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~部室にて~ ガチャ 鶴屋「やぁ!みんな!」 キョン「どうも」 みくる「鶴屋さんどうしたんですかぁ?」 鶴屋「今日はちょっとハルにゃんに話があるっさ!」 みくる(あぁ、あのことかぁ) ハルヒ「え?あたし」 鶴屋「そっさ!」 ハルヒ「?」 鶴屋「明日、ハルにゃんと長門ちゃん、みくるとあたしで遊び行くよ!」 ハルヒ「でも明日は団活が」 鶴屋「名誉顧問の権限を行使させてもらうよ!」 ハルヒ「えっと……有希はいいの?」 長門「構わない」 ハルヒ「みくるちゃんは?」 みくる「わたしは鶴屋さんから、事前に言われてましたからぁ」 ハルヒ「古泉君とキョンは?」 古泉「つまり男性禁制ということですよね?僕は大丈夫ですよ」 キョン「あぁ、俺も問題ない」 鶴屋「ハルにゃんはどうなのさ?」 ハルヒ「う~ん、そうね。たまにはいいかも」 鶴屋「じゃあ決まりっさ!」 みくる「ふふふ」 長門「……」ペラ 鶴屋「さぁ、こっからは女の子同士の話し合いの時間だよ!男子諸君は出てった、出てった!」シッシッ 古泉「そういうことなら帰りますが、よろしいですか涼宮さん?」 ハルヒ「そうね。今日は鶴屋さんに免じて二人とも帰っていいわよ」 キョン「じゃあそうさせてもらうぞ」 古泉「それでは、みなさん。また来週」 みくる「お気をつけて」 鶴屋「バイバ~イ」フリフリ ガチャ 鶴屋「さて、男子は追い払ったね。それで明日は何時頃なら大丈夫?」 ハルヒ「どっちにしろ朝から団活のつもりだったから、何時でも平気ね」 鶴屋「長門ちゃんは?」 長門「大丈夫」 鶴屋「みくるも大丈夫?」 みくる「はい」 鶴屋「じゃあ朝十時に駅前ね!」 ハルヒ「わかったわ」 鶴屋「それとさ、お弁当は持参だよ!」 みくる「近くにお店はないんですかぁ?」 鶴屋「ないことはないけど」 ハルヒ「別にいいんじゃない?」 鶴屋「さすがハルにゃん、話が分かるっさ!」 ハルヒ「どうせだから勝負しましょうよ?」 みくる「勝負ですかぁ?」 ハルヒ「そう料理対決!学年別のチーム戦よ!」 鶴屋「ってことは、あたしとみくる対ハルにゃんと長門ちゃんだね?」 ハルヒ「そうよ」 鶴屋「望むところっさ!ねっ、みくる!」 みくる「ふふふ。そういうことなら頑張っちゃいますよぉ」 ハルヒ「有希もそれでいいわよね?」 長門「いい」 ハルヒ「じゃあ今夜は有希のうちに泊まりいくわよ?」 長門「構わない」 鶴屋「それならあたしもみくるんとこ泊まりに行こっかなぁ」 みくる「わ、わたしの部屋はちょっと~」 鶴屋「いつになったら部屋片付けんの?」 みくる「そ、そういうわけじゃないですってばぁ~」 鶴屋「なら今夜はあたしんとこ来なよ!」 みくる「わかりましたぁ」 ハルヒ「それで、鶴屋さん。明日はどこ行くの?」 鶴屋「それは明日のお楽しみっさ!」 ハルヒ「団活休みにするくらいなんだから、楽しみにしてるわね!」 鶴屋「あんまりプレッシャーかけられると困るんだけどな~」 みくる「ふふふ」 長門「……」ペラ みくる「涼宮さん、今日はこの後どうしますかぁ?」 ハルヒ「そうね、あの二人帰しちゃったし……」 鶴屋「じゃあ解散でいいじゃん!あたしは明日のレシピをみくると相談せねばね」 ハルヒ「そうしましょっか」 みくる「それじゃあ、一度家に帰って着替えを取りに行きますねぇ」 鶴屋「あたしもついt」 みくる「鶴屋さんはおうちで待っててくださいね」 ハルヒ「みくるちゃん随分かたくなに拒否するわね……何かあるの?」 みくる「そ、そういうわけではないんですけどぉ……」 鶴屋「ハルにゃん、ハルにゃん、みくるはきっと部屋に男を飼ってるんだよ」ボソ ハルヒ「ウソ!?」 みくる「つ、鶴屋さ~ん、そんわけないじゃないですかぁ~」 ハルヒ「みくるちゃんがね~」 みくる「涼宮さんまで~」 鶴屋「あはは、それじゃ解散しよっか!」 長門「……」パタン ハルヒ「有希もきりがいいみたいだしね」 みくる「部屋に男の人なんかいませんからね?」 鶴屋「分かった分かった、ほら帰るよ!」 みくる「適当じゃないですかぁ」 ハルヒ「有希、あたしも家帰って、それから六時半くらいにはマンション行くわ」 長門「……」コク ハルヒ「それじゃあ鍵閉めるわよ?みくるちゃん早く」 みくる「は、はーい」トテトテ ガチャ ハルヒ「よしっと、それじゃ行きましょ」 鶴屋「はいよ~」 ~帰り道にて~ ハルヒ「さすがに夏ね。五時前だってのにこんなに明るい」 鶴屋「日が長くなると一日が無駄に長く感じるよ」 みくる「でも、お洗濯とか出来るし、いいことも多いですよ?」 ハルヒ「みくるちゃん主婦みたいね」 鶴屋「そりゃ仕方ないよ、ハルにゃん。家で主婦やってんだから」 みくる「まだ言うんですかぁ」 鶴屋「あっはっはっはっ!もう止めたげるよ」 みくる「もう!」 ハルヒ「話戻すけど、どうせなら夏が日が短く、冬が日が長く、この方がいいわよね」 長門「それでは生態系がおかしくなる」 ハルヒ「初めっからそうだったらそうゆう進化をするでしょ?」 長門「……」コク ハルヒ「別に、今から変われー!、ってわけじゃないわよ。あくまで希望よ、希望」 みくる(そ、それでも涼宮さんにそう希望されるのは) 長門(非常に困る) 鶴屋「でも、夏の日が長いおかげでいっぱい遊べるんだし、ハルにゃんとしては結果オーライじゃないのかい?」 ハルヒ「う~ん、それもそうね」 みくる「ほっ」 鶴屋「どしたの、みくる?」 みくる「な、なんでもないですよ」 鶴屋「?」 長門「……」トテトテ ハルヒ「それじゃこのへんで別れましょ」 鶴屋「そうだね、明日は覚悟していなよ、ハルにゃん?」 ハルヒ「例え鶴屋さんでもそうはいかないわよ」 みくる「それじゃあまた明日」 ハルヒ「ばいばい」 鶴屋「ばいば~い」フリフリ ハルヒ「それじゃあ有希。またあとでね」 長門「……」コク ~長門宅にて~ ピンポーン 長門「……」 ???「あたしよ」 長門「知らない」 ???「有希!」 長門「ジョーク。今開ける」 カチャ ハルヒ「毎回毎回よくも飽きないわね」 長門「反応がいい」 ハルヒ「余計なお世話よ。とりあえずあがるわね」 長門「どうぞ」 ハルヒ「お邪魔しま~す。おっ、前より小物が増えてきたわね」 長門「あなたが選んだものがほとんど」 ハルヒ「だって有希全然選ぼうとしないじゃない」 長門「そうでもない」 ハルヒ「そうだっけ?」 長門「そう」 ハルヒ「よっこいしょっと」バフ 長門「そこは私のベッド」 ハルヒ「知ってるわよ。なんか落ち着くのよね~」 長門「そう」 ハルヒ「なんでかしらね?このまま寝ちゃってもいい?」 長門「構わない」 ハルヒ「いいわけないでしょ、明日のお弁当のおかず買ってこなきゃ」 長門「……」コク ハルヒ「財布は持った?」 長門「持った」 ハルヒ「鍵閉めた?」 長門「閉めた」 ハルヒ「じゃあ行くわよ」トテトテ 長門「……」トテトテ ~移動中~ ハルヒ「有希って小さいくせに歩くの早いわね」トテトテ 長門「あなたが遅い」トテトテトテ ハルヒ「言ったわね」トテトテトテトテ 長門「……」トテトテ ハルヒ「ほら、あたしのほうが早い」トテトテトテ 長門「急ぐ理由がわからない」トテトテ ハルヒ「ぐっ」 ハルヒ「有希って晩御飯まだでしょ?」 長門「……」コク ハルヒ「なんか食べたいものある?」 長門「カレー」 ハルヒ「いつもそれじゃない?作る方としてはもっとレパートリーを増やしてくれた方が、作りがいあるんだけど?」 長門「……」 ハルヒ「って、なんか奥さんの台詞ね、これ」 長門「ハンバーグ」 ハルヒ「いいわよ。それもあたしの得意料理のレパートリーにあるから」 長門「期待する」 ~スーパーにて~ ハルヒ「さて、明日のお弁当の中身どうしようかしら」 長門「カr」 ハルヒ「いい加減にしなさい」 長門「……」 ハルヒ「……そもそも、何を基準で勝ち負けにするか決めてなかったわね」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「明日みんなで決めればいっか」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「さっきからなに探してるの?」 長門「弁当箱」 ハルヒ「え?」 長門「明日お弁当を持っていくなら箱は必要」 ハルヒ「いや、だから、有希ってお弁当学校持ってたりしたことないの?」 長門「ない」 ハルヒ「……」 長門「?」 ハルヒ「いつもどうしてるの?」 長門「禁則事項」 ハルヒ「は?」 長門「ジョーク」 ハルヒ「はぁ、まぁいいわよ。食材コーナーにはないからあっちに探しに行きましょ」 長門「……」コク ハルヒ「スーパーにしては結構種類あるわね」 長門「……」キョロキョロ ハルヒ「どれにするの?」 長門「これ」 ハルヒ「それは保存用のタッパーよ、それ以前に大きすぎよ!」 長門「いける」 ハルヒ「ダメよ」 長門「……」ジー ハルヒ「そもそもそれだと鞄に入らないじゃない」 長門「……うかつ」 ハルヒ「有希は大食いだからなぁ……これくらいが妥当じゃない?」 長門「小さい」 ハルヒ「あたしの二倍はあるわよ?」 長門「……わかった」 ハルヒ「なんか子供をあやしてるみたい」 長門「肉体的には同年齢」 ハルヒ「肉体的?有希の方が幼く見えるけど?」ニヤ 長門「……」 ハルヒ「明日のお弁当のおかずはこんなもんね。他食べたいものある?」 長門「カr」 ハルヒ「ないみたいね。それじゃレジ行きましょ」 長門「……」コク ハルヒ「今日もワリカンよ?有希っていつも全部払おうとするんだもの」 長門「作るのは私ではないから」 ハルヒ「じゃあ今日は有希も一緒にやりましょ?」 長門「一緒に?」 ハルヒ「そう、あたしのお手伝い」 長門「いい」 ハルヒ「まったく、どっちのいいよ?」 長門「肯定」 ハルヒ「よろしい」 ~帰宅中にて~ ハルヒ「日が落ちると涼しくていいわね」 長門「……」コク ハルヒ「……あっ、流れ星だ」 長門「……」トテトテ ハルヒ「流れ星が消えるまでにお願い事を、三回言えば願いが叶うかぁ。まず無理ね」 長門「無理」 ハルヒ「なんか短文でないかしら……」 長門「………」 ハルヒ「死ね死ね死ね、とか?」 長門「あなたが言うと笑えない」 ハルヒ「いつもの有希みたいにジョークよ」 長門「あなたのジョークは厄介すぎる」 ハルヒ「そう?」 長門「故に笑えない」 ハルヒ「そもそも笑わないくせに」 長門「あなたには才能がない」 ハルヒ「言ってくれるわね」 長門「言った」 ハルヒ「いつか笑わせてやるんだから」 長門「そう」 ~長門宅にて~ ガチャ ハルヒ「ただいまー」 長門「……」 ハルヒ「有希も言いなさいよ」 長門「中には誰もいない」 ハルヒ「いいから」 長門「ただいま」 ハルヒ「おかえり。ね、いるときはいるのよ」 長門「そう」 ハルヒ「そうなのよ」 ハルヒ「とりあえず今日買った食材を冷蔵庫に閉まっておいて」 長門「わかった」 カチャカチャ パタン 長門「閉まった」 ハルヒ「じゃあ少し休んでから、夜ご飯の支度しましょ」 長門「……」コク ピッ ハルヒ「どの番組もつまんないわね」 ピッ 長門「そう」 ピッ ハルヒ「どれもこれも前見た番組のパクリみたいな内容じゃない」 ピッ ハルヒ「TV見ててもつまんないし、晩御飯作りましょ?」 長門「それがいい」 ~食事後~ 長門「ごちそうさま」 ハルヒ「おそまつさま。なんかこの雰囲気にも慣れてきたわね」 長門「?」 ハルヒ「あたしが有希の家に来て、二人でご飯食べて、ゴロゴロして、色々話して、と言っても有希は聞くのが専門よね」 長門「……」 ハルヒ「ふふ。悪くない、悪くないわ。なんか通い妻みたいで変な気分だけど」 長門「悪くない」 ハルヒ「有希も?」 長門「……」コク ハルヒ「そっか。……あたしね、これからも有希とはずっと一緒にいたい」 長門「大丈夫。私が守る」 ハルヒ「ふふふ。