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前ページ次ページ超1級歴史資料~ルイズの日記~ ヴァリエールⅢ女~ニューカッスルの城~ グランパ曰く、このまま篭城を続けていれば王軍は10年は戦えるだろうが、その展開はありえ無い。 なぜならこのままではレコン・キスタは出だしから躓き、利益で繋がった結束が乱れ瓦解する。 聖地奪回のため援助していた某国の悪巧みもお流れになり資金回収もできなくなるので、そうなる前に切り札を切ってくるだろうとのこと。 敵、皇帝クロムウェルの手には虚無の秘法、アンドバリの指輪があるからである。 これを使えば死人は殺しても死なないゾンビ兵として蘇るし、300の王軍メイジがいきなり操られかねない。 いつの間にか王軍300、貴族派5万なんてありえない数の反乱になったように。 王軍が誇りを守って派手に戦って全滅してくれればレコン・キスタの圧倒的力と勢いのいい宣伝になるはずだったのだが、 あまりにも時間がかかるのなら秘法の使用で300をいきなり寝返らせる道を選ぶだろう。 あきらかに不自然で洗脳や秘法の存在を疑われるだろうが、背に腹は変えられないだろうとのこと。 後々のことを考えると、ここで戦って王と王子の死体を残すのもマズイことになる。 ゾンビ王子が姫との手紙の件をBALLSの通信機越しに世界中にカミングアウトするだけで、国辱モンの縁談破棄、同盟破棄だ。 よって、指輪を使われる前にどうにかすることが急務であるそうである。 ちなみにこの情報を集めてきたのはみんなのアイドルBALLS。 どこにでもいるので会議の盗み聞きや、奥様の井戸端会議までバッチリであるそうな。 アンドバリの指輪を奪うにはBALLSは弱すぎる。 それに、BALLSは基本的に人に直接的に危害を加えたがらない。 大量に人を殺す兵器を作るのは良いらしいのが変な話だ………。 と、そのようなことを私とグランパはお偉方の前で演説しました。やれやれ歓迎パーティーが盛り下がるわね。 アンドバリの指輪の件に関しては、ラグドリアン湖の水の精霊に中継が繋がっています。 現場のBALLSさーん 通信機のガラス板に水の精霊が出てきて、30ヶ月前にクロムウェルという男に指輪を盗まれたこと。 証拠隠滅に討伐隊が派遣されたことなどを話した。 指輪を取り返してくれるのなら、水の水位を上昇させることをやめよう。 あと、身体の一部も渡そう、とのこと。 そんな感じのことを淡々と語ってくれた。 誓約をつかさどる水の精霊が嘘をついたなどと聞かないから、こりゃ証拠として充分使えるだろう。 ところで水の精霊って縦ドリルロールだったのね。クラスメートに似てるな。 それにしてもこのレポーターの声、キュルケとモンモランシーに似てるわね。 通信が切れた後、動揺する王軍を前に、グランパは悪巧みを話し始めた。 準備と資材は揃っている。あとは、一発逆転の目にのるかそるか、だ。 話をきいた貴族たちはあきれた。こっち見んな。 ウェールズ王子様は何故か妙に乗り気だった。自重しろ王族。 次の日 BALLSもバカなら、レコンキスタもバカだ。 まさか何十メイルもある城壁には何百メイルもある破城槌を作って突破しよう!だとは。 ラ・ロシェールの港になってる大木、アノ船が木の実に見えるほどの木から削りだした材木を持ってきたらしい。貴重な文化遺産に何てことしやがるのだろうかコイツラは。 たしかにそれなら時間も距離も節約できるのだが、トリステインの通商には大打撃だ。 あの港の大木が倒れていなければいいのだが………トリステインもこれには大激怒らしい。 レコン・キスタはいずれトリステインもレコン・キスタの一部となるので、問題なし。という説明らしい。トリステインなめんな。 トリステイン陸軍、空軍、BALLSも使って傾いた大木の補強作業中とのこと。援軍は期待できない。 あのでかい御柱みたいなのが突進してきたらBALLS自慢の城壁もあっさりと突き崩されてしまうだろう。 間に合わないかもしれない。BALLSに作業を急がせた。 ギーシュも気絶してないで手伝え。 貴族派の破城槌の準備が整った。 レキシントンにご立派な衝角が取り付けられている。自重しる。 音に聞くアルビオン空軍の戦艦もかなりの数が姿を見せている。 今日で決めるつもりだろう。しかもここを持ちこたえてしまえば、指輪の洗脳攻撃が来る。 作戦開始だ! ヴァリエール1号も動く! 今、ここ艦橋にはシエスタとギーシュはいない。別の部署に行ってもらっている。どうせ飛行長はいらないしね。 私自身は操舵席前に陣取っている。 私も艦長席で遊んでいたわけではない、操舵の訓練を予め受けていたのだ。 操舵を補佐してくれるBALLSと、何でも補佐してくれるBALLSのおかげでどうにか仮免クラスには操舵出来ている。 さて、ヴァリエール1号の出番だ。 「魚雷管1番から32番発射!」 「おう、1番から32番撃つぜ!景気良くておでれーた」 ヴァリエール1号の背中が開き、射出される弾頭が四方八方に散らばっていく。弾頭には凶悪な顔が書かれていた。 その弾頭は着弾すると同時に盛大に煙を吐き出し始めたのだ。 煙幕弾頭×32であります。 貴族派は視界を奪われ何も出来ず混乱状態だ。その中に適当にミサイルが打ち込まれるだけで混乱に拍車をかける。 スクウェアメイジの風の大竜巻も空気をかき混ぜるだけで、煙を吹き飛ばすには至らない。 なんせ幻獣のれーざーすら減衰させる煙幕弾頭は相当にしつこく、煙を吐き出し続けるのだ。 煙をものともせず、破城槌を結びつけたレキシントンが迫る。 迎撃のミサイルはカッタートルネードで打ち落とされる。 破城槌が城壁に直撃。 あんなでかかった城壁があっさりと破壊された。あの大木は相当な硬さを誇っているらしい。さすがは世界遺産。 何度も槌がぶつかると、城壁は嘘のように崩れていった。 壊れた城壁部分に兵士たちが集結すると、一斉に城内に突撃する。 このまま城に入り、護衛の兵のいないメイジを数に任せて殺戮するのだ。 煙で視界が良くないが、このまままっすぐ行けば城に辿り着くだろう。 城に……………。 城に……………。 あ、城がないじゃん ニューカッスル城のあったところにはぽっかりと穴が開き、アルビオン大陸の底が見えました。 そのさらに下のほうにはそのまま小さくなっていく城の影が……… 兵士たちの顎が落ちた。 「では殿下、ご命令をお願いします」 「子供のころに思いついたこんなアホなセリフを言うことになるとは夢にも思わなかったな…… ニューカッスル城、発進せよ!」 「アイ、アイ、プリンス」 ポ~~ン ニューカッスル城が出航しました!! 城の真下についた大きな火を吹くブースターと穴掘りドリル、城壁から伸びるでかい羽根とプロペラエンジン、 城の屋根の上にはたくさんプロペラが回って揚力を稼いでいる。 ニューカッスル城はBALLSのおかげでめでたく浮遊大陸の浮遊城になったのである。 上にある増築された城壁に目を引き付けて、篭城すると見せかけて足止めし、 穴を掘って下から城ごと逃げ出すという古典的作戦だ。 掘った穴の土や岩は上にあるデカイ城壁の材料になっています。 この作戦の弱点は内通者。内通の可能性が少しでもあるものには教えられないし、他国のものを使うのもちょっとご遠慮願いたいとのこと。 城の穴掘りにはギーシュのモグラが役に立ってくれました。 崩れないように計算して掘った穴のスペースに、城を浮かすためのブースターを設置していく。 下に沈みながら逃げる城は、城を完全に覆うように作られた城壁が隠してくれるだろう。 この作戦は穴掘りの専門家、ギーシュ、の使い魔がいなければ成功しなかった作戦なのである。 ちなみに城の操縦はシエスタ・タキガワに。 スイッチが100以上やレバーが20以上あるフルマニュアルの操縦席を作ってもらって操縦している。 ここまで複雑化したものだとBALLSには操縦できない。そもそも戦闘機動は無理。 タキガワ一族のお家芸の見せ所である。 突貫作業だったので色々出るエンジンの不調に対応しながら、時々回避機動を混ぜながら城を飛ばしていく。 「3番エンジン不調、2分後に止まりますので修理に向かわせてください」 「了解!ワルキューレ1号行け!」 「5番プロペラ破損、丸ごと交換をお願いします。回避します!ご注意ください」 「了解!ワルキューレ2号3号!プロペラはソフトに担いでいくんだ!!」 エンジンの修理に駆け回るのはワルキューレだ。おびただしいBALLSを引き連れてプロペラやエンジンに走り、修理箇所を特定し命令出来る。 それをモニター越しに指示するギーシュ、この方法なら同時に7箇所の修理を指揮できる。 ギーシュが倒れに倒れまくって鍛え上げた指揮技能99が光る。 今のギーシュなら7対200ではなく、7対7を数十回繰り返す戦法を思いつけるだろう。 「5時の方向上空より竜騎士3接近きゅいきゅい」(モグラ) 300のメイジは迎撃だ。 城を追って飛んでくる竜や幻獣たち。 飛んでくる魔法を風でそらし、追ってくる竜を魔法と狙撃とミサイルで打ち落とす。 壊れた部分には土メイジがギーシュの戦法を利用してゴーレムを動かしてBALLSを向かわせる。場合によってはゴーレムそのものを資材として修理させる。 「魚雷管1番から8番発射!」 「おう、浮遊機雷8発発射したよ。おでれーた」 ヴァリエール1号は要所要所で囮になったり砲撃したりとしていました。 結構食らうが、ブロック構造と隔壁のためかダメージそのものは少ない。 シールド突撃ができれば一網打尽らしいのだが、あいにくとシールドは技術的に作れなかったらしい。 壊れて直るを繰り返すニューカッスル城。 城に戦力を集中させていたアルビオン貴族派は、城跡の穴が小さくて戦艦を追っ手にはできなかった。 まあそのまま穴を潜ってきてた船は罠にかかって沈んでたんだけどね。 次第に竜騎士追撃の数も減り、城は独走のまま退却できた。 グランパ曰く、今はコレが精一杯、 この結果を受け止める私たちもいっぱいいっぱいです。 このまま城ごと脱出して、夜明けの船に習って逃げながら戦ってゲリラ戦と空賊行為で時間を稼いでもらい、その間にレコン・キスタの状況を悪化させる。 それと秘法の洗脳を解く手段も並行して探る。 このまま王軍を全滅させられず取り逃がせば、レコンキスタの支持者も増えにくいだろう。 城ごと逃げ出すなんてアホなもの見せられてはね。 王子も亡命して迷惑かけずにすむし、城からも逃げ出さないことになるので万事OK。城そのものは逃げましたが。 最悪でもこのままジリ貧で討ち死に、死体も有効利用されるよりはマシだろうとのこと。 プロペラをブルンブルン言わせながら飛んでいくニューカッスル城が夕日に赤く染まる。 BALLSのポッケは大きすぎらあ ルイズはとんでもないものを盗んでいきました。 それはアルビオン城です。 では、失礼します。 前ページ次ページ超1級歴史資料~ルイズの日記~
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二つの月が照らす塔にひっそりと佇むのは、ローブでその身を覆い隠した人物。 だがいくらローブを纏っていても、わずかにこぼれる長髪や、女性特有の魅惑的な肢体の輪郭までは隠せない。 女性の正体。それは昨今巷を騒がせている、「土くれのフーケ」であった。 月明かりだけを頼りに、宝物庫の扉を手探りで調べるのだが、そこから伝わることは、フーケにとってわずらわしいものばかり。 「ええい。なんて数の固定化だよ。馬鹿みたいに厚みがあるし、これじゃ、ちょっとやそっとじゃ壊しようがないじゃないか」 ええい、とぼやきながら、フーケは苛立ち混じりに扉を蹴とばした。 当初はこの塔にある「隠れ身の衣」を盗み出す算段だったのだが、春の使い魔召喚でミス・タバサが船を召喚したことを知った時、考えが変わった。 フーケはいっそのことだ、このさい船をいただいてしまおうと考えた。 船丸ごとは無理でも、船に積んであるお宝ぐらいは盗めるだろう。フーケはそう考えていたのだが。 忌々しいことに、常にあのヘイズという使い魔が船にいるため、どうしても手が出せないのだった。 寝泊りが船内なのは言うに及ばず、日中は船内にこもりっきりでよく分からない作業に没頭し、その合間に入れ替わり立ち代りする生徒の相談を聞く。 一日のうちでヘイズが船から出るのは、食事時と厨房の手伝いの時ぐらいなのである。 食事時はフーケも食事を取らざるを得ないし、厨房の手伝いをしている時は召使が船内を掃除をしに来る。 もはやフーケが盗みに入るのを、完全に見越してるんじゃないかとおもうほどの、完璧な布陣だった。 そしてこれがとどめとなるのだが、生徒の一人が話しているのを盗み聞きしていたところ、あの船は動力部の調子が悪く、飛行できない状態にあるという。 そして当初の目的どおり、宝物庫から「隠れ身の衣」を盗もうと、忍び込む算段をしていたのだが。 「こんなに頑丈じゃ、私のゴーレムでも壊すのは、かなり無理しないとダメだね……」 フーケは憎々しげに壁を睨みつけた。 この頑丈な壁さえなんとかすれば、お宝はすぐそこなのに……。 「かといって隠れ身の衣をあきらめるわけにはいかないね」 歯がゆさをかみ締めながらも、フーケはどうやってお宝をいただくか、腕組みをしながら思考を巡らせ始めた。 トリステイン中を恐怖に陥れている大怪盗「土くれのフーケ」が、この程度の障害でお宝をあきらめるわけにはいかない。 これから手に入れるお宝を想像し、フーケは我知らず唇をゆがめていた。 Hunter Pigeonの操縦室はまたもや大所帯となっていた。 昼間の面子からギーシュとモンモランシーが抜け、代わりにルイズとサイトが入った形である。 そしてルイズは城下町であった傭兵相手の大立ち回りを、得意げに語り聞かせていた。 そこでサイトは買ってもらったばかりの剣を抜いて見せたのだが、 「なんていうか……言っちゃ何だがソレ、ボロボロだな……」 「ねえ、ルイズ。もうちょっと見栄えのいいのはなかったの?」 「ルイズ様の気持ちは痛いほど理解できます。ヘイズは働いても報酬が値引きされるのは当たり前。ただ働きもざらで、ひどい時には借金までこさえました。 いつも変わらず自転車操業でやっているため、ヘイズの家計は常に火の車でして、艦の装備を買うにも困る有様です。 ですから、ルイズ様が剣の購入で節約するのも、よく分かります」 次々と強烈なツッコミに打ち抜かれ、サイトは崩れ落ちて泣いた。 話も盛り上がったところで自信満々に抜いて見せた剣に対して、ヘイズとキュルケの哀れみのこもった感想、そしてとどめにハリーの神妙な同情である。 それはそれは見事な連携であった。 「おいおい、オレのことをそこまで悪く言うかよ。見ろよ相棒の哀れな姿を。こりゃあ相当落ち込んじまってるよ」 「うおっ! 剣がしゃべりやがった!?」 