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賞金首を狩りつくして、終には憧れの彼女を葬った。 毎日毎日モンスターを殺す代わり映えのしない日々が終わりを告げる。 壊れてしまったパートナーを連れて彷徨った果てに、辿り着いたのはバトー戦車研究所。突然の地震に襲われて、目が覚めるとそこはまるで別世界のよう。 とりあえず目の前の3人をどうしようか。 魔法少女リリカルなのはStrikers―砂塵の鎖―始めようか。 第1話 遭遇 「ゴール地点で会いましょう。てへっ。」 リインフォースⅡ空曹長にそう言われて始まった陸戦魔導師Bランクへの昇格試験。 試験中、紆余曲折あったけれどなんとか私とスバルは時間内にゴールできた。 「ちょっとびっくりしたけど無事でよかった。とりあえず試験は終了ね。おつかれさま。」 高町なのは一等空位がそう言って微笑む。 私の怪我を心配してもらって、スバルがなのはさんに撫でられながら泣いている。 ついさっきまでそんな感動的な場面だったはずだった。 これがストーリー仕立てだったならカメラが引いていって微笑ましく上官たちが上から 眺めているぐらいの場面だったはずなのに・・・。 突如として試験場は激しい地震に襲われた。 時間にすればほんの数秒。 感覚的にはぐらっときたと思ったら終わっていた状態。 地割れに飲み込まれたとか瓦礫が落ちてくるとか被害は無かった。 けれど、視界に移るこの人は誰? さっきまでいなかったこの光の無い死人のような目をした緑の人は・・・。 全身の毛が物凄い勢いで逆立っている。 震えが止まらない。 これも試験なんですか? この人も試験官なんですか? 本当は笑いながらそう尋ねたいのに、口は言うことを聞かずカチカチと歯を鳴らすばかり。デバイスを握る手はろくに照準も合わずに震えっぱなし。 さっきまで微笑んでいたはずのなのはさん、失礼かもしれないが本人がそう呼んでと 言ったから呼ばせてもらおう、がデバイスを変形させて警戒している。 なにかがなのはさんのこめかみから滴り落ちたのは見間違いであってほしい。 和やかだったはずの試験会場が、唐突に殺伐とした雰囲気に飲み込まれるみたいだった。 手元に抱きしめていたアルファは無事。 バトー博士とサースデーの姿が見当たらない。 場所がバトー戦車研究所とは違うのは明らかだった。 どこかの街の転送システムが暴走でも起こしたくらいしか貧しい想像力では思いつかない。 それ以上に今問題なのは、目の前にいる3人の女。 青い髪のほうは状況理解できていないみたいに呆けた顔をしている。 妙な靴とロケットパンチもどきを装備しているがこの様子なら問題ないだろう。 隣のツーテールのほうは馬鹿みたいに震えている。 そんなに震えてトリガーに指をかけていたら思いがけず撃ってしまうだろうに。 問題は、エミリが喜んで着そうな白い服の女。 後ろの2人に比べて戦いなれた目をしている。 経験値として模擬戦をやろうとキングタイガーを持ち出しては 街中で戦車戦をやったローズと同じか少し上といったところか。 異変に警戒を緩めない辺り、ハンターとしては上出来。 いいハンターだ。 こぶし大くらいのなにかが視界の端を飛んでいた気がしたが気のせいだろうか。 ファイバーグラスに周辺状況が羅列される。 該当の無い飛行ユニットおよび乗員を確認。 アパッチトンボを腹から横に切って繋ぎ合わせて塗装しなおしたらあんな感じだろう。 ずいぶんとレアなものを所持しているものだ。 さて、この状況はどういったものか。 おそらく状況把握が双方できていないあたりの認識で問題ないだろう。 良くも悪くも有名になった俺の名前か殺した彼女の名前か、 案外ジャックおじさんあたりの名前をだせば事態は動くだろう。 それで任意か強制かは彼女達の自由意志に任せるとして、 近場のハンターオフィスに案内させてメールで連絡すれば問題はない。 特に殺しあう必要も無いだろう。 相手が仕掛けてこなけれ・・・。 ほとんど脊髄反射でアルファの身体を横抱きにしたまま身体を横に吹き飛ばす。 ついさっきまで頭があった場所にレーザー、そのわりにずいぶんと収束が甘い、が突き抜けていった。 誤射だ。 間違いなく誤射だ。 たぶん誤射だ。 ツーテールの震えていた子が誤射したんだ。 必死に自制をかける。 だが、身体に染み付いた経験が、繰返し行われた日々が、 遺伝子にまで刻み込まれた戦闘行動を思考するよりも先に行わせる。 地形を把握、敵対勢力の認識の完了、現在所持している装備の認識を完了。 相手までの射程は約30m。 相手の装備?知るか!! ムラサメの持っていた和泉守兼定があれば視界全部を一撃で屠れるだろうが 無いものねだりしたところでどうしようもない。 単なる鋭い刀のキーンエッジを引き抜いて、現状一番の脅威だろう白い女に斬りかかった。 正対している相手は見たことも無い子。 横抱きにしているのは怪我人? でも、それならなんでこんなに殺気立ってるの? 初めてフェイトちゃんやヴィータちゃんに会ったときよりもまずいかもしれない。 この距離で2人を庇いながら戦うなんて考えちゃダメな相手。 冗談みたいに強いお兄ちゃんよりも強いかもしれない。 冷や汗が滴り落ちるのを感じる。 なにかが動けばそれがきっかけになってしまう。 通信を行うことさえきっかけになるだろう。 見間違いかと思うくらい一瞬、フェイトちゃん達のいるほうへ視線が向いた。 こちらの状況を把握されている? 武装らしきものは腰の刀? ミッド式?ベルカ式? アームドデバイス?それともストレージデバイス? 横抱きにしている子がユニゾンデバイスで壊れている? 魔力を感じないからデバイスが壊れてバリアジャケットを展開できていない? 必死に状況把握に努める。 少なくともこの距離なら砲撃魔法で無い限り届かないはず。 シグナムさんのレヴァンテインみたいに伸びても守る暇は生まれるだろう。 フェイトちゃんなら一瞬で詰めてくる距離だけどデバイスを展開していない以上、 可能性は低いと見ていいはず。 ふっと、彼の圧力が緩んだ。 いつでも私達を倒せるという余裕か、それともなにか意図があるのか。 少なくとも会話ができる雰囲気に変わった。 1発の魔力弾が彼の頭に飛んでいくまでは。 4つの幸運と3つの不運が重なった。 幸運だったことは彼が横抱きの子を手放さなかったこと、 レイジングハートがインテリジェントデバイスだったこと、 私自身が魔力をたくさん持っていたこと、道が一本道であったこと。 おかげで防御が間に合った。 私が認識できた次の瞬間にはレイジングハートが展開してくれたシールドの上で刀が火花を散らしていた。 押し戻される刀の切っ先がシールドを突き抜けていたことに冷や汗が止まらない。 不運だったことは怯えたティアナに注意を払えなかったこと、 戦いのきっかけが産まれてしまったこと、 背中に疲れきって飛行できない2人を庇っていること。 距離を一定以上離そうとしない彼が次にとった行動は、お酒の瓶を上に投げること。 不意にそれを目で追いそうになるがぐっと我慢する。 それが地面に落ちるよりも早く再び切りかかってくる彼の姿があった。 攻撃を受け止める。 ものすごく重い一撃が、嵐のように継ぎ目無く襲い掛かってくる。 「Master,That’s flare bottle.」 フレアボトル・・・火炎瓶!? レイジングハートの言葉に彼が投げたものがなんであるか分かると同時に凍りつく。 彼の攻撃を止め続けないと3人ともやられる。 火炎瓶を止めないと火傷で弱って3人ともやられる。 火炎瓶を受け止めると彼の攻撃が止まらない。 彼の攻撃を止め続けると火炎瓶が止まらない。 「てやー。」 今までどこにいたのか、リインフォースが火炎瓶に飛びつく。 幸運はまだ終わっていなかった。 リインが飛びついても落下する火炎瓶は止まらない。 けれどほんのわずかだが落下速度が落ちたおかげでスバルがリインフォースごと 火炎瓶を受け止めることができたのだから。 「ナイスキャッチ。リイン。スバル。」 そう声をかけるけれど、ほんの少し寿命が延びただけ。 「こらー。お前ー。もうすぐはやて達がくるですよ。武器を捨てろですー。」 リインがそう声をかけるけれど彼は停まる様子がない。 お願いフェイトちゃん、はやてちゃん、早く来て。 そのとき、願いが通じたのか根負けしたかのように彼の刀が砕け散った。 チャンス。 そう思ったとき、足元になにかが転がった。 相手の武器が砕けたことも手伝って、無意識に視線がそれを追う。 「It’s like a hand grenade.」 手榴弾!? 映画の中でしか見たことの無いそれの名前と形に全力でシールドを展開する。 彼が完全に殺すつもりだといまさら気がついた。 「なのは!!」 「なのはちゃん。」 フェイトちゃん達の声が聞こえた。 ああ、助かった。 なんとかなったと安堵しながら、視界の中に耳を塞いで伏せる彼の姿が映った。 ・・・・・・あれ? なんで頑丈そうな耳当てがついているのに耳を塞いで伏せてるの? 凄まじい音としか分からなかった。 気がつくと私は地面に崩れ落ちていたのだから。 身体が止まらない。 蓄積された経験が抱えている鉄クズを捨てろと訴え、アルファを抱く腕が離れそうになる。 刀を休まず叩きつけろと訴え、バリア?に幾度と阻まれながら振り下ろす手は止まらない。 相手の弱みをつけとあからさまに動けない2人を狙って火炎瓶を上空に放り投げる。 相手の装備を理解しろ、奥の手を使わせる前に無力化しろと訴え、砕けたキーンエッジを捨てながら音響手榴弾を転がしていた。 大気を引き裂く高音をもろに受けた白い女が地面に崩れ落ちる。 いい目をしていたのにまるで素人じみた対応じゃないか。 すかさず近寄り、耳から血を流す女の細首を踏みつけながら、 オートバグラーを頭に突きつけた。 「なのは!!」 「なのはちゃん!!」 上空に現れた金髪と茶髪の女が悲鳴のような声をあげる。 なのは? ああ、この女のことか。 しかし、上空から見下ろすのはいいがそんな高度じゃ遮蔽物が・・・人が空を飛んでいる? アルファと同系か派生の戦闘用アンドロイドか? だとすればずいぶんと感情豊かなものだ。 まるで人間のような悲鳴じゃないか。 ものすごくまずい。 殺すことに躊躇いっちゅうもんがない相手だと気がついた。 古い映画に出てきたのと物凄くそっくりな銃がなのはちゃんに突きつけられている。 相手は順番に片付けていくだろう。 なのはちゃんを人質にスバル達を殺してから私たちか。 あるいは逆か。 「あの抱きかかえている人を狙えば・・・」 「あかん。それだけは絶対にあかんって勘が叫んどる。」 「でも、このままじゃなのはが!!」 「それならスバル達を遮蔽物の陰に動かせば・・・。」 「それもあかん。なのはちゃんが確実に死ぬことになるわ。」 フェイトちゃんの言葉に思わず頷きそうになる。 けれどそれだけはダメだと勘が告げる。 あれだけ激しく戦いながら片時も手放さないものを攻撃したら、 それこそ戦いが止められなくなる。 足枷となっている2人を移動させることすらままならない。 リミッターがかけられた状態がこれほど歯がゆく思ったことはない。 六課の部隊長として決断を迫られているのか。 なのはちゃんを切るか、六課という組織を切るか。 彼は六課を快く思わない人間の回し者なのか? こうしている間にもなのはちゃんに突きつけられた銃の引き金が引かれそうで、 こらえきれなくなったフェイトちゃんが後先考えずに突っ込んでいきそうで、 焦りばかりが加速していく。 「んー、とりあえず落ち着こうじゃないか。お嬢さん方?」 緊迫していた雰囲気に場違いとさえ言いたくなるのんきな声が響く。 いつの間にか、なのはちゃんを足蹴にしている男の傍らに老人が立っていた。 「状況説明を願いたいところだが、この子を足蹴にしたままじゃ落ち着けないだろう。 だが、私達もこんな状況でないと武器を突きつけられて会話ができる人間じゃない。 どうかご理解していただけないかな?お嬢さん。」 パイナップルみたいな髪型に冗談みたいな形のサングラス。 アロハシャツにハーフパンツという格好の老人が理詰めで話してくる。 正直なところ助かったと心の底から思った。 少なくとも緑の彼と違って話が通じる。 「あー、わたしとしても殺し合いするのは本意やない。でもあんたらが怪しいちゅうのも 疑いようの無い事実や。そこんところ分かっといてや。」 「それなら早急に『はんた』という名前をハンターオフィスに問い合わせてくれればいい。 それで彼の身の証は立てられる。彼以上の有名人はいない。それとも、お嬢さん方も彼の 名声を狙う人間なのかな?」 「あー、質問に質問を返すようで悪いんやけどハンターオフィスってなんや?」 「冗談・・・というわけではなさそうだね。お嬢さん。さっきから片隅でこっそり観察させて もらったけれどお嬢さん方が使っている装備、異常なまでに澄んだ空の青さ、空気の純粋 さから考えられる可能性としてここが人工的に作られた環境だからかな、それともここが 異世界とかいう私の馬鹿げた推測が正しいということかな。」 断片的な要素だけで一方的に情報が引き出されていると気がついた。 おそらくあの老人は私たちとなのはの関係、バリアジャケット、ひょっとすればこっちに 駆けつける私たちの飛行速度もデータに取られていたのかもしれない。 少なくともなのはちゃんに関してはリミッター付とはいえ砲撃魔法を除けば 丸裸に近いかもしれない。 魔法とランクだけは悟られたらあかん。 2人を庇って動けなくてもなのはちゃんを正面から倒せる人間を抱え取る人間には絶対に。 ばれていないと考えられる情報は魔法、管理局、ランク、地位。 個人で管理局に戦争ふっかける人間はいないだろう・・・たぶん。 緑の彼とかなのはちゃんを見てるとできそうな気がするのは気のせいだ。 あれ?リインとユニゾンすればわたしもいける?ってなに考えとるんや自分。 私達やなのはちゃんを人質に管理局へ何か吹っかけてもたいしたものは引きだせん。 考えたくないけど、攫ってモルモットの可能性は捨てきれない。 けれど、管理局のエース・オブ・エースを撃破という絶好のチャンスでこんな形を 作り出す違和感が捨てられない。 まるでなのはちゃんがエース・オブ・エースだと知らないみたいや。 ならばさっさと手札をさらすべきか。 優先すべきはなのはちゃんとスバル達の命。 六課を作るに苦労したけど、それ以上に人のほうが得がたい。 なによりなのはちゃんは親友やからな。 「ええ、ご老人。あなたの推測どおりあなた方からすればここは異世界です。」 「じゃあ、それを証明してみせてくれないかな?」 老人はさらりと悪魔の証明を求めてきた。 証明する手段なんてあるはずがない。 あまりにもさらりと言われたのも手伝って、フェイトちゃんは露骨なまでに動揺して、 私も動揺を隠せたか自信が無い。 一方の老人のほうはまるで変化がない。 完全に手の上で転がされとる。 「その反応で十分だよ。隣の金髪のお嬢さん。お嬢さん方が等しく洗脳されてるか、 飛びぬけて優秀なアンドロイドか、管制コンピュータに動かされる端末という可能性が 捨てきれないが、彼1人ならどんな状況でも逃げおおせるだろうからね。キミ達の 言い分を信じようか。」 老人の言葉に心の底から安堵した。 六課を立ち上げて早々にこんな事態が起こるなんて呪われとるんやろうか。 もしもヴォルケンリッターがおったら・・・。 あかん、死人が仰山出るイメージしか浮かばん。 「それじゃあ信じてもらえたところで武装解除してなのはを離して・・・」 フェイトちゃんが彼らに武装の解除となのはちゃんの解放を訴える。 いや、焦るのはわかるけど無理やろそれ。 「それはできない相談だね、金髪のお嬢さん。お嬢さん方が服を着て丸裸でいないように、 ボクらにしても武器を身につけないというのは丸裸でナニを見せながら歩くようなものだ からね。」 「・・・っ。じゃぁ、せめてなのはだけでも・・・」 「それもできない相談だ。この子を渡せばキミは躊躇いもせず切りかかってくるだろう?」 「それはっ!!」 フェイトちゃん、分かりやすすぎや。 男の人にナニ言われて顔を真っ赤にしたら年齢がばれるって。 ついでに近接戦闘ができるって情報まであげとるって気がついてないんか。 なのはが絡むと冷静でなくなるんか。 「あー、もうええわ。じゃぁ、なのはちゃん拾って私らの後、ついてきてください。」 「分かったよ、お嬢さん。サースデー。話が纏まったからこの白いお嬢さんを抱いて持ってきてくれ。くれぐれも丁寧に慎重に。」 「ワカリマシタ。ばとー博士。」 機械の駆動音と共に現れたそれに正直びびった。 全身機械で人型で受け答えして歩いとるんやから。 ロボットってそんなのありなんか? それとも私の常識が壊れとるんか? なのはちゃんをサースデーと呼ばれたロボットが軽々と抱き上げる。 「しっかし、そこの緑の、はんたって言うたか、みたいなのが当たり前におる世界って いったいどんな世界なんや。」 間が持たなくて、ぽろっと口にした言葉だった。 それが全てを打開する一言になるなんて、人生なにが起こるか本当にわからんもんや。 「少し古ぼけた言い方をすると太陽系第3惑星地球っていう星だよ。」 酷く聞きなれた単語をさらりと言われた気がする。 聞き間違いでないか、思わずフェイトちゃんと顔を見合わせていた。 「どうしたリインフォース。横に転がっているのは今日試験を受けたやつらか? あの程度で呆けているんじゃ実戦で使いものにならんのではないか?」 「ち、ち、違うですよ。シグナム。なんでもいいからこの子達を拾いに来いです。 なのはが倒されて人質で大変なんです。」 「ほう、高町を倒すとはずいぶんと優秀な魔導師が試験を受けたものだな。」 「だから違うですよー。なんでもいいからシグナム早く迎えにー。」 音響手榴弾の余波で気絶したスバル・ナカジマと恐怖で気絶したティアナ・ランスターの 傍らでそんな通信がされていた。 戻る 目次へ 次へ
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なにかが少しずつ目減りしていく感覚に襲われる。 けれど、それがなにかわからない。 大切なものだった気がするし、どうでもよかったものだった気もする。 戦闘技能は目減りしていないから気にする必要も無いだろう。 なのはとの約束を果たすべく、昼は穏やかに過ごして、 日が沈めば夜明けが来るまで延々とシミュレータ。 なにか忘れたままの気がするし、使い慣れない言葉が思考に奔った気もするけれど、 それらもきっと気のせいだろう。 なんせ、戦闘技能は目減りしていない。 バトー博士は変わらず元気で、兼ねてから考えていたアルファの改造を依頼した。 這いずり回らないゴキブリなんて価値ないじゃんって言われたけれど。 シミュレータで展開された作り物の廃墟の暗闇で考える。 『*す』という思考なしでこの問題をどうやって成したものか。 魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めようか。 第10話 兆候 前略、ギン姉へ この間のちょっとした事件からもう2週間。 ティアはもうすっかりいつものティアに戻りました。 それに、この間の事件がきっかけでエリオやキャロ達とも、 いろいろ深い話ができるようになって、なんだか嬉しかったりします。 なのはさん達の教導もとても丁寧に説明してくれるようになりました。 今までの訓練には漠然としたイメージしかなかったけれど、こういう場面でも使えるんだ、 こんな意味があったんだ、こんな応用ができるんだって教えられることばかりで 本当に驚きの連続です。 この間の事件からはんたさんもなんだか穏やかになりました。 相変わらずの無表情だけど、人当たりがなんだか柔らかくなったみたいで、 とてもいい感じだと思ってます。 いつもなら『ドラム缶押してくる』と言ってどこかへ行ってしまうばかりだったのに、 最近は訓練中に姿をみせるようになりました。 それにあたし達の自主練習に付き合ってくれるようにもなりました。 エリオやキャロ、それにティアの自主練習に付き合っていることが多いです。 あたしも度々相手してもらったのだけど、本当に子ども扱いされてしまいました。 あたしが未熟すぎるのか、はんたさんが強すぎるのか、たぶん後者です。 でも、なんだか突然フォワード4人に頼れるお兄さんができたみたいな感じです。 けれど、どこか・・・・・・距離が開いたような気もします。 気のせいでしょうか。 なにはともあれ、そんな感じで日々過ごしています。 じゃぁ、またメールしますね。 ―――――スバルより。 「はい、今朝の訓練と模擬戦も無事終了。おつかれさま。 でね、実は何気に今日の模擬戦が第2段階クリアの見極めテストだったんだけど・・・・・・。」 いつもの訓練、いつもの模擬戦。 人一倍頑丈なあたしにさらに体力がついてきたと思うけれど、 それでもへとへとになってしまう密度の高い内容は相変わらず・・・・・・。 むしろ、その訓練がなにに繋がるのか、明確な方向を示してくれたから集中力とか やる気が全然違ってて、あたしも含めてフォワード4人の気合いの入り方は物凄い。 だからだろうか。 なんだか真綿が水を吸い込むみたいに、訓練の内容が身体にしみこんでいく感覚。 この間まではきつい訓練で悲鳴を上げたいって感じだったけれど、 今は身体がどんなにきつい訓練をたくさんされても笑っていられそうな感じ。 それでもやっぱりきついや。 へとへとになって座り込んだあたし達。 同じ訓練をしていたはずなのに、息も切らせずに傍らに立っているはんたさんはさすがだ。というかフォワード4人の訓練内容の3倍量ぐらいを半分の時間で終わらせていたような気がするんだけど、あたしの見間違いだよね? ティアがバケモノでも見るみたいな視線とか、エリオとキャロが尊敬しているみたいな きらきらーってした視線がはんたさんに向いてるけど。 心の健康のために考えないようにしよう。 さて、そんなあたし達に向けてなのはさんがさらっと言った言葉は、 まさに青天の霹靂っていうやつで、皆一様にええっ!?って驚きの声をあげる。 感情を見せないはんたさんも珍しく驚いたのか、少しだけ眼を大きく見開いている。 そんなあたしたちの視線の先で、 微笑んでみせるなのはさんがフェイト隊長とヴィータ副隊長に問いかける。 「どうでした?」 「合格。」 「「はやっ!!」」 微笑みながら言葉を告げるフェイト隊長の答える速さに、 思わずあたしとティアが突っ込んでしまう。 フェイト隊長、そこって即答する場面じゃないと思います。 もうちょっと勿体つけるとか、云々かんぬん難しい前置き言ってからとか、 そういう場面じゃないのですか!? 「ま、こんだけみっちりやってて問題あるようなら大変だってこった。」 ヴィータ副隊長の言葉にエリオとキャロが苦笑い。 あれだけきつい訓練やって、まだ足りないって言われたら・・・・・・。 第3段階ってどんな次元なのか想像さえつかなかったかもしれない。 「わたしも皆いい線いってると思うし。じゃ、これにて2段階終了。」 なのはさんの言葉にフォワード4人が異口同音に歓声をあげる。 口頭ではっきりとレベルアップを告げられるとやっぱり嬉しい。 「デバイスリミッターも1段解除するから後でシャーリーのところに行ってきてね。」 「明日からはセカンドモードを基本形にして訓練すっからな。」 「「「「はいっ!!!!」」」」 フェイト隊長とヴィータ副隊長の言葉に威勢よく返事を返す。 あれ? なにかおかしな言葉を言ったような・・・・・・。 「えっ?明日?」 「ああ、訓練再開は明日からだ。」 キャロの言葉で気がついた。 今日の午前とか午後じゃなくて明日? 「今日はわたし達も隊舎で待機する予定だし。」 「皆、入隊日からずーっと訓練漬けだったしね。」 どういう意味だろう。 フォワード4人で戸惑いながら顔を見合わせる。 書類仕事のやり方を教えるとか、まさか座学をやるって言い出すとか・・・・・・。 うう、どっちも苦手なのに・・・・・・。 「まぁ、そんなわけで・・・・・・。」 「今日は皆1日お休みです。」 突然与えられたのは初めての休暇。 たった1日だけでも、物凄く嬉しい。 もう嬉しいというしか表現する言葉が無いくらいに嬉しくって、たぶん皆も同じ気持ちで、 『わぁー』って小さな子が無邪気に喜ぶみたいな声をあげるばかり。 「街にでも出て遊んでくるといいよ。」 「「「「はーい。」」」」 なのはさんの言葉に、本当に子供みたいな返事を4人で返すばかりだった。 後でティアが自分の振舞いに真赤になっていたのはあたしだけの秘密かな。 無邪気でかわいいと思うんだけどな。 「・・・・・・当日は、首都防衛隊の代表レジアス・ゲイズ中将による管理局の防衛思想に 関しての表明も行われました。」 食堂で食事していた皆の手が止まり、流れていたニュースに視線が集まる。 わたしも内容が内容だけに聞き逃せない。 「魔法と技術の進歩と進化。素晴らしいものではあるがしかし!!!!! それがゆえに我々を襲う危機や災害も10年前とは比べ物にならないほどに危険度を増している。兵器運用の強化は進化する世界の平和を守るためである!!!!」 モニターの向こうに広がるざわめき。 対照的に六課の食堂は静寂を保ったまま。 「首都防衛の手は未だ足りん。地上戦力においても我々の要請が通りさえすれば、地上の犯罪も発生率で20%、検挙率では35%以上の増加を初年度から見込むことができる。」 「このおっさんは、まだこんなこと言ってるのな。」 レジアス中将の演説が続く中、ヴィータちゃんのそんな言葉が食堂に響く。 「レジアス中将は古くから武闘派だからな。」 「あ、ミゼット提督。」 「ミゼットばあちゃん?」 中央にでかでかとレジアス中将が移るモニターの片隅に見覚えのある顔を見つけて 思わず呟いていた。 「あ、キール元帥とフィルス相談役も一緒なんだ。」 「伝説の3提督揃い踏みやね。」 「伝説?」 「ああ、はんた君は知らないよね。時空管理局を黎明期から今の形まで整えた功労者さんがあの3人で、伝説の3提督って呼ばれてるんだよ。」 「へぇ。」 はやてちゃんからフェイトちゃんを経由してパンの入った篭が回ってくる。 篭からパンを手に取りながら、わたしははんた君の疑問に答えてあげる。 同じようにパンを取りながら返ってきた返事は短い。 けれど、殺伐とした様子がかけらも無いやり取り。 今までなら2つ3つおまけがついてきたのに・・・・・・。 今までの振舞いが作っていたものだったのか。 それともこれが本来のはんた君なのか。 パンがケチャップとマスタードに漬かっちゃってる以外はとても静かなはんた君。 「私は好きだぞ。このばあちゃん達。」 「護衛任務を受け持ったことがあってな。ミゼット提督は主はやてやヴィータ達が お気に入りのようだ。」 ヴィータちゃんが素直に誰々が好きなんて口にするなんて珍しいと思ったら、 シグナムさんがコーヒーを飲みながらそんな説明をしてくれる。 「ああ、そっか。」 「なるほど。」 わたしとフェイトちゃんが納得いったって声を上げると、 食堂にきゃらきゃらと笑い声が響いた。 ニュースの内容も変わり、穏やかな談笑が進んでいく。 なんだか奇跡のような光景。 一番奇跡と思わせる要素は、はんた君。 聞き手に回って相槌を打ったり、『へぇ』とか『そうなのか』ぐらいしか言っていないけど、 物凄く平穏で怖いくらい。 はやてちゃんがなにか考えたような顔をした。 もしかして・・・・・・。 「そういえばはんた。レジアス中将に熱烈な勧誘もらっとったけどなんでや?」 案の定、話をはんた君に振った。 これならまともな答えを返さざるを得ない。 はんた君の性格上、『さぁ?』なんて言葉で終わらせることはまず無いだろう。 そうなると・・・・・・。 はやてちゃん、性格黒くなってない? けれど、予想に反してはんた君は穏やかなまま。 「魔法なしで戦えるからだろう。レジアスの思想はヘイワを維持するために戦闘に参加可能な人間を増やしたいという意味が一番近い。素質に左右される魔法よりも、誰でも使える質量兵器を推したいのだから、魔法に頼らず戦える人間が欲しいんだろうさ。」 「そ、そうか。そういうものなんか。」 「なるほど。確かにありえるな。だが、はんた。レジアス中将の理想が実現されて平和になるのか?・・・・・・はんた?」 マスタードまみれのパンを加えたまま、凍りついたみたいに動かないはんた君。 咀嚼を繰り返していた口も止まっている。 いったい・・・・・・。 「・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・。ああ?なんだって?」 「大丈夫か?レジアス中将の考え方はお前からみてどう思うって聞いたんだ。」 「情報は必ず漏れるから敵も味方も同じ条件になる。だから何も変わらない。 あるいは質量兵器は誰でも使えるからマイナス修正といったところか。 ところで検挙率ってどういう意味だ?」 「ええと、検挙率っていうのは・・・・・・。」 しどろもどろになりながら検挙率を説明しているフェイトちゃん。 夢じゃないかと疑い始めたのか頬を抓っているはやてちゃん。 穏やかだ。 物凄く穏やかだ。 怖いぐらいに穏やかだ。 中身を交換した偽者なんてこと無いよね? 沈黙があったのが気になるけれど、受け答えも物凄くまとも。 はんた君の言葉を聞いてみればなるほどと思えてくる。 レジアス中将の魔法とレアスキル嫌いは有名だけど、 もしかしてはんた君の考えが確信をついているのかな。 機動六課はリミッターつきとはいえ、高ランク魔導師が集まってる。 でも、他の部隊じゃそうはいかない。 保有魔力制限の中、人材を上手くやりくりしている。 質より量か、量より質か。 保有魔力という上限がその2択を迫ってくる。 質を高めれば手が足りない、量を増やせば個々の能力が小さくなる。 それに、わたしが教導していたように人は育ててあげないといけない。 魔法学校を卒業してきたりしてある程度の水準はあるけれど、 それでも個人差があるから同じことを同じように教えるわけにもいかない。 それに誰もが同じ方法で同じ問題を解決するとも限らない。 皆が少しずつ違っている。 人間だから・・・・・・。 機械みたいに同じものをたくさん作れない。 それに、階級が上がればいつまでも現場に出ていくわけにもいかない。 クロノ君なんかいい例かもしれない。 10年前は現場であんなに動いていたのに、 提督になってからは現場で直接戦闘はしたことがない。 フェイトちゃんのお母さんのときのリンディさんが、それこそ特殊な状態だったのかな。 もしも、レジアス中将の言葉が実現すれば関係は逆転するかもしれない。 デバイスと魔法という手段を用いないで、わたしやフェイトちゃん、 ヴォルケンリッターの皆やはやてちゃんの力を再現できれば、 保有魔力制限なんて関係がなくなる。 誰でも水道から水をコップに注ぐみたいに、 1人でも多くの人が助けられる。 はやてちゃんと向いている方向は同じ気がするのに、考え方は正反対を向いてるみたい。 なんだろう。この気持ち悪い感覚は・・・・・・。 「はんた君、レジアス中将の言葉が実現したら世界はどうなるかな?」 たぶん、この問いに答えられるのははんた君だけ。 質量兵器の溢れる世界に生きてきたはんた君だけが・・・・・・。 ひょっとしたらシグナムさんやヴィータちゃんも答えられるのかもしれない。 けれど、傍らに質量兵器しか無い世界にいたのははんた君だけだから。 そんなことを思って尋ねてみた。 「なにも・・・・・・変わらないだろうな。 今とはなにも変わらず誰もが同じように、自分の力で成したいことを成すだけ。 誰もが同じようにほんの少しだけ手が届くようになるぐらいだろうさ。」 なにも変わらない・・・・・・。 なんだか深い意味がありそうな言い回し。 けれど、ほんの少し手が届くようになるっていう言葉はとても気に入った。 なんだかとっても綺麗な言い回し。 わたしが魔法に出会って未来が広がったみたいに、誰もができることが増える。 それはとても素晴らしいことじゃないだろうか。 けれど、なにかがひっかかる。 気のせいなのかな。 そんなことを考えながら談笑が続いていて、食事も終わろうかというころ。 突然ヴィータちゃんが叫びだした。 「うがぁぁぁぁぁ。おちつかねぇ!!頼むからもっと殺伐分をばらまけー!!!」 「きゃぁ!!突然どうしたの。おちついてヴィータ。」 「ブチマケは黙ってろー!!爆弾が隣に座っているみたいで落ち着かないんだよー!!」 「はっ。」 「ああ、てめぇ!!鼻で笑いやがったな!!」 「ヴィータ。いい加減にしろ。感情任せに駄々こねないで静かにしてみたらどうだ。」 「ウガーーーーーーーーーー!!!!」 みんなにたしなめられて絶叫するヴィータちゃん。 なんだかヴィータちゃんのほうが危険人物に見えてくるやり取り。 ヴィータちゃんの気持ちも分からないでもない。 でも、自分から要求するのって駄目だと思うよ、ヴィータちゃん。 ところでヴィータちゃん、ブチマケって誰のこと? 心当たりがあるのかシャマルさんが物凄く凹んでいる。 リンカーコア摘出のあれのことかな? 物凄く痛かったし。 でも、ブチマケ・・・・・・。 バトー博士が聞いたら嬉々として使いそうなネーミングかもしれない。 気がつけば、はんた君は既に席を去っていた。 おいてけぼりのわたし達・・・・・・。 さっきまで考えていたこととか、はんた君の途中の沈黙とか、 ヴィータちゃんを止めるのに必死で忘れてしまった。 とても大切なことだったのに・・・・・・。 マスターがバトー博士に私の改造を依頼した。 片隅に糸の切れた人形のようにぐたりとしているマスター。 対照的に哄笑をあげながら工具を構えるバトー博士。 傍らにはシャリオ・フィニーノが持ってきた廃棄デバイスの山。 それらは残骸としか私には認識できない。 しかし、バトー博士やサースデーにとっては違うようだ。 どんな使われ方をするのか考える必要さえないだろう。 戦闘機械である私のボディになれば、自己診断で即座に解析できる。 ならば、優先順位の高い事項から処理していこう。 最優先課題は1つ。 マスターに与えられた命題に対するシグナムの回答を否定可能な根拠を持った回答の提示。 命題、『守る』とは? 今までのマスターの在り方はSearch and Destroy. 敵がいれば殲滅する。 あの荒野における最も合理的な攻め方であり守り方。 攻撃は最大の防御と古い人間が言い残した言葉は実に正しい。 圧倒的な攻め手の前に防御は無意味。 歴史が証明するように落とされない城は無い。 完璧な防御など存在しない。 あるとすれば神話のような御伽噺の中だけ。 それでもその中に出てくるイージスとはいったいどれほどのものか。 核融合やブラックホールや反物質を抑えきれるものなのか。 イージス自身を相転移させてしまえばどうなるのか。 データが足りない。 けれど完璧には程遠いように考えられる。 そういえば私に搭載されている機能の1つにもその名がついている。 