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「苗木君は霧切さんのことが好きなんですか?」 「――ッ!? ゲホッ、ゲホッ……! 急に何言い出すの舞園さん!?」 今日は週に一度の休みなので、午前中に食堂で僕が舞園さんとお茶を飲んでいたら、前触れもなく彼女がそう聞いてきた。 さっきまで、他愛もない雑談をして笑っていたから「冗談言わないでよ」なんて言おうと思ったら、舞園さんの表情は真剣そのもので、その瞳は真っ直ぐ僕を捉えていた。 「冗談じゃないですよ。苗木君の日頃の様子から考えた結果、私がそう思ったんです」 「ひ、日頃の様子って……例えば?」 「ええとですね、例えば……」 そう言って舞園さんは人差し指を口に当てながら僕の「日頃の様子」とやらを思い出しているようだった。 僕がドギマギしながら彼女の言葉を待っていると不意に後ろから声をかけられた。 「あら、何だかとても面白そうなお話をされているようですわね? よろしければ、わたくしも混ぜてくださる?」 「セレスさん!」 いつもの本心を隠したような笑みを顔に貼り付けたセレスさんが、こちらの承諾を待たずに僕の隣に座った。 今の話の流れの何が面白そうなのか僕には全く分からない。 「苗木君が霧切さんを慕っている――という話でしたわよね? 舞園さん」 「そうなんですけど、セレスさんもそう思いますよね?」 「ええ、わたくしも間違いないと思いますわ……わたくしというものがありながら、嘆かわしいことですわ」 「……ちゃっかりアピールしないでください。私だって、苗木君とは一番気心知れた仲なんですよ? そこの所、忘れないでくださいね? そもそも、苗木君と過ごしているのは私なんですから、セレスさんはどこか別の場所に行ってもらえませんか?」 「うふふふ。言ってくれますわね。舞園さん、あなたなかなか面白いですわ」 二人ともニコニコと笑っているけど、なんだか僕には得体のしれない恐怖が感じられた。何でこんなことになったのか、全く訳がわからない。 とりあえず、今すぐこの場から離れたい衝動に駆られた僕に追い打ちをかけるように、舞園さんが再び同じ質問をしてきた。 「まぁ、セレスさんはどうでもいいとして……それで、苗木君は霧切さんが好きなんですか? 」 「ちょ、ちょっと待ってよ! そもそもどうしてそういう風に思ったの!? 僕が霧切さんをそんな――」 「私が何かしら?」 「うわぁああっ!!」 「きゃっ!」 突然後ろから、なんとなく今一番現れてほしくないと思っていた人物の声がして僕はつい叫んでしまった。 それで舞園さんを驚かせてしまったみたいで、彼女も小さく悲鳴をあげた。 「ちょっと、急に叫ばないでくれる? 耳が痛いわ……」 「確かに、今のは品のなさすぎる叫び声でしたわね」 「ご、ごめん。それで、霧切さん……ど、どうしたの?」 僕は後ろを振り返って、いつも通りポーカーフェイス……じゃなくて、何だか物凄く不機嫌そうな顔をしていた霧切さんを見上げた。 「どうしたのって……こちらの台詞よ。あれだけ大きな声で私の名前が出されてたら、私が気になるのも当然でしょ?」 「うっ……!」 「それで、何を話していたの?」 「いや……それは舞園さんが……」 何だかよくわからないけど、僕は自分の今の状況が決していい状況ではないということだけを本能で感じ取っていた。 熱くもないのに変な汗が出る。その時だ。 「――仕方ないですね。苗木君行きましょうか」 「へ? い、行くってどこに?」 急に立ち上がって、移動を促してきた舞園さんに僕は目を白黒させて見ているしかなかった。 こんな状況なのに、どこかへ行くなんてとてもじゃないけどできない。 でも舞園さんはセレスさんや霧切さんのことは全く気にしていない様子で、僕の腕に両腕を絡めて引っ張る。 「来れば分かりますよ。というわけでセレスさんに霧切さん、ちょっと失礼しますね」 「え、ちょ、ちょっと! 舞園さん!」 そう言うと舞園さんは戸惑って動けない僕をズルズル引きずる。 何かを叫んでるセレスさんを無視して舞園さんはどんどん食堂の出口へ向かって歩いていく。背中に霧切さんの鋭い視線も感じる。 けれど僕は、舞園さんは華奢な身体に見えるのに、どこにこんな力があるんだろう――と呑気に思っていた。 するとちょうど出口である人物と鉢合わせすることになった。 「お! 苗木じゃん! ちょうど今探してたんだよねー! って、舞園は何してんの?」 「や、やぁ江ノ島さん」 「こんにちは、江ノ島さん。私は今から苗木君と用事があるので、失礼しますね」 「いやいや! これから苗木と用事があるのはあたしの方だから!」 「!」 「……苗木君と用事、ですか?」 江ノ島さんの言葉に一瞬ピクリと舞園さんの眉が上がる。チラリといつもより冷たい視線を舞園さんに向けられて僕の背筋に悪寒が走った。 「今日の午後は一緒に娯楽室でダーツをしよう、って苗木と約束してんの! だから苗木は借りて行くよ」 「本当ですか、苗木君?」 「そ、そうなんだよ舞園さん! 先週からの約束だから、ごめんね!」 「そういうことだからさ、苗木を離してやりなよ」 「……先約なら、仕方ないですね。苗木君に約束を破らせるわけにはいかないですし……わかりました」 良かった。僕は舞園さんが分かってくれたことに胸を撫でおろしてほっと息をついた。 ようやく腕を離してくれた舞園さんと別れて、僕は江ノ島さんと娯楽室へ向かった。でも、本当は江ノ島さんと約束なんかしてなかったんだ。 「江ノ島さん、助かったよ! 僕が困ってるのに気付いてあんなことを言ってくれたんだね」 「まぁ、あんた明らかに嫌そうな顔してたからね。それよりさ、嘘だったとはいえせっかく娯楽室に来たんだからダーツやらない?」 江ノ島さんが満面の笑みで提案してきて、僕は断る理由もないし、むしろ感謝しているくらいだったからもちろんそれに応じた。 あっという間に楽しい時間は過ぎて、夕食時になってしまった。 「江ノ島さん本当にダーツ上手いよね。ここに来てから初めてやったなんて信じられないよ」 「ナイフ投げるのと違って的が動かないから簡単じゃん? でも楽しかったよ、サンキューね、苗木!」 「僕こそ、楽しかったよ! ありがとう、江ノ島さん!」 ナイフ投げる状況ってどんな状況だよ――って思ったけど、それはもちろん心の奥に秘めておいた。そして僕は江ノ島さんとの会話を楽しんだ。 「マジお腹すいたんだけど」と彼女が言うので一緒に食堂に行くことになった。でも僕はすっかり午前中のことを忘れていて、少し後悔することになった。 「苗木君! やっぱり来ましたね! 夕食時だから来ると思ってました」 「あ、舞園さん」 「苗木君、食事の後付き合ってくれますか? 江ノ島さんとの約束はもう済みましたよね?」 僕を見るなり笑顔で近づいてくる舞園さん。可愛いし、よく話しかけてくれるのは嬉しいんだけど、今日は朝からなんだか怖い気がする。 「えー、まぁあたしはもう苗木に用事ないけど……」 「えっ」 江ノ島さんをすっかり頼りにしていた僕は、その言葉が残念だったけどいつまでも彼女に迷惑をかけるわけにもいかない。 「わ、わかったよ舞園さん」 「ふふっ、良かったぁ! じゃあ苗木君、食べ終わったら私の部屋に来てくださいね? 私待ってますから!」 僕が返事をすると目を輝かせて楽しそうに食堂を出て行く舞園さん。