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アーマードコアの二次創作はに。 ブリキ兵のお話
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「もう、この村に生きている人はいないと思う」 デニスさんが静かに言った一言は、最初私には理解できませんでした。 「それは……どういう……」 「ここの村人は全員、私が昨日渡した薬で死んでいる、ということだ」 言葉の意味が理解できても、次はその行動の意味が理解できませんでした。 「予防薬では……治療薬では、なかったのですか」 「予防したよ。治療もした。私は彼らに、しかるべき薬をちゃんと処方した」 「そんな……!貴方はただ、彼らを毒殺しただけで――」 「死は」 私の言葉を遮るように、デニスさんが声を大きくして言いました。 「死は、不治の病を治す、唯一の治療法だ。そしてそれが、疫病の拡大を防ぐ最良の方法でもある。勿論、疫病の拡大を防ぐにはさらに村全体を焼き払う必要があるが……それは、これから行うつもりだ」 私の頭の中に、昨日の村の人たちの笑顔が思い出されます。私に群がる子供たちの無邪気な笑顔、薬を貰ったおじいさんの本当に嬉しそうな笑顔、そしていくつもの、ありがとうという言葉―― 「あなたは、あなたは彼らの笑顔を、奪ってしまったのですよ……!?」 私の言葉に、デニスさんは声を荒げて反論しました。 「だから何だ!彼らの笑顔を奪わなければ、私の、私の愛する妻と娘の笑顔が奪われていたかもしれないんだ!疫病を持つ村の存在を知りながらそれを無視して生きるなど……家族のことを考えれば、できるわけがない……!」 「それは……」 デニスさんの言う通りでした。事情を何も知らない私からすれば彼の行ったことはただの大量殺人ですが、彼や、他の街の人間からすれば、村ごと人が死んだとはいえ疫病にかかる危険が無くなるのは喜ぶべきことでしょう。 「確かに私は彼らを殺した。しかしそれが私の正義だ。自らの正義を信じなければ、人を殺すことなど、できるはずがない……」 「正義……」 「君も戦争に参加したなら、嫌というほど聞いただろう、この正義という言葉を」 ああ、確かに聞いたことがありました。よくは思い出せませんが、戦場で何度も何度も、その言葉が叫ばれるのを、聞いた覚えがありました。 「あなたも、その正義を信じているからこそ、彼らを殺せたのですか」 「……私が人々ごと“消毒”したのはこれで三度目だが……」 その言葉に、私はまず驚きました。つまりあと二つ、同じ理由で皆殺しにされた街や村があったということになります。 「最初からずっと自分の正義を信じてこれたわけじゃない。初めてのときは罪悪感で眠れない日が何日も続いた。それでも家族や、街の人間が幸せになってくれるなら、自分のやっていることは正しいと思うほかなかったんだ」 そう告白するデニスさんの表情は、悲痛に満ちていました。 「君は、私が間違っていると思うかい?」 「……分かりません」 デニスさんの行為に怒りを覚えたのは確かでした。しかし彼の気持ちや、行為の理由を考えると、私には否定することはできませんでした。しかし賛成する気にも、なれませんでした。 「いつか分かるようになる。君はまだ自我に目覚めたばかりなんだろう?もっと色んな人に出会えば、もっと色んなことを経験すれば」 デニスさんはそう言うと、ベッド脇に置かれた大きなリュックを背負いました。 「じゃあ、お別れだ。私はこれから最後の仕上げに取り掛かる。村に火が回らないうちに、君も出発した方がいい」 私の脇を抜けて、デニスさんは部屋を出ていきました。止めようかと思いましたが、体が動きませんでした。 私の目の前には、焼き尽くされた村が広がっていました。村の入り口から辺りを見渡すだけで全景が確認できるほど小さな村で、点在する木造の建物や木々は全て真っ黒に焼け焦げていました。 デニスさんが村に火をつけて去った後も、私は村の入り口でずっと村を眺めていました。