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朝の騒がしさに起こされたリトは眠たい目で時計を確認した。時計の針は丁度7時を指していた。 「ったく、朝っぱらから何なんだよ?」 いつもならまだ寝ている時間でもあり二度寝しようにも目がさえて眠れなかった。 「とりあえず、起きるか」 リトは着替えを済ませリビングへと向かった。 「おはよう!リト」 リビングには何やら不思議な機械を手に持っているララがいた。リトは朝の騒がしさの原因はララだと気づき髪を掻きながらララに言った。 「…お前、こんな朝早くから何やってんだよ?」 「新しく作った発明品を試してたんだよ~♪」 そう言うと手に持っている機械をリトの方に向けた。 「これはね、クルクルクロックっていって、このダイヤルを使って記憶を復元出来るんだ♪」 「記憶?復元してどうするんだ?」 「記憶を復元して忘れ物とかをなくすことが出来るの。これさえあればもう忘れ物をしなくてすむよー」 ニコニコと嬉しそうに言うララにリトはよかったじゃんと言い自分の部屋に戻ろうとした。 「待って!リトもクルクルクロックを使ってなくした物を取り戻したくない?」 「ん~そうだな。俺もなくして困ってた物があるしな。お願いするぜ」 「了解♪リトがなくして困っていた物って何?」 「唯から貰ったお揃いの携帯ストラップなんだ…3日前から見当らなくてずっと探してたんだ」 リトの言葉を聞くとララは手に持っているクルクルクロックのダイヤルを回し始めた。 「これでOK!後はクルクルクロックがリトの記憶を復元してくれるから」 「サンキュー。これで見つかりそうだよ。正直唯に色々と聞かれてまいってたんだよな~」 そう言うとリトは何かを思い出したのか自分の部屋に行ってしまった。10分も経たないうちに嬉しそうな顔をして戻って来た。 「ララ!あったよストラップ!本当にありがとうな!助かったぜ!」 リトの嬉しそうな顔にララも嬉しくなって笑顔になった。色々話してるうちに美柑が起きてきたので制服に着替える為に部屋に戻った。 皆で朝食を食べ終え学校に向かう。行く途中で唯が待っていた。 「おはよう。結城君」 今朝も寒かったけど、唯にとってはリトと会えるという想いが寒さえ感じさせないでいた。 「……」 「ちょっと!結城君!私が挨拶してるのにどうして黙ってるわけ?」 いつもだったら笑顔でおはようと返してくれるリトなのだが今日は何か様子がおかしい。 「あのーあなた誰ですか?」 「えっ?」 リトはララに誰だよ?と聞いて唯の方を見た。 「結城君!ふざけてるの!」 唯は声を大きくしてリトに言った。 「誰だよ?馴れ馴れしい。俺はお前の事なんか知らないって言ってるだろ?」 いきなりなことだったため唯は何も言う事が出来ずに俯き目には涙をうかべていた。 「ったく、朝からめんどくさいことにあっちまったな」 そう言うとリトはララと唯をおいて走って行ってしまった。 「ま、待って!結城君!」 唯の言葉もリトには届かず行き交う人の中に消えていった。唯は俯いてしばらくその場から動くことが出来なかった。 「結城君、どうして?」 リトに嫌われたのではないかと不安になる唯にララが優しく声をかける。 「今日のリト何か変だよね?唯にあんなこと言うなんて」 今にも倒れそうな唯に肩を貸し二人で学校へと向かった。 唯は学校でも何度もリトに話しかけたがリトは他のクラスメートと話していて唯の話を聞こうともしない。 放課後になってもそそくさと帰ってしまい、唯と顔を合わせることはなかった。 唯は一人寂しく帰ることになり、不安な気持ちでいっぱいだった。 リトと付き合い始めて一人で帰ることが少なくなり、自分がどんな遅くなってもリトだけは待っていてくれた。 暗い夜の帰り道もリトがいてくてたから安心できた。触れるリトの手の温もりを感じながら帰るのが唯にとってかけがえのないものとなっていた。 けれど、今はリトはいない。その寂しさに押しつぶされそうになりながら、家に帰った。 家に帰っても唯は部屋に閉じこもり一人考えていた。 「結城君、私のこと嫌いになったのかな?私がいつまでも素直にならないから…」 リトのことを考えると夜も眠れなくなる。あの日、リトが初めて自分に好きだと告白してくれた日、自分の想いをリトに言えた日、その日を思い出すたびに身体中が熱くなる。 二人の想いは通じ合い決して離れない絆になった。 けど、今その絆が消えてしまいそうになっていた。 消えてほしくない!リトとの思い出だけは失いたくない! その想いを胸に抱いて眠りについた。 翌朝 今日は学校も休みなため朝からどこかに出かけようと思い、着替えていると電話が鳴った 「…はい、もしもし?古手川です」 『あの…私、唯さんのお友達のララですけど、唯さんいますか?』 「ララさん?どうかしたの?」 電話の相手がララだということに驚いた。ララが自分に電話をしてくるなんて思いもしなかった。 『唯?よかった。リトのことで話があるから電話したんだ』 「結城君のこと?何?」 『実は昨日リトの様子がおかしかった理由がわかったの』 「えっ?」 『リトの様子がおかしかったのは、私の発明品のせいなの…』 「発明品?」 『うん、私が発明したクルクルクロックのせいなの。クルクルクロックは人間の記憶の復元が出来るの、昨日の朝リトが探し物をする時に使ったんだけどその時何かのトラブルで記憶を消去するプログラムが発動したみたいなの』 『記憶が消去されるプログラムは一時的なものだからすぐにリトの記憶を復元出来るよ』 「そうなの…わざわざ教えてくれてありがとう」 『うん!けど、一つ心配なことがあるんだ』 「心配なこと?」 『記憶を復元して唯のことを思い出すとは限らないの、もしかしたら唯のことを思い出せないかもしれない…』 ララの言葉に声が出なかった。リトが自分のことを忘れてしまう。セリーヌと一緒に行った海のこと、二人で買ったお揃いの携帯ストラップのこと、そして、自分に好きだといってくれたこと全部忘れてしまう。 「そんなの嫌……」 リトとの思い出が全部なくなってしまう。やっと想いが通じ合ったのに。唯の目に涙が溢れてきた。 「何か…方法はないの?」 電話越しの弱りきった唯の声にララも不安になる。 『一つだけ方法があるよ』 「教えて!何をすればいいの」 『二人の絆が強いことを証明すればいいよ』 「証明?証明って何をすればいいの?」 『リトの記憶が戻る瞬間に唯がリトにキスをすることなの』 「キス…」 『二人の絆が確かだって言うことを証明しなくちゃいけないの』 リトとは何度もキスをした唯なのだが、今回のキスは普段しているキスとは違う。 二人の絆を確かめるためにするキス、唯はそのキスの重要性に気がついた。 「わかったわ。これから結城君のお家に行くから」 『うん』 ララとの電話を切ると唯は急いでリトの家に向かった。 「唯。あがって」 「おじゃまします」! 唯は靴を揃えて家にあがるとララ言われてリト部屋のある2階に上がった。 リトの部屋に着くとララ手に持っているクルクルクロックのダイヤルを回した。 「唯!今だよ」 ララ合図に唯がリトに近づく。 「結城君、お願い思い出して」 そう言い終わると唯はリトにキスをした。 「リト今寝てるから起きたら全部思い出してると思う」 「そう」 唯はリトが起きるまで待ち続けた。一分ごとに時計を見ていたので待つのが長く感じた。 30分くらい経った頃ララが。 「唯。もう来てもいいよ」 と言ったのでリトの部屋に行った。 「唯!お前どうしたんだ?家に来て」 不思議そうに唯を見るリトに唯は泣きながら言った。 「もう!心配したんだから!バカ!」 「どうしたんだよ?急に泣き出して」 「バカ!バカ!バカ!結城君なんかもうしらないっ!」 リトは唯がどうして怒っているのかのわからずにいた。 「ごめん。唯、何か心配かけたみたいで」 「けど、よかった。結城君が私のことを忘れなくて」 「当たり前だろ!俺がお前のことを忘れるわけないだろ?」 「うん」 昨日の夜からリトのことが心配で全く眠れなかった唯は疲れ果ててリトのベッドで寝てしまった。 その寝顔を見ながらリトは言った。 「俺、絶対唯のことを離したりしねぇからな」 リトの腕の中で眠る唯に優しく布団をかけた。 「心配かけちまったみたいだな…」 リトのベッドで眠る唯の頭を撫でると 眠っている唯を起こさないように部屋を出た。 リビングではララがクルクルクロックを分解していた。 「リト目が覚めてよかった」 「お前は何をやってるんだ?それよりさ、どうして唯が家にいるんだ?」 「それはね…昨日の朝リトがクルクルクロックを使ってストラップを見つけたでしょ? その時にリトの記憶を消去するプログラムが発動して、唯のことを忘れててたんだ」 「そうだったのか」 「ごめんねリト。私のせいで唯につらい思いをさせちゃって…」 申し訳なさそうにするララにリトが言った。 「気にすんなって、それにララの発明品があったからストラップを見つけることが出来たんだぜ?本当にありがとうな!感謝してるぜ」 リトの言葉にララの表情も明るくなり、いつもの元気が戻った。 その顔にリトも嬉しくなり頬が緩んだ。 「そろそろ、美柑が帰ってくる時間だな」 リトは時計で時間を確認した針は12時を指したところだった。美柑は唯が来ていると知り、人数が増えたからといい昼食の買い物に行った。唯が来たのが11時ごろだったからもうそろそろ帰ってきてもいい時間だった。 「ただいま」 「おかえり」 リトが時計を見て10分も経たないうちに美柑が帰ってきた。手には大きな買い物袋を下げていた。リトが重いほうの買い物袋を持ち、冷蔵庫の前まで運んだ。 「ありがと、リト。ところで唯さんは目を覚ましたの?」 「いやっ、まだ寝てるよ」 「まだ寝てるよじゃないでしょ!あんた唯さんの側にいないと駄目じゃない!昨日唯さんをほったらかした分一緒にいないと駄目に決まってんじゃん」 「けどな~唯を起こすのも悪いだろ?」 「リト!唯さんがあんたのことどれだけ心配してくれてたと思ってんの?朝会った時に唯さんの顔を見たけど、多分唯さん殆んど寝てないと思うよ。きっとリトのことが心配だったのよ」 「私のことはいいから早く唯さんのとこに行ってあげなよ」 「わかったって、そんなに怒るなよな…」 「ったく、美柑のやつあんなに怒ることねぇのにな…」 リトはぶつぶつと文句を言いながら唯の寝ている自分の部屋の向かった。自分の部屋なのだが、今は唯が寝ているからかかなり緊張していた。 ノックをして部屋に入る。 「唯?起きてるか?」 「…ん?」 「悪い起こしちまったか?」 唯はリトが入ってくると乱れた髪を整え、まだ眠たい目でリトの顔を見た。 「結城君?どうしたの?」 「あのさ、美柑にお前の側にいてやれって言われたから、その…」 「美柑ちゃんに言われたから私のところに来たんだ?」 唯は冷たい目でリトを睨んだ。睨まれたリトは慌てて言い直す。 「いやっ、そのさ…俺も唯のことが心配だったから」 「ふーん」 唯は不満げな目でリトを見ると、まあいいわと言ってベッドから起き上がる。 「ところでさ、唯、お腹へってないか?美柑が昼飯の準備をしてるから一緒にどうだ?」 「うん」 唯は快く返事をすると、リトと二人でリビングに行くことにした。 「結城君、ちょっと待って!」 「ん?どうした唯?」 「…あのね、お、お願いがあるんだけど…」 「何だ?俺に出来ることなら何でもいいぜ?」 「う、うん。あのね…もう一回キスしてもいい?」 「えっ?」 「お願い、もう一度だけ結城君とキスがしたいの」 「わかったよ、キスしたら飯を食べに行くからな?」 「うん」 二人は唇を重ねる。 今までなんどキスをしてきたけど、唯の方からキスがしたいと言ったのは初めてだった。 リトと唯はお互いの気持ちを確かめ合うようにキスをした。 「じゃあ、そろそろ行くか?美柑が待ってるし」 リトは立ち上がると唯の手を握り、唯もそれに応えた。 昼食を食べ終え唯は美柑と後片付けを始めた。リトは雑誌を読み、リラックスしていた。 「それじゃあ、私そろそろ帰らなくちゃ」 時間はもう5時になっていた。 「唯さん、夕飯も食べていけばいいのに」 「ありがとう。美柑ちゃん、でも家族が心配すると思うから」 「そうだね、リト唯さんを送ってきなよ」 「そうだな、もう暗いし、唯を一人で帰すわけにはいかねぇもんな」 リトは唯を家にまで送ることになり、部屋に上着を取りに行った。 「おまたせ、んじゃ、行きますか~」 「うん」 夜の道を二人で並んで歩く、寒そうにしている唯にリトは自分の着ているをかけた。 「寒いだろ?これを着てろよ、温かいぜ」 「ありがとう」 「唯に風邪をひかれちゃ困るしな」 「でも、それじゃあなたが寒いじゃないの…」 「俺は平気だぜ!風邪なら前にひいたからな」 「駄目よ!私だって結城君が風邪をひくなんか嫌なんだから…」 そう言うと唯はリトに寄り添った。 「これで、ちょっとは暖かいでしょ?///」 「ああ、ありがとうな唯///」 二人はお互いの身体を温めあいながら夜の道を歩いた。 「あのさ、今日は本当にごめんな。お前に心配ばかりかけて」 「気にしないで、私もあなたのことが心配だったから。でもよかった元に戻って」 「俺、もう唯を哀しませるようなことはしないよ。だから、唯はいつも笑顔でいてくれないか? 俺、唯の笑顔が好きだから///」 リトは照れくさそうに唯に言った。その言葉を聞いて唯は嬉しくなった。 「私もよ、私もこれからもずっと結城君と一緒にいたい。どんなことがあってもあなたを信じるから」 「ありがとうな」 二人は再び唇を重ねる。お互いの想いを確かめ合い、絆を深めるために。 「浮気したら許さないんだから!」 「しねぇよ!俺にはお前がいるんだから他の子のことなんて考えねぇよ」 「本当に?」 「本当だって!」 「わかったわ、結城君を信じる。あなたを信じることは私自身を信じることになるから」 どんなことがあっても離れない、私たちは強い絆で結ばれているの。 二人ならきっと大丈夫、あなたがいるからきっと乗り越えられる。 冬の寒い夜にもリトと唯だけは温かい思いでいっぱいだった。 「絶対に離さないでよ結城君!」 「ああ、どんな時でも一緒にいような!唯」 二人の未来はまだ始まったばかり。二人の歩む道は同じ道に今重なり一つになった。 -Fin-
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「わぁ~すごーい! 色んな乗り物があるよー」 遊園地の入園ゲートをくぐると、ララは、両手を広げて敷地内をぐるっと見渡した 「当たり前だろ。遊園地なんだから」 今にも走り出しそうなララの後ろで、リトはぶっきら棒にそう呟く 今日は、ララの地球見学の日ということで、リトとララは遊園地に来ていた もともと美柑も来る予定だったが、どういうわけか急に友達と約束ができたとか言って来 られなくなってしまったのだ どう見ても怪しい美柑だったが、一人ワクワクしているララを見ては今更行かないとは言 えず、仕方なしに今日は、二人だけでやってきたのだ (とは言え……これじゃあ、まるっきりデートと一緒じゃねーか) リトにとってララは、大事な家族の一人であり、そして大切な存在だ けれども、心のどこかでまだ春菜のことを想っている自分がいるのも事実 告白もできず、今だ話しかけることすら苦手な自分は、ただ、毎日春菜のことを想っては悶々と過ごす日々 そんな自分にやさしく、そして、時には積極的ともいえるぐらいに甘えてくるララの存在に リトはどこかで甘えていた ララと春菜、二人の間で揺れる想いにリトの純情な心はグルグルと廻り続ける それでも、目の前で明るくはしゃぐララを見ていると、そんな重くなった気持ちもすーっと消えていく それもまた、ララに甘えているに過ぎないのだが―――― 「リトーっ。早く早く!!」 元気にはしゃぐララに腕を引っ張られながら、リトは慌ててその後をついて行く 「おまえ、ちょっとは落ち着けって」 「え? どーして? あ! アレすごーい!」」 そう言いながらどんどん先に行くララは、ホントに楽しそうで、思わずリトの顔もほころんでくる 「…ったく、ホント子供みたいだよな…」 ララは立ち止まると、その眩しいほどに輝く顔をキョトンとさせながら、リトの方を振り返る 「ん? なにか言った?」 「なんでもねーよ…。それより乗りたいモノは見つかったのか?」 ララは再び満面の笑みを浮かべると、お目当てのアトラクションを指差した 「アレ! アレに乗りたい!」 「……へ? アレに乗るのか?」 「だって、みんなキャーキャー言ってて、すっごくおもしろそーなんだもん!」 「う…」 期待で胸をいっぱいにさせているララ そんなララに一体どんな言葉を掛けられようか リトは苦い顔になりながら、黙ってララの後を追った 「う~すげーキンチョーする……」 安全バーが胸の位置まで下がってくると、いよいよリトの心臓は悲鳴を上げ始める 「ドキドキしちゃうね? リト」 緊張で体がガチガチのリトとは違ってララは上機嫌そのものだ 並んで待っている間も、他の人が次々と乗り込んでいる時も、ずっと笑顔のままだ 「おまえ……こーゆーのへーきなの?」 「え、どうして? すっごくおもしろそうだよ? リトは違うの?」 「え!? 嫌…オレは…」 口ごもるリトにララは怪訝な顔をする 「どーしたのリト? 怖いなら乗るのやめよっか?」 「ば、バカ言うな! これぐらい…全然へーきに決まってるだろっ。おまえの方が心配だからオレは……」 実はリトは絶叫系の乗り物が苦手だった。中でも今乗っているジェットコースターは一番の苦手だった 「エヘヘ、ありがとうリト。心配してくれたんだね」 本当は違うのだが、ララの笑っている顔を見ているとなにも言えなくなってしまう そう――――ララの笑顔は魔法と同じ。見る者全てを魔法にかけてしまうのだ そして、最後の安全が確認されるとジェットコースターは、ゆっくりと動き出した 「おもしろかったね? リト」 ヘロヘロになってベンチに休んでいるリトに、ララが溢れんばかりの笑顔を向ける そんなララに気のない返事を返すリトの頭は、今だグルグルと回り続けている 「ねェねェ、次はなにに乗ろっか?」 「え…次!? もう? おまえもうちょっとゆっくり…」 ララはリトの手を取るとぐいぐいと引っ張りながら歩いていく 「ちょ、ちょっと待てよララ! もうちょい…」 「ん~~…ねぇ、次はアレに乗りたい!」 「へ?」 ララの指の先には、さっきとは違うタイプのジェットコースターが見える (……マジかよ!?) 「ね! 次はアレに乗ろっ! ね?」 もはや言葉すら出てこないリトを引っ張りながらララは猛然と乗り場へと向かった 「はぁ~…。死ぬかと思った…」 どこかげっそりとなりながらベンチで休んでいるリトに、ララの容赦ない声が飛んでくる 「リト、次はアレ! アレに乗ってみたい!!」 「アレ?」 ベンチから体を起こして遠くの方に目を凝らすと、可愛いコーヒーカップがリズムに合わ せて、クルクルと回っているのが見える 「アレに乗りたい!! すっごくカワイイと思うの♪」 目をキラキラと輝かせているララにリトは指でホッペをポリポリ掻いた (ま…、あーゆーのなら全然平気だしな) そして、それから十数分後──── 「うっぷ…」 「あはは、楽しかったね! リト」 コーヒーカップから降りたリトを待っていたのは、猛烈な吐き気と、頭痛だった 地面に突っ伏すリトにララは楽しそうに声を上げる 「……お、おまえなァ…」 すでに半泣きになっているリトの後ろではモクモクと煙を上げているコーヒーカップの無 残な姿が横たわっている 限度を知らないララの力で回され続けたカップは、ついに限界を迎えたようだ 「じゃあ次にいってみよ~!」 「…おい」 疲れをまるで知らないと言った様子のララに、リトは魂が抜けていくのを感じた シューティングアトラクション──── 「む~、全然当たらない…」 「ったく、貸してみろって! ホラ、よく見とけよ?」 銃を構えたリトの目がいつものソレとは違い、真剣なモノへと変わっていく 狙いを澄まして一発、二発、三発 次々に的を撃ち抜いていくリトに隣にいたララが感嘆の声を上げた 「すご~い! リトー!!」 「うわっ! バカ…何やって…」 勢いあまって抱き付いてきたララのおかげで最後の狙いは外れたものの ハイスコアを叩きだしたリトに、最後にぬいぐるみの賞品が贈られる事となった 「うれしい! 私、大事にするね!!」 「お前があんなトコで抱き付いてこなきゃもっといいヤツ取れたってゆーのに…」 「いいの…」 「は?」 ララは両手でぬいぐるみを抱き上げると、本当にうれしそうに声を弾ませる 「だってリトからのプレゼントだもん♪ コレで二回目だね…。大事にするよ」 いつか見たララの"たからものいれ"を思い出しながら、リトは、幸せいっぱいなララに クスッと笑みを浮かべた 「ま、いっか」 急流下り──── 「エヘヘ、びしょびしょになっちゃったァ」 頭から爪先までずぶ濡れ状態のララに、周囲の好奇な視線が集まる 「ちょ…おまえ、服、スケスケ……ちょ、ちょっとこっち来い!」 「え? でも、冷たくて気持ちいいよ?」 「そんなワケにいかーねーだろ!!」 人垣を掻き分けながら猛然とダッシュするリトに手を引かれ、ララは笑顔をこぼれさせる その手をギュッと握りながら お昼のランチ──── 「たこやきもやきそばもすっごくおいしー!」 テーブルに並べられたお皿をどんどん空っぽにしていくララを、リトは、ジュースを飲み ながらぼんやりと見つめていた (ララもずいぶん地球の食いモンに慣れてきたよなァ…) 「コレもおいしい! ん~でも……あ、コレなんてゆーの?」 「ん? ああ、ソレは…」 なんでもないモノ ありふれたモノ 全てに純粋な好奇心を抱かせるララ (ホント、こーゆートコ、出会った時から変わらねーよな…) ソレはきっと変わってほしくないと思う ララの好きなところの一つなのだ そして、それから数時間後──── 「もう~だらしがないよ? リト!」 今度こそベンチでグダってしまったリトにララは少し口を尖らせた 「早くしないと今日が終わっちゃうよ?」 「……今日がって…おまえ、まだまだ時間いっぱいあるだろ? それに、また来たらいい じゃねーか? 何をそんなに…」 「もう! リトなんにもわかってない!」 いつもとは違うララの真剣な声にリトは目を丸くする 「だって…だって今日は初めてのデートの日なんだよ! ……私いっぱい思い出作りたい のに…。リトはまた来たらいいって言うけど今日は、"今日しか"ないんだよ! 初めての 日は今日しかないんだよ? 今日しかできない思い出いっぱいあるんだよ? だから…だから私……」 「ララ…」 そう言い終わると俯くララにリトは、今度こそなにも言えなくなってしまう 「……」 「…………そーだよな」 リトは一声そう呟くと、ベンチから立ち上ってララの腕を掴んで歩き出した 「リ、リト?」 自分の事しか考えていなかったこと ララの気持ちに気付けなかったこと こんなに近くにいるのに──── ララの手を握りしめるリトの手に力がこもる 「リト? どーしたの?」 何やってんだ……オレ……? 「リト?」 黙ったまま、ずんずんと前に進むリトにいい加減、ララの顔にも怪訝な色が浮かび始める その気持ちが届いたのか、リトは、急に足を止めた 「リト、どーしちゃったの? 私と遊ぶの……イヤ…なの?」 寂しい、とても沈んだその声に、リトは、くるっと体をララに向けた 「そんなんじゃねーよ! あのままヘバッてたらせっかくの"今日"が終わっちゃうだろ?」 「…ぁ…リト…」 バツが悪いのか苦笑いが混じるいつもの笑顔のリトに、一瞬、キョトンとなりながらもララは笑顔で頷き返す 「うん!! そーと決まったらどんどん行ってみよー!」 ララの行先はもちろん絶叫系のアトラクション 「あ…あはは…」 どこかげんなりしつつもララの隣に並んで歩くリトだった 「すご~い! 馬がいっぱい走ってる!!」 「馬っつーか、アレはメリーゴーランドって言うんだ」 「めりーごーらんど? ふ~ん…」 メルヘンチックな音楽に合わせてくるくると回る馬や馬車にララの目がどんどん奪われていく 「私、コレに乗りたい! リトも一緒に乗ろ? ね?」 「あ…ああ、別にいいけど…」 普通なら、この年になってメリーゴーランド? と、思ってしまうも、リトの足は自然と歩きだしていた ララと一緒にいるからか、それとも、遊園地独特の楽しい雰囲気に影響されてか リトの顔はすっかり子供になっていた 「じゃあ、リト。私の後ろに乗って!」 「後ろって…そんな恥ずかしいマネできるかっ!!」 「いいからいいから! ホラ、始まっちゃうよ?」 ララの言葉通り、音楽と共にメリーゴーランドが動き始める 「ったく!」 半ばヤケクソぎみになりながらもリトはララの後ろに乗った 一人ご機嫌なララに対し、リトは、どこか俯きぎみだ 無理もない 周りは子供とその親ばかり おまけに二人乗りしているのは自分たちだけだ (…何やってんだオレは……) 恥ずかしさでどうにかなってしまいそうなリトにララがポツリと呟く 「なんかイイね!」 「なんかって何が?」 「ん? だってリトが白馬に乗った王子様みたいなんだもん♪」 瞬間、リトの顔が火を噴いた様に真っ赤になる 「ば、バカ! 何言ってんだ!? おまえはっ」 「私、今とっても幸せだよ」 そう言いながらララは、リトに背中を預けてきた 胸に当たるララの温かい背中の感触と、甘い髪の匂いに、どんどん心拍数が上がっていく 「お、おい! ララ」 「ん?」 「ん? じゃなくて! やめろって! 恥ずかしいだろ! こんなコトっ」 「む~!」 口を尖らせながら嫌々離れていくその姿にどこか寂しさを覚えてしまうリト (って何考えてんだよっ!! オレは!!) そうなのだ 遊園地に来てからというもの、どんどんララの魅力に惹かれていく自分がいる ウチや学校とか違う、その一つ一つの表情や仕草に でも自分には好きな人がいる (そうだよ…! オレが好きなのは春菜ちゃん…春菜ちゃんじゃねーか!!) それでもなんだろう……この気持ちは どこか寂しそうなララを背中から抱き締めてあげくなるこの気持ち そして、その気持ちは、ララの後ろ姿を見つめる度に大きくなっていく (ララ…オレ…) 答えの出ないままメリーゴーランドは終わりを迎えた 「楽しかったね! リト」 「あ、ああ…」 少し暗くなったララの笑顔にリトは戸惑ってしまう それは、リトにしか気づかない微妙な変化なのかもしれない 「……」 「ん? どーしたの?」 「……おまえさ…その…………やっぱいい…、それより次なに乗りたいんだ?」 「え? え~っと…」 腕を組みながらうんうんと真剣に悩むその姿が妙に可愛いと感じてしまう ララは可愛い。それも飛びっきりの可愛さだ 銀河を統べるデビルークの血 それも全宇宙で一番キレイだと言われる母の血を受け継いでいるらしい けれども、リトは、そんなモノは関係ないと思っていた ララの美しさも、ララのイイところもみんなみんな ララの自身のモノだからだ う~んと、一頻り悩んだララは、ふいにリトの腕を取るとニッコリ笑みを浮かべた 「私、アレに乗りたい!」 「アレ?」 ララの見上げる先には、大きな観覧車が回っている 「ね? 次はあのおっきな乗り物にしよーよ!」 「観覧車って…いいのか? だってアレ高いだけで全然動かねーんだぞ?」 「いいの、いいの!」 どこかウキウキしてるララに内心首を捻りつつも、リトは、ララを連れて観覧車へと向かった 「うわ~どんどん地面が見えなくなっていくよ」 さっきから窓にかじり付いて外を眺めているララにリトは苦笑を浮かべた (なんつーか…、ホント、子どもってゆーか…) キラキラと輝くその横顔にリトは笑みを深くした 「ねえ、リト」 「ん?」 「コレって一番上までいったらどーなるの?」 「どうって…またさっき乗った場所まで戻ってくるんだよ」 「それだけ?」 「それだけっておまえ……何を期待してたんだ何を…」 半眼になってしまうリトに、ララは向き直ると、リトの正面の席に座った 「よかった!」 「へ?」 「だって、やっとリトと二人きりになれたんだもん!」 ドキンと心臓の音が高くなったのをリトは感じた 「ば…バカ! 何言って……だいたい二人っきりって言うけどちょっとじゃねーか! すぐ終わっちまうんだぞ?」 「うん。でも、ちょっとだけでもうれしいよ!」 