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一人の女が、絶望の底にいた。 ただ希望だけを求め、彼女は足掻く。しかし現実は無慈悲で、彼女が救われる事は無かった。 誰も彼女を助けなかった。 誰も彼女を許さなかった。 死ねばその時点で、哀しむ者はおろか、憶えている者さえいなくなる。 彼女は、そんな存在だった。 だからその男は、ここにいる。 そんな、この世界が許せないから、ここにいる。 男は憶えていた。 彼女が最期に口にした言葉は―― ロードは、必死に思考した。 脳裏に浮かんだロックマン・エナミスの死に顔。彼女が死ぬ前に呟いた言葉。その意味が、目の前の存在へと収束している。 「(ずっと忘れていたのに…何故、今になって…)」 彼は頭を抱えたくなるのを必死に堪えて、今しがた名乗りを上げた存在を見据えた。 ロックマン・ジーザスは名乗りを上げた後、しばし眼を瞑り、深呼吸をしていた。 やがて彼を眼を開けると、静かに言葉を紡ぐ。 「いい香りだ。煙と血の匂い…ようやく思い出した。これが…戦場だ」 そして彼はまず周囲の兵士達へと視線を向け、その眼を細める。 その仕草だけで、その場の全員に彼の意図を読み取る事ができた。 『邪魔だ』と言っているのだ。 意図を察し、兵士達は次第にドームから姿を消していく。ミラージュとロードによって20人近くの兵士が斬られてその場に横たわっていたが、それでもまだ無数の兵士がいた。 やがて兵士達が去り、ドーム内を静寂が包む。 そしてようやくジーザスは、テスタメント、ミラージュ、ロードへと順に視線を向けた。 その視線に、ロードは生唾を飲み込む。 剣を握り直し、いつでもジーザスへと跳びかかる準備は出来ていた。だが、身体が動かない。 決して動けないわけではない。だが、仕掛けようという気になれなかった。 この羽根のせいだ。 ドーム内の全域に舞い散る羽根。おそらく、フードを被った自分の身体にも付着している筈だ。 これはただの羽根ではない。自分の本能がそう言っている。 横を見ると、ロックマン・ミラージュも今の自分と同様の様だ。ジーザスへ向けて殺気を放ってはいるものの、踏み込めないでいる。 ジーザスは、まずそんな自分とミラージュを眺めると、言った。 「賢い選択だ」 そしてジーザスは、軽く片手を振った。 次の瞬間、ドーム内に散る全ての羽根が、金色に輝いた。 「(…!!?)」 その光に見覚えがある。そんな結論は出したくなかったが、認めざるを得ない。 先程、アーマーを纏う前のジーザスが指から射出していたモノと同じ。 この羽根は全て、ビームサーベルだ。 ロードは、身震いした。視界をビームサーベルの光が覆い尽くしている。 彼には信じられなかった。ビームサーベルには、射出口が必要な筈だ。だがこれは、ビームサーベルの刀身だけが、羽根と同じ軽さで宙に浮き、空間を覆い尽くしている。 フードを被らなければ、確実に頭部にも接触していたろう。幸いマントとフードのビームコーティングで防御し切れる出力のビームサーベルだった様だ。 だが、動けばマントで覆っていない箇所のアーマーに確実に接触する。事実上、ロードは身動きできない状況に立たされた。 一方で、テスタメントは涼しい顔をしていた。身体の表面にビームシールドを張っていたのだろう。周囲のビームサーベルは、一瞬彼に接触すると、弾かれて遠くへ飛んでいく。 ロックマン・ジーザスは、三人を観察していた。そんなジーザスに対し、唯一動く事のできるテスタメントが、右手を広げ、彼に向ける。 だが、その腕に内蔵されたバスターをテスタメントが発射しようとする前に、状況に変化が起きた。ミラージュが、左腕のエネルギーシールドを前面に展開しながら、ジーザスへ向けて突進してきたのだ。 前面に展開されたエネルギーシールドによって、ビームサーベルの羽根が次々と弾き飛ばされていく。ジーザスは、突進してくるミラージュを見据えると、右腕のビームサーベルを起動させた。 ミラージュはジーザスを間合いに収めると、前方に向けてエネルギーシールドを展開していた左腕を横へと移動させ、同時に右手に持った刀で斬りかかる。 ジーザスもそれに応じ、右腕に内蔵された幅の広いビームサーベルで刀を受け止めた。 「その眼は、見覚えがあるぞ。ロックマン・ミラージュ」 次の瞬間、刃を押し切られ、後ろへと跳ぶミラージュ。そんなミラージュを、ジーザスは指差した。 「っ!!?」 途端に、無数のビームサーベルと化した羽根が、ミラージュへと殺到していく。ミラージュは反射的にエネルギーシールドを構えたが、その体勢のまま動く事ができなくなった。 「あの絶望の底からここまで来たのは賞賛しよう。だが…まだ浅い…!!」 そう言うと、ジーザスは右腕をバスターに変形させ、身動きの取れないミラージュへと向ける。 だがそこで、即座に彼は視線を横に向けた。遂にテスタメントが動き出し、ジーザスへと迫っていたのだ。 テスタメントのアーマーが変形し、今まで露出していた頭も黒い鎧に覆われていく。そして彼の片腕が変形し、バスターの様な射出口が形作られた。 その射出口から高出力のビームサーベルを発生させ、テスタメントはジーザスに斬りかかる。ジーザスも応戦し、右腕のビームサーベルを射出した。 「随分と懐かしいな…3千年ぶりだ」 「無駄口を叩く暇など、与えん…!!」 そう言うと同時に繰り出されたテスタメントの一閃をジーザスが防御し、続けて放ったジーザスの一撃をテスタメントが防御する。二人の接近戦での攻防が展開され始めた。 ロードは素早く動き出すと、そのジーザスの背に飛びかかった。 テスタメントと攻防を繰り広げるジーザスの隙を突いたのだ。ジーザスの、翼の中央に位置している背に向かって、彼は剣を振り下ろそうとする。 「…甘い…!!」 不意にジーザスの呟きがロードの耳に届いた。その途端、無数の羽根がロードへと殺到する。 「(…!!?)」 次の瞬間、殺到した羽根がロードのアーマーを切り裂き、更には羽根の一枚一枚が全て、小規模の爆発を起こした。 「がはぁっ!!?」 その衝撃に吹き飛ばされるロード。マントとアーマーで致命傷は免れたが、彼は必死に起き上がると、戦慄した。 「(あの羽根が死角を全てカバーしているのか…!!)」 視線を上げると、ロードと同じように今度は居合いで側面からジーザスに奇襲をかけたミラージュも、無数の羽根に吹き飛ばされるのが見えた。 テスタメントは未だにジーザスとビームサーベルによる打ち合いを演じている。両者一歩も退く様子は無い。 周囲に浮かぶ羽根型のビームサーベルは減る気配を一向に見せず、それもロードとミラージュにとっては十分な脅威となっている。 ロードは必死で思考した。 「(考えろ…!幾ら体内にアーマーと武器を内蔵していると言っても、それだけではこの異常なエネルギー量は説明が付かない。どこかから補給しているか、これから補給を行う筈だ…!!)」 だが、ジーザスの戦いぶりを見る限り、これから彼がエネルギーを補給するようにはとても見えない。 現在のところ、ロードはジーザスとテスタメントが攻防を続けている様子を側面から見る形となり、ミラージュは彼らを挟んで反対側にいる。そのミラージュは、再び立ち上がって走り出そうとしていた。 「(いいだろう…次はあの羽根、全て叩き落してやる…!!)」 ロードも意を決した。 そして、ミラージュに合わせ、彼もジーザスヘ向かって突進を開始する。 途端に、無数の羽根がロードへ向かって殺到していく。彼は前方の羽を剣の一振りで舞い散らせるが、流石に全ての羽根を吹き飛ばせず、幾つか肩や腰に接触し、爆発を起こした。 「ぐぅ…だがぁ!!」 それでも、頭や胴に食らわぬよう剣をもう一度振り回し、ジーザスへと突撃する。 そして遂にジーザスを間合いへと納めた彼は、全力を振り絞って剣を振り下ろした。 甲高い音がドーム内に木霊した。 「!!?」 次の瞬間、ロードは自分の眼を疑った。 彼は『ミラージュと』鍔迫り合いを演じていたのだ。ミラージュの方もこの事態に目を見開いている。 視界の端に、テスタメントが上に向けて掌を掲げているのが見えた。ロードも状況を察して、ミラージュとほぼ同時に頭上を見上げる。 その瞬間、本日何度目かの、背筋が凍りつくあの感触を覚えた。 