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前ページ次ページ確率世界のヴァリエール 「左手は添えるだけ。」 「こ、こう?!」 タバサの声に緊張の面持ちでルイズが応える。 初夏の日差しが照りつけ始めたトリステイン魔法学院の中庭。 シュレディンガー、キュルケ、シエスタ、ギーシュ、 モンモランシー、ケティ、それにマリコルヌ。 いつもの面子が顔を揃え二人を見守っていた。 「そして詠唱。」 「よ、よしっ!」 ルイズがきりりと眉を上げ、杖を振るう。 「イル・フル・デラ・ソル・ウィンデ!」 ふわり、とルイズの体が宙に浮かぶ。 「や! や? やたっ!」 慣れない浮遊感に思わず内股になりつつも、ルイズは 離れていく地面を見つめ両手をぴんと横に突っ張ったまま快哉を叫ぶ。 「どう? どう?! どうよ! 浮いたわ私! すごいわ私!!」 「わ! わ! 浮いてますわお姉さま!」 「ちょ! 待って、浮いてるってルイズ!」 「きゃあ!? う、浮いちゃってますルイズさん!」 周りから上がる悲鳴とも歓声ともつかぬ声にも目を向ける余裕は無い。 「だから浮いてるって言ってるでしょ! フライ(飛行)の魔法は成功よ!」 「そうじゃなくて、こっち!」 慌てふためくキュルケの声にルイズが顔を上げると、 そこには宙に体を浮かせばたつく皆の姿があった。 「何で私たちまで浮かせてんのよ!!」 「おお」 「おお、じゃないっ!」 。。 ゚○゚ 「次は僕が教師役だね」 丸テーブルの上の小石を前に、ルイズはギーシュへ胸を張る。 「任せて、錬金の魔法は得意よ!」 「ルイズちゃん、教室を等価交換して瓦礫の山に換えるのは 錬金って言わないからね? 念のため」 「判ってるわよ!」 茶々を入れるキュルケを睨み付ける。 「じゃあ、僭越ながらまずはお手本という事で」 ギーシュが詠唱とともに杖を振るうと小石が緑色に輝き出す。 「おお~!」 「お粗末」 一礼するギーシュが錬金で作り出したのは、 多少の曇りはあれど紛れも無いエメラルドだった。 「じゃ、じゃあ次は私ね!」 「何でも良いんだルイズ、このエメラルドを見て 頭の中に浮かんだものを、心に強く思い描いて」 「よ、よーしっ!」 目をつぶり、精神を集中する。 「イル・アース・デルっ!」 げこげこ。 さっきまでエメラルドだったそれが足を生やして跳び跳ねる。 「っきゃあー!」 「せ、生命を練成した?! 等価交換の法則はあ?!」 「だって何だかカエルっぽかったから! カエルっぽかったから!」 ルイズの言い訳も空しく、緑のカエルはテーブルの周りを跳び回る。 「ま、まさに黄金体験ですわお姉さま!」 「マリコルヌ、シャベルよ! シャベルでアタックよ!」 「やだよモンモランシー! それ涙目のルカじゃないか!」 。。 ゚○゚ 「、、今度は真面目にやってよね、ルイズ」 ルイズがモンモランシーに向かって頬を膨らませる。 「失礼ね! 私はいつだって100パー真面目だっつうの!」 「はあ、、、まあいいわ」 モンモランシーはため息を一つつくと、 シエスタから受け取ったグラスをテーブルの上に置いた。 「この魔法は水系統の初歩の初歩。 コンデンセイション(凝縮)よ」 詠唱とともにモンモランシーがグラスに杖をかざす。 グラスの内側に水滴が浮かび、流れ溜まってグラスを満たしていく。 「ま、ざっとこんなものよ」 「うーん、地味ね」 「あ、あんたねえ、、、」 眉をヒクつかせるモンモランシーにルイズが見得を切る。 「こんな地味魔法、楽勝よ!」 「、、、で、まだ?」 「も、もうちょっと待ちなさいよ!」 あきれ声を上げるモンモランシーにルイズは振り向きもしない。 詠唱を終えグラスに向けた杖に力を込めるが、何の変化も現れない。 「ぬ、ぬうう、、」 ごぽり。 グラスに溜まった水の中に気泡が上がる。 「な、何これ? 水の中に何か、、」 「水の中に不純物、ルイズの念は具現化系。」 「水見式か! 、、、ってタバサ、これ?!」 げこげこ。 グラスを挟んでモンモランシーとルイズがにらみ合う。 「何であんたはカエルにこだわる!」 「わ、私だって知らないわよ!」 。。 ゚○゚ 「はーい、みなさん。 このあたりで一休みしましょう」 パラソルの付いたテーブルに退避した皆に シエスタが色とりどりのシャーベットを配る。 氷の魔法で作るのを手伝ったタバサの前には どんぶりサイズの特大シャーベットが置かれた。 その隣にはシルフィード用の飼い葉桶いっぱいのシャーベット。 「んはあ~」 いち早くクックベリーのシャーベットをゲットしたルイズは さっそく一口ほお張ると至福の表情を浮かべる。 「すごいやルイズ、本物の魔法使いみたいだったよ!」 「はっはっは、もっと褒めていいわよシュレディンガー。 あと本物みたい、じゃなくて本物だから。 すでに。 まさに。 ガチに。」 鼻高々に背もたれにふんぞり返る自分の主人を シュレディンガーがニコニコしながらうちわで扇ぐ。 「な~に威張りくさってんのよ。 私の目には失敗のバリエーションが増えただけにしか 写らないんだけど?」 「ふっふっふ、言ってなさい」 隣のテーブルからのキュルケの声も今日は軽く受け流す。 「他の魔法はいいけどさ、私の時はちゃんと成功させてよ? 炎の魔法でさっきみたいな失敗なんて想像したくも無いわ。 地獄絵図よ、ヘルピクチャーよ」 「安心なさいなキュルケ。 どんな事があろうとあんたにだけは魔法習わないから。 今日のあんたは天才の開花を見守る単なるギャラリーよ!」 「な、何よソレ」 休憩を終え、日差しの強くなった中庭で。 ルイズがタバサの指導の下、サイレントの魔法で なぜか巨大竜巻を発生させ学院長の像をなぎ倒しているのを 遠めに見ながら、パラソルの下でキュルケはつぶやく。 「、、、ま。 今までの爆発オチから比べれば、格段の進歩ではあるケドね」 それはキュルケも認めざるを得ないようだ。 「しっかしあの娘が本当に虚無の系統だったとはね~」 日差しにダレるフレイムの口もとへシャーベットを一さじ運ぶ。 仰向けに寝転んだヴェルダンデのお腹を撫でながらギーシュが答える。 「何だい、君は信じていなかったのかい? 『虚無のルイズ』なんて二つ名を名付けたのは君だろうに」 「あれはほんの冗談で、、って、ギーシュ。 あなた最初から虚無だって思ってたの?」 「勿論」 事もなげにギーシュが返事をする。 「ギーシュ! 錬金!錬金! ルイズが学院長の像を錬金で直そうとしてるから! その前に早く!」 「おお、それは大変」 モンモランシーの叫びにギーシュは腰を上げる。 モンモランシーにどういう意味かと詰め寄るルイズを皆がなだめ、 ギーシュが悪趣味にもバラの花束を背後に背負わせた学院長の像を 錬金で作り直すのを眺めながら、キュルケはあくびを一つする。 「ふわ。 、、、平和だわね」 その横でフレイムも貰いあくびを一つした。 。。 ゚○゚ 同日、同時刻。 浮遊大陸アルビオンの東端、ニューカッスル。 戦火の傷を晒したままのその古城の地下、隠された空中港の桟橋で 二人の男たちが今まさに邂逅を果たしていた。 「やっと会えたな、子爵」 アルビオン王国皇太子、『プリンス・オブ・ウェールズ』 ウェールズ・テューダー。 「光栄の至り、殿下」 トリステイン王国グリフォン隊隊長にしてゼロ機関機関長。 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 居並ぶ歴戦の兵たちが見守る中、 彼らは固い握手を交わした。 「して殿下、状況は?」 石造りの長い階段を上りながら、ワルドが尋ねる。 「明後日には停戦会議を控えているしな、 あちらも下手に動く事はできんのだろう。 しかし子爵、私は今でも悩んでいるのだ。 他に選択肢は無かったのか、とな」 「心中、お察し致します。 しかし殿下とて、奴らが素直に会議の席に着くとは お思いではないのでしょう?」 「確かに、な」 「それに今や我がトリステインはアルビオンと一蓮托生。 アルビオンの危機は即ちトリステインの危機でもあるのです。 殿下がお気に病む事は御座いません」 「そう言ってくれると、幾らか気は休まるがな」 急な階段は螺旋を描き、上へ上へと続いていく。 「明日」 ワルドが声のトーンを落とす。 前後について階段を上る衛兵たちはこの会話が極秘のものである事を 悟り、歩調をずらし距離を取る。 「レコン・キスタの中でもトリステインに私怨を持つ者達が 『今回の停戦合意に反対』し、ロサイスにて軍艦を強奪 トリスタニアを目指しダングルテールへ降下します」 「、、、」 その扇動役を誰が担うのか、聞かずともウェールズは承知している。 「しかし、『偶然』ダングルテール付近で演習中であった トリステイン軍二個師団と遭遇、交戦状態となります。 軍艦と言えど相手は二個師団、判刻と持たずカタは付きましょう」 「トリステインの民に、被害が及ぶ心配は?」 ウェールズが尋ねる。 「その心配は御座いません、殿下。 ダングルテールは20年以上も前に見捨てられた土地です」 ワルドはその経緯について語ろうとはしない。 「国土への侵攻を理由にトリステインは即日レコン・キスタへ 宣戦布告、殿下には停戦会議を破棄して頂きます。 トリステインとアルビオンは連合を組み、既にラ・ロシェールに 停泊させてある艦全てが即時アルビオンへと上陸いたします」 潜められたワルドの声を消すように、足音が螺旋の空間に響く。 「さらにアルビオン南部で活動している『アルビオン解放戦線』と カトリック教徒達には、混乱に乗じてそのまま ロサイスを攻め落としてもらいます」 「そうなれば残るはサウスゴータとロンディニウムのみ、か」 「左様で」 清廉潔白を絵に描いたようなアルビオン皇太子の顔が 何ともいえぬ影を帯びる。 「すまぬな、子爵。 そのような汚れ役を貴殿にばかり押し付ける」 「勿体無いお言葉。 それより殿下、この事は」 先を行くウェールズの背をワルドの視線が射抜く。 「無論だ。 全てはアルビオンの民の為。 今の話は私一人、墓の下まで持っていこう」 ウェールズは自嘲気味に微笑んだ。 階段の先から日の光が差し込んでくる。 階段を上り終えるとウェールズは廊下を外れ、テラスへと出た。 涼やかな風がウェールズの髪をかき上げる。 手すりに手を突き、遠くを見つめたままウェールズが言う。 「子爵。 この戦が終わり、アルビオンに再び平和が戻ったその時には、、、 貴殿と、もう一度会ってみたい。 今度は酒でも飲みながらな。 だから、、、死ぬなよ。 生きて戻ってくれ、ワルド」 ワルドは顔を伏せたまま、かすかに肩を震わせた。 「は、、、 はっ! 必ず」 。。 ゚○゚ 「ルイズー、ぼちぼち時間なんじゃないのー?」 日も傾きかけた魔法学院の中庭で、キュルケがパラソルの下から だれた声をかけて寄こす。 「え、何? ちょっと待ってて!」 ルイズの作り出した青白い雲を吸い込んだシルフィードの目がとろけ、 見上げるルイズの前でこっくりこっくりと船を漕ぎ出す。 「おお、やたっ! スリープ・クラウド成功でぎゃふんっっ!!」 勢いを付けて大きく船を漕いだシルフィードの頭が脳天へ直撃し、 ルイズは頭を押さえしゃがみ込む。 「、、、なにやってんのよあの娘は」 キュルケが頭に手を当て、あきれた声を出す。 「『学院長のお使い』~!! ワルド様と一緒に~、用事あったんでしょ~!!」 「え、うそ?! やだ、もうこんな時間!」 ルイズが頭をさすりながら立ち上がる。 「え、なになに? またワルド様とのデートなの?」 モンモランシーが興味津々に近寄ってくる。 「でもこの前はデート終わってもなんか重ーい雰囲気だったけど、 ケンカでもしたの? それでもう仲直り?」 「だ、駄目だよモンモランシー! そんなにズバズバ聞いちゃ」 あまりにもあけすけな質問にギーシュがうろたえつつ間に入る。 だがルイズはギーシュの心配をよそに平然と答える。 「何よ、私はワルド様とケンカなんてしてないわよ。 でもまあ、仲直りって言えば仲直り、ね」 「? 誰とよ」 ルイズは少し考えてから、はにかむ様に笑った。 「『私の運命』と、よ」 その顔をみてシュレディンガーも満足げに微笑む。 「ふ~ん、、、魔法使をえるようになって、 ちょっとは自信が付いたみたいじゃない。 じゃあさ、、、」 ニヤケ顔でキュルケが近づいてくる。 「ワルド様のプロポーズに返事する決心も、付いた?」 「へ?」「うそ?」「それはそれは」「拍手。」 「わあ! おめでとう御座います、ルイズさん!」 みなの驚きと祝福の声の中、ルイズはキッとキュルケを睨むが キュルケはどこ拭く風とニヤけたままだ。 首を振りシュレディンガーに視線を向ける。 シュレディンガーは目を逸らし、口笛を吹き始めた。 がっき。 ルイズのアイアンクローが猫耳頭の後頭部に食い込む。 「みんなには内緒っつったでしょ! こんの 猫 畜 生 ~!!」 みしみし。 「いだだだだ! ギブ! ギブ!!」 「な~にいってんのよルイズ。 これから婚約しようってのに秘密にしてど~うすんのよ。 それとも、結婚してもずっとみんなに内緒にするつもり?」 「そ、、それは、、、」 「それで、なんてお返事するんですか? ルイズお姉さま」 ケティが目を輝かせて聞いてくる。 「魔法もまだ使いこなせない半人前ですしー、なーんて 言わないでしょうね、これだけ皆に付き合わせておいて」 モンモランシーがにやりと笑う。 「ああもう、いまさら言わないわよそんなこと」 ため息混じりに返す。 ルイズは皆を見回し、改まった顔で口を開く。 「あ、あのね、あのさ、、、モンモランシー。 それに、みんなも。 夏休みなのにわざわざ学院に残ってまで 私の特訓に付き合ってくれて、その、、アリガトね」 ルイズに似つかわしくないその素直な感謝の言葉に 思わずモンモランシーが赤面する。 「あ、あんたの為なんかじゃないんだからね!」 「で、出たあー! 掟破りの逆ツンデレ!」 「さすがですわモンモランシーお姉さま!」 「ま、ルイズの為じゃないってのは本当なんだけどね」 「はあ? それどういう意味よ、キュルケ」 水をさすキュルケにルイズが食って掛かる。 「いやだってホラ、明後日に日食あるじゃない、日食。 で、タルブが一番綺麗に見れるらしいのよ。 それでシエスタの故郷がタルブだって言うからさ、 それじゃ見に行こうって事でみんなで学院に残ってたのよ。 特訓もその暇つぶしだからさ、柄にも無く恩に着ることないわよ」 しれっとした顔でキュルケが説明する。 「っていうかルイズ、あんたも誘おうかとも思ってたけどさ~、 アンタはホラ、どうせワルド様とアルビオンで見るのかなって」 「あー、ヘンに誘って逃げ道作っちゃ悪いわよねえ」 「逃げないわよ!」 ルイズはシュレディンガーの頭を引き寄せると、 笑顔で見送る仲間達に堅い笑顔で答えた。 「じゃ、じゃあね、みんな。 行ってくるから!」 ============================== ぼすんっ。 ルイズが目の前に突然現れた何かにぶつかり、尻餅をつく。 「きゃっ?! ちょっと、気を付けなさいよ!」 眉をしかめ、シュレディンガーに怒りの声を上げた ルイズの目に、つば広の黒い羽帽子が飛び込んでくる。 その下には口髭も凛々しい精悍な、しかし優しい顔があった。 「おや、大丈夫だったかい?」 そう言いながらワルドはルイズに手を差し伸べた。 ワルドの顔を見て、ルイズの頭は真っ白に飛んだ。 そう言えばあんな気まずい別れ方をして、その後会ってもいない。 きちんと覚悟を決めた筈なのに、頭に何も浮かんでこない。 あ! 皆と特訓の後、お風呂にも入っていないじゃない! 大体なにをしにここに来たんだっけ? それと言うのもシュレディンガーがキュルケなんかに話すから! きちんと返事をしてから皆に言うつもりだったのに。 不意にキュルケの言葉が頭の中にリフレインする。 (結婚してもずっとみんなに内緒にするつもり?) 結婚。 「結婚、して下さい、、」 ワルドの手を握り返す。 「ええ、喜んで」 ワルドは優しく手を引き、ルイズを胸に抱きとめた。 ニューカッスルの風吹き抜ける中庭で、 夕日に伸びた二つの影は一つに重なった。 。。 ゚○゚ 「、、、って、違くて!」 「ええ? ち、違うの?!」 急に赤面するルイズに、ワルドが慌てふためく。 「いえ、違うくは無いんですけど、ももも、もっとこう! いろいろ用意してた言葉があったのに!」 「え~? もういーじゃーん」 「だああ! アンタは黙っときなさいよシュレ!」 ワルドの手を離れ、シュレディンガーの頭をはたく。 「それはそうだ。 それに、レディの口から言わせるべき言葉ではないな、子爵」 「わわっ、ででで殿下! いらしたんですか?!」 一部始終を見られた恥かしさから、ルイズの頭に血が上っていく。 そんなルイズにウェールズは優しく笑いかける。 「あいも変わらず元気そうで何より、大使殿」 「いや、まあ、はは、それもそうですね、殿下」 ワルドが襟元を正し、ルイズに向き直る。 「すまない、ルイズ。 僕から言うべきだった」 「で、でもあのワルド様!」 「『様』は、いらないよ、ルイズ」 「でもあのその、わ、ワルド、、私まだ魔法も全然だし」 「それでいいんだ」 「背も、、それに、その、む、胸も、まだこんなだし」 「それがいいんだ」 「? そ、それに、、、!」 「、、、ルイズ。 僕と結婚しよう」 ワルドの目を見つめ、ルイズは涙を浮かべ微笑んだ。 「、、はい、ワルド」 「よかったよかった。 そうと決まれば式の支度に取り掛かるか」 ウェールズの言葉にルイズは小首をかしげる。 「式、ですか?」 「そう、僕ら二人のね」 ワルドの言葉にルイズはようやく事態を理解する。 「式って、けけ、結婚式ですか?! そそ、そんな! まだ早、、!」 言いかけて、ルイズは湖でのワルドの言葉を思い出す。 「も、もしかして、貴族派がトリステインを狙ってるっていう、 あの時ワルドが言ってた事が現実に?!」 ルイズの言葉にワルドは小さく頷く。 「ルイズ、僕は今晩にはロサイスへ立たねばならない。 しかし、僕は必ず君の元へと戻ってくる。 だから、その約束を僕にさせておくれ。 始祖ブリミルの前で、永遠に消えぬ約束を」 「、、、」 真実を知るウェールズは黙して語らない。 「、、、分りました。 ワルド、、、絶対、無事に帰ってきてね」 「君のお望みとあらば」 「よかったな子爵。 では、礼拝堂で待っているよ」 「あ! わ、私もせめておフロに!」 歩み去るウェールズにルイズも付いて駆けてゆく。 