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砂の海から我々が引っ張り上げたのは迷子のエルフとペガサスであった。 自ら遭遇してなきゃ悪い夢の話か酔っ払いの戯言だと思う所だ。 しかし・・・・。 「気付いていますか・・・ウィリアム」 ルクが背後から小声で言う。私は小さく頷いた。 天馬を駆るエルフ・・・そんな者はエストニア森林王国のペガサスナイツに他ならないだろう。 しかも、マチルダの名前には聞き覚えがある。 深緑の地に闘神ありと謳われる最強の天馬騎士・・・・マチルダ・レン・アリューゼ。 通称『彗星のマチルダ』 神を穿つ槍ロンギヌスを所持し雷を自在に操ると言われる天馬騎士団団長。 ・・・・の、はずなのだが・・・・。 「えっとぉ。私お友達と一緒に船でシードラゴン島を目指してたんです。そしたら船長さんがもう少しで島だよって言うから、私この子を少し遊ばせてあげようと思って・・・ずっと船倉の檻に押し込められて可哀想だったから~」 なんか間延びした娘だなぁ。 「なるほどね、それで空をブッ飛ばし過ぎてこの大陸を覆ってる幻視結界を越えちゃったわけね。普通透過するだけでこの大陸へは辿り着けないんだけど、ペガサスは高位幻想種だからね」 ベルナデットが言う。 なるほどそういう事か。 愛馬が優秀過ぎるのも考え物だ。 「下に砂漠が見えて~降りてみたらそのままズボーって潜っちゃってもうどうしようかと思ってたんです~」 どうしようかと思うどころの騒ぎじゃないと思うが、緊迫感がまるでない。 まあしかし、それなら来た手順を逆に辿れば下へ戻れるんじゃないのか。・・・・そのままちゃんとアンカーへ辿り着けるのかどうかはわからないが・・・。 「それはやめておいた方がいいわね」 しかしベルナデットにそれを否定される。 「幻視結界は外から中へ抜ける時より中から外へ抜ける時の方が、かかる魔力的負荷が大分大きいのよ。既にその子、中へ抜けて来た時に大分消耗しているはずよ。その上また外へ出ようとすれば最悪、何らかの障害が残る可能性があるわ」 ペガサスを見てそう言う。 確かにペガサスはグッタリしてしまっている・・・・てゆか砂の中でもがいてたせいの気もするけど・・・・。 「一緒に来ればいいんじゃない? 私たちも最後はアンカーへ行くんだから。どう?ウィル」 私は構わないよ。 「僕!!!」 ・・・・・僕は構わないよ・・・・このイジメいつまで続くの・・・・。 「わぁ、ありがとうございます~! ところで、こちらのカバの獣人さんはツェンレンからいらっしゃったんですか?」 「拙者の事かな!!!!!????」 いや、その頭デカいおっさんは人間だからね。 というわけで、私たちは天馬騎士マチルダを同行者に加えて旅を続ける事になった。 マチルダは無邪気に私たちに話しかけては良く笑っていた。 とてもあの七星や六剣皇に匹敵する四葉の筆頭将軍には見えない。 まあ、悪い子には見えないな・・・・そう決めてかかるのも早計とは思うが。 「・・・・あ」 自分の国の事を話していたマチルダの台詞が途切れた。 異変を感じ、身体を緊張させたのは我々も同時だった。 「・・・・何か来るわね」 ベルナデットが落ち着いた声で告げる。 ジュウベイもルクもそれぞれの武器を構えていた。 砂の海が震える。 下から来る・・・・何か大きな力を持った存在が・・・・。 バーン!!!!と爆発音の様な音を周囲に響かせ、大量の砂が空中へ撒き散らされた。 巨大な何かが太陽を背に砂上に姿を現す。 「・・・・・・オーレッ!!!!!」 サンバワームか!!!!! しかし若干形状が異なる・・・・腹部に並んでいる筈の無数の節足の代わりにヒレのようなものが並んでいる。 やはりこの砂海に適応した進化を遂げた亜種らしい。 大きく顎を開いたサンバワームが我々を食らわんと襲い掛かってくる。 ・・・まずいな。この足場でサンバワームの様な難敵を相手にするのは辛い。 しかし、そのサンバワームの動きがぴたりと止まる。 大きな顎を一杯に広げたまま、その顔は空中で静止していた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・。 そしてサンバワームはターンするように後ろに跳ねて砂中へと姿を消した。 気配は瞬く間に遠ざかり、やがて消えていった。 「ウィリアム」 ルクが声をかけてくる。 彼女にはわかったのだ。 私もわかった。ジュウベイもわかっただろう。 我々三人の視線がマチルダへと向く。 彼女は愛馬に「びっくりしたね~」と話しかけていた。 今、サンバワームは彼女に怯えて去っていったのだ・・・・。 砂の海を小船が進む。 ベルナデットの話ではこの砂海を抜ければ神都はすぐそこらしい。 とはいえ、この広大な砂海を抜けるには、この船で数日はかかるとの事。 今日もそろそろ日が陰ってきた。 砂漠の夜は冷える。 荷物からごそごそと毛布を出していると、 「おお、ウィリアム、宿があるぞ」 と、望遠鏡を覗き込んでいたジュウベイが言う。 ・・・・・この砂海のど真ん中に宿? 前方を見てみると、確かに宿があった。 まるで小島の様な大岩があり、その上に宿があるのだ。 「ちょうどいいわ。今日はあそこに泊まりましょう」 そうベルナデットが言い、我々は大岩へと小船を着けた。 ・・・・しかし、こんな所で営業していて客など見込めるのだろうか・・・・。 そんな事を考えながら宿の看板を見る。 『ホテル・ド・宿命』 ・・・・・・・・・・・・。 「よく来た諸君!!!我が宿命の宿屋へようこそ!!!!」 大声が響き渡る。 声を主を見る。 その男は宿の屋根の上にいた。 鋼の様な肉体の大柄な老人がいる。レスリングパンツにドテラを着込んだ老人の顔は、プロレスラーの様な口元の開いた派手なマスクに覆われていた。 ・・・・来る場所を間違えた気が凄くするんですけど!? 「とう!!!!!」と叫んで老人が飛び降りてくる。 そして丸で猫の様な身軽さで我々の前にシュタッと着地する。 「ワシは砂海の賢者『マスク・ザ・バーバリアン』」 賢者なのかバーバリアンなのかどっちかにして欲しい。 「お前たちがここへ来る事は宿命。避けられぬ運命だったのだ」 重々しく言うマスク・ザ・バーバリアン。 しかし格好のせいで雰囲気はブチ壊しだった。 「我が宿命の宿でひと時の安らぎを得るがよい。ウィリアム・バーンハルトよ」 !! 何故私の名前を!? 「ワシは砂海の賢者・・・・この砂海にあるもの全てを見通すものだ。さぁ遠慮はいらん入るがいい! ルクシオン・ヴェルデライヒ、マチルダ・レン・アリューゼ、そして顔のデカい中年」 「また端折られたわ!!!!」 ジュウベイが叫んだ。 「そして・・・・」 最後にマスク・ザ・バーバリアンがベルナデットを見た。 「まさか我が宿命の宿に『永劫存在』を迎える日が来ようとはな! 歓迎するベルナデット・アトカーシアよ」 そう言って老人はニッと微笑みを見せ、その白い歯がキラーンと輝いたのだった。 第7話 1← →第7話 3
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アミダの結果で私はマチルダと相部屋になってしまった。 ルクがしきりに反対していたが、マチルダは「え~大丈夫ですよ~。ウィリアム君まだ子供ですし~」と笑っていた。 面倒なので私は本当は自分がどうだとかそういう話はしていない。 そもそも改めて考えてみれば、私はどういった存在だ。 現在の見た目は10歳そこそこですが、本当は外見30歳前後の70台です? なんだそれ!! 我ながらチョーめんどくせえ!!!! まったくこのシードラゴン島へ来てからの自分の変わり様と言えばほとんど悪い冗談の域だ。 今回のこれで終わってくれと祈る他ないな・・・・。 夕食を終え、風呂にも入って我々は各自の部屋で休む事になった。 なんかここもえらく和風の部屋だった。畳敷きでちゃぶ台が置いてある。 ま、誰と一緒だろうと寝てしまえば関係ない。 さっさと布団に入ろう。 等と思ったら、マチルダが何かを持ってきた。 ・・・・水を張った洗面器だ。 「ちょっと仲間に連絡を入れますね~。心配してると思うから~」 水面に手を翳し、マチルダが何か唱える。 精霊語だ・・・意味まではわからないが・・・。 すると水面にチャポンと音を立てて、小さな人型の水精が姿を現した。 『やぁ、よかった連絡が取れて。今どこですか?』 水精から響くのは男性の声だ。 「ええっとですねぇ・・・今私砂の海にいて~・・・ってあら? 王様? どうして? 私魂樹ちゃんに連絡入れたのに」 『魂樹は今ちょっと手が込んでいるのでね。代わりに私が出ました』 ・・・・おい、王ってまさか。 「そうじゃなくて。どうしてエストニアにいるはずの王様が?」 『それは私がこっそりとくっついて来たからですよ』 はっはっは、と明るい笑い声を上げている王。 うお、やっぱり妖精王ジュピターだ・・・・。 「また長老様たちに怒られますよ~」 『はっはっは、国にいても色々怒られていますからね。変わりませんよ。それで、砂の海とは?』 マチルダが浮遊大陸の説明をする。 『なるほど・・・飛んでいったっきり戻ってこないと思えば、そんな所まで行っていたとは・・・・』 「それでたまたまウィリアム君と一緒になって~。