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第24話 幻想の楽園 「美希、お待たせ!」 自分を呼ぶ声に美希のとりとめの無い物思いは遮られた。 手を振って駆けてくるせつなが見える。 「いつから待ってたの?ごめんなさいね」 「ううん、こっちこそゴメンね。友達と一緒だったんでしょ?」 電話した時、せつなに別れを告げる数人の声がしていた。 もしかしたら友人との時間を邪魔してしまったのかも、と少し気まずかった。 「ああ、由美たち?平気よ。ちょうど帰るところだったから」 「ならいいんだけど…」 どうしてせつなを呼び出そうと思ったのか自分でもよく分からなかった。 しかし無性にせつなの声を聞き、顔が見たかったのだ。 そして改めて気付く。美希にはラブや祈里と気まずくなった時、相談出来るような友人は他にいない事に。 勿論、学校の友人やモデル仲間。仕事で会う大人など知り合いは中学生にしてはかなり多いはずだ。 それでも少し突っ込んだ悩みを話せるような仲の友人は皆無と言っていい。 強いて言うなら師匠でもあるミユキさんやよろず相談役の様なところのあるカオルちゃんくらいか。 しかしこの二人はいくら親しくして可愛がってもらってはいても、友人、と言うのは違う。 (まあ…いても同じか…) たとえ他に無二の親友がいたとしたってこれはとても話せる事ではないのだから。 結局自分一人で抱え込まなくてはならないのに変わりはなかっただろう。 「…せつな、何だか楽しそうね…」 少し弾む様な足取りで隣を歩く少女に、つい僻みっぽい口調になってしまう。 完全な八つ当たりだし、せつなは一番の被害者なのだからお門違いもいいところだが、 つい沈んだ気分がそのまま出てしまう。 「楽しいわよ?だって、久しぶりじゃない?美希と二人っきりって」 美希の暗い口調を敢えて気にしないかの様にせつなは明るく答える。 「…嬉しいの?アタシと二人っきりで…?」 「当たり前じゃない」 変な美希。と、せつなは変わらず軽くスキップするかの様に並んで歩く。 (そっか……嬉しいんだ…) 美希の頬が緩む。 自分と二人でいるのが嬉しい。 ただ、そう口に出して言って貰えるだけで驚くほど心が柔らかくなってくるのを感じる。 美希もせつなと二人でいるのが楽しいのだ。 会いたいと思ったのはこの為だったのかも知れない。 自分に真っ直ぐに向けられる好意。 せつななら、それをくれる。そう心の奥が知っていたのかも知れないと思った。 さっきまでの深刻な自分が何だか滑稽になってきた。 寂しくて、ただ気心の知れた友達に会いたくなっただけなのかも、と。 (……確かに可愛いんだけどさ) マジマジとせつなを見つめる。 確かに可愛い。はっきり言って綺麗な女の子なんて見慣れている美希だ。 芸能クラスに席を置き、自身もモデルをして目は肥えまくっている。 美希の知る中でもせつなの容姿は完璧に近いと思った。 ともすれば整い過ぎた顔立ちは無機質な人形のようで却って面白味が無く飽きやすい。 どこかほんの少し、足りない部分や隙があった方がより魅力的に感じたりするものなのだ。 せつなの場合は顔のパーツのバランスで言えば下唇がやや厚目だろうか。 よく見れば大人びた落ち着いた顔立ち。 ふっくらと肉感的な唇は年に似合わぬ色香を感じさせる。 しかしそこに浮かぶどこか無防備であどけない表情が、幼く危う気な印象を与えている。 「美希…さっきから何なの…?」 「何が?」 「だって…物凄く見てる……。ーーっ!ひゃあっ…何?!」 美希はせつなの腰をわしっと鷲掴みにして撫で回す。 (ふむ…キレイに括れてるわよね…。スタイルもかなりのもんだわ…知ってたけど) 身長に対して腰の位置が高い。脚も膝下が長くて形が良い。 それにラビリンスには正座の習慣も無かったのだろう。膝頭も出ていないし完璧だ。 細身だがしっかりとした凹凸のあるメリハリの効いた肢体は同世代の男の子には 目の毒ではないのかとすら感じてしまう。 加えて幼い頃からの戦闘訓練の賜物だろうか、驚くほど姿勢が良い。 頭が小さく頭身が高い所為もあり、それが彼女を実際よりも長身に感じさせる。 美希は初めて隣に並んだ時、せつなが思っていたより遥かに小柄なのに驚きを隠せなかった。 動作の一つ一つに凛とした緊張感があり、それが一見儚げな容姿でありながら 弱々しい印象を与えなかった。 と、モデル目線で観察してみたが、やはり美希には理解出来なかった。 「もうっ、美希!一体何なのよ?」 「いやいや、気にしないでよ」 「いきなり撫で回されて気にするなって無理でしょっ!」 頬を紅潮させて、戸惑い気味に腰が引けてる様子も可愛らしい。 確かに魅力的な女の子だと思う。 滑らかな頬や艶やかな唇、絹糸を集めたようにサラサラと流れる髪。 それに触れてみたい、と思わないでもない。 シャツを押し上げている胸の膨らみは、触れたらさぞ気持ち良いだろう、とも思ってしまう。 しかしそれは美希にとっては、単なる興味や好奇心。 ふくふくした子犬や子猫を抱き上げてみたい。 赤ん坊の丸々した手足や頬をつついてみたい、と言うような気持ちと大差ないものだ。 美しい宝石や花に心を動かされるように、せつなのたおやかな姿や流麗な仕草に 感嘆の溜め息が出る事もある。 自分を見つめる曇りの無い無垢な瞳に愛しさも感じる。 しかしまかり間違っても、恋愛の対象として見たり、ましてや性的な意味で 肉体的な接触を持ちたいなどとは夢にも思えなかった。 この少女のどこに、今までごく当たり前の女の子にすぎなかったラブと祈里を 狂気とも言える行動に駆り立てるほどの魔性があったのだろう。 やはり美希にはピンと来ないのだ。 あくまでも美希にとってのせつなは幼馴染み以外で初めて出来た、 気の置けない親友としか思えなかった。 「…ラブは、一緒じゃなかったの?」 せつながラブの所在を知っているのかが気にかかり、なるべく素知らぬ風を装い、尋ねてみる。 「ああ。ラブはね、逃げちゃったのよ」 「?」 「由美たちに数学教えて欲しいって頼まれたの。ラブも一緒にって言ったんだけど…」 美希は思わずぷっと吹き出す。 引きつった顔で後退さるラブが目に見えるようだった。 まあその後の行動を思い出せば笑いたくなる気分は急速に萎んでいったが。 ラブったらどこに行ったのかしら、そう頬を膨らませるせつなの横顔から 美希は思わず目を逸らす。 「ねぇ、せつな。今日うちに泊まりに来ない?」 「……今から?」 「今から」 「私一人で?」 「せつな一人で」 「………いいの?」 「ダメなら誘わないし。それに、せつなは一人でうちに来た事無かったし」 ね、そうしよ。少し唐突かも、と思いながらも美希は誘う。 小首を傾げ、少し躊躇う風に間を置いた後、にっこりとせつなは微笑む。 「じゃあ、そうしようかな」 「よし、決まりね!」 「あ、待って!」 今にもせつなの手を引いて連れて行こうとする美希をせつなが引き止める。 一応お母さんに断らないと、とリンクルンを取り出すせつなの姿に 美希はつい目を細める。 (お母さん、か…) 同居し始めた頃は、「おば様」と、口にするのすら遠慮がちだった。 お母さん、そう自然に呼ぶ姿に微笑ましさと安堵が湧き上がる。 もうすっかりあの家の娘なのだな、と。 「………駄目ですって…」 「え?…あ、そうなの?」 軽く唇を尖らせてそう告げるせつなに美希の気分は急下降だ。 確かに躾に厳しいところのある桃園家なら、今日いきなり泊まりに来いと言われても 許す訳には行かないかも知れなかった。 正直蒼乃家はその辺はかなり緩い方なのでうっかりしていた。 「一度帰ってからちゃんと準備して行きなさい、って」 「…へっ?」 悪戯っぽく様子を伺う上目遣い。 がっかりする美希の姿を観察して楽しんでいるのだ、とようやく気付く。 「ーーーっ!もぉっ、いつからそんなに悪いコになったの、せつなはっ?!」 「きゃあっ!やめてっ、ごめんなさい!」 捕まえて頭をぐりぐりと撫でる。 指をするすると通り抜ける柔らかい髪や、抱き締めた体の温もりは 予想通りとても気持ち良い。 一頻りじゃれ合った後、急いで家路につくせつなを見送る。 屈託の無い笑顔で何度も振り返りながら手を振るせつな。 同じ様に笑顔を返しながら、美希は内心苦笑する。 まさか命懸けの戦いを潜り抜けた宿敵を親友と呼び、お泊まりに誘う日が来ようとは。 (随分やられたのよねぇ…) 命を奪い合う覚悟でやり合った。 少なくともイースにとってはそうだったはずだ。 戦いを離れれば平和な日常に戻る美希達プリキュアと違い、 イースには戦闘と策謀こそが日常だったのだから。 自分達とは日常と非日常が完全に逆転していた。 「せつな」と言う少女のベールを纏い、偽りの微笑みを浮かべ、自分達の世界に擬態していた異物。 生まれ変わったその場所で、仮面だったはずの笑顔が本物になる日が来た。 皮肉、と言うのは言葉が悪いだろうか。 しかしこれほど先の分からない運命を生きる少女に出会う事は、もう一生無さそうだ。 (まったく、あれがあのイースと同一人物とはね…) その時、不意に美希の背筋を冷たいものが滑り落ちて行った。 (イースと……同一人物…) イース。管理国家ラビリンスの幹部。侵略の為の兵士。 あり得るのだろうか。そんな事が。 ラビリンスの生活がどんなものだったのか。正確な事は何も分からない。 せつなも詳しくは語らず、周りも無理に聞き出しはしなかった。 しかし断片的な情報だけでも、心を灰色に塗り潰されていくような寒々しい思いに駈られる。 こちらとは比ぶべくも無い、過酷な生活。 生命すら管理され、それを疑問に思う事すら許されない世界。 文化、教育、習慣、何一つ共通点の無い異世界。 あり得るのだろうか。 そんな世界で育った人間が、これほどの短期間でこの世界で違和感無く溶け込むなど。 今のせつな。容姿端麗、頭脳明晰でスポーツ万能。 しかしお高く止まった所はまったく無く、寧ろちょっと抜けてて天然風味。 ずば抜けて恵まれた容貌が男子にとっては高嶺の花。女子にとっては憧れの的。 ラブに学校でのせつなをそう聞いていた。 でもそれは、異様な突出を見せているのではなく、ごく普通の中学生としての 能力から逸脱しない範囲で。 (せつなってば、勉強もスポーツもすっごいんだよ!可愛くて男子にも女子にもモテモテなんだ!) 自慢気なラブの声。 単純にせつなは人気者なんだ、と感心している様子だった。 本当に、そうなのだろうか。 初めて習ったダンス。せつなはあっという間に追い付いた。 初めてダンスをやるのではない、初めてダンスと言うものの存在を知った人間が、だ。 歌も踊りも無い。ダンスと言う概念そのものを知らなかった人間が。 美希は全身が粟立つのを抑えられなかった。 それこそがせつなの特異性を示しているのではないか。 自分の生きてきた世界とは何一つ重ならないこの場所で、彼女は未だ多少世間知らずな 雰囲気を醸し出しながらも奇異な目で見られる事無く暮らしている。 それこそが、異常な事ではないのか。 何故今まで、その事を疑問に感じなかったのだろう。 それはせつなが、あまりに自然に微笑んでいたから。 戸惑い、躊躇いながらも幸せを受け入れて行く彼女の姿が、あまりにも普通の女の子に見えていたから。 そして、その感覚は突然やって来て美希に覆い被さった。 暗く寂寥とした荒野に身一つで放り出された様な圧倒的な孤独。 どれほど叫んでもその声は風にほどけ、どれほど彷徨っても 丸く切り取った様な地平線の輪の中からは出る事は叶わない。 せつなは、独りなのだ。 広い世界のどこにも、彼女と同じ思いを抱えた人間はいない。 似た経験をした人間すらいないだろう。 イースの冷たく冴えた貌。 産まれてから一度も微笑みを浮かべた事が無いような固く引き結ばれた唇。 鋭く欠けた月の様な静謐な美貌。 一度見たら忘れられない。 意志など無視して心を奪い去ってしまわれそうな、魔力を持った姿。 それが、ただの可愛らしい中学生として暮らしている。 彼女は凄まじいスピードで学んで行ったのだろう。 ラブや自分達、学校の友人、街をゆく様々な人々から。 仕草、表情、立ち居振舞い。この場所で生きていくのに必要な情報を。 全神経をアンテナにして。 全神経を磨り減らして。 彼女には、それが出来る能力があった。 未知のものを吸収し、自分の血肉とし、そして周りからはみ出さない程度に合わせながら。 気の休まる時などあったのだろうか。 美希は立ち止まり、せつなの帰った方向を見つめる。 彼女は幸せになった。 温かな家族、恋人、友人。手に入れたはずだった。 せつな………… たった一人、彷徨っていた荒野。 暗闇を見上げれば満天の星。 降り注ぐ光は手を伸ばせば届きそうで。 しかし、決して届かない事は分かっている。 触れる事すら叶わない、眩いばかりの煌めき。 それを孤独を癒す慰めと受けとるか、それとも闇を際立たせる仇と捉えるか。 イースは恐らく後者だった。 暗闇を這いずる己には、柔らかな光すらその身を蝕む毒だった。 しかし、ラブに出会い、闇から掬い上げられる事は叶わないと知りながらも、 その光に包まれ命を終える事を選んだのだろう。 文字通り生まれ変わり、自分がその光の内に身を置く事になるとは夢にも思わずに。 せつな………… 生まれ変わっても、安らぎばかりではなかった。 新たな裏切り。新たな苦しみ。 光の傍らにはより深い闇があった。 それでも、彼女は幸せだったのだろうか。 美希の頬を冷たい涙が流れて行く。 さっき流した、自分を憐れむ温かな涙ではない。 ぽっかりと空いた底の見えない穴から湧き出るような、冷たく痛い涙。 これは、きっとイースが今まで流した涙。 きっとイースは、こんな涙しか流した事がなかったのではないか。 自分の力ではどうにもならない。 他者に運命のすべてを握られ、己の運命を見つめる事すら許されない。 メビウスと言う絶対的な、絶対だと信じていなければならなかった存在。 それから目を逸らし、己を顧みれば、その時点で命が終わるのだから。 祈里に裏切られ、ラブに傷付けられ、美希にはすべてを許して受け入れて欲しいと哀願された。 せつなは黙って、微笑んでくれた。 彼女は最初から誰も責める気などなかったのだ。 許しも、謝罪も、何も彼女は望まない。 ただ、ここで生きて行く。 ただ、自分を見つめ。愛する人を見つめ。 過去の罪、現在の傷。そして、見えない未来。すべてを胸に抱きながら。 幸せに、なってくれたと思っていた。 暗闇の世界から解放されたのだと。 本当に? この場所に来れば自動的に幸せになれると盲信していなかったか。 ただ入れ物を用意し、そこに放り込み、せつながその形に添うかどうかなど考えた事はあっただろうか。 どうして、アタシは……… やはり、自分は子供なんだと思った。 ラブや祈里を詰る資格など無い。 結局、自分も同じだった。 せつなが何とかしてくれると思っていた。 せつなが来た事で変わってしまった関係。 だからせつなが何とかするのが当たり前ではないのか。 心のどこかで、そう考えていた事を否定出来ない。 美希の中に、砂漠の真ん中で膝を抱えてうずくまる小さな女の子が見えた。 まだ、せつなはひとりぼっちのままだ。 あなたはひとりじゃない。ひとりにはならない。 そう断言してみせたのに。 せつなは、その言葉だけで満足してくれてたのに。 まだまだ気付いていない事はたくさんあるだろう。 自分にも、ラブにも、祈里にも、勿論せつなにも。 でもせつなだけは始めから知っていた。 人は誰でも一人きりで生きている。 誰もその孤独を分かち合う事は出来ない。 だから、抱き締め合う相手が必要なのだ。 分かり合えなくても、傷付け合っても、ただ温もりが側にある。 それだけで、笑う事が出来るのだと。 流れるままに任せていた冷たい涙に、ほんのりと体温が移り始める。 孤独だと思っていた自分。輪から弾き出されたと感じていた自分。 始めから輪など無かった。ただ一人一人、手を繋いでいただけだ。 繋ぐ相手が変わったり。増えたり減ったり。 変化は当たり前で、嘆く事も怯える事もないのだ。 美希は考える。 自分は少しでも、せつなを温める光になれていたのだろうか、と。 親友、あまりに簡単に口にしていたその言葉。 あまりにも軽く使っていた言葉。 美希はもう一度、その意味を考える。せつなの笑顔を心に浮かべながら。 第25話 すべてを包む空へ続く
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行くぜ 1投 敷かれた布団の上にペタリと座るシェリルと向かい合うように腰を下ろすと、アルトは彼女の潤んだ瞳を見つめ、照れたような笑みを浮かべた。 「シェリル…」 吐息混じりに名を呼び、シェリルの華奢な身体をそっと抱きしめる。 抱き込まれた腕の中、シェリルは驚いたようにビクッと肩を震わせると短く悲鳴を上げた。 「いやっ」 「…え」 シェリルの反応に、アルトは反射的に抱いた腕を離してしまった。 え、嫌なの? ガーンと硬直してしまったアルトをよそに、シェリルは怒ったように眉を上げる。 「ちょっと、あんたなんでこんなに身体冷やしてるのよ!お風呂入ってきたんじゃないの?」 「あ、え…?」 あれ、嫌なわけじゃないのか…? 「んもう。あったまってこなかったの?」 心配そうな青い瞳に覗き込まれ、アルトはようやく我に返って愛想を崩した。 シェリルの反応を取り違えるなんて、余裕な振りをしたが、思った以上に緊張していたようだ。 あぁ先ほどまでの甘い雰囲気はどこへ行った…。 「あー…。水風呂?」 いろいろ鎮めるのに苦労してね、と心の中で呟く。取り繕うのもらしくないかと苦笑した。 「はぁ?やだ、なにやってるのよ。風邪引いちゃうじゃない!」 何かを誤魔化すように苦笑めいて言うアルトに、シェリルは心底呆れたような声を上げる。 「まったく…水風呂なんて。なんかの修業でもするつもり?」 馬鹿なんだから…と困った顔をして呟くと、シェリルはアルトをその豊かな胸に抱き込んだ。 「シェ、シェリル…!」 薄物の布越しの、ふにゃりと柔らかい感触を頬に感じ、アルトは上擦った声を上げる。 「ほら。こうすれば、少しはあったまるわ」 あんたの身体、氷みたいだったわよ、とアルトを胸に抱き込み、彼の絹糸のような黒髪を優しく梳きながらシェリルは言う。 2投 不器用なシェリルの、髪を梳く指先が優しい。 とても大切なものに触れるように動く、その白い指先から愛情が伝わってくる。 「シェリル…」 途端に愛しさが溢れてきて、アルトは唇に名を乗せた。 顔が見たい。その瞳に映るのが自分の姿であると確かめたい。 「なぁに?」 震える声で名を呼ばれ、シェリルは髪を撫でる手を止めると、アルトの顔を覗き込んだ。 なんて慈愛に満ちた優しい瞳をするのだろう。 その優しい瞳に写った自分は、なんと情けない顔をしているのだろう。 アルトは胸が苦しくなって、喘ぐように息を吐いた。 体中から溢れ出る想いに、溺れてしまいそうだ。 「アルト?」 どうしたの?と首を傾げるシェリルを、彼女の胸の中から見上げていたアルトは、首を伸ばしその唇にそっと口付けた。 「……んっ」 アルトからの口付けに、シェリルは鼻から抜けるような吐息を漏らす。 ちゅっちゅと音を立て、角度を変えてシェリルの唇を吸うと、ゆっくりと唇を離し、アルトはその青い瞳を覗き込む。 お互いの瞳に、お互いの情欲に濡れた顔が映っていることが、ひどく心を満たし、二人見つめあったままそっと唇を合わせた。 「シェリル…、好きだ」 唇を触れ合わせたままアルトは告げる。 間近に見つめた瞳は、涙の膜を張って青が滲んでいる。 それが美しいと、愛おしいと思いながら、アルトはゆっくりとシェリルの身体を布団に押し倒した。 