なんとなくため息をついて僕はゆっくりと食事をとった。 ……ちょっと今日は味が分からなかったな。 食事を済ませた僕は約束通り舞園さんの部屋を訪ねた。 女の子の部屋を訪ねるのは少し緊張するけどまぁ、何かあるわけじゃないし大丈夫か。 インターホンを押すと舞園さんがすぐに出てきてくれて、僕を部屋へ通した。 「遅かったですね、苗木君。来てくれないかと思いました」 「いや、まさか舞園さんとの約束をすっぽかすわけはないよ。それで僕に何の用事?」 「朝の続きです」 「……霧切さんのこと?」 「はい!」 舞園さんは笑っているけど、なんだか威圧感のようなものを感じる。すべての質問に答えなければいけないような、そんな威圧感だった。 「どうして、僕が霧切さんを好きだと思ったの?」 「だって苗木君、いつも午後の自由時間は他の人に一切目もくれず霧切さんを誘いに行ってるじゃないですか…… 私、苗木君が何度も霧切さんに桜の花束とかイン・ビトロ・ローズとかプレゼントしているのも知ってるんですよ?」 「そ、それは……」 「それに比べて私含め、セレスさんや江ノ島さん……他の人たちを誘うのは今日みたいに週に1回の休みの日の午前中か、午後のどちらかだけですよね? ちなみに必ずどちらかは霧切さんを誘ってますよね? 今日は違いましたけど」 なんでそんなに知ってるのかすごく怖い。いつも舞園さんは「エスパーですから」って言って笑うけど、ちょっとこれはアレじゃないかな。 腐川さん的なアレじゃないかな――と僕は背筋を震わせた。とりあえずここで僕がすべきことは反論だと思ったんだけど僕の視界が横転してそれどころじゃなくなってしまった。 「な、何をするの舞園さん!?」 僕が倒れたところは彼女のベッドの上。かすかに舞園さんの良い香りが鼻孔をくすぐって変な気持になりそうになるのをぐっと抑えた。 でも、舞園さんが僕の上に跨ってどんどん顔を近づけてきた。≪超高校級のアイドル≫にこんなに迫られて興奮しない男は男じゃないと思う。 「私じゃ、ダメですか……?」 「え? ま、舞園さん? それって、どういう――」 ――バンッ! 突然大きな音がした。その方向を反射的に見ると、開かれたドアの所に霧切さんが立っていた。 いつも通り無表情なんだけど、なんだか物凄く禍々しいオーラを感じる。 「……何を、しているの?」 「き、霧切さん! ちがっ! こ、これには訳があって! そう、転んだんだよ! 転んでたまたまこんなことに……!」 「あー、鍵かけ忘れちゃってたみたいですね。でもそれよりも、苗木君が彼女に浮気の現場を見られて言い訳をしている人みたいなことを言っている方がショックです…… これはもう確定ですね……はぁ……」 いまだ僕の上に跨ったままの舞園さんが、ため息をついて苦笑しながら霧切さんを見ている。霧切さんも舞園さんを睨みながらカツカツとヒールの音を立てながら近づいてきた。 「あ、あの……舞園さん、とりあえず降りてくれない?」 「……仕方ないですね」 自由になった僕はすぐに起き上がってベッドから降りた。霧切さんがスッと目を細めて舞園さんを一瞥したあと僕を睨みつけた。 僕は息が止まりそうになり、無意識のうちに背筋を伸ばして固まった。 「苗木君、あなたはまだ何かここに用事があるかしら?」 「いえ、特にありません」 「そう。じゃあ、行きましょうか。舞園さん、邪魔したわね……」 「い゛っ!? いででででっ! 霧切さんっ、痛い痛い痛い痛いッ!」 グイッと僕は霧切さんに耳をつかまれてそのまま廊下へ引きずられた。痛すぎる。霧切さんについて行かないと耳がちぎれる勢いだったから、僕は必死に歩いた。 こんなところ他の人に見られたくない――って思った時に限って誰か居るんだよね。 「あらあら、霧切さんに苗木君。どうなさったんですか? まるで浮気現場を見られた夫が立腹した妻に引きずられているように見えるのですが」 「セレスさん……あなたには、関係ないわ」 「そうですか……残念ですわ。今から苗木君を夜伽にお誘いしようと思っていましたのに……」 「……夜伽?」 「ちょっ! 何言ってるんだよ、セレスさん!」 「あら、夜伽の意味が分からないのですか? ええと、確か辞書には、” 女が男の意に従って夜の共寝をすること”とあったはずですわよ」 「意味の解説とか要らないから、お願いだから余計なことを言わないで!」 「……苗木君、どういうことかしら?」 どうしよう。霧切さんがポーカーフェイスじゃない。明らかに怒ってる。目が怖い。 「ぼ、僕そんなの知らないよ! 変なこと言うセレスさんは無視していいから!」 「……それもそうね」 「うあっ! 痛い痛いッ……!」 霧切さんはやっぱり僕の耳を引っ張る。もう色々と心身ともに痛くて僕の目には涙が浮かびだした。 そして、霧切さんの部屋に放り込まれてやっと僕の耳は解放された。 けれど、一切しゃべらなくなった霧切さんと同じ部屋に居るこの状況。気まず過ぎて逃げ出したい。でもこのまま出て行くわけにもいかない、よな? 「あの? 霧切さん……怒ってる?」 「……」 プイッ、と僕から顔をそむけてベッドに腰掛けている霧切さん。もう、僕にはどうしたらいいか分からなかった。僕の手には負えない気がした。 何を言ったらいいか分からなくて、しばらく沈黙が続いた。けれど、黙り込んだままだった霧切さんがようやく口を開いてくれた。 「……今日は、誘ってくれなかったわね」 「え?」 「……いつも誘ってくれるのに……他の女の子とずいぶん楽しそうにしていたわね」 あれ、見間違いかな。霧切さんの顔が赤い、気がする。いや本当に赤くなってる。 「き、霧切さん?」 恐る恐る僕は霧切さんに声をかけて顔を覗き込んだ。すると急に背けていた顔をこちらに向けて僕を睨んできた。 「苗木君……舞園さんと何をしていたの? セレスさんと何をするつもりだったの?」 「い、いや僕は何も……」 「わ、私だってできるのよ?」 「はい?」 霧切さんが何を言っているのかよくわからなくて「何が出来るの」って言おうと思ったら腕を引っ張られた。 今日は一体何度腕を引っ張られたり、言葉を呑んだりしているだろう。そして、体勢が崩れて僕は霧切さんの隣に座る形になった。 すると霧切さんがギュッと僕に抱き着いてきた。必然と、僕の胸板に霧切さんの柔らかいソレが押し付けられてしまう。 「ど、どどどどどうしたの!? 霧切さん!?」 僕が大慌てで尋ねると霧切さんは少し離れて、顔と顔がくっつきそうな距離で、でも少し俯いて上目づかいで言った。 「……私だけを見てくれないと……嫌よ?」 「――ッ!!」 なんだ、これ……。攻撃力半端ない。鼻血出そう。出ないけど。 いつもクールで表情もあまり変えることのないあの霧切さんが、頬を紅潮させて瞳を潤ませて、しかも上目づかいでとんでもないことを口にしている。 「何よ……その反応……」 「え、い、いや……霧切さんが可愛すぎて悶絶してただけだよ」 「か、可愛いだなんて……」 「嘘でも冗談でもないよ。 本当に可愛いよ、霧切さん。みんなに嫉妬してたんでしょ? そんなところもすごく可愛い…… でも、僕はもともと君しか見てないから安心して?」 「……本当かしら? 舞園さんと居るときのあなた、まんざらでもなさそうだったわ。 私が来なかったら簡単にキスとかしてたんじゃないかしら。そんな人の言うことなんて――んっ!?」 