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324 名前:えっちな18禁さん[sage] 投稿日:2009/04/12(日) 21 45 07 ID uHPQ/Y7e0 酔っ払いシェリルを書いてみた。全部繋げてようやく完結いたしました。 *注意* アルトの性格がヤバイくらいおかしいです。すごく性少年wです。 キャラ崩壊を起こしてる可能性がひっじょーーーーーーーーーに高いので、苦手な方は回避してください。 「たらいまぁ~」 「お帰り。で、何杯飲んだんだ?」 「んっ?らいじょうぶよ。ゆわれたとおり、5はい以内よ」 ちゃんと守ってるでしょ?と自慢げに語る空色の瞳は熱で潤み、その頬は仄かにピンクに染まっている。 それだけ見ればそんなに酔ってはいないようにも思えるのだけれど、玄関の壁に手をつき、ふらつく身体を支えながら一生懸命靴を脱ごうとする様からは結構重症であることが分かる。 送り出す前に酔い覚ましと乳製品をもっと取らせるべきだったか?と心内でため息混じりに呟きながら、アルトはシェリルの身体を支えると、ゆっくりと座らせてやった。 それからシェリルの横を通り、向き合うようにしゃがみ込む。 と、自然と視界にシェリルの足が入った。 黒のホットパンツからスラリと伸びる足。 それは、白く、ひどく柔らかそうに見え、さらにその丈の短さから下着が覗くのではないかとドキドキしてしまう。 危うく凝視してしまいそうになる自身を慌てて諫めると、アルトは平静を装いながら、ブーツの留め金に手をかけた。 「ふふふ。」 「何だよ。」 足元で作業するアルトに楽しげな笑い声が聞こえる。 視線を下に向けたまま、アルトはシェリルに訊いた。 「だぁって、お姫様みたいなんだもの」 「何がだ?」 「こうやってクツ脱がせてもらうの」 「ばーか。・・・・ほら、できたぞ。」 シェリルのふわふわとした返答に、先ほどの行いがばれていないことを知り、アルトはほっと息を付く。 そして、そんな自身の反応に中学生かよっと苦笑混じりに突っ込みながらアルトはシェリルの額を軽く小突いた。 途端にシェリルが膨れる。 小突かれた後を軽く擦りながら一瞬アルト睨みつけたと思えば、次の瞬間にはまた笑顔になった。 「んっ!!」 「・・・・・・」 「ん~!!」 立ち上がりその場を先に離れようとしたアルトに向かって伸ばされる両腕。 一瞬固まりつつも、かわそうとするアルトにシェリルが可愛らしく追いすがってきた。 一度戦中にやってやってからというもの味を占めたらしく、ここぞという時にはそうやって腕を伸ばしてくる。 甘えられているのか、いいように使われているだけか、乙女心はアルトには難解だ。 数秒の間、シェリルの真意を探ろうと試みたものの結果、抵抗むなしく負けたのはアルトだった。 背中と太ももに手を回して抱き上げると、すぐにシェリルが首筋に抱きついてくる。 幸せそうにアルトの首筋に顔を埋めるシェリルにアルトが小さく息を吐いた。 傍で感じる甘い匂いと熱い体温が、アルトに鮮明な 夜 の記憶を思い出させようとする。 慌ててそれに蓋をするとアルトは足を速めた。 「やーだぁ!!もっと、ゆっくりぃー」 「お前なぁ・・・」 「ちゃぁんと、ゆうこと聞いたのよ?ご褒美はあってしかるべきだわ。」 「・・・・褒美ねぇ・・・」 抱えられたまま、バタバタと足を動かすシェリルにたまらずアルトが速度を落とす。 抗議の声を上げたアルトに返ってきたのはシェリル 正当な要求 であるという反論だった。 渋ったような声を返しつつも、アルトはにやける口元をどうすることもできない。 ただ、自分がベットまで運ぶ行為がシェリルにとってのご褒美に相当するのだと分かったのだからそれも当然だろう。 両手を塞がれてしまったアルトにできることは、シェリルがこちらを向かないように祈ることだけだった。 壁やドアにぶつけてしまわないように最新の注意を払いながら歩く。 玄関から伸びる廊下をそろそろと歩き、リビングを抜け、寝室までもう少しというところでシェリルの身体がグラリと傾いだ。 「っ!!」 慌てて