天井付近まで浮遊したジーザスは、右腕をバスターに変形させ、三人へと向けていたのだ。 「浅はかだ」 無感情なジーザスの、その声もまたドーム内に木霊する。 途端に、凄まじいエネルギーの奔流がロード、ミラージュ、テスタメントの三人を飲み込んだ。 「私の目的は…人という種が、あの星の呪縛から解き放たれる事なのです」 モニター上での戦いを眺めたまま、ただただ淡々と、タナトスは呟いた。 「この3千年…ヘブンという文明の栄枯盛衰を眺め、そして私は一つの結論を下しました」 一拍の間を置き、タナトスは語る。 「人の文明は、既に地球という星に拘らない方が進歩する事ができると」 「…理由が知りたいわ」 デウスの言葉に、タナトスは僅かに微笑みながら、続けた。 「ヘブンの支配者達が行ってきた事を思い出して下さい。デコイの環境適応の度合いを調べ、いずれ本物の人類が地球に住めるよう、環境の改善を進めていく。それを数千年という単位で行い続けてきたのが、彼らです」 そこまで言ってから、溜め息を一つついて、タナトスは言った。 「しかしその行動は、紛れもなく停滞なのです。デコイという人類の代替品を犠牲に築かれた平和。それを引き換えに、ヘブンという文明はその技術的進歩の速度を、時を経る毎に緩やかにしていきました」 「何が言いたいの?」 僅かに表情を曇らせたデウスが、眼を細めて尋ねる。タナトスは言った。 「分かりませんか?全ては地球という星の浄化に拘ったからこそ、ヘブンは…人という種は、歩みを止めてしまったのですよ。挙句の果て、事実上ヘブンを支配していたマザー達は、ヘブンに残る優れた文明と技術さえ捨て去り、あまつさえ人類の代替品であった筈のデコイと共存をしようとしている…」 「勿体無い…とでも言うつもり?」 タナトスは、そこでモニターに目を向けた。 モニターに映る、ロックマン・ジーザスを。 「あれを御覧下さい。3千年前でさえ、ヘブンはあれほどの破壊力を持った『兵器』の製造を可能としたのです。その技術力を、地球環境の再生という目的にのみ用いた結果が今の状況にあるのならば…」 そこまで言って、ようやくタナトスは結論を口にした。 「人という種にはもはや、地球という母星など、必要無いのではないでしょうか?」 デウスは、ただ静かにモニターに映る光景を見据える。 「ぐっ…」 閃光が晴れた時、テスタメント、ミラージュ、ロードの三人はまだ健在だった。 テスタメントがジーザスのバスターを防ぎ切ったからだ。 だがその影響からか、テスタメントがその場に片膝をつく。 そんな彼の姿に、ミラージュとロードが一瞬気を取られたのが間違いだった。 ミラージュは突如現れたビームサーベルの閃光に、咄嗟に刀で防御するのが精一杯だった。 そのまま押し切られ、かなり遠くの壁まで叩きつけられる。 同じようにロードも、突然目の前に現れたジーザスの足先が胸の中央に直撃し、吹き飛ばされた。 そうして二人を吹き飛ばしたジーザスが、目の前のテスタメントを見下ろした。 「テスタメント。まだ先程の、貴様と1対1だった時の方が手応えがあったぞ。あの時はまだ眼が覚めていなかったという事もあるがな…」 「ぐ、うっ!!」 それでも尚、右腕にビームサーベルを射出させ、テスタメントはジーザスに斬りかかった。 ジーザスはその場から一歩も動かずに、右腕のビームサーベルで受け止める。彼は無表情のまま、冷徹な視線をテスタメントに向け、言葉の続きを紡いだ。 「今度は、お前の目が覚めていない様だな」 「な、にぃ…!!」 テスタメントがそう言った瞬間、彼のビームサーベルにかかっていた圧力が増す。たまらず彼は、サーベルを弾くと同時に地面を蹴って後退した。 「くっ!!?」 だが、その動きにジーザスはついてきた。 テスタメントが体勢を完全に立て直す前に、ジーザスは彼の至近距離まで接近し、再度サーベルを振るう。 体重をかけるのは困難だったが、テスタメントは咄嗟にサーベルを横に薙ぎ払った。 「今のお前は…」 だが、ジーザスは地面を蹴り、サーベルどころかテスタメントすら飛び越え、空中で一回転し、彼の背後へと着地していた。 振り向き様に、ジーザスがビームサーベルを振るう。 だが、テスタメントもかろうじてまだその動きについていく事ができた。ジーザスが自分を飛び越えたのを察知した瞬間、薙ぎ払ったサーベルをそのまま勢いを殺さずに背後まで振り切ったのだ。 再びの鍔迫り合い。ジーザスは、再度口を開く。 「殺意を隠し切れていない。殺したいのは、私だけではないのだろう?」 その言葉に、テスタメントは一瞬硬直した。 ジーザスは、やはり無表情のまま続ける。 「手に取るように分かるぞ。この場に至ってもまだ、私以外の者への殺意を殺し切れていないのが…なぁ!!」 そう言うと、ジーザスは鍔迫り合いを行っているサーベルを勢い良く上へと弾いた。 「ぐうっ!!」 やられる。そう確信したテスタメントは、すぐに上へと弾かれたサーベルを、ジーザスへと振り下ろした。 だがその一撃は、ジーザスの左腕の、5本の指先から射出されたサーベルに阻まれていた。 それを確認すると、即座にジーザスは、右腕のビームサーベルをテスタメントへと振るう。 だが、ここに至ってテスタメントは、左腕からもビームサーベルを射出し、ジーザスの一撃を受け止めていた。 両腕を使った鍔迫り合い。互いに退く事無く、ジリジリと続いてゆく。 そして、次の瞬間。 ジーザスの頭部から生えた翼が、テスタメントのビームサーベルごと、その右腕を斬り落としていた。 「ぐっ…がああああああぁぁぁ!!」 後退しながら消失した右腕の傷口を抱え、テスタメントが叫ぶ。彼はそれでも、かろうじてジーザスから距離を取る判断はできたのだが、ジーザスにとっては彼のそんな行動など何の意味も無く、すぐにでも首をはねる事ができた筈だ。 だがジーザスはそうはせず、代わりに一言呟くと同時に、振り返った。 「その腕が代償だ。今度は、私がお前の目を覚まさせてやる」 ロードは、ジーザスとテスタメントの闘いを観察しながら、素早く動いた。 悔しいが、彼一人では――否、テスタメントとミラージュの三人がかりでも、ジーザスには勝てない。そうロードは判断した。 だがそれでも、ロードはこの手でジーザスを打ち倒したかったのだ。 ロックマン・エナミスが死ぬ間際にその名を呼んだ。恩人であったプロキオンは彼に裏切られた。それらの事実もあるが、何よりロードは、初めて会った時からリゲルが――ジーザスが、気に入らなかったのだ。 そして、事この場に至り、圧倒的な実力差を目の当たりにしても、いや目の当たりにしたからこそ、ロードは自分の手で彼を葬る事を決意した。 ロックマン・ミラージュと同じだ。自分の手で決着させなければ、この先、前には進めない。 たとえ、どんな手を使ってでも。 テスタメントの腕が斬られ、ジーザスが無慈悲な言葉を紡ぐ。 「(頭部の翼であんな事が可能とはな…あれでは副腕と変わりが無い)」 そう考えつつ、ロードはその瞬間にジーザスの背後へと、剣を構えて飛びかかった。 「(だが…これで終わりだ!!)」 腕を斬られた以上、テスタメントはもうこれ以上ジーザスと対等に渡り合う事は不可能だろう。 つまり、奇襲をかけるのは、これが最後のチャンスだった。 ジーザスは、その瞬間に振り向いた。 今まさに、ロードがジーザスへと飛びかかった、まさにそのタイミングで。 「こいつを…殺す事でな」 ジーザスは、ロードの思惑など完全に予想していた。それをロードが悟るには、全てが遅すぎた。 「く…おおおおぉぉぉぉ!!!」 ロードは、それでも構わず剣を振り下ろす。たとえ予測されていたとしても、ジーザスが振り返った時には、既に彼はロードの間合いに入っていたからだ。 だがジーザスは、そんなロードに対して、ただ右手の人差し指を向けただけだった。 たったそれだけの動作に、ロードの脳が急速に反応する。 その瞬間、彼の脳裏に、その人生の全てが超高速で再生された。 「さよなら」 次の瞬間、ロードの身体が木の葉の様に吹き飛ばされる。 更には空中で無数のビームサーベルに彼の身体はズタズタに切り裂かれ、最後には大理石の壁に激突した。 壁が砕ける。それだけでなく、壁に入ったヒビは大きくなり、遂にはその一部が崩壊して倒れ伏したロードの身体の上に降り注いだ。 ロードはピクリとも動かない。 