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ポケモンGO シードラのステータス 図鑑No 117 名前 シードラ タイプ みず 最大CP 1713 最大HP 98 進化 しない
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10年前、大嵐に巻き込まれたレディ・ダイヤモンドダスト(DD)の船団によって発見された島。 「神の門」の影響で特殊な磁場に覆われている。 希少で珍妙な生物が多数生息しており、未開の地も多い。 島の周りにシードラゴン(海藻に擬態するタツノオトシゴに似た魚)が数多く見られたことから、シードラゴン島と名づけられた。 島探索の拠点であった地が後に発展し、現在のアンカーの町となった。 「四王会議」によって自治が認められているが、「神の門」の力を狙って支配下に置こうとする勢力は多い。 関連項目 アンカー(錨)の町
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この島にいて彼女の名前を知らない物は居ない。 「レディ・ダイヤモンドダスト」 彼女はある武装商船団のリーダーだった、 そんな彼女の指揮する船団が航海の最中に大嵐に巻き込まれ、この島へと流れ着いたのは今を遡る事10年前の話になる。 彼女は島の周りに数多く見られたシードラゴン(海藻に擬態するタツノオトシゴに似た魚)よりこの島をシードラゴン島と名付けた。 こうして我々西方文明の歴史に始めてシードラゴン島の名前が刻まれたわけである。 もっとも、今だにこの島を彼女の名前をとってDDアイランドと呼ぶ者も決して少なくない。 彼女は漂着した地点に仲間と共に拠点を築き、島の探索へと乗り出した。 そして半年が過ぎ、いつもの様に数名の仲間を伴って探索へ出た彼女はそのまま拠点に戻ってくる事は無かった。 10年が過ぎても彼女の消息は杳として知れない。 未だに目撃話がいくつも聞こえてくるが、そのいずれもが眉唾ものだ。 彼女の築いた拠点は今では立派な港町になり、アンカー(錨)の町と呼ばれている。 今日も多くの冒険者達がアンカーの町より島の探索に出かけて行く。 そして出発する彼らを港に鎮座する彼女の銅像が静かに見送るのだ。 ~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~ 第3話 傭兵カルタス← →第5話 船大工ゲンジ
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魔人「解き放つもの」ベルナデット・アトカーシア。 灰色の猫はそう名乗った。 ぬう、まさか魔人から助けて欲しい等と頼み事をされる事になるとはな・・・・。 『魔人を助けるなんてまっぴらゴメン?』 猫は澄ました顔をしている。まあ猫の表情って後は怒った顔くらいしか私はわからないが・・・・。 頭ごなしに拒否する気はない。まずは話を聞こう。 『ありがとう。この子の身体を通して会話ができる時間は非常に限られているの。だから手短に言うわね』 そう言うと猫は居住まいを正した。 『ここは浮遊大陸「プラネリューテ」 古代魔法王国期から大空にある大陸よ』 ・・・ちょっと待ってくれ。そんな大陸が空に浮かんでいれば下に気付かれないはずは無いと思うのだが。 『それはこの大陸を覆っている永世魔法結界の効果よ。結界は下界から姿を隠し、陽光も透過させる効果があるの。だから下からは見えないし影も落ちないから気づかれる事は無いというわけ』 「途方もない話ですね・・・・」 ルクが言う。 何故8人の魔人の1人である君がこの浮遊大陸にいるのだ。魔人は島から出られないのではなかったのか? 『この大陸が貴方達がシードラゴン島と読んでいる土地の一部だからよ、ウィリアム。と、言うよりもこの大陸の一部がシードラゴン島だというべきね』 ! ・・・・シードラゴン島がこの大陸の一部・・・・? 『本来、古代魔法王国期にシードラゴン島も空へと浮遊するはずだったわ。でもあの島は「船」の影響が強すぎて浮遊の魔術が上手く作用してくれなかったの。だからやむを得ずあの一角は諦めて残りを空へ飛ばしたのよ』 始まりの船か・・・。神の門がその中にあるという。 猫がこくんとうなずいた。 『初めに封印が施された時に、この大陸もその影響下に含まれたわ。だからここは島外にはカウントされないのよ』 なるほどな・・・・。 『この地をずっと治めているのは「パーラドゥア皇国」 私は代々の王の相談役としてずっとこの国で暮らしてきた。今代の神皇ユーミルもカリスマと慈愛の心を持つ素晴らしい統治者だったわ。・・・・だけど、今から5年前に全ては変わってしまった・・・・』 ベルナデットの声のトーンが落ちる。いよいよ核心か。 『5年前にある事件があって、その時から神皇はこの世の全ての事柄に一切の興味を持たなくなったの。生ける屍状態というわけね・・・。そしてそれ以後王宮の内外で不穏な考えを持つ者達が暗躍を始めたわ』 王は抜け殻となり、その後の権力を狙う者達が出た・・・か。いくらでもある話だ。権力者は衰え、後釜を狙う者が出る。 政治の事情は空の上も下も変わらないな。 『それから1年ほどして、国王派だった私はその不穏な考えを持つ者の1人、ラーの都の太守ナバールに罠にかけられて幽閉されたの』 魔人を罠にかけて閉じ込めるとは・・・・そんな恐ろしい術者がいるのか・・・。 『あ、私自慢じゃないけど戦闘力だけ見れば魔人の中では最弱だから。テリトリー内に他の魔人を迎え撃っても7人誰にも勝てないわ』 ぶ! 確かに自慢にはならないなそりゃ!! そしてベルナデットは「時間が来た」と言って黙り、猫はただの猫になった。 今はルクの膝の上で寝息を立てている。 「いやはや何とも・・・どでかい話になってきたのう」 ジュウベイは難しい顔で唸っている。 私はと言えば、脳内で先程のベルナデットの話を反芻していた。 話の概要はわかったがまだ腑に落ちない点が多々ある。 この大陸も封印の影響下にあると彼女は言った。しかしここには皇国があり人が生活している。 聖地はそんな土地を恐ろしい力を持つ魔人達の流刑地に選んだのか? まあ以前も記述したように聖地の者達は自身の価値観に従った裁きを下す。この地を「諸共」として良いと聖地が判断するだけの何かがあったのかもしれないが・・・・。 「それで、どうするのですか、ウィリアム。ベルナデットを助けに行くのですか?」 ルクが聞いてくる。私は、今はまだなんとも言えない、と答えた。 まずは自分の目で色々と確かめてみない事には・・・・。 そういえば話のスケールが大きすぎて自分達が下界に戻る方法について尋ねるのを忘れていた。 次に話をする時にはその事も問い質さなくてはな。 「では、ラーの都とやらに行ってみるのか」 ジュウベイの問いに、私は肯いて応えたのだった。 それから村人に聞いたラーの都への道を歩き続けること2日程。 我々の目の前に城砦に囲まれた巨大な都市が姿を現した。 「かなりの規模の都市ですね・・・」 見上げてルクが言う。 確かに・・・想像していたよりずっと大きな都市だ。そもそもこの話受けたとして我々3人でこんな大都市の太守に幽閉されているベルナデットを救出できるものなのか? 前途は明るいとは言い難い。 そして我々城門で衛兵に止められた。 「止まれ。