約 10,730 件
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/1755.html
天を見上げる。突き抜けるような青空の中、人影一つ。 無限に広がるような空が、そこに集約してゆくような錯覚。 「……っ!」 上がりそうになる悲鳴を押し殺す。そこにいるというだけで威圧されそうな姿。空中にある、杖を構えた白い人影。 「どうして?」 問い掛けには答えない。代わりに背中のブースターをふかす。 相手がどうあれ、今は自分の相棒を信じるしかない。そう自分に言い聞かせ、シンは己を包む相棒、インパルスのスロットルを開ける。 体を宙に押し上げる推力に任せるまま、右手に握ったライフルの引き金を引く。こちらが放つ一撃は、同じ色のバリアにあっさりと防がれる。 「どうして戦わなくちゃいけないの?」 こちらの攻撃など意にも介さず、話し掛けようとする声。この期に及んで話し合おうとする言葉に、歯軋りしながら届かない言葉を投げる。 「あんたは俺か討つんだ! 今日、ここでっ!」 戦う気配を察知したのか、人影が動く。杖を一降りすると、桜色の球体が空間に生まれる。その数、八つ。 『Accel Shooter』 一つがライフルに当たり、手からこぼれる。それでも止まれない。言葉の代わりに、白い筒を手にした。 ブースターで体勢を戻す間に、筒から光の剣が生まれる。ビームサーベルだ。 飛び交う桜色の誘導弾を切り払う。シールドで防ぐ手間が惜しい。 続けざまに打ち込むサーベルの一撃を、手にした杖に受け止められる。 「戦わなくていい方法があるのかもしれない。一緒に頑張れるのかもしれない! でも、話してくれなくちゃ何もわからないよ!」 「あんたが! あんたがそうだから戦うんだ!」 聞こえた声に押されたのか、わずか白い人影が押し込まれる。姿勢制御用のバーニヤさえも推力に変え、前へ。ただ前へ! 「高町なのはっ!」 突き進む。着地など考えない突撃。ライフルでの射撃戦では、どうやったって勝てはしない。 相手は砲撃と射撃のエキスパート。活路を見出せるのは接近戦以外にありえないのだ。 『Divine Shooter』 少しだけ開いた隙間にねじ込むように、射撃魔法が舞う。桜色の弾丸を打ちながら後退するなのは。 流石にそれを追うことはできず、バルカンでの迎撃によって弾丸を撃墜する。低威力の弾頭だが、それなりに役に立つ。今のような迎撃とか。 「止まれないんだね。自分では、もう」 杖を振るう、なのは。距離を稼いだら、彼女のやることはただひとつ。 「止めるよ、この一撃で。そうしたら、ゆっくり話そうか。本当に分かり合えないのかどうか、 やってみないと分からないよ」 さっぱりとした言葉に迷いはない。こうやって彼女は勝ち続け、敵とも分かりあってきた。 相手の内側にふみこんで、友達になるために邪魔な障害を木っ端微塵に吹き飛ばす。 それが高町なのは。時空管理局が誇るエースオブエース。 「……」 だからこそ、シンはブースターを高めて行く。アフターバーナーまで使えば方向転換は出来ない。 もしもこの状態から彼女の得意技が炸裂すれば、避けることの出来ない自分はもう立ち上がれない。 だが、と。そこでシンは考えるのを止めた。全て分かった上で、あえて真っ正面から突っ切る。 「あんた一人で終わりにする。だから、越える!」 そう、不意打ちでは意味がない。真っ正面からの対決で乗り越えなくては、ここで戦う意味はない。 稼いだ距離のうちで、なのはがシンを貫くか。チャージが終わるその前に、シンがなのはを貫くか。 分かりやすい結果に落ち着いた勝負の行方。 「全力、全開っ!」 「フルブースト!」 救われるべき人を救うために戦い、勝利してきた機動六課の英雄、高町なのは。 戦争を憎み、誰も争わなくていい世界を望み、敗北し続けてきた男、シン・アスカ。 彼らが何故出会い、こうして戦っているのか。 それを知るためには、少し時間を巻き戻す必要がある。 人の出会いが物語を作り、運命を変えていくというのならば。 人は皆、運命という鎖につながれた、眠れる奴隷なのだろう。 どんな形であれ、成された一つの出会いが一つの運命を切り開く。 これは、守るべきもののために走り続ける、不屈のエースたちの物語。 魔法少女リリカルなのはDestiny 第一話『接触』 新暦75年、4月。機動六課設立を数日前に控えたある日のこと。 高町なのはは、哨戒任務の応援ということでミッドチルダ郊外の山地を飛んでいた。 「申し訳ありません、一等空尉。こんな仕事を押し付けてしまって……」 「いいの、気にしないで」 空挺ヘリに乗った士官の通信に、なのはは片手を振って答える。 未確認地域での魔力反応があったということで出撃したが、該当地域の哨戒を担当していたヘリからでは目標が見つからないということで、予定の開いていたなのはに出番が回ってきた形になっていた。 装置の故障ならば笑い話で済むが、そうでない可能性が考慮されて依頼されたのをなのはは知っている。 最悪の可能性は常に考慮するべきだった。 (見つからないってことは、レリック絡みの可能性もある。慎重に行かないと) 最近増えてきていた事件のことを考えつつ、該当地域に向かって飛行する。迷いのない飛行をしていたなのはを違和感が襲った次の瞬間。 山間の一角から、強力な魔道光が空に向かって放たれた。 ヘリや自分たちに当たる軌道にはないが、分類から言って砲撃魔法に属する、強力な破壊の光。 その様子を見た瞬間、なのはの頭が戦闘モードに切り替わる。小回りの効かないヘリに後退するように指示すると、該当区域に向かって飛行を開始する。 『ヴィータちゃん、該当区域に高魔力反応あり。こちらから急行するね』 『了解。位置特定だけでいい。あたしが行くまで無茶するな』 これから同じ小隊になるということで別区域を捜索していたヴィータに念話を送り、戦闘態勢に移行。目に見えた場所に光を放った何かがいるはず。 サーチの必要性もない。なのははそのまま、該当区域に向かって飛行を開始した。先ほどまでは感じなかった場所に魔力反応を感じ、そのまま急行。 最初にたどり着いたなのはの目に飛び込んできたのは、周囲を警戒しているらしい二つの影。緑色に塗られた、人の形をしたロボットのような姿。 一体は小型の突撃銃、もう一体は背中から回された大型砲。地上に立ち武装しているそれに、なのはは記憶を一瞬だけ掘り返した。 (傀儡兵? 何でこんなところに!) 10年前の事件で戦った、機械仕掛けの兵士。その一体が天に向かって銃口を振り上げた瞬間、なのははレイジングハートに魔力を収束させた。 相手の動きによって反射的に起こした行動ながら、唱えかけた呪文は飛び込んできた相手によってすんでのところで止まる。 「牽制はこっちがやる! なのははでかいの頼む!」 横合いから突っ込んできた、真紅の影。二体いた傀儡兵のようなものを、まとめてなぎ倒さんと回転しながら鉄槌が走る。なのはが小さく頷いたのも恐らく見えていないだろう。 ただ、そうすると信じている。同じチームだからというわけではなく、そういう信頼関係が既に、なのはとヴィータの間にはできていた。 「ラケーテン! ハンマァァァァッ!」 回転しながら突進するヴィータ。その回転圧力に銃を持っていた傀儡兵は吹き飛ばされ、砲持ちは左肩にジョイントされていたシールドをへし折りながらどうにか耐える。 追撃しようと砲を振る傀儡兵が目にしたのは、上空で既に準備完了したなのは。突撃して来たヴィータは既に撤退済み。モノアイに写るのは、桜色の魔方陣。 「エクセリオン……」 発射のタイミングにあわせて、砲口がなのはに向く。チャージされたエネルギーと、上に向いた体。しかし、お互い止まることはなく。 「バスターッ!」 瞬間、桜色の魔力流が地上に向かって炸裂し。一瞬だけ輝いた砲の一撃をも飲み込んでいった。 「ちょっと、やりすぎちゃったかな……?」 「まあ、向こうも迎撃の態勢とってたしいいんじゃないか?」 自然の豊かな地域の一角に開いた、クレーターのような破壊痕。そこに降り立ちながら、なのはとヴィータは状況を確認し始めた。思ったより破壊規模が狭まったのは、あの傀儡兵が砲を撃ったせいだろうか。 「なのは、あれ!」 程なくして、ヴィータがそれを見つけた。膝立ちになり、こちらに向かって砲口を向けていた緑色の傀儡兵。 装甲はシンプルで、人間型。大きさも3メートル弱と魔力出力に比べてはかなり小さい。ヘルメットのようなつるんとした頭部と、背中に装備した大型のランドセルが異彩を放っていた。 その指が数度動き、頭と胴の部分に露出した動力パイプのような部位から水蒸気を吐き出す。 『Black Out Damage. Equipment release』 思わずそれぞれのデバイスを構えたなのはとヴィータの前で、傀儡兵の頭部が真上に傾いた。そのまま90度頭が後方に倒れ、黒いものが外気に触れる。 一瞬吹いた風にそよいだそれは、人間の髪。 「えっ? これって……」 思わず駆け寄る。なのはの目の前で、傀儡兵はさらに胸部か左右に割れ、中にいた人間を吐き出していた。空中に投げ出された体を、片手で受け止める。 色の白い、黒髪の少年。息はあるがかなり消耗しているように見え、とりあえずその場に寝かせる。 「ヴィータちゃん、もう一体いたのは?」 「こっちもだ……。この傀儡兵、中に人が乗ってる!」 隣にいたヴィータに声をかけると、先ほど吹き飛ばしたもう一体の方に近寄っていた彼女から返答があった。 木の幹に叩きつけられていた傀儡兵もまた、頭と胸部が展開していた。中から出てきたのは、金髪の少年。黒髪の少年と同年代に見えるし、赤を基調にしたどこかの制服っぽい服装も同じ。 「一体、これは……。気を失ってるだけみたいだけど……」 「とりあえず、調べてみないとだな……」 傀儡兵から出てきた、二人の少年。年のころで言ったら自分よりやや年下ぐらいだろうか。人が乗り込んで操作する傀儡兵など資料にはない。 わずか風が吹きつける中、なのはたちは気を失った二人をしばし見つめていた。
https://w.atwiki.jp/seriale/pages/1374.html
08/08/23(土)23 20 21 No.12565981 ■悪魔宣戦■ 鈴原「ミカエル」四郎 長崎大司教。別名「一人十字軍」「片腕総統」「聖なるレギオン」「鉄血の四郎」 「旗を掲げる者」「マリオネイター」「一にして千」 聖書のページを傀儡兵に変える能力の持ち主 シベリア抑留経験者で、凍傷で片腕を失っている ロシア人と悪魔に異様なまでの憎しみを持つ 高齢ながら「平和公園の戦い」では正に一騎当千の戦いぶりを見せた 傀儡兵を連れ、鉄製のステッキを持って長崎市内を闊歩する様子は まさに十字軍の行進である ∥関連事項 ⇒悪魔宣戦
https://w.atwiki.jp/karanemi/pages/1542.html
Marriage of my Ganymedes / マリッジ・オブ・マイ・ガニュメデス 作品名:シルヴァリオ・トリニティ 使用者:シズル・潮・アマツ シルヴァリオサーガに登場する能力。 星辰光の一つ。 接触した生体電流を操作する。 +詠唱 創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌く流れ星 白磁の肌、艶めく唇、林檎のように染まる頬 ああ、美しい 金色に輝く美貌の少年よ おまえの甘い流し目だけで如何なる者も魅了され、正気を無くしてしまうだろう だからこそ、天から鷲は舞い降りた 神々の愛という名の独善が、その身に栄誉を押し付けて召し抱えんと奪い去る 人の情など知らぬとばかりに、色に惑うか愚神ども ならばよかろう、不老長寿の幼き給仕──私はおまえを諦めない 傲岸不遜な主神にさえ、弓引き、仇なし、取り戻さん 真紅に艶めく霊薬ごと必ず地上へ導こう 我が愛情を見縊るな 超新星(Metalnova)──祝福すべし(Marriage)、聖なる婚姻(of my)。これぞ神酒の宝瓶なり(Ganymedes) 能力についての詳細ステータス 生体電流操作 身体操作 術技再現 傀儡兵創造 使用者との関連性シズル・潮・アマツの場合 元ネタ 関連項目 関連タグ リンク 能力についての詳細 ステータス 基準値 D ■■■■■■■ 発動値 C ■■■■■■■ 集束性 D ■■■■■■■ 拡散性 E ■■■■■■■ 操縦性 AA ■■■■■■■ 付属性 B ■■■■■■■ 維持性 A ■■■■■■■ 干渉性 C ■■■■■■■ 生体電流操作 人体の生体電流を理解し操作する脳波や信号などを自由に操作できるため人体改造や医療技術に極めて高い適性を持つ。 精密機械類の全滅した新西暦において素体を壊さず、しかし徹底的に効率的 に、骨の髄まで人間を改造できるこの星光は、ある意味一国家にさえ匹敵する 価値があると言えるだろう。 生体電流を利用した通信が可能人に電流を流すことで自身の声帯を模造する。 その奥の声帯から響き渡ったのは、艶を帯びた女の声。それはシ ズル・潮・アマツのものに他ならなかったが、挨拶の言葉通りこの 場の両者に面識はない。 身体操作 メスで刻んだ相手の部位を操る与えた損傷の度合いによっては痛みなどのより強い信号で解除される。 それが生死の境界を侵すシズルの星辰光。 神経細胞は電気を通して命令を下し、手足の筋肉を動かしている。 すなわち、その生体電流を操作することさえできれば、他人の肉体 を自在に動かすことも不可能ではない。 術技再現 体術全般を自身の肉体に模倣できるただし合理や理念といった知識・精神的要素を模倣はできない。模倣元よりも動きが落ちる。 極論、戦闘術とは身体の効果的な動かし方だ。それを再現できれ ば同じ結果を弾き出すのはある意味当然の発想だろう。根が研究者 であるシズルならば、尚のこと。 傀儡兵創造 死体に命令を組み込むことで任意に動かす傀儡兵は共通化された傀儡兵の星辰光も使える。 「ええ、その通りよ。といっても、あくまで出来損ない。簡単な命 令を埋め込むことはできても人格を再現する役には立たない。 だからこうやって、手駒として操ることしか出来ないの」 肉体を徹底的に損壊しない限り操作可能傀儡兵の操作に生存の有無は関わらない。 だからこそ生命活動を停止させても、肉体を徹底的に損壊しない 限り傀儡たちは動き続ける。首を切断された直後の生き物が残った 神経の信号を頼りに、手足を動かし続けるのと同じ理屈だ。 使用者との関連性 シズル・潮・アマツの場合 愛する者の蘇生以外に使う気がないただし超人大戦後に第三世代人造惑星の開発に携わっている。 医療面においても優秀な適性を備えているが、シズルの目に映るのは愛する者 の蘇生のみ。 元ネタ ガニュメーデース(古希 Γανυμήδης、Ganymēdēs) ギリシア神話の登場する人物。 父にトロイア初代の王トロース、母にカリロエー、兄弟にイーロスとアッサラコスを持つ。 神々の給仕であったへーべーがヘラクレスと結婚し、寿退社したためゼウスがトロイアの王子で美少年であったガニュメーデースを攫い、彼を給仕にした。 永遠の若さと不死が与えられたガニュメーデースは、ゼウスに不死の酒ネクタールをささげるようになったという。 関連項目 星辰光 祝福すべし、聖なる婚姻。これぞ神酒の宝瓶なりの能力分類。 関連タグ シルヴァリオサーガ 肉体改造 能力 術技再現 身体操作 リンク Wikipedia ガニュメデス
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3388.html
魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝 光の騎士 第三話 「・・・・・ん・・・・・」 意識を覚醒させると同時に感じたのは木の香りだった。 仄かに漂う木の香り、そして肌に感じる心地よい風、今すぐにでも目を開けなければ、再び眠りに入ってしまう。 だが今までの規則正しい生活が二度寝を許さず、自然と瞳を開け、体を起こす。 「・・・っ・・・・」 意識を覚醒させた直後、軽い頭痛と眩暈に襲われるが、額に手をあて意識を集中させる事で症状を和らげる。 そして、いつもの落ち着きを取り戻した事を確認した後、先ほどまで眠っていた騎士、『バーサルナイトガンダム』はゆっくりと周囲を見渡した。 壁、天井、床、全てが木で作られた部屋、木の香りと温もりが自然と心を落ち着かせてくれる。 そして窓から差し込む暖かな光が、今が夜でないことを表してくれた。 先ずは周囲に敵がいないことを目視で確認する。 だが目覚めてから今まで、近くで殺気が一切感じられなかったため、敵がいない事はほぼ分かっていた。 一応再確認として改めて周囲を見渡す。 「・・・だれも、いないか・・・・」 何処かの家の部屋なのだろう、今自分が寝ているベッドの他にも椅子とテーブル、タンスなど日常生活を送るには必要不可欠な物が置かれている。 そしてテーブルには水差しに入った水、そしてハムとチーズ、トマトとレタスといったシンプルな組み合わせの大き目のサンドイッチが二つ置かれていた。 水差しに入っている氷が溶けておらず、容器に水滴が付いている事から、つい先ほど持って来たものなのだろう。 おそらくは自分への食事であると考えていいと思う、そして自分を殺さない所か、拘束もせずにベッドで寝かせてくれている。 そして自分のために用意してくれたであろう食事、此処に自分を始末しようする輩がいないのは程間違いないだろう。 先ずは現状での安全を確認した後、次にガンダムは自分について考え始めた。 「・・・・なぜ、自分は此処にいるのだ?」 導きのハープにより、自分とアルガス騎士団はジークジオンが住まう巣窟『ムーア界』へと飛ばされた。 其処で待っていたのは今までにないモンスターの大群、手誰の騎士、そして泥の巨人『マッドゴーレム』 だが、ガンダム族の末裔であるアルガス騎士団という心強い仲間達の力を借りる事で、これらの脅威を悉く打ち破る事ができた。 「うおぉおおおお!ゼータ乱れ彗星!!」 ゼータの剣捌きがモンスターを次々を射抜き、 「邪魔だどけぇ!!!」 ダブルゼータの鉄拳がが自身の数倍の重さがあるモンスタ-を彼方へと投げ飛ばし 「朽ち果てろ!フェーン爆風陣!!」 ニューの法術が泥のマッドゴーレムを次々と火達磨にすし 、 「邪魔をするな!」 騎士団長のアレックスが手誰の騎士を次々と光へと変えていった。 戦力差など物ともしない皆の力に、自分達はジークジオンが住まう巨塔へとたどり着き、奴がいるであろう最上階へと徐々に近づきずつあった。 だが、最上階まであと一息という所で現われた『ジオン親衛隊』なる騎士達、そして『呪術士ビグザム』と『騎士ゼノンマンサ』 今までの敵とは明らかに違う相手に緊張が走る、だが、彼らの相手をしたのはアルガス騎士団だった。 「「「我々にお任せを!!」」」 「此処は任せ早く!!」 自分を最上階に上げるために戦いを始めるアレックス達、当然自分も残ろうと考えたが、 皆で誓ったジークジオン討伐の決意、そして自身の危険を顧みず送り出してくれたアルガス騎士団の気持ちを無駄にすることは出来なかった。 「・・・すまぬ!!」 皆の勝利を祈りながらも階段を上り最上階へ・・・・そして・・・・・其処で待っていたのは、倒した筈の宿敵だった・・・・ 「っ!?なんだ・・・・記憶が・・・・・」 此処で記憶は途切れていた、否、途切れ途切れになっていたという方が正しい。 アルガス騎士団の皆が敵諸共奈落へと落ちる所、自分とサタンが何かを話している所、そして腹に風穴を開け、光に包まれるジークジオンの姿 今までの記憶とは違い、まるで綺麗に切り捕らえた一枚絵の様に頭に過ぎる光景、 いくら考えても、その後のこと、そして詳しい詳細などは全く思い出せない。 「くっ・・・一体・・・・」 肝心な事を中途半端に思い出せない自分に腹正しさを感じながらも、心を沈めようと深くゆっくりと深呼吸をする。 その時であった、外から爆音が響き渡ったのは。 タントは負傷した腕を押さえながら、ただ目の前の敵を睨みつける事しか出来なかった。 彼の後ろにはミラと非戦闘員、そして彼の前方には此処に所属している武装局員全員が倒れている。 見たところ傷は酷いが、全員が痛みに唸っている以上、直ぐに死んでしまう事はないだろうと思う、痛みを感じられるということはまだ症状が絶望的ではないという事だ。 「へっ、やっぱり大したことねぇなぁ~」 そして、そんな自分達を面白そうに見ている男達。 奴らには見覚えがあった、以前此処で乱獲を行っていた密猟者達の取り逃がし。 指名手配をし、捕まるのも時間の問題化と思っていたが、奴らは堂々とこちらを責めてきた・・・・傀儡兵数機を引き連れて。 奴らに戦闘能力は殆ど無い、一番強くてもBランクがいい所。だが、奴らが持って来た傀儡兵は戦闘用に特化された機体、戦闘だけならAA+ランクは軽いだろう。 そんな機体が4機、奴らの後ろに陣取っている。無論自分達も挑みはしたが、結果は現状が物語っていた。 「あなた達!自分達が何をしているのか分かってるの!!?」 ミラの疑問も最もである。 彼らは故意に自分達を襲ってきた、しかも非合法である武装を施された傀儡兵を使って。 これは密猟などではない、襲撃事件だ。だからこそ彼らの行動が理解できない、何故このような事をするのか。 「私達は乱獲された動物を守るために貴方達を追い詰めた、ええ!確かに復讐する動機は十分よね、けどいい逆恨みじゃない?それに こんな事をした以上、追跡は一層厳しくなる上に、罪も半端なものじゃなくなるわよ!」 「半端じゃなくなる・・・か、結構なことだ」 つかさず言い返す相手に、ミラはつい言葉を詰まらせてしまう、そんな彼女の態度が面白かったのだろう。 密猟者は笑いながら話し出した。 「俺達はなぁ、管理局なんざぁ目じゃねぇ犯罪者と手を組んだんだよ!おかしいと思わなかったのか?ただの密猟者風情の俺達がこんな 上物の兵器を持ってることが?これはそいつの仲間に加わった証拠ってことさ」 「・・・・仮にそうだとしても信じられないわね、『管理局なんざぁ目じゃねぇ犯罪者』が『ただの密猟者風情』の貴方達を仲間にするなんて」 「確かにな、だが天は俺達を見放してはいなかったようだ。