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WILL ◆EA1tgeYbP. ―――道は二つ。今すぐに大事な仲間二人を探しに行くのか。それとも、あの黒くでっかい太陽を奪いにいくか。 カミナが答えを選ぶのにそれほど時間はかからなかった。 「行くぜ、クロミラ。まずはガッシュとニアを探す!」 『わかりました、カミナ。しかしどちらの方向へ?』 「おう、まずはこっちに向かう!」 そう言うとカミナはグレンを南へと向けた。 ……カミナが選んだ選択肢、それはまず仲間の二人を探しにいくというものだった。 その選択肢はクロスミラージュにとって十分に予測できるものだ。カミナという男の行動理念の基本は誰かを守ることにこそあるといって良い。 そして選んだ方向は南。 あの黒い物体がある方角でもある。 あの物体にどれほどの能力があるのかまでは予想できないが、 この殺し合いに乗った人物、殺し合いを止めようとする人物がその力を手に入れようと考える、それぐらいの威圧感はある。 その集まってくる人物の中にニアとガッシュ、今ははぐれてしまっている大グレン団の仲間たちが探している人物、 最低でもその仲間が含まれていれば、カミナが彼ら二人と再会するのもそう遠いことではないのかもしれない。 ――――――だが 『カミナ、これからのことについて少し話があるのですが』 「―――ん? 何だ、クロミラ」 グレンが動き始めてからほどなく、クロスミラージュはカミナに声をかけた。 ―――そう、これから向かう先には自分達の探し人がいるかどうかは別として、ほぼ確実に他の参加者がいるだろう。 ―――しかし、殺し合いに乗っている、乗っていないに関わらずそれが自分達の知り合いである可能性はとてつもなく低い。 現状、殺し合いを否定する参加者の中ではおそらく、カミナはもっとも人脈がない。 現在生き残っている参加者の内、カミナを除いた二十名の中、直接の面識がある参加者はニア、ガッシュ、ドモン、ヴィラル、シャマル、東方不敗の六名。 しかも、そのうちヴィラル、シャマル、東方不敗の三名は殺し合いに乗っている。 ニアとガッシュがどこに飛ばされたのかわからない以上、まともな知り合いはドモン・カッシュただ一人きりと言っていい。 カミナのもとの世界の仲間であるシモン・ヨーコの両名は早期に死亡していることから、そちらの方面からの他の参加者へのアプローチというのも難しい。 ―――また仮にどちらかの仲間が生存していたとしてもだ。 ニアの存在を考えればシモンやヨーコがカミナの死後の時間軸から呼ばれている可能性のほうが高い。 話を聞くに、シモンにとってもヨーコにとってもカミナという男の存在は極めて大きいものだと推測される。 殺し合いの舞台に参加しているそんな男と同じ名前の参加者―――それを好意的に語っていた可能性は低い。 『つまり、結論だけ述べますと、ドモンとその知り合いを除く参加者からは、私たちが殺し合いに乗っていると判断されるかもしれないということです』 ぷすー、と理解を放棄しているようなぼけっとしたカミナに、いいかげんクロスミラージュも慣れたのか、早々に結論を告げる。 「あ? この俺が殺し合いに? ざっけんな! ジーハ村に悪名轟くグレン団 男の魂背中に背負い 不撓不屈の鬼リーダーカミナ様がこんなくっだらねえ殺し合いに乗るような人間に見えるってのか!」 『落ち着いてくださいカミナ。あなたが殺し合いに乗るような人間ではないということは私達が一番よくわかっています』 「あ、ああ。わかってるじゃねえか、クロミラ」 『ですが、他の参加者達にとっては私達の知り合いの少なさは、私達を疑うには十分なものです』 ……あえてクロスミラージュは声に出さなかったが、その疑いにグレンという起動兵器が拍車をかける可能性は高い。 対主催を志すメンバーの横のつながりがどれほどのものかはわからないが、そのほとんどと面識を持たず、機動兵器に乗っている男。 客観的に見れば参加者を殺しまわっている側と判断されるのは仕方がないとさえ思える。 「……じゃあ、どうしろってんだ? クロミラ」 『はい。まず、確認しておきますが第一目標がニアとガッシュを探すこと。それで間違いありませんね?』 「あったりまえだ! あの二人をとっとと見つけてやる! それが大グレン団のリーダーってもんだろ!」 『ではまず脱出を目指す他の参加者、とりわけ高嶺清麿、明智健悟この二人の知り合いを探しましょう』 クロスミラージュの言葉にカミナは不思議そうな顔をする。 「……? どうゆうことだ、クロミラ? なんでニアやガッシュを探さないんだ?」 『はい、どうしてこの二人の知り合いを探すのかと言いますと、 まず、ガッシュが転移の際に思い浮かべた人物はガッシュのパートナーである高嶺清麿である可能性が非常に高いからです。 そして、説明された彼の人柄から判断すると、脱出を目指す参加者の中心的立場にいる可能性は大きいと思われます。 つまり、彼を知る対主催の参加者はかなりいることでしょう』 「……なるほど」 『Mr.明智の知り合いを探すのも同様です。私の知る限り彼は抜け目のない人でした。 おそらく彼はその正義を曇らせることなく仲間を集い、対主催としてのグループを構築していったものと思われます。 さらにMr.明智は私と、高嶺清麿はガッシュと知り合いであることからも両者の知り合いとは比較的簡単に信頼を築くことが期待できます』 「なるほど……ってちょっと待て、クロミラ! ガッシュはそれでいいとしてもニアのほうはどうするってんだ!」 『はい、ニアに関してなのですが……彼女がどこに転移したのか今は判断できません』 高嶺清麿が生きているガッシュと違い、ニアの元々の知り合いは二人ともすでに死亡している。 シモンやヨーコの元に飛んだのか、それとも彼女がこの舞台で最初に出会ったというドーラという女性の元か、 はたまた今は亡きシモンの愛機であったというラガンという機体の元か。 予想するのは難しい。 「じゃあ……」 『ですから今は知り合いを増やすことが重要なのです。先ほども説明した通りニアは今後必要となる存在です。 そのことが伝われば、いたずらに彼女を傷つけようとするものはいないでしょう』 「……とりあえず、他の奴らにであわねえ事にはどうしようもねえってことか! よし、急ぐぞクロミラ!」 クロスミラージュにはもう一つカミナに告げることがあった。それはカミナが出会った参加者が殺し合いに乗っていた場合の注意である。 つい先ほどまでなら殺し合いに乗った参加者がカミナに出会えば、あの東方不敗のように襲い掛かってくるだけだろう。 しかし今のカミナにはグレンがある。 ならば、どうにかして奪おうと言葉巧みにカミナに近づく者もいるかもしれないのだ。 そしてカミナの性格からしてその手の搦め手に対する耐性は低い。 注意しておくに越したことはない。 『カミナそれと……』 「うおおおおお! っとなんだありゃ?」 だが、クロスミラージュがカミナにそのことを注意しようとした時、唐突にカミナはグレンを停止させた。 『カミナ、どうしたのですか?』 カミナの視線は川の向こうに延びている。 さらにその視線を追っていけば、その先には一軒の民家があった。無論、一軒だけぽつん、と民家があるといったわけではない。その周りにも民家はある。 だが、その民家は明らかに他とは様子が違っていた。 何かそこそこの大きさの鉄球でも直撃したかのように屋根が破壊されているのだ。 ―――付近の民家などにはさして影響がないところを見ると、その民家に潜んでいた何者かに別の参加者が襲撃を仕掛けた、といったところだろか。 『あの建物が何か? おそらくは何者かの襲撃があった後のようですが』 「おうよ! 確かにあそこはボッロボロだ。だがなクロミラ、だからこそ誰かが隠れるのにはちょうどいいんじゃねえか?」 ……それは先ほどの図書館の一件と同じ発想の転換だった。 確かに一度襲撃があったところを隠れ家にするといった発想は、自らの命がかかっているこの場ではなかなか出てこないものである。 もし仮に、あそこに隠れている参加者がいて、信頼関係を結ぶことができたなら後々他の対主催のグループに接触する際にこちらを信じてもらう有用な手札ともなる。 位置的にもそれほど遠回りにはならない以上、調べておくにこしたことはない。 『あちらでしたら調べるのにもそれほど時間はかからないでしょう、行きますか、カミナ?』 「おうともよ!」 宣言するとともにカミナは進行方向を南東へと変化させる。 それほど大きくないとはいえ橋はグレンの巨体をしっかりと受け止めた。 (……これなら全速力の移動でも橋が落ちるということはなさそうですね) クロスミラージュはそんなことを考える。 さすがにグレンの機動力は徒歩とは比べ物にならない。 十分とかからず、破壊された民家の前までたどり着く。 「おーい、誰かいねえのか!」 『……カミナ、それでは隠れているものが出てこようとは思わないのでは』 クロスミラージュは、いきなり大声で呼びかけるカミナを止める。 もちろん、民家の中から反応はない。 『……誰もいないのかもしれませんね』 「……ち、はずれか。けど、まあ一応調べてみっか!」 『……え? あ、カ、カミナ?』 いうが否やカミナはグレンのコックピットから飛び降りると、壊れた屋根から民家へと侵入する。 ……果たしてそこに参加者はいた。 いや、参加者だったものがいたというべきだろうか? 屋根から飛び降りたカミナが見たものは、部屋に転がっている腹と頭の二箇所に穴をあけ床を真っ赤な血で汚す一人の少年の遺体だった。 「……ち、胸糞わりいもん見つけちまった」 ぽつり、とカミナはつぶやいた。 こんなものが転がったままにしてある以上この民家にはおそらく人はいない。 埋葬してやりたいのはやまやまだったが、今はそれほど時間があるわけでもない。 カミナが死体を背に民家を出ようとした時だった。 『……待ってくださいカミナ』 クロスミラージュがカミナを止める。 「何だ? クロミラ」 カミナにすぐに返答せずに、クロスミラージュは今一度すぐ傍にある死体を観察する。 ……部屋は荒れていてデイパックなどはない。 ……銃創は腹部と頭部に一発ずつ。 ……死因は頭部への一発。 ……左手はその頭を庇おうとしたのか顔の横で力なくたれ、右手は胸を押さえている。 ……他に目立った外傷は右耳の破損。ただしこれは処置済みであり、かなり前に受けたものと判断。 ……そして。 「おい、どうしたっていうんだよ?」 なかなか返事をしないクロスミラージュにカミナはもう一度声をかけた。 『……カミナ』 「おい! 一体なんだっていうんだよ、クロミラ!」 そうしてカミナにクロスミラージュは告げる。 ―――機械として、冷酷な事実だけを。 『……カミナ、この少年の名前はおそらく高嶺清麿だと思われます』 「……おい」 『血の固まり具合から判断して彼が撃たれてからそれほど時間はたっていません。また、彼の服装などから彼が日本の学生であることなどもすい……』 「クロミラ!」 カミナの声を無視してクロスミラージュは言葉を続ける。 ……これは言っておかなくてはならないことだから。 『そして何より彼の顔立ちです。ガッシュから説明を受けた高嶺清麿の特徴とほぼ一致します』 「クロミラぁ!」 カミナはクロスミラージュを床に叩きつけた。 (……これもなんだか久しぶりですね) 「わかってる、わかったんだよ! こいつがガッシュの探していた奴だって事は! でもよ、俺はガッシュと約束したんだ! 高嶺清麿とガッシュを再会させてやるってな! それなのに、くそっ! 俺はどんな顔をしてガッシュに会えばいいんだよ!」 これでカミナは二度約束を守れなかった。 一度目は他ならぬクロスミラージュとの約束、結局あの時も彼はティアナ・ランスターとクロスミラージュを生きて再会させることはできなかった。 (……情けねえ、俺は自分が情けねえ!) 『……カミナ』 「……行くぞ、クロミラ。他の奴を探さないといけねえ」 力なく、カミナはクロスミラージュを拾い上げる。 「悪いな、後でもっかいここに……」 『……? カミナもう少し待ってください』 「クロミラ? まだなんかあるってのか?」 民家から出て行こうとしたカミナを再びクロスミラージュは止めた。 もう一度高嶺清麿の死体を観察する。 (……なんでしょうか? 何か大きな違和感が) 自分でもカミナを止めたのはとっさのことだった。 カミナが出て行こうとした瞬間、なんだかわからないが大きな違和感に突き動かされカミナを止めていた。 改めて見直しても死体に変なところは見当たらない。 耳の外傷は清麿がそれなりの修羅場を潜り抜けてきた証であろうし、腹部と頭部への銃創は腹部を撃って動きを止めてから、頭部へとどめの一撃を加えたということだろう。 おかしなところは何も…… (……待て! 腹部と頭部への銃創? なら何故?) はっと、クロスミラージュは気がついた。 そう、清麿は腹部と頭部の二箇所を撃たれているのだ。 ならばどうして彼は 胸 を 押 さ え て い る ? 『カミナ! 清麿の胸のあたりをよく調べてみてください!』 「ど、どうしたんだよクロミラ?」 『いいから早く、お願いします!』 クロスミラージュの言葉にカミナは慌てて清麿の胸のあたりを調べる。 ……ポケットには ―――なにもなし ……彼が押さえていた手の下には ―――血でかかれていた文字があった。 『ダイイングメッセージ……これは、カタカナのニでしょうか。 それともル? あるいはノと続きを書こうとしたところで力尽きた?』 クロスミラージュはつぶやいた。 おそらくは清麿が腹部を撃たれてから頭部を撃たれるまでの短い時間に、必死になって彼が残したメッセージだ。 意味のない言葉を残すはずがない。 ただ、瀕死の状態で書かれたせいか縦書きか横書きか判別しにくく、なおかつ字が震えているために読みにくい。 それでも字のバランスや線の長さから判断すれば、おそらくは正中線に対して平行に書かれているのであればカタカナのル、もしくはノと何か。 正中線に対して垂直にかかれているのならば、カタカナのニと判別できた。 『おそらくは自分を襲撃したものの名前なのでしょうが……』 「……なあ、クロミラ」 『何でしょう、カミナ』 考え込むクロスミラージュにカミナは声をかけた。 カミナにとっては清麿の残したダイイングメッセージはまるでわけがわからないものだった。 「……なんでこいつはこんな、えーっとダイニング? なんちゃらなんてもんを残したんだ?」 『ダイニングではなくダイイングです、カミナ。それはともかくどうしてとは?』 「だってよ、クロミラが言うとおりこいつを襲ったやつの名前がわかったからって何の意味があるっていうんだ? こいつがここで突然襲われたってことはだ、襲ってきた奴も問答無用って事だろ?」 カミナの言葉でクロスミラージュは気がついた。 ここは推理小説の舞台ではない。 ダイイングメッセージで犯人の名前がわかったところで警察が犯人を捕まえてくれるということはない。 ならば何故、清麿はそんな意味のないことをしたのだろうか? 『……カミナ。可能性は二つあります』 「お、なんかわかったのか?」 『ええ、おそらく清麿の残したダイイングメッセージは犯人の名前を告発したもので間違いはないでしょう。 ではどうして彼はそんなメッセージを残したのでしょうか? 可能性の一つは奪われるであろう自分の支給品がどのようなものか他者に知らせることが目的であるというものです』 「……どういうことだ?」 頭に?マークでも浮かべていそうなカミナにクロスミラージュは言葉を続ける。 『彼が問答無用に襲われた場合。どうして彼は犯人の名前がわかったのでしょうか? 襲撃犯が親切にも教えてくれた? そんな可能性よりも清麿が持っていた支給品が、私達が持っているものとは比べ物にならないくらい精度の高い、 顔写真やプロフィールなども記されたアイテムであった、と考えるのが自然です」 「なるほどな」 『そしてもう一つの可能性……それは』 ここで少しだけクロスミラージュは言い淀んだ。 この可能性が正しい場合、彼の発言は大グレン団の仲間を疑っていると受け取られてもおかしくない。 「……それは? ってクロミラ、もったいぶるなよ」 カミナの促しにクロスミラージュは言葉を続ける。 『……はい、もう一つの可能性、それは清麿を殺害した犯人が集団に潜み、油断したところで気付かれないように殺害していく、そんな暗殺者じみた参加者である可能性です』 そしてカミナにクロスミラージュは続ける。 『そして、彼の残したダイイングメッセージから判断して高嶺清麿を殺害した犯人として可能性が高いのは ニコラス・D・ウルフウッド あるいは ルルーシュ・ランペルージのどちらかです』 「……クロミラ」 クロスミラージュが言い切った瞬間、カミナはこの男には似つかわしくないくらい冷たく低い声を出した。 「……クロミラ、てめえわかっているのか?」 『わかっています、カミナ。ルルーシュ・ランペルージはニアの話の中に出てきた彼女の仲間だと』 「いいか! ニアは俺達大グレン団の大事な仲間だ! そのニアが仲間だって言ってる以上、ルル―シュってやつも仲間なんだよ! クロミラぁ! てめえは仲間を疑うって言うのか!?」 そんな怒りをあらわにするカミナにクロスミラージュは言葉を続ける。 『……カミナ。かつてあなたは私に言いました。自分の目で確かめたことしか信じない、と』 「……ああ」 『確かにニアはあなたが信じたあなたの仲間だ。しかし、ルル―シュという人物をあなたは確認してはいない。 さらにはルルーシュがニアにとって仲間であるように、ガッシュにとって清麿は仲間だったのです。 その仲間が死ぬ間際に、必死になって残した言葉をあなたはそんな決め付けで無意味なものにしようと言うのですか?』 クロスミラージュの言葉にカミナは押し黙った。 先ほどの反発にせよ、カミナの反論は感情的なものだ。自分の大事な仲間が別の仲間を疑う。 仲間の裏切りは人一倍仲間思いであるカミナには許せない。 だが、どうすればいいのだろうか。どちらも間違ったことを言っている様には思えない以上、リーダーたる自分が何とかしなくてはならないのに。 『……カミナ』 「…………ああ」 『今のは少し言い過ぎました。まだ、ニコラス・D・ウルフウッドが犯人である可能性もあります』 「……クロミラ」 『ですが、ルルーシュが犯人である可能性も同じくらいあるのです。この先両者に出会った際、その事を忘れないように行動してください』 「あ、ああ……よし! ルルーシュがどんな奴なのかこのカミナさまがこの目で見極めてやらあ! 行くぞ、クロミラ! ガッシュの奴にはつらい……ってあああああ!」 唐突にカミナがあげた大声にクロスミラージュは反応しなかった。 何せ彼もつい今しがたまで忘れていたのだ。 おそらくは高嶺清麿の元へと転移したであろう彼らの仲間ガッシュのことを。 「お、おいクロミラ! ガッシュの奴はどこ行ったんだ!』 『……お、おそらくは清麿の死体をみつけ、いえ、私達が転移したのが放送直前だったことからも殺害直前、あるいは直後にここへ来て……そのまま犯人を追いかけた?』 「ってそれはやばいんじゃねえのか!」 『犯人がどちらのタイプにせよ躊躇することなくガッシュへと襲い掛かるかと!」 慌てて民家から飛び出すとカミナはグレンへと飛び乗った。 「行くぜ、クロミラ! 急いでガッシュを追いかける!」 『カミナ、行く先に検討はついているのですか?』 「あったりまえだ! 殺し合いに乗ろうなんて心の弱い野郎があんなでっかいもんに向かっていけるわけがねえ! って事はその逆! こっちに向かっていったに違いない!」 そういうや否やカミナはグレンをこれまでの進行方向とは真逆の方向、北へと向ける。 「いくぞ! うおおおおおおおおっ!」 ……彼は知らない。1エリア東には彼の想い人、その死体が眠っていることを。 ……彼は知らない。探し人も下手人もこれまでどおり南へ向かっていればもうじき出会っていたということを。 ……彼は知らない。やはり南のほうに進めば彼とその相棒の思いの結晶、グレンラガンの頭部たるラガンに乗った彼の宿敵がいることを。 ……かくして彼は走り出す。 仲間の姿を求めて、彼のことを最後まで思い浮かべたであろう死者の最後の想いを胸に。 【C-6/民家前/二日目/午前】 【カミナ@天元突破グレンラガン】 [状態]:精神力消耗(小)、疲労(中)、全身に青痣、左右1本ずつ肋骨骨折、左肩に大きな裂傷と刺突痕(簡単な処置済み) 頭にタンコブ、強い決意、螺旋力増大中 [装備]:グレン@天元突破グレンラガン、クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ0/4) 折れたなんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん バリアジャケット 【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】 アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO バッカーノ!、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ [道具]:支給品一式(食料なし)、ルールブレイカー@Fate/stay night [思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。 0:ニアとガッシュを探しに行く 1:ニアとガッシュは大グレン団の兄弟だ。俺が必ず守ってみせらぁ! 2:チミルフだと? 丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら! 3:ショウボウショの北にラガンがあるんだな……? ガッシュを見つけたらよってみっか…… 4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す! 5:ドモンはどこに居やがるんだよ。 [備考] ※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。 ※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。 ※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。 ※シモンの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。 ※ヨーコの死に対しては、死亡の可能性をうっすら信じています。 ※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては 警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。 ※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。 ※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。 禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。 ※会場のループを認識しました。 ※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。 しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。 ※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。 ※ガッシュの本を読むことが出来ました。 しかし、ルールブレイカーの効果で契約が破棄されています。再契約できるかは不明です。 ※ニアと詳細な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。 ※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。 ※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。 ※カミナのバリアジャケットは、グレンラガンにそっくりな鎧です。 ※東方不敗の螺旋力に関する仮説を聴きましたが、理解できていません。 ※グレンを入手しました。エネルギーなどが螺旋力なのはアニメ通り。機体の損傷はラガンとの合体以外では自己修復はしません。 ※ニコラス・D・ウルフウッドこそが高峰清麿殺害犯だと考えています。ただしルルーシュ・ランペルージに関しても多少の疑いは持っています。 【クロスミラージュの思考】 1:カミナの方針に従い、助言を行う。 2:明智が死亡するまでに集ったはずの仲間達と合流したい。 3:東方不敗を最優先で警戒する。 [備考] ※ルールブレイカーの効果に気付きました。 ※『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。 ※各放送内容を記録しています。 ※シモンについて多数の情報を得ました。 ※カミナの首輪が禁止エリアに反応していないことを記録しています。 ※東方不敗から螺旋力に関する考察を聞きました。 ※螺旋力が『生命に進化を促し、また、生命が進化を求める意思によって発生する力』であると考察しました。 ※螺旋界認識転移システムの機能と、その有用性を考察しました。 ○螺旋界認識転移システムは、螺旋力覚醒者のみを対象とし、その対象者が強く願うものや人の場所に移動させる装置です。ただし会場の外や、禁止エリアには転移できません。 ○会場を囲っているバリアが失われた場合、転移システムによって螺旋王の元へ向かえるかもしれません。 ※転移システムを利用した作戦のために、ニアの存在が必要不可欠と認識しています。 ※他の参加者に出会ったときの交渉はまず自分が行おうかと考えています。 ※ルルーシュとニコラスの両方を疑っています。参加者の詳細名簿をどちらかが持っていた場合、そちらが犯人だと思うでしょう。 時系列順に読む Back 最愛ナル魔王サマ(後編) Next フォーグラー決死圏、心打つ者 投下順に読む Back 最愛ナル魔王サマ(後編) Next 天のさだめを誰が知るⅠ 262 アイが呼ぶほうへ side-A カミナ 274 宿命の対決!グレン V.S ラガン(前編)
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清空線 路線データ 区間・路線距離(営業キロ): 日守大通〜能美 48.25km 軌間:1067mm 駅数:5 旅客駅:5 日守大通〜有賀間23.75km 複線電化 有賀〜能美間24.5km 単線非電化 有賀〜能美間のほとんどは美花トンネルで、特急列車のみが運行する。 歴史 第5回 在野〜日守間凍華大橋線として開通 第6回 日守大通−日守間開通。日守大通−在野間旅客運行開始。 第12回 在野-有賀-能美間全線開通。特急ブルーミラージュ試運転。 駅一覧 日守大通(ひのもりおおどおり) 日守(ひのもり) 在野(ありしの) 有賀(あるが) 能美(のうみ) 採用車種一覧 209系(スカイブルー) 特急ブルーミラージュ 283系 フリーきっぷについて 当路線は有賀〜能美間で特急のみの運行であるため、一部フリーきっぷで特急「ブルーミラージュ」の普通車自由席にご乗車になれます
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効果モンスター/レベル1/光属性/戦士族/攻撃力0/守備力0 1ターンに1度、このモンスターをリリースすることで、 自分の墓地に存在する「モーメント・ミラージャー」以外の 「モーメント」と名のつくモンスター1体を 自分フィールド上に特殊召喚する。
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オプティカルカモフラージュ/ Optical Camouflage マナコスト (3) タイプ アーティファクト レアリティ アンコモン オプティカルカモフラージュを生贄に捧げる:あなたがコントロールするパーマネント1つを対象とする呪文か起動型能力1つを対象とし、それを打ち消す。 参考 カードセット一覧/東方地霊殿
https://w.atwiki.jp/aaarowa/pages/388.html
デッキブラシ 掃除に使う道具。 信じれば、飛べるはずさ! ※以下、ロワ内でのネタバレ +【アイテム追跡メモ】 【アイテム追跡メモ】 [支給された参加者] ミラージュ [所有者] ミラージュ(7話) ↓ ビウィグ(7話、44話、68話) ↓ ロキ(68話、79話、100話) ↓ クラース(100話、101話(前)(後)、105話(前)(中)(後)、112話) ↓ フェイト(112話、120話(前)(後)、126話(前)(後)) ↓ ? [メモ] 44話でミラージュがビウィグに奪われる。 68話でビウィグがロキに殺され、ロキが回収。 100話でクラースがロキから逃走する際に盗んでいく。 112話でクラースからフェイトに手渡される。 126話でフェイトの手を離れてD-05南部エリアから南西の方角へ飛んでいった。 ある意味キュア・ブラムスを生み出したアイテム。 支給品一覧に戻る
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金獅子ラージャン (コンジシラージャン) モンスター・星9・光 獣族・融合/効果 攻撃力3000/守備力2000 「破壊と滅亡の申し子」の効果でのみ融合召喚することが出来る。相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃をする事ができる。このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が越えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。このカードが相手プレイヤーに1000ポイント以上の戦闘ダメージを与えた時相手の手札を一枚ランダムに捨てる。
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ミストラル軍に入隊したいとご希望の方は、コメントへお願いします。 また、コメントしたとしても、必ずしも入隊できる訳ではありませんので、ご了承ください。 例 ゲーム内の名前 tatuvb 中尉 ぜひ入りたいです ゲーム内の名前と階級 1つ言葉をそえてください カズキzx 中尉 また戻りたいです -- カズキzx (2009-12-28 11 58 12) カズキzxさんならいつでも歓迎致します。一度雑談所に出向いてください。 -- STー1 (2010-01-05 22 51 00) LUIGE 中尉 もう一度戻りたいです -- L (2010-09-19 17 56 21) ミラージュナイト 中尉 また入りたいです -- ミラージュナイト (2010-09-20 10 02 20) LUIGEさん、ミラージュナイトさん。ログインできる日時を雑談所にお願いします。 -- STー1 (2010-09-20 23 31 02) 名前 コメント
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誓うカミナ ◆DNdG5hiFT6 「あー……つまり、お前は自分で考えられるガンメンみたいなモンだってワケか」 E-3、高速道路上に一人の男が胡坐をかいて座っている。 男の名はカミナ。獣人たちに対抗する組織“グレン団”のリーダーにしてガンメン“グレン”のパイロットでもある男。 さて、そのカミナが今現在何をしているかというと、これでもかというほどに眉間にしわを寄せている。 一見何をしているのか分かりづらいが彼は頭を使っていた。近年、稀に見るほどに。 『はい。貴方にとってはその認識が一番近いものと推測します、Mr.カミナ』 人影が無いにもかかわらず、カミナとは違う声が響く。 その声の主はカミナの正面に落ちている手のひら大の銀色のプレート。 待機モードに入ったデバイス・クロスミラージュであった。 約1時間前、ギリギリのところで“高町なのは”へと偽装したティアナを倒したカミナ。 だが倒したはずの女の姿は変わるわ、しかもその女の制服はやっぱり自分を襲ったのものと同じだわ、極めつけには板が喋るわで、 『俺にはさっぱりわからねえ!』と混乱の極みに陥った。 一方で事情を説明するクロスミラージュもどう説明したものかと迷っていた。 話しかけてはみたものの、ここまで驚かれるとは思っていなかった。 最初に出会ったMr.明智が非常に理知的な反応を返してくれたので忘れていたが、この世界に召喚された人間の中には文明レベルが低い者もいるのだ。 そんな相手に対して魔法やデバイス、平行世界や時空管理局など専門用語の飛び交うことを理解させるのは、 四則計算を覚え始めた相手に対し微分方程式を教えるより難しいことであろう。 だがしかしクロスミラージュは決意する。 主のため、機動六課のため、目の前の男と意思疎通を図ろう、と。 そして――その結果がこれである。 元々カミナのいた世界は人間の文明レベルがあまり高くない。 それに加えカミナ自身が物事を感覚と直感で理解するタイプであったため、 互いの認識の溝を埋めるため、相当な時間と労力を要したのだった。 (しかしまさか、ここまで苦労するとは……) 意外なところで異文化コミュニケーションの難しさを思い知ることとなったクロスミラージュ。 