約 1,193,175 件
https://w.atwiki.jp/fate_despair/pages/57.html
[] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] ,. -‐===‐- _ '' ´ --- 、 `ヽ -‐' ヘ `゙'-、 `ヽ // `ヽ 丶 \ \ \ □マスターデータ / , ′ ′ 丶 ヽ \ ヽ / / ∧ ',l、 ,.斗匕 ',. ├─ □真名:ルイズ / / / / ', ハ八/ ヽ! ヽ ハ λ ヽー=≠ { 八 / i / |/ z≦ミ≠トゞ ! ', /. \ ├─ □性別:女 ` フ , .十廾升ト 、 | /.丿〆、__刈 从 ノ ヽ \ ', /! ヽ. ! z≠ミx ' ∨匕! ノ } \ └─ □属性:中立・善___ヽハ 乂〃ヾ丿', ´ / ! \ \ ヽ 从 !.\ 弋リ / _丿 ヽ ヽ `ヽ-‐……‐- ヽj ` ヽ ′__ / / ) ! ) ‐- ..,,_ _ j ハ `-` (´` ‐- ,,__ \ ノ ′ / □ステータス\..,,_____`'ー-、___/⌒=`≧=-‐へ \ ヾ / `ヽ \__r‐‐ 、__ __,r‐r 、 `ヽ \ \ └─(戦闘能力は持たない) \ γ´∠| _,. -厂 ∪、 i二二つ `ー..,,__ `ヽ \ \ ' \ ヽ 孑二二つ `ヽ \ \ ヽ \ \ \ ノ / √ \ ' ,丶 ヽ ',\ \__r一'`ー―一' ‐=ミ ̄ ̄ ヽ \ ) \ ∧ | ヽ \ / ll \ / ゙丶 ' ヽ \ i L ', ト __ /. ll ヽ 厶 `ヽ′ ',\ ヽ /  ̄ 一' 丿 〃  ̄/ ll / `ー | `゛¨‐- _/\ /| 〃 / 〃 | / r‐ ‐-..,,_____ | \ \__/ / | i j八 _ 丿\ \ | 厶イ / 〆 ヽj \ j丿 ,. -‐=‐- _ 八`ー-‐´ r‐..,,__ -‐== ヽ / \ / ∨`ヽ_ / _ `ヽ ゞ / \ / \ ⌒ ‐- ,,__\ i \ [] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] __ __ ,. '´ ` 、 / 、 \ / \ ヽ / \ ', / / / ヽ ', | | ! i ! ! ヽ 、 ! | !_| | ! /\__」⊥ | | ! ! | |`トハ V '" \ | | 八 □スキル ヽハ. 从代ト、 \| ,.ィ圻うト , / \ /〉 ハ Vr} v少/ / \ / ├─ □管理者特権:E-__,. -≦ ̄ / ! 、 / //\ ` ー――― ' ■■■より与えられた管理者特権。 / /ヽ、 。 / / \ 本来ならムーンセルの演算能力で改竄が可能だが、 / / }> ,. ィ / ,. ―气ヽ、 ,. '" ̄ 大幅に権限が低下しておりマスターの全情報の遮断のみである。――‐< , イ } i レ' / /| / ハ  ̄ ̄ ,. ィ" └くノノ/ ,.イ\| / } 、 __ ,. -<⌒ 本人の一切の情報は外部に漏れる事は無い。__ ,>く{ 八 / //!7V¨リ/ ハ \ ヽ ) 八 \ | / | くノ ハ \ ノ/ / ,.> 、 | ! `X’ ハ ` ー―― / ̄ .>ミ| | // \ ハヽ、___ ├─ □【閲覧禁止】【閲覧禁止】 | } |/ ./| ヽ/ \ 人 ヽ `ヽヽ 人______ノ | ∧ / \ \ ) ) 【閲覧禁止】【閲覧禁止】【閲覧禁止】【閲覧禁止】 }Y/ } ∨ / \ ハ / / 【閲覧禁止】【閲覧禁止】【閲覧禁止】【閲覧禁止】V ( /| _____ノ >イ⌒ ∧  ̄`ー-- 、__}. 【閲覧禁止】【閲覧禁止】【閲覧禁止】【閲覧禁止】 ,.><.,_ i /r―――< / ヽ ,>-、._ 【閲覧禁止】【閲覧禁止】【閲覧禁止】【閲覧禁止】 く.x‐―  ̄`¨`弋⌒\ ___人 \ / / ̄ ̄ / ∠/,.二、 } c ,∠/ / `ー 〉' / / `ー'´ /,. ‐―<}_r‐く_/ / \/ / 、 / /  ̄ ̄ ̄ ̄ Y /{ / ̄ ̄\ [] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] [][] ├─ □主人公補正:E New!! 逆境に対して打ち勝つ運命力。 どれほど絶望的な状況下でも僅かな勝機を見出す事ができる。 決して諦めない黄金の精神 ├─□固有術式:封神制度 神が化身、アバターを用いて自らの機能を制限する事からの術式。 神と強大化し過ぎたシステムが分割するのは良くある事であり、 相手とその権限を分割して処断する。 相手は半径30mに入った瞬間に令呪が使用できなくなる。 ├─□権能術式:神域拒絶 神と人を明確に区別する領域、神域そのもの。 本来は神と人は交わる事する許されない圧倒的なまでの格差であり、 同じの空間に存在する事すら許されない。 両者のマスターを人、サーヴァントを神と再設定する権能。 お互いのマスターは一切、お互いのサーヴァントに干渉できない。 それは敵味方無差別で適用され、補助も攻撃も等しく無効化される。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6713.html
GIFT支援!マルトー君バージョンで。 -- アーシア (2009-03-28 01 50 29) なんだこの禍々しくもかっこいいルイズ。惚れた -- 名無しさん (2009-03-28 02 23 31) うまこわすぎてちびりそうだった -- 名無しさん (2009-03-28 03 49 30) ふと空を見上げてこんなのいたら叫ばずにいられんでしょうねw かっこいい -- 名無しさん (2009-03-28 10 09 16) なぜかリッカーがよぎた -- 名無しさん (2009-03-28 12 39 00) ↑あっ!た、確かに似てる。全身ピンクだったら……。 -- 名無しさん (2009-03-28 14 04 50) 再開して欲しいですね -- 名無しさん (2009-03-28 15 37 06) 俺も再開キボー。そして今回の絵サイコ -- ミスターぷよ (2009-03-28 16 04 41) 『蒼い使い魔』に続いて人気のある作品ではないだろうか? -- 名無しさん (2009-03-28 17 59 38) 勝手にランキングすんなよ。おっと、絵は素晴らしいぜ! -- 名無しさん (2009-03-28 18 12 17) ↑↑おっと、ラスボスの人を差し置くのはそこまでだ。 この絵はテラスバラシス -- 名無しさん (2009-03-28 21 53 03) 魅せますなあ -- 74 (2009-03-29 10 34 22) 美しき異形。 -- 名無しさん (2009-03-30 00 19 17) 何か魅かれる絵。 -- 名無しさん (2009-03-30 01 36 03) 不敵なマルトー君の顔が良いですな -- 名無しさん (2009-03-30 01 47 05) 青より黒のベノムの方がかっこいいと思うなぁ。ということで、GJ -- 名無しさん (2009-03-30 13 39 06) 再開して欲しい欲しい~ -- 名無しさん (2009-03-30 21 11 23) いいところで中断されてんだよな -- 名無しさん (2009-03-31 23 45 38) ↑そのとおり!! -- 名無しさん (2009-04-02 22 28 38) 禍々しくも美しいルイズだ。惚れる… -- 名無しさん (2009-04-03 21 37 19) 超クオリティ!GIFT再開祈願! -- 名無しさん (2009-04-06 00 19 23) 再開希望だな -- 名無しさん (2009-04-08 12 17 19) GIFTルイズはどれもっカッコイイんだよな -- 名無しさん (2009-04-11 18 51 12) スパイダールイズに、コメントと言う名のGIFT(贈り物)だ。 -- スナゼロ (2009-04-14 20 46 26) 邪悪系ルイズが大好物です。 -- 名無しさん (2009-04-17 21 53 27) 続きまだかなぁ・・・ -- 名無しさん (2009-04-17 22 31 50) 完全にルイズが侵食されてる でもそれがイイ -- 名無しさん (2009-04-20 19 28 33) このルイズがトリステインに何をもたらすのか? -- 名無しさん (2009-04-22 00 27 02) 続きまだかな〜 -- 名無しさん (2009-05-17 00 13 53) やぁ、これはイイ黒ルイズですな -- 名無しさん (2009-05-23 00 38 37) ココまでスカッとする作品はなかなか無いね。 -- 名無しさん (2009-05-24 09 27 58) ヴェノムんかわいい?よヴェノムん -- 名無しさん (2009-05-25 03 05 25) スパイダーマを呼ばねば -- 名無しさん (2009-05-27 06 19 07) やっぱりかっこいいな -- 名無しさん (2009-10-16 21 48 33) COOL!! -- 名無しさん (2009-10-29 11 59 31) わたしに惚れたら、やけどするわよ -- 名無しさん (2010-11-15 14 11 06) いい絵だ、続きが読みたくてしょうがない -- 名無しさん (2011-03-14 21 33 36) これも続き読みたい -- 名無しさん (2011-03-25 19 28 42) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1431.html
前ページ次ページ超1級歴史資料~ルイズの日記~ ある日 これは、ある日の物語である。 恐怖とは耐えるものではなく、克服するモノである。とは誰の言葉だったか。 誰だかわからないが、たぶん本当の勇気を知る人だったのだろう。 そんなわけで私は恐怖を克服するために留守中の記録ディスク、例の3本を調べて見ることにしたのである。 べ、別にイケない好奇心が沸いて沸いて仕方がないんじゃないんだからねっ!! そんなこんなで窓閉めてドア閉めてカーテン閉めて、×BOXにDISCを放り込んでスイッチオン。 モニターに映像が映し出される。 四角の中にあの字の入ったロゴが出る。凝ってるな。 尋問中のロングビルが映し出される。尋問しているのはワルド様だ。 ハズレだ。ちっ カツ丼を奨められてる。アレっておごりじゃないのよね。 フーケがふくれっつらでカツ丼を突っ返すと、 ワルド様は懐からマヨネーズを取り出してぶっかけて自分で食べてしまった。 ワルドさま・・・・・。ナニやってんのかしら。私恥ずかしい。 その後、レコンキスタの使いを名乗る傘をかぶった鎧の男WDによって牢獄から解放されるフーケ。 隠密用『うぉーどれす』:『静寂』とテロップが入った。 そしてそのままラ・ロシェーヌで待ち伏せを命じられる。 命令はやってくるピンク髪、つまり私たちを襲えというものだ。 命を救われ、復讐でき、大金を弾まれ、よいパトロンもつくと言われ、了解するフーケ。 ラ・ロシェーヌの宿屋の一室を借り切り、街道を見張っているフーケ。 5分後 フーケに動きなし。 10分後 動きなし。アホらしくなったので早送りすることにする。 1時間後 動きなし 半日後 ダレてきている。 1日後 傘の男が現れて、いらただしげに命令の変更が命じられた。『大木』を盗めというのだ。 さすがに躊躇するフーケ。 貴族を襲うならともかく、歴史的な港を破壊するのは貴族だけではなく平民にも影響が出る。 盗賊としてのお尋ね者から、国の威信をかけたテロ犯にランクアップしてしまう。軍や憲兵に追われることになる。 男が実名で呼びかけるマチルダ・オブ・サウスゴータ。フーケはアルビオン人だったのか。 そして彼女の家族はティファニアというそうだ。 家族がどこにいるのかはまだ知らない、だが私はBALLSの網の一部を握っているので、見つけるのは時間の問題だ、と脅されてる。 ボイスチェンジャーで声を変えているが、私にはわかる。こいつは悪党だ。メイジの風上にも置けない。 フーケがあきらめて折れた。 ゴーレム出して、ラ・ロシェーヌの木の枝をもぐの手伝わされてた。 なんてことだ。 2日後 フーケが悪態つきながらいなくなった。 なるほど………これはたしかに放置プレイだ。 始めだけは。私はネタ動画見るテンションで見てましたよ。 後半は裏事情の暴露だ。 ミス・ロングビル、もといフーケが脱獄したのか、これは注意しないといけないかもしれない。 あと、家族のために脅されていた。傘の男のBALLSの情報網を握っているという言葉も気になる。 あの傘の男には貴族としての誇りはないのだろうか。 あと、姫様の手紙の件がいつのまにか情報漏れしていたことも気になる。 フーケは尻尾をつかまれることになったことが原因でBALLSが嫌いになり、BALLS排斥論者になってるらしいが、余計に嫌いになってるだろうな。 次だ、気を取り直して次いってみよう!確立2分の1! さあ、百合が出るか、蛇が出るか…………。 画面一面に映る肌色のもの。ちょっとかぶりつき。 カメラがゆっくりと引きになっていく。だんだんと見えてくる。前ふり長い、はよしろ。 だんだんと見えてくる、汗ばんだ肌。躍動的に動いている。 だんだんと見えてくる上半身裸の背中。 なんだかいけないもの見てる気がしてきた。そわそわ。 肌がキレイでつるっとしてる。 だんだんと見えてくる上半身裸のつるっとしたハゲアタマ。 ………………………………………。 ………………………………………。 蛇がでた。コッパゲだ。しかも何故か髪の毛を植える前のコッパゲだ。何故脱いでる。 「おはよう!ミス・ヴァリエール!!」 おいおい、いきなり名指しで呼ばれましたよ。一体どういうことですかコレは。 「今回の任務を伝えよう。」 何の任務ですか。それはいいから画面に顔近づけすぎです。マイク吹いてますよ。 「魔法学園中の靴下を集めろ!」 いやです。いやすぎます。もう勘弁してください。 そもそも学園中の靴下はアンタが狩り集めて品薄状態です。 「なお、このDISCは自動的に消滅する」 な 爆発 …………………………。 