お前達は何者だ。何をしに来た」 私は予め考えていた方便を・・・旅人であり宿を求めて来た、と答えた。 「フン。身分のハッキリせん者を簡単に中へ入れるわけにはいかんなぁ」 衛兵がニヤニヤと嫌らしい笑みを見せる。なるほど・・・袖の下を寄越せと言いたいらしい。 とはいえこの大陸で通用する通貨等持ち合わせが無い。何か値打ちのある品物を持っていただろうか・・・。 等と考えていると、 「どれ仕方がないのう。これで通してくれい」 ジュウベイが何かを衛兵に握らせた。 「へへっ・・・わかってるじゃねえか。・・・・って、オイ何だこれ」 「輪ゴムだ」 いらねえよ!!!!と、衛兵は怒って輪ゴムを地面に叩き付けた。叩き付けても輪ゴムなので迫力が無い。 結局衛兵を怒らせて我々は都へは入れなかった。 さてどうしたものか、と城壁を見上げて思案する。 流石にこの高さではよじ登るわけにもいかない。 するとジュウベイの懐から猫がひょこっと顔を出した。 『こっちよ』 ジュウベイの襟から飛び降りて猫がスタスタと歩いていく。我々は慌ててその後を追った。 猫の指し示した茂みには、草木で巧みにカモフラージュされた木の板があった。 板をどかせばその先は穴が続いている。 『少数だけど同志がいるの。彼らのアジトへはそこから行く事ができるわ。街の中へもね』 ほう、レジスタンスがいるのか・・・・。 猫に続いて穴を降りていく。その先は整備された地下道になっていた。 やがてある扉の前で猫は足を止めた。 ・・・いきなり開けてしまってよいのかな? ノブに手を伸ばし、ふと気付く。 ・・・・中から何か聞こえてくるぞ 「・・・・カバディカバディカバディ・・・・」 カバディやってるじゃねえか!!!!! ガチャっと乱暴にドアを開け放った。 その瞬間その場にいた数人の男達がババッと物凄いスピードで会議テーブルに着いた。 「・・・・ハァハァ・・・やあこれはベルナデット様・・・・ハァハァ・・・・今作戦会議中でありました・・・ハァハァ・・・・」 男の1人が言う。 ウソだね絶対カバディしてたね。 『紹介するわ。解放軍のリーダー、ロイドよ』 ベルナデットの紹介に応じて線の細い青年兵士が立ち上がった。 「よろしくお願いします・・・ハァハァ・・・・ロイドです・・・・ハァハァ・・・・」 なんかハァハァ言いながら人の手握るのやめて欲しいなぁ・・・・。 私もとりあえず自己紹介する。 「そして彼が副リーダーのハンセンです・・・ハァハァ・・・」 丸顔で大柄な兵士が今度は握手を求めてくる。 「よろしくお願いします!! ハンセンです!!! ハァハァハァハァ!!!!」 ハァハァまで力強くて怖いよ!!! というか、我々はまだ君達に力を貸すと決めたわけではない。ここでいきなりよろしくされてしまっても困るのだが・・・・。 「いえウィリアムさん。あなたもこれを見れば彼らの悪行と我々の正しさがわかっていただけると思います」 そう言ってロイドは私に小冊子を渡してきた。 ・・・・何々・・・? 「よくわかる初めてのカバディ」? バッと凄い勢いで取り上げられた。 「間違いました。こちらです」 何だ何だ・・・どれどれ・・・名簿? その小冊子には沢山の名前が羅列してあった。 「・・・それは、年々重くなる税が払えずに奴隷として売られていった者達の名です・・・!!」 ハンセンが唇をかみ締めて言う。 ・・・・・・・・・・・・・・・。 「こんなに・・・・。酷いですね」 「ええい!許せんな!!!」 ルクとジュウベイもそれを見て憤っている。 ・・・わかった。この名簿の事が事実なら君達に力を貸そう。 そう私が言うと彼らは顔を輝かせて歓声を上げた。 街の様子を見て聞き込めばそのへんの裏は取れるだろう。 「ありがとうございます! 我々は太守の目を欺く為に表向きはカバディ愛好会として集合しています」 表向きっつかそのものじゃねえか!!! 「メンバーはここにいる私を含めた8名です」 すくな!!! 太守の兵数は? 「4千人程度ですね」 多!!!! もう兵力差がどうこうとかいうレベルじゃねー!!!! 「皆!!我々の新しいカバディ仲m・・・・解放軍の同志が加わってくれたぞ!」 ひたすらに不安だ。 ていうかもうツッコミ疲れた。 ぐったりする私を尻目に、いつの間にかベルナデットはまた、ただの猫に戻っており棚の上でのん気に寝息を立てていたのだった。 第1話 2← →第1話 4
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「ラーメン天龍」アンカー支店。 そのオーナー、サムソン・オハラは上機嫌であった。 アンカーに店を開いてから一ヶ月ほど、その間の客の入りと売り上げは当初の予定をやや上回って順調だ。 このペースで行けば数ヵ月後にはアンカー2号店を出せるかもしれない。 売り上げデータを眺めて悦に入っていたオハラの元に部下がやってきた。 「オーナー、例のラーメン屋が何か新しく始めたようですが・・・」 「ん? ああ、向かいの並びの小さな店か。慌てて巻き返そうとしてるんだろうよ。水着の次は何だ?やらせておけ、どうせ何をやったって無意味だ」 オハラが鼻で笑う。 「うちは席数でも値段でも向こうとは比べ物にならん。オマケにポイントカードとかサービスも豊富だ。あんな個人経営の店が太刀打ちできるものか」 口ではそう言ったものの、昼食時が終わり店が少し暇になったあたりでオハラはラーメンいぶきを少し覗いて見る事にした。 なるほど、店舗の前に数人がいて看板を眺めているようだ。 (新メニューか・・・奇策では無く今回は正攻法できたか) 店の入り口脇に大きな看板が出ている。 そこには「究極の味噌ラーメン『龍皇』 一日5食限定!!」と大きく記されていた。 (一日5食? ・・・ずいぶんともったいぶったものだな) さらにその看板の下、値段の部分へと目をやったオハラは思いっきりズデーン!!と往来でスッ転んだ。 「・・・にっ、360クラウンだと!!! アホかあ誰がラーメン1杯にそんな金出すんだ!!!」 ガバッと立ち上がりつつ叫ぶオハラ。 「しょうがないんだよ。材料の確保のための人件費考えるとこれでも赤字なくらいなんだよ?」 上から声がかかって、座り込んだままオハラが見上げる。 キリエッタが見下ろしている。 「・・・けど味だけはホント、値段以上さ。どうだい?社長、食べてってよ」 ハッ、と嘲笑してオハラが立ち上がった。 「面白い・・・では1杯食べていくとしようか。下らんものを出してきたら詐欺のぼったくり店だと吹聴してやるぞ!!」 キリエッタに促されてオハラがラーメンいぶき店内に入った。 「てんちょー、龍皇1杯ー」 キリエッタがカウンターの勇吹に声をかける。 「まいどー! 龍皇入ります!」 そう言って勇吹が麺を湯がいて振りザルを手に取った。 「・・・・・・!・・・・・・・」 その瞬間、周囲の「音」が消えた。オハラはそんな気がした。 「・・・・・ラーメンは湯切りが命。『飛燕』!!!!」 衝撃波で店内の窓ガラスが割れた。 (何だ!? 何で窓ガラス割るんだ!? パフォーマンスなのか・・・!!??) 混乱したオハラが目を白黒とさせる。 そして店外からは 「あー、先生がー!!」 「大丈夫ですか! 先生!!!」 と叫び声が聞こえてくる。 「あーあー、やっちまったよ・・・」 頭を抱えたキリエッタが店の外へ駆け出していった。 「すいませんねー。