私よりちびっ子の癖になに言ってんのよ」 長門「……」 ハルヒ「お風呂ありがと」 長門「構わない」 ハルヒ「明日はお弁当作んなきゃだし、早く寝ましょう」 長門「……」コク ハルヒ「あたしは髪乾かしてから寝るわ。おやすみ、有希」 長門「おやすみなさい」 ハルヒ「……」 ~翌日~ ???「……ルヒ、……う朝、起……」 ハルヒ「う~ん」 ???「もう……、……て」 ハルヒ「あ、あとごふん」 ???「わかった」 ハルヒ「……ん」Zzzz ???「いい加減に起きて」ポカ ハルヒ「……えぇ?ふわぁ~あ、おはよう有希」 長門「おはよう」 ハルヒ「なんか有希のうちって安心して寝れるわ」 長門「そう」 ハルヒ「そうなの。ところで今何時?」 長門「午前八時ちょうど」 ハルヒ「……え?」 長門「午前八時ちょうどと言った」 ハルヒ「……!や、やばいじゃない!約束まで二時間しかない!」 長門「正確には一時間五十八分三じゅ」 ハルヒ「やばいわ!ご飯に火入れなきゃ!」 長門「もう入れた」 ハルヒ「でかしたわ有希!」 長門「当然」 ハルヒ「それじゃあ、すぐ顔洗ってくるから台所で待ってて!」 長門「わかった」 ~駅前にて~ 鶴屋「おはようハルにゃん!」 みくる「おはようございます」 ハルヒ「おはよう、ほぼ同時についたわね」 鶴屋「そうだね!ちゃんとお弁当は持ってきたかい?」 ハルヒ「ばっちりよ!ね、有希?」 長門「……」コク ハルヒ「それで今日はどこ行くの?」 鶴屋「ふふふ。実はこの間、こんなものを貰ったのさ」バッ みくる「チケット、ですか?」 鶴屋「そうさ!五月の半ばにオープンしたばかりの、あの遊園地のチケットだよ!」 ハルヒ「あの遊園地!CMとか見て興味があったのよね、実は」 みくる「あ、あそこってジェットコースターが目玉なんですよねぇ……」 鶴屋「んふふふふ。頑張ろうね、みくる♪」 みくる「ひぃ」ビク ハルヒ「あれ?遊園地ならお弁当いらないんじゃないの?」 鶴屋「あそこの飲食店って、めがっさ混むみたいなんだよ」 ハルヒ「そうゆうことか」 鶴屋「そう、せっかく遊びに行くんだから、少しでも遊ばないとね」 ハルヒ「賛成だわ。それじゃあとっとと行きましょ!」 鶴屋「おー!」 ~遊園地にて~ ハルヒ「……これは」 みくる「……想像以上に」 鶴屋「……人だらけだね」 長門「……うるさい」 ハルヒ「なにはともあれ……遊ぶわよ!有希、あれ、あれ乗ろ!」グイ タタタッ 鶴屋「ありゃ、行っちゃた」 みくる「ですね」 鶴屋「あたしたちも行くよ!」 みくる「は、はぁい」 タタタッ ワーー! みくる「こ、これに」ブルブル キャーー! みくる「の、乗るんですか?」ブルブル ギャーーーーー! ハルヒ「だってこれが目玉なんでしょ?みくるちゃんが自分で言ってたじゃない?」 鶴屋「観念しなよ、みっくる♪」 みくる「そ、そんなぁ」ブルブル 長門「面白そう」 みくる「長門さんまでぇ~」 ハルヒ「女は度胸よ!」ガシッ みくる「ひ、ひぇ~」ズルズル みくる「ど、どんどん高くなってきましたよ?」 みくる「レ、レ、レ、レールが、み、見えませんよ?」 みくる「え?落ち……キャアァァッァァァァァ!!!」 みくる「わぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」 みくる「ひゃぁあっぁぁぁぁぁぁ!!!」 みくる「……、……。……」 ハルヒ「いやー!凄かったわね、有希!」 長門「ユニーク」 鶴屋「たしかにみくるはめがっさユニークだったっさ!ほんとに悲鳴上げるんだもん!あっはっはっはっはっは!」 みくる「す、少し、うっ、や、休ませてくださぃ」 ハルヒ「何言ってるの、まだ一つ目じゃない!次行くわよ、次!」 みくる「こ、これって」 長門「ホラーアトラクション」 ハルヒ「さぁ行くわよ!」 みくる「む、無理ですよぉ~」 鶴屋「結構怖いみたいだよ、ハルにゃん」 みくる「あれ?」 ハルヒ「そうなんだ、でもどんと来いよ!」 みくる「わ、わたし入らなくていいんですかぁ?」 ハルヒ「こういうとこって本物が出たりするらしいじゃない?」 みくる「あ、あの~」 鶴屋「TVで見たことあるっさ!」 ハルヒ「出てきたら捕まえてやるわ!ね、有希」 長門「……」コク スタスタ みくる「置いてかれた……。わ、わたしもい、行きます!」トテトテ ハルヒ・鶴屋(作戦通り!) みくる「ふぇ~、ま、真っ暗ですよぉ」ブルブル みくる「ひゃ!い、今向こうに、だ、誰かいましたよ~」ブルブル みくる「え?後ろ?……ひぃゃぁぁあああっぁぁぁぁ!!!」パタパタ みくる「きゃ!ひっ!」コテン みくる「……うぅ、うぅ、うぅぅぅ」ポロポロ ハルヒ「ご、ごめんね、みくるちゃん。まさかこんなに怖がるとは思ってなかったのよ」 みくる「ひっく、ひっく」ポロポロ 鶴屋「悪ノリしすぎたよ、あたしからもごめんね?」 みくる「うぅっ、も、もう大丈夫です、ひっく」グス 長門「ユニーク」 ハルヒ「こら!有希!」ポカ みくる「もうそろそろ、お昼だしお弁当にしませんかぁ?」 鶴屋「そうしよ!あそこの芝生を陣取ろうよ!」 ハルヒ「賛成!」 長門「……」グゥゥ トテトテ ~芝生にて~ ハルヒ「昨日話した勝負のこと覚えてるわね?」 鶴屋「もちろんっさ!」 ハルヒ「基準は見た目と味でいいわよね?」 みくる「はい」 鶴屋「一生懸命作ったからね。この勝負いただいたよ!」 ハルヒ「ふふふ、ではいざご開帳!」 パカッ 鶴屋「あ」 みくる「そんなぁ~」 ハルヒ「こんなのって」 長門「……」 ハルヒ「……そういえば鞄持ったままアトラクション回っちゃたわね」 長門「グチャグチャ」 鶴屋「これはさすがにショックだよ……」 みくる「でも、形は悪くても食べられますから」 ハルヒ「わかってる、わかってるわ」 鶴屋「それでも、苦労が水の泡ってのはねぇ……」 長門「……」モグモク ハルヒ「勝負はお預けね……」 ~食事後~ ハルヒ「それじゃあ、あたしと鶴屋さんでフリーフォールみたいの乗ってくるわね」 鶴屋「みくるはそこのベンチで休んでて!」 みくる「わかりましたぁ」 ハルヒ「有希も来る?」 長門「……」フルフル ハルヒ「そう、それじゃあそこであたしたちの勇姿を見てなさい」 長門「……」コク みくる「ふぅ、お二人とも元気ですねぇ」 長門「……」コク みくる「……」 長門「……」 みくる(き、気まずいよぉ~) 長門「朝比奈みくる」 みくる「は、はひ!」 長門「?」 みくる「なんでもないです、続けてください」カァァァ 長門「質問がある」 みくる「質問ですか?」 長門「この先はどうする?」 みくる「え?多分ご飯でも食べにいくんじゃないですか?」 長門「違う。今後の動き。私は涼宮ハルヒの力の観察」 みくる「わたしは……監視です。もとよりそれが目的ですから」 長門「なぜ監視を?」 みくる「禁則事項です」 長門「この後世界は、涼宮ハルヒはどうなる?」 みくる「禁則事項です」 長門「今まで起きてきた出来事は全て予定通り?」 みくる「禁則事項です」 長門「そう。ならいい」 みくる「……。長門さんは観察が目的なんですよね?」 長門「……」 みくる「観察の対象と仲良くなるのは、いいことなんですか?」 長門「私だけではないはず」ジー みくる「わたしはそんなつもりではなかったんです!でも長門さんは涼宮さんとは……親友なんですよね?」 長門「そう」 みくる「わたしは、わたしはこんなはずじゃなかった……なかったんです……」 長門「?」 みくる「……これ以上は言えません」 長門「そう」 みくる「長門さんはどうするんですか?」 長門「変わらない。いつも通り。しかし」 みくる「?」 長門「私という個体は涼宮ハルヒのそばにいたいと思っている」 みくる「……」 長門「これは私の意志。涼宮ハルヒは私を必要としてくれている」 みくる「……そうですよね」 長門「それに答えるのは親友として当然」 みくる「……わたしは」 長門「古泉一樹に新たな鍵は私だと言われた」 みくる「古泉君が?」 長門「そう。そのことでどうなるかはわからない。ただ、涼宮ハルヒに危害を加えるなら、誰であっても容赦しない」 みくる「……わたしに関しては大丈夫です。そんなことをする理由がありませんから」 長門「そう」 みくる(……わたしは、わたしはただの監視者だから……これからもただ見ているだけの……) 鶴屋「みっくる~!いや~めがっさすごかったよ~!こう、ビューンとさ、ってみくる?」 みくる「……え?」 鶴屋「なんか元気ないよ?大丈夫?」 みくる「だ、大丈夫ですよぉ」 ハルヒ「どうせ有希が変なこと言ったんでしょ?最近辛口なのよね、このコ」 みくる「ち、違いますから、はしゃぎすぎて気分が悪いだけですよ」 鶴屋「無理しちゃダメだかんね?」 みくる「もう平気ですよ」ニコ ハルヒ「それじゃあ激しいアトラクションは一旦休憩にしましょ」 鶴屋「そうっさね。……さっきまでみくるは長門ちゃんと話してたの?」 みくる「はい。長門さんとあんなにおしゃべりしたの初めてです」 ハルヒ「有希と会話が続くなんて凄いわね。あたしですら難易度が高いのに」 鶴屋「なに話してたの?」 みくる「長門さんとの秘密なんです」 ハルヒ「有希、教えなさいよ~」 長門「禁則事項」 みくる「……」 鶴屋「……。みくる、なんか飲み物買ってくるけど何がいい?」 みくる「ありがとうございます。お茶がいいです」 鶴屋「わかったよ。長門ちゃん、一緒に買いにいこ?」 長門「……」コク ハルヒ「有希、あたし炭酸がいい」 長門「わかった」 ~自販機前にて~ 鶴屋「……ねぇ、長門ちゃん?」 長門「何?」 鶴屋「みくるに何言ったの?」 長門「質問をしただけ」 鶴屋「質問?どんな?」 長門「言えない」 鶴屋「なんで?」 長門「言えない」 鶴屋「なら、単刀直入に聞くけど、……みくるをいじめてたのかな?」 長門「……」フルフル 鶴屋「信じていいの?」 長門「どちらでも」 鶴屋「……」 長門「……」 鶴屋「……うん、疑ってごめんよ?みくるってあんなんだからさ、友達として不安だったんだよ」 長門「そう」 鶴屋「長門ちゃんだって、ハルにゃんのこと見捨てられないでしょ?」 長門「もとより見捨てない」 鶴屋「だよね、とはいえ、疑ってほんとにごめんね」 長門「いい。ただ」 鶴屋「なに?」 長門「今小銭がない」 鶴屋「先輩にたかる気かい?」 長門「違う、悪いと思っているなら、お金を貸して欲しい」 鶴屋「いいよ、後輩のぶんくらいお姉さんが買ったげる♪」 長門「感謝する」 鶴屋「はい、みくる」 みくる「ありがとうございます」 ハルヒ「……抹茶の炭酸ってなによ?」 長門「あった」 ハルヒ「炭酸と言ったのはあたしだけど……これはないわよ」 長門「飲まず嫌い?」 ハルヒ「うっ……、いいわ、飲んでやるわよ!」ゴク 鶴屋「ど、どお?」 ハルヒ「……」フルフル 長門「ユニーク」 ハルヒ「……デコピンよ」ピシ 長門「……」ナデナデ ハルヒ「鶴屋さん、今日はありがとね」 鶴屋「なに、いつもみくるがお世話になってるからね。そのお礼さ♪」 みくる「ふふふ」 ハルヒ「あたしだってみくるちゃんにお世話になってるわよ?」 みくる「涼宮さん……」 ハルヒ「コスプレとか、部室の掃除とか、お茶汲みとか」 みくる「え、えぇ~」 鶴屋「先輩をパシリ扱いとはいけない子だね?こうしてやる!」 ハルヒ「や、やめて、鶴屋さん、アハハ、うそ!冗談だから!アハハちょ、くすぐったいってば~」 鶴屋「参ったか!」 ハルヒ「……このあたしが、はぁーはぁー、やられて、黙ってる、とでも?」 鶴屋「ん?」 ハルヒ「えい!」 鶴屋「ハルにゃん、ひ、卑怯だよあっはっはっは、そこは、はんそ、反則だよ、あっはっはっは」 ハルヒ「やられたらやり返さないとね」 鶴屋「覚えてろよ~」 ハルヒ「返り討ちにしてやるわ!」 鶴屋「せっかくだしこの後ご飯でも食べ行く?」 ハルヒ「そうね。どこ行く?」 長門「……」クイクイ ハルヒ「ん?どしたの有希?」 長門「あれ」 ハルヒ「あれ?」 鶴屋「あれはバイキングだね!」 みくる「も、もう怖いのいやですよぉ」 ハルヒ「みくるちゃん、ただの食べ放題よ。有希あそこがいいの?」 