かせながらクラナガンの町並みを見る一人の少女。 桃色のショートヘアにお揃いのワンピース、足元には黒いパンプスを履いている。 先程まで背負っていた若干痛んでいるキャラクターモノのリュックは膝の上。 「アレはビルと言うのよ。四本の角」 「あの……私はキャロっていう名前があるんですけど~」 「お互いの為にビジネスライクで行きたいわ」 どうやらキャロと言うらしい本名を聞いてもオーリスはその表情と態度を崩さない。 そう! あのどう見ても悪人&死亡フラグな父親と長年一緒にいるわけではないのだ。 オーリスは落ち込んだ様子のキャロには目もくれず、ふと後部座席でガタガタと揺れているケースをミラー越しに確認。 「ところでアレは何?」 「私の『角』が入ってるんです」 「?」 丁度余りにも暴れすぎたせいか留め金が、バチンと弾けた。 中から飛び出してくるのはドラゴン。二本の足で立ち、皮膜により構成された翼と長い尻尾を持つ竜種。 「ピギャ~!」 「ギャルルル~」 あたりの見慣れない光景に二匹とも困ったような鳴き声を上げる。 盾のような頭部の甲殻と山羊のように捻れた二本の角が特徴的。第97管理外世界で言う所のトリケラトプスのよう。 「ドラゴン……」 「はい! フリードリッヒって言います。私の竜です!」 「二匹居るように見えるけど?」 そう、一つのケージから飛び出してきたのは二匹。造形は同じだが色が違った。 一匹は砂漠迷彩のような黄褐色だが、もう一匹は黒曜石のように磨き上げられた漆黒。 「一匹分の名前しか考えてないの、召喚したら二匹だったんです。だから……」 黄褐色の固体を指差して……「こっちがフリード」 次に漆黒の固体を……「そっちがリッヒってことにしてます」 「なるほど」 オーリスは暴れまわる二匹の小さな暴君たちに、シートが破壊されないか心配しながらも冷静に考えを巡らせる。 珍しい竜召喚士、しかも二匹の竜を呼び出すとなればその実力は計り知れない。 「あぁ……だから四本の角……か」 二匹の竜がそれぞれ二本の角を持つ。つまり角の数は合計四本。 クラナガンはミッドチルダ式魔法文明の中心地として繁栄している。それは間違いない。 だがその繁栄に堕ちる影、誰もが目を背ける闇がある。『廃棄都市区画』。 いくつかの理由で放置され、復興も取り壊しも行われず、朽ち果てた元市街地だ。ボロボロのビルは未だにその形を保っているが故に寂寥感を増す。 もちろん問題は景観や土地利用の問題だけでない。その管理局の目が届かない場所には普通の場所では生きていけない存在が集まる。 違法移民や犯罪者たちが寝床や生活の場所、時には悪事の隠れ蓑としてその場所を利用する。 管理局地上本部が対処に困っているテロリストもそう言った類の一例に過ぎない。 そのテロリスト達が何をやってきたのかを語るのは止めよう。余りにも普通のテロリズムだからだ。 様々な経緯を経てその集団がクラナガンにてテロを計画している事が判明、実行前に確保しようとしたが逃亡。 その逃げ込んだ先が廃棄都市区画の元著名なホテルの廃墟だった。ソコが唯の廃墟ならば制圧は難しくは無かっただろう。 だがそのホテルは各次元の代表クラスが会談をする事まで想定された場所だったのだ。 つまり『攻めるに難く、守るに易し』を地で行く構造なのである。 周囲数百メートルには建物が無く、視界が確保されている為に秘密裏に進入が効かない。 悪い事に放置されていた非常用魔力炉により警備システムが起動され、無数のカメラと迎撃用スフィアが動き出す。 地下の貯蔵庫には非常食が積まれていたらしく、兵糧と言う面でも万全。シャッターが閉まり、正面突破も阻まれている。 テロリスト達が本来の計画の為に所持していた傀儡兵も合わさり、戦力はかなりのもの。 廃棄都市区画に関する多くの情報が失われている今、その元ホテルは誰もが全容を知らない迷宮と化してしまった。 以上の場所を攻略するのは、高ランク魔道師不足に悩む地上本部にとって簡単ではない。 既にテロリストが篭城を始めてから一週間がたち、数度行われた突入作戦は悉く失敗。 表向きは人質が居ない事、被害が無い事からも緊急性はない。だがテロリスト相手に手間取るというのはそれだけで色んなものに傷がつく。 もちろん本局に増援を頼むなり、某タヌキの個人所有戦力を動かさせるなり、手段が無いわけではない。 しかしそれは地上本部の威信が、如いてはレアスキル嫌いなレジアスのプライドに傷をつけることになる。 その結果として『名が知られていないが実力は確かな魔道師を雇ってこっそり解決する』と言う手段が選択されたのだ。 「以上が状況よ。何か質問は?」 ホテルからある程度離れた場所に設置された対策本部で、オーリスは現在の状況を四本の角 キャロに説明を終えた。 終始目元や唇がピクピクしているのは、相手が真面目に話を聞いていたように見えないから。 キャロはテーブルに置かれたインスタントコーヒーへ、砂糖とミルクを溶かす作業を必死に行っている。 その足元では二匹の竜がじゃれ合っていたが、その声がやたらに鬼気迫った迫力があり、愛らしい行動との矛盾。 「よく解りませんでしたけど、つまり……『踏み潰せ』ってことですよね?」 「えっ……えぇ、そういう事になるわ」 オーリスは不覚にも自分の背に走る寒気を認識した。こんな十年も生きていないだろう小娘に? 『踏み潰せ』 確かに彼女が指示した内容とは大きく離れてはいない。四本の角に求めたモノは『突破力』なのだ。 監視や迎撃をものともせず、一定以上の強度を守り続けるホテルに突入の穴を開けること。 「じゃあ、さっそくやりましょう」 渡された地図を眺めつつ、コーヒーをチビチビと啜っていたキャロは唐突に言った。 朗らかな笑顔でこれから散歩にでも行くというくらい軽い気持ちを露わにしながら。 そんな様子にオーリスは自分の寒気の正体が理解できた。目の前に居るのが『危険な傭兵魔道師』であると言う事実。 そしてソレを忘れてしまうほどに子供らしくて可愛い様子。まるで噛みあわないのだ。 『この娘は一体どんな人生を送ってきたのだろうか?』 「ダメね……ビジネスライクで行くつもりだったのに」 キャロは前方に聳え立つビルを見上げていた。その周りだけは他の建物は無く、視界は開けている。 視界は彼女が戦闘を行うのに重要な要素だ。もっとも開けていなかったら無理やりにでも『開く』のだが…… 「セットアップ、ターリアラート」 取り出したのは骨を削りだしたような質感の装飾品。待機状態のデバイスである。 その名前の意味をキャロは良く知らない。ただ偶々出会った『ハンター』なる職業の人が熱心に勧めてきた名前を採用しただけ。 『その竜を二匹も従えるお嬢ちゃんの武器にこそ相応しい名前だ』 どういう意味だろう? しかも自分の二匹の竜を知っているような口ぶりだった。 「もう、後の祭りか」 もう会うことも無いだろうハンターなる人に思いを馳せつつ、キャロは己の身を包む衣服 バリアジャケットを検分する。 適当に着崩した黒のワイシャツに同色のロングスカート。その上に砂漠色をしたボロボロのローブを纏う。 手にはブーストデバイスとして本来の姿、中央に真紅のダイヤ状結晶を抱いた骨色のグローブとして装着されている。 「行くよ、フリード! リッヒ!」 「ギャウ!」 「ギャワウッ!!」 茶褐色と漆黒の竜が短く吼える。そこには先程の戯れとは比べようが無い闘志が宿っていた。 キャロは掌を開いて左右に突き出し、唱える。四本の角を真に解き放つ為に。 「荒野を貫く二つの閃光。我が剣となり、地を駆けよ。 来よ、我が竜たち! フリード、リッヒ!! 竜魂召喚!!」 二体の幼き竜たちの足元に展開される魔法陣。