今は彼のPTと行動を共にしているんです」 自分の名前が出たので何となく畏まってしまう。 『!! ウィリアム・バーンハルト氏?』 そうです、とマチルダが返事をする。 すると水精はしばし黙り込んでしまった。 「王様?」 とマチルダが首をかしげる。 『これも運命なのでしょうね・・・。マチルダ、君はしばらく彼と一緒にいて、力になってあげなさい』 「え? あ、はい、わかりました~」 何だ何だ何だ。 『我々と合流できたら私が君と交代します。私は当分彼の所で面倒見てもらう気で来ましたから』 何言ってんですか四王。帰って国の仕事して下さい。 「皆はもうアンカーの町に着いているんですよね?」 『いいえ、残念ながらまだ我々は船上です。この船は現在航路を外れ、むしろ島から遠ざかりつつあります』 え~、とマチルダが緊迫感のない驚き方をする。 『魂樹とジュデッカの2人が手が離せないのもその為です。現在彼女達は交戦中です。船が強襲を受けましてね』 ずいぶん穏やかで無い話になってきた。 『銃士隊の2人でした。「地獄のイカサマ師」JOKERと「奈落のギャンブラー」アビス能収。・・・まずは彼らを退けないと、我々は島に上陸する事はできなそうです』 「あら~大変ですね~。頑張って下さいね~」 大変そうに聞こえん。 『ではちょっと私も加勢してきますよ。船ごとJOKER氏の作った「怪奇空間」にスッポリ取り込まれてしまってね・・・』 そう言うと水精はチャポンと水中に消え、精霊による通信は終了した。 「じゃあ寝ましょうか」 うわあっさりしてるな。お仲間が大変なのでは? 「まあ、大丈夫ですよ。魂樹ちゃん強いから」 そう笑顔で言う。 仲間を信頼しているのか、単に危機感が欠如しまくってるだけなのか・・・。 まあ彼女がそう言っている以上、私にそれ以上言うことは無い。 明日も砂海越えだし、寝て体力を蓄えておくとしよう。 そして二人それぞれ布団に入って明かりを落とすと・・・スパーン!と勢い良く部屋の戸が開け放たれた。 「何ともう布団をかぶっておるのか! 夜はこれからだぞ!!」 マスク・ザ・バーバリアンだ・・・・。 バーバリアンは手にロウソクを持っている。 そのロウソクをちゃぶ台に立てる。 暗い部屋でロウソクの明かりだけがゆらゆらと揺れて、なんとも不気味な雰囲気だ。 「旅館の夜と言えば怪談話と相場が決まっておる」 どかっと胡坐をかくバーバリアン。 え、今から語る気なの。 「えー! ちょっと私そういうのダメなんです~」 いきなりマチルダがガバッと私に抱き付いてきた。 ちょ・・・息できん! 胸大きいなこの娘!!! 「まあまあ聞きなさい。いいかね。その昔、この砂海を臨むある小さな村があった・・・・」 おどろおどろしい声色を作って語り出すバーバリアン。 そして私は窒息寸前だ。 「村には仲睦まじい若夫婦がおってのう。夫は砂海で漁師をして生計を立てておった。ところがある時、流行り病で妻が命を落としてしまったのじゃ・・・」 ぐ、ぐるじい・・・・。 「夫は大層嘆き悲しんで砂海に船を漕ぎ出すと、そのまま戻って来ることはなかった・・・・。それからというもの、月の綺麗な夜には村の家々の戸に夫を探す女の影が映り、嘆き悲しむ声が聞こえたという・・・。そう、ちょうどこんな月の綺麗な夜にはのう・・・」 そう言ってバーバリアンはフーッとロウソクを吹き消した。 部屋は暗闇となり、月明かりが障子に髪の長い女の影を映し出した。 「・・・・っっきゃああああああああああっっ!!!!!!!!!」 絶叫を上げたマチルダが拳を力一杯突き出した。 ドゴッッ!!!!!!! 「・・・・・バンゲリングベイ!!!!!!」 拳の直撃を顔面で受けたバーバリアンが吹き飛んで障子を突き破り女の影に激突する。 「・・・・不器用ですいません!!!!」 そして障子の外にいたサンド高クラーケンを巻き込んで二人で夜空に消えていった。 吹き飛んだ後の廊下にはサンド高クラーケンがかぶっていたと思われる長髪のウィッグが落ちていた。 「まったくもうもうもう。本当に怖かったんですよー」 翌朝、まだマチルダはぷりぷり怒っていた。 結局バーバリアン達は戻ってこなかった。 しょうがないので黙って出発する事にする。 「あら、旅館の夜に怪談話なんて気が効いてるじゃない。雰囲気を楽しめばよかったのに」 船上でパリパリとポテトチップをかじりながらベルナデットが言う。 「何事かと思いました。・・・・私は、その・・・ウィリアムがまさかとか・・・いえ信じていたんですけど・・・・」 ルクが何事かぶつぶつと呟いている。 砂船が静かに走り出す。 さあ、神都を目指して再び出発だ。 「・・・・・カティーナちゃん・・・・すっごおおおおく寝相悪かったんですけど・・・・・・」 心地よい風を受けながら、顔面を青痣と蹄の跡だらけにしたジュウベイがそうボヤいたのだった。 ~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~ 第7話 3← →第8話 船上の死闘
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「ええ、一度はアンカーの町に着いたんですが、その後気が付いたらここへ来ていまして」 マルーダ長老の家に滞在していたエルフ、パルテリースの話を聞く一同。 「アンカーからここまでか? 気が付いたらってお前さんここはアンカーから高速船でも3日はかかるんだぞ」 何とも言えない表情でオルブライトが言う。 「私、寝相悪いですから・・・」 (そういう問題ではないと思うのだけど・・・) そう思ったものの、セシルはそれを口に出さずに苦笑するに留めておいた。 「・・・兎に角、アンタはアンカーに用事があるんでしょ? しょうがないから乗せてってあげましょうよ、ミスター」 サムトーがそう言うと、オルブライトは「かまわんよ」と了承の意を示した。 「本当ですか? 有難う御座います。ちょうどアンカーへ向かう船が着くのを待っていたので助かります・・・ぐぅ」 また寝た。 突然座りながらこっくりこっくり始めたパルテリースをサムトーが冷静な目で見ていた。 (森の剣神パルテリース・・・普段眠り続ける事で体内にチャクラを蓄えて戦闘時にはそれを消費する事で爆発的に戦闘力を高める特異なスキルを持つ戦士・・・ま、「四葉」のこのコをアンカーへ連れて行って私達のマイナスになるような事もないでしょ) セントコーラル沖2kmの位置に巨大な空母が停泊している。 財団の所有する巨大空母「ニブルヘイム」である。 その空母の甲板に1人の男の姿があった。 財団の軍事部門の最高責任者リヒャルト・シュヴァイツァーである。 シュヴァイツァーは空母の端に立ち、静かに波打つ海面を冷たい瞳で見つめていた。 「・・・下らん」 その口から失望の呟きが漏れる。 「お気に召しませんか、今回のプロジェクトは」 そのシュヴァイツァーに背後から女性の声がかかった。 振り向かずに僅かに鼻を鳴らすシュヴァイツァー。 彼は見なくとも背後にいる自らの秘書にして補佐官ジーン・ディートリヒの存在がわかる。 スーツ姿のジーンの頭部には猫科の動物の耳がある。彼女は半獣人なのだ。 「当たり前だ。・・・4億だぞ。この魚臭い僻地に基地を建造するのにかかる費用が、だ。無駄遣いの極みだな。我らとて無尽蔵の富を所有しているわけではない」 吐き捨てる様に言うシュヴァイツァー。 「しかし、彼の地に戦端を開くに当たって前線基地としてここより最適な場所は無いと・・・」 「それこそが無駄だと言うのだ。件の遺跡にある門とやらがどれ程のものかは知らんが、我らがここまでして奪いに行かなければならないものとは到底思えん。各国が奪い合っているのだというのなら勝者が決まってからその国から奪い取ればいいだけだろう。大体計画の主導が柳生霧呼とエトワールの2人だというのも気に食わん。情報部と財政部め・・・こんな時ばかり結託しおって。何なんだあいつらデキてるのか!!!」 突然叫ぶシュヴァイツァー 「・・・御二人は同性ですが・・・」 「それが何だ!! 同性だってデキてる事だってあるだろう!!」 眉根を寄せたジーンが軽くこめかみを押さえる。 「それに、今回のプロジェクトには総務部も全面的に賛同すると・・・」 「おのれ総務!! ピョートルめ!! あいつも霧呼たちとデキてるに決まってる!!! 前から怪しいと思ってたんだ!!!」 もう何でもデキてしまっている。 ジーンは嘆息して上司の沈静化を諦めると、事務的に報告事項を口にする。 「先程連絡がありまして、『ハイドラ』のリチャード・ギュリオン様がこちらへ向かっておられるそうです。24時間以内に合流の模様」 ジーンの言葉にピタリとシュヴァイツァーは動きを止めると、ガバッと振り返った。 「何だと!? リチャードだと!? あいつ俺とデキてたのか!!??」 「知るかぁ!!!!!!!」 思わずジーンは手にしたファイルで思い切りシュヴァイツァーを殴打してしまった。 「ピロシキ!!!!!」 叫び声を上げてシュヴァイツァーは海に落ちていった。 セントコーラル諸島は、現実には魚人たちの自治区であったが一応の名目上は南部大陸ロトス共和国の領土と言う事になっている。 