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前ページ次ページアクマがこんにちわ 翌日。 ルイズが授業を受けている頃、人修羅はコルベールの研究室にいた。 人修羅が小型の黒板に図を書き、コルベールがそれを元に練金していく…… 昼頃になると、投げやすい形のナイフが十数個、親指の先端ほどのくず鉄が両手に収まらぬほど出来上がった。 「やはり、焼きを入れた鋼で弓矢を作るのは無理でしたなあ」 コルベールが呟く、見ると、足下やテーブルの上には失敗作と見られる鉄くずが幾つも転がっていた。 「すみません、無理を言ってしまって。でもこれだけ武器があればだいぶ楽になります」 「いや、君の意見は斬新でとても興味深い、見聞を広める意味でもこういった機会が得られたのは嬉しいのだよ。しかし、手加減のために武器が必要だとは、何ともまあ…」 人修羅は苦笑いすると、投げナイフを手に取り、バランスを確かめていく。 武器を持つと、左手の甲に浮かんだルーンが輝き始める…同時に、今までの戦いでは得られなかった『極めて精密な力加減』が人修羅の体へと浸透していった。 人修羅は、研究室の壁に立てかけられた木の板に向けて、ナイフを投げた。 絶妙な力加減で投げられたナイフは、的に見立てた節の部分に命中した。 「このルーンは凄いな。投げナイフなんて扱ったこともないのに、力加減が解る」 コルベールはその様子を見て、顎に手を当て頷いた。 「伝説とされていたルーンですからな。まったく素晴らしいものです。ですが武器だけというのは、些か残念でなりません」 「ああ、コルベール先生もそう思います?」 「戦争と武器だけでは、生活は豊かになりませんから」 コルベールはそう言って笑った、が、それはどこか寂しそうな笑みだった。 人修羅はそれを察したのか、そのことについて追求すべきでないと考え、何も言わなかった。 ◆◆◆◆◆◆ そしてその日の夜……。 人修羅は簡易ベッドの上に座り込み、革製のベルトや、道具を入れるポケットを確認していた。 慣れぬ手つきで、革製の袋に針と糸を通し、ベルトに下げられるよう加工していく。 今度シエスタに裁縫を習おうかなぁ、と思いつつ、ちらりとルイズの方を見つめる。 なんだか、ルイズは激しく落ち着きがなかった、立ち上がったと思ったら、再びベッドに腰かけ、枕を抱いてぼんやりとしている。 姫様が来るからだろうか、授業が終わって部屋にこもるなり、ルイズはずっと落ち着きがない。 「焦っても仕方ないぞ」 人修羅が言った、しかしルイズは枕を抱きしめて、じっと黙っている。 ずいぶんと緊張しているんだろうなあ…と考えていると、ドアがノックされた。 規則正しく扉が叩かれる、初めに長く二回、それから短く三回……。 ルイズの顔がはっとした顔になった。 急いで枕をベッドに置くと、身だしなみを整えて、立ち上がりドアに手をかける。 ゆっくりとドアを開くと…そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりとかぶった、少女だった。 辺りの様子を伺うと、そそくさと部屋に入り、後ろ手に扉を閉めた。 「……あ」 ルイズは何かを呟こうかと、声を上げたが、頭巾をかぶった少女が口元に指を立て、しーっと沈黙のジェスチャーをした。 そしてすぐ、頭巾と同じ黒いマントの隙間から杖を見せると、ルーンを詠唱して振りかざした。 光の粉が、部屋に舞う。 「あっ、ディティクトマジックは!」 ルイズが慌てたが、頭巾の少女はなんのこともなく、ただ頷いた。 「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」 少女はディティクトマジックで、部屋の中に聞き耳を立てる魔法の耳や、どこかに通じる覗き穴がないことを確かめたらしい。 頭巾を取り顔を見せる…現れたのは、アンリエッタ王女だった。 ルイズは慌てて跪き、王女の顔色をうかがった。 「姫殿下!あの、おかげんは…気持ち悪いとかそういったことはございませんか」 アンリエッタは首をかしげつつも、心地よい声で言った。 「おかしなことを聞くのね、私は元気に…いいえいつもより元気よ、貴方に会えるのを楽しみにしていたのですから。ルイズ・フランソワーズ」 ルイズはほっと安堵のため息をついた。 ディティクト・マジックで人修羅を調べたミス・ロングビルは、とんでもないモノが見えて卒倒してしまったのだから、姫様も同じように気絶する恐れがあった。 ちらりと後ろを見て、人修羅の様子を確認する…、そこには開け放たれた窓のみがあった。 どうやら人修羅は、窓から逃げ出したらしい。 ◆◆◆◆◆◆ 「うわあっ!?」 どすん!と音を立てて中庭に着地すると、隣から誰かの声が聞こえた。 「あ、悪い。驚かせた」 人修羅は軽い調子で謝ったが、その誰かは驚いて腰を抜かしたのか、杖と花束を地面に落とし、しりもちをついたまま人修羅を見上げている。 「……き、君はなんだね!?ミス・ツェルプストーの部屋から飛び出てくるなんて!」 「へ?いや、俺はルイズさんの部屋から出てきたんだけど」 「なんだと…」 男は、魔法学院の生徒らしかった、杖を拾い上げると寮塔を見上げ、二つ並んだ窓を見つめる。 「では、向かって右側がツェルプストーで、向かって左側がゼロのルイズか。危なかった、勘違いして覚えていたようだ」 こんな時間に女性の部屋を訪ねるとは、夜ばいだろうか? しかし、よく見ると男は花束を持っている、夜のおつきあいか、紳士的な夜ばいという所だろう。 「ルイズさんの部屋は見ないでくれよ」 「ふん。ゼロのルイズには用はないさ、このベリッソンは灼熱の美女に用があるのだからね!」 そう言うと、ベリッソンと名乗る貴族は、レビテーションを唱えてゆっくりと上昇していく。 ツェルプストーの部屋から炎が飛び出すのは、その二十秒後であった。 ◆◆◆◆◆◆ そのころ、ルイズの部屋では… アンリエッタ王女が、感極まった表情を浮かべて、ルイズを抱きしめていた。 「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」 「姫殿下、いけませんわ。こんな下賤な場所へ、お越しになられるなんて……」 「ああ!ルイズ・フランソワーズ! そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!あなたとわたくしはおともだち!おともだちじゃないの!」 <<中略>> まるで歌劇のように、抱きしめて、離れて、くるくると回って再会を喜んだ二人。 しばらくして落ち着いたのか、二人はベッドに並んで座っていた。 王女アンリエッタが愁いを帯びた表情で呟く。 「ごめんなさいね……、あなたに話せるようなことじゃないのに……、でも、貴方にだけは、私の秘密を共有できるおともだちにだけは、聞いて欲しかったの……」 ルイズはアンリエッタに向き直ると、静かな口調で…しかし力強く言い放つ。 「おっしゃってください。幼い頃から明るかった姫様が、そんなため息をつくのには、姫様だけの苦悩がおありなのでしょう?私をお友達と呼んでくださるなら、私は姫様の…いいえ、アンのおともだちとして話を聞くわ」 「…わたくしをおともだちと呼んでくれるのね、ルイズ・フランソワーズ。とても嬉しいわ」 アンリエッタは決心したように頷くと、語り始めた。 アルビオンの王室が、貴族派に追いつめられていること。 貴族派は、エルフからの生地奪還を掲げる『レコン・キスタ』という組織を形成していること……。 アルビオンが陥落したら、次は間違いなくトリステインが狙われるはず…迫り来るアルビオンに対抗するためゲルマニアと同盟を結ぶことになったこと……。 そのため、アンリエッタはゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったこと……。 「ゲルマニア!あんな野蛮な国に……そうだったのですか……」 ルイズは沈んだ声で言った。アンリエッタの悲しげな口調からも、結婚を望んでいないのが明らかだったからだ。 「いいのよ。ルイズ、好きな相手と結婚するなんて、夢の中でしか許されないのですわ」 「姫さま……」 そうして、アンリエッタは、ゲルマニアとトリステインの同盟を妨害する、ある手紙の存在を話し出した。 それは、アルビオンの皇太子、ウェールズ・テューダーに当てた手紙であった。 内容は話せぬとしておきながらも、アンリエッタがウェールズを思い、目に涙を溜める姿は、その手紙が恋文であると思わせるに十分だった。 しかもその手紙は、今にも倒れそうな王室の、皇太子が所有しているという。 「ああ!破滅です!ウェールズ皇太子は、遅かれ早かれ、反乱勢に囚われてしまうわ!そうしたら、あの手紙も明るみに出てしまう!そうなったら破滅です!同盟ならずして、トリステインは一国でアルビオンと対峙せねばならなくなるのです!」 ルイズは息をのみ、アンリエッタの顔を見つめた。 「では、姫さま、わたしに頼みたいことというのは……」 「無理よ!無理よルイズ!ああ…わたくしったら、なんて事を言ってしまったのでしょう!貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」 「何をおっしゃいます!たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為とあらば何処にでも向かいます!姫さまと、トリステインの危機を、ラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、決して見過ごすわけにはまいりません!」 ルイズアンリエッタの前み立つと、ゆっくりと跪き、恭く頭を垂れた。 「このわたくしめに、その一件、是非ともお任せくださいますよう」 アンリエッタは目に涙を浮かべると、ルイズの手を取った。 「このわたくしの力になってくれるというの? ルイズ・フランソワーズ!」 「もちろんですわ! 姫さま!」 二人が見つめ合い、お互いに感激に目を輝かせていると、突然部屋の扉が開かれた。 ◆◆◆◆◆◆ 「何やってるんだお前ら」 「うわ!」「し、静かにっ」 そろそろ良い頃かと思い、ルイズの部屋へと戻った人修羅は、扉にべったりとくっついて聞き耳を立てている二人の生徒を発見した。 すかさず右腕で丸っこい生徒…マリコルヌの頭を抱える。 左腕では、バラの造花を持った生徒…ギーシュの首に腕を回し、ゆっくりと締め上げた。 「 そ れ が 貴 族 の や る こ と か? ああん?」 「~~~~っ!!!!!」「痛ったったったたたっ!」 ギーシュは声も出せず、苦悶の表情を浮かべ、マリコルヌは頭を締め付けられ悶絶した。 「マリコルヌ、お前、誰にも言うなって言ったよな」 「か、勝手に付いてきたんだ、ボクは悪くない!」 「悪いわ!」 人修羅はギーシュに顔を向ける。 「おい、中でなんの話をしているか、聞いたのか?」 「当然だ、こんな夜更けに姫様を見つけたら、気になるに決ま……ぐぇっ」 人修羅は、はぁーと盛大にため息をつく。 そして、行儀が悪いと思いつつも足で扉を開けた。 「立ち聞きしていた不審者をお連れしました」 「まあ!」 「人修羅?そっちはギーシュと…マリコルヌ?」 ルイズは慌てて立ち上がると、人修羅が連れてきた二人を見下ろした、マリコルヌは完全に気絶しているが、ギーシュは人修羅の腕を外そうともがいている。 「外に捨ててきて」ルイズが冷たく言い放つ。 「いや、そういう訳にもいかないだろう」 人修羅は気絶したマリコルヌを床に下ろすと、ギーシュを抱える腕から力を抜いた。 するとギーシュは、ルイズの様子など気にもせず、姫様に向かってまくしたてる。 「薔薇のように見目麗しい姫さまのあとをつけてきてみればこんな所へ……、どうか姫殿下!その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」 「え? あなたは……グラモン? あの、グラモン元帥の?」 アンリエッタが、きょとんとした顔でギーシュを見つめる。 「息子でございます。姫殿下」 ギーシュは立ち上がると、恭しく一礼した。微妙に声が苦しそうなのは気のせいではない。 「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」 「任務の一員にくわえてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」 熱っぽいギーシュの口調に、アンリエッタは微笑む。 「ありがとう。お父さまも立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようね。ではお願いしますわ。この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」 「姫殿下がぼくの名前を呼んでくださった! トリステインの薔薇の微笑みの君が!このぼくに微笑んでくださった!」 ギーシュは感動のあまり、後ろにのけぞって失神した。 「首を絞めるまでもなかったなあ…大丈夫かコイツ」 人修羅はギーシュの頭をつつくと、マリコルヌの隣に引きずって、並べた。 「ところで、貴方は…話からするとルイズの知り合いのようですが」 「姫さま、ええと……人修羅といって、東方よりはるか遠くからきた、私の使い魔…です」 ルイズは少し言いにくそうに、人修羅を紹介した。 「使い魔?」 アンリエッタはきょとんとした面持ちで人修羅を見つめた。 「人にしか見えませんが……あら、不思議な模様が見えますのね、それは貴方の国の装飾なのかしら」 「一応、人です。姫さま」 「装飾じゃないんですが…ルイズさんの紹介の通り、人修羅と言います」 人修羅は床に正座して、アンリエッタに一礼した。 「ふふ……ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね。人を使い魔にするなんて聞いたことがないわ」 「私も驚いてます…」 アンリエッタは人修羅に向き直ると、笑顔を見せる。 「使い魔さん」 「はい?」 「わたくしの大事なおともだちを、これからもよろしくお願いしますね」 そう呟いて、すっと左手を差し出した。 手の甲を上に向けている…これはいったいなんのジェスチャーだろうか? ルイズが驚いた声で言った。 「ひひひ姫さま!使い魔にお手を許すなんて!」 「いいのですよ。使い魔とメイジは一心同体、この方もわたくしのために働いてくださるのです、忠誠には、報いるところがなければなりません」 人修羅は後頭部を掻いて、申し訳なさそうに視線を下げた。 「すまないが…お手を許すって、どういう意味なのか解らない。ルイズさんから教わっているが、まだハルケギニアに来て間もないので」 ルイズは人修羅の隣に移ると、小声で囁く。 「ええと、お手を許すってことは、キスしていいってことよ。砕けた言い方をするならね」 「キス!?……ああ、手にか、手だよな? びっくりした」 「あんた何想像してるのよ!」 人修羅はルイズに頭を叩かれ、いてっ、と声を漏らした。 その様子がおかしかったのか、アンリエッタはにっこりと笑っていた。それは民衆に見せるような…いわゆる営業スマイルとは違っていたかもしれない。 ◆◆◆◆◆◆ 人修羅が『風習の違い』という事で、手の甲へのキスを遠慮すると、ルイズは気を取り直してアンリエッタに向き直った。 