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朝~授業 ルイズは夢を見ていた。 昨日行われたばかりの、コントラクト・サーヴァントの景色の情景。 ルイズの呼び声に応えてこの地に現れたのは、見たこともない服装の、黒髪の少年だった。年の頃はルイズと変わらない。 使い魔として平民を召喚してしまったことに落胆しながらも、ミスタ・コルベールにうながされ、 はやし立てる同級生たちを意図的に無視して唇を彼に近づける。 そうしながらルイズは奇妙に高揚した予感に胸を満たされた。 気に入らない。全然気に入らないんだけど、あるいはこの少年となら…。 そして、二人の唇が触れるか触れないかの刹那―― 「コーホー」 それまでスヤスヤと寝息を立てていた少年の口から漏れた呼吸音に、ルイズは唐突に 現実に引き戻された。 「起きたか」 悪夢の続きのような声だ。寝起きから最悪の気分のルイズが頭を巡らすと、ベイダー卿は 窓から外を見ていた。 例のごとく、腕組み仁王立ちの傲岸なポーズで。 マスクから響く威圧的な呼吸音にはなかなか慣れそうもない。 声をかけながら、彼はルイズの方を見ようともしなかった。 振り返りもせずにルイズが目を覚ましたことを感じ取っていた辺り、やはり不気味だ。 「は、早起きね…」 沈黙に耐え切れずに先に口を開いたのはルイズだった。 だがベイダー卿は応えない。 「あ、あんたも悪い夢でも見たの?」 「僕は夢を見ない。そう訓練されてきた」 「そ、そう…」 取り付く島もない。だが、畳み掛けるようなベイダーの口ぶりにはほんの少し違和感があった。 何かを思い出しているのだろうか。 「太陽は一つなんだな」 またいきなりだった。 「……? 当たり前でしょ」 「それがいい。二つ以上は余計だ」 「……?」 発言の真意は汲み取れないものの、とりあえず朝食の時間が迫っている。 昨日交わした約束に則り、内心の怯えを隠しながらルイズは命じた。 「ふ、服」 「自分で取った方がいい」 「い、いいから!」 貴族の自負と怖れの板ばさみ。今回は前者が上回ったようだ。 ベイダーが窓の外を向いたまま無言で手首を軽く振ると、椅子にかかっていた制服が ベッドの上のルイズの手元まで動いた。 「し、下着」 再びベイダー卿の手振りに従い、クローゼットの一番下の引き出しが開いて下着が 飛んできた。 魔法さえ成功すれば自分もできるはずのことを、杖も持っていないベイダーにさも当然の ごとくされるのはちょっと腹立たしい。 それ以上に、それを振り向きせずにこなしてしまうベイダーが底知れない。後ろに目でも ついているんだろうか。 さすがに服を着せてとは言えなかった。ルイズはネグリジェを脱ぐと自分で制服を身に着けた。 「じゃ、じゃあ朝ご飯に行ってくるから」 マントを羽織り、ドアを開けながらルイズは遠慮がちに言う。ベイダーは物が食べられないので 同席はしないそうだ。 ルイズが戸口をくぐろうとしたところで、ベイダーは半身を巡らせ、ルイズを直視した。 「メイ・ザ・フォース・ビー・ウィズ・ユー、マイ・マスター」 それに何と応じたらいいのかわからず、ルイズは軽く手を挙げて部屋を出た。 一人残されたベイダー卿は再び腕を組み、窓の外を見る。 たとえベイダー卿が単身でこの星を脱出する手段がないとしても、皇帝が必ずこの惑星を 感知するはずだ。 こんな星があることは今まで知られていなかったし、あるいは既知の銀河系の範囲外なのかも しれない。だが皇帝は彼を超えるダークサイドの熟達者だ。その点に心配はない。 もっとも、多少時間はかかるかもしれないが。未知の航路をハイパースペース・ドライブで 移動するには厳密な計算も必要だ。 場合によっては戦争になるかもしれないが、昨晩ルイズと話し合って把握できた範囲で 推測すれば、この星の文化レベルでは一方的な虐殺になるだろう。 しかし、それよりも気がかりなのは… 組んだ腕を解き、ベイダー卿は自分の左手の甲を見た。 見たこともない文字がそこに刻まれていた。 「一体僕の身に何が起こった…」 くぐもったその呟きは、分厚い石造りの壁に吸い込まれた。 気絶したベイダー卿はひどく重く、レビテーションで運ぶにしても途中で一度交代が 必要だった。 ちなみに、ルイズの代わりにギーシュとタバサが運んでくれた。 コントラクト・サーヴァントの結果、その左手の甲には見たこともないルーンが刻まれていた。 勉強熱心なルイズの知識にもないルーンだが、そもそもこんな生物が召喚されてくるのも 前代未聞なので、とりあえず気にとめないことにした。問題は山積みだ。 ただ変人のコルベール先生だけは興味を引かれたようで、そのルーンのスケッチを取っていた。 ベイダーはルイズの部屋に運び込まれ、とりあえず床に放置された。 召喚直後の暴挙はともかく、契約が終わった後なら主人に危害を加えることはあるまいと 判断されてのことだ。 ベイダーが目を覚ましたのは夜だった。 というか、顔がマスクに覆われているため本当のところいつ目を覚ましたのかよくわからない。 第一声はまた「パドメ」。一体誰だろう。 それから二人の間に持たれた話し合いはそれ程長くはかからなかった。 ベイダーの態度は今度はだいぶ紳士的だった。 ベイダーはどこか別の星から来たとか何とか言っていたが、ルイズに理解されないのが わかるとすっかり諦めたようだ。 「銀河帝国」、「ハイパースペース」、そして「フォース」……彼が力説していた未知の用語の数々。 「ねえ、ベイダー」 「“卿”か“ダース”を付けろと言ったはずだ」 「だーすって何よ?」 「シスの暗黒卿に対する敬称だ」 「あんたの二つ名だっけ?それはともかく、あんたって友達少ないでしょ」 「……」 結局、超空間航法どころか宇宙に出る手段さえないことがわかると、ベイダーは珍しく 落胆した様子だった。 結果としてベイダーが帰還するための方途を見つけられるまで、ルイズは生活の糧と この土地の知識を提供し、一方のベイダーはルイズに対して従者の礼を取るという約束が 両者の間で取り交わされた。 ルイズが貴族であるという事実が、少しばかり功を奏したらしい。 「僕は貴婦人の扱いには慣れてるんだ」 笑えないジョークだった。 夜も更けた。 寝床としてルイズが用意した藁束をにべもなく拒絶し、ベイダー卿は書き物机の前の 椅子に座った。どうやらそこで眠るつもりらしい。 ネグリジェに着替えたルイズは、消灯する直前になって、ふと昼間のルーンのことを 思い出した。 「そう言えばあんたの手の甲のルーン、コルベール先生が興味津々だったみたいだけど、 ちょっと見せてくれる?」 「ルーン?これのことか」 ベイダー卿が左手を裏返して甲を示した。 「うーん、やっぱ見たこともない形ね。一応わたしも写しをとっておこうかな。もっかい見せて」 「ちょっと待て」 ベイダー卿はルーンが刻まれた手を少しいじると、もどかしそうにその表皮を脱ぎ捨てた。 「ちょっ……」 「ただのグローブだ。気にしなくていい」 その下から現れた金属製の義手をカチャカチャ動かしながら、こともなげに彼は言った。 ルーンが着脱可能な使い魔 ♪ありえないことだよね 教室は一種異様な雰囲気に包まれていた。 コントラクト・サーヴァントの儀式の翌日。クラスメートに向かっての新しい使い魔の お披露目的な様相を呈する朝一番の授業。 さながら多種多様な珍獣たちが織り成すショータイムだった。 だがそこに、明らかに周囲から浮いた存在感を放つ人影が鎮座していた。 言わずと知れたベイダー卿である。 使い魔を教室に連れてくるか否かは主人次第であるが、ベイダー自身が出席を強く 希望したのである。 だが… 「コーホー、コーホー」 「ミス・ヴァリエール、あなたの使い魔はもう少しなんとかなりませんか?」 使い魔たちがみな静かにしているとは限らないのだが、ベイダー卿の呼吸音はやけに 規則正しいだけにどこか威圧的で、生徒たちの集中をかき乱すことこの上ない。 授業を担当するミス・シュヴルーズがとうとう耐えかねて注意した途端、教室に妙な 解放感が漂った。 「はい、ええと…」 ルイズが隣の席に巨体を収めたベイダーの方をちらっと見る。 しかしベイダーは腕組みしたまま意に介したそぶりもない。 当然ながら眉一つ動かさない。 「気にせずに授業を続けるがいい」 貴族に対する口の聞き方もなっていない。 「でも迷惑なのです。あなたのその呼吸音。コーホー、コーホーって」 ベイダー卿が種族としては人間であり、しかもメイジではないことは彼自身から 言質がとれていた。つまり、この世界での身分でいえば平民であるということだ。 興味津々といった風情の同級生たちに、既にルイズは朝食の席で彼女が理解できた 範囲でベイダーとの話し合いの内容を語って聞かせていた。 平民の使い魔というのもなんだけど、余計な恐怖心を抱かれる方がもっと心配だった。 結果、一部の生徒は昨日ベイダー卿が見せた力への警戒を緩めることはなかったが、 大部分は貴族としてのプライドの方を優先し、あからさまにベイダーとルイズを見下し 始めていたのだ。 ベイダーの呼吸音はそんな生徒たちの神経を逆なでしていたものの、自分が率先して 注意する筋合いでもないので我慢していたのである。 ミス・シュヴルーズが注意してくれた時、そんな生徒たちがいっせいに清涼感を味わって いた。 「教室から出て行ってはもらえませんか?」 温厚な中年女性であるシュヴルーズだが、貴族としてのプライドが虚勢を後押しし、 一見丁寧なその言葉の中にも有無を言わさぬ迫力が込められていた。 「あの、ミス…」 どうにかして弁解しようとするルイズを片手で制してから、ベイダー卿はさらに不遜な 態度で声を発した。 「僕はこの教室にいてもいい」 すると… 「あなたはこの教室にいてもかまいません」 一瞬呆けたような表情を浮かべ、ミス・シュヴルーズは復唱した。 「お前は気にせずに授業を続ける」 「わたしは気にせずに授業を続けます」 「代わりにあの生徒が廊下に立つ。」 ベイダーが一人の少年を指差した。 「ミスタ・グラモン、廊下に立ってなさい」 「ええっ!?」 「さっきのあれ、どうやったの?」 ルイズがベイダー卿に尋ねたのは、二人だけで授業の後始末をしてる最中だった。 「フォースの基本だ。心の弱い人間ほど簡単に動かすことができる」 「心が弱いって、相手はれっきとした貴族でメイジなのよ?」 「フォースの前では何というほどのこともない」 言いつつベイダー卿が軽く手をかざすと、砕けた花瓶の破片が集まってくずかごに 飛び込んでいった。 一方のルイズはススだらけになった床の拭き掃除をしていた。 「ねぇ、ベイダー」 「卿を付けろと言ったはずだ、マスター」 「……あんたさっきから突っ立ってるだけじゃない。なんでわたしがこんな肉体労働を …ブツブツ……」 「そんなことを言うのはどの口だ。二度と声を出せなくするぞ」 ギーシュが去った教室ではその後順調に授業が進んでいったものの、『錬金』の実演を 求められたルイズが石ころに向かって杖を振り下ろした途端に爆発が起こり、何もかもが 台無しになった。 「ちょっと失敗したみたいね」 そう言ってボロボロの姿のルイズがスス交じりの黒い煙を吐き出した時には、ミス・シュヴルーズは 爆発のあおりを受けてひっくり返り、あらかじめ机の下に避難していた生徒たちにも被害が 及んでいた。 教室の中はさながら阿鼻叫喚の地獄だった。 「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」 そんな怒号が響き渡る教室の外では―― 「きっ、君はいつの間にここに?」 「フォースの導きだ」 唯一被害を免れたのは、廊下に立たされていたギーシュと、爆発の直前に誰にも 感知されないスピードで教室を出ていたベイダー卿だけだった。 ミス・シュヴルーズはその後2時間息を吹き返さず、ルイズは教室を可能な限り掃除して おくことを命じられた。 罰として魔法を使うことは禁じられていたものの、ルイズは元々ほとんど魔法が使えない。 そしてベイダー卿の力は禁じられていない。 主従が逆転したかのような有様だったが、思っていたより早く掃除は終わった。 「なんで授業に出ようだなんて思ったの?」 昼休みまで少し時間がある。誰も居ない教室で、手持ち無沙汰のルイズは思い切って 尋ねてみた。 「この星の魔法と呼ばれる技術体系は、僕の手持ちのフォースの知識だけでは説明が つかない。この魔法とやらを研究し、知識を持ち帰れば皇帝もお喜びになるだろう。 そして――」 (パドメを救う助けになるかもしれない) 「そして? …まあいいけど。わたしからすれば、あんたの力の方が謎だけどね」 「それよりもマスター、気になるのは君の魔法の腕だ」 知識を習得するため集中して授業を聞いていたベイダーには、ルイズの使った魔法が その体系から逸脱したものであったことがわかった。 「皇帝が聞いたらさぞかし失望するだろう。皇帝は僕ほど寛大ではない」 「あんた昨日逆のこと言ってなかった? て、ていうか放っといてよ」 「ゼロのルイズ、か。なるほどな。もっと幼ければ僕が鍛えてやるのだが、残念だ」 (ろ、ロリコン…?) 前のページへ / 次のページへ
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前ページ / 豆粒ほどの小さな使い魔 / 次ページ 扉の隙間から、細く明かりが漏れている。 夜も遅いのに、耳を澄ませば、かさりと紙を捲る音がする。 覗き込むと、部屋の奥のベッドで、上体を起こしたカトレアさんが、静かに本を読んでいた。 そういえば、笑顔以外を見たのは初めてかもしれない。引き締まった口元は、ルイズと似ていながら少し冷たさを感じる。 もしかしたら、カトレアさんも、自分でそのことを知っているから、いつも微笑んでいるのかもしれない。 くるる、と、奥の薄闇から獣の寝息が聞こえる。 さて、どうやって声を掛けよう。いきなり目の前に飛び出すのは礼儀知らずだし、驚かせたくない。 思い立って、帯から草笛を抜いて、今日演奏した曲の一節を小さく吹いてみた。 聞き取ってくれたカトレアさんが、こちらを向いて、すぐにあの笑顔を浮かべてくれた。 「来てくれたの? ハヤテちゃん」 ひざ掛けの上、栞を挟まれた本の上に飛び乗る。音は立てない。 「コンバンハ、かとれあサン」 「いらっしゃい。こんなに遅くに呼び出して、ごめんなさいね」 ちらと見た本の表紙には、まだあまり文字を覚えていない私には読めない難しい綴り。 そこに、私の腰くらいまである天鵞絨張りの、多分宝石箱が、カトレアさんの手でことりと置かれた。 「お客様を立たせておくなんてできないもの、どうぞお掛けになって」 ますます敵わない気がする。私の方が余裕がない。 「本当はね、貴女に逢えたら、一番最初にありがとうって言おうと思ってたのよ」 「ル……ソンナコト」 「去年の夏辺りから、ルイズからの手紙が少しずつ減ってたの」 少し、遠くを見る目で、 「頑張ってる。元気です……いつも手紙にはそう書いてあって、でも、家族にもそう言い続けるのが辛くなってるんじゃないかって」 カトレアさんの、ルイズには言えないこと。 「私ハ、今ハマダイイ、ダケドイツカハ、国ニ帰リタイ」 そしてこれが、私の、ルイズには言えないでいること。 ルイズは好き。だけど、あの小山も忘れられない。靴に穴が開いちゃったとき、心にも穴が開いた気がした。 ほう、と、カトレアさんが、やさしく吐息をついた。 「それでも、ハヤテちゃんがルイズの使い魔になってくれて、本当によかった。ね? 私は、小さなルイズさえよければそれでいいの」 だから怒るならルイズじゃなくて私にしてね、と、小さな私に向かって本気で頭を下げてくれる人。 