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463 :ヒナヒナ:2012/03/07(水) 21 06 42 ○星空の彼方まで 古くから宇宙は人々を引きつけて止まない。 理由は様々ある。 単純に未知への探究心 万物の始まりを解き明かすため 地球を飛立ち、新たな地平を目指すため 宇宙への進出という見知った未来への希求 この世界ではソ連は致命的に衰退し、アメリカは崩壊している。 更に言うならば、欧州列強たるドイツ、イギリスも大戦での後遺症に苦しんでおり、 一応の勝ち組は日本、イタリアといった具合だった。 列強でも未だその多くは大戦の負債や、津波の後始末に一杯一杯であり、 余計な物に手を出す余裕はなかなかなかった。 史実では米ソ冷戦での開発競争によって驚異的に加速した宇宙関連技術だが、 スプートニクもアポロも期待できない。 史実に比べて割りを食った分野の代表格は音楽・芸術関連の活動や、 利益が短期的に見込めなさそうな技術……宇宙観測などはその際たるものであった。 ロケットなどは軍事目的もあり開発が続けられているが、 純粋に学術的な宇宙観測はなかなか進んでいなかった。 それでも、宇宙を渇望する男達の熱意は止められなかった。 ―1952年 ハワイ島マウナケア山 夕暮れのハワイ島マウナケア山山頂付近に真新しい奇妙な建物があった。 短い円筒形で、横から見ると小さめの給水塔のようだった。 大日本帝国の国立ハワイ天文台の一部として建設され、 口径6mという史上最大規模の天体望遠鏡「すばる」だ。 もちろん、史実1998年に開発された口径8m超「すばる」とは別物であるが、 この時代では文句なしの最大口径を持つ望遠鏡だ。 ハワイ島マウナケア山はその立地上、外部の光害や電波から遮断され、 空気も乾燥しており、史実では世界各国の天文台が立ち並ぶ天文特区である。 しかし、未だ50年代であることと、列強が天文に力を入れられないので、 マウナケアの頂には「すばる」だけがポツンと立っている状態だ。 もちろん、天文研究は手数が要な分野でもあるので、 各国の天文台を受け入れるスペースも用意してある。 今日の夜から、ファーストライト(初期稼動時の試験的観測)を行う運びだ。 この4000m級のマウナケア山頂付近には、多くの人が集まっている。 招待を受けた各国の天文学者を始めとして、 ファーストライトを祝うために、ここまで登ってきた奇特な財界人。 また、反射鏡の輸送に大型の輸送艦や特殊車両が必要になったため、 物資の輸送に協力した帝国陸海軍の関係者も呼ばれていた。 464 :ヒナヒナ:2012/03/07(水) 21 07 15 「お集まりの皆様、国立ハワイ天文台「すばる」望遠鏡にようこそ。天文台長の萩原です。 今日、望遠鏡「すばる」のファーストライトを天文台長として迎えられることは 天文学者にとって大きな喜びです。この「すばる」は……」 空がオレンジから深い紫紺に徐々に変わってきた頃、 厳しい冷え込みの中マイクを握った50代の男が人々の前に進みでて挨拶をした。 天文学者である荻原だ。 史実でも憂鬱世界でも日本の天文学の水準を世界レベルに引き上げた人物だ。 彼は逆行者ではないのだが、その宇宙に掛ける情熱によって、 国立ハワイ天文台の天文台長に就任した。 史実で多くの弟子を天文学者として輩出した彼には、 日本天文学会の父として後継を育てる手腕も期待されていた。 やがて、挨拶も終わって出席者達が帰りだすと、 天文台の関係者も初観測に向けて「すばる」に向う。 その荻原の捕まえたのは同年齢くらいの海軍将官だった。 「すばる」の設備内に戻ろうとする荻原に声を掛けた。 「お疲れ様です、荻原博士。」 「これは草鹿中将。 物資の輸送を迅速に取り計らっていただいて、海軍さんにはお世話になりました。 軍には計画中の電波望遠鏡にも技術協力していただきましたし頭が上がりませんな。」 「いえいえ、我々は本当に運んだだけですよ。 それに兵器を作るだけが技術ではありませんし、技術は民間に還元しませんと。」 「しかし、凄い物です。わが国がこれだけの口径の望遠鏡をもてる様になるとは、 私が天文を学び始めた頃には考えられないことです。」 「博士の弟子も、天文学者として活躍していらっしゃるとか。」 「ええ。皆私より優秀です。そういえば草鹿中将は防空戦が専門とお聞きしましたが、 なぜ、輸送を取り計らって下さったのですか? なんでも自ら指揮を執られたとか。」 「あー……その、天測はもともと海軍には無くてはならない分野ですから。」 「? そうですか。」 ちなみにこの話を受けた時の草鹿中将の心の内は、 (これを機に民間レベルでも天文学的な興味が高じれば、 アメリカ崩壊で停滞していたSF界に新たな風が吹くかもしれない!) というような物だったことをここに記しておく。 そして、この夜、「すばる」は満天の星空に向ってその目を向けた。 今までより、より遠く、より細かく、より鮮明に…… この観測の結果として、美しい画像が次々と発表されると、 一躍、宇宙ブームが巻き起こることとなり、 和製アポロ計画「竹取」なども加速していく。 そして、この宇宙研究の機運にのって次の計画も既に持ち上がっていた。 地上約600km上空の軌道上を周回させる宇宙望遠鏡を作り上げる計画だ。 宇宙空間に浮かび大気の揺らぎを排して、宇宙の深遠を直接覗き込める目。 それを自由に使う事は天文学者たっての望みだった。 天文分野にも少数ながら存在する逆行者達。 彼らは史実のハッブル望遠鏡を作り出そうとしていた。 星空の彼方まで見通せる目。 宇宙望遠鏡「天眼通」の開発計画が動き始める。 (了)
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69 :ヒナヒナ:2012/11/01(木) 23 14 11 ○屋上の狐様 いやあ、眺めがいいねぇ おや、驚かせてしまったかい。それは悪いことをした 今日は気持ちいいくらいに空が晴れているからね。私も出てきてみたんだ ああ、タバコを吸いに? 休憩中くらい空が見たいというのは分かるよ 特に君らはこの……ビルヂングと言うのだったかな? その中に缶詰だからね 私も地面を離れるのは嫌だったのだが、この屋上に引っ越してみれば風景は中々だ 住めば都というものかね まだ時間はあるのかな? そうかね、結構! ようやっと戦が終わったからね。私も人が戻ってきて嬉しいよ 今年はお祭りも賑やかになりそうだねぇ やはり、戦中は男手も少ないしあまり派手にはできないからね うん? そりゃあ私らは君よりも年を食っているし だからと言うわけではないが、君らとは見える物がちぃとばかり違うからね でも最近は外国から変わったやつらもやってきているらしいし わし等も変わらなくちゃならんかもしれないねぇ もっとも、ここは御所も近いからあまり変なやつらは来られないのだけど この国も変わったね。 