食事時はこの店の窓の近くは歩かないようにって看板出してるんだけど・・・」 ペコペコと頭を下げて謝罪するキリエッタの肩を大きな手でグッと掴むと、「その男」はやんわりと彼女を脇へとどかして店内へ入ってきた。 「問題ありません。・・・御免」 紋付に袴姿のがっしりとした体格の初老の男だった。 白髪の混じった長髪をオールバックにしている。 ・・・が、今はガラスの破片まみれで血まみれである。 (・・・げええ! あの男は!!!) 和服の男を見たオハラが驚愕して内心で飛び上がった。 (世界料理者協会の重鎮、武蔵山藤十郎!!!!) 「究極の味噌ラーメン・・・頂こう」 ガタリと椅子をならしてテーブルについた藤十郎がそう注文する。 周りの取り巻きの男達はどうやら弟子たちに記者にカメラマンの集団であるらしい。 席に着く藤十郎にフラッシュがいくつも浴びせられ、記者たちはひっきりなしにメモにペンを走らせている。 藤十郎はぱっぱっとガラス片を手で払うと 「・・・妥協の無い湯切りや良し」 と低い声で呟いた。 やがてオハラと藤十郎、それぞれの前に丼が出された。 濃厚な味噌のスープの香りが鼻腔を擽る。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 もう匂いで十分にわかる。 このラーメンは・・・旨い・・・・。 オハラは箸をつける前に自分でも気付かない内に涙していた。 一方の藤十郎は、「頂きます」と手を合わせて割り箸を割り、湯気の立つ麺を一気に啜った。 見事な食べっぷりに取り巻きの男達から「おお」という歓声が上がる。 そのまま一息もつかずにスープまで飲み干した藤十郎がゴトリ、と空の丼をテーブルに置いて「ご馳走様でした」と言う。 「・・・せ、先生、如何でしょう・・・・」 記者の1人がメモを手にそう藤十郎に声をかけた。 うーむ・・・としばらく目を閉じていた藤十郎がやがて口を開く。 「麺のコシ、スープのコク・・・そして具材との調和、全て完璧。加えて雑然としているようでよく手入れの行き届いたどこか郷愁を感じさせる店内、ついでに店員のギャルの色っぽさ、申し分無し」 「ギャル言うなギャル」 キリエッタが半眼でツッコんだ。 ガタリと椅子を鳴らして藤十郎が立ち上がる。 「この武蔵山藤十郎が五ツ星を差し上げよう!!!!」 記者たちがわあっと沸く。 鳴り響くシャッター音と降り注ぐフラッシュの光の中で、勇吹は照れくさそうに頭を掻いていた。 「至福の時を過ごさせて頂きました」 勇吹に向かって藤十郎が頭を下げた。 「いやー、そんな。よかったらまた食べにきて下さい」 自慢のラーメンを褒められればやはり嬉しいのか、珍しく勇吹も上機嫌だ。 「・・・ラーメンに此れほどの幸福感を貰ったのは、人生で2度目の事です。貴女ならば、あるいは『彼』のラーメンを超えることができるかもしれませんな」 勇吹の表情がスッと引き締まった。 「その『彼』の名前を」 藤十郎が肯く。 「彼の名は、クリストファー・緑(リュー) 中央大陸最高の外食店『大華飯店』の総支配人」 クリストファー・緑、その名を記憶に刻み込む勇吹。 「・・・・通称、『神の舌を持つ男』」 中央大陸、ツェンレン王国。 その南部に位置する大都市『瑞陽』 瑞陽最大の建物が「大華飯店」であった。18階建ての巨大なタワー型の建物だ。 世界最高と評される外食店。世界中から美食を求める客が連日この大華飯店を訪れる。 ここはフロア毎に客層が異なる。 ここの最高責任者であるクリストファー・緑は7階にいる。 7階が彼の取り仕切るフロア。この階で食事ができる客は政界や財界、一部の著名人等超VIPばかりである。 たった今終えたばかりの料理を、給仕が客へと運んでいく所を見送った緑に、背後から部下が声をかけた。 「お聞きになられましたか。シードラゴン島の例の味噌ラーメンに、協会の武蔵山藤十郎が五ツ星を出したそうです」 「シードラゴン島か・・・」 緑が瞳を閉じてしばし沈黙した。 その脳内をデータが駆け巡る。まるで方程式の様に「最高の味噌ラーメン」という解に向かってレシピが組みあがっていく。 「材料は・・・道連れワカメ、弾丸モロコシ・・・」 やがて瞳を開けた緑は次々に食材の名前を口にしていく。 「レシピをご存知なのですか?」 「いや・・・あの島で採れる素材で最高の味噌ラーメンを作れと言われたら、『俺ならばそれを選ぶ』という話だ。その料理人が紛い物でないのなら、俺と同じ結論に辿り着くだろう」 一度も訪れた事の無いシードラゴン島で入手できる食材を、緑は完全に脳内に納めていた。 「いずれも極上の素材ながら、それぞれに味の個性が強すぎる。並の料理人に渡した所でまともな料理には仕上がるまい。主役だけを大量に舞台に上げても演劇が成り立たんようにな」 だが・・・と緑は一度言葉を止めた。 「だが、もしも熟達した腕の料理人が、素材の個々の味を殺すことなく丼の中に調和させる事ができたのなら・・・最高の一品がそこに生まれる」 そこへ別の部下が足早に近づいてくる。 「緑大人・・・件の味噌ラーメンのレシピが届きました」 言いながら緑へメモを手渡す部下。 そこには先程緑が口にした通りの素材が並んでいる。 「・・・どうやら本物だったようだな。・・・む」 緑の目がメモの一点に留まる。 1つだけ、自分のチョイスと異なる材料があった。 (・・・八ツ裂き葱の油を使ったか。俺なら暴君軍鶏の脂を使う。・・・だが・・・) 緑の口が微かに笑みの形に歪んだ。・・・それはとても珍しい事だった。 (これはこれで有りだな。・・・面白い) そしてそのメモを手渡してきた部下の手に戻す。 「すぐそこにある食材を準備しろ」 部下が壁にある装置をカチャカチャと操作すると、壁が開いて巨大な水槽がゆっくりと迫り出して来た。 コツコツと靴音を鳴らして水槽に近づく緑。 「・・・緑様!迂闊に近づいては・・・」 部下がそう静止の声を出したその時、水面から何本もの道連れワカメが緑に襲い掛かる。 それを緑はまったく動じる事無く片手で受けた。 緑の右腕に何本ものワカメが巻きつく。 「・・・・・フンッ!!」 そして一息にそれを引き千切る緑。 包丁を入れて切り分けられたワカメが調理台に並ぶ。 そして緑は他の食材も同様に手早く捌いていく。 そのあまりの手並みに、部下達は呼吸も忘れて見入った。 平ザルを手に取り、麺を煮立つ鍋から引き上げる緑。 ・・・湯切りだ。 「・・・・・『崑崙』」 ふわりと優しく平ザルを振る緑。 まるで力を入れたように見えない、ゆっくりとしたスイングだった。 しかしそれは見た目だけだ。 周囲で見守る部下達はそこに発生したエネルギーの巨大さを知っている。 (・・・いかん!!近すぎ・・・) そう思った部下が退避しようとした時には既に遅かった。激しい眩暈を感じて部下達がその場に膝を突く。 周囲に起こった急激な気圧の変化に身体が変調を訴えているのだ。 「・・・喜びのあまりつい力を入れて振りすぎたか」 立ち上がれずに呻いている部下達を見下ろして無表情のまま緑はそう言った。 「龍皇」と同じラーメンの丼がいくつも調理台に並んだ。 その匂いを嗅いだだけで部下達がゴクリと喉を鳴らす。 「・・・フロアの客に振舞ってこい。南海の果てに素晴らしい料理人を見つけた、その祝いだとな」 一礼した部下達がワゴンを押してフロアへと出て行く。 そして緑は丸椅子にドカッと腰を降ろすと自分でも丼を一つ持った。 ズーッと勢い良く麺を啜る。 (・・・美味い。・・・しかし・・・) 緑の眉間に僅かに皺が寄る。 (やはり素材は天然ものでなければ駄目だな。どうしても現地で食す必要があるか・・・) ゴトッと食べかけの丼を調理代へ置く緑。 「・・・シードラゴン島か。確か霧呼が現地で指揮をとっているのだったな」 急に声をかけられた部下が直立不動の体勢を取る。 「はっ。しかし今は外されておられるようで、代理でエトワール様が」 そうか、と立ち上がった緑が私室へ向かって歩き出す。 旅装を調えるためだ。 「・・・・ではエトワールに連絡を入れておけ。『HYDRA』(ハイドラ)クリストファー・緑これよりシードラゴン島へ向かう。適当な仕事を用意しておけ、とな」 深く一礼する部下が御意を示したその背後で、フロアより緑の「龍皇」を食べた客達の歓声が響いてきていた。 第16話 3← →第17話 1