「では、明日の朝、アルビオンに向かって出発するといたします」 「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます」 「了解しました。以前、姉たちとアルビオンを旅したことがございますゆえ、地理には明るいかと存じます」 「旅は危険に満ちています。アルビオンの貴族たちは、あなたがたの目的を知ったら、ありとあらゆる手を使って妨害しようとするでしょう」 二人の会話を聞いていると、人修羅はテレビで見た皇室の様子を連想する。 よくもまあ、尊敬語とか謙譲語とかで、すらすら会話ができるもんだ… アンリエッタは机に座り、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って、さらさらと手紙をしたためていく…。 人修羅はその間、気絶したマリコルヌとギーシュをどうしようか考えていたが、いつの間にかルイズとアンリエッタの会話は終わっており…アンリエッタを見送るついでに、二人を部屋に放り込んでおくことにした。 ◆◆◆◆◆◆ 朝もやの中で、人修羅は季節はずれなコートを身に纏って、ルイズとギーシュが馬に鞍をつけるのを見ていた。 人修羅のコートはオールド・オスマンが用立ててくれたモノで、中にはいくつものポケットや留め具があり、武器や道具を仕舞っておくことができる。 マリコルヌは、早朝にたたき起こし、誰にも喋らないようしっかりと注意しておいた。 まあ、下手をすると戦場を突っ切るかもしれないと理解していたので、マリコルヌはこの任務に付いてこない気だった。 今頃は部屋で二度寝しているだろう。 『それにしてもアルビオンか、相棒、やりすぎて地面を割るなよ』 背かからデルフリンガーが声をかけてきた。 「そこまでしないよ。…たぶん。…おそらく」 人修羅は自信なさげに答えた。 試したことはないが『地母の晩餐』を全力で放てば、大陸ぐらいは崩壊するのではないだろうか。 もし浮遊する大陸で大技を使ったら、どれだけの命が巻き添えになるか想像もできない。 ちなみに人修羅は、馬を借りず、自分で走る予定だ。 そんなとき、ギーシュが、困ったように人修羅へと言った。 「お願いがあるんだが……ぼくの使い魔を連れていきたいんだ」 「ヴェルダンデか? 確か、ジャイアントモールだよな…地面を掘って付いてくる気かよ」 「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの?」 ルイズがそう呟くと、地面がもこもこと盛り上がり、巨大なモグラが姿を現した。 大きさは小さいクマほどである。 「そうさ!ああ、ヴェルダンデ、きみはいつ見ても可愛いね。困ってしまうね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」 嬉しそうにヴェルダンデが鼻をひくつかせる、するとギーシュは頬を寄せて頭を撫でた。 「そうか! そりゃよかった!」 そんな様子のギーシュに、ルイズは呆れたように呟く。 「ねえ、ギーシュ。ダメよ。その生き物、地面の中を進んでいくんでしょう?」 「そうだ。ヴェルダンデはなにせ、モグラだからな」 「いくら早く掘り進めても駄目よ、わたしたち、馬で行移動するし、目的地はアルビオンなのよ」 ルイズがそう言うと、ギーシュは地面に膝をつき、ヴェルダンデと見つめ合う。 「お別れなんて、つらい、つらすぎるよ……、ヴェルダンデ……」 そのとき、ヴェルダンデは鼻をひくつかせ、臭いを辿るようにしてルイズに擦り寄る。 「な、なによこのモグラ…ちょ、ちょっと!」 巨大モグラはいきなりルイズを押し倒すと、鼻で体をまさぐり始めた。 「や! ちょっとどこ触ってるのよ!」 ルイズは体をモグラの鼻でつつきまわされたが、すぐに人修羅がヴェルダンデを引きはがした。 「こらこら、何をするんだ、いきなり。 …なに?良いにおいがした?」 ギーシュはそれを聞いて、納得し頷いた。 「なるほど、ミス・ヴァリエールの指輪に惹かれたんだろう。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね」 「解ったから、今度は押し倒す前に止めような! ルイズさん大丈夫か」 「だ、大丈夫よ。ちょっとビックリしたけど。ギーシュ!あんた使い魔のしつけはちゃんとしなさいよね」 「はははごめんごめん。ヴェルダンデは愛らしくて、つい叱るのを忘れてしまうんだ」 うー、と犬のように唸るルイズ。 嫌みのない笑みでヴェルダンデを撫でるギーシュ。 人修羅はそんな二人組みを見て、呟いた。 「大丈夫かこのメンバーで」 バサッ 「ん?」 離れたところから聞こえる羽音に気が付き、人修羅が辺りを見回す、すると、グリフォンに乗った貴族がこちらへ近づいてきていた。 「ルイズさん、ギーシュ、誰か来たぞ」 ギーシュは驚いて杖を抜き、グリフォンを見た。 ルイズも驚いていたが…その様子はギーシュとは違っていた。 グリフォンをルイズ達の手前に下ろすと、その貴族は帽子を取って声を発した。 「僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね。きみたちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたってワケだ」 灰色の頭髪、蓄えられた髭、長身……非の打ち所のない貴族であった。 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」 口を開きかけたギーシュは、相手が格上の存在だと知って、慌てて頭を下げた。 魔法衛士隊は王族の親衛隊でもあり、トリステイン全貴族の憧とも言える存在であった、それはギーシュにとっても例外でない。 「ワルドさま……」 ルイズが、震える声で言った。 「久しぶりだな! ルイズ! 僕のルイズ!」 人修羅はぽかーんと口を開けて、ワルドと名乗る男の台詞を聞いた。 僕のルイズ!という台詞はなんか犯罪的だ。 ワルドは人なつっこい笑みを浮かべると、ルイズに駆け寄り、軽々と抱え上げた。 「お久しぶりでございます」 ルイズは、頬をピンク色に染め、ワルドに抱きかかえられている。 「相変わらず軽いなきみは! まるで羽のようだね!」 「……お恥ずかしいですわ」 「彼らを、紹介してくれたまえ」 ワルドはルイズを地面に下ろすと、再び帽子を目深に被った。 ルイズは緊張しながら、ギーシュと人修羅の二人を紹介する。 「きみがルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったな。ぼくの婚約者がお世話になっているよ」 ワルドは気さくな感じで人修羅にに近寄った。 「あ、どうも…って、婚約者でしたか。」 人修羅は苦笑いを浮かべた、ワルドはその様子を見るとにっこり笑い、ぽんぽんと肩を叩いた。 「どうした? もしかして、アルビオンに行くのが怖いのかい? なあに! 何も怖いことなんかあるもんか。この僕がついているさ」 そう言って、ワルドは笑う。 そんな様子を見て……人修羅は、心の中の叫びを口に出さぬよう、必死で我慢し続けていた。 僕のルイズ? 婚約者? つまり… ロ リ コ ン だ ー ! 前ページ次ページアクマがこんにちわ
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朝~授業 ルイズは夢を見ていた。 昨日行われたばかりの、コントラクト・サーヴァントの景色の情景。 ルイズの呼び声に応えてこの地に現れたのは、見たこともない服装の、黒髪の少年だった。年の頃はルイズと変わらない。 使い魔として平民を召喚してしまったことに落胆しながらも、ミスタ・コルベールにうながされ、 はやし立てる同級生たちを意図的に無視して唇を彼に近づける。 そうしながらルイズは奇妙に高揚した予感に胸を満たされた。 気に入らない。全然気に入らないんだけど、あるいはこの少年となら…。 そして、二人の唇が触れるか触れないかの刹那―― 「コーホー」 それまでスヤスヤと寝息を立てていた少年の口から漏れた呼吸音に、ルイズは唐突に 現実に引き戻された。 「起きたか」 悪夢の続きのような声だ。寝起きから最悪の気分のルイズが頭を巡らすと、ベイダー卿は 窓から外を見ていた。 例のごとく、腕組み仁王立ちの傲岸なポーズで。 マスクから響く威圧的な呼吸音にはなかなか慣れそうもない。 声をかけながら、彼はルイズの方を見ようともしなかった。 振り返りもせずにルイズが目を覚ましたことを感じ取っていた辺り、やはり不気味だ。 「は、早起きね…」 沈黙に耐え切れずに先に口を開いたのはルイズだった。 だがベイダー卿は応えない。 「あ、あんたも悪い夢でも見たの?」 「僕は夢を見ない。そう訓練されてきた」 「そ、そう…」 取り付く島もない。だが、畳み掛けるようなベイダーの口ぶりにはほんの少し違和感があった。 何かを思い出しているのだろうか。 「太陽は一つなんだな」 またいきなりだった。 「……? 当たり前でしょ」 「それがいい。二つ以上は余計だ」 「……?」 発言の真意は汲み取れないものの、とりあえず朝食の時間が迫っている。 昨日交わした約束に則り、内心の怯えを隠しながらルイズは命じた。 「ふ、服」 「自分で取った方がいい」 「い、いいから!」 貴族の自負と怖れの板ばさみ。今回は前者が上回ったようだ。 ベイダーが窓の外を向いたまま無言で手首を軽く振ると、椅子にかかっていた制服が ベッドの上のルイズの手元まで動いた。 「し、下着」 再びベイダー卿の手振りに従い、クローゼットの一番下の引き出しが開いて下着が 飛んできた。 魔法さえ成功すれば自分もできるはずのことを、杖も持っていないベイダーにさも当然の ごとくされるのはちょっと腹立たしい。 それ以上に、それを振り向きせずにこなしてしまうベイダーが底知れない。後ろに目でも ついているんだろうか。 さすがに服を着せてとは言えなかった。ルイズはネグリジェを脱ぐと自分で制服を身に着けた。 「じゃ、じゃあ朝ご飯に行ってくるから」 マントを羽織り、ドアを開けながらルイズは遠慮がちに言う。ベイダーは物が食べられないので 同席はしないそうだ。 ルイズが戸口をくぐろうとしたところで、ベイダーは半身を巡らせ、ルイズを直視した。 「メイ・ザ・フォース・ビー・ウィズ・ユー、マイ・マスター」 それに何と応じたらいいのかわからず、ルイズは軽く手を挙げて部屋を出た。 一人残されたベイダー卿は再び腕を組み、窓の外を見る。 たとえベイダー卿が単身でこの星を脱出する手段がないとしても、皇帝が必ずこの惑星を 感知するはずだ。 こんな星があることは今まで知られていなかったし、あるいは既知の銀河系の範囲外なのかも しれない。だが皇帝は彼を超えるダークサイドの熟達者だ。その点に心配はない。 もっとも、多少時間はかかるかもしれないが。未知の航路をハイパースペース・ドライブで 移動するには厳密な計算も必要だ。 場合によっては戦争になるかもしれないが、昨晩ルイズと話し合って把握できた範囲で 推測すれば、この星の文化レベルでは一方的な虐殺になるだろう。 しかし、それよりも気がかりなのは… 組んだ腕を解き、ベイダー卿は自分の左手の甲を見た。 見たこともない文字がそこに刻まれていた。 「一体僕の身に何が起こった…」 くぐもったその呟きは、分厚い石造りの壁に吸い込まれた。 気絶したベイダー卿はひどく重く、レビテーションで運ぶにしても途中で一度交代が 必要だった。 ちなみに、ルイズの代わりにギーシュとタバサが運んでくれた。 コントラクト・サーヴァントの結果、その左手の甲には見たこともないルーンが刻まれていた。 勉強熱心なルイズの知識にもないルーンだが、そもそもこんな生物が召喚されてくるのも 前代未聞なので、とりあえず気にとめないことにした。問題は山積みだ。 ただ変人のコルベール先生だけは興味を引かれたようで、そのルーンのスケッチを取っていた。 ベイダーはルイズの部屋に運び込まれ、とりあえず床に放置された。 召喚直後の暴挙はともかく、契約が終わった後なら主人に危害を加えることはあるまいと 判断されてのことだ。 ベイダーが目を覚ましたのは夜だった。 というか、顔がマスクに覆われているため本当のところいつ目を覚ましたのかよくわからない。 第一声はまた「パドメ」。一体誰だろう。 それから二人の間に持たれた話し合いはそれ程長くはかからなかった。 ベイダーの態度は今度はだいぶ紳士的だった。 ベイダーはどこか別の星から来たとか何とか言っていたが、ルイズに理解されないのが わかるとすっかり諦めたようだ。 「銀河帝国」、「ハイパースペース」、そして「フォース」……彼が力説していた未知の用語の数々。 「ねえ、ベイダー」 「“卿”か“ダース”を付けろと言ったはずだ」 「だーすって何よ?」 「シスの暗黒卿に対する敬称だ」 「あんたの二つ名だっけ?それはともかく、あんたって友達少ないでしょ」 「……」 結局、超空間航法どころか宇宙に出る手段さえないことがわかると、ベイダーは珍しく 落胆した様子だった。 結果としてベイダーが帰還するための方途を見つけられるまで、ルイズは生活の糧と この土地の知識を提供し、一方のベイダーはルイズに対して従者の礼を取るという約束が 両者の間で取り交わされた。 ルイズが貴族であるという事実が、少しばかり功を奏したらしい。 「僕は貴婦人の扱いには慣れてるんだ」 笑えないジョークだった。 夜も更けた。 寝床としてルイズが用意した藁束をにべもなく拒絶し、ベイダー卿は書き物机の前の 椅子に座った。どうやらそこで眠るつもりらしい。 ネグリジェに着替えたルイズは、消灯する直前になって、ふと昼間のルーンのことを 思い出した。 「そう言えばあんたの手の甲のルーン、コルベール先生が興味津々だったみたいだけど、 ちょっと見せてくれる?」 「ルーン?これのことか」 ベイダー卿が左手を裏返して甲を示した。 「うーん、やっぱ見たこともない形ね。一応わたしも写しをとっておこうかな。もっかい見せて」 「ちょっと待て」 ベイダー卿はルーンが刻まれた手を少しいじると、もどかしそうにその表皮を脱ぎ捨てた。 「ちょっ……」 「ただのグローブだ。気にしなくていい」 その下から現れた金属製の義手をカチャカチャ動かしながら、こともなげに彼は言った。 ルーンが着脱可能な使い魔 ♪ありえないことだよね 教室は一種異様な雰囲気に包まれていた。 コントラクト・サーヴァントの儀式の翌日。クラスメートに向かっての新しい使い魔の お披露目的な様相を呈する朝一番の授業。 さながら多種多様な珍獣たちが織り成すショータイムだった。 だがそこに、明らかに周囲から浮いた存在感を放つ人影が鎮座していた。 言わずと知れたベイダー卿である。 使い魔を教室に連れてくるか否かは主人次第であるが、ベイダー自身が出席を強く 希望したのである。 だが… 「コーホー、コーホー」 「ミス・ヴァリエール、あなたの使い魔はもう少しなんとかなりませんか?」 使い魔たちがみな静かにしているとは限らないのだが、ベイダー卿の呼吸音はやけに 規則正しいだけにどこか威圧的で、生徒たちの集中をかき乱すことこの上ない。 授業を担当するミス・シュヴルーズがとうとう耐えかねて注意した途端、教室に妙な 解放感が漂った。 「はい、ええと…」 ルイズが隣の席に巨体を収めたベイダーの方をちらっと見る。 