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* 心に剣、輝く勇気 確かに閉じ込めて 見えない力、導くよブレイド 眠り目覚めるとき 未来、悲しみが終わる場所 奇跡、切り札は自分だけ リリカル×ライダー 第十三話『決闘』 『戦え、剣崎』 突然突き付けられた橘さんからの決闘状。俺は驚きよりも疑問の方が強かった。 もちろんそれを聞き、再度通信を受けるまでに考える時間は山ほどあったのだが。 「どうして……」 『オリジナルが決して越えられなかった壁を、越えるためだ』 通信の向こう側で、苦しげな重低音を響かせる橘さんの声がずしりと自分にのし掛かる。 橘さんが自分を壁と思っていた? 俺の方こそ、あの人は越えられないなと思い、尊敬していたのに。 「俺は、橘さんを越えたなんて思ったことはありません。橘さんは俺にとって頼れる先輩のままです」 『俺はオリジナルとは違う! 奴はそれで妥協出来たかもしれんが、俺はここで立ち止まる訳にはいかない!』 激昂し、表情を歪める橘さん。その怒り方はかつて自らの体がボロボロだということを告白したときに似ている。 かつてライダーシステムには致命的な欠陥があった。それは自らの内に潜む恐怖心を膨れ上がらせ、変身に必要な融合係数を減衰させて体に負担をかけるというものだ。 誰にでも恐怖心はある。俺より長く戦っていた橘さんは膨らむそれに気付かず、結果自らの体を痛め付けていたのだ。 だが橘さんはそれを乗り越えた。俺はそれを見て、この人はやはり凄い人だと思ったものだったことを、最近思い出した。 それを考えれば、この人が偽者であることは明白だ。体がという意味ではない。“心”がだ。それは例え記憶と体が同じでも、境遇が違えば育まれる“心”も違うことを証明している。 「橘さん――いえ、もうひとりの橘さん。その決闘……俺、やります」 ならばこの人とは戦わなければならない。壁を越えられなかった彼と。彼を救わなければ、橘さんにも申し訳が立たない。 『……時間と場所は添付してある』 最後に短く言って、橘さんは通信を切った。 それから数分も橘さんが消えたモニター先をボウと見つめていた時だった。 「――カズマ君」 後ろを向くと、左肩を庇いながらはやてがこちらに向かってきていた。まだ傷が完治した訳ではないらしい。かなり苦しそうだった。 「私はカズマ君の事情や記憶について何も聞かへん」 「なんで……?」 はやての台詞に目を見開く。彼女は冗談などをよく言う陽気な性格だが、やる時はやる人物だ。てっきり問い質してくると思っていたのだ。 「私は部隊長や。知ってしまえば黙ったままではいられへん。六課を守るために、カズマ君を切り捨てなければいかんことになるかもしれん」 はやては右肩を壁に預けながら、今まで見たことないような疲れた表情をしていた。いや、もしかしたらいつもこんな表情で苦しんでいたのかもしれない。単にそれを俺には見せようとしなかっただけで。 それでも、その目はまだ輝きを失ってはいない。 「だから、何も聞かん。私は、カズマ君の味方でありたいから」 そして彼女は僅かだが微笑んだ。この迷惑しかかけない俺に向かって。 それだけで、十分だった。 「近い内に、六課を離れようと思う」 だから、俺は正直に今後の予定を話すことにした。 「六課を?」 「俺がいると迷惑をかけることになるからな。それにあのアン……怪人を解放した奴を捕まえなくちゃいけない。だけどそれに六課を巻き込むつもりもない」 六課は古代遺失物管理部所属の部隊だ。つまりロストロギアの回収と管理が目的であり、アンデッドを倒すことは六課の仕事じゃない。 仮にラウズカードがロストロギアに認定されれば六課も動けるかもしれないが、そうなると俺自身も封印される必要が出てくる。バトルファイトもどうなるか分からない。 どちらにしろ、六課を巻き込みたくなかった。 「――わかった。私は止めんし、少しやけど手助けもしたる。でもなのはちゃんやフェイトちゃん、フォワードメンバーが納得するかは知らんよ?」 悪戯っぽい笑みを浮かべてそんなことを言うはやて。相変わらず辛そうだが、そんなはやてを見てるとこっちも自然と笑えてきた。これが彼女の武器なのかもしれない。 「そう言えば最近……というよりJS事件後からやけど、なのはちゃんの様子が変なんよ。最近は特に」 「なのはが?」 俺の正体を知ってからなら話は別だが、JS事件後からとなると俺にはよく分からない。何せJS事件後のなのはしか知らないからだ。 ただ話に聞いていたなのはは誰よりも強く優しく時に怖い、正義感溢れる少女だったのに対し、実際は冗談を言ったりするような普通の女の子だったことが違いと言えば違いか。とはいえその程度は伝聞と現実のズレでしかない。 ただし、冗談がはやてと違って洒落にならないものだったが。主にヴィータの件とか。 「まぁ、気のせいかもしれへんけど」 はやても釈然としない表情だったが、そう言って話を締め括った。 ・・・ (どうしよう……) カズマ君を反射的に避けてしまったことを思い出す。 わたしはカズマ君を避けようだなんて思ってもみなかった。少なくともそのはずだった。 かつて任務で色んな次元世界を飛び回っていた時だって怖い外見をした、人ではない知的生命体と会ったことがある。 けれどわたしは彼らと仲良くすることが出来たし、アルバムの中には肩を組んで取った写真もある。それが何だとは言わないけど、少なくとも外見だけで判断するような人間じゃないと思う。 だからカズマ君がアンデッドだからってわたしは恐れたり避けたりはしない、はず。 (なのに……) 理由は、薄々気付いている。わたしが変わった理由は、彼女のことしかない。カズマ君はそれを気付かせるきっかけでしかない。 やっぱり、わたしは戦士であることを辞めるべきなのかもしれない。もうわたしは、かつてのような無償の戦いなど出来ないのだから。 「なのはさん!」 「!?――――ど、どうしたのティアナ?」 こちらに走り込みながら呼び掛けてきたティアナ。いきなりだったので反応が遅れてしまった。普段ならありえない失態だ。 一瞬怪訝な顔をしたティアナは、しかしすぐに表情を切り替えた。 こういった空気の読めるところは助かるなと思う。同時に今はまだ責任ある立場だと自分に再確認させなければ。 「やっぱりここはスカリエッティが最近使っていた隠れ家だったみたいです」 「そっか……何か見つかった?」 「この写真を見てください」 彼女が待機状態であるカードの形になったクロスミラージュの中央にある球体をなぞる。途端、虚空に半透明のモニターが出現する。 「これって……」 それを見て、わたしは目を見開いた。 「似ています、よね」 「――チェンジ、デバイス」 モニターに映っていたもの、液体で満たされたカプセルに浮かんだモノは、チェンジデバイスに酷似したものだった。 もちろん細部は全然違う。あの特徴的なクリスタルが付いていないし、代わりにスライド式のカバーが付いている。 (もしかしたら、チェンジデバイスはここで作られたのかも) シャーリーが言っていた可能性の一つ。天才にしか出来ないと言っていた彼女が敢えて候補として上げた人物。 それが、ジェイル・スカリエッティだった。 「けどシャーリーさんが作ったデバイスをパクるなんて、スカリエッティも趣味が悪いですね」 ティアナが苦笑気味にそう言う。実際にそういう事例があったのだけど、真面目な彼女なりの必死な冗談なんだと思う。もしかしたら、わたしを気遣ってくれたのかな。 ちなみに彼女の言動が示す通り、フォワードメンバーはカズマ君のことを何も知らない。デバイスも、現れた時のとは違うものと伝えてある。皆そこまで確認はしていないから今のところは問題はなかった。 (カズマ君……) 彼については気掛かりがたくさんある。あの時現れた謎の男性についてもそうだし、アンデッドが六課を襲撃したことも懸念の一つだ。 もしかしたら、アンデッドはカズマ君を狙っているのかもしれない。 (とにかく早くスカリエッティを見つけなきゃ。そしてカズマ君の側にいないと) そしてスカリエッティの事件を、わたしの最後にするために。 「ティアナ、皆を集めて。わたしははやて部隊長に今の情報を送るから」 「はい!」 元気良く答えてすぐに通信を始めるティアナ。専門的な訓練をする内に前よりも親しくしてくれるようになったのが嬉しい限りだ。 わたしはそんな彼女の後ろ姿を見つめながら、報告のため、はやてちゃんに通信を繋げた。 ・・・ 橘さんが指名した場所は、廃墟と化した空港だった。 かつてレリックと呼ばれるロストロギアが暴走し、このようになったのだそうだ。今はそのロストロギアによる汚染などの危険から放置されている。 教えてくれたのは、はやてだった。 『待っていたぞ、剣崎』 何処からか声が響いてくる。広大な滑走路のど真ん中にいるからか、何処から聞こえるのかは分からない。 だが、誰なのかはすぐにわかった。 「橘さん、出てきてください!」 自分の大きな声が滑走路に広がる。 それと間をおいて、ゆらりと唐突に目の前から橘さんは現れた。 「お前を倒し、オリジナルを殺し、俺は自らの存在を証明する」 「橘さんは橘さんです! 貴方は別人です!」 「当たり前だ! だが周りが納得できる証明が必要なんだ!」 醜く表情を歪ませ、腰のポーチから紅い何かを取り出す。中央の特徴的なクリスタルと箱型の形状、それは色違いではあるが、見慣れたものだった。 「チェンジデバイス!?」 「ああ。だがお前が本物のカードを与えられたのに対し」 右手がポケットから引き抜いたのは一枚のカード。 それは粗雑なコピー画のような鍬形虫が描かれたダイヤのカテゴリーエース。 「カードすら俺は偽物なんだよ!」 『Stand by ready, set up.』 そのカードをチェンジデバイスの裏に挿入、電子音声と共に伸びるベルト状のカードが腰に巻き付き、赤いベルトへと変化する。そこまでは俺のと何ら変わりない。 「お前も準備しろ。いいか、カードを使わないなんてことをしたら俺はお前を許さん」 一瞬躊躇したが、覚悟はすでに決めてきたのだ。もう迷わない。 俺もチェンジデバイスを取り出し、スペードのカテゴリーエースを裏面に挿入し、中央のレバーを、構えを解きながら引っ張った。 「変身!」 『Turn up』 バックルの役目をしているチェンジデバイスのクリスタルが輝き、中に埋め込まれたゴールデントライアングルが回転する。魔力とアンデッドのエネルギーが躍動し、瞬く間に力が生み出されていく。 その光から、一枚の蒼いエネルギーフィールドが飛び出す。 「――変身!」 『Drive ignition』 同じく橘さんがチェンジデバイスについているレバーを引っ張る。そして同じようにクリスタルが輝き、そこから発されるのは紅いエネルギーフィールド。 互いに扉のように立ちはだかるエネルギーフィールド――片方は魔力でもう片方はアンデッドの力で編まれたオリハルコンエレメントを、俺達は駆け抜けるように潜る。 「うああぁぁぁぁぁ!」 「おおぉぉぉぉぉっ!」 そして互いに鎧を纏い、拳をぶつけ合った。 「くっ……!」 パワーはこちらの方が上だったらしい。拳の打ち合いに退いたのは橘さんだった。だがそこで引き下がるはずもなく、腰に下げた専用銃を引き抜く。 その銃口が、真っ直ぐこちらに向けられた。 「ぐあっ!」 連続した発砲音。 銃弾を遮蔽物もない場所で避けられるはずもなく、銀色のアーマーに被弾してしまう。 しかし受けてばかりもいられない。アーマーがいつまでもつのか分からない以上、身は守らねばならない。そのための対策は立ててきた。 『Panzerhindernis』 チェンジデバイスから発される電子音声。 ガード態勢を引き金に魔法が発動する。アクショントリガー、魔法発動手段の一つだ。それによって発動されるのは―― 「ちっ、防御魔法か!」 展開されるのは多くの面で構成された青い防御壁。それが俺の前面を囲むように生成される。まさに二人の間に出来た“壁”だ。これで橘さんの銃弾は壁で阻まれ、ここまでは届かない。 そう。俺はこの決闘のために、ある準備をしていた。 ・・・ 「ザフィーラに訓練を?」 「ああ、教わりたいことがあってな」 はやてが疑問符を浮かべるのも無理はない。 確かに彼女は出来る限りの手助けはすると言ったが、まさかその当日に早速要請があるとは思っていなかったのだ。それこそ一時間も経たない内にである。 「でもザフィーラはあの通り重傷やしなぁ」 ザフィーラは以前イーグルアンデッドを迎撃した際に、腹に穴を開けられるという普通なら即死の重傷を負っていた。善戦はしたが相手が悪かったと言うしかないだろう。 ザフィーラ達、ヴォルケンリッターが特殊な体だったから良かったものの、完治には数ヶ月を要するらしかった。 ザフィーラが倒れたことで六課の防衛力は低下しており、カズマは本来なら重要な戦力となるはずである。そのことを思ったのだろう、カズマは僅かに視線を落としていた。 「何を習いたかったん?」 はやてのもっともな疑問に、カズマは即座に答えた。 「防御魔法だ。橘さんは射撃を多用する、それを防ぐには強固な壁がいるんだ」 それを聞いてはやては疑問符を浮かべる。彼女が覚えている限り、カズマは防御魔法を使えたはずだからだ。実際なのはが調べた際も飛行魔法とシールド魔法は使えたのだ。 「シールド魔法じゃダメなん?」 「それだとカバーする面積が足りないんだ」 カズマが思い出す橘は銃型のラウザーを用いるライダーだった。この前見た姿がほとんどその頃と変わらないことから、彼は射撃型だと判断していた。 そして射撃型に接近戦を挑むために、彼はガードを固める必要があった。 「なるほどなぁ。でもそれならフェイトちゃんに習って機動力上げた方がええんやない?」 そう、ガードを固める以外にもその手段はあった。実際そちらの方が効率が良いかもしれない。だが……。 「いや、橘さんなら確実に撃ち落としてくる。それに――」 ――今は、フェイトにもなのはにも会いづらい。 カズマの口から後半の台詞が発されることはなかった。彼とてこの前のなのはの変調、そしてフェイトの意外な過去を気にしていないわけではなかった。 そんなときだった。彼にまさかの協力者が現れたのは。 「それならあたしが教えてやるよ!」 現れたのは、ヴィータだった。 ・・・ 現れた多角形状の青い壁を境に対峙する蒼と紅のライダー。 カズマは橘との距離を詰めるべく、この壁を量産して地形を複雑化させていた。まさしく水晶で出来たジャングルのように。 ――本来バリア系は敵の攻撃を正面から受け止めるものなんだ。 カズマはヴィータの教えを反芻しつつ、バリアの生成に集中する。理由は単純、彼は魔法の行使が下手で、且つやっていることが難解だからだ。 三次元的なフィールドに変化した滑走路を、飛行魔法を駆使しつつ滑空し、橘の進路と攻撃を阻害しながら彼に迫る。 ――お前の言うバリアは結界に近いが、それはいいか。敵の攻撃を真正面から受け止める壁、それだけだな。 魔法の運用能力が壊滅的なまでに低いカズマだが、防御系は一応使えるレベルにある。それを利用した戦術だった。逆に言えばこのために機動戦術は取れなかったのだが。 問題はバリアの角度だ。 正面から受けることを想定しているため範囲が広い上に固いのが特徴のバリアだが、妙な角度から攻撃を受けると固い故に砕けてしまう可能性が高いのだ。言うなれば柔軟性に欠けていると言ってもいいだろう。 シールド魔法は逆に弾くことで防ぐ手段なのだが、弾くために弾力を重視しているため強度が低い。なのはクラスの使い手なら話は別だが、カズマには無理な話だ。 そのためカズマは角度に注意し、砕けにくいバリアを設置しなければならず、かなり集中して事に当たる必要があった。小刻みな移動も含めると相当頭を酷使する作業だ。 橘はカズマを追い掛けながら銃弾を撃ち込む。だが瞬く間に壁が生成されてそれらは弾かれてしまう。未だどちらも有効打は打ち込めていない。 「剣崎ィ! 貴様、こんな人をバカにするような戦い方をするのか!」 確かにかつてのカズマはこんな戦い方はしなかっただろう。だがそれは同時に彼がかつての己よりも成長した証でもある。 カズマは答えない。 その代わり、彼は拳で答える男だ。 「うあああぁぁぁぁ!」 『――TACKLE』 橘の後ろ、死角となる部分から迫るカズマ。 カードの力が込められたことで光り輝く右肩を橘のアーマーに叩き込む――だが、 『Protection』 それは紅い光によって受け止められた。 「橘さんも魔法を!?」 「お前より俺の方が魔法の腕は上だ!」 バリアを展開する橘の周囲に緋色の光球が幾つも浮かび上がる。 『Blast Fire』 それらは炎弾となってカズマに降り注ぐ――! 「ぐあっ!?」 左手に張ったシールド魔法で弾くが、範囲外の肩や足を容赦なく蹂躙する。その火の雨は、カズマの防御を嘲笑うように次々と有効打を与えていく。 じゅう、という音色。 スーツを貫通して炎がカズマの肉を焼き焦がした音だった。 「がぁ……ぁぁっ!」 「アンデッドだからな、非殺傷など必要ないだろう」 仮面の下で氷のように冷たい表情を浮かべながら、更に橘は一枚のカードを引き抜き、銃のカードリーダーに通す。醒銃型ストレージデバイスがカードに記録されたデータを認識し、既定の魔法を発動する。 『――Ballet』 橘の言うラウズカードを模したモノ、デバイスカードが魔法を発動する。橘の銃を緋色の円環魔法陣が包み込み、その銃口は静かにカズマに向けられた。 「剣崎、この程度なのか」 そう言い、引き金を引いた瞬間、 「アアアァァァァァ!」 剣崎を、蒼色のオーラが包み込んだ。 それは丸まったアルマジロにも似た橘の銃弾ならぬ砲弾を、真正面から受け止める――! 「何っ!?」 「ガアアアァァァッ!」 その砲弾を受け止め、荒々しく叫ぶカズマ。