わ、わたしの×BOXが・・・これでは最後の一枚が見れない。 そんな光景を見ていたグランパ曰く、これは仕様です。なめんな。 …………………………。 ってアンタ見てたの!?ドアが開いていた!?しまった鍵かけ忘れてた!! ナニ見てんのよ! 出て行きなさい!!出て行かないなら私が出て行くわぁ!! 衝動的に杖と本を引っつかんでダッシュ。 寮から出て、最近なんか近代的になっている研究室に飛び込む。 エオルー・スーヌ…… くねくね踊ってるもじゃ毛コッパゲ上半身裸(ら)に爆発! 轟音 発明は爆発だ アフロになって散るヅラ頭。 ああ、夢にまで見た初めて系統に目覚める瞬間を、まさかこんな形で迎えることになろうとは…………。 …………。…………。…………。…………。 系統に目覚めたけど別にどうってことはないわね。私が悪いのか、場所と時が悪いのか…………。 ともかく、これで明日から安心して靴下が履ける。 アレ?そもそも私は何してたんだっけ? 次の日 コルベール先生はアタマも性格も元のコッパゲに戻りましたが、くつした狩人なのは変わりませんでした。 最後の一枚のDISCもいつの間にかどこかに消えていた。 私が18歳未満だったかららしい。なら最初から出すな。 ある日 モンモランシーが水兵ふくにスカートとマントという格好で授業に来ていた。 ギーシュはメロメロだ。マリコヌルは息が荒い。コルベール先生はカモメのアップリケ靴下に釘付けだ。自重自重。 私が授業でコモンマジックを成功させたらみんなビビッていた。失礼な。 すると、まっさきにキュルケが拍手し始めた。 続いてグランパ、ギーシュ、タバサ、先生、モグラ、竜と拍手し始めた。 みんなも拍手し始めた。集団心理というヤツだ。大勢がやってるのなら、自分もやらないと居心地が悪くなるというアレだ。 最後にシブイ顔でモンモランシーも拍手し始めた。だからギーシュとはなんでもないんだって。 「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとうきゅいきゅい(CV若本)」 「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「きゅいきゅい」 「べ、別にうれしくなんかないんだからね………」 拍手が続く。 「……………ありがとう」 私は補完された。 さて、めでたく補完はなされたものの、私が系統魔法を使えないという事実は残るわけで、どうにかならないものだろうか? 虚無の魔法を使いこなせるようになったら、他の属性の魔法も使えるようにならないだろうか? フライとか、フライとか、フライとか 錬金とか、錬金とか、錬金とか せめて見かけだけでも普通のメイジらしく見せたいものだ。 そんなことを考えながら私は机にペンを置いた。 お、脳年齢がエレオノール姉さまと同い年になった。 翌日 BALLSたちが何故かHAYAKAZEと金延べ棒を持ってきた。 コレで私に何をしろと言うのだろう? モンモランシーの服装は水兵ふくのままだったが、ギーシュが失言して怒らせると、元の学園制服に戻っていた。 どうもギーシュとの仲の進展に関係があるらしい。 ちなみに、ドキドキしてじらされて外されたからこそ虚無が発動したのでした グランパの性格が悪ければ計画通り!といっていただろう 前ページ次ページ超1級歴史資料~ルイズの日記~
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7820.html
前ページ次ページ五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔 第4夜 やります 翌朝。 着替えを済ませ、顔を洗い、二人は食堂に向かう。クリオは部屋に待機する。まだタマゴなので食事の必要はないのだ。 道中同じ方向へ歩く生徒からひそひとと話が漏れ聞こえてくる。 「ほら、昨日の……」とか「ぱねえっす」とか「太もも」とか「尻神様」とか聞こえてくる。 後の二つは置いといて、自分の使い魔が良い意味で噂になっているので、ルイズは鼻高々である。 「ゼロのルイズ、とうとう使い魔にも負けちゃったぜ……」 そんな声が聞こえてきたので、容赦なく当人を爆発させた。もちろん命までは取らない。 使おうとしたのは『ファイヤーボール』だが、結果はいつもの通りの爆発だった。 ルイズは一抹の黒い感情をくすぶかせながら、食堂に向かった。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします」 祈りの声が終わり、朝餐が始まる。黒いマントが並ぶ二年生のテーブルに、一つ浅葱色のマントが混じっている。 いわずもがなマルモだ。 マルモは美少女な見た目ではあるが、見た目以上に大食いである。数々の修行や冒険で小食でも実力を発揮できるようになってはいるが、逆にそれらがマルモを大食いにさせていた。 マルモは次々にパンや肉を口に運んでいく。周りの生徒たちは呆気に取られていた。 そして、やや離れた所からそれを観察するのはタバサとキュルケ。タバサはマルモ以上に食事を進めている。 「あの娘、あなたほどじゃないけど結構食べるわね」 「負けられない」 今朝の食事はいつもより残飯が少なかったそうな。 朝食が済むと、生徒と使い魔は授業のため教室に移動する。その中にはマルモの姿もあった。 石造りの階段状の教室にルイズとマルモが現れると、先に教室にいた生徒たちが一斉に目を向けた。皆興味深そうな視線である。 一方のマルモは、生徒たちの使い魔に注目した。フクロウや猫などの魔に通じていない動物もいれば、ダークアイのように浮遊する目玉の生物もいれば、ライオンヘッドのような獣もいる。人間の使い魔はマルモだけだった。 ルイズが席の一つに腰かけ、マルモはその隣に坐る。本来はメイジの席であり、使い魔は坐らないのだが、食堂では坐るのに教室では坐らない理屈はないと判断して坐った。事実ルイズも注意はしなかった。 しばらくすると扉が開き、ふくよかで優しそうな中年の女性が入ってきた。帽子を被り、紫のローブに身を包んでいる。 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んだ。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 すると、シュヴルーズの目がマルモに止まった。 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 とぼけたような声である。感情や魂の機微に敏感なマルモはその声に害意のないことはわかっているが、周辺の生徒たちにとっては格好の切り口となり、教室中がどっと笑いに包まれた。 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、メイジを雇って連れてくるなよ!」 太った少年が囃し立てる。ルイズが立ち上がろうとすると、マルモがそれを制して立ち上がった。 「五月蠅い」 その言葉は教室の隅々まで通り、教室中の笑い声が一瞬にして収まった。マルモの魔法の力が宿る言霊が教室を支配した。 「注意してくれてありがとうございます。では、授業を始めますよ」 シュヴルーズは、こほんと重々しく咳をすると、杖を振った。机の上に、石ころがいくつか現れた。 「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・マリコルヌ」 さきほどルイズを馬鹿にした少年が当てられた。 「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです」 シュヴルーズは頷いた。 「今は失われた系統魔法である『虚無』を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知っての通りです。その五つの系統の中で『土』は最も重要なポジションを占めると私は考えます。それは、私が『土』系統だから、というわけではありませんよ。私の単なる身内びいきではありません」 シュヴルーズの話はなおも続く。 だがマルモは、シュヴルーズの話よりも、隣のルイズの方に気を配っていた。 さっきの嘲笑のせいで、ルイズが負の感情に支配されつつあるのをマルモは感じていた。 そのルイズの現在の心境は、劣等感が台頭しつつあった。今朝食堂にいく途中の生徒の言葉。そしてさっきの教室での出来事。 賛辞の言葉も、畏敬の念も、全てマルモへのもの。ギーシュとの決闘で、わたしはあんな鮮やかに勝てただろうか? さっきの教室の騒ぎを、わたしの言葉で抑えられただろうか? 否。わたしはマルモに到底及ばない、敵わない。魔法の才能、実力、そして人としての強さ。どれもこれも劣っている。 優秀な姉と比較されたときとはまた別の劣等感が、嫉妬が、どうしようもない怒りが、次々と湧き出てくる。 そしてその矛先がマルモに向かおうとしたとき――ルイズは激しい自己嫌悪に襲われた。 自分はなんてことを、マルモは何も悪くない。悪いのは私の無能無力、ゼロの才能。使い魔にも劣るゼロのルイズ。 「ミス・ヴァリエール! 聞いていますか?」 「は、はい!?」 自分の世界に浸っていたルイズは、授業を聞いていなかった。 「ちゃんと授業に参加してもらわないと困りますわよ。では、あなたにやってもらいましょう。 ここにある石ころを『錬金』で望む金属に変えてごらんなさい」 「わ、わたしがですか?」 「そうですよ。他に誰がいるというのです」 ルイズがとまどっていると、キュルケが困った声を上げた。 「先生」 「なんです?」 「やめといた方がいいと思いますけど……」 「どうしてですか?」 「危険です」 教室のほとんど全員が頷いた。 「危険? どうしてですか?」 「ルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ。でも彼女が努力家ということは聞いています。さあ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」 「ルイズ。やめて」 キュルケが蒼白な顔で言った。 しかし、ルイズは立ち上がった。 「やります」 そして、緊張した顔で、つかつかと教室の前へと歩いていった。マルモはそんなルイズを心配して見詰める。 他の生徒たちは椅子の下に隠れたりしていた。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 ルイズは魔法に意識を集中させる。ここで成功しなくては、貴族として、マルモのご主人様として。マルモに合わせる顔がない。 ルイズは目をつむり、短くルーンを唱え、杖を振り下ろす。 その瞬間、机ごと石ころは爆発した。 その爆風はルイズとシュヴルーズを黒板に叩きつけ、椅子の下に隠れた生徒にも被害が及び、血が流れる。大小様々な使い魔が暴れだし、さらに被害が拡がっていく。 マルモは飛び出してルイズに駆け寄った。 ルイズとシュヴルーズは気絶しており、二人とも机の破片が当たったのか所々流血している。近くの生徒も頭から血を流して朦朧とし、教室の後ろにいた使い魔も暴れて傷ついている。 マルモはとっさに呪文を唱える。光が教室中のあらゆる生物を包み込み、傷を癒していく。全体回復呪文ベホマラーの効果だ。 ルイズの傷がふさがったのを確認して、マルモはほっとした。覚醒呪文ザメハを唱えてルイズとシュヴルーズを眠りから覚ます。 「あ……れ、マルモ…………?」 ルイズは目の前のマルモに少々驚いたが、すぐに事態を察した。 「そっか、わたし失敗しちゃったんだ」 呆けたようにルイズは呟く。 目覚めたシュヴルーズは自習を言い渡して教室から出ていってしまった。ルイズは罰として魔法を使わずに教室を修理することを命じられ、他の生徒と使い魔も教室を後にする。残ったのはルイズとマルモだけになった。 二人は黙々と作業に取りかかる。ルイズは爆発による煤を拭き取り、マルモは新しいガラスや机などを運んでいる。並の戦士よりは力のあるマルモにとってこんなことは重労働ではないが、ルイズには罪悪感が積もっていく。 やがて大まかに終わったところで、ルイズが口を開いた。 「ごめんなさい」 「……ルイズ」 「わたし、やっぱり駄目だった、ゼロのままだった。こんなわたしじゃ、マルモのご主人様だなんて、おかしいよね」 「ルイズ」 「ごめんなさい、マルモ。わたしなんかの……」 「ルイズ!」 マルモの大声にルイズはびくっと身がすくむ。今のマルモには食堂でギーシュに決闘を挑んだときのような意志の強さがあった。 「私は、ルイズに謝られる筋はない。私は自分の意思でルイズの使い魔になった。ルイズが謝る必要ない」 「でも! わたしはマルモに釣り合うようなメイジじゃない! わたしは、わたしは……」 糸涙が頬を伝い、零となって床に落ちる。そしてルイズは脱兎のごとく教室から駆け出した。 「ルイズ!」 すぐさまマルモも後を追うが、地の利はルイズにあった。上手い具合にマルモの追跡をかわし、マルモを撒く。 やがてルイズを見失ったマルモは足を止めて、別の方法で探すことにした。いかにマルモが賢者とはいえ、万事魔法で解決できるわけでもなく、人を探す魔法などマルモは使えないし知らない。 だが、マルモ独特の第六感ともいうべき能力がある。他の魂の存在を感じ取ることができるのだ。会ったこともない者の魂は漠然としかわからないが、近しい者だったらおおよそ見分けることができる。 目をつむり、意識を広げる。すると、すぐにルイズは『見つかった』。その場所は――。 ルイズが走りに走り、辿り着いた先は火の塔の階段の踊り場であった。この時間帯は、ほとんどこの場所に寄る人間はいない。 二つある樽の一つにルイズは入って隠れた。 そして、嫌が応でもさっきの教室での出来事が思い浮かんでくる。 わかっている、マルモの言葉が正しくて、本当の気持ちだってことは。 でも、わたしの気持ちも本当の気持ちだ。マルモがわたしに忠実だから、マルモがわたしに好意があるから、余計に心に刺が増えていく。マルモが素晴らしいほどに、わたしの嫌な所が見えてくる。 ああ、自分はなんて嫌な人間なんだろう。 「ルイズ」 びくっとルイズは身を振るわせた。樽の外から声が聞こえてくる。 マルモだ。 「ルイズ、話を聞いてほしい」 黙ったまま、ルイズはやり過ごそうとしている。マルモの声がルイズの胸を締め付ける。 「ルイズ」 とうとうルイズは耐え切れなくなって、樽の蓋を弾き飛ばして反射的に立ち上がった。 「ルイズルイズ五月蠅いわね! 