満面の笑顔を浮かべてくるララをリトは、正面から見る事はできなかった 「どうしたの? リト。さっきから変だよ?」 「い、いや! オレは全然へーきっつーか……そ、それよりキレイだよな! 景色!!」 「うん! そうだね~! リトの後ろにお日さまが見えるよ」 「へ~」 後ろを振り返ると、確かにちょうど真後ろあたりに沈んでいく夕日が見える 「キレイだね~」 「そだな…」 「……ねえ、リト」 「なんだよ?」 再びララに振り返ると、ララは、どこかもじもじしながら頬を赤く染めていた それは、夕日に照らされているからだろうか 「ララ?」 「一緒に見よ」 「へ?」 「一緒に! 私、リトと見たいんだ! この景色!!」 ララはスッと席を移動すると、隣にちょうどリト一人分が座れるスペースを開けた 「…ダメ?」 「いや…ダメっつーか……」 ゴクリと唾が喉の奥に消えていくのを感じる カワイイ! 上目遣い、それも、ホッペをほんのりと染めながらの視線 リトの鼓動はますます高まっていく 「リト?」 「え!? あ…えっと……じゃ、じゃあ一緒に見よっか?」 「うん!!」 この日、最高の笑顔を浮かべるララの隣にリトはどこかギクシャクしながら座った ほんのりと香るシャンプーの匂いと、わずかに触れ合う腕の感触に、頭が沸騰しそうになってしまう 「キレイだね」 「そ、そーだな」 「…私、今日、こーやってリトと来れてよかった」 チラリと横目で覗き見ると、ララは、まっすぐに夕日を見つめていた 「リトと二人で遊園地に来て、おいしいモノ食べて、いろんな乗り物に乗って…… もっと、もっと、続けばいいのにって思っちゃった」 「ララ…?」 観覧車は間もなく、一番上に来ようとしている 「……ねェリト。私、変われたかな? あの日、屋上でそう言って決めたのに、そう約束したのに 今日だってずっとリトを困らせてばかりだったし…」 ────あの日、屋上で見せたララの"本気"をリトは忘れた事はなかった 胸の奥に刻みこまれたその想いは、今もずっとリトの心を動かし続けている 「リトのため……ううん、それだけじゃない。デビルークの王女だって事に甘えていた自 分を変えるため…、もう一度、ゼロからちゃんとリトに見てもらうため… 私、変われてるのかな…? がんば…ってるのかな? あの日、そー誓ったけど…、私…ちゃんとできてるのかな?」 「ララ…」 夕日に照らされながら、ぽつりぽつりと、小さく呟くララの顔は、今まで見た事がないぐらい 真剣で、そして、儚く映った 「リトのためにがんばりたい…! リトのお嫁さんになるためにもっともっと……」 黄昏色に包まれるララ その表情同様、このままとけて消えてしまうのではないかと思うほどにか弱く映るララに、 リトはギュッと手を握りしめると声を大きくさせた 「ララは……お前は、今のままでもすっげーいいんだって! つーか最初からお前はすげーヤツで!! オレが…オレがちゃんとお前のコト見ようとしてなかっただけで、ララは…ララはずっと……」 「リト…」 「それに甘えてるのはオレの方だ…。オレなんか、いまだにお前がなんでオレのコト好きなのかもよくわかってねーし」 「……」 珍しいララの沈黙の後、リトは想いを込めて話し始める 「なあ、何でオレなんだ? だって、オレよりカッコよくてすごいヤツいっぱいいるんだぞ?」 「……そうかもね」 「……ッ!!?」 わかっていたはずなのに、やはり、こうして直接言われると胸に堪える 「じゃ、じゃあなんで?」 ララはまっすぐリトを見つめると、くすっと笑みを浮かべた 「答えは簡単だよ! ココ」 「ココ?」 ララが手を当てたのはちょうど胸の位置 「ココがね、ドキドキするの! リトといるだけでドキ、ドキ、ドキって」 窓から吹き込む夏の風が、リトにララの香りを届ける その香りに包まれながらもリトはひどく呆けた顔になっていた 「それだけ……?」 「うん! そーだよ! …ホントはね、もっといっぱいいっぱいあるんだけど……うまく言えなくて…ゴメンね」 えへへと、誤魔化し笑いを浮かべるララだったが、その笑いが照れ隠しだという事に、リトは気づいただろうか? 「な、なんつーか…」 指で頬を掻きながらいまいちよくわかっていないリト 「そんなんでホントにいいのかよ?」 「いいの! だって私、今、すっごく幸せなんだもん♪」 夕日に負けないぐらいの眩しい笑顔を浮かべると、ララは、トンっと頭をリトの肩に預けてきた 「……っ」 一瞬、緊張で身体をピクンと震えさせたリトだったが、そのまま黙ってララと一緒に夕日を眺め続けた 二人を乗せたゴンドラは真上を過ぎ、下へと下がりつつある 「キレイだったね…夕日…」 「ああ…」 その返事に応えるように、ララは、さらに身体をリトに寄せた 「……」 「……」 どちらも何も言わないまま、ゴンドラはゆっくりと下へ下へと降りていく 「……観覧車…終わっちゃうね?」 「だな。……あのさ、このままもう一回乗ろっか?」 「え!? いいの?」 思わず頭を上げたララは、その大きな目をさらに大きくさせてリトに詰め寄った 「ホントにホント?」 「ま、まあ、お前がそんなに気にいったんならイイっつーか…」 「やったーー!!」 「うわっ! ちょ…ララ!?」 狭い室内でムギュっと抱き付いてくるララに、リトはあたふたとなってしまう 「やめろって! 何やって…」 「だってだって、すっごくうれしいの! リト、ありがとー!!」 そのうれしさを身体全体で表わすララに、リトも、なんだかこそばゆい様なうれしさを覚える 「ありがとーリト! 大好き」 「だ、だからってくっ付くなって!」 ララとリト 二人の気持ちがいつか重なる時を信じて──── 観覧車はゆっくりと廻り続ける
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2学期に入って少し経つというのに今だ、ミーンミン、とセミの鳴き声がうるさい彩南町 ここ2-4の教室にも、うるさいほどにセミの鳴き声が入ってくる そんな中、唯は自分の席に座って一時間目の授業の用意をしていた 机の上に置かれたノートをパラパラと捲ると、几帳面でいて可愛らしさもある綺麗な字が ノートの上から下までを埋め尽くす 昨日の夜にやった予習部分を見ながら、唯の目がチラリと斜め前に向けられる (……まだ来ていないわね…) と、心の中で思い浮かべた顔は、リトだ 朝の挨拶と他愛無い会話で盛り上がる教室の喧騒から切り離されたリトの机 朝日に照らされながらポツンと寂しげに佇む机に、リトの姿が浮かび上がる 眠そうに欠伸をしていたり、頬杖をついてボーっとしていたり、ララやリサ達とバカな 会話で盛り上がったり いつの間にか、ノート見る時間よりもリトの机を見る時間の方が長くなっている事に、 唯はまだ気づかない (…何やってるのよ…。…まさか! また遅刻ギリギリとか言うんじゃ…?!) 唯の目に少しだけ鋭さが増す 実はリトは遅刻ギリギリが多い ララの発明品に追い掛けられていたり、朝からモモの熱烈なアプローチを受けていたり、 新しい宇宙人に遭遇していたり (本当に結城くんって、いつもナニかに追い掛けられているわよね…) 唯は小さく溜め息をつく その理由の一つに自分自身が入っている事に、唯はまたしても気づかない (ま、そろそろ来るでしょう) ノートに目を通しながらそんな事を考えていると、教室のドアが元気に開く 「おっはよ~!」 ドアと同じぐらいに元気いっぱいに挨拶をしたのはララだ 教室中の視線がララに集まり、そして次々に挨拶が投げられる 「ララちぃ、おっはよー」「ララちゃん、今日もカワイイなぁ」「おはよー。ねえねえ、昨日の テレビでさ…」 「今日の体育、マラソンだって。サイアクー」「ララちゃん、お菓子食べる?」「ララちゃん、 ちょっとちょっと」 それらに律義に応えていくララを目で追いながら、唯は一人、首を傾げた 「……結城くんは…?」 いつもララと一緒に登校してくるリトの姿が、今日はどこにもない 少し遅れてやってくるのかと思ったが、いつまで経っても姿を現さない その時、唯の胸の中で小さな不安が生まれる 「……っ!? もしかして…何かあった、とか?」 その声に気づいたララと不安げな唯の視線が出会う 「ちょっと、ララさん。結城くんは?」 「あ、唯。あのね。今日、リトは…」 肝心のところを言おうとした時、ララの口が後ろから塞がれる 「ララちぃ、捕まえた!」 「わっ!? ってリサ!?」 ララを羽交い絞めにしたのは、リサミオの二人 いつもの朝の洗礼を受けるララは、さっそく身悶え始める 「ほれほれ、ララちぃの弱いトコロはどこかな?」 「やっ…ん…っ…尻尾は…ら…めェ…」 「ララちぃ、カワイイ~!」 教室のど真ん中で、すっかり盛り上がるリサミオ さすがに見過ごせるはずもなく、唯は勢いよく席を立った 「ちょっとあなた達! 何ハレンチな事やってるの!」 「あれ~? もしかして古手川さんも交じりたいのかなァ?」 「なっ…!?」 妖しげな視線を投げかけてくるリサに唯の顔が引きつる 「ば…バカな事言ってないで、早く席につきなさいっ!」 「もう。またそんなお堅いコト言って。それじゃ、またね。ララちぃ」 ミオの妖しげな手付きから解放されたララは、少し喘ぎながら床にペタンと座り込んでいた 「唯。助かったよ。ありがとー」 「そんな事より、結城く…」 唯の声にかぶさる様に、一時間目の開始を告げるチャイムが鳴ってしまった またしても何も訊けずに終わった事に唯は、憮然となりながらララを立ち上がらせる 「もう一時間目が始まるから、とりあえず話はあとよ。あなたも早く授業の準備をしなさい」 「は~い」 自分の席に向かう途中、唯は、もう一度リトの机を見た そこにはやはり誰も座っていなくて―――― (…もぅ。何やってるのよ…!) 不安と苛立ちを抱えたまま、唯は席に着いた 「…え? 風邪…?」 結局、授業にはまるで身が入らず、ずっと悶々としていた一時間目が終わり 唯は休み時間が始まると、早速、ララに詰め寄って話を訊いてみた その第一声は、唯の想像の斜め上を行くものであり 唯の黒い瞳が、理解できない胸の内を表す様に、何度も瞬く 対するララも、いつもの可憐な顔には陰りが差し、その声にも元気が微塵も感じられなく なってしまっている 大きな目に溜まった涙に呼応する様に長い睫毛を揺らしながら、ララは続きを口にする 「……うん…。そうなんだ…。……昨日の夜から急に具合が悪くなって…、熱が出ちゃっ て…、私も美柑も一生懸命、看病したんだけど…」 「…そん…な…」 俯くララの横顔に唯はそれ以上何も訊けなくなってしまった (――――風邪? 結城くんが? だって……だって、昨日はそんな素振り全然見せな かったじゃない…! どうして…?) 唯の胸の中で昨日の出来事が甦る 一緒に帰った帰り道 他愛無い話をしながら 途中、ジュースなんかも飲んだりしながら 別れ道、背中が見えなくなるまで見送って 家に帰ってからも何回もメールをして それから、それから――― 記憶と共にいろんな感情が溢れ 唯はララの机に両手を置いて、顔を近づけた 「それで、熱ってどれぐらい出てるの? 薬は飲んだの? 食事は?」 「ちょ…ちょっと唯」 「ちゃんと寝てるの? セリーヌちゃんの様子は?」 「そんなにイッペンに答えられないよ。落ち着いてよ、唯」 「落ち着けって、落ち着けるわけないじゃない!」 唯は声を荒げた ララの言っていることもわかる わかるのだけど… 胸の奥から、どんどん溢れ出してくる 不安と心配で胸が痛い (結城くん…) 頭の中の笑顔のリトに唯は、そっと呼びかける 声が聞きたい、顔が見たい、その手に触れたい 想いはどんどん強くなり 唯は再びララに詰め寄ろうとした、その時 二時間目を告げるチャイムが鳴った 「と、とにかく。あとで詳しく訊かせなさいよ? わかった?」 「唯。リトはダイジョーブだよ。今朝だって、いってらっしゃいってしてくれたし」 「…………」 唯は何も応えない。応えられない ララに背中を向けて歩き始めた足が一瞬、止まりそうになり 止まるのをやめると、席に戻ってしまった 胸の中のもやもやは、ますます膨らんでいく 時刻は夕方の四時を廻った頃 リトは自分の部屋のベッドに寝転がりながら、ボーっと天井を見ていた 熱もだいぶ治まり、体調のほうもかなりマシになったとはいえ それでもまだ頭の奥がガンガンと鈍く響く リトは溜め息をついた 小さい頃から美柑と二人きりで生活してきたリトは、美柑にこれ以上の負担をかけまいと、 体調管理にだけは必要以上に気を遣っていた それなのに 「…何やってんだよ。オレは…」 当の美柑は、「まったく、バカはカゼ引かないとか言ってたけど、アレ、ただの迷信だったみたいだね」 なんて憎まれ口を叩いて笑っていたのだが、昨日の夜は、ずっとそばにいてくれた 結局、そのまま一緒に寝てしまって、今朝、目を覚ました美柑は、「カゼ、移ってなきゃいいん だけど…!」とどこか恥ずかしそうに、そそくさと朝食の仕度を初めてしまった その後も 「熱は下がってるけど、今日一日は、ちゃんと寝とかなきゃダメだよ?」 と、遅刻ギリギリまで頭の濡れタオルを代えてくれたりしてくれた セリーヌも午前中はずっと部屋にいたのだが、風邪が移るからと午後からはモモとナナが 面倒を見てくれている 「オレ…みんなに迷惑かけてるよな…」 再び、リトの口から溜め息がこぼれる 溜め息がつき終わる前に、部屋のドアがコンコン、とノックされた カチャリ、とドアの隙間から顔を覗かせたのは、美柑だ 背中にはランドセルを背負ったまま。学校から帰って来たばかりのようだ 「もうそんな時間か。おかえり」 「ただいま。で、体のほうはどうなの?」 ベッドの上で「もう全然、へーきだぜ!」と元気をアピールするリト 美柑は苦笑を浮かべると、ランドセルを床に置いた 「そんなこと言って、まさか熱が上がったなんてことはないよね?」 美柑の小さな手がリトのおデコに触れ、自分のおデコの熱と比べる 「う~ん……熱は…たしかに朝と比べると下がってるような…」 「だろ?」 ニカっと笑みを浮かべるリトに、美柑は腰に手を当てながら溜め息をつく 「まったく。熱が下がってるからって、油断しないよーに! 今日一日は、絶対安静 だからね! わかった?」 「わかってるって」 ベッドに寝転がるリトがちゃんと布団をかぶるのを確認すると、美柑はランドセルを手に取った 「それじゃ、私は下にいるけど、何か冷たい飲み物でも持ってこようか?」 「ああ、頼むよ」 美柑は二言三言、小言を言うと部屋のドアを静かに閉めて出ていった リトは再びベッドの上で、ボーっと天井を見ていた 部屋の中は、時計の針の音とうるさいセミの鳴き声だけが聞こえる 朝からまるで変わらない世界のはずなのに、どこかホッと安心している自分がいる事にリトは気づく 美柑がいる ただそれだけの事で、まさかこんなにも落ちつけるとは思ってもいなかった 「…何だかんだ言いながらも、やっぱオレ、美柑に頼りっぱなしなんだな」 今度、久しぶりにどこか行きたいトコロにでも連れて行ってやるか、なんて事を考えてい ると、部屋のドアが再びノックされ、返事をまたずに開けられた ただし、今度はさっきみたいな静かな開け方じゃなくて、元気いっぱいな開け方だった 「なんだ美柑、早かっ…」 「たっだいまー! リト!」 「…ララ!?」 お日様の様な笑顔でただいまの挨拶をしたのは、学校から帰って来たばかりのララだ その手には、何やら大きな紙袋がある 「じゃーん! はい、おみやげだよ!」 「みやげ? オレに?」 ララがおみやげだと言ってリトに手渡したのは、アイスだった それも一つや二つじゃない いろんなアイスが紙袋いっぱいに入っている 「どーしたんだよ? これ」 「えへへ、ガッコウの帰りにデパートに寄って買ってきたんだよ」 「買ってきたって…スゲー量だぞ? これ…」 「カゼ引いたら冷たいモノがイイって、美柑が教えてくれたからね!」 「ララ……お前…」 地球のお菓子が大好きなララは、よくお菓子を買ってくる 見た事もないようなお菓子から、リトがもう食べ飽きてしまったお菓子まで いつもスーパーの袋いっぱいのお菓子をホクホク笑顔で買って帰り、みんなに配って、 みんなと一緒に食べるのがララの何よりの楽しみ 毎回ララの好きな味しかない事に、リトと美柑は顔を見合わせてしまうのだが 「みんなと一緒に食べると、すっごくおいしーね!」と輝く笑顔を見せるララに、つい 釣られて笑みを浮かべてしまう けれども今日は、どのアイスもリトが好きな味ばかりだ それにアイスの数からして、お金もかなりかかっているはずだ きっと今まで溜めていたお小遣いを切り崩したに違いない ララはヒマワリの様な笑顔でリトを見ている その笑顔を見ているだけで、風邪なんて吹き飛んでしまいそうで リトは紙袋の中からアイスを一つ取りだした 「サンキュー! ララ」 「うん! って選んだのは私だけじゃないんだよ」 「え? そーなのか?」 「えと…あれ?」 後をキョロキョロと振り返るララに、リトは眉をひそませる 「どうしたんだ?」 「あれ? どこ行ったのかな…。ココに来るまでは一緒だったのに」 「ん?」 「ちょっと待ってて」 部屋を飛び出すララの背中に、リトはチンプンカンプンな視線を投げかけた 部屋を飛び出して数秒も経たない内にララの声が廊下に響く 「あ、いたいた」 「うっ!?」 「こんなトコロで何やってるの? リト、待ってるよ?」 「わ、私は別にココでも良いっていうか…」 「そんな事言ってないで、早く早く」 「わっ!? ちょ…ちょっと! 腕を引っぱらないで!」 廊下での見えないやり取りにリトは首を傾げた 「なんだ?」 ララの声ともう一つの声 姿は見えないけれど、とってもよく知った声だった そしてそれは今一番聞きたい声でもあった 「リトー。お客さんだよ」 「も、もういいわよ! 自分で歩くわよ!」 ララの腕を振り解きながら声を荒げるのは、唯だった ララと同じく制服姿 「古手川!?」 「お…お邪魔します」 どこか余所余所しさが感じる唯の挨拶に、リトの口元に笑みがこぼれる 「来てくれたんだ。ありがとな!」 「……っ」 ニッコリと微笑むリトの笑顔に唯は息を呑む 胸がキュンと締まって、顔がポッと熱くなる 体の芯から込み上げてくる何かに、思わず両腕で自分の体を抱きしめそうになってしまう 唯は顔をブンブン振ると、一歩、ベッドに歩み寄った 「そ…それで! どうなの? その……体調のほうは」 「カゼのことか? だったら心配すんなって。もう大丈夫だから」 リトはまたニッコリと笑った けれども唯にはそれが無理をしているとわかる。わかってしまう リトの顔はほんのりと熱で赤くなっているからだ さっきはやっと顔を見る事が出来たことで、心のどこかでホッとしてしまって、つい見過ごしてしまった そんな不甲斐ない自分を心の中で叱責すると、唯はリトの腰まで捲れている布団をかけ直す 「そんな事言って! まだ熱があるんでしょ? ムリしちゃダメじゃない!」 「ムリとかしねーって」 「唯の言うとおりだよ、リト。まだ寝てなきゃダメだよ」 唯とララ、二人に詰め寄られて、リトの開きかけた口が閉じてしまう 渋々と枕に頭を沈めるリトに、唯は枕元の紙袋からアイスを一つ取りだした 「それにまだ、声の調子もおかしいじゃない。これでも食べて、ノドの腫れを治しなさい」 「……わかったよ。大人しく寝てる」 どんなに調子が良さそうに振る舞っても、全てお見通しよ、と言っている唯の視線に、 リトは苦笑を浮かべ、アイスを受け取った その様子をララは、満足そうにニッコリと見つめている 「あのね、そのアイスね、唯が選んだんだよ」 「古手川が?」 「うん。リトはコレが好きだからって、私が選ぶんだって」 「ちょ、ちょっとララさん!? 何言い出すのっ!!」 慌てて口を塞ごうとする唯から逃げるララ 部屋の中で追い駆けっこを始める二人とアイスを見比べながら、リトは淡い笑みを浮かべた 「へー。古手川が選んでくれたんだ」 「他にもね…」 「も、もう! いい加減に…」 唯の手から逃れたララがうれしそうに、口を開く 「学校にいる時なんて、ずっとリトのこと心配してたよ」 「ら、ララさん!?」 「リト、大丈夫かな? 今頃、なにしてるのかな? お薬はちゃんと飲んだかな? ゴハンは 食べてるかな? って。もうずっとずっとリトの事ばっかり」 唯は声を上げる事も出来ずに、真っ赤になった顔を両手で隠している 「あとね。帰る時なんか、私がリトの体を治すんだー! って大張りきりだったし」 唯は顔を隠したまま、ペタンと床に女の子座りをして小さくなる そんな唯をリトは驚きとうれしさが混じった目でまじまじと見つめていた 「へ…へー。古手川がそんな事を…。その…あ、ありがとな」 「……ッッ」 驚きでうまく言葉が出てこないリトに、唯の小さな両肩がピクンと震える 「唯はリトが大スキだね!」 「…ッッ…」 ついには頭から見えない湯気を立ち上がらせる唯 よろよろと立ち上がると、一人うれしそうなララに詰め寄った 「も、もう! なにわけのわからない事言ってんのよッ!?」 「えー。でも唯、学校とかで泣きそうな顔してたよ?」 「だ、誰も泣いてなんかいないわっ!!」 「むー。休み時間とかすっごく心配そうな顔してたし」 「あ…あれは……結城くんはクラスメイトなわけだし……ええ、そうよ。クラスメイトの 心配をするのは風紀委員として当然のことだわ」 風邪を引こうが、何が起ころうが、いつもとまったく変わらない光景にリトが「やれやれ」と 苦笑を浮かべていると、部屋のドアが遠慮気味にそっと開けられる 「えと……おジャマだった?」 「美柑!?」 ドアの隙間から部屋の様子を窺うのは、入り辛そうな顔をしている美柑だ 手にはジュースが乗ったトレイを持っている 「さっき頼まれたの持ってきたよ。はい、リト」 「サンキュー」 「古手川さんとララさんにも。同じやつだけど」 「どうも」 「ありがとー」 ストロー付きのグラスの中には、搾りたてのリンゴジュースが入っている みんなにジュースを配り終えた美柑は、部屋着にエプロンを着けていた そして可愛いスリッパを鳴らして、くるっと唯に向き直って、意味深な笑顔を向ける 「それじゃあ私は、これから夕飯の買い物に行ってくるから、リトのことお願いね。古手川さん」 「え? え?」 「私もアイス冷蔵庫になおしてくるよ。このままだと溶けちゃいそうだしね。リトの看病してあげてね、唯」 「え、ちょっと待っ…」 唯が言い終わらない内に部屋のドアは閉じられてしまう 後に残ったのは、ジュースとアイスを持って呆然とする唯と、苦笑いを浮かべるリトだった 「まったく、何を考えてるのかしら?」 「ははは…」 床に座った唯とベッドの上のリトは、アイスを黙々と食べていた 時折、聞こえてくる唯の愚痴に相槌を打ちながら、リトの喉の奥にどんどんアイスが消えていく (にしてもマジでうまいな) 唯が選んだということだけあって、アイスはリトの好みにピッタリだった 自分の好きなアイスを選んでくれるという小さな幸せが、今は、とっても大きく感じる (ありがとな! 古手川) ムスっとした唯の横顔にありがとうの視線を送りながら、リトはスプーンを口に入れた と、次の瞬間、急にリトは口を押さえて体を丸めてしまう 余所見をしていたせいか、おかしなところにアイスが入ってしまい、咳き込んでしまったのだ 「…うっ…げほ…ごほっ…」 「ちょ…結城くん!?」 口を押さえて蹲るリトに、唯は慌てて立ち上がった 「大丈夫?」 リトの背中を軽くトントン、と叩いて擦る唯 しばらくすると、目に少し涙を溜めながらリトは体を起こした 「わ…悪ィ。もうだいじょーぶだから」 「ホント?」 リトの横顔を見つめる唯は、さっきまでのツンツンした様子が嘘の様に、黒い瞳に心配な 色をたっぷり湛えている リトは唯の不安な気持ちを拭い去ってやろうと、いつもの笑顔を浮かべて見せた が、唯の顔は晴れない そればかりか、逆に陰りが濃くなってしまう 「古手川? どーしたんだよ? オレならもうヘーキだって」 「…………結城くん…」 「ん?」 消え入りそうなほどにか細い声にリトは顔を寄せた 少し俯いているため、前髪が唯の顔を隠し、その表情がリトにはわからない 唯の手に少しだけ力がこもる 唯の手はいつの間にかリトの背中を離れ、リトのパジャマの裾を掴んでいた 「古手川…?」 「……」 唯は無言 どれぐらいの時間が流れたのか しばらくして、唯は俯いていた顔をわずかに上げる 前髪が揺れ、唯の綺麗な瞳がリトを見つめる 唯とリト、今日初めてお互いの顔を見つめ合う それなのに、リトにはうれしいという気持ちが生まれなかった 唯の瞳が今にも泣き出しそうなほどに潤んでいたから 「古手…川? なんで泣いてるんだ?」 「え…?」 目に溜まった大粒の涙に手を伸ばそうとするリトの姿にハッとなった唯は、慌てて制服の袖で涙を拭った 「ち…違うの! これはそんなんじゃなくて……ひっ…ぐっっ…あれ…?」 いっぱいになった大粒の涙が目から溢れ、ポロポロと唯の頬を伝い落ちていく 唯の目はすぐに真っ赤になった 「な…なんで…? 私…だって…今日は結城くんのっ…お見舞いに…っっ…ぐすっ」 ゴシゴシゴシゴシ、一生懸命、涙を拭いては、泣き顔を隠す唯 リトは唯の頬にそっと指先で触れ、手を当てた 「……っ!?」 ピクン、と唯の華奢な肩が震え、唯の手が止まる 「ゴメン…。古手川、心配してくれてたんだな…。それなのにオレ、今日、何も言ってな くて。カゼ引いた事とか…。心配かけたくなかったつーか」 「……」 唯は何も答えない。代わりに大粒の涙が一粒、頬を流れリトの手の甲の上を伝い落ちていく リトは体を寄せると、両手で唯の頬を包み込んだ 「でも、もう大丈夫になったからさ! メシも食ったし、薬だってちゃんと飲んだんだぞ! おかげで 熱も下がったし。だから、もう心配すんなって! オレは大丈夫だから!」 「…………ホン、ト…に?」 リトは涙で濡れる唯の手を掴むと、自分の額に近づけた 「ほら、確かめてみろって」 「……」 唯の白い手がリトの額にペタリと触れる 「どうだ? 大丈夫だろ?」 「……」 唯は無言のままで熱を測ると、今度は両頬、そして首筋をペタペタと触っていく 少し冷たい唯の手の感触が、火照った体に気持ち良くて 赤く目を腫らす唯に悪いと思いつつも、リトはそっと目を閉じて、唯の感触を味わう 「…まだ熱いわよ?」 「これでもかなりマシになったんだけどな」 「ホントに大丈夫なの?」 「大丈夫だよ」 リトは即答すると、ニッと笑みを作る 「古手川は心配性だな」 「ムっ」 呆れが混じるリトの笑みに唯の目が少し釣り上がる が、それもすぐに治まり、すぐにゆらゆらと揺れる 誰にでもこんな風になるわけじゃないんだから 誰にでもこんな心配なんかしないんだから 結城くんだから あなただから 桜色の唇がかすかに開く 「……悪かったわね。心配性で…」 本当は言いたい事も、伝えたい事も、たくさんたくさんあるのに 唯は目尻を目いっぱい釣り上がらせて、精一杯強がって見せた けれども、もう強がってなどいられない 唯の体がふいにリトに寄りかかる 「え? ちょ…古手川!?」 「……ッ」 唯はリトのおデコに自分のおデコをくっつけた 唯の長い睫毛がリトの睫毛にキスをし リトは顔を真っ赤にさせながら丸くなった目を瞬かせた 「こ…こっ…古手…川?!」 「……」 唯は無言のまま、リトの顔に甘い吐息を吹きかける そして、真っすぐにリトを見つめた リトも顔を赤くしながら、唯を見つめる しばらく見つめ続けた後、唯はポソっと口を開く 「―――何よ。やっぱりまだ熱いじゃない」 「い、いや、これは…!?」 両手をあわあわと宙で振って慌てだすリトの顔を、唯の真っすぐな瞳が見つめる 額を通じて確かに感じる、リトの火照った体温 そして、真っ赤になりながらドキンドキン、と高鳴っている胸の鼓動 唯は両手でそっと、リトの両頬に触れる 柔らかくて優しい手の感触が頬を包み込んでいくと、リトの情けない手の動きが徐々に止まる 「……移して」 「え?」 「熱。全部、私に移して」 「移してって……何言ってんだよ!?」 