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帳に書かれた捜査メモを読み耽り、パズルを組み立てるように思考のピースを当て嵌めていく。 まだまだ足りないピースだけど、こうしていれば捜査すべき場所も見えてくる。 備え付けられたベッドに腰を掛けながら、時間を忘れて白いメモに書かれた黒い文字を指でなぞり ―――ぴたりと、その指が止まる。 忘れたはずの感覚が蘇ってくるような、とある人物の名前。 “苗木 誠” 今日は避けるように顔を合わせなかった。 そのせいで食事もとってないけれど、それは些細な問題だ。 問題は、私がこんなことで動揺してしまったという事実。 理路整然と整えられた思考のピースは、一瞬の内に散らばって砕けた。 「忘れなさい」と言ったのは私なのに、これでは彼に示しがつかないではないか。 思考が乱れる――多分今日は、調子が悪い。 決して彼のせいで乱れたわけではないと、誤魔化すように言い訳を考えながらそのままベッドへと横たわるとスプリングがギシッと音を立てる。 捜査記録を記した手帳は閉じられ、シーツの上に無造作に置かれたそれを一瞥すると柔らかい枕に顔を埋めた。 「はぁ……」 無意識に溜息が漏れる、きっと疲れているんだ。 でなければこんなことで思考を乱すわけがない、この私が――。 あの時確かに触れてしまった唇。一瞬の出来事だったのに、やけに鮮明に思い出せる。 柔らかくて、初めて感じるような胸の高鳴り、これは一体―――。 ――いや、考えるのはよそう、私らしくもないことを考えてしまう。 そんな思いとは裏腹に、頬は自分でも熱を持っていると感じるほどに熱くなっていく。 顔を埋めた枕を腕で抱きかかえるように掴み、雑念を振り払おうにも、無駄によく回ってしまう頭はあらゆる可能性ばかりを考えてしまう。 今ここが自室でよかった、そう思える程に、今の私の姿は誰にも見せられない。 もっとも――天井に備え付けられたカメラには撮られているのだろうけど。 と―――部屋に響くノック音。 無機質にさえ思える音に、茹で上がるような考えを巡らせていた頭はハッと我に返った。 深呼吸をして、冷静さを欠いた頭に酸素を送って、いつも通りの私を作りベッドから飛び起る。 「…誰?」 ――声はいつも通り、顔の熱も引いた。 切り替えの早さに、内心胸を撫で下ろして相手の答えを待ち。 「あ……な、苗木です…っ」 その瞬間、私は再び思考が停止した。
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新年を迎えたということで、石丸の提案で書初めをすることになった。 筆や墨汁、硯に半紙といった書道の道具一式を倉庫から引っ張り出し、体育館で行うことになった。 「服や手が汚れるから」とセレスは参加を拒んだが、石丸の強引な誘いで渋々参加した。 書初めのテーマは『新年の抱負』だ。 苗木「う~ん。一体何を書こうかな?」 真っ白な半紙と睨めっこしながら、苗木は何を書こうか思いあぐねる。 苗木は一端筆を硯に置き、周りを見渡す。 苗木「皆どんなの書いてるのかな?」 苗木はすっくと立ち上がり、他の皆がどんな抱負を書いているのか見て回ることにした。 まずはすぐ近くにいた石丸だ。 苗木「石丸君。石丸君はどんな抱負を書いたの?」 石丸「やあ苗木君。今納得のいくものが書き上がったところだ。見てくれたまえ!」 石丸の半紙には、半紙からはみ出しそうな大きな字で『質実剛健』と書かれていた。 苗木「とても石丸君らしいね。字も言葉も。」 石丸「お褒めに預かり光栄だな。今年も僕は努力に努力を重ね、邁進していく所存だ!凡人同士、苗木君も共に頑張ろうではないか!はっはっは!」 苗木「う、うん。そうだね…。」 ちょっと空気が読めないというか、相手への配慮が欠けるところのある石丸だが、決して悪気があるわけではない。 苗木もそれが分かっているため、さらっと受け流して次の人物のところへ行くことにした。 苗木「大和田君。大和田君の抱負は何かな?」 大和田「おう、苗木か。丁度いい。俺の力作を見ていけや!」 大和田が自慢げに掲げた半紙には、『全国制破』と書かれていた。 流石は超高校級の暴走族といったところか。 しかし…。 苗木「あの…大和田君。『せいは』の『は』って、その字じゃなかったと思うんだけど…。」 大和田「ああ?何言ってんだよ。ちゃんと合って…あ。」 大和田は携帯電話を取り出し、『ぜんこくせいは』を漢字変換してようやく自分の間違いに気づく。 大和田「畜生やり直しだー!それにこんな難しい字書けるかあぁー!」 苗木「………。」 大和田は顔を真っ赤にしながら半紙をクシャクシャに丸め、その場に叩きつけた。 苗木はとばっちりを食う前にそっとその場を立ち去った。 ちなみに、正しくは『全国制覇』である。 セレス「あら苗木君。そんな所をウロチョロして何をしてらっしゃいますの?正直に言って目障りですわ。」 慇懃無礼極まりない喋り方で苗木に声を掛けたのは、書初めへの参加を渋っていたセレスだ。 苗木「あ…セレスさん。何を書いたらいいか決まらなくて、他の皆のを参考にしようかな、と…。」 セレス「ふぅ…。全く呆れてしまいますわね。あなたが掲げる抱負など一つしかないではありませんか。」 苗木「え?」 セレス「あなたが目指すのは史上初の『Bランク』しかないでしょう。あなたはわたくしのナイト候補なのですから。おわかりですか?<●><●>」 セレスはカッと目を見開いて苗木にぐっと顔を寄せ、苗木は思わず仰け反ってしまう。 苗木「そ、そういえばセレスさんは何て書いたの?」 セレス「わたくしですか?わたくしの抱負は常に『全戦全勝』、これのみですわ。」 苗木「全戦全勝って…やっぱりギャンブル?」 セレス「勿論。今年も世界中のギャンブラーからたっぷりお金を搾り取って毟り取って、わたくしの夢実現のための踏み台となって頂きますわ。」 苗木「が、頑張ってね…。」 セレス「あなたに応援していただかなくても頑張るつもりですわ。あなたの方こそBランク目指して頑張りなさいな。わかりましたね?<●><●>」 苗木「だから僕はセレスさんのナイトになるなんて一言も…。」 セレス「チッ!相変わらず苗木君は分からず屋ですわね。あまり強情が過ぎるとDランクに格下げしますわよ?」 苗木「はあ…。」 分からず屋はどっちだと苗木は言いかけたが、恐らく言ったらブチギレされると悟り、その言葉を吐き出さずに飲み込んだ。 その後も苗木はクラスメイト達の書初めを見て回った。 大神は『精進』、不二咲は『強くなる』、朝日奈は『健康第一』と、本人をよく表しているものが多かった。 しかし、本人らしいとはいっても、桑田の『彼女ゲット』や山田の『二次元』、腐川の『白夜様(ハート)』、江ノ島の『絶望万歳』なんてものもあったが…。 そんな中でも、葉隠の『一朗超え』と戦刃の『脱・残念』は意味不明だった。 苗木「葉隠君、一朗って誰?同業者?」 葉隠「おいおい苗木っち。お前まさかメジャーリーガーのイチローを知らねえのか?」 苗木「それくらい知ってるよ。それが何で葉隠君の抱負に出てくるのか聞いてるんだよ。」 葉隠「何でって、あのイチローですら4割の壁を超えられねえんだ。だから俺の今年の目標は占いの的中率を4割にすることだべ!イチローより先に4割の大台を突破してやるべ!」 苗木「占い師が野球選手と張り合ってどうするのさ…。そもそも比べる対象が違うし…。」 色々と突っ込みどころ満載だが、相手にしていたらキリがないため、苗木は放っておくことにした。 苗木「戦刃さんの『脱・残念』って、どういう意味?」 戦刃「聞くな。」 苗木「え?」 戦刃「聞くなと言っている!」 苗木「は、はい!分かりました!」 江ノ島「あ~あ。お姉ちゃんってば、そういうことするから残念だっていうのにまだ気づかないんだ?うぷぷぷ…。」 姉の書初めを遠目でみた江ノ島は、小馬鹿にしたような目と表情で姉と苗木を嘲笑していた。 