だがデバイスの地道な努力の甲斐あって、何とかある程度の相互理解を得ることに成功したのであった。 『私のマスターであるティアナ・ランスターと共に時空管理局――人を守るための組織に属していたというわけなのです』 「オイオイ、だったら何でいきなり襲ってきやがった」 『先程までマスターは錯乱状態にありました。恐らくはその原因は……仲間の死なのです』 “仲間の死”――その言葉にカミナの表情が変わる。 『私も先程再会したばかりで詳しい事情は聞けていませんが、 マスターは眼前で妹のように思っていた少女を殺されたようです。 その際に恐らくは……ショックを受けて、錯乱してしまったのではないかと推測します』 放送でシモンが死んだと聴かされた時の感情が甦る。 あの時、自分は『シモンを殺したのが自分達を襲ってきた女かもしれない』と思ったときどうしようとした? 時間がある程度たった今なら冷静に思い返せる。 ――ああ、俺は確かにあの女を殺そうとした。 結局思いとどまったが、首へと手を掛けるところまでいったのだ。 もしもあの時激情に身を任せていたら、自分も“ああ”なっていたかもしれない。 そう考え、未だに倒れている少女へと憐憫を含んだ視線を向ける。 (あん時いきなり襲ってきた女が目の前でシモンを殺してたとしたら、俺もお前みたいになってたのかもな…… ……ってオイ、それだとおかしくねえか?) そう、それだと筋が通らない。 だったら何故、“彼女”はこっちを襲ってきたのだ? 「おい、俺は放送より前にもう一人茶色い服を着た女に襲われたんだが、それはどう説明するってんだ?」 『!?』 見るからに動揺する銀の板。 カミナという男は馬鹿ではあるが、決して嘘をつく人間ではない。 それがクロスミラージュが一時間に及ぶ会話で分析したカミナのパーソナリティだ。 つまりもう一人、錯乱したマスター以外にこのゲームに乗ってしまった六課の女性がいる。 いや、良く似た服を着た他人という可能性もまだ捨てきれない。まずは冷静に情報を集めなければ。 そう判断し、クロスミラージュは会話を進める。 『その女性の名前などは聞きましたか?』 「さあな。名前を聞く前にヴィラルって獣人野郎とどっか行っちまったよ。 外見は――確かこんぐらいの金髪で、耳にこんなわっか着けてやがったな」 『……!』 クロスミラージュはその条件に該当する人間を一人知っている。 この場に唯一召喚されたヴォルケンリッター・湖の騎士シャマル。 勿論、似たような服を着て、似たような格好をしている別人かもしれない。 何か事情があって、背格好の似た人物が服を奪ったのかもしれない。 だが機械としてのクロスミラージュは冷徹に判断を下す。 この戦場でシャマルと似た個体に遭遇する確率はきわめて低い、と。 そして彼女が同様に参加させられた主・八神はやての存命のためにゲームに乗ってしまう可能性を否定し切れなかった。 『……悲しいことですが、このゲームに彼女は乗ってしまったのかもしれません。 ですが、機動六課のメンバー全体がそうというわけではありません。 どうか、それだけは信じてください』 「……悪いが俺は自分の目で見たものしか信じねえ。お前がどう言ってもそれだけは譲れねえんだ」 カミナの言うことは正論だ。 機動六課の制服を着たものが彼を襲ったのは恐らく事実。 それと同じ服を着たものが同類ではないなどと、どうして証明できよう。 せめてマスターを見逃してもらえるように説得すべきだろう。 そう考えクロスミラージュは電子音声を紡ぎ出そうとする。だが―― 「だがな、俺にはお前が嘘を言ってるようにも思えねえ」 『!!』 カミナの顔には不敵な笑みが浮かんでいる。 シモンが信じ、ヨーコが惹かれた男の笑みだ。 「だからとりあえず……ティアナつったか、あの女と暫く行動して、それからお前の言葉がホントかどうか見極める! ……それでいいんだろ?」 『……! は、はい!』 ――捨てる神あれば拾う神あり 整備課のシャーリーがいつか話していた、高町教官の世界のことわざだ。 Mr.明智が最初に出会ったロイ・マスタングや先程までのマスターのようにゲームに乗ってしまった人間も確かにいる。 だがMr.明智や目の前のこの青年のようにこんな場所でも“正義”をもって行動する人間も確かにいるのだ。 彼の力を借りればマスターもきっと―― 『Mr.カミナ。マスターのことを……お願いします』 「おうよ、任せとけ! 後な、その“みすたー”はいらねえ。俺はグレン団のカミナだ!」 『了解しました、カミナ!』 * * * まだ、まどろみの中にある意識の中で思い出す。 私は“高町なのは”ではなかったのだ。 管理局のエース・オブ・エース。決して負けない、決して道を間違えない強い人。 彼女なら絶対に間違わない――そうやって弱い私はあの人にまで責任を押し付けようとしたのか。 どこまで私は――ティアナ・ランスターという人間は堕ちれば気が済むのか。 どこまで間違いを重ね、道を踏み外すせばいいのだろう。 ああ、そういえばクロスミラージュには酷い事をしてしまった。 さっきは偽者扱いまでしてしまった。そんなはずはないのに、それは私が一番わかっているのに。 まず、クロスミラージュに謝らなきゃ…… そして視線を泳がせた私の元に飛び込んできたのは、 『Mr.カミナ――お願いします』 さっきまで戦っていた男を頼っているクロスミラージュの姿だった。 その光景を見て、ぼんやりとした頭で理解する。 ああ、そうか――私は見捨てられたのだ。あまりにも頼りなく、不甲斐ないせいで。 なんて無様なんだろう。 目の前でキャロを死なせ、六課のみんなを守るために殺すと決めたのにそれもかなわず。 更にはすべての責任を尊敬するなのはさんに押し付け、そして踏みにじった。 こんな人間……デバイスに見捨てられるのも当然だ。 私に最早クロスミラージュを手にする資格はない。 いや、それどころか6課のみんなとも顔を合わせるわけにはいかない。 一刻も早く、ここから消えてしまいたい。 「おうよ、俺に任せとけ!」 『ありがとうございます、カミナ』 会話の内容は途切れ途切れにしか聞こえないが、どこと無くクロスミラージュも嬉しそうではないか。 その姿を見るのが辛くて視線を逸らす。 その先に広がるのはまるで私の今の心みたいに無機質な灰色の壁。 だけど無限に続くかと思われたその壁に一つだけ、青い世界が広がっている場所があった。 * * * 「よし、そうと決まれば今後の方針ってやつを話し合うか。 俺はとにかくシモンとヨーコを探したいんだが……特に目標地点があったわけじゃねえからな」 『シモン? ですがその名前は……』 「前にも言ったろ? 俺は自分の目で見たものしか信じねえってな!」 『……わかりました。私達もあなたに従いましょう。 人を探すのならば11時までに駅に向かったほうがいいでしょう。 Mr.明智ならばきっと協力してくれるはずで――』 だがその時、爆発音がクロスミラージュの言葉をさえぎった。 大気を震わせる爆音にカミナは手元にあった剣を掴み、周囲を警戒する。 『カミナ、爆発に付随すると思われる魔力を検知しました! この壁の向こう側です! 距離はそれなりにあるのでこちらを狙ったものではないと思いますが……』 クロスミラージュの警告に視線を向けるとそこには高速道路脇を防護するコンクリート壁が広がっている。 継ぎ目無く視界をふさいでいる上に、それなりの高さがあるため少なくともカミナの周辺では爆発地点を視認出来そうも無い。 「おい、マリョク……ってことは“キドウロッカ”となんか関係があるのか?」 『稀にですが生まれつき魔力を持ったものもいるので一概にそうとはいえませんが……可能性は有ります』 「よっしゃ! じゃあまずはそこに向か……って……」 だがそこで立ち上がろうとしたカミナがふらつき、膝を突く。 クロスミラージュはそこでようやく思い出した。 この青年は一見ピンピンしている様に見えるが、あれほど大量の魔力弾を喰らったのだ。 どんな頑丈な人間だろうと無傷などということはありえない。 『……カミナ、どこか安全な場所での休息を推奨します。そのままでは先にカミナが参ってしまう』 「なに、心配すんな。無理を通して道理を蹴っ飛ばすのがこの俺カミナ様! そしてグレン団の心意――」 言葉を途切れさせるカミナ。 その態度を不審に思ったクロスミラージュが視線の先へ視覚素子を追わせると そこには――幽鬼の様に脚を進めるティアナの姿があった。 その先にあるのは、かつてヴィラルが持っていた爆弾で作り出した巨大な穴。 『マスター!?』 クロスミラージュの目的語も、動詞すら無い呼びかけ。 だがその声にティアナは虚ろな笑みを返し――空中へと身を躍らせた。 カミナが急いで駆け寄るも、既に少女の身体は海中に没しており、水飛沫の残滓だけが見て取れた。 「ちっ、あの馬鹿野郎! お前、しっかり捕まってろ!」 ――下が水なら死にはしねえ! そう判断したカミナはディパックを引っつかみ、クロスミラージュを首にかけ、壁の穴に向かって跳躍した。 『待ってくださいカミナ!』 クロスミラージュの制止を無視して、跳躍、海中へ飛び込んだ。 確かにこの程度の高さであれば、下が水ならば死にはしないだろう。 だがカミナには誤算があった。彼は――海を知らなかったのだ。 「ぬっ、がぁあああああああああああああ!!」 カミナは着水した瞬間、左肩に走る焼け付くような痛みに絶叫を上げた。 当然だ。まだ生々しい傷痕を塩水に浸ければその結果は火を見るより明らかだ。 文字通り傷口に塩を練りこむような激痛にパニックを起こす。 更に無駄に暴れたことによって口や鼻から海水が入り込み、焼け付くような感覚がカミナを襲う。 「!!??! ぐぁがばっ!? なん、だ、こりゃ! しょっぺえぇぇえええ!」 パニックと海の二重連鎖によってどんどん深みにはまっていく。 ――状況は最悪であった。 そんな彼の胸元にいるクロスミラージュは焦っていた。 まさか彼が海を知らないとは思わなかった。 確かに海の無い世界というのも多々ある。 『カミナ! 大丈夫ですか、カミナ!』 返事は無い。つまりただの問いかけではパニックの最中のカミナには届かないということだ。 こうなれば一か八かの賭けに出るしかない。どうせカミナが溺れてしまえば自分も海の藻屑なのだ。 『カミナ、所詮その程度なのですか。 それであなたは――顔向けが出来るのですか!』 その瞬間、カミナの脳裏に浮かんだのは自分の後ろを付いて来た気弱で大人しい――だが彼が誰より信じる男の姿。 小さな背中を思い出したその一瞬、カミナは冷静さを取り戻す。 意地と根性で痛みを抑え、目に付いた柱のようなものに向かって全力で手足を動かす。 そして何とか柱のようなもの――高速道路の橋脚に手をかけることに成功する。 肩の痛みは海の中にいる以上どうしようもないが、どうやら溺死だけは免れることが出来たらしい。 左肩の痛みに歯を食いしばりつつ、周囲を見回す。 だがそこに少女の姿は無い。 どうやら周囲は幾つもの水路が合流するゆえか流れが速いらしく、既に遠くへ流されてしまったらしい。 「くそっ……どこへ流されちまったんだ……すぐに助けにいかねえと」 『いえ、あなたが溺れてしまっては元も子もありません。 ……とりあえず陸地に上がっての休息を推奨します』 「ハ、無茶は承知よ! 