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ファーレンクーンツ共和国首都エイデンシティ。 共和国の発展と繁栄の象徴とも言えるこの世界有数の巨大都市は、現在世界で最も蒸気文明化の進んだ都市でもある。 辺境の国々では未だ1台も走ってはいない蒸気自動車も、この街では車道を普通に走っている。 当たり前の光景だ。この街に暮らす者で蒸気自動車を見て感嘆の吐息を漏らすものはいない。 その首都エイデンの中心部に、共和国銃士隊の本部がある。 訓練場を兼ねた広い運動場を持つ敷地の中に聳え立つ白い7階建ての建物がそうだ。 飾り気のない外観だが、内部は最新鋭の情報機器設備が整い優秀な職員が勤務する国防の最重要施設である。 その4階、職員オフィス。 銃士隊の総指揮官であり、三銃士のリーダーでもあるカミュ・オニハラは両足を自分のデスクの上に投げ出し、雑誌を顔の上に広げて大いびきをかいている。 「・・・うるせーなぁ。ヤロー職場を何だと思ってやがんだ」 自分のデスクから顔を上げて顔を顰めて文句を言ったのは三銃士の紅一点ルーシー・N・レンブラント、通称ルノー。 「マンガを広げて言う台詞ではありませんね」 その隣のデスクから、銃士隊の参謀、三銃士エリック・シュタイナーがルノーの机の上に広げてある雑誌を見ながら言った。 エリックの机の上にはいくつもの書類とファイル、そして今日の主要国家の朝刊が並んでいる。 言われたルノーは明後日の方向を見て口笛を吹いた。 そこへオフィスの扉が開いて、やたらと大柄なスーツ姿の男がのしのしと入ってきた。 「いやーオマケしてもろうたわい!『Oh,スモーレスラー』とか言われてのう。がっははエイデンはいい街じゃあ」 大声で笑いながら自分の椅子に座った男の名は大龍峰。 元はロードリアス財団情報部所属の精鋭特務部隊『ハイドラ』の1人だった男だ。 戦いに敗れた後、彼は銃士隊によって身柄を回収され、今はその保護観察下にある事を条件に共和国である程度の身の自由を与えられている。 その大龍峰は机にガサガサと袋から弁当を出している。 5,6・・・と詰み上がる弁当箱。 「何だお前皆の分も買ってきてくれたのか。いいトコあるな」 ルノーが言うと大龍峰はいや、と首を横に振った。 「こりゃワシの分だけじゃわい」 「ぶ。てめー食い過ぎだぞそれ!」 そんなやり取りを横目に、自分のデスクで静かに本を呼んでいる半獣人の青年はシグナル。 元ツェンレン王国の将軍『七星』の1人である彼は今は銃士隊に籍を置いている。 そのシグナルにお茶を出しているエメラルドグリーンの髪の女性はセイレーンのローレライ。 彼の契約守護者である。 穏やかな午後。しかし、唐突に複数のエンジン音が本部の敷地内に響き渡る。 何事かとルノーたちが窓から下を見る。 「陸軍の軍用装甲車両ですね」 連なって入ってくる装甲車を見たエリックが言った。 その数は8台。 「チッ、何だって陸軍があんな物々しく乗り込んできやがるんだよ・・・」 舌打ちしたルノーがオフィスを飛び出していく。 銃士たちが次々にその後に続いた。 停まった装甲車から次々に陸軍の兵隊が降りてきて整列を開始している。 そこにルノーたちが本部から出てくる。 「オイてめーら、一体どういうつもり・・・」 陸軍兵たちに食ってかかろうとしたルノーの口を追いついたエリックが後ろから塞いで抱きかかえた。 代わってそのエリックが口を開く。 「ご説明頂けますか・・・レオンハルト・ビスマルク陸軍大佐殿」 エリックの視線は並ぶ陸軍兵達ではなく、先頭の車両の助手席に注がれている。 「・・・騒がせてすまんな。エリック・シュタイナー銃士」 良く通る低い声がして、助手席からブロンドの男が下りてきた。 一目で軍人とわかる雰囲気を持つ体格のいい男だ。 レオンハルト・ビスマルク・・・エリックが口にしたその名に彼の後ろの銃士たちが身を強張らせた。 今陸軍でも最も力があると言われている軍人である。異例の出世スピードで20代後半で大佐の地位に着き、それから数年経った現在では軍内でその権勢を磐石なものとしつつある。 いずれ軍部を取り仕切る立場となるであろうと言われている男だ。 そのビスマルク大佐が銃士たちを見た。 別に睨みつけているわけではないのだが、その眼光に銃士たちが萎縮する。 「本日付で、シードラゴン島並びに神の門に関する全ての任務をお前達銃士隊から我が陸軍が引き継ぐ事になった」 「・・!!!」 誰も声を出す者はいなかったが、銃士隊に走った衝撃は雰囲気で周囲に伝わった。 「必要資料その他の引継ぎに来たので大所帯となったが、まあ許せ」 背後に整列する兵達を振り返るビスマルク。 そこでようやく戒めを解かれたルノーが大きくため息をついた。 「冗談も休み休み言えって・・・あんな島でうちの軍が動きでもした日にゃ大問題になるっての」 そのルノーをビスマルクが無表情に見下ろす。 「大問題か・・・。お前は何も知らんのだな、ルーシー銃士」 「あん?」 訝しげな顔をするルノーに、ビスマルクがポケットから携帯用のラジオを取り出してスイッチを入れた。 ザザッという雑音の後に、切羽詰った男の声が続く。 『・・・繰り返します。臨時ニュースです! 本日、セイグリース王国ティナンシアの都にて行われておりました四王国会議の席上にて、ファーレンクーンツ共和国のアレス大統領が四王国会議からの脱退を宣言。同時に未だ分裂による内乱が続く西部大陸北部地域、旧ルーナ帝國領並びにシードラゴン島への治安部隊の派遣を発表致しました!』 今度は先程の様に瞬時に動揺が広がりはしなかった。 ラジオの内容はあまりにも突拍子が無く、銃士たちはその事を正しく理解するまでにまだ数瞬の時間を要したからである。 『これに対し、ツェンレン王国のアレキサンダー王、エストニア森林王国のジュピター王、西部大陸北部地域代表として出席していたノルン・クライフ氏らはアレス大統領によるこの発表を激しく非難。アレキサンダー王が共和国報道官をパイルドライバーで沈め、ジュピター王が大統領の席にブーブークッションを仕掛ける等現場は混乱しており・・・』 ブツッとビスマルクがラジオを切る。 「という訳だ。事態は既に次のステージへと進行した。我々がコソコソしなければならない時期は過ぎたのだ」 そう言うとビスマルクはタバコを咥えて火を着けた。 「では、引継ぎの件宜しく頼む」 霧の都シュタインベルグの朝。 朝靄の中をサーラが登校する。 魔犬の事件から一週間が過ぎようとしていた。 しかし、今もサーラは学生のままだ。 