真っ赤な炎が家を飲み込むのを、真っ黒になった家がガラガラと崩れ落ちるのを、そして自然に火が消えて、村が無くなる瞬間を、ずっと眺めていました。 村だった焼け野原は、まるで戦場のようでした。私がかつて駆けた……かつて…… 「……ああ、そうでしたね」 焼け野原の光景は戦場と重なり、私にかつての記憶を思い出させました。全てではありませんでしたが、私が作られた国、私が駆けた戦場、そして私たちが、戦争をしていた理由、それらはどうにか、思い出すことができました。 「あの国と、同じですね……」 デニスさんのしていることは、国の存続の為に多数のブリキ兵を作り、他国を殲滅していたあの国とやっていることは何も変わらない。そう、私は感じました。 攻め込まなくても自分の国に危害を加えることはしなかったかもしれない。毒殺しなくても疫病ではなかったかもしれない。 しかし人間は、少しでも可能性があればそれを信じてしまうのでしょう。それが彼らの、防衛本能なのかもしれません。 私はその気持ちが、少なからず理解できました。私もデニスさんが、他の街で毒殺を行っていると知っていれば、目的の村の人たちが殺されないために、彼を殺していたかもしれないのですから。 私は村を後にしました。再び西に向かって、歩き続けます。 前へ ブリキ兵のお話目次 長編目次
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城の最も中心に位置し最も高くそびえる塔。その塔の最上階に、リェードはいた。最上階の、部屋の外。ここまでリェードは、誰にも見つかることなく、跳躍だけでたどり着いた。 目の前には大きな窓があった。床から天井まで伸びる、窓というには大きすぎるガラスの扉だった。部屋の中からの明かりは見えないが、かなり広い部屋だということはわかる。 静かに手で押すと、窓は静かに開き、夜風が窓に備え付けられたカーテンを揺らした。 「誰だ」 リェードが部屋に入ると、男の声がした。低い、老人の声で、部屋の大きなベッドから聞こえる。 むくりと、ベッドから起き上がる影が見えた。窓辺で月光を浴びるリェードを見る。 「獣か」 「…………」 「デクストロ、マルデクス、仕事だ」 老人が静かにそう言うと、部屋の暗がりの中から甲冑姿の兵士が二人現れた。長い両刃剣と巨大な盾を持ち、重厚な造りの兜から素顔は見えない。 左にいた兵士が、リェードに向かって高速で剣を薙ぎ払った。並みの兵士ならば反応する前に首を刎ねられるであろう速度だったが、剣を振り切った兵士が見たものは、太刀筋を飛び越えるように跳躍したリェードの姿だった。右手一本でハルバードを真横に構え、鋭い獣の眼が、兵士を睨みつけている。 そして、兵士の首が宙に舞った。 リェードが着地するよりも速く放たれたハルバードの一振りは、兵士の首を強固な鎧ごと簡単に切り取ってしまった。 リェードの着地と同時に、目の前の首なし兵士が盛大に血を噴き上げながら倒れる。リェードは首なし兵士に既に興味はなく、横目でもう一人の兵士を見ていた。 数秒と持たずに相方が殺されたことに同様したのか、兵士は自らの剣を構えなおす。そのとき既にリェードは、攻撃に移っていたのだが。 次の瞬間には、兵士の前にハルバードを振り切ったリェードがいた。そして目の前の兵士の動きが止まったかと思うと、右肩から袈裟に斬られた半身がずるりと落ちた。 「…………」 二人の兵士を文字通り瞬く間に斬ったリェードは、静かに三人目へと向き直った。 ある若い兵士は恐怖していた。 噂には聞いていた、牙の者達と呼ばれる“半獣人”の武装集団。少数で教会に乗り込み、一平卒に至るまで全てを駆逐するという狂人。 それがまさか、こんな辺境の街にやってくるとは。 それがまさか、これほどの強さだとは。 城の中庭で暴れている者がいると聞いて駆けつけてみると、そこで行われていたのは“暴れる”などという生易しいものではなかった。ただただ一方的な、虐殺。 兵士の目には、赤いドレスを着た栗毛の女が映っていた。女は防具も着けず、カタナ一本で教会の兵士たちを雑草のように切り捨てていく。 「さあ、来い来い。まだ足りないぞ。