しかしベイダーは腕組みしたまま意に介したそぶりもない。 当然ながら眉一つ動かさない。 「気にせずに授業を続けるがいい」 貴族に対する口の聞き方もなっていない。 「でも迷惑なのです。あなたのその呼吸音。コーホー、コーホーって」 ベイダー卿が種族としては人間であり、しかもメイジではないことは彼自身から 言質がとれていた。つまり、この世界での身分でいえば平民であるということだ。 興味津々といった風情の同級生たちに、既にルイズは朝食の席で彼女が理解できた 範囲でベイダーとの話し合いの内容を語って聞かせていた。 平民の使い魔というのもなんだけど、余計な恐怖心を抱かれる方がもっと心配だった。 結果、一部の生徒は昨日ベイダー卿が見せた力への警戒を緩めることはなかったが、 大部分は貴族としてのプライドの方を優先し、あからさまにベイダーとルイズを見下し 始めていたのだ。 ベイダーの呼吸音はそんな生徒たちの神経を逆なでしていたものの、自分が率先して 注意する筋合いでもないので我慢していたのである。 ミス・シュヴルーズが注意してくれた時、そんな生徒たちがいっせいに清涼感を味わって いた。 「教室から出て行ってはもらえませんか?」 温厚な中年女性であるシュヴルーズだが、貴族としてのプライドが虚勢を後押しし、 一見丁寧なその言葉の中にも有無を言わさぬ迫力が込められていた。 「あの、ミス…」 どうにかして弁解しようとするルイズを片手で制してから、ベイダー卿はさらに不遜な 態度で声を発した。 「僕はこの教室にいてもいい」 すると… 「あなたはこの教室にいてもかまいません」 一瞬呆けたような表情を浮かべ、ミス・シュヴルーズは復唱した。 「お前は気にせずに授業を続ける」 「わたしは気にせずに授業を続けます」 「代わりにあの生徒が廊下に立つ。」 ベイダーが一人の少年を指差した。 「ミスタ・グラモン、廊下に立ってなさい」 「ええっ!?」 「さっきのあれ、どうやったの?」 ルイズがベイダー卿に尋ねたのは、二人だけで授業の後始末をしてる最中だった。 「フォースの基本だ。心の弱い人間ほど簡単に動かすことができる」 「心が弱いって、相手はれっきとした貴族でメイジなのよ?」 「フォースの前では何というほどのこともない」 言いつつベイダー卿が軽く手をかざすと、砕けた花瓶の破片が集まってくずかごに 飛び込んでいった。 一方のルイズはススだらけになった床の拭き掃除をしていた。 「ねぇ、ベイダー」 「卿を付けろと言ったはずだ、マスター」 「……あんたさっきから突っ立ってるだけじゃない。なんでわたしがこんな肉体労働を …ブツブツ……」 「そんなことを言うのはどの口だ。二度と声を出せなくするぞ」 ギーシュが去った教室ではその後順調に授業が進んでいったものの、『錬金』の実演を 求められたルイズが石ころに向かって杖を振り下ろした途端に爆発が起こり、何もかもが 台無しになった。 「ちょっと失敗したみたいね」 そう言ってボロボロの姿のルイズがスス交じりの黒い煙を吐き出した時には、ミス・シュヴルーズは 爆発のあおりを受けてひっくり返り、あらかじめ机の下に避難していた生徒たちにも被害が 及んでいた。 教室の中はさながら阿鼻叫喚の地獄だった。 「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」 そんな怒号が響き渡る教室の外では―― 「きっ、君はいつの間にここに?」 「フォースの導きだ」 唯一被害を免れたのは、廊下に立たされていたギーシュと、爆発の直前に誰にも 感知されないスピードで教室を出ていたベイダー卿だけだった。 ミス・シュヴルーズはその後2時間息を吹き返さず、ルイズは教室を可能な限り掃除して おくことを命じられた。 罰として魔法を使うことは禁じられていたものの、ルイズは元々ほとんど魔法が使えない。 そしてベイダー卿の力は禁じられていない。 主従が逆転したかのような有様だったが、思っていたより早く掃除は終わった。 「なんで授業に出ようだなんて思ったの?」 昼休みまで少し時間がある。誰も居ない教室で、手持ち無沙汰のルイズは思い切って 尋ねてみた。 「この星の魔法と呼ばれる技術体系は、僕の手持ちのフォースの知識だけでは説明が つかない。この魔法とやらを研究し、知識を持ち帰れば皇帝もお喜びになるだろう。 そして――」 (パドメを救う助けになるかもしれない) 「そして? …まあいいけど。わたしからすれば、あんたの力の方が謎だけどね」 「それよりもマスター、気になるのは君の魔法の腕だ」 知識を習得するため集中して授業を聞いていたベイダーには、ルイズの使った魔法が その体系から逸脱したものであったことがわかった。 「皇帝が聞いたらさぞかし失望するだろう。皇帝は僕ほど寛大ではない」 「あんた昨日逆のこと言ってなかった? て、ていうか放っといてよ」 「ゼロのルイズ、か。なるほどな。もっと幼ければ僕が鍛えてやるのだが、残念だ」 (ろ、ロリコン…?) 前のページへ / 次のページへ
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グラビティ キャラ作者:ラティ(作者) 性別:おそらく♂ 職業: 魔界に住んでいる竜。 ラティがケルベロスの看病に行く際に開けた魔界の入り口から一度村へ来たが、すぐ強制帰省させられた。 性格 ユリンに対してストーカー的行動をとる。 村民関係 ユリンに対してストーカー的行動をとる。 ラズリを恐れている。 過去
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前ページ次ページゼロの黒魔道士 「はぁ…全く、どうしてくれようかしら、こんな役立たず…」 「あ、う、うん、ゴメンなさい、ルイズおねえちゃん…」 …出会ってから、ちょっと時間が立ったんだ。 …ここは、お城みたいな魔法学院。 …目の前のきれいだけどちょっと怖い女の子はルイズおねえちゃん。 …で、ボクはビビ、死んじゃって、動かなくなったはずが… 「なんっであんたが使い魔なのよぉ~!!!!!」 …使い魔、になっちゃったみたい…ホントに、なんでなのかなぁ…? ―ゼロの黒魔道士― ~第一幕~魔法の学び場 トリステイン魔法学院 …窓の外の空には2つのお月さま、 ここもお月さまは2つなんだなぁと変な感心をしてしまう。 「ちょっと!またあんた、聞いてるのっ!?」 「わぁっ!?ご、ゴゴメン…なさい…ルイズおねえちゃん…」 さっきからずっとこの調子なんだ… …ちょっと、今日までにあったことを思い出してみた… …たしか、黒魔道士の村にいたんだ… もう、だんだん体が動かなくなるのが分かったし、 寿命(リミット)が近いんだなって分かってた… 黒魔村のみんなは優しくしてくれたし、 ジェノムのみんなともなかよくなっていってるみたいだった… …それを見守るのはうれしかったけど…動かなくなってきている体で、見てるだけなのはちょっと悲しかったなぁ… ときどき、みんなお見舞いに来てくれた… …フライヤおねえちゃんやダガーおねえちゃんは国を立て直すのにいそがしいはずなのに… …サラマンダーは黙ったままだったけど…なんか優しくなってたなぁ… …スタイナーおじちゃんはちょっとうるさかった。「手伝うのである!!!」ってジェノムのみんなを手伝ったりしたんだけど… …「ぬぉぉぉ!?」ドンガラガッシャーン… …みんな、得意と不得意があるんだなぁ… …クイナが来たときは、食事が豪華になるんだ。いつもの同じ材料なのに… …「…クェー」「チョコボのコドモ…珍味ネ…」ジュルリ… …い、いつもと、同じ、だよね?… …エーコは、シドおとうさんといっしょに「し、新飛空艇の試験飛行で来ただけよ!あんたが心配じゃないんだから!」って言って来てた… …試験飛行でなんであんなに、お菓子持ってくるのかなぁ?…食べきれないからって言ってボクにおしつけるし… …そして、昨日、最後の日の前の日、いよいよ体が動かしにくくなったとき… 「よっ、意外と元気そうじゃん!」 …ボクに、生きる意味を、ボクに勇気をくれた最大の恩人が、来てくれたんだ… 「いやぁ~、ちょっと危なかったんだけどさ…やっぱヒーローは遅くなるもんだから、なっ!」 …そう言ってウィンクする…ボクは、少し体を起こして、「無事…だったんだ…」って聞いたら… 「ん、まぁ色々あってな…あ、ダガーにはまだ内緒な?ちょっとしたサプライズ用意してるんだ…」 …そういって照れくさそうに笑ってた…きっと、そのまま会いに行くのが、ちょっとはずかしいんだなって思った… 「お、うまそうなリンゴがある…クイナの見舞いかな?1個もらうぜっと…」 …エーコからもらったリンゴの山から、器用に尻尾で1個をお手玉のように抜き出して、ダガーで皮をむいて… 「ほれ、ウサギの完成~!」 …一緒にウサギリンゴを食べて、いっぱい、いっぱい、話したんだ… …しばらくして、「劇の練習の時間だからな…見に来てくれよ?アレクサンドリアで一芝居うつからさ!」って言って出て行った… …ジタンは、やっぱり、優しかった。強かった… …そして、今日… …体がいよいよ動かなくなって… …気づいたら光に包まれて… 「ふぅ~ん、ビビ、ね…で、あんた結局何なのよ?平民にしては…色々変だし…」 …「トリステイン魔法学院」ってところにいたんだ… 「え、へ、変…かなぁ…?」 …たしかに、「人間」では無いから、ちょっと「変」なのかもしれないけれど… 「あんた、顔あるの?頭よりおっきなトンガリ帽子かぶって…まだ寒いとはいえそんな厚着だし…」 …顔かぁ…そういえば考えたことなかった…なんとなく恥ずかしくなって帽子をキュッキュッてかぶりなおした… 「…ミスタ・コルベール!やりなおしさせてください!こんなのが私の使い魔なんて!」 …使い魔?さっきも聞いたなぁ…こんなのって…まさか、ボクのこと…? 「それはできません、ミス・ヴァリエール、春の使い魔召喚は神聖な儀式だ。 そう簡単にやり直しは認められない、いずれにせよ彼を使い魔にするしかない」 …頭のまぶしいおじちゃんがそう言った…カレを使い魔…?この場合、彼って… 「え、あ、あの、す、すいません…使い魔って…」 「あーもう、なんでこんなのが…あんた感謝しなさいよ、普通平民が貴族にこんなことされるなんて一生無いんだからねっ!」 「え、あ、え?え?」 …こっちは慌てるしかなかった。ゆっくりときれいだけどキツそうな顔が目の前に近づいてきて… 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 チュッ …女の子の唇って、やわらかかったんだなぁ… 「ほんとに!!!!もう!!聞いてるのっ!!!!」 「わわわわっ!?ゴ、ゴメンなさい…」 …さっきから、ルイズおねえちゃんの部屋で謝り続けている気がするなぁ… …時間はもう日が暮れて空ではお月さまが2つしっかり出ている… 「まったく、マントは燃やされるし、使い魔はこんなだし…今日は厄日ね、厄日っ!!!」 …ドキッ…ゴメンなさい…ルイズおねえちゃんにはまだ内緒にしていることがあるんだ… 「え、い、今のって、キ、キス…あつつつつつつつつつつ!?!?!?」ボッ 「我慢しなさい、使い魔のルーンが刻まれてるだけよ…ってあつっ!?」 …キスされた後、左手がすっごく熱くなって …「はんしゃてき」ってことなんだと思う …モンスターに襲われたりしたのと勘違いしたのかもしれない …思わず…「ファイア」ってちっちゃく唱えちゃったんだ 「あつつつつつ…うぅぅぅ…?…何、コレ…」 …しばらくして、左手の痛みがおさまって…変な模様が左手(の手袋の上)に描かれているのに気づいたんだ… 「はぁ、はぁ…あぁっ!?私のマントっ!?」 …このときまで、咄嗟に「ファイア」を唱えてたのに気づかなかったんだ。 …そして、このピンクの髪のおねえちゃんのマントをちょっと燃やしちゃったことも… 「…あ、ん、た、がやったのねぇ~!!! ツェルプストーっ!!!!」 「ゴ、ゴゴゴゴゴゴゴごめんなさ~い!!!! え?」 …気づいたら、おっきなトカゲ…かな?尻尾に火がついてるけど…がボクの足元にいたんだ… 「あら、ダメよ、フレイム~!いくらヴァリエールのでもマントを燃やしたりしちゃ…」 …まっ赤な髪の、おっきなおねえちゃんがケラケラと笑ってた …足元のトカゲはボクの左手を心配そうにペロッとなめてくれた …ぶっきらぽうだけど優しそうで…ちょっとサラマンダーを思い出した 「あんた、自分の使い魔の制御もできないの!?人のマント燃やしてくれて!!」 「あら、フレイムはそこのお人形さんが痛そうにしてるから心配になっただけよ?優しいでしょ? でも、尻尾の先にまさかあなたのマントがあるとはねぇ…まぁよかったじゃない、黒こげにならなくて!」 「キィィィィィィィ!」 …あ、マントを燃やしたのはトカゲくん…フレイムって言うのかな?のせいになってる…ゴメンなさい… 「はいっ、そこまでっ!!ミス・ツェルプストー、使い魔同士の友情は結構なことですが、 周囲に被害が及ばぬよう気をつけるように!ミス・ヴァリエールもマントの件はそのぐらいで!」 …頭のまぶしいおじちゃんが近づいてきて、ボクの左手をしげしげと眺めた 「ふむ、コントラクト・サーヴァントは無事成功のようだね。おや、珍しいルーンだな…しかも衣服の上に、か…」 …そう言ってボクの左手のスケッチをする…間近に太陽があるみたいで目がショボショボした… 「さてと、じゃあ皆教室戻るぞ」 「ルイズお前は歩いて来いよ」 「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』もまともにできないんだぜ」 「チビの人形みたいな平民、あんたの使い魔にはお似合いよ」 「あ、でもちょっと可愛くない?」 「そうかぁ?僕には不気味だけどなぁ…」 …みんながふわりと浮きあがる…レビテトでも使ったのかなぁ…? …まっかな髪のおねえちゃんもフレイムといっしょに空に浮かんで行ってしまった …青い髪のメガネの女の子が最後にボクをじっと見てからおっきなドラゴンと一緒に飛び去って …ピンクの髪のプリプリ怒ってる女の子とボクだけが原っぱに取り残された… 「あ、あの…えーと…ヴぁ、ヴァリエールおねえちゃん…?で、いいのかなぁ…?」 …さっき呼ばれていたのがきっと名前だろうと思ってそう声をかけた 「私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!!! 呼ぶんなら『ご主人さま』と呼びなさいっ!!あぁ、もうっ、何なのよっ!!!」 …おねえちゃんはすっごく長い名前だった。ダガーおねえちゃんの本名ぐらい… …『ご主人さま?』 「え、あ、あの、『ご主人さま』って、どういうこと…?ルイズおねえちゃん…?」 …呼びにくかったので、「ルイズおねえちゃん」って呼ばせてもらうことにした 「あんたは私の使い魔!!だから、私はあんたの『ご主人さま』よっ! …ま、まぁ『ルイズおねえちゃん』でもいいけど…」 …あ、良かった。この呼び方で良かったみたいだ…それにしても、使い魔って…?あれ?それよりも… …さっきからなんでボクは動けるようになっているんだろう…? 「もぅっ!!!ボーっとしてばっかりで!!そんなに貴族の部屋が珍しい!?」 