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ブレイブ・ストーリー 登場人物現世 コメント 宮部みゆき著のファンタジー小説。 漫画は『ブレイブ・ストーリー〜新説〜』と『ブレイブストーリー』との2作品がある。ゲームは、PS2、PSP、ニンテンドーDSそれぞれのソフトがあり、映画公開より二日前の2006年7月6日に発売された。 登場人物 現世 ルカリオ:三谷亘 見習い勇者→「勇者」繋がり。 コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る 草案 登場人物 現世 ミロカロス:芦川美鶴 幻界 メタモン:女神 アルセウス:老神 フーディン:ラウ導師 リザード:ジョゾ エレキブル:トローン -- (ユリス) 2015-06-15 20 33 28 エネコロロ:ミーナ -- (AKODON。) 2011-11-02 19 31 13 バンギラス:キ・キーマ -- (ウィング・T) 2011-11-02 19 30 11
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ ◇ 「メイジだったのか」という叫びをムスタディオは無言で聞いていたが、実のところギーシュの言葉は勘違いだった。 ムスタディオは魔法を修めたことがない。 だから彼が用いた氷の魔法に見える何かは、彼の武器の効果に依存するものだった。 それは、機工士やトレジャーハンター達の間では「魔ガン」と呼ばれている。彼とその仲間が戦いの最中に討った、とある神殿騎士の遺品だった。 通常の銃は鉛の弾丸を射出するが、これは代わりに定められた魔法の弾丸を撃ち出す。魔法を修めているかどうかは使用条件にない。そしてその効果から「ブレイズガン」とムスタディオは呼んでいる。 機工学と魔法の融合による産物のため、機工都市ゴーグでも未だ再現されていない古代文明の遺産の一つ。 彼が決闘に遅れたのは、これを部屋まで取りに戻り、ごく簡単な動作確認を行なっていたためだった。 ルイズには触ることを禁止されていたが、そこはもう気にすることさえ疎ましかった。 何もかもどうでもよく、やけに獰猛な気持ちだった。 「ブレイブストーリー/ゼロ」-06・b ――三体目まではまるで鴨撃ちだった。 油断を狙って次々とゴーレムを撃ち凍らす。 それで終わらせられたら楽だったが、そうもうまくはいかない。 四体目へ狙いを定めようとして――標的が目の前で拳を振りかぶっていた。 元々ムスタディオは戦いにおいて後方からの支援狙撃を担当していたため、接近戦はそこまで得意ではない。 体力と俊敏性は人並み以上あるし、必要に応じて身に着けた手段もあることにはあるが、かさばる魔ガンを両手で扱いながらは難しい。 また身を隠したり敵を欺くことには長けているものの、いかんせん、こんな開けた場所では小細工の施しようがない。 そして、開けた場所というのがムスタディオにとって大きなネックの一つだった。 照準を定める構えを解き、ブレイズガンを水平に掲げてゴーレムの拳を受け止める。 反動で距離を取り、狙いを定めるが、動きながらなので照準がブレる。 そしてブレたその先に、大勢の生徒達の姿が見えた。 「……くっ!」 自分の腕前なら、そうそう彼らには当たることはない。 そうは思ってもためらいが生まれてしまう。 何の備えもない彼らにこんなものが炸裂すれば、一発で命をなくしてしまう。そんな躊躇が隙を呼び、ゴーレム達に着々と逃げ場を奪われていく。 「敵」しか居なかった戦場ではこんな煩わしさはなかったのに、と今更のように感じ、考えなさすぎだ、と自分を罵った。 決闘といってもこんな展開になるとは思ってなかったため、ムスタディオは相手を思い切り叩きのめす方法を考えていた。 つまり自分が取りうる一番破壊力のある手段である。 それが仇となった。 こう威力が強すぎては誤射や流れ弾による被害が出かねない――しかし、それで良いと思っていた。 ギーシュもまた己が持つ最大の魔法を持ってかかってくるから、ブレイズガンと魔法の単純なぶつかり合いになると思い込んでいたのだ。 (まさか、魔法なのにこんな直接的に来るなんて……!) いくら頭に血が昇っていたからとはいえ、その浅はかさを呪ってしまう。 早合点は焦りに変わる。 周りを気にしながら戦わないといけないもどかしさが相俟り、動きが鈍る。決断が曖昧になる。 ――そして失敗を生んだ。 前を見ながらの後退は効率が悪く、前進してくるゴーレム達に包囲されつつあった。 拳や刃を潰した剣で殴りかかってくるそれらに業を煮やしたムスタディオは、突破のために右方の一体に銃撃を仕掛けた。思い切って飛びずさり、狙いを外しても地面を穿つよう脚部を狙い撃つ。 それが致命的だった。 身体のどこかを狙い撃てば動きが止まる、というのは対生物にしか当てはまらない定石だ。 ゴーレムは脚部と地面が氷で接着されたのをお構いなしに突撃する。 ひずんだ脚と氷が裂ける。 ムスタディオは銃身で受け止めようとしたが、無防備だったのが災いしてブレイズガンを跳ね飛ばされた。 反動で体勢が崩れる。 倒れながら、他の二体が自分を取り囲んでいるのを見ていた。 背中から地面に弾む。 その瞬間から袋叩きが始まった。 胸の真ん中と左頬と腹と右太股と左脇腹を打たれたのは覚えている。 実際はその倍くらいかもしれなかったが一撃一撃が凄まじく重く、意識が朦朧としているので分かったものじゃなかった。 「ギーシュ! もうやめて! これ以上やったら死んじゃう!」 ルイズの懇願が遠くで聞こえる。 (――あの女でもさすがに、この状況だったら、心配はしてくれるんだな……) そんなことを考えていられたのは一瞬だけだった。背中に蹴りが突き刺さり、袋からぶちまけられた果物みたいに地面を転がった。 野次馬達の声が聞こえて来る。打撃が止んでいた。 口の中で雑多な味がする。血と土と雑草の汁。 吐き出しながら、ぐらぐらする頭と拡散する思考の焦点を尖らせようとする。 誰か人間の足音がした。こちらに走り寄ってくるそれに「来るな!」と怒鳴り、両手を地面に突いて立ち上がろうとした。 ――何か硬い物が指に触れる。 「……まだ続けるのかい? 杖を失ったメイジに勝ち目はないと思うが、その心意気だけは認めよう」 四つんばいで顔を上げる。歯が砕けそうなほど噛み締めると目に映るものがやや焦点を結ぶ。 こちらに近づこうとして足を止めたような格好のルイズ。 勝ち誇った風のギーシュ。 遠巻きにこちらを窺うゴーレム。内一体は二十メイル強離れたところに転がるブレイズガンへの道を塞いでいる。 そしてさらに遠巻きに観戦する生徒達。 ギーシュを呼ぶ声が多く聞こえる、気がする。 気が済まない、と思った。 まだどこも折れていない。体の骨も、心も。 やけくそにそう感じる。 指に触れたものを確かめる。 ゴーレムの破片、折れた剣だ。 ……このふらふらの状態でできるか、と自分に問う。大丈夫だ、と自答した。 銃なしに戦うのは久々だし、あまり空手で長期戦は出来ない。だから意表を突いてやる。 折れて短くなった柄を握った途端、急に体が軽くなるのを感じた。……きっと気のせいだと思い、立ち上がる。 さっきまで霞んでいた視界が、不思議に澄み切っていた。 「あんたも寝てなさいよ、バカ! 早くその剣を捨てるのよ!」 主人が叫んでいる。その声より――ギーシュがルイズに目を逸らした瞬間を、ムスタディオは見逃さなかった。 全身に捻りという捻りを加え、剣を投擲した。 「えっ?」 「なに!?」 ギーシュやルイズの息を呑む声を、ムスタディオは聞いていなかった。起こった出来事に自分でも驚いていたからだ。 ムスタディオの手を離れた剣は、刀身を軸に独特の回転運動を行ないながらゴーレムの体幹へと突き刺さる。そして強弓が放つ矢が人間を斬り飛ばすように、青銅の体をたやすく吹き飛ばしていた。 それは仲間から教わった特殊な投擲技術だった。しかし彼はお世辞にもきちんと習得していたとは言い難く、一瞬の時間稼ぎのつもりだったのだ。 だがその驚きは一瞬のもので、次の瞬間、ムスタディオはがら空きの空間に身を躍らせた。 その先にはブレイズガンが転がっている。 「――! ワルキューレ、かかれ!」 そのまま一息で駆け寄るが、剣から手を離した途端、体が砂袋を詰めたように重くなった。 稼いだ時間はそこで尽きる。踏み込む足がよろめいたところで追いすがったゴーレムに背中から殴り飛ばされた。 が。 倒れた先に、くすんだ木色の銃握が見える。 再度包囲されているのが見えた。ムスタディオは一も二もなくブレイズガンを抱き掴む。 目の前の一体に零距離で弾丸をぶち込んだ。吹き飛ぶ氷漬けに後ろからやって来ていた一体が巻き込まれる。その二体にまとめてもう一撃、仲良く転がっていったところで――裸にされたギーシュに照準を定めた。 焦りの見えるギーシュの口が動く。 何か言う前に引き金を絞る。 ◇ 「ま、参った」 ギーシュがへたり込んでいた。 片手に握っていたはずの薔薇がムスタディオの魔法で撃ち抜かれ、凍ったままバラバラになって散らばっている。 そして彼の口から発せられた言葉を――ルイズは信じられない気持ちで聞いていた。 ムスタディオがギーシュに向けていた杖の先を下ろす。その顔や服から覗く肌には、あちこち痣ができている。 「ぜ……ゼロのルイズの使い魔が勝ったぞー!」 「うわあーっ! どうしたんだよギーシュー!」 「何者なんだあいつー!」 生徒たちが熱狂して喝采を上げる中、ルイズは本当に勝っちゃった、とぼんやり思った。ただの平民なのに。 いや、ただじゃなかった。魔法を使う平民。平民なのに魔法を使える。 自分は、貴族であっても使えないのに。 ――またそんな嫌なことを、と思った。 頭を抱えて首を振りたい。大声で叫びたい。 そんなことを考えるのはもうたくさんだった。 もういいと思った。彼は凄い使い魔だ。言動がおかしいのは目をつぶろう。彼が魔法を使えるのは凄く悔しい。体が震えている。何で、と思う。でもそれもいい。そんなことを考えていると、さらに悪い場所へずぶずぶ沈んでしまう。 謝って対応もよくしよう。謝る。謝らないといけない。謝らなければいけない。 何度も何度も心の中で繰り返すと、少しだけ覚悟がついた気がした。 生徒達が熱狂して喝采を上げる中、ムスタディオがゆっくりこちらに歩いて来る。数歩先で立ち止まった。 覚悟はついた気がしたのに、ルイズは彼の顔を見上げられない。ただ一つだけ、まず労いの言葉をかけようと思った。 「あんた、よくや」 ったわねと言おうとしながら顔を見て。 あれ、と思った。 ガラス玉みたいな目だった。 何か、彼と自分との間に温度差が、決定的な温度差が。 反射的に口がごめんなさいと言いかけて、でもその前に、 「口だけじゃなかっただろ」 その言葉を聞いた。 ――気がついたら腰が抜けて、地面に座り込んでいた。 ムスタディオはルイズに手を貸さない。見向きもしていない。 彼は少しだけびっこを引きながら、誰の手も借りようとせずに人垣に向かって歩き去っていく。 もう仲直りなどできないところまで来てしまったのだ、という思いが腹の底でゆっくり、確信的な確かさで回りはじめている。 キュルケとタバサがやってきて引っ張り上げられるまで、ルイズは立ち上がれずにいる。 ◇ 『遠見の鏡』に、二人の男の姿が映っている。 杖を突きつけるムスタディオと、地べたに座り込んで降参を宣言するギーシュ。 コルベールは、やや戸惑いながらオールド・オスマンの名を呼んだ。 「オールド・オスマン」 「うむ」 「ブナンザ君が、勝ってしまいましたが……」 「うむ」 妙な沈黙に包まれた。コルベールは掌に汗をかいているのを感じた。 何故だか分からないが、お互いがお互いの出方を探っているような気がする。 「ミスタ・コルベール」 穏やかに口火を切ったのは、オールド・オスマンだ。 「君はあの使い魔についてどう思う? 確か君は、彼のリハビリを指導していたんじゃろう?」 「ああ、はい……ブナンザ君、彼は不思議な青年ですな。我々が見たことも聞いたこともない遠方より召還されたと言っておりました。こちらとは少し異なる文化が発達していたようで、機工学という技術に携わっていたようです」 「機工学とな。それはどういうものなんじゃね?」 「はい、何でも今は失われた技術だとか。 彼の国では、古代においてはおびただしいフネが空を埋め尽くし、街にはからくり仕掛けの人間が闊歩していたそうなのです。 古代の遺跡を発掘し、それらの残骸を掘り起こして復元する。利用できるものは生活に取り込む……彼がやっていたことはそういうものだそうですな。とはいえ、まだ市井には浸透しておらんようでしたが。 ああ、そういえば彼は、その技術を用いた武器を持ってきたと言っていましたな。 もしかしたら、あの無骨な杖にも何かからくりがあるのかもしれません」 「ほう、それはまた、おとぎ話のようじゃのう」 オスマンの目が細められ、眼光が増す。しかしそれにコルベールは気付かなかった。 それより訂正したい言葉をオスマンが口にしたからである。 「お言葉ですがオールド・オスマン、おそらく彼からすれば、始祖ブリミルの話だっておとぎ話のように聞こえるでしょう」 「ほっほ、君は研究熱心じゃの。いや、言ってみただけじゃよ」 オスマンが眉毛をひょいと上げた。 その途端学院長室に沈んでいた嫌な雰囲気が消えた気がして、コルベールは内心ほっとした。 「全てが誠とは思えんし、全てが嘘とも限らん。慎重に判断する必要があろうて。 わしはの、何か彼については一面的な判断を下してはいかん気がしてならない。 彼はガンダールヴなのか。いやそもそも何者なのか。 ――もう少し様子を見ることにしよう」 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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ロゴス ●クラス解説 魂を物質化し、擬似的な不死を体現した戦士。それがロゴスである。 元々はバリエル探求会が秘匿していた技術。 悪用した場合、文字通り魂を奪えてしまうために封印されていた。 現在、平行世界との戦いに際して、限定的にその技術が公開されている。 