お前たちから逃げる時偶然入った遺跡であるもんを見つけてなぁ、 てっきりただの宝石かと思ったんだが、何でもあの犯罪者には必要不可欠な物だったらしい。其処で美人の秘書さんと交渉して仲間にいれてもらたってことさ、 この傀儡兵はサービスらしいぜ・・・・さて、御託は其処までだ、今まで散々コケにしてくれたお礼をしなくっちゃなぁ!!」 ニヤつきながら右手をゆっくりと上げる、それは進軍の意味だったのだろう、4機の傀儡兵はゆっくりとミラ達へと歩み寄る。 恐怖心を与えるためだろうか?斧や剣などの武器をちらつかせながらゆっくりと一歩一歩近づく。 「(くそ・・・・万事休すか・・・・)」 現状でマトモに戦えるのは自分とミラだけ、だが二人がかりでも一体を足止めできるのが精一杯だろう。 こんな事では仲間を逃す事も出来ない所か、自分達の身を守ることも出来ない。通信機の類は襲撃の際にアンテナ諸共吹き飛ばされたため応援を呼ぶことは出来ない、 否、仮に応援を呼べたとしても到着する頃には自分達はただでは済まない事に・・・・・物言わぬ屍と化しているかもしれない。 投降も考えてみたが、相手は此方に情けをかける気など無いらしい。 「(・・・・まったく、考えれば考えるほど・・・・)」 傀儡兵はもう目の前まで迫っている、一歩一歩、大きな音を立てて。 後ろからは非戦闘員が次々に諦めの声を漏らす、自分の様に末路をしっているからこそ口に出すのだろう。 そんな彼らの声に影響されてか、唯一戦えるミラとタントも戦意を徐々に失い、デバイスを持つ手の力が抜ける。 不思議と取り乱したり命乞いをする隊員は誰一人いなかった、死ぬのなら醜態は晒さないというプライドだからであろうか? そんな中、ミラとタントだけはある人物の事を考えていた、つい最近まで此処で一緒に仕事をしていた女の子とその子の相棒の龍・・・・キャロとフリードの事を。 初めて此処に来た時、キャロは常におどおどしており、フリードはそんな彼女を守ろうと声を出し威嚇していた。 だがそんな時も数日で終わり、直ぐにキャロとフリードは自分達の大切な仲間・・・・家族となっていた。 特にミラはキャロを妹の様に可愛がり、彼女が機動六課へと赴く時には見送りの時、そしてその日の夜に一人部屋で泣いていたのをタントは見たことがある。 ミラは無論、タントや此処の仲間は全員キャロが残る事を望んでいたが、彼女が決めた道を遮る事など出来なかった。 それでも、此処を離れて直ぐにキャロはメールや手紙をよく送ってくれた、他人から見れば少女の日常を書いた日記の様な文面だが、 此処にいる全員から見れば、それはキャロの元気な姿を伝える大切な手紙、部隊での訓練の事、上司や先輩の事、そして同じ歳の男の事 (その事が書かれた手紙が届いた時は、部隊の男性陣は偉く落ち着いていなかった) そして今日も手紙が届いており、早速読もうとした矢先に起きた襲撃事件、 「(・・・・手紙・・・・・なんて書いてあったのかな・・・・)」 ミラのこの余裕は諦めからか、絶望による感覚麻痺からか。だが、自分達が助かる事による余裕ではない事は確かだ、それは間違いない・・・そう思っていた 「何事ですか?」 後ろから聞き覚えの無い声が聞こえるまでは 先ほどまで眠っていた家の入り口であろう、木のドアを開けたガンダムが見たのは戦闘が行なわれていたであろう光景だった。 周辺の木は折れ、緑の大地は惨たらしく捲れ、中の土を露出させている、 外に出てみて分かったが、先ほどまで自分がいたこの小屋も部屋の一部が吹き飛んでおり、木や何かの機械の残骸を撒き散らしている。 そして、苦しそうに呻きながら倒れている男女が数名、自分のすぐ近くには非戦闘員だろうか、恐怖を隠さずに震えている女性数名がいる。 唯一立っているのは自分の目の前と少しはなれた所にいる同じ服を着た男女だけ、それでも立っているのがやっとだという事が見て直ぐに分かった。 そして、そんな彼女達を面白そうに見つめる男達と、そんな彼らに絶対的な自信と勝利を与えているであろう傀儡兵が4機、 これだけ見れば直ぐに状況は分かった・・・・だが、先ずは聞く必要がある、 早速傀儡兵を従えてる男に聞こうとしたが、新しい獲物が来たのが嬉しいのだろう、密猟者の男は面白そうにバーサルナイトを・・・新たな獲物を見つめる。 「お~、何だ何だ?お前らの秘密兵器か?それにしちゃあ可愛いなぁ~」 「っ!?この人は次元漂流者よ・・・・せめてこの人だけでも助けてあげて!!」 「きけねぇな・・・見られたからには皆殺し(一つ聞きたい」 凛とした声がミラと密猟者の会話を無理矢理断ち切る、その声に自然と会話と止めた二人・・・否、此処にいる全員が同時に彼へと首を向ける。 全員が自分へと首を向けた事を確認したガンダムは、数秒間を置いた後、ゆっくりと・・・問い詰めるように話し始めた 先ずは自分をニヤニヤしながら見つめる男へと視線を向ける 「この惨状を起こしたのは貴方達ですか?」 突然投げかけられた質問に、密猟者の男は言葉を詰まらせる。だが、自分達が圧倒的に有利な事には変りは無い。 直ぐに面白そうにニヤつきながら答え始めた。 「ああ、俺達さ。仕事の邪魔ばかりしてくるこいつらに天罰を与えている所さ、何か文句あるか?寸詰り」 「・・・・・・彼女達が何を行ったのかは知りません。ですが一方的な攻撃、そして現状、会話からして彼女達を殺害しようとしている。 なぜ話し合いをしようと(ウルセェ!!」 此処で先ほどまで話していた密猟者の我慢は限界だった。元々彼は我慢強くは無い、律義にガンダムの話に付き合ったのも、勝利を確信したときに出た余裕からだ。 だが、自らが置かれている現状に対しても一切恐怖をせず、あろうことか堂々と説教をするガンダムに男の我慢は早々に臨界点を超えた。 「そもそも俺達はなぁ!『動物を保護しましょ』って考えてるこいつらの考えには虫唾が走ってるんだよ!!何が保護だ、狩って剥製にしたり毛皮にした方が 人様の役に立つってモンだろうが!散々御託並べやがって!テメェから始末してやらぁ!!」 散々怒鳴り散らした後、男は素早く手を上げる、それは『傀儡兵』に攻撃を、対象を殺せという意味。 早速大きな斧を持った傀儡兵がゆっくりとガンダムに向かって歩き出す。 「っ!早く逃げて!此処は私達がどうにかするから!!」 デバイスを構え、ガンダムを守るように前に出るミラ、タントもまた同じくデバイスを構え戦闘態勢に入る。 だが、ガンダムは彼女達の忠告を聞かずに、ゆっくりと前に、迫り来る傀儡兵に向かって歩き始めた 「な・・・何やってるの!はや(大丈夫です」 「大丈夫ですから・・・・後は私にお任せを」 振り向き、ミラを安心させるかのように、微笑みながら優しく語り掛ける・・・・・ただそれだけの行為、 だが、その『それだけの行為』だけで、言いようの無い安心感が体を、そして心を満たしてくれる。 彼の言葉を聞いていたタント達も同じなのだろう、自然と強張らせていた体の力を抜いた。 そして、ガンダムが歩みを止める、其処には彼の二倍以上の身長も持った傀儡兵が一体、 目の前のガンダムを真っ二つにするため、ゆっくりと獲物である斧を振り上げる。 それでも尚、ガンダムは何もせずにただ目の前の傀儡兵を見つめる、その瞳には恐怖もなければ恐れも無い、否、 もし彼をよく知っている人物がいたら気付いていたかも知れない・・・・少しだけだが『哀れみ』が含まれていた事に 「・・・・・・最後に忠告します・・・・・投降してください、今なら痛い目を見ずに済みます」 突如告げられた投降勧告、これはガンダムからして見れば心からの願い、だが密猟者から見れば戯言にしか聞こえない、 そしてミラ達からして見れば、状況を考えてない馬鹿な行為、当然敵対する側の考えは決まっている 「馬鹿が・・・・・あの世でそのオツムをもう少しマシにしてくるんだな!!」 その声が合図となったのだろう、傀儡兵は振り上げていた斧をガンダムの頭目掛けて一気に振り下ろした。 距離からして避けることは無論、防御する事すら難しいだろう。 そして、振り下ろされた斧が直撃したのだろう、甲高い金属音が周囲に響き分かる。 斧が振り下ろされた瞬間、ミラは自然と目を瞑ってしまう。結果が分かっている以上、見ることなど出来ないからだ。 嫌でも想像してしまう・・・目を開けたら其処には彼の無残な姿があるのだろうから。 だが不思議に思う、音が聞こえてから数十秒が経つ、だが、誰も声を出そうとしない。 てっきり密猟者辺りが『いい気味だ!』位言うと思ったのだが、一切声が聞こえず、ただ静まり返っている・・・否、耳を澄ませば聞こえる、何か金属が軋む音が。 覚悟を決めゆっくりと瞳をあける。先ず目についたのは驚きの表情をしたタントの顔、次に目に付いたのが、タント以上に驚き、唖然としている密猟者達 最後に彼らが揃って見ている所へと瞳を向ける、その直後、ミラ自身も彼らと同じ表情をすることとなった。 傀儡兵が振り下ろした斧、その斬撃をガンダムは右腕に持った剣だけで受け止めていた。 傀儡兵の力は嫌でも理解してる、正面から受け止めるなど早々出来るものではない、だが彼の表情に苦痛も力を入れている様子も見受けられない。 むしろ傀儡兵の方が必至に力を込めている様に見受けられる、先ほど自分が聞いた金属が軋む音は、力を入れるたびに悲鳴を起こしている傀儡兵の間接から聞える物だったのだろう。 だが状況は一切変らない、むしろ傀儡兵が力を入れるたびに振り下ろした斧がガンダムの剣に食い込むだけ。 「・・・・・これが、回答ですね・・・・」 ガンダムが言い終わってから初めて、自分達に向けられた言葉だと密猟者達は理解した。だが言い返すことが出来ない。 真っ直ぐに自分達を見つめるガンダムの視線、それだけで金縛りにあったような感覚に囚われる。 足がガタガタと震える、中には地面にへたり込んだ仲間もいるが、他者を気にする余裕など誰にも無い。 そんな彼らを一瞥したガンダムは再び目の前の敵へと目を向ける。 命令をただ忠実に遂行する傀儡兵は命令が達成されるまで動作を止めない、そんな機械人形に同情をしながらもガンダムは行動に出る 彼らの返事など待つ気は既に無い、後は己が正義を実行するのみ 「ならば貴方達の回答に答えよう・・・・・私の正義で」 剣を食い込んでいる斧ごと勢いよく右横へと払う、 突然の行為、そして予想以上の力に傀儡兵は対処しきれず、斧を放してしまう。 離れた斧は、最初は剣に食い込んだままだったが、払いきった反動で自然と剣から離れ、回転しながら地面へと深々と突き刺さった。 武器を失ってもこの傀儡兵は戦闘用に特化されたゴーレム、直ぐにインプットされた戦闘用プログラムに従い行動を起こそうとする、 だが、並みの武装局員ならまだしも、バーサルナイトの前では余りにも遅すた。 切り払った直後、ガンダムは片手で剣を構えなおし、今度は左横に一閃。 余りの速さに皆何が起こったのか理解できていない、唯一理解できているのは行動を起こしたガンダムと斬られた傀儡兵のみ。 先ず傀儡兵はダメージを受けたことを確認する、そしてダメージの比率、戦闘継続の可不可、今後の行動を瞬時に決定しようとする。だが 傀儡兵に出来たのはダメージの比率の計算そして戦闘継続の可不可だけだった・・・・・・出た回答は単純な物『ダメージ大・戦闘継続ふか』 完璧に報告する前に、傀儡兵の体は上下に別れる・・・・そして上だけが大地へと落下し爆発。 体は離れても、爆発は上下同時だった。 「や・・・やれぇ!!!」 ガンダムの気迫に負けながらも、攻撃命令を下した密猟者のリーダーはある意味では立派だったのかもしれない。 残りの3体の内、砲撃専用の一体がキャノン砲を展開し、残りの二体がそれぞれの獲物を構え突撃する。 傀儡兵が取る戦法は簡単な物、砲撃で相手を牽制し、その後接近戦用の傀儡兵で仕留める。 シンプルだがフォーメーションとしては問題ない戦法、傀儡兵達もこれで戦闘は終ると予想していた・・・・・計算上では。 砲撃専用の傀儡兵はキャノン砲をチャージ、目標を定めるためカメラアイで標準を捕らえようとする、 だがその機械の瞳が捕らえたのはガンダムの姿ではなく電磁ランスの切っ先、捉えた物が目標と違うと認識した直後、砲撃専用の傀儡兵はその機能を停止した。 ガンダムが投げた電磁ランスが砲撃専用の傀儡兵の頭を貫通し破壊する、だが突撃した残り二体の猛攻は止まらない。 先に間合いに入った傀儡兵が両腕に持った剣を振り下ろす。スピード、狙いは無論、傀儡兵のパワーも含まれてる、攻撃としては申し分ない。 だがその斬撃をガンダムは軽々と切り払い吹き飛ばす、だが吹き飛ばされた傀儡兵の後ろに隠れていた残りの一体が、ガンダム目掛けて武装である槍を突く。 狙うは対象の体、前方の傀儡兵の攻撃を払ったため、直ぐに先ほどの剣の様に斬り払うのは不可能。 今の対象は丸腰も同じ、直撃は間違いないだろう・・・・だが防がれた。 突かれた槍はガンダムの体に届く寸前に、彼の左手によって掴まれる、そして突刺す位置を変えられ、そのまま引き寄せられる。 されるがままに引き寄せられた傀儡兵が見たのはガンダムの姿、それが最後に見た光景だった。 引き寄せた傀儡兵の首を剣で一瞬で跳ねる、そして引き寄せていた槍を脇に抱え体を半回転、その勢いと遠心力を使い、残った胴体を投げ飛ばした。 空中に放り出された首なし傀儡兵は上空で爆発、だが、その光景を見る事無くガンダムは残りの傀儡兵に向かい突進する。 だがその時には吹き飛ばされた傀儡兵は体制を立て直しており、再び攻撃を行なうため対象を捜索する。 しかし正面は無論、左右、後方にも見当たらない・・・・否、上空を確認していない。 即座に空へと頭部を向ける、其処には剣を振り上げ、落下するガンダムの姿。 その後の行動は予測できる、落下と同時に剣を振り下ろす可能性が約100%、元の力に加え落下運動も加えた一撃、直撃すればダメージは計り知れない。 だが防御に徹すれば防げない攻撃絵ではない、あのような体制での攻撃、防がれればバランスを崩し隙が生まれる。 行うべき行動を決定した傀儡兵は武装である剣を頭の上でクロス、更にその上から防御フィールドを張り攻撃に備えた。 目標目掛けて落下するガンダムにもその光景は見えた。だが止まる事など考えない。信じるのは己が腕、この程度の防御、打ち砕く事など簡単だ。 「はぁあああああああああああああああ!!!」 落下と共に剣『バーサルソード』を叩きつける。先ずは防御フィールドがガラスを砕いたかの様な音を立て砕け散る。 だがその勢いもクロスさせた大剣の前に止まってしまう。甲高い音を立て大剣にめり込むバーサルソード、だがそれで終わりではない 「一刀!!」 手に力を込め、振り下ろす力に更なる力を加える。その直後、軋む音が響き傀儡兵の大剣にヒビが入る・・・そして、一気に振り下ろした 「両断!」 大剣が砕ける、そして勢いをそのままにし、バーサルソードは傀儡兵の頭に叩きつけられた。 無論、それだけで終る筈が無い。振り下ろされた剣は頭部を切り裂き胴体を切り裂く、正に縦一文字。 ガンダムの着地と同時に、傀儡兵は左右に別れそれぞれ大地に落ちる、剣を払い鞘へと戻すと同時に、二つに分かれた傀儡兵は同時に爆発した。 「ひっひぃいいいいい!!!」 5分も経たずに自慢の傀儡兵がすべて破壊された現実に、ミラ達は安心を感じるよりも呆然とし、密猟者達は叫び声を上げながらわれ先へと逃げていく。 此処まで来る時に乗ってきたジープなのだろう、全員がそれに向かって走り出す。だが、彼らがたどり着く前にジープに落雷が落下、爆発炎上してしまう。 燃え盛るジープを唖然と見つめる密猟者達、だが、後ろから聞こえるスパーク音に全員がゆっくりと振り向く。 其処には電磁ランスの切っ先を突きつけたガンダムが、じっとこちらを見てい・・・・そして 「逃すつもりは無い・・・だが殺すつもりも無い。大人しくしていてもらおう、『ファン!』」 電磁ランスから放たれる微弱な電撃、だが彼らを気絶させるには十分な威力だった。 「・・・これで少しは楽になった筈です、どうでしょうか?」 「ああ、痛みも引いたよ、本当にありがとう」 笑顔でお礼を言う武装局員に笑顔で返したガンダムは、次の負傷した局員の元へと向かう。 戦闘は終わり今は現状の被害報告や通信機器の修理など、動ける職員は慌しく作業をしている。そんな中ガンダムは 負傷している局員の治療に当たっていた。僧侶ガンタンクや法術師ニューの様なレベルの高い回復魔法は使えないが、 自身もある程度の回復魔法は使える、彼らの傷を癒す事位は出来る筈だ。 そして、ほぼ全員に回復魔法を施したガンダムは深く息をはきへたり込む。 負傷しているほぼ全員に回復魔法『ミディア』を施したのだ、正直先ほどの戦闘よりも疲れた。 だが負傷した人達が元気になった事実は彼の疲れを自然と癒してくれる。 大地に座り込み自然と空を見上げる雲一つ無い晴天、そんな青空を見上げている最中、後ろから声をかけられた。 「あの・・・少しいいかしら?」 立ち上がり声がした方へと体を向ける。其処にはミラやタントを初め、今作業を行っていない隊員全員がいた。 「皆さん、大丈夫なのですか?怪我は完治していません、おやすみになられては?」 「大丈夫、君のおかげで全員仕事が出来るほどに回復している。それより、ありがとう、私達を助けてくれて。 君がいなかったらどうなっていたか分からない・・・本当に感謝している」 タントの言葉が合図となったのだろう、全員がそれぞれ感謝の言葉を述べながら深々と頭を下げる。 突然の行為にガンダムは慌てながらその様な事をする必要は無いと言うが、命を助けられた彼らにして見れば、この行為でも足りない位だ。 「私は自分が出来ることをしたまでですよ、お礼の必要はありません。それより、貴方達ですね、私をベッドで寝かせてくれたのは」 既に気付いていたのだろう、答えを聞く間も無く、ガンダムは皆の前で跪き、深々と頭を垂れた。 「私、ラクロア騎士団所属、バーサルナイトガンダムと申します、この度は私を保護していただき、誠にありがとうございました」 突如感謝する側からされる側に変った事、そして本の中から飛び出たような騎士の振る舞いに呆気にとられる者、呆然としてしまう者、照れくさそうにする者様々 そんな中、ミラだけが彼の感謝の言葉を受け止め、小さく呟いた 「・・・・・思ったとおり・・・騎士らしく紳士ね・・・・」 その後、自分が何故此処にいるのか、何故寝かされていたのかと説明を願うガンダムにミラ達は 「ここでは何だし、ベースキャンプでしましょ、温かい飲み物付きで」 と提案、その申し出を感謝の言葉と共に受けれたガンダムは彼女達と一緒にベースキャンプへ、 そして、今はベースキャンプ内にある部屋の椅子に座り、テーブルを挟んで座っているミラ、そして彼女の側で立っているタントから経緯を聞いていた。 だが経緯と言っても詳しく話すことなど殆ど無かった。突然空から落ちてきた事、発見できたのは自分だけだった事、そして丸一日眠っていた事、ミラ達が分かっているのはそれだけだ。 むしろ自分の事や住んでいた世界など、ガンダムの方が遥かに提供した情報は多い。 「・・・・そうですか・・・・・ですが改めて御礼を言わせてください、見ず知らずの私を保護していただき、ありがとうございます」 「言いのよ、お礼なんて。私達も最初に貴方を見つけたときはビックリしたわ。見たことの無い種族に聞いた事の無い世界。 鎧を着ているから知的生命体では無いかと思っていたけど言葉を話し、常識を理解している・・・・これは次元漂流者に間違いないないわね」 「『次元漂流者』・・・・武装などから予想は出来ましたが、皆さんは管理局の方々なのですか?」 その発言に二人は驚きを隠すことなどなく顔に出した。 本来、『管理世界』に該当する世界に住んでいる種族はすべて管理局などの施設のデータバンクに登録されている。 人やそれに酷似した生物は無論、動物や微生物に至るまで事細かに登録されている。 だが、ガンダムが話した『スダ・ドアカ・ワールド』や『MS族』それらのデータは無論、聞いたことや見たことも無い。 仮に管理外世界であろうとも、彼の様な珍しい種族は記録として残しておく筈、だがそれすらも見当たらない。 それは彼が住んでいる世界が次元を渡る能力を持たない管理外世界であること、そして管理局ですら発見できていない次元世界であるという事だ。 だからこそ可笑しい、なぜ『次元漂流者』である彼が、武装局員のデバイスを見ただけで自分達を管理局と判断できたのか・・・・否、なぜ管理局を知っているのだろうか。 「驚かせて申し訳ありません・・・・・実は私は2年ほど前に管理局と関わったことがあるのです」 驚く二人を落ち着かせるように二人にゆっくりと話す、ガンダムが体験した地球での出来事を。 管理外世界とはいえ、地球を故郷とする人達、先祖が地球人の人は多い。 特に管理局では知らぬ者はいないと言われているエースオブエース『高町なのは』夜天の主『八神はやて』の生まれ故郷でもある。 そのため、地球は下手な管理世界よりも有名な世界として認知されていた。 「なるほど、あの有名人達と知り合いだったの、納得がいったわ。それでどうする?本来なら私達が貴方を保護し、本来の世界へ返す・・・・のは難しそうね。 保護施設へ送ることになっているけど、彼女達の知り合いなら直接連絡を取るわ。最近まで此処で働いてた子が高町一等空尉の部隊にいるから 直ぐに連絡がつくわ。そろそろ通信機器も直っているだろうし、どうする?」 「・・・そうですね、申し訳ありませんが先ずは『クロノ・ハラオウン』執務官、もしくは『リンディ・ハラオウン』提督に連絡をお願いできますか? 現状では私は『次元漂流者』です。私の今後の扱いに関してならクロノ達のほうが詳しい筈ですから」 「分かったわ、クロノ・ハラオウン執務官かリンディ・ハラオウン提督ねすぐに(大変です!!」 端末を起動させ、早速本局に問い合わせようとしたその時、血相をかいた局員が扉を破る勢いで入ってきた。 右手に双眼鏡を持ち、息を荒げながらガンダム達を見据え、何かを伝えようとする。だが、此処まで全速力で来たのだろう。 自身の呼吸が言葉を出すのを防ぎ、只『ゼイゼイ』と荒く呼吸することしか出来ない。 だが、その必至の表情を見れば誰にでも理解できる・・・・・彼が話すまでも無い、緊急事態が起こっているという事が。 局員に連れられ、ガンダム達はベースキャンプの外に出る。