「だって…」 もうこれ以上、一人で辛そうな顔は見たくない もう私を心配させないために、やせ我慢なんかしてほしくない いつもみたいに笑ってほしい いつもみたいに私のそばにいてほしい いつもみたいに いつもと同じ結城くんが見たいの 頬に触れる唯の手が小さく震える それは唯の内心をリトに伝えるには、十分すぎた リトは唯の手の上に自分の手を重ね、少しだけ握りしめる 「オレのカゼが移ったら、今度は古手川がダメになっちまうだろ」 「…いいわよ」 「よくねーよ」 リトの指が唯の手の指を割って、絡み合っていく 「移さなきゃダメなの」 「そんなこと言われても困るって」 二人の手がギュッと絡み合い、繋がる リトは手に力を込めて、唯をベッドの上に引き寄せる 唯の片足がベッドに乗り、唯は両脚でリトの下半身を跨ぐ形で乗り上げた 「移さなきゃ……怒るんだから」 「それは、カンベンしてほしいんだけど」 「じゃあ移して」 顔を寄せ合い、額をくっつけ合って、手を繋ぎながら、二人の会話は続く 「移さなきゃ……ダメなんだから」 「どーしても?」 「どうしても!」 「じゃあ、どーやって移せばいいんだ?」 「そっ、それは…っ」 唯の体温がリトの体温と同じぐらいに上がる 唯の体温を直に肌で感じるリトは、くすぐったそうに笑う 「も、もう! どうして笑うの?!」 「ゴメン。古手川がすげー可愛かったから」 「!? ま…また、おかしな事言って!」 目の前であわあわと慌てる唯の顔に、笑みを深くさせるリト そしてリトは、口元を結び真面目な顔になると、少し声のトーンを下げた 「ゴメンな」 「何が?」 「今日、いろいろ心配かけて」 「……っ。わ…わかってるなら……別に、いいわよ」 唯の重みを下半身に感じながら、リトはさらに口を開く 「心配かけないようにしてたんだけど、やっぱムリだったみたいだな。余計に心配かけちまった…」 「そ、それは……当り前じゃない! だって…だって、結城くんが風邪引いたんだもの…。心配、するわよ」 唯の指がリトを求める様に手の甲に軽く食い込む リトは唯の手を少し引っぱった 「あっ…」 短い呟きの後、唯の唇がリトの唇に触れる 「…んっ…!?」 目を丸くさせる唯 キスの味を味わう間もなく、唯は唇を離した 「ちょっ…もぅ。カゼ引いてるのに、ダメでしょ」 赤くなった顔で抗議の声を上げる唯に、リトはイタズラをした子供の様な笑みを浮かべる そしてシーツから少し腰を上げ、顔を寄せた 「だ、だからダメって…ん、んんっ」 唯の抗議はリトの唇によって、閉じられてしまう 「んっ…っ…」 離れては触れ、軽いキスを繰り返す唯とリト 何度目かのキスの後、ふいに唯の手がリトの手から離れた 唯が求めたのは、リトの胸板だった Tシャツの上から指を軽く這わせながら、唯の少し上目遣いぎみの黒い瞳がリトを見つめる 「…ダメって言ったでしょ? 体調悪いんだから…」 唯の頬は火照ったようにうっすらと赤くなっていた 黒い瞳は熱で濡れ、まるで発情したみたいな妖しい雰囲気を醸し出す リトは唯の頬にそっと手で触れた 「古手川のホッペ、スベスベだな」 「何よ…? それ…」 「もっと触ってイイ?」 恥ずかしそうにコクン、と頷く唯 リトは手の平いっぱい使って唯の白い頬を堪能していく ペタペタ触ったかと思えば、指で突いたり、軽く摘まんだり 「んん…っ。やん、くすぐったい」 「わ、悪ィ!」 ずっと黙っていた唯が突然、声を上げたことにリトは、慌てて手を引っ込めた 「……」 「えと…お、怒った?」 ふるふる、と首を横に振る唯 そして、ぼそぼそと口を開く 「…もうしないの…?」 「へ?」 上目遣いでジッと見つめてくる唯の視線に胸の中をくすぐられた様な感覚をリトは覚える リトはおもむろに唯の頬を軽く摘まんで横に引っぱってみた 「……ほへ?」 目が点になる唯だが、リトの指によってホッペはいろんな方向に伸ばされる 横だったり、上だったり、下だったり 「…ね、ねェ? ひたひんだけど?」 「古手川のホッペってすげー柔らかい」 「ふぇ…!?」 「もうちょっと触っててもいいか?」 唯の頭が上下にコクコク動く リトは気が緩んだのか、ますます唯の頬をあれこれと弄っていく その様子をジッと見つめる唯も、どこかこそばゆい様な笑みを浮かべる 「ひもちひいいの?」 「うん」 「…ほっか」 唯は満面の笑みを見せた 「なっ…!!!?」 リトの手が硬直 そして頭から見えない湯気が立ちあがっていく 「ふへ? ゆうひくん?」 「……っ!?」 リトの顔はすでに赤を通りこして、真っ赤だ それこそ、このまま倒れてしまうのではないかと思えるほどに さすがに心配になった唯は、リトの手を離すと、リトに顔を寄せた 「結城くん? ちょっと、ホントに大丈夫なわけ?」 「……」 無言で固まるリトの顔の前で唯は、何度もかざした手を振って見せた 「結城くん? 結城くん!」 「か…かわ…」 「かわ?」 「か……カワイイっ!」 「はぁ?」 リトの的外れな言葉に、唯はつい素っ頓狂な声を上げてしまう そんな唯を余所にリトの顔がぱぁっと輝いていく 「そのなんつーか……さっき見せた古手川の笑顔がスゲー可愛かったらさ」 「え…?」 「もう一回、笑ってほしいな!」 「…なっ…!?」 と、ニッコリ微笑むリトに、今度は唯の方が真っ赤になって硬直してしまう そして、ブルブルと両手が震え出す 「あれ…? えと…古手川? どーした…」 「な、何考えてるのよ!? ハレンチなーっ!!?」 唯の声が結城家に響き渡った 「な、な、何だよ!?」 「バカ! バカ! バカ! バカーっ!!」 唯は両手をぶんぶん振ってリトの胸板をポカポカと叩き始めた 「ちょ…ってぇ! 痛っ…! 痛いって!」 「知らない! 知らない! 結城くんなんて知らないんだから!」 唯の声は一回のリビングまで届いていた 顔を合わせて「なにやってんだろうね?」「まうー?」と首を傾げるララとセリーヌ 美柑だけはソファーに座って、「やれやれ…」とアイスを咥えていた 「バカーっ!」 「わ、悪かったって! ホント! だから…」 オレが風邪引いてる事なんてすっかり忘れているんじゃねーのか? なんてリトが思い始めた時 リトのお腹の虫が「ぐぅ~~~~」と鳴きだした 「あ…」 「え…」 思わず手でお腹を押さえたリトと両手を宙に彷徨わせたままの唯の目が合う 唯の視線にリトの顔に赤みが表れ、見つめられる時間の長さだけ濃くなっていく 「いや…その…」 「……結城くん、お腹空いているの?」 ベッドの横のテーブルの上には、キレイに食べ終わったアイスのカップと、飲み終わった コップが置いてある リトはバツが悪そうにそっぽを向くと、小さくコクンと頷いた 「ま…まァ、ちょっと空いたって感じだけど」 「それならそうと言いなさいよね! まったく!」 唯はリトの頭をクシャリと撫でると、ベッドから降りた 時刻は六時を過ぎた頃、窓の向こうは、夕焼けがとてもキレイだ 「じゃあちょっと待ってて。美柑ちゃんに訊いてみるから」 「ああ。頼むよ」 ちゃんと寝てなきゃダメだからね、と釘を刺すと、唯は部屋のドアを静かに閉めた 部屋のドアが閉まるのを見届けると、リトは溜め息をついた 「…ったく、さっきまではあんなに怒ってたっつーのに」 その原因となった唯の満面の笑顔を頭に想い浮かべると、自然と顔がニヤけてくる 重い体も軽くなってくる。頭の鈍い痛みもどこかに消えていく 「ありがとな。古手川」 階段をトントン、と下りていく唯の足音を聞きながら、リトはお礼を言った 足音が聞こえなくなると、部屋の中はさっきまでの賑やかさが嘘の様にしーん、と静まり返る その事を少し寂しく感じながらも、リトはもう一度、さきほど唯が見せてくれた、とびき りの笑顔を思い出し、一人、ニヤけるのだった 「美柑ちゃん、ちょっといい?」 「古手川さん? どしたの? もしかしてリトがなにかワガママでも言ってるの?」 リビングでララ達とくつろぐ美柑に申し訳ない気持ちになるも 唯はリトがお腹を空かしている事を伝えた 「まだ夕飯には早い気もするけど、イイよ。作ろ!」 「ホントに?」 美柑の快い返事に唯は、ホッと胸を撫で下ろした 「それじゃあ、私はこの事を結城くんに…」 「ちょっと、待って! 古手川さんも作るんだよ!」 「え? 私が?」 「うん」 ニッコリと笑う美柑に、唯の目がパチパチと瞬く 「そ、そんなムリよ! 病人食とか作ったことないし! おかしなモノでも作ったら大変じゃない!」 「ダイジョーブだよ。私がちゃんと教えるから」 「でも…」 「それに、古手川さんが作ったって聞いたら、リトもうれしくて風邪なんかどっか行っちゃうかもね」 「そ…そんな大げさな…!」 なんて言いながらも、どこかうれしそうな顔を覗かせる唯 そんな唯に美柑は心の中で「古手川さんってやっぱわかりやすい」と呟くのだった 本日のメニューは、揚げ鶏の甘辛ネギダレと鶏肉と野菜のスープ、そしてお粥だ 揚げ鳥は、リトの好きな唐揚げをアレンジしたもので、栄養価も高くて食べやすさから 野菜スープは、余った鶏肉と野菜を一緒にして、ヘルシーに仕上げ お粥はしっかり土鍋で炊いた、熱々のものを エプロンに身を包んだ美柑は、メニューをぱぱっと決めると、テキパキと準備に入る 一方、唯はというと、同じくエプロンを着けたのだが、なんだか堅い顔のまま、まな板の前にいる (うぅ…。こんなスゴイメニュー、私、作れるのかしら…) バレンタインでチョコを作った日から、唯は暇さえあれば夕飯の手伝いをするようになった 具材を切ったり、お味噌汁の味噌を溶いだり、お母さんの手付きをメモしたり しかし、どれも基礎的な事ばかりで、本格的な料理はまだしたことがなかったのだ そんなわけで、今日、いきなり本格的な料理をすることになった唯は、軽くテンパってしまっていた (ど…どうしよう…。もし、失敗したら結城くん…) お腹が空いてゲッソリと痩せこけたリトが頭に浮かぶ そんな唯の心情を察してか、調理器具を棚から出していた美柑は、ニコッとリトと そっくりな笑顔を浮かべた 「心配しなくても大丈夫だって。カンタンなのばっかりだから」 「カンタンって…」 「一緒にガンバロ、ね?」 「う…うん」 まるで今にも泣き出しそうな妹を安心させる姉の様に、美柑はニコッと笑う その笑顔に唯は、小さい子供の様に頷いた これではどちらがお姉さんかわからない もしかしたらキッチンの中では、美柑に敵う者はいないのかもしれない 「じゃあまず、お米を研ごっか」 こうして唯の初めての手料理が幕を開けた グツグツと音を立てる土鍋に、唯は恐る恐る手を伸ばす 「……あっつ…!?」 「わぁ!? だいじょうぶ? 古手川さん。ダメだよ! まだ開けちゃ!」 「うぅ…」 赤くなった指を口に咥える唯は、こっそり涙を浮かべた 「古手川さんは、おネギを切って。私は鶏肉を見てるから」 「まかせて!」 野菜なら家でも何度も切っていた。唯はまな板の上に軽快な音を走らせる けれども途中からうれしそうに手料理を食べているリトを妄想してしまい、危うく包丁で 指を切りそうになってしまう 「キャっ!?」 「こ、古手川さん!?」 この後も、美柑の声がキッチンに幾度となく響いたのだった 何回目かの美柑の叫び声の後 キッチンのドアがそっと静かに開けられる 「まう~」 エプロン姿の唯と美柑を見つけると、セリーヌの顔にぱぁっと笑顔が浮かぶ 実は、調理を始めてからすぐ気になって様子を見に来たセリーヌとララに、美柑は 「しばらく立ち入り禁止」と念を押していたのだ ず~っと相手をしてもらえなかったセリーヌは、居ても経ってもいられず、二人に駆け寄った 「まうー!」 「せ、セリーヌちゃん!?」 「セリーヌ!?」 セリーヌはぴょん、とジャンプをすると唯の肩に抱きついた 「コラ、セリーヌ。入ってきちゃダメって言ったでしょ!」 「でももう終わったから。いいわよ」 助け舟を出してくれる唯に頬ずりをするセリーヌの目に、テーブルの上に並ぶ、おいしそう な料理の品々が飛び込んでくる 「まうー!」 「これはリトのだからダメだよ」 「セリーヌちゃんの分もちゃんと作ってあるからね」 そうなのだ 唯はリトの分だけではなく、セリーヌやララに美柑の分まで作ったのだった 「まう~♪」 セリーヌの大きな目にお星さまがいくつもキラキラと輝く 無理もない 唯の、それも初めての手料理を食べられるのだ セリーヌは唯の腕の中から身を乗り出して、お皿を掴もうとする その後ろから、眠い目を擦りながらララがキッチンに入って来た どうやらおいしい匂いに誘われて、夢の中から起きてきたようだ 「ん…んん…なにやって……おお~!? 何かイイ匂いがするよ!」 「ちょっとララさん。髪がクシャクシャじゃない」 寝癖がついているララの髪を手櫛で整えてあげる唯 ララは両手をテーブルに付けると、目を輝かせた 「すご~い! これみ~んな、唯が作ったの?」 「い…いくらなんでも、こんなすごいメニュー私一人じゃムリよ。これは美柑ちゃんが手 伝ってくれたからで、私はちょっとしか…」 あたふたと慌てる唯に美柑はニッコリ笑って、「私はアドバイスしただけだけどね」と ウインクして見せた 「それじゃあ、古手川さん。コレ、リトに持って行ってあげて。きっとお腹空かして待ってるから」 「ええ。ありがとう。美柑ちゃん」 「いいって、いいって。」 まるで姉妹の様に笑い合う唯と美柑 さっきまでの悪戦苦闘も、今はもう大事な想い出の一つだ 美柑からトレイに乗った夕飯を受け取る唯 その様子をララは、指を咥えて見つめていた 「あれ? 私達のは?」 「ララさんもお腹空いているの?」 「えへへ」 「まうー」 セリーヌとララのお腹から可愛い虫の音が鳴る 美柑が時計を見ると、時刻は、いつの間にか七時を過ぎていた 「じゃあ、私達も食べよっか」 「は~い!」 「まう~♪」 キッチンを包む楽しそうな声を後ろに聞きながら、唯は階段を上がっていく 「これが初めての手料理になるのよね…」 トントン、と階段を上がっていく音と、ドキドキ、と鳴っている胸の音が重なる 唯はリトの部屋の前まで来ると、そこで小さく深呼吸をした 「よし…!」 一つ気合いを入れ、そして、ドアをノックした 「お…お待たせ」 緊張で声が震える唯だったが、鈍いリトはその事にまったく気づく様子はなく、読んでい た雑誌をテーブルに投げ置くと、う~~ん、と両腕を上げて大きく伸びをした 「なんかスゲーいい匂いがするな」 「そ、そう…?」 唯はほんのりと頬を染めた リトに「いい匂い」と言われたからではない 休日にお母さんと外食に来た子供みたいにワクワクしているリトの顔に、くすぐったさを 覚えてしまったのだ 唯はテーブルの上の雑誌等を手早く片付けると、そこにトレイを置き、次にリトのTシャツ が汚れない様にタオルをかけてやる 「こんなのいいって」 「いいわけないでしょ。汚れたらどうするの? それにしてもこのシャツちょっと汗 を吸ってるわね。後で着替えなさいよ?」 面倒くさそうに不承不承、返事するリトの頭を唯は軽く小突いた 何か言いたそうなリトの視線を唯は涼しい顔で受け流す (なんか古手川のヤツ、いつもよりも口うるさくなってるよな…) それでもそれが苦にならないのは、そこに心配と同じぐらいの愛情が入っていると、知っているからだ 唯に小突かれた部分を手で押さえながら、リトはこっそりと笑みを浮かべた 「ん? 何?」 「な、何でもねーよ」 「ホントかしら?」 疑り深い唯の視線にリトは愛想笑いを浮かべて応えた 「まあいいわ」と、唯は軽く咳払い そして急にもじもじし始めた 「え? メシは?」 「わ、わかってるわよ」 皿やスプーンをカチャカチャいわせながら、唯はリトの膝の上にトレイを置いた 緊張で手が震える その震えは、料理を並べた後も治まらない (な…何こんな事で、キンチョウしてるのよ!?) 唯はサッと両手を後ろに隠すと、震える手を握りしめた 明らかに最初にここに来た時と様子が違っているのに、リトはまったく気づく素振りも なく、目の前に並んだ料理に目を輝かせる 「すげ~!? うまそー!! いただきま~す!」 「ど、どうぞ。召し上がれ」 第一印象である見た目はクリア 思わず胸をホッと撫で下ろしそうになってしまうのを唯は慌てて取り消した まだ終わってはいない。むしろここからが肝心なのだ スプーンで野菜スープを掬おうとするリトの手が、ふいに止まる 「あれ? 古手川は食べないのか?」 「え…? た、食べるわよ! し、し、心配いらないわ!」 「……?」 唯はいそいそとテーブルの前に女の子座りすると、「いただきます」と両手を合わせた 目の前に並んだ料理は、さっきまでキッチンで自分が作ったものだ 具材の大きさから味付けまで、みんな唯の好みに合わせている 散々、美柑に「結城くんの好みの味は、何なの?」と訊いた唯だったが 美柑は訊かれる度に「古手川さんの味付けでいいよ」と返すだけ 美柑にしたら唯が作るのだから、やっぱり「唯の味」をリトに食べてもらいたいわけなのだが… 美柑の努力の甲斐も空しく、逆に不安の種を植え付けてしまう事になる (ホントに大丈夫かしら…) 野菜スープを一口、口に入れた唯の心は晴れることはない 味は自分では、おいしいと思う 思うけれど…… 唯の視線がリトにそそがれる リトはお腹が空いていたせいか、野菜スープどんどん口の中に入れていく 高鳴る胸の鼓動と、強まる視線 結局リトは、一度も唯の視線に気づく事なく、スープを飲み終えてしまった 唯の喉が小さく音を立てる (……な…何か言いなさいよ…!) 唯にしてみたら永遠にも感じる時間 リトにしたらいつもの夕食の時間が過ぎ去った 「ふ~。これスゲーうまいじゃん!」 「……え?」 「なんかいつもと違う味だけど、それってオレが風邪引いてるせいかな?」 「……っ!?」 ドキリ、と唯の心拍数が跳ね上がる スプーンを握りしめる手にも力がこもる 「でも、なんか優しい味がするんだよなァ。こーゆーのがヘルシーって言うのかな? す げェ、うまかった」 「…ほ…ホントにっ?」 「え…? な、なんだよ?」 スープが入っているお皿を持ったまま、ベッドに詰め寄って訊いてくる唯に、リトはベッドの 上で思わず後ずさった 「な、なんでお前がそんな必死になるんだよ?」 「いいから応えてっ!」 唯の目は真剣だ それこそ射抜かれそうな眼光を宿していた 喉の奥に生唾落ちていくのを感じながらリトはボソっと口を開く 「う…うまかったよ」 「……っ!?」 ぱぁっと唯の顔が晴れやかになっていく さっきまで雨雲でどんよりしていた空に、急に日の光が差したように 唯はさらにリトに詰め寄ると、揚げ鶏が盛ってある皿をリトに差し出した 「これも食べてみて!」 唐揚げ好きなリトのためを想って、リトの分はみんなよりも量が少し多い リトは意味がわからない、と言った顔をしながらも言われるままにフォークで山の頂上を突き刺した 「じゃ、じゃあ、いただきます」 「どうぞ。召し上がれ!」 ジッと見つめてくる唯の視線が気になって仕方がないのだが、リトは大きく口を開くと揚 げ鶏を放り込んだ もぐもぐ、とリトの咀嚼する音が聞こえてくる 口の中でよく味わってくれている様だ 唯は無意識にシーツを掴んでいた リトを見つめる視線は、さっきよりも強い 揚げ鶏に使った甘辛ネギダレは、大苦戦したけれど、今日一番の自信作だ だからこそ不安も一番大きい ゴクリ、とリトの喉の奥に揚げ鶏が消えていく 唯の喉も小さく音を立てた 「ど…どうなの?」 「ん~…なんつーか…」 「……っ」 唯の手はすでにシーツを掴むどころか、握りしめていた じ~~~~~~~~~~~~~~~~~、っとリトを見つめる唯 その視線に冷や汗が浮かぶのを感じながら、リトは人差し指で頬をポリポリ掻いた 「えと……うまかったよ」 「ほ、ホントっ!?」 「その、オレが今まで食べたカラアゲの中で一番」 「えっ!? 一番…?!」 思いもしなかった言葉に、唯は息をするのも忘れてしまった それほどの驚きとうれしさが、唯の中を駆け巡っていく うれしさはやがて体温へと変わり、唯の頬をみるみると赤く染めていく 「い…一番……とか…そんな事…!?」 「どした?」 「な、なな、なんでもないの! おいしかったんならいいの!」 「……? よくわかんねーけど、何でお前が味のこと気にするんだ? さっきから変だぞ」 唯の顔にさらに赤みが増す そして迷いに迷った末、唯はようやく口を開いた 「…きょ…今日の夕飯は、私が作ったのよ」 「へ?」 リトのバカみたいな返事のせいで唯のドキドキは、ますます大きくなってしまう 「作ったって、お前が? 全部?」 「そうよっ! 私が作ったの!!」 唯は自分でも驚くほどの大きな声を上げた そして、ビシっとリトを指差す 「言っとくけど、残したりしたら許さないからね! わかってるの?」 リトは唯に言われた言葉の意味を確かめる様に何度かパチパチと瞬きすると、唯の指先と おいしそうな湯気を立てる料理を交互に見つめ、そしてニッコリと笑った 「な…何よ?」 「よかったって思ってさ」 「よかった? 何が?」 「オレの一番好きなカラアゲの味が、古手川の作ったやつで。なんかそれがスゲーうれしいんだ!」 「私の作ったのが…………え? えっ!?」 リトの言葉の意味を理解した瞬間、唯の顔からボっと火が噴いた 「な、な、な、な、な、な…」 「へー。古手川が作ってくれたのか。どーりで美柑の作ったのと違うわけだぜ」 なんて事を言いながら、リトの手に握られたフォークが次々と揚げ鶏を突き刺し、口の中へと入れていく 「…ん…もぐ…もぐ…うん。やっぱスゴイうまいぜ」 「……」 一人うれしそうに顔をほころばせるリトに、唯はヘナヘナとその場に崩れ落ちた 不安が安堵に変わり、心配がうれしさに変わったのだ 胸の奥の大きな支えが取れた事で、唯の口から大きな溜め息がもれる 「どした? 食べないのか? うまいぜ」 これまでの心配な気持ちや不安な想いなど、露ほどにもわかっていないリトは、一人 ベッドの上でうれしそうに顔を綻ばせている そんなリトの横顔を見ていると、フツフツと怒りが込み上げてくるのがわかる 唯はテーブルの上の自分の分の揚げ鶏にフォークを突き刺した 「ふ、ふん。バカバカしい。どうして私があんな事でいちいち心配なんか…」 と、一人文句を言いながら食べる唯の姿に、リトは小さく笑みを浮かべた 一人でハラハラして、安心して、怒る唯の姿がたまらなく愛おしく感じた 体調が普通の状態なら、思わず抱きしめてしまいそうなぐらいに なんて事を考えながら揚げ鶏を口に持っていこうとすると、案の定、口をかすめて揚げ鶏は 落っこちてしまう 「わっ!?」 「もう! 何やってんのよ!」 唯は急いで立ち上がると、持っていたハンカチでリトの口元を拭いていく 「ゴメン」 「何考えてたのか知らないけど、ボーっとしてないでちゃんと食べなさい」 わかった? とまた小突かれそうな気配にビクッとなったリトを待っていたのは、思い がけないサプライズだった 唯はリトの顔をジッと見つめた後、すっと顔を近づけた そして、口元に残るソースを舌でチロリ、と舐め取ったのだ 「えっ!?」 離れていく唯の顔を、目をまん丸にさせたリトの視線が追う 「古手…川?」 「その……さっきの「おいしい」って言ってくれたのが、すごくうれしかった…から…。 だからっ…」 唯の声は、みるみると聞きとれないほどに小さくなって、最後は消えてしまった それでもリトの耳にも心にもはっきりと届いた 唯なりの精一杯の「言葉」が リトは唯に身を寄せると、赤くなっている頬にそっとキスをした 「なっ!?」 「オレもお礼。古手川、すごいガンバってくれたからな」 「そんなの別に…当然というか…」 サプライズはまだ続く もじもじ、と肩をくねらせ ゴニョゴニョ、と口の中で何か言っていた唯は、お皿を持つとベッドに腰掛けた 「た…食べさせてあげる!」 「え?」 「さ、さっきみたいに汚れちゃったらダメでしょ! だからよ! だから!」 まるで言い聞かせるように 言い訳 を連呼すると、唯は揚げ鶏をフォークで掴み、リトの口に近づける 「ほら、口開けて。その……あ、あ~んしなさいって事よ! わかりなさいよねっ!」 (なんでオレが怒られなきゃならねーんだ…) 半ば、理不尽と感じつつもリトは、「あ~ん」した パクリ、とリトの口の中に揚げ鶏が入る リトはさっきまでの数倍はうれしそうな顔をしながら咀嚼する ゴクン、と飲みこむ時ですら、うれしそうだ 「何ニヤニヤしてるの? ハレンチな」 「だって古手川が食べさせてくれたんだぜ? さっきのやつがオレの中で一番おいしい カラアゲになった!」 「もぅ…! バカなこと言って!」 口調こそ呆れた様な感じの唯だけれど、その顔にはすでに隠せないほどの笑顔が浮かんでいた リトと同じぐらいの笑顔か、もしかしたらそれ以上かもしれない 「なァ、古手川は食べないのか? オレが食べさせてやるよ」 「い、いらないわよ! ハレンチな!」 「そう言うなって。ほら、あ~んして?」 「え? え…ちょ……あ、あ~ん」 唯の小さな口の中に揚げ鶏が入っていく その瞬間、キュンって胸が高鳴って、ポッと顔が熱くなる 「ん…んん…」 「どうだ? うまいか?」 唯は口を閉じたまま、赤くなった顔をコクコクと縦に振った 正直、味なんてわからない わからないほどに、唯の胸の中でいろいろなモノがドキドキと音を奏でる だけど… (おいしい…!) 今まで食べたどの料理よりもおいしいと思える それだけは、はっきりとわかる それは紛れもなくリトが食べさせてくれたからなわけで (もっと、食べたい…かも) 唯が物欲しそうな視線をリトに向けようとした時、ふいにリトの顔が揺れ 気がつくと、すぐそばまで来ていた 「え? ちょ…!?」 リトの舌が唯の口元をチロリと舐めた 一度だけではなく、二度三度と 「ん…ンっ…ンン」 唯の体が硬直する リトが舐める度にシーツを握りしめる手に力が入っていく 唯は目をキュッと閉じたまま、リトにされるがままになっていた やがて、リトの口が離れていく気配に、そっと両目を開けた 震える睫毛の向こうに、ニッコリ笑うリトの顔が見える 「古手川のココ、ソースついてから。さっきのお返し」 「なっ…!?」 リトは口元を指差しながら、子供みたいな無邪気な笑顔を見せる その笑顔を前にすると、振り上げた手をどうしたらいいのかわからなくなってしまう 怒る気力がみるみると消えていく。まるで魔法にかかったように それでも唯は、このままでは終われないと言った様子で、赤くなったホッペの中で何やら モゴモゴと呟くと、少しだけ腰を浮かせて、そして顔を近づけた 目をパチクリさせるリトの唇を通過して、鼻先を掠めて、向かう先は額だ ほんのりと熱で熱くなっている額に、唯は軽くキスをした 「え?」 「…早く治ってほしいから、おまじない。さっきみたいにバカなマネしないようによ。それと…」 「それと?」 「………………い…いろいろ行きたいところとかあるから…。その…映画とか…。だから その……は…早く元気になって、デートに誘いなさいよね…」 ボソボソと話す唯の手に、リトは自分の手を重ねた リトよりもずっと小さくて、白くて、そして温かい手 リトは両手で唯の手を握りしめて、ニッコリと笑った 「オレも! カゼ治ったら、古手川といろんなトコ行きたい! セリーヌに美柑にララに モモにナナにみんな誘って!」 「……うん」 「その前に、古手川の行きたいトコ、二人で行こうな。見たい映画あるんだろ?」 「…うん」 唯は笑顔を浮かべた それはリトでなくても、見る者をホッと安心させるような温かい春の様な笑顔だった もちろん、そんな笑顔を間近で見てしまったリトは、あたふたと大慌てになってしまい リトは思わず唯を抱きしめてしまった 「古手川っ!!」 「え?何…キャ!?」 それこそ目いっぱいに、力いっぱいに 両腕で、溢れる気持ちごと唯の体を抱きしめた 「ちょ…ちょ…ちょっと!? 何なのよ…! 急にどうしたのよ?」 「古手川っ!!」 リトは唯の名前を言うだけで、それ以上は何も言わなかった ただ、ギュ~~~~~~っと唯の体を抱きしめる 「ゆ、結城くん? ちょ…いい加減っ…」 ギュ~~~~~~~~~~!! 「…も、もう、わかっ…わかったから! わかったから離して!」 なんて事を言ってしまう唯だが、リトと同じく、溢れる気持ちとこのドキドキをどうしたら いいのかわからないままに、そっと両腕をリトに回した しばらく抱き合っていると、息遣いに混じって違う音が聞こえてくる トクン、トクン、トクン、トクン、と 心地良いとすら感じるリトの胸の鼓動が、唯に伝わる 唯は赤くなりながら、汗で濡れるリトのTシャツをキュッと握りしめた (結城くんの匂い…。カゼを引いてても変わらないな…) こんな時にそんな事を考えてしまう自分に心の中で「ハレンチな」と呟くと 唯はもう一度、最高の笑顔を浮かべたのだった 残念ながら、その笑顔はリトには見えない もし見る事が出来たなら、風邪なんてどこかに吹っ飛んでいきそうなのに そんな二人の様子を部屋のドアの前でこっそり伺っている者がいた 「やれやれ…」 「まうー?」 替えのシャツをそっと部屋の前に置くと、美柑はセリーヌを連れて静かに階段を下りていく 「…あの様子だと、明日にでも治りそうだね。ま、あのバカは治らなくても治ったフリをするんだろうけど」 実は子供の時からリトは、何度となく風邪を引いていた けれども、決してその事を言わないどころか、何でもないフリを演じ続ける 心配させないために それなのに、美柑が風邪を引いた時は、付きっきりで看病をする 明日、学校があろうとなかろうと、夜遅くまで、ずっと 「…ホントに変わらないんだから」 その事に少しうれしさを感じながら、美柑はキッチンのドアをくぐったのだった その頃、リトの部屋では、ベッドの上で唯の看病が続いていた 「はい、あ~んして」 「あ~ん」 すっかり気を良くした唯は、スプーンを手にリトにお粥を食べさせている 「おいしい?」 「ああ。スゲーうまいぜ。古手川が作ったお粥」 「そ…そうなんだ」 本当にうれしそうに微笑むリトの顔を見ていると、見ているこちらまで思わず顔が緩んでしまう リトのこの顔が見たくて、言葉が聞きたくて、あんなにも一生懸命に頑張ったのだから 美柑の頑張りもやっと報われた様だ 「もっと食べさせてくれよ。ほら、あ~ん」 「もぅ、慌てないの」 大口を開けて待っているリトに、唯はお粥にふーふーと息を吹きかけて、あ~ん、と食べさせてあげた まだ少し熱いお粥に涙を浮かべそうになるけれど、リトはグッと我慢した なぜなら唯がとっても幸せそうに微笑んでいるからだ その光景を見ているだけで、胸の中が温かくなってくる 唯のたまに見せる笑顔には、なにか特別な効果があるのかもしれない 「ん、どうしたの? さっきからニヤニヤしっぱなしよ」 「別に何もねーよ」 「……本当かしら? どうせまたハレンチな事でも考えていたんじゃないの?」 疑り深くジト目で睨んでくる唯の視線すら心地良いと思えてしまう リトはまた笑みを深くさせた 「……さすがにもう、カゼなんて吹っ飛んだかな」 「ん? ちょっとさっきから何なの? ブツブツ言って」 「そんな事より、おかわり。あーん」 「……もう」 リトは口に中に広がる幸せいっぱいの味を噛み締める 初めて食べる唯の料理は、とってもおいしい 初めての看病もとってもうれしい 唯がこうしてそばにいる事がとても幸せに感じる 「…ありがとな。古手川」 揚げ鶏をお皿に取り分ける唯の横顔に向かって、リトは万感の想いを込めてそう呟いたのだった いつの間にか、窓の外の虫の音は、すっかり秋の音に変わっていた もうじき秋が始まる