いきなりカタカタと動きながら、しゃべりだした剣を前に、ヘイズはずざざざっとその身を引いた。 「あら、インテリジェンス・ソードじゃないの」 「かなり希少」 いきなり剣がしゃべりだすというヘイズのいた世界では絶対ありえない事態に、キュルケとタバサが補足をする。 この世界は本当になんでもありだな、と呟くヘイズ。 ハリーも顔の表示されたウィンドウをうなずくように、 「珍しいですね。世界を渡りましたが、剣がしゃべるのを見るのは私も初めての経験です」 とマンガ顔を折りたたんで上下しながら答える。 ハリーの発言を聞くが早いか、 「それをオメが言うかね。俺からすりゃ船がしゃべったり、顔を表示したりするほうが非常識に思えるがね」 とデルフのツッコミが入る。 確かにハルケギニアで、意思を持って言葉を発する船なんていうものは、どこにも存在しないのだった。 話が終わり、武器屋で出会った少年のことをヘイズに尋ねられると、「あ忘れてた」と、少年にもらった手紙をいそいそと取り出した。 「こいつは確かに錬の字だな。なになに、エドワード・ザインと世界樹の地で合流? なんのこった?」 エドワード・ザインと世界中の種と言えば、 元の世界で錬と出会うきっかけになった世界樹事件を思い出す。 文章から察するに合流ポイントは、始めてエドワード・ザインと出会ったシティ・チューリヒ跡地近郊のプラントか、 世界樹の種を育てていたシティロンドン郊外のプラントあたりのことだろうが、ハルケギニアはもといた世界とは異なる世界である。 ロンドンもチューリヒも存在しないはずなのだ。 となれば錬との合流ポイントは、どこになるのやら。 ハルケギニアではヘイズと錬にしか分からない暗号だが、それゆえにヘイズに暗号の意味が解読できないと合流ポイントの割り出しようがない。 「あ、それは多分ラ・ロシェールのことじゃないかしら。あそこには世界樹っていう港が存在するわ」 ヘイズが疑問に頭をひねっていると、ルイズが助け舟を出してくれた。 聞けば錬はこの世界でも便利屋をやっていたと言うし、この世界の情勢もある程度調べが付いているのかもしれない。 だとすれば、そのラ・ロシェールが合流ポイントである可能性もないとは言い切れない。 ラ・ロシェールに行くには、やはりHunter Pigeonの調整がいよいよもって急務になってきた。 さてどうしたものかな、とヘイズが考え始めたそのときだ。 雷でも落下したような轟音と振動が、Hunter Pigeonの外から響いてきた。 「何事だ、ハリー!?」 「スキャン終了。画像、メインモニターに出します」 阿吽の呼吸で外の様子が、操縦席のメインモニターに映し出された。 「な、なにこれ……」 モニターに映し出された映像を見て、キュルケは驚きを隠せないように言った。 そこには30メートルを越えようかというゴーレムが、塔の外壁を殴りつけている姿が映し出されていた。 あれこれと考えた結果、フーケの取った手段は「力押し」だった。 「固定化」の魔法と塔自体の厚みで、まさに鉄壁の守りだったのだが、それでもわずかに歪みの入った箇所があった。 先日の決闘騒ぎの折り、ミス・ヴァリエールの使い魔が撃った銃の流れ弾が、たまたま塔の壁に傷をつけていたのだ。 いかに強固な建築物でも、わずかながらでも綻びがあれば、打ち崩すことは容易い。土のトライアングルたるフーケには、そのことがよく分かっている。 フーケは慌てふためいて出てきたヘイズたちを睥睨し、 「さーて、ガキ共が出てきた。けど、生徒風情が束になったところで私の土ゴーレムは止められないね」 圧倒的な質量。それこそがフーケのゴーレムの特徴であり、そして中位以下のメイジに対する圧倒的アドバンテージ。 単純に大きいということは、優れた城塞破壊能力だけを意味しない。巨大であると言うことは、それだけで大きな防御能力を持つ。 蜂の一刺しでは巨大な竜の鱗を貫くことはできない。 つまり、完全にゴーレムを破壊する為に必要な、強力な魔法とそれを扱う精神力。どちらも学院の一生徒には、持ち得ないものである。 それを理解しフーケは嗤う。 「さあ、止められるものなら、止めてみるんだね。けど……わたしのゴーレムはそう簡単には崩せないよ」 Hunter Pigeonの船外に出たヘイズたちが見たものは、土ゴーレムが塔の外壁を破壊し、何者かが宝物庫に侵入するところだった。 「ああっ! 宝物庫が! 何かを盗まれる前に、あいつを早く捕まえなきゃ!」 侵入者の姿にルイズが叫び声を挙げるが、 「ゴーレムが先決」 「タバサの言うとおりね。背後から殴り倒されるのは御免だもの」 「決まりだな。まずはあのゴーレムから落とすぜ。ここは教師に任せてオレ達は退却ってのがもっともな判断だろうが、 トライアングルクラスが二人に、規格外も二人だ。この人数ならやってやれねえことはねえ。 あれは恐らく足止めとオトリを兼ねてるはずだから、速攻で破壊する必要があるな。 行くぜサイト、俺たちが前衛だ」 ここで叩くべきはゴーレム。 ルイズたちは頷くと、こちらにその拳を向け始めたゴーレムに、雨あられと魔法を解き放った。 ――でけえな。ウィリアム・シェイクスピアと比べりゃ、さすがに小さいけどよ。 ヘイズはひとりごちながら、ゴーレムに向けて片手をオーケストラの指揮者のように構え、地を這うように駆け出した。 (I-ブレイン起動。稼働率を三十パーセントに設定) ヘイズのI-ブレインには、通常備わっているはずの一切の戦闘用プログラムが存在しない。 I-ブレインの九割以上を占めるほどに肥大化した演算素子は、その代償に出力端子や主記憶領域といった魔法の使用に必要な一切合財を枯渇させてしまった。 そのためヘイズは魔法士でありながら、全く魔法が使えない。そのかわりひとつだけヘイズが持っているものがある。 ヘイズがもつ唯一の能力。それは「予測演算」 I-ブレインの九割以上を占める演算素子の演算力を用いて、ヘイズはほとんど予知に近い短期未来予測を可能とする。 「うおっ! さすがに直撃したら死ぬな、こりゃ」 I-ブレインの吐き出すアラートに従って、その身を翻しゴーレムの攻撃を避ける。 (データ取得。誤差修正) 今のはかなり際どかった。塔の壁を破壊するときの速度を基準にしていたが、攻撃時の速度は見た目に反して速い。 速度の誤差を修正。これで次からはより正確な予測・回避が可能になる。 爆発。炎球。氷柱。次々と叩き込まれる魔法に、ゴーレムはわずかに動きを止めるのみ。 「このやろう!」 神速の動きでゴーレムに肉薄したサイトが、その手に持ったデルフリンガーを、魔法が被弾した箇所に振り下ろす。 がこの攻撃も、ゴーレムの手首に切れ込みを作るにとどまった。 (予測演算成功。「破砕の領域」展開準備完了) 駄目押しとばかりに、ヘイズが眼前に掲げた指を打ち鳴らす。 予測演算により、つぶさに動きをトレースされた空気分子が、ヘイズが打ち鳴らした音に従って、空気中にある論理回路を作り出す。 空気分子によって作り出された論理回路は、騎士の情報解体と同じ効果をもたらし、切れ込みの入ったゴーレムの手首を抉るように解体する。 抉られた箇所だけが砂のように崩壊し、自重に耐えられなくなったゴーレムの手が、重力に従って落下した。 「すごい……これがヘイズの魔法……」 キュルケが感嘆のため息をもらした。ルイズも同意するように、驚いた表情を見せている。 「まあ、厳密には魔法じゃねえんだけどな。……なに!?」 ヘイズの視線の先では、先ほど破壊したはずのゴーレムの腕が、時計を巻き戻したように再生していた。 ギーシュのワルキューレは一度破壊すれば再生しなかったため、こいつもサイズが大きいだけで同じだろうと高をくくっていた。 「再生能力付きかよ。これじゃあどうやっても倒せるわけないじゃないか!」 サイトが吐き捨てるように叫んだ。チートだ、などと言いながらゴーレムの攻撃を防いでいる。 「再生はその場凌ぎ。一撃で破壊すれば、再度生成するのは恐らく不可能」 タバサが打開策を口にするが、 「でもどうしろっていうのよ! そんな魔法スクウェアクラスでもないと使えっこないじゃない!」 半狂乱に叫ぶルイズ。 ――撃てるのは一発限り。しかも三時間は素で戦う羽目になるが、使うしかないか……! 切り札を使うべきか否かヘイズが逡巡していると、ゴーレムは現れたときと同様に、前触れなくその身を崩壊させていった。 「な、何事なの?」 「……逃げられた」 キュルケの疑問に、タバサが無表情で答えた。 後になって駆けつけると、宝物庫の壁には文字が刻まれており、こう記してあった。 「隠れ身の衣、確かに領収いたしました。土くれのフーケ」
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前ページ次ページSnakeTales Z 蛇の使い魔 その後スネークはルイズについていき授業を見てみることにした そこでなぜルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれているか理解することになる ―錬金の授業 元の世界では到底お目にかかれないような生物を観察して回るスネーク うまそうだ、と思う使い魔も居れば こいつはうまくても食べたくない、と言うような使い魔も居た 先ほど食事を強奪していったシルフィードとはしばらくにらみ合っていたがバカらしくなってやめた そんなことをやっている間に教室の扉が開かれる 紫色のローブに身を包んだ中年の女性が入ってくる どうやら先生のようだ 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですね 子のシュヴルーズ、こうやって春の新学期にさまざまな使い魔を見るのが楽しみなのですよ」 その言葉を聞いたルイズは表情を曇らせる 「おやおや、変わった便い魔を召喚したのですね、ミス・ヴァリエール?」 教室がドッと笑いに包まれる 「おいゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺歩いてた変態を連れてくるなよ!」 「違うわ!きちんと召喚したけどこいつが来ちゃっただけよ!」 ルイズも負けずに反論する 俺だったらルイズに口げんかを挑もうとは思わないがな… ひと段落が付いた頃シュヴルーズが授業を始めた 時折生徒を指す どの世界でも学校は学校だ、と少し安心する ここでもいくつか発見があった まず、文字が読めない これは追々教えてもらうとしよう 次に魔法についていくつか。魔法には主流の四属性―――火水土風と、 失われた『虚無』を含めた5つの系統があると理解した 中でも『土』は生活に密接に関係している、らしい 目の前でただの石ころを真鍮に変えたときはさすがのスネークも驚いた 「たいしたものだ」 「黙りなさい」 授業中は潜入任務同様、目立つべきではない 下手に目立つと先生に目をつけられ指名されることになるからだ 静かな授業で無駄話などをしていると当然目立ってしまう 「おしゃべりをする暇があるのなら、ミス・ヴァりエール、貴方にやってもらいましょう」 この授業も例外ではない 「先生、危険です!」 「どうしてですか?」 「とにかく危険なんです!」 シュヴルーズもスネークも事態が把握できない 「―――やります」 ルイズが立ち上がる。代わりに生徒が机の下にもぐる 「どうした?」 まるで爆発でも起きるかのようだ 生徒が震える中、ルイズは杖を振り上げ呪文を唱える 真剣な顔で石ころに集中するルイズ こうしてみるとかなりの美少女だ これでもう少し性格が丸くなり、胸が大きくなれば言うこと無いのだが… など思っていると呪文が終わったのか杖を振り下ろすルイズ すると ドンッ!―ガラガラ 爆発の後に教卓が吹き飛んだ ガラスは割れ、教卓は黒コゲ シュヴルーズは黒板にたたきつけられ、使い魔たちは混乱する しかし、爆心地に居たはずのルイズはたいしたことが無いようだ なるほどどうりでなめられているわけだ 魔法使いなのに魔法が使えないとは… 「ちょっと失敗したわね」 「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」 その通りだ 「なるほど、魔法が使えないから『ゼロ』か」 「だ、黙って手を動かしなさい!」 爆発によって吹き飛んだ部屋を掃除する 「どうして使えないのか考えてみたことは?」 手を動かしながら問いかける 「…努力してるのに、なんでか使えないのよ 教科書なんて穴が開くほど読んだ。内容だって暗唱できる 授業だってまじめに聞いてるのに…どうして?」 小さな声、しかしスネークには確かに聞こえた ゼロのルイズ 誰が言ったか知らないけれど、いつの間にかみんなからそう言われていた 悔しくなかったわけじゃない。だから勉強した。努力した。でも使えない 「私だって…召喚は成功したんだからね…」 そう、だから錬金に挑戦した 召喚が出来たのだから錬金も出来るはずだと思った 「…中国に『志有る者はついになるなり』ということわざがある」 「…スネーク?」 いきなり意味のわからない事を言い出した チュウゴクって何? 「強い意志で物事を進めるなら、途中でいろいろ困難なことがあっても 最後には目標を達成できると言う意味だ ルイズ、諦めるな。何事も投げ出さなければ目標を達成できる」 「…わかったわよ」 スネークなりの励ましなのだろう 「ありがとうスネーク」 小さく聞こえないようにお礼を言っておいた 昼食 本来ならスネークも楽しみなはずだった 既にもらえないのがわかっているため食堂に行く気が起きなかったが メニューの確認でもと思い付いていくことにした 「あ、スネークさん」 可愛らしい声に振り向いてみればシエスタが給仕をしている 「ああ、シエスタ。朝はすまなかった」 「いえいえ。あの位のこと…あ、そうだ、昼も来ませんか?いつもあまっちゃって大変なんです」 「いいのか?」 「ええ、もちろん」 「すまない、助かる。お礼といっては何だが…仕事を手伝わせてくれ」 給仕の仕事をしていると数多く居る貴族の中で、金色の巻き髪、フリルの付いたシャツを着たきざな貴族が目に付いた 確かにいい男なのだが、どうしてもカッコよく見えない 「おいギーシュ、今は誰と付き合ってるんだいよ?」 「付き合う?僕にそのような特定の女性は居ないのだ 薔薇は多くの人を楽しませるために咲くものだからね」 頭がおかしいんじゃないだろうか こんなことを素面で言える人間などまともじゃない そんな彼のポケットから何か落ちたが気づいていないようだ 拾い上げ声をかける 「落ちたぞ、若いの」 テーブルに拾った小瓶を置いてやる。 「これは僕のではない。何を言っているんだ?」 嘘をついているのはみえみえだ 大方二股でもかけているのだろう それをばれないようにするために嘘をついている 「そうか、ならこいつを今ここで叩き割っても文句は無いな?」 少し脅しをかけてみる。この若いのは一度くらい痛い目に遭ったほうが良さそうだ 「大切なものじゃないなら別に構わないだろう?」 「べ、別にいいとも!僕のではないからね」 手で握りつぶして割る 同時に見事な巻き毛の女の子がギーシュに平手打ちを食らわせる 「貴方の愛がどれくらいのものか良くわかったわ」 「聞いてくれモンモランシー、君は誤解して…」 「さよなら」 もう一発逆の頬に平手打ちを食らわせて帰っていった するともう一人栗色の髪の可愛らしい少女が涙ながらにギーシュに近づいていき 「ギーシュ様のバカ!やっぱりミス・モンモランシーと付き合っていらしたのですね!」 やはり平手打ちを食らわせて走り去っていった 「これに懲りたら二股なんてかけないことだな」 仕事に戻ろうとする 「待ちたまえ。君のおかげで僕の名誉に傷が付いたぞ。どうするつもりだ?」 「どうもこうも、お前のせいだろうが」 「そうだギーシュ、お前が悪い」 周囲の生徒がはやし立てる ギーシュの赤くはれた頬がさらに赤くなった 「…いいだろう。どっちが正しいか決闘で決めようじゃないか。ヴェストリの広場で待っているよ平民」 どういう理論だそれは? この世界の貴族の考えが未だに理解できないスネークだった 「やれやれ、シエスタ、ヴェストリの広場はどこだ?」 答えがないので振り返ると顔面蒼白なシエスタ 「どうした?」 「あ、あなた殺されちゃいます…」 「生憎そのつもりはない」 「平民は貴族に絶対に勝てないんです」 貴族には魔法がある この差を埋める事は不可能だとシエスタは言った 「不可能を可能に変えるまでだ」 前ページ次ページSnakeTales Z 蛇の使い魔