言葉で信じてもらえないなら行動で示すしかないと思った。だから反論を続けようとしていた霧切さんの口を僕は塞いだ。もちろん僕の口で。 経験は無かったけれど、霧切さんが可愛すぎてもう我慢がきかなかった、というのが本音。 「――む、はっ…………僕はこんなこと、霧切さんにしたのが初めてだし、霧切さんにしかしないよ」 自分で言っててかなり恥ずかしい。霧切さんの顔を見るのも恥ずかしかったけど、ここは男だ。頑張って真っ直ぐ彼女を見つめた。 霧切さんはというと、一層顔を赤くして目を泳がせている。こんなにうろたえている霧切さんを見ることは皆無に等しいからすごく、何か、来る。 そして霧切さんがためらいがちに、僕をやっと見つめ返してくれた。 「……ねぇ、もう一度してくれるかしら?」 「……あの、ごめん、止まれなくなっちゃいそうだから……」 「いいわよ」 「えっ?」 「私は……あなたになら何をされてもいいわ……だから、もう一回……ね?」 「~~~~~っ!!」 今度は照れながら微笑んで最高の殺し文句を言ってくれた霧切さん。ここまで言われたらもう何も遠慮はいらないよね! 僕と霧切さんの夜は、まだまだ終わりそうになかった、というか僕には終わらせる気が無かった。 ◇◇ ――翌日 「あら、霧切さんそれは……ふふっ。もうわたくしたちの入る余地はなさそうですわね、舞園さん?」 「……悔しいですけど、そうみたいですね。でも、私は諦めません!」 「……? 二人とも何かしら?」 「……気づいていないのですか? それなら、霧切さん耳を貸してくださる?」 僕には三人が何を話しているのか聞こえなかった。 でも、セレスさんが内緒話をするように霧切さんの耳元で何かを囁いた瞬間、霧切さんが急に顔を赤らめて首元を手で押さえた。 「あ……しまった……」 それを見て僕は気づいてしまった。自分の失態に。そして――やっぱり来た。 「苗木君! ちょっとあなたに言わなければならないことがあるわ!」 「ごめん、霧切さん! 次は気を付けるから許して!」 「まぁ! 次、だなんて苗木君は見かけによらず随分と旺盛ですのね」 「苗木君、私も食べがいがあると思いますよ!? だからいつだって乗り換えてもいいんですからね!?」 「舞園さんたちは、黙っててちょうだい! ちょっと、苗木君! 逃げるなんて苗木君のクセに生意気よ!」 ――もう嫌だ! 早くこの学園から出たい! 学園生活が終わるという50日目がはるか遠くに感じた朝だった。 おわり
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「ねぇパパ、なんでボクにはママがいないの?」 「…それはねパパとママが離婚したからなんだ」 「どうしてリコンなんかしたの?スキだからケッコンするんでしょ?ママのことキライなの?」 「ママの事は嫌いじゃないよ、むしろ好きさ」 「多分ママもパパの事が好きだし、勿論君の事も好きだよ」 「じゃーなんでリコンしたの?」 「家族のためかな」「カゾク?」 「家族って言うのはパパとママと君の事だよ」 「その為にパパとママは離婚したんだよ」 「よくわかんないよ」 「そうだね。パパも本当はよく分からないよ。本当にこれで良かったのか……」 「へんなパパ」 「それより今日は遊園地に行く約束だろ?早く着替えないといけないよ」 「うん。ボクね~もうひとりでできるようになったんだよ」 「偉いな~流石パパとママの子供だ」ナデナデ ――遊園地―― 「はぐれないように手を繋ごうね」「うん」 「何から乗ろうかな?」「ボクね~あのおウマさんにのりたい」 「よし、じゃあ並ぼうか」 「あ~楽しかった。またかえるまえにのろうね」「そうだね……」 「パパどこみてるの?」 「あっ!キョウコおばちゃんだ」 「久しぶりね。元気にしてた?」「うん!げんきだよ。いまね~パパとおウマさんにのってたの」 「見てたわよ。とっても楽しそうだったわね」 「うん!スッゴくたのしいんだ。あとでもういっかいパパとのるやくそくなんだ」 「そうだおばちゃんもいっしょにのろうよ!いいでしょパパ?」 「勿論いいとも」「誠君……」「さっ響子さんと乗っておいで」 「やったーはやくのろうよ」「慌てないで。ちゃんと並ばないといけないのよ」 「はーい。きょうはおしごとおやすみなの?」「えぇそうよ」 「だったらたくさんあそぼうね」「たーっぷり遊びましょ」 「キョウコおばちゃんつぎあれにのろうよ」 「つぎはあれ…それでそのつぎはあれ………」 「はいはい…遊園地は逃げたりしないんだからそんなに慌てないの」 「パパとも遊ばなくていいの?」 「パパがおばちゃんとあそんでおいでっていったんだよ」「……そう」 「おなかすいたなぁ」「朝からあれだけ遊んだらそりゃお腹も空くさ」 「時間もちょうどいいしお昼にしようか」「わーい」 「…響子さんもどう?お弁当作ってきたんだ」 「ありがとう―でも私も作ってきたの」「じゃあたべっこだね」 「「「いただきます」」」 「はいあーん。パパのつくったタマゴやきとーってもおいしいでしょ」 「そうね。とっても美味しいわ」 「ボクにもたべさせてー」 「はいあーん」 「あれ?おばちゃんのつくったタマゴやきパパのとおなじあじだー」 「そうよ…だってあなたのパパが私に教えてくれたもの」「響子さん……」 「ウィンナーもタコさんだし、リンゴもウサギさんだね」 「それもパパに教わったのよ」 「へーふたりってなかよしなんだね」「……」「……」 「ごちそうさまでした」 「「御馳走様でした」」 「ねーつぎはパパもいっしょにあれにのろうよー」 「観覧車か…」「折角だから乗りましょうか」 「はやくはやくー」 「わースッゴくたかいねーボクんちどこだろー」 「ちゃんと座らないと揺れて危ないだろ」「危ないから座りなさい」 「はーい……さっきからパパもおばちゃんもおそとみてないね」 「そ…そうかな」「そうかしら」 「うん。とくにおばちゃんはさっきからボクかパパしかみてないよね」 「久しぶりに会うからよ」 「ふーん。あっあれボクのかよってるようちえんかな」 「つぎはあれねーそこでみててねー」「あれは何かしら?」 「最近できた子供向けの迷路だよ。低い生け垣で作られてあってね」 「親が上から観れるようになってあるんだ」「へー」 「あれは小学校高学年向けだけどあの子は迷わず出てくるんだ」 「見ててごらん」「本当だわ。スイスイ歩いて……もう出てきたの!?」 「えへへただいまー」 「偉いぞ流石パパとママの子供だ」「凄いわね……」 「こんなのかんたんだよ。ほかのとこよりかたいじめんに」 「よくていれされてるきのほうこうへいけばいいもん」 「!!……アナタが鍛えたの?」「いいやママの血だよ……」「そう……」 うと…うと… 「もう大分眠そうね」「おいでパパがおんぶしてあげよう」「…うん…」 「今日はありがとうね。この子も凄く喜んでたよ」 「いいえ―私もこの子に会いたかったし」 「確かにこの子の才能は凄いわね……」 「私を見つけるのも観覧車でも…それにさっきの迷路でも」 「そうなんだ…正直僕もどうしていいか分からないよ」 「君と別れたのもこの子の為を思ってしたんだし」 「そうね…。私もあなた達に危険が及ばないよう敢えて別れを選んだのに」 「僕が取り立ててこの子を鍛えたわけではないのに」 「この子はどんどん成長している」 「僕らの選択は本当に正しかったんだろうか」 「どうかしらね…少なくともあの時の決断に間違いは無かったと思うわ」 「私は生まれながらの探偵―常に危険は付き物」 「それなのに一時とはいえ家庭を持てたのは幸せだったわ」 「だからこそ、その幸せを誰かに壊されるわけにはいかない」 「壊される前に自分で崩し―こうして陰からあなた達を見守るしかないの」 「響子さん…そもそも僕が探偵業を辞めて欲しいなんて言うから」 「いいのよ。その選択は正しかったんだから」 「だからこうして月に1~2度逢うことが出来るのだし」 「辛くない?」「確かに辛いけど…あなた達を失う事の方がもっと辛いわ」 「――もう出口か」「そうね…またね誠君」 「またね響子さん」ちゅ 「この子にもしてもらえるかな?」 「えぇ勿論…バイバイ私の希望」ちゅ