動かなくなったロードに、テスタメントは、愕然とした。 腕を斬られた事もそうだが、何より自分の心の底までジーザスに見抜かれた事も彼に衝撃を与えていた。 確かに、最初にこの大聖堂でリゲルと戦った時は、今とは違い1対1だった。 だが、今は違う。この場には――彼の主を殺した、ロックマン・ロードがいた。 ロードも含め、今ここにいる三人が纏めてかからねば、ロックマン・ジーザスを打倒するのは難しい。テスタメントはそう割り切っていた筈だった。 だがやはり、心の底では、憎しみを抑える事などできなかったのだ。その事実から眼を背け、戦いに望んだ結果がこれだ。 未だにジーザスは無傷。 まさに、絶望的と言う言葉が生温く感じられる状況だった。 「こうなる事を、望んでいたのだろう、テスタメント」 「ジー…ザス…!!」 向き直り、再びジーザスはテスタメントを見下ろした。テスタメントは歯を食いしばり、ジーザスを睨む事しかできない。 ジーザスはしばらくそのまま、眼を細めていたが――次の瞬間、その場から飛び退いた。 「…ほう」 飛び退いたジーザスの頬が僅かに切れ、血が流れる。 彼は、前方を見据えた。 「光学迷彩…形振り構わなくなってきたな、ロックマン・ミラージュ」 そこに、何も無い筈の空間からロックマン・ミラージュが現れた。 ジーザスの言う通り、光学迷彩で姿を消したまま、彼はジーザスに奇襲をかけたのだ。 とは言え既に満身創痍で、肩で息をしているが、その眼には殺意が衰える事無く漲っている。 「何が古き神々だ。何がロックマンだ。貴様も…ただの人間だ…!!」 そう言ったミラージュの刀は、今しがた付けられた、ジーザスの頬の僅かな切り傷へと向けられていた。 その切り傷から、赤い血が一筋、ジーザスの頬を流れ落ちる。 ミラージュの言葉に、ジーザスはしばらく無言だった。 だがやがて、ゆっくりと溜め息を吐くと、彼は平然と答える。 「…そうさ、その通りだ。この3千年、それが分かっていない者ばかりだった」 そして、ジーザスは右腕のビームサーベルを起動した。 ミラージュも、刀を構える。 「だがお前は、果たしてこれから…」 「ロックマン・ジーザス…」 ロックマン・ミラージュとロックマン・ジーザスは、同時に言い放った。 「ただの人間でいられるかな」 「貴様は俺が殺す」 そして両者が地面を蹴ったのは、ほぼ同時の事だった。 第五章へ 黙示録の天使達・目次
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喉が渇く。 身体中が軋みを上げている。 口中には鉄の味しかしない。 視界はぼやけ、見上げれば木々の間から月の無い夜空が見える。 彼の周囲にはかつての仲間達が、身体中を血に染めて、倒れ付していた。 鮮やかな鮮血が、彼らを取り囲むように、地面を染めている。 それでも彼は立っていた。 片手には、酷使し続けてバチバチと異音を上げるビームサーベルを持ち。 その眼は、すぐ先にいる男に向けていた。 「見事だ、小僧。立ち上がってみせるとは」 男は、彼を見つめ、静かにそう言った。 「何故そこまでして闘う。ヘブンが、それほどの忠誠に応えるのか?」 彼は男を睨み、言った。 「ヘブンなど関係無い。お前は敵だ。だから斃す」 彼の応えに、男はほんの少し口元を歪めると、言う。 「名乗れ、小僧」 彼は震える手でビームサーベルを構えると、言った。 「ロックマン・ロード」 「ロックマン・ロード。気に入った。お前も刻め、私の名を」 そう言うと、男は傍らの地面に突き刺していた幅の広い大剣を抜き、ロックマン・ロードと名乗った者へ、その切っ先を向けた。 「ロックマン・シュミットの名を」 ロックマン・ロードは懸命に命令した。自分の身体に。 だが腕は上がらない。目の前の敵は、もうその得物を振り上げているというのに。 相手を懸命に睨みつけるが、身体は動いてくれない。 戦うだけの、空虚な人生だった。何も残さぬまま死ぬのかと、彼は思った。 「(まぁ、いいか。救いの無い世界だって、分かっていたのだから)」 全ての発端が、自然と彼の頭の中で甦る。 あの日、任務を終えて帰還したロックマン・ロードは、他の粛清官数人と共に早々にマザー・セラに呼び出された。 「ロード、招集がかかってるぞ」 「ああ、分かってる」 仲間の粛清官の声に、鏡の前で顔を洗っていたロードが答える。 彼は鏡に映った自分の顔を見た。人間で言えば20代前半といった年齢だろう顔には、疲労の跡がありありと見て取れる。短く切られた銀髪は少し汚れていた。 疲労が少しでも軽減される事を期待して顔を洗ったが、少しも効果は無いようだ。 そして、彼はマザー・セラに召集された部屋へと向かった。 「この中にはつい今しがた任務を終えた者もいると思うが、今からお主達に新たな任務を与える」 ホログラムに映し出されたマザー・セラの前で横に整列し、跪いた粛清官達。ロードは彼らの顔を見た。これまで共に任務をこなした者もいれば、そうでない者もいる。 窓も無い白い壁と床の室内に並んだのは6人。全員が一等粛清官だった。 やがて褐色で緑の短髪、赤い瞳の小柄な少女の姿をしたマザー・セラのホログラムは、粛清官たちの前に立つと、先程の言葉を皮切りに任務説明を始めた。 「今からおよそ10時間前、地上で任務遂行中だった粛清官5名が姿を消した。当初はイレギュラーによる奇襲かと思われたが、1時間後に1名がヘブンの施設に逃げ延びた。その者はそれから間も無く生命活動を停止させたが、その証言によれば…どうやら3名の粛清官がイレギュラー化し、1名を殺害、1名に重傷を負わせて逃走した様だ」 この時、ロードは任務を終えたばかりだったせいか、面倒だという思いが大半を占めていた。 その為か、ここまでの説明を聞き、「早く終わらせよう」と思っていたのは事実だ。 だが、その説明の続きを聞き、彼は一気に気を引き締める事となる。 「6時間前に4名の一等粛清官と2名の二等粛清官を派遣した。が、その全員が4時間前に消息を絶った。我々はこの事態を重く見て、新たにお主達6名を派遣する事を決定した。以上だ」 続けてマザー・セラは「質問はあるか」と全員の顔に視線を走らせ、言った。 そこで、一人の粛清官が腕を上げ、言った。 「イレギュラー化した粛清官の名を訊いてもよろしいでしょうか、マザー」 その質問に、セラは傍らに待機していたジジへと視線を向ける。 セラと同じ褐色の肌に腰まで伸ばされた緑の長髪、眼鏡をかけ、赤い瞳と額に第三の瞳を持つ高位のリーバード・ジジは、片手に持った端末で電子画面を展開すると、粛清官の質問に答えた。 「イレギュラー化したのは…『ロックマン・シュミット』、『ロックマン・カーティス』、『ロックマン・エナミス』の三名です」 ジジの言葉に、数名の粛清官が息を呑むのがロードには分かった。 「詳しい説明はお主達の電子端末に送る。それを読め。以上だ」 どうやら受け付ける質問は一つだけだったらしい。ジジの説明が終わると、セラはそう言った。 その言葉を受け、粛清官達は弾かれた様に部屋を出て行った。 シャトルポートへと向かうエレベーターの中、一人の粛清官が口を開く。 「やばいな…」 その言葉に、近くにいた粛清官が答えた。 「ああ、やばい」 「イレギュラー化した粛清官、そんなにやばい奴なのか」 電子端末で任務の情報を眺めていたロックマン・ロードは、そう訊いた。 最初に口を開いた粛清官が答える。どうやら彼は誰かに話したかったらしい。 「ロックマン・シュミットな…奴は教官として何人もの粛清官に剣を教えてた。この中にも彼に教わったという奴、いるんじゃないか?」 「他の二人はともかく、おそらくロックマン・シュミットという名は結構な数の粛清官が聞き覚えがある筈だ」 「どちらにしろ、先に消息を絶った奴らの生存は絶望的だな」 彼らの話を聞きつつ、ロードは任務の詳細を電子端末で眺め続けた。 だが、ある項目を見た瞬間、彼の思考は中断させられる事となる。 それは、先にイレギュラーの処分に向かい、消息を絶った粛清官達のリストだった。 ■一等粛清官 ロックマン・エッジ ロックマン・クレイス ロックマン・ミラージュ ロックマン・ブレイク ■二等粛清官 ロックマン・ライン ロックマン・シード ロードの様子に、近くにいた粛清官が声をかけた。 「おい、どうした?」 