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前ページ次ページTHE GUN OF ZERO ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは杖を突き出した体勢のまま、震えていた。 場所は、トリステイン魔法学院のすぐ側。 進級試験の一環として、使い魔の召喚と契約の義が行われていたのだが、自身はことごとく失敗を続け、担当教官のコルベールより最後のワンチャンスという宣告を受けていたのにも関わらず、突き出した杖の先で起きたのは、爆発。 「ハハハハハ!」 「やっぱり、ゼロはゼロだな!」 「これで留年だな、留年!」 (そんな……) 脱力し、力なく腕を下ろす。……後ろから投げつけられる罵声が痛い。 うっすらと、涙ぐむ鳶色の瞳が、爆発跡に立ち上る爆煙を睨み付けていた。 そこに、動く者が居る。 「へ?」 何とも間抜けな声を上げてしまったが、煙が晴れるより先にそいつは近づいてきて、ルイズの前に立った。 「俺を呼んだのは、お前か」 そこにいたのは銀髪で翠色の瞳を備え、銀色銀色を基調とした全身を覆う奇妙な服を着た少年だった。 「え……え?」 「助けを呼ぶ声が聞こえた。窮状に陥っていて、どうしようもないから助けて欲しいと懇願していて、ゲートを開いたのは、お前か」 「げ、ゲート?ていうかそれは……」 確かに、助けを請うたかも知れない。他の生徒にバカにされるのが悔しくて、もはや何でも良いから自分の所に来てくれと願ったかも知れない。 「見ろよ!ルイズの奴、平民を召喚しやがったぜ!」 「あはは!流石はゼロのルイズだな!」 「ルイズにはお似合いの使い魔だ!」 散々に笑い飛ばす面々に、ルイズはハッとして担当教官を振り返った。 「ミスタ・コルベール!召喚のやり直しを!平民を使い魔にするなど、前例がありません!」 ルイズの言葉に、ゆっくりとコルベールは首を振った。 「ミス・ヴァリエール。使い魔の召喚は神聖なモノだ。やり直しをする訳にはいかない。それに何より、今の口ぶりでは彼は正に君のために召喚に応じたと言うことになる」 言われて、銀髪の少年に向き直る。 当の彼は首をひねっていた。 「済まない。正直あまり事情が飲み込めていないんだが……」 「君は呼ばれたんだよ。この、ミス・ヴァリエールの使い魔としてね。そしてここは、トリステイン魔法学院だ」 「魔法?そうか、ここは魔法がある世界か」 よく分からない言い回しを少年は口にした。 「だが、必死に助けを求めていたにしては、ここは平和に見えるが」 「うむ。ミス・ヴァリエールにしてみれば必死だっただろう。何しろ、使い魔を呼び出すことが出来なければ、彼女は進級出来ないのだから」 「そうか。話には聞いていたが、大変なんだな、学生は」 しみじみと頷く。 「……では、俺がここに来たと言うことは彼女の危機はもう去ったということか?」 「いや」 コルベールが首を左右に振る。 「使い魔を呼び出した上契約まで果たすことによって初めて、召喚の儀式は完成する」 「契約……つまり、俺が彼女に仕えるということか?」 うむ、とコルベールが頷くと、少年はじっと考えこんだ。 「……わかった。少々条件は欲しいがお前の使い魔に成ろう」 顔を上げ、ルイズの方を見る。コルベールも促すようにルイズを見た。 だが、ルイズの方はそう簡単ではない。そりゃあ、せっぱ詰まったせいで何でも良いから来てくれと願ってしまったが、平民だなんてのは考えの外だ。 第一、契約の方法が方法である。 (そんな……私のファーストキスよ!?ファーストキス!それが……) 平民などに奪われるなど、全くもって冗談ではない。 「うううううぅぅぅ……」 小さくうなり声を上げつつ少年を睨み付けてやる。 「どうした?何か調子が悪いのか?」 全くこちらの葛藤を理解もせずに、脳天気にもこちらの心配などしてきている。 「ええ、そうよ!調子が悪いのよ!アンタみたいな平民を呼んじゃうだなんて!」 「嘘付くなよ『ゼロのルイズ』!」 「失敗ばかりなのはいつものことだろう!?」 「煩いわね!?」 外野のヤジに噛み付く。 「『ゼロ』?」 少年が、その言葉を繰り返した。 「な、何よ……」 「ルイズ、というのがお前の名前か。それに『ゼロ』……えらく強そうな呼び名だな」 「はぁ……?」 何とも的外れな少年の言葉に、怒るよりも先に呆れてしまう。 「それで、契約とはどうするんだ?どうすれば成立する?」 「う……」 唐突に本題を振られ、苦い表情になるルイズ。再び少年を睨み付ける。 「……どうした?」 せめてもの救いなのは、顔は良いことか。 ふかーくため息をつき、ルイズは一歩、少年に近づいた。 「ちょっと屈みなさい」 「こうか?」 片膝を付く少年の頬を掴み、こちらの顔を近づける。 「感謝しなさいよね。普通ならこんな事、されることは無いんだから」 「なに?」 心中、必死に「これは使い魔だからノーカン、これは使い魔だからノーカン」と唱えながら口では契約の呪を紡ぐ。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 そっと交わされる口付け。 少年は一瞬面食らったような顔をしていたが、ルイズが離れる時には元の表情に戻っていた。 「成る程、キスが契約のキーか……っつ!」 ルイズが立ち上がったところで、少年は左手を掴んで呻く。 「何だ、これは……っ」 「契約のルーンが刻まれているのよ。すぐに痛みも止むわ」 「ルーン……?」 怪訝な顔で尋ね返しつつ、自身の胸の辺りを弄る少年。するとその体から空気の抜けるような音がし、ガバと彼は胸元を開いた。 「ちょ、ちょっとあんた何考えてんのよ!?」 顔を手で覆いながら、それでも指の間から意外と厚い胸板をしっかり見つつ、批難する。 後ろの女生徒達からも悲鳴が上がっていた。 「ルーンとは、これか?」 袖から腕を引き抜き、調度遠山桜を晒すような姿になりつつ、左手を掲げた。 「随分と脱ぎにくそうな服だね。……それにしても、珍しいルーンだ。私も見たことがない。スケッチしてもよろしいかな」 コルベールがしげしげとそれを見つめる。少年が頷き返すと、そそくさと書き写した。 「ふむ。ではこれにて、春の使い魔召喚の義は終了とする。各自、次の授業に向かうように」 コルベールから解散の礼を受け、教師と生徒達は召喚したばかりの使い魔を伴って学院の方へと飛ぶ。 「ルイズ!お前は後から歩いて来いよ!」 「そうそう!お前はフライもレビテーションも使えないんだからな!」 「その平民の使い魔と一緒にな!」 わざわざ言わずもがなの事を言い残しつつ遠くなっていく生徒達を睨みながら、ルイズは奥歯を噛み締めていた。 服を着直しつつ、ルイズの見ている方向を一緒に見ていた少年は、ルイズが振り返ると少し間を空けて語りかけた。 「――自己紹介がまだだったな。俺の名はクォヴレー、クォヴレー・ゴードンだ」 前ページ次ページTHE GUN OF ZERO
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「宇宙の(ry」 何十回の失敗の末、一際大きな爆発が起き、砂埃が派手に舞った。 そして時間と共に視界が晴れ…『それ』が姿を見せた。 『それ』は、体のいたる箇所から煙を上げ…立ったまま、眠るかのように微動だにしなかった。 「…プッ…プハハハ!!『ゼロのルイズ』が人間を召喚しやがった!!」 「いや、あのなり、亜人かもしれねーぞ!ひゃははは!」 「やっと成功したと思ったらこれかよ!」 後ろから聞こえる嘲笑に耐えられず、ルイズは顔を真っ赤にして振り返る。 「コルベール先生!…ミスタ・コルベール…?」 無駄とは知りつつも、コルベールに最召喚の許可を… そう思い振り向いたルイズが見たのは、緊張した顔で杖を構えるコルベールの姿だった。 「…ミス・ヴァリエール…早く、そこを離れなさい…」 呻くようにそう言ったコルベールの額には…玉の様な汗が浮かんでいた。 コルベールは考える。 この人間…いや、人間かどうかさえ疑わしい。とにかく『これ』は危険だ。 異様な仮面…漆黒のローブ…そんな外見だけの問題ではない…。 もっと異質の…世界の全てを憎む様な…全ての破壊を望むような…そんな意思が具現化したかのような禍々しさ。 それだけなら…まだいい。『これ』は…その意思に見合うだけの力を持っている…。 「皆さん…今日の授業はこれまでです。早く教室に戻りなさい…早く!」 今まで見たことも無いコルベールの剣幕に、生徒達は不信に思いながらも教室に帰っていく。 残ったのは、ルイズ。ルイズを心配したキュルケ。キュルケを心配したタバサだけだった。 生徒のほとんどが帰ったのを気配で感じながら、コルベールはさらに考える。 きっと…いや、間違いなく、自分では時間稼ぎもろくにできないだろう…。 それでも…生徒を守る事が…今の私の務め! 何時に無く本気の顔をして杖を構えるコルベール先生。そして、その先には自分の使い魔候補。 ルイズは軽いパニックになっていた。 「あの…ミスタ・コルベール?一体…」 ルイズがそう言い、コルベールに一歩足を向けた瞬間!『それ』が動いた。 「!!ミス・ヴァリエール!!」 コルベールはそう叫ぶと同時に、杖の先から―2メイルは軽く超えるであろう火球を放った! それは火球というより、業火といった方が正しく思われる程の代物。 それが、ルイズが召喚した『それ』の顔面に迫り― そして、虚空を焼くだけに終わった。 「!?避けた!?」 自分では、時間稼ぎすらできないというのか…! 予想だにしなかった事態にコルベールは背中に空寒いものを感じる。 そして…その一瞬の隙を突いて動いた者がいた。 「ミスタ・コルベール!いきなり…人の使い魔…候補に攻撃するなんてあんまりです!」 ルイズがそう叫び、コルベールの杖にしがみ付く。 「それに見てください!あれはすでに瀕死です!」 ルイズの一言で、コルベールもようやく落ち着きを取り戻した。 …なるほど。避けたのではなく、地面に倒れただけだった。 「使い魔はメイジにとって一生の問題。そう教えてくれたのは他でもない、ミスタ・コルベール!あなたではありませんか!」 教え子にそう言われ、コルベールはハッとする。 確かに、使い魔は一生の問題だ。しかし『これ』は危険なのでは?しかし… 「うーむ…」と唸っていると、後ろから声をかけられた。 「ミスタ・コルベールはえらく警戒なさってましたけど、契約してしまえば従順になるんでしょう? それに、この様子ですし、学園に戻ってから処置を考えてもよろしいのでは?」 キュルケが少し戸惑った表情をしながら、それでもそう言う。 「『ある程度は』従順」 タバサが一部強調してそう付け足す。 その手は、青白くなるほど強く杖を握り締めてはいたが。 「うーむ…」 学園には、オールド・オスマンもいる。彼なら、正しい判断をしてくれるだろう。 それに、万が一の事態の際にも…。 そこまで考えると、コルベールの行動は早かった。 『それ』にレビテーションをかけ、学園へと向かった。 自分のこの判断が正しい事を、心から祈りながら…。 学園の正門前で、ルイズは眠る『それ』を見ていた。 流石にコルベールも学園の中に入れる事には抵抗があったらしく、「学園長を呼ぶからここで待ってなさい」とだけ残して、どこかに急いで消えていった。 キュルケとタバサも、毛根焼畑先生に説得され、教室へと消えていき… 結局ルイズはここで待ちぼうけを食らう形となっていた。 目の前に転がる人間だか亜人だか分からないものを眺めながら、一人呟く。 「それにしても…なんで私の召喚したのがこんなのなのよ!咄嗟の事だったから助けちゃったけど…やっぱり止めなきゃ良かったかな… 何だかコルベール先生の様子からして、危ないやつみたいだし… でもそれって、それだけ強力、って事よね…」 ぶつぶつ言いながら考えるが…結局、オールド・オスマンの指示を仰ごう。という結論に達した。 … そしてその頃『それ』は…夢を見ていた。 幾つもの人生。幾つもの光景。 それはとても長くて…そして、一瞬の幻のようで… 男が女の手を引き、雪原を走っていた。 黄金の髑髏の仮面を被った人物達が、二人を追う。 背後から光の矢が伸び…女の胸を貫いた。 男の手の中で女は何かを呟き…そして、息絶えた。 「――――」 赤い光が点滅する中、男と女がガラスの壁を隔てて見詰め合う。 女の背後には銃を構えた人物が大勢立っている。 赤い光が警鐘を鳴らす中…女は多数の弾丸を受け倒れる。 女はガラスの向こうに立つ男に何か囁き…死んだ。 「―――て」 空を飛ぶ船を、男は地上から見つめていた。 幾つもの光の矢が船を貫き、それでも船は飛ぶ。 そして…その船は、巨大な何かにぶつかり…爆発した。 その瞬間…船の艦橋で、女が叫ぶ。 「――きて!」 それはとても悲しい夢。 どの時代でも男と女は出会い、そして―― 『それ』は夢を見ていた。 起きれば全て忘れてしまうような… 指の隙間から水がこぼれるように、決して記憶に残る事の無い… それでも、滴が残る様に、決して忘れる事の無い… … 頭髪転進先生、早く来ないかな…。 そう思いながらルイズは、自分の召喚した使い魔候補を見た。 すると…呼吸と共に上下していた胸の動きが…心なしかさっきより弱い。 まさか! そう思い、恐る恐る使い魔候補の胸に手を当ててみると…その鼓動は今にも止まりそうなほど弱い。 これには、さすがに驚いた。 あれだけの騒ぎ―最も、デコ無限先生が勝手に騒いだだけだが―を起こしといて、ぽっくり死にました。ってのは、いくらなんでも酷い。 何より…目の前で何かが死ぬのは、16歳の少女ルイズには、耐えられない事でもあった。 どうすればいいのか分からず…それでも、使い魔候補を揺さぶる。 「ちょっと!このバカ!起きなさいよ!勝手に死なないでよ!」 呼吸の感覚が広く、弱くなるのが分かる。 「これじゃ私が殺したと思われるじゃない!起きなさい!」 ドンドンと使い魔候補の胸板を叩く。 「ちょっと…ねえ…」 … 使い魔候補の呼吸が止まった。 そっと胸に手を当ててみると…そこに生命の鼓動はすでに存在してなかった。 目の前で、命が失われた。 それがどのような存在であれ…その事実は重く感じられた。 「ねえ…死んじゃダメ…死んじゃ…ダメ…ねえ…」 その重さ故に…どうしようもなく悲しくなった。 「ちょっと…生きなさいよ…」 何の思い入れも無いはずの使い魔候補を激しく揺さぶる。 感情が暴発しそうになる。 「生きなさいよ!ねえ!」 揺する手にも力がこもってくる。 「生きて!」 ― ドクン ― 世界から色が失われた様な錯覚が突然襲ってきた。 いつの間にか目の前に転がっていた筈の使い魔候補の体が無くなっている。 重力が何倍にもなったような…急に酸素が薄くなったような…そんな圧迫感が広がる。 いつの間にか、そこに倒れていた筈の使い魔候補がルイズの目の前に立っていた。 否。 『それ』は…宙に浮いていた。 腕を組みながら、仮面の男がルイズを見下ろしていた。 ルイズは…震える手を握り、押しつぶされそうな空気を大きく吸い…男に話しかける。 「あなた…死んだんじゃなかったの…。それなのに…一体…何者…」 男は低い、全ての存在が震える程に低い声で答えた… 「我はグラーフ…。力の求道者…」