ルイズは、きっとカトレアさんへのお手紙に、私のこと色々と書いたんだと思う。 頭のいいカトレアさんだから、気がついたんだろう。 「ずっと昔、子供の頃だから、ルイズは覚えてないと思うけど、私もよく癇癪を起こしてたの。その度に発作を起こして、寝込んでは癇癪を起こして」 くすっ、と 「あの子ったら、私に八つ当たりされるのに、いつも私の側にいてくれた。泣きながら。それで、馬鹿な私が血を吐いて倒れたときに、『わたしがおねえちゃんの代わりに怒るから、だからおねえちゃんは笑ってて』って」 「本当は、ルイズの方が大人しくて優しい子だったの。もう死んでしまったけど、最初に私の部屋に動物を連れてきてくれたのもルイズなのよ。一生懸命『騒がしくして私の邪魔しちゃだめよ』って躾けて、連れてきてくれたの」 両手で、小さな空間を作る。このくらいの、白いネコだったわ、と。 今とは全然違う二人の姿が、カトレアさんの口から語られるのを、私は黙って聞いていた。 「ルイズはもう覚えていないのかもしれない。忘れようとして、本当に忘れちゃったのかも。あの子の中では、私は最初から優しいちい姉さまみたい」 「お母様にも、お父様にもどうしようもなかった私を変えてくれたのは、小さなルイズだった。だから私は、ルイズを、ルイズが魔法を使えるようになることを、世界の誰よりも幸せになってくれることを信じられるの」 ルイズを信じて支え続けてくれてたカトレアさん、その優しい強さは、カトレアさんの心の中にいるルイズ自身だったんだ。 「るいずハ、本当ニ覚エテナイミタイダヨ。イツモ、チイ姉サマハ優シクテ最高ノ私ノ憧レダッテ言ッテル」 「まぁ」 「デモ、ナンデ私ニ話シタノ?」 これは、カトレアさんのナイショの宝物だと思う。きっとご両親にだって話してないはず。 それなのに、逢ったばかりの私に。 「だって、ハヤテちゃん、私のこと警戒してたでしょ?」 あ、あれは、違うの、ルイズがちい姉さまのこと好きだって何度も言うから、ちょっと変な気持ちになってただけ、なのに。 「ううん、それだけじゃなくて、私が笑うのに、不自然さを感じてたみたいだし」 あんまり鋭いから、びっくりしちゃった、って。 この人は、身体が弱い。走ったり馬に乗ったり、魔法を使うのもきっと大変なんだと思う。 だけど、すごく深い人だ。世話役とか、相談役の長老たちと同じ匂いがする。 「今日は私、お昼寝したから、結構元気なの。だからハヤテちゃんとお話できるわ」 なんで、だろう。 そう言われたら、ほろりと、涙が零れた。 全然、哀しくなんてないのに。 カトレアさんがちっとも慌てないから、私も不思議と落ち着いた。 それから、沢山話した。小山のこと。隊長のこと。組んでいるマメイヌのこと、今頃はきっとつがいができてること。大好きな桃のお酒のこと。 ルイズとあれだけお話してたのに、まだ話し足りなかった自分がちょっと恥ずかしい。 空も薄く白み始めて、 「アリガトウ、かとれあサン」 沢山話して、沢山泣いて。頭も身体も、すごく軽くなった気がする。 妹の前では泣けないものね、そうカトレアさんが言ってくれた。 そういうことだったんだろうか? 私みたいな新米お姉ちゃんには、まだまだ覚えないといけないことがありそう。 手を振ってくれるカトレアさんに見送られて、ルイズの部屋に駆け戻る。 よかった、まだぐっすりと寝てた。 畳まれたハンカチの布団に潜り込んで、だけど目は閉じずにルイズの寝顔を眺める。 つい、頬が緩む。 妹の寝顔を眺めるのは、妹に懐かれてる姉の特権なんだからって、本当にカトレアさんの言うとおりだと思った。 * * くぅ、と伸びをして、あれ? と思ったけど、何が変なのか分からなかった。 ぐるりと見回して。ここは学院の寮じゃない、久しぶりのヴァリエール家だけど。 ああ、そうか。 枕元、ハンカチが盛り上がって、ゆっくりと上下してる。 ハヤテが私より遅くまで寝てるって、もの凄く珍しいから。 そうっと、振動を伝えないように、ハンカチの端を指で摘んで、そうしたら、解かれた豊かな黒髪に縁取られた整った寝顔。本当にお人形さんみたい。 起きてるときの凛とした様子からは信じられないくらいあどけない。 (だーれが、お姉ちゃんよ。まるっきり妹じゃない) いつもの立場にはとりあえず目を瞑って、メイドが朝食の支度が整ったことを伝えに来るまで、つかの間のお姉ちゃん気分を味わった。 前ページ / 豆粒ほどの小さな使い魔 / 次ページ
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2000の技を持つ使い魔 EPISODE02 疾走 膝をつきつつ、自分の左手の甲に刻まれたクウガの印をしげしげと見ていた雄介のそばにコルベールと呼ばれた男が近づくと、雄介と一緒になってしげしげとクウガの印を詳しく見始めた。 「ふむ…… これはルーンなのか? 見たこともない」 そう呟くと、今度は帳面を取り出してクウガの印を詳細にスケッチし始めるコルベール。 「……とにかくおめでとう、ミス・ヴァリエール。 コントラクト・サーヴァントはきちんとできたね」 雄介の印をスケッチし終わると、コルベールはルイズに向かってにこやかに言う。 「あ、はい!」 サモン・サーヴァントは何十回となく失敗したが、コントラクト・サーヴァントはなんと一発で成功した。 これが偶然なのか、それとも必然性があったのかはともかく、今のルイズにはコントラクト・サーヴァントが一発で決まったことに満足感を感じていた。 「でもさー、あれ平民だからできたんじゃねーの?」 「あり得るねー、ルイズなら」 「そいつが高位の幻獣とかなら、契約すらできなかっただろーぜ」 そんな小さな満足感をぶちこわすように生徒の内の何人かがはやし立てるのを、ルイズは聞き逃さなかった。 「馬鹿にしないで! 私だってたまには上手くいくわよ!」 ルイズが彼らにかみついたところで、コルベールが待ったを掛けるように割って入ってきた。 「皆そこまで! 兎に角今日はこれにて解散。教室に戻ろう」 コルベールが手をパンパンと叩きながら、生徒たちを教室へと戻るよう促す。 さすがに教師に促されては従わざるを得ないのか、生徒達はそれぞれに呪文を詠唱すると、次々と空へ舞い上がっていく。 中には飛べないルイズに嘲笑と罵声を浴びせる生徒生徒もいたが、ルイズはそれをガン無視。雄介は「人が空を飛ぶ」というあり得ない事を見せつけられて、口をぱくぱくさせながら、あたりをきょろきょろと見渡していた。 もちろん、雄介の視界の中に、トランポリンもワイヤーもクレーン車もない。 「うっそ…… 飛んでっちゃったよ」 コルベールをはじめとした生徒達は、空を浮遊しつつ遠くにある城のような石造りの建物へと飛んでいった。 「……行くわよ、付いて来なさい」 空を飛ぶ生徒たちを見つめ、悔しそうに唇をかみ締めていたルイズが雄介に言うと、一人だけカツカツと道なき草原の中を歩きはじめるの見て、雄介が待ったをかける。 「ちょ、ちょっと、えーと…… ルイズちゃんでいいのかな? 行くってどこに?」 そんな雄介の言葉に、ルイズは心底がっくり来たのか、ジト目で雄介のことを見ながら肩を落としつつ雄介に向かって大声で怒鳴り始めた。 「ご主人様をちゃん付けするなあああああ!! あーもお、何だってっこんなのがあたしの使い魔になるんだろ.もう気分へにゃへにゃよ!」 ルイズにしてみれば、ペガサスだのユニコーンだのワイヴァーンのような美しくて強力な使い魔が召喚されることを望んでいたにもかかわらず、呼び出されて出てきたものといえば、どこか呆けたような感じのする若い平民男子と来た日には、夢も希望も無残に打ち砕かれてへこみたくもなるものだ。 さらに、何でこの目の前の使い魔は、未だにのほほんとご主人様の事を主人とも認識していないのだろうか。 「あー、あのさ。俺、冒険の最中なんだけど…… イヤもうスッゴイ物見せてもらいましたホント。魔法なんてモノがホントにあるなんて知らなかったなもう」 あまつさえ、「冒険の途中にいいもの見せてもらいました」等と抜かしやがりますかこの平民? と今度は怒りがふつふつとルイズの腹の底から湧き起こる。 だが、そんなことを思うご主人様をさておき、使い魔となった雄介は未だに無口なルイズを見やり、致命的な一言を言ってしまった。 「……もう行ってもいいかな?」 ぶちっ、とルイズの頭のどこかで、スイッチがオンになったような、もしくは何かのキレるような音がした。 「だからっ、あんたは、わたしがっ、召喚した使い魔なのっ! あたしの使い魔だから、あたしと一緒に学校に戻るの! 判った!?」 全身でぜいぜいと息を切らして声を張り上げるルイズの言葉が、雄介の脳内に十分浸透して驚愕の声を上げるまでに、たっぷり2呼吸は必要だった。 「……えええええええええ!?」 使い魔になったいきさつを知らない雄介に、ルイズがかいつまんで状況を説明してやると、しばらく困った顔をしていた雄介だったが、すぐ吹っ切れたのか「まいっか」の一言で開き直ってしまった。 その暢気さに呆れたルイズが、踵を返してそのまま徒歩で帰ろうとするのを引き止めたのは雄介だった。 「ちょっとまって。あの城みたいなところに行くって言うなら。歩くよりもこれに乗っていくほうがいい」 「何よ? ホントにそんな物が速いって言うの? その、車輪が二つついた銀色の馬みたいなものが?」 呼び止められたルイズが胡散臭げに雄介のバイク「ビートチェイサー2000」を見ながら言うのを、雄介は気にも止めずにビートチェイサーのハンドルにあるスターターを押して、その心臓である無公害イオンエンジン「プレスト」を始動させる。 すると、パルンッ! と軽く甲高い爆発音と共に、プレストに息吹が吹き返る。 「わあっ!? 何? 何なの今の爆発音?」 雄介にとっては心強く感じるプレストのエンジン音も、バイクを見るのも乗るのもまったく初めてのルイズにとっては、銀色の恐怖の塊でしかない。 そんなルイズを笑顔で手招きする雄介。右手のアクセルを軽く煽って、エンジンを操っているのは雄介である事を証明しながら、ビートチェイサーにくくりつけていたザックの口をあけて、中からもう一つ小ぶりなハーフヘルメットを取り出してルイズに言う。 「大丈夫。噛み付いたりなんかしないから」 雄介に大丈夫と言われて半信半疑だったルイズだったが、雄介がアクセルを煽る事でエンジン音が変わることに気がつくと、雄介が操っているんだという事に気がつく。 バルン、バルルンと雄介がアクセルを吹き鳴らすたびに、初めて聞くエンジンの音と離れていても感じてくる力強さを体で感じ取っていた。 「ホント? これ、何で動いているの? 魔法?」 わずかながらにルイズの中で好奇心が沸き起こる。どう考えても、魔法で動かしてるとしか思えなかったが。 「魔法じゃないよ。ウーン、なんて説明すればいいのかな」 しばらく考えていた雄介が、ぽんと手を打って言う。 「まいっか。それもそのうち、おいおいね。これなら獣よりも速く、空を飛ぶくらいに早く何処にでも行けるよ」 軽く言う雄介の言葉に、ルイズは疑いのまなざしを向けるが、気にせずビートチェイサーに跨った雄介がルイズに言う。 「じゃあ、行こうか。あ、そのヘルメットかぶって、紐は顎の下でしめてね」 言われたルイズがヘルメットをかぶったはいいが、顎紐をしめる事が判らないルイズがおたおたするのを見て、見かねた雄介がビートチェイサーを降りると、自らの手で、ルイズの顎紐をしめてやる。 「こんなもの、かぶった事なんかないからしょうがないか」 顎紐を金具に通して、遊びがないようにしっかりとしめる雄介。紐を締めながら遊びがないかを確認し、ルイズも嫌がったり痛がったりしている様子でもないのを認めると、雄介はサムズアップしながら、またビートチェイサー跨りなおす。 「ん、これでいいの?」 顎紐を締めたルイズが、雄介に訊く。 「うん、それじゃシートの後ろのほうに跨って……… 手をしっかり俺の腰に回して」 ルイズは雄介の言うがままに、ビートチェイサーのシートに横座りして、前に座る雄介の腰のあたりに両手を回す。 「じゃ、いくよ? 手は離さないでね」 雄介はルイズが腰に手を回していることを確認すると、ゆっくりとビートチェイサーを走らせ始めた。 それまで馬しか走った事のない草原を、二つの輪を持った銀色の鉄の馬のような乗り物「ビートチェイサー2000」に跨って、ルイズと雄介は疾走する。 「こ、これ、すごい。馬よりも早い! 何でこんなに速く走れるの!?」 雄介とは違う形の小さな兜を頭にかぶったルイズが、風切り音に負けないように大声出して雄介に聞く。 「うーん、詳しく説明すると長くなるから。それよりまっすぐで良いんだよね?」 雄介はあえてルイズの質問には答えず、ビートチェイサーの行き先が間違えていないか聞き返すと、ルイズはこくこくと頷いた。 雄介にとっては軽く流している程度の速度でも、ルイズにとってはそれまでとはまったく違う視点と感じる風は、驚き以上のものを感じていた。 こんな異形なものが、獣が大地を疾走するよりも速く、空を飛ぶ鳥のように早くこの大地をも疾走できるという雄介の話も、嘘ではなく本当の事なんだと直感的に理解していた。 「すごぉ~い! すごいすごい! フライの呪文よりも速いっ!!」 ルイズの視線の先には、先に飛んでいった生徒達の殿を目で見る事が出来たのだから。 「もっと早く進めないの!?」 ルイズの言葉に、雄介は一瞬躊躇して聞き返す。 「進めるけど、二人乗りじゃそんなに速度は出せないよ!?」 雄介の大声に負けないくらいの勢いで、ルイズは言ってのけた。 「かまわないからぶっ飛ばして!」 そして、この使い魔がすごい事をみんなに見せ付けてやるんだ。ルイズはそう思っていた。 「じゃあ、手をしっかり俺の腰に回して。しがみつくように!」 雄介が叫ぶと、ルイズが雄介の腰に両腕を回してしっかりと掴んだのを確認して、アクセルを吹かしてギアをもう1段上げる。 「うひゃあああああ!??」 たちまちのうちに、スピードを上げて草原の上を疾駆する弾丸と化すビートチェイサー。 ルイズは、しっかりと両腕を掴んでいなければ放されてしまいそうなスピードで、まだゆっくりと空を飛んでいく生徒たちを追い越し、学園へと向かうのであった。
