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「それで、この女性を宿屋に放り込んだ後、その男は煙のように消えてしまったんだな?」 「はい、金貨を渡されまして、『丁重に休ませておけ』と言われました」 「もう一度聞くが、顔は見ていないんだな?」 「はい、帽子を深く被っておりましたので…あ、ただ、薄いグレーの髭を蓄えておりました。声も低めでしたが、重々しい感じではなく、二十代そこそこの貴族様かなぁ…と」 「ふむ……」 ラ・ロシェールの宿屋で、女騎士が店主に質問をしていた。 剣と銃を携え、シュヴァリエのマントを着けたアニエスである。 昨晩、怪我をした女性がメイジらしき男に担がれ、宿屋に放り込まれたと聞いて、事情を調査するため駆けつけたのだ。 アニエスは、その女性が誰なのか知っていた、アルビオン出身の元貴族、マチルダ・オブ・サウスゴータ。 事情を一通り聞いたアニエスは、マチルダの眠っている部屋に入り、備え付けの椅子に腰を下ろす。 マチルダがぐっすりと眠っているのを確認すると、窓の外に目を向けた。 ラ・ロシェールの岩壁や建物は、『レキシントン』からの砲弾で所々が傷ついており、壁面には傷を修復する人夫とメイジの姿が所々に見えていた。 『練金』で修復される壁面や建物、メイジの便利さが羨ましくなって、アニエスは再度マチルダに目をやった。 彼女は腕と肩に包帯を巻かれ、寝息を立てている。 椅子の背もたれに身を預けて、アニエスは昨晩の出来事を思い返していた。 アニエス達銃士隊は、基本的に近衛か、親衛隊待遇で扱われている、だがそれ以外にも『情報収集』という役割が与えられている。 トリスタニアに亡命政権を構えたウェールズ・テューダーからの密命で、トリステインに亡命・疎開したアルビオン国民の調査に当たっていたのだ。 人数を確認するだけではなく、いまだアルビオン国内でレコン・キスタに抵抗を続けるレジスタンスと接触する目的もあった。 アニエスは、ある情報通の男に頼み、レジスタンスとの接触を試みた。 情報通の男から指定された場所は、ラ・ロシェールでは一般的な宿屋で、岩山の一角をくりぬいて作られた宿屋だった。 指定された時刻になると、ラ・ロシェールの丘が月明かりを遮り、宿屋の周囲はまるで月のない夜のように暗闇に覆われる。 宿屋の主人にチップを払い、目的の部屋に案内されたが……そこでアニエスは異変に気づいた。 血の臭いがする。 宿屋の主人に扉を開けさせると、主人が悲鳴を上げて腰を抜かした。 アニエスが中を見ると、そこに生きた人間は一人もおらず、死体だけが転がっていた。 壁をくりぬいて作られた石造りの二段ベッドが、部屋の左右に作られていおり、正面には跳ね上げ式の窓がある。 簡素な机の上には、飲み物が六つ置かれ、死体が三つ。 アニエスは主人に衛兵を連れてくるように告げて、部屋の中を調査した。 三つの死体はお互いに短剣で胸を突かれ、仰向けに倒れていた。 だがアニエスはメイジの仕業だと直感的に理解し、舌打ちをした。 傷口から流れ出るはずの血が少なすぎる上、三人とも口を大きく開いているのだ。 歯の裏を指でなぞると、歯垢…ではない、粘土らしきものが指先に付着した。 心臓を突き刺されているが、ナイフが根本まで深々と刺さっているため、思ったより血は出ていなかった。 体の中は血の海だろう。 アニエスは考える。 『レビテーション』で三人を宙に浮かせ、『練金』で動きを奪い窒息させつつ、ナイフを突き立てたのだろうか?と。 二人か、それか三人の、メイジを含む暗殺者がこの部屋にいたはずだ。 だとしたら急がなくてはならない、暗殺者らしき者の情報だけでも手に入れなければならない。 暗殺者に狙われるということは、後手に回るということでもある。 アニエスは駆けつけた衛兵に後を任せると、衛兵の詰め所で伝書フクロウを借り、暗殺者が潜入していると王宮に知らせた。 そのすぐ後、郊外でメイジらしき男四人の死体が発見された。 女がメイジに襲われているのを目撃した市民が、衛兵の詰め所に知らせてくれたのだ。 アニエスは衛兵に命じて死体を片づけさせると、メイジに襲われていたという女の行方を捜した。 朝日が昇る頃になって、ようやく女が担ぎ込まれた宿屋を探し出した。 いくらチップを貰ったのか知らないが、宿屋の主人は女が担ぎ込まれたことを話したがらなかった。 ようやく発見した女性を見て、アニエスは驚いた。 女性の名はマチルダ・オブ・サウスゴータ。 魔法学院での名はミス・ロングビルである。 「ふわ…」 窓の外を見ていたアニエスが、大口を開けて欠伸をした。 昨晩からずっと動き続けていたので、眠気と疲れが溜まっているようだ。 両腕を挙げて背伸びをし、もう一度欠伸をした。 「「ふわあ…」」 欠伸の声が重なったのに気づき、アニエスがベッドの方を振り向く。 マチルダは眠そうな目をこすりながら、包帯の巻かれた上半身を起こしているところだった。 アニエスは椅子を動かし、マチルダのすぐそばに座り直す。 「目が覚めたか」 「……ここは?」 「ラ・ロシェールの宿屋だ、怪我をして担ぎ込まれたそうだが…覚えていないか?」 マチルダが自分の体に目をやる。 顕わになった胸を隠そうともせず、包帯の巻かれた自分の体を見つめていた。 徐々に昨晩のことを思い出し、同時に鈍痛を感じて顔をしかめた。 「う……アンタが介抱してくれたのかい?」 「いや、私じゃない、この宿で働いている少女がやってくれたそうだ」 「そっか…後で礼を言わなきゃね。ところで何でアンタがここに居るんだ?」 アニエスは無言で部屋の扉を開け、廊下を見渡す。 誰もいないのを確認すると、扉を閉じて鍵をかけた。 「ラ・ロシェールではアルビオンから亡命、疎開する人間がどれだけいるのか調査しているが、私はその陣頭指揮を任されている。貴方を見つけたのは偶然だよ」 「偶然ね。 ……ふああぁぁぁ」 大あくびをしたマチルダを、アニエスが「やれやれ」と言いたげな目で見た。 「薬か魔法で眠らされたのか? 心当たりがあるなら話して貰わないと困ふぁぁ……ゴホッ」 アニエスは、あくびを咳で誤魔化したが、マチルダはそれを見逃さなかった。 ニヤニヤと笑みを浮かべてアニエスを見ている。 「ええい!そんな目で見るなッ! …とにかく、昨晩何が起こったかちゃんと話して貰うぞ、それと、後でメイジ四人の死体を見て貰うからな」 「メイジ四人?」 「そうだ、貴方はメイジに襲われていたらしいな。目撃者は、貴方が四人組に襲われ郊外に逃げたと言っていた。その四人が何者なのか調査している」 「ああ、そういえば、そいつらに眠らされたんだ。あいつらは何者なんだい?」 「それは私が知りたいさ。それと、貴方をここに担ぎ込んだメイジのことも話して貰わないとな」 「それこそ、こっちが知りたいよ」 マチルダは心の中で、あんたに教える気はないよ、と呟いた。 「「ふああ……」」 またも同時に欠伸をして、二人は恥ずかしそうに顔を背けた。 太陽の明かりが岸壁に反射し、ラ・ロシェールの町は戦時下とは思えぬほど穏やかな陽気に包まれていた。 一方少し時間は過ぎ…こちらは『魅惑の妖精亭』 ワルドが目を覚ますと、誰かの顔が見えた。 「………ん?」 「起きた?」 心配するような顔で、ルイズが顔をのぞき込んでいたようだ。 ワルドは自分がどんな状態に置かれているのか、周囲を見回して確認する。 ここは『魅惑の妖精亭』の一室、住み込みで働く者のために用意された部屋。 昨晩、ラ・ロシェールで活動していた遍在が四人組のメイジを倒した後、ロングビルを宿屋に預けた。 そこで精神力が底を突き、遍在は消失し、本体は気絶してしまった。 ワルドは上体をベッドから起こそうとしたが、風邪でも引いたような気だるさがあり、体の動きが鈍く感じられた。 「ふぅーっ……さすがに疲れたな」 「ラ・ロシェールに遍在を作り出すなんて、とんでもないわね。暗殺なんかお手のものじゃない」 「そうでもないさ、トリスタニアから馬で遍在を走らせたんだ、そうでなければラ・ロシェールまで遍在を維持できないよ」 「そうだったの…で、何で遍在なんかを使っていたの?」 ルイズはワルドの背中に手を回して体を支えた。 ワルドは平静を装っているが、体に疲れが溜まっているとすぐ解った。 この状態では『サイレント』を使うのも一苦労だと思い、ルイズはワルドに顔を寄せて、小声で話しをした。 「僕がレコン・キスタを裏切ったことは既に知られているだろう。だとすれば、何らかの動きがあるはずだ、それを調べていたんだ」 「……まあいいわ、信じてあげる」 「そうしてくれるとありがたいな」 「ところで、ロングビルはどうなったの?」 「彼女は無事だよ。ラ・ロシェール麓の小さな宿に頼んでおいたからね。金貨を二枚渡しておけば上手くやってくれるだろう」 「金貨なんて、よく持っていたわね」 「彼女を襲った四人は、もう金も使えないからな。懐から少し拝借して…」 ワルドが指を曲げ、懐からくすね取る仕草をする。それを見てルイズが眉をひそめた。 「まあ、それじゃ追い剥ぎじゃないの」 「君がそれを言うのかい? まあ、死人が使うよりも、ずっと有効な使い方さ。それに、あのままでは彼らも無念だろうしな」 ワルドはカーテンの下がった窓を見て、その向こうに広がる空を想像し、ニューカッスル城の惨状を思い出した。 死体、死体、死体、青空の下、ニューカッスル城は死体にまみれていた。 それを蘇らせ、反逆者狩りに利用するクロムウェル。 トリステインを裏切った自分も、クロムウェルも、非業な最期を遂げるべきだと、ワルドは思った。 「ロングビルを襲ったのは、アルビオンの近衛兵って言ってたけど、本当?」 「ああ、近衛兵か親衛隊か、ウェールズにごく近い者達だった…見覚えがあるよ。おそらく、アルビオンから亡命した者を探していたんだろう」 「つまり、レジスタンス狩りってやつ?」 「おそらくな」 「…やるせないわね」 ルイズが目を細めて軽く歯を食いしばる。それは怒りではなく、悲しみから来るものだとワルドは理解した。 「彼らを気遣っているのか? …君は、本当に優しいな」 「え? 何よ、急に」 「僕は彼らが二度と蘇らぬよう、奇襲して首をはねるのが精一杯だった。これも皆クロムウェルのせいだと、そう思いながら戦っていたんだ」 「けれども君は違う。彼らの名誉を思って君は悲しんでいる…違うかい?」 「………ワルド」 ワルドは、心底からルイズを羨ましいと思った。 トリステインの腐敗を知ったときも、母の死を知ったときも、ルイズが死んだと聞かされたときも、石仮面と戦ったときも、怒りしか無かった。 ルイズは違う、淡々と事実を受け止める強さと、悲しむだけの余裕と、そしてこれから何をすべきかを決断する力を持っている。 もっと早く、ルイズに仕えていれば、一人のメイジとして、充実した日々を送れたかもしれない。 そう思いながら、ワルドはごく近い距離で、ルイズの瞳を見つめた。 不意に、廊下の向こうからバタバタバタと足音が近づいてきた。 二人が振り向く間もなく、バン!と音を立てて勢いよく扉が開かれる。 「おふたりさーん!遅番の時間 だ よ ……」 扉を開けたのは、店主の娘、ジェシカだった。 ベッドの上で上体を起こしたロイド(ワルド)とロイズ(ルイズ)が、ごく至近距離で見つめ合っている。 その姿はどう見ても、キスをする直前か、はたまた事後かといった感じだった。 「えーと…………お邪魔だった?」 照れ隠しに後頭部に手を当てつつ、引きつった笑みを浮かべるジェシカを見て、ルイズは自分がどんな風に見られているのか気が付いた。 男と女が顔を接近させていると言えば……キス? 「うきゃあ!」 ルイズの顔が一瞬で真っ赤になり、ワルドを勢いよく突き飛ばす。 「ぐはっ!?」 突き飛ばされたワルドは『魅惑の妖精亭』を揺らすほどの勢いで壁に衝突した。 「あー、やっぱり兄妹ってのは嘘だったんだー」 ジェシカが笑みを浮かべつつ、ルイズに迫る。 「ちちちちがうわよ!こいつとは何でもないわよ!」 ワルドに恋愛感情を抱いている訳ではないが、それでも『キス』と言われると狼狽えてしまう。 既に何度か全裸まで見られているのに、ルイズの頭の中はまだまだウブだった。 「でもキスしようとしてたでしょ?あ、それともキスした後?」 「だから違うって言ってるでしょうがあああ!」 「同じ部屋じゃ危ないよねー」 「キーーーーーーーーーーーーー!!」 壁に激突したワルドが、痛む顔を押さえながらむっくりと起きあがる。 手玉に取られているルイズを見て、ワルドは静かに、だが心底から楽しそうにほくそ笑んだ。 「やれやれ、困ったお姫様だ」 To Be Continued→ 戻る 目次へ
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前ページ次ページゼロと運命の剣 その少女の魔法は例外なく爆発する。例外がないということはつまり今回も、だ。 しかし少女の瞳はあきらめていない。今度こそ成功したと言う実感が(例えそれが数秒後に消えるものだとしても)あったし、それが気のせいだと思いたくはなかった。 そしてその声は、聞こえた。 『おいそこの女、我の声が聞こえるか』 「成功した!」 少女は煙の中を駆け出した。念願の使い魔だ。契約さえ済めば、これでゼロと馬鹿にされる事もなくなる。 しかし少女の希望は、一瞬の後に疑問に変わり、直後に落胆に変わる事になる。 「…………剣?」 そこにあったのは、確かに剣であった。大地に突き立っている。 やや刀身の長く、刃が広い長剣で、柄に奇妙な装飾がついていた。あまり実用的な剣とも思えないし、それにしては装飾が真新しいわけでもない、古びた剣に見えた。 「おい、見ろよアレ…生き物じゃなくて剣だぞ」 「ルイズの奴が召喚したのか?」 「失敗したんじゃねーの? 生き物じゃないなら使い魔になれないじゃん」 「でもさっき声がしなかったか?」 周囲の生徒達が口々に囃し立てる。 ルイズは落胆した。声が聞こえた気がしたが、それも幻聴だったようだ。剣では使い魔になれないし、自分が剣術に長けているわけでもない。 「何よ、ただの古い剣じゃない」 だがその剣には唯一の例外があった。 『古いのは確かだが、ただの剣とは心外だな』 「……しゃべった!?」 ルイズはぺたんとしりもちをつく。しかし驚いたのは何もルイズだけではなかった。 「おい、今あの剣がしゃべったのか?」 「確かにあの剣の声だぜ、今のは」 「ありゃインテリジェンスソードだ!」 蜂の巣をつついたような騒ぎであった。ゼロのルイズがインテリジェンスソードを召喚したというのはそれ程の驚きをもって迎えられたのである。 『参ったな、我の声が聞こえる者が多いと言うのは意外だが……だが我を呼んだのはお前だな女』 「そ、そうよ。私は、ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 『ならばルイズ。我を手に取り、我が名を呼べ。我が名はディムロス。ソーディアン=ディムロスだ』 「でぃ……ディムロス。それが貴方の名前」 ルイズはいわれるままに剣を抜いて、そうつぶやいた。とはいえあまりの驚きに放心状態に近いものがあったわけだが。 次の言葉でルイズは我に返った。 『契約は完了した。これでお前は我の新しいマスターとなった』 「……って、完了してないわよ!」 ガシャーン。大地に投げつけられたしゃべる剣、ディムロス。 『な、何をする!?』 「使い魔の契約ってのはそういうのじゃなくて、ええと、その」 コントラクト・サーヴァント。使い魔との契約は口付けにより完了する。のだが。 「……どこに口付けりゃいいのよこれ」 『おい、ルイズ、この扱いはどういうことだ!』 その後大変な紆余曲折を経つつ、ルイズは剣にキスしたメイジと言う二つ名を頂戴することになるのだが、ルイズ、ディムロスともその件に関して詳しく語る事はなかったと言う。 つまるところ、この二者第一の共通点は、極めてテレ屋であったと言う事だ。 余談: デルフ「俺の立場は? っってーか俺の使い手は?」 前ページ次ページゼロと運命の剣