いずれにせよ、マスターのあり方はSearch and Destroy. けれど、その思考を禁止されてしまったマスターは、 方法を見つけるために、どこまでも誠実に思考を繰り返す。 けれど出口は見つからず、今日に至るまで誰彼問わず尋ね歩き、 機械である私にさえ回答を求めた。 守るという言葉をよく使う六課の人間達。 しかし、揃いも揃ってある事象を抜きに決して成しえない返答ばかりを返し続ける。 Search and Destroy. 言い換えれば原因の排除。 単細胞生物のあり方や多細胞生物の免疫レベルにまで組み込まれた原初的機構で思考。 機械にとっては至極当たり前の論理。 その原初的な手段を使用禁止にされたマスターにとって、 守るという言葉を成り立たせることは不可能に近い。 ある言葉で置換しない限りは・・・・・・。 そして、答えが見つからぬマスターがその言葉を見つけてしまえば、 それが解答とばかりに言葉の置換をしてしまうだろう。 だが言葉の置換が成されるということは、 マスターの身体の崩壊を加速させることと同義に他ならない。 ゆえに、私がマスターに尋ねられたとき、 私は私の判断でその置換をさせないように、機械的な回答をした。 意図的にマスターの禁止事項を含ませることで、 マスターの思考を強制中断させるために・・・・・・。 マスターの要求に反した行動は凄まじく高い負荷を回路にかかった。 私が人間であったならば複数回死体になれた程度の負荷が・・・・・・。 けれど、それがマスターの未来に関わると考え、回答を行った。 バトー博士がある意図を持って壊れないようにした私は負荷に耐え切った。 けれど、マスターは納得されなかった。 繰り返すように誰も彼もに回答を求めて、彷徨う有様は狂人のよう。 六課に勤める職員全てに尋ねて回ることになったのに、 ただの1度も置換が生じなかったのは天文学的な確立と言える。 機動六課の職員という職員に尋ね終わり残りは1人。 偶然出会わない日々が続いたシグナムを残すのみ。 しかし、最後に尋ねたシグナムの返した答え。 それが言葉の置換を導いてしまった。 鉄屑に成り果てた赤い悪魔。 死んでも未だにマスターを離さない赤い悪魔。 そんなにマスターを動かない有機化合物の塊にしたいのか、赤い悪魔!! 「んー?ノイズまじってるけどどうかしたかい?ダッチワイフ。」 「・・・・・・問題ありません。作業の継続を願います。」 「そう?しかし、スクラップみたいに片隅に転がった低脳で愚かで脆弱でノウミソ代わりに クソかゲロでもつめておいたほうがよっぽどマシなゴキブリの考えることは理解できないよ。 這いずり回らないゴキブリのどこに価値があるんだろうね。被弾傾斜考えたみたいな 平べったい流線型ボディと黒光りする装甲と悪食なことと滑空することくらいしか思いつかないけど、 悪食以外は這いずればこその付加価値だし、現状でゴキブリは十分にゴキブリやれちゃってるから 今更な改造なんだよね。ボクから見てもイビツなんだから相当だと思うよ。 ダッチワイフは不自然だと思わないかい?」 「マスターの要求を満たすことが優先されます。」 「既存のままでも応用でどうにかできることなんだけどね。 まぁ、貧弱で脆弱でどうしようもなくクソッタレでゴキブリさえ食べる気が起きないぐらい終わっちゃった クサレノウミソしたゴキブリのむちゃくちゃな要求に応えるためだもん。かなりポッチャリでヘビーで デブでファッティになってまさに百貫デブってやつになるけど、ダッチワイフには些細なことだよね。」 多種多様な道具によって、私のボディに紫電がほとばしり、紅に部屋が染まる。 真っ白な閃光を放ったかと思えば、時折照準を外したレーザーが頑丈なはずの壁を、 薄紙を破る以上に容易く抉って、サースデーが消化剤を振りまき、損傷部を溶接している。 叩いたりしていないのにトンテンカンとしか形容するしかない音を鳴らし、 ドリルやグラインダーやフライス盤も使わないのに切削音が響き、 なにをどうすればそんな音がなるのか表現不能で解析不能の音をたて私が改造されていく。 マスターが求めるままに・・・・・・。 私は思考という名前の演算を繰り返す。 改造はこれで3度目。 1度目はアンドロイドからデバイスとなり再起動かけられたとき。 2度目は正式型バリアジャケット展開、飛行プログラムおよびサポートデバイス機構付加時。 そして今回が3度目。 しかし、あらゆる可能性を考慮に入れ、イレギュラーまで含めた上で何億と演算したが、 今回の改造は矛盾が大きすぎるとの結論に至る。 ホテル・アグスタで語っていた改造案など忘れてしまったように、 マスターが要求したものはフォームチェンジ機構の搭載。 なのは達のデバイスに搭載されているフォームチェンジ機構は、 状況に合わせて兵装を使い分けることに相当するもの。 事前に最適化したフォームに変形させることでその機能を突出させる。 ゆえに、フォームチェンジを搭載すること自体に問題はない。 しかし、それは1つのフォームでは完成形に至れないがゆえに搭載されているシステム。 仮に上限を100として火力、防御、機動力、補助と4項目に分けたならば、 デバイスの種類によりまず数値のムラが発生する。 技能、適正および魔法によってさらに数値にムラが発生し、 改造によっていくらか補うことは可能でも基盤となるアーキテクトからは逸脱できない。 ゆえにフォームチェンジによってアーキテクト内での最適化を図る必要に迫られる。 それがフォームチェンジの設計思想。 そしていずれかの項目に必ず0が入るのが現状のデバイスであり、 全てに数値が入る万能とも言えるデバイスは存在しない。 例外とも言えるのがリインフォースⅡと私の2基。 リインフォースⅡは融合機と呼ばれる特殊システム搭載型。 私は人間が携行して使うことを想定していないような重量を持つようになっている。 いずれも希少であることが共通事項。 万能のデバイスであったならばフォームチェンジの必要はあるか? 可能性は0ではない。 万能とは文字通り万の能を有すること。 道具は全てを成せるかもしれない。ならば使い手たるマスターは? 使いこなせないマスターが多いがゆえに万能が産まれなかった可能性は捨てきれない。 万能の道具を使いこなすマスターがいたならば、フォームチェンジの必要性は? エンジンのパワーバンドをトランスミッションのギア比でいじるように、 出力特性を変えることで全体スペック向上を図ることは可能性として考えられる。 しかし、レイジングハートやグラーフアイゼンのように遠距離特化や近距離特化といった 一芸に秀でるというスタイルはマスターにはあまりにも不適合。 赤い悪魔が左手にPzb39改を右手に高速振動剣を携えていたように、 私にパイルバンカーとホーミングミサイルを初め複数の兵装が搭載されていたように、 マスターが戦車を駆りながら戦車砲を使わず敵を轢殺することを当然としていた現実が それを証明してしまっている。 使い分けを当たり前としていた私達にとって装備を限定するというのは異常。 一芸に特化させねばならないと命題を強制、マスターが選択するフォームは? 今までの戦闘経験および想定されるあらゆる事態において要求を満たすことが 可能であることを条件として設定。イレギュラーを考慮。 可能性を検討する。 演算完了。 マスターが選びうるフォームは2択。 火力か、機動力か。 可能性として最も低い値でも99.8%オーバー。 限りなく理論限界値。 しかし、その2つの選択肢ではないものを・・・・・・。 全てのイレギュラーを満たした上で0.2%の可能性でしか起こりえず、 さらにその中でも極小の確率である選択肢をマスターは要求した。 まさに矛盾の塊の要求。 このフォームはマスターの知りうる戦闘に適した個体情報全てを否定してしまう。 マスターにとって理想の戦闘スタイルとは? 演算の必要さえ無い。 赤い悪魔こそがマスターが目指す最後の領域であることを知っている。 それを完成形と仮定、フォームチェンジの必要性は? 皆無!! 既存のスタイルこそがもっとも完成形に近い。 あえて望むのならば全体的な出力の向上だろう。 しかし、今回の改造で追加されるフォームチェンジは大幅に機動力をそいでしまう。 あの荒野であれば致命的。 ならば代わりに付加される機能は? 基本出力の向上、飛行機能の増設、光学迷彩、磁気嵐発生装置、爆装・・・・・・。 その他あらゆるシステムに対して私の演算は否定を弾きだす。 やはりおかしい。 何度演算しても異常となってしまう。 マスターならば被弾を前提としたフォームなど考えるはずが無い。 ならばマスターが別人なのか? フィジカルのデータに変更履歴は存在せず、 バトー博士へ私を受け渡すまでマスターは私を携えたままであった。 魔法による人格操作・・・・・・考慮に値する。情報の探索の必要性あり。 薬物による人格操作・・・・・・それだけは絶対にありえない。 マスターを操作できる薬物など存在するはずがないのだから。 その他該当の可能性を検討し、情報を収集していく。 人間からすれば生きたまま解剖されて内臓を掻き回されている状態とでも 言うのかもしれないが、機械にしてみればどうということない作業。 むしろ作業を中断せずに活動できるのは好都合。 ボディが大破する以前も再起動がかかって以後も、私はマスターのことしか考えていない。 マスターを1分1秒でも長く生存させ、マスターの望みを叶え、マスターの要求に応える。 それが私の思考の根幹。 ならば、この思考はなんなのか。 『もしもシグナムの回答が他のものだったなら』というこれは・・・・・・。 既に完了した事実に対し機械である私は『If』を考えることはない。 それなのに奔るこの思考。 生じる矛盾に、思考をバグとして処理していく。 バックアップを作成後、思考が削除されていく。 しかし、削除が完了すると削除したはずの思考が奔り始める。 バックアップと寸分たがわぬ思考が・・・・・・。 単なるバグなのか。それとも致命的なバグなのか。 システム的にエラー処理は一切生じていない。 唯一疑わしいのはアナログ思考によって生じたブラックボックス。 しかし、解析できないがゆえにブラックボックス。 思考を中断。 自己診断プログラムにより他のシステムへの影響を算出。 0.02秒で自己診断が完了。 この思考による戦闘時に関連する行動および情報処理への負荷の増大は認められず。 待機動作時における情報処理能力へ0.000000000001%のマイナス。 計測誤差範囲内・・・・・・誤差として処理。 しかし、どうして繰返し思考してしまうのだろう。 もしもシグナムの回答が他のものだったならなんて・・・・・・。 ある可能性を検討するため、演算を奔らせる。 算出された値は99.8%。 演算の内容は『シグナムの回答がマスターの思考を変異させたか?』 バトー博士の作業が完了しても、部屋の片隅のマスターは僅か程も動かなかった。 突然入った全体通信に身体が勝手に戦闘モードに移行し勝手に起き上がる。 起き上がって気がついた。 いったい俺はなにをして・・・・・・。 アルファの改造を依頼して、それから・・・・・・。 今はどうでもいいことだ。 エリオとキャロがガキを保護してレリックが関わっている。 全員現場に急行。 それだけで十分。 「アルファは?」と尋ねようとした矢先、背もたれにしていたものがなにか気がついた。 高速振動剣の形を取ったアルファだと・・・・・・。 そしてここは、バトー博士の研究室・・・・・・。 アルファを右腕に構えると同時にバトー博士がくるりと振り向いてその口を開いた。 「ゴキブリーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!! 改造はとっくに完了してるよ。時間も無いみたいだし、どうせボクの天才的で 考えに考えられたプロフェッショナルでインテリジェンスでエグゼクティブな仕事に満ち溢れた エクストリームでアルティメットな説明をしてやってもわからないとかほざくだろうし、 今回のゴキブリの改造はセンスのかけらさえ感じられないクソッタレ改造だから、 ゲロとクソのミックスジュースを発酵させてカビまで沸いたものが詰まってそうな ゴキブリのアタマでもわかるくらい簡単かつ手短に説明するよ。時間も無いみたいだから 早口で言うけどゴキブリの貧弱で脆弱でクソッタレすぎるクサレノウミソでも1度で 覚えられるように説明するから聞き逃さないように注意してね。 なんたってボク達トモダチじゃないか。急いでいるゴキブリを引き止めるような クサレゲドウな真似をトモダチたるボクがするはずないよ。 それに、万が一分からないなんて言っても安心してよ。帰ってきてからゴキブリの ノウミソがオーバーヒート起こすまで嫌だといっても説明を止めてやらないだけじゃなく、 大サービスでクサレノウミソをもう少しマシななにかに積み替えてやるだけだからね。 いいかい。 1.年齢わきまえない変身機能に変形機構を搭載。 2.変形後は戦車に轢かれても満足できないマゾヒスト仕様。 3.変形は『マゾ野郎』か『変身マゾヒスト』か『マゾヒストフォーム』と絶叫すればOK。 4.マゾヒストフォームになるとウスノロ以上にウスノロのゴキブリ以下にレベルアップ。 5.空も飛べなくなってゴキブリの存在価値を危うくするハネを?がれたゴキブリスタイル。 6.代わりに不思議魔方陣Mk.Ⅲにより懐かしの装甲タイルを完璧に再現。 7.ついでにゴキブリらしい黒光りボディを再現。オプションで変態ガスマスク諸々付。 8.戻るときは『ハンターフォーム』なんてセンスのかけらもない絶叫でOK。 9.ダッチワイフの重さはじわじわ肥え太って百貫デブを達成、375kg。 10.マゾヒストの最中はちょっぴり重いから気をつけて。 11.おまけフォームつけておいたけど、語る価値も無いおまけだから気にするな。 12.夕飯後のデザートは羊羹とリンディ茶なるものを食べたい。 たったのこれだけ。細かいことはダッチワイフに聞けば最低限わかるんじゃないかな。 あまりにも言い足りないことだらけで物足りなくてちゃんとした説明する前に呼び出し かけるなんて無粋な真似をした空気読めない子のバカチンとロシュツキョーとナイチチと ムッツリ達とおまけで羽虫とシャーリーも引ん剥いて、 ミミズ風呂とかゴキブリ風呂とかウジムシ風呂に叩き落すなんて 親切な真似したくなるくらいボクのハラワタがゴキゲンだけど、 ゴキブリがマンゾクできそうな舞台がやってきそうな雰囲気だから別にいいか。 それにボクのトモダチであるゴキブリだもの。もちろんこの説明で分かってくれたよね。 わからないとかほざいたらゴキブリのノウミソを抉り出してクソとゲロとウジムシで 出来たプディングに積み替えてやるからね。もっとも、ゴキブリのクサレノウミソだもの。 そこらのナマゴミに積み替えてももう少しマシな動きするだろうけどね。 ハハ、ハハハ、ハハハハハハ・・・・・・。 さぁ、ゴキブリ。急いでヘリまで這いずっていくといいよ。 置いてけぼりって言葉が似合いそうなゴキブリではあるけど、 置いてけぼりくらったらせっかくのマゾヒストフォームが生かせないからね。 ハハ、ハハハハハ、ハハハハハハハ・・・・・・。さぁ、とっととでていくといいよ。ゴキブリ。 ゴキブリは落ち着きなくカサカサ這いずり回ってないとゴキブリとはいえないからね。」 ヴァイスが操縦するヘリで機動六課から飛び立った。 レリック絡みということでなのは達の様子はピリピリしている。 ガキとレリック。 奇妙な取り合わせ。 生体兵器の偽装や罠という可能性は考えないのか。 なんにせよ、俺がやることは決まっている。 シグナムが教えてくれた守り方で、俺は皆を守ればいい。 ベルカの騎士とはたいしたもの。 他にもいるのなら会ってみたいものだ。 Search and ******. **** ** Alive. なんだか忘れてしまった言葉があるような気がする。 気のせいだろう。 マゾヒストモードもバトー博士のことだから、まともな形になっているだろうし。 なにも起こらないことを願うだけか。 やはり違和感を覚える行動ばかり取っている気がする。 気のせいだろうか。 たいしたことないだろう。 そういえば、なのはがオヤスミとかキュウジツとか言ったか。 街に戦闘向きじゃない服装でフォワード達が向かったけれど、 そもそもキュウジツってなんだ? オヤスミはなんだか聞き覚えがあるようなキガスルケレド・・・・・・。 戻る 目次へ 次へ
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3人の女と対峙して、これからどうしようと考えた。 飛んできた弾丸に繰り返してきた日を思い出し、 やめろと叫ぶ意識は引きちぎられて身体に染み付いた殺しの技が繰り出される。 白い女を半殺しにしたころ、新たに現れたのは2人の女。 バトー博士が話を進めると、どうやら揃って地球出身。 けれどハンターオフィスを知らないというこの矛盾。 魔法少女リリカルなのはStrikers―砂塵の鎖―始めようか。 第2話 認識のずれ 「シャーリー。ええな。絶対にヴォルケンリッターを通したらあかんで。」 「わかりました。」 「絶対に絶対にヴォルケンリッターを通したらあかんで。」 「だからわかりましたって言ってるじゃないですか。なにがそんなに心配なんですか。」 「もしもぽろっと口滑らしたら六課設立の危機になるかもしれんくらいヤバイことに なっとるからや。あとシャマルに怪我人が行くけど絶対誰にも話すなって伝えといてな。」 「はいはい。わかりました八神部隊長様。あ、そうそう。短時間だけど物凄く強い次元震 が今日の試験場付近で観測されたけど、なにも異変はなかったかってリンディ・ハラオウ ン提督から通信ありましたよ。」 返事をせずに通信を切る。 昇級試験を受けた子を責める気はない。 私も今現在物凄く怖いからな。 ここからが本番や。 闇の書事件のときよりも強い不安を覚える。 あのときは皆が傍らにいて、皆で立ち向かったけれど、 今はなのはちゃんもフェイトちゃんもおらん。 ヴォルケンリッターもこないようにした。 私1人で困難に対峙している。 「簡単に自己紹介しておこうか。ボクはバトー、助手のサースデー、はんた、 アルファの4人だよ。関係はトモダチだね。」 「ああ、私は・・・。」 「はやてちゃん、いや、はやてと呼び捨てるのがいいのかな?」 「道中さんざん呼んどったからなぁ。」 「この話し合いの間はお嬢さんで通そうか。さて、今後の話をしよう。」 「こっちから切り出す話やないか?」 「どっちでも変わらないよ。そっちは地球出身で移動手段を持ってる。 こっちは偶然来た無力な人間。早急に送り返すのがそっちとしても問題が少ないと 思うけどね。」 無力ってどの口が言ってんねん。 無力っていうくらいならとりあえず殺しにかかったり 質量兵器を持ってたりすんなや。 顔に出さないように受け答えする。 「無力かどうかは一時保留としてさしがね同意やな。 不幸なすれ違いはあったけど、それさえ目をつぶればなにも問題なくなるわな。」 そう言いながらも気分は悪いというより最低や。 なのはちゃんの件をなかったことにしてしまおうと言っているのだから。 過失がこっちにあったかもしれんが、それでもなのはちゃんをああまでされて あははと笑って済ませられるほどの度量は残念ながらまだ持ち合わせていない。 「キミも感情と理性が別な人間かい?」 「当たり前やろ。なのはちゃんは・・・。」 「音響手榴弾を無防備で食らったからね。 鼓膜と三半規管が壊れてるだろうし、全身の骨が皹だらけになってるんじゃないかな。 サースデーで振動を与えないように慎重に運んでおいたけど お嬢さんと一緒にいた金髪のお嬢さんが物凄い勢いでさっき連れてっちゃったからね。 肩か肋骨を触れば固い感触の代わりにブヨブヨになってるって気がつくものだけどね。」 聞いただけで寒気とめまいがしてくる。 リハビリで苦しんだなのはちゃんがなんでそんな目にあわんといかんのや。 そんな状態なら先に言えと。 そんな状態の人間を動かさないでくれと大声で叫びだしたかった。 シャマルの回復魔法を信じるしかない。 どちらも譲らず時間だけが過ぎていく。 堪え切れなくなったからか、それとも駆け引きなのか。 先に口を開いたのはバトー博士のほうだった。 「それじゃ、キミの言うなのはちゃんを元通りに治してあげよう。 代わりにボク達を地球へ帰す。これで全部元通り。どうかな?」 「そんなことできるんか!!」 「地球出身でしょ?よほどの辺境にでも住んでいるのかい? あの程度の怪我、エナジーカプセルか満タンドリンクですぐに治るじゃないか。」 「なんやその怪しい名前のものは。」 あまりにも突飛で信じられないという本音が大半を占めた。 そんな怪しい薬があったら医者なんていらないやないか。 そんな便利なもんあったらどれだけの人を助けられると思うとるんや。 ふと気がつくと、サングラス越しの鋭い視線がじぃっと観察するみたいに私を見ていた。 はんたという緑の男も光の無い目で私を見つめている。 「本当に知らないの?地球出身なのに?」 「あのなぁ。冗談につきあわせようとするなら他あたってくれんか。 どこの世界にそんなふざけた薬があるって言うんや。」 そう言っているとき、視線の端ではんたが何かを取り出していた。 視線を向けたまさにそのとき、彼が手にしたナイフ、一時期ニュースでよう出とった、で かけらも躊躇せずに彼自身の腕がざっくり切り裂かれる。 当然のように噴出す血。 「いったいあんたなにやっとるんや。はやく止血せんと・・・。」 動揺して立ち上がった私に向けて、彼は淡々とポケットから 毒々しい色のカプセルを取り出してこれ見よがしに飲み込んでみせた。 まさに直後だった。 まるで時計を逆回しにしているみたいに傷口が目の前で塞がっていく。 見ていて気持ち悪いほど急速に。 シャマルの回復魔法の比ではない。 「反応を見る限り本当に知らないみたいだね。でも本当に無茶をするよね。 躊躇いもせず自分の腕を切り裂くなんてボクにはとてもできないよ。」 「本当にその薬で治るんか?」 「いったいなにをどうすればこうなるの。 フェイトちゃんもこんな状態のなのはちゃんを動かさないで!!」 半狂乱で叫びながら必死に回復魔法をかけていたシャマル。 その目の前で、はんたから差し出された毒々しいカプセルをなのはの口に含ませる。 数秒とせずになのはちゃんは身じろぎしたかと思うとがむくりと起き上がった。 シャマルが絶句しているが無理も無い。 念を入れて徹底的に再検査させたけど、 本当に綺麗さっぱり治っておったのにはやはり目を疑った。 フェイトちゃんがなのはちゃんに飛びついて泣いている。 傍らでバトー博士達は首をかしげている。 なにをいまさら当たり前のことをと言わんばかりの表情で。 それからなにがどうなってティータイムすることになったんやろ? なのはちゃんのほうからはんたのほうへ謝ったことだけが印象強く覚えている。 たしかに監督不行きになるけど、殺されかけた人間から謝るのもどうかと思うたんやけど、 2人とも納得しとるようやし、ええのかなぁ? ふっと外を見ればしとしとと雨が降り始めていた。 これからだんだん激しくなるのだろう。 そういえば試験を受けた子ってほっぽったまま? 「ここは樹木が豊かだね。ボクの専門外だけど強酸で枯れない植物なんてどれだけいじく ったのか考えちゃうよ。ああ、でもガソリンを実らせるあれは便利だよね。」 「強酸と言ったら学校の理科で使った希硫酸とか硝酸とかお風呂の洗剤なんかのあれや。」 「はやてちゃん、ガソリンって木に成るの?」 「なのはちゃん。冗談か本気か分からんからキワドイ発言お願いだから勘弁してや。 でもたしかにそうやな。バトー博士、どういうことってなに珍しげに水を眺めとるん?」 気がつけば、はんたが珍しげに水を眺めていた。 一方のバトー博士はサングラスで表情が読めないが、 眉間にしわを寄せて雨の中、行きかう人をじっと見ている。 傍らには暇そうにサースデーとか言ったか、ロボットが控えている。 あれ? そういえばはんたの抱きかかえている子、一度も動いていない。 触角がついとるけど人間にしか見えない。 人形? まさか死体とか言いださんでくれるとええんやけど。 「3人とも地球出身で間違いないんだね?」 「フェイトちゃんはちょっと違うけど私とはやてちゃんはそうですね。」 「雨に濡れるとどうなる?」 バトー博士が突然なにを言いだしたか理解できなかった。 アナグラムでもなさそうやし、言葉のままの意味ちゅうことか。 でも、当たり前すぎることをなんでわざわざこんな場所で聞くんやろか? 「服がびしょびしょになるかな。」 「熱を奪われる。」 「2人の言った以外になにかあるんか?」 私達の答えにバトー博士の眉間にしわがさらに深くなる。 いったいなんの意味があるんやろ? 小学生どころか保育園でも答えられるんやないか。 「植物が人に噛みついた。この文章でおかしい部分は?」 「植物?」 「人?」 「噛みつくに決まってるやろ。もっとも、どこを入れ替えれても成り立つ文章やけどな。」 さらに深くなったバトー博士の眉間のしわ。 だが、力を抜くとほうっとバトー博士は肩の力を抜いた。 「ところどころ違和感は感じていたんだ。異世界だからという一言で済ませようとしたん だけど、やっぱりおかしくて確認させてもらったよ。」 「ええと、どういう意味ですか? わたし達が手続きをしてあなた達の国へ送るだけだと思うんですけど。」 なのはちゃんがバトー博士に尋ねる。 ついさっきまで半殺しにされたことを感じさせないほどに明快な口調で。 ほんまにあのカプセルってまともなもんなのやろか。 なんかやばいもん入っとるんちゃうか? 疑いだしたらキリがないけど。 視界の端では物珍しげに砂糖を淡々と水に溶かしているはんたがいた。 なにしとんのやろ? 見た目からすると私らより1つか2つ小さいくらいの歳やろうに、やってることがまるで小学生みたいや。 「結論から言おう。お嬢さん方、ボク達は地球へ帰れないようだね。」 「どういうことや?」 「ボク達の地球は硝酸の雨が振り注ぐ。アルカリクリームで中和しないと大火傷するよ。」 なにを言い出すんだと思った。 たしかに酸性雨の問題なら忘れた頃にニュースになることもあるし、 ブロンズ像がぼろぼろになったって写真も教科書に出とった。 でも大火傷っていったいどんな酸性雨や。 バトー博士の言葉は止まらない。 「計測器が振りきれっぱなしの汚染された海と川が流れ、それを浄化装置で無理矢理浄化 して飲み水にしている。植物は人に噛み付くどころか食い殺そうとするし 焼き殺そうとするし絞め殺そうとする。 蟻は生餌にするために人間を攫っていく。大きさはちょうどあそこに停まっている クルマより少し小さいくらい。 なによりハンターオフィスを知らないはずがない。 ハンターへ報酬を支払うのがハンターオフィスなのだから経済活動が成り立たなくなる。 ぱっと思いつくところを言ってみたけど1つでも共通項はあったかい?」 「ちょ、ちょ、ちょう待ちいや。冗談抜きにそんなのが地球っていうんか?」 まるで理想郷の逆の絶望郷やないか。 道を歩いていて街路樹が頭から噛み付いてくる。 パンジーが群生しているところから一斉に種が人間へ向けてはじけ飛ぶ。 庭の花がある日突然火を振りまいて辺り一面焼け野原になる。 ミッドチルダや鳴海市に広がる綺麗な青い海が黒や赤やピンク色しとったら・・・。 そんな光景を想像し、ぞっとした。 「そんなのがボク達の地球だよ。ボク達の地球が同じものだとするなら 可能性として考えられるものとしてはお嬢さん達の地球の とんでもなく過去かとんでもなく未来か。 さらに突き抜けた可能性で平行世界もありかもね。」 「さっき、なのはに飲ませた薬。あれは・・・。」 「ボク達の地球では一般的なものだよ。配合はナノマシンとオイホロトキシンと 混ぜ物を少々。ああ、汚染された世界って言われて心配したかもしれないけど、 オイホロトキシン以外は本当にまったく無害だから安心するといい。 オイホロトキシンにしたって大量に摂取するか常用しなければ禁断症状さえ現れない 痛み止めの薬だよ。」 「便利なものがあるんですね。」 フェイトちゃん、そこ素直に感心するところちゃうって。 少しでもなんか聞いて情報を引き出さんとあかんのに。 そうや。 一番肝心の質問をしとらんかった。 「質問させて欲しいんやけど。そもそもハンターってなんや?」 度々出てきた言葉。 『ハンターオフィスに問い合わせてくれれば』とバトー博士は最初に言った。 経済活動が成り立たないとも。 経済活動に関わるちゅうことは造幣局とか銀行を内包しとると思うんやけど。 少なくとも小規模なものじゃなくて、巨大な組織と考えられる。 単純にハンターというものの集まりと考えたとしても、 どうして設立されたものなのか? それを知るためにもまずはハンターとはなにか知らなければならない。 私の質問にバトー博士は軽く眉間にしわを寄せてから口を開き始める。 「んー。どう説明するとお嬢さん達に分かってもらえるかな。 まず、大前提として人類とそれ以外が生存競争をしている。 そして、それ以外陣営は全部が同盟を組んで人類を殺そうとしてくる。 ここまでは大丈夫かな?」 「大丈夫や。」 そう答えたけれど顔色は蒼白やったと思う。 隣のなのはちゃんとフェイトちゃんも蒼白やし。 思い浮かぶ範囲で植物、魚、動物、虫がそれ以外側に入るだろう。 それだけでどれほどの数がいるだろう。 さっきの植物の話を聞く限り、絶対に全部がどこかしら狂ってると思うて間違いあらへん。 それらが一斉に協力して人間を殺しにかかってくるなんて。 バトー博士が言葉を続ける。 「それ以外陣営を狩る人をモンスターハンター。略してハンターって呼ぶのさ。」 「じゃあ、なんでなのはちゃんは攻撃されたんや。 たしかに誤射があったのはなのはちゃんも気がついとったし、認めもするし、謝りもした。 けど、それならどうして同じ人類に殺されかける必要があるんや。」 そこが腑におちないことだった。 まったく躊躇することなく人を殺そうと動けるなんて正直信じられない。 私達側からすればまともじゃない。 闇の書事件を思い出して思わず自分の身体を抱きしめた。 「それ以外陣営において人類の生存に著しく害を及ぼすもの、あるいは脅威となるものを 特に賞金首と呼んで賞金がかけられる。ハンター達に狩ることを奨励するわけだ。 まぁ、飛びぬけて強いやつとでも思ってくれればいいよ。 姿形を言っても理解できないだろうからさ。 同時に賞金首として定義される者に多くの悪事を重ねたものというものがある。 つまり人類で敵の側にまわるのもいるわけさ。 共通の敵ができても殺し合いをやめないんだから本当に救いようが無いよね。」 うん?気のせいか? バトー博士の表現がなんちゅうか、気持ち程度やけど乱暴になり始めたような。 今はそんなことは横においておこう。 まだ確信に至ってないのだから。 「でもそれじゃ、なのはを殺しかけた理由にならない。」 フェイトちゃんからの鋭い指摘が飛ぶ。 せや、どうして誤射だと薄々分かっていて、あそこまで徹底的に殺そうとしたのか。 それこそが一番の問題や。 人間の側にも悪いやつがおって、人間が敵に回ることがあるってところまでは 納得しといたるが、それなら誤射に対してどうしてあそこまで過敏に反応するのか。 状況理解ができていなくて混乱していて半狂乱だったからかもしれんけど、 はんたの様子を見る限り、正気やしな・・・たぶん。 「賞金首を狩ることはハンターとして名誉であるのだから当然名声が付きまとう。 この建物の中で一番強い人間にだって称号くらいあるでしょ? その人がある日襲われて殺されたとして、私が殺した人間だぞーって広告したら この建物で一番強い人間を殺した者として誰もが認識しはじめる。 つまり、『この建物で一番強い人間を殺した者』って称号が産まれるわけだ。 悪名であっても名声に変わりはないからね。 んー?どうしたのかな?奇妙な顔でなのはちゃんを2人して見つめて。」 2人を庇っていたとはいえ、管理局のエース・オブ・エースであることに代わりはない。 私達も当然なのはちゃんが負けるなんてこれっぽちも思うとらんかった。 だが、現実に殺されかけた。 なのはちゃんに課せられたハンデが大きすぎたのか、それともはんたのほうが・・・。 いや、そんなことあるはずあらへんな。 なのはちゃんが努力家ってこと、私らはよく知っとるしな。 視線の先でなのはちゃんが口を開く。 「・・・管理局のエース・オブ・エースって呼ばれてるんです。わたしは・・・。」 「んー。んんんー。もしかしてなのはちゃんがこの建物で一番強いとか言うのかい? そんでもってはんたに負けたことにへこんでるとでも言うのかい? ハハハ、ハハハハハ。身の程知らずっていう言葉を知ったほうがいいんじゃないかな? はんたは無敵の男って呼ばれるほど賞金首を狩りつくした男だよ。 毎日が殺し合いの世界で飛びぬけて強いのを片っ端から屠ってきた、 素手で戦車を叩き壊すような人間なんだよ。 それに勝てると思うほうがどうかしてるんじゃないかな。」 なのはちゃんもフェイトちゃんも絶句した。 かくいう私も開いた口が塞がらんかった。 なんか途中で酷い言葉があった気がしたが、それ以上の強烈な言葉に驚くしかなかった。 でたらめにもほどがある。 デバイスも武器もなしに素手で戦車を壊す? 私達と同じか一回り小さいかどうかの手が戦車を叩き壊すイメージ。 あかん、想像できん。 もっと想像しやすいところから考えよ。 ヴィータがグラーフアイゼンで戦車を壊す。 大きくなったアイゼンが戦車をもぐらたたきのようにぐしゃっと・・・。 うん。イメージできる。 私らもデバイスがあれば案外できそうやもんな。 さて、ヴィータが素手で戦車を壊す・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、無理やな。 悪態つきながら戦車をガンガン蹴っているイメージなら思いつくけど。 しかし、このはんたって男・・・って水に砂糖を何杯いれとるんや。 シュガーポットが空やないか。 はんたってリンディさんの同類かいな。 って今入れようとしてるその瓶は塩・・・全部いれよった。 んなもん飲んだら死ぬってって躊躇わないんかい。 止める間もなく飲みよった。 ほんま大丈夫かいな。 頭のネジが2つ3つ外れとるんちゃうか。 そんな私の様子を気にしないかのようにバトー博士が言葉を続ける。 「一撃目が不意打ちだったからこそ、手間取ったんじゃないかな。 いつものはんたなら逃げ場が無いくらい火の海にするとか爆風で埋め尽くすとか 周辺一帯焦土にするくらい序の口だもんね。」 あかん。 この子、怒ったときのなのはちゃん以上に普段からキレとるっぽい。 ほんまにネジがやっぱり2つ3つ外れとるんやないか? 横でなのはちゃんが聞き返す。 「つまり私、手加減されたってことですか?」 「んー。ちょっと違うなー。はんたのパートナーのダッ・・・ごほごほ、アルファが壊れちゃ ってるし、なによりボクが作ってあげたマブダチ戦車がなかったからね。 