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あいつとララバイ バイクショップ「ボンバー」関係者 コメント 1981年から1989年まで『週刊少年マガジン』で連載されていた楠みちはるの漫画。単行本は全39巻。 バイクショップ「ボンバー」関係者 色違いのニドキング:キング 名前繋がり コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
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「そんなの嫌っ!」 唯は突き放つ様にそう言うとリトを睨みつける 「なんで……」 「なんでじゃないわよっ!あなた最近そればかりじゃない!!」 腰に手を当てて怒る仕草、それは唯の本気を表すものでありリトの体はそれに小 さくなる 「だってオレは…」 「だってじゃないの!私がそういうこと嫌いだって知ってるんでしょう?なのに どうしてあなたは……」 と、そこで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る 「もうこんな時間だわ……と、とにかく私は嫌だから、結城くんももっとちゃん と考えて!わかった?」 唯のお説教が苦手なリトはチャイムに救われたコトに安堵の表情を浮かべると即 答する 「わかったよ」 「……ならいいんだけど、それじゃあ教室に戻るわよ」 前を歩く唯の背中を見つめながらリトは一人納得のいかない顔をしている (なんでなんだ?……唯だって本気で嫌ってるはずねーと思うんだけどなあ) 窓に映るリトの横顔はさっきまでのホッとした表情は消え、悩める一人の男の顔 になっていた そして前を歩く唯の表情は――――― 五時間目の数学の授業、唯はいつもの様に背筋を伸ばし真面目な面持ちでノート を取っていたが、頭の隅で少し別のコトを考えていた(はぁ~ちょっと言い過ぎ たかな……) ちらりと横目でリトを盗み見るといつものめんどくさそうな顔が見える (……ダメよダメダメ!こんなことで甘くなってちゃ) 唯は頭を振って自分の甘さを頭から追い出す。だけどどうしてもさっきのコトが 気になってしまう 昼休み、二人はいつものように仲良く昼食を食べていた。とは言っても食事中は ほとんど無言な唯なだけにすごく静かなランチタイムになっているのだが その静かな時間の中、リトはいつもの様にあるお願いをしてみる 『なあ唯』 『……なに』 『その…今日とかさ学校終わってからでいんだけどその……』 『なんなの?はっきりしゃべって』 リトは喉に唾を飲み込むと汗ばむ手を握り締める 『その…唯とえ、エッチしたいなあって……ダメ?』 唯は冷たいお茶を喉に流しこむと静かにコップを地面に下ろす 『嫌よ』 簡潔でいて冷たい一言にリトは打ちのめされそうになる 『な、なんで?』 唯は短い溜め息を吐くとすっとツリあがった黒い瞳をリトに向ける最初の方こそ リトがそんなコト言うたびに色んなリアクションを取っていた唯だったのだが、 いいかげん慣れてきたのかその対応は落ち着き払ったモノになっていた 『あなたこれで何十回目なの?いい加減にして!私がそんなハレンチなコト嫌い だって知ってるでしょ?』 『だってオレ達付き合って……』『それとこれとは話が別!高校生なら高校生ら しい付き合い方があるはずでしょう?結城くんも二年生になったんだからその辺 のコトは理解しなくちゃ……』 お弁当を食べ終わり教室に戻る最中も唯のお説教は続く。リトも負けじと反撃す るが勝てるはずもなく…… 唯はそんな昼休みのやり取りを思い返すとまた小さな溜め息を吐くなんだかんだ と言ってもやっぱり気になってしまう 唯だって一人の女の子だ。好きな人とリトと色んなコトをしてみたいと思ってい る 思ってはいるのだが中々自分の性格がそれらを許さない (あれからもう一ヶ月か……) 体育倉庫で初めてリトとした日から今日で一ヶ月ちょっと その間もキスをしたり手を繋いだり一緒に帰ったりと色んなコトをしてきた二人 だったが、体の関係に関してはなんの進展もなかったそれでも唯の中のリトの存 在は日に日に大きくなっていく 結城くんが好き、大好き いつも一緒にいたいし、今は一分一秒だって離れたくはない 結城くんを思うと体が熱くなるし、結城くんを見ているとずっと触れていたいと 願ってしまう 一人で部屋にいる時なんてイロイロと考えちゃったりもするし……『唯、その… …今日エッチしないか?』 リトの言葉を思い返すだけで胸がトクンと高鳴る 体が自然とリトを想い熱くなる ――――だけど、だけど…… 唯はそんな自分を頭から振り払うと再びリトの横顔を見つめる (もうちょっと…雰囲気とか考えて言ってくれれば……私だって…) 唯はそんな自分の思いをのせ静かに溜め息を吐いた 学校が終わり一通りの風紀活動が終わると二人はいつもの様に一緒に帰っていた 「唯…今日はごめんな……」 まだ昼休みのコトを気にしているのかリトは小さくなったままだ そんなリトを横目でちらりと見ると、唯はわざとまだ怒っているかの様な声を出 す 「本当に反省してるの結城くん?私の言ったことちゃんとわかったの?」 「あ、当たり前だろそんなこと!もう言わねえから安心しろよ」 「え!?そ……そう」 (もう言わないからって……それってもう私とは……) 顔を曇らせ黙ってしまう唯にリトは心配そうに声をかける 「おい大丈夫かおまえ?なんか黙ってるけどオレなんか変なコト言ったか?」 「…い、言ってないわよそんなこと、気のせいだから心配しないで!わかってく れたらそれでいいんだから」 「ふ~ん……ならいいんだけど」そう言いながらもまだ少し元気のない唯が心配 になったリトは明るい声で話しかける 「それよりおまえ今日ウチに来ない?美柑がさケーキ作るって朝からはりきって てさ……そのよかったら唯もどうかなって」 唯は一瞬考え込むとリトに向き直る 「……ええ、それじゃあ甘えさせてもらうわ」 家に帰ってきた二人をララが出迎える 「おかえり~って唯も来たんだ!」 明るく喜ぶララへ唯は少し顔を引きつらせながらも応える 「ええ……おじゃまします」 「うん!じゃあ早くあがってケーキ食べようよ!!今出来たばかりなんだよ」 そう言いながらリトの腕を組んで引っぱっていくララの姿に、唯の拳はぷるぷる と震えていた 台所からトレイにケーキをのせた美柑が姿を見せると三人はそのケーキに釘付け になる グラハムクラッカーの台に濃厚でいてまろやかなチーズケーキがのり、その上に すっきりライムのムースそして最後にライムナパージュがのる 三段重ねのライムムースチーズケーキ 「今日は今までの中でも最高のデキなんだから!ちゃんと感謝しながら食べてよ ね」 美柑の言葉を合図にリト達はそれぞれケーキを切り分けて皿に盛っていく 「おいしー」 大喜びでケーキを食べるララの前で、唯は一人浮かない顔をしている 「ん?…どうしたんだよ唯?ケーキうまくないか?」 「そ、そんなことないわよ……ケーキはすごくおいしいんだけど…なんだかすご いなって……」 「ああ、美柑のヤツ今日すげえはりきったみたいだな。あいつの言うとおり今ま でで最高の…」 「違うの…そうじゃなくて!妹さんあんなに小さいのにすごいなあって思って」 前に一度強盗に襲われそうになった時、美柑の手料理のおいしさとやさしい気遣 いに唯は心を打たれた。 それは自分に無いモノを持っている者への尊敬と劣等感 フォークでライムムースを切り崩している唯を見ながらリトは小さな声で呟く 「ふ~ん……おまえがあいつの何に関心してんのか知らねえけど、あいつ結構で きないコトとか結構多いんだぞ。 力仕事はできないし背が小さいから電球一つ取り替えるのもオレがやってるしさ 、まだ他にも色々あるけどな。 で、オレが雑用とかその辺のことをするかわりに、あいつには料理とか洗濯とか やってもらってるんだ。 つまりオレと美柑兄妹二人いないとこのウチはやっていけないってことだ」 唯は意味がわからず首を傾げる 「唯には唯のすげえトコ、おまえにしか出来ないコトたくさんあるじゃねえか。 だからおまえはおまえの出来るコト一生懸命やればいいんじゃねえの? そのかわり足りたいところはオレが支えてやるよ……つまりそういうことだろ? 」 「結城くん……」 それは一番簡単でいてきっと一番難しいことだ (だけど、だけど結城くんと私ならきっと……) ケーキをうまく切り分けられず皿からこぼしそうになっているリトをぼーっと見 つめながら唯はそう思った 「まったく……いつもそんな風に真面目に言ってくれれば私だって『いいわよ』 って言えるのに」 ぼそりと呟いた唯の言葉がリトの耳に入る 「へ?なんか言ったか?」 「な、なんでもないわよっ∕∕∕∕!」 唯は聞かれたことへの照れ隠しなのか、自分の気持ちへの誤魔化しなのか皿に盛 られたケーキを口に運んだ その後散々ケーキを食べた唯は今リトの部屋に来ている 「うぅっ……ちょっと食べ過ぎたかも……」 美柑とララは台所で後片付けの真っ最中 唯は申し訳ないと思いつつも床にぺたんと座ってお腹を擦っていた「おまえホン トに大丈夫かよ?」一応念のためにと持ってきた薬を差し出しながらリトが心配 そうに声をかける 「別に誰も取りゃしねえんだからさ、あんなにガっつかなくてもいいだろ」 「誰もガっついたりなんてしてないわよっ∕∕∕∕!!」 顔を真っ赤にしながら全力で否定する唯を尻目にリトはベッドを整えていく 「まあとにかくさ、おまえちょっと横にでもなって休んでろ。オレのベッド使っ ていいからさ」 「え、ええ……」 唯はふらふらになりながらも立ち上がると、危ない足取りでベッドに向かおうと する そんな唯を見かねてリトは手を差し出す。唯がすがる様にその手に掴まるとリト は腰に手を回してひょいっと体を抱きかかえた 「ちょ、ちょっとこれどういう……∕∕∕∕!!」 「なにってお姫様抱っこ」 「な、な、な、な、なに考えて……∕∕∕∕」 慌てる唯を尻目にリトは胸の中の唯を見つめる (こいつ軽いなー) 初めて抱き上げたとはいえまさかこんなに軽いモノだとは思わなかったリトは、 改めて女の子特有の体の不思議を体感する 「ま、まあたまにはいいだろ?こんな感じなのもさ」 「と、時々ならね……∕∕∕∕」 リトの胸の中で小さくなっている唯はか細い声を出すのがやっとだだけどその手 はキュッとリトの服を握り締めていた リトは一通りの薬の説明や飲み物のことなどを教えると、美柑達を手伝いに一人 部屋を出て行った リトが出て行ったドアを見つめながら唯は一人悪態をつく 「まったく!!あんなコトよくも……だいたいするならするでちゃんと言うべき だわ、びっくりするじゃない!」 けれど言葉とは裏腹にさっきのリトの行動にまだ胸がドキドキしている 実はさっきのリトの説明なんて唯の頭の中には入っていなかった リトのぬくもりや手に触れただけで心がどうにかなってしまいそうになる 体のだるさもお腹の痛みもどこかに消えていった様な感覚 「結城…くん……」 ――――ドクン リトの布団に包まれていることが唯にいつもよりも大きな刺激を与える 自然と手が制服のブラウスに這わされていく 「…ン…ぁ…」 短い吐息に我に返るも熱くなり始めている自分を制御できない 「あ…ン、ダメ…ココ結城くんの…ベッドなのに…」 火照る体を丸めるように布団の中で小さくさせる 「ダメ、ダメこんなこと…ダメ…」 うわ言のように言葉を紡ぐも体は心はソレを求めて止まらない その身を布団に擦り付けるように這わせるとギュッと抱きしめる 「結城くんの匂いがする、結城くんの……」 自慰などしたことのない唯は、ソレがなんなのかわからずただ体を布団に擦り付 けていく 「…ッあ、んん…やだコレ変になる…あッ」 脚の間に挟んだ布団を上下に動かすだけでまるでリトに愛撫されてるかの様な気 持ちになる ずっとリトが抱きしめてくれている様なやさしさに包まれる 「ゃ、んッ…ンンぁ」 短い吐息をこぼし、ショーツの上から布団をさらに押し付ける ――――結城くん、結城くん、結城くん…… 頭の中がリト一色になっていく感覚。体育倉庫でリトと激しく求め合った時の感 覚が唯を包んでいく「はァ…ン、んッ」 ――――結城くんといたい、そばにいて欲しい、触れていたい結城くんともっと …… 唯の体はビクンと震える。いつの間にか自分の手が下腹部へと伸びていた 「っは、やっ…だこんなハレンチな…こと私、んッン」 ショーツ越しに指が大事なところを刺激する度にクチュクチュと水音がなる 汗と蜜でシーツが汚れるのもかまわず唯は指を動かしていく もう自分では止めることができない 「…ゃ…あぁ、ンン」 ――――今の私を見たら結城くんなんて思うだろう…… スカートは捲れ、はだけたブラウスからは胸の谷間が出ていて、顔は快楽と興奮 を求めるそれになっている 自分を冷静に分析しながらも唯は指の動きを止めることはなかった――――だっ て、だって結城くんが好き、大好き、私だけの結城くん誰にも渡したくない ――――ララさんにも妹さんにも誰にも…… 唯のソレは絶頂へ近づいているのか体を仰け反らせ秘所を指に押しつけようとす る ショーツを介して愛液が溢れだし指をいやらしく濡らしていく 「結城くん……私もう…ッ!!」指の動きがより激しくなったその時 ガチャリとドアが開く音に唯はビクンと体震わす 「悪い唯、オレ薬間違えてたみたいだった。で、新しい薬持ってきたんだけど… …」 ドアを開けて部屋へと入ってきたリトの体が固まる ベッドの上の唯の姿に一瞬釘付けになった後、額から冷や汗が流れ落ちるのを感 じる 唯とリト無言のまま見つめ合うことほんの数秒 「え、え~っと…………お邪魔しましたっ!!」 リトはそう告げると一目散に部屋から飛び出した バタンっとドアを閉めた後、リトはそのドアにもたれながら冷静に自分の見たモ ノを脳裏に浮かべる「あ、あれってつまりアレだ…よな?け、けど唯がそんなこ とするはず……」 頭の中でさっきの光景が鮮明に浮かび上がりリトの頭は沸騰しそうになる 女の子のそれもあの唯のオナニー。いつも毅然としている唯が、潔癖ともとれる ほどの真面目な唯が、常識の塊である唯が 「ま、まさかそんなコト……あ、ありえねえ…」 リトは自分が見たものがなんだったのか頭を抱えてもう一度考え込む 一方唯はというと ベッドに腰掛けたまま黙って自分の手の平を見つめていた (見られた……結城くんに見られた私……) 羞恥のあまり目に涙が浮かんでくる けれどそれ以上のものが唯の中にはあった リトに自分のはしたない姿を見られたことが唯に絶望にも似た感情を植えつける (私…私…もうダメ……きっときっと結城くんキライになるこんな私……) どれぐらいの時間が過ぎたのか日も傾き夜になった頃 唯は伏せていた顔を上げるとドアを見つめ声をだす、いつもとは違うか細い声 「結城くん……いるの?」 ドアの向こうの物音に内心ビクビクしながらも唯は気丈に振舞う 「入ってきて」 言われるままに入ってきたリトはベッドの上の唯を見て息を呑む いつもの顔とはほど遠い弱々しく目は泣き出しそうになっていた 「み、見たわよね?私のしてたコト……」 「ああ……」 バツが悪そうにそっぽを向くリトの態度に空気がさらに重くなっていく 「そ、それで私のこと……け、軽蔑した…でしょ?」 自分で自分の言葉にキズついたのか唯の頬に涙が伝い落ちる 「あんなことする私なんて……結城くんきっと嫌いに……」 嫌い、嫌い、嫌い 頭の中でグルグルと回り続けるその言葉に唯の涙は止まらなくなる「ちょ、ちょ っと待てよ唯……」リトは慌てて唯のそばに駆け寄る「おまえなに言ってんだよ ?」 「だって、だって……私……いつも、いつも結城くんがハレンチなことしようっ て言っても怒ってばかり…で それ…なのにわた…私、私はあんなこと……」 泣き崩れる唯の頭に手をのせると溜め息を吐きながらやさしく撫でていく 「ゆ、結城……くん?」 「はぁ~…おまえなーそんなコトでオレが唯のことを嫌いになるわけないだろ! 」 「えっ!?」 その反応にリトはいよいよ大きな溜め息を吐くと、唯と目線が合うように膝を屈 める 「一人でするコトの一つや二つなんだよ。おまえは気にしすぎだバカ!」 「ば、バカとはなによ!!私は本当に……」 「そんなコトで悩んでるくせになに言ってんだよ?だいたいなーオナニーぐらい みんなやてることだぞ、 その……オレだってやって…るしな∕∕∕∕」 「えっ!?」 唯は言われたことの意味がわからず頭の中で整理をしていく (そういえば以前ララさんとお風呂に入った時そんなことを……)「……その、 唯のこと考えてるとさ……そのムラムラくるっていうかさ……∕∕∕∕ 」 「私と同じ……だ、だけどララさんが結城くんはハレンチな本とか見てるって… …」 「なっ!?ララのヤツ……」 引きつる顔をなんとか元に戻すとリトは唯に向き直る 「まあ見てたよ昔は……けどおまえに会ってから一度もそんなの見てないよ」 「え……」 「そのオレにはおまえがいるから……他のヤツなんて目に入らねーからさ」 「結城くん……」 「だからおまえも気にすんな!オレは全然気にしてねえから。むしろおまえのあ んな格好が見れてうれしいぐらいだし」 歯を見せて笑うリトへ唯はムッとした顔を向ける 「わ、私が一人で落ち込んでるっていうのにそんなことを考えて……」 「だって唯すげえやらしかったんだもんなァ、また見せてくれねえかなー?」 「あ、あなたって人は……結城くんちょっとそこに正座しなさいっ!」 くすくす笑うリトへ唯の眉はつり上がっていく その態度を注意しようと振り上げた腕を下ろす前に、リトの両手が唯の頬を左右 から挟む 「ちょっ、ちょっと!?」 「言ったろおまえはちょっとガンバリすぎだから、もっとオレに甘えてもいいん だって」 「う、うん…だけど私…」 「あのなー……美柑だって今だに鍋を焦がすし味付けの失敗もする、ララだって 普段明るいけど落ち込んだりもしてるんだぞ。 だからおまえもちょっと肩の力を抜け!それにあんなコトでオレがおまえのこと 嫌いになると本気で思ってるのか?」 その言葉が胸に来るのか唯の体は小さく震える 「思い……たくなんかない!思って欲しくない!!」 「オレもおまえを嫌いだなんてウソでも言いたくねえよ!だからもう心配するな 」 「…うん、うん……ありがとう…ありがとう結城くん……」 胸のつかえが取れたのかリトの胸で声を出して泣きじゃくる唯をリトはギュッと 抱きしめた ――――離したくない、離れてほしくない、ずっと一緒にいたい それぞれの思いを込めて二人は強く強くその体を抱きしめた しばらくそうしていた二人はどちらからともなくお互いの体を離す見つめあう互 いの顔 リトは笑顔を浮かべ、唯は赤く腫らした目でじっとリトを見つめる「もう大丈夫 だな?」 その言葉に力強く頷く唯に安心したのかリトは唯の手を取る 「よし!それじゃあまずその泣き顔をなんとかしないとな。下にいって顔でも洗 ってこいよ。スッキリするぜ」 唯はそう言って立ち上がりかけたリトの手を掴んで引き止める 「お、おい唯?」 「いかないで!私のそばにいて……お願い」 「そりゃそばにはいるけどさ……目腫れてるから顔洗ったほうが…」 「いいの!今は結城くんとこうしていたい」 唯は両手でリトの手を包み込むとキュッと握り締める リトはそんな唯の目を見つめる。じっとこっちを見つめ返す唯の目には、リトへ のある思いが宿っていた 「唯……?」 「結城くん」 唯は体を小さく揺らすとリトの手を自分の胸へと軽く当てる 「……しよ」 顔を赤らめながらそう呟く唯。それはきっと唯なりの精一杯の意思表示 リトは唯の肩に手をのせると顔を近づけていく 間近で見える唯の口は震えていて緊張でいっぱいだった リトはそんな唯の唇へ軽くキスをすると真剣な顔を向ける 「無理しなくてもいいんだぞ?」「大丈夫…大丈夫だから!私結城くんがほしい の」 唯はリトの首に腕をまわすとその唇を求めるように自分のを重ねていく 最初こそ口を当てるだけだった軽いキスは、やがて互いの唇を求め合うように吸 い付き、 舌を絡める様になっていく 「結ひくん…ン、結城くん…」 何度も名前を呼ぶ唯へリトは唾液を送り込む。体育倉庫では嫌悪感をにじませた 唯だったが入ってきた唾液を舌で絡め取ると自ら喉に流し込んでいく それは唯なりのえっちへの不器用でいて前向きな姿勢なのか、それにリトはうれ しさと可笑しさで笑い出してしまう その様子に気づいた唯は口から舌を離すとムッとリトを睨みつける「なにが可笑 しいのよ?」 「可笑しくはないんだけど…唯はカワイイなって思ってさ」 「な、なによこんな時に冗談はやめてっ∕∕∕∕」 リトは唯の肩を掴むとベッドに押し倒す 「キャ…ゆ、結城くん!?」 「……冗談なんかじゃねえよ!唯はホントにカワイイよ」 体の上に馬乗りになりながらじっと目を見つめてくるリトに、唯の顔が真っ赤に 染まる 「あ、ありがとう……」 褒められることに慣れていない唯は顔を背けてしまう 「それじゃあいいんだよな?」 制服のブラウスに手をかけながらリトは唯へ最後の確認をする 「う、うんいいわよ……結城くんの好きにして……」 (オ、オレの好きに……ってマジかよ!?) リトは声に出さずに唾を飲み込んで自分を落ち着かせる 唯にとってはそんなつもりで言ったわけではないのだが、今のリトにはそれがわ かるほどの冷静さはなかった さっきのキスで完全にスイッチがオンになってしまっていたのだ 興奮で震える指をなんとか動かし、ブラウスのボタンを一つ一つ外していく 白いブラウスの下のさらに白い唯の肢体。少し大きめの手の平サイズの胸を包む 様に守っている白いブラジャーに、リトの視線はますます釘付けになる 「……あんまりジロジロ見ないでほしいんだけど…」 「ご、ごめん」 唯の一言で我に返ったリトはあることに気づく (そういえばなんか今日の下着って……) 一度しか見たことのない唯の下着だったが、以前とは少し感じの違うモノになっ ていることに気づく「へ~唯ってこんなカワイイのも持ってるんだ」 何気なく発したリトの一言に唯の心臓はドクンと高鳴る 「な、な、なにを言って……」 「いやその…この前見た時と違って、今日のはカワイイ系のやつだなって思って さ」 その言葉に唯はなにも言えなくなってしまう 服の整理をしていた時、唯はふと自分の持っている下着のデザインがシンプルな モノしかないことに気づく 『結城くんもやっぱりカワイイのとかが好きなのかな……』 そう思った唯は一人ランジェリーショップに行き、ああだこうだと思案に思案を 重ね何枚か新しいモノを買ったのだ もちろんリトにはなにも言っていないし、そういうのを着けていることも内緒だ った それだけにさっきのリトの言葉は唯を本当にびっくりさせるものだったし、また うれしいものだった 「むちゃくちゃカワイイじゃん!オレ好きだぜこういうレースとかリボンがつい てるの」 「あ、ありがとう」 そう言って顔を赤らめてハニカム唯の表情にリトの胸は跳ね上がる (カワイイ…) その顔をもっと見たくて、その顔を独り占めしたくて リトは興奮する自分を抑えることができなくなり、本能のまま手を這わしていく 「ン…ッ!」 ブラの上から胸を鷲づかみされた唯の吐息が漏れる 「唯……唯…すげえ…カワイイ…」 「結城くん?ちょっと…待っ……」 唯のお腹の上で馬乗りになったリトは、両手をつかい左右の胸を揉みしだく 手の中で上下左右さまざな形に変わる乳房。やわらかさと弾力がリトをますます 夢中にさせていく 「…ゃ…あァ…ん」 一人鼻息を荒くさせるリトをおかしいと思いつつも、与えられる刺激から逃れら れなくなる もっとして欲しい、もっと触れて欲しいと思う肉欲に抗えなくなっていく 「なあ唯、これ外してもいいよな?」 ブラを指差しお願いをするリトに唯は顔を背ける 「そんなこといちいち聞かないでっ!!」 「ご、ごめん……」 その剣幕に押されながらも素直にホックに手をかけるリトに唯の心臓はどんどん 高鳴る 一つ目のホックが外れると、唯の口から漏れる吐息は官能的なモノを帯びてくる 期待と興奮が唯の体を包んでいき、知らず知らずのうちにじんじんと熱くなって いる下腹部へ自然と太ももが擦り合わされていく ホックが全部外れ露になる胸 白いやわかそうな乳房が唯の体に合わせぷるぷると震え、その上の桜色の先端は 硬く赤くなっているけれどそれ以上にリトの目を惹きつけるのが唯の表情だった じっとリトを見つめるその黒い瞳は興奮で濡れ 赤くなっている頬に、薄く開いた口からは熱い吐息が聞こえてくる艶美でいて官 能的な顔をするいつもとは違う唯 ―――――結城くんの好きにして…… 先ほどの唯の言葉を思い出してリトは唾を飲み込む そんな自分の様子をじっと見つめてくる唯に視線を戻すと、頬にかかる黒髪をや さしく払いリトはその上に手を這わせる 口元に指を運ぶと、唇を薄く開かせ歯と歯の間から人差し指を入れる すぐに熱い舌がリトを出迎え指を包んでいく 「唯、指しゃぶって」 リトの要求に少し眉根を寄せる唯だったが素直に舌を動かしていくキスの要領で 舌を這わせ唾液を絡ませる 「んッ、ちゅぱ…う…んん……ちゅる…」 不器用だけど一生懸命な唯にリトは興奮を隠せない。中指も口内へ入れると二本 の指を中で掻き回していく 顎を唾液まみれにさせながら必死にしゃぶりつく唯にリトの息も熱いモノへと変 わる 「唯…すげえエロイ……」 「やめてよ…しょんなコト言ふのは、ンッ結ひくんがやれって言ふから私……」 リトは唯の口から指を引き抜くと、唾液で濡れた唯の口元に舌を這わせる 「やっ、あァ…ん、くすぐっ…たい…」 口元を舐め取ると、リトの舌は頬を伝い耳元へと這わされていく ビクンと体を震わせる唯の耳たぶへリトは熱い息を吹きかける 「ごめんな唯。