神父が倒され、その件を本部へ報告したサーラは当然自分には次の任務が入り、この地を離れる事になるだろうと思っていた。 ところがその予想に反し、本部から来た次の指令は「現状を維持し、待機せよ」だったのである。 ・・・本部は、魔犬の事件がまだ終わっていないと思っているのだろうか? そうも思ったが、その可能性は薄い様に思える。 神父の遺体はその後協会の職員によって回収されている。 そもそも、協会からは待機以上の指示が来ないのだ。 (今日あたり、もう一度問い合わせてみよう・・・) 校門をくぐりながら彼女はそう思った。 そして今日も平穏な学院での一日が過ぎ、放課後の教室でサーラはメイ達と談笑していた。 この他愛のないお喋りの時間にも最近ようやく慣れてきた。 任務待機中という点で多少の後ろめたさはあったものの、やる事も無い以上はここでしばし時を過ごしてもいいだろうと自分を納得させる。 「そういえばサーラ」 おっとりとキャロルが声をかけてくる。 「どうしたの? キャロル」 「例の外国人の彼氏の人は最近どうなの?」 おっと、と机の上でつんのめるサーラ。 「あのね、あの人はそういうのじゃないって前にも説明したわよね? 父が仕事でお付き合いのある人で、1回食事をご一緒しただけなのよ」 「え~?」 と何故かやっぱりキャロルは不満そうだった。 「だからキャロル、人のプライベートに・・・」 「けどさー、サーラ」 注意を遮られたメイが口を尖らせる。 そのメイの台詞を遮ったのは窓枠に肘をかけて外を眺めていたモニカだ。 サーラが呼ばれてモニカの方を見る。 「・・・来てるよ? 例の人」 そう言って、モニカは窓から校門の方角を指差した。 息を切らせて校門に駆けつける。 いつかの様に、門からすぐの街灯に背を預けて佇んでいるのは赤い髪の男、クリストファー・緑だ。 「・・・リュー」 はぁはぁと荒い息を整えようともせずに、サーラはリューの前に立った。 「来たか」 いつかと同じ台詞で、リューが街灯から背を離した。 「私に用があるのならもう少し目立たないやり方で・・・」 言いかけてサーラが言葉を止める。 背後にぱたぱたと複数の急ぎ足の足音が聞こえる。 メイ達が追いついてきたのだ。ここからは迂闊な事は口に出来ない。 「それは済まなかったな。時間のある用事だったので確実な方法を取った」 まったく済まなくなさそうにリューが言う。 時間のある用事・・・? サーラが怪訝そうにリューを見る。 「芝居に興味はあるか、サーラ・エルシュラーハ」 「・・・え?」 思わず間の抜けた返事をしてしまうサーラ。 それはあまりにもこの男の口から聞くのは違和感のある問いだった。 ・・・料理に興味は、だったらぴったりなのだが。 サーラの返答を待たずに、リューはポケットから2枚の紙片を取り出した。 それはチケットだった。 国立劇場の印字のある2枚の歌劇のチケット。 「今晩7時からの舞台だ。これを鑑賞する。俺と一緒に来て貰うぞ、サーラ・エルシュラーハ」 普段の調子で一方的に言い放つリュー。 サーラはその言葉の意味を理解するのに僅かな時間を要し、理解できた後も結局思考は纏まらず 「・・・はい?」 とやはり間の抜けた返答を返す事しかできなかった。 第1話 5← →第2話 2
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私たちはラーの都で情報収集を開始した。 確かに、聞いている通り方々で兵士達の横暴は酷く、住民達は皆疲弊している。 税が払えないものは奴隷として売られていくという話もよく聞いた。 ふーむ・・・。 私は解放軍のアジトで出された蒸しトウモロコシを齧りながら考えていた。 ちなみにここに来てから食事はずっと蒸しトウモロコシだ。 ベルナデットが捕らえられているのは太守の城の地下にある牢獄らしい。 彼女はそこに4年間幽閉されており、その間に牢獄に張られた結界によって封じられている魔力をほんの少しずつ貯めて私を呼び寄せた時のゲートの開放に使ったらしい、ちなみに遺物をゲートの周りに撒いたのもやはり彼女だった。 私はまんまと釣り上げられたわけだ。 ちなみに私達が下界へ戻る方法はといえば・・・・。 『私を解放してくれたら、魔力を集めて帰りのゲートを開いてあげるわ。本当はそんな手を使わなくても、本来この浮遊大陸のゲートとシードラゴン島のゲートは自由に行き来できるようになっていたんだけど、10年前に島に人が入った時にシャットダウンしたの』 DD達がシードラゴン島を発見した時の事だろう。 なるほどな。どんな人間達が外から来たのかわからないし、安全の為に往来を閉ざしたのだろうな。 『ゲートの設定は神都でしかできないからね』 ふむ・・・という事はいずれこの国とアンカーの町が交流を持つ事も夢ではないと言う事か。 まあ、それは実現するにしても先の事だろう。今は目の前の問題に集中しなくては・・・・。 ロイドに説明を受ける。どうやら太守側には手練が2人いるらしい。 兵力差で既に終わっていると言うのにその上辣腕の使い手までいるのか・・・。 どんどん絶望的になっていくな。 「剣士ゴルゴダと妖術師ヨアキムの2人です。ヨアキムはベルナデット様を捕らえて結界に閉じ込めた術師です」 と言う事はその妖術師を倒せば結界は解けるのか? 私の問いにロイドは首を横に振った。 「どうやらそういったタイプの結界では無いようです。ですが現地までたどり着ければ外からなら解除は容易な造りをしているとか・・・」 どうやっても彼女の元まで辿り付く必要があると言う事か。 しかし・・・・。 太守の城の見取り図などを見てみる・・・・が。 内部に突入してベルナデットを救出して更に脱出するなど到底無理そうだ。 うぬぬぬ。思わず頭を抱えてしまう。 「あまり根詰めていては良い案も出てきませんよ。少し気分転換に街へ出てみませんか」 ルクに言われて顔を上げる。 確かにそうかもしれないな。ひとまず風に当たって頭を冷やすとするか・・・・。 ルクと連れ立って街へ出た。 しばらく買い物や食事をして二人で過ごす。 その帰り道、ルクはそっと腕を組んできた。 「エリスやDDには悪いと思いますが、今だけはここへ飛ばされてきた事をベルナデットに感謝します」 そう言って彼女は微笑んだ。 ・・・!! ふいに威圧感を感じて視線をルクから前方へと戻した。 通りをこちらへ向かって一人の男が歩いてくる。 体格のいい長剣の鞘を腰に下げた男。 左の頬にキズがある・・・聞いていた特長と合致する。 ・・・・ゴルゴダだ。 往来の真ん中で私たちはすれ違う。 「んんー?」 ゴルゴダが足を止めてこちらを伺ってきた。 「見ない顔だなぁ兄さんよ」 私は顔を伏せて、旅の者です。この街には先日着いたばかりで・・・、と答えた。 「何だそうか。いやすまねぇなデートの最中に呼び止めちまってよ」 はっは、と笑い声を上げてゴルゴダは私に背を向けた。 やり過ごしたか・・・そう思った瞬間。 ギイイイン!!!! 甲高い金属音が響き渡った。 ゴルゴダが振り向きざまに鞘から抜き放った長剣で私に横薙ぎに斬りつけて来たのだ。 その一撃を私は鞘に納めたままの神剣で受けた。その音だった。 完全に殺すつもりの一撃だった。 「・・・・・けどよ、ただの旅人にこの一撃は受けらんねぇよなぁ?」 ギラリと目を輝かせたゴルゴダが舌なめずりする。 ゴルゴダの剣はいくつもの節に分かれてノコギリのような刃のついた不気味な剣だった。 