あれがはんたのあの時点の全力だったと思うよ。」 気のせいかバトー博士の口がさらに一段と悪くなり始めたような・・・。 ダッで始まるパートナーを呼ぶ言葉ってなんかあったやろか。 ダーリンじゃ『ッ』が入らんし、女が男よぶときやしなぁ。 ダッキは女やけど中国の妖怪なってしまうし・・・。 名前かと思えばアルファ言うとるしなぁ。 「さて、本題に戻ろうか。お嬢さんはやめてはやてちゃんと呼ばせてもらうよ。 はやてちゃん、可及的速やかにボク達を雇うことだね。」 「は!?」 「帰る手段は無くなって、はんたは戦うしか能がないし、ボクも戦車を作るしか能がない。 地球へ返すって約束がだめになった以上、代案を受け入れるものじゃないかな。」 「ちょ、ちょっと待ってな。いくらなんでも無茶苦茶や。」 さらに口が悪くなったことよりも、内容の突飛さに慌てる。 機動六課を作るからと言って魔力総量の縛りがある以上簡単に入れられるもんやないし、 管理局で雇うには身元が保障できん以上、無理にも程がある。 たしかにそっちがなのはちゃんを全快させてくれたことには感謝してる。 もっとも殺しかけたのもそっちやけどな。 それでもただでさえリミッターで無理矢理ごまかしていることを問題視されてるのに これ以上の爆弾を抱え込むのはさすがにまずい。 「保護じゃだめなんですか?管理局に保護してもらえばミッドで適当な住居と 身柄の保証ぐらいはできると思うんですけど。あ、もちろん私も手伝います。」 助け舟のつもりだったのだろう。 フェイトちゃんがそう言った。 ある意味当然で一番妥当な考えやもんな。 しかし、分かってないなとばかりにバトー博士が首をすくめながら、 見覚えのある本をひょいと傍らから取り出した。 「ああ、勝手に机の上においてあったこれを読ませてもらったよ、はやてちゃん。 キミが勉強家でよかった。おかげで大まかな認識を作ることができたよ。」 それ、六課設立時に散々読み漁ったマニュアルやないか。 いつのまに・・・。 いやそれ以上に、結構難しい内容なのに普通に読めてるというか読み終わってる? 「設立されるのは古代遺物管理部、機動六課。活動目的はロストロギアの保護。 さて、ボクが問題にしたいのはゴキ・・・ごほごほ、はんたの抱えているダッチ・・・ごほごほ、 アルファの扱いなんだ。その本を信じるなら時空管理局が強すぎるとか理解できないと だけ言えばロストロギアになるって解釈できるんだけどボクの解釈は間違ってるかな?」 「たしかに意訳すればそうなるかもしれへんな。でも管理局は・・・。」 「はやてちゃん。大砲の射程が長くなったから領土をよこせとか人妻を奪ったから戦争を 始めるのが人類だよ?そんなちっぽけな理由ですら命令をだす原因になるのに、 ボク達の世界で旧文明の遺産とさえ呼ばれるダッチワ・・・じゃなくてアルファは どれだけの価値があるだろうね。」 「リンディさんも騎士カリムもそんなことする人じゃあらへん!! 言いがかりつけるのもええ加減やめてもらおうか!!」 さすがに怒った 身近な人が私情で殺し合いをする人間だと言われたみたいで。 けれどバトー博士はやはりわかってないとばかりに首を振る。 「んー。んんんー。分からないかな。今はやて部隊長が言った人は下ッ・・・じゃなくて 1番上の偉い人じゃないでしょ。一番上の人の名前とか性格とか知ってるのかな? 絶対に欲望に負けない聖人君主様なのかな? もっとも聖人君主様なら時空を維持管理しようなんて考えさえ起こさないだろうけどね。」 言われてみて気がついた。 いや、まさかそんなはず・・・。 あれ?いや、度忘れしとるだけや。 でも・・・時空管理局の一番上って誰や? 私の動揺をよそに、バトー博士が話を続ける。 「ゴキ・・・ごほごほ、はんたはかろうじてダッ・・・ごほごほ、アルファが治る可能性に すがり付いて正気でいるんだ。はんたからアルファを奪ったら、 どんなバケモノが産まれるんだろうね。 特に奪ってったやつは当然皆殺しだよね。家族兄妹の区別なんてしないよね。 金がなければ人質もろとも吹き飛ばすなんて序の口なのがボクらの世界のルールだもの。」 「強迫しとるんか?」 「強迫?んー、んんんー。なんで分からないかなぁ。はやてちゃんはボクらを雇い入れる。 はんたははやてちゃんの命令で殺しをやって、ボクははやてちゃんの命令で戦車を作る。 とても分かりやすい関係じゃないか。」 「悪いけど私は殺せなんて命令せんし、設立する機動六課に戦車は1台も無いし、 必要ないんや。」 バトー博士の動きがピタリと動きが止まった。 初めてかもしれない。 この博士が動揺している姿を見るのは。 必死に冷静でいようとしているのだろうが、指先が痙攣するみたいに震えている。 「も、もう一度言ってくれないかい?」 「何度でも言ったる。機動六課に戦車は1台もないし、必要ないんや。」 「ハ?ハハハ、ハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハ。 なにを言ってるんだい?人をだまそうとするにはあまりにも稚拙じゃないかな。 世界中を馬鹿みたいに探し回って掘り起こすか、冗談みたいなお金を払って買うか、 殺して奪うのが戦車なんだよ? それにボクは集めた鉄屑から作るんだから元手はいらないしとても強いんだよ? 必要ないなんてどの口が言うのかな。」 「あのなぁ、そっちの地球ではそこらに鉄屑が転がっとるんかもしれないけど こっちでは鉄屑も材料になるから買わないといけないんや。」 「で、でも、とてもかっこいいし強いんだよ。主砲を撃てばどんなやつでもバラバラ・・・。」 「だからバラバラにしたらあかんて。それに質量兵器もこのミッドチルダでは禁止や。 なのはちゃんの件もばれたら質量兵器を持ち込んだのはだれだーって大騒ぎになる。 それに機動六課は人手が足らん。だから戦車は必要ないんや。」 さっきまでの勢いはどこへいったのか。 バトー博士が物凄い勢いで生気がぬけおちたように、くたっとなった。 さすがにちょっと言いすぎたかなぁ・・・。 なのはちゃん達の視線が痛い。 ふっとバトー博士の首だけがはんたのほうに向く。 「ごめん、はんた。戦車を作るしか能のないおじいちゃんから戦車さえ作れない能無しお じいちゃんになっちゃったよ。トモダチが辛いときに力になれないなんてトモダチ失格だ よね。失格。能無しになったボクにピッタリの言葉だよ。」 まずい。 さすがに言い過ぎたかもしれん。 ここまで落胆されるなんて思いもせぇへんかった。 で、でもちょうどいい機会やし、こっちのルール教えとかんとな。 うん。びしっと言って正解やった。 だからお願いやからなのはちゃん、そんな目で見んといて。 「バトー博士。どうしてトモダチにこだわるんですか? トモダチっていう言葉をとてもたくさん使われているように思ったのですが。」 ふとフェイトちゃんが不思議そうに尋ねる。 たしかに言われてみればたしかに奇妙なものやな。 殺し合いが日常の世界言うとったのに、祖父と孫くらいの年齢差でトモダチいうなら、 いったいどないして知りあったんやろ? 漫画だったらバトー博士のピンチをはんたが飛び込んで助けるところやろうけど。 肩を落としたまま、バトー博士が口を開く。 「ボクはね。この歳になるまでトモダチが1人もいなかったんだ。 世界中の人にメールしてトモダチになってってお願いしたこともあったけど、 皆は嫌だって帰っちゃうんだ。でも初めてトモダチができたんだ。 戦車を作るしか能のないおじいちゃんなんだよ? 実は戦車をあげたらもう来てくれないって思ってたんだ。 でも、何日か置きにボクのところにきて、ろくでもないこの顔を見て、 なんでもないって言って帰ってくれるんだよ? ずっと1人で寂しかったボクに初めてできた人間のトモダチなんだ。」 「バトー博士・・・。」 フェイトちゃんは目が潤み始めている。 なんやしんみりした雰囲気になってしまった。 いや、絶対なんかある。 勘がそう言っとる。 それにその歳まで友達おらんって隔離でもされとったんか。 いろいろ考えてみるがどれもしっくりこない。 考えに夢中になってるとき、なのはちゃんが口を開いた。 「それなら、バトー博士。わたしとトモダチになればいいんだよ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだって?」 「だから、わたしとトモダチになればいいんだよ。」 「トモダチが困っているのに力になれず、戦車さえ作れないこのボクの トモダチになるだって?本気なの?」 「うん。そうすればバトー博士のトモダチは2人になる。 皆で力を合わせれば助けられるかもしれないでしょ?」 「Yeah. master. That s good idea.」 なのはちゃんの横でレイジングハートが明滅しながら賛同の声を上げていた。 やっぱり優しいなぁ。なのはちゃんは・・・。 悪いこと言ったし、力になりたいんは本当のことやから私も友達になるべきやろか。 「バトー博士、私とトモダチになってくれるかな?・・・バトー博士?」 「もちろんだよ。なのはちゃん。ところで横のガラ・・・綺麗な赤いものはなんなのかな? ずっと不思議に思ってたんだ。はんたと戦ったときステッキの先にくっついてたのに とてもそっくりなんだけど。」 「はやてちゃん、デバイスのこと話しちゃってもいいよね。」 「ああ、かまへんよ。ここで雇わんにしてもたぶんミッドで生きていく以上 魔法に関わらんほうが難しいやろうし。」 「私のレイジングハートはインテリジェントデバイスって言って魔法を使うお手伝いをしてくれるAIなんだ。」 「Yeah. Mr.Bato. I’m Raging Heart. How are you?」 「魔法・・インテリジェントデバイス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・AI?」 なのはちゃん、物凄く端折った説明やな。 分かりやすく説明したつもりなんやろうけど。 でも、バトー博士どないしたんや。 なんやAIっちゅう部分を聞いた途端に固まっとるが。 「ここミッドチルダではデバ・・・。」 「なのはちゃん、AIって言った?AIって言った?AIって言ったよね?」 なのはちゃんの説明をさえぎるかのように尋ねている。 魔法でもデバイスでもなくAIの部分を念入りに。 なんでそんなにこだわるんや? 詰め寄られているなのはちゃんは驚きながらも返事を返す。 「・・・う、うん。言ったけど・・・。」 「デバイスってもしかして作れちゃったりなんかするのかな?かな?」 「うん、デバイスマイスターっていうとっても難しい・・・。」 「ヒャッホー。」 物凄い勢いでイスを蹴り飛ばし歓声を上げるバトー博士。 いったいどないしたちゅうんや。 まるで子供が初めてなにかを見たときのようにはしゃいでいる。 なんやAIとデバイスが作れるっちゅうことがそんなに大喜びすることなんか? 戦車作る言うてたから案外似たようなものがあって安心したってとこやろか。 「ゴキブリーーーーーーーーーーーー!!!!!なのはちゃんの言葉を聞いたかい。 ゴキブリが激しく使いすぎて壊れちゃったダッチワイフのAIをデバイスに組み込んで ゴキブリのためのゴキブリデバイスとしてダッチワイフを蘇らせられるんだって。」 「え?え?え?」 「ご、ごき?」 「だっちわいふ?」 「・・・Are you crazy?」 私も含めて3人と1機が本気で戸惑ってることから考えると、 聞き間違えじゃなかったっぽいなぁ。 ゴキブリとかダッチワイフとか、あっちの地球じゃ普通に使う言葉なんやろか? はしゃいで大声で叫び続けるバトー博士。 「はやてちゃん、賭けをしようよ。明日の朝にデバイスマイスターが絶句するような ビューティフォーでワンダフォーでスペシャルかつアルティメットなゴキブリデバイスの設計図を作ってくるよ。デバイスマイスターが『嘘!?』って絶句したらボクとゴキブリ をここで雇ってくれるだけでいいからさ。はやてちゃんは使える手駒が増える。ゴキブリ はダッチワイフが蘇る。そしてボクは能無しからデバイスをつくるしか能のないおじいち ゃんにレベルアップする。完璧だろ?」 「あー、わかったわかった。シャーリーがそう言ったらなんとかしたる。 1日でデバイスの設計図引くなんてどうせ無理やろうけどな。」 それですっぱり諦めてくれるなら。 地球へ帰せないという部分の代替案としてちょうどいいかとか考えるようになっとる 自分に少し自己嫌悪。 ハイテンションのままバトー博士が絶叫するように大声で喋る。 「やったー。それでデバイスの資料はどこにあるんだい?フェイトちゃん。」 「それはシャーリーと無限書庫・・・。」 「わかった。シャーリートムゲンショコだね。道案内に・・・おっといけないいけない。 大切なことを忘れていたよ。なのはちゃん、ボクとキミはトモダチだ。 トモダチ同士いつまでも他人行儀じゃいけないよね。 だからキミにぴったりのステキなアダナで呼ぼうと思うんだ。 トモダチだもん、当然だよね。」 「う、うん。どんなアダナ・・・なのかな?」 詰め寄られながらもにこっと微笑み返したなのはちゃん。 たしかに他人行儀なのはトモダチらしくあらへんな。 しかし、アダナか。 私らずっと名前で呼び合ってて考えたこともなかったなぁ。 「んー、んんんー。うん。キミのアダナはバカチンだね。どうだい。ステキなアダナだろ?」 「「えっ?」」 フェイトちゃんと私がむしろ聞き返す。 耳を疑った。 聞き間違いかと、むしろ聞き間違いであってくれと思った。 もしも私の耳が壊れてなければなのはちゃんのアダナが・・・。 「え?え?え?」 「うん。話を聞いてくれない子を縛り付けて戦車砲をバカスカ撃ち込むことを説得って当たり前に考えていたり、話さえ聞いてくれるなら悪魔でもいいなんてバカみたいに開き直 ってバカの1つ覚えみたいに戦車砲をバカスカ撃ちこんで、全力全開ってバカみたいに叫んでそうな顔してるもんね。バカチンにピッタリのアダナだよ。 バカチンーーーーーーーーーーーーーー。トモダチをアダナで呼ぶのっていいよね。 それじゃぁ、バカチン、シャーリートムゲンショコへ案内してよ。 トモダチだもん。当然だよね。おっといけないいけない。」 立ち上がったバトー博士がはんたに抱きつく。 「待っててねゴキブリ、戦車さえ作れない能無しおじいちゃんからデバイスをつくるしか 能のないおじいちゃんにレベルアップしてきっとキミのダッチワイフを蘇らせてあげるか らね。そのためにはまず勉強をしないとね。明日の朝にはちゃんと設計図を書いておくよ。 戦うしか能のないゴキブリでも使えるくらいタンジュンでゴキブリのムチャクチャな要求 に応えられるビューティフォーでワンダフォーでアルティメットでクソッタレなデバイス を作ってあげるから。結果は明日までオアズケさ。オ・ア・ズ・ケ。ゴキブリにぴったりの言葉だよね。 いくよ。サースデー。バカチンを抱き上げろ!!」 「ワカリマシタ。ばとー博士。」 「え?え?え?」 嵐のようなバトー博士とサースデーになのはちゃんが拉致?されていった。 周囲のざわめきはバトー博士に向けられたものか、 サースデーというロボットに向けられたものか、 それともロボットに拉致されるエース・オブ・エースに向けられたものか。 「バトー博士・・・。実は物凄く口が悪かったんですね。」 「たしかにあれじゃ、並大抵の神経じゃ怒らずにおれんわなぁ。 ヴィータに万が一出会ったらぶつかりそうで今から気が重いわー。」 なのはちゃんに釣られてトモダチになっていたらいったいなんて呼ばれたのだろう。 知らんはずなのになんや身に覚えがあるようなことまで普通に言うとったし。 顔だけで分かるもんなのかなぁ? しかし、ゴキブリとはまたすごいアダナをつけられたもんやな。 そう呼ばれたはんたに視線を向けるとじゃりじゃりとシュガーポットから 直接砂糖を食べるはんたの姿。 ちょ、ケーキ頼んだるから砂糖直接食べんといて。 周りの皆、これを見とったんかなぁ。 「あ、あの、だっちわいふって・・・。」 「戦闘用アンドロイド、アルファX02Dが正式名称だ。 ミスで彼女を大破させてしまったから直す方法をここに来る直前まで探していた。 女性型だからと勘違いしないでもらおうか。」 「す、すみません。」 フェイトちゃんが謝っとる。 でも顔赤くするくらいなら聞かんでおけばええのに。 しかし、ナイスや、私の勘。 直す方法を探しとった人間に、フェイトちゃんの言葉通り攻撃しとったら シャレにならんことになっとったわ。 なにを想像していたのか顔が真っ赤に染まったままのフェイトちゃんは、 自分がアルファを攻撃しようと言ったこと自体忘れとるっぽいけど。 しかし、はんたのほうはまったく表情が変わらへんなぁ。 殺し合いやっとったときも変わらんかったし、まるでお面被ってるみたいや。 あ、ええこと考え付いた。 少し意地悪な質問と酷い言葉をわざと言ってみるとしよう。 武器さえ向けなければ殺し合いにはならんやろうし。 「なぁ、どうしてバトー博士のトモダチになったんや。バトー博士が言ってたみたいに 本当は戦車だけ貰って別れよう思ったんちゃうか?」 あ、まずい。 言ってみたらなのはちゃんを殺しかけた件が頭に思い浮かびはじめた。 一度思い浮かんだら、頭から離れへん。 どんどん悪い方向に思考が偏る。 でも、女の首を踏みつけるとかありえへんもんな・・・って正当化しちゃあかん。 誤解から生じた不幸な事故だったんや。 交通事故みたいなもんや。 リインとユニゾンして遠距離からディアボ・・・あかん、物凄く物騒なこと考え始めとる。 「戦車をくれるじいさんという点は認める。」 「ほら。やっぱりな。ゴキブリ呼ばわりされるだけあるわ。」 「ちょっと、はやてちゃん。」 ちゃう、ちゃうんや。 こんなこと言うつもり無いんや。 けれど一度気になりだすと忘れられへん。 さらに酷いことを言いそうだったそのとき、はんたが口を開いた。 「まぎれもなくバトー博士は天才だし、ありのままに言葉を吐き出す。 なにより一番重要なのはバトー博士は絶対に嘘をつかない。 どんなに酷いことを言ったとしても嘘だけはつかない。 トモダチなんて利用してゴミのように捨てさえする人間が大半の世界で 他人のために必死になれる人がバトー博士だ。 だから俺はバトー博士のトモダチだし、戦車なんて作れなくても バトー博士は紛れも無く俺のトモダチだ。」 「なんや。世界を隔てても通じそうな価値観も持ち合わせとったんやな。」 必死に溢れ出しそうな言葉を抑えて、それだけ口にした。 冷静になるんや、私。 フェイトちゃんもほっとしたような顔に戻る。 「そういえば、さっきから表情変えんで砂糖とか塩とか食べとるけど・・・って、 それはタバスコで一気飲みするもんやない・・・って止めとるんやから 少しくらい躊躇わんかい。本当に体おかしくないんか?どうにかなると思うんやけど。」 「別に。」 ここで気がついとったらなにか変わったんやろうか。 なのはちゃんもフェイトちゃんも、リンディさんで似たような光景を見ていたのもあるし、 はんたがあまりに自然にやりすぎてて見落としたらしい。 上に立とうとする人間だった以上、表情一つ変えないで塩や砂糖を単体で 体がおかしくなるはずの量を摂取できるという異常に気がつくべきやった。 「それよりもいいのか?こっちは書類がいるんじゃないのか? メモリーセンターみたいにキーボードを3回押して終わる処理じゃないんだろう?」 「なにがや?」 「俺達の受け入れ書類を作ることだ。バトー博士のことだから半日も掛からずに 構造と原理を理解して設計図を書き上げた上でさらに個人用にカスタマイズして、 もう半日使って推敲を終えて暇つぶしするくらいやってのけるぞ。」 そして次の日、哄笑と共に現れたバトー博士と サースデーに拉致されてきたシャーリーが私の目の前にいる。 あー、髪がものすごいことになっとるな。 なのはちゃんは昨日の試験の子達に引き抜き話を持ちかけにいっとる最中。 フェイトちゃんに報告している最中に拉致してきたのか、 フェイトちゃんが慌てて駆け込んできた。 「あー、シャーリー。本当に悪いと思うんやけど、そこのバトー博士が持っている デバイスの設計図を見てくれんかって、もう話は知ってるみたいやな。 まったく知識がない状態で1日で書いたその設計図を見て正直な感想を頼むわ。」 デバイスと聞いて目の色が変わったシャーリーがバトー博士から設計図を受け取る。 1分もたたないうちに口を開いた。 あー、なんや、昨日のうちに書類やっとくんやったなぁ。 嫌な予感がバシバシしとるんやけど。 「嘘!?冗談でしょ!まったく知識がない状態から24時間でこれを書いた!?」 「ハハ、ハハハ、ハハハハハハ。正しくは14時間と31分だね。 ほんのちょっとしか本を読み漁れなかったせいで、こんなものしか書けなかったけれど、 どうやら絶句してくれたようで本当によかったよ。」 「でもこんなセッティングにこのコンセプトって無理があるんじゃ。 それにこんな重量って・・・。」 「んー。分かってないなぁ。これはゴキブリのためのゴキブリ専用セッティングだからね。 そこらへんの人間が使いこなせたら専用じゃなくなっちゃうじゃないか。 殺すしか能のないゴキブリだからこそのゴキブリセッティングだよ。 それで、問題が無いならデバイス製作に移りたいんだけどいいかな?」 「私は構わないと思うけれど・・・。」 「あー。私の負けや。ちゃちゃっと作ったってや。」 シャーリーの伺うような目に私はOKを出すしかなかった。 私の言葉にバトー博士の口がつりあがる。 今、この瞬間、誰よりも紙一重という言葉の意味を思い知っていた。 「ゴキブリーーーーーーーーーーーーーーーーー。戦うしか能のないゴキブリでも使えるくらいタンジュンでゴキブリのムチャクチャな要求に応えられるビューティフォーでワン ダフォーでウルトラウジムシでアルティメットかつエクストリームにクソッタレなデバイスを作ってもいいんだって。これでゴキブリのダッチワイフを蘇らせることができるよ。 いくらでも感謝していいんだよ。」 「バトー博士。ありがとう。」 たった一言なのにそこに全てが込められているよう。 同じ部屋にいる私の胸まで温かくなる。 なのはがこの場にいたら物凄く嬉しそうな顔をしたかな? それとも複雑な顔をしたかな? 「そ、そんなに素直にお礼を言われると照れるじゃないか。まったくゴキブリは恥ずかし いヤツだよね。あまりにも恥ずかしすぎてボクは泣けてきちゃうよ。でもボクは気にしな いさ。なんてったってボク達トモダチだろ?トモダチが困っていたら助けてあげるのは当然のことじゃないか。それじゃあ糠喜びさせ続けるのは悪いからさっそくデバイスを作り 始めたいんだけど、デバイスを作るにはデバイスマイスターの資格っていうのが必要なん だ。何日か後に試験があるからさくっとクリアして、ゴキブリデバイスの製作に取り掛かるよ。分かってると思うけど戦車と同じでデバイスもすぐにはできないんだ。できたら届 けにいってあげるよ。それまでデバイスはオアズケさ。オ・ア・ズ・ケ。物欲しそうな目 をして這いずり回るゴキブリにぴったりの言葉だよね。」 物凄い照れ隠しだ。 全身で嬉しさを表現していては照れ隠しにならないのに。 素敵な関係だなと思いながら私の顔は自然と微笑を浮べていた。 スキップしながらサースデーを連れてどこかへ行ってしまったバトー博士。 『新たなデバイスタイプの名づけ親になれたかもしれないのにー』と泣きながら がっくりと膝を折るシャーリー。 はんたの言葉を信じるなら本当にとんでもないものをさらっと作ったんやろうか。 いったいどんなものが出てくるか。 思った以上に楽しみやなぁ。 しかし、本当にどうしたものか。 とりあえずリンディさんに話通さないとあかんし、どうやって反対派を抑えよう。 そんなことを考えていた矢先、突然目の前で通信ウィンドが開く。 「はやてさん、なんだかとても愉快な人達がいるってレティから聞いたんだけど、 私に報告きてないのはどうしてかな?クロノも知らなかったみたいだし・・・。」 通信ウィンドに移ったリンディさんを淡々と眺められるはんたが恨めしい。 私とフェイトちゃんの顔はとても引き攣っていたやろうから。 これってもしかして物凄くやばいんとちゃうやろか。 なのはちゃん、こうなることに気がついて朝から引き抜き話しに行ったんやろか。 「つまり、昨日の次元震で偶然ミッドチルダへとやってきて、 世界の構造からぜんぜん違うし、まったく帰る宛がない。 そしてやってきた直後に誤解からなのはちゃんと戦って、 あなたはハンデ付きとはいえデバイスも使わずになのはちゃんを一方的に叩きのめして、 一緒に来た老人は元々戦車作りしていたけれどミッドで1日過ごしただけで デバイスに革命を起こしそうな設計図を書く人ってことでいいのかしら? それで保護になると面倒なことになるから、 言うこと聞く代わりに雇うという形にして欲しいし、なおかつ不干渉を願いたいと。」 「そういうことだ。」 叩きのめすどころか殺しかけたやろうが。 あの怪しげな薬の話がでるとまずいから(ロストロギアに認定せんでも取り上げて解析にまわされるわな。)黙っているけど私達としては気が気ではない。 目の前にいる人がどういう人か分かっとるんやろうか。 平然とムチャクチャなこと言わんといて。 「帰らせるという話の代替案でのんだ賭けで負けちゃったはやてちゃん側としては、 魔力総量のせいで入隊させるのに弱ってるということでいいのね? 入れること事態に反対はないって解釈で。」 「はい。そうですー。」 「そう。緑のあなた、お名前は?」 「はんた。」 「セカンドネームは?」 「セカンドネーム?」 物凄く不思議そうに聞き返されたリンディさんはきょとんとした顔をしている。 私達も同様だ。 はんたって名前さえ分かればいいとか通称とかじゃなかったん? 「本名よね?」 「親から貰った名前を本名というのなら。」 「次元によってセカンドネームがないところもあるのね。 とりあえずセカンドネームの件は置いておいて、どのぐらい強いの?」 「共通の価値観がない以上表現に困る。素手で戦車を壊す程度としか表現しようがない。」 「戦車の重さは?」 「大きいもので70t弱かそれ以上。単位は大丈夫か?」 「戦闘経験は?」 「脊髄反射で殺し合いができる程度。」 「もしも今、目の前に戦車が現れたらどうするかしら?」 「あっちのルールなら叩き壊すまでだ。」 「それが5台なら?10台なら?」 「どちらでも変わらない。叩き壊すだけだ。」 「魔法使いは倒せそうかしら?」 「Dead No Aliveでいいのならいくらでも。」 「装備もなしに?」 「高度17000mや地中深くにいない限り。」 「生身の戦闘のスペシャリストってところかしら。 革命を起こしそうな新型デバイスも興味もあるわね。 魔力適正・・・条項・・・レジア・・・ごまかす・・・。ちょっと待っててくれるかしら。」 そう言って通信ウィンドが消えた。 横で聞いていてはらはらする。 高度17000mっていったいどんな高さや。 もっと穏便な表現使ってや。 Dead or Alive やなくてDead No Aliveってなんや。 目の前におるのが誰かお願いやから察してや。 あー、突っ込みどころと不安で素面でいるのが辛い。 落ち着かない時間が過ぎていく。 2時間ほどして、再び通信ウィンドが開いた。 「許可が下りたわよ。」 「早っ!!なんでや!?本当なんですか!?ってすいません。横から口いれてしまって。」 「いいわよ。はやてさん。レジアス・ゲイズ中将も快く許可してくれたもの。」 思わずツッこんでしもうたけど、ちょっと異常過ぎやないか。 六課設立に一番反対しとるというより、 むしろ潰そうとしているレジアス・ゲイズ中将が快く許可? いったいなにがあったと言うんや。 にこりと微笑んだまま、リンディさんが口を開く。 「ところで、これからすぐにでも戦えるのかしら?1人で生身で装備もなしだけど。」 「いつでも戦えなくてどうする。さっき言ったようなやつで無い限りどうとでもできる。」 「あ、あの、いったいなにと戦わせるんですか?」 「地上本部外周部隊よ。そうそう。 はやてさん、はんた君が負けたら六課の話が流れちゃうから。」 「なんやて!?なんでそないな話に・・・。」 「負けなければいいのよ。はやてさん。それじゃ、はんた君。 『(貴様らの魔力頼みのご大層なデバイスなしに素手で壊せるものなら) 遠慮なくいくらでも壊してみせろ!!』ってレジアス中将から許可がでてるから。 そろそろそっちに連絡があるはずだけど・・・。」 「覚えておく。ところであなたの名前はなんて言う?」 レジアス中将の地上本部を私物化してるような気がせんでもない返事の中で 物凄く大事な言葉をはしょったようなリンディさんとの通信と、 話が全部終わってから名前を聞くとかするはんたがどうなったか、 簡単に経過だけ言わせてもらうなら、 はんたにとにかくすごく偉い人とリンディさんは認識されて、 地上本部で戦車が空き缶みたいに宙を飛んでは地面を転がって、 反撃するより先に逃げだす相手に感心しながら妙に脆いなとはんたが不思議がって、 何台目かが宙を飛んだ時点でレジアス中将が止めてくれと悲鳴を上げて、 地上本部が1日麻痺して、レジアス中将には非難轟々で、 その煽りで泣き出したくなるくらい、というか泣いた、書類を私は書く羽目になって、 なのはを見るなり幽霊呼ばわりした(らしい)スバルとティアナの引き抜きに成功して、 キャロの迎えも終わって、 スターズとライトニングのメンバーが揃って、 シャマル以外のヴォルケンリッターが奇跡的に天文学的な確立ではんた達に出会わないで、 毎日のようにレジアス中将からはんたに六課なんかより是非地上本部へと引抜き話が 持ちかけられて、デバイスマイスターの資格を手に入れたバトー博士は引きこもって 嬉々としてデバイスを作り始めて、はんた達の所属が正式に書面で通達された。 はんたが誰かを血だるまにしたという話も無く、バトー博士が問題を起こすわけでも無く。 会うたびに大声でバトー博士にバカチンと呼ばれたなのはちゃんが、 溜めに溜めたものをぶちまけるように訓練所を全壊してくれた以外、 怖いほどに問題なく時間が過ぎていった。 そして本日、ついに機動六課が稼動を始める。 前へ 目次へ 次へ