けどオレエロイことしてくれる唯も好きだよ」 耳元で囁かれるリトの甘い言葉に唯の顔は真っ赤に染まる 「な、な、なに言ってるのよ!そんなコト言われても私……ひゃっ!?」 リトは唯が言い終わらない内にその耳たぶを甘く噛みしめた 少し歯形のついた耳たぶに唇を当てると音をたてながら吸い付いていく 「やっ、あァ…ンん」 くすぐったさで身をよじる唯の髪がリトの顔にかかる ほのかに流れるいい匂い それは香水などいっさいつけない唯自身の自然な匂い 「唯の匂いがする」 さらさらと手の平から流れ落ちていく艶やかな黒髪を肌で感じながら 胸に満ちていくその匂いにリトはくらくらしそうになってしまう 風紀の乱れにつながるからと、服装や身の回りの物に特に気を使っていた唯にと って、香水等といった物は許されるものではなかったそれでも一緒にいるリトに 恥をかかせまい、そう思った唯はこれも必要なコトだと自分に言い聞かせながら 、 何度かそういう店に足を運んだこともあったりした けれどどうしても自分の中で譲れないモノがあった唯は、悪いと思いながらリト への思いとそれを天秤にかけた 商品を棚に戻すとき店を出るときもずっと迷っていた唯にとって、今のリトの様 子は胸にくるものがあった (やっぱり私は間違ってなかった!結城くんが望んでいるのは自然な私) リトに褒められたことへのうれしさが唯の中で爆発し、それが普段以上の積極性 を出させる 「結城くん」 唯はリトの首に腕を回すとギュッと抱き寄せる 「耳ばかりじゃ嫌……もっとイロイロしてほしい……」 「い、イロイロって…?」 唯は顔を赤らめながら身をよじると、脚をリトの腰に絡めてくる 「ゆ、唯∕∕∕∕!!」 「結城くん、お願い……」 なにをお願いなのか濡れた瞳でそう呟く唯を前にリトが冷静でいられるはずもな く 両手で左右の胸を掴むとそのやわらかさを堪能するかの様に揉みしだいていく 「あッ…んっン」 リトの少し強い揉み方に痛みを覚えるも今の唯にとってはそれすらも心地いいモ ノになる 上下左右形のかわる胸にリトは口を近づけると、すでに充血して赤くなった乳首 へと舌を這わせる 「んッ、あァ…」 ピクンと反応する唯を上目遣いで見ながらリトは唇をつかって吸い付く 乳輪を刺激され、乳首を舌で絡められて唯の吐息にも熱がこもる 「はァん…結城、くん…アァ…」「唯のおっぱいすげえおいしい…」 「もうっ、変なコト言わないでって言ってるンン…あッ、くぅ…」それでも唯は おいしそうに自分の胸を吸っているリトを見ながら思う (そういえば結城くん……体育倉庫でも赤ちゃんみたいにいっぱい吸ってたわね …) 自分の胸に性的興奮があるはずもない唯にとって今のリトは新鮮に映った それは気持ちよさとは違う喜びであり、唯の顔をほころばせるものだった (結城くんカワイイ) 母性本能をくすぐるリトに、唯は愛しむ様に頭を撫でていく 胸から口を離したリトは何故かくすくすと笑っている唯を不思議そうな目で見つ める 「どうしたんだよ?」 「結城くんがカワイイなって思っただけ」 「な、なんだよそれ!?」 リトは照れなのか顔を背けると少しムッとした表情になる。年頃の男が付き合っ てるとはいえ女の子からカワイイだのと言われるのはある意味侮辱に近いもの それは変なところでプライドの高いリトを刺激させるのは十分すぎた 「結城くん?」 ずっとそっぽを向き続けるリトに唯は少し不安を覚える 「私なにか……」 リトは体を起こそうとする唯の太ももを掴むとぐいっと股を開かせる 「ちょっとなにするのよ!?」 「なにって……こうしないと唯の中に入れられないだろ?」 「な、中って……∕∕∕∕」 一度経験した唯にとってはそれだけでリトがなにをしたいのか理解するのは十分 だった そんな耳まで真っ赤する唯を見つめるとリトは意地悪く笑いかける「へ~唯もエ ロくなったよな……前までは全然だったのに」 そう言いながらショーツの上から唯の秘所を指でなぞっていくリト唯は体をくね らせながらもリトの手を払いのけようと脚をバタつかせる 「ちょっとやめっ…やめなさい結城くん!こんなコト……」 「ふ~んじゃあもうやめるんだ……エッチ」 「え?」 ピタリと脚の動きを止める唯にリトはさらに意地悪く口を歪める 「どうするんだよ唯?」 「どう……するって…そんなこと……∕∕∕∕」 唯の反応を見ればどうしたいかは一目瞭然だったが、リトはあえて口には出さず 唯の返事を待つ (どうするって……そんなこと言えるワケないじゃない…) 唯の中でこの一ヶ月の思いが溢れる リトを思っては悶々と過ごす一人の時間、キスをされ抱きしめられる度に熱くな ってしまう体。リトの体を意識してしまいそれにドキドキとなる胸 ――――本当は結城くんに触れたいし、ハレンチなことだってしたい けれど唯の性格がそのことを許さなかった そして今日、初めてした自慰から今この瞬間まで唯の下腹部は自分でもわかるほ どに濡れている。リトに触られるために、リトを受け入れるために なにより唯自身がリトを求めて止まなかった だから唯は自分の気持ちを素直に言葉へと換えていく 自分にウソをリトにウソをつきたくはなかったから 「私……結城くんと離れたくないの…そばにいて欲しいの。だから……だから… 私結城くんとしたい…」 震える口でそう言いながらも唯はじっとリトを見つめていた 言葉以上のモノが宿ったソレは、リトの心の奥深くまで届く 「唯……」 「だからお願い……ってもうっそんなに私をイジメないでよ!」 「わ、悪い、悪かったって!だからそんなに睨むなよ」 ふいっと顔を背ける唯のご機嫌をとろうとリトは再びショーツの上から指を這わ していく 「…ッン、うぅ…」 リトが指を動かすたびに唯の秘所はくちゅくちゅと音をたてる もうすでにそこは、十分なほどに準備ができていた 「ゆ、結城くんあッ…ン」 指を上下に這わせるだけでショーツの染みは広がっていきリトの本能を煽る 「唯のココ、もうぐちょぐちょじゃん」 「言わないンっ、でよ…そんなこと…あッん」 ショーツの下から溢れる蜜が牝の匂いへと変わり部屋に満ちていく「はぁ…ん、 んッ」 もじもじと太ももを擦り合わせる唯へリトはさらに手を動かしていく 「脱がすぞコレ」 唯が首を振るとリトはするするとショーツを脱がしていく 薄暗い体育倉庫とは違う明るい部屋で見る唯の秘所 指でヒダを広げるとピンク色の肉壁が覗き膣内からとろりと愛液がこぼれてくる 「唯のココすごいキレイだ……」「い、言わないでよそんなこと∕∕∕∕ 」 顔を赤くする唯を尻目にリトは秘所へと口を近づける 近づいてくる熱く断続的な吐息に唯の下腹部はピクピクと反応を見せる 「やだっ…結城くんちょっと……」 リトがなにをしようとしているのか気づいた唯は抗議の声をあげるその声を無視 するかのように入り口に触れると、舌でヒダを押し広げながら中へ入ろうとする 「あッんん…ダメ、なのに……そんなところ…あッ…」 熱いざらついた感触に体をくねらせる唯 「んッ、ああっ…んんッ……ダ、メ…」 「唯の汁すげえおいしい……」 奥から溢れてくる愛液を舌ですくうとリトは口の中に入れていく じゅるじゅると卑猥な音をたて続けるリトをなんとかしようと体に力を入れるが 、気持ちよさが勝る今の状況ではそれもできない 「結城くん…音、たてないでよあッン…恥ずかしい…こんなこと…」 「こんなことっていうのは今してるハレンチなこと?」 リトはそう言うと舌を奥まで入れ膣内を掻き回していく 「あッ!んんッ……」 溢れてくる愛液を指で絡めるとその指で肉皮を剥いていく 赤く充血したクリトリスに愛液を塗ると指と指の間で擦りながら軽く摘み上げる 「んんッ、はあ…そこは、ダメぇ……ンぁ…」 舌で中を掻き回され、指でクリトリスを弄られる快感に唯は体を震わせてそれに 応える 「…ぃ…やぁ、んッ…おかしく…アソコが変になるっ」 リトは唯の腰を掴むとぐいっと引き寄せいっきに膣内を吸い上げる「あッあぁ… …んッん、ダ…メぇ結城くんっ……ああッ…」 唯はガクガクと下腹部を震わせると、次の瞬間体の力が抜けたようにぐったりと なる 「はぁ…はァ、んっ……はぁ…はぁ…」 「おまえがイくとこすごい可愛かった」 「ば、バカなこと言わないでよ……∕∕∕∕」 リトはそんな唯の頬にキスをするとズボンを脱ぎ去り勃起した肉棒を出す まだ小さく痙攣を繰り返す唯の脚を持ち上げると広げさせ さっき以上に濡れた割れ目に自分のモノを当てるとリトは唯に告げる 「それじゃあ入れるぞ」 「……うん」 唯は目を閉じてリトを待つ くちゅっと音をたてて入ってくる熱い肉質に、唯の形のいい眉毛が歪む どんなにリトが好きでソレを望んでいても、唯にとってはまだまだ不安や抵抗も 大きい 「ン…くぅ」 体を強張らせる唯の気持ちを落ち着かせようとリトは声をかける 「大丈夫か唯?」 「え、ええだから…このまま、お願い結城くんっ…」 唯はリトの首に腕に回して抱き寄せる。と、それに導かれる様にリトのモノも中 へ中へと入っていく「あァ…ン、っん」 二回目ということもあり、まだ半分しか挿入できていないのに唯の膣内はギュウ ギュウとリトを締め付ける 「ゆ、唯…もうちょっと力抜いてくれねえかな?じゃなきゃオレ…」 自分自身でいっぱいいっぱいな唯は、リトの言っている意味もわからずますます リトを抱き寄せる 「結城くん……」 「ちょ、ちょっと待てって!おまえ……や、ヤバっ…」 リトが唯から離れようと腕に力をいれるが、時すでに遅し 勢いよく飛び出した欲望は、唯の膣内を白く染め上げる 「ア…熱い……体の中になにか……ッ!?ゆ、結城くんあなたもしかして!?」 唯の言葉にビクンと体が震えるが止めることができない。射精の快感に逆らえな い 「ちょ、ちょっとダメ!中はダメっ!赤ちゃんが……」 リトは欲望を出し切ると唯の上にぐったりとなる 「ごめん……唯」 「……もう…」 唯の胸の中で荒い息を整えると、リトはその身を起こして唯を見つめる 「オレまだ唯としたいんだけどダメ?」 「……ダメって言ってもどうせ聞かないんでしょ?」 唯とリトはまだ繋がったままの状態、しかもリトの肉棒は唯の中で再び大きさを 取り戻していた 「うん…ってかもう我慢できねえよ」 唯の返事も待たずにリトは腰を動かしていく 「あっン…もうっ後でお説教だからっン……覚えていな、さいよ」その言葉に顔 が引きつるが今は目の前の快楽だ。なにより唯を独り占めしているという悦びが リトを突き動かす 途中で止まっていた肉棒がズブズブと奥へ奥へと入っていく 「ん、あァ…結城、くん…アア」先ほどとは違って滑りが良くなったとはいえ、 まだまだきつい膣内は唯自身も苦しめる 「い、痛ッ…んん…あッ!!」 「唯、平気か?」 「だい、大丈夫だからこのまま続けて……」 か細い声に胸が締め付けられるもリトは腰を静かに打ち付けていくゆっくりと入 ってくる感触に唯は自分の下腹部がゾワリと波打つのを感じる (入ってくる結城くんのが……私の中に…また、またあの時と同じ様に……) 唯の頭の中に体育倉庫で乱れた自分が甦る 「…ゆ、結城…くん私……」 そう言いながら唯はリトを見つめる 「結城くんの好きにして…結城くんのしたいように……私は大丈夫だから、ね? 」 熱のこもった声に濡れた瞳でそう言われてはリトも頷くしかない リトは唯の腰を掴むといっきに奥へと挿入する 腰を打ち付ける度に下になっている唯は喘ぎを漏らす。その顔は少しずつ淫靡さ が増していきリトの動きに激しさを与える 「あ、んッアァ……ッん」 突かれる度に揺れる胸を両手で揉みながらリトは口を近づけていく「唯、舌出し て」 「……ん」 小さな舌が外に現れるとリトは自分の舌を絡めながら、唯の唇を吸っていく 「んッ…あァ、ンちゅる……んっン…」 口に胸、膣と全身をリトに愛されている感覚に唯の頭はぼーっとなっていく (うれしい……私こんなに結城くんに求められて…やっぱり、やっぱりウソなん かじゃなかった……) 『オレがおまえのこと嫌いになると本気で思ってるのか?』 胸の中にリトの言葉が溢れ、唯はリトに抱きつくとその体をギュッと強くと強く 抱きしめる 「結城くん、結城くん……」 「唯…?」 リトは一瞬戸惑いの表情を浮かべるも、唯の細い腰に腕を回すと体を起こす 「え…ええ!?ちょ、ちょっと?」 リトの腰の上に座った状態の唯は事態が飲み込めず慌ててしまう 「大丈夫だって!ちょっと体位を変えただけだからさ」 「う……うん…」 少しずつ落ち着きを取り戻すと、唯は改めて間近にあるリトの顔を見つめる さっきまでとは違う形で正面にあるリトの顔が少し新鮮に映る 「それじゃあ動くな」 リトはそう言うと唯のお尻を掴んで腰を動かしていく ぐちゅぐちゅと卑猥な音をたてる結合部に顔を赤くしながら、唯は体に走る電気 の様な波にビクンビクンと反応する 下からの突き上げというこれまでにない感覚に体がそれを自然と求めようとする 「あ、ンア……ッすご、奥に…奥になにか当たって……ンッ」 「奥に当たってるんだ……じゃあもっと動いて欲しい?気持ちよくなりたい?」 唯はリトの胸の中で首を動かす 「それじゃあわからないよ。ちゃんとオレの目を見て言わないと」「……ゆ、結 城くんのがもっと欲しい…もっと……だから、お願いイジワルしないで」 泣き出しそうなほど顔を赤くさせる唯の唇へ貪るように吸いつくと、 リトは唾液の糸を引かせながら今度はぷるぷると震える胸へと舌を絡ませる 「…ゃ…あァ、んッ激しすぎ…」「おまえが望んだことだろ?」 乳首をしゃぶりなが問いかけてくるリトに唯はなにも言えなくなってしまう リトに身を任せ、快楽に心を支配されている今の自分には何も言う資格がないの かもしれない 今もリトの頭を両手を使って自分の胸に押し付けてしまっている ハレンチだと思いながらも必死に快楽を求めている自分を、リトはどう思ってい るのか 「唯すっげーカワイイ、声も仕草も反応も……みんなみんなオレだけの唯」 「うん、うん!私は結城くんだけのモノだから……結城くんだけの…」 唯の中の不安はリトの言葉によって消されていく 『オレだけの唯』 そう言ってくれるリトの気持ちも言葉も本当にうれしい 唯は自分の中の気持ちを表すようにリトをギュッと抱きしめる リトはそんな唯の気持ちもわからずに込み上げてくる射精感と戦っていた さっき一度出したとはいえそろそろ限界も近い。唯にそれを言おうと顔を向ける が、唯はさっきからギュッと抱きついて離れようとはしない (カワイイ……) そしてその唯の仕草が皮肉なコトにリトの脳髄を刺激させる (や、ヤバイ……そろそろなんとかしねえと…) 「あ、あのさ唯そろそろ……」 リトは唯の肩を掴んで離そうとする。するとそれに唯はリトの首に抱きついてま すます離れないようにする 「ちょ、ちょ、ちょっと唯…オレマジで……」 耳に直接当たる唯の喘ぎ声と熱い吐息が、胸に押し付けられるやわらかい胸の肉 感が、 さらにギューっと締め付ける膣内がリトの理性を根こそぎ奪い取ってしまう 「ご、ごめん唯っ!!オレもう……」 「え?」 リトの異変に気づいた唯が体を離すもすでに遅かった…… 荒い息を吐きながら膣から引き抜いた肉棒からは、絶え間なく白濁した欲望が吐 き出されれ、唯のお腹のまわりを白くさせる そしてそれ以上の量と濃さのモノがどろりと膣内から溢れる様子に、リトの背中 に冷や汗が落ちていく 「あ、あのさこれはその……不可抗力というかその……」 「……」 唯は黙ってこぼれる精液をティッシュで拭き取っていく 「そ、そんなことはオレがするから…」 リトは慌てて唯の手からティッシュを奪うと汚れを拭いていく その間もずっとなにも話さない唯にリトの心は凍える 「い、一応終わったけど……」 ビクビクとするリトへ唯は視線を向ける。その目は冷え切ったいつも以上にきつ い目だった 「……結城くん、私言ったわよね。中に出しちゃダメって」 「う、うん」 唯は子宮のあたりを手で擦る 「確かに私達は避妊なんてしてなかったけど、それでも気をつけるのがマナーで しょ?」 「うん…」 「とくに結城くんは男子なんだし、そういうことはちゃんとリードしなくちゃい けないと思うわ! なにより男子であるあなたが一番気をつけなきゃダメじゃない!!」 唯はリトにビシッと指を指しながら声を荒げる 「結城くんちゃんと反省してっ!!」 「ごめん……」 うな垂れるリトに唯の声が容赦なく突き刺さる 「だいたいちゃんとわかってるの?女の子の中に男の子のその……そのせ、精… 精……」 「唯?」 「と、とにかく今度からは気をつけて⁄⁄⁄⁄」 「えっ?今度って……よかったオレまた唯とできるんだ」 思わず浮かれて顔をにやけさせるリトへ唯の厳しい声が飛ぶ 「調子にのらないで!だいたい今日のコトだってこれでもし赤ちゃんができたら ……」 「そのことなんだけどさ……心配すんなよ」 リトのいつもとは違う少し真剣な声に唯は固まってしまう (な、なんなの?そんな急に真剣な声出して……) リトは一呼吸置くと今度は唯をじっと見つめる。その目に本気の思いを宿して 「ゆ、結城くん?ちょっとどうしたのよそんな顔…」 「オレ…オレさ、もし唯に赤ちゃんが出来たら…ってそうじゃないよなそれじゃ ダメだ。 ……オレおまえと離れたくない!ずっと一緒にいたい!だから……」 「……」 「赤ちゃんが出来ても出来なくてもオレが唯を幸せにするから……オレと…」 リトのいつにない熱のこもった思いに唯は釘付けになる じっと見つめる唯の目にさっきまでの冷たさはなく、今はただリトの言葉を気持 ちを聞き漏らしまいと耳を傾ける 「オレとなんなの?」 「オレと……」 ドクン、ドクンとリトの胸から鼓動が聞こえる様な気がする それは自分も同じだから。胸に手を置かなくてもわかる高鳴る胸と気持ち 言いたい言葉、聞きたい言葉が口に出さなくても伝わる不思議な感覚 気持ちがどんどん重なっていく――――― だけどそれでも聞きたい、ちゃんと言葉で伝えてほしいから 「唯、オレと一緒に……」 「うん……」 リトが次の言葉を言おうとしたその瞬間………… ガチャリとドアが開く 「二人ともいつまで部屋にいるのーご飯できたから早く…………」ほとんど全裸 に近い状態で見詰め合っていた二人がその声に固まる美柑はその光景に一瞬体を 硬直させるとくるりと背を向けドアを閉める 「お邪魔しました…」 「あ!おい美柑っ!!」 静止の声も聞かず階段を下りていく妹へリトの情けない声がこぼれる 「ああ…また変な弱みを……」 その後ろでいろんなコトで顔を赤くしている唯は、体を隠すのも忘れてぼーっと 床に座り込んでいた 制服のリボンを結んでいる唯の後姿を見ながら、リトは聞こえないように溜め息 を吐く (つ、疲れた……今日は一日いろんなコトがありすぎてオレもうダメかも) などとぼやいているリトの前にいつの間にか制服をきちんと着込んだ唯が立って いる 「なにしてるのよ?」 「ああ、いや別に…」 慌てて愛想笑いを浮かべるリトへ少し不振な目を向けるも、唯は長くキレイな髪 をなびかせてくるりと背中を向ける 「唯?」 「一週間に一度ならいいわ」 「え?」 「その…きょ、今日みたいなハレンチなコトをしてもいい日⁄⁄⁄ 」 リトは少し驚いた顔をすると、素直にうれしさを顔に出す 本当は毎日したいと思っていることだがそれは口には出さなかった。きっと唯は 自分なりに思案に思案を重ね、 限界以上に妥協して自分自身に言い聞かせたのだろうから なによりその唯の気持ちがリトにはうれしかった 「ありがとう唯」 唯を後ろから抱きしめる腕にも自然と熱がこもる 「うん……⁄⁄⁄」 リトの腕の中で唯は思う 本当はもっと聞きたいこと、話したいことはたくさんある さっきのことだって続きが聞きたい結城くんの口からちゃんと だけど、だけど―――― 今はこれでいい 今はこのぬくもりに包まれていたい 唯はリトの腕をキュッと掴むと顔をほころばさせる 焦らなくても私達なら大丈夫 そう信じる、そう信じている、そう信じていられるから 唯はリトの手を握り締めると下で待っているであろう美柑達の下へ向かった
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【名前】リュリュとララァ 【容姿】褐色肌の双子の少女たち 【願い事】お母さんを探す 【バッドエンド】略 【グッドエンド】略 【令呪】3/3 【HP】5/5 【筋力】A:5 【耐久】E:1 【敏捷】D:2 【魔力】E:1 【幸運】E:1 【スキル1】リュリュ:任意のタイミングで英雄点5点の乗騎「お守り」を召喚できる。 【スキル2】ララァ:自分のサーヴァントの最大HPを15増やす。 【その他】混沌・善 女 双子 【クラス】乗騎 【真名】お守り 【容姿】お母さんのお守り 【HP】5/5 【筋力】E:1 【耐久】E:1 【敏捷】E:1 【魔力】E:1 【幸運】E:1 【その他】
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「やだッ」 「あのなァ唯…」 「やだーッ!」 唯はそう言いながら、腕をブンブン振って自分の気持ちをアピールする リトは溜め息を吐いた ルンの持ってきたスカンクの影響で、唯を含め、ララや他の生徒の大半が幼児になってしまったのだ その上、元に戻るのに一日掛かると言われた 「唯。いい子だからおウチに帰ろ、な?」 リトは小さくなった唯と視線を合わせるため、膝を屈めると、やさしく話しかける けれど、その口調は完全に子供と話すもの 「やだ」 「頼むよ唯…」 唯はほっぺたを膨らますと、ムッとリトを睨む 「だ、だってこんなカッコ、家族になんて話ちたらいいのよッ!!?」 「そうだよなァ…」 リトは頭を抱えた。家の人に宇宙人の仕業でこうなった!なんて言っても信じてくれるはずがない 途方に暮れるリトの腕の中から、ララが身を乗り出す 「じゃー唯、ウチに来るといいよ!今日はお泊りしよ♪」 リトに抱っこされて、その声はうれしそうに弾んでいる その光景に唯の肩がぷるぷると震える 「ララさん!ゆーきくんから離れなさい!」 「えー!でも抱っこしてくれたのはリトだよ?」 ララを指差しながら唯は、じっとリトを見つめた。その目はゆらゆらと揺れている 「ホント?」 「か、階段上るの大変そーだったから、見かねてさ」 どこかギコチない笑みを浮かべるリトの態度に唯はキュッと手を握り締める 「うぅ…。唯にもそんなコトちてくれたことないのに……」 「えーっと……。唯?」 リトを睨む唯の目にうるうると涙が溢れ出す 「唯も…唯もちてもらってないのに……あーん、ゆーきくんが唯にイジワルするー!!」 リトは慌ててララを下に下ろすと、急いで唯を抱きしめる 「してない!してない!ッてか、そんな事するワケねーだろ?」 「うぅ…ひっく…」 リトは唯の頭を撫でながら必死に言い聞かせる 「誰もお前の事、イジワルなんてしてないよ!だから泣くなって!な?」 リトを見つめる大きな黒い目からは、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ出している 「ひッく…ホン…ト?」 「ああ!ウソなんてつかないよ。オレはいつだって唯の味方だから」 「う…ぅ…信じる…」 唯は小さくコクンとうなずいた その様子を黙って見ていたララは、リトの横から顔を覗かせる 「唯、今日一緒にお泊りできないの?」 少し、寂しそうなララの顔 唯は言葉に詰まるように目を彷徨わせると、助けを求めるようにリトの制服の袖を握る リトを見つめる唯の顔は不安でいっぱいだ。リトは、そんな唯の頭に手を置くとやさしく笑いかける 「お前の好きなようにすればいいよ。心配すんなって!オレがちゃんとそばにいてやるから」 唯はリトの腕に自分の小さな腕を絡ませると、ギュッとリトに抱きついた 「ゆーきくんと離れるのイヤなの!だからえっと…唯、ゆーきくんのおウチに行きたい」 「おかえりーって……え?」 帰ってきたリトを出迎えた美柑は、目の前の状況に口をぽかんとさせる 「た、ただいま」 苦笑いを浮かべるリトの隣には、小さくなったララ、そしてリトに抱っこされた唯 「……どーゆうコト?またララさんの発明?」 一人頭を混乱させている美柑に、とりあえず事の次第を説明するリトだった 「…ふ~ん。便利ってゆーか、迷惑ってゆーか…」 「あ!美柑も小さくなりたいの?」 明るくとんでもない事を言い出すララに、美柑は慌てて首を横に振る 「こ、これ以上、小さくなるなんてホント勘弁してッ。でも…まー、大きくなるケムリなら考えても…」 どこかまんざらでもない顔でララと話す美柑 その横で、唯は一人ソファーに座りながら、足をプラプラさせている リトが部屋に戻ってからすでに一時間あまり 唯のほっぺは、すっかり膨れてしまっている しきりに体をそわそわさせては、時計や部屋の入口を気にする唯 少しすると、ガチャリと扉を開けてリトが入ってくる 「あっ」 と、小さく呟いた唯は、ピョンとソファーから飛び下りた 「ゆーきくん、なにちてたの!?」 「へ?なにって服着替えてたんだよ」 ぶっきらぼうに応えるリトに唯のほっぺはますます膨れる 「遅い!」 「ああ。猿山と電話してたからな」 「うぅ…唯がいるのに…」 リトは唯の話しを遮るように美柑へと話しを向ける 「なあ、今日の夕メシなに?」 「えっと、今日は、唯さんいるから唯さんの好きなのにしようって思ってるんだけど…」 「ふ~ん」 リトはそう応えると、そのまま台所に向かった その素っ気ない態度に、唯は目を大きくさせると、うるるると涙を滲ませる そんな唯とリトを交合に見ながら、美柑は慌ててリトの後を追った 「ちょっとリト!」 「なんだよ?」 美柑はリトの顔をじっと見つめると、溜め息を吐いた 「だから何だよ!?」 「……リトあんた、唯さんのコト心配じゃないの?」 きょとんとするリトに美柑はますます溜め息を深くする 「あんたなんにもわかってないんだ!いい?唯さんは今、体が小さくなって、心も子供に戻ってるんだよ? 不安なの!怖いの!あんたのコト頼ってるの!そのあんたが、唯さんの気持ちに気付かなくてどーするのよ!!?」 かなりご立腹な美柑にリトはなにも言い返せない リトはそっとリビングを覗き見ると 、ララが一生懸命、唯をあやしていた 「ひっく…ゆーき、くんが…唯のコトぐすん…無視する…ひっく」 「よしよし、そんなコトないよ!リトならすぐ唯のそばに来てくれるよ」 そう言いながら、ララは何度も唯の頭を撫でる それでもぽろぽろとこぼれる涙は止らない そんな二人の姿がリトの胸にグサリと刺さる 後ろから聞こえてくる美柑の悪態を聞き流しながら、リトは急いで二人のそばに寄った 「あっリト」 リトはララと入れ替わると膝を屈め、唯と顔を合わせる 「ゴメンな唯!オレ、全然お前の気持ちに気付いてやれなくて」 唯はまだ泣いている。いつもの強気な態度が嘘の様に今は弱々しく儚げだ 「オレ、お前の事ちゃんと見てなかったな。ホントにゴメンな唯。これからはずっとお前と一緒にいるから」 「ひっく……ホ、ホント…に?」 その小さな小さな涙声に、リトは唯の頬を両手で包みながら力強く応える 「ホントだよ!ずっとお前といる!!」 「い…いつも?ずっと?ホン…ホント、に?」 リトの目をじっと見つめながら、確かめる様に何度も呟く唯 「いつも一緒にいるよ!だから、泣くのはもうやめような。目が真っ赤になっちゃうぞ」 リトはそう言うと指で唯の涙を拭っていく 「…う…うん」 唯は小さくうなずくと、何か言いたげにリトの目をじっと見つめる 「ん?まだ何かあるのか?」 「…ゆーきくん、女のコをあんまり泣ちたらダメなんだからね!」 「ゴ…ゴメン」 返す言葉のないリトは素直に謝るしかなかった そして、時刻は7時を廻り、四人は食卓を囲んでいた 今日は唯の好きなメニューという事で、テーブルの上にはご馳走がいっぱいだ ただし、そのほとんどの料理が子供サイズのミニになっている 「おいしー」 顔をニコニコさせてオムライスを口に運ぶ唯は、幸せそのものだ そして、その隣にはどこかうんざりしたリト さっきからしきりに溜め息を吐いてばかりだ 「もー勘弁してくれ…」 「リト。あんたが悪いんだからね!」 自業自得と言わんばかりにフンっと鼻を鳴らす美柑に、リトはますます肩を落とした あの後、リトは唯から正座させられた上、散々お説教を受けていた 小さくなっても唯は唯だなァと心の中で言いながら、 やっと解放されたリトを待っていたのは美柑からのお願いだった 急に人数が増えたため、冷蔵庫の中身が足りないというのだ リトは快く返事すると、買い物に行く仕度を始めた その後をついてくる唯とララ 「ん?