何よ!」 ルイズはマルモの目を睨もうとしたが、代わりに床に目を向ける。今はマルモの目を見れそうにない。 「わかってるわよ!! マルモが正しくて、良い使い魔だってことは!! でもね、わたしの気持ちもどうしようもないくらい、真実なのよ! わたしはね、ずぅっと魔法ができなくて、努力して努力して、それでもまだ使えないの! マルモみたいな人には、わたしの気持ちは絶対わからないわよ!!」 一気にまくし立てたルイズは肩を上下させ、唾を飲み込む。 マルモはそんな様子のルイズに責任を感じていた。また再び自分のせいで大切な人を悲しませてしまった。 そのときの自分は、その人のもとから去ることで、解決したつもりになった。 しかし、果たして今回もそれで解決するのだろうか? 自分がルイズの目の前から消えれば、それでルイズは助かるのだろうか? 「ルイズ」 「……あによ」 「とりあえず樽から出よう」 言われてから、ルイズは自分が樽の中に立ったままであることに気付いて赤面した。 マルモとルイズは寮に戻り、部屋に鍵をかける。部屋にはマルモとルイズとクリオだけだ。 二人はベッドに腰かけ、横に並んだ状態になる。 「ルイズ、今から私は話をするけど、無視しても構わない。ここは元々ルイズの部屋だから、私を出ていかせてもいい」 「……わかったわよ」 そんなこと、できるわけないじゃない。 「私はルイズの悲しむ顔が見たくない。でも、私がいるせいでルイズが悲しむのなら、ルイズのもとを去ろうとも考えた」 「そんな! マルモがそんなことする必要ないわよ!」 悪いのは全部わたしだ。 「でも、それでルイズが悲しまなくなるかといえば、そうじゃない」 確かにわたしが魔法を使えないという事実は変わらない。 「だから、私は決めた。ルイズに修行をつける」 は? 「私の師匠も賢者だった。私も修行して賢者になった。だから、私もルイズに修行させて立派な魔法使いにする」 「……マルモ、わたしの話聞いてなかったの? それこそわたしも幼い頃から訓練してきたのよ? それにマルモは系統魔法を使えないじゃない」 「確かにその通り。だけど私は色んな所を旅して、色んな経験をしてきた。それを生かす」 「具体的にどうやって?」 「ルイズと一緒に冒険する」 「へ?」 「ルイズに足りないのは経験値と修行の質。修行の量だけはおそらく私と同じくらいだけど、手法に問題があるのかもしれない」 「…………」 事実ルイズはひたすら魔法を唱えることを繰り返してきた。もちろん読書で魔法について調べてもみたが、失敗による爆発の記述がなかったので結果としてそうなってしまったのだ。 でも、『賢者』を自称するマルモなら、異世界からやってきたマルモなら、違った方法を示してくれるかもしれない。 「……わかったわ、マルモ。わたし、マルモの下で修行する」 「ありがとう、ルイズ」 「それじゃあ、具体的にはどうすればいいの?」 「まず、私がルイズの実力をよく知ることが大切。だから……」 マルモはルイズに杖先を向けた。 「えっ、えっ?! ちょっとマルモ?!」 ルイズは飛び退ろうとしたが、マルモの呪文の方が早かった。 「モシャス」 「いやーーーーーーっ!! てあれ?」 ルイズの身には何ともない。むしろマルモの方がぼわんと煙に包まれた。 そして煙が晴れると――ルイズの目の前に、ルイズがいた。 「わ、わたし?!」 「そう。今の私はルイズ」 「きゃっ」 ルイズの目の前のルイズが、ルイズと同じ声で返事をした。 「マルモ?」 コクリと目の前のルイズが頷く。 「これは変身呪文モシャス。姿形だけじゃなくて、能力もそのままになる。当然、魔法も」 「へえーー……マルモってそんな凄い呪文も使えたのね」 系統魔法にも『フェイス・チェンジ』という呪文があるが、顔を変えるだけで体形や声までは変えられず、能力など況やである。 目の前のルイズは、少し腕を振ったりしたり首を捻ったりしていた。 「……確かにルイズは呪文を使えないみたい」 「あう」 目の前の自分に言われると少しショックだ。 「でも、魔法力はとても多い」 「精神力のこと? それは多分、今まで魔法が使えなかったせいね。使わない精神力は溜まる一方だから」 「精神力? 使わないと誰でもこうなるの?」 「うーん……それはちょっと……。なにせ十六年も魔法を使わないメイジなんて今までいなかっただろうし」 「私はこの世界の魔法について詳しいことはわからない」 「それじゃあ、どうせ今日図書館にいくんだから、勉強してみる?」 「でも、私のルーンを調べる方が……」 「魔法についてわからないとルーンについてもわからないわよ。ほら、ちょうど昼食の時間だし、さっさと食べてさっさと勉強よ」 「わかった」 「わかればよろしい。……マルモ、ありがとうね」 「だって、私は……」 「ルイズの使い魔、だからでしょ?」 笑顔で答えるルイズに、頷きで答えるマルモ。 雨降って地固まった二人は食堂に向かった。 ※モシャスについて ゲームのドラクエではMPまでは反映されません。この作品でのオリジナル設定です。 前ページ次ページ五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5788.html
前ページ次ページDeep River 進級がかかった使い魔召喚の儀が無事終わったことで、学院の彼方此方にはほっとする者達、これから過ごす使い魔との日々に思いを馳せる者達の姿があった。 ただ、たった一人だけルイズは夕陽の射し込む自室で頭を抱えていた。昼間自分が召喚した亜人の少女は一体何なのだろう?角はあるが華奢な体躯と美しい容姿からして鬼ではない。かと言って人間でもない。 自室に帰ってから様々な絵図付き辞典で調べたものの、ヒントを得られる様な物は何も無かった。また発する言葉は意思疎通としては全く役に立たない「みゅう」の一言だけ。 それに召喚時、身に付けている物が何も無かった為に何処から来たのかもさっぱり不明だ。おまけに……コントラクト・サーヴァントの時に見た、少女の体から伸びる不気味な透明の手は何だったのだろうか? 一度目を覚ましはしたがまた直ぐに気絶したために、今は確か医務室で横になっている筈……そろそろ迎えに行くべきか? 解決の糸口が何一つ見えて来ない謎について考えていると、部屋の扉が軽くノックされた。誰だろうと思いながら扉を開けると、そこには召喚された少女を「レビテーション」で連れて来たキュルケが立っていた。 笑顔で隠そうとしているが、なんだか疲れきった様な表情をしている。 「はい。あなたの使い魔。本塔の医務室から連れてきてあげたのよ。感謝しなさいよねー。」 そう言いながらキュルケはずかずかと部屋に入り込み、少女をルイズのベッドに横たわらせる。それはとても安らかそうな寝顔だった。美しさも加味すれば古代の宗教絵画だって裸足で逃げ出すかもしれない。キュルケは続ける。 「ルイズ。この子は手がかかるかもしれないわよ。」 「な、何でよ?」 「ただの従順そうな獣じゃなくて亜人だし、何を言っても言葉は通じないし、おまけに……」 「おまけに、何?」 ルイズがそう言うと、キュルケは顔を少し赤らめながら、ルイズに小声で耳打ちした。 その内容にルイズも赤くなる。 「ベッドでやらかしたですって?!」 「シーッ!声が大きいじゃないの!……兎も角、言う事ややる事がまるっきり赤ん坊みたいなのよ。あなた、本気で面倒見れる?途中で癇癪起こさないでしょうね?」 キュルケの言にルイズの心の中で急速に不安が膨らんでいったが、彼女は直ぐに一つの可能性を見出した。この者が只の亜人ではなく、成長するにつれて物凄い力を発揮する亜人なのだとしたら。 この者の自我がまだ誰の手も加わっていない、それこそ赤子同然と変わらぬ物なら。 これほど育て甲斐のある使い魔はいないだろう。 分からない事が多いという事は、それが一体何なのか知りたいという好奇心を突き動かし、また知った時の驚きをも生むという事でもある。 ルイズはキュルケの方を向き、微かな笑みを浮かべながら口を開いた。 「安心しなさいよ、キュルケ。私にとって初めて魔法が成功した証しでもあるこの子にそんな事する訳無いでしょ。この子は私が責任を持って育てるわ。その内にあんたの使い魔よりも優秀になる時が来るわね。 その時に今までの非礼を詫びに来たって知らないわよ?」 ルイズの何とは無い余裕の態度にキュルケの口元が小さく弛む。 実は口にこそ出さなかったが、彼女は内心でルイズの事を心配していたのだ。 変な生き物を召喚したといって落ち込んでいないだろうか、卑屈になったり、自棄を起こしていないだろうか、と。 そうしていたなら、キュルケはどんな手を使ってでも彼女を叱咤激励するつもりだった。 だが、今の彼女の様子を見る限りどうやらそんな心配は杞憂に終わりそうだ。 いつもの調子を取り戻したルイズに、キュルケは流し目を送りながら澄ました声で言った。 「ふふっ、言うじゃない。まあ、いつになるか分からないけど楽しみにしてるわ。あ、あとまさかその子なんか幽霊が取り憑いている訳じゃないでしょうね?」 「そんな訳無いじゃない。どうしてそんな変な事訊くの?」 「私の友達がその子の体から変な手が伸びるのを見たって言うのよ。今は気分が悪いって部屋で横になってるんだけど……間違いだったら私がその子の所に行って説明してあげるからいつでも私の部屋に来てよ。それじゃあね。お休み~。」 パタン、という音を残してキュルケは部屋の外へ出て行った。ルイズは今に見てなさいよという雰囲気のまま、扉に向かってベーッと舌を出す。しかし……勢いでああは言ったものの、問題は未だ山積みのままだ。 育て方といい、少女の素性といい何一つとして解決の兆しがある物は無い。ルイズはベッドに歩み寄り使い魔の少女を見下ろした。 コルベール先生は魔法生物に詳しい先生と一緒に調べてくれるとは言っていたが、果たしてどんな回答が返ってくるだろうか?もしも調べた結果が、こんな成りをしていても人間では手に負えない生き物だとしたら向かう所は只一つ。 ―殺処分― 考えただけで身の毛がよだつ。幾ら何でもそれは無いとは思うが、実際そうなったらルイズ自身許す事が出来ない。例え人間を見境無く殺す様な生き物でも、この子は自分が初めて魔法に成功したという証であり一生を共にする使い魔だ。 周りが何と言おうと絶対に御してみせる。そう固く心に誓った。すると程無くして少女はゆっくりと両の瞼を開く。 「目が覚めた?」 「みゅっ?!」 少女を不安にさせないよう、ルイズは出来るだけ優しい声で少女に声をかける。だが少女はルイズの姿を視認したと同時に後退り、酷く怯えた様子で彼方此方をキョロキョロと見回し始める。 まるでこの部屋の日用品を、何一つとして眼にした事が無い様な雰囲気だった。 ルイズは不思議に思う。この部屋の中には彼女を攻撃する要素など唯の一つもありはしない。何をそんなに怯える必要があるというのだろう。そしてこんな時は如何すれば良いのか。 その時ルイズは、実家にいるすぐ上の姉が森で怪我をした動物を見つけた時にどうしていたかを思い出した。まったく同じとはいかないが状況はそれによく似ている。 ルイズは震える少女の手をそっと握り、それから眼を見つめて話しかける。 「恐がらなくていいのよ。わたしはあなたの御主人様。そしてあなたは今日から私の使い魔になるの。いい?」 目立った反応は返って来ない。少女は相変わらず、目を固く閉じてぶるぶると震えているだけである。だがルイズはたった一度の挑戦でめげたりはしない。少女をそっと自分の方に引き寄せてから、左手で背中を撫で、右手で頭も撫でてやる。 すると少女は目を見開き、ルイズの方をまじまじと見つめた。まるで生まれてから親に一度もそうしてもらった事が無い様な反応だった。ルイズは少女に対して憐憫の感情を抱く。 自分だって実家にいた時、魔法の才能をどうのこうの言われる前は、親によく可愛がってもらったものである。余程この子は薄情な親の元に生まれたのだろう。 そう思いながらルイズは優しく少女を撫で続けていたが、ふと大事な事を忘れていたのに気付いた。 「そうだ、名前。あなたの名前何にしようかしら?」 物には全てきちんとした名前がある。いつまでもあなたあなたと言っていたのでは埒が開かない。かと言って、少女の鳴き声ともとれる「みゅう」というのを名前にするのも芸が無いものだ。 他の者達が使い魔に、もっと洒落の利いた名前を付けていたら名前負けするかもしれない。 どんな名前にしようかしら。あれこれ考えてルイズは一つの名前に決めた。 「そうねぇ……サフィー……サフィーが良いわ。それにしましょうっと!」 ルイズは少女の目を見つめながらしっかりと言う。 「あなたの名前を決めたわ。今日からあなたの名前はサフィー。サフィーよ。」 しかしやはり少女はルイズの意を得ていないのか、ずっと不思議そうな表情のまま「みゅう?」と言うだけである。こうなれば後はもう根気比べの世界だ。 ルイズはサフィーを指差して「サ・フィ・ー・」、自分を指差して「ル・イ・ズ」とするのを繰り返した。格闘すること凡そ二時間。夕食も忘れるほどに没頭したルイズの努力は遂にある程度実を結んだ。 少女は自分を指差し 「し…しゅぁ…しゅぁぁ…しゅぃぁ…ふゅっ…ふゅぅ……うぃ、うぃぃぃ……しゅぃぁ、ふゅぅ、うぃぃぃ……」 そしてルイズの方を指差して 「りゅっ……りゅぅぅ……うぃぃぃ……ち、ちぃゅぅぅ……りゅ、うぃぃ、ちゅ……」 と言った。 一先ずは大進歩である。 ルイズの喜びようといったらない。まるで子供の成長に一喜一憂する親の様であった。 「凄いじゃない、サフィー!この分ならそうかからずにもっと沢山色んな事を言える様になるわ!」 サフィーに微笑みながらもルイズは決心した。昔から子育ては「這えば立て、立てば歩め」の精神でやれば良いと言うではないか。ならばこの子にはもっと沢山色んな事を教えてあげよう。そしてどんな人の前に出しても恥ずかしくない使い魔に育て上げてみせようと。 その後、ルイズによるお勉強は、皆が寝静まるまで続いた。 サフィーが自分の名前とルイズの名前を微かに言えるようになっていた頃、コルベール氏は魔法生物学の講師、ミスタ・エラブルと共に図書館で調べ物をしていた。内容は勿論、ルイズが召喚した使い魔についてである。 しかし、教師しか閲覧を認められていない書棚の本を漁っても、成果は今の所何一つとして無かった。 「如何ですか?ミスタ・エラブル?何か手掛かりはありましたか?」 「ミスタ・コルベール。そう簡単に見つかったら真っ先にあなたに報告していますよ。」 話をふったミスタ・コルベールは、それもそうかと思いなおし調査に再び取りかかる。 