苗木「あれ?十神君、何も書いてないけど、十神君も何を書くか決まってないの?」 十神「お前と一緒にするな。俺に抱負など必要ない。そもそも抱負など不完全な出来損ないが掲げるものだ。完璧な俺には不要なものだ。」 苗木「そ、そうなんだ…。」 十神「まあ、敢えて抱負を書くのであれば、これ以外にはないな。」 そう言って筆を執った十神は、半紙に『頂点』の2文字を書き記した。 十神「俺は頂点であり続ける。これまでも、そしてこれからもだ。」 苗木「あはは…。十神君らしいや。」 クラスメイト達の書初めをあらかた見終り、残るは舞園と霧切の2人だ。 2人は並んで書初めを書いていたが、苗木が近づくと同時に2人とも半紙を隠してしまった。 苗木「ど、どうしたの2人とも?」 舞園「ええと、ちょっと失敗しちゃって。これから書き直すところなんです。ねえ、霧切さん。」 霧切「ええ。だから向こうへ行ってくれないかしら。集中できないわ。」 苗木「う、うん。分かったよ。」 2人の態度に疑問を覚えつつも、苗木はその場を立ち去った。 舞園「霧切さん。負けませんからね。」 霧切「一体何の事かしら?」 舞園「どんな結果になっても、恨みっこなしでいきましょう。私、霧切さんとは良いお友達でいたいですから。」 霧切「それは…私も同意見ね。」 苗木「さてと、いい加減僕も自分の抱負を書かなくちゃ。とは言っても、何を書こう?」 皆の書初めを見て回ったものの、やはり考えは纏まらなかった。 そこで、もう一度クラスメイト達の姿を見る。 苗木「やっぱり、これだよな。」 『平穏無事』 終わり
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要は、希望ヶ峰学園宿舎に一匹の野良猫が居着いた、という話だ。 「ただいま…っと」 部屋のドアを開けようとして、それよりも先に灰色の毛玉が中から飛び出して来た。 どうやら鍵を閉め忘れていたらしい。 部屋の中を見るに、何か荒らされていたというわけでもなかった。せいぜい、枕が裏返っていたくらい。 どこから入りこんだのか、あるいは誰かが手引きでもしているのか。 警備の目を上手い具合にすりぬけて、この猫はちょくちょくこの宿舎を徘徊している。 餌をやる生徒もあれば、邪険にして追い払う生徒もあり。僕はどちらかというと前者だ。 …けど、懐かれているワケではないらしい。悲しくも。 鞄をベッドの上に放り投げ、すぐに部屋を後にする。 猫の行き先には、心当たりがあった。 「…隣いいかな、霧切さん」 「……それは、この仔に聞いてくれる?」 ランドリールームで洗濯機を回しながら、片手間に推理小説を流し読む少女。 その膝の上では、ぐでん、と脱力して、灰猫が足を伸ばしていた。 「あなたが座りたいのは私じゃなくて、この仔の隣でしょうから」 「…えっと、ごめん…?」 微妙に不機嫌な彼女から少しだけ距離を取る。 気性が似ているのか、距離感が心地いいのか、この灰猫は霧切さんに一番よく懐いた。 構いすぎると嫌われる、という話を聞いたことがある。 朝日奈さんや桑田君はその典型で、姿を見れば逃げ出すほどだ。 逆に十神君やセレスさんのような、無関心を貫く相手を見つけては、その後ろを付けていく。 霧切さんはその中でも、特に猫の扱いを心得ているようだった。 自分から触りにはいかず、かといって邪険にもせず、歩み寄ってきた時だけ、焦らすようにそっと撫でる。 彼女が触れている時は、僕もその猫を撫でることができた。 そっと肉球を指で押してみる。ふに、と柔らかな弾力が返る。 ちら、と灰猫はこちらを見上げて、興味なさそうに欠伸をした。嫌がられているワケではないらしい。 「…意外だわ」 読書中だったはずの霧切さんは、そんな僕の様子を見て、意地の悪い笑みを浮かべていた。 「猫派だったのね、苗木君」 「…意外なの?」 「ええ、あなた、犬っぽいから」 からかわれているのだ、と分かって、ちょっとだけ肩を落とす。 にゃあ、と同感だとでも言うように猫が鳴いた。 「…まあ、犬も嫌いじゃないんだけどね」 というか、基本的に小動物は好きだ。 「そうなの?」 「うん、でもさ。猫はこう、普段はそっけないんだけど、たまに甘えてくれるっていうのが…」 「ああ、えっと…ツンデレ、というのだったかしら? あるいはクーデレ、と」 「…霧切さん、時々偏った知識持ってくるよね」 まあ、おそらくというか確実に、出所は山田君だろう。 「でも、この仔は中々懐いてくれないんだ」 「……そうかしら」 「うん。さっきまで僕の部屋に居たみたいなんだけど、僕が帰ってくると同時に逃げ出して…」 と、そこで言葉を区切る。 霧切さんのジト目が、呆れたような色で僕を見ていたからだ。 「…猫相手にも、鈍いのね」 「……、えっと…?」 「あなたの部屋、つまり帰ってきてすぐ会える場所にいたのでしょう? …あなたを待っていた、とは考えないのかしら」 それは、随分と自惚れた考え方になってしまうんじゃないだろうか。 第一、僕を待っていたのなら、逃げ出したりしないと思う。 「…素直じゃないのよ、この仔も」 擽るように、首元を撫でる。 なーお、と、抗議の声でも上げるかのようにして、猫は霧切さんのスカートに爪を立てた。 「だ、だとしてもさ。たぶん、一番懐いてるのは霧切さんだよね」 「…それもどうかしらね」 バンザイをさせるように両手をどかして、霧切さんが猫を膝から下ろす。 特に抵抗することもなく、猫は僕からやや距離をとって、ランドリーの椅子に座った。 …別段懐かれているとは思っていないけれど、やはりへこむ。 と、ちょうどそこで、洗濯機が電子音を鳴らした。 霧切さんは僕の目の前で堂々とその蓋を開け、どかどかと洗い終わった洗濯物をカゴにつっこむ。 ちら、と、黒いヒモのようなものが見えた。 なんとなく見てはいけない気がしたので、というか明らかに見てはいけないものだったので、僕は地面に視線を落とす。 「…? 大丈夫よ、靴下は入っていないから」 「……いや、色々ずれてるからね、それ」 うん、そりゃあ、女の子が洗濯物をしているところに入ってくるなんて、デリカシーが無かったとは思うけれど。 部屋を後にするくらいの猶予は認めてほしかったり。 「猫っていうのは、気位が高いから。一番好きな相手には、隙を見せたりしないものなのよ」 「よ、よく分かるね、猫の気持ち」 なんとなくいたたまれなくなって、破れかぶれの返事を返す。 ぴた、と一度だけ霧切さんの手が止まった。 「……あなたが鈍すぎるだけよ」 「いや、霧切さんが鋭いんじゃないかな…」 「…自覚が無い分、凶悪ね。酷い人だわ」 なーう、と、また同調するように猫が鳴く。 二体一では分が悪い。 猫はちらと僕を見やってから、ぺそ、と責めるように尾で叩いてきた。 「実は、ジゴロの才能でもあるんじゃないかしら」 「は、はは…流石にその才能はいらない、かな」 その毛並みに指を伸ばしてみる。 と、触れるか触れないかのところで、不機嫌そうにこちらを一瞥し、また霧切さんの足元へと向かわれてしまった。 …うん、どう考えても、懐かれてはいない。 やっぱり彼女の気のせいではないだろうか。 「…けど、だとしたらおかしな話じゃない?」 「え?」 振り返った霧切さんの顔は、もう笑っていなかった。 捜査の時のような、あの怜悧な眼差しで、僕をじっと見つめる。 「懐かれていないと思っているクセに、どうして構うの?」 そのことが、どれだけ彼女の知的好奇心を刺激したというのだろうか。 単純に、小動物が好きだから。 そう答えてしまえば楽だけれど、きっとそんな答えは望まれていなかった。 「…放っておけない、からかな」 霧切さんは、沈黙したまま僕の目を見据えてくる。 その目に圧されてしどろもどろになりながらも、僕は続ける。 「その、さ…ふらふらしてるのが、危なっかしいっていうか…心配なんだ」 「……あなたらしい、お人好しのお節介、と。納得したわ」 僕の答えに呆れたのか、それとも満足したのか、どちらともつかない声音だった。 「…厄介なのに目を付けられちゃったのね、あなたも……」 ふわり、と霧切さんは振り返って、―――見たことも無いような、優しげな笑みで、猫を撫で上げた。 「……、何よ」 「え、あ…」 思わず、その笑顔に見入ってしまって、霧切さんに不振がられる。 だって普段の無表情とのギャップもあって、見惚れてしまったから。…なんて、言えるはずもなく。 咄嗟に口をついて出た言い訳は、 「…霧切さんの方は猫っぽいな、と思って」 「……それ、どういう意味?」 「あい゛っ…へ、変な意味じゃ、イタイイタイ! ごめん、嘘! 取り消すから…!」 彼女のお気に召さなかったらしく、思いっきり耳を捻りあげられてしまった。 こちらから構うと機嫌を損ねる辺り、なんともはや。