3投 真っ白な布団に、シェリルの豪奢なストロベリーブロンドがふわりと広がる。 白くなだらかな頬を撫で緩く顎を固定し唇を開かせると、アルトは己の舌をそっと差し込んだ。 ぎこちないながら、二人舌を絡めあう。 「……ん…ぅ」 シェリルが深い口付けに懸命に応えている隙に、アルトは手馴れた様子で彼女の浴衣の帯を解き、抜き去った。 本当に和装で良かったと思う。不本意だが、シェリルに浴衣をすすめた糸目の兄に感謝した。 ちゅっと音を立てて唇を離すと、アルトはシェリルの浴衣の袷に手を掛け、ぐいと左右に広げる。 「えっ…あ、…っ」 浮かび上がる白く清らかな裸体に、アルトはごくりと喉を鳴らした。 「シェリル…」 熱を孕んだ声で名を呼ばれ、シェリルはぞくぞくと身体の奥を駆け抜ける感覚に身体を震わせた。 アルトはシェリルのひざを割り、己の身体を割り込ませると、胸元を隠そうと持ち上げられた彼女の両腕を取り、布団に押し付ける。 「隠すなよ」 自分には全て隠さずに見せて欲しいと、唇を尖らせてアルトは言う。 ついうっかりその細腕をきつく押さえつけてしまいそうになって、逸る気持ちを落ち着かせようと深く息を吐いた。 『シェリルさんの真っ白な肌にーなにするのー!』 以前浴びせられたランカからのお小言を思い出し、思わず苦笑いを浮かべる。 シェリルの肌に跡をつけるな、と。残念、それは無理な話だ。 むしろ積極的につけてやるよ、俺だけの証を。 4投 「…あ、ると?」 自分の手首を押さえたまま、苦く笑うアルトに、瞳に熱を宿したままのシェリルは不安そうに問う。 「跡、つけていい?」 「え?」 アルトはシェリルの手首を押さえつけていた手を離し、そっと左腕持ち上げると、しっかりと指を絡め、その指先に口付けを落とした。 一度、捕まえられずに離れてしまったこの手を、もう二度と離すものか。 「ダメって言われても…無理」 「えっ」 アルトは子供のようにそう言うと、シェリルの返事を聞くことなく、彼女の豊かな胸元に顔を落とす。 柔らかく、しかし張りのある白い乳房に唇を寄せると、ふと考えて左の乳房の上をきつく吸い上げた。 「あっ…ん」 くっきりとついた所有の証に微笑みを浮かべ、それでも足りず白い首筋にも唇を寄せ吸い付いた。 強く、弱く重量感のある乳房を揉みしだくと、それは面白いようにアルトの手の中で形を変える。 ツンと尖った頂を指先で捏ね回し、もう片方は唇で挟んで吸い上げる。 シェリルから紡がれる声が熱を帯び濡れている。 アルトは身体を起こすと、散々胸元を弄り回していた手を、そっとシェリルの秘所へと滑らせた。 「……っあぁ!」 くちゅっと下着の上からでも水音を立てるそこへの刺激に、シェリルは高い声で鳴いた。 「……すげ…、濡れてる…」 感嘆したように目を丸くして呟くアルトの言葉に、シェリルはカァと赤面するとギュッと目を閉じる。 「も…バカ!言わない、で…よっ…」 こんな自分の拙い愛撫に応えてくれたシェリルが、可愛くて仕方ない。 両手で顔を覆ってしまったシェリルをチラと見、アルトはそっとシェリルの下着に手を掛けた。 サイドストリングのそれは、思いのほか脱がせやすく、アルトはほっと胸をなでおろした。 5投 ふ、と有り得ない場所に吐息を感じ、シェリルは驚いて顔を上げた。 視線の先には、シェリルの秘部を凝視するアルト。 「…うそ、や…。アル、ト、見ちゃダメ…」 シェリルは顔を真っ赤に染め、力の入らない足を閉じようとする。 だが、アルトはそんなシェリルの弱々しい抵抗を、両太股に手をかけ、閉じられないよう固定することで阻む。 そして、アルトは何の戸惑いもなく、まるで花の蜜を求める蜂のように、シェリルの愛液に塗れたスリットに顔を埋めた。 シェリルの身体が、弓なりにしなる。引き攣ったかかとが布団を蹴った。 「………あ、…っあぁ!」 アルトの唇が、シェリルの下の唇を食む。じわりと溢れ出る蜜を夢中で吸い上げた。 もっと、もっとだ。全然足りない。 ぷくりと充血した花芯をひと舐めすると、アルトは蜜が湧き出す秘所に舌を捻じ込んだ。 「…ひっ…あ…、っ」 舌の動きにつられるようにあがる、シェリルの高い喘ぎが耳に心地よい。 散々舌で愛撫したそこから顔を上げると、シェリルの愛液と己の唾液で濡れた顔を手の甲でぐいと拭った。 アルトは身を屈めると、いまだ両手で顔を隠したままのシェリルの額にそっと口付け、ふぅっと息を吐く。 「シェリル……力、抜いて…」 宥めるように言いながら、アルトはその長い指を彼女の中に潜らせた。 6投 「……ぅっ、っく…」 とたんに上がる苦悶の声。 きつい。 「シェリル……」 思わず、情けない声が零れてしまった。 シェリルは顔を覆っていた手をそっと退けると、痛みに引き攣る頬を誤魔化すようにニコリと笑ってみせる。 「あ、ると…。平気、だから…」 「でも……」 それでもなお躊躇するアルトに、焦れたシェリルが声を張った。 「…もう!このあたしがいいって、言ってる…の!アンタ、だけ、なんだか、ら…!」 「……っ、お前…。そんなこと言って、やめてやれない、ぞ?」 シェリルの言葉に、アルトは頬を染める。 「のぞむところよ」 先に進みたいのはお互い様と言うわけか。 涙に濡れそれでも強い光を湛える空色の瞳を見つめアルトは、ふっと笑った。 こいつには敵わない。 「…覚悟しろよ、妖精さん」 7投 ようやくシェリルの中がアルトの指を二本受け入れたところで、二人大きく息を吐いた。 すでに脱がせてしまったシェリルとは逆に、アルトは浴衣を寛げただけなので、布地が汗で張り付いて気持ちが悪い。 さらに、下着は先走りで濡れている。 こりゃあんまり持たないかもな…とアルトは腹に力を込める。 「ある…と…」 「ん…」 「も、だいじょうぶ、よ」 シェリルの言葉に、彼女の顔色を伺うと、頬がうっすらと上気している。 「……うん。挿れる、ぞ…?」 「あ、まって。その前に、アルトも脱いで…」 あたしばっかり裸でずるいわと、頬を膨らませて言うシェリルに、アルトは眩暈を起こしそうになった。 壮絶な女の色香を放っているくせに、ふと見せる表情がどうにも無垢な子供のようなのがいけない。 くらくらしながら浴衣を脱ぎ捨て、ついでに下着もおろしたところで、こちらを凝視しているシェリルに気付きアルトは動きを止めた。 「……シェリル?」 「…えっ、あ…。あの、それ……?」 「それ?」 それと指差されたものは先走りを滴らせるアルトの屹立。 「……それが、入る…の?」 「……うん」 8投 あれ、何かおかしい?俺の…。 「入る、の?」 「え。う、うん…」 とたんにどこか及び腰になるシェリルに、今度はアルトが焦れる。 「やめてやれないって、言った」 むっとしたようにそう言うと、アルトはシェリルの細い腰を両手で捕らえる。 「えぇぇ…無理、よぉ…」 泣き言を言うシェリルにずいと顔を近づけると、アルトも眉を下げ言う。 「…って言うか、ホント、ごめんな。もう、さすがに我慢できない…」 最後は唸るように言うと、アルトは自身をシェリルの入り口に宛がい一気に押し入った。 「………ひっ…あぁっ…!」 挿入と同時に、シェリルが高く掠れた声を上げる。 途中、何かを突き破るような感覚がして、アルトはハッとして結合部に目をやる。 白い布団に散った赤。 そうなんだろうな、とは思っていたけど本人に聞くことでもないし、でもやっぱり、これは破瓜の… 「…シェリ、ル」 気付いたとたんに、頭に血が上るのが分かった。 俺が、シェリルの初めての…改めて認識したと同時に、ドクリと大きく脈を打つ。 「ヒッ…、バカ…なんでもっとおっきくなるのよ…」 「え、あ…ごめん。ちょっと、うれしくて…」 泣きながら睨むシェリルに、悪いと思いつつもアルトは頬がにやけるのを止められない。 「俺が、初めてなんだ…な」 嬉しくて思わずそう口に出すと、シェリルはカァと頬を染めた。 それと同時に、シェリルの中がキュッと締まる。 「ちょっ……!く、ぅッ…」 「…キャッ」 9投 ………いやいや、早すぎだろ、俺! シェリルのきつい締め付けに、限界まで挿入を堪えていたアルトの欲はあっけなく弾けてしまった。 いきなり最奥に、熱い飛沫を注がれたシェリルは目を見開いている。 うわ…そりゃ、そうだろ。アイツは挿れられて痛いだけで…俺は気持ちよかったけど…。 情けなくてシェリルの顔を見られず、アルトはがっくりと項垂れた。 「…ごめ、ん」 「……なんで、あやまるの?」 「いや、だって…」 「あたしは、嬉しかった、わ」 やっと繋がれたんだもの、といまだ涙が滲む瞳を細めてシェリルは言い、アルトの頬を両手で包みチュッと唇を寄せた。 はにかむような表情が可愛くて、シェリルの中に埋めたままのアルトがまた熱を上げる。 「えっ…あ、なんでっ…」 シェリルがそれを敏感に感じとり、身体を震わせる。 10投 「あんま、可愛いこと言うからだ…」 熱に掠れた甘い声で言うと、アルトはシェリルの身体を抱き起こしひざの上に乗せる。 「…ぅ…あぁっ…」 自重でアルトが最奥を穿ち、シェリルはアルトの背中に腕を回ししがみ付いた。 触れ合った胸が早鐘のように音を刻んでいる。 「シェリル…」 唇から零れる声が甘い。 ひざに乗せた身体を上下に揺さぶりながら、アルトはシェリルの頬を撫でる。 「シェリル…」 「…あっ、る…と」 切れ切れに悲鳴のように喘ぎながら、シェリルはうっすらと瞳を開けてアルトを見た。 情欲に濡れた瞳すら美しい。 「シェリル、好きだ…。好きだ、愛してる」 吐息のように囁いて、薄く開いたままの唇に口付けると、そのまま彼女の身体を揺さぶり続けた。 「あ、…アル、ト…もう…」 すすり泣くようなシェリルの声に、自分の限界も感じていたアルトはさらに奥を穿つ。 搾り取ろうとするかのような中の動きに、アルトは息を詰めシェリルの最奥へと欲を放った。 引き摺られるように、シェリルは身体を痙攣させると、目の前のアルトの肩に噛み付きながら果てた。 二人しばらく抱き合ったまま息を整えると、ふと目を合わせ、照れたように笑いながら唇を合わせた。 「愛してる、シェリル」 甘えるように、首筋に鼻先を寄せて囁くアルトの言葉に、シェリルは幸せそうな笑みを浮かべた。 11投 体中が軋むような痛みに、夜中にふと目を覚ましたシェリルは、自分を抱きしめる腕に気付き、そっと眠るアルトの顔を伺い見た。 気の抜けた、あどけない顔。シェリルはふっと笑みを漏らす。 「……寝てても綺麗な顔、ね。でも、男の人なのね…」 女よりも綺麗な容貌をしているくせに、抱きしめられた腕は力強く、頬を寄せた胸は思った以上に広かった。 男のくせに肌理の細かい白い肌を羨ましく思いながら、眠るアルトを見つめ、彼の肩口についた歯のあとに気付いたシェリルはカァと赤面する。 「あたし、とうとうアルトと……」 幸せな痛みだった。泣きすぎたのか、目元が腫れている気さえする。 いつだか、シェリルの入院中に、雑誌のウェディングドレスを指差し『それも夢で終わらない』と言ってくれた。将来を約束するような言葉はなかったが、それだけで充分幸せだった。 愛している人と身体を繋げる悦びを知ることなく、恋心を抱いたまま死んでいくのだと思っていた自分に、憧れだけで終わると思っていた『夢』を見続けていいと。 そんな彼が、好きだ、と。愛している、と言ってくれたのだ。これ以上の幸せを望むのは欲張りすぎだろうか。でも。 「ねぇアルト。……大好きよ」 でも、ね。出来れば、これからもずっとそばにいて。 シェリルは眠るアルトに口付けると、そっと彼の腕の中で再び目を閉じた。 以上です。なんか、途中で眠くなって、変なとこで投下したとことかあるかもしれない、けど確認してない ノリと勢いだけで書いたから、アルトとか誰これ状態ですが… っていうか、滝なんて初めてだよ!こんなんでいいの? 書く側じゃなくて、読む側なんだよ… かなりひどいお目汚し失礼しました…
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白く、しなやかな指がペンダントのチェーンにかかる。 絹糸のように細い輪の連なり。ほんの一瞬の抵抗の後、弾けるように宙に舞う。 手を真っ直ぐに伸ばす。千切れた鎖の先で輝きを放つ、幸せの素を高く掲げる。 贈ってくれた人の目に、しっかりと映るように。 向かい合う少女は、信じられないといった面持ちでその動きを見守る。 心は凍りつき、感情は形を成さない。思考だけが状況を正確に、そして無慈悲に、記憶に刻み込んでいく。 (やめて、お願い、やめてぇ――――!!) 届かない。どんなに叫んでも、今のせつなの声は決して届くことは無い。 これは、夢の中なのだから。 せつなと、そして、きっとラブにも刻まれた過ちの記憶なのだから。 チェーンをつかむ指から力が抜け、それはゆっくりと落下していく。まるで、スローモーションのように。 固いコンクリートの床に叩き付けられ、軽くバウンドする。 ズキン――――ズキン――――ズキン ズキン――――ズキン――――ズキン――――ズキン ズキン――――ズキン――――ズキン――――ズキン――――ズキン 痛い、痛い、痛い。心が――――砕け散りそうになる。 まるで自分の魂が、その緑色のアクセサリーに封じ込められてでもいるかのように。 踵で踏み付けて力を込める。形を変えるはずのない硬い樹脂が、ほんの一瞬だけ歪む。 軋みを上げることもなく、割れる音を大きく響かせることもなく。 悲しいほどにあっけなく、四散した。 『翼をもがれた鳥(第十七話)――――幸せの素に導かれて――――』 「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」 激しい運動ですら、滅多に乱すことの無いせつなの呼吸が荒れる。 額に滲む大量の汗は、寝苦しいほどに熱い気温のせいだけではないだろう。 「ある。――――ちゃんと、ここに……」 ベッドの宮棚に大切に置かれた、緑色のアクセサリーを手にする。 もう、欠片とは呼べないだろう。 砕けた破片の中から見つかった四つ葉の一枚。それを削って、磨き上げて、ハート型に仕上げたのだ。 このままでは、あまりにも悲しかったから。 後悔以外の――――意味を与えたかったから。 トン、トン、トン パジャマを着替えて、静かに階段を降りる。 まだ起きるには早い時間かと思ったが、あゆみは既に家事に取りかかっていた。 居間の隣、和室と呼ばれる畳で敷き詰められた部屋。そこで先の尖った器具で作業をしていた。 邪魔をしてはいけないと思い、その場で待つことにした。 しばらく後、作業が一段落したのか、あゆみは廊下でたたずむせつなに気が付いて振り返る。 「おはよう、せっちゃん。どうしたの? こちらにいらっしゃい」 「おはよう、あゆみおばさま。邪魔しちゃってごめんなさい」 なんとか丁寧語を崩そうと、懸命に努力しているせつなの挨拶が可愛らしかった。あゆみはせつなを招き 寄せる。 アイロンかけはほとんど終わっていたのだが、せつなの様子から、興味がありそうに見えたからだ。 不思議そうな顔で見つめるせつなに、やってみたら? とあゆみが持ちかける。 少し恥ずかしそうにはにかんで、せつなは頷いた。 霧を吹き、細かい部分から順に、直線的に動かしていく。 右手でアイロンの先を浮かして動かしながら、左手で器用に生地を引っ張っていく。 見る見るうちに美しく仕上がっていく。 あゆみは驚きに目を見開いた。 確かにアドバイスはした。素直に頷きもした。しかし、せつなの手はそれを始めから熟知しているかのよ うに動く。 その動きは、あゆみと比べても遜色のないものだった。 「すごく上手ね、せっちゃん。やったことあったのね」 「いいえ、これが初めてです」 「えっ? でも、教えていないことまで……」 「さっきまで、おばさまのアイロンかけを見ていたから」 そのとんでもない言葉に、あゆみは一瞬、驚愕して身を引いてしまう。 改めて、まじまじとせつなを見つめる。その表情には、自信も、誇らしさもうかがえなかった。 それどころか、困ったような、不安そうな様子すら感じられた。あゆみの反応に、何か失敗してしまった のではないかと心配しているのだろう。 ふと、あゆみはラブの言葉を思い出す。 とてもつらい所で生きてきた子だからって。失敗したり、言うことを聞かなかったりしたら、それだけで 命が奪われてしまう。 そんな世界で、ずっと暮らしてきた子だからって。 極限まで研ぎ澄ませた集中力。ずっと、この子はそんな風に張り詰めて生きてきたのだろう。 愛しくなって、あゆみはせつなをそっと抱き寄せた。 情緒が不安定なところもあるだろうけど、仕方がないの、わかってあげて。 ラブはそう言っていた。 情緒不安定はどちらかと思う。せっちゃんに変に思われないかしら? そう心配しつつも、抱き寄せる腕 を離す気にはならなかった。 この子に一番足りないのは、この温かさだって気がしていたから。 「おばさま?」 「ああ、ごめんなさい。嫌だった?」 「ううん――――」 「そうだ、何か用事があったんじゃないの?」 せつなは小さく頷いて、ポケットから緑色の塊を取り出した。 大切そうに、両手に乗せてあゆみに見せる。 「大事なものなんです。壊してしまって……。もし、使わないチェーンか何かあったら」 「直したいのね?」 「はい。始めは四つ葉の形をしていたんです」 「ええ、ラブから聞いているわ。あの頃ね――――」 ねえねえ、おかあさん、幸せの素って何だと思う? 商店街の福引の一等賞がそれなんだって。だから、どうしてもゲットするんだって。 キラキラと瞳を輝かせてラブはそう言っていた。 貯めていたお小遣いも全て使ってしまった。カオルちゃんのドーナツを食べるお金すら残っていない。 よく、そうボヤいていたものだった。 それでも諦めきれなくて、進んでお使いをかってでた。 買い物に出かけるたびに足を弾ませて、帰ってくるたびに肩を落として―――― ある日、素敵なお友達と知り合うことができたって、ラブはそう言っていた。 その子はドーナツを食べるのが初めてなのに、惜しみなく半分こしてくれたって。 ジュースも買えなくてお水で喉に通したけど、これまで食べたどんなドーナツよりも美味しかったって。 その後、やっと幸せの素を手に入れることができたって。そして、それをその子にあげてしまったって。 ごめんなさいって、ラブはあゆみに謝った。 あゆみは、良かったわねって、そう言って微笑んだ。 「だって、そうでしょ? もっと欲しいものが、見つかったってことなんですもの」 「はい……」 せつなは、それを両手に握りしめて瞳を潤ませる。 あの日から、あゆみはその子のことが、ずっと気になっていたって。だから、こうして家族になれて凄く 嬉しいって。 「そうそう、チェーンだったわね。待っててね」 「おばさま! それは――――」 清楚な光沢を放つ白銀のチェーン。その先に付いているのは、ハートをあしらったプラチナの細工物。 その中央に丸くて大きなルビーが収まっていた。 それは、樹脂で成型されたものなんかじゃない。本物の――――宝石だった。 「待ってください! それは、駄目です!」 「いいのよ。せっちゃん、赤が好きなんでしょう? だから、あげようと思っていたところなの」 専門知識の無いせつなにも、それが相当に高価なものだということくらいはわかる。 普段、宝石を身に付けないあゆみの持ち物であることを考えれば、大切な思い出の品だということも想像 がつく。 せつなの制止も聞かず、あゆみはそれをチェーンから外し、代わりに幸せの欠片を取り付ける。 「器用でしょう? これでも職人の娘なのよ」 「私、そんなつもりじゃ――――」 「いいの。ただし、ルビーは部屋にしまっておくこと。中学生が身に付けるものじゃないわ」 「中学生?」 「そうよ、もう手続きは済ませましたからね。