ただし使い手には多くの制限が課される。 ●クラス制限 ・ロゴスであることを仲間以外に口外してはならない。 ・ロゴスとしての技術を流出させてはならない。 ・ロゴスの技術(スキル)によって得られた物を譲渡してはならない。 ・魔法使い連盟からの要請には無条件で応じる。 ・収入の一割を魔法使い連盟に上納する。 ・以上に違反した場合、呪いによってその場で死亡する。 種族[鬼人][転生体][機械][不死]の禁止 スキルデータ ■魂の物質化 SL上限:5 タイミング:パッシブ コスト:なし 判定:なし 対象:自身 射程:なし 効果:このスキルは[ロゴス]の他の全スキルの前提スキルである。 これを取得せずに、他のスキルを取得することはできない。 このスキルのSL上限は他スキルによって変動しない。 あなたの【最大LP】を0にし、アイテム[ブレイブストーン]を[SL×2]個入手する。 以後、あなたは【最大LP】を成長させることができない。 また[戦闘不能状態]になっても【LP】を失わず、【死亡】しない。 【LP】ダメージを与えるスキルなどの効果は、1点につきあなたの[【ML】×2]点ダメージとなる。 [トドメを刺す]と宣言された攻撃でのみ、あなたは【死亡】する。 ただし【HP】0の状態でダメージを受けた場合も【死亡】する。 [ブレイブストーン]の所持数は、プリプレイで[SL×2]個になる。 [ブレイブストーン]のデータは、以下の通りである。 ■ブレイブストーン 種別:消耗品 重量:0 価格:非売品 魂を物質化して作られた結晶。 このアイテムは【LP】と同様に使用できる。 ■魂魄兵装 SL上限:3 タイミング:プリプレイ コスト:なし 判定:なし 対象:アイテム 射程:なし 効果:あなたの装備品にSL個までの[ブレイブストーン]を装着する。 1個につき【攻撃力】【魔法攻撃力】【物理防御】【魔法防御】のいずれかに+3する。 装着した[ブレイブストーン]は、所持品にカウントされない。 ■ソウルブレイカー 【エクストラ可】 SL上限:5 タイミング:メジャー コスト:10 判定:魔法判定 対象:単体 射程:武器+1 効果:対象に武器攻撃を行い、そのダメージに+[(SL×3)+【魔法防御】]する。 このスキルがクリティカルした場合、ダメージに+【魔法攻撃力】する。 ■ソウルバスター 【エクストラ可】 SL上限:5 タイミング:メジャー コスト:10 判定:命中判定 対象:単体 射程:武器 効果:対象に武器攻撃を行い、そのダメージに +[(SL×3)+所持している[ブレイブストーン]の個数]する。 このスキルがクリティカルした場合、ダメージに+[SL×2]Dする。 ■テトラルキア 【エクストラ可】 SL上限:4 タイミング:マイナー コスト:10 判定:自動成功 対象:自身 射程:なし 効果:このスキルの取得には[魂の物質化]SL3以上が必要。 任意の【能力値】を4つ選び、次に与えるダメージに+[【能力値】の合計]する。 1シナリオにSL回まで使用できる。 ■オルギア SL上限:1 タイミング:セットアップ コスト:6 判定:自動成功 対象:範囲 射程:0 効果:自身を除く射程内のキャラクター全てが対象。 対象の【LP】を1点減らし、その数だけ[ブレイブストーン]を入手する。 ■グノーティ・セアウトン SL上限:3 タイミング:セットアップ コスト:8 判定:自動成功 対象:自身 射程:なし 効果:あなたの【魔法防御】に+[SL×4]する。 この効果は1ラウンドの間、持続する。 ■ソウル・ジャッジメント SL上限:10 タイミング:ダメージロールの直前 コスト:4 判定:自動成功 対象:自身 射程:なし 効果:宣言と同時に、SL個までの[ブレイブストーン]を消費する。 そのダメージに+[消費した[ブレイブストーン]×10]する。 ■一人連携 SL上限:2 タイミング:マイナー コスト:8 判定:自動成功 対象:自身 射程:なし 効果:使用時に[ブレイブストーン]を1個消費する。 使用条件を全て単独で満たしている場合、このメインプロセスで コストは人数分払い、連携スキルをメジャーアクションとして使用する。 ダメージロールが発生する場合、その連携スキルの参加人数回だけ行うこと。 ただし[アローストーム]は禁止する。 1シナリオにSL回まで使用できる。 ■無神論 SL上限:1 タイミング:マイナー コスト:6 判定:自動成功 対象:自身 射程:なし 効果:あなたがこのメインプロセスでダメージを与えた場合、 その対象の【信仰】を1点減らす。 【信仰】を持たない場合、【LP】を1点減らす。 ■魔力転化 SL上限:1 タイミング:セットアップ コスト:なし 判定:自動成功 対象:自身 射程:なし 効果:使用時に[ブレイブストーン]を2個消費する。 あなたの【MP】を最大値まで回復する。 ■魂の一撃 SL上限:4 タイミング:ダメージロールの直前 コスト:6 判定:自動成功 対象:自身 射程:なし 効果:このスキルの取得には[魂魄兵装]SL3が必要。 その攻撃のダメージに+[SL×3]する。 ■復元 SL上限:1 タイミング:効果参照 コスト:なし 判定:自動成功 対象:自身 射程:なし 効果:あなたが[戦闘不能状態]になった時に使用する。 [ブレイブストーン]を3個消費して、【HP】を最大値まで回復する。 1シナリオに1回まで使用できる。 ■我は神を崇めず SL上限:5 タイミング:パッシブ コスト:なし 判定:なし 対象:自身 射程:なし 効果:あなたが【信仰】を持つキャラクターに与えるダメージに+[SL]Dする。 ■一切虚無 SL上限:5 タイミング:ムーブ コスト:10 判定:自動成功 対象:自身 射程:なし 効果:使用時にSL個までの[ブレイブストーン]を消費する。 このメインプロセスでは、メジャーアクションでは武器攻撃しか行えない。 武器攻撃を消費した[ブレイブストーン]の数だけ行う。 ■オクタヴィア SL上限:1 タイミング:セットアップ コスト:16 判定:自動成功 対象:自身 射程:なし 効果:このスキルの取得には[ロゴス]のCL6以上が必要。 あなたの【攻撃力】に+[【魔法攻撃力】+【物理防御】+【魔法防御】]する。 あなたの【魔法攻撃力】【物理防御】【魔法防御】は0になる。 この効果は1ラウンドの間、持続する。 1シナリオに1回まで使用できる。 ■魂の煌き SL上限:3 タイミング:リアクション コスト:4 判定:自動成功 対象:自身 射程:なし 効果:あなたが攻撃の対象になった時に使用する。 [ブレイブストーン]を1個消費し、その【HP】ダメージを【MP】ダメージに変更する。 【MP】が0以下になった場合、超過ダメージは【HP】を減らす。 このスキルを使用した時、攻撃は自動的に命中する。 1シナリオにSL回まで使用できる。 ■ディエス・イレ SL上限:3 タイミング:ムーブ コスト:2 判定:自動成功 対象:自身 射程:なし 効果:使用時に[ブレイブストーン]を1個消費する。 あなたの【攻撃力】に+[[ブレイブストーン]の個数×2]する。 この効果は1ラウンドの間、持続する。 1シナリオにSL回まで使用できる。
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」 ヴェストリの広場は、魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある、中庭だった。西側にある広場なので、そこは日中でも日があまり差さない。決闘にはうってつけの場所であるとギーシュは考えていた。 予想通り、噂を聞きつけた生徒たちで、広場は溢れかえってる。 その中心に佇むギーシュは、優雅な物腰を心がけながらも内心ややイラついていた。 「あの金髪の平民、随分な口を叩いていたけど、まさか逃げたんじゃないだろうね」 食堂から付いてきた取り巻きの一人が言う。 そう、決闘の相手が中々やってこないのだった。 しかし、ギーシュは彼が逃げたとは考えていない。 「それはないだろうね。この場合、使い魔の行動は主の行動だろう。あれだけの侮辱を行なった上に逃げたとなると、ゼロのルイズの面目は地に落ちるよ。ルイズは必ず彼をここに連れてくるさ。戦いに来るか、それとも謝罪によこすかは分からないけれどね」 薔薇を模した杖をぴん、と弾く。 もっとも謝ってきたところで、許す気はあまりない。誠意の見せ方次第だ。 「ギーシュ!」 その時、人垣を掻き分けてギーシュの方へ駆けるように近づいてくる者がいた。ルイズである。 「やあ、ルイズ。申し訳ないがこれから君の使い魔をちょっとお借りするよ。……しかし彼はいったいどこにいるんだ? まさかとは思うが、逃げたのかい?」 「……っ、知らないわよあんなやつ! それよりもギーシュ、バカな真似はやめて! 大体、決闘は禁止じゃない!」 「禁止されているのは、貴族同士の決闘のみだよ。平民と貴族の間での決闘なんか、誰も禁止していない」 「そ、それは、そんなこと今までなかったから……」 言い淀むルイズを、ギーシュは少しだけからかってやろうと思った。使い魔が失礼を働いたのだ。主が少々皮肉を言われても、文句は言えまい。 「ルイズ、君はあの平民が好きなのかい?」 どう反応するか、と思った。 まんざらでもないのならこの性格だから、顔を赤くして否定するだろう。 あるいは、本気で怒り出すか。 「――そんな、こと、」 しかしルイズの反応は、どの予想ともかけ離れたものだった。 彼女の顔が一瞬で蒼白になり、体が心なしか震えている。何か言おうとしているが言葉になっていない。 (……なんだ? 使い魔との間に何かあったのか) ギーシュが怪訝に思った時だった。 「ゼロのルイズの使い魔が来たぞーっ!」 野次馬たちの間からざわめきの波紋が湧いた。そちらに視線を向けると、くすんだ金髪が見えた。ルイズの使い魔が生徒達の層を抜けて決闘の場に入ってくるところだった。 「ふん、ようやく来たか。ルイズ、君は使い魔の側へ行きたまえ。 ――諸君! 決闘だ!」 ギーシュが薔薇の杖を掲げ、うおーッ! と歓声が巻き起こる。 生徒達の声に腕を振って応えながら、ギーシュは使い魔が妙な物を肩から提げていることに気付いていた。 「ブレイブストーリー/ゼロ」-06・a 「それは……何かの武器かい? それを取りに戻っていたから遅れたんだね」 ギーシュは鷹揚な仕草で、使い魔――ムスタディオの持つそれを眺めていた。 全長1メイルはあるだろうか。中心部は金属製の無骨な光を放ち、それを挟んで木製の取っ手と細長い筒が生えていた。 なんだか分からないが面白くなりそうだ、と思う。 「喧嘩じゃなくて決闘なんだろ。で、あんたたちは魔道士だ。素手でやるわけじゃないだろ」 「へぇ、よく分かっているじゃないか。そうだ、メイジである僕は魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」 「代わりにオレは、こいつを使わせてもらうぜ」 「ああ、それが君の剣であるなら何も言わないよ。 言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」 言い放ち、薔薇を振った。舞い落ちた花びらが光をまとい、甲冑姿の女戦士へと姿を変える。 戦乙女ワルキューレを模った、青銅の身体を持つ彼のゴーレムだった。 傍にいたルイズが目の色を変える。 「ちょっと、ギーシュやめなさい! こんなことして何になるのよ!」 「ルイズ、もう決闘は始まってしまったんだ。外野が口を挟むのは無粋だな」 「そういう問題じゃないでしょ! む、ムスタディオもいいから謝りなさい! それにあんた、その武器――」 「ヴァリエール様は外に出ていてくれ」 ムスタディオが短く、しかし妙に存在感のある声を出す。 絶句するルイズを見て、ギーシュは目を細めた。 「いいからどいているんだ、ルイズ。僕は誇りを傷つけられた。許すわけにはいかない。同じ貴族たる君にも分かるだろ?」 「そ、それはあんたが悪かったからでしょ!」 よく通る声で非難するルイズに、薔薇を差し出す。 「僕が非があるのか、そうでないのを決めるのは君じゃない。既に全ての決定権は、この決闘にゆだねられているんだ」 薔薇に口付けをしてみせる。決まった。 「む、無茶苦茶なこ――」 決まったと思ってしまったので、ギーシュはそれ以上ルイズの話を聞かず、 「さあ、行けワルキューレ!」 命令を下されたワルキューレは突貫を開始し、 十メイルほどあった距離をあっという間に縮めんとし、 その先にいたムスタディオが金属の武器を構えるのが見え、 ぱん、と乾いた音が響いた。 その音は、直後に鳴り響いたガラスが砕けるような、そして金属が引き裂かれる不快音にかき消された。 騒がしかった声援や野次が一瞬で消えうせた。ギーシュも何が起こったのかすぐには理解できなかった。 ギーシュとムスタディオの中間で、ワルキューレが動きを止めている。いや、動こうとしているのだが、ぎしぎしと歪に蠢くのがやっとだ。 ――ワルキューレの甲冑の隙間という隙間から、大小様々なつららめいた氷柱が飛び出していた。 それは甲冑を押し広げ、青銅の体は原型を失うほど歪み、破壊されている。 結果、広場の中心に突如として大きな氷の華が花開いたような様相を見せていた。 慌てて華の向こう側にいるムスタディオを見る。構えた武器の筒の先から一筋の煙が上がっていた。 いや、違う。あれは冷気だ。 あの筒から――氷の魔法が飛び出したのか。 その時になって初めて、ギーシュは決闘相手がただの平民でないことを理解した。 「……これだけか?」 ムスタディオのつぶやきが聞こえた瞬間、ギーシュの顔から表情が失せた。 「……そうか、君もメイジだったんだね。厳つい外見にだまされたが、それは杖だったのか。 よかろう、なら僕も容赦はしない!」 ギーシュが薔薇を振ると、花びらが舞って新たなワルキューレが六体現れる。七体のゴーレムによる波状攻撃、これがギーシュの得意とする戦法であった。 先ほどまではただの平民と侮っていたから、一体で充分だと思っていた。 しかしこの相手は、そうはいかない。 全力で倒すに値する。 「美しく舞いたまえ、麗しの戦乙女達!」 ギーシュが薔薇を振り下ろす。