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前ページ次ページカオスヒーローが使い魔 暗い廊下の向こうから強い力の波動を感じる。地獄の魔王達を滅ぼしてきたのか・・・。 でなければ此処、カテドラルの最深部にはたどり着けない。 かつて弱者だったその者は、廊下の向こうを見据えて拳を握る。 俺は誰にも負けない力を手に入れた。力を手に入れるためなら何だってやった。 それこそが俺の生きる意味。そして世界の掟。力こそ正義なのだ! 剣を鞘から抜く。自然と持つ手にグッと力がこもる。さあ、来い!かつて親友だった男、そして 俺の最大の宿敵!お前を倒し、俺はさらに強くなる! 「俺は力を手に入れた。もう誰にも負けない!」 そう言い終わると目の前にアイツの姿が現れた。神を殺し、悪魔を使役する男。 人間のくせに、人間離れした力の持ち主。迎え撃つは人間をやめ、その身に悪魔の力 を宿す混沌の化身。互いの力は計り知れない。 調和とバランス。自由と混沌。二人の信念をかけた死闘が今はじまる・・・。 はずだった。 東京とは違う世界。そこはハルケギニア。魔法を使う貴族が魔法を使えない平民を支配する。それがハルケギニアの秩序。 そんなハルケギニアにカオス属性の魔人が呼ばれてしまったようです。 ハルケギニアにあるトリステイン国。そこにある魔法学院では貴族の子供達が魔法や礼儀作法を学ぶために、日夜勉学に 勤しんでいる。そこで新学期に行われる「春の使い魔召喚の儀」。 順調に生徒達は新しいパートナーを召喚し、安堵の表情に包まれている。残る生徒はあと一人。だが・・・ 最後に残された少女が目を閉じて集中し、呪文を唱え始める。異変はその時すでに起こっていた。 春の日差しが心地よい暖かさであったのに、突然寒気に襲われた。生徒達は季節の変わり目だしまだ冷たい風が吹いても おかしくないと、あまり気に留めなかった。 さらに少女が呪文を唱え続けると、何故か身体が震え始める。 あと少しで呪文を唱え終わる頃になってその場にいた全員の頭に同じ言葉が浮かんだ。 <とてつもなく恐ろしい悪魔の気配がする・・・> 呪文を唱え終わった少女の頭に声が響いた。 ―ここに、とどまりますか? 少女は目を開き、頭の中でこう答えた。 ―もちろんよ! さらに頭の中に声が響く。 ―― ほ ん と う に 、 と ど ま り ま す か ? ゆっくりとそれでいいのか、本当に後悔しないのかと聞き返してくる声。そんな事をいわれると決意が鈍る。 もしや自分はとんでもない間違いをしてしまったのか?自信が崩れ不安に襲われた時、少女は選択を変えようとする。 ―や、やっぱりやめるわ! ・・・・・・・・ ―― 逃 げ ら れ な い ! そしてドーンという爆発。一体何が来るのか全くわからない。得体の知れないものを呼び出してしまうよりは、失敗のほうが いいとこの時ばかりは思ってしまった。 爆発で巻き起こった煙が晴れると、そこに現れたのは見たことも無い格好をしている人だった。 「何だここは?」 何が起こった?さっぱり理解できない。ついさっきまで海に浮かぶカテドラルに居たはずだ。 それがどうしてこんなところにいる?アイツの仲魔が使った幻術か?頭上には青い空が 果てしなく広がっている。地面には草が生えている。ここは東京なのか?だとしたら いつ洪水の水が引いたんだ?空だって霞んで汚れていて青空なんて最後に見たのは 大破壊前だ。 「ちょっとあんた」 いきなり後から声がする。反射的に跳んで相手と距離をとる。チッ、なんてザマだ! 今のが悪魔からの攻撃だったら確実に致命傷だ。 殺気全開、戦闘体制、目標補足・・・? 「あん?」 気の抜けた声が口から出てしまう。自分の後にいた奴の正体はピンク色のド派手な頭をした チビのガキだった。その後には同じ服を来た奴らがこっちを見ていた。制服か?まるで 学校みたいだな。 「アンタ誰よ?」 ピンク頭のチビが話しかけてきた。 「お前こそ誰だ」 「質問に質問で返すんじゃないわよ!」 そこにハゲ頭のオッサンが割り込んできた。 「ミス・ヴァリエール、やめなさい」 鋭い眼光でこちらを伺っている。このオッサン、少しはやるみたいだな。無造作に立っちゃいる が、手に持った杖で何時でもこっちの行動に対応できるようにしている。 しかし悲しいかな、彼との実力の差は明らかである。 遠巻きに見ていたトリステイン魔法学園の生徒はピンク頭の少女が召喚したモノが放つ異常な 波動にほぼ全員が青ざめいていた。それは生まれて初めて味わう殺気。近づくな、見るな、 早く逃げないと死ぬぞ、という恐怖に捕らわれているのだ。 「ゼロのルイズが失敗でとんでもないものを呼び出してしまった」 みんなの頭にはそう浮かんでいた。 「生意気な平民ね!逆らうとッ!」 ピンク頭の少女、ルイズが言い切る前にその口をハゲ頭のオッサン、コルベールが手で塞いでしまった。 「失礼・・・大変失礼なのですが貴方は何者なのでしょうか?」 出来るだけ彼を刺激しないように質問する。表情は平静を装っているが、全身から緊張による汗が噴出し、 コルベールの顔は汗が雫になって垂れている。 「悪いが先にこっちの質問に答えてもらうぜ。ここはどこだ?洪水の水は何時引いた?」 「・・・ここはハルケギニアのトリステイン魔法学院です。洪水は私の知る限り起こっていません」 「はるけぎにあ?・・・おい、東京じゃないのか?」 「トーキョー?どこの国でしょうか?」 「カテドラルはどこだ?」 「なんですかそれは?・・・申し訳ないがそろそろ貴方が誰か教えていただけますか?」 最初、答える気は無かったが敵ではなさそうだし、仮に刃向かって来ても余裕で倒せるので教えて やる事にした。 「俺は魔人だ」 その答えを聞いた瞬間、コルベールの手で塞がれていたルイズの口から歓喜の叫び声が飛び出した。 その答えを聞いた瞬間、コルベールは顔面蒼白になり抑えていた体の震えが止まらなくなった。 「おい、俺はどうしてここにいる?」 その質問に歓喜の表情で意気揚々とルイズが答える。 「感謝しなさい!私が使い魔召喚の儀式でアンタを召喚したのよ!!」 仁王立ちのポーズをしながらその台詞を言い終わったとき。あたりの気配が変わってしまった。 まず全く物音がしなくなってしまった。さっきまでは風が吹けば草木がざわめき、鳥が鳴いていたのに。 空気が鉛のように思い。体を動かそうとするとまとわりつき、体の運動を妨害する。 そしてものすごく寒い。ルイズ、コルベール、クラスメートの全員がガタガタ震えていた。 「この俺がッ・・・ガキの使い魔に、召喚されただと・・・?」 みんな死ぬ。ルイズのバカが逆鱗に触れやがった。クラスメートはそう思った。 だめだ、これほど強力な相手に私では生徒を逃がす時間稼ぎにすらならない。コルベールはそう思った。 何よこれ。何で私、自分の使い魔に怖がってるのよ。ルイズはそう思った。 コツン、コツンと静かな足音を立てて死を運ぶ魔人がルイズの前に立つ。彼の怒りは最高潮。 怒りの真っ赤なオーラが彼の全身から溢れ出し、ユラユラと空間を捻じ曲げ、物が歪んで見える有様だ。 魔人が静かに抜刀した。右手に持った剣を高く振り上げる。誰も動けない。それが当たり前のように 違和感無くその光景を見つめる。 ルイズは最後に魔人の目を見た。怒りで激しく血走っている。顔は半分、マスクで覆われているので見えないが その表情は悪魔も逃げ出すほど恐ろしいに違いない。 魔人もルイズの目を見た。見えてしまった。ルイズがそのまま顔を伏せていれば剣は首を刎ね飛ばしていた だろう。魔人は見た。少女の瞳にある、力への渇望を。 ―――これは力を求める渇いた魂。 何故かそんな声を魔人は聞いた。そしてふと人間だったころの自分を思い出した。 無力で弱くて何も出来なかった自分。そんな自分が嫌で、とにかく力を求めたあの頃。 何故だろう、そんな自分と目の前のガキが重なって見えるのは。 「・・・力が欲しいか?」 「ほ、欲しいわ。誰にも負けない強い力がッ!」 精一杯の勇気を振り絞って答えるルイズ。魔人は動かない。 「力を手に入れてどうする?」 「いつも私をバカにして見下していた連中を見返してやりたいのよ!その為なら何だってするわ!もう 魔法を使えない出来損ないの貴族だなんて言わせない!」 「何でもするか・・・いい覚悟だ。」 そして魔人は剣を納めた。 「お前見所あるぜ。いい機会だから遊んでやる。ここが何処かもわからねぇしな」 ルイズの表情が輝く。 「ってことは、使い魔に」 「ならねぇよ。少なくとも俺より弱い奴の使い魔にはな」 そして一気に落胆する。 「期待させといて、それを裏切る。基本戦術。」 見ていたタバサがポツリとそんなことを言ったが、誰にも聞こえなかった。 「俺は魔人 カオスヒーロー 今後ともよろしく・・・」 とても強いけど、変な名前だ。思っても誰も口には出来なかったのは言うまでもない。 前ページ次ページカオスヒーローが使い魔
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前ページ次ページ使い魔はじめました どこかの国のどこかの広場 そこで水晶玉を持った吟遊詩人の少女が歌っていた 「……この物語の主人公は 魔法使いの家に生まれたのに 魔法の使えない女の子。 何をやっても爆発ばかり。 ついつい周りにも厳しくあたる。 物語の始まりは魔法学校。 使い魔召喚の儀式からよ。 彼女が呪文を唱えた後に 銀の鏡から出てくるのは何かしら? ドラゴンやグリフォンのような幻獣? ワシやフクロウや犬やネコ? それとも遠い国からやってきた ちょっと情けない男の子? それは呪文を唱えなくっちゃ分からない。 さあ、物語を始めましょう。 ラララ、ララ……」 ―使い魔はじめました 第一話― 「ふわぁあ、今日も疲れたぁ……」 自分の横であくびをする飼い猫:チョコの声を聞きながら、 少女:サララは小さなベッドに腰かけ、日記を書いていた 『今日も快晴、商売は順調、ミスリルの原石を盗りにダンジョンへ潜った、 明日の朝一番で、白銀の剣と組み合わせてもらいに行こう……』 そこまで書いた所でサララは筆を止め、ふと、窓の外を見る 外では、大きな満月が煌々と空を照らしていた いや、輝く丸い大きなその光は月ではなかった 「わわ、な、なに?」 異常事態に気がついたチョコが、声を上げる 突如として部屋に飛び込んできた銀の鏡は、 驚いて逃げる間もなかったサララとチョコ、 そして彼女の集めたあらゆるアイテムの詰まった『魔女の大鍋』を 飲み込むと、忽然とその場から姿を消したのである 「(始祖ブリミルよ、我にご加護を!)」 二年生へ進級するために必要な『使い魔』召喚の儀式 その儀式において、少女ルイズは、始祖に祈りながら、ルーンを唱え、杖を振った いつものごとく、起こったのは激しい爆発 「けほけほ、おい、ゼロのルイズ!やっぱり失敗か!!」 同級生達からは怒りの混じったからかいの声が飛ぶが、 しかし、ルイズはその爆煙が晴れるのを、じっと見つめていた 「(確かに、今、『魔法が成功した』ような感覚があったわ!)」 わくわくしながら煙が晴れるのを待つルイズ 「おい!煙の中に何かいるぞ!」 一人がそう叫んだのを皮切りに、同級生達もじっと見つめる 煙が晴れた時、そこに現れたものを見て、全員がぽかんとする 「鍋……?」 「鍋と、子どもと、猫?」 ざわざわと騒ぐギャラリーよりも、ルイズはさらに困惑していた オレンジのリボンがついた大きな緑の帽子を被り、 同じ色のワンピースに白いエプロンをつけた腰まである桃色の髪の少女 身長は帽子含めて145サントくらいだろうか その傍らには茶色と白の毛並みをし、青い瞳を輝かせる猫 一番目立つのは、小柄な少女ならすっぽりと入り込んでしまいそうな巨大な鍋である どうやら、それが自分が召喚してしまったものであるらしかった 「ミスタ・コルベール!」 とりあえず引率の教師に声をかける 「……おめでとう、ミス・ヴァリエール 召喚に成功したようですね」 「あ、ありがとうございます……じゃなくて! あの、私はその一体……どれ、と契約したらいいんでしょうか?」 ルイズとコルベールは、召喚されたものを見やる 周りをきょろきょろと見回す少女と、その傍でおろおろする猫、そして、巨大な鍋 「私としては、猫と契約したいんですが、あれ、どうみても彼女のものですよね……」 困ったように言うルイズに、コルベールは告げた 「そうですね。では、とりあえず、彼女と話してはどうですか?彼女も、戸惑っているようですし」 コルベールの言葉に従い、ルイズはその少女の傍へ歩み寄った 「ぺっぺっ、口に砂が入っちゃった 何だったんだろうね、あの鏡……って、あれ?」 口に入った砂を吐き出していたチョコは周りの違和感に気づく 芝生の生えた広場と、広がる青空、そして遠めに自分達を眺めている子供達 全員が、マントをつけ、杖を持っている 「わわ、何だろ、ここ?ねえ、サララ、わかる?」 サララは、チョコの問いに首を横に振ると辺りを見渡した 一体、何が起こり、ここは何処なのだろうか? 少なくとも、先程まで居た店の屋根裏ではない と、人々の中から、一人の少女が彼女に近づいてきた 「ねえ!その猫、とついでにそっちの鍋、あんたの?」 事情を説明してもらおうとした矢先、少女の口から質問がとんできた とりあえず、こくり、と縦に頷く 「ううー、そ、そんなあ……折角、使い魔を召喚できたと思ったのにぃ……」 少女はがっくりと肩を落とし、恨めしそうな目でサララを見る 「まあまあ、ミス・ヴァリエール。