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前ページ次ページZONE OF ZERO あれからルイズは簡単に医師の問診を受け、問題なしと診断され、朝食前には退室できることとなった。 しかし仮に問診ではなく魔法まで用いた精密検査をしていたなら、大騒ぎになっていた事だろう。 ジェフティのコア、そしてADAと融合したルイズの体内はかなり変質しており、 半OF人間と言っても過言ではないくらいなのだ。 しかし現状、ルイズはそこまで事態の深刻さは把握していなかった。 医務室で彼女の使い魔を名乗る声、「ADA」から、恐らくは自身の有用さについて 説明を受けたが、正直半分も理解する事は出来なかった。 理解できたのは、ADAに実体が無い事。 現状、殆ど何も出来ないという事。 つまりは役立たずであるという事。 ルイズが自らの中で下した結論を率直に告げると、ADAは沈黙した。どうやら拗ねてしまったらしい。 その後、医師と入れ替わるように件の儀式の監督教師であったコルベール師が病室に入って来た。 考えるまでも無く使い魔に関する件だろう。 ルイズは心底不安気に左手のルーンを見せて、ADAの事を説明した。 「――と、言う訳なのですが……」 「……ふぅむ。これは全く前例の無い事象だね」 しきりに首をひねるコルベールだったが、ルイズよりは思考が柔軟そうであると判断したADAが声を発した後、状況は一変した。 最初は飛び上がるほどに驚き、警戒を露わにしていたコルベールだったが、 ADAと言葉を交わすにつれ次第にその声には熱が篭り、最後には感極まって叫びだした。 「素晴らしい! 全く以って信じられん!! いや実に素晴らしい!!」 どうやら彼はADAの意味不明の言語を多少なりとも理解できているようだ。 ルイズにはさっぱり理解出来ず、半ば置いてけぼりな感が漂っていたのだが、 とりあえずコルベール師はADAを使い魔と認めてくれたらしいと判断し、その点だけは心底安堵した。 そして実際にコルベールはルイズの使い魔を十二分に評価し、太鼓判を押してくれたのだった。 始祖ブリミルと女王陛下に祈りを奉げ、朝食を摂ろうとして、ルイズは視界の端に妙なものを認めた。 それは数字だった。中空にぼんやりと蒼く輝く数字が、幾つも浮かび上がっている。幾つかは何となく覚えのある数字だ。 疲れているのか、或いは寝ぼけているのかと目をこすってみても、数字は変わらずに浮かび上がったままだ。 その数字の存在にはルイズ以外の誰も気付いていないらしい。 腑に落ちないながらも、気にしない事にして、改めて食事の為にナイフとフォークを取り、鶏肉を切り分けて口へ運んだ。 そして良く噛んで飲み込んだ瞬間、浮かんでいた数字の幾つかが、僅かに上昇した。 「――え?」 そこでようやくルイズはその覚えのある数字が何を表すものかに、思い至った。 それはルイズの身長、体重、スリーサイズといった身体的なデータだった。 特にアルファベット一文字で言えばBの数値は、あまりに切ないものであったため、逆に深く記憶してしまっていたのだ。 しばし呆然としていたルイズだが、すぐに心当たりには思い至った。 「ちょっとADA! これ貴女の仕業ね!?」 『はい。その通りですが、何か問題でも?』 ADAに悪気があった訳ではない。 その朝っぱらから豪勢に過ぎる食事に健康を損なう可能性を見て取ったADAは、 自己診断によって得たバイタルデータをルイズの網膜に直接投射して、常時、健康状態を把握できるようにしたのだ。 ルイズには理解できなかったが、身長や体重スリーサイズ以外にも、 血圧や体脂肪、血糖値や合計摂取カロリーに至るまで、実に完璧に網羅されていた。 「余計なお世話よ! 今すぐ消しなさい!!」 公共の場で、いきなり大声で叫びだした(ように見えた)ことにルイズが気付くのは、5秒後のことであった。 結局、いつもより朝食を軽めに済ませたルイズは、教室の中、不機嫌そのものの顔つきで、自分の机についていた。 事情を知らない周囲の生徒は、ルイズの左手に浮かぶルーンを見ると、 何やらひどく痛ましそうな顔をして周囲の者とひそひそと囁き合った。 「無事だったのか……」とか、 「気の毒だが、今度こそクビだな……」とか、 「もうあの爆発は見れないのか……」とか聞こえてくる。 いつもなら真っ先にからかいの声を上げる、ツェルプストーやかぜっぴきまでが、遠巻きに、気遣うように見守っていた。 ぶっちゃけ余計にムカついた。 だが、誤解を解こうとルイズ席を立ちかけたところで、教員がやって来た。 女性教員のシュヴルーズは、ひととおり新入生の使い魔を見て成功を称えると、 一人誰も従えていない(ように見える)ルイズに声をかけた。 「それから、ええと、ミス・ヴァリエール? 貴女に関してはミスタ・コルベールから話を伺っています。 随分風変わりな使い魔を召喚したようですね? ミスタが教員室で大層興奮なさっていましたよ」 「――え」 それを聞いた周囲の生徒が騒ぎ出す。 「失敗じゃなかったんですか!?」 「ゼロのルイズが一体どんな使い魔を喚び出したっていうんだ?」 「でも使い魔のルーンは……」 ルイズの召喚の儀式には皆、立ち会っている。 あの、あまりにも膨大なエネルギーが何なのかはわからなくとも、『とんでもないモノだ』という事くらいわかる。 儀式が失敗でないというなら、一体、彼女は何を呼び出したというのか……? やにわに騒がしくなった教室に、シュヴルーズ師が魔法で場を沈静させる。 「はいはい、もう授業の時間ですよ。彼女の使い魔に関しては私も良く存じ上げませんが、 姿は見えずとも確かに存在するようです。 興味があるなら、後で個人的にミス・ヴァリエールに尋ねてごらんなさい。では――」 そして授業が始まった。 錬金の実技に指名され、周囲の反対の声を黙殺してルイズが 壇上に進むと、突如ADAの声が脳内で聞こえてきた。 『警告。成功率ほぼ0パーセント。貴女の魔力には他者のそれとは異なる要素が見受けられます。 原因が特定できるまで、正規の魔法を行使すべきではありません』 無論それで止まるルイズではない。ADAの台詞の中に何か引っかかる部分があったような気はしたが、 自分の得体の知れない使い魔にまで駄目出しを出されて、ルイズは更にヒートアップした。 そして教壇の上、殆どの生徒が避難するのを尻目に、 ルイズは杖を掲げ、拳大の石ころに向け、詠唱を開始した。 その瞬間、閃光が教室を埋め尽くし――そして収束した。 生徒達が恐れ、そして既に慣れてしまっていた爆発は、いつまでたってもやって来ない。 恐る恐ると、生徒が少しずつ机の下や教室の外から戻ってくる。 ――そして見た。 詠唱の姿勢のまま硬直したルイズの左手のルーンが蒼く輝き、紫電を放っているのを。 やがて発光と放電は徐々に弱まり、収まった。 シュヴルーズ師はどうやら閃光のショックで気を失っているようだ。 ルイズを含め、誰にとっても想定外の現象に静まり返る中、突如、不思議な響きを持つ可憐な声が聞こえてきた。 『対象の完全消滅を確認。昇華でも転移でもありません。原因――特定出来ませんでした』 「だ、誰だ!?」 立て続けに起こる怪現象に一部を除き、再度パニックを起こす生徒達。 そこでルイズが我に返り、自分の使い魔を問い質す。 「……ADA? あんたが何かやったの?」 『ベクタートラップによる圧縮空間を生成。爆発の衝撃を封じ込めました』 またも意味不明の言葉だったが、今回は前半はともかく、後半は理解できた。 と、そこでルイズは、生徒達が左手に話しかける自分に、怪訝な目を向けているのに気がついた。 しかし、どうしたものかと考えるまでもなく、左手が光り、ADAが周囲に聞こえるように声を発した。 『おはようございます。私は当メイジルイズの使い魔、独立型戦闘支援ユニットADAです』 ――――新たな技能『シールド』を取得しました。 前ページ次ページZONE OF ZERO
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前ページ次ページ絶望の使い魔 闇に閉ざされた世界。 その中心にある城の地下深くに玉座のある広い部屋がある。 暗い中を松明の火だけが辺りを照らす。 その中で動いているのは5つの影であった。 その中でも5メートル近い巨躯を誇る者が語る。 「よくぞわしを倒した。 だが光あるかぎり 闇もまたある……。 わしには見えるのだ。ふたたび何者かが闇から現れよう……。 だがそのときは お前は年老いて生きてはいまい。 わははは………っ。ぐふっ!」 その者は炎が出し、自らを焼いてゆく そのとき光でできた鏡のような物が突如現れた。 他の4つの影はあっ言う間に鏡とともに消し去られた様子を見ているしかできなかったが 振動が起こり周りが崩れようとしていることを感じると すぐにその場から離れるために駆け出した。 青空の下、マントを羽織った集団が草原に集まっていた。 距離を置いたところには城のような建物も見える。 そしてその集団から少し離れて桃色の髪をした少女が緊張しながら杖を振っている。 その少女―ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは この使い魔召喚の儀にすべてをかけていると言っても過言ではない。 ルイズは魔法を使うと常に爆発させてしまい、まともに成功したことが一度もない。 それを理由にいままで散々馬鹿にされてきたのだ。現在の状況を何とかして変えたい。 だから使い魔なのだ。使い魔を見ればメイジの力量が分かるとまで言われる。 ここですばらしい幻獣、そうドラゴンのような使い魔を呼べば自分は馬鹿にされなくなる。 「宇宙の果てのどこかに居る私の僕よ、 神聖で美しくそして強力な使い魔よ。 私は心より求め訴えるわ。 我が導きに答えなさい!」 爆発が起こる。 周りは嘲笑の笑みを浮かべる。 「独自性のある面白い呪文を歌ったのは流石だがゼロはゼロだな」 「使い魔召喚で失敗したら留年なんじゃねぇの?」 囃し立てる声が聞こえるが少女―ルイズは爆煙が晴れていくにつれて見えてくる大きな影に期待を膨らませる。 しかしその全貌が明らかになると少し驚く。大きいと思ったら身長が5メイル近い亜人が倒れていた。 格好は高価そうなローブとマントそして角と目玉のような装飾をつけた兜をしている。 亜人の中でも地位のある者なのだろう。 しかし問題は・・・ 「亜人だ!ゼロのルイズが呼び出したのは亜人だぞ」 「でも傷だらけってどういうことだ?ゼロの爆発で死にそうになったのかw」 「さすがだ!常に斜め上を行ってくれるこいつにwktkが止まらない!」 そう傷だらけでいまにも死にそうなのだ。 まわりでは他の使い魔が逃げようとしたり主人の影に隠れたりしている。 大きくて強そうなのは間違いない。もっとかっこいいのがよかったが悪くはないだろう。 「ミスヴァリエール。はやく契約をするんだ。」 なぜか焦っているコルベールに促されさっさと契約をした。 左手の甲にルーンが刻まれる。 それをコルベールは珍しいなとつぶやき紙に写す。 コルベールはこのとき恐れていた。 呼び出された使い魔の亜人は魔力の塊と言っても過言ではなかった。 なぜ怪我を負っているか知らないが、司祭のような姿をしているからには おそらく先住魔法の使い手だろう。 エルフではないようだがこいつが暴れれば唯ではすまないことになるのはは間違いない。 使い魔の契約は主人に対する親しみを無意識のうちに刷り込むことができる魔法であることが このときほどうれしく思えたことはない。 生徒たちに帰るように促し、ルイズの使い魔をコルベールが運ぼうとする。 ルイズは驚いたようだが、ついでだからと言い監視も兼ねてレビテーションを使い医務室まで運んで行った。 背丈が大きいのでベッドを3つ使い寝かせる。足が大きくはみ出してしまっていたが仕方がない。 いざ、怪我を治すために医師であるメイジが傷の酷さから高価な清められた水の秘薬を使うと傷が大きくなってしまう。 仰天しながら水の魔法を使うとある程度は回復したことから清められた物はダメなのがわかった。 まるで悪魔ですなと医師が笑いながら話すがコルベールは目を鋭くし使い魔を注視する。 秘薬を使うまでもなく自然回復がはやいのでこの分なら魔法だけで十分回復できるだろうこともわかった。 見慣れないルーンと言い、ほおって置くのは危険である事は間違いない。 学院長のオスマンに報告に行きたいが目を離すことができない。 医務室付きのメイドにオスマンを呼んできてもらう。 ルイズは自分の使い魔が心配なのか寝かせているベッドの脇の椅子に座っていた。 病室のドアを開きオスマンが入ってくる。 