長門「……」コクコク ハルヒ「二人ともあそこでいい?」 鶴屋「あたしは構わないっさ!」 みくる「大丈夫です」 ハルヒ「それじゃあ、行きましょっか」 長門「……」トテトテ ~帰り道にて~ 鶴屋「いや~めがっさお腹いっぱいだよ」 長門「満腹」ケプ 鶴屋「女四人がバイキングでがっついてる光景は、シュールだったろうね」 ハルヒ「がっついてたのは鶴屋さんと有希だけでしょ?あたしとみくるちゃんは腹八分よ」 みくる(それでも食べすぎちゃいました……) 鶴屋「それじゃあ、ここらでお別れだね」 ハルヒ「そうね、今日は楽しかったわ。ね、有希?」 長門「……」コク 鶴屋「そりゃ良かった。誘ったかいがあったってもんだよ」 ハルヒ「じゃあまた学校でね。鶴屋さん、みくるちゃん」 鶴屋「バイバイ」 みくる「あ、あの、長門さん」 長門「何?」 みくる「少し、少しだけいいですか?」 長門「構わない」 みくる「お二人は少しだけ待っててください」 鶴屋「わかったっさ」 ハルヒ「有希はあたしのだから持って帰っちゃダメよ」 鶴屋「おっ、ラブラブだねぇ~」 ハルヒ「ジョークよ、ジョーク」 みくる「ちゃんとお返ししますから」ニコ 長門「何?」 みくる「本当はこんな事を言うのは禁止されています」 長門「……」 みくる「でも、でもわたしも長門さんも、望む望まないに関わらず、主要人物の一人になってしまいました」 長門「……結果的に私は望んだ」 みくる「そ、それは長門さんの場合です!」 長門「わかっている」 みくる「……同じ『部活仲間』としての忠告です。涼宮さんとは距離を置いてください」 長門「……何故?」 みくる「……この間私向けにそういう指令がきました。内容は知りません」 長門「禁則事項では?」 みくる「……話は以上です。また」スタスタ 長門「……」 ハルヒ「それでみくるちゃんはなんだって?」 長門「秘密」 ハルヒ「仕方ない、くすぐってでも吐かせてやるわ」 長門「無駄」 ハルヒ「どうよ!ほらほら!」 長門「まるで無駄」 ハルヒ「この不感症め!」 長門「なんとでも」 ハルヒ「あぁ、つまんなーい」 長門「そう」 ハルヒ「まぁ、いいわ。帰りましょ」 長門「?」 ハルヒ「~♪」 長門「あなたの家はこっちではない」 ハルヒ「あれ?言ってなかったけ?あたしの家今誰もいないから、有希の部屋泊まるって」 長門「初耳」 ハルヒ「そうだっけ?」 長門「そう」 ハルヒ「一泊も二泊も変わんないでしょ?さ、帰るわよ」 長門「……」コク ~長門宅にて~ ガチャ ハルヒ「ただいま~」 長門「……」 ハルヒ「……ただいま~」 長門「……」 ハルヒ「た・だ・い・ま」 長門「……ただいま」 ハルヒ「違う!あたしがただいまって言ったら、有希はおかえりでしょ?」 長門「……」 ハルヒ「もう一度よ。ただいま」 長門「おかえり」 ハルヒ「次は有希」 長門「ただいま」 ハルヒ「おかえり」 ハルヒ「あぁ~楽しかったぁ~、けど疲れたぁ~」 長門「六時間遊んだ」 ハルヒ「あれ?そんなもんだった?」 長門「充分」 ハルヒ「そうね、これ以上疲れたら明日筋肉痛になっちゃうわ」 長門「そう」 ハルヒ「有希は平気?」 長門「……」コク ハルヒ「文学少女のくせに丈夫ね」 長門「……そう」 ハルヒ「実はね」 長門「?」 ハルヒ「今日の団活中止になって嬉しかったの」 長門「何故?」 ハルヒ「一応表には出さないようにしてるけど、まだちょっとあいつと一緒に行動するのが、ね」 長門「……」 ハルヒ「そりゃ、盛大にふられてるもの、気にしてないっていったらウソじゃない?」 長門「そう」 ハルヒ「やっぱり気になっちゃう……ほんとに恋ってめんどくさい」 長門「……」 ハルヒ「未練がましいのなんてらしくないわね」 長門「……」コク ハルヒ「今の話忘れて!お終いお終い!さぁ明日も休みだし!今日こそ夜通し遊ぶわよ!」 長門「構わない」 ハルヒ「しっかり朝日を拝んでやるんだから!」 長門「そう」 ハルヒ「……」Zzzz 長門(まだ十二時) ハルヒ「……」Zzzz 長門「……」 ハルヒ「……ん……いや」グス 長門「?」 ハルヒ「……ゆ……き」グス 長門「……何?」 ハルヒ「おねが……いかな……いで」グス 長門「私ならここにいる」ギュ ハルヒ「……ん……」Zzzz 長門「……」ギュー --同じ『部活仲間』としての忠告です。涼宮さんとは距離を置いてください-- 長門(どこにも行かない。ここが私の場所) ~To Be Continued~
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「お…?」 いつもの調子で扉を開いた俺は、目の前に広がった微妙な光景に思わずおかしな声をあげてしまった。 運動部の気合いの入った掛け声が遠くから聞こえる放課後の文芸部室。 そこでは、ホームルーム終了と共にすごい勢いで教室を飛び出していった団長が、 普段ならおとなしく文庫本でも読んでいるはずの無口宇宙人に見覚えのある魔女の衣装を着せていた。 「あぁ、あんただったの。びっくりさせないでよ」 人の顔を見て、第一声がため息とはなんとも無礼なやつだが…いや、そんなことよりだ。 俺が気になるのはその隣ですました顔をしている魔女っ子だ。 「何を始めるんだ」 薄々感付いてはいるが、どうも聞いてほしそうな顔をしていたので不本意ながら聞いてやる。 すると、ハルヒは待ってましたと言わんばかりに鼻を鳴らし、 「大好評だった自主製作映画の続編を撮るの!」 機嫌の良さそうな輝きをこれでもかと瞳に詰め込んで、長門の肩を叩きながら叫んだ。 大好評だと? 何やら聞き捨てならん修飾語が挟まったような気がしたが、まぁだいたい俺の予想は当たっていたようだ。 授業中、いつになくカリカリ音がすると思ったら、台本でも書いてたんだな。 「それで?主演女優はいないようだが。何を撮るんだ?」 部室を見渡してみるが、前回の主役、未来からやってきた戦うウェイトレス・朝比奈ミクルを演じきった麗しき先輩の姿は見えない。 その代わりと言ってはなんだが、左手に主演俳優が座っている。 「いたのか。今気付いたぜ」 「ふふ、厳しい冗談ですね」 特に普段と変わらない古泉が笑う。 余裕の笑顔をかましているところを見ると、どうやらこいつの出番はないようだ。 となると長門のソロシーンか…? 「どっちかって言うとみくるちゃんメインよ。有希も出すけど」 朝比奈さんは来てないじゃないか。 「今日は掃除当番ですって。多分もうちょっとしないと来ないはずだから…」 ハルヒは言いながら、長門を立たせて、机の上にあったビデオカメラを手に取る。 そして、『超監督』と書かれた腕章を揺らしながら、 「ここに隠れて撮るの!」 何の濁りもないピュアっぽい瞳を輝かせ、隅の掃除用具入れを指差した。 おいおい。 隠し撮りじゃないか。 それってなんの打ち合わせもしてないってことだよな? そんなんでいいのか? 「バカね。普通のシーンが欲しいのよ。ヒロインの日常みたいな。 それに、“普通”ってのは演じさせるよりありのままを撮るべきなの」 それはそれは。 妙に説得力のあるお言葉だ。 前の映画の出来を見ていなければ、だが。 「あんたと古泉くんで普段通りの雰囲気を作っておくのよ!それでね、 みくるちゃんが油断したところに有希が飛び出していって攻撃するから」 超監督はそう言うと、自分から埃っぽい掃除用具入れにいそいそと入り、長門に向かって手招きする。 「ちょっと狭いけど…。有希はちっこいから余裕よ」 確かに、俺と朝比奈さんでも入れたんだ。 もともとスタイルのいいハルヒと、変な衣装を来ているとはいえ線の細いのは変わらない長門は、 窮屈そうな様子もなくするりと金属製の箱の中に納まった。 「閉めていいわよ。…あ、くれぐれもみくるちゃんにバレちゃダメだからね!」 わかった。善処するよ。 俺は灰色の扉を閉じながら、 昨日、ゴールデンタイムに寝起きドッキリ的な番組が二時間枠で放送されていたことを思い出した。 「こんにちは~」 それから約二十分後。 ようやく今日のハルヒのターゲットとなる憐れな子猫が、急いだ様子で部室に現れた。 いや二十分もよく待ったものだ。 俺たちじゃなくて、掃除用具入れの中の団長が。 どうせすぐ「遅いわ!」とか言って飛び出してくるか、ガタガタと箱の中で騒ぎ出すものだと思っていたから、 この長い待ち時間、部屋がしんと静まっていたのが信じられないぜ。 「あれ?お二人だけですか?」 と不思議そうな顔の朝比奈さんだが、ここは嘘をつかねばなるまい。 「はい。ハルヒも長門もまだみたいで」 「珍しいですね」 小首をかしげながら、鞄を机の上に置く。 「とりあえずお茶いれますね」 こういうときは下手に演技してもどうせハルヒにどやされるだけだから、台詞は必要最小限に抑えるべきなんだろう。 「お願いします」 俺は笑顔で答えて、朝比奈さんに会釈した。 その後、俺は古泉とともに朝比奈さんのお茶を楽しみながら、いつハルヒが飛び出してきてもいいように身構えていたのだが…。 結論から言おう。 ヤツはいっこうに掃除用具入れから出てこなかった。 いったいどれだけ地味な世間話とお茶をすする音を撮り続ける気だろう。 ハルヒが隠れてから既に三十分以上。 いくら映画のためとはいえ、こんなに根気のあるやつだったかな? 「涼宮さん、遅いですね」 制服のままの朝比奈さんの言葉に、俺は古泉に目配せして掃除用具入れをちらと見た。 古泉が肩をすくませ、小声でコンタクトをとろうか、と思った時だった。 キィ…という情けない音とともに灰色の扉が外向きに開く。 もっと勢いよく開くもんだと思っていた俺は拍子抜けしてしまい、 さらにその中の光景を見て…愕然とした。 「有希!いきなさい!」 とか言いつつ、満足そうな笑顔を浮かべているはずだった監督が、 「…」 三角防止の魔女の腕の中で、立ったまま寝息をたてていた。 俺ももちろん驚いた、というより呆れたが、もっと慌てたのは…他でもない。 本来ターゲットだったはずの朝比奈さんだ。 「へ?あれ?なんでそんなとこ…それにその格好…?」 用具箱におそるおそる近付きながら頭の上にハテナを浮かべる。 仕方ない。状況が状況だし、説明してもいいだろ。 「すいません。こいつが映画の続編を撮るとか言い出しまして…。この中から朝比奈さんの様子を撮影してるはずだったんですよ」 「えっ!?」 「でも、この有り様じゃあ何も撮れてないでしょうね」 まさかこの狭い中で立ったまま寝てしまうとはな。 静かだったのも頷けるぜ。 長門もご苦労さんだ。 「…入ってすぐに眠ってしまった」 小さく呟く長門は、寄りかかるハルヒの頭を抱えて大事そうに撫でた。 朝比奈さんを一瞥してから、ハルヒに視線を戻して僅かに目を細める。 なぜか得意気な長門に…これまたなぜかわなわなと体を震わせる朝比奈さん。 俺は二人の間に何か変な空気を感じたが、 「まぁとにかく起こしてやろう。長門も大変だろ」 ハルヒの肩に手を伸ばす。 いつまでもその格好じゃ辛いだろうと思って…気を利かせたつもりだったんだがな。 そんな俺を長門は、衣装と同じく真っ黒い瞳を爬虫類みたいにギロリと動かして睨んだ。 「起こしてはいけない。揺らさないように、今からそちらへ運ぶ」 「いや、でも…」 「大丈夫」 言葉を制された俺は、情けなくもその場に固まってしまった。 誰だってこいつにこんな風に睨まれたら怯むと思うんだが… 「あの、私が持ちます」 今日はなんと、あのいつも弱気な先輩が口を挟んだ。 目を丸く開いたまま少し頬を染め、頑固そうな長門の瞳を見据えて「こちらへ預けて」とばかりに両手を広げる。 「あなたではダメ。支えられない。危ない」 「長門さんだって。そんな格好で安全に出てこられるはずないです。私が涼宮さんを…」 「今から出る。問題ない」 「問題あります」 「ない。彼女の身は私が守る」 なんだなんだ? 数秒の間に行き来した短い言葉のやりとりに、開いた口が塞がらない。 口を挟めない。 意地の張り合い? ハルヒの取り合い? ただ、何にせよ朝比奈さんがこんなにも長門に食ってかかるところは見たことがない。 