まだ、彼女が残っているではありませんか?」 その後ろからやってきた男性が少女の肩に手を置いた 「ミスタ・コルベール!人間を使い魔にするなんて、聞いたことがありませんよ!」 少女は慌てて振り向くと、男性に抗議をしているようだ 「しかしねえ、君が召喚したものは、彼女の持ち物であるようだし となると、彼女と契約するしかないだろう? これは神聖な『使い魔』召喚の儀式なんだよ、例外は認められない」 「でも……」 口論をしている二人を見ながら、チョコはひそひそとサララに話しかける 「ねえ、サララ、どうやら、彼女の『使い魔』にならなきゃ いけないみたいだよ?どうするの?」 その言葉にサララも困ったように顔をしかめる 「うーん……」 二人、もとい一人と一匹で頭を抱えていると、 覚悟を決めたかのような顔で少女が近づいてきた 「……あのね、私はあんたを召喚しちゃったの。 召喚したものは、使い魔にしなきゃいけない。 そっちの猫と、あとついでに鍋も、あんたのものよね? だから、仕方ないのよ、仕方ないんだから、 あんた、私と契約して使い魔になりなさい!」 その不遜な物言いに、チョコは不満そうだった 「べぇーっだ!誰が使い魔になんかなってやるもんか、ねえ、サララ?」 チョコは、サララが断るだろう、と思って声をかける 考え込むような顔をしていたサララだったが、やがて少女を見上げると、 決心したように、大きく頷いた 「えええー!ちょっと、サララ、本気なの! 使い魔なんて、何やらされるかわかんないよ? 雑用とか洗濯とか掃除とか!ボク手伝わないからね!」 「(みゃあみゃあうるさい猫ね)な、納得してくれてよかったわ」 少女はそう呟くとサララに視線を合わせるようにしゃがみこんだ 「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」 そういうと、サララの唇に少女は唇を重ねた サララの目は驚きに大きく見開かれる(見えないが) 「……終わりました(女の子で、子供相手だから、ノーカウントよね、うん)」 ぽう、と髪と帽子で隠されたサララの額が一瞬輝く 「っ!!」 瞬間、襲ってきた痛みに眉をしかめるサララ(見えないが) 「わあ!どうしたの?おい、そこのお前!サララに何したんだよ!」 チョコがサララの異変に気がついて、食ってかかる 「何って、使い魔のルーンが刻まれてるだけよ……え? あ、あんた、今、喋らなかった?」 ルイズが驚きながら、チョコを抱き上げる 「喋るよ!……ってあれ、おかしいな? ボクの声はサララにしか聞こえないはずなんだけど」 一人と一匹は互いに驚いている 「どうやら、無事に終わったようですね、ミス・ヴァリエール それとお嬢さん、ルーンが刻まれたか確認させてもらえませんか?」 そう言うと、サララの前髪をあげ、額にルーンが刻まれたことを確認する 「……ちゃんと、ルーンも刻まれたようです 召喚も契約も一度で成功して、よかったですね、ミス・ヴァリエール」 ニコニコと笑うコルベールの目の前に、ずい、とチョコを差し出すルイズ 「あ、あの、ミスタ・コルベール!この猫なんですけど!!」 「ちょっと、何するんだよ、離して、はーなーしーてー!!」 みゃあみゃあと騒ぐチョコに、コルベールは顔をしかめる 「嫌がっているようですから、離してやりなさい」 「あの、この猫、喋ってますよね?」 ルイズは、恐る恐る尋ねてみる ルイズが口にした言葉に、事の顛末を見守っていた同級生達がぽかん、とし、 そして関を切ったようにいっせいに笑い出した 「ははは!ゼロのルイズったら、何を言っているんだ!」 「ただみゃあみゃあ鳴いてるだけじゃないか!」 「とうとう、馬鹿になっちまったのか!!」 大声で一人と一匹を指指しながら、彼らは笑った 「違うわ!本当に喋ってるのよ!!」 「そうだそうだ!君らが聞こえないだけじゃないか!」 やいのやいのと騒ぎ立てる彼らに向かってルイズとチョコは叫ぶ 「……ほらほら、騒がない!君達は先に教室へ戻っていなさい!」 コルベールがそう声をかけると、同級生達は思い思いに呪文を唱え空へ舞い上がる 「へへ、じゃあなゼロのルイズ!」 「お前は歩いて来いよ!」 「フライもレビテーションも使えないもんな!」 からかいながら去っていく彼らを、ルイズは涙目でにらみつける 折角召喚できたと思ったら、平民の子供と、 喋ってるのに喋ってない猫と、巨大な鍋だったのだから泣きたくもなるだろう 「へえ、凄いなあ。こっちの魔法使いは、箒が無くても飛べるんだあ」 だから、腕の中の猫がそう呟いた瞬間、ルイズは驚いた 「こっちの、って、あんた、どこの田舎から来たのよ」 「『だんじょん』の町」 「どこよ!」 「『だんじょん』の町は『だんじょん』の町だよ!」 「そんな名前の町、聞いたこともないわ! 大体、あんたねえ、喋るんだか喋らないんだかはっきりしなさいよ!」 ルイズが、怒り心頭でチョコに叫んだ 「あんた、じゃない!ボクには『チョコ』って名前があるんだよ! ボクの飼い主で、『だんじょん』の町一番のやり手の商売人、 魔女『サララ』がつけてくれた名前が!」 怒りながらそう叫んだチョコの言葉に、ルイズは言葉を失った 「な、何ですって、魔女?今、あんた魔女って言ったの?」 「そうだよ!そこにいるサララは、魔女なんだから! まあ……もっとも、魔法は使えないけどね」 何てことだ、と思いながら、ルイズは自分達を見上げる少女を見た 彼女もまた、自分と同じ魔法使いであるという 「(しかも、魔法の使えない、ってところまで同じなんて……)」 ルイズは、ショックのあまり眩暈がしてきそうだった 前ページ次ページ使い魔はじめました
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トリステインの宮殿では、群議のため将軍や大臣達が集まっていた。 会議室では、二十名ほどの高官達が、巨大な楕円形のテーブルを囲み、いつとも終わらない会議を繰り広げている。 「アルビオンはどれほどの軍備があるというのだ、タルブ戦では両軍ともに多数の戦力を失ったが、アルビオンには長年にわたって培われた造船技術があると言うではないか」 将軍、ド・ポワテェの発言に、空軍の参謀らしき人物が挙手をした。 年の頃四十半ばであったが、苦労が多いのか髪の毛は頭頂部を中心にかなり薄くなっている。 「アルビオンからの亡命者と、捕虜の証言では、多くの平民技師が新式のカノン砲を鋳造していたとあります。 また旧体制への忠誠心が深かった技術者の多くは、粛正の名の下に多く処刑され、アルビオンの誇る造船技術は著しく低下していると推察します」 言い終わると同時に、今度は別の貴族が挙手をした、でっぷりと太った腹をさすりつつ、指名を受けると左右に伸びた細いひげを指で撫で、目を細めて話し出した。 「造船技術と竜騎兵の運用法則が張り子の虎では、アルビオンに行くだけ無駄でしょう」 その言葉を聞いてかんに障ったのか、今度は別の貴族が挙手を待たずに発言した。 「何を言うか、長く続いたアルビオンとトリステインの争いを治める機会なのだ、このまま成り上がりのゲルマニアや、無能王のガリアに見下されていて良いと思っているのか!」 「制空権を得たところで運用できる軍隊が無ければ何の意味もあるまい!」 「そもそもだ、女王陛下の近衛兵を名乗る、汚らわしい平民に、某国の殿下どのに対処せねば、アルビオンに勝ったとしても、我々貴族の権威が地に落ちるかもしれんのだぞ!」 「何を言うのだ、今はウェールズ皇太子殿下も利用せねばならん時期だ、大義名分を得ている今だからこそアルビオンに攻め込むべきだろう!」 「あなた方はアルビオンに出資するつもりか?」 「それは………!」 「そもそも………だろうが」 さて、そんな会議が始まってから一言も口を挟むことなく、じっと思案している男がいた。 ルイズの父、ヴァリエール公爵。 彼はゲルマニアとの国境(くにざかい)を領地にもち、その警備を任されている、そのため浮き足立つ大臣や将軍達とは違い、アルビオンに攻め込まなければならぬ理由など無かった。 しかし、ラグドリアン湖に住む水の精霊との約束がある。 ラグドリアン湖から戻ったカリーヌ・デジレは、水の精霊との約束について話した。 カトレアの治療のために必要な水の秘薬、それと引き替えに『アンドバリの指輪』を取り返すと約束したのだが、そもそも指輪を盗み出したのが『クロムウェル』と呼ばれていた人物なのが悩みの種だった。 神聖アルビオン共和国の皇帝、オリヴァー・クロムウェルは虚無を用いて死者をも蘇らせるという。 死んだはずのアルビオン魔法衛士が、ラ・ロシェール等アルビオンと交流のあった各地に飛び、共和国に逆らうレジスタンスの拠点を潰していったことは、ヴァリエール公爵の耳に入っている。 紛糾する会議を横目に、ヴァリエール公爵はじっと考え込む。 水の精霊の話によれば、クロムウェルを含めて二人以上の人間がラグドリアン湖に侵入している、それまで地方の一司教に過ぎなかったクロムウェルが、どうやって指輪の存在を知ったのだろうか。 借りに協力者が居たとして、一司教に過ぎぬクロムウェルの言葉を信じ、水の精霊の下から指輪を奪取できるなど、スクェアクラスのメイジだとしても難しいのではないだろうか。 それほどのメイジが無名だとも考えにくいのだ。 クロムウェルは実力のある何者かに援助されている、いや援助どころではない、むしろ何者かによって傀儡にされていると考えられるだろう。 だとしたら何者がクロムウェルを動かしたのか? 仮にゲルマニアが黒幕だったとしても、財力が持つとは考えにくい、その上捕虜の証言と比較しても、アルビオンのカノン砲技術はゲルマニアを上回っている。 ロマリアの宗教庁の可能性もある、新教徒弾圧の時風を作り出した前教皇の一派なら、自作自演のために戦火を広げるのもやむなしとするかもしれない。 ガリアは……いち早く中立の名乗りを上げ、国力の温存に努め、しかもきな臭い噂は一切存在しない、それがかえって怪しく、また底知れぬ恐ろしさがある。 ガリアの無能王が本当に無能だとしたら、なぜガリアは国家としてそれなりに安定しているのだろうか、権力を握った側近、傀儡と化した王権、無能を装い対立構造を浮き上がらせ緊張を保つ王……歴史から前例を挙げればきりがない。 ヴァリエール公爵は、20メイル以上の天井を見上げてふと考える、ゲルマニアとトリステインの連合軍がアルビオンに攻め込んだ場合、誰が背後を守るのだろうか、引退した自分が考えても意味はないかもしれないが、 軍人として、また戦略家としての自分が、どうしてもそこに思考を傾けてしまう。 「ラ・ヴァリエール公爵、何か言うことは無いのですか」 形だけの議長役を仰せつかった大臣が、公爵の名を呼んで発言を促す。 ふと見れば、高級貴族達は訝しげに公爵の顔を見ている、将軍などは明らかに敵意を持った目で睨み付けているが、これはタルブ戦で兵を出さずに金だけを出したヴァリエールをまだ非難しているのだろう。 周りが注目する中、公爵はわざとらしく小さな咳払いをして、挙手した。 腹の内は決まっている、いや決められてしまったと言うべきだろうか。 そもそもカリーヌが王宮を訪れた際に、女王陛下と非公式の会談が設けられた、その時点でカリーヌは『烈風カリン』の名を用いて、ヴァリエール家がこの度の戦にも参戦しないで済む約束を取り付けてしまったのだから。 「……ヴァリエール家は国境の警備に尽力する」 どよどよと周囲から声が上がる、一部からは怖じ気づいたのかと囁く声も聞こえたが、それを無視してヴァリエール公爵は言葉を続けた。 「決してこの戦を軽んじているわけではない。皆の注意がアルビオンに向いている今、ガリアにレコン・キスタの一派があったとしたらトリステインは甚大な被害を被る、故に国内の治安維持に尽力せねばならん」 そこで別の貴族が机を叩き、叫んだ。 「前回も同じことを申したではありませんか!トリステインだけではない、相手は虚無を騙り死者を操る、邪悪な教団ですぞ!始祖ブリミルから連綿と続く王権の、根底を揺るがす大事件ですぞ!そこに兵す「代わりに烈風カリンが参戦する」ら出さ………」 重々しい一言が、会議の場を静寂で満たした。しかしそれも数秒のことで、すぐに貴族達は浮き足だった声を上げ、公爵の言葉を反芻した。 「れ、烈風カリンとは、まことですか!」 「貴公はあの生ける伝説がどこに行ったか知っているのですか、いや、まさかヴァリエール領の者で!?」 「噂では一騎当千と聞くが、本当にそんなメイジがいるものなのか…」 騒然とした会議室の中で、ヴァリエール公爵は両手を胸の前で組み、椅子の背もたれに体を預けた。 一人の貴族が、公爵に問いかける。 「公爵、今の話は本当ですか」 公爵はゆっくりと、しかし力強く頷いた、その表情にはどこか諦念のような笑みが浮かんでいた。 □■□■ 夜にさしかかった頃、アンリエッタ、マザリーニ、そしてアニエスの三名が謁見の間で非公式の会談に臨んでいた。 本来ならこの場にウェールズにも居て欲しかったのだが、残念ながら自由を著しく制限されている状態であり、会談に臨むことはできない、その代わりアニエスがメッセンジャーとしてウェールズからの手紙を預かり、アンリエッタに渡している。 それは皮肉にも、劇的なタルブ戦争の戦果と、リッシュモン高等法院長の汚職発覚に原因があった。 これには『仮面の騎士』として活躍したルイズだけでなく、情報収集に奔走したアニエス達銃士隊の活躍が大きい。 しかし、銃士隊の活躍を知らぬ貴族は多く、また知っていたとしても平民の部隊を認めない者が、やり場のないやっかみをウェールズ皇太子に向けた。 曰く『ウェールズ皇太子は鳥の骨と癒着し、トリステインを乗っ取るつもりではないか』と…… この噂をアニエス経由で耳にしたアンリエッタは顔を青ざめさせた、その上ウェールズが自から幽閉同然の扱いを受け混乱を避けようとを申し出たので、一時期はアンリエッタが取り乱してしまい、ウェールズは愛しい従姉妹をなだめるのに苦労したという。 アニエスは、宮殿の一角に設けられたウェールズの執務室から手紙を運ぶという、メッセンジャーボーイのような役割を仰せつかっている、それはアンリエッタの信頼故なのだが、事情を知らぬ貴族達は「粉ひき娘がペーパーボーイになった」と嘲笑った。 衛兵すらも下がらせた謁見の間で、ウェールズの手紙を開き、アンリエッタがその中身を確認する。 アンリエッタが手紙を読み終わると、アニエスに手紙を渡し、今度はマザリーニに手紙を開かせた。 「マザリーニ、どう見ますか?」 読み終わった頃に、アンリエッタが問いかけると、マザリーニは一つ礼をしてから答えはじめた。 「ワルド子爵からの報告では、かなりの数の傭兵が集められたようですが、その多くはロンディニウムに集められただけで、実際の運用には至っていないとあります」 そこで、一区切りし、ウェールズの手紙をアニエスに渡した。 