ルイズに付いて行こうとするシュレディンガーを ワルドが引き止めた。 「おっとネコ君、式の前に男同士の話があるんだが、、、 付き合ってもらえないかな?」 。。 ゚○゚ 日の暮れたニューカッスルの礼拝堂。 始祖ブリミルの像が見下ろす祭壇の前に、三人の姿があった。 ワルドの任務の機密性をおもんばかり、ウェールズは 他の人間に式の事も知らせてはいない。 ウェールズから借り受けた新婦の証である純白のマントを 身にまとったルイズは、落着かなげに辺りを見回した。 「もう、またどっかで迷ってんのかしら、シュレの奴」 「ネコ君ならここには来ないよ」 心配げなルイズにワルドが優しく語りかける。 「神聖な儀式という事で、どうも遠慮したらしい。 控えの間で式が終わるまで待っているそうだ」 「ええ? あーもうあの猫耳頭! どーうせまた面倒そ~、とか退屈そ~、とか思って逃げたんだわ! ご主人様の一生に一度の晴れ舞台だってのに! 式が終わったらお仕置きだわ!!」 「まあまあルイズ、彼は彼なりに気を利かせてくれているんだよ」 「もう、ワルドったらシュレの性格知らないからそんな事言えるのよ」 「んんっ、そろそろ宜しいかな、ご両人」 婚姻の媒酌を務めるウェールズの声に、慌てて二人が向き直る。 ブリミル像の元、皇太子の礼服である明紫のマントに身を包んだ ウェ-ルズが、祭壇の前で高らかに告げた。 「では、式を始める」 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、 そして妻とすることを誓いますか」 ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 「、、、誓います」 ウェールズは静かに笑って頷いた。 「宜しい」 「では、次に」 ウェールズの視線はルイズへと移る。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、、」 朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読み上げる。 今が結婚式の最中だというのに、ルイズは思い返していた。 相手は憧れていた頼もしいワルド、二人の父が交わした結婚の約束。 幼い心の中、ぼんやりと想像していた未来。 それが今、現実のものになろうとしている。 級友と自国の姫君が睦み合うとんでもない状況で再会を果たしたあの日。 シュレディンガーと異世界を巡っていても一人待ち続けてくれたあの時。 鼻の下を伸ばした男共をよそに酒場で一人賢者の如く佇んでいたあの顔。 ロクな思い出が無いような気もするが、それもまた良し。 「新婦?」 ウェールズの声に、ルイズは慌てて顔を上げた。 「緊張しているのかね? 仕方が無い。 初めてのときは事が何であれ緊張するものだからね」 にっこりと笑ってウェールズは続けた。 「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。 では繰り返そう。 汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、 そして、夫とすることを、、誓いますか」 ルイズは溜まった思いを吐き出し、杖を握った手を胸の前に置いた。 「はい、、、はい、誓います!」 「宜しい。 では誓いの口づけを」 アルビオン皇太子と、始祖ブリミルとが見守る中、 二人の唇は今、静かに重なった。 くたり、とルイズがワルドの腕に倒れこむ。 「新婦? どうしたね? やはり緊張で?」 「いや失礼、ここからは大人の時間なのでね。 彼女には刺激が強すぎると思い、眠ってもらった」 胸の中にルイズを抱いて、ワルドが悠然と言い放つ。 「子爵? いったい何、を、、、?!」 ウェールズが自らの胸に突き立った魔法の光を見つめる。 「あなたが悪いのですよ、殿下」 ワルドはどこまでも優しい笑みを浮かべる。 しかしその笑みは今や、嘘に塗り固められていた。 「貴方があの時死んでさえいれば、 それで戦争は終わっていた」 ウェールズの胸に突き立った杖をこねる。 「お゛、、、ごおっ、、」 「その戦乱の元凶である貴方が言うに事欠いて、 『アルビオンに再び平和が戻ったその時には』などとはね! ははっ、とんだお笑い種だ」 ワルドが杖を引き抜くと、ウェールズの口から鮮血が溢れた。 胸に空いた穴から飛沫が散り、服を真紅に染めていく。 「きさ、、! レコン、キス、、、」 仰向けに倒れたウェールズが悪魔のごとく笑う影を見上げる。 「ああ、あの哀れな貴族派の連中ですか? 私は彼らのような夢想家ではありませんよ」 ワルドはルイズをゆっくりと祭壇の上に寝かせる。 「せっかく終幕も近いのにこのまま何も知らずに 舞台を降りるのも可哀想だ、せめてこの先の筋書きを 教えて差し上げましょう」 ワルドが芝居がかった口調で手をかざす。 「ロサイスの戦艦がダングルテールへ向かうと言ったがありゃ嘘だ。 艦隊は手薄なタルブを突いてラ・ロシェールを急襲。 そのまま演習中の二個師団が不在の王都へ西から攻め上る。 ロサイスを攻めるカトリック教徒達は、まあ返り討ちでしょうな。 そして、王都トリスタニアの東からはガリアが攻め入る手筈です」 「ガ、リア! 、、、だと、、そうか、き、貴様、、!」 「二国からの挟撃を受ければたとえ王都といえど一晩と持ちますまい。 死出の旅路を寂しがる事はございませんよ、殿下。 貴方が慕うあの姫君も、遠からず貴方の後を追いましょう」 「が、、、ま、、、」 「お別れです、殿下。 こう言っちゃなんですが、私は貴方が好きでしたよ」 ワルドは息絶えたウェ-ルズの手を取り、その指にはまった 始祖の秘宝、『風のルビー』を抜き取った。 「へ~、そ~いう事だったんだ~」 「!!」 場違いに陽気なその声にワルドは杖を構え振り向く。 そこには、いるはずも無い者の姿があった。 貫いたはずの胸には一滴の血の跡すら無く、 潰したはずの頭は悪戯っぽく笑みを浮かべる。 「どーして? って顔だね~。 君には言ってなかったっけ? ワルド。 僕はどこにでもいてどこにもいない。 だから、君が僕を殺しても」 猫が牙をむく。 「僕は、ここに、いる」 ゆっくりと、虚無の使い魔がワルドに近づく。 「僕はね~、怒っているんだよ」 眉を上げてうっすらと笑みを浮かべる猫は言う。 「別に君が僕の頭を吹っ飛ばそうが、 そこの可哀想な王子様の心臓を貫こうが、 僕にとってはそんな事はどーだっていーんだ」 シュレディンガーの中に、何かが渦巻き満ちていく。 今までに感じた事もない、名状しがたい感情が。 チリチリとしたものが、その胸の内を焦がしていく。 「だけど君はね」 ぎちり、と猫が牙を鳴らす。 「僕の ご主人様(ルイズ)を 裏切った」 ワルドは窓を開け放ち、二つの指輪を外に放る。 始祖の秘宝、『風のルビー』と『水のルビー』。 それを空中で咥えたグリフォンが空へ舞い上がり、 西のかなたへ飛び去っていく。 「、、、ほう、そうかね」 返事をしつつワルドは頭の中で考える。 まずは指輪さえ届ければ、自分達は後回しでも構うまい。 幸いこの城は浮遊大陸アルビオンの突端、 フライを使い地上へ降りれば後はどうとでもなる。 それよりも。 問題は目の前のこれだ。 幻術? 幻覚? さっき殺ったのはスキルニルか何かか? 超再生? 回復術? それとも、不死? 馬鹿馬鹿しい。 不死身などこの世に存在しない!! 何より確実な事は、やはりこの使い魔は危険だという事だ。 ルイズの心は手に入れた。 しかし、この目の前のこれは、人に懐かぬ『死神』だ。 ここで始末をつけねば禍根を残す。 ワルドは杖を握りなおした。 「では、、、どうするかね?」 祭壇で横たわるルイズからゆっくりと距離を取り、 礼拝堂の中央で二人は対峙する。 「どーするかって?」 シュレディンガーが腰の後ろに手を回す。 「こーする」 ズルリ、と黒い塊が手の中に現れる。 「それは、、、!」 ワルドには禍々しい輝きを放つその鉄塊に見覚えがあった。 スパイとしての信頼を得る為、自分がレコン・キスタから盗み出し トリステインへと持ち運んだものだ。 全長39cm、重量16kg、装弾数6発、専用弾13mm炸裂鉄鋼弾。 対化物戦闘用13mm拳銃『ジャッカル』 それが今、シュレディンガーの手にある。 ワルドは声を殺し低く笑う。 どんな能力を持っているか知らないが、戦闘に関しては ズブの素人であるらしい。 いくら威力があろうと、あんなものが当たるものか。 両手で銃を構えてもその足元はふらつき、 銃口を自分に向けるどころか水平に構えることさえ出来ない。 「はははっ、それでどこを狙うというんだい? そんなにフラフラしていては一生この私には当たらんよ!」 「へーそう?」 シュレディンガーはワルドの足元に銃口を向け、引き金を引いた。 礼拝堂を轟音が揺さぶった。 シュレディンガーは吹き飛び、壁に叩き付けられる。 そしてワルドは、天井に飾られたフレスコ画を眺めていた。 何が起こったのか、理解が追いつかない。 左手をまさぐったが、持っていたはずの杖が無い。 首を起こし目をやると、杖ごと手の平がどこかへ千切れ飛んでいた。 体を起こそうとすると、腹の中でゴリゴリと何かがこすれる音がする。 親指だけが残ったその左手の先には、大きくえぐれた床が見えた。 あの拳銃の放った弾丸は、莫大な運動エネルギーで礼拝堂の床石を 大きく穿ち、その破片をワルドの全身に撒き散らしていた。 ごぽり。 何かを言おうとしたワルドの口から、血の塊がこぼれ出る。 肋骨をぬい、肺の中にも石片が入り込んでいるのが感じ取れた。 もう下半身の感覚は無くなっている。 ゆっくりと意識の途絶えていくその頭を、誰かが持ち上げた。 「ワルド?! ワルド!!」 聞き覚えのあるその可愛らしい声が、悲痛な叫びを上げている。 「はは、ルイ、ズ、か、、」 ワルドは左手の残りでその髪を優しく撫でる。 「何が?! 何で?! しっかりワルド!! い、いま、てあ、手当てを、、!!」 自分の顔に降り注ぐ涙の暖かさだけが、 今のワルドに感じ取れるすべてだった。 「いいんだ、、ルイズ、、、 僕は、、もう、、、」 「駄目! 駄目!! ワルド!!」 「はは、、、そう、さ、、これが、末路だ、、、 裏切り者に、ふさわ、しい、、末路、だ、、」 「裏切り?! 何を言っているの? 喋っちゃ駄目、ワルド!!」 ルイズは自分のマントを剥ぎ取りワルドの腹に押し当てるが、 流れ出る血はその純白のマントをどろどろと赤く染めていく。 「で、も、、信じて、くれ、ルイズ、、、」 最早その目は空ろに開かれ何も映ってはいない。 「嘘だらけ、だった、、、僕の、人生の、中で、、、 君への、、想いだけ、は、、たった一つ、の、、、」 「、、、ワルド?」 それきりその口からは言葉も、呼吸も、こぼれ出ることは無かった。 「ん~、痛てて、、」 後ろから響いた声に、のろのろとルイズは振り返る。 そこには自分の使い魔が居た。 「あ! ルイズ、起きたんだ! 大丈夫?」 肋骨は折れ右手の指の殆どは捻じ曲がっていたが、 いつものように「無かった事」にする気はなぜか起きない。 手に持った巨大な銃の重みが今は誇らしかった。 ルイズの目にその銃が映る。 大きく穿たれた床の石畳と、自分の伴侶に突き立った無数の石片と。 あの日の光景が蘇る。 はじめてその銃を見た日。 トリステイン魔法学院の仲間達と。 そして、大きく穿たれた学院の壁と。 「、、、あなたが、撃ったの?」 まるで感情のこもっていない、低く澄んだ声。 「うん、そう! 僕がワルドをやっつけたんだ!」 胸を張りシュレディンガーが答える。 「シュレディンガー、、」 「どうしたの? ルイズ」 不安げに近づくシュレディンガーの足をルイズの声が止める。 「、、消えて」 その声には、いつもの傲慢さも強さもヒステリックさも無く、 水晶のように純粋な拒絶のみがあった。 「、、、ル、、?」 困惑し立ち尽くすシュレディンガーに、 ルイズは目を伏せたまま、ただ、告げた。 「消えて、シュレディンガー。 私の、目の、前から」 「、、、」 シュレディンガーは何かを言おうとして口を閉ざし、 それきり、ルイズの目の前から消えた。 ============================== 確率世界のヴァリエール - a Cat, in a Box - 第十三話 前ページ次ページ確率世界のヴァリエール
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前ページときめき☆ぜろのけ女学園 (タバサに人間だって知られちゃったわ。このままじゃ他の妖怪にもバレて、襲われちゃうかもしれない。食べられちゃうかもしれない) そんな事を考えつつ、ルイズは布団に包まっている猫耳の少女を見据えていた。 (そんなの絶対に嫌!! そんな事になるくらいなら、私は、キリと同じ猫股になるわ!) 決意を込めて布団をめくり上げるルイズ。 そこでは、キリと同じ猫股だが別の少女が静かな寝息を立てていた。 (ま、間違えたああ!) ルイズは頭を抱え心中で絶叫する。 その時、背後で襖が開く音がした。 「ひ……っ(誰か来たっ!!)」 慌ててキリの掛け布団に潜り込む。 「……ル、ルイズ?」 文字通り「頭隠して尻隠さず」という状態になっている何者かの正体を匂いで看(?)破し、キリはそう声をかけた。 「……キリ」 「ルイズ! そんなかっこで何してんの!?」 「これは~、その~」 キリに尋ねられたルイズがしどろもどろになっていると、 「ううん……、うるさいな……」 もう1人の猫股が寝ぼけ眼で体を起こした。 「キリ? どうかした?」 ルイズはそれより一瞬早くキリの布団に潜り込み、キリは何事も無いように装って答える。 「あ……、暑くて水飲んできた。ごめん……、起こしちゃった?」 「あ……、そ」 猫股はそう答えると即座に眠りについた。 安堵の溜め息を吐いたキリは、 「ルイズ、今のうちに部屋戻ろう」 と布団の上から声をかけるもルイズの反応は無い。 代わりに自分の下半身に奇妙な違和感を覚え始めたため、布団をめくる。 「ちょ……、ルイズっ、何してるの!?」 「し……、下のお口っ!」 そこではルイズがキリのスパッツを下着ごと脱がそうと引っ張っていた。 「は!? ええっ!? ええええええ?」 「下のお口……、下のお口ってどれ? どこ? どうしたらいいの!?」 「ルイズっ、どうしちゃったの? 落ち着いて!!」 ルイズの突然の行動に混乱しつつも何とか落ち着かせようとするキリ。 しかしそんな彼女にルイズは、 「私、猫股になるって決めたの……!!」 と自分の決意を告白した。 「え?」 呆気に取られたキリ。そこに、 「むにゃ……、うるさいな……」 先程の猫股が目を擦りつつ再度体を起こした。 2人は即座に布団を頭まで被って狸寝入りを決め込む。 「……あれ?」 周囲を見回した猫股が三度眠りにつくと、 「………」 「………」 しばらく息を潜めてからルイズ・キリは会話を再開した。 「ねえルイズ、自分の言ってる事わかってる?」 キリからの問いかけにルイズは赤面しつつ頷く。 「猫股になったら、もう人間には戻れないんだよ? それでもルイズは本当に猫股になりたいの?」 (他の妖怪に襲われるくらいなら、猫股の方がいいに決まってる) 心中でルイズはそう呟き、キリからの再度の問いかけに再び決意を口にする。 「キリ……、私を猫股にして」 その言葉にキリはルイズをそっと抱きしめる。 「ありがとう、ルイズ。私凄く嬉しいよ」 「キ……、キリ」 そして2人はそっと口づけ合う。 (だから……、だから……、これでいいのよね……) キリが優しく胸を揉む感触に耐えられず、ルイズの口から声が漏れる。 「ふ……っ、うん、キ……、キリ、どうして胸を触るの? 下のお口……でしょ?」 「だって気持ちいいでしょ。ほら……、下のお口も気持ちいいって言ってる」 「やんっ!」 嬌声を上げたルイズの口を自分の口で塞ぐキリ。 「ふっ、んっ、やあ」 「ルイズ、声出したら駄目」 「んん」 キリはそっとルイズの下半身に手を伸ばしていく。 (何これ何これ、こんなの初めてよーっ!! き……、気持ちいいよ~!) さらにキリの口がルイズの胸を攻める。 「はっ、キリ……、駄目、もう駄目。あ、お願い、早く猫股にしてっ!」 「ルイズ、可愛いな。無理なら今日はもうここまでにしよ?」 「だ……、駄目っ。だって……、だって、タバサに人間だって知られちゃったから、私早く猫股にならなきゃ!」 「……タバサに……、だからそれで突然……」 そう呟いたキリはそっとルイズから離れ起き上がる。 「キリ……?」 「ルイズ、駄目だよ。そんなの駄目だよ」 「キリ……、駄目って……、どうして!? だって私猫股にならなきゃ他の妖怪に……っ」 「タバサには私から話をつけてくるから大丈夫」 「でも……」 「だからそんな理由で妖怪になるなんて言わないで!!」 キリが荒げた声にまたも隣で寝ていた猫股が体を動かす。 「キリ……、声大きいよ……。うううん……」 その声に一瞬沈黙した2人だったが、ルイズの方から声をかける。 「……何か怒ってる?」 「………」 しかしキリはそれに答えず布団に潜り込んだ。 「もう寝よう。今日はここに泊まっていっていいから」 「キリ……」 ルイズも仕方なく布団に潜り込む。 (タバサに知られちゃった事も、キリの様子がおかしかった事も心配なのに――) しかしルイズの頭の中は先程のキリとの事でいっぱいになっていた。 (あんなに気持ちいいなんて……。どうしよう、もっとしたい!) その夜、ルイズは一睡もできなかった。 前ページときめき☆ぜろのけ女学園