まだ五十も斬っちゃいない。私のカタナはまだ腹ペコだ」 女は笑いながら、向かってくる兵士を鋼鉄の鎧ごと一刀のもとに殺していく。首を飛ばし、頭を割り、半身を斬り飛ばした。女に斬られて動いている者は、一人としていなかった。 兵士は剣を構えてはいたが、最早戦う気などとうの昔に削がれていた。今は一刻も早くここから逃げ出したかった。 「ひ、ひいいいっ!」 彼ではない別の若い兵士が、背を向けて逃げようとした。すると今そこにいたはずの女はいつの間にかいなくなり、逃げる兵士の目の前に立っていた。 「客を持て成さずに帰るなよ」 女がカタナを斬り上げると、逃げようとした兵士の体は左右にぱっくりと割れた。吹き出る鮮血を浴びる女の顔は笑っていた。 「さあ、次はどいつだ。誰が私の相手をしてくれる」 そして、若い兵士は女と目が合った。目が合い、兵士は自らの最後を悟った。 ふと女が何かに気付いたように、上を見上げた。 「…………」 見上げたまま動かない女に、周囲も気になって上を見上げる。若い兵士もまた、上を見上げた。 落ちてくる巨大な塔の先端が、目の前にあった。 「終わったのか」 「終わった」 城の中庭に、瓦礫と化した塔が横たわっていた。瓦礫の下には多数の兵が潰れて血を流し、瓦礫の上には、赤いハルバードを持った少女、リェードが独り立っていた。 女が再び上を見上げる。先ほどまでリェードのいた塔の上部数メートルが、綺麗な断面を残して斜めに切り取られていた。月明かりを反射しそうなまでに滑らかに斬られたその断面は、およそ石材の断面だとは思えなかった。 リェードの体躯も、手に持ったハルバードも、塔を一刀両断するなどという神業を成すには全く不十分なものだったが、それでも彼女とその獲物が、塔を斬ったということは紛れもない事実だった。 「あとは雑魚を掃除するだけだ。行くぞ」 「うん」 そして再び殺戮と破壊が始まり、夜明けには終わった。 日が昇るころ、城があった場所には何もなかった。大勢いた兵士も、天に向かって伸びる塔も、そして赤を全身に纏った妙齢の女性と少女も、どこにも見当たらなかった。 あるのはただ積み重なる瓦礫の山と、赤黒い血だまりに沈んだ死体ばかりだった。 そうしてこの街の教会は、一夜にして完全に崩壊した。 前へ 次へ 短編目次
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少女が座っていた。 木造の小さな家の中で、赤い服を着た少女が椅子に座っていた。背中まで伸びた綺麗な金髪が目を引く少女で、無垢な瞳はキョロキョロと部屋の中を忙しなく見回していた。 家の中には一人用のベッドや食器棚、今は火の消えているかまどなどがあったが、それらは年季の入ったものばかりだった。長い間丁寧に扱われてきたらしく、どれもまだしっかりと自分の役目を果たしていた。 少女の座っている木の椅子もまた、古いものだったが少しもきしみはしなかった。 少女の前にはお茶の置かれたテーブルがあり、その向かいにはオオカミが座っていた。年老いた老婆のオオカミで、すっかり艶のなくなってしまった体毛の奥から大きな、しかしとても優しげな眼が少女を見ていた。 「おばあさんの耳は、どうしてそんなに大きいの?」 獣人を見るのが初めてなのか、少女はとても興味深そうに老婆に尋ねた。 「ああ、これかい?」 老婆は自分の垂れた長い耳を一撫ですると、 「お前の声が、よく聞こえるようにだよ」 「すごい!」 老婆の答えに、少女は爛々と目を輝かせた。 「じゃあ、何でおばあさんの目はそんなに大きいの?」 「お前の顔をよく見るためだよ。最近じゃ、すっかり目が悪くなってしまったけどね」 それを聞いた少女は、椅子から立ち上がると、老婆の傍まで歩み寄った。 「これでよく見える?」 少女の問いに、老婆は満面の笑みで答えた。 「ああ、とてもよく見えるよ。ありがとうね」 少女はふと、目の前にある老婆の口に目をやった。 「おばあさんのお口は、どうしてそんなに大きいの?」 三度質問した少女に、老婆が答えようとしたとき、家の戸が乱暴な音を立てて開いた。 