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田田田「はい、いつものねあんまりやりすぎないでね。」 霧切「・・・」 偶然、植物園にいた苗木(とんでもないものを見てしまったぞ) 霧切さんが去った後田田田に詰め寄る苗木。 「田田田さん、なんてものを彼女に!」 田田田「えっ?見てたの。大丈夫、人体に害は無いからw」 苗木「えっ?」 田田田「見た目は弄ったけどただのラベンダーアロマだから。プラセボwプラセボw」 田田田「ホームズに憧れてるんだって。案外子供っぽいよね」 田田田「彼女には本物って伝えて効果確認してるから黙っててね、うぷぷぷ。」 (あー、超高校級ってやっぱりマトモじゃないんだ。)と思った苗木だった。
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苗「あーもう霧切さん、そんなに飲んだら体に悪いよ」 霧「成人の祝いなんだから少しくらい大丈夫よ」ぐびぐび 苗「(まあ酔ってないみたいだし…大丈夫かな?)」 霧「それにしても、高校時代から成人まで苗木君と一緒だなんて…胸が厚くなるわね」 苗「そうだね(字の間違いに突っ込んでいいんだろうか…)」 霧「……何よ。どうせ苗木君だって胸が大きい方が好みなんでしょう」 苗「えっ!?」 霧「私の胸は普通だものね。小さくはないけど普通だものね」ぐびぐび 苗「い、いや…どうしたの急に?酔ってるの?」 霧「酔ってる様に見える?」 苗「見えない…けど」 霧「ふふ……酔ってると思うなら、お持ち帰りしてもいいのよ?」 苗「(いや酔ってる!やっぱり酔ってるよ!!)」 霧「あら、苗木君こそ真っ赤ね。酔っちゃったのかしら?可愛くて思わず襲ってしまいそうだわ」 苗「…はいはい(酔っ払うといつにも増してからかってくるなあ)」 霧「……本音なのに」ぐびぐび
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「本当にありがとう! いやぁ、なんとお礼を言ったらいいか……」 「そんな、お礼なんていいですよ」 「いや、そういう訳には。是非お礼がしたい。させてくれ!」 「本当に、大丈夫ですから。僕らも好きでやってることですし」 「そうか……なら、せめてこれを受け取ってくれ。食堂で使える――」 「――それなら」 「うん?」 「……それなら。二枚、頂けないかしら。その食券」 苗木誠探偵事務所は、基本的にボランティアだ。 そもそもからして部活動で金銭のやりとり、というのがありえない。活動資金は部費で十分にまかなえるし、霧切さんも僕もお金が目的で探偵事務所をやっているわけじ ゃない。 じゃあなんで探偵事務所なんかやっているのかと尋ねられれば……それは、僕にもわからないけど。霧切さんは未だに理由を教えてくれない。 閑話休題。とにかく僕らは金銭を受け取らない。けれども霧切さんは優秀な探偵で、望外の依頼遂行にお礼をと、何かを取り出す人は後を絶たず。 そんな時に、霧切さんは。消費できるものなら、ふたつ。もしくは二の倍数で、報酬を要求するのだった。 「霧切さんは、何食べるの?」 「そうね。今日は……せっかくだから定食にしようかしら。苗木君は?」 「じゃあぼくはラーメ……」「………」「ぼ、僕もなにか定食にしようかな……」 今回の報酬は食券二枚。一度きりで好きなものが食べられるスグレモノで、文化祭など学内イベントでの景品でよく見かけるものだ。 というわけで、僕と霧切さんは翌日の昼食を学食でとることにした。 結局僕はとり南蛮、霧切さんは焼き魚定食を選び、空いている席に向い合せで腰かけた。なんだか事務所にいるみたいだ。 「……? なにがおかしいの、苗木君」 「ううん、なんでもないよ。いただきまーす」「……いただきます」 二人で合掌。味噌汁をすすって、ほう、と息をつく。 「ねえ、霧切さんはラーメン嫌いなの?」 「どうして?」 「いや、さっき……」「なんのことを言ってるのか、わからないわ」「……そう」 首を傾げつつ、ご飯を口にする。暖かい食事が食べられるのが、お弁当にはない利点だと僕は思う。自炊もあんまり、得意じゃない。 「(霧切さんは……料理、得意なのかな)」 ほんのりとした酸味のある鶏肉を口に運びながら、ちらりと霧切さんを伺う。 ちまちま、ちまちまと。霧切さんが器用にサンマの身と骨を分けていく様子は、なんだか可愛らしくさえ思えた。 そう言えば以前、海外生活が長かったというような話を聞いた覚えがある。それにしては随分箸の扱いが上手い。 「…………何よ?」 ――と、目が合う。その瞳は無感情にも見えるし、なんとなく僕を責めているようにも見える。 「あまり人の食べるところをジロジロと見るものではないわ」 「ご、ごめん」 慌てて自分の食事に戻る。思い出したように鶏肉を一口。このタルタルソースは絶品だ。鶏肉もしっかり揚げてあって言うことない。ついでに未だ湯気を上げているご飯を ぱくり。 「うん、美味しい」 「……ねえ、苗木君」 「どうしたの?」 「その、とり南蛮? って、美味しいのかしら」「美味しいよ。食べたことない?」「ええ。初めて見る料理だったから」「だったら、ほら」 とり南蛮の味を知らないなんてもったいない。僕はひょいと食べやすそうなサイズの鶏肉を箸で摘みあげて、霧切さんに差し出した。 「ほら、霧切さん。ぱくっ、と……――」 ――僕は。一体、何を。 霧切さんの口許に突き出した僕の箸。今更それを引っ込めるようなことはできなくて。というか気づくのが遅いよ僕。 「………ぁ」ぱくり。もぐ、もぐ。もぐ、……ごくん。 その、白くて細い喉が上下するのさえ、僕は凝視してしまって。 「ええと、」「……」「……美味しかった、かな」「味なんて、分かる訳、無いでしょう」「ご、ごめん。……それじゃ、もうひとつ」「――ッ!?」「うぁ、ええと、違くて、その、」 その一瞬だけ、僕らは今いる場所がどこか完璧に忘れて。 「……また、食べに来ようか、霧切さん」「……ええ」 僕らは互いに顔を伏せ。見知ったクラスメイトが通りかかって話しかけるまで、そうしていた。 Next Episode こちら苗木誠探偵事務所4