だが、これだけ既存の資料を調べて見つからないという事は、あの生物は本当に新種の生物だというのだろうか? それなら何故ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールがそれを召喚するのに成功したのだろうか? 考える暇も無く、下から司書の「閉館時間です」という声がかかった。 コルベール氏とエラブル氏は肩を落として図書室から退室する。 それから暫く廊下を進んでいると、反対の方向から学院長の秘書をしているミス・ロングビルが近付いて来た。 いい歳をした男二人が、夜の遅くに図書室で一体何をやっていたのだろうという表情をありありと顔に出しながらも、出て来た言葉はかなり友好的な物だった。 「今晩は。ミスタ・コルベール、ミスタ・エラブル。こんな時間まで調べ物ですか?大変ですね。」 「いやぁ、ちょっと生徒の使い魔の事で調べ物をしていまして……」 忽ちコルベール氏の顔が赤くなる。 ミス・ロングビルはその様子をさも愉快そうに見ながら続けた。 「使い魔とは……今日行われた使い魔召喚の儀で喚び出された鬼の姿をした生き物の事ですか?」 「はは、実を言いますとそうなんですよ。本当に、噂という物は広まる物なんですなあ。」 「その使い魔の正体……もしかしたら私知っているかもしれません……」 「はは……今、何て仰いました?!!」 正に思ってもいない所から答えが出て来た。 驚きのあまり目を見開いたコルベール氏とエラブル氏を尻目に、ミス・ロングビルは訥々と語り始める。 「実は二年程前に、ある用事を言い遣わされてロマリアの方へ向った時に妙な噂を聞いたんです。 現在、次期ロマリア教皇候補でもあるヴィットーリオ・セレヴァレという人物が、使い魔を召喚した際に多数の死者が出たという噂なんです。 召喚した本人は無事だったのですが聖堂騎士団が100人近く犠牲になったそうで……その後何とか事態は収束したそうなんですが、その時に召喚された使い魔が……」 「まさか……角の生えた少女?」 エラブル氏の質問にミス・ロングビルはゆっくりと頷いた。 まるでその場の空気が瞬間冷却されたかのように凍りついた。 ミス・ロングビルは二人の表情を見つめながら続ける。 「今回此処で噂になっている少女とは、身長や髪の色、着ている物等違う所は多々存在しているんですが、一か所だけ、頭部に一対の角がある点が共通しているんです。それに……」 「それに?」 「いえ、なんでもありません。忘れてください。……兎も角、その少女は、今はそうでなくてもいずれ私達の命を脅かす事になると思います。 私の意見としましては不謹慎ながらもミス・ヴァリエールの使い魔を……」 ミス・ロングビルは大きく一息吐き、はっきりした口調で言い切る。 「殺すべきだと思います。」 前ページ次ページDeep River
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/452.html
ルイズが魔法学院から抜け出して約十分。 町からも、街道からも離れた、ある貴族の別荘が見えた。 この別荘は、トリスティンの城から見て、魔法学院から更に離れたところにある。 別荘の主を『モット伯』だが、この別荘を『モット伯の娼館』と揶揄するものもいる。 森の中にある別荘は街道からも見ることは出来ない。 しかし、街道を通る行商人たちは、年頃の娘が女衒らしき男に連れられて、森の中に入っていくのを何度も見かけていた。 ドシャッ、と音を立てて、ルイズは森の中に着地した。 別荘の周囲は壁に囲まれており、忍び込むのは容易ではないと感じさせる。 そこでルイズは思考した。 『建物の大きさ、庭の形、衛兵の位置を、空中から見た限りでは、空からの侵入がもっとも確実だが、私は空を飛ぶことが出来ない』 …ふと、ルイズを目眩が襲う。 ブルブルと頭を振って、気を確かにしようと気合いを入れる。 おかしい。何かがおかしい。自分は空を飛べないはずだ。では、どうやってここまで来た? 馬でもない。馬で来るに速すぎる。タバサのシルフィードに乗せてもらえば短時間で来ることも可能だが、そんなはずはない。 空から別荘を見た記憶がハッキリと残っている。自分は、いつの間にか空を飛んだのか!? ゴクリと唾を飲み込み、深呼吸して、考えを中断させる。 「今はシエスタを助けなきゃ」 そう呟いて、ルイズは別荘の正門へと歩いていった。 正門から堂々と入り込んだルイズは、使用人に応接室へと案内され、モット伯の歓迎を受けた。 その途中、女性の使用人を何人か見かけたが、使用人と呼ぶには幼い少女も混ざっている。ルイズはそれに嫌悪感を感じた。 それに気づいたのか、モット伯はルイズに話しかけた。 「ああ、この館の使用人が何かご無礼を致しましたかな?」 「そうとは言ってないわ」 「そうでございましたか。いやはや、彼女たちは貧しい家の出でしてな。私は彼女らに職を与え、教育を施し、生きるための場所を与えているのです。 教育は私の生き甲斐でしてな!」 そう言って高笑いするモット伯に、心底つまらなそうな目を向けると、モット伯は不敵な笑みを浮かべた。 「そうそう、あのシエスタというメイドの事でしたな。彼女は実に気だてが良いのですよ。 良い教育を受けさせれば、メイドだけでなく教育係の口もありましょう。ですから私が彼女を預かろうとしたのです。料理長も快く…」 「快く? なら、あの金貨は何?」 腹立たしさを隠しきれないルイズは、自分の声が心なしか低くなっているのに気づいたが、今更怒りを隠しても仕方ないと考えていた。 「…おやおや、ご存じでしたか。何せ優秀なメイドを引き取るのですからな。私からあの料理長…ええと、確かマルトーと言いましたか、彼へのココロザシというものです」 「そう? まあいいわ。それよりもシエスタに会わせて貰えないかしら」 「ははは、そうそう急ぐこともないでしょう。夜分にこの別荘をお尋ね頂いたのです。シャンパンでも開けましょうか、このシャンパンはなかなか珍しいものでしてな」 モット伯は、まるでルイズを無視するかのように話を続けると、使用人にシャンパンを持って来させた。 「雲が月を隠すと、雲の隙間から鈍い光が漏れます。雨が降った後であれば、月明かりが蛍のように雲を光らせるのです。このシャンパンはそれをイメージしたものです」 シャンパンを開けると、ぼんやりと輝く白い煙が出て、さながら星空のように天井を覆った。 ギーシュとは違う意味でキザったらしい態度を取るモット伯に、ルイズも我慢が出来なくなった。 「もういいわ!シエスタはヴァリエール家で引き取る約束が済んでるのよ!すぐにシエスタに会わせなさい!」 モット伯は貴族ではあるが、ヴァリエール家に比べればその格式には雲泥の差がある。 ヴァリエール家で引き取るのは出任せだが、家の名を使ってモット伯を脅かせば、少しは効果があるはずだと、ルイズは思いこんでいた。 「目も耳もありません」 だが、突如後ろから聞こえた声にルイズは背筋を凍らせた。 ルイズは腰に携えた杖を掴もうとしたが、声の主に腕を掴まれ、杖は床に滑り落ちてしまう。 「光る煙を出すシャンパンなんて悪趣味だと思ったけど、頭の中も悪趣味ね!」 気丈にも腕を掴まれたまま叫ぶルイズ。 ディティクトマジックという魔法がある。 マジックアイテムが仕掛けられていないか、誰かに魔法でのぞき見されていないかを探す魔法で、光り輝く粉が探査領域を舞うという特徴を持つ。 煙を出すシャンパンはカモフラージュだったのだ。 悪趣味なシャンパンが、何らかのマジックアイテムだったとしたら、魔法の使えないルイズでも『怪しい』と気づいただろう。 しかし、ルイズはモット伯の雰囲気に飲まれていたのだ。モット泊はメイジとして強い訳ではないが、自分のキャラクターをよく知っている。 時には人に取り入って、時には人を蹴落として、今の地位を手に入れたのだ。 「いかが致しますか」 ルイズを押さえつけているメイジは、グレーのマントの仲から杖をちらつかせ、ルイズを地面に押さえ込んだまま言った。 モット伯は短く「再教育だ」と言って、気味の悪い笑顔を見せた。 あまりの気味悪さに、ルイズはありったけの罵声を飛ばそうとしたが。 「このヘンタイ!こんな事をし…………!…………!!!…………!」 ルイズの声はモット伯に届くことはなかった。 ルイズはサイレントの魔法をかけられ、まるで荷物でも運ぶかのように地下牢へと運ばれていった。 しばらくして静かになった応接間で、モット伯はルイズの杖を拾い上げると、舌先で握りの部分を舐めた。 ルイズを取り押さえたメイジはそれを見ていたが、さしたる関心を向けることなく、事務的な口調でモット泊に声をかけた。 「先ほどの娘、ヴァリエールと申しましたが」 「ああ? あれは、あのヴァリエール家の三女だ。君は知っているかね?数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール家の三女は、ゼロのルイズと呼ばれている」 「ゼロ、ですか」 「魔法成功率ゼロ、ゼロのルイズ。何とも愉快じゃないか。彼女は魔法を使おうとすると爆発を起こすそうだ」 「爆発?」 モット伯は、オールド・オスマンの部屋にあるものより小さい『遠見の鏡』を見る。 「この別荘には空を飛んで近づいてきていた。フライかレビテーション程度は使えるのだろうが、風を起こそうとしても、練金しようとしても爆発するそうだ」 モット泊と、グレーのマントをつけたメイジは、応接室を出て『教室』と名付けた部屋に向かう。 「『平民』の体はさんざん味わったが、『高貴な貴族』の味も味わってみたくてねぇ。あの娘は出来損ないのメイジだが、ヴァリエール家の三女だ。血統は申し分ない」 「ヴァリエール家を敵に回すことになりますぞ」 「心配はない。魔法の使えぬメイジに貴族の価値はないのだ。そうだな…『世間知らず極まりないヴァリエール家三女は、メイドを探しに危険な森の奥へと入り込み、オークに嬲り殺された』…とういうシナリオはどうかね」 「ありきたりですな」 男は、相変わらず事務的な口調で答えていた。 ルイズは牢屋の中から、周囲を見渡していた。 牢屋は二重構造になっており、通路に面した鉄格子は細い鉄棒で作られている。 牢屋の奥にはもう一つ鉄格子がある。格子の太さは屈強な戦士の二の腕ほど、格子の幅は広く、ルイズならすり抜けることも可能だろう。 奥は暗くて何も見えないが、糞便のような不快な臭いが漂ってくる。 ルイズはやり場のない怒りを発散しようとして、鉄格子を蹴飛ばそうとした。 プギィーーーッ! おぞましい叫び声と共に、鉄格子の奥から毛に包まれた腕が伸びて、その指がルイズの鼻先をかすめる。 「…………!!!」 ルイズは悲鳴を上げたが、サイレントの魔法をかけられたままなので、その声は響かない。 ブギィーーーッ!ギィーーーーッ! 不快極まりない叫び声から、奥の牢屋にいる生き物が何なのか理解できた。 二本足で歩き、人間を待ち伏せして殺すだけの知能を持ち、木の幹を棍棒として使うどう猛な獣、オークだ。 オークは、戦争の道具としてメイジに飼われることはあるが、使い魔になることはほとんどない。 平民を使い魔にした方がマシだと言われるほど、オークは嫌われている。 人間の価値観から見てあまりにも下卑、それがオークへの評価だった。 まれに長老と呼ばれる知能の高いオークもいるらしいが、噂でしかない。 この館の主人がなぜオークを飼っているのか知らないが、ロクな理由ではないだろう。 ルイズは「お似合いね」と、呟いた。 しばらくして、『教室』と名付けた部屋にモット伯が姿を見せる。 ベッドの上に寝かされ、鎖で両手足を拘束されたシエスタは、これから何をされるか分からない恐怖に包まれていた。 「待たせてしまったね」 モット伯はわざとらしく、見せびらかすように、ルイズの杖を振る。 それを見たシエスタの表情が変わった、恐怖とは違う感情がわき上がったのだ。 「さて、シエスタ!君は困ったメイドだ、由緒あるヴァリエール家の三女をひどい目に遭わせてしまうのだからな!」 そう言って、シエスタにレビテーションの魔法をかけ、荷物を運ぶのと同じようにして地下牢へと運んでいく。 地下牢に降りると、シエスタはルイズの入った牢屋の隣に入れられた。 「ルイズ様!」 「………!」(シエスタ!) ルイズがシエスタを心配して声を出そうとするが、サイレントの魔法のせいで声が届かない。 「………!」(あんた大丈夫なの?アイツに何かされてない?) 「ルイズ様…まさか、私を助けに…」 「………!」(べっ、べつにあなたを助けに来た訳じゃないんだからね。ちょっと気になっただけよ) 「そんな、私、こんな迷惑をかけてしまったなんて…」 「………!」(だーかーらー!) 通じているのか通じていないのかよく分からない会話は、奥の部屋から聞こえてきた鳴き声に中断させられた。 ブギィィーーー! ガシャン!と、鉄格子に巨体がぶつかる音がする。 身長2m、体重は400kgを超えるであろう獣の迫力に驚き、シエスタは体を硬直させてしまう。 「さて、今日は何のお勉強をしようかね。…お友達との再会を記念して、友情のお勉強をしましょう!」 そう言うとモット伯は、ポケットの中から鍵を取り出して、牢屋の奥へと投げ込んだ。 鍵はチャリンと音を立ててオークの牢屋に落ちた。 「どちらかが囮にでもなれば、鍵も外せましょう!」 囮? 冗談じゃない。オークの実物を見たのは初めてだが、その残酷さは話に聞いている。 逃げるための魔法も使えないのに、囮になるなんて考えられなかった。 ルイズは、悩んだ。 どう考えても種絶望的な結果しか導き出せないからだ。 「…ルイズ様。マントを、できるだけ大きく、振っていただけませんか」 シエスタの言葉を聞いて、ルイズは頭にクエスチョンマークを浮かべたる。 「牢屋の前でバタバタと振って下さい。オークは、ひらひらした物を見ると、それに興味を牽かれるって、お爺ちゃんが言ってました」 一片の曇りも、迷いもなく、オークを見るシエスタに、ルイズは驚いた。 ルイズにはなるべく安全な手段で囮を任せ、自分は危険な場所へと赴こうとしているのだ。 ルイズは今、杖を持っていないし、自分の味方になるメイジもいない。 しかし今ここに、誰よりも信頼できる『仲間』がいた! 絶望的な状況には変わりないのに、絶望を絶望だと感じさせない。 シエスタの勇気は、今、貴族の誇りよりも遙かに気高く、そして崇高に輝いていた。 ルイズはマントを脱ぐとシエスタの牢屋に投げた、シエスタは驚き、ルイズを制止しようとする。 「…だめです!そんな、危険なことは、私がやります!」 