「しかしウェールズ皇太子はこれについて、『役に立つ傭兵』と『捨て駒』を分ける段階ではないかと推察しております。またアルビオン北部にはオーク鬼などの亜人種が生息しており、ニューカッスルの攻防戦では幾度と無く亜人による襲撃もあったとあります」 「亜人ですか?」 アンリエッタが聞き返す、するとマザリーニはアニエスに発言を促した。 「……畏れながら申し上げます。トリステインでは、オーク鬼は人々に害をなす凶悪な亜人として知られています。しかしアルビオンの北部と、ゲルマニアの南東部にはかなりの亜人種が存在しております。 知能が高く腕力の強い者が群れのリーダーとなり、亜人どもは殺戮を楽しむために効果的な場所…つまり戦場へと積極的に力を貸すのです」 「……そのようなことが、あるのですか」 アンリエッタはそう呟くと、ふぅとため息をつく。 定期的にオーク鬼やトロル鬼を討伐したという報告が上ってくるが、漠然としたイメージでしか捉えていなかった。 傭兵代わりに運用されるほど知能が高く、こうかつな存在だとは思いもしなかったのだ。 マザリーニはそれにもかまわず言葉を続ける。 「陛下、これらの情報はウェールズ皇太子名義の手紙で、ド・ポワチェ将軍に送ることに致します」 「マザリーニから送っては駄目なの?」 「反感を買うでしょう。……このような言い方は不本意ですが、議会の大部分は小心者です。ウェールズ皇太子殿下は優秀ですが、優秀が過ぎてもいけないのです。ですから交換条件として戦後の援助を期待したいと、懇願する形で手紙を出すのです」 「それでは、ウェールズ様があまりにも…!」 哀れではありませんか、と続けようとしたアンリエッタを、マザリーニが遮った。 「暗殺の危険を避けるためです。皇太子殿下には『小心者』の皮を被って頂かなければならないのです。ここトリステインで殿下のカリスマが発揮されてしまえば、それは内乱に繋がるかもしれないのですぞ!」 アンリエッタの体がびくりと震えた、内乱についてはよく歴史の教育から学んでいた、内乱には首謀者と、祭り上げられた首謀者がいると。 もしアンリエッタの目の届かない所で根回しが行われ、ウェールズを反乱の首謀者に祭り上げられてしまえば、真実はどのような形であれ、ウェールズに会えなくなってしまうかもしれない。 また、ウェールズがアンリエッタ側だと主張するにも、タルブ村での戦果だけでは物足りないと主張する貴族もいるのだから、マザリーニが慎重に慎重を重ねる気持ちも理解できた。 「…わかりました。ですが、殿下への配慮もくれぐれも怠らぬように」 「はい」 会話が途切れたところで、アニエスが呟いた。 「畏れながら、陛下に上申したい事柄がございます」 アンリエッタはアニエスに視線を向け「申しなさい」と呟く。 「はっ。クロムウェルは、各地に死兵(ゾンビ)を使わせております。死兵はそれこそ体が滅びるまで動きを止めません。…今まではレジスタンス狩りという形で用いられていましたが、これがもし、暗殺や、人質、籠城といった形で用いられた場合、あまりにも脅威です」 「その懸念はマザリーニから話がありました。…少し早くなりましたが、アニエスにも申しておくべきでしたね。マザリーニ、説明を」 こほん、とマザリーニが咳払いをし、アニエスに視線を向けた。 「人質として狙われる確率が最も高いのは、兵役に出た教師や男子生徒の居ない魔法学院だ。アニエスにはその件を魔法学院の学院長に伝えて貰おうと思っていた」 「では、私は伝令を?」 「それだけではない、魔法学院に残った生徒達に訓練を施して貰いたいのだ。こう言っては何だが……下手に正規の軍を派遣するよりも、傭兵相手に慢心せぬ銃士隊に任せるべきかと思ってな」 アニエスは、眉間に力が入るのがわかった。 『傭兵相手に慢心せぬ銃士隊』…逆説を述べれば、正規の軍では卑劣な手段に太刀打ちできないと言っているようなものだ。 銃士隊設立以来、もっとも重要で、困難な任務になるかもしれない、そう思うと不機嫌さよりも、体の奥底から熱いものがわき上がってくる気がした。 アニエスは、跪いて深々と頭を垂れた。 翌朝、ワルドはウエストウッドの一室でぐぅぐぅと寝息を立てていた。 ラ・ロシェールまで遍在を飛ばし、駐屯しているトリステイン軍の人間にアルビオンでの調査結果を報告して、その場で遍在を消去する。 風のスクェア、それも遍在に特化しているワルドだからこそできる芸当だが、さすがにラ・ロシェールに遍在を飛ばすのは辛いらしい。 「なんだい、まだ寝てんのか」 キィ、と音を立てて扉が開かれ、ワルドの寝る部屋に入ってきたのは、マチルダだった。 寝息を立てているのを確認すると、壁に立てかけられたデルフリンガーを持ち上げて、音を立てずに部屋を出てた。 廊下に出たマチルダは、心配そうな表情のティファニアが、ワルドの部屋をちらちらと見ているのを見つけた。 「マチルダ姉さん、ワルドさんは?」 「疲れ果てて寝てるよ、まあ昼には起きるだろうさ」 「そうなんだ…大丈夫かな」 「心配することじゃないよ、あいつは人の裏をかくことばかりしてたんだから、いい気味さ」 「もう、姉さんったら……とりあえず子供達にもワルドさんを邪魔しないように伝えておくね」 「それがいいね」 朝食後、マチルダは自分の部屋に戻ると、デルフリンガーを鞘から3サントほど抜いた状態にしてテーブルの上に置いた。 「デルフ、昨日、報告のついでに変な男に気づかれたかもしれないって言ってたじゃないか、そいつについて詳しく分からないかい?」 『詳しくは分からねえよ、昨日喋った通り、ルイズの嬢ちゃんが言ってた容姿ぐらいしか分からねえ』 「…そっか、今日の昼ごろ、協力者が来るんだけど、そいつにも聞いてみようかと思ったんだけどねえ」 『そっちは何か、心当たりでもあるのか?』 「火を操る凄腕の傭兵が居るって聞いたことがあるのさ、容姿も似てるし、もしかしたら本人かもしれないしね。まあ調べておいて損はないだろうさ」 『聞くのは結構だけどよ、調べさせるのは止した方がいいぜ。ルイズの嬢ちゃんは400メイルは離れた場所で、廃屋に隠れて見てたんだ。それなのに見られたってのは偶然じゃねえと思うよ』 「風系統の『遠見』かい?」 『いや、もっと漠然としたもんだと思うぜ、姿形を認識たわけじゃねーだろ。たぶん、やたら勘が鋭いとか、他人の視線に敏感とか、そんなやつだ』 「……ワルドとは違う意味で厄介だね。まあ、姿形を変えられるルイズの方が、いざって時に逃げられるだろうけど…」 『でもなあ、なんかいやな予感がするんだよなあ…』 「いやな予感って何だい?あたしゃあの嬢ちゃんが誰かに殺されるなんて想像できないけどねえ」 『…殺される予感じゃねえんだ。その逆だよ』 デルフリンガーの呟きに、マチルダは答えなかった。 時刻は少しさかのぼる。 ロンディニウムの大通りから、かろうじて幅2メイル程の裏通りに入ると、数件の酒場があった。 更にその奥へと進むと、二階建ての小さな家が建ち並んでいる、トリステインの大通りと比べると一回り小さく屋根も低い、アルビオンの平均よりやや貧しい家々だと言える。 そのうち一つ、何の変哲もない建物の二階に、ルイズがいた。 「ふぅ…」 「坊やかと思うはずよ、すごく筋張った腕じゃない、それなのに肌は綺麗なんてずるいわ」 ルイズが鎧を脱ぎ、肌を顕わにすると、それを横目で見ていた別の女性が諦念を含んだ声で呟いた。 ベッドの上に座り、胸を顕わにしたベビードールに身を包んだその女性は名をアネリといい、男を相手する娼婦であったが、ルイズを男だと思いこんで誘ってしまった。 しかし、ルイズもごろつき数人から追われていたので、なりふり構っていられないとばかりに誘いに乗ったのだった。 アネリは、ルイズから渡された一枚の金貨を掌でもてあそぶと、にやりと笑みを浮かべた。 「筋張ってる…そうね、まあ否定はしないわよ。これでも力には自信ないんだけど」 鎖帷子を床に置いて、自分の腕を見る。 吸血馬の力を借りることで、余分な脂肪の一切無い鍛えられた体をしているが、吸血馬のパワーと比べて劣っているようにしか思えなかった。 「そりゃそうよ、男と比べたら、女の細腕なんて弱いもの」 その辺の有象無象と比較しているアネリの台詞に、ルイズは苦笑しつつベッドへと腰掛けた。 「さっきの奴ら、裏通りから手を伸ばして私の腕を掴んだのよ、そのまま引きずり込もうとしたから脇腹を殴ってやったんだけど。この町ってあんな奴らばかりなの?」 ルイズの言葉に、アネリが苦笑しつつ答える。 「そんな連中が増えたのはつい最近さ、レコン・キスタが入り込んでから、傭兵崩れがドッと増えたのさ、お宝が沢山割り振られたとかでね。あたしも稼がせて貰ったよ。」 「ふぅん…じゃあ、レコン・キスタがくる前は?」 「ああ、そうだね、その頃は堂々と客引きもできなかったよ、前の王様はそりゃぁ厳しかったからね、家もなきゃ親もないあたしらが生きるには苦しかったさ」 「……そう」 ルイズは一言だけ呟いて、座ったまま背伸びをして、どすんとベッドに倒れ込んだ。 それを見てアネリはふふんと笑い、ルイズの髪の毛に手を伸ばした。 「あんたもワケありって顔してるね。けっこう数こなしてるんでしょ?」 「そう見える?」 数をこなしてる、という言葉が気になってルイズは顔を向けた。 「なんとなくね。だってさ、肝が据わってるって言うか、荒事に慣れてるみたいだもの、」 「大したことはしてないわよ。露払いぐらいしかね」 自嘲気味にルイズが答えると、アネリはわざとらしく肩をすくませて「おお、怖い怖い」と呟いた。 「ワインでも取ってくるわね」 「別にそこまでしなくてもいいわよ」 「あたしも飲むのよ、まあここで待ってなさいって」 アネリがそう言って一階に下りていくと、ルイズはううぅんと大きく息を吸い込んで、体を大の字に広げた。 「……一人ってのも、久しぶりね」 ルイズはふと、アルビオンに始めて来たときのことを思い出した。 姉のエレオノール、母カリーヌ、父ヴァリエール、そしてお供が何人か…十人だったか十五人だっただろうか、あの頃は何も知らなかった。 なぜカトレア姉様が来られないのか、なぜカトレア姉様だけがヴァリエール領で一人寂しく待っていなければならないのか、それが分からずに駄々をこねた覚えがある。 でも、今はそれ以上に強い思い出がこの地にあった。 ブルート、ブルリンなんてあだ名で呼ばれていた、義理堅くてどこか抜けている男。 ニューカッスルの攻防戦でワルドを退けた後、彼は『ニューヨークだ!』と言って光るゲートの向こうに行ってしまった。 使い間を召還するときにしか出現しないあのゲートを通って、いったい、彼はどんなところに行ってしまったのだろうか?いや、帰っていったのだろうか…… その後すぐ現れた吸血馬には、いきなり襲われ、食われた。 必死の抵抗を試みて脳をかき回し、肉片を埋め込んだことで従順になったが……よく考えてみれば、生命力で勝るあの吸血馬が、ルイズの肉片ごときで制御下に置けるとは思えない。 タルブ戦で、エクスプロージョンを放った時のことを、デルフリンガー『吸血馬は”自分の意志で”身を挺して嬢ちゃんを庇ったんだぜ』と話していた。 吸血馬は、自分の意志で守ってくれたのだろうか…? だとしたら私は、とても罪深いことをしてしまったのかもしれない。 吸血馬が自分の意志で好意を抱いてくれていたのか、それとも洗脳によるものなのか、確かめるチャンスは永遠に失われてしまった。 ルイズはベッドに寝そべったまま、吸血馬の骨が埋まっている手首を見た。 掌を開いて、握りしめ、開いて握りしめると、ミシミシと筋肉の緊張する音が聞こえてくる、それは筋肉と言うより、糸状になった鋼の強度を誇る。 一呼吸置いてルイズは、いとおしそうに手首にキスをした。 「ほら。ワイン持ってきたよ」 しばらくすると、アネリが扉を開けて部屋へと入ってきた。 ボロボロのバスケットに、ワインの入ったピッチャー一つとグラスを二つ入れている。 それをベッド脇のテーブルに置くと、慣れた手つきでグラスにワインを注いでルイズに渡した。 ルイズは体を起こしてグラスを受け取ると、グラスの表面をじっと見つめた、上から見るとほんの少しいびつな六角形をしており、透明度は高いが反射は均一ではない、歪みか、それとも汚れが原因なのか……ともかく硝子の安物のグラスであることには間違いはなかった。 「…ん」 くいと一口口に含んで、飲み込むと、独特の酸味と苦み、そして後付けされた甘みが口の中に広がった。 「すごい甘みね」 「ああ、ちょっと良いヤツを分けて貰ったんだ、わかるかい? 金貨なんて貰っちゃったからねえ、サービスだよ」 ちょっと良いヤツ、と言われてルイズは苦笑した。 公爵家で育ったルイズには、どう考えてもこのワインが良い物だとは思えない、魅惑の妖精亭でもこのレベルのワインは出さなかったはずだ。 それでも、このアネリと名乗る娼婦なりの心遣いなのだろうと思うと、ルイズは嬉くなった。 「ええ、悪くないわ」 空になったグラスを手で弄び、横目でアネリを見て、ルイズは笑みを浮かべた。 それがまるで流し目のようで……不思議な魅力に驚いたアネリは目をぱちくりとさせた。 「ねえ、あんた……」 ずい、とアネリが近寄る。 「…何」 「こうして見るとさ、あんたの目つきとか、気になっちゃうんだよ。……あたしもその気になるとは思ってなかったんだけどさあ、あんた意外と良いね」 「?」 何の話をされているのか分からないルイズは、押し倒そうとするアネリに逆らわなかった。 「ね、いいだろ?これも経験だと思ってさ」 喋りながらも手慣れた手つきでルイズの服を脱がしていく、ルイズは抵抗しようかと思ったが、今更恥ずかしがることも無いかと思い、されるがままになっていた。 シャツを脱がされ、胸から首筋へと啄むように何度もキスをされる、ルイズはこそばゆい感触に慣れず、眉間に皺を寄せたが、すぐに”そういうものだ”と思って慣れることにした。 ズボンを脱がされて、股間に手が伸びると…ふと、今は懐かしきヴァリエール家の浴室を思い出した。 幼い頃、まだ物心付いて間もないころだ、入浴の時は侍女が体を洗ってくれていた。 すぐに自分で身だしなみを整えるようにも教育されたが、その頃と今と何か似ている気がする。 ”されるがまま”だったルイズは、未知の感覚を覚えようと、目を閉じて積極的に身を任せた。 「う…」 アネリの指がデリケートな箇所に触れると、現れるときとは違う、波打つような指の動きに思わず声を漏らした。 もし自分が男だったら、こんな時はどう対処していたであろうか、そんなことを考えていると不意にこの娼婦の相手をしたくなった。 こんな経験も、たまにはいいか……そう考えて目を開けると。 「え?」 アネリの左手はルイズを撫でたままで……しかしその右手はナイフを握りしめていた。 どすっ、といやな音が体の中に響く、勢いよく突き立てられたナイフは、筋肉を確かめるように愛撫された肋骨の隙間へと易々と吸い込まれていく。 ずぶぶぶっ、と体重を乗せられたナイフが突き刺さると、左の手で枕を取り、ルイズの顔に押しつけた。 「入っといで!」 その声に合わせて、一階の方からどやどやと数人の声が聞こえてきた、枕で視界を遮られていても、ルイズの耳は人数と体格を正確に聞き分ける。 「おお、やったか!」 男、身長180サント程、かなりの筋肉質で体重もある。 「もったいねえなあ。いい女だと思ったのに」 男、身長190サント弱、筋肉質。 「何言ってやがる、こいつ、俺を殴りやがったんだぞ、俺が殺してぇぐらいだ」 男、身長175サント程、筋肉も多いが脂肪も多い。数時間前に殴り倒したヤツ。 足音と声から人数と特徴を推察している間にも、部屋に入ってきた男達はルイズの荷物を物色し始めた。 「ひゃァ!こりゃたまんねえ。金貨だぜ。二十枚はあるぜ」 「こいつはどこかの坊ちゃんだったのか?」 「どこからか盗んできたんだろうぜ、女は怖いからな!」 「ちげぇねえ!ははは!」 「それにしても、ジョン、あんたらがこんな女にナメられるなんて驚いたよ、ヤキが回ったかい?」 「それを言うなよアネリ、この女ぁ一度や二度は傭兵でもやってたんだろ、上手い具合に蹴飛ばされちまったよ」 「はン、油断してんのが悪いのさ。あたしなんてグラスにしびれ薬を入れて、ナイフで一突きよ、どうだい?手慣れたもんだろ?」 「おお怖ぇなあ!俺は絶対おめえを買わねえぞ、殺されちゃたまんねえからな」 「何言ってるんだい、このやり方を教えてくれたのはあんただろ?あんたがあたしを買うときは見張りまで混ぜるじゃないか」 「ハハハ!」 「ああ、なぁんだ、グルだったの」 To Be Continued→ 65< 目次 67