其処には此処にいる武装局員、非戦闘員が全員、そして先ほどガンダムが懲らしめた密猟者全員がいた そしてその全員が肉眼で、または双眼鏡を使い地平線を見つめる。 肉眼では何かがいるとしか分からないが、双眼鏡を使用している者にははっきりと見えたのだろう。 だが誰も何が見えたか報告をしない、依然見続ける者、ゆっくりと双眼鏡を下ろし、呆然とする者。 見かねたタントが呆然としている仲間から双眼鏡を引ったくり、皆が見つめている地平線を見る。 其処で彼が見たのは大群だった。此処、スプールスでは自然動物も多く、時には動物の大群を見ることも珍しくない。 だが今目にしている大群は動物ではない、見事な隊列で進軍する鉄の塊、この塊は見たことがある。 最近ニュースでも取り上げれれている次元犯罪者が使用する手駒、質量兵器と対魔法防御を駆使し、並みの武装局員では歯が立たない強さを持つ機動兵器 タントは他の局員同様、ゆっくりと双眼鏡を下ろす。そして絶望が入り混じった表情で迫り来る軍団の名を呟いた 「・・・ガジェット・・・・・ドローン・・・」 「はは・・・ははははははは!!やっぱりスカリエッティは俺達を見捨てていなかったんだ!!」 数名を除き、皆が呆然とする中、捕まっている密猟者達だけは純粋に嬉しさを表す。 其処には先ほどまでの絶望感はなく、自分達の勝利、そして自分達をコケにした連中へ報復できる嬉しさがにじみ出ていた。 否、絶望する必要など無かったのだ、自分達は既に奴らと仲間になっている、だからこそ助けに来るのは当然だ。 他の仲間も同じことを思っているのだろう、ニヤニヤしながら慌てふためく局員達を勝ち誇った表情で観察していた。 そんな時である、双眼鏡で様子を伺っていたミラが叫んだのは 約一時間前 「あら・・・・まぁ、これはこれは」 ほの暗く、左右にカプセルがびっしりと並べられた通路の真ん中で、空間モニターを展開する女性『クアットロ』 空間モニターに映し出されているのは先ほどガンダムが倒した傀儡兵3体のステータス映像、 だが3体すべての機動信号が先ほど途絶えた事に、クアットロは純粋に驚き、つい声まで出してしまう。 彼女と一緒に歩いていた女性『ウーノ』も最初は空間モニターを展開したクアットロの様子を伺っているだけであった。 だが、本来マイペースを崩さない妹の驚きの表情を見た瞬間、つい何かあったのかと口に出してしまう。 「いえ・・・・お姉さま、あの『俺達も仲間にしてくれ』とかほざいていたアホ共をご存知ですよね?」 「・・・ええ、レリックを偶然見つけた密猟者達よね?2時間後にトーレが行く筈だけど・・・・捕まったの?」 「いえ、あの自信過剰のアホ共に与えた玩具がすべて破壊されましてね・・・・・戦闘から5分と経たずに」 その報告にはウーノもクアットロ同様に驚きを隠す事が出来なかった。 密猟者に与えた傀儡兵はガジェットとは別にスカリエッティが作った試作量産期、それにクアットロが趣味もかねて性能を上げた物だ。 3体同時ならトーレの訓練相手も十分こなす事が出来るほどの性能を持った機体。それが5分も経たずに破壊されたとなると・・・・・ 「確か、あそこの人員には殆ど戦闘力は無い、だけど機動六課にいる召喚師と関係があったわよね・・・・もし相手がフェイトお嬢様達だとしたら納得がいくけど・・・」 「いえ、一応猪突猛進馬鹿でしたので『何をするにも先ずは通信設備だけは破壊するように』とアドバイスをしてあります。先ず連絡を取るのは無理でしょう。 それに傀儡兵と一緒に送ったレリック保管用のケースは殆ど動いていません、もしあの連中でしたらそろそろ持ち出している筈でしょうし、何より戦闘中に魔力が殆ど感じられませんでした。 あの連中は馬鹿魔力の集団ですから嫌でもセンサーに反応しますわ・・・・無論得物を使う騎士達もいますが、魔力反応が殆ど無いというのは不自然ですし・・・・」 話ながらも、用済みの傀儡兵のデータを削除すると同時に、ガジェットの発進スタンバイ、任務内容の入力、転送先の座標確認などを素早く行う。 そして後はエンターを押すだけで全てが進行する所まで作業を終えたクアットロが、微笑みながら姉の方へと顔を向ける。 「あの連中である可能性は低いとしても、それなりの実力者がいることは変りません、ドクターが引きこもっている以上、決定権はお姉さまにありますわ。 確実に遂行させるために物量の強みを、Ⅰ型とⅢ型を計50体ほど・・・・・よろしいでしょうか?」 「此処まで作業しておいてよく言うわね。どうで許可を出さなくても『手元が滑った』とか言いながら押す気でしょ?」 「残念でしたお姉さま。『うっかり手元が滑った!』ですわ」 「まったく・・・・いいわ、クアットロ。貴方に任せるわ」 ウーノの許可を得たクアットロは短くお礼を言った後、嬉しそうにエンターキーを押した。 最初、ミラは何が起こったのか理解できなかった。双眼鏡を使いガジェットドローンを観察している最中、 カプセル状のガジェットから突如幾多にも何かが放たれ、真っ直ぐこちらへと向かってくる。 だが直ぐにそれが何なのか理解できた。そして理解した瞬間、自然と大声で叫んだ。 「ミサイル!!?皆逃げて!!」 叫んだミラは自分でも何を行っているのだと思う、一発二発ならまだしも、接近している数はそんな物ではない。防御などしても無意味だろう。 撃ち落す?無理だ、全員先の戦闘でデバイスなどが壊れている。仮に使用できてもこの数だ、撃ち落しきれない。 避難?無理だ、走るより明らかにミサイルの砲が速度が速い、死ぬ時間を多少先送りに出来るだけだ。むしろ未だに状況を掴めていない人の方が多い。 避難行動することさえ難しいだろう。 短い時間で自問するも打開策など見つからない、ただ迫り来る死を受け入れるしかないのか・・・・・その時、 「やらせん!!」 力強い声に現実に戻される。その直後、その声の主、ガンダムは自分の足元を凄いスピードで走り去る。 そのまま迫り来るミサイル目掛けて走る、そしてミサイルが肉眼でも十分確認できる距離まで近づき、ある程度距離をつめた瞬間、 両足で大地を削りながら速度を落とし、同時に詠唱をしながら剣を真横に構える。 そして、体が止まった瞬間、力の限り真横に構えた剣を横薙ぎに振るった。 『メガ・サーベ!!』 振るわれた剣から、先ずは光りのみが飛び出る。そして徐々に巨大なブーメラン上の斬撃刃となってミサイル群へと迫る・・・そして直撃。 まるでリズムでも取っているかの様にミサイルが次々と爆発してゆく。爆音を轟かせながら爆発するミサイル。それは横に広がる花火と言っても過言では無い。 不謹慎とは思いながらも、次々と花火を裂かせるその光景をミラは綺麗だと思ってしまった。 すべてのミサイルを撃ち落したのだろう、爆発と爆音は消え、周囲には爆煙が立ち込める。 そして、先ほどまで咲いていて花火に見惚れていたミラの隣に、空を飛んできたガンダムがゆっくりと着地した。 その姿に現実に引き戻されながらも、二度も命を救ってくれた騎士に感謝の言葉を述べいようとする、だが 「へっ!いくらあがいても無駄だ!無駄だ!!ガジェット共の進行は止まらねぇ!俺達は助かり、お前たちは死ぬ、その結果はかわらねぇ!!」 「・・・・それは無いかと思いますよ」 自分達の有利を疑わない密猟者達、だがガンダムがその余裕を真っ向から否定した。 否、ガンダムだけではない、此処にいる密猟者達以外の全員がガンダムと同じ考えを持っていた。中には今まで感じていた怒りを忘れ、 哀れみの表情で彼らを見つめている者もいる。 未だに自分達の状況が理解できていないのだろう、タントが一度溜息を吐いた後、説明をしようとするガンダムを手で制し、説明を始めた。 「ガンダムさんが先ほど落としたミサイル群、もし迎撃に失敗・・・・いや、迎撃しなかったどうなっていた」 「そりゃあ・・・・」 「間違いなく絶滅・・・・・仲間であるお前たちもだ。お前たちは言い様に使われただけさ」 「だ・・だが、こちらにはレリックがある!!これまで吹き飛ばすなんて事は」 「レリック?ああ、貴方達のジープの残骸から押収した物のことかしら?これね、中身を調べようとしたけど専用のパスコードでも無いと開かないのよ。 こじ開けようにもとっても頑丈で無理。どれ位頑丈かというとね、さっきのミサイル攻撃にも余裕で耐えられる程かしら。 結論から言うとね、貴方達は見捨てられたの。いえ、この切り捨て様からして、元から仲間にする気なんてなかったのかもしれないわね。 あの傀儡兵も貴方達が他のバイヤーに浮気しないためのご機嫌取りの玩具って言った所かしらね?」 此処でようやく密猟者達も理解する事ができた・・・自分達の現状を 先ほどまで見せていた余裕の表情をしている者は誰も無い・・・・・皆が先ほどまで局員がしていた表情と同じになる。 結果的に煩かった密猟者達を黙らせる事は出来た、だがそれで現状が解決したわけではない。 自分達が危機的状況なのには代わりは無いのだ・・・・・そう考えると、体が絶望感に支配される感じに苛まれる。 必至に助かる方法を考えようとするが頭が働かない、自然と相棒であるタントの方へと顔を向けるか、彼も何かを諦めたかのように力なく俯いているだけであった。 「(もう・・・だめなの・・・・)」 全てを諦め、楽になってしまおうと思ったその時 「諦めるのは早いです!」 凛とした声が部屋に響き渡った。 声を発したガンダムは皆を見据えながら自信が囮になることを提案する。 自分がガジェットと戦い、その隙にミラ達が安全圏まで逃げるという方法を。 「先ほどの話を聞く限り、敵の狙いは此処にいる皆さんの命よりこの『レリック』という物だという事は間違いないと思います。 ですから私がこれを持ち、奴らを迎え撃ちます、その間に皆さんは逃げてください」 その一見無謀とも思える提案につかさずミラは言い返そうとするが、ガンダムと目が合った瞬間、言葉を詰まらせた。 自分達の様な諦めや絶望など微塵も感じさせない強い意思が篭った瞳、決して死にに行くわけで無いと嫌でもわかる。 だが、それでもこの作戦を了承することなど出来ない、恩人を見捨てて自分達だけ逃げるなど 「で・・・でも(わかった、頼む・・・・必ず応援をよんでるから・・・・死なないでくれ」 ミラの言葉をタントが遮る。そして有無を言わさずにミラの手を取りベースキャンプの中へと入っていった。 タントの余りにも強引な行動に、つかさずミラは握られた手を乱暴に振りほどき、勝手に話を進めたタントを睨みつける。 だが悔しそうに顔を歪めるタントの表情を見た瞬間、内から湧き出ていた怒りは一気に静まった・・・彼も同じ気持ちなのだと気付いてしまったからだ。 「・・・・君の気持ちも分かる・・・だが、自分達に出来ることは応援を呼ぶ位の事だ・・・・いっそレリックを渡せばいいと思ったが、 渡した所で命が助かるとは思えない。共に戦おうにも、確実に彼の足手まといになるだけだ・・・・・・SOS通信もジャミング妨害で送ることが出来たかも怪しい。 だから出来ることをする・・・・いいかい?」 「・・・わかったわ・・・・ごめんなさい、感情的になって・・・・・」 「気にする事は無いさ、立場が逆だったら同じことをしていたに違いないし・・・さぁ、行動を開始しよう」 ミラ達局員、そして逮捕した密猟者を乗せた数台のジープが走り去る事を確認したガンダムはゆっくりと前を向き、両腕に自身の武装である電磁ランスとバーサルソードを構える。 背中に背負っている『レリック』と言うロストロギアが入ったケース、ガジェットと言われる機械はこれを狙って来る筈。 ミラ達の命は無論、このロストロギアをスカリエッティなる犯罪者に渡る事も避けなければならない。 「・・・・数にして50前後か・・・・・」 迫り来る敵、並みの戦士なら見ただけで十分戦意を喪失するその光景をガンダムは臆する事無く見つめる。 此処に来る前に戦っていた場所、ムーア界の方が敵の数が圧倒的に多かった。それこそ空が飛行モンスター達で埋め尽くされているほどに。 そんな戦いを経験してしまった以上、迫り来るガジェットなど物の数ではないと感じてしまう自分が可笑しくなる。 小さく笑いながらも、顔を引き締め、武器を持つ両手に力を込める・・・・・そして 「参る!!」 ガンダムが地を蹴り、鋼の大群目掛けて突進する、ほぼ同時にガジェットも唯一の目標であるガンダムにレーザーやミサイルで迎撃を開始した。 『JF704式ヘリコプター』管理局武装隊制式採用の輸送ヘリコプターであり、最近になって武装隊に配備される事となった最新型である。 八神はやてが部隊長を務める機動六課にも配備されており、パイロットの腕も合間って、事件現場に隊員を素早く送り届けている。 今機内にいるのはパイロットである『ヴァイス・グランセニック』、スターズ分隊副隊長である『ヴィータ』、空曹長『リインフォース・ツヴァイ』 そして『スバル・ナカジマ』『ティアナ・ランスター』『エリオ・モンディアル』『キャロ・ル・ルシエ』と『フリードリヒ』、六課を代表する 新人ストライカーズ達である。 本来なら輸送中の時間に作戦内容の確認や緊張を解すための軽い雑談などで、機内は騒がく賑やかになっているのだが、今回は違っていた。 キャロはフリードを抱きしめ俯いていた、よく見れば小刻みに震えてる。 抱きしめられているフリードは主人を励ますかのように泣き声をあげるが、この空間を支配する沈黙の前ではただ虚しく響くだけ。 隣に座っているエリオは何か励ましの言葉をかけようとするが、何を話してよいのか分からず言葉が出ない。 友達を励ます事も出来ない自分の内心で罵りながらも、そっと彼女の手を握り不安を少しでも和らげようとした。 そんな二人を見ていたスバルは自分もキャロに何かしてあげられないかと考えるが思いつかない。 助けを求めるかのように隣にいる同僚に声をかけるが、彼女は冷静に自身のデバイスのチェックをしていた。 「・・・ティア・・・」 「冷たいけど、今の私達には自然保護局員の皆の安全を祈るしか無いわ。もし祈って助かるのなら何百万回でも祈ってあげる。 だけどそんな上手い話なんてあるわけが無い・・・・無力よねホント」 自身のデバイス『クロスミラージュ』のチェックを終え待機モードにしたたティアナはそれを懐にしまう。 そして隣にいるスバルにしか聞こえないほどの小さな声で呟いた。 「私・・・不器用だから・・・ごめんスバル、キャロを少しでも励ましてあげて・・・・私現状を聞いてくる」 そのつぶやきスバルはしっかりと頷く、それを確認したティアナは小声でお礼を言った後、席を立ちヘリのコクピットへと向かった。 JF704式ヘリコプターの操縦席は広く、運転席を含めて椅子が4つ存在する。今座っているのは操縦しているヴァイス、 必至に自然保護局との通信を試みているツヴァイ、そして腕を組みジッとツヴァイの報告を待つヴィータの3人。 そこへ後部座席から来たティアナがやって来たが、皆の態度に変化は無い、だがヴィータは体制を変えないまま口を開いた。 「・・・・キャロの様子はどうだ?」 「落ち込んでます、エリオとスバルが元気付けてくれてますが・・・・・」 自然保護局からのSOS信号、それはレリック回収を担当るす機動六課に真っ先に報告された。 だが受信出来、言葉として拾えたのは『レリック』『ガジェットドローン』という言葉のみ、 その後、こちらから通信してもジャミング、もしくは通信施設の破壊によるものなのか反応は一切かえってこなかった。 自然保護局は六課に来る前のキャロの職場であり、自分を妹の様に接してくれた人たちがいる場所。 音信普通の報告を聞いたキャロの今の態度は当然のものである。むしろ取り乱さない辺り、立派なものだとヴィータは素直に感心していた。 「リイン曹長、通信はどうです?」 「だめです・・・・ジャミング・・・もしくは機器そのものが破壊されています。念話にしても何処にいるのか分からない以上」 「そうですか・・・引き続きお願いします」 ツヴァイは再び通信を試みるが、この操縦席に流れる空気はその行為に意味が無いと結論付けている。 自然保護局に配属されてる局員にはAMFに対する戦闘訓練など行われていない、それに加え連絡が一切無い現状。 口に出してはいえないがほぼ間違いなく自然保護局員は絶滅しているだろう。 本当はその様な事は考えたくは無い、だが常に最悪の状況を考えることも必要だ、そして今回は知りうる情報をまとめると、 嫌でもその『最悪な状況』に合致してしまう。 自然とティアナも最悪の状況を考えてしまい顔を顰める。 その考えを打ち消すかのように頭を2~3度振ったあと、操縦しているヴァイスに後どの位で現場に突くのか聞くため近づく、その時であった。 「?なんだ?」 最初に気が付いたのはヴァイスだった、そしてほぼ同時にティアナも気が付く、前方から近づく何かに。 周囲が何も無い草原のため、肉眼でもその姿を確認出来た。ティアナは咄嗟に掛けてあった双眼鏡を取り覗き込む。 見えたのは数台のジープ、乗っているのは服装からして自然保護局員だろうか? 先ずは報告しようと、ヴィータの方へとふり見たその時、 『そこのヘリ、きこえますか?こちら自然保護局の者です!!』 ツヴァイが開いていた緊急通信回線から、ミラの必至な声が聞こえてきた。 「良かった・・・・皆・・・無事で・・ほんと・・う・・・に」 我慢出来ずに泣き出し、ミラへと抱きつくキャロ、ミラはそんな彼女を優しく抱きしめ、あやすかの様に優しく頭を撫でる。 その光景をスバル達は安心した気持ちで見つめていた。スバルとエリオ、そしてツヴァイに関してはもらい泣きをしている。 ヴィータもその光景を安心した表情で見つめていたが、顔を引き締めミラノ元へと歩き出す。 ほんとうなら暫くはこのままにしてあげたいのだが、事態がそれを許してくれいない。 再開の邪魔をするという罪悪感に苛まれながらも、現状での代表であるヴィータは気付かせるように咳払いを一回、自身の存在を気付かせる。 「キャロ、邪魔して悪いが任務中だ・・・・・後で時間はやるから任務に頭を切り替えてくれ」 「あっ・・・す、すみませんヴィータ副隊長!!」 「気にすんな、お前の気持ちは分かってるつもりだ・・・・・・話をそらしてすまない。現状での代表であるヴィータ三等空尉だ。先ずは何が起こったのかを聞かせてくれ」 敬礼をしながら名と階級を言うヴィータに対し、ミラも同じく階級と名で答える。だが彼女は今までの経緯を話すより先に、ヴィータに現場に行ってほしいと懇願した。 否、ミラだけではない、タントや他の自然保護局員全員がヴィータに詰め寄る。 「お・・・落ち着けって・・・誰か戦ってるのか?」 「そうです!お願いします!早く援護に行ってください!!あの数じゃガンダムさんでも持ちません!!」 「「えっ!?」」 『ガンダム』その名に真っ先に反応した人物は2人いた。 一人はヴィータ、彼女にとってガンダムは自分達の呪縛を断ち切り、仲間を救ってくれた恩人、そして共に戦った戦友 一人はスバル、彼女にとってガンダムは優しい騎士。あの頃恐怖した自身の力の使い道を教えてくれた兄の様な存在。今でも忘れない、頭を撫でられた時に感じた暖かさ、優しさを。 その何を聞いたヴィータは唖然とするも、詳しく聞こうとする。だが彼女より先にスバルがミラに詰め寄った。 「すみません!!その、『ガンダム』ってこの写真に写ってる人ですか!!?」 スバルはポケットから二枚の写真を取り出した、一枚は憧れている隊長の高町なのは(直筆サイン入り)ブロマイド、そしてもう一枚は昔撮った写真。 其処には自分とギンガ、そして母クイントとガンダムが写っていた。 この写真を撮った後、ガンダムは元の世界に帰ってしまい会う事は出来なかった。だがもしミラが言っている人物が自分が知っているガンダムなら、再び会えることが出来る。 そんな願いを抱きながら、スバルはミラ達に写真を見せた。 「・・・・ええ、着ている鎧は違うけど間違いないと思うわ、優しくとても紳士な人よ」 「やっぱり・・・・・やっぱり帰ってきたんだ!!」 写真を抱きしめながら大粒の涙を流すスバルにミラはどうしていいか分からず、自然とヴィータの方へと視線を送る。 ヴィータ自身も突然のガンダム帰還に頭が追いつかなかったが、、軽く頭を3度ほど叩く事で何時もの冷静さを無理矢理取り戻す。 正直ガンダム帰還の連絡は直ぐにでもなのは達・・・・・・・特にリインフォースとアリサ・バニングス、そして月村すずかに伝えたい。 だが今は加勢に行くのが急務だ、彼の強さは嫌というほど知っている、直ぐにやられると言うことは無いだろう、だがガジェットのAMF、そして物量、急いだ方がいいのは確かだ。 「エリオとキャロ、ティアナはアタシらが帰ってくるまで此処で待機、そろそろ別任務で遅れたなのはも来る頃だ、 それまで情報収集、連絡、周囲警戒を忘れるな!ティアナは雑務に慣れない二人のサポート、あとミラ達と一緒に密猟者の取調べを頼む」 「「「了解!!!」」」 「スバルはアタシと来い!!待機命令出しても突っ込んでいきそうだから仕方ねぇな、アタシが担いでいく。ツヴァイ、ユニゾン後一気にかっ飛ばす。 此処まで来ればフルに飛ばしても戦闘に影響が出るほど魔力は減らない・・・スバル、目回すなよ!?」 「「了解(です!)」」 「はぁ!!」 ガジェットⅢ型のカメラアイ目掛けて電磁ランスを突刺す、そして間髪いれずに体内に電流を流し込み、直ぐに引き抜く。 機能を停止した事を確認する事もせずに、ガンダムは先ほどのⅢ型を踏み台にしジャンプ、上空でバーサルソードを振り被り、落下と同時に振り下ろした。 目標は真下にいる別のⅢ型、だがガジェットも直ぐに巨大なケーブルアームを頭上で交差し、受け止める体制をとる。 だがガンダムはそんなガジェットの行動を気にする事無く、剣を振り下ろした。 バーサルソードはケーブルアームにぶつかり、甲高い音を響かせる。最初は剣の猛攻を停止させるがそれも一瞬、 直ぐにケーブルアームはガードしていたⅢ型諸共真っ二つに切り裂かれた、その直後、先ほど電磁ランスで突刺したⅢ型、そして今真っ二つにしたⅢ型、その二体が同時に爆発した。 その結果、至近距離にいたガンダムは二体分の爆煙と爆風に包まれることになる。突如目標が煙に巻かれたため、Ⅲ型の後ろで待機していた多数のⅠ型がガンダムの姿を捉えることができない。 