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前ページ次ページ“微熱”の使い魔 「これは、アイフェに似てる…使えそう。こっちは……オニワライタケかあ」 森の中を小動物じみた動きで歩きながら、エリーは次々とキノコやら草やら、木片やらを籠へ入れていく。何というか、すごく手馴れている動作だった。 「あ、あのう、エリーさん? 一生懸命なところ、悪いんですけれど……その、キノコはちょっと食べられませんよ?」 シエスタは籠の中を覗きこみながら、ちょっと気の毒そうに言った。 「え、毒キノコなの、これ?」 エリーが何か言うよりも先に、才人が驚きの声をあげた。 「これって、ゲラゲラキノコじゃない?」 同じように籠を覗いたキュルケが、キノコを手にとって首をかしげた。 「ゲラゲラキノコ?」 「食べたらゲラゲラ笑いが止まらなくなるってキノコよ、確か。毒キノコとはいえば毒キノコだけど、死ぬほどのもんじゃないわね」 「へえ、こっちではそういう呼び名なんだ」 言いながら、エリーはさらに二、三のキノコを放り込む。 「確かにこれ食用にはならないけど……薬にはなるんだ」 「毒薬でも作るつもり? それともイタズラ用とか?」 キュルケは興味深げにたずねる。特に“イタズラ”の部分に力を入れながら。 「違いますよう。栄養剤とか、酔い止め薬の材料になるんです」 「毒キノコなのに?」 こう言ったのは才人だった。 「毒っていっても、成分全部が毒ってわけじゃあないし。それに、毒でもほんの少しだったら薬になることも多いんだよ」 「ふーん……」 持ち前の好奇心から、才人は籠の中のキノコや木片をしげしげと見つめていた。 エリーが色々な薬を作れるのは聞いているが、それがこんなものが作られるのか。 才人は何となく不思議な気分だった。 「こっちの木も、薬にするわけ?」 「ううん。こっちは、そうだね……楽器の材料とか、紙とか」 あれこれたずねる才人に、エリーはちょっと嬉しそうに答える。 そんな二人を、あまり暖かいとは言いがたい目で見つめる者がいた。 エリーたちから離れた場所。草むらに身を潜めて、唇を噛んでいた。 「何よ、あいつ……デレデレしちゃって、ほんと、みっともない……」 視線の主は、ピンクがかった金髪の少女、ルイズだった。 密かに才人の動きを監視していたルイズは、キュルケたちが出かけたところを、一人尾行してきていたのだ。 ルイズは草むらからじっと才人の様子をうかがう。 何というか、仲良くやっている。主である自分とは、まともに口さえきかないくせに。 才人を睨む目から、いつ間にか涙がにじんでいることに、ルイズはしばらく気がつかなかった。 エリーを見よう見真似で“採集”を行っていた才人は、シエスタの腰のあたりへ目をとめた。 お尻に注目? いや、腰にぶら下がっているものに。そこには、メイド姿の少女には似つかわしくない、大き目のナイフが揺れている。 「シエスタさん、それ……」 「……? ああ、これですか?」 最初若干不審げであったシエスタは、才人が何を見ているのか気づくとふっと笑った。 「大して意味はないかもしれませんけど、護身用のナイフです。マルトーさんが貸してくれたんですよ」 「へえ? ちょっと、見せてくれる?」 「気をつけてくださいね。何でも、もともと傭兵が使っていたものらしくて、よく切れますから」 受け取ってみると、見た目以上にずしりと重い。恐る恐る抜けば、ぎらりと不気味な光沢を放つ刃が現れる。 「おお、すげえ……」 才人は感嘆の声をあげた。声ばかりではなく、体までも震えている。 明確な殺傷力を持ち、そのために創造された“武器”をその手にするのは、まったく初めての経験だった。 「すごいナイフだねえ…。どんな人が作ったんだろ?」 いつの間にかシエスタの近くに来ていたエリーがため息を吐いた。 「頑丈そうだけど、ちょっと地味なんじゃない?」 キュルケの評価はあまりよくないようだ。 「きっと、実質本位なんですよ」 「傭兵が使うわけだから、そりゃあ華美さはいらないんでしょうけど」 エリーが意見を述べると、キュルケは少しばかり肩をすくめた。 「マルトーさん、これどこで手に入れたのかなあ?」 「さあ…? マルトーさん、確か傭兵をしてる人からもらったとか、そんなこと言ってましたけど……。あんまり詳しい話はおぼえてないです」 「そうなんだ? って、あれれ? サイト? どうしたの、それ……」 「へ」 いきなり目を見開いたエリーに、才人はわけがわからず空気の抜けるような声を出した。 「その、左手」 言われるまま、才人は自分の左手を見る。刻まれたルーンが。 うっすらと光っていた。 「なにそれ」 キュルケは身を乗り出して、光るルーンを見る。 「いや、俺にもぜんぜん……なにかな、これは」 「それって、使い魔のルーンとかいうものだよね? 私の額にもある……」 私にもあるけど……と、エリーは自分の額をなでた。 「でも、光ったりなんてしたことないなあ。なんでサイトのは光ってるの?」 「いや、俺に聞かれてもなあ」 「さっきまでは光ってなかったんですよね? なんで急に」 「さっきと違ってることといえば」 シエスタが首をかしげる横で、キュルケの目はサイトの持つナイフに向いていた。 ――な、なにやってんの、あいつらは……。 わいわい騒ぐエリーたちを、隠れながら見ていたルイズは低い姿勢のままぐいと顔を近づけた。 なんというかさびしんぼう全開の図である。 「なにやってるんだろ、私こそ……」 しばらく睨み続けた後、ルイズは視線をそらし、むなしげにつぶやいた。 魔法成功率ゼロのメイジ。使い魔さえ御せないメイジ。 というか、なんというか、自分の使い魔にさえ相手にされないメイジ。 はっきりいって生きてるが価値あるのか? エリーと親しげに話す才人を見て、どうしようもなくネガティブな思考がルイズの頭から噴き出し始める。 ――なんで、よりによって、ツェルプストーの女の使い魔なんかと、仲良くやってるのよ……! 悔し涙を浮かべて、ルイズはうつむいた。ぽたりぽたりと涙が地面に落ちていく。 そりゃー鞭でしばかれて貧相な飯で寝場所は床という環境を提供してくださる“ご主人様”と、普通に人間として接してくれて、親切で優しい女の子とどっちを選ぶと言われたら、ほとんどの人間は後者を選ぶ。 よほどご主人様にべた惚れ、萌え狂っているか、さもなきゃ特殊な性癖の持ち主でない限りは。 しかし、貴族>>>>>>>>>(越えられない壁)>>>>>>>>>平民という常識の中で育ち、使い魔=主に服従という思考から抜けられないルイズにとって、そんなことが理解できるはずもなかった。 そんな余裕もなかった。 ただでさえゼロのルイズとして崖っぷちの状態で、召喚したのが平民(敵視しているキュルケも同じく平民召喚しているのが微妙なところだが)と来た日には。 それが才人への傍若無人な態度となり、それでますます才人の心が離れていくのだ。まったくの悪循環だった。 顔を上げたルイズは、いつの間にかエリーを見ていた。 余裕のない心は悪感情を生み、悪感情はひどくとどまりやすい……。 「あんな田舎者の、どこがいいのよ」 ルイズがつぶやいた直後。 「何かいるよ!!」 「ひっ…!?」 ルイズは自分の心臓が破裂したような錯覚をおぼえた。 気づかれてしまったのか。使い魔の、ツェルプストーをこそこそとつけてきた自分の姿を。 どうしようもない羞恥の念に、ルイズは気絶しそうになる。 が、エリーの声はルイズに対してのものではなかった。 エリーたちの周囲を何匹もの狼が取り囲んでいたのだ。 才人はエリーとシエスタを後ろにかばい、ナイフを握り締めていた。本人は気づいていないが、ルーンの輝きがさらに強いものへと変わっている。 「そんな……昼間にこんなに狼が!?」 「何かえらいことになっちゃったみたいね」 シエスタは震える声で叫ぶ。キュルケは挑発的な笑みを浮かべて、杖を狼たちに向ける。 エリーは持ってきたフラムを両手に持ち、緊張の面持ちで狼たちを睨んだ。 睨み合いの後、大きな一匹がひと声鳴いた。 それが合図であったらしい。 うなり声をあげ、狼たちが一斉に襲いかかってきた。 キュルケは杖を振り、火炎を狼たちに放つ。燃える炎に焼かれ、数匹が悲鳴を上げた。 「このお!」 飛びかかる狼に、エリーがフラムを投げる。BOM! という爆発を浴びて、狼が吹っ飛んだ。 出鼻をくじかれて、狼たちはわずかに怯んだようだ。しかし、退散する気はないらしい。 思った以上に数は多く、数匹やられた程度ではどうということはないようだ。 「隙をうかがってるわね……」 杖をゆらゆらとさせながら、キュルケは笑う。だが、その顔には汗が浮かんでいる。 俊敏で数の多い狼たちに対して、彼女らは少々不利なようであった。いつしか、杖やフラムを持つ手に力が入る。 最初は油断していたので何とかなったが、次は向こうも狡猾に動くだろう。 ごくりと、エリーは喉を鳴らす。そのエリーの前に立っていた才人の姿が、いきなり消えた。 ――ええ? 目の錯覚? エリーがあわてている瞬間、黒い風のようなものが狼たちを薙ぎ払っていった。 「なんなの!?」 キュルケも驚いていた。 だが、一番驚いているのは、狼たちだろう。 仲間が次々と血煙をあげて倒れていく。中には、真っ二つに両断されたものもいる。まさにほんの一瞬で、半数以上の狼が地に伏していた。 「はあ。はあ。はあ……」 サイトが、ナイフを構えたまま狼たちを睥睨していた。呼吸は荒いけれど、疲れたという印象はない。 「さ、サイト、すごい!」 「サイトさん……」 「まさか、君にこんな特技があったなんてね」 三人の少女たちはみな賛辞の視線を才人に送る。 しかし才人はそれに応える様子はなく、ぽかんとした顔で自分の手を見つめていた。 「な、何よ……あいつ! すご…いえ、ちょっとはやるんじゃない!!」 陰でそれを見ていたルイズも、キュルケやエリーと同じく驚嘆していた。 ただの平民だと思っていたのに、よもやこのような剣術を習得しているとは思わなかった。 ルイズは完全に才人の見せた力に気を取られ、周囲のことなどわからなくなっていた。 がさり……という音を聞くまでは。 ――がさり? 音に気づいたルイズがハッとした途端、うなり声をあげた狼がルイズにとびかかっていた。 思わず顔をかばったルイズの腕に、鋭い牙が突き立てられた。 「きゃあああああああーーーーーーーーーーーー!!?」 「誰?! 人が!?」 突然の絹をさくような悲鳴に、エリーは愕然とする。 「いけない! ルイズ!!」 キュルケは顔色を変えて叫んだ。 「るいずって、ミス・ヴァリエールですか!? どうして!?」 「あのバカ! なんで、こんなとこにいるんだよ!!」 青くなるシエスタ。怒ったように叫ぶサイト。 「大変だよ、助けないと……。 う…!!」 「もちろんよ! 死なれてたまるもんですか!! ……ち! 鬱陶しい連中ね!!」 ルイズを助けようとするキュルケ、エリー。だが、狼たちはルイズの悲鳴で勢いを取り戻したのか、再び牙をむき出し威嚇しだした。 「こいつめ!」 エリーがフラムを投げる。爆発に飛びのく狼たち。だが、今度はクリーンヒットとはいかない。 しかし、よけた先にキュルケの炎が炸裂。焦げた肉の臭いと共に狼たちが倒れ伏した。 「しっつこい奴らだな! そんなに俺たちを飯にしたいのかよ!?」 才人がナイフを構えると、それだけで狼たちは警戒したように後退する。 「まずいわね、急がないと本当にルイズが……」 狼たちを見ながら、キュルケはつぶやく。 「サイト! ここはいいから、ルイズさんを助けて!!」 エリーは才人に向かって叫んだ。 才人はおう、と叫ぶ。すぐにうなずきルイズのいるほうへと走り出した。途中にいる狼たちを斬り伏せて。 「…ぎぃ! ぎゃあああ!!」 狼の爪や牙に蹂躙され、ルイズは悲鳴を上げ続けていた。そこには獣に襲われる無力な少女がいるだけで、貴族の誇りをかかげる普段の令嬢はどこにもいなかった。 幸運であったのは、襲ってきた狼が一匹であったこと。そして、その狼がまだ若く、狩りの未熟なものだったということだ。これが熟練した個体であれば、ルイズは一瞬で急所をやられ、絶命していたであろう。 だが、ルイズにそんなことなわかる道理はなく、悲鳴と絶望の中でもがき続けるだけだった。 才人のナイフが、狼の急所を突き刺すまでは。 「この野郎ーーー!!」 ルイズにすっかり気をとられた狼は、風のような速さで接近してきた才人に気づく間もなく、刃を首筋に受けて絶命した。 「おい、大丈夫か?」 「ふ、ふえ…?」 才人は血とほこりでぼろぼろになっていたルイズを助け起こす。 「生きてるな。よし」 ルイズが一応無事である確認すると、才人はエリーたちのほうを向き直った。 その時には、炎と爆弾にやられて狼たちは逃げ出していた。どうも先ほどの勢いは一過性のものだったようだ。 「サイトー! ルイズさんはーー!?」 エリーがサイトのもとへ駆け寄ってくる。 「ああー、大丈夫。腕に怪我してるけど、どうにか生きてるよ」 「良かった……」 それを聞いて、エリーはホッとした表情になる。それを見て、才人の表情も和らいだ。 そんな二人を横で見ていたルイズは、どこか暗い表情でうつむいた。 「あ、ルイズさん、大丈夫ですか? ……急いで手当てしないと」 エリーはルイズのそばに座ると、傷を負った腕を見る。 「ほっといてよ……」 ルイズはつぶやく。だが、それはまるで蚊の鳴くような小さなものだった。当然エリーには聞こえていない。 「シエスタさーん! リュック持ってきてー! ルイズさんの手当てしないと!」 採集の帰り道。ルイズは才人におんぶされていた。腕を噛まれただけではなく、どこかでひねったのか足首も痛めていたのだ。腕は応急手当がなされ、包帯をまかれている。 「それにしても、お前何で一人であんなとこいたんだよ? 散歩か?」 才人は背中のルイズに若干厳しい声で言った。 しかし、ルイズは無言。 「おい……」 「よしなよ」 返事のないルイズに、ムッとする才人をエリーが止めた。短いが強い口調だった。 「今色々言ったって無理だよ。あんな目にあったんだから」 一歩間違えば食い殺されていたのだ。それは凄まじいショックだろう。 エリーの言葉に、才人も納得したのかそれ以上は何も言わなかった。 キュルケも何か言いそうな顔ではあったが、エリーの意見にちょっと苦笑し、口を閉じたままにしていた。 「でも、才人さんも人が悪いですね? あんなすごい特技を隠してたなんて」 無言になった場を変えようとしてか、ちょっとはしゃいだ声でシエスタが言った。 「隠してたわけじゃないよ。あれは何つーか、体が勝手に動いたんだ。ナイフとか剣とか、全然扱ったことなかったのに……」 「嘘でしょう? だって、あれとても素人の動きとは思えなかったよ?」 エリーはまじまじと才人を見る。 「ほんとだって。俺だって、嘘みたいな感じなんだ。自分のことなのに」 「そういえばあの時、左手のルーンが光ってたよね? ひょっとして、それと関係があるのかな?」 エリーの意見に、才人は自分の左手、そこに刻まれた使い魔の証を見た。今は、光っていない。 「そういうことは、コルベール先生にでも聞いてみたら? 何かわかるかもよ」 キュルケの意見に、才人はそうっすね、とうなずいた。 ルイズは終始無言だった。 ただ、才人の背に、そっとを頬を寄せて。 前ページ次ページ“微熱”の使い魔
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前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔 早朝、ルイズの部屋にノック音が響く。 早起きの生徒は起き出している時間ではあるが、低血圧で寝坊すけなルイズにとってまだまだ甘美な眠りの時間であった。 先にミュズがそれに気付いて目を醒まし、すうすうと寝息を立てるルイズを揺すって起こそうとする。 「マスター、起きて下さい。シエスタが呼んでいます」 「はえ?そ、そう……。って誰よあんた!」 ルイズは寝ぼけた声で怒鳴った。 ふにゃふにゃとした顔で眠そうにしている。 「ミュズです」 「ああ、使い魔ね。そうね、昨日、召喚したんだっけ」 ルイズは起き上がると、欠伸をした。 そして、ミュズに聞く。 「シエスタ…。ああ、昨日のメイドの事?で、そのメイドがどうしたのよ」 その時、再度、扉の外からノックとルイズを呼ぶシエスタの声が聞こえる。 「すみません、ミス・ヴァリエール。昨日、御依頼された件でご相談が…」 ルイズはシエスタに待つ様に返事をすると、ミュズに命じる。 「服」 ミュズに椅子に掛かった制服を手渡されると、ベッドの隅に置き、ルイズは怠そうにネグリジェを脱いだ。 「下着」 「どこにあるんですか?」 「そこのクローゼットの、一番下の引き出しに入っているわよ」 ミュズはルイズが指したクローゼットの引き出しをあけ、適当に下着を取り出すと、ルイズに渡す。 下着を身につけたルイズが、再び怠そうに呟く。 「服」 「さっき渡しませんでしたか?」 「着せて」 下着姿のルイズがベッドに座って、気だるそうに言う。 「平民のあなたは知らないだろうけど、貴族は下僕がいる時は自分で着ないのよ」 ルイズは唇を尖らせてさらに言った。 「そうなんですか」 理解した様に大きく頷くと、ミュズはベッドの上にある制服のブラウスを手に取り、のたのたとルイズの腕に袖を通す。 初めて人の着替えをする様でたどたどしいが、これから教え込ませれば良いと、ルイズは目を閉じて考えていた。 そうしていると、首筋にがさがさとした違和感を感じる。 目をパチッと見開くと、正面でミュズがブラウスのボタンを、んしょんしょと”内側に”掛けていた。 ボタンを一つ違いに掛け違えしているのはご愛顧としても、更にブラウスが裏表逆なのは、”いつもより早く起こされて”機嫌の良くないルイズの堪忍袋の緒を易々と切ってしまった。 「何やってんのよ!あんたは~!!」 その怒号は扉の向こう側で待っていたシエスタが跳びはね、女子寮全体に響き渡る程に大きな物であった。 「服はこうやって着るのよっ」 ルイズは、裏っ返しのブラウスの中に片手を突っ込んで内側に留まったボタンを外し、ブラウスが表になる様に翻すと、素早くボタンを上から順にピッタリと留めた。 スカートを手に取ると、ズバッズバッと細い脚を入れ、腰の留め金を掛け、ループタイを五芒星の飾りで固定すると、黒いマントを羽織る。 そして、どうよと言わんばかりの顔で、胸を張り腰に手を当てて、ミュズを睨み付ける。 そんなルイズの姿をミュズはまじまじと見つめて、「なるほど」と知らなかった事を知って感服した面持ちだった。 「ミス・ヴァリエール。どうなさいました?」 そこに、ノック音と共に扉の向こうから、中の様子を気にするシエスタの声が聞こえた。 「なっ、なんでもないわよ」 ルイズはちょっと恥ずかしいポーズを決めている事に顔を赤らめ、慌てて返事をする。 「そんな事、気にしないで入りなさい」 扉の鍵をガチャリと開けて、怒鳴り声を上げたのを誤魔化しつつ、ルイズは部屋にシエスタを入れた。 「で、何よ。相談って」 ルイズは椅子に腰掛け腕組みをして、シエスタに尋ねる。 「それがその…、」 シエスタは機嫌の悪そうなルイズの様子を見て、怯えて身体を震わせながら恐る恐る声を絞り出すと、頭を深々と下げる。 「申し訳ございません。