「いや…見知った名を見つけただけだ」 その粛清官がロードの電子端末を見て、心配そうな声をかける。 「消息を絶った奴らの中にか…」 「ああ。以前何度か任務で一緒だった」 ロックマン・ミラージュ。彼が既に死んでいる可能性が高い事を知り、一瞬ロードは胸中で呆然となったが、次の瞬間には益々気を引き締めていた。 やがて地上へと向かう船に乗り、船は出発した。 ロクに休む暇さえ貰えずに受けた命令。ロードは疲労を感じつつも、船内に座る他の粛清官達を眺めた。 他の5人の粛清官。まだ一等になったばかりで、明らかに若い者もいる。そうかと思えば既に幾度も任務をこなしたベテランもいた。 リーダーとなったのはロックマン・グリップという粛清官で、現状の戦力と相手の戦力をすばやく分析し、作戦を立案する能力に長けている男だった。 そんな彼が、まず最初に殺された。 先に部隊が行方不明となった森。そこに入ってしばらくしてからの出来事だった。 木々の間から突如飛んできた刃が、ロックマン・グリップの頭を薙ぐ。全員がそれに気づいたのは、続けて四方八方から攻撃が飛んできた後だった。 悲鳴。怒号。 その中で次にロードが見た光景は、多数の木々と共に高出力の荷電粒子砲に飲み込まれる仲間のうち二人の姿だった。 その時点でロードは撤退を決め、残った二人と共に急ぎ脱出しようとする。だが、もはや遅すぎる判断だった。 最初にロックマン・グリップの首を飛ばしたカッターがロードの背中を掠め、傍にいた粛清官の胸に直撃し、そのまま木に磔にする。 最後に残ったのは負傷したロードと、まだ一等になったばかりの粛清官だった。 敵の姿すらまだ一人も視認できない状況で、4人もの粛清官が瞬く間に命を奪われる。そんな光景を、背中からの激痛と共にロードは徐々に実感する。 「ここは食い止める。お前だけでも…」 最後まで言えなかった。 森の奥から突如出現した影が、手にした細長い棍棒のようなもので、新米の一等粛清官を串刺しにしていたからだ。 無造作に投げ捨てられる骸と化した粛清官の身体。それを気にも留めず、その影は腕を振り上げ、その棍棒をロードに叩きつける。 悲鳴すら上げられぬまま、ロードは背後の木に叩きつけられた。背中にできた傷を抉るように、枝が突き刺さる。 それでも咄嗟にビームサーベルを起動し、防ぐ事はできた。 そして今の一瞬で、相手の使っていた武器が鉄製の大剣だった事もロードは把握した。 だがたったそれだけだった。5人の粛清官を犠牲にして手にできた情報は。 叩きつけられた木から自然と体が離れ、ロードは地面に吸い寄せられるように倒れ付す。 だが、彼は立ち上がった。そして目の前の影を見た。 月も見えない森の中だったが、既に暗闇に眼が慣れていたため、相手の顔も把握できた。 ヘブンの粛清官が着用する白いアーマー。ただし、その全身に血痕と傷跡が散見される。 片手には鉄製の幅の広い大剣。その顔には深い皺が刻まれている。おそらく、年齢は40代を超え、50代半ばと言ったところだろう。頭髪は短く刈り揃えられており、口の周りには髭が生えていた。 その眼は、不気味なほどの鋭さを纏っている。 「見事だ、小僧。立ち上がってみせるとは」 「ロックマン・ロード。気に入った。お前も刻め、私の名を」 目の前の大男――ロックマン・シュミットが、腕を振り上げる。 「ロックマン・シュミットの名を」 回避か、反撃か。どちらかを行おうとする意思とは裏腹に、身体は動かない。 「(終わるのか?俺は、ここで…)」 そして、今にもロックマン・シュミットが腕を振り下ろそうとしていた時。 突如飛び込んできた影が、シュミットへ一撃を見舞った。 が、その一撃は直前で察知し、構えを変えたシュミットの大剣に阻まれる。 影は次の瞬間に飛来してきた大型のカッターを避けると、再びシュミットに飛びかかり、鍔迫り合いの形となった。 そこでようやく、ロードは飛び込んできた影の正体を見た。 「おやおや、あのまま気絶していれば良かったものを」 シュミットが挑発するように呟く。影は手にしたビームサーベルに力を込めたようだったが、シュミットの腕は全く押されはしなかった。 「なぁ、ロックマン・ミラージュ?」 今のロードや目の前にいるシュミットと同じく、ヘブンの粛清官が着用する白いアーマー。 ロードと同じ位の20代前半の年齢。彼よりも鋭い顔立ちをした、黒い短髪の男。 ロードは彼に声をかけようとしたが、その途端背中の傷が激しく痛み、声を出せなかった。 「お前達、手を出すなよ」 シュミットは背後の森の中へ向けて、そう声を上げた。 そして、ミラージュのビームサーベルを弾くと地面を蹴り、一旦後ろへと退いた。 だが、ロックマン・ミラージュは止まらなかった。 後ろへと退いたシュミットへ向けてビームサーベルを振る。だが一瞬遅く、彼の身体に傷一つ付ける事無くビームサーベルは空を掻いた。 そこでできた隙を、シュミットは見逃さない。即座に地面を蹴ると、サーベルを振ったばかりのミラージュの腹を蹴り上げた。 「がはっ!!?」 そんな様子を、ロードは冷静に見つめていた。そして彼は、ミラージュがいつもと様子が違う事がすぐに分かった。 いつもならば自分よりも何倍も冷静に行動する筈のロックマン・ミラージュが、明らかに焦っていたからだ。今も、無理に追撃を行おうとして反撃を食らっている。 やがて地面に倒れ付した彼を、シュミットは見下ろした。 「言った筈だ。刃に感情を持たせれば、必ず隙ができると」 いつのまにか、シュミットの両手に武器は握られていない。一旦ミラージュから離れた時、地面に刺していたのだろう、彼の遥か後方の地面に大剣は突き刺さっていた。 「今のお前など、素手でもこの通りだ」 呻き声を上げながら、ミラージュがビームサーベルを取り落とし、地面に両手を着く。だがその光景を見つめるロードには、若干の心理的余裕が生まれていた。 死んだと思われたミラージュが生きて現れた為だろう。 そして彼は冷静にシュミットの様子を眺める。彼は今、ミラージュに視線を向けており、こちらに注意を払っている様子は無い。既に戦闘不能だと思っているのだろう。 先程傷を負った背中からは定期的に痛みが襲ってくる。おそらく先程のカッターはアーマーを切り裂き、その奥の生身にまで達している筈だ。 ロードは、まだ自分がビームサーベルを握れている事に感謝した。 とはいえ、この状態でも不用意に斬りかかれば迎撃され、即座に斬り捨てられる事は目に見えている。 彼は覚悟を決めた。 「残念だ、ロックマン・ミラージュ。私自ら一から剣を教えたお前が、私に付いて来ないとは」 シュミットはミラージュを見下ろし、呟く。 「先程はすぐにお前を殺す事もできた。なのに私は殺さなかった。分かるだろう、私の情けが。それでも私の意思を汲み取る気は無いか」 ミラージュはしばらく息を整えていたが、やがてはっきりとした声で言った。 「命を賭けるに足る、己の信念を見出せ」 ミラージュの言葉に、シュミットは僅かに目を細めると、言う。 「覚えているぞ。かつて私がお前に言った言葉だ。だが…お前の見出した信念が、これか」 やがてミラージュは顔を上げた。シュミットへ向けられているせいで、ロードにはその顔が見えないが、はっきり発せられたその声は全て聞き取れた。 「俺の存在意義は、ヘブンを守る事だ。俺は…それに従う」 しばらく、シュミットはミラージュの顔を睨んでいた。 ミラージュもそうだっただろう。 「…救い難い奴だ、ロックマン・ミラージュ」 溜め息と共に、シュミットはそう呟いた。 「せめてもの情けだ。やはり貴様は、私がここで葬ってやろう」 そう言うと、彼は背後の地面に刺してある大剣を引き抜くため、振り返った。 その時を待っていた。 振り向いたとはいえ、こちらに注意を向けているのは変わらない。だがロードは、注意が自分には向いていない事を利用した。 スイッチが切れていたビームサーベルを起動させ、それを――投げつけた。 ビームサーベルが空気を切り裂き、ロックマン・シュミットへ向けて飛んでいく。 「ぬっ!!?」 その音を察知したシュミットは、振り向きながら体勢を崩す。 切っ先が僅かに彼の左肩を掠め、背後の木へと突き刺さった。 「ミラージュ!!」 激痛に耐えながら身体を動かし、ロードは吼えた。 その意図を察し、ミラージュは振り向くと同時に自身の持っていたビームサーベルのスイッチを切ると、ロードへと投げ渡す。 