すぐ帰ってくるからウチで待ってろよ」 「やだ!ゆーきくんと一緒にいる!」 「私も!」 じっと見上げてくる二人の小さな眼差しに、リトは仕方ないなァと仕度をするように促した しばらく玄関で待っていると、階段を下りてくる小さな足音にリトとララが振り返る 「お!」 「わ~」 二人の感嘆の声に恥ずかしそうに体をもじもじさせる唯 「私のちいさい時の服がまだあってよかった」 唯の隣にはどこか自慢気な美柑が立っている 「すご~い!美柑の服ピッタリだよ唯!」 唯はチラチラとリトを見ては、そわそわと体を揺らしている その顔はどこかほんのりと赤い 「リト」 美柑のなにか言いたげな視線にリトは慌てて口を開く 「え!ああ…えっと、似合ってるよ唯」 「あ…ありがと」 顔を赤く染めながら、急いでリトの隣を通り抜けると、いそいそとクツを履く唯 「じゃあ、後はよろしくね3人共!特にリト、あんたが一番ちゃーんとしなきゃダメよ!」 「わかってるって!」 それでも心配なのか、腰に手を当てて溜め息を吐く美柑を尻目に3人の準備は整った 「それじゃー、しゅっぱ~つ!!」 元気に手を上げるララを先頭に、3人の買い物が始まった 買い物と言っても、歩いて30分もかからない近所のデパート売り場に行くだけ リトは左手で唯と、右手でララと手を繋ぎながら、二人が転ばないようゆっくりと歩いていた 夕暮れの中、いつも通い慣れた道が、今日は何だか新鮮で懐かしく感じる (…そういや昔、こうやって美柑と手を繋いで、買い物行ってたっけなー) リトの胸には、昔懐かしい思い出が甦っていた そんなリトの思考を妨げるようにララがリトの手を引っ張る 「ねぇねぇ、リト」 「なんだよ?」 ララは満面の笑みを浮かべながら、リトを見上げている 「私、食べたいモノがあるんだけど……リトいい?」 「まァ、カネ余ったらな」 そんな二人のやりとりに、唯はつい声を大きくさせてしまう 「ちょっとララさん!ゆーきくんに迷惑かけちゃダメでしょ」 「む~でもリトがいいって…」 「ゆーきくんがそーゆっても迷惑かけちゃダメなのっ」 ララはリトに助けてもらおうと、その手をブンブン振る 「リトいいよね?ね?」 「ちょ…痛い!痛いって!わかった!わかったからやめろって!!」 その甘さというか、やさしさに、唯は頬をムッと膨らませた 「唯、お前も食べたい物とかあったら言っていいぞ。好きだろ?ケーキとか甘いもの」 「え?」 キョトンとする唯に、リトは屈託ない笑顔を見せる 「ゆ…唯は…」 (あれ?前にもこんなコトあったような…) いつもとは違う風景が、いつも以上に離れた身長が、いつもより大きいリトの手が、 唯にある人を、幼い頃の思い出を思い起こさせる 『はぁ?またケーキかよ!お前好きだなー。そーゆう甘いやつ』 そんな風に文句を言いながら、いつも一番大きいイチゴの乗ったケーキを譲ってくれた お兄ちゃん―――― 唯はリトの手をキュッと強く握り締めた 「ん?何だよ?」 「な、なんでもないの!」 唯はそう言うと、そのまま黙って下を向いてしまう (唯のヤツどーしたんだ?) リトの疑問をよそに3人は目的の場所に到着した デパートの中は、夕方の買い物客で溢れかえっていた 「ゆーきくん、ララさん、はぐれたりちたらダメだからね! もしはぐれたら、ちゃんと店員さんにゆわないとダメだからね!」 「は~い」 (なんか、遠足に来た先生と生徒みたいだな) 元気に手を上げて応えるララと、一人うんうんと頷く唯の姿にそう感じるリト 三人は買い物カゴを手に、美柑から渡されたメモを見ながら店内を回って行く 早速、お菓子コーナーに走って行こうとするララ リトの手伝いをしようと野菜に手を伸ばすも、小さくなっているため手が届かない唯 一生懸命背伸びをするも、バランスを崩して尻餅を付いてしまう とたんに涙ぐむ唯を必死にあやすリト 溢れかえる人の波の中、3人は順調に買い物を進めていた。ここまでは──── 「じゃ、次は…」 「あ!私、コレ取ってくる」 そう言うと一人走り出すララ 「おいララ!?…ったくあいつは…。唯、オレあいつ連れてくるからココにいろよ?」 「え…うん……」 お菓子の箱を手に聞いているのかいないのか曖昧な返事をする唯 どうやら、どれを選ぶか真剣に悩んでいる様だ そんな唯を残してリトはララ追いかけて行った お菓子コーナーの棚を前に、どれにしようか悩み続ける事、数分 「あ…れ…?」 気がつくといつの間にか二人の姿がない事に気付く唯 「ゆーきくん?ララさん?」 周りを見渡しても二人の姿はない 「もー、はぐれたらダメってゆったのに!まったく!どーちて唯のゆーこと聞けないのっ」 唯は一人怒り出すと、二人を探すため店内を歩き始める けれど、しばらく歩いても二人は見つからない。 どころか、思った以上に広い店内に、唯自身自分がどこにいるのかわからなくなってきていた 「あれ…?」 気持ちは次第に焦り始める 小さくなっているため、いつも以上に広く感じる店内。見渡せば知らない大人達ばかり 唯は、いつの間にか走り出していた 「ララさん、ゆーきくんどこ?ゆーきくん…ララさん…」 立ち止まってはキョロキョロと頭を巡らせ、めいっぱい背伸びをしては周りを見ることの繰り返し じっとしてなんていられなかった 寂しさと不安で押しつぶされそうな気持ちをなんとか奮い立たせていたのは、一つの約束 「ゆーきくんがいつも一緒にいてくれるって…」 唯は心の中で何度も二人の名前を呼び続ける 二人に会いたい。ゆーきくんに会いたいゆーきくんに―――― 『これからはずっとお前と一緒にいるから』 家でそう言って頭を撫でてくれた 『ホントだよ!ずっとお前といる!!』 何度も確かめたら、何度もそう言って応えてくれた 『いつも一緒にいるよ!』 そう言って約束してくれた 「ゆーきくん…ふぇ…ひっく、どこぉ…?唯を一人にちないで…ゆーきくん」 走り続けて痛くなった足は自然と止まってしまう 「ひっく…ゆーきくん……ゆーき、くん……」 一度こぼれた涙は止めることはできない 孤独と寂しさが唯の心を塗りつぶしていった ――約束したのに―― 「ゆーきくんが…いない…見つからないの…」 ――私を一人にしないって約束したのに―― 「ゆーき、くんがひっく…唯を一人にする…ゆーきくんが唯を…」 ――約束。結城くんが約束してくれたから私は―― 「一緒に、いりゅってゆったのに……あーん!!!」 声を上げて泣き出す唯に周囲の客達も反応しだす けれど、今の唯にそんなコトを気にしていられる余裕はなかった 「わーん、ゆーきくん、ゆーきくんどこーーっ!!」 その時、パニックになった唯の胸に、小さい頃の思い出が過ぎる そう小さい頃、こんな風に迷子になった時は絶対に――――― 『ったく、ホントにお前は泣き虫だな!』『いつまで泣いてんだよ?唯』 『ほら、ぐずぐずしてたら置いてくぞ!』『オレのそばから離れんなよ!』 『もう大丈夫だぞ唯。オレがついてるだろ?』 「あ…ぅ…お…にいちゃん…ぐす、ゆーきく…ひっくおにいちゃん…」 ぐちゃぐちゃになった気持ちは、リトと遊の姿を重ね合わせていく 一緒にいたのがリトなのか、遊なのか、唯はわからなくなっていた 「おにいちゃんどこぉ…唯、一人にちたらやだァ…」 そんな唯の顔に影が掛かる 「何してんの?」 「ひっぐ…へ?」 「ララ、そっちいたか?」 「ううん。リトは?」 リトは首を横に振ると、走ってきたララと合流する 「唯…どこにいったのかな?」 「ったく……はぐれちゃダメって言ったのお前だろ」 リトはもう一度手分けして探すようにララに伝えると、再び走り出した 「唯…どこにいるんだよ……」 スラリと背の高いその面影に唯は見覚えがあった。家で毎日見ている顔だ 「ひっく…ぐす…お、おにい…ちゃん……?」 小さな声でそう呟く唯。その視線に合わせるように、遊は膝を屈める 「こんなとこで、子供が一人で何やってんの?」 「え…ぁ…え…っと…」 (ど、どーちよう……おにいちゃんだ…。こんな姿なんて説明ちたら…) 目に涙をいっぱい溜めながら、おろおろする唯を不思議そうに見つめる遊 「なんだよ…。別にオレ、キミの事イジメてるつもりじゃないんだけどな」 少し困ったように笑う遊に、唯はますますどうしていいのかわからなくなってしまう (ど、どーちよう……どーちたら……うぅ…) 「クソ!何やってんだよオレ…」 家を出るとき美柑から言われた言葉が、頭を過ぎる 『特にリト、あんたが一番ちゃーんとしなきゃダメよ!』 わかってる、わかってたはずなのに―――― ずっと一緒にいるって約束したのに―――― 「もし…もしあいつに何かあったらオレ…」 不安と後悔の中、エスカレーターを降りたその時、リトの目にある光景が飛び込んでくる 「まーとりあえず、お母さん探しに行くか」 遊は立ち上げると、唯の頭に手を置こうとした その時―――― 「やめろ!!!そのコから離れろっ!!」 「え?」 「あぁー?」 リトは全力で走ってくると、二人の間に割り込む 「大丈夫か?」 「え…う、うん」 唯を後ろに庇いながら、キッと遊を睨みつける (って、でけー……。おまけに強そうだし…) (…こいつ確か唯の…) リトはギュッと手を握り締めると、後ろ手で唯の頭を撫でた 大丈夫だよ。心配するなと言うように リトの手は震えていた。震える足でそれでも自分を守ろうとするその顔を、唯はじっと見上げた 「このコに何の用だよ?」 「別に」 二人の様子にニヤニヤと笑みを浮かべる遊は、どこか楽しそうだ 「別にって…さっき何かしようとしてたじゃねーか!」 「ち、違うの!そーじゃないの!唯のお話ち聞いて」 「え?」 ズボンを引っ張りながら小さな声で話す唯にリトは振り返った 「違うって何が?」 「だから、違うの!そのひとは、唯のコト助けてくれようとちてたの…」 「え…」 唯から事情を聞いたリトは、びっくりして慌てて遊に謝った 申し訳なさそうにペコリと頭を下げるリト 遊はリトに近づくとニッと口元に笑みを浮かべる 「いいって!それよりお前、結城リトだろ?」 「え…?」 初対面の人にいきなり名前を呼ばれ訳がわからないリト そんなリトの頭から爪先まで遊はジロジロと見る 遊がリトを見たのは一度だけ。唯の手を引いて街中を走って逃げている時だ (ふ~ん…。あの時は、チラっとしか顔見てねーけど、こいつが唯が毎日言ってる…) 一人ニヤニヤしている兄の顔を、唯はリトの影に隠れながら心配そうに見ていた (…おにいちゃん、ヘンなコトゆったらダメだからね…) 「あ、あのオレとどこかで…」 遊に事情を聞こうとした時、店の反対側から元気な声が響いてくる 「リト~、唯見つか…」 慌てて走ってきたララは、状況がわからず目をぱちぱちさせる 「どーしたの?」 「えーっと…何て言えばいいか…」 説明に困るリトの傍らを抜けて、遊はララの前に屈みこむ 「あ!初めまして♪リトの友達の人」 「おう」 にっこりと微笑むララに、愛想よく笑いかける遊 「すげーカワイイ子じゃん!お前の妹か?」 突然話しをフられたリトは説明に困ってしまい その間にララの自己紹介が始まってしまう 「私、ララ=サタリン=デビルークって言うの!お兄さんは?」 「ララ…サタリン何だって?って外人か!?この子?」 ララの素性に怪訝な顔をする遊に、リトは慌ててフォローをいれる 「え、えっとこ、このコは外国のコで、今ウチにホームステイに来てるってゆーか…」 「ふ~ん…」 遊はそれだけ言うと、ララの頭に手を置いてよしよしと撫でる 「オレの妹もこれだけ素直で明るいヤツだったら可愛かったのになァ どこを間違えたら、あんなカタイだけのうるさいヤツになっちまうのか…」 本気でうんざりした口調で話す遊に、唯は顔をムッとさせる 「まー、ララちゃんの可愛さには誰も敵わないだろうけどなァ」 「エヘヘ」 くすぐったそうに笑うララと笑みを交わす遊 その時、遊の傍らに派手目の服を着た女が現れる 「どーしたの?ゆうちゃん」 「ん?何でもねーよ」 遊はもう一度ララの頭を撫でると、立ち上がる 「じゃ、またな。結城くんとララちゃんとそれから…」 遊の視線から逃げるようにリトの後ろに隠れる唯 その仕草に遊はクスっと笑う (うぅ…おにいちゃん早くいってよ) 遊はリトと唯に意味深な視線を向けると、彼女を連れて立ち去った 「何だったんだ?あの人…」 リトの隣では、元気にバイバイと手を振るララと、心から安堵の溜め息を吐く唯 「ゆうちゃん、さっきの子達なんなの?知ってるの?」 「ん?まーちょっとな…」 そう呟くと遊は後ろを振り返った 後ろでは早速、中々こなかったリトに怒る唯とそれにうなだれるリトの姿 「…ったく、なんでそーなってんのか知らねーけど、ちゃんと守ってもらってるじゃん!唯のヤツ」 そんな二人の様子に遊はクスっと笑った あの後、唯から散々怒られたリトは、ご機嫌取りの意味も込めて、唯の食べたい物や欲しい物を見て回っていた その中に、いつの間にかララの分も含まれている事に、リトは悲しい溜め息を吐く 「ねェ、唯」 「ん?」 アイスクリームを食べながら唯が振り返る 「さっきのコトまだ怒ってるの?」 「え…べ、別に…」 唯は前を歩くリトの背中にチラリと視線をやる 正直、リトへは怒りよりも、ごめんなさいの気持ちの方が大きい だって、あんなにはっきり注意してって言ったのは自分だし、それにはぐれたのは自分のせいだし (来るの遅かったけど…) 先頭を歩くリトは、心なしかしょんぼりとしている そんなリトの姿に、唯の小さな胸の中は、ぐるぐると回っていた 少しリトにきつく言いすぎてしまった事 はぐれた時、リトではなく遊の事を考えてしまった事への負い目 唯の中の遊の存在は大きい。それは小さい頃からの影響が濃かった 小さい時、いつも一緒にいて守ってくれてたのは遊 いつも文句を言っていたけれど、最後は自分のそばにいてくれて、そしていつも味方になってくれて (おにいちゃんは大切だけど…) だけど、唯の中のリトの存在はそれ以上だ (…唯、ホントはゆーきくんに来てほちかったのになァ) 唯は足を速めると、リトの隣に並ぶ 「ん?何だよ?他に欲しい物とか…」 アイスクリームを舐めながら、黙ってリトの手を握る唯 「どしたんだ?」 「…別に」 ぼそっと話す唯は、ツンとリトから顔を背ける けれど、リトの手を握りしめるその手は離さない 「まだ怒ってんのか?」 「……」 唯は少しん~っと難しい顔をすると、リトにアイスクリームをすっと差し出した 「は、半分ずつ」 「え?」 「ゆーきくんと半分こ。い、一緒に食べたい…から」 不安そうに、心配そうに、リトを見つめるその目は泳いでいる 「…じゃ、半分こな」 リトはクスっと笑うと、アイスクリームを一口舐めた 「お!うまいじゃん!ココのアイス」 「うん」 リトの反応に唯に笑顔がこぼれる 「ゴメンな唯」 「…も、もういいの!許ちてあげる」 唯はリトから顔をふいっと背けるとアイスクリームを一口舐める 「そのかわり…」 「そのかわり?」 「ゆ、唯のコトもう離ちたらダメだからね!ゼッタイ、ゼッタイ、離ちたらダメだからね!!」 リトへの想いの強さを表すように、その手に力をこめる唯 「も、もち離ちちゃったらその時は、ゆーきくんが一番に唯のところに来なきゃダメだからね!」 「唯…」 「ゼッタイダメなんだから…。だってだって唯は、ゆーきくんの彼女なんだから」 ほっぺをサクラ色に染めて、少し誇らしげにそう呟く唯 リトは返事の意味を込めて唯の頭を撫でようとした時、二人から離れていたララが戻って来た その両手に抱えきれないほどのお菓子やケーキを持って 「お前…それ……」 「えへへ、向こうにあったの!おいしそーでしょ♪」 笑顔でそう話すララに、リトの目は点になる 「あ…おいちそう」 隣で同じように顔をほころばせる唯の様子に、溜め息を吐きながら全部買う覚悟を決めるリトだった そして時間は戻り、夕食後 「食べ切れなかった物はみんなウチに持って帰ったらいいからね」 「ありがとー」 お菓子や、ケーキをタッパに入れる美柑の横で、唯は顔をほころばせている 唯がケーキや甘い物に目がない事は、付き合う前からわかっていたとは言え 今日、スッカラカンになった財布を手に、改めてその事実が身に染みたリトだった (普段は全然食わねークセして、なんでケーキとかはあんなに食うんだよ…) 女の子の不思議に一人心の中で愚痴っているリトを、後ろからララが抱きしめる 「リト、今日は一緒におフロ入ろ♪」 とたんに唯の顔つきが変わる 「ちょ、ちょっと待て!何言ってたんだお前…」 「ゆーきくん、どーゆうコト?」 いつの間にかリトのそばに来ている唯の目はすでに険しい 「こ、これは…」 「ゆーきくん、唯のいないところでララさんとおフロに入ってるの?」 「違…そんなワケねーだろ!今日はララのヤツが…」 慌てて言い訳を始めるリトの様子に、美柑は仕方ないと言った顔でフォローを入れる 「リトはいつも、ちゃーんと一人でおフロに入ってるから心配しないで!唯さん」 それでも唯の気持ちは治まらない 「信じろって!って、お前もなんか言えよ!ララ」 「む~…今日は小さくなったから入れると思ったのになー…」 残念そうに呟くララにリトは勘弁してくれと肩を落とした 「まーまー、で、今日のおフロどーするの?」 「え…」 「まさかこんな小さい子を一人で入れるワケないよねェ……リト?」 意味深な視線を投げかける美柑に、リトは唯を見つめた 「えっと……一緒に入る?」 「へ…」 リトを見上げたまま固まる唯 (ゆ、ゆーきくんとおフロに入る…) 体を密着させたり、泡だらけになって洗いっこしたり 唯の頭の中に、よからぬ妄想が飛び交う 「唯さん、リトに体とか洗ってもらうといいよ」 「ねェ、美柑もリトとおフロに入ってたの?」 思ってもいなかったララの言葉に、今度は美柑が石の様に固まる 「昔な。あ~…そーいや、最後にこいつとフロ入ったのっていつだったけっなァ」 遠い目で思い出そうとするリトの口を、美柑は慌てて塞ごうとする 「ちょ…ちょっとリト!?」 「……確か小4の冬だっけ?怖いテレビ見たから一人で入れない~とか言って」 「リトッ!!!?」 へ~♪っと顔を輝かせるララに、勝手な事を言い出すリトに怒る美柑 そんな3人の様子を唯はぼーっと見ていた (美柑さんが、ゆーきくんとおフロに入ってたのは4年生の時…。唯は…) 小さい時はよく遊とお風呂に入っていた唯 その時はよく頭を洗ってくれたり、おフロに入りながら遊んでくれたりしてたっけ 唯も遠い昔を思い出していた チラリとリトの顔を見る (唯の髪、ゆーきくんあらってくれるかな?唯、ゆーきくんに…) リトに褒められた自慢の髪 (いっしょに入るのはハレンチなコトだけど…) だけどリトを想う気持ちが上回る (やっぱり唯、ゆーきくんとおフロ入りたい) 唯はリトの隣にぴったりとくっ付いた 「ん?何だよ?」 「……」 赤くなっている顔を見られないように、リトと目を合わせない唯 そんな唯の頭にリトはポンと手を置いた 「一緒にフロ入る?」 「へっ」 思わずリトの顔をまじまじと見つめる唯 その様子にリトはクスクス笑った (あの時のアイツとおんなじだな) 怖いとも一緒に入ってとも言わず、ただずっと自分の手を握り締めていた小さな妹の手 「一緒にはいろっか?」 「う…うん。で、でも今日だけ、今日だけとくべちゅだからね!」 リトは笑いながら唯の髪をくしゃくしゃと撫でた 結局、唯とリト、ララと美柑が一緒に入る事に決まったのだが―――― (さ、さっきはあんなコトゆったけど…) 脱衣所でボタンを外しながら、唯はいろいろ考えていた (ゆーきくんとおフロ…ゆーきくんとおフロ…) 考えれば考えるほど、顔がぽわぁ~っと熱くなる (やっぱり恥ずかちい…) 服を脱ぐ手を止めると、隣にいるリトをじっと睨む唯 「な、何?」 じーっと見つめるその視線だけで、何が言いたいのか痛いほどわかってしまう 「…ゆーきくん、唯の裸見たらダメだからね!ちゃんとわかってるの!?」 「わ、わかってるって!」 それでもむぅ~っと睨む唯にリトは気のない笑みを浮かべるしかない 「…さきに唯が入るから、ゆーきくんは、唯がいいってゆーまで入っちゃダメだからね!」 「はいはい。わかったわかった」 唯は服を脱ぐとタオルで体を隠しながら風呂場に入っていった 中に入る時、後ろを振り返り、釘を刺す様にリトを睨む唯 「一緒に入りたいとか、見ちゃダメとか…ったく、オレにどーしろっつーんだよ」 くもりガラスの向こうに見える小さな体にリトは溜め息を吐くしかなかった それからすこしして 「ゆーきくん入ってきて」 (自分のウチのフロなのに何やってんだオレ…) 心の中で愚痴りながらも遠慮がちに中に入るリト 唯は湯舟の中でリトに背中を向けながら待っている 「熱くないか?」 「す、少ちだけ…」 お湯のせいか唯の頬はほんのりと赤くなっている 「オレも一緒に入っていい?」 唯は何も言わずコクンと首を振る リトが湯舟の中に入ってくるのを感じると、ますます隅に行き体を隠す唯 「別にそんなに隠れる事ないだろ?」 「な、なにゆってるの!?こんなのホントはハレンチなコトなんだからね!」 「オレとフロ入るのそんなに嫌?」 「そ、そんなコト…」 唯は目を彷徨わせると、ゆっくりとリトに体を向ける 「ホ、ホントはこんなコトちないんだから!きょ、今日はとくべちゅなだけだからね!」 「わかってるよ!けど、たまにはこーやって一緒にフロ入るのもいいだろ?」 「…うぅ…と、ときどきだったら許ちてあげる」 赤くなった顔を隠すように俯きながらぼそぼそ話す唯 そんな唯の仕草にリトはクスクスと笑う 「どーちて笑うの?」 「ゴメンゴメン。お前が可愛くてさ」 その言葉に唯の顔はリンゴの様に赤くなる 「カ…カ…カワ……」 唯は突然その場で立ち上げると、逃げるように浴槽から出ようとする 「どーしたんだ?」 「…か、体あらうだけだからほっといて!」 なんだか少し怒ってる様子な唯。けれど、イスに座って鏡に写るその顔は真っ赤になっていて 鏡に映るリトと目が合うと、唯は慌てたように目をそらした (もしかして照れてんのか?) リトはそんな唯の後姿に笑みを深くした 一方、鏡の前の唯は大変な事になっていた (もぉ…ゆーきくんは…) リトの「カワイイ」とか「好き」といった言葉にとても弱い唯 それは小さくなってもまったく変わらず、頭の中は悶々となっていた とりあえず頭を洗おうとシャンプーを手に取る唯 リトはその後姿に心配そうに尋ねる 「一人でできるか?」 「へ、へーき!」 鏡の中で当然と頷くと、唯は手にシャンプーを付け始める (ホントに大丈夫か…) 唯が毎日髪の手入れをがんばっている事も、それにこだわっている事も、リトはみんな知っている だけど、それを最初から出来たはずはなくて──── 「あれ…?」 頭に付けたシャンプーを洗い落とそうと蛇口に手を伸ばすも、どこにあるのかわからない 目を瞑っている状態と、いつもと勝手が違うシャワーの位置に、唯は一人あたふたしてしまう 少しするとシャワーから出たお湯が唯の体を濡らした 「ほら、これでいいのか?」 耳元で聞こえるリトの声と、突然のシャワーに唯はびっくりしてしまう 「ゆ、ゆーきくん!?」 「やっぱ一人じゃムリだろ?オレが洗ってやるよ」 リトは手にトリートメントを付けると、唯の頭に馴染ませていく 「あ、あ…」 「けどオレ、いつもどーやってお前が髪洗ってるか知らないから、ちゃんと教えてくれよな?」 何か言いたげな唯をリトの声が遮る 唯はまだゴニョゴニョと何か言おうとするが、しばらくするとコクンと首を振った 「ゆ、ゆーきくんにお願いするけど、ちゃんとちてね!」 「任せとけって!」 そして、髪を馴染ませる事、数分 洗い終わった唯の姿にリトは満足そうに頷く 「よし!これでいいんだろ?」 「うん」 「にしても、お前、毎日よくこんな手間のかかる事できるなァ?」 唯は鏡の中のリトから視線をそらす 「だって…ゆーきくんが唯の髪好きってゆーから唯…」 「え?」 「な、なんでもないの!」 「ふ~ん。で、体はどーするんだ?一人できる?」 「え?…あ」 唯は体をもじもじさせると、恥ずかしそうに俯く 「…ゆ…ゆーきくんにしてほちい…」 リトはクスっと笑うと、スポンジにボディソープを付けていく 普段の唯なら中々聞けない言葉が少しうれしかった 「じゃ、背中から洗っていくな?」 「…うん」 唯の声は小さい。心なしか体が火照っている (それにしても小さいなァ) 背中を洗いながらリトは今さらながらそう感じてしまう いつもと違う広さと肌触り (ヤバイなオレ…) ふつふつ湧き上がるモノに堪えるリト 「…ゆーきくん。背中ばっかちいたい…」 「え!?あ…ゴメン」 リトは手を止めると慌てて唯の前に座る 「じゃ、じゃあ今度は前な」 「……」 無言の唯にリトは怪訝な顔をする 「どーし…」 「ゆーきくん、ジロジロ見たりちたらダメだからね!」 真っ赤になりながら釘を刺されたリトはその場でうな垂れた リトは極力体を見ないようにするが、それではうまく洗えるはずもなく チラチラと覗き見るように、なんとか手を進めていた 唯はさっきから真っ赤になったままそっぽを向いている どうやらかなり恥ずかしい様で、小さく体が震えていた 「心配しなくても大丈夫だって!」 「い、いいの!唯のコトより体あらってほちいの!」 リトは苦笑すると、洗い終わった腋から胸へと手を移動させ、そこで固まった (ペ、ペッタンコ!!?) 当たり前だが今の唯は小さくなっているワケで、当然胸も年相応になっている 「どーちたの?」 「何でもねーよ!何でも!…ハハ」 笑って誤魔化すも目は胸から離れない ちっとも膨らんでいない胸にさくら色をした可愛い乳首 いつものあの形のいいキレイな胸とのギャップにリトは見とれてしまう ゴクリと唾が喉に落ちていく (ってオレ、何考えてんだ!?) リトは急いで胸の周りを洗うと、次に脚を洗っていく 華奢で折れそうなほど細い脚なのに、白くてすべすべした太ももや足に胸が高鳴る 目も自然と太ももの間、唯の大事なところにいってしまう (ヤ…ヤバイ!これはヤバイ!) 急に洗うスピードが上がったリトを唯は不思議そうに見ている 「ゆーきくん?」 「な、何でもない!何でも!気にすんな!」 「う、うん」 幼い純真な視線がやけに痛い。いつもならハレンチな!で吹っ飛ばされるはずが、今日はそれもない リトはバクバクと鳴り続ける心臓に急かされるように、シャワーで泡を洗い流していった 「と、とりあえずこれで終了な」 「ありがと」 恥ずかしさとうれしさが入り混じった唯の表情が今のリトにはとても痛く感じた そのまま湯舟に戻ろうとするリトの手を唯はキュッと掴む 「へ?」 「ゆーきくんは洗わないの?」 「オレ?」 唯は頷くと、モジモジと指を絡ませる 「きょ、今日は唯があらってあげてもいい…かな。さ、さっきのお礼…」 恥ずかしさで体を揺らせながら、それでも頑張って話す唯にリトの胸は一瞬でとろける さっきまでの焦りなんて忘却の彼方だ リトは満面の笑みを浮かべると、イスに座った 「じゃあお願いします」 「うん」 力を込めて一生懸命ゴシゴシと背中を洗う唯に、リトはぼーっとなってしまう くすぐったい感触すらある洗い方が妙に居心地がいい そのクセになりそうな感触にリトは少しお願いしてみる 「なあ、元に戻っても、たまにはこんな風に洗ってくれないかな?」 「どーちて?」 「なんかすげーうれしいから!」 唯はスポンジの動きを止めた 「……ゆ、ゆーきくんが、唯のゆーことちゃんと聞いてくれたら考えてもいいかな」 「ホントに!?」 「う、うん。でもちゃんと聞かないとダメだからね!あと、ホントにときどきだからね!」 赤くなりながら何度も「時々だったら」と強調する唯 リトはうれしそうに頷くと、幸せの中に戻っていった 「今度は前を向いて」 「え!?ま、前はいいって!オレ、自分でするから」 赤くなりながらしどろもどろになるリトに、唯は頬を膨らませる 「だって、ゆーきくんも唯の体あらってくれたじゃない!唯だけふこーへーでしょ!?」 「不公平って……そういう問題じゃ…」 なんて言ってみるが、一歩も引きそうもないその視線にリトはしぶしぶお願いした (昔からガンコだったんだなー) もはや洗ってくれたお礼とかよりも、やり始めた責任と、中途半端は許せない気持ちだけで洗っている唯 そんな唯に苦笑を浮かべつつも、リトはさっきから気になっている事を尋ねる 「あのさ」 「今、いそがちいから後!」 