お預かりした布に鋏が通らなくて、上手く仕立てられませんでした」 シエスタは面を見せないまま、謝罪の言葉とその訳を告げる。 「えっ、どう言う事?」 ルイズはイマイチ意味が分からない様で、シエスタに疑問を投げ掛ける。 裁縫や服飾に詳しい訳では無いが、公爵の息女であるルイズは平民と比べると触れた布の数や種類では数倍も多い。 あの布を触った感じから、織り目自体は細かいが地は薄くて堅い印象を受けなかった。 学院内のメイドに任せても一晩で服が出来上がる物だと思っていた。 「ご覧になって下さい」 シエスタは持っていた籠の中から、鋏を一丁取り出してルイズに差し出す。 学院からの支給されている鋏には教員の土メイジによって固定化かけられている筈で、その刃が毀れてボロボロになっている。 「これは酷いわね。それで服の方はどうなったの?」 ルイズは鋏をシエスタに返しながら、あの真っ赤な布がどうなったかを訊く。 シエスタは籠からルイズから預かった赤い布を広げ、言った。 「どうにか着れる形にはしたのですが…」 一見するとワンピースのドレスの様だが、肩を掛ける所が片方しかなく、縫われているのはその反対側の腰だけで、そこ以外の体側はバックリと開いていた。 鋏もそうだが、針で縫うのも侭ならない様子であった。 「それ、着られるの?」 シエスタはルイズの許可を貰い、二人のやり取りを聞いていたミュズに着替えさせ始めた。 着ていたワンピースを脱がすと、赤い服をミュズに潜らせる。 二つ付いている胸の留め具を左右の脇から通して背中で固定し、胴のコルセット状のベルトを巻き、縫われていない方の腰に開いている穴に長いベルトを着ける。 着替え終わったミュズが嬉しそうにクルッと回るがはだける事もなく、ワンピースとして様になっていた。 ただ、脚の両側のスリットは深く、ほぼ両肩が出て、胸元が開いている。そんな格好を好んでするのはゲルマニアの女ぐらいだ。 「留め具も元々付いていたものでしか布にくっつけるが出来ませんでした。胴のベルトは手持ちの似たような色合いの布と留め具を無理矢理、縫い付けて使ったのですが、如何でしょうか?」 「まっ、まあ。良いじゃないの」 ミュズが服を着た様子を見て、ルイズはシエスタが『上手く仕立てられませんでした』と言ったものの、それなりに形になっていたので妥協する事にした。 その言葉に表情を曇らせていたシエスタの顔がパアッと晴れる。 「ありがとうございます、ミス・ヴァリエール」 「それで。また、頼みたい事があるんだけど…」 「はい。なんなりと」 「この娘に使用人としての作法や技術を仕込んで欲しいの。どうも、世間知らずと言うか常識が無い所があるから」 「わかりました」 シエスタはにっこりと微笑んで即答する。 「じゃあ、よろしくね」 「それでは失礼いたしました」 シエスタは深々とお辞儀をすると、ルイズの部屋を慌てて出て行った。 シエスタを含むメイド達には、今の時間は朝食の準備があるので、大変なのである。 シエスタが去っていった所で、ルイズは部屋を出る仕度を済ませる。 「それじゃ、私達も行くわよ」 体をねじらせながら嬉しそうに服の様子を見ているミュズに、ルイズは声をかけて、ドアノブを掴んで扉を開けた。 (※注:この話でミュズの足のサンダルも含めて格好が、原作批准になりました) 前ページ次ページ”舵輪(ヘルム)”の使い魔
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「さぁ、何してるの?ぼんやりして。」 「あの…」 「男と女がベッドルールで二人きりならすることは決まっているでしょ。」 「でも…」 「脱ぎなさい。それとも脱がして欲しいの?」 有無を言わせない口調でルイスの母は言う 「じ、自分で脱げます」 沙慈は状況に流されるまま、ブレザー、スラックス、シャツと脱いでいき、ブリーフだけの姿になった。 ルイスの母もニットの上着、ブラウス、スラックスを脱ぎ下着だけの姿になっていった。 赤色のブラジャー、赤色のショーツ、ガーターベルトで吊った黒のストッキングという姿に沙慈は思わず生唾を飲み込んだ。 年頃になって下着姿の女性を間近で見たのは、着替え中を偶然見てしまった姉だけであった。 「さあ、いらっしゃい」 ベッドに腰掛け手招きする。 ―僕のベッドなんだけど そう思いながらも、招かれるままそばに寄っていき、彼女の前に立つ。 「ブラジャーを外してちょうだい。」 「は、はい」 沙慈はルイスの母の背後手を回し、ブラジャーのホックを外そうとする。 何度か試したが手が震えているせいもあってなかなか外せずいたずらに焦ってしまう。 「ブラジャーの外し方もわからないの? お姉さんがいらっしゃるんだからブラジャーぐらい見たことあるでしょ?」 「そうですけど…それとこれとは…」 沙慈もこの年頃の少年らしく、姉のブラジャーやショーツをクローゼットから出して観察したことがある。 しかし、自分で身につけてて見ることは思いとどまったので、ブラジャーの外し方までは知るらなかった。 「ほら、こうよ」 ルイスの母は自分の背中に手を回し、ブラジャーのホックを外してしまった。 「もう一回、つけて外してみなさい。」 沙慈は言われるままに、見よう見まねでブラジャーのホックを留めて、外した。 「こんなことでまごつくようじゃ、いざというとき大変ね。」 「がんばります」 「ほら、沙慈君」 ブラジャーの肩ひもはほどけ、カップが落ちるのを腕組みをして防いでいた。 腕からはみ出る乳房があまりにも扇情的で、沙慈は思わず我を忘れてしまった。 いきなりルイスの母を押し倒し、二つの乳房にむさぼりついていった。 「お母さん、お母さん!!」 「ダ、ダメよ沙慈君、落ち着きなさい!情熱的なのは結構ですが乱暴なのはいけませんよ。」 そういわれて沙慈は我に返った。 「ご、ごめんなさい…」 「いいのよ、でも焦らないで。ほら、見てみて。」 ルイスの母が手をどけると、二つの乳房があらわになった。 透き通るように白い肌。手に収まりきらない大きさの乳房。ピンとつきだした淡い褐色の乳首。 年頃になってこんな間近に乳房を見るのは初めてだった。 「いいのよ、沙慈君」 ルイスの母は自らの乳房をつかみ、乳首を沙慈の口の方に向ける。 沙慈は何も考えず本能のまま乳首に吸い付いていった。 「もっと強くしてもいいのよ。やさしく噛んでみて。」 沙慈は言われるままに乳首を甘噛みする。 「あっ!」 ひときわなまめかしい声をルイスの母は上げた。 「左手がお留守よ。」 そういわれて沙慈はもう片方の乳房を左手でまさぐり始めた。 乳房は柔らかくそれでいて弾力がありいくらもんでも飽きない感触だった。 ルイスの母の体からは高級そうな香水のにおいの他に、何か懐かしい甘い香りがした。 「左の乳首も舐めてちょうだい」 沙慈は左の乳首に口を移し、右手で右の乳房をもんだ。 「あぁっ、いいわ!いいわよ!上手よ!」 沙慈の背中に回したルイスの母の手に力が入る。 「次のレッスンよ、沙慈君」 ルイスの母は上半身を起こすと、ゆっくりとじらすようにショーツを脱いでいく。 そして、ガーターベルトにストッキングだけの姿になった。 金色の草むらに覆われた秘部に沙慈の目は吸い寄せられていった。 「見てちょうだい。」 草むらはじっとりと湿っていた。 その間に開く淫らな唇もじっとりと湿っていた。 その奥にぬめぬめと光る肉襞が見えた。 沙慈は植物園で見た食虫植物を思い出した。 「さわってちょうだい。」 食虫植物に吸い寄せられる虫のように、沙慈はルイスの母の肉体に吸い寄せられていった。 初めて間近で見る大人の女性の性器は複雑な形をしていた。 沙慈はぬめぬめとした肉の襞を指でなぞった。 「あっ!」 ルイスの母が声を上げる。 「そうよ、ゆっくりね。」 沙慈は指を襞に沿って先ほどよりも大胆に動かしていく。 「あぁっ、いいわよ!いいわよ!」 ルイスの母は沙慈の指の動きに合わせ身をくねらす。 「沙慈君、まんなかの上の方にかたい部分があるのがわかる?」 「ここですか?」 「あぁっ、そうよ、そこよ。そこがクリトリスよ。」 クリトリスを中心に愛撫をすると、さらにルイスの母の声は高くなる。 「そうよ、上手よ。もう我慢できない、沙慈君、いらっしゃい。」 沙慈にもルイスの母が求めていることがすぐにわかった。 男と女として結ばれること、それが二人の一致した望みだった。 ルイスの母は体を少し起こすと、沙慈の肉棒をやさしく握った。 「初めてなんでしょ。ちゃんと入り口まで案内してあげるわ。 両手を私の肩のところにおいて。 そう、その通り。 次はゆっくり腰を下ろしていって。」 沙慈はルイスの母に覆い被さるような体勢になる。 ルイスの母の手にひかれ、沙慈の亀頭が彼女のぬめった部分に触れる。 「ここよ。ここに入れるの。このままゆっくり腰を進めて。」 沙慈はゆっくりとルイスの母の手に導かれて彼女の中に入っていった。 亀頭が入り口で柔らかい抵抗を受けたが、亀頭が潜り込むと、あとはするりと奥まで入って行った。 「ああっ!お母さん!」 熱くぬめったルイスの母の内部はとろけてしまいそうな甘美な快楽をもたらした。 もう、それだけで射精してしまいそうだった。 「焦らないで。焦らないでいいのよ。」 ルイスの母は沙慈の背中をなでて落ち着かせる。 危うくこのまま暴発してしまうところだった。 「ゆっくり腰を動かしてみて」 言われるまま、本能のまま沙慈は腰を動かしていった。 腰を動かすたびに、二人のつながった部分から湿った淫らな音が鳴る。 「いいわよ、その調子。」 沙慈はぎこちないながらもピストン運動を始めていった。 ルイスの母はストッキングに包まれた足を彼の背中にからめ、 沙慈のピストン運動にあわせ自分からも腰を動かし始めた。 「とっても気持ちいいです…」 「そう、うれしいわ。」 沙慈のピストン運動の速度が上がる。ルイスの母も腰を動かす。 「も、もうでちゃいそうです。」 「いいのよ出しで。私の中にたくさんちょうだい!」 「あっ、出るっ、ああっ…!」 沙慈の肉棒は激しく脈動を始め、ガールフレンドの母の子宮めがけ激しい勢いで精子を吐き出していった。 「ああっ、来てる、来てるわ…ああっ…」 ルイスの母は娘のボーイフレンドの吐き出した精子を胎内奥深くで受け止めていた。 何度も何度も脈動するたびに大量の精液を吐き出していった。 すべてを出し切ると、沙慈はルイスの母の体から離れて仰向けに横たわった。 二人とも息を切らし、快感の余韻にひたっていた。 「良かった?」 「とっても良かったです。」 ルイスの母が体を起こし、沙慈の唇に音を立ててキスをする。 そのとき、ドアの方でどさっと、何かが落ちる音がした。 あわてて振り返った沙慈が見たものは、呆然と立ちつくす ガールフレンド、ルイス・ハレヴィの姿だった。 持っていた鞄を落とし、両手を口に当て、目は驚きに見開かれていた。 「ル、ルイス?!ど、どうして!」 沙慈は叫んだ。 ~~~ つづく ~~~
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前ページ次ページ使い魔は妖魔か或いは人間か 舞踏会から数日が経った、ある日。 水の中に浮かんでいるような感覚。 ルイズは過去の風景を見ているのだと気付いた。 母親に叱られ、池のほとりの小船でうずくまっていた幼い頃の夢。 その度に優しい子爵様が手を差し伸べてくれた。 いつものように手を取って、夢から覚める……はずだった。 目を覚ましたルイズが次に見たのは、薄暗い部屋だった。 暗く感じるのは揺らめく灯りの所為で、建物自体は立派な代物に見える。 「……ハア……ハア……夢か……やな夢だったな」 聞こえてきたのは、ルイズにも馴染みのある声。 「アセルス!?」 ルイズが驚いて叫ぶも、アセルスには届いていない。 「ここ、どこ?服が破れて……血の痕? どっか怪我したのかな……じゃあ、ここは病院?」 現状がどうなっているのかまるで分からない有様で、周囲を見渡していた。 ルイズもかつて見た夢を思い出していた。 人ならざる者を乗せた馬車に、アセルスが跳ね飛ばされていたと。 アセルスは尚もうろたえながら、部屋を出て行く。 置いていかれるまいと、ルイズも慌てて後を追いかけた。 城は異様としか表現できない代物だった。 上層には化け物が飛び交い、置かれた棺には人が入ったまま並べられている。 「こんな所にも花がある」 アセルスがたどり着いたのは白い花壇。 優雅に飾られた花も、城に漂う雰囲気の前に不気味でしかない。 「ここの城主も意外といい趣味かな……うっ」 花畑に近づいたアセルスの心臓に、背後から剣が突き刺さる。 「え?」 ただ呆然とするしかないルイズ。 「血は紫か」 後姿だけで顔は見えない。 突然現れた男が一言呟くと、姿を消す。 白い花はアセルスの体から流れた鮮血に染まっていた。 ──鮮やかな紫色に。 「……生きてる……傷が……ない……夢なら覚めて、お願い!!」 心臓を貫かれながらも生きていた事実に混乱する。 血に塗れた姿のまま、アセルスは何かに導かれるように歩く。 しばらく降りた先にたどり着いたのは、壮大な玉座の置かれた広場。 「名は?」 玉座に座る男が尋ねる。 声の主にルイズは聞き覚えがあった。 アセルスから流れた血を確認していた人物だと気付く。 「私はアセルス。 でもね、人に尋ねる前に自分で名乗るのが礼儀だと思うな」 「この無礼者!」 配下の者がアセルスの態度に憤るが、当の本人は気にした様子もない。 「アセルスか、人間にしては気の利いた名だな……気も強い、いい事だ」 「そろそろ名乗ったらどう?」 アセルスの催促に、配下達が次々と口を開く。 「魅惑の君」「無慈悲な王」「薔薇の守護者」「闇の支配者」「美しき方」「裁きの主」 「ファシナトゥールの支配者、この針の城の主」 「妖魔の君、オルロワージュ様」 最後の一人が彼の名と正体を告げる。 「妖魔……妖魔だったのね!私は人間、あなた達には関係無いわ」 家に帰すよう懇願するアセルス。 オルロワージュと名乗る男は、二つ名の通り無慈悲な声で告げた。 「先ほど花壇で見なかったのか? お前の血は紫だった、お前はもう人間ではない」 「嘘……」 アセルスは後ずさりしながら呟く。 「セアトの剣で串刺しにされた、その傷はなぜ無い? そもそも、我が馬車に轢かれてお前は死んでいた」 アセルスは何も言わずにただ青褪めて、震えていた。 「お前が甦ったのは我が青い血の力、妖魔の青と人の赤。 二つの血が混じりあいお前の血になった、紫の血の半妖半人だ。」 「私が……」 人でなくなった現実を受け入れられないアセルス。 「アセルス!」 絶望する彼女に手を差し伸べようとして、ルイズは飛び跳ねるように起きた。 「また……アセルスの過去?」 激しく脈を打つ心臓を抑え、呟く。 気を落ち着かせる為に、窓を開けて換気する。 時刻はまだ夜明け前、ルイズの髪を冷たい風がそよぐ。 アセルスが部屋にいないのは、『食事時』だからだろう。 ルイズも必要だと分かってはいる。 アセルスも気遣って、ルイズが寝静まった頃に向かっていた。 だが目覚めた以上、独占欲から嫉みにも近い感情がルイズに芽生える。 「はぁ……使用人に嫉妬してどうするのよ」 頭を振って反省したのは、ルイズが成長した証。 同時に、アセルスに対する信頼の現われでもあった。 再び夜風にあたり、頭を冷やす。 身を乗り出した際に、下にいるメイドの姿に気付いた。 「あら、シエスタ?」 呼びかけた訳ではなかったのだが、シエスタに声は届いていた。 「ルイズ様?」 見上げた先に、自らの仕える少女の姿。 シエスタの目は、驚いたように見開かれている。 「こんな遅くまで仕事?」 「今日は遅番ですから…… ルイズ様こそ、こんな夜更けに如何なさいましたか?」 至極真っ当なシエスタの返事に、ルイズは硬直する。 アセルスの過去を話すのは躊躇われる。 夢見が悪かったと言うのも、あらぬ勘違いをされそうだ。 「ちょっと寝つきが悪くて」 多少は誤魔化しながらも、正直に告げた。 「でしたら、ホットワインでもお入れ致しましょうか?」 「……そうね、お願いするわ」 仕事の邪魔をするようで悪いが、好意を素直に受け取る。 ──数分後、シエスタがホットワインを届ける。 誰かと話したい気分だった為に、ルイズはシエスタを引き止めた。 「少し聞きたいの」 「はい……なんでしょうか?」 神妙なルイズの面持ちに、シエスタも畏まった様子で伺う。 「ああ、緊張しないで。 他愛もない話だから……シエスタは運命って信じる?」 ルイズはくつろげるよう微笑んでみせる。 「運命ですか……私は信じないですね」 「どうして?」 自分だけが魔法が出来ない、ルイズは魔法が使えない運命を呪い続けてきた。 次に思い出すのは、人間でなくなったアセルスの姿。 何故彼女があんな運命に巻き込まれねば、ならなかったのか。 「気を悪くしないでくださいね、祖父からの受け売りなんですけど……」 どこか答えづらそうに、シエスタは口ごもる。 前置きを確認して、シエスタは続きを口にした。 「祖父曰く、例えどんな人生でも自分で変えるしかないと。 自分で決断して来なかった人間だけが、運命を言い訳のように使うって」 シエスタの言葉に、ルイズは胸を突き刺されるような感覚に陥る。 今までどれだけ決断をしてきただろうか? 魔法が使えるようになる目標、貴族で有り続ける志。 貴族生まれと言う立場や環境に流されただけではないのか? 自分の意思で決断を行ったのは一度だけ。 ゼロと認め、アセルスに恥じない貴族となると宣告した時。 だが、その決意すら彼女の影響に過ぎないのではないかと疑念が生じる。 「だから、私も運命は信じないですね。 まぁ祖父は、ブリミル教すら信用しないって公言するほど偏屈者でしたけど」 苦笑しながらも、懐かしそうに語るシエスタ。 彼女の姿に、ルイズも少しだけ心が軽やかになった。 「偉そうな発言をしてしまい、申し訳ありません」 謝るシエスタに、ルイズは首を振って否定する。 「ううん、素晴らしいお爺様だと思うわ。 ありがとう、シエスタ。引き止めて悪かったわね」 「いえ、お話できて嬉しかったです。 それではごゆっくりお休みなさいませ、ルイズ様」 シエスタが部屋を出る前に、一礼する。 「おやすみ」 挨拶を交わして、再びルイズはベッドに潜る。 発端はアセルスとの出会いだった。 だが、立派な貴族となるのは自分で決めたのだ。 過酷な運命が待ち構えようと後悔するつもりはない。 ルイズは固く誓うと共に眠りについた…… ──王女来訪の当日。 ルイズも久方となる王女の姿を見つめていた。 最も、他の生徒同様に整列して出迎えてはない。 