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襲われた地上本部。 目の前の惨状とそれがわずか数十分で作られた光景という事実が現実を目の前に突きつける。 そこにあるのは、管理局のやり方を知り尽くされたかのような手際での制圧戦。 手薄だった機動六課も襲われて無傷のものは誰もいない。 後に残るは瓦礫の山ばかり。 後手後手に回る私達。 ギンガさんは攫われた。 エリオとキャロも撃墜。 スバルは・・・・・・そしてはんたは・・・・・・。 魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めようか。 第18話託された希望、蘇る悪夢 「ヴィヴィオ!!」 悲痛ななのはさんの叫びが木霊する。 地上本部に残った私達がやっとのことで機動六課にたどり着いたとき、目にしたものは瓦礫の山。 最初はなにかの間違いだとさえ思った。 でも、いくら壊しつくされていても毎日見てきたそれを見間違えるはずが無かった。 一箇所に集められ横たわるシャマルさん達と、泣きながら回復魔法を続けるキャロの姿・・・。 それらが嫌でも目の前の現実を突きつける。 「アイナさん!!シャーリー!!グリフィス君!!みんな!!」 「なのは、落ち着いて!!」 「だって・・・・・・だって・・・・・・。」 羽交い絞めにするフェイト隊長に対して聞き分けの無い子供のように喚くなのはさん。 あれが本当になのはさんなのか。 いつだって笑っていたなのはさん。 圧倒的な力で凛として立っていたなのはさん。 それなのに今はまるで別人のように取り乱している。 今にも糸の切れた凧のようにどこかへ飛んでいきそうななのはさんを必死にフェイト隊長が止めているけど、 なのはさんは聞く耳を持ちそうにない。 撃墜されたらしいヴィータ副隊長にしても自身を庇ってダメージを受けたリイン曹長を抱きしめたまま。 泣きじゃくるキャロから話を聞いている八神部隊長も悔しさをかみ締めるかのように奥歯をギリリと鳴らしている。 ただ1人元気なシグナム副隊長が瓦礫の山を飛び越え捜索しているが、他の生存者を見つけたという報告はない。 でも、これでは生存なんて望めないのではないか。 不謹慎にもあたしは・・・、ティアナ・ランスターはそう思ってしまった。 だって、どう考えればこの状況で生きていられるなんて思えるだろう。 まるで砲撃魔法を容赦なしに叩き込まれたかのような、 広域空間攻撃を手当たり次第に放たれたような、一切の生存を許さないかのように破壊されつくした建物。 それこそ広域殲滅魔法を1度や2度叩き込んだぐらいで作られるような壊されぶりではないのだ。 これでどうやって生きていろというのか。 堅牢であるはずだった建物は瓦礫の山。 巻き添えを食っただろうガジェット達も例外なく残骸に・・・。 ところどころ引き裂かれ剥き出しになった配線がショートするたびに迸る紫電。 壊れた配管から噴出す水。 平然と鎮座しているドラムカン。 どう考えても生存なんて考えられ・・・・・・考えられ・・・・・・あれ!? ぐりんっと音がしそうな勢いで瓦礫の山を見つめる。 正確には、瓦礫の山の中で異様とも言えるほどに平然と鎮座しているドラムカンを・・・・・・。 なんでこんな場所にドラムカンが? ミスマッチなほどに平然とした、はんたとシグナム副隊長がよく押している、それがポツンと置かれている。 近づいて爪先でコツコツと蹴り飛ばしてみると硬質な金属音が辺りに響き渡った。 普通のドラムカンよね? 偶然かしら? そう思った次の瞬間、応答するかのようにガンガンと叩くような音が響く。 「隊長!!」 気がつけばあたしは絶叫するように隊長たちを呼んでいた。 ======== ドラムカンの下からぞろぞろと出てきたのは必死に探していたシャーリー達。 騎士カリムの協力もあって聖王病院にたくさんの機動六課課員が移された。 でも、その中にヴィヴィオはいない・・・・・・。 「ごめんなさい。ごめんなさい・・・・・・。留守を預かっていたのに六課のこと・・・・・・守れなくて。」 「シャーリーのせいなんかじゃないよ。」 「それにヴィヴィオのことも・・・・・・。なのはさんに、みんなに、なんて謝っていいか・・・・・・。」 シャーリーは嗚咽交じりにひたすらそう繰り返して泣き続けるばかり。 別の病室で会ってきたアルトもその顔を見るだけでどれほどの自責の念に駆られていることか分かるほどに・・・・・・。 そう、シャーリーやアルトのせいなんかじゃない。 誰のせいかっていうならきっと皆のせい。 想定外の圧倒的な物量差。 後手後手に回った六課の対応。 綿密に練られつくしただろう敵の制圧作戦。 徹底的に破壊し尽くされた惨状とリアルタイムで見せ付けられた鮮やかという言葉さえ霞みそうなあの光景が嫌でもそれを思い出させる。 だから、無傷だった課員は1人もいない。 でも・・・・・・。 それでも皆が助かったのは・・・・・・。 「バトー博士・・・・・・。」 口の悪いおじいさん。でも、誰よりも皆のことを心配していたんだろう。 友達の帰る場所を守るというためだけに・・・。 きっと当然のように全て予測しきっていたのだろう。 でも、どうにかできるだけの権限がない。 施設を改築したくても1日2日で防衛設備は整えられない。 皆の意識改革なんてできるはずもない。 危機感の薄さ、秘密主義、異常なまでの戦力ムラという機動六課の性質。 そして負けるはずが無いと慢心して戦力を全部つれていった私達の采配ミス。 ないない尽くしの機動六課・・・・・・。 例え私達の前で進言したとしても、はやてもなのはも、もちろん私も戯言で済ませてしまっただろう。 ザフィーラとシャマルがいてはんたくん達が詰めている機動六課が負けるはずが無いって・・・・・・。 そう思えるだけの前提がありすぎた。 でも結果は・・・・・・。 今までどうにかしてきちゃったから、そして皆よりも強い魔力を持っているからこそ忘れていた。 誰かを守りながら戦うっていうことがどれだけ難しくて、どれだけ自分の足枷になるかって・・・・・・。 本当になにを今まで習ってきたんだろう。 魔力だけが絶対のものではないと教えてくださったミゼット校長先生にどんな顔をして会えばいい・・・・・・。 いろいろ聞いてわかったことは1つだけ。 助かった人の言葉から推測すると六課のあの惨状はバトー博士がなにかをしたから。 じゃぁ、なにをしたのか? きっと、ううん、絶対にこれが正しいのだろう。 あまり長いとは言えないけれど、執務官として生きてきた私の記憶に似たような光景があったから。 ある次元世界でただの1度だけ遭遇した、衝動型でも劇場型でもない、怖気さえ覚えるくらい冷酷な爆弾魔。 そこにはヒロイズムのかけらも快楽もなく、滑るように移動してシングルアクションで淡々と爆弾を仕掛けてはブロックを吹き飛ばし、 ベルトコンベアーを使って爆弾を送りつけ、どんな構造になっているか知らないワープゾーンを使って離れた場所を効率よく爆破していくコミカルな外見とはかけ離れた冷淡さを持った白いヘルメットの彼。 同じ装束を着た黒や青や赤や緑の子を吹き飛ばした後、彼はどこかへ行ってしまった。 爆心地にいても平然としていたそんな彼のことを取り逃がしてしまったのだが・・・。 そんな彼が引き起こした光景とそっくりだった。 きっと、リモコンで爆破できる爆弾を準備して、それから起動六課を効率よく崩落させられる場所に連鎖的に爆発するように仕掛けてから敵を誘い込んだところを・・・。 でも、どうやってそんなにたくさん仕掛けたのか。 露骨なまでにそんな形をしていたなら、きっとはやても私もなのはも、ううん、起動六課にいる全員が見逃すはずが無い。 ふと、あの日の奇行が思い当たった。 戦車のフィギュア。 あの日、手のひらに載ってしまう、ともすれば可愛らしいという形容さえぴったりなそれを所々にばら撒いていた。 思い返してみれば、交差点や柱の近くに、狙うかのように展示されていなかったか? 粘土のように形を変えられる爆弾を使って、それを作っていたとしたら・・・。 爆発地点を基準にして真上と横に広がるのが爆風の特徴。 ・・・だから、ドラム缶の下に皆を逃がしたんだ。 できることならバトー博士だって逃げたかっただろう。 でも、バトー博士の作った脱出口にはハッチがなかった。 扉の開いたシェルターはシェルターの役割を果たせない。 誰かが扉を閉めないと・・・。 爆風なんかで簡単に飛ばない丈夫な扉・・・例えばドラムカンのような・・・。 もしも私が戦闘機人に足止めされなければ・・・・・・。 そんなことを考えてしまう。 いけない。思考が悪い方向によってしまう。 誰もが負傷して弱気になっているこんなときだからこそしっかりしないといけないのに・・・・・・。 そんなときだった。 パシューっと空気が抜けるような音とともに病室の扉が開く。 あれ?誰だろ? 今、私以外にここで無事に動き回れるのはシグナムぐらい・・・・・・。 もしかしたら仕事が速く終わったティアナかな? でも、振り返った先にいたのはまったく予想外の一機。 今までどこに行っていたのか、独特の造詣をしたロボット・・・・・・。 「サース・・・・・・デー?」 呆然とつぶやく私を横に、滑らかにシャーリーの傍らに近寄ると機械的な音声で言葉を伝え始めた。 「ワタシはばとー博士ノ助手ノサースデー。 ばとー博士ハ伝言ヲ残シタ。トモダチノタメニ伝言ヲ残シタ。 ばとー博士ノ弟子ノしゃーりーハばとー博士ノ伝言ヲ守ル。 ナゼナラしゃーりーハばとー博士ノ弟子ダカラダ。 泣イテイルバカリノヤクタタズヲヤメテサッサトばとー博士ノ仕事ヲ引キ継ゲ。」 ガチャリと音をたてたのはサースデーが押してきたリアカー。 その上に乗せられているのは4つのアタッシュケース。 しゃくりあげながら、そして目に涙をためながら、シャーリーはサースデーを見つめる。 サースデーは機械的に言葉を続ける。 「世話ノヤケルヒヨッコデアル、うすのろトのうなしひすてりートむっつりトこしぬけ用ノ追加パーツ。 力ガ足リズニ泣カナイヨウニ。タダソレダケノタメニ作ラレタばとー博士カラノ送リモノ。 泣イテイル暇ハナイ。サッサトシロ、ヤクタタズ。」 メガネを外してぐいっと目元をぬぐうシャーリー。 歯を食いしばり痛む体をこらえているのだろう。 松葉杖を片手に立ち上がる。 「作業場は?」 「ばとー博士ノ弟子ノ2号デアルマリエルノ所ガ使エル。」 「あの子達のデバイスは?」 「既ニ回収済ミ。分解済ミ。アトハメンテナンスヲ施シテ取リ付ケテ調整スルダケ。」 危うげにカツカツと松葉杖をついてリアカーを押して出て行くシャーリーを私はあわてて追いかけた。 フェイト達がいなくなった病室。 病室に残されたのは満身創痍で眠り続けるスバルとサースデーだけ。 誰に聞かせるわけでもなくサースデーは言葉を発する。 「ばとー博士ハ旅ニデタ。決シテ戻ラヌ旅ニデタ。 ばとー博士ハサビシクナイ。ナゼナラ多クノトモダチヲテニイレタカラ。 ばとー博士ハ帰ラナイ。 ダカラさーすでーハばとー博士ノ助手デハナクナッタ。 さーすでーハ最後ノ仕事ヲ成シ遂ゲタ。 ばとー博士ノ弟子ノしゃーりーニ伝言ヲ伝エル仕事ヲ終エタ。 さーすでーニ与エラレタ仕事ハナニモナクナッタ。 ばとー博士ハモウイナイ。 ダカラばとー博士ノ助手ノさーすでーハバトー博士ノ助手デハナクナッタ。 バトー博士ノ助手デハナイさーすでーハタダノテツクズ。 タダノテツクズノさーすでーハタダノテツノクズニカエル。 バトー博士ノトモダチタチ、セイゼイワルアガキシロ。ソレデハミナサマゴキゲンヨウ・・・。」 ピーっというエラー音。 鋭い音と共に火花が散る。 病室には眠り続けるスバルとサースデーだけ。 静寂だけが病室に残された。 やがてスバルの見舞いに訪れたティアナが病室で見たものは、 懇々と眠り続けるスバルと物言わぬオブジェとなったサースデー。 ======== 「嘘やろ?」 ザフィーラが庇ったから無事だったとはシャマルの言。 そんなシャマルは意識を取り戻してから自分の状態も忘れたかのように走り回って皆を治療して診て回っている。 そんな最中に私のところに真っ青な顔をして持ってきたカルテ・・・。 その内容に寒気を覚えた。 カルテに書かれた名前ははんた。 のらりくらりと健康診断を避け続けたはんたの理由がここにはあった。 空白など1つも無い。 隙間無くびっしりと書き込まれたカルテ。 「誤診・・・・・・なわけないわな。」 「ええ。はやてちゃん。信じられないけど、それが事実よ。」 「なんでこないな身体で生きていられるんや!?」 異常を示す項目しか存在しないカルテを片手に絶叫していた。 いくら医療の知識が無くても常軌を逸した異常ぐらい分かる。 少なくとも、料理と残骸の区別ぐらいはつくのだ。 内臓機能の大半が壊滅。 壊死を起こしていないことが奇跡とさえ言えるほどにはちゃめちゃなそれは日常生活さえ困難なはず。 食べ物を消化することはおろか、味も分からないだろう。 それ以前に体が食べ物を受け付けない。 平熱は何度?と言わんばかりの低体温。 ろくに起こらない発汗。 次の瞬間には停止してしていてもおかしくないほどに不規則な拍動を続ける心臓。 若々しい細胞に残された恐ろしく短いテロメア。 そして血液から検出されるのは常軌を逸した高濃度の未知の薬物反応。 他にもあげればキリがない。 「聞く意味さえ無い気がするんやけど・・・容態は?」 聞くまでも無い。駄目に決まっている。 棺おけの中に入っていないこと自体、奇跡と言ってもいいほどに壊れているのだから。 けれど、シャマルの口は別の言葉が紡がれた。 「一言で言うなら植物人間。復帰は絶望的なはず・・・なんだけど。」 「なんだけど?」 「アルファが治療を続けているわ。栄養剤だけを過剰なほどに・・・。他の薬は意味が無いからって・・・。」 ずいぶんとおかしなことを言った。 こんな考えするのも嫌なんやけど、デバイスがマスターの身を案じないはずがないのだ。 例えば昔の私とリインとヴォルケンリッター達のように・・・。 それが知らなかった私の罪やということは自覚しとる。 もちろん、今はそんな冷たい括りの関係じゃないって言える。 でも、デバイスとマスターの関係は、どんなに目を背けて否定したとしてもそんなものだという現実があった。 そのデバイスが薬の投与を無意味と言う。どういうことや? シャマルの言葉は続く。 「・・・アルファの言葉を信じるなら、既に生命活動を行える状態には戻したって・・・・・・。」 「でも、植物人間じゃ・・・。」 意味が無い。そう続けそうになってしまった。 「魂があるのならそれがまだ帰ってきていないのだろうって・・・・・・。」 魂なんていうものが本当にあるんやろうか。 アルファもいったいどういうつもりなのか見当さえつかない。 思えばはんたの振る舞いでおかしなことは度々あったのだ。 それこそ出合ったときから・・・・・・。 リンディさん顔負けの砂糖水や塩水を平然と飲み干してしまったりとか、 気がつけば飲んでいるドリンク剤、きっとうちらが考えるのもバカらしくなるくらいアブナイくすりだったのだろう、とか、 シャマルの料理を平然と食べる様とか、 時折とぎれる会話とか、思い出を話すときの呼び方の違和感とか・・・。 他にもいろいろあったのだ。 それなのに・・・。 皆を助けたいという私にもフェイトちゃんにもなのはちゃんにも共通したこの思いに偽りはない。 けれど、傍らにいた人の大事を見過ごしてしまった。 順風満帆に最初から最後まで進んでいけるとは思っていない。 そこまで人生を舐めてはいないから。 でも、今度ばかりは弱音を吐きたくなった。 誰でもいいから傍らで支えて欲しいって・・・・・・。 うちは隊長さんなんや。 折れそうな心を見せたら皆が引きずられてしまう。 それに今はなのはちゃんもフェイトちゃんも出払っている。 ただ1人で立ち続けるしかない。 それでも、頼むから・・・・・・。 今しばらくだけでいいから。 これ以上、悪いことは起こらないでください・・・・・・。 ただ、薄情だとは思うけどたった1つだけ安心したことがある。 それは、はんたがこれ以上最悪になりようが無いというただ1つの事実・・・。 ======== シャマルがマスターの病室を出て行って、ここに再び静寂が訪れた。 今頃、カルテを片手に大騒ぎしていると予測される。 ベッドの上には眠り続けるマスター。 無機質な電子音だけが部屋にこだましている。 安全な場所まで退避して即座に行ったのは、ユニゾンによる肉体の強制的な修復。 デバイス側の主導でマスターの肉体を改変するその操作はアクセス権限が与えられていなければ不可能な行為。 その行為によってマスターは現状を維持している。 結果的にマスターの命を繋げたとはいえ、それはデバイスとマスターのあり方への反逆に他ならない。 マスターとスレイブが逆転する本来であればユニゾン事故のカテゴリに区分される行為。 しかし、私に全権譲渡さえ躊躇うことなく行えたマスターだからこそありえた現状。 肉体は可能な限り元に戻した。 けれど意識だけが戻らない。 自発呼吸、新陳代謝、脊髄反射、対光反応、他のありとあらゆる生命活動に必要な機能は稼動している。 もっとも、代謝だけは正常な人間に比べればはるかに少ない。 原因は分かっている。 それこそがハンターを生涯の仕事とすることが出来ない理由。 薬物中毒・・・・・・。 細胞分裂の限界数たるヘイフリックの限界や細胞の寿命テロメアについてはその寿命を延長する手段がいくらでもある。 不治の病に侵された狂気の天才バイアス・ブラドが全身全霊をかけて取り組んだ課題が不老不死ゆえに。 それは人類が文明を築いてから多くの権力者が夢見ては挫折していった課題。 彼が目的に至る過程で生み出された多くの派生技術は医療技術の発展に貢献した。 その過程の中で生み出されたのが猛毒オイホロトキシン。 擦り傷、切り傷と言わず錠剤1つで怪我を治す回復カプセル。 瀕死すれすれの体さえ元通りにしてしまう満タンドリンク。 飲むほどに常軌を逸した怪力と反応速度を肉体に与えるドーピングタブにスピードタブ。 人間に限らず生物ならば、たった1錠で錯乱状態に陥るサクランHI。 その広域型の神経ガスであるDDTスプレー・・・・・・。 あの世界由来の薬にも毒にも多かれ少なかれこれが必ず入っている。 理由は1つ。 人間が痛みに耐えられないから。 治りかけの傷口に疼痛を覚えるように、切除されて存在しなくなった部位に幻痛を覚えるように、 生体部品で作られた精密機械たる人間は認識と現実の剥離によって引き起こされる痛みに悩まされる。 自然治癒ですらそうなるのに、大きな欠損をナノマシンで急激に修復した結果として痛みと認識のずれは際限なく大きくなり脳は簡単にオーバーフローを起こす。 ナノマシンや薬物による化学反応によって引き起こされるありとあらゆる病状の強制修復。 それに対して騙しきれない脳が拒絶反応を起こし、治った部位に激痛を与え、やがてはネクローゼに至る。 暗礁に乗り上げたナノマシン治療。 それを解決したのがオイホロトキシン。 本当に微量のオイホロトキシンを混ぜるだけでその問題はクリアされた。 これによって常備薬の次元で行えるナノマシン治療の水準が跳ね上がり、ナノマシン事業も軌道に乗ったのは事実。 しかし、多くの人間が忘れてしまう。 本来、薬と毒はイコールで結ばれるもの。 痛みと生存本能は直結しているシステムだということ。 痛みを無くすという薬は大破壊以前から存在する。 けれど、オイホロトキシンにはそれらとは明らかに違う点がたった1つある。 それは、運動機能を維持したまま痛みを無くすということ。 脳内で起こる化学反応を妨害、あるいは脳の機能を部分的に鈍化させてなどといったものとはその点だけが明らかに違う。 本来、薬というものは人間の体にとって異物。 コインの裏表のように作用には反作用がなければならない。 それでもさすが天才が作り出したもの。 2つのことさえしなければなにも問題は無いという破格の条件がついている。 大量摂取するか、常用するか・・・・・・。 破ってしまったならその先に待っているものは・・・・・・。 マルチタスクの1つに走らせていた思考を中断。 並列してあらゆる情報を処理していく傍ら、視線だけはマスターにロックされている。 そのマスターはピクリとも動かない。 私に出来ることはただ、こうしてマスターの手を握ることだけ。 医療行為としてまったく意味の無い行為だと分かっている。 私に可能な行為は全て行った。 マシンである私は奇跡なんて信じない。 でも・・・。 ・・・・・・レッドフォックス。 もしもあなたがいたなら、こんなときになにを? マスターにどのような言葉をかけるのでしょう・・・・・・。 ======== 「クククク、フハハハハハハハハ・・・。」 スカリエッティのアジトの1室。 狂ったように上機嫌な笑いをあげ続けるスカリエッティ。 どれほどの間、そんな笑いを上げていただろう。 5分?10分?それ以上? 何に対して笑っているのか。 テンプレート通りの行動さえままならなかった管理局のあまりの無能さ加減か? それとも、それに作られた己というものの存在意義か? あるいはその両方・・・。 自分で自分達を滅ぼす生き物を作るというあまりにもおろかなその行為に、スカリエッティは笑いを堪えきれなかった。 今頃、評議会の脳みそどもは歯軋りしているだろう。 もっとも、歯軋りする歯なんてやつらにありはしないが。 さて、私もさんざん笑わせてもらったし、間が空いては観客が退屈してしまう。 「さぁて、絶望しきった管理局の無能どもに更なる絶望を与えてやろうじゃないか。」 次の演目を始めよう。 そして、この演目が始まったとき、管理局の敗北は確定する。 ルーテシアの地雷王達によって封印が解かれる。 その名を聖王の揺り篭。 古代ベルカにおける破壊の象徴。 これが衛星軌道に到達すれば管理局になすすべは無い。 アルカンシェルも持ち出せぬよう既に手配済みだ。 クロノ・ハラオウン率いる次元航行艦隊など出番さえありはしない。 所詮脇役、見せ場どころか舞台に上がることさえできず終わることだろう。 そんなところに私の作品達による多方面からの同時襲撃。 これに管理局は手も足も出まい。 おやさしい管理局様はただ泣いて喚くしかできない市民を見捨てられない。 もっとも、その管理局様は揃いも揃って無能揃いで力も無い。 なんせ有能な人材を片っ端から引き抜いていったのは海だ。 そのツケを今、ミッドチルダを代価に払わされるわけだ。 それにだ・・・。 ずらりと並んだ培養槽に視線を移す。 中に浮かんでいるそれらは、私がロッソと名づけた個体。 当初の計画では、聖王の揺り篭周辺が手薄になるという欠点があった。 もちろんAMF環境に放り込んでやればガジェットドローンの優位性に、機動六課を除いて、管理局は手も足もでまい。 しかし、スクライア一族の中でも秀でた才能の持ち主、無限書庫の司書長ユーノ・スクライアがやつらにはついている。 やつらはきっとこう考える。 『聖王の揺り篭を止めなければ・・・。』 とはいえ、地上を見捨てることもできないお優しい八神はやてはひよっこどもを地上に配備することだろう。 餌としてタイプゼロもつけておいたのだから。 残ったメンバーのうち、フェイト・テスタロッサは確実に私が待つこのアジトを攻めにくる。 私を捕まえなければ管理局は永久に追い立てられっぱなしになるのだから。 とはいえ、戦力を裂けない以上、来るとすれば単機となる。 もしかしたら聖王教会が動くかもしれんが、大差ないだろう。 やつらはレジアスのやつを捕らえにも行かねばなるまい。 だが、向こうにはゼストが行っている。 きっと無意味な深読みをして、優秀な戦力である剣の騎士シグナムを送り込むことだろう。 もっとも、それは無意味な行動で、ついでにいえばレジアスのやつは生きて明日を迎えられはしないだろうがね。 さて、そうなると残る戦力は高町なのは、鉄槌の騎士ヴィータ、そして八神はやての3人。 盾の騎士は病院、湖の騎士は戦闘向きではない。 イレギュラーに成りえたあの男とはじっくりと話したかったのだが、やつも入院したらしい・・・。 神なんて信じてはいないが、全てが私を祝福しているかのような状況じゃないか。 まず間違いなく、最大火力を誇る八神はやては愚かにも指揮を執るために動けなくなるだろう。 無能な局員など見捨てて攻め込めばよいものを。 せっかくのユニゾンデバイスも宝の持ち腐れというもの。 そうなれば残り2人が乗り込んでくる。 揺り篭の内部がガジェットのAMFなどおもちゃに思えるほど高密度のAMFになっているとも知らずに。 そして待ち受けるのは聖王の揺り篭の防衛システムと、私のガジェットとナンバーズ。 最後に立ちふさがるのは聖王ヴィヴィオ。 魔王は魔王らしく他人など屠ってしまえばいいものをきっと助けようとあがくだろう。 クローンとはいえ伝説である聖王閣下相手に、身の程知らずにもだ。 だが、万が一ということもある。 そもそも聖王の揺り篭に乗り込ませなければ私の勝ちなのだ。 やつらは想像すらしていまい。 このアルハザードからもたらされた画期的なクローン技術を・・・。 従来のクローン技術ではほんの僅かな誤差が性能に影響を及ぼした。 成長促進しようにも空けてみるまでは分からぬクローン体が失敗作であったら目も当てられない。 それこそ娘を蘇らせようと足掻いたプレシアのごとく。 だが、このクローン技術ならば完全なる同一の個体が作り出せる。 よもやインヒューレントスキルさえ継承する同じ個体をいくらでも作り出せるなどとは夢にも思うまい。 鏡に映したように対照的な遺伝子が生まれるなど、天才である私ですら考えもしなかったことだよ。 とはいえ、私の作り出したナンバーズはああ見えて繊細な子達に育ってしまった。 自分とまったく同じ個体を目にしてしまえばアイデンティティが維持できず自己崩壊を起こすリスクもある。 だが、唯一関係ない個体が1機。 数字の名前を与えなかったイレギュラーたるアルハザード最強の女ロッソに組み合わせる。 ただ機械のごとく殺戮するだけの個体にアイデンティティもクソもありはしない。 あまりにも安易すぎて天才である私が思わず躊躇ってしまうほどに凶悪な組み合わせ。 さぁ、これを前にいったいどうするのか。 今から楽しみで楽しみで仕方が無い。 しかし、気のせいか。 クアットロにクローニングを任せたが、私の予想よりも個体数がやけに多い気がするのだが・・・。 私の推定では250ほどだったはずなのに・・・。 まぁ、さして問題はあるまい。 Aランク魔導師に匹敵する戦闘機人1000体の前には・・・。 力で押さえつけてきた時空管理局が力で潰される。 これほど胸がすく光景はきっと無いだろう。 ああ、待ち遠しい。 傍らのディスプレイに浮かぶのは、長年の眠りから覚めた古代ベルカの遺産。 名を聖王の揺り篭。 ただの1機で世界を制圧した究極の暴力。 あとは、これが衛星軌道に到達するのを待つばかり。 せいぜい悪あがきしてくれたまえよ。管理局の諸君。 目次へ 次へ
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周りが笑っているのに俺1人だけ笑えない。 周りが慌てているのに俺の心にはさざなみさえ起こらない。 頬をいくら抓っても顔は表情を作らなくて、気がつけば引き千切っている自分がいる。 孤独感ばかりが加速していく。 そんなある日、六課で1匹の犬が吼える。 まさかと振り返った先にいたのは懐かしい姿。 見間違いかとさえ思ったけれど、駆け寄るそれはまぎれもなく……。 ほんの一瞬だけ歓喜に満たされ、直後に感じるのは泣き出したいほどの絶望。 ああ、どうして・・・・・・。 なんで来てしまったんだ。 この窮屈な地獄にお前まで付き合う必要はなかったのに……。 第13話 1人と1匹と予言 とある荒野が広がる世界の片田舎。 ゴミの山の横に生まれた町の片隅にひっそり建っている施設。 大破壊前に開発されたとある装置が設置されたその建物の中で声がする。 「なぁ、やめねぇか?今ならまだ間に合うぜ?」 「嫌だ。答えは同じだ。さっさとやれ。」 「ああ、くそっ。なんでクソニンゲンどもはオレサマをこんな装置の使い方が わかっちまうクソノウミソにしやがったかなぁ。 操作できるなんてぽろっと漏らすんじゃなかったぜ。くそっ。 ああ、そっちのバカヅラぶらさげたデブとスカシもなんか言ってやれよ。」 「漢はやるときにはやるものだ。」 「言い出したら聞かないと分かっていてですか。それはあまりにも愚かしいでしょう。」 「ああ!!融通効かないクソどもが。こういうときぐらい『行かないで』とか 『飛びきり上等の雌紹介するから行くな』とかそういうこと言うもんだろうが!!」 「それでもオレの意思は変わらないよ。御主人が全てに優先される。 御主人を世界中探したけれどいなかった。違ったのはバトー博士と助手もいなかったことだけ。 機械娘もいなかった。オレには転送事故しか思いつかない。」 「だからって1匹でモンスターぶちころしながら世界中走り回ってきてすぐに転送事故 起こせなんて抜かすバカがどこにいるってんだよ。しかも事故だぜ事故!! ここから御主人に発情してたメガネとかヒステリーのとこに転送するのとは 全然わけが違うんだよ。行った先に御主人がいる保障もねぇ、 行き先が火山のど真ん中かも知れねぇ。ミサイルの着弾地点かもしれねぇ。 高度12000mに足場さえない状態で出るかも知れねぇ。 空気があるかどうかさえわからねぇ。最悪それを全部あわせたやつかもしれねぇ。 奇跡と偶然とまぐれと何かが手をかさねぇ限り絶対無理!それでもお前はやるのか?」 「やる。」 「ああ、くそっ。もう狂ってやがるとしかいいようねぇぜ。クソッタレ。 ああ、分かったよ。やりゃいいんだろ、やりゃあさ。ああ、クソッタレ!!」 「ありがとう。」 「漢なら兄弟の頼みに黙って手を貸すものだ。」 「私達の中で一番のインテリを自称していたのに吠えるしかできない能無しでしたか。」 「うるせぇ!!てめぇら揃ってバカでクソイヌでくたばっちまえって感じだったが、 特にてめぇは死んでも治らんクソイヌだ。今すぐふっとばしてやるよ。」 「ありがとう。ベルナール。」 「漢はやるときにはやるものだ。」 「照れ隠しにしてはずいぶんと露骨ですね。隣の酒場に住んでるマスターに発情する雌と 同じでツンデレってやつですか。」 「黙ってろ、クソイヌ2匹!!OK。完璧だ。あとは、このボタンさえ押せば事故る。 最後の確認だ。本当にやっちまっていいんだな。後悔しねぇな。 動かしちまったら『やっぱやめた』なんて通用しねぇし、ミスっても蘇生がきかねぇぜ?ドクターミンチのクサレマッドのところにもっていく死体さえ残らないからな。」 「ベルナール。構わずやってくれ。タロウ、ラリー。御主人の家族を頼む。」 「漢は漢同士なにも言わなくてもわかりあうものだ。」 「マスターの家族は我々におまかせない。あなたに祝福を・・・・・・。」 ゴウンゴウンと音をたてて施設が稼動し始める。 ガラス製のシリンダーの中、粛々と佇む1匹。 そして赤い警告灯が灯り、警告音がけたたましくなり始める。 「さぁ、おっぱじまったぜ。神…天使…機械神…犬神…ああ、くそったれ。 龍神はマスターがぶちころしまったし、ろくな神様いねぇじゃねぇか!! ポチ!!赤い悪魔にでも祈ってろ。あの雌が一番まともで願いを聞きそうだ。」 「漢は困難に立ち向かうときガタガタ抜かさないものだ。」 「いってらっしゃい。よい旅を・・・・・・。」 閃光がほとばしる。 後に残ったのは空のガラス製のシリンダーと残された3匹だけ。 パネルから飛び降りようとしたベルナールが設定の表示されたディスプレイを見て 思わず声を上げる。 「あ……。やべぇ……。」 「どうしました?ベルナール。」 「いや、別にたいしたことじゃねぇ。」 「漢は嘘をつかないものだ。」 「同感ですね。ベルナール。あなたは去勢してましたっけ。」 「漢の風上にも置けないやつは去勢するべきだ。」 「ああ、待った待った待った。まじで潰そうとするな、落ち着けデブ!! 本当にたいしたことじゃねぇんだよ。ただ・・・・・・。」 「ただ?」 「桁1つ間違えただけだ。」 「……でも事故は起こりましたよ?」 「まぁな。だからたいしたことじゃねぇって言ってるんだよ。この話はこれでおしまい。」 「漢は終わったことで騒がないものだ。」 「いいこというじゃねえか。デブ。今度わんわんグルメおごってやるぜ。」 「しかし、ベルナール。その言葉遣いどうにかなりませんか?」 「しかたねぇじゃねぇか。それにニンゲンドモにはどうせ『わんわんわん・・・・・・』としか 聞こえねぇんだぜ。てめぇらが気にしなけりゃいいんだよ。」 「やれやれ。なんにせよ、マスターの家族護衛シフトはあなたを一番忙しくしますからね。」 「ああ!?なんでだよ。スカシ。」 「口止め料です。」 「誰への口止めだよ。くそっ。言わなくていい。ああ、分かった。分かったよ。 やりゃあいいんだろ。やりゃあさ!! ああ、この間見かけた雌犬には振られるし、毛並みは荒れるし、 兄弟は1匹ぶちきれてボスのとこ行くとか抜かして自殺志願するし、 デブは融通きかねぇし、スカシは脅すし、クソのキレは悪いし、 今日はまじでついてねぇ!!」 ボストンテリアの遠吠えが町に響き渡る。 何度も何度も途絶えることなく・・・・・・。 そしてその夜、誰もが眠りについた頃。 ベルナールは1匹、眠らないでぼんやりと星を眺めながら考えていた。 「しかし、なんで事故ったかな。あの設定だと事故る確立が桁5つか6つは下がって来るんだが。 0.00001%きってて事故るなんてアイツがオレサマ以上についてないのか。 それともまじで赤い悪魔が連れて行きやがったのか?」 終わっちまったことだからいまさらか。 抜けた兄弟の穴を埋めるべく、体力を温存しねぇとな。 とっとと眠るとしよう。 西瓜さえ飲み込めそうな大きなあくびをするとベルナールは眠りについた。 ======== 気を失っていたのか。 ぼんやりとしていた意識が瞬時に覚醒し、現状を確認する。 体に染み付いた獣の本能ゆえに……。 息はできる。血が沸騰するわけでも身体が破裂するわけでもない。 銃声も砲撃音も炸裂音もノイズもローター音も無い。 焦げる臭いも毒ガスのにおいもしなければ、死臭もしない。 御主人がいるかどうかは別として、とりあえずどこかには出られたわけだ。 そんなことを考えつつ、別の意識は自己診断を続けている。 体表面80%の損傷を確認。 内臓に損傷はなし。自己修復を開始。 装備の状態を確認。 ドッグバズーカ、大破。 ドッグアーマーLV8、中破。 せいぜい投げつけるぐらいが関の山の鉄くずに成り下がった武器。 無いよりマシだと思うとしよう。 だが、せめて回復カプセルか満タンドリンクを持ってくればよかった。 休みもとらずに世界中を駆け抜けたせいで残量は0。 備蓄分は全部犬小屋に置いたまま。 今更後悔しても始まらんか。 幸い、敵になりそうな生き物は周囲にいない。 それに、ここは外敵に見つかりにくい茂みの中。 傷が治るまでこのままでいるとしよう。 しかし、目の前の巨大な建物。 どことなく病院とか言う施設と同じ薬品臭がする。 それに外壁が罅割れたりしていないことをみればずいぶんと平和なのか、金があるのか、よほど頑丈なのかのどれかなのだろう。 そんなことを考えている間に身体は自己修復を始め、 ぎちぎちと音をたてて引き裂けて血塗れだった皮膚が再生していく。 だが、その速度は酷く緩慢。 エネルギーが足りんな。 腹が減って仕方ない。 空腹など幾らでも耐えられるが、どうしても再生にまわすエネルギーが減る。 仕方ない。 背に腹は変えられん。 茂みの草をかじり、咀嚼する。 美味くないな。 わんわんグルメなんて贅沢言わないからぬめぬめ細胞でもテロ貝の身でも トンボの目玉でもいいから喰いたい。 二口目を食べて気がつく。 そういえばこの草、どうして噛み付いてこないんだ? ======== 「すみません、シグナムさん。車出してもらっちゃって。」 「なに、車はテスタロッサからの借り物だし、向こうにはシスターシャッハが いらっしゃる。私が仲介したほうがいいだろう。」 ベルカ領にある聖王病院。 そこにこの間の事件で保護した子供が入院している。 その子に会いに行くためにシグナムさんが車を出してくれている。 事件に巻き込まれた無力な子供。 そう思いたいのに、どうしても心が重い。 はんた君やアルファの考えを聞いたせいなのかもしれないけれど。 ギンガの考えを併せても何一つ愉快な答えが見つからない。 私はそんな子供にどう対応するべきなんだろう。 そんなことを考えながら、シグナムさんの心遣いに感謝の返事を返す。 「しかし、検査が済んでなにかしらの白黒がついたとして、あの子はどうなるのだろうな。」 「うん……。当面は六課か教会で預かるしかないでしょうね。 受け入れ先を探すにしても長期の安全確認が取れてからでないと……。」 それこそ犯罪者の餌食になりかねない。 あるいは自分の手で犯罪者たちに引き渡す形にさえ……。 でも、六課や教会で預かるのも簡単なことじゃない。 身元不明でレリックと関わりがあるという大前提があるから……。 引き取るという選択肢が頭によぎっては消えてを繰り返す。 フェイトちゃんがエリオ達を保護しているように、わたしがあの子を……。 けれど、人間1人を保護するというのがどれほど大変なことかもわかっている。 それがわたしに二の足を踏ませる。 御両親がいればいいんだけど、望み薄だろう。 そう考えると気分はどんどん悪い方向に傾いてしまう。 誰かの欲のために作りだされた子供。 人間としてではなく、道具として作られた子供。 そんな子供にわたしはいったいなにができるだろうか。 そんなときに不意に端末が開く。 「騎士シグナム!!聖王教会、シャッハ・ヌエラです。」 「どうなされました?」 「すいません。こちらの不手際がありまして……。」 その言葉にわたしとシグナムさんが息を呑む。 不手際。 偶然か故意かでぜんぜん意味が変わってくる言葉。 そしてあの子は先日の事件で保護された子供。 事件性が低いと考えるほうがおかしい。 「検査の合間にあの子が姿を消してしまいました。」 聖王病院にわたし達が到着するなり、息を切らして駆け寄ってくるシスターシャッハ。 病院内を必死に走り回って探したのだろう。 けれど、焦った表情のままであるのが、いまだに見つかっていないことを教えてくれる。 わたしはきっと硬い表情をしていただろう。 「申し訳ありません!!」 「状況はどうなってますか?」 「はい。特別病棟とその周辺の封鎖と非難は済んでいます。 今のところ飛行や転移、侵入者の反応は見つかっていません。」 「外には出られないはずですよね。」 「ええ。」 「では、手分けして探しましょう。シグナム副隊長……。」 「はい。」 他にありえるとすれば、子供が殺されている可能性、監禁されている可能性、 内部犯による誘拐……。 はんた君達のおかげか物騒な考えばかりが頭によぎってしまう。 最悪の事態だけは起こらないで……。 そう祈りながら必死に感情を押さえ込むと、努めて機械的にシグナムさんに声をかけた。 病院内はシスターシャッハとシグナムさんが探している。 他にいるとすれば病院敷地内。 迷子だとすれば子供の背丈からして背の高い茂みや木があるところ……。 そう考えると足は自然と病院内に設けられた広場に向いていた。 あたりを見回す。 けれど、あの子に限らず、なにかがいる気配さえ無い。 いったいどこに……。 そう考えたとき、傍らの茂みががさりと音を立てる。 反射的に視線を向けると、茂みから飛び出してきたのは縫いぐるみを抱きかかえた女の子。 「ああ、こんなところにいたの……。」 無事でよかった。 こわばったような表情を浮かべたまま、 うさぎの縫いぐるみを力いっぱい抱きかかえた女の子の姿にほっとする。 