その体は蒼色の光に包み込まれ、神秘的な輝きを放つ。 ――防御魔法はバリア、シールドの他にもうひとつある。それがフィールド系だ。 ヴィータが施した秘策。 彼女はカズマに二つの魔法を教え、そして片方については短期間の訓練では扱いきれない彼のためにある手を打っていた。 ――お前はバリアジャケットもオート発動だからよくわかってねーんだろうが、フィールド系は意外と扱いが難しいんだ。効果は高いんだがな。 カズマはジョーカーとしての闘争本能に汚染されたまま、ゆらりとブレイラウザーを片手に歩き出す。だらりと下げたまま、まるで幽鬼の如く。 かつてティアナとなのはを震撼させたその姿。それは闘うことしか考えられない狂戦士そのもの。 ――まぁ、あたしがシャーリーに頼んで発動は何とかしてやる。ヤバくなったときに凌げるようにしてやるから、頑張るんだぞ。 本能のまま魔法を制御し、オーラを維持する。 その魔力を得るためにチェンジデバイスを侵食し、内部のオルタドライブを構成する三つの疑似リンカーコアを限界以上に稼働させる。 そうして自らを強化したカズマを見て、橘はほくそ笑んだ。 「……ようやくジョーカーとしての力を引き出したか」 カズマはかつて人間だったジョーカーだ。それ故に人間としての人格はしっかりと生きており、ジョーカーとしての本能は、普段は抑えられている。 だが本人の意識が失われるほどの危険な状態の時、本能は自らを守るべく覚醒する。 「ガアアアァァァァァ!」 光り輝く戦士が獣の如く走り出す。 橘はそれを倒すべく、左腕にある“ある物”を起動させる。 「近付くな!」 橘は銃を向け、フラッシュの後に弾丸が疾走する。 しかしカズマにぶつかった直後、それらは尽くが無力化される。正確には、着弾の度に爆発が起きて銃弾を吹き飛ばしているのだが。 更に橘は中空に魔力スフィアを展開し、先の砲弾に形状が似た紅い魔法弾を撃ち込む。どれも凄まじい衝撃をカズマに叩き込む。 だが、カズマは止まらない。 「ちっ」 飛行魔法を起動してカズマから距離を取る。その一連の時間で、橘は準備を整えていた。 「剣崎ィ! こいつを越えてみろ!」 『Absorb Queen』 腕に付けられた機器から片翼のように広がるカードトレイ、そこから引き抜かれたカードが機器の上部カードホルダーを挿入したことで発された電子音声。 そしてもう一枚のカードを脇に付けられたスリットに通す。 『Fusion Jack』 二枚のデバイスカードがオリジナルを模した力を発揮する。 ダイヤのジャックに描かれた汚らしい孔雀の絵、その絵柄から黄金の光が溢れ出し、金色の輝きが羽根を広げる。 その光を受け止めた橘のバリアジャケットは、銀色だったチェストアーマーが金色に染まり、背に孔雀の羽根を象ったオリハルコンウィングが装着される。 そして銃にはディアマンテエッジが銃剣の如く施され、腹の部分には黄金のレリーフが施される。もっとも、絵柄は装甲によって塗り潰され、無惨な姿になってだが。 「ジャックフォーム。今のお前では届かない高みだ」 正確には魔法で再現されただけの偽の力。それを分かっていても、橘は吠えずにはいられない。それほど、この力はオリジナルに近い輝きを放っているのだ。 空を支配する紅い戦士と地を駆ける蒼き野獣。 二人の戦いは、まだまだ決着は着かない。 ・・・ (カズマ君……) はやてちゃんが送ってきた一枚の地図。 何の地図か何一つ記されてはいなかったが、ここで何が起きているかは明らかだった。 第八臨海空港。 わたしが初めてロストロギア、レリックの力を目の当たりにし、スバルを救助した場所であり、はやてちゃんが自らの力不足を痛感し、機動六課を設立するきっかけを作った場所でもある。 今そこで、カズマ君は死闘を繰り広げているのだろう。だけどこんなところにいるわたしには何も出来ない。 けど、今のわたしに何が出来るだろう。何も出来はしないんじゃないだろうか。 「なのはさん!」 元気の良い声が聞こえる。振り向けばスバルがインラインスケート型デバイス、マッハキャリバーで滑りながらこちらに向かっていた。 「こっちも調査終わりました!」 「じゃあここは陸士部隊に引き渡して、次に行こうか」 こんなことを考えていても仕方がない。 今回見つかったチェンジデバイスらしき謎の機器やカード状の機器など、懸念点は少なからずあるのだから。もしかしたら、本格的にスカリエッティは動き出すつもりなのかもしれない。それを未然に防がなければ、また多くの被害者を出してしまう。 「――なのはァ!」 だからわたしは今の仕事に集中して……え? 「ど、どうしたのヴィータちゃん」 「それはこっちの台詞だ! ボーッとしやがって」 小学生みたいな外見でこの言動だから、初対面の人は皆面食らう。可愛らしい顔立ちなのだから、愛想良くしてればいいのに。勿体ない。 それはともかく。 「ご、ごめん。ちょっとね」 「気になるんなら行けばいいじゃねぇか」 誤魔化そうとするが、彼女はまるで全て見透かしているみたいにそう言う。顔を見ようとしてもそっぽを向かれてしまう。 けれどその口調は何処か気恥ずかしそうに感じた。 「昨日はサボったからな。後はあたしに任せな」 「で、でも……」 「グダグダうっせぇ! 昔のお前なら止めても突っ走って行っただろうが!」 はっ、とした。 そうだ。わたしは、本当はそういう性格だった。なのに、どうしてこうなってしまったのか。――いや、理由は分かってる。でも。 「なのは、お前は見届けたいんだろ? あたしにはよく分からねぇけどさ、お前は行くべきなんじゃないか?」 「……うん」 多分、ヴィータちゃんは何も知らない。 それでもわたしをここまで後押ししてくれている。それを無下にするのは、絶対に嫌だ。そのために、カズマ君の戦いをわたしは見届けなければならない。 「わかった、行ってくる」 「ああ、後は任せな」 フォワードメンバー皆が疑問に満ちた視線を送っているが、そこら辺はヴィータちゃんに任せるとしよう。 さぁ、行こうか。彼の元へ。 ・・・ 「ガァッ!」 橘の銃弾と、数発の魔法弾を受けてカズマが吹き飛ばされる。 すでに彼自身の意識は戻っていた。しかしそれで状況が好転した訳ではない。むしろ混乱したままやられているという最悪の状況だった。 孔雀型のオリハルコンウィングを広げた姿は神々しく、太陽を背にする橘はどこか不死鳥のそれを思わせる。 高い空間制圧能力と銃に強化変身によって装着されたディアマンテエッジを生かした格闘戦能力。 ジョーカーとしてのカズマでさえ圧倒した橘に対し、もはや身を守るオーラを喪失したカズマでは、戦闘継続すら厳しい。 「所詮この程度か、剣崎。最凶のアンデッドの力が聞いて呆れるな」 橘の周囲に緋色の魔力スフィアが浮かび上がる。 確かに橘のパワーや武器の威力、カードの性能は以前より劣化している。偽物なりの性能といったところだろう。 しかしその分を魔法で補っているからか、実力はむしろ増していると思えるほど。やはり本人同様、努力家だということだろう。 (どうする……) 「行け!」 『Blast Fire』 悩む暇はない。バリア魔法を用意する余分な時間も魔力もないので、シールドを素早く展開し、攻撃から逃げるように駆け出す。 橘が主に使用する攻撃魔法はかなり厄介だ。 一発一発が強力な炎弾である上に爆発力も高く、周辺に拡散させれば広域魔法に、一ヶ所に集中させれば一点破壊も出来る優れ物なのだ。 ただし誘導性能はない。だからカズマなら何処に来るかを予測出来れば避けられないわけではない。だが。 「ッ!」 じりり、と肩のアーマーが溶ける。 完全には避け切れない。爆発範囲も広いし、カズマの思考パターンを読み取られれば回避も出来なくなる。 さらに橘は、追撃するべく銃のカードトレイを開いていた。 『――Rapid』 「くそっ!」 『Panzerhindernis』 カズマが持てる魔力を全て費やし、目の前に現れる多角形状の蒼い壁。 それに加速された銃弾が数十撃ち込まれる。 (く、そっ!) 壁にヒビが入る。本来なら砲撃すらも受け止めるバリアにだ。 カズマはマスクの下で冷や汗を流しながら必死でバリアを維持するが、銃弾が突き刺さる度にヒビが広がっていく。 (そうか、強度の弱い箇所を的確に……!) バリィン、というガラスが割れたような音。 カズマを守っていた壁が砕け、針のように鋭い銃弾が鎧を貫く音だった。 「が、は……っ」 「くくく、はははは! あのオリジナルが越えられない壁をいとも容易く俺は越えた! そうだ、これが俺の力だ!」 カズマの意識が痛みで朦朧としてくる。激しい眠気によりカズマの瞼は塞がれ、全て投げ捨ててしまいたくなる虚脱感に襲われる。 (このまま眠れば、もう――) 『君が戦う理由は、何だね?』 カズマの耳に何か、聞こえてくる。それは老けてはいても芯の通った声。 (でも、どうでもいい。俺は、俺は眠りたい……) 『義務か、使命か、それとも仕事かね』 (……いや、違う。俺はこんなところで眠るために戦いに来たんじゃない。ましてや誰に強制されたわけでもない。俺は――) 『もう一度聞こう。君の戦う理由は、何だね?』 カズマの耳に、今度こそ問いが伝わる。それにカズマは、ゆっくりと立ち上がりながら口を開いた。 「俺は、全ての人を、愛している」 「まだ立ち上がれるのか!?」 橘の声だ。だが、今のカズマにはそんなことはどうでもいい。 「だから俺は、皆を守りたい。そのために戦っている!」 カズマの意識がハッキリとしてくる。マスクの下で目をカッと開き、唇を引き締める。 彼の目の前には銃を構えた橘がいる。黄金の羽根を広げている姿も変わらない。だが僅かに、彼の銃を持つ右手がブレている。 「橘さん、あなたもです。俺は、あなたも救ってみせます!」 「うるさい!」 橘が引き金を引く。途端にマズルフラッシュが光り、カズマの体に鈍痛を響かせる。 それでも、カズマの歩みは止まらない。 そして橘の銃撃を防ぐべくカズマのキックが、橘を吹き飛ばす。 「がっ!」 その隙を突くように、再びヘルメットから音声が流れ出した。 『ふむ、良い答えが聞けたよ。今なら使いこなせるだろう。受け取れ』 「あなたはいったい……」 『君を導く力、ラウズアブゾーバーだ』 ヘルメットから出ていた声が途切れる。それと同時に、カズマの左腕が輝き出す。 『Rauze Absorber,set up.』 チェンジデバイス中央のクリスタルがゴールデントライアングルの回転と共に光を増していき、やがて光は左腕に溢れていく。それは次第に一つの機器へと形を変えていった。 上級アンデッドの力を吸収して更なる力を与える機器、ラウズアブゾーバー。カズマはブレイラウザーから二枚のカードを引き抜き、その一枚を挿入する。 『ABSORB QUEEN』 “吸収”の力を持つカテゴリークイーン。 そしてもう一枚のカードを、ラウズアブゾーバーの端に備えられたスラッシュリーダーに通す。 「お前の信念を貫く力を、俺に貸してくれ!」 『FUSION JACK』 ラウズアブゾーバーを通してカテゴリージャックの力が解放される。それは黄金の鷲となって、自らの体と融合していく。 そのとき、異変は起こった。 「ぐあぁぁぁぁぁ!?」 今までにない、アンデッドの力の流入。それはかつてラウズアブゾーバーを使用したときとは格が違うほどの量へとなっていた。 まるで決壊したダム。際限ない不死生物の力が何のストッパーもなくカズマに流れ込んでくる。 「あぁぁぁぁぁっ!」 「……なるほどな」 今になって立ち上がった橘が、そう呟く。彼の中には一つの確信があった。 「ただでさえ融合係数の高い剣崎がジョーカーになったとき、その融合能力は本人ですら制御出来ないものとなる」 カズマの黄金の光に包まれながら重圧に押し潰されようとしていた。今の彼にとっては、身を守るアーマーですら息苦しい拘束具でしかない。 「オーバーユニゾン。正に制御が出来ない状態か。なるほど、だから伯爵は奴に当初ラウズアブゾーバーを渡さなかったのか」 カズマは優れたアンデッドとの融合能力を持つ。ライダーとしては必須の能力に、彼は天性で恵まれていた。 しかし才能は時として本人を苦しめることもある。強すぎる力は、制御出来ずに暴走する可能性も秘めているのだ。 剣崎は自らを侵食するアンデッドの力に対し、慟哭の雄叫びを上げる。橘はそれを冷たく見つめながら、静かに銃口を向けた。 だがそのとき誰も、小さな妖精の到来に気付いてもいなかった。 「カズマさ――――ん!」 カズマの元に弾丸の如く疾駆する一つの影。 その名は祝福の風、リィンフォース・ツヴァイ。 「リィ……ン――?」 「今行きますぅ!」 彼女はユニゾンデバイス。その役割は相手と融合することでその能力を補助、増加させること。特にはやての大規模攻撃魔法の制御などで力を発揮する。 今カズマが必要としているもの。それは、力を制御する術。 「ユニゾン・イン!」 彼女がカズマの体に解けるようにして消えていく。 そして、光の呪縛は“弾けた”! 「くっ……!」 余りの眩さから目を腕で覆う橘。 その光が収まったとき、そこにカズマは立っていなかった。 「ジャックフォームか!」 仮面を覆う透明なフェイスガードとチェストアーマーを黄金に染め、腹の部分に同じく黄金の鷲のレリーフを施し、背中に輝くような銀のオリハルコンウィングを背負う戦士。 ブレイド・ジャックフォームがそこに誕生した。 「リィン、助かった。もう大丈夫だ」 『はいです!』 ユニゾンデバイスとしての本能が察知したのか、自らの役目が終わったことを悟ってユニゾンを解くリィン。カズマは誰かに頼ったりはしない。ほんの少し誰かに導かれることはあっても、それに依存したりはしないのだ。 今ここに、二人の戦士が向かい合う。互いにカードを引き抜き、自らの必殺を叩き込むため。 『――KICK』 『――Drop』 互いに言葉はいらない。後は無言で語り合うのみ。そう、二人は今、お互いを理解し合っていた。 『――THUNDER』 『――Fire』 だがそれは戦いを決着させるための理解。もはや理解し合っても戦いは止まらない。いやむしろ互いが互いのことを分かるからこそ戦いは加速される。 『――MACK』 『――Gemini』 互いに三枚のカードを通す。それはコンボとなり、互いが持ちうる限りで最強の技へと変化する。 魔力で編まれた技と不死生物の力で出来た業。 臨界点に達した二つの力が、今、激突する。 『LIGHTNING SONIC』 『Burning Divide』 「「あああぁぁぁぁぁ!」」 マッハのカードとオリハルコンウィングによって加速されたカズマは、雷撃を纏った右足を音速の勢いで振るう――! ジェミニのカードで二人に分裂した橘は、炎撃を纏った両足を二乗の力で叩きつける――! 広大な第八臨海空港の滑走路に、閃光が走った。 ・・・ 俺達が必殺技をぶつけあって、数刻。ようやく意識が戻り、周りを見回すと橘さんがアーマーに包まれたまま倒れ伏しているのを見つけた。 「……大丈夫、ですか」 我ながら白々しい台詞だなと思いながら橘さんに近付く。俺と違って、橘さんのアーマーからは相当なダメージが見て取れた。ブレストアーマーは大きく抉り取られており、強化変身もすでに解けていた。強化変身については俺も同じだが。 そしてもちろん俺も無傷じゃない。肩の装甲は熱で端が溶けていた。動くことに支障が出るようなダメージは負っていない。 「――剣崎」 手を差し伸ばそうとしていた時だったからか、ビクリと反応してしまう。 仮面により判別が付かなかったが、どうやら意識はあるらしい。 「良かった、無事なんですね?」 「俺は、初めから愚かなことをしていることは分かっていた」 橘さんが俺を無視して話を始める。その独白を聞くため、俺も手を引っ込めた。何故か、聞き逃したら取り返しがつかないような気がしたから。 「伯爵は俺の行動を見透かし、利用していることは知っていた。それでも、俺は止められなかった」 濃い疲労を感じ取れそうな、橘さんの科白。 「なぁ、橘朔也はなぜ強かったと思う?」 「橘さんが強かった、理由……?」 自分にとって、橘さんは最初から強い人だった。何せ先輩だったのだから。そのため、俺にはその質問は答えられなかった。 「奴にはな、守りたいと思える人間と、支えてくれる仲間がいた。だから奴は強くなれたんだ」 それを聞き、橘さんに大切な人がいたことを思い出す。その人は戦いに巻き込まれて命を失っていた。その時を境に、橘さんの雰囲気が変わったのを覚えている。 「俺には、誰もいなかった。冷たいカプセルの中から生まれ、仮初めの過去を持ち、広大な研究所でたった一人だった。俺は――孤独だった」 「橘さん……」 「だから、お前が羨ましかった。何故お前にはたくさんの人間が味方するのか、何故お前は知りもしない他人のためにそこまで戦えるのか、知りたかった」 「今からでも間に合いますよ、橘さん」 そう、人は死ななければいくらでもやり直せる。橘さんは生きている。ならもう一度やり直すことは可能だ。 俺だってたくさんの人間に拒絶され、傷付けられた。それでも、生きているからこうしてやり直すことができる。 「俺が最初の“仲間”です」 「剣、崎……」 俺は橘さんの手を握る。その手はスーツを介してもなお、温かい。そうだ、橘さんは生きている。ならば俺ともう一度―――― そうして引っ張り起こそうとした、その時だった。 爆発が、起きた。 一瞬の光。その後に発生するのは耳をつんざくような何かの炸裂音と、全てを吹き飛ばそうとするような衝撃波の嵐。 重い体を持ち上げ、目を開く。視界に映った数瞬後の光景は、まるで違うものだった。 「橘さん……? 橘さん!」 目の前には、仁王立ちした状態の橘さんがいた。そしてその橘さんが倒れてきたときに、全てを悟った。 その背中は、アーマーすら判別出来ないほど黒く焼き焦げていた。 「橘さん!」 「け……ん、ざき」 ひび割れたマスクから僅かに声が漏れる。その罅から、橘さんが垣間見えた。 「橘さん!? しっかりしてください!」 「カズマさん!」 自分の脇をすり抜けるようにして現れたリィンが必死に回復魔法を発動する。 俺は、呼び掛けることしか出来ない。 「橘さん!」 「はく、しゃくを……さが、せ」 「!?」 伯爵――何度も橘さんの台詞に含まれていた言葉。 しかしその意味を聞き出すことは、とうとう出来なかった。 「ごめんなさい……」 「リィン――?」 「助け、られませんでした……」 橘さんを見つめる。その死は、あまりに唐突なものだった。 救いたかった。助けたかった存在。なのに、何故死んでしまったのか。 「ハッハッハ! 君がオリジナルかね? 会えて嬉しいよ!」 上空からかかる煩わしい甲高い声。余りに不快だったので、俺はその方向に向かって睨み付ける。視界には、四人の男女が写っていた。 「お前が……」 その中央の人物。その顔には見覚えがある。一度だけ見た奴の写真。六課が探す宿敵。 「橘さんを殺したのかぁぁぁぁぁ!」 「五月蝿いね、静かにしてくれないか」 血液が沸騰し、頭に血液が逆流する。怒りが全身を支配し、細胞を過剰に活性化させる。 救えなかった自己嫌悪と、その機会を奪った者への憤怒。それは俺の理性を容赦なく破壊した。 「初対面だ、名乗っておこう。私が、ジェイル・スカリエッティだ」 そう、コイツと戦う理由が、出来た瞬間だった。 ・・・ ついに六課に立ち塞がった宿敵、ジェイル・スカリエッティ。彼はカズマに強い興味を示す。その彼は、あるものをカズマの前で使用するのだった。 一方、なのはとフェイトもジェイル・スカリエッティと戦おうとするが、新たな力を得たナンバーズに対し、苦戦を強いられるのだった。 次回『スカリエッティ』 Revive Brave Heart ※ELEMENTS 作詞:藤林聖子 作曲:藤末樹 唄:RIDER CHIPS Featuring Ricky より歌詞の一部を抜粋 目次へ 次へ