それを合図に、六体のゴーレムが次々とムスタディオに向かって突進した。 人垣のざわめきが復活するが、直後に連続で鳴り響く銃声にかき消された。 ◇ 火蓋の切られた決闘を、様々な思惑の元に眺めている者達がいる。 ◇ 決闘を見物しに来た生徒たちの人垣。その最前列に、キュルケの姿があった。 平民と貴族の決闘なんてなぶり殺しである。しかも最近様子のおかしいルイズの使い魔だ。 心配した彼女は、我先に、という勢いで広場にやって来ていたのだった。 「彼、メイジだったのね」 生徒達がギーシュとムスタディオをそれぞれ好き勝手に応援している中、つぶやくように言う。 しかも中々の使い手と見える。皆があっけに取られている内に氷の魔法を次々に撃ち出し(しかも詠唱を必要としない魔法だなんて、見たことない!)、既に全部で三体のゴーレムを撃破していた。 最初はどうなることかと思ったが、これならヘタをするとムスタディオの方が勝ってしまうかもしれない。 少し安心していると、 「違う。あれ、魔法じゃない」 平坦な声の訂正を入れられ、キュルケは傍らを見下ろした。 タバサだった。最初は一緒にいなかったが、彼女の身長では人垣の中からは見えなかったのだろう。最前列に出てきたところを見つけて捕まえたのだった。 「あんたが野次馬根性発揮するなんて、珍しいわね」 そうからかってみたが、すぐに違うことに気付く。 タバサはいつもの通り無表情だったが、これは無表情を装おうとしているものだ。親友であるキュルケにはそれが分かった。 何を動揺しているのだろう、と不思議に思ったが、同時にタバサが他人に興味を持つのは珍しいことなので、それはそれで楽しい。 (さてはこれは、一目惚れかしら!) 恋に生きるツェルプストーが一人、微熱のキュルケは実に勝手な解釈をするのだった。 「で、それはそうと魔法じゃないってどういうこと?」 返事はない。 タバサは食い入るように、戦いを見守っている。 ふとキュルケは、そのタバサの両手に見慣れない手提げ袋があることに気付く。 握り締められて形の崩れた袋は、中に収まっている物のシルエットをあらわにしていた。 (珠か、石ころか何か……二つ、かしら?) そんなことを考えた瞬間、金属と金属がかち合うような鈍くて重い音が腹に響く。 慌てて広場に視線を戻したキュルケが見たのは、ゴーレムに体当たりを食らい、杖のようなものを弾き飛ばされるムスタディオの姿だった。 ◇ 「ふむ、どうも雲行きがおかしくなってきたのう」 そこは学院長室だった。 魔法で形作られた『遠見の鏡』を維持しながら、オールド・オスマンがコルベールに話しかける。 鏡に映し出されているのはヴェストリの広場、その中心で行なわれている決闘の模様である。 金髪の使い魔がゴーレムの体当たりを受ける。彼は最初の勢いで三体を倒したのはいいが、その後は数に物を言わされて苦戦しているようだった。 オールド・オスマンは、その右手に刻印されたルーンが淡い光を発しているのを見つめている。 「確かに君が持ってきた文献にある紋様と同じものじゃの。それに中々強力な魔法の使い手のようじゃ。しかし――伝説にあるガンダールヴの能力とはちと外れてはおらんかの?」 「そ、そのようですな……」 コルベールが興奮した様子で学院長室に飛び込んできたのは、少し前のことだ。彼はムスタディオのリハビリの際にスケッチさせてもらったルーン文字が、始祖ブリミルの使い魔、ガンダールヴのものに酷似していることを突き止め、その報告に来たのである。 しかし少し妙な事態になっている。伝承にあるガンダールヴは主人の呪文詠唱の時間を守るために特化した存在で、あらゆる『武器』を使いこなし、千人の軍隊を撃退するというものである。 しかしコルベールが熱っぽく説明している傍で始まった決闘を見てみると、たった六体のゴーレムに苦戦し、しかも肉弾戦が主体ではないようだ。 「し、しかしまだ始まったばかりですし、彼がその能力を余すところなく発揮しているとも限らんでしょう」 コルベールは禿げた頭に光る冷や汗をハンカチで拭きながら、様子を見ましょうと促す。 「……いや、ワシとて彼がただの使い魔とは思っとらんよ。 ただ、何か条件みたいなものがあるのかと考えているだけじゃ」 「条件?」 オールド・オスマンは質問には答えず、代わりにこんなことをのたまった。 「あと彼、周囲の生徒達のことも考えて立ち回っておるようじゃのう」 ◇ 「――ふうん。あの杖、ああいう風に使ったらいいのね」 土くれのフーケは誰にでもなく、そう言った。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 「……ん?」 ムスタディオは森の中、一際高い木の上で怪訝に眉根をひそめた。 そこからは空き地と廃屋が概ね見通せる。視認出来るということは射線が通るということであり、彼は戦いの中で鍛えた狙撃眼で監視を続けていた。 そして、これはいよいよ自分の出番なのかもしれないと思う。 廃屋からルイズが、次いでロングビルが出てきたのだ。ルイズは両手を後ろに回しており、その表情は硬い。 何か廃屋の中であったのか、あるいは何もなかったからこその落胆か。しかし後ろのロングビルはどこか晴れ晴れとした表情をしている。 その奇妙な齟齬の意味を噛み締めようとした時、ロングビルが大声を上げた。 「ムスタディオさん! ミス・タバサを見つけましたわ! それに敵を捕まえました、出てきてください!」 「本当か!」 大声をあげ、木を滑るように下った。空き地へ出ると、ロングビルは破顔し、その一歩前にいるルイズはしかし益々表情を失くしていた。 ロングビルの言葉でやや高揚していた心が疑問を投げかける。 この違和感は何なのだろう、と。 その答えはすぐにもたらされた。 「……ムスタ、こいつを撃って!」 ルイズの言葉の意味を、ムスタディオは咄嗟に理解できなかった。そのために硬直してしまった瞬間にルイズがこちらに向かって駆け込もうとし、しかしロングビルに腕を掴まれる。 その腕が後ろ手に縛られているのを見て、目の前で繰り広げられている光景が何なのか分かったが。 おっとり刀でブレイズガンを構えた時には遅かった。 「おっと、動くんじゃないよ」 今までの貞淑な様子から一変、荒々しい野党の声を上げるロングビルの手にはナイフが握られており。 その切っ先は、ルイズのか細い首に触れていた。 「な、なんのつもりだ……ロングビルさん?」 「間抜けな詮索の前に、杖を捨てな! 強くても馬鹿な男は哀れなだけだよ? ――そう、腰の剣もよ」 鋭い語気と皮肉にたじろぎながらも、ムスタディオは状況を判断しようとしていた。廃屋は静まり返っている。 先ほどまでは慌ただしい物音がしていた。恐らく、キュルケは中で拘束されているのだろう。そしてロングビルの腕に後ろから絡めとられているルイズ。眼を伏せ、唇を噛み、口惜しそうに震えていた。 周囲には野生らしき獣の気配しか感じられない。 出来ることは、何もなかった。 「……あんたがフーケだったんだな」 ロングビル――土くれのフーケがにやりと笑う。 ムスタディオは、力なくブレイズガンを、そして鞘に納めたままのデルフリンガーを地面に下ろした。 どこか遠くで、きゅるきゅるという獣の鳴き声が聞こえていた。 「ブレイブストーリー/ゼロ」-19 廃屋の正面に四人は転がされた。ムスタディオも両手を縛られ、四人の杖や身につけていた鞄等は全て外され、一か所に集められている。しかしブレイズガンだけはフーケの手の中にあった。 フーケが手際良くブレイズガンを操作し、構える。銃口が向けられた先は廃屋である。 「それじゃあ、具合を見るとしましょうか」 その言葉と共に、引き金が銃握に押し込まれた次の瞬間。 森に吹雪が吹き荒れた。 「きゃああああ!?」 誰の物とも知れない悲鳴が暴風にかき消される。廃屋から噴き上がった冷気が怒涛の如く体を舐め、体温を削り去る。同時に信じられない速度で建物の表面を結晶が覆って行く。吹雪が舞ったのはたった数秒のことだったが、それが止んだ頃には廃屋が凍り漬けになっていた。 ルイズも、キュルケも、普段は無表情なはずのタバサでさえも廃屋に倣うように表情が凍っていた。 ただ一人、その意味を噛み締めるムスタディオはフーケから目を離さない。 「へぇ。すごいじゃないか。やっぱり持ち主の力を増幅するマジックアイテムみたいだね。 加えてこの精神力の消費の低さ。とんでもない値打ち物じゃないか。ムスタディオ、平民のあんたが持っておくにはもったいないほどにさ」 ブレイズガンの銃口がムスタディオに向けられる。銃口の内側に刻まれた魔法文字の文様が淡く発光する様を見ながら、自分はここで死ぬのだろうかと思った。 しかしその思いは、薄らと空気に残った冷気の残滓程度の強さしか伴っていない。 それより。彼にはどうしても問い正したいことが出来ていた。 「……その銃の威力は、持ち主の魔法力に比例するんだ。あんた、凄い魔道士だったんだな」 「そりゃ良いことを聞いたね。いいのかい、そんなことをあたしにばらしても?」 「メイジ、貴族だったのかい、あんた?」 フーケが不審そうな顔をするが、その表情は一瞬で忌々しい風へと溶ける。 「……『名をなくした者』ってやつさ。今は違う」 ムスタディオはそう告げるフーケを見た。 イヴァリースで行動を共にしていた貴族達、それにキュルケやルイズが時折見せる高貴さは感じられない。 その一切は削げ落ちてしまったのか。あるいは元から持ち合わせていなかったのかは判断しかねる。 でも。 ムスタディオは考えてしまう。悪い方へ、悪い方へと。 今彼女に残っている感情、考え方、それが彼女の本質だったのだとしたら。 貴族という存在は、なんて。 「――あんたは、誰かのために剣を執ろうと思ったことはあるかい?」 何故、そんな問いが口を突いて出るのかと自分でも不思議に思った。 そして同じように、様々な何故が胸を渦巻いていた。 何故、仲間達の顔がこんなにもちらつくのだろうか。 何故、会議室でのコルベールの様子が心の底にこびりついているのだろうか。 何故、それと今まで共に研究に興じた彼の姿を比べている自分がいるのだろうか。 何故、ルイズが泣いていた顔が。楽しそうにしていた町での様子が。出会った当初の忌々しげな表情が頭の中を繰り返されるのだろうか。 そして何故、フーケに「執ったことがある」と答えてほしい自分がいるのだろうか。 「ふん。時間稼ぎはするだけ無駄だよ」 フーケの返答に、その何故への答えの凡てが含まれている気がしていた。 しかし彼女は答えてくれなかった。 「誰も助けに来てくれやしないんだからね」 フーケが引き金に掛けた指に力を込めるのが分かった。 ムスタディオは死にたくなかった。 自分が死ぬのはもちろん嫌だが、後ろの三人の少女を死なせたくはなかったし、こんな悪党に強力な武器を渡してしまうのも許せなかった。 でも何より、今の問いへの答えが知りたかった。 「――そうでもない」 だから必死の形相でフーケを睨み続けていた彼は、タバサが小さく呟き、口笛を鳴らしたのを聞き逃した。 ◇ ――捕まった夜。 フーケと交戦する、その直前。 タバサは自らの使い魔に、自分の後を尾行し、合図と共にフーケを襲えと命じていた。 彼女が合図を出すタイミングとして指標にしたのは、フーケが最も油断した瞬間。 そしてムスタディオとフーケの会話は、彼がもたらした情報の有用性、そして理由は定かではないがフーケの内面を抉ったらしい問いかけ、それらの要素を以て図らずともタバサがフーケに捕らわれて以来、初めて大きな隙を生じさせていた。 「そうでもない」 タバサが口笛を吹いた次の瞬間。 一度は傷ついた体を装って撤退した使い魔が、再びフーケに襲いかかった。 ◇ 森の中から何かが、烈風の如く飛び出して来た。 それがタバサの使い魔の風竜だとキュルケが気づいた時には、フーケが風竜の羽撃を食らって何メートルも吹き飛ばされており、その後驚異的な勢いでフーケが森の中へ飛び込み、姿を消していた。 あっけに取られている時間は長くなかった。タバサの縄を食い千切ったシルフィードに拘束を解いてもらう。 他の二人も自由になるのを見ながら、真っ先に自分の杖を奪われた装備品から掴み出すと、キュルケはタバサに走り寄った。 「タバサ! よかった、本当によかった!」 タバサはいつも通りのタバサだった。死ぬような目に合ったとは思えない無表情さで杖をチェックしている。 その彼女に抱きつこうとして、しかしキュルケは杖で制された。「まだ終わってない」という呟きに、そんなことは分かっているのに、と思う。胸中ではずっと、憎悪の炎が静かに揺らめいている。キュルケはフーケのことを決して逃がさない、と決めていた。 フーケが飛び込んだ辺りの茂みを見ようとしたキュルケは、しかしその前にタバサの様子が妙なことに気づいた。 彼女は先ほどから、フーケの気配に気を払っていないように見えたのだ。 その視線は解放されてからずっと一点に集中されている。 ムスタディオだった。自分の装備品を確認し、タバサは剣を引き抜く彼の挙動をずっと追っていた。 怪訝に思ったのは彼女に余裕が残されていたからだった。 木々がなぎ倒される凄まじい音が響き渡り、彼女の頭からその疑問は締め出されることになる。 森の中、凄まじい勢いで土が盛り上がっていく。 真っ先に反応したタバサが、取り戻した杖で氷の魔法を放つ。しかし巨大な氷の竜巻の直撃を受けた小山は形をやや崩しただけですぐさま再生し、どころか人の形を成して行く。 現れたのは巨大なゴーレム。 そしてその肩には。 「……フーケ!」 フーケはゴーレムの肩の上で、何か巨大な杖めいた物を抱えている。それはムスタディオの杖を巨大化させたような代物だったが、今のキュルケにとってそれは些事であった。 ――疑問が締め出されたキュルケの中は、憎悪の炎だけで満たされていたから。 キュルケは、自分の顔が嫌悪と獰猛さで歪んでいることを知らない。 そしてそんな己の様子を、タバサが決定的なまでの興味深さで一瞥したことにも気付かなかった。 ◇ 「おいおい、やっとこさ鞘から出してくれたと思ったらなんだいこの修羅場はよう」 フーケが抱えている物を見た時、ムスタディオは我が目を疑った。デルフリンガーが何か言っているが耳に入ってこない。 「なんで、あんな物が……!」 発作的な勢いで仲間を見やる。