「私の方が…あぅ!」 口ではなく、ついに実力でハルヒを奪いにかかった朝比奈さんの右手を長門が掴む。 「彼女が起きる。…やはりあなたではダメ。意外と乱暴」 早口でまくしたて、一瞬怯んだ朝比奈さんの横を抜けて、するりと掃除用具箱から脱出した。 ハルヒが目を覚ます気配はない。 「どうぞ」 長門は古泉に出された二脚の椅子の片方にハルヒを座らせ、もう片方に腰を下ろすと、自分の肩に頭を預けさせる。 すーすーと寝息を立てるハルヒの手をやんわり握ると、 二人はまるでバランスを失ったフランス人形が寄り添って座っているような風を思わせた。 「長門さんばっかりずるい…」 おっと、これは急展開だ。 先程長門に「意外と乱暴」と評された小さな先輩が、目を潤ませながら二人のもとに駆け寄る。 ハルヒよ。寝てる場合じゃないぞ。 「私も涼宮さんを抱っこしたいです」 「ダメ」 ついに本音の出た朝比奈さんだが、長門はぷいと向こうをむく。 「ちょっとだけですから」 その顔を追って回りこんだ朝比奈さんは、自分の分の椅子を引っ張り出してハルヒの隣にくっついた。 長門は一旦ハルヒの寝顔を見て、朝比奈さんに視線を戻す。 泣き出しそうな瞳をキッと開いて自分を見つめ返す彼女を見て、長門は何を思ったのか…。 「…」 握っていた両手をほどき、ハルヒの左手をリスみたいに震えている目の前の少女に差し出した。 片方だけなら握っててもいいよ、ということなのだろうか。 朝比奈さんにぱぁっと笑顔が戻る。 「長門さん…」 彼女は小さく歓声を上げてうふふと笑うと、細く真っ白な指を腕まで絡めようにして掴んだ。 「起こさないように」 「わかってます」 両腕に美少女二人をくっつけているハルヒは、…びっくりするぐらい熟睡しているわけだが…。 できることならしばらくはこのまま眠っていていただきたい。 …両サイドの二人がお前の寝顔を幸せそうに見つめているもんでな。
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(佐々木の閉鎖空間内、中学校にて) 佐々木「君も……君の大切な人を傷つけられたくはないよね、キョン。」 キョン・古泉「!!」 佐々木「ああ、余計なマネはしないほうがいい。 もし君が少しでもおかしな真似をしようと考えたなら、 僕は容赦なく彼女達を締め上げるだろう。」 (ハルヒ、長門、みくるが蜘蛛の糸のようなもので磔にされている) キョン「佐々木、それに藤原…… お前ら……それは一体――」 藤原「ふん……現地人、お前も過去に行ったのなら知っているだろう。」 お前がが2年前に居たあの学習塾、そこで出会い、お前に思いを寄せた一人の女」 キョン「……!? まさかお前が……!」 古泉(やっぱり気付いてなかったんですか……) 佐々木「そうだよ。 なのに君ときたらいつもハルヒ、ハルヒ、ハルヒ、ハルヒ…」 佐々木「全く……嫉 妬 せ ざ る を 得 な い」 .
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姉妹編『長門の湯』『鶴屋の湯』『一樹の湯』もあります。 ====== 『みくるの湯』 台風の季節が過ぎ、本格的な秋を迎えると、さすがに朝夕の寒さが身にしみるようになってきた。怒涛の文化祭やらコンピ研とのインチキ宇宙艦隊対戦でドタバタした去年に比べて、今年の秋は至って平和だ。 放課後の部室も、すっかりやわらかくなった秋の日差しが差し込んでいるが、あと一ヶ月もすると、ハルヒが大森電器店からせしめてきたストーブが活躍することになるだろう。 そんな部室にいるのは、朝比奈さんと長門、そして俺の三人、ハルヒは掃除当番であり、古泉はホームルームでも長引いているのかも知れない。また今日もまったりとした午後のひと時の始まりである。 「お茶です、どうぞ」 「ありがとうございます」 熱いお茶が美味しい季節を迎えたわけだが、朝比奈さんのお茶は季節に関わらず美味しいわけで、俺は、そんな至福の時を堪能することができる幸せをしみじみと感じている。 「すっかり秋になりましたね」 読書中の長門の前にも湯飲みを置いた後、俺の隣の席に腰を下ろした小柄なメイドさんは、俺の目を覗き込むように話しかけてくれる。いやぁ、いつも見ても愛らしい上級生です。 「ええ、今日のように昼間は暖かい日でも、夜は結構寒くなってきましたから」 両手で包み込んでいる湯のみの暖かさが手のひらいっぱいに感じられる。 「朝比奈さん、一人暮らしですよね。風邪とか、大丈夫ですか」 「ええ、大丈夫です。ありがとう、キョンくん」 にっこり笑って、小さく肯いてくれる朝比奈さん。やっぱりかわいい! もし本当に風邪でもお召しになったら、看病に馳せ参じますよ。 「そろそろ温泉とか恋しい季節ですよねー」 「朝比奈さん、温泉好きなんですか?」 「えぇ、あんまり行く機会はないのですけど。テレビとかで見ていると、すっごく気持ちよさそうなので、また一度、ゆっくりと行ってみたいなって」 「温泉ですか、いいですね」 朝比奈さんと一緒に湯船に入ることができたらどれほどいいだろうか。せめて足湯だけでも……。そうか、うん、そうだな……。 「行きましょうか、どこかの温泉……」 「えっ?」 「一緒に……」 足湯でも、と言おうとすると、朝比奈さんは急に真っ赤になって、 「い、いっしょはダメです、そ、そんな、男の人と一緒に温泉に入るなんて……」 「は?」 えっと、俺は別に、そんなつもりは……、確かに少しはありますが……。 朝比奈さん、そんなに真っ赤になって俯かれると、俺、なんかとてつもなく悪いことをしたみたいで……。 「別に混浴でなくていいですよ、朝比奈さん」 朝比奈さんは少し顔を上げた。 「普通に温泉へ、SOS団のみんなでね、行こうかって。で、足湯ぐらいなら一緒に入れますけど」 「あ、あたし……」 結局、早とちりに気づいた朝比奈さんは、また赤くなって俯いてしまった。 うーん、どんな表情でも絵になる人だ。 「ハルヒが来たら、話してみましょうか、今度、温泉イベントでもやろうぜ、って」 「はい」 「長門も行くか? 温泉」 窓辺の寡黙なアンドロイドは、いつものように小さくうなずいた。 「へぇー、温泉ね、いいんじゃない? キョン、あんたもたまにはいい提案するのね」 「いや、俺じゃない。朝比奈さんが行ってみたいそうだ」 「みくるちゃん? そうなの?」 団長席のハルヒが、急須のお茶っぱを入れ替えている朝比奈さんの後姿に話しかけると、 「はい、そうなんです。テレビで見て行ってみたいなぁって。足湯だけでもいいですし」 振り返った朝比奈さんは、俺のほうをチラッと見てから答えた。 「うん、面白そうね。じゃあ早速、今度の土曜日にでも行こうか。いいわね、キョン」 「ん、俺は別に構わないぜ」 俺と朝比奈さんはもちろんOKだし、長門と古泉が拒否するはずもない。 「ホントは一泊ぐらいしたいところだけど、足湯程度なら日帰りでも行けるしね」 カチューシャを揺らしたハルヒは、満足げにうなずいている。 「適当なところを探しておきましょうか?」 「そうね、古泉くん、お願いね」 そして週末になった。俺たちは電車を乗り継いで山の向こう側にある温泉街にやって来た。ここは大きな旅館やホテルなどが立ち並ぶ有名な温泉地だが、古泉のリサーチによると、最近の流行として足湯場なども整備されているらしい。 ありもしない不思議を求めて街中を彷徨っているより、目的を持ってこうしてお出かけするほうが何倍もマシだ。また今度も何かお出かけネタを用意しておくとするか。 「じゃ、入るわよー」 ハルヒの号令のもと、俺たちSOS団ご一行は足湯場に近づいていった。 温泉街の真ん中辺り、四本柱に支えられたちょっと古風な瓦屋根の下、十人ぐらいが腰をおろせそうな場所に、先客のおばちゃん達が三人ほど足を暖めていた。ヒノキで作られた足湯用の湯船からは湯気がふんわりと漂っている。 そのおばちゃん達の反対側には誰もいなかったので、俺たちが入るスペースは十分にあった。混んでなくてよかった。 早速、ショートブーツとニーハイソックスを脱ぎかけているハルヒは、朝比奈さんに向かって、 「みくるちゃん、あんたその格好でどうするつもりなの?」 「え、あ、あっ?」 あらためて朝比奈さんの姿を見てみると、暖かそうなニットのワンピに、これまた暖かそうな黒いタイツをはいている。どう見ても足湯に適した格好とは言え ない。ついでに言うと、長門はいつもの制服に紺のソックス姿なので、すでに素足になって足湯に入ろうとしているところだった。 「あたし、明日は足湯に行くからね、って言っといたわよね、みくるちゃん」 「は、はい。涼宮さん」 朝比奈さんは、胸の前に両手を合わせて、ハルヒの次の言葉を待っている。 「そもそも、みくるちゃんが行きたいって言ってたから来たのに、もう、仕方ないわねー」 そこでニヤッと笑みを浮かべたハルヒは、 「ほら脱がしてあげるから、こっち来なさい」 と、言うや否や朝比奈さんの膝元にまきつくと、スカートの中に手を突っ込み、タイツを脱がそうとしはじめた。 「い、いや、涼宮さん、ちょ、ちょっとここでは、やめてくださぁぃ」 「何いってんの、あたしが手伝ってあげるから、ほら、ほら、ほら!」 小悪魔ハルヒに取り付かれた朝比奈さんは必死でスカートのすそを押さえている。それでも黒いタイツの上のほうまでチラチラ見えてしまうのをついつい注視していたが、やっと我に返って、俺はハルヒと朝比奈さんの間に割り込んだ。 「こら、ハルヒ、もうやめとけって」 「なによ、キョン、足湯を楽しむならタイツ脱がないと……」 「ここで脱がなくても、ほら、あっちに脱衣場みたいなのがあるから、そこに行けばいいだろ」 やっとのことでハルヒを引き剥がした俺は、朝比奈さんに振り返って、 「朝比奈さん、ほら、今のうちにあっちへ行ってください」 「す、すみません、キョンくん、涼宮さん」 そう言って駆け出した朝比奈さんは、途中で一回振り返ると、小さくペコリとお辞儀をして脱衣所らしき建物に消えていった。 「ほんと、みくるちゃん、ドジっ娘なんだから」 俺と並んで朝比奈さんを見送ったハルヒは、そう言いながら、すでに足湯を堪能しながら文庫本を読んでいる長門の隣に座って、とぽんと両足をお湯につけた。 「うーん、気持ちいいわねー。あったまるわぁ」 やれやれ、と一つ溜息をついて、俺も靴と靴下を脱ぎ、ズボンをひざの上までたくし上げた。何かをする前には必ずひと騒動起こさないと気がすまないらしい、あの爆弾女は……。 「涼宮さんにとっては、朝比奈さんはまさに理想のドジっ娘さんなんですね」 同じように足湯準備を整えた古泉の言葉を聴きながら、俺はハルヒや長門と少し離れた場所に古泉と並んで腰を下ろした。朝比奈さんの持つさまざまな属性の ひとつに、ドジっ娘があることは、俺も認めざるを得ない。それは、ハルヒが望んだものであることも、おそらくは確かなんだろう。 「それはそうかも知れないが、さっきのはやりすぎだぜ」 「ええ、そうですね。でも、それも涼宮さんらしいじゃないですか」 「なんでもかんでも、『涼宮さんらしい』で片付けるんじゃない」 「あははは、すみません」 そうこうしているうちに素足になった朝比奈さんが脱衣所から戻って来た。さっきのタイツ姿と比べると白い生足が寒そうに見える。 「ほらほら、みくるちゃん、こっちこっち、早く来て温まりなさい。見ているだけで寒そうだわ、その足」 ハルヒも俺と同じ感想を持ったらしく、手招きして朝比奈さんを迎え入れた。 朝比奈さんは、「すみません」とひとこと言うと、ハルヒの隣にゆっくりを腰を下ろし、 「ふわぁー、やっぱり気持ちいいですぅ」 そろえた膝の上に両手を乗せて、少し遠くの空を見上げながら、朝比奈さんは、ふぅーっと大きく息を吐いた。 「でしょ? 足湯はね、冷え性にもいいのよ。みくるちゃんはどう?」 「えっ、ひえしょう!? 何ですかそれ?」 「ん?」 パタパタさせていた足をふと止めるハルヒ。 「冷え性。冷えやすい体質。血液の循環のよくない身体。