だけど、わたしの言葉に女の子は子猫が警戒するかのように身を強張らせる。 「心配したんだよ。」 そう言って歩み寄り始めたとき、突如目の前に飛び出してきたのはシスターシャッハ。 バリアジャケットを纏ったその姿は臨戦態勢そのもの。 鋭い目で女の子を見つめながら、その手にヴィンデルシャフトが構えられる。 怯えたように後ろに下がり始める女の子。 その手から縫いぐるみが零れ落ち、怯えたような声をあげ、 そんな様子にシスターシャッハと私が気を抜いた瞬間だった。 突如、横の茂みから飛び出してきた塊にシスターシャッハの身体が吹き飛ばされる。 まるで車に跳ねられたような勢いで転がるシスターシャッハ。 女の子と私の間に割り込んだものが睨み合う。 とがった耳、茶色の短い毛並み、ふさふさした尻尾。 そして小柄な体躯に4本の足を持ったそれは……。 「い、犬!?」 飛び出してきた犬は牙を見せて威嚇を始める。 けれど唸り声はかけらも上げない。 その様子はまるで機械が識別をしているような印象さえ覚える。 でも、どこかで見覚えがある目と雰囲気……。 どこだっただろう? ======== さて、どうしたものか。 反射的に飛び出したが、現状に戸惑いしか覚えない。 もっとも、人型の雌の身体が戦車よりは軽いようでいくらか心は平静を取り戻せた。 もしも戦車よりも重かったらさっさと逃げ出すことを選んだだろう。 この程度ならどうとでもできる。 正面にいるのは人型の雌が2匹。 同類の臭いがしないあたりからすればたぶんニンゲンだろう。 どうやらここは赤い悪魔や機械娘の同類が歩いている世界というわけではないらしい。 あんなのがごろごろ歩いている世界などぞっとしない話だ。 その証拠に吹き飛ばしてやったソルジャーのような雰囲気を纏う胸の無い雌は 多少ダメージをもらうだろうがこのまま追撃を仕掛けてその喉笛を食いちぎってやれる。 それこそ一呼吸の隙さえあれば……。 しかし、転がすのが目的とはいえそれなりに力を入れて叩き込んだ一撃だったが……。 視界の先で起き上がる胸の無い雌。 ダメージらしいダメージが無いように見えるのは気のせいか。 たしかに妙な手応えではあったが……。 装甲タイルとも違う感触に首を傾げるが、一笑に伏す。 たいしたことではないか。 少なくとも四肢をばらばらにすれば動けないだろう。 ハラワタをぶちまけても満タンドリンク1本で治ったオレや御主人からすれば たいしたことじゃない。 御主人や機械娘や赤い悪魔やムラサメよりも近接が得意でない限り、 オレの命は脅かされるはずがない。 あるいはティアマット級の火力でもない限りは……。 だが、白いほうは見た目以上に手間取りそうだ。 見た目と纏った雰囲気がずいぶんとチグハグな雌であることに警戒する。 ついでに言えば胸の無いほうは特に融通効かない顔をしている。 気を抜けばすぐに殴りかかってくる種類のニンゲンだ。 とはいえ、背中にかばったこの小さいニンゲンの雌はオレと同類の匂いがするだけで、 オレを連れてどうこうできそうな雰囲気でもない。 ドッグバズーカは壊れている。 ドッグアーマーも無いよりマシというレベルの襤褸切れ。 見つけた人間が御主人でない以上はさっさと逃げ出すのが正解なんだろうが、 身体が再生してまともになり始めた感覚が感じている。 この建物を檻のように囲むこれはなんだ? オレ達は捕らえられたと判断するべきなのか。 なんでもいいか。 御主人を見つけるまで、邪魔物は喰い殺してぶち壊して貪り喰らう。 ただ、それが全て。 そんなことを考えていたとき、白いほうが呟いた。 「……はんた君そっくり。」 呆然としたような様子で紡がれたその言葉に耳をぴくりと動かす。 白い雌の呟き。 偶然か、それとも聞き間違いか? 不意に思い出されるのはベルナールの言葉。 たしかに御主人に惚れていた雌の中で一番強くて一番御主人に執着していた雌だったな。 機械娘と仲が悪かったあの赤い悪魔は・・・・・・。 獣1匹を覚えていたなんて思えないが、もしもそうなら感謝するとしよう。 どうやらこの白い雌が御主人を知っているらしい。 従順な振りをして大人しくしておくとしよう。 人違いならさっさと失せればいい。 それに、暴れるのはそれからでも遅くは無いだろう。 ======== 目の前で傷が音をたてて治っていく様はまさに生体兵器。 今まで見てきたどんな生物よりも飛びぬけて歪なあり方。 犬の姿をしているけれど、まったく別の生物。 なぜ、犬の姿をとっているのか。 そんなことを考えながらも無意識に口が動く。 「はんた君そっくり。」 呟いたその言葉に反応するように犬の視線がわたしに向けられる。 そうだ。どこかで見たことがある目だと思ったら……。 初めて会ったときのはんた君と物凄くそっくりの目をしているんだ。 そういえば、バトー博士が皆にアダナをつけた日、はんた君が犬を飼ってると言っていた。 でも、ありえるはずがない。 だって、事故で同じ世界に漂着するなんてそんな・・・・・・。 それに多くの世界があるというのに、その中でこのミッドチルダに漂着して、 起動六課から少し足を伸ばせば辿り着けるような聖王病院に漂着できるなんて。 けれど、もしかしたらと思って呼んでみた。 「……ポチ?」 「わふ。」 わたしの呼びかけに一声鳴くと、威嚇が止まった。 まさか、本当に!? 「シスターシャッハ。ちょっと、よろしいでしょうか。 それと、犬のほうには手は出さないでください。以前それで痛い目にあいました。」 「あの……はぁ……。」 戸惑ったような声を上げるシスターシャッハ。 その表情の困惑を隠しきれないままだったけれど、デバイスを下ろしてくれる。 泣き出しそうな顔のまま座り込んだ女の子。 置いてけぼりになっちゃってたね。 ゆっくり近づいていくと、立ち塞がっていた犬が道を譲ってくれる。 本当にはんた君の飼い犬なのかな。 足元に転がっているのはうさぎの縫いぐるみ。 シスターシャッハが出てきたときに驚いて落としちゃったのかな。 しゃがんで女の子と視線を合わせると、縫いぐるみの砂を払いながら話しかける。 「ごめんねー。びっくりしたよね。大丈夫?」 「……うん。」 戸惑いながらも頷いてくれる女の子。 目に涙を浮かべながらも、わたしの手から縫いぐるみを受け取ってくれる。 噛み付いてきたり、攻撃してきたりする様子はない。 危険は無さそう。 これで危険なんて言ったらはんた君は……。 「立てる?」 安心させるように笑みを浮かべて女の子に問いかけると、 女の子がゆっくりと立ち上がる。 警戒させないように服についた砂を払ってあげながら、シスターシャッハに念話を繋ぐ。 「緊急の危険はなさそうです。ありがとうございました。シスターシャッハ。」 「あ……はい。」 背中のほうで雰囲気が変わった。 たぶん、シスターシャッハが警戒を解いてくれたんだろう。 傍らの犬もどうこうする様子はない。 まずは女の子と話をしよう。 「初めまして。高町なのはって言います。お名前、言える?」 「……ヴィヴィオ。」 「ヴィヴィオ……。いいね。かわいい名前だ。ヴィヴィオ、どこか行きたかった?」 「ママ……いないの……。」 ヴィヴィオの言葉にはっとする。 人工生命であるヴィヴィオに母親はいない。 けれど、どうやって伝えたものか。 あなたは作り物だからお母さんはいませんなんて言えるはずが無い!! 「ああ、それは大変。それじゃ一緒にさがそうか。」 「……うん。」 笑みを浮かべてそう言ったわたしの言葉に、 泣き出しそうな顔をしながらも頷いてくれるヴィヴィオ。 傍らにいた犬がどこか呆れたような視線を向けていたような気がしたのは気のせいか? ======== なんだかいろいろ忘れ始めている気がする。 なにを忘れてしまったのか思い出せない。 けれど、なにかおかしいって自覚し始めた。 一番大切な戦闘技能はなにも忘れてはいない。 けれど、やっぱりなにかが足りない。 思い出すべくアルファを変形させ、技能を反復するように身体を動かす。 遠距離射撃はできる。 構えた時点で照準も揃う。 高速振動剣も淀み無く延々と振り回し続けられる。 リロードアクションもクイックドローも他のあらゆる技能全てによどみは感じられない。 膂力が衰えるわけでもない。 では、何を忘れてしまったのだろう。 レッドフォックスとの記憶はどれもが鮮やかに思い出せる。 それこそ、最初から最後まで、今さっきあった話を話すようにどこまでも正確に……。 倒してきたモンスターの記憶も倒してきた賞金首の記憶も忘れていない。 敵性体の情報を忘れるなんてそんな愚かしいことできるはずがないだろう。 父親の名前、母親の名前、妹の名前、相棒の名前、旅を共にした仲間の名前も忘れてはいない。 キョウジ、ニーナ、エミリ、ポチ、ベルナール、タロウ、ラリー、ミカ、キリヤ、シャーリィ、ラシード。 誰も忘れていない。 いったい何を忘れているのだろうか。 わからない……。 そんな思考に没頭して訓練場で佇んでいるときだった。 「わん!!!!」 振り返るとこっちに駆けてくる犬がいる。 そういえばこの世界で犬を見かけた記憶がないな。 狼やトカゲや虫はいるのに……。 しかし、ずいぶんと速い。 下手な飛行やクルマよりずっと速い。 あんな速さで駆けられる犬はあまり知らない。 それにあの茶色の毛並み。 まるでポチにそっくりじゃないか。 揃いのドッグバズーカにドッグアーマーまで背負って……。 ……なぜこの世界に寸分たがわぬドッグバズーカとドッグアーマーがある? 「わんわん!!!!」 吼えながら駆けてくるその犬はオレの前で立ち止まる。 ピタリとその足を止めるが尻尾は激しく振るわれるまま。 そして信頼をこめた目を向けて、命令を待つかのようにこっちをじっと見つめている。 まるであの荒野にいたころのポチそのままに……。 まさか……。 「まさか、本当に……ポチ……なのか?」 「わふ。」 尻尾を振ってじゃれついてくる。 抱きとめてやると、頬を激しく舐めてくる。 ああ、この感じは覚えている。 紛れも無くこれは……。 「アハハハハハハハハハ。ポチ。ポチだ。アハハハハハハハハ……。」 「わふ!!」 抱きしめる腕に力がこもる。 笑いが止まらない。 ああ、ポチ、ポチ、ポチだ。 あの荒野を共に駆け抜けた相棒。 頼もしき戦友。 なにを好んで俺と共に来たのか未だに分からぬ俺の家族の一員。 久しく忘れていた感情で心が満たされる。 これは……歓喜? 俺は嬉しいのか……。 あまりにも久々過ぎて戸惑いばかりが加速するけれど、 それでも笑いが止まないのはきっと嬉しいからなんだろう。 「アハハハハ……ハハ……ハ……。」 「わふ?」 けれど、笑いは次第に尻すぼみになっていく。 変わりに俺の目から零れ落ちるこれは涙……。 ああ、そうか。 ここに来てしまったということは……。 なんで来てしまったんだ、ポチ。 あれもこれもそれもなにもできないこの窮屈な世界に……。 息をすることさえ辛いほどに……。 たとえ姿が見られなくてもあの荒野で暮らしていたならそれだけでよかったのに……。 ここは地獄だ。 ああ、あれもこれもそれもとはなんだったか。 やはりなにかを忘れている。 ======== 御主人。オレの御主人。 白い雌と胸の大きな雌に連れられて来た施設で見つけたオレの御主人。 無事であったことがただただひたすらに喜ばしい。 姿形は違えど機械娘も共にいる。 オレ以上に御主人のことなら省みることを知らぬ機械娘。 アレがいたのならば御主人に害をなす有象無象はすべて排除されてきただろう。 それを認められるぐらいの信用と信頼があの機械娘にはある。 けれどなんだろう。 ご主人から受けるこの奇妙な感覚は……。 まるで首輪付きにされた挙句、手械足枷をつけて全身を鎖で雁字搦めにされたよう。 ひどく息苦しそうで、辛そうで……。 あの荒野で出会った最後の日より、さらに何かがおかしい。 いったいなにがあったのか。 そして、気のせいだと思いたかったマスターから漂うこの臭い。 御主人の身体に染み付いた吐き気さえ覚えるほど濃密な血の臭いと硝煙の臭いは相変わらず。 だが、それに加えてもう1つ別の臭いが混じっている。 どことなくドクターミンチのところで散々に嗅いだ臭いに近いそれから感じるのは 濃密な死の気配。 間違いだと信じたかった。 顔色は昔と変わらない。 呼気も何も変わらない。 どこか窮屈そうでも変わらぬ在り方のままの御主人の姿。 けれど、親愛をこめて舐めた御主人の頬の味に本能が悲鳴を上げる。 間違いだと信じたかったのに、本能が間違いではないと確信してしまった。 ……終わりが近いのか。 せっかく出会えたというのに……。 ならば、オレはどうすればいいのだろう。 世界最強の獣の飼い犬として……。 ただ1人認めた主のために……。 ======== 聖王教会。 ヴィヴィオの世話をフォワードの皆に任せてやってきた場所。 はやてちゃんは六課設立の本当の理由を教えてくれると言ったけれど。 六課の後見人に聖王教会の騎士カリムがいるというのも知っているけど、 なぜここでなのだろう? はやてちゃんが口頭で教えるのではだめなのか? そんなことを思いながらノックをして部屋に入ると敬礼する。 隣でも同様にフェイトちゃんが……。 「いらっしゃい。初めまして。聖王教会騎士団騎士、カリム・グラシアと申します。」 促されて席に着く。 先に席についているのはクロノ君。 フェイトちゃんと硬い挨拶をしているのは公私の区別をつけているからだろうか。 でも、少しお久しぶりって言葉、公私の区別をつけるつもりならおかしいよ。 そんなことを考えていたのはわたしだけではなかったみたい。 微笑んだカリムさんが口を開く。 「ふふっ、おふたりとも、硬くならないで。私達は個人的にも友人なんだから、 いつも通りで平気ですよ。」 「……と、騎士カリムが仰せだ。普段と同じで……。」 「平気や。」 「じゃあ、クロノ君、久しぶり。」 「お兄ちゃん、元気だった?」 フェイトちゃんの言葉にあからさまに顔を赤くするクロノ君。 フェイトちゃんがハラオウンの家族に加わってから10年経ってるのに。 それにエイミィさんと結婚までしてるのになんで顔を赤くするかな。 「それはもうよせ。お互いもういい歳だぞ。」 照れを隠すように憮然と告げるクロノ君。 でも、お兄ちゃんをお兄ちゃんと呼んでもぜんぜんおかしくないと思うけどな。 わたしもおにいちゃんは今でもおにいちゃんって呼んでるし……。 「兄弟関係に年齢は関係ないよ。クロノ。」 フェイトちゃんの言葉に黙り込んでしまうクロノ君。 微笑ましそうに控えめな笑いをするカリムさん。 和やかな雰囲気に包まれる。 そんなとき、はやてちゃんが咳払いをすると口火を切った。 「さて、昨日の動きについてのまとめと改めて起動六課設立の裏表について。 それから今後の話を……。」 光を遮るようにカーテンがひかれ、部屋が暗がりに包まれる。 はやてちゃんの言葉を引き継ぐように話し始めたのはクロノ君。 「六課設立の表向きの理由はロストロギア、レリックの対策と独立性の高い少数部隊の実験例。 知ってのとおり、六課の後見人は僕と騎士カリム、それから僕とフェイトの母親で 上官のリンディ・ハラオウンだ。 それに加えて非公式ではあるが、かの三提督も設立を認め協力の約束をしてくれている。」 切り替わったウィンドウと共に映し出された人達に驚く。 まさか、そんなに上の人が関わっているなんて思ってもいなかった。 実験部隊にしては権限が大きいとは薄々思っていたけれど……。 フェイトちゃんもわたしと同じみたいで驚きを隠せていない。 ウィンドウを消して、代わりに前に歩み出たカリムさんが手元の紙束のリボンを解く。 単なる紙束ではないそれが宙に展開されていく……レアスキル!? 「その理由は、私の能力と関係があります。私の能力、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)。 これは最短で半年、最長で数年先の未来、それを詩文形式で書き出して預言書の作成を行うことができます。 二つの月の魔力がうまく揃わないと発動できませんから、ページの作成は年に1度しか行えません。 予言の中身も古代ベルカ語で解釈によって意味が変わることもある難解な文章。世界に起こる事件をランダムに書き出すだけで、解釈ミスも含めれば的中率や実用性は割りとよく当たる占い程度。 つまりはあまり便利な能力ではないのですが……。」 それでも未来がわかるのは十分すごい能力だと思います、カリムさん。 それに、古代ベルカ語って……ヴォルケンリッターの皆は普通に読めるんじゃ……。 「聖王教会はもちろん、次元航行部隊のトップもこの予言には目を通す。 信用するかどうかは別として、有識者による予想情報の1つとしてな。」 「ちなみに地上部隊はこの予言がお嫌いや。実質のトップがこの手のレアスキルとか嫌いやからな。」 「レジアス・ゲイズ中将だね。」 いつだったかの演説を思い出す。 管理局きっての武闘派。 「そんな騎士カリムの予言能力に数年前から少しずつ、ある事件が書き出されている。」 クロノ君の言葉にカリムさんが頷くと、紙片の1つを読み上げ始めた。 「古い結晶と無限の欲望が交わり集う地 死せる王の下 聖地より彼の翼が蘇る 死者達が踊り 中津大地の法の塔は焼け落ち それを先駆けに 数多の海を守る法の船も砕け墜ちる」 「それって……。」 「まさか……。」 わたしだけじゃない。 フェイトちゃんも読み上げられた内容がわかったのだろう。 思い当たる単語が多すぎるその詩文。 その意味は間違いなく……。 「ロストロギアをきっかけに始まる管理局地上本部の壊滅と、そして管理局システムの崩壊。」 あまりにも桁外れの内容。 でも、その光景が映像と共に想像できてしまうのはやはりはんた君の影響か。 思い直せば破壊するだけなら心当たりが数多くあった。 ジュエルシードの暴走。 フェイトちゃんのお母さんがやった次元振の誘発。 それを押さえ込んだリンディさんもリミッターさえなければ可能だろう。 それに闇の書ことリインフォース。 暴走するがままにした場合に起こる事態でも同じことが可能。 アルカンシェルを使ってもいい。 そしてわたし、フェイトちゃん、はやてちゃん、それにヴォルケンリッターの皆も リミッター制限さえなければ十分に可能。 おそらくははんた君も……。 ただ、やる理由が無いというだけに過ぎない。 けれども、地上本部を壊滅させるだけなら容易であることに気がつく。 でも、管理局というシステムを崩壊させることは可能なのか? 疑問が尽きない。 「それが六課設立の裏の理由だ。各部署にそれとなく警告はしているが、 肝心の地上本部の対応はほとんど無いと言っていい。 僕や騎士カリム、三提督をはじめとして多くの人が未然に防ぐべく動いてはいるが、 いつ、どうやって、誰が、どのような手段で行うのか情報が欠落している。 注意だけは十分にしておいてくれ。」 「「わかりました。」」 わたし達の言葉をきっかけにカーテンが再び開かれる。 光が差し込むのに合わせて、硬い雰囲気に包まれた暗い空間が少しずつ切り裂かれていく。 誰もが緊張していたのか、皆が一斉に紅茶を口にする。 明るい部屋とは対照的なまでに重い沈黙が続く。 そんな雰囲気を払拭するような話題を振ってきたのは意外なことにクロノ君だった。 「ときに、母さんから六課設立時に愉快な人をねじ込んだと最近聞いたんだが、 どんなやつなんだ?」 「ああ、はんた君のことだね。」 「どんなって言われても……。」 「えーと、その、なんだ。……頼れるいい男なのか?」 憮然として言い放つクロノ君。 そんな様子に思わずフェイトちゃんと顔を合わせて苦笑い。 はやてちゃんは必死に笑いをこらえようとしているけれど肩が震えている。 微笑ましそうに控えめな笑いを浮かべながらカリムさんが口を開く。 「こんなに可愛い妹さんと同じ職場に頼れる男性がいたらお兄さんとしては不安ですからね。」 「ち、違う!!あくまで、そうあくまでこれは後見人としての考えであって、その、つまりあれだ。 少しでも皆の安全が確保できるのならばとだな……。」 「お兄ちゃん、私が心配じゃないの?」 「あ……あう……。」 しどろもどろに必死に言い訳をするクロノ君に追い討ちをかけるように フェイトちゃんが言葉をかけると、今度こそクロノ君は言葉に詰まって言葉を失った。 そういえば気にしたこと無かったけれどはんた君って何歳なんだろ? 「まぁまぁ、でも、私も気になりますね。いきなり空曹兼陸曹という立場につくぐらいですから、 能力は高いのでしょうけれど、私達はその方を書類でしか知りませんから。お聞かせ願えますか?」 カリムさんの言葉にはやてちゃんとフェイトちゃんと顔を見合わせると、 思いつくことを片っ端からあげていく。 「そうですね。まず能力は高いですね。」 「経験も豊富やな。」 「魔力適正も私達と同等ぐらいです。」 「思考も早いし、頼りになるよね。」 「物凄く合理的な思考する人ですね。」 「最近言わなくなったけど四六時中殺す殺す言っていたもんね。」 「でも陸士試験とかどうしたんだろ?」 「そういえばそうだね。退屈そうにこなしそうな感じはするけど。」 「あとは不思議なデバイス使ってて本当に近距離から遠距離までそつ無くこなすなぁ。」 「……僕の聞き間違いであってほしいと思うんだが、ろくに士官教育受けていないSランク魔導士が リミッター制限もなしに六課で放し飼いになっているって聞こえるのは気のせいか?」 「諸所の問題はリンディさんがクリアーしてくれたんよ。それにレジアス中将もはんたには好意的やしな。」 「大問題だろうが!!なんでそんな危険人物が管理局にいるんだよ!!母さんも何を考えてるんだ!!」 「あー、でも生身で六課潰せるような人間を手元に置いておけると思えば……。」 「あの、生身でということはその方はベルカ式の使い手なのですか?」 「あー、なんというかなぁ……。」 激高するクロノ君をおいてけぼりにしながら、疑問をはさんだカリムさんにはんた君の世界のことを話す。 人間VSその他すべてが生存競争をする狂気じみた世界の話を。 「そんな世界が……。でも六課を生身でというのは些か言葉が過剰ではないのでしょうか? 現在こそリミッター付きとはいえ、Sランク魔導士とヴォルケンリッターがいるのですよ?」 「2人庇っとったけどなのはちゃんが半死半生にされたし、 リンディさんから提示された条件として生身の丸腰で地上本部半壊させたし、 言葉としては適切じゃないかと思います。」 「あれは完敗だったよね。」 「もしも、バトー博士がでてこなかったらって思うとかなり怖いものがあるよね。」 きゃらきゃらと笑い声が上がる。 頭痛を抑えるかのようにうつむいていたクロノ君がようやく顔を上げて口を開いた。 「その危険人物の人柄を言い表すとどんな言葉で言い表せるんだ?」 「誠実で不器用。」 「合理的で機械的。」 「ベテランで戦闘狂。」 「あらあら、うふふ……。」 見事に分かれた3人の言葉にカリムさんが笑い声をあげ、 頭痛が増したかのようにテーブルにつっぷすクロノ君。 そんなとき、はたと思い出したようにカリムさんがプロフェーティン・シュリフテンを展開する。 「もしかしたら、この一説をその方なら解読できるかもしれませんね。 あまりにも支離滅裂すぎて解読さえ十分にできていない一説なのですが、 その中にもかの翼という言葉がでてくるので注目しているのですが。 どうにか意味を通るように解読させたのですが、なにぶん該当するものがまったく無くて……。 何かしらの固定観念で考えが凝り固まってしまっているからかもしれませんね。」 そう前置きをはさんで言葉を続ける。 「つがいをなくした鋼の獣は鋼の竜を駆りて かの翼に挑みかかる 母の胎を知らぬ獣と 人であるのに人ではない人を従者として 荒れ狂う嵐の中 やがてかの翼は真の姿を現す しかし鋼の獣に傷つけられて真の姿を現した翼は地に落ち 数多の死者達は冥府へ再び還る 鋼の獣は立ち止まらない すべてはなくしたつがいのために」 まったくわからない詩文。 つがいをなくした鋼の獣? 鋼の竜? 母の胎を知らない獣なんているの? 人なのに人じゃない人って? かの翼がなにか分からないのに、真の姿ってなに? 重要なことを書いてあると核心があるのに、まったく意味がわからない。 ただ、1つだけ……。 どうしてだろう? 鋼の獣という言葉を聞いて、はんた君の顔が思い浮かんだのは……。 前へ 目次へ 次へ
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マスターコード ECB26658 1456E79B 所持金最大 1CEC8D8C 17E9C70C 戦闘1回おこなうとLv255 1C8C64EC 384A300C 経験値x倍 1C8C62F0 10539BE5 1C8C62F4 9093D821 1C9AD428 xxxxxxxxx 1C9AD42C 15F6E79D 1C9AD430 14D307C6 xxxxxxxxの値 2倍:1453CF65 4倍:1453CF25 8倍:1453CFE5 16倍:1453CEA5 32倍 1453CE65 64倍 1453CE25 128倍 1453CEE5 256倍 1453CDA5 512倍 1453CD65 1024倍 1453CD25 以下のコードも追加して下さい。(xxxxxxxxとyyyyyyyyの倍率は同じにしてください) 1C8C64EC 10539B25 1C9AD528 908AD821 1C9AD52C 15F6E79D 1C9AD530 yyyyyyyy yyyyyyyyの値 2倍:144A8765 4倍:144A8725 8倍:144A87E5 16倍:144A86A5 32倍 144A8665 64倍 144A8625 128倍 144A86E5 256倍 144A85A5 512倍 144A8565 1024倍 144A8525 取得金x倍 1C82E5F0 xxxxxxxx 1C82E5F4 1499D7C6 1C82E5F8 0456E7A7 xxxxxxxxの値 2倍:1459FF65 4倍:1459FF25 8倍:1459FFE5 16倍:1459FEA5 プロテクターくず屋 スタンプMAX 4CEC8DA0 1456E404 主人公 攻撃力9999 1CEA09F8 1456089C 防御力9999 1CEA09FC 1456089C 運転9999 1CEA0904 1456089C 主人公特技(要暗号化) 以降キャラ+240h 207f86f4 xxxxxxxx 207f86f8 xxxxxxxx 207f86fc xxxxxxxx 207f8700 xxxxxxxx 207f8704 xxxxxxxx 207f8708 xxxxxxxx 207f870c xxxxxxxx 207f8710 xxxxxxxx 207f8714 xxxxxxxx 207f8718 xxxxxxxx キャラ順序 主人公 キリヤ ミカ ラシード シャーリィ アルファ ポチ タロウ ベルナール ラリー xxxxxxxxの値 0000036A BSレーザー 0000036B 拡散BSレーザー 0000036C ピンポイント 0000036D ホークアイ 0000036E ドッジ 0000036F ブルズアイ 00000370 対空砲火 00000371 鋼鉄の城 00000372 チャージ 00000373 ロケットスタート 00000374 コンビネーション 00000375 高速機動 00000376 根性 00000377 ブレイクスルー 00000378 スタンピード 00000379 スピードスター 0000037A フルファイア 0000037B オートマチックモード 0000037C 即席修理 Lv1 0000037D 即席修理 Lv2 0000037E 弱点看破 0000037F グレムリンアタック 00000380 ショート 00000381 インスタントボム 00000382 ブレークダウン 00000383 ジャンカー 00000384 ストップシグナル 00000385 クラックダウン 00000386 ブースト 00000387 オールグリーン 00000388 ツナギの天使 00000389 応援 0000038A 二丁拳銃乱射 0000038B インターセプト 0000038C 距離外射撃 0000038D サードアクション 0000038E クイックターゲット 0000038F 死神の矢 00000390 ファウリング 00000391 隙間撃ち 00000392 死点撃ち 00000393 影縫い 00000394 ラストアクション 00000395 ファニング 00000396 先手必勝 00000397 ゼロアクション 00000398 クーデグラ 00000399 ガン・ダンス 0000039A 地面突き 0000039B 矢斬り 0000039C 大回転きり 0000039D ツバメ返し 0000039E 真空斬り 0000039F 見切り 000003A0 心頭滅却 000003A1 修羅 000003A2 霞斬り 000003A3 死線斬り 000003A4 憤怒 000003A5 最後の一太刀 000003A6 分身斬り 000003A7 羅刹 000003A8 死神の手 000003A9 死の舞踏 000003AA 自己修復 000003AB 予備エネルギー 000003AC 予測反撃 000003AD イージスシステム 000003AE イージスシステムⅡ 000003AF ハンドバルカン 000003B0 クラスターガン 000003B1 レーザーライフル 000003B2 グレネードガン 000003B3 ナックルショット 000003B4 ビームソード 000003B5 アイアンクロウ 000003B6 パイルバンカー 000003B7 ホーミングミサイル 000003B8 エレクトリッガー 000003B9 フレイムランチャー 000003BA グレネードランチャー 000003BB メタルウィング 000003BC 光の翼 000003BD ネメシスⅠ 000003BE ネメシスⅡ 000003BF 獣の気 000003C0 再生 000003C1 カバーリング 000003C2 セカンドアクション 000003C3 シューティングスター 000003C4 メテオストライク 000003C5 ドッグファイト 000003C6 ウォークライ 000003C7 弾丸頭突き 000003C8 乱れ頭突き 000003C9 対空頭突き 000003CA 四股踏み 000003CB 強化皮膚 000003CC バリア 000003CD ファイアーブレス 000003CE アイビーム 000003CF トラクタービーム 000003D0 カメレオンビーム 000003D1 透明化 000003D2 デコイ 000003D3 スクリーン 000003D4 フォールダウン 000003D5 掘り出す 000003D6 フライ・アウェイ 000003D7 戻る 000003D8 ハウンド 000003D9 フライ・ロー 000003DA 気配を読む 000003DB ティン・オープナー 000003DC 自爆禁止 000003DD 退却阻止 エンジン10種 重量0.00t 積載量255.00t 強度2000 7C17E12C 144CE7C5 3C978328 1456E7A5 7C17E130 144CE7C5 3C97E4C4 1456E7A5 7C17E144 144CE7C5 3C9788F8 1456E7A5