ロトスとセントコーラルは今まで先祖代々の友好関係を維持して平和に共存してきた。 そのロトス共和国の特使が大統領からの書簡を携えてマルーダ長老の元を訪れたのは、セシルたちが滞在した日の夕刻の事だった。 「・・・なんと・・・」 書簡に目を通した長老が絶句する。 「申し訳ない・・・先程議会で法案が通りまして・・・もう覆せぬのです・・・」 特使は辛そうな表情でただ頭を下げるばかりであった。 「セントコーラルの開発計画とな・・・表向き海洋研究施設とあるが、こりゃ完全に軍事施設じゃのう・・・」 特使はその言葉を肯定も否定もしなかった。 そしてその態度が何より長老の言葉が事実であると物語っていた。 「この地の皆様の事は、妨害が無い限り今まで通りの生活を保障すると・・・」 「財団から圧力をかけられたか」 今度も特使は否定せず、ただ悔し涙を流して俯いた。 その様子を、セシルたちは隣の部屋から伺っていた。 「・・・何だか、大変な話になってきましたね・・・」 セシルが表情を曇らせる。 「こんな所に基地を作るなら、目的はシードラゴン島でしょうね」 「そんな・・・どうにかしないと・・・!」 サムトーの言葉にセシルが顔色を失う。 「まーそうしたいのはアタシも山々なんだけどねぇ・・・」 サムトーが難しい顔をして首を捻った。 (この場の人数ではちょっち手に余る話よね。本部に連絡とって増援回してもらわないとね) サムトーがそう思ったその時、表が俄かに騒がしくなった。 浜辺に何台もの揚陸艇が上陸する。 揚陸艇はどれも鉄骨やその他の資材を搭載している。 そして揚陸艇を降りた財団の兵たちが資材を展開し始めた。 『周辺の住民達に告ぐ。この地に研究施設を建造する為、今より当地は建築基地として利用させて貰う。これはロトス共和国議会の決定である。繰り返す・・・』 拡声器での宣言に魚人達に悲鳴と動揺が広がった。 何人かは兵達に詰め寄っている。 「ど、どういう事なんだ・・・!」 「やめてくれ!! 漁ができなくなれば俺たちはお終いだ!!」 だが財団の兵たちは魚人達に取り合わず、乱暴に追い払うだけだ。 遂に1人の魚人がオールを手に兵達に殴りかかった。 「くそっ・・・!! 出て行け!! お前らっ!!!」 チッと舌打ちした兵が銃口をその魚人へ向けた。 「・・・・・・あ・・・・・・」 セシルが小さく呟いたその時、パン!!と乾いた銃声が鳴り響いた。 撃たれた魚人は倒れて2,3度痙攣するとそれきり動かなくなる。 「・・・と、父ちゃん・・・」 フラフラと魚人たちの一団から子供の魚人が出てくる。 そして動かなくなった魚人の脇へペタリと座り込む。 「うわああああん!!! 父ちゃーん!!!!!!」 既に息をしていない魚人にすがり付いて泣く子を見下ろして、兵がフンと鼻を鳴らした。 「大人しくしてりゃ死ななくていいものを・・・!」 「・・・あいつら」 サムトーが怒りに燃えて1歩前へ出た。 そして気が付く。自分の脇にいたはずのセシルがいない。 いつの間にか、セシルは泣いている子供のすぐ隣にいた。 そして自分も膝を突くとその子をぎゅっと抱きしめた。 「なんだ貴様? 人間じゃないか・・・?」 兵士が訝しげに言う。 セシルが無言で立ち上がる。 そして兵の脇を抜けて海の方へ歩いていく。 「・・・?」 セシルの意図が読めない兵たちはそれを無言で見送った。 ざぶざぶと海に入ったセシルが一台の揚陸艇の前で止まった。 「・・・人の痛みのわからない人は・・・」 ぎゅっと拳を握り締める。 「生きる資格はない!!!!!!!!」 ゴォン!!!!!!!とセシルのパンチでひしゃげた揚陸艇が大きく空を舞った。 そして弧を描いて海に落ち、大爆発して海上に火柱を上げる。 その光景に一瞬絶句した兵たちだが、すぐに気を取り直して一斉にセシルに銃口を向けた。 「・・・・・貴様ぁああ!!!!」 同時にサムトーが飛び出していた。 「・・・あのコ・・・無茶して・・・!!」 しかし言葉と裏腹にサムトーはニヤリと笑みを浮かべる。 「けど悪くないわ!!! 付き合うわよセシル!!!」 そのサムトーにパルテリースが併走していた。 彼女が手にしたレイピアの刀身が冷たく月光を弾く。 「許せない・・・全て斬り捨てる方向で行きます」 怒りに輝く双眸を兵達へと向けて、パルテリースが静かに呟いた。 浜辺は乱戦になった。 とはいえ3人と勝負になる兵はおらず、徐々にその数の優位を失っていく。 「・・・!!!!」 突然襲ってくる兵達の間から強い殺気を感じたセシルが反射的に身をかわした。 ピッとその首筋に赤い筋が走った。 慌ててその傷をセシルが押さえる。 (・・・よかった。血管には届いていない・・・!) 「よくかわしましたね」 ザン!と砂地に誰かが着地した。 スーツ姿に獣の耳。ジーンだった。 その手には鋭い鋼鉄の爪がある。 「ですが次はその頚動脈を切り裂かせて頂きます」 そこにモーターボートでシュヴァイツァーも到着する。 「何だこの騒ぎは!!! お前らデキてるのか!!!!!」 浜辺に鋭いシュヴァイツァーの怒号が響き渡った。 第20話 3← →第20話 5
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ニュース @wikiのwikiモードでは #news(興味のある単語) と入力することで、あるキーワードに関連するニュース一覧を表示することができます 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_174_ja.html たとえば、#news(wiki)と入力すると以下のように表示されます。 メトロイド ドレッド攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【まおりゅう】最強パーティー編成とおすすめキャラ【転スラアプリ】 - Gamerch(ゲーマチ) 【グランサガ】リセマラ当たりランキング - グランサガ攻略wiki - Gamerch(ゲーマチ) Among Us攻略Wiki【アマングアス・アモングアス】 - Gamerch(ゲーマチ) マニュアル作成に便利な「画像編集」機能を提供開始! - ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」:時事ドットコム - 時事通信 マニュアル作成に便利な「画像編集」機能を提供開始! - ナレッジ共有・社内wikiツール「NotePM」 - PR TIMES 【Apex Legends】ヴァルキリーの能力と評価【エーペックス】 - Gamerch(ゲーマチ) モンハンライズ攻略Wiki|MHRise - AppMedia(アップメディア) 【ウインドボーイズ】リセマラ当たりランキング(最新版) - ウインドボーイズ攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) ポケモンBDSP(ダイパリメイク)攻略wiki - AppMedia(アップメディア) SlackからWikiへ!シームレスな文章作成・共有が可能な「GROWIBot」リリース - アットプレス(プレスリリース) 【ウマ娘】ナリタブライアンの育成論|URAシナリオ - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】ヒシアケボノの育成論|URAシナリオ - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】フジキセキの育成論|URAシナリオ - Gamerch(ゲーマチ) ドラゴンクエストけしケシ攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】スコーピオ杯のコース解説と強いスキル - Gamerch(ゲーマチ) サモンズボード攻略wiki - GameWith 【スタオケ】カード一覧【金色のコルダスターライトオーケストラ】 - Gamerch(ゲーマチ) 【スマブラSP】ソラのコンボと評価【スマブラスペシャル】 - Gamerch(ゲーマチ) 【ブレフロレゾナ】リセマラ当たりランキング【ブレイブフロンティアレゾナ】 - ブレフロR攻略Wiki - Gamerch(ゲーマチ) 【ポケモンユナイト】サーナイトの評価と性能詳細【UNITE】 - Gamerch(ゲーマチ) 仲村トオル、共演者は事前に“Wiki調べ” - 沖縄タイムス 【ENDER LILIES】攻略チャートと全体マップ【エンダーリリィズ】 - Gamerch(ゲーマチ) 【ウマ娘】あんしん笹針師の選択肢はどれを選ぶべき? 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その日も綺麗な青空だった。 特別な日だ。天気がいいのは良い事だ。 そう、今日は町の中心にある広場で式典があるのだ。 私も招かれているので顔を出すことにする。 広場には何本もの鉄の支柱に支えられた何かが大きな布に包まれていた。 それはエーテルビジョンのプロジェクターだった。 