「わ、え、あ、ゴメンなさい…広くて豪華だなぁ、って…」 …で、ルイズおねえちゃんの部屋に来てから今まで、ハルケギニアの話、貴族の話、そして使い魔の話を聞いたんだ …もしかして、ここはガイアやテラじゃないかもしれないって気づいたのはこのときなんだ …これだけ大きなお城みたいな学校、飛空挺で世界中まわったけれども見なかったもんね… …ルイズおねえちゃんによると、ここはハルギゲニアのトリステインって国の、トリステイン学院、魔法の学校なんだって …魔法の学校かぁ…ちょっと、ワクワクするなぁ…でも、貴族しか通えないんだって…ちょっと残念だなぁ …で、使い魔って、召喚獣とは違って、メイジ(魔道士に近いのかな?でも貴族らしいから違うかもしれない)とずっと一緒にいるんだって …で、えーと…か、感覚のきょーゆー?とかいうのと、魔法のための素材探し、それから、護衛なんていうのもやるらしい… …ボク、よくわからないけど、使い魔になっちゃったみたいだ…なんか色々大変そうだなぁ… 「はぁ…感覚の共有もできないし、田舎者すぎて薬草の知識も無い、護衛だって…そんなナリじゃね…」 「う…ゴメンなさい…」 …さっきから謝ってばっかりだなぁ… 「まぁ、いいわ、あんたには雑用とか、明日から色々やってもらうから!いいわねっ!!」 「あ、う、うん…」 「もうこんな時間だし、今日はもう寝るわ…あんたは床よ!」 「う、うん…」 …旅の途中で何回か野宿もしたし、床で寝るのは久しぶりだけど全然平気だ… …ともかく、死んじゃったって思ったら、まだボクには色々やれることがあるらしい…雑用だけど… …だれかのために何かできるんだったら、いいことじゃないかなぁと思うんだ…雑用だけど… …そんな色々なことを考えながら、寝ようとしたら、帽子の上に薄い布が飛んできたんだ 「それ、明日洗っときなさいよ!!」 「え?あ、うn」「返事は『はい』!」は、はいっ…」 …それは、下着だった… …ともかく、ルイズおねえちゃんの使い魔になっちゃったみたいだし、色々やってあげよう、と思ったんだ …それに、ルイズおねえちゃん、ちょっと怖いけど…うまく言えないけど…何か、ほっとけない気がするんだ… …だから、ジタン、みんな…ボク…がんばるよ… …おやすみ… ピコン ~おまけ~ ATE ―ルイズの1日― …もう、寝たのかしら? 「グゥ、グゥ」 …わ、わかりやすい寝方ね… ほんっと、今日は散々な1日だったわ… 召喚は何度も何度も失敗するし、 出てきたのはとんがり帽子の人形みたいな平民だし、 お気に入りのマントは燃やされるし…しかもあのツェルプストーの使い魔に! 何よ、サラマンダーが何よっ!た、ただの火を吐くトカゲじゃない! …うー、私ももっとすごい使い魔が欲しかったのに… …とんがり帽子をキュッキュッって直す仕草にちょっと「あ、カワイイ」とかときめいちゃったけど… …「ルイズおねえちゃん」って言われてうれしくなっちゃったりしたけど… いや違う違う違う!!!あれはほら、そう、母性本能!? いやいやいやいや違うわ、貴族!そう貴族として、平民を庇護しなければならないという責任感からくる感情よ、うん、そうなのよ!! …貴族として、よね。サモン・サーヴァントもコントラクト・サーヴァントも成功したんだし、もうゼロじゃないのよね、私… そうとなれば、この平民に貴族として明日から、みっちり良いところをみせなくてはね!! おねえちゃんとsってちっがーーーうっ!!貴族!き・ぞ・くとして!! …弟がいればこんなのだったのかなぁ… ちがうちがうちがうー、弟とかそんなんじゃなくてコイツは平民でーっ!あーもうっ!寝なくちゃ明日から通常授業なのにーっ! 眠れないのもみんなこの使い魔のせいよーっ!もーっ! ピコン ~おまけ2~ ATE ―どっかの作者の失敗― ディシ○ィアが出るうれしさで思わず初SS書いちまったなぁ… まぁ、ジタン召喚するのと迷った挙句(最強のFFは9かT、異論は認める) ビビ選んで良かった…初SSにしてはみんな期待してくれてるみたいだし… でも、だ… 失敗しちまったぁぁぁぁ!! 最初は「ビビ召喚でデルフ持ったらスタイナーなしで一人魔法剣使えるんじゃね?KH2で見せた剣術と組み合わせて…うはwww夢がひろがりんぐww」 って考えてたのにっ!!! デルフ魔法吸収しちゃうじゃんっ!!!魔法剣使えないじゃんっ!! ビビの最強奥儀「リフレク2倍返し」+「いつでもリフレク」しようとしてもデルフ吸収しちゃうじゃんっ!! 俺のばかぁぁぁぁぁぁ 前ページ次ページゼロの黒魔道士
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思えば、始まりはあのサモンサーヴァントであったのだろう。 と、キュルケは考える。 他の生徒がおのおのの使い魔を召喚する中、ルイズが召喚したのは、子供だった。 見たこともないような服装と、おかしげなしゃべりをしていたが、その態度や言動から察するに遠い異国の子供であるらしい。 これは色々まずいのでは? ミスタ・コルベールも、召喚してしまった本人であるルイズも相当困っていた。 けれど、本人も了承し(ちゃんと使い魔や召喚の意味を理解していたのかは甚だ疑わしいけれど)、無事契約は行われた。 まあ、その点はめでたしめでたしと言える。 が、ルイズにしてみればちいともめでたくなんかなかったようだ。 この使い魔、何の役にも立たないのだ。 小さな子供なのだからしょうがないのだが。 感覚の共有はできない(してもあまり意味はないだろうが)。 この辺は地理はわからないし、ちびっこなのを差し引いても、体力がないにひとしく、ちょっと走ったりするだけでもうのびてしまうので、秘薬の材料採集も無理。 同じ理由で、主人であるルイズを守ることも無理。 むしろ、いろんな意味でルイズが保護者にならなければならなかった。 連れて歩いてもすぐに伸びてしまうので、まるで子守みたいにルイズがおぶって運ばなければならず、その姿をキュルケは当初さんざんからかったりした。 また、ルイズも落ち込んだり周囲に噛み付いたり、けっこう荒れていた。 けれど、今ではすっかり落ち着いたようだ。 というか、落ち着きすぎ。 キュルケがからかっても半ば無視するようにかわしてしまうようになった。 とてもつまらない。 原因は、あの子供使い魔なのだろう。 見た目はけっこうかわいいが、貴族のせいかかなりわがままなのだ。 そのせいかトラブルを生み出すこともしばしばだった。 また、この子供が召喚されてきてから学院に変な虫だの、カラフルな子鬼だのが徘徊するようになった。 子鬼たちは子供使い魔の持っている変な板切れ(しゃくとかいうらしい)が目的らしい。 本人はわかってないのだろうが、ルイズは変わった。 前のようなとげとげとしたものがなくなり、焦りが感じられなくなった。 相変わらず魔法は失敗ばかり、でも不思議な余裕みたいなものがある。 胸は貧相なままだけど、少し大人になったようだ。 それはきっと喜ばしいことなのだろうけど、キュルケはちょっと寂しかったりする。 「ルイズ、おぶってたも」 「しょうがないわねえ」 子供使い魔にねだられると、ルイズはすっかり手馴れた動きで、使い魔を背負ってやる。 最近はすっぽり入るサイズのかばんに使い魔を入れ、それを背負うようになった。 首だけかばんからぽこんと出している姿は可愛いけど、間抜け。 そんなこんなで、魔法学院は今日も平和だ。 終わり -「おじゃる丸」の坂ノ上おじゃる丸を召喚
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前ページ次ページ虚無のパズル 港町ラ・ロシェールは、トリステインから離れること早馬で二日、アルビオンへの玄関口である。 港町でありながら、狭い峡谷の山道に設けられた、小さな町である。 人口はおよそ三百ほどだが、アルビオンと行き来する人々で、常に十倍以上の人間が町を闊歩している。 峡谷に挟まれた薄暗い街の一角に、はね扉がついた居酒屋があった。『金の酒樽亭』である。 ならず者がたむろする酒場で、しょっちゅう武器を付き合わせての喧嘩騒ぎが起きるので、 見かねた主人によって『人を殴る時はせめて椅子をお使い下さい』という張り紙がなされている。 さて、本日の『金の酒樽亭』は満員御礼であった。 「アルビオンの王様はもう終わりだね!」 「いやはや!『共和制』ってヤツの始まりなのか!」 「では『共和制』に乾杯!」 彼らは、アルビオンの王党派に付いていた傭兵たちである。王党派の敗色濃厚と見て、内戦状態のアルビオンから逃げ帰ってきたのだった。 そして、ひとしきり乾杯が済んだとき、はね扉が開いて、長身の女が一人現れた。 女はすみっこの席に腰かけると、ワインと肉料理を注文した。 女は目深にフードを被っているので、顔の下半分しか見えなかったが、それだけでもかなりの美人に見えた。 こんな汚い酒場に、こんなきれいな女が一人でやってくるなんて珍しい。店中の注目が、彼女に注がれる。 幾人かの男が、目配せしながら立ち上がり、女の席に近付いた。 「お嬢さん。一人でこんな店に入っちゃいけねえよ」 下卑た笑いを浮かべながら、男の一人が女のフードを持ち上げた。ひょお、と口笛が漏れる。 女が、かなりの美人であったからだ。切れ長の目に、細く、高い鼻筋。 女は『土くれ』のフーケであった。 フーケが男の手を、ぴしゃりと払いのけた。 すると一人の男が立ち上がり、フーケの頬にナイフを当てた。 「気の強いお嬢さんだ!でも気をつけなよ、ここは危ない連中が多いからな」 男はニヤニヤといやらしい笑いを浮かべている。 しかしフーケはナイフに物怖じした様子も見せず、身体を捻り素早く杖を引き抜いた。 素早く呪文を唱えると、男の持ったナイフが、ただの土くれに変わり、ぼとぼととテーブルの上に落ちた。 「き、貴族!」 男たちは後じさった。マントを羽織っていなかったので、メイジと気付かなかったのである。 「わたしはメイジだけど、貴族じゃないよ」 フーケはうそぶくように言った。 「あんたたち、傭兵なんでしょ?」 「そ、そうだが。あんたは?」 年かさの男が口を開いた。 「誰だっていいじゃない。あんたたちを雇いにきたのよ」 フーケはそう言って薄い笑いを浮かべた。 その隣には、いつの間にそこに現れたのか、白い仮面とマントを身に纏った男が立っていた。 魔法学院を出発して以来、ワルドはグリフォンを疾駆させっぱなしであった。 ティトォとギーシュは付いていくのがやっとで、途中の駅で二回、馬を交換したが、ワルドのグリフォンはタフで、まるで疲れを見せていなかった。 「ちょっと、ペースが早くない?」 抱かれるような格好で、ワルドの前に跨がったルイズが言った。雑談を交わすうち、ルイズの喋りかたは昔のような丁寧なものから、今の口調に変わっていた。 ワルドがそうしてくれと頼んだせいもある。 「ギーシュもティトォも、へばってるわ」 「ラ・ロシェールの港町まで、止まらずに行きたいんだが……」 「無理よ。普通は馬で二日かかる距離なのよ」 「へばったら、置いていけばいい」 「そう言うわけにはいかないわ」 「どうして?」 ルイズは、困ったように言った。 「だって、仲間じゃない。それに……、使い魔を置いていくなんて、メイジのすることじゃないわ」 「やけにあの二人の肩を持つね。どちらかがきみの恋人かい?」 ワルドは笑いながら言った。 「こ、恋人なんかじゃないわ」 ルイズは顔を赤らめた。 「そうか。ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて知ったら、ショックで死んでしまうからね」 そう言いながらも、ワルドの顔は笑っている。 「もう、人をからかって」 ルイズはぷいと顔を背けてしまう。 ギーシュが恋人?冗談じゃないわ。 確かに顔は可愛いけど、キザだし、落ち着きがないし、はっきり言って趣味じゃない。 おまけに彼女いるし。モンモランシーが。フラれたみたいだけど。 じゃあティトォは? そういえば、キュルケも姫さまもワルドも、彼の顔見ると『恋人?』なんて聞いてくるのよね。 そんなに恋人同士に見えるもんなのかしら。 そりゃまあ、四六時中一緒にいる男女なんて、恋人くらいのものかもしれないけど。 ……そういえば、わたし今ティトォと同じ部屋で寝泊まりしてるのよね。 男の子と一緒に暮らしてるのに、よく考えたら、あんまり意識したことなかったわ。 なんでだろ? 使い魔だから? わたしなんかよりずっと長生きしている、不死の人間だから? 違う世界の人だから? ……なんだか、そういうのじゃない気がする。 いい言葉が見つからないけど……、なんだか、ティトォのことは、よく分からない。 ルイズがもの思いに沈み、黙ってしまうと、ワルドがおどけた口調で言った。 「おや?ルイズ!ぼくの小さなルイズ!きみはぼくのことが嫌いになったのかい?」 その言葉に、ルイズは頬を染めた。 「だ、だって、親が決めたことじゃない。それに、もう小さくないもの」 ルイズは頬を膨らませる。 「ぼくにとっては未だに小さな女の子だよ」 ルイズは先日見た夢を思い出した。生まれ故郷のラ・ヴァリエールの屋敷の中庭。 忘れ去られた池に浮かぶ、小さな小舟……。 幼い頃、そこで拗ねていると、いつもワルドが迎えにきてくれた。 親同士が決めた結婚……。 幼い日の約束。婚約者。こんやくしゃ。 あの頃は、その意味がよく分からなかったけど……、今ならはっきりと分かる。結婚するのだ。 「嫌いなわけないじゃない」 ルイズは、ちょっと照れたように言った。 「でもワルド、あなた、モテるでしょ?貴族の憧れ、魔法衛士隊の隊長さんだもの。何も、わたしみたいなちっぽけな婚約者のことなんか相手にしなくても……」 「ぼくは決めてたんだ。父と母が亡くなって……、領地を相続してからすぐに、ぼくは魔法衛士隊に入った。立派な貴族になりたくてね」 ワルドは笑って、ルイズの顔を見た。 「立派な貴族になって、きみを迎えにいくって、決めてたんだ」 その言葉に、ルイズは顔を茹だらせて、俯いてしまった。 ワルドのことは、そりゃ、嫌いじゃない。確かに憧れていた。 でも、ワルドはルイズにとって、遠い思い出の中の人だった。 ワルドのことは、夢に見るまでずっと忘れていた。 ワルドが魔法衛士隊に入ってからは、会うこともなくなっていたし、婚約だって、とうに反故になったと思っていた。 それがいきなり、婚約者だ、結婚だ、なんて言われても……、ずっと離れていた分、本当に好きなのかどうか、まだよく分からない。 「旅はいい機会だ」 ワルドは落ち着いた声で言った。 「いっしょに旅を続ければ、またあの懐かしい気持ちになるさ」 「もう半日以上、走りっぱなしだ。どうなってるんだ。魔法衛士隊の連中は化け物か」 ぐったりと馬に体を預けたギーシュがぼやいた。 隣を行くティトォも同じように、馬の首にぐったりと上半身を預けている。 なんだか疲れきっていて、言葉を返すのもつらそうだった。 そんなティトォに、ギーシュが声をかけた。 「ぼくもあまり体力ある方じゃないけど……きみはまあ、ずいぶんと貧弱だねえ。そんなんで使い魔が務まるのかい」 「馬なんて乗ったことないんだ。大目に見てよ」 ティトォは苦笑しながら返す。 「ねえ。港町に行くのに、なんで山に登ってるんだろ?」 ティトォがそう言うと、ギーシュが呆れたように言った。 「きみは、アルビオンも知らないのか?」 「ぼくは、住んでいるところからあまり離れたことがないんだ」 この言葉の半分は真実であった。 ティトォたち不死の三人は、ここ50年ばかり、天然結界の中に引きこもっていたのだから。 