キュルケとルイズは戦闘態勢を取り、タバサが使い魔に飛び乗ろうとするところだった。 「逃げるぞ! 三人とも竜に乗るんだ!」 怒鳴りながら自分も使い魔へ走り寄る。ずしん、とゴーレムが足踏みし、腹に響く音。 キュルケとルイズが杖を振りかざす。 「ヴァリエール様! キュルケ!」 「嫌よ! あたしは絶対にあの女を捕まえるわ!」 「私も、逃げるわけにはいかないのよ!」 二人の返答にムスタディオは憤りに近い苛立ちを覚え――次いで、二人の目に真剣さと、剣呑さが同居しているのを見てとって、踵を返して二人へと走った。 二人はてんでバラバラに呪文を詠唱し始める。しかしそれよりも早く、フーケが「それ」を構えるのが見えた。 「二人とも避けろっ!!」 叫べども、二人とも呪文を詠唱していたために動きが鈍い。 ムスタディオが二人目掛けて跳んだ瞬間、フーケの手元で光が断続的に瞬き、巨人の集団が一斉に足踏みをしたような連続した轟音が鳴り響く。 ゴーレムの出現によって荒れた地面が砂埃を巻き上げ、視界が覆われてしまう。地面を転がったムスタディオの腕の中には、華奢な一人分の温もりがある。恐らくルイズだった。 「ヴァリエール様、逃げるぞ」 「……いやよ」 温もりを抱きかかえたまま、ムスタディオは砂塵に紛れて森へ逃げようとする。 その腕を、ルイズは引き剥がそうとしていた。 「何言ってるんだ。今のあれ、見たでしょう。あれは人間じゃ太刀打ちできない。不意を打つか、労働八号や飛空挺を持ってこないと」 「逃げるわけにはいかないのよ!」 視界が段々と晴れてくる。走るムスタディオの目に、必死な形相のルイズの顔がぼんやりと入る。 その訴えをムスタディオは無視することにした。森へ飛び込み、ルイズを離す。ルイズはすぐに飛び出して行こうとしたが、外でゴーレムの足音が響き、その動きが固まった。その隙にムスタディオが腕を掴む。 「離しなさいよ!」 いい加減にしろ、と言いかけて、ムスタディオはしかし言葉に詰まってしまった。 彼の目はルイズの表情に釘付けになっていた。 何故、その眼差しに、悲愴なまでの決意を感じてしまうのだろう。 そして何故、と思う。 何故自分はフーケに投げ掛けた問いを、ルイズにも答えて欲しいと思っているのだろう。 唇を動かしかけたムスタディオは、 掃射の音が鳴り響いて我に帰った。 完全に砂が晴れた空き地を見ると――キュルケが転がっていた。 「くそ!」 こんな逼迫した状況で余計な事を考える自分の心を罵倒する。 「タバサさんと一緒に逃げるんだ! 絶対に戻って来ちゃ駄目だぞ!」 叫ぶように言って、ムスタディオは森を飛び出した。 剣一本で飛び出すなど自殺行為に等しかったが、シルフィードの一撃でブレイズガンは跳ね飛ばされ、姿が見えなくなっていた。 だからムスタディオは走る。異様な速度で風景が流れる。 デルフリンガーを握る左手のルーンが輝く軌跡を空中に残す。 多種多様な「何故」で内心がぐちゃぐちゃのまま、ムスタディオは駆ける。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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表紙へ戻る / 次ページ ――モット、チカラヲ。 それが、ムスタディオが最後に聞いた声だった。 聖天使とは名ばかりの血塗られた悪魔、その囁くような断末魔。 後方から支援狙撃を行っていたムスタディオにも何故か届いた。 「音」ではなく、心に響く類だったのだろう。 背骨が凍りつくような悪寒と共に、魔法を修めていない彼でも瞬時に理解する。 聖天使アルテマは、ムスタディオ達が今まで戦ってきたルガウィ達とは一線を画した、絶望的な力を引き出そうとしている。 ――しかしそれは、彼が客観的に戦況を見る立場にあったからそれを理解できたものだった。 最前線に立ち、斬り合う仲間達にはそんな余裕はない。 朽ち果てた飛空挺の甲板の上、動きを止めて小刻みに震え始めた巨躯を前に、彼らは剣を握り締め、次に起こる事態に備えて緊張を漲らせている。 だが満身創痍だ。おそらくその瞬間瞬間に対応するのがやっとで、「何が起こるか」を深読みできている者はいない。 ムスタディオを除いては。 「皆、逃げろぉっ!」 ムスタディオは絶叫しながらブレイズガンの引き金を絞る。 仲間達がその声に反応するのと、凍てついた魔弾が巨体を射抜き、氷の柱が炸裂するのはほぼ同時だった。 しかし――聖天使アルテマに漲っていた力が暴発するのもまた同時だった。 炸裂の瞬間を正しく認識することは出来なかった。 もはや痛みしか感じられないような熱波にもみくちゃにされ、抵抗する間も出来るはずもなく意識が剥ぎ取られていく。 白熱した視界が暗転する一瞬の間に、彼は走馬灯のように最後に見た光景を思い出していた。 逃げようとした仲間が背中から吹き飛ばされていた。 この分では自分も仲間も助からないなと、どこか他人事のように思う。 しかし一方で、何か奇妙なものを見た気がしていた。 それは、いくつかの薄い銀色の円盤だ。 一番近い物を記憶から引っ張り出そうと試みる。――たぶん、鏡だ。 アルテマが炸裂する瞬間。仲間の近くに、大小様々な鏡が浮かんでいた。 それは何故だろう、と考えることは出来なかった。 ほんの少しの違和感と圧倒的な絶望を抱え、彼の意識は暗がりに転げ落ちていた。 転げ落ちた先に、続きがあるなんて考えもせず。 「ブレイブストーリー/ゼロ」 ◇ 爆煙の中、ちりちりと青白い燐光が舞う。 最初、その臭いが何なのかルイズは分からなかった。 何かに似ている。でもとんでもなく場違いな臭いの気がしてなかなか思い出せない。 ――最初に見えたのは、黒っぽい足だった。 そうだ、と思った。これは肉が焼ける臭いだ。 厨房から匂ってくる食欲のそそられる香り。 ――煙が晴れるにつれ、徐々に全景が。 けど、そんな美味しいものがどこにあるというのだろう。 今目の前にあるのは、肉が、 ――衣服はボロきれのようにかろうじて体中に引っ掛かっているだけ。 ――皮膚が剥げて垂れ下がり、ところどころ衣服のように体にへばりついている。 肉がボロボロに焼け焦げて、人間じゃなくなったような人間が転がっているだけだ。 ルイズの嘔吐する音は、巻き起こったパニックによる喧騒にかき消され、ほとんどの者の意に介されなかった。コルベールが指示を飛ばし、何人かが慌てて怪我人を学院に運び、その他大勢も学院に戻される。 その中で、最後までルイズはへたり込んでいた。誰かがずっと傍についていてくれたような気がするが、赤くて長い髪の誰かだったような気がするが、そこから記憶は曖昧で分からない。 我に返った時には、医務室外のベンチに座り込んでいた。 廊下には誰もいない。静かだと思ったら窓の外は暗くなっていて、二つの月が夜空高く昇っている。それをしばらく眺めた。 ぼんやりと、思うことがあった。 「ルイズ、気がついたの?」 声をしたほうを見やると、キュルケが立っていた。いつもと違い少し気の毒そうにしていたが、そんな機微を感じ取る余裕はルイズにはない。 「……まだ気がついてないわ。ていうか、私の召喚した使い魔よ。あなたが心配することじゃないわ」 「そうじゃなくって、あんたのことよ。ずっと呆けてたから、皆心配してるわよ」 心配。やはりぼんやりと考える。誰が何を心配するというのだろう。 サモン・サーヴァントの儀式。年に一度の神聖な、そしてルイズにとっては進級を賭けた、自らの価値を選定される儀式。 皆次々と、それが当たり前かのように使い魔を召喚していく。いや、事実それは出来て普通のことなのだ。皆にとっては。 ルイズは強がっていたが、内心ではどんどんプレッシャーが膨れ上がっていた。 表面上は誰に何を言われても絶対に認めなかった。 しかし自分が当たり前のことを当たり前にできないメイジなんだということは自覚していた。 だから勉強は本当にがんばった。落ちこぼれが努力をしなければ、救いようがない。ルイズより素質を「持っている」というだけで馬鹿にしてくる連中には、絶対に負けてやらないと思った。 けど、座学は机上の出来事でしかない。 実際に魔法を扱えなければ意味がない。 使い魔が召喚できない、進級できないとなれば、どうあがいても皆より劣っているんだと自分でも納得してしまいそうで―― ――だから彼女には、もう後がなかったのだ。 『宇宙の果てのどこかにいる私のしもべよ! 神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! わが導きに、応えなさい!』 そしてその結果は。 「……、う、うぅぅ」 不意に、止まっていた感情がうねり始めた。涙で視界が歪む。 「ちょ、ちょっと大丈夫!?」 「うるさい、ほっといて!」 背中に添えられたキュルケの手をはねのけ、大声を出す。 涙は止まらない。キュルケの前で泣くなんて考えられなかったが、一方でどうでもいいと感じていた。 「とりあえず落ち着きなさいよ。ほら、食堂から飲み物もらって来たのよ。一緒に飲もうと思って」 両手にカップを握らされる。今度ははねのける気も起きない。カップの中に自分の涙が落ちるなと思ったが、それもどうでもいい。 どうでもいい。 何かが限界にきているのを自分で感じていた。 「……いくら、努力しても、む、報われないのよ」 だからもう、言ってしまってもいいか、と思った。 「え?」 ◇ 「皆に、絶対に、負けないって思ってたのに」 その弱音を、キュルケは信じられない気持ちで聞いていた。だってあのルイズだ。 「家族にも顔向け、で、できないし、頑張って、きたけ、ど、ひっ、一つもうまく、いかないし」 キュルケの知るルイズ。 有名な家系の出なのに魔法は失敗ばかり。 でも皆のからかいにも負けず、必死に頑張る勉強家。 負けん気が強く、気持ちに実力が追いついてないからトラブルばかりで。 でもだからこそ面白い友人。 それをからかうふりをして発破かけてやるのは、ルイズには悪いが本当に楽しかったのだ。 「な、何が強力、な使い魔よ。ひっ、く、何、が、神聖で、美しい、よ」 そのルイズが、弱音を吐くなんて考えたことがなかった。 嗚咽を抑えられないルイズの口から、切れ切れで弱々しい響きが漏れ続ける。キュルケは呆然と言葉を追う。 「や、と成功した、って、思ったら、あ、んなし、しにかけの人で。失敗も、いいところ、じゃ、ない。う、こ、こんな落ちこぼれの、どこを、ひっく、誰が、心配するって、いうのよ……」 「そ、それは」 自分は心配してる。そう言おうとした。ルイズの両親だって姉妹達だって、彼女のことを絶対大事に思ってる。 けどそれを彼女にまっすぐ伝えるのは少し気恥ずかしかったし、第一今それを口にしても、彼女の耳には届かない気がした。 そうして何と答えようかと戸惑っている間をどう捉えたのか。 コップに視線を下げたまま泣くルイズが、自嘲するように信じられないことを言った。 「わ、私は……どうせ、どうせ持たない者なのよ。ゼロなんだ」 何故かその瞬間、キュルケは頭に血が昇るのを抑えられなかった。 無言でルイズの目の前に立つ。 何か言ってやろうと思ったが、喉がふるえるだけで声にならない。 ルイズが不思議そうに顔を上げた瞬間、頬を打つ音が不謹慎なほど軽やかに、廊下に反響する。 ◇ q1gdrW3s コルベールは医務室で書類を書いていた。 コモン・サーヴァントの儀式にて一人の生徒が召喚した使い魔についての報告書である。 自室で書くことも出来たが、何故医務室にいるかというと、『彼』の傍に居た方がありのままを正しく書けると考えたからである。 ペンを動かしながら、窓際のベッドを見る。そこには青年が横になっていた。 彼の外見的特長を書き出す。金色のやや長い髪。くすんでいるのは元々か、焦げたためか。歳は10代後半~20代前半。民族は不明。肌の色はこの地域の人間と同じだが、顔のつくりがやや違う気がする。 背は高く、体格はしっかりしている。皮膚の8割を再生したので判定はしずらいが、ところどころ無事だった手や指の皮膚はかなり分厚い。 所持していたバックパック(外装はほとんど焼け落ちている)には見たことのない金属性の工具や部品、薬品や薬草が入っていた。半数は焼けて使い物にならない。別紙に所持品のリスト記載。 また、同じく見たこともない銃を所有。職業は技師か、傭兵かもしれない。我々の生活圏から大きく離れた、未知の地域から召喚された可能性大。 召喚当初、重度の火傷を負っており、直ちに医務室に運ばれた。水属性メイジ4人による1時間強の施術の結果、ほぼ完治。簡単なリハビリを行えば、日常生活は問題なく送ることが可能。 なお、現時点で意識は戻っていない。また、コンストラクト・サーヴァントは行われておらず、正式に使い魔としての契約は結ばれていない。 そこまで書いて、彼は息をつき、ペンを下ろした。 疲れた目を閉じると、彼が召喚された際の騒ぎが目蓋の裏に浮かぶ。 酷い事故だった、と思ってしまう。 召喚自体は、成功までに何十回と失敗していたことから考えると、全くの成功だった。 しかし、言っては悪いが呼び出されたモノが非常に悪い。 通常は動物や幻獣が召喚されるはずなのだ。 それが人間だったという前代未聞の出来事に重ね、あの怪我。 生徒達は事故や戦いとは無縁の良い暮らしをしてきた貴族ばかりだ。ショックが大きかっただろう。 コルベールは目を閉じたまま上を向き、眉間を揉みほぐす。……自分にとっても衝撃が大きかった。あんな姿は、かつて戦いの場でたくさん見てきたはずなのに。いや、見てきたからこそ、こんな場所で目の当たりにしたくなかったのかもしれない。 そんなことを考えながら、外が騒がしいことに気付く。 もう夜だ。注意しようと立ち上がりかけた瞬間、殴打音が耳朶を打った。 コルベールが慌てて飛び出した先に見たのは、二人の女生徒が取っ組み合っている姿だった。 正確には泣きじゃくる女生徒が顔を真っ赤にした女生徒に組み敷かれている。 「な、何をしているんですか、やめなさい!」 コルベールは二人を引き剥がし――主に顔を真っ赤にした女生徒を取り押さえ――二人を確認する。 泣いている方は桃色のブロンド、痩せた体型のルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだ。 