流石に大きいな・・・・。 エーテルビジョンとは魔力で送信された映像と音声を、受信して映し出す画面の事である。 設備に恐ろしい費用がかかるので、大国でもせいぜいが国内に数箇所あればいいというレベルの品物だ。 戦争があって攻め込まれた時、王家の財宝よりもこちらを担いで逃げた方がいいと言われる程の金がかかる。 聖誕祭に合わせて、アンカーの町もこのエーテルビジョンを設置したのだ。 歌姫セシルの舞台を直接見れない人が広場に集まってこの画面で見るというわけだ。 莫大な費用はカンパとエンリケの個人資産から賄われたらしい。 そして今日はそのエーテルビジョンの除幕式なのであった。 そしてもう一つ、広場の中央に布をかぶっている何かがある。 実はそれは町の有志が準備したエンリケの胸像なのであった。 その話はエンリケにはまだ伝わっていない。 ちょっとしたサプライズというわけだ。 エンリケの挨拶が終わった後でファンファーレと共に布を落とす段取りになっている。 間も無くエンリケがやってきた。係と最後の打ち合わせをしながら、胸像に気付いて「これはなんだい?」と尋ねている。 職員達は「それはまだ内緒ですよ」と笑って答えた。 そして式典の時間が来た。 私も整列する。後ろでいいと言ったのだが、係の者は「いえ先生は最前列でお願いします」というのでやむを得ず一番前まで出てくる。 ふう、やれやれエリスたちと別れ別れになってしまった・・・・。 ふと横を見るとデカい鼻が目に入る。 何で? 何でカルタスも一番前なの? 何で私と並べられてるの? できれば対角線上の両端くらいのレベルで離して欲しいんですけど? 頭の中をクエスチョンマークで一杯にして、私は開会の挨拶を聞いた。 別にカルタスが嫌いな訳では無いが、この手の場所で近くにいてはいけない存在だという事を経験から私は知っていた。 「えー、ではエンリケ代表より皆様にご挨拶があります」 進行役がそう言う。エンリケが壇上に上がってくる。 マイクを手に取り、こほんと一つ咳払いをした。 「皆さん、本日は・・・・」 「ぶえええええええっくしょおおおおおおおおい!!!!!!!」 カルタスがどでかいクシャミをしでかす。 胸像との位置関係が悪かった。最前列ではほとんど真下だ。 真下から強風を叩き付けられて胸像を覆っていた布はあっさり吹き飛んで消えた。 「おお・・・・」 自身の胸像を見たエンリケが驚いている。慌てて係が楽団に指示を出し、演奏が始まる。 ・・・よしいいぞ!この程度のトラブル、アドリブで乗りきってくれ!!!! くそう何で自分がやった事でも無いのにここまで罪悪感感じないといけないのだ!!! 進行役が上手く参列者達を煽り、拍手と喝采が巻き起こった。 「いつもありがとう!!」 「エンリケばんざーい!!」 紙ふぶきが舞い、口笛が鳴り響く。 壇上のエンリケはひたすら照れて恐縮していた。 その目は少し潤んでいるように見える。 彼も自分のしてきた事がこんな風に感謝されて祝福される機会など今までなかったであろうし、嬉しいだろうな・・・・。 私も何となく心が暖かくなるような気がした。 「ぶああああっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!!!!!!」 だが奴のクシャミはそんな周囲の空気を再びぶち壊しにした。 胸像との位置関係が悪かった。 真下から先程にも増す強風を叩き付けられた胸像はシュポーン!!!とシャンパンの栓を抜く時のような小気味良い音を響かせて空の彼方に消えていった。 余談だがこの日、シードラゴン島の沖合い40km程を演習航海中だったセルボルト王国の最新鋭高速戦闘艦サンダーホエール号は上空から飛来した何かの直撃を機関部に受けて動力部を大破し炎上、沈没したそうである。 「いやー笑った笑った」 オフィスに戻ってきてから、まだDDはたまに思い出し笑いをしていた。 いや笑うなよエンリケ可哀想だろう。自分の元副官なのに・・・・。 「まあ気持ちは伝わってると思うしいいんじゃない?大事なのはハートだってば。あの位ドラマチックだった方が思い出にも残るって」 まあ確かにそれはそうかもしれんが・・・。物にこだわらないDDらしい豪快な意見だった。 最後エンリケやっぱり涙目になってた。あれは絶対感動の涙だけじゃなかったと思うがなぁ・・・・。 「人間の集まりって変わった事をするのね」 静かにそうシンラが言った。 「帝国の祭典ではあのような事はありませんでした。地域によって文化は違うものです」 ルクが生真面目にそう説明している。 「いえそういう問題じゃないんだけどね・・・・・」 エリスは引きつっている。この場では彼女が一番私の感性に近いようだ。 何故シンラがこの場にいるのかと言うと・・・・。 先日私の口利きで無事にオーガの里とアンカーの町は交易が始まった。 その時にオババの手紙を携えてシンラはこの町へやってきたのだった。 手紙は私宛で、「これからは姫も人間の世界の事を知らなければならない。諸々の手配を手伝って欲しい」という内容が血文字で(怖い)記されていた。 断ったら呪われそうなので、一先ず色々と決まるまではオフィスで面倒を見る事にした。 追ってちゃんとした仕事と住居を紹介してあげよう。 「嫁だらけでござるな」 パチンと、駒を置きながら将棋盤を挟んだ向かいにいるゲンウがそう言った。 私は苦笑して、そんなつもりはないよ、と答えて自分の駒を進める。 皆大切な娘のようなものだ。 「こんなに綺麗どころを抱えて?全部娘???」 見るとなんか目を丸くしてゲンウがポカーンとしている。 ああ、そうだが・・・なんでそんなビックリしてる。 「・・・・・・・・・何を恐れておる?」 恐れる?私がかね? うむ、と肯いたゲンウが私を見る。 「何故周囲の者の幸せを誰より強く願いながら自身の幸せには背を向けようとするのだ。望んで暗い場所ばかりに目をやってそちらへ進んで行こうとしておる。御主はまさか・・・・無意識に死に場所を・・・・」 ぽん、とそのゲンウの肩に手が置かれた。DDの手だった。 ゲンウを見てDDがふるふると首を横に振る。そして優しく微笑んだ。 「・・・・そうか、ならばもう拙者は何も言うまい。ただ友として御主らの幸せを願っておる」 『この次もウィルはいくよ。私にはそれがわかる』 いつかDDに言われた台詞を急に思い出した。 そんなはずはない。私は死にたがってなどいない・・・。 だが・・・自分のこの命が誰かの幸せの為に消費されるのだとしたら・・・・? 私は頭を振ってその思考を振り払った。 やめよう、そんな事を考えてもしょうがない。 「忍法・二歩の術」 いやそれ普通に反則負けだから。 オフィスの戸がノックされた。 どうぞ、と答えると戸が開いて振袖姿の若い女性と中年の侍が入ってくる。 「失礼致します」 女性が頭を下げ、侍もそれに倣う。 「音無あやめと申します。旅の者なのですが、少々困った事がありまして、ここへ来れば相談に乗って頂けるとご紹介を頂いて参りました」 「連れの宮本十兵衛でござる」 ここはなんでも相談所だったそういえば。 椅子を勧めながらどういったご用件でしょうと聞く。 「はい、実は人を探しておりまして・・・」 差し出された写真を受け取る。 ・・・・・・・・・・・・・・。 表情には出ないようにした。見間違い様も無い白猿の老獣人。 どういった間柄の方かな。見た所種族も年齢も随分異なっておられるようだが・・・・。 あやめは一瞬の逡巡の後に私をまっすぐに見つめると 「父の仇なのです」 そうはっきりと言ったのだった。 第22話 鬼人の谷← →第23話 2
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・・・・この老獣人が、鮫の第二戦闘部隊長・・・・。 「かーっ美味いのぉ。酒はやはり人生の友よ」 ヒャッヒャッヒャッと相変らずビャクエンは笑い声を上げている。 「のぉそうは思わんかウィリアム!」 くるりと尻尾だけで枝の上に戻って胡座をかく。 私は昼間から飲むほどの酒好きではないな。 「なんじゃぁつまらん奴じゃのお。人生を豊かにするもんは酒と女じゃ!いくつになってもやめられんわ!ヒャッヒャッヒャッ!!」 そして急に笑いを止める。 「・・・・じゃが一番やめられんのは、戦じゃのおウィリアムよ」 そう言って先程までの陽気なものとはまるで違う冷たい笑みを浮かべるビャクエン。 「違うかの?」 ・・・・私は戦闘狂でもない。 「ヒッヒッヒ・・・じゃが主はワシと同じ血と鉄の匂いに魅入られた者よ。・・・・軍を辞め、生き方を変え、旅をして・・・・だが、どこかに戦いの無い場所はあったかな?」 ・・・・・・・・・・・・・・。 「逃れられぬ道なら愉しむのが吉じゃて。のぉウィリアムよ」 瞬間、ビャクエンが枝から飛び退った。一瞬前まで彼がいた場所に鋭いツララが突き刺さる。 「つまんない事ばっか喋る爺さんだね」 それはDDが放ったものだった。 「ヒヒヒヒヒ剣呑剣呑!まこと主の周囲には遊びがいのある奴が揃っておるのぉ!目移りしてしまうわい!!」 跳躍し別の木に掴まりするすると登っていく。 「『宴』の日が来たら誰と遊ぶ事にしようかのぉ!今から楽しみじゃて!ヒャッヒャッヒャッ!!」 