今追いつかねえと……」 『その身体で追いついて、二人して溺れるつもりですか!』 初めて聞く、声を荒げるようなクロスミラージュの声にカミナは言葉を引っ込める。 『流れが速いということは何処かに流れ着いている可能性も高いということです。 ……そう信じて、今は陸地に上がりましょう』 そうだ、本当に辛いのは自分よりもパートナーを見失ったクロスミラージュなのだ。 例えば自分が身動きできなくなって、目の前でシモンやヨーコと別れざるを得なくなった時に、 さっき出会ったばかりの赤の他人を心配できるだろうか? ――いや、出来ないだろう。 変わらずに無機質に光る銀色の板。だがカミナはそれに歯を食いしばって耐える“漢”の魂を感じた。 それにクロスミラージュの言うとおり、激痛は身体を苛み、疲労と相まって意識が飛びそうになっている。 いつも通り道理を蹴っ飛ばそうにも――あまりにも力が足りない。 「……すまねえ」 自分の力不足に奥歯を噛み締める。 だがカミナはただ“くやしい”で終わらせない。 壁があるならば気合で突き抜けるのがグレン団、そしてカミナの生き様だ。 「……もう一度だ」 『え?』 「俺が必ずお前とあの女をもう一度会わせてやる! これは――男と男の約束だ!」 カミナの言葉に根拠は無い。 この広い殺戮場で同じ相手に二度再び会える確率は極めて低いといっていい。 だが、クロスミラージュはカミナの瞳に決意の色を見る。 その輝きはかつて、己のマスターが、六課の仲間達が持っていた決意と良く似ていた。 だから信じてみようと思った、この男を。不屈の勇気を持ったこの男を。 『……お願いします、カミナ』 「おう、俺を信じろ!」 そう答えてカミナは陸地に向かって泳ぎだした。 今にも気絶しそうな精神を“約束”の二文字で奮い立たせて。 【E-3/海上/1日目/昼】 【カミナ@天元突破グレンラガン】 [状態] 精神力消耗(大・気絶一歩手前) 体力消耗(大)、左肩に大きな裂傷(激しく動かすと激痛が走る) [装備] なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん [道具] 支給品一式、ベリーなメロン(3個)@金色のガッシュベル!!(?)、ゲイボルク@Fate/stay night クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ3/4 1/4) [思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。 0:とりあえず陸地へ泳ぐ(どの方向へ向かうかは次の書き手さんにお任せします) 1:ティアナを探す 2:ヨーコと一刻も早く合流したい 3:グレンとラガンは誰が持ってんだ? 4:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す! [備考] ※グレンとラガンも支給品として誰かに支給されているのではないかと思っています。 ※ビクトリームをガンメンに似た何かだと認識しています。 ※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。 ※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。 ※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。 ※シモンの死に対しては半信半疑の状態です。 ※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては 警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。 時系列順で読む Back THE WAY OF THE ANSWER TAIKER Next 疑う剣持 投下順で読む Back 消えない憎悪 Next 疑う剣持 146 せやけどそれはただの夢や カミナ 182 いまひとたびの生 146 せやけどそれはただの夢や ティアナ・ランスター 157 嗤う高遠
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アイが呼ぶほうへ ◆2PGjCBHFlk 真紅の螺旋を発電所から確認したカミナ組一行が選んだ道筋はシンプルなものだった。 ――宣言通り、凄ぇもんを頂きに一路南東を目指しているのだ。 「あの、海ってでかい水たまりを越えられりゃぁ、一気に行けたんだがな」 『全員の消耗具合から、泳いで渡ることは推奨できません。何よりカミナは泳げませんから』 「んなことわかってらぁ! 気が逸る、そういう話じゃねえか」 口角泡を飛ばすカミナの気持ちは大いにわかる。 懐のクロスミラージュはその思いを口に出さないまま、普段通りの冷静な返答を心掛けていた。 先の膨大な魔力を伴う螺旋の暴悪――その恐るべき威力をこの四人の中で最も理解しているのは、魔力に関して一日の長があるクロスミラージュだろう。 あの紅の暴威はまさしく破壊の象徴だ。 はっきり言ってしまえば、あの攻撃を前に防御など紙の盾ほどの意味でしかたなく、ましてやあの規模では回避すら望むべくもない。 (あれだけの力を持つ参加者がいる。あるいはあれだけの力を持つ支給品が巡りめぐって、ようやく力を揮うに相応しい存在の下で力を発揮したということでしょうか) どちらかと言えば後者だろうか。 この殺戮ゲームが始まってからの経過時間は、すでに二十四時間に達している。 この短期間に失われた命の数を思えば、繰り広げられた死闘の数は人間の両手の指の数では足りないだろう。 ――その激闘の中で、ティアナ・ランスターはその儚き命を散らしたはずなのだから。 その争いが絶えなかっただろう一日の間、あの暴虐の持ち主が一度もその力を揮う機会に恵まれなかったとは思えない。 あるいは丸一日ならば隠れ潜みながら、参加者が間引きされていくのを待つことも可能だったかもしれないが。 そんなまだるっこしい方法を好む輩が持つには、少々不相応なほどの力と考えざるをえない。 となれば、力の持ち主はこの戦場を戦いながら潜り抜けてきたものであると考えられる。 そしてそんな人物がゲーム開始からこれだけの時間が経ってようやく本領を発揮したのだとすれば――自らの手に、自らの力の全てを発揮できる武器を取り戻した時。 クロスミラージュは戦慄の境地でこの想像に至った。 何故ならば、あの力を持つ存在が無尽蔵に紅の螺旋を放出し続ければ、ただそれだけでこのゲームは終焉を迎えるはずだからだ。 簡単な話、地図上を縦に移動しながら、手当たり次第に横薙ぎすれば事足りる。 それだけの力が、魔力が、あの攻撃には込められていたのだ。 その絶望的な想定を、クロスミラージュは誰にも打ち明けていない。 そもそもこの想像が当たっていたとすれば、話したところでどうにもならないのだ。 暴力的な最期の審判の時、前もって心の準備をする猶予が残される――その程度でしか。 だからクロスミラージュはこのことを敢えて話そうとは思わなかった。 仲間達の不安を煽るだけで解決策も見つからない悲観など、この前だけを見つめ続ける一団の足枷にしかならないのだから。 逆を言えばそれは祈り――機械の身でこの境地に到達する存在が果たして過去にいたものか。 仲間達の笑顔が、志が、悔恨と悲哀に彩られることよりも、自身の最悪の想定が外れているようにとの祈りの気持ちが勝っていたなどと。 結果として、それらの想定はクロスミラージュの杞憂に過ぎなかった。 紅の暴波は一度の進軍の後、連続して会場を蹂躙するような悲劇を起こさなかった。 単純な話、あれだけの魔力量を必要とする攻撃である。 ひょっとすれば自分の考えの前提が間違っており、武器は一度限りの使用が想定されたものだったのかもしれない。 あるいは使用者に参加者殲滅の意思はなく、必要に迫られての苦汁の決断だった可能性もある。 不必要なまでの悪路の想定は、悲観的な思考と何も変わらない。 もしもこの想像を口にしていれば、仲間達にこぞって叱り飛ばされたことは容易に知れる。 ――なんでぇなんでぇなんでぇ! てめぇ、クロミラ! そんなつまんねぇこと考えていやがったのか! どうにもなんねぇなんてつまんねぇこと考えてる暇があったら、腹抱えて笑っちまうようなことでも考えてやがれ! ――考えすぎて悪い方向にいくのはよくない癖なのだ。頭のいい清麿もそういう風に考えることはよくあった。頭のいいものはもう少し、頭の悪いものを見習うといいのだ! ――心配ばかりでは前に進めなくなってしまいます。クロスミラージュさんが私達を心配してくれるのはとても良いことですけど……アニキさんもガッシュさんも私も、クロスミラージュさんが暗い顔をしているのを見たいとは思いません。 そう言われたわけではないのに、そう言われるような気がした。 それは不確定な要素ばかりにも関わらず、先ほどの想定を容易に上回る確信。 内蔵された回路の最深部に、微かな電気信号――不快でも不穏でもない反応。 どれもこれも、機械の身には過ぎた信頼の証だった。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 「それでカミナ、これからどうするつもりなのだ?」 「決まってんだろ! あのさっきの凄ぇ必殺技をぶっ放した野郎のとこを目指す! ぐるーっと会場を移動しなきゃなんねぇのが面倒くせぇが、その代わりに途中にある家とかも全部見て回れるってことになる! 一石二鳥じゃねぇか!」 「おぉ! なるほど! すごいではないか!」 「本当です! そうしたらもっと凄いモンも見つかるかもしれません」 カミナの口上に手を叩いて喜ぶガッシュとニア。 結局のところ方針は何も変わらず、それどころかやや遠回りの兆しを見せているのだが、その点を考慮させない辺りは流石だった。 仲間からの賛同を得て、意気揚々と先導するカミナに続く大グレン団一行。 その面々が南東を目指す過程で辿り着いたのは、捻れた城と称するに相応しいB-4図書館。 ――かつて十傑衆が一人、衝撃のアルベルトと、不死の体を得たとはいえ心根は未だ平和な女子高生であった柊かがみ。 二人が打算含みの同盟を――最終的に掛け替えのない絆を結んだ、始まりの地であった。 「誰かがいる気配もないし、すごく気持ち悪い見た目の場所ではないか……」 「たくさん本がありますけど……どれもガッシュさんの本とは違うもののようですね」 相変わらず凄ぇもんが見つかる、と根拠のない自信を打ち立てて飛び込んだカミナ。 そのカミナに続き、ぐるりと螺旋状を描く階段の途中、書架から次々と本を確認する二人がそう零す。 ニアの手は代わる代わる抜き出す本のページを捲り、その度に読めないと残念そうに首を傾げては元の場所に戻していた。 「ちぇ。こんだけありゃぁ、ガッシュに凄ぇ力がぶわーっと出るんじゃねぇかと思ったが、そういうわけにもいかねぇみたいだな」 『元々期待薄でした。あの魔本が特殊な構造をしているのは解析済みですが、この建物の中にある本はほとんどが市販の製品です』 「小難しいこと言われてもわかんねぇ。そして本の中身も、俺にはさっぱりわからねぇ!」 一方でカミナは本を乱暴に投げ出し、階下へとぽんぽん放り出してしまう。 