ルイズとアセルスは学院長室から遠見の鏡で見ている。 二人は品評会に参加するつもりはない。 オールド・オスマンとしても、ありがたい申し出。 王宮連中の迂闊な行動で、揉め事が起きる可能性は十分にあった。 王女の姿を見て、共に遊んだ記憶が蘇る。 あの頃に比べ、自分は成長したのかと考える。 魔法を使う努力は続けていたつもりだった。 思い返せば、闇雲に魔法の詠唱を行っただけ。 実際、空回るだけで何一つ実を結んでいないのだから。 現実を受け入れられなかった。 今は魔法を使えなくても、いつか報われると信じていた。 「滑稽だわ……」 努力というのは、正しい方向に向けて意味を成す。 間違った努力を続けても、賞賛も評価もされようはずがない。 「どうしたの?」 ルイズが溜息と共に自嘲する姿に、本から目線を上げる。 王女に興味が無いアセルスは、文字を覚える為の絵本を読んでいた。 タバサからエルザに会わせたお礼として見繕ってもらった本だが、今はどうでもいい。 まだ短い付き合いながら、アセルスはルイズの性格を把握しつつあった。 端的に言えば、自虐的。 ルイズは人生において、自信を得た経験がない。 親譲りの気の強さはあれど、自信がなければ虚勢にしかならない。 それが些細な理由……例えば身体的な成長等に対して、大きな劣等感を抱く原因でもある。 「ううん、今まで無意味な努力を続けていたなと思っただけ」 虐げられてた者が力を持てば、過信しやすい傾向にある。 そうならないのは、アセルスの存在とルイズが抱いた志の高さ。 他者より力を付けても、自分が納得できないなら充実感は得られない。 「これから正せばいいよ」 「うん」 急かすでも、甘やかすでもない。 そんな一言にルイズから肩の荷がおりる。 「あ……」 再び遠見の鏡に目を向けたルイズの動きが止まった。 写っていたのは夢で見た人物──かつての許婚の姿だった。 「オーイ、嬢ちゃん」 アセルスは会話しない為、デルフはルイズと話すのが日課だった。 今日に限っては部屋に帰ってきて以来、呼びかけても上の空で反応がない。 部屋に悠然と時間が流れる。 静寂を破ったのは、扉を叩いた来訪者。 エルザかシエスタかと思ったが、用事を頼んだ覚えはない。 立っていたのは、黒いローブを被った一人の少女。 部屋に入るや否や、呪文を唱えると部屋が淡く光った。 「ディテクト・マジック?」 来訪者にようやくルイズが反応を示す。 「どこに目が光ってるかわからないですから」 そう言いながらフードを取ったのは、ルイズも良く知る姿。 「姫殿下!?」 トリスティンの王女、アンリエッタその人だった。 ルイズは慌ててベッドから降りると、膝を突いた姿勢でひれ伏す。 「品評会を休んだのには驚いたけど、ご無事なようで何よりですわ」 ただ困惑するルイズを後目に、王女は世間話をするかのごとく語りかけた。 「姫殿下の心遣い、身に余る光栄でございます。 何故このような所まで、おいでになったのですか?」 ルイズは面を上げて、当然の疑問を投げかける。 王女は疑問には答えず、ルイズに大仰に詰め寄った。 「他人行儀な挨拶はやめて頂戴! ここには小煩い枢機卿も媚び諂うだけの宮廷貴族もいないの。 貴女にまでそんな態度を取られたら、私に心休まる親友はいないわ!」 王女はルイズを抱きしめると、一気にまくし立てる。 その後、ルイズと王女は思い出話に花咲かせていた。 湖畔のほとりで遊んだ事や、泥だらけになって家臣に叱られた過去。 時にはドレスの奪い合いで取っ組み合いをしていた等、他愛もない内容。 アセルスは二人の旧交を邪魔するつもりはない。 何かと余計な一言の多いデルフを連れて、部屋から姿を消していた。 夜空に浮かぶ二つの月。 特に行く当てがある訳でもないアセルスは、屋根で月を見上げていた。 「なあ相棒、感傷に浸ってるところ悪いんだけど……」 アセルスは無言で呼びかけた剣を見下ろす。 「前にも聞いたけど、お前さんいったい何者なんだ? 人間なのに人間じゃなく、妖魔の血が流れてるのに妖魔でもない」 「誰に聞いたの?」 いつもと変わらないように聞こえるアセルスの口調。 「そんな怒らないでくれ。 何となく使い手の感情とか力とか分かるんだよ」 感情を察したデルフリンガーが正直に答える。 アセルスは機械にエネルギーの異常を判断されたのを思い出していた。 「貴女には関係ないわ」 軽々しく話したい過去ではない。 ルイズに半妖の事実を伝えたのは、似た境遇によるものからだ。 人に存在を知られれば、利用されるか怯えられるかだと経験している。 「相棒の不利になる事は言わねえって」 「うっかりで口を滑らされても困るもの」 アセルスがデルフリンガーを信用しない理由。 かけがえのない存在──白薔薇を失った時、軽口を叩いた魔物を思い起こすからだ。 背後の気配に気付いて、アセルスが振り返る。 振り返った先にいたのは、忠実な僕となったエルザ。 「ご主人様、ルイズ様が御呼びです」 「分かったわ、すぐ行く」 アセルスは空間移動で姿を消す。 デルフはそのまま屋根に置いていかれた。 「相棒が信用するのは嬢ちゃんだけかよ。 使い魔としては正しい姿勢なんだろうけどさ……」 なおもブツブツと不満を零すデルフ。 エルザも愚痴には耳を貸さず、剣を拾うと仕事場へ戻った。 「何か用?」 突然、部屋に現れたアセルスに驚く王女。 慣れた様子のルイズが王女に代わって説明する。 「実は、アン……姫殿下から依頼を頼まれたのよ」 アンリエッタ王女の依頼。 内容を要約すれば、政略婚の障害になる手紙を引き取る事。 問題は手紙を出した相手が、反乱で陥落しかけている王国の皇太子である。 一人で請け負うにはあまりに危険な任務──だが、ルイズは引き受けてしまっていた。 アセルスは頭を悩ませる。 ルイズがアセルスの力に頼っている訳ではない。 どんな使い魔が呼び出されたとしても、引き受けたのは想像できる。 「貴女……自分が何を頼んだかわかっている?」 王女への不信感が生まれる。 親友と言いながら、危険を押しつける王女の姿。 アセルスが最も嫌う人間の悪意。 己が目的の為に、他者を利用するやり方に似ていた。 「危険な任務ですが、ルイズなら大丈夫と信じていますわ」 酷く軽薄な王女の笑み。 憤りを増しただけの弁明に、アセルスは王女の首を抑えて壁に叩きつける。 「アセルス!?」 ルイズが驚愕して叫ぶ。 王女に対する非礼以前に、アセルスが何故怒っているのか理解できない。 「大切な者を失う辛さも知らないで、よくも言えたものね」 王女からはアセルスの表情は逆光になって見えない。 ただ明かりもないはずなのに、妖しく輝く赤い瞳は怒りに満ちあふれていた。 「何を……」 「親友?貴女はルイズが死んだって、ただ嘆いて忘れるだけでしょう」 王女が問うより、アセルスが永久凍土のように冷たい声を放つ。 「姫殿下を放して!私は名誉の為なら死なんて恐れないわ!!」 「だからよ、彼女は君の性格を知っている上で頼んだ」 ルイズの請願に対して、アセルスの返答は拒否だった。 「そんなはず……!」 「いえ……ルイズ、彼女のおっしゃる通りですわ」 なおも反論しようとしたルイズを制止する。 アセルスがようやく首から手放すと、床に崩れ落ちて咳き込んだ。 「私に心休まる相手がいないのは本当ですわ。 だからこそ、誰にもお願いできなかった事も……」 懺悔するように王女は……いや、アンリエッタは本心を語り始めた。 「なら、どうして……」 ルイズは次の句が紡げなかった。 自分を利用したいだけだったのか? 友だと告げてくれたのは偽りだったのか? 本当の理由を聞きたい感情と聞きたくない感情が、ルイズの胸中に渦巻く。 「私はウェールズ皇太子を、今でも愛しております」 「……亡命を進めたいと?」 ルイズにも依頼の真相が見えてきた。 ウェールズ皇太子を助けたいが、家臣が賛同などするはずもない。 亡命を受け入れれば、アルビオン王国の打倒を掲げる貴族派と敵対する事になる。 その程度は政に疎いルイズでさえ予測できた。 アンリエッタとて理屈では分かっているつもりだ。 「私は彼に手紙を届けて欲しかった……」 王女ではなく、恋人として手紙を送りたい。 こんな酔狂な依頼を頼める相手がいるはずもない。 何とかできないかと悩む中、ルイズがフーケを捕らえた一報が伝わる。 かつての親友だったルイズならば、引き受けてくれるかもしれないと考えた。 「私は……ルイズ、貴女を利用しようとしたのですわ」 泣き崩れるアンリエッタはただ悔恨していた。 ルイズの身の危険など考えてもいなかった事実。 いや、本当は気づいていた。 ただ自分の目的の為に利用したのだ。 日頃、忌み嫌っているはずの宮廷貴族達のように。 「今日起きた事は全てお忘れになって。 ここに来たのは王女でも、貴女の友人でもない……ただの愚かな女ですわ」 死者のように虚ろな瞳のまま、アンリエッタは部屋を出て行こうとする。 「アン……いえ、姫殿下」 ルイズの呼び止めに、アンリエッタの足が止まる。 振り返るのが怖かった。 ルイズに合わせる顔がない。 部屋から一刻も早く、逃げ出してしまいたかった。 「逃げるな」 彼女の葛藤を見破るようにアセルスが促す。 心臓を鷲掴みにされた心境のまま振り返った。 ルイズは敬服を示す姿勢で跪いて、顔を伏せている。 「ルイズ……?」 ルイズの真意が把握できない。 「手紙を届けたいと望むのでしたら、一言仰せください。手紙を必ず届けよと」 悲嘆も、失望も感じられない。 彼女の瞳にあるのは強い決意のみ。 「何を言っているの!?私は貴女を……」 「私は由緒ある公爵家の三女で、貴女は王族です。 命じられたなら、如何なる理由とて引き受けてみせます」 ルイズには、昔話していた先ほどまでの穏やかさはない。 「ですから姫殿下もご決断ください。 私に号令を下すのも、このまま去るのも貴女の意思一つです」 アンリエッタは息が止まりそうな程の重圧を受ける。 同時にルイズが何をさせようとしているのか、気付いてしまった。 ウェールズ皇太子を手紙を届けよ。 友人ではなく、王女として命じれば良い。 代償としてルイズの命を、己の一存で天秤に懸ける必要がある。 「わ、私は……」 喪に服すと言い訳ばかりで王位を継がない母親。 権威のみを求めて、責務を果たそうとしない宮廷貴族。 アンリエッタの周りには、王族の手本になるような人物がいなかった。 自然と重責から逃避する回数が増えていく。 先程ルイズに己の醜態を晒した時も、逃げるように部屋から去ろうとした。 王女の権威も心構えもない、ただの傀儡の少女。 いや、一人だけ王族を自覚するよう忠言する者がいた。 アンリエッタの嫌う相手、鳥の骨と揶揄されるマザリーニ枢機卿。 『王族である以上、いつの日か決断をしなかった事を後悔しますぞ』 まさに忠告通りの事態が起きていた。 鼓動だけが早くなり、意識だけが遠のいていきそうになる。 ルイズは顔を伏せ、アセルスも沈黙する。 夜分も更けてきた以上、周囲の喧騒もない。 永遠とも錯覚しそうな静寂のみが、部屋を支配している。 「ルイズ」 王女の声は震えたままだ。 しかし、心は決まっている。 「手紙を……ウェールズ皇太子に……届けるように」 震える手でルイズに封筒を手渡す。 軽いはずの手紙が、鉛より重く感じられる。 重さの正体は、ルイズの命。 初めて自分の意思で下した命令で、人が死ぬかもしれない重圧。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 必ずや姫殿下のご期待に沿え、この困難な任務を成し遂げてみせます」 ルイズは下賜された手紙を両手で受け止め、力強く答える。 「ルイズ……教えて頂戴。何が貴女の心を変えたの?」 ルイズとて、箱入り娘だったはずだ。 王女と遊んでいた頃から、年月を経たが印象は変わらなかった。 「私が変われたのは、一つの決心」 「決心……?」 アンリエッタが身を乗り出して、没頭する。 ルイズの一言一句を聞き逃すまいとするように。 「使い魔の儀式まで私は自分の境遇を嘆くだけでした。 どれだけ努力しても、魔法が使えない『ゼロ』のルイズと馬鹿にされる日々」 彼女の噂は以前、耳にしていた。 簡単なコモン・マジックすら使えない落ちこぼれと評されていたとも。 「あだ名通り、私には何もない。あるのは公爵と言う立場だけで私自身は空っぽの存在」 アンリエッタは胸が締め付けられる思いだった。 ルイズが抱いていた感情は、多かれ少なかれ自身にも存在するものだ。 「でも、貴女は変わった……」 同じ立場だったはずのルイズと自分。 しかし、今では差が大きく離れている。 促され、震えながらようやく命令を下せた小心者の自分。 死すら厭わずに任務を受けたルイズとは、比べ者にならない。 「目標へ向かう為の道に気付いたのです」 「立派な貴族になりたいと語っていた事?」 アンリエッタが思い出したのは、常日頃からルイズが語っていた将来の夢。 「はい、でも何も出来ずにいました。 理想に対して、何一つ届かない自分と言う現実を認めたくなかった」 「自覚できた……その理由は?」 答えを求める王女に、ルイズは一つだけ誓いを求める。 「これから話す事は誰にもおっしゃらないでください」 王女が頷いて同意したのを見て、ルイズの独白が再び紡がれる。 「きっかけは使い魔の召喚儀式でした。 ここにいるアセルスを呼び出したのが始まりですわ」 使い魔召喚儀式からの出来事をかいつまんで話す。 呼び出したアセルスが妖魔の支配者である事。 妖魔でありながら、誰より貴族らしく感じた印象。 ギーシュとの決闘、フーケの討伐。 「妖魔の支配者……」 荒唐無稽にも思える話だったが、ルイズが嘘をつくはずもないと思っている。 「私はいつかアセルスの力に並び立てる貴族になる、これが今の目標ですわ」 ルイズの誇らしげな表情。 彼女がこれほど自信に満ちあふれた姿は、過去に見た記憶がなかった。 「ルイズ、今の貴女がとても……羨ましいですわ」 アンリエッタには人生の目標と呼べるものはない。 愛する者の危機に、ただ小娘のように狼狽するのみ。 口では親友と謳いながら、泣き落とすような真似で危険な任務を請け負わせた。 己の卑小さを嫌という程に思い知らされた。 項垂れていたアンリエッタはアセルスの方を振り向いた。 「アセルス様でしたね?この度の非礼、深くお詫びをいたしますわ」 アンリエッタが深々と謝罪する。 アセルスからすれば不快な相手ではあったが、 ルイズが望んで任務を受けた以上は口を挟むつもりはない。 「身勝手な願いですけど、ルイズをお守りください」 「心配しなくても彼女は必ず守るわ」 アセルスにも絶対の自信がある訳ではない。 自身は永遠の命でも、大切な人を守れなかった経験はある。 危険はあるが、ルイズが望むならアセルスは叶えるつもりだった。 「ルイズ、ごめんなさい。 許してなんて言えない、資格がないのも分かっています。 でもどうか無事で帰って頂戴、私のたった一人の友人なのだから」 芝居がかった出会い頭の時のようではなく、不安からルイズを抱きしめた。 「心配しないでくださいませ、私が姫様のお願いを断った事なんてないでしょう? 夜に城を抜け出してウェールズ皇太子に会う時だって、変わり身を引き受けたじゃないですか」 ルイズが安心させるように軽口を叩く。 思わずアンリエッタの顔が赤く染まった。 「い、いつから気づいていたのルイズ?」 「つい先ほど。 恋文を届けて欲しいと頼まれた時に、私を影武者に逢引していたと思い当たりましたわ」 いたずらっ子のように笑うルイズに釣られて、アンリエッタも笑った。 僅かな時間だが、二人は今度こそ心から話し合った。 二人の様子を見て、微笑ましく思うと共にアセルスの胸に小さな痛みが走る。 王女の依頼、胸の痛みの正体。 この旅でルイズとアセルスの関係は大きく変わる。 二人の少女が行き着く先は天空かそれとも…… 前ページ次ページ使い魔は妖魔か或いは人間か