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リリカル・ニコラス テロ牧師の聖夜 「ああ、そういや明日はクリスマスやったな」 夕食用のジャガイモの皮をむきながら、ウルフウッドはふと口から漏らした。 誰に言うでもなく、ただ思い出した事象が自然と口から零れた、そんな呟き。 だが彼の隣りにはそんな呟きを聞き届ける者が一人佇んでいた。 「ニコ兄、クリスマスって何?」 逆立った赤毛の少年、エリオ・モンディアルは皮むきを手伝いつつ首を傾げて彼に疑問符を投げかける。 ウルフウッドは隣にいた少年にふと目をやると、一度脳裏に情報を整理した。 「ああ、クリスマスっちゅうのは、ああ、なんつうか……ホーム(地球)の、なんちゅうか、祝いの日みたいなもんや」 「お祝い?」 「おお、12月24日にもみの木飾ったり料理を食ったりプレゼントを用意したり、それと赤い服を着たサンタとかな、まあ色々や」 「サンタ?」 「クリスマスにはそういう人が赤い服を着てプレゼントを配るんや」 「へえ」 その言葉を聞き、内容を胸中で反芻しながらエリオは視線を時計に移した。 時刻はもうじき18時に差し掛かるという頃合、まだ“彼女”に会うには少しは余裕があるだろう。 (騎士カリム……お時間あれば良いけど) △ 12月24日クリスマス当日、買い物から孤児院へと帰ってきたウルフウッドは目を丸くした。 「なんや……これ?」 異様・異質・異常、そう形容して余りある光景がそこには広がっていた。 まず壁やら床にきったない絵が描いてある、明らかに子供のラクガキ。 ラクガキの中にはこれまた汚い字で“メリークリスマス”と書いてある。 そして部屋やら廊下やらのあちこちには盆栽や鉢植えが置かれてた、それもただの木ではない。 色とりどりのモールや飾りを付けられて派手な姿へと変わっている。 しかし正直、松の盆栽にカラーモールはあまりにカオスだった。 その光景に唖然としていると、唐突に銃声にも似た乾いた音が鳴り響いた。 「「「「メリークリスマス!」」」」 乾いた響き、クラッカーの音と共に紙の破片と小さな飾りが飛び散る。 そして、それぞれに赤い服を着た子供達と見慣れた騎士やシスターが現れた。 「お前ら……何しとるんや?」 「もう、何言ってるんですか? 今日はクリスマスという日らしいじゃないですか。エリオ君に聞いたんです」 「と、言うわけで色々と即興でパーティーの容易をしたんです」 サンタ風、を意識したのだろうか、赤い衣装に身を包んだシャッハとカリムが彼の前に立つ。 少しスカートの丈が短めな為か、カリムは恥ずかしそうにモジモジと裾に手をやり頬を赤らめている。 だがウルフウッドの目を引いたのは二人が手にした包みだった。 「それ、もしかしてプレゼントか?」 「ええ、ウルフウッドさんがお気に召すかどうかは分かりませんが」 「色々考えて容易したんですよ?」 魅力的ともいえる笑みを宿した二人の美女はそう言うと、ズイと彼の前に歩み寄り手にした包みを差し出した。 「さあさあ、では受け取ってください」 「おお、あんがとさん……でもなぁ……」 「“でも”、なんですか?」 「クリスマスは子供にプレゼント上げる日ぃやねんで?」 二つの包みを手に受け取りながら、ウルフウッドは苦笑してそう漏らした。 「そ、そうなんですか?」 「おう、まあな」 「子供達へのプレゼントですか……では“騎士カリムのスカートめくり権”というのはどうでしょう?」 意地悪そうな笑みを浮かべ、明らかに冗談と分かるトンチキな事を吐くシャッハ。 だが当のカリム本人は冗談やからかいに不慣れなのか天然なのか、彼女の言葉を本気にして慌てふためいた。 「ちょ! シャッハ!? ス、スカートめくり!?」 「おう、それ面白そうやな」 「でしょう? どうせ白パンですし」 「そうやな、色気ないしな」 「な、な、な、なにを言ってるんですか! 今は危ないんです!」 カリムがそう言った時だった、三人の会話を聞いていた近くの子供がそっと、それこそ隠密の如く忍び寄る。 そして意を決したかと思えば、その幼き魔手を翻した。 「騎士カリムのスカートめくり権も~らい♪」 「きゃぁっ!」 疾風迅雷のように素早く、そして淀みなく、少年の手はカリムのサンタ風衣装のスカートの裾を盛大にめくり上げた。 そしてその中にあったのは……なんとも言えぬ極楽絵図だった。 実に触り心地の良さそうなむっちりとした太股は白く美しい柔肌を誇り、その上の下腹部はきゅっと締まってヘソのラインを艶めかしく引き立てる。 そしてなにより目を引いたのは、彼女の穿いた下着。 白い肌をより一層美しく引き立てる漆黒のソレは、各所をレース地で仕立てられており酷く扇情的。 さらには部分部分が透けており、雄の獣欲を否応なくそそり立てるような素晴らしい逸品だった。 スカートが舞う一瞬、その一刹那が惜しく感じられるような時間だった。 ちなみに、ウルフウッドはその光景を鍛え抜かれた動体視力できっちりと脳裏に刻み付けていた。 「あ……ああ……」 先日意を決してネット通販したセクシーパンツを白日の下に晒され、カリムは呆然とそんな絶望染みた声を漏らす。 めくった犯人の子供はしきりに“騎士カリムのパンツまっくろ~♪”等と陽気にはしゃいでいる、無邪気な子供とは恐ろしいものだ…… だが子供は良い、なにせそこまでやらしくない。 問題は成熟した男、それも親しい人に見られた事だ。 「……み、見ましたね?」 「ちょ、待てや落ち着け、今のは不可抗力やろ!?」 「……でも見ましたね?」 「そりゃまあ、確かにお前のエロパンツ見たのは事実やけど、へぶああ!!」 「いやぁっ! ウルフウッドさんのエッチ~!!」 ウルフウッドの弁明虚しく、カリム・グラシアの見事としか形容できないアッパーカットは的確な角度と強烈な力で炸裂した。 凄まじい力で脳髄を揺さぶられ、薄れ行く意識の中ウルフウッドは最後に見た絶景を脳裏で反芻した。 △ 「いつつ、しっかしカリムのやつ……ほんと良いパンチしとるなぁ、アレは十分プロで食ってけるで」 ベランダの欄干に身体を預け、口に咥えた煙草に火を灯しながらウルフウッドはそう一人呟いた。 最初こそカリムの強烈なアッパーカットで出鼻を挫かれたが、その後はとりあえず落ち着きを取り戻して子供らと共に楽しいパーティーと相成った。 たくさんの料理を囲み皆で楽しく食事を取り、一緒に騒いで遊んでたっぷりとクリスマスを満喫した。 もみの木も七面鳥もなかったが、そんな事は問題では無い。【子供達が楽しく過ごせた】それが一番重要だった。 その一点においては、この模造・急造クリスマスもホーム本家のモノに負けはしないだろう。 子供達が遊びつかれて眠りの世界に落ちたのを見計らい、ウルフウッドはこうして一人一服しに外へ出たのだ。 冬の寒空の下で一人煙草の紫煙を燻らせるというのは骨身に染みるが、子供達にあまりニコチンの害を与えるのも問題なので仕方が無いと言える。 「ふうぅ……正直、本数減らした方がええのかもしれへんなぁ」 「ならいっそ禁煙したらどうですか?」 唐突に声がかけられる。 その方向に顔を向ければ、そこには先ほど自分を殴り飛ばした金髪の美女が佇んでいた。 ウルフウッドは特に驚くでもなく、よう、と軽く手を上げて会釈する。 「その……先ほどはすいませんでした……思い切り殴ってしまって……」 「ええって、別に。まあええモン見せてもらったしな」 軽くからかいを入れるウルフウッドに、カリムは頬をほのかに朱に染めて“それは忘れてください”と聞こえるかどうかの小声で呟いた。 「それで、今日はどうでした? 即席の模造で、随分と不恰好だったかもしれませんが……」 「十分楽しめたわ、子供らも喜んどったしな。でも、流石に盆栽をツリーに見立てるのは斬新過ぎ通り越して不気味やで」 「……」 「なんやその沈黙は?」 「いえ、その……」 「アレ、お前か?」 「……はい」 「そか……」 ちょっと気まずい沈黙が流れる、ウルフウッドはただ黙って新しい煙草に火を点けた。 その空気に耐えられなかったのか、カリムは思い出したかのように声をかける。 「そ、そういえばプレゼントはもう開けましたか?」 「ああ、そういやまだやったな」 「なら今開けてはどうでしょう」 「せやな」 カリムに急かされ、ウルフウッドは包み紙を開けてプレゼントの中身を確認する。 中から現れたのは一つの瓶だった。 「ほぉ、酒か」 「ええ、ベルカ産の赤ワイン。お口に合えば良いのですが」 「ほなら早速」 「って、今開けるんですか?」 「そんなん、もったいぶる事ないやろ?」 そう言いつつウルフウッドはコルクを歯で抜き去り、早速一口喉に流し込んだ。 芳醇な恵みの赤が口内を満たし、次いで喉をゴクリと鳴らして流れ込む。 瓶を口から放すと共に、ウルフウッドは満悦とした顔をした。 「なるほど、こらぁ良い酒やな」 「まったく……それならせめてグラスに注いで飲んでください」 行儀悪い彼の飲み方に、カリムは頬を膨らませて不満そうな顔をする。 対するウルフウッドは“固いこと言うなや”と軽く返しつつ、また一口美酒を口にした。 そして何口か飲むと、彼はおもむろに手の瓶をカリムに差し出した。 「せや、お前もどうや? せっかくの良い酒も一人で飲むのは味気ないわ」 「へ? で、でも……その……」 「ほれ、グイっと行けや」 瓶を手渡され、カリムは狼狽した。 今まで彼がラッパ飲みしていた瓶、それに口付ける……すなわち“間接キス”である。 産まれてこの方、恋のこの字も知らなかった乙女には少しばかり刺激的だった。 ちなみに、初対面時に彼への蘇生措置で人工呼吸したのはノーカンだ、あれキス違う。 そんな事を考えていると、ウルフウッドの言葉が彼女を急かした。 「なにしとるんや? さっさと飲みや」 「いえ……その、あの」 「ええから、ええから、ワイも十分楽しんだんやからお前も飲めや」 「では……頂きます」 ウルフウッドのように豪快ではなく、慎ましく瓶を傾けて唇をそっと口付けると、カリムもそのワインの赤で喉を潤した。 薫り高い味わいが口の中から鼻腔を駆け巡り、喉を流れる。 最初口付けた時と同じくそっと唇を離すと、カリムは美酒の余韻にほうと一つ切なげな息を吐いた。 「本当に、美味しいですね」 「せやろ? これを独り占めにすんのはちと罰当たりやで」 「それじゃあ、今夜は二人だけで飲み明かしますか」 いつもの慈母の如き優しげなモノではなく、まるで悪戯を企む童女のような笑みを浮かべてカリムは少し下を出して笑った。 ウルフウッドもまた、そんな彼女にいつも以上の優しさを込めて悪戯っぽい笑みを返す。 そんなこんなで、今日もまた教会の夜は楽しくも平和に過ぎていった。 終幕。 オマケ 「あれ? 騎士カリムとウルフウッドさんはどこに行ったんでしょう?」 子供達が寝静まり孤児院を静寂が支配し始めた頃、パーティーの後片付けをしながらシャッハはふと呟いた。 時刻もそろそろいい時間になっている、もう自室に帰ったのかと考えるのが妥当だろう。 そしてそんな時だった、ウルフウッドがその場に転がりこんできたのは。 「シャ、シャッハ~! 助けてくれ!!」 「どうしたんですか、突然」 「いや、カリムのやつ、酒飲んだら……」 「ウルフウッドさぁん」 シャッハに縋りつくウルフウッドに、さながら淫婦の如く甘美に蕩けた声が投げかけられた。 振り向けば、そこに一匹の雌が立っていた。 軽くウェーブのかかった艶やかな金色の髪を揺らし、雌は口元からだらしなく唾液を一筋垂らしていた。 それは決して下品や不精には見えず、さながら淫らさをより一層深くする化粧。 彼女は纏った服の随所を肌蹴させ、その豊満な胸元を曝け出して堪らない色香を放ち酷く男を誘っている。 淡く朱に染まった白い肌からは果実のような甘い香りが漂い、もはや同じ人である事すら怪しい程だ。 正に雄を堕落させる為に生まれた小悪魔か、そんな女だった。 「もしかして、騎士カリムにお酒を飲ましたんですか?」 「ああ」 「あの人、飲みすぎると突然ああなるんですよ」 「ホンマかいな?」 「ええ、あのワイン結構強いですから」 「それは分かったから、なんとかしてくれや」 「いえ、私は片づけがありますので」 「もう~、ウルフッドさぁん。シャッハとばっかり遊んでないで、もっと私と飲みましょうよぉ♪」 「ちょ! 抱きつくな! 胸を押し付けるな! おいシャッハ助けや!!!」 しなだれかかるように抱きつき、服を肌蹴させた肢体を絡ませてくるカリムに襲われながらウルフウッドは助けを求めて叫んだ。 だがその叫び虚しく、シャッハは顔を背けてその場を後にした。 「ではお楽しみを。ああ、あまり床を汚さないでくださいね?」 「何で汚すねん!?」 「いえ、“ナニ”とか」 「アホな下ネタ言わんと助けやぁ!!」 「ウルフッドさぁん、もっと飲みましょう♪」 「ちょ、だからくっつくなオンドレ!」 こうしてウルフウッドは酒乱騎士に絡まれ、抱き疲れつつ朝を迎えた。 めでたしめでたくもなし。 チャンチャン。 Strikers May Cry氏目次へ
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魔道戦屍リリカル・グレイヴ 第十四,五話 幕間 「音界の覇者と金の閃光」 小さな頃から“音”がただ好きだった……それだけだ。 だというのに、いつの間にか殺しの技を身に付けて夜の世界に生きていた。 人を楽しませる筈の音色は目標の脳髄を揺さぶり死に至らしめる魔音と成り果て、賞賛の拍手の代わりに阿鼻叫喚と鮮血が返ってくるようになった。 挙句の果てにはとんでもない化け物に目を付けられ、殺しの手札にされてしまう始末。 ナイブズそしてレガート、今思い出してもゾッとする。 だが不幸は一度じゃ終わらない。 一度死に、やっと馬鹿げた死のゲームから解放されたかと思えば、今度は無理矢理生き返らせられて魔法世界の住人にクーデターの道具として使われる。 イカレ野郎に足元をすくわれるのはご免だというのに…… まったくどうして俺はこうも運がない? 幸運の女神はよほど俺が嫌いらしい。 『いぎぃっ! ああぁぁぁぁあああぁっ!! っつあぁぁあああっ!!!』 そのうえコレだ。 俺の良すぎる耳は聞きたくもない女の絶叫を嫌でも拾い上げて脳髄に情報を送る。 まったく、いつまでああしているんだ? さらって早々、レジアスはあのメガネをかけていた戦闘機人にもう数時間も拷問を続けていた。 どんなに澄んだ良い声も単調な絶叫だけを発していては不快でしかない、正直頭が痛くなる。 俺が金切り声に頭痛を感じていると、俺と同じくこの世界に来たGUNG-HOのロクデナシが現れた。 「お前か……そういえば聞いたか? チャペルが連絡を絶ったそうだ、おそらく潰えたのだろう。E・G・マインに続き奴もいなくなった、これで残るGUNG-HOは俺とお前だけだな」 俺はふとチャペルの事を話題に出した。だがこいつは何も言わず沈黙を守ったまま。 特に興味は無し……か殺人(キリング)マニアめ。恐らく自分の行う殺しにしか興味がないのだろう。 まったくとんだご同輩だ、俺は一つ溜息を吐いてその場を後にした。今はただ、静かな場所で酒でも飲みたい気分だった。 ウイスキーの瓶とグラスを持って立ち去る。 そろそろ本気で“あの話”に乗る算段をした方が良いらしい、俺はふとそんな事を考えた。 “ここ”は随分と広い、とても大昔に作られた戦艦とは思えないものだ。 その広大な内部構造の内、俺はできるだけ静かな方へ、心地良い音がある方へと足を進める。 そうして歩いて辿り着いたのは、捉えた捕虜を拘置する為の区画だった。 閉ざされたドアの向こうには、あるいは数人に、あるいは一人に部屋が割り当てられている。 最低限の食事はオーグマンやあの中将の部下が与えていた。 ここには大して見張りなどいない、何故ならいても意味が無いからだ。 