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やっぱり苗木君に似ているわね、というのが話してみた感想。 「誰とでも友達になれるのが私の特技です!」と自負するだけはある。 こまるちゃんが話題を出して、苗木君がたしなめながらもみんなに振る。 仲の良い兄妹ね――ちょっと焼いてしまうくらい。 私が来てからだいぶ時間が過ぎたけれども、会話は尽きない。 今日来ていないメンバーの話や高校生活のこと。 今自分たちがどんなことをしているかを聞くだけでも楽しかった。 「あ、僕ちょっとお手洗い言ってくるね」 会話がひと段落したところで苗木君が席を立った。 はいはーいとこまるちゃんが笑顔で見送る。 と、苗木君が見えなくなった途端。 こまるちゃんがやおら表情を真剣にしたかと思うと 「え、えーっとですね……女性の方にだけ聞いてほしいことがあるんです……」 そう切り出してきた。 「ど、どうしたのこまるちゃん?」 「なんだべ?悩みの相談だったら俺っちが一番だべ!」 「葉隠なんて一番しちゃダメな人じゃない……」 「葉隠はわかるけどよー。なんで俺や山田もダメなん?」 「えーっと……そのー……」 「ほらー。こまるちゃん困ってるでしょう?いいから向こういったいった!」 「そこまで言われると、逆にどんな内容か気になりますな」 「……桑田くん、盗み聞きしたら嫌いになっちゃいますよ?」 「あー、あたしも桑田さん嫌いになっちゃうかも~。いい人だと思っていたのに……」 「おーしお前らこまるちゃんのそばに行ったらぶん殴る!」 「……完全に操られてますわね」 「仕方がありませんな。大事な話のようですし。 ではこちらでは『外道天使☆もちもちプリンセス』の素晴らしさを改めて……」 「誰も聞きたくないべそんなもん……」 なんて会話を横目にしながら女子は机の一方に集まる。 苗木君は置いておいて……贔屓目に見ても相談しづらい男子メンバーだ。 込み入った話なら女子だけで話すというのは正解だろう。 「えーと……それでこまるちゃん、話というのは何ですか?」 みんなが集まったところで、舞園さんが切り出す。 「は、はい……実は……お兄ちゃんのことなんですが……」 まあそうだろう。苗木君がいなくなってから持ちかけたのだから。 問題は内容だ。……彼が一体どうしたというのだろう。 「うー……すいません!ちょっと先に経緯を説明します!」 「そうね、それでいいわよ。そのほうが私たちもわかりやすいだろうし」 「私としてはスパッと言ってほしいのですけれども」 「こらっ、セレスちゃん!」 「こまるちゃん、ゆっくりでいいですからね。」 と、ここで苗木君が戻ってきた。 「……あれ?何かあった?」 「う~……お兄ちゃんはいいからむこう行ってて!!」 「苗木君、悪いんですけれど少しだけ離れていてもらえませんか? ……こまるちゃんと女子トークです」 「まさか盗み聞きする……なんてことはないですわよね、苗木君?」 「い、いや……そういうことなら別にいいけど」 何を話すつもりなんだ?とつぶやきながら桑田君達のほうへ向かう苗木君。 「えっと……大丈夫ですか?こまるちゃん」 「あ、ありがとうございます……じゃあ、えっと、状況から……説明します。。 実はですね、私……お兄ちゃんには今日のお昼にこっちに着くと言っていたんですが…… 実際は午前中には駅に着いていたんです」 「……は?」 「つまり……、嘘の時間を教えていたと?」 「……はい」 「なぜそのようなことをしたのかしら?」 「いやー、ちょっとお兄ちゃんの家に突撃して、どんな暮らししてるのか見てみようと。 事前に行ったら絶対入れてくれないだろうし」 「ああ、なるほどね……こまるちゃんかわいいじゃん。」 えへへへーとこまるちゃんが照れ笑いを浮かべる。 ……本当こういうしぐさが苗木君そっくりだ。 しかし……今のところ、何も問題ないようなのだけれど。 うん?…………苗木君の家? 途端。嫌な予感がした。 「それで?苗木君の家には行けましたの?」 セレスさんが会話を続けるよう促す。 こまるちゃんも「は、はい!」と真剣な表情に戻った。 それはいいのだけれど……私はこの会話がどこに行きつくか大体わかってしまった。 それと同時に嫌な汗が背中をつたう。 「それで、お兄ちゃんの家に突撃したまではよかったんです。 住所もお母さんたちから聞いてましたし」 「さすがに苗木君でも、いきなり行ったら入れてくれなそうですね」 舞園さんが苦笑いしながら言う。 「ええ、そうなんです。お兄ちゃんたら全然入れてくれなくて。 扉の前で思いっきり叫んでやるぞー!って脅したらようやく入れてくれました」 「こ、こまるちゃんすごいね……」 「すごいしぶしぶでしたけどね。それで、ここからが本題なんですけれど……」 ああ、嫌な汗が止まらない。 「お、お兄ちゃんが……同棲しているかもしれないんです!!!!」 「「「………………………………………………」」」 その発言を聞いた途端。3人の目が一斉にこちらを見る。 「……?どうかしましたか?」 「いえ、なんでもないですよー?うふふふふ」 「ええ、なんでもないですわよ。それより、なぜそのような結論に?」 「あ、はい。えっとですね……まず、お兄ちゃんの家に入ったとき、ブーツキーパーがありました。 見えにくい位置にあったのでお兄ちゃんも気が回らなかったのかもしれません」 「ふむ……なるほど」 「あー……苗木そういうのにぶそうだからねー……ねえ霧切ちゃん?」 「……ええ、そうね」 「それよりこまるさん。まず、とおっしゃいましたわね。それ以外にも何か?」 「はい。……こっそり覗いた洗面台に色違いの歯ブラシが2本ありました。 あとはお茶碗などの食器が2組ずつあったり。極めつけはベッドにあった2つの枕! ……あまりにベタ過ぎて、私を驚かすドッキリだったんじゃないかと思うくらいです……」 でもそんなことできる兄じゃないんですよねぇ……とこまるちゃんがぼやく。 「家にいたのはお兄ちゃんが着替えるまでの短い時間だったのでこれくらいですが…… お兄ちゃん鈍いので私が気付いたことにすら気づいていないかもしれません…… それに……その、実はもう別れてしまっていて、その人が忘れられない兄がそのままにしてる…… とかだったらつらいじゃないですか!!」 「うーん……それはないんじゃないかな……」 「と、とにかくですね!お兄ちゃんに彼女がいるのか、同棲しているのか……気になって。 それで……みなさんが何か知っていないかな……と。 ……どうかしましたか?」 「「「いえ、何も」」」 こまるちゃんの相談内容を聞き終えた3人が一斉にこちらを向く。 朝比奈さんとセレスさんそのいやらしい笑みをやめなさい舞園さん笑っているようだけど目は笑っていないわよ 誠君不測の事態だったのはわかるけれどせめてもう少し何かできたんじゃないかしらなんで私は今日出張に行っていたのだろう ああもう早くここから逃げ出したい消えてしまいたい 「こまるさん。安心してくださいな」 「え?」 「!!」 「残念ながらわたくしははっきりとした答えは存じません。 ですが……この霧切さんが何と呼ばれていたかはご存じでしょう?」 「あ……!超高校級の探偵!」 「そうですよ。霧切さんならきっと調べてくれますよ。 ……それどころか霧切さんは今の話だけで推理できてるんじゃないですか?」 「ほ、本当ですか!?」 「え、ええ。そうね……」 先ほどから舞園さんの視線が痛い…… 「き、霧切さん!ぜひお兄ちゃんの彼女がどんな方なのか調査をお願いします!」 手を握られ、懇願される。 誠君とちがってこの子は積極的なのね。先ほどの話が本当ならなかなかの観察眼も持っているみたいだし 探偵にむいているんじゃないかしら――なんて現実逃避をしてしまう。 と、ここで朝比奈さんが 「ねーねー。こまるちゃんはお兄ちゃんの彼女を調べてどうするの?」 「え?」 ……そうだ、こまるちゃんは調べてどうするつもりなのだろう。 ……別れさせるつもりです!とは言わないだろうけど。 こまるちゃんはいったいなんと答えるのか……思わず緊張してしまう。 「別に、どうもしませんけれど?」 「「「「…………は?」」」」 だからその答えを聞いたとき、思わず目が点になってしまった。 周りの3人も同じらしい。 「だってお兄ちゃんが選んだ人ですもん。きっといい人ですよ。心配はしていません。 ただ……私に黙っているってひどくないですか!?秘密にされたらどんな人か気になってしまうじゃないですか!!」 ……なんというか。 「……苗木君、信頼されてますね……」 舞園さんがやや苦笑い気味に言う。 「まぁ……彼の性格なら当たり前でしょう」 「うん……苗木だしね」 ほんと……仲のいい兄妹なのね。 と、気が緩んだところでセレスさんが 「そうですわね……では、そんなこまるちゃんに1つアドバイスを差し上げますわ」 「アドバイス?……なんでしょう?」 「今後霧切さんを呼ぶときは"お義姉さん"と呼んだほうがよろしいですわよ。 ……いずれそうなりそうですし。」 「………………は?え?」 その一言を口にした。 こまるちゃんがこちらを見たまま固まってしまう。 おそらく顔を真っ赤にした私を。 ……なんというべきか頭が真っ白になってしまった。 ……こんなときはなんというべきだったか。 「……えっと、はい……なえ……誠君と……お付き合いさせていただいてます……」 ……普通こういうのは男の人が言うものではないのかしら。 言った後に若干後悔した。 そのまま、何も言えない私とこまるちゃんがたっぷり見詰め合い―― 「…………おにいちゃん!どういうこと!?説明を要求する!!!!」 「な、なんだよいきなり!!」 妹さんが誠君のもとへ駆けて行った。 赤くなったままの私を残して。 ……私たちにも説明しなさい、と訴えてくる3つの視線をどうかわそうかしら…… 結局、男子メンバーにも事の経緯を知られてしまった。 「かわいい妹がいて霧切と同棲してる……って苗木どういうことだおい!?」 「拙者からひと言。リア充爆発しろ!!」 「付き合ってるのはバレバレでしたけど、もう同棲してるなんて……ショックです」 「高校のときからよく2人でいたのに、これ以上何を隠すのかと」 「実は結婚してましたーって言われても驚かないかもねー」 「うう……お兄ちゃんがこんな綺麗な彼女作るなんて意外だよ……」 「ふわぁぁ……よく寝たべ。うん?みんなどうしたんだべ?」 なんて会話を、誠君と2人で顔を赤くしながら聞いていた。 いつかは知られてしまうことだろうけど……こんな形になるとは予想外だった。 ……こまるちゃんが来たとき、もう少し何とかならなかった?という視線を誠君に向けてみる。 誠君は真っ赤な頬をかきながら 「えっと……こんなことになって……ごめん。気づかなくて」 と少しずれた謝罪の言葉を口にした。 ……もちろん、私も本気で怒っているわけではない。 「別にいいわよ……いつかは……その、言わなきゃいけないことだし」 「う、うん。……ありがとう」 「こらそこ!いちゃいちゃしない!まだ質問は終わってないんだからね!」 まだまだ質問の嵐は収まりそうにない。 ……みんな明日大丈夫なのかしら? 「みんな乗れたかな?」 まさかこんなことになるなんて……と小さくため息をつく。 ようやく解散したのは終電……とまではいかないけど、かなり遅い時間だった。 やっぱりみんな明日も予定が詰まっているらしく、それぞれタクシーや電車で帰って行った。 残っているのは僕と響子さん、それと 「なによ、ちゃんと帰るから心配しないでよ」 なぜかまだ帰らないこまる。 そのままそっぽを向いてしまったが、時折こちらに振り向く。 ……僕に言いたいことがあるのだろう。 飲み会最中質問攻めにしてきたくせに……これ以上何かあるのか? やがて、ゆっくりとこっちを向き 「あ、ありがとね……今日無茶を聞いてくれて」 「お、おう……」 「すっごい楽しくて…次も誘ってくれるって言ってもらえて。 すごいうれしい…お兄ちゃんのおかげ」 お礼を言われた。面と向かって言われるのは久しぶりな気がして……妙に落ち着かない。 次の瞬間 「でもっ!黙って彼女作って同棲して!お兄ちゃんのくせに生意気だよっ!」 そう叫んだかと思うと、駅に向かって走り出した。 ……あいつらしいや。 思わず苦笑い。 「幹事お疲れ様。誠お兄ちゃん。……ふふふ」 「や、やめてよ響子さん。もう……」 響子さんはあの後開き直ったかのように堂々としたいつもの態度に戻っていた。 もちろん僕をからかうのも忘れない。 ……そこはゆずれないのか…… ほんと、今日の飲み会はいつもより大騒ぎだった 「それともう1つ!」 「あれ?」 見ると、妹が途中でこちらを振り返って叫んでいた。 …まだなにかあるのだろうか しかし、こまるは僕ではなく、響子さんを見ながら。 そして、わずかに考え込むようなしぐさをした後 「えっと…響子お義姉ちゃん!お兄ちゃんをよろしくおねがいします!」 「……ええ、こちらこそよろしくお願いします。こまるちゃん」 …そんなやりとりをした。 その言葉を聞いて、こまるは満面の笑顔になると――今度こそ振り返らずに走っていった。 「……いい妹さんね」 「ははは……にぎやかなだけだよ」 こんな形になってしまったけれど……響子さんとこまるは結構仲良くなれたみたいだ。 ただ…きっと帰ったら今日のことを両親に報告するんだろうなぁ…。 早く連れてきなさい!と電話口で叫ばれる未来がありありと目に浮かぶ。 それならばいっそ。 「ねぇ……響子さん、お願いがあるんだけど」 「?何かしら、誠君」 「今度、2人で旅行に行かない?行先は……僕の実家だけど」 「……あら、いい考えね。じゃあ苗木君、そのあと私の実家に行くのはどう?歓迎するわよ」 「……いいね。じゃあ明日さっそく予定の確認しようか」 「……いっそ違う報告もしちゃう?」 「ん?何かほかに報告することあるっけ?」 「……まあ急ぐ必要はないわね。……指輪もないし。とりあえず帰りましょ誠君」 「ちょ、ちょっと一人で納得しないでよもう。最後なんていったの?」 「なんでもないわよ、誠お兄ちゃん」