そこから湧き上がるのは寂れ、疲れ果てたような砂の色。 そんな光が二匹を包み、大きく膨れ上がり……弾ける。光の中から現れた二匹は今までとは大きく異なっていた。 構造的には大きな変化は無い。だがサイズが巨大になった分、今まで気にならなかった特徴が大きなインパクトへと変わる。 身を覆うのは鱗ではなく甲羅と呼ばれる頑強なもの。 頭部を守る盾のようなヒダ飾りとそこから生える二本の捻れた角。 大きくなった東部を支えるシッカリとした二つの足、バランスを取るように広がる翼。 目は小さく溢れ出す様な怒気を孕み、鋭い牙が細かく生えた口から荒い息遣いが漏れる。 本当の姿を取り戻した様子から彼らはこう呼ばれている……『角竜』と。 「「■■■■■■■■■■■■■!!!!」」 二匹の角竜 『ディアブロス』とある世界では呼ばれている竜が天を仰ぎ、信じられないようなボリュームで咆哮する。 空気の波が鼓膜どころか地面すらも揺さぶり、誰もが耳を押さえてその存在に釘付けに成った。 注目を集める事は決して作戦のプラスには成らないだろう。だがキャロからすればそれはマイナスにも成りはしない。 何時でも何処でも彼女の、彼女達がするべき事に変化は無いのだから。 「逝けぇ!!」 命令はそれだけで充分だ。主の言いたいことも、自分達の成すべき事もディアブロス達は知っている。 故にただ前へ……奔り出した。 二匹の竜と言う以上の出現にホテルを包囲していた局員も、外の様子を窺っていたテロリスト達も注目した。 「どんな手段を用いて活路を開くのか?」と局員達は胸を高鳴らせ、テロリストたちは顔を青くした。 だが二匹の竜はブレスを吐くわけでも、空を飛ぶでもなく……走りだしたのだ。ホテル目掛けて真っ直ぐに。 その動きに局員は首をかしげ、テロリスト達は嘲笑う。そんな事をしても迎撃システムの餌食だと。 「ダメだ!」 突然近づいてきた大きな物体に射撃用スフィアがシールドを展開し、魔力弾を一斉に発射する。 起動した傀儡兵が武器を構えて、迎撃の態勢を整えた。誰かの上げた悲鳴通りならば数秒後、二匹の巨体は地に伏していただろう。 だがそうは成らなかった。 『弾いてしまった』 多くの射撃魔法が顔の大部分を覆う骨の盾に弾かれ、瞬く間に霧散してしまう。 次の魔力弾が放たれる前に、最前線のスフィアから順に踏み潰されてスクラップ。 巨体からは想像できない速度で、巨体ゆえの質量をそのままインパクトと加速に変換する。 「化け物が!!」 しかもただ突進している訳ではない。ある程度の場所で方向転換。 振り回された尻尾は、先端が棍棒状に膨らんでおり打撃力を増す。それを振り回すことで広範囲の傀儡兵やスフィアを薙ぎ払う。 「ちくしょう!!」 一帯に張り巡らされた隠し通路から飛び出してきたテロリストが魔力弾を放つ。 スフィアの放つものよりも格段に威力が高い。それをモロに鼻っ柱に受けた角竜が……止まらない。 むしろ攻撃と言うのは彼らの闘争心に火をつけ、痛みや恐怖すら忘れさせる。 「あぁああ!!」 一歩を踏み出す足音が告げる死の感触。かなりの速度であるはずなのにゆっくりと味わう恐怖の味。 そして……『轢かれた』。突き出される二本の捻れた角がテロリストを捉えて跳ね上げる 大質量の大加速が大衝撃を生み出し、それが哀れな犠牲者の全身を粉砕する。 体の内も外も変わらずに破壊しつくされ、一瞬で死ねた事だけが彼の唯一の幸福だろう。 「強いって……こう言う事だ」 誰かが呟いた。人間で言えば魔道師のランクがどうとか、竜で言えばブレスが吐けるとか、そう言ったことではない。 そんな難しい事ではないのだ。『大きくて、早くて、重くて、硬い。ついでに怒りっぽい』 それだけで事足りてしまう。もちろん理由を突き詰める事は可能だ。 例えば盾のようなヒダは頭だけではなく、内臓や推進器官である足も守っているとか。 小さな目は頭部を盾として用いる場合に敵にピンポイントで狙われる危険性を軽減しているとか。 角の捻れた構造は衝突の衝撃を失わせず伝えることができるとか。 まぁ、そんな事はどうでも良い。どうでも良いと感じさせてしまうほど純粋な……暴力。 「アッハッハッハ! 粉砕! 玉砕! 大喝采!!」 自分の唯一の共にして、剣である竜達の活躍と言う名の殺戮を見渡して、キャロは叫ぶ。 コレで良いのだ、何時も通り。提示された『モノ』を踏み潰して、報酬を貰う。 村を追い出されてから数ヵ月、普通を貫こうとしてきた。普通の人間を目指していた。 でもダメだった。唯の世間知らずの小娘など世界では余りにも無力。 嫌な経験などもはや忘れるほど積み重ねてきた。気色悪い笑みと撫で回される体の感触。 思い出しただけで鳥肌が立つがキャロは哀れなテロリストたちを蹂躙する事で発散する。 ベルカがなんだ? ミッドが如何した!? 踏み潰されてひき潰されるそれらは等しく無価値だ。 「結局! 強い奴が正しいんです!!」 力なき娘など陵辱の対象だが、力ある娘は違った使い方をしたいと思うのが人だ。 そんな風に命を繋いだ元闇の書の主やプロジェクトFの遺産。彼女たちが管理局で相応の地位に居るのだから、キャロの至った答えは間違ってはいない。 数年の経験と修練により、独学であるが竜使役を完全にマスターした。そしてその余りにも単純な暴力を使う手段が紛争。 それが運の悪かった強者の行き着く可能性。八神はやてのようなケースなど稀であり、世界はこんな筈じゃなかった事ばかりなのだ。 「ん~あれはチョッと強そうですね」 大方のスフィアと傀儡兵を粉砕したフリードとリッヒが最後に向かい合う相手。 何処から持ち込んだのか? 大型の傀儡兵、手には大きさに見合う剣と盾を装備していた。 その傀儡兵を包囲する形でフリードとリッヒは動きを止め、キャロの指示と助力を待っている。 パートナーたちのアクションに頷き、キャロは唱える。 「我が乞うは疾風の翼。猛き角竜に、駆け抜ける力を」! 『Boost Up Acceleration』 左手に装着されたターリアラートが光を放つ。さらに詠唱は続く。 「荒々しき御身に、力を与える祈りの光を」 『Boost Up Strike Power』 まだまだ詠唱は終わらない。 「我が乞うは城砦の守り。猛き角竜に、清銀の盾を」 『Enchant Defence Gain』 補助魔法の三連詠唱。上からそれぞれ機動力、打撃力、防御力をブーストする。 ターリアラートが三連続で補助の光を放ち、それぞれがフリードとリッヒに重なった。 与えられた力の意味を理解し、二匹の竜は走り出す。グルグルと傀儡兵の周りを周りだしたのだ。 「!?」 驚きの感情は搭載されていないだろう、魔力合金の巨体が僅かに首を傾げた。 プログラミングされていない事態に思考パターンにノイズが走る。ブーストされた速度により二匹の姿が霞んで見えた。 「□□□!」 敵の意図は読み取れずとも、撃破を優先したのだろう。傀儡兵は剣を振り上げ、一気に振り下ろす。 だが鋭い金属音と共に剣が弾かれ、巨体が僅かに揺らぐ。タダでさえ硬い甲羅が防御力アップの加護を受け、巨大な刃を弾き返した。 そして生まれる一瞬のスキ。フリードとリッヒは円周運動を直に直線的な動きへ変更。 二匹は正面から並んで傀儡兵へと相対、一瞬の溜めの後に爆発的な加速。 「「■■■■■■!!!」」 三連ブーストにより強化された衝撃×2は、傀儡兵の巨体を押し倒す……なんてレベルでは済まされない。 余りにも大きな衝撃で頑強な傀儡兵を粉々に粉砕。しかもその勢いはなお衰えず、後ろに控えていたホテルへと激突。 『破砕音の多重奏』 一週間も管理局の威光に歯向かい続けた旧時代の遺物は、余りにも純粋で圧倒的な暴力を前にして砂の城が如く大穴を開けた。 「これで……良いですか?」 