魔法を阻害するらしい装置AMF、それが展開されている上に魔法を使うための道具であるデバイスとやらも現地で没収済み。 捕虜には抵抗したくても抵抗する術などありはしなかった。 捕虜になった連中の事を思い出しながらそこを眺めて歩いていると、ふと一つのドアの前で足が止まる。 金属製のドアの向こうから、ひどく耳に響く心地良い音色が俺の心を捉えた。 それは声だ、耳から伝わり脳を甘く焦がすような喘ぎ声。 確かここのドアロックには俺に与えられたカードキーの権限でも解除が可能なはずだ。俺は僅かな逡巡の後にドアロックにキーをかざした。 無論、心地良い音に対する興味も大きかったが、それ以上に“あの話”を実行に移す際の下見も兼ねていた。 ドアがスライドして開けば、中には簡易ベッドの上で身をよじる女が一人。確かティーダとかいう奴が捕らえた女だ。 恐らく酷い衝撃で気を失い、今まで眠っていたのだろう。 長く艶やかな金髪、黒い制服に覆われた起伏に富んだ男心をくすぐる肢体、そして麗しいと言うべき美貌。これは美女と言う他ないだろう。 まあ、俺から言わせればまだ少し子供臭さが抜けないが。 「んぅぅ……あれ? ここは……」 少し艶めいた声で喘ぎながら女は目を覚ました。 目覚めたばかりで思考が覚醒しきらないのか、しきりに目をこすって辺りを見回す。 俺は近くにあった椅子に手を伸ばし、座りながら声をかけた。 「ようやくお目覚めか? 眠り姫」 俺の声に反応して女は即座に振り返り鋭い視線を浴びせかけた。良い反応だ、単に艶めかしい美女という訳ではないらしい。 俺はそれよりもその瞳の美しさに少し驚いた、こんな綺麗な紅色の眼は初めて見る。 濃い警戒を込めた瞳で俺を見つめながら周囲を見渡した女は、自分の置かれた状況を理解したらしく目から僅かに覇気をなくした。 「そうか、私は倒されて……捕まったんですね……」 「ああ、らしいな」 「あなた方は何者ですか? あの時地上本部を襲撃したのはあなた達なんですか?」 起きたばかりだというのに女はよく喋った。だが正直言葉の内容よりもその澄んだ声質の方が俺の心を揺さぶる。 やはり俺は根っからの音好きらしい。しかし言葉の内容もしっかりと理解したので軽く返事をしてやった。 「さてな、俺も首魁はレジアスとかいう軍人である事しか知らない」 「レジアス中将が!? まさか……そんな事が……」 俺の言葉に女は面白いくらい動揺した、あのイカレた中将とやらはここでは随分有名人らしい。 だが俺はそれよりもさっきから気になっていた事を教えてやる。 「ああ、それよりも」 「はい」 「スカート、めくれてるぞ?」 「へ?」 女のスカートは寝相の悪さのせいか、ひどく乱れてくしゃくしゃにめくれ上がり、その下に隠された下着を曝け出していた。 ちなみに下着は、その豊満な肢体に良く似合う扇情的な黒のレースだった。 うむ、実に良いセンスだ。 「ひゃっ!」 可愛らしい声を上げて彼女は大慌てでスカートを正す。 容姿はスタイルは完成された女であるが、どうも雰囲気というか内面部分が抜けているらしい。 俺は久しぶりに愉快な感情を覚えて口元に苦笑を浮かべた。 だがそれがどうも含みを込めたいやらしいものに映ったのか、彼女は俺にまるで痴漢でも見るような目を向ける。 「ま、まさかあなた……私に変な事しに来たんですか……」 その紅く美しい瞳に怯えが混じり、艶めかしい肢体が震え始め、心臓の鼓動が早まっていく。 その様は嗜虐的性嗜好の人間が見れば思わず唾を飲むような淫蕩さがあった。どうもこの女はひどく人の嗜虐心をくすぐる体質のようだ。 それに武器を奪われた無力な女に悪の手先がする事なんて、容易く想像できるだろう。 だが無理矢理女をどうこうするのは趣味じゃない、俺はひとまず誤解を解くことにする。 「さて、変な事とはなにかな?」 「そ、それは……その……エ、エッチな事とか……」 自分で言って真っ赤になっていたら世話無いな。 心音や声の調子からすると初見からの予想通り処女なんだろう。 しかし“この世界の男は見る目が無いのか?”と疑問に思う、これだけの上玉を手付かずで残しておくのはもはや失礼の領域だ。 「残念ながら俺は君の言う“エッチな事”には興味がないんでね、まあ女日照りなのは確かだが、無理矢理というのは俺の趣味じゃない」 「……ほ、本当ですか?」 「今ここで俺が嘘を付くメリットはないだろう?」 俺はそう言うと手にしたグラスとウイスキーの瓶を目の前にかざす。 やや薄暗い独房の光に照らされたグラスが反射し、ウイスキーの美しい琥珀色が妖しく輝く。 「俺はこいつを飲(や)りに来ただけだ」 俺のこの言葉に、女は首を傾げて不思議そうな顔をする。 その仕草がまた随分幼さを漂わせて妙な愛らしさを覚えた、どうも彼女は天然の男殺しらしい。 「……意味が分かりませんが……ここでお酒を飲む理由がどこにあるんですか?」 その質問に俺はグラスに注いだ酒を飲みながら答える、やはりこの声を聞きながらだと普段の何倍も美味い。 舌の上に広がるアルコールに幾らでも芳醇さが増す気がした。 「理由は3つある、一つはここの連中に一緒に酒を楽しめるような奴がいない事。もう一つはお前の声だ」 「声?」 「ああ、実に良い声だ、きっと歌手になれば大成するぞ? これは賭けても良い」 「じょ、冗談はやめてください……」 お世辞半分の言葉でも恥じらいを見せる、なんとも純だな。 思わず“いつか悪い男にコロリと騙されるんじゃないか?”と少しだけらしくもない心配してしまう。 だが半分は本当だ、この声質ならば最低限の事を教えれば確実にモノになる。 おまけに容姿にも華もあるので申し分ない。 そんな感慨に耽っていると、その澄んだ声がまた俺に投げかけられた。 「それで3番目の理由ってなんですか?」 「ああ、それなんだが……まあ一杯やりながら話そうじゃないか」 そう言うと俺は空になった自分のグラスにまた酒を注いで手渡した。 少しばかりの警戒を込めた目で俺をジッと見つめると、女はそれを受け取る。 「じゃあまずは自己紹介といこうか、俺はミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。バレイとでも呼んでくれ」 「フェイト……フェイト・T・ハラオウンです」 軽く自己紹介をした俺は事の本題に入った。話すのは無論“あの話”に関する事。 これはいわばカード(手札)の補充だ、いつでも切れる有効な札があるに越した事はない。 もし状況がどちらに転んでも上手く立ち回れるように手を打っておく。 俺は美酒と美声に酔いながら、頭の中に描いた算段をもう一度胸中で反芻した。 続く。 前へ 目次へ 次へ
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謎の少女と持っていた レリック。 それにより、動き出すものたち それに立ち向かう機動6課のフォアード陣 力は、もっている 跡は、フォアード陣の頑張りだけだ 集長の一言 地下では、機動6課新人フォアード陣が、 召喚した知に苦戦するが、 ヴィータ・リーンⅡの活躍により、回避する そして、ロストロギアを守るべくシャロに、提案する ティアナ。その秘策とは? 映像は、こちら(消失の場合は、連絡の事 魔法少女リリカルなのはStrikerS ep 12 part 1 魔法少女リリカルなのはStrikerSサブタイトルへ戻る
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管理局本部、ドッグ。 そこに戦闘艦・アースラは駐在していた。 普段は多数の次元世界を行き来し、様々な事件を解決するこの艦も今はメンテナンス中。 ゆっくりとその巨体を癒やしていた。 そんなアースラを一望出来る、管理局内のエレベーター。そこで二人の女性が会話をしている。 「検査の結果、ケガは大した事ないそうです……ただ魔力の源、リンカーコアが異様な程小さくなってるんですよね……」 ショートヘアの女――エイミィ・リミエッタが心配そうに前方の緑髪の女性――リンディ・ハラオウンへと話しかける。 「そう。じゃあ一連の事件と同じ流れね」 「はい、間違いないみたいです。……休暇は延期ですかね。流れ的にうちの担当になっちゃいそうですし……」 本来ならばアースラがメンテナンス中ということもあってアースラスタッフには久し振りの長期休暇がもたらされる筈であった。 だが、それはおそらく今回の事件によりお流れになってしまうだろう。 エイミィが残念そうにため息をつく。 「仕方ないわ。そういうお仕事だもの」 残念そうに肩を落とすエイミィに、リンディは励ますように笑いかける。 エイミィもその笑みを受け、苦笑する。 「あ、それと医療室に搬送された男の人の事なんですけど……」 エレベーターを出た所でリンディが思い出したかのように口を開いた。 「結構ケガ酷いらしいですよ。ユーノ君が言うには敵の攻撃を直撃したとか……」 心配そうな顔をしながらエイミィが男の詳細が載っている資料をリンディへと手渡す。 それをパラパラとめくりリンディはため息を一つつく。 魔法を全く知らない一般市民を巻き込み、あまつさえ怪我を負わせる。 ……合ってはいけない失態だ。 リンディは額を軽く抑える。 「それと、もう一つ気になる情報が」 続く言葉は、男を診察した医師からの情報であった。 男を治療しようと、服を脱がせた管理局の医師と看護師。 服を脱がせたと同時に彼等は息をのんだという。 数多の重症患者を診てきた管理教の医師が、看護師が、息を呑む。 身体中を覆う古傷の数々。 無事な所を探す方が難しい程の、数多の傷に覆われた身体。 生涯を戦場で過ごした魔導師であっても、ここまでの傷は負わないとの、医師からの報告であった。 「……どういう事なんですかね」 「さあ?でも、相当に過酷な人生を歩んできた事は確かね」 手元の資料には男の身体を写真に収めたものがあった。 成程、医師が驚愕するのも無理のない話である。 右肩から胸にかけて走る巨大な切り傷。 左胸には、抉れた肉を補強するかのような形で黒色の布が網目状に縫いこまれている。 右の脇腹にはケロイド状にまで到達した火傷を治したかのような痕。 何を支えているのか、体内に埋め込まれたボルトが背中から飛び出している。 大きな傷の隙間には、わざわざ隙間を埋めるように数多の銃痕が。 手術の痕など一つや二つじゃ効かない。 そして極めつけの。喪失した左腕だ。 これまでの生涯全てを、拷問を受けて過ごしてきましたと言われても信じてしまいそうなま身体が、其処にはあった。 「……でも本当なんですかね?」 エイミィが首を傾げながら疑問の言葉を口にする。 「ユーノ君が言っていた事?」 「そうです……だって信じられませんよ!魔導師でも無い普通の人が、なのはちゃんレベルの魔導師と戦ったなんて」 「……でも質量兵器を使ったんでしょう?」 「質量兵器って言ったって拳銃ですよ?いくら何でも……」 「まぁ確かにそうよね……」 二人を悩ましているのは今回の事件について書かれたユーノからの報告書。 これによると搬送された男――ヴァッシュは、ユーノが結界を張るための時間を稼ぐため、敵魔導師と戦闘を行ったらしい。 その事について言及するとユーノは困った顔をして本当ですよ、とだけ呟いていた。 ユーノの言葉通り、拳銃一つで魔導師相手をしたのならそれは恐るべき事だろう。 ――だがその脅威と認めると同時に一つの疑問が浮かぶ。 「……それに艦長の言った通り調べてみたら、この人、なのはちゃんの世界の住人じゃないそうなんです」 まさにそれだ。 おかしい。 第97管理外世界は比較的平穏な世界だ。 中には紛争などが起きている地域もあるが、少なくともなのはの住む日本にはそういう事はない。 人間とは状況によって成長のベクトルが大きく変化する。 魔法が発展している世界なら魔法を会得し、質量兵器が支配する世界なら質量兵器の使い方を会得する。 また、争い事の絶えない世界なら死なない為に力をつけ、学歴が支配する世界なら様々な知識を付ける。 それは中には特殊な人間もいるかもしれない。 なのはなどはその良い例だろう。 魔法を全く知られていないい世界にも関わらず異様なほどの魔力を有している。 それどころか魔法を知って一年もしない間にAAAランクの魔導師へと変貌を遂げた。 もはや天才といっても過言ではないだろう。 だが、この男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードは違う。 目的がない。 なのははPT事件を解決するため――フェイトを救出するため魔法を訓練し、強くなった。 なら、何故ヴァッシュは強くなった? ――AAAランク級の魔導師とも銃一つで戦えるほどに。 あれほど平和な世界だ。 死ぬまで銃に触れる事が無いという人も珍しくないだろう。 そんな世界でこれ程の実力を持つ。 明らかに不自然だ。 だからリンディは命令した。 本当にヴァッシュがなのはの世界の人間かどうか調査するように。 その結果、読みは当たったらしい。 ……あまり当たって欲しくは無かったが。 「多分、義手が付いていたんだと思いますけど、この左腕にある治療痕は明らかになのはちゃんの世界の技術とは違います……相当なレベルですよコレは」 リンディは資料に目を通し僅かに驚愕する。 確かに物凄い技術が使われている。 この技術なら、通常の左腕と同等の精密動作を行える義手を作る事も出来るだろう。 ここだけを見れば管理局と同レベルの技術力と言っていいかもしれない。 「……でも、これって次元漂流者ですよね?なんでなのはちゃんは管理局に連絡しなかったんだろう?」 「……さあ、なんでかしらね……」 首をひねるエイミィを後目にリンディは呟く。 管理局員としての勘が告げていた。 これは厄介な事になりそうだと。 ■□■□ ちょうどその時、リンディを悩やます張本人ヴァッシュ・ザ・スタンピードは目を覚ました。 薄く目を開けたヴァッシュにまず飛び込ん来たのは真っ白な天井。 次いで腕に刺さっている針へと何らかの薬品を送っている点滴が目に入った。 (……ここは?) 辺りを見回すも全く見覚えの無い部屋。 医療施設なのは分かるが、どうも頭がボォッとして何故ここにいるかが思い出せない。 (……たしか昨日は翠屋で仕事して、その後なのは達と一緒にアイス食べて、帰ってから夕食を食べて…………そうだ、腹を壊したんだ。あぁ、あれは痛かったなぁ……) そこまで思い出しヴァッシュの思考が止まる。 思い出せない。 その後どうなったのかが全然。 何で病院にいるんだろう? 腹痛に苦しむ僕を見て士郎さんが病院に連れてってくれたのか? そんなことを考えながらヴァッシュは体を起こそうとし―― その瞬間、ヴァッシュの体を鈍い痛みが襲った。 「ッ……!」 無言の呻き声を上げながらヴァッシュは体を丸め、痛みが収まるのを待つ。 痛みに耐えながらヴァッシュは思い出していた。 気絶する前に何が起こったのかを。 人が消えたこと、空を飛ぶ何者かがなのはを襲ったこと、なのはを守る為引き金を引いたこと、そして相手の攻撃を受け気を失ったこと。 全てを思い出した。 「……やっぱり夢じゃなかったか」 痛みが鎮まり始めた頃、ヴァッシュはポツリとそう呟いた。 夢だったら良かった。 あんな事本当は起きてなくて、目を覚ましたらいつも通りの日常が始まる。 そうなることを望んでいた。 ヴァッシュは寂しそうな顔をしながら天井を見つめている。 どれほどそうしていただろうか、ヴァッシュは何かに気付き枕元に設置されている台に向かって手を伸ばす。 久し振りの戦闘と敵の攻撃によるダメージで体が軋むが、それを押し殺し目的の物を掴む。 ヴァッシュはそれを自分の顔の前に持っていき眺める。 ヴァッシュの手の中にあるのは銀色の光沢を放つ大型のリボルバー。 それを眺めるヴァッシュの表情は複雑であった。 それは、この世界に来てからは使う事は無いと思っていた相棒。 だがそれは使われてしまった。 その事実にヴァッシュは言いようのない複雑な気持ちになる。 自分は踏み出してしまったのか? またあの争乱の日々に? 頭に浮かび上がった考えを否定する様にヴァッシュは首を振る。 そんなことはない。 自分は守る為に引き金を引いたのだ。 この平穏な日常を。 そう、守れたはずだ。 いつの間にか銃を握る手に力が入っている。 それに気付き、ヴァッシュは苦笑しながら力を緩める。 そして無造作に銃を縦に振る。 たったそれだけの行為で銃が中程から折れ、空の薬莢が二つ、弾倉から飛び出した。 それらは空中へと綺麗な弧を描きベッドへ落下する。 「良く戦えたもんだよ、実際……」 銃を元あった場所に起き、薬莢を一つ摘みながらヴァッシュはそう呟いた。 昨日の戦いで引き金を引いた回数は二回。 金色の刃の戦斧を振るう少女を助けた時と独楽のように回転しながら突進してきた赤服の少女を迎撃した時だけだ。 それ以外には引き金を引くどころか銃口を向けてさえいない。 あの時銃に込められていた弾丸は二発のみ。記憶にないが、それ以外の弾は前の世界で使用したらしい。 ――よくこれだけの装備であんな化け物みたいな少女と戦えたもんだ……。 心底そう思う。 驚異的な機動力と見た目からは想像も出来ない程の力、そして技を兼ね備えた少女。 あの異能殺人集団にいても遜色ない程の実力を有していた。 そんな化け物みたいな少女相手にたった二発の弾丸で戦ったのだ、今更ながらゾッとする。 「まぁ、ユーノが捕まえてくれたでしょ……もーあんな怖い子とは戦いたくないよ、僕は!」 そう言い、ヴァッシュは薬莢をポケットに入れ寝転がる。 どうせする事もないのだ寝てしまおう。 そう考え、ヴァッシュは目を瞑る。 が、さっきまで気を失っていたせいか眠気が全く来ない。 完璧に目がさえている。 さて、どうしたものか…… 目を瞑ったままヴァッシュは考える。 この部屋にはラジオやテレビみたいな暇を潰せるような物もない。