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――今は授業中だ。僕はいつものように真面目に授業を受けている。 僕みたいにただの“幸運”で入学できた身とすれば、せめて人並みに学業を修めなければ卒業後の進路が危うい。 そんな風に考えていた時期もあった。 だけどそんな僕の抱えていた不安は、隣の席で同じく授業を受けている彼女――霧切響子さんが解消してくれた。 僕らは愛しあっている。一生を共にするつもりだ。彼女が居ればいい。他に何もいらない。 今日も、僕らは隣同士席をくっつけている。 建前は彼女が教科書を忘れたから――そうなってはいるが、実のところ僕は今朝、鞄に確かに教科書を入れているのを見た。 これはサイン――彼女のその、求愛の……。 授業が始まって少し経った頃。 「……ねぇ、キスして」 いつもの様に僕の耳朶に熱い吐息がかかった。 机がくっついているだけで、一応身体は触れ合っていない。彼女が身体をこちらに寄せて優しく囁いてきた。 「だ、駄目だよ……皆が居るところでなんて」 これが二人きりの時なら何も問題ない。そりゃ未だに多少の恥ずかしさはある、けれどそれ以上に嬉しいからすぐに応えられる。 だけど……こんな、皆が居る前でなんて。それも授業中の教室で。 確かに僕は彼女を愛しているし彼女も同様だ。その気持ちを隠す気が無いとしても、この状況では無理だと思う……たぶん。 教室の皆に気付かれないよう僕も囁いた。 「私のこと……キライ?」 また耳元で優しく囁いてくる。 ……だから駄目だって。 そう目で制そうとするも僕の手を取り、その手を彼女の両の手が包み込んで、情念の込められた、潤んだ瞳でこちらを見てくる。 ――可愛すぎる。僕の自制心は一瞬で瓦解した。 キスには強い魔力があるようで、僕なんかよりずっと強い自制心を持つはずの彼女でこれなんだから、おねだりされたら僕が本気で断れるはずもない。 求められたら応えてあげないとね。 「……ちょっとだけだよ」 一度キスをすると時間感覚が吹き飛んでしまう。この前もお昼休みが終わっているのに気が付かず授業をサボってしまった。 理性を溶かされてしまうので出来れば寮に帰ってからのほうがいいけれど、毎回そんな事を考える。 でも彼女は僕の返答を聞いて顔をほころばせている。見るだけで幸せな気持ちになるような……そんな笑顔を見せられて我慢できる奴はいない。 「大好き……」 「僕も大好きだよ……」 ここでまた、いつもの様に愛を囁く。 幸い僕らは一番後ろの席なので、教師が黒板を向いている隙に素早く唇を交わせば大丈夫だろう。 そういうことにしている。僕らは愛し合っているし、校則違反がどうとかじゃあない。ただ単に恥ずかしいから。 ――――今だっ。教室の皆が黒板の方を向いている。 先生が板書した内容を説明しつつ、皆がそれをノートに書き写すその瞬間。一瞬で交わされる二人だけの秘め事。 恥ずかしいから絶対に気付かれたくない。と同時に見せ付けてやりたいと思ってしまう僕は、どこかおかしくなってしまったのだろうか。 二度、三度……ついばむ様に軽く唇を合わせる。ばれないように、ばれないように……。 素早く、何度でも何度でも……僕のこの愛しい気持ちが伝わるように。彼女の気持ちが伝わってくるように。 最初は机の下で繋がれていた手も、今は互いの頬に添えられて――互いの唇をついばむ間隔もどんどん短くなって、唇が触れ合う時間は反比例して長くなる。 ――口だけで彼女を感じたい。 その欲求に従って、両の目を閉じ、互いの口内を舌で貪り、唾液を交換し合う。 緊張から高鳴っていた胸の鼓動は、彼女を求める昂りによって早鐘を打っている。 ここは教室で、今は授業中。今更ながらに頭の片隅に追いやられていた状況を思い出した。 だけど僕の自制心では歯止めが利かない。たとえ今死んでも何の後悔もない。 「っ……」 その時、僕の舌に電気が走った。 「……ダメよ、まだ授業中なんだから……」 二人の間に透明な糸が垂れた。 いつもこうだ……自分から誘ってくるくせに僕が昂りを覚えると、必ず歯止めをかける。 確かに今は授業中だし、皆もいる。でもここまで火を付けておいてそれは無いんじゃないかな……。 せめてもの抗議として、恨みがましい目つきで見つめる。 口にだして抗議できないのは、噛まれた舌が痛いからじゃない。授業中だから……なんだ。 それでもキスを中断させるタイミングとしては最適だったようで、先生が黒板を消した後、口頭で補足説明をし始めた。 だけど僕は素直に感謝するのが癪だったので、わざと顔を背けた。 すると、さも教科書が見辛いといわんばかりに身体を密着させてきて、教科書を目隠し代わりに持ち上げた――と思ったら僕の頬にキスをしてきた。 「!?」 驚きの余り声を失ったが、悪戯っぽく舌を出して『これで許して――』なんて目で訴えかけてくるんだから…… 謝罪を受け入れた証に彼女の耳に口付けをし 「早退しよっか」 そう囁いた。
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大和田「不二咲!俺の子どもを産んでくれ!」 不二咲「ええっ!?」 大和田「頼む!他に頼める奴がいねえんだ!」 不二咲「そ、そんなことできないよぉ」 大和田「なんでだ!俺がヤンキーだからか!?」 不二咲「ち、ちがうよぉ、そうじゃなくって…」 十神「おやおや、随分嫌われてるようだな」ニヤニヤ 大和田「!?」 十神「不二咲だって粗暴で喧嘩以外能のない男の子どもは産みたくないんだろう」 大和田「てめえ…もういっぺん言ってみやがれコラ!」 十神「何度でも言ってやる。理解できるまでな」 不二咲「ふ、二人とも喧嘩はやめてよう…」 不二咲「それに大和田君の子どもは産めないよぉ…」 十神「そうだ、なぜなら不二咲は大和田ではなく俺の子を産むのだからな」 不二咲「……ええええ!?どうしてそうなるのぉ!?」 十神「決まってる。俺が優秀だからだ」 大和田「ケッ。自分で言ってりゃ世話ねえぜ」 十神「俺は事実を言ったまでだ。と、言うわけで俺の子を産んでくれるな?不二咲」 不二咲「と、十神君まで…もうやだよぉ」 桑田「おい十神、俺の不二咲ちゃんを泣かせてんじゃねえよ!」 不二咲「桑田君!?」 大和田「またややこしい奴が来やがったな」
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ナレ(舞園さんといい雰囲気になりました) 舞園「苗木君・・・・・・」 苗木「ま、舞園さん・・・・・・?」 霧切「待ちなさい、苗木君。そのまま行くとあなたは不幸になるわ。 舞園さんはとても意志が強い子だけど、それが逆に将来あなたを裏切るかもしれない。 むしろ、苗木君には行く先々で的確なアドバイスを与えて見守るような人がふさわしいと思うわ。」 舞園「まるで自分がふさわしいみたいに言うんですね霧切さん。 むしろそういう人って、いざとなったら容赦なく仲間も切り捨てるんですよね。 そんな人が苗木くんにふさわしいとは思えません、苗木君もそう思いますよね?」 葉隠「くー苗木っちだけなんでこんなにモテるべ!あれだな、モテモテになる古代のオーパーツ手に入れたんだな! おれにもそれ寄こすべ!それがだめならこの書類にサイン入れるべ!!」 苗木{なんだろう、二人とも言ってる通りな事しそうなのは気のせいかな。あと葉隠黙れ!}