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前ページ次ページ堕天召喚録カイジ 第五話「王国」 ああ……それにしても退屈っ……!! トリステイン魔法学院の学院長室は本塔の最上階にある。 そこにいるのは、トリステインの影の帝王……オールド・オスマンと、学院中の教師たちであった。 ざわ…… ざわ…… 長い白ひげをたくわえたオスマン氏は、重厚なつくりのテーブルに肘をつき、目の前の教師たちを見回した。 「ククク……無論……と言うか…… 言うまでもなく……わしは持っておるっ……! この学院の誰よりも……持っておるっ……! 力をっ……! カネで……コネで……! 魔法力で……権力で……! 持っておるっ……! ククク……! 生徒はいわば人質っ……! トリステイン王家であっても容易には手を出せぬ……! 最近では、ガリア王家へのつながりも手にした…… 簒奪された血筋だが……正統継承権は持っているっ…… 転ばぬ先のなんとやらだ……! 常にリスクの分散は怠らないっ……!」 ざわ…… ざわ…… 学院長の言葉に教師たちがざわめく。やがて一人が手を叩き始めると、すぐにそれは万雷の拍手に変わった。 「学院長っ……! 学院長っ……! 学院長っ……!」 教師たちの声に両手を上げて応えるオールド・オスマン。 「バカがっ……!!!!」 バーンッ!! 突然机に手を叩きつけるオールド・オスマンに、一瞬で学院長室は静まり返る。 「つまらんわっ……まるで……!! わしは……もっともっと……楽しみたいんじゃっ……! 女を……! 賭博を……! 決闘を……! 邁進せよっ……! 掻き集めるんじゃっ……! 世界中の力をっ……!! 貴族とはつまるところ力につきるっ……! それを牛耳る魔法学院こそ……王っ……! 築くんだっ……! 王国をっ……!」 オールド・オスマンの言葉に歓声を上げる教師たち。 ワァー!! ワァー!! ワァー!! 「学院長っ……! オスマン学院長っ……! 学院長っ……!」 「容赦なく勝てっ……! 王国実現のためにっ……!」 「勝ちますっ……! 勝ちますっ……!」 「以上だっ……! フフ……では……解散しよう……!」 昼の訓示を終え、教師たちは各々の授業へと戻っていった。 ……いや、ひとりの教師が、学院長室に残っていた。コルベールである。 「学院長。内密のお話が……ミス・ヴァリエールの呼び出した使い魔のことなのですが……」 「なんだっ……! はっきりと言えっ……!」 イライラとコルベールをにらみつけるオールド・オスマン。コルベールは冷や汗をかきながら続ける。 「はっ……! 珍しいルーンであったので、調べましたところ、伝説の『ヴィンダールヴ』ではないかと……! 『ヴィンダールヴ』といえば、幻獣を自在に操るという使い魔……ご報告をと思いまして……」 コルベールの話を聞き、見る見るオールド・オスマンの表情が変わっていく。 「ククク……カカカ……コココ……! 面白いっ……! 面白いではないかっ……あぁ~んっ……!? 詳しくだっ……もっと詳しく説明しろっ……! 我が右腕っ……! コルベールっ……!」 「はっ……!!」 コルベールはその輝く頭を深々と下げた。 右腕……! これはつまり……事実上…… 学院長に次ぐナンバー2であることの証明……! コルベールはほかの教師をおさえ……ナンバー2……! その地位を確立したっ……! ルイズが爆破した教室の片付けが終わると、使い魔たちは各々の主人のもとに帰っていった。 『覚えていてくれ……! 我らは友人っ……! いつでも、共にあることを……』 別れ際、フレイムの一言がカイジの心にやさしい灯を燈していた。 (やれる……! 一人じゃねぇっ……! 俺は孤独じゃないっ……! 仲間っ……! 友人っ……! 信頼っ……! それこそが本当の力……魔法なんかよりもずっと強力な力っ……! 貴族たちに反撃するナイフっ……小さくとも尖った刃だっ……!) ……やがて、自分のベッドで静かに泣いていたルイズが、教室に戻ってきた。 黙って二人で食堂に向かう。 カイジの昼食は抜きであった。 第五話「王国」終わり 前ページ次ページ堕天召喚録カイジ
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召喚によって現れた目の前のものに、ルイズだけでなく、目撃した者全員が、一瞬固まった。 召喚した張本人である、ルイズの頭の中を巡る、様々な言葉。困惑、恥、怒り、焦燥。それらを一まとめにしても、 この一言以上にはならない。 なんで!?なんでこんなのが!? そう、ルイズが召喚した使い魔。それはどう見ても、自分より2,3年上程度の、瞳に弱気な光を宿らせた男だった。 「…あのー……」 目の前の男から言葉が発せられる。それは全員の精神的な硬直を解かせるのには効果的だった。 「何で僕、こんなとこにいるんでしょうか?」 途端に湧き上がる、周囲の生徒達からの笑い声。それを全身に浴びたルイズの顔が、たっぷりの湯で茹でられたように 真っ赤になるのには、数秒とかからなかった。 「あ、あたしが召喚したからよ!!大体なんであんたみたいのが出てくるのよ!!?」 「え、あの、そんなの僕に言われても、いったいなにがなんだか…」 「うるさい!黙ってなさいよ!あーもうこんな大失敗して、どうしてくれんのよ!!」 「なに言ってんだよ!『ゼロのルイズ』が失敗するのはいつものことじゃないか」 「そうそう」 「うるさいって言ってんでしょ!!」 また上がる笑い声。自分の支離滅裂な発言を考える事も忘れて、 ルイズは真っ赤な顔に失敗の悔し涙をにじませながら、教師のコルベールに向き合った。 「先生!再挑戦させてください!いくらなんでもこんな平民、あんまりです!」 「それはなりません。平民を召喚するなど、珍しいことではありますが、大事な儀式にやり直しなどはありません」 「でもこんな、情けなさそうで、しょぼくれてて、おどおどしてる平民!こんなの使い魔になんてしたくありません!」 『うるせえガキだなぁ』 またしても全員が硬直し、声のした方向を見た。その声を発した本人、たった今ルイズに召喚された青年は、 自分でも自分の発言が信じられないような、驚いた顔で、口を両手で塞ぎ、自分の胸元を見ていた。 「だ、だれがうるさいガキですってぇ!?」 「あ、いや、その、今のは僕だけど僕じゃないっていうか、ていうかちょっと待ってて」 「一体何を待てっていうのよ!?ほんっとあったまきた!!」 「だからちょっと待っててくださいって!モモタロス、ほんと今出るのはやめて!」 モモタロス?出るのはやめて? まるで自分以外の、いもしない誰かに話しかけるような青年の仕草に戸惑っていると、男はまるで何かに衝突したように吹き飛んだ。 いや、吹き飛んだような動きを見せた次の瞬間、男はバランスを立て直し、顔を上げた。 まるで別人のような、ぎらぎらとした、獣のような光を瞳に宿らせて。 「俺、参上!!」 「……え?」 ルイズが目の前の青年の変貌に驚いていると、いきなりルイズは両の頬を、青年につままれていた。 「い、いひゃいいひゃい!やめれれれ!」 「さっきから聞いてりゃグダグダグダグダ、良太郎をコケにしやがってよぉ。あったまきた?あったまきてんのはこっちだってんだ! 俺の堪忍袋の緒ってやつもてめーが目の前に出てきてからクライマックスに切れっ放しなんだよ!!」 いまいち文章としてまとまってない怒りの言葉を放つ青年。周囲の人間は今日何回目か分からない硬直に見舞われていたが、 やっと目の前の状況を理解したコルベールが、青年に向かって声を張り上げる。 「き、君!ちょ、ちょっと待ちなさい!」 「あん?」 コルベールの、わずかに上ずった声に反応して、青年はルイズの頬から手を離し、コルベールに向かって歩きはじめた。 青年はコルベールに向かってガンをくれている。召喚直後の、おどおどとした目つきとはまるで別人だ。 コルベールは、青年に対しどう対処すればいいか、冷静になるよう自分に言い聞かせながら、必死に考える。 「き、君。まず少し落ち着いて、だね。私たちの話を」 「必殺」 「え?」 「俺の必殺技パァァァト4!」 飛んだ。コルベールが、である。 青年のアッパーを受けて、十数メートルほど美しい放物線を描き、コルベールは気絶して倒れた。 「よぉし、これでお仕置きタイム続行だ。……あん?あのなあ良太郎、お前は甘すぎるんだよ! こういうガキンチョはだな、一発きっつーいお仕置きを食らわせてだな!」 青年がまた、何かがあるように話しかける。ルイズは何がなにやらわからないまま、少しも動かず放心状態になっていた。 「だからよ!大丈夫だって!俺だってちゃんと考えてんだからよ!俺に任せとけって!」 『いやいや、そういうわけにもいかないでしょ』 青年の口から、さっきまでとは違う、とても穏やかな声がもれた瞬間、また青年は吹き飛んだ。 「まったく、女性の扱いを知らない人って、ほんっとやだよね」 優しい声と共に顔を上げた青年は、声と同様、さっきまでとは違って、優しくアルカイック・スマイルを浮かべていた。 どこから出したのか、眼鏡までかけている。 青年はぐったりしたままのルイズに近寄ると、頬にゆっくりと手を当てた。 「ほんとごめんよ。さっきも言ったけど、先輩って女性の扱いを知らないからさ」 「……あ、あんた、一体、なんなのよ」 「いやいや、こっちにもふかーい事情があってね。あーあー、女の子に涙まで流させて」 『涙?』 「え?」 青年の呟きに、青年とルイズが同時に疑問符を上げる。青年もまた、自分の発した声に驚いている。 つまり。 『涙…泣いて涙…』 「え、いや、ちょっと待って、僕の出番こんだけ!?」 『泣けるでぇ!!』 叫びとともにまたしても吹き飛ぶ青年。次の瞬間見た顔には眼鏡はなかった。 「誰が涙を流しとるんやぁ!?悲し涙なんぞ、わいが嬉し涙に変えたるでぇ!」 骨太な声で明るく叫ぶ青年。ルイズは這って逃げようとするが、その前に青年に捕まった。 骨がきしむほどの力で肩をつかんで持ち上げられ、ルイズは青年と真正面から向き合う形になった。 ふと、目を動かして周囲を見ると、みんな状況が理解できていないまま、硬直している。 ええい、誰か助けてくれてもいいでしょ、この薄情ものども。 思わず心の中でうなるが、それも届くはずもない。 「お前か!?なんぞ悲しいことでもあったんか!?そんならわいにまかせとけ!俺の強さは泣けるでぇ!」 「だから!あんたがわけわかんないことばっかやってるからみんな困ってるんでしょ!」 「おう?わいはさっき起きたばっかやからな、なんがあったんか説明してくれや」 「こんだけやって説明しろってどういうことよ!あんたホントーに最低ね!!」 『あん!?誰が最低だと!?』 粗暴な声とともに青年が吹っ飛ぶ。そして現れた顔は、またしても先ほどの暴力的な青年だ。 「人のことコケにしといてどの口が最低だっつーんだ!?あぁ!?」 『あーもう、ここは任せてくんない?』 優しげな声とともにまた吹っ飛ぶ。 『お前らなんぞにまかせとられんわ!わいがやる!』 骨太な声とともにまた吹っ飛ぶ。 『だから女性の扱いはこの僕が』 『亀公の出番じゃねえ!ここはあいつにきっちりと礼儀ってもんをだな』 『お前らが出とったらややこしくなるわ!』 吹っ飛ぶ。吹っ飛ぶ。また吹っ飛ぶ。その様はまるで笑えない一人芝居だ。どこの町にも、こんな大道芸人はいないだろうが。 そしてその一人芝居が十数秒ほど続いた後、青年は糸が切れた人形のように、ばったりと倒れた。 「え?ちょ、ちょっと!」 ルイズが思わず駆け寄る。なんせ一応とはいえ(非常に不本意だが)自分の使い魔となるものだ。なにかあっては困る。 いや、むしろ何かあってくれたほうが嬉しいかも知れないが。 そんなルイズの思いを知る由もなく、青年はゆっくりと呼吸している。単に気絶しただけらしかった。 「使い魔……あたしの使い魔……」 優雅で、華麗で、強くて、品のある使い魔。自分が欲しかったのは、そんな理想の使い魔。 「どうしてこうなるのよぉぉぉぉぉ!?」 ルイズの絶叫に、答えるものは誰もいなかった。