特に足・腰などの冷える女性の体質」 突然長門の声が聞こえてきた。こいつは電子辞書か? いや、まぁ、確かにそうかもしれないが。 再び読書に戻った有機アンドロイドによる定義を聞いた朝比奈さんは少し慌てた様に二・三回うなずいて、 「あ、その冷え性ですか、そうですね、たぶんそうです」 「じゃあ、ゆっくりと温まりましょ」 「はい」 朝比奈さん、そんなに冷え性でお困りなら俺が温めてあげますよ。いや、それより、未来には冷え性って言葉はないんでしょうか、 なんてことを思い浮かべながら朝比奈さんたちの会話を聞いていたが、すぐにハルヒに突っ込まれてしまった。 「ちょっとキョン、また顔がエロくなってるわよ」 「くっ、ほっとけ」 しばらくの間足湯を堪能させてもらったが、ハルヒは、 「うーん、やっぱりここまできたら露天風呂にも入りたいわね」 といって、古泉を連れてロケハンに行ってしまった。 このロケハン、最初は俺が指名されたのだが、俺がごねていると古泉が、 「僕の知り合いが経営している旅館が少し向こうにありますので、そこをあたってみましょうか」 と申し出てくれたので、俺はハルヒのお供を免除された。それにしても、どこへ行っても機関の関係する施設があるんだな。おかげで俺は、朝比奈さんと長門とともに、今しばらくの間、足湯でほっこりさせてもらうことができたわけだ。ありがとう、機関よ。 「足だけなんですけど、全身がぽかぽかする感じがしますね」 ハルヒの抜けたあとに席を移して、俺は隣に座っている素足のマイエンジェルに話しかけた。 「え、ええ、そうですね」 にっこり微笑む朝比奈さんは相変わらず天使そのものだ。だが、その笑みに中にほんの少しの曇りがあるのがわかった。おや、どうしたのだろう。 ふぅ、と肩で大きく息をした朝比奈さんは、お湯の中の足先を見つめるようにゆっくりと話し出した。 「今日は、ちょっと息抜きができてよかったんですけど、明日からまた受験勉強を……」 そうだ、そうなんだ、朝比奈さんは三年生、受験生だったんだ。すっかり忘れていた、というか、毎日のように放課後の部室でメイド姿でいらっしゃるものだから、俺は朝比奈さんが受験生であることをまったく意識することもなかった。 「だ、大丈夫なんですか、あ、いや、すみません」 何か、少し失礼なことを言ってしまったような気がして、俺はすぐに取りつくろうとした。 「いいんです、本当にあんまり大丈夫じゃないから……」 ますます力なく微笑む朝比奈さん。 「上のほうからの指令で、受験する大学を二つ三つほど指定されているんですけど、どこも、あの、ちょっとレベルが、少し足りないようで……もっと勉強しないといけないんですけど」 「は、はぁ」 そんなことまで指定されているのか。朝比奈さんも大変だ。 たぶん、上のほう、というのは朝比奈さん(大)のことだろう。朝比奈さん(大)も自分自身のことなんだから、この先どうなるかはわかっているはず……、いや、ということは、指定された受験校のどこかに滑り込むことは既定事項なのかもしれない。 「でも、朝比奈さん、その指令に従うと、指定された大学に合格するってことではないんですか。大学合格は既定事項とか」 「それが、一概には言えないそうなんです。わたしの出来次第で合否はどうにでも変化するそうです。だから、未来の流れを守るためには、とにかく努力して合格しないといけないのです」 「そ、そんな……」 「時間の流れはさまざまな要素が絡み合って、決して一本道ではないんです。だからこそ、わたしがこの時間に派遣されているわけで……」 「そうなのか、長門?」 俺は不安で一杯の未来人さん越しに、万能宇宙人に尋ねてみた。 文庫本から顔を上げた長門は、背筋をピシッと延ばしまっすぐ前を見つめたまま、淡々と答えた。 「時間流の制御は非常に難しいもの。ある一時点でのわずかな揺らぎが後に大きな影響の遠因となることも考えられる」 バタフライ効果か。 確かにどこか地の果ての蝶の羽ばたきひとつと比べると、朝比奈さんの受験結果がハルヒを含む時間の流れに対して与える影響は大きくなりそうだ。そのためには、こんなところでぬくぬくしている暇はないのかも知れない。 それにしても未来人組織も酷な事をする。 その気になれば、問題と解答が印刷された冊子を、未来の朝比奈さん(大)が届けてくれることも可能だろうに、あえて試練を目の前にいるいたいけな一連絡員に与えるとは。 「でも、わたしがんばります。だからきっと、どこか合格できますよね」 「朝比奈さんなら大丈夫ですよ」 「ありがとう、キョンくん」 けなげに微笑む朝比奈さんに俺はそう言って励ますしかなかった。 「今日はこうやってリフレッシュもできましたから……」 朝比奈さんは少し後ろに手をついて体をそらすと、目を細めて遠くの空を見上げた。 そうですよ、努力家の朝比奈さんならきっと合格できます。ハルヒや俺達の未来を間違いのないように導いてくれるはずです。 「ちょっと、何をいつまでまったりしてるのよ、露天風呂、行くわよー」 その時、遠くからハルヒの声が響いてきた。どうやら機関直営高級旅館の露天風呂に案内してもらえることを確約してきたらしい。 ということで、朝比奈さんの息抜きは、少なくとも今日一日は続くことが確定した。 とにかくがんばってください、朝比奈さん。 Fin.
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「涼宮ハルヒ」 SOS団員2号にして読書好きの無口系キャラでこの銀河を統括するなんたらかんたらに作られた宇宙人、という 普通に書き並べても長文になってしまうまこと複雑なプロフィールを持った少女、長門有希が 同じく詳細に語ったりするとそれだけで文庫本1冊ぐらいにはなりそうなこれまた面倒くさいプロフィールを持つ 唯我独尊、傍若無人でSOS団団長の女、涼宮ハルヒに問い掛けたのは、 SOS団員全員が部室に揃っている、特に何も起きていない平和なとある日の事である。 その言葉を聞いた時、俺は「珍しい」と思った。 なんせこいつが自分から意思表明をすることなんか殆ど無いからな。 明日は家を出る前に傘を持っていった方がいいかもしれん。 にしても何を言うつもりなんだろうな。あまりハルヒにヘタな事を言ってほしくはないのだが、 長門がこうやって自主的な意思表明を行うことなど、今ではともかく 初顔合わせの時には考えられなかったからな。邪魔をしたくはないね。 ふと前を見ると古泉の奴も会話の行方が気になっているらしく、 オセロは自分の番である筈だが手を止めている。時間稼ぎしたところで戦局は火を見るより明らかだぜ。 まあいい、俺もハルヒと長門の会話の行方が気になるところだからな。 朝比奈さんもそうであるらしく、マフラーを編みながら、ちらちらと二人の方を伺っている。 うーんこの人の行動は本当和むね。 「なに、有希?」 微笑を浮かべたハルヒが答える。普段の俺の話もそれくらいの態度で聞いてくれないものかね。 話は変わるが、ハルヒは最近前にも増して長門の事を気遣っている。 雪山で長門がぶっ倒れた時から特にだ。 無理も無い気はするけどな。長門がどっか行くかも知れないという事も言ったし。勿論その時に黙って見てる気なんてないが。 どうもハルヒは団員の事情や健康に敏感な性質である。 映画の時に調子こいたりもしたが、基本的にこいつは団員の事を無下にする事はない。 朝比奈さんに対するイタズラは、お姉さんに対する甘え、みたいなもんだろ。多分。 …ホント、俺の事も少しは気遣ってくれないもんかね? で、長門にそんなハルヒの事を言ってみたところ、長門は 「そう」 と言っただけだった。わかってるのかねあいつは。 そんな事を考えていた時に長門が口を開いた。 「前から実行したい事があった」 前から実行したい事?なんだそりゃ長門、そんなのは初耳だぞ俺は。 って別に俺に言う意味なんぞ小学生の時に作った俺の自由工作の価値ほどもないか。 「あなたを」 あなたを?う、いかん。嫌な事を思い出してしまった。 まさか「あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る」とか言わないだろうな。いや出方見れないかそれじゃ。 「これから“団長”と呼称したい。許可を」 ………………………今なんつった長門? 見ると、古泉は笑顔のまま目を見開いて驚くという芸当をやって見せ、 朝比奈さんは口を開けてほえーとか言ってらっしゃる。 そして言われたハルヒは、まるで洞窟に閉じ込められて必死で穴を掘ったところ光が見えたような表情と 目の前で大魔神が海を割き現れたのを見たような表情が混ざってよく分からないことになっていた。 いやこいつの場合大魔神が現れたら狂喜乱舞か? ちなみに長門が無表情であることは言うまでも無い。 「ゆ…有希?どうしたの急に?」 突然の提案にハルヒは困惑しながら長門に問い掛ける。 「返答を」 長門はその問いには答えずハルヒの返事を待った。 「えー、ああ、その、うん」 なにがうんなのだろう。ハルヒはいつもの態度からは考えられないしどろもどろなレアな顔をしている。 あーとカメラはどこにやったっけ? 「だめ?」 長門が少し、ほんの少しだけ表情に不安な色を浮かべた。 ハルヒもそれを察知したのか、慌てて手を前に出してブンブン振って否定する。 「あ!いや、違う、違うのよ有希!なんで急にそんな事言いだしたのかちょっと気になったっていうかね!だから気にしないで!」 長門はそれを聞いてなるほどといった風に話し出した。 「あなたは冬の合宿の際、倒れたわたしの看病をわたしが就寝するまで行った。 しかしわたしはその時は通常はそうするものなのだと認識していた。 だが実際の統計上、あなたの行った看病は明らかに平均のレベルを逸脱しており、 単なる義務行為以外に重大な理由がある事を推測させた。 だがわたしにはそれがなんであるかまではその時は正確に掴めなかった。 あなたが時折わたしの方を確認している事も知っていた。 それは「心配」という感情に似たものを感じさせたが、 わたしがあなたに心配される理由があるとは思っていなかった。 だが彼があなたがわたしの事を心配しているのだと教えてくれた。 あなたがわたしを友人だと思っていてくれている事も。 友人関係に当たる者はお互いの事をフルネームでなく名前単独や渾名やそれと分かる特別な名称で呼ぶ。 故にわたしはあなたの事を“団長”と呼びたい。許」 許可を。と言いたかったんだろうな。しかしその言葉が発される事はなかった。 なぜかって?見りゃ分かるだろ。ハルヒが長門を鯖折りでもしてんのかというぐらいに強く抱きしめてやがるからだよ。 抱きしめられる長門の顔を見ながら俺は思った。 …長門は、もしかしたら、いやもしかしなくとも、ハルヒのやつに罪悪感を感じていたんじゃないのか、と。 おかしくなって、世界を変えちまったことに対して。 なあ長門、別に気に病むことはないんだぜ、結果的に皆元に戻ったじゃないか。 それに、俺はあの世界で認識したんだよ、この日常の大切さを。 あの事件が無きゃ俺はこの思いを認めないまま過ごしていただろう。だから、だから長門。 …そんな泣きそうな顔しないでくれよ。 やがてハルヒは長門を抱きしめるのをやめて、長門の肩に手を置き、言った。 「大丈夫よ有希。有希がどっかに行っちゃうなんてあたしは絶対許さない。何があっても守ってあげる。 だからなにかあったらあたしに絶対言いなさい、…あたしはSOS団団長で、あんたの友達なんだから」 少しだけ目を見開く長門。全く今日はレアなシーンばかり見れるな。 ハルヒは、長門の肩を左手で抱き寄せて、右手で握り拳を作り、正面を向いて仁王立ちしながらこう言った。 「ううん、有希だけじゃない。みくるちゃんも、古泉君も、ついでにキョンも、 全員SOS団の仲間なんだから。みんな何か困った事になったら遠慮なくあたしに言いなさい。 何が来ようとも全部ぶっ飛ばしてやるんだから!!」 お前に本気でぶっ飛ばされたら、多分相手は地球の引力を振り切って二度と落ちて来ないぞ。 「分かった!?みくるちゃん!」 「は、はいっ!」 いきなり自分に声が向けられて思わずビクッとする朝比奈さん。が、 その顔は神話の全神々が出て来ても一蹴しそうな優美な微笑みだ。 「古泉君!」 「肝に銘じておきます」 いつも通りに見えるスマイルで答える古泉。 しかし若干柔らかめだ。 まあ実際はこいつの行動で俺達が困った事になり解決しているのだが。 それにこいつに全てを言うとそれこそ世界は崩壊の危機なのだが。 だがまあ、 「…キョン!分かった!?」 「…分かったよ」 …そんな事よりも、こいつがちゃんと俺らの事を考えててくれたって方がよっぽど重要だろ? 最後にハルヒは、もう一回長門と向き合って、言った。 「…わかった?有希」 「………わかった、団長。ありがとう」 その言葉を聞いた途端、ハルヒはもう一回長門を抱きしめた。 そんな傍から見たら異様な光景は俺からは何故だかとても微笑ましく見えた。 長門。心配なんかしなくてもいいさ。 無敵のSOS団は全員おまえの味方だからよ。 ハルヒ、何も一人で背負い込まなくたっていいぞ。 お前に荷物持たされる準備なら、俺はいつでもOKだぜ? 終わり