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前ページときめき☆ぜろのけ女学園 (タバサに人間だって知られちゃったわ。このままじゃ他の妖怪にもバレて、襲われちゃうかもしれない。食べられちゃうかもしれない) そんな事を考えつつ、ルイズは布団に包まっている猫耳の少女を見据えていた。 (そんなの絶対に嫌!! そんな事になるくらいなら、私は、キリと同じ猫股になるわ!) 決意を込めて布団をめくり上げるルイズ。 そこでは、キリと同じ猫股だが別の少女が静かな寝息を立てていた。 (ま、間違えたああ!) ルイズは頭を抱え心中で絶叫する。 その時、背後で襖が開く音がした。 「ひ……っ(誰か来たっ!!)」 慌ててキリの掛け布団に潜り込む。 「……ル、ルイズ?」 文字通り「頭隠して尻隠さず」という状態になっている何者かの正体を匂いで看(?)破し、キリはそう声をかけた。 「……キリ」 「ルイズ! そんなかっこで何してんの!?」 「これは~、その~」 キリに尋ねられたルイズがしどろもどろになっていると、 「ううん……、うるさいな……」 もう1人の猫股が寝ぼけ眼で体を起こした。 「キリ? どうかした?」 ルイズはそれより一瞬早くキリの布団に潜り込み、キリは何事も無いように装って答える。 「あ……、暑くて水飲んできた。ごめん……、起こしちゃった?」 「あ……、そ」 猫股はそう答えると即座に眠りについた。 安堵の溜め息を吐いたキリは、 「ルイズ、今のうちに部屋戻ろう」 と布団の上から声をかけるもルイズの反応は無い。 代わりに自分の下半身に奇妙な違和感を覚え始めたため、布団をめくる。 「ちょ……、ルイズっ、何してるの!?」 「し……、下のお口っ!」 そこではルイズがキリのスパッツを下着ごと脱がそうと引っ張っていた。 「は!? ええっ!? ええええええ?」 「下のお口……、下のお口ってどれ? どこ? どうしたらいいの!?」 「ルイズっ、どうしちゃったの? 落ち着いて!!」 ルイズの突然の行動に混乱しつつも何とか落ち着かせようとするキリ。 しかしそんな彼女にルイズは、 「私、猫股になるって決めたの……!!」 と自分の決意を告白した。 「え?」 呆気に取られたキリ。そこに、 「むにゃ……、うるさいな……」 先程の猫股が目を擦りつつ再度体を起こした。 2人は即座に布団を頭まで被って狸寝入りを決め込む。 「……あれ?」 周囲を見回した猫股が三度眠りにつくと、 「………」 「………」 しばらく息を潜めてからルイズ・キリは会話を再開した。 「ねえルイズ、自分の言ってる事わかってる?」 キリからの問いかけにルイズは赤面しつつ頷く。 「猫股になったら、もう人間には戻れないんだよ? それでもルイズは本当に猫股になりたいの?」 (他の妖怪に襲われるくらいなら、猫股の方がいいに決まってる) 心中でルイズはそう呟き、キリからの再度の問いかけに再び決意を口にする。 「キリ……、私を猫股にして」 その言葉にキリはルイズをそっと抱きしめる。 「ありがとう、ルイズ。私凄く嬉しいよ」 「キ……、キリ」 そして2人はそっと口づけ合う。 (だから……、だから……、これでいいのよね……) キリが優しく胸を揉む感触に耐えられず、ルイズの口から声が漏れる。 「ふ……っ、うん、キ……、キリ、どうして胸を触るの? 下のお口……でしょ?」 「だって気持ちいいでしょ。ほら……、下のお口も気持ちいいって言ってる」 「やんっ!」 嬌声を上げたルイズの口を自分の口で塞ぐキリ。 「ふっ、んっ、やあ」 「ルイズ、声出したら駄目」 「んん」 キリはそっとルイズの下半身に手を伸ばしていく。 (何これ何これ、こんなの初めてよーっ!! き……、気持ちいいよ~!) さらにキリの口がルイズの胸を攻める。 「はっ、キリ……、駄目、もう駄目。あ、お願い、早く猫股にしてっ!」 「ルイズ、可愛いな。無理なら今日はもうここまでにしよ?」 「だ……、駄目っ。だって……、だって、タバサに人間だって知られちゃったから、私早く猫股にならなきゃ!」 「……タバサに……、だからそれで突然……」 そう呟いたキリはそっとルイズから離れ起き上がる。 「キリ……?」 「ルイズ、駄目だよ。そんなの駄目だよ」 「キリ……、駄目って……、どうして!? だって私猫股にならなきゃ他の妖怪に……っ」 「タバサには私から話をつけてくるから大丈夫」 「でも……」 「だからそんな理由で妖怪になるなんて言わないで!!」 キリが荒げた声にまたも隣で寝ていた猫股が体を動かす。 「キリ……、声大きいよ……。うううん……」 その声に一瞬沈黙した2人だったが、ルイズの方から声をかける。 「……何か怒ってる?」 「………」 しかしキリはそれに答えず布団に潜り込んだ。 「もう寝よう。今日はここに泊まっていっていいから」 「キリ……」 ルイズも仕方なく布団に潜り込む。 (タバサに知られちゃった事も、キリの様子がおかしかった事も心配なのに――) しかしルイズの頭の中は先程のキリとの事でいっぱいになっていた。 (あんなに気持ちいいなんて……。どうしよう、もっとしたい!) その夜、ルイズは一睡もできなかった。 前ページときめき☆ぜろのけ女学園
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前ページゼロの竜騎衆 トリステイン魔法学院が日輪に照らされる。心地よい日の光が人々に起床を促す。 まぶたに光を感じたラーハルトは、おぼろげな意識を覚醒させてゆく。 釣られて目を開けるのは逡巡する。床に敷いてある板の感触を確かめる。就寝時と同じ感触。 あきらめて瞼を上げる。高級さが感じられるクローゼットが目に映った。 右手を握り締め、胸をたたく。そこから伝わる痛みが、ここが夢の中でないことを物語る。自分が異世界にいると確かに認識する。 体にだるさがあるが、無視して起き上がる。窓から差し込む日を受けて、鈍く光を反射する机が目に入った。机の上には黒光りする本が置いてある。 ラーハルトは机に近づき、その本を手に取る。パラパラとページをめくって、ため息と共に本を閉じた。 読めるわけがない。当たり前のことだ。 この世界の文字を習得するほど長居はしたくない。書籍の分析はコルベールたちに任せる他ないようだ。 自身の立場を理解して協力してくれるありがたい存在だ。無論、それだけの存在であり、全幅の信頼を寄せているわけでもない。 まだ、あらゆる可能性を排除していないからだ。だからほとんどの情報は隠したままだ。 そこで思い立つ。ルイズにはある程度の情報を話しておくべきか、だ。 異世界から召喚されたと言っても信じてもらえる可能性は薄い。ラーハルト自身も、俺はこの世界の人間じゃないんだよ、などと告げられても、証拠なしには信じられない。 ラーハルトは証拠になるものなど持ち合わせていない。 ならばダイ様の行方を捜していることだけでも伝えるのはどうか。 ダイ様の母上は一国の王女だ。自身はその方に仕える騎士と説明すれば、嘘にはならない。ルイズは貴族、それも公爵家の人間だ。王女のご子息を探すために隠密行動を取っている、といえば信じてもらえるかもしれない。 証拠はない。しかし、それを見せられないことが証拠とすることもできる。 なかなかの案だと、ラーハルトは手ごたえを感じた。しかし、本当に実行に移すかどうかは踏ん切りが付かなかった。 その原因は、ルイズにこの事実を信じさせる自信がないからではない。ルイズがそれでも使い魔になれと要求する可能性についてだ。 こうなった時、もし、ルイズがダイ様を侮辱するような発言をしたら……自分を制御できる自信はラーハルトにはない。 ルイズは二度と、太陽が天高く上る光景を見ることはないだろう。 現状を動かすには大きすぎるリスクだ。ラーハルトは様子を窺う以外の選択肢を持つことが叶わないのだ。 目を落とすと、自身をこんな場所に閉じ込めた原因がスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。 ルイズは、カーテンの隙間か見える太陽に照らされているが、一向に起きる気配はない。 起こす義理もないか、と考えたラーハルトだが、昨日のように怒らせたらまた面倒なのでベッドのほうに体を向ける。 完全に熟睡しているルイズに視線を落とす。その寝顔は、年相応のあどけなさが見て取れる。昨日、あれだけ暴れたとは思えない顔だ。 「ルイズ、朝だ。起きろ」 声を掛けるが、まったく反応しない。もっとでかい声を出そうとして…寸でのところで止める。隣室の住人に迷惑だ。 よって毛布を引っぺがした。これなら迷惑はかからない。寝ている当人以外は。 「な、なによ!なにごと!」 ルイズは突然の出来事に体を跳ね起こした。きょろきょろ首を振ると、寝ぼけた頭では記憶に浮かばない人物が立っていた。 「だ、誰よ、あんた!」 ルイズは枕を胸に引き寄せて、身を守る体制に入った。 枕をギュー、と抱きしめた格好とふにゃふにゃした顔のせいで何かいけない雰囲気を放ってる。 無論、ラーハルトがそれを意識することはない。それよりも、自分の認識の低さ加減にムカつきを覚えている。 「ラーハルトだ。忘れたか?」 ルイズは、一時、記憶を探る仕草になる。召喚した責任を感じていない少女に、ラーハルトは気が滅入りそうになる。 「ああ、使い魔ね。き、昨日召喚したんだっけ」 「そうだ…」 相手のことなど意に介しない言い方に、拳を握り締めるが、それだけにしておく。 そこに、イラついた心を少し和らげるものが見えた。ルイズの瞳が、昨日のように漆黒ではなくなっていたのだ。とりあえず、危険は去った。 もっとも、その時間はすぐにでも儚く散ってしまうかもしれないが。 意識がはっきりしてきたルイズは起き上がると、ベッドの上に仁王立ちした。偉そうに腕も組んでいる。 「あんたに命令。服を用意して、私に着させなさい」 人に服を着せるなど、下僕と同等の扱いである。ラーハルトは眉間にしわを寄せる。危険はないが、イラつきに耐える必要はあるらしい。 「そのくらい自分でやれ」 「ダメよ。貴族に下僕がいる時は自分で服なんか着ないのよ」 ラーハルトの眉毛が小刻みに振動する。 「どうしたの?早くしなさい」 ルイズはずいっと体を前に出して己が強いと言わんばかりにラーハルトを見下ろした。 ルイズに譲歩の意思がないことは、昨日のことで脳味噌に染み込んでいる。ラーハルトはため息をついて、クローゼットに足を向けた。 「わかった……どこに何があるか指示を出してくれ」 ラーハルトがクローゼットから服を出して振り返ると、両腕を胸の前で振っているルイズが見えた。どうやらガッツポーズらしい。 ラーハルトはこの場に武器がなくてよかったと思った。あったらルイズの体が中心から二つに分離している。 ルイズとラーハルトが部屋を出ると、同時に隣室の扉も開いた。中から出てきたのは、燃えるような赤い髪の女性、昨晩部屋に怒鳴り込んできた人物である。 褐色の肌と男ほどもありそうな背丈。たいていの男にとって、魅惑の光線を放つ大きなバスト。服装からも、その物腰からも、艶かしい魅力が見て取れる。 女は、ルイズがいるのを見ると、わざとらしいほどに大きなあくびをした。 「ふあぁぁ~~~~。誰かさんのせいで眠いわ」 そう言われても仕方がない、と思ったのはラーハルトだけだった。 「睡眠妨害はあんたでしょ。いつも男連れ込んでいちゃいちゃして」 ルイズは平気で地雷を踏んだ。キュルケは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。 「それもそうね。毎日大変なのよ。男が寄ってこないヴァリエール家がうらやましいわ~」 ルイズにとっては忌まわしき、ヴァリエール家の歴史を皮肉られて、顔が真赤に染まる。 「うるさいわね!色ボケのキュルケ!」 「どうしたの?そんなに怒っちゃって。ゼロのルイズ~」 ルイズは両拳を、手が真っ白になるほど握り締めている。ルイズが手に力を入れれば入れるほど、言い返すことができなくなってゆく。 ルイズの姿を楽しそうに見ている女性、キュルケはルイズの傍らにいる亜人に目を向けた。 「あんたがこの娘の使い魔?亜人なんて珍しいじゃない」 「らしいな」 キュルケはラーハルトの言葉を聞き流し、スッと人差し指を唇につけた。 「そういえば、ルイズ。あんたこいつと契約できたの?なんか揉めてたみたいだけど。ず~~と」 ルイズの顔が苦々しくなる。ラーハルトと同じ部屋にいたのだから契約は済ませたと思われてる、なんてことは楽観論だと思い知らされる。 「で、できたわよ。こいつは私に忠誠を誓っているわ」 ルイズ自身、嘘はつきたくなかった。でも、ばれたら終わりだ。最悪退学になる。それだけは絶対回避しなければならない。 だから、偽りの関係を認めるしかないのだ。 当然、釈然としない気持ちは残る。それが表に出てしまった。 胸を張って、堂々とした格好だけでは人を信じさせるには至らない。 そのため、キュルケは使い魔の証明を確認しなければならなくなったのだ。 「なら、使い魔のルーン見せてよ」 ルイズの体が石化する。最もまずいことを問われたからだ。何も知らないラーハルトは静観しているだけである。 「どうしたの?契約したなら、使い魔の体のどこかにルーンが刻まれるでしょう?」 ラーハルトの額に冷や汗が流れているのが見えた。どうやらあっちも話を理解したらしい。 石化したルイズが首を回す。錆びた歯車の音でも聞こえそうなくらい滑らかさがない。 「あああああああるわよ。あるあるある。ね、あああ、あんた」 「ああ、あるぞ」 ラーハルトの表情に変化はない。冷や汗も、もう流れていない。見事なポーカーフェイスだ。一方、ルイズは内心がそのまま表に出ている。 「ほ・ん・と~?」 完全に疑われている。このままでは、ばれるのは時間の問題だ。妙案が出てこない。その場の機転もゼロかと、意識が底なし沼に沈んでいく。 「見せてよ~。ルイズ~。つ・か・い・ま・の・ル~ン~」 完全に追い詰められたルイズは生まれたての小鹿のようにぷるぷる体を小刻みに振動させている。 どうにか誤魔化さないといけない。でもそんなものは…その時、あるものが目に入った。 それが脳に伝わった瞬間、ルイズに頭に閃光が走った。閃光はルイズの嵌った泥沼を吹き飛ばす。 目が覚めたように思考がぐるぐる回転する。回転が激しくなるにつれ、パズルのように打開策が組み立てられてゆく。 しかしここで待ったをかけるものがあった。 私は王家とも繋がりのある名高きヴァリエール家の三女。こんな卑猥なことを口にしていいのか。 ここで組立作業がストップした、に思われたが、すぐさまリスタートしろと、津波のように誰かが叫んだ。 ここで止まったら必ず嘘が暴露される。そうなったら、馬鹿にされ、教師呼ばれて落第確定、そして退学である。 ルイズにとって死ぬより恐ろしい三連コンボ。そうなったら名誉もへったくれもない。 ルイズの中で天秤が揺れる。 あきらめて、正直者として死ぬか、嘘をついてでも貴族の体面を守るか。 ルイズはトリステインの貴族、嘘をつくなど心が許さない。それもゲルマニアの、因縁深いツェルプストー家の人間には。 でも、真実を明かしたら、ルイズの貴族としての生活は終わる。あの家は、退学をした恥さらしを迎えることはない。 貴族は貴族の地位にあってこそ貴族。それを捨てることはできなかった。 最後のワンピースが嵌る。ルイズは意を決して、自分は貴族だ、と誇らんばかりに胸を張った。 「キュルケ!使い魔のルーンはあるわ!ここにね!!」 左手で、ビシィィッ、と指したその先にあったのは…… 「…おい…」 ラーハルトの口から愚痴がこぼれる。ルイズの指の先にあったのは、ラーハルトの股間だ。 「ここよ!ここに使い魔のルーンが刻まれたの!」 天高らかに大変いかがわしいことを叫んだ。 ラーハルトの眉毛がひくついている。キュルケに至っては顔が埴輪のようになっている。開いた穴から感情がすっ飛んでいったかのようだ。 「キュルケ!使い魔のルーン見たいんでしょ。なら見せてあげるわ!!」 埴輪に人間らしい顔のパーツが戻った。この場を犯罪現場にすると同義の発言が、キュルケの理性を復活させた。 「いいいいい、いいわ!うん。ご、ごめんね、変なこと聞いちゃって」 常に余裕の衣をまとっているキュルケの呂律が回っていない。額から大量の脂汗が流れている。 「見せろって言ったのはあんたでしょ!逃げることは許されないわよ!」 実際に逃げている、ルイズの目は本気だ。このままではこの場にいる全員が登ってはいけない階段に足を踏み入れることになる。 ルイズがラーハルトの下腹部に手を伸ばしたのと、キュルケが逃げの体制に入ったのは同時だった。 「あ、あ、そうだ。も、もうすぐ朝食よね~。はは、早く行かなきゃ~」 「なによ!逃げる気ね」 「フ、フレイム~。行くわよ。早く出て来なさ~い。うん、早く、早く!」 キュルケの部屋の扉から、真っ赤な体と尾に炎を宿す大きな火トカゲが現れる。 キュルケは使い魔と共に一目散に逃げていった。 「ふん。せ、折角ルーンを見せてあげようと思ったのに。何よ、あの女」 ルイズに悪びれた様子はない。むしろしてやったりと思っていそうだ。 「他にやりようはなかったのか…」 表情こそ崩していないものの、発している殺気は竜をも殺せる。へたな侮辱よりよっぽど失礼なことをしたのだから当然である。 