幸か不幸か、シエスタの声に興味を惹かれたオークは、気味の悪い声で叫びながらシエスタの牢屋へと手を伸ばした。 鉄格子をガシャンガシャンと震える。 シエスタは、自分の言葉がルイズを死地に赴かせてしまったのだと悟って狼狽えた。 しかし今更何をすることも出来ない。ルイズから預かったマントを手に取り、闘牛士のようにオークの前へとちらつかせ、必死になってオークを煽った。 ガシャン!ガシャン!と響く鉄格子の音。そしてオークの叫び声。 生きた心地のしなかったが、死んだ気にもならなかった。 ルイズは鉄格子の隙間に体を滑り込ませると、奥に落ちている鍵へと静かに歩く。 ブギィイイイイイイーー! 吐き気のするような声が聞こえてくるが、それほど気にならない。 鍵だけを見て、静かに歩く。 あと5歩。 ギィイ!ピギー! あと4歩。 ガシャン!ガシャン! あと3歩。 ブゥィイイイーーッッ! あと2歩。 ギィィィ!! あと1歩。 きゃあっ! 突然聞こえてきたシエスタの悲鳴に驚き、シエスタを見る。 シエスタはオークの興味を牽こうとして近づき過ぎたのだ。すでに片手を掴まれ、オークの牢屋に引きずり込まれそうになっている。 「やめなさい!」 気づいたときには叫んでいた。 オークの視線がルイズを捉えると、オークはその巨体からは想像も出来ない速度でルイズに接近し、ナワバリを荒らされた怒りをルイズにぶつけた。 強烈な一撃を受けたルイズは宙を舞い、鈍い音を立てて鉄格子に衝突し、力なく崩れ落ちた。 「ほっ!いい見せ物でしたな」 モット伯はそう呟くと、すでに興味は失ったのか、牢屋を後にした。 ルイズとシエスタの体を味わってやろうと思っていたが、オークに蹂躙された後では興味も失う。 オークに触れた者はオークと同じだと言わんばかりの態度で、モット伯は二人を見捨てた。 それが彼の命取りだった。 鉄格子に叩きつけられ、気を失うまでの一瞬の間に、ルイズは意識の中で誰かと会話していた。 『やれやれ…もう少し速く気絶してくれれば助けられたんだがな』 「…誰よ、あんた」 『俺のことはいい。時間がない、少し体を貸してもらう』 「あたしの体を?」 『このままじゃ助けられないんでな』 「助けるって、オークから? あんたが何者か知らないけど、出来るの?」 『ああ、任せな』 ルイズは、見ず知らずの相手に、まるで長年戦いを共にした戦友のような奇妙な感覚を覚えた。 そして「頼んだわよ」と告げて、意識を手放した。 ---- //第六部,スタープラチナ #center{[[前へ 奇妙なルイズ-11]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-13]]}
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1442.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 一〇三 闘いを終えた君は、一息つく前に少女たちに怪我の具合を尋ねる。 キュルケは火傷と打ち身を、タバサは擦り傷をこさえているが、いずれもたいした負傷ではないようだ。 「私の≪ファイヤーボール≫もタバサの≪エア・カッター≫も、足止めにしかならないんだもの。危なかったわ」とキュルケは言うが、 七大蛇の一匹を相手に短時間とはいえ互角に闘うなど、普通の人間ではまずなしとげられぬ壮挙だ。 君はキュルケのことを、ただの放埓な快楽主義者かと思っていたのだが、大いに認識を改める。 タバサは高揚も恐怖も示さぬあいかわらずの態度で、黙々と血のにじんだ手の甲を手巾で拭いている。 この少女はまだ幼いといってもいい容姿なのに、最初から最後まで冷静な態度を保ち続けた。 単に感情に乏しいというだけではなく、過去にも怪物相手に闘った経験があるのでは、と君は考える。 キュルケにくらべて怪我が少ないのも、体が小さいからというわけではなさそうだ。 ルイズは、月大蛇に絞めつけられた手足にどす黒い痣ができ、何ヶ所か筋を違えてしまっているが、裂傷や骨折はないようだ。 あの怪物に襲われてこの程度の怪我ですんだのだから、奇跡的な幸運といってもよい。 フーケ――学院長秘書のミス・ロングビル――はそれほど幸運ではない。 左腕は肘が後ろ向きにねじ曲がり、口から流れる血には泡が混ざっている。 折れた胸骨が肺を傷つけてしまったのだろう。 意識を失い、その美しい顔は青ざめ、石像のように生気がない。 フーケが腰から提げている雑嚢を調べてみるか(一五三へ)、それとも手段があるなら彼女を治療してやるか(一八七へ)? 一五三 フーケは口から血を流して咳き込み、ときおり 「テファ……」と何者かの名前らしき言葉を呟くが、 君はかまわず雑嚢をさぐり、すぐに古びた書物を見つけだす。 この世界の何者にも読めぬ文字――君の故郷アナランドの文字だ――で表題が記されたその本を手にとり、内容を確認する。 本の記述は予想したとおりのものであり、かつて暗誦できるほどに何度も読んだ、非常に馴染み深いものだ。 この本が≪エルフの魔法書≫などではないことを、君は知っている。 この本は、アナランド以外の場所にあってはならぬものなのだ。 本を背嚢にしまい、さらに雑嚢を調べると、宝石細工のメダルと、油の小瓶がみつかる。 望むならば君のものにしてもよい。 「ちょっと、なにやってんのよ! 早くミス・ロングビルの手当てをしないと」と言うルイズだが、 君が手にした≪エルフの魔法書≫を見て言葉が途切れる。 「じゃあ、まさか、ミス・ロングビルが……≪土塊のフーケ≫?」 ルイズは信じられぬといった表情で、地に伏したフーケを見つめる。 「まさか学院長の秘書が、噂の大怪盗だったなんてね」 キュルケも驚きを隠せない。 「治療が必要。このままだと死ぬ」 タバサはそう言うとフーケに≪治癒≫の呪文をかけるが、これはあくまで応急処置であり、死なせぬようにするためには学院に連れ戻り、 ≪水≫系統の高位の魔法使いの手を借りる必要があるらしい。 キュルケとタバサは意識のないフーケを青い竜――シルフィードという名のタバサの≪使い魔≫――の背に乗せると、自分たちもそれに跨り、先に学院に戻ると言い残して竜を飛び立たせる。 残された君とルイズは、すっかり暗くなった森の道を歩いて、学院まで引き返さねばならない。二一二へ。 二一二 ルイズに速度を合わせてゆっくり歩くが、月大蛇との闘いで傷つけられた彼女は、見るからに辛そうな様子で脚を引きずっている。 見かねた君はルイズに手を貸してやることにする。 君はルイズを抱きかかえるか(二三五へ)? それとも背嚢を体の前に回し、彼女を背負ってやるか(二四三へ)? 二四三 初めは自分で歩けると言い、君の申し出をつっぱねるルイズだが、何度も説得するうちにやがて 「そ、そこまで言うのなら……あんたの顔を立ててあげるわよ」と言って、 君の背中にしがみついてくる。 「ねえ」 君に背負われてからしばらくして、ルイズは君に話しかける。 「あんた、メイジだったのね。あれだけの≪ファイヤーボール≫は、キュルケでもそう簡単には作り出せないわ。 どうして今まで黙っていたの? 魔法を使えないわたしを気遣ったつもり?」 彼女の静かだが怒りを秘めた真剣な口調に、その場しのぎのごまかしは通用しないと悟った君は、正直にすべてを話すことに決める。 それから数十分のあいだ、君はいつになく饒舌かつ熱心に、君自身のこと、故郷のことを語り続ける。 シエスタやマルトーたちを相手に披露する、いつもの笑い話や冒険談とは口調がまるで違う。 この見知らぬ異郷の地で、誰かに本当の自分を知ってほしかったという思いもあるのかもしれない。 君は語る。 邪悪な大魔法使いに≪諸王の冠≫を奪われ、法も秩序も国民の士気も崩壊の一途をたどる、祖国アナランドのこと。 祖国を危機から救うため、≪諸王の冠≫の奪回という危険な任務を、剣士にして魔法使いでもある君が自ら買って出たこと。 シャムタンティ丘陵、魔の都カレー、バク地方、ザメン低地などの危険に満ちた土地を横断し、大魔法使いの居城であるマンパン砦まであと少しというところで、 このトリステインに召喚されてしまったこと。 任務は極秘のものであるため、ルイズたちに対しても身の上を偽らざるを得なかったこと。 この世界における魔法使いの特殊な立場を知り、自身も魔法の使い手だとは言い出しにくくなってしまったこと。 この手で全滅させたはずの邪悪な七大蛇が、なぜかは解らぬが生き返り、この世界に居ること。 ルイズはときどき質問を挟みながらも、君の話に熱心に聞き入っている。 月がひとつしかなく星々の並びもハルケギニアとは違う、異世界から君が来たということを最初は信じなかったが、君の真剣な態度と言葉は説得力に満ちている。 それに加えて、つい先刻闘ったばかりのハルケギニアの幻獣とは異質な怪物どもの存在も、話の信憑性を高めている。 「それじゃあ、その冠は今でも、悪い奴が持っているの?」 君はそうだと答える。 大魔法使いは≪諸王の冠≫の神秘的な力をものにし、『さいはての毒虫の巣』と呼ばれる混沌としたカーカバードを統一したうえで、 怪物と悪漢どもによる最強の軍団を作り出すつもりなのだ。 そうなれば、アナランドだけではなく≪旧世界≫と呼ばれる大陸のすべての国家にとって、大いなる脅威となるだろう。 「わたしが、わたしがあんたを召喚したせいで……?」 ルイズが君の耳元で力なく呟く。 彼女は君を召喚してしまったことに対して、少なからぬ自責の念を抱いているようだ。 ルイズを慰めるか(四八へ)? 無言で先を急ぐか(一四六へ)? 四八 確かに、このまま君がこちらの世界に留まり続ければ≪諸王の冠≫はアナランドに戻らず、大魔法使いはカーカバードを統一し、 ≪旧世界≫の自由の民のあいだに恐怖を振り撒くことだろう。 極端な言い方をすれば、彼女の召喚魔法のせいで、いくつもの国が滅びるかもしれぬのだ。 しかし、君はこの小さな少女を責める気にはなれない。 故意に自分をを≪使い魔≫として召喚したわけではないのだから、ルイズが責任を負うような問題ではない。 それに、自分がこの世界に来てからまだ一週間ほどしか経っておらぬのだから、もと居た世界にたいした影響はないはずだ、と慰めの言葉をかける。 君の言葉を聞いたルイズは、 「ごめんね。でも、あんたが早く帰れるように、わたしも協力するから……」と、君の耳元でささやく。 いつもは高慢な『ご主人様』が謝罪の言葉を口にしたことに、君は耳を疑う。 その後も歩き続け、学院の門にたどり着いたところでルイズをそっと降ろす。七七へ。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3718.html
最終回~伝説そしてさらばルイズさん~ ヴァリエール家の紋章を背中にあしらった純白の改造学生服を来てルイズは腕を組んで眼下を見下ろしていた 「ふん・・・・レコン・キスタ7万・・・か」 パッソルに跨りルイズは迫り来る軍勢を見つめる 「嬢ちゃんよぉ・・・・びびったのか?ケツまくって逃げるかい?」 背中に背負ったデルフリンガーがカタカタ震えた、笑っているのだろう 「逃げる?・・・・・・・・ふふ」 パッソルのスロットルをふかす、その凶悪なエグゾーストノイズで相手がこちらに気がついた 「生憎、私にも使い魔(こいつ)にも後退と言うものがついていないのよ!!」 瞬間、パッソルが崖から飛んだ、 兵士が吹き飛ぶ、弓矢はデルフリンガーで弾き飛ばす、砲弾は風よりも早く避ける 「ルーーーーゥイズーーーーーー」 空から怨念めいた声がした 「ワルド様」 アルビオンの自慢、空中艦隊が迫って来ている、 「アルビオンでは世話になったね、だがその使い魔では空中にはまったく手出し出来まい」 勝ったといわんばかりにワルドの笑い声が響く 「フフフ・・・・・ハハハ・・ハーーーハハハハハ!!笑止!!」 パッソルの上に仁王立ちになりルイズはデルフリンガーを天に掲げた この戦場に赴く前、立ち寄ったタルブの村の祭殿にて祭られていた守護神、 それがルイズに語りかけてきた、我が体と頭脳を一つとせよと・・・・・ 「こぉーーーい」 そしてソレはルイズの呼びかけに答えた 空を切り裂き、大地を震わせ、木々をなぎ倒しルイズの呼びかけに答え、やってきた 「な、なんだアレは!?」 その巨大な容姿を見てアルビオンの兵士達は怯え、 「守護神だ!!我々の守護神が現れた!!」 トリステインの兵士達は歓喜した 突如現れた守護神に向かってパッソルは疾走する 「パイル○ー オン!!」 守護神の顔の部分が割れ、飛び込んできたパッソルとルイズを収納した 「な、なんだあれはぁーーー!!」 ワルドが叫ぶ、ルイズは笑って大声で叫んだ 「喧嘩上等ロボ!!」 大和田秀樹 たのしい甲子園 より タルブの村に喧嘩上等ロボが埋まってました
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3029.html