ん? 何がって、そうさね 人間には偶に“神懸り”とか“狐憑き”何て呼ばれる者がいる まあ、善いものを神懸り、悪いものを狐憑きといっているだけで本質は同じだね 私が宮に上がったころだったかな、この神懸りが突然に増えた ……いやいや、本当に神様が憑いている訳ではないよ 言葉の綾だよ。理を超えた何かを君らが“神”と表現しているだけ 私らも習ってそういいあらわしておる まあ、彼らの何人かは100年後には本当に神様になっているだろうがね 彼らは、この国を変えた。今も変えている 外との戦に勝てる国ではなかったのだけれど…… これからこの国がどうなるのか、我々にも分からない 彼らは善きにせよ悪きにせよ力があるからね まあ、突然現れたものが突然消えるなんてこともままあるもの 諸行無常とは昔の人はよい言葉を残したものだ ところで君、そろそろ休んだほうが良くないかね? 君のご両親も心配しているようだよ え? 両親は死んだ? 知っているよ 君ね、いくら働け稼げの時代と言っても、年に一回くらいちゃんと墓参りしなさい 彼らも迷ってしまうし、君を心配してこっちまで来てしまうよ ちょっとこっちに来なさい そのまま、目を瞑って …… ん? 今のかね? ただの御まじないの様なものだよ 気にしないことだね。ちょっと悪いのを払っただけだから ん? 私かい? まあ、どうということは無いただの爺だよ 君は偶にお宮の周りを掃除してくれるから ちょっと、お礼代わりに助言をと思ってね 今度の休みには田舎に帰るんだよ ○あとがき あまり憂鬱分がない…… お社があったら取り合えず気になるのが日本人ですが、 憂鬱日本では急速な欧米化がない分、みんなそれなりに信じている気がします。 というか、現人神とか神波とか軍神とか、むしろ信仰が強まりそうな感じががが
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277. ヒナヒナ 2011/12/14(水) 19 49 05 なんかスレの雰囲気が重くてアホネタを入れづらい感じがするけど、 そんなこと気にしないで突っ込む。 憂鬱×ミステリ、はっじまっるよー。 おみやさん in 憂鬱世界 21世紀憂鬱世界 京都府警鴨川東署の奥の奥には資料室がある。 警察の調査資料というのはいつ必要になるのか分からないので、破棄するわけには行かない。 しかし、事件は次から次へと起こるもので、その資料は膨大な物となる。 現在はデータベース化が進められているが、すでにある紙資料をデータ化することが難しいことと、 現場の人間は昔かたぎの者が多く、データ化しても結局は紙資料を持ち出してくるのだ。 こうして必要になったのが資料課というわけだ。 過去に所轄内で起こった事件の記録の保存、検索が主な任務となる。 検索条件をデータベースに突っ込んでおけばいいという意見もあったのだが、 「○○警部補がこの署に居たときに担当した事件」 「××署と所轄争いをした事件で、未解決だった奴」 だのと、非常にアバウトな情報を持ってくるのでコンピュータでは対応できず、 結局、専門の人員を配置している。 一見、図書館司書の様な仕事であるが、現場至上主義者からは窓際の閑職として扱われている 誰が言ったのか通称「迷宮課」。 未解決事件、つまり迷宮入りした事件の資料を取り扱っているといった意味だ。 その資料課課長を務めているのが鳥居勘三郎警部。通称「おみやさん」だった。 もちろん、「迷宮入り」=「お宮入り」という言葉遊びに京都らしい雅な響きを乗せた渾名だ。 京都の旧家の出で、常にマイペースなのが、この愛称を定着させた原因の一つだろう。 かつて彼は京都府警刑事部捜査一課の刑事でもあった。 この日、刑事課が騒ぎ始めたのを鳥居は感じた。 先ほどもパトカーがかなり動いたようであるし、なにやら署内が騒がしい。 そのうち、兵藤や吉川あたりが村井警部の目を気にしながら、 そっと情報を持ってやってくるのだろう。 刑事課の中井警部から嫌われている身としては、歩き回って彼を刺激することもない。 そう思って部下の七尾巡査とコーヒーを飲んでいると、ドアが遠慮がちに開けられた。 人目を気にするようにドアの隙間から身体を滑り込ませてきたのは、 案の定刑事課の吉川だった。 「おみやさん、実は……」 吉川の話では今回の事件は殺人で、夜道で後ろから殴りつけられたらしい。 被害者は三流紙の記者で清崎という人物だった。 強引な方法で特ダネを狙う人物で、かなり評判が悪い。 現状の様子などから計画的犯行であり、怨恨などの線で先ずは調査するとの事だ。 その辺りまで話した時点で、刑事課の煩方である村井警部が現れ、 「資料課は首を突っ込むな」と吉川を連れて行ってしまった。 七尾巡査はその言い草に憤慨していたが、鳥居は中井警部の悪口にも慣れたもので、 七尾を宥めてから、吉川から聞いた情報を反芻する。 「清崎、清崎……この被害者の名前どこかで聞いた。」 「おみやさん、この被害者を知っているんですか?」 「……1973年6月、大蔵官僚失踪事件。」 鳥居はそう呟くと、資料棚の奥のほうに進んでいった。 やがて、一冊の黄ばんだ資料を持ってくる。 「この事件が関係あるんですか? 1973年だと未解決だとしてもすでに時効の様ですが。」 「事件自体には今回の被害者は関係していない。 でもこの事件に探りを入れていた当時新進気鋭の新聞記者が清崎だ。」 278. ヒナヒナ 2011/12/14(水) 19 49 51 鳥居は席に戻ると資料を開き、七尾とに説明する。 事件のあらましはこうだ。 1973年6月に所管内に住んでいた若手大蔵省官僚が失踪した。 この下っ端の大蔵官僚は突然居なくなったが、職場では退職願は受理されていたし、 下宿先には彼の家族から実家に戻るから引き払うという連絡が入っていたため問題にされなかった。 事件が発覚したのは、当時新進気鋭の大手新聞記者であった清崎が嗅ぎつけ、 寝る間を惜しんで調査をしたためらしい。清崎と若手官僚は知り合いだったらしい。 ある程度調べた所で、その清崎記者は京都府警にも知らせ、府警も捜査に乗り出した。 しかし、そこで資料は終わっている。 資料の最後にあるのは、その記者清崎が書いた失踪事件の記事と、 その翌日付けの誤報謝罪文だった。 「ねぇ、おみやさん。なんでこの資料こんな尻切れトンボなんですか?」 「こういう資料は、ここで捜査が打ち切られたってことだ。 この事件の担当者も事件の翌年に異動になっている。」 「圧力が係ったってことですか?」 「ついでにいうと、勇み足で記事を上げてしまった新聞記者は、 大手新聞社をクビになっているだろう。さっきの資料の記者名を見たかい。」 「記者名……清崎って今回の被害者じゃないですか。前は大手新聞記者だったんですね。」 「そういうこと。これは関係があるね。よし、外に出てくる。」 「え、おみやさん。何処へ行くんですか?」 「この事件を担当した宍戸さんの所。退官したけど市内に住んでいるからね。」 ________________________________________________________________________________ ・1973年暮れ 「大蔵官僚失踪事件を指示したのはあなた方なのですか?」 「根拠もない事を言ってはいけません。宍戸刑事。それに、 その彼が失踪したとして個人の責任ですね。そうなるだけの理由があったのでしょう。」 そこは京都の料亭の一室。宍戸では軒すら潜れない様な所だった。 相対するのは大蔵省の魔人・辻政信だった。 表向きは引退して久しい人物だが、未だに国政に大きな影響力を持つ重鎮だ。 宍戸はまさかの大物を前に汗をかいていた。 新聞記者の清崎からリークされた事件。 清崎の熱意に押されて捜査を進めているうちに、思いがけずに失踪事件に深入りしてしまった。 署長などから深入りしないように忠告を受けており、周囲の人間に飛び火しかねないことから、 捜査を打ち切るかどうか考えていたとき、謎の人物から料亭に呼び出されたのだ。 その結果がこの状況だった。 「さて、宍戸刑事、私に聞きたいことがあるのではないのですか?」 「……よろしいのですか?」 「別に私は君を叱り飛ばすために呼んだわけではないですから。」 「失踪した若手官僚ですが、彼の飲み友達であった記者・清崎は事件であるといっています。 私の調査でも誰かに彼の痕跡が消された形跡があります。彼は……殺されたのでしょうか?」 「なるほど、邪魔になった若手官僚を私が疎んで始末したと疑っているわけですか。」 「……違うのですか?」 「平沢君入りなさい。」 ふすまの向こうから、はい。という声が聞こえて 入ってきたのは、失踪したとされていた官僚だった。 眼鏡がなかったり印象は大分違ったりしたが、宍戸の刑事としての観察眼から、 目の前の男と失踪した大蔵官僚が同一人物と確信した。 「彼は内務省の人間なのです。内部調査のために偽名で大蔵省に入り込んでいたのですが、 ちょっとヘマをしてしまして、慌てて身を隠すこととなったのです。これは内密に願います。」 「では、失踪ではなくて?」 「その清崎という記者の早とちりです。まあ、真実なんて得てしてこんな物ですよ。」 ________________________________________________________________________________ 279. ヒナヒナ 2011/12/14(水) 19 50 21 「……という事があってね。まあ失踪した官僚なんて居なかったというのが真実だし、流 石に手を引いたよ。」 暖かな縁側でお茶を飲みながら話すのは鳥居と引退した警官である宍戸老人であった。 七尾巡査もちゃっかりと付いてきている。 鳥居は今回起きた事件の手がかりとして、1973年の事件を宍戸に聞きに来ていた。 鳥居が若手の頃にお世話になった強面の刑事であったが、 年を取って丸くなったらしく、今では好々爺になっていた。 横で聞いていた七尾巡査が宍戸老人に尋ねる。 「じゃあ宍戸さん。この清崎という記者の勇み足だったのですか?」 「ああ、まあ内偵中なのに下手に印象を残しちまった、 この内務省の平沢というのも悪いと言うことなんだが、 流石に内偵中の内務省の人間を表に出すことはできないからな。 清崎には悪いが俺は口をつぐんだ。清崎にも深入りするなと伝えたのだが…… 彼はマスコミの人間だからな。」 宍戸老人は困った表情をした。聞いている鳥居らにも分かった。 マスコミの人間は国家権力に屈することは恥であると刷り込まれているのだ。 そんな人物が知り合いとはいえ警察官から事件を嗅ぎ回るのをやめろと言われたら、 逆にのめりこんでいくだろう。 これが老練な記者であれば引き際を弁えて身を引いたのだろうが、 悪いことに当時の清崎は、ある種の職業倫理と正義感に燃える若手記者だった。 「清崎は暴走して、警察の助けがなくてもと、記事にしてしまったのですね。」 「ああ、しかし裏に内務省がいるとこっそり知らされた新聞社の上層部は慌てた。 今はそれほどではないが、昔は大日本帝国政府の政治の領域を侵すことは、 よほどの覚悟がなければ出来なかったし、相手が内務省では勝算もなかったからね。」 「それで誤報騒ぎになって清崎はクビ。その後三流紙の記者になったというワケですね。」 「俺は、それっきり新崎とは切れちまったからその後は知らんな。」 宍戸はその件についてはあまり話したく無い様だ。 鳥居はその様子に仕事の話を切り上げて、雑談を始めた。 「しかし、宍戸さんが大蔵省の魔人と会ったことがあったなんて驚きました。」 「ああ、あれには魂消たね。俺のような戦中生まれの人間にとって、 嶋田首相や辻大臣、軍人だと小澤提督、東条将軍が英雄でね。今で言う所の…… そう、アイドルみたいな人気があったんだ。まあ、辻大臣はかなりヒネタ奴が信奉していたんだが。」 「辻大臣は経済と教育という少し地味な分野ですからね。子供に人気はなさそうです。」 「子供か……。」 「? 宍戸さん?」 「いや、なんでもない。鳥居もあまり資料課で燻ってないで刑事課に戻れよ。」 宍戸老人は取ってつけたように鳥居に小言をつけた。 鳥居はその宍戸老人の態度に気になる物を感じながら、 七尾巡査と宍戸老人宅を辞して署に戻った。 その一週間後、宍戸老人は記者清崎殺人容疑で逮捕されることになる。 犯行動機は清崎が煽った記事が原因で、孫が起こした小さな事務所が潰れ、 孫の家族がバラバラになってしまったことについての怨恨だった。 ________________________________________________________________________________ 280. ヒナヒナ 2011/12/14(水) 19 51 21 再び、1973年暮れ 宍戸刑事が退出した後、料亭では辻と内務省の平沢が残っている。 お客様がお帰りになりましたと、仲居からの報告を聞いてから話を続けていた。 「……で、首尾はどうです?」 「上にも報告しましたが、大蔵省の‘癌’は摘出しました。他の省庁も同様との事です。 民間についてはまだ多少時間がかかると聞いています。」 「ふむ、しかし警察とブン屋にかぎつけられるとは。」 「失礼しました。チェックが甘かったようで。」 「いや、逆に良かったのかもしれません。 これなら何人か政府の人間が消えても通常の内偵員だと思ってくれるでしょう。」 「はい。引き続き対象の確保と後始末を続ける様に上から指示を受けています。」 「ではそのように。」 内務省の平沢が一礼してから帰っていくと、辻は一人呟く。 「前回の粛清から30年程度で、夢幻会にあんなにバカが湧くとは。困った物です。 教育改革と男女平等政策で、お嬢様学校の伝統を維持するが大変だというのに。」 夢幻会をラスボスっぽく書いてみた。 なげぇ。 おみやさんは過去の話と組み合わせやすいかと思ったのだけれど、完全に辻に食われた。 もうちょっとおみやさん成分を入れられればよかったのだが。 ちなみに、おみやさんは見えないところで活躍しています。 281. ヒナヒナ 2011/12/14(水) 20 03 15 あ、しまった。 280 にあとがきくっつけちゃった。 憂鬱×ミステリ第6弾終了です。