「おう、やっぱりいたか」 戸口に男が立っていた。 獣の皮で作ったチョッキを着て、手にナタを持ったひげ面の男だった。 「教会の……!」 男を見て、老婆の目つきが一気に険しくなった。 「おう、教会の狩人《かりうど》様だ。獣人狩りに来たぜ」 「こんな老婆まで狙うとは、教会はどうあってもあたしたちを根絶やしにしたいようだね」 「俺もババアを殺したところで一つも面白味はないんだがな――」 男が、老婆の後ろにいる少女に目を向けた。目が合って、少女は慌てて老婆の陰に隠れた。 「――ガキを狩るのは、初めてだ」 「この子に手は出させないよ!」 老婆が牙を剥き出しに、ぐるると唸った。 「この子はヒトの子だ。獣人じゃない。手は出さないでもらおうか」 「ふうん?」 男は少し首を傾げたかと思うと、ナタを老婆に向かって真っ直ぐに切り上げた。 「――――」 老婆が目を見開いて男を見ていた。男がにやりと笑い、老婆の体を軽く蹴ると、ずるりと音を立てて老婆の上半身はうつ伏せに床に落ちた。切り離された下半身も、大量の血を吹き出しながらすぐに倒れた。 老婆の後ろにいた少女にナタは届かなかったが、倒れてきた老婆の血飛沫が、赤い服を更に赤く染め、少女の顔や金髪までも赤く染め上げた。 「ふむ……まあ、獣人のガキには見えねえなあ。しかしこりゃあ……」 少女は目を見開いて呆然としていた。足元に倒れている老婆からは真っ赤な血だまりが広がって少女の靴を濡らした。 「おばあさん……ああ……おばあさん……」 跪いて体を揺すってみた。老婆の体はまだ温かかったが、ビクビクと痙攣するばかりで少女の呼び掛けに応える様子はなかった。。 「磨けば光るな……このまま逃がすのももったいねえか……」 少女の頭上では男が彼女を攫う算段をしていたが、耳には届かなかった。 「うわああああああああっ!!」 堰を切ったように、少女が泣き叫んだ。目から涙をぼろぼろとこぼし、一心不乱に老婆の体をゆすりながら、半狂乱で少女は叫んでいた。 「うるせえなあ……ケモノが一匹死んだぐらいで泣くんじゃねえよ」 鬱陶しそうに男の右足が少女の腹を蹴り上げた。少女は小さく呻くと老婆から引きはがされ、床に投げ出された。 「……っ!てめえ、その眼……!」 少女が床に這いつくばりながら男を睨みつけていた。涙でいっぱいになりながらも憎悪を剥き出しにするその眼は、獣のそれだった。ヒトの眼とは明らかに違う、闘争本能に駆られたオオカミの眼だった。 「ぐるるるる……!」 幼いながらも、オオカミのように低く唸る少女を見て、男は嫌悪感を露わにする。 「やはりてめえも獣人か……!」 老婆を切り裂いたナタを握りしめ、少女に歩み寄ろうとしたそのとき、男の足元に倒れていた老婆が男の足を掴んだ。 「な――」 老婆に足を掬われた男はそのまま床に倒れ込んだ。上半身だけとなった老婆はすかさず男の脇腹に食らいつき、老いたとはいえヒトのそれより遥かに強靭な顎に力を籠め、牙を男の肉に食い込ませていく。 「ぐああああっ!きさ、貴様……!」 そして、老婆は男の脇腹を噛みちぎった。 「ギャアアアアアアアア!!」 男はナタも放り投げて老婆を引き離そうとするが、到底適う力ではなかった。 老婆は血がぼたぼたと滴る肉塊をぺっと吐き出すと、男の体を這い上がり今度は喉元に食らいついた。そして迅速に、男の喉笛を噛みちぎった。 老婆の眼下では血まみれの男が悲鳴さえ上げられずに痙攣して事切れる寸前だった。 「この口はね、お前を守るためにあるんだよ……」 老婆は先程までと同じ優しい口調でそう言うと、男に重なるようにして倒れこんだ。 「おばあさん!」 少女が急いで駆け寄ると、老婆は薄目を開けて笑った。 「お逃げリェード……どこか遠くへ、教会の手の届かない場所へ……」 目を閉じた老婆が息を引き取ったことを悟ると、少女は再び大声で泣き出した。ヒトのように、オオカミのように、大声で泣き続けた。 度重なる戦争によって世界を統一した「教会」は、今までヒトと共になんら変わら ぬ生活を送っていた獣人たちを「異端者」と定め迫害を始めた。 教会は狩人《かりうど》と呼ばれる者たちを雇い、獣人たちを片端から殺戮し、街の人間にもそれを奨励した。 街に住む者は勿論、森や山に隠れるように住む獣人たちをも狩人たちは暴き、次々と殺していった。 教会のやり方に反発する者は全て殺された。獣人を庇う者、隠匿する者も全て殺された。 そして、教会に異を唱える者はいなくなった。 牙の者達と呼ばれる、反教会組織以外は。 次へ 短編目次