そのときだ。 ふいに、ティトォたちの跨がった馬めがけて、崖の上から松明が何本も投げ込まれた。 松明は赤々と燃え、馬を進める峡谷の道を照らした。 「な、なんだ!」ギーシュが怒鳴った。 いきなり飛んできた松明の炎に、戦の訓練を受けていない馬が驚き、前足を高々とあげて、ティトォとギーシュは馬から投げ出された。 と、それを狙って、ヒュウと風を裂く音がした。 「危ない!」 ティトォがギーシュを突き飛ばす。次の瞬間、ティトォの肩に矢が突き刺さった。 ティトォはその衝撃で、地面に倒れた。 ひ、とギーシュが息を呑む。 「敵襲だ!」 ワルドの叫びとともに、無数の矢が崖の上から放たれた。 「わっ!」 もはやこれまでと、ギーシュは思わず目をつむった。そのとき……。 一陣の風が舞い起こり、それはみるみる大きくなって、小型の竜巻となった。 竜巻は飛んできた矢を巻き込むと、あさっての方に弾き飛ばした。 グリフォンに乗ったワルドが、杖を掲げている。 「大丈夫か!」 ワルドの声が飛んだ。 「ぼ、ぼくは大丈夫です。でもティトォが……」 ギーシュは震えながら答えた。 「ティトォ!」 ルイズが叫ぶ。 ワルドは地面に横たわるティトォの姿を見ると、チッと小さく舌打ちをして、崖の上を睨みつけた。 ワルドが崖の上に向けて、杖を振るおうとすると……。 そのとき、ばっさばっさと、羽音が聞こえた。どこかで聞いたことのある羽音である。 崖の上から男たちの悲鳴が聞こえてくる。どうやら、いきなり自分たちの頭上に現れたものに、恐れおののいているようだった。 男たちは夜空に向けて矢を放ちはじめた。しかし、その矢は風の魔法で逸らされた。 次に小型の竜巻が舞い上がり、崖の上の男たちを吹き飛ばす。 「おや、『風』の呪文じゃないか」 ワルドが呟いた。 「ワルド!わたしを降ろして!」 ルイズは叫ぶと、グリフォンから飛び降りた。 ワルドはあわてて『レビテーション』の魔法を唱える。 ふわりと地面に降り立ったルイズは、倒れるティトォと、その隣でおろおろしているギーシュの元へ駆け寄った。 「ティトォ!」 「大丈夫、心配しないで」 ティトォは痛みに顔をしかめながら、むくりと起き上がった。 動く方の手でライターに火をつけると、たちまち炎がティトォの全身に燃え広がった。 肩に突き刺さった矢が、ボン!と炎に押されて抜けた。 ティトォの傷は、みるみる消えていく。回復魔法『ホワイトホワイトフレア』の力であった。 それを見て、ルイズはほうと安堵のため息をついた。ティトォの魔法をはじめて見るギーシュは、目をぱちくりさせている。 「そうよね。あんた、不死の体だものね。心配することなかったわ」 ティトォがライターの炎を消すと、身体を包んでいた炎も消えた。 ルイズがふと上を見上げると、ワルドのグリフォンの姿がなかった。どうやら崖の上で、襲撃者たちの相手をしているようだった。 「ワルド、大丈夫かしら……」 「大丈夫だと思うよ。あの人、強そうだし。夜盗なんかには負けないよ」 「どうして夜盗だって分かるのよ。アルビオンの貴族の仕業かもしれないじゃない」 「貴族……メイジなら、弓なんて使わないでしょ」 あ、そうか、とルイズは小さく呟いた。 「それに、メイジが大挙して来てたら、ぼくたち生きてなかったかもしれないよ」 「なに言ってんのよ。あんた、不老不死なんじゃない」 「いや……」 ティトォが、崖の上を見上げたまま言った。 「確かに、この体は不死身……、どんなダメージをくらっても生き返る。強力な魔法によって、ぼくらの魂がつなぎ止められているからね」 ティトォはそう言って、胸の中心に手を当てる。 「でも、同じく魔法の力なら、ぼくらの魂と不死の体を結ぶ鎖を、ぶっちぎることができるんだ」 「え」 魔法の力なら。それって。 ティトォはやや緊張した面持ちで、言葉を続ける。 「そう、この魔法がありふれているハルケギニアでは、この不死の体の優位性は、だいぶ失われているかもしれないね」 横にいるギーシュは、何が何やら分からず、ぽかんと二人のやり取りを聞いていた。 やがて崖の上の騒ぎが収まると、ワルドのグリフォンといっしょに、見慣れた幻獣が姿を見せた。 ギーシュが驚きの声をあげる。 「シルフィード!」 確かにそれはタバサの風竜であった。その背中に、シルフィードの主人のタバサの他に、見慣れた赤髪の宿敵の姿をみとめ、ルイズは一気に不機嫌になった。 「何しにきたのよッ!ツェルプストー!」 キュルケはシルフィードからぴょんと飛び降りると、優雅に髪をかきあげた。 「助けにきてあげたんじゃないの。朝方、窓から見てたらあんたたちが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを叩き起こして、後をつけたのよ」 これはお忍びの任務なのよ、そんなこと知らなかったわ、などとやり合っているルイズとキュルケを尻目に、タバサはいつものように本のページをめくっていた。 キュルケに叩き起こされたままのパジャマ姿であった。 グリフォンが地面に降り立つと、ワルドは襲撃者のリーダー格とおぼしき人間を、三人ほどグリフォンの背中から突き落とした。 襲撃者たちは地面に投げ出され、口々にワルドたちを罵った。 「こいつらはただの物取りだそうだ。捨て置いてかまわないだろう」 そう言うワルドに、ルイズとの口論を切り上げたキュルケがにじり寄った。 「おひげが素敵よ。あなた、情熱はご存知?」 ワルドはちらっとキュルケを見つめて、左手で押しやった。 「あらん?」 「助けは嬉しいが、これ以上近付かないでくれたまえ」 「なんで?どうして?あたしが好きって言ってるのに!」 とりつく島のない、ワルドの態度であった。 「婚約者が誤解するといけないのでね」 そう言って、ルイズを見つめる。ルイズの頬が染まった。 「なあに?あなたの婚約者だったの?」 キュルケはつまらなさそうに言った。 キュルケはワルドを見つめた。 遠目では分からなかったが、目が冷たい。まるで氷のようだ。キュルケは鼻を鳴らした。 なにこいつ、つまんない、と思った。 ワルドはティトォに視線をやった。 「きみ、大丈夫なのかい?肩を射られたように見えたが」 「そうだよ!きみ!あの魔法はなんなんだい?傷を癒す炎なんて、はじめて見るよ!」 ギーシュも疑問をぶつけた。 ティトォは炎の回復魔法・ホワイトホワイトフレアのことを、二人が納得する程度に説明した。 その話を聞くと、ワルドもギーシュも、とても驚いたようだった。 目を見開いて驚く二人を見ると、キュルケはなんだか愉快になって笑った。 そうよ、やっぱりティトォの方がずっと面白いわ。 「許してちょうだい!ちょっとよそ見はしたけれど、あたしはなんたってあなたが一番心配だったのよ!」 キュルケがティトォにしなだれかかると、ティトォは困ったように笑った。 タバサはそんなキュルケを横目で見て、小さなため息をついた。 あれは友人の悪い癖であった。 ワルドは颯爽とルイズを抱きかかえ、ひらりとグリフォンに跨がった。 「今日はラ・ロシェールに一泊して、朝一番の便でアルビオンに向かおう」 一行は、ラ・ロシェールで一番上等な宿、『女神の杵』亭に泊まることにした。 ワルドが『桟橋』で乗船の交渉に言っているあいだ、一行は一階の酒場でくつろいでいた。 といっても、ギーシュとティトォは一日中馬に乗ってクタクタになっていたので、机に突っ伏して、半分死んでいた。 男連中の情けない姿に、ルイズはため息をついた。 「まったくもう、しゃんとしなさいよね。みっともない」 「アウアウアー」 「アウアー」 もはやまともな返事すら帰ってこなかった。 キュルケは介抱を口実に、ここぞとばかりにティトォに擦り寄ろうとしたが、ルイズが油断なくキュルケの行く手をブロックした。 何度かの攻防ののち、キュルケは鼻を鳴らした。 「欲張りね、ヴァリエール。あなたにはあの子爵さまがいるでしょうに。ティトォまでそばに置いておきたいの?」 「違うわよッ!」 そんなんじゃない。 ティトォは確かに、今一番身近な男の子だし、優しく接してくれるけど…… なぜか彼と話していると、心に引っかかるものがある。 それが、ルイズにティトォと一定の距離を置かせるのだった。 だから、ティトォが他の誰かと付き合うことになったとしても、ルイズは多分、素直に祝福できるだろうと思っていた。 しかし…… 「ツェルプストーの家には、小鳥一匹くれてやるわけにはいかないわ」 色ボケの家系(キュルケ曰く『恋する家系』だそうだが)であるツェルプストー家は、ヴァリエール家の恋人を誘惑し続けてきたのだ。 今から二百年前、キュルケのひいひいひいおじいさんのツェルプストーは、ルイズのひいひいひいおじいさんの恋人を奪ったのである。 さらに、ルイズのひいひいおじいさんは、婚約者をツェルプストーに奪われた。 さらにさらに、ひいおじいさんのサフラン・ド・ヴァリエールなど、奥さんを取られたのである。 そんなわけで、使い魔をキュルケに取られるようなことになったら、ご先祖様に申し訳が立たないのであった。 そうやって二人が睨み合っているところに、困った顔をしながらワルドが帰ってきた。 「アルビオンに渡る船は、明後日にならないと出ないそうだ」 「急ぎの任務なのに……」 ルイズが口を尖らせる。 机に突っ伏した男二人は、内心喜んだ。これで明日は休んでいられる。 「どうして明日は船が出せないの?」 アルビオンに行ったことのないキュルケが尋ねる。 「明日の夜は月が重なるだろう?『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンがもっともラ・ロシェールに近付くのさ」 ワルドは鉤束を机に置いた。 「さて、じゃあ今日はもう寝よう。部屋を取った。キュルケとタバサは相部屋だ。そして、ギーシュとティトォが相部屋」 そう言いながら、部屋の鍵をそれぞれに渡して行く。 「そして、ルイズとぼくが相部屋だ」 ルイズがはっとして、ワルドを見る。 「婚約者だからね、当然だろう?」 ひゅう、とキュルケが口笛を吹いた。 貴族の子女らしからぬ行為だったが、キュルケがやると妙に様になっていた。 「大胆ね。もっとも、殿方は強引なくらいがいいのかもしれないけど」 キュルケの野次に、ルイズは顔を耳まで真っ赤に染めた。 「そんな、ダメよ!まだ、わたしたち結婚してるわけじゃないじゃない!」 ルイズはうろたえて、叫んだ。しかしワルドはルイズを見つめて、呟いた。 「大事な話があるんだ、二人きりで話したい。部屋で待っていてくれないか」 キュルケとタバサ、幽霊のようにふらふらしたギーシュ、俯いて顔を真っ赤にしたルイズは、それぞれの部屋に向かって行った。 後には、机に突っ伏してへばっているティトォと、その向かいに腰掛けたワルドが残された。 指一本動かせないほどの疲労が、ティトォの身体を机に縫い付けていた。 ホワイトホワイトフレアを使い、魔法の炎を身に纏えばこの程度の疲労は一瞬で回復するのだが、こんなことに魔法を使うのも情けない話なので、やめておいた。 ティトォはふと、何十年か昔のことを思い出していた。 『おいティトォ。聞いたぜ、もうすぐメモリア発つんだってな』 そうティトォに話しかけるのは、不死の体を手に入れてから出来た、かけがえのない友人、バレットだ。 『三人で話し合ったんだ、ぼくらだけで暮らそうって。今まで匿ってくれてありがとう』 『三人だけか、気をつけろよ。なんなら護衛でも付けるか』 『父ちゃん、護衛なんていらねーって。アクアやプリセラが千人分つえーよ』 無邪気に言うのは、バレットの幼い息子、グリンだ。 『ま、そりゃそーか』 『でもティトォも強くなんないとだめだぞ!』 『そうだ、お前はもっと強くなってから帰ってこい!』 『はあ……』 そんなやり取りを思い出して、ティトォは苦笑いした。 (魔法や『技』を鍛えることはしたけど……、やっぱもっと体力付けなきゃダメかな) ワルドはティトォの前に、コトンとワインの入ったグラスを置いた。 「あ、ありがとうございます」 コップの中身をぐいと飲み干すと、ティトォはやっと上半身を起こし、ワルドに礼を言った。 ワルドの前にもワインの入ったグラスが置かれている。ワルドは人の良さそうな笑顔で、ティトォを見ていた。 「部屋、行かなくていいんですか?ルイズが待ってますよ。あ、でも、まだあの子学生だし、あんまり強引なのはどうかと思うんですけど」 ティトォは自分で言っておいてなんだけど、大きなお世話だよなあ、と思った。 しかしワルドは気分を害したふうもなく、ティトォに話しかけた。 「きみと話がしたくてね。使い魔くん」 「ぼくと?」 「フーケの一件で、ぼくはきみに興味を抱いたのだ。先ほどグリフォンの上で、ルイズに色々聞かせてもらった。なんでもきみは、系統魔法とは異なる理の魔法を使うそうじゃないか。 実際、ぼくもこの目で見させてもらったが、いやはや驚いたよ。『火』が傷を癒すとはね。おまけにきみは、伝説の使い魔『ミョズニトニルン』だそうだね」 どうやらルイズは、不死の身体のことは黙っていてくれたようだ。しかし、おや?とティトォの心に疑問が浮かぶ。 誰が『ミョズニトニルン』の事を話したのだろう。それはルイズも知らないことのはずであった。 ぼくは歴史と兵に興味があってね。フーケを尋問した時にきみの話を聞き、王立図書館で調べたのさ。その結果『ミョズニトニルン』に辿り着いた」 「はぁ。勉強熱心ですね」 「ああ、何しろルイズの使い魔が、彼女と歳の近い男ときたもんだ。婚約者としては、気が気じゃなくてね。色々調べておかないと気が済まないのさ」 ワルドは冗談めかして言った。 「あはは。ぼくはルイズの使い魔です。そんなんじゃありませんよ」 ティトォは苦笑した。 「心配なら、なおのことルイズのそばにいてやった方がいいんじゃないですか。ぼくも部屋で休みます。もう、慣れない馬で疲れちゃって」 「待ちたまえ」 ティトォは席を立とうとしたが、ワルドがそれを引き止めた。 「使い魔というのは、契約の段階で主人への愛情と忠誠を植え付けられる。そうでなければ、野生の動物を側に置くことはできないからね。 しかし、きみは人間だ。きみがそういった呪縛にかかっているようには見えない。ならば、人が人に仕えるには、何か理由があるはずだ。忠誠か、束縛か、それとも恋慕か……」 ワルドの顔からは先ほどまでの笑みが消え、真剣な表情になっている。 「魔法衛士隊の隊長なんてやっていると、色々汚いものも見ることが多くてね。いつの間にか、人の顔を読むのが得意になってしまった。だが……」 ワルドは、ティトォのその人形のような瞳を見つめた。 「きみの顔からは、なにも分からない」 ワルドとティトォの間に、しばしの沈黙が流れた。 「きみは、何を考えている?なぜ、ルイズに仕えているんだ?」 ティトォは、静かに席を立った。にこりと笑って、ワルドの問いに答える。 「ぼくはルイズの友達です」 それで説明としては十分だろう、と言った口ぶりだった。 「それじゃあもう、失礼しますね。ワイン、ありがとうございました」 ティトォが去っていくと、ワルドは小さく鼻を鳴らした。 得体の知れない少年だ、とワルドは自分のグラスのワインをぐいと飲み干した。 前ページ次ページ虚無のパズル