「いや…その…いいのか?丸見えんなんだけど。いろいろ…」 上から下までジロジロと見ているリトの視線に唯の体が固まる 洗うのに夢中で、体を隠していたタオルが外れていた事にまるで気付かなかった 「み、見ちゃダメーー!!」 唯は真っ赤になってしゃがみ込むと、腕で体を隠す リトが差し出すタオルを手に取ると、後ろを向きながらいそいそと体に巻いていく (やっぱいろいろ違うんだァ) その愛らしい後姿を見ているだけで、なんだか抱きしめたくなる衝動に駆られる 「どーちてニヤニヤちてるの?」 良からぬ妄想をしていたため、唯がこっちに振り返っていた事に気付かなかったリト 「ヘンなコト考えたらダメだからね!!」 「へ、ヘンなコトって!?」 「…ハ、ハレンチなコト」 俯きながらぼそぼそ話す唯は、リトのソレをチラチラ見ている 「へ?」 リトは自分のモノを見て絶句した 見事なまでに反応し、反り返っている大事なモノ (ちょ…コレはシャレになんねーーー!!) リトは慌ててタオルで前を隠すと、苦笑いを浮かべる その態度に唯はますます顔を赤くさせた 「も、もーいいからさ!後はオレが…」 「最後までする!」 唯は赤くなりながらもムッとリトを見つめた 「だって、するってゆったの唯だもん。だから責任あるの!」 「せ、責任って…」 「いいの!」 唯はリトからタオルを奪い取ると、ゴシゴシ洗い始める どんどん泡塗れになっていくリト。少しすると唯の手がリトの大事なところにかかる 「あ、あのさ、ムリしなくても…その大丈夫か?いろいろ…」 「だ、だ、だいじょーぶ!コレぐらいへーきなの!」 そう言いつつも、その顔は沸騰寸前だ 見ないように、触らないようにそーっとそーっと洗っていく唯 (何かすげー罪悪感…) 彼女とはいえ、幼い女の子にさせていい事じゃないと改めて痛感するリト けれど、一生懸命洗ってくれる姿にうれしくなるのも事実 小さくて、相変わらず素直じゃなくて、怒りっぽくて そして、少し泣き虫になっていて 小さな唯は、普段の唯と少し違うけれど、やっぱり唯は唯だと感じる (子供ができたらこんな感じかな…) 頭に過ぎる妄想に、つい顔がにやけてしまうリト 脚を洗い終わると、シャワーでキレイに泡まで落としてくれる唯に、リトは笑みを深くした 「ありがとな唯」 「べ、別に唯はお礼ちたかっただけで…」 モジモジと体を揺らす唯に、リトはお礼の意味を込めて、その赤くなっている頬にキスをした 「あ…!!?」 可愛いほっぺをさくら色に染める唯 「オレもお礼な」 にっこり笑うリトに唯は何も言えず、ただぼーっとキスの余韻に浸っていた 「大丈夫か?」 「うん!」 浴槽で滑らないように、唯を抱っこして湯舟に入るリト 湯舟に戻ってもさっきまでとは違い、二人の距離はずっと縮まっている 唯はなんだかとっても上機嫌だ そんな唯の様子に、リトはさっき感じた想いをついこぼしてしまう 「やっぱ子供できたらこんな感じなのかなァ」 天井を見ながらしみじみとそう呟くリト 「え…?」 唯は小さな眉を目一杯寄せると、不思議そうな顔をする 「お前と結婚して子供できたら、こんな風に一緒にフロとか入ったりするのかなって思ってさ」 「ケ、ケッコン…」 リトは浴槽にもたれていた体を起こすと、照れくさそうに頬を指で掻いた 「まー、全部オレの妄想なんだけどな…ハハ」 苦笑いを浮かべるリト。けれど唯は、そんなリトをじっと見つめていた 「聞きたい」 「え?」 「もっと聞きたい!つづき聞かせて!」 「続きって……だからオレの妄想だって…」 「聞きたいのっ」 リトをじっと見つめるその小さな目は、どこまでも純粋で真剣だ 「…笑うなよ」 リトは唯から視線をそらすと、小さな声で恥ずかしそうに話す 「今日、小さくなったお前とずっと一緒にいて思ったんだ。もし、お前と結婚して子供できたら、 今日みたいに買い物行ったり、誰とフロ入るとか決めたりするのかなって」 「子供……唯とゆーきくんの子供…」 唯は噛み締めるように何度もそう呟く 「で、そんなコト考えてたら、なんかすげー幸せかなって思ってさ」 「……ゆーきくんとケッコン…」 さっきから一人ぶつぶつと呟いてばかり唯に、リトは半眼で睨む 「ってお前なー…なんか言えよ!こんなコト一人で言ってるオレが恥ずかしいだろ?」 唯は目をぱちぱちさせると、じっとリトの目を見た 「何だよ?」 「唯、ゆーきくんの未来にずっといるの?」 リトを見つめるその目には、不安と期待、驚きと切望とが入り混じっている 「いるの?」 「…当たり前だろ」 少し驚いたように目を丸くしている唯に、リトは微笑んだ 「オレはずっとお前と一緒にいたいって思ってるんだけどな」 「…唯がおばーちゃんになっても?」 「ああ。けど、そん時は、オレもじいちゃんになってるけどな。お前はじいちゃんになったオレと一緒にいたい?」 「そんなコト当たり前でしょっ」 小さな体に精一杯の意思を宿し、唯は力強く応える 「そっか」 にっこり微笑むリト。唯は少し悩むように俯くと、リトの前まで行き、そこで正座した すると湯舟に顔が浸かってしまい、息をするどころか、溺れてしまう唯 「あ…っぷ…」 「何やってんだよ!?今は小さいんだから気をつけろって!」 リトに起こされながら、唯は何度も咳をする 「ケホケホ…」 「大丈夫かよ?ったく…」 「お湯…すこち飲んだ」 「ええ!?」 びっくりしたリトは、唯を抱っこすると背中をさする 「コホコホ…」 「ほら、楽になったか?」 少し目をうるうるさせながら頷く唯 「お前なァもうちょっと…」 「だって唯、ゆーきくんに大切なお話ちがあるから…」 「大切な話し?」 唯はリトの膝の上で体を捩ると、まっすぐにリトと向き合う 「あ、あのね、ゆーきくん。唯とケッコンするなら一つだけ、約束ちてほちいコトがあるの!」 「約束…?」 「うん」 リトの肩を掴むその小さな手に、キュッと力が入る 「えっと…唯以外のコとハレンチなコトちないでほちいの!」 リトは目を丸くした。それはつまり、浮気をしないで!という事と同じだ そんな当たり前の事をどうして?と思いながらもリトは口には出せなかった 唯の目が真剣そのものだったから 不安等いろんな感情を宿しながら、それでもリトを見る目は揺るがない リトはその想いに応えるように、力強く頷く 「わかった。約束するよ」 とたんに輝く唯の笑顔。リトもその笑顔につられるように笑みを浮かべる 「あとね…」 「え?まだあるのか?」 唯はリトの質問を聞いていないのか、どんどん約束の数を増やしていく 「他のコをジロジロ見たりちたらダメだからね!」 「え…あ、ああ」 「唯より他のコのコト、好きなったら許さないんだから!」 「そりゃ当たり前…」 「唯に悲ちい思いさせちゃダメだからね!」 「き、気をつけるよ」 「ゆーきくんは唯より先にいなくなっちゃダメ!唯とずーっとずーっと一緒にいなきゃダメだからね…」 次第に声のトーンが下がっていく 最後のは約束というより、お願いに聞こえた それもとても大切で切実な想いがこもったお願いに リトを見つめるその目は少し潤んでいる 「ゼッタイ…ゼッタイ…いなくなっちゃダメだからね…」 リトは唯の頭に手を置くと、やさしく撫でる。何度も何度も 「わかったから…だから泣くなよな」 「だって…ゆーきくん、唯のゆーこと全然聞いてくれない」 「う…」 今日一日の出来事、今までの出来事を思い出し、リトは苦い顔になる 「そ、それは…」 「いっつも怒らちてばかり…いっつも困らせてばかり…いっつも…」 「わわ、悪かったって!だから、そんなに泣くなよな!」 唯は拗ねたように俯くと、頭を撫でるリトの手の間から、その顔を上目遣いで見つめた リトは相変わらず困った顔をしている 泣いてしまった自分をどうしていいのかわからないみたいだし うまく言葉が出てこないのか、さっきから目も泳いでいる (ゆーきくん、カッコ悪い…) 唯は素直にそう思ってしまった (こーゆー時は、もっとカッコよくいてほちいのになァ) 心の中で、そう愚痴る唯 けれど、やっぱりリトの事が大好きで仕方がないと感じる 今だって胸はドキドキしてるし、顔だってなんだか熱い ダメだと思うところはあっても嫌いなところなんて一つもない 唯は膝の上でじっとリトの顔を見つめた (もっと約束…お願いちてもいいのかな…) 唯は目をゴシゴシして、涙を拭く 「あ…あのね、まだ約束ちたいコトがあるの」 「え!?まだあるのかよ?」 リトの反応に一瞬ムッと頬を膨らませる唯 「唯と約束するのいやなの?」 「そ、そーいうワケじゃないんだけど…」 むぅ~っとリトを睨む唯 「わ、悪かったって!もう何でも言ってくれ」 「ちゃんとお願いちないと唯、ゆわないから!」 ふいっと顔を背ける唯。けれど、横目でリトの顔色をチラチラと伺っている リトはそんな唯の態度に小さく笑うと、その頬に手を当てながら言われた通りにお願いする 「オレ、唯の約束聞きたいな!だから頼むよ、唯」 仕方ないないなァと言った顔でリトに向き直る唯 いつもの様でいて、いつもとは違う唯の仕草全てが新鮮に写る そんなニコニコと顔をほころばせるリトと違い 唯は今、さっきまでの気丈な態度が嘘のように、体をモジモジさせて小さくなっていた 心なしか頬も赤くなっている 「ん?」 「あ、あのね…」 「うん」 頑張って少しずつ話す唯をじっと見つめるリト 「あの…ね……えっと……い、一日一回は唯のコト、ギューってちてほちいの!ダメ?」 小さな声、それも真っ赤になってもごもごと話す唯にリトはクスっと笑った 「ダメ?」 懇願するように見つめる唯の体をリトはギュッと抱きしめる 「あ…」 「こんな風に?」 リトの胸に中で、真っ赤に染まる唯 (こんな時だけ、唯の気持ちわかるんだから…) 唯は恥ずかしさとうれしさで、リトにしがみ付くようにぴったりくっついて離れない 「他なんかないのか?」 「う、うん。あと…ね」 「うん」 唯は言い難くそうに、リトの肩におでこを乗せてぼそぼそと話す 「えっと、一日一回は、唯のコトす…好きってゆってほちいの」 「一回でいいんだ?」 クスクス笑うリトに、唯は俯いていた顔を上げると、真っ赤になって反論する 「どーちて笑うの!?唯、しんけんなのにっ」 「ゴメン。ゴメン。それから?」 唯は頬を膨らませたままリトから顔をそらしてしまう 「もー!ゆーきくんなんて知らないから!」 「ホントにゴメン。だからこっち向いて」 「さっきも同じコトちたんだから、もー知らないっ」 顔を背けて目も合わせ様としない唯に、リトは悲しそうに溜め息をもらした 「そっか……唯、オレのコト嫌いになったんだな…」 「え!?」 びっくりしてリトに向き直る唯 「ど、どーちて…」 「オレの事、嫌いだからそんな事するんだろ?」 さっきのお返しとばかりに、唯から顔を背けるリト 「そ、そんなコトない!唯、ゆーきくんのコト好きだもん!!」 「ホントに好き?」 「ホントにホント!ウソじゃないの!!ゆーきくんが好き、大好き!!」 手を握り締めながら必死に話す唯の目には少し涙が滲んでいる 「ウソじゃないの…」 ちょっとしたイタズラ心でからかうはずが、唯の一生懸命さに苦い顔になるリト (ちょっとやりすぎたかな…) 涙声で何度も「ウソじゃない」と繰り返す唯 リトは指でその涙をぬぐっていく 「…ゆーきくん?唯のコト…信じてくれるの?」 「ああ」 リトはゴメンなと言いながら、唯を抱きしめた 唯は目を丸くさせると、その小さな腕で力いっぱいギュッとリトを抱きしめる しばらく抱き合った後、どちらともなく体を離す二人 唯はほっぺを赤くさせながらも、ニコニコと笑っている (カワイイ…) リトは素直にそう思った そして、小さいながらも本当に自分の事を想ってくれている唯に胸がいっぱいになる 「どーちたの?」 「…何でもないよ。それより約束は?」 体をピクっとさせて言葉に詰まる唯 「他ないのか?」 「…いい…の?約束ちて?だって…」 リトは唯の頬に手を当てると、にっこり微笑んだ 「いいよ!だって大事な事なんだろ?」 唯はコクンと頷く 「じゃあ、エンリョなんかするなよ!オレは全然いいからさ、な?」 「う、うん。じゃあ…」 唯は頬を赤くしたままリトの顔を真正面から見つめる 「…い、一日一回は、唯にちゅーしてほちいの…」 「え…いいのか!?キスしても!?」 「うん…。だって唯、ゆーきくんとちゅーするの好き…だから」 顔を沸騰しそうなほど赤くさせている唯 そんな唯をリトは驚いたように見ていた (へ~…そうなんだ!?) 今までの事を思い返しても、そんな風に思ってくれている素振りなんかあまり見当たらなかっただけに、リトの驚きも大きい 「ほ、他ないの?キスの他とかさ」 思い切って唯の本音を探ってみる 「ん~他…他……。あ!あのね?えっと……ホントのコトゆってもいい?」 「いいよ」 リトの喉がゴクリと音を立てる 「ホ、ホントは唯……一日一回じゃなくて何回も好きってゆってほちいっ!」 「へ?」 「そ、それから何回もギュッてして、いっぱいちゅーもしてほちいの!」 一息でしゃべった唯は肩で小さく息をしている 「えっと…」 「ダメなの?」 中々返事をしないリトに、唯の目はうるるると滲んでいく (やっぱ唯は唯だなァ) 心の中でそう苦笑すると、リトは唯の頭に手を置く 「いいよ。何回だってしてやるよ!約束な!」 ぱあっと顔を輝かす唯 「うん。約束!」 満面の笑顔を浮かべる唯に、リトもドキっとしてしまう (マジでカワイイな…) 「ん?」 うれしさで笑顔が止まらない唯は本当に幸せそうだ (はぁ~…元に戻ってもこれぐらい甘えたり笑ってくれたら…) 「ゆーきくん?」 「ん?何でもないよ」 不思議そうに見つめてくる唯にリトは愛想笑いを浮かべる 「…でもとりあえず」 「へ?」 リトは唯の体を抱き寄せる 「ゆ、ゆーきくん?」 「キスしよっか?」 「え!?」 みるみる赤くなっていく頬 「ちゅ、ちゅーするの!?唯と?」 「うん。ダメ?」 「ダ、ダメじゃなくて!えっと…えっと…」 どんどん声が下がり、リトの腕の中で小さくなっていく唯 「じゃあ、しよ」 「う…うん」 ギュッと目をつむる唯にリトは口を近づけていく (おフロでゆーきくんとちゅーなんて、すごくハレンチなコトなのに…) 近づくリトの吐息に唯は顔どころか体まで赤くさせる (でも…) リトの肩に置いた小さな手に力が入る 「唯…好きだよ」 「へ!?」 間近で言われた甘い言葉に、唯は一瞬でとろけてしまう ハレンチだとか、でもとか、そんなモノは一瞬で頭から飛んでいく 「ゆ、唯もゆーきくんが好き!」 だから、がんばってなんとか小さな声で応える事で精一杯 二人は軽く唇を重ねる 「ん…ん」 すぐに離れていくリトを名残惜しそうに見つめる唯 幼いながもその愛情いっぱいな視線にリトは笑みを深くした 「カワイイ」 「カ、カワ…イイ!?」 唯の胸がキュンと締め付けられる 「うん。ちっちゃくなっても唯はすごくカワイイよ!」 目が泳ぎ、リトの顔をまともに見れなくなっていく 「カ、カワイイとかそんなコトゆっちゃダメっ!!」 「え?」 腕の中で真っ赤になりながら慌てる唯にリトはキョトンとなる (照れてるのか?) 「そんなコト、唯にゆっちゃダメ!だって…だって…」 下を向いて真っ赤になりながらモジモジしている姿に、リトの胸がときめく (すげーカワイイ…) リトは唯をギュッと抱きしめた 「ゆ…ゆーきくん!?」 「元のお前も、今のお前もすげーカワイイ!」 「うぅ…ゆーきくんのバカ!ゆっちゃダメってゆってるのにっ」 もう、唯のドキドキは止まらない。さっきから体のいろんなところがキュンキュンして大変な事になっている 「唯…」 「…な、なに?」 「もう一回キスしよ?」 唯は少し悩んだ後、ゆっくりと頷いた 体も心もとろけすぎて、少し息も熱い そして、再び軽く重なる唇 けれどさっきとは違い、リトの舌が唯の薄い唇を割って入っていく 「ン…んん」 入口でぶつかる熱くざらついたヌメヌメした肉感 その感触に最初驚いた唯も、次第にリトを受け入れていく 吸い上げられていく口内の感触に唯は目を丸くした (唯のツバ…ゆーきくんの口に入っていってる) ちゅぱちゅぱと絡み合う唾液の音が風呂場に響く 唾液の交換も、リトの抱擁もみんな唯をとろけさせるには十分過ぎて お互い体を離した時には、ふらふらになってしまった唯は、そのままリトの胸に顔をうずめた 「大丈夫か?」 「うん。だいじょーぶ。ゆーきくんの口おいちかった」 恥ずかしそうにうれしそうにそう話す唯に、リトも顔をほころばせる 「オレも。唯の口おいしかった」 照れ隠しなのか、リトの体にピッタリくっ付いて離れない唯 リトはその小さな背中に手を置いた 白くてすべすべで、やわらかい いつもと違う唯の体にリトの興奮も上がっていく 背中に走るくすぐったい感触に体を捩る唯 その仕草が可愛すぎて―――― 「なあ唯…」 「なに?」 「もうちょっとしよっか?」 へ?と呆けた顔をする唯。その体にリトの手が伸びる リトは唯の体を自分から離すと、その体を舐め回すように見つめる 「ゆ、ゆーきくん!?」 「おっぱい吸っていい?」 「そ、そんなコトちたらダメェ」 唯の言葉を無視すると、さくら色をした乳首にリトの舌が這わされる 「は…うぅ…」 ピクンとのけ反る小さな体 その胸に舌を絡めませしゃぶっていくリト 空いている手で、反対の胸への愛撫も忘れない 「や…だァ。ゆーき…くん、こんなコトちたらダ…メなの!」 吸い上げられる乳首に唯の体がピクピクと震える 腋に移る舌の動きに、くすぐったさと気持ちよさで、体が熱くなる 首筋やおヘソの周り、耳たぶ等いろんなところを舐められる度に、唯の口からカワイイ声がこぼれた 「ゆ…ゆーきくん、こんなコトちたらダメ…なのぉ。ゆ、許さないんだから!…っン…ぁ」 (カワイイ…) リトの行動はますますエスカレートしていく 「ハレンチなコトは…ンっダメなのぉ…だから…」 口ではそう言うが唯は決して抵抗しなかった 小さいながらリトを求めてしまっている体 気持ちよさと背徳感、うれしさとダメだと思う気持ち その狭間で唯の頭はぼーっとなっていく 「唯…カワイイ」 耳元で囁かれる言葉に真っ赤に染まる頬 「や…だぁ。ダメ…なの!そんなコトゆったら…」 リトの愛撫とうれしい言葉責めで、心臓の鼓動はますます早くなっていく 体はますます熱くなり、汗がぽたぽたと赤く火照った体を滑っていく 「ゆーきくん…唯…唯……」 お湯の熱さと火照った体に目がぐるぐると回りだす ぐにゃぐにゃに歪むリトの顔 いつしか唯の意識はぼーっと霞んでいき、視界もぼやけていった 「ゆーきくん……唯…もう…ダメ…」 「唯?」 大好きな人の腕の中で、その声を聞きながら、唯はゆっくりと目を閉じていった それから少しして。リトは自分の部屋の床に寝かせた唯をうちわで扇いでいた 唯は額に汗を浮かべながら、すやすやと眠っている あの後、急にぐったりした唯を抱えて風呂場を飛び出したリトは、急いで美柑に唯を診せた 『のぼせてるじゃん!』 火照った体を見た美柑は、すぐに、キッチンに走っていった 慌てて戻ってきた美柑の手には、氷水とタオルとうちわ 『リト、あんたはこれで唯さん扇いでて!』 『あ、ああ、わかった』 不安な面持ちでリトは言われたとおりにうちわで扇いでいく 氷水で濡らしたタオルで唯の体を拭いていく美柑 『な、なあ、大丈夫なのか?』 『…まあ、軽くのぼせてるだけだから心配いらいと思うけどさ…リト』 美柑はリトを睨み付けた 『なにやってるのよ!?バカっ!!』 に始まり 『サイテー!信じらんない!妹として恥ずかしいよ!』 と、散々責められたリト 『ちゃんとあんたが責任もって看なさいよ?』 そして今、リトは深い溜め息をこぼした 「オレ、人として終わってるよな…」 確かに唯は彼女で、大切な存在で、だけど今は小さくなっていて そんな唯に欲情してしまった自分 家に帰ってきた時、リビングで美柑に言われた言葉が浮かぶ 『唯さんは今、体が小さくなって心も子供に戻ってるんだよ?不安なの!怖いの!あんたのコト頼ってるの!』 リトはまた溜め息を吐く 「ホント、オレって情けねー」 そうやって一人落ち込んでいると、タオルケットの下の体がもぞもぞ動く 「ん…んん」 「あ!唯!」 うっすらと目を開ける唯を覗き込むリト 「ここ…どこ?」 「よかった!大丈夫か?どこもしんどくないか?」 唯はぱちぱちと目を瞬く 「ゆーき…くん?」 「ゴメンな唯!オレのせいでしんどい思いさせて…。ちょっと待ってろよ!今、冷たい物持って来るから」 そう言うとリトは急いで部屋を出て行った その後姿をぼーっと見つめている唯 「そっか…唯、お風呂にはいっててそれで…」 いろいろ思い出しまた頬が赤くなっていく 「おまたせ!とりあえずコレでも飲んで……え?」 息を切らせて部屋に戻ってきたリトを待っていたのは、ムッとした唯の顔 「え、えっと…」 「ゆーきくん、唯ダメってゆったのに!」 リトは苦い顔になる 「ハレンチなコトちたらダメなのっ!!」 ビシっと指を指しながら怒る唯にリトはうな垂れるしかなかった 美柑の使っていたパジャマに着替えた唯は、ベッドに腰掛けながらゴキュゴキュとジュースを飲んでいる その横では正座したままのリト 「あのさ唯、もう…」 ふいっとそっぽを向いてしまう唯。リトは悲しい溜め息を吐いた さっきからずっとこんな調子で、唯の機嫌は直りそうにない なんとか機嫌を良くしようと頭を悩ませていた時、唯は小さく欠伸をした 「唯?」 唯は目に涙を溜めながら、眠そうに目をしょぼしょぼさせている 時刻は夜の9時 いつもならなんともない時間でも、体が小さくなっているとその分、睡魔も早くきてしまうらしい 「もう寝る?」 唯は小さく首をコクンと振る 「じゃあ、オレのベッド使えよ」 「…ゆーきくんは?」 「オレなら今日は床で寝るから気にすんな」 唯はしばらく悩んだ後、ジロっとリトを睨む 「ゆーきくん、唯が寝てる時とかハレンチなコトちたら許さないからね!!」 「わ、わかってるって!」 それでもしばらくじっと睨む唯にリトは悲しくなってくる (まぁ、当然だよな…) ぶつぶつ文句を言いながら布団に入る唯に、リトは何回目かになる溜め息を吐いた 「じゃあ電気消すからな?」 「え?」 びっくりして思わずベッドから起き上がる唯 「ど、どーちて!?ゆーきくんは?」 「オレ?オレは下にいるよ。まだ寝ないし」 「そんなのやだっ!」 唯は力いっぱい叫ぶと、ベッドから降りようとする 「ちょ、ちょっと待てって!お前、寝るんじゃなかったのか?」 「ねむいけど、ゆーきくんが一緒じゃないと唯、寝ない!」 今度はリトがびっくりして固まってしまう 「だって、ゆーきくん約束ちてくれたでしょ?唯と一緒にいてくれるって!」 「う、うん」 「約束……守ってくれないの?」 「そー言うワケじゃなくて…」 「また…また…約束守ってくれないの?」 そう呟く唯の目にみるみる涙が溢れ出す 「おフロであんなに約束ちたのにぃ…」 「う、うん」 「ゆーきくんが約束するってゆったのに…ぐす…」 ゴシゴシとパジャマの袖で涙を拭く唯 「あ、あのさ唯、別にオレは…」 「…なのに…ゆーきくんはぜんぜん唯の約束守ってくれない。いっつも約束やぶって唯のコト、イジメル…」 「イジメてるワケじゃ…」 バツが悪そうに頭を掻くリト 「イジメてるの!!唯のゆーこと、ぜんぜん聞いてくれないクセに!唯を怒らせて、唯を泣かちてばかりのクセに!」 小さな糾弾にリトは黙ってしまう 「唯、ゆーきくんのためを思っていっつもいっつも注意とかちてるのに、ゆーきくんはそれも聞いてくれない…」 唯は涙をこぼしながらじっとリトの顔を見つめた 「ゆーきくん、唯のコト、キライなの?」 「え?」 「キライだからゆーこと聞いてくれないの?」 「そんなワケ…」 「じゃあ、どーちて?どーちてゆーこと聞いてくれないの!?」 リトは応えられなかった 唯がいつも自分を想って叱ってくれる事も、今の唯の気持ちもリトはよくわかっている わかっているけれど、ソレをうまく言葉にできなかった 「ゴメンな唯」 情けないほど小さなリトの言葉に、唯はそっぽを向くとそのまま布団中に入っていった 布団の中ですすり泣く声。その声にリトは何もできなかった 結局、泣き疲れたのか、唯はそのまま布団に包まったまま眠ってしまい リトはただそばにいる事しかできない自分を情けなく感じつつ布団に入った そして、時刻は深夜1時過ぎ ゴソゴソと音を立てながら布団から出る唯 部屋は真っ暗でなんだかいつもより怖く感じる 唯は目を凝らすようにキョロキョロすると、床で寝息を立てているリトを見つけた (ホントに床で寝たんだ…) その姿に胸がキュッと締め付けられる 唯は気付かれないように静かにベッドから降りると、そーっとリトに近づく 「ゆーきくん…?」 顔を覗きこんで確認 「起きて…ないの?」 寝息を立てているリトにわかっていても、もう一度確認 「ん~」 唯は口に指を咥えながら少し難しい顔をすると、決心した様にリトの横で正座した 「…ゆーきくん、唯のお話ち聞いて」 眠っているリトに語りかけるように話す唯 「あ、あのね。今日は一日ありがとー。そーじゃなくて……いつもありがとー」 唯はペコリと頭を下げた 「寝る前はあんなコトゆったけど、ホントは唯ちってるんだ ホントはいつも困らせて、迷惑かけてりゅのは唯のほーだってコト…」 唯は言葉を選ぶようにゆっくりと、一生懸命に語りかける 「だけど唯、いつもいつも怒ってばかりで、ちっともやさちくないよね… 唯の想ってるコト、全然ゆーきくんにゆえてない…」 目にどんどん涙が溢れ出す 「だ、だから、いつも不安でさみちくて……だけど、ちゃんとゆえなくて だけど、ゆーきくん、いっつも唯のそばにいてくれて…いっつもそばで笑ってくれて… 唯、怒ってばかりで全然やさちくないのに…」 込み上げてくる涙に耐えるように唯は、小さな手をギュッと握り締めた 「唯…唯…ホントは…ホントは…う…うぅ、ひっぐ…」 小さな姿では、我慢も長くは続かない。唯の目から涙がぽろぽろこぼれてくる 「きょ、今日だってホントは一緒に寝た…寝たかったのに、唯ひどいコトゆってゆーきくんを…」 最後の方は言葉にならなかった。込み上げてくる涙と嗚咽で唯は声を上げて泣いた それでも唯は伝えたい想いを頑張って言葉にする 「唯、唯…ゆーきくんが大好き!大好きなの!!だから、ひっぐ…キライになんてならないで! う…うぅ…ひっく、キライにならないで!なっちゃやだァ!」 それは叫ぶような必死な懇願 どう言っていいのか、どうしたらいいのかわからない唯の本音 その頭にやさしく手が置かれる 「へ?」 「何泣いてるんだよ?唯」 「あ…ゆーきくん起きて…」 いつから起きていたのか、目を覚ましたリトがじっと見つめていた 「ゆ、唯…」 気まずさから、唯は嗚咽をこぼしながら泣くのをやめた リトにこれ以上、心配かけたくないと思った 目をギュッと瞑って涙を隠す唯 「いいよ」 「へ…」 「我慢しなくていい!泣いたっていい!約束しただろ?もう忘れたのかよ」 そう言いながら唯の鼻を指で突くリトの顔は、どこまでも優しくてあたたかい 「ゆ…ゆーきくん、唯、唯…」 リトは何も言わずに唯を抱き寄せた 「お前が大丈夫になるまでオレがずっとこーしてやる」 「ひ…ぐ…うぅ…ぅうあーん!!」 唯はリトの胸の中で顔をくしゃくしゃにして泣いた 「ひっぐ…ぐす…うぅ…」 「もう大丈夫か?」 ハンカチで涙を拭きながら、唯は首を振った 部屋の明かりは点いていない。「恥ずかちいからつけちゃダメ」との事 二人は真っ暗な中、ぼんやりと映る互いの顔を見つめていた 唯はリトのTシャツを握ったまま離さない 「一緒に寝る?」 暗がりでもわかるほど顔を赤くさせながら唯は頷いた (ゆーきくんのお布団すごくあったかい…) 布団の中で体を丸める唯 その頭をリトはぽんぽんと撫でる 「んっ」 「小さくなっても唯は唯だな」 クスっと笑うリトに唯は首を傾げる 「どーゆーいみ?」 「ん?小さくても元に戻っても、オレの好きな唯には変わりないってコトだよ」 唯はじっとリトの顔を見つめた 「ゆーきくん、唯のコト好きってゆってくれた…」 「当たり前だろ!何言ってんだよ?」 「ホントに唯が好き?ホントに?」 リトは溜め息を吐く 「あのなー…」 「じゃ、じゃあお願いがあるの!」 「なんだよ?お願いって」 唯はじーっとリトの顔を見る その顔はいつも以上に、お説教している時よりも真剣だ (ゆーきくんに唯の気持ちゆわないと、ちゃんと伝えないと…) 唯は小さな手を握り締めた 「あ、あのね。