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夕食前の売店にて、ボクはある行為に勤しんでいた。 「あ、また変なのが。なんでこんなのも入ってるんだろう」 そう言いながら、手にとったのは『無言電話』と書かれた玩具の電話。 「……いったい何に使えと?」 文句を言いつつも、捨てることも出来ないボク。 そう、勘の良い人なら分かるだろうが、現在ボクはモノモノマシーンを回しまくってる最中だ。 なんで回してるかというと、メダルがあるからだ、と言うしか無い。 学園に閉じ込められてから、なんとか脱出できないかと探索を始めて、数日が経っていた。 残念ながら探索範囲が制限されていることもあり、未だ脱出への糸口は見つかっていない。 正直に言えば、もう探索していないとこはないと思えるが、 じっとしているわけにもいかず、みんな探索活動を続けている。 そんな探索の時ちらほらと見つかるのが、モノクマの絵が掘られたモノクマメダルだ(命名はセレスさん) 実はこのメダルと、それを使用するであろうモノモノマシーン(同じく命名セレスさん) 見つかった当初は何が起こるかわからない、とみな使うのを控えていた。 が、ある一人の勇者がそれを破った。 その者の名は、山田一二三。 彼曰く 「そこにガシャポンがあり、吾輩の手の中にはメダルがある。ならば回さぬ道理はないですぞ!」 となんだが良くわからない主張をして、周囲が止めるのも聞かずに使い出したのである。 そうして、いざ使ってみると何も起きず、検証の結果妙な玩具や嗜好品を出すだけということがわかった。 なら、使わないのはもったいないという事で、一日の終わりに見つけたメダルを集めて 15人全員に公平に再分配、そして各自好きなようにモノモノマシーンを回すのが、 いつしか僕達の習慣になっていた。 「いやあ、どうだね苗木くん、今日の収穫は?」 先にマシーンを使っていた石丸クンが、戦果を聞いてくる。 「さっきから変な奴ばっかだね。石丸クンはどうだった?」 「うむ、よくぞ聞いてくれた!実は前から欲しかったキーホルダーが出てきてね、今日は素晴らしい日だな!」 と、ドリルのような物が付いたモアイ像を心から嬉しそうに見せてくる。 うーん、相変わらず変わったものが好きな人だなあ。というかなんなのそれ?ドリル?モアイ? 「所で苗木くん、ここは友情を温めることを兼ねて一つ交換でもしないか?」 「うん、構わないよ、じゃあリストだすね」 ボクはポケットから、リストを取り出し石丸クンに見せると、 彼もおなじようにリストを取り出しボクに見せてきた。 この、出たアイテムを交換する、というのも習慣の一つだ。 誰がやり始めたのか、ごく自然にするのが当たり前になっていて、 その際お互いが持ってる品物の"リスト"を出すのも、マナーとなっていた。 そのリストも、だれがもってきたが分からないが書き込みシートとペンがセットになっており 小さく持ち運びに便利なので、皆同じのを使っていた。 ただ、使ってるシートがボールペンでないとうまく書き込めず、 間違えた時いちいち訂正線引かないといけないのは、めんどうなんだけど。 「ふむ、この中からなら、チンチラシートがほしいんだが、どうだい?」 「そうだね、それだと子猫のヘアピンとならいいかな」 そして、品物間のレートはこんな具合に当人同士で調整するので、意外なものが望まれたりする。 みんなこの取引を楽しんでるらしく、ストレス発散も兼ねてるのかもしれない。 石丸クンは、シートの他にも幾つか交換すると、意気揚々と売店を出ていった。 「しっかし、こんなの引いちゃうなんて。どこが超高校級の幸運なんだよ」 と僕は売店で一人になると、先ほどの戦果を恨めしげに見る。 そこには、奇物、変物の数々があった。 「月の石って、明らかに偽物だし。この卒アルなんて誰のだよ」 いくら奇人変人が揃ってるからといって、こんなモノたちを欲しがる人がそうそういるとは思えない。 かといって、壊れてもいないものを捨てるというのは気が引ける。 つまり、本日の僕の戦果は捨てることもできないガラクタの集まりというわけだ。 「はあ、せめてジュースだけでも持って帰ろう」 後で片付けようと、ガラクタたちは放置したまま、 設置されている自販機に近づき、さて、何を飲もうか? と迷っていると誰かが売店に入ってきたようだ。 確認しようと振り向くと、そこには霧切さんが立っていた。 「あ、霧切さんも今日の探索は終わり?」 「ええ、残念だけど今日も進展はないみたいね」 「やっぱり、シャッターをどうにかしないといけないのかな……」 これまた習慣になった、お互いの探索結果についての情報を交換する。 夕食会でも報告はするのだが、やはり一刻も早く知りたくなるのはみな同じらしい。 「そういえば、今日もメダルは補充されてたみたいだよ」 そんな探索の日々の中でも、最近気になってるのがメダルのことだ。 15人もの人間が、毎日学園内を探索してるのだ。 ならあっという間にメダルもなくなるだろう、と僕たちは思っていた。 けど、なぜかメダルは毎日見つかるのだ。それも以前探したところから見つかるのも珍しくない。 となると、だれかが補充してるとしか思えない。 「……やはり黒幕は、メダルを私たちにあえて提供してるみたいね」 霧切さんもメダルの補充について予想通りだったのか、特に驚かない。 「けど、一体なんのために?」 「あら、分からないの?苗木君。答えはこの部屋にあるというのに」 とここ数日で何回か見たことがある、ドS顔で霧切さんが僕を見る。 正直、この顔の霧切さんは、舞園さんの勘と同じぐらい苦手だ。 僕が困るのを楽しんでるように感じる、というか絶対楽しんでるぞ、この顔は。 けど、この部屋にある? メダルに関係するものといえば、そこにあるモノモノマシーンぐらいしかないけど。 メダルを僕達に提供するということは、 「……そのマシーンを使わせたいってことだよね」 「その通りよ。そして黒幕が私たちにしてほしいことは何?ここまで言えば分かるわね?」 黒幕がしてほしいこと? 体育館での話が真実なら、僕達15人の中で殺人が起こることが黒幕の狙いだ。 ……つまり、誰かに殺してほしい? 考えるだけでも恐ろしい事で、実際そんなこと起きるはずがない!と僕は信じてる。 けど、それとマシーンを使うことが、どう関係あるんだ? あのマシーンを使って出てくるのは、変な玩具や道具ばかり。 ん?道具?……なぜかその言葉が引っかかる。 そして、一度気づくと点と点が結ばれて、有る絵が思い浮かんでしまう。 「……凶器として、モノモノマシーンから出てきた道具が使われる?」 違っていて欲しいという思いを含めながら、出てきた答えを霧切さんに話す。 「そう、その通りよ苗木君」 しかし、霧切さんはバッサリとその答えを肯定してしまう。 「……もっとも凶器というより、なにかトリックに利用してほしいのでしょうね」 「トリック?」 「ええ、ただ殺してほしいだけならもっと直接的な物をだしてくるわ」 と霧切さんは、マシーンに近寄りその表面を撫でる。 「黒幕としては舞台を盛り上げる小道具のつもりなんでしょうね」 「そ、そんな、じゃあみんながこれを使ってるこの状況も黒幕の狙い通りってこと?」 「…そうね、みんながコレを使う事までは狙い通りでしょうね」 霧切りさんの答えを聞いた途端、目の前のモノモノマシーンが、僕らに殺人を促す悪魔のように見えてくる。 というか、そこまで分かっていて、なんで霧切さんはそれを止めないんだ? 「黒幕の狙い通りになってるって言うなら、早く皆に話さないと!」 とにかく、この事をみんなに話して、こいつを使うことを止めなければ! 「待って苗木君、それには及ばないわ。みんなには話さなくていい。むしろこのままのほうがいいわ」 だというのに、霧切さんは必要ない、といつもの落ち着いた表情で言う。 「な、なにを言ってるんだ霧切さん!このままでいいわけないじゃないか!!」 「そうかしら?このままの方がいろいろと便利よ」 「便利って、なにが?」 霧切さんは何を言いたいんだ? 「…………苗木君、事件が起きた時警察が一番困ることってなんだと思う?」 「え?今はそんな話を」 「いいから、考えてみて……」 有無を言わさない調子で霧切さんが言うので、思わず僕は考えてしまう。 えっと警察が一番困ることだよな、となるとやっぱり………… 「盗んだ犯人が捕まらない?」 「……そうね、大きく言うならそれで正解でしょうね。けどもう少し細かく踏み込んで考えてみて」 細かく?うーんなんだろ。 「犯人がだれか分からないとか?」 「……犯人が分からなければ捕まえることはできないわね、けどどうして分からないの?」 「ど、どうしてって。それは、も、目撃者とかが居ないから?」 