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前ページ次ページ魔法騎士ゼロアース 「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ! 強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」 「サモン・サーヴァント」の呪文を唱えては爆発の繰り返し。 20回目くらいから「フフ、フフフフフ」と時折怪しい笑い声を発しだしたルイズがとうとうやった。 爆発の光とは違う輝きが生まれた。それまでルイズを馬鹿にしていた生徒も息を呑む。 (やった! ついに私の使い魔を召喚できたのね!) 間違いなく成功だとルイズの目は輝きを取り戻した。 しかも、なんだか凄い当たりを引き当てたに違いない。 グリフォン? ドラゴン? どこかの国の聖女? いや最後のはマズイか。 (ああ、早くその姿を私に――) 「ぷぅ」 「ぷぅ?」 光が収まり、ルイズの目の前に姿を現したそれは――― 「ぷっぷぅ!」 あまりにも、もこもこふわふわしていそうな謎の生き物だった。 「プッ……アハハハハ!! あ、あんまり笑わせてくれるなよ!」 「そうかそうか! 何の奇跡が起きたと思ったが『ゼロのルイズ』が召喚に成功したことか!」 「そうだよな、それだけで奇跡だよな! 良かったじゃないか、進級を奇跡で乗り切ったな!」 周りの生徒達は、その使い魔の姿を見て爆笑する。 「これこれ、みんな静かに! ともあれミス・ヴァリエール、召喚成功おめでとう」 「あ、ありがとうございます、ミスタ・コルベール」 「さあ、早くコントラクト・サーヴァントを」 自らの使い魔に近づくルイズを、もこもこした生き物はじっと見ている。 「ぷぷ~?」 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 両手でもこもこを抑える。 (わっ、見た目通りふわふわだ) そのまま契約の口付けを交わす。 「ぷ、ぷぷー!?」 契約完了の証が、もこもこの体の中心……人間でいう胸の部分に浮かぶ。 (あれ? 今頭の飾りが……) もこもこの頭についた赤い飾り……それが、一瞬黄色くなったように見えた。 (赤に戻ってる……気のせいだったのかしら?) 「ほう、珍しいルーンだな。それに見たことのない生き物だ」 ささっとルーンをスケッチするコルベール。 「さあ、みんな教室に戻りますぞ」 生徒はみんな空を飛んでいく。 「ルイズは歩いて来いよ!」 「ルイズの奴、フライどころかレビテ……あれ?」 ルイズへの悪口を言っていた一人……風上のマリコルヌが空を飛びながら辺りを見回す。 「どうしたんだい、マリコルヌ?」 「いないんだ、僕の使い魔が……クヴァーシル、どこだい!?」 クヴァーシルとはマリコルヌのフクロウの使い魔だ。空を飛んだ彼についてくるはずだが姿が無い。 「ロビン、ロビンー?」 香水のモンモランシーもまた、自分の使い魔であるカエルを探していた。 「どうしたっていうのかしら。ね、もこもこ……?」 ルイズがもこもこのいた場所に視線をやると、何もいなかった。 せっかく召喚した自分の使い魔まで何処かに行ってしまったのかとあわてて辺りを見回す。 「あ、いたいた」 後姿だが、白いふわふわしたアレは間違いない。 「ちょっと、勝手に……」 モコナが振り返り、ルイズは固まった。 「……ね、もこもこなの。あなた、そんな形が歪だったかしら?」 なんだか、もこもこは口の辺りが変形している。何かを口の中に入れているようだ。 「なんだが、口の中で暴れてるわね。その輪郭、すごく鳥みたいなんだけど」 もこもこは体を横に振る。口から鳥っぽい足が見えた。 「あらそう、なら鳴いてみなさい。さっきみたいにぷぅぷぅって」 一瞬の間。そして。 「ケロッケロッ」 「モンモランシーの使い魔もかああああ!!!」 頭を引っぱたくと、口から二匹とも元気に飛び出てきた。 「このもこもこな……ああもう、言いにくいわね。この際名づけてあげるわ。 あんたは、もこもこな生き物だから……モコナよ!」 ビシーッと指差して名づけるルイズ。 こくこくと頷くモコナ。 適当につけた割に素直ね、と思うルイズだったが本名なんだからしょうがない。 その夜。 モンモランシーとマリコルヌに散々怒られ、ルイズは自分の使い魔を椅子に縛り上げた。 「今日一日、椅子の上で反省してなさい!」 そう言って授業に出て、この時間まで戻らなかったのだ。 「ちょっと、悪いことしたかしら」 あの行為も、お腹が空いていたとかそういう理由だったのかもしれない。 だったら今、お腹を減らして泣いているかもしれない。 「ただいま。ごめんね、モコ……」 部屋の中、椅子の上にはロープのみ。 見事脱出されていた。ついでに部屋がメチャクチャに荒らされてた。 現在進行形で。 「ぷっぷぷー!」 「こ、こんの珍獣――!!」 ガーッと飛びかかるルイズをひょいとかわし、モコナは窓を開けて飛び降りた。 「ちょ、馬鹿! ここは塔の……」 耳をパタパタと羽ばたいて降りているモコナ。 「ど、どこまで不思議生物なのよあいつは……」 かなりすごい生き物なのではないか、と思いつつもコケにされている今は喜ぶ気にもならない。 「ご主人様と使い魔の差ってやつを理解させてやるわ! 主に肉体言語で!」 荒れた部屋を飛び出すルイズ。 「うるさいわねえ、何の騒ぎよ……って何これ、また魔法の失敗?」 騒ぎが気になったキュルケは、荒れたルイズの部屋を見て唖然とする。 「あれは……」 外に、小さな白いふわふわを追いかけるルイズの姿があった。 「あれって、ルイズの使い魔よね。遊ぶんだったら、違う時間にしなさいよね……」 遠目から見ると、追いかけっこしているようにしか見えない。 ルイズが騒ぎを起こすなんていつものことだと、キュルケは部屋に戻っていった。 「ぜえ、ぜえ、ぜえ……ど、どんだけ逃げ足速いのよ、あいつ……」 「捕まりませんでしたね、ミス・ヴァリエール」 「まったく、どこに逃げたのか……あれ?」 いつの間にか、モコナを捕まえるのに加わっていたメイドを見る。 「あんた、何でモコナのこと追いかけてるの?」 「ええ!? ミス・ヴァリエールが「その白いの捕まえてー!」って仰ったんじゃないですか!」 記憶を思い返すと、そんなことがあったような気がする。 「あー、そうだったかも。悪いわね、手伝ってもらって」 「いえ、お手伝いするのはメイドの仕事ですから」 そういうメイドもバテバテだ。ルイズも疲れが一気に出てきたので、モコナを捕まえるのは諦めることにした。 「もう帰るわ、どこ言ったのかもわからないし……手伝ってくれて本当にありがとう、ええと……」 「シエスタと申します。それでは、お休みなさいませ」 そのままお互い帰路に着いた。 「う、嘘でしょ……?」 ベッドの上で、モコナが眠っていた。 「ここここ、この使い魔。 クックベリーパイと一緒に食べてやろうかしら」 叩き起こしてやろうかとも思ったルイズだったが、走り回った疲れから睡魔が襲ってきた。 「好き勝手絶頂に暴れまわって、た、ただで済むと……思わないことね」 フラフラとベッドに歩み寄り、倒れこむ。 「ん……罰として……ご飯抜き、なんだから……」 そのまま、散らかった部屋もそのままにルイズは夢の中へと意識を沈めていった。 ちなみに、ルイズは知る由も無いことだが、モコナがロビン等を口に含んでいたのはふざけていただけ。 モコナは食事を必要としない生き物なのだった。 その頃、図書館ではコルベールがルイズの使い魔のルーンを調べていた。 「中々見つかりませんな……」 図書館の奥、教師のみが閲覧を許される「フェニアのライブラリー」から始祖ブリミルの使い魔たち、と書かれた本を手に取る。 「これは……ガンダールヴのルーン、ヴィンダールヴのルーン、ミョズニトニルンのルーン。 それぞれ記述に似た特徴があるが、しかしどれとも違う……いや、まさか」 ならばと、コルベールの脳裏に一つの詩のような唄が思い浮かぶ。 神の左手ガンダールヴ。 勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右につかんだ長槍で、導きし我を守りきる。 神の右手がヴィンダールヴ。 心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。 神の頭脳はミョズニトニルン。 知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を詰め込みて、導きし我に助言を呈す。 そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……。 四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……。 「まさか、最後の一人……それが?」 コルベールは伝説の使い魔に狙いを絞り調べることにした。 この図書館の全てを調べても、記されていない使い魔のことなど載っていない。 それでも、どこかにヒントがあるのではとコルベールは自身の探求欲が抑えられなかった。 だが、コルベールとて辿り着くことはないだろう。 その有名な唄に誤りがあることに。 最後の一人は、けして始祖ブリミルの「僕」などではないことを。 前ページ次ページ魔法騎士ゼロアース
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朝、目が覚めたキュルケは着替えを終えると鏡の前に座り、化粧を始める 今日は虚無の日、休日である 確実に誘惑するにはどんなメイクをしようかと、考えながら鼻唄をする 化粧を終え、自分の部屋を出て、ルイズの部屋のドアを開けたが空っぽであった 「相変わらず色気の無い部屋ね。それにしてもダーリンは何処へ行ったの?」 すると外からヒヒーンっという声が聞こえてきた 窓から覗くと二頭の馬とそれを引っ張る二人、ロムとルイズだ 「おっと!頬を舐めるのは止めてくれないか?そうだ、ははっ可愛いな」 「あんた馬に乗った事あるの?」 「いやないな。俺の世界には動物に変形できる者もいるが」 「なんでもありねあんたの世界は・・・・、さあ行くわよ」 二人は馬に股がり走って学院を後にした 「あの二人・・・・、街へ行くのね!こうしちゃいられないわ!」 キュルケはそう言って部屋を後にした。 タバサは虚無の日が好きだ、読書によって自分の世界が形成できる日、彼女にとってはそれ以外は他人と戯れるありふれた世界である この日も自分の回りに音を消す魔法、『サイレント』をかけて何時もの世界と自分を遮断して自分の世界に入り浸る そんな自分を元の世界に引き戻す者が表れる キュルケだった 彼女は自分の部屋の鍵を禁止されているはずの『アンロック』で解除して入ってきた 慌てた様子で彼女は大袈裟に声を出すモーションをとっている 本来なら自分の読書を邪魔する者は『ウインド・ブレイク』で吹き飛ばすのだが、相手は数少ない友人のキュルケである しかたなく、タバサは本を閉じて魔法を解除した 「タバサ。今から出かけるわよ!早く支度して頂戴!」 「虚無の曜日」 「わかっている、貴方にとって虚無の曜日がどんな日だか痛い程知っている でも今はそんなけと言ってられないの。恋なのよ恋!」 会話からどれだけこの二人が対照的なのかがよくわかる キュルケは感情で動き、タバサは理屈で動く それぞれを例えるなら火と水のようなものだが何故か仲がよかった 「そうね。あなたは説明しないと動かないよね。 あたしね、恋をしているのよ!あの人に!でもあの人はにっくいヴァリエールと出掛けたの!あたしはそれを追いかけたいのよ!」 それを聞いたタバサはやっとで動きだした 「ありがとう!じゃあ動いてくれるのね!」 少し涙目のキュルケにタバサは頷いた、そして窓を開けて口笛を吹きシルフィードを呼んだ 実の所タバサがキュルケの願いを受け入れたのは2つの理由がある 1つはキュルケが親友であること いつも一緒にいる友人のだから共に助け合うのが筋なのだろうか もう1つは彼女の追跡対象があのルイズの使い魔であることである ギーシュとの決闘で彼はとんでもない物を見せてくれた 平民でありながら風の塔の上に立ち、名乗り、飛び降りる そしてゴーレムを自らの拳と脚で砕く、魔法を使わずしてそんな平民見た事がない あの時タバサは本で読むようなリアリティを生で感じる事によって彼に興味を持ったのだ 今日も何か面白い物を見せてくれるかもしれない 理由はそれで十分であった 二人を背に乗せてドラゴンはばっさばっさと力強く羽ばたき、宙を浮いた 「いつ見てもあなたのシルフィードには惚れ惚れするわ」 キュルケが赤い髪を靡かせ感嘆の声をあげる 「どっち?」 タバサが尋ねる 「わかんない・・・・慌ててたから」 そしてタバサが命じる 「馬二頭、食べちゃだめ」 シルフィードは小さく鳴いて、蒼い鱗を輝かせ、空を泳ぐように翔んだ 一方学院の宝物庫の前に一人の女性、ミス・ロングビルが立っていた 鉄でできた巨大な扉を見上げ手を当て、慎重に辺りを見回した後ポケットから杖を取り出すと呪文を呟きそれを振る しかしバチッと電撃の様なものが走る 「どうやらアンロックは効かないようね・・・・この調子だと『錬金』も効かないようですし、さて、どうしましょ」 扉を見つめていると足音が聞こえてきた 一週間前より激務で禿げてしまったコルベールであった 「おやミス・ロングビルこんな所でなにを」 「あらミスタ・コルベール、実は・・・・宝物庫の目録を作っておりまして」 いや、それは大変ですなぁと禿げがテカるコルベールが笑う そしてロングビルは少しくだけた感じで話し、尋ねた 「ねえ、ミスタ・コルベール」 「はっはい、なんでしょうか」 ハゲコルベールが少し惑った感じで聞く 「宝物庫の中に入った事はありまして?」 「ありますとも」 「では、・・・・をご存知で」 「いやぁ、それが見た事があると言えばあるのですが何やら他のガラクタ、もとい宝と比べると厳重に保管されてましてな」 「それで・・・・?」 「恐ろしくてちゃんと見た事がないのですよ」 ロングビルはふむ・・・・と呟く 「わかりました、とても参考になりました。ではまた昼食の時間に」 「あ、はいそれでは」 (やはり強攻突破しかないようね、タイミングは今夜。ウフフ、一体どんなお宝なのかしら?) (それにしても綺麗だった、昼食も楽しみですな) それにしてもこの禿げのオッサン、迂濶である 所変わってそこはトリステインの城下町 ロムはルイズと人が賑わう道を歩いていた 貴族らしい格好が見当たらないので殆んどが平民の様である 老若男女が歩き、走り、喋り、それぞれ店を持ち、果物や肉や、篭を売る人たちで賑わう 「売っている物は違えどどの世界でも街は賑わうものなのだな」 「そんなの当たり前でしょ、じゃあ早速武器屋に行くわよ」 どんどん進んでいくと回りに看板が増えていく ×印の看板だったり薬瓶の看板だったり様々だ 「商売人は立派ね、あんな物まで売るなんて あっあれよ!」 ルイズが目の前の剣の形の看板を下げた店に指をさす 「あ~あ暇だねぇ、こんなに天気がいい日に金貨をドーンと置いて行く気前のいい客は」 「客よ、ちょっといいかしら」 (本当に来やがった!)「い、いらっしゃいまし貴族様!この店になんの様で・・・・」 「剣を買いに来たに決まっているじゃない。あいつに合った剣を探してほしいんだけど」 ロムは店の中にある剣を真剣な目付きで眺めている そんな様子を見て店主はニヤリと笑う 「お連れの騎士様は?」 