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毎日毎日、掘ることだけが俺の仕事だ。 穴を掘れば、それだけ村が広がる。村長は喜んで、俺にミミズを食わしてくれる。 ミミズのために掘るのかって? それも違うよ。 「あ」 何かが爪にあたる固い感触がして、俺は掘る手を止めた。ごそごそと周りの土をどかす。 「これは……」 出てきたのは、ぼんやりと緑色の光を放つ、小さなドリルだった……。 『モグラよドリルで天を突け!』 ギーシュに召喚されてからも、俺の仕事は毎日穴堀りだ。 穴を掘って鉱石を探す。時々だけど、宝石を見つけることもある。ギーシュは喜んで、俺にミミズを食わしてくれる。 故郷の村を出てからもやってることは変わらない。 そう――変わったのは名前ぐらいだ。 ヴェルダンデ。ギーシュの付けた俺の新しい名前だ。元の名はもう使わない。故郷の村においてきたから。 (今日は収穫なしか……) ボコ、と頭を出したところは、魔法学院の中庭だった。穴掘りから急に地上に出てきて、太陽の眩しい光に目がくらむ。 と、誰かが俺を覗き込んでいた。 「また穴掘り? よくまあ飽きないわね」 「……ルイズ?」 「む……なれなれしいわよ、あんた、使い魔でしょ?」 「君の使い魔じゃないよ」 穴から体を抜く。モールの姿のほうが掘りやすいんだけど、ギーシュはいつも人間の姿でいろって言う。 たぶん、自分が韻獣を召喚したことを見せびらかしたいんだろう。 そして……一番そのことを気にしてるのが、このルイズだった。 「ギーシュなんかの使い魔が、まさか『変化』を使える韻獣とはね……アンタ、それ何持ってんの? ちょっと貸しなさいよ、ホラ」 「あ……」 俺が首に下げていたドリルを、ひょいとルイズが取り上げる。 ルイズの背は俺よりちょっと高いぐらい。ふてくされたような顔でドリルをいじくっている。 「ふーん……大きいネジかしら? なんか光ってる……ま、どーでもいいわ、こんなの。……いいこと、韻獣で『変化』の魔法が使えるからって調子に乗らないのよ? まったく、なんでギーシュの使い魔が韻獣で、私の呼び出したのは平民なのよ……! 『アイツ』またどっか行って……!」 ふんと鼻を鳴らして、ルイズ・フランソワーズは行ってしまった。ルイズがポイと投げ捨てたドリルを、俺はそっと拾い上げた。 なんだか、ひどく落ち込む。 そのドリルは、故郷の村で掘り出して以来、ずっと俺の宝物だった。結局、俺にとっては宝物でも、人にとってはゴミみたいなものなんだろう。 「はあ……」 トボトボと歩いて……俯いていた俺は前に人がいるのに気がつかなかった。 俺の頭が、相手の腹あたりにぶつかる。俺は慌てて顔を上げた。 「上向いて歩け、ヴェルダンデ」 「あ……カミナ」 「カミナじゃねえ、アニキってよべ!」 カミナはニヤッと笑うと、鋭く尖った真っ赤なメガネを、クイと持ち上げて見せた。 「俺……兄弟いないから。それに、カミナは人間で、俺はグレートモールじゃないか」 「そーいうことじゃねえ。魂のブラザー、ソウルの兄弟ってことじゃねえか! ブスな女が何言おうと気にすんなァ。お前にコイツは似合ってるぜ!」 「ブスな女って……ルイズはカミナのご主人なのに」 そう、カミナは人間で、しかも使い魔だ。普通、使い魔になるのは動物や幻獣。グレートモールもそうだ。でも、人間が召喚されるなんて前代未聞らしい。 さっきの女がルイズ、カミナを呼び出した本人だった。 「ヴェルダンデ、ドリルはお前の魂だよ」 そう言うと、カミナはどこか懐かしそうな顔で笑って見せた。 カミナは変な人間だ。 俺は銀色の円盤をくぐってギーシュに召喚され、契約を済ませた。春の使い魔召喚の儀式だった……ってことは後から知った。 次々と幻獣が召喚される中、最後に召喚されたのがカミナだった。 中庭に響いた爆発と轟音に、俺は飛び上がった。 煙がおさまっていく、その中心地に召喚されたカミナは、まるでズタボロの死体みたいだった。 周りの生徒たちがざわつく中、震えるルイズが何を考えていたのか……今の俺にはわかる気がする。 たぶん、ルイズは迷ってたんだ。 カミナは、どうみても人間の平民だった。それも瀕死の。 カミナが死ねば召喚したことはチャラになる。 ルイズはもう一度召喚しようと思えばできたんだ。カミナを見殺しにすれば。でも―― 「……お前を……信じろ……シモン。……お前の信じる……お前を……」 たぶん……そこにいない誰かに向かって、カミナは呟いたんだと思う。 その言葉を聞いたとき、ルイズの中で何かが吹っ切れたみたいだった。 「――我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え我の使い魔となせっ!」 舌を噛むような長い呪文を一言で言い切ると、ぎゅっとカミナを抱きしめて、ためらいもなくルイズはキスをした。 しんと静まり返る生徒たちを、ルイズはきっと振り返る。 「誰か、水系統は手を貸して! 後でお礼はするわ、早く彼を治療してあげて!」 そう――ルイズは叫んだんだ。 「――なのに、ブスって言い方はないよ、カミナ。命を助けてもらったんじゃないか」 「まぁな。お前が……あんまりシモンのやつに似てるから、ルイズにごちゃごちゃ言われてるの見ると、ついな」 俺とカミナは学院の壁にもたれてよく話をする。 笑うカミナの顔は、どこか寂しそうな……それでも俺に似てるって言う『シモン』の話を、カミナは俺に繰り返し語ってくれた。 『シモン』。 どんなときでも諦めない。いつだってまっすぐで、天まで突き抜けるようなドリルを魂に持った、元の世界でのカミナの相棒――。 話を聞くたびに、俺はちょっと落ち込む。カミナは、俺と『シモン』が似てるって言う。俺の持ってるドリルと同じドリルを持っていたとも。 でも、きっと似てるのは外見とドリルだけなんだ……って思う。俺には、穴を掘るしか能がないから。 「あーら、ダーリン。また『シモン』の話? 嫉妬しちゃうわ」 後ろから声をかけられて、俺とカミナが振り返る。 そこに立っていた燃えてるみたいに赤い髪のナイスバディの女は、にこりと微笑み、するりとカミナの隣に座った。 「キュルケか」 「そ。ねえ、カミナ。お昼でもご一緒しない? ヴェルダンデとばっかりお話してないで」 「カミナ……俺行くよ。お邪魔そうだし――ぐえ!」 立ち上がりかけた俺を、カミナの腕が引っつかんだ。 「おうおうおうおう、何いってやがる。ヴェルダンデは俺の弟分、新グレン団の団員だ! それをおいて女と飯を食いにいくなんざ、このカミナ様のやることじゃねえよ」 「あらま。やれやれ……相変わらず嘘が下手ねぇ、カミナ」 な、なにが嘘だ! と上ずった声で目をそらすカミナに、ずい、とキュルケが身を乗り出す。 「元の世界の女だかなんだか知らないけど、律儀なもんねぇ。ま、あたしは諦めないわよダーリン。恋は障害が多いほど燃え上がるんだもの!」 じゃあねー、と手を振るキュルケ。カミナはふう、と溜息をつく。 「キュルケがきらいなの? 胸の大きい女は穴につっかえるから嫌だとか?」 「いーや、俺様の好みにはストライクなんだが……ヨーコに殺されちまうからなぁ」 はあ、とうなだれるカミナに、思わず俺は噴出した。カミナもつられて笑い出し、俺たちは二人で腹を抱えて笑った。 こんな風に、俺の毎日は続く。 相変わらずキュルケはカミナの尻を追いかけているし、ルイズはと言えば、俺ともよく話すようになった。 「普段、カミナとどんな話をしてるのか聞きたくて」だって。最初の高慢な態度は徐々に消えて、よく笑うようになった。 俺もキュルケもルイズも――いつのまにかカミナのことが大好きになってたんだ。 「あれ?」 爪が固い何かにぶつかる。俺は周りの土をどけていく。 出てきたものに、驚いて俺は目を丸くした。 「これは……」 『それ』の閉じた目が、ぼんやりと緑の光を放っている。 ペンダントに下げたドリルが、ウォン、ウォンと音を立てて光った。まるで、自分の仲間に再会して喜んでるみたいに。 俺は慌てて穴を掘って地上に向かった。真っ先に知らせたい人がいるから。 悪いけどギーシュは二番目だ。いい主人だけどね。 俺は地上に飛び出した。 「アニキ――! 見せたいものがあるんだ!」 「おう、どうしたヴェルダンデ。一体なんだ? 見せたいものって」 「顔だよ!――すっごいでっかい顔!」 「なにぃっ! ガンメンか!?」 俺はヴェルダンデ――穴掘りヴェルダンデだ。 毎日毎日、掘ることだけが俺の仕事だった。その巨大な『顔』を掘り当てるまでは。 ――穴ばっかり掘って、退屈じゃなかったかって? それは違うよ。 「行こうアニキ――!」 「おうよ、ヴェルダンデ!」 ――そう。宝物を掘り当てることだってあるんだ。 おわり (『天元突破グレンラガン』よりカミナ)
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前ページ次ページ絶望の使い魔 闇に閉ざされた世界。 その中心にある城の地下深くに玉座のある広い部屋がある。 暗い中を松明の火だけが辺りを照らす。 その中で動いているのは5つの影であった。 その中でも5メートル近い巨躯を誇る者が語る。 「よくぞわしを倒した。 だが光あるかぎり 闇もまたある……。 わしには見えるのだ。ふたたび何者かが闇から現れよう……。 だがそのときは お前は年老いて生きてはいまい。 わははは………っ。ぐふっ!」 その者は炎が出し、自らを焼いてゆく そのとき光でできた鏡のような物が突如現れた。 他の4つの影はあっ言う間に鏡とともに消し去られた様子を見ているしかできなかったが 振動が起こり周りが崩れようとしていることを感じると すぐにその場から離れるために駆け出した。 青空の下、マントを羽織った集団が草原に集まっていた。 距離を置いたところには城のような建物も見える。 そしてその集団から少し離れて桃色の髪をした少女が緊張しながら杖を振っている。 その少女―ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは この使い魔召喚の儀にすべてをかけていると言っても過言ではない。 ルイズは魔法を使うと常に爆発させてしまい、まともに成功したことが一度もない。 それを理由にいままで散々馬鹿にされてきたのだ。現在の状況を何とかして変えたい。 だから使い魔なのだ。使い魔を見ればメイジの力量が分かるとまで言われる。 ここですばらしい幻獣、そうドラゴンのような使い魔を呼べば自分は馬鹿にされなくなる。 「宇宙の果てのどこかに居る私の僕よ、 神聖で美しくそして強力な使い魔よ。 私は心より求め訴えるわ。 我が導きに答えなさい!」 爆発が起こる。 周りは嘲笑の笑みを浮かべる。 「独自性のある面白い呪文を歌ったのは流石だがゼロはゼロだな」 「使い魔召喚で失敗したら留年なんじゃねぇの?」 囃し立てる声が聞こえるが少女―ルイズは爆煙が晴れていくにつれて見えてくる大きな影に期待を膨らませる。 しかしその全貌が明らかになると少し驚く。大きいと思ったら身長が5メイル近い亜人が倒れていた。 格好は高価そうなローブとマントそして角と目玉のような装飾をつけた兜をしている。 亜人の中でも地位のある者なのだろう。 しかし問題は・・・ 「亜人だ!ゼロのルイズが呼び出したのは亜人だぞ」 「でも傷だらけってどういうことだ?ゼロの爆発で死にそうになったのかw」 「さすがだ!常に斜め上を行ってくれるこいつにwktkが止まらない!」 そう傷だらけでいまにも死にそうなのだ。 まわりでは他の使い魔が逃げようとしたり主人の影に隠れたりしている。 大きくて強そうなのは間違いない。もっとかっこいいのがよかったが悪くはないだろう。 「ミスヴァリエール。はやく契約をするんだ。」 なぜか焦っているコルベールに促されさっさと契約をした。 左手の甲にルーンが刻まれる。 それをコルベールは珍しいなとつぶやき紙に写す。 コルベールはこのとき恐れていた。 呼び出された使い魔の亜人は魔力の塊と言っても過言ではなかった。 なぜ怪我を負っているか知らないが、司祭のような姿をしているからには おそらく先住魔法の使い手だろう。 エルフではないようだがこいつが暴れれば唯ではすまないことになるのはは間違いない。 使い魔の契約は主人に対する親しみを無意識のうちに刷り込むことができる魔法であることが このときほどうれしく思えたことはない。 生徒たちに帰るように促し、ルイズの使い魔をコルベールが運ぼうとする。 ルイズは驚いたようだが、ついでだからと言い監視も兼ねてレビテーションを使い医務室まで運んで行った。 背丈が大きいのでベッドを3つ使い寝かせる。足が大きくはみ出してしまっていたが仕方がない。 いざ、怪我を治すために医師であるメイジが傷の酷さから高価な清められた水の秘薬を使うと傷が大きくなってしまう。 仰天しながら水の魔法を使うとある程度は回復したことから清められた物はダメなのがわかった。 まるで悪魔ですなと医師が笑いながら話すがコルベールは目を鋭くし使い魔を注視する。 秘薬を使うまでもなく自然回復がはやいのでこの分なら魔法だけで十分回復できるだろうこともわかった。 見慣れないルーンと言い、ほおって置くのは危険である事は間違いない。 学院長のオスマンに報告に行きたいが目を離すことができない。 医務室付きのメイドにオスマンを呼んできてもらう。 ルイズは自分の使い魔が心配なのか寝かせているベッドの脇の椅子に座っていた。 病室のドアを開きオスマンが入ってくる。 亜人を一目見ると杖を出しすぐにディテクトマジックの魔法を使った。 「ミスタコルベール、すぐに教師を集めるんじゃ」 「は、はい!」 最近、名前を態と間違えて遊んでいたというのにどうしたのだろうかと思ったが、 オスマンが振り返ったときの顔を見ると自分の背筋が伸びてしまうのがわかる。 今のオスマンは好々爺としたボケ老人ではない。 この学院に学院長として封印されている齢百を軽く越す怪老オールド・オスマンであった。 ルイズは話に付いていけずに混乱しているようだ。 そのまま使い魔に付いているように言い、オスマンに経緯を説明しすぐに行動を始めた。 トリステイン学院学院長室に集められた教師たちは困惑していた。 授業を中断されたと愚痴を言っている者もいる。 しかしオールドオスマンが入ってきたときにそれも消え去る。 オールドオスマンはコルベールに説明を促した。 「本日2年進級した生徒たちが使い魔召喚を行いました。 その最後の生徒が先住魔法を使うであろう亜人を召喚したのですが・・・」 その言葉に教師たちはエルフを思い浮かべる。 強力な先住魔法を使うエルフには系統魔法ではまず勝てない。これは周知である。 ざわ・・・ ざわ・・・ ざわ・・・ ざわめきが起こるがコルベールが続けて説明する。 「亜人はエルフではありません。 しかし・・・もっと危険なものとオールドオスマンと私は判断しました。 召喚したときには全身に傷を負っていまして今は医務室で意識を失ってします」 続けてオールドオスマンが語る。 「使い魔を見たが嫌な予感が止まらんでな。 わしはいまのうちに殲滅するのが一番よいと思っておる。 だが使い魔の契約を行ったことで危険性はかなり減るであろう。 トライアングル二人以上で監視を行う。ローテーションを組んでおけ。 召喚した使い魔を生徒が御すことができたならばよし。 できなければなんとしても叩かねばならん。 召喚した生徒はラ・ヴァリエール家の3女じゃ。 後で使い魔の姿は確認しておくこと。以上じゃ。解散」 各々退出してコルベールとオスマンが残る。 「ではオールド・オスマン、ルーンの方も確認してまいります」 重々しく頷くオスマンを残し駆けていく。 