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666 :ヒナヒナ:2012/09/26(水) 20 30 57 taka氏の「グロスベルリン」を読んで支援。 しかし、結構重くなってしまった…… ○ベルリンの壁 「俺、勉強していつかベルリンの壁を越えてやるんだ!」 「まあ、万が一くらいは可能性が無いわけじゃないから頑張れよ」 ドイツ帝国ベルリン郊外都市の広場で、噴水を背にしながら二人の少年が話していた。二人とも学生のようで身なりがきちんとしていた。大きな声で隣に座る少年に話しかけているのはブラウンの毛に淡い茶の瞳をしている少年と、それを聞いているのは金髪碧眼で均整の取れた体型、そして小さな「徽章」を付けている少年。熊と小さくハーケンクロイツがあしらわれたそれはベルリン市民であり生粋のアーリア人であることを示すものだ。 彼の名誉のために明記しておくべきことだが、彼らは人種こそ違ったが紛れも無く親友だった。ただ金髪の彼は夢見るには少し現実が分かり始めてしまったため、無責任に友人の夢を全面肯定する気にはなれなかったのだ。ベルリンでは先週も、郊外で逢引していたカップルがアーリア人の血を汚したという理由で覆面を被った暴漢に襲撃されたばかりだ。人種について無見識であることは身を危険にさらす。現にユダヤの血が混じる(ユダヤの血というのも可笑しな表現であるが)友人と親しくすることを、優生論を信奉する親からは余り良い顔をされない。 ドイツ復興のため総統ヒトラーも良識派の官僚達に諭されて、優秀な人材の確保のため人種差別を一部緩和していた。この中で特に科学者は優遇された。何故なら戦前からの日本の工作により優秀な科学者が多数国外に流出しており、ドイツ科学会からは人種政策緩和による復興が叫ばれていたからだ。技術大国ドイツを差し置いて日本で原子力爆弾なる新基軸の兵器が開発されたことが、科学者など一部技術者への優遇を後押しした側面もある。またガス抜きとして劣等人種にも這い上がる機会を残したという意味もある。 そういった経緯があり、噴水で夢を叫んでいた少年の両親は、「混じり物」であっても優秀な科学者であったためベルリン郊外の二等住宅街に住むことを許可されていた。 「気をつけろよ、まだまだ物騒だし、ssに目をつけられているんだから」 「大丈夫だよ。父さんみたいな物理学者になって、親戚もこっちに呼ぶんだ。じゃあまた明日!」 二人の少年は別れを告げベルリンの外と内に別れていく。 ノーベル賞やフィールズ賞のよりも高い壁であると揶揄される「ベルリンの壁」。世界が違ってもその存在は健在であった。ただし「ベルリンの壁」とは東西ドイツ分裂や東西冷戦の象徴ではない。ベルリンの市内に刑務所の様な無粋な塀は存在しない。ヒトラーの美的感覚からすればあのような均整の取れていない建築物など自ら計画した完全なる都市の中には有ってはならないものであった。高く聳え立つ人種の壁、ベルリンの壁が取り払われるのはいつの話しであるか、誰にも分からない。 (了)
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148. ヒナヒナ 2011/12/12(月) 20 07 54 134-136 乙です。量子コンピュータw 暗号周りが無理ゲーな気がする。 さて、誰得な憂鬱×ミステリが続いてしまいました。 平成ミステリを題材にすると、憂鬱メインキャラと絡ませ辛くて大変です。 ・浅見光彦 in 憂鬱世界 東京都北区西ヶ原の閑静な住宅街の一角。 いい年をした男性が平日の昼間からぼんやりと外を眺めている光景はあまり世間体がいいとはいえないが、 この家は外から内部を見渡せないように大きな庭木が配置されていたので事なきを得た。 この二階から道路を眺めている男はこの家の次男坊、浅見光彦だ。 既に家主は長男・陽一郎が継いでいるため、光彦は実質的な居候であり、 母・雪江に早くいい人を見つける様に言われ続けているが。 浅見光彦はフリーのルポライターで地味目なインタビューや、商品の提灯持ち記事を書いて、雑誌に原稿を収めている。 高級官僚を代々輩出してきた浅見家では色々肩身が狭い。 この仕事で大日本帝国に貢献しているかどうかといわれると、特に彼が居なくても問題ないのだが、彼の真価はそこではない。 警察組織の手に余る(大体の場合、事件であると思われていなかった)事件を解決する探偵としてその筋では有名である。 そのルポライター兼探偵が平日の昼間から自宅にいる理由は、依頼人を待っているためだった。 一応、光彦本人は居候であることを自覚しているので、自宅を仕事で使うことはあまり無い。 今回、浅見家で待ち合わせになったのは、先方の申し出による物であった。 依頼人は光彦の年の離れた兄・陽一郎からの紹介である、辻という名の女性だ。 日頃、兄・陽一郎にお世話になりっぱなしの光彦としては、断るという選択肢は存在しなかった。 依頼人の辻は、40歳くらいに見えるおしとやかな女性であった。 もっとも、女性は化粧で化けるので本当は50歳に達しているのかもしれないと光彦は思った。 「こんにちは。光彦さん。辻と申します。あなたが小さかった頃にお会いしたのを覚えていらっしゃるかしら。」 「いえ、その、失礼ですが記憶にございません…。父と交友のあったというのは聞いているのですが。」 「そうですね。そのときは私もこんなおばちゃんじゃなくて若かったし、あなたもまだ小さかったから… あと、あなたのお父様と交友があったのは私ではなく、私の夫です。」 お分かりになりますね。と念を押されれば彼女の身元を確認する事も出来なくなってしまった。 光彦の父・秀一は、光彦が13歳の時に亡くなっているが、大蔵省の次官就任直前に夭折したという俊英だ。 その父・秀一が付き合いのあった、辻という苗字の人物などと言われれば、如何に政治に疎い光彦でも想像がつく。 149. ヒナヒナ 2011/12/12(月) 20 08 39 大蔵省の魔人・辻政信。 たしか、老齢になってから若い奥さんを娶ったことでも有名だった人物だ。 彼は既に亡くなっているが、一部の間では未だに、東南アジアの片隅で生きているのではないか、 と冗談交じりに囁かれるほどの、規格外の人物だった。 救国の宰相・嶋田繁太郎が人格者で公明正大な指導者として語られるのに対して、 大蔵省の魔人・辻政信は、権謀術数を駆使して大日本帝国のために諸外国と暗闘を繰り広げた喰えぬ人物というイメージがある。 辻氏の未亡人が国家権力ではなく、浅見光彦という個人に依頼をしてきた。 面倒なことになりそうな予感を抑えて、彼女の話を聞くことにする。 