「剣が欲しくて欲しくて堪らないから私が買ってあげる事にしたのよ」 「これは何という慈悲深い貴族様!いや~そんな貴女にはきっと民衆は尊敬するでしょう!」 ルイズが少しにやける、満更でもないようだ (こりゃ、鴨がネギしょってやってきたわい。せいぜい高く売り付けようか) 「店長!少し聞きたい事がある!」 突然のロムの大声に驚く主人 「な、なんでしょうか」 少しおどけた感じで聞く 「この店には狼の印が入った剣はあるか」 「狼の印ですかい?いや~そんな物はないですねい」 「そうか・・・・、すまん邪魔したな」 ロムは店から出ようとするがルイズに引き留められる 「ちょっと!折角人が買ってあげるって言っているのにそれは無いでしょ!」 「しかし目的の物がなければ仕方ない・・・・」 「か・い・な・さ・い!嫌ならまたドカンよ!」 ロムはギクッとした顔を見せた後 「見ていこう」 あっさり落ちた 「も~ダーリンったら何処へ行ったの!?」 後を追って街に着いたキュルケとタバサ 「このままじゃルイズに先を越されるじゃないの~」 っとキュルケが喚いているとタバサが顔の前に杖を出す 「・・・・あれ」 「あれ・・・・ってダーリンとルイズ!?」 武器屋からルイズとロムが出てきた、ロムは腰に鞘を付けて手に持った剣を眺めていた 「ゼロのルイズったら~!私にダーリンとられたくないからってプレゼントで気を引くつもりね! こうしちゃいられないわ!タバサ、ここでちょっと待っててね!!」 キュルケは武器屋に向かって走っていき、タバサふう、と息を吐いて再び本を読み始めた 「あんた本当にそんなボロい剣でよかったの?」 ロムに向かって少し呆れたような声を出すルイズ、すると 「ボロいボロいうるせえな娘っ子!こちとら伊達に長生きしてねぇんだぞ!」 なんとロムの持つ錆びた剣から声が出てきたではないか 「なんですってー!このボロ剣!」 「二人とも落ち着け、とにかくこれから宜しく頼むなデルフリンガー」 「おうよ相棒!へへっやっぱり強い奴が主人だと気分がいいな!」 この喋るボロ剣、デルフリンガーのこと魔剣インテリジェンスソードを買ったのはこのような経緯があった 店の主人はルイズが貴族である事を良い事に大剣を市場相場では有り得ない値段で売りさばこうとしていた。 それでルイズが主人に交渉している時、突然声が聞こえた 「おい、そんなん買わねえ方がいいぞ。そこの親父はがめついからてめえらからぼったくるつもりなんだよ」 ルイズとロムは思わず声の出所に振り向いたが、誰もいなかったので不思議に思っていると主人が突然怒鳴った 「やい!デル公!お客様に失礼な事を言うんじゃねぇ! 貴族に頼んでドロドロに溶かしてやるぞ!」 「やってみやがれ!どうせこの世にゃ飽きた所だ!」 「それってインテリジェンスソード?」 ルイズが当惑しながら尋ねる 「そうでさ若奥様。意思を持つ魔剣インテリジェンスソードでさ。 でも口が悪くて悪くてこいつのせいで何人も客が逃げたことか・・・・」 主人が愚痴を溢していると 「面白そうだな」 っとロムが興味を持ち、喋る剣を手に取った 「おいこらに俺にさわんじゃねぇ・・・・てあれ?」 さっきまでの大声が急に小さくなった 「おでれーた。てめー『使い手』か」 「『使い手』だと?」 「それにかなりの修羅場を越えてやがるな・・・・」 「それはあっている」 「面白ぇ、てめ、俺を買え」 「・・・・わかった、買う、マスターこいつで頼む」 するとルイズが嫌そうな顔になる 「え~~そんなのにするの?もっと綺麗でしゃべらないのにしなさいよ」 「しゃべる剣なんて面白いじゃないか。俺の世界には人を操る剣はあったがしゃべる剣は無かったぞ」 今さらりとトンでもない事を言った気がしたが・・・・取り敢えず他に録な剣が無いので買うことにした 「あれ、おいくら?」 「百で結構ですわ、あとこれはあいつの鞘、これを付けていれば黙りますぜ」 「じゃあはい、これで」 「毎度」 こうしてルイズとロムは店を後にした この後すぐにキュルケが入店し、彼女のお色気攻撃によって主人は店一番の業物を超格安の値段で泣く泣く手放す事になる 「・・・・所でデルフリンガー」 「なんでい相棒」 「お前は狼の印が付いた剣を知っているか?」 「知らねえな」 「そうか・・・・」 おまけ 食堂にて シエスタ「おかしいわね、ロムさん昼頃になっても会えない・・・・。一体どうしたんだろ」 「昨日は酷い目にあったよ・・・・まさか彼女に燃やされるなんて」 「ああまさかキュルケがあの平民と付き合っているなんて」 シエスタ(ピクッ) 「あの平民許さないよ、きっと彼女はアイツに誘惑されたんだ」 シエスタ(ピクッピクッ) 「でも彼女は強い人が好きだなんて言っていたからな・・・・」 「いるわけがいないよなぁ、風の塔から飛び降りる平民なんて」 シエスタ(!!!!) 「僕も『フリッグの舞踏会』で風の塔から飛び降りたら彼女は振り向いてくれるかなぁ」 「それじゃ足が折れて踊れないだろ」 「問題はそれじゃない、あそこから落ちたら死んじゃうから!」 「ハハハハハハハ」 シエスタ(・・・・・・・・・・・・) 続く?
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前ページ次ページゼロの氷竜 ゼロの氷竜 十八話 「……そこまでにしておけ」 ブラムドが声をかけなければ、おそらくルイズはキュルケの左腕に噛みついていた。 それも、数日は跡が消えないほどの強さで。 キュルケはなぜると言うよりは手のひらを押しつけるといった方が相応しい行為を取りやめ、ルイズを抱え込んでいた左腕を解放する。 二人は互いに顔を背けているが、その表情は怒っているものではない。 さらには時折、互いを伺うように視線を投げている。 目線があった瞬間、全力で顔を背ける動作は鏡に映したかのようだ。 照れ隠しと見て取ったブラムドは安心し、ゆるんだ表情を正しながら改めて声を発する。 「さて」 少女たちが、その声に視線を集める。 「ルイズ、お前は何にために魔法を求める?」 その問いに、ルイズは即答できなかった。 魔法を使えることは、メイジであること、すなわち貴族であることの前提となる。 しかし、魔法を使えることが貴族であることか。 ……違う。 自問に、ルイズの心が即座に答えを返す。 次の瞬間、ルイズの口は自然に動いていた。 「私は、お父様やお母様のような立派な貴族になりたい」 その目は、真っ直ぐにブラムドへと向けられている。 「平民は貴族のためにあり、また貴族も平民のためにある」 幼い頃から聞かされた父の教えが、無意識に口をつく。 「平民に平民の仕事があるように、貴族にも貴族の役割がある」 魔法が存在するため、平民の手に負えない冶金、建築、医療などの技術。 オーク鬼などに代表される脅威の排除。 戦時における国土の防衛。 「そして……」 ルイズのまぶたの裏に、シエスタの、親友の姿が浮かぶ。 「平民に敬意を持ち、平民から尊敬されるような立派な貴族になるために……」 その輝かしい貴族像は、現在の大多数の貴族にとって絵空事に過ぎない。 だが、そんな貴族であろうとする少女も存在する。 さらにルイズは言いつのる。 「使い魔の主として相応しい存在であるために……」 主の、あたかも自らに挑むような視線を、使い魔は心地よさを覚える。 「私は魔法が使えるようにならなければならない」 形を成していなかった思いが、言葉によって目標に変わる。 進むべき道を見出したことで、ルイズは四肢に力がみなぎるのを感じていた。 キュルケはルイズの瞳に映る炎を見ていた。 かつて自らが点火した、怒りによるどこか薄暗い炎ではない。 目標を得た人間の輝かんばかりの炎を、キュルケは少し目を細めながら見ていた。 タバサはルイズの様子を見て微笑む一方、キュルケの表情を見て思う。 ……まるで姉妹。 微笑むタバサは自覚していない。 その柔らかな感情が、自らの心を覆う氷を溶かす小さなきっかけになっていることを。 ただそれが良いことか悪いことか知り得る人間は、この時存在しなかった。 数瞬の沈黙が、草原をなぜた。 ブラムドは笑みを浮かべながらルイズの瞳を見据え、歌い上げるように宣言する。 「では我は持てる力の全てと、かつて友より授かった全ての知識を以て、お前が系統の魔法を使えるようにして見せよう」 その使い魔の言葉は、主にとって全幅の信頼を置くに値した。 気付けば少女たちは車座になり、教師に対するようにブラムドの話に耳を傾けていた。 「魔法の元となる力に関していえば、我の知る魔法もこの世界の魔法も変わりはない」 そうでなければ、ブラムドの魔法がギーシュの魔法を防ぐことはできない。 「だが、我のマナとお前たちのマナは明らかに異なる」 「まな?」 聞いたことのない響きに、少女たちの表情は困惑に変わる。 その表情に、ブラムドは微笑みながら言葉を重ねた。 「名前などはどうでもよい。要は魔法を使う為に必要な力だ」 重要なことは、ルイズにもマナを扱うことができるということ。 ブラムドはそういい連ねる。 分厚い氷に閉ざされた宝を、どれほど望んでも、誰に頼っても手に入らなかった宝を、手にとることができるということだ。 ルイズにとって、それはまさしく福音に他ならない。 さらに話を続けようとしたブラムドは、やおら開きかけていた口を閉じて沈思する。 ……四つの系統魔法。 ……シュヴルーズとグラモンは土、モンモランシは水。 ……残るは、火と風か……。 「キュルケ、タバサ、お前たちはいずれの系統の魔法を得意とする?」 不意の問いかけに虚をつかれ、キュルケはつい素直に答えを返してしまう。 「私は火、タバサは風を得意としています」 「それは良かった」 笑顔で投げかけられた言葉に、少女たちははっきりと困惑の表情を浮かべた。 「我が見たことのあった魔法は、シュヴルーズとグラモンの土、モンモランシの水だけだったのでな。良ければお前たちの魔法を見せてもらいたいのだが……」 ただ続くブラムドの言葉を聞き、少女たちはその意図を理解する。 キュルケはルイズを一瞥し、胸を張って言葉を返す。 「構いませんわ」 タバサもまたルイズを一瞥し、言葉少なにブラムドへ答える。 「わかった」 今日の朝、キュルケとの和解など夢にも思わなかったルイズであれば、その一瞥を優越感からの自慢と受け取っただろう。 あまり話したことのないタバサの行動も、良いようには受け取れなかったに違いない。 だが今日という一日。 ほんの一日の出来事で、ルイズはキュルケとタバサの行動が自分を手助けするためだと理解できるようになった。 あえて口にすることはなくとも、ルイズの心には二人に対する深い感謝がある。 二人もまた、ルイズがその感謝を素直に口に出さないことを理解していた。 まずはキュルケが杖を構えた。 「ウル……」 キュルケが魔法を使い始めると同時に、『魔力感知』を使ったブラムドの目には二つの存在が映し出される。 マナと、それをはめ込む為の枠だ。 土のメイジのマナは、絡んだ紐のような形。 ギーシュがワルキューレを作り出した後は、ほどかれて主とゴーレムをつないでいた。 水のメイジのマナは、球状。 ただ水の精霊力と交じり合った瞬間、それは泥のように重く溶け、傷口へと注ぎ込まれた。 そして火のメイジのマナは、針を十字に組み合わせたような形。 水のそれとは全く異なる。 「……カーノ」 ルーンを唱え終わり、魔法が発動する瞬間、枠とマナの大きさや形は完全に一致していた。 杖の先から炎が発し、やがて勢いをなくして収まる。 「これが火の最も基本的な、発火の魔法です」 さらに意識を集中させながら、キュルケは次の魔法の準備に入る。 「そしてこれが、トライアングルの魔法ですわ」 キュルケにとって、友人たちやブラムドに対して自分の能力を隠す必要性はない。 戦乱の時代に生まれたわけではなく、今の立場は学生に過ぎないからだ。 何より、先刻ブラムドが使った『火球』の呪文がどれほどの威力であるのか、自身の魔法を使うことで確かめたかった。 ブラムドの目には、キュルケが頭上に構えた杖の先に生まれた大きな枠と、それにあわせるように膨らんでいくマナが見えている。 マナを見ることができないルイズとタバサの目には、キュルケの頭上で徐々に膨らんでいく火球の姿が映し出されていた。 やがてルーンを唱え終わると同時にそのマナが枠にはまり、キュルケの魔法は草原に黒い円を生み出す。 爆風が四人の頬に触り、色の変わった草原の一部から白い煙が立ち上る。 結果を見れば、魔法によって草と土が燃えただけに過ぎないが、キュルケとタバサにとってはそれ以外にも多くの情報を有していた。 燃えた草の色やその範囲、草や土の焼け焦げた臭いとくすぶる煙の様子。 それは魔法学院に所属する中でも特に優秀といえる二人のメイジにとって、十分な説明をされているに等しかった。 範囲こそキュルケの火球が上回っているが、それ以外の全てはブラムドの『火球』に軍配が上がる。 燃えた草の色は、ブラムドの黒色に比べればキュルケのそれは茶色に近い。 単純に魔法の威力に差があるとしてしまえばそれまでだが、そんな言い訳はキュルケのプライドが許さなかった。 上位にスクウェアという存在がいる以上、最も優れたメイジだなどと思ってはいない。 とはいえメイジとして、自分の能力を高めたいと思うのは当然のことだ。 結果を比較することで、キュルケは自らの魔法に足りない部分を認識する。 それは、教室の中では得ることのできない経験だ。 威力が散漫になっているのなら、集中する手段を考えればいい。 キュルケは敗者であることを認識していたが、その顔はむしろ晴れやかだった。 一つには、自分が心の中で勝手に持ちかけた勝負であるに過ぎないこと。 もう一つは、ゆるみがちだった向上心を刺激する良い材料になることがわかったからだ。 キュルケに比べそれほどやる気のなかったタバサも、そのことを理解してわずかに意欲を見せる。 「キュルケ、感謝する」 「いえ、お気になさらないでください」 ブラムドの言葉に、キュルケは笑顔で言葉を返す。 そのやりとりを聞きながら、タバサは数歩踏み出した。 足音を聞き、三人の視線がタバサへと向けられる。 タバサは一度深呼吸をし、奇妙な彫像と化した『木の従者』へ向けて杖を構えた。 「デル……」 風の枠は、四つの三角形を貼り合わせたような形。 もしブラムドにその知識があれば、それが正四面体と呼ばれるものだとわかっただろう。 「……ウィンデ」 杖の先から発した風の刃が、『木の従者』の頭を横に断ち割った。 ……なるほど。 土、水、火、風、ブラムドはそれぞれの特徴を認識する。 「……どうせならライトニングクラウドとか、見える魔法の方が良かったんじゃない?」 キュルケの言葉に、ブラムドは少し驚いた。 元々フォーセリア世界の魔術師が使う魔法には、風に属する攻撃の魔法は数少ない。 思い返してみれば、精霊使いが使う風の魔法をただの人間が見ることはできないと聞いた。 マナや精霊力を感じ取ることのできるドラゴンや、精霊力を見ることのできる精霊使い。 そしてマナや精霊力を見る魔法を使える魔術師でなければ、それは見ることが出来ないものなのだ。 本来見えないものを見ることが出来るということは、闘いに際して十分な優位性といえる。 ブラムドにとって、フォーセリアとハルケギニアの魔法の違いと共に、心に刻み付けておくべき事柄だった。 キュルケのいうことを意識していなかったタバサは、ほんの少し頬を染めた。 改めてタバサが唱え始めた魔法は、風と水の融合魔法であるアイス・ストーム。 