「うっさいわね!これはあんたのせいなんだから!」 ルイズに人の怒りを感じる神経はない。ラーハルトがそう判断するほど、ルイズは見事に逆切れした。 今までルイズの傍若無人な振る舞いに耐えてきたラーハルト。その我慢もそろそろ限界だ。 ラーハルトが右手を振り上げる。ルイズに平手打ちをかまして、自身の行いを省みさせるために説教をしてやろう。 ルイズの性格なら、手を上げたことに激怒するだろう。 それも喧しいカラスの程度だ。女一人黙らすことは造作もない。 「ルイズ……」 子供を諭すような、叱るような、暗い響き。 ルイズはまだ何か叫んでいる。ラーハルトの耳には入らない声。彼は右腕を振った。 「よくも私に嘘なんかつかせたわね!絶対許さないんだからぁ……」 ルイズの金切り声に似た叫び声が響き渡る。叫んだ拍子に、ルイズに瞳から何かが飛んだ。それが、ラーハルトが振り下ろす腕をせき止めた。 ルイズの鳶色の瞳が震えている。瞳が震えるたびに、涙があふれ出てくる。瞳は涙で満ち、今にもそれはあふれそうだ。 「あんた最低よ!使い魔のくせに自分のことばっかぁ……」 ルイズの声が震えている。何を言っているのか判別できないほどに。 ルイズの言葉が、振り乱した桃色がかったブロンド髪が、そして、悲しみで歪んだ顔がラーハルトの胸を突く。 自分のことばかり考えている。 この世界に飛ばされてからの自身の言動を思い返す。 なぜ、ルイズと契約を結ばない。なぜ、他者を欺くことを許容した。 それは自分が本来いるべきに世界に脱出するためだ。それが竜騎衆の使命だからだ。そのために多少の犠牲も厭わない。 それで心を痛める人間がいても、やむを得ないことだ。運が悪かった、と諦めてもらうしかない。 だが、ラーハルトの腕は動かない。 自分のことばかり考えているのは、むしろルイズのほうだ。それでもラーハルトは体が言うことを聞かない。 ルイズの何かに気圧されたのか、自身の中に枷を掛けるものがあるのか、ラーハルトにはわからない。 ラーハルトの右腕が力なく落ちてゆく。 ルイズはラーハルトの視界の中にはすでにいなかった。 辺りを見渡すと、廊下の遥か先をルイズが歩いているのが見えた。 ラーハルトは行き足の鈍い体にに活を入れる。ルイズを追いかけるために力を込めて歩き始めた。 ルイズの露出魔的な凶行から逃げ出したキュルケは、疲れを和らげるため壁にもたれ掛っていた。 キュルケの額から大量の、一種類ではない汗が流れ続けている。それに、動悸が早くなって、体が火照っている。心配そうに近付くフレイムの熱気が鬱陶しい。 キュルケは体温を冷やすために、ブラウスにボタンを外す。一度でいいから顔をうずめてパフパフしたい、キュルケの胸の谷間があらわになる。 流れる汗と少し湿気を帯びて肢体に張り付くシャツがなんとも扇情的だ。 キュルケはボリューム満点の胸に手のひらを合わせ、呼吸を整えた。 頭の熱も取れてきた。冷静になったので、キュルケは先ほどの出来事を思い返す。 数秒もしないうちに、今度は別の熱がキュルケを沸騰させた。 「何が使い魔のルーンはここよ!あんなの嘘に決まっているじゃない!」 キュルケの怒りの炎はフレイムまで焼き尽くさんばかりに猛っている。 ルイズに騙されたこともそうだが、ヴァリエール家の人間相手に退却したなど、キュルケのプライドが許すはずもない。 「やってくれたわね、ヴァリエール。この借りはきっちり返すわよ……」 微熱が激しい情熱に変わる。キュルケの目が狩人のそれに変貌した。 ルイズは大扉の前で足を止めた。そこが目的地のようだ。 ここの到着するまで、ルイズとラーハルトは一切の会話どころか、顔を合わせることすらなかった。 ルイズは扉の脇でだんまり。ラーハルトはルイズに近づくことすらできないでいる。 ただならぬ様子を感じたのか、何人かの貴族が様子を窺っている。 「何をしている。朝食の時間だぞ」 扉から姿を現したのは黒いローブで身を包んだ若い男だ。年齢はルイズたちよりずっと高く見える。ここは学校なのだから教師なのだろう。 催促された貴族たちは、次々と扉の中に消えていった。男の発言から推測するに、この部屋は食堂らしい。 廊下にいる人間がまばらになる。それでもルイズは凍りついたように動かない。 ルイズはその場に誰もいなくなっても佇んだままだ。 ラーハルトは、さすがにまずいと思い、横たわる壁をこじ開けるように声を掛けようとした。 「ラーハルト……」 その気配を察知したのか、ルイズが口を開く。その声は、昨日の夜のように暗く沈んでいる。 「なんだ……」 つられるようにラーハルトも応対する。 「あんた、私と契約する気ある……」 ラーハルトの答えは決まっている。できるわけがない。なのに、彼は口を閉ざしてしまった。 「何よ、黙っちゃて。悪いことしたとでも思ってるの。今さら遅いのよ」 ラーハルトは言われるがままだ。いまだに感じる妙な圧迫感が、彼の反論を奥底に閉じ込める。 「何か言ったらどうなの。都合が悪くなると口も利かないのね。あんたって本当に勝手だわ」 ルイズはラーハルトの食事を抜くことを告げた 食事を抜かれたラーハルトは外にいた。食堂で食べれないのなら、自ら調達するまでの話。 歩調がやや速いことに気づき、歩みを止めて顔を上げる。顔にかかる光が眩しい。 太陽が照らしてくれるのは目に見えるものだけ。暗く霧の掛かった心は晴れることはない。 どこの世界でも太陽は同じだ。 前を見据えてまた歩き出す。食料は学院の外で調達する。土地勘は、あるわけないので遠出はしない。 出入り口を探すのは面倒なので、そびえ立つ石造りの塀を飛び越えることにした。 そろそろ助走を付けようと、歩みを速めようとしたら背後に人の気配を感じた。 振り返って視線に入ってきたのは、少女だった。 「どうなさいました?」 ラーハルトの後ろに立っていたのは、ルイズより幾分年が上に見える女だった。 黒髪をカチューシャで纏めている。服装からして、位の高い家で働く、メイドと呼ばれる使用人だ。 「主人に飯を抜かれてな。食料調達だ」 「主人?あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったていう……」 「らしいな」 「やはりそうでしたか。召喚の魔法で亜人を呼んだって。噂になってますわ」 女はにっこりと笑った。それが一歩引いた笑顔であることをラーハルトは見逃さない。 異世界から召喚されたのだから、珍しいのは当たり前だ。そもそも自分は招かれざる客なのだ。 「それで、何か用か?」 「い、いえ。亜人の方が学院にいるので気になって……」 「そうか。邪魔をしたな」 用もなさそうなので、ラーハルトは踵を返して脚部に力を溜めた。 「あ、ま、待ってください」 女が再び呼びかけてきた 「なんだ」 「あの、これからお食事なんですよね?」 「そうだ」 食料を探すのを手伝うというつもりなのだろうか。ラーハルトにとってはありがた迷惑である。人間の力を借りたとしても、足枷になるだけだ。 「なら、厨房で召し上がりませんか?私が頼めば聞いてくれるはずですから」 シエスタの申し出は、ラーハルトにとっては嬉しい期待外れだった。 なんと食事を振舞ってくれるらしい。ありがたい話なので、ラーハルトは好意に沿うことにした。 「なら、案内してくれ」 「はい!」 女は元気良く返事をして、ラーハルトを厨房へ連れて行った。 「旨いな」 ラーハルトが食べているのは、パンと冷たいスープだ。どちらも余り物らしい。 「よかった。お代わりもありますから。ごゆっくり」 女の名前はシエスタという。トリステイン南部の村出身で、この学院で貴族の奉公をしていると言った。 「ご飯、貰えなかったんですか?」 「主人の機嫌を損ねたようでな」 「まあ!貴族を怒らせたら大変ですわ!」 大変だからここにいる、とラーハルトは口には出さない。 先ほどと違い、シエスタはずいぶん親しくラーハルトに接している。脅威でないとわかれば、余り細かいことは気にしない性格なのかもしれない。 完食したラーハルトは空の皿をシエスタに返した。 「旨かったぞ。感謝する」 「よかった。お腹が空いたら、いつでも来てくださいな。私たちが食べてるものでよかったら、お出ししますから」 この先、食糧事情に困るラーハルトには都合のよい話だ。よって、二つ返事で願い出ることにした。 食器を洗い終わったシエスタは、片づけがあると言って厨房を後にした。 ラーハルトも後を付いて行き、食堂へと続く扉の前で別れた。 シエスタの話によると、貴族は朝食後、教室に移動して魔法の授業を受けることになっている。その際、可能ならば使い魔も同席するようだ。 教室がどこかわからないので、ラーハルトはルイズの下へと歩いてゆく。 ラーハルトは先ほどの出来事を思い出していた。 事実無根のデマを言わざるを得なかったルイズは泣いていた。自分勝手だと、ひたすら自分を非難した。 ラーハルトからすれば、ルイズも相当利己的なことをしている。 しかし、ルイズにそう指摘することはできなかった。今も、ルイズに何か言う気にはなれない。 自分勝手。 そうだ。ルイズはなにも知らないのだ。俺は一切の情報を与えていない。ならば、ルイズから見れば…… ラーハルトは思索に耽るのをやめた。それを認めたら、自分の心を支えているものに傷かつくと思えたからだ。 俺にはやらねばならぬことがある。そう、心に強く刻み込んだ。 それでも、ラーハルトの心は霧で包まれている。 前ページゼロの竜騎衆
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名前 カルイの契約書 抽選で★4以上のキャラクター1体を仲間にできる 抽選内容 【★5キャラクター】 ティア、シルエラ、ライオ、ミリア、ジゼル、チェルシー、リーナ、 ヴィスコ、プラチナ、ユイ、クレイ、アリエット、カレン、ロア、アキラ、 メイコ、サーシャ、エーディン、トルナド、ブロンゾ、ラファル、ピピン、 ステラ、ハッカ、バステト、アリス 【★4キャラクター】 クラウディア、ミケ、ビーノ、イムベル、バーロ、イルミナ、バーバラ、 アイゼン、プルイーナ、ペルル、ルリア、シャル、イリュメ、アイラ
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前ページ次ページアノンの法則 一行はラ・ロシェールで一番上等な宿、『女神の杵』亭を今夜の宿と決め、一階の酒場で食事を摂っていた。 キュルケが、隣で鶏肉をほおばっているアノンの腕をつついた。 「ねえ、ダーリン。ギーシュってずいぶん雰囲気変わったと思わない?」 そう言われて向かいの席のギーシュを見ると、ギーシュはワイングラスを手に、なにやら真剣な表情をしている。 「さっき襲撃してきた奴らの尋問のときなんか特に。あんなギーシュ見たこと無いわ」 横で聞いていたタバサも、ハシバミ草のサラダで頬を膨らませたまま、こちらに視線を移した。 「なんでも実家で鍛え直してきたらしいよ。実際、凄く強くなってる」 アノンは嬉しそうに答える。 「多分ギーシュくんは、フーケよりも強くなるんじゃないかなぁ」 「フーケよりぃ?」 キュルケは信じられない、といった風にギーシュを見た。 「ねえ、ギーシュ。さっきから何見てるの?」 「ん? いやね、あそこのご婦人。なかなか美人だと思わないかい?」 キュルケとタバサはアノンを見る。アノンはすっと視線を逸らした。 そこに、『桟橋』へ乗船の交渉に行っていた、ワルドとルイズが帰ってきた。 ワルドは席につくと困ったように、 「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」 「急ぎの任務なのに……」 仕方が無いこととは言え、ルイズは不満そうだ。 「私はアルビオンに行ったことないからわかんないんだけど、どうして明日は船が出ないの?」 キュルケの問いに、ワルドが答える。 「明日の夜は月が重なるだろう? 『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最も、ラ・ロシェールに近づく」 近づく、と言うことは、アルビオン大陸は浮島のようなものなのだろうか、とアノンは一人考える。 「さて、じゃあ今日はもう寝よう。部屋を取った」 ワルドは鍵束を机の上に置いた。 「キュルケとタバサは相部屋だ。そして、ギーシュとアノンが相部屋。……ルイズは僕と同室だ」 ルイズがはっとして、ワルドを見た。 「そんな、ダメよ! まだ、私たち結婚してるわけじゃないじゃない! それに…」 ルイズはちらりとアノンを見る。アノンは特に気にした様子も無く、テーブルの料理をパクついている。 何か不愉快なものを感じて、ルイズはぷいっと視線を逸らした。 ワルドは、真剣な眼差しでルイズを見つめた。 「大事な話があるんだ。二人きりで話したい」 ルイズは黙って頷いた。 「ねえ、本当にやるつもりなの? 今は、そんなことしているときじゃないでしょう?」 ルイズがワルドに言った。 「そうだね。でも、貴族というヤツはやっかいでね。強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ」 「いいじゃない。ダーリンがスクウェアメイジ相手にどう戦うのか興味あるわ」 「僕も同意見だ」 顔に痣を作っているギーシュが賛同し、タバサもこくこくと頷く。 「あら、ギーシュ。その顔は?」 「今朝方、朝食前に子爵と手合わせした」 「ああ、なるほど」 次の日、ワルドは朝食の席で、アノンに立会いを申し込んだ。 介添え人に指名されたのはルイズ。 手合わせを申し込まれたアノンは喜んでそれを受け、ルイズの制止になど耳を貸さない。 形だけとは言え、介添え人を置くとなれば、決闘だ。 となると、キュルケたちが放って置くはずが無く、結局今は物置と化した練兵場に旅の一行が集まる形となった。 「では、始めようか」 ワルドは腰から、レイピア型の杖剣を引き抜き、フェンシングのように構える。 アノンも背中のデルフリンガーを抜いた。 すでに馴染んだ、ルーンが光り体が軽くなる感覚。 だが、いきなり飛び掛るような真似はせず、形だけの構えでワルドの出方を伺う。 「どうしたね。来ないなら……こちらから行くぞ!」 ワルドが大きく踏み込み、鋭い突きを放った。 (へえ。杖を剣のように使うのか) 杖の切っ先は、真っ直ぐにアノンの眉間に向かう。 (太刀筋も鋭い) アノンは半歩横に移動、 (突きに迷いが無い) 半身になって体を逸らし、 (うん) 突きをかわす。 (見事だ) さっきまでアノンの頭があった空間を、ワルドの杖が貫いた。 一撃目をあっさりと避けられ、ワルドは慌ててバックステップを踏んで距離をとる。 (紙一重でかわしただと?) 「避けた…!」 少しでも技を盗もうと、食い入るように二人を見ていたギーシュが思わず声を出した。 「完全に見切っていた。でなければあれを紙一重でかわすのは不可能」 「ああん、さすがダーリン!」 タバサの呟きに、キュルケが嬌声を上げる。 一方、ルイズは気が気ではなかった。 大事な任務の最中だというのに、怪我でもしたらどうするのか。 「あーもう!」 こんなときに手合わせなど始める二人が分からず、ルイズはじだんだを踏んだ。 今度はアノンが一足飛びで距離を詰め、ワルドに斬りかかった。 「うおっ!?」 ワルドは辛うじて杖で受け止める。 これほどまでに早いとは。『風』でなければ対応は至難だ。 しかも、攻撃が重い。頑丈な鉄ごしらえの杖剣が軋み、手がしびれた。 普通の身体能力ではない。人間離れしている。 だが、突出した身体能力などに遅れをとっては、メイジの名が廃る。 “本物”のメイジは、接近戦もこなせてこそなのだ。 再び後ろに飛びずさったワルドは、ゆっくりと息を吐き出し、油断を捨て去る。 