「さて、私の依頼は夫の遺作を探すことなのです。」 「辻氏の遺作……ですか? 辻氏が書画を嗜まれていたとは知りませんでした。」 「いえ、書画の類ではございませんよ。夫は書画も漫画も好きでしたが、自作はしなかったのです。」 「そうでしょうね。それに辻氏が収集したコレクションは個人所蔵でなく、すべて国家に寄付して美術館に保管されているそうですし。」 「私が探しているのは夫の書いた計画書です。」 大日本帝国最大のフィクサーの書いた計画書……。 大日本帝国の将来を描いた一大構想書なのだろうか、それとも今までの政策の裏事情が書かれた機密書類なのだろうか。 どちらにしても、明らかに光彦のような素人探偵の出る幕ではなかった。 それとなく、遠まわしに辻未亡人に伝えると辻未亡人は艶然と笑った。 「夫はこの国の教育に力を入れていました。それについて個人的な夢や想いがあったようです。 私は夫の夢を継いであげたいのだけれど、夫は生前、あまりその話をしてくれませんでした。 なので、夫が構想を持ってどんなことを行っていたのか知りたいのです。」 「それはまた……。しかし、辻氏の部下だった方に聞かれた方が早いのでは?」 「私も聞いてみたのだけれど、夫の直接の部下の方はあまり個人の夢に関しては知らなかったみたいなの。ただ……。」 「ただ?」 「夫が所属していた政治結社の様なものがあったらしいのだけれど、その方たちと関係があるようです。」 「辻氏の所属していた政治結社ですか。それはまた凄い話ですね。しかし、情報が全く無いとなると難しいですね。」 「夫が酔ったときに一回だけ夢幻会とかMMJという言葉を聞いたことがあります。 その時は古い友人の方と飲んでいらして、私が聞いているとは思わなかったようなのです。 恐らく、それがヒントになるのではないかしら? もちろん、貴方が身の危険を感じたら手を引いても良いの。夫の夢に少しだけでも近づきたいだけですから。」 「そういう理由なら……分かりました。僕が出来る限りの調査を行わせていただきます。」 こうして、辻未亡人の夫への想いに敬意を表して、光彦が辻の遺作の捜索を始めた事で、 過去の恥を表に出したくない夢幻会良識派(少数)と名探偵・浅見光彦の静かな戦いが幕を開けた。 もちろん、浅見光彦はこの捜査の途中で殺人事件や過去のゴタゴタに巻き込まれたり、 怪しい人物として所轄の警察で任意の取り調べを受けたりと、お約束の展開が繰り広げられることとなる。 また、ミステリーファンの夢幻会員が、捜査中の光彦に謎の人物をよそおって近づき煽ったりしていた事が後に分かり、 良識派に「自重しろ」とキレられることになる。 151. ヒナヒナ 2011/12/12(月) 20 09 13 あとがき 今回は浅見光彦シリーズですね。導入部のみという微妙さ。 ルパン一世、ポアロ、古畑に続いて憂鬱×ミステリの第4弾です。 ひゅうが氏の十津川警部を入れれば第五弾ですね。 所轄警察「お前の身元を言え」 浅見光彦「実は…」 所轄警察「な、なんだってー」 が出来なかった。そこまで書く気力がなかったよ。 辻は本編中で出生年が明記されていないので、適当な書き方になってしまいました。 まあ、浅見光彦も永遠の33歳だから年代設定は適当なのですけどね。 辻の奥さんは後年、お嬢様学校にいた理想の女学生を娶ったのでしょう。 夢幻会は一般には公開されていない設定で書いています。中村大佐残念。 辻の計画書? もちろん、お嬢様学校で流行らせる予定の服装規定や唱歌の目録とか諸々のMMJ企画書とかですよ。 あと感想にあった、シャーロックホームズ、明智小五郎、金田一耕助は あまり詳しくないので無理です。耕助は時代的に書きやすいのですが、何にせよ知識が無いもので。 それはそうと、ジパング二次はつづかないかな。(チラッ
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996 :ヒナヒナ:2012/05/28(月) 20 59 59 お久しぶりです。 なんか文の繋ぎがおかしい気もしますが、リハビリと言うことでご容赦を。 ○鰻にまつわるエトセトラ 197×年 憂鬱日本 帝都内某所 質素で落ち着いた和室で、二人の老人が香の物をつつきながら談笑していた。 その席は店の奥にある座敷で、酒や料理を運ぶ女中以外は来ない部屋だ。 料理をまっていたのは年老いたとはいえ、未だに政・軍に影響力を持つ嶋田と辻だった。 「国連で公海上での稚魚の保護と輸出を規制しようとする動きがある?」 「欧州でヨーロッパウナギの保護条約を各国が批准したのに合わせての動きです。」 「今日我々の腹に収まる予定の鰻だって、孵化段階で囲い込みされたら、 漁獲量が落ちて、天然物は当然、養殖物だって値段が釣りあがります。 粋の食べ物だから知識人や有力者なんかの声の大きい輩からの反発が来そうですね。」 年齢と後進を育てるという意味で、政治や夢幻会の第一線を退いたこの二人だが、 多くの夢幻会の同期(?)達が鬼籍に入った今も、腐れ縁として定期的に会っている。 無視できない影響力を持つだけあって、使えるものは親でも使え標榜する夢幻会に、 未だに厄介ごとを持ち込まれ、その度に解決に勤しむことになっている。 まあ、今回は近況報告に近い比較的穏やかなもので、 危急の案件が無いことから雑談のような会話が続けられた。 「江戸っ子の粋といわれる食べ物だからな。また文化人気取りから文句が出そうだ。」 「確かに鰻はここ10年で減少傾向ですし、日本の漁獲量が群を抜いているのは事実です。 あくまで野生生物保護が目的と言い張られれば、日本だけが強硬姿勢をとるのは危険ですね。」 「鰻ごときで外交カードを用いるのは避けたいものだ。」 「面倒なことをしてくれたものです。」 「鮪も史実ほどではないにしろ、最近漁獲量が減っていますし、 日本だけが食料を独占しているという印象を持たれるのは避けたい。」 「日本は戦後の食料危機のときに色々悪評を立てましたからね。」 「誰の立案でしたっけ? まあ、食料の確保は国の政策の基礎ですし、当然ではありますが。」 日本政府、というより夢幻会は未来知識や自らの行動の結果として、 大戦後の世界的な気温低下やそれに伴う食料危機を予想していたため、 多くの政治カードを切ってでも食料の確保に躍起になった。 取引上当然とはいえ、自国の食料が危ういのに日本に輸出せざるをえない 中国や、オーストラリアを中心とする各国からは不満が上がった。 当時、食料を買い漁る飽食の国というイメージを持たれなかったのは、 日本の対応以上に、当時必死に日本にラブコールを送っていた英国情報戦の成果でもあった。 しかし、凋落していたイギリスも復帰の兆しを見せ、 世界帝国の意地で諜報や情報部門などの特定分野では力を取り戻して来た。 日本の対英感情も、10年単位での緩和政策の結果、不信感は残るものの以前ほどではなくなった。 