そのため、数機のⅠ型が爆煙に包まれている爆心地へと近づく、そしてある程度距離をつめた直後、接近していたⅠ型全機全てが、 ガンダムが爆煙の中から振るった大降りの横一文字の一閃により綺麗に上下に分断された。 振るった直後襲い掛かるレーザーの雨、その攻撃を咄嗟に力の盾で作られたショルダーシールドで防ぎながら 後方へと飛び、レーザーの射程外まで距離をあける。 着地直後、体の力を抜き呼吸を整える。だが、その僅かな休息も与えまいと、ガジェットは武器の射程内まで距離をつめ始めた。 その光景にガンダムは渋い表情をしながらも、直ぐに武器を構え、迎え撃つ体制を整える・・・だが、 「・・・・多いな・・・・」 この数、流石にすべてを接近戦で相手にするのは骨が折れる、だが魔法が無効な以上、接近戦で戦うしか方法は無い。 現に数回『ムービーサーベ』を放ったが、AMFなる防御手段で無効化されてしまった。 それでも『ファン』や『ファンネル』などの魔力によって雷を作り、それで攻撃をする戦法は効果があった、攻撃する方法が魔力の塊ではなく、雷そのものだからであろう。 だが、敵もそれらに対して対策を施しているのだろう。装甲表面に耐電対策を取っているらしく中に直接流すのならまだしも、正面からの攻撃では効き目が薄い。 『メガファン』や法術士ニューの様な魔法スキルがあれば問題は無いのだろうが、自分の魔法はサポートや牽制程度の能力しか無い。 「(熱そのもので攻撃するソーラ・レイなら・・・だめだ発動までの隙が多すぎる。広範囲に攻撃が出来、魔力攻撃では無い攻撃方法・・・あれしかないな)」 右手に持ったバーサルソードを腰の鞘に仕舞い、代わりに左腕に持っていた電子ランスを右腕に持ち帰る。 今ガンダムがやろうとしているのはソーラ・レイと同等・・・・否、それ以上の必殺技。使用後の体力の消耗が激しいため、 そして敵の援軍の可能性も視野に入れていたため、使おうととはしなかったが、半分近く数を減らしても増援は見受けられない。 正直このままでは戦い続けてもキリが無い、ならば一気に全てを破壊するまでだ。 「はぁああああああああああああ!!!」 体中の魔力を一気に高める。ガンダムの体があふれ出る魔力で光り輝き、彼を中心に風が吹き荒れる。 そして正面、迫り来るガジェットの大群を見つめながらゆっくりと電磁ランスの切っ先を向ける。 電磁ランスからはまるで大量の雷を溜めているかの様に彼方此方から激しいスパーク音が響き渡る。 そして徐々に電磁ランスの周りには風が集まり、包み込むかの様に荒れ狂いながらも定着する。まるで雷で荒れ狂う電磁ランスを抑え込むかの様に。 電磁ランスをゆっくりと引き、衝撃に備え、下半身に力を入れる。 その直後、射程圏内に入ったのだろう、進行していたガジェットが攻撃を再開した 迫り来るレーザーの嵐、だがガンダムは怯まない、逃げない、ただ冷静に前方を・・・目標を見つめる。 そして、ガジェットの群れ目掛けて雷と風で荒れ狂った電磁ランスを突き、そして放った、自身の必殺といえる技を。 「トルネェエエエエエド!!スパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアク!!!!」 「そうか・・・・お前、すすかさんと知り合いだったのか・・・・それにガンダムにも会ってたとはな」 「はい、ガンダムさんはなのはさんと同じ位、私の中では憧れ、そして目標です・・・ああ!勿論ヴィータ隊長達もですよ!!」 「・・・・・後付け設定ありがとな。まぁ、気を取り直して、さっさとガンダムの助太刀に・・・!!?」 話しきる前にヴィータは突如止まり、何か様子を伺うように前方を見つめる。 突如止まったヴィータにスバルは何事かと思いながらも、理由を聞こうと口を開いた瞬間、二人は突如発生した強風に襲われた。 「ん・・・なろぉ!」 直ぐにバラスを取り体制を立て直す、そして突然発生した強風の正体を探るべく、前を見る。その瞬間3人は目を疑った。 「な・・・なんだありゃ」 「たつ・・・まき・・・?」 「(す・・・すごいですぅ・・・)」 全てを飲み込むかの様な巨大な雷を含んだ竜巻、それは突如現われ、その存在を嫌でも周囲にアピールする。 竜巻の予兆など全くなかった、そうなると故意に・・・・魔力により作られた者だろう。 そんな事が出来るのは彼しかいない、今から助けようとす騎士にしか。 「ガンダムの仕業か?・・・スバル、頼む」 「わかりました!」 早速スバルは瞳を戦闘機人モードに変更、望遠レンズを駆使し、竜巻が発生している周辺を検索する。 先ず目に付いたのが竜巻に飲み込まれるガジェット達、スバルがその姿を確認した直後、次々と爆発を起こした。 中の機械系統をズタズタにされ爆発する機体。竜巻内の加速により互いにぶつかり粉々になる機体、破壊され方は様々だが、行き着く先は機能停止という所は共通している。 そして次に周囲を捜索する。もうガジェットの絶滅は時間の問題だろう、それならガンダムを探す事に専念できる。 だがその必要は無かった、直ぐに見つかったからだ。 自然と目を見開き、その姿を思い出の中にいるガンダムと照らし合わせ確認する。 だが後姿なので完全に確認する事ができない。せめてこちらを向いてくれればと願うが、その願いは思ったより直ぐに叶った。 周囲に敵がいないか確認しているのだろう、左右を見渡した後、後ろを・・・・・ヴィータ達から見れば正面を向く。 その表情を、瞳を見た瞬間、スバルは確信した、彼が自分の知っているガンダムだと。そうなるといてもたってもいられない。 「ヴィータ副隊長!すみません!!」 「っておい!スバル!!」 ヴィータに謝しながら彼女の手を振りほどき、地面へと着地。直ぐにマッハキャリバーを起動し、砂煙を上げながら自分が出せるスピードで駆け抜ける。 早く会いたい。今の自分を見てもらいたい。今のスバルはその気持ちだけで動いていた。自然と顔も綻び、瞳からは嬉しさのあまりか涙も流れる。 だがそんな顔は見せたくは無い、手で荒く顔を拭き、顔を引き締めた。 「飛ばすよ!マッハキャリバー!!」『All right』 「これで・・・・終わりか?」 自身が起こした竜巻が消えたのを確認したガンダムは改めて周囲を見渡す。そこにあるのはガジェットの残骸のみ、 機動をしている機体所か、満足に原型を留めている機体すらない。 何度か周囲を見渡したが残骸が散らばっているだけであった 「・・・・・この大地を汚してしまったな・・・・」 広範囲に撒き散らされたガジェットの残骸を見つめながら申し訳無さそうに呟く。 もう少しマトモな撃退方法があったのではないかと内心で反省しているその時、二つの接近する魔力反応に気が付く。 一つなそれなりに離れた距離にあり、此処では『魔力を持った何か』としか分からない。 だがもう一つはそれなりに高い魔力だというとは分かる、それはこちらへ猛スピードで接近しており、肉眼でも近づくその姿を確認する事が出来た。 「敵か・・・・いや、違う」 敵だと思ったが殺気や敵意をまったく感じない、だが、真っ直ぐ自分目掛けて突っ込んでくる。 あの速度からするに自分目掛けて突撃でもする気なのだろうか?だがやはり敵意も殺気も感じられない。 そう考えている内に、徐々に近づいている人物の姿がはっきりと見えてくる。体系などからして10代前後の少女だろう・・・否、この少女はどこかで見たことがある そうだ・・・・初めて会ったのは本局の廊下だった、一人迷子で泣いていたあの時の少女・・・その名は 「・・・スバル・・・・・スバル・ナカジマ!?」 その呟きが聞こえたのだろう。スバルは嬉しそうに微笑みながらスピードを落とさずにガンダムに抱きついた。 ちなみにスバルはスピードを一切落としてない。それはすなわちガンダムに抱きつくと言うよりガンダムに強烈な体当たりを食らわしているのと同じだった。 もしガンダムが身構えていなかったら二人は抱き突いたまま大地を豪快に滑っていただろう。 だがガンダムは抱きつかれる瞬間、自身に強化魔法を掛けると同時に両足に力を入れる。 その行為が結果的に『二人で仲よくスライディング』という笑えない状況を作り出さずに済み、『再開を祝う少女とMS族』という状況を作り出した。 「ガンダムさん!!ガンダムさん!!」 何度もガンダムの名を叫びながら彼を抱きしめるスバル。 ガンダムもまた、突如現われたスバルとの再開を喜ぶように、ゆっくりと彼女を抱きしめた。 時間にして一分弱、ゆっくりとガンダムがスバルの体を話し正面から彼女を見つめる・・・見違えるほどに成長した彼女を 「・・・スバル・・・・・本当に大きくなったね・・・・・逞しく、そして美しく成長した」 『美しく成長した』といわれた瞬間スバルは顔を真っ赤にし、てれを隠すかの様に視線を下に向ける。 彼女もストライカーである以前に一人の少女、その様な事を言われて嬉しくない筈が無い・・・・だが、 「だが、本当に大きくなった・・・・・僅か2年でここまで・・・」 その発言にスバルは現実に戻される、ガンダムなんと言った?二年?そんなはずは無い、彼が旅立って絡もう既に・・・・ スバルは少し怒りながらガンダムの間違いを指摘する、そして、あっさりと真実を話した。 「何言ってるのガンダムさん!!ガンダムさんが旅立って、もう10年経っているんだよ」
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3773.html
自分がプレシアの娘の紛い物であり、母親から全く愛されていなかったことを知らされ、フェイトが放心状態で崩れ落ちる。それをアルフが抱きとめ、慌てて医務室へと運んでいく。 アースラブリッジは、一気に騒然となる。 時の庭園から膨大な次元エネルギーが放射されている。このままでは大規模な次元震が起きるのは時間の問題だ。 さらに庭園内には八十体以上の傀儡兵が出現し、送り込んだ部隊を足止めしていた。 「僕が行きます」 「クロノ、その体じゃ無理よ」 「部隊の指揮くらいなら執れます。行かせてください」 クロノは強い決意を込めて言った。とても止められそうな雰囲気ではない。 「わかりました。出撃を許可します。ただし無茶をしたら駄目ですよ」 クロノが頷き、時の庭園へと転送されていく。 「私たちも行かせてください」 「かたなし君を助けないと」 なのはとぽぷらが名乗りを上げる。魔力は回復してもらったが、疲労や負荷は残っている。万全の状態には程遠い。 「エイミィ。彼女たちを投入した場合の作戦成功率は?」 「好意的に見積もっても二十パーセントもありません」 「駄目です。そんな危険な作戦に、あなたたちを投入するわけにはいきません」 リンディは首を振る。 クロノの弱体化がここでも影響していた。本来のクロノならば一部隊に匹敵する働きができるのに。 「せめて、後一部隊あれば……」 「何とかなるかもしれません」 発言したのはユーノだった。 「どういうこと?」 ユーノは空中にワグナリア近辺の地図と、ジュエルシードが発見された位置を投影する。 「前から疑問に思っていたんです。どうしてジュエルシードはワグナリアに引き寄せられたのか」 「それは小鳥遊さんに引き寄せられたって……」 「それだと辻褄が合わないんです」 夏休みの今、小鳥遊が一番長い時間過ごす場所は自宅だ。なのに、小鳥遊家に引き寄せられているジュエルシードはない。 「つまりワグナリアには小鳥遊さん以外にも引き寄せる要因があったんです」 「あっ」 ぽぷらがあることを思い出した。ユーノが頷く。 「確証はありませんし、かなりの危険を伴います。でも、鍵はワグナリアにいます」 ユーノは地図上のワグナリアを指差した。 時の庭園内に、ワグナリアの制服を着た女が転送されてくる。赤縁の眼鏡に激しくカールした前髪、松本麻耶だった。何故か荒縄で拘束されている。 「って、ここどこなのよー!」 松本は混乱した様子で叫ぶ。 通路はところどころ壊れて赤い空間がのぞいている。おどろおどろしい赤色は、まるで怪物の口の中のようで不気味だった。全ての魔法がキャンセルされる虚数空間と呼ばれる場所で、落ちれば重力の底まで真っ逆さまだ。 残された床には、西洋の甲冑に似たデザインの傀儡兵が徘徊していた。 「落ち着け、松本」 「佐藤さん、いきなりこんなとこに連れてきて――!」 松本は縄の先を握る佐藤を見て、絶句する。セーラー服を着たぽぷらの肩に、手の平サイズの佐藤が乗っていた。 松本たちを発見した傀儡兵が襲いかかってくる。 「必殺ぽぷらビーム!」 ぽぷらが木の枝から光線を放ち、傀儡兵たちを倒していく。 松本は頭を抱えてしゃがみこんだ。 (違う。こんなこと現実にあり得るわけがない。そう、これは夢よ!) 人間が小さくなったり、木の枝から光線が発射されたり、ロボットが歩いていたり、全部夢だと思えば納得できる。 「…………って、納得できるかー!」 松本が一転して怒りの咆哮を上げた。 「普通な私の夢が、こんな普通じゃないはずがない! 私の夢なら、もっと普通になりなさいよ!」 佐藤が松本の巻き毛にジュエルシードを差しこむ。その瞬間、不可視の領域が松本を中心に発生した。 傀儡兵の動きが格段に鈍くなり、ぽぷらと佐藤の変身が解ける。 「成功だよ、佐藤さん!」 「さすがだ。普通少女麻耶」 ぽぷらのハイタッチを受けながら、佐藤が感心したように呟く。 佐藤が松本から回収したあの日、ジュエルシードはすでに発動していた。松本の能力は普通フィールドの展開。その領域内では、あらゆる魔法、超常現象が無効化される。 佐藤たちは知らずに普通フィールドに踏み込み変身を解除されたのであって、ぽぷらが気をきかせたわけではない。 ジュエルシードをワグナリアに引き寄せていたもう一つの要因は松本だった。小鳥遊同様、松本の普通じゃないほど普通を願う気持ちがジュエルシードを上回ったのだ。 ロストロギアを超える欲望を持つ人間が二人もいるとは、さすがにワグナリアは変態の巣窟だ。案外、探せば他にもいるのかもしれない。 しかし、さすがに傀儡兵の存在自体は消滅させられないし、普通フィールド内では味方も魔法を使えない。 「出番だぞ」 佐藤の言葉に反応するように、釘バットが手近にいた傀儡兵を屠る。魔法防御がなくなり、関節部分がかなり脆くなっている。これなら普通の人間でも倒せるだろう。 「こいつらか。うちのバイトを誘拐した不届きな連中は」 残骸をハイヒールで踏みつけ、白藤杏子が釘バットを肩に担ぐ。 「そうだ。救出を手伝ってくれたら、一カ月間、好きな時に飯を作ってやる」 「その約束忘れるなよ、佐藤」 真横から傀儡兵が槍で杏子を狙う。しかし、槍が届く寸前で胴体を両断される。 「ふふふふ。杏子さんに手を出す輩は、全て八千代が抹殺いたします」 危険な妖気を漂わせ、八千代が日本刀を構えていた。 杏子も八千代も、怪しげなロボットたちが動き回るこの状況にまったく違和感を抱いていない。杏子は細かいことに拘らない性質の上、ご飯が一番大事だし、八千代にとっては杏子の敵を倒すことだけが重要なのだ。 「もう少し時間があれば、陽平と美月も呼んだんだがな」 杏子が軽く舌打ちする。杏子の舎弟たちの名前だ。 「ね、ねえ、種島さん、こいつら何なの!?」 伊波がおろおろと周囲を見渡す。伊波は前の二人のようにはいかなかったようだ。 「かたなし君を助けるためだよ。伊波ちゃん頑張って!」 「む、無理だよ。こんなのと戦うなんて……」 佐藤は伊波からなるべく距離を取り、メガホンを口に当て、決定的な一言を放った。 「伊波、あいつら、全部男だぞ」 「いやあああああああああああああ!」 伊波の拳がまるでブルドーザーのように傀儡兵を粉砕していく。 伊波の横では酒瓶を抱えた女が泥酔状態で戦っていた。小鳥遊梢だ。 「また振られたー!」 梢は泣き喚きながら、繰り出される武器を千鳥足でかわしながら近づいていく。梢は傀儡兵をつかむと、頭を、腕を捻じ切っていく。合気道講師らしいが、酔拳使いにしか見えない。 「こうなったら、とことん暴れてやるー! 後、宗太にお酒いっぱい買ってもらうー!」 松本と一緒に、店にいた腕の立つ連中を集めてきたのだが、思った以上の大活躍だった。できれば、恭也と美由希も連れて来たかったのだが、残念ながらまだ店に来ていなかった。 あっという間に、通路にいた傀儡兵たちはすべて残骸に変わっていた。 「じゃあ、後は任せた」 いつでも連絡が取れるよう通信機を杏子に渡す。ここから先、佐藤とぽぷらは別行動だ。 奥から、新たな傀儡兵の軍団がやってくる。 「よし、お前ら、行くぞ!」 明日のご飯の為、杏子は釘バットを振りかざして敵に挑んで行った。 チーム・ワグナリアの破竹の快進撃を、ブリッジでリンディが呆れたように眺めていた。傀儡兵の掃討は、彼らとクロノたちに任せていいようだ。 「なのはさん、出撃の準備をして」 「はい」 リンディに言われ、なのはとユーノが転送装置へと向かう。 情けない話だが、現在のアースラの戦力でプレシア捕縛の可能性があるのは、なのはたちくらいだろう。もしもの場合は、リンディがバックアップするつもりでいる。 「待って。私も行く」 フェイトがアルフを連れてブリッジに入ってくる。放心状態で医務室に運ばれたはずだが、瞳に強い意志の輝きが戻ってきている。 「フェイト、いいのかい?」 アルフが心配そうに尋ねる。フェイトが行けば、プレシアと対峙することは避けられない。アルフはこれ以上、フェイトに辛い思いをして欲しくなかった。 「うん。宗太さんを……みんなを助けたい。なのはたちの……友達の力になりたい。それに、母さんともう一度会わないといけないから」 この世界で出会った人たちの顔を一人一人思い出す。変わった人が多かったが、誰もがフェイトに優しくしてくれた。このまま次元震が起これば、小鳥遊家やワグナリアのみんなまで死んでしまう。そんな結末は絶対に嫌だった。 「上手くできるかわからないけど」 フェイトがバルディッシュに魔力を注ぎ込むと、破損していた個所が修復されていく。 「フェイトが行くなら、もちろんあたしも行くよ。あの男には色々借りもあるしね」 アルフが指をパキパキと鳴らす。 「行こう、みんな」 バリアジャケットを装着し、フェイトはなのはたちを振り返る。 「よーし! 伊波ちゃん以来の共同戦線だね」 ぽぷらが張り切ってポーズを決める。 「ポプランポプランランラララン、魔法少女ぽぷら参上!」 「魔法少女リリカルなのは見参!」 「……フェ、フェイト・テスタロッサです」 ノリノリでポーズを決める二人の横で、フェイトがぺこりとお辞儀をする。 「フェイト。付き合わなくていいよ」 「えっと、そうしなきゃいけないのかと思って」 頭痛を堪えるアルフに、フェイトは照れながら弁解する。 佐藤が全員を見回して宣言した。 「さあ、選ばれし三人の魔法少女たちよ。今こそ魔王を倒し世界を救うのだ!」 「佐藤さん、ちょっと違うよ!?」 ぽぷらがつっこむ。むしろ魔王の救出が目的のはずだが。 「とりあえず出発しましょうか」 間抜けなやり取りに脱力しながら、ユーノが時の庭園へと転送魔法を発動させた。 時の庭園で激戦が繰り広げられている中、もう一つの戦場が地上にあった。 「8卓、カレーとチキンドリア、お子様ランチです!」 切羽唾待った様子で美由希が相馬に告げる。 「高町君、次は肉とキャベツ切って。千切りね!」 相馬が二つの鍋を火にかけながら叫ぶ。 「なずなちゃん、ラーメン、2卓へ」 「山田さん、パフェ三つお願いしますね!」 料理を運ぶ途中で、なずなが山田に言う。 「山田は、山田は混乱しています!」 山田が生クリームとアイスの箱を持ちながら右往左往する。 主なメンバーが不在の今日に限って、ワグナリアは満席だった。しかも注文も時間がかかるものばかりだ。 恭也はまだ一人で料理が作れるほど習熟しておらず、相馬は丁寧に調理をするので、あまり速い方ではない。手際のいい佐藤の不在が特に痛かった。 「相馬さん、他のスタッフの電話番号知らないんですか?」 「もちろん知ってるけど、俺の権限で呼べるわけないよ!」 「相馬さんの役立たず!」 山田は半泣きで喚く。泣きたいのは相馬も同じだった。 「とにかく、もう少しだけ辛抱して!」 「まずいよ、お客さん、だいぶ怒ってるよ」 美由希が客席を眺めながら言った。長時間待たされて爆発寸前のお客さんがちらほら見受けられる。美由希となずなの二人でどうにか抑えてきたが、さすがにこれ以上は難しい。 クレームが来た場合、店長かチーフが応対するのが常だが、今は誰もいない。ばれたら、店の存続に関わるかもしれない。 その時、従業員入口を通って、一人の男性が入ってきた。山田の顔が歓喜に輝く。 「音尾さん!」 「よかった、間に合った!」 「ちょうど近くを旅していてよかったよ。相馬君、苦労をかけたね」 ネクタイを締めて髪をオールバックにした穏やかな風貌の男性だった。この店のマネージャー、音尾兵悟だ。佐藤が杏子たちを連れて行った時に、念のため連絡しておいたのが功を奏したようだ。 「とりあえず呼べるだけの人員を集めてきたから」 どやどやと制服に着替えたスタッフが入ってくる。旅行や遊びから帰ってきたばかりのパートのおばさんと他のバイトたちだ。 「でも、お客さんが……」 「僕に任せて」 音尾は客席へと歩いて行き、一人一人に料理が遅れていることを謝罪していく。中には食ってかかる客もいたが、音尾の穏やかさと誠実さに、店内の雰囲気が徐々に落ち着いていく。 「すごい」 恭也と美由希が感嘆する。店をほったらかしにする無責任な男と思い込んでいたが、仕事はかなりできるようだ。 「どうです。山田のお父さん(予定)はすごいでしょう!」 山田が鼻息も荒く威張り散らす。予定とはどういう意味か問い詰めたい気もしたが、もはや恭也には気力が残っていなかった。 仕事が一段落し、キッチンもフロアも落ち着きを取り戻していく。 相馬たちは仕事をパートの人たちに任せ、休憩に取ることにした。山田は休憩室に入るなり机に突っ伏して眠ってしまう。よほど疲れたのだろう。 「山田さん、仮眠取るなら屋根裏に行った方がいいよ。山田さん?」 相馬が揺するが、山田はすでに夢の世界へと旅立っていた。 そこに音尾がやってくる。 「相馬君、本当に大変だったね」 「はい。それで店長のことなんですが……」 「言わなくていいよ。白藤さんのことは信じてるから。どうしても店を空けなければならない理由があったんでしょ?」 音尾が仏のような笑顔を浮かべる。あまりの眩しさに相馬は少しめまいを感じていた。 