それどころか窓の一つすら存在しない。 かといって勝手に出歩くのも悪いだろうし……。 と、そこまで考えた時―― 「だから、まだ意識が回復する訳ないってー」 「うん、そうだね」 「だったら何でここに来るのさ?お礼が言いたいんだったら目が覚ましてからで良いじゃん」 ――扉が開く音と共に二人の女の声がヴァッシュの耳へと届いた。 いきなりの事態に驚きながらヴァッシュが状況を確認しようと目を開くと、金髪の少女――フェイトと目があった。 フェイトの表情が一瞬で驚愕に染まる。 そんなフェイトを見て不思議に思ったアルフもヴァッシュの方を向き、全く同じ動作をし動きを止めた。 そんな二人のリアクションにヴァッシュはどうしたものか、と考えた後、布団から右手だけをピョコっと出し―― 「やぁ」 小さな声でそう言った。 ■□■□ ヴァッシュとはまた別の医療室。 なのはは、機械から出るよく分からない光を胸部に当てられていた。 「うん、さすが若いね。もうリンカーコアの回復が始まっている。……ただししばらくは魔法は使えないから気をつけるんだよ」 初老の医者が柔和そうな微笑みを浮かべながらそう告げた。 「はい!ありがとうございます!」 その答えになのはの顔が満面の笑みで答える。 その元気そうななのはを見て、安静にしてるんだよと、笑いながら告げ医者は外へと出て行った。 部屋になのはが一人残される。 医者が出て行った事を確認した直後、なのはの顔に暗い色が現れた。 「どうしよう……」 ポツリと呟き声が口からもれる。 なのはは悩んでいた。 悩みの種はヴァッシュ・ザ・スタンピード。 ヴァッシュは昨晩の魔導師との戦いによって大怪我を負ったらしい。 あの子に負けなければ。 戦いに行くと言ったヴァッシュさんを引き止めていれば。 あと少し早くスターライトブレイカーを撃っていれば。 後悔という名の鎖がなのはの心を締め付ける。 分かっていた筈だ。 どんなにヴァッシュさんが強くてもあの子を相手にして無事に済むはずがない事を。 なんであの時、ヴァッシュさんを止めなかったんだ。 なのはは自身を攻め続ける。 そして何より――ヴァッシュさんの存在が管理局にバレてしまった。 守ると決めたのに、ヴァッシュさんの傷が癒えるまで一緒に平和な日々を過ごそうと決めていたはずなのに――結局は自分のせいで全て台無しになってしまうかもしれない。 多分管理局が少し調べれば直ぐにヴァッシュさんが異世界の人間だということはバレてしまう。 どうしよう。どうすればいい。 どんなに考えても良いアイディアは浮かんでこない。 と、その時、軽快な音と共に部屋の扉が開いた。 「こんにちは、なのはさん」 「リンディさん……」 入って来たのは緑色の髪をしたグラマラスな女性――リンディ。 その姿を見てなのはは体を強ばらせる。 「体の具合はどう?」 そんななのはのとは裏腹にリンディは微笑みながらなのはの側へ近づく。 「大分楽になりました。でも、やっぱり魔法はまだ使えないそうです……」 なのはは出来るだけ動揺を表にださないように応対する。 「そう……事件の事は私達に任せてゆっくり休んでね」 「はい、ありがとうございます!」 リンディの励ましを聞きながら、なのはは考える。 何をしに来たのだろう。 やっぱりヴァッシュさんのことか、それともただ様子を見に来てくれただけなのか。 「――それでヴァッシュさんの事なんだけどね」 思考中のなのはを現実に引き上げる一言をリンディが放つ。 ドクン。 なのはの心臓が跳ね上がった。 やっぱりバレてるのか。 どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。 「――意識を取り戻したそうよ」 どうしよう。どうしよ――え? 思考が止まる。 「ほ、本当ですか!?」 ベッドからずり落ちかねない勢いでなのははリンディへと問う。 「ええ、さっきフェイトさんから連絡が入ったわ。今では元気に歩き回っているそうよ」 ――良かった。 なのはの目に涙が浮かぶ。 ――本当に良かった。 さっきまでの悩みも忘れて、なのはは心の底から安堵した。 「――それでね。なのはさんに聞きたいんことがあるのよ」 喜ぶなのはにリンディが真剣な顔で話し掛ける。 再びなのはの体が強張る。 「なのはさん……単刀直入に聞くわ。ヴァッシュ・ザ・スタンピードは本当にあなたの世界の住人なの?」 ――そして次にリンディから発せられた言葉により先程までのなのはの歓喜は完璧に吹き飛んだ。 「……言ってる意味が……良く……分かりません」 数秒後、辛うじてなのはが口を開く。 口の中がカラカラて唾が喉に張り付く。 上手く言葉が出ない。 「失礼ながらヴァッシュさんの事を少し調べさせてもらいました。結果、彼がなのはさんの世界の住人という可能性はゼロ……これの意味することは分かりますよね」 何か言わなくちゃいけない。 嘘でもいいから何か言わなくちゃ怪しまれる。 そう頭では理解していても言葉は出ない。 思考が停止して何を言えばいいのか考えられない。 「……別に次元漂流者というのは珍しくはありません。それ自体には大した問題はない……ただ、管理局に所属していないとはいえ、異世界の存在を知る魔導師が次元漂流者を隠匿する事は大問題なんですよ、なのはさん……」 リンディの言葉がなのはに突き刺さる。 いつものような朗らかで優しげな雰囲気は一切ない。 アースラ艦長としてのリンディ・ハラオウンだ。 その威圧感になのは何も言う事が出来ず、ただ俯いて押し黙る。 重い重い沈黙が病室を支配する。 なのはは必死に考える。 何か良い手はないのか。 このままじゃヴァッシュさんは帰ってしまう……いなくなってしまう……そんなの……そんなの嫌だ……! 「なのは、具合はどうだい?」 ――と、なのはがそこまで考えた時、ある人物が沈黙を破った。 それはなのはでも、リンディでもない。 二人は同時に声のした方に顔を向ける。 二人の目に映ったのは完全に開ききった自動扉――そしてそこに立つヴァッシュ・ザ・スタンピードの姿。 「ヴァ、ヴァッシュさん……」 かすれた声がなのはの口からこぼれた。 ■□■□ 「よろしくな、フェイト。それにアルフ」 「うん、よろしくー」 「は、はい……よろしくお願いします」 「フェイト緊張しすぎだって」 「そ、そんなことないよ!」 先ほどの静寂が嘘のようにヴァッシュの病室は賑やかになっていた。 「あ、あの…昨日は本当にありがとうございました。ヴァッシュが助けてくれなかったら私……」 「ありがとねー」 のんびりと話すアルフとは対照的にフェイトが緊張しているような口調で礼を言う。 「いやいや、気にしないでよ。当たり前の事をしたまでだって」 「でも、そんな大怪我しちゃったし……」 「うん?これのこと?」 ヴァッシュが衣服の下の包帯を指差しながら笑う。 「大丈夫さ、僕はこう見えてタフだからね……ってイテテテテ!」 「む、無理しちゃダメですよ!」 「あ、あはははは……まぁ、あんま気にしないでよ。それに君だって僕の事を助けてくれたじゃないか」 「そうですけど……」 それにしても、とヴァッシュは目の前の少女を見て思う。 (まさか、この子があのビデオメールの子だったとはね……) 今こうして話していると分かる、確かにあのビデオメールの子だ。 あの時――戦闘の時とはまるで雰囲気が違う。 あの時のフェイトからは歴戦の戦士のような力強さがあった。 対して今はあのビデオメールのように、ちょっと内気だけど優しい子。 そのギャップに最初は少し戸惑ったが、話してみてそんな事はすぐに気にならなくなった。 だが、未だに気になる事が一つだけあった。 「なぁ……アルフのそれって作り物なのかい?」 アルフの頭から生えている耳――俗に言う獣耳をヴァッシュが指差す。 「あれ、ヴァッシュって使い魔のこと知らないの?」 「いや、そんな知ってて当たり前みたいに言われても……」 どんなに記憶の中を探して回っても、獣耳のついた人間など見たことがない。 この世界じゃ当たり前なのか? そーいえばそんな恰好した人がテレビに映っていた気が、確か……こすぷれいやーだったっけか? 「ふふっ。アルフは使い魔っていって――」 頭を悩ますヴァッシュを見てフェイトが使い魔について、簡単な説明をし始める。 ヴァッシュはその話を興味深そうに聞き、感嘆する。 「へ~、それも魔法の一種なのかい?」 「そうですよ」 魔法という物は予想以上に奥が深いらしい。なかなかに面白いものだ。 ふと、そこまで考えてヴァッシュはある疑問を口にした。 「そういえばあの子達は捕まったのか?」 あの子達とは勿論ヴィータ達のこと。 とりあえず捕まってくれてれば大分助かるんだけど……。 だが、そんなヴァッシュの期待に反し、フェイトは首を横に振る。 「ごめんなさい……結界を張るのには成功したんですけど、すぐに逃げられちゃって……」 「……そうか」 なんとなくそんな気がしていた。 あの子達の目には何が何でも事を成し遂げようとする覚悟があった。 多分一人、二人が犠牲になったとしても結界から抜け出しただろう。 やれやれとヴァッシュはため息をつく。 その時、フェイトがポツリと呟いた。 「それに……なのはも……」 「?なのはがどうかしたのかい……?」 ヴァッシュの問いにフェイトは申し訳なさそうに俯く。 「……敵の攻撃を受けて……今ここで治療してるんです」 フェイトの一言はヴァッシュを愕然とさせるには充分だった。 「何……?」 ヴァッシュからいつもの飄々とした笑みが吹き飛び、代わりに驚愕が貼り付く。 「……ごめんなさい」 フェイトは俯いたまま肩を震わせている。 不甲斐ない自分に怒りを覚えているのか? 俯いたフェイトからは表情を読むことは出来ない。 「それで容態は!?」 我に返ったヴァッシュが掴みかからん勢いでフェイトへと問う。 「も、もう意識を取り戻したそうです。魔法は使えないけど、体の傷はもう完治したって言ってました」 「本当かい……良かった」 ヴァッシュはホッと息をつき、ベッドへとよりかかる。 「いや、ごめんよ。大声だしちゃって」 「大丈夫ですよ。……それにヴァッシュがなのはの事、すごく大切に思ってるのも分かりましたし」 「そ、そうかい?」 心配していたのは確かだが、面と向かって言われるのも何だか気恥ずかしい。 少し顔を紅くしたヴァッシュが頬を掻く。 その様子が面白かったのか、アルフとフェイトの顔にも笑みが浮かぶ。 それを見てヴァッシュもつられるようにほほえんだ。 「そうだ。今からなのはの所に行ってくれば?」 それから数分後。 そう提案したのはアルフだった。 その案にフェイトも頷き賛成する。 「そうだね。ヴァッシュも元気になったみたいだし……どうですか?」 「いや、行きたいのは山々だけどさ。いいのかい?そんな勝手な事して」 「大丈夫だって。それに顔に書いてあるよー。なのはの所に行きたいって」 「嘘ぉっ!?そんな顔してた!?」 そんなこんなでそれから数分後、三人は病室を抜け出した。 ヴァッシュは辺りを見回しながら、フェイトとアルフの数歩後ろを歩いている。 すると、ヴァッシュはある疑問を口にした。 「なぁ……ここって、本当に病院なのかい?」 どう見ても看護士や医者じゃない風貌をした人が歩いているし、病院には必要なさそうな設備がチラホラと目に入る。 そして、極めつけはアレ。 窓から見える百数十mはあろうかという巨大な何か。 それに何、あの景色? 気色悪いマーブル色してるぞ? っていうか外にいる人みんな浮いてない? 何なのだ、ここは? 「?ここは管理局本部ですけど」 「カンリキョク……。昨日も言ってたけどそれは何なんだい?」 歩き続けながらヴァッシュが聞く。 「そっか……ヴァッシュは知らないんでしたね……」 「ここまで関わっちゃったんだし別に教えちゃってもいいんじゃないの?」 アルフの言葉にフェイトは少し逡巡し、口を開いた。 「えっと……管理局っていうのはですね――」 フェイトの説明をヴァッシュは黙って聞いた。 いや、黙っていたというよりは黙ることしか出来なかったという方が正確か。 それ程にフェイトの話はヴァッシュを驚愕させた。 ――管理局 ――異世界 ――魔法 その話はヴァッシュの常識を遥かに越えていた。 フェイトの話によれば世界は何十、何百とあり、それを管理するのが管理局という組織らしい。 魔法の存在にも驚いたが、この話は更にぶっ飛んでいる。 自分がいたあの砂の惑星がある世界も数多と存在する世界の中の一つでしかないのか? スケールがデカすぎて、ついていけない。 正直なとこ信じられない。 だが、そう考える一方でどこか納得出来るところもあった。 ――ヴァッシュはずっと疑問に思っていた。 この平穏な地球と呼称される惑星は何なのだろうと。 自分の世界にも地球という惑星は存在していた。 だが、自分の世界の地球は百何十年も前の時点で、資源は枯渇し死滅したともいえる状態になっている。 ならこの世界の地球は何なのだ? 海があり緑があり生命力に溢れている。 まるで、映像資料にあった搾取されつくす前の地球を見ているようだった。 この不可思議な矛盾がずっと頭の中にまとわりついていた。 「……一つ質問。別の世界に、もう一つの地球が存在するっていうのは有り得るのか?」 いきなりのヴァッシュの質問にフェイトは少し考える。 「……どうでしょう……管理局も全ての世界を把握している訳じゃないので確証はありませんが……もしかしたら、という事もあるかもしれませんね。……どうしてそんな事を?」 「……何でもないよ。こっちの事情さ……」 フェイトの答えによりヴァッシュは確信を得た。 やっぱりこの世界の地球は、自分の世界の地球とはまた別のものだ。 いや、完全に別物という訳ではない。 言うなればもう一つの可能性を秘めた地球。 ここから滅びの道を歩むのか。 それとも自然と共存して生きていくのか。 誰にも分からない可能性を持っている。 自分の世界では滅びの道を進んだが、この世界ではどうなるか分からない。 「あの……ヴァッシュ?」 押し黙ってしまったヴァッシュをフェイトが心配そうに覗き見る。 「……いやー、こういう事もあるんだねぇ……」 知らず知らずの感嘆のため息がもれる。 自分達の世界とは違う道を歩んで欲しい。 俺やナイブズのような悲しい存在を産み出さないで欲しい。 ――ヴァッシュは静かにそう願った。 ■□■□ 「んじゃあ、なのはやフェイト達は管理局で働いている魔導師って訳か」 それから数分後、気を取り直したヴァッシュが口を開いた。 「はい。そうですよ」 「まだ、子供なのに……かい」 少し悲しそうな顔をするヴァッシュ。 幼い子供が命を賭けて戦う事を悲しんでいるのか。 (優しい人なんだな……) そんなヴァッシュを見てフェイトは少し心が暖かくなる。 「……ありがとう御座います」 自然とフェイトの口から感謝を告げる言葉が出た。 「へ?何がだい?」 「あ、ああ!気にしないで下さい!」 「お二人さーん。そろそろ着くんだけどなー」 「お!あそこかい?」 二人を冷やかしながらアルフがある扉を指差す。 いち早く動いたのはヴァッシュ。部屋に向かって駆けていった。 (この男は本当にさっきまで気絶していたのか?) 元気に駆けるヴァッシュを見て二人の頭に疑問が浮かぶ。 そしてヴァッシュはそのままドアの前へと立つ。 人の存在を感知し、自動ドアが独りでに開く。 「なのは、具合はどうだい?」 陽気に笑いながらヴァッシュはなのはの病室へと入っていき――動きを止めた。 そこに居たのはなのはと見知らぬ緑色の髪をしたグラマラスな女性。 だがヴァッシュが動きを止めた理由はそこではない。 空気が重い。 まるで葬式と葬式と葬式がいっぺんにやって来たかのように重苦しい。 「あ、あれ?」 いきなりの修羅場状態にヴァッシュは困惑することしかできない。 「ヴァ……ヴァッシュさん」 なのはの呆然とした声が病室に響いた。 ■□■□ 「……あなたがヴァッシュさんですね。私はリンディ・ハラオウンと申します」 数秒の沈黙の後、最初に口を開いたのはリンディであった。 リンディはヴァッシュへと手を差し出す。 「あ、ああ、よろしく」 ヴァッシュもにこやかに笑いながら、その手を握る。 「それにしても、この空気はなんなんだい?やけに重苦しいというか……」 先ほどからなのはは俯いたままだし、フェイトとアルフもこの空気を察知したのか部屋の隅の方で黙って見ている。 なのはの様子を見に来ただけなのに……。 ヴァッシュは誰にも気付かれないように小さく溜め息をつく。 「フェイトさんにアルフ、部屋に戻っていてくれないかしら?」 フェイト達に向け、リンディが申し訳なさそうに両手を合わせる。 それを見てフェイト達は顔を見合わせ、頷くと扉へと歩を進める。 (なのは……) 元気なく俯くなのはを、心配そうにチラリと見てフェイトは外へと出て行った。 「先ほどの話を聞いていましたか?」 フェイト達が出て行った事を確認してリンディが口を開く。 「いや、何のことだかサッパリなんだけど……」 困惑の表情でヴァッシュが返す。 ヴァッシュからして見たら、先程までの和やかな空気からいきなりの葬式ムード。 ついて行けるはずがなかった。 「……今、私たちはあなたの事について話していました」 そして、リンディは話し始める。 ――ヴァッシュのように偶然、異世界からやって来てしまった存在を次元漂流者と呼ぶこと。 ――異世界の存在を知るなのはがその事を管理局へ伝えなかったこと。 ――ヴァッシュの世界が特定出来たらそこへ帰らなくてはてはいけないこと。 一息にリンディは語る。 「……リンディが言ってることは本当かい?なのは」 リンディ説明が終わるとヴァッシュが真剣な表情でなのはへ問う。 それになのはは頷くことしか出来ない。 「……そうか」 そう言いヴァッシュは近くに置いてある椅子へと腰を下ろす。 「……これからヴァッシュさんの世界を管理局のデータベースで洗ってみます。