「そうね、目撃者がいないのは、犯人を特定するにあたって大変痛手だわ。 けど、目撃者がいない事件が解決されることはよくあるわよね?」 むう、たしかにそうだ。 よくTVとかでみる刑事ドラマとかでは、目撃者がいないのが大多数だ。 けど最後には銃撃戦とかしたり、崖の上とかに行って犯人をつかまえている。 じゃあいったいなんなのだろう、……………………だめだ、思いつかない。 そんな、悩んでる僕の様子を見て霧切さんは 「……初めに"警察"といったのは悪かったかもね。 "捜査"で困る事として考えてみて…‥」 とヒントをくれた。 "警察"でなく"捜査"これがどう違うのか…… さっき思い出したTVドラマの光景を浮かべながら、連想していく。 ドラマとかでは捜査するのは、刑事だよな。 あとは指紋とか採取する人、えっと鑑識だっけそういう人も見るよな。 ん、指紋?そうだ、指紋とか凶器とか 「……証拠がないのが困る?」 「そう、証拠がないのは大変困るわ。じゃあ、その証拠はどうやって得るのかしら。 …………ここまで言えば、分かるわね?」 と本日2回目のドS顔を決めてくる霧切さん。 証拠を得るて、それこそ現場にある物を調べ……あ! 「物がないのが一番困るんだ!」 そうだ、どんな事件も、まずその場に残された物を調べることから始まるんだ。 そこから推理を展開させて、証拠を集めて、犯人を特定し捕まえる。 逆に言えば物がない事件、極端に言えば死体という物が見つからなければ 事件そのものは解決どころか、発覚すらしないんだ。 「……まあ、正解でいいかしらね。事件というものは損傷や紛失など、事件が起きる前に比べてなにかしら変化があるわ。 当たり前よね、だから"事件"なんだし。それを警察や探偵は比較し、更に専用の機器を使って指紋などを検知したり、 大量の人員を使ったローラー作戦で新たな物品を見つけたりする。 そして、それらから得た情報を統合し検討、検証することで捜査は進展していくのだけど……」 僕の答えを聞いて、霧切さんが解説してくれる。 してくれるのだが、……いつもクールなはずの霧切さんの言葉に、なぜか熱を帯びてるように感じる。 なんというか、非常に失礼な気がするが、同人誌を語る時の山田君を連想させる。 そんな僕の気持ちに気づいたんだろうか、霧切さんは 「……コ、コホン少し脱線したわね。 とにかく捜査において一番困ることは、現場において検証する物の情報がないことよ」 と軽く咳払いして、結論を述べてくれた。その顔はなんだか赤みかかってるようにも見えた。 「えっとそれはわかったけど、それがさっきの話と、どうつながるの?」 「……あら、わからないの苗木君?」 と本日3度目のドS(以下略 「……黒幕は、私たちにこのマシーンから出るアイテムを使って殺人という事件を起こしてほしい。 けど、それは私たちにとっては犯人を特定する手かがりにもなるわ」 「手かがりって?」 「ここから出るものは皆独特のもので使われる用途が、そう広い物ばかりじゃない。 となると、どれが使われたかの特定も容易。そしてそれを持ってる人間も私達はすぐに特定できる」 「特定できるって、霧切さんは自信満々に言うけど、いったいどうして?」 「……あら、忘れたの苗木君。私達はどうやって交換しているのかを」 どうやってて、それはリストを見せ合って 「あ!リストか!!」 そうだ、僕達は常日頃から"自分が持っているアイテムのリスト"を見せ合っている。 つまり、だれが何を持っているか知れるんだ。 「もちろん15人全員のリストを覚えてる人は少ないでしょうね。けどリストを見せて、と言えばそれだけで済む」 「けど消されたりしてたら」 「その点は大丈夫でしょう。アレはボールペンでないと書けない。どんなに綺麗に消してもあとは残るわ」 「そ、そもそもリストに書いてなかったら?」 「……そしたらモノクマメダルの数が合わなくなるわ。私達はリストのほかにメダルの数も把握できている」 そうか、僕らはメダルを公平に再分配している。 だから誰が何枚持ってるかも分かる。 そして残ったメダルの数から、いくつ交換したかも把握できる。 「もちろん、いろいろ細工は出来るわ。けどね、本人が持ってることを隠しても周りの人間が リストとメダルから持ってないことを証明すればおのずと粗が浮かび上がる。 そもそもこれだけで犯人が見つからなくてもいいのよ、あくまで手かがり。 15人……いえ事件が起きたなら14人の中からある程度候補を絞る材料には十分」 「そ、それって、事件が起きてもいいって言うの?」 「……………………」 霧切さんは答えない。 しかし先刻の発言からすると、霧切さんは事件が起きるのは構わないと思ってる。 むしろ、起きたあと犯人を追い詰めるのに丁度いいからこのままマシーンを使わせよう、 と言ってるように感じた。 「だ、だめだよそんな考えは!殺人なんて起きちゃだめなんだ!!絶対に防がないと」 「けど、防げなかったら?さっきも言ったとおり捜査において検証するための情報はいくらでも欲しいわ。 もし起こってしまった時、このマシーンのアイテムから多くの情報を得ることができる。 みんなに教えることで、それを潰して捜査を難航させるの?」 興奮する僕とは対照的に霧切さんは冷静に言葉を返してくる。 起こってしまうかもしれないことへの備え、たしかに正しいのかも知れない。 けど、やっぱり納得できない! 「で、でも、もし事件が起きたとしても、そのことは犯人だって予想するかもしれない! それで情報を残さないために初めから、アイテムを使わない方法を取るかも知れない!! だとしたら、きちんと皆に説明して、モノモノマシーンを使わせないようにするのと同じじゃ…………アレ?」 可笑しいぞ? 説明してもしなくても結局、殺人にモノモノマシーンのアイテムは使われないんじゃ。 霧切さんが微笑んで……あ!そういうことか!! 「……やっと気づいたみたいね苗木君。そう"このまま"でいいのよ」 「黒幕の考えを教えようが、教えなくてもアイテムは使われないんだね」 「……その通りよ。殺人なんてものを行う人間はみな臆病よ。だからこそ多くの可能性を考える。 とすると、私が挙げたことなんてみな考えつくでしょうね。だから却って使えない」 そう言いながら、霧切さんは再びモノモノマシーンの頭をなでる。 「……今の状況は逆にいいのよ。みんな凶器になりかねないものと意識しないで、相互監視ができてる。 これが逆に意識しだすとバランスが崩れて、それこそいろいろ細工されて結果、殺人に使われる可能性が高くなる」 皮肉な話だ。武器になりかねないから気をつけて、と注意することこそが武器になると気付かせてしまうなんて。 「け、けどそれじゃ霧切さんのいうようにアイテムの情報がなくて、捜査が難しくなるんじゃ?」 「……あら、先刻まで起きる前提の話は嫌いだったんじゃないの、苗木君」 あ、そうだ何を言ってるんだ僕は。先刻まで殺人なんて起きないと信じてたのに。 「イジワルしたわね。……どうしてかしら苗木君を見るとつい、ね。 あなた、実は超高校級のいじめられっ子とかだったりしない?」 「な、そんなわけ……」 やばい、心当たりがありすぎる。 「……もう少し苛めたいけど、それはまた今度にするわ。 で、質問の答えだけど、実際問題使われると、いろいろ厄介なことにはなるのよ。 先刻は特定が楽だとは言ったけど、アイテムを使われると方法に幅が出てしまう。 現状の私たちは物資が制限されて、やれることも限りあるわ。 けど、その制限がなくなるとこの学園に居るのは超高校級の人間ばかり。 何が起こるか、予測がつかないわ。それこそ事件の捜……」 とそこまで言ってた霧切さんは、僕を見て 「事件を"防ぐ"のはとても難しくなる」 と言い直してくれた。 「だから極力使われるような状況は避けたいということ。苗木君もこの事は、意識しないでね」 「う、うんわかったよ」 なんとも重大なことを知ってしまったもんである。