今彼が押さえているのは真っ赤な髪に妖艶な体つきが特徴のキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーである。 この対照的な二人は、口喧嘩が絶えないことで教師陣の中でもそれなりに有名だが、今日はことに酷い。 まずルイズは泣きながら尻餅をついている。着衣は乱れ、それを直そうともしない。 人一倍貴族としての自覚が強い普段の彼女からは想像がつかない。 キュルケもキュルケで、我を忘れるほど興奮し、コルベールの拘束を逃れようともがいていた。 何があったというのか。 「ツェルプストー、少し落ち着きなさい。どうしたんですか、こんな場所で」 「……! …………!」 キュルケはふうふうと息を荒げるだけだった。興奮して言葉が出ないのか。 「ツェルプストー、お、落ち着きなさい。どんな時でも貴族たれと、いつも言われているでしょう?」 途端、もの凄い勢いでキュルケに睨まれた。 「貴族らしからぬ行動を取ってるのはヴァリエールの方です! あの子、自分のことをゼロって! 持たない者だって!!」 「だって、そ、そそうじゃない! な、なにがっ、貴族よ! こんな、こんな召喚だって失敗したのにっ!」 呆けたようにしていたルイズが急に大声を出したこと、そしてその内容にコルベールは驚くが、同時にこれは第三者の介入が必要な「修羅場」だと瞬時に理解した。 「ふざけたこと言ってんじゃないわよ!」 「ど、どどっちがふざけ――」 「やめなさい! 二人とも、口を慎みなさい!」 コルベールの一喝が響き渡った。 ルイズとキュルケは面食らった表情で言葉を忘れている。そんな二人をコルベールは見比べた。 威厳のないことで有名な彼が頑とした態度を表明するのはこれが初めてだ。 普段のコルベールなら少し優越感に浸りそうなものだが、「教育者」としてのスイッチが入った彼は、そんなことを考えていなかった。 彼は一連の口論の中で、自分の言うべきこと、正すべき彼女らの間違いを組み立てていく。 ついさっきまで『昔』を思い出させる者に触れていたからだろうか。 彼の思考はいつになく冷静で、澄んでいた。 キュルケを離し、ルイズの横に座らせる。 「……まずツェルプストー、一つ尋ねたいことがあります。この喧嘩はどちらが先に始めましたか?」 「……私です」 「そうですか。ここは医務室の前です。そして、重体患者を収容しているということは君たちも知っているはずですね。いかなる理由があろうとも、そんな場所で喧嘩などをするのは許されません。まずそれを反省しなさい」 「……はい」 何かを言いたそうだったが、反論は許さなかった。そして、全くこちらを見ようとしないルイズへ意識を移す。 「そしてヴァリエール」 「…………」 「返事は? それと顔を上げなさい」 「……はい」 こちらを見ていないが、返事をしただけましか、と思う。 「『何が貴族だ』とは、何という発言ですか。ご両親が悲しみますよ」 ルイズの小さな体がびくりと震える。 しかし、相変わらず視線を外したまま、何も言おうといない。 そのままの状態がしばらく続き、コルベールは少なくなった自分の髪を撫でた。火急のことだったので、カツラをどこかに置いて来てしまっていたことに気付く。一体いつから、自分はこの恥ずかしい頭を晒してしまっていたのか。 自分もまた余裕を失っていたようだ、と内心で自嘲した。 いかな教師といえど、自分に余裕がない状況で生徒を叱るのはよくないだろう、と普段あまり意識できていないことに考えが行く。今までの自分の発言に言いがかりや言い過ぎがなかったかどうか思い返し、それからもう一度ルイズを見た。 ◇ 「持たない者……ですか。それは、自分が皆と比べて劣っている、ということですか? 今日の出来事でそう感じましたか?」 ルイズは何も言わず、座ったまま自分の両膝を抱いた。 さっきは動揺したが、何を言われても無視する準備は出来ている。もうどうでもいいのだ。 「確かに、死に掛けの人間を召喚する、これは失敗かもしれませんね。落ち込むのは分かります」 「……コルベール先生!」 「ツェルプストー、今は先生が話しています。――ヴァリエール、よく聞きなさい。今から君にも説教をします。 君のコモン・サーヴァントは成功とは言いがたいかもしれません。しかしその言い分はこの場では不謹慎です。人が死ぬか生きるかの重大な状況でした。まずはそのことを恥じなさい」 わずかに反応する。確かにそれは本当に自分が駄目だった、と思う。 けど自分が人間を召喚したことと、その人間が死に掛けで、大騒ぎになったことは関係がない。死に掛けの人間を目の当たりにしたことは凄くショックだったけど、自分の落ち込んだ感情は自分のものじゃないのか。 ……考えが支離滅裂で、しかもとんでもなく厭な考え方だ。 「そして、これは誇って欲しいんですが」 自己嫌悪でぐるぐるする頭で、ルイズはコルベールの言葉を聞いていた。 「君は、一人の人間の命を救いました。 彼はおそらく、戦場か、災害の現場からここに召喚されたんでしょう。おそらく、その場にあのままの状態でいたら死んでいたような怪我でした。 しかし君が召喚したことにより、トリステイン魔法学院による最大限の治療を受けることができ、今峠は越えました。 彼は命を永らえています」 聞いているだけだった。 内容は頭に入ってくるが、それがどうした、と半ば自棄っぱちに思う。何を誇ればいいというのだろう。 あの人が助かったのは治療に携わったメイジの魔法が優れていたからだ。 「そう考えれば、君の功績は小さなものじゃないでしょう? だからそんなに泣くことはありません。 繰り返し言いますが、君は一つの命を救いました。そこには言い表せない価値があります。いくら成績がよくても、それをくだらないことに使ってしまうメイジもたくさんいます。そういう人間を本当の落ちこぼれといいます。 それに比べたら、君は本当に優秀な生徒ですよ」 でも、彼らは魔法が使える。 同じ土俵に立っていないんだ、と思った。 また涙が出てくるのをルイズは止められなかった。 そこから先は再び記憶が曖昧になっている。 キュルケが痛ましそうな視線でこちらを見ていたのも、コルベールがどうにか自分を励まそうとしていたのも分かっていた。 それらは、少し嬉しかった。 嬉しかったけど、何度も思うように、どうでもよかった。 そう思い込もうとしていた。 表紙へ戻る / 次ページ
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ ◇ 結局、討伐隊はロングビル、ルイズ、キュルケ、ムスタディオの四人で構成されることになり、その場は散会となった。 ロングビルが馬車の手配をしに行き、院長室の外に残されたルイズは、同じく立ち尽くすムスタディオとキュルケの顔色を窺っていた。 文字通り、顔色を窺っていた。 二人とも、普段の二人ではなかった。 色んな「何故」が、ルイズの中で飛び交っていた。 何も言わずに歩き始めるキュルケは、目の色がおかしい。いつもの享楽的な様子からは想像も出来ない。友達がさらわれたのだ、殺気立っていてもおかしくはない。でも、この様子はどうしたことだろう。 まるで、出会い頭にフーケを殺す覚悟を決めているような。 彼女の後ろを、ムスタディオが追う。彼も会議の途中で雰囲気が変わっていた。それまではうんざりしていただけのようだった。途中からの彼の顔つきを、ルイズは見たことがあった。 ――口だけじゃないってところを、見せればいいんだな。 ――口だけじゃなかっただろ。 あの時の、顔だった。 なんとなく、そうなった理由が今ならわかる気がした。 彼は以前自分に怒っていたように、教師達にも怒っている。自分にも未だ怒っているのかもしれない。 ムスタディオを見ている内に、彼のことをずっと考えている内に、ルイズは自分も含めた貴族というものには、とある側面があることを薄々理解し始めていた。貴族を貴族たらしめ、そしてそのために平民には受容し難い側面。 そしてその側面に対して、彼は怒っているのだ。 (……なんで) 学院の秘宝が盗まれ、生徒がさらわれた中、不謹慎だけど。 ルイズは、何で今、と思わずにいられなかった。 関係が、ちょっとずつ良くなってきていた。ルイズはそう思っていた。 ムスタディオからも、そう思っているであろう雰囲気は、ちょっとだけ感じられた。 なのに、何で。 ルイズは二人の後ろを追いかけようとして、よろめいた自分に驚く。 細い脚は、震えていた。 「ブレイブストーリー/ゼロ」-18 寮に戻って準備をした。 馬車に乗り込んだ。 指定された場所まで四時間あるとロングビルから聞き、出発した。 その間、余分な会話は一切なかった。 「――その不思議な杖はなんですの?」 馬車の中で、たずなを握ったロングビルがムスタディオに話しかけている。 「ああ、これは杖じゃないよ。銃の一種さ」 ムスタディオが普通に受け答えしていることに、ルイズは最初違和感を覚えた。しかし考えてみると、彼女はあの中で勇気を見せた数少ない一人である。貴族であろうと、別の扱いになったのかもしれない。 「銃? 銃というのは、金属の玉を撃ち出すものだと存じてますけど」 そんな会話を耳に入れつつ、ルイズはフーケのことについて考えようとしていた。ムスタディオのことはとても、すごく、気にかかるが、今はそれどころじゃないのだ、と自分に言い聞かせる。 フーケは何を考えているんだろう、と思った。 彼の行動は一貫性がないというか、理解に苦しむ。彼は何故学院の人間を呼び寄せたのだろうか。 何か要求を伝えるつもりなのかもしれないが、それならロングビルが持ってきた紙に一緒に書いた方が、リスクも少ない上に手間が省けるだろう。 とすれば、学院の人間を何人か集めることに意味があるのか――少し考えてみたが、それらしい意味は思いつかない。 キュルケに考えを尋ねようとして、止めた。キュルケは終始無言で馬車の進行方向を見つめていた。その目つきは猛禽のように鋭く、彼女は彼女で考えにふけっているらしかった。 「――そうなんですか。大層変わった武器ですわね」 ロングビルとムスタディオの会話が耳に入って来て、ルイズは眉間を指で押さえた。気になることがたくさんありすぎて、集中できなかった。 ルイズは八つ当たり気味にロングビルを見る。どういうわけか分からないが、ロングビルはムスタディオとその銃に興味を持っているらしい。会議の時に主たる自分ではなく、ムスタディオに協力を請うたことからもそれが伺えた。 実を言うと、そのことにルイズはムっとしていた。ムスタディオに食ってかかろうかと思っていたくらいだった。 でも、ムスタディオの様子を見ると、言えなかった。――顔色を窺っていた。 彼に気遣うのはいい。でも、顔色を窺うなんてごめんだ、とルイズは思う。 その行いは、朝方に見たへっぴり腰の教師達へと自分をどこかで繋げてしまいそうで我慢がならなかった。 自分は貴族だ、と思う。 そして貴族という存在は、たぶん彼が思ってるような卑属な存在じゃない。 それを証明したい、とルイズは思った。 恥ずべき行為は、もうしたくない。 森へ辿り着いたのは馬車に乗って三時間ほど経ってからだった。 鬱蒼と生い茂る木々は奥に進むにつれて濃密さを増して行く。 「ここから先は、徒歩で行きましょう」 やがてロングビルの言葉に、全員が馬車から降りた。辺りは昼間であるにも関わらず薄暗く、何が起こるか分からない不安を煽る。 ブレイズガンを構えたムスタディオが先行し、その後を事前に場所を調べておいたらしいロングビルが続き、方向の指示を出す。ルイズがその後で、杖を構えたキュルケが殿を守る。 ゆっくりと進みながら、ルイズはムスタディオに話しかけた。 「ねえ、廃屋に着いてからのことなんだけど、どうする?」 口調が恐る恐るになってしまったのが、自分ですごく嫌だった。自分は必要なことを尋ねただけだし、自分達の中で一番こういった事態での経験がありそうなのはムスタディオだ。なのに何を委縮しているのかと思う。 「オレも言おうと思ってました。作戦を考えたんだけど」 返って来た言葉は穏やかなもので、何故か険悪だった頃の受け答えを予想していたルイズは安堵する。拒絶か、事務的な雰囲気だったらどうしようかと思っていた。この張り詰めた雰囲気は、戦いの予感に依るところが大きいのかな、と思う。 ……はたと顔色を窺っていることに気づき、ルイズは頭をぶんぶん振った。 「……どうしたんです、いきなり首振って?」 「あ、ええと、その、ちょっと虫がたかってきて」 「?」 首を捻るムスタディオに、少しは察しなさいよと八つ当たり気味に思いながら、その雰囲気がやはり普段とは違うことに少しだけ落ち込んだ。 彼が自分を見る目が、何かここ数週間とは違っている気がした。 足を休めることなく、ムスタディオが簡潔に自分の考えと作戦を話し始める。 廃屋の立地、規模はまだはっきりしていないが、フーケの目的が読めないために迂闊な行動は控えた方が良い。そのために彼は潰しのきく作戦を立てた。 「まず、オレは廃屋の近くに寄らない。森の中に隠れています」 「あたしたち三人だけだと思わせて、油断を誘うわけ?」 キュルケの質問に、ムスタディオが頷く。 「それにフーケが廃屋の中にいるとも限らないからさ。というよりきっと、居ない可能性の方が高いと思う。オレは森の気配を警戒して、フーケが出てきたらこいつで狙撃する」 「ミス・タバサだけ置いて、フーケ自身はもう逃げていたら喜ばしいですね」 ロングビルが言うが、キュルケがそうであって欲しいけどね、と首を振った。 「じゃあ、私たち三人でフーケを相手するの?」 「そうだな。フーケが廃屋の前で待ち構えてた場合は、人質を盾にしてるだろうから……その時は、フーケの言いなりになってもいいから、何とか油断を誘ってください。 フーケの姿が外にない時は、ロングビルさんとヴァリエール様は外で見張りをして、キュルケが中の探索をしてほしい」 「わたくしも行きますわ」 ロングビルの発言に、ルイズは驚いた。ムスタディオとキュルケも怪訝そうな顔をしている。 「危険ですわ、ミス・ロングビル。それにお言葉ですけど、火のメイジであるあたしと違って戦う力に秀でてない貴女について来られると、何かあった時に守る自信がございません。相手はあのフーケなんですから」 慇懃無礼な物腰のキュルケに、ロングビルはしかし毅然と言葉を紡ぐ。 「そうですわね、相手はあのフーケ。