キャロは振り向いて唖然とする管理局員たちにそう問うた。 傀儡兵とスフィア、ホテルと言う壁も失ったテロリストたちは既に烏合の衆。 数で勝る局員が一網打尽にして終わりだろう。つまりキャロの仕事は終了である。 「突入だ! テロリスト共を逃がすな~!!」 慌てて駆け出す部下たちを見送り、オーリス・ゲイズは仕事を終えた傭兵に報酬を渡す『つもりだった』。 しかしその前にキャロのある言葉を聴いてしまい、ソレができなくなってしまう。 小さな姿で返ってきた二匹の竜 フリードとリッヒを撫でて褒めながら呟いた小さな一言。 「これでご飯が食べられるね? こんな事をしているから……私は生きていける」 『ビジネスライクで行きたい』そんな言葉は既にオーリスの中では掻き消えていた。 幼い傭兵の一言一言が『管理局の大儀』や『地上の平和』で倫理武装された彼女の心を打った。 「ゴメンなさい……」 「あのっ……どうしたんですか?」 打たれた心の反響が生む不協和音、それを打ち消さんが為に思わず彼女はキャロを抱き締めていた。 何が管理局だ! 何が次元世界の安定だ! 小さな娘がこんな惨い事をしなければ生きて行けないと言うのに。 そんな状況を改善する為ならば質量兵器だろうが、悪の天才科学者だろうが利用してやる。 「この後はお暇かしら?」 「あっはい! しばらくクラナガン観光でも……と」 「じゃあディナーをご馳走するわ。もちろん私持ちで」 しかし今すぐできる事はそれくらいだ。依頼主の提案にキャロは嬉しそうな顔で頷いた。 もしこの少女が何処までも非道の傭兵ならば、こんな気持ちには成りはしないとオーリスは分析する。 だがキャロは今でも必死に普通を目指しているから……放っておけないのだ。 「あの教導官や執務官、闇の書の主にも解って欲しいものね。力の特別視、そしてソレが生む悲劇を」 キャロはその一例だ。誰もが持たざる力を持つと言う事は、それだけで多くの可能性が何も言わずに憑いてくる。 今まであの若手三人組は正しく順風満帆、良い方の可能性だけでここまでやって来た。そうする要素が多かったことも幸いして。 だがちょっとでも道を踏み外せば、彼女達が歩く道はキャロがひた走っている死体と瓦礫の道となりうる。 管理局が否定する『誰もが使える力』こそが『誰もが持たざる力』の価値を無くし、幸か不幸か『力を持ってしまった者』を救う手段。 「いつかその危険な角が折れると良いわね」 「ギャウ!」 「ギャワウ!!」 「ちょっ! フリードとリッヒ拗ねないで~」 抱いていた肩を離してオーリスが呟いた夢物語。それに辿り着くまで四本の角は走り続けるのだろう。 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
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第一訓 ツインテールに悪い奴はいない 第二訓 傀儡兵は魔術師が責任を持って最後まで相手をしましょう 第三訓 小説版なのはには中二病的な物が潜んでいるから気を付けろ 第四訓 第一印象がいい奴は魔術師にはいない 第五訓 10年たってもあだ名で呼び合える仲間を作れ 第六訓 お前ら闇の書なんて作ってる暇があるなら学校にでも行ってきな 第七訓 一度狙った魔術師は死んでも落とせ 第八訓 カッコよさとダサさは紙一重 第九訓 魔法はグーでやるべし 第十訓 疲れた時は甘い物を 第十一訓 弾幕使う魔法少女なんてなぁ魔法少女じゃねぇバカヤロー 第十二訓 全世界の魔術師ども日本は守れ 第十三訓 原作で生まれるのは青白いモノばかり 第十四訓 バリアジャケット着るならキャラまで変えろ 第十五訓 魔術師にはデバイス使えて一人前みたいな訳のわからないルールがある 第十六訓 考えたらリリカルなのはってスピンオフ作品じゃねーか!って凄ッ!! 第十七訓 魔法少女だってほぼお前らと同じことやってるんだよ 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
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物語 物語 魔女 月の意思 魔女第1章 暁と月と極星? 月の意思第1章 再会? 魔女第2章 情熱? 月の意思第2章 共に行く? 魔女第3章 魔女? 月の意思第3章 帰還? 魔女第4章 暁の輝き? 月の意思第4章 訃報? 魔女第5章 個性? 月の意思第5章 塔? 魔女第6章 月の輝き? 月の意思第6章 遺物? 魔女第7章 極星の輝き? 月の意思第7章 責める声? 魔女第8章 暁と極星? 月の意思第8章 闇夜の輝き? 魔女第9章 漁夫の利? 月の意思第9章 不思議な塔? 魔女第10章 急変? 月の意思第10章 信じがたい出来事? 魔女第11章 暁と月? 月の意思第11章 決断? 魔女第12章 月と極星? 月の意思第12章 魔女と仲間? 魔女第13章 モンスターの影? 月の意思第13章 謎の村? 魔女第14章 歪みの魔女? 月の意思第14章 傀儡兵の村? 魔女第15章 真の目的? 月の意思第15章 ? 魔女第16章 互いの想い? 月の意思第16章 ? 魔女第17章 意外な助け? 月の意思第17章 ? 魔女第18章 紛争の原因? 月の意思第18章 ? 魔女第19章 歌声? 月の意思第19章 ? 魔女第20章 境界の塔? 月の意思第20章 ?
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最悪の予言に対抗するために作り上げた、うちらの組織。 新人や実験体などを集め、ようやく形になった。 不安ではあるけれど、それでも前に進まなければならない。 最悪の予言を打ち砕くために、今最初の一歩を踏み出してゆく。 第四話「機動六課」 「このザクウォーリアは、テストタイプを元に量産化を視野に入れて製造された、正式採用タイプのバリアアーマーになります」 手元の資料をめくりながら、シンは説明する。こういう仕事はレイの方が得意なのだが、彼は今もっと厄介な場所で仕事をしている。 目前にいる上層部の老人たちに解説するのは、必然的に自分の仕事になってしまった。 「基本的な能力については手元の資料を参照ください」 内心緊張を覚えながらも、そつなく説明を行うシン。説明文書はレイと作ったものだし、これ以上何を言うべきかわからないぐらいに要点はまとめてある。 「ザクウォーリアのもっとも特徴的な点は、ウィザードという追加武装パックを装着することにより、状況に対応した魔道士を適切に配備できることです。 装着者の適正はもちろんありますが、状況に対応する魔道士を選出するよりも早く、確実に戦力を補充し対応できる。機械式の優位はここにあります。 Bクラスの陸戦、空戦、砲撃戦用魔道士の必要な場所にフレキシブルに対応することを可能にする。バリアアーマーは人員不足を解消する為の装備です」 今までザクウォーリアの三面図だった画像が切り替わる。各ウィザードの紹介をするためだが、便宜上色が塗り分けられたザクに一瞬懐かしささえも覚えた。 今のシンの服装は、ベージュ色のジャケットにズボンと革靴。レジアス中将から正式な辞令を受けてここにいる。 もっとも、その中身に関してはまだ眉唾物ではあるのだが。 「レジアス中将から説明は受けとるし、そんなにかしこまらんでもええよ」 装備解除したシン達は、まだ段ボールの残るオフィスの一角に案内された。 栗色のショートカットの女性は八神はやてと名乗り、怪訝そうな顔を浮かべるシン達に書類を手渡しながらにこにこと解説を始める。 「説明、とは何を指しているんです?」 