ルーンを理解しているルイズやキュルケは、使おうとしている魔法がどういったものか予想がつく。 しかし、ハルケギニアのそれとは異なるルーンを使うブラムドにとっては、タバサがどんな魔法を使おうとしているかわかるはずがない。 ところが、枠を作り出してからマナを当てはめていくというハルケギニアの魔法の性質で、ブラムドの目には先刻とは違う枠の形が映し出されていた。 平らだったはずの三角の面が、丸く膨らんでいる。 どちらかといえば、球体に角が生えているような形状といえた。 水と風、双方の特徴を併せ持っている。 ……混ぜることができるのか? ブラムドの推論を裏付けるように、タバサの魔法が発現した。 『氷嵐』のように発生した白い霧が、『木の従者』の周囲を回り始める。 それと同時に霧が氷の粒に変わり、徐々に膨張し始めた。 大きさを増した拳大の氷が回転速度を増しながら、『木の従者』へと襲い掛かる。 樹皮を削り、脆くなっていた腕や体内から伸びた氷柱をへし折っていく。 タバサにとって予想通りではあったが、その殺傷力はブラムドの魔法とは比較にならない。 防具を整えた人間や、強靭な肉体を持つオーク鬼などには通用しないだろう。 そのかすかな落胆を、同じ思いを味わったキュルケだけが読み取る。 嵐が収まり、『木の従者』の残骸だけが残された。 土、水、火、風、全ての系統を確認し、ブラムドはタバサへ感謝の言葉を贈る。 それを横目に、ルイズはキュルケとタバサ、二人へ感謝を伝えるすべを考えていた。 二人が魔法を使って見せたのは、ブラムドに頼まれたからではあるが、それが自分のためであることも理解している。 単に感謝の言葉を口にすれば良いのだが、ルイズはそれに強い照れくささを感じていた。 眉間にしわを寄せながら頭を巡らせたルイズは、ふとブラムドの言葉を思い出す。 今朝、それまで見たこともない魔法を使ってマジックアイテムを作り出し、ルイズへと手渡しながらいわれたことだ。 ――金の女王はルイズ、お前のものだ。 ――他の金の駒は、お前の友に渡すがよい。 ――友に危機ある時、助けることが出来るやもしれぬ。 ……友……友達。 朝にそういわれたとき、ルイズの頭に浮かんだのは一人だけ。 学院の中で友と呼べる人間は、シエスタだけだった。 だが今、友と呼んで思い浮かぶ相手は一人だけではない。 しかも贈り物という形をとれば、感謝の言葉を口にする必要もない。 ルイズにとって、それはとても素晴らしいことに思えた。 まずは、隣に立っていたキュルケへ声をかける。 「キュルケ」 振り向いたキュルケの眼前に、金で出来たチェスの駒、司祭が突きつけられていた。 「何? これ」 「ブラムドに魔法を見せてくれたお礼よ」 一度手に取ったキュルケだったが、ルイズの言葉を聞いて返そうとする。 礼を期待してしたことではないのだから。 返却を口にしようとしたキュルケの心に、ブラムドが『心話』で話しかける。 ……受け取っておけ。 心に話しかけられるという衝撃に、キュルケは開きかけていた口を閉じる。 ……それを持っていれば、こうして話しかけることも出来る。 ……ルイズには、友に渡せといってある。 ……わかりましたわ。 ルイズが自分を友と思っているとは口に出来ないことを、キュルケはよくわかっている。 礼の言葉を素直に口に出来ないことも。 あえて、キュルケは満面の笑みでルイズへ礼を言った。 「ありがとう、ルイズ」 キュルケの予想通り、ルイズは顔を真っ赤にしながら返事をする。 「べっ! 別に大したことじゃないわ!!」 顔を背けながら、ルイズはタバサへと歩み寄り、金の騎士を差し出す。 わずかに困ったような表情を浮かべながら、タバサはキュルケとブラムドが自分に向かって頷きかけるのを確認する。 目の前のルイズの少し不安げな表情を見て、タバサは無言で金の騎士を受け取った。 「受け取ってくれてありがとう」 ルイズの言葉に、タバサはほんの少し、微笑んだ。 渡された駒を、どこか嬉しそうに眺める二人の少女を横目に、使い魔は主へと問いかける。 「ルイズ、お前はどの系統の魔法を使いたい?」 二人の少女が、ゆるんでいた頬を凍り付かせた。 メイジの系統は、資質であり適性だ。 自らが得意とする系統を見出し、磨き上げることはあっても、決して選ぶものではない。 不得手とする系統の魔法も使うことは出来るが、得意とするメイジとは威力が全く異なる。 ルイズもまた、そのことは良く理解していた。 伊達や酔狂で勉学に励んでいたわけではないのだから。 しかしルイズは幼い頃に一度、使うことを願った系統があった。 ルイズの脳裏に、一人の女性の姿が思い浮かぶ。 ヴァリエール公爵家の次女、カトレアの姿だ。 それは幼いルイズがどれだけ母にしかられようとも、決して魔法をあきらめなかった理由。 ルイズがちいねえさまと呼ぶ彼女は、生まれつき体に不自由を抱えている。 体を使うことも、魔法を使うことも、カトレアにとっては過度の負担になってしまう。 そんな苦難を抱えていてなお、いや抱えているからこそか、カトレアはヴァリエール公爵家の女性に似つかわしくない、熾火のような暖かさを持っていた。 いつも優しく接してくれるこの姉を、ルイズは誰よりも愛している。 ただ優しく微笑んでいるように見えたその表情に、ルイズはいつしか儚さを見出す。 それはカトレアの重荷を理解できたことで、ルイズ自身が投影していたものかもしれない。 長女であるエレオノールは体の弱い妹のため、王立魔法研究所で研究をしている。 幼いルイズもまた同じく、体の弱い姉のために何か出来ることを探す。 ルイズがかつて求めた系統は、水であった。 とはいえ、ルイズが水の使い手になったとしても、カトレアのためになる可能性は低い。 父であるヴァリエール公爵は国内外を問わず、高名な水魔法の使い手を招聘している。 それでも、カトレアの体が治ることはなかった。 今さら自分が水の系統に目覚めたところで、と考えながら、ルイズはふと思いつく。 「ブラムド、治癒や回復のための魔法を使える?」 その言葉に、誰よりも過敏に反応したのはタバサだった。 それに気付いたのは、隣に立っていたキュルケだけであったが。 「使えるが、その魔法は我に対してしか使えぬ」 「そう……」 落胆しながらも、ルイズはすぐに思考を切り替える。 ブラムドを召喚した折、オスマンのいった言葉を思い出す。 ――ミス・ヴァリエールの才能は、わしを軽々と凌駕するものじゃろう。 その言葉が、真実であれば……。 「……私は、水の魔法が使えるようになりたい」 キュルケはルイズ以上に落胆の色を見せる、タバサを気にかけていた。 一方で、強い意志の炎を燃え上がらせたルイズの瞳を確かめる。 その輝きの大きさに、キュルケは小さな寂寥を感じていた。 ……もう、私の手助けはいらないのかしらね。 その反面で、自らの努力が実を結んだことに対しての喜びもある。 まるで、巣立ちを見守る母鳥のような。 「わかった。しかし、今日はもう遅い。始めるのは明日からにしよう」 ブラムドの言葉で、三人の少女たちは思った以上に月が傾いていることを知る。 「じゃあ、帰りましょうか」 ルイズの提案に、何故かブラムドは首を振った。 「しばし待っておれ」 そういいながら、ブラムドは『暗闇(ダークネス)』を使う。 月の光さえも通さない漆黒を生み出し、ブラムドは無言でその中へと入っていった。 疑問を浮かべた顔を見合わせた少女たちは、いくつかの音を聞くことになる。 衣擦れの音と、おそろしく大きな羽ばたき。 服を脱ぎ、竜の姿へと戻ったことが読み取れたが、それから先の音の正体を知るのは、しばらく後のことだった。 生木を引き裂くような音、雹が降り注ぐような音、大木をへし折るような音。 やがて音が止み、再び衣擦れの音が響く。 そして唐突に消え去った漆黒の中心に立つ、先刻と変わらないブラムドの姿。 だがその周囲に広がっていた光景は、少女たちを驚かせるに十分なものだった。 前ページ次ページゼロの氷竜
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前ページ次ページゼロ・HiME 「この学院で教えているのは魔法だけじゃないわ。メイジはほぼ貴族で『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を受けているの。だから、ここも貴族の食卓に相応しいものでなければってことね」 寄宿舎から学院で一番高い中央の本塔にある食堂につくと、物珍しそうに食堂を見回す静留に向かってルイズは得意げに説明する。 「凝った内装やらテーブルの上にある豪華な料理からしてそんな感じやね……ほな、うちは外で待ってますわ」 「えっ、なんでよ?」 「テーブルの上の豪勢な食事は貴族さん達のためのものですやろ。平民でしかも使い魔のうちが同席するわけにはいかんと思いますよって」 静留の言葉にルイズはしまったという表情を浮かべる。昨日は召喚に成功したことで頭がいっぱいで静留の食事の手配を忘れていたのだ。まともに使い魔の食事も用意できないなんて主人としての沽券に関わる。 「どうしたらいいかしら……そうだ、ちょっとそこのあなた!」 ルイズは少し思考した後、配膳のために傍を通ったシエスタに声をかける。 「はい、なんでしょうか? あ、シズルさん」 「仕事中どすか、シエスタさん」 静留が気づいて駆け寄ってきたシエスタに声をかけると、ルイズが怪訝な表情でたずねる。 「ん? シズル、なんで名前知ってるの?」 「ルイズ様を起こす前、洗濯しにいった時に知りおうたんどす」 「ええ、そうなんです。それで何のご用でしょうか、ミス・ヴァリエール?」 「実はシズルの食事のことなんだけど。厨房の方に話して手配しておくのを忘れてしまって……悪いんだけどシズルに何か食べさせてあげて欲しいの」 シエスタに用件を尋ねられ、ルイズが言いずらそうに答える。 「ああ、それなら余り物で作った賄いでよろしければ」 「それでいいわ。お願いね、シエスタ」 「はい、お任せください。では、シズルさん、こちらへ」 「ルイズ様、食事終わったらすぐ戻ってきますさかいに」 ルイズに一言断ると、静留はシエスタの後について厨房に入っていった。 「ごちそうさんどす、シエスタさん」 「いえ、どういたしまして。食事の際は遠慮なくおいでくださいね、シズルさんの分をちゃんと用意しておきますので」 厨房で出されたシチューとパンを平らげた静留が礼を言うと、シエスタは照れたようにはにかむ。 「コック長のマルトーさんどしたか、このシチューや食堂の料理といい、ええ仕事してはりますな」 「おっ、うれしいこと言ってくれるじゃねえか、お嬢ちゃん! 気に言ったぜ、飯以外にも何か困ったことがあったらいつでも来な」 静留の賛辞に恰幅のいい中年のコック長のマルトーが、上機嫌で笑って答える。 「そうどすか。そんの時はよろしゅう」 「おう、いいってことよ。平民は平民同士、助けあわねえとな!」 「そうどすな。ほな、うちはルイズ様のとこに戻りますわ」 静留はマルトーの言葉に答えて一礼すると、食事が終わったルイズと合流して教室へと向かう。 ルイズが静留を連れて教室に入ると、先に来ていた生徒達から一斉に無遠慮な視線が飛んできた。 あからさまな嘲笑や囃し立てる声が沸き起こるが、ルイズはムッとしたように顔をしかめただけで、そのまま無視して席についた。その横に静留が立って控える。 (しかし……ほんに使い魔いうんは化け物やら動物しかおらへんのやね) 周囲の使い魔を見回し、改めて自分が召喚されたのは普通ではないのだと静留が思っていると、教室の扉を開いて教師が入ってきた。 「みなさん、春の使い魔召喚は大成功のようですね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 中年のふくよかな女性教師――シュヴルーズが教室を見回して満足そうな表情でそう言うと、ルイズは気まずそうにうつむく。 「おやおや、また変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴェリエール」 シュヴルーズが静留を見てとぼけた声でいうと、教室中から笑い声がおきる。 「おい、ルイズ! 召喚できないからってその辺に歩いていた平民の女を連れてくるなよ」 「違うわよ、きちんと召喚したもの! 喚んだのがたまたま平民だっただけよ」 「嘘つくな、『サモン・サーヴァント』ができなかっただけだろう?」 からかった生徒とルイズとの間でたちまち言い争いになるが、シュヴルーズはからかった生徒の口を塞いで強引に場を収め、授業を再開させた。 「シズル、魔法の授業なんか聴いてて楽しいの?」 授業中、シュヴルーズの講義を興味深そうに聞いている静留を見て、ルイズが不思議そうに尋ねる。 「そやね、自分が知らん知識を見聞きするんは楽しいおすな。まあ、元のとこでも学生どしたから、懐かしいんのもあるかも知らんけど」 「そう……」 どこか遠い目をして答える静留にルイズは何も言えず黙り込む。 (そういえば恋敵に好きな人を託して死んだって言ってたっけ……その人のことでも思い出してるのかしら) そんなことをルイズが考えている間にも授業は進み、錬金で小石を金属にする実習が行われることになった。 「……では、ミス・ヴァリエール、あなたにやってもらいましょう」 「え、私ですか?」 「そうですここにある石ころを、金属に変えてごらんなさい」 突然、指名されたルイズがうろたえて視線を彷徨わせていると、キュルケがシュヴルーズに声をかける。 「先生、危険です。やめといたほうが……」 「錬金に何の危険が? それに失敗を恐れていては何も変わりません。さあ、ミス・ヴァリエール、やってごらんなさい」 「やります」 キュルケの忠告は聞き入れられず、実習をすることになったルイズは硬い表情で石の置かれた教壇の前に向かう。周囲の生徒が一斉に慌てて机の陰に隠れる。 「ミス・ヴァリエール、緊張せずに錬金したい金属を思い浮かべばよいのです」 「はい」 シュヴルーズに後押しされたルイズは呪文を唱え始めると、小石に眩しい光が収束していく。 「これは……あかん!」 小石の発光に危険を感じた静留が『殉逢』を実体化させ、その刃先をムチ状にしてルイズに放った瞬間、爆発が起こった。 爆発に驚いた使い魔達が暴れ出し、逃げたり噛みついたりして教室は悲鳴が入り混じる阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。 「だから言ったのよ、ルイズにやらせるなって! あれ、ル、ルイズは!?」 キュルケはそう言って教壇を指差すが、そこにルイズの姿はなかった。 「そんな、うそでしょ……」 「ここやよ、キュルケさん」 キュルケは最悪の状況を想像して呆然していたが、教室の後ろの方から聞こえてきた声に反応して振り向くと、そこにルイズをお姫様抱っこした静留の姿があった。 「この通り、ルイズ様は無事どす。安心してや」 「ちょっと失敗したみたいね」 無傷のまま静留の腕に抱かれた格好でルイズが憮然としてそう言うと、教室中の生徒から非難の声が巻き起こる。 「どこがちょっとだよ! ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないか!」 (なるほど、それでゼロいうんやね) 本人の表情と周囲の反応から、静留は何故ルイズがゼロと呼ばれているのかを理解したのだった。 前ページ次ページゼロ・HiME