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基本情報表紙 タイトル色 その他 目次 裏表紙のあらすじ 出版社からのあらすじ 内容 あらすじ「プロローグ」 「第一章」 「第二章」 「第三章」 挿絵口絵 挿絵 登場人物 後に繋がる伏線「第二章」(伏線) 「第三章」(伏線) この巻にて回収した伏線「プロローグ」(回収した伏線) 「第一章」(回収した伏線) 「第二章」(回収した伏線) 刊行順 その他 基本情報 涼宮ハルヒシリーズ第9巻。2007年4月1日初版発行。 表紙 通常カバー…涼宮ハルヒ 付け替えカバー…涼宮ハルヒ 期間限定パノラマカバー…周防九曜、佐々木 タイトル色 通常カバー…赤 付け替えカバー…ピンク 期間限定パノラマカバー…ピンク その他 本編…290ページ 形式…長編・上中下巻(第10巻『驚愕(前)』は中巻、第11巻『驚愕(後)』は下巻にあたる) 目次 プロローグ…P.5 第一章…P.101 第二章…P.155 第三章…P.219 裏表紙のあらすじ 桜の花咲く季節を迎え、涼宮ハルヒ率いるSOS団の面々が無事に進級を果たしたのは慶賀に堪えないと言えなくもない。 だが爽やかなはずのこの時期に、なんで俺はこんな面子に囲まれてるんだろうな。 顔なじみのひとりはいいとして、以前に遭遇した誘拐少女と敵意丸出しの未来野郎、そして正体不明の謎女。 そいつらが突きつけてきた無理難題は、まあ要するに俺をのっぴきならない状況に追い込むものだったのさ。大人気シリーズ第9弾! 出版社からのあらすじ 春の訪れと共にSOS団全員が無事進級できたことは、何事もありすぎた一年間を振り返ってみると感慨深いとしか言いようがないのだが、 俺は思ってもみなかったよ。春休みの些細な出会いがあんな事件になろうとはね。 内容 P.295に『涼宮ハルヒの驚愕』に続くとあるため、シリーズ初の上下巻構成。今まで溜められた伏線が一気に回収され、新キャラが登場。波乱の新展開を迎える。 この巻ではキョンの中学時代の友人、「機関」の敵対組織代表者、みくるを敵対視する未来人、情報統合思念体とは違う広域帯宇宙存在によって作られた宇宙人が登場。 ※ネタバレ記述あり +... なお、この巻のタイトルになっている『分裂』は、ストーリー分裂という意味を指している。 あらすじ ※ネタバレ記述があるので、原作未読の場合は注意。 「プロローグ」 +... 春休みを終え、無事に全員進級を果たしたSOS団のメンバー。 ハルヒは新入生の中から、面白い人材を探し出そうと張り切っているが、どうも古泉の様子がおかしい。 聞けばハルヒの精神が不安定で、連日連夜神人狩りに奮闘しているのだという。 「ハルヒの精神が不安定? あんなに笑顔で楽しんでるじゃないか?」 不思議に思うキョン。古泉曰く、その原因を作ったのはキョンだという。 「春休みの最終日を覚えていますか?」 必死に思い返すキョン。春休みの最終日、キョンはある人物と再会していた。その人物は…… 「第一章」 +... 古泉は、ハルヒの精神は未だ不安定で、現状に変化はないらしい。 古泉がこう発言した次の日の土曜日の朝、キョンは駅前で再び佐々木と再会するが、そこにいたのは佐々木だけではなかった…… 「第二章」 +... ※ストーリー分裂 『α』(α-1~4) 入浴中、キョン宛に電話がかかる。 電話の相手は女の声。キョンは「イントネーションが誰かに似ていた」と思っており、電話相手の名前を聞こうとしたが、その相手は名を言わぬまま電話を切ってしまった…… 『β』(β-1~4) 入浴中、キョン宛に電話がかかる。 電話の相手は佐々木で、橘京子らがキョンに話があるらしい。 次の日曜日、いつもの喫茶店で橘京子が口にした言葉。 「あたしたちは涼宮ハルヒさんではなく、この佐々木さんこそが本当の神的存在なのだと考えています」 訊けば、橘京子は「佐々木に力を与えられた超能力者」であるとの事。ハルヒの持っている力を佐々木に移植したいと考えているが、 佐々木もキョンも力を得ることに否定的で、藤原と九曜も乗り気ではなかった。 だが、佐々木が神的存在であることを証明しようと、橘はキョンをとある場所に案内するのだが…… 「第三章」 +... 『α』(α-5~6) 月曜日の放課後、キョンは数学の小テストがあるのを忘れていた。それを聞いたハルヒは講義を開く。 終了後、キョンとともに部室の前に行くと、廊下には入団希望者である一年生達が11人並んでいた。 だが、一年生達の人数が11人だったはずが、いつの間にか12人になっており、女子1名増えていた。 キョンは、その中の女子1名に既視感を覚えるのだが…… 『β』(β-5~6) 月曜日の放課後、いつも通りキョンは部室に行く。そこにいたのはみくるだけだった。 入団希望者は一人も来ず、しばらくしてSOS団は全員揃った……はずだったのだが、長門が来ていないことにハルヒとキョンは同時に気付く。 ハルヒは長門の家に電話をかけるが、長門は熱を出して学校を休んだらしい。 「彼等の侵攻が再開されたんですよ。情報統合思念体ではない地球外知性のね。当然、第一次的な攻撃目標はSOS団最大の防御壁となる長門さんです」 古泉の解説によると、長門は広域帯宇宙存在(天蓋領域)の攻撃によってこのような状態であるらしい。 熱を出して寝込んでいると知ったハルヒ達は長門のマンションへと向かう…… 挿絵 口絵 SOS団(プロローグ) ⇒ キョン、長門有希、古泉一樹(プロローグ) ⇒ 佐々木、橘京子、周防九曜(第一章) ⇒ 涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる ⇒ 挿絵 「プロローグ」 P.37…キョン、コンピュータ研究部部長 ⇒ P.87…キョン、佐々木 ⇒ 「第一章」 P.117…長門有希、鶴屋さん ⇒ P.143…朝比奈みくる ⇒ 「第二章」 P.161…キョン、佐々木 ⇒ P.183…藤原 ⇒ P.213…喜緑江美里、周防九曜 ⇒ 「第三章」 P.231…涼宮ハルヒ、キョン ⇒ P.281…涼宮ハルヒ、朝比奈みくる ⇒ 登場人物 涼宮ハルヒ キョン 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん シャミセン 谷口 国木田 キョンの妹 コンピュータ研究部部長 生徒会長 喜緑江美里 佐々木 橘京子 藤原 周防九曜 『わたぁし』 後に繋がる伏線 「第二章」(伏線) 『α』ルート・電話相手の謎の少女の正体 ⇒第10巻『驚愕(前)』にて回収 『β』ルート・藤原の目的 ⇒第11巻『驚愕(後)』にて回収 『β』ルート・佐々木&藤原の話の内容 ⇒第10巻『驚愕(前)』にて回収 「第三章」(伏線) 『β』ルート・キョンの中学時代の夢の内容 ⇒未回収 『β』ルート・天蓋領域(九曜)の目的 ⇒第10巻『驚愕(前)』、第11巻『驚愕(後)』にて回収 この巻にて回収した伏線 「プロローグ」(回収した伏線) 国木田曰く「変な女」、中河曰く「奇妙な女」、古泉曰く「中学時代に仲良くしていた女子」という人物 ⇒佐々木 「第一章」(回収した伏線) 第5巻『暴走』収録の「雪山症候群」にて、SOS団を異空間に閉じ込めた犯人 ⇒周防九曜 「第二章」(回収した伏線) 『β』ルート・第7巻『陰謀』にて、敵対組織の登場・目的 ⇒「機関」の敵対組織は、佐々木にハルヒの持つ能力を移植すること 刊行順 <第8巻『涼宮ハルヒの憤慨』|第10巻『涼宮ハルヒの驚愕(前)』> その他 余談だが、この巻からいとうのいぢの口絵・挿絵のクオリティが一気に上がっている。
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基本情報表紙 タイトル色 その他 目次 裏表紙のあらすじ 出版社からのあらすじ 内容 あらすじ「涼宮ハルヒの退屈」 「笹の葉ラプソディ」 「ミステリックサイン」 「孤島症候群」 挿絵口絵 挿絵 登場人物 刊行順 基本情報 涼宮ハルヒシリーズ第3巻。短編作品。2004年1月1日初版発行。 表紙 通常カバー…長門有希 期間限定パノラマカバー…藤原、長門有希 タイトル色 通常カバー…黄色 期間限定パノラマカバー…黄色 その他 本編…298ページ 形式…短編集 目次 プロローグ…P.5 涼宮ハルヒの退屈…P.7 笹の葉ラプソディ…P.74 ミステリックサイン…P.133 孤島症候群…P.182 あとがき…P.304 裏表紙のあらすじ ハルヒと出会ってから俺は、すっかり忘れたと言葉だが、あいつの辞書にはいまだに"退屈”という文字が光り輝いているようだ。 その証拠に俺たちSOS団はハルヒの号令のもと、草野球チームを結成し、七夕祭りに一喜一憂、失踪者の捜索に熱中したかと思えば、 わざわざ孤島に出向いて殺人事件に巻き込まれてみたりして。まったく、どれだけ暴れればあいつの気が済むのか想像したくもないね……。 非日常系学園ストーリー、天下御免の第3巻!! 出版社からのあらすじ 涼宮ハルヒの「退屈」の一言で、野球チームを結成し、七夕祭りに盛り上がり、行方不明者捜索に駆り出され…… ついに殺人事件に巻き込まれた俺には、退屈なんて言い出すヒマも無いさ――。大人気シリーズ第3弾登場!! 内容 短中編集。この巻に収録されている「笹の葉ラプソディ」は、第4巻『消失』においては重要なストーリーである。 なお、この巻に収録されている話は全てアニメ化された。 あらすじ 「涼宮ハルヒの退屈」 +... 本のタイトルにもなっているストーリー。 いつも通り、ハルヒは部室に入ってくるが、チラシを持っている。 いきなりSOS団で野球大会に出ると言い出した。なぜ、そんなことを言い出したのか。そう、単にハルヒは退屈であった。 だが、点数は見るからにSOS団の方は負けていた。休憩中、古泉はキョンに話しかける…… 「笹の葉ラプソディ」 +... 七夕の日、突如みくるにお願い事をされたキョン。聞けば一緒に行って欲しいところがあるという。 キョンは断ることなく承諾するが、行きたい場所を聞いた途端、驚愕する。みくるが行ってほしいと行ったところとは…… 「ミステリックサイン」 +... SOS団のHPを賑やかにしようと自作のエンブレムを書いたハルヒ。しかし後日HPがおかしなことになっていた。 そこへやってきた来訪者・喜緑江美里は、相談があってSOS団にやって来る。 「彼氏が行方不明なので探して欲しい」 その彼氏とは……お隣のコンピュータ研究部の部長であった。 ハルヒ達は部長の家を訪ねるが、誰も出てこない。そこでハルヒは勝手に乱入する。 だが、長門と古泉は、その場所から嫌な気配を感じ取る…… 「孤島症候群」 +... 古泉の手配で夏合宿に行くことになったSOS団。 行き先は古泉の遠い親戚、多丸裕氏が所有する無人島の別荘。 無人島、という言葉に興味津々のハルヒ、いっそ事件でも起きてくれたらミステリーみたいで面白いと考えているようだが、 そう簡単に事件が起きるわけもなく平和な合宿を過ごしていた。 しかし天気は突然嵐になり、船も出せず完全に孤立した孤島。さらに別荘にて事件が発生した。事件の真相とは…… 挿絵 口絵 涼宮ハルヒ、朝比奈みくる(涼宮ハルヒの退屈) 朝比奈みくる、朝比奈さん(大)(笹の葉ラプソディ) SOS団、新川、森園生、多丸圭一(孤島症候群) 朝比奈みくる 挿絵 「プロローグ」 挿絵なし 「涼宮ハルヒの退屈」 P.23…朝比奈みくる P.37…涼宮ハルヒ P.47…長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹 P.69…涼宮ハルヒ、キョン、相手チーム 「笹の葉ラプソディ」 P.89…涼宮ハルヒ P.104…涼宮ハルヒ(中学時代) P.121…キョン、長門有希、朝比奈みくる 「ミステリックサイン」 P.135…涼宮ハルヒ、キョン P.147…涼宮ハルヒ、喜緑江美里 P.165…キョン、長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹、カマドウマ P.181…長門有希 「孤島症候群」 P.249…涼宮ハルヒ、朝比奈みくる P.277…涼宮ハルヒ 登場人物 涼宮ハルヒ キョン 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん 朝比奈さん(大) 谷口 国木田 コンピュータ研究部部長 喜緑江美里 キョンの妹 新川 森園生 多丸圭一 多丸裕 刊行順 <第2巻『涼宮ハルヒの溜息』|第4巻『涼宮ハルヒの消失』>