せっちゃんはラブと同じ中学二年生よ」 できた! きっと、よく似合うわ。あゆみは、せつなに抱きつくような格好でペンダントをかけた。 そして、せつなの手を開いてルビーを握らせた。 情熱の赤い宝石。勝利の石とも呼ばれ、あらゆる危険や災難から持ち主の身を守り、困難に打ち克ち、勝 利へと導くという。 「きっと、せっちゃんのことを守ってくれるわ」 「ありがとう――――」 そこから先は言葉にならず、せつなは、今度は自分からあゆみに身を預けた。 飛び込むほどの勇気は出せず、触れるか触れないかの距離で全身を震わせて泣いた。 あゆみは優しくせつなの背中を撫でる。そして、心を込めて囁いた。 「幸せになりなさい。せっちゃん」 小さくて可愛らしいハート型のペンダント。せつなは、そっと首に戻して追憶を終える。 幸せになりなさい――――あの時かけられたあゆみの言葉に、結局せつなは返事をすることができなかっ た。 今なら、胸を張って答えられるだろうか? はい――――と。 無理だと思う。 それでも、せつなはこれから幸せをつかみに行く。 例え、一時のものであっても構わない。与えられるのではなく、自分から幸せを手に入れに行く。 (それをどうか――――許してください) せつなはペンダントを握りしめて、静かに祈りを捧げた。 コンコン 部屋がノックされる。音の響きでラブだとすぐにわかる。 せつなは、急いでペンダントを服の中にしまって戸を開けた。 「せつな! ブッキーがせつなに会いたいって」 「ええ、わかった。私が迎えに出るわ」 「そっか。じゃあ、あたしはお茶を淹れてくるね」 祈里からせつなに会いに来る。それがラブには大きな驚きだった。 まだ、美希や祈里はせつなと馴染んでいるとは言い難い。ラブとしても気の使うところだった。 まして、祈里は控えめな性格で、自分から行動を起こすことは少ない。それだけに意外で、そしてありが たかった。 せつなが玄関まで迎えに出ると、祈里は嬉しそうに微笑んだ。 手には大きな包みを抱えている。せつなは自分の部屋に祈里を案内した。 「いらっしゃい、ブッキー」 「お邪魔します。わぁ~、せつなちゃんのお部屋かわいい!」 「ありがとう。とても気に入ってるのよ」 せつなは本当に嬉しそうに微笑んだ。もともと、自分のことを誉められて喜ぶような子ではない。 だけど、この部屋は別だった。この家と、この家族は特別だった。 「今日は、せつなちゃんにプレゼントを持ってきたの」 「ありがとう。何かしら?」 「これは――――赤い、ダンス服? 私の……」 「せつなちゃんの、クローバー加入のお祝いよ。気に入ってもらえるといいけど」 「ありがとう――――さっそく着てみていいかしら?」 「うん、じゃあ、わたしは外に出てるね」 「それは悪いわ。ブッキーになら、見られても平気だから」 「うん、じゃあ着つけを手伝っちゃう」 下着姿になったせつなを見て、祈里は息を呑む。 透き通るような白い肌の下に秘められた、強靭なる筋肉。鍛え上げられたスレンダーな肢体なら、美希で 知っている。見たことがある。 だけど、またそれとは違う。魅せる力ではなく、秘める力。生き抜くことに特化した、戦うための肉体。 例えるならば、豹のようなしなやかさ。研ぎ澄まされた、刃物のような美しさ。一見女性らしい丸みを帯 びながらも、その奥に弾けるようなバネを感じさせた。 「せつなちゃん……すごい……綺麗」 「もう、恥ずかしいからジロジロ見ないで」 「ごめん、じゃあ、寸法の微調整もしちゃうね」 「ええ、お願い」 祈里は、メジャーと針と糸を引っ張り出して仕上げにかかった。 大まかな寸法はラブと同じと聞いていたが、念のため調整が効くように仕上げを残しておいたのだ。 「お待たせ、ブッキー、せつな。って――――何やってるの~~~!!」 「あっ、ラブ! これは」 「ちっ、違うの、ラブちゃん。脱がせてるわけじゃなくて!」 かろうじて、淹れたお茶をひっくり返さずにすんだラブに事情を話す。 フンフンと聞いていたラブだったが、納得がいくと、とたんに目を輝かせた。 「せつなって超キレイ~、あたしとはお風呂も入ってくれないんだよ」 「一緒に入ろうとしてたんだ……」 「ちょっと! もう、何の話よ。いいから服を返して!」 すっかりせつなの下着姿の鑑賞会になったことに、口を尖らせて抗議する。 身体を丸めてうずくまったせつなに、祈里は仕上げの済んだダンス服を手渡した。 「どう――――かしら?」 「せつなちゃん、よく似合ってる!」 「うんうん、これでせつなもクローバーだね!」 「ありがとう、ブッキー」 「えっ、今、せつなブッキーって……。それに、ブッキーもせつなちゃんて……」 「うん、この間からなの」 祈里が嬉しそうに事情を話す。せつなも恥ずかしそうに頷いた。 よほどダンス服が嬉しいのか、せつなは姿見を眺めながら何度もクルクルとまわる。 そして、ラブの携帯に着信が入る。 「もしもし、美希たん? えっ、せつなに? うん、代わるね」 「もしもし、ええ、今はブッキーと私の部屋よ。うん、わかった。一緒に練習しましょう」 今度は、美希からせつな宛ての電話だった。親しげに話す様子に、ラブは目をパチクリさせる。 明日は、せつなにとって初めてのダンスレッスンだ。事前に、基礎だけでも予習しておこうとの美希から の誘いだった。 四つ葉町公園の、いつものダンス練習ステージに四人は集まった。 ピンク、ブルー、イエロー、そしてレッド。一際目立つ真っ赤なダンスウェアが、クローバーを華やかに 彩る。 眩しい日差し、爽やかな風が心地良い。夏特有の命溢れる草木の薫り、生気漲る澄んだ空気が肺の中を満 たしていく。 せつなは目を閉じ、それらを全身で感じ取る。 そして、一言、感慨深くつぶやいた。 「本当に、ここに立つことができたのね」 「ほんとうにって?」 「ラビリンスのイースだった頃、一度だけここで、みんなと一緒に踊る夢を見たの」 「わたしたちと?」 「ええ、ラブも美希もブッキーも。そして、ミユキさんに指導してもらっていた」 静かに、淡々と、感情を込めずにせつなは語る。 それでも、時々声が震えてしまうのは隠すことができなかった。きっと、それは歓喜の震えなんだろう。 ほんと、図々しいわよね。そう、自嘲気味に笑って締めくくった。 みんなも、もう分かっていた。せつなは、ずっと前からみんなの知るせつなであったことを。 そして、もう一つ。一見物静かなせつなの胸の奥には、真っ赤に燃えたぎる情熱の炎があることを。 「さあ、明日までに基本を一つでもマスターして、ミユキさんを驚かせちゃおう!」 「始めはゆっくりでいいからね、せつなちゃん」 「頑張ろうね! せつな」 「ええ、ありがとう。大丈夫よ」 自信を漲らせてせつなが答える。他の何を失敗しても、これだけはモノにしてみせる。 それが、この場にせつなを立たせてくれた、ラブと美希と祈里と、そしてミユキの気持ちに応えることに なるのだから。 スタンドポジションからアティチュード、そしてアラベスク。コントラクションからリリース。 スポンジが水を吸収するかのように、せつなは次々に身に付けていく。 その動作の正確さは、最も美しいと言われる美希すら凌駕した。 「凄いよ、せつな。もうあたしより上手なんじゃ?」 「ラブ……。さすがにそれは問題があると思うわよ」 「あはは、でも、油断したらほんとうに置いていかれちゃいそう」 「ありがとう。ここまでは夢の通りね」 「そうだ! せつなのクローバー加入のお祝いに、ドーナツパーティーしようよ!」 「賛成!」 「いいね、やろうやろう!」 ラブの提案と、美希と祈里の賛成にせつなは目を丸くして驚いた。 ほんとうに、まるっきり同じ。もしかして、これも夢なんじゃないかとほっぺをつねってみた。 生々しい痛みと現実感。それが、涙が出るほどに嬉しかった。頬の痛みのせいにして、そっと目じりを拭 った。 そして、行きましょう! とせつなからラブの腕を引いて走り出した。 何もかも同じ展開なんて癪に障るから。それなら、自分から変えてやろうと思った。うんと、楽しんでや ろうと思った。 それに、最後は違う。絶対に違う。 これは夢ではないのだから。決して、覚めることはないのだから。 せつなは走る。 胸に輝くペンダントは、四つ葉ではないけれど。 もう――――儚く砕けることはない。今も、そしてこれから先も、せつなの幸せを明るく照らしてくれるのだから。 避2-690へ
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※「トカゲのたまご ~たまご~」の続きです。 ※今回、勝手ながらいくつかの作品を参考にさせて頂きました。 タイトル等は伏せさせて頂きますが、この場にてお礼申し上げます。 ※作者は元ネタの知識も無く、設定等適当なところがあります。 すいません、ご了承ください。 「とかげのたまご ~トカゲ~」 ド シ ン ッ ! ! ! 巣全体が激しく揺れる・・・。 「「「「ゆゆゆ?!!!!」」」」 「ゆ?!おちびちゃん達!!ゆっくり集まってね!!!」 「「「おきゃーしゃーーん!!」」」 突然の地震にゆっくり達は身を寄せ合った。 開放された2匹の子トカゲは、一目散に巣の外へと逃げてゆく。 そして代わりに巨大な影が巣の中に侵入してきた。 予期せぬ侵入者に親まりさが立ちはだかる。「ぷくぅぅぅぅぅぅぅ」と頬を膨らましながら。 侵入者は構わず、ドッシ、ドッシと重たい足音と共に侵入してくる。 「ここはまりさ達のおうちだよ!!かってに中・・・に??!!・・・はい・・・ぷしゅぅぅぅぅぅぅ.....」 侵入者が親まりさの目前まで近づき、口からシュルシュルと舌をだして親まりさを舐め回す。 影の正体を認識した親まりさはガタガタ震えながら頬の空気を抜いてゆく。 そしてゆっくりらしからぬ速さで、家族が集まる巣の奥へと退却した。 親まりさの落とした卵を嗅ぎつけて来たのかはわからない。 子トカゲの断末魔を聞きつけてやって来たのかはわからない。 そこには全長2m近い”オオトカゲ”がいた。 「「「「「「ヒイイイイイイィィィィィィィ!!!」」」」」」 「まままりさ!このトカゲさんはゆっくりできそうにないよ、ちゃちゃ、ちゃんと帰ってもらってね。」 「お゛お゛お゛おとなしくしてれば、ゆっくりできそうだよ。ままま、まりさはおとなしくしてるよ。」 「「「「ごわ゛いよおお!!!」」」」 親ゆっくりと姉ゆっくりは目の前の巨大な侵入者に震え上がった。 まだ一人で外に出たことの無い姉ゆっくり達から見ても、目の前の生き物が危険な事は一目瞭然だった。 逃げ出そうにも出口はオオトカゲの巨大な体躯に妨げられ、逃げる事は叶わない。 そんな家族の事を知ってか知らずか、赤ゆっくり3匹がオオトカゲの前に飛び出した。 「「あ゛がちゃん!!!!だめ゛えええええええええええええええええ!!!!」」 今しがた子トカゲの味を覚えたばかりの赤ゆっくり達にとっては、 「さっきのとは比べ物にならないほど"大きなご馳走"がやって来た!!」くらいにしか思っていないのかもしれない。 「ゆぅーー!!おっきなとかげしゃん、こんにちわ!!」 「とかげしゃんのあかちゃん、とてもゆっくちできたよ!!」 「おいちいあかちゃん、ありがとうね!!」 「「「ゆっくちちていってね!!!」」」 オオトカゲの前で跳ねながら、満面の笑みで礼を述べてゆく赤ゆっくり達。 お礼を言った後は、家族みんなで"おっきなとかげしゃん"を食べられるとでも思っているらしい。 そんな赤ゆっくり達の言葉がオオトカゲに通じたかどうかは分からない。 オオトカゲはシューーーッっと大きく鼻息を鳴らし、品定めするかのように赤れいむを舐め始めた。 「ゆゆ!とかげしゃん、くしゅぐったいよ」 「とかげしゃんもとてもゆっくちちているね」 「まりしゃも、ペロペロしてー!!」 「!!!!あ゛がちゃん!!!!ぞのトカゲさんはゆっくりできないよ!!!!!」 "大きなご馳走"を前に、親れいむ達の声は赤ゆっくり達には届かない。 一通り赤れいむを舐めまわすと、オオトカゲは口先で赤れいむを咥え、宙へと持ち上げた。 「「あ゛がちゃん!!!!にげてえええええぇぇぇぇぇっ!!!!」」 「わー!れいみゅ、たか-いたかーい!」 「お゛ねがいでず!!お゛ねがいじまずがら!!あ゛かちゃんを゛たずけてあげでね゛ぇぇ!!!!!!」 オオトカゲは何度か顎を動かし、赤れいむを喉の奥へと押し込んでゆく。 「とかげしゃん、おくち、くちゃぁぁぁぁい!!」 次にオオトカゲが口を開いた時、赤れいむの姿は見えなくなった。 「「「「「「!!!!!!!!!!!!」」」」」」 「こんじょはまりしゃのばぁんー!!」 「れいみゅもやってよー!!」 今度は赤まりさが咥え上げられる。紡ぎたての絹糸の様な金髪がたなびき、赤まりさはきゃきゃとはしゃいだ。 しかし赤まりさの目前に広がる巨大な暗闇から、姉妹の声が聞こえてくる。 「(ゆわぁぁん!!い゛だい゛っ!!ぐらいよぉぉぉぉぉぉ!!!ここじょこぉぉぉ?!)」 「ゆ゛ぅ?!」 全身に潰されるような力が掛かり、赤まりさは目の前の穴へと引きずり込まれていった。 「れいぶの!!!!れい゛ぶの、がわい゛い゛ぃぃぃあ゛か゛ちゃんがあ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 とうとう親れいむが、涙とよだれで顔をぐちゃぐちゃにしながらオオトカゲに跳びかかった。 オオトカゲは食事の邪魔をするなと言わんばかりにそれをはねのけた。 「っゆぐぇ!!!」 「おきゃあしゃん!!!」 目の前で親れいむが吹っ飛ばされ、ようやく事態の危うさに気づく赤れいむ。 親れいむの元に駆け寄ろうとするが、後ろからオオトカゲに咥えられてしまう。 「ゆぎゅあぁぁぁぁん!!!おぎゃあしゃんいじめる、いぐっ、どかげしゃんはぢんでね゛ぇぇぇぇ!!・・・」 そしてオオトカゲにペロリと飲み込まれてしまった。 「ま゛でぃざのあがぢゃんがえぜえええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 さすがの親まりさも目の前で我が子3匹が飲み込まれるのを見て、オオトカゲに跳び掛かった。 しかし親れいむ同様、巣の奥へとはね飛ばされてしまう。 オオトカゲの口から、胃袋で再会した赤ゆっくり達の叫び声が漏れてくる。 「(ゆぎぎぎぎぎぃぃぃ!!!い゛ぢゃいぃぃぃぃっぃ!!!ぐらいよぉぉぉぉっぉ!!!)」 「(ま゛りじゃいるのお゛ぉぉぉぉぉ??!!どこぉぉぉぉぉ??!!も゛う゛おうぢがえるぅぅぅ!!!)」 「(ゆぎゃあぁぁぁ!!ドロドロいぢゃいぃぃ!!ぎぃぃぃぃおべべがぁぁぁぁぁ!!!)」 「「「たじゅげでえぇぇぇぇ!!!おぎゃあぁぁじゃぁぁぁんんん!!!」」」 まるでオオトカゲが助けを呼んでいるようだった。 「「どおぢてごんなごどずるのぉぉぉぉぉぉ!!!かってにひとのあがぢゃんたべるトカゲははやぐじんでね!!!」」 「「「「がわい゛い゛ぃぃ、いも゛ぉうとだぢがあ゛あ゛ぁぁぁぁぁ」」」」 巨大なオオトカゲの前に手も足も出ないゆっくり達。すでに巣の奥へと追い詰められ、後が無い一家。 オオトカゲは今度は姉まりさへと舌を這わせた。 全身をシュルシュルと這い回るオオトカゲの舌に、かつてない嫌悪感が姉まりさの体を駆け巡る。 「ゆぎぃいいい!!ベロベロやめ゛でええぇぇぇぇ!!!ばりざはおいじぐないよ!!!」 オオトカゲは姉まりさも一飲みにしようとするが、赤ゆっくりよりも大きく、うまく喰いつけない。 姉まりさの帽子だけがオオトカゲの口に咥えられた。 オオトカゲはそれを大きな花びらを食べるかのようにあっさりと飲み込んでしまった。 「ばりさのがわ゛びいぃ帽子がえしでね!!!ゆっくり帽子吐き出してねっ!!!!」 命と同等に大事な帽子を盗られた姉まりさは、恐怖に顔を歪ませながらもオオトカゲに跳び掛かっていった。 何度はね返されようともオオトカゲに跳び掛かる姉まりさ。 すでにかわいい妹たちの事は頭に無い。 「まりざぁぁぁぁ!!!いっちゃだべええええええ!!!!!」 「ぼうじがえじでね!!!!はやくかえじでね!!!ばりざのぼう・・ゆぎゅっ!!!!」 オオトカゲは命一杯に口を開き、姉まりさにかぶりついた。 オオトカゲの口には入りきらず、姉まりさの頬がオオトカゲの口からはみ出す。 赤ゆっくりの時とは違い、口内の鋭い牙を立てて獲物を逃がさないオオトカゲ。 「ゆぎいいいいいいい!!いだいいぃぃぃぃぃ!!!ぐぶぶぶぶぶ・・・!!!」 全身に上と下から鋭い牙が突き刺さり、強力な顎が姉まりさを押し潰した。 オオトカゲはなんとか飲み込もうと、狭い巣の中で姉まりさを何度も何度も壁に叩きつける。 さらに、オオトカゲの唾液内に棲息するバクテリアが、姉まりさの体を蝕み始めた。 人間やオオトカゲよりも大きな動物でも、バクテリアが体内に入り込むと敗血症を引き起こし、 早急に手当てをしなければ最悪の場合死に至る。 そのバクテリアが餡子にも効いたかは分からないが、無害でもなかった。 「ゆぐぐぐぅぅうぅ、さぶい゛い゛ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!いだいぃぃぃぎいぃぃぃぃぃぃ!!!」 顔がパンパンに膨らみ、真っ赤に腫れる姉まりさの顔。目の周りには紫黒い隈ができている。 「だずげでぇぇ!!ゆぎゅっ!!!おぎゃざぁぁぁ!!ぐぎゃっ!!!!」 目の前で苦しむ我が子を前に、これ以上娘たちを失うまいと親れいむが立ち上がる。 「まりさ!!ゆっくり早く起きてね!!」 「ゆぐぅ・・・。ゆゆ??」 「まりさ!!二人で力を合わせておちびちゃんを救うよ!!」 「ゆ!ゆっくり理解したよ!」 二匹は互いの目を見つめ合い、意思を確かめ合うと交互にオオトカゲの顔に体当たりしはじめた。 「おぎゃあぁぁぁぁぁじゃん・・・!!」 「もう少しだよ!!ゆっくり我慢してね!!」 「お母さん達が今助けるよ!!」 親まりさが跳び掛かり、親れいむが跳び掛かり・・・。 そんな親ゆっくりを姉れいむ達も必至に応援する。 二匹の波状攻撃にさすがのオオトカゲも鬱陶しくなったのか、姉まりさを咥えたまま巣の出口へと後退してゆく。 「ゆゆ!!れいむ!!トカゲの奴逃げていくよ!!」 「ゆー!!まりさ!!れいむ達の愛の勝利だよ!!」 「おかーさんがんばれぇぇぇぇぇ!!!!」 このゆっくりとした大自然の中で、家族みんなでいつまでもゆっくり過ごしたかった。 自然の素晴らしさをもっと赤ちゃん達にも伝えてやりたかった。 しかし突如として一家に降りかかった災い。どうして自分達がこんな目に? とてもゆっくりできない事がいくつもあった。 だがこの困難も家族みんなで立ち向かえばきっと乗り越えられる! ふと3匹の赤ゆっくり達の笑顔が思い返される。 今ならまだ3匹の赤ちゃん達も助けられるかもしれない!!! そんな思いがゆっくり一家の脳裏によぎった。 ついにオオトカゲは巣から出ていった! あとは子供達を救うだけだ。一家は家族の絆を確かめ、高なる思いを胸に巣の外へと飛び出した。 巣の外ではオオトカゲが姉まりさを地面に何度も何度もこすりつけていた。 何度も痛めつけられた姉まりさの顔からは両目の眼球がこぼれ落ちていた。 こぼれ落ちた眼球にかぶりつく2匹の子トカゲ。 子トカゲにとっては、この世に生れ落ちて初めての食事だった。 姉まりさの眼孔はぽっかりと黒い穴が穿たれ、中から餡子が漏れ出していた。 「ゆぶぎゃああああぁぁぁぁ!!!おべべぎゃあ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「おちびちゃん今助けるよ!!!!」 親まりさがオオトカゲに跳びかかった。 バッッヂン!!!!!!! 強烈な痛みと共に、重たい音が響き渡る。 