「んー。二人の出身地とか、バリアアーマーのテストのこととかかな。ほかにも一通り聞いとるけど」 感情を読ませないためといっても差し障りがなさそうな、笑顔を崩さないはやて。レイはそれ以上の追撃を諦め、資料に目線を向ける。 「さすがに、友達を狙った理由がデモンストレーションってのにはちょっと関心せえへんけど、あれは状況が状況やったし。 こっちが先に仕掛けてるからお互い水に流すとして」 さらりとした説明の端々にトゲが混じるのも仕方のないことなのだろう。その辺りは無視してシン達は先を促す。 「デモンストレーション?」 しかし、そこになのはが食いついた。 「そや。バリアアーマーっちゅう新兵器を宣伝するためには、すでに実績を出してる魔道士を倒しました、ってすると印象がちゃうやろ? 元々人員不足の魔道士を補填するための装備とはいえな」 「実力があれば、すぐに認められる。そのために必要なのは相手のネームバリューってことか」 はやての説明にフェイトが頷き、空気が一瞬固まる。とにかく、とその場を取りなしたのは意外にもはやてだった。 「そういう理由だったら、もっと確実な方法がありますよって中将と交渉してな、交換条件付きで2人を機動六課に組み込むことにしたんよ。 2人とも叩けば伸びるし、実績も重ねられる。それに、2人にもそんなに悪い話やないんやで? 資料の中に関係書類あるから、めくってみ」 何が楽しいんだろう、と思うばかりの笑顔を浮かべるはやて。進められるままに資料をめくると、そこには妙な物が付随されていた。 「移民、届?」 「そう。2人の身柄は時空管理局預かりとして、ミッドチルダの市民に登録しようってこと。 2人とも、あっちにはもう戻れないんやろ?」 はやては笑みを納め、真剣な表情を浮かべた。2人をまっすぐに見つめ、重い沈黙が場を支配する。 「……どこまで知ってるんです?」 「一通りは、レジアス中将から聞いとる。デスティニープランのこととか、戦争の結末とか」 あの場の空気に飲まれたとはいえ、そこまで悪い話でもない。 そう思っていたシンの思考は、手を挙げたはやての質問で現実に引き戻された。 「あの二つ目のバリアアーマーは、ザクとどう違うん?」 「インパルスはよりフレキシブルな運用を行うために、わずかな時間でウィザードを取り替えることを可能にしています。 その分取り回しが難しく、ザクにはこの方式が採用されませんでした」 「どうしてかな? 状況に対応するにはそっちの方が便利だと思うけど」 説明中に予定調和のごとく飛んでくるなのはの質問。意外なことだが機械に関してなのはの知識は深く、配属が決まったと同時に質問責めに合いそうになったのは記憶に新しい。 まとめて解説すると言うことでその場を逃れ、今回の説明会が開かれている。 ちなみに、レイはレジアス中将と共に陸軍で説明を行っており、機動六課内部での説明をシンが担当している。 「特性がいきなり切り替わるのに、操縦者が対応できないケースが相次いだんです。 そこまでころころ変わる必要もないってことで、ザクは任務中にウィザードの変更を考えない設計になってます」 「じゃあ、シンがインパルスを使ったのはイレギュラーだったって事か。あっちの方がいろいろ便利そうなのに」 ペン先を顎に当て、フェイトが小首を傾げる。他の面々から質問が出ないことを確認してから、シンはこの場を締めくくる言葉を発した。 「機動六課に配備されるのは、新型のザクとインパルスという事になっています。運用面でいえば、インパルスの利便性はデータが欲しいとのことで」 切り替えまで含めてインパルスを使えるのはシンのみであり、運用も彼の配属先で行おうとすんなり決定した。 また、前回の運用結果を受けて、ある程度強化したザクも試験的にこちらに持ち込みになっている。 破格の条件にも見えるが、実際の運用データがない以上最善を尽くさなければならないのは当然の流れで、 魔道士達との共同戦線が張れるかがかかっている以上当然の帰結とも言える。 「そういえばシン。向こうから伝言を預かってるんよ。 『美人揃いの職場で羽目外しすぎるなよ』やて。愉快な人やったなぁ」 場を締めくくるはやての言葉に、がっくりと肩を落とすシン。 (この場で言う事じゃないでしょうに、あの人は……) 今度会ったときに覚えてろ、とシンは心に堅く誓った。 「それで、他の人員はどうなってるのかね?」 「選出は完了しているそうだ。訓練が完了し次第実任務にも出ることになるらしい。 隊長陣はリミッターがかけられているし、しばらくは大きな任務はないだろうな」 機動六課のガレージにて、シンとレイは会話しながらバリアアーマーの調整を行っていた。 インパルスはなのはとの激戦で機器を総入れ替えしているし、レイのザクは新型である。自分達も完熟訓練が必要な有様であった。 (まあ、関連機体を扱った経験があるだけましと言うところか) 「俺たちの立場は?」 「隊長直下の遊撃戦力扱いらしい。 魔道士でない以上通常の戦力には見なされない、ある意味ワイルドカード扱いのようだな」 「ジョーカー扱いも困るってのにな。何でもできる訳じゃないぞこっちは」 作業の手を止め、天を仰ぐシン。仕方のない扱いとは言え、少々荷が勝ち過ぎなのではないかと思う。 「状況に応じて変化対応する点では一緒だろう。 ともかく、しばらくは大きな任務もなさそうだし、今のうちに新しい機体に慣れないとな」 調整の完了したメンテナンスハッチを閉めながら述懐するレイ。 形はザクと同型とは言え中身は別物の機体整備にしては鮮やかな手際である。 「あ、いたいた。2人とも、ちょっとええかな?」 ガレージに似つかわしくない、華やいだ声。振り返った2人の目に、小走りでやってくるはやての姿が飛び込んできた。 「どうしました、八神隊長。完熟訓練がまだですので機体データの提出はできませんが」 次のメンテナンスをする為の作業の手を止め切り出すレイに、はやては両手をあわせて拝む姿勢を作った。 「飛び込みで悪いんやけど、一件2人に動いて欲しい依頼が飛び込んできてるんよ。 こっちからもフォローはするし、受けてもらえへんかな?」 「……こっちはまだ完熟訓練もすませてないんですが」 「そこを何とか! こっちもいきなりで対応できる人間がおらんのよ。 なのはちゃん達は新人の訓練やし、シグナム達は別件で動いとるし……」 「それでも、受けなければまずい要請がきた、と」 拝み倒しの体勢に入るはやてに、ため息を一つついて続きを促すレイ。嘆きたいのはこっちも同じなのだが、それでは話が進まないと割り切ることにしたようだ。 「時空管理局本部に、うちらが関わっていくことになる遺物、通称「レリック」の調査報告を運ぶって事なんやけど、 詳細なデータなんかも入ってるから護衛を出せって上からお達しがあってな」 「ついでに、バリアアーマーの戦闘力も確認したい、と」 はやてに対するレイの口舌のは射場は鋭い。うっと一瞬詰まったところに、少々考えるようにしてから一度頷いた。 「出さなければまずいんでしょうし、そこについては問題ありません。 ただし、運用の都合上どうしても飲んで欲しい条件が一つあるんですが」 第四話『機動六課』(後編) 『これから警備開始の時間に入る。準備いいか?』 『こちらは問題なし、だ。ロングアーチとのレーダー同期を開始する』 『了解』 短い通信の後、シンはインパルスの足下を何とはなしに確認した。両脚部はきっちりロックされ、列車の上部に固定されている。 この列車の中に何らかの形で保持されているデータの運搬警備。それが今回の任務だ。 「セット、ブラストシルエット」 『Roger!』 足周りを確認してから、シンはインパルスのシルエットを呼び出した。