ようやく本気になったか、とアノンは身構えた。 「魔法衛士隊のメイジは、ただ魔法を唱えるだけじゃないんだ」 ワルドは羽帽子に手をかけて言った。 「詠唱さえ、戦いに特化されている。杖を構える仕草、突き出す動作……、杖を剣のように扱いつつ詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本さ」 再びアノンが斬りかかる。 ワルドは猛スピードで振るわれた剣を見切り、今度は杖で受け流した。 体勢の崩れたところに、柄じりでの一撃を叩き込むが、アノンは凄まじい身体能力で持って飛び上がり、それをかわしてみせる。 「君は確かに素早い。ただの平民とは…いや、人間とは思えない」 身を捻って着地するアノンを狙い、ワルドは風を裂く音と共に、何発も刺突を繰り出す。 一撃目よりも速く、鋭く、力強い。 「しかし、それだけでは本物のメイジには勝てない」 それでもまだ、アノンの方が速い。だが、的確に避けづらい場所を狙ってくる攻撃が、攻めに転じることを許さない。 ワルドはアノンの“超身体能力”を、卓越した“技”で押さえ込んでいた。 「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ……」 杖が風を切る音の中に、アノンは何かの呟きを聞いた。 「! コレは…」 「相棒! いけねえ! 魔法がくる!」 デルフリンガーが叫んだと同時に、アノンの目の前の空気が跳ねた。 巨大な空気の塊に殴り飛ばされ、宙を舞ったアノンは、積み上げられた樽に突っ込んだ。 派手な音を立てて、樽の山が崩れ落ちる。 「つまり、君ではルイズを守れない」 崩れた樽に埋まったアノンに、ワルドはそう言い放った。 慌ててキュルケたちが、樽を退けてアノンを掘り出しにかかる。 「アノン!」 「待つんだルイズ」 ルイズも駆け寄ろうとしたが、ワルドに止められた。 「こういうとき、男には声をかけないほうがいい」 「でも…!」 「今君に慰められたりなどしたら、それこそ彼は立ち直れなくなる」 ルイズはぐっと黙り込んでしまう。 「とりあえず、そっとしといてやろう」 ワルドがルイズを諭す。 「ダーリン、大丈夫!?」 「あ、待つんだキュルケ! そこを退けたらまた……」 向こうでは、『レビテーション』で樽を退けようとして、さらに崩れてきた樽にキュルケたちがきゃあきゃあ言っている。 ルイズはしばらく躊躇っていたが、やがてワルドに引かれて去っていった。 「自分で出られるよ」 樽山の中から、アノンの声がした。 ガラガラと山を崩しながら、アノンが自力で這い出してきた。 「よく無事だったな」 「ダーリン、怪我は無い?」 「平気だよ」 服の埃を払いながら、アノンは答える。 「しかし、いくら君でも魔法衛士隊隊長の相手は荷が重かったようだな」 「でも、平民であれだけやれれば十分よ」 「けっ! ガキどもが。どこ見てもの言ってやがる!」 いきなり野太い男の声が聞こえた。声の主は、アノンのインテリジェンスソードだ。 その柄は、アノンの手にしっかりと握られていた。 「見ろ、相棒はまだしっかり俺を握ってる。武器を手放さないうちは負けじゃねえ」 アノンは必死に訴えるデルフリンガーを鞘に戻し、柄をぽんぽんと叩く。 「ただ魔法を唱えるだけじゃない、か……。この世界の『魔法』…まだまだ奥が深そうだ」 決闘の結果など気にもせず、アノンは新しいおもちゃを見つけた子どものように、瞳を輝かせて嬉しそうに笑った。 その夜、アノンは一人部屋のベランダから、重なり一つになった『スヴェル』の月を見上げて、思考に耽っていた。 ワルド子爵。 相当な腕の持ち主だ。速さだけなら、あの李崩以上。 そこに魔法の力と実戦で鍛えられた技術が加わり、まさに『閃光』の二つ名に相応しい実力だ。 それに、今日の戦いが彼の全力ではない。 デルフが言うには、ワルドは最高クラスのスクウェア・メイジ。 もっと強力な魔法が使えるはずだ。 彼が本気になれば、今日とは比べ物にならない戦闘力を発揮するだろう。 だが、アノンが重要に考えていることは他にあった。 本物のメイジと戦ったことで新たに知った、メイジの戦い方。 すなわち、剣と魔法の併用である。 杖を武器とし、杖で攻撃しつつ詠唱を完成させ、魔法を撃ち込む。 魔法を使うための限定条件、“杖を手に持つ”と“ルーンを唱える”の二つをクリアしながら、攻め手を緩めず、魔法攻撃に繋げられる有効な戦術だ。 ワルドは、それを完全に使いこなしていた。 そして、それは『軍人の基本』と言った。 モット伯の魔法に加えて、更なる魔法の力を得ようと考えていたアノンだったが、今はそれ以上に、魔法を使いこなす技術に興味を持っていた。 「何たそがれてんのよ」 後ろからの声に振り向くと、そこにルイズが立っていた。 「ワルドはスクウェア・メイジよ。負けたって恥じゃないわ」 ぶっきらぼうに言うルイズ。 どうやらアノンが、ワルドに負けたことを気にして、落ち込んでいるのではないかと心配してくれたらしい。 「別に落ち込んでるわけじゃないよ」 アノンは答える。 「ただ、ボクもまだまだだなって思ってただけさ」 「べ、別に心配したわけじゃないわ」 ルイズはぷいっとそっぽを向いた。 「子爵様がいれば、この任務も心配ないね」 アノンの何気ないその言葉に、ルイズは急に不機嫌になった。 「なによ。全部ワルドに任せる気? あんたは私の使い魔でしょ。ちゃんと私を守りなさいよ」 「わかってるよ。でも凄い腕だったし。実際、今回の任務くらい一人でこなせちゃいそうだよね」 なぜだか分からないが、ルイズはアノンのその態度に酷く苛立った。 自分の心配が、空振りに終わったからだろうか。 それとも、アノンが決闘に負けた事を、全く気にしていないからだろうか。 とにかく、ルイズは今のアノンが気に喰わなかった。 「わかったわ。いいわよ。私はワルドに守ってもらうわ」 「?」 ルイズの怒った様な言い方に、アノンは不思議そうな顔で、うん、とだけ答えた。 それがさらにルイズを苛立たせる。 「あの人、頼りがいがあるから、きっと安心ね。別に使い魔のあんたに言うことじゃないけど、言うわ。今、決心したわ。私、ワルドと結婚する」 何かの気持ちを込めてルイズは言ったが、アノンは、一体なんだ、とでも言いたそうだ。 「ワルドと結婚するわ」 もう一度、ルイズは繰り返した。 「ああ、キミたちは婚約してるんだっけ? 別にいいんじゃないかな」 「…!」 特に驚いた様子も無いアノンに、ルイズのプライドは傷ついた。 「あんたなんか一生そこで月でも眺めてればいいのよ!」 そう怒鳴って、ルイズはアノンに背を向けた。 その時、巨大な影がベランダを覆った。 見上げると、月光を遮り、影を作っているのは巨大なゴーレム。 「な、なによこれ!」 「このゴーレムって確か…」 「久しぶりね、お二人さん!」 ゴーレムの肩から、長い髪の人物が二人に向かって言った。 「フーケ!」 ルイズが叫ぶ。 「感激だわ。覚えててくれたのね」 「たしか、牢屋に入れられてたんじゃなかったっけ」 言いながらアノンは背中に手をやり、デルフリンガーを背負っていないことに気がついた。 一人で考え事をしたかったので、あのよく喋る剣は、部屋の中に置いて来ていたのだ。 「親切な人がいてね。私みたいな美人はもっと世の中のために役に立たなくてはいけないって、出してくれたのよ」 嘯くフーケ。その隣に、黒マントを着て、顔を仮面で隠した男が立っている。 (アレがフーケを脱獄させた犯人か?) 黙り込んでいるため、どういった人物なのか分からないが、どうにも不気味な感じだ。 「素敵なバカンスのお礼をしてあげるよッ!」 フーケが叫び、ゴーレムが拳を振り上げた。 「ルイズ!」 「きゃあ!」 アノンはルイズを部屋の中へ突き飛ばし、自分も部屋に転がり込む。 ゴーレムの拳が、ベランダを抉った。 「何事だ、相棒!」 アノンは喚くデルフリンガーを引っつかみ、ルイズを引っ張って一階へと駆け下りる。 しかし、そこもすでに修羅場と化していた。 街中の傭兵たちが、宿を襲撃してきたのだ。狙いはもちろん、ワルドたち。 石のテーブルを倒して盾にし、反撃もしているが多勢に無勢といった状況だ。 破られた店の扉から、フーケのゴーレムの足が見える。 どうやらフーケも店ごと潰すつもりは無いらしい。 アノンたちもテーブルの影に滑り込んだ。 「ギーシュくんがいないね。どこ?」 「え、上にいたんじゃないの?」 アノンの問いに、キュルケが驚いたように言った。 首を振るアノン。ギーシュの姿は夕食の後から見ていなかった。 「では外か。参ったな」 「ただでさえ多勢に無勢だっていうのに、分断されるなんて」 キュルケは忌々しげに外に見えるゴーレムの足を睨んだ。 「あのフーケがいるってことは、アルビオン貴族が後ろにいるということだな。ギーシュ君は最悪、見捨てることになるかもしれん」 ワルドのその言葉に、ルイズが声を上げる。 「そんな!」 「この状況じゃ、探しにもいけないよ」 アノンにそう言われても、ルイズは納得していないようだ。 話している間も、矢は飛んでくる。 キュルケはテーブルの盾から身を乗り出し、反撃の火球を放つも、すぐさま討ち返された矢に、慌てて頭を引っ込める。 「それより、このままじゃいずれ精神力が切れるわ! そしたら連中、一斉に突撃してくるわよ。どうすんのよ!」 「こうするのさ!」 突如、勇ましい声が酒場に響いた。 それと同時に、厨房の方から大きな鍋が、突入を図ろうとしていた傭兵達に向かって投げつけられた。 派手な音と共に、鍋の中にたっぷり入っていた油がぶちまけられる。 「ギーシュ!?」 ルイズたちが声の方を見ると、趣味の悪いシャツを血で汚したギーシュと、鍋を投げたワルキューレが立っていた。 「キュルケ! 炎だ!」 「言われなくても!」 傭兵達が怯んだ隙に、キュルケはテーブルから乗り出し、火球を放った。 火球は撒かれた油に引火し、火の海を作り出す。 「ルイズ! ここは任せろ! 君たちは船へ!」 タバサがこんな時まで読んでいた本を閉じ、自分達を指して、 「囮」 と呟く。 「聞いての通りだ。裏口に回るぞ」 「行くよ、ルイズ」 「え? え? ええ!?」 戸惑うルイズを急かし、ワルドとアノンはテーブルの影から飛び出した。 三人めがけて矢が放たれたが、タバサの風が全て防ぐ。 三人は裏口から、桟橋へと急いだ。 キュルケの炎をタバサの風が煽り、陣形の崩れた傭兵達に青銅のゴーレムが突進する。 突然のギーシュの参入で、傭兵達は動揺し、形勢は一気に逆転した。 あれだけいた傭兵達は、すでにほとんどが逃走を初めている。 「あんたどこ行ってたのよ」 逃げ出した傭兵達に一仕切り勝ち誇った後、キュルケはギーシュに尋ねた。 戦闘が一段落し、床に座り込んでいたギーシュは顔を上げて答える。 「ちょっとトレーニングさ。そしたら急に宿の方が騒がしくなったからね。急いで戻って来たってわけだ」 「傭兵の中を突っ切ってきたわけ?」 「連中、後ろはまるで気にしてなかったからな。厨房の窓に飛び込むまで、ほとんど無傷で走り抜けられたよ」 「へえー…」 キュルケは意外そうにギーシュを見た。 あの軟派なドットメイジがえらく変わったものだ。 伊達に武門の出ではないということか。 「しかし…傭兵とはいえ、人を殺すというのはあまり気分の良いものじゃないな」 ギーシュは今回初めて、本格的な命のやり取りを経験したのだ。 戦いの興奮が冷めてそれを実感したのか、青い顔で体を震わせた。 「まだ終わっていない」 タバサが二人に言った。 その直後、轟音と共に宿の入り口がなくなった。 「あちゃあ。忘れてたわ。あの業突く張りのお姉さんがいたんだっけ」 ゴーレムの肩ではフーケが、目をつりあげてこちらを睨んでいる。 「どうする?」 「ルイズたちは行ったし、もう戦う意味が無いような気もするが……」 「調子にのるんじゃないよッ! 小娘どもがッ! まとめてつぶしてやるよッ!」 フーケの怒鳴り声が響く。 「……そう簡単には逃がしてくれなさそうよ?」 タバサが、ギーシュを見て言った。 「さっきと同じ。油と炎」 「あの巨大なゴーレムを焼けるだけの油がどこにあるんだね」 「あなたが作る。まずは花びら、それもたくさん」 それでギーシュは、タバサの意図を察する。 「…ああ、了解。今度は相手がゴーレムなだけ気が楽だ」 よっこらしょ、と腰を挙げ、ギーシュは薔薇の杖を振った。 無数の花びらが生まれ、それをタバサが風に乗せてゴーレムへと飛ばす。 花びらが、ゴーレムにまとわりついた。 「うん。あの無骨なゴーレムも、僕の薔薇でずいぶん見栄え良くなったじゃないか」 勝ちが見えたからか、それとももう恐怖が麻痺したか。 ギーシュはあのフーケを前にしているにもかかわらず、なんだかのん気な気分だった。 「なによ。贈り物? 花びらで着飾らせてくれたって、見逃してなんかやらないよ!」 フーケがせせら笑ったが、ギーシュは冷静に『錬金』を唱えた。 ゴーレムの表面に張り付いた花びらが、ぬらりとした油に変わる。 「これは…」 フーケは、敵たちの能力と照らし合わせて、すぐにその目論見に気づいた。 (やばい!) フーケがゴーレムから飛び降りると同時に、キュルケが『ファイアーボール』を放った。 ゴーレムは一瞬にして炎に包まれる。 燃え盛る炎を振り払おうと、ゴーレムはしばらく暴れていたが、やがて力尽きたように崩れ落ちた。 雇い主の敗北に、わずかに残っていた傭兵達も散り散りになって逃げていく。 「やったわ! 勝ったわ! 私たち!」 ぴょんぴょん跳ねて喜ぶキュルケ。 タバサは座っていつものように、本のページをめくり始める。 逃げ去っていくフーケと傭兵を見送り、ギーシュは大きく息をついて、地面に大の字に寝転んだ。 空には、重なり合った双月が輝いている。 「ルイズたちは無事に船まで行けたのか…?」 今は考えても仕方ない。 ギーシュは襲ってきた疲労に任せて、目を閉じた。 前ページ次ページアノンの法則