往来を行く人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。 「俺の名はゴルゴダ。ゴルゴダ・ヴェノーシャだ。名乗っておきな兄さん。俺に殺されちまう前によ」 ウィリアム・バーンハルトだ。 正直に名乗る。この地で名を伏せる事も偽名を使う事も意味は無いだろう。 「それじゃ行くぜぇ!! バーンハルト!!!」 叫び声と共にゴルゴダが剣を振るった。 !? 遠いぞ・・・・真空刃か何か飛ばしてくるつもりか!? しかしそうではなかった。ゴルゴダの剣は節で分裂しまるでムカデの胴体の様にくねりうねって私に襲い掛かってきた。 鞭剣・・・・ウィップブレードか!! 間合いが広く変幻自在の武器だ。扱いは難しく使いこなすにはかなりの修練が必要な特殊剣。 雨のように斬撃が降り注ぐ。 そのうち数条の剣閃が私に傷をつけていった。 「ウィリアム!」 叫んでルクがグングニールを呼び出す。 「へえ! そっちの姉ちゃんも遊べそうじゃねえか!!」 ルク!危ない下がっているんだ! そう、彼女の方を向いて叫んだその時、私は異様な力に捕まりガクンと身体を震わせた。 バッと振り向く。 私の背後、離れた場所に黒いローブの男が立っていた。 青白い顔の痩せた男。 その男の両手が私へ向けられており、不気味に赤く輝いている。 「ヨアキム! 邪魔すんじゃねえ!!」ゴルゴダが叫ぶ。 妖術師ヨアキム! 何か術をかけられたか!! そのヨアキムへ、ルクが上空から襲い掛かった。 「・・・・ぬぅ!?」 辛うじてそのルクの一撃をかわすヨアキム。 術が途切れて私は地面に両膝をついた。 「ンフフフフ・・・・中途半端だが術はかかったぞ。お前はもう本来の力で戦う事はできん」 不気味にヨアキムが笑う。 く・・・何だ・・・・身体に力が入らん・・・・。 「あーあ・・・くそう、やっちまいやがってよぉ。久しぶりのデカい獲物だったのによ・・・」 ゴルゴダがばりばりと頭をかいた。 その私の元にルクが飛来すると私を抱えて上空へ飛び上がった。 ゴルゴダはちらりとこちらを伺ったが、追撃はしてこなかった。 交戦した通りからずっと離れた場所まで飛翔し、ルクは私を降ろした。 「大丈夫ですか、ウィリアム!!」 言って私を見る。 その手からガランと音を立ててグングニールが落ちた。 「・・・あ・・・あぁ・・・・」 目を見開いてわなわなと震えている。 何だ、どうした・・・私はどうなった・・・・? く、何だ・・・服がぶかぶかになっている・・・。 窓ガラスを見る。 !!!!!!! そこに映った自分の姿を見て愕然とする。 12,3歳の少年が映っている。 私は、ヨアキムの術を受けて子供にされてしまっていたのだ・・・・。 ~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~ 第1話 3← →第2話 翼を求めて
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暖かい陽気に誘われて、ついデスクでうたた寝をしていた。 う、いかんいかん寝てしまっていたか・・・・。 ここは常春の町アンカー。 世界中から冒険者の集う未開の島、シードラゴン島の玄関口。 ここ一ヶ月ほどは特にこれといって大きな事件も無く、私の事務所も平穏な日々が続いていた。 立ち上がって首を捻って鳴らす。 ・・・見ればアシスタント達も3人とも応接用のソファに座って昼寝の真っ最中であった。 DDに左右からエリスとルクが寄りかかるようにして寝息を立てている。 微笑ましいものだ。普段何かとうるさく言い合っているが、根底ではこの3人の仲は良好だ。 時刻を見れば正午を回っている。 どれ、では今日の昼食は私が準備する事にしようかな・・・・。 きのこのパスタでいいかな。どうせ男の手料理だ、凝った物は作れない。 と、そこへシンラが戻って来た。 「ただいま」そう言ってオフィスへと入ってきたシンラは眠っているエリス達に気付いて足音を忍ばせた。 おかえり、どうだった? パスタを茹でながら彼女に尋ねる。 「ハワードさんの家の猫は見つけてきた。もう届けてきたから」 そうか、ありがとう。ご苦労様だったね。今昼を準備する。少しだけ待っていてくれ。 一仕事終えた彼女をそう言って労う。 今回の仕事は迷い猫探しだった。基本なんでも屋である私の元へは(自主的にそうなったわけではないのだが)日々こうした様々な仕事が舞い込んでくる。お陰で本業である考古学の方が滞りがちで悲しい。 ・・・・・・? て、見つかったってジュウベイはどうした? シンラと2人で出た筈のもう1人のスタッフについて彼女に尋ねる。 シンラはふるふると首を横に振った。 「・・・・わからない。見つからなかった」 おう何と言う事だ。猫は見つかりスタッフが行方不明だ。 今、私の事務所は住み込みの私とエリスとDDとルクの4人、それと通いで勤めているシンラとジュウベイの6人で切り盛りしている。 シンラは聖誕祭の後、少しして事務所の近所に下宿を借りて今はそこで暮らしている。 アヤメとジュウベイはあの戦いの後、国へは帰らなかった。道場は既に人手に渡ってしまっているそうだ。 アヤメは剣とは何かと日々悩みつつも、茶道華道の教室を開いて生活していた。 そしてジュウベイは自分を使ってくれと頼み込んできたのでうちのスタッフとなった。 エリスたちが起きてこないのでシンラと向かい合って2人でパスタを食べる。 「・・・そういえば」 ふと、シンラが顔を上げる。 「古道具屋さんが、先生に見せたいものがあるから来てくれって」 む・・・・あそこか・・・・。 この町唯一の古物商・・・・珍しい遺物や考古学的に価値のある数々の品物も取り扱っているので、私としては研究の為避けては通れない場所なのだが・・・。 しかしある問題があり、つい足は遠のきがちであった。 だが掘り出し物が出たのなら行かないわけにはいかん。 若干憂鬱な気分になりつつも、私は午後の予定を古物商へ行く事と決めた。 「よく来てくれました、先生。一日千秋の思いでお待ちしていましたよ」 店内へと入った私を、にこやかに出迎えた眼鏡の青年こそ、この古道具屋「アサシン堂」の主アーサー・シンバであった。 なんか入ればぬっころされそうな店名であるが、主人の名前を略して付けられた名だ。 アーサー、件の品物を見せてもらおう。 努めて事務的な口調で言う。 「ふっ、つれない人ですね。・・・・しかしそこがまたそそります」 ・・・くそう、こえーよー。 奥へ引っ込んだアーサーが戻ってくる。そしてカウンターに布で包まれたいくつかの遺物を並べた。 ・・・・・・これは・・・・・・。 レンズを取り出し、細かく観察する。 「・・・・いかがですか?」 アーサーが微笑む。彼は当然わかっているのだろう。 この遺物が、これまで島で発見されているどの遺物とも系統が異なる文明のものであるらしい、という事がだ。 これはどこで? 「本来ならば企業秘密、と言いたいところですが他ならぬ先生の頼みとあっては教えないわけにはいきませんね」 そう言ってアーサーは島の地図を広げてある一点を指し示した。 北東の丘陵地帯・・・・しかしここは・・・・。 遺跡の類はなかったと思う・・・・いや、朽ちたゲートらしき残骸が一つあったか。 「しかし間違いなくこの遺物はその丘陵地帯で見つかったものなのですよ、先生」 しかしあそこにはあの朽ちたゲートが一つあるだけだ。 