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あれから数年の時が立ち 絶望によって崩壊した世界もほぼ復興した。 案外世界というか人類はしぶとい。 僕は霧切さんを誘って希望ヶ峰学園に来ていた。 正確には「元」希望ヶ峰学園跡地。 そこにあるのはただの廃墟。 他が復興していく中で都内の中心に位置するにも関わらず 誰の手も入らず、ただ時の流れに身を任せ朽ちかけていた。 理由は恐らくみんな目を背けたいんだと思う。絶望という忌まわしいものから・・・・・・。 僕達が記憶を喪わされて閉じ込められたと錯覚させられた事件から、 何の因果か何度も「絶望」対「希望」の戦いの場になった。 正直僕もあまり目を向けたくなかった。 霧切さんもそうなんだろう。 誘った時、一瞬表情が強ばったのを僕は見逃さなかったし、 今、こうして二人で学園の入り口に立ってすぐ横に居るのに話しかけ難いオーラが出てる。 「・・・・・・苗木君、貴方がここに私を誘った意図が掴めないんだけど?」 重苦しい空気の中、僕が話しかける前に霧切さんが口を開いた。 霧切さんの性格だろう。重苦しい空気だろうが、何だろうが疑問や矛盾点、 整合性がとれない問題に直面したら迷わず挑む。 霧を晴らすために切り裂くように、鋭く。 ここにきて曖昧な反応をすれば霧切さんは不機嫌になる。 はぐらかされるのが何より嫌いだと言う事は経験でわかってる。 僕も迷ってる時じゃない! ポケットの中に入ってる箱の感触を確かめながら自分に言い聞かせる。 「何ていうかさ、この場所ってつらかったこと、悲しかったことが多かったよね」 自分でも確かめるようにゆっくり話す。 「友達との思い出を失くしたり、人の生き死にに直面したりさ。絶望と戦ったり・・・・・・」 何か思い出したんだろうか、霧切さんが目を伏せた。 「でもねそれだけじゃないよね?この学校での本当の意味での学園生活は短かったけど あんなに濃密で楽しかった時間は記憶を消された程度じゃ『失われない』よ。それに・・・・・・」 言葉を切って霧切さんを見つめる。 「霧切響子さんに会えた。」 黙って僕を見つめていた彼女の目が大きく見開かれる。 「それだけでここは僕にとって凄くかけがえのない場所なんだよ。一度失いかけたけど 『再会』したのもここだし、・・・状況は異常だったけど。」 そこま話して緊張が少し抜けたのか僕は自然にふっと笑えた。 「・・・・・・まあ、そういう意味でなら私にとってもかけがえのない場所ね」 そうつぶやいた霧切さんの顔は少し赤くなっていた。 「それで苗木君はその『かけがえのない場所』で何がしたいのかしら?」 だから二人で来たのよね?とあの不敵な笑みを浮かべている。 ・・・・・・気づかれちゃったかな?まあいいや。彼女に隠し事なんて僕には無理だし。 「霧切さん以前に言ってたよね?『手』を見せる事になるのは家族になる人だけだって」 もう一度ポケットの中で箱を開ける。 「随分昔の事を覚えてるのね?でもあの時黒幕を追い詰めるために皆に見せてしまったわね」 そう言ってさりげない動作で僕から目をそらす。 「そうなんだけどさ。あの時の見せるって『状況も含めて』って事だよね?」 そう言いながら僕は霧切さんの左手を取る。 「こんな風にさ。・・・・・・いい?」 彼女は顔を真っ赤にしながら微かにうなずく。 僕自身もおそらく真っ赤だろうな。 手袋をゆっくり外し、素手になった薬指に指輪を嵌める。 めちゃくちゃ緊張して手が震えた。 「二人だけの結婚式だね。」 自分でも分かるくらい声まで震えてる。 「・・・・・プロポーズじゃなくて?」 意外そうに聞いてくる。 「プロポーズ兼結婚式かな?ほらやっぱり皆の前で手袋外すのは抵抗があるでしょ?」 「神父さんもいないし教会でもなく廃墟の前よ?」 「僕は響子さんに誓うからいいよ、それにほら」 さりげなく彼女を下の名前で呼んで元学園正面の建物を指差す 「?」 「あそこの棟が倒れかけてこっちの棟にひっかかてちょっと強引だけど十字架に見えない?」 我ながら強引で単純だなあと思う。 彼女もすぐに理解した。 そして僕がここに誘った本当の意味も理解したのだろう。 「もう、苗木君の癖になm」 「それは違うよ、響子さん!」 彼女の決め台詞を遮る。 「もう、誠の癖に生意気ね・・・・・・。私も誠に誓うわ!」 照れながら宣言する彼女は本当にきれいだった。 終わり
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結姉「わたし、まだ死ぬって決まったわけじゃないのになあ…」 霧切「お姉さまが露骨にフラグを立てすぎてしまったのが原因よ。あれでは、お姉さまが死なないと思う方がびっくりだわ」 結姉「そこまで言う!? ……もう、わたしはどうしたらいいの!?」 霧切「フラグを折ればいいのよ。お姉さまならできるわ」 結姉「……できるかな?」 霧切「ええ。それに私としても、フラグを折ってもらわなくては困るわ」 結姉「えっ?霧切ちゃんが困るようなことは別に無いような…」 霧切「あるわ。……お姉さまが死んでしまったら、私は、誰を心の支えにすればいいの…?」 結姉「えっ…」 霧切「私は、お姉さまが私を肯定して、支えてくれているから、前に進めているのよ… お姉さまがいなかったら、私には、こんなに強大な組織を敵にまわすことなんて、とてもできないわ…」 結姉「……ごめんね、霧切ちゃん。わたし、もう弱音は吐かないよ。絶対に生き延びてみせる。絶対に、お姉さまとして、ずっと霧切ちゃんを支えてみせる。だから、そんな顔しないで…」 霧切「……約束よ…?」 結姉「うん、約束する。わたしたちは絶対に、新仙たちに屈したりなんかしない!」 霧切「ええ!」 「「希望は、前に進むんだ(のよ)!」」
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「え、苗木くんの誕生日?」 探偵の仕事で遠出していた霧切響子が学園に戻ってきて告げられたこと。 それは2月5日が苗木誠の誕生日だということであった。そして現在の時間は……。 「22時……。今からプレゼントは買いにいけないわね……」 霧切は考える。苗木の誕生日となるといろんな人がプレゼントを送るだろう。 彼の人柄のよさは誰もが認めるところであり、そんな彼は誰とも交流できつながりがある。 そして……もてる。 「舞園さんは絶対に用意してるでしょうね……。戦場さんはどうかしら?」 苗木と中学が同じの超高校級のアイドル、舞園さやか。超高校級の軍人、戦場むくろ。 霧切も含め3人もの美少女が苗木に特別な感情を持っている。 特に苗木と舞園は中学が同じだったこともあり、互いに想いがあるようだ。 「……どうしようかしら」 「お困りのようだべな、霧切っち! 俺に任せるべ!」 霧切の後ろから自信満々に現れた超高校級の占い師、葉隠康比呂。 「……」 無視して部屋に戻ろうとする霧切。 「ま、待ってくれって! 話を聞くべ!」 「何?」 あからさまに嫌そうな表情をみせる霧切。 