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Log.160 3230313130393233 31323336 私たちは埋土前期針を破戒した後、階段を更に深く降りて行った。しかしそこまでだった。 下層にはさらに多くの埋土前期針が徘徊しており、現状の装備では打破不可能と判断したためだ。 クロフテイフは後日改めて万全の態勢で調査を行うらしいが、その際に私が同行することは 決 し て な い と念を押して帰ってきた。素晴らしき日常が戻ってきた。 あの階段の下に何があるのか、気にならないと言えば嘘になるが、それを知るには今の日常を再び破棄しなければならない。それに見合うことかと訊かれれば、即答でNOだ。もう針とか層とかどうでもいい。 まあ、一つだけ今回の件でクロフテイフに感謝することがあるとすれば。 私が今、ニグラガヌツと一緒にポタージュを食べているということぐらいか。 二人で食べるポタージュは、おいしい。 前へ 短編目次
https://w.atwiki.jp/fugudoku/pages/26.html
「ひどいな、この街は」 「うん」 宿屋の一室で、二人の女が話をしていた。一人は栗毛を長く伸ばした妙齢の女性で、紫煙をくゆらせながら酷く不快な表情をしていた。 もう一人はまだ十代に達したばかりであろう少女で、数年前に祖母を殺された少女、リェードの成長した姿だった。髪は相変わらず綺麗な金色を保っていたが、肩の辺りで短く切り揃えられ、来ている服も地味な寒色のものだった。服については、栗毛の女も似たようなものだった。 二人は別々のベッドに向かい合って腰を下ろし、ベッドの上には旅荷物の入った大きなリュックが置かれていた。 「教会が獣人狩りをしているのは当然としてだ。気に入らない人間を罪をでっち上げて即座に殺すとは、教会もいよいよ堕ちてるな」 「かわいそうだったね、あの人」 「ああ」 会話中、栗毛の女は終始苦々しげに顔を歪めていたが、一方のリェードは終始無表情だった。かわいそう、と言いはしたが、その声にも感情が感じられない。 「いつやるの?」 リェードの問いに、女はちらと旅荷物を一瞥した。 「今夜だ」 街に夜が訪れ、民家に明かりが灯るが、どの民家からも談笑する家族の声は聞こえてこなかった。街中に明かりが灯っているというのに、街中から声が聞こえない。ひどく不気味だった。 「いつも通りにやる。お前は最上階を目指せ」 「うん」 人通りの全くない街路を、月明かりに照らされて女とリェードは歩いていた。 女は相変わらず煙草をくわえ、リェードは相変わらず無表情だったが、二人とも宿屋にいた時とは服装が大きく違っていた。 女は娼婦が着るような露出の高いドレス一枚を纏い、リェードはかつて祖母が殺されたときに着ていたものと酷似したワンピースを着用し、頭には肩まで覆うスカーフをフードとして被っていた。 彼女たちの身に着ける全てが血のように、穢れなく鮮明に赤かった。服だけでなく、女の履くミュールやリェードが履くブーツ、そして各々が手にする、武器までも。 「見えた。城門だ」 女は左手に刀身が収まった鞘をぶら下げていた。艶やかな赤一色に染め上げられた鞘は軽く弧を描く形をしており、それがカタナと呼ばれる類の刀剣だとは誰が見ても分かった。 「人いるね」 リェードが肩に担ぎ気味に右手に持つのは、自分の身の丈以上もあるハルバードだった。長い柄だけでなく、刃の部分も全て赤く塗られていた。しかし女の鞘とは対照的に、リェードの武器は月の光を受けても鈍く光るばかりだった。 「ん、気づいたかな」 二人の行く先には、この街の中心、何本もの塔が寄り添うようにしてできた教会の巨大な城と城壁があった。