「ええ、その通りです。・・・・しかしですね、先生、あのゲートは以前からあれこれ言われていましてね」 あれこれ? 「ええ、夜に輝いているのを見た、という話やあの周辺で『天使』を見かけたというような」 ふーむ・・・なんだか眉唾ものの話ではあるな。 しかし私も以前行った時はゲートを調べて朽ちているものだと思っただけで引き上げてしまった。 周辺を含めもう一度詳しく調べてみる必要があるか・・・・。 「シンラがね・・・・シンラが・・・・拙者を置いてったんだよー」 戻るとジュウベイがめそめそ泣いていた。 それをシンラがごめんごめんと言いながら頭を撫でている。 何だこの構図。 私は皆に丘陵地帯をちょっと調べてくると告げた。 「おお! ならば拙者が同行しよう!! 猫探しでは役に立てんかったからな!!ここで名誉挽回とさせてもらうわい!!」 がっはっはっはと豪快にジュウベイが笑っている。 意気込んでいる所悪いが、丘陵地帯はこの町から比較的近いし、それに周辺に危険なモンスターも生息していない。 私1人で十分だ。 「万一という事があります。念の為同行者はいた方がいい。私も明日はフリーですので同行します、ウィリアム」 そうルクが言う。オフィスの壁のホワイトボードを見てみれば確かに明日の仕事が無いのはルクとジュウベイの2人だ。 わかった。では2人に同行を頼もう。 こうして私たちは3人で丘陵地帯へ向かう事になったのだった。 そして翌日、私たちは丘陵地帯の朽ちたゲートへとやってきた。 以前来た時と変わりなく、小高い丘の上にそのゲートはぽつんと佇んでいる。 「確かに平和そのものだわい。まるでピクニックに来たような感じだのう」 弁当をいつ広げようか、とジュウベイは豪快に笑って言った。 「周囲に危険な気配はありません」 瞳を閉じて周囲の気配を探っていたルクもそう言う。 よし、まずはもう一度ゲートを調べてみよう。 そう思いゲートへと近付いたその時。 『待っていたわ。ウィリアム・バーンハルト』 女性の声が聞こえた。 同時にゲートが激しく発光する。 !!!! 何だ!!!?? 眩い輝きに目を開けていられずに私は右手で顔を覆った。 そして物凄い力で光の方へと引き寄せられる。 私は咄嗟にゲートを構成する柱の一つを掴もうと手を伸ばした。 しかし間に合わない。 その手は空を切る。 「ウィリアム!!!」 伸ばしたその手をルクが掴んだ。そしてそのルクの手をジュウベイが掴み、ジュウベイはもう片方の手で柱を掴んだ。 「こっ、これは何事じゃあああああ!!!!」 ふんぬーっと踏ん張るジュウベイ。しかし、その彼よりも先に掴んでいた柱の方に限界が来た。 ぼごっ!と音を立てて石柱は崩れ、我々は全員光の中へと飲み込まれていった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「ウィリアム、起きてください。ウィリアム」 肩をゆすられている。 徐々に意識が覚醒してくる。 目を開けると、心配そうに見ているルクの顔があった。 ここは・・・・・。 見れば先程とは違う草原地帯だ。 どこまで飛ばされたのか・・・・。 目の前にはゲートがあった。ここへ飛ばされたのだろうな。 するとそこへ真っ白い何かが吹き付けられてきた。 うお、なんだ! 「雲です。ウィリアム」 そうルクが言う。雲?雲とは空の雲か? ルクが指を指す。その先にはジュウベイがいた。何やら草原の切れ目に立ちわなわなと大口を開けて震えている。 何だ?断崖絶壁にでもなっているのか? 私もその隣に立ち、下を見てみた。 ・・・・・!!!!!!!! そして絶句する。 大地が、シードラゴン島が恐ろしく下に見えている。 ・・・・ここは、遥か空の上なのか・・・・。 →第1話 2
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ファーレンクーンツ共和国、首都エイデンシティは喧騒に包まれている。 先程臨時ニュースで流れたアレス大統領の四王国会議脱退を受けての事だ。 しかし騒ぎと言っても、一部に大統領の決定に批判的な意見は聞かれても大半は支持するものだ。 共和国民はアレス大統領の掲げた強い共和国、蒸気の新時代政策を信奉している者が大勢を占めている。 文明的に劣る国々と無理に足並みをそろえる必要はない、という今回の大統領の発言は概ね肯定されているようだ。 ラジオから流れるそんな国中の様子を、レオンハルト・ビスマルク大佐は陸軍本部の自らの執務室で聞いていた。 「バカどもが・・・。知らんというのは幸せなものだ」 先程銃士隊本部から引き渡されたシードラゴン島と『神の門』に関する書類に目を通しながらコーヒーの入ったマグカップを手にしたビスマルクが侮蔑の言葉を口にする。 その彼の言葉を聞く者はいない。 執務室には今ビスマルク以外の人影は無い。 ・・・無いはずだった。 「わざわざこんな遠くまでご苦労な事だ。・・・目付け役なぞ寄越さんでも仕事はきちんとやるさ」 しかし次のビスマルクの言葉は明らかに自分以外の何者かに向けて放たれたものだった。 言葉を口にしてからビスマルクが背後を振り向く。 部屋の隅に、まるで闇を切り取ってきたかの様に黒く佇んでいる者がいる。 黒衣に半分砕かれた能面を身に着けた怪人が。 「だが・・・」 ビスマルクの目が細められる。 「折角来てもらったのだ。少々こちらの仕事を手伝って貰おうか」 要請の言葉を受け、仮面の怪人・・・テラーはカクンと機械的な動作で肯いた。 一方、銃士隊本部は嵐が過ぎ去った後の様な様相を呈していた。 半年かけて全銃士がかかり切りだった仕事の全関係資料を陸軍が引き上げていった為だ。 今も多くの銃士が本部の後片付けに奔走している。 「本当に綺麗サッパリ持っていきやがったな・・・」 憮然としてルノーは机に肘を突いてその手に顎を乗せている。 「博士も連れてかれちまったのぉ」 大龍峰も腕を組んで、うーむと唸っている。 『神の門』を巡る最重要人物、シードラゴン島で保護してきたカシム・ファルージャ博士も陸軍が連れて行った。 「命令だってんじゃしょうがねえさ。俺たちは使われてる身なんだからな」 そう言ってカミュが咥えたタバコに火を着けた。 居眠りしている内に事態が進行してしまっているので若干普段より元気が無い。 「確かに、彼が掲示した命令文は上意下達の完璧なものでしたね」 こんな中でもエリックは落ち着いて銃士たちから本部の状況について報告を受けている。 「けどさー。なんか釈然としないんだよな。今まで俺たちにボスを通さないでこんな形で仕事の命令が来ることなんかなかっただろ。それに、四王国会議脱退って・・・エリックお前なんか聞いてなかったのか?」 ルノーに言われて、エリックが静かに首を横に振った。 「いいえ。そんな兆候すらありませんでしたよ。お陰で諸々の対策が後手を踏みました」 ふう、とエリックが嘆息する。 「命令には従うさ・・・けどな」 フーッとカミュが紫煙を吐き出す。 「開いた時間で何をしようってもそりゃこっちの勝手だぜ。・・・参謀、くれてやった資料は全部コピーあるんだろ?」 「勿論です、リーダー。資料としてもコピーはとってありますし、必要とあればいくらでも復元は可能ですよ・・・『ここ』からね」 そう言ってエリックは人差し指で自分のこめかみの辺りをトントンとつついた。 「よぉし・・・それじゃ少し調べてみようぜ。今回の件色々と腑に落ちん」 カミュの言葉に銃士たちが肯いた。 