十個のジュエルシードが膨大なエネルギーを放っている。中心には、小鳥遊がはりつけにされていた。 「もう少しよ。待っていて、アリシア」 アリシアの入ったポッドに愛おしげになでながら、プレシアは小鳥遊に目をやる。 暴走させたエネルギーを小鳥遊に注ぎ込み結集させて撃ち出す。これで次元に穴を開け、アルハザードへの道を作ることができるはずだ。 エネルギーの充填はもうじき終わる。 プレシアが激しく咳き込んだ。 「こんな時に……」 体から力が抜けていく。いつもの発作の比ではない。足から力が抜け、ポッドに寄りかかるようにずるずると崩れ落ちていく。 「私はまだ死ねない。死ねないのよ」 しかし、咳は止まらず、大量に喀血する。プレシアはジュエルシードに手を伸ばし、そこで意識を失った。 通路を埋め尽くす傀儡兵たちをユーノとアルフのバインドが拘束する。 「必殺ぽぷらビーム!」 「ディバインバスター!」 二条の光線が傀儡兵たちを消し飛ばす。 「なのは、大丈夫?」 片膝をついたなのはを、ユーノが気遣う。連戦に次ぐ連戦に、なのはの疲労は極限に達しようとしていた。 「こっちは一目瞭然だな」 と、佐藤。 ぽぷらの身長は普段の三分の一になっていた。行使できる魔法も後わずかだ。 クロノが率いる局員たちは暴走している駆動露の鎮圧へ、チーム・ワグナリアは傀儡兵との戦闘を続けている。 『敵、増援!』 エイミィの切羽詰まった声、 通路に新たな一団が押し寄せてくる。 「どれだけいるんだ」 佐藤が舌打ちする。 「なのは、みんな、伏せて。サンダースマッシャー!」 巨大な稲妻が、なのはたちの頭上を通り過ぎ傀儡兵をなぎ倒す。 プレシアの待つ中枢部は目と鼻の先だ。壁をぶち破り、なのはたちはプレシアの部屋へと突入する。 プレシアがポッドに寄り掛かるように倒れていた。 「母さん!」 駆け寄ったフェイトが抱き起こすと、プレシアは浅い呼吸を繰り返していた。まだかろうじて息がある。 『次元エネルギー、さらに増大!』 エイミィが悲鳴を上げる。リンディまで出撃し次元エネルギーを抑えているが、もういつ次元震が発生してもおかしくない。 プレシアの制御を失い、ジュエルシードの暴走は手がつけられない状態になっていた。 「フェイトちゃん、封印を!」 「わかった!」 なのはとフェイトが近づこうとすると、発生したエネルギー障壁にはね返される。 「なら、大威力魔法で」 なのはがカノンモードを、フェイトがグレイヴフォームを起動させる。 しかし、 『『Empty』』 二つのデバイスが無情に告げる。ここに辿り着くまでに二人とも魔力を使い切っていた。アルフとユーノも似たり寄ったりの状況だ。 「それなら、スターライトブレイカーを」 大気中に残存する魔力を集めるスターライトブレイカーならば、チャージに時間さえかければまだ撃てる。 「駄目だ、なのは」 ユーノがレイジングハートを押さえる。 「でも」 「これ以上、負担の大きいあの技を使っちゃ駄目だ。残念だけど、スターライトブレイカーでもあの障壁は破れないよ」 「そんな」 なのはががっくりと膝をつく。 スターライトブレイカーが通用しないのなら、ぽぷらビームも同様だろう。 万策は尽きたかに思える。しかし、ユーノの顔に絶望の色はなかった。 「諦めるのはまだ早いよ。大丈夫、僕たちにはまだ最後の希望が残っている」 ユーノがぽぷらを振り返る。 「そうか」 佐藤がユーノの言わんとするところを理解する。ぽぷらが何を代償に魔法を使っていたのか。 「身長だ」 「佐藤さん、了解だよ!」 ぽぷらが木の枝を構える。佐藤がぽぷらの手に手を添える。そして、なのはが、フェイトが、ユーノが、アルフがぽぷらたちの背に手を置いた。 「みんな、みんなの身長を私に分けて!」 全員の身長を魔力に変換し、これまでとは段違いの膨大な魔力が木の枝に集中する。 「超必殺、ぽぷらブレイカー!」 時の庭園を揺るがすような巨大な光線がジュエルシードへと放たれる。しかし、ジュエルシードの障壁を打ち破るには至らない。 「撃ち続けろ!」 全員が凄まじい勢いで縮んでいき、とうとう親指サイズにまでなってしまう。 「とーどーけー!」 ぽぷらが叫ぶ。 その時、エネルギー障壁がわずかに出力を弱めた。ぽぷらブレイカーが障壁を粉砕する。 なのはとフェイトがデバイスを突き出す。 「リリカルマジカル」 「ジュエルシード」 「「封印!」」 ジュエルシードが二つのデバイスへと吸い込まれていき、時の庭園が静寂に包まれる。 『……次元エネルギー反応消失。作戦成功です!』 静寂を破るように、アースラからエイミィと局員たちの喝采の声が届く。 なのはたちはへなへなとその場にへたり込む。もはや立ち上がる気力も残っていなかった。 ふらつくぽぷらを、佐藤が抱きとめた。 「佐藤さん」 「なんだ?」 ぽぷらは佐藤に寄りかかったまま話しかける。 「私ね、ジュエルシードに感謝してるんだ」 「変わった奴だな。これだけ面倒事に巻き込まれたのにか?」 「うん。だってジュエルシードは私の願いを二つも叶えてくれたから」 「二つ?」 おっきくなる以外のぽぷらの願いなど、佐藤には見当もつかなかった。しかもジュエルシードはそれすら叶えていない。 「佐藤さん、私のこと、名前で呼んでくれたでしょ。それから、ほら」 今の状態で、ぽぷらが背伸びすると、佐藤の顔の高さと大体同じになる。ぽぷらは照れたように笑う。 「佐藤さんとつりあう背になること。これが私の願い」 思い切って気持ちを伝えると、佐藤が顔を背けた。 (やっぱり駄目か) ぽぷらは寂しげに目を伏せる。こうなることはわかっていた。ならば、せめてもう少しこのままでいたかった。 「……今度」 佐藤がぽつりと言った。 「…………休みが重なったら、遊園地でも行くか」 激しい懊悩を隠すように、佐藤は手で顔を押さえていた。指の隙間から真っ赤になった顔が覗いている。 「お子様とのデートは遊園地が相場だからな」 「私、子供じゃない……!?」 反射的に叫び返そうとし、佐藤の言葉の意味に気がつく。佐藤につられて、ぽぷらの顔まで赤く染まる。 「さ……」 「何も言うな」 佐藤がつっけんどんに言う。照れ隠しだろう。 「……三つ目の願いまで叶っちゃった」 ぽぷらは心から幸せそうに笑った。 アルフが盛大に咳払いをする。 「いちゃつくのはいいけどね、ここにはお子様がたくさんいるってことを忘れないで欲しいね」 周囲を見渡すと、みんなが赤い顔でこちらを注視していた。 『ごめーん。通信回線も開いたままなんだ』 エイミィが申し訳なさそうに、だが、楽しそうに言った。画面の向こうから局員たちの冷やかす声が聞こえてくる。 「もおおおおおおお! 佐藤さん、時と場所を考えてよ!」 「最初に言ったのはお前だろうが。お前のせいだ」 「二人とも……」 なだめようとするフェイトを、なのはが止める。 「いいの、いいの。これがいつもの二人なんだから」 なのはは心の中でぽぷらたちを祝福する。 時の庭園に、二人の言い合う声がいつまでも響き渡っていた。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/artess/pages/52.html
これは・・・。」 アスランは頭に引っ掛かっていた何かが、掴めた感じがした。 「・・・イージス。」 それは、自分がここに来るまで共に戦っていたMSの名前。 赤いそのブローチの形は、イージスのシールドに酷似していたことにようやくひらめいた。 そして、 『Call is my name.The voice is my master athrun=zala.(私の名を呼んだ声の主はマイマスター、アスラン・ザラと認識しました。)』 そしてブローチから赤い光は溢れてくる。 「な、なんだ!?」 「やはり、そのデバイスはあなたのものだったようです。」 フェイトが冷静に返事を返す。 そして光が段々大きくなってアスランは堪え切れずに目を閉じた、すると次に目を開けると、 「な!?ふ、服が・・・変わってる!?」 赤を基調とした服、両手には黒い篭手のような物がはまっており、左手の甲には先程のブローチを大型化したような盾が装備されている。 そして腰には黒いライフルが装着してあった。 「それがアスランさんのバリアジャケットです。」 「これが・・・。」 「そして、そのデバイスの名前は。」 「・・・イージス。」 皮肉にも、この世界でもこの名前と共になるとはな。とアスランは心の中で自嘲した。 PM4:00 この時刻になると、翠屋の客足は一気に増え始める。 学校帰りの学生が下校途中に来店するからである。 そして、その中で忙しく動き回る人間が一人。 「5番テーブル、サンドイッチとケーキセットです!」 「はいよー!」 「7番さんのオーダーお願い!」 「はいっ!」 たったったっと早く、だが、雰囲気を壊さぬよう小走りでテーブルに行く。 「お待たせしました、ご注文の方はお決まりでしょうか?」 「あ、はい。ホットケーキと、アイスミルクティーで。」 「ホットケーキとアイスミルクティーですね。かしこまりました、少々お待ちくださいませ。」 ウエイターの青年は頭を下げ、奥の厨房へと足早に戻る。 「3番テーブルのお客さんの分出来たから、キラ君お願い!」 「はい!」 彼、キラ・ヤマトは翠屋で立派にウェイターの仕事をしていた。 キラが翠屋で働き始めてまだ三日程しか経っていないが、 予想以上に仕事の飲み込みが早く、わずか三日でほとんどの仕事をマスターしていた。 体の方も問題なく回復し、快調に働いている。 そして、この三日間で妙にお客の数が序々に増えていえる理由は、 「ねーねーさっきのウェイターさん、ちょっとかっこよくなかった?」 「結構美形だったよね~でも私達と同年代くらいに見えたけど・・・。」 「この前まではあんな店員さんいなかったよね。」 「新人さんかな?」 という会話が、来店する女性の間で評判の的にされていた事でもある。 そして来店した女性がその事を広め、一度見てみようと来る。というわけである。 そして閉店時間。 「お疲れ様でした~。」 スタッフのみんながそれぞれ帰宅する。 「お疲れ様です~。」 キラはモップを持って店内の掃除をしようとした。 「キラ君、ちょっといいかな。」 カウンター越しから士郎がキラを呼ぶ。 「はい、何ですか?」 返事をしながらカウンターへ小走りで行く。 「もうすぐなのはの塾が終わる頃だから迎えに行ってやってくれないか?」 「僕がですか?」 「ああ、今日は恭也も美由希も迎えに行けないみたいなんだ。」 「でも僕場所を知らないんですけど・・・。」 「ああ、それなら大丈夫。」 ゴソゴソと引き出しから一枚の紙を出してくる。 それには塾までの行き先が書いてあった。しかも分かりやすく、目印になるものとかも記載されてあった。 「これを使ってくれればいいから。」 「わかりました。」 「帰りはそのまま家に帰ってくれればいいから。閉店作業は俺達でやっておくよ。」 「はい。それじゃ、行ってきます。」 地図を見ながら夜の街を進むキラ。 「えーと、この次の角を曲がって・・・。」 きっちり地図に従って移動する。 「200メートル先・・・あれか。」 目的地が見えてきた。すると建物のドアからぞろぞろと子供達が出てきた。どうやら丁度終わった所なのだろう。 「あ、なのはちゃん。」 出てくる子供達の中になのはの姿を見つける。見ると他の女の子と三人で楽しそうに会話している。 (・・・友達かな。) すると、キラに気付いたのか、なのはがこっちに近づいてくる。 「あれ?キラ君、どうしたの?」 「なのはちゃんのお迎えに行ってくれって、士郎さんに頼まれたんだ。」 「そうなんだ。」 「なのは、その人誰?」 黄色の髪の女の子がなのはに問いかける。 「あ、アリサちゃん。この人が学校で言ったウチに住み込みで働いてるキラ君だよ。」 「初めまして、キラ・ヤマトです。」 「あ、どうも初めまして、なのはの友達のアリサ・バニングスです。」 「初めまして、月村すずかです。」 黄色の髪と藍色の髪の女の子が丁寧に挨拶してくる。 「えと、キラさん、記憶喪失だって聞いたんですが・・・。」 アリサがキラに聞いてくる。 「・・・うん、まぁそうかな。」 「何か思い出せることって無いんですか?」 次はすずかが聞いてくる。 「・・・ごめん、今はまだ何も。」 そういってキラは首を横に振る。 「そうなんですか・・・。」 「早く戻るといいですね。」 二人の心遣いは嬉しかった。けれども、元々この世界の人間ではないキラにこの世界での記憶などないのだから。 「・・・うん、ありがとう。」 「それじゃ、あたし達はお迎えの車があるので、キラさん、しっかりなのはをエスコートしてあげて下さいね!」 「あ、うん。それはもちろん。」 「それじゃなのはちゃん、また明日ね。」 「うん、アリサちゃん、すずかちゃん、また明日~。」 そういって二人は車に乗って、キラが来た方向と反対側に走っていく。 「それじゃ、帰ろうか。」 「うんっ。」 車を見送った二人は高町家へと帰路に着く。 「あれ?今日はアルフが訓練の相手なのか?」 アスランは目が覚めてから訓練場に行くとそこにはアルフのみがいた。 「ああ、フェイトは別次元だよ。」 「ひょっとしてジュエルシードの反応があったのか?」 「ああ。」 「俺は行かなくていいのか?」 「あんたはここでイージスの最終調整だよ。最終訓練は模擬戦闘。」 そういってアルフの足元に魔方陣が描かれ、アスランとの間に複数の魔方陣が発動する。 「この傀儡兵、まず5体と戦ってもらうよ。」 「わかった。」 「じゃ・・・始め!!」 アルフの声に反応した傀儡兵がそれぞれ動き始める。 「イージス!」 『サーベルシフト、レフト&ライトアームズ』 イージスの声がすると、アスランの両方の篭手から魔力で形成された黄色い刃が発現する。 「はあああああっ!!!」 正面から来る傀儡兵の剣を左手のシールドで受け流して、右手のサーベルで左から右への横一線に薙ぐ。 (まず一体!) 真っ二つになった正面の傀儡兵から両方から来る傀儡兵へと視線を向ける。 (挟み撃ちか!) 避ける暇も無く、両方の剣を両手のサーベルで受け止める。 「く・・・!」 ギギギギ・・・と両方から押し込まれるアスラン。だが、 ふっと両手の力を抜き、バックステップをする。 急に力を抜かれたせいで傀儡兵は衝突し一瞬動きが止まる。 そして腰に下げたライフルを右手に持ち、正面の二体の頭に打ち込む。 (三体!) 数を頭に確認、認識して次のターゲットを視線で追う。 すると、視線で追った傀儡兵はすでにアスランをロックオンしていた。 『ファイア。』 放たれる魔力弾。直線状だったのでアスランは左手のシールドを掲げて防ぐ。 『ファイア。』 続けて放たれる魔力弾。アスランは標的にならないよう、回避に専念する。 そして反対側に回り込み、向こうが振り返る前にシールドを投げ飛ばし顔面を潰す。 振り返り最後の標的に視線を向けるアスラン。 傀儡兵はアスランが向かってくるのを確認すると左手の銃口を向ける。 魔力弾の連射速度は中々速く、こちらがライフルを構えてロック出来るほどの隙もない。 放たれる魔力弾をギリギリの距離で避け、真っ直ぐに突っ込んでいくアスラン。 シールドはさっきの傀儡兵に投げたせいで防御はできない。 (ならば、懐に入り込む!) 除々に距離を詰めるアスラン。弾が効かないのを悟った傀儡兵は左手の銃を捨て、両手に剣を構えアスランへと向かっていく。 先に動いたのは傀儡兵の方だった。両手の剣を大きく振り下ろす。 それを両手のサーベルで受け止めるが、かなりの重心がかかっていた。 「こ・・・の・・・イージス!!」 『サーベルシフト、レフト&ライトレッグス』 アスランの両足の靴の先から手の甲と同じ魔力刃が形成される。 両手の力を込めて、傀儡兵の剣を自分の両端に受け流す。 そして、右足に力を込め、アスランは地面を蹴る。 「こんのおおおおっ!!!」 そのまま右足のサーベルで傀儡兵を真っ二つにし、オーベーヘッドの要領で着地する。 そして両手と両足のサーベルが消え、ふうとアスランが一息つく。 「はい、ご~か~く。」 アルフがパチパチと拍手する。 「で、次は?」 「お?」 「まだあるんだろう。さっき「まず」って言ってたからな。」 「休憩はいらないのかい?」 アスランはさっき投げたシールドを拾い上げ、左手に装着する。 「構わない、続けよう。」 「わかったよ・・・それじゃ、最後はこいつだ!」 アルフは一際大きな魔方陣を描き、そこから出てくる傀儡兵。 だが、先程まで戦っていた傀儡兵とは大きさが違う、約数倍以上の大きさだ。 「こいつはちょっと手強いよ!」 大きさの割にはそこそこ素早い速度でアスランに接近する傀儡兵。 だが、動きのモーションが大きいので見切った動きで回避するアスラン。 「デカイ割にはそこそこ早いな。」 そして飛翔し、後ろに回りこみ、ライフルを構えて、トリガーを引く。 銃口から放たれる魔力弾が傀儡兵に当たって終わり・・・のはずが。 「弾かれた!?」 確かに命中はしたのだが、貫通どころか傷一つついていなかった。 「そう、こいつは装甲が並の奴とはケタ違いに硬いんだ。」 アルフが淡々と言う。 「・・・だったら、イージス!!」 『サーベルシフト、レフト&ライトアームズ』 両手に魔力刃を展開し、向かってくる攻撃を回避し、右手の刃を胴体へと向けたが、 刃は斬れる事なく、右手は止まってしまった。 「・・・これでもだめか。」 ならば。 近接していた距離を大幅にとり、アスランは空中で魔方陣を展開する。 「イージス!」 『スキュラ、展開。』 アスランが正面に掲げた右手の前に魔方陣が展開、魔力が凝縮する。その先には・・・傀儡兵。 「はぁぁぁぁっ!!!」 『バースト。』 ドオンッ!といった擬音の後、高密度の魔力波が傀儡兵の胴体を貫通する。 そして傀儡兵が沈黙したのを確認すると、着地し、バリアジャケットを解除する。 「これでいいのか?」 「・・・文句無し、合格だよ。」 アルフが満足そうに言う。 これで、フェイトも喜ぶだろう。と思っていた。 そして、あの女も・・・と。 そして日曜日の朝。 高町家、リビングにて。 「おはよう、なのはちゃん。」 階段から降りてきたなのはに朝の挨拶をするキラ。 「ふぁ~キラくん・・・おふぁよぉ~。」 返事はするものの、まだ寝ぼけ眼ななのは。 「あはは、凄い寝癖だよ。」 見ると、色々な方向へ髪が曲がっていた。 「ふぇ~、洗面所にいってきます~。」 たったったっと洗面所に向かうなのは。 「ユーノも、ご飯だよ~。」 キラが二階に向かって声を出すと、その声に反応してユーノが降りてくる。 そして用意されたユーノ専用の器の中のご飯を食べる。 「・・・そういえば、君が僕を見つけてくれたんだったよね。」 なのはから後で聞いた話で、キラを最初に見つけたのはユーノだという。 「・・・ありがとう。」 キラは微笑みながらユーノの頭を撫でる。 「それじゃ今日はキラ君、お休みなんだ。」 「うん、そうみたいなんだけど・・・。」 お休みと言われても、やる事が皆無に等しい。 この街の事はまだよくわからないし、友達もいない。 「これといってすることもないから、散歩でもしようかな。」 「散歩って・・・キラ君おじいちゃんみたい。」 「おじっ・・・。」 なのはの言葉に少しショックを受けたようだ。 (16歳で・・・おじいちゃん・・・。) 「あ、それじゃキラ君も一緒に行かない?」 「え、何処に?」 「今日、お昼からすずかちゃんの家にお呼ばれしてるんだけど、キラ君も一緒に行こうよ。」 「すずかちゃんって、この間の塾の時に一緒にいた友達?」 「うん、そうだよ。」 キラはこの間迎えに言った時に出会ったなのはの友達を思い出した。 「で、でも僕なんかが行っても邪魔になるだけだよ・・・。」 「大丈夫だよ、元々その時に紹介しようと思っていたんだし。」 「い、いいのかな・・・。」 「私、電話で聞いてみるね~。」 たったったっと電話機の方へ向かうなのは。 そして5分後。 「OKだって~。」 「いいんだ・・・。」 「それじゃ準備しててね~。」 そしてお昼過ぎにキラとなのははバスで月村家へと向かった。 本当ならなのはの兄恭也も一緒に行くはずだったのだが、 高町家を出る前に、すずかの姉の忍が迎えに来て、二人でどこかに行ってしまった。 なので、二人で向かうことになってしまった。 そうこうしてる間にバスは目的地に着き、降りて少し歩くと月村家へと到着する。 「・・・大きい、家、だね。」 目の前に広がる豪邸に唖然とするキラ。 「何度見ても凄いよね~。」 もう何度か見て慣れているなのはでもやはりこの大きさはすごいんだろう。 ピンポーンとインターホンを押す。 すると、中から一人の女性が出てきた。 「なのはお嬢様、いらっしゃいませ。」 ニコッと笑う、メイドの格好をした女性は挨拶を交わす。 (メ、メイドさん・・・。) キラは心の中で驚きを隠せなかった。何せ生まれてこの方メイドなんて始めて見たのだから。 「こんにちわ~。」 「なのはお嬢様、こちらの方は・・・?」 「電話で言ってたキラ・ヤマト君です。」 「は、初めまして、キラ・ヤマトです。この度は、お招き頂きありがとうございます。」 緊張しているのか若干声が上ずっているキラ。 「初めまして、キラ様。私はこの月村家でメイド長をしております、ノエルと申します。」 「あ、はい。よろしくお願いします、ノエルさん。」 「それではこちらへどうぞ。」 ノエルに案内された先には一つのテーブルがあり、先客がいた。 「なのはちゃん、キラさん。」 「すずかちゃん。」 「なのはちゃん、いらっしゃい。」 すずかの向こうにいた声の主に視線を送るキラ。 するとそこにはもう一人メイドさんがいた。 そして視線が交差する。 「えと、そちらの方は・・・?」 「あ、えと・・・。」 「ほら、この間言った、なのはちゃん家でお世話になってるキラさんだよ。」 「初めまして、キラ・ヤマトです。」 「あ、どうも。初めまして、私はこの月村家ですずかちゃんの専属メイドをしている、ファリンといいます。」 「それではお茶をご用意致します。なのはお嬢様は何がよろしいですか?」 「えーと・・・おまかせします。」 「キラ様は?」 「え?あ、じゃあ僕もお任せで・・・。」 「かしこまりました。ファリン。」 「はい、了解しました、お姉さま。」 返事と共に敬礼のようなポージングをするファリン。