オオトカゲの強烈な尻尾のムチを顔面に喰らった親まりさは、巣がある剥き出しの断層に叩きつけられた。 その口からは餡子が漏れる。 さらに・・・。 「「ゆぎゃあああああああ!!!」」 「おぎゃああじゃああああん!!!」 「たずけで、まりざああざぁぁぁぁぁぁあぁ!!!」 家族の悲鳴が響き渡る。親まりさは、はっと周囲を見回した。 そこには何匹いるか分からないオオトカゲの群れと、それに弄ばれる家族の姿があった。 姉れいむは先の姉まりさと同じように地面に叩きつけられていた。 もう1匹の姉れいむは、2匹の取り合いに巻き込まれ、左頬と右頬にそれぞれ噛み付かれて引き裂かれようとしていた。 残りの姉まりさは、オオトカゲの大きく鋭い鉤爪を突き刺されて踏み付けられていた。 そして最愛のパートナーである親れいむは、頭のおさげを咥えられて樹木に叩きつけられていた。 「たずげでええぇぇぇぇぇ!!!ま゛りざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「「「おぎゃあぁぁぁぁぁぁざあああああぁぁぁん!!!!!」」」 親まりさは誰から助けて良いのかわからない。 「み゛んな゛まりさが助けるよ!!ゆっぐり順番を待っでね!!!!」 しかし大自然の食欲は"待つ"という事を知らない。 ついに初めに捕まった姉まりさの左頬がずるりと崩れ落ち、姉まりさだった物はオオトカゲの胃袋へと収まった。 他の姉ゆっくりたちも、叩きつけられ、引き裂かれ、全身をズタズタにされて飲み込まれていった。 「ばりざのがぞくがああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「まりざああああぁぁぁぁぁぁ・・・」 愛するパートナーが自身を呼ぶ声に振り向く親まりさ。 その視線の先で「ズバチンッ!!」と大きな音を立て、親れいむは樹木に叩きつけられ、大量の餡子を撒き散らして弾けた。 「れぇぇぇいぶうぅぅぅぅぅぅう゛う゛あ゛ぁ゛ぁぁぁああああああぁぁぁ!!!!!!!!!」 呆然と、喰われてゆく家族を見回す親まりさ。 崩れ落ちた姉まりさの左頬に2匹の子トカゲが群がるのが見えた。 その時である・・・。 姉まりさの餡子を貪るのに夢中な子トカゲに、オオトカゲがかぶりついた。 「ゆ゛????!!!!!」 子トカゲに獲物を横取りされたと感じたのか、 オオトカゲはそのまま子トカゲを飲み込んでしまった。 「ゆぎぎぎぎぎぎぎ????????????!!!」 親まりさは混乱した。 これまで愛情を込めて子供達を育ててきたのは何の為だったのか。 子供達の喜ぶ顔が見たくて、空腹を我慢しながらも森中を駆け回り、食物を集めてきたのは何の為だったのか 怯える子供達を必至に守ってきたのは何の為だったのか。 誰よりも先に脅威に立ち向かったのは何の為だったのか。 あっさりと同類の子トカゲを喰ってしまったオオトカゲを見て、親まりさは訳がわからなくなってしまった。 「ゆっぐりしでいっでね!!ゆっぐりしでいっでね!!ゆっぐりしでいっでね!!ゆっぐりしでいっでね!! ゆっぐりしでいっでね!!ゆっぐりしでいっでね!!ゆっぐりしでいっでね!!ゆっぐりしでいっでね!!・・・」 親まりさは白目をむいて泡を吹きながら、跳ね回り、わめき散らした。 そして親れいむと子ゆっくり達を食べ終えたオオトカゲ全てが、親まりさに群がった。 はじき飛ばされ、かじられ、引き裂かれ、叩きつけられ、親まりさはオオトカゲに貪られた。 親まりさは「ゆぐ・・・、ゆぎぎ・・・」と呻き声を漏らしながら、絶命した。 それから程なくして、森のあちこちから様々な鳥獣の鳴き声とゆっくり達の悲鳴が上がり始めた。 ゆっくり達がこの森に馴染むには、まだしばしの時間を必要としていた・・・。 あとがき 卵の描写に関してスレでの多くのご指摘ありがとうございました。 多くは語りません。 色々調べたつもりだったのですが、にわか知識で動物を描写するのは無謀でした。www エンディングも後味悪いし個人的に大失敗ですた。\(^o^)/ おでんのが書いてて楽しかった。 今まで書いたもの 「おでんとからし ~おでん~」 「おでんとからし ~からし~」 「トカゲのたまご ~たまご~」 「トカゲのたまご ~とかげ~」 このSSに感想を付ける
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▼ A Moral Manifest? 依頼者: フックノックス(Hooknox) / 祭壇の間 依頼内容: ゴブリンの泥棒フックノックスは オズトロヤ城に盗みに入ったが、 変装がばれてしまい、面が割れてしまった。 彼女に代わって、地下宝物庫から お宝を盗み出すのだ。 もちろん、ヤグードにばれないように…… 祭壇の間 Hooknox アィキァトビリディハプゥ! イィニィブディウェトゥファンアゥ プァフックノックスゥネヴァビィブゥトゥショ ハァプティゴビィフェスンパブリッアガ…… Hooknox ……………… Hooknox ええーッ、まじィッ!? 人間の冒険者じゃないのォ! 前門の狂鳥、後門の冒険者ってわけェ!? Hooknox ……なんてねッ! あんたに敵意はないよッ。見逃してくんない? 同じ冒険者なんだしさァ。ねッ? Hooknox そ、そっか……先に名乗んないとだねッ アタシはフックノックス。 見てのとおり冒険者ァ。ノックスって呼んでッ! Hooknox んでッんでッアタシが ここで何してたかっていうとォ…… 最近、ここの教団のカミサマがァ近東の国から すんごいお宝を贈られたッて小耳にはさんでェ…… Hooknox もゥ、ソッコー 競売所にダッシュしてェ 買ったヤグードの羽根で変装してェ…… Hooknox で、ここに忍び込んだんだけどォ なんかァ身体中かゆくなっちゃってェ あと一歩んトコで変装がばれちゃったってわけェ。 それからは、もゥここまで超必死ィ。 Hooknox ま、命あっただけマシかもォ。 ところでェ、あんたも自由な冒険者なんだしィ ここでアタシと取り引きしてみる気はあるゥ? Hooknox 噂だとォ、そのお宝 近東の技の粋を注いだ危険なブツって話らしいしィ アイツらに持たせとくとォ後でやばいかもよォ? どォ? 詳しく聞きたくなってきたァ? 選択肢:聞きたい? いいえ Hooknox ……あッ、そうなんだァ 案外、人間ってアタシたちより個人主義よねェ まッいいや。この話はなかったことにしよ? はい Hooknox あんたも人間よね…… っとッ、なんでもないないッ じゃあ、条件決めと行こ? Hooknox 要はァ面が割れたアタシの代わりにィ あんたがここのカミサマのトコに忍び込んでェ 寝所の地下宝物庫からァお宝をゲットしてェ ここに戻ってくればいいわけェ。超簡単でしョ? Hooknox ちなみにィその宝物庫のカギはァ すでにアタシが苦労して入手済みィ。 それがないとト~ゼン宝物庫の蓋は開かないよォ。 Hooknox んでェ、お宝は山分けってことで。 それが宝石とかならアタシがァ、兵器ならあんたが 手に入れてェその半分相応の金を相手に支払うの。 ……どォ? やってみるゥ? 選択肢:やってみる? いいえ Hooknox えええェッ? アタシの見込みちがいィッ? 別にいいけどォ、自力でも何とかなるしィ…… じゃ、バィバィッ! はい Hooknox うれしィッ! じゃ、これで契約成立ゥ。 でもォ……その姿じゃやばくない? Hooknox アタシほど完璧な変装は 無理としてもォ、せめて最低限ここで 怪しまれない格好をしとく必要はあると思うしィ。 Hooknox ……そうだァ! 街に行って誰か針仕事の得意な人にィ その恐い顔を隠すマスクを作ってもらえばァ? Hooknox じゃ、アタシは隠れてるしィ あんたの準備ができたら、またここでねェ。 ウィンダス森の区 Ponono あら、なんですの? わたくしのオーダー・メイドとなると 数年先まで順番を待っていただかないと…… Ponono ………… Ponono ……なるほど。 それはゆゆしき話ですわね。 お引き受けしましょう。ただ…… 狡猾なヤグードの目を欺くのは難しいですわ。 Ponono それに、もしもばれたら わたくしの咎だけでなく、我が国とヤグードとの 外交問題にも発展しかねないし……… Ponono でも、とにかくやってみましょう。 わたくし、しばらく型紙を検討してみますから あなたはビロードと 虹布を探してください。 Ponono あ、事情が事情ですし 手数料は10000ギルでいいです。 一緒に払ってくださいね。 Ponono まだ、型紙を考案中なんです。 それにあなたにビロードと 虹布を探してきていただかないと…… あと10000ギルも忘れないでくださいね。 Ponono それとも…… けっこう材料費もかかることですし またの機会になさいますか? あきらめた場合、クエストはキャンセルされ、 オファー前の状態に戻ります。 あきらめて、クエストをキャンセルしますか? あきらめる あきらめない(キャンセル) 本当にあきらめてよろしいですか? 本当にあきらめる やっぱりあきらめない(キャンセル) クエストがキャンセルされました! (Ponono に材料と10000ギルをトレード) +... ビロード 絹糸と毛糸または木綿糸を編んで作った布。 虹布 虹糸を編んで作った布。 Ponono わたくしの型紙もできてるし、 あなたの努力で材料もそろいました。 では、しばらくしたら取りにいらしてください。 それまでにわたくし、大まかに裁断しておきますわ。 Ponono ……まだ、終わってませんわ。 羽根を移植する微小な穴を開けつつの 作業ですから、長時間は作業できないんです。 もう少しお時間をください。 ※ヴァナ0時経過後。 Ponono 裁断は終わりましたわ。 なかなかの出来ですわよ。 はい、どうぞ…… ヤグード頭衣シートを手にいれた! ヤグード頭衣シート Rare ヤグードに扮する頭衣製作のために裁断された布。 Ponono それが完成すれば ヤグードも見紛うような 彼らそっくりの被り物が完成するはずですわ。 Ponono さて、わたくしの協力はここまで。 我が国とヤグードは平和条約を結んでるし 仕上げまでウチでやったギルド製品となると ばれちゃった時、何かとまずいですから…… 自作できるスキルがある場合 +... Ponono ……さて あとはあなたががんばる番。 作り方は教えますけれど、一度しか言いません。 よく耳をすませて聴いてくださいね。 Ponono まず加工用に土のクリスタル。 材料はヤグード頭衣シート、ブガードの牙、 コカトリスの皮、毛糸、 さらに植毛用にヤグードの羽根を2セット。 Ponono それに、眼には…… そう黒真珠2個がいいわね。 それで合成してみてください。 ちょっと多いですけど、覚えましたか? Ponono ……あと、補足です。 あなたなら材料から想像がつくと思いますけれど 骨と皮を扱う技も必要なんです。 Ponono だいじょうぶ。わたくしは信じてます。 多くの困難を乗り越えてきた、あなたですもの。 今度も……きっと成し遂げられますわ。 自作できるスキルがない場合 +... Ponono ……でも、あなたが ご自分でその面を仕上げるのは ちょっと難しそうですわね………… Ponono ……いいことを考えました。 Ponono ここで皆伝を得た冒険者裁縫師に お願いして仕立ててもらったらどうかしら? 作り方を一度だけ教えますから よく覚えて裁縫師に伝えてください。 Ponono まず加工用に土のクリスタル。 材料はヤグード頭衣シート、ブガードの牙、 コカトリスの皮、毛糸、 さらに植毛用にヤグードの羽根を2セット。 Ponono それに、眼には…… そう黒真珠2個がいいわね。 それで合成してみてください。 ちょっと多いですけど、覚えましたか? Ponono ……あと、覚えておいて。 これを作るには骨と皮も扱える職人さんでないと。 お願い前に、本人に聞いてみることを勧めますわ。 Ponono このギルドで裁縫を修めた 冒険者職人さんたちは、ステキな人ばかりでした。 わたくし、きっと協力してくれると思いますよ。 Ponono ……あっ、それから 彼らは厳しい修行の末、皆伝を得た裁縫のプロ。 お代はちゃんと払うのが礼儀です。忘れないで。 ヤグード頭衣シートを捨てた場合 Ponono ………… あの……まさか、ひょっとして ヤグード頭衣シートの再注文ではありませんよね? 選択肢:ヤグード頭衣シートを作ってほしい? はい いいえ(キャンセル) やっぱりあきらめる(クエストのキャンセル) Ponono ふぅ……仕方ありませんわ。 材料も余ってますし、もう一度裁断しましょう。 ただし、今回は過失ですから、手数料として 100000ギルいただきます。よろしいですわね? 選択肢:100000ギル払いますか? はい いいえ(キャンセル) Ponono ……確かに。 では、これから裁断を始めます。 しばらくしたら、取りにいらしてくださいね。 (指定された材料を合成する) +... 黒真珠 黒色の宝石 毛糸 獣毛をつむいだ糸。 ヤグードの羽根 ヤグードの風切羽。 コカトリスの皮 ぬめぬめしたコカトリスの皮。 ブガードの牙 ブガードの発達した歯。 ヤグードヘッドギアを手にいれた! ヤグードヘッドギア 防5 耐火+5 耐氷-25 耐風+5 耐土+5 耐雷+5 耐水+5 耐光+5 耐闇+5 Lv61~ All Jobs 祭壇の間 (ヤグードヘッドギアを装備してエリアチェンジする) Hooknox ブゥゥゥゥッ! ずいぶん待ったんだけどォ? 人間の社会じゃァ…………!? Hooknox ……………… Hooknox ……ねッ、ねェ なんかの人間の冗談だとは思うんだけどォ まさかァあんたそれでヤグードになったつもりィ? Hooknox ………やッ、やばくない? もぅこうなったらァ黙ってるしかないよォ。 無言の行をしてる僧の真似でもしてェ…… じャ、はいこれェ。 だいじなもの 宝物庫のキープを手にいれた! 宝物庫のキープ ヤグードが連絡や記録に用いる結び縄文字。 1本のロープにつけられた結び目の結び方、 間隔、数や色に数多の情報が含まれている。 ノックスの話では鍵の役目も果たすらしい。 Hooknox ……そのロープの結び目がァ 宝物庫の蓋のカギになってるからァ 怪しい床を見つけたら、はめ込んでみてェ。 Hooknox ……じゃ、アタシは この辺に隠れてるしィ、がんばってねェ。 Hooknox …………何よォ、文句あるのォ? アタシはァ、カギを手に入れるの苦労したんだしィ あんたもォ、ドジ踏まないでよねェ。 (Stone Lidを調べる) 彫り込まれた部分に宝物庫のキープをはめた。 ??? ……クククククゥッ かかりおったな、不浄なるネズミめ…… Yagudo Avatar きっとここにまた現れると思い 見張っておった甲斐があったぞ。 我が明主の御寝所に忍びし大罪。 万死をもって贖うがよい…………… Yagudo Avatar ……クククククッ 愚かなる邪教徒よ、偉大なる神力を知れ。 シシュ様……我が最期の戦い、ご照覧あれ! [Your Name]は、Laa Yaku the Austereを倒した。 [Your Name]は、Poo Yozo the Babblerを倒した。 [Your Name]は、Goo Pake the Bloodhoundを倒した。 [Your Name]は、Fee Jugu the Ramfistを倒した。 [Your Name]は、Kee Taw the Nightingaleを倒した。 [Your Name]は、Duu Masa the Onecutを倒した。 [Your Name]は、Yagudo Avatarを倒した。 (Stone Lidを調べる) ??? ハッモヤラーム…… サルミ、コポラーイ? Tzee Xicu the Manifest ほう これはこれは…… 盗みに入ったばかりか、かような乱暴狼藉。 我を全能なる神と知っての無礼であろうな? Tzee Xicu the Manifest ……………… Tzee Xicu the Manifest これは笑止。 我らが近東の邪教徒より贈り物を受けとるなど 天地が逆さになろうともあり得ぬこと。 まして、あの国は今………… Tzee Xicu the Manifest ……ふむ。 たとえ浅ましき人間といえど 濡れ衣を着せられるのは不快よの。 よかろう、我が順をおって話してやろう…… Tzee Xicu the Manifest 我が国が古より はるか東の国と交流があるのは知っておるか? 中には彼の地に渡り その王に仕えたハラカラもおるほどよ。 Tzee Xicu the Manifest 先日がこと。 その末裔より危急を知らす使者が送られてきた。 ……汝も聞き及んでおろうが 彼の地では恐ろしき天変地異が起きておると。 Tzee Xicu the Manifest しかも 報告はそればかりではなかった。 混乱に乗じて近東の軍勢が大挙来襲し 国境を脅かしておるのだそうだ…… Tzee Xicu the Manifest だが、宝刀を献上し 涙ながらに嘴を床に打ちつけて救援を請う そのかつての同胞に、我がしてやれたことは わずかな兵をつけてやることと……… Tzee Xicu the Manifest その宝刀を 再び返してやることだけであった。 神といえど無力なこともある……分かったか? おそらく、それがくだらぬ風説の始まりであろう。 Tzee Xicu the Manifest 近東の宝など まして兵器などここにはないのだ。 はなからな……… Tzee Xicu the Manifest だが、人間よ。 その憂国の志は異教徒といえど見事である。 汝がごとき者がいつの日か彼の地に渡りて 何事かなすのかもしれぬな…… Tzee Xicu the Manifest ……ふむ、我は決めた。 特別に恩寵として、汝に神器をとらそうぞ。 我らが姿を真似た頭衣をその蓋の上に置くがよい。 (Stone Lidを調べる) ……わずかに床が浮き上がっている。 その石には細長い渦巻き模様が彫り込まれている。 (Stone Lidにヤグードヘッドギアをトレード) Tzee Xicu the Manifest ……ほう。 汝は肝が据わっておるな。 修行を積んだ高僧でもなかなかそうはいかぬ。 Tzee Xicu the Manifest 誰かある? Tsoo Haja the Umbra これに…… Tzee Xicu the Manifest ツォーか? 汝、これよりその人間が冒険者の僕となれ。 Tsoo Haja the Umbra お、恐れながら、 こやつは人間。しかも憎むべき異教徒…… Tzee Xicu the Manifest 痴れ者めが! 神の言に疑問を挟むでない。 ツォーよ、その冒険者が頭衣を被りて命じし時 汝は命に代えても護るのだ。よいな? Tsoo Haja the Umbra 御意っ! なれど、もし………… Tzee Xicu the Manifest 我を襲えと命じたら ………か? 務めをまっとうすればよい。 それともツォーよ……汝は神の不滅を疑うのか? Tsoo Haja the Umbra めっ、滅相もなきこと。 されば、これにて失礼つかまつる。 Tzee Xicu the Manifest 汝に、 この頭衣を返そう。 