物を扱う態度として甚だ不適切だが、辺りを見回せば立ち並ぶ書架にぎっしり埋まる本の海。 それは知識という名の防壁に等しい理論武装。 さるビブリオマニアなら涎を垂らしただろう至れり尽くせりな空間も、識字できないカミナにしてみれば無用の長物でしかない。 初めこそ勢いよく本を検分していたガッシュとニアの二人も、度重なる期待の裏切りでその表情は明るくない。 ましてやこれだけの量の本があるのだ。 何かしら重要な内容の記された本はあるかもしれないが、見つけ出すのにかかる時間と労力はあまりにも惜しい。 一刻も早く、他の対主催と合流すべき状況ではあまり望ましくない寄り道といわざるをえない。 とクロスミラージュが考え、再出発を提案しようとした瞬間だった。 「――そうか! 間違いねぇ! そういうことに違いねぇぞ!」 不貞腐れたように座り込んでいたカミナの急な絶叫に、クロスミラージュは存在しない全身が震えるほどに驚く。 当然、体が存在するニアとガッシュの驚きは歴然だ。 持っていた本を互いに取りこぼし、拾おうと慌てて屈めた二人の額が激突、火花が散る。 「ウ、ウヌゥ、痛いのだ……」 「い、痛いです……」 「馬鹿野郎! 痛ぇとか辛ぇとか言ってる場合じゃねぇぞ! いいかおめぇら……この本の山が入ってるこの壁!」 『本棚と呼ばれるものです』 「そのホンダナだ! こいつの中に入ってる本を、全部みんな取っ払っちまえ!」 ぶつかって赤くなる額を擦る二人の肩を、カミナがこれ以上ないほど景気のいい顔で引っ叩く。 クロスミラージュの冷静な突っ込みもどこ吹く風だ。 発言の意味がわからないと首を傾げる三者を置き去りに、手近な書架に歩み寄るカミナ。 彼は早速本棚にぎっしり詰まった本を掴むと、十冊近くまとめて引き抜き――中身を検めもせずに、躊躇なく階下へ投げ捨てた。 分厚い本が地面に叩き付けられる空気の破裂音が静かな館内に響き渡る。 経年劣化を迎えていた古書が高高度からの衝撃に耐え兼ね、色落ちしたページが周囲に散らばっていた。 司書のいない貸し出しカウンターから咎める声はないが、心なしかどこからか黒縁眼鏡の女性の悲鳴が聞こえたような気がした。 その暴挙を声もなく見守っている大グレン団のリーダー以外。 カミナはその眼前で本を抜き出した書架の空っぽになった棚―― ではなく、空いたスペースを睨み付けて「違ぇな」と呟き、そのまま手当たり次第に目に映る本を投げ捨ててしまう。 『ちょ、ちょっと待ってください、カミナ』 「あぁ? なんでぇ、クロミラ。 おめぇは手がねぇから仕方ねぇが、ガッシュとニアは何してやがる。とっととこっちきて手伝いやがれ」 『それ以前の問題です。カミナ、あなたは一体、何をしているのですか?』 「あぁ!? おめぇ、俺の話を聞いてなかったのか!?」 「カミナ! 私もニアも何も聞かされていないのだ! クロスミラージュは悪くないぞ!」 柳眉を逆立てるカミナにガッシュの弁護が割って入る。 カミナは自身の青い頭髪に指を入れて頭を掻きながら、「そうだったか?」と首を捻り、 ニアの首肯をもって悪戯を詫びる子どものような表情で頭を下げた。それから、 「悪ぃ悪ぃ。ちょっと閃いたもんだから思わず先走っちまった」 『それはもう構いません。それで、何を閃いたというのですか?』 「そうです、アニキさん。それにホンダナってなんですか?」 『本の山が入っている棚です』 「話がちっとも進まないのだ」 話をちっとも聞いていなかったらしきニアが嬉しそうに手を叩き、 「まぁ、これがホンダナだったのですね」と華やかに微笑んでいる。 「そうだ! これがホンダナ! そしてこのホンダナが凄ぇたくさんあるここは、ホンダナの家に違いねぇ! いや、ホンダナの家どころか城かもしれねぇぞ!」 ここは地図上の図書館であり、入り口には私立図書館『超螺旋図書城』と記されていたという事実。 それらは場を停滞させるだけだとクロスミラージュは言葉を飲み込んだ。 「見やがれ! 右見ても本! 左見ても本! 上にまでびっしりありやがって、おまけに下にも本ばっかりじゃねぇか!」 『下の本はカミナが投げ捨てた結果ですが……』 「聞こえねぇ! どうでぇ、ガッシュ、この本だらけがどういうことかわかるか!?」 「ここがホンダナの城であり、本の城でもあるということではないか!?」 「そういうことだ! いや、そういうことか!?」 「違うのか?」 「……いや! 違わねぇ! 今日からここは本とホンダナの城だ!」 「まあ、すごい。本とホンダナにもお城があったのですね」 意気投合する三人に、クロスミラージュは自分が口を挟まなくても話が進まないことを悟る。 そうして一頻り騒いだ後、全員の前で空っぽになった書棚をばしばしとカミナが叩き、 「そしてこっから本題だ! この城が本とホンダナの城ってこたぁ、この城の中には本がはちゃめちゃたくさんあるってことだ。そうだな!」 「そうなのだ! 私はもう目が回りそうなのだ」 「そうだな。俺も読めねぇ食えねぇ枕にもならねぇ。 そんなもんをずっと見てるのも願い下げだ。 だが、こんだけ本があるってことは逆に怪しいと思わねぇか?」 「……何がですか?」 「決まってんだろ! こんだけ本がバァーッとありゃぁ、誰でもここには本しかねぇんだなって思うだろうぜ! だからこそ、実はここには本じゃねぇ何かがあるんじゃねぇのか!?」 そう言ってカミナはさらに一列、横並びの本を乱暴な腕振りで払い落とす。 そうして出現する空洞の奥に目ぼしい痕跡は見当たらず、カミナの想像が裏づけられるようなものは出てこなかった。 しかし、クロスミラージュは驚愕の中でその考えが否定できないことを認識していた。 木を隠すならば森の中――という諺がある。 一本の木を隠すために、木の群れの中にその存在を紛れ込ませてしまうという諺だ。 同じような考えで、この図書館の館内に本という存在を紛れ込ませることは容易だろう。 その本を求める来訪者からすれば、まさしく本の海の中から一冊の本を選び出すのはどれほどの苦難になるだろうか。 そして来訪者に、この大海の中から一冊の本を探し出す意図がなければどうなるか。 当然、来訪者は幾つかの本を確認して、すぐにこの場を立ち去るだろう。 図書館という名称と、その施設の持つ意味合いを知っている人間ならば尚更だ。 図書館を知っているからこそ、本の重要性を問えても、図書館の本以外のものに重要性を求めることはできないのだ。 これは即ち、本という文明を知らないが故に行われた蛮行。 カミナという存在は識字していない。それが故に本に重要性を見出さない。 情報を完全に埒外としているからこその、思考の裏を突いた考えであった。 「ウヌヌゥ、高いところにある本には私では手が届かないぞ!」 「ガッシュさん、下から一つずつやっていきましょう。アニキさんも」 「わかったのだ!」 「おうよ!」 クロスミラージュの驚愕を余所に、三人は最下層へと駆け下りて、順番に書架を空にする作業に従事している。 カミナは言うまでもなく、ガッシュとニアは単純にカミナの考えに賛同してのことのようだ。 思えばカミナは、あの紅の暴虐を見た時から恐れの感情の一切を抱いていなかった。 それは魔力という概念に触れたことがなく、それ故の無知からくる勇猛さだと定義づけていた。しかし、そうではないのだ。 あの暴力の威力を最も理解していたのがクロスミラージュならば、本質を最も理解していたのはカミナだったのかもしれない。 だからこそカミナはあの恐るべき力を前に怖じることなく、この場においても立ち遅れることのない思考に至れるのではないか。 これがカミナの力――いや、人間が持つ力なのだろうか。 これこそが、この飽くなき精神こそが、螺旋王の求める螺旋の力の本質なのか。 ――躊躇わず前に進み続ける意思、『進化』の力の一端なのか。 「カミナ、カミナ! ふと思ったのだが、この奥には何があるのだろうか?」 「なにぃ……ってぇ、こんなとこに道がありやがったのかよ」 考察を進めるクロスミラージュを置き去りに、カミナとガッシュが声を上げる。 それは入り口を入ってすぐのところにある貸し出しカウンター。その奥にある従業員用の関係者通路の入り口だった。 「この奥にもホンダナがあるのですか?」 「いや、わからねぇ。わからねぇが、俺はわかったぜ!」 「何がなのだ? 何がわかったのだ?」 期待の視線を二人から向けられ、カミナは「へっ」と笑って親指で己の顎をひと撫ですると、 「何か凄ぇもんを隠すなら、でけぇ建物の一番上か! 一番奥って相場が決まってんだよ! この建物の一番上は右と左のでっけぇ捩れた塔が二つだが、一番奥は一つっきゃねぇ! つまり! 何か凄ぇもんを隠すなら当然、一つしかねぇとこに決まってらぁ!」 「そういうものなのですか?」 「それが男の心理ってもんよ! なぁ、ガッシュ」 「その通りなのだ。私もきっと、二つと一つなら一つにお宝を隠してしまうに違いない」 『男』の理論が炸裂し、カミナは貸し出しカウンターを乗り越え暗い通路へ身を躍らせる。 そのまま通路を進む三人は、通路の途中途中にあった『更衣室』や『会議室』といったプレートの下がった部屋を素通り。 目指すは一番奥にあり、それ以外は箸にもかけねぇという一本気ぶりだ。 その最奥にあったのは『書庫』というプレートの下がる一室。 鉄扉の向こうには窓のない閉め切った空間が広がっており、埃臭さと古書特有の臭いが立ち込めている。 鼻のいいカミナとガッシュは顔を顰めながら足を踏み入れ、中を見渡すニアが、 「ここにも本がありますね。小さい部屋ですけれど、ここもホンダナの城なのですか?」 「こじんまりとしていやがるから、多分、本とホンダナの子どもの部屋だな! だが、一番奥にあるからには怪しいのはここだ。っつーわけで、とりあえずここのホンダナを空にしちまうぞ!」 「「おーーーっ!」」 『大丈夫……なのでしょうか』 クロスミラージュの心配を余所に、三人は黙々と本を取り出す作業を開始する。 この作業が徒労に終わるとすれば、彼らの行動は単純に本を陰干ししたというだけになる。 だが、燃える意思を瞳に宿す三人を止める言葉をクロスミラージュは持たなかった。 ただ気になるのは、この書庫にのみ明確に誰かが足を踏み入れた痕跡があったことだ。 書棚の一つ、真ん中がぽっかり開いているのは、そこにあった本を誰かが持ち出した証拠だろう。 塔の中に山と積まれた書架の全てに本が並べられていたのだ。ここだけずぼらな状況であったとは考え難い。 ――あるいはその一冊こそが、何かしらの重要な文献であったとも考えられるが。 「ムムッ? ニア、この奥にある変なものが見えるか?」 「えっと、これですか? これ、なんなんでしょう。――あ、倒れました」 丁度その真ん中の書棚の下の段を空白にしていた二人が、小さく驚きの声を上げた。 カミナとクロスミラージュがそちらに意識を向けるのと同時、書庫内の空気に変化が訪れる。 ――かすかな機械音が生じ、件の書棚が小刻みに揺れる。 さりげなくカミナがニアとガッシュを背後に庇いながら距離を開けると、 それを待っていたように書棚は内開きの扉のように位置を変え、 ――最奥の本棚の奥、隠されていた漆黒の扉が四人の前に姿を現していた。 本棚の面積をいっぱいに使った黒の大扉は、その素材がようと知れずひっそり静寂を保っている。 