複雑なる世界情勢のなかで、イギリスは日本追従だけでなく、独自の路線も歩み始めている。 ここで無条件にイギリスを当てにするのは危険だろう。何しろ腹黒紳士の国だ。 「鰻か、無体な漁獲制限が付けられるのはゴメンだが、 無闇に消費すれば、漁獲量が目減りしていくのは前世的に明らかという事もあるしな。」 「嶋田さん。殴って黙らせる的な発想は防いでくださいね。 あのあたりは複数の国の利権を跨ぐこともあるので五月蝿そうです。」 「ああ、やっと軍も好戦的気質を抑えられてきたのに、こんなことで不意にしたくない。」 「まあ、この件についてはもっと平和的な解決が……おっと、お待ちかねのものが来たようです。」 廊下から近づいてくる衣擦れの音を聞き、二人は一旦話を打ち切った。 静かに引き戸が開き、和服姿の女中が重箱を2つ持ってきた。 二人の前に配膳し終わると、「ごゆっくりお寛ぎください」と一礼して去っていく。 綺麗な蒔絵が施された蓋を開けると、湯気が上がる。 中には茶色いタレの掛かった白米と、その上に乗った大きな蒲焼。 他の物は無い。真っ向勝負なのだ。 瓢箪に入った山椒を一振りすると、 香ばしさとスパイスの効いたなんともいえない香りが、唾液腺を刺激する。 横に置かれた小さな黒い椀には肝吸い。 澄まし汁の中に肝と鞠麩、三つ葉が添えられていて見た目も楽しませる。 こちらは主賓を邪魔しない上品な香りだ。 うな重を食べる姿は昭和の元老などではなく、二人の老人だった。 997 :ヒナヒナ:2012/05/28(月) 21 00 52 この食料問題(と言う名のバランスゲーム)について、日本が実力行使するのではないかと わくわく、もしくは戦々恐々として待っていた世界であったが、特にそんなことはなかった。 しかし、水面下ではちゃくちゃくと事態は動いていた。 その結果として10年ほど経つころには日本の食卓に上がる鰻、そしてエビや鮪といった 海洋食料資源の多くが、ほぼ養殖物に置き換わっていたのだ。 東南アジアに対する投資した日本企業や、日本への輸出を睨む現地企業が養殖場を多数設置していた。 その結果、多くの海洋食料資源が養殖物で賄える様になっていた。 もちろんそれによるマングローブ林の伐採などによるゴタゴタも起こったが、割愛する。 この事態の発端は農水省だった。 特に鰻については、保護条約制定騒ぎあたりから、水産庁と大学の合同調査チームが、 執念ともいえるべき熱心さで鰻の産卵場所を特定し、数年にわたる学術研究の末、 孵卵からの鰻養殖技術を確立した。 初めは水産試験場で、後には民間養殖業者を巻き込んでの国家事業のようになっていた。 世界の一部の国は当初「また日本が何かこそこそやってやがる」と、 国費をつぎ込んで、熱心に何か研究する日本の様子を注視していた。 しかし、それは彼らからすると斜め方向の発想だった。 「日本人はそんなにしてまで、ヌルヌルのキモイ魚を食べたいのか」と呆れ、 一部はそんなことに国費を注げる日本をうらやんだ。 憂鬱世界の海洋食料資源事情の一端であった。 * 「怒ると、腹が減りますから食のために怒るのは非効率的ですね。 それより、どうやったら長期的かつ安価に食糧を確保できるかを考えるべきです。」 かつて、大蔵省の重鎮はそう語ったと伝えられている。 (了) ○あとがき 本当はイギリスを絡ませて(鰻ゼリー的な意味で)、もっと「食べ物の恨みは……」みたいな ドロドロした世界を書こうとしたのですが断念しました。尻切れトンボなのはその所為です。 しばらく、書いていないと文章が下手になりますね。 まあ、そんなことよりおなかがすいたよ。
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197 :ヒナヒナ:2012/10/30(火) 19 07 26 「はぁ? 新たな国旗に日の丸を?」 発言は疑問系だったが、不快感がそこかしこににじみ出ていて、この苦労性の宰相が歓迎していないのは一目瞭然であった。 ○国旗狂想曲 ~こりない人々~ 国旗とは国家の顔となるものである。その国の理念や性状を抽象的・シンボルで表しており、国は知らないけど国旗では知っているという位のものであった。 国家権威の象徴として自国民だけでなく、(普通は)他国民も一定の敬意を払う。国旗掲揚に際しては脱帽するし、どこの軍も自国国旗は命がけで守るほどだ。 さて、冒頭の会話は某国宰相が外務省次官からとある報告を受けた際に発したものであった。 半島国家が反日活動のゴタゴタを起こした後のこと。主導していた人物はこの世を永遠に退場させられ、ごく簡単な政治的な梃入れをされたあと、半島は封印された。というか話題に触れたくないため意図的に無視されていた。 しかし、残った日和見な人々は政体の変更に伴い、今までの半島のイメージを払拭しようと、新たな国旗案などを発案した。それは「反日派のあいつ等とは手を切ったから仲良くしてネ」というかなり虫のよいメッセージであった。ぶっちゃけ無視するだけなので特に気にしていなかった日本だが、その改変国旗案を見た外務省役人は目をむいた。いくつかの案はあったが、どれも日の丸の意匠の入っていたのだ。 198 :ヒナヒナ:2012/10/30(火) 19 08 00 他国の意匠が入るというのはそこまで珍しいことではない。イギリスの国旗であるユニオンジャックが、イギリス連邦を形成しており、イギリス国王・女王を国家元首にしているオーストラリア、ニュージーランドなど複数国で取り入れられている。共産主義を意味する赤旗なども有名だ。また、史実でも親日国家であるパラオの国旗が日の丸をリスペクトした構図になっている。まあ、基本的に歴史上何かしらの共通事項を持っている国が意匠を取り入れるという具合だった。 さて、日本国民はバングラディッシュという国の位置も知らないのに、日の丸に構図の似た国旗(たまたま)であるというだけで妙にシンパシーを感じてしまう国民性なのだ。国旗というのはそれだけイメージに強く作用する。 韓国には触るべからずと厳重封印したばかりなのに、ほとぼりが冷めてうっかり触ってしまう輩が出ないとも限らない。というか、どう考えても半島勢の、日本その他の国に対する親日アピールである。半島民や諸外国が、日本と半島が友好関係にあると勘違いするといけない。 この事件を聞いた逆行者達は 「汚された気がする」 「自国の象徴くらいまじめに考えろよ」 「連中に誇りは無いのか?」 「もうハングルで朝鮮って書いて国旗にしろよw」 「自国の国旗ですら他からパクるってどういう神経をしているのだ?」 こんな民族に日の丸を使われてたまるかとばかりに、即効で外交筋を通して潰された。そして、この事件は国外発表前に内々に処理されたため、幻の朝鮮国旗となったのだった。 ○あとがき 調べていたら国旗って結構コロコロかわるのですね。国号が変わっても日の丸のままだった日本はある意味異端なのかもしれないです。憂鬱世界だと日の丸をリスペクトした国旗とかは出てきたりするのでしょうか?