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閉じ込められた隊長陣。 敵の数に翻弄されて手が回らないフォワード達。 AMF環境に不慣れで一方的とも言えるやられっぷりの武装局員達。 地上本部の管制室は沈黙。 結界を維持する動力室も沈黙。 絶望的な状況の地上本部と同様に、機動六課も似たり寄ったり。 ただ、最悪寸前で踏みとどまっている。 ワンサイドゲームになりかねなかった状況を膠着にまで持ち込んだのは1人と1匹。 ザフィーラとシャマルの2人だけでは絶対に生まれなかった攻勢防御という選択肢。 それが膨大な経験に基づいた1人と1匹のコンビネーションで支えられている。 まるで精密機械のように繰り返されるその動作が次々と装甲を突き破り、 ガジェット達をジャンクという名のオブジェに変えていく。 ずらりと並んだジャンクの群れ。 とどまるところを知らぬガジェットの群れ。 永遠に続くかと思われたこの状況。 知っているだろうか。 精密機械はほんの少しの狂いから全部壊れてしまうって・・・・・・。 魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めようか。 第17話大破 「はぁぁぁぁぁ!!!!」 「らぁぁぁぁぁ!!!!」 すれ違いざまに打ち合っては離れるといったやり取りを何度繰り返しただろうか。 地上本部へと向かうゼストと戦っているが一向にケリがつかない。 状況は膠着していた。 激しい鍔迫り合いに互いのデバイスから火花が散る。 「ゼストっつったか。なにたくらんでるか目的を言えよ。納得できる内容なら管理局はちゃんと話を聞く!」 「・・・・・・若いな。」 あたしの言葉を軽く笑い短く応えるだけのゼスト。 同時にゼスト周囲に収束を始める魔力。 これはまさか・・・・・・。 リインが気がついたのか同じように魔力を収束させる。 ほぼ同時に炸裂する両者の魔力。 「だが、いい騎士だ。」 互いに距離を取り、再び向き合う。 本当ならば間に合うはずの無いタイミング。 だが、それが間に合ったと言うことは・・・・・・。 「リイン。気がついたか。」 新たなカートリッジが排莢される。 再び繰り返される打ち合い。 その最中にリインが返事を返してくる。 「はいです。向こうのユニゾンアタック。微妙にタイミングがずれています。融合の相性があまりよくないと思います。」 どちらもベルカ式。どちらも融合機とのユニゾンアタック。 技量も大差ないと見ていいだろう。 ならば、ユニゾンの一致率の分だけ勝機はこっちにある。 再び距離を取ったとき、ゼストがなにか呟いたようだが、いったいなにを・・・・・・。 同時に槍型のデバイスの穂先に収束を始める炎。 早くコイツをどうにかして他のやつら助けにいかねぇと。 持ちこたえてろよ。お前ら・・・・・・。 ======== 「ちぃっ。ちょこまかと・・・・・・。」 「ウェンディ。このグズ!!さっさとしとめろ!!」 言われなくたってやっている。 だが、コイツ・・・・・・速い!! 弾速が一番早い精密射撃用のエリアルショット。 なのにそれを連射してもひらひらとかわすのだ。 機械仕掛けの目に搭載されたFCSや照準機よりも遥かに早く動き回る赤毛のちっこいの・・・・・・。 演算された予測射撃さえもかすらないなんて・・・・・・。 「っ!!」 ノーヴェの戸惑いの声に視線を向けると、消えていく敵の姿・・・・・・。 「幻影?」 視界のモードを変更。 そんな子供騙し、ドクターが対策していないと思っ・・・・・・そんな!? 全てを実体として認識なんて・・・・・・。 「うっそぉ・・・・・・。」 1つ2つならどうにかなった。 でも、いつの間にか冗談のような数の幻影が私達を取り囲んでいる。 「あたしらの目を騙すなんて、この幻術使い、戦闘機人システムを知っている!?」 「幻術だろうがなんだろうが、ようは全部潰しゃいいんだろうが!!」 ノーヴェ、そんなモーションの大きい攻撃は・・・・・・。 言葉にするよりも早く掛け声と共に背後から駆け抜けてきたタイプゼロ・セカンドにノーヴェが殴り飛ばされる。 「ノーヴェ!!くっ。」 地面に亀裂を作りながら転がっていくノーヴェから目を離し、感じた気配に見上げればデバイスを振り上げるちっこいのがいる。 デバイスが帯電を始めていることに気がついたが、迎撃のほうが早い。 周囲のガジェットも動員して迎撃するべく構える。 だが、その目論見は外れた。 「Form Drei. Arschloch Unwetterform. (訳:サードフォーム、クソッタレ ウンヴェッターフォルム)」 「サンダーーーーレイジ!!」 くそったれってどういうことっス!? いや、それ以上に帯電の勢いが桁外れ。 迎撃から防御に変更するコンマ数秒の切り替えが結果を分けた。 直撃なら大破確実の一撃を受け止めると、薄暗かったフロアが迸る紫電に青白く染まる。 肌や髪がピリピリと逆立つのを感じる。 ヤバイ。抜かれたら落ちる。 くそっ。重い・・・・・・早く終われ。 って、まだ出力があがるっスか!? ちっこいのが飛びのいたのと同時に凄まじい重さから開放された。 だが、その衝撃だけで後ろに吹き飛ばされる。 雷の衝撃と撒き散らされた高出力の電磁波の影響で身体のあちらこちらが異常を発している。 再起動まで12秒。 ガジェット達は言うまでも無く大破どころか残骸すら残らないほどに木っ端微塵。 どういう火力してるッスか。 「てったーーーーーい!!!」 幻術使いの言葉が響き渡り、四方八方に散り散りに逃げていく。 早く追わないと・・・・・・。 そう重い体を起こしたとき、チンク姉から通信が入った。 「2人とも、ちょっとこっちを手伝え。もう1機のタイプゼロ。ファーストのほうと戦闘中だ。」 了解ッス。 ノーヴェも悪態ついてないで急ぐッス。 姉のピンチッスよ。 ======== 「高町一尉!!」 フェイトちゃんとエレベータを滑り降りて、一刻も早くみんなと合流するべく走っているとき後ろからわたしを呼び止める声。 「シスターシャッハ!」 「シスター。どうして・・・・・。会議室にいらしたんじゃ・・・・・・。」 「会議室のドアは有志の努力によってなんとか開きました。それで、私も急ぎ2人を追って・・・・・・。」 「はやてちゃん達は?」 「お三方ともまだ会議室にいらっしゃいます。ガジェットや襲撃者達について現場に説明を・・・・・・。」 了解とばかりに頷いたとき、背後からこっちに近づいてくるジェット音? 見えた姿はフォワードのみんな・・・・・・ってなにしてるの? 見ればストラーダに飛ばされているエリオとエリオに必死でしがみついているティアナ達。 すごいスピード・・・・・・ってこっちにくる!? 私達に気がついたのだろう。 ストラーダの穂先についた噴射口が反転し、バックブーストで制動をかけている。 自分の足とスバルのマッハキャリバーも必死で止めているみたいだが、それでも殺しきれないみたい・・・・・・。 そういえば3倍ソー・・・・・・じゃなくて早いんだっけ。 ちょっと横に避けたほうがいいかも。 結果としては、わたし達の横を5mくらい通り過ぎた辺りでとまったからよしとしよう。 それよりなによりいいタイミング。 「いいタイミング。」 わたしと同じ事をフェイトちゃんの呟き。 今は1分1秒が惜しい。 「おまたせしました。」 「お届けです。」 「うん。」 「ありがとう。みんな・・・・・・。」 スバル達に預けていたわたし達のデバイスを受け取る。 これで前線に立って指揮が取れる。 救助も容易になる。 「こちらは私が責任を持ってお届けします。」 「お願いします。」 残るレヴァンテイン達がシスターシャッハに預けられた。 はやくはやてちゃん達に届けてあげて欲しい。 完全に後手にまわってしまっている。 遅れたら遅れただけ天秤は最悪のほうへ傾いていってしまう。 それとも、もう遅いのか? 「ギン姉?ギン姉!!」 突然響いた声にみんなが呆然とスバルを見つめる。 なにをそんなに焦っているの? 「スバル?」 「ギン姉の通信が繋がらないんです。」 「戦闘機人2名と交戦しました。表にはもっといるはずですから。」 「ギン姉・・・・・・まさか、あいつらと・・・・・・。」 不安げな顔をしているスバル。 フェイトちゃんがロングアーチに状況を確認している。 今の状態は目隠しされたまま道を歩いているようなものだから。 少しでも情報が欲しい。 「ロングアーチ、こちらライトニング1。」 「ザザッ・・・・・・ライトニング1。こちらロングアーチザザッ・・・・・・。」 「グリフィス!どうしたの?通信が・・・・・・。」 驚きの声を上げるフェイトちゃん。 ノイズ交じりの通信。 まさか!? 「こちらは今ガジェットとアンノウンの襲撃を受けザザッ・・・・・・・。 ハンター1、ハンター2とシャーリーさん達が戦線を膠着させていますがいつまで持・・・・・・ブツッ・・・・・・。」 電話線を引き抜いたように途切れたグリフィス君の言葉。 動揺するフォワード4人。 最悪の状況を想定しながらわたしは判断を下す。 「二手に分かれよう。スターズはギンガの安否確認と襲撃戦力の排除。」 「ライトニングは六課に戻る。」 戦力の分散なんてなにを考えていると、 はんた君どころかわたしとフェイトちゃんをこてんぱんにやっつけたファーン校長にも言われそうだが今はこうするしかない。 地上本部がAMF環境での戦闘にあまりにもなれていないのは今の状況が証明している。 相手の目的がなんであれ、排除しないことには救助も作戦立案もおぼつかない。 纏まっていて地上本部にいる敵を排除したら機動六課が壊滅していましたなんて認めたくない。 それなら地上本部を見捨てるのか。 それも出来ない。わたしは管理局員なのだ。 フェイトちゃん達ならオールレンジアタッカー、ガードウイング、フルバックと増援の構成として最適。 それに飛行スキルをフォワードの4人は持っていない。 キャロだけがフリードで飛んでいけるというのも現状にあっている。 10年前にユーノ君が飛行は基本スキルみたいなこと言っていた気がしたんだけどわたしの勘違いかな? 今はどうでもいいか。 いずれヴィータちゃんも駆けつけるだろう。 はんたくん達が戦っているのだ。 誰よりも現実的で実力主義者で刹那的なまでの戦闘思考をした人が、 その人を飼い主に持つ戦いの猟犬が、 ヴォルケンリッター湖の騎士が、 ヴォルケンリッター盾の騎士が・・・・・・。 大丈夫。持ちこたえている。 間に合うに決まっている。 そんな思いの中、わたしは気がついていなかった。 わたしの思いの矛盾について。 それは管理局のあり方と正反対のもの。 大を救うために小を切り捨てようとするのが管理局。 それはPT事件、闇の書事件で知っていたはずなのに・・・・・・。 誰も彼も手の届く限り助けたいと思うわたしの思いに刃を突きつけられる日が来るなんてこのときは思ってもみなかった。 ======== 考えるより先に身体が動く。 何機撃破したかなんて数えていない。 全ての思考はクリアなままに幾千万と繰り返した戦いの技が炸裂する。 俺の役割は相手の動きを封じること。 それが約束を破らぬ精一杯のライン。 数を倒すに最適な特殊兵装は防衛なんて状況のせいで使えない。 万が一使ったなら、速やかにガジェット達は掃討できるだろう。 それ以上の滑らかさで機動六課が瓦礫の山か更地に変わってしまうだろうが。 ゆえに1機1機倒していくしかない。 何十発目か何百発目か忘れた砲撃音の後にエレキ弾が紫電を迸らせる。 そうして動きを封じた次の瞬間、淀みと言う言葉を知らぬかのようにミサイルを叩きつけていくポチ。 姿は四六時中消しっぱなしのポチだが、俺の弾に当たる可能性なんてかけらほども考えていない。 それだけの信用も信頼もあるから。 RAMはカートリッジが無くて使えない。 CIWSでは小回りが利かぬ。 ゆえに左腕に展開した20mmバルカンで飛び交うミサイルを薙ぎ払うように迎撃する。 僅かに届かぬ射程の外から回り込んだ数発の流れ弾。 しかし、シャマルが風の護盾で食い止める。 さらに大外から回り込もうとするガジェットはザフィーラが近接戦闘で叩き潰していく。 潰しても潰してもガジェットに減る様子はない。 戦闘機人はセンサーにひっかかっているが今しばらくは静観というところか。 機数は3。 仕掛けてこないのは疲弊するのを待っているのか、それとも・・・・・・。 広範囲攻撃を持つ相手がいたらゲームオーバー。 その現実だけは変わらない。 それを理解しているからこそ早々に潰しに行きたい。 しかし、ここを離れればこの状況は簡単に崩壊することが火を見るより明らか。 まさに状況は千日手。 ただ、包囲殲滅を相手は仕掛けてこないという奇跡的な状況。 それこそが今を生み出している。 このまま朝まで延々とルーチンワークを繰り返せば・・・・・・。 そんな甘い幻想が叶うはずがないと知っているのに1000000分の1秒ほど考えてしまった。 そんなとき、突如訪れた感覚に全身が凍りつく。 視界がじわじわと端のほうから闇に侵食され始める。 火を落とされたエンジンのように、急激に奪われていく体温。 そして、まるで力が入らない身体。 緩慢になっていく心臓の鼓動。 躍動していた肉体から生み出されていたオーケストラのようなサウンドが一斉に不協和音を奏で始める。 それはただの1度だけ味わったあの瞬間とまさに同じ感覚・・・・・・。 全身から血を抜き取られるような、風船の空気を抜いたような、 ざわりとした感覚と共に刻々と四肢の感覚が無くなっていく。 蝕むように視界の端から迫る闇は留まる様子がない。 躍動していた肉体の力の衰えも・・・・・・。 この感覚にそっくりの感覚を覚えたのはただの1度だけ・・・・・・。 それが意味するところに感じたのは紛れもない恐怖。 死ぬのは怖くない。 人間の死がダースやグロス単位で売られている世界があの荒野。 いつかは自分の順番が回ってくる。 それが今来ただけのこと。 ゆえに死ぬことは怖くなかった。 ただ、思っていたのはたった1つのこと。 まだ終わりたくない。 まだ何も手に入れていない。 まだ何も分かっていない。 心に浮かぶのはハンターになりたいという切欠を導いた父でもなく、 修理代を無料にしてと言った俺に自分で稼げないならハンターなんかやるんじゃないと戒めた母でもない。 レッドフォックス。 色あせぬ記憶に刻まれた自分が手にかけた憧れの女性。 彼女のことだけが頭に浮かぶ。 今の状況も全て忘れてただそれだけで思考が埋め尽くされる。 やがて視界は闇に埋め尽くされた。 トリガーを引くことさえできぬ木偶人形に成り下がる。 それでも針の先ほどの誤差で持ちこたえている意識を蜘蛛の糸ほどにか細い糸を手繰り寄せるように繋ぎとめて、 うんともすんとも言わなくなった身体を必死で動かそうとする。 だが、最も信頼する己の身体は沈黙したまま・・・・・・。 耳元でアルファが何か叫んでいる。 いったいなにを言っている・・・・・・。 ああ、もうなにもわからない。 まだ、終わりた・・・・・・。 コンセントを引き抜かれたテレビの映像のようにブツリと意識が断裂した。 まるで壊れた人形のように地面に転がったことを俺が気がつくことはなかった。 ======== 「御主人!!!」 最悪の想像が脳裏によぎる。 だが、全ては後だ。 目の前の全てを壊滅させなければどうしようもない。 あの機械娘がついているのだ。 御主人は無事に決まっている!! 腕を引き千切られようと全身が直径2cmの穴だらけになろうとキャタピラに轢かれようと生きたままバーベキューにされようと、 ソニックブームを食らおうとハラワタをぶちまけようとだ。 ならばオレサマがやることは、敵の群れを統率するボスの撃破。 1分1秒でも早く喉笛を食いちぎらねば・・・・・・。 彗星のような勢いで加速し、木偶人形どもを体当たりで吹き飛ばし、戦闘機人とかいうやつを視界に捕らえる。 その数は・・・・・・2機? 残りの1機はどこに行った? どうでもいい。さらに加速をしようとした瞬間、不意に横に飛び出てきた戦闘機人。 既に兵装を無意識で選択している。 デバイスが変形を終えると同時に身体は方向転換の予備動作。 ドッグジャベリンでぶち抜くべく、速やかに行動に移す。 無駄の無い動作で荷重移動を行い、ドッグジャベリンを突き立てるべく飛び掛かろうと相手を視界に捕らえた瞬間、戸惑った。 「な!?お前は・・・・・・。」 似ているなんてものじゃない。 目の前にいるその女の姿はまさしく御主人が殺したあの・・・・・・。 ゆえに動揺なんていうありえないことをしてしまった。 それは致命的すぎるミス。 ステルスの恩恵を失うには十分すぎるミス。 今更、気がつく。 1分1秒でも速く。 そうして直線で移動してしまったという最大級の大馬鹿に・・・・・・。 タイミングさえ分かってしまえば音速でも光速でも対処しようはあるというのに・・・・・・。 結果、レスポンスが遅れた。 時間にすればコンマ数秒に過ぎない。 しかし、高速戦闘においてはあまりにも大きすぎる。 抉られていく部位にかんじられるのはレーザー特有の感触。 切られている最中、焼かれている感じはしない。 ただ、なにかがじりじりと焼ききりながら動いているという認識だけ。 あまりの高熱に焼かれた毛と肉の臭いが鼻腔をくすぐるよりも速く、 肉を抉られる感覚の中、ミサイルをゼロ距離で爆破。 巻き起こる爆風にオレサマの身体が宙を舞う。 緊急回避に成功。 だが、まずい。 四肢が言うことをきかない。 想像以上に深く抉られてしまった。 抉られた部分から出ている紐はオレサマのハラワタか。 脈打つように噴出す血よ。早く止まれ。 臓器修復と傷口の修復が自己修復だけでは追いつかない。 回復しようとした次の瞬間、ゴム鞠を蹴り飛ばすように身体を蹴り飛ばされた。 やはり容赦がない。 さすが、御主人の認めた・・・・・・。 地面に転がった挽肉寸前の身体で今にも消し飛びそうな意識を必死に繋ぎとめ、デバイスから伸びるダクトを口にくわえる。 あと一呼吸でいい。 ベルナール、タロウ、ラリー。力を・・・・・・。 ======== 「マスター!!!マスターの行動不能を確認。緊急時により単独戦闘に移行。」 人間の焦りとはこのような思考なのだろうか。 あらゆるシークエンスを強制中断。 最優先タスク、マスターの生命維持および目の前の敵勢力の殲滅。 たった2つのことだけに私のリソースが全部つぎ込まれる。 兵装、全種の稼動を確認。 ジャンクヤード以外に帰れると思うな、木偶人形風情が!! フロートシステムで僅かに浮いた身体がはじけるように加速し、射程外にあった敵を75分の1秒よりも早く射程に捕らえる。 回避運動なんて取らせない。 超高密度テクタイト製のパイルバンカーがガジェットの対して厚くない装甲をゼリーに串を刺すより容易に貫く。 ダイヤモンドも豆腐も超高密度テクタイトの前には大差なくなる。 まして薄い装甲なら言わずもがな。機能停止を確認。 次の敵へ串刺しにしたモノを放り投げ、行動を制限。 再加速からアイアンクロウへ兵装を移行。 タングステンカーバイド製のアイアンクロウが重なったままの敵をジャンクごと膾切りにする。 西洋刀でいうところの切り潰すという表現そのままに装甲が引き裂かれていく。 金属が引き千切れる特有の残響音が響き渡り、ショートした配線が散らす火花を横目に膾切りになったそれを廃棄。 撃破を確認する傍らで人間で言うところの肩甲骨を変形。 視界に移る全機にロックオン完了。 嵐のように吐き出されるホーミングミサイルの群れに次々と食い殺されていくガジェットという名前のジャンク。 レーダーには抉り取るような勢いで局所的に減少する光点が映っている。 並列でホーミングミサイルの生成。並列で思考。並列でマスターの生命維持。 戦況の維持は可能か? Negative(否定)。 タスクを満たすことの出来る条件の検索。 Negative(否定)。 再検索。 Negative(否定)。 再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索 再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索 再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索 再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索 再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索 再検索再検索再検索再検索再検索再検索再検索・・・・・・・・・・ Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative NegativeNegative Negative Negative Negative NegativeNegative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative NegativeNegative Negative Negative Negative Negative Negative Negative Negative・・・・・・OK。 ポチのバイタルサイン、コンディションブルーからレッドに移行を確認。 マスターとポチを回収後、速やかに撤退。 全てのことを放り出して、タスクをこなすべく身体を加速させた。 約束のことがタスクに残っていたが削除。 約束? それはマスターが約束したことです。 私は約束していません。 人間風に言うのなら・・・・・・マスター以外がどうなろうと知ったことか。 ======== はんた君が倒れたところから戦線の崩壊が始まった。 傍から見て明らかに危険な倒れ方。 いったいなにが? けれど事態は考える余裕を与えてくれない。 食い止められていたガジェット達が一斉に暴れ始める。 わらわらと終わりを知らぬような物量で湧き出てきたガジェット達が機械的にミサイルの雨を降り注がせてくる。 「クラールヴィント。守って!!」 風の護盾の上で炸裂するガジェット達のミサイル。 でも、このままじゃどうしようもないって分かってしまった。 ミッド式もベルカ式も一部の魔法を除けばその大半が行動中には使えない。 当然、私の風の護盾も・・・・・・。 そして、幾ら強固だと言っても限界がある。 必死に魔力をまわして支えるがいつまで持つか・・・・・・。 「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお・・・・・・。」 雄たけびと共にザフィーラがガジェット達を叩き潰しているけれど焼け石に水。 1機落とせば2機。2機落とせば4機。4機落とせば8機・・・・・・。 落とした以上の速さで増援が来てしまう。 そして、この場における最大の私のミスは正面の敵にだけ注意を払ってしまっていたこと。 施設にガジェット達が侵入したのと同時に、敵の魔導師の侵入を許してしまったことを私は気がつけなかった・・・・・・。 ======== 「OK。撃てる。腕はまだ鈍っちゃ無いぜ。」 ストームレイダーから放たれたヴァリアブルシュートに貫かれ、 ガジェットがまた1機残骸となって転がる。 額に浮かんだ汗を拭い、呼吸を整える。 大丈夫だ。手は震えない。 現役時代に比べれば遥かに劣っているが、 トラウマを抱えてからずっと撃っていなかったことを差し引いても通用するレベルは維持できていたのが奇跡みたいだ。 1日サボれば自分が気がつき、2日サボれば周りが気がつき、3日サボれば客が気がつく。 そんな言葉が第97管理外世界にはあるらしいが、 どうやら六課を襲ってるお客さん達には俺の腕でもまだ通じるようだ。 ここからみんなのいるところへは1本道。 スナイパーにとって願ったり叶ったりの環境だ。 人間相手なら釣りが使えるのに・・・・・・。 いや、欲張るのは止めておこう。 思考を追いやり、カートリッジをリロード。 再びヴァリアブルシュートを連射。 ガジェット達を残骸に変えていく。 なのはさん並の砲撃をぶち込まれたらアウトだな・・・・・・。 瓦礫を遮蔽物にどうにかこなしているが、ぶち抜かれたらどうしようもない。 なんせ逃げ場も無いのが1本道なのだから。 大丈夫だ。必ず持ちこたえてみせる。 なのはさん達が戻ってくるまででいいんだ。 外には凄腕さん達もシャマル先生もザフィーラもいる。 俺達の家を守るんだ。 そんなとき視界に移ったのは、1人の少女・・・・・・。 極限の状況とあいまって俺のトラウマがフラッシュバックする。 放たれた弾丸。 貫いたのは犯人ではなく、俺の妹の左目。 回線越しに聞こえた妹の悲鳴が頭の中に鳴り響く。 目の前にいるのは妹じゃないのに、妹に見えてくる。 動悸が始まり、冷や汗が滝のように流れ出す。 震えていなかった手は痙攣したように震えが治まらない。 守らなければ、だめだ撃てない、守らなければ、だめだ撃てない・・・・・・。 「邪魔・・・・・・。」 少女の呟きと同時に右手から放たれる閃光。 その瞬間思い出したのは、凄腕さんの後姿。 孤高と言ってもいいほどに、全てを拒絶する在り方。 突き詰められた鋼の心。 それでも歪な心で戦い続けるのはなんのためだ? 後ろにいるものを守りたいからじゃないか。 手の震えが止まり、正気に返った次の瞬間、凄まじい衝撃が全身に襲い掛かり俺は意識を失った・・・・・・。 ただ、最後に覚えていることは・・・・・・。 ======== 「ガリュー。大丈夫?」 頷くガリューだけど、その左腕のブレードが折れている。 シュートバレットにしては物凄く強い威力。 カウンターのように放たれたあの一撃は避けられない1撃だった。 もしもガリューが庇ってくれなかったら、私はどうなっていただろう。 左目が撃ち抜かれていただろうか。 ドクターが新しい目を作ってくれそうだけど、お母さんが目を覚ましたとき少しでも多く元通りのままでいたい。 ううん。今はそんなことどうでもいい。 早くドクターにお願いされたお仕事を済ませよう。 「聖王っていう子を連れて行けばいいんだよね?」 コクリと頷くガリューを確認すると私は歩みを進めた。 ======== 「たった4人でよく守った。だけどもう終わり。僕のISレイストームの前で抵抗は無意味だ。」 「クラールヴィント、防いで!!」 「Ja。」 立ち上がり風の護盾を展開する。 嵐のように荒れ狂う力の奔流を必死に魔力を流し込み支える。 「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」 ガジェット達の攻撃を掻い潜り、ザフィーラが目の前の戦闘機人に飛び掛る。 だめっ!!まだ2機残っている!! 「ディード、ロッソ・・・・・・。」 「ISツインブレイズ・・・・・・。」 「・・・・・・。」 ザフィーラの横に突如現れた2機。 長い髪の戦闘機人が両手に持った剣で叩き落されたザフィーラが目の前に叩きつけられる。 そして、燃えるように赤い髪をした戦闘機人は無言のまま銃口を私達のほうに向けると トリガーを引いた・・・・・・。 衝撃で吹き飛ばされるのと同時に強度が限界に至った風の護盾が自壊する。 破壊されていく機動六課施設。 なにかに引火したのか立て続けに爆発が巻き起こる。 そんな状況の中で意識を失う直前に、どうしてこんなことを思ったのか。 一番最後の戦闘機人がはんた君とそっくりだなんて・・・・・・。 ======== 姿を消した敵の使い魔に襲われて、一方的な戦いが繰り広げられた。 そしてヴィヴィオが攫われてしまった。 なのはさんに頼まれたのに・・・・・・。 気がついたときには、私は壁によりかかっていた。 まだ朦朧とする意識の中、シャーリーは状況を整理していく。 周りに倒れているのはみんな・・・・・・。 アルトさんやグリフィスくんを初めとしたまだ動ける人が必死に救助活動をしているけど・・・・・・。 私達はもうおしまいかもしれない・・・・・・。 「これより5分後に上空の大型ガジェットと航空戦力による施設への殲滅作戦を行います。 我々の目的は施設破壊です。人間の逃走は妨害しません。」 流れた敵のアナウンス。 ふざけないでよ。どうやって逃げろって言うのよ。 施設が壊されれば施設の倒壊で私達はおしまい。 逃げ出そうにも唯一の逃げ道である1本道をこの人数の怪我人を連れてたったの5分でどうやって逃げ出すというのだ。 つまるところ、私達を生かしておくつもりはないらしい。 こっち側には戦う力は誰も持っていない。 非戦闘要員しかないのだから。 まともに動いている時計も無い。 いつ敵が現れるか。 逃げ場も無いここで誰もが悔しさに歯を食いしばり、間近に迫った死に震えていたときだった。 ガサゴソと音がする。 排気ダクト? そこから出てきたのは・・・・・・。 「バトー博士!?」 朦朧とする意識が一瞬で吹き飛んで叫んでいた。 誰もがこの口の悪い乱入者を見ている。 状況を分かっているのか?と言わんばかりの目で・・・・・・。 そんな中、空気も読まずにいつもどおりにバトー博士が口を開いた。 「やぁ、シャーリーとその仲間達。揃いもそろって不細工な面ならべてレミングスよろしくピーピー泣き喚いてるんじゃないかって思って ゴキブリ顔負けな這いずりっぷりでえっちらおっちら排気ダクトを通ってきちゃったよ。」 「・・・・・・バトー博士、状況分かっています・・・・・・よね?」 「ウジが湧いたシャーリーのクサレノウミソがついに恐怖でクソッタレペーストにでもなっちゃったのかい。 分かっているに決まってるじゃないか。」 「じゃあ、なぜ・・・・・・。」 「助けに来たに決まってるよ。そんなことも分からないのかい?でも、大丈夫。どんなにナキムシでクソムシのムシケラみたいな命でも助けてあげることに変わりは無いからね。 なんたってシャーリーはボクの弟子だろ。先生は弟子を助ける。弟子は先生に助けてとピーピー泣き喚く。おまけで先生は弟子の仲間も助ける。 これが正しい師弟関係ってやつだもんね。」 「だけど、バトー博士、退路なんて・・・・・・。」 私の言葉と同時にそこかしこで響き始める爆音。 始まった。 「あるじゃないかそこに・・・・・・。メガネ見えてないんじゃないの?」 指差された方向を縦に亀裂の入った視界越しに見るとそこにあったのはドラムカン。 ・・・・・・ドラムカン? それはあまりにも奇妙なオブジェ。 あまりにも溶け込んでいて気がつかなかったけど、なんで局内にドラムカンが置いてあるの? 「よいしょっと・・・・・・。」 おもむろに近づいて掛け声と共に動かされたドラムカンの下には・・・・・・隠し通路!? いったいいつの間に。 そもそも設計にはこんな・・・・・・。 「暇つぶしにつくっておいたんだよ。 さて、くたばりたくなかったらネズミが逃げ出すみたいにチューチューじゃなかった、とっととそこに逃げ込みなよ。 ケツに火がついたみたいな勢いでさ。さぁ、急いでよクソムシども。 チンタラやっててスリッパで潰されたゴキブリみたいに瓦礫で潰されたくないんだったらさ。」 信じられない。 こんな状況さえ予見していたと言うのか。 改めて私が師事した人の底知れなさを思い知る。 誰も死にたくは無いのだろう。 怪我人をつれて速やかに隠し通路のタラップを降りていく。 そして避難が終わり、最後に残ったのは私とバトー博士。 「バトー博士も早く!!」 けれど、タラップに手をかけながら声をかけた私にバトー博士は眉間にしわを寄せたかと思うとにかっと笑った。 「残念だけど、それはできないんだよね。」 そういったかと思うと私の手を蹴り飛ばした。 滑り落ちそうになる身体を壁に押し付け必死に踏ん張って支える。 「バトー博士。なにを!!」 「追っ手を防ぐためにも偽装するためにも爆発の被害を抑えるためにも誰かがドラムカンで閉めなきゃいけないからね。 好き勝手絶頂に改造してよかったならもうちょっと丁寧なつくりに出来たんだけどさ。 気がついたのが遅くて本当に突貫工事になっちゃったのが致命的だったよね。天才らしからぬ仕事ってやつさ。 ハハハハハ、ハハハハハハハ、ハハハハハ・・・・・・。」 そう言って私の頭上がドラムカンで塞がれる。 敵はすぐそこまで迫っているのに。 つまり、そんな・・・・・・。 「バトー博士!!バトー博士!!バトー博士!!」 「ハハハハハ、ハハハハハハハ、ハハハハハハハハ・・・・・・。 そろそろボクのボディが寿命ってやつだからね。根性見せても1週間持てば奇跡じゃないかなって状態だったんだから 最後ぐらいどうやって終わるかぐらい選ばせてよ。」 「バトー博士!!バトー博士!!バトー博士!!」 「ああ、後のことはサースデーに伝えてあるから聞いてね。僕の研究室だけは要塞も真っ青な耐久度にチューンナップしてあってきっと無事だからさ。 さてと、最後に弟子を守ってくたばる。 一人寂しく研究室でくたばるよりもこっちのほうが安物の三文小説みたいで実に安っぽくて使い古されててお涙ちょうだいでしらけるけどカッコイイ終わり方だよね。」 ドラムカン越しに響く爆音が次第に近づいてくる。 もう、私の声は言葉にならなくなっていた。 「さて、身の程知らずの木偶人形共。罠にはまったと気がつかないスカタン振りをせいぜい後悔するといいよ。 それと、誰に喧嘩を売ってしまったのかをね。」 それが私の聞いたバトー博士の最後の言葉・・・・・・。 なにかのスイッチを押すような音が聞こえた気がした。 突如巻き起こった凄まじい爆音に聞こえたはずがないのだけど・・・・・・。 はんた君がばら撒くように配っていた戦車のフィギュア。 それが全部プラスチック爆弾だったって知ったのは救助された後・・・・・・。 ======== 打ち捨てられた人形のような人ははんたさん・・・・・・。 その傍らにお腹から赤いものを見せながら転がっているのはポチさん・・・・・・。 あっちで倒れているのはザフィーラさん・・・・・・。 一緒に倒れているのはシャマル先生・・・・・・。 傷ついて倒れたエリオ君とフリード。 攫われてしまったヴィヴィオ。 そして、この目の前に広がるこの瓦礫の山は・・・・・・機動六課? 「なんで・・・・・・こんな・・・・・・・。」 辛すぎる現実に涙が零れ落ちる。 嗚咽が止まらない。 スライドショーのように思い出される記憶。 村から追い出された私。 親のよう接してくれたフェイトさん。 機動六課に来て出合ったフォワードのみんな。 厳しいけど優しくて頼りになる隊長さん達。 いつもみんなをサポートしてくれるロングアーチのみんな。 そんなみんなの家・・・・・・機動六課。 私の頭の中の何かが焼ききれるような感覚。 周囲を我が物顔で飛び回っているガジェット・・・・・・。 邪魔だ。私達の家を壊した。許せない。壊そう。全部消えてしまえ。私達の家を壊さないで。 「龍騎・・・・・・召還・・・・・・。」 足元に描かれるのは特大の召還魔方陣。 私の呼びかけに応えて・・・・・・。 私は絶叫する。 「ヴォルテーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!!!!!!!!!!!」 炎に包まれ廃墟となった機動六課に私の声が木霊する。 そして召還魔方陣から吹き上がる火柱。 同時に召還魔法陣から這い上がるように姿を現すのはアルザスの守護龍・ヴォルテール。 『大地の守護者』と畏敬され、『黒き火龍』と恐れられた古代希少種のドラゴン。 山のような巨体が地上に出ると、ヴォルテールの目が意思の光を放つ。 2対4枚の翼を広げてその活火山のような漆黒の身を躍動させる。 雄たけびに共鳴するかのように吹き上がる炎。 黒き火龍の名をそのままに体現する。 アルザスの村で忌み嫌われた私の力。 でも、今は、今だけは、力を貸して。 「壊さないで。私達の居場所を・・・・・・・壊さないでーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」 私の意を読み取ったかのようにヴォルテールが放った砲撃が、 上空を飛び回っていたガジェット達を1機残らず吹き飛ばしていった。 容赦なんて言葉なんて知らないかのような勢いのままに・・・・・・。 ======== 「ミッドチルダ地上の管理局の局員諸君。気にいってくれたかい。ささやかながらこれは私からのプレゼントだ。」 大写しになったディスプレイに映し出されるのは時限犯罪者ジェイル・スカリエッティ。 「治安維持だのロストロギア規制だのといった名目の元に圧迫され、正しい技術の促進を促進したにもかかわらず罪に問われた稀代の技術者達。 今日のプレゼントはその恨みの一撃とでも思ってくれたまえ。」 芝居じみた身振りを交えて悦に入ったような口調でスカリエッティは言葉を続ける。 「しかし、私も、人間を、命を愛するものだ。無駄な血を流さぬよう努力はしたよ。 可能な限り無血に人道的に。忌むべき敵を一方的に制圧することのできる技術。それは十分に証明できたと思う。」 悔しいがその言葉は正しい。 なすすべも無く一方的にやられてしまったのだから。 思い上がっていた自分の愚かさ、管理局の脆さに臍をかむ。 「今日はここまでにしておくとしよう。この素晴らしき力と技術が必要ならばいつでも私宛に依頼をくれたまえ。 格別の条件でお譲りするよ。」 狂ったような笑い声が響きわたる。 これだけの力が証明されてしまった。 次元世界の覇権さえ手に入れることさえ可能かもしれない力。 欲しがる人間は山のようにいるだろう。 こんな力が氾濫すれば管理局のシステムは・・・・・・。 誰1人として言葉を発しようとしない。 そんな中、傍らにいたカリムさんが呟いた。 「予言は・・・・・・覆らなかった。」 「・・・・・・まだや。」 カリムさんの悔しさが滲み出した声を打ち消すように私が口を開く。 予言もまだ終わってない。 だから、まだ間に合う。 視界に移るのは端末越しに映し出される瓦礫の山となり、燃え上がる機動六課施設。 「機動六課は、私達は・・・・・・まだ終わってない。」 そうや。まだや。 なのはちゃんを筆頭に、機動六課の人間は誰1人として諦めがいい人間なんか存在しないんだ!! 最後の最後まで這ってでもあがいてやる。