でしたら、わたくしたちがミス・ツェルプストーやブナンザさんと離れて行動するのはより危険かと思うのですが」 「……自分の身が可愛い、とそう仰りたいのですね、ミス・ロングビルは」 キュルケの眼光がロングビルを射抜くが、ロングビルは澄ました顔をしている。どちらにせよ剣呑な雰囲気には違いなかった。 「ちょっとツェルプストー、あんた何失礼なこと言ってるのよ!」 「見えたぜ」 仲間割れに発展する前に、ムスタディオが言葉を挟む。前方を見ると、木々は数十メイル先で途切れているようで、光の差し込み方が強い。 そしてその先に、小屋のようなシルエットが見えた。 「確かに外は危険だ。見張りはオレ一人で大丈夫だから、三人で動いて下さい。廃屋には罠があるかもしれないから、気をつけて」 そう言うと、ムスタディオは一人先へ進み始める。 残された三人の間には、なんとなく彼の決定は全員の指針というような雰囲気が流れていた。 キュルケが少しだけばつの悪そうな顔で後に続く。ロングビルも歩き始める。 ルイズも後を追おうとして――ふと、振り返った。 耳を澄ます。 (…………?) 気のせいかしら、と思う。 今、何か聞き覚えのある、きゅるきゅるという鳴き声が聞こえなかったか。 ――そこは森の中の空き地といった風情だった。 およそ魔法学院の中庭程度の広さで、その真ん中に廃屋があった。元はきこり小屋だったのだろうか。朽ち果てた炭焼き用らしき窯と、壁板が外れた物置が隣に並んでいる。 外にフーケやタバサらしき人影は見とめられなかったので、三人は空き地に踏み込む。 ムスタディオは既に森の中へ紛れていた。どこにいるかが全く分からないその隠密っぷりに、ルイズは以前彼が「オレは後方支援だったんだ」と話していたのを思い出し、感心していた。 「やっぱり、外にはいないみたいですわね」 物置を覗き込んでいたロングビルの言葉に、キュルケが廃屋の入り口を睨みつける。タバサは……という呟きが聞こえた。 ルイズは、愛用の杖を握る手がじわりと汗ばむのを感じた。あの中にタバサは捕えられているのだろうか。そして、フーケがいるのだろうか。 最初にムスタディオが話していた案に倣い、廃屋探索にはキュルケが先行することになった。窓の傍までそっと近づき、中を覗き込む。見える範囲には誰もいなかったらしい。魔法による探査を行った後、三人はキュルケを先頭にして家内へ入り込んだ。 廃屋の中は一部屋しかなかった。中央に埃の積もったテーブルと、転がった椅子。暖炉は崩れており、テーブルの上には酒瓶が転がっている。 部屋の隅には薪が積み上げられていることから、炭焼き小屋だったらしい。 三人の間には、緊張の糸が張られている。両端からどんどん引っ張られていく糸だ。物音を殺し、自分達以外の気配を探る。ほんの数分の時間だったが、ルイズには糸にどんどん圧力が加えられている気がした。裂けそうなほど強く。 がちゃりと音がした。積み上げられた薪の隣にあったチェストをロングビルが開いた音だった。息を呑むかすかな音がそれに続き、ルイズは彼女の方を見た。 自分も息を呑んだ。 「……タバサ!」 固まった場の雰囲気を崩したのは、キュルケの声だった。万感の思いが込められていた。 チェストの中にいたタバサは、両手足を後ろに拘束され、口には猿轡、目も丁寧に隠されていた。キュルケの声に反応したのか、身じろぎをする。 糸に加えられた圧力が緩む。まだ予断は許されないが、ルイズは少しほっとしてしまう自分を禁じ得ない。 「今縄を解きますね」 ロングビルがそう言った瞬間。 突然タバサが暴れ出した。 ナイフを取り出していたロングビルがたじろいだ様子で一歩下がる。 キュルケがものすごい勢いで廃屋の入り口へ杖を向け、臨戦の大勢を取った。ルイズも身構える。 が。しばらく見据えど、外には何の気配もなかった。 タバサが急に静かになった。 「誰もいないみた――」 そう言いながら振りむいたルイズは、 ――妙なものを見てしまった。 それは、ロングビルがナイフを、拘束されたままのタバサの首に突き付けている光景だった。 「……さーて、狙い通りになったねぇ」 ロングビルが眼鏡を外す。その眼光は、今までの柔和な印象から一転し、悪党のような鋭さを湛えていた。 彼女は、凍りついたルイズとキュルケに言い放った。 「杖をこちらに捨ててもらおうか。外に気づかれないように、そっとだよ」 今まで見せたこともないような、蓮っ葉な含み笑いを溢しながら。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」 ヴェストリの広場は、魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある、中庭だった。西側にある広場なので、そこは日中でも日があまり差さない。決闘にはうってつけの場所であるとギーシュは考えていた。 予想通り、噂を聞きつけた生徒たちで、広場は溢れかえってる。 その中心に佇むギーシュは、優雅な物腰を心がけながらも内心ややイラついていた。 「あの金髪の平民、随分な口を叩いていたけど、まさか逃げたんじゃないだろうね」 食堂から付いてきた取り巻きの一人が言う。 そう、決闘の相手が中々やってこないのだった。 しかし、ギーシュは彼が逃げたとは考えていない。 「それはないだろうね。この場合、使い魔の行動は主の行動だろう。あれだけの侮辱を行なった上に逃げたとなると、ゼロのルイズの面目は地に落ちるよ。ルイズは必ず彼をここに連れてくるさ。戦いに来るか、それとも謝罪によこすかは分からないけれどね」 薔薇を模した杖をぴん、と弾く。 もっとも謝ってきたところで、許す気はあまりない。誠意の見せ方次第だ。 「ギーシュ!」 その時、人垣を掻き分けてギーシュの方へ駆けるように近づいてくる者がいた。ルイズである。 「やあ、ルイズ。申し訳ないがこれから君の使い魔をちょっとお借りするよ。……しかし彼はいったいどこにいるんだ? まさかとは思うが、逃げたのかい?」 「……っ、知らないわよあんなやつ! それよりもギーシュ、バカな真似はやめて! 大体、決闘は禁止じゃない!」 「禁止されているのは、貴族同士の決闘のみだよ。平民と貴族の間での決闘なんか、誰も禁止していない」 「そ、それは、そんなこと今までなかったから……」 言い淀むルイズを、ギーシュは少しだけからかってやろうと思った。使い魔が失礼を働いたのだ。主が少々皮肉を言われても、文句は言えまい。 「ルイズ、君はあの平民が好きなのかい?」 どう反応するか、と思った。 まんざらでもないのならこの性格だから、顔を赤くして否定するだろう。 あるいは、本気で怒り出すか。 「――そんな、こと、」 しかしルイズの反応は、どの予想ともかけ離れたものだった。 彼女の顔が一瞬で蒼白になり、体が心なしか震えている。何か言おうとしているが言葉になっていない。 (……なんだ? 使い魔との間に何かあったのか) ギーシュが怪訝に思った時だった。 「ゼロのルイズの使い魔が来たぞーっ!」 野次馬たちの間からざわめきの波紋が湧いた。そちらに視線を向けると、くすんだ金髪が見えた。ルイズの使い魔が生徒達の層を抜けて決闘の場に入ってくるところだった。 「ふん、ようやく来たか。ルイズ、君は使い魔の側へ行きたまえ。 ――諸君! 決闘だ!」 ギーシュが薔薇の杖を掲げ、うおーッ! と歓声が巻き起こる。 生徒達の声に腕を振って応えながら、ギーシュは使い魔が妙な物を肩から提げていることに気付いていた。 「ブレイブストーリー/ゼロ」-06・a 「それは……何かの武器かい? それを取りに戻っていたから遅れたんだね」 ギーシュは鷹揚な仕草で、使い魔――ムスタディオの持つそれを眺めていた。 全長1メイルはあるだろうか。中心部は金属製の無骨な光を放ち、それを挟んで木製の取っ手と細長い筒が生えていた。 なんだか分からないが面白くなりそうだ、と思う。 「喧嘩じゃなくて決闘なんだろ。で、あんたたちは魔道士だ。素手でやるわけじゃないだろ」 「へぇ、よく分かっているじゃないか。そうだ、メイジである僕は魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」 「代わりにオレは、こいつを使わせてもらうぜ」 「ああ、それが君の剣であるなら何も言わないよ。 言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」 言い放ち、薔薇を振った。舞い落ちた花びらが光をまとい、甲冑姿の女戦士へと姿を変える。 戦乙女ワルキューレを模った、青銅の身体を持つ彼のゴーレムだった。 傍にいたルイズが目の色を変える。 「ちょっと、ギーシュやめなさい! こんなことして何になるのよ!」 「ルイズ、もう決闘は始まってしまったんだ。外野が口を挟むのは無粋だな」 「そういう問題じゃないでしょ! む、ムスタディオもいいから謝りなさい! それにあんた、その武器――」 「ヴァリエール様は外に出ていてくれ」 ムスタディオが短く、しかし妙に存在感のある声を出す。 絶句するルイズを見て、ギーシュは目を細めた。 「いいからどいているんだ、ルイズ。僕は誇りを傷つけられた。許すわけにはいかない。同じ貴族たる君にも分かるだろ?」 「そ、それはあんたが悪かったからでしょ!」 よく通る声で非難するルイズに、薔薇を差し出す。 「僕が非があるのか、そうでないのを決めるのは君じゃない。既に全ての決定権は、この決闘にゆだねられているんだ」 薔薇に口付けをしてみせる。決まった。 「む、無茶苦茶なこ――」 決まったと思ってしまったので、ギーシュはそれ以上ルイズの話を聞かず、 「さあ、行けワルキューレ!」 命令を下されたワルキューレは突貫を開始し、 十メイルほどあった距離をあっという間に縮めんとし、 その先にいたムスタディオが金属の武器を構えるのが見え、 ぱん、と乾いた音が響いた。 その音は、直後に鳴り響いたガラスが砕けるような、そして金属が引き裂かれる不快音にかき消された。 騒がしかった声援や野次が一瞬で消えうせた。ギーシュも何が起こったのかすぐには理解できなかった。 ギーシュとムスタディオの中間で、ワルキューレが動きを止めている。いや、動こうとしているのだが、ぎしぎしと歪に蠢くのがやっとだ。 ――ワルキューレの甲冑の隙間という隙間から、大小様々なつららめいた氷柱が飛び出していた。 それは甲冑を押し広げ、青銅の体は原型を失うほど歪み、破壊されている。 結果、広場の中心に突如として大きな氷の華が花開いたような様相を見せていた。 慌てて華の向こう側にいるムスタディオを見る。構えた武器の筒の先から一筋の煙が上がっていた。 いや、違う。あれは冷気だ。 あの筒から――氷の魔法が飛び出したのか。 その時になって初めて、ギーシュは決闘相手がただの平民でないことを理解した。 「……これだけか?」 ムスタディオのつぶやきが聞こえた瞬間、ギーシュの顔から表情が失せた。 「……そうか、君もメイジだったんだね。厳つい外見にだまされたが、それは杖だったのか。 よかろう、なら僕も容赦はしない!」 ギーシュが薔薇を振ると、花びらが舞って新たなワルキューレが六体現れる。七体のゴーレムによる波状攻撃、これがギーシュの得意とする戦法であった。 先ほどまではただの平民と侮っていたから、一体で充分だと思っていた。 しかしこの相手は、そうはいかない。 全力で倒すに値する。 「美しく舞いたまえ、麗しの戦乙女達!」 ギーシュが薔薇を振り下ろす。それを合図に、六体のゴーレムが次々とムスタディオに向かって突進した。 人垣のざわめきが復活するが、直後に連続で鳴り響く銃声にかき消された。 ◇ 火蓋の切られた決闘を、様々な思惑の元に眺めている者達がいる。 ◇ 決闘を見物しに来た生徒たちの人垣。その最前列に、キュルケの姿があった。 平民と貴族の決闘なんてなぶり殺しである。しかも最近様子のおかしいルイズの使い魔だ。 心配した彼女は、我先に、という勢いで広場にやって来ていたのだった。 「彼、メイジだったのね」 生徒達がギーシュとムスタディオをそれぞれ好き勝手に応援している中、つぶやくように言う。 しかも中々の使い手と見える。皆があっけに取られている内に氷の魔法を次々に撃ち出し(しかも詠唱を必要としない魔法だなんて、見たことない!)、既に全部で三体のゴーレムを撃破していた。 最初はどうなることかと思ったが、これならヘタをするとムスタディオの方が勝ってしまうかもしれない。 少し安心していると、 「違う。あれ、魔法じゃない」 平坦な声の訂正を入れられ、キュルケは傍らを見下ろした。 タバサだった。最初は一緒にいなかったが、彼女の身長では人垣の中からは見えなかったのだろう。最前列に出てきたところを見つけて捕まえたのだった。 「あんたが野次馬根性発揮するなんて、珍しいわね」 そうからかってみたが、すぐに違うことに気付く。 タバサはいつもの通り無表情だったが、これは無表情を装おうとしているものだ。親友であるキュルケにはそれが分かった。 何を動揺しているのだろう、と不思議に思ったが、同時にタバサが他人に興味を持つのは珍しいことなので、それはそれで楽しい。 (さてはこれは、一目惚れかしら!) 恋に生きるツェルプストーが一人、微熱のキュルケは実に勝手な解釈をするのだった。 「で、それはそうと魔法じゃないってどういうこと?」 返事はない。 タバサは食い入るように、戦いを見守っている。 ふとキュルケは、そのタバサの両手に見慣れない手提げ袋があることに気付く。 握り締められて形の崩れた袋は、中に収まっている物のシルエットをあらわにしていた。 (珠か、石ころか何か……二つ、かしら?) そんなことを考えた瞬間、金属と金属がかち合うような鈍くて重い音が腹に響く。 慌てて広場に視線を戻したキュルケが見たのは、ゴーレムに体当たりを食らい、杖のようなものを弾き飛ばされるムスタディオの姿だった。 ◇ 「ふむ、どうも雲行きがおかしくなってきたのう」 そこは学院長室だった。 魔法で形作られた『遠見の鏡』を維持しながら、オールド・オスマンがコルベールに話しかける。 鏡に映し出されているのはヴェストリの広場、その中心で行なわれている決闘の模様である。 金髪の使い魔がゴーレムの体当たりを受ける。彼は最初の勢いで三体を倒したのはいいが、その後は数に物を言わされて苦戦しているようだった。 