「霧切っち、誕生日プレゼントは霧切っち自身! これで間違いないべ。今日は占いの調子がいい、絶対上手くいくべ!」 「私自身……?」 夜、0時になると同時に霧切は苗木の部屋をノックする。 「はーい、あ、霧切さん! 学園に戻ってたんだね!」 「ええ、少し前に。苗木くん、こんな時間だけどお邪魔していいかしら?」 「え、う、うん。いいけど……」 夜に女の子が部屋に来るという状況に戸惑いながらも苗木は霧切を部屋に入れる。そしてベッド近くに来たところで……。 「苗木くん」 「なに、霧切さ――」 返事をする前に苗木はベッドに押し倒される。 「き、霧切さん!?」 「苗木くん。私、あなたが好き」 「!?」 苗木の驚きの表情の上から霧切はキスをする。甘く深いキスを。 「ごめんなさい。でもこうでもしないと舞園さんに勝てないから……」 キスを解き表情を曇らせる霧切。 数秒の沈黙の後、動いたのは苗木だった。 「んっ!?」 下からの苗木の不意打ちのキス。驚きながらもキスを堪能する。 「苗木くん……?」 「ボクも霧切さんが好き」 「!?] 今度は霧切が驚きの表情を浮かべる。 彼、苗木が好きなのは同じ中学でアイドルで普段から仲がいい舞園だと思っていたから。 「舞園さんも好きだよ。でもそれはなんていうかアイドルへの憧れだと思うんだ。 ボクが本当に好きなのは、霧切さん、キミなんだ!」 霧切の心に嬉しさが広がる。自分の片思いだと思っていた同級生。 彼が自分を、いや彼も自分を好いていたということが。 「苗木クン……」 「霧切さん……」 2人は再び口を重ねあい甘い空間に落ちていく。 この後どうなったか。それは2人だけの秘密。
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六枚目:牡丹に蝶 & 七枚目:萩に猪 天香国色、百花の王。 それは多くの文人墨客に愛された、高嶺の花。 見事な牡丹を描いた水墨画、テレビではその作者の生涯を追うドキュメントをやっていたはずなのだけど。 「牡丹鍋、食べたいわね」 これぞ、リアル花より団子。色気より食い気。食いしん暴バンザイである。 「…何よ。言いたいことがあるならはっきり言いなさい」 「…牡丹繋がりにしちゃ、随分縁遠いなぁ、と」 「牡丹と食には切っても切れない関係があるのよ。お酒なら司牡丹、甘味なら牡丹餅…あ、お萩もいいわね」 「節操無いんだから、ホント…」 薄紅色の花びらを重ねて咲く様は、まさに王様の装飾。 彼女の言うように、牡丹の美しさや風格から、その名前を冠した食べ物は多い。 「郷土料理を出す料亭で、一度だけ食べたことがあったけれど…あの濃厚な味わいが忘れられないわ」 「牡丹鍋には及ばないけれど…今日は豚汁だからさ、それで、」 「御馳走様」 それで手を打って食べていかないか、と、尋ねる前に。 これもこれで、いつも通りの流れである。 ウチのソファーがお気に入りのようで、ゴロゴロとくつろぐ霧切さん。 適当にチャンネルを変えては、気に入る番組がないのか唸っている。 僕としてはさっきのドキュメンタリーでも見たいのだが、生憎現在リモコンの主は霧切さんだ。 どちらにせよ料理中だし、しばらくはテレビに霧切さんの相手を任せよう。 「そういえば…苗木が」 「へ?」 唐突に名前を呼び捨てられて、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。 驚いて振り向けば、彼女もまた驚いたようにこちらを見ていて、それから急に吹き出した。 「ふふっ…違うの、あなたのことじゃなくて…でも、そういえばあなたも『苗木』だったわね」 「…正真正銘、本物の苗木誠だけど」 「ゴメンなさい、馬鹿にしようとしたわけじゃないのよ。昨日事務所からの帰りにね…」 彼女が言うには、よく通る商店街の花屋で、牡丹の苗木を見かけたらしい。 一緒に売られていた花瓶もきれいで、思わず衝動買いしそうになったとのことだ。 「衝動買い好きだよね、霧切さん」 「自分の欲望に正直に生きるのよ、私は」 歌うように言ったその言葉を、僕は感慨深く聞いていた。 かつて、学園に共に通っていた頃。 彼女はまるで、欲望や好奇心を押し殺したように生きていた。 見ているこっちまで息苦しくて、どうにかして素直になってほしくて。 良くも悪くも、今は見る影もない。 『もともと私生活はだらしないのよ…私は』 初めて彼女の部屋を訪れた時、少しだけ恥ずかしそうに、そう言われたのを覚えている。 『あなたは私を、その…何でも出来るような堅苦しい優等生、くらいに思っているかもしれないけど』 少しくらい欠点がある方が、親近感も湧く。 そう思っていられたのは、最初の数か月だけだったなぁ…。 「最近、仕事帰りにあなたの家に寄るのが日課になってしまっているわ…」 「夕飯作る時間もないんでしょ? 事前に連絡あれば、一人分も二人分も作るのに大差ないし」 「そうやってあなたが甘やかすから、私はどんどんつけあがるのよ…」 自覚はあるようだ。 もともとだらしない、と、彼女は言った。 公私の区別をはっきりと分けているから、悟られないだけだ、と。 それなら、だらしない一面を僕に見せてくれているということは、 僕は霧切さんの『私』の中に勘定されていると、考えてもいいのだろうか。 「ま、それならこれも…一種の特権かな、なんて」 「…特権?」 「だらしない霧切さんのお世話をさせてもらえる権利。人によってはご褒美かもね」 「……」 無言の抗議と共にソファーから飛んできたゴミを軽くかわして。 ソファーの向こう、おそらく少し拗ねている顔を想像して、思わず頬が緩む。 いつも凛として佇む彼女。 決して無理をしているワケじゃないだろうけど。 その苦労や、背負ってきた信念を、僕は知っているつもりだ。 だから僕の家に来ている時くらいは、羽を伸ばしてほしい。 大根、玉葱、人参、蒟蒻、じゃが芋に油揚げ。 奮発したバラ肉を大きく切り、沸騰させて灰汁を取ったら、隠し味の酒粕も。 豊富な具材が、栄養が、温かさが。 明日からの彼女を助けるエネルギーになってくれますように。 「それで、結局買わなかったの?」 手休めついでに、『苗木』の行方を聞いてみる。 「予算は問題なかったけれど、置く場所に困りそうだし…思い留まったわ」 「ああ…それに、出張中は手入れ出来ないしね。残念」 『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』。 牡丹は美人の形容の代表句でもある。 彼女の家に、苗木が飾られている光景を想像する。 白い部屋に美女一人、牡丹一輪。 なかなか絵になるな、と、ぼんやり感じ入っていると、 「…苗木君、お腹空いたわ」 唐突に、すたすたとジーンズ姿の霧切さんが台所に上がり、そのまま冷蔵庫を漁る。 「待って、今作ってるから」 「待てない。…あら、卵の燻製があるじゃない」 僕の言葉も待たずに、暴君はビールを片手に卵のパックを開ける。 うん、美女には違いないんだけど。 あの諺が示すような大和撫子からは、程遠い存在かもしれない。 「…『立てば酒持ち、座ればご飯、歩く我が家の女食客』ってところかな」 「…ちょっと。それ、誰のこと?」 耳疾く聞きつけた霧切さんの追及の視線を逃れつつ、僕は豚汁の味を見た。 牡丹鍋よりも、彼女は気に入ってくれるだろうか。 【続く】