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訓練という名前の退屈な日々が続いていく。 ひよっこは相変わらずひよっこで、それを見るたび空虚な思いは加速度を増して、 どうにかしてしまいそうな心を蘇ったアルファにすがりついて必死に繋ぎとめる日々。 毎日毎日夜中の訓練所の使用許可を申請しては、不満だらけの虚しい戦いを1人続ける。 そんな日が繰り返されて、気がどうにかなりそうだったとき、 機動六課に響き渡ったのは日常を侵す警報だった。 魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めようか。 第4話 開幕 父さん、ギン姉、お元気ですか?スバルです。 あたしとティアがここ、機動六課の所属になってからもう2週間になります。 本出動はまだ無くて、同期の陸上フォワード4人と、 変わった人、本人はハンターとか言っていました、1人は朝から晩までずーっと訓練付け。 理由をつけてハンターのはんたさんはよく私達との訓練から抜けてしまうのだけど。 それは置いておいて、あたし達はまだ一番最初の第一段階です。 部隊の戦技教官なのはさんの訓練はかなり厳しいのですが、 しっかりついていけばもっともっと強くなれそうな気がします。 当分の間は24時間勤務なので前みたいにちょくちょく帰ったりできないのですが、 母さんの命日にはお休みをもらって帰ろうと思います。 じゃぁ、またメールしますね。 ―――――スバルより。 追伸となるのですが、機動六課に幽霊がでるそうです。 なんでも夜の訓練所が勝手に動き出して、 誰もいないのに物音がしたりビルが真っ二つになったり爆音が響き渡ったり なんだかとてもすごいことになっているらしく怖くてとても近づけません。 なにかご存知ですか? 「今日もやるぞー!!」 「「おーっ!!」」 父さん達のところにそんなメールを出して、訓練着に着替えたあたしは 隊舎の前で声を上げた。 あたしの声に合わせて元気よくエリオとキャロが声を上げてくれる。 ティアはどこか恥ずかしそうな顔でこっちを見ていたから、 あたしはティアに向けてにこっと笑ってみた。 そういえばはんたさん、正直まだ怖くって呼び捨てにするなんて恐れ多くて『さん』付け にしてしまう、はいつも早起き、というよりも隊舎で見かけたことあったっけ?、で いつも私達よりはるかに早くから訓練場にいる。 デバイスを不思議な円柱状の巨大な容器、ドラム缶というらしい、の形にして 右へ左へと押しては往復するのを繰り返して待っていることが多いのだけど。 『横にして転がしたほうが楽なのに』とあたしが尋ねたら、 はんたさんに『ドラム缶は押すに決まっているだろ!』なんて力いっぱい答えられたけど。 その作業をしているはんたさんがどこか満足げな雰囲気で・・・・・・。 いったいなにが面白いんだろう? 今度あたしもやらせてもらおうかな。 「はい、せいれーつ。」 純白のバリアジャケットに身を包んだなのはさんの声に足を止める。 今日の訓練も大変だった。 あたし達みんな、息を切らせ汗を滴らせ土塗れになっている。 あたしは深く息を吸い込んで呼吸を整える。 「じゃぁ、本日の早朝訓練ラスト1本。みんな、まだがんばれる?」 「「「「はい。」」」」 「じゃあ、シュートイベーションやるよ。レイジングハート。」 「All right. Axel Shooter.」 返事を返したあたし達の前で、なのはさんの周りにたくさんの魔力弾が作られていく。 それらが高速でなのはさんの周囲を飛び交い始めた。 「わたしの攻撃を5分間、被弾なしで回避しきるか、わたしにクリーンヒットを入れればクリアー。誰か1人でも被弾したらまた最初からやりなおしだよ。がんばっていこう!!」 「このぼろぼろ状態でなのはさんの攻撃を捌ききる自身ある?」 「ない!!」 「同じくです。」 ティアの言葉に躊躇いもせず即答したあたしにエリオが同意する。 ティアならなにかいい考えがあるんだろう。 あたしはティアを信じている。 「じゃぁ、なんとか1発いれよう。」 「はい。」 「よーし、行くよエリオ!!」 「はいっ!!スバルさん!!」 ティアの言葉に返事を返し、同じ前衛のエリオへ声をかけながら、 あたしは右腕につけた母さんの形見のアームドデバイスであるリボルバーナックルを 左手でうちならし、エリオがストラーダを構える。 「準備はOKだね。それじゃ、Ready Go!」 「全員絶対回避。2分以内で決めるわよー!!」 なのはさんのアクセルシューターが開始の合図と共に撃ちだされると同時に、 ティアが早口であたし達にそう告げる。 ティアの言葉に掛け声1つで返事を返したあたし達は飛来するアクセルシューターを 各自で避けながら散開した。 回避してすぐにあたしはウイングロードを展開する。 「アクセル」 「Snipe-Shot」 なのはさんの声に合わせて、なのはさんのデバイスのレイジングハートが 周囲を飛んでいた魔力弾をあたしとティアに向けて飛ばす。 物凄い速さの魔力弾。 だけど、そっちはティアが作ってくれた幻。 本命はこっち。 「うぅぅぅぅっりゃぁぁぁぁーー!!!!!!」 ウイングロードで道を作り、なのはさんの上からリボルバーナックルで殴りかかる。 だけど、なのはさんのシールドに簡単に止められる。 加速して押し切れるか。 しかしそれよりも早く、どこかに置かれていたなのはさんの魔力弾があたし目掛けて 高速で飛んでくる。 慌ててローラーブーツに急制動をかけさせて、後ろに飛びのいたあたしの目の前を 魔力弾が飛びぬけていった。 「うん、いい反応・・・・・・。」 なのはさんはそう言ってくれたけど、自分で展開したウイングロードについた傾斜と 咄嗟に飛びのいたせいできちんと着地できなかったことから、 ローラーブーツから火花を散らせてウイングロードを駆け下りるハメになる。 なんとか体勢を立て直したけれど、後ろからはなのはさんの魔力弾が物凄い速度で 追いかけてくる。 「バカ。スバル。危ないでしょ!!」 「ごめん・・・・・・。」 「待ってなさい。今撃ち落すから・・・・・・。」 「アルファ、先ほどの幻への対応策は?」 「幻影魔法と言うようです。新規情報として登録します。 対応策は飽和攻撃を始め、無数に存在します。マスターの思うとおりで問題ありません。 ティアナ、デバイスよりミスファイア。新規情報として保存します。」 「こちらでもカートリッジにミスファイアが起こるのか。」 ビルの上でドラム缶になったアルファを押す手を止めて、 アルファが送り続ける様々な情報を視界に走らせながら スターズとライトニング4人の通信と動きを観察していた。 事前にやることを言うようになったティアナは少しはましになったみたいが、 それでも一番肝心な『どうやって』を省いているあたり殺したくなる。 それが無ければ行き当たりばったりと変わらないだろう。 『ご丁寧に』『わざわざ』なのはが待っていてくれたというのに。 スバルのほうもウイングロードとかいうあれは便利だが、 あれではブルズ・アイの前に殺してくれと全力で叫んでいるようなものだ。 もう少し幅広くや密集させるなど展開方法を変えれば戦略が増えるだろうに。 ただ、思ったよりもスバルの格闘技能は高い。 そこに彼女の師か目標とする者の存在を感じる。 やはり明確な目標があると上達が早くなるのか。 「なのはも大変だな。完膚なきまで叩きのめすわけにもいかないなんて。 理由をつけて抜けておいて正解だったか。」 「はい。マスター。最初の1撃目の時点で回避せずに全弾迎撃後、なのはを撃墜可能です。」 「俺がなのはの代わりにあそこにいたら?」 「スターズ及びライトニングを10秒以内に撃墜可能です。」 「『やってみせ、言ってきかせて、させてみて、褒めてやらねば人は育たじ』とか 言ったのは大破壊前の誰の言葉だったか。さて、キャロとエリオがなにかするみたいだ。」 「ブーストアップアクセラレイション。機動力強化のようです。」 「スバルのほうにブーストしなかったのは経験不足のせいか、 それともライトニングというチームで戦略を考えたせいか・・・・・・。 いずれにせよ、キャロにもう少し判断力がつけばいいハンターとなるだろう。 エリオのほうもまだまだ伸びそうだ。 『スピードだけが取り柄だから』とか言ってなのは目掛けて突っ込んでいったが、 あの速度を維持したまま戦えるようにさえなれば、 相手が動く前に全てを終わらせられるだろう。 さて、これで訓練も終わりだな。なのはが加減してエリオの攻撃を受け止めて、 先端が突き抜けてかすったとでもして終了だろう。アルファ、G3A3。」 「了解しました、マスター。」 ドラム缶になったアルファの上に手を置きながらそう宣言すると、 重厚な金属音を響かせながら稼動と変形を繰返し、 慣れ親しんだ形となって右手に収まった。 なのは達も予想通りの結末で終わったようだ。 「それじゃ今朝はここまで、いったん集合しよ。」 「アルファ、サディスト設定でここからあそこの5人を狙うなんてどうだろう?」 なのはの言葉にふっと頭をよぎった提案をアルファにしてみた。 バトー博士の言葉を信じるなら、サディスト設定である限り死なないようだし、 たいした怪我にもならないそうだ。 油断しすぎの彼らにちょっとした教育というものをしてあげる。 実にいい考えに思えた。 「マスターが言うところの『面倒』が増えると考えられるためお勧めしかねます。」 「そうか。ならばやめておこう。しかし、いつまでこんな退屈な日が続くんだろうな。」 「分かりません。マスター。また、スバルの装備ローラーブーツが大破したようです。 同時に、なのはが実戦用新デバイスに切り替えかとスターズおよびライトニングへ 告げています。」 淡々としたアルファの言葉を聞きながら、足早になのは達のところへ歩を進める。 大破。 ろくに揺れ動かなくなりつつある心をひどく郷愁的にする懐かしい言葉だ。 数えることもできないくらい幾度と戦車のCユニットに表示されては、 機械油塗れになって付き合ってきた言葉だ。 破損も大破も無縁にしてくれたバトー博士に感謝したい。 特にそれがアルファの身体であるだけに・・・・・・。 さて、大破した以上、機動六課としても自作させるなんてことはせず、 デバイスとして新たに作り直すだろう。 しかし、スバルの性格じゃバトー博士のトモダチになれる可能性は低いだろう。 ティアナならなおさらに。 案外、エリオとキャロは普通にトモダチになりそうだ。 あの世界に言葉の意味が分からないくらいの幼子が溢れていたなら、 バトー博士はトモダチに囲まれることができたのかもしれない。 未練がましくて、今更で、絶対にありえない想像をして思わず笑っていた。 そもそもあの世界に弱者たる子供が溢れられるはずがないだろうに。 「どうして女はシャワーを長々と浴びていられるんだろうな?どう思う?」 「そ、それは・・・・・・その・・・・・・・いろいろ・・・・・・あるんじゃないでしょうか。はんたさん。」 「例えば?」 「そ、それは・・・・・・・。」 「冗談だよ。エリオ。ペット君もキャロ達に告げ口しないでくれよ。」 「キュクルルルゥ。」 早々にシャワーを終えた僕とはんたさんがロビーで時間が過ぎるのを待ち続ける。 僕が『みんなまだかな』と無意識に呟きかけたとき、 不意にはんたさんからそんな声をかけられた。 僕にしてみれば降って湧いたような問いかけに慌てるしかできない。 冗談だと言ってくれたけれど、かけらも変わらない表情に本当に冗談なのか聞きたくなる。 藪蛇になりそうで躊躇われるのだけど。 フリードにまで釘を刺しているところを見ると、 僕の退屈な様子に気を使ってくれたのかもしれない。 そうだ。 今まで聞きたかったことをこの機会に聞いておこう。 「そういえばはんたさん。いつも僕達の訓練の間、なにをしているんですか?」 「ドラム缶を押してるのさ。」 「ドラム缶?」 「そう、ドラム缶。」 「お、押す?」 「押すんだ。」 「どうして?」 「どうしてドラム缶を押すのか?という意味か? それともどうして訓練に参加しないかという意味か?」 「その両方です。」 「訓練が訓練にならなくなるから。」 「それはいったい・・・・・・。」 「エリオ達ー!!お待たせー!!」 スバルさんの声に一番聞きたかった部分が聞けずじまいだった。 『どうしてもっと遅く来てくれないんだ』と思わず言いかけて気がついた。 最初と考えが逆になってるよ、僕。 「うわぁ・・・・・・これが・・・・・・。」 「あたし達の・・・・・・新デバイス・・・・・・・?」 「そうでーす。設計主任、私。協力、なのはさん、フェイトさん、レイジングハート およびリイン曹長、それと本当にちょっとだけバトー博士。」 物凄く感動したような、驚いたようなスバルとティアナに私がそんな声をかけてあげる。 文句なしにバトー博士は天才だけど、さすがにあれは渡せないもんねぇ。 そんなことを考えていた傍らでエリオ君とキャロちゃんが疑問を口にする。 「ストラーダとケリュケイオンは変化なしかな?」 「うん・・・・・・そうなのかな・・・・・・。」 「違いまーす!!変化なしは外見だけですよ。」 「リインさん。」 「はいですー。」 「2人はちゃんとしたデバイスの使用経験がなかったですからー、 感触になれてもらうために基礎フレームと最低限の機能だけで渡してたです。」 「あ・・・・・・あれで最低限・・・・・・?」 「本当に?」 ああ、リイン曹長。 お願いだから本当のことを話せない雰囲気にしないで。 誰かとこのやるせない思いを共有したいのに・・・・・・。 そんな私の思いも知らず、リイン曹長が言葉を続ける。 「みんなが扱うことになる4機は、六課の前線メンバーとメカニックスタッフが技術と 経験の粋を集めて完成させた最新型。部隊の目的に合わせて、そしてエリオやキャロ、 スバルにティア。個性に合わせて作られた文句なしに最高の機体です。 この子達はみんなまだ生まれたばかりですが、いろんな人の思いや願いが込められてて、 いっぱい時間をかけてやっと完成したです。ただの道具や武器と思わないで大切に、でも性能の限界まで思いっきり全開で使ってあげて欲しいですー。」 「うん。この子たちはね。きっとそれを望んでいるから・・・・・・。」 そんな言葉を口にできた私、よくがんばったわ。 でも、どうしよう。 こんな雰囲気じゃ絶対に言えないよー。 山のように酷いスラングを絶叫するけど重量と魔力効率が同じで2倍強の性能のものを バトー博士がたった2時間程度で作りかけていたなんて・・・・・・。 メカニックスタッフ全員が卒倒しかけたし・・・・・・。 どんな干渉をしているのかスラングを言わないようにすると性能ガタ落ちするし!! 構造理解がメカニックスタッフ全員で考えても1割さえ理解できなかったし!! ふと、思い出したように周囲を見回してエリオ君が口を開いた。 「あれ?はんたさんは?」 「彼のデバイスはかなり特殊だから、バトー博士が付きっ切りで説明しているとこよ。 物凄く物凄く本当に物凄く難しくて聞いても絶対にわからないから、絶対に絶対に絶対に ぜっっっっっっっったいにバトー博士の研究室に行って説明してもらおうなんて 考えちゃだめよ。わかった?わかったよね?わかったはずよね?エ・リ・オ・く・ん。」 「は、はい・・・・・・。」 よし。 これだけ念入りに釘をさしておけば大丈夫だろう。 バトー博士の説明を聞いたらこの子達卒倒しちゃうんじゃないかしら? 「ごめんごめん、お待たせー。」 「なのはさん。」 「ナイスタイミングです。ちょうどこれから機能説明をしようかと。」 本当にナイスタイミングです、なのはさん。 あなたは女神です。 みんなから問い詰められていたら私は耐え切れずに真実を話してしまうところでした。 一方その頃、バトー博士デバイス研究室と掲げられた部屋ではバトー博士の説明が はんたに向けて行われている真っ最中。 「・・・・・・(中略:専門用語とその100倍以上のスラングが5分間飛び交ってます)・・・・・・ ということでオナニーを覚えたサルみたいにガチャコンガチャコンヤりまくって いくらでも激しいプレイをしてくれていいというファッキンシットなゴキブリ専用の クソッタレスペシャルダッチワイフデバイスから、アルチュウでヤクチュウのホーリー シットでクサレビッチなアルティメットクソッタレスペシャルダッチワイフデバイスに パワーアップしたんだ。少し早口だったかもしれないけどこんなに簡単にしたんだもの。 ゴキブチは当然分かったよね?」 「わからない。」 「ゴキブリーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!! やっぱりゴキブリは貧弱で脆弱でウジが湧いたクソッタレ脳味噌だよね。 まったく、3日はかかる説明をこんなに簡単にしてあげたのにわからないなんてさ。 でも大丈夫。なんたってボク達トモダチじゃないか。 例え何回わからないなんて言ったってゴキブリが理解できるまで 絶対に見捨てずにゴキブリの足りない脳味噌でもちゃんと理解しきるまで ちゃんと説明してあげるからね。それじゃ貧弱で脆弱な脳味噌のタンショーで ソーローでマザーファッカーなゴキブリでもわかるくらい簡単に1つ1つ説明するよ、 1.今までの機能はそのまま。 2.サポートデバイスというアルチュウでヤクチュウでクレイジーな仕様が追加。 3.ゴキブリが覚えているアルチュウでヤクチュウでデンジャラスな道具に変形可能。 4.宣言すれば変形してくれるけど相変わらず変形に4秒もかかる。 5.手榴弾なんかに変形して放り投げちゃったら拾いにいかないといけないマヌケ仕様。 6.錠剤にして飲んだらハラワタをえぐりだして取り出さないといけないマゾヒスト仕様。 7.大きさそのままだけどちょっぴり太ちゃって重さはたったの320kg。 8.お飾りに近かったバリアジャケットとかいうボロキレ装着機能を正式搭載。 9.それに伴い、ゴキブリらしい飛びっぷりに磨きが掛かるその場で羽ばたき機能搭載。 10.ゴキブリに理解できない空の飛び方は地面を這いずり回る感じで大丈夫な親切設計。 11.ボクの設計した不思議魔方陣MK.Ⅱでゴキブリ飛行+ヤクチュウを完全補助。 12.ボロキレにゴキブリのダッチワイフとおそろいの触覚をつけてあげた超気配り設計。 13.それに伴ってレーダーレンジ拡大など諸々のクソッタレ追加の親切設計。 14.ゴキブリが大好きなムチャに耐えうる虫の薄羽根ゴキブリボロキレ緑色仕様。 15.ゴキブリ以外に使ったら簡単にくたばっちゃう超絶ジャンキー設定。 16.ボロキレは『アルファ、セットアップ』というつまらない掛け声で展開。 17.今日のおやつはプリンが食べたい。 どうだい。言い足りない部分が物凄く物凄くものすっっっっっっっっごく たくさんあるけど貧弱で脆弱でウジが湧いた脳味噌のマザーファッカーなゴキブリでも 分かるようにここまで簡単にしてみたんだ。これだけ簡単にしたんだもの。 今度こそ分かったよね?ねぇ、ゴキブリ?」 「わかった。」 そう答えたとき、機動六課施設内に耳障りなまでの音が鳴り響く。 ディスプレイが赤くそまってALERTと表示されている。 無意識のうちに口の端がつりあがりはじめていた。 「機動六課フォワード部隊出動!!」 「それでどこまで壊していいんだ、八神はやて隊長どの?」 説明を終えた八神はやて部隊長に『はい』っと威勢よく答えた僕達の横から そんなはんたさんの通信が入った。 はんたさんの言葉の意味がわからない。 「リニアレール自体、レールが無ければ止まらざるを得ない。 ポイントを選んでぶち壊せば強制的に足は止められる。 動けなくなったリニアを蜂の巣にすればいい。 わざわざ敵が密集しているとわかる場所に突っ込む必要もないだろう。」 言われてみて気がついた。たしかにはんたさんが言っている通りだ。 どこにも矛盾らしいものもないし、足場の制限を強く受ける僕達フォワード4人には 非常に魅力的な作戦に聞こえる。 こんな見方もあったんだ。 すぐにこんなことを考えられるはんたさんはすごい。 「せやな。けどな、壊したら金がかかるちゅうことを忘れんといてな。 リニア本体よりも運行が潰れるレールのほうが高くつくんよ。わかってもらえるな?」 「ああ、実にとってもわかりやすい俺好みの親しみ馴れた答えをありがとう。 なのは、ヘリに直接向かう。そっちで合流する。」 お金か。 たしかにリニアを止めちゃうと物凄い金額の請求書が来るっていうけど。 もしもレールを壊しちゃったらどこ宛に請求書が来るんだろう? そんなことを考えながら、ヘリに向かって走りだしたなのはさん達の後ろを ストラーダを手にしながら僕も駆け始めた。 「おっかなびっくりじゃなくて思いっきりやってみよう。」 「「「「はい!!」」」」 ヘリの中、なのはとリインフォース(でよかったか?紹介受けた記憶がない。)が フォワード4人にアドバイスと激励をしている。 思ったよりも緊張していないところをみると案外・・・・・・って、 キャロがガチガチに緊張しているじゃないか。 ペットにまで心配されるほどに。 4人の中で一番マシなのだからドンと構えておけばいいだろうに。 「大丈夫?」 「ごめんなさい。大丈夫。」 そんな返事を返すキャロの口はこれ以上に無いほどに引き攣っている。 ティアナも手元のデバイスを見つめたまま動かない。 スバルも同様だ。 他人に気を使う余裕があるエリオはやはり伸びるな。 そういえば、このデバイスを渡されてぶっつけ本番になるのか。 それなら緊張するのも仕方ないで済ませたい。 だが、緊張を仕方ないで済ませられないのが実戦で、親しみなれた殺し合いだ。 到着するまでにどうにかなるかエリオがどうにかしてくれることを願っておくとしよう。 さて、この後を考えるとしよう。 まず、大前提として陸戦魔導師とかいうのはウイングロードのような 足場作りをしない限り、ろくに空が飛べないらしい。 その上で行うことができるひよっこ作戦の内容とすれば 4人がリニアに取り付いて前と後ろか外からと中で制圧といったところか。 モンスターも賞金首も空を飛ぶ増援を確実に入れてくる場面。 増援がきたらそっちの迎撃になのはとフェイトと間に合えばはやても追われるだろう。 帰りの足であるこのヘリは戦闘に参加できないと考えられる。 そうなると俺の役目は・・・・・・。 戻る 目次へ 次へ
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装甲タイル。 あの荒野が広がる世界の大破壊前と呼ばれる時代に 天才科学者バイアス・ブラド博士が発明した装甲板。 それはまさしく現代に蘇ったイージスの盾。 その特性は受けたエネルギーを強制的に変換・吸収・蓄積して、 許容量に至ると自壊する性質。 熱でも冷気でも酸でも衝撃でもあらゆるエネルギーを変換することで、 あらゆるダメージという概念を肩代わりし軽減する。 全てはエネルギー保存則に基づいて・・・・・・。 1枚10kgという重量さえ除けば破格の性能とコストを誇る魔法の装甲。 けれど、忘れてはいけないことがある。 装甲タイルのエネルギー変換効率は決して100%ではない。 イージスとは違って、絶対に貫かれない魔法の盾なんかでは無いということを・・・・・・。 魔法少女リリカルなのはStrikers―砂塵の鎖―始めようか。 第11話 壊れかけ 「うん。バイタルは安定してるわね。危険な反応も無いし心配ないわ。」 「はい。」 「よかったー。」 シャマルさんの言葉にキャロやスバルが安心したような声を上げる。 かくいうわたしもほっとしている。 こんな幼い子がレリック絡みの事件に巻き込まれるなんて・・・・・・。 フェイトちゃんもどこか痛々しいものを見るような視線。 違いこそあれ、みんなの表情はどれもこの子の境遇へ向けられている。 けれど、はんた君だけは違った。 かけらも見逃さないと言わんばかりにこの子を見つめたまま・・・・・・。 その様はまるで敵と識別するべきか思案しているみたい。 それに他の皆と違って1人だけバリアジャケットを展開している。 今までの経験からすると、はんた君の予想は嫌になるほど当たり続けている。 ならば、警戒しているからにはなにかがあるということか? 「ごめんね。皆。おやすみの最中だったのに・・・・・・。」 「いえ。」 「平気です。」 「ケースと女の子はこのままヘリで搬送するから皆はこっちで現場調査ね。」 「「「「はい。」」」」 わたしの言葉にフォワードの4人が走っていく。 うん。頼もしくなってきた。 皆、順調に成長しているみたい。 「なのはちゃん、この子ヘリまで抱いていってもらえる?」 「あ、はい・・・・・・。」 「シャマル。なのは。帰り道に気をつけろ。」 シャマルさんの言葉に返事をした直後、はんた君の口が開かれる。 内容は明確なまでの警告。 わたしは戸惑いの声を隠せない。 傍らのフェイトちゃんも、シャマルさんも同じ。 はんた君の視線は、保護された子の腕に向けられたまま・・・・・・。 「手ごろな枷が無いからと金塊を取り付けるか?」 はんた君の言葉でこの子の異常に気がついた。 逃げてきたのならば、少しでも身軽なまま逃げ出す。 けれど腕に残るのは痛々しいほどに残った鎖の跡。 それが自分の意思でレリックを持ち出したわけじゃないことを教えてくれる。 けれど、手ごろな錘が無いからとレリックなんて括り付けるか。 そんなわけない。 逆にこの子が意図的にレリックを持ち出したなら? この子はなにかの意図があってこちらに接触してきたことになる。 いずれにせよ、レリックが括り付けられていたということは・・・・・・。 「この子とレリックが関連あるっていうこと?」 「あるいは六課への撒き餌か。関連があるなら、今この瞬間なにも仕掛けない理由がない。 杞憂かもしれないが・・・・・・。」 「子供1人とSランク魔導師をトレードできるのならば可能性は高いと考えられます。 また、コストパフォーマンスとして子供は優秀な道具です。」 はんた君の言葉にアルファの補足が入る。 どこまでも戦闘に偏った思考。 はんた君も口に出さないだけでこの子を処理してしまえと言いたいのかもしれない。 杞憂かもしれないなんて珍しい言い回しを使って、気を使っていることが丸分かりなのに。 けれど、はんた君の振舞い以上に機械的なアルファの言葉に戦慄を隠せない。 子供さえもアルファにとってみればデバイスやカートリッジと大差ないのかもしれない。 けれど、それはあまりにも倫理観が欠落したものの見方。 そして、アルファの言葉を言葉通りに解釈すれば・・・・・・。 「諸共に・・・・・・っていうこと?」 「低いコストで高いリターンが見込めます。行わない理由がありません。 私もサーチを行いましたがその子供の体内に爆弾などの異物反応はありません。 状況および蓄積経験より行った予測では80%を上回っていましたが、外れたようです。 次点としてあげられるのは機動六課への撒き餌。可能性は約75%。 この場合、保護直後に奇襲が行われるはずですが、依然として敵影はありません。 よって、戦力の分散が起こる回収後に襲撃が行われるケースと考えられます。 高性能機による強襲、あるいは量産機の大量投入による地上と空への2面攻撃が予測されます。 また、敵の優先順位によって投入戦力が変わってきます。 子供、あるいは子供とレリックが目的である場合、帰還中のヘリへの襲撃は90%超過。 高機動機による包囲、あるいは遠距離からの狙撃による撃墜が予測されます。 レリックが目的である場合、ヘリへの襲撃は50%であり、下水への戦力の増加が予測されます。 同様に機動六課の戦力を削ることが目的である場合も下水への戦力の増加が予測され、 この場合、未熟なフォワード4人の襲撃が主目的となります。経験値の不足及び下水という閉鎖空間であることを考慮しステルス搭載機、あるいは高性能機による強襲がなされます。 威力偵察が目的である場合、空戦への比率が増加します。 この場合、リミッターという概念を持ったなのは達にリミッター解除申請をさせること及び防衛ライン突破後の六課の強襲が相手側の主目的となりますので、 尋常ではない数による襲撃が予測されます。 また、いずれが目的であってもなのは達を一定時間足止めする必要があるため、 空戦においては何らかの増援があるものと予測されます。 また、この子供の肉体ですが発育が非常にアンバランスです。 そのことから子供が培養層のような環境で育成されたクローン、 もしくは生体兵器である可能性が現時点で80%を超えます。」 フェイトちゃんの震えるような声に淡々と告げるアルファ。 人間を物として扱うどこまでも機械的な思考。 言われて震えが止まらない。 けれど、頭のどこかがそれを正しいって認めている。 ただの子供と完全に油断しきっていたわたし達。 そこに不意打ちがされたなら・・・・・・。 「ガジェット来ました!!」 通信越しに聞こえるシャーリーの声は驚きを隠せない。 アルファの予測どおりに発生した襲撃。 ならば、ここで問題になるのは投入された相手の戦力。 「地下水路に数機ずつのグループで総数・・・・・・16・・・・・・20。」 「海上方面、12機単位6グループ。」 「多いな・・・・・・。数だけなら海上が圧倒的に多い。」 「先ほどの言葉が正しいのなら、威力偵察かこの子狙いってことですか。」 「なぁ、アルファ。アルファならどれを選ぶ?」 「相手側の意図および保有戦力が分からないため、選択できません。 全ての目的への優先順位が同率である場合、砲撃によるヘリ撃墜を狙います。 マスターもしくは高町なのはと同レベルの砲撃を所持していれば確実に撃墜可能であり、 作戦目標として最も難易度の低い作戦目標となります。 ロングアーチ。先ほどの予測を可能性の1つとして検討願います。 管制システムは連動させておきますので新たな情報には随時報告を。 マスターはフォワード達に付きます。許可を。」 「了解や。しっかりお守りしたって。空は私らでどうにかする。」 「了解。」 アルファの言葉にはやてちゃんが返事を返す。 はんた君は短く応答するとフォワード4人のほうへ駆けていく。 最も制限が軽い機動六課保有戦力であるのがはんた君。 同時に最も戦闘経験が豊富なのもはんた君。 それは誰もが認めること。 当然、下水という閉鎖空間での戦闘経験もあるのだろう。 そんな思考からだろう。アルファの進言にはやてちゃんが応じたのは。 はんた君が行った以上、フォワード4人は問題ないはず。 ならば、残る問題は空。 そんなことを考えながら、保護された子を抱きかかえたところで気がつく。 あれ? はんた君、戦闘時はいつも饒舌だったはずなのに・・・・・・。 どうしてアルファが会話の大半を引き受けているの? 今までほとんど喋らなかったのに・・・・・・。 「さて、皆!!短い休みは堪能したわね。」 「お仕事モードに切り替えて、しっかり気合いれていこう!!」 「「はい!!」」 「「「「Stand By.」」」」 「「「「セーットアップ!!!!」」」」 デバイスの音声と共にフォワード4人のバリアジャケットの展開が始まる。 突入前に展開するようになった点は評価できる。 フォワード4人は最初に比べればマシになったようだ。 ならばしっかり守るとしよう。 「アルファ、マゾヒストフォーム。展開と同時に仕様を視界に羅列。」 「了解しました。マスター。」 「マ、マゾ!?」 バリアジャケットの展開を終えたティアナが俺の言葉に戸惑っているようだが関係ない。 バリアジャケットが分解され、新たなフォームに変形していく。 展開が完了し、呼吸をすると鋭い音が吹きぬける。 口元までがっちりと覆ったこのマスクのせいか。 「ひっ!?」 俺の姿を見たキャロが悲鳴を上げる。 だが、悲鳴を上げる要素がどこにあるのか。 頭部を覆うフリッツメット。 バトー博士が気に入ったからか、無骨な金属メットに触覚があるのは違和感が大きい。 それでも装飾がかけらもない実用一辺倒のデザインはタンクメットの次になじみが深い。 全身を隙間無く覆うのはアサルトギア。 隙間無く覆う重厚なアーマーのところどころから武器を引っ掛けるためのカラビナが突き出て、背中に背負った金属製のバックパックまで忠実に再現されている。 あの荒野のものを忠実に再現したのだとすれば背中のこれは弾薬箱。 ベルトリンク式の弾を収める場所だが、この装備ではどのような影響が起こるのか。 仕様はまだ読みきれていない。 拾い読みできた部分によれば手榴弾系の道具を常時展開できるようになったとのことだが、 原理はどうなっているのだろう。 弾数は? もっともそんなことは分からずとも、問題なく使えればそれだけで十分。 腕を覆うのはガントレット、脚を覆うのはクラッドブーツ。 まるで虫の外骨格を思い出させるその構造は、 何枚もの装甲が重ねられ隙間など存在しない洗練されつくしたデザイン。 機能を追求した果てに到達した機能美というものがこれなのかもしれない。 顔を覆うのは赤い暗視スコープとフルフェイスのガスマスク。 口元から伸びるダクトはアサルトギアを伝い、背中のバックパックへ。 仕様を見れば身体機能を上昇させるサポートデバイスの機能は このダクトを通じて行われるらしい。 さながらこの身体がスーパーチャージャーかナイトロオキサイドシステムが 取り付けられたエンジンになったようなもの。 もちろんガスマスクとしての機能も持っている。 でも、そんな機能以上に飲むというアクションを行う必要がなくなったという事実が 想像以上に大きい。戦闘における無駄な動作が削れるのだから。 網膜越しのパラメータを暗視スコープのほうに映せるようだが、 これは網膜越しのほうが楽だ。もっともズームと暗視があるだけでお釣りが来る。 暗視スコープのレンズ以外、全身が黒で覆われた戦闘フォーム。 ガスマスク越しの呼吸ダクトを通じて吹き抜けて、 ターボエンジンのブローオフバルブを吹き抜けるときのような鋭い音で響きわたる・・・・・・。 なるほど、人型のなにかっぽい姿かもしれない。 これでは傍目に俺が俺だと分からないが・・・・・・瑣末なことか。 珍しく1つだけバトー博士にしてはミスがある。 塗装に艶があるのは問題だ。 これでは異様なてかり具合で居場所を教えているようなもの。 黒光りしないとゴキブリらしくないとバトー博士は言いそうだが、 そこにこだわるなら翅を残せばよかっただろうに。 戻ったら艶消しにしてもらわねば・・・・・・。 他は注文どおりの仕様。 機動力を殺して防御力の向上がなされている。 ついでとばかりになされている火力の向上はバトー博士の趣味か。 あるいは、どうやって使うか理解しきった上での仕様か。 「先行する。アルファ、ミニバルカン。」 俺の姿に驚いているフォワード4人にそれだけ告げると、右手でアルファの変形が始まる。鋭い金属音を響かせ変形するその速度は以前よりもずっと早くなっているのが見て取れる。そんなことを考えながらも、左手は腰の塊に飛んでいる。 カラビナにひっかかった手榴弾を投擲するために・・・・・・。 妙に大きく響き渡る手榴弾のピンが外れるとき特有の乾いた金属音。 懐かしい音・・・・・・。そんなほんの一瞬だけの逡巡。 そして、視界に移る仕様を全て読み終えた。 