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108 :それも名無しだ:2010/10/19(火) 23 05 08 ID +iyFMsMQ イスペイル様は変態だけど、ルイス様は苦労人に入ると思うの。 109 :それも名無しだ:2010/10/19(火) 23 56 48 ID JIijJ6J+ ルイス様「うわぁ~ん!私、変態じゃないよぉ~みんなにドジっ子って、言われるだけだよぉ~!」 110 :それも名無しだ:2010/10/19(火) 23 59 03 ID 3fG2ypIY 苦労人ですら気づけば変態化していく…ザイリン酸の侵食力は異常だなw 115 :それも名無しだ:2010/10/20(水) 19 58 32 ID dboVT0ly ルイス様「私もついに変態さんの仲間入りしちゃったよぅ…orz」 レイ(種)「気にするな。スーツを着ていない状態ならまだ変態ではない。 が、油断していたらスーツ着用時同様変態になる可能性も無きにしも非ずだな」 ルイス様「ふえぇ!?ど、どどどどうしたらいいのかな…」 レイ(種)「率直に言うと、スーツ着用時は変態というのはすでに免れない事実だ。 だが、スーツを脱いでいる状態だけでも変態ではない趣味を見つければ、 少なくともルイスでいるときはマトモな状態でいられるだろう」 ルイス様「あぁ、やっぱりあの姿の私はもう変態なんだね…なんか悲しいなぁ… でも、私研究以外の趣味とか全然知らないよ?」 レイ(種)「まぁ、そこは俺も極力協力してやる。マトモな女性に聞いてみるのもいいかもしれん。 ルナマリア辺りならいい意見が得られるだろう」 ルイス様「う、うん。分かった。 …ありがとうね、何度も面倒見てもらっちゃって。」 レイ(種)「気にするな。俺は気にしない」 116 :それも名無しだ:2010/10/20(水) 20 16 53 ID jjKW80gx ルナマリアの意見を聞いて、ジョシュアを逆レイ〇するルイス様の姿が(ry 117 :それも名無しだ:2010/10/20(水) 22 35 10 ID lIooL/Qa 【ペットショップ・ry】 ルナマリア「趣味ねぇ」 レイ「気にするな、俺は(ry)とも言えんのでな。何かアドバイスを」 ルイス様「お、お願いしますっ!」 クーコ「あのう、ルイスさんてよく今みたいなフリフリの服を着てますよね。服とかのショッピングはどうなんです?」 ルイス様「えっ!?こ、これは…L君とかBちゃんに買ってきてもらったものなんだけど」 ルナマリア「はぁ…自分の服は自分で買わないとダメよ。イスペ兵さんはお父さんの部下なんだから公私混同は(ry)」 ルイス様「す、すみません…(まあ父じゃなくて自分なんだが)」ペコペコ レイ「ふむ。買い物か」 【ギル・バーガー★】 ソル「天体観察なんてどうかな?夜空をじっくり見れば、地球が小さな星だって分かるよ」 ルイス様『…天体ならぬ変態観察なら、毎日嫌という程してるが(汗)』 スウェン「バストアップ体操とかはどうだ」 ヒミカ「幼子に妙な知恵を吹き込むな。やはり銅鐸研究がお勧めじゃ」 セレーネ「趣味なんか昼寝か朝風呂で十分よ」 剣児「間違ってもあんな大人になるなよ」ヒソヒソ ルイス様「は、はぁ」 レイ「まあ、一応メモをとっておくか」 総士『剣児さんがマトモなアドバイスをするなんて…… いやよそう、僕の勝手な思い込みでみんなを混乱させたくない』 乙姫『総士、ミストの真似全然似てないよ』 【いんでぃくす☆】 レイ「どうする?ウチのメイドにも意見を聞いてみるか?」 ルイス様「う、うーん…何となく展開が読めちゃうんだけど…」 118 :それも名無しだ:2010/10/21(木) 01 44 22 ID xe+5rQW2 ルイス様「その前に、お客さんにも聞いてみようかなぁ」 シンシア「趣味?ゲームっしょ!せっかくのアキバなんだし色々漁ろうよ!」 メイリン「と○のあなに○イト、ゲー○ーズ、そっち方面が好きになれば天国ですよね」 アビー「いんでぃくす☆は男性多いから観察してるだけで美味しいじゃないですか。 剣司君ヘタレ攻めジョシュアさん流され受け、ザイリンさんうっかり攻めに肉○器ノーザさんで」ムフフ ルイス様「…ア、アハハハ…ちょっと理解しがたい世界かな…」 早乙女「うげーっ、オタク女の趣味と来たら軟弱だよな!もっと筋肉使えってンだ!」 パイ「そーさね、少しは身体動かさないと育ちが悪くなるよぉ。おっぱいとかのさ」プルン シンシアメイリンアビー「余計なお世話だよ(です)っ!!!」 レイ「オタ女VS筋肉女の平行線バトルが始まりそうだが、俺は気にしない」 ルイス様「ま、まぁ私もどっちかといえばオタク側なんだけど」 レイ「(どっちかどころかかなりの…)気にするな、俺は気にしない」 ニュッ プロ子「あらあら、ルイスちゃんが新たな趣味をお探しですって!(・∀・)」 ルイス様「(げげぇ!厄介な奴が来おった!)は、はい…そのぉ…」 プロ子「そうですわね、コスプレ少女を目指してはいかが?わたくしが似合うコスを見繕って差し上げますわ(・∀・)」 つスパロボMXア○アコス つエロ水着 つエロランジェリー ルイス様「こ、こんな布の少ない衣装なんて…趣味で着られやしません!」 レイ「コスプレというよりただの板倫への挑戦だな。だが俺は気ry」 ステラ「うぇーい?そのパンツはステラのだよぉ~」 ノザ子「らめぇぇえ!それノザ子のブラだよぅ!(///」 ルイス様「二人ともこんな凄いの着けてたの!?」ガーン プロ子「オホホ、二人ともわたくしの英才教育の賜物ですわよーん(・∀・)」 119 :それも名無しだ:2010/10/21(木) 03 29 28 ID um4mSoC6 ルイス様「はぁ・・・なんか疲れてきちゃった・・・」 レイ「あと、この店で聞いていない人物となると・・・」 咲良「買い出しから戻りました。」 祐未「あれ、ルイスちゃん。何か用事かしら?」 ルイス様「(ようやくまともな相談が出来そうだな)え、え~と、実は・・・」 咲良「ふ~ん、新たな趣味探しねぇ・・・」チクチク レイ「ああ、それで様々な女性陣に色々聞いているのだが・・・」 祐未「まだ美容体操とかやる様な歳ではないしねぇ・・・」チクチク ルイス様「?祐未さん逹。さっきから何をやっているんですか?」 祐未「冬に向けて新しいセーターを編んでいるんだけど・・・。そうだ!?ルイスちゃん。一緒にやってみない?」 ルイス「えっ!?き、急に言われても・・・」 咲良「大丈夫だって!!私達がちゃんと教えてあげるから」 ルイス様「う~ん・・・」 レイ「この際やってみてはどうだ?見ているだけよりも少し体験した方がいいぞ」 ルイス様「は、はぁ・・・じゃあ少しだけ・・・」 120 :ルイス様にこんな事をさせる俺のネタに価値ry:2010/10/21(木) 07 11 59 ID JO9WsIWN 【イディクスの部屋】 ヴェリニー「で編み物をやっていたらこのザマ。ほんとにドジっ娘だね」 ルイス様(両手がドラ○もん状態)「うー、わたしだって好きでドジっ娘やってるんじゃ…」 ヴェリ兵B『好きでやるものじゃないよね』 ヴェリニー「はいはい、取れたよ。この毛糸は貰ってもいいかい?」 ルイス様「うん、咲良ちゃんからの貰い物で良ければ。ヴェリニーも編み物するの?」 ヴェリニー「違うさね。これはこうやって使うんだよ」ツンツン ルイス様「は?」 ヴェリニー「ああ…毛糸を転がすと癒されるぅ」コロコロ ルイス様「ずいぶん変わった趣味だね……」 ヴェリ兵B「趣味というよりは本能ですね」 ガズム「趣味か?俺も特にない…うっ!また頭痛がぶり返した」イチチ ゼナ(ガズム専用の介護アンドロイド・少女型)「だ、大丈夫ですか、ガズム様?」 ガズム「ま、またいつもの頭痛だ。それよりこの前買った頭痛薬を…」 ゼナ「また新しい頭痛薬ですか。そろそろ新しいのを買うのを止めては」 ガズム「そ、そうは言ってもな…う、痛ぇ」 ルイス様『頭痛薬を買いあさるのも趣味かな?』 ヴェリ兵C「アタシはお菓子の買い食いニャ♪」ペロペロ イスペ兵S「僕はギャルゲにエロゲです!」キリッ ヴェリ兵M「……メカいじり(///」 ルイス様「みんな結構趣味持ってるんだ…」 ル・コボル「プロ子ちゃんに勧められたコスプレはどうするの?」 ルイス様「あ、あんな…えっちなのは着られないよぉ~」 ヴェリ兵A「まあエッチなコスプレが出来るにはあと五年は必要かな」 ヴェリ兵N「ルイス殿にはまだ早いでござる」 ルイス様「………#」カチン←ルイス様の闘志に何かが付いた音 【いんでぃくす☆】 ルイス様「つ、つい……反発して付けたけど……何か恥ずかしいな(///」モジモジ ザイリン「ルイス君がモジモジしてるが…」 翔子「体調でも悪いんですかねぇ」 プロ子「オホ(・∀・)」 121 :それも名無しだ:2010/10/21(木) 13 27 25 ID oYS7Xt33 ヴィル「母よ、今日はやけにソワソワしてるな」モグモク ルイス様「べ、別に何でもないから!き、気にしないで!」 ヴィル「なら私は何にも気にしないし構わん」ムシャムシャ ルイス様「ヴィルはどうせならカロリー気にした方がいいね…」 ミスト(まだバイト中)「ほらヴィル!ご奉仕おいもプディングお待たせだ!」 ヴィル「ふんっ!」 ベキッ ミスト「へぶぅ!?い、いきなり殴るなよぉ!?」 ヴィル「メイドならばしおらしく『ご主人様、お待たせしましたぁ☆』と言え」 ミスト「些細なことじゃないか…一緒に住んでるのにそんな演技恥ずかしい…」 ヴィル「馬鹿、親しき仲にも礼儀ありだ、メイドの立場をわきまえろ」パクパク ルイス様「(そう言えばコイツ等、同居してるのか…今更だが不安だな…よもや)」 モワモワーン ミスト『アトリームにもデキ婚はありましたよ、地球より迅速なものがね』 ヴィル『腹の子の栄養も取らねばならん、もっとスイーツを寄越せ』ムシャムシャ シェルディア『ずるーい!ボクだって4ヶ月目なんだからね!』モグモク アンジェリカ『うぷ…や、やめて、つわりでお菓子の匂い嗅ぐと…オェーッ』 ミスト『全員まとめて母親にするだなんて、こんな俺に価値はry』 ルイス様「価値はないよぉぉー!!!」ミルナリオンハンマー!! ミスト「クリスタルッ!!」ベタン ヴィル「いいぞ母よ、この無礼なやつに礼儀を叩き込んでやれ」ムシャムシャ 123 :それも名無しだ:2010/10/21(木) 21 36 18 ID JO9WsIWN 122 ザイリン酸のせいです ええ全てザイリン酸のなせる業です… 【ボロめなアパート】 ロン「ルイスちゃんの趣味って何かなぁ」 ヴァン「最近寝てもさめてもルイスルイスだな」 セイジュウロウ「ロン、悪いことは言わん。そろそろ夢からさめろ」 ロン「失礼だなぁ。これは仕事でルイスちゃんを調べてるんだ、けっして興味本位じゃないよ」 ヴァン「嘘臭え」 セイジュウロウ「…まあそれで稼げるなら問題はない」 ロン「うーん、ルイスちゃんの趣味…女の子らしく刺繍とかお花を育てることかな。 いやいや意外にも下着集めとか…ルイスちゃんのパンツ…きっと清純な白とか可憐なピンクなんだよねぇ」クネクネ ヴァン「馬鹿だな」 セイジュウロウ「…馬鹿に着ける薬はない」 【いんでぃくす☆】 ルゥ「下着占い?」 プロ子「ええ、ネットで見つけましたの。ちなみにこれが今日の運勢ですわよん」つ【リスト】 翔子「フヒヒッwwちょっと試しにww」 白:いつも清楚可憐な貴女にラッキー。片思いの彼が誘いにくるかも? 黒:大人っぽい貴女に刺激的な出会い。血湧き肉踊る出来事が… ピンク:恋に生きる貴女に恋敵の襲来!ラッキーアイテムはハリセン 青系:クールに決めた貴女だけどピンチが!?水回りには気をつけて! 黄色系:ほんわかタイプの貴女は金銭的にちょっとひと息つけそう 縞系:一癖ある貴女にはきつーいお仕置きが。オカンには要注意! アダルト系:背伸びしたい貴女に【板倫】超えの大々ピンチ!?何をやってもダメかも… ルイス様「ええーっ!」ガビーン プロ子「あらあらルイスちゃんたら。占いを信じ過ぎてもいけませんのよ(・∀・)」ニヤニヤ ルイス様『プ、プロイストめぇぇえ!!私で遊ぶ気満々だな!!』 124 :それも名無しだ:2010/10/21(木) 21 49 02 ID aLbGUmf4 一応ラスボスであるル・コボル様がスレ随一の常識人ってのもすげえ話だな… レイ(種)「手段と目的が入れ替わって余計に変態化が進んだようだが気にするな、俺は気にしn」 ルイス様「気にして!?」 レイ「趣味は見つかったんだろう?ならば大丈夫だ、問題無い」 ルイス様「ある!問題あるよ!あれはつい勢いで…って何言わせるの!///」 レイ「落ち着け、お前は既に相当錯乱している」 ギャーギャー ヴェリニー「漫才見てる気分ね、どっちがボケでツッコミやらわかりゃしない」 ル・コボル「でも素で話せる相手が居るっていうのは良いことだよ?もう色々混ざりすぎて 素のキャラが何なのかわからなくなった私みたいなのはともかく」 ガズム「俺はガズムだがアンジェリカの父親はエルリックでアンジェリカは俺の娘で…ああ頭が」 125 :それも名無しだ:2010/10/21(木) 23 28 21 ID e4Coa5go ルイス様「と、に、か、く!あれは一時の気の迷いで趣味にするつもりは無いから!」 レイ(種)「そうか。結局振り出しに戻ってしまったが気にするな。俺は(ry まぁ、趣味を見つけるのにそう焦る事は無いだろう。やってみて偶然趣味になる事もあるしな とりあえずルナマリアが言っていたように、今度女性陣と一緒にショッピングに行ってみたらどうだ?」 ルイス様「そうだね…ルナマリアさんだったらまだマトモだしね。 しかし趣味を見つけるのがここまで大変だとは思わなかったよ」 レイ(種)「こんなことで悩むようになったのも、それだけ人間らしくなったからなんだろうな」 ルイス様「…そうかもしれないね。あ、そう言えばレイお腹空いてない?」 レイ(種)「む…もうこんな時間か」 ルイス様「今日は色々付き合ってもらったから、私が何か作ってあげるね。何がいい?」 レイ(種)「ふむ、ではカレーを頼むか…ってルイスは料理は出来るのか?」 ルイス様「あー、バカにしてるな。それくらい出来るよぅ。 まだまだ未熟な腕だけど、実は何度か作ってるし。…じゃ、作ってくるね」タタッ レイ(種)「…料理、か。全く、ちゃんと普通の趣味もあったじゃないか」 ル・コボル「本当にね。まぁ、それに気づくのも当分先になりそうだけどね~。 それより今日はありがとね。また相談される事もあるかもしれないけど、ルイスの事、よろしく頼むね」 レイ(種)「…気にするな、俺は気にしない」 126 :それも名無しだ:2010/10/22(金) 01 30 43 ID hbcvVw9P クルーゼ「レイも悩める女性へ助言できるほど成長したか」 ローザ「良かったですね、弟さんのこと、表に出さずとも心配しておりましたし」 クルーゼ「ああ、一時はデュランダルの阿呆に憧れたりしてどうなることかと」 ローザ「成長出来る、それこそ生きている証です。私たち死人には決して叶わない…」 クルーゼ「我らにも出来ることはあるさ、想いや経験を生きている人間へ伝えることが」 ローザ「ですわね。私、久しぶりに剣にお仕置きしてまいります♪」ススーッ クルーゼ「…レイが立派に育ってくれた今、私のやるべきことは」 ヒガント「プロイスト様ハァハァプロイスト様ハァハァぷろいすとさまハァハァハァハァ」ドクドクドク バルトフェルド「しばらく会わんうちに、ダコスタ君も妙なお友達が出来たんだねぇ」 ダコスタ「まー悪い子じゃないんですけど彼、お母さん見ると変態スイッチ入っちゃって」 プロ子「どうして我が子は変態ばかりですの?みんな私のクローンだというのに!」 剣司「そりゃ、プロイストさん自身ならみんな変態で然りっすよ!」 サスページ「すぐ板倫越えようとさせるプロイスト様こそ立派な変態ですし」 プロ子「んだと!俺の生き様捕まえて変態たぁなんだぁーっ!!」クワッ 剣サス「ヒギャー!!?」 クルーゼ「ウーム、我が子か」 ムゥ「零時過ぎ…エンデュミオンの夜鷹のお目覚めだぜ!」 ゲイン「俺の黒いサザンクロスも光って唸る、ってね!行くかい?」 ムゥ「おうさ、今日もまだ見ぬ女性と異文化交流(ビビッ)…うぐっ!?」 ゲイン「どーしたよ、ムゥ。腹でも痛いのか」 ムゥ「…か、下半身が…石みてぇに固まっちまってよ…」グググ ゲイン「なにぃ!?」 クルーゼ「奴も私にとって子みたいなものだからな、上手く矯正してやらねば」(金縛りビーム発生中) マリュー「はぁ…よく分からないけど頼むわね、クルーゼ」 クルーゼ「お義父様と呼んでくれて構わんよ」キラッ