鉄のように見えるが、それ以外の鉱物といわれれば納得してしまいそうな異様さ。 そのドアを前にカミナは腕を組み、堂々と胸を張ると盛大に身を反らせて、 「ほれ見ろい! いかにもってぇ感じのドアのご登場とくらぁ!」 「すごいのだ、カミナ! 本当に、本当に見つけてしまったのだ!」 はしゃぐガッシュとニアがハイタッチ。 それを見届けたカミナが意気揚々と、大扉の中央に設置されたバルブに手を伸ばす。 どうやら気密室のような厳重さを誇る部屋らしく、黒のハンドルは見るものに頑強さを誇示するような造りになっていた。 「こいつを……どうすんだ?」 『時計回りに回せば開くものかと思われます』 「時計回りってなぁ、どっちに回るんだ?」 『そうでした。上の部分を握り、右に回せば開くものかと思われます』 「了解了解っと」 口笛混じりの気軽さでハンドルを握り、カミナが右回りに力を込める。 が、ハンドルはどういうわけかピクリとも動かない。 手軽に回るものと予想していたカミナは深く息を吐き、それから全体重をかけてハンドルを回しにかかるが、 「~~~~~~ッ! だぁーっ! 固ぇ! 固すぎるぞ、どうなってやがる!」 顔が真っ赤になるほどの力を込めた結果、ハンドルは回る気配すら見せなかった。 カミナに続いてガッシュ、ニアと同じように続いたが、この中で最も膂力のあるカミナの手で回らないのだ。 二人に動かせるはずもなく、全員で赤くなった手を振りながら首を傾げる。 「せっかくドアを見つけたのに、開けられないのでしょうか」 「ひょっとしたら鍵が必要なのかもしれないが……私達は鍵は持っていないのだ」 『いえ、鍵穴らしきものは見つかりません。 あるいは何かに反応する扉なのかもしれませんが……その場合はハンドルは何のために』 代わる代わるの攻撃にびくともしない大扉。 秘匿性の高さに中に収められているものの重要性が期待されるが、開かないのでは意味がない。 破壊を提案しようにも、扉から漂う得体の知れない雰囲気がそれを躊躇わせた。 ――単純な威力では、決して開かないギミックが用いられている扉? 「おぉーーっし! わかった! 今度こそわかった!」 今度の叫びにもまた全員が驚く。 当然、高らかに声を上げたのはカミナ。だが、今度の驚きには三人の期待が続いた。 先ほどのように正解を導き出したカミナならば、また妙案を出してくれるのではと。 ガッシュとニアは信頼から。クロスミラージュは独創的な発想力に期待して。 期待の視線に対し、カミナは堂々と頷いて、鼻の穴を広げると大声で言う。 「いいか、てめぇら! こういう考え方がある! 一つの凄ぇでかい岩がある。とても一人じゃ持ち上げられねぇ。さぁどうする」 「どうするんですか?」 「簡単な話だ。一人で持ち上がらねぇなら、二人で持ち上げんだよ。 二人で足りなきゃ三人だ。三人もいりゃぁ、見上げるほどでっけぇ岩でも持ち上がらぁ!」 「おお、その通りなのだ!」 『そ、そんな単純な話でしょうか!?』 予想以上にシンプルな答え――動揺するクロスミラージュに、カミナは己の懐を叩くと、 「馬鹿野郎! 何でもかんでも難しいばっかが正解じゃねぇぞ。男は度胸! 何でも試してみるもんなんだよ!」 『しかし……』 「ぐだぐだうるせぇ! 全員、男ならちゃちゃっと覚悟を決めやがれ!」 「すみません、アニキさん。私は女なのですけれど……」 「女もそうだ! 見てるだけじゃ始まらねぇ!」 強引な理屈で全員の意思を纏め上げるカミナ。 クロスミラージュからすれば、成功の見込みが低いだけで特別反対する理由はない。 ガッシュは再び感銘を受けているようだが、クロスミラージュが気になったのはニアの反応だった。 彼女は花模様の浮かぶ双眸を瞬かせ、それから何度か確かめるように頷く。 「女も……そう」 『ニア? どうかされましたか?』 クロスミラージュの問いに、ニアは首を横に振ると、晴れやかな表情で笑った。 「いえ、何となく……自分のやるべきことがわかったような気がしただけです」 『そう、ですか?』 「はい」 「おう、ニア! とっととこっちこい! おめぇは左、ガッシュは右。俺が上だ」 「はい! 任せてください!」 「おぉ、いい返事じゃねぇか。負けんじゃねぇぞ、ガッシュ!」 「わかっているのだ!」 カミナがハンドルの上部を、ガッシュが右を。ニアが左を握り、三人が深く息を吸う。 そして幾度かの深呼吸の後、合図もないのに全員の声が揃った。 『「「「せーーーーーーーーーーーーーーーのぉっ!!!!」」」』 掛け声と共に三人の腕に力がこもり、それに比例して力む表情に赤みが増していく。 この時ばかりは体を持たないクロスミラージュは、三人を応援することしかできない。 「ウヌヌゥ……全然動かぬ!」 「動いて……動いてください……!」 「諦めんな! 一人より二人! 二人より三人だ! そんでもってこっちにゃ四人もいるんだぜ! これで動かねぇもんがあるわけねぇ!」 『私は一人分には計算できないと思われますが』 「気合いだ気合い! おめぇの気合いが俺達を伝って、このクソ輪っかを回す力になるんだろうが! そら、うおりゃぁぁぁ!」 論理性に欠ける根性論でしかない言葉――それがどうして、これほど回路に響いたのか。 クロスミラージュにはそれがわからない。 だが、カミナの声に触発されるようにガッシュとニアもまた雄叫びを上げ、 ――気づけばクロスミラージュ自身もその『気合い』の一陣に身を置いていた。 それはこの場の四人の気合いという名の信頼が呼び起こした当然の結末。 『――複数の螺旋力を確認しました』 電子音声――クロスミラージュに似た、しかしそれよりはるかに無感情な音声に全員が肩を震わせた。そして、 「お、お、お……動いたぞ! 回るのだ!」 「きたきたきたぜぇ! ほれ見ろ! やっぱり四人もいりゃぁ回るんだ」 「はい! 四人揃っていて、できました!」 喜ぶ三人の手元、あれほど強固な頑なさを見せたハンドルがくるくると回っている。 難敵を打倒した喜びか、カミナとガッシュはそのハンドルを勢いよく回し続け、 軽々回るハンドルの回転が限界に達して急に止まり、止め損ねた腕を金具にぶつけて盛大に痛がる。 その微笑ましいとさえいえる状況の中、三人が聞き逃したらしい扉からの電子音声をクロスミラージュは反芻していた。 『――複数の螺旋力を認識しました』 その言葉は単純なようで重い。言葉の示す意味は、この扉を開くために必要な『鍵』が螺旋力であったということだ。 そしてカミナ、ガッシュ、ニアの三人がその螺旋力に目覚めていることはすでに周知の事実。 一人では足りず、複数名の螺旋力を利用することで初めて開く扉。 ――つまり、クロスミラージュの存在は、この扉を開くために何の役にも立たなかった。 その自分の無力さを痛感する一方で、先ほどの電子音声の無感情さに驚いた自分がいた。 そしてそのことに驚いたという事実が再び、クロスミラージュ自身を驚かせる。 同系統の存在であるはずの機械。その機械的な音声に対し、自分はあまりに無感情であると感想を抱いた。 つい十数時間前まで、その機械音声と何ら変わらない存在であったと自覚できる自分が、だ。 これは正直なところ、とても恐ろしいと思えることだった。 本来機械に要求されるのは、人間が持つ感情による誤差などの補助だ。 機械的にプログラミングされた行動に従事するのは、不満や疲労、感情を持たない機械の最高の美点である。 今の自分には明らかにそれが欠けているのだ。 思えば、先ほどの紅の螺旋の危険性について、仲間達に打ち明けなかったのはどういう合理的な思考からだったといえるのか。 あそこは仲間達に危険を冷静に告げ、話し合った上で今後の方針を左右する重大な情報だ。 その開示を拒み、あまつさえ回路の奥に仕舞い込んだ自分の本音はどこにあったのか。 クロスミラージュは、その自分に訪れている『変化』がたまらなく恐ろしい。 自分が自分でなくなっていく――そんなことに恐れを抱くことなど、考えたこともなかった。考える必要もなかったのだ。 何故ならば自分は、持ち主の命に忠実に答えるだけの機械であったから。 今の自分はあまりにも恐ろしい。いずれ今の決断を悔いることがあるかもしれない。 あるいは未来に同じような決断を下し、機械の領分を外れたことで、仲間達を、カミナを危険に晒すのではないか。 これもカミナという存在、そしてその仲間達。 これまでこのゲームを通じて次々と出会ってきた参加者達――その一つ一つの出会い。 螺旋のような繰り返し巡り合わされる運命に翻弄されたことの結果なのだろうか。 「なんでぇ、クロミラ。おめぇもちっとは嬉しそうな声を出してみたりだなぁ……」 『カミナ。この扉は螺旋力を認識して開く扉だったようです』 声を止められ、カミナが息を詰める。 ガッシュとニアがその様子を心配そうに見つめる姿が、三者の姿が回路に焼き付く。 だがそれを無視し、クロスミラージュは静かな声で続けた。 ――自分自身が、機械であり続けるために。 『つまり、あなた達三人の気合いがあれば開く扉だった。私の力は必要なかったものと……』 「おめぇ……そういう話じゃ」 「そんなことはないのだ!」 口の端を歪めたカミナに先んじて、ガッシュが叫んでいた。 もしもクロスミラージュに体があったなら、その横っ面を殴りつけていただろう勢い。 その勢いのままに駆け寄り、カード型の本体に目掛けてガッシュは続ける。 「カミナは言ったのだ。一人より二人、二人より三人。そして三人より四人だと! 私もそう思うのだ。協力するということは! 四人よりもっと……五人も六人も七人も十人もいればきっともっといいものだと思う。 ドアが何人いれば開いたかなんてそんなことはどうでもいいことではないのか! 全員が協力して、ウオーッと叫んだから開いたのではないのか! 誰が欠けても開かなかったと私は思う。だから、そんな悲しいこと……言わないでほしいのだ」 勢いは後半に行くにつれて下火になり、ガッシュは唇を噛み締めてクロスミラージュを見る。 その表情は決して悲しんでいない。泣いていない。怒ってもいない。 ただ、決して曲がることのない何かを、熱い何かと温かい何かを秘めた表情だった。 「あの、クロスミラージュさんって何ですか?」 唐突に場に割り込む声はニアのものだった。 彼女はいつも質問する時と変わらぬ態度で小さく手を上げ、軽く小首を傾げながら愛らしい瞳を光らせる。 カミナとガッシュは無言。だから応じるのはクロスミラージュだけだ。 『私は……デバイスです』 「デバイス……ですね。わかりました」 唇に指を当て、うんと頷くとニアはガッシュの隣に並んだ。そして、 「無理を通して道理を蹴っ飛ばす。アニキさんはそう仰いました。それが男、ですよね?」 「あぁ、そうだぜ」 「それでは女は? 女は無理を通して道理を蹴っ飛ばしてはいけませんか?」 「へっ、そんなわけがねぇ。男だろうが女だろうが、大グレン団は全員が無理を通して道理を蹴っ飛ばす! そうやって、前へ前へかっ飛ばしていくんだよ!」 拳を握り締め、グレン団の在り方を語ったカミナにニアは満足げに頷いた。 それから彼女は口元の笑みを消し、真っ直ぐに真剣な眼差しでクロスミラージュを見つめ、 「男も、女も……です。それなら、きっとデバイスも同じですよ」 『……ニア』 「螺旋の力……難しいことは私にもわかりません。 ですけれど、気合いは今はちょっとだけわかりました。