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平 祥子@リワマヒ国 こんばんは、生活ゲームで声かけさせていただきました。 芝村 記事どうぞ 平 祥子@リワマヒ国 はい ttp //cwtg.jp/ogasawara/wforum.cgi?no=3455 reno=3305 oya=3305 mode=msgview こちらになります 平 祥子@リワマヒ国 前のゲームのときはフィーブル藩国滞在のイイコちゃんを呼んでいたのですが、そのときの記憶や誕生日に手紙を送ったイイコちゃんを指定することはできますか?(どっちも結構前なのでかなり記憶は薄れてそうですが) 芝村 イベントは? 芝村 大丈夫 平 祥子@リワマヒ国 ありがとうございます。藩国のほうで少し気になっていることがあるので少し質疑してから決めさせていただきたいのですがよろしいでしょうか?>イベント 芝村 ええ 平 祥子@リワマヒ国 Q1.以前ISSに国内のクーリンガン高弟の調査をお願いしましたが、何か進展はありましたか? Q2.紅葉国で避難民にまぎれて入り込むというケースがあったようですが、リワマヒでも問題がないか調査したほうがよいでしょうか? Q3.繁茂技術でできた密林は生物兵器対応植物でなくなっているようですが、発生していた遺跡はどうなっていますか? Q4.なりそこないが出ていたようですが今の状況で以前なりそこないになったことがある人がログインしても問題ありませんか? 平 祥子@リワマヒ国 以上の4つになります。>質疑させていただきたいこと 芝村 A1:ええ。 芝村 あやしいのみつけてる 芝村 A2:いえ? 芝村 A3:わからない 芝村 A4:ええ 平 祥子@リワマヒ国 ありがとうございます。 えーと、藩国のほうはそんなに問題なさそうなので普通にあって話でもできたらと>イベント 芝村 リワマヒ? 宰相府? 平 祥子@リワマヒ国 ではリワマヒでお願いします。 芝村 2ふんまってね 平 祥子@リワマヒ国 はいー 芝村 /*/ 芝村 昼のはずなのに太陽が見えない 平 祥子@リワマヒ国 「おお?」 平 祥子@リワマヒ国 #Q.密林でしょうか? 芝村 A:密林なんか影も形もない 芝村 貴方は腐った土を踏んだ。 芝村 嫌な匂いがする 平 祥子@リワマヒ国 周りを見て状況確認しつつ、小村さんを探します。 平 祥子@リワマヒ国 「これは…ひょっとして生物兵器対応植物の効果?」 芝村 イイコみつけた。 芝村 ゆっくり歩いている 平 祥子@リワマヒ国 「小村さん、こんにちは。お久しぶりです」 芝村 イイコ:「はい? あ・・・ああ。南の島で?」 平 祥子@リワマヒ国 「ええ。かなり前のことですけど。覚えていてくれてうれしいです。」 芝村 イイコ:「自由号が、あのころはいたから」 平 祥子@リワマヒ国 「あぁ、なるほど。そうか自由号も一緒に呼べばよかったですね。」 「この前のお礼も言いたかったし」 芝村 イイコ:「世界の終わりみたいな感じですね・・・」 平 祥子@リワマヒ国 「この前まではジャングルみたいなとこだったんですが…。やはり緑オーマに利用されるのを恐れて生物兵器対応植物で密林枯らしたのが原因でしょうか・・・」 芝村 イイコは首をかしげた 芝村 イイコ:「わかりません。調べますか?」 平 祥子@リワマヒ国 「ええ、このままだと国の人たちも困りそうですし。手伝っていただけます?」 芝村 イイコはうなずいて、貴方の手をとった。歩き出した 平 祥子@リワマヒ国 一緒に行きます。 芝村 巨大な樹だ 平 祥子@リワマヒ国 「これは…?」 #Q.国に長いこといますが私が見たことあるようなものでしょうか? 芝村 そこに、たくさんの死体がつり下げられている。 芝村 A:ええ。 芝村 イイコは目を細めている。 平 祥子@リワマヒ国 「どこのどいつがこんなことを…」 芝村 イイコは木の上を見た。 芝村 巨大な化け物が。樹の上にいる。 平 祥子@リワマヒ国 敵の攻撃がないか警戒しておきます。 芝村 イヒヒヒと笑っていた。 芝村 貴方の脚が震えだした。 平 祥子@リワマヒ国 震えをこらえて、深呼吸していったん落ち着きます。 芝村 無理だ。貴方は歯がなっているのを感じた。 芝村 化け物:「メリークリスマス。メリークリスマス!イヒヒヒ」 芝村 イイコ:「なりそこない・・・か」 平 祥子@リワマヒ国 ISSと政庁に連絡を、後可能ならダガーマンコールを 芝村 ISSは連絡に反応しない。政庁は対応で忙殺されている。 芝村 ダガーマンを呼んだ 平 祥子@リワマヒ国 後藩国マイルで自由号を追加で呼べますか? 芝村 呼べる 平 祥子@リワマヒ国 では10マイル支払って自由号呼びます。 芝村 反応はない。声援がたりないようだ・・・・ 平 祥子@リワマヒ国 (しまった、前の生活ゲームで普通に呼べたからいけるのかと… 芝村 イイコは眼鏡をとった。 平 祥子@リワマヒ国 イイコちゃんを見ます。 芝村 イイコは笑っている。 芝村 イイコ:「みつけた」 平 祥子@リワマヒ国 「小村さん?あれを探して?」 芝村 イイコ:「その馬鹿笑い、そこまでだ。暗渠にて笑うあしきものよ。あなたがたの天敵がきたぞ」 芝村 なりそこないは地上におりたった。 芝村 イイコは素手で歩き出した。 芝村 イイコはなりそこないと殴り合い始めた。 平 祥子@リワマヒ国 「手伝います。」 女の子があの啖呵を切って戦っているところを見たい上震えている場合ではないと思うのですが震えるのをやめて援護射撃はできますか? 芝村 無理だ。貴方はイヒヒヒと笑っている。 平 祥子@リワマヒ国 orz 芝村 イイコは正面切って8mの化け物に殴り勝った。貴方は後ろから襲いかかった。 平 祥子@リワマヒ国 イイコちゃんのほうに攻撃しそうならせめて全然関係ないところ攻撃してAR減らします。 芝村 2 芝村 1 芝村 イイコは振り向くと貴方を殴り倒した。 芝村 正気に戻った。 平 祥子@リワマヒ国 (うわーイイコちゃんごめん) 芝村 イイコ:「目、さめましたか?」 平 祥子@リワマヒ国 「ハイ、おかげでどうにか。ありがとうございます。」 芝村 イイコはほほえんだ。 芝村 イイコ:「森が、遺跡を封じてたんですね」 平 祥子@リワマヒ国 「なるほど・・・。それを取り除いてしまったからこの状態になってたんですね。」 #Q.最初木の上にいた敵のほうはどうなっていますか? 芝村 A:すでに倒された。消えてなくなっている 平 祥子@リワマヒ国 #了解です。 平 祥子@リワマヒ国 「ありがとうございました…。おかけでこれ以上の被害はなくなりそうです。 芝村 イイコ:「まだ、そんなに数はでてないようです。すぐに対応します」 平 祥子@リワマヒ国 「ありがとうございます。私も藩王に連絡入れてすぐに非難活動と支援物資を相談します。必要なことがあれば何でもいってください。」 芝村 イイコ:「はい」 芝村 イイコ:「・・・・」 芝村 イイコは頭をかいた 芝村 イイコは眼鏡をみつけた。かけた 平 祥子@リワマヒ国 w 芝村 イイコ:「すみません」 平 祥子@リワマヒ国 「眼鏡かけていないのもなかなか素敵だと思いますよ。(微笑んで)」 芝村 イイコ:「・・・大昔、かのものの遺跡をつぶしたのは密林だと、きいています」 平 祥子@リワマヒ国 「そうだったんですか・・・。繁茂技術はまた使用できるようにしたほうがよさそうですね…。」 平 祥子@リワマヒ国 となると緑オーマ対策と植物をこの時期に増やすことを他国に対して説明もいりますかね。 芝村 イイコ:「はい・・・すみません」 芝村 イイコ:「もっと、助言しておくべきでした」 平 祥子@リワマヒ国 「いえ、私たちのほうこそそこまで考えが回っていませんでした。教えていただいてありがとうございます。」 「・・・国民の皆さんにはできる限りの償いをしようと思います。」 芝村 イイコ:「・・・はい」 芝村 イイコ:「・・・・・・」 平 祥子@リワマヒ国 「ここでこうしていても仕方ないか。救助に行こうと思います。まだ敵がいるなら一人でも犠牲者を減らしたい」 平 祥子@リワマヒ国 救助活動に向かおうと思います。行政士官を着ているので戦闘以外の避難活動でならばそれなりに働けるかと 芝村 イイコはにこっと笑った。 芝村 イイコ:「お手伝いします」 平 祥子@リワマヒ国 「ありがとう」 芝村 /*/ 芝村 はい。お疲れ様でした 平 祥子@リワマヒ国 お疲れ様でしたー 平 祥子@リワマヒ国 最初の質疑で大丈夫なのかと思って油断しました 芝村 遺跡はわからない。で、警戒してもいいかもね 平 祥子@リワマヒ国 なるほど 平 祥子@リワマヒ国 すいません、活動限界までPCで避難や救助活動手伝いたいのですが可能でしょうか? あと、その活動中にまたなりそこない化する可能性はあるでしょうか? 芝村 イイコがいるから大丈夫さ。 芝村 はい。では解散しましょう 芝村 秘宝館には1,1で 芝村 評価は+1+1でした 平 祥子@リワマヒ国 了解です。>大丈夫 ありがとうございましたー 平 祥子@リワマヒ国 ではー 芝村 ではー
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前ページ次ページ魔法騎士ゼロアース 「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ! 強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」 「サモン・サーヴァント」の呪文を唱えては爆発の繰り返し。 20回目くらいから「フフ、フフフフフ」と時折怪しい笑い声を発しだしたルイズがとうとうやった。 爆発の光とは違う輝きが生まれた。それまでルイズを馬鹿にしていた生徒も息を呑む。 (やった! ついに私の使い魔を召喚できたのね!) 間違いなく成功だとルイズの目は輝きを取り戻した。 しかも、なんだか凄い当たりを引き当てたに違いない。 グリフォン? ドラゴン? どこかの国の聖女? いや最後のはマズイか。 (ああ、早くその姿を私に――) 「ぷぅ」 「ぷぅ?」 光が収まり、ルイズの目の前に姿を現したそれは――― 「ぷっぷぅ!」 あまりにも、もこもこふわふわしていそうな謎の生き物だった。 「プッ……アハハハハ!! あ、あんまり笑わせてくれるなよ!」 「そうかそうか! 何の奇跡が起きたと思ったが『ゼロのルイズ』が召喚に成功したことか!」 「そうだよな、それだけで奇跡だよな! 良かったじゃないか、進級を奇跡で乗り切ったな!」 周りの生徒達は、その使い魔の姿を見て爆笑する。 「これこれ、みんな静かに! ともあれミス・ヴァリエール、召喚成功おめでとう」 「あ、ありがとうございます、ミスタ・コルベール」 「さあ、早くコントラクト・サーヴァントを」 自らの使い魔に近づくルイズを、もこもこした生き物はじっと見ている。 「ぷぷ~?」 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 両手でもこもこを抑える。 (わっ、見た目通りふわふわだ) そのまま契約の口付けを交わす。 「ぷ、ぷぷー!?」 契約完了の証が、もこもこの体の中心……人間でいう胸の部分に浮かぶ。 (あれ? 今頭の飾りが……) もこもこの頭についた赤い飾り……それが、一瞬黄色くなったように見えた。 (赤に戻ってる……気のせいだったのかしら?) 「ほう、珍しいルーンだな。それに見たことのない生き物だ」 ささっとルーンをスケッチするコルベール。 「さあ、みんな教室に戻りますぞ」 生徒はみんな空を飛んでいく。 「ルイズは歩いて来いよ!」 「ルイズの奴、フライどころかレビテ……あれ?」 ルイズへの悪口を言っていた一人……風上のマリコルヌが空を飛びながら辺りを見回す。 「どうしたんだい、マリコルヌ?」 「いないんだ、僕の使い魔が……クヴァーシル、どこだい!?」 クヴァーシルとはマリコルヌのフクロウの使い魔だ。空を飛んだ彼についてくるはずだが姿が無い。 「ロビン、ロビンー?」 香水のモンモランシーもまた、自分の使い魔であるカエルを探していた。 「どうしたっていうのかしら。ね、もこもこ……?」 ルイズがもこもこのいた場所に視線をやると、何もいなかった。 せっかく召喚した自分の使い魔まで何処かに行ってしまったのかとあわてて辺りを見回す。 「あ、いたいた」 後姿だが、白いふわふわしたアレは間違いない。 「ちょっと、勝手に……」 モコナが振り返り、ルイズは固まった。 「……ね、もこもこなの。あなた、そんな形が歪だったかしら?」 なんだか、もこもこは口の辺りが変形している。何かを口の中に入れているようだ。 「なんだが、口の中で暴れてるわね。その輪郭、すごく鳥みたいなんだけど」 もこもこは体を横に振る。口から鳥っぽい足が見えた。 「あらそう、なら鳴いてみなさい。さっきみたいにぷぅぷぅって」 一瞬の間。そして。 「ケロッケロッ」 「モンモランシーの使い魔もかああああ!!!」 頭を引っぱたくと、口から二匹とも元気に飛び出てきた。 「このもこもこな……ああもう、言いにくいわね。この際名づけてあげるわ。 あんたは、もこもこな生き物だから……モコナよ!」 ビシーッと指差して名づけるルイズ。 こくこくと頷くモコナ。 適当につけた割に素直ね、と思うルイズだったが本名なんだからしょうがない。 その夜。 モンモランシーとマリコルヌに散々怒られ、ルイズは自分の使い魔を椅子に縛り上げた。 「今日一日、椅子の上で反省してなさい!」 そう言って授業に出て、この時間まで戻らなかったのだ。 「ちょっと、悪いことしたかしら」 あの行為も、お腹が空いていたとかそういう理由だったのかもしれない。 だったら今、お腹を減らして泣いているかもしれない。 「ただいま。ごめんね、モコ……」 部屋の中、椅子の上にはロープのみ。 見事脱出されていた。ついでに部屋がメチャクチャに荒らされてた。 現在進行形で。 「ぷっぷぷー!」 「こ、こんの珍獣――!!」 ガーッと飛びかかるルイズをひょいとかわし、モコナは窓を開けて飛び降りた。 「ちょ、馬鹿! ここは塔の……」 耳をパタパタと羽ばたいて降りているモコナ。 「ど、どこまで不思議生物なのよあいつは……」 かなりすごい生き物なのではないか、と思いつつもコケにされている今は喜ぶ気にもならない。 「ご主人様と使い魔の差ってやつを理解させてやるわ! 主に肉体言語で!」 荒れた部屋を飛び出すルイズ。 「うるさいわねえ、何の騒ぎよ……って何これ、また魔法の失敗?」 騒ぎが気になったキュルケは、荒れたルイズの部屋を見て唖然とする。 「あれは……」 外に、小さな白いふわふわを追いかけるルイズの姿があった。 「あれって、ルイズの使い魔よね。遊ぶんだったら、違う時間にしなさいよね……」 遠目から見ると、追いかけっこしているようにしか見えない。 ルイズが騒ぎを起こすなんていつものことだと、キュルケは部屋に戻っていった。 「ぜえ、ぜえ、ぜえ……ど、どんだけ逃げ足速いのよ、あいつ……」 「捕まりませんでしたね、ミス・ヴァリエール」 「まったく、どこに逃げたのか……あれ?」 いつの間にか、モコナを捕まえるのに加わっていたメイドを見る。 「あんた、何でモコナのこと追いかけてるの?」 「ええ!? ミス・ヴァリエールが「その白いの捕まえてー!」って仰ったんじゃないですか!」 記憶を思い返すと、そんなことがあったような気がする。 「あー、そうだったかも。悪いわね、手伝ってもらって」 「いえ、お手伝いするのはメイドの仕事ですから」 そういうメイドもバテバテだ。ルイズも疲れが一気に出てきたので、モコナを捕まえるのは諦めることにした。 「もう帰るわ、どこ言ったのかもわからないし……手伝ってくれて本当にありがとう、ええと……」 「シエスタと申します。それでは、お休みなさいませ」 そのままお互い帰路に着いた。 「う、嘘でしょ……?」 ベッドの上で、モコナが眠っていた。 「ここここ、この使い魔。 クックベリーパイと一緒に食べてやろうかしら」 叩き起こしてやろうかとも思ったルイズだったが、走り回った疲れから睡魔が襲ってきた。 「好き勝手絶頂に暴れまわって、た、ただで済むと……思わないことね」 フラフラとベッドに歩み寄り、倒れこむ。 「ん……罰として……ご飯抜き、なんだから……」 そのまま、散らかった部屋もそのままにルイズは夢の中へと意識を沈めていった。 ちなみに、ルイズは知る由も無いことだが、モコナがロビン等を口に含んでいたのはふざけていただけ。 モコナは食事を必要としない生き物なのだった。 その頃、図書館ではコルベールがルイズの使い魔のルーンを調べていた。 「中々見つかりませんな……」 図書館の奥、教師のみが閲覧を許される「フェニアのライブラリー」から始祖ブリミルの使い魔たち、と書かれた本を手に取る。 「これは……ガンダールヴのルーン、ヴィンダールヴのルーン、ミョズニトニルンのルーン。 それぞれ記述に似た特徴があるが、しかしどれとも違う……いや、まさか」 ならばと、コルベールの脳裏に一つの詩のような唄が思い浮かぶ。 神の左手ガンダールヴ。 勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右につかんだ長槍で、導きし我を守りきる。 神の右手がヴィンダールヴ。 心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。 神の頭脳はミョズニトニルン。 知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を詰め込みて、導きし我に助言を呈す。 そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……。 四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……。 「まさか、最後の一人……それが?」 コルベールは伝説の使い魔に狙いを絞り調べることにした。 この図書館の全てを調べても、記されていない使い魔のことなど載っていない。 それでも、どこかにヒントがあるのではとコルベールは自身の探求欲が抑えられなかった。 だが、コルベールとて辿り着くことはないだろう。 その有名な唄に誤りがあることに。 最後の一人は、けして始祖ブリミルの「僕」などではないことを。 前ページ次ページ魔法騎士ゼロアース