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555 :ヒナヒナ:2013/11/26(火) 01 02 44 ○出遅れた男 大きな川の堤防っぷち、土を踏みしめられただけの道。 向こうの方には街が見えるが、今時たいした高層ビルも無く田舎っぽい。 妙にノスタルジックな風景に佇む坊主頭で学生服を着たガキが馴れ馴れしく声を掛けてくる。 「おい、かっつん何急に立ち止まってるんだよ。早く行かないと戦勝行進終わっちゃうぞ」 「ハァ、言ってんの? 俺はこれからE-5回して矢矧様を出すんだよ。飯食って寝ろガキが」 「ガキって……お前がチハを見たいからって誘ったんだろ!」 勝手にしろと、先に行ってしまった坊主頭を見送った後、自分に目を向けると、 自分の手は思ったよりも細く、トドメに詰襟の学生服を身に着けているらしい。 「何だこれ……。異世界召喚……いや転生か。過去だから憑依系になるのか……」 男はまず狂喜乱舞した。 何故ならファンタジー設定の殿堂であるTE☆N☆SE☆Iを体験したからだ。 この幸運に比べたら、パソコンのHDDに大量の土産を残してきた事など屁の様な事に思える。 男が体験したのは俗に『過去転生』と呼ばれる分野であり、 技術チートから、アレやコレの開発者としての名誉ある人生を送ることもできるし、 もっと即物的な技術(コンピュータ関連情報や暗号など)を売って左団扇の生活もできる。 年代が近代であることがネックだが、逆にいえば生活の不便が相当軽減される どう転んでも自分に利益がある。 隅田川の堤防で男は叫んだ。「俺が主役だ!」と。 * 「俺の考えたイージスシステムという画期的な電子戦の……」 「ふーん、それって様は海軍の計画にある防盾システムの事だろ」 「え?」 「君みたいな子は結構来るのだよねー。技術士官の道に進みたかったら大学で電子か工学を専攻するのが一番だよ」 「……」 「実はDNAってのが生物の遺伝を支配しているんですよ」 「デオキシリボ核酸かい。ああ、理科総合研究所の成果情報にあったやつね。よく勉強しているね ボク」 「……おい、まだ1955年じゃねえぞ」 「まあ、中学生が最新の研究成果を知っているとは勉強熱心な事だ。勉強を怠けないようにね」 * 「大陸棚あたりの海底には大量の資源が眠っていてですね」 「それは戦略的備蓄資源として、採掘が凍結されただろ」 「日本って石油持ってないじゃないですか。メタンガスが眠っているんですよ」 「油田が無いって戦前か。阿拉斯加油田も新たに試掘されただろ」 「アラスカってアメリカじゃ」 「亜米利加なんて国はもうない。加州国は北まで進出できんよ」 * 「これからはアニメが流行る!」 「もうカラーだから」 「とりあえず2000年代からでハルヒを」 「何これ唯の○○女子学園の制服だろ。というか晴れはれ愉快とか古いわ」 「……」 * 時は1950年代。 憂鬱日本では表向き強烈な開発景気に沸騰し、政府が抑えるのに四苦八苦しているなか、 平成時代の引きこもり使い捨て事務員ごときには、チート無双できる技術はすでになかった。 そうこうしている間に、時は無慈悲に流れ、名もなき転生者は時代に流されていった。 勉強が特段できるわけでもなく、大学の門戸が史実より狭くなった憂鬱日本では、 彼が進路に悩むことのできる時間は長くはなかった。 堅物の親からは軍にはいるか役所に入れと言われたが、 軍縮も粗方定まって、あまり人を取っていないと、親をあの手この手で説得し、 最後には土下座して高校まで進むことを許してもらった。 そして、幸いにも人材不足の好景気とあって就職自体は問題なかったため、 高卒の事務員として中小企業で働くこととなった(役所の薄給は流石に嫌だった)。 好景気の仕事多過状態はしんどかったが、ゆるめの社畜として訓練されつつあった彼には、 つらいが何とかこなせる仕事をしながら、独身貴族を謳歌していた。 そして、下っ端夢幻会員として同様の道筋をたどった奴らとツるみ、 ゲーム同好会に入り、時たま平成ゲーム談義などに花を咲かせていたが、 一向に嫁を迎える気のない彼に堅物の両親が痺れを切らし、 半強制的に親せき筋の女性とお見合い結婚させられる事になる。 かつて技術チート、情報チートを目指していた男は、 転生が微妙に遅かったため、一般人と大して変わらぬ普通の人生を送る羽目になったが、 「これもありかな」と4歳にて一緒にお風呂に入ってくれなくなった娘の寝顔を見ながら呟いた。 (了)
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914 :ヒナヒナ:2012/04/09(月) 20 25 10 ○特殊事務員 夢幻会では一般生活を送りながら、その中で可能な活動に取り組む。 上層部では夢幻会業務のために役が付けられるという逆転現象も起こっているが、 一般的には現状の役や職務に応じた活動をするのが普通だ。 さて、夢幻会の中のごく一部には専属の特殊事務員という者もいる。 昭和期から夢幻会には、権力の拡大にともなって仕事が集中しだした。 兼務が不可能になるまでに増えた業務、書類処理、内部資料作成。 これらを処理するために、夢幻会勤務という特殊事務職があるのだ。 仕事は守秘義務の塊の様なものなので、身元が確かな人物しかなれないし、 能力よりもその真面目さ、誠実さが求められた。 事務所も「中井書類代行有限会社」や「上野地域印刷」といった 地味でいまいち何をしているのか分からない名前のダミー会社となっていた。 その中の一つ、都築文書出版校閲部という小さな事務所では、 今日も、多くの書類が持ち込まれ、それと同じだけの書類が運び出されていた。 内部の統計処理や、夢幻会でつかう書類の作成、情報の下処理などだ。 彼らの仕事は書類作成であって、分析ではないのだが、 毎日多くの書類をめくっていれば、この国の裏側で何が行われていること、 その断片が嫌でも見えてくる。 もちろん、本当に機密度の高い書類は上層部や情報部だけが処理し、 彼ら事務員に回ってくることはない。 「二酸化炭素の排出量の国際規制に進展がないな。確か3ヶ月前と同じ報告だ。」 「この時代はまた氷河期が来て将来的に気温が下がると言われていましたし、 なにより42年の大規模噴火で冷夏が続いたから、温暖化なんて信じないでしょう。」 「これだけ、大学がデータ出しているのにな。」 「仕方ないですね。人間明確なデータがないと信じないものです。」 小休止でとある男性職員が書類をめくる手を休めて、小さな声で会話を交わす。 同じく小さな声で答えたのは、30代の女性職員だ。 時代の所為もあり女性逆行者達は、この昭和の時代では就ける職業が限られていた。 強力に女性権の上昇を推し進めたアメリカが崩壊していたからだ。 