ハジャヘッドギアを手にいれた! ハジャヘッドギア Rare Ex 防10 耐火+10 耐氷-50 耐風+10 耐土+10 耐雷+10 耐水+10 耐光+10 耐闇+10 エンチャント ヤグードヒーロー召喚 Lv75~ All Jobs 30/30 0 30/[20 00 00, 0 30] Tzee Xicu the Manifest あやつの名は 影法師のツォー・ハジャ。東方の忍術を修め 人間の言葉も解する如才なき武僧だ。 汝の思うようにあやつを使ってみせよ…… Tzee Xicu the Manifest さて、用は済んだ…… 早々に我が寝所より立ち去ってもらえるかな? 無礼なる冒険者よ。 Tzee Xicu the Manifest 今日のこと 我と汝の秘密ぞ。神は邪教徒に声をかけぬ。 邪教徒は神を目にした刹那に死すべき定め。 それは今後も変わらぬ事実……今をのぞいてな。 称号:ヤグードイニシエート (ハジャヘッドギアを装備してエリアチェンジする) Hooknox 遅かったじゃないッ! でも、その自身に満ち溢れた顔。 しっかりお宝をゲットしたんだ? Hooknox ……………… Hooknox …………そんな。おッ、お宝が アタシのお宝がッ、あ・り・ま・せ・ん・でした。 ですってェェェェェッ!? Hooknox …………ハァハァハァッ ウソは言ってないよ~ねッ。 ん、もう仕方ないッ! アタシも冒険者だもん、きっぱり諦めるよッ! Hooknox …………はい、コレ。 Hooknox アタシからの報酬だよッ! ッと、えとォ……私の計画で無駄足させたしィ それに危険な目にもあわせたしィ…… Hooknox 驚かないでよォ! ゴブリンにだってェ信義もあれば正義もあるしィ 友情だってェ…………… 獣人金貨を手にいれた! 獣人金貨 クゥダフの鋳造した金の硬貨。 獣人社会で広く流通している。 Hooknox じゃ、これで ほんとにお別れだねェ。バィバィ! Hooknox ……いつか、またァ どこかのダンジョンで出会ったらァ…… 今度はいっしょにパーティ組んでみようよッ! ▲ ■関連項目 オークの謙譲 , クゥダフの博雅 , ゴブリンの仁義 , 祭壇の間 Copyright (C) 2002-2015 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第二十二話 『帰還~邂逅』 ____ 魔法学園 中庭 『やめろっやめろ~!!やめっ!!!ギャアァァァァ~~~……………………!!!!』 魔法学園の平和な昼下がり…静寂を引き裂いて響き渡ったのは男の絶叫と一発の落雷の轟音。 「別に吸収出来るんなら良いじゃ無い。…で、実体を伴った衝撃までは消しきれないみたいだけど電撃何かは問題なしね。 これであたしの魔法も一通り試したけどあんた意外とやるじゃない。」 アルビオンでその真の姿を見せたデルフリンガー…ミントはその力をこの数日で試していた。友人となった他のメイジの魔法、自分の魔法。全て例外なくデルフリンガーは吸収してみせる。 相変わらず記憶は曖昧な為ブリミルや生きた古の情報は得られなかったが… 「褒めてくれるのは嬉しいがよ相棒。お前さんほんとやる事が無茶苦茶だぜ。何て言ったっけか?あの黒い大球『グラビトン』か…あれは流石の俺様もへし折れるかと思ったぜ。」 「何言ってんの、折れてないんだから良いじゃ無い。」 「ひでぇぜ相棒。」 「あ、居た居た。ミント~!!」 地面に突き立てられたデルフリンガーを引き抜きながらミントが満足そうに笑っていると少し離れた所からミントの名を呼びながら誰かが連れだって中庭へと歩いてくる。 「ん?キュルケとタバサじゃない。どしたの?」 「へっへ~、面白い物手に入れたからあんたに見せに来たのよ。きっとあんたこういうの好きだと思ってさ。」 言ってキュルケは近くに備え付けられたテーブルへと腰を落として手にした羊皮紙の束をミントに見せつけるようにひらひらと遊ばせる。 その直ぐ隣に腰掛けてタバサはいつもの如く本の世界へと意識を落とす。 「地図?」 「そっ、実家の息が掛かった商人から買い取ったお宝の地図。」 「お宝っ!?」 ルイズ、ミントがアルビオンでの任務を終えて魔法学園に帰還して一週間が経った。 あの後無事に帰還を果たしたルイズとミントはアンリエッタにはラ・ロシェールまでの道中からアルビオンで起きた全てを報告した。 アンリエッタは残酷な事実とウェールズの死に悲しみに暮れるように泣いたが既にレコンキスタの薄暗い陰謀が迫る以上事態はそれを許しはしない。嫌が応にもこの危機に立ち向かわなくてはならない。 「アンリエッタ…あたしがウェールズから貰ってた風のルビー、あんたにあげるわ。 その代わりと言っちゃ難だけど『遺産』『ヴァレン』『エイオン』『デュープリズム』これ等について調べて貰える? それとあたしが帰る為に貴女の力が必要な時は協力してもらいたいの…」 「勿論です。ミントさんはわたくしの為に危険を冒してまで尽力して下さった大切なお友達。今度はわたくしが手を貸す番です!!」 「アン…」 「ミントさん…」 そんなやり取りの結果ミントは当初の目論見通り、王女の全幅の信頼を手に入れた。望めば始祖の秘宝すら借り受ける事も可能だろう。 おまけに抜け目ないミントはアンリエッタに一筆を書かせることにも成功した。 【 この書を持つ女性ミントは王女アンリエッタ・ド・トリステインの盟友にして大恩ある恩人であり、その身は王家とヴァリエール家にて保証をする物也。 故に王女の権限においてこの書を持つ女性の活動に対し諸貴族は最大限の便宜を図るようお願いする物也。 アンリエッタ・ド・トリステイン 】 そんな常識外れな書を背中の鞄に収めてミントは今キュルケの手にした宝の地図に瞳を輝かせて注目する。 「タバサと何日か授業サボって宝探し行こうと思うんだけど、どうするミント?」 キュルケはミントの返答がわかりきった事を聞きながら悪戯に口角をつり上げた。 「行くにきまってるじゃない!!このあたしに掛かれば宝探しなんてどうってことないわ~!!」 「フフフ…だと思ったわ。やっぱり声かけて正解だったわね。」 「ルイズの許可は?」 揃ってノリノリで握り拳を天に振り上げたミントとキュルケにタバサがぽつりと呟くように問い掛ける。 「あ~そんなのいい、いい。そりゃ一声位はかけるけどあたしが行くって言ったらそれはもう決定なの。 ルイズ自身は腕の怪我もあるし何よりアンリエッタの結婚式の祝詞っての考えなきゃいけないからどうせあの子は図書館や自分の部屋に缶詰よ。あたしには関係ないわ。」 ___ ルイズ自室 「あ~…もうっ!!全ッ々思い浮かばないわっ!!」 備え付けのテーブルに座って白紙の書物と向かい合い、ルイズは降って湧いた名誉でありながらも厄介な事案に嘆きながら自慢のピンクブロンドの髪を掻き毟って項垂れる。 と言うのも数日前、ゲルマニアとの軍事同盟締結の為、アンリエッタ王女と皇帝アルブレヒト3世との結婚式がおよそ一月後に行われる事に決まった。 だが、アンリエッタからの直々の依頼によって伝統である祝詞の巫女にルイズが選ばれた。 それは良い、しかしオスマンを通じて渡された秘宝【始祖の祈祷書】は表紙以外は全て白紙という驚愕の仕様で秘宝と言う事で食いついたミントも一目でガラクタと断じた代物だ。 本番ではルイズは祈祷書を手に、あたかもそこに祝詞が記されているかのように自分で考えた詩を読み上げなければいけない。 そして、ルイズには残念ながらそう言った詩を謡う才能が決定的に無かったのである。 「うぅ…誰か助けて…」 ルイズは一人自室で誰とも無く恨めしげに助けを求めて深く溜息を溢す。因みにミントはルイズに対してはっきりと面倒だから手伝う気は無いと伝えていた。 ___ 中庭 「で、他には?あたし達だけなの?」 「一人メイドを連れて行くわ。偶然お宝の隠し場所の近くに実家がある子が居たから連れて行く事にしたわ。聞いてみたら地理にも明るいみたいだし、私達の食事の世話もして貰わないといけないしね。」 「へ~それは助かるわね。あ、それとそういう雑用なら一人連れて行きたい奴がいるんだけど大丈夫かしら?」 旅慣れているのかキュルケの以外に周到な段取りにミントは感心する。そしてミントの頭に一人お供として連れて行くのに最適な人物の顔が思い浮かんでいた。 「美少女に囲まれて冒険の旅だなんて…きっとあいつ泣いて喜ぶわよ~。」 ミントは言いながらにんまりと意地悪く微笑みを浮かべて食堂脇のテラスを見やる。 そこにはやはりというかこの後訪れる不幸などつゆ知らず、恋人であるモンモランシーと談笑しながら優雅に午後のティータイムを楽しむ男子生徒の姿があった。 「…少しだけ同情するかも…」 キュルケはそんなミントの視線の先に居るギーシュ(生け贄)のこの先の苦労を思うと思わず苦笑いを浮かべた。 ___ ウェストウッドの森 所変わってここはアルビオン大陸、サウスゴーダの街の外れにあるウェストウッドの森…今、この木々生い茂る深い森をローブを纏った一人の人物が歩いていた。 「ハァ~…ようやく戻ってこれたよ。ティファは元気にしてるかね~。」 独り言を呟きながら歩くのはかつてミス・ロングビルと呼ばれ、土くれのフーケを名乗り、マチルダ・オブ・サウスゴーダの名を隠した年…妙齢の女性。 「まっ、ラ・ロシェールの闘いであたしもレコンキスタから上手い事抜けられたしね、あのガキ共にしてやられたのは癪だけど御陰でこうやってここに戻って来れたってんだからあれも結果オーライって所だね…」 思い出すのはラ・ロシェールでのキュルケ、タバサ、ギーシュの三人を相手取ったあの夜の闘い…作り出した巨大ゴーレムは尽く氷と落とし穴の嫌がらせや足止めに会い、雇った傭兵は気づけば全滅。 マチルダの精神力が底を尽き始めた辺りで熱疲労と油の練金の合わせ技によってゴーレムを一気に崩され、最終的には意表を突いて風龍の背から飛び降りるように勢いを乗せて放たれたタバサのドロップキックでゴーレムの肩からぶっ飛ばされてしまった… 「あ~~~~っ!!!…思い出すだけで腹が立つ!!」 マチルダがそこまで思い出して一人森の中でストレスを発散するように叫んでいると不意に森の奥から人の気配を感じとり足を止める。 マチルダが今目指しているウェストウッド村はまだまだこの先でそこの住人というか子供達はこんな森の入り口付近にまで一人で出ては来ないよう教育されている。 「そこに居るのは誰だい!?出てきな!!」 マチルダは言ってタクト状の杖を抜いて油断無く構える。すると進行方向に生えていた桃林檎の木の陰から一人の男が静かに、だが堂々と姿を現した。 「(仮面?怪しい奴だね…)何者だい?」 マチルダの行く手を阻むように現れた男は主に目鼻を隠すような黒い仮面を付けていた。マチルダはつい最近共に仕事をしたあのいけ好かない白い仮面のメイジを思い出して警戒心をむき出しにする。 「悪いが名乗るつもりは無い。小娘、私はこれより先にはお前を進ませる訳にはいかん。 悪い事は言わん、このまま立ち去るならばそれで良し。立ち去る気が無いのならばこちらも少々強引な手をとらせて貰う。」 男の言葉にマチルダの表情は強張った… マチルダには自分がティファニアの元に帰る事を邪魔しようとする人物が居る事に心当たりがある。脱走まがいに抜けたレコンキスタの追っ手か…フーケ時代の追っ手か…それとも直接ハーフエルフのティファニアを狙う人物か。 マチルダは知らなかったがこの仮面の男こそは先日ティファニアが召喚した人物、ルシアンだ。そしてルシアン自身もマチルダの名前こそティファから聞いていたが目の前の怪しい女がそうとは知らない。 いわばこれは不幸なすれ違いによる事故なのだ。 「引く気は……無さそうだな。よかろう…」 マチルダの様子に引く気が無い事を悟り、ゆらりと流れるような動きでルシアンは戦闘態勢に移行して軽く足を肩幅に開き半身を前にだす。 (こいつ…強い!!) マチルダはその一動作だけでルシアンから発せられるプレッシャーを感じ、一瞬でルシアンの力を感じ取る。 伊達に荒事に身を置いていた訳では無いが杖すら持たずただ立っているだけでこれ程の威圧感を感じるなど尋常では無い。これが盗みの仕事なら逃げている所だ。だが、マチルダにはここで引く訳にはいかない理由がある。 次の瞬間、杖を振るったマチルダの足下の土は一気に隆起し、巨大な人型を形作りマチルダを肩に乗せた。これこそがマチルダの十八番の巨大ゴーレムだ。 ルシアンはマチルダのゴーレムが完成するまでの時間その様子を興味深げにただじっと見つめる。 「悪いけど、私の邪魔をするなら潰れて貰うよ!」 マチルダの意思に呼応してゴーレムがその豪腕を振り上げてルシアンへと一気に振り下ろす。しかし、ルシアンはそれに対して回避等の行動は一切行わなかった。 「わが魔力に挑むとは……無謀の極みだな。」 その代わり、ただ一言言って自らの左手をゴーレムの拳に向けて突き出し、手の平に魔力を集中させる。次の瞬間、それだけでゴーレムの拳はまるで何かに阻まれるようにルシアンの眼前でピタリと止まった。 「嘘、そんなっ…バカな!!一体何がっ!?」 どれだけ魔力を送り込んでもピクリとも動かなくなったゴーレムの上でマチルダは驚愕の声を上げる。ルシアンは杖すら持っていないし一言も呪文を唱えていない。ただ手を翳しているだけだ。 理解出来ないその現状にマチルダが混乱していると不意にゴーレムを押さえつけていた強力な力が消え去り、そのまま慣性に従いゴーレムは地面に拳を突き立てる。 予期せぬゴーレムの動きにマチルダの視界は揺れ、一瞬自分の足下だけを映す事になる。 ルシアンがどうなったかも分からず、まずは状況を確認しようと慌ててマチルダが再び顔を持ち上げ前を向くとそこにはマチルダにとって信じられない光景が映り込んでいた。 「これまでだ。」 目の前には杖も詠唱も無く、纏った甲冑法衣の飾り帯を毒蛾の羽のようにたなびかせて浮遊するルシアンの姿。 (あぁ…こんどこそ私もお終いね…ごめんねティファ…) そうしてルシアンの掌が閃光を発したと思った瞬間、マチルダの意識はまさに手も足も出ないまま衝撃と共に途切れたのだった。 「…う…ぅ~…ん…」 「あ、ティファ姉ちゃんマチルダお姉ちゃん目を覚ましそうだよ。」 一人のまだまだ幼い少女が簡素な木製ベッドに横たわるマチルダが僅かに声を上げた事に気が付いてティファニアを呼ぶ。 「ん…ここは…」 ようやく意識を取り戻したマチルダはぼんやりとした意識のまま見慣れた天井を認識し、上半身をベッドから起こす。と、そこに突然暖かく柔らかな衝撃がマチルダを襲い再びその身体をベッドに押し倒す。 「マチルダ姉さん!!」 しばらく耳にしていなかったその最愛の妹の声にマチルダの意識は一気に覚醒した。先程森の中で怪しい男に敗れ、気を失ったというのに目覚めれば自分の目指した目的地に辿り着いているのだから意味が分からない。 「ティファ…」 それでもマチルダは甘えるように自分に抱きついてきたティファを強く抱きしめ返し、絹糸のような金髪を優しく撫でてやる。その感触は間違いなく今が夢幻であるという事を否定していた。 「どうやら目を覚ましたようだな。」 そんな水入らずのやり取りを行っていた二人に部屋の扉の側から声がかけられる。 その声の主は仮面を外し素顔を晒したルシアンであり複数の子供達に法衣の裾を握りしめられている。その姿を認めたマチルダは分からない事ばかりだと無意識に表情で語る。 「先程は知らぬとはいえ悪い事をした、素直に謝罪させて貰おう。手荒い真似をしてすまなかった。」 「いや…え?あんたは一体何者だい?」 「姉さんこの人は……………」 マチルダの当然の疑問、それに答えたのはティファニアだった。 召喚の儀式から村の一員になるまでの経緯、狩りや子供達への教育、悪意を持って森に入り込んだ部外者を捕まえてはティファの元に連れてきたりと様々な面でウェストウッド村を助けてくれていると言う事。 そして人間では無いと言う事も… 「成る程ね…」 ティファの説明にマチルダは頷いて納得する。 今更亜人の類いだから等で差別をする気も無いし周りのルシアンに対する態度を見れば不器用ながらティファや子供達に対してどれだけ真摯に誠実に相対してきたかは覗える。 「分かったよ。これからこの国も物騒になりそうだからね、あんたみたいな強い男が側に居るなら私も安心だからね。よろしく頼むよルシアン。」 「あぁ、こちらこそよろしく頼む。マチルダ。」 言ってぎこちなく笑ったルシアンと優しくも厳しい姉然としたマチルダは堅く握手を交わす。 こうしてルシアンとマチルダはこの仮面を必要としない平和な村で互いにティファニアと子供達を守るという理念の元、少々のすれ違いを経て邂逅を果たしたのだった… 「所で……ルシアン、あんたティファに手を出したらぶっ殺すからね…」 「いらぬ心配だな…だが、心得ておくことにしよう。」 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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423 :進たま[]:2007/09/18(火) 15 32 35 ID jndvcNWg 資料室、本を探しに来た、たまきは薄暗い室内にカーテンの隙間からキラキラとした 光が差し込む様子が美しくて、少しの気まぐれから電気をつけずに資料を探していた。 そんな少女じみた気分になっていたのは、きっと何年ぶりかにあの人にあってしまっ たから。 進藤 一生・・・・・6年も昔の話だ。その人物との少しの切ない思い出は、まるで 初恋の様に鮮明に、この胸に刻まれている。それでも美しい想い出に変わったと、信 じていた。今日あの人を見るまでは。自分の気持は6年前のあの時から時を止めてい たと、今日初めてわかったのだ。一体自分はいくつなのだ。少女じみた気持に失笑し 不意に涙が一滴こぼれおちた。 「おい」 ひどく懐かしい声を背後に感じて振り返った。そこには今しがた想いをはせた 人物が立っていた。 「進藤先生」 動揺して震える声がでる。頬にはまだ美しい涙の滴が一滴。進藤は少し眩しそうに こちらを見ていた。二人の間は暫く時が止まったまま、永遠の時間が流れる。絡ん だ視線は6年前と同じ時間を刻んだ。先に口を開いたのは、彼女だった。 「お久ぶりね。いつ日本に戻ってきたの?」 「先週だ。おまえもこっちに戻っていたんだな」 その低い声も、強い視線も、たまきが知っている彼のままだった。切ない想いがあふれて 弱い自分が顔をだす。知ってもらいたい、知らないでいて、相反する思いが交錯する。 「どうした?」 優しい低い声に顔をあげた。精一杯頑張ったとびきりの笑顔で答えた。 「なんでもないわ。もう行くわ」 本当は一緒にいたい切ない気持を押し殺し、自分の感情が暴走してしまう前に足を 踏み出した。彼の脇を通り過ぎようとした所で不意に思ってもいない方向に、体が 傾いた。 424 :進たま[]:2007/09/18(火) 15 56 03 ID jndvcNWg それと同時に頭に痛みが通り抜ける。 彼女の絹糸のような美しい黒髪が進藤の上着のボタンに絡まっていた。 「ごめんなさい」 無理やり取ろうと、痛みをこらえて引っ張るたまきの腕を、大きな手が優しく止めた。 「引っ張るな。ちょっと待っていろ」 たまきは俯いた。すぐ近くに感じる彼に眩暈がしそうになる。はやくここを逃げ去りたい。 たまきは俯いたまま目を閉じた。頭が不意に軽くなるのを感じて、絡まっていた髪が取れた事を知った。それなのに彼は取れた髪を持ったまま、離そうとはせずに彼女を見つめた。 この瞳に視線をあわせたら。例えようもない恐怖が走り、足が震えだした。 「髪、もういいでしょ?」 彼女の震える声に、彼は返事を返さず、先ほどよりさらに強い視線を向けた。