先日と同じように校門で待ち構えていたリューは、先日と同じようにサーラをタクシーへと乗せた。 リューが行き先を国立劇場へと告げるとタクシーは静かに走り出す。 タクシーの後部座席に落ち着いてもサーラの頭の中は未だにミキサーをかけたようにぐちゃぐちゃのままだ。 (・・・お芝居? お芝居って・・・。ああ、メイ達に明日説明しなくちゃ・・・父も一緒だったって・・・でもチケットが2枚なのも見られちゃってる・・・。何て言えばいいの・・・絶対誤解してる) ぐるんぐるんと纏まらずに回る思考を何とか鎮めようと、とりあえずサーラは一番大きな疑問だけ口にする事にした。 「リュー、お芝居って・・・急にどうして?」 それに対する返答はそっけないものだった。 「来ればわかる」 と、ただの一言。 だが、その冷淡さが逆にここではサーラを落ち着かせた。 (そうだったわ・・・。彼に親切な説明とか期待する方がおかしいし・・・) 開き直ってどっしり構えているしかないのだ。 そう思って小さく嘆息すると、サーラは流れ行く窓からの眺めに視線を移した。 ライングラント国立劇場は西部大陸でも屈指の大劇場である。 歴史あるライングラントの文化の象徴として昔から芸術に造詣の深いこの国の人々に愛され続けてきた劇場。 その国立劇場へ車を着けたリューは、運転手に100クラウン札を2枚握らせると公演の終わる時刻にまた来るようと指示した。 そしてサーラはリューと共に国立劇場へと足を踏み入れる。 赤絨毯の大ロビー、荘厳なシャンデリアに着飾った人々・・・あまりにも今まで自分が生きてきた場所とは異なった光景にサーラはしばし言葉を失った。 自分は、と見れば制服姿のままである。 オマケに一目見て異国人だとわかる肌の色、そして連れは東洋の衣装。 少なからずロビーで2人は好奇の視線を注がれ、サーラは居心地の悪い思いをしなくてはならなかった。 そんな人々の視線などどこ吹く風で平然とリューは歩みを進める。 はぐれたら見つけるのは骨だろう、慌ててサーラはその後を追った。 2人の席は1階部分の丁度中央に当たる位置だった。 程よい距離で舞台を正面から観覧できる。サーラはこういった事には疎く、良くわからなかったがかなり良い席なのではないだろうか?と思った。 やがて開演の時間が来る。 ブザーが鳴り、幕は上がる。 客席の照明は落ち、一時の幻想が始まる。 演目は、この世界で一定以上の教育を受けているものなら誰でもその題名は知っているような古典文学の傑作だ。 悲恋の物語である。 舞台が始まると、それまでサーラの頭の中を占めていた諸々の疑念や懸念は全てどこかへ飛んでしまった。 ・・・引き込まれる。呼吸をするのも忘れるほどに。 現代風に新解釈された台詞回しも、役者達の真に迫った演技もどれも素晴らしい。 自分に観劇の趣味があるとも思えなかったが、それでも舞台はサーラに一時現実を忘れさせるほど素晴らしいものだった。 途中、一度だけちらりと隣の席を窺った。 リューは相変わらずの普段の不機嫌そうな顔で(それが彼の素の表情だともうサーラは知っているけれど)舞台を見つめていた。 舞台が終わり、幕が下りていく。 客席は割れんばかりの拍手と歓声に包まれる。 カーテンコールになり、役者や関係者一同が舞台上に集った。 花束を受け取ったり、要人なのだろうか?高貴そうな出で立ちの老人が役者と握手を交わしたりしている。 ナレーションによれば、大臣だそうだ。 そんな中、舞台上端の方に派手な身なりをした背の高い銀色の長髪の男がいた。 「公爵(デューク)ヴェルパール・エルドギーアだ」 ふいに、リューが口を開く。 思わずサーラはリューの顔を見た。リューの視線は舞台端の銀髪の男に注がれている。 「国家体制が近代化され、多くの貴族達が領地を奪われて没落していく中で、あの男は極一部の貴族同様に自身の才覚で身を立てた」 ・・・学んだ事がある気がする。 多くの貴族は今や名前だけの存在となっているが、一部はそれまでの財を近代産業に投資する等して成功を収めているそうだ。 「奴は・・・芸術に投資した。私財を投げ打ち、国内に多くの美術、演劇、音楽等の学校を開き、独自の奨学金を設けて多くの優秀な生徒を集めた。今ではライングラントの芸術の父とも呼ばれている」 感心してその話に聞き入りながら、同時にサーラは疑問を持った。 舞台上に並ぶ多くのスター俳優達について無言のままだったリューが、何故その後援者である公爵ヴェルパールにだけ説明をくれたのだろうかと。 客席が落ち着くのを待ってから、2人はロビーに出た。 すると今度はロビーが騒ぎになっている。 先程の役者や関係者達がロビーに立ち、客を見送っているのだ。 握手を求める者や花束を渡そうとする者たちによって、ロビーは大変な喧騒である。 その人ごみの中を、ふいに2人に近付いてくる者があった。 「ようこそ、異国のお客人」 にこやかに挨拶をしてきた銀髪の長身の男をサーラは見る。 (・・・ヴェルパール公爵!) まさか先程説明を受けたばかりの人物と、こうも間近で接するとは思っていなかったサーラは思わず萎縮してしまう。 ・・・目立つ身なりの2人だ。恐らく興味を引かれたのだろう。 「あ、あの・・・えっと・・・」 動揺したサーラが言うべき言葉を必死に探していると、隣からすっとリューが前へ出る。 「名高いワインバーグ歌劇団の公演、楽しみにして来たが噂に違わぬ素晴らしい舞台だった」 いつもの無表情のままで、それでも賛辞を口にするリュー。 その返答に満足したのか、公爵は笑顔を浮かべると背後の役者達を振り返る。 「ありがとうございます。彼らも喜びますよ」 笑顔のままで2人と握手を交わすと、公爵は役者達の下へ戻っていった。 帰りの車の中でもリューは無言だった。 舞台の興奮が徐々に冷めて行くにつれ、サーラの中には先程までの疑問が蘇りつつある。 「ここでいい」 と、ふいにリューは車を停めると精算を済ませて降りた。 サーラも慌てて車外へ出る。 周囲を見回して疑問に思う。随分と中途半端な場所だ。 サーラのアパートへは歩いてまだ20分ほどの場所。 周囲に立ち寄る様な場所も特にない寂しい通りだが・・・。 「お前の宿まで少し歩く」 そう言うとリューは歩き出した。 サーラがその斜め後ろに付く。 「先程の、公爵ヴェルパール・・・あの男がデュラン神父の背後にいる黒幕だ」 「・・・!!!」 いつもの様に唐突なリューの一言。 その言葉がサーラに衝撃を与える。 「最も、あの事件には公爵は直接関与はしていない。神父は公爵のいる組織では末端の人間だった。その行動に一々上位の立場にある公爵は関知しない」 「どういう事? あの事件は神父の単独犯だったんじゃないの?」 サーラの問いにリューは前を向いたまま答える。 「あの事件そのものはそうだ。その個々の単独の事件を連ねているのが背後にいる公爵らだ。奴らは神父の様な人間を徐々に増やしながら、今も少しずつこの国を死と破壊で蝕んでいっている」 そこまで話して、リューは初めて横目にサーラを見る。 「そして先日の神父の一件から、俺とお前は連中の抹殺者リストに名前が載った」 「!」 無言でサーラが息を飲んだその時、静かな夜の街を冷たい殺気が満たす。 ・・・囲まれている。無数の殺意に。 「牽制の為に顔を出してきたが、思ったより直ぐに手を打ってきたな」 静かにリューが言う。サーラは無言で取り出したリボルバーを構えた。 第2話 1← →第2話 3