強固な石造りの城壁の高さは十メートルほどだったが、城の高さは計り知れないほどに高かった。 その城壁の前には、見張りであろう兵士が二人立っている。腰に剣を挿し左手に盾を装備した一般的な教会の兵士で、今まで何か雑談していたらしいが、通りを歩いてくる二人に気付いたのか話すのをやめて警戒しているようだった。 「じゃあ、先に行くね」 「おう、後でな」 「うん」 リェードは小さくうなずくと、ハルバードを握りしめたまま駆け出した。 「なっ!?おい、止まれ!」 「“牙”だ!構うな斬れ!」 兵士が剣を抜くと同時に、リェードは更に加速する。重量のあるハルバードを持った少女の速さとは思えぬ速度で彼我の距離を詰めると、兵士たちの眼前で高く跳躍した。 「な……!」 「高……」 兵士たちの頭上を軽々と飛び越し、その後ろにそびえる城壁の中程に“着地”した。 そのまま城壁を地面と垂直に蹴りあがると、更に五メートル程上昇し、リェードは城壁の上に軽々と着地した。 「なんて奴だ……!」 兵士たちが呆気にとられて城壁を見上げていると、背後から女の声がした。 「ようお兄さん方。あんなチビより、私の相手をしてくれないか?」 兵士たちが振り向くと、赤い女が左手に持った鞘から刀身を抜くところだった。ゆっくりと引き抜かれたカタナは、鏡のような刀身に頭上の月を妖しく映し出す。リェードのハルバードのように、刃までは赤くはなかった。 「私の方が、何倍もお前たちを楽しませてやれると思うがな」 女の眼は、獣の眼をしていた。
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少女が座っていた。 木造の小さな家の中で、赤い服を着た少女が椅子に座っていた。背中まで伸びた綺麗な金髪が目を引く少女で、無垢な瞳はキョロキョロと部屋の中を忙しなく見回していた。 家の中には一人用のベッドや食器棚、今は火の消えているかまどなどがあったが、それらは年季の入ったものばかりだった。長い間丁寧に扱われてきたらしく、どれもまだしっかりと自分の役目を果たしていた。 少女の座っている木の椅子もまた、古いものだったが少しもきしみはしなかった。 少女の前にはお茶の置かれたテーブルがあり、その向かいにはオオカミが座っていた。年老いた老婆のオオカミで、すっかり艶のなくなってしまった体毛の奥から大きな、しかしとても優しげな眼が少女を見ていた。 「おばあさんの耳は、どうしてそんなに大きいの?」 獣人を見るのが初めてなのか、少女はとても興味深そうに老婆に尋ねた。 「ああ、これかい?」 老婆は自分の垂れた長い耳を一撫ですると、 「お前の声が、よく聞こえるようにだよ」 「すごい!」 老婆の答えに、少女は爛々と目を輝かせた。 「じゃあ、何でおばあさんの目はそんなに大きいの?」 「お前の顔をよく見るためだよ。最近じゃ、すっかり目が悪くなってしまったけどね」 それを聞いた少女は、椅子から立ち上がると、老婆の傍まで歩み寄った。 「これでよく見える?」 少女の問いに、老婆は満面の笑みで答えた。 「ああ、とてもよく見えるよ。ありがとうね」 少女はふと、目の前にある老婆の口に目をやった。 「おばあさんのお口は、どうしてそんなに大きいの?」 三度質問した少女に、老婆が答えようとしたとき、家の戸が乱暴な音を立てて開いた。 「おう、やっぱりいたか」 戸口に男が立っていた。獣の皮で作ったチョッキを着て、手にナタを持ったひげ面の男だった。 「教会の……!」 男を見て、老婆の目つきが一気に険しくなった。 「おう、教会の狩人《かりうど》様だ。獣人狩りに来たぜ」 「こんな老婆まで狙うとは、教会はどうあってもあたしたちを根絶やしにしたいようだね」 「俺もババアを殺したところで一つも面白味はないんだがな――」 男が、老婆の後ろにいる少女に目を向けた。目が合って、少女は慌てて老婆の陰に隠れた。 「――ガキを狩るのは、初めてだ」 「この子に手は出させないよ!」 老婆が牙を剥き出しに、ぐるると唸った。 「この子はヒトの子だ。獣人じゃない。