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前ページ次ページハルケギニアの騎士テッカマンゼロ 「ホントに良かったの?」 ワルドのグリフォンの騎上で、上目遣いにルイズは尋ねた。グリフォンの手綱を引く、ワルドへ向けてのものだ。 今ルイズはワルドに抱かれるような格好でグリフォンにまたがっている。 目的地は昨日彼が言ったとおり、ヴァリエール公爵領。ときどき休みながらの、ちょっとした旅行のようなものだ。 「何だい? 急に」 「だってワルド、ゼロ機関とかの仕事で忙しいんじゃない?」 「君の警護も立派な仕事だよ。それにミス・ロングビルは優秀だしね」 「そうなの。そういえば、どんな仕事をしてるのか知らないわ」 「ラダムへの対策が主な任務だけど……今は国中から戦力に使えそうなものを探す方が重要かな。 ミス・ロングビルは今日はタルブ村に向かうと言っていたね」 「タルブ村? そんな所に何かあるの?」 「確か……竜の羽衣の伝説がどうとか」 「竜の羽衣?」 「伝説だよ。本当にあるとは思えない」 緊張しているせいか、口数が多くなっている。ワルドもそれは分かっているので、笑いながら話に付き合っていた。 そうこうしているうちに、目的地は確実に近づいていた。 少しずつ、ルイズの顔がこわばっていくのが分かる。 「ほら、見えてきたよ」 地平線の向こうに、やっと領境が見えてきた。 ヴァリエール公爵領は広い。領境から屋敷まで普通の馬車で半日かかる。 ワルドたちはグリフォンをとばして来たが、それでも時間がかかることには違いない。 やっと吊り橋が見えてきた。 吊り橋は上がっていたが、ワルドのグリフォンの前には大した障害ではない。それを飛び越え、さらに走る。 屋敷の目の前まで来た二人はグリフォンを降りる。グリフォンを樹の辺りに待たせ、屋敷に向かう。 歩いている途中で、ルイズはふと顔を上げた。 「そういえば、ワルドは戻らなくていいの? 近くでしょ」 すると、ワルドは顔色を曇らせた。再会して以来、初めて見せる表情だ。 「ワルド?」 「いや、すまない。僕の領地は壊滅したんだ」 「壊滅!?」 意外な返事にルイズは素っ頓狂な声を上げた。それに対してワルドは努めて平静な感じで応える。 「ああ、ラダムの襲撃があってね。今はもうラダムの植物園さ」 「ご……ごめんなさい。わたし、そんなこと知らなくて」 「いいんだ。もう、過ぎたことだからね」 そう言って笑う。とても寂しげな笑いだった。かなり堪えているのは間違いない。 当然だ。貴族として、領地を失うのは身を切られるように辛いはずだ。 ルイズは自分の迂闊さを心の底から悔いた。 屋敷の大きな門をくぐったところでルイズは足を止めた。 緊張しているのは分かるが、ここまで来て……。 そう思ったワルドが彼女の手を引いて促そうとしたところで、ルイズは顔をうつむけ、言いづらそうにしながらも口を開いた。 「……ねえワルド。一つ、頼んでいい?」 「何かな、僕の可愛いルイズ」 少しでも彼女の気を紛らわせようと軽い調子で言うが、彼女は顔を上げなかった。 「テッカマンのこと、父さまたちには言わないで」 家族に心配をかけたくないということだろう。ワルドはおどけた調子で承諾、ひざまずいてルイズの手をとり、その手に接吻をした。 「承知いたしました。我が姫君」 ルイズは照れて顔を真っ赤にし、ワルドに怒鳴りつけた。 ついに屋敷の目の前まで来た。来てしまった。 しかし、なかなか扉を開ける決心がつかない。手をつけただけで、そこから先に押せない。 ワルドはルイズが扉を開けるのをあえて待っているのか、何も手助けをしない。 「あなたたち、何をしてるのかしら」 そこへ後方から鋭い声が投げかけられた。ルイズは慌てて振り向くが、ワルドはそれを予期していたかのごとくゆっくりと後ろを向く。 そこでは、きつい目つきをしたブロンドの女性が杖をルイズたちに向けていた。 女性の姿を見て、いや見るまでもなく声だけでルイズはそれが誰か分かった。 「エ、エレオノール姉さま!」 紛れもなく、その女性はエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。ルイズの長姉だ。 ルイズの顔と声を聞いたエレオノールは一瞬驚くが、すぐにいつもどおりの表情を取り戻す。 「あら、あなた……ちびルイズ?」 そしてつかつかと歩いてくる。懐かしさに抱きつこうとしたルイズは、いきなり頬を引っ張られた。 「どの面下げて、ここに顔を出しているのかしら~」 「い、いひゃい! なにをひゅるの、ねえひゃま」 その様子を見ていたワルドは、くすくすと笑いを漏らした。その声にエレオノールはルイズから手を離し、ワルドの方に向き直る。 「あなた、ワルド子爵ね。……結婚の報告にでも来たのかしら」 「ち、違うわよ! ワルドはただここまで送ってくれただけで……」 「そう……まあいいわ。入りなさい」 大きな扉を開ける。その先では、ルイズとよく似た桃色の髪をした女性がしっとりと微笑んだ。 「ルイズ……、お帰りなさい、小さなルイズ」 「ちいねえさま!」 ルイズのすぐ上の姉、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌだ。まるで来るのが分かっていたか のように、ルイズを出迎えた。嬉しさのあまり、ルイズは彼女のすぐ上の姉に抱きついた。今度は頬をつねられるようなこともない。 「お久しぶりですわ、ちいねえさま」 「ルイズ、お顔をよく見せて」 細く白い手をルイズの顔に添えて、顔を近づける。 「まあ、すっかりきれいになって」 「ちいねえさまったら。ね、お体の具合はいかが?」 「ありがとう、相変わらずよ」 ルイズが顔をうつむけたのを見て、カトレアはとりなすように言う。 「大丈夫よ。いつものことだもの」 そこで話題を変えようと、ルイズは別の質問をした。 「そういえば、父さまと母さまは?」 ルイズの質問に、カトレアもエレオノールも顔をそむける。カトレアが口を開こうとしたところで、エレオノールは手で制した。 「父さまは貴族として軍務に復帰して以来、連絡がつかないわ。母さまは……」 「お姉さま、それは……」 カトレアが制止しようとしたが、エレオノールは構わずに続けた。 「……母さまはあんたを探しに行ったきり、帰ってこないわ」 彼女の言葉に、ルイズは大きな衝撃を受ける。自分を探しに行ったということは、トリステイン魔法学院に…… 「あの……姉さま、それってどういう……」 「魔法学院と連絡が取れなくなって、あの化け物が現れたでしょ。それで、あんたを探しに飛び出していったのよ」 「お姉さま!」 カトレアは珍しく声を荒げた。しかしエレオノールはその抗議を受け付けない。 「黙っていてもいずれ分かることよ。ならさっさと教えた方がいいわ」 「それは……ルイズ?」 ルイズは放心したように、両膝を地面に落としている。尋常ではないその様子に、カトレアはしゃがみこんで問いかけた。 「ルイズ、大丈夫?」 「わ、私のせいで……母さまが?」 「そんなことはないわ。あなたのせいではないのよ、ルイズ」 「ルイズ、話があるから後で私の部屋にいらっしゃい」 そんな二人の様子を見下ろしながら、エレオノールはきつい調子で言った。 何とか自分を取り戻したルイズは、カトレアの部屋でドレスを選んでもらい、彼女自らに髪を整えてもらっていた。 心労のせいか、髪の毛はかなり痛んでいた。カトレアは優しく、自分とそっくりな色の髪に櫛を通す。 沈んだままの表情で、ルイズはカトレアに訊いた。 「……ちいねえさま」 「何? ルイズ」 「エレオノール姉さまって、やっぱりわたしのことを嫌ってるのかな?」 「何でそんなことを思うの?」 「だって、エレオノール姉さまったら昔からわたしにいじわるしてばっかで……母さまだってわたしのせいで……」 途中から涙声になっている。カトレアはルイズを後ろから優しく抱きしめ、ささやいた。 「そんなことないわよ。姉さまだってあなたのことが可愛くて仕方ないのよ。心配だから、ついついきつく言っちゃうの。 それに、魔法学院のことを聞いて真っ先に飛び出そうとしたのはねえさまなのよ?」 「え、うそ!」 「本当よ。けど、わたしをほうっておけないからって姉さまは家に残って……母さまが代わりに探しに行ったのよ」 ルイズはカトレアの話に聞き入った。昔から自分にいじわるばかりしていた長姉の意外な一面を初めて知った。 「だから、母さまのことはルイズのせいじゃないわ。むしろ、わたしのせいよ?」 「そ、そんなことない! ちいねえさまのせいなわけないじゃない!」 「ほら、誰のせいでもないでしょ? 母さまは自分で決断して出て行ったの。だから、あなたが気にすることじゃないわ。 分かった?」 「……うん」 長い沈黙の末、ルイズは頷いた。カトレアも満足そうに微笑む。そして再びルイズの髪の毛に櫛を入れた。 カトレアに再び髪を整えられる気持ちよさに身を委ねながらも、ルイズは思った。 誰のせいでもない。ちいねえさまはそう言っていたけど、本当はそうじゃない。 紛れもなく、ラダムのせいだ。そして、それを呼び出したのはわたし……。 カトレアに見えないところで、ルイズは強く拳を握り締めた。 「エレオノール姉さま、入ります」 カトレアと共に、部屋に入る。そこにはエレオノールだけでなく、彼女と対峙するような形でワルドまでがいた。 「あら、来たわね」 ルイズが入ってきたのを見たエレオノールはちょうどいい、とばかりに言った。 ここに何故ワルドがいるのか分からないルイズは、混乱する。 「お姉さま、これはいったい……?」 「ワルド子爵にも聞いてもらうためよ。あなたたち、さっさと結婚なさい」 あまりにも突然のことで、わけが分からない。ルイズは間抜けにも、呆けた表情となってしまった。 「……え? ええぇぇぇぇっ!!?」 やっと理解したルイズは、可愛らしい声を全開にして驚いた。 エレオノールは、ルイズが叫び終わって息を整えているのを見計らってから、発言する。 「もう学院もなくなってしまったことだし、おとなしくうちで花嫁修業でもしていなさい!」 「でも……」 「でも、じゃなくてはいでしょ! あんたたちは婚約者なんだから、別に今から結婚しても問題ないわ!」 しかし、あまりにも突然のことに、気持ちの整理がつかない。 「だって……そうだ! ワルドは、ワルドはなんて言ってるの!?」 突然話を振られたワルドは、ルイズのほうを見、エレオノールのほうへと向き直る。 「そうだね。僕としてはルイズと今すぐ結婚できるのは嬉しいよ」 「……だそうよ。ルイズ、文句はないわね!」 エレオノールは強い調子で断じた。あまりのことに、ルイズは惑うばかりだ。 「そんな……いきなり」 そのとき、ルイズは他のテッカマンの気配を感じた。すぐ近くにいるこれは、間違いなくダガーのものだ。 ルイズはエレオノールとカトレア、ワルドの顔を次々と見比べた。そして、ワルドの方に視線を固定させる。 彼女の視線に気付いたワルドは首をかしげる。 「どうかしたのかい?」 「ワルド、ちょっと来て!」 返事も聞かず、強引に引っ張って部屋を出る。ドアに差しかかった辺りで、カトレアが声をかけた。 「ルイズ、どうかしたの?」 そして、足早について来ようとする。ルイズは心の中で謝りながら、大きな声で言った。 「ごめんなさい、ちいねえさま! ワルドと二人っきりで話があるの!」 廊下に出たルイズは、そのまま足早に外へ向かっていた。彼女の尋常でない様子と表情に、思い当たったことを訊く。 「ラダム、かい?」 こくりと頷く。ワルドは仕方ない、とでも言う風に肩をすくめた。 「お姉さまたちには、うまく言ってくれる?」 「分かったよ。君との結婚は当分先になりそうだね」 「え?」 「こんなんじゃ、結婚なんてとてもできそうにないからね。お姉さまたちにもそう伝えておくよ」 そう言って、ワルドは部屋へと引き返していった。後姿を見送ったルイズは、意を決して外へ向かって駆け出した。 領地内の森の中。そこで一人の少年がバラをくわえながら木にもたれかかっていた。 金色の巻き髪をした、美少年といってもいい顔立ちをしている。彼は何かを隠すかのように、常に顔の右側を右手で覆っていた。 そこに、小さな足音が響いた。木の根に足を取られないように気をつけ、飛び跳ねるようにして、ルイズがやってくる。 彼女の姿を見つけたギーシュは身を起こし、嬉しそうな声を発した。 「よく来てくれたね。嬉しいよ、ルイズ!」 「ギーシュ……!」 状況と台詞だけ取ってみると逢引のようにも見えるが、二人の間に流れる不穏な空気はそれを否定する。 そう。彼らの間にあるのは、殺意だけだった。 一方は裏切り者に対する蔑みと右目の傷に対する恨み。 もう一方は自分の大切な者を奪った存在に対する憎悪。 「この傷の恨み、受けてもらうよ」 ギーシュは右手にクリスタルを持った。それで初めて彼の顔があらわになる。 それを見て、ルイズは息を飲んだ。顔の右側に大きな傷跡が刻まれ、彼の顔を台無しにしていた。 そして、右手のクリスタルを天に掲げて叫んだ。 「テックセッター!」 システムボックスに包まれたギーシュの身体は人ならざるもの、ラダムの姿へと変わっていった。 「テッカマンダガー!」 それに対し、ルイズもクリスタルを掲げて叫んだ。 「テックセッタァーッ!」 ルイズの身体もシステムボックスに包まれ、ギーシュと同じような変化を遂げる。 実際、ギーシュとルイズはほとんど同一の存在だ。どちらも同じ物によって、同じ改造を受け、同じような姿へと変えられた。 唯一つの違いは、人の心が残っているかどうか。ただ、それだけだ。 だからこそルイズは今までギーシュを倒すことができなかった。 しかし、今は違う。母を奪われ、ラダムへの怒りと憎しみに満ち溢れている今なら。 「テッカマンゼロ!」 変身を完了したルイズ、テッカマンゼロはテックランサーを構え、かつての学友に飛び掛っていった。 二人のテッカマンは空中を自在に舞い、接近してはランサーを切り結び、高速で離脱してはまた切り結ぶ。 テッカマンが高速で飛び回るたびに衝撃波が発生し、木々をなぎ倒していく。 ダガーは魔法を使わないまま、テックランサーを駆使している。 彼には勝算があった。先の戦闘の経験から、ゼロがとどめをさせないと踏んでいたのだ。 だが、戦闘が始まってすぐにそれは誤算だと思い知った。ゼロの攻撃はいつになく苛烈で、迷いのないものだったのだ。 しかし、作戦には直接の関係はない。 ただゼロを罠にはめ、あの世に送り込むだけだ。 幾度目かの衝突で、機会が来た。 低空で激突し、間合いが離れた瞬間、ダガーはランサーを変形させ、横に構える。 変形したテックランサーから反物質の矢、コスモボウガンを連続して放たれた。 ゼロはとっさに下に移動し、それをかわす。あまりに急激な回避は勢いを止めきれず、地面に足を着いてしまった。 それを見たダガーは、仮面の下で薄く笑った。罠にかかったのだ。 「いまだ!」 ダガーがバラの花を振る。と同時に地面から複数の手が飛び出し、ゼロの足を掴んだ。 「えっ!?」 その腕は土を吹き飛ばし、全身を現した。ワルキューレだ。 完全に虚を疲れたゼロは、四肢を完全に拘束されてしまう。 「これで終わりだ、ゼロ!」 ダガーはランサーの変形したコスモボウガンを連射した。ボルテッカには到底及ばないが、直撃すればただではすまない。 その寸前、かろうじてゼロは身体を動かした。 二、三発の矢が肩に突き刺さるが、心臓を狙っていた矢はコスモボウガンはゼロに突き刺さる前にワルキューレの背中を貫き、爆発した。 衝撃でワルキューレの拘束する力が緩む。その瞬間、ゼロは懇親の力で両腕の拘束を外し、右腕の自由を奪っていたワルキューレをダガーへと投げつける。 「なにっ!?」 二人の一直線上にワルキューレが割り込んだ。一瞬、互いの視界が遮られる。 ゼロは両肩の装甲を開き、全てのエネルギーを込めた。片側四つ、計八つのレンズ状の物体に光が集まる。 彼女の脳裏に母親のイメージが浮かんだ。そして、叫ぶ。 「ボルテッカァァッ!!」 今度は、迷いはなかった。ボルテッカは狙い違わずダガーに迫っていく。 もはやダガーに避ける術はなかった。 「うあああぁぁぁぁぁっっ!!」 断末魔の叫びを残し、テッカマンダガーはフェルミオンの奔流の中へと消えていった。 ゼロは両肩の装甲を収納する。 身体を拘束していたワルキューレたちは、崩れ落ちるように大地に消えた。 ダガーが滅びた何よりの証拠だ。 わたしは、ギーシュを殺したんだ……。 静かになったところで、ワルドはルイズがいると思われるところへ走った。 先ほど、凄まじいエネルギーの放たれたところだ。 果たしてルイズは、そこにいた。 桃色の髪をした小柄な少女は、手に持った何かを呆けたように見つめている。 「ルイズ、それは?」 彼女の手の中にあったのは、一枚のバラの花だった。それはやがて、溶けるように消滅した。 しばらくの間ルイズはそれを見つめ続けていたが、何かを吹っ切るようにワルドの方を向く。 「……ううん、なんでもない。それより、もう帰らないと」 「いや、それは……」 「ごめんなさい。今は、お姉さまたちと顔をあわせられない」 ルイズは下を向き、思いつめたような顔で言った。 その表情に何かを感じたワルドは何も言わず首を縦に振り、グリフォンのいた場所へと走った。 テッカマンオメガは、ダガーの消滅を知りながらも何ら動揺を見せなかった。 「ダガーが倒されましたか。ならば、次の者を送りこむだけです、ルイズ」 その時、テックシステムから一人の人間が解放され、新たなテッカマンが生み出された。 前ページ次ページハルケギニアの騎士テッカマンゼロ