うう、意識するなと言われると却ってしてしまう方なんだよなあ。 「けど、先刻は『このままの方がいろいろと便利よ』なんて言い方しなくても良かったんじゃない? おかげで、霧切さんの事を誤解しそうに」 「……あら、そのことは本当にそう思ってるだけよ。 使わせない抑止としても、万が一だれかがアイテムを使ったさいの保険としても、このままのほうが便利よ」 「けど、言葉はもう少し選ばないと誤解を招くよ」 「……別に構わないわ」 と、霧切さんは淡白に答える。けれど、それは少し強がってるようにも感じた。 「……もうこんな時間ね、そろそろ食堂に行きましょう」 これで話は終わり、という風に会話を打ち切り、霧切さんは売店の出口に向かう。 「あ、霧切さん……」 かけるべき言葉が見つからず、それを見送ってしまう。 いつも冷静で、黒幕の思惑を知っても、今の状況を的確に分析して対抗してくれている。 そんな彼女に対して、自分みたいな取り柄のない人間がどんな言葉をかけられるのか。 なにを言っても、彼女に届かない気がしてしまった。 沈んだ気持ちで近くの時計を見ると、たしかに食堂に集まる時間だった。 「……しょうがない、僕も外に出よう」 と、出しっぱなしだったガラクタたちを仕舞おうと 腰をかがめた時、自分の交換用リストが目に入る。 先刻石丸くんとの交換した時、出しっぱなしであったらしい。 「すっかり忘れてた……」 そう言いながらリストが書かれたシートを手に取った時、 一つの考えが浮かんだ。 そう、閃きと言っていい。 余りにも出来過ぎたアイテムの交換とリストを書く慣習。 そもそも、"誰"が交換なんてことを広め、しかもリストに書くなんてことまで提案したのか。 第一、リストを書くためのシート自体"誰"がもってきたものなのか……それが瞬く間に繋がった。 顔を上げると、今まさに売店の出口から出ていこうとする霧切さんの後ろ姿が目に入った。 そしたら、思わず大きな声で 「今度!霧切さんと交換したいんだけどいいかな!?」 と霧切さんに提案していた 声の大きさになのか、それとも提案になのか、はたまたその両方に驚いたのか、ふり向いたまま固まる霧切さん。 自分でも、びっくりしている。いままで霧切さんと交換したことなんてなかったし。 けど、どうしても霧切さんとしたかったのだ。 「……なんで私と?」 硬直から回復したのか、理由を聞いてくる霧切さん。 り、理由!?え、えーと 「い、意識せずに、て事なら交換もしないといけないし。 けどいきなりこの事を知らない人とやると意識しちゃうし。 その、ボクを助けると思って、お願い!霧切さん!!」 勢い良く、理由をでっち上げながらしゃべる。 どもってるし、我ながらもうちょい何とかならなかったのか、て思う。 現に霧切さんなら、嘘だと気づいてただろう。 でも、霧切さんは少し顔を赤らめると 「……………………それじゃ仕方ないわね」 と、答えてくれた。 その返事に嬉しくなり、ボクは頭の中で 霧切さんが喜びそうなものを持っていたかな? と、考え始める。 約束したからにはなんとか喜ばせる物を見せてあげたい。 そう、これはボクと霧切さんが、初めて交わした約束なのだから。
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雨の日は嫌いだ。 あの重く垂れこめる、鉛色の空を見ただけで気が滅入る。多分、誰だってそうだろう。 そんなことを考えながら、ボク―苗木誠―はため息を吐いた。 窓から外を眺めても、目に入ってくるのは雨模様の空だけ。 せっかく作ったてるてる坊主は、なんの役にも立ってくれなかったみたいだ。 そのこともまた、ボクの気分を沈ませる。 「おはようございます、苗木君」 不意に、背後から聞き覚えのある声がした。 「あ、おはよう。舞園さん」 その声の主―舞園さんの方を振り向き…思わず、ギョッとした。 「えっと…どうしたの?ずぶ濡れだけど…」 そう。舞園さんは、その綺麗な青髪の先から足の先まで、水が滴りそうなほどにずぶ濡れだった。 「大したことじゃないですよ、ちょっと傘を家に忘れてしまっただけで……」 鼻声混じりで、彼女はそう答える。…普通、梅雨の時期に傘を家に忘れるだろうか? まぁ…舞園さんはたまに天然なところがあるし、仕方ないのかもしれない。 「とりあえず体拭いたほうがいいんじゃない?風邪ひいちゃうかもしれないよ」 「それは…そうなんですけど…」 舞園さんは困ったように目を伏せる。 「…もしかして、タオルとかハンカチとかも家に置いてきた…?」 「はい。だからちょっと困ってて…」 「じゃあ、ボクの使う?まだ使ってないからさ」 バックからハンドタオルを取り出し、舞園さんに差し出す。 「本当に、わざわざすみません…」 「いや、別にいいよ…大したことしてないし」 「ありがとうございます。ちゃんと、洗ってから返しますから」 そう言うやいなや、舞園さんはボクの手からハンドタオルを取り、足早に駆けて行ってしまった。 …雨で濡れた舞園さん、色っぽいなぁ… 昼を過ぎても雨脚は収まらず、結局雨は放課後まで降り続いた。 ボクは日誌を書いていたせいで、他の皆よりも少し校舎を出るのが遅れてしまった。 急いで脱靴場へ向かったところ、そこでは不安げな顔をした舞園さんが空を見上げていた。 「あれ?どうしたの、舞園さん?」 「いえ…傘を忘れちゃったので、雨が止むのを待ってるんです」 あぁ…そうだった。だから、今朝はあんなにずぶ濡れだったんだ。 …でも『雨が止むのを待ってる』って、確か今日は終日雨の予報じゃなかったっけ? 「ねぇ、舞園さん。だったら、一緒に帰らない?ボクの傘結構大きいし、舞園さんスマートだから、二人くらいなら何とか入ると思うんだけど…」 「え?い、いいんですか?」 「うん。もし舞園さんが良ければ…」 「もちろん大丈夫です!実は、もしもこのまま雨が止まなかったらどうしよう、って思ってたんですよ」 舞園さんはそう言うと、いそいそと近づいてきた。 ―そこで気づいた。 『ボクが傘を持ったら、舞園さんは窮屈なんじゃないだろうか?』 悲しいことに、ボクは舞園さんよりも5cmほど身長が低い。 普通はそこまで気にならない差だけど、傘という密室の中では、それは致命的な差になるんじゃ…? かと言って、舞園さんに持たせるのも…男子としてどうかと思う。 「そうですね…じゃあ、二人で持ちましょうよ」 「え?」 驚くボクをよそに、舞園さんは続ける。 「ですから、二人で傘を持ちましょう、って言ったんです」 たまに彼女は、少し常識はずれなことを笑顔で言う。 でも今回は、その常識はずれがありがたい。 「うん。じゃあ、行こっか」 「はい!」 ボク等は二人仲良く、傘を握って歩き出した。 「ふぅ…久しぶりに、二人っきりでお話出来ますね」 「久しぶりだっけ?ボク、舞園さんとは結構喋ってるつもりだったけど…」 「なかなか、『二人っきりで』っていうチャンスはありませんからね…お互い、忙しいですし」 今朝も二人っきりだったような気がするけど…わざわざそんなことを言って、このいいムードを壊すのも嫌なので言わないでおいた。 「あ、そうえいばこの前、舞園さんが出てた番組見たよ」 「本当ですか!?嬉しいです…」 「ああいうの見ると、やっぱり舞園さんって雲の上の人なんだなぁって実感しちゃうね…」 「む…雲の上の人なんかじゃないですよ…私はちゃんと、ここにいますから」 舞園さんの傘を持っていない方の手が、ボクの手を握りしめてくる。 「うわっ…ちょ、ちょっと、舞園さん!?何するの!?」 「私を雲の上の人、って言ったことへの"オシオキ"です」 拗ねた顔つきで、彼女は平然とそんなことを言い張る。 【超高校級のアイドル】にこんなことをして貰えるとは、ボクの【幸運】も捨てたもんじゃないのかもな… 「あはは…ごめん、もう言わないからさ」 「…もう、次そんなこと言ったら、もっとヒドいことしちゃいますよ!」 