前ページ次ページ狼と虚無のメイジ その村では見事に実った麦穂が風に揺られることを狼が走るという。 風に揺られる様子が、麦畑の中を狼が走っているように見えるからだ。 風が強すぎて麦穂が揺れることを狼に踏まれるとい、不作の時は狼に食われたという。 上手い表現だが、迷惑なものもあるのが玉に瑕だな、と荷馬車の上で「彼女」は思った。 今では少し気取った言いまわしなだけで、昔のように親しみと畏れこめて言うものは少ない。 揺れる麦穂を見下ろす秋空はもう見慣れたものになったと言うのに、その下の様子は実に様変わりしていた。 初めて来た時の村人などとっくにいない。人間は長生きしてもせいぜい70年。100年生きる者も稀だ。 いや、人からすれば何百年も変わらない方がおかしいのだろう。 だからもう、昔の約束を律儀に守ることもないだろうと「彼女」は思った。 村人は、迫る困難をその都度自力で乗り越えていく力を持ち、半ば伝説となった自分は必要とされていないとも思った。 北へと向かう雲の先、北の故郷を思い出し、彼女は「ほう……」と溜息を一つ。 視線をゆらゆらと揺れる麦畑に戻せば、鼻先に自慢の尻尾。 「彼女」はすることもないので毛づくろいに取り掛かかる。 「……あふ」 程よく毛並をそろえたあたりで欠伸が出た。 荷馬車の主は行商人なのだろうか。何枚ものテンの毛皮を積み込んでいた。 丁度良いとばかりにそれにくるまり、「彼女」は寝息を立てて眠りついた。 ゆるりと流れる時間。 ふと、麦穂のざわめきに呼ばれた様な気がして「彼女」はまどろみの中薄く目を開けた。 尻尾の上に、輝く何かが浮いている 鏡のようにきらきらした表面は傷一つなく、村一番の背丈の男でも潜れそうな大きさだ。 細長い楕円形をしていて、装飾などは何も無い。純粋に鏡面だけだ。 何百年も生きてきた「彼女」ではあるが、こんな物は初めて見る。 鏡面を少しだけ触れると、僅かな波紋が広がる。 そして、誰かが呼ぶ声。 「……何かのう?」 寝ぼけ眼のまま、今度は手をもう少し入れてみる。何かに捕まれる感触。そして痺れる様な感触。 夢だとでも思ったのか、「彼女」はその異常な状態で再び眠りに落ち、輝きの中に溶けていった。 傍らにあった幾枚かのテンの毛皮と、一山の小麦がそれに続く。 ひょうと風が走り、まだ刈り取られていない麦穂が揺れる。 後には、ほんの少しだけ荷の軽くなった荷馬車が佇んでいるだけだった。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ トリステイン魔法学院の第一演習場。 神聖なるサモン・サーヴァントの儀式もつつがなく進み、残すところ最後の一人となった。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 桃色の髪の毛を振り乱し、珠と散る汗を気にせず杖を振る。 その姿だけをみればある種魅力的と見る者も多いが、物事には時と場合というものがある。 単純なサイクルを長く繰り返すと、爆発めいた重低音が混じっても眠気を感じる。 詠唱と爆発と失敗の単調なリズムは、少なからず生徒と使い間の脳を眠り誘い、ちらほらと「くぅ」「すぴぃ」と年相応の寝息が見て取れる。 そしてまた別の生徒からは、「まだかよ」「早くしろよ」と言った野次が飛ぶ。 心無い言葉に挫けそうになりながらも、ルイズは杖を振ることをやめなかった。 「……ミス・ヴァリエール。非常に残念ですが、続きは明日にしましょう」 すっとルイズの前を手が遮った。担当教師のコルベールだ。 「……そんな、お願いです!やらせて下さい!」 「次の授業もあるのです。ここは聞き分けて下さい」 諭すような口調で言うコルベールに、目を赤くしながらもルイズは食い下がる。 「お願いします、あと、あと一度だけでも!」 ふう、と溜息をき、コルベールは「仕方ないですね」と呟いた。 この努力家の少女にチャンスを与えたいのは山々ではあるが、教職者としての立場もある。 今することのできる最大限の譲歩だった。 一方ルイズにしてみれば最後のチャンスにも等しい。今までに無く気合を込め、高らかに詠唱する。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴える! 我が導きに、応えなさい!!」 今までで最大の爆音が轟く。うとうととしていた生徒達も、流石に飛び起きた。 もうもうと立ち込める煙。ルイズは煙を吸い込みごほごほと咳き込みながらも、爆発の中心から目を反らさない。 煙が晴れた時、確かにそこには何かがあった。 「……毛皮だ」と、誰かが呟いた。 「ゼロのルイズが毛皮を召喚したぞ!」 「結構上物だぞ!」 なるほど、見るからに上等な毛皮。目の肥えた貴族の多い魔法学院においては、その質の良さを見抜いた者は多い。 「テンね。一枚欲しいわ」 「もふもふ」 内、赤い髪と青い髪の少女を含む二人以上は、何の動物のものかも判断出来たようだ。 「う゛ぅっ」 一方、それを呼び出した張本人であるルイズはがくりと膝を落とした。 呼び出された物はまごうことなき毛皮だ。そりゃ暖かかろう。そりゃ上物であろう。 ルイズとて公爵家の三女、それがそれなりの高級品であることは解った。 しかし、せめて生前の姿で出てきて欲しかった。 それならば幻獣などには及ばすとも、可愛い感じで彼女としては満足のいくものだっただろう。 「えぐっ……」 だが、毛皮。どう見ても毛皮だ。 加工した職人が恨めしい。それが例え経験に裏打ちされた熟練の手で行われていたとしても、せめてこの毛皮の本来の持ち主だけは加工しないでもらいたかった。 流石にこれは泣きたくなる。ルイズの双眸から、涙が溢れようとしたその時だった。 ふぁさ。 毛布の中から毛艶も鮮やかな尻尾が現れる。 ぴょこ、ぴょこ。 辺りを伺うかの様に、四足獣のものと思しき耳が現れる。 よくよく見れば、毛皮だけにしてはやけに盛り上がっており、その中に何かいる様だ。 「ゼロのルイズが何かの動物を召喚したぞ!」 「失敗じゃなかったのか!?」 うるさいだまれ。 ルイズは声の聞こえた方向に躊躇無く失敗魔法をブチこんだ。太めの少年が華麗に宙を舞う。 絶望が一気に希望に変わる。 あの耳は猫かしら。いえ、尻尾からすると狐や犬かもしれないわ、いいえもしかしたら。 ……と言う思考は、次に毛皮から現れた物で「混乱」に変じた。 にょきりと出でた繊細かつ透き通るような白い腕。まるで氷の彫像のようだ。 むくりと起き上がると、周りの毛皮など及びもつかぬ、こぼれる様な亜麻色の髪が背中まで垂れていた。 しどけないその表情は、周囲の生徒とさして変わり無いと言うのに、ぞっとするほどの官能的な美しさを秘めている。 丸みを帯びた体ラインは一見すれば少女と言って良いほど控えめなものだったが、それで既に完成していると言って良いほど均整がとれていた。 人外の美の娘に、獣の耳と尾。 その身体に何一つ、服をまとっていないと気づいたのは、皆一様にその後だった。 あたかも服という物が、彼女にとって本来必要なものではないとでも言うかのように。 まるで触れてはいけない何かを見る様に、周囲の人間……教師のコルベールでさえ一瞬言葉を失った。 「ゼロのルイズが亜人を……」 「亜人なんて呼んでどうすんだよ……」 「でも可愛いよな……」 「しっぽもふもふ……」 ざわ……ざわ…… 召喚された「者」が「者」だけに、周囲の反応もまた纏まりの無いものだった。 「……んう?」 初めて、その娘から声が出た。 周囲のざわめきに反応したその声は実に無防備なもので、まだ年若い男子生徒などにとってはくらっと来るような甘い声だ。 女生徒ですら、うっとりと見入っているものもいる。 「あ、貴方誰?」 ルイズの声など眼中にないかの様に、その娘はゆっくりと口を開ける。 そして空を仰いで目を閉じると、大きく吠えた。 「アオオオオオオオオオオオオオオオオオォ……ン」 ざざざざざざざざっ 草叢を、まるで狼でも走るかのように風が走る。 ルイズも含めたその場にいる全員も、同等の突風が体を駆け抜ける恐怖を覚えた。 召喚された使い魔すらも一様に竦んでいる。 顎を引いて遠吠えの余韻を飲み込むと、赤い瞳は真っ直ぐとルイズを見て、 「……昼に吠えるもまた一興よの。娘、酒などないかや」 悪戯っぽく、笑った。 前ページ次ページ狼と虚無のメイジ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7081.html
前ページ次ページゼロと世界の破壊者 第4話「ルイズの闇」 ルイズと士が教室に入ると、先にそこに居た生徒達が一斉に二人の方を向き、そしてくすくすと笑い始めた。 「あいつら、何がおかしいんだ?」 「自分の胸に手を当てて考えてなさい」 その一言で士は自分が笑われてる事は判った。だが、自分の何がおかしいのかは見当もつかなかった。 教室には既にキュルケもおり、周りを複数の男子達に取り囲まれてまるで女王の様に祭り上げられていた。 キュルケも二人に気が付くと、そっちに軽く手を振った。 「友達か?」 「あいつの事は気にしなくていいの」 ルイズはキュルケの事を無視して教室の中を進んだ。 士は教室の入り口から教室全体をとりあえず一枚、カメラに収める。 教室の生徒達は皆、様々な使い魔を連れていた。フクロウにカラスに猫、普通の動物に紛れて宙に浮かぶ目玉やら蛸人魚やら見た事も無い生物もいた。更に教室の外には教室に入れない程大きな蛇やら竜やらもいる。 (なるほど、俺はあいつらと同じ扱いと言うわけか…) 様々な種類の使い魔がそこにはいたが、果たして士と同じく人間を使い魔とした者はその場にはいなかった。 本来はハルケギニアの生物や幻獣を使い魔とすると昨日聞いた。すなわち使い魔=獣。喩えるなら龍騎の世界のライダーとミラーモンスターの関係に近いかもしれない。 そう考えると士が笑われるのも無理もない気がする。 「何ボーッと突っ立ってんのよ?とっとと歩きなさい」 先に行ったルイズに促され、士はその後を追った。 ルイズは教室の後ろの端、努めてあまり目立たない席に腰掛けた。士も倣ってその隣に座った。 「ここはメイジの席よ、使い魔は床」 「貴族様ってのはどうにも器量が小さいらしいな」 士はカメラで教室の至る所を写しながらそう言い放った。 ルイズは眉を顰めたが、それ以降何も言わなかった。 始業の鐘が鳴り、教室の扉が開いて教師と思しき中年のふくよかな女性が入って来た。女性は教室の中央、最下段に設置された教卓の場所で立ち止まる。 教師の女性が入ってくるや生徒達の談笑が止み、教室がにわかに静まる。 「あれが教師か」 士は教卓の前に立った女性を一枚カメラに収めた。 「授業中あんまりカシャカシャやんないでよ」 念のためルイズは釘を刺しておく。下手に動かれて授業妨害されたりしたら怒られるのは主人であるルイズである。 教師の女性は教室の真ん中から生徒達を見回すと、満足そうに微笑んで言った。 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズが俯く。 「おやおや。そう言えば随分と変わった…使い魔を召喚したのでしたね、ミス・ヴァリエール」 途中の『…』は、ルイズが召喚したのが士だけでなく写真館も一緒にだと知っていたからであろう。シエスタが言うに既にルイズが家を召喚したと言う事は学院中に知れ渡っているらしい。 すると教室中がどっと笑いに包まれた。 「ゼロのルイズ!平民の家を召喚しただなんて一体どういう失敗の仕方だよ!」 肩にフクロウを乗せた小太りの男子生徒がルイズに侮辱の言葉を浴びせる。 ルイズはがたりと椅子を鳴らしてその場に立ち上がった。 「私だって好きで喚び出したワケじゃないわよ!勝手に出て気ちゃんたんだから!」 「それにしたって家ごと召喚なんて常識はずれにも程があるよ!」 「さすがゼロのルイズ!俺達に出来ない失敗を平然とやってのけるッ!」 「そこにシビれる!あこがれるゥ!」 教室中から次々と合いの手が入り、教室は爆笑の渦に包まれた。ルイズは怒りで肩をブルブルと震えさせていた。 するとルイズを侮辱した生徒達の口に、突然現れた赤土の粘土がぴたっと張り付いた。業を煮やしたシュヴルーズが魔法で無理矢理彼らの口を塞いだのだ。 「皆さん、お友達を侮辱してはいけませんよ?」 シュヴルーズにそう言われ、笑っていた生徒達も自ら口を噤んだ。ルイズも怒りの捌け口を見つけられないまま、仕方なく着席し直した。 士はその間、ずっと写真を撮り続けていた。 「変な所ばっか撮らないでよ!」 ルイズはそんな士を小突いたが、直ぐさまシュヴルーズの注意が飛んで来たためそれ以上何も言えなかった。 その後すぐに授業は始まった。 授業の内容は『土』系統の魔法に関する講義で、自分の操る『土』系統の魔法がどれだけ生活に役立たされているかと言う半ば自慢話のような内容をシュヴルーズは延々と繰り返した。なので『土』系統ではない生徒達には退屈極まりの無い内容の授業であった。 それでもルイズはシュヴルーズの話をしっかり聞き、一心不乱にメモを取り続けた。 士はその間ずっと教室の様子をカメラに収めていたが、ルイズはそんな士の事などまったく気に留める事なく授業に集中していた。 そんなルイズの様子に、士は素直に感心してその横顔をカメラに収めた。 授業の途中、シュヴルーズが教卓の上に置いた小石に向かって杖を振り上げ、ルーンを呟いた。すると石が光だし、それが収まると石はピカピカの金属の塊になっていた。『錬金』の魔法によってただの石ころを真鍮へと変えたのだ。 これには士も思わず顔を上げた。 「このように『錬金』の魔法で様々な生活で必要な物質を生み出す事が出来ます。今から皆さんにはこの『錬金』の魔法を覚えてもらいます。では試しに誰かに実演してもらいましょう」 そう言ってシュヴルーズはぐるりと教室を見回した。そしてずっと集中して授業を受けていたルイズに目が止まった。 「それでは、ミス・ヴァリエールにやってもらいましょうか」 シュヴルーズがそう言った瞬間、突然教室の空気が変わった。 にわかに生徒達がざわつき出す。不安や恐れの感情が渦巻き、彼らの中で1年前の悪夢が蘇っていた。 「先生、止めておいた方が良いと思います」 徐にキュルケが手を挙げてシュヴルーズに進言した。 「何故ですか?」 「危険です」 聞き返すシュヴルーズに対してキュルケきっぱりと言った。他の生徒達が「うんうん」とそれに同調して頷く。 「ミセス・シュヴルーズはルイズを教えるのは初めてですよね?」 「えぇ、ですがミス・ヴァリエールが努力家だと言う事は聞いてます。現に先程も私の話を集中して聞いてましたよ」 するとキュルケは今度はルイズの方を向いた。 「ルイズ、お願いやめて」 蒼白な顔で嘆願する。 士には何故そこまでルイズの魔法を恐れるのか判らなかったが、こうまで言われたルイズが大人しく引き下がるわけが無いであろうと事は理解出来た。 「やります」 案の定、ルイズは立ち上がって、生徒達の静止も聞かずシュヴルーズの待つ教卓の前まで歩いて行った。シュヴルーズはにっこりと笑ってルイズを迎える。 すると、士の前に座っていた生徒がいきなり机の陰に隠れた。周りを見渡してみると、他の生徒達も皆机の陰に隠れている。 士は周囲の生徒達の行動を不振に思いつつも、教卓の前に並び立つルイズとシュヴルーズの姿をカメラに収めていた。 そして士がカメラのレンズから目を離した瞬間。 ルイズが魔法をかけた小石が突然爆発した。 爆風でルイズとシュヴルーズが黒板に叩き付けられる。 生徒達から悲鳴が上がり、驚いた使い魔達が大暴れを始め、教室中が阿鼻叫喚の大騒ぎとなった。 シュヴルーズは衝撃で気絶してしまったようだが、同じく爆発を至近距離で食らったルイズは煤で真っ黒になり服をボロボロにしながらも平然と立ち上がり、淡々とした口調で言った。 「…ちょっと失敗みたいね」 瞬間、教室中からブーイングが上がる。 「ちょっとどころじゃないだろ!ゼロのルイズ!」 「いつだって成功確率ゼロじゃないか!」 「だからルイズなんかに魔法を使わせるんじゃないって言ったのよ!」 「もうゼロなんて退学させちまえ!」 生徒達から次々と上がる罵詈雑言。その中心にいたルイズは平然とそれを受けながらも、杖を握った手が微かに震えていた。 