亜人を一目見ると杖を出しすぐにディテクトマジックの魔法を使った。 「ミスタコルベール、すぐに教師を集めるんじゃ」 「は、はい!」 最近、名前を態と間違えて遊んでいたというのにどうしたのだろうかと思ったが、 オスマンが振り返ったときの顔を見ると自分の背筋が伸びてしまうのがわかる。 今のオスマンは好々爺としたボケ老人ではない。 この学院に学院長として封印されている齢百を軽く越す怪老オールド・オスマンであった。 ルイズは話に付いていけずに混乱しているようだ。 そのまま使い魔に付いているように言い、オスマンに経緯を説明しすぐに行動を始めた。 トリステイン学院学院長室に集められた教師たちは困惑していた。 授業を中断されたと愚痴を言っている者もいる。 しかしオールドオスマンが入ってきたときにそれも消え去る。 オールドオスマンはコルベールに説明を促した。 「本日2年進級した生徒たちが使い魔召喚を行いました。 その最後の生徒が先住魔法を使うであろう亜人を召喚したのですが・・・」 その言葉に教師たちはエルフを思い浮かべる。 強力な先住魔法を使うエルフには系統魔法ではまず勝てない。これは周知である。 ざわ・・・ ざわ・・・ ざわ・・・ ざわめきが起こるがコルベールが続けて説明する。 「亜人はエルフではありません。 しかし・・・もっと危険なものとオールドオスマンと私は判断しました。 召喚したときには全身に傷を負っていまして今は医務室で意識を失ってします」 続けてオールドオスマンが語る。 「使い魔を見たが嫌な予感が止まらんでな。 わしはいまのうちに殲滅するのが一番よいと思っておる。 だが使い魔の契約を行ったことで危険性はかなり減るであろう。 トライアングル二人以上で監視を行う。ローテーションを組んでおけ。 召喚した使い魔を生徒が御すことができたならばよし。 できなければなんとしても叩かねばならん。 召喚した生徒はラ・ヴァリエール家の3女じゃ。 後で使い魔の姿は確認しておくこと。以上じゃ。解散」 各々退出してコルベールとオスマンが残る。 「ではオールド・オスマン、ルーンの方も確認してまいります」 重々しく頷くオスマンを残し駆けていく。 「何事も起こらないというのは無理じゃろうなぁ」 そうしみじみ呟きながらオスマンは遠見の鏡で病室を確認していた。 すでに夜になり病室から部屋にもどったルイズは今日の召喚した使い魔のことを考えていた。 ミスタコルベールと学院長の緊張した様子から強力な種族ではないかと言うことが分かる。 それを使い魔としたのは自分! 亜人に洗濯をさせよう。着替えもさせて、もちろん飯は貧相なものを。 身形からそれなりの文化を持っていて位が高いことが分かるので、 どうやって自分より下であることを使い魔に自覚させるかを考える。 そうして優越感に浸る自分を思い浮かべると自然と笑顔が浮かんでくる。 とりあえず使い魔にさせることを箇条書きで記し、寝ることにする。 今日はぐっすり眠れそうだ・・・ 夢を見た。 世界を暗黒に閉ざし人々を絶望させそれを糧に君臨する自分。 それは恐ろしい光景だった。見たことのない怪物が町を襲い人を殺して行く。 恐ろしいはずなのになぜかそれを見ていると愉快にそして満たされるように感じる。 もっと絶望を感じたい・・・ すべてを踏みにじりたい・・・ 上の世界まで続く穴を開けさらに蹂躙しようではないか・・・ ルイズは飛び起きた。恐ろしい夢を見た。 人を絶望させるために行動する自分。 だがその時に感じた愉悦は忘れられるものではない。 自分が自分で無くなるような気がして汗で湿ったシーツを抱きしめる。 そのまま朝日を迎えることになった。 そろそろ朝食の時間だ。いつまでもベッドで蹲っているわけには行かない。 朝日が射す窓を開ける。清々しい天気だと言うのに気分が悪い。顔を洗い、服を着替える。 部屋を出るとちょうど隣も出てきたところのようだ。 隣室の赤毛の褐色肌の女―キュルケは使い魔に関して話題を振ってくる。 まず自分の使い魔を自慢し、ルイズにも強そうな亜人を呼び出してなかなかやるじゃないかと言った。 キュルケの使い魔―サラマンダーはルイズの前に出て軽いうなり声を上げ威嚇していた。 キュルケは自分の使い魔がなぜルイズを危険視しているか分からない。 サラマンダー自身もよく分かってないのか明瞭な説明ができないようだ。 ルイズが何も言い返さないのを不振に感じたがそのまま朝食を取りに行くと言って先に行ってしまった。 ルイズはそれどころではなかった。キュルケを見た瞬間自分がキュルケを引き裂いている姿を思い浮かべて楽しんでいた。 そしてそれに気付いて愕然としてキュルケが何を言っているのか頭に入ってこなかった。 授業中も頭が一杯で揶揄の言葉もすべて聞き流していたが、 ミセスシュヴルーズに話を聞いていなかったと指摘され前に出て錬金を行うことになった。 昨日も召喚に成功したしもしかすると魔法ができるようになっているかもしれない。 思案は置いておいて錬金に集中する。見事錬金の魔法の対象となった石は吹き飛んだ。 つまり失敗してしまった。罵声を浴びせられ部屋の清掃をさせられることになった。 ルイズ本人は頭が一杯であったから、そして他の者は注意を向けていなかったから気付いていなかったが、 ルイズはの体はいつものように煤で汚れてはいなかった。 まるで爆発の影響を全く受けていないようであった。 夢を見た。 上の世界まで続く大穴を開け自分の手下を送り込む。 手下はうまく動いていたようだ。まず近くの村を滅ぼし、恐怖を与える。 人の王を替え玉に入れ替え人心が荒廃するように仕向けていた。 この調子なら簡単に闇に落としてしまえそうだ。 勇者と名乗る者たちは手下にすら到達できずに散っていく。 十分満足が行くがおもしろくない。少し人間に強くなる猶予を与えるように手下に指示を出す。 さぁ希望を抱け。その光が大きければ大きいほど失った時の絶望は計り知れない。 わしを楽しませろ。 召喚から2日目の朝、夢の内容は変わらず恐ろしい物であったが嫌悪はなかった。 自分が変わっているのだろうかと思うが悪い気はしない。 なぜ自分が変わることをそんなに恐れていたのか分からなかった。 病室に様子を見に行く。亜人の怪我はほとんど治ってしまったようだ。 目が覚めないだけのようでいい加減目を覚ましてくれないと見せびらかしたりできないではないか。 やらせようとした事が実行に移せるのはいつになるのかとため息が出しながら医務室を後にする。 昼食時に二股ギーシュに八つ当たりされているメイドが恐怖に震えるのを見てゾクゾクしてしまう。 しかしメイドを罵倒しているうちに調子に乗ってしまったギーシュを見ると腹が立ってくる。 メイドを助けることはあまり気乗りしないが にやにや笑っているギーシュを追い詰めることを考えるとどうでもよくなってくる 「ギーシュ、八つ当たりは止めなさい。元はと言えば貴方が二股かけるからでしょう? 八つ当たりをすることで自分の威厳を周りに保とうとしているつもりかもしれないけど はっきり言って逆効果よ。滑稽すぎて笑えないわ。貴族の屑ってこうやってできていくのね」 周りもそれに乗ってギーシュを楽しそうに追い詰めていく。 さっきまで笑っていた顔が蒼くしたり赤くしたりしている様子は見ていて最高だった。 最後には真っ赤になってこっちも睨んでくる。 「決闘だ!!名誉を傷つけられて黙って入られない!グラモン家には命よりも名誉を重んずる 家風がある!ゼロのルイズ!貴族同士の決闘は禁止されているが受けてもらおう! もし受k「いいわよ」ないなら、いますぐ非礼を侘びてもらお・・・え?・・・ お、おもしろい!ヴェストリ広場で待つ!逃げるなよ!」 受けるとは思っていなかったのか一瞬呆けた後、 慌てて場所を言い残し友人を連れて広場の方に去っていった。 「あの…先ほどはありg・・・・」 メイドが何か言っているが無視しギーシュに続いて広場に向かう。 負ける気が全くしない。興味があるのはどれだけやれば相手が自身の無力を感じるかであった。 暇を持て余している学生がたくさん集まり決闘を見物しようとしている。 「諸君!決闘だ!!」 わぁああっと歓声が起こる。芝居がかった仕草で周りに愛想を振りまくギーシュ。 ギーシュは内心困っていた。誤解を招いた原因は誰にでもいい顔する自分だと自分自身わかっている。 八つ当たりまでした自分がはずかしい。しかも決闘まで仕掛けてしまった。受けないと思った相手が受けてしまったのだ。 もう引くに引けないところまで来ている。そして決闘相手のルイズは一応女性だし、 青銅人形のワルキューレをけし掛けてもいいものかと思案する。名案が浮かんだ。 一気に出せる最大数の7体出し、恐怖を感じさせる。 ルイズのことだおそらくプライドにかけて降参はするまい。 そこで自分が負けを宣言して決闘で勝つことはできたが女性に手を上げることはできないので負けたことをアピール。 この一件を無事治められ、新たなファンも獲得できるかもしれない。 杖を振り花びらが7体のワルキューレになる。 「では、行かせてもらうよ」 1体を自分の隣に残し他をルイズを取り囲むように配置する。 ルイズを見ると震えている。計画通り! 薄く黒い靄がルイズに張り付いているように見えるがなんだろうか。 さて負けを宣言しようか。 ルイズは笑い出したかった。いまからギーシュはこの衆人環視の中、絶頂から追い落とされ、 その様子は周りに恐怖を与えるだろう。それを思い浮かべると笑いをこらえ切れず体が震えてしまう。 体が嫌に軽い事もあり、さぁ処刑だ。 深呼吸した後いきなりギーシュの近くに残っていたワルキューレに錬金をかける。 ギーシュは吹き飛び、転がる。風に乗っているような速さでルイズは駆け、ギーシュの杖を踏み折る。 そして倒れているギーシュがなにかを言う前に鳩尾を力の限り蹴りつける。 うげぇと昼に食べたものを吐き出しているギーシュをさらに何度も蹴る。 最高だ・・・こんなに楽しいことがあったなんて知らなかった。 ギーシュはしゃべることができずされるがままであり、ルイズは反応がなくなるまで蹴り続けた。 動かなくなったギーシュに興味を無くしたルイズは自分の勝ちを宣言し、次の授業のある教室まで帰った。 その道中恐れを含んだ目で見られ気分がよかった。 コルベールはルーンについて調べていた。 そして召喚から2日目の昼ついに辿りついた。 それは使い魔のルーンの書物ではなく御伽噺の本の中にあった。 『ガンダールヴ』 その始祖ブリミルの伝説の使い魔、あらゆる武器を使いこなし主を守ったと言う。 ルイズの使い魔を思い浮かべ納得してしまった。あの使い魔なら伝説にもなろう。 オスマンに報告しようと学院長室に入ると、 眠りの鐘の使用許可をもらいに来た教師がいた。 何事かと聞いてみれば生徒間で決闘を行うらしい。 決闘は禁止されているというのに何をやっているのだろう。 呆れながらも誰が行うのか聞くとグラモン家の馬鹿息子と件のヴァリエールらしい。 オスマンは止める必要はないと言って見物のために遠見の鏡を使い出した。 それに便乗することにする。 結果は一方的であった。 決闘が始まると同時にルイズが黒い靄を出し始め、 失敗魔法でギーシュを吹き飛ばし、人とは思えぬ速さで近寄りそのまま蹴り続ける。 10分ほど嬉々として蹴り続ける様はなにかにとり付かれているようでもあった。 「これは・・・」 「うむ。まずいのぅ。存在の大きさに引っ張られておるのかもしれんな。 このままではいかんな。」 「待って下さい、オールド・オスマン。これを見てください」 そう言って御伽噺の本にあるガンダールヴのルーンのページを開き、ルイズの使い魔のルーンを模写した紙といっしょに机に置く。 「む、・・・・すまぬが人払いをしてくれ。ミスタコルベール、詳しく頼む。」 人が出てからコルベールはオスマンに伝説の再来を告げた。 その夜教師たちが学院長室に再び集められる。 使い魔がガンダールヴであるかもしれないことを知らない 教師たちはオスマンがかの使い魔を倒すつもりだと考えた。 「ミスヴァリエールと話合いを持って、それから使い魔自身にも目が覚めた後に話を聞いてみませんか。 確かに魔力が恐ろしく高いと言っても彼の格好から文化レベルはある程度あるとみられますから 突然襲うようなことはしないと思います。服の素材は固定化ではない魔法が使われているようですし 彼の種族の生活や魔法を調べたほうが学院にとってプラスになると思います」 亜人やモンスターの生態を調べている教師がオスマンを説得しようとしている。 始めてみる種の亜人だからだろう、興奮しているようだ。 「そうですね。ミスヴァリエールにしても一生のことがかかっているのです。 彼女のことを蔑ろにはできないのでは?」 「そこまで危険視するなら王宮に連絡すべきでは?」 他の教師もどんどん展開し始める。 彼らは戦いたくないのだ。 先住魔法を使うかもしれない者と戦うなど誰がしたいと思うだろうか。 エルフの場合メイジが100人集まっても勝てるかわからないのだ。 この中でまともに戦えるものは学院長くらいのものだろう。 「さっきからなにを言うとる。昨日のことは無しじゃよ。昨日不安を煽ってしまった様じゃから 全員集めて改めて伝えるつもりで呼んだのだ。あの使い魔は注意が必要じゃが大丈夫だろうと思われる。 使い魔が目を覚ましたらいろいろ聞けるじゃろうて。言葉が通じなくとも契約したヴァリエールが 仲介に入ることができるであろうし問題はないのぉ」 夢を見た。 なにやら喜びが強く感じられる。 上の世界の人間たちが送った手下を倒したようだ。 手下を倒した人間たちがいた国の兵士を殺し、そして自らが侵攻すると宣言してやる。 その国の王は絶望したようだが、まだ瞳に強い光を残す者が4人いた。 それを見て下の世界でも自分に挑んできた勇者と呼ばれた者たちを思い出す。 その中でもその4人は別格と言ってもよいかもしれない。 すばらしい。強い光は最高の生贄となる。わし自らが相手し、貴様らを絶望に堕とし飲み込んでやろう。 我が祭壇で待っておるぞ・・・ 召喚から三日目、昼食後の雑談と使い魔との触れ合いの時間、ルイズは医務室を訪れていた。 自らの使い魔の横には包帯を巻かれたギーシュがいた。ルイズが入ってきた事が分かって悲鳴を上げながら 恋人らしき人に運んでもらって逃げてしまった。あれは洪水のモンモランシーだったか。 特に興味もないのできれいに忘れることにする。 ルイズがこんな性格になったのは夢のせいであり、大本はこの使い魔であろう事は分かる。 最初は自分が変わることを恐れていたが、今では開放感のほうが強く感謝したいくらいだった。 しかしこのことを漏らすわけには行かない。 人を虐げることが趣味なんてとてもいいとは言えない事であるし、 そのような影響を与える使い魔も危険視されてしまうだろう。 初めての魔法の成功例であるし、守らなくてはいけない。 