『ヒドいこと』って何をするんだろう…その時のボクには、そんな好奇心と良心との葛藤があったけど…勝ったのは良心だった。 ということで、それからの帰路は雑談を楽しんだ。 翌日―天気は曇天。 どうやらここに来て、てるてる坊主がちょっとだけ仕事をしたみたいだ。 それに加えて今朝の占いが1位だったので、ボクは昨日よりちょっとだけいい気分で、学校に向かうことができた。 「あ、苗木君!おはようございます!」 「あぁ、舞園さん。おはよう」 朝イチから舞園さんの笑顔が眩しい。ベタな比喩だけど、本当に輝いているみたいだ。 「これ、昨日はありがとうございました!」 そう言って、舞園さんはカバンから白い布を手渡してくる。昨日ボクが貸したハンドタオルだ。 …もちろん、しっかり洗ってあるのだろう。 手渡されたそれを受け取り、何の気なしに舞園さんのカバンを見てみると… 「あれ?もしかして舞園さん、新しいストラップ付けた?」 「あ、気づいてくれましたか?昨日、自分で作ったんですよ!」 「へぇ~、上手だね!」 「そうですか?…そうだ!これもう一つ余分に作っちゃったんですけど…良かったら、いりませんか?」 「え、いいの?じゃあ、貰っちゃおうかな」 舞園さんはボクがそう答えるのを待ち構えていたかのように、瞬時にカバンの中からお手製のストラップを取り出した。 どうぞ、と手渡されたそれをよく見て、ボクの頭にある疑問が浮かんだ。 「ねぇ、舞園さん…このストラップのてるてる坊主、何で上下逆になってるの?」 「あぁ…それにはいろいろ理由があるんですけど…苗木君は、雨の日って好きですか?」 唐突に投げかけられた質問にちょっと面食らったが、その問いには正直に答えることにした。 「え…?う~ん…嫌い、かなぁ。ジメジメしてて、気分が落ち込んじゃうからね。舞園さんは?」 「私は、結構好きですよ。晴れの日とは違う良さがあるっていうか…何より、苗木君と相合い傘ができますから」 「…もしかして、それでストラップのてるてる坊主は逆さまなの?」 「はい。そうですけど…よく分かりましたね!エスパーですか?」 ホントにこの人のアプローチは積極的だ。…ボクが消極的すぎるのかな? まぁどちらにせよ、嬉しいってことだけは確かだ。 「そんなわけ無いでしょ…これ、ありがとう。大事に使わせてもらうね」 舞園さんの視線を感じながら、ボクはバックにそのストラップをつけた。…しっかり、上下を逆さまにして。 『どうか雨を降らせてください』っていう祈りを込めて。 ついさっきまで雨の日は嫌いだったけど…あんなこと言われたら、好きになるなって方がどうかしてる。
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「あれからもう半年以上も経つのね・・・・」 その間色々なことがあった。 春、親睦を深めようと彼が率先して皆に声をかけ、お花見をした。既に彼は皆の中心にいた。 夏、彼の一声で皆が集まり、海に行った。初めての仲間との海だった。 秋、「恋敵(ライバル)」が出来た。しかも複数。発端は勿論「彼」だった。だけど同時に「親友」にもなった。 そして冬・・・彼はそこにはいなかったが、彼のお陰で出来た「仲間」とのクリスマス・イブを楽しめた。 私は正直・・・昔、クリスマスというものが嫌いだった。 いや正確には嫌いになったのだ。 何故なら・・・私の願いを叶えてくれるサンタが・・・・・自分を祝ってくれる両親がいなかったからだ。 両親なき後、私を育ててくれた霧切家の親族が代わりに祝ってくれてはいたが、そこには少なからずの「同情」の感情があった。 私はそれが嫌だった。「あなたは可哀想な子」と言われているみたいだった。 ここに来た理由もそんなしがらみから解き離れたいと思ったからだ。父と決別する事で私はそんな「同情」を跳ね除けたかった。 だが・・・・今思えばそれは単なる詭弁だったのだ。私はただ父に直接問いたかっただけなのだ。 何故、霧切家を・・・・・私を捨てたのだ、と 今はもう父とはある程度和解が出来たが(ちなみにこれも誰かさんのおせっかいのせいだ)子供の頃からの確執がそんなに簡単に 解消出来る訳も無く、父との関係は未だギクシャクしている。 それでもここに来た当時とは違い、私は、「父」をまだ「父」と呼べる事になった事にどこか安心している自分がいるのを感じた。 ……話が随分逸れてしまったが、早い話、私は10数年ぶりに穏やかにクリスマスを送れそうということだ。 今は一人きりだが、今までとは違い私を憐れむ人はなく、私自身もこのクリスマスという日を何のわだかまりも無く祝福できそうだからだ。 ただ・・・・・・・ 「・・・私をそんな風に変えた張本人がここにいないのはどうなのかしらね?・・・・・フフ」 と、思っても仕様が無いことをぼやいてみた。そんな自分がおかしくて少し笑ってしまう。 ……どうも自分は思ってたよりずっと苗木君にやられているようだ。 昔ならそんな感情は全く理解できなかったが今なら解かる。これが「恋慕」といわれる感情なのだと。 まあ、「恋敵」がいる時点で何をいまさらという話だが・・・ ガチャン そんな事を考えていたときに、不意に寮の玄関から扉が開く音が聞こえた。こんな夜更けに他の寮生(上級生)が帰ってきたのかと思ったが、 足音はこの78期生の寮の方に向かっている。変ね?今日は誰も帰ってこないと聞いたのだけど・・・。 一瞬まさか不審人物?とも思ったがそれはありえない。この希望峰学園のセキュリティは並ではない。元々のセキュリティに 加え「超高校級の科学者」や「超高校級のプログラマー」等の手により国防総省も真っ青な強固なセキュリティを誇っているからだ。 おそらく他の78期生の誰かが予定を変更して帰ってきたのだろう。私は取り合えず挨拶だけはしておこうと足音の人物が近くに来るのに 合わせて部屋の扉を開けた。するとそこには・・・・・ 「あ、霧切さん!」 「苗木君・・・!?あなた実家に帰ってたんじゃ・・・・?」 「うん、そうなんだけど・・・今日父さんが急に夜に仕事に戻らないといけなくなってさ、それで父さんの会社が ここの近くだから僕もついでに一緒に帰ろうと思って・・・皆にも会いたかったしね」 「そうなの・・・けど残念ね。今日は見ての通り私以外誰もいないわよ?」 「みたいだね;・・・・・・けど」 「?」 「霧切さんには会えたからやっぱり帰ってきて良かったよ(ニコ)」 「なっ・・・・・///!?」 ……そんな笑顔でそんな事を言うのは反則じゃないかしら?そんな風に誰とも接するから 「恋敵」が増えるというのに・・・・まあ本人には全く自覚がないから逆に問題なのだが・・・・。 「どうしたの、霧切さん?なんか顔赤いみたいだけど・・・・・・?」 「な、何でもないわ・・・苗木君の気のせいよ」 「そう?ならいいけど・・・・・・・・あっ!!」 「ど、どうしたの!?」 「外!外見て霧切さん!!」 「外?・・・・・・・・・・・あ・・・」 苗木君に促されて外を見るとそこにはさんさんと白い雪が降り始めていた。庭に設置された 巨大なツリー(大神さんが山から持ってきたらしい・・・担いで;)と相まって それはとても美しかった。 「・・・・・・綺麗ね」 「ホワイトクリスマスだね・・・・・あ、そうだ霧切さん!今何時!?」 「え?・・・・・・・24時5分前だけど?」 「よかった、じゃあまだ間に合うね!」 「間に合う・・・?」 そう言うと苗木君はこちらに向き直って私をまっすぐ見て、ちょっと恥ずかしそうにしながら、こう告げた。 「ちょっと遅くなっちゃたけど・・・・・・メリークリスマス、霧切さん」 「・・・!?・・・・フフ、そうね・・・・・・・・メリークリスマス、苗木君」 どうやら私のサンタは随分遅れてやってきたようだ・・・・。 FIN