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前ページ次ページゼロの氷竜 ゼロの氷竜 十八話 「……そこまでにしておけ」 ブラムドが声をかけなければ、おそらくルイズはキュルケの左腕に噛みついていた。 それも、数日は跡が消えないほどの強さで。 キュルケはなぜると言うよりは手のひらを押しつけるといった方が相応しい行為を取りやめ、ルイズを抱え込んでいた左腕を解放する。 二人は互いに顔を背けているが、その表情は怒っているものではない。 さらには時折、互いを伺うように視線を投げている。 目線があった瞬間、全力で顔を背ける動作は鏡に映したかのようだ。 照れ隠しと見て取ったブラムドは安心し、ゆるんだ表情を正しながら改めて声を発する。 「さて」 少女たちが、その声に視線を集める。 「ルイズ、お前は何にために魔法を求める?」 その問いに、ルイズは即答できなかった。 魔法を使えることは、メイジであること、すなわち貴族であることの前提となる。 しかし、魔法を使えることが貴族であることか。 ……違う。 自問に、ルイズの心が即座に答えを返す。 次の瞬間、ルイズの口は自然に動いていた。 「私は、お父様やお母様のような立派な貴族になりたい」 その目は、真っ直ぐにブラムドへと向けられている。 「平民は貴族のためにあり、また貴族も平民のためにある」 幼い頃から聞かされた父の教えが、無意識に口をつく。 「平民に平民の仕事があるように、貴族にも貴族の役割がある」 魔法が存在するため、平民の手に負えない冶金、建築、医療などの技術。 オーク鬼などに代表される脅威の排除。 戦時における国土の防衛。 「そして……」 ルイズのまぶたの裏に、シエスタの、親友の姿が浮かぶ。 「平民に敬意を持ち、平民から尊敬されるような立派な貴族になるために……」 その輝かしい貴族像は、現在の大多数の貴族にとって絵空事に過ぎない。 だが、そんな貴族であろうとする少女も存在する。 さらにルイズは言いつのる。 「使い魔の主として相応しい存在であるために……」 主の、あたかも自らに挑むような視線を、使い魔は心地よさを覚える。 「私は魔法が使えるようにならなければならない」 形を成していなかった思いが、言葉によって目標に変わる。 進むべき道を見出したことで、ルイズは四肢に力がみなぎるのを感じていた。 キュルケはルイズの瞳に映る炎を見ていた。 かつて自らが点火した、怒りによるどこか薄暗い炎ではない。 目標を得た人間の輝かんばかりの炎を、キュルケは少し目を細めながら見ていた。 タバサはルイズの様子を見て微笑む一方、キュルケの表情を見て思う。 ……まるで姉妹。 微笑むタバサは自覚していない。 その柔らかな感情が、自らの心を覆う氷を溶かす小さなきっかけになっていることを。 ただそれが良いことか悪いことか知り得る人間は、この時存在しなかった。 数瞬の沈黙が、草原をなぜた。 ブラムドは笑みを浮かべながらルイズの瞳を見据え、歌い上げるように宣言する。 「では我は持てる力の全てと、かつて友より授かった全ての知識を以て、お前が系統の魔法を使えるようにして見せよう」 その使い魔の言葉は、主にとって全幅の信頼を置くに値した。 気付けば少女たちは車座になり、教師に対するようにブラムドの話に耳を傾けていた。 「魔法の元となる力に関していえば、我の知る魔法もこの世界の魔法も変わりはない」 そうでなければ、ブラムドの魔法がギーシュの魔法を防ぐことはできない。 「だが、我のマナとお前たちのマナは明らかに異なる」 「まな?」 聞いたことのない響きに、少女たちの表情は困惑に変わる。 その表情に、ブラムドは微笑みながら言葉を重ねた。 「名前などはどうでもよい。要は魔法を使う為に必要な力だ」 重要なことは、ルイズにもマナを扱うことができるということ。 ブラムドはそういい連ねる。 分厚い氷に閉ざされた宝を、どれほど望んでも、誰に頼っても手に入らなかった宝を、手にとることができるということだ。 ルイズにとって、それはまさしく福音に他ならない。 さらに話を続けようとしたブラムドは、やおら開きかけていた口を閉じて沈思する。 ……四つの系統魔法。 ……シュヴルーズとグラモンは土、モンモランシは水。 ……残るは、火と風か……。 「キュルケ、タバサ、お前たちはいずれの系統の魔法を得意とする?」 不意の問いかけに虚をつかれ、キュルケはつい素直に答えを返してしまう。 「私は火、タバサは風を得意としています」 「それは良かった」 笑顔で投げかけられた言葉に、少女たちははっきりと困惑の表情を浮かべた。 「我が見たことのあった魔法は、シュヴルーズとグラモンの土、モンモランシの水だけだったのでな。良ければお前たちの魔法を見せてもらいたいのだが……」 ただ続くブラムドの言葉を聞き、少女たちはその意図を理解する。 キュルケはルイズを一瞥し、胸を張って言葉を返す。 「構いませんわ」 タバサもまたルイズを一瞥し、言葉少なにブラムドへ答える。 「わかった」 今日の朝、キュルケとの和解など夢にも思わなかったルイズであれば、その一瞥を優越感からの自慢と受け取っただろう。 あまり話したことのないタバサの行動も、良いようには受け取れなかったに違いない。 だが今日という一日。 ほんの一日の出来事で、ルイズはキュルケとタバサの行動が自分を手助けするためだと理解できるようになった。 あえて口にすることはなくとも、ルイズの心には二人に対する深い感謝がある。 二人もまた、ルイズがその感謝を素直に口に出さないことを理解していた。 まずはキュルケが杖を構えた。 「ウル……」 キュルケが魔法を使い始めると同時に、『魔力感知』を使ったブラムドの目には二つの存在が映し出される。 マナと、それをはめ込む為の枠だ。 土のメイジのマナは、絡んだ紐のような形。 ギーシュがワルキューレを作り出した後は、ほどかれて主とゴーレムをつないでいた。 水のメイジのマナは、球状。 ただ水の精霊力と交じり合った瞬間、それは泥のように重く溶け、傷口へと注ぎ込まれた。 そして火のメイジのマナは、針を十字に組み合わせたような形。 水のそれとは全く異なる。 「……カーノ」 ルーンを唱え終わり、魔法が発動する瞬間、枠とマナの大きさや形は完全に一致していた。 杖の先から炎が発し、やがて勢いをなくして収まる。 「これが火の最も基本的な、発火の魔法です」 さらに意識を集中させながら、キュルケは次の魔法の準備に入る。 「そしてこれが、トライアングルの魔法ですわ」 キュルケにとって、友人たちやブラムドに対して自分の能力を隠す必要性はない。 戦乱の時代に生まれたわけではなく、今の立場は学生に過ぎないからだ。 何より、先刻ブラムドが使った『火球』の呪文がどれほどの威力であるのか、自身の魔法を使うことで確かめたかった。 ブラムドの目には、キュルケが頭上に構えた杖の先に生まれた大きな枠と、それにあわせるように膨らんでいくマナが見えている。 マナを見ることができないルイズとタバサの目には、キュルケの頭上で徐々に膨らんでいく火球の姿が映し出されていた。 やがてルーンを唱え終わると同時にそのマナが枠にはまり、キュルケの魔法は草原に黒い円を生み出す。 爆風が四人の頬に触り、色の変わった草原の一部から白い煙が立ち上る。 結果を見れば、魔法によって草と土が燃えただけに過ぎないが、キュルケとタバサにとってはそれ以外にも多くの情報を有していた。 燃えた草の色やその範囲、草や土の焼け焦げた臭いとくすぶる煙の様子。 それは魔法学院に所属する中でも特に優秀といえる二人のメイジにとって、十分な説明をされているに等しかった。 範囲こそキュルケの火球が上回っているが、それ以外の全てはブラムドの『火球』に軍配が上がる。 燃えた草の色は、ブラムドの黒色に比べればキュルケのそれは茶色に近い。 単純に魔法の威力に差があるとしてしまえばそれまでだが、そんな言い訳はキュルケのプライドが許さなかった。 上位にスクウェアという存在がいる以上、最も優れたメイジだなどと思ってはいない。 とはいえメイジとして、自分の能力を高めたいと思うのは当然のことだ。 結果を比較することで、キュルケは自らの魔法に足りない部分を認識する。 それは、教室の中では得ることのできない経験だ。 威力が散漫になっているのなら、集中する手段を考えればいい。 キュルケは敗者であることを認識していたが、その顔はむしろ晴れやかだった。 一つには、自分が心の中で勝手に持ちかけた勝負であるに過ぎないこと。 もう一つは、ゆるみがちだった向上心を刺激する良い材料になることがわかったからだ。 キュルケに比べそれほどやる気のなかったタバサも、そのことを理解してわずかに意欲を見せる。 「キュルケ、感謝する」 「いえ、お気になさらないでください」 ブラムドの言葉に、キュルケは笑顔で言葉を返す。 そのやりとりを聞きながら、タバサは数歩踏み出した。 足音を聞き、三人の視線がタバサへと向けられる。 タバサは一度深呼吸をし、奇妙な彫像と化した『木の従者』へ向けて杖を構えた。 「デル……」 風の枠は、四つの三角形を貼り合わせたような形。 もしブラムドにその知識があれば、それが正四面体と呼ばれるものだとわかっただろう。 「……ウィンデ」 杖の先から発した風の刃が、『木の従者』の頭を横に断ち割った。 ……なるほど。 土、水、火、風、ブラムドはそれぞれの特徴を認識する。 「……どうせならライトニングクラウドとか、見える魔法の方が良かったんじゃない?」 キュルケの言葉に、ブラムドは少し驚いた。 元々フォーセリア世界の魔術師が使う魔法には、風に属する攻撃の魔法は数少ない。 思い返してみれば、精霊使いが使う風の魔法をただの人間が見ることはできないと聞いた。 マナや精霊力を感じ取ることのできるドラゴンや、精霊力を見ることのできる精霊使い。 そしてマナや精霊力を見る魔法を使える魔術師でなければ、それは見ることが出来ないものなのだ。 本来見えないものを見ることが出来るということは、闘いに際して十分な優位性といえる。 ブラムドにとって、フォーセリアとハルケギニアの魔法の違いと共に、心に刻み付けておくべき事柄だった。 キュルケのいうことを意識していなかったタバサは、ほんの少し頬を染めた。 改めてタバサが唱え始めた魔法は、風と水の融合魔法であるアイス・ストーム。 ルーンを理解しているルイズやキュルケは、使おうとしている魔法がどういったものか予想がつく。 しかし、ハルケギニアのそれとは異なるルーンを使うブラムドにとっては、タバサがどんな魔法を使おうとしているかわかるはずがない。 ところが、枠を作り出してからマナを当てはめていくというハルケギニアの魔法の性質で、ブラムドの目には先刻とは違う枠の形が映し出されていた。 平らだったはずの三角の面が、丸く膨らんでいる。 どちらかといえば、球体に角が生えているような形状といえた。 水と風、双方の特徴を併せ持っている。 ……混ぜることができるのか? ブラムドの推論を裏付けるように、タバサの魔法が発現した。 『氷嵐』のように発生した白い霧が、『木の従者』の周囲を回り始める。 それと同時に霧が氷の粒に変わり、徐々に膨張し始めた。 大きさを増した拳大の氷が回転速度を増しながら、『木の従者』へと襲い掛かる。 樹皮を削り、脆くなっていた腕や体内から伸びた氷柱をへし折っていく。 タバサにとって予想通りではあったが、その殺傷力はブラムドの魔法とは比較にならない。 防具を整えた人間や、強靭な肉体を持つオーク鬼などには通用しないだろう。 そのかすかな落胆を、同じ思いを味わったキュルケだけが読み取る。 嵐が収まり、『木の従者』の残骸だけが残された。 土、水、火、風、全ての系統を確認し、ブラムドはタバサへ感謝の言葉を贈る。 それを横目に、ルイズはキュルケとタバサ、二人へ感謝を伝えるすべを考えていた。 二人が魔法を使って見せたのは、ブラムドに頼まれたからではあるが、それが自分のためであることも理解している。 単に感謝の言葉を口にすれば良いのだが、ルイズはそれに強い照れくささを感じていた。 眉間にしわを寄せながら頭を巡らせたルイズは、ふとブラムドの言葉を思い出す。 今朝、それまで見たこともない魔法を使ってマジックアイテムを作り出し、ルイズへと手渡しながらいわれたことだ。 ――金の女王はルイズ、お前のものだ。 ――他の金の駒は、お前の友に渡すがよい。 ――友に危機ある時、助けることが出来るやもしれぬ。 ……友……友達。 朝にそういわれたとき、ルイズの頭に浮かんだのは一人だけ。 学院の中で友と呼べる人間は、シエスタだけだった。 だが今、友と呼んで思い浮かぶ相手は一人だけではない。 しかも贈り物という形をとれば、感謝の言葉を口にする必要もない。 ルイズにとって、それはとても素晴らしいことに思えた。 まずは、隣に立っていたキュルケへ声をかける。 「キュルケ」 振り向いたキュルケの眼前に、金で出来たチェスの駒、司祭が突きつけられていた。 「何? これ」 「ブラムドに魔法を見せてくれたお礼よ」 一度手に取ったキュルケだったが、ルイズの言葉を聞いて返そうとする。 礼を期待してしたことではないのだから。 返却を口にしようとしたキュルケの心に、ブラムドが『心話』で話しかける。 ……受け取っておけ。 心に話しかけられるという衝撃に、キュルケは開きかけていた口を閉じる。 ……それを持っていれば、こうして話しかけることも出来る。 ……ルイズには、友に渡せといってある。 ……わかりましたわ。 ルイズが自分を友と思っているとは口に出来ないことを、キュルケはよくわかっている。 礼の言葉を素直に口に出来ないことも。 あえて、キュルケは満面の笑みでルイズへ礼を言った。 「ありがとう、ルイズ」 キュルケの予想通り、ルイズは顔を真っ赤にしながら返事をする。 「べっ! 別に大したことじゃないわ!!」 顔を背けながら、ルイズはタバサへと歩み寄り、金の騎士を差し出す。 わずかに困ったような表情を浮かべながら、タバサはキュルケとブラムドが自分に向かって頷きかけるのを確認する。 目の前のルイズの少し不安げな表情を見て、タバサは無言で金の騎士を受け取った。 「受け取ってくれてありがとう」 ルイズの言葉に、タバサはほんの少し、微笑んだ。 渡された駒を、どこか嬉しそうに眺める二人の少女を横目に、使い魔は主へと問いかける。 「ルイズ、お前はどの系統の魔法を使いたい?」 二人の少女が、ゆるんでいた頬を凍り付かせた。 メイジの系統は、資質であり適性だ。 自らが得意とする系統を見出し、磨き上げることはあっても、決して選ぶものではない。 不得手とする系統の魔法も使うことは出来るが、得意とするメイジとは威力が全く異なる。 ルイズもまた、そのことは良く理解していた。 伊達や酔狂で勉学に励んでいたわけではないのだから。 しかしルイズは幼い頃に一度、使うことを願った系統があった。 ルイズの脳裏に、一人の女性の姿が思い浮かぶ。 ヴァリエール公爵家の次女、カトレアの姿だ。 それは幼いルイズがどれだけ母にしかられようとも、決して魔法をあきらめなかった理由。 ルイズがちいねえさまと呼ぶ彼女は、生まれつき体に不自由を抱えている。 体を使うことも、魔法を使うことも、カトレアにとっては過度の負担になってしまう。 そんな苦難を抱えていてなお、いや抱えているからこそか、カトレアはヴァリエール公爵家の女性に似つかわしくない、熾火のような暖かさを持っていた。 いつも優しく接してくれるこの姉を、ルイズは誰よりも愛している。 ただ優しく微笑んでいるように見えたその表情に、ルイズはいつしか儚さを見出す。 それはカトレアの重荷を理解できたことで、ルイズ自身が投影していたものかもしれない。 長女であるエレオノールは体の弱い妹のため、王立魔法研究所で研究をしている。 幼いルイズもまた同じく、体の弱い姉のために何か出来ることを探す。 ルイズがかつて求めた系統は、水であった。 とはいえ、ルイズが水の使い手になったとしても、カトレアのためになる可能性は低い。 父であるヴァリエール公爵は国内外を問わず、高名な水魔法の使い手を招聘している。 それでも、カトレアの体が治ることはなかった。 今さら自分が水の系統に目覚めたところで、と考えながら、ルイズはふと思いつく。 「ブラムド、治癒や回復のための魔法を使える?」 その言葉に、誰よりも過敏に反応したのはタバサだった。 それに気付いたのは、隣に立っていたキュルケだけであったが。 「使えるが、その魔法は我に対してしか使えぬ」 「そう……」 落胆しながらも、ルイズはすぐに思考を切り替える。 ブラムドを召喚した折、オスマンのいった言葉を思い出す。 ――ミス・ヴァリエールの才能は、わしを軽々と凌駕するものじゃろう。 その言葉が、真実であれば……。 「……私は、水の魔法が使えるようになりたい」 キュルケはルイズ以上に落胆の色を見せる、タバサを気にかけていた。 一方で、強い意志の炎を燃え上がらせたルイズの瞳を確かめる。 その輝きの大きさに、キュルケは小さな寂寥を感じていた。 ……もう、私の手助けはいらないのかしらね。 その反面で、自らの努力が実を結んだことに対しての喜びもある。 まるで、巣立ちを見守る母鳥のような。 「わかった。しかし、今日はもう遅い。始めるのは明日からにしよう」 ブラムドの言葉で、三人の少女たちは思った以上に月が傾いていることを知る。 「じゃあ、帰りましょうか」 ルイズの提案に、何故かブラムドは首を振った。 「しばし待っておれ」 そういいながら、ブラムドは『暗闇(ダークネス)』を使う。 月の光さえも通さない漆黒を生み出し、ブラムドは無言でその中へと入っていった。 疑問を浮かべた顔を見合わせた少女たちは、いくつかの音を聞くことになる。 衣擦れの音と、おそろしく大きな羽ばたき。 服を脱ぎ、竜の姿へと戻ったことが読み取れたが、それから先の音の正体を知るのは、しばらく後のことだった。 生木を引き裂くような音、雹が降り注ぐような音、大木をへし折るような音。 やがて音が止み、再び衣擦れの音が響く。 そして唐突に消え去った漆黒の中心に立つ、先刻と変わらないブラムドの姿。 だがその周囲に広がっていた光景は、少女たちを驚かせるに十分なものだった。 前ページ次ページゼロの氷竜
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前ページ次ページ疾走する魔術師のパラベラム 第八章 波紋が広がる 0 メイジ/[Meiji]――系統魔法を扱うことができる人間。四の段階に分かれており、それぞれドット、ライン、トライアングル、スクエアと呼ばれる。スクエアに近づくほど魔力が多く、強力な魔法が使える。 パラベラム/[Parabellum]――自分の殺意や闘志を、銃器の形にして物質化することが可能な特殊能力、およびその能力者。 1 体が微熱を帯びるのをキュルケは感じた。 食堂でルイズが起こした一連の騒動を見て思ったのは『面白そう』。 あの『ゼロ』があんな啖呵を切ったのだ。あの『ヴァリエール』があんな喧嘩を売ったのだ。 ――ぞくぞくしちゃう。 キュルケにとってルイズは特別な存在だ。単にヴァリエールだから、というわけではない。 もちろん、ヴァリエール家だというのも興味を引く一因ではある。だが、それはきっかけに過ぎない。キュルケの興味を引くのは、ルイズのその精神だ。 魔法が使えない。 ハルケギニアの貴族という立場において、それは致命的といってもいい。だが、それでもルイズは杖を振るのをやめない。 初めての授業でルイズの『失敗魔法』を見た時は驚いたものだ。肩透かしを食らった気分でもあった。 キュルケは飛び出た存在だった。その胸。その身長。その魔法。全てにおいて同年代では比べられる存在すら、なかなか見つからない。 だからこそ。『ヴァリエール』の存在はキュルケの好奇心を刺激した。退屈な日常に刺激を与えてくれる存在かもしれない、と感じたのだ。 『ゼロ』の意味を知り、キュルケはやや落ち込んだ。だが、それは杞憂だった。 ルイズは挫けなかった。諦めなかった。 ――面白いじゃない。 キュルケはそんなルイズのことが嫌いじゃなかった。 だからこそ、魔法に失敗する度にからかって火に油を注いだのだ。そうすればルイズは燃え上がった。 使い魔召喚の儀式の時だってそうだ。ルイズならば何かやらかしてくれると思っていた。そしてルイズはその期待に見事に答えて見せた。 あんなに面白そうな物を召喚したのだ。それも予想を上回るマジックアイテムだという。ルイズが『ゼロ』じゃなくなるのだ。 こんなにも楽しいことはない。心が昂ぶるのが抑えられない。 どんな騒動を起こしてくれるのかと思えば、失敗。ルイズの様子は満足気だった。明らかに弱まった爆発の威力を見て、その期待が間違いではないと感じた。 ルイズは爆発の威力をコントロールしたのだ。面白い、それに『使い魔』を使ったのだ。これだけじゃないだろうと思い、ルイズに誘いをかけてみればこれにも期待通りの反応を示した。 そしてあの食堂の騒動。 