オールド・オスマンは、その右手に刻印されたルーンが淡い光を発しているのを見つめている。 「確かに君が持ってきた文献にある紋様と同じものじゃの。それに中々強力な魔法の使い手のようじゃ。しかし――伝説にあるガンダールヴの能力とはちと外れてはおらんかの?」 「そ、そのようですな……」 コルベールが興奮した様子で学院長室に飛び込んできたのは、少し前のことだ。彼はムスタディオのリハビリの際にスケッチさせてもらったルーン文字が、始祖ブリミルの使い魔、ガンダールヴのものに酷似していることを突き止め、その報告に来たのである。 しかし少し妙な事態になっている。伝承にあるガンダールヴは主人の呪文詠唱の時間を守るために特化した存在で、あらゆる『武器』を使いこなし、千人の軍隊を撃退するというものである。 しかしコルベールが熱っぽく説明している傍で始まった決闘を見てみると、たった六体のゴーレムに苦戦し、しかも肉弾戦が主体ではないようだ。 「し、しかしまだ始まったばかりですし、彼がその能力を余すところなく発揮しているとも限らんでしょう」 コルベールは禿げた頭に光る冷や汗をハンカチで拭きながら、様子を見ましょうと促す。 「……いや、ワシとて彼がただの使い魔とは思っとらんよ。 ただ、何か条件みたいなものがあるのかと考えているだけじゃ」 「条件?」 オールド・オスマンは質問には答えず、代わりにこんなことをのたまった。 「あと彼、周囲の生徒達のことも考えて立ち回っておるようじゃのう」 ◇ 「――ふうん。あの杖、ああいう風に使ったらいいのね」 土くれのフーケは誰にでもなく、そう言った。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ その日の朝から、ルイズの様子がおかしかった。 「ヴァリエール様、朝が来ましたよ」 起きて一番に洗濯を済ませてきたムスタディオは、寝ているルイズを起こす。この世界に来てからの彼の日課だった。 労働者達の生活力に満ちた朝の空気の中で深呼吸し、少しだけ気分をリフレッシュさせるが、その後に彼女を起こすと考えると、肺の中に溜めた空気がやや淀む気がした。そのまま寝ていてくれないかなと半分本気で考えていると――本当に起きなかった。 「おい、ヴァリエール様、朝ご飯を食べられなくなるぞ」 彼女が反応を示したのは、四度も呼びかけた後だ。 「……ん、分かってるわよ……」 起き出したのはさらに経ってからだった。のたのたと下着を身に着けている。彼女のブラウスのボタンを留めながら顔を見上げてみると、赤みがさしていた。汲んできた水で洗顔も済まさせたというのに、未だ起き抜けみたいに目がぼんやりしている。 「ヴァリエール様、体が重くないですか?」 「……少しぼんやりする。なかなか目が覚めないわ」 声にも力がなかった。いかに関係が悪かろうと、病気となれば話は別だ。 ちょっとごめんよと断りを入れ、ムスタディオはルイズの額に手をやる。 「……なに、してるのよ」 「熱を見てるだけですよ。そんな目で見るなって……けっこう熱いぞ。喉とか、どこかに違和感はないですか?」 「……どうもないわ。ぼうっとするだけよ」 「はあ、まあ風邪か何かだな。医務室に行きましょう」 しかし、ルイズはぶんぶんと首を振った。ムスタディオの手が払われる形になる。 「遅刻しちゃうじゃないの……そんなこと絶対できないわ」 少しの間説得をしたが、ルイズは頑として首を縦に振ろうとしなかった。 仕舞いには「食事をしっかり取って、勉学を受けられる感謝を胸に集中すればすぐに治るわよ」とやぶれかぶれのことを言い出したので、ムスタディオとしても納得せざるを得ない。 「分かったよ。悪化しても知らないからな」 しかし午前の授業の間、彼女はお世辞にも集中出来ていると言える様子ではなかった。 本人もそれを自覚したのか、お昼休みに医務室へ向かうことになった。 ――それがきっかけになるとは知らずに。 「ブレイブストーリー/ゼロ」-05 疲労による発熱、と養護教諭に告げられた。 (オレが熱出したいくらいだ) 力なく思うムスタディオは、医務室のベッドで寝息を立てているルイズを見つめていた。処方された薬を飲んだルイズに、今から少しだけ休むから起きるまで絶対に傍を離れるな、と言い含められていた。 ルイズは、自室で眠っている時でも見せないような穏やかな顔をしていた。 表情の膜を取っ払ったらこんな端整な顔立ちをしているのか、と気付く。嫌われていることを改めて感じ、気分が沈んだムスタディオは視線を外して医務室を見回した。 数日前と何ら変わりの室内。隅の机で養護教諭が書類を書いている。 この場所で目覚めてから、この悪夢みたいな生活が始まったのだ。 否応なしにここ数日間の記憶を、そしてそれ以前のことを反芻させられる。 その内に、ふと何故だろうと思った。誰とも会話させてもらえず、主の少女には犬と呼ばれこき使われる。 しかし、それだけだ。以前の命を賭して戦う日々とはまるで違う。平穏と言ってもいい。 何故こんな小さなことで自分は、狂おしいほど圧迫感を感じているのか。 ――それはいつもの自問自答だった。 以前の彼は考えるより動き、思いついたことを即実行するような性質だった。仲間との他愛無い会話も大好きで、くだらないことを言って笑わせていた。頭も悪いほうではなく、敵を欺いたことは何度もある。 しかし日常的に誰とも接することがなくなり、与えられた莫大な時間の中。 彼は誰かと話す代わりに延々と何かを考えるようになり、今までは気付きもしなかった自分の側面へ目を向け始めていた。 今までの自分と、今の自分は明らかに違う気がする、とムスタディオ自身もそれを感じていた。 何が原因なのだろう、と今日まで考え続けていたが――何となく分かった気がしていた。 (……義務感、とか、自分から、とかそういうのかな) あの戦いの日々は、絶対にやり遂げなければという気持ちを伴って流れていた。 この生活は、自ら望んだものではない。 よく考えれば、生まれてから今日まで、身分の違いや貧困による理不尽に苦むことはいくらでもあった。 しかし、その中にも機工士としては充実した日々は送れていたし、仲間と共に戦った日々は、今思えば死や失望と隣り合わせであれど仲間との強い絆、そして「自分自身を生きている」強い実感があった。 それがこの場所には―― 「……はは」 乾いた笑い声が口から漏れた。顔を両手で覆った。 仲間の大切さを、思う。改めて、改めて皆生きていて欲しい、と思う。 そして、オレ、こんなちっぽけだったんだなあと思った。 ――何か、一人になりたかった。 一人になれなくても、自分を監視する目から逃れて行動したい。 ルイズを見やる。 しばらく目を覚ましそうにはない。 「……すいません、ヴァリエール様が休んでいる間に、昼食とってきます」 ◇ 「おお? その香水は、もしや、モンモラシーの香水じゃないのか?」 「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモラシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」 「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今、モンモラシーと付き合っている。そうだな?」 煌びやかな食堂は、何やら騒がしかった。 金色の巻き髪に、フリルのついたシャツを着た派手なメイジが周りの男子生徒や女子達と口論をしている。断片的に聞こえる内容からすると、どうやら金髪の彼が二股をかけたらしい。 「――ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」 ばちん、と良い音が食堂に響き渡る。 「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」 「――やっぱり、あの一年生に手を出していたのね?」 「お願いだよ。『香水』のモンモラシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」 もう一つ良い音が反響する。 「うそつき!」 走り去る足音。ざわめきが大きくなっていく。 「…………」 少し前の彼なら仲介を買って出るか野次馬に混ざるかしていただろうが、ムスタディオは肩をすくめるだけで床に下ろした腰を上げようとしない。貧しいスープを啜る。傍らのルイズの席は空席だった。 勝手にしてくれ――そう思った時、視界にある姿が映った。 「君が軽率に、香水の壜なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」 「あ……も、申し訳ございません! まさかこんなことになるなんて思っても見なかったんです!」 先ほどの男子生徒――ギーシュというらしい――が、給仕の少女に言い掛かりをつけていた。ギーシュの落とした香水は彼を引っ叩いた女生徒にとって大切な人にだけ贈る印であり、それを給仕の少女が善意で拾い、渡そうとしてしまった。それが今の騒動の発端らしかった。 給仕の少女に視線を絞る。見覚えがあった。毎朝洗濯の場で一緒になる彼女は、最低限のことしか話さないムスタディオにも親切に接してくれていた。 確かシエスタと名乗った、「平民」の少女だった。 ムスタディオは目を細め、スープの皿を床に下ろす。 立ち上がって二人の下に歩いていくと、ぶっきらぼうに言い捨てた。 「おい、やめろ」 椅子の上で高慢な風に足を組んでいたギーシュが、怪訝そうにムスタディオを見る。 「なんだね、君は。見ての通り今は取り込み中だ。後にしてくれたまえ」 ムスタディオはギーシュの言葉を無視して続ける。 「その娘を責めるのは筋違いだろ。二股をかけたお前が悪いぜ」 周りの男子生徒たちがどっと笑った。 「その通りだ! ギーシュ、お前が悪い!」 ギーシュの顔に羞恥が広がっていくのを、ムスタディオは底の冷えた目で見ている。 「……一体なんだね君は。見たところメイジではなさそうだな、平民か。どこから入り込んだのか知らないが、高貴なるこの場には相応しくない。出て行きたまえ」 平民、という言葉にムスタディオの表情が黒い陰を纏ったことに、誰も気付かない。 「じゃあお前の行いは、高貴って言えるのかよ」 気付けば、そんなことを口走っていた。 「二股がバレたからって、その責任を善意の平民に押し付ける。そんなプライドが貴族の高貴さなのかい? オレの知っている貴族は、そんな下らないものは持ち合わせていないぜ」 周りの反応は多種多様だった。何だコイツはとムスタディオを睨む者、面白がってギーシュを囃し立てる者。シエスタは顔を真っ青にして「ムスタディオさん、何てことを! グラモン様に謝ってください!」と懇願してくる。しかしそのいずれもムスタディオは見ていない。 彼の視界の中では、ギーシュが表情をなくしていた――その目だけが光り、ムスタディオを見返している。 「……君は、そうか、見たことがあるぞ。ゼロのルイズの使い魔だな。 皆、どうやらミス・ヴァリエールは使い魔のしつけすらまともに出来ないらしい。だから代わりに、この僕が上位者に対する礼儀を教え込んでやることにしよう!」 「好きにしろよ」 ギーシュの友人達から好奇のどよめきが上がった。 「よろしい。ではヴェストリの広場で待っている。準備する時間を与えよう。心が決まったなら、出てきたまえ」 気障な仕草でそう言い放ち、取り巻きと共に去っていくギーシュを見送る。 振り返ると、シエスタはいつの間にかいなくなっていた。ムスタディオは首を振り、ギーシュのことを考える。 戦いの経験もなさそうな、痩せた貴族に遅れを取るとも思えない――ブレイズガンに触ることはルイズに禁じられている。空手でもやってやろう。そう決めたムスタディオはそのまま誰かに広場の場所を尋ねようとしたが、 「ちょっとあんた! 何してるのよ!」 響き渡った主の声に振り向くと、食堂の入り口に、不安そうなシエスタを伴ったルイズの姿があった。 ◇ ルイズを揺り起こしたのはムスタディオではなく給仕の少女だった。 寝ぼけた頭で何故使い魔がいないのか不思議に思っているところに、 「大変です! わ、私のせいで、ムスタディオさんが、グラモン様と決闘を!」 眠気も熱っ気も吹っ飛んだ。 すぐさま食堂に走り、ムスタディオを捕まえて叫ぶ。 「人が休んでる間に勝手にうろついて、何やってんのよこのバカ犬!! あんた何考えてるのよ! 勝手に決闘なんか受けちゃって!」 「しつけられてない犬が……吠え付いただけだろ。嫌いな臭いを出してる貴族にさ」 ムスタディオにそんな好戦的な挑発をされたのは、初めてだった。 しかし何が彼をそんな言動に駆り立てたのか考える暇もなく、ルイズは激昂してしまう。 「さっさと謝って来なさい! メイジに魔法も使えない平民がかなうわけなんか、絶対にないんだから! 今ならまだ、痛い目にあう前に許してくれるかもしれないわ」 「痛い目なんて、どうでもいいんだ……いい加減にしろよ」 ヴァリエール様、とシエスタと名乗った給仕がルイズの服の裾を引っ張る。何よ、と噛み付こうとした彼女の顔が先ほどよりもっと蒼白なのを見た時、そこでやっとムスタディオの様子がいつもよりおかしいことに気がついた。 わなわなと震えているムスタディオの口が動き続ける。 「魔法が使えない者が貴族。貴族がこんなに偉そうに。魔法が使えることがそんなに偉いのか……持たざる者であることは、そんなに悪いことなのかよ……!」 恐ろしいほど押し殺した、しかし滲み出る怒気を隠せない声だった。 ルイズは一瞬、息が詰まった。それは相手の感情にたじろいでではない。 (持たざる――者) 嫌な考えがもの凄い速度で伸びる根のように絡み合い、姿を現す。 貴族。メイジ。魔法。 持たざる者。 『わ、私は……どうせ、どうせ持たない者なのよ』 自分も、持たない者かもしれないと、心のどこかで思ってしまっていた。 だというのに。いや、だからこそなのか。 自分は、皆から受けているからかい、誹謗中傷と似た仕打ちを彼にしてしまっていたのではないか。 心が凍りつく。しかし裏腹に、口も動いていた。 生まれてからこの瞬間までに積み上げられた性格が、本心をよそに売り言葉に買い言葉を放っていた。 