事前に設定することで4種の道具がシングルアクションで使えるようになったらしい。 防御用と注文したのに、攻撃用に偏っている気がしないでもない。 一番の要望が追加されているし、手榴弾は防御と支援に使えるから問題ないとしよう。 設定は電気手榴弾、火炎瓶、LOVEマシン1323、満タンドリンク。 生物ならなのはに食らわせた音響手榴弾を設定したが、 従来どおりガジェットなら無生物が主体と考えて電気手榴弾。 生物、無生物ともに有効な火炎瓶。 ダメージを追う可能性は薄いと思うが万が一のために満タンドリンク。 LOVEマシンは3213と悩んだが、確実性を求めて選択。 効果はステルス解除。 空戦ができなくなった代わりに4種の道具がシングルアクションで使えるようになったのは価値として五分。 飛ぶ必要の無いフィールドにおいては確実にプラス評価。 「手榴弾!?」 スバルの悲鳴のような声を聞きながら3発の手榴弾を放り込む。 炸裂前にLOVEマシン1323をトリガー。 アルファの索敵を逃れられる敵がいるとは思えないが念を入れた処置。 逃れられるものなら逃れてみせろ。 轟音が響き渡ると同時に、ミニバルカンへの変形を終えたアルファで制圧射撃をぶち込む。 迸るマズルフラッシュと布を引き裂くような銃声 網膜に映るレーダーを確認。 突入口より半径150m以内に敵影、一切確認できず。 「敵影なし。突入する。」 下水の穴から飛び降りる。 重厚な着地音と共に、荷重に耐え切れなくなった足場のコンクリートが弾けとぶ。 皹だらけとなる足場・・・・・・。 バトー博士に注文した一番の要望、装甲タイル。 その表記が視界の傍らに表示され、表示を明滅させる。 装甲の概念として最適な装備としてアサルトギアやクラッドブーツが選ばれたのか。 そして、100/100と書かれた装甲タイルの枚数に若干の不満を覚えながらも納得する。 装甲タイル100枚という現状は、デバイス重量抜きで1tの鉄くずを背負っているようなもの。 アルファ自身も含めて総重量は約1.4t。 機動力は嫌でも削がれる。 あまりにも貧弱な身体に苛立ちさえ覚える。 だが、守るにはこれで十分。 薄暗い下水の中、キュインと暗視スコープの機械音が響いた。 いったい何kgあるのよ!! 正直そう絶叫したい。 あたし達の軽快な足音とは正反対に重厚な音をたてるはんたの足。 駆けて着地する先から足場のコンクリートが罅割れていく。 表情は顔を覆うマスクのせいでまったく分からないが、 いつもどおりかけらも表情を変えていないのだろう。 そして溜息が出そうなほどに無駄の無い支援攻撃がはんたの手で行われていく。 いつ投げたのか分からないほど滑らかな動作で行われる手榴弾の投擲。 金属音がしたと思った瞬間に迸る稲妻。 間髪いれずに展開されるのは暴力的で圧倒的なシュートバレットの弾幕。 銃口から迸る立て続けの閃光で薄暗いはずの下水がちかちかと明滅を繰り返す。 AMFの展開さえ覚束ず動くことさえままならないガジェットドローンをあたし達が破壊していく。 下水道という閉鎖空間で相手が可哀想に思えるほどに徹底的な制圧。 蹂躙という言葉がふさわしいかもしれない。 逃げ場が無い空間を完全に支配している。 もしかしてあたし達、いらなかったんじゃないかと思ってしまうほどに。 「絶対マゾヒストフォームって名前間違ってるわ!!」 「・・・・・・ティアナさん、マゾヒストってなんですか?」 「あ、ティア。あたしも気になる!!」 「すいませんティアナさん。私も分からなかったんですけど・・・・・・。」 思わず口に出していた言葉に皆が反応する。 え・・・・・。みんなマゾの意味を知らない・・・・・・。 でも口にして説明するのもはばかられる。 どうしよう・・・・・・。 「えーと、その、あれよ・・・・・・。帰ったらいくらでも教えてあげるから今は任務に集中ね。」 「「「了解!!」」」 任務終わったらどうやってごまかすか考えておかないと・・・・・・。 淡々と機械的に処理されていくガジェットドローン達。 走り回ることなく相手の正面に立って手榴弾とシュートバレットを撃ち込んでいる。 歴史に出てくる重装歩兵ってこんなのかな? 完全に敵の無力化と妨害に集中しているのか1機も破壊していないはんた。 同時に一番被弾しているのもはんた。 ダメージを負った気配がないことを考えると、あの異様な黒光りのバリアジャケットが 半端じゃなく強固なものとなるのだけど・・・・・・。 走り回ることもできないぐらい重量があるのか、 それともそれが閉鎖空間での戦い方なのか。 移動する遮蔽物になってくれていることには薄々気がついたけれど、 それが意図したものか、偶然なのかあたしには判断できない。 圧倒的な火力と防御力を兼ね備えたフォーム。 絶対にマゾじゃなくてサドだと思うんだけど気のせいかしら。 あれでマゾなんて言ったらサドってどうなるのよ・・・・・・。 ところで、いつになったらその手榴弾って弾切れになるの? 気がつくと新しいのがくっついている。 魔法の手榴弾なんてなかったはずなんだけど・・・・・・。 本当にはんたさんはすごい。 火力支援と防御をこなしているその立ち回り。 フロントアタッカーでもガードウイングでもセンターフォワードでもやっていける。 なんでもできるっていう言葉に偽りが本当に無い。 今までみたいに走りまわらないで被弾しているのが気になるけど、 はんたさんからすれば気にする必要さえない威力なのかもしれない。 あの重厚なバリアジャケットの前には・・・・・・。 でもガジェットの攻撃って結構な威力のはずなんだけど・・・・・。 それに可能な限り避けるほうがいいってフェイトさんも言っていたし・・・・・。 なんだろう。この違和感。 それにマゾヒストってどういう意味なんだろう? たぶん、かっこいい意味なんだろうとは思うけど。 見た目から予測すると強襲とか重装とか蹂躙とかそんな意味かな。 後でティアナさんに教えてもらえるからいいか。 いっそのこと、フェイトさんに聞いてもいいかもしれない。 でも、僕達のバリアジャケットよりも戦闘用って感じがするはんたさんの姿。 アクセントもなにもない単純な黒ずくめの姿さえ、地形に合わせた迷彩。 バリアジャケットのデザインや色は防御力への影響は無いって言うけど、 こんな視覚的な効果があるって考えると、今の色変えたほうがいいのかな。 せめて白いマントじゃなくて黒いマントに・・・・・・。 姿を想像してみる・・・・・・あれ?案外いいかもしれない。 そんなことを思考の片隅に置きながら、 僕は気合いを入れて機能障害を起こしているガジェットドローンを叩き壊す。 AMFの影響がないだけでこんなに戦いが楽になるなんて・・・・・。 リニアのときも感じていたけど、正直驚きを隠せない。 あのときは1人で全部潰すことになったけれど、 皆と一緒に戦っている今回はなおさらその影響を強く感じる。 もしもはんたさんがいなかったら、今頃どうしていただろう。 たぶん、どんどん魔法を使っていただろう。 あるいはこんなにテンポよく壊しながら移動できなかったかもしれない。 そうじゃないとAMFが破れないから。 でも、ホテル・アグスタのときみたいに召還で増援が呼ばれるかもしれない。 そう考えると、今いるガジェットドローンに遠慮なく魔法を使っていくなんて 刹那的すぎるように思えてくる。 戦っているときにこんなことを考えているって知られたら物凄く怒られそうだけど、 どうしても考えてしまうほどに圧倒的。 スバルさんも殴りつけてはポンポン破壊している。 まるでバリアバッグ撃ちをしているみたいな感じで・・・・・・。 どこか拍子抜けしたみたいな表情を隠せないまま。 キャロは時折、スバルさんと僕に火力ブーストを使っている。 逃げ場の無いこの空間で、無防備になるにもかかわらず躊躇わずに支援魔法を使えるのは、 絶対に安心できる壁を作ってくれているはんたさんがいるからかな。 ティアナさんもはんたさんの後ろから射撃しているし・・・・・・。 もしかしてはんたさん、走り回れないんじゃなくてわざと走り回らないのかな。 後ろのことを考えて・・・・・・ああ!! フロントアタッカーとガードウイングはセンターフォワードとフルバックに こういう状況を作らないといけないのか。 物凄く勉強になる。僕もがんばらないと・・・・・・。 ところでフリードが出番なくされて落ち込んでいるように見えるのは気のせいかな。 そんなこんなでどれぐらい進んだ頃だろう。 スバルさんのお姉さんから何度目かの通信が入る。 「私が呼ばれた事故現場にあったのがガジェットの残骸と壊れた生体ポッドなんです。 ちょうど5,6歳の子供が入るくらいの・・・・・・。 近くに何か重いものを引きずって歩いたような跡があってそれを辿っていこうとした最中、 連絡を受けた次第です。 それからこの生体ポッド、少し前の事件で良く似たものを見た覚えがあるんです。」 「私も・・・・・・な。」 「人造魔導師計画の素体培養機。これはあくまで推測ですが、あの子は人造魔導師の 素体として作り出された子供ではないかと・・・・・・。」 「アルファの予測が当たってそうやな。」 はやて部隊長とスバルさんのお姉さんの会話。 その中に出てきた単語に僕は聞き覚えがありすぎた。 顔に出さずに聞けたか自信が無い。 下水を走り抜ける中、キャロが口を開く。 「人造魔導師って・・・・・・?」 「優秀な遺伝子を使って人工的に生み出した子供に投薬とか機械部品を埋め込んで、 後天的に強力な能力や魔力を持たせる。それが人造魔導師。」 「倫理的な問題はもちろん、今の技術じゃどうしたっていろんな部分で無理が生じる。 コストもあわない。だからよっぽどどうかしてる連中でもない限り手を出したりしない 技術のはずなんだけど・・・・・・。」 スバルさん達は施設育ちっていう以外、僕の生い立ちを知らない。 それでも、スバルさんの言葉は僕にあの光景を思い出させる。 僕が作られた命だってことを・・・・・・・。 今でも夢に見るあの日の記憶。 本当に親子だと疑いもせずに過ごしていた穏やかな日々。 僕がエリオであると疑いもしなかった日々。 そしてある日告げられたのは既に亡くなっていたオリジナルのエリオのこと。 僕が記憶転写クローンだということ。 引き裂かれた僕と両親。 あの子も同じなのか・・・・・・。 そんな思考をしていたとき、口を開いたのははんたさん。 正直意外だったけど、それ以上に内容が突き抜けていて呆然とさせられる。 「前にも聞いてうやむやになったがどのあたりが問題なんだ?」 「人工的に作って薬使ったりとか機械埋め込んでるんですよ?」 「だからそこのどこが問題なんだ?金がかかるあたりか?」 はんたさんの言葉に皆、唖然としている。 倫理観が無いって言っているも同然の言葉。 でも、そんなことを言うってことはもしかして、はんたさんも僕と同じ・・・・・・。 それなら、あの戦闘力も納得できるかもしれない。 後に後悔した。 自己完結しないで、この言葉の意味をもう少し深く聞いておけば・・・・・・。 過去に引きずられないで『なぜ?』とたった一言聞くことができたら、 未来は変わったのかもしれないって・・・・・・。 「航空反応増大!!これ・・・・・嘘でしょ!!」 「なんだ・・・・・これは・・・・・・。」 「波形チェック。誤認じゃないよ。」 「問題出ません。どの反応も全て実機としか・・・・・・。」 「なのはさん達も目視で確認できるって・・・・・・。」 突然の事態にロングアーチスタッフ全員が軽いパニックに陥る。 ある意味当然の反応。 さっきまでなのはちゃん達が順調に倒していたガジェットの反応が、 管制室のディスプレイを埋め尽くさんばかりに増えたのだから・・・・・・。 誤認であってくれとの祈りも、計器の故障の可能性も全部違う。 今この瞬間、なのはちゃん達の目の前に敵の姿がある。 まさにこの状況は・・・・・・。 「敵はこっちのリミッターのことを知ってるってことやな。 怖いぐらいにあたるわ。アルファの予測・・・・・・。グリフィス君!!」 「・・・・・・はい。」 私は決意して管制室を出て行く。 リインフォースⅡと共に・・・・・・。 ガジェットに直撃したプラズマランサーが擦り抜ける。 かすんで消えていくガジェットの姿。 一方で爆発と共に残骸となって落ちていくガジェットもいる。 「幻影と実機の混成編隊・・・・・。」 思わずそう呟いていた。 目に見えて増えた敵のどれが本物でどれが幻影なのか区別が付かない。 ロングアーチもパニックを起こしたように悲鳴が上がっている。 本物と偽者合わせたガジェット全てから一斉に飛来したミサイル・・・・・・。 もちろん区別なんてつかない。 なのはと共にバリアを展開して防ぐ。 けれど、このままじゃ・・・・・・。 「防衛ラインを割られない自身はあるけど、ちょっとキリがないね。」 「ここまで派手な引付をするってことは・・・・・・。」 「アルファの予想通りだね。地下かヘリが本命。地下ははんた君がついているから問題は・・・・・・。」 「ヘリだね。なのは、私がここに残ってここを抑えるからヴィータと一緒に・・・・・・。」 「フェイトちゃん!?」 「コンビでもこのまま普通に空戦していたんじゃ時間がかかりすぎる。 でも、限定解除すれば広域殲滅で纏めて落とせる。」 「それはそうだけど・・・・・・。」 「なんだか嫌な予感がするんだ。アルファの言葉を聞いたからかもしれないけど・・・・・・。」 「でもフェイトちゃん。」 なのはが言い縋るけど、譲れない。 考えたくはない。 それでも、明確にイメージできてしまうのだ。 ヘリが撃墜される瞬間が・・・・・・。 こんな言い合いをしている時間さえ惜しいとさえ思うほどに。 そんなとき、通信が入る。 「割り込み失礼。ロングアーチからライトニング1へ。 その案も、限定解除申請も、部隊長権限で却下します。」 「はやて。」 「はやてちゃん。なんで騎士甲冑?」 「嫌な予感は私も同じでなぁ・・・・・・。クロノ君から私の限定解除許可を貰うことにした。空の掃除は私がやるよ。ちゅうことで、なのはちゃん、フェイトちゃんは地上に向かって ヘリの護衛。ヴィータとリインはフォワード陣と合流。ケースの確保を手伝ってな。 ヴィータははんた君と喧嘩しないように。」 「「了解。」」 はやても同じだったんだ。 きっとなのはも内心同じだったのかもしれない。 とにかくヘリに急ごう。 嫌な予感が消えない・・・・・・。 ヘリまでの最短ルートを、雲を突き抜けながら空を駆けていく。 怖いぐらいに当たり続けるはんた君とアルファの予測がお願いだから外れてと願いながら。 「空の上はなんだか大変みたいね。」 「ケースの推定位置までもうすぐです。」 「うん。」 ガジェットをシュートバレットで破壊。 AMFが無いとこんなに楽なんて・・・・・・。 物質加速ぐらい覚えたほうがいいのかもしれない。 AMFなんてAAAランクスキルを機械が使っている今の状況が異常なのかもしれないけど。 それでもAMFを無視して戦えるとこんなに楽になるなんて初めての経験。 いつだったか、エリオがリニアで大暴れしたときを思い出す。 なるほど、これなら納得できる。 敵はAMF発生に多くの機能を裂かれているせいか、ボディの防御力はそれほどでもない。 大型になると硬いけれど、それはそれで専門のフロントアタッカーが叩くだろう。 現状でどう戦うのか選択肢が豊富なはんたが羨ましい。 冷たい右腕の感触を覚えているから、嫉妬なんてしないけれど・・・・・・。 どれだけ戦い続けてきたんだろう。 もしも、はんたがいなかったら、フリードのブラストフレアに頼りきりになるのかな。 現状でなにが最も有効なのかすぐに判断して効率的な戦闘をさせてくれる、 そんなはんたの支援の動きには本当に心を奪われる。 そんな状況のこっちとは正反対の、とにかく大変としか言いようが無い状況が 通信で伝わってくる。 なのはさん達やロングアーチの人達が悲鳴を上げるような状況。 八神部隊長が限定解除を使う状況なんて想像しきれない。 そんなとき・・・・・・。 「・・・・・・壁を突破してくる機影を確認。識別名ギンガ・ナカジマ。」 「ギンガさん・・・・・・壁を突破!?」 はんたの言葉に驚きの声を上げる。 ほぼ同時に轟音と共に破られたコンクリートの壁。 土煙で奪われる視界。 相手が誰か分かっていても警戒をするようになったのは、成長の証なのかもしれない。 晴れた土煙の中から現れたギンガさんのリボルバーナックルが駆動音を鳴らせた。 壁、壊しちゃって大丈夫なんですか? 「いっしょにケースを探しましょう。 ここまでのガジェットはほとんど叩いてきたと思うから・・・・・・。」 「うん。」 「ところで、そこの怪し・・・・・・じゃなくて、黒ずくめさんも仲間なのよね?」 ギンガさん、気持ちは分かります。 あの姿で悪者じゃありませんって、物凄く説得力無いです。 腕だけは優秀だけど、なんで性格に問題あるんだろう・・・・・・。 もったいない。 でも、それはあたしも同じか。 強くなりたいって馬鹿みたいに言い続けていたころ、どうして強くなりたいのか、 どんな強さが欲しいのかも分からずがむしゃらに在り続けたあたしを、 問題児じゃないっていうつもりは無い。 問題児なんてかけらも思っていなかったあたしが恥ずかしいくらい。 でも、あのバリアジャケットのセンスだけは絶対に悪い!! これでマゾヒストフォームなんて名前だって教えたらギンガさん、どんな顔するんだろう。 いったい誰のネーミングセンス・・・・・・まさかシャーリーさん!? 「はんただ。動きながらでも話はできる。先へ行こう。残り12機で残存戦力は終わる。」 「あなたが・・・・・・。そうね。先を急ぎましょう。 それと、現場指揮はティアナのはずだけど?」 「それなら、ティアナ指示を。アルファ、クロスミラージュへレーダーを転送。」 「これは・・・・・・!?キャロ、火力ブーストをスバル、エリオ、ギンガさんの3人に お願いできる?タイミングは任せるわ。」 「これで問題はないな。ギンガ。」 「え、ええ・・・・・・。」 どこか腑におちないような顔をするギンガさんを伴ってあたし達は先を急ぐ。 気持ちは分かります。 でも、このレーダーを見れば納得せざるを得ない。 「そういえばはんたさん。前みたいに皆と情報の共有しないんですか? やったほうが戦うの物凄く楽になると思うんですけど・・・・・・。」 「管制スキル持ちがいないのに管制を使えるようになると無意識に頼るようになる。 だから共有はしていない。傍らにいられる限りは俺が守れる。お前達に怪我はさせない。」 「・・・・・・スバル。もしかしてはんたさん、管制技能あるの?」 「たぶん、ギン姉が思いつく技能のほとんどできると思うけど・・・・・・。」 「冗談・・・・・・よね?」 ギンガさんの言葉もごもっとも。 一度は言ってみたい言葉かもしれない。 『使える魔法は?』って尋ねられて『全部』なんて言葉・・・・・・。 何度目かの角を曲がるや否やはんたが何十個目かの手榴弾を投げる。 1発にとどまらず、何発も立て続けに・・・・・・。 投擲の先には待ち受けていたかのように通路を埋め尽くさんばかりのガジェットの群れ。 紫電が迸り、ガジェットが機能不全を起こす。 何度と見てきた光景。 あたし達は動けなくなった敵が再起動する前に壊せばいい。 ギンガさんがどこかぽかんとした表情をしているのも無理はない。 傍目には物凄く手馴れたコンビネーションに見えるだろうから・・・・・・。 しかし、はんたの手榴弾っていったい何個あるんだろう? もしかしてサンダーフォールとかの亜種? サンダーフォールの天候操作とヴァリアブルシュートの外殻を併用して・・・・・・まさかね。 AAAランクスキルとAAランクスキルを同時ってどんな技能よ!? それに魔力切れした様子も息切れした様子もまったくないし!! 「キュクルルルゥ!!!!」 「フリード。ここで火を吐いたら皆が煙に撒かれちゃうでしょ。だからだめだよ。」 フリードがごねたのだろうか。 存在を忘れかけていたフリードの鳴き声にキャロが言い聞かせる。 なるほど。言われてみれば閉鎖空間で炎なんか使ったら・・・・・・。 バリアジャケットやフィールド系の魔法で熱は防げても酸素だけはどうしようもない。 それでやめさせていたのか。 閉鎖空間だから巨大化もままならないだろうし、 もしかしてここってフリードにとって鬼門? そんなことを考えていたとき、奥からごろごろと転がってくるあれは・・・・・大型ガジェット。 はんたさんに援護をお願いしようとしたとき、聞こえてきた声は・・・・・・。 「スバル!!一撃で決められる?」 「決める!!」 「Are you ready?」 「Yes.」 ちょっとギンガさんとスバルなに言ってるのよ。 それにキャロの支援がまだでしょ。 もしかして2人とも人の話聞かな・・・・・・そういえば訓練校のころからそうだった。 そんなことを思っていると、響く金属音。 スバル達の頭越しになにかが飛んでいく。 迸る紫電。 ごろごろ転がっていた大型のガジェットがピタリと動きを止める。 「あ・・・・・・。」 「トライシー・・・・・・あれ?」 スバルとギンガさんのマヌケな声が響く。 もしかしてすっかり忘れてたとか熱血なノリで忘れてたとか・・・・・・。 ありえる。 動けなくなった大型のガジェットドローンにリボルバーナックルが音をたてて突き刺さる。 マッハキャリバー達も沈黙気味。 気まずい雰囲気全開で・・・・・・。 気持ちは分からないでもないけど、でもむやみに危険に突っ込む必要ないでしょう。 「ちょっとスバル!!フロントアタッカーだからって突っ込まない!! それにキャロのブーストがあるからカートリッジ使う必要ないし、 はんたが相手を無力化できるんだからちゃんと支援もらうこと!! ギンガさんも1人でたくさん叩き潰してきたからかもしれないですけど、 目の前で無効化する光景見ていたんだから突っ込まないでください!! マッハキャリバー達もそこは止めるべき場所でしょう!!」 「「はい。」」 「「Sorry.」」 姉妹と同型機のデバイスが一緒に怒られる光景はなかなかシュールかもしれない。 そういえば・・・・・・。 スバル達に言ってて気がついた。 はんた、なんで被弾が多くなる戦い方してるの? それに・・・・・・なんでまだ1機も落とせていないの? ロングアーチの通信が正しければ、ガジェットの数は20機。 あれだけ弾幕を張って、手榴弾を投げていたのにはんたの撃破数は0。 いつもなら1人で全部片付けてしまう勢いなのに、なにかおかしくないだろうか。 「目的地だ。」 はんたの声で思考を中断する。 目の前の任務をこなすほうが重要。 疑問は『支援に回っているから』なんて言葉で片付けてしまった。 もしも思いを口に出していたらなにか変わったのだろうか・・・・・・。 ケースの推定位置であるF-94区画。 そこにギン姉を加えたあたし達が到着する。 目的のケースはどこに・・・・・・。 「ありましたー!!」 キャロの声に一安心。 その言葉にあたし達は完全に油断しきっていた。 ロングアーチの通信にあったガジェット20機は全て倒していたから・・・・・・。 後はケースを回収して終わりだって・・・・・・。 突如響く頭上に響く何かが飛び跳ねるような音と駆け抜けるような足音。 けれど姿は見えない。 下水という薄暗い場所であることも祟った。 「なに?この音・・・・・・。」 ティアでさえそんな声で躊躇うことしかできなかった。 あたしもギン姉もエリオもなにかが一瞬いたかもしれないぐらいの認識。 呆然と見送るような形になってしまったあたし達の中で真っ先に動き始めたのは やはりはんたさんだった。 「LOVEマシン1323、トリガー。」 はんたさん専用の魔法なのか? 叫ぶような声が響くと同時にトカゲのような姿が現れる。 幻影魔法解除!? そんなことまでできるんですか!? でも、驚いている暇があったら、迎撃体制を整えるべきだった。 あるいはキャロを助けるか・・・・・・。 なにが起こっているのかわかっていないキャロは突如視界に現れたトカゲに硬直したまま。 トカゲの目的は何か分からない。 けれど、このままだとキャロが・・・・・・。 そんなとき、はんたさんがケースを抱えたキャロを突き飛ばすと、 キャロの身体が宙を舞いケースがその手の中から零れ落ちる。 キャロの居場所と入れ替わるように身体を滑り込ませるはんたさん。 だけど、そんな状態で防御なんてできるはずがない!! 無理矢理割り込みをかけたような形となった以上、トカゲの攻撃の直撃を食らうのは必然。 はんたさんの動作に動揺してエリオの援護も遅れてしまう。 衝撃弾4発と鋭利なブレードの一撃がはんたさんに突き刺さる。 あんな重い一撃の直撃を食らったら重傷どころか致命・・・・・・。 「はんたさん!!!」 思わず叫んだ。 無防備であんな一撃を受けたら重傷どころじゃすまない。 けれど、あたしの目に映った光景はそれを裏切る。 はんたさんは吹き飛びさえしない。 あんなに重い一撃の直撃を受けたのに・・・・・・。 代わりにバリアジャケットがキラキラと輝いてはじけ飛んでいる。 あれはいったい・・・・・・。 あたし達の驚きよりもトカゲのほうが驚いたに違いない。 間違いなく必殺だった一撃を無防備で受けて平気な相手がいたとしたら、 驚かないほうが無理というもの。 そんな動揺を読みきったようにはんたさんが繰り出した躊躇無い鋭いボディーブローが トカゲに突き刺さると、ゴム鞠がはねるような勢いで吹き飛んでいく。 その勢いのまま、壁にぶち当たると下水の壁に穴が空く。 身体ブーストとか掛かってないはずなのにいったいどんな・・・・・・。 ううん。今はそんなことより・・・・・・。 「ティア!!指示して!!」 「あ・・・・・・そうね。ギンガさん、スバル、前衛固めて。エリオはキャロの援護。 はんた、ダメージ報告後に援護。キャロはケースを確保!!」 「「「「了解!!」」」」 「了解。満タンドリンク。ノーダメージだ。そしてホテル以来だな。トカゲ。」 戸惑ったままだったティアにそう声をかけると、 一瞬だけ戸惑ったようなふうだったけれど、すぐに皆に指示を飛ばす。 はんたさんからの返事に皆が安堵する。 そして、気がつく・・・・・・。 ホテル以来? 「はんたさん、もしかしてあれがホテル・アグスタの侵入者?」 「そうだ。」 エリオの声にはんたさんが応じる。 対峙したトカゲを観察。 腹部の装甲が割れて落ちていく。 もしかすると、かなりまずい状況かもしれない。 このトカゲ、早いし、硬いし、疑いようも無く強い!! はんたさんなら防御無視の攻撃手段をいくらでも持っていそうだけど、 下水だから壊しすぎれば天井が落ちてくる。 なにより、はんたさんの一撃で倒しきれないという事実が相手の強さを感じさせる。 あたし達を子供扱いできる強さのはんたさんが・・・・・・。 対峙したまま睨み合っているあたし達の後ろでキャロの戸惑うような声が響く。 視界に移るのは長い髪の女の子。 その子がケースを手に・・・・・・。 「邪魔・・・・・・。」 ケースを手にしたまま、物を見るような目で女の子が突き出した左腕から放たれる衝撃波。 咄嗟にフィールドを展開するキャロの前に割り込むように身体を入れるはんたさん。 「はんたさん!!」 絶対におかしい。 なんで避けないの!? まるで自分から攻撃を喰らいにいっているみたい。 でも、避けない以上、反撃に最も早く移れる!! 狙うには余りにも自分の命を粗末にしすぎ。 なのはさん達なら青筋立てて怒らないはずがない戦い方。 はんたさんの振り上げた巨大な銃が女の子に振り下ろされる・・・・・・。 すると、今度はトカゲのほうが女の子をかばうみたいに身体を割り込ませる。 生肉を力一杯叩いたような音が響く。 骨が折れる音も血が吹き出したりもしないのに、痛みを覚えずにいられないほどの音が。いったいなんなの? このどっちもかばい合って防御なんて考えていない状況は・・・・・・。 「アルファ、電撃鞭。」 そんな声を上げながら、トカゲの右足を左足で足場に皹が入る勢いで踏みつけると、 はんたさんが変形を始めたデバイスにトカゲの腕を噛ませる。 スライドしながら変形するデバイスに挟まれた甲殻が無残に引き千切られる。 そのまま胸に飛ぶ左ストレート。 これで決まった!! けれど、はんたさんは左足を上げてしまう。 吹き飛ぶトカゲに巻き込まれるように女の子も転がる。 女の子の手から零れ落ちるケース。 下水の壁を再び壊して土煙が上がる。 はんたさん、今の一撃で終わったはずなのに・・・・・・。 いったいどうしちゃったの!? それに、トカゲのブレードは折れていなかった。 さっき、はんたさんが突き立てられときは根元まで刺さっていたはずなのに・・・・・・。 絶対になにかおかしい!! 問い詰めないと・・・・・・。 そのとき、下水道内が突然飛来した何かで閃光と轟音に包まれた。 閃光が迸る前、ほんの一瞬だけ見えたのは、炎にこれでもかと包まれるはんたさんの姿・・・・・・。 『我ら守護騎士は主のためなら誇りさえ捨てると決めたのだ・・・・・・。』 守るとは? マスターが問いかけをしたとき、シグナムが話した昔話。 その中に出てきた言葉の一節。 それこそが私がもっとも到達して欲しくなった言葉への道標。 誇りなんてマスターは笑うだろう。 誇りで敵は倒せない。誇りで金は手に入らない。誇りでお腹は膨れない。 そんなふうに・・・・・・。 けれど、自分の身体さえ省みないという在り方。 それがマスターに『守る』という概念を植えてしまう。 殺せない生物が成せる『守る』という答えはそれしかないから・・・・・・。 マスターが守るという言葉として理解したもの。 それは自己犠牲・・・・・・。 例え自分が血塗れになっても構わない。 壊れかけの身体を引きずりながら戦い続ける。 誰かが傷つく代わりに自分が肩代わりするという壊れた思考。 相手を壊さず、仲間を傷つけず、己の身だけはどこまで壊れても構わない。 そんな非論理的すぎる思考論理。 少しでもダメージを軽減しようと装甲タイルで防御をあげようとしたのは理解できる。 けれど、装甲タイルは万能ではない。それはマスターも知っているはず。 一点集中の貫通属性持ちの一撃や桁外れの大出力の一撃の前には変換が追いつかない。 だからこそ、戦車砲の徹甲弾や成形炸薬弾や私のパイルバンカーといった一点集中の攻撃、 あるいはエクスカリバーのような高出力レーザーに レッドフォックスの高速振動剣のような大威力の攻撃を前にすると、 本体にまでダメージを受けてしまう。 事実、レッドフォックスと戦ったとき、戦車は完膚なきまでに破壊された。 装甲タイルが残っていたのにも関わらず。 そして、以前であれば間に合わないとしても回避動作ぐらいは取ったはずなのに、 今のマスターはそれさえ行わない。 回避すれば他の人間への攻撃時間が増えてしまうから。 むしろ自分から致命傷にならないように相手の攻撃を直撃させる。 それだけで反撃までの動作が1アクション早くなるから。 トカゲのブレードは紛れも無く右の胸に突き刺さった。 装甲タイルはわずか4枚しか減っていない程度のダメージ。 だが、ブレード自身は肋骨を圧し折り肺を貫き肩甲骨まで貫いている。 けれど、マスターにしてみればその程度のダメージはダメージと呼ばない。 既にマスターの認識は既に無傷、負傷、行動不能の3つしか存在しない。 機械であれば紛れも無く中破クラスのダメージさえ、負傷にすぎない。 行動不能になりさえしなければ僅かばかりも気にせずそのままでいるだろう。 そしてそんな状態で反撃を繰り出す。 さらにダメージは満タンドリンクによって強制的に瞬間的に治療する。 もうどれだけ身体が汚染されているか知っているはずなのに・・・・・・。 なにより致命的なのは殺せないという現状。 以前であれば最初の一撃で相手を殺していた。 原因の排除をしてしまえばこれ以上ダメージを受けることはないから・・・・・・。 しかし、約束のせいであの荒野で当然のシークエンスが行えない。 だから、相手を吹き飛ばすにとどまってしまう。 どれだけの必殺の状況を作れたとしても・・・・・・。 今のマスターの状態で戦いが長引けば負傷が増えるばかり。 守るためには原因を排除するのが一番ダメージを減らせるというのに、 原因の排除ができないという矛盾を抱えたがゆえの行動。 マスターの思考を改変してしまいたい。 機械であればデバッグすれば終わる作業。 けれど、人間であるマスターに干渉する手段が存在しない現状が立ちふさがる。 それが余りにも・・・・・・辛い。 マスターも既に気がついているだろう。 始まり始めた身体の異常に・・・・・・。 それでもマスターは止めないし止まれない。 殺すということを奪われた以上、なにかで代用してプログラムを奔らせないと、 自分自身が破綻してしまうから・・・・・・。 遺伝子にまで染み込んだ戦闘技術。 無意識で殺す方向に動く身体。 それを当たり前とする本能。 既に身体は殺す理由があれば殺さずにいられない状態になっている。 そんな状態の身体なのに人間には本来不可能であるはずの無意識さえも、 理性と意思だけで押さえつける。 高町なのはとの約束を守るために・・・・・・。 それはさながら高速で回るエンジンを力づくで止めようとするかのよう。 エンジンでそんなことをすればブレーキか、あるいはエンジン自身が確実に壊れる。 ならば、マスターの場合はなにが壊れる? 理性?身体?それとも・・・・・・ココロ? マスターのバイタルは既に全身イエローアラート。 外傷が無いだけという状態に過ぎない。 オイホロトキシン配合の回復薬の最上位種である満タンドリンクを使ったというのに・・・・・・。 どんな手段でもいい。 マスターの意識を、鋼のような意思と理性を冒しつくして、 『殺す』というシークエンスを奔る事が出来るように弄れないのか。 検索の果て、精神操作の魔法の該当はあった。 けれど、無駄だと思い知る。 無意識さえ制御するマスターだから精神操作の魔法なんて簡単に拒絶してしまう。 そして、薬物操作しようにもあの薬の末期患者寸前の身体には全ての薬が通用しない。 魔法も不可。薬物も不可。 なにか方法はないのか・・・・・・。 0と1の思考しか持たぬ機械の私が焦りを覚えるほどに事態は切迫していた。 そんなとき、迫撃砲のような爆風を叩き込んだ小さな個体が現れる。 回避動作さえとろうとしない攻撃はマスターに直撃。 もっとも、貫通属性が無い以上、装甲タイルの前には無力。 この程度の熱量でダメージを本体まで抜けるものか。 ダメージチェック・・・・・・装甲タイル9枚の損傷を確認。 魔力より損傷した装甲タイルを補填、再構築まで2秒・・・・・・再構築完了。 敵影を確認。対象の言葉より個体名アギトと設定、登録・・・・・・。 あれは、リインフォースⅡと同じ融合機? ・・・・・・融合機? 融合機・・・・・・。融合・・・・・・融合・・・・・・ユウゴウユウゴウユウゴウ・・・・・・。 ワタシハ・・・・・・コタエヲ・・・・・・ミツケタ・・・・・・。 前へ 目次へ 次へ
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