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スプーキー・E「おや、いやがったか。今度、新しい指令が発せられたぜ」 長門「了解した」 みくる「キョンさん。私が未来から来たのは、涼宮さんを観察するためだけでは ありません」 なんだ? みくる、この間の事は一時の誤ち、もう俺は心を入れ替えた童貞ボーイだ。 いや、少なくても心は童貞に戻った。 みくる「未来は、更に色々な意味で進んじゃってて、少子化で大変なんです。 子供が必要なんです。未来の男性は弱くなって話にならなくて子供が残らないのですっ」 そう、だったのだな。 俺のお前に対する思いは、我欲とか性欲とかそんなちっぽけなものじゃなかった。 そういう事なのだな。 みくる「え、えとだからと言って、あのそのそういう風な事はよくないと思うのですっ」 そう、これはいわば、世界愛! 何も否定される事ではない。 みくる「あのやっぱり心の準備がまだ、やめてくださいなのですっ」 るせばろちくしょ! 俺の世界に対する愛は、もはやとめられねーぜ!! お前の世界の弱くなった男と、夏を恨め!! そうだ、これは完全に、未来と余りにも熱い夏、深夜が悪いんだぜ!! 火山が、爆発した。 俺のあれが暑い日を噴き出し、あたかも夏の虫のように炎上する。 女がいれば、美少女がいれば、男は火にも飛び込むっ。 圧倒的な愛が、俺を突き動かす!! 俺は今、世界を抱いているのだっ いや、未来を!! ドキシューーーーーーーー 「子供を授ける、神聖な儀式。俺は今、世界を愛した」 裸の俺が水を飲んで顎をぬぐう。 みくる「あうあう、未来に帰ってやる! もうこんな任務いやーーー!!」 ガチャ 扉が唐突に開いた。 「キョン、あなたまた!!」 「待ってくれ。違うんだ。ハルヒ!!」 「何が違うのよ!!」 「みくるちゃんは、やらないと死んじゃう特別な病気だったのさ」 「あんたそれ真面目に言い訳として通用すると思っているの?」 「彼が言っているのは、真実」 長門がそこにきていた。 「ここに書いてある」 長門が家庭の医学とかいう本をハルヒに見せる。 「本当だ。書いてあるわ。悪かったわキョン。まさか本当にそんな病気がある なんて」 ナイスだ。長門。 放課後、俺は長門と帰り、彼女のマンションに来ていた。 「私にもしてほしい」 「なんだって?」 「情報統合思念体が、自分が作った女の性能を確認したがっている」 仕方がない。宇宙を支配する存在に要請されれば断る事も出来まい。 俺は瞬間、脱衣能力で、一秒もかからず、裸となっていた。 そして、今、世界愛は、宇宙愛へと昇華された・・・…。 ハルヒ、みくる、長門 この夏、オレは三人の女の味を知った……。
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基本情報表紙 タイトル色 その他 目次 裏表紙のあらすじ 出版社からのあらすじ 内容 あらすじ「編集長★一直線!」 「ワンダリング・シャドウ」 挿絵口絵 挿絵 登場人物 後に繋がる伏線「編集長★一直線!」(伏線) 「ワンダリング・シャドウ」(伏線) 刊行順 その他 基本情報 涼宮ハルヒシリーズ第8巻。2006年5月1日初版発行。 表紙 通常カバー…長門有希 期間限定パノラマカバー…国木田、朝比奈さん(大) タイトル色 通常カバー…緑 期間限定パノラマカバー…紫 その他 本編…292ページ 形式…中編集 目次 編集長★一直線!…P.5 ワンダリング・シャドウ…P.163 あとがき…P.297 裏表紙のあらすじ 涼宮ハルヒが暇を持て余してたらそれこそ天地が逆になる騒ぎだろうが、むやみに目を輝かせてるのも困った状況ではある。 それというのも生徒会長となるお方が、生徒会はSOS団の存在自体を認めないなどと言い出しやがったからで、 意外な強敵の出現にやおら腕章を付替えたハルヒ“編集長”の号令一下、俺たち SOS団の面々はなぜか文集の原稿執筆などという公卿の真っ最中なわけだ。 天上天下唯我独占「涼宮ハルヒ」シリーズ第8弾! 出版社からのあらすじ 三学期も押し迫ったこの時期に、俺たちへ生徒会長からの呼び出しが。会長曰く、生徒会はSOS団の存在自体を認めない方針を決めたらしい。 ちょっと待て。そんな挑発にハルヒが黙っている理由はありゃしないぞ――。 内容 中編集。「ワンダリング・シャドウ」後の話が第9巻『分裂』である。 なお、本作のタイトルになっている『憤慨』というのは、「編集長★一直線!」にて、生徒会室に入室した際のハルヒを指す。 あらすじ ※ネタバレ記述があるので、原作未読の場合は注意。 「編集長★一直線!」 +... 年を越えて3学期を向かえたSOS団一同。SOS団は執筆活動をしていた。事の始まりは数日前にあった。 長門が生徒会から呼び出しを受け、生徒会長から告げられた驚くべき一言「文芸部は本年を持って廃止する」。 部員一人しかいないし活動の実態もほとんど無い。だが、文芸部が無くなればSOS団の部室も無くなってしまうことになる。 そこに、生徒会室に乱入して怒り狂うハルヒに生徒会長が突きつける条件があった。 「指定の期日までに文芸部らしく会誌を執筆しろ、そして指定の部数を全部配布すること」。 SOS団存続をかけての執筆活動が始まった…… 「ワンダリング・シャドウ」 +... この1年でハルヒも随分クラスに溶け込むようになってきていた。 3月、もうすぐ1年が終わろうとしている時、1年5組のクラスメイト、阪中がSOS団に相談を持ちかけてくる。 なんでも飼っている犬の様子がおかしいとの事。ハルヒはこれを霊の仕業だと思っているようだが…… 挿絵 口絵 涼宮ハルヒ、キョン、長門有希、生徒会長(編集長★一直線!) ⇒ SOS団(編集長★一直線!) ⇒ 涼宮ハルヒ、キョン、朝比奈みくる、長門有希(ワンダリング・シャドウ) ⇒ 長門有希、朝比奈みくる ⇒ 挿絵 「編集長★一直線!」 P.7…涼宮ハルヒ、朝比奈みくる ⇒ P.21…涼宮ハルヒ ⇒ P.39…長門有希、喜緑江美里 ⇒ P.51…涼宮ハルヒ、生徒会長 ⇒ P.59…生徒会長 ⇒ P.77…童話絵本イラスト(SOS団) ⇒ P.79…童話絵本イラスト(SOS団) ⇒ P.81…童話絵本イラスト(SOS団) ⇒ P.83…童話絵本イラスト(SOS団) ⇒ P.88…長門有希 ⇒ P.103…涼宮ハルヒ、谷口、国木田 ⇒ P.131…喜緑江美里、生徒会長 ⇒ P.155…涼宮ハルヒ、キョン、朝比奈みくる ⇒ 「ワンダリング・シャドウ」 P.167…涼宮ハルヒ、1年5組女子生徒 ⇒ P.179…涼宮ハルヒ、朝比奈みくる ⇒ P.217…涼宮ハルヒ、キョン、朝比奈みくる、長門有希、阪中 ⇒ P.231…朝比奈みくる ⇒ P.277…長門有希、シャミセン、ルソー、マイク ⇒ 登場人物 涼宮ハルヒ キョン 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん 谷口 国木田 キョンの妹 シャミセン 生徒会長 喜緑江美里 阪中 コンピュータ研究部部長 阪中の母 樋口さん 吉村美代子 スポーツマンぽい男性 後に繋がる伏線 「編集長★一直線!」(伏線) 古泉曰く「中学時代に仲良くしていた女子」⇒※第1巻『憂鬱』、第6巻『動揺』にて既に伏線を張られている(国木田曰く「変な女」、中河曰く「奇妙な女」)。第9巻『分裂』で回収 長門の小説の意味 ⇒ 未回収 「ワンダリング・シャドウ」(伏線) 古泉の「『機関』のライバル組織がそろそろ何かをしてくる予感がする」という推測⇒※第7巻『陰謀』にて既に伏線を張られている(対立組織の登場・目的)。第9巻『分裂』にて回収 刊行順 <第7巻『涼宮ハルヒの陰謀』|第9巻『涼宮ハルヒの分裂』> その他 この巻に収録されている「ワンダリング・シャドウ」のタイトルは、作者の谷川曰く「彷徨う影という仮題を英語に直訳しただけ」であるという。
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姉妹編『長門の湯』『鶴屋の湯』『一樹の湯』もあります。 ====== 『みくるの湯』 台風の季節が過ぎ、本格的な秋を迎えると、さすがに朝夕の寒さが身にしみるようになってきた。怒涛の文化祭やらコンピ研とのインチキ宇宙艦隊対戦でドタバタした去年に比べて、今年の秋は至って平和だ。 放課後の部室も、すっかりやわらかくなった秋の日差しが差し込んでいるが、あと一ヶ月もすると、ハルヒが大森電器店からせしめてきたストーブが活躍することになるだろう。 そんな部室にいるのは、朝比奈さんと長門、そして俺の三人、ハルヒは掃除当番であり、古泉はホームルームでも長引いているのかも知れない。また今日もまったりとした午後のひと時の始まりである。 「お茶です、どうぞ」 「ありがとうございます」 熱いお茶が美味しい季節を迎えたわけだが、朝比奈さんのお茶は季節に関わらず美味しいわけで、俺は、そんな至福の時を堪能することができる幸せをしみじみと感じている。 「すっかり秋になりましたね」 読書中の長門の前にも湯飲みを置いた後、俺の隣の席に腰を下ろした小柄なメイドさんは、俺の目を覗き込むように話しかけてくれる。いやぁ、いつも見ても愛らしい上級生です。 「ええ、今日のように昼間は暖かい日でも、夜は結構寒くなってきましたから」 両手で包み込んでいる湯のみの暖かさが手のひらいっぱいに感じられる。 「朝比奈さん、一人暮らしですよね。風邪とか、大丈夫ですか」 「ええ、大丈夫です。ありがとう、キョンくん」 にっこり笑って、小さく肯いてくれる朝比奈さん。やっぱりかわいい! もし本当に風邪でもお召しになったら、看病に馳せ参じますよ。 「そろそろ温泉とか恋しい季節ですよねー」 「朝比奈さん、温泉好きなんですか?」 「えぇ、あんまり行く機会はないのですけど。テレビとかで見ていると、すっごく気持ちよさそうなので、また一度、ゆっくりと行ってみたいなって」 「温泉ですか、いいですね」 朝比奈さんと一緒に湯船に入ることができたらどれほどいいだろうか。せめて足湯だけでも……。そうか、うん、そうだな……。 「行きましょうか、どこかの温泉……」 「えっ?」 