ロードはそれを受け取って起動させると、ミラージュの肩を担ぎ上げた。 そして、力いっぱい引き上げて立たせると、見当をつけておいた森の入口の方角へ向けて一気に走り出す。 途端に空気を斬り裂く音が聞こえた。 「っ!!」 背後から飛んできた、先程ロックマン・グリップを仕留めたカッター。ロードは振り返り様に、それをビームサーベルで叩き落した。 同時に、森の奥に一瞬閃光が走るのをロードは見て取る。幸いにも、これは肩を担いでいるミラージュも見ていたようだ。 「伏せろ!!」 どちらが先に言ったか。それを考える暇も無いまま、ロードとミラージュは足を縺れさせながら地面に伏す。 途端に、彼らの真上を極太の荷電粒子ビーム砲が駆け抜けていった。 だが、それを避けたからと安心する暇など無い。 ロードは地面に伏せた時、自分達の方へロックマン・シュミットが走ってくるのを感じ取った。 即座にロードは、近くの木へ向けてビームサーベルを薙ぎ払う。 「何!?」 その行為に対し、シュミットが声を上げた。木は熱で溶解し、根元から倒れ始める。それを見て取ったロードは再びミラージュを担ぎ上げ、走り出した。 背後を一瞥すると、倒れた木に一瞬道を阻まれたシュミットが立ち往生しているのが見て取れる。 後の問題はカッター。だがこれは周囲に気を配り続けていれば対処できる。荷電粒子砲は先程放たれたので再チャージには時間がかかるだろう。その間に姿を消す必要があると、ロードは分析した。 それから森を抜けるまで、ロードもミラージュも生きた心地がまるでしなかった。 倒れた木に足をかけ、ロックマン・シュミットは二人の影が走り去った方向を見つめた。 「ロックマン・ロードか…」 右手には大剣が握られ、左手には先程ロードが投げたビームサーベルを持っている。 そんな彼の背中に言葉を投げかける者があった。 「逃がしたのか」 森の奥から響いた声。だが、その声はシュミットの方へ近づいていく気配は無かった シュミットは振り返り、その声に向かって頷く。 「エナミスは?」 「荷電粒子砲のエネルギーがとうとう尽きた様だ。最後の一発が誰にも当たらなかったとは、あいつも運が無いな」 「そうか」 向き直り、その声の方へ向かって歩く。 「とりあえず、死んだ粛清官の装備を貰っていくぞ。このままではジリ貧だ」 「これからどうする?」 声のする方とは別の方向の森の奥から、一つの影が歩いてきた。その影は、シュミットよりも大分背が低い。 その影を一瞥しつつ、シュミットは言った。 「ここから北に30キロ。そこにある施設に行く」 「徒歩では難しい距離だな。デコイに移動手段でも借りる他は無いか。そこに何がある?」 シュミットは一泊の間を置くと、言った。 「ヘブンの施設だ。普通の施設とは、少し違う」 森の奥から響く声は、呆れた様子でシュミットに言う。 「とりあえずシュミット、お前さんはその酷いアーマーを何とかしろ。粛清官にもデコイにも目立ち過ぎる」 シュミットは苦笑しつつ答えた。 「白いアーマーという時点で、目立つのは変わらなかろう。まぁいい、しばらく移動した後、川沿いで休もう」 そこまで言ってから、シュミットは小柄な影の肩に手を乗せ、それから森の奥に視線を巡らせてから、言った。 「よくやってくれた。カーティス、エナミス」 数時間後、ヘブン。 「以上が報告内容となります」 跪き、ロックマン・ロードとロックマン・ミラージュが順番に報告を行うと、それを見計らったジジが感情の無い声でそうマザー・セラに言った。 任務を伝えられた時とは違い、今回は直接マザー・セラが二人の前に立っている。 「一等粛清官が8人、二等粛清官が2人。僅か三人に、これだけの者達がやられるとはな」 ジジと同じく何の感情もない声で、セラはそう言った。 「イレギュラーは?」 セラの問いに、ジジが電子端末で情報を確認しつつ答える。 「つい1時間前まではエデンからの監視で居場所が特定できていましたが、その後姿を消しました。どうやら空から見えないように移動しているようです」 「粛清官達を相手にしたのが森の中だったのもエデンを警戒してか。あの三人はこちらの出方を熟知しておる様だな…厄介だ」 顎に手を当てて思案するセラ。やがて彼女はロードとミラージュに視線を向けると、言った。 「お主達、奴らと直接会ったのだろう?奴らの目的などが推測できるか?」 「いえ…」 「見当も付きません」 ロードとミラージュが口々に答える。 その答えに失望の色を隠そうともせず、不快感を含んだ声でセラは言った。 「分かった、もうよい。下がれ」 「死んだ奴らに一言も無し…か」 ロードは静かにそう呟く。胸中に、自然とロックマン・シュミットの言葉が甦る。 隣を歩くロックマン・ミラージュは相変わらず無言だ。 そんなミラージュに、ロードは言った。 「あのロックマン・シュミットに剣を教わったのか」 ミラージュは無表情で前を見据えたまま、答えた。 「ああ、殆ど全て。今の俺があるのはあの男のお陰と言っていい」 「なら、奴が何の目的で今動いているか、分かるか」 ミラージュはしばらく思案していた様子だったが、やがて言った。 「いや…分かるなら報告しただろう。正直、今は見当も付かない」 会話はそこで途切れた。そのまま二人は、応急処置で済ませていた傷を完全に修復する為、回復カプセルのある部屋へと向かった。 その数時間後、二人は再びマザーセラに呼び出される。 同時に、二人の耳に驚愕の情報が伝えられる事となった。 エデンが乗っ取られた、と。 第二章へ 血に洗われし仮面の涙・目次
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◆h8sFAV3kjo 執筆作品一覧(1) 007 あなたならどちらを選ぶ? 【氏が書かれたキャラ】 キャラ名 登場回数 ミラージュ、ビウィグ、ガンツ 1回 ミラージュとガンツの出会いだけに終始せず、ビウィグの襲撃、さらにガンツがどう動くかというとことでのバトンパスと、序盤から続きが気になる引きをしてくれた書き手さん。それにしても今思えばミラージュはガンツやクリフに心配されてばかりだし、わりとヒロインみたいなことになってたんだなあ…… -- 名無しさん (2009-05-10 23 49 02) 名前 コメント
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※投稿者は作者とは別人です 752 :外伝(またはパラレル):2008/02/19(火) 20 55 06 ID OiXF2z220 俺が教えられるのは名前と階級となぜニワトリが道路を渡ったのかってことだけだ (「空飛ぶモンティパイソン」より) 投下させていただきます 753 :外伝(またはパラレル):2008/02/19(火) 20 56 45 ID OiXF2z220 その日飛行場に向う途中で鞄を間違えたことに気付いたドジソン大佐は急いでジープをU ターンさせた 「やあ、今日はこれで二人目だ」 司令部の建物に駆け込んだドジソンは声を掛けてきたバレンチノ少尉にこいつは何を言っ ているんだという視線を向けた 「つい五分前にも大佐殿がここを通られましたよ」 ドジソンがオフィスに飛び込むとまさしくドジソンその人がデスクを漁っていた 「お前は誰だ!」 ドジソンは叫んだ 「お前こそ誰だ!」 ドジソンも叫んだ 叫んだだけでなくタックルをかましてドジソンを転がすと馬乗りになったドジソンは懐か ら短剣を取り出す ドアの外で様子を伺っていたバレンチノがヒップホルスターからスミスの38オートマチ ックを引き抜きドジソンの胸に素早く三発撃ち込んだ 「ちゃんと証言してくださいよ、大佐を撃ったのは大佐を助けるためだって」 カレアント公国ロゼングラップ 劇場を改装した臨時の大会議場に集まったお偉方の前でI3-陸軍情報部第三課-のハッ クステッド大佐は居並ぶ将軍達の前で調査報告を行っていた 「-という訳でありましてこのマーク・ドブソン大佐に変身-これは比喩ではなく客観的 事実あります-変身していたのは人相、体型を自在に変える能力を持つミラージュ族といわれる少数民族であることが分かりました」 一同の間に動揺が走る シホールアンルはミラージュ族をスパイとして送り込んできたのだ ここでミスカトニック大学から招かれたH・G・ザワークラウト教授が登場し解剖学的見 地からミラージュ族の能力についての解説が行われる 「-というわけでありましてこの種族独特の骨格の折り畳み機構は体格の調節を可能とす る反面ある一定の条件で身体にかかる負荷に対しては非常に脆いという欠点があります」 ザワークラウトはやおら右足を高く跳ね上げ身体を前傾させながら振り下ろす ドスンという音とともに着地した右足をグッと踏み込み股間が地面すれすれの位置にくる まで腰を落とすと勢いを付けて起き上がりざまに左足を跳ね上げる 「この歩法を行った場合ミラージュ族はほぼ確実に股関節を外します」 「「「「「素晴しい!!」」」」」 