結果が出るまでヴァッシュさんはここで生活してもらう事になりますので……」 「……ここじゃなくちゃ駄目なのか?」 ヴァッシュの問いにリンディは首を横に振る。 「そういう決まりなので……」 その答えにヴァッシュは唇を噛む。 「……それでは特定出来しだいまた連絡しますので…………ごめんなさい、なのはさん……」 最後にそう言いリンディは部屋を後にした。 ヴァッシュとなのはそれを黙って見送ることしか出来なかった。 ■□■□ なのはは後悔していた。 何でバレちゃったんだろう。 ただ、ヴァッシュさんに平穏な生活を送ってもらいたかっただけなのに。 ヴァッシュさんに心の底から笑って毎日を過ごして貰いたかっただけなのに。 でも、もう無理だ。 ヴァッシュさんは元の世界に帰されてしまう。 身も心もボロボロになって、それでも笑って過ごす辛い生活に戻ってしまう。 最初の夜に高町家を出て行こうとしたヴァッシュの寂しそうな笑顔がなのはの頭に浮かぶ。 ――いやだ。 もうあんな笑顔はして欲しくない! なのはは心の底からそう思う。 ――でも、どうすればいいかが思いつかない。 自分の不甲斐なさに涙がこみ上げてくる。 「……ありがとう」 ――その時、ヴァッシュが口を開いた。 「……本当にありがとう」 ヴァッシュの口から出たのは感謝の言葉。 なのはは困惑する。 何でお礼を言われるんだろう。 バレてしまったのに。ヴァッシュさんにだって嘘をついていたのに。 なのはは不思議に思いながら顔を上げる。 そこにあるのは笑顔。人を安心させようとする笑顔。 でも、なのはは気付いた。 その笑顔は空っぽだということに。 自分だって悲しい筈なのに無理して笑っているんだということに。 「何で…………何で笑うんですか!?」 つい声が大きくなる。 どうしようもない憤りがなのはの中に蠢く。 「元の世界に帰っちゃうんだよ!?ヴァッシュさんがあんなに傷ついた世界に!」 ああ、ヴァッシュさんが悪い訳じゃないのに、何で自分は怒鳴っているんだろう? 管理局に嘘をつき、ヴァッシュさんにも嘘をつき、本当だったら怒鳴られるべきは私のはずなのに。 「いっつも、いっつも笑っていて!本当は辛いはずなのに周りの心配ばかりして!今回だって自分の事を考えないでみんなのために戦って、傷ついて!」 頭ではそう理解しているのに言葉は止まらない。 「それでもヴァッシュさんは何も言わない!愚痴一つつかない!いつも優しく微笑んでばかり!」 口から飛び出す。 心の中に溜まっていたものを全て吐き出すように。 「……何で?私とヴァッシュさんは友達だよね……辛いことがあったら相談してよ……何でもかんでも一人で背負わないでよ……」 悩みを相談してくれない友達に憤る少女。 それは半年前のあの時と酷似していた。 あの時、怒られる側だった少女が今では逆に怒っている。 なのはは、あの時のアリサの気持ちが少し分かった気がした。 一方的に怒鳴られ理不尽に責められたにも関わらずヴァッシュは何も言わない。 ただ静かになのはを見つめているだけ。 「……なのは」 不意にヴァッシュが動いた。 なのはの頭の上に手を置き、優しくつぶやく。 ヴァッシュの温もりが伝わる。 「……君は本当に優しいんだな」 ヴァッシュが語りかける。 全てを包み込むかのように大らかで優しい口調。 それはゆっくりとなのはの心に染み込んでいった。 思わず、目に涙が浮かぶ。 泣いちゃ駄目だ。 泣いてたまるか。 零れ落ちそうになる涙を何とかせき止める。 「……そんなことありません……私、ヴァッシュさんにだって嘘ついてました……異世界の事なんて知らないって……」 声が震えそうになるのをシーツを思いっきり握り我慢する。 「それは僕が悩まないように考えてくれてたんだろ……君は本当に僕の事を考え、救おうとしてくれた……それが僕には――」 不意にヴァッシュの声が途切れた。 と、同時に頭の上に何か暖かい滴が垂れた。 不思議に思い顔を上げたなのはの目に飛び込んで来たもの、それは―― 「――本当に嬉しい」 優しく微笑み、両方の眼から一筋の涙を流す、ヴァッシュの姿だった。 「ヴァ、ヴァッシュさん!?」 初めて見る大人の男の涙になのはは大いに焦る。 「ご、ごめんなさい!何か言い過ぎちゃって……!」 憤りなんかどこかに吹き飛んでしまった。 必死になのはは頭を下げる。 「いやー、ありがとう!」 そんななのはを見て、ヴァッシュは涙を拭き立ち上がる。 「お陰で決心がついたよ」 ヴァッシュの顔にはいつもの飄々とした笑みとはまた違う、心の底からの笑顔があった。 「決……心?」 なのはの言葉に答えることなく、ヴァッシュは部屋の出口へと歩いていく。 「あ、そうだ。たぶん、またしばらくの間なのはの家にお世話になると思うから宜しくね!」 右手をヒラヒラと振りながらヴァッシュは外へと出て行った。 「え……?」 なのははヴァッシュが最後に残した言葉の意味を頭の中で考える。 (『なのはの家でお世話になる』……?) ヴァッシュさんは確かにそう言った。 だが、どうする気だろう。 管理局には存在がバレ、結果が出るまでの期間でさえここで待機するよう言われているのに。 何をする気だろう? そんな魔法みたいなこと、いくら考えてもなのはには思い付かなかった。 ■□■□ 「はぁ……」 管理局本部資料室。 リンディは正面に映るディスプレイとの睨み合いをしながら、ため息を一つつく。 「艦長、少し休んだ方が良いですよ……」 明らかに疲労の色が見えるリンディに、エイミィが心配そうに声をかける。 「……そうね。今日のところは終わりにしましょうか」 そう言いリンディはディスプレイの電源を落とし椅子へともたれ掛かる。 「大丈夫ですか……」 「まぁ、大丈夫ではないわね……」 どうにも作業がはかどらない。 リンディは心の中で小さく毒づく。 謎の襲撃者の捜査だけでも大変だったのに、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの問題まで現れた。 二つのことを同時にやるより、一つのことに集中して作業した方がはかどるに決まっている。 こうも立て続けに事件が起こると、いくら優秀なスタッフが居るにしても人手が足りない。 それに―― 「ヴァッシュ・ザ・スタンピード……か」 ――どうも乗り気にならない。 乗り気や何やらで仕事に支障が出るのは艦長として失格かもしれないが、どうにもやる気が出ないのだ。 もちろん、謎の襲撃者事件についてではない。 そちらに関してはは自分も含めスタッフ全員やる気に満ちている。 問題なのはヴァッシュ・ザ・スタンピードについてだ。 身内が関わっているという事もあってか気乗りしない。 どうやら調査によると、なのはは一、二ヶ月の間ヴァッシュの存在を隠していたらしい。 何故、ヴァッシュのことを管理局に伝えなかったのかは分からないが、そこに悪意が無いのは分かった。 たぶん、なのはなりに考えが有ったのだろう。 だが、いかなる理由が有っても次元漂流者の隠匿は許される事ではない。 民間協力者なので刑罰になる事はないだろうが、厳重注意は来るだろう。 ――気が重い。 今日何度目か分からないため息をリンディはついた。 そしてもう一つリンディの心に引っかかっているものがあった。 寧ろ、この事が一番リンディの心に響いている。 ――どうしても先程見せたなのはの悲しげな表情が拭えない。 自分が問い詰めた時、なのははとても悲しそうな顔をしていた。 それを見て気付いてしまった。 なのはがどれだけヴァッシュ・ザ・スタンピードを大切に思っているかを。 そんな二人を引き裂くのか? それが仕事だと言い聞かせるも、駄目だ。 どうしてもなのはの悲しげな顔が頭に浮かぶ。 「……どうしたらいいのかしらね」 リンディは真っ黒な天井を見上げる。 と、その時―― 「おじゃまするよ、リンディはいるかい?」 陽気な声が資料室に響いた。 「あの人……!」 エイミィが驚きの声が上げる。 僅かに眉を吊り上げ、声のした方へリンディが振り向く。 「……ヴァッシュさん」 そこに居たのはド派手な金髪男、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。 陽気に笑うその顔を見てリンディは気が重くなるのを感じた。 「ああ、いたいた!いやー探したよ、この管理局ってのは広すぎるよ、まったく」 笑いながら近付くヴァッシュを見て、リンディは少し違和感を感じた。 何か違う。 先程までと何かが変わっている。 相変わらず表情は飄々としていて、先程と変わらない笑みを顔に張り付かせている。 ただ、眼が違う。 眼から力強い意志を感じる。言うなれば決意。 目の前の男から大きな決意を感じる。 「私に何か用ですか?」 「そうそう!一つ頼み事があるんだ!」 頼み事? リンディの顔に困惑が浮かぶ。 そんなリンディの困惑に気付いているのか、気付いていないのか、ヴァッシュは益々笑みを深くする。 「――僕を管理局に雇ってくれないか?」 「……は?」 空気が固まった。 エイミィもリンディも、ヴァッシュが放った言葉の意味を理解するのにたっぷり十秒は懸かった。 「そ……それはどういう意味でしょう」 リンディが何とかそれだけ口に出す。 「だから、協力させてくれって話さ。まだあの赤服の子達は捕まってないんだろう?だったら戦力が多いに越したことはないと思うんだけど」 そこまで来てようやくリンディも話が飲み込めて来た。 「……ようするに、管理局員として戦うからなのはさんの世界で生活させて来れ……という事ですか?」 「いや、リンディは話が分かるな~。正にその通り!」 リンディは全てを理解した。 そういう事か。 先程この人の目に映っていた決意。 それは戦うための決意だったのだ。 そして、その決意は岩のように固いだろう。 だが―― 「……ヴァッシュさん……ヴァッシュさんの実力はユーノから聞いてますし、その申し出はこちらとしても嬉しい限りです……が、断らせてもらいます」 苦虫を噛み潰すかのように顔を歪ませリンディはそう言った。 その言葉に慌てたのはヴァッシュだ。 「な、なんでだい!?なのはの様な民間の協力者もいるんだろ!?だったら――」 「無理です」 「な、何でですか、艦長!?別にいいじゃないですか!」 あまりに冷徹な判断にエイミィも反対の意を唱える。 「いえ、無理です――ヴァッシュさん、あなたは魔導師相手にどう戦うつもりですか?」 「この銃でだ……」 ヴァッシュは懐から相棒を取り出す。 それを見てエイミィも理解した。 リンディが何故ヴァッシュの管理局入りを拒絶するかを。 「……管理局では質量兵器というものの使用が禁止されています……」 「シツリョウヘイキ……?」 「……要するにあなたが持つ銃の事です」 苦々しくリンディが言った。 ――質量兵器。 それは火薬や化学などを用い、スイッチ一つで大量の人々を傷つけ破壊を生み出す兵器。 その危険性、非人道的さから管理局では使用が禁止されている。 質量兵器の事を聞いてからヴァッシュはずっと俯いている。 それを見ていると罪悪感に胸が締め付けられる。 自分はなのはとヴァッシュを繋ぐ唯一の手段を断ち切ってしまったのだ。 それが管理局員としての正しい判断だ、と自分に言い聞かせても罪悪感は全く拭えない。 悲しげな表情でリンディはヴァッシュを見詰め、肩に手を置いた。 瞬間、物凄い勢いでヴァッシュが顔を上げた。 「……リンディ。僕の世界が見つかるまであとどれくらい掛かる?」 「データベースに存在していれば大体二、三日で特定し終えますけど……それが?」 「二、三日か……」 そう呟き頷くとヴァッシュは真剣な顔でリンディに向き直る。 そして驚く事を口にした。 「あと三日で魔法を習得したとすれば管理局に入れてくれるかい?」 「……は?」 再び空気が固まる。 「どうだい?それなら問題ないだろう?」 そんな空気を気にもせずヴァッシュは話し続ける。 「そりゃ問題はありませんけど……」 「なら決まりだ。あと三日の間に僕は魔法を習得する」 「……分かりました」 リンディはコクリと首を縦に振る。 「よし!約束だよ!」 そう言い部屋を飛び出そうとするヴァッシュをリンディが呼び止める。 「ですが、もう一つだけ条件があります」 その言葉に非常に嫌そうな顔をしてヴァッシュが振り向く。 「……その条件っていうのは何だい?」 「簡単な事です。こちらが選出する魔導師を相手に戦い、一撃でも攻撃を成功させること。これが条件です」 あの襲撃者たちは強い。 にわか魔導師が相手をするには危険すぎる相手だ。 一つ間違えれば大怪我、下手したら命に関わるかもしれない。 そんな敵相手に最低限戦えるレベル。 これが自分の出来る最大限の譲歩であった。 「OK。それだけだね」 それでも目の前の男は自信満々に微笑む。 「ええ……頑張って下さいね」 そんなヴァッシュを見てリンディの口から思わず本音が出る。 「ああ、まかせといてよ!」 そう言いにヴァッシュは部屋から出て行った。 その目にあるのは決意。 百数十年という月日を銃のみで生き抜いてきた人間台風は魔法という不可思議な力を習得できるのか。 人間台風の戦いが始まった。 前へ 目次へ 次へ
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登録日:2011/09/01(木) 02 58 10 更新日:2023/05/29 Mon 11 08 15NEW! 所要時間:約 6 分で読めます ▽タグ一覧 AI S2U ⊃星⊂ ● ちょっとやりすぎた?←Don't woryy. とらいあんぐるハート インテリジェントデバイス オムライス オートマチック グレートハイジン デバイス レイジングハート ロストロギア? 不屈 不屈の魂 大体砲撃専門 好戦的 新幹線のアナウンス 次元連結装置 漢 自爆 薬(カートリッジ)中 飴 高町なのは 鬼に金棒 魂 魔法少女の杖←ではなく「魔導師の端末」 魔法少女リリカルなのは レイジングハート (Raising Heart) CV:Donna Burke 魔法少女リリカルなのはシリーズの主人公、高町なのはの使用する魔導端末。 ミッドチルダ式のインテリジェントデバイスで独立した意志と高い知性を持つ。 助けを求める声(広域念話)を聞いてかけつけたなのはにフェレット状態のユーノが「今の僕じゃアレを止められない」と、暴走するジュエルシード封印を依頼し、 その際に待機状態のレイジングハートを渡され、それ以降なのはが正式なユーザーとなる。 インテリジェントデバイスの使用には「相性」の問題が大きく関わってくるため、通常はあらかじめユーザーを限定した上で専用の調整を施し、 本人もそのデバイスの使用を前提とした訓練を積むのが一般的で、それ故かレイジングハートは誰からの使用者登録を受け付けなかった。 しかし、 風は空に、 星は天に、 不屈の魂はこの胸に! この手に魔法を! レイジングハート! セーット、アップ! ● stand by ready, set up. レイジングハートは見事起動し、なのはをユーザーとして登録した。 また、魔法戦闘経験の少ない主なのはの為、砲撃魔法に特化したデバイスとして自身を構築した。 元々はユーノが所持していたデバイスだが、彼は完全には使いこなせていなかったようである。 本編以前にはスタンバイモードのレイジングハートを用いてジュエルシードを一応封印している。 起動呪文(正確には、起動用パスワード)は以下の2種類が確認されている。 我、使命を受けし者なり。 契約のもと、その力を解き放て。 風は空に、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に。 この手に魔法を。 レイジングハート、セットアップ! 風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の魂はこの胸に! レイジングハート、セットアップ! 『ORIGINAL CHRONICLE 魔法少女リリカルなのは The 1st』によると、 原作同様、魂と書いて『こころ』と読む。 本編のなのはとフェイト、2人の少女の出逢いの物語に隠れて影が薄いが、 ここにもまた1つ奇跡の出逢いがあったことを忘れないでもらいたい。 なおレイジングハート自身のAIの性格は冷静かつ情熱的なのだが、 「バルディッシュはフェイトの負担が過ぎないように気を配るのに対し、 レイジングハートは一心同体ゆえになのはと一緒になって無茶をする」 としてフェイトが心配してるほどかなり無茶をしやすい部分もある。 以下デバイスとしての性能。 ◇レイジングハート ユーノから渡された初期の状態。モードは3つ。 スタンバイモード 出典:魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st、DVD付属特典パンフレット、キングレコード、2010年11月26日発売、© NANOHA The MOVIE 1st PROJECT 待機状態。赤い球体でなのははペンダントのように首から下げている。 この状態でも、ある程度の魔法の補助が可能。 デバイスモード 出典:魔法少女リリカルなのは/魔法少女リリカルなのはA's ビジュアルファンブック、晋遊舎刊、©なのはPROJECT 、2006年3月10日 基本形態。射撃能力を主とした魔導師の基本的な性能をもつ。 シューティングモード 砲撃に特化した形態。なのはの得意とする砲撃魔法はこれで放たれる。 アクセラレイションでさらなる強化も可能。 シーリングモード 出力を強化した形態。本体から翼が発生する。ロストロギアの封印処理や集束砲撃に使われる。 一応、A's以降で言うフルドライブ形態らしい。 ●劇場版 物凄くよく喋るようになり状況分析や航空軌道・空間戦術の教練など上記の設定に違わぬハイスペックAIと化す。