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いつものように晩御飯をあやかろうと、苗木君の家へ足を運ぶ。 当たり前のように連絡は入れていない。 入れてしまっては彼の驚く顔が見れなくなってしまうではないか。 ……もっとも、最近は連絡を入れなくても当たり前のように私の分の夕食が用意してあったりする。 「なんとなく霧切さんがくるかなーって日がわかるんだよね。なんでだろう?」 理由を聞いてみたらそんなことを言っていた。 ……悪い気はしないが、彼の驚く顔が見られなくなっているのは困る。 何か新しい手を考えなくては。 もちろん頻度を落とすというのはなしだ。 彼の作った料理が食べられなくなってしまうし、 なにより悪い虫がついてしまったら本末転倒である。 そんなことを考えていると、目的地が見えてきた。 うちの事務所とそんなに離れていないのだ。 今日の晩御飯の献立は何かしら、と心を弾ませる。 「……あら?」 近づくと、彼の家から複数人の声が聞こえる。 網戸にしているからだろうけど、リビングの喧騒は 2~3人だけとは考えられないくらいのものだった。 苗木君の家はうちの事務所からも近いが、彼の通う大学からもそんなに離れていない。 周辺には彼がひいきにしているスーパーや歓楽街、駅も近いということもあり、結構お客さんが来る。 希望ヶ峰学園の同級生だったり、彼のサークル仲間だったり。 彼が誰にでも優しくて、受け入れられるのは分かっている。 私が独り占めなんてできるはずもない。 それでも 苗木君の家から女性の、しかも複数の声が聞こえてくるだけで 私の内側から醜い感情があふれるのを止められない。 これが女性の声だけだったら乗り込んで追求したいところだけれど、 苗木君以外の男性の声も聞こえる。 おそらくサークルか何かの付き合いだろう。 明日は休日ということもあり、どうやらお酒も入っているらしい。 苗木君はそんなにお酒に弱いわけではないし、 一時の過ちを犯したりするような人でないことは身をもって知っている。 だからといって安心することはできないし、万が一……とも考えてしまう。 どちらにしろ、いま私にできることはない。 彼を信じるしかないのだ。 ……何を考えているのだろう。 苗木君とは付き合っているわけではないのだから 彼が何をしようが関係ないはず。 とりあえず今日の晩御飯はうちにあったカップラーメンかしらね、と 重たい足取り、うまく回らない頭で考えながら帰路に就いた。 翌日。 昨晩はよく眠れず、頭が多少痛い。 いつ彼の家に行こうか考えているうちにお昼近くになってしまった。 朝早く彼の家に向かい、泊まった人がいないか確認してしまおうとも考えた。 けれど、実際にその場面に立ち会ったとして、彼にどんな顔して 何を言えばいいかを考えると頭が真っ白になってしまうのだ。 苗木君にとって私がどんな存在なのかわからないのに。 いったい何様のつもりなんだろう。 いっそ彼に聞いてしまえばいいのかもしれない。 でも、その答えを聞くのが怖くて怖くてしょうがなくて。 気が付くと苗木君の家についてしまっていた。 今日だけはこの距離が恨めしい。 ……ああ、もう。 こうなれば出たとこ勝負だ。 待っているのは性に合わない。 時刻は正午前。 私はインターホンに手を伸ばした。 「いらっしゃい。来るんじゃないかって思ってたよ。」 苗木君は驚きもせずに笑顔で迎えてくれた ……こちらが考えてきたどのパターンの反応とも違っていて面喰ってしまう。 とりあえず……なにかあった、というわけではないようで。 彼に気づかれないよう心の中でため息をついた。 「……どうして私が来ると思っていたの?」 「ほんとは昨日霧切さんが来るかなと思っていたんだけどね。 来なかったから今日は朝から来るかなって。 どうせ昨日の晩御飯ちゃんと食べてないんでしょう?」 「…………」 ……最近彼は変なところばかり鋭くなってきている。 助手の成長と考えるとこれ以上ないくらいうれしいのだけれど、 力の使いどころが若干ずれている気がする。 ……私の気持ちには疎いままだし。 それに、おなかが減っているからという理由でこの時間に来たわけではない。 ……悔しいことに、減っているのは事実なのだけれど。 「昨日サークルのみんなが晩御飯食べに来てさ。 まだちょっと散らかってるんだ。ごめんね。」 知ってる。昨日苗木君の家まで来たのだから。 だけど、そう答えてしまうと先ほどの彼の推理を認めてしまうことになる。 だから 「気にしないわ。苗木君は人気者だものね」 そう答えるだけにしておく。 ……ほんの少しだけ言葉に棘を込めて。 家が大学に近いだけだよ、と苦笑いをしながら彼がキッチンに向かう。 「すぐできるからちょっと待っててね」 今日のお昼はチャーハンにするらしい。 いつもならお昼はパスタが多いのだけど、それを避けたのは昨日の私の晩御飯と かぶらないようにするためだろう。 ……何から何まで見透かされているようで、気に入らないような、くすぐったいような。 彼が料理をしているのを見ているのもいいけれど、今は少しだけ眠い。 どうやら私は昨夜何もなかったという事実によほど安心してしまったらしい。 彼には悪いけれど少しだけ横になろう。 そのまま彼の寝室に向かいベットに横になる。 いつもの安心する彼のにおいじゃない、知らない女性のにおいがした。 思わず顔を跳ね上げてしまう。眠気もどこかに飛んで行ってしまった。 そういえば、苗木君も誰も泊っていないとは言っていない。 ……居間のソファにはタオルケットがかかっていた。 きっとこのにおいの女性がベッドで寝てしまったので、 彼は普段私が泊まった時のようにソファで寝たのだろう。 状況は分かる。苗木君のせいではない。決して。 それでも。彼のベッドから私以外のにおいがするのが我慢できない。 「どうかした?」 苗木君がドアから顔を出した。 おそらくお昼御飯ができたのだろう。 「……なんでもないわ。昨日変な寝方をしてしまって体が痛いのよ」 内側の黒いもやもやを抑え込む。彼にあたるのはお門違いだ。 「大丈夫?少し休む?」 よっぽどつらそうな顔をしていたのだろう。苗木君が心配そうにこちらを覗き込む。 苗木君には悪いけれど、今このベッドに横になれる気が全くしなかった。 「平気よ。それより……」 幸い今日は快晴だ。きっと洗濯物もよく乾くだろう。 「今日は私が心地よく寝られるよう、お布団を洗濯してほしいのだけれど」 嘘は言っていない。私の醜い部分を隠しているだけだ。 彼が断われないように、こんな言い方しかできない自分が嫌になる。 「そうだね。天気もいいし、洗濯しちゃおうか」 最近洗濯できなかったしね、と彼がうれしそうにいう。 ずきり、と心が痛む。 疑うことを知らなくて、純粋で。 彼が私と真逆だからこそひかれてしまうのだけれど。 どうしようもなく自分がどれだけ醜いかを思い知らされてしまう。 そばにいる資格なんてないのに、彼の隣は渡したくない矛盾。 「まずはお昼御飯にしましょう。おなかがすいたわ苗木君」 これ以上自分の黒い部分を出したくなくて。知られたくなくて。 話題を切り上げてしまおうとしたのはいいのだけれど。 「そうだね。じつは僕も昨日は調理ばっかりで晩御飯あまり食べてなくてさ。 それにあんまり騒がしいのも苦手だし。 ……やっぱり霧切さんと2人で食べる食事のほうが落ち着けて好きだな」 ああもう。彼は本当に思い通りにならない。 いつだって意味ありげな発言で私を困らせて。 ……嫌いになりそうな自分を彼はうけいれてしまう。 ……少しでも彼が私のそばで安心できるのなら。 こんな私でも彼のそばにいてよい理由になるだろうか。 今度苗木君に来客者用の布団をプレゼントしようと思う。 幸い収納スペースには空きがあるようだし。 それでもベッドは使われてしまうかもしれないけれど、何もしないよりはましだろう。 もちろん自分がそれを使う気は全くない。苗木君にも使わせたくない。 彼が普段寝る場所で私は寝たいのだ。誰にも邪魔はされたくない。 いつか一緒に布団に入る二人を思い浮かべながら、彼の寝室を後にした。