ザワークラウトに惜しみない拍手を送る一同 その後もともとのミラージュ族が非常に数が少ないうえアメリカ軍に潜入してもボロを出 さないほど高度に訓練されたミラージュ族は更に少数でさほどの驚異ではないということ が判明するまでシリーウォーク(馬鹿歩き)と命名されたミラージュ族識別法はアメリカ 軍で猛威を振るい続けたのである 754 :外伝(またはパラレル):2008/02/19(火) 20 59 09 ID OiXF2z220 投下終了 懺悔:「空飛ぶモンティパイソン」は深夜の再放送(英語版)を一回しか観てません
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ポイゾンセット ポイゾンノバ ・ 8方向 射程7ポイズンボール [500dmg(毒 遠)/rate 15.0%] 武器:評価 3杖(ポイズンステッキ) ≪備考≫ 盾:評価25盾(トロール・ネスト) ・初心者さんが最初に集めるセット?がこれ 鎧:評価25鎧(ポイズンテンプル) 比較的簡単に集められる分、そこまで威力もなく、 兜:評価17兜(ヴァンパイア・ゲイズ) 期待できない。 帯:評価24帯(ポイズン・プレート) 靴:評価20靴(ポイズン・ブーツ) 籠手:評価20篭手(ポイズン・ガントレット) マヴィセット (※真マヴィセットには19靴が必要) スーパーガイデッドアロー ガイデッドアロー (真マヴィセット) (マヴィセット) ・3WAY [100%自動消滅][100%誘導] ・3WAY [100%誘導]射程8光矢 [1000dmg(物理 遠)/rate 20.0%] [1100dmg(物理 遠)/rate 20.0%] 鎧:評価36鎧(マヴィーナズ・エンブレイス) ≪備考≫ 兜:評価31兜(マヴィーナズ・トゥルー・サイト) ・非常に使い勝手がいいセット。 帯:評価29帯(マヴィーナズ・テネット) [100%誘導]が備わっているため確実に 靴:評価19靴(マヴィーナズ・トラヴェラー) ※ 相手を弱らせることができる。また威力も 籠手:評価17篭手(マヴィーナズ・アイシー・クラッチ) やや高め。とりあえず初心者の方は アミュ:評価4首輪(象牙の護符) このセットをそろえることをお勧めしたい。 メフィストセット (※真メフィには、7アミュが必要) スーパーオーラウェーブ ファントムオーラウェーブ (真メフィストセット) (メフィストセット) ・[90%移動射撃][100%大型]規模5 ・オーラウェーブ規模6オーラウェーブ [3500dmg(魔 近)/rate 2.2%] [7500dmg(魔 近)/rate 1.2%] 武器:評価38武器(メフィストスチールドライバー) 鎧:評価38鎧(メフィスト・ガーディアンシップ) 兜:評価28兜(メフィスト・アリーツ・フェイス) 盾:評価15盾(メフィスト・アカラン・タージ) 帯:評価27帯(メフィストソウルラップ) 靴:評価30靴(メフィスト・ライト・オヴ・パッセイジ) 篭手:評価32篭手(メフィスト・バーン) アミュ:評価7首輪(デーモン・オーラ・アミュレット) ※ ミラージュセット ミラージュライトニングボルト ・[90%移動射撃][30%気絶]規模8雷 [3000dmg(魔 遠)/rate 6.0%] 武器:評価7杖(ミラージュ・オキュラス) ≪備考≫ 鎧:評価28鎧(ミラージュスチール) ・前方への攻撃範囲が広く、多フレーム 帯:評価28帯(ミラージュ・スパン・クロス) HITする。また[30%気絶]効果もつい 靴:評価26靴(ミラージュ・ブーツ) ているため、逃げる敵には非常に有効。 篭手:評価28篭手(ミラージュ・ガントレット) また威力も高めなため是非集めたい。 リング:評価9指輪(オメガリング)
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人 きゃべつ 車 CC4Aミラージュ("N"IVEC) 10年9月~ 三台目のCC4Aにして初めてのNIVEC。そのうちMIVEC化します お○っこ色、小便色。正式名称は「シャンパーニュイエロー」(Y99)っていうらしいです。ランサーとかのいわゆるダンデライオンイエローとは全然違います CC4Aミラージュ(MIVEC) 09年11月~10年8月 買って1ヶ月で走りに行って電柱に刺さりました。 その後フレーム修正木でフレーム修正、縦のメンバーはワンオフ縦メンバーになり、交換不可になりました ミラージュではお約束(?)後ろの牽引フック千切れました。 そして、最後はホイールハウスの溶接がベリベリ剥がれてしまったのであきらめました。結局一年も持たなかった・・・ CD5Aランサー 09年10月~11月 元アタックさんランサー 車検が切れるまで(09年11/21)乗らせて頂くことになりました。 走行中にボンネットが開き、ガラスにひびが・・・ CC4Aミラージュ(MIVEC) 08年6月~09年9月 旭川より購入。 2009年9月18日 林道でまくれ落ちる→廃車→部品取りに E/Gブロー、小破、中破・・・と色々あったけどとてもいい車でした。直せないことも無いけど、直ったとしてもまともに走りそうにないので、諦めました。まだ乗りたかったなぁ・・・
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インディペンデンス紛争 バルカンエリアにて行われた紛争。 レイヴンであるフリーマンをリーダーとした民主主義国家建国を謳う組織、インディペンデンスがミラージュ・クレスト・キサラギの三大企業を相手取って起きた紛争。 開始当初は三大企業の不和もあり、インディペンデンスは優位に動くことが出来た。しかし、後に三大企業はインディペンデンスを叩くために連合を組み戦況は一挙に逆転しインディペンデンスは壊滅した。 この戦いはミラージュ専属であるグローリィが大きく活躍した紛争であり、ミラージュ内では彼が勝利を呼び込んだ英雄として大きく奉られた。尚、このグローリィとリンクスのグローリィの間に関連性があるかは不明。 インディペンデンスは民主主義国家を建国し、戦争の無い平和な国家を実現しようとしていたのだがそれは虚偽であった。本来はナービス紛争の後、協調姿勢を見せた三大企業の姿を見たフリーマンが戦争が起きなくなれば自分たちレイヴンの居場所がなくなることを危惧し、レイヴンの居場所を作るための、戦争を呼び込むための戦争であったと後にミラージュ専属グローリィは語っている。 この時からマッハ、ローズ、マリアの三名は戦場に立っている。 執筆者倉佳宗