そして部屋を出て行くノエルとファリン。 テーブルの前にある空席に座るなのはとキラ。 「なのは、キラさん、おはようございます。」 「おはよ~。」 「おはよう、えと、アリサちゃん、でよかったかな?」 「はい。あたしの名前覚えててくれてたんですね。」 「まぁ、この間会ったばかりだし。すずかちゃんも今日はありがとう。」 「あ、いえそんな・・・。」 「あれから、何か思い出せそうですか?」 アリサが聞いてくるが、その質問にはもう答えは一つしか出ない。 「・・・ごめん、まだ何も。」 「そーですか・・・。」 「そういえば、今は翠屋で住み込みで働いているんですよね?」 すずかが暗くなりそうな流れを断ち切るかのごとく、質問を変える。 「うん、今日はお休みだけど、ウェイターをやらせてもらってるよ。」 「お仕事どうですか?」 「最初は大変だったけど、慣れれば何とか。最初はレジの打ち方とかメニューの略し方とかが覚えるのが大変だったかな。」 「へ~。」 アリサが興味深々な顔で話を聞いている。 「そういえば、今日は誘ってくれてありがとう。」 なのはがアリサとすずかの両方に視線を向けて言う。 「こっちこそ、来てくれてありがとう。」 「・・・今日は、元気そうね。」 「えっ?」 アリサの言葉に驚くなのは。 「・・・なのはちゃん、最近少し元気なかったから・・・もし何か心配事があるのなら、話してくれないかなって、二人で話してたんだよ。」 すずかの言葉にさらに驚くなのは。 「すずかちゃん・・・アリサちゃん・・・。」 なのはが視線をすずかからアリサへ向けると、アリサは微笑みながら視線を返した。 それを見ていたキラは、友達が友達を心配するという当たり前な事に喜びを感じていた。 「・・・友達・・・か。」 友達という言葉はキラにひどく重く圧し掛かる。 「きゅい~~~!!」「ふぇ?」 悲鳴の方向を見ると、ユーノが一匹の猫に追いかけられていた。 「きゅ、きゅ、きゅ、きゅ、きゅ~~~!!」「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ~~~!!」 「あ、ユーノ君!?」「あ、ダメだよ!」 なのはとすずかの言葉は届くことなく、二匹の追いかけあいは止まらない。 そして、そんな時に。 「は~いお待たせしました~。イチゴミルクティーとクリームチーズクッキーで~す。」 ドアの向こうからファリンが帰ってきた。両手にお盆を持って。 そしてその足元で、二匹の攻防戦が始まる。 「きゅ、きゅ、きゅ、きゅ、きゅ~~~!!」「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ~~~!!」 「あわ、うわ、あわわわ、うわわわ。」 最初はバランスを保っていたファリンだったが、次第にくるくる回る内に・・・。 「わわわわ~~~~~。」 目を回してしまい、ついには倒れそうになり、 「ファリン、危ない!!」 すずかの声も空しく、ファリンの体が後ろに倒れそうになった。 ガシャンと響く音。目を瞑る三人。だが、 「・・・ギリギリセーフ、かな。」 三人が次に目を開けると、ファリンの体を支えながら、片手でお盆を持っているキラの姿があった。 おそらく瞬時にそこまで駆け出して、左手でファリンの体を支えつつ、右手でお盆の中心を手の平で乗せていたのだろう。 「・・・ふぇ?あ、ああああ、す、すみません!!キラ様~~!!」 ようやく正気に戻り、キラから離れるファリン。 「・・・あなたは何をやっているのですか、ファリン。」 後ろから冷たい声で言うノエル。 「それより、大丈夫ですか?ファリンさん。」 「え?あ、はい。大丈夫です。すみません、ありがとうございます、キラ様。」 ペコと頭を下げるファリン。 「あ、いや、とっさに体が動いただけなので。」 「ありがとうございます、キラ様。」 後ろから声をかけるノエル。 「あ、いや、そんな。」 お礼を双方から言われて照れるキラ。 「でも、すごかったよね~キラさん。」 「うん。」 アリサとすずかが驚きと羨望の眼差しでキラを見つめる。 「こちらは、キラ様の分のハーブティーになります。」 「ありがとうございます、ノエルさん。」 「・・・キラ様は何かスポーツでもされていたのでしょうか?」 「え?」 「いえ、先程の動き。かなり無駄の無い動きでしたので、何か運動でもされていたのかと・・・。」 ノエルが冷静に先程のキラの行動を分析していた。 「・・・すいません、それもまだ思い出せないんです。」 キラはこの場は嘘をついてごまかす事にした。 「も、申し訳ございません、私とした事が・・・。」 ノエルが申し訳なさそうに頭を下げる。 「いえ、ノエルさんは悪くないですよ。ですから、頭を上げてください。」 「ですが・・・。」 「それに、記憶が戻る手掛かりになるかもしれません。そうすると僕がノエルさんにお礼を言わなくちゃいけないですよね。」 「キラ様・・・。」 「ありがとうございます、ノエルさん。」 ニコッと微笑むキラ。 「・・・ありがとうございます。キラ様。」 再度、頭を下げて顔を上げるノエル。 とりあえず何とかこの場をしのぐことが出来たキラ。 (このまま、嘘をつき続けるのは、もう無理だな・・・。) だが、本当の事を言ったところで誰も信じてくれるわけも無い。 自分がこの世界の人間じゃなく、別の世界の人間だなどと・・・。 「あれ?そういえばユーノ君は?」 なのはがキョロキョロと部屋の中を見回すが、何処にもいない。 「もしかして、まだ追いかけられてるんじゃないの?」 アリサがティーカップを置く。 「・・・ちょ、ちょっと探してくるね。」 カタと椅子から立ち上がろうとするなのは。 「私達も探そうか?」 同じように椅子から立ち上がろうとするすずか。 「大丈夫。すぐに戻ってくるから待ってて。」 そういってなのはは部屋から小走りで出て行く。 瞬間。 「!!」 (なのは!) 突如ユーノから念話が頭に直接響く。 (ユーノ君、今のって・・・。) (うん。ジュエルシードの反応だ。屋敷の外まで出てきて!) (わかった!) なのはは屋敷の外を目指して走り出す。だが、その感覚に気付いた者は一人ではなかった。 (何だろう、今の不思議な感覚は・・・?) 屋敷の扉を開けて外に飛び出すなのは。 (なのは、こっち!) 外にいたユーノはなのはを先導するように走り出す。 (反応があったのはこっちの林の方だよ!) たったったっと林の方へ向かうなのはとユーノ。 (この辺のはずなんだけど・・・ここじゃ人目が・・・結界を作らなきゃ。) 「結界?」 「最初に会った時と同じ空間だよ。魔法効果が生じてる空間と、通常空間との時間進行をずらすの。 僕も少しは・・・得意な魔法。」 ユーノは目を閉じ、目の前に魔方陣を展開する。 「あまり広い空間は引き取れないけど、この屋敷付近くらいなら、なんとか!」 魔方陣が輝きだし、空間結界が発動する。目の前に光が生じ、その光が消えると・・・。 「にゃ~お。」 「・・・・・・へ?」 「・・・・・・お。」 なのはとユーノは凍結したように凍りついた。 その光の中から出てきたのは、先程までユーノを追い回していた猫なのだから。 「にゃ~お。」 ずん、ずん、と前進する猫。もはやその足音はすでに象クラスである。 「あ、あ・・・あ、あれは・・・?」 あいた口が塞がらない状態のまま言葉を発するなのは。 「た、多分、あの猫の大きくなりたいっていう思いが正しく叶えられたんじゃないのかなぁ・・・。」 「そ、そっかぁ・・・。」 「だけど、このままじゃ危険だから、元に戻さないと。」 「そ、そうだね。流石にあのサイズだと、すずかちゃんも困っちゃうだろうし。」 いや、困るとかそういう問題でもないような気がするんですが。 「・・・とりあえず襲ってくる様子もないみたいだし、ささっと封印を・・・。」 懐に手を入れて、首に下げてあるレイジングハートを取り出す。 「じゃ、レイジングハート。」ビュウン!! なのはが言葉を発している最中、後方より黄色の魔力弾が眼前の猫に命中する。 「にゃああ・・・。」 はっと後ろを振り返るなのは。 その視線の先には、一人の少女が電柱の上で立っていた。 「バルディッシュ。フォトンランサー、連撃。」 『フォトンランサー、フルオートファイア。』 少女が無表情に言葉を放つと、少女の持っている黒い斧からも電子音のような声が発せられ、 斧の先に雷撃のような塊が発生し、そこから無数の光の矢が猫目掛けて発射される。 「にゃおお・・・うにゃああ・・・。」 全段命中。猫は溜まらず怯んでしまう。 「な!?魔法の光・・・そんな・・・。」 少女の魔法に驚きを隠せないユーノ。 「レイジングハート、お願い!!」 『Stand by ready setup.』 なのははバリアジャケットを装着し、レイジングハートもデバイスモードへと変化する。 『フライヤーフォン。』 なのはの両足に桃色の小さな翼が生える。 そして地面を蹴り、猫の元へ飛ぶ。 後方より先程の魔法矢が無数に向かってくる。 振り返るなのは。レイジングハートを正面に構え、 『プロテクション。』 防御魔法を展開し、矢を消滅させていく。 「?・・・魔導師。」 少女は特に驚いた様子もなく、ただ無表情に矢を放つ。 だが、先程と違って若干狙いをずらし、猫の足元を狙った。 足元を狙われた猫はバランスを崩し、横転する。 そして、対峙する二人の魔術師の少女。 「同系の魔導師・・・ロストロギアの探索者か。」 「!!」 「間違いない・・・僕と同じ世界の住人・・・そしてこの子、ジュエルシードの正体を・・・?」 チラと少女が視線をレイジングハートへと向ける。 「バルディッシュと同様、インテリジェントデバイス・・・。」 そしてなのはも視線を上げ、少女の持つデバイスへと視線を向ける。 「バル、ディッシュ・・・?」 「ロストロギア、ジュエルシード。」 『サイズフォーム、セットアップ。』 デバイスの声の後、バルディッシュの先端から魔力刃が形成され、鎌のような状態へと変化し、両手に構える少女。 「申し訳ないけど、頂いて行きます。」 そして、少女は目の前の敵を排除する為に向かっていく。 キラは困惑していた。 たまたまお手洗いを借りている時に、感じた奇妙な感覚。 「・・・これは・・・?」 周りの空間との認識の違い。一体何が起きているのだろうか。 とりあえず外に出てみよう。そう思い玄関をくぐるキラ。 「これがこっちの世界での部屋か・・・。」 アスランは訓練の後、アルフと共に探索世界に来ていた。 「まあ最終訓練も問題なくクリアしたから、あんたもこっちで暮らす事になるだろうね。」 「そうか。・・・ところで、フェイトはまだ帰ってこないのか?」 「まあ、問題ないとは思うけどね。何ていったってあたしのご主人様だし♪」 「はは・・・まあ何もないとは思うが・・・一応向かえに行って来るよ。」 「ええ?大丈夫かい?」 「ああ、この世界に俺を知っている奴などいない。・・・それに。」 「?」 「俺がこっちにきた事をいきなり教えてフェイトを驚かせてやりたいしな。」 そういってアスランはバリアジャケットを装着し、ドアをくぐる。 なのはと少女の戦いはすでに終わっていた。 実力の差があまりにもあり過ぎたのだ。 なのはは確かに素質と魔力量は天才的なのだが、何分実践経験が少ない。 それに初めての魔導師同士の戦いは、どうみてもなのはに不利だ。 それに比べて、あの少女は戦い慣れしているのだろう。どうみてもほとんど本気すら出していない。 落下してくるなのはを浮遊魔法で何とかギリギリ助ける事が出来たユーノだったが、 ジュエルシードを回収した少女がこちらを見ている。 (せめてなのはだけでも・・・。)と思っていたが、今の自分に打つ手などない。 どうする・・・?と思考を巡らせていたユーノだったが。 少女は振り返り、歩き始めた。 (見逃してくれたのか・・・?)ホッと一息ついたユーノ。 だが、 林の向こうから人が出てくる。 「アスランさん・・・!」 「最終訓練は終了したぞ、フェイト。これからは俺もジュエルシードの探索に協力させてもらうからな。」 林の向こうから出てきた人物はどうやら少女の味方のようであった。 状況一転、ユーノは気を引き締め直した。 「フェイト、あの子は・・・?」 アスランと呼ばれた青年が気絶し横たわっているなのはに視線を向ける。 「私達と同じ魔導師。ジュエルシードの探索者みたい。」 「・・・殺したのか?」 アスランの問いにフェイトは首を横に振る。 「気絶しているだけ。怪我はしているかもしれない。」 その言葉を聞いてアスランは安心した。 「それより、早くここから離れよう。」 「ああ、そうだな。」 キラは外に出て、林の中を入っていく。 まるで何かに吸い寄せられるように・・・。 「・・・・・・あれ?」 何かが、キラの視界に入った。 それを認識するまで数瞬必要としたが、それを頭が認識した瞬間、体が駆け出していた。 「・・・誰か来る!」 「ひとまず隠れよう!」 さっと林の影に隠れるフェイトとアスラン。 (・・・え?) 林の奥から来た人物に驚きを隠せないユーノ。 「・・・なのはちゃん!?」 走ってきたその人は、キラ・ヤマトだったのだ。 (どうしてこの人が結界内で・・・。) ユーノが驚いているその横で、キラはなのはを抱き起こす。 「なのはちゃん!なのはちゃん!!」 呼吸の確認、心臓の動作、外見の外傷等確認して、気絶しているだけだと分かり、安堵する。 「よかった・・・でも、どうしてこんなところで気絶してるんだ・・・それにこの格好・・・。」 キラが思考していたその瞬間。 背後から迫る気配に体が反応し、左へとステップする。 すると自分がいた場所に背後から誰かが現れ、キラは思わずその人物に向かって殴りかかっていた。 だが、キラの攻撃もあっさりバックステップでかわされる。 かわされて体勢を崩しそうになったが、ちゃんと踏み出した足を地につけ、かわした奴を目で追う。 そして、お互いの視線が、お互いの顔を確認、認識する。 「・・・ア、ス、ラン・・・?」 「・・・キ、ラ・・・?」
https://w.atwiki.jp/togazakura/pages/302.html
ここでは、魔法少女リリカルなのは(ファーストシリーズ)の用語を説明します ロストロギア ジュエルシード プロジェクトF(またはF計画) 傀儡兵(くぐつへい) アルハザード 亜空間 海鳴市 翠屋 魔法少女リリカルなのは (TOPへ戻る
https://w.atwiki.jp/trinanoss/pages/201.html
彼らは、ほとんど同じ境遇にあった。奇妙なことだが、文字通り世界を跨いだ先で、似たような状況に陥っていたのだ。 身も凍るような寒さは、間違いなく彼らの身体から自由を奪っていた。捕虜として最低限度の人間の扱いはされているが、指先は軽い凍傷のような症状を見せていた。食事はパンとスープのみが いつもの献立で、まれに出てくる乾燥された肉や少しばかりの野菜がひどく贅沢な一品のように思えたほどだ。餓死しない程度の、そういう食事だった。 常人なら、とっくに音を上げて降参しているところだろう。不思議なことに、彼らを捕らえた敵の者たちは、本来敵対すべき者同士であるのに、彼らにそれぞれ、似通ったような要求を突きつけ てきた。 片方の要求は「管理局の全軍に、地球への侵攻命令を出せ」というものだった。現状、時空管理局はミッドチルダ臨海空港での虐殺テロに端を発したアメリカへの報復強行派に主導権を握られて おり、しかし彼らの行き過ぎた行動は各地で反発の声を招いていた。そこで彼らは、捕らえた提督である『彼』に、自身の名で侵攻命令を出せと言うのだ。虐殺テロにまだアメリカの手によるもの だったのか疑問が残るとして報復には慎重だった一派の中でも、特に高い階級を持つ『彼』までもが報復にGOサインを出せば、全軍も従うだろうと考えたのだろう。 もう片方の要求は、「西側諸国の各国軍隊の兵士に対し、自分たちの戦争犯罪を認めるよう言え」というものだった。祖国であるはずのロシアを追われ、次元世界を漂流する身となった超国家主 義者たちは、何とかして自分たちを流浪の民へと追いやった地球の西側諸国にダメージを与えようと考えていた。こちらの『彼』は歴戦の軍人であり、出身国の英国は元より米軍でも上層部にその 名を知る者は多い。その『彼』が超国家主義者たちの要求に屈したとなれば、西側諸国の特殊作戦の指揮官たちは少なからずショックを受けるだろう。ついに『彼』までもが、超国家主義者たちの 手に堕ちたのだと。 だが、どちらの敵も、大きな過ちを放置していたことに、気付く様子はなかった。例え動きを封じられようと、苛酷な環境に放り込まれようと、彼らは歴戦の戦士だった。目的のためなら泥水を すすり、草の根を噛んでも生き延びる。そういう人種だったのだ。檻に入れ、武装した兵士の手で監視したところで、彼らの心が折れることはない。 椅子に縛り付けられ、手首に食い込む手錠の痛みに耐えながら、彼らはじっと、待っていた。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第10話 The Gulag / 脱出 後編 SIDE Task Force141 五日目 0757 ロシア ペトロパブロフスク ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 人間が、飛び出してきた標的に対して銃を構え、狙いをつけ、引き金を引いて撃つと言う一連の動作を終えるのに、何秒かかるかご存知だろうか。正解は、平均で四秒と言われている。つまり、 この理論に従うのであれば、身を守る遮蔽物から遮蔽物に移動する際、四秒よりも早く辿り着ければ、撃たれないで済むと言う事だ。逆もまた然りであり、四秒よりも早く照準し、射撃すれば狙っ た標的を遮蔽物に隠れる前に撃てることになる。特殊部隊に属する兵士たちは射撃にもっとも訓練の時間を費やすのは、以上のような理由があってのことだろう。 もっとも、遮蔽物が無い、と言うような状況となれば話はまた別である。ローチたちTask Force141は、まさにそういった状況下に放り込まれていた。 「ローチ、左から来る! 撃ちまくれ、迎撃しろ!」 マクダヴィッシュ大尉の指示が飛ぶ。ローチは狭い武器庫の中、M4A1を構えて左を向いた。渡り廊下の向こう側、空になった独房の前を何人もの敵兵たちが進んでいる。間もなくそれぞれ配置に 就いて、こちらに対する銃撃を開始するに違いない。冗談じゃない、こっちは身を隠す遮蔽物なんてほとんど無いぞ。 銃口を敵に向けて、照準もそこそこに引き金を引く。M4A1の、五.五六ミリ弾が火を吹いて放たれ、敵兵たちのうち何人かを薙ぎ払うかのようにして撃ち倒す。それでもローチの銃撃を生き延び た敵兵たちは前進を続け、武器庫に立て篭もるTask Force141を取り囲むようにして布陣。隊は必死の抵抗を試みるが、敵は数的有利にあった。たちまち、銃声と跳弾の火花が空間を支配する。 うわ、あち、畜生。被弾していないのが不思議だった。悲鳴を上げながらでも、ローチは頼りない武器庫の小さな物陰に身を寄せ、近くにひっくり返っていたAK-47を拾い上げた。銃口だけを武器 庫の外に向けて、出鱈目に引き金を引く。AK-47は本来の持ち主である超国家主義者たちの手先に向けて火を吹き、弾を撒き散らした。カチン、と機械音が鳴ったところで銃を引っ込め、マガジン交 換はしないでまた新たに転がっていたAK-47を拾い、同じように撃つ。どれほど意味があるかは分からなかったが、まったくの無抵抗では敵の包囲は破れない。 「ゴースト、早く開けろ!」 同じように遮蔽物に身を寄せて銃撃を凌ぐマクダヴィッシュが、通信機に怒鳴っていた。武器庫は現在、封鎖されている。扉のロックさえ解除できれば、部隊は渡り廊下を渡って敵の布陣する独 房の前にまで移動できる。そこまで行けば、今は包囲するようにして攻撃してくる超国家主義者たちも迂闊に撃てなくなるはずだ。 ところが、先ほどから武器庫と渡り廊下を繋ぐ扉は中途半端な位置で開くのを固辞していた。前進も出来ず、後退も出来ない。 「ちょいとお待ちを…くそ、このシステムは化石かよ。古すぎるぜ!」 決して、今は監視制御室にいるTask Force141の副官ゴーストも遊んでいる訳ではない。彼は古びた監視システムを、それもロシア語で描かれたものを前に悪戦苦闘しながらどうにかして武器庫の 扉を開こうと努力していた。 マカロフが憎み、そして恐れるという囚人627号は、この収容所に捕らえられている。本来ならロシア政府の手で早々と特定され解放されるはずだったのだが、超国家主義者たちが先回りして収容 所を占拠した。Task Force141は囚人627号の確保のため収容所を襲撃し、今はこうして地下にまで潜っている。ゴーストが監視制御室に入って履歴を当たったところ、囚人627号は東の独房に移送さ れたと言う事実が判明し、隊は現在近道である武器庫を通って目的地を目指していた。そこに敵が押し寄せてきたのだ。 銃撃が激しさを増す。ローチが盾にしていたコンテナに弾が当たって、いよいよ駄目になる。代わりの遮蔽物を、と言っても周囲にそんなものはなかった。M4A1を銃口だけ突き出して引き金を 引き、抵抗を試みるがやはり敵の勢いは止まらない。くそ、せめて遮蔽物がもう少しあれば。 ふと、彼は武器庫の中にある人物の姿がないことに気付く。ティーダ・ランスター、ミッドチルダ出身の魔法使い。あいつどこ行ったんだ、まさかもうやられたのか。地面に這いつくばって、銃 弾の雨を必死の思いで潜り抜けながらティーダを探すと、いきなり目の前にドンッと、盾が置かれた。視線を上げれば、目的の人物がそこにいた。ティーダだ。盾など持って何をしている。 「遮蔽物が足りないんだろ!」 ティーダは足元で伏せているローチの視線に気付き、彼の抱いていた疑問に怒鳴って答えた。魔導師が持ち出したのは、ただの盾ではない。ライオットシールドと呼ばれる類のこの透明な盾は、 透明という見た目の割りに拳銃や短機関銃程度の弾なら防ぐ機能を持つ。そうだ、ここは武器庫。ライオットシールドが転がっていても、なんら不思議ではない。 「お前防御の魔法とか持ってないのか、バリアとかそういう便利なものは!」 