たまきにはもう口から出る言葉が見当たらない。困惑と怯えが混ざった視線を彼に返した。 髪に触れた指がゆっくり降りてきて、その長い指が彼女の顎にかかった。頭を引き寄せられ 視界が動いた。眩暈がする。唇に強く触れたものが何なのか、動揺した頭ではすぐに判断できずにただ時計の音がいやに大きく感じられて意識を奪い去った。 まだ焦点がはっきりしない視線の先に薄暗い天井が移った。 ハッとして起き上がると、そこはすでに資料室ではなかった。覚醒した意識で見渡した部屋は温かくほろ苦い記憶の奥にある部屋で、自分が寝ているのは、高飛車に自分が寝るのを拒否した場所だった。上から懐かしい顔がのぞいた。 「香坂先生、へーき?びっくりしたよ」 「神林先生、私・・・?」 「進藤先生〜香坂先生気がついたよ!」 神林の言葉にたまきの心臓は跳ね上がった。唇に熱いリアルな感覚。最後に見た人物は......彼は起き上った、たまきの目に精悍な顔が映った。その顔は何の動揺も衝動も隠してはいなかった。6年前と何ひとつ変わらない彼の顔だった。先ほどの記憶は自分の妄想だと思わせた。自分の心が作り出した悲しい夢だったのだろう。あまりにリアルな切ない記憶は心を締め付けた。 「仕事のしすぎだよ〜あんまり寝てないでしょ?貧血の兆候もみられるし」 「資料室で進藤先生が見つけて運んでくれたんだよ」 神林は苦笑している。資料室で会った事だけは、夢ではない様だった。 彼がゆっくり近づいて来るのをぼんやり見つめた。 「あんまり無理するな」 たまきの頭を軽くと叩くと少し微笑んで医局を出て行った。叩かれた頭が熱く、心臓がまた高鳴りだした。 これ以上彼に逢ったらいけないと、心臓の高鳴りと共に警報音が高く鳴り響いた。彼の事さえ考えなければ私は私のままでいられる。強くいられる。あの人は奥さん以外を愛さない。望なんてないのだ。それを彼に望む程、恥知らずな事はない。もう逢わない。心に強く誓いをこめた。 その後戻って来たメンバーによって進藤が人道支援団を降りて、港北の救命に戻って来る事を知った。もう逢わないと、望まないと決めたくせに、心は喜びに充ち溢れた。 この3年間、心配で新聞を覗きこまない日はなかった。彼の今いる危険な地域に思いをはせ新聞に、ニュースに彼の名前が載らない事を切に祈り続けた。彼が安全な場所にいてくれる。 それだけでいいと思えた。たとえ6年前の温かに刻んだ時を二度と彼と過すことが出来なくとも。 同じ場所に彼がいる。それだけで。 進藤が救命に戻ってから一か月、たまきは殆んどを研究室で過ごした。彼に逢わないように最新の注意を払った。研究に没頭し何も考えないように過ごした。1か月も食事と睡眠をまともにとらずに過ごすと、さすがに意識が朦朧としだした。限界・・・・時計を見ると8時少し前。 こんな時間に救命が終わる事は、まずありえない。たまきは簡単に身支度をすませ研究室を後にした。病院を出ると外は漆黒の闇で冷たい風が吹いていた。歩き出してすぐに顔に水滴が落ちてきた。雨だ・・・・降り出した雨は次第に強さを増し、冷えた体を容赦なく叩きつけた。 ついてない。小さく呟やいた。疲れた体は走る事を拒否している。ここまで濡れれば今さら走ってもね、と自嘲気味に思い、わざとゆっくり歩いた。急いで走っていく通行人たちが不思議そうに、たまきを見やった。ずぶ濡れのたまきにタクシーは止まってはくれず、疲れた足は公園の前の電話ボックスで足を止めた。電話ボックスの中、5月の雨に冷えた体は小刻みに震えている。 扉に寄りかかった頭は思考回路を停止させた。ぼんやりみやった街灯に照らされた薄暗い歩道の先に見知った人物が見えた気がした。 その姿が彼だとはっきり確認した時は、既に走ってくる人物もまた、足を止めてこちらをみやった。警報音が鳴り響く。瞬間的に扉を開けて走り出した。疲れていた足は思う様には動かない。それでも持っている力の限り走り出した。こんなに寒くて心細い夜に限って逢うなんて。涙が溢れる。逢いたくて逢いたくて、逢えなくて。自分はこの1ヶ月どれだけ我慢していたのか。 伝えたい、知られたくない、あの人が欲しい、望んではいけない、交錯する思いが雨の冷たさも忘れさせる。背後から急に人の気配がして、力強い手がたまきの腕をを掴んだ。ビクッと身体が震えて足を止めさせた。 「おい!夜に暗い公園になんか入るな。危ないぞ。」 顔をあげると眉をかすかにしかめた彼が立っていた。 「私に構わないで。腕、離して」 ちからなく放った言葉は雨にかき消され、腕を振り切る力も残されてはいなかった。どうして出逢ってしまったのだろう。6年前なら少しは素直に想いを伝えられていたのかも知れない。 あの頃は淡い期待を胸に抱いていた。シカゴから戻ったら、と夢を描いて。そんな夢は3年前彼が何も言わず日本を旅立ってから消え去った。自分がいかに彼にとってどうでもいい存在だったかを知らしめた。あの時に一度諦めたのに。私は馬鹿だ。俯いて、もう一度呟いた。 「離して」 そう声が出た瞬間激しい眩暈がたまきを襲った。耐え切れずしゃがみ込む。寸前で強い腕に抱えられた。 「おい!大丈夫か?」 心配そうな声に答えられない。不意に抱きあげられて景色が変わった。 「おろして」 「黙れ。目を瞑ってろ」 そう言うと進藤は雨の中歩き出した。 小さな抵抗は、強い視線に制されて、その強く逞しい腕の中で静かになった。雨に冷えた身体は小刻みに震えた。 「ちゃんと掴まれ」 低い低音が直接頭に響いてくる。諦めが次第に強くなった彼女は彼の首に腕を廻した。 朦朧としている意識の中、進藤の心臓の音と雨の音が響く。傘をささない二人に冷たい雨は降り注いでいたけれど、不思議とそれを感じなかった。進藤が静かに足を止めた。 5階建てのマンションの前だった。たまきを抱いたまま無言でエレベーターに乗り込んだ。 4Fで降りた進藤はそのまま広い廊下を進んで、角の部屋の前でたまきを降ろした。 不意に降ろされてふらついた、たまきを進藤が片手で支えて、もう一方の手で素早く鍵を開けた。 支えられたまま部屋に通される。電気をつけた室内が明るく照らしだされた。 ソファーに降ろされそのまま寄りかかると目を瞑った。頭がぐるぐる回っている。この状況を深く考えられずに、ただ目を閉じた。 「おい、寝るな!着替えろ」 その言葉にハッと目を開けた。苦笑した進藤が着替えとタオルを差し出していた。 顔が瞬時に赤くなり、急にこの状況にうろたえだした。逢わないように頑張ったのにどうしてこんな事になってしまうのか。 はやくここから出なければ。慌てて立ち上がった。 まだ眩暈はするが、気力で姿勢を正す。 「迷惑かけてごめんなさい。もう平気よ。タオルだけ御借りするわ」 「まだ無理だ。貧血だろ。雨がやんで気分がよくなってから帰れ」 「本当に大丈夫だから」 心臓がまた大きく高鳴りはじめた。俯いたまま視線を合わせられない。頬に温かさを感じた。彼が伸ばした手が優しくたまきの顔を持ち上げる。強い視線に瞬く間に絡めとられた。 「いいから、言う事を聞け」 優しく強い視線と言葉に、無残にも頷いている自分がいた。 シャワーの温かさで冷えた体が熱を帯び始めた。熱を取り戻した身体は、虚ろな頭をも覚醒させた。彼に借りた白いシャツに腕を通して、フッと鏡に移った自分を眺めた。ひどく幼い顔をしていた。それは大人の女の顔ではない。不安、怯え、期待がほの白い顔を彩る。 バスルームから続くリビングへの扉を勇気を込めて押し開いた。ソファーに座ったまま、目を閉じている彼を見て、どこか安心した気持になり、彼の横に座って疲れた寝顔に 手を伸ばした。頬に触れる直前、彼の目が開いた。所在無げに宙を浮いた手は、急いで元に戻されてまた少し見つめあった。先にそらしたのは彼女。 「あなたこそ、そのままじゃ風邪ひくわ。」 小さく笑った彼女に彼も苦笑を返した。 「そうだな。俺もシャワー浴びてくるから、お前は少し寝ていろ」 「わかったわ」 バスルームに消えていく彼を見つめながら、眠れそうにない事はわかっていた。身体は、睡眠を欲しているのに、一度覚醒した頭は、信じられない状況のせいかハイになっていて思うような眠りは与えてくれそうにはなかった。ぼんやりしながら、彼が淹れてくれたコーヒーを飲んで心がまた冷静になるのを待った。期待をしたり望んだりする事は罪だろう。 彼は、いつだってお節介だったし、それは、たまきに対してだけでは決してない。ましてや具合の悪い人を見捨てられはしない。それでも、彼のプライベートに立ち入った事で、こんなに幸せを感じてしまっている。 そしてそれが罪であるとも同時に感じている。立ち上がりカーテンを開けてやまない激しい雨を見つめた。この雨は自分の心を映し出しているのだろうか? 「寝なくていいのか?」 「ええ、何だか眠れなくて。ごめんなさい」 「別に謝らなくていい」 苦笑した彼を正面から見つめる勇気がなくて俯いたままほほ笑んだ。 「あの、雨が止んできたら勝手に帰れるから、あなたはもう寝て。明日も仕事でしょ?」 「おまえが気にする事じゃない」 そのセリフ前にも言われたなぁ〜とぼんやり思っている間に、彼はキッチンに行ってしまった。 再度ソファーにもたれると、キッチンからコーヒーの匂いが漂ってきた。 雨の音は強さを増して雷の音が遠くで聞こえた。 雷の光に目を奪われていたので、不意に隣に彼が座った事に驚いた。 無言で優しく、新しいコーヒーを差し出されていた。お礼を言って受け取ると、二人の間に沈黙が流れた。雨と雷の音に占領された部屋は静かで、その沈黙は彼女を居た堪れない気持ちにさせていく。 でももう彼に語るべき言葉が思い当たらない。 いっぱいあるはずの、離れていた間の思い出は、語ったり、聞いたりすれば、その間の切ない気持を思い出して泣いてしまいそうだから。 彼の前では強くありたいと思うのに、愛おしい気持ちが弱さを引き出す。無言の沈黙に不安で押しつぶされそうになった頃、一際大きな雷の音が鳴り響き、部屋は一瞬で闇になった。 突然の暗闇に驚いて動かした手が、彼の手に触れた。 手を引っ込めようとした瞬間彼の指が自分の指に絡まった。振り払う事はできはしない。そこは本当の闇だった。 音はすべて消え去った無言の闇だった。話す事を忘れてしまったかの様に、何の言葉も浮かんではこない。闇になれてきた目は彼がこちらを見つめている事に気がついた。 あの目を見てはいけない。ここから逃げなさい。それなのに震えはじめた足は動かない。 「香坂、こっちを見ろ」 強い低い言葉が頭を突き抜けた。見てはいけない。頭は警告音を発しているのに、 たまきの顔はゆっくり進藤の方へ向いた。そこには彼女の知らない彼の目があった。 暗闇に急に光が差し込む。眩しさに細めた視線の先にあったのは、強い視線の男の目だった。 それは決して彼が見せた事がない熱を含んだ視線。限界だと感じた。もう隠せはしないだろう。 彼のすべてをほんの短い時間でも独占したい、そう強く望んでしまった。 「逃げないのか?」 彼の言葉が何を意味するか、十分承知だった。 「逃げないわ。」 自分も強い視線を返した。彼がほほ笑んだ様に見えた。不意に立ち上がり電気を落とした。 あたりはまた暗闇に包まれた。腕が伸びてきて、たまきを抱き上げた。ベッドに静かに落とされる。 心臓が痛いぐらいに高鳴った。覚悟を決めていた頭にわずかな怯えが走り、咄嗟に起き上がりかけた身体を、手首を掴まれそのまま倒された。すぐ目の前には彼の顔があった。 「言葉が必要か?」 耳元で囁かれた言葉に目を見開いた。 言葉がほしいわけじゃない。 私が今ほしいものは。それは一つだけ。彼だけ。たとえ一瞬で消えてしまうものでも、これが夢でも、幻でも、それでも欲しいのは彼だけ。 彼が自分をどう思っているかの問題じゃない。これは自分自身の気持の問題なのだから。 「いいえ」 それだけ告げて目をつぶった。 →1-437に続く
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翼をもがれた鳥 第17話――幸せの素に導かれて―― 白く、しなやかな指がペンダントのチェーンにかかる。 絹糸のように細い輪の連なり。ほんの一瞬の抵抗の後、弾けるように宙に舞う。 手を真っ直ぐに伸ばす。千切れた鎖の先で輝きを放つ、幸せの素を高く掲げる。 贈ってくれた人の目に、しっかりと映るように。 向かい合う少女は、信じられないといった面持ちでその動きを見守る。 心は凍りつき、感情は形を成さない。思考だけが状況を正確に、そして無慈悲に、記憶に刻み込んでいく。 (やめて、お願い、やめてぇ――!!) 届かない。どんなに叫んでも、今のせつなの声は決して届くことはない。 これは、夢の中なのだから。 せつなと、そして、きっとラブにも刻まれた過ちの記憶なのだから。 チェーンをつかむ指から力が抜け、ゆっくりと落下していく。まるで、スローモーションのように。 固いコンクリートの床に叩き付けられ、軽くバウンドする。 ズキン――ズキン――ズキン ズキン――ズキン――ズキン――ズキン ズキン――ズキン――ズキン――ズキン――ズキン 痛い、痛い、痛い。心が――砕け散りそうになる。 まるで自分の魂が、その緑色のアクセサリーに封じ込められてでもいるかのように。 踵で踏み付けて力を込める。形を変えるはずのない硬い樹脂が、ほんの一瞬だけ歪む。 軋みを上げることもなく、割れる音を大きく響かせることもなく。 悲しいほどにあっけなく――四散した。 『翼をもがれた鳥――幸せの素に導かれて――』 「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」 激しい運動ですら、滅多に乱すことの無いせつなの呼吸が荒れる。 額に滲む大量の汗は、寝苦しいほどに熱い気温のせいだけではないだろう。 「ある。――ちゃんと、ここに……」 ベッドの宮棚に大切に置かれた、緑色のアクセサリーを手にする。 もう、欠片とは呼べないだろう。 砕けた破片の中から見つかった四つ葉の一枚。それを削って、磨き上げて、ハート型に仕上げたのだ。 このままでは、あまりにも悲しかったから。 後悔以外の――意味を与えたかったから。 トン、トン、トン パジャマを着替えて、静かに階段を降りる。 まだ起きるには早い時間かと思ったが、あゆみは既に家事に取りかかっていた。 居間の隣、和室と呼ばれる畳で敷き詰められた部屋。そこで先の尖った器具で作業をしていた。 邪魔をしてはいけないと思い、その場で待つことにした。 しばらく後、作業が一段落したのか、あゆみは廊下でたたずむせつなに気が付いて振り返る。 「おはよう、せっちゃん。どうしたの? こちらにいらっしゃい」 「おはよう、あゆみおばさま。邪魔しちゃってごめんなさい」 なんとか丁寧語を崩そうと、懸命に努力しているせつなの挨拶が可愛らしかった。あゆみはせつなを招き寄せる。 アイロンかけはほとんど終わっていたのだが、せつなの様子から、興味がありそうに見えたからだ。 不思議そうな顔で見つめるせつなに、やってみたら? とあゆみが持ちかける。 少し恥ずかしそうにはにかんで、せつなは頷いた。 霧を吹き、細かい部分から順に、直線的に動かしていく。 右手でアイロンの先を浮かして動かしながら、左手で器用に生地を引っ張っていく。 見る見るうちに美しく仕上がっていく。 あゆみは驚きに目を見開いた。 確かにアドバイスはした。素直に頷きもした。しかし、せつなの手はそれを始めから熟知しているかのように動く。 その動きは、あゆみと比べても遜色のないものだった。 「すごく上手ね、せっちゃん。やったことあったのね」 「いいえ、これが初めてです」 「えっ? でも、教えていないことまで……」 「さっきまで、おばさまのアイロンかけを見ていたから」 そのとんでもない言葉に、あゆみは一瞬、驚愕して身を引いてしまう。 改めて、まじまじとせつなを見つめる。その表情には、自信も、誇らしさもうかがえなかった。 それどころか、困ったような、不安そうな様子すら感じられた。あゆみの反応に、何か失敗してしまったのではないかと心配しているのだろう。 ふと、あゆみはラブの言葉を思い出す。 とてもつらい所で生きてきた子だからって。失敗したり、言うことを聞かなかったりしたら、それだけで命が奪われてしまう。 そんな世界で、ずっと暮らしてきた子だからって。 極限まで研ぎ澄ませた集中力。ずっと、この子はそんな風に張り詰めて生きてきたのだろう。 愛しくなって、あゆみはせつなをそっと抱き寄せた。 情緒が不安定なところもあるだろうけど、仕方がないの、わかってあげて。 ラブはそう言っていた。 情緒不安定はどちらかと思う。せっちゃんに変に思われないかしら? そう心配しつつも、抱き寄せる腕を離す気にはならなかった。 この子に一番必要なのは、この安心感だって気がしたから。 「おばさま?」 「ああ、ごめんなさい。嫌だった?」 「ううん――」 「そうだ、何か用事があったんじゃないの?」 せつなは小さく頷いて、ポケットから緑色の塊を取り出した。 大切そうに、両手に乗せてあゆみに見せる。 「大事なものなんです。壊してしまって……。もし、使わないチェーンか何かあったら」 「直したいのね?」 「はい。始めは四つ葉の形をしていたんです」 「ええ、ラブから聞いているわ。あの頃ね――」 ねえねえ、おかあさん、幸せの素って何だと思う? 商店街の福引の一等賞がそれなんだって。だから、どうしてもゲットしたいんだ。 キラキラと瞳を輝かせてラブはそう言っていた。 貯めてたお小遣いも全て使っちゃった。カオルちゃんのドーナツを食べるお金すら残ってないよ。 よく、そうボヤいていたものだった。 それでも諦めきれなくて、進んでお使いをかってでた。 買い物に出かけるたびに足を弾ませて、帰ってくるたびに肩を落として―― ある日、素敵なお友達と知り合うことができたって、ラブはそう言っていた。 その子はドーナツを食べるのが初めてなのに、惜しみなく半分こしてくれたって。 ジュースも買えなくてお水で喉に通したけど、これまで食べたどんなドーナツよりも美味しかったって。 その後、やっと幸せの素を手に入れることができたって。そして、それをその子にあげてしまったって。 ごめんなさいって、ラブはあゆみに謝った。 あゆみは、良かったわねって、そう言って微笑んだ。 「だって、そうでしょ? もっと欲しいものが、見つかったってことなんですもの」 「はい……」 せつなは、それを両手に握りしめて瞳を潤ませる。 あの日から、あゆみはその子のことが、ずっと気になっていたって。だから、こうして家族になれて凄く嬉しいって。 「そうそう、チェーンだったわね。待っててね」 「おばさま! それは――」 清楚な光沢を放つ白銀のチェーン。その先に付いているのは、ハートをあしらったプラチナの細工物。 その中央に丸くて大きなルビーが収まっていた。 それは、樹脂で成型されたものなんかじゃない。本物の――宝石だった。 「待ってください! それは、駄目です!」 「いいのよ。せっちゃん、赤が好きなんでしょう? だから、あげようと思っていたところなの」 専門知識の無いせつなにも、それが相当に高価なものだということくらいはわかる。 普段、宝石を身に付けないあゆみの持ち物であることを考えれば、大切な思い出の品だということも想像がつく。 せつなの制止も聞かず、あゆみはそれをチェーンから外し、代わりに幸せの欠片を取り付ける。 「器用でしょう? これでも職人の娘なのよ」 「私、そんなつもりじゃ――」 「いいの。ただし、ルビーは部屋にしまっておくこと。中学生が身に付けるものじゃないわ」 「中学生?」 「そうよ、もう手続きは済ませましたからね。せっちゃんはラブと同じ中学二年生よ」 できた! きっと、よく似合うわ。