この辺はA's以降からの設定の逆輸入という面も。 ついでにユーノが遺跡から発掘したデバイスということになっている完全にロストロギアじゃないですかヤダー! デバイスモード 出典:魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st、DVD付属特典パンフレット、キングレコード、2010年11月26日発売、© NANOHA The MOVIE 1st PROJECT なのはのバリアジャケットのカラーリングに合わせたパーツが追加される カノンモード 出典:魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st、DVD付属特典パンフレット、キングレコード、2010年11月26日発売、© NANOHA The MOVIE 1st PROJECT 形状が1から変更され、鋭いイルカヘッドのような形になる。カッコいい。 さらには収納型のグリップとトリガーまで追加される 劇場化にあたり、「魔法少女の杖」ではなく「魔導師の端末」へと完全にシフトしているようである ◇レイジングハート・エクセリオン (Raising Heart Exelion) A s第一話にてヴィータの攻撃を受け止めきれず破壊されたレイジングハートが、 その後自らメカニックに依頼しカートリッジシステムCVK-792A搭載をした新しい形。 6連装オートマチック型カートリッジシステムを装備。性能を大幅に強化している。 ついでにこの辺からよく喋るようになる。 シーリングモードはオミットされ、モードは4つ。 スタンバイモード 以前とかわらず。ペンダント型。 第五話でなのははヴィータに話し合いを求めたときに「和平の使者は槍を持たない」と拒絶されたので、 その後の第七話なのははヴィータに対して、最初はスタンバイモードにしたままで声を掛けている アクセルモード 出典:画像左、魔法少女リリカルなのは/魔法少女リリカルなのはA's ビジュアルファンブック、晋遊舎刊、©なのはPROJECT 、2006年3月10日 出典:画像右、魔法少女リリカルなのは The MOVIE 2nd A's、DVD付属特典パンフレット、キングレコード、2013年3月22日発売、©NANOHA The MOVIE 2nd A's PROJECT 中距離射撃と誘導管制、強靭な防御力を含めた中距離高速戦専用モードとなっている。 なのはの特性に合わせて、魔力弾を加速(Accel)させることに特化したところからこの射撃魔法の操作性・加速力を向上させた形態。 圧倒的な弾幕と敵の射撃を撃ち落とす精度に応えるだけの性能を持つ。 StrikerS後期以降は基本的にエクシードモードを使うためか教導の時くらいしか出て来ずサナギマン状態。 でもOPで毎回登場するので意外と目立つ。 バスターモード 出典:画像左、魔法少女リリカルなのは/魔法少女リリカルなのはA's ビジュアルファンブック、晋遊舎刊、©なのはPROJECT 、2006年3月10日 出典:画像右、魔法少女リリカルなのは The MOVIE 2nd A's、DVD付属特典パンフレット、キングレコード、2013年3月22日発売、©NANOHA The MOVIE 2nd A's PROJECT 砲撃特化の遠距離戦用形態。カートリッジで強化された砲撃は更なる威力やバリエーションを生む。 シューティングモード同様、形状自体は管理局魔導師が使用している量産型ストレージデバイスと変わらない。 劇場版では前述したカノンモードの進化形態として、『バスターカノンモード』となっている。 エクセリオンモード 出典:魔法少女リリカルなのは/魔法少女リリカルなのはA's ビジュアルファンブック、晋遊舎刊、©なのはPROJECT 、2006年3月10日 レイジングハート・エクセリオンのフルドライブ。 本体破損を防ぐ出力リミッターを解除した状態で、魔力消費と引き換えに爆発的出力を生み出し、術者の全能力を底上げする。 位置的にレイジングハートのシーリングモードに対応するモードだが、形状はまるで違い、もはや杖というより槍である。 この時点ではフレームの耐久力や使用者の負担など問題が多く残っていたため絶対に使ってはいけないと要注意をされた。 劇場版ではなのはのバリアジャケットカラーの装甲部品が新たにつけられている。 A.C.S展開状態 A.C.Sは「Accelerate Charge System」の略。瞬間突撃システム。 エクセリオンモード及び後述のエクシードモードのみ使用可能なシステムで半実体化した魔力刃『ストライクフレーム』を備え、六枚の羽根を広げる。 因みに、本来は近接戦の為のシステムではない。 エクシードモード エクセリオンモードに変わり登場した形態。旧エクセリオンモードを改良したもので強力な射撃と大威力砲撃に徹底特化している。 段階的に出力をエクセリオンモードと同等以上に引き上げるブラスターシステムを切り札とし、 常に莫大な魔力消費と引き替えに能力を底上げするエクセリオンモードより負荷が少なく、一点特化により無理なく扱いやすくなっている。 ブラスターモード レイジングハート・エクセリオンのリミットブレイク。 使用者であるなのは、デバイス両方の限界を超えた力を無理やり引き出す自己ブーストによる強化。三段階のリミッターがつけられている。 聖王ヴィヴィオ戦では単なる強化にしか見えなかったが、 本来は後方からの一撃必殺を目的とした、短時間の使用が望ましい文字通りの切り札らしい。 ゲーム版によるとA'sの時代から開発中だが存在していて、なのはもテスターだったらしい。(11歳での撃墜も当然である) ◆ブラスタービット ブラスターモード時に、なのはが任意で最大4機まで展開できるレイジングハートの子機。 レイジングハートと同様の機能を持ち、本来なら近づく必要のある拘束魔法や砲撃補助など、あらゆる面で強化を施す。 単独飛行形態 ストライクカノンとフォートレスの同時使用に際し、両腕がふさがってしまうなのはのために自分で考えた形態。 一部第五世代デバイスのパーツを使用している なおvivid以降ではスタンバイモードに羽を生やした状態で独立稼働したりする。 ヴィヴィオがセイクリッド・ハートを入手するまではヴィヴィオのデバイス代わりも務めていた模様。完全にオカンである。 やたら高性能な面が目立つが、シューティングモードなど、 モブの魔導師が持っているデバイスと形は大体同じなので、規格そのものはわりと普通なのかもしれない。 しかし長いことやってるリリカルなのはシリーズだが、 レイジングハートの製作者はいまだに判明していない。(INNOCENTのRH-1はおそらくグランツだが) まさか、ロストロg二二二⊃← 出典:とらいあんぐるハート3 リリカルおもちゃ箱、ivory、JANIS、2001年6月29日、©1998~2002JANIS©ivory 実はアニメ版のレイジングハートは3代目。 初代は嘘予告で月村忍が造った完全な兵器だった。 このレイジングハートには重火器二対にスタンガン、発煙機能、世界時計、スケジュール&アラームにスナップショットを搭載しており、 さらに男のロマンを追求する忍の趣味で自爆機能を搭載する等、 とってもお買い得だと忍が言っていたが、いかがわしくも物騒な兵器だと、なのはは怖がっていた。 どこかの恭也は喜びそうだが……。 近年のレイジングハートはこの初代に戻りつつある。 ちなみに魔法の国も領収書が落ちないのでお金も要求されるなど、世知辛い世界観だった。 2代目はリリカルおもちゃ箱でリンディが所持していた赤い宝石、起動時には白い羽がついていて、中心がハートだった。 そのため元祖レイジングハートの対となっているS2Uには、クロノの心を映した鋼の翼がついている。 2代目も起動詠唱が存在し、これを唱えなければ、なのはは起動できず魔法も使えない。 起動詠唱は以下の通り。 我……、使命を、受けたもうものなり。 ……契約のもと、その力を解き放ち給え……。 ……風は空に、星は天に……そして、不屈の魂は、この胸に。 この手に魔法を……。 ……レイジングハート、力を! 最終回でシンクロするまで必ず唱えていた。 2代目も意思疎通ができるが、光り輝くだけでその意思はなのはにしか伝わらない。 2代目の魔法は祈願実現型魔法、なのはの強い意志と魔力を使用して願いを叶えるという正統派な魔法。 3代目も祈願実現型ではあるが系統が違う。 2代目は副次効果で持ち主の魔力を強化したり、その人特有の力を強化したりできる。妖狐なら妖力とかを。 そんな2代目だが、最終決戦の際壊れてしまった。 そしてリンディ帰還時に久遠には鈴を、なのはには2代目を、思い出としてプレゼントした。 ……壊れ物だが、リンディにはこれしか持っていないのだから仕方ない。 そしてネックレスとして、S2Uと思い出と共になのはを見守っている。 The MOVIE 1stのコミック版の扉絵でこの2代目は登場している。 気になる人は探してみよう。 ●<You haven't heard anything, have you? ――All right. Please add a sentence to my item or revise this. (何も聞いていませんね? ――結構。 追記・修正をお願いします。) △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] そういやS2Uの無駄な翼はレイハさんの対の為だったんだっけ、……S2U(泣) -- 名無しさん (2013-09-09 10 33 23) あんな時期からエクセリオンや開発中のブラスター使ってたらそりゃ撃墜されるほど負担たまるわなぁ -- 名無しさん (2013-10-21 00 29 53) ↑そう考えると何のためにAI搭載してんだってレベルの欠陥兵器だな。 -- 名無しさん (2013-11-09 17 22 51) 原作では魂と書いて「こころ」って読むはずなんだけど……、アニメ版はどっちだったっけ? -- 名無しさん (2013-11-09 17 26 54) AIが処理しても無理だったって事だろ。元よりエクセリオンもブラスターも『極力使わない』のが望ましいけど、必要があって搭載・使用せざるを得なくなったモノだし。ついでに言うならなのはが自分の身体に気を遣わないで出撃したのも原因 -- 名無しさん (2013-11-09 17 32 28) ↑フェイトに心配されるレベルで頑張りすぎるからな二人とも -- 名無しさん (2013-11-09 17 34 11) ↑3キャッチコピーとかでも不屈の魂ってなってるし、変わってないんじゃないかな?…多分。 -- 名無しさん (2013-11-09 17 49 31) ↑ただキャッチコピーのほうのルビは『エース・オブ・エース』だからなぁ。なのはWikiでも不屈の魂表記は一か所しかないし -- 名無しさん (2013-11-09 17 52 59) 主人公の武器が「高性能な基本型で唯一無二の機能はありません」というのはかなり珍しい気がする -- 名無しさん (2013-11-09 18 47 02) ↑レイハさんは極端なオリジナル機構持ってないしな。オリジナルに見えてもなのは以外にも使用者いたり、なのはの要望で付けてるだけでつけようと思えば誰にでもつけられるし -- 名無しさん (2013-11-20 20 18 24) 初代:兵器、二代目:魔法少女の杖、3代目:その中間、次はどうなるのかな? -- 名無しさん (2013-11-26 16 34 43) ↑その前にINNOCENTの「4代目 データ」も追加で -- 名無しさん (2013-11-26 16 47 00) 今分かっている製造者は、初代:忍、2代目:リンディかクロノ、3代目:???、4代目:フローリアン博士……こんなとこかな。 -- 名無しさん (2013-11-27 13 46 57) 充実してんな -- 名無しさん (2013-12-29 20 31 10) デバイスなのに劇場版でなのはやフェイトが敗れたのは自分達の性能不足と解析し、自らカートリッジ搭載を進言するとか漢気パネェす。さらにおそるべきは勝負を最後に決めるのは『根性』とレイハさんに認めさせたナノハさんか…… -- 名無しさん (2014-02-11 17 54 15) レイジングハートは日本語だと「起き上がる心」→「不屈の心」ってところだろうか? -- 名無しさん (2014-04-07 00 54 14) "Let's shoot it, Accelshooter"って、「あの虫けらを撃ちましょう、アクセル・シューターで」と聞こえるw -- 名無しさん (2014-05-30 23 49 06) なかの人は東海道新幹線の外国語版のアナウンスをやってます -- 名無しさん (2014-09-01 09 35 28) Don't woryyでいいんじゃないでしょうかはいい皮肉 デバイスの言語は英独で区別してるんだっけ? 1期じゃクロノのデバイスはもろ日本語だったが -- 名無しさん (2014-10-19 02 37 48) ↑一応オリジナルのミッド語だけどね。(AccelがAxelになってたり)、クロノのS2Uはリリちゃの設定故かリンディさんの声だったらしいけど -- 名無しさん (2014-10-19 12 57 42) 使用者の負担を無視してまで要望に応えて出力するあたり、ロストロギアの香りがぷんぷんするぜw -- 名無しさん (2014-11-27 14 44 12) オリジナルクロニクルだと魂にこころのルビがふってあったか -- 名無しさん (2014-12-23 16 27 42) ブルースワットのディクテイターみたいに、電動ブローバック式の玩具出てほしかったな。 -- 名無しさん (2015-01-13 13 07 58) 実は自己進化自己増殖自己再生ができるロストロギアなんだよ!!11!! -- 名無しさん (2015-01-13 14 52 39) 進化し過ぎですから!! -- 名無しさん (2015-06-13 12 57 25) 最近は伝説のボスが似たような声の端末を使ってるよ -- 名無しさん (2015-10-31 02 26 38) もしなのはの手に渡らずユーノがそのまま持ってたら、主に探索・維持・解析・修復方向に進化してたんだろうな。主の望みに沿う方向で。 -- 名無しさん (2023-01-01 01 44 46) 名前 コメント
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第一話「昼と夜」 12月1日 0730時 海鳴市 高町家リビングルーム 朝早く起きて、街を見渡せる丘の上で魔法の練習をするのは 半年前から続くなのはの日課だ。今日はディバイン・シューターの制御練習をして レイジング・ハートから80点をもらったので、なのははとても上機嫌である。 「なのは、お前宛に海外郵便が来てるぞ」 兄の恭也が手に大きめの茶封筒を持ってリビングに入ってきた。 「お兄ちゃん、ありがとう。宛名は・・・やっぱりフェイトちゃんだ」 「その文通も結構続いてるよね。私は筆不精だから手紙書くのは苦手だなぁ。 あ、もしかして今回もビデオレター?」 半年も続く文通に感心した姉の高町美由紀がなのはに尋ねる。 「うん、そうみたい。そうだ、返事のビデオにお兄ちゃんとお姉ちゃんも入る?」 「お、いいね。それなら私でも大丈夫そうだよ」 美由紀は快諾し、朝ごはんを食べる為に席に着く。 なのはも同じように美由紀の隣に座り朝食をとり始めた。 学校に登校する途中、海鳴市の街並みを見渡すなのは。 この半年でジュエルシードの暴走で受けた傷跡は、徐々に癒え始めている。 巨大な木の根で破壊された道路もきちんと整備され、 高波で壊れた港も今は大きなタンカーが入港できるくらいに修復拡張された。 街は市や県の特別復興予算もあり、確実に以前の姿に戻ろうとしている。 そういう感慨にふけていると、背後から耳慣れた親友二人の声が聞こえてきた。 今日も、いつもの日常が始まってゆく。 同日 1034時 時空管理局所属巡航L級8番艦「アースラ」 アースラの№2であるクロノ・ハラオウンは食堂でPT事件の最終的な後始末である フェイト・テスタロッサの裁判の打ち合わせをしていた。 「次で最後の裁判になるわけだが、これまでの経過を鑑みれば、まず間違いなく保護観察処分を 勝ち取れるはずだ。それでも最後で躓くわけには行かないので一応、この書類通りに証言してくれ。」 渡した書類にはPT事件に関わった経緯、反省の意思があることなどの裁判の大体のシナリオが書かれていた。 金髪の少女フェイト・テスタロッサは、頷き真剣に渡された書類に目を通してゆく。 隣のアルフは、めんどくさそうだが主のために目を通している。 さらに隣にいるフェレットもどきには証言者としてこちらに有利な証言をしてもらう予定である。 ブリッジでは、艦の責任者たるリンディ提督が本局の監査部を預かっているレティ提督に アースラの整備についての相談と情報交換をしていた。 「明日で今回の巡航任務が終わりね。この艦もちょうど定期整備の時期だわ。 今のうちに書類を作っておいたほうがいいかしら?」 『そうね。今、L級を整備できるドッグはいっぱいだから早めに揃えてくれたほうが整備部も助かるわ。』 L級巡航艦は管理局が保有する高性能戦艦である。その整備には本局の専用ドッグが必要で 現在2番艦、6番艦、9番艦が定期整備しており、残りの空きは一つしかなかった。 「それはそうと、本局は今どんな感じなの?」 『よくないわ。