そのとき使い魔の目が開いた。 使い魔が身を起こしこちらを見る。 「やっと目が覚めたようね。あんたを召喚したのは私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。 私の使い魔としてこれから過ごしてもら・・・・・」 得意になって説明していたルイズだが目が合った時大きな思い違いをしていたことに気付いた。 凄まじい圧迫がありルイズが圧倒的に下だと分かってしまった。使い魔と主は対等であり、お互いが補い合うと言われる。 そう考えると目の前の亜人は使い魔であって使い魔ではなくなる。この使い魔に自分が何を補えると言うのだろうか 混乱するルイズを尻目に使い魔は天上に頭が当たらないように中腰に立ち上がり 虚空に手を入れマントや兜を取り出し身に付けていく。 いきなり行使された魔法に驚きを隠せないルイズはさらに混乱する。 使い魔は違和感を感じたのか自分の左手の甲を見ている。 気に入らないのかフンっと鼻を鳴らし次の瞬間すべてを凍て付かせる波動を放った。 体に凍えるような感覚が走ったと思うとさっきまで自分にあった高揚感がほぼなくなり、 ルイズは使い魔との契約が切れたことに気付く。 そしてルイズは使い魔からの影響がなくなり、この2日間自分が考えていたことを思い出し、 自分の内面が変化してしまっていたことに改めて恐怖する。 使い魔が放ったその波動は、それだけに留まらずそのまま半径500メイルほどまで広がり 範囲内のすべての固定化や使い魔の契約を断ち切ってしまった。 そして黒い気配がハルケギニアと呼ばれる世界に遍く広がる。 それに人は全く気付かなかったがモンスターには多大な影響を与えた。 学院で使い魔と交流を行っていたらいきなり契約を切られ、メイジたちは驚いたが、 さらに驚くことにその使い魔たちが襲い掛かってきた。 信頼を置く使い魔が突如襲い掛かってくるのだ。生徒たちは対応できずに殺されていく。 被害は世界中に拡大している。 首都では使い魔ではない竜騎士隊のドラゴンなど飼いならされているだけのモンスターは近くの人を襲い、 野生のモンスターも積極的に群れを成して村や町に襲い掛かる オールド・オスマンはその様を鏡を通して呆然として観ていた。 オスマンの使い魔は契約を解かれ、すでにどこかに逃げてしまった。 なぜ自分は最初に感じた悪寒を信じなかったのか。なぜガンダールヴであるという事だけであの使い魔を安全と取ってしまったのか。 ヴァリエールの使い魔が使い魔の契約を破棄することができるとは考えもしなかった。 眠りの鐘をすばやく使用し学院中の使い魔に眠りを与える。 遠見の鏡の中でヴァリエールの使い魔である亜人が眠っていないことに舌打ちする。 学院全体に逃げるように呼びかけた後、 窓から飛び出し医務室に突っ込む。 そこにはルイズに現状を伝え絶望に追い落としているものがいた。 無防備な背中に魔法を打ち込むが当たった瞬間に掻き消えた。 注意をこちらに向けただけであったようだ。 生半可な魔法では打ち消されることを悟り、その処理容量を超えるであろう大規模な魔法のための呪文を紡ぎながら外に出る。 この魔法で周りに被害が出るかもしれないがここで早く倒さなければもっと悲惨なことになるのは目に見えた。 亜人は動きにくそうなローブを振り乱しながらベッドを吹き飛ばし恐ろしいスピードで走ってくる。 するどい爪で引き裂かれそうになるのを寸前で避けたと思うと口が膨らんでいるのが見える。 吹雪を吐いてきた。 防御魔法は無意識に発動できる簡単なものを使い勢いに逆らわず距離をとる。 杖を持っているほうの手を吹雪に当たらないように動かしながらさらに呪文を唱える。 簡単な防御魔法だけで吹雪に晒した片手は凍り付き崩れてしまったが詠唱は終わった。 亜人を中心とした場所に灼熱の風を解き放つ。 固定化の解けていた学院、眠っている使い魔、そして残っていたメイジたちは一瞬で灰燼に帰す。 しかしその中を笑いながら向かってくるものがいた。 その影が炎の嵐を抜けた瞬間、マヒャド!と声が響き3メイル以上はある巨大な氷が無数に出現し嵐のように襲ってくる。 さらに口から吹雪を吐き出す。 風の魔法でガードしながらも氷の嵐に吹き飛ばされ、魔法が全く効かないことを認識する。 ならばと土の魔法で50メイル近い土でできたゴーレムを作り出す。 ゴーレムに拳を振り下ろさせ、亜人を吹き飛ばそうとするが俊敏な動きで避けられ当たらない。 亜人がゴーレムの下に来たとき、オスマンはゴーレムの土を錬金し足を崩し胴体以上を鋼鉄の塊にし地面との間で潰そうとする。 ・・・・受け止め逸らされる・・・・そのままゴーレムの上半身は地面に転がされる。 ゴーレムの肩に乗っていたオスマンは投げ出され自身の行動を振り返り眉をしかめる。 できるだけ早く倒すために大規模な攻撃魔法を使ったが亜人に効果はなく、 ただ学院に残っていた貴重なメイジを殺してしまっただけであった。 自身の使い魔に殺されず、オスマンの魔法にも巻き込まれなかったのは4割がいいところだろう。 まさか自分がこんなに焦って若造のような失敗をするとは・・・ しかし相手の攻略も立てることができた。ゴーレムの攻撃を避けたと言うことは物理攻撃は無効化できないということだ。 土のメイジを多く集め、巨大なゴーレムで攻め立てればなんとかなると考える。 一旦態勢を立て直すため、フライの魔法で逃げようとするが突如壁のようなものにぶつかり落ちてしまう。 何が起こったのかが分からず混乱するが、視線を感じ、振り返ると使い魔が覚めた目でこちらを見ていた。 「……知らなかったのか…?大魔王からは逃げられない…!!!」 それから数日後モンスターの大群がトリステインの首都を襲い陥落。 そしてすべての国の首都、都市に魔王の幻影と宣言が溢れる。 「我が名は大魔王ゾーマ。闇の世界を支配するもの。 わしがいる限り この世界は闇に閉ざされるであろう。 さあ 苦しみ悩むがよい。そなたらの苦しみはわしの喜び。 命あるものすべてを我が生け贄とし 絶望で世界を覆い尽くしてやろう。 我こそはすべてを滅ぼす者。 挑戦者がわしの前に現れる日を楽しみに待っているぞ・・・ わはははははは・・・・・・っ!! 」 トリステイン城は魔王城と呼ばれ、トリステインと呼ばれた一帯は闇で閉ざされることとなる。 闇に閉ざされた地方からいままで見たことのなかったモンスターが溢れ、割拠し、 人々は安息の地を失ってしまった。 自分が魔王を召喚してしまったからこのようなことになってしまった。 そう自虐するルイズは炎の嵐をひどい火傷を負うだけで生き残っていた。 契約破棄される前にもらっていた闇の衣の残滓がのこっていたためであろう。 まだ無事な国ではゾーマ討伐に軍を派遣しようとしているらしい。 自分は今度こそ使い魔を召喚してみせ、 少しでも討伐に役立つようにがんばろうと考える。 しかし召喚されたのは見たことない服装の平民であった。 完 前ページ次ページ絶望の使い魔
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毎日毎日、掘ることだけが俺の仕事だ。 穴を掘れば、それだけ村が広がる。村長は喜んで、俺にミミズを食わしてくれる。 ミミズのために掘るのかって? それも違うよ。 「あ」 何かが爪にあたる固い感触がして、俺は掘る手を止めた。ごそごそと周りの土をどかす。 「これは……」 出てきたのは、ぼんやりと緑色の光を放つ、小さなドリルだった……。 『モグラよドリルで天を突け!』 ギーシュに召喚されてからも、俺の仕事は毎日穴堀りだ。 穴を掘って鉱石を探す。時々だけど、宝石を見つけることもある。ギーシュは喜んで、俺にミミズを食わしてくれる。 故郷の村を出てからもやってることは変わらない。 そう――変わったのは名前ぐらいだ。 ヴェルダンデ。ギーシュの付けた俺の新しい名前だ。元の名はもう使わない。故郷の村においてきたから。 (今日は収穫なしか……) ボコ、と頭を出したところは、魔法学院の中庭だった。穴掘りから急に地上に出てきて、太陽の眩しい光に目がくらむ。 と、誰かが俺を覗き込んでいた。 「また穴掘り? よくまあ飽きないわね」 「……ルイズ?」 「む……なれなれしいわよ、あんた、使い魔でしょ?」 「君の使い魔じゃないよ」 穴から体を抜く。モールの姿のほうが掘りやすいんだけど、ギーシュはいつも人間の姿でいろって言う。 たぶん、自分が韻獣を召喚したことを見せびらかしたいんだろう。 そして……一番そのことを気にしてるのが、このルイズだった。 「ギーシュなんかの使い魔が、まさか『変化』を使える韻獣とはね……アンタ、それ何持ってんの? ちょっと貸しなさいよ、ホラ」 「あ……」 俺が首に下げていたドリルを、ひょいとルイズが取り上げる。 ルイズの背は俺よりちょっと高いぐらい。ふてくされたような顔でドリルをいじくっている。 「ふーん……大きいネジかしら? なんか光ってる……ま、どーでもいいわ、こんなの。……いいこと、韻獣で『変化』の魔法が使えるからって調子に乗らないのよ? まったく、なんでギーシュの使い魔が韻獣で、私の呼び出したのは平民なのよ……! 『アイツ』またどっか行って……!」 ふんと鼻を鳴らして、ルイズ・フランソワーズは行ってしまった。ルイズがポイと投げ捨てたドリルを、俺はそっと拾い上げた。 なんだか、ひどく落ち込む。 そのドリルは、故郷の村で掘り出して以来、ずっと俺の宝物だった。結局、俺にとっては宝物でも、人にとってはゴミみたいなものなんだろう。 「はあ……」 トボトボと歩いて……俯いていた俺は前に人がいるのに気がつかなかった。 俺の頭が、相手の腹あたりにぶつかる。俺は慌てて顔を上げた。 「上向いて歩け、ヴェルダンデ」 「あ……カミナ」 「カミナじゃねえ、アニキってよべ!」 カミナはニヤッと笑うと、鋭く尖った真っ赤なメガネを、クイと持ち上げて見せた。 「俺……兄弟いないから。それに、カミナは人間で、俺はグレートモールじゃないか」 「そーいうことじゃねえ。魂のブラザー、ソウルの兄弟ってことじゃねえか! ブスな女が何言おうと気にすんなァ。お前にコイツは似合ってるぜ!」 「ブスな女って……ルイズはカミナのご主人なのに」 そう、カミナは人間で、しかも使い魔だ。普通、使い魔になるのは動物や幻獣。グレートモールもそうだ。でも、人間が召喚されるなんて前代未聞らしい。 さっきの女がルイズ、カミナを呼び出した本人だった。 「ヴェルダンデ、ドリルはお前の魂だよ」 そう言うと、カミナはどこか懐かしそうな顔で笑って見せた。 カミナは変な人間だ。 俺は銀色の円盤をくぐってギーシュに召喚され、契約を済ませた。春の使い魔召喚の儀式だった……ってことは後から知った。 次々と幻獣が召喚される中、最後に召喚されたのがカミナだった。 中庭に響いた爆発と轟音に、俺は飛び上がった。 煙がおさまっていく、その中心地に召喚されたカミナは、まるでズタボロの死体みたいだった。 周りの生徒たちがざわつく中、震えるルイズが何を考えていたのか……今の俺にはわかる気がする。 たぶん、ルイズは迷ってたんだ。 カミナは、どうみても人間の平民だった。それも瀕死の。 カミナが死ねば召喚したことはチャラになる。 ルイズはもう一度召喚しようと思えばできたんだ。カミナを見殺しにすれば。でも―― 「……お前を……信じろ……シモン。……お前の信じる……お前を……」 たぶん……そこにいない誰かに向かって、カミナは呟いたんだと思う。 その言葉を聞いたとき、ルイズの中で何かが吹っ切れたみたいだった。 「――我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え我の使い魔となせっ!」 舌を噛むような長い呪文を一言で言い切ると、ぎゅっとカミナを抱きしめて、ためらいもなくルイズはキスをした。 しんと静まり返る生徒たちを、ルイズはきっと振り返る。 「誰か、水系統は手を貸して! 後でお礼はするわ、早く彼を治療してあげて!」 そう――ルイズは叫んだんだ。 「――なのに、ブスって言い方はないよ、カミナ。命を助けてもらったんじゃないか」 「まぁな。お前が……あんまりシモンのやつに似てるから、ルイズにごちゃごちゃ言われてるの見ると、ついな」 俺とカミナは学院の壁にもたれてよく話をする。 笑うカミナの顔は、どこか寂しそうな……それでも俺に似てるって言う『シモン』の話を、カミナは俺に繰り返し語ってくれた。 『シモン』。 どんなときでも諦めない。いつだってまっすぐで、天まで突き抜けるようなドリルを魂に持った、元の世界でのカミナの相棒――。 話を聞くたびに、俺はちょっと落ち込む。カミナは、俺と『シモン』が似てるって言う。俺の持ってるドリルと同じドリルを持っていたとも。 でも、きっと似てるのは外見とドリルだけなんだ……って思う。俺には、穴を掘るしか能がないから。 「あーら、ダーリン。また『シモン』の話? 嫉妬しちゃうわ」 後ろから声をかけられて、俺とカミナが振り返る。 そこに立っていた燃えてるみたいに赤い髪のナイスバディの女は、にこりと微笑み、するりとカミナの隣に座った。 「キュルケか」 「そ。ねえ、カミナ。お昼でもご一緒しない? ヴェルダンデとばっかりお話してないで」 「カミナ……俺行くよ。お邪魔そうだし――ぐえ!」 立ち上がりかけた俺を、カミナの腕が引っつかんだ。 「おうおうおうおう、何いってやがる。ヴェルダンデは俺の弟分、新グレン団の団員だ! それをおいて女と飯を食いにいくなんざ、このカミナ様のやることじゃねえよ」 「あらま。やれやれ……相変わらず嘘が下手ねぇ、カミナ」 な、なにが嘘だ! と上ずった声で目をそらすカミナに、ずい、とキュルケが身を乗り出す。 「元の世界の女だかなんだか知らないけど、律儀なもんねぇ。ま、あたしは諦めないわよダーリン。恋は障害が多いほど燃え上がるんだもの!」 じゃあねー、と手を振るキュルケ。カミナはふう、と溜息をつく。 「キュルケがきらいなの? 胸の大きい女は穴につっかえるから嫌だとか?」 「いーや、俺様の好みにはストライクなんだが……ヨーコに殺されちまうからなぁ」 はあ、とうなだれるカミナに、思わず俺は噴出した。カミナもつられて笑い出し、俺たちは二人で腹を抱えて笑った。 こんな風に、俺の毎日は続く。 相変わらずキュルケはカミナの尻を追いかけているし、ルイズはと言えば、俺ともよく話すようになった。 「普段、カミナとどんな話をしてるのか聞きたくて」だって。最初の高慢な態度は徐々に消えて、よく笑うようになった。 俺もキュルケもルイズも――いつのまにかカミナのことが大好きになってたんだ。 「あれ?」 爪が固い何かにぶつかる。俺は周りの土をどけていく。 出てきたものに、驚いて俺は目を丸くした。 「これは……」 『それ』の閉じた目が、ぼんやりと緑の光を放っている。 ペンダントに下げたドリルが、ウォン、ウォンと音を立てて光った。まるで、自分の仲間に再会して喜んでるみたいに。 俺は慌てて穴を掘って地上に向かった。真っ先に知らせたい人がいるから。 悪いけどギーシュは二番目だ。いい主人だけどね。 俺は地上に飛び出した。 「アニキ――! 見せたいものがあるんだ!」 「おう、どうしたヴェルダンデ。一体なんだ? 見せたいものって」 「顔だよ!――すっごいでっかい顔!」 「なにぃっ! ガンメンか!?」 俺はヴェルダンデ――穴掘りヴェルダンデだ。 毎日毎日、掘ることだけが俺の仕事だった。その巨大な『顔』を掘り当てるまでは。 ――穴ばっかり掘って、退屈じゃなかったかって? それは違うよ。 「行こうアニキ――!」 「おうよ、ヴェルダンデ!」 ――そう。宝物を掘り当てることだってあるんだ。 おわり (『天元突破グレンラガン』よりカミナ)