背部に大型の砲が装着され、装甲が緑を中心とした砲撃戦用に入れ替わる。 移動手段が列車だと聞いてからシン達が立てたプランは実に単純なもので、上部にシンが砲撃戦用のブラストインパルスで待機して砲台となり、足らないレーダー距離をレイが列車内部で情報を得ながら補うという砲撃防御スタイルであった。 『ロングアーチとのレーダー同期開始。敵、距離3500まで接近』 『了解。1500まで接近の後、砲打撃戦を開始する』 予想通りの情報がもたらされ、シンは背部の大砲ケルベロスのチャージを開始した。最大射程の照射モードでなぎ払う構えである。 『ケルベロスの最大射程は2000……。配置に変化なし、ポイントゼロまでは何とか持たせろ』 レイの言葉が遠くに聞こえる。じっとレーダーを見つめていたシンだったが、一つ深呼吸の後ケルベロスを砲撃状態に構える。距離はまだ、射程の外。レーダーが変化をとらえたのは、シンの指がトリガーを引く直前だった。 『……後方部隊の一角が速度を上げて接近。電撃作戦(ブリッツ)だ! 距離1800!』 『仕掛ける! プラン変更はまだなしだ!』 叫びに近い声色のレイに答えるように、ケルベロスが砲声を轟かせる。爆散の様子は見えないが、いくつか光点が消滅していることから効いてはいるのだろう。 ここからは、時間との戦いになる。タッチダウンはどちらが先か。足下に電車のレール音を聞きながら、シンはめまぐるしい装備変更に忙殺されていった。 一方、シンの奮戦を眺めているどことなく暢気な一団があった。訓練時にありがちな、緊張と弛緩が入り交じった空気が周囲を支配している。 「光点に反応あり。フェイス01、02共に戦闘態勢に入りました」 「こちらに仕掛けてくる様子はありません。全機列車を狙っている模様です」 観測手の報告を聞きながら、指揮官席に座るはやてはこめかみのあたりを指で押さえた。 (大丈夫とは言ってたけど、ホントとは……。シグナム残しても大丈夫だったかな) 今回の任務に必要とのことで、ロングアーチの訓練飛行を今日に前倒ししたものの、眼下に大挙する傀儡兵が一体もこちらを狙ってこないというのも無視されているようで不気味に感じる。 万が一こちらを狙ってくるかとスタンバイさせているシグナムも、暇を持て余すことになりそうではあった。 「主はやて。彼らの応援には行かないでよろしいのですか?」 「うん。どうしようもなくなったら連絡するって言うてたし、まだ予測の範疇なんやろな。だからまだ待機。そのかわり、通信入ったらすぐ応援に行ったって」 シグナムの質問に緊張感を残しながらも柔らかく答えつつ、はやてはレーダーの光点ほうに注意を戻した。彼らから連絡がなくても、まずいと感じたらすぐに応援を出せるように。 備えは大切なのだ。どんな時も。 (けど、この距離と情報にこの数……。多すぎる気がするけど) 個人的な感想ではなく、指揮官としての勘。 情報が欲しいのは分かるが、それにしては戦力の投下に思い切りがよすぎる。まるで、いらなくなったものを投げ売っているかのような……。 はやては思考に浸りつつ、シグナムの投下タイミングだけは間違えないようにしようと決めた。 列車はまだ順調に走っている。もっとも、投入されている戦力からすれば奇跡のような状態ではあったが。 「まだまだあっ!」 何体目になるか分からない、上から取り付こうとした傀儡兵を両手持ちにしたジャベリンで貫く。 その間にも背中のファイアビーは唸りを上げて空中の敵を牽制し、両肩に装備されたレールカノンは後方の敵を貫いている。 チャージが完了すればケルベロスをなぎ払うように発射しているが、そんな程度ではこの数をどうにもできない。シルエットの全火力をフル回転させてようやく、冗談のような均衡を保っているのだった。 『ポイントまで後2分! レイ、さすがに限界だ!』 半ばやけになりながらバルカンで傀儡兵を振り落とすシンの通信に、レイが窓から身を乗り出した。敵影で空も見えない状況を察し、窓から身を踊らせつつ叫ぶ。 「了解した。プランBに移行しよう。直衛に入る。ブレイズ・ザクファントム」 『Roger!』 窓から飛び出すレイの姿が、白い装甲に覆われる。巨大なブースターと両肩のシールドが目立つ、新型のザク。手にしたマシンガンで牽制射を入れながらバーニアを使い、空へと舞い上がる。 「後三分防ぎきった後、敵戦力に突撃をかける。もう少しの辛抱だ」 オープン回線で声をかけつつ、牽制に徹するレイ。背部のファイアビーを一度だけフル発射し、近寄る敵影を押し止める。 無駄のない攻撃を心がける様はシンとは正反対に見えるが、元から敵機の量が多すぎるせいもあり火力不足にすら感じられた。 「ジェネレーターの方が限界だ! フォースシルエットで防備に移る!」 最後の一斉射を打ち切った後、異様な煙を吐き始めたブラストシルエットに見切りをつけ、シンが叫ぶ。脚部のロックを解除し、一気に跳躍しながら空中でシルエットを排除する。 「チェンジシルエット! フォースインパルス!」 『Roger!』 緑色だった装甲が、青に染まる。背部に大型ブースターが装着され、今まで砲撃を行っていたケルベロスが虚空に消える。 右手に握られたライフルを連射しつつ空に飛び出すと、どうにか損傷を免れていた列車がややスピードを落としながら駅に向かっていくのを見送ることができた。 「後はこちらに引き寄せておくだけ、か。どれくらいだ?」 「三分で交代場所に到着する。人員交代を含めて五分というところだろうな」 「……無茶なデータをありがとう、っと」 軽い言い合いをしながらも、傀儡兵を打ち落とす手は止めない。作戦そのものは物量というどうしようもない大技を前に破綻しかかっているが、自分の仕事をやりきるという意味では下がるわけにはいかない。歯噛みしながら傀儡兵を引き受けるシンたちを脅威に感じたのか、後方に行くのを止めた兵たちがシン達に狙いを定めた直後。 数匹の兵士達が、まとめて横にズレた。自分達のさらに後ろから誰かが仕掛けてきているのを認識するよりも早く、連結された銀の刃が傀儡兵達を砕き散らしてゆく。 「一体、これは……?」 「援軍の到着らしい。しびれを切らしたってところだろうな、この暴れようは」 シンとレイが肩をすくめつつも応戦する中、七割方傀儡兵を切り捨てた騎士が二人の前に躍り出る。 「ライトニング2、シグナムだ。これから残敵の掃討戦に移る。援護しろ」 『……了解』 深紅の髪を揺らしながら告げるのは、明確な指示。あまりといればあんまりな戦力差にそろってため息をついた後、響くような声で了解の意を告げるシンとレイであった。 情報を乗せた列車の方は無事に目的地に到着し、残った傀儡兵達は任務の成功を見て取るや飛び出していったシグナムの奮戦で片がつきかけている。 その様子を眺めながら、はやてはふう、と息を吐き出し思考に入った。 (あの二人は強い……。いや、強すぎる) まず最初に考えたのは、シンとレイの戦い方。自分達に足りないものをしっかりと理解し、役割を果たすために必要なものを求めることができる自己の客観視は自分達にさえない資質だ。 だが、それだけに戦闘方法が異質になってしまっているように思える。一般的な魔道士とは異なる運用が必要だろう。戦闘力は今訓練中の四人とほとんど同じだろうが、まだ延び白のある彼らとは成長の仕方も、方法も違う。 任務を任せることはできるが合同任務は難しく、しばらくは単独での運用しかない。 (そもそも、あの二人に訓練も必要なわけやし。そうなるとこっちも手が足らないから……) そこまで考えて、はやての顔に笑みが浮かんだ。 「そうや。今組めてる訳なんだから」 はやてはそう結論付けると、書類に何事か書き始めた。 