人員不足は以前から言われてることだけど、ここ三ヶ月前から起こってる 連続魔導師襲撃事件のせいで武装隊、捜索隊は予備役を召集することになったわ。 死者がまだ出てないのが、唯一の救いね。』 「それって襲われた後にリンカーコアが極端に小さくなると言う、あの事件?」 『それよ。今、あなた達が巡航している付近を中心として起こってると予測されてるから もしかすると一悶着あるかもしれないわよぉ?』 本気半分、冗談半分といった感じでレティは、リンディをからかう。 ため息をつきリンディは、そうかもねと返す。 フェイトの裁判を控えてるのに、面倒ごとにはなるべく巻き込まれたくなかった。 12月2日 0115時 海鳴市 セーフハウス 『0115時、ケルビム、ヴァーチャーがペットの犬を連れて外出と・・・ ウルズ6、7!行きなさい。ここは私一人で十分だから』 「へいへい」 「ウルズ7、了解」 M9に搭乗しているマオがセーフハウスで待機しているクルツ、宗介に指示を飛ばす。 二人は、マガジンと薬室を確認をしてから八神家から出た二人の後をつけて行く。 「しかし、どこ行くのかね。犬の散歩にしては時間が遅いし、大体昼間の買出しのときに 犬もついて行ってたんだろ。」 「肯定だ。だが、そこまで気にすることではあるまい。俺もシロを散歩させるときは必ず深夜だ。」 「虎の散歩と一緒にするなよ。」 と、クルツは突っ込み前を歩いてるポニーテールの女と赤毛の少女を見る。 ポニーテールの女と赤毛の少女―――自分達はケルビムとヴァーチャーと呼んでおり 八神はやてをセラフィム、金髪の女をドミニオンというコードネームをつけられている 「情報部の援軍がいるとはいえ深夜に移動されると、やり難いったらありゃしねぇ。」 「それも肯定だが、文句を言っても仕方あるまい。狙われているかどうかも よく分からない状況でそう多くの人員をかける訳にはいかんだろう。」 「そりゃ、そうだけどよ。情報部から来たのが男というのもなんかなー。」 ケット・シーというコールサインを持つ情報部からの援軍――黒髪の東洋系の男だったが――は 初日に顔をあわせてから自分達とは別の場所から護衛、監視をしている。 それが情報部員の強みだからだそうだ。 「気にいらなそうだな」 「護衛対象が美人だからまだいいけどよ。周りが男ばかりだと息がつまりそうなんだよ」 「よく分からんが、情報部の変装技術はそれなりに進んでいる。 もしかすると性別を偽っている可能性もあるぞ。」 宗介はそういって、今もかなめの護衛をしてるだろう性別不祥な情報部のエージェントを思い出す。 クルツもそういうことには期待してないらしく、そうだなーと投げやりな答えを返した。 そうしている間に、尾行対象が二手に分かれた。 「おい、二手に分かれたぞ。気付かれたか?」 「分からん。お前はケルビムを追え。俺はヴァーチャーのほうに行く。」 12月2日 0223時 海鳴市 オフィス街 シグナム、ザフィーラと別れたヴィータは単独で魔力反応を探している。 昨日は突然、はやてが発作を起こし魔力蒐集ができなかった上 闇の書が、まだ半分も完成していないことに焦り、イライラしていた。 それでも気付くことができたのは、追跡者の偽装がチョロ過ぎたためである。 「ち、誰だ?あたしの後をつけるのは」 振り返ると2人の男が立っていた。 その手には音叉状の杖らしきものを持っている。 間違いない。管理局の捜索隊だ。 「見つかっちまったか。まだ管理局にあたしらの顔がばれるわけにはいかねぇんだ。 わりぃけど、ぶっ潰させてもらうぜ!」 そう言って、一瞬でグラーフ・アイゼンを起動して間合いを詰める。 捜索隊の二人は、最初からデバイスを起動していることが、アドバンテージになっていると思っているようだが その程度の戦術的優位性は、この近距離でしかもベルカの騎士相手には通用しない。 ましてや、この程度の魔力資質なんざ・・・ 「でやああ!」 気合をのせ一息で二撃の攻撃を放つだけであっさりと勝負はつき 反撃する間もなく捜索隊の二人は地面に倒れ伏した。 「雑魚いな。次があるなら、相手の力量ぐらい測れる様になりな・・・ たいした足しにもならないだろうけど、闇の書の糧になってもらうぜ。」 だが、ヴィータは気付いてなかった。後をつけているのが二人だけではなかったということを 前へ 目次へ 次へ
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第二話「激突」 12月2日 0720時 セーフハウス 寝室 故郷のヘルマジスタンの冬に比べれば、なんと言うことはないが外気の肌寒さで 宗介はベットの下で目を覚ました。 昨夜の尾行から帰投し、仮眠をとったのだ。 (それにしても深夜のあれは、なんだったのだ?) いきなり、護衛対象である6~7歳ぐらいの少女がごつい金槌を取り出し、成人男性二人を殴り倒した現場を 目撃したときは、どっちが護衛対象なのか分からなくなった。 話を聞くとクルツは対象を見失ったらしい。 大事をとって遠回りして帰ってきたが尾行されてる気配はなかったという。 現在クルツは見失った罰としてマオの代わりとしてASに搭乗している。 「おはよう、ソースケ。よく眠れた?」 「肯定だ。それで対象に動きはあったのか?」 「ないわ。3時過ぎに帰宅してから寝てるみたいよ。それにしても尾行を撒かれるとはね・・・ 気付かれたか、単に見失っただけか。どっちだと思う?」 思案げな顔をしてマオは宗介に意見を求める。気付かれたのならこれからプランに支障が出る上に 対象からも警戒され護衛しにくくなる。 「判断に困る。マンションの屋上で見失ったなど普通ならありえないことだ」 「そうなのよ。いくら問いただしてもそれしか言わないし、嘘を言う必要もないわよね。」 結局その場では結論が出ず、一応これまで通り続けるということになり 状況を余計混乱させない為、宗介は昨日見たことを報告しないことにした。 同日 1346時 八神家 リビングルーム 昼食を食べ終わり、はやての手伝いとしてシャマルは台所で食器を洗っている。 (シャマル・・・) (シグナム、どうしたの?) わざわざ思念通話で話しかけられたシャマルは怪訝そうに聞き返す。 (少し、相談したいことがあってな) 思念通話を使っている以上聞かれては困る類の話なのだろう。 隣にいるはやてに悟られないように、食器を洗う作業を続けた。 (ブラのサイズが合わなくなったとか?) いきなりボケる泉の騎士に烈火の将は、すぐさま否定した (違う!・・・主はやてと我々の近辺のことだ。最近変わったことはないか?) (うーん、この家に張った警報魔法と結界魔法には何も反応がないわ。 このあたりは治安がいいわね。) (何か、見られてる感じはしないか?) (・・・管理局かしら、それとも・・・ストーカー?) (前者は考えられんでもないが、襲った相手が見た我々の顔の記憶はきちんと消したはずだ。 さすがに3ヶ月も隠蔽することは無理だったが、主のことも闇の書のことも管理局は まだ確証を掴んでないはずだ。後者は・・・・・・分からん) シグナムは昨日、闇の書の蒐集に出たときにヴィータがこの世界で 管理局の捜索隊に遭遇したと言っていたことを思い出した。 (私は特には感じないけど・・・ザフィーラ) シャマルは何かに気付いたようにザフィーラに話を振った。 (どうした。シャマル) (何か最近変わった事はない?視線を感じるとか。) (お前なら我々が見落としていることにも気付けるかもしれん) (・・・臭いがする) (*1) シグナムとシャマルが同時に聞き返すとザフィーラは鬱屈した声で答える。 (この半年間なかった臭いが、ここ数日ほど前からするようになった。 お前達は感じないかもしれないが酷い刺激臭だ。) 鼻が曲がって死にそうだとばかりに言うザフィーラに、その臭いを感じることのできない 二人はなんと声をかけていいか悩んでいる。 (ザフィーラ、その臭いは今もしているの?) (ああ、臭いの元は分からんが) 普段から口数が少ない守護獣は臭いのせいか、さらに口数が少なくなっていた。 (とにかく、シグナムも敵意や殺気は感じないんだからすぐにどうこうなるものじゃないわ。 もしかすると勘違いの可能性もあるんだし) (そうかもしれん。とりあえずヴィータにはまだ言うなよ。あいつの耳に入ると 怪しそうな奴(ヴィータ基準)が片っ端から殴り飛ばされることになるからな) (ええ、ザフィーラもお願いね) ザフィーラは返事をせず、頷くだけであった。 同日 1945時 海鳴市 市街地 「どうだヴィータ。なにか感じるか?」 ビルの屋上でザフィーラは探査魔法を駆使しているヴィータに声をかけた。 「いるような、いないような。ときどき妙にでかい魔力反応を感じるんだけどすぐ消えちまう。」 「そうか、では二手に分かれて探そう。闇の書は預けた。」 「オッケー、ザフィーラ。管理局の連中に気をつけろよ。」 「心得ている。」 そういってザフィーラは、去っていく。 ヴィータは、これから使う魔法について頭の中でリスクとリターンの計算をして決断した。 「しゃーねぇな。バレる可能性も高くなるが・・・・封鎖領域指定」 ヴィータの足元に紅い光を放つベルカ式の魔法陣が現れる。 『Gefangnis der Magie(ゲフェングニス・デア・マギー) 』 相棒たるグラーフ・アイゼンが宣言をし、より正確に探知できる能力が付与された結界魔法が起動する。 不可視の壁が広がっていき、ヴィータを中心に半径20kmの範囲が通常空間から隔離されてゆく。 「・・・・・・・魔力反応。大物見っけ!」 ヴィータは、ビルの屋上から飛び出し魔力反応がするほうに飛び出していく。 この魔力資質なら軽く20ページは埋まる。そして、はやてを救うことができる。 ヴィータは逸る気持ちを抑え、速度を上げた。 同日 同時刻 海鳴市 高町家 なのはの部屋 『Caution!Emergency!(警告、緊急事態発生)』 「え?」 数秒後、なのはは自分の存在がごっそり切り取られたかのような違和感を覚えた。 「これって・・・・結界魔法!?」 『Yes, master and it approaches at high speed.(対象、高速で接近中)』 それを聞き少し逡巡した後、なのははレイジング・ハートを手に取り、家を飛び出す。 結界魔法・・・しかも魔力資質を持ってない人をはじき出すような類のものだ こんなものを起動するということは自分に用があるに違いない。 しかし、一体自分に何の用があるのだろう?穏やかなことでありますようにと祈りながら レイジング・ハートが示す方向に走っていき、市街地の中心から少し離れたオフィス街にあるビルの屋上に上った。 同日 2000時 海鳴市 オフィス街 『it comes!(来ます)』 あたりをキョロキョロと見渡すなのはにレイジング・ハートが警告する。 目を凝らすと正面から赤熱する物体が高速でなのはに向かっていた。 『homing bullet.(誘導弾です)』 身構え、シールドを正面に展開し赤熱するボールのようなものを受け止める。 しかし、誘導弾の勢いは衰えずシールドとの摩擦により激しい火花が飛び散る。 一発だけ・・・? そう不審に思っていると背後から気合の入った声が降りてくる。 「こっちは囮!?」 「テートリヒ・シュラーク!!」 すんでの所でシールドの展開が間に合ったが相手の一撃は異様に重く、なのはの体は沈んでいく。 踏ん張りきることができず、吹き飛ばされ、ビルの屋上から落下してしまう。 このまま落下してしまえばまず命がないだろう。 やるしかないの?。 躊躇いを持ちながらもレイジング・ハートに命じる。 「レイジング・ハート、お願い!」 「Stand by. Ready. Set up.」 首から下げているインテリジェンス・デバイスに文字が浮かび上がりなのはの周囲は桜色の光で覆われた。 ヴィータは、狙った相手が自分の主と同じくらいの少女であることに驚いた。 が、そんなことで手を緩めるほど甘い覚悟など最初から持っていない。 この高さでも魔導師ならば何ら問題にならないと判断したヴィータは 墜落してゆく蒐集対象に、さらなる攻撃を加えるために追撃をしようとする。 手の上に新たなシュワンべフリーゲンの弾を発現させ、狙いを定める。 大規模な結界魔法の使用によって管理局に気付かれる可能性も高い、ちゃっちゃと決着をつけるのが一番だ。 『Schwalbefliegen(シュワルベフリーゲン)』 アイゼンの声と共に発射される鉄球のような弾丸は、ツインテールの少女に一直線に進んでいく。 直撃すると共に込められた魔力が爆発し、煙を巻き起こすが手応えはない。 「ち、間に合わなかったか。」 爆煙の中から2つの光球が出てきたが、あさっての方向に飛んでゆく。 どうやら相手は煙で碌に周りが見えてないようだ。 ヴィータは、スピードを上げ煙ごと相手をぶん殴ろうとした。 「うらあああああ!」 しっかりと腰の入った一撃、しかしまたもや手応えはない。 ギリギリのところで敵は煙の中から離脱していた。こいつは、それなりにやるようだ。 「いきなり襲われるなんて、身に覚えは無いんだけど。どこの娘?なんでこんなことするの?」 と、なにやら言ってくるがヴィータは無視した。 半年間暮らして分かったことだが、この世界に魔法を 駆使するためのデバイスは無い、もしくは一般的に普及してないのだ。 つまり目の前の少女は時空管理局、もしくはそれに準ずる組織の関係者ということになる。 この問いかけも時間稼ぎの可能性がある以上、問答は無用。 避けることに主眼を置いているのなら、シュワルベフリーゲンで追い込みクロスレンジの一撃で確実に仕留めてやる。 「教えてくれなきゃ、分からないよっ」 相手の魔導師が手を振る。その間に自分は弾丸を二つ精製しようとしたが背後から魔力反応を感知し、反射的に振り返る。 そこには、唸りを上げて迫ってくる先ほどの二つの光球があった。 ヴィータは一発目の回避に成功したが、これは自分の回避ルートを限定する為の牽制目的のものだ。 一息遅れて本命の二発目がヴィータに襲い掛かる。 避けきれないと判断したヴィータはシールドを展開して、これを防ぐ。 先ほどから、こちらの攻撃を回避していることと、この攻撃でヴィータは悟る。 間違いない、この敵は戦い方を知っている。 やたらでかい魔力資質に戦闘スキルが備わっているのは厄介この上ない、しかも時間は相手の味方だ。 「く、この野郎!」 出鼻を挫かれ、焦ったヴィータは全力で間合いを詰めアイゼンで脳天を狙う。 その攻撃を高速移動魔法で残像を作りながらかわす相手魔導師 ちょろちょろと鬱陶しいんだよ・・・! ヴィータのイライラのボルテージは急上昇していた。 「話を!」 再度距離をとった白い魔導師がデバイスの形を音叉状に変え、こちらに向ける そのデバイスの先端にとんでもない量の魔力が集まってゆく。 「聞いてってば!」 その声と共に極太の光がヴィータ目掛けて放たれた。 直撃すればひとたまりもないが運良くそれは少し左に反れていた、しかし余波でヴィータはバランスを崩してしまう。 どうにか姿勢を安定させたが、そこで気付く。 帽子がない。はやてが自分の為に考えてくれた騎士甲冑が・・・! 必死に周りを探してみると敵の砲撃のせいでボロボロになりながら地上に墜落している。 それを見て怒りのバロメーターは一気に振り切れ、もはや敵をぶっ潰すこと以外のことはヴィータの頭から消え去った。 「アイゼン!カートリッジ、ロードッ!」 『Explosion(エクスプロズィオン)!』 アームド・デバイスに内蔵されたシステムが活性化し、瞬間的に膨大な魔力がヴィータに供給された。 それだけではない、鉄の伯爵が変形していきハンマーヘッドの両面に噴射口と鋭いスパイクが出現する。 敵は、そのことに驚いたようだが関係ない。 あたしは、ただこいつをぶっ潰す。 「ラケーテン」 その声と共に噴射口が点火し、アイゼンに猛烈な推力が生まれる。 それをうまく制御し、今までの比ではないスピードで敵に肉薄する。 スピードについて来れなかったのか、敵はシールドを展開し受け止めようとするが・・・ 無駄だ。その程度の硬度なんざ、今のあたしとアイゼンに通用しない。 「ハンマー!」 相手の防壁を粉砕し、デバイスごと相手を吹き飛ばす。 敵は、背後のビルの窓を突き破り柱にぶつかってようやく止まった。 しかし、まだ敵には決定打を与えてないと判断したヴィータは追撃の手を緩めない。 「うらああああ!」 第二撃目を放ち、けなげにバリアを張る相手をカートリッジから供給された残りの魔力全てを使いねじ伏せる。 「ぶち抜けええええ!」 今度こそ、敵のデバイスとジャケットを破壊し決着がついた。 ヴィータは興奮した自分を落ち着かせるように何度も深い息をして、倒した魔導師に近づく。 驚くことに虫の息だが相手には、まだ意識はあった。それでも何かをできるわけではない ただ無力に半壊したデバイスをこちらに向けるだけだ。 止めを刺すためアイゼンを持ち上げ、振り下ろした。 だが、しかし攻撃は乱入者によって阻まれた。 前へ 目次へ 次へ
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ティアナ事件から戻りつつ平穏な一日 そこで、なのはたちは、機動6課のフォアード陣に 嬉しいお知らせをする 「明日一日は、お休み。ゆっくり休んで」 と、 さあ、機動6課の休日の始まりだ 集長の一言 今回は、戦いもお休み。 フォアード陣(ティアナ・スバル・キャロ・エリオ) それにしても、フェイトって子供の頃 活発だったらわりに いいお母さんしてます そして、事件が・・・ 映像は、こちら(消失の場合は、連絡の事 魔法少女リリカルなのはStrikerS ep 10 part 1 魔法少女リリカルなのはStrikerSサブタイトルへ戻る