「何事も起こらないというのは無理じゃろうなぁ」 そうしみじみ呟きながらオスマンは遠見の鏡で病室を確認していた。 すでに夜になり病室から部屋にもどったルイズは今日の召喚した使い魔のことを考えていた。 ミスタコルベールと学院長の緊張した様子から強力な種族ではないかと言うことが分かる。 それを使い魔としたのは自分! 亜人に洗濯をさせよう。着替えもさせて、もちろん飯は貧相なものを。 身形からそれなりの文化を持っていて位が高いことが分かるので、 どうやって自分より下であることを使い魔に自覚させるかを考える。 そうして優越感に浸る自分を思い浮かべると自然と笑顔が浮かんでくる。 とりあえず使い魔にさせることを箇条書きで記し、寝ることにする。 今日はぐっすり眠れそうだ・・・ 夢を見た。 世界を暗黒に閉ざし人々を絶望させそれを糧に君臨する自分。 それは恐ろしい光景だった。見たことのない怪物が町を襲い人を殺して行く。 恐ろしいはずなのになぜかそれを見ていると愉快にそして満たされるように感じる。 もっと絶望を感じたい・・・ すべてを踏みにじりたい・・・ 上の世界まで続く穴を開けさらに蹂躙しようではないか・・・ ルイズは飛び起きた。恐ろしい夢を見た。 人を絶望させるために行動する自分。 だがその時に感じた愉悦は忘れられるものではない。 自分が自分で無くなるような気がして汗で湿ったシーツを抱きしめる。 そのまま朝日を迎えることになった。 そろそろ朝食の時間だ。いつまでもベッドで蹲っているわけには行かない。 朝日が射す窓を開ける。清々しい天気だと言うのに気分が悪い。顔を洗い、服を着替える。 部屋を出るとちょうど隣も出てきたところのようだ。 隣室の赤毛の褐色肌の女―キュルケは使い魔に関して話題を振ってくる。 まず自分の使い魔を自慢し、ルイズにも強そうな亜人を呼び出してなかなかやるじゃないかと言った。 キュルケの使い魔―サラマンダーはルイズの前に出て軽いうなり声を上げ威嚇していた。 キュルケは自分の使い魔がなぜルイズを危険視しているか分からない。 サラマンダー自身もよく分かってないのか明瞭な説明ができないようだ。 ルイズが何も言い返さないのを不振に感じたがそのまま朝食を取りに行くと言って先に行ってしまった。 ルイズはそれどころではなかった。キュルケを見た瞬間自分がキュルケを引き裂いている姿を思い浮かべて楽しんでいた。 そしてそれに気付いて愕然としてキュルケが何を言っているのか頭に入ってこなかった。 授業中も頭が一杯で揶揄の言葉もすべて聞き流していたが、 ミセスシュヴルーズに話を聞いていなかったと指摘され前に出て錬金を行うことになった。 昨日も召喚に成功したしもしかすると魔法ができるようになっているかもしれない。 思案は置いておいて錬金に集中する。見事錬金の魔法の対象となった石は吹き飛んだ。 つまり失敗してしまった。罵声を浴びせられ部屋の清掃をさせられることになった。 ルイズ本人は頭が一杯であったから、そして他の者は注意を向けていなかったから気付いていなかったが、 ルイズはの体はいつものように煤で汚れてはいなかった。 まるで爆発の影響を全く受けていないようであった。 夢を見た。 上の世界まで続く大穴を開け自分の手下を送り込む。 手下はうまく動いていたようだ。まず近くの村を滅ぼし、恐怖を与える。 人の王を替え玉に入れ替え人心が荒廃するように仕向けていた。 この調子なら簡単に闇に落としてしまえそうだ。 勇者と名乗る者たちは手下にすら到達できずに散っていく。 十分満足が行くがおもしろくない。少し人間に強くなる猶予を与えるように手下に指示を出す。 さぁ希望を抱け。その光が大きければ大きいほど失った時の絶望は計り知れない。 わしを楽しませろ。 召喚から2日目の朝、夢の内容は変わらず恐ろしい物であったが嫌悪はなかった。 自分が変わっているのだろうかと思うが悪い気はしない。 なぜ自分が変わることをそんなに恐れていたのか分からなかった。 病室に様子を見に行く。亜人の怪我はほとんど治ってしまったようだ。 目が覚めないだけのようでいい加減目を覚ましてくれないと見せびらかしたりできないではないか。 やらせようとした事が実行に移せるのはいつになるのかとため息が出しながら医務室を後にする。 昼食時に二股ギーシュに八つ当たりされているメイドが恐怖に震えるのを見てゾクゾクしてしまう。 しかしメイドを罵倒しているうちに調子に乗ってしまったギーシュを見ると腹が立ってくる。 メイドを助けることはあまり気乗りしないが にやにや笑っているギーシュを追い詰めることを考えるとどうでもよくなってくる 「ギーシュ、八つ当たりは止めなさい。元はと言えば貴方が二股かけるからでしょう? 八つ当たりをすることで自分の威厳を周りに保とうとしているつもりかもしれないけど はっきり言って逆効果よ。滑稽すぎて笑えないわ。貴族の屑ってこうやってできていくのね」 周りもそれに乗ってギーシュを楽しそうに追い詰めていく。 さっきまで笑っていた顔が蒼くしたり赤くしたりしている様子は見ていて最高だった。 最後には真っ赤になってこっちも睨んでくる。 「決闘だ!!名誉を傷つけられて黙って入られない!グラモン家には命よりも名誉を重んずる 家風がある!ゼロのルイズ!貴族同士の決闘は禁止されているが受けてもらおう! もし受k「いいわよ」ないなら、いますぐ非礼を侘びてもらお・・・え?・・・ お、おもしろい!ヴェストリ広場で待つ!逃げるなよ!」 受けるとは思っていなかったのか一瞬呆けた後、 慌てて場所を言い残し友人を連れて広場の方に去っていった。 「あの…先ほどはありg・・・・」 メイドが何か言っているが無視しギーシュに続いて広場に向かう。 負ける気が全くしない。興味があるのはどれだけやれば相手が自身の無力を感じるかであった。 暇を持て余している学生がたくさん集まり決闘を見物しようとしている。 「諸君!決闘だ!!」 わぁああっと歓声が起こる。芝居がかった仕草で周りに愛想を振りまくギーシュ。 ギーシュは内心困っていた。誤解を招いた原因は誰にでもいい顔する自分だと自分自身わかっている。 八つ当たりまでした自分がはずかしい。しかも決闘まで仕掛けてしまった。受けないと思った相手が受けてしまったのだ。 もう引くに引けないところまで来ている。そして決闘相手のルイズは一応女性だし、 青銅人形のワルキューレをけし掛けてもいいものかと思案する。名案が浮かんだ。 一気に出せる最大数の7体出し、恐怖を感じさせる。 ルイズのことだおそらくプライドにかけて降参はするまい。 そこで自分が負けを宣言して決闘で勝つことはできたが女性に手を上げることはできないので負けたことをアピール。 この一件を無事治められ、新たなファンも獲得できるかもしれない。 杖を振り花びらが7体のワルキューレになる。 「では、行かせてもらうよ」 1体を自分の隣に残し他をルイズを取り囲むように配置する。 ルイズを見ると震えている。計画通り! 薄く黒い靄がルイズに張り付いているように見えるがなんだろうか。 さて負けを宣言しようか。 ルイズは笑い出したかった。いまからギーシュはこの衆人環視の中、絶頂から追い落とされ、 その様子は周りに恐怖を与えるだろう。それを思い浮かべると笑いをこらえ切れず体が震えてしまう。 体が嫌に軽い事もあり、さぁ処刑だ。 深呼吸した後いきなりギーシュの近くに残っていたワルキューレに錬金をかける。 ギーシュは吹き飛び、転がる。風に乗っているような速さでルイズは駆け、ギーシュの杖を踏み折る。 そして倒れているギーシュがなにかを言う前に鳩尾を力の限り蹴りつける。 うげぇと昼に食べたものを吐き出しているギーシュをさらに何度も蹴る。 最高だ・・・こんなに楽しいことがあったなんて知らなかった。 ギーシュはしゃべることができずされるがままであり、ルイズは反応がなくなるまで蹴り続けた。 動かなくなったギーシュに興味を無くしたルイズは自分の勝ちを宣言し、次の授業のある教室まで帰った。 その道中恐れを含んだ目で見られ気分がよかった。 コルベールはルーンについて調べていた。 そして召喚から2日目の昼ついに辿りついた。 それは使い魔のルーンの書物ではなく御伽噺の本の中にあった。 『ガンダールヴ』 その始祖ブリミルの伝説の使い魔、あらゆる武器を使いこなし主を守ったと言う。 ルイズの使い魔を思い浮かべ納得してしまった。あの使い魔なら伝説にもなろう。 オスマンに報告しようと学院長室に入ると、 眠りの鐘の使用許可をもらいに来た教師がいた。 何事かと聞いてみれば生徒間で決闘を行うらしい。 決闘は禁止されているというのに何をやっているのだろう。 呆れながらも誰が行うのか聞くとグラモン家の馬鹿息子と件のヴァリエールらしい。 オスマンは止める必要はないと言って見物のために遠見の鏡を使い出した。 それに便乗することにする。 結果は一方的であった。 決闘が始まると同時にルイズが黒い靄を出し始め、 失敗魔法でギーシュを吹き飛ばし、人とは思えぬ速さで近寄りそのまま蹴り続ける。 10分ほど嬉々として蹴り続ける様はなにかにとり付かれているようでもあった。 「これは・・・」 「うむ。まずいのぅ。存在の大きさに引っ張られておるのかもしれんな。 このままではいかんな。」 「待って下さい、オールド・オスマン。これを見てください」 そう言って御伽噺の本にあるガンダールヴのルーンのページを開き、ルイズの使い魔のルーンを模写した紙といっしょに机に置く。 「む、・・・・すまぬが人払いをしてくれ。ミスタコルベール、詳しく頼む。」 人が出てからコルベールはオスマンに伝説の再来を告げた。 その夜教師たちが学院長室に再び集められる。 使い魔がガンダールヴであるかもしれないことを知らない 教師たちはオスマンがかの使い魔を倒すつもりだと考えた。 「ミスヴァリエールと話合いを持って、それから使い魔自身にも目が覚めた後に話を聞いてみませんか。 確かに魔力が恐ろしく高いと言っても彼の格好から文化レベルはある程度あるとみられますから 突然襲うようなことはしないと思います。服の素材は固定化ではない魔法が使われているようですし 彼の種族の生活や魔法を調べたほうが学院にとってプラスになると思います」 亜人やモンスターの生態を調べている教師がオスマンを説得しようとしている。 始めてみる種の亜人だからだろう、興奮しているようだ。 「そうですね。ミスヴァリエールにしても一生のことがかかっているのです。 彼女のことを蔑ろにはできないのでは?」 「そこまで危険視するなら王宮に連絡すべきでは?」 他の教師もどんどん展開し始める。 彼らは戦いたくないのだ。 先住魔法を使うかもしれない者と戦うなど誰がしたいと思うだろうか。 エルフの場合メイジが100人集まっても勝てるかわからないのだ。 この中でまともに戦えるものは学院長くらいのものだろう。 「さっきからなにを言うとる。昨日のことは無しじゃよ。昨日不安を煽ってしまった様じゃから 全員集めて改めて伝えるつもりで呼んだのだ。あの使い魔は注意が必要じゃが大丈夫だろうと思われる。 使い魔が目を覚ましたらいろいろ聞けるじゃろうて。言葉が通じなくとも契約したヴァリエールが 仲介に入ることができるであろうし問題はないのぉ」 夢を見た。 なにやら喜びが強く感じられる。 上の世界の人間たちが送った手下を倒したようだ。 手下を倒した人間たちがいた国の兵士を殺し、そして自らが侵攻すると宣言してやる。 その国の王は絶望したようだが、まだ瞳に強い光を残す者が4人いた。 それを見て下の世界でも自分に挑んできた勇者と呼ばれた者たちを思い出す。 その中でもその4人は別格と言ってもよいかもしれない。 すばらしい。強い光は最高の生贄となる。わし自らが相手し、貴様らを絶望に堕とし飲み込んでやろう。 我が祭壇で待っておるぞ・・・ 召喚から三日目、昼食後の雑談と使い魔との触れ合いの時間、ルイズは医務室を訪れていた。 自らの使い魔の横には包帯を巻かれたギーシュがいた。ルイズが入ってきた事が分かって悲鳴を上げながら 恋人らしき人に運んでもらって逃げてしまった。あれは洪水のモンモランシーだったか。 特に興味もないのできれいに忘れることにする。 ルイズがこんな性格になったのは夢のせいであり、大本はこの使い魔であろう事は分かる。 最初は自分が変わることを恐れていたが、今では開放感のほうが強く感謝したいくらいだった。 しかしこのことを漏らすわけには行かない。 人を虐げることが趣味なんてとてもいいとは言えない事であるし、 そのような影響を与える使い魔も危険視されてしまうだろう。 初めての魔法の成功例であるし、守らなくてはいけない。 そのとき使い魔の目が開いた。 使い魔が身を起こしこちらを見る。 「やっと目が覚めたようね。あんたを召喚したのは私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。 私の使い魔としてこれから過ごしてもら・・・・・」 得意になって説明していたルイズだが目が合った時大きな思い違いをしていたことに気付いた。 凄まじい圧迫がありルイズが圧倒的に下だと分かってしまった。使い魔と主は対等であり、お互いが補い合うと言われる。 そう考えると目の前の亜人は使い魔であって使い魔ではなくなる。この使い魔に自分が何を補えると言うのだろうか 混乱するルイズを尻目に使い魔は天上に頭が当たらないように中腰に立ち上がり 虚空に手を入れマントや兜を取り出し身に付けていく。 いきなり行使された魔法に驚きを隠せないルイズはさらに混乱する。 使い魔は違和感を感じたのか自分の左手の甲を見ている。 気に入らないのかフンっと鼻を鳴らし次の瞬間すべてを凍て付かせる波動を放った。 体に凍えるような感覚が走ったと思うとさっきまで自分にあった高揚感がほぼなくなり、 ルイズは使い魔との契約が切れたことに気付く。 そしてルイズは使い魔からの影響がなくなり、この2日間自分が考えていたことを思い出し、 自分の内面が変化してしまっていたことに改めて恐怖する。 使い魔が放ったその波動は、それだけに留まらずそのまま半径500メイルほどまで広がり 範囲内のすべての固定化や使い魔の契約を断ち切ってしまった。 そして黒い気配がハルケギニアと呼ばれる世界に遍く広がる。 それに人は全く気付かなかったがモンスターには多大な影響を与えた。 学院で使い魔と交流を行っていたらいきなり契約を切られ、メイジたちは驚いたが、 さらに驚くことにその使い魔たちが襲い掛かってきた。 信頼を置く使い魔が突如襲い掛かってくるのだ。生徒たちは対応できずに殺されていく。 被害は世界中に拡大している。 