手は出さないでもらおうか」 「ふうん?」 男は少し首を傾げたかと思うと、ナタを老婆に向かって真っ直ぐに切り上げた。 「――――」 老婆が目を見開いて男を見ていた。男がにやりと笑い、老婆の体を軽く蹴ると、ずるりと音を立てて老婆の上半身はうつ伏せに床に落ちた。切り離された下半身も、大量の血を吹き出しながらすぐに倒れた。 老婆の後ろにいた少女にナタは届かなかったが、倒れてきた老婆の血飛沫が、赤い服を更に赤く染め、少女の顔や金髪までも赤く染め上げた。 「ふむ……まあ、獣人のガキには見えねえなあ。しかしこりゃあ……」 少女は目を見開いて呆然としていた。足元に倒れている老婆からは真っ赤な血だまりが広がって少女の靴を濡らした。 「おばあさん……ああ……おばあさん……」 跪いて体を揺すってみた。老婆の体はまだ温かかったが、ビクビクと痙攣するばかりで少女の呼び掛けに応える様子はなかった。。 「磨けば光るな……このまま逃がすのももったいねえか……」 少女の頭上では男が彼女を攫う算段をしていたが、耳には届かなかった。 「うわああああああああっ!!」 堰を切ったように、少女が泣き叫んだ。目から涙をぼろぼろとこぼし、一心不乱に老婆の体をゆすりながら、半狂乱で少女は叫んでいた。 「うるせえなあ……ケモノが一匹死んだぐらいで泣くんじゃねえよ」 鬱陶しそうに男の右足が少女の腹を蹴り上げた。少女は小さく呻くと老婆から引きはがされ、床に投げ出された。 「……っ!てめえ、その眼……!」 少女が床に這いつくばりながら男を睨みつけていた。涙でいっぱいになりながらも憎悪を剥き出しにするその眼は、獣のそれだった。ヒトの眼とは明らかに違う、闘争本能に駆られたオオカミの眼だった。 「ぐるるるる……!」 幼いながらも、オオカミのように低く唸る少女を見て、男は嫌悪感を露わにする。 「やはりてめえも獣人か……!」 老婆を切り裂いたナタを握りしめ、少女に歩み寄ろうとしたそのとき、男の足元に倒れていた老婆が男の足を掴んだ。 「な――」 老婆に足を掬われた男はそのまま床に倒れ込んだ。上半身だけとなった老婆はすかさず男の脇腹に食らいつき、老いたとはいえヒトのそれより遥かに強靭な顎に力を籠め、牙を男の肉に食い込ませていく。 「ぐああああっ!きさ、貴様……!」 そして、老婆は男の脇腹を噛みちぎった。 「ギャアアアアアアアア!!」 男はナタも放り投げて老婆を引き離そうとするが、到底適う力ではなかった。 老婆は血がぼたぼたと滴る肉塊をぺっと吐き出すと、男の体を這い上がり今度は喉元に食らいついた。そして迅速に、男の喉笛を噛みちぎった。 老婆の眼下では血まみれの男が悲鳴さえ上げられずに痙攣して事切れる寸前だった。 「この口はね、お前を守るためにあるんだよ……」 老婆は先程までと同じ優しい口調でそう言うと、男に重なるようにして倒れこんだ。 「おばあさん!」 少女が急いで駆け寄ると、老婆は薄目を開けて笑った。 「お逃げリェード……どこか遠くへ、教会の手の届かない場所へ……」 目を閉じた老婆が息を引き取ったことを悟ると、少女は再び大声で泣き出した。 ヒトのように、オオカミのように、大声で泣き続けた。 度重なる戦争によって世界を統一した「教会」は、今までヒトと共になんら変わらぬ生活を送っていた獣人たちを「異端者」と定め迫害を始めた。 教会は狩人《かりうど》と呼ばれる者たちを雇い、獣人たちを片端から殺戮し、街の人間にもそれを奨励した。 街に住む者は勿論、森や山に隠れるように住む獣人たちをも狩人たちは暴き、次々と殺していった。 教会のやり方に反発する者は全て殺された。獣人を庇う者、隠匿する者も全て殺された。 そして、教会に異を唱える者はいなくなった。 牙の者達と呼ばれる、反教会組織以外は。