笑い声と気配が遠ざかっていく。 しかし私の耳にはいつまでも奴の言葉と耳障りな笑い声が木霊していた。 シャークに四王会議・・・・・。 病院からの帰り道、私は考え込んでいた。 エンリケの話を聞いてからずっと頭に引っ掛かっている事がある。 もしや、シャークの・・・ヴァーミリオンの背後にいるのは四王会議のいずれかの国ではないだろうか。 他の三国の意向で不可侵が決まったもののそれを納得できない一国が自治が成り立たない状態にしておいてから乗り込んで来る、と。 まあ穴の多い推論である。 実際どのような話し合いの元にシードラゴン島の不可侵が決まったのか私は知りもしなかったし、仮に撤回されたとしても一国が自由にできるような状態にはなるまい。 この島にあるという「神の門」を手に入れようとしている国は多い、そうスレイダーは言っていた。 四国の王たちも皆神の門を狙っているのだろうか・・・・。 そもそも神の門とは具体的にどんな力があるのだろう。他の世界へも行けるというが・・・・。 まさか皆で異世界に行きたいわけでもあるまい。 うーむ・・・わからん・・・・。 そんな事を考えながら我々は商店街へと差し掛かった。 するとある食料品店の店先からガランガランとベルを鳴らす音がする。 「ただ今よりこのコーナーのお肉半額ですよーっ!!」 むっ!とエリスがそちらを見る。 「お肉半額!!!」 そう言って猛然と売り場にダッシュする。 何かすいませんね・・・・お金渡すだけで全部任せきりですもんね・・・・。 ウィンザルフのシグルドさん本当にすいません。娘さん何だかすっかり主婦っぽくしてしまいました・・・・。 するとズシン!ズシン!!と重たい足音と共に地響きが伝わってくる。 「どけぇーい木っ端マダムどもがァーッ!!!!」 店の前に影が差す。天をつくような巨大な割烹着にパーマ頭のオバちゃんが悠然と売り場に迫って来る所だった。 「たっ、民子さんよ!!!」 「商店街の覇王、民子さんが!!!」 その腰には、おそらく売り場争いに敗れた敗者たちなのであろう、力尽きた無数のおばさん達がぐったりと括り付けられている。 「フハハハハァ!! 狙うはビィーフ!!!!!」 民子さん牛肉に手を伸ばす。 もうそれだけで戦意を失った他のおばちゃん達は悲鳴を上げて逃げ惑うだけであった。 しかし民子さんの手が肉に届くより一瞬だけ早く、その肉を横から掴み取った者がいた。 「ぬぅ!? バカなぁッッ!!!」 エリスだった。 「おのれ小娘!!! その肉を寄越すがいい!!!!」 「お断りするわ!!! こっちが先に取ったんだからこっちのものでしょ!!!」 周囲の大気を震わせる民子さんの怒号にもエリスはひるまない。 フシューっと民子さんが呼気を吐いて腰を落として構えをとった。 「愚かな・・・・キサマもこのクズどもの仲間入りがしたいかあッ!!」 腰に括り付けた無数のぐったりおばさんを指して民子さんが凄む。 「相手になるわ!! このお肉は渡さない!!!」 そしてエリスも構えを取る。 「食らって消し飛べィ!!!! 茶煉慈除威!!!!!」 真上から闘気を纏った拳を振り下ろす民子さん。 ドガアッッ!!!と炸裂音が鳴り響き、周囲に衝撃波が走った。 見物のおばちゃん達が木の葉の様に吹き散らされ、周辺の店舗は店員が総出で結界を張り余波を辛うじて防いでいた。 「フッ・・・・終わったな」 民子さんが拳を引く。 そして次の瞬間その目は驚愕に見開かれた。 両手を交差し、エリスは今の一撃を防いでいたのだ。 「倒れないだと!? ・・・・ありえぬわこの覇王の一撃を受けて!!!」 「・・・・・今日は・・・・・」 エリスがゆっくりと拳を引く。 「・・・・うちはすき焼きにするんだからッッッ!!!!!」 ドォン!!!!!!とその拳は轟音と共に民子さんの鳩尾に炸裂した。 おお・・・、と民子さんがズズンと両膝を地についた。 「我が天命・・・・・ここに・・・尽きる・・・か・・・・・」 そしてがっくりとうなだれて動かなくなる。 夕闇の迫る紫色の空を、一筋の星が流れていった。 そこもう煮えてるんじゃない?とDDが言う。 夕食の席である。 ルクが私に肉を取ってくれた。 「いやー・・・・ホントえりりんには頭が上がらないねー」 しみじみ言うDD。 エリスは普段通りに食事を取っている。でもその両手の包帯と頬の絆創膏が痛々しい。 「別に珍しい話じゃないけど」 そう言って豆腐としらたきを取っている。 「主婦業というものを甘く見ていました。世の専業主婦の方々は皆あのような修羅場を潜り抜けてきているのですね」 ルクも心持ち神妙な顔つきで食事をとっていた。 「・・・って、ルク生卵使わないの?」 「あ、私は生の卵はちょっと。そのまま頂きますので大丈夫です」 なんでよー、とDDがルクに絡む。 「すき焼きは生卵で食べるから美味しいんだよー。いいからやってみなってば!」 「いいえいいですから!そのままでも十分美味しいです!」 ぎゃあぎゃあと掴み合いになる。 おいおい、と声を出しかけたその時、 「静かに食べなさい!!!!!」 とエリスの怒号が飛んだ。 二人がビクっとして、はぁいと静かになった。 何故か私まで一緒に恐縮してしまう。 ・・・・・しかし、やっぱり・・・・・。 「・・・まったくもう! 子供なんだから」 エリスは我が家にはなくてはならない存在なのだった。 ~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~ 第20話 2← →第21話 司書と忍者
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薄暗い天井を眺めて俺は横になっていた。 退屈だがここには何があるわけでもない、やる事もなきゃ寝るに限る。 実際は横になるのは禁じられていたが、その辺は黙認されてる。見張りも何も言わない。 バタン、と重たい鉄扉の閉まる音がして靴音が近づいてきた。 どうやら誰か来たらしい、見張りが敬礼する気配が伝わってきた。 扉ののぞき窓にある鉄格子越しに若い女がこちらを覗き込んだ。 結構可愛い顔だぞ、えーっとコイツは確か・・・・。 「呆れた。今年に入ってこれで3度目でしょ?あなた。余程営倉が好きなのね。もう家財道具持ち込んでここで暮らしたら?」 ああ思い出した。ノルンだ。ノルン・クライフ少尉。俺と同期の奴らん中じゃ1番頭が切れるとか言われてる女だ。 「上官を殴り飛ばしたんですって?」 アホな作戦で無駄死にするのが御免なだけだ。 ついでに言うなら部下を無駄死にさせるのはもっと御免だ。 「同期で1番の剣の使い手は同時に1番の問題児だって聞いてきたけど本当ね。バーンハルト少尉、これからは少し頭を使う事も覚えなさい。でないといつか潰されるわよあなた」 言われなくても拳だけじゃなく頭も使ったよ。鼻っ柱に一撃入れてやった。 「・・・そうじゃないわよ」 ノルンが苦笑する。 また顔を見に来るわ、と言い残して彼女は引き上げていった。 こんな薄暗いとこに何度も顔出してくるとは物好きな事だ。 さてちょうどいい具合に眠気も来た事だし、一眠りする事にしよう。 ・・・・・・・・・・・・・。 まどろむ。意識が薄ぼんやりと覚醒してくる。 また随分と昔の夢を見たものだ・・・。 ここは、どこだ・・・私はどうなったのだろう。 視界は霞んでいる。身体を動かそうとしたが無理だった。 声を出してみようとした所、私はごぼっと大きな泡を吐き出した。 !? 水中!? 私は水の中にいるのか! 横目で周囲を伺う。どうやら私は透明の棺のような容器に満たした透明の液体の中に横たわっているらしい。不思議な事に息苦しさはまったく感じなかった。 「なんじゃもう目を覚ましたのか。早いのォ。じゃがまだ動けるようにはなっとらんよ。もう少しそのまま寝ておれ」 水中からなのでボヤけて見えるが、白衣を着た老人が私を覗き込んでいる。 いずれにせよ、身体の自由がきかず、喋ろうにも泡しか吐けない私は老人の言葉に従うしかなかった。 そしてそれからさらに数日の時が過ぎ、ようやく私は容器から液体を抜かれて起き上がることができた。 「ふぅーむ・・・異常はないかの。心臓が停止してからの時間を考えて蘇生処置が間に合うかどうかは五分と言ったところじゃったがのお。お前さん運がよかったようじゃの」 老人はギゾルフィ、と名乗った。私も名乗る。 そこは見たこともない部屋だった。 床も壁も天井も銀色の金属張りで、壁には画面のようなものがいくつも並んでいた。用途のわからない装置が随所に並んでおり、ケーブルが床や壁を複雑に絡み合いながら這いまわっていた。 私は渡されたタオルで身体を拭い、用意されていた服に着替えた。 ? ・・・違和感を感じる。この身体つきはまるで・・・。 壁の画面に映りこんだ自分の姿を見てみる。 な!!!???? なななな!!!!!!????? なんじゃこらあああああああああああああああああ!!!!111111 「おーそうじゃ。蘇生処置する時にあの老いた身体じゃ多分耐え切れ無そうだったんでの。肉体年齢をいじらせてもらったぞい」 若返ってるよ!!!! 30歳前後といったところか・・・・道理で身体が妙に軽い。 全身に力が漲っている。 「戻せと言われれば元の年齢程度の肉体に戻す事もできるが、面倒だしもうやらんよ。