「わ、わ悪いわよ! さっきから権利ばっかり口にして、あんた私の言うことちっともきかないじゃないの! 権利主張するのなら義務を果たすか、それなりの力を見せるかしなさいよ! この口だけ!!」 ――恐ろしい、沈黙があった。 ただムスタディオが黙っただけだというのに、周囲の喧騒が全く耳に入らなくなった。 彼の目のせいだった。 今までの不満が一切抜け落ちた、人形のガラスみたいな目。 「口だけじゃないってところを、見せればいいんだな」 ――その、声に。 取り返しの付かないことを言ってしまった後悔があった。 既に遅かった。後悔は先にできない。 「分かった」 それだけ言うと、ムスタディオは踵を返す。 食堂を出て行く後姿を、ルイズは呆然と見つめていた。 シエスタがあたふたと何か言っていたが、罪悪感に支配された頭には意味が入ってこなかった。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ その夜。 ルイズの部屋は、奇妙な沈黙に包まれていた。 いや、静かなのはいつものことだ、とムスタディオは思う。 思えば夜にこの部屋で会話らしい会話をしたのは、自分が目を覚ましたその日と装備品をコルベールから返却された時くらいだ。 そのどちらも半ば口論だった。 それを鑑みると落ち着いているのは良いことだとすら思う。思うが。 何故だか、今日の静けさはいつもと違う意味で息苦しい。 「…………」 ルイズは湯浴みから帰って来てというもの、ずっと机にかじりついている。 手元には教科書やノートを広げている。 話を聞くとここ数日ろくに勉強や体調管理をしていなかったらしく、湯浴みも三日ぶりだったらしい。 恥ずかしそうに「……今日から色々しっかりしなくちゃいけないわ」と言っていたが、その割にペンを持つ手は小一時間動いていない。 たまに鏡や時間を見るために視線を机から逸らすが、ムスタディオの方もちらちら見ている、というかそちらが本命なのは明白である。 「……………………」 ムスタディオは黙々とブレイズガンの整備をしている。こちらは完全な手持ち無沙汰だった。 いつもなら簡易に済ませてしまう部分まで念入りに掃除し、動作確認に至っては二十回ほど繰り返している。 今なら大抵の急襲には対応できそうである。 彼は彼で、ルイズの視線が気になって何もせずにはいられないのだった。 (……落ち着かない) 今まではお互いがお互いを無視しようとつとめていた。 が、今やお互いに関係のやり直しを意識しているのは明らかなのだ。これまでのように行くはずもない。 しかしかと言って、今度は何をどうすればいいのやら見当がつかないのだった。 「……ねえ」 と、その時ルイズが声をかけてきた。ムスタディオは焦る。 「どうしましたか? ヴァリエール様」 馬鹿丁寧な口調。これじゃ身構えてるのまる分かりだ、と自分に呆れてしまう。 「そろそろ寝ない?」 しかしルイズの声も硬かった。考えた台詞をそのまま口にしてるような印象である。 「そ、そうですね」 それきり、沈黙が降りる。 なんだ、オレは何かまずい返事をしたのかと混乱していると、 「……着替えるから、外に出ていてちょうだい」 ちなみに今までそんなことを言われたことはない。 ルイズが着替えている間、ムスタディオは大抵後ろを向いていた。 「どうしたもんかなあ……」 廊下の冷たい空気にさらされながら、ムスタディオは腕を組む。良い考えは出てくる由もない。 今までの経験に参考を求めるが、そもそもあそこまでこじれた人間関係を修復しようとしたことがムスタディオにはないことに思い当たる。 ゴーグで働いていた時は気の合う機工士達は自然と派閥のようなものを作り上げていた。 なのでそこまで大きないさかいはそうそうなかったし、ラムザやアグリアス達仲間は皆好い奴ばかりだった。 戦いの最中、対立した人間というのは沢山居たが――彼らの大半とは、殺し合いになってしまっていた。 彼らを必死になって説得しようとしていた、ラムザの姿を思い出す。 「……あー、くそ」 ばちん、と両の頬を叩く。 ラムザは常に自分が出来ること、すべきことを必死になって考えていた。 あの戦いの中、自分は手足であろうと心がけていた――しかし今思えば、それは次善ではあったが最良だったのか。 (できることは……たくさんあるはずだ) そんな風に自分を鼓舞するムスタディオだったが、いつまで経っても部屋に入る了承が出ないことに首をかしげた。 「ヴァリエール様、もういいかい? 外は寒いし、入りますよ」 ノックして入室すると、寝間着をまとったルイズが一点を見つめたまま突っ立っていた。 視線の先を辿ると――部屋の隅に積み上げられた藁の束に行き着く。 「ねえ、ムスタディオ、ちょっとこっちに来て」 ルイズがベッドの脇で手招きをする。何か思いつめたような顔をしている。悪い予感がムスタディオの中でむくむく育つ。 ルイズの傍らへとおっかなびっくり行くと、彼女は何も言わずベッドに寝転がった。 そして、こちらを上目遣いに見上げて一言。 「……あんた、今日からベッドで寝ていいわ。藁じゃあんまりよね」 「はい?」 ムスタディオは、ハルケギニアに来て初めて間抜けな声を出してしまった。 さすがに同衾はまずいと思ったムスタディオは藁で寝たが、翌日、ルイズの部屋にはムスタディオ用のベッドが運び込まれることになる。 そしてそれは発端であった。 それからというもの。 ルイズは洗濯に始まり身支度の全てを自分一人でこなし、 食堂に行けばムスタディオの席を用意し(曰く、貴族たる自分の特別な計らい)、 授業中は自由時間にしていいと言い出し、どころかミスタ・コルベールのところへ行って来なさいよさっさと急ぐ! と尻を叩いてくる。 とにかくあまりの対応の代わり映えに、それを望んでいたとはいえ、ムスタディオは少しうろたえてしまうのだった。 「ブレイブストーリー/ゼロ」-13 ◇ 「い、いや……さすがに床を一緒にするのはまずいんじゃないか。ヴァリエール様は、ほら、嫁入り前だし」 ムスタディオが帰って来た夜。 ルイズはベッドの中で一人身悶えしていた。 ムスタディオの苦笑いを思い出すと、恥ずかしくて顔から火が出そうだった。 けどどうにも耐えられなかったのだ。 彼だけよりにもよって藁で寝ていること、それがもの凄い罪悪感となって頭を直撃した。 これまでも悪いことはしていると感じてはいたのだが、素直でない性格が使い魔だからあれで当然なのよとかやけくそにさせていた。 「……うぅ、ううう」 顔を押さえながら唸る。 何故よりによってあんなことを口走ってしまったのか。 何よ、せっかくのご主人様の申し出を断って。何よあの生ぬるい苦笑は。 優しくしてほしそうだったからしてあげたのに何なのよとか八つ当たり気味に考えながら、枕を抱きしめてベッドの上を転がるが、 「ヴァリエール様、大丈夫かい?」 そこでムスタディオの声が聞こえて飛び上がりそうになった。 「な、なによ」 「いや、何だかうなされてるみたいだったから。お腹でも痛いんですか?」 少し高めの、成人男性の声だった。ムスタディオはやや童顔のため、暗闇の中で声だけ聞くとギャップを感じる。 案じるようなその口調に、ルイズは彼にある何か大人びた部分を意識せざるを得ず、やや困惑してしまう。 「……なんでもない。ちょっと考え事してただけだから、気にしなくていいわ」 「そうですか」 しばらくルイズは息をひそめていた。会話はそれで終わったようだった。 別段ムスタディオが気を悪くした雰囲気はない。 息をつき、ころんと体の向きを変えて窓の外を眺める。 空は晴れ、満点の星と二つの月が見えた。 自分にとっては当たり前の、しかしムスタディオは驚いた双月。 何故彼は驚いたのだろう、と枕に顔をうずめながら考える。 以前は、気がおかしいのかもしれないとか結論付けていた。 キュルケの言葉を思い出す。 彼の言動を全部は信じられないけど、あの必死な語りかけを無視するのは忍びない、とかそういう内容だった気がする。 ムスタディオは、何を思って様々な行動に出たのだろうか。 そこでルイズは、自分がムスタディオのことを何も知らないことに改めて気付いた。 (……うん、決めたわ) 枕を頭の下に戻す。 明日から、それとなくムスタディオのことを観察してみよう、と思った。 今までみたいに出る杭を打つような監視ではない。 ムスタディオのためにしてあげられることがないか探すのだ。 そして、彼の行動の裏にあるものを覗いてみよう。 ◇ そうして一週間が経過した。 ムスタディオは最初、何をするにもまずルイズに伺いを立てに来たが、ルイズは顔色を窺われているようで逆に嫌だったので、「やっていいことといけないことは自己判断に任せるわ」と言ってしまった。 彼は驚いたようにしていたが、気持ちの良い笑みを見せてくれた。 そんな表情されたのは、初めてだった。 そして自由になったであろうムスタディオを観察することにする。 一週間毎日それとなく、あくまでルイズとしてはそれとなく観察を続けた結果、ムスタディオは三日目辺りから大体毎日やることが決まって来ていることに気付く。 朝、ルイズを起こして身支度を手伝う。といっても水汲みや衣服の用意だけである。 これはルイズの方から言い出した。 自分でも出来ることを彼にやらせることに、何かもやもやとした抵抗があったのだ。 朝食の場にムスタディオの席を用意してあげたのも、似たような理由だった。 何がどう、という具体的な部分が自分でもよく分からなかったが。 そうして授業の時間になると、ルイズはムスタディオをコルベールの元へ向かわせることにしている。 授業中傍にいさせてもよかったが、彼は技術者だったという。その手の話でコルベールと盛り上がっていた。 コルベールは少々生徒からの評価が低いものの、それでも教師であることには違いない。 何よりムスタディオに興味を示している。 自分が勉学に励んでいる間、ムスタディオにも能力の研鑽に励んで欲しいと思った。 予想通り、ムスタディオはコルベールと機工学という技術についての議論を交わし、大いに充実しているらしい。 話によれば、コルベールの研究室(とは名ばかりの掘っ立て小屋)の一角に工房としてのスペースを作ってもらえるとか。 とはいえ、コルベールはいつでも彼の研究室にいるわけではない。 コルベールが授業に出ている間、ムスタディオは何をしているのだろう――そう思ってある日後をついて行ってみると、彼は部屋に戻らず、厨房に入っていった。 「あ、ムスタさんこんにちは!」 「やあシエスタ、それにマルトーさん」 「……よお、ムスタ。今日も来やがったか!」 「そんなに邪険にしなくてもいいじゃないか。オレは貴族じゃないよ」 「魔法を使えるってんなら、おんなじことじゃねえのか?」 「マルトーさん! またそんなことばっかり言って! お手伝いに来てくれたムスタさんに失礼じゃないですか!」 「だれも手伝いに来いなんて言ってないぜ。こいつが勝手に来てるだけだ」 「そうそう、オレが好きで勝手にやってるだけなんだから、シエスタもマルトーさんも気にしないでいいさ」 「……好きにしな」 以上は物陰から窺った会話である。 コック長は気難しそうにムスタディオを睨んでいたが、それでもムスタディオを受け入れている風であった。 シエスタとムスタディオがやけに仲良さげにしている。というか「ムスタ」って何なのよと思う。 いつの間に愛称で呼ぶような仲になったのか。 学院から居なくなっていた間に何かあったのよ、とシエスタに問い詰めてみたが、にっこり笑顔で 「秘密です。いかにミス・ヴァリエールであろうとも、お教え出来ないことがございますわ」 と慇懃無礼にあしらわれてしまった。 それが、授業中の話である。 放課後になると、ムスタディオはコルベールと一緒に小屋の傍で何かやっている。 最初は子供だましみたいな機械を炎の魔法で動かしていた(可愛らしい蛇がぴょこぴょこ顔を出し入れする)が、 翌日にはそれは風車を自律回転させており、五日目には井戸の水汲みを自動で行なう機械が出来上がっていた。 これには驚いた。燃料効率の問題で実用には程遠いとか何とか専門的なことを二人は話しこんでいたが、ティーセットを持って遊びに来たシエスタがいたく感動していた。 「はぁい、ムスタ。今日も精が出るわねぇ。男の浪漫って素敵ね」 「……こんにちは」 「ああ、こんにちは。ツェルプストー様にタバサ様じゃないですか。今日はまた、どうしたんだい?」 「いやあね、ムスタ。キュルケって呼んでって言ってるじゃない?」 「いや……そりゃツェルプストー様は……」 「あん、あたしは身分の差なんて気にしないって言ってるでしょ~」 「うわあ!?」 そこに、たまにキュルケがタバサとか言う小さな子を連れてちょっかいを出しに来る。 ここでもまた「ムスタ」である。いつの間に皆と打ち解けたのだろうかと思ってしまう。 これにシエスタが揃うと、皆で和やかにお茶会を始めてしまうのである。 他にも、シエスタ繋がりで使用人達とも仲がよいようだ。 ムスタディオの学院への根の下ろし方は、ルイズからすればどこか異常なくらい迅速であった。 それは色々な要因が重なった結果だったのだが、事情を半分くらいしか知っていないルイズには分かり得ないことであった。 ……何か、面白くないと感じてしまう自分がいた。 彼ら彼女らはあんなにムスタディオと容易く会話している。 今までルイズが見たこともない表情をムスタディオから次々引き出していく。 自分は彼に気後れしてしまい、放課後の集まりに混じることすら出来ていないのに。 ムスタディオと過ごす夜も、未だに変なわだかまりがあって、うまく会話できずにいた。 しかし、それらのストレスを態度に出すのをルイズは我慢した。 それじゃ今までと変わらない、と思ったからだった。 ――彼女はサモン・サーヴァントを成功させてからというもの、色々と考え込む癖が出来ていた。 奇しくも、使い魔であるムスタディオと同様に。 何が気に食わないのか。 それを解消するためにはどうすればいいのか。 ルイズはその二点を考えた。思考の袋小路に行き詰ると、悔しいけどキュルケの言葉を思い出した。手段を選んじゃいけない。 自分はムスタディオと和解して、良い主従関係を築きたいのだと思う。 そのためには何をすればいいのだろうか。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