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Log.159 3230313130393232 31363231 今私たちは第三機層の出口で休憩を取っている。 針工員が言った通り、ゴゴウサントの地下にあったのは第三機層の特徴と一致する洞穴だった。 内部には単早化した顕像や針、まだ生きている顕像も多く見られた。 久々のヒ頭駆人殻、最初こそブランクのせいであまり動けなかったが、やはり長年使用していたものだけに、すぐに体に馴染んだ。 ヒ頭駆人殻――確かに、数ある駆人殻の中で最もピーキーに造られた代物。じゃじゃ馬どころではないその特性に幾人もの駆人が扱いを投げ出したが……慣れればこれ程素晴らしい駆人殻もない。針工員が貸与してくれた六伸包丁との相性も良い。 今私の隣では、ニクラガヌツがメ頭駆人殻の損傷個所を補修している。対顕像用として造られた駆人といえど、無傷で撃破することは非常に難しい。今のところこちらに損害はないが、駆人も針も、多かれ少なかれ損傷していた。 針工員曰く、この先に埋土前期層が広がっているという。今私たちが見てきた顕像とは比べ物にならない強さの針がいるらしく、私はそれを破戒するために呼ばれたらしい。 やっぱり来なければよかった。 針工員が出発すると言っている。きのりしない。 ヒ頭駆人殻 音声記録03 15 43 10 56 – 03 15 43 21 33 (複数の足音) 「広いな」 「しかし、何もない」 「早化した柱は確認できますが、それ以外に確認できるものはありません。問題は、私たちが今いるこの階段からは、この柱の根元となる床も、この空間の端部となる壁も、遠すぎて確認できないということです」 「どれだけ広いんだ……」 「針が出たという場所は、まだ先なの?」 「いえ、もうすぐです」 「どんな針なんだ?」 「とても巨大な針です。クロフテイフでもあれほど巨大な針は所有していません。攻撃も――」 「見えたぞ!」 (低い針の駆動音。だんだん大きくなる) 「これが……」 「でかっ!」 「では、後はお任せします」 「おい、逃げるのかよ!」 「やるしかないか。しかし飛ぶとは……」 (くぐもった発砲音。直後、爆発音) 「うわっ!?」 「気をつけろ!階段から落ちるなよ!」 (羽音のような折り重なった発砲音) 「ぐあっ!」 「エキロデ!」 「針だ!針を突っ込ませろ!その隙に回り込め!」 (数体の針の駆動音。直後、金属同士が衝突する音) 「私が飛びつく!援護してくれ!」 「そんな、無茶です!」 「そのために無理やり連れてこられたんだ!」 (様々な音が重なり、詳細不明) 「よし、どうにか……あとは……」 「針、全基破戒されました!」 「早いよ!役立たず!」 (針の装甲を斬りつける音。装甲をはがす音が続く) 「核臓はどこだ!?」 (ガチャガチャと針を切り裂く音) 「クソッ、どこだ!」 (針の駆動音が一際大きくなる) 「うわっ!?」 「きゃあ!?」 「落ちてたまるか……!」 (一際深く突き刺す音) 「こっちはどうだ……!」 (装甲をはがす音) 「あった、ここだ!」 (針を何度も殴る音、直後蒸気音) 「とまれええ!」 (核臓の潰れる音。針の駆動音がなくなる) 「止まった!」 「よし、やった!」 (金属が地に落ちる音) 「なんとかなったか……」 「いやはや、見事です。流石ですね」 (沈黙) 「ふんっ!」 (殴ったような音) 「おぶっ!?」 「おみごと」 「私もクロフテイフ辞めます」
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戦場で目覚めた、ブリキ兵のお話。 序 第一話 1 2 2
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秋月春日がたまに小説を書いて流出させていくところ。 ここに来てくれた稀有な人はこちらに何か残していってもらえると秋月が狂喜乱舞します。 できたばかりなのでまだ何もなくてすいませんね。 とりあえずお湯でも飲みますか? 絵も文も無断転載禁止ですー 111016 ブリキ兵のお話、第一話更新 111005 ブリキ兵のお話、ちょっと更新 110929 ちょこちょこ改良。副作用で字が小さく 長編:ブリキ兵のお話、序だけ追加 110928 赤ずきん、元ヒ頭駆人の日記 ポタージュ様と相互リンク!キャー! 110921 できた。