老人に戻りたければ今から頑張ってまた数十年生きるんじゃな」 いや、不都合が無いのならここからわざわざ老人に戻してくれとは言わんけど・・・。 しかしこのような医術(技術?)があるなんて・・・。 「これはおぬしらの暮らす世界には無い技術じゃ。それ故にこの場所でしか実践できぬ」 表へ出てみようか、とギゾルフィは私を促した。 と、そこで私は気付いた。 広い部屋の隅に長椅子が置いてあり、その上で横になってすーすー寝息を立てている女性がいた。一目で誰なのかわかる。 ダイヤモンドダスト! DDだ! 「知り合いじゃろ? おぬしをここに担ぎ込んでしばらくしたら飛び込んで来たんじゃ。興奮しとって蘇生処置をするのだと理解させるのに難儀したぞい。何でもおぬしを追ってメチャクチャにゲートで飛んだらしい。無茶しよるわい、下手したら戻れん空間に出てしまう事もあるのにのぉ」 私をここへ運んだのは、ギゾルフィあなたなのか? 「いや、知らんよ。物音がしたんで外へ出てみたらこのラボのすぐ外におぬしが倒れておったんじゃ。見ればまだ死んでからそう時間が経ってなかったようじゃし、まあこれも何かの縁かと思って蘇生を試すだけ試してみたがの」 何せ自分以外の人間に合うのは数百年ぶりだでの、とギゾルフィは笑った。 「何日も寝ずにお前に付き添っておったんじゃ。今は限界が来たらしくて眠り続けておるがの。まあ寝かせておいてあげなさい」 そうか。自分を助けたのが私だと知っているのか知らないのかわからないが、心配させたようだ。ここはギゾルフィの言葉に従う事にしよう。 我々は建物から外へ出た。 頭上には灰色の空が広がっている。薄暗い世界だった。 地面は半ば水没しており、今自分達が出てきた建物のある地面を含めたわずかな陸地だけが点々と水面に続いていた。 ほとんどの建物は崩壊して水没している。巨大な塔のような建物がいくつもある。 それらも全て崩れ倒れて水に浸かっていた。 「ビルディングと言うんじゃ。この世界のタワーのようなものじゃのぉ」 ギゾルフィが解説してくれる。 ここは、どこなのだ?シードラゴン島ではないのか? 「ここはとうに滅んで砕け散った世界の破片よ。この見えとる一角以外は何も無い、ただ無が広がっておる。あの島はこういう『砕け散った世界の欠片』を吸い寄せる。その内のいくつかはゲートを通じて行き来できるんじゃ」 ただそのゲートというのは、誰でも利用できるわけではないらしい。ごく一部の限られた者だけがくぐる事ができるのだそうだ。 「ワシは今から何百年も前にゲートを使ってこの欠片へ来た。以後はここでこの世界の事を研究しながら過ごしておる。ここには時の流れというものがないんじゃ。だからワシもここへ来た時のまま歳をとっておらぬのよ」 む、という事は・・・私も・・・。 「うむ、ここを出ればゲートに入った時の時間に戻れるじゃろう」 ほお、それはありがたいな。数日も空けていたので皆を心配させているだろうと思っていた所だ。まあこの姿で戻ったら別の意味で仰天させるだろうけどな・・・。 それにしても、DDではないのなら私をここへ連れてきたのは誰なんだろう? 我々は元の建物へと引き返した。 「お帰りー」 頭の上から声がかかった。我々が見上げると背の高いフェンスにDDが腰掛けて私たちを見ていた。 私は見上げたまま、ただいま、と返事をした。 それが、彼女と私が最初に交わした言葉だった。 第14話 一つの終わりと一つの始まり-3← →第15話 2
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ノワールにて作戦会議中。 面子はスレイダー、ゲンウ、テトラプテラ女王と私の4人だ。 かなり異様な面子ではあるが、ものを探る事にかけて私の頼れるメンバーを集めてみた。 事情を説明し、シャークの事を探って貰える様に頼む。 「そなたの頼みであっては仕方があるまい」 「まあ・・・・ってよりオジさん達もこの町なくなったら寂しいし困るしね」 女王とスレイダーはそう言ってくれた。ゲンウは黙っている。 少々虫が良すぎたかな・・・。彼らは全員皆帰る国のある身だ。 ここで危険な橋を渡る必要などまったくないのだ。 それに七星であるゲンウにとって、主君である獣王アレキサンダーはシードラゴン島を、アンカーの町をどう思っているのだろうか。 等と考えているとゲンウが私の視線に気が付いた。 「どうした?」 「や、先生はお宅の返事待ってるんだと思うけど?」 とっさに返事に窮するとスレイダーが横から助け舟を出してくれる。 「そうであったか。沈黙は肯定であると取ってもらって結構だ。異存があれば口にする」 そうか、ありがとう。虫のいい頼みごとだったかと思っていた。 「それに拙者もあの集団はかねてよりきな臭いと思っておった所だ。色々と不可解な点が多い」 「そうなんだよねぇ」 スレイダーがコーヒーを出してくれながら相槌を打つ。 「かなりの資金が流れてきてるんだけどさ、バックが良くわかんないんだよね。オジさんも調べてみたんだけど金の出先とかも巧妙にカモフラージュされててね」 「拙者も調べてみたが、どうやら四王国のいずれかの国では無さそうだという事までしか調べはついておらぬ」 ・・・・シャークの背後にいるのは四王国のうちのいずれかの国ではないのか。私の仮説の一つが崩れたな。 「四王国ではないにしたってさ、力のある国は他にもあるしねぇ」 「国家かどうかはわからぬが、それに匹敵する巨大な存在であろうな。かの集団の背後にいるのは」 ゲンウとスレイダーがうーむ、と考え込む。 「わからぬ事をここでどうのと言った所で始まるまい。まずはわかる事を調べてまいれ」 女王が言う。 「確かに。では行ってくる」 ゲンウがシャッと音を立てて消えた。 「オジさんも探りを入れてみる事にするよ」 こうしてひとまずその場は解散となった。 私はその足でアヤメとジュウベイの泊まっている宿屋へとやってきた。 アヤメに部屋へ招き入れられる。 そこは和室になっていた。 ジュウベイは出かけていて留守らしい。 私にとってはそれは好都合だった。 アヤメがお茶を点ててくれる。 私も一応の作法は聞きかじったレベルでは知っているが・・・しかしなんとも落ち着かないな、この正座は。 「わざわざおいでくださったという事は何か進展があったのでしょうか」 アヤメがそう尋ねてくる。 私は肯いて肯定した。 所在そのものはまだわからない、とした上でビャクエンがシャークと呼ばれる危険な集団に現在所属している事を伝える。 「そうでしたか・・・・」 だから君は仇討ちのつもりでも、向こうはそう素直に応じるとは思えないし最悪そのままシャークとの揉め事になる。 それに・・・。 私はビャクエンが元ツェンレンの武術指南役で七星に匹敵する実力者である事も伝えた。 当然あやめも剣術にそれなりの自信があるからこそ、仇討ちとしてビャクエンを追っているのだろうが、そのビャクエンの強さは恐らく生半可なものではあるまい。 情報を提供しておいて返り討ちにされたのでは私も目覚めが悪い。 「先生は私の腕前をお疑いなのですね。ビャクエン老人と戦えるだけの実力があるのか、と」 声に怒った様な響きはなかった。私を見てアヤメは微笑んでいた。 「ご心配有難う御座います。それでは私の腕をお目汚しながらご覧頂きたいと思います」 そう言われて2人で宿の庭に出る。 アヤメが地面に付きたてた丸太に藁を巻いた。 そして刀を抜いて正眼に構えを取る。 む・・・・・。 澄んだ剣気。静かな闘気・・・・なるほどアヤメもかなりの実力者のようだ。 「はあッッ!!!」 剣閃が走る。その数3条。一瞬の事であった。 目の前の丸太がバラリと分解して地に落ちる。 「あ、いけない・・・・私力が入りすぎてしまって・・・」 アヤメが袖で口元を覆った。 丸太の背後、離れた所に立つ巨木の幹が断ち切られゆっくりと倒れていく。 ぬう、あんなに離れた巨木まで・・・・。 倒れた巨木は通りをたまたま歩いていたカルタスの頭部を直撃した。 「ム”!!!!!!!!!!!!!!!!!」 カルタスは頭部を眉毛の辺りまで胴体にメリ込ませて倒れた。 「ファハハハハーッ!今日はバーゲン!!!」 そのカルタスを踏みつけて民子さんが地響きを立てて走り去っていった。 正直なところ、ビャクエンの実力を知っているわけでもない私がアヤメの腕で奴と互角に戦えるのかどうかはそれ以上判断がつかなかった。 もう一つの心配事はジュウベイの危惧だが・・・・ただジュウベイの気持ちはわかるものの、私はそれに関してはどうしていいのかわからなかった。 忘れて生きろ、と他人が口にすることは容易い。 でもそれが正しい事なのかどうかは人によって意見は分かれるだろう。 人の命を贖えるものが命以外にあるのかどうか、それはわからない。 だから、正直に聞いてみる事にした。 ・・・あやめはビャクエンの命を奪うつもりか? そう問われて彼女は少しの間黙った。 そして静かに首を横に振った。 「いいえ、先生私は彼の命が欲しいとは思いません。ただ父の無念を父と私の流派の剣技にて晴らしたいと、それだけを考えてここまで来ました」 しかしあやめはそのつもりでも、ビャクエンは勝負となれば命を奪いに来ると思うぞ。 「それも承知の上です。互いに真剣にて立ち会う以上はどちらかの死が勝負の結果となってしまう事もあるでしょう。その結果は受け入れるつもりです。ただ・・・」 私を見てアヤメが微笑む。 「私の剣は命を奪う為のものではありません。それだけは決して変わらない私の信念です」 がちゃん!と音がして私とアヤメはそちらを見る。 ジュウベイが立っていた。音は彼が持っていた焼き物の狸を落として割った音だった。何故そんなものを持っていたのかはよくわからない。 「・・・・若者とは、思っているよりずっと早く大人になってしまうものなのだな・・・」 そしてまた天を仰いで号泣するジュウベイ。 「蒼雲ーっ!!見ているかあーっ!!御主の娘はこんなに立派に成長しておるぞーっっ!!!!」 だばだばと涙が飛んでくる。 アヤメは慣れているのか、私の側に寄ると番傘を広げた。 ・・・しかしこれで私の腹も決まった。 間もなく来るであろうシャークとの決戦、その時はこの2人にも力を借りる事にしよう。 そう思いながら見上げた大空にはジュウベイの涙が作った綺麗な虹がかかっていたのだった。 ~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~ 第23話 ヤマトナデシコ、来島-2← →第24話 祭りの前日