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前ページ次ページ五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔 第4夜 やります 翌朝。 着替えを済ませ、顔を洗い、二人は食堂に向かう。クリオは部屋に待機する。まだタマゴなので食事の必要はないのだ。 道中同じ方向へ歩く生徒からひそひとと話が漏れ聞こえてくる。 「ほら、昨日の……」とか「ぱねえっす」とか「太もも」とか「尻神様」とか聞こえてくる。 後の二つは置いといて、自分の使い魔が良い意味で噂になっているので、ルイズは鼻高々である。 「ゼロのルイズ、とうとう使い魔にも負けちゃったぜ……」 そんな声が聞こえてきたので、容赦なく当人を爆発させた。もちろん命までは取らない。 使おうとしたのは『ファイヤーボール』だが、結果はいつもの通りの爆発だった。 ルイズは一抹の黒い感情をくすぶかせながら、食堂に向かった。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします」 祈りの声が終わり、朝餐が始まる。黒いマントが並ぶ二年生のテーブルに、一つ浅葱色のマントが混じっている。 いわずもがなマルモだ。 マルモは美少女な見た目ではあるが、見た目以上に大食いである。数々の修行や冒険で小食でも実力を発揮できるようになってはいるが、逆にそれらがマルモを大食いにさせていた。 マルモは次々にパンや肉を口に運んでいく。周りの生徒たちは呆気に取られていた。 そして、やや離れた所からそれを観察するのはタバサとキュルケ。タバサはマルモ以上に食事を進めている。 「あの娘、あなたほどじゃないけど結構食べるわね」 「負けられない」 今朝の食事はいつもより残飯が少なかったそうな。 朝食が済むと、生徒と使い魔は授業のため教室に移動する。その中にはマルモの姿もあった。 石造りの階段状の教室にルイズとマルモが現れると、先に教室にいた生徒たちが一斉に目を向けた。皆興味深そうな視線である。 一方のマルモは、生徒たちの使い魔に注目した。フクロウや猫などの魔に通じていない動物もいれば、ダークアイのように浮遊する目玉の生物もいれば、ライオンヘッドのような獣もいる。人間の使い魔はマルモだけだった。 ルイズが席の一つに腰かけ、マルモはその隣に坐る。本来はメイジの席であり、使い魔は坐らないのだが、食堂では坐るのに教室では坐らない理屈はないと判断して坐った。事実ルイズも注意はしなかった。 しばらくすると扉が開き、ふくよかで優しそうな中年の女性が入ってきた。帽子を被り、紫のローブに身を包んでいる。 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んだ。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 すると、シュヴルーズの目がマルモに止まった。 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 とぼけたような声である。感情や魂の機微に敏感なマルモはその声に害意のないことはわかっているが、周辺の生徒たちにとっては格好の切り口となり、教室中がどっと笑いに包まれた。 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、メイジを雇って連れてくるなよ!」 太った少年が囃し立てる。ルイズが立ち上がろうとすると、マルモがそれを制して立ち上がった。 「五月蠅い」 その言葉は教室の隅々まで通り、教室中の笑い声が一瞬にして収まった。マルモの魔法の力が宿る言霊が教室を支配した。 「注意してくれてありがとうございます。では、授業を始めますよ」 シュヴルーズは、こほんと重々しく咳をすると、杖を振った。机の上に、石ころがいくつか現れた。 「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・マリコルヌ」 さきほどルイズを馬鹿にした少年が当てられた。 「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです」 シュヴルーズは頷いた。 「今は失われた系統魔法である『虚無』を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知っての通りです。その五つの系統の中で『土』は最も重要なポジションを占めると私は考えます。それは、私が『土』系統だから、というわけではありませんよ。私の単なる身内びいきではありません」 シュヴルーズの話はなおも続く。 だがマルモは、シュヴルーズの話よりも、隣のルイズの方に気を配っていた。 さっきの嘲笑のせいで、ルイズが負の感情に支配されつつあるのをマルモは感じていた。 そのルイズの現在の心境は、劣等感が台頭しつつあった。今朝食堂にいく途中の生徒の言葉。そしてさっきの教室での出来事。 賛辞の言葉も、畏敬の念も、全てマルモへのもの。ギーシュとの決闘で、わたしはあんな鮮やかに勝てただろうか? さっきの教室の騒ぎを、わたしの言葉で抑えられただろうか? 否。わたしはマルモに到底及ばない、敵わない。魔法の才能、実力、そして人としての強さ。どれもこれも劣っている。 優秀な姉と比較されたときとはまた別の劣等感が、嫉妬が、どうしようもない怒りが、次々と湧き出てくる。 そしてその矛先がマルモに向かおうとしたとき――ルイズは激しい自己嫌悪に襲われた。 自分はなんてことを、マルモは何も悪くない。悪いのは私の無能無力、ゼロの才能。使い魔にも劣るゼロのルイズ。 「ミス・ヴァリエール! 聞いていますか?」 「は、はい!?」 自分の世界に浸っていたルイズは、授業を聞いていなかった。 「ちゃんと授業に参加してもらわないと困りますわよ。では、あなたにやってもらいましょう。 ここにある石ころを『錬金』で望む金属に変えてごらんなさい」 「わ、わたしがですか?」 「そうですよ。他に誰がいるというのです」 ルイズがとまどっていると、キュルケが困った声を上げた。 「先生」 「なんです?」 「やめといた方がいいと思いますけど……」 「どうしてですか?」 「危険です」 教室のほとんど全員が頷いた。 「危険? どうしてですか?」 「ルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ。でも彼女が努力家ということは聞いています。さあ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」 「ルイズ。やめて」 キュルケが蒼白な顔で言った。 しかし、ルイズは立ち上がった。 「やります」 そして、緊張した顔で、つかつかと教室の前へと歩いていった。マルモはそんなルイズを心配して見詰める。 他の生徒たちは椅子の下に隠れたりしていた。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 ルイズは魔法に意識を集中させる。ここで成功しなくては、貴族として、マルモのご主人様として。マルモに合わせる顔がない。 ルイズは目をつむり、短くルーンを唱え、杖を振り下ろす。 その瞬間、机ごと石ころは爆発した。 その爆風はルイズとシュヴルーズを黒板に叩きつけ、椅子の下に隠れた生徒にも被害が及び、血が流れる。大小様々な使い魔が暴れだし、さらに被害が拡がっていく。 マルモは飛び出してルイズに駆け寄った。 ルイズとシュヴルーズは気絶しており、二人とも机の破片が当たったのか所々流血している。近くの生徒も頭から血を流して朦朧とし、教室の後ろにいた使い魔も暴れて傷ついている。 マルモはとっさに呪文を唱える。光が教室中のあらゆる生物を包み込み、傷を癒していく。全体回復呪文ベホマラーの効果だ。 ルイズの傷がふさがったのを確認して、マルモはほっとした。覚醒呪文ザメハを唱えてルイズとシュヴルーズを眠りから覚ます。 「あ……れ、マルモ…………?」 ルイズは目の前のマルモに少々驚いたが、すぐに事態を察した。 「そっか、わたし失敗しちゃったんだ」 呆けたようにルイズは呟く。 目覚めたシュヴルーズは自習を言い渡して教室から出ていってしまった。ルイズは罰として魔法を使わずに教室を修理することを命じられ、他の生徒と使い魔も教室を後にする。残ったのはルイズとマルモだけになった。 二人は黙々と作業に取りかかる。ルイズは爆発による煤を拭き取り、マルモは新しいガラスや机などを運んでいる。並の戦士よりは力のあるマルモにとってこんなことは重労働ではないが、ルイズには罪悪感が積もっていく。 やがて大まかに終わったところで、ルイズが口を開いた。 「ごめんなさい」 「……ルイズ」 「わたし、やっぱり駄目だった、ゼロのままだった。こんなわたしじゃ、マルモのご主人様だなんて、おかしいよね」 「ルイズ」 「ごめんなさい、マルモ。わたしなんかの……」 「ルイズ!」 マルモの大声にルイズはびくっと身がすくむ。今のマルモには食堂でギーシュに決闘を挑んだときのような意志の強さがあった。 「私は、ルイズに謝られる筋はない。私は自分の意思でルイズの使い魔になった。ルイズが謝る必要ない」 「でも! わたしはマルモに釣り合うようなメイジじゃない! わたしは、わたしは……」 糸涙が頬を伝い、零となって床に落ちる。そしてルイズは脱兎のごとく教室から駆け出した。 「ルイズ!」 すぐさまマルモも後を追うが、地の利はルイズにあった。上手い具合にマルモの追跡をかわし、マルモを撒く。 やがてルイズを見失ったマルモは足を止めて、別の方法で探すことにした。いかにマルモが賢者とはいえ、万事魔法で解決できるわけでもなく、人を探す魔法などマルモは使えないし知らない。 だが、マルモ独特の第六感ともいうべき能力がある。他の魂の存在を感じ取ることができるのだ。会ったこともない者の魂は漠然としかわからないが、近しい者だったらおおよそ見分けることができる。 目をつむり、意識を広げる。すると、すぐにルイズは『見つかった』。その場所は――。 ルイズが走りに走り、辿り着いた先は火の塔の階段の踊り場であった。この時間帯は、ほとんどこの場所に寄る人間はいない。 二つある樽の一つにルイズは入って隠れた。 そして、嫌が応でもさっきの教室での出来事が思い浮かんでくる。 わかっている、マルモの言葉が正しくて、本当の気持ちだってことは。 でも、わたしの気持ちも本当の気持ちだ。マルモがわたしに忠実だから、マルモがわたしに好意があるから、余計に心に刺が増えていく。マルモが素晴らしいほどに、わたしの嫌な所が見えてくる。 ああ、自分はなんて嫌な人間なんだろう。 「ルイズ」 びくっとルイズは身を振るわせた。樽の外から声が聞こえてくる。 マルモだ。 「ルイズ、話を聞いてほしい」 黙ったまま、ルイズはやり過ごそうとしている。マルモの声がルイズの胸を締め付ける。 「ルイズ」 とうとうルイズは耐え切れなくなって、樽の蓋を弾き飛ばして反射的に立ち上がった。 「ルイズルイズ五月蠅いわね! 何よ!」 ルイズはマルモの目を睨もうとしたが、代わりに床に目を向ける。今はマルモの目を見れそうにない。 「わかってるわよ!! マルモが正しくて、良い使い魔だってことは!! でもね、わたしの気持ちもどうしようもないくらい、真実なのよ! わたしはね、ずぅっと魔法ができなくて、努力して努力して、それでもまだ使えないの! マルモみたいな人には、わたしの気持ちは絶対わからないわよ!!」 一気にまくし立てたルイズは肩を上下させ、唾を飲み込む。 マルモはそんな様子のルイズに責任を感じていた。また再び自分のせいで大切な人を悲しませてしまった。 そのときの自分は、その人のもとから去ることで、解決したつもりになった。 しかし、果たして今回もそれで解決するのだろうか? 自分がルイズの目の前から消えれば、それでルイズは助かるのだろうか? 「ルイズ」 「……あによ」 「とりあえず樽から出よう」 言われてから、ルイズは自分が樽の中に立ったままであることに気付いて赤面した。 マルモとルイズは寮に戻り、部屋に鍵をかける。部屋にはマルモとルイズとクリオだけだ。 二人はベッドに腰かけ、横に並んだ状態になる。 「ルイズ、今から私は話をするけど、無視しても構わない。ここは元々ルイズの部屋だから、私を出ていかせてもいい」 「……わかったわよ」 そんなこと、できるわけないじゃない。 「私はルイズの悲しむ顔が見たくない。でも、私がいるせいでルイズが悲しむのなら、ルイズのもとを去ろうとも考えた」 「そんな! マルモがそんなことする必要ないわよ!」 悪いのは全部わたしだ。 「でも、それでルイズが悲しまなくなるかといえば、そうじゃない」 確かにわたしが魔法を使えないという事実は変わらない。 「だから、私は決めた。ルイズに修行をつける」 は? 「私の師匠も賢者だった。私も修行して賢者になった。だから、私もルイズに修行させて立派な魔法使いにする」 「……マルモ、わたしの話聞いてなかったの? それこそわたしも幼い頃から訓練してきたのよ? それにマルモは系統魔法を使えないじゃない」 「確かにその通り。だけど私は色んな所を旅して、色んな経験をしてきた。それを生かす」 「具体的にどうやって?」 「ルイズと一緒に冒険する」 「へ?」 「ルイズに足りないのは経験値と修行の質。修行の量だけはおそらく私と同じくらいだけど、手法に問題があるのかもしれない」 「…………」 事実ルイズはひたすら魔法を唱えることを繰り返してきた。もちろん読書で魔法について調べてもみたが、失敗による爆発の記述がなかったので結果としてそうなってしまったのだ。 でも、『賢者』を自称するマルモなら、異世界からやってきたマルモなら、違った方法を示してくれるかもしれない。 