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寄り添いながら、パーティー会場を出て、エレベーターに向かう。 覚束ない足取りの彼女を支えているため、どうしても身体が密着しがちになる。 鼻先を、コロンの甘い薫りにくすぐられて、僕はクシャミをひとつ放った。 「普段から、あんまり飲まない方なのかい?」 「……んふぅ。実は、そうなんでぇ~すぅ」 「だったら、やっぱり、やめておこうか」 「うぅん。構いませんよぉ。今夜は、めいっぱい飲みた~い気分ですからぁ」 とても愉しいから、メチャクチャに酔ってしまいたいの。 じっくり噛みしめるように呟いて、彼女は白い腕を、僕の腰に絡みつかせた。 「連れていって。ね? もう少し、楽しくお喋りしましょぉ」 「――しょうがない娘だな。ま、誘ったのは僕だし、トコトン付き合うよ」 からっぽのエレベーターに乗り込んで、上へのボタンを押す。 僕らの目当ては、ホテルの最上階にあるスカイバー。 心地よいBGMに包まれながら、煌めく夜景を眼下に、グラスを傾ける―― たまには、そんな洒落た雰囲気を嗜むのもいい。感性が豊かになるから。 ふわり……と、小舟が波に持ち上げられるような、独特の浮遊感。 途端、膝が力を失ったらしく、ハイヒールを履いていた彼女は、小さな悲鳴を上げて仰け反った。 「おっと。危ない」 「――あ! ふわぁ……」 咄嗟に伸ばした僕の腕は、彼女の細いウエストを、しっかり抱き寄せていた。 密着する、ふたつの身体。期せずして間近に迫った、二人の顔。 見つめ合った瞳の虹彩さえも、違わず数えられそうな距離だ。 「大丈夫か?」 訊くと、彼女は眼をパチクリさせながら、小さく頷いた。 なにか言いたげに唇は動くけれど、巧く声が出せないらしい。 その様子が、なんとも初々しくて、僕は優しく微笑みながら腕の力を抜いた。 「すぐに着くから。ほら、ちゃんと立って」 「……はぁい」 返事は、なぜか不承不承な響き。 もしや、なにか期待するところがあって、わざと蹌踉めいて見せたのか。 いやいや――ただの気のせい……だよな? 考えている間に、浮遊感は穏やかに収束して、澄んだベルの音が終息を告げる。 静かに滑るドアの隙間から、ピアノの音色が忍び込んできて、二人を出迎えた。 それは、いつかどこかで、耳にした憶えのあるメロディー。 「あ……私、この曲、知ってます」 「確かに、聞いたことあるな。なんていう曲だっけ?」 「亜麻色の髪の乙女。ドビュッシーです」 「そっか……クラシックなんて、あんまり聴かないからなぁ」 「たまには、贅沢に時間を使ってみるのも、いいものですよ」 「うーん。興味はあるけど、それをするには、今の僕は余裕が無さすぎだな」 まだ、夢の途中。二人三脚で向かう先は眩しく霞んで、終着点など見えやしない。 だから、足を止めたくなかった。幸せな時間が、どれだけ残されているか分からないから。 「行こうか、鳶色の髪の乙女さん」 肘を差し出すと、彼女は遠慮がちに指を掛けて、照れ笑った。 4. 窓辺に設えられた『止まり木』と呼ばれるシートに腰を落ち着けて、注文を済ませる。 ほどなく運ばれてきたカクテルグラスを、僕らは目元に掲げた。 降り注ぐブルーライトの下、薫香を放つ液体が揺れて、蠱惑的な煌めきを振り撒いた。 「ステキな眺め……とっても綺麗です。それに…………美味しい」 はふ、と艶っぽく吐息して、酔いどれ乙女は、右隣に座る僕に目を流してきた。 「いつも、こんな風に、モデルの女の子たちを誑し込めてるんですか?」 ぐぽっ!? 飲みかけのリキュールに喉の奥を直撃されて、噎せ返る。 彼女は、ころころと笑いながら、咳き込んだ僕にハンカチを差し出した。 「こぉんな冗談で慌てるなんて、なぁんかアヤシイ~」 「か、勘弁してくれよ。してないって、そんなこと」 「ホントですかぁ~?」 「当ったり前だろ。こう見えても、妻子持ちだぞ」 ハンカチで口元を拭うたび、僕の薬指のリングが、潔癖を証すように鋭利な輝きを放つ。 彼女は「知ってますよぉ」と。とろんとした眼差しを、指輪に注いでいた。 「貴方の記事が掲載されてる雑誌は、すべて買い揃えてますから」 「そりゃまた、随分と熱心に応援してくれてるんだね。僕が、元同級生だから?」 「まぁ……ねぇ。でも――」 「ん? なに」 「い、いえ。なんでも」 「……ふぅん?」 なんとなく、微妙な空気。僕らは仕切り直しとばかりに、宝石のような液体を、口に含んだ。 甘い口当たり。それは、喉に仄かな火照りと、鼻孔に芳香を残していく。 気持ちよく耳をくすぐるピアノの旋律も、タイミング良く変わった。 バダジェフスカの『乙女の祈り』だと、彼女が教えてくれた。 それなりに良いムードのところに、適度な酔いの勢いも手伝えば、 元同級生という間柄、理性の防御壁も低くなるもので―― 僕らは、どちらからともなく肩を寄せ、眠ることを知らない街の夜景を眺めていた。 煌めくネオン、行き来する車のヘッドライトとテールランプが、光の川を描いている。 それは儚げに瞬きながら、凸凹の黒い地平から訪れ、また彼方へと消えていった。 「ホントに綺麗……。私、バカだから、陳腐な表現しかできませんけど――」 ――夢みたいです。 はにかんだ彼女の、朱に染まる肩へと、僕はさも当然のように腕を回した。 「夜は、夢を見る時間だからね。きみが望むだけ、素敵な夢に浸らせてあげるよ」 「……貴方って、昔っからこんなにキザでしたっけ?」 「男は誰でも、かっこつけたがりだよ。可愛い娘の前では、特にね」 「だから、今夜は特別キザなの?」 「うん、そう。きみだから――なのかな」 「そかそか。さしずめ、私だけの催眠術師さん、ってとこかぁ」 彼女は僕の肩に頭を預けて、くすくすと笑った。 それは、心から楽しんでいる者だけが作りだせる表情。 一夜だけの催眠術師……か。そういうのも、案外、悪くない。 「こんなに素敵な夢なら、いつまでも見てたいなぁ。ずぅっと……」 「それだと、ありがたみが薄れちゃうよ。たまにしか見れないから、貴重なんだ」 「ふむぅ~。まあ……そうですよねぇ。だったら――」 また、誘って頂けますか? 呂律の回りきらない囁きに、僕は「もちろん」と即答。 「――嬉しい」 グラスの縁を、人差し指でなぞりながら呟かれた彼女の声は、喜色そのもの。 僕の左肩にかかる彼女の頭の重みが、とても、愛おしく感じられた。 もっとも、その淡い想いは『旧友との親睦』の域を出ないものだったけれど。 「あ――」やおら、彼女が思いだしたように頭を上げる。 「そう言えば、私の名前……そろそろ思い出してくれましたか? いつか誘ってくださるなら、そのくらいは憶えていてもらわないと」 彼女の、期待に満ちた眼差しに晒されて、僕は思わず顔を引いてしまった。 さっきも、いくら考えたところで思い出せなかったと言うのに、 だいぶ酔いが回った今となっては、悩み悩んだ挙げ句に寝落ちしかねない。 「あのさ……名刺、もらえるかい」 「持ってるワケないでしょぉ、そんなもの。ただのフリーターですしぃ」 「――そっか。なあ、意地悪しないで、きみの名前を教えてくれよ」 「やぁ~よ。頑張って当ててみて。ほら! よぉーく、思い出してくださいっ」 「そうは言うけどな。あの頃、僕は留年回避の特別措置に合格するため、 三学期だけで、一年分の学習内容を詰め込んでたんだぞ。寝る間も惜しんでさ。 とてもじゃないけど、勉強以外のことなんて、憶えてる余裕なかったよ」 「えぇ~。ホントに……まったくもって記憶にございませなんですかぁ?」 「なんなんだ、その妙ちきりんな喋り方は」 僕は眉を八の字にしながら、鼻の頭を掻いた。 「まあ――全然ってことは、ないと思う……んだけど。 せめてヒントをくれよ。そうすれば、思い出せるかも知れない」 きみだって、あの頃とは変わってしまったから、分からなくて当然だと言ったじゃないか。 僕が、そう続けたら、彼女は「そうでしたね。ええ……確かに」と、口元を綻ばせた。 「じゃあ――」 彼女は、カクテルグラスが敷いていた、ホテルのロゴ入りコースターを抜き取って、 焦らすように、ゆっくりと……自分の左眼に重ねた。 「これが、ヒントです」 左眼を隠した少女―― その瞬間、時間が目まぐるしく巻き戻されて、17歳の三学期に放り出されていた。 しんと静まり返った、授業中の教室。僕の席は、一番うしろ。 教師が背を向けた隙を衝いて、隣の席から、白く細い腕がニュッと伸びてきた。 そこにあったのは、手の平サイズの、綺麗にラッピングされた小箱―― 「あげる」と。唇だけ動かして、その女の子は微かに笑った。 2月14日……初めて、家族以外の女性からもらったチョコレート。 あの頃は、どうして授業中に渡してくるのかと訝しんだ。 今にして思うと、他の生徒たちに見られて、からかわれたくなかったからだろう。 「きみは……まさか、薔薇水晶なのか? 隣の席だった、あの?」 彼女――薔薇水晶が、パッと表情を輝かせた。 「あはっ。やっと、思い出してくれた」 「いや、だってさ……髪とか、瞳の色が違うし……話し方だって、もっと――」 「カラーコンタクトよ。髪は、染めてるんです。 職場によっては、うるさかったりするから。