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そして一夜が明け、2人はオルブライトの用意した船で出航した。 その船は最新式の大型蒸気式貨物船だった。 「コイツはうちの商会でも最高の船だ。最新鋭蒸気エンジンを搭載して今世界でもトップレベルの巡航速度が出せる」 オルブライトが胸を張って言う。 「確かに言うだけあって見事な船だと思うわ。・・・けど、この船でその巨大生物とやり合えるワケ?」 サムトーが問うと、オルブライトが肩をすくめて見せる。 「実際確認してみん事には何とも言えんが、聞いてる通り本当にこの先に待ち構えてるのが蟹竜だとしたらこの船じゃどうにもできんな。この船はそのまま軍用に使えるほどの装甲と火力を持ってるが、それでも蟹竜が相手じゃ甲羅の表面にちゃちな擦り傷付けるのが精一杯ってとこだろうさ。反対に向こうは特に攻撃してこなくたって動くだけで高波が起きてこっちは巻き込まれて船は沈み、俺たちは海の藻屑となって一巻の終わりって事になる」 さらりと絶望的な事を言うオルブライト。 「・・・え・・・。それじゃどうするんですか?」 不安げな表情を浮かべるセシルにオルブライトは白い歯を見せて笑った。 「決まってるだろう・・・避けていくんだよ」 結局、船は前方に待ち構えている巨大生物を探知機で見つけると同時に大きくそれを迂回する航路を取った。 「まあ時間のロスにゃなるがね。それでも勝ち目のない怪物の待つ死の交差点を通るよりはずっとマシだろう」 オルブライトの言葉にセシルは肯いた。 「前方に雨雲も無いようだ。ここからは快適な船旅を楽しんでくれ。2日ほどでセントコーラル諸島へ着く。そこで補給を行ったら後はアンカーの町までノンストップだ」 そう言うとオルブライトは急にぐらりとよろめいた。 「・・・!・・・オルブライトさん!!」 甲板に倒れそうになるオルブライトを慌ててセシルが支えた。 「どうしたんですか!?」 オルブライトはハァハァと荒い息を吐きつつ、真っ青な顔でセシルを見た。 「・・・船酔いだ・・・。自慢じゃないが俺は船に弱いんだ。・・・そして泳げない!!」 「ええええええええええだって船乗りだったんでしょ!!!!?」 思わずセシルが絶叫する。 「・・・難儀なオッサンねぇ・・・」 そんな2人をやや離れた場所で眺めていたサムトーがそう言って嘆息した。 オルブライトが口にした通り、それから2日後に船はセントコーラル諸島が一望できる海域へと到着した。 「補給は半日程だが・・・この辺は暗礁が多くて夜に船出するのは危険だ。翌朝を待って出航する。今日一日は観光を楽しんでく・・・・おえっ!! おええええええええ!!!!!!」 船の縁からゲーゲーと吐いているオルブライトの背を必死にクルーがさすっている。 しかしセシルはそっちを見ていなかった。 船の縁に手をかけて身を乗り出すようにしてセントコーラルの島々を見ている。 「・・・凄い・・・」 その口から呟きが漏れた。 「驚いた? セントコーラルはその名の通り、珊瑚礁の島なのよ」 その隣でサムトーが説明する。 目の前に広がる海には、転々とピンク色の島々が連なっている。 当然島には草木は無く、木造の建物が並んでいた。 「後は魚人たちの楽園としても有名ねぇ」 「魚人? 魚人ってあのサハギン種族の事?」 サムトーが肯く。 「そうよ。でも一口にサハギンと言っても海には実に多種の魚人がいるのよ? ま、それはこれから自分で目にして確かめてみるといいわ」 やがて船が静かにセントコーラルの一島の桟橋へ着く。 セシルは真っ先に船を下りた。 すると早速そのセシルに声をかけてきたものがいる。 「やあ人間のお嬢さん。ようこそセントコーラルへ」 それは魚人であった。随分身体に赤みを帯びた魚人だ。 「私はシオダと申します。仲間内では『ゴールデンアイズ』なんて呼ばれてもいますが」 (・・・金目鯛の魚人さんだわ・・・) ほっほっほと笑い声を出しているシオダを見てセシルが思う。 「お嬢さんはこの地は初めてですね? それでは長老の所へご案内しましょう」 「長老さま・・・ですか?」 するとそこへややフラつく足取りでオルブライトが下りて来た。 「ここへ初めて来た奴は全員長老に面通しする仕来りなんだ」 そう言うとオルブライトはシオダに片手を上げて挨拶した。 2人は顔なじみらしい。 「俺もここはしばらくぶりだし、挨拶しとく事にしよう」 そう言うオルブライトとサムトーを伴ってセシルは長老に挨拶に行く事になった。 シオダが一行を案内したのは、浜辺に面した比較的大きな小屋の中だった。 (・・・ご不在?) セシルが小屋の中を見回すが、人影は無い。 上座には大きなサザエの様な貝が置いてある。 「よう、爺さんしばらくぶりだ。ちょっと厄介になるぜ」 無人の部屋へオルブライトが挨拶する。 すると・・・。 「・・・なんじゃ、懐かしい声がするのう」 貝の中からしわがれた老人の声がしたかと思うと、何かがヌッと貝から顔を出した。 驚いたセシルがキャッと悲鳴を上げる。 「おおっと・・・こりゃ失礼したのう。お嬢ちゃんは『貝人』を見るのは初めてのようじゃな」 半人半貝の老人はそう言ってふぉっふぉと笑った。 「ワシゃマルーダと言う。この辺りの取り纏め役みたいなジジイじゃよ」 そう言ってマルーダ長老はキセルを取り出してスパーッと吹かした。 セシルも丁寧に長老に名乗って頭を下げる。 「そうかしこまらんでもええ。一応この地域の代表として訪れる者の顔と名前くらいは知っておこうとその程度の話じゃて」 「この辺りは相変わらず平和そのものだな」 窓から外を見てオルブライトが言う。 窓から見える浜辺には漁をする魚人や観光客らしい海水浴客が見える。 「ところがそうでもないんじゃよ」 長老がフーッとため息に紫煙を混ぜて吐き出した。 「・・・財団が来とるよ」 「!!!」 長老の言葉にセシルが弾かれた様に顔を上げた。 「・・・何だぁ? 何で財団が? 一大リゾート施設でも作ろうってのか」 訝しげな表情を浮かべるオルブライト。 「・・・さてのぅ。そんな生易しい話なのかどうか・・・。来ておるのはシュヴァイツァーじゃよ」 全員が絶句する。 3人ともその名前には聞き覚えがあった。 財団のリヒャルト・シュヴァイツァーと言えば知らない者は少ないだろう。 「財団の『軍事部門』の統括者ね」 サムトーが静かに言った。 世界中に広がる巨大組織ロードリアス財団。 その傘下の全企業は『総務部門』『軍事部門』『金融部門』『情報部門』『研究開発部門』の総責任者5人によって統括されている。 『ハイドラ』と特務部隊が財団の裏の顔とするなら彼ら5人は財団の表の顔である。 一行の上に思い沈黙が舞い降りたその時、いきなりその空気をブチ壊しにするのんびりした女性の声がした。 「おはようございます・・・あふ・・・今何時でしょうか。私ちょっと寝すぎてしまったみたいで・・・」 セシルが顔を上げると、そこにはエルフの女性が立っていた。 切れ長の瞳の美人だ。胸にはピンクのリボンを首に巻いた子豚を抱いている。 「あら、お客様でしたか。これは失礼しました。私はパルテリース・ローズマリーと言います。そしてこの子は愛馬のアントワネットちゃん」 そう言ってパルテリースは子豚を皆の前に差し出した。 子豚はつぶらな瞳で一行の顔を眺めると 「ぷぎー」 と一声鳴いたのだった。 その珊瑚の島々より遥か南西のシードラゴン島。 アンカーの町にも財団の5人の統括者の内の1人が今滞在している。 アンカーグランドホテル最上階、ロイヤルスイートルーム。 弱冠17歳にして財団系大銀行7つの頭取に名を連ねる財団金融部門の総責任者エトワール・D・ロードリアスである。 そのエトワールの机の上の電話がけたたましく鳴り響く。 「あー、ハイハイもしもし、こちら無慈悲な金利と容赦無い取立てで皆様の生活を奈落の底へと一直線、いつもニコニコエトワールローンです」 エトワールが電話に出る。 「は!? 何!? 拙者拙者って何だ拙者拙者サギかオイ!!! そーゆーのは間に合ってますよゴルァ!!!」 受話器に向かって叫ぶエトワール。 「・・・ああ、何だお前かよ。 何? もう殺ったん? ・・・っていつまでたっても連中が来ない? 知らねーよそんなの。 ・・・え? ぶっ!!!!! お前クラブドラゴンで街の近くで待ち構えてんのかよ!!? アホかそんなもんノコノコ近付いてくる奴なんかいるはずねーだろ!! は!? 武士は正々堂々!? ・・・やかましいわお前共和国産まれの共和国育ちの生粋のファーレンクーンツ人だろうが!!! この元銃士が!!!!」 ガチャン!!!と乱暴に受話器をフックに叩きつけるエトワール。 そして何事かと見ているアイザックと大龍峰の2人に 「・・・リチャードのバカが、やり過ごされやがった」 と顔をしかめて言ったのだった。 第20話 2← →第20話 4