任務翌日、シンとレイは揃ってガレージにて作業をしていた。 目的はバリアアーマーのメンテナンスである。まだまだ調整が難しい兵器のため、シンたちは自分で調整を行っているのだ。 「ブラストはしばらく使用不能。ソードもまだエクスカリバーの方がうまく行ってない、と……」 「ザクファントムも無理はさせられないな。ファイアビーを使いすぎた」 お互いに自分の相棒の状態を確認する。細かいところはともかく、大雑把に相手の状態がわかっていないとコンビネーションも組めないのだ。 「任務は果たせたが、しばらくは調整が必要だな。交換部品も頼まないと……」 「そもそも任務をやること自体が無茶だったんじゃないか? あの数相手に」 「だからと言って諦めるよりは良いだろう。愚痴る前に手を動かせ」 投げやりな口調のシンをいさめるレイ。お互いに手は一定の動作を続けており、段々と雑談めいた内容になってゆく。 「だが、任務自体は成功した。よくやったな二人とも」 そんな二人の言葉を引き継いだのは、凛とした声だった。慌ててバリアアーマーから顔を出すと、そこには赤毛の女性が静かに立っている。 「今後の予定が確定した。これからは私が専任で、おまえ達の訓練に当たる」 言いながら騎士甲冑を見につけるシグナム。既にレヴァンティンを持ち、戦闘準備は万端であった。 「あまり教えるというのには慣れていないのでな、実戦形式でこれから訓練を行う。すぐに準備しろ」 顔を見合わせる伸達の前で、シグナムは静かに、そして確かな声で宣言するのであった。 機動六課がにわかにざわめきだすのは、こうして六人の訓練が開始されたことによるものである。
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ここは、惑星Zi。地球から銀河系の反対側に位置する恒星系の惑星である。 大気中、海中の成分が、やや金属イオンが多いことや荒野の比率が高いことを除けば以外地球に酷似した環境を持つ星である。 この星には、特有の高圧高温かつ金属イオン濃度が以上に濃い海から発生した、 体内に金属物質を含む生命体、を改造した兵器が存在した その名は「ZOIDS」最強の戦闘機獣である。 機獣新世紀リリカルなのはスラッシュゼロ、はじまります 第一話「白き獅子」 ビットは、反射的に右に跳んだ。その次の瞬間、 高速回転するバーサークフューラーの格闘戦兵器「バスタークロー」が地面を抉る 「付いてきな」そう言うように 背中に搭載されたイオンブースターを点火し、ゴールである「古のウルトラザウルス」へと駆けて行くライガーゼロ。 だが、負けじとバーサークフューラーも足と背中に装備されたイオンブースターで後を追う。 そして、ビットはウルトラザウルスの上面に設置された発着用カタパルトに飛び乗る ライガーゼロが、周りを見回しつつ吼え挑発する その瞬間、カタパルトをバスタークローが突き破り、襲い掛かってきた 「いい加減、やられろおぉぉぉ!!」 バーサークフューラーのパイロット、ベガ・オブスキュラが叫びバスタークローを伸ばす 「冗談だろッ!!」 負けじとビットもストライクレーザークローを起動しバスタークローに横からぶつける 「どうだッ!」 丁度、バスタークローの上にライガーゼロが乗ったような状態になりベガは歓喜しつつライガーゼロをなぎ払おうとするが、 その次の瞬間、バスタークローがパリンと音を出し砕け散ってしまったのだ バスタークローに、ストライクレーザークローの出力が押し勝ったのである そして、その衝撃によって、バーサークフューラーは後ろへと倒れこんだ その衝撃でベガは気を失ってしまった そして、ビットは額の汗をぬぐい、ライガーゼロは勝ち誇ったように吼え続けるが、バーサークフューラーはゆらりと立ち上がった 先ほどの衝撃でゾイドコアの闘争本能やコンピューターを制御するコンバットシステムが停止し、闘争本能によって暴走を開始したのだ そして、バーサークフューラーは荷電粒子砲のチャージを完了、ビットはかろうじて回避するが、 そのまま、バーサークフューラーが通常ではパイロットの安全のため行えないはずの薙ぎ払いを敢行、 近くを飛んでいた、バーサークフューラー御付の、ホエールキングに致命傷を与え ウルトラザウルスに装備された「重力砲・グラビティキャノン」の砲身を傷付け バトルを仕切っていたダークジャッジマンを黒焦げにした そして、すぐ後、尻尾を叩きつけるテイルアッパーによって、ライガーゼロを吹き飛ばしたバーサークフューラー。 今度こそはと、直撃させるために荷電粒子砲のチャージを始める ライガーゼロは、どうにか立ち上がり、バーサークフューラーを睨み付ける 「さっきよりも動きが良くなってきてる。これが博士の言ってた「オーガノイドシステムの学習」ってやつか…」 「…いいか、ライガー…」 ビットがライガーゼロに語りかける それに、ライガーゼロも小さな唸り声で答える 「踏み込みと、間合いと…」 「気合だッ!!」 そして、一気に、バーサークフューラーに飛び掛るライガーゼロ ライガーゼロは、ストライクレーザークローで、バーサークフューラーの首を抑え、 ほぼ直角に押し上げて、荷電粒子砲を撃ち終わるのを待っていた だが、バーサークフューラーも前足のストライクレーザークローで、ライガーゼロの前足を必死で引っ掻き、体制を崩させようとする そして、ライガーゼロほど高出力でないものとはいえ十分な破壊力を持ったその鉤爪は確実にダメージとして蓄積していく 「踏ん張れ、ライガー!!!」 ビットとライガーゼロも必死で、押し返す そして、荷電粒子砲の目も眩む光が消えた後、この世界から、彼等は姿を消していた、 荷電粒子砲が直撃し蒸発したわけではなく、本当に姿を消したのだ そして、舞台は地球へと移る 但し、惑星Ziと関係のある地球ではなく、全く違う次元世界に存在する地球にだが 海鳴市 「状況は!?」 リンディが問いかける 「魔力爆撃…!?物理被害はありません!!…でもジャミングされてサーチャーとレーダーが…!!」 エイミィがコンソールを叩きつつも答える 「なのは!、フェイト!、アルフ!大丈夫!?」 ユーノの念話が頭に響く 「ありがとう、ユーノ君、アルフさん…」 なのはが防御魔法で守ってくれた二人に感謝する フェイトは、その光景を見届けた後上空を見上げた。 ちょうど、結界が消滅して行く所であった 「はあ、やっとジャミングが解けた……ん?サーチャーとレーダーに反応が…小規模の次元震…!」 「どうしたの?エイミィ」 リンディが不審に思い問う 「艦長、小規模の次元震の発生を確認!発生地点の中心に魔力反応と熱源があります、直接の確認が必要と思われます。 どうされますか?」 エイミィが説明をする 「分かったわ、クロノ?戦いの後で悪いけどなのはさん達と一緒に見に行ってくれる?」 リンディが、指揮官として判断を下す 「分かりました艦長、至急現場に向かいます」 そう言った後、次元震の発生地点へと向かう しばらく飛んでいると、遠くに白いなにかが見えてきた 「あれって、ライオン?」 はじめ遠くから見たとき、なのはは白いライオンに見えたが、 だんだん近づくにつれそれが違うものであると分かってきた 「これって…ロボット?」 近くに降り立った後、開口一番出てきた言葉がこれであった 「そうだな、特殊な傀儡兵にも見えるが…」 と、クロノが言った瞬間であった。今まで、直立不動であった白いライオン型傀儡兵?は、 ゆっくりとしゃがみながら首を下ろした後、頭部のハッチを開けた クロノ達が訝しがりながら覗き込めば、人が乗っていた 「これは…この人を助けろって事かい?」 