「俺は当たらなきゃどうってことはない主義でよ」 なんだよ、魔法使いの癖に――そうはいっても、ティーダの持ち出したライオットシールドは、間違いなく効果を上げていた。武器庫内に降り注ぐ銃弾が、透明の盾によって明らかに弾き返され ているのだ。敵が狭い屋内ゆえに銃火器を短機関銃ばかり選択していたのも幸いした。魔導師の行動が呼び水となって、Task Force141はシールドで即席の防御陣地を築いていく。 せーの、と戦友との共同作業で決して軽くはないライオットシールドを重ねたローチは、ようやくM4A1を普通に構えた。飛び交う敵弾が盾を叩き、表面にひび割れが走るが、怖がってもいられな い。重ねたシールドの隙間から銃口を突き出し、ダットサイトに捉えた敵兵を撃つ。反撃開始、照準の向こうで敵がひっくり返る。 遮蔽物を得たことで、苦境に立たされていたTask Force141は息を吹き返した。マクダヴィッシュは片手で撃てるMP5Kを右手に、ライオットシールドを左手に持って敵弾を弾きながら移動し銃撃 し、ローチたちも続く。ティーダの拳銃型デバイスから放たれた魔力弾は正確に目標を射抜き、超国家主義者たちを蹴散らしていった。 ようやく敵の勢いが陰りを見せたところで、突如、武器庫の扉が開かれた。ゴーストからの通信が入る。 「やりました、大尉! 扉がオープンです!」 「よくやった、ゴースト! 分隊、武器庫から出るぞ!」 監視制御室のゴーストは、化石並みに古い監視システムをようやく操れたようだ。マクダヴィッシュが歓喜の声を上げて、ただちに自身が先頭に立って渡り廊下に出る。ライオットシールドはこ こでも威力を発揮した。突進する分隊指揮官は戦車のように銃弾を弾きながら突き進み、あろうことか渡り廊下から繋がる独房への入り口にいた敵兵をドッと盾で殴り飛ばした。映画の『300』み たいだ、とローチの思考の片隅に雑念が走る。スパルタの兵士が、鍛え抜かれた肉体を駆使して盾で押し迫る敵を薙ぎ払ったように。 もっとも俺たちはスパルタ兵でもないし、得物だって槍とは違うが――雑念を捨てるようにして、空になったマガジンをチェストリグのマガジンポーチに突っ込む。弾の入ったマガジンを持ち出 して、M4A1に突っ込む。息を吹き返す銃は、再び火を吹く。包囲網さえ突破してしまえばこっちのものだった。 最後の敵兵を撃ち倒したところで、Task Force141は独房の中を見て回った。誰かが最近までいた様子はない。やはり、囚人627号は別の独房のようだ。 「ゴーストです。大尉、囚人627号の詳細な位置が判明しました。隔離独房のようです。そこからロープで地下に降りてください、それが一番近い」 「監視カメラで様子を探れないか?」 「無理です、電源が落ちてます」 通信を終えたマクダヴィッシュが、分隊に暗視ゴーグルを出せと指示を下す。地下の隔離独房はおそらく暗い。真っ暗闇の中をさ迷い歩くような真似は誰だってしたくないだろう。 「ティーダ、お前暗視ゴーグルは…」 「そんなロボコップみたいになる代物いらないよ。俺は魔法使いだぜ」 念のため予備を持ってきたのだが、ローチの差し出した暗視ゴールの受け取りをティーダは拒否した。それから格好つけるように目元を叩いてウインクなんかしやがった。何だ、こいつ。さっき は盾を持ち出して物理的に防御を図ったのに。 とは言え、魔導師が暗闇でも見えるのは本当のようだった。ロープを引っ掛けて降下した先はまさしく暗闇そのもののようだが、彼は躊躇なく、Task Force141がみんなロープで降下していく最中 に一人だけ"飛び降りた"。着地も華麗に決めたのだから恐れ入る。まったく味方でよかった。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 五日目 1200 第四一管理世界"キャスノー" ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 果たして偶然か否か、味方でよかったと思う兵士がここにも一人。雪と氷が支配する死の世界にある収容所にて、ポール・ジャクソンは走っていた。 周囲はすでに戦争でも始まったかのように騒然としており、警報が響き渡っている。時折駆け足で進む収容所の警備兵がいて、相当慌てている様子がすぐに伝わってきた。レーダー制御室に留ま って収容所内の様子を探るギャズの報告によると、司令室も事態の掌握が出来ておらず、未だに侵入者の存在に気付いていないらしい。突然のレーダーの電源ダウンも、故障と思われているようだ った。 まぁ、そうなるのもやむを得ないだろうな――サイレンサー装備のM4A1を手に持ち、防寒装備に身を包むジャクソンは一旦壁に張り付き、走ってきた傭兵たちをやり過ごす。傭兵たちは管理局の 武装隊の装備をしていたが、ジャクソンに気付かないあたり練度はあまり高いとは言えないのだろう。報復強行派の行き過ぎた行動は、明らかに人手不足を招いている。 練度が低いことばかりが問題ではなかった。たまに上空を見上げると、桜色の閃光と金の閃光が飛び交っていた。収容所のどこかから対空砲火らしい魔力弾が撃ち上げられているが、その数はあ まりに少なく貧弱だ。そうでなくとも、二つの閃光はまるでエースパイロットの駆る戦闘機のような機動を見せ、撃ってきた対空砲火に向けて砲撃魔法を叩き込んでいる。レーダーの無力化により 探知されることなく接近できた、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの二人だった。高練度の空戦魔導師が、辺境の世界の収容所に襲い掛かっている。 「派手にやるなぁ、おい」 ジャクソンに同行する黒人兵士グリッグが、上空で繰り広げられるワンサイドゲームを見て呟いた。これでも彼女らは敵の注意を引くのが目的のため、ずっと手加減しているのだという。確かに 凄い。こんな化け物みたいなエースを揃えて、機動六課準備室の室長こと八神はやてはいったい何をする気だったのか。世界を破滅を防ぐ? なるほど納得だ。どんな破滅の時も裸足で逃げ出すに 違いない。釣り合わないよな俺たちじゃ、とジャクソンはひっそりと苦笑いした。 しかし上を飛び回るエースのお嬢さんたちにも出来ないことはある――どう見ても、彼女らは目立っていた。雪の降る灰色の空であっては、桜色も金も目立つのだ。その点、彼らは優れていた。 なんと言っても、移動は徒歩であるから光を放ったりしない。 行くぞ、とジャクソンはグリッグに合図して進む。ギャズの寄越した情報により、目標の囚人627号の――皮肉にも、Task Force141が求める人物と同じ番号だ――居場所はこの先六五〇メートル にある政治犯、凶悪犯罪者を収容する独房だ。さすがにこちらの方は警備が緩いということもあるまい。敵の中にはそろそろ、こちらの目的を見抜く者がいてもいい。 銃を正面に向け、曲がり角では一旦壁に寄り添い、必ず敵の有無を確認してから進む。後方のグリッグは背後をカバーし、時折位置を入れ替えてジャクソンが後ろを見張る。 前進は途中までは順調だったが、何度目かの入れ替えでジャクソンが前に立った時、雪と霧の白い視界の奥に、黒く蠢く何かがいるのが見えた。隠れろ、と彼がグリッグに合図しかけたところで 白いカーテンの向こうから、警備用の傀儡兵が姿を見せる。人間サイズのいわば魔法で動くロボットだったが、こいつもこちらを視認したに違いない。機械音が鳴って、手にしていた魔法の杖、デバ イスを構えようとする――遅い。相手が傭兵ならともかく、傀儡兵を前にしたジャクソンの動きに躊躇いはなかった。踏み込み、M4A1の銃床で傀儡兵の頭を殴る。 衝撃を受けた傀儡兵は、頭部のセンサーが狂ってしまったのだろう。目標が目の前にいるというのに、デバイスから放つ魔力弾をあらぬ方向に撃ち上げてしまった。それでも姿勢を持ち直そうとす る。ジャクソンはM4A1の銃口を突きつけ、引き金を引いた。発砲、命中、貫通、破壊。今度こそ沈黙する傀儡兵。 まずいな――雪の地面に倒れるロボットを目の当たりにして、しかし兵士の顔は晴れない。傀儡兵は目標を発見すると、自動的に周囲の仲間にその位置を発信する。倒した傀儡兵が、どうかこちら の存在を発信する前に沈んでくれたことを祈るばかりだ。 前進を再開しようとして、突如、背後で声が上がった。グリッグだ。M240軽機関銃の発砲音が、同時に響く。 「コンタクト!」 ジャクソンが振り返る。予想は的中した。祈りは届かなかった。グリッグが叩き込む銃撃の先に、西洋の騎士のような甲冑を纏った傀儡兵たちがぞろぞろと集まり始めていた。機関銃の射撃を受け て次々と倒れていくが、奴らの取り柄は数だった。どこからともなく集まり始めて、二人の侵入者の包囲を始める。 どうする、こういう時は――迷うことはなかった。M4A1を正面に構えなおしたジャクソンは、グリッグに向けて言う。強行突破だ。 M4A1の引き金を引いて、銃撃。ダットサイトに捉えた傀儡兵は、それだけで倒れていく。対抗するように放たれる魔力弾が身を掠め飛ぶが、止まってはいられない。銃撃、前進。ガン・パレード。 至近距離に迫った傀儡兵を強引に殴り飛ばして、二人は進む。目的地の独房まで、あと三〇〇メートル。決して遠くはない。 そのはずは、突如として側面から浴びせかけられた魔力弾によって潰えた。足元の数センチ先に光の弾丸が弾けて飛び、たまらずジャクソンはたたらを踏んでブレーキし、無様に転ぶ。ただちに グリッグが助け起こし、目に付いたトラックの陰へと引きずり込んだ。その間にも魔力弾が浴びせかけられ、盾になるトラックはあっという間に穴だらけになっていく。被弾に恐れながらも様子を 伺うと、白く染まりがちな視界の向こうに人影が見えた。目を凝らせば、傀儡兵ではなく生きた人間、傭兵であることが分かる。こいつらはロボットとは違う。練度が低いと言っても、プログラム された通りの動きしか出来ない人形に比べればずっと、判断力も状況への対応力も持っていた。 人を撃つ。それ自体に、躊躇はもう無かった。あの娘は――彼らに射殺許可を出した八神はやては、そのくらいの覚悟を持ってジャクソンたちにこの任務を託した。それに応えねば、自分たちは 彼女の覚悟を無駄にすることになる。だが、問題はそうではなかった。生きた人間は彼らがトラックの陰から出てこないと見るや、回り込むような仕草を見せ始めた。 挟み撃ちは御免だな。そう思って彼らの行動の阻止にかかるジャクソンだったが、M4A1で少しばかり銃撃をしたところで、傭兵たちの動きは止まらなかった。傀儡兵が盾になっているのだ。グリ ッグが代わって機関銃の弾をありったけ叩き込むが、そうすると敵は一発に対して一〇発の勢いで撃ち返して来た。遮蔽物のトラックがあまりの被弾に揺れて、パンクした車体が車高を下げる。身 を守る盾が小さくなってしまい、たまらず二人の兵士は地面に這う。 「どうするジャクソン、この調子だと俺らも収容所に入るぞ。俺が囚人628だ、お前が629」 「何でお前の方が数字が若いんだ」 「そりゃお前、イカした男の順番ってことで」 ほざけ、"黒んぼ定食"でも食ってろ。こんな状況下でも、彼らは軽口を欠かさなかった。海兵隊は、諦めない。例え"元"であってもだ。 そんな二人の兵士に、救いの手が現れた。救いと言うほど、慈悲に満ちたものではなかったかもしれないが。傭兵たちの背後に突然、黒い影が現れて、彼らに襲い掛かった。 奇襲を受ける形となった傭兵たちは、なすすべも無かった。小柄な赤い影から振り上げられた鉄槌が一人を殴り飛ばし、もう一人に直撃。ボーリングのピンのようにして巻き添えを喰らい、次々 吹き飛ばされていく。残った者も抵抗を試みようと赤い影にデバイスの矛先を向けようとして、今度はそのすぐ傍に紫の閃光が現れる。あ、と思った時には剣が振るわれ、片っ端から傭兵たちが斬 り伏せられていった。 傀儡兵たちも、傭兵たちがさんざん全滅させられた後になってようやく、背後からの奇襲に気付いたようだった。いかにも機械を感じさせるたどたどしい足取りで方向転換し、襲来した影と閃光 に攻撃の意思を見せかけたところで、側面から振り抜かれた爪が彼らに襲い掛かる。薙ぎ払われ、悲鳴も無く沈黙する傀儡兵たち。運よく生き残った一機がデバイスを構えようとして、野獣の牙が その意思を噛み砕く。 援軍。話には聞いていたが、このタイミングでやって来るとは。ジャクソンは立ち上がり、周囲を警戒しながらトラックの陰から出る。白い視界の向こうから、見覚えのある影が出てきたのはそ の時だった。 「怪我は無いですか、ジャクソンさん?」 「やぁシャマル。怪我はない、この通りだ。よく来てくれた、ヴォルケンリッター」 戦場に似つかわしくない、ふわりとした緑の衣装。優しげな声を持つ女性こそが、彼が見た影の正体だった。名前をシャマルという。治癒と支援が主な任務の、ヴォルケンリッターの後方担当。 「遅くなってすまないな」 「おいジャクソン、あたしに挨拶はなしかー?」 続いて現れる烈火の将、剣の騎士シグナムと、一見子供のような姿をした鉄槌の騎士ヴィータ。ジャクソンが初めて会った魔法の使い手たちであり、古代ベルカの名を引き継ぐ心強い援軍だった。 「追っ手が来るぞ、気をつけろ」 最後に、雪の大地を踏みしめながら姿を見せたのは守護獣ザフィーラ。狼の姿のまま、傀儡兵の部品の一部をまだ口に咥えていた。ペッと吐き出し、敵の来る方向を睨む。 今更、ジャクソンが驚くようなことはなかった。数年前、アル・アサドによる中東での核爆発で死に掛けた自分を介抱してくれたのは彼女らであり、もはや家族と言ってもいい間柄だった。特に シャマルとは料理の味を褒めたのが契機になってか、男女の仲にまでなっている。置いてきぼりなのはグリッグで、M240の銃口を垂れ下げて、あんぐりと口を開けていた。 「なぁ、ジャクソン。お前知ってたのか? その、この女戦士アマゾネスの皆さんの強さを」 「誰がアマゾネスだ、誰が」 「まぁまぁ、ヴィータちゃん」 アマゾネス、と言われてシグナムが苦笑いし、ヴィータは露骨に口を尖らせ、シャマルがそれをなだめる。ザフィーラは興味がなさそうだった。ジャクソンはまぁな、と曖昧な返事だけをして、 それからシャマルに向き直る。遊んでいる暇は無い。高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの二人が引き付けているのにこの襲撃は、敵の戦力が予想以上であることを証明していた。 「目標はもう少し先、ここから三〇〇メートル先になる。クロノの坊主はそこだ。負傷していたらシャマルの出番だ、悪いがついて来てくれ」 「お任せを。シグナム、ヴィータちゃんとザフィーラと一緒にここをお願いね」 「心得た」 愛剣レヴァンティンを構えてみせて、シグナムが頼もしい表情を見せる。ヴィータもザフィーラも、共に彼女に付き従った。 白い視界の向こうで、ざわざわと蠢く影が見え始める。行け、と烈火の将が剣を振り向かせて無言で言う。ここは我らに任せろ、と。ジャクソンは頷き、グリッグ、シャマルを引き連れて前進 を再開する。目的の独房まであと三〇〇メートル。足を止める理由は、どこにもなかった。 戻る 目次 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/172.html
第四話「懸念」 12月2日 2136時 海鳴市 セーフハウス 「どーーーーなってんのよ!」 先ほど起きたことに対してメリッサ・マオ曹長は困惑していた。 人が空を飛び、ASと切りあい、変な光線が空に向かって放たれたらヴェノムも 空を飛んでた護衛対象も姿を消した所を目撃したのだから当然と言えば当然だ。 「分からん。俺も目撃はしたが常識を超えていた。」 マオ・クルツ・宗介の3人はもう5回ほどお互いの頬をつねった。 その痛みが、これが紛れも無い現実だと伝えてくる。 「正直言って、この街でなにが起きてるか分からないわ。ただ確実に分かることは 私達の常識外のことが起きている事とアマルガムが絡んでるということだけね。」 空を飛ぶ人のことや夜空に放たれた光線は置いといて、現実的な問題はヴェノムについてのことだ。 ラムダ・ドライバ搭載型ASが現れた以上、M9でも荷が重い。 あと3機、それに装備が充実していればの話である。 今回の護衛任務には40ミリライフル砲と単分子カッターしか持ってきていない。 「対抗するには、アーバレストを寄越してもらうしかないのではないか?」 「そうねぇ。一応言ってみるとするか。」 支援要請のため衛星通信機に向かうマオ、宗介とクルツはまたお互いの頬をつねっている。 「ソースケよ。M9の映像記録を見なけりゃ誰も信じないだろうな。 いや加工された映像だと思うだろうぜ、普通」 「肯定だ、現在圧倒的に情報が不足している。この街で何が起こってるか知る必要がある。」 つねったまま今日の戦闘の映像記録のことを話し合う2人 「ところで、そろそろ手を離せよ。」 「そっちこそ離したらどうだ?」 お互い一向に離す気配は無い、むしろつねる力が強くなってきている。 「止めな。状況がよく分からないし、提出した映像も訳わかんないものであることは事実よ。 アーバレストについては追って返答するだって、なんか研究部の連中が来てるらしいわ。」 「研究部がかよ。あいつらの研究は俺達の生存率を上げる為のものじゃねえのかよ。 率先して足引っ張りやがって。」 「仕方ないわよ。ラムダ・ドライバの研究はミスリル全体の生存率を上げることになるんだから それに先日の香港の事件のときにラムダ・ドライバが複数回発動したでしょ? 機体への影響とかについてじっくり調べたいんだって」 アーバレストは、確かに香港事件でも上層部は出し惜しみをした。 ミスリル唯一のラムダ・ドライバ搭載機である、あれを失うことは出切るだけ避けたいのだろう。 もしくは、失っても代替が利くように研究しておく必要がある。 「そうか。しかし、あの無人地帯ができない限り奴等もそう簡単に手を出すこともできんだろう。 気をつけるべきは、日常生活における拉致だ。」 貧しい装備で戦うことは慣れていたし、M9でも戦い方次第ではヴェノム相手であっても何とかなる。 宗介の言葉に他の二人は頷き、この場の議論はそれで終了した。 同日 同時刻 海鳴市 八神家 「いや、明日の朝に入ることにする。」 シグナムはそういって風呂の勧めを断り、リビングルームに残った。 「今日の戦闘か?」 「聡いな、その通りだ。テスタロッサと言う魔導師に、あの傀儡兵・・・」 上着と長袖を捲り上げると、そこには痣ができていた。 「魔導師にしては、いいセンスをしていた。良い師に学んだのだろうな。武器が違ったならどうなったか・・・ それにお前達は見ていなかっただろうが、あの傀儡兵には妙な機能がついていた。」 「妙な機能?」 「完全に決まったと思われた攻撃がギリギリで見えない壁のようなものに防がれた。 しかもご丁寧にそれを使って逆襲してきた。」 「大型の傀儡兵に装備されているバリア機能ではないのか?」 「違う、通常のやつは防御一辺倒のものだ。あれは明らかに攻撃の機能も備わっている。 それに恐らくあれは管理局の物ではない、ヴィータの話では警告なしで攻撃してきた聞く。 管理局なら質量兵器は使わない上に攻撃する前に決まり文句を必ず言う。」 あごに手を当て考え込むシグナム 管理局でもないなら傀儡兵は、やはりこの世界のものか? しかし、よくニュース番組に出てくる傀儡兵―――この世界ではASというのだったか? と今日見たものは、かなり相違点があったが・・・。 「言ってなかったが、あの場所、いやあの傀儡兵から昼間に話したのと同じ臭いがした。」 ふと、ザフィーラは思い出したように言った。 「お前が言う刺激臭か?」 ああ、とザフィーラは頷いた。 この近くにやつが潜んでいるということか・・・? 「ザフィーラ、その臭いは今でもしているのか?」 「今はしない。するようになったら報告する。」 「そうか・・・今日は、もう動かないのかも知れんな。明日にでも調べるとしよう。」 シグナムは闇の書を持ち窓から外を眺め、これからどうするかという事に思いを廻らした。 同日 同時刻 時空管理局医療ブロック ずきりという痛みでなのはは目覚めた 「ここは・・・?」 辺りには見たことの無い機械が、ずらりと並んでいる。 規則正しくリズムを刻むこれは心電図だろうか? どちらにしても触らないほうがいいと判断し、しばらくぼうっとする。 (レイジング・ハート大丈夫かな?) 相棒を自らの弱さで傷つけてしまった後悔が脳裏をよぎる。 そんなことを10分ばかり考えていると部屋のドアが開き、白衣を着た男の人が入ってきた。 「おお、目が覚めたかね。どこか痛むところはあるかい?」 「ええと、肩がちょっと・・・じゃなくて、ここどこですか?」 「ここは時空管理局本部にある医療施設だよ。・・・ふーむ、肩か。」 時空管理局本部、なのはにとって初めて訪れる場所だ。 話に聞くアースラのみんなの職場である。 フェイトちゃんも今はここでお世話になってるはずだ。 「うむ。リンカーコアは、もう回復を始めているね。若いからかな?」 耳慣れない単語が出てきて、なのはは少し首を傾ける。 後で、聞いて分かったことだが魔法を使う者なら誰もが持っている魔力の源であり 魔力吸収器官でもあるらしい、自分はそれが極端に小さくなっていたそうだ。 しばらくして、検査が終わり出て行く医者と入れ替わりにフェイトちゃんが入ってきた。 「なのは、大丈夫?」 「うん、私頑丈だから・・・でも」 でも、レイジング・ハートが・・・ 「レイジング・ハートは大丈夫だよ。今、エイミィが部品を発注してる。 それに、私もバルディッシュを」 辺りになんとも言えない雰囲気が流れる。 いけない、そう思い話題を変えるなのは 「久しぶりだね、こんな再会になっちゃったけど」 フェイトは、うんと答え二人の話題はこの半年間のことに移った。 同日 同時刻 時空管理局医療ブロック休憩所 ユーノとアルフは、休憩所でジュースを買っていた。 「それにしても、あいつら何者なんだい?クロノはなんか心当たりがあったみたいだけど」 「文献で見たことがあるけど彼女達はベルカの騎士だよ。 武器の形状をしているデバイスに、あのカートリッジ・システムは間違いない。」 「ベルカって、あのベルカかい?