唯をゆーきくんのおよめさんにちて!」 「え?」 「唯、ゆーきくんの赤ちゃんうみたい!おばーちゃんおじーちゃんになっても、ずーっと一緒にいたい!ダメ?」 「ダメってゆーか…その…オレ、前にも言ったんだけど…」 リトの言葉が耳に入らないのか、唯は身を乗り出すようにリトへと顔を近づける 「ダメ?他の約束なんていらないの!唯、ゆーきくんがいれば他いらないの!」 しばらくその顔を見つめた後、リトは唯の鼻をつんと指で突いた 「へっ!?」 「あのなァ、クリスマスの時、オレが言った事もー忘れたのか?」 「え…あ!?」 「来年も再来年もずっとずっとこの先も、お前と一緒にクリスマスしたいって…」 「う、うん!」 「フロ入ってる時も言ったろ?あれ、冗談なんかじゃなくマジなんだけど?」 「うん!!」 お風呂場で見たのよりも、何倍も輝く唯の笑顔に、リトは息を呑んだ 「唯、ゆーきくんのおよめさんになれるんだ!」 「ったく、けど、ホントにいいのか?他の約束はしなくても?」 「そ、それは…」 唯は目を彷徨わせる。しばらくするとぼそぼそと小さな声で呟いた 「え…えっとね。やっぱり他の約束もしてほちい…」 はいはいと笑うリトに唯は頬を膨らませる 「もー、ゆーきくんってどーちて笑うの!?」 「だってお前カワイイもん」 「カ、カワイイ…」 さくらんぼの様に赤くなる唯のほっぺ うれしさと、照れくささと、恥ずかしさとで頭の中はいっぱいになってしまう 「ダ、ダメなの!唯のそばでそんなコトゆったらダメっ!」 「フロでもそんな事言ってたけどさ、それだと約束守れないんだけど?」 「いいの!ゆっちゃダメなんだからっ」 「ふ~ん…」 じーっと見つめるリトの視線に固まる唯。その目は完全に泳いでいる 「…と、とと、ときどき…だったらゆってもいい…かな」 なんとか頑張って話す唯にリトは笑ってしまう 恥ずかしさを隠すようにリトの胸に顔をうずめる唯 「もー!やっぱりゆーきくんってイジワル」 「そんなつもりじゃないんだけどなァ」 頭を掻きつつも唯の反応に苦笑を隠しきれないリト 「もー!ゆーきくん!!」 「…ゴメン。けど、お前の事カワイイって想う気持ちも好きって気持ちも、冗談なんかじゃないよ」 唯はリトの胸からゆっくりと顔を離す 「お前とずっと一緒にいたいって気持ちもウソじゃない!だから、お前の気持ちがすげーうれしかった」 照れくさそうに頭を掻くリトに、唯の頬も熱くなる リトと同じように唯もリトの言葉や気持ちがうれしかった だから、なんとかしてその気持ちを伝えようと唯なりに頑張ってみる 「ゆ、唯…あのね」 「ん?」 「唯、ゆーきくんのためにもっとガンバル!今よりもっとお料理上手になる!もっともっと勉強してえらくなる! もっともっと勉強してえらくなる!もっともっともっとキレイになってゆーきくんを独り占めする」 唯の心がめいっぱい背伸びをして、伝えようとする リトへの想いの全てを 「もっともっともっともっといーっぱいガンバッて、ゆーきくんだけの世界で一番のおよめさんになる」 「唯…」 「だからえっと……唯のコトちゃんと見てて。唯のコト離さないで。唯のコトこれからも好きでいてください」 一息で話した唯の息は荒い 鼓動もリトに伝わるほどドキドキと高鳴っている (ゆーきくんに唯の気持ちちゃんと伝わったかな…) 赤くなっている顔と違い、唯の心の中は不安でいっぱいになっている もっと良い言葉、伝えなきゃいけないコトがあるんじゃないかという不安 さっきからドキドキが止まらない。興奮した背中はしっとりと汗を掻いている 「あ…あのゆーき…」 何も言わないリトにガマンできなくなった唯が口を開きかけた時 ぐっと引き寄せられた唯はリトに抱きしめられていた 「ゆーき…くん?」 リトは痛いほどに力いっぱい唯の小さな体を抱きしめる 「バカだなお前」 「へ?」 「今でもお前はオレにとったら世界で一番なんだぞ」 「あ…」 リトと唯。二人の体温が一つに溶け合っていく 服越しに互いの心臓の音が伝わり、次第にその音が合わさっていく トクン、トクンと規則正しく鳴る胸の音に、二人の息遣いが合わさる 「唯、ゆーきくんの一番…」 「なんだよ今頃気付いたか?気付くの遅いって」 リトは唯の前髪を上げると、おでこにキスをした 「ん…くすぐったい」 体を捩るとふいにリトと目が合う いつもと同じ顔なのに今はとってもカッコ良く見える (違う…、ホントは唯、いつだってゆーきくんのコト…) 「唯」 リトは唯の背中に腕を回した 間近迫るリトの顔 「お前が好きだ。世界で一番お前が好きだよ」 「あ…唯も…唯もゆーきくんが好き!大好き!」 いつもなら照れくさい言葉も今は不思議と素直に言える それはきっとリトがそばにいるから リトが背中を押してくれるから (唯、ゆーきくんとずっと一緒に、ずーっとそばにいたい) 二人は大きな手と小さな手を重ね合わせると、ゆっくりと目を閉じた (今日はゆーきくんの夢見れるといいな…) 翌朝、手に伝わるやわらかい肉感と、鼻腔をくすぐるいい匂いに、リトはうっすらと目を開けた 「う…んん、朝?」 昨日はいろいろありすぎて、疲れた体に朝日はとても眩しく感じる 朦朧とする意識の中、ゆっくりと視線を動かすと目の前には唯の姿 そして、はだけたパジャマから覗く、形のいい胸 「あ…!」 リトの意識が一瞬ではっきりとなる 黒くて綺麗な長い髪は昨日と変わらない けれど、まだ寝息を立てている可愛い唇、くびれたウエストに、白くてやわらかそうな胸 それは普段、毎日見ている唯の姿 「元に戻ったんだ……唯」 隣で一人騒ぐリトに、唯は目を覚ます 「あ…おはよう唯」 「…ん…おはよう結城くん」 まだ半分眠っているのか、目がトロンとなっている唯 「安心しろ!ちゃんと元に戻ってるぞ!」 「え、元…?」 唯はゆっくり体を起こすと、周りをキョロキョロ見渡す 「ここ…」 「何言ってんだよ?オレの部屋だろ」 唯はまだ納得しかないのか、不思議そうな顔をしている 「結城…くんの?」 「そうだよ!大丈夫か?」 少しリトに身を寄せるように体を動かすと、パジャマからぽろりと胸がこぼれた 元に戻ったサイズに小さなパジャマが合うはずもなく、知らぬ間にボタンがみんな取れてしまっていた 「え…」 「よかったー!ホントに元に戻ってる」 はだけた胸に一人感嘆の溜め息を吐くリトをよそに、唯はだんだん状況がわかってきた やけに小さいサイズのパジャマに、隣にはリトの姿、そしてその顔は今にやけている 唯の目が次第に変わっていく 「…それで、あなたはさっきから何をしてるの?」 「え…?」 一人赤くなっている唯にリトはようやく気付く。自分が今、唯の胸を凝視している事に 「こ、これはその…」 「あなたって人は、朝からよくもこんな…」 冷や汗を浮かべるリトに唯の冷たい声が突き刺さる 「ちょ、ちょっと待ってくれ!これにはワケが…」 「何考えてるのよ!?ハレンチなっ!!」 唯の一撃で窓際まで吹っ飛ぶリト。けれど痛いはずがなんだかうれしい気分になる (よかった。これは唯だ。ちゃんと元に戻ってる…) 布団で体を隠しながら、真っ赤になって怒っている唯の姿に、安心した様にそう呟くリトだった 「え!?何も覚えてないのか?」 「うん」 朝食を食べ終えたリトは、昨日の事を唯とララ二人に聞いた 「覚えてないって…昨日のコト全部?」 「全然♪」 ララによると、スカンクの影響で小さくなった体が元に戻る時、 なんらかの副作用で一時的に一部の記憶が曖昧になると言うのだ 「よくわからないけど、みんな無事でよかったね♪」 にっこり笑うララにリトは朝からどっと疲れが戻ってきた様に感じた 「オレの苦労って…」 「いいじゃない!ララさんの言うとおり、みんな無事なんだし」 リトの後ろではまださっきの事を怒っているのか、ムッとした唯の姿 「お前も覚えてないのか?昨日のコト全部?」 「…だから、知らないって言ってるじゃない!」 ますます肩を落とすリト。そんなリトに唯は気になる事を聞いてみる 「何か問題でもあるワケ?……ひょっとして、小さくなった私に何かしたとか?」 ドキンと心臓が飛び出るほどびっくりするリト 「そそ、そんなワケねーだろ!オレはただ…」 「ふ~ん…」 振り向いたリトを待っていたのは、まったく信用していない唯の目だった その視線だけで、リトの心臓は凍えそうだ だけど、ここで負けるワケにはいかない だって、昨日はあんなに大切な事を交わしたんだから 「ホ、ホントに覚えてないのか?その…昨日の夜のコトとかさ」 「結城くん、しつこいわよ」 なんだかずっと怒っている様な唯の態度に、リトはそれ以上聞くのをあきらめた しょんぼりと肩を落とすリト その姿に、唯は少し複雑な表情になる 小さく溜め息を吐くと、ぼそっと呟いた 「…少しだけなら覚えてるわよ」 「え!?」 「…ぼんやりだけど。昨日、おフロで何か…」 リトは慌てて唯の口を塞ぐ 「それはいい!思い出さなくてもいいから!忘れてくれ!」 「ちょっと!やっぱりあなた何か…」 そんな朝のリビングに、通学用のかばんを持った美柑が戻ってくる 「ま、みんな元に戻ったしイイんじゃないの?それよりさ、このままだと遅刻しちゃうよ?」 びっくりした唯は急いで身なりを整えていく 「と、とにかく!この話しは後でゆっくりしましょ?行くわよ結城くん!」 「おお…」 朝からまるで元気のないリトの手を引いて玄関に向かう唯 「…まったくリトも鈍いね。ま、唯さんもウソつくのヘタだけどさ」 二人の後姿に、クスっと笑う美柑だった 「じゃあいってきま~す」 元気よく外に飛び出すララに続いて、ドアを開けるリト その手が途中で止まる 「どーしたの?」 「…お前さ……」 「ん?」 前を向いているためリトの表情は見えない 「何よ?」 (…約束は大事だけど、だからする、じゃないよな) 「……なんでもない。それより早くしないと遅刻するぞ?」 「わかってるわよ!服とか整えるから先出てて」 リトは言われたとおりに先に外に出た 「……」 その背中を見ながら唯は、小さく呟く 「覚えてるわよ。全部…」 ――あの約束もみんな―― 唯は頬を赤くした 「結城くんのお嫁さんにしてって…」 昨日の夜、頑張って言えた素直な気持ち 「一日一回だけじゃなくて、何回もしてほしいって…」 それは、まだまだ言いたい、伝えたい事の一部だけど ――あの約束のコト、結城くんはどう思ってるの?―― 唯は期待を胸に秘めながら、リトの後を追いかける 「約束…忘れてたりしたら許さないんだから!」
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1989年7月公開。 監督 波多正美 脚本 寺田憲史 作画監督 赤堀幹治、松山まや レイアウト 古瀬登 動画チェック 高島孝広 美術監督 阿部行夫 色指定 田中実和子 撮影監督 熊谷愰史 特殊効果 谷口久美子、広野覚 編集助手 高野隆一 音響制作 小林克良、石井睦子 ミキサー 薄波正人 音楽 佐藤允彦 演出助手 野口義晃 オープニングアニメーション 古瀬登 アニメーション制作 グルーパープロダクション ■関連タイトル DVD マイメロディの赤ずきん キキとララの青い鳥・世界名作映画館 HDリマスターDVD
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登録日:2010/12/23 (木) 12 10 17 更新日:2022/07/24 Sun 14 14 14NEW! 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 To_LOVEる お静ちゃん ジェダイ ドジっ娘 ナース フォース 仮面ライダーZX 傍迷惑キャラ 儚げ 助手 天然 幽霊 村雨しずか←ではない 村雨静 犬嫌い 能登麻美子 黒髪ロング ぴゃっ!犬ーー!! 『To LOVEる』の登場人物で準ヒロイン格。 声優は能登麻美子。 元々は江戸時代頃に生きていた人間だったが、死んだ土地である現代の彩南高校旧校舎で地縛霊となっていた。 初登場は56話のラストで、怪物型幽霊(実は母星でリストラされた宇宙人達)による旧校舎幽霊騒動の黒幕と思わせ振りな登場をしたが、実際には無関係だった。 それから暫くは間を置いて登場し、65話で春菜に偶然憑依する形で再登場して春菜と周辺に多大な迷惑をかけるも、 その時に深層心理でリトを求めていることを知った彼女は自分なりに精一杯応援を決意する。 それ以来、怖がりの春菜に懐き、75話では春菜の恋を応援したいが為にリトに憑依してリト及び周辺へ(以下略 その後ブランクを経て、ようやく89話で再登場と同時にレギュラー入りを果たした。 現在は御門 涼子が造った有機アンドロイドの“バイオロイド”に憑依して身体を得て、主人公達が通う彩南高校に編入し、 御門診療所で助手をしながら現代で生活している。 長い間人の温もりに飢えていたせいか、数百年ぶりに接した人間の春菜には特に懐いている。 本編では“お静”と自己紹介したために、専ら“お静ちゃん”と呼ばている。 憑依先のバイオロイドは中々に良いスタイルをしている。 お茶目で明るくかつ生真面目な性格だが、心は大昔のままなので、現代人との知識や価値観、言葉のズレが時折見られる。 長い間幽霊だったせいか、体を持った生活に慣れていない為によくつまづき、倒れたり興奮した拍子に魂が抜けることもしばしば。 また、凶暴な野犬が野放しにされる時代に生きていたので、犬が大嫌い。 得意技はフォー…念力によって物体を自由自在に操るポルターガイストで、それにより悪人を退治したり春菜の応援を働く。 と言っても、どっちかといえば制御しきれず暴走してとらぶるの元になることが圧倒的に多く、リトとララに並んでとらぶる発生源キャラを確立している。 準ヒロインの位置にある為に、メインヒロインと比べると出番は少ないが、その古風なビジュアルや天然入った人物像からファンは多い。 本作では珍しくリトとのフラグも立っておらず、悪ノリや他ヒロインを巻き込むトラブルメーカーとしての印象を強く残している。 要領悪いドジっ娘(+天然)属性には堪らないであろう。 お静には大きな特徴がもう一つある。 それは、彼女の身に起こるとらぶるな出来事が数える程度しか無いことである! 他ヒロインの全裸や乳首券発行などははあっても、何故かお静だけは滅多に無い不思議。 所謂乳首券ではないが、くの一のコスプレと俺たちのような人種の幽霊に身を捧げようとする姿は必見。 しかし、これが能登ボイスで再現されることは無かった。 ちなみに水着は旧スク派。 OVAでは放送不可能な姿を披露した。 ダークネス編でも11話でようやく登場。 ToLoveるに巻き込まれるかと思いきや……やっぱり念力暴走しちゃいましたー わ、私と、その…追記・修正してくださいっ! △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 最初は霊体の色素薄い感じになれてたから、アンドロイドで出た時は結構違和感あったんだが、慣れてくると黒髪の綺麗な子なんだよな。 -- 名無しさん (2014-11-13 15 08 23) 村雨しずかでアンドロイドで…思いっきり特撮ネタなのなv -- 名無しさん (2014-11-13 16 16 06) また春菜ちゃんとのコンビを見たいな -- 名無しさん (2014-11-13 21 44 47) 最近、出番多いよね・・・うん、なんというべきか、可哀想なような(誰がとはいえないけど) -- 名無しさん (2015-02-09 20 51 56) 今月号で久々に春菜ちゃんとのコンビが見られた -- 名無しさん (2015-05-05 23 47 19) 『シャーマンキング』に登場したら、ポンチとコンチが暴走しそう…。それでアンナちゃんに…おっとだれか来たようだ…。 -- 名無しさん (2015-11-29 11 46 37) 美人幽霊キャラだったら、『GS美神』のおキヌちゃんや『ケロロ』の幽霊ちゃん(おミヨちゃん)とか。『べるぜバブ』にも幽霊の女の子が出てたな。 -- 名無しさん (2015-11-29 11 49 48) 名前 コメント
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リトとしては妹のためを思って精一杯頑張っただけの事だし、 彼がそうせざるを得なかったのは一重に父親が多忙なためであり、 また母親が海外にいて殆ど日本に帰って来なかったためでもある。 だから例の一件が露呈した時、結城才培もその妻林檎も、 リトを責める事など出来ず、むしろ親としての不出来を詫びるばかりだった。 「ごめんなさいね先生。私達がもっと美柑の傍にいてやれば」 「すまねぇ新田先生! 先に入ってた予定を自分(と書いてテメェと読む) の仕事の都合でドタキャンしちまった俺が悪いんだ!」 「い、いえいえそんな。 お二人ともお仕事がお忙しいのは重々承知しております。 私はむしろ息子様の美柑ちゃんを思いやる気持ちと 彼なりにご両親のフォローを買って出ようと言う気概に敬服致しますわ」 しょげかえるリトと、何が悪いんだかよくわかってないララと、 あぁ、まぁいつかはバレるだろうな、と予測していた美柑の三人を尻目に 保護者二人と新田晴子は、互いに頭を下げ続けていた。 かつて結城才培が、美柑の家庭訪問の日に締切が重なり、 どうしても原稿から離れられず、家庭訪問の予定を延期した日の一件だ。 才培はあんな性格だからしばらく忘れていたようだが、 ある日ふと「延期した筈の家庭訪問はどうなったんだ?」と気付いたわけだ。 たまの休みに学校に連絡を取ると授業時間中だったらしく、 電話で応対した者が代わりに晴子の勤怠表と予定表を確認し、 結城家への家庭訪問が既に終了している事を伝えた。 そこから少しずつ真実が判明していった。 当初は勝手に家庭訪問をしたリトとララを責めかけた才培も、 やがてその原因がどう考えても自分にある事を深く自覚した。 その日の夕方になって再び晴子が結城邸を訪れた際に 偶然帰国していた結城林檎も交えて、担任への謝罪が徹底された。 とりあえずリトとララと美柑に事情の仔細を聞き出した後は 子ども達は下がらせ、大人三人でまた一頻り会話が続いた。 晴子としては早く学校に帰って残りの仕事を片付けたかったのだが、 家庭訪問も大事な仕事の一つだ。 本物の保護者に一度も会わずに放っておくわけにもいかなかった。 だがその内に、林檎の悪いくせが出てきた。 「うーん、あなたも中々良いボディラインをしてらっしゃるのねぇ」 「ひわぁっ!? お、お母さん?」 林檎は晴子の胸、腰、尻を服の上から撫でまわし始めた。 あろう事か才培の目の前で。 「おいおい、先生が困ってんだろうが。仕事病は控えな」 そう言う才培の目に色は無く、晴子に欲情している様子は無い。 単純に晴子を気遣っているだけなのだが、その事が晴子に劣等感を抱かせる。 彼としては自分の妻以外に脇目を振らないだけだ。 しかし才培のファンとしての晴子は、 才培が自分に興味が無さそうなのは悔しい。 そうこうしている内に、林檎はどんどん晴子の服を脱がせていった。 「そう言えばあなた、この人の漫画のファンなんだっけ」 「む、そう言えばそんな嬉しい事を言ってくれていたな。 気が付かず申し訳ねぇ。不肖ながらサインの一つでも……」 下着姿を曝け出されて大人しくなったものの、 しかしモジモジしている晴子の様子を見て、林檎は彼女の気持ちを察知した。 一人の読者としての作家への尊敬と思慕に、折角だから応えてやろうと考えた。 「あなた。彼女にはサインよりも、もっと良いプレゼントがあると思うわよ」 顔立ちは若いが、これでも二児の母。しかも息子は高校生だ。 かなり若く見積もっても林檎の年齢は三十代前半。熟女に分類しても良い年齢だ。 その手練手管たるや、いくら大人とは言ってもまだ小娘に近い晴子では、 抵抗する事など不可能だった。 「お、お母さぁん……こんなの、いつ美柑ちゃん達が降りてくるか……」 「ウフフ。そうやって恥ずかしがるカオ、可愛いわよ」 「先生なかなか色っぺぇな。林檎も夜にゃそういう顔してくれるが、 ここ数年はとんと御無沙汰だったな、そう言えば」 才培の攻めはパワフル、林檎の攻めはデリケートだった。 晴子は両の乳房を左右それぞれ違う人間からの違う感触で責められた。 才培はまるで食べるように大きく口を開けて貪る。 林檎は愛でるように舌先でペロペロと豆粒を舐める。 硬く勃起した乳首は好きなように弄ばれ、晴子はその都度に体を痙攣させた。 「羨ましいわ、若さが満ち溢れてる。 ま、私もまだまだ若いつもりだけどねぇ」 「そんな……お母さんは凄くお若いですわ。 こんなお若いお母さんがいる美柑ちゃんが私には羨ましいで……ひぃあ!?」 無駄口を叩いている暇があったら行為に没頭しようとでも言わんばかりに、 才培は晴子の下半身への責めを開始した。 上は林檎、下は才培で分担する形になる。 林檎は晴子に深く唇と舌を重ね絡ませ、雛鳥がじゃれあうように戯れた。 「んむ……先生の唇……じゅぷ……柔らかいのね」 「お母さんだって……ちゅぱっ、んむ……この分だと、美柑ちゃんも……んん」 才培は滲んでくる愛液を飲む程の勢いで、晴子の秘部を舐め回す。 まるで晴子は、獣の餌にされたような気分だった。だがそれは心地良かった。 「じゅずっ、じゅぶふっ、じゅーっ!」 もうグチョグチョになっているそこからは止め処なくラブジュースが流れる。 才培は尽きる事なくそれを味わう事が出来た。 「ねぇ教えてあげましょうか。 この人の手マン、すっごく野獣的で激しいのよ」 林檎はそう言うと晴子の横に寝そべった。 栽培は「久しぶりだから腕が鈍っているかもしれないな」と言いつつ 自分の指と手に自信たっぷりといった面持ちだった。 ドキドキする心臓を抑えるように両手を胸の前で重ねる晴子と、 久しぶりの夫からの愛に期待も性欲も高まる林檎。 それぞれの股間に、才培の手が片手ずつあてがわれた。 「オラァいくぞテメェらぁっ! 三本の連載を同時にこなす俺様のゴッドハンズが巧みなのは ペン捌きだけじゃねぇって事を教えてやるぜぇっ!」 その瞬間、超高速の手マンが開始された。 そのスピードはあまりにも早過ぎて、地球人の肉眼では捉えきれない。 この惑星で今この動きが見切れるのは、ヤミとザスティンとララぐらいのものだ。 「あぁっソコォッ! ソコ良いわぁ! あなたぁん!」 「アァン! 声聞こえちゃうぅんっ! 美柑ひゃんやリト君に聞こえひゃうぅん!」 あまりの摩擦に、入口が火傷してしまいそうに錯覚する。 先程よりも更に勢いを増して噴出する愛液は、 そこを癒すために噴き出ているように晴子には思えた。 摩擦で徐々に汁が白くなり、泡立ってきた。 決壊したダムのように音を立てて溢れ続け、居間の畳の上に染みを作る。 これがフローリングなら床には染みない代わりに、水溜りとなる事だろう。 晴子は絶頂寸前まで意識が飛ばされかけた。 だが手マンだけで終わっても、完全燃焼したとは言えない。 特に男性である才培にとっては不満足だろう。 彼だけがまだ何もしてもらっていない状態なのだ。 「そろそろ良いだろう、林檎。先生」 さすがは才培。これ程の手マンを繰り出しても、汗一つかいていない。 逆に晴子と林檎は汗でぐっしょりと体全体が濡れている。 既に息は荒く、間断無い。 それでもこれで終わりたくないという欲求は二人にもあった。 「今日は特別サービスよ。久しぶりに若いコを抱かせてあげるわ」 「おう良いのか? そいじゃお言葉に甘えさせてもらうぜ」 「先生のを入れて貰えるなんて、ファンとして感激ですぅ……」 トロけた瞳を潤ませながら、晴子は足を開いて彼を受け入れる準備を整えた。 彼女の腰を持ち上げて、才培はやはり獰猛に、いきなり奥まで貫いていった。 「ひわぁっ! い、いきなりぃ……」 そうは言うが、しかし晴子はもう随分仕上がっている。 徐々に慣らすような入れ方でなくても、十分にスムーズに奥まで届いた。 「さて、と。それじゃ私も」 林檎は正常位で貫かれている晴子の眼鏡を取りあげると、 その上に顔面騎上位でまたがった。 「んむっ! お、むぉ」 「おいおいお前、先生が困ってらっしゃるだろうが」 「そぉ? 私には悦んでるように思えるけどねぇ」 晴子は愉悦と息苦しさの入り混じった感情で満たされていた。 ピストン運動が開始されると同時に、林檎も腰を前後に振る。 そうして人妻の熟れた肉から染み出す果汁が晴子の顔面を濡らし、口中に侵入する。 他方、才培の荒々しい腰使いによって、激しい肉の音が部屋に響いた。 パン、パン、パンという淫らな音。上の子供部屋にまで聞こえそうだ。 晴子はあまりの快感に大声さえ上げそうになったが、 口を林檎の股間で塞がれていたため、それは出来なかった。 もっとも上に子供達がいる状況では、その方が良かったに違いない。 林檎と晴子のナイスバディが揺れ、乳房はドプン、ドプンと単調な音を奏でる。 林檎の短い髪も、晴子の括って纏められた髪も、それぞれに千々に乱れた。 才培もここにきてようやく汗を迸らせ始めた。 彼の男くさい汗が晴子の腹、胸、太股に飛び散り、滴る。 「フン! フン! フン!」 鼻息も荒く腰を打ちつける栽培の動きは、 連射性はバルカン砲、威力はミサイルのようだった。 たった一回の交わりだけで、晴子は自分の腰が変調をきたしそうな気さえした。 終わった後で果たして立てるのだろうかと心配もするが、 そんなつまらない計算よりも、本能が求める快楽の方が大きい。 絶え間なく流れる林檎の愛液が鼻の穴にまで入り込んできて、 息が苦しかったが、晴子はまるで気にしなかった。 鼻の代わりに酸素を取りこむために口を開け、空気と共に愛液も吸い込む。 心地よい味わいにウットリとする。 林檎は真下に見える晴子の乳首をつねると、そのまま上へ引っ張った。 そのままラジカセのボリュームを捻るように、乳首をクリクリと回す。 こうサービスされては晴子も黙って甘んじているわけにはいかない。 林檎の股間の中に手を滑り込ませ、指先でその肉を左右に広げる。 「ふわぁあ……拡げないれぇ……」 とても三十路とは思えない可愛くて若い、軽やかな喘ぎ声。 大人の女とはかくありたいものだと晴子に思わせるに十分だ。 この遺伝子をひいている美柑が羨ましくてしょうがない。 中に舌を突っ込むと、その柔らかさは林檎というより、桃の果肉のようだった。 「あぁ先生ぇ……あなたぁん……わたひ、もぉ……」 「んむぅ……んんむはっ……栽培せんせぇ……」 「オルァッ! 俺ももうイっちまうぜぇっ! テメェらぁあっ!」 完全にもう上の子供達に聞こえている。 最後の瞬間、三人は運命のようにタイミングを重ねて、最高潮に達した。 妻子持ちの精液と人妻の愛液を注がれて、晴子はぐったりと満足感に浸った。 「それじゃお父さん、お母さん。 今度はいつになるか分かりませんが、次にお会い出来る日を楽しみにしています」 「おうよ先生! 妻は海外にいる事が多いから中々会えないが、 俺は日本にいるから、家庭訪問があったら可能な限り都合をつけるぜ」 「私だって事前に教えてもらえたら、文字通り飛んで帰ってくるわよ?」 三人とも喜色満面で、玄関先で別れた。 一応見送りに降りてきたリトと美柑は、一階で何が起こっていたのか 音で大体予想は出来ていたので気まずかったが、 親達が満足気なので、口を挟めなかった。 「あ、そうそう」 立ち去り際、晴子が振り向く。 「家庭訪問は本来、児童のご自宅の位置の把握と、 家庭環境のある程度の把握、それと保護者の方々との意見交換、 児童の未来性についての話し合いが目的なんだけど」 何か小学生にはまだ分かりかねる、難しい話を晴子はし始めた。 「つまり何が言いたいかと言うとね。主役は美柑ちゃんって事なの」 「はぁ、それで……?」 美柑は嫌な予感がしていた。 「次の機会には、美柑ちゃんも……ね?」 美柑は背筋を寒いものが走り抜けていく感触を覚えた。 助け舟を求めて母を見上げるが、林檎はさも妙案とばかりに笑って頷いている。 父などは、いちいち口に出して 「オウそれぁ良いな! 先生なら大事な愛娘を任せられるぜ!」 などと言いだす始末。 リトだけは何とか妹をフォローしてやろうと慌てふためくが、 大人三人に高校生が勝てるわけはない。 トントン拍子で話しは進んでいった。 「それじゃ、また学校でね。美柑ちゃん」 「ちょっ、先生!」 続かない。 晴子は俺の嫁。つーか専用機。俺専用新田。