あゆみは、抱きつくような格好でせつなにペンダントをかけた。 そして、せつなの手を開いてルビーを握らせた。 情熱の赤い宝石。勝利の石とも呼ばれ、あらゆる危険や災難から持ち主の身を守り、困難に打ち克ち、勝利へと導くという。 「きっと、せっちゃんのことを守ってくれるわ」 「ありがとう――」 そこから先は言葉にならず、せつなは、今度は自分からあゆみに身を預けた。 飛び込むほどの勇気は出せず、触れるか触れないかの距離で全身を震わせて泣いた。 あゆみは優しくせつなの背中を撫でる。そして、心を込めて囁いた。 「幸せになりなさい。せっちゃん」 小さくて可愛らしいハート型のペンダント。せつなは、そっと首に戻して追憶を終える。 幸せになりなさい――あの時かけられたあゆみの言葉に、結局せつなは返事をすることができなかった。 今なら、胸を張って応えられるだろうか? はい――と。 無理だと思う。 それでも、せつなはこれから幸せをつかみに行く。 例え、一時のものであっても構わない。与えられるのではなく、自分から幸せを手に入れに行く。 (それをどうか――許してください) せつなはペンダントを握りしめて、静かに祈りを捧げた。 コンコン 部屋がノックされる。音の響きでラブだとすぐにわかる。 せつなは、急いでペンダントを服の中にしまって扉を開けた。 「せつな! ブッキーがせつなに会いたいって」 「ええ、わかった。私が迎えに出るわ」 「そっか。じゃあ、あたしはお茶を淹れてくるね」 祈里からせつなに会いに来る。それがラブには大きな驚きだった。 まだ、美希や祈里はせつなと馴染んでいるとは言い難い。ラブとしても気の使うところだった。 まして、祈里は控えめな性格で、自分から行動を起こすことは少ない。それだけに意外で、そしてありがたかった。 せつなが玄関まで迎えに出ると、祈里は嬉しそうに微笑んだ。 手には大きな包みを抱えている。せつなは自分の部屋に祈里を案内した。 「いらっしゃい、ブッキー」 「お邪魔します。わぁ~、せつなちゃんのお部屋かわいい!」 「ありがとう。とても気に入ってるのよ」 せつなは本当に嬉しそうに微笑んだ。もともと、自分のことを誉められて喜ぶような子ではない。 だけど、この部屋は別だった。この家と、この家族は特別だった。 「今日は、せつなちゃんにプレゼントを持ってきたの」 「ありがとう。何かしら?」 「これは――赤い、ダンス服? 私の……」 「せつなちゃんの、クローバー加入のお祝いよ。気に入ってもらえるといいけど」 「ありがとう――さっそく着てみていいかしら?」 「うん、わたしは外に出てるね」 「それは悪いわ。ブッキーになら、見られても平気だから」 「なら着つけを手伝っちゃう」 下着姿になったせつなを見て、祈里は息を呑む。 透き通るような白い肌の下に秘められた、強靭なる筋肉。鍛え上げられたスレンダーな肢体なら、美希で知っている。見たことがある。 だけど、またそれとは違う。魅せる力ではなく、秘める力。生き抜くことに特化した、戦うための肉体。 例えるならば、豹のようなしなやかさ。研ぎ澄まされた、刃物のような美しさ。一見女性らしい丸みを帯びながらも、その奥に弾けるようなバネを感じさせた。 「せつなちゃん……すごい……綺麗」 「もう、恥ずかしいからジロジロ見ないで」 「ごめん。じゃあ、寸法の微調整もしちゃうね」 「ええ、お願い」 祈里は、メジャーと針と糸を引っ張り出して仕上げにかかった。 大まかな寸法はラブと同じと聞いていたが、念のため調整が効くように仕上げを残しておいたのだ。 「お待たせ、ブッキー、せつな。って――何やってるの~~~!!」 「あっ、ラブ! これは」 「ちっ、違うの、ラブちゃん。脱がせてるわけじゃなくて!」 かろうじて、淹れたお茶をひっくり返さずにすんだラブに事情を話す。 フンフンと聞いていたラブだったが、納得がいくと、とたんに目を輝かせた。 「せつなって超キレイ~、あたしとはお風呂も入ってくれないんだよ」 「一緒に入ろうとしてたんだ……」 「ちょっと! もう、何の話よ。いいから服を返して!」 すっかりせつなの下着姿の鑑賞会になったことに、口を尖らせて抗議する。 身体を丸めてうずくまったせつなに、祈里は仕上げの済んだダンス服を手渡した。 「どう――かしら?」 「せつなちゃん、よく似合ってる!」 「うんうん、これでせつなもクローバーだね!」 「ありがとう、ブッキー」 「えっ、今、せつなブッキーって……。それに、ブッキーもせつなちゃんて……」 「うん、この間からなの」 祈里が嬉しそうに事情を話す。せつなも恥ずかしそうに頷いた。 よほどダンス服が嬉しいのか、せつなは姿見を眺めながら何度もクルクルとまわる。 そして、ラブの携帯に着信が入る。 「もしもし、美希たん? えっ、せつなに? うん、代わるね」 「もしもし、ええ、今はブッキーと私の部屋よ。うん、わかった。一緒に練習しましょう」 今度は、美希からせつな宛ての電話だった。親しげに話す様子に、ラブは目をパチクリさせる。 明日は、せつなにとって初めてのダンスレッスンだ。事前に、基礎だけでも予習しておこうとの美希からの誘いだった。 四つ葉町公園の、いつものダンス練習ステージに四人は集まった。 ピンク、ブルー、イエロー、そしてレッド。一際目立つ真っ赤なダンスウェアが、クローバーを華やかに彩る。 眩しい日差し、爽やかな風が心地良い。夏特有の命溢れる草木の薫り、生気漲る澄んだ空気が肺の中を満たしていく。 せつなは目を閉じ、それらを全身で感じ取る。 そして、一言、感慨深くつぶやいた。 「本当に、ここに立つことができたのね」 「ほんとうにって?」 「ラビリンスのイースだった頃、一度だけここで、みんなと一緒に踊る夢を見たの」 「わたしたちと?」 「ええ、ラブも美希もブッキーも。そして、ミユキさんに指導してもらっていた」 静かに、淡々と、感情を込めずにせつなは語る。 それでも、時々声が震えてしまうのは隠すことができなかった。きっと、それは歓喜の震えなんだろう。 ほんと、図々しいわよね。そう、自嘲気味に笑って締めくくった。 みんなも、もう分かっていた。せつなは、ずっと前からみんなの知るせつなであったことを。 そして、もう一つ。一見物静かなせつなの胸の奥には、真っ赤に燃えたぎる情熱の炎があることを。 「さあ、明日までに基本を一つでもマスターして、ミユキさんを驚かせちゃおう!」 「始めはゆっくりでいいからね、せつなちゃん」 「頑張ろうね! せつな」 「ええ、ありがとう。大丈夫よ」 自信を漲らせてせつなが答える。他の何を失敗しても、これだけはモノにしてみせる。 それが、この場にせつなを立たせてくれた、ラブと美希と祈里と、そしてミユキの気持ちに報いることになるのだから。 スタンドポジションからアティチュード、そしてアラベスク。コントラクションからリリース。 スポンジが水を吸収するかのように、せつなは次々に身に付けていく。 その動作の正確さは、最も美しいと言われる美希すら凌駕した。 「凄いよ、せつな。もうあたしより上手なんじゃ?」 「ラブ……。さすがにそれは問題があると思うわよ」 「あはは、でも、油断したらほんとうに置いていかれちゃいそう」 「ありがとう。ここまでは夢の通りね」 「そうだ! せつなのクローバー加入のお祝いに、ドーナツパーティーしようよ!」 「いいわね、やりましょう!」 「賛成!」 ラブの提案と、美希と祈里の賛成にせつなは目を丸くして驚いた。 ほんとうに、まるっきり同じ。もしかして、これも夢なんじゃないかとほっぺをつねってみた。 生々しい痛みと現実感。それが、涙が出るほどに嬉しかった。頬の痛みのせいにして、そっと目じりを拭った。 そして、行きましょう! とせつなからラブの腕を引いて走り出した。 何もかも同じ展開なんて癪に障るから。それなら、自分から変えてやろうと思った。うんと、楽しんでやろうと思った。 それに、最後は違う。絶対に違う。 これは夢ではないのだから。決して、覚めることはないのだから。 せつなは走る。 胸に輝くペンダントは、四つ葉ではないけれど。 もう――儚く砕けることはない。今も、そしてこれから先も、せつなの幸せを明るく照らしてくれるのだから。 第18話 翼をもがれた鳥――夢と幸せの継承者――へ続く
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初めてシン・アスカという少年に出会った時に思ったのは「生意気盛りの少年」というものだった。 勝気そうな顔に、意思の強さを思わせるまるで炎のように燃えているのかとさえ思う真紅の瞳。 自分とは正反対な子だと。 彼の生い立ちを聞いた。戦争で家族を失い、軍隊に入った。一方的なシンパシー。 けれど、共通点はそこまで。 自分の居場所を求めるように、あるいは自分の居場所が無いことに耐え切れずに軍を逃げ場にした自分と、戦争への憎しみを滾らせて軍に入った彼。 片や実験機のテストパイロットとして、ティターンズにおいても厄介者扱いの自分。 片や民間人の少年から、わずか二年でアカデミーを卒業し、エリートの証といわれる赤服と新型機を譲り受けた彼。 類稀なセンスもあるが、きっと、一番異なるのは意思の強さ。怯えている自分と、掴み取ろうとする彼の意思のあり方。 何でこうも違うのだろうか、やり場のない嫉妬にも似た感情を抱いた。 そして、共に戦うようになって思ったのは言いようの無い『悲しさ』だった。 自分のように、奪われ続ける中で必死に戦うのとは全く異なる悲しさ。あれほど見ている方が泣きたくなるような戦いをする人を初めて見た。 血を吐くように、泣き叫ぶように吠え、自分の魂ごと切り裂くように剣を振るう。 『まだ死ねない!!こんなところで死んでたまるか!!』 『もう倒れたい。ここで倒れて楽になってしまいたい…』 『まだやらなければいけないことがあるんだ!!』 『早く終わらせたい、全てを終わらせたい…』 彼の感情がスフィアによって伝わってくるかのようだ。相反する感情がせめぎあって、軋轢が徐々に彼を蝕んでいるのではないかと思える。 トダカというオーブの軍人、シンが沈めた艦隊にいた軍人の一人である彼が、シンの知り合いであったと聞いて以来それは顕著になった。 『シンッ!前に出すぎだぞ!!』 カミーユの焦ったような声と共に、シンのインパルスを見遣ると、敵機にインパルスが囲まれ集中砲火に遭っていた。 突っ込み過ぎて、同じ小隊のレイやルナマリアと離れてしまっていたらしい。 『シン君ッ!!』 セツコは、バルゴラを滑らすと、レイ・ピストルで牽制しつつシンの救出に向かう。 しかし、如何せん余りにも多くの敵機に阻まれ、思うように進むことが出来ない。 ガナリー・カーバーをフルチャージしつつ、射線軸上に味方機がいない事を確認すると眼前に壁のように立ちはだかる敵機に向けて放つ。 3,4機の機体が火花を散らせながら爆散するのを尻目に、インパルスに視線を向けてセツコは凍りついた。 それはMSの戦いかと疑いたくなるような光景があった。 それは青い翼を持つフリーダムのような華麗な戦いという意味とは正反対のモノであった。 十数機の敵機を相手に、強引に叩き付けられたエクスカリバーはひしゃげ、 腰に装着されているライフルのEN残量はとうにゼロなのか、離れたところに投げ捨てられていた。 ビームサーベルとしても使用できる一対のスラッシュエッジは既に片方が大破し、 もう片方のスラッシュエッジは敵機に捻り込んだところでENが切れたのだろう。 セツコが凍りついたのは、その敵機に馬乗りになったインパルスが、切りつけた亀裂にインパルスのマニピュレーターを強引に差込み、 装甲を引き剥がしている場面だった。 返り血のようにオイルに塗れながら敵機のまるで心臓を抉り出そうとするような動きは、生身の人間同士の血みどろの戦いに思えた。 その姿が、そのまま血に染まったシンが人間に馬乗りになって腸を引き裂いているように見え、セツコは強烈な吐き気が込み上げるのを堪えた。 『シン、もう相手は戦意を喪失している!!止めるんだ!!』 彼の上官の声など耳に入らぬかのようにインパルスはケーブルとコードの臓物を引きずり出す。 潰れたトマトのように歪にへこんでいるコックピットを見れば既に敵パイロットがどうなっているのかは想像に難くない。 戦闘はシンを残していつしか終了していた。仲間が、戦場の人間が固唾を飲むというのを確かにセツコは目の当たりにした。 「シン!!」 帰艦したシンを待っていたのは、アスランの拳だった。 避ける気力も無いのか、殴られたシンの瞳にはいつかのような反発心が浮かんではいなかった。 「どういうつもりだ!!あの機体はとっくに戦力をなくしていたんだぞ!?それを、それをお前は……」 命を奪うことを嫌い、出来うる限り不殺を貫く姿勢を持ったアスランには今日のシンの行動は余程腹に据えかねていたのだろう、 シンのパイロットスーツを掴み上げた手が小刻みに震え続けている。 「……スイマセンね。相手を達磨にしてやるなんてお上手な曲芸は自分には無理なんであります」 酷く冷めきった瞳でアスランを見返すシンの表情は、明らかにアスランの尊ぶ不殺を軽蔑したものだった。それに気付いたアスランが眦を更に上げる。 「何だその言い方は!!無理な筈がないだろう!お前程の腕なら戦闘不能にするくらい……」 「手足を捥ぎ取ったくらいじゃ止まらない奴だっています。現に、そうやってカミカゼみたく突っ込んできたオーブのムラサメのせいでミネルバは損害を被ったじゃないですか」 「くッ…」 明らかに痛いところを突かれた為か、アスランの腕の力が目に見えて緩む。 シンが言っているのはクレタ沖海戦のことだろう。 あの戦いでアスランは嘗ての盟友キラ・ヤマトに撃墜され、一機のムラサメの玉砕覚悟の突撃のせいでミネルバは大ダメージを負った。 実質あの戦闘でミネルバを護りきったのはシンであり、それを切欠にアスランの力量への疑問の声が囁かれている。 「手を切っても、足を切っても駄目。だったら、命を潰すしかないじゃないですか?もう絶対に動けないって納得しないと……」 「それが…それがあの戦闘行為の理由だって言うのか?シン」 「カミーユ…」 シンとアスランの間に入ったのはゼータのパイロット、カミーユ・ビダンであった。 心なしか、カミーユはシンを悲しそうに見つめる。交叉した視線から先に目を逸らしたのはシンだった。 「悪い…少し風に当たってくる…」 シンが通るところの人垣が分かれていく。皆、どう扱えば良いのか把握しかねていたのだ。 セツコは、遠ざかっていくシンの背中が甲板の方へ向うのを見つめ続けていることしかできなかった。 「スマナイ…カミーユ」 「いや、イキナリ殴りつけるのはどうかと思うけど、今日のシンの行動はやっぱりおかしい」 力なく項垂れるアスランの肩に手を置くと、カミーユは元気付けるように話しかける。 「アイツ…何かあったのか…?」 ヨウランが呟くのを耳にしながら、セツコは先日のシンの姿を思い浮かべる。 ―――― コアスプレンダーの傍らに崩れ落ちたシン ――――― いてもたってもいられずに、セツコは足早にシンの後を追った。 案の上、シンは甲板に立って、頭上に輝く月に目を向けていた。 風が弄ぶままに髪を揺らせ、その身を任せる姿が、先ほどの凄惨な殺戮を繰り広げた人物とは思えない。 月明かりに赤く発光するように、ボウッと浮かび上がるシンの紅の瞳に暫し見惚れてしまったセツコは、 一瞬何故彼の後を追ってきたのかを忘れてしまう。 「どうかしたんですか?」 月に目を向けたまま、シンの声が甲板に響く。 潮騒に掻き消されてしまうように頼りない声のはずなのに、セツコの耳にはハッキリと聞こえた。 「セツコさんにも…嫌なもの見せちゃいましたね…」 それが、先ほどの戦闘を指しているのは明白であった。 「どうして…?」 この目の前の少年が、根は優しく、不器用だけれども心の底から平和な世界を願って止まないことを知っているつもりだった。 例え、上官へのあてこすりにせよ、あのような振る舞いをするようには見えないのだ。 「この前…クレタの時に…俺が沈めた艦隊にいたんです…オーブで俺を助けてくれた軍人…」 月から目を移し、正面から射抜くように見つめてくる紅に、鼓動が高鳴った気がする。 「恩人だって、そう強く言えるほどの間柄でも何でもないです。名前だってうろ覚えで…」 手すりに背を預けると、一つ、深く呼吸をする。 「でも、覚えてた…あの時、周りからコーディネイターだって、そんな目で見られてた中で、たった一人まともに話してくれたオッサンでした。 勝手に自分の娘と年が近いとかで親切にしてきて…だけど、その時の俺は心が上手く機能してなくて、まともな会話にもならなかった。 プラントに来てからも、精々思い出しても、プラント行きを勧めてくれた軍人…ただその程度だと思ってました」 セツコは、絹糸のような髪を風に乱されるのを抑えながら、シンの言葉、一言一句に耳を傾ける。 「けど、違ったんです…まともに話してくれた事が…それがスッゲェ救いだったんです。 当たり前が無くなってたから、当たり前に接してくれたことが救いになってたんです。でも……でも俺はそれを断ち切った… 以前アイツが…アスランが言ってたんです。『銃で撃った人の命の分だけ銃は重さを増す、それが人を殺す事だ』って… かなり気に入りませんけど、どっかで俺もそうかもって思ってました」 シンは瞑目する。何かに懺悔しようとするように。 「セツコさん…俺に妹がいたって知ってましたっけ?」 唐突な話題の振りに、セツコは一瞬ドキッとしてしまうが、上手い言葉も見つからず、ただ頷くだけだった。 彼には妹がいて、その妹はオーブの避難の際に無惨に死んでしまったと、その形見の携帯をシンが肌身離さずもっている事を。 やけに不釣合いに可愛らしい趣味の携帯だなと思っていたところに、ミネルバのメイリンがそう言ってきたのだ。 なまじ形として残ってしまうから、余計に縛られている… 自分には形見と呼べるものが無かった、それが寂しいと思える代わりに、セツコは自分の家族というものに深くまで捕らわれていなかった。 「よく前は家族の夢を見てたんです。妹は…マユは甘えん坊で、すぐに引っ付いてくる奴で、イタズラ好きでそれを追いかけてって、 母さんと父さんが笑って見てて……」 大切な家族の思い出に思いを馳せている故だろう、シンの瞳が、滅多に見ない程に柔らかなものになる。 「ピクニックに家族で来てて…母さんの作ったハンバーグをマユと取り合っこしたり。 父さんが作ったおにぎりはでっかくて、マユや母さんには大きすぎて食べきれないって、不評で… 結局俺と父さんが片付けるハメになって…以前はそんな夢をよく見ていました」 「今は…見ないの?」 「途中までは同じです。でも…でも皆で弁当を食べてると、夢の中の俺はビックリするんです。 母さんが朝早くから作ってた筈のハンバーグなのに、硝煙の匂いがして、何だか鉄のような味がするんです… どのおかずを食べても、みんな一緒。俺は堪えきれなくなってミネラルウォーターを飲むんです。 でも、ドロッてして、喉に絡みつく……それに生臭くて、思わず吐き出すと水なんかじゃない、血なんです。 自分がハンバーグだって思ってたのは誰かの千切れた腕で、おにぎりだって思ってたのは焼け焦げた誰かの顔で… 弁当を食べてたのが公園のはずがいつの間にかMSの残骸ばっかりの中で……そこで目が覚めるんです…」 セツコは目眩がした。味覚を失ってしまった自分と、夢の中とはいえ、どれを食べても血の味しかしないシン。 まるで、見えない誰かがシンの心が、家族を汚さないように、彼に家族の夢を見ることを遮断しているように思えた。 