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葉の間より漏れる陽光が心地よい。 そして耳に届く小鳥の囀りも眠気を誘う。 私は読みかけた本を閉じた。 しらずにずり落ちてきた愛用の丸いメガネの位置を直す。そして伸びをする。 この王宮庭園のすぐ脇に生えた楡の巨木の枝の上は私の特等席だ。 私は用事の無い午後はここで本を広げて過ごす事が多い。 ・・・・しかし、この眠気に抗うのは難しい。 しばしの午睡を取る事にしましょう。 そう思ったその時、私の耳に聞きなれた声が飛び込んできた。 「・・・・王様! ジュピター様!」 枝から見下ろす。 眼下に少女がいる。 意思の強そうな大きな瞳と巻き毛が印象的な銀の鎧の女性。 ・・・やあ、魂樹。君もどうですか?一眠り。 私は手を上げて彼女に声をかけた。 魂樹は眉間に人差し指を当ててふーっと大きなため息をついた。 「そんな事より王様、賢老会議の皆様が探してますよ。王はどこだって」 ほう。 首を捻る。 おかしいですね。定例の会議の日でもないのに彼らが私を探している等と。 「・・・・・今日は会議の日です」 ・・・・・・・・・・・・・・。 ぽん、と膝を叩く。 そうだ。言われてみれば会議の日は今日でしたね。 慌てて枝から飛び降りようとしてふと考える。 ・・・まあ、私がいてもいなくても何も変わりませんね。 今日は欠席とさせてもらいましょう。 「先週の会議もそう言ってお休みになったじゃないですか!!」 魂樹が怒った。いけませんね、この激しい気性は祖母と母親譲りですね。 魂樹・ナタリー・フォレスティア・・・・代々ペガサスナイトを輩出し続ける由緒正しきフォレスティア家の一人娘。 彼女の祖母と母親には、私も何度もスピアの柄でどつかれて流血したものです。 魂樹と二人で王宮の廊下を歩く。 そういえば思い当たる事がある。彼女は近くある使命を帯びて国外へと旅立つ身だ。 ・・・・出発は、明日でしたね。 そう声をかける。はい、と彼女がこちらを見て頷いた。 イールフォルトの調子はどうですか? と、彼女の愛馬の調子を問うてみる。 魂樹の表情がやや翳った。 「・・・イールは、連れて行けません。もう高齢ですから」 なるほど。イールフォルトは元々が彼女の母の愛馬だった。 確かにもう国外での長旅は辛い年齢でしょう。 では馬は? 「今日、マチルダ団長が白の森へ獲りに行っています。私は自分で行くって言ったんですけど・・・・」 うつむく魂樹。 マチルダが行ってくれましたか。 マチルダ・レン・アリューゼはエストニアの誇る天馬騎士団の団長にして、四将軍フォーリーヴズクローバーの筆頭だ。 うつむいていた魂樹が急にがばっと顔を上げた。 「でも、私不安なんです!! 先週もマチルダ団長がアイリーンの為に一頭捕獲してきたんですけど、あの子はどう見たって・・・・」 「あ、王様ー。やっほー! 魂樹先輩もやっほー!」 噂をすればなんとやら。 そこへ天馬騎士アイリーンが声をかけてくる。 ショートカットに大きな丸い瞳がトレードマークの新米天馬騎士だ。元気で明るい性格で皆に愛されている。 「見て下さい私のパンジャ!もうすっかり仲良しなんですよ!」 と、彼女は笑顔で自らの跨る『愛馬』の頭を撫でた。 パンジャは頭を撫でられると気持ちよさそうに長い鼻を振り上げてパオーンと鳴いた。 「ゾウじゃない!! アイリーン!! その子ゾウよ!ペガサスじゃないから!! あなたそれじゃゾウナイトじゃない!!!!」 魂樹が叫んだ。 「えー。そんな事ないよねーパンジャ。ペガサスだもんねー」 パンジャから降りたアイリーンが頬擦りすると、パンジャがバルルル、と鳴き声を上げた。 「・・・・ゾウよ・・・絶対ゾウだし・・・・」 ぶつぶつと魂樹が呟く。 するとそこへ、件の天馬騎士マチルダがやってきた。 「あ~いた~。魂樹ちゃ~ん、ただいまぁ~・・・・・・はぅ!」 駆け寄ってくる途中で転んだ。 「も~やだ~。あら、私のメガネどこ~? 私メガネがないともう何も見えなくて・・・・」 慌ててガサガサと周囲を掻き回すマチルダ。 「もう!団長! 何やってるんですか!!」 魂樹もしゃがみ込んで周囲を捜索する。 ・・・・メガネ? 駆け寄ってくる前からかけてなかったような・・・? 「あ~・・・・今日コンタクトにしたんだったわ~」 ぽん、と両手を合わせてマチルダが立ち上がった。 「ちょっと!! 何ですかそれ!!!!」 「や~ん、魂樹ちゃん怒っちゃダメよ? 魂樹ちゃんだってこれから栄養をとっていけばちゃんとメロンさんに育ちますからね」 マチルダのセリフに合わせて彼女の立派な胸がぶるんと揺れた。 「んがあ!! そんな話はしてねえ!!!!!!!」 そして魂樹はキレた。 「・・・・そ、そんな事より団長・・・私の新しい天馬・・・・」 ぜいぜいと荒い息をつきながら魂樹が言う。 マチルダがぽん、と両手を合わせた。 「あ、そうそう。ちゃんと連れて来ましたよ~。ちょっと庭園まで連れてこれなかったから門の所に待たせてあるの。行ってあげてくれる?きっと気に入ってくれると思うわ~」 「も、門・・・・?」 目をしぱしぱさせて魂樹が庭園のゲートの方へと歩いていった。 そして数分して、 「ぎゃあああああああああ!!!!!!何じゃこりゃああああ!!!!!!!!!!!!」 と、宮殿を震わせる絶叫が響き渡ったのだった。 「な、何なの白の森って・・・聖域じゃなかったの・・・・なんであんなものが生息してるの・・・・」 30分後。私の執務室にて、魂樹はまだ虚ろな目をしてぶつぶつと呟いている。 何か余程ショックなものを見たらしい。 マチルダはそんな魂樹に「はい、魂樹ちゃんあ~ん」と言いながらケーキを侍従が持ってきたケーキを食べさせていた。 私の今の仕事はそんな彼女達に、アンカーの町の代表エンリケ氏へとしたためた親書を手渡す事だった。 さて・・・・どう書きましょうか。失礼の無いようにしなくてはね。 ペンを走らせる。 ・・・ここに、親書を私の信頼する四葉の3名に・・・・。 「あ、違いますよ~。王様、四葉は2名です」 マチルダが言う。 ・・・・・ん? 書面から顔を上げる。 2名? シードラゴン島へ赴くのは君たち2人と四葉のパルテリース将軍のはずでは? 「パルテリースは行けなくなっちゃったんです」 マチルダのセリフを魂樹が続ける。 「先週の賢老会議で長老様方が反対されたんですよ。『そんな世界のはずれの島での任務に四葉が3人も行くなんてもってのほかだ!』って」 なんと・・・・。私が自主的欠席をしている間にそんな事が。 すると、島へは君たち2名で行けと? 共和国は三銃士を全員送り込んだと聞く。何かあった際に2人では厳しい。 するとマチルダと魂樹は顔を見合わせると、首を横に振った。 そして何ともいえない複雑な表情で 「3人目に、ジュデッカ・クラウドを連れて行けと言われました」 そう言ったのだった。 冷気が足元から這い上がってくる。 私は地下牢へと続く螺旋階段をマチルダと魂樹の2人を伴って下っている。 この先の牢に、ジュデッカ・クラウドが収容されている。 「・・・・私は反対です。彼女は確かにとても強いけど・・・・でも危険な人ですから・・・」 うつむき加減に魂樹がそう呟いた。 そして我々は目的の牢へと付く。 魔術が施され、厳重に閉ざされた三枚の扉を順に開錠していく。 三枚目の扉が開け放たれると、薄暗い独房の部屋に光がさした。 奥の人影が顔を上げる。 美しい黒い長髪が揺れる。冷たい光を放つ瞳の女性エルフ。 手足を戒める枷についた鎖がジャラジャラと鳴った。 「こんな地の底までわざわざいらっしゃるとは、この『味方殺しの』呪われたジュデッカめにどのようなご用件でしょうかね?」 丁寧な口調。でもその言葉には嘲笑が含まれている。 久しぶりですね、ジュデッカ。あなたに仕事があります。ここから出てもらいますよ。 彼女の手足の枷を魔術を使って外す。 開放された彼女は力一杯伸びをすると手足をふるふると振った。 「・・・それで、敬愛する我が王よ。今度は誰を殺しましょうか?」 そう言って彼女は私を見ると、優しく微笑んだ。 ~妖精王ジュピター回顧録より~ 第4話 Northern Tiger← →第6話 地獄の赤、再び