その様子を写真に収めた士はレンズから顔を上げて呟いた。 「…だいたいわかった」 あの時シエスタが言おうとして言わなかった事。 『ルイズは魔法が使えない』のだ。 結局生徒達のブーイングは騒ぎを聞きつけた別の教師が現れるまで続いた。 シュヴルーズは即座に保健室に担ぎ込まれ、授業は中止。 崩壊した教室の片付けはルイズが、罰として『魔法無しで』と命じられたが、ルイズは魔法が使えないのでその罰則には殆ど意味は無かった。 ちなみに士はルイズの使い魔なので、有無を言わさず片付けを手伝わされていた。 士は主に重労働担当で、新しい窓ガラスや机を教室に運び込んだ。 ルイズは一度寮の部屋に戻って破れた服を着替えた後、煤で汚れた床や机の掃除や割れたガラスの片付けを担当した。 今は殆どの作業が終わり、ルイズと士は手分けして仕上げに雑巾で机の上を拭いていた。 片付け作業中、二人とも殆ど口を聞かなかった。作業をする上での必要最低限の会話は行ったが、それ以外では全くであった。 「…ゼロ、か」 士はルイズより先に自分の担当区分を終わらせると、ぽつりとそう呟いた。 瞬間、ルイズの動きが止まった。 「魔法を使うといつも爆発ばかり起こして失敗してしまう『ゼロのルイズ』…こいつは傑作だな」 士は笑いを抑えたような口調でそう言った。 ルイズの肩が怒りでわなわなと震える。 「確かこの世界じゃ魔法が使えるから貴族だったな?魔法も使えないくせに貴族、俺の事を平民と罵り蔑み自分の事は棚に上げ、…全く良いご身分だな」 「…アンタに、何がわかるのよ…」 ルイズが絞り出す様に声を出す。士はルイズの方を向いた。ルイズは机に両の手を付いたまま俯いている。 「……そうよ、アンタの言う通り私は魔法が使えない。どんなに勉強して、何度ルーンを唱えても!…いつも!爆発するばかり!!」 ルイズの口調がだんだんとヒステリックなものに変わっていった。 「失敗する度に勉強した…。何度も練習して、魔法を試してみた…。けど、結局は失敗の爆発が起こるだけ!私がどんなに努力しても、それは全部無駄に終わるの!! ……貴族は魔法が使えるから貴族って、アンタも言ったわよね。…そうよ、その通りよ。なら、魔法の使えない貴族に、存在してる意味なんてあると思う!?」 士は、何も応えない。ただじっとルイズの言葉に耳を傾けている。 「…そんなの、あるわけない。…私には、存在している意味なんて無いのよ…。…アンタみたいに…最初から魔法が使えない平民なんかに、私の気持ちなんてわからない!わかってたまるか!!!」 ルイズは士の方を向いて思いっきり叫んだ。ブロンドの髪を激しく揺らし、目元を赤く染め、鳶色の瞳に涙をたっぷり浮かべていた。 ルイズはずっと苦しんでいた。魔法の使えない自分に、それにも関わらず貴族に生まれてしまった自分に。自分と言う存在が、ただ存在しているだけで、どれだけヴァリエールの家名を汚したのであろうか。 ルイズが流したのは悔し涙だった。自分を侮辱した士に対する怒りよりも、不甲斐無い自分への悔しさが大きかった。 「…くだらないな」 しかし、感情を爆発させたルイズとは裏腹に、士は冷ややかに言い放った。 「…なん…ですって…?」 ルイズが眼を細めて士を睨みつける。しかし士は平然と続けた。 「くだらないって言ったんだ。たかが魔法が使えるだの使えないだの、要は人より強い力を持ってるか持ってないかの違いだろ?その程度で自分の存在だのなんだの、くだらない以外の何ものでもない」 「な………っ!」 ルイズは、唖然とした。この男はあろう事か、魔法の存在を、この世界の在り方を、根本から否定したのだ。 「…あ、アンタには判らないのよ!魔法の無い世界から来たアンタなんかには!魔法が使えるって事がどれだけ大切か!!」 「判るさ。…魔法じゃないが、俺も人より優れた力を持った連中をたくさん見てきたからな」 「魔法じゃない、力…?」 「そいつらの中には、力に溺れて自分の欲望のために力を振るう連中もいた。だが、そんな連中から弱き者を守るために力を使う奴らもいた。大事なのは、力の有無じゃなくて、その力をどう使うかじゃないのか?」 「…っ!」 士の話の内容に、ルイズは心当たりがあった。 ルイズは、貴族と言う身分でありながら、魔法と言う力を武器にして、弱き者、平民を虐げる愚かな貴族の姿をたくさん見てきた。 ルイズはそんな彼らの事が許せなかった。魔法が使えるにも関わらず、それを自分の欲望のためだけに振るう彼らが。 彼らは貴族なんかじゃない。貴族と言う皮を被り、魔法と言う武器を振るうだけのただの暴君だ。 ルイズは、本当の貴族と言うものを知っている。ただ力を誇示するだけの暴君じゃない、魔法を使って、民を守り、領地を守り、国を守る誇り高き存在こそ、真の貴族である、そう子供の頃から両親や姉に教え込まれてきた。 「…でも」 貴族の在り方、メイジの在り方、そんなものは当に判っている。 「…だからって何よ…!力を…魔法をどう使えば良いか、そんな事判ってても、私には、その肝心の魔法の力が無いのよ!?ならそんなの意味はない…!やっぱり魔法が使えないんじゃ、私は………!」 ルイズは歯を噛み締め、拳を力強く握り締めた。 士の言ってる事は、概ね正しい。しかしそれは力を持つ者にこそ有効な言葉だった。 魔法が使えない、魔法の力を何よりも欲しているルイズにしてみれば、ただの戯れ言でしかない。舌先三寸でどう言いくるめようとも、ルイズが魔法を使えないと言う事実は何も変わらないのだ。 「…そんなに力が欲しいのか?」 士が静かに尋ねかけた。 「………欲しいわ」 少し言葉に詰まりつつも、ルイズは正直な欲求を吐露した。 「何のために?」 「何の、ため…?」 しかし士は更に問いかけた。 思わずルイズは顔を上げる。 「そうだ。魔法の力を手に入れて、お前はその力を何のために使う?」 「…そ、そんなの決まってるわ!貴族の義務を果たし、我がヴァリエールの家名のため、ひいては祖国トリステインのために…!」 「そうじゃない。義務だの家名だの祖国だの、そんなお決まりな答えじゃない。お前自身はその力でどうしたいんだ?」 「…わ、私自身…?」 そんな事考えた事も無かった。貴族としての義務、家のため、名誉のため、祖国のため、子供の頃からそう教えられ、そして今の今までそれが当たり前として何の疑問も感じた事は無かった。 だがこの目の前の男は、ただの平民の使い魔は、凝り固まったルイズの価値観に一石を投じたのだ。 「わ、私は…」 改めて考えた。自分は、自分自身は何のために魔法の力を欲するのだろう? ルイズは、貴族でありながら魔法が使えない。その事で"ゼロ"と言う不名誉な称号を与えられ、"劣等生"、"落ちこぼれ"の烙印を押された。 そんなルイズは人一倍努力した。人よりも多く魔法の勉学に励むために時間を割いた。そう、ルイズは"ゼロ"の称号を払拭するために魔法の力を強く欲しているのだ。 だけど———。 「ただ、お前をゼロだと馬鹿にした奴らを見返したいだけか?」 「………」 それだけだった。 魔法が使えるようになって、"ゼロ"の汚名を返上して、ルイズが自分で考えていたのはそこまで。それから先なんて考えた事も無かった。 ただ漠然と、子供の頃から教えられた『貴族としての義務』を果たすんだと考えていただけだった。 ルイズは士を見た。 士は、真っ直ぐルイズを見ている。まるで心の奥まで見透かすような視線。下手に口先だけで誤摩化そうとしても無駄であると言わんばかりの眼力だ。 「……わ、わた、し、は……」 言葉に詰まる。何も言い返せない。 結局ルイズは『人を見返したい』ためだけに魔法を欲していたのだ。 そうしてルイズが言葉に詰まっていると、士はルイズから視線を外し、そして踵を返した。 「え…?」 惚けるルイズを尻目に、士はルイズに背を向けたまま口を開いた。 「その程度の答えも出せないお前には、どんな力も宝の持ち腐れだ」 それだけ言い残して士は教室の扉へと歩き出した。 「ちょっ…!ちょっと待っ……!」 慌てて静止させようとするルイズだが、途中で理性がルイズ自身を引き止めた。 士を引き止めて、どうするのだ? ルイズは見限られたのだ。不甲斐無いルイズは、使い魔として契約した青年に見捨てられたのだ。 そしてその地に落ちた権威を復活させる方法を、ルイズは何一つ思いつかなかった。 (……遂には使い魔に見限られるなんて…私って……) ルイズはその場にへたり込む。身体に力が入らず、その場で項垂れる。 教室の外へ出た士が扉を閉める。 バタン。 乾いた音が教室に木霊する。 「…本当、メイジ失格…ね…」 自嘲気味な笑みが浮かぶ。 鳶色の瞳から落ちた大粒の涙が、床に落ちて四方に弾けた。 昼休み開始の鐘が鳴り、ルイズは昼食を取るべく『アルヴィーズの食堂』を訪れた。 正直そんな気分じゃないのだが、身体は正直である、お腹の虫がルイズに昼食を取れと命じるのだ。 食堂に入るとルイズはふと食堂全体を見渡してみた。しかしやはりと言うか、そこにはルイズの求める人物は見当たらなかった。 (…当たり前よね、ここ、…平民が入れる所じゃないし…) それ以前の問題であるのだが、ルイズはそれを認めてしまうのが怖かった。 「あらルイズ、片付けお疲れさま♪」 するとその前に宿敵キュルケが現れた。 「キュルケ…」 キュルケはまた盛大に失敗魔法を繰り出したルイズをからかうつもりで声を掛けたのだが、意外にもルイズが気の無い返事を返したため、キュルケは怪訝に思った。 「…あんた、何かあったの?」 普段と違うライバルの様子に、キュルケは思わず心配してしまう。 「…なんでもないわよ」 ルイズはそっぽ向いて言った。 「とてもじゃないけど何もなかったようには見えないんだけど」 「何もないわよ…」 尚も否定し続けるルイズに、キュルケは少し苛立ちを覚えた。 「あっそ!そう言えばあんたの使い魔の姿が見えないわねぇ。もしかして、いよいよ見限られたとか?」 少しカマを掛けるつもりで、いつものようにからかう口調で言ったつもりだった。 その瞬間、ルイズは目の前が真っ白になった。 「何でもないって言ってるでしょうっ!!!!!」 食堂中にルイズの叫び声が響き渡る。 あまりの大声に食堂が一瞬静まり返った。その場にいた生徒達の視線がルイズに集まった。 「…なんでも、ないんだから…」 尚も否定の言葉を呟いて、ルイズは食卓の方へと歩いていってしまった。 「…ちょっと、まずったわね」 今のやり取りで大体の事情を察し、キュルケは自分が地雷を踏んでしまった事を理解した。 ルイズは食卓に着くと昼食を取り始めたのだが、やはりどうにも食は進まない。 いつもは食欲をそそる目の前の料理が、ただの無意味なオブジェにしか見えない。 「使い魔に逃げられたのがショックで、食欲も無くした?」 するとその隣の席に何故かキュルケが座った。 ルイズは一瞬キュルケを睨みつけたが、すぐ無視して皿に盛り付けた料理との格闘を再開させる。 「無視…ね。相当ショックだったみたいね」 黙々。ルイズは機械的に皿の上の料理を口に運び、咀嚼すると言う作業を繰り返す。 「何言われたか知らないけど、愚痴くらい聞くわよ?」 尚も黙々と料理を頬張るルイズ。その姿にキュルケは親友の少女の姿を重ねた。 「…っ〜〜ぅ!もう!何あんたまでタバサみたいになってんのよ!タバサのあれは可愛げがあるけど、あんたまでそれじゃあ幾ら何でもこっちの調子が狂っちゃうのよ!!」 しかしルイズは相変わらず。話しかける度にルイズに対する苛立ちが募ってゆく。 キュルケははぁと大きな溜息を付いた。 「…大方、失敗魔法見られて愛想つかされたって所でしょうけど、そんなんで落ち込んでどうすんのよ?いつものあんたなら『絶対に見返してやる!』って息巻くんじゃないの?」 ぴくり。ルイズが微かに反応を見せた。 「そもそもあんたそうやってずっと落ち込んでるつもり?まぁ私は別に良いんだけど、そのままじゃあんたは一生ゼロのままよ!私には関係ないけどね!」 するとそれまで人形のようだったルイズがふうと小さく息を吐いた。ゆっくりと首を回して、半眼でキュルケの方を見た。 「…まさか、アンタに励まされる日が来るとはね、ツェルプストー」 そう言われて、キュルケの頬に朱が差した。 「べ、別にあんたの為に言ったんじゃないんだからね!ライバルが不甲斐無いんじゃ張り合いが無いと思っただけよ!」 なんだかいつもの自分が言いそうな台詞だと思って、ルイズは小さく笑った。 「礼は言わないわよ」 「要らないわよ、言われたら逆に気味が悪いわ」 キュルケは手をひらひらさせてルイズを突っぱねる。 いつも通り、と言うにはまだ程遠いが、ルイズは普段の調子を取り戻しつつあった。そのきっかけがキュルケ、と言うのが少し癪だが。 「…ねぇキュルケ、アンタはこの学院を卒業したらどうするの?」 「何よ、薮から棒に」 「良いから答えて」 「…そうねぇ」 返答を急かされて仕方無くキュルケは思案する。 「普通に考えたら従軍ね。あんたも知っての通りうちは軍人の家系だしね。…あぁ、でもあたしは実家とがアレだから…もしかしたら適当に手柄立てて独立するかもしれないわ」 「…つまり何も決まってないわけね」 ルイズは冷ややかに感想を述べた。 ルイズの方から振ったくせにあんまりにもな反応に、キュルケは流石に苛立ちを覚える。 「なによ。じゃああんたはどうするって言うのよ?」 「…わかんないわよ、そんな事」 特に取り繕うわけでもなく、ルイズは素直にそう答えた。 意外な返答が返ってきた事に、キュルケは少し驚いた。 わからない。それがルイズの正直な気持ちだ。ルイズの場合はその前に魔法を使えるようにならなければ意味が無いのだが、もし魔法が使えるようになった時、その力を何のために使うのか、士に出された問の答えは『わからない』が現状だ。 「…よく判らないんだけど、それって今答えを出さなきゃいけない事なの?」 キュルケが尋ねる。 「別にクサい事言うつもりは無いんだけど、あたし達ってその答えを出すためにこの学院に通ってるんじゃないの?あたし達はまだ2年に上がったばかり、就学期間は後2年もあるのよ?その間に答えを出せば良いんじゃないの?」 キュルケの言う事はもっともだ。ルイズも肯定せざるを得ない。 だけど、ルイズにはそれじゃダメなのだ。その答えが出せなかったから、ルイズは士に見限られてしまった。確たる答えを見つけ出さない限り、ルイズは士に自分を認めさせる事なんて出来ないと考えていた。 (…また、認めさせる、か) 結局自分はそればっかり、とルイズは自嘲した。 その様子をキュルケは隣で訝しげに思っていた。 するとそんな折、突然食堂に『パシーン!』と言う乾いた音が響き渡った。 