クロノが、返事が返ってくるとは思わないものの傀儡兵?に問う すると、傀儡兵?は小さく首を立てに振った 「分かった、なのは、フェイト、アルフ、この人を家まで運ぶ、手伝ってくれ」 「うん」 「分かった」 「はいはいな~」 そして、全員で、乗っていた人を降ろすと傀儡兵?は白い光に包まれた後、先ほどまで拳の中に入る大きさまで縮み 先ほどまで乗っていた人の手の中に収まった 「…?ここは?……」 気が付けば、見慣れない天井が見えた。 「俺は…そうだバーサークフューラーと……そうだ、ライガーはっ!?」 ガバッと起き上がるビット 周りを見回すが、見慣れない部屋にポツンと一人で居るだけだった どうやらベットに横たわっていたようだ その次の瞬間、部屋のドアが開いた 「ああ、起きていたのかのか」 開いたドアからは、ベガと同じくらいの一人の少年が入ってきた 「お前は…?」 ビットが怪しがりながら問う 「すまない、驚かしてしまって、僕はクロノ・ハラオウン。 貴方が傀儡兵の中で気絶していたところを見つけたからここまで運んだ」 「…ちょっと待ってくれ、傀儡兵ってなんだ?それに、俺はロイヤルカップ決勝で戦ってたんだ、 なんで砂漠のど真ん中なんかお前みたいな子供が? それに俺が気絶してたなら他のブリッツの奴等が助けに来るだろうが…?」 ビットが混乱した様子で問いかける (やはり、次元漂流者か…) クロノは少し思案した後、口を開いた 「いいかい?起きたばっかりで混乱してると思うけど、 恐らく君が今居るのは本来、君の住んでいる世界とは別の世界…異世界なんだ 僕は、その中でも、幾つかの世界を管理する組織の一員なんだ そして、本来管理外であるこの世界で世界間に関わる事件が起きていて、僕等はそれの対策をするためにこの世界に来ていた そして君は、何らかのエネルギーの反動でこの世界に飛ばされてきた、それを偶然居合わせた僕等が保護した。 それも、僕が所属してる時空管理局の仕事でもあるしね そういうことだ。少しは理解してくれたか?」 クロノが、"クロノに出来る限りの〟簡単な説明をする 「つまりこういうことか? ここは、本来俺が居るはずの無い場所で、お前等が関わる事件がおきてて 俺が偶然やってきちまったから、偶然居合わせたお前達が見っけてくれたってことか?」 ビットが頭を掻き毟りながら確認する 「まあ、そういうことだ。 そうだ、もう、見つけてから半日経ってるんだ、お腹すいただろう、軽くなにか持ってくるよ」 「頼めるか?」 「ああ、すぐ持ってくるからじっとしててくれ」 そして、十数分後 軽い食事と水をクロノが持って来るとすごいスピードでビットは完食してしまった しかも、自分の世界とゾイドの説明をしながらだ 「すごい、食べっぷりだな。よほど空腹だったんだな」 クロノが感心しつつ、話しかける 「あ?そういえばそうだな、いつもよりちょっと早い気がする」 「えっ?」 クロノが驚く 「どうした?」 ビットが心配するが 「ああ、いやなんでもない。(今のスピードで、少し早いくらいって、いつもこれぐらいのスピードで食べてるのか!?)」 「そういえばさ、なんで、お前みたいな子供が、そんな、たいそうな組織に入ってるんだ?」 ビットが当然の疑問を投げかけるが 「ぼ、僕は子供じゃない!これでも十四歳だ!!」 クロノが少し、顔を赤くしつつも反論する 「俺からしてみれば子供だよ」 「はあ…本来僕等の時空管理局がある世界では、魔法さえ使えれば就職年数は低いほうなんだ」 「魔法?、魔法って、ファンタジーに出てくるあの魔法か?」 言ってからクロノは後悔した、まだ魔法のことを説明してなかったのだ 「ああ、すまない言ってなかったな、僕等における魔法は、物語に出てくるようなああいう、怪しげで不可思議なものじゃない 一種の技術、科学なんだ、まあ使うには生まれつきの資質が関係するけどね…この世界の昔の人の言葉にこういうものがあるそうだよ 『高度に発達した科学は魔法と区別が付かない』ってね、この場合はこの逆にあたるね そういえば、君にも適合性があるって、検査では出てたよランク付けでは推定AAA-ランク、結構高い方だ 経験をつめば、結構できるようになるはずだ」 「そうなのか…そうだ、俺のゾイド…って言っても分からないか…お前達風に言うと傀儡兵…なのか?…はどこだ?」 そして、ビットは自身の相棒のことを聞いてみるが 「ああ、そのことか…ちょっと付いてきてくれ」 と歯切れの悪い返事を返されるだけであった 仕方なしに部屋を出てクロノの後を付いていくことにした 「エイミィ、はいるよ」 そう言い、モニタールームのドアを開けるクロノ 「あ、クロノ君、丁度今解析が終わったとこだよ。あ、起きたんだね、私はエイミィ・リミエッタよろしくね」 「ああ、よろしく」 そしてつかつかと、デバイスのメンテナンス装置へと歩いていくクロノ。ビットもその後を追う 「これだ、これが君のデバイスだ」 メンテナンス装置の中には、オレンジ色の宝石が浮かんでいた 「デバイス?なんだそれ?」 「デバイスは僕等が魔法を使う時の補助装置みたいなものなんだが。 実は、この宝石が君の、そのなんだ、ゾイドといったか。それなんだ」 クロノが歯切れ悪く答える 「これが、ライガー……!?」 だが、その宝石を良く見ればライガーゼロの"眼〟の部分に良く似ていた 『ああ、そうだビット。私だ』 「しゃべった!?」 なんと、クリスタルが明滅し喋っていたのだ 「すまない、気絶していた君を降ろしたら、この姿になってしまっていて…」 「ああ、クロノ君、その事についてなら、謝らなくてもいいよ」 エイミィが横から茶々を入れる 「調べてみて分かったんだけど、どうやら、このデバイスとしての姿と、 あのでっかいロボットとしての姿は自由に変えられるみたい。だからあんまし気にしなくてもいいけど… この世界では、あんなロボットないし、ミッドチルダでは質量兵器扱いされるから、 元の世界とか以外ではこっちの姿にしておいたほうがいいかも」 「ふ~ん、で質量兵器ってなんだ?」 「質量兵器っていうのは、火薬の炸裂とかで質量を持った弾を打ち出したりする兵器、 まあこの世界の兵器とか、全部当てはまっちゃうんだけどね。 ところでさ、少しお願いしたいことがあるんだ、このデバイスをスキャニングしたときにね良く分からないものが映ったの で、それが、元の姿の時に大事なものだったりすると怖いから確認してほしくてね」 そういいつつ、コンソールを叩き一枚の画像を出すエイミィ。そこには一つの真球状の物体が映し出される 「これね、スキャニングしても通らなくて困っちゃって」 「ああ、コイツはゾイドコアだ」 「「ゾイドコア?」」 エイミィとクロノが首を傾げる 「ゾイドコアってのはだな、ゾイドの中枢で、たいていの内臓は一つずつ収まってて、 硬い外殻で覆われてんるんだ。そして、その中は高圧高温にされた俺の世界、惑星Ziの海水と同じ成分が含まれていて その中に、いままで生きてきた情報もインプットされてるそうだ。 ま、これ以上の詳しいことはそこまでジャンク屋の俺でもしらないけどな それと、ゾイドコアが無くなったり破壊されるとゾイドは死んで石化するから注意しないといけないんだ」 ビットは、自分の持つ知識から出来る限り、クロノたちに話した 「そっか、それじゃあ下手にいじらないほうがいいね」 「ところでさ、俺も魔法使えるようになるんだろ」 「ああ、そうだが」 「いやー俺も使ってみたいなーなんて」 そう言い笑うビット 「はあ、分かった、それじゃあ、結界を張って高台でやるから付いてきてくれ」 ため息を吐きつつ、管理局としては推、定AAA-ランクほどの魔導師を放っておく分けにもいかない為、 仕方なくビットの魔法使用をさせてみる事にした 「はいよー」 そう言いつつデバイスとなったライガーゼロを持ちクロノの後を付いて行くビット 海鳴市高台 「さて、結界も張ったし、始めるとするか。