地毛の色だと、敬遠されちゃって」 「……そうだったのか。参ったなあ。本当に、まったくの別人だよ」 「だから言ったでしょう? カムフラージュです……って」 論より証拠とばかりに、薔薇水晶は、右眼のコンタクトを外して見せる。 そして、あの高二の三学期と同じ琥珀色の瞳を、ひた……と、僕に注いだ。 「私はね、あの頃も、今も……いつだって、カムフラージュしているんです」 「それは、どうして?」 「本当の私は、とても臆病で、弱いから。泣き虫で、内気で、人見知りで―― ありのままの自分をさらけ出したりなんて、とてもじゃないけど…… こうして酔っ払ったりでもしなければ、無理です」 「だから、高校生のときも、ずっと眼帯を着けていたのかい?」 こくり。頷いて、カラーコンタクトを瞳に戻し、薔薇水晶は続けた。 「口数が少なくて、引っ込み思案な子は、なにかとイジメ易いんでしょうね。 小学校、中学校と、私はイジメられっ子でした。泣かない日なんて、なかった。 そんな私に、お父さまがあの眼帯をくれたんです。高校進学を機に」 「イメージチェンジか。その効果は覿面だったわけだ」 「ええ。あれを着けている間、私は別人みたいに、強く振る舞えました。 いつも、お父さまが傍に着いててくれるようで、勇気が涌いてきたんです」 高校時代の薔薇水晶は、近寄りがたい雰囲気を、常に纏わりつかせていた。 並外れた美貌と、眼帯の取り合わせが、衆目には異質で威圧的に映ったからだろう。 僕も当初は、訥々とした彼女の語り口調を、ぶっきらぼうに感じていた。 席が隣にならなかったら、きっと今も、クールな娘としか見なしてなかったはずだ。 「いいお父さんだな」 「はい。とても……私なんかには勿体ないくらい、素晴らしいお父さまでした」 「おいおい。でした……って、なんだよ。もう居ないみたいじゃないか」 「…………そうです」 「えっ?」 「お父さまは、もう居ません。三年前に……亡くなりました」 あまりの事に、言葉を失った。三年前と言えば、僕が家庭を築いた年だ。 自分が幸せに浸っていたとき、この娘は不幸に見舞われていたなんて……。 「そうだったのか。ごめん。知らなかったとは言え、辛いこと思い出させたね」 「いいんです。以前に比べたら、だいぶ胸の痛みも薄れましたから」 そう言いながらも、薔薇水晶は僕の肩に頭を凭せ、一粒だけ、涙を流した。 健気だな、きみは。僕は彼女の髪を撫でて慰めながら、胸裏で呟いた。 身内の不幸は、そんな簡単に割り切れるものじゃないだろ、と。 「悲しい気持ちまで、カムフラージュすることなんて、ないんじゃないか。 そんなに素直な自分を押し込めてばかりじゃ、本当のきみが可哀想だ」 「……ん。そう、かな?」 髪を滑る僕の手の温もりに、幾ばくの癒しがあったのかは分からない。 けれど、薔薇水晶はいつしか、うっとりと表情を和らげていた。 「じゃあ、今から思いっ切り泣いちゃっても――いい?」 「今すぐに、かい?」 「そ。いますぐ」 「ここで、か?」 つい、周りを見回してしまった。僕にも、世間体というものがある。 この状況で号泣されようものなら、誤解されること間違いなし。 僕に悪意を抱いている者が、この客の中に、いないとも限らない。 僕らの仲を邪推して、ウェブ上に、有ること無いこと書かれるかも。 そうなれば【JaM】ブランドとしても、少なからずイメージダウンになる。 どうしよう。言い訳を探す僕を横目に、薔薇水晶は、くくっ……と喉を鳴らした。 「ウソ、ですよ。ハラハラしましたか?」 また担がれたらしい。僕は口をへの字にして、小さく頭を振った。 さっき、薔薇水晶に言われたことは、案外、正鵠を得ているようだ。 繊細で多感かどうかは疑わしいけれど、他人に影響されやすいのは、確からしい。 「スリルありすぎだよ。どう逃げようか、真剣に悩んだぞ」 「ひどぉい。そこまで分別のない子供じゃありませんよ、私」 「本当かぁ? 実は、半分くらい本気だったんじゃないか?」 「半分だなんて、とんでもない。九割九分、泣くつもりでした。本気で」 「うわ……もっと質が悪いだろ、それ」 「では、交換条件といきましょうか。叶えてくれたら、泣き喚くのは止めてあげる」 「どういう恫喝だよ。ウソじゃなかったのか?」 「悲しみまでカムフラージュするなと言ったのは、貴方ですよ?」 そこで言質を取られると、二の句が継げない。もはや、破れかぶれ。 酔った勢いもあって、多少の無理難題は大目に見るつもりで、僕は訊ねた。 でも、彼女が提示した条件は、身構える必要もないくらい、簡単なものだった。 「もう少しだけ――ほんの数分で構わないから、私の頭を、ナデナデしてて」 「そんな程度で、いいのか」 「……うん。貴方の掌は、とても温かくて……心地好いから」 お安いご用だよ――と、鳶色に染められた長い髪を、優しく梳いてゆく。 僕の指先がうなじをくすぐると、薔薇水晶は「はふ」と、鼻に掛かった吐息を漏らした。 お父さま……。 薔薇水晶は、恍惚とした面持ちで、掠れた囁きを紡いだ。 もう二度と取り戻せないものへの彼女の渇望が、ありありと表れていた。 そのとき、僕の中で、同情とは違う想いが大きく膨らむのを感じた。 僕は薔薇水晶を慰めながら、彼女の耳元に囁いていた。 【JaM】の専属モデルに、なってくれないか? と。 うっすらと、彼女の瞼が開く。 けれど、それは一秒と経たず、静かに閉ざされた。 「ダメ、です」 「どうして? 一カ所には、束縛されたくない?」 「……ううん。でも……今は、ダメなの」 僕には、薔薇水晶の気持ちが、よく解らなかった。 僕のココロは17歳の少年に戻りっぱなしで、気の利いた台詞のひとつも、口にできない。 ただただ、彼女の求めるがままに、頭を撫で続けるだけだった。 つづく
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嵐竜鳳(らんりゅうほう) ドラグオラージュ VR 火文明 (5) 進化クリーチャー:ティラノ・ドレイク/エヴォル・ドラゴン 7000 進化-自分のティラノ・ドレイク1体の上に置く。 極限進化―自分のティラノ・ドレイクがバトルゾーンを離れた時、自分の墓地にあるクリーチャー1枚をそのクリーチャーの下に重ねてバトルゾーンに出してもよい。そうした場合、自分の手札にあるこのクリーチャーをその上に重ねる。 W・ブレイカー メテオバーン-このクリーチャーが攻撃する時、このクリーチャーの下にあるクリーチャーを好きな数選び、墓地に置いてもよい。そうした場合、選んだ数だけクリーチャーを破壊する。 作者:ヴァン 合作パック「さあ皆!作りたいカード作ろうぜ!」で登場した進化ティラノ・ドレイク/エヴォル・ドラゴン。 自分のティラノ・ドレイクがバトルゾーンを離れたときに、再びバトルゾーンに出して進化する極限進化を持つ。 能力はメテオバーンで、進化元の数だけクリーチャーを破壊する。 自分のクリーチャーを選ぶことができるため、多くの使い方があるだろう。 フレーバーテキストで言っていることが違うのはご愛敬。 エヴォル・ドラゴンはティラノ・ドレイクを持つミーティオフィーが進化することで手に入れるドラゴンの力。 ティラノ・ドレイクにとっては竜族の末裔として待ち望んだ力だと思います。 ただし、それには条件があり、極限までに追い詰められた時に進化することでのみエヴォル・ドラゴンになることができます。 合作パック「さあ皆!作りたいカード作ろうぜ!」 【企画】ベスト・ブラック・ボックス・パック【合作エキスパンション】 カードリスト:ヴァン フレーバーテキスト 「この力で、皆を守る!」 -《嵐竜鳳 ドラグオラージュ》- 評価 名前 コメント
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namcoモラージュ佐賀店 住所 佐賀県佐賀市巨勢町大字牛島730 モラージュ佐賀 南館1F 最寄り駅 JR佐賀駅からバスで約15分 営業時間 10 00~22 00 最終確認日 2018/12/24 設置機種 タイムクライシス4 HOUSE OF THE DEAD SCARLET DAWN DARK ESCAPE 3D その他(メンテ等) xxxxx(特記事項など。写真や感想を追加してもOK)