「ああ、こういうことかって…銃が重みを増すとか、アスランの訳のわからない言葉はこういうことかって……奪った命がへばりついてくるんですね、 きっと、のうのうと自分の命を奪ったものが生き永らえて、夢までみようとしているのが許せない」 「それは、シン君が優しいから…だから、奪ってしまった命を背負ってしまうくらい優しいから…だから…ッ」 上手く言葉に出来ないことがもどかしかった。 この今にも崩れ落ちそうな少年に、いつか見た無邪気な笑顔を取り戻させるような、そんな魔法のような言葉があれば縋りたかった。 けれど、口を突いて出るのは、要領を得ない言葉ばかり。あまりの不甲斐無さに涙が込み上げてきそうになる。 「ありがとう、セツコさん…でも…もういいんです…」 何がいいのか、どうしてそんな諦めた顔をするのか、そう聞いてしまいたいのに錆付いたように喉が動かない。 「今日の戦闘で確認しました。納得も……」 確認? 納得? 「何を…」 「俺は人殺しなんです…」 「――――――― ッ!?だけど、だけど、それでもシン君は違うでしょ?平和な世界を作りたいって…」 余りにも胸を締め付けるような言葉に、それを否定したくて、けれどもセツコには必死に言葉を搾り出すことしか出来なかった。 「それは今でも変わってません。けど、俺は人を殺すことでしかそれが出来ない……『作るまで』の人間なのかもしれません…」 『まだ死ねない!!こんなところで死んでたまるか!!』 『もう倒れたい。ここで倒れて楽になってしまいたい…』 戦闘中に流れ込んできたシンの悲しみ。相反する意思と思ったが、違っていたのだ。 まだ死ねないのは、やるべきことがあるから。それが終わったら倒れてしまいたい。楽になりたい。 「シン君は…もし、叶うことなら……また妹さんに会いたいの?」 擦れるように搾り出せた自分の言葉にセツコは絶望してしまう。 よりにもよって、こんな言葉など出てきてしまうのだろうか。こんなにも役に立たない喉ならいっそなくなってしまえばいいのに!! シンは、その言葉に目を見開く。当然だろう、「死にたいの?」と問うているようなものだ。怒っても無理はない。 しかし、シンは予想外に唇を微かに緩め、泣き顔のような笑みを浮かべる。 「会えませんよ」 断定する言葉だった。諦観、失望、寂寥、虚無、確信を綯い交ぜにした声に、セツコは言葉を失う。 「きっと、俺はね。マユのいるところには絶対行けませんよ。いや、行っちゃいけないんですよ…」 「それって…キャッ」 海から吹きつける風が一段と強くなり、セツコは短いスカートが捲れてしまわないように、思わず可愛らしい悲鳴を上げて抑える。 「風も冷たくなってきましたし…戻りましょうか?」 穏やかに笑みさえ浮かべるシンに、セツコは自分の言葉がシンを傷つけたと、何処か確信めいた思いを抱いていた。 謝る言葉さえ、謝るべきかさえわからぬ自分への嫌悪感と、シンに対して先程から収まることのない動悸に胸の裡が掻き乱されていた。 シンは既に、セツコに背を向け、艦内に戻ろうとしていた。 「そうだ…」 ふと、何かを思い立ったように、シンは足を止める。 「セツコさん…狼と羊が出る絵本って知ってますか?」 「狼と羊の……絵本?七匹の子山羊なら知ってるけれど…」 「あはは、やっぱりマイナーなのかな…俺もタイトルは覚えてないんですけどね…マユが好きだったんです。 読むたびに泣くのがわかってるくせに、いつも読むのをねだられて、案の定泣くのを俺はうんざりして宥めるんです」 懐かしむように、顔を俯かせる。 「どんなお話しなの?」 幼い少女が何度も読むのをねだってしまうようなお話しなら、きっと可愛らしいものだろうと心惹かれる。 しかし、シンはそんなセツコに皮肉気な笑みを微かに浮かべて答える。 「羊に憧れた狼が最後に自殺するお話しですよ」 前へ戻る 次へ進む 一覧へ
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ナズーリン3 Megalith 2011/11/22 「いやはや、いつも助かるよ。男手は地味に必要なものだからね」 「これくらいお安い御用だよ。むしろ楽しいし」 里で買い物をして、メモを持つナズーリンと荷物持ちをしている○○。日ごろよく見かける光景だ。 一部の店主達はまるで夫婦だとはやし立てるが、お互いそんなもんだと達観しているため好意として受け取っている。 そしてある店のところに来ると○○は目を輝かせる。 「あ、あのさ、ナズ?」 「ああ、分かってるさ。買うものは全部買ったから、遅くならないうちに帰ってくるんだよ」 ナズと分かれて○○は香霖堂の中に足を踏み入れる。 相変わらずよく分からない物がごちゃごちゃと置かれて、少し埃臭い香りが鼻につくが、この匂いが○○は好きだ。 「霖之助さーん、おじゃましますよー」 「ああ、ごゆっくり」 奥で文々。新聞を読んでいるここの店主は○○の来訪に軽い返事をしてまた新聞に目を戻す。 そんな中彼はある一角、骨董品が並べてある場所に足を進める。数少ない○○の趣味である。 高額な目利きはできないものの、出来のいい一品を見つけることにはそこそこの力がある○○。 ある宴会のときに彼の目利きはナズーリンから分け与えられたものじゃないのか、とそこから少々下世話な話に逸れてしまったが 当人である二人は皆の想像に任せると、あっさり受け流した。 今回はそんな良い品物はないか、としばらく物色をしていた○○はある茶器の前で足を止めた。 暖かみのある、それで純朴な湯呑みを見つけた。しばらくそれに目をとられていたがふと頭をよぎったものがあった。 (そういえば、ナズーリンに似合いそうだ。この湯呑み。渡してあげたらよろこぶかな……) そう思い立ち、○○は霖之助と交渉することにした。 「すみません、この湯呑みいくら位ですか」 「どれどれ……。相変わらず陶器に関しては目利きがいいね。そうだな、値段は――」 「……ぐぅ、今の手持ちでは足りませんね。もう少し勉強することはできませんか?」 「いやいや、これでもそれなりに譲歩はしているよ? うちに来る者の中ではちゃんと代金を払ってくれる大事なお客様だからね」 「うぅ……。すみません、今回は諦めますが、そのうち取りにきます」 「分かった。ではこれに○○推薦と値札でも掛けておけば魔理沙が持っていくかもね」 「あはは……止めてください……」 仕方なしに香霖堂を後にする○○、命蓮寺に帰る道すがら考え続けた。 (うーん、あれは是非とも手に入れたいんだが、ナズから貰うおこづかいじゃあと半年くらい溜めないと…… それじゃ間違いなく魔理沙が持っていってしまうだろうしなぁ……。聖に相談してみようかな……) ◆ ◆ ◆ それからしばらく日にちが経った命蓮寺。廊下を歩きながら○○を探すナズーリン。 「ふむ……、最近○○はどこへ出かけているのやら。聖に聞いてみても笑顔ではぐらかされてしまうし、別段悪いことをしているわけでもなさそうだ。 しかし、一度気になってしまうとダメだな。何をしても彼のことが頭から離れん。ちゃんと話をつけるべきか……」 そんなことを考えつつ歩いていると前から寅丸 星が歩いてきた。駄目元でいいか、とナズーリンは彼女を呼び止めた。 「ちょうどいいところにご主人。○○の行方を知らないかい?」 「ふぇぇっ!? し、知りませんねー。どっかお使いにでも行っているのではないですか……?」 ……まったくこの主人は隠し事に弱くて仕方が無い。もう少しポーカーフェイスというものを身につけてほしいとナズーリンは思いつつも 足がかりを見つけたのは幸いとしてもう少し彼女の証言を揺さぶることにした。 「おやおや? その動揺ぶりからはまったく彼の行方を知らないという訳でもなさそうだ。もしかして○○はいけないことに手を出して……」 「そ、そんなことはありません! 彼は健全です! むしろそこまで思われている貴女の方が羨まし……ハッ!?」 「ふむ、どうやらご主人は○○が何をしているか詳しく知っているようだ。ちょうど居間に近い。ゆっくりお茶でも飲みつつ話し合いをしようか?」 「あぅぅ……すみません○○……私が至らないばっかりに……」 しょぼくれる星を連れて軽い注意と共に彼のことを聞きだそうと居間に向かった。 「いらっしゃいま……うえぇっ!? ナ、ナズーリンっ!?」 「おやおや、お客様に対してその反応は無いんじゃないかな?」 里の一角、とある茶店での会話。じゅうじゅうとおいしそうな音を立てているたこ焼きをくるくるとひっくり返しながら驚いている○○。 作務衣姿もなかなか……と余計な方向に思考が向かう前にナズーリンは彼に疑問を投げかけることにした。 「で、こんなところで副業に勤しんでいるとはね……。ご主人を問い詰めたらあっさり白状してくれたよ。さて、これから弁明を聞こうと思うのだが?」 「はぁ、分かったよ。もう少ししたら休憩時間に入るからそこで話をしよう」 じゃあ、奥の席で待っている、ついでにたこ焼きと飲み物を二つ頼むとナズーリンは店の中へと消えていった。 「さて、何故こんなところで○○はバイトなぞしていたのだ? 私に話を通してくれればおこづかいの値上げも視野に入れたのだが?」 「そ、それは、できれば自分の稼いだお金で手に入れたかったものがあってさ、今日ちょうどその金額が溜まったから買ってこようかと」 少し奥ばった席でたこ焼きをはふはふと食べながら話をする二人。 どうやら詳しい事情を聞いているらしい店の若い女性従業員陣はニヤニヤしながら二人の状況を楽しんでいる風である。 「ほぉ……。ところでそれは私がついて行ってもいいものなのかな? ああ、春画を買いたいというなら謹んで辞退させてもらうが」 「はぁ……。できればナズーリンには内緒にして買いたかったものなんだけどなぁ。いいや、手間が省けたと思えば」 「それじゃ、仕事が終わるまで私はしばらく時間を潰してくるよ。だいたいの時間になったら戻ってくるさ」 かたりと、席を立ち店を後にするナズーリン。○○もまた焼き場に戻ってたこ焼きを焼き始めた。 そうして軽く日が傾きかけた辺りで、二人は合流し、香霖堂に向かった。 香霖堂に着き、○○は店主である霖之助に声を掛け、あの湯呑みを現金と引き換えに渡してもらった。 「はい、これナズーリンに」 「これは……」 「本当はちゃんとプレゼントとして渡してあげたかったんだけどね。バレてしまったんじゃしょうがないし」 「ふふふ……それでもうれしいことには変わらない。ありがたくいただくとしよう」 大切な宝ものを扱うようにぎゅっと胸に抱くナズーリン。その笑顔が見られただけでも胸が高鳴ってしまう。 「おいおい、お二人さん。あんまりここで愛を育まれてもこっちには毒にしかならないよ。それにここから命連寺は遠い。 遅くなる前に帰った方がいいんじゃないかな?」 微笑ましいものを見せてもらった、と言わんばかりの表情をして二人を冷やかす霖之助。 人目を憚らずイチャついてしまったことに少し顔を赤くしながら、またいいものがあったら買いに来ますと言って香霖堂を後にした。 ◆ ◆ ◆ 命連寺に帰ってきて夕飯を食べた後、いつもの通りにナズーリンと一緒にお茶を飲むことにした。 「ああ、そうだ。私の方からも○○に渡したいものがあった。どうぞ」 ことりと置かれたものは先程ナズーリンにあげた湯呑みとそっくり、というよりもどう見ても同じものとしか思えないものだった。 「…………? あれ、これナズーリンにあげたものじゃ?」 「いや、こちらは私が里で見つけ、○○に似合いそうだと思って取り置いて貰った品だ。 まさか○○も同じものを見つけていたとは分からなかったが」 二つ同じ湯呑みにお茶を注いでまったりとくつろぐ。 「うん、おいしい。それに同じ湯呑みってさ、あの、まるで……夫婦みたいだね」 「ああ、私もそう思った。いいな、君と夫婦か……いつかこの指に似合う指輪、くれるんだろ?」 「もちろん」 ぽかぽかと暖まった身体。くいくいとナズの袖を引いて彼女を見つめる。分かっていると言わんばかりに○○の胸に飛び込む小さな賢将。 「あったかいな……」 「ナズ、良い匂いがする」 きゅっと抱きしめてナズーリンの香りを胸いっぱいに吸い込む。 指で梳くとサラサラと合間からこぼれる絹糸のような柔らかな銀髪。 「○○、何度でも言うけれど、私は君のことが大好きだ」 「俺だってナズのこと、大好きだよ」 ○○の背に手をまわしてもっと、もっと彼と密着する。 こつんと額をつっくけてお互いに笑顔を見せ合い、心が満たされる。 愛おしい。とても愛おしい。自然に唇を重ねて愛を交換しあう―― 「なぁ、○○」 「ん……」 「こんな幸せが長く続くといいな……」 「続くさ……きっと」 Fin 35スレ目 347 無縁塚 ナズーリンハウス ナズーリン「風邪をひいたしまったぞ…ズビ」 ナズ「こういう時一人暮らしは辛いところだな…誰も面倒見てくれる人がいない」 ナズ「lineで連絡いれとくか…風邪引いたので今日は行けませんっと…」スッスッ ナズ「薬を買いに行きたいが苦しくて行けそうもないな…ゴホッゴホッ」 ナズ「ゴホッゴホッ…ううっ…うーっ…苦しい…苦しいぞぉ…」ゼェゼェ あー…ひんやりして気持ちいいぞ…誰かがタオルを乗っけてくれたのか… トントントントン グツグツ 誰かが料理してる音が聞こえるぞ… ○○「起きましたか」 ナズ「○○じゃないか…勝手に乙女の家に上がるなんて感心しないなゴホッゴホッ」 ○○「乙女なんてどこにも見当たりませんけどね」 ナズ「これは手厳しいゴホッゴホッ」 ○○「もう少しで飯できますからゆっくりしててください」 ナズ「すまないね…ハァハァ」 ○○「お粥できましたよ、食べられますか」 ナズ「あーんして欲しいところだが贅沢は言えないね」 ○○「いいですよ、ほらあーん」 ナズ「む、むぅ…どういう風の吹き回しだい?や、やめたまへ恥ずかしいじゃないか」 ○○「羞恥心あったんかいお前」 ナズ「あるよ失礼だな」 ○○「時間潰しの為にDVD借りてきましたよ」 ナズ「ほほう、助かるね。何を借りてきたんだい?」 ○○「トム・ヤン・クンです」 ナズ「病人にアクション見せんな」 ナズ「うーっ…うーっ…」ゼーゼー ○○「大丈夫か?」 ナズ「苦しいぞ…苦しいよぅ…」 ○○「…せっかく聖住職のもとで修行しているというのに、こんなときホイミのひとつもできんとはな…」 ○○「私にできるのは手を握って元気づけてあげることぐらいです」ギュッ ナズ「うーっ…うーっ…」 ○○「できることならかわってやりたい…」 ナズ「…ぅ」 ナズ(眠っていたのか…今何時だろう…ん…誰か手を握って…) ○○「…」 ナズ「やぁ…」 ○○「なんか飲むか?」 ナズ「頼むよ」 ○○「えーっとペカリは…」ガサゴソ ナズ「君、タンス漁ってないだろうね…まぁ看病のお礼だ、一枚くらい見繕っても構わないよ」 ○○「…誰がお前の下着なんているかドラゴンラナすんぞ」 ナズ「フヒヒ」 ○○「はぁ…眠ってる間はあんなかわいいのになぁ…起きたらこれだもん」 ナズ「!」 ○○「あったあったほらペカリスェット…ん?」 ナズ「…うー///」 ○○「顔赤いぞ?ぶり返してきたか?」 ナズ「な、なんでもないよ///」 ナズはちょっかいとか悪戯とかして気をひこうとする構ってちゃんだけど いざ向こうからアクション起こされるとタジタジするタイプという俺の妄想 35スレ目 399 ナズーリン「君ってよく命蓮寺にいて平気だな」 ○○「と、いいますと?」 ナズーリン「私が言うのもなんだけど美少女美女揃いの中で男一人(雲山除く)で生活してて、劣情を催したりしないのかなって」 ○○「ホント『なん』ですね」 ナズ「ホント失礼なやつだなたまに思うけど私のこと嫌いなのかな」 ○○「嫌いだなんて一言も言ってないだろこうやって軽口言えるのは賢将ぐらいなんだから」 ○○「喧嘩するほどなんとやらって、賢将との関係は大事だよ」 ナズ「……っ!…っと、君が私に劣情を催していたとはやれやれ。言ってくれれば相手するくらい吝かではなかったというのに」 ○○「好きだとも言ってませんけどぉ」 ○○「まぁ、そうですね。そういうことに関してはまだまだ『未熟』ですね」 ナズ「魔法使いだったのか」 ○○「誰が経験について語ったよ精神修業に関して未熟って言ったんだよ」 ナズ「じゃあ経験はある?」 ○○「まぁ人並みには」 ナズ「ふぅん…」 ○○「どうした?」 ナズ「い、いや?なんでもないぞ…」 ナズ「でも君そういう欲とは無縁だと思っていたよ」 ○○「所詮は雄だと言うことです。本能と言ってしまえばそれまでですが三大欲求ですから、切っても切り離せないでしょう?」 ナズ「えっ『切ってた』のか、なんか悪いこと聞いちゃったかな」 ○○「部位じゃねぇよ」 ナズ「じゃあ好みのタイプとか」 ○○「そうですねぇ、自分の意見はハッキリ言ってくれるようの芯の強い女性ですかね」 ナズ「性格じゃなくて、ホラ」 ○○「えー…さすがに女性とそのような話をするのは気が引けますし…」 ナズ「まず君が私のこと女性として扱っているつもりでいるのに驚いたぞ」 ○○「そりゃぁ毎度俺の尻触れば色んな尊厳なくなるでしょ俺に原因があるみたいに言わないでください」 ナズ「例えば命蓮寺の中なら」 ○○「それ一番聞いちゃいけないやつでしょ」 ナズ「どーせ聖だろ?」 ○○「住職にそんや邪な気持ち抱いたりしませんよ!!」 ナズ「それ毘沙門天様にも同じこと言えんの?」 ○○「………い、言えないです…」 ナズ「正直というか嘘つけないというか」 ○○「ぶっちゃけると一輪さんのお体が結構好み…だったり」 ナズ「ダークホース!?」 ○○「スレンダーよりも多少ムチムチしてる方が好みで…」 ナズ「一輪体型に関しては結構コンプレックスあるから目の前じゃ言わないことをおすすめするぞ」 ○○「くれぐれも内密にお願いしますよ!」 ナズ「君は響子が好きだからてっきりロリコンだと思っていたんだがな」 ○○「俺を何だと思ってんだ」 ○○「そういう賢将はどうなんだよ、俺だけ言わせて不公平だ」 ナズ「え、や、やだよ言わないぞ」 ○○「言えよぉ」ヘッドロック ナズ「ちょっやめっやめてくれぇ///」 ぬえ「あいつらずっと縁側で話してんな」 一輪「仲良いんだか悪いんだか」 星「いいなぁ…」 35スレ目 413 ナズ「やあ君か。最近は寒暖の差が激しくて些か体に堪えるね。」 そうだなあ、たしかに最近風邪気味かも。 ナズ「それはいけないな。ほら、これをやるからちゃんと栄養をとるといい。」 お、チーズか? ナズ「何馬鹿なことを言っているんだ君は。チョコレートに決まっているだろう。」 ああそういえば今日は…もしかして ナズ「勘違いするな。ご主人や聖にも渡しているんだ。」 ああ友チョコとか言うやつ? いつからそんな風習が生まれたんだか。 ナズ「まあ普段から世話になっているからな。じゃ、私はもう行くからな。」 ありゃ行っちゃった。なんか足早に見えたけど気のせいかな? 星「あ、ここにいたんですね。探しましたよ。」 お、星か。 星「はいっ、バレンタインのチョコです!」 おお、ありがとう。 星「そうそう、先ほどナズーリンからチョコを貰ったんですよ。」 友チョコとか言うやつね。 星「そうなんですか?ほら、これ。人里で有名なお店のものらしいんですよ。私もお返ししないといけませんね。」 へえ、なかなかかわいいじゃないか。 星「聖にも同じものを渡してましたね。あ、聖といえば呼ばれていたのを忘れてました、すみませんがこれで。」 ああ。じゃあまた。 自室にて さて開けてみるか。おっ、星のは綺麗に飾ってあるな。これは美味しそうだ。 ナズーリンのは…さっき見たのに似てるけど不格好だな。ん?これは手紙か? 『こういうのはあまり慣れてないから正直うまく出来たとは思わない。だから…必ず、必ず感想を聞かせてくれ。いつか君のためになれるように。』