正直、ギーシュなどはどうでもよかった。 『決闘よ』と、ルイズはそう言い放ったのだ。堂々とその力強い瞳を爛々と輝かせながら。 ――まったく、飽きないわね。あの言い方、まるでツェルプストーじゃない。 『恋と炎はフォン・ツェルプストーの宿命』、今のルイズは勢いよく燃える炎のようだ。たまらない。 キュルケの二つ名は『微熱』、つまりは情熱だ。燃え上がるようなその気性と気位がツェルプストーの誇りと証。 宿敵ともいえるヴァリエールがあんなにも魅力的な熱を帯びている。負けていられるわけがない。 親友であるタバサを誘い、ヴェストリの広場に駆けつける。 そこで見たものは、キュルケを燃え上がらせるのに十全なものだった。 「『錬金』」 ルイズがそう唱える。爆発は起きずに、ルイズの『魔法』が何かを形作っていく。閃光が起き、ルイズの右手を鎧のような何かが包み込んだ。 「な、なんなんだ・・・・・・それは?」 ギーシュの滑稽にも思える問い掛けに、ルイズは右手の巨大な何かを触りながら答えた。 「九〇口径シールド・オブ・ガンダールヴ」それが何を意味するのか、キュルケにはわからなかったが一つ、確かなことがあった。 ルイズはキュルケの好敵手になったのだ。 決闘は圧倒的だった。ルイズは『使い魔』によって手に入れた力を使い、ギーシュのゴーレムを打ち破った。 だが決闘の内容よりも語るべき点がある。 「『力』は・・・・・・貴族の誇りである杖は、守る為にある。傷つける為では無いわ。私の目指す『貴族』はそんなものでは、決して無い! だから大切な人が傷つこうというのならば、私は守る為に戦うわ! それが『力』を持つ者の義務であり、責任よ。・・・・・・貴方はどう思う? 『貴族』を、『力』を、『誇り』を、貴方はどう思う? 『青銅』のギーシュ、ギーシュ・ド・グラモン。考えるのは貴方で、答えを出すのも貴方よ」 その言葉を聞き、体が熱を帯びるのをキュルケは感じた。 ――そうよ、それでこそ、よ。 やはり、ルイズはキュルケの期待に答えてくれた。 強大な力を手に入れてなお、ルイズは『貴族』だ。力に溺れる事無く、気高く誇り高いその姿はルイズの覚悟の現れだ。 それでこそ。キュルケはルイズのことを気に入っていたのだ。 そして、それでこそ、この『微熱』のキュルケの好敵手に相応しい。 2 シエスタはヴェストリの広場にいた。 他意は無かったとはいえ、この決闘騒ぎの原因に自分が関わっていることぐらいわかっている。本来は逃げ出すべきだったのだろう。 貴族であるギーシュの興味が逸れたのだ。また同じような騒動になる前にどこか適当なところで、ほとぼりが冷めるのを待つべきだ。 頭では理解できている。しかし感情が、心がそれを許しはしない。 食堂でルイズの笑みを見た瞬間から、シエスタは自分の気持ちに気づいてしまった。 胸の高鳴りは、未だに収まっていない。 ルイズのことが好きだ。愛している、という紛れも無い恋愛感情。性別など関係無い。 好きなのだ。どうしようもないくらいに。 それならば逃げるわけにいかない。 ――ミス・ヴァリエールは私を守ろうとしてくださった。それに。 逃げたくない。もう逃げたくは無い。 シエスタは一度、逃げた。ルイズの姿を始めてみたあの夜、なぜか胸が閉めつけられるように苦しくなって思わず逃げ出した。今、思えばあれは好きな人が傷つくのが嫌だったからだったのだろう。 今度は、自分の心の昂ぶりを理解した今ならば。 シエスタは逃げるわけにはいかないのだ。 たとえルイズが傷つくことになっても、目を背けるべきではない。たとえ傷つき、血を流したとしてもその瞳の輝きだけは決して衰えないだろう。手出しも口出しも無用。ルイズはそれほどまでに、誇り高い。シエスタはそんなルイズに惹かれたのだ。 そして。 決闘はあっという間に終わってしまった。 ルイズは自分の『魔法』で、圧倒した。ルイズは傷の一つさえ負わず、心配は杞憂に終わった。 『ゼロ』ではなかった。ルイズはもう『ゼロ』などではなかったのだ。広場には一人の気高い貴族の少女が一人立っている。 「全く、私が何の為に戦ったと思ってるのよ?」 シエスタにはなんとなく、その答えが分かる気がした。 「違うわよ、私は守るために戦ったの。いい? あんたが謝るべきなのは三人。あのケティ、だっけ? その一年生。あんたが裏切ったモンモランシー。そして、あんたが侮辱したシエスタ」 トクンと、心臓が大きな音を立てた気がした。 ――ああ、やっぱりあの方は。 ルイズはシエスタを守る為に戦ったのだ。 「ギーシュ、あんたはシエスタに杖を向けたわ。シエスタには何の非も無いにも関わらずにね。あんたは貴族の誇りをシエスタに向けたのよ。ギーシュ・ド・グラモン」 ルイズはそこで言葉を区切り、一言ずつを噛み締めるように言葉を紡ぐ。 「『力』は・・・・・・貴族の誇りである杖は、守る為にある。傷つける為では無いわ。私の目指す『貴族』はそんなものでは、決して無い! だから大切な人が傷つこうというのならば、私は守る為に戦うわ! それが『力』を持つ者の義務であり、責任よ。・・・・・・貴方はどう思う? 『貴族』を、『力』を、『誇り』を、貴方はどう思う? 『青銅』のギーシュ、ギーシュ・ド・グラモン。考えるのは貴方で、答えを出すのも貴方よ」 シエスタは、ルイズのその言葉を聞いて自分が間違っていないことを確信した。 ルイズは素晴らしい人だ。惚れ甲斐のある最高の女性だ。きっと、ハルケギニア中を探したって、あんな女性はいない。 ルイズの言葉は、ゆっくりとシエスタに沁みこんで行く。それは心地良い熱を持って、シエスタの体を巡った。 シエスタは祖父の事を思い出す。 祖父は生涯で一度だけ。たった一度だけ、本当に人を愛したと言っていた。その相手は戦友であり、恩人であり、親友だった、と。 祖父は戦いの中で死んだと言っていた。あの時、自分は一度死んだ、と。その大切な、大好きな人を助ける為に死んだ、と。どこか誇らしげに、でも悔しそうに、悲しそうに祖父はゆっくりと幼いシエスタの頭を撫でながら語った。 幼いシエスタには、祖父のそういった愛だとか恋だとかはよく分からなかったが、今なら分かる。 少し早いリズムを刻む心臓がそれを教えてくれる。体を巡る血潮が熱と共に教えてくれる。なによりも息をするのもつらいほど想いの詰まった胸の奥が教えてくれる。 これが。今、シエスタの抱く想いこそ、きっと『愛』なのだ。 ギーシュがシエスタを呼んでいる。返事をしなくては。ルイズが勝ち取ったものを、シエスタは受け取らなければならない。 わずかに火照った体を震わせ、シエスタはギーシュの言葉に大きな声で返事をした。 3 「・・・・・・勝ちましたね」 「うむ」 オスマンが杖を振り、『遠見の鏡』はその機能を停止させる。 コルベールとオスマンは、遠見の鏡を通して決闘のほとんどを見ていたのだ。 「ギーシュは一番レベルの低いドットメイジですが、それでも力量は高い方です。青銅製のゴーレムをあれだけの数、それも同時に操れるドットも少ないでしょう。しかし、それあそこまで圧倒するとなるとやはり『使い魔』でしょうか」 「うむ」 オスマンはコルベールの話を聞いているのかいないのか、ずっと髭を撫でて考え事をしていた。 コルベールの思考も混乱から抜け出してない。 あのルイズの『使い魔』。名前は『シールド・オブ・ガンダールヴ』と言ったか。意味はガンダールヴの盾。どこかで聞いた覚えのある名前だ。あとで図書館で調べよう。 いや、今はそうではない。重要なのはアレが『なんなのか』。 「・・・・・・オールド・オスマン。あれは一体、なんなのでしょうか?」 初めはギーシュの言うとおり槍かとも思った。しかし、アレはそんな生易しいものではない。おそらく弩やバリスタに近い機構を持った『銃』。それもハルケギニアに出回っているマスケット銃などとは比較にならないほど精密なものだ。 「・・・・・・わからぬ」 オスマンはしばしの沈黙を保った後、そう告げた。その目から感情は読み取れない。 「オールド・オスマン、私の予想ではアレは―― オスマンが手を差し出し、コルベールの言葉を遮る。 「ミスタ・コルベール。『わしら』にはあの『使い魔』が何か『見当もつかぬ』」 「オールド・オスマン?」 コルベールにはオスマンの意図がわからない。オスマンには確かに『アレ』が何かわからないだろう。だが見当ぐらいはつく。 形は随分と違うが、ルイズは『アレ』からジャベリンを打ち出し、ギーシュのゴーレムを破壊した。そこから大砲、または攻城弩を連想するのはそう難しいことではない。たとえ真相がそれとは違っていても、『見当』くらいはつくのだ。 「のう、ミスタ・コルベール。もしも。もしもの話じゃ。『もしも』、どこかのメイジの少女が、一人で城門を破壊できるかも知れぬほどの魔法を使えるようになったとして。『もしも』、それが王宮に知れたら。『もしも』、戦争で人が死ぬことで、懐に金貨が入ってくるような人間がそれを聞いたら、少女はどうなると思う?」 「・・・・・・オールド・オスマン。それは」 オスマンが言わんとしていることが、コルベールには理解できてしまった。 「少女は気高いかもしれぬ。国からの命令とあれば、少女は従うかもしれぬ。・・・・・・だが、『もしも』そうなってしまった時、少女はどうなる? 自らの魔法で数多の人間の命を屠り、少女の心はどうなってしまうのじゃ? それは、君が知っておるじゃろう」 人の命は重い。あまりに重くて押し潰されてしまう。それをコルベールはよく知っていた。その苦しみは、まるで炎の蛇に巻きつかれるようだ。焼かれど、焼かれどその炎は決して消えはしない。 言葉を発することができないコルベールの様子を見て、オスマンは続きを話す。 「のう、ミスタ・コルベール。わしは、わしらにはミス・ヴァリエールが召喚した使い魔について、見当もつかぬ。話はミス・ヴァリエール本人に聞くが、この話はそれでおしまいではいかんかね?」 コルベールが顔を上げると、そこには優しい光を宿した瞳を持った一人の老人がいた。それは紛れも無く、長い歳月を生きた賢人であり、幼子の心配をする好々爺の姿だった。 「・・・・・・しかし、いつかはその『少女』の力も知られてしまうのでは無いでしょうか?」 秘密というものは存外、知っているものの多いものだ。 「それでも」 オスマンは立ち上がり、窓の外を眺める。ちょうどその窓の下はヴェストリの広場だ。 コルベールも窓の傍に寄る。そこでは、風系統の教師であるギトーに怒られるルイズと観客たちの姿があった。 「それでもせめて、この学院にいる間くらいは。自分の信念を見つけ、その為にどうするか、考えられるほどに成長するまでは。わしら大人は見守ってやれんかのう?」 「・・・・・・ええ、私もできることならば」そして、それが許されるのならば。 ――私も、彼女たちが育っていくのを見守りたい。 オスマンの言葉にゆっくりとコルベールは頷いた。 4 ルイズは学院長室にいた。 「あー、ミス・ヴァリエール?」 「何でしょう?」 部屋にはルイズとオールド・オスマンとなぜかコルベールがいた。簡単に今の状況を説明すると、呼び出されたのだ。名指しで。 「自分のしでかした事、わかっておるかのう?」 「ええ。食堂で一騒ぎしたのち、ヴェストリの広場で騒動の中心人物であるミスタ・グラモンと決闘しました」 ルイズは堂々と言った。もちろん、誇れることでないのだが、嘘をついてもしょうがない。どうせ事情は誰もが知っているのだ。 まだルイズは知らないが、決闘の結果は、波のように学院中に広まった。『あのゼロのルイズが、青銅のギーシュに決闘で勝った』と。 ルイズは良くも悪くも有名人である。ルイズの実家、ヴァリエール家はハルケギニアでその名を知らぬ貴族はいないほどの名門であるし、『ゼロ』の二つ名は前述の立場もあり、その特異性から学院では有名な話だ。 ギーシュもその女癖の悪さから、学年を問わず有名である。影では『好色』の二つ名で呼ばれているとかいないとか。 そんな二人の決闘が話題にならないはずもなく、半日と経たずに噂は尾ひれをつけてあらゆる人間に伝わっていた。それもルイズの勝利という結果で終わったのだ。決闘は裏で賭けまで行われたらしく、一部の生徒を除いて何人もの生徒が小遣いを失ったという。 「もちろん、貴族同士の決闘が禁じられているのも知っておるな?」 「存じております」 決闘はルイズの勝利で終わったが、そんな結果に関係なく決闘自体が禁止されているのだ。あの後、すぐに教師の一人が駆けつけて来て広場の片づけを観客たちに命じた後、ルイズは説教され学院長室に行け、と伝えられた。というわけでルイズは学院長室に呼び出されたのだった。ちなみにギーシュは魔力を使い切っていたのであの後気絶し、今はモンモランシーに医務室にて介抱を受けている。 ――ま、しょうがないわね。 おそらく何らかの罰を受けるだろう。それは仕方ない。食堂でギーシュに手袋を投げた時からわかっていたことだ。 それに、そこまで重い罰を受けることもないだろう。禁止されているとはいえ、こういった生徒同士の決闘というのは年に何度か起きるのだ。確かキュルケも一年の時に決闘騒ぎを起こしていたし、罰といっても何日かの謹慎処分といったところだろう。 「わかっておってあの騒ぎか。まったく・・・・・・話を聞く限り非はミスタ・グラモンの方にあり、本人もそれを認めておるようじゃが、もうちと穏便にできんかったのかのう」 耳が痛い。確かにちょっとやりすぎた、とはルイズも思っているのだ。これでも一応、反省してるのである。 「まぁ、良いわ。ミス・ヴァリエール、規則に背き、決闘を行ったということで謹慎五日間を言い渡す。入浴以外は基本的に自室で過ごすことじゃ」 「・・・・・・わかりました」 謹慎五日間。まぁ、妥当だと思う。ギーシュもおそらく同じか、少し長いくらいだろう。それよりも、だ。 「ところで。ミス・ヴァリエール。君が召喚した使い魔について、いくつか聞きたいことがある」 来た。 「なんでしょうか?」 質問が来ることは分かっていた。問題はどう答えるかだが、それも既に考えてある。そうでなければ無計画に《P.V.F》を展開したりしない。 「あの『錬金』。それに使い魔について。そして、その左手のルーン。とりあえずはこの三つじゃな」 この質問も予想通り。 「・・・・・・杖を振っても?」杖を取り出し、オスマンに訊ねる。オスマンは静かに頷いた。 「『錬金』」ルイズは決闘の時と同じく、ルーンを読み上げる。 右手を伸ばし、杖を軽く振ってから《P.V.F》を展開する。光の粒子がルイズの右手を包み、半透明の装甲を形成していく。何も無かった空間から生じた装甲は無機質な音を立てて、機関部を形成。三本の長く優雅な銃身と巨大な盾を併せ持ったルイズの《P.V.F》、シールド・オブ・ガンダールヴだ。 「ほう」 「これが・・・・・・」オスマンは静かに、コルベールは目を見開いて驚いていた。オスマンの落ち着いた態度は生きた年月がそうさせるのかもしれない。大したものだ。 「まず一つ目の答え、これが私の『錬金』で作った特殊な弩、シールド・オブ・ガンダールヴです」 本当は『錬金』なんて使わないで、展開することができる。もちろん杖もいらない。第一、ルイズが『錬金』を使えば爆発してしまう。決闘の時にわざわざ『錬金』を唱えていたのは、この言い訳に真実味を持たせるためだ。 「ふむ、見事じゃ。それだけ精巧な弩を作り出すとはのう。遠見の鏡で見ていたが相当な威力を誇るようじゃな。その上、連射までできるとは・・・・・・『土』のトライアングルはあるかの」 遠見の鏡。ルイズも噂では聞いたことがあった。曰く、その鏡には遠見の魔法の力が込められており、魔力を通うわせることで遠く離れた風景を見ることができるという。 なるほど。それでシールド・オブ・ガンダールヴの性能まで知っていたのか。 「ありがとうございます。それでは、二つ目の質問に答えましょう。私の召喚した使い魔は東方のマジックアイテムです。錠剤といって、ポーションを固形にしたものと考えてください。素質のある者がそれを飲むことで、私のこのシールド・オブ・ガンダールヴのような《P.V.F》と呼ばれる武器を作ることができるようになります」 これが私の用意した言い訳だ。嘘はほとんどついていない。 「ふむ、P.V.Fというのですか。ミス・ヴァリエール、失礼ですが少し見せてもらっても構いませんか?」 「ええ、どうぞ」 ルイズがそう返事をすると、コルベールは喜んだ様子で調べ始めた。 「ふむ」とか「これがこう動くのか」とか言っているコルベールを尻目に、オスマンは質問を続ける。 「それにしても随分と大きいのう。こんなものよう振り回せるものじゃな?」 オスマンの言葉には、疑いが感じ取れた。できれば気づかないでいて欲しかったが、それは流石に無理か。 「ええ、本来は相当な重量があるのですが、術者である私はほとんど重さを感じないのです。どうやら《P.V.F》を展開すると、体内の水の流れが活性化するようですわ。今の私はかなり力が出せますよ? 東方の魔法とは凄いものですね」 東方の地について知るものは少ない。広大な砂漠を越え、さらにエルフの住む土地を越えなければいけないからだ。誤魔化すのに、これほどいい材料は無い。 「そして、これがマジックアイテムを使った証のルーンです。私はルーンの刻まれた錠剤を飲みましたから」 これだけは嘘をついていない。この左手のルーンは、ルイズの魔法が成功した証であり、使い魔との絆だ。 「ふむ・・・・・・なるほどのう。・・・・・・わかった。下がってよろしい。ほれ、ミスタ・コルベール、いい加減にせんか」 「あ、すみません。ではミス・ヴァリエール、謹慎期間はおとなしくしているのですよ」 ――なんとか誤魔化せたようね。 「では、失礼します」 軽く腕を振り、シールド・オブ・ガンダールヴを解除する。 部屋に戻ろう。しばらくは暇だろうが、仕方ない。 「おお、そうじゃ、ミス・ヴァリエール」 部屋を出ようとしたところで、オスマンに声を呼び止められた。 「なんでしょう?」 「新しい二つ名を考えねばならんな。もう誰も『ゼロ』とは呼ばんじゃろうて」 そんなオスマンの言葉を聞いて、胸がカァと熱くなるのを感じた。オスマンは静かに目を細めて微笑んでいるだけだったが、それだけで十分だ。 「・・・・・・ありがとう、ございます」 やっとのことでそれだけを言うと、ルイズは学院長室を出た。視界が歪んでいるのに気づいて、初めて自分が泣いていることに気がついた。 ルイズは誰かに『ゼロ』じゃないと言って欲しかったのだ。 前ページ次ページ疾走する魔術師のパラベラム トップページへ戻る