その気合いでこの扉が開いたのも、 全員で気合いをしていた時に、クロスミラージュさんが一緒に声を出して気合いしてくれていたことも」 確かに声が出ていた。 何かに背中を押されるように、導かれるように、内側から膨れ上がる衝動に突き動かされるままに。 「全員で気合いしたんです。男も女もデバイスも全員で。 だから扉が開きました。ガッシュさんと同じで、私が言いたいのはそれだけです」 ぺこりと頭を下げて、ニアはカミナに顔を向ける。 ガッシュ、自分とクロスミラージュに声をかけたからだろう。最後の順番を譲って微笑む。 そしてバトンを渡されたカミナは頭を掻き、あーともうーともつかない呻きを漏らすと、 「俺の言いてぇことは全部、二人に先に言われちまった。だから、あー、くそ。何てぇんだかわかんねぇけどよ」 とん、とクロスミラージュを入れている懐をカミナが軽く叩く。 「つまんねぇこと気にしてんじゃねぇ。ここじゃ、俺達が揃って大グレン団なんだからよ」 ガッシュとニアが互いに嬉しそうに頷き合い、カミナが照れたように鼻を擦って顔を背ける。 その三人からの思いやりに触れ、クロスミラージュは、 『……はい。ありがとうございます、カミナ。ガッシュ。ニア』 悟られまいと無感情に告げようとして、その声が失敗していたのは全員がわかっていた。 クロスミラージュは自分に訪れた変化が恐ろしくてたまらなかった。 だが何より、その変化を恐ろしいと思うより、悪くないと思う気持ちが勝っている。 それもまた、変えようのない事実となっていた。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 四人が自分達の団結を新たにしたところで、放置されていた扉の部屋はようやく日の目を見ることができた。 光の差し込まない暗い部屋の中に足を踏み入れ、カミナは僅かに息を呑む。 真夜中さながらの暗室ぶりは、故郷の夜を思い出させる。 ジーハ村では電力の消費を抑えろと、躍起になって怒鳴りつけた村長の存在も今では少し懐かしい。 (へっ。過ぎた昨日に気を向けるなんて、らしくねぇことしちまった。 一度故郷を飛び出したからには、退かねぇ媚びねぇ顧みねぇ――ちょっと違うか?) 首を傾げるカミナの左右、挟むように立つ二人が不安にしているのを肌で感じる。 暗闇を恐れるのは人の本能で、そのことで怒鳴りつけるなんて狭量さは持ち合わせていない。 故にここでカミナが取るべき行動は、誰よりも先に暗闇の中で前に進むことだった。 何故なら、リーダーが動かなければ後ろはついてこれないのだから。 「しみったれた場所じゃねぇか。薄暗くって何も見えやしねぇ!」 大声を上げて堂々と踏み出すカミナに、ガッシュとニアの足音が続く。 そのことに小さな感謝をした眼前――暗闇は唐突にもたらされた輝きに消し飛ばされる。 「――何であるか!?」 「ニア、ガッシュ! 下がってろ!」 咄嗟の事態に悲鳴を上げる二人を背後に庇い、白光に覆われた瞳を無理にこじ開ける。 その目の前に何が出現していようと、最初の壁となるのは自分でなければならないのだから。 もっとも、その心意気も杞憂に終わった。 光の灯った室内、三人の目が光度の変化に対応し始めると、そこに危険がないことが知れる。 そう、その一室には敵対者は一人もおらず、あるのは広大な空間だけ。 カミナにとっては見たこともないような機械だらけの一室。 ど真ん中にででんと縦長の筒が伸びているのと、壁際に配置されているのが椅子によく似ている程度しか認識できない。 駆け回ってなお手に余る空間の出現に、カミナ達三人は声も出ない。 機械だらけの空間というのは、この三人にとってあまりにも馴染みのない空間なのだ。 だからこそ、この場の重要性について理解の呟きが漏れたことを誰も聞き逃さなかった。 『この場所は……』 「わかんのか、クロミラ」 『はっきりとはわかりません。ただ……この高度な文明は飛躍的に私のいた世界のものに似通っています。 細部に至っては違いますが、文明レベルにおいて』 「俺にはさっぱりわからねぇ。噛み砕いてくれ」 『……つまり、この場所がどういう目的に使われる場所なのか、私にはわかるかもしれないということです』 「すごいです! クロスミラージュさん!」 賛辞の言葉もそこそこに辞したクロスミラージュに従い、カミナは空間の中央にある腰ほどの高さのパネルを見る。 これだけならばグレンのコックピット内にも似たようなものがあったような気もするが、如何せん規模が違う。 握れば動かせるだろうという操縦桿を見つからず、カミナは手をこまねく他にない。 『やはり、この機械の文明の設計思想はかなり私の文明のレベルに近いものです。 次元間移動に即した私達の世界のものに比べ、こちらの場合はあくまで単一世界の理に従ったもののようですが……』 淡々と自身の考察を述べるクロスミラージュの背後、聞いている三人が煙を上げている。 カミナは真っ赤になった顔、耳や鼻から蒸気が漏れる。 ガッシュは理解しようと頭を抱え、その場で唸りながらぐるぐる回っている状態だ。 ニアに至っては指折り数えていることから、いつもの調子で質問する数をストックしている様子が窺えた。 これ以上の説明は無駄になる、とクロスミラージュが諦めたかは定かではない。 だが事実として彼は説明の口を止めると、 『とにかく、起動させることは可能だということです。カミナ、そちらにある赤いボタンを押していただけますか?』 「ぷすー。――っと、おぉ? わかった。この情熱的に赤ぇイカしたボタンだな?」 煙の噴出を止めたカミナが、促されるままに席上のボタンをゆっくり押す。 それだけで、光がかすかに灯るだけだった室内に機械の駆動音が満ち溢れた。 四方八方から鳴り響く音にガッシュとニアが驚くが、カミナはこの鼓膜を撫ぜる無数の音に聞き覚えがあるのに気づいていた。 この音は、そう――ガンメンが、グレンが起動する時に鳴り響く目覚めの音。 手足に活力が漲り、大きな顔で前を見据えるために、エネルギーが満ち満ちていく音だ。 「なんてこった……つまりこいつぁ、ガンメンだったのか!?」 『いえ、違うようです。機動兵器というわけではないようですが……』 「違うのかよ!」 意気込みを塞き止められて唾を飛ばすカミナ。 その懐でクロスミラージュが起動し始めた周囲の機械の検分を進める――その時だ。 『――螺旋界認識転移システム起動』 その電子音声を聞くのは二度目だが、その言葉の意味する内容は理解不能だった。 螺旋の冠がつく名前にカミナは振り向くが、ニアもガッシュもわからないと首を振る。 改めて何を言われたのか思い出そうにも、難しい名前すぎて螺旋何ちゃらとしか思い出せない。 「一体、どういう意味なのだ」 「待ってください。まだ、さっきの方のお話は途中のようです」 『――螺旋力保持者の存在を確認。システム起動。システムはこれより、対象者を望むものの場所へと転送します』 それきり静まり返る室内、相変わらず周囲の機械は騒がしいが、聞こえた声以上の変化は訪れる気配がない。 三人は互いに顔を見合わせると、同時に肩を竦めて無理解をアピール。 「クロミラ」 『はい。どうやらこの装置の名称は螺旋界認識転移システム。 おそらくはその名称の通り、認識した物体の場所へ転移させるという装置のようです。 認識したものを呼び出すのではなく、こちらから移動するという形式のもののようですが』 クロスミラージュは説明を述べながら、自身の考察が正しかったことを悟る。 機動六課などの存在のある本来の彼の次元に対し、こちらの装置は単一世界の移動を目的としたものだ。 流石に多次元間を移動するまでの技術はないらしいが、目的意識の違いがあるだけでその差異はかなり小規模なものだろう。 多数の世界から参加者を集った手口や、このような施設を用意するだけの技術力。 圧倒的な螺旋王の持つ力に、クロスミラージュは分の悪さを意識する他ない。 もっとも、そのクロスミラージュの抱く懸念の領域に、今の説明でカミナ達三人が至ることができるわけもなく――、 「ぷすー」 「ほわーん」 「きらきらー」 三人の意識が現実からかなり距離が開いている。 クロスミラージュが必死に呼びかけて三人を呼び戻し、その機能の全てを説明し終えたのは五分後のことだった。 「まったく、凄いものがあるものなのだな」 「あ、これがアニキさんの仰っていた凄いモンなのですか?」 「違ぇ違ぇ! 俺の言う凄ぇもんはもっともぉっと凄ぇもんだ。こんな意味もわからねぇ役立たずな代物のことじゃねぇよ」 『まだ意味がわかっていないのですか!?』 クロスミラージュの絶叫にカミナは「仕方ねぇだろ」とパネルを思い切り叩く。その固さに思わず叩いた手を抑えながら、 「小難しい理屈はわからねぇんだよ。というか、俺の生き様には必要ねぇんだ」 『ええっと、つまり、こういう言い方はあまり得意ではないのですが……』 「想った場所、想った相手、そこに飛ぶことができる――ですよね?」 クロスミラージュの言葉を引き取り、微笑むニアがそう繋ぐ。 クロスミラージュが『感謝します』と返答すると、ようやくカミナも理解に行き届いた。 「なるほど、そりゃ便利じゃねぇか。つまり、欲しいもんとか」 『あるいは捜し人の下へ移動することが――』 そう、二人が納得の言葉を交換した瞬間だった。 先ほどのカミナの一撃が理由か、または別の要因が作用したのかはわからない。 かなりの確率で前者を起因とするだろう中、再び電子音声が告げる。 『――螺旋界認識転移システム起動、転移開始』 『しまった、これは――!?』 同時に重なる二つの機械音声、その片方が紛れもなく焦燥感に彩られていたのを三人は聞いていた。 その瞬間に三人が何を思っていたのか、クロスミラージュにはわからない。ただ、その結果だけはすぐにわかった。 ――誰もいなくなった一室で、機械の作動音だけが虚しく響き続けている。 時系列順で読む Back 第五回放送 Next 愛を取り戻せ! 投下順で読む Back 第五回放送 Next 愛を取り戻せ! 262 アイが呼ぶほうへ(前編) カミナ 262 アイが呼ぶほうへ side-A 262 アイが呼ぶほうへ(前編) ニア 262 愛を取り戻せ! 262 アイが呼ぶほうへ(前編) ガッシュ・ベル 262 アイが呼ぶほうへ side-A
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認定における数少ない良識派の一人であり、 荒らしやそれに集って叩いている連中を諌めることが多い。 りっちー復活後、管理者側がジェダイを迎え入れたことに対して 「アクセス制限にあたる基準はなんですか?」とりっちーやミラージュを問い詰めたが、 「基準は自分です」「詳細はお答えできません」「それは私の決める事ではありません」等とお茶を濁され、 また、(文脈上問題があるとは到底言い難い範囲で) ミラージュに対し二人称である「貴方」を使用してしまったことに対して 揚げ足取り同然ともいえる様な指摘をされるなど、管理者側から冷たい対応をされた。 詳細はミラージュを参考 また、以前にはチーム認定(笑)においてチバーやリンよりも リーダーシップに相応しい存在と言われており、 その評判に不満を感じたリンによりヲチ板で陰口を叩かれた経歴を持つ。 詳細はリンを参考。