「……わかったわ、マルモ。わたし、マルモの下で修行する」 「ありがとう、ルイズ」 「それじゃあ、具体的にはどうすればいいの?」 「まず、私がルイズの実力をよく知ることが大切。だから……」 マルモはルイズに杖先を向けた。 「えっ、えっ?! ちょっとマルモ?!」 ルイズは飛び退ろうとしたが、マルモの呪文の方が早かった。 「モシャス」 「いやーーーーーーっ!! てあれ?」 ルイズの身には何ともない。むしろマルモの方がぼわんと煙に包まれた。 そして煙が晴れると――ルイズの目の前に、ルイズがいた。 「わ、わたし?!」 「そう。今の私はルイズ」 「きゃっ」 ルイズの目の前のルイズが、ルイズと同じ声で返事をした。 「マルモ?」 コクリと目の前のルイズが頷く。 「これは変身呪文モシャス。姿形だけじゃなくて、能力もそのままになる。当然、魔法も」 「へえーー……マルモってそんな凄い呪文も使えたのね」 系統魔法にも『フェイス・チェンジ』という呪文があるが、顔を変えるだけで体形や声までは変えられず、能力など況やである。 目の前のルイズは、少し腕を振ったりしたり首を捻ったりしていた。 「……確かにルイズは呪文を使えないみたい」 「あう」 目の前の自分に言われると少しショックだ。 「でも、魔法力はとても多い」 「精神力のこと? それは多分、今まで魔法が使えなかったせいね。使わない精神力は溜まる一方だから」 「精神力? 使わないと誰でもこうなるの?」 「うーん……それはちょっと……。なにせ十六年も魔法を使わないメイジなんて今までいなかっただろうし」 「私はこの世界の魔法について詳しいことはわからない」 「それじゃあ、どうせ今日図書館にいくんだから、勉強してみる?」 「でも、私のルーンを調べる方が……」 「魔法についてわからないとルーンについてもわからないわよ。ほら、ちょうど昼食の時間だし、さっさと食べてさっさと勉強よ」 「わかった」 「わかればよろしい。……マルモ、ありがとうね」 「だって、私は……」 「ルイズの使い魔、だからでしょ?」 笑顔で答えるルイズに、頷きで答えるマルモ。 雨降って地固まった二人は食堂に向かった。 ※モシャスについて ゲームのドラクエではMPまでは反映されません。この作品でのオリジナル設定です。 前ページ次ページ五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔
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前ページ次ページDeep River 進級がかかった使い魔召喚の儀が無事終わったことで、学院の彼方此方にはほっとする者達、これから過ごす使い魔との日々に思いを馳せる者達の姿があった。 ただ、たった一人だけルイズは夕陽の射し込む自室で頭を抱えていた。昼間自分が召喚した亜人の少女は一体何なのだろう?角はあるが華奢な体躯と美しい容姿からして鬼ではない。かと言って人間でもない。 自室に帰ってから様々な絵図付き辞典で調べたものの、ヒントを得られる様な物は何も無かった。また発する言葉は意思疎通としては全く役に立たない「みゅう」の一言だけ。 それに召喚時、身に付けている物が何も無かった為に何処から来たのかもさっぱり不明だ。おまけに……コントラクト・サーヴァントの時に見た、少女の体から伸びる不気味な透明の手は何だったのだろうか? 一度目を覚ましはしたがまた直ぐに気絶したために、今は確か医務室で横になっている筈……そろそろ迎えに行くべきか? 解決の糸口が何一つ見えて来ない謎について考えていると、部屋の扉が軽くノックされた。誰だろうと思いながら扉を開けると、そこには召喚された少女を「レビテーション」で連れて来たキュルケが立っていた。 笑顔で隠そうとしているが、なんだか疲れきった様な表情をしている。 「はい。あなたの使い魔。本塔の医務室から連れてきてあげたのよ。感謝しなさいよねー。」 そう言いながらキュルケはずかずかと部屋に入り込み、少女をルイズのベッドに横たわらせる。それはとても安らかそうな寝顔だった。美しさも加味すれば古代の宗教絵画だって裸足で逃げ出すかもしれない。キュルケは続ける。 「ルイズ。この子は手がかかるかもしれないわよ。」 「な、何でよ?」 「ただの従順そうな獣じゃなくて亜人だし、何を言っても言葉は通じないし、おまけに……」 「おまけに、何?」 ルイズがそう言うと、キュルケは顔を少し赤らめながら、ルイズに小声で耳打ちした。 その内容にルイズも赤くなる。 「ベッドでやらかしたですって?!」 「シーッ!声が大きいじゃないの!……兎も角、言う事ややる事がまるっきり赤ん坊みたいなのよ。あなた、本気で面倒見れる?途中で癇癪起こさないでしょうね?」 キュルケの言にルイズの心の中で急速に不安が膨らんでいったが、彼女は直ぐに一つの可能性を見出した。この者が只の亜人ではなく、成長するにつれて物凄い力を発揮する亜人なのだとしたら。 この者の自我がまだ誰の手も加わっていない、それこそ赤子同然と変わらぬ物なら。 これほど育て甲斐のある使い魔はいないだろう。 分からない事が多いという事は、それが一体何なのか知りたいという好奇心を突き動かし、また知った時の驚きをも生むという事でもある。 ルイズはキュルケの方を向き、微かな笑みを浮かべながら口を開いた。 「安心しなさいよ、キュルケ。私にとって初めて魔法が成功した証しでもあるこの子にそんな事する訳無いでしょ。この子は私が責任を持って育てるわ。その内にあんたの使い魔よりも優秀になる時が来るわね。 その時に今までの非礼を詫びに来たって知らないわよ?」 ルイズの何とは無い余裕の態度にキュルケの口元が小さく弛む。 実は口にこそ出さなかったが、彼女は内心でルイズの事を心配していたのだ。 変な生き物を召喚したといって落ち込んでいないだろうか、卑屈になったり、自棄を起こしていないだろうか、と。 そうしていたなら、キュルケはどんな手を使ってでも彼女を叱咤激励するつもりだった。 だが、今の彼女の様子を見る限りどうやらそんな心配は杞憂に終わりそうだ。 いつもの調子を取り戻したルイズに、キュルケは流し目を送りながら澄ました声で言った。 「ふふっ、言うじゃない。まあ、いつになるか分からないけど楽しみにしてるわ。あ、あとまさかその子なんか幽霊が取り憑いている訳じゃないでしょうね?」 「そんな訳無いじゃない。どうしてそんな変な事訊くの?」 「私の友達がその子の体から変な手が伸びるのを見たって言うのよ。今は気分が悪いって部屋で横になってるんだけど……間違いだったら私がその子の所に行って説明してあげるからいつでも私の部屋に来てよ。それじゃあね。お休み~。」 パタン、という音を残してキュルケは部屋の外へ出て行った。ルイズは今に見てなさいよという雰囲気のまま、扉に向かってベーッと舌を出す。しかし……勢いでああは言ったものの、問題は未だ山積みのままだ。 育て方といい、少女の素性といい何一つとして解決の兆しがある物は無い。ルイズはベッドに歩み寄り使い魔の少女を見下ろした。 コルベール先生は魔法生物に詳しい先生と一緒に調べてくれるとは言っていたが、果たしてどんな回答が返ってくるだろうか?もしも調べた結果が、こんな成りをしていても人間では手に負えない生き物だとしたら向かう所は只一つ。 ―殺処分― 考えただけで身の毛がよだつ。幾ら何でもそれは無いとは思うが、実際そうなったらルイズ自身許す事が出来ない。例え人間を見境無く殺す様な生き物でも、この子は自分が初めて魔法に成功したという証であり一生を共にする使い魔だ。 周りが何と言おうと絶対に御してみせる。そう固く心に誓った。すると程無くして少女はゆっくりと両の瞼を開く。 「目が覚めた?」 「みゅっ?!」 少女を不安にさせないよう、ルイズは出来るだけ優しい声で少女に声をかける。だが少女はルイズの姿を視認したと同時に後退り、酷く怯えた様子で彼方此方をキョロキョロと見回し始める。 まるでこの部屋の日用品を、何一つとして眼にした事が無い様な雰囲気だった。 ルイズは不思議に思う。この部屋の中には彼女を攻撃する要素など唯の一つもありはしない。何をそんなに怯える必要があるというのだろう。そしてこんな時は如何すれば良いのか。 その時ルイズは、実家にいるすぐ上の姉が森で怪我をした動物を見つけた時にどうしていたかを思い出した。まったく同じとはいかないが状況はそれによく似ている。 ルイズは震える少女の手をそっと握り、それから眼を見つめて話しかける。 「恐がらなくていいのよ。わたしはあなたの御主人様。そしてあなたは今日から私の使い魔になるの。いい?」 目立った反応は返って来ない。少女は相変わらず、目を固く閉じてぶるぶると震えているだけである。だがルイズはたった一度の挑戦でめげたりはしない。少女をそっと自分の方に引き寄せてから、左手で背中を撫で、右手で頭も撫でてやる。 すると少女は目を見開き、ルイズの方をまじまじと見つめた。まるで生まれてから親に一度もそうしてもらった事が無い様な反応だった。ルイズは少女に対して憐憫の感情を抱く。 自分だって実家にいた時、魔法の才能をどうのこうの言われる前は、親によく可愛がってもらったものである。余程この子は薄情な親の元に生まれたのだろう。 そう思いながらルイズは優しく少女を撫で続けていたが、ふと大事な事を忘れていたのに気付いた。 「そうだ、名前。あなたの名前何にしようかしら?」 物には全てきちんとした名前がある。いつまでもあなたあなたと言っていたのでは埒が開かない。かと言って、少女の鳴き声ともとれる「みゅう」というのを名前にするのも芸が無いものだ。 他の者達が使い魔に、もっと洒落の利いた名前を付けていたら名前負けするかもしれない。 どんな名前にしようかしら。あれこれ考えてルイズは一つの名前に決めた。 「そうねぇ……サフィー……サフィーが良いわ。それにしましょうっと!」 ルイズは少女の目を見つめながらしっかりと言う。 「あなたの名前を決めたわ。今日からあなたの名前はサフィー。サフィーよ。」 しかしやはり少女はルイズの意を得ていないのか、ずっと不思議そうな表情のまま「みゅう?」と言うだけである。こうなれば後はもう根気比べの世界だ。 ルイズはサフィーを指差して「サ・フィ・ー・」、自分を指差して「ル・イ・ズ」とするのを繰り返した。格闘すること凡そ二時間。夕食も忘れるほどに没頭したルイズの努力は遂にある程度実を結んだ。 少女は自分を指差し 「し…しゅぁ…しゅぁぁ…しゅぃぁ…ふゅっ…ふゅぅ……うぃ、うぃぃぃ……しゅぃぁ、ふゅぅ、うぃぃぃ……」 そしてルイズの方を指差して 「りゅっ……りゅぅぅ……うぃぃぃ……ち、ちぃゅぅぅ……りゅ、うぃぃ、ちゅ……」 と言った。 一先ずは大進歩である。 ルイズの喜びようといったらない。まるで子供の成長に一喜一憂する親の様であった。 「凄いじゃない、サフィー!この分ならそうかからずにもっと沢山色んな事を言える様になるわ!」 サフィーに微笑みながらもルイズは決心した。昔から子育ては「這えば立て、立てば歩め」の精神でやれば良いと言うではないか。ならばこの子にはもっと沢山色んな事を教えてあげよう。そしてどんな人の前に出しても恥ずかしくない使い魔に育て上げてみせようと。 その後、ルイズによるお勉強は、皆が寝静まるまで続いた。 サフィーが自分の名前とルイズの名前を微かに言えるようになっていた頃、コルベール氏は魔法生物学の講師、ミスタ・エラブルと共に図書館で調べ物をしていた。内容は勿論、ルイズが召喚した使い魔についてである。 しかし、教師しか閲覧を認められていない書棚の本を漁っても、成果は今の所何一つとして無かった。 「如何ですか?ミスタ・エラブル?何か手掛かりはありましたか?」 「ミスタ・コルベール。そう簡単に見つかったら真っ先にあなたに報告していますよ。」 話をふったミスタ・コルベールは、それもそうかと思いなおし調査に再び取りかかる。 だが、これだけ既存の資料を調べて見つからないという事は、あの生物は本当に新種の生物だというのだろうか? それなら何故ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールがそれを召喚するのに成功したのだろうか? 考える暇も無く、下から司書の「閉館時間です」という声がかかった。 コルベール氏とエラブル氏は肩を落として図書室から退室する。 それから暫く廊下を進んでいると、反対の方向から学院長の秘書をしているミス・ロングビルが近付いて来た。 いい歳をした男二人が、夜の遅くに図書室で一体何をやっていたのだろうという表情をありありと顔に出しながらも、出て来た言葉はかなり友好的な物だった。 「今晩は。ミスタ・コルベール、ミスタ・エラブル。こんな時間まで調べ物ですか?大変ですね。」 「いやぁ、ちょっと生徒の使い魔の事で調べ物をしていまして……」 忽ちコルベール氏の顔が赤くなる。 ミス・ロングビルはその様子をさも愉快そうに見ながら続けた。 「使い魔とは……今日行われた使い魔召喚の儀で喚び出された鬼の姿をした生き物の事ですか?」 「はは、実を言いますとそうなんですよ。本当に、噂という物は広まる物なんですなあ。」 「その使い魔の正体……もしかしたら私知っているかもしれません……」 「はは……今、何て仰いました?!!」 正に思ってもいない所から答えが出て来た。 驚きのあまり目を見開いたコルベール氏とエラブル氏を尻目に、ミス・ロングビルは訥々と語り始める。 「実は二年程前に、ある用事を言い遣わされてロマリアの方へ向った時に妙な噂を聞いたんです。 現在、次期ロマリア教皇候補でもあるヴィットーリオ・セレヴァレという人物が、使い魔を召喚した際に多数の死者が出たという噂なんです。 召喚した本人は無事だったのですが聖堂騎士団が100人近く犠牲になったそうで……その後何とか事態は収束したそうなんですが、その時に召喚された使い魔が……」 「まさか……角の生えた少女?」 エラブル氏の質問にミス・ロングビルはゆっくりと頷いた。 まるでその場の空気が瞬間冷却されたかのように凍りついた。 ミス・ロングビルは二人の表情を見つめながら続ける。 「今回此処で噂になっている少女とは、身長や髪の色、着ている物等違う所は多々存在しているんですが、一か所だけ、頭部に一対の角がある点が共通しているんです。それに……」 「それに?」 「いえ、なんでもありません。忘れてください。……兎も角、その少女は、今はそうでなくてもいずれ私達の命を脅かす事になると思います。 私の意見としましては不謹慎ながらもミス・ヴァリエールの使い魔を……」 ミス・ロングビルは大きく一息吐き、はっきりした口調で言い切る。 「殺すべきだと思います。」 前ページ次ページDeep River