食堂にいた殆どの生徒が何事かと音のした方向に視線を集める。 例に漏れずルイズ達もそちらを見ると、よく見知った金髪巻き髪の少年・ギーシュが、1年生と思しき栗毛の少女に頬をひっぱたかれていた。 「その香水があなたのポケットから出て来たのが何よりの証拠ですわ!さようなら!」 栗毛の少女はそのまま走り去り、食堂から出て行ってしまった。 取り残されたギーシュはと言うと、呆然として叩かれた頬を擦っていた。 「…なにあれ?」 「ギーシュね。大方二股だか三股だかがバレたんでしょうよ」 ギーシュと言えば、色男で有名である。 確かに顔はそこそこイケてると思うが、ルイズにとってはそれだけだった。 それにギーシュの噂話を聞く機会は少なからずあった。ルイズ達も年頃の女の子である、色恋沙汰の話となるとそこら中で聞く機会が多い。中でもギーシュに関する話は数知れず、聞く度にルイズは何股掛けてるんだと心の中でツッコミを入れていた。 今回はどうやらキュルケの言った通りのようで、その証拠に今度は見事な巻き髪の、ルイズと同学年の少女・モンモランシーが厳めしい顔つきでギーシュの下に近付いて行った。 「モンモランシー、誤解だ」 何とか弁明しようとするギーシュだったが、モンモランシーはまったく聞く耳持たず、テーブルの上に置かれていたワインの瓶を持ち上げると、その中身をギーシュの頭の上からどぼどぼと注いだ。 「うそつき!」 そしてそう吐き捨てると、モンモランシーは涙目でさっきの栗毛の少女と同じ様な動きで食堂から走り去って行った。 しんと静まり返る食堂、皆の注目を集めていたギーシュはと言うと、気障ったらしい仕草でハンカチで顔を拭きながら、 「あのレディ達は薔薇の存在の意味を理解していないようだ」 などと芝居がかった口調でその場を必死に取り繕っていた。 「ザマぁないわね」 「まったく」 二人は揃って同じ感想を口にした。 騒動も終息し、食堂がいつもの喧噪に包まれ始める。 ルイズもそろそろと思った時、ギーシュの声が食堂に響いた。 「待ちたまえ!」 再び注目の的になるギーシュ。そのギーシュが相方として舞台に上げたのは、黒髪のメイドの少女であった。 「君が軽率に香水の瓶なんかを拾い上げたお陰で二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」 どうやらギーシュはそのメイドに難癖をつけて、自分がかいた恥の責任を全て彼女に押し付けようと言うのだ。 「…なんかもう哀れを通り越して痛々しいわね」 ギーシュ自身は自分のプライドを守るためにやってるのだろうが、はっきり言って見苦しい。キュルケを始め他の生徒達も似たような感想だろう。 そして相方のメイドはと言うと顔を真っ青にして怯え切ってしまっている。何があったかは知らないが、可哀想に、とキュルケはそのメイドを哀れんだ。 が、その横で同じく推移を見守っていたルイズはそうはいかなかった。 「あの子、確か…」 ルイズは自分の記憶の中から黒髪のメイドの情報を探り出すと、ルイズは立ち上がって、ギーシュ達の方へと足を向けた。 「ちょっとルイズ?あんたちょっかい出すつもり?」 黙って行かせる事も気が引けるので、キュルケは一応ルイズを引き止めた。 「…アンタ、あの子の事何か知ってる?」 「あの子って、あのメイド?確かに黒い髪は珍しいから印象には残ってるけど…」 別にそれ以外はただのメイドだ。特に際立って親しいわけでもない。 ルイズは小さく息を吐いた。 「あの子、メイジにトラウマ持ってるのよ!」 それだけ言って、ルイズはギーシュ達の所に吶喊して行ってしまった。 残されたキュルケはと言うと、暫し呆然としていた。 「…あの子が、平民の事を覚えてる何てねぇ…」 ライバルの意外な一面を垣間見て、キュルケは少しだけ感心した。 「さて、どう落し前を付けてもらおうかな?」 薔薇の造花を象った杖を手にし、下賤な笑みを浮かべてギーシュはじりじりとメイドの少女・シエスタとの距離をつめる。 シエスタは後ずさろうとするが、恐怖で足が縺れてしまい、床に尻餅をついてしまった。 助けを求めようにも、周りの貴族達は皆一様に好機の眼差しでこの状況を観覧しているだけで、誰も助けに入ろうとはしない。 シエスタの給仕仲間達も、相手が貴族とあっては、助けるに助けられない。 「どうやら君にはキツーいお仕置きが必要のようだな」 シエスタに杖が向けられる。 かつての炎の記憶が蘇り、シエスタの心が恐怖に支配される。 (助けて!———!) 「やめなさい!」 心の中で助けを求め"彼"の名を叫ぼうとした瞬間、そこに待ったが掛けられた。 新たに舞台袖から登場した人物は、桃色の髪を揺らしたルイズであった。 「ミス・ヴァリエール…」 「ルイズ、一体何のつもりだ?」 ギーシュが忌々しげにルイズを睨みつけた。 「アンタこそ何のつもりよ!自分の失態を下の者に押し付けるなんて、貴族としてみっともないと思わないの!?」 ギーシュは眉を顰めた。周囲からも「そうだそうだ!」とルイズに合意する野次が飛ぶ。 「フン、彼女の先走った行いの所為で二人もの純真な少女達が傷ついたんだ!お仕置きを受けて当然だ!」 「そもそも二股なんか掛けてるアンタが悪い!」 ルイズはきっぱりと言い切った。瞬間、周囲がどっと笑い出す。 「その通りだギーシュ!お前が悪い!」 誰かが叫ぶと、ギーシュの顔に赤みが差した。 「…ゼロのルイズのくせに…!」 苦々しくギーシュが吐き捨てる。 するとルイズの眉がぴくりと動く。これを見逃さんとギーシュが反論する。 「ゼロのルイズ!自分が魔法を使えないからって同じ魔法の使えない平民を味方か!ヴァリエール公爵家の名が廃るな!」 ギーシュの感情に任せた精一杯の反撃だった。 もしギーシュに冷静な判断が残っていれば出来るだけ穏便に済ませようとする筈だった。 だが愛する少女達に愛想を尽かされ、周囲の連中の笑い者にされ、魔法も使えない自分より格下(と思っている)少女に図星を突かされ、ギーシュはすっかり心の余裕を無くしていた。とにかく何か言い返さなければ、自分のプライドが許さなかったのだ。 「わ、私がゼロだとかは今は関係ないでしょう!?そう言うアンタこそ、自業自得で恥かいて、その憂さ晴らしに平民に杖を向けるなんて、貴族の恥さらしも良いとこよ!さっきの台詞そっくり返すわ。グラモン家の名が廃るわよ!」 「ぐっ…!」 だがその反撃もあっさり返されてしまった。 ギーシュは言い返す事が出来なかった。何より自分に流れる貴族の血がルイズの言い分を肯定していたのだ。 そして周囲の野次馬達の興味は、すっかりギーシュがどう謝るかと言う一点に集まりだしていた。 謝る?僕が?誰に?ルイズに?…いや、ルイズに謝るなら、当然その後ろで尻餅をついているメイドにも頭を下げなきゃならなくなる。つまりそれは自分の非を全面的に認めた上で、平民なんかに頭を下げなきゃならないと言う事だ。 そんな事は、プライドが許さなかった。 なれば、残された手は———。 「…決闘だ」 「え?」 「決闘だ!ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール!このギーシュ・ド・グラモン!君に決闘を申し込む!!」 「はぁぁぁぁ!!?」 ギーシュは芝居がかった仕草で大袈裟に宣言した。すると周囲から「うおおおお!」と歓声が上がった。 だが当のルイズは、あまりにも無理矢理すぎる流れにまったく納得がいかなかった。 「学院内での決闘は禁止されてる筈よ!判ってるの?」 「おや?公爵家ともあろうお方が恐れを成して逃げ出そうと言うのですかな?」 ギーシュはあくまでも優雅に、ルイズを挑発した。 もうどうしようもなかった。流れが無茶苦茶すぎるとか、学則違反だとか、相手が公爵家だとか、そんな問題些細な事に思えた。とにかく自分のプライドを守るためにはこうするしか、自分の力でルイズを屈服させ、頭を垂れさせるしか無いと判断したのだ。 完全に攻守が逆転し、今度はルイズが選択を迫られた。 決闘を受ければ、魔法の使えないルイズにはまず勝ち目は無いだろう。 だからと言って断れば、ルイズに新たな不名誉な称号が与えられる。今のこの状況、その不名誉な称号はあっという間に学院中に広まり、また自分がヴァリエールの家名を汚す事になるかもしれない。 ルイズにとってそれ以上に堪え難い苦痛は他に無かった。 「い、良いわよ!その決闘!受けてやろうじゃない!!」 瞬間、周囲から『おおおお!!』と言う歓声が上がった。 ギーシュの口元が嫌らしくつり上がった。 「よく言った、ルイズ。…そうだな、この食堂を血で染めるのも忍びない。『ヴェストリィの広場』で待っているよ!」 そうとだけ言い残して、ギーシュはその取り巻きを連れて食堂から去って行った。 後に残されたのはルイズとシエスタ。ルイズは勢いに任せて何て事をしてしまったのかと今更ながら後悔した。 もう一人、シエスタはと言うとその場にへたり込んだまま顔を真っ青にしていた。 「…ミ、ミス・ヴァリエール……」 シエスタが涙目でルイズを見詰める。 「…な、なん、で…そ、そんな…わた、私なんかの、ため、に…そ、んな……」 様々な感情が渦巻いてシエスタは上手く言葉を紡ぐ事は出来なかった。 そんなシエスタの言動がおかしくて、ルイズは思わず吹き出してしまった。お陰で少しだけ気が紛れた。 「別にアンタを助けたワケじゃないわよ。ただ貴族として、ギーシュを許せなかっただけ」 少し無理矢理だが笑みを作ってルイズは虚勢を張って見せた。 「…で、でも……」 シエスタは尚も食い下がる。全ては自分が撒いた種、その自分の不始末を恐れ多くもミス・ヴァリエールに押し付けてしまうなど、決して許されざる行為なのだ。 「…ホント、どうするつもりなの?ルイズ」 するとそこに事の推移を傍観していたキュルケが二人の間に入ってきた。 「どうするも何も、決闘受けちゃったんだから、やるしか無いわよ」 「ゼロのあんたに何が出来るって言うの?」 「う"」 痛い所を疲れて閉口する。 この世界に於いて魔法とは絶対の力の象徴。故に平民はメイジに絶対に勝てないと言うのが常識だ。 ギーシュは最低クラスのドットクラスであるが、対してルイズはゼロ、魔法が使えない。そう言う意味ではルイズは平民と殆ど変わらないのだ。 「な、何とかなるわよ!何とか!」 「ま、殺される事は無いだろうけどね」 ルイズは曲がりなりにも公爵家、それにギーシュはフェミニストでもある、命を取る事はまず無い筈だ。 「…アバラの2、3本は覚悟しといた方が良いけれど」 からかう意味合いを込めてそう補足する。 ルイズとシエスタの身体が同時に跳ね上がった。 「あぁもう、好きに言ってなさい!ギーシュなんて返り討ちにしてやるんだから!!」 そう言ってルイズはズンズンと食堂の外へと歩き去って行った。 途中、シエスタが引き止めようと声をかけたが、ルイズは聞こえないのか態と聞こえないフリをしたのか、振り返りもせず食堂を後にした。 「…ま、本当に危なくなったらあたしが止めに入るわよ」 「ミス・ツェルプルトー…」 残ったキュルケが優しい声でシエスタを宥めた。 「さて、と」 そろそろ自分も行きますか、とキュルケがその場で伸びをすると、見知った顔がまだ食卓に座っている事に気が付いた。 「ターバサ♪一緒に行きましょう」 キュルケの親友、青髪のショートヘアーで赤い縁の眼鏡をかけた少女、タバサである。 タバサは食事を終えても尚食卓に着いてひたすら読書に励んでいた。 「いい、興味無い」 タバサは簡潔に返答して立ち上がろうとしない。どうやら昼休みが終わるまでここで読書しているつもりらしい。 「本なんていつでも読めるじゃない。たまにはレクリエーションに付き合うのも悪くないんじゃない?」 キュルケがそう言うと、タバサは小さく溜息を付いて、開いていた本を閉じて椅子から立ち上がった。タバサにとってキュルケは数少ない友人、その友人を無下にしたくはないのだ。 「そうこなくっちゃ♪」 キュルケはからっと笑うとタバサの手を引いてルイズの後を追った。 ただ一人食堂に残されたシエスタは、相変わらず自責の念に囚われていた。 自分の所為でミス・ヴァリエールに迷惑をかけてしまい、あまつさえ決闘を受けるなんて事態になってしまった。 ミス・ツェルプストーはああ言ってくれたけど、それはつまり更に自分の所為で貴族様のお手を煩わせてしまう事になり、シエスタにはより一層の重責がその身にのしかかってしまう事になってしまうのだ。 それにミス・ヴァリエールが魔法を使えない事は平民間でも有名な話だ。つまり力量で言えば平民と大差ない事も同義、もし万が一の事が無いとは言い切れない。 魔法の恐ろしさは、身を以て味わっている。———あの時、"彼"がいてくれなかったら、自分はどうにかなっていたかもしれない。 「…始祖ブリミルよ…どうか…どうかミス・ヴァリエールを…どうか…」 シエスタは両手を合わせてか細い声で始祖にミス・ヴァリエールの無事を願った。シエスタにはそれくらいの事しか出来なかった。 「神頼みか…それも良いだろう」 するとそんなシエスタの元に青年が近付いてきた。 さっき空腹で困ってると聞いたので、調理場で賄い料理を振る舞ってあげたミス・ヴァリエールの使い魔の青年…。 「どうやらこのまま見過ごしたら寝覚めが悪そうだ。…それに、あいつの事もだいたいわかったしな」 シエスタははっとなった。彼は、彼もまた、ミス・ヴァリエールの元に行こうと言うのだ。そして、彼女を助けようと言うのだ。 「だ、駄目です!あなたも平民、貴族様には…メイジには敵いっこありません!…こ、殺されちゃいます!」 彼は身分を持たないただの平民、危険度で言ったらミス・ヴァリエールより遥かに危ない。何とかして青年を引き止めようとするシエスタ。 ミス・ヴァリエールに続き、その使い魔の青年まで行かせてしまったら、ただでさえもう悔やみ切れない事態になっていると言うのに、これ以上は自分はどうすれば良いと言うのだろうか。 だが使い魔の青年はそんなシエスタの静止をまったく意に介さず、悠然と歩き出した。 「お、お願いです!止まって!!」 すると青年はその場で立ち止まった。シエスタは一瞬安堵したが、青年はそのシエスタの方を向いた。 「安心しろ。俺は神だなんて大層なものじゃないが、世界を破壊する悪魔だからな。あんな洟垂れ小僧なんかに負けたりしない」 そしてそうとだけ言い残し、結局そのまま食堂を後にしてしまった。 取り残されたシエスタはその場でただ呆然としていた。 「…悪、魔……?」 彼が言い残した言葉を、シエスタはまったく理解出来なかった。 前ページ次ページゼロと世界の破壊者