首都では使い魔ではない竜騎士隊のドラゴンなど飼いならされているだけのモンスターは近くの人を襲い、 野生のモンスターも積極的に群れを成して村や町に襲い掛かる オールド・オスマンはその様を鏡を通して呆然として観ていた。 オスマンの使い魔は契約を解かれ、すでにどこかに逃げてしまった。 なぜ自分は最初に感じた悪寒を信じなかったのか。なぜガンダールヴであるという事だけであの使い魔を安全と取ってしまったのか。 ヴァリエールの使い魔が使い魔の契約を破棄することができるとは考えもしなかった。 眠りの鐘をすばやく使用し学院中の使い魔に眠りを与える。 遠見の鏡の中でヴァリエールの使い魔である亜人が眠っていないことに舌打ちする。 学院全体に逃げるように呼びかけた後、 窓から飛び出し医務室に突っ込む。 そこにはルイズに現状を伝え絶望に追い落としているものがいた。 無防備な背中に魔法を打ち込むが当たった瞬間に掻き消えた。 注意をこちらに向けただけであったようだ。 生半可な魔法では打ち消されることを悟り、その処理容量を超えるであろう大規模な魔法のための呪文を紡ぎながら外に出る。 この魔法で周りに被害が出るかもしれないがここで早く倒さなければもっと悲惨なことになるのは目に見えた。 亜人は動きにくそうなローブを振り乱しながらベッドを吹き飛ばし恐ろしいスピードで走ってくる。 するどい爪で引き裂かれそうになるのを寸前で避けたと思うと口が膨らんでいるのが見える。 吹雪を吐いてきた。 防御魔法は無意識に発動できる簡単なものを使い勢いに逆らわず距離をとる。 杖を持っているほうの手を吹雪に当たらないように動かしながらさらに呪文を唱える。 簡単な防御魔法だけで吹雪に晒した片手は凍り付き崩れてしまったが詠唱は終わった。 亜人を中心とした場所に灼熱の風を解き放つ。 固定化の解けていた学院、眠っている使い魔、そして残っていたメイジたちは一瞬で灰燼に帰す。 しかしその中を笑いながら向かってくるものがいた。 その影が炎の嵐を抜けた瞬間、マヒャド!と声が響き3メイル以上はある巨大な氷が無数に出現し嵐のように襲ってくる。 さらに口から吹雪を吐き出す。 風の魔法でガードしながらも氷の嵐に吹き飛ばされ、魔法が全く効かないことを認識する。 ならばと土の魔法で50メイル近い土でできたゴーレムを作り出す。 ゴーレムに拳を振り下ろさせ、亜人を吹き飛ばそうとするが俊敏な動きで避けられ当たらない。 亜人がゴーレムの下に来たとき、オスマンはゴーレムの土を錬金し足を崩し胴体以上を鋼鉄の塊にし地面との間で潰そうとする。 ・・・・受け止め逸らされる・・・・そのままゴーレムの上半身は地面に転がされる。 ゴーレムの肩に乗っていたオスマンは投げ出され自身の行動を振り返り眉をしかめる。 できるだけ早く倒すために大規模な攻撃魔法を使ったが亜人に効果はなく、 ただ学院に残っていた貴重なメイジを殺してしまっただけであった。 自身の使い魔に殺されず、オスマンの魔法にも巻き込まれなかったのは4割がいいところだろう。 まさか自分がこんなに焦って若造のような失敗をするとは・・・ しかし相手の攻略も立てることができた。ゴーレムの攻撃を避けたと言うことは物理攻撃は無効化できないということだ。 土のメイジを多く集め、巨大なゴーレムで攻め立てればなんとかなると考える。 一旦態勢を立て直すため、フライの魔法で逃げようとするが突如壁のようなものにぶつかり落ちてしまう。 何が起こったのかが分からず混乱するが、視線を感じ、振り返ると使い魔が覚めた目でこちらを見ていた。 「……知らなかったのか…?大魔王からは逃げられない…!!!」 それから数日後モンスターの大群がトリステインの首都を襲い陥落。 そしてすべての国の首都、都市に魔王の幻影と宣言が溢れる。 「我が名は大魔王ゾーマ。闇の世界を支配するもの。 わしがいる限り この世界は闇に閉ざされるであろう。 さあ 苦しみ悩むがよい。そなたらの苦しみはわしの喜び。 命あるものすべてを我が生け贄とし 絶望で世界を覆い尽くしてやろう。 我こそはすべてを滅ぼす者。 挑戦者がわしの前に現れる日を楽しみに待っているぞ・・・ わはははははは・・・・・・っ!! 」 トリステイン城は魔王城と呼ばれ、トリステインと呼ばれた一帯は闇で閉ざされることとなる。 闇に閉ざされた地方からいままで見たことのなかったモンスターが溢れ、割拠し、 人々は安息の地を失ってしまった。 自分が魔王を召喚してしまったからこのようなことになってしまった。 そう自虐するルイズは炎の嵐をひどい火傷を負うだけで生き残っていた。 契約破棄される前にもらっていた闇の衣の残滓がのこっていたためであろう。 まだ無事な国ではゾーマ討伐に軍を派遣しようとしているらしい。 自分は今度こそ使い魔を召喚してみせ、 少しでも討伐に役立つようにがんばろうと考える。 しかし召喚されたのは見たことない服装の平民であった。 完 前ページ次ページ絶望の使い魔
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前ページ次ページゲーッ!熊の爪の使い魔 第五話 人気者のクマ さて、使い魔を召喚しての初めての朝、ルイズは不機嫌だった。 ベルモンドに抱きついているのに気がついて恥ずかしさの余り洗濯するよう言って追い出したのは、 いつも自分が起きる時間よりもずっと早かった。 おまけに頭に一度血が上ってしまったせいか目が冴えてしまい二度寝する気にもなれない。 ベッドに入ってもいないのにそのまま寝まきでいるのも何だったので結局自分で着替えた。 やはりあいつは床で眠らせるべきだったのだ。 そうすればこっちも朝飛び起きることはなかったしもっとちょうどいい時間にあいつに起こしてもらえて着替えもやらせておけたのに。 しかし自分のしもべである使い魔に抱きついて眠るなど何事だ。これでは主人としての威厳がないではないか。 そもそもあいつが悪いのだ。あんな、かわいくて、抱き心地がよくて、あったかくて、 ああ、昨日はほんとよく眠れたなあ…… 「ってちがーーう!!」 ずれていた思考からはっと我に返り大声でどなりルイズは再びベルモンドへの文句を考え出す。 だが結局はクマちゃんのかわいさに心を奪われ、その後またどなる。 このサイクルはベルモンドが洗濯を終え戻ってくるまで続いた。 独り芝居をしていたこともありおなかも減ったということで早速ルイズはベルモンドをつれて食堂へと向かおうと部屋を出た。 そこで、またしても不機嫌な顔になった。 「あら、おはようルイズ」 「…おはよう。キュルケ」 朝早くから不愉快な顔を見たからだ。 「いつになくかわいらしいじゃないあなた」 「どういう意味よ?」 「だってそうじゃない、こっちが噂の使い魔のクマちゃんなんでしょ。こんな大きいクマちゃんを引き連れてると小さくておこちゃまなあなたがより引き立って一層子供らしく可愛く見えるわ。ほんとピッタリの使い魔を召喚したのね」 「う、うるさい!」 そんな声を無視してキュルケは、今度はベルモンドのほうを見やる。 「でも改めて見るとほんとかわいいクマちゃんよねえ」 「おはよう、ボクベルモンドだよ」 「あら、きちんとしてるのね、主人とは大違いだわ。ルイズ、あんたにはもったいないんじゃないの?」 「なによ!うらやましがってもあげないんだからね!」 ルイズは先祖代々のいろいろなもの、特に男、を取られてきた因縁からとっさに声を上げた。 だが、キュルケはそんなルイズの危惧をあっさり否定した。 「別にうらやんでるわけじゃないわよ。別にかわいいのも嫌いじゃないけどあたしが真に求めているのは情熱。 あなたの様なお子様みたいにかわいいものにキャーキャー言うような安っぽい女じゃないの。 じゃあ、あたしの使い魔も紹介してあげる。まさに情熱にふさわしい使い魔よ。おいで、フレイム」 そう言ってキュルケは自分の召喚したサラマンダーを披露する。 そうして始まる自慢、それに対する文句。二人がぎゃあぎゃあ言っている中、 「遊ぼ、遊ぼ」 われ関せずとベルモンドは手をフレイムに差し出し話していた。 「はあ、はあ、もういいわ、行くわよベルモンドって何してんのよ、あんた!」 「何ってトカゲ君と遊んでるんだよ?ルイズも一緒に遊ぶ?」 言い合う二人が落ち着いた時にはベルモンドとフレイムはお手をしたりしてじゃれあっていた。 「するわけないでしょ!あんたもキュルケなんかの使い魔と遊ぶのなんかやめなさい!あんたもキュルケみたいに頭空っぽになるわよ!」 当然ルイズは怒鳴ってやめさせる。もともとベルモンドは賢そうにみえないと思ったのは内緒だ。 火トカゲと遊ぶクマちゃんの図というのもかわいいと思ったのはもっと内緒だ。 そんなこんなでルイズたちは食堂へ向かったのだった。 食堂ではルイズはもっと散々だった。 食堂に入るなり女子たちにベルモンドがキャーキャー言われ、やかましかったし、 今度こそ主人としての威厳を出そうと質素な食事を出したら女子たちに鬼畜外道を見るような目をむけられたり、 (正直これまでゼロと蔑まれてきたのが軽いくらいの強烈さだった) 挙句ちゃんとした食事を出そうとしたら 「僕は食事しなくても大丈夫だよ」 と言われてそもそもこんなことしなければよかったと後悔していた。 その後、ルイズの食事中ベルモンドは外に散歩に来ていた。 そこに飛来する一つの影があった。そしてそれはベルモンドの前に降り立った。 「きゅいきゅい」 それは大きい竜だった。 「わあ、おっきなドラゴンだ、すごーい」 「きゅいきゅい」 竜はベルモンドに顔を摺り寄せてくる。 「遊ぼ、遊ぼ」 そしてベルモンドも手を差し出して応える。 「きゅいー」 このまま二頭はしばらくの時間を戯れて過ごしたのだった。 その後一旦戻ったのち、 「ねえルイズ、おっきな竜さんとお友達になったよ」 「勝手に知らない使い魔と遊ぶんじゃない!」 「きゅいきゅい、おねえさま、とってもかわいいクマちゃんと遊んだのね!とっても楽しかったのね!」 「静かにして、出ないとお昼抜き」 それからルイズはベルモンドと一緒に授業へと向かった。 そこで待っていたのは、正反対の二つの反応だった。 「おい、なんだよルイズ、その使い魔は。そこらのやつに着ぐるみでも着せてきたのか?」 「キャー、かわいー!クマちゃんこっち向いてー!」 ルイズを馬鹿にするもの、ベルモンドに熱を上げるもの。 そんな中、ギーシュはそれまで話していたモンモランシーが自分そっちのけでクマに夢中になり出したことにショックを受けていた。 その後、教師のシュヴルーズによって強制的に黙らされたことでようやく授業が始まった。 そして系統やランクについての話が進み生徒たちがそれを聴く中、ベルモンドは、 「遊ぼ、遊ぼ」 他の使い魔の動物たちにちょっかいを掛けていた。 「ちょっとやめなさい、静かにできないの」 さすがに声をかけ咎めるルイズだったが、 「ミス・ヴァリエール、今は授業中ですよ。そんなかわいいクマちゃ…ゴホンゴホン、使い魔とおしゃべりしていい時間じゃありません」 それをシュヴルーズに見咎められ、そのまま錬金の魔法の実演を行わされることになったのだった。 それを聞いた瞬間生徒たちに恐慌が走った。 必死に止める生徒達。だが、シュヴルーズはそれを無視して強行させる。 生徒は遠ざかりルイズの近くにはシュヴルーズと、 「わーい、魔法?近くで見せて、見せて」 いつの間にか他の使い魔と戯れるのを止めていたベルモンドだけだった。 そしてルイズが呪文を唱えた瞬間爆発が起きた。 「ああーっっ!ルイズが錬金を失敗!いつも通りの爆発を起こしたー! 爆煙でよく見えないが彼女たちは無事なのかー!?」 出番だとばかりに「実況」の二つ名をもつ生徒が声を上げる。 「あ、あれ?なんともなってない。それになんだかあったかいものに包まれているみたいな」 だが、そんな心配をよそにルイズとシュヴルーズは無事だった。煙が晴れることで生徒たちにもその様子が見えてくる。 「ベ、ベルモンドだー!ベルモンドが二人を抱えてかばっているー!まさに使い魔の鏡だーー!」 二人を腕で抱え、背中が穴があいたりして少しばかりボロボロになったベルモンドを。 そんな様子にルイズも気付く。 「あ、あんた大丈夫なの?」 しかしそんなルイズの様子をよそにベルモンドは、 「くうーん」 と鳴くだけだった。 次の瞬間教室は生徒たちの声に包まれる。いつものように失敗して爆発を起こしたルイズを責める声、そして身を呈して二人をかばったベルモンドへの歓声や怪我を心配する声だった。 シュヴルーズも、 「な、なんてお利口で立派で勇敢なクマちゃんなんでしょう……」 とベルモンドに熱い視線を送っていたのだった。 結局騒ぎが落ち着いた後、爆発の片づけを罰としてルイズとベルモンドが行うことになった。 シュヴルーズはベルモンドも働くことになることが不満な様子だったが使い魔と主人の関係を考えしぶしぶ指示を下していた。 そうして二人で片付けをする中、ルイズは口を開き、話し始めた。 自分をいつもこのように魔法に失敗して爆発を起こすこと。 そのため成功率ゼロということでゼロのルイズと呼ばれるようになったこと。 これまで必死に勉強してきたこと。 それでもどうにもならなかったこと。 さらに話を進め、笑わば笑えと自虐的になってきたルイズに対して、珍しく静かに話を聞いていたベルモンドが口を開いた。 「魔法のことはよくわからないけどルイズは今まで頑張ってきたんだよね、ならこれからも頑張っていくべきじゃないかな」 「そんな知った風な口を利かないで!今までずっとやってきて、でもだめだったのよ!それをそんなに軽々しく!」 「じゃあ、なんでルイズはこれまで頑張ってきたの?ずっと成果が出なかったのに。 ルイズ、君も分かってるんじゃない、それでも今の自分を変えていくのに自分に出来ることはもっと勉強してもっと頑張ることだって。 そうやって前に進もうとすることだって。 だから今まで結果が出ていなくてもずっと頑張ってきたんでしょ。 だったらこれからもがんばっていこうよ」 「そんなの」 奇麗事だ、とは言えなかった。ベルモンドの言葉にはなぜだか強い説得力があった。 ステカセのかませにされ、牛のかませにされ、体内をリングにされ、真っ先にマスクを狩られ、象にはウギャアされ、 それでも進み続けて20年余り、ルイズの人生よりも長い年月を経てようやく扱いも良くなり人気投票も一位になった経験からくる説得力が。 結局ルイズは続きは口にできず、代わりにもっと前に言うべきセリフを口にした。 「あの、さっきはかばってくれてありがとう。背中もそんな穴が空いちゃって」 「気にしないで、ルイズ。さっきも言ったけど僕は平気だよ、鍛えてるからね。そんなことより怪我がなくてよかった」 そんな風に答えるのを聞いてルイズは、可愛らしいからとか愛玩的な意味ではなく初めて、 ベルモンドを召喚できてよかったと感じていた。 前ページ次ページゲーッ!熊の爪の使い魔