「一緒に……」 足湯でも、と言おうとすると、朝比奈さんは急に真っ赤になって、 「い、いっしょはダメです、そ、そんな、男の人と一緒に温泉に入るなんて……」 「は?」 えっと、俺は別に、そんなつもりは……、確かに少しはありますが……。 朝比奈さん、そんなに真っ赤になって俯かれると、俺、なんかとてつもなく悪いことをしたみたいで……。 「別に混浴でなくていいですよ、朝比奈さん」 朝比奈さんは少し顔を上げた。 「普通に温泉へ、SOS団のみんなでね、行こうかって。で、足湯ぐらいなら一緒に入れますけど」 「あ、あたし……」 結局、早とちりに気づいた朝比奈さんは、また赤くなって俯いてしまった。 うーん、どんな表情でも絵になる人だ。 「ハルヒが来たら、話してみましょうか、今度、温泉イベントでもやろうぜ、って」 「はい」 「長門も行くか? 温泉」 窓辺の寡黙なアンドロイドは、いつものように小さくうなずいた。 「へぇー、温泉ね、いいんじゃない? キョン、あんたもたまにはいい提案するのね」 「いや、俺じゃない。朝比奈さんが行ってみたいそうだ」 「みくるちゃん? そうなの?」 団長席のハルヒが、急須のお茶っぱを入れ替えている朝比奈さんの後姿に話しかけると、 「はい、そうなんです。テレビで見て行ってみたいなぁって。足湯だけでもいいですし」 振り返った朝比奈さんは、俺のほうをチラッと見てから答えた。 「うん、面白そうね。じゃあ早速、今度の土曜日にでも行こうか。いいわね、キョン」 「ん、俺は別に構わないぜ」 俺と朝比奈さんはもちろんOKだし、長門と古泉が拒否するはずもない。 「ホントは一泊ぐらいしたいところだけど、足湯程度なら日帰りでも行けるしね」 カチューシャを揺らしたハルヒは、満足げにうなずいている。 「適当なところを探しておきましょうか?」 「そうね、古泉くん、お願いね」 そして週末になった。俺たちは電車を乗り継いで山の向こう側にある温泉街にやって来た。ここは大きな旅館やホテルなどが立ち並ぶ有名な温泉地だが、古泉のリサーチによると、最近の流行として足湯場なども整備されているらしい。 ありもしない不思議を求めて街中を彷徨っているより、目的を持ってこうしてお出かけするほうが何倍もマシだ。また今度も何かお出かけネタを用意しておくとするか。 「じゃ、入るわよー」 ハルヒの号令のもと、俺たちSOS団ご一行は足湯場に近づいていった。 温泉街の真ん中辺り、四本柱に支えられたちょっと古風な瓦屋根の下、十人ぐらいが腰をおろせそうな場所に、先客のおばちゃん達が三人ほど足を暖めていた。ヒノキで作られた足湯用の湯船からは湯気がふんわりと漂っている。 そのおばちゃん達の反対側には誰もいなかったので、俺たちが入るスペースは十分にあった。混んでなくてよかった。 早速、ショートブーツとニーハイソックスを脱ぎかけているハルヒは、朝比奈さんに向かって、 「みくるちゃん、あんたその格好でどうするつもりなの?」 「え、あ、あっ?」 あらためて朝比奈さんの姿を見てみると、暖かそうなニットのワンピに、これまた暖かそうな黒いタイツをはいている。どう見ても足湯に適した格好とは言え ない。ついでに言うと、長門はいつもの制服に紺のソックス姿なので、すでに素足になって足湯に入ろうとしているところだった。 「あたし、明日は足湯に行くからね、って言っといたわよね、みくるちゃん」 「は、はい。涼宮さん」 朝比奈さんは、胸の前に両手を合わせて、ハルヒの次の言葉を待っている。 「そもそも、みくるちゃんが行きたいって言ってたから来たのに、もう、仕方ないわねー」 そこでニヤッと笑みを浮かべたハルヒは、 「ほら脱がしてあげるから、こっち来なさい」 と、言うや否や朝比奈さんの膝元にまきつくと、スカートの中に手を突っ込み、タイツを脱がそうとしはじめた。 「い、いや、涼宮さん、ちょ、ちょっとここでは、やめてくださぁぃ」 「何いってんの、あたしが手伝ってあげるから、ほら、ほら、ほら!」 小悪魔ハルヒに取り付かれた朝比奈さんは必死でスカートのすそを押さえている。それでも黒いタイツの上のほうまでチラチラ見えてしまうのをついつい注視していたが、やっと我に返って、俺はハルヒと朝比奈さんの間に割り込んだ。 「こら、ハルヒ、もうやめとけって」 「なによ、キョン、足湯を楽しむならタイツ脱がないと……」 「ここで脱がなくても、ほら、あっちに脱衣場みたいなのがあるから、そこに行けばいいだろ」 やっとのことでハルヒを引き剥がした俺は、朝比奈さんに振り返って、 「朝比奈さん、ほら、今のうちにあっちへ行ってください」 「す、すみません、キョンくん、涼宮さん」 そう言って駆け出した朝比奈さんは、途中で一回振り返ると、小さくペコリとお辞儀をして脱衣所らしき建物に消えていった。 「ほんと、みくるちゃん、ドジっ娘なんだから」 俺と並んで朝比奈さんを見送ったハルヒは、そう言いながら、すでに足湯を堪能しながら文庫本を読んでいる長門の隣に座って、とぽんと両足をお湯につけた。 「うーん、気持ちいいわねー。あったまるわぁ」 やれやれ、と一つ溜息をついて、俺も靴と靴下を脱ぎ、ズボンをひざの上までたくし上げた。何かをする前には必ずひと騒動起こさないと気がすまないらしい、あの爆弾女は……。 「涼宮さんにとっては、朝比奈さんはまさに理想のドジっ娘さんなんですね」 同じように足湯準備を整えた古泉の言葉を聴きながら、俺はハルヒや長門と少し離れた場所に古泉と並んで腰を下ろした。朝比奈さんの持つさまざまな属性の ひとつに、ドジっ娘があることは、俺も認めざるを得ない。それは、ハルヒが望んだものであることも、おそらくは確かなんだろう。 「それはそうかも知れないが、さっきのはやりすぎだぜ」 「ええ、そうですね。でも、それも涼宮さんらしいじゃないですか」 「なんでもかんでも、『涼宮さんらしい』で片付けるんじゃない」 「あははは、すみません」 そうこうしているうちに素足になった朝比奈さんが脱衣所から戻って来た。さっきのタイツ姿と比べると白い生足が寒そうに見える。 「ほらほら、みくるちゃん、こっちこっち、早く来て温まりなさい。見ているだけで寒そうだわ、その足」 ハルヒも俺と同じ感想を持ったらしく、手招きして朝比奈さんを迎え入れた。 朝比奈さんは、「すみません」とひとこと言うと、ハルヒの隣にゆっくりを腰を下ろし、 「ふわぁー、やっぱり気持ちいいですぅ」 そろえた膝の上に両手を乗せて、少し遠くの空を見上げながら、朝比奈さんは、ふぅーっと大きく息を吐いた。 「でしょ? 足湯はね、冷え性にもいいのよ。みくるちゃんはどう?」 「えっ、ひえしょう!? 何ですかそれ?」 「ん?」 パタパタさせていた足をふと止めるハルヒ。 「冷え性。冷えやすい体質。血液の循環のよくない身体。特に足・腰などの冷える女性の体質」 突然長門の声が聞こえてきた。こいつは電子辞書か? いや、まぁ、確かにそうかもしれないが。 再び読書に戻った有機アンドロイドによる定義を聞いた朝比奈さんは少し慌てた様に二・三回うなずいて、 「あ、その冷え性ですか、そうですね、たぶんそうです」 「じゃあ、ゆっくりと温まりましょ」 「はい」 朝比奈さん、そんなに冷え性でお困りなら俺が温めてあげますよ。いや、それより、未来には冷え性って言葉はないんでしょうか、 なんてことを思い浮かべながら朝比奈さんたちの会話を聞いていたが、すぐにハルヒに突っ込まれてしまった。 「ちょっとキョン、また顔がエロくなってるわよ」 「くっ、ほっとけ」 しばらくの間足湯を堪能させてもらったが、ハルヒは、 「うーん、やっぱりここまできたら露天風呂にも入りたいわね」 といって、古泉を連れてロケハンに行ってしまった。 このロケハン、最初は俺が指名されたのだが、俺がごねていると古泉が、 「僕の知り合いが経営している旅館が少し向こうにありますので、そこをあたってみましょうか」 と申し出てくれたので、俺はハルヒのお供を免除された。それにしても、どこへ行っても機関の関係する施設があるんだな。おかげで俺は、朝比奈さんと長門とともに、今しばらくの間、足湯でほっこりさせてもらうことができたわけだ。ありがとう、機関よ。 「足だけなんですけど、全身がぽかぽかする感じがしますね」 ハルヒの抜けたあとに席を移して、俺は隣に座っている素足のマイエンジェルに話しかけた。 「え、ええ、そうですね」 にっこり微笑む朝比奈さんは相変わらず天使そのものだ。だが、その笑みに中にほんの少しの曇りがあるのがわかった。おや、どうしたのだろう。 ふぅ、と肩で大きく息をした朝比奈さんは、お湯の中の足先を見つめるようにゆっくりと話し出した。 「今日は、ちょっと息抜きができてよかったんですけど、明日からまた受験勉強を……」 そうだ、そうなんだ、朝比奈さんは三年生、受験生だったんだ。すっかり忘れていた、というか、毎日のように放課後の部室でメイド姿でいらっしゃるものだから、俺は朝比奈さんが受験生であることをまったく意識することもなかった。 「だ、大丈夫なんですか、あ、いや、すみません」 何か、少し失礼なことを言ってしまったような気がして、俺はすぐに取りつくろうとした。 「いいんです、本当にあんまり大丈夫じゃないから……」 ますます力なく微笑む朝比奈さん。 「上のほうからの指令で、受験する大学を二つ三つほど指定されているんですけど、どこも、あの、ちょっとレベルが、少し足りないようで……もっと勉強しないといけないんですけど」 「は、はぁ」 そんなことまで指定されているのか。朝比奈さんも大変だ。 たぶん、上のほう、というのは朝比奈さん(大)のことだろう。朝比奈さん(大)も自分自身のことなんだから、この先どうなるかはわかっているはず……、いや、ということは、指定された受験校のどこかに滑り込むことは既定事項なのかもしれない。 「でも、朝比奈さん、その指令に従うと、指定された大学に合格するってことではないんですか。大学合格は既定事項とか」 「それが、一概には言えないそうなんです。わたしの出来次第で合否はどうにでも変化するそうです。だから、未来の流れを守るためには、とにかく努力して合格しないといけないのです」 「そ、そんな……」 「時間の流れはさまざまな要素が絡み合って、決して一本道ではないんです。だからこそ、わたしがこの時間に派遣されているわけで……」 「そうなのか、長門?」 俺は不安で一杯の未来人さん越しに、万能宇宙人に尋ねてみた。 文庫本から顔を上げた長門は、背筋をピシッと延ばしまっすぐ前を見つめたまま、淡々と答えた。 「時間流の制御は非常に難しいもの。ある一時点でのわずかな揺らぎが後に大きな影響の遠因となることも考えられる」 バタフライ効果か。 確かにどこか地の果ての蝶の羽ばたきひとつと比べると、朝比奈さんの受験結果がハルヒを含む時間の流れに対して与える影響は大きくなりそうだ。そのためには、こんなところでぬくぬくしている暇はないのかも知れない。 それにしても未来人組織も酷な事をする。 その気になれば、問題と解答が印刷された冊子を、未来の朝比奈さん(大)が届けてくれることも可能だろうに、あえて試練を目の前にいるいたいけな一連絡員に与えるとは。 「でも、わたしがんばります。だからきっと、どこか合格できますよね」 「朝比奈さんなら大丈夫ですよ」 「ありがとう、キョンくん」 けなげに微笑む朝比奈さんに俺はそう言って励ますしかなかった。 「今日はこうやってリフレッシュもできましたから……」 朝比奈さんは少し後ろに手をついて体をそらすと、目を細めて遠くの空を見上げた。 そうですよ、努力家の朝比奈さんならきっと合格できます。ハルヒや俺達の未来を間違いのないように導いてくれるはずです。 「ちょっと、何をいつまでまったりしてるのよ、露天風呂、行くわよー」 その時、遠くからハルヒの声が響いてきた。どうやら機関直営高級旅館の露天風呂に案内してもらえることを確約してきたらしい。 ということで、朝比奈さんの息抜きは、少なくとも今日一日は続くことが確定した。 とにかくがんばってください、朝比奈さん。 Fin.