夢幻会活動でそれなりに女性権は確立されつつあるが、 彼ら(辻の意思が大きい)の理想であるおしとやかな女性像が先行しているため、 女性の社会進出はゆったりとしたものだった。 また、夢幻会的には昭和初期には少なからず人命を消費する戦争が控えていたため、 社会進出より家を守って子供を生んでほしいという少々アレだが切実な理由もあった。 さて、この特殊事務職には女性逆行者の受け皿といった面もあった。 彼女らの中には能力はあるが、なかなか活かせる職に就けず宝の持ち腐れになる。 といったことがままあったからだ。 逆行者側も昭和的結婚生活を嫌って未婚のまま過ごすものも多い。 信頼が置ける人物なら性別は問わないだろうと、誰かが言ったため、 それならと、内部組織に登用するようになった。 「このデータもだよ。公害規制がなかなか進んでいないな。」 「4大公害病は上が強権で潰したけど、意識改革がないと第二第三の公害病がでるわ。」 「やっぱり被害がでないと、強固な規制は難しいのかな?」 次の小休止の時間にさっきの男性職員と女性職員がやるせなさそうに会話をしていた。 次第に周囲の職員の目線も集まってくる。 「そこまで。うちは分析組織ではないぞ。」 「でも部長、これ放っておくのですか?」 「我々は機密を知ることができる代わりに、守秘義務を負う。 特殊事務員は仕事上知った事柄について、手をだしちゃならんのだ。」 「うーん、理屈は分かりますが、これどうにかならないのかしら。」 「気持ちはわかるが、我々の領分ではない。仕事に戻りなさい。」 細縁のメガネを掛けた神経質そうな部長は、席から彼女らをなだめると、 仕事に戻るように指示し、自らも書類のチェックに戻った。 何事もなかったように仕事が続けられた。 その日の夕方、部長席にある外部提出用の書類の束の中、 昼間の書類に小さな付箋がつけられているのを見たのはその女性職員だけだった。 第一線を張るだけの能力はないが、サボるといった事はなく黙々と仕事をこなす。 夜になれば、詰まらない事務に疲れたサラリーマンになり、家庭に戻る。 彼らこそこの国の真の縁の下達だった。 (了)
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624 :ヒナヒナ:2012/09/24(月) 22 09 50 ○事実は映画より奇なり “明治の元勲等によって才を見出された海軍将校が居た。彼は政治結社である夢幻会に迎えられ海軍軍政官として、宰相として数々の功績を残すことになる。陸海軍文化祭、空海立体戦術の開発、無敵艦隊の創設、日中・日米戦争の実行、戦後政治の采配。そこで国民が見てきたのは夢幻会から支援のもと富国強兵を強力に推進する宰相の姿だった。 しかし、真実はどうであったのだろうか? 取材の上、新たな昭和の政治・軍の活動を描き上げた。実際にあったのは、海軍や陸軍間での調整に苦心し、静かな老後を望みながらも数々の政治バランスの上で宰相に担ぎ上げられ、戦争を指導する苦労人の姿であった。 ままならない世界情勢に翻弄される悩み多き海軍提督らに率いられた利害調整組織夢幻会。その実態を新たなタッチで描いたドキュメンタリー映画。今までにない新たな海軍元帥、嶋田繁太郎の半生を追う” 「って、なんだこのストーリーは!」 「一週回って正しいってやつですね」 「この前試写会行ったのですけど、あとは逆行者と衝号ってキーワードを入れれば雰囲気は完璧ですよ。嶋田さんの配役も今までの渋い系の大御所でなく、ちゃんと疲れた感じのでている役者でしたし、辻さんはちゃんと腹黒紳士でした。しかし、私と東条さんが空気だったのがちょっとアレでしたが」 「実際、遣欧・日中戦以外は南雲さんと東条さんは割と空気でしたよ。これ、記事によるとちゃんと会合のグダグダ具合や黒い感じが再現されているのですね。以前の超然的な夢幻会像に比べたらそれっぽいですね」 625 :ヒナヒナ:2012/09/24(月) 22 10 21 場所は下町の小さな映画館の側の喫茶店。妙に背筋の立った老人たち―嶋田、南雲、辻が囲んでいるのはとある映画雑誌だった。一線を退いた後もそれなりに連絡を取り合い定期的に会っていたかつての夢幻会のトップ達であったが、今回はある映画が話のネタに持ち上がっていた。映画研究会に毛が生えた程度の弱小映画会社が作った、嶋田を主題に昭和の歴史をドキュメンタリータッチで描いた創作映画であった。「斬新な演出」という名目の元、どう見てもそこらへんの飲食店の一室で撮影したらしき会合のシーンは、ラーメンを啜りながらわいわい相談する様子が妙に所帯じみていて実際の夢幻会っぽかった。因みに今までのドラマや映画などでの会合シーンは「どこのゼーレだよ」と突っ込みたくなるような過剰な演出か、茶室で言葉少なに語るような異様に渋い演出が主だった。 嶋田役が夢幻会の上役から無理難題を吹っかけられ、そっとため息を付きながら実行したり、首相になってからコロコロ変わる世界情勢に愚痴りながら対応を相談するところとか、実際を知る人間としては見られている様な錯覚を呼び起こす。また、ところどころに挿入される胃薬を飲むシーンや、後半になるほど増えていく栄養剤の空き瓶が涙を誘う。 「まあ、以前よりこの手の創作物に対する反応は緩くなりましたし、大手ではなく弱小の映画会社が手がけた低予算映画ですから、コメディの様に捉えられているようです。そこまで過剰な反応はないでしょう」 「これ、だれか内情をリークしたのか?」 「いいえ、だから自由な創作は楽しいんですよ。何が飛び出すか分からない。それに一応、小さい字ですが※印で実際の取材に基づいたドキュメンタリー風創作映画ですって書いてありますよ」 「逃げ口上ですね。上映しているのも私が見た1館しかないのでそんなに大事にはならないでしょう」 内情を知っている誰かが協力したのかと疑うほど、当人たちにとっては出来の良い作品だった。もちろん、総理執務室シーンなんてどこの校長室だよと言うほど安いセットだし、音質悪くマイクの数が足りなかったのか会合シーンでは南雲や東条役の声が拾いきれていないし、主役であるはずの嶋田役を始めとして、すぐに名前が出てくるような役者もいない。でも妙な親近感と羞恥心を呼び起こす映画だった。 「しかし、本人が生きている間に、切り口を変えてみました風のドキュメンタリー映画なんて作るか? しかも、そちらの方が実態に即しているとか!」 「どうします? 巷では結局完全無欠の政治結社夢幻会と、その夢幻会を率いるさいきょうさいしょう()嶋田像が普及している訳ですが、映画にコメントしてみます?」 「これはジョークにでもして置いた方が良い話だろう。なんで自分の実態を自分で否定しなければならなんのだ……」 悲嘆にくれる一名と、それを笑って見ている老人たちの中央には映画雑誌が一冊。 開かれたページには、“マイナー映画紹介コーナー 新作映画『提督たちの憂鬱』”の文字があった。 (了) ○あとがき だいたい雑談板の709のせい