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さて、現在の刻限は朝である。 つまり、朝食の後には、授業を受けなければならないのだ。 気分を持ち直せたのはいいものの、この使い魔を伴ってそうすることを考えると、また気が滅入ってくる。 「着替え」 ルイズは気だるげに命じた。 だが、角女はルイズを見つめたまま――いや、 ルイズの手前の何もない中空をぼんやりと眺めやっていて、ぴくりとも動かない。 「はああぁ」 特大の溜息が漏れる……角女への怒りよりも、自身への呆れが勝ったのだ。 自分はまだ寝ぼけているのだろうか。 角女が小間使いの真似などできるはずもないことなど、ちょっと考えればわかるだろうに。 「『馬鹿なことを言ったわ』『こいつが言いつけに従ってテキパキ働けるわけないのよ』 『昨日は、椅子に座るだけでもあんなにとろとろしていたんだから』」 「いちいちうるさいわね」 軽い自己嫌悪の最中に、角女がわざわざ声に出してそれを伝えてくれたので、ルイズはムッと口を尖らした。 仕方なく――と言ってもこれまで毎日やってきたことなのだが、自分で着替えることにする。 制服は皺くちゃになってしまったので、クローゼットから予備のものを取り出した。 「ほら、あんたも一緒に来るのよ」 身繕いを終えたルイズは、角女をせっついて部屋を出る。 と、間の悪いことに、それとほぼタイミングを同じくして隣の部屋のドアが開いた。 中から、燃えるような赤毛の、背の高い女生徒が姿を現す。 ルイズの宿敵、犬猿の仲であるキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーだった。 「あら。おはよう、ルイズ」 キュルケはこちらを見て、唇の端を吊り上げた。 それからルイズの背後に幽鬼のように佇んでいる角女を指差して、言う。 「あなたの使い魔って、それ?」 まったく馬鹿にしきった口調である。 第一、あの儀式の場でルイズを遠巻きに見ていた同級生たちの中にはキュルケもいたはずなのなのだから、 皮肉もいいところだ。 「……そのとおりよ」 仏頂面で応じて、ルイズはさっさと食堂に向かうことに決めた。 何か言い返してやってもいいのだが、 角女がいつルイズの心を読み上げ始めるかわからないのだ、気が気でない。 「あはははっ、すごいじゃない、ルイズ! ゼロの汚名返上ってところかしら?」 キュルケはそんなルイズの心のうちも知らず、弾けるような笑い声を上げる。 ルイズはますます眉間に皺を寄せた。 嫌味たっぷりに言われても、少しも褒められた気がしない。話を切り上げるべく、口を開く。 「あんたの話には付き合ってられないわ、ツェルプストー」 「そう言わないでよ。ねえ、フレイム」 キュルケがちらりと後ろを振り向くと、 その背後、ドアが開け放たれたままのキュルケの部屋から、のそりと火トカゲが這い出てきた。 「これって、サラマンダー……?」 「そうよー。あたしも昨日、使い魔を召喚したの。見て? この尻尾、素敵でしょう」 ルイズの呟きに、誇らしげに微笑むキュルケ。 ルイズは苦い顔になった。要するに、己の使い魔を見せびらかしたかったわけか。 ここまで大きな炎の尾を持つものはそうそういまい、おそらく火竜山脈のサラマンダーだろう。 メイジの実力をはかるには、まず使い魔を見ろ、という。 キュルケのサラマンダーは、その点、メイジにとって申し分ないと言えるだろう。 それどころか昨日召喚された使い魔たちをランク付けしたなら、五本の指のうちに入るに違いなかった。 昨晩、ルイズが絶望に暮れていた間、キュルケはルイズへの優越感にでも浸っていたのだろうか? そう考えると、胃の腑からむかむかとしたものが込み上げてくる。 「角女!」 ルイズは角女の腕を引っ掴んだ。 背丈はルイズよりも高いものの、その動作に抗いもしない角女は簡単に引きずられ、 よろめきながら大人しくルイズの前に出る。 「……? 何?」 突然のルイズの行動に、キュルケは目を瞬かせた。 「そそそ、それじゃあ、キュルケ」 笑おうとしたら、頬が引きつった。 「わ、私の、使い魔も、紹介してあげるわ。つっ、角女っていうのよ」 努めて穏やかな声を出しているつもりなのだが、どうしてもつっかえてしまう。 角女の痩せた背中を押して、キュルケの前に突き出す。 深い考えがあるのではなかった。 気まぐれに人の心を読むだけの角女が、己の思惑に沿ってくれるかもわからない。 ただ、無性に腹立たしかっただけだ。 キュルケも、自身の醜い心を暴かれたらいい。 そして少しはルイズが感じた苛立たしさや惨めさを思い知ればいいのだ―― そんな八つ当たりめいた、単純な思いからの行動だった。 「ふうん、角女ねえ」 困惑してはいるようだが、キュルケはきちんと目の前の角女と目を合わせた。 「……『少し変わってるけど、ちゃんと召喚できたんじゃない』」 「えっ?」 「『よかったわね、ルイズ』」 てっきり自分へのひどいけなし文句が飛び出してくるとばかり思っていたルイズは、 ぽかんとして、角女の後ろからキュルケを窺い見た。 キュルケは何が起こったのかわからないようで、目を丸くしている。 次いで、角女を見上げる。角女はじっとキュルケを見つめていた。 「『でも、落ち込んでるみたいね』『心配だわ』『いつもみたいに、発破をかけてあげなくちゃあ』」 「…………」 「…………」 ルイズとキュルケは、揃って黙り込んだ。 「キュ、キュルケ、あんた……」 沈黙を破ったのはルイズの方からであった。 角女が口にするのは、真実他人の心のみである。 そのことを昨日散々思い知らされたルイズにも、今の角女の言葉が意味するところをすぐには理解できなかった。 「……まさか、私を、励ましに来たの?」 普段の自分たちの関係からは、とても信じられない。 だが次の瞬間、ルイズはもっと信じられないものを目にした。 ――あのキュルケが、耳まで真っ赤になったのだ。 「なっ、ばっ、ちっ、ちちちち違うわよっ! わ、私が、ヴァリエールの女を? そんなわけないじゃない!」 勢い込んでまくし立てる。まるでルイズとキャラが入れ替わったようである。 キュルケも、言ってからそれを自覚したのだろう、ハッとなった後にわざとらしい咳払いをした。 「コホン! ……と、とにかく、変な勘違いしないでちょうだい」 「そ、そう。勘違い。そうよね、おかしいと思ったわ」 無理矢理感はあるが、いつものように澄ましてみせるキュルケに、ルイズも調子を合わせて頷く。 「『誤魔化さないと』『落ち着くのよ、キュルケ』 『今日だって本当は、昨日ルイズの様子がおかしかったから部屋から出てくるのを待ってたなんて』 『そんなことまでバレたら恥ずかしくて生きていけないわ』」 「…………」 「…………」 お互いの間に、再び幾秒かの沈黙が横たわった。 ややあって、キュルケは無言のまま踵を返す。 「いやあーっ!」 そして頭を抱えるように叫んで、廊下を駆け出して行った。 遅れて、その後をフレイムがちょこちょことした足取りで追いかけていく。 その尻尾が完全に廊下の角に消えてしまっても、ルイズはしばらく呆然としていた。 「ね、ねえ……」 やがて、ルイズが角女の服の裾を引っ張ると、角女はゆっくりとルイズに顔を向ける。 「角女。今の、本当なの?」 「『まさかね』『キュルケに限って』」 「わっ、私はね、あんたに聞いてるのよ! 答えられないの?」 無駄だとわかってはいても、つい語気を荒げてしまう。 「『でも、角女は心を読むだけしかしないわ』『こんなふうに』『嘘はつかない』」 「そう、だけど。でもキュルケが私を……し、し、しんぱいだなんて、そんなことあるかしら」 ルイズはさらに言葉を重ねようとして、しかしかぶりを振った。 角女相手だと、会話ではなく単なる自問自答になってしまう。 ルイズは腕組をして、一人考えた。 言われてみたら、キュルケの態度は他の皆とは少し違っている……ような、そうでないような。 少なくとも、魔法の失敗に対して罵倒に近いような野次を飛ばすことはしないわね。 でも、この前は、爆発に巻き込まれてキーキー怒ってたし、これだからゼロのルイズはって言われたし。 でもでも、どこかのかぜっぴきがする侮辱に比べたら、かわいいもの、とも言えなくはない、わよね? ルイズの思考はぐるぐるしだした。 しかも角女がそれを読み上げるものだから、さらに混乱に拍車がかかった。 「でもでもでも、キュルケの言葉に傷ついたことだって、一度や二度じゃないのよね」 知らず、ルイズは考えたことをそのまま声に出して言い始めていた。 「『まったく、紛らわしいんだから』『どうせなら、もっとわかりやすく励ましなさいよ』」 「そうよ! ほんと、そのとおりよね! そしたら、私だって、私だって――」 「……ミス・ヴァリエール?」 「きゃああああっ!?」 声をかけられて、ルイズは大げさな悲鳴を上げた。 振り返ると、学院のメイドが立っている。 「あっ、も、申し訳ございません! 驚かせてしまいましたでしょうか……」 メイドはルイズの悲鳴に一瞬固まったが、すぐに慌てふためいて頭を下げた。 「お、驚いてないわよ。ええ、全っ然驚いてないし、ツェルプストーのことなんか考えてないわ」 ルイズは平静を装ったが、 「『聞かれた?』『聞かれたかしら、今の?』『いやー!』『と言うか、私だってって何よ私!?』」 角女に台無しにされた。 「ううう、うるさいわよっ、角女!」 顔を赤くして使い魔を叱り付けるルイズ。 「あ、あの……ミス・ヴァリエール」 おずおずと口を挟んでくるメイドは、よく見れば、見覚えのある顔をしている。 ああ、いつも洗濯を頼んでいるメイドだ。名前は何といったか。 そして、ルイズはここが女子寮の廊下で、自室の真ん前であることを思い出した。 「洗濯物ね?」 横によけて、道をあける。 勝手に持って行っていいと言ってあるのだが、 今はルイズがドアを塞いでしまっているから、立ち往生してしまったのだろう。 「いえ、それもあるのですが……」 「何?」 「お食事はもうお済みになったのですか?」 「!!」 忘れていた。 一体どのくらいの時間、ここで呆けていたのだろうか。 今から走っていけば、まだ間に合うかもしれない。それと、鈍くさい角女を置いていけば。 少し考えて、ルイズはそうすることに決めた。どのみち、食堂には角女の分の食事はないのだ。 「あなた、角女――私の使い魔の食事を頼める? 多分、人間と同じものを食べると思うけど」 ルイズが言うと、メイドは珍しそうに角女をチラとだけ見て、それからルイズに向き直った。 「はい。賄い食でよければ、お出しできますわ」 「それでいいわ。私、急ぐから、代わりに厨房まで連れて行って」 「かしこまりました」 メイドの返事に満足して走り出そうとしたルイズは、ふと、その寸前で足を止めた。 「あなた……名前は何だったかしら?」 それは、貴族の例に漏れず平民を見下している常のルイズならば、決して口にすることのない質問だった。 一介のメイドの名など気にしたこともないし、現にこれまで尋ねたこともない。 「えっ、私ですか?」 案の定、シエスタもびっくりした顔をして、聞き返した。 「他に誰がいるのよ」 「は、はい、申し訳ございません――私は、シエスタと申します」 「シエスタね。そいつ、むちゃくちゃ扱いにくいから、よろしくね。先住魔法を使うけど、無害よ。たぶん」 「たぶん、ですか……」 やや青ざめた顔で、角女を見上げるシエスタ。 ルイズは今度こそ駆け出した。 その際に、角女がシエスタに何か告げているのがちらりと視界に映ったが、 気立てはよさそうだし、まあ、読まれても大丈夫だろう。 ギリギリで朝食にありつけたルイズが、無事食事を済ませ、アルヴィーズの食堂を後にしようとすると、 入り口のところでキュルケが待ち構えていた。 「ルイズ」 「……ど、どうしたのよ、キュルケ」 どことなく気まずい。視線が合わせられずに、ルイズは目を泳がせる。 一方で、キュルケはまるでけろりとしている。 あれの後で、よく何事もなかったかのように声をかけられるものだ。ルイズは妙なところで感心した。 「さっきは、ちょっとだけ、取り乱しちゃったわね」 「ふーん。ゲルマニアでは、悲鳴を上げて遁走することをちょっとだけって表現するのね」 「…………」 キュルケは無言で眉を吊り上げた。 ルイズは何だか、面白くなる。あのキュルケを、自分が翻弄しているのだ。 キュルケがいつも突っかかってくるのは、もしかしたらこういう動機があるのかもしれない。 「やっぱり、私の口からちゃんと言っておこうと思ったのよ」 キュルケはルイズの茶々を無視して話を推し進めることにしたらしい。 「言っておくって、何をよ?」 「つまり、……さっきの、アレよ」 「アレじゃわからないでしょ。はっきり言いなさいよ」 ついいつもの癖で、口調が喧嘩腰になってしまう。 ふう、とキュルケは溜息をついた。 「じゃあはっきり言うわ。――召喚おめでとう、ルイズ。よかったわね」 「え」 平然としているように見せて、相当に恥ずかしかったのだろう、 「それだけよ。じゃあお先に失礼」 瞠目しているルイズを置いて、キュルケはさっさと食堂を出て行こうとする。 昨日までのルイズだったら、キュルケの言葉は「ゼロのルイズ」への侮辱に等しい同情なのだと、 そういうふうに受け取っていたかもしれない。 ルイズの心を読み上げる角女が口にした言葉は、刺々しい、ひどい文句ばかりだった。 己の心があんな醜いものに満ち満ちていることに、ショックを受けた。 それと比べて、どうだろう。 先ほど角女が告げたキュルケの心のうちは。 羨ましい。そして悔しい。自分が持っていないものを、すでに得ているキュルケが。 でも、だったら、正せばいいのではないか? 鏡を見て、身だしなみを整えるのと一緒だ。 決意する。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、今日から変わろう。 きっと、己に恥じない生き方ができる者こそを、真に貴族と呼ぶのだろうから。 「あ、ありがとう……」 その背中に投げかけられたルイズの声は、そう大きいものではなかったのだが、 キュルケの耳にはしっかり届いたらしく、キュルケは心底意外そうに振り返った。 「いやに素直じゃない。嵐でも来るんじゃないかしら」 「ふ、ふん。嵐が来るんだとしたら、あんたのせいでしょう、ツェルプストー」 ルイズはむきになって言い返した。 「あんたのうろたえようったら、なかったわ。あの姿、末代まで語りついであげる」 「何ですって」 「何よ」 二人はもう、いつもどおりだった。 ただ違うのは、ルイズは必要以上につんけんしておらず、 キュルケはどことなく楽しそうにしているのを隠しもしていないというところだ。