だけど本当にいいのか? このまま、魔法がまともに使えるようになると、今僕達が関わってる事件に巻き込まれる可能性が高くなるぞ」 「大丈夫、大丈夫、厄介ごとには慣れてるし。助けてもらったんだ、手伝いくらいしないとな」 ちなみに、この場所はなのはが何時も練習に使ってる場所であり、 クロノはなのはから話を聞いていたためここにしたのであった 「まずは、そのデバイスの起動呪文だ、 心に浮かぶ呪文を『それに関しては大丈夫だ、私がゾイドとしてビットと出会った時にに既にマスター認証は済んでいる』…あそ」 クロノが説明する前にライガーゼロが茶々を入れたためクロノは肩を落とす 「お、きがきくじゃねーか、ライガー」 『勿論だ、お前は私の"相棒〟だからな』 そして、二人して笑い出す 「すまんが、始めてもいいか?手本を見せるから。S2U、セットアップ」 クロノが肩を落としながらバリアジャケットを展開する 「こうやって、デバイスの名を言った後セットアップと言うんだ(本当はS2Uには必要ないけどな)」 「なるほど、そうやるのか。ライガーゼロ、セットアップ!!」 「君を守る防護服のイメージを浮かべるんだ」 そして、ビットは白い光に包まれ、再び現れたときには、 普段ゾイドバトルの時に着ている服に、ライガーゼロのアーマーを模したプロテクターを装着していた ちなみに、手にはストライクレーザークローを模した爪付き篭手のおまけまで付いている 「これが、俺の防護服…」 「そう、それが君専用の防護服 バリアジャケット だ、と言っても、今まで着ていた物と変わらないな。 よほど板についているんだろう(なのはのバリアジャケットも制服とあんまり変わらなかったからな) しかし、そのプロテクターのおかげで、まるで魔導師と騎士の中間だな。あ、騎士ってのは…」 「知ってるよ、惑星Ziにも、騎士道はあったし。大昔の御伽話くらいあったからな」 クロノが説明しようとするが、実のところ、惑星Ziには、全く別の次元世界にあるとはいえ地球と関わりがあったので 中世騎士道や御伽話程度はあったのだ 「そうか、それじゃあ、次は飛行魔法が使えるかどうかだ、これで魔導師としての分類も変わってくる。 そのデバイスは、ある程度は願うだけで発動するタイプだから、しっかりとした何か、翼とかのイメージがあれば使えるはずだ」 翼か…俺は、あんまり力強い翼とかってイメージじゃないよな… そうだな…何時もどっちかって言うと勝手気ままな流離人って感じだからな… 流離のジャンク屋もやってたわけだし… 雲…いや、空を飛ぶって感じじゃないな…風… 「…そうだ風だ!」 『RayWind レイ・ウインド 』 そして、風は英雄の魂を継ぐ者の下に舞い戻る 「飛べた!」 ビットを風が渦巻く結界が包み込み浮かびあがせ 結界内を飛び回るビット 「すごいな、ここまで早く姿勢制御まで出来るなんて… ビット!次は射撃魔法だ、使えるか!?」 「う~ん『大丈夫だ、腰のホルスターから、ショックカノンを抜け』え?ライガー?」 腰を見てみれば左側には、ビットがライガーゼロの胸部に装備させたAZ208mm2連装ショックカノンを模した拳銃 右のホルスターには、これまたビットが尾部先端に追加したAZ108mmハイデンシティビームガンを模した拳銃が入れられていた 「よし、分かった」 そう言って左のホルスターからショックカノンを引き抜き両手で構える 「それじゃあ、的を出すから、二分以内に何発命中させるかテストだ、レディーGO!」 そして、一気にビットの前に20もの標的が現れる 「よっしゃあやってやるぜ、おらおらおら!」 両手で構えたショックカノンから、魔力弾を放つビット その弾は、確実に標的の数を減らしていく 「全滅か。命中率はなかなか高いな、だが…」 そういって、クロノは、大型の攻撃能力をもったスフィアを出現させる 「ビット、あのスフィアをどんな戦い方でも打ち抜けるか?」 挑発するような口調で、ビットを誘う 「ああ、やってやるぜ!」 そういって、ショックカノンをホルスターに戻しファインティングポーズをとるビット 「いけるな、ライガー!」 『無論だとも!』 そうすると、背中のプロテクターが稼動し、カバーがせり上がるとそこから魔力の粒子が勢い良く放出され 篭手のクロー部分が光を放ち、半実体魔力刃によって延長される 『EonBooster イオンブースター 』 「うおぉぉぉぉおおおおおおお!!」 背中から放出される魔力によって爆発的な加速を得たビットは一気に、 スフィアが放つ魔力弾を回避しつつ突き進んでいく そして、瞬間的に跳び上がり、クロー部分が光りを増す 『StrikeLaserClaw ストライクレーザークロー 』 「ストライク、レエェェェェェザアァァァアアクロォオオオオオオオ!!」 そして、振り下ろされた光の刃はスフィアを引き裂いた 「すごい、あのスフィアの攻撃を掻い潜るなんて…技術なら僕ぐらいはある…」 クロノが唖然としていると、ビットが上から降りてくる 「どうだ、俺はどれくらいだ?」 と、したり顔で聞くビット 「あ、ああ百点満点だ…しかしすごいな、元の職業は、たしかゾイドウォーリアーとか言ってたよな ゾイドを使った競技大会、そんなにすごい戦いだったのか?」 「いや、半分はライガーの自己学習能力のお陰かな?あとは、俺の分もあると思うけど」 「そうか…それじゃあ戻るか。あっそうだった、君が寝てた部屋は君の部屋にしてもらって良いから 元の世界に戻る手立ても見つからない分けだし」 「おお、サンキューな」 そして、ビットの地球での戦いは始まった。 その胸に宿る英雄の魂によって、すべてを救うための戦いが 戻る つづき
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ムービー + ←展開する ピノキオ依存心矯正ギプス 赤ずきん強襲揚陸型 人魚姫鮮魚 いばら姫快眠ベッド アラジンブリキの従者 かぐや姫宇宙服 グレーテル全自動パンちぎりマシン 三匹の子豚食用衣装 ラプンツェル男ウケする服 シンデレラ舞踏会 アリスLED スノウwith七人のこびと ドロシーかっこいいロボ 名前 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 ジョブ ウェポンストーリー ジョブストーリー ウェポンストーリー 実装時期 ピノキオ 依存心矯正ギプス 依存の矯正槍 依存の矯正 赤ずきん 強襲揚陸型 暴力の投擲剣 暴力の玩具箱 人魚姫 鮮魚 悲哀の補助具 悲哀の足枷 none/いばら姫 快眠ベッド none/睡眠の快眠器具 睡眠の揺り籠 none/アラジン ブリキの従者 none/成金の傀儡兵 成金の従者 かぐや姫 宇宙服 被虐の宇宙杖 被虐の帰郷衣 none/グレーテル 全自動パンちぎりマシン none/虚妄のパンちぎり機 虚妄の撒き餌 none/三匹の子豚 食用衣装 none/暴食の食用弦 暴食の装飢 none/ラプンツェル 男ウケする服 none/純潔の男ウケ装備 純潔の械好 none/シンデレラ 舞踏会 none/卑劣の舞踏銃 卑劣の舞台 アリス LED 束縛の光杖 束縛の発光 none/スノウ with七人のこびと none/正義のこびと琴 正義の楽隊 none/ドロシー かっこいいロボ none/探究のバルカン 探究の機装 none/ none/ 時期 none/ none/ 時期