最近になって古代技術の復元作業が進んでる、あの?」 「うん、そのベルカだよ。実の所、復元の8割は終わってミッドチルダ式との ハイブリットである近代ベルカ式も一応完成してるらしいけど 最大の特徴であるカートリッジ・システムの安全性に関するデータが揃って無いから 一般にはまだ出回ってないらしい・・・。 なんで彼女達が失われたベルカ式を使ってるのか知らないけど、とても厄介な相手だよ。 集団戦法に優れたミッドチルダ式に徐々に駆逐されていったけど1対1なら無類の強さを誇ると文献にはあった。」 ジュースを片手にアルフに相手の正体を推測するユーノ、実際に相手をして彼女達の強さは痛いほど分かる。 自分より明らかに強いなのはを倒し、フェイトを追い詰めたと言う事実だけで証拠は充分だろう。 そして一定の自負がある自分の防御魔法も危うく破られかけた。 なのはがSLBで結界を破壊してくれなければ全滅していただろう。 「なのはだけじゃなく、フェイトまで傷つけるなんて・・・!」 主とその親友が、傷つけられたことを思い出したのか ギリっと握り拳を作りアルフは近くの壁を殴る。 幸い手加減はしているらしく壁は、へこまなかったがそれでも大きな音はした。 「うわ、何?今の音。」 「なにか、すごい音がしたぞ。」 「クロノにエイミィさん・・・。どうですか?レイジング・ハートとバルディッシュは」 「フレームはひどいことになってるけど、基本構造にはダメージが及んでないから 部品交換すれば元に戻るよ。あ、ちなみに部品は来週来るみたい。 ・・・・それからフェイトちゃんは、どこ? 担当の保護観察官の人との面接の時間だから呼びに来たけど」 それを聞きアルフは急いでフェイトを呼びに行った。 保護観察官の心証を悪くしてもいい事なんて無いからだ。 同日 2156時 ギル・グレアム提督の執務室 グレアムは自分の方針を述べ、フェイトに自分との約束を守れるか聞き なのはには自分の昔話を話した。 「さて、フェイト君が約束を守ってくれると確約してくれた以上、面接は終了だよ。 そういえば、今回の事件の担当はアースラになるんだって? 現場はいろいろと面倒なことになってると聞くが」 グレアムは、なのはやフェイト後ろで控えていたクロノに尋ねる。 「はい。もう知っていると思いますが今回の事件には、あの闇の書が関わってます。 さらに現地世界の傀儡兵・・・いえASという兵器が出現しました。」 「そうか、あまり熱くなってはいけないよ。」 「大丈夫です。折り合いはもう着けましたし、提督の教えは守ります。」 クロノが部屋から出て行くと、それになのはとフェイトも続いていく。 「クロノ、ASってなのはを助けた傀儡兵のこと?」 「ああ、なのはに聞いた所によるとアーム・スレイブという人が搭乗する兵器で 第97管理外世界の各国に配備されてるらしい。」 「うん。忍さんが詳しいから知ってたけど本物を見るのは、あれが初めてだよ。」 クロノの言葉に頷く、なのは 「ASについての情報はエイミィたちが収集してくれてる。 現実問題は第1級捜索指定ロストロギア『闇の書』についてだ。」 「『闇の書』?」 なのはとフェイトは同時に聞き返す。 「闇の書は魔力収集型のロストロギア、他人のリンカーコアを吸収してページを埋めていく。 666ページがすべて埋まったら完成するというものだ。」 「完成すると、どうなるの?」 「少なくともいいことだけは起きない。」 とだけクロノは答えた。 12月3日 1007時 海鳴市 市立図書館前 ザフィーラの散歩ついでに、はやて、シグナム、シャマルは図書館に寄る。 ちょうど、はやても返却しなければならない本があった。 ちなみにヴィータは家でまだ寝ており、お留守番である。 「しかし、珍しいなあ。シャマルも調べ物があるって、何について調べるん?」 答え難いことを聞いてくる主に、どう答えたものか迷うシャマル 「ええと、最近ヴィータちゃんがロボットアニメに嵌っちゃって それで、この世界にもASって言うロボットがあるって言ったら興味心身で・・・ だからヴィータちゃんのために図鑑みたいなものを探してるんですよ。」 嘘は言っていない。事実、月曜日のゴールデンタイムに放送しているロボットアニメ番組をヴィータは、はやてと一緒に見ていた。 その嵌り具合を知っているはやては、なるほどと納得してしまう。 しかし、実際は昨日の戦闘に現れたASについて調べるためだ。 「では、私はしばらくザフィーラとここの周りを散歩してきます。」 図書館に動物の立ち入りは厳禁なのである。 ではなく、調べ物はシャマルに任せ散歩と称した付近の見回りをするためだ。 それに・・・・ (シグナム、例の臭いだ。) ザフィーラが、家を出る際にシグナムに警告してきた。 だが殺気の類は全くなく、主の前でもある。一応、いつでも対応できるようにしていた。 しかし監視者がいるなら情報を得る絶好の機会だ。 そうして、ザフィーラが言う臭いの中心に向かって進んでゆく。 (ここら辺だ。) 流石にここまで来れば、ほんの微かだがシグナムにも臭いを感じることができる。 辺りを見渡しても、それらしい臭いの元になるものはない。 しかし臭いと気配を感じる虚空をシグナムとザフィーラは、じっと見つめ続けた。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/34055.html
登録日:2016/03/28 (月) 21 05 47 更新日:2023/10/12 Thu 00 05 56NEW! 所要時間:約 11 分で読めます ▽タグ一覧 METAL GEAR SOLID V THE PHANTOM PAIN MGS MGSV スカルズ メタルギア メタルギアシリーズ メタルギアソリッド 部隊 霧の部隊……スカルズだ! METAL GEAR SOLID V THE PHANTOM PAINに登場する特殊な敵兵。 本作での中ボス的ポジションとなっている。 ※以下、一部MGSVのネタバレ要素を含みます 概要 スネーク達の行く先々に現れ、阻んでくる敵部隊。 「髑髏部隊」と書いてスカルズとも読む。 ボスが目覚めた頃、ミラーにも襲いかかってきたようで、 9年前を生き延びた精鋭による護衛チームが、あっという間に全滅させられたらしい。 スカルフェイスが絡んでいる重要な案件のミッションの場合に出現する。 現れる時は必ず4人で1チームとなっている。 会話はできないようだ。 分類すると、3種類のバリエーションが存在する。 共通する特徴として 出現時、一帯には必ず霧が立ち込める 当然、視界は悪くなる。霧のある間はヘリも近づけない。 一定エリアから離れる、もしくは出現したスカルズを全員撃退することで、霧は晴れる。 周囲の一般兵を傀儡兵にして操る その場に居合わせた一般兵は傀儡兵となる。 なぜかスネークに対してはなんともない。 傀儡兵はまともな理性がなくなっているようで、まるでゾンビのように彷徨う動きになる。 通常時のような連携をせず、そもそも発見されてもアラートにならず、素手で攻撃してくるのみだが、 HPがかなり増しており、投げ一発や打撃コンボ一連など手軽な対処法では昏倒しない。 ヘッドショットと拘束からの首絞めなら通常通り効く。 なお、傀儡兵の状態の兵士を回収すると、 十字勲章(危機から生還した兵士に与えられる勲章)を持った状態で仲間になるため、 ステータスがブーストされて少しお得。 スカルズ撃退後は傀儡兵が全て気絶するため、人材回収にもってこい。 脚力および耐久力など異常な能力 発覚状態では、馬や車両にも追いすがるほどの脚力を発揮。 馬とD-Walker以外には近接攻撃も仕掛けてくるので、車両での逃げ切り狙いは難しい。 中ボスらしく耐久やHPも高く、マーキングすると残HPが見える。 アサルトライフル程度は受けてもほとんど怯まないため、動きを止めるには爆発系の武器か対物ライフルなどが必要。 HPは殺傷と非殺傷に分かれているが、 殺傷ダメージで倒しても殺害扱いにならないため、非殺傷で倒す意味は特にない。 なお、無力化してもスカルズ全員を倒してしばらくすると、倒れたスカルズが起き上がってどこかへ去ってしまう。 瞬時に近くの別の場所へ移動する 時折前触れなくワープのような移動をする。 実は大半は緩慢な動きが多いのだが、スカルズがすばしっこいように感じるのはこれが原因。 急にいなくなって狙えなくなったり、位置取りが変わったり、マーキングが外れることもあるのが面倒。 マチェットと銃を使い分ける 近接武器のマチェットと、銃を持ちかえて攻撃してくる。 マチェットではスネークに向かって近づいてきて、小ワープを数回した後、 スネークのそばに出現して振りかぶる、または空中から勢いよく斬りつけてくる。 回避なら出現方向以外へ緊急回避すればいいが、 それだけでなく、CQCで相手の刃物を掴み、逆に突き刺すカウンターも可能。さすが人間やめてるボスは違った 攻撃直前のわずかなタイミングにのみコマンドが表示されるので、狙って失敗すると直撃してしまうものの、 成功すればしばらくの間大きな隙を作ることができる。 銃は連射能力などがあまりなく、スナイパー型以外はそこまで大したダメージにはならないが、 4人に包囲された状態ではダメージの蓄積も侮れないので、遮蔽物を意識した立ち回りをしよう。 ちなみに、武器を取りだす様子は初遭遇の発覚時と、スナイパー型スカルズ出現時のムービーで、 どこからともなく銃器を構成するようなかっこいい出し方をしているが、 スカルズの能力から考えると、おそらく普段は透明化してどこかに収納しているのだと思われる。 やっぱり無能 銃撃を受ければ必ず発見する、非発見状態でもプレイヤーにジリジリと迫ってくる、視力・聴力・判断力が一般兵に比べて 格段に良くなっているなど、まともなのは僕だけか!?に戦えばまず間違いなく苦戦する難敵のはずなのだが、 一方で彼らもデコイとプレイヤーの区別がつかず、カギが掛かっている扉は開けられず、催眠ガス地雷や催眠グレを 受けても眠るまで何をされているかわかっていない、デコイ出現時のダメージを受けても気付かないなど、 かなりマヌケな部分が見え隠れする。 このような仕様を利用されて一方的にハメ殺されるスカルズも多く、人間離れした能力から垣間見えるマヌケさに 思わず和んでしまうプレイヤーもいるとかいないとか。 そんな彼らを愛をこめてバカルズ、頭スカスカルズと呼ぶ層も存在する。 種類 スカルズ(MIST) 出現エピソード Episode1 幻肢 Episode6 蜜蜂はどこで眠る 割と普通の体格の、男性型の一般的?なスカルズ。 頭部には数字が刻印されている。 『幻肢』ではミラーを抱えた状態な上に、初挑戦時はまともな装備もないため、 戦わずに逃げるのが第一となる。 最初は戦闘状態にないため、発覚せず通り抜けられればいいのだが、 発覚していなくてもゆっくりスネークの方へと向かってくる。 幸いにも捕捉能力はさほどでもないため、橋の上下を利用するなどして通り抜けしたい。 発覚した場合には、D-Horseで霧の外まで強行脱出となる。 ちなみにこのミッション、初期バージョンではヘリのランディングゾーンを変更することで、 スカルズと会わずにミッションクリアが可能だった。ミッションタスクも埋まる。 『蜜蜂はどこで眠る』では、ハニービー回収後、脱出しようとするところで出現。 最初から戦闘状態にはなっているが、スマセ砦から離れれば離脱も可能。 正面から倒すなら、ハニービーを使うのが効果的。一撃でスカルズのHP半分を削れる。 スカルズを排除するとその数だけミッションクリア時にボーナスポイントとなるが、 ハニービーの残弾数もボーナスポイントとなるので、Sランクを狙うなら乱発は避けたい。 実は序盤に遭遇するというだけで、このタイプのスカルズにしかできないこと、というのが特にない。 ARMOR型と比較すると完全に下位互換となってしまっている。 一応、ARMOR型でも行う壁生成はすることがある。 スカルズ(ARMOR) 出現エピソード Episode16 売国の車列 Episode29 極限環境微生物 Episode37 [EXTREME]売国の車列 Episode42 [EXTREME]極限環境微生物 イベントFOB スカルズ急襲 メタリックアーキア(金属を代謝する微生物)を操る能力によって、戦闘力を強化されたスカルズ。 体格は背が高く、筋骨隆々で男性型。 透明化能力がうまくいっていないのか、体の内部組織だけ透けていることがある。 厄介な特徴として、自身の体表を岩のように硬化して覆うことができ、 硬化中は爆発系攻撃にも怯まず、一定ダメージを与えて硬化を解除しない限り、通常のダメージを与えられない。 硬化中に至近距離で銃器を使って攻撃すると、跳弾で自分に当たることも。 HPが半分を切ると再び硬化を発動する。 他にも、岩塊を生成し、攻撃に使ってくる。 地面を伝ってスネークの足元を狙い発生させた岩塊は、 出現時に当たるのは少し足を取られるぐらいでダメージはほぼないが、 しばらくすると爆発し、大ダメージを与えてくる。 爆発まで少し時間があるので範囲外に離れればいいものの、 出現位置によっては他の物との間ではさまれて、逃げられなくなることも。 この岩塊生成は、EXTREME版では高ランクバトルドレスでないと即死してしまうほどの威力。 たまに、スカルズの側の空中で岩を生成し、飛び道具として飛ばしてくることもあるが、 遮蔽物に隠れる、もしくは当たる前に高威力武器で破壊すればやりすごせる。 さらに、腐食性アーキアを含むガスを発生させ、金属を錆びさせて使い物にならなくしてしまう。 ムービーではヘリ撃墜にまで至った能力で、戦闘中には車両やD-Walker搭乗時にガス放出を使用するが、 悲しきかな、放出中はスカルズが動けない上に、少し距離を取れば効果がないため、 D-Walkerで動きを止めさせてガトリングを撃ち込むと、極めて楽に倒すことができる。 なおどういうわけか、スネークが装備している義手や銃器などに関しては、全く影響を受けない。 完全に対車両用の行動となっている。 『売国の車列』では、目標の輸送トラックに一定距離まで近づくと出現。 最初は非発覚状態だが、トラックを囲むように出現する上に、周囲が開けた場所であることが多く、 車両回収できるフルトン回収装置がないと、運転しての離脱は発覚する危険性が高い。 一方、非発覚状態のため、直接バレることがないC4、地雷、睡眠グレネードなどによって、 戦闘状態になることなく無力化することも可能。 前述の仕様を利用して金網ドアの向こうから一方的にハメ殺すことも可能。 正面から戦う場合は、流れ弾で輸送トラックを破壊してしまわないよう注意。 敵兵が使っていた装甲車が傀儡兵になって放棄されているので、これに乗りこむのも手。 余談だが、使用するとSランクが取れなくなるものの、 D-Walkerのフルトンランチャーで遠距離からトラックを回収すると、 スカルズが出現することなく終了する。不憫。 『極限環境微生物』は、最初から戦闘状態の上に、 スカルズを倒すまでコードトーカーを移動させられないため、完全に真正面から撃破する必要がある。 前述の通り、D-Walkerでのガトリングが有効。 スネーク独力の場合、ミサイルや機関銃といった高威力武器が必要。 開発が済んでいれば、対物ライフルが効果的。硬化していなければ当てれば怯み、リロード時間と携行弾数もそこそこ。 特にセミオートになり連射できるサーバルは、ハメれば硬化の暇すら許すことなく悠々と倒すことが可能。 イベントFOBでは、第一甲板のみの司令部・拠点開発班・医療班のどれかのプラットフォームが戦場。 なぜか敵対PFによって投入されたらしい。 出てくるのは当然のようにEXTREME版。 通常ミッションと違い支援による弾薬補給を受けられないのが痛いが、 開始時には硬化していないため、ガトリング型の対空機関砲を活用することで、破壊されるまでに複数のスカルズを倒せる。 潜入しなくていい分、イベントFOBでは慣れれば最も簡単。 スカルズ(CAMOUFLAGE) 出現エピソード Episode28 コードトーカー Episode48 [EXTREME]コードトーカー 『コードトーカー』のミッションでのみ出現する、狙撃兵タイプのスカルズ。 女性型で、クワイエットとほぼ同じ挙動をする。 胸や尻といったスタイルはいいが、顔が真っ白な上に髪すらないのでかわいくない。 クワイエット1人ですら厄介だったのに、4人相手と聞くと気が滅入りそうだが、 幸い、1人ごとではクワイエットよりは捕捉能力が落ちているのと、 常時レーザーサイトを使っているため、居る方向と見てる位置がバレバレ。 岩陰に隠れ、双眼鏡でマーキングをし、狙撃戦を行うのが通常の戦い方。 狙撃体勢では透明化せず、鼻歌は歌わないがスカルズ特有のジュルジュルした音が聞こえるので、索敵には問題ない。 向こうは木が射線上にあると撃ってこないという特徴があるので、木の葉を挟めば一方的に狙撃できる。 こちらが攻撃すると位置を変えてマーキングを外すが、撃ったスカルズ以外も同時に離れる。 最初に発覚して発砲されると戦闘態勢扱いになる。 この状態では、接近した時に狙撃位置を離れ、向こうから近接攻撃してくることもある。 この攻撃は攻撃直前まで透明化したまま接近してくるので、タイミングが掴みにくい。 ちなみに、スカルズ出現後、そのまま川沿いを滝まで進んで、 崖にあるクラックから登ることで、一切スルーして進行することも可能。 EXTREME版では、捕捉能力が多少強化されているのと、 EXTREMEクワイエットと同じく被弾すると一撃で即死する。 このスカルズ戦後、戦闘の結果によってミッションの展開が若干変わり、 まずスカルズ戦で戦闘状態になった場合、洋館に着いた時点で警戒態勢に移行。 またコードトーカー接触後には、スカルズが残っていれば洋館の周囲に再び現れ、大量の傀儡兵が配置。 逆にスカルズを全滅させていた場合、通常の兵士が警戒態勢で取り囲んでいる。 クリアだけなら、発見してもアラートにならない傀儡兵相手の方が楽で、 スカルズにはヘリランディングゾーンまでに発見されることはあまりない。 覆い尽くすもの スカルズに力を与えているものの正体は、コードトーカーが「覆い尽くすもの」と呼称する微生物。 宿主の体表で皮膚の代わりとなって養分や水分を供給される代わりに、宿主に力を与える。 弱点として乾燥に弱く、スカルズは体表からの水分蒸発を防ぐために、霧を発生させている。 逆に多量の水分に触れた場合も、微生物が水分吸収に集中してしまい、宿主が身動きできなくなる。 天候操作支援で雨に変えると、スカルズが動きを止めるのが分かる。 コードトーカーを仲間にした後は、無力化したスカルズをフルトン回収することが可能になり、 回収したスカルズの種類に応じた寄生虫を入手できる。 回収後のスカルズは隔離プラットフォームの檻の中に入れられるが、 武器を封じたのかどうかは分からないものの、 それ以外の装備は健在で普通に立っているため、暴れないか非常に心配になる。 なんらかの処置で無力化しているのか、見る限りはただその場で佇んでいるだけのようだ…。 採取した寄生虫を使い、これを封入したカートリッジを開発し、 スカルズのスーツを模したパラサイトスーツを装備した状態で使うことで、 一定時間その能力の一部を使うことができる。 FOBミッションでは使用できない。 ちなみにパラサイトスーツは、MGS4の頭部オクトカムのように頭部をマスクで覆っているため、 ムービーにこのスーツで入ってしまうと、少し格好悪い。 MIST 天候を霧に変える。 兵士を傀儡兵にする効果はないため、単純に敵兵の視界を悪くして潜入したい時のため。 CAMO 使用者が透明になる。要するにステルス迷彩と同じ。 ステルス迷彩と同じく、使用するとミッションクリア時にSランクが取れなくなる。 ARMOR 使用者が硬化し、ダメージ耐性とスーパーアーマーを得る。 ランボー用能力。静かなる消失の回収タスクなどでは必須。 なお、乾燥に弱いという点を反映してか、使用中に火炎攻撃を受けると、即座に解除されてしまう。 こちらがスカルズに対して炎で攻撃しても、別段弱体化はしないのだが…。 追記修正は霧の中でお願いします △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 個人的に歴代MGsで一番怖い敵だった……。 -- 名無しさん (2016-03-28 21 40 56) こんなにオイシイ設定があるんだから、部隊系ボスキャラ作って欲しかった…クワイエットみたいなのを後二、三人くらい -- 名無しさん (2016-03-28 23 01 24) 最初の方の遭遇は怖いけど、そのうちまたお前らかよってなってくるからな。ボススカルズはいてもよかったよね -- 名無しさん (2016-03-28 23 33 33) 喋れないって点はあるものの、下手するとライジングの世界でも通用しそうな化け物をこの時代に量産化してるって歴代でもかなり質の高い敵だよな。スカルフェイス死んで抹消されるけど -- 名無しさん (2016-03-28 23 54 09) 幻肢に登場するスカルズはC-4があればムービー前にスカルズが出てくる場所に仕掛けて置いたら爆殺可能。 -- 名無しさん (2016-03-29 00 20 10) カム型以外は基本的に遮蔽物の少ない場所で戦う関係上、難易度が上がるほど相手の銃攻撃がかなり痛くなる。そんな時こそ神器ダンボール、爆発攻撃以外はほぼ全てカットである -- 名無しさん (2016-03-29 21 14 33) FOBでのC4爆殺が面倒になってたな やりようがないわけではないが -- 名無しさん (2016-03-29 22 36 24) MGS5のホラー要素の一つ -- 名無しさん (2016-03-30 07 10 08) スカルズの素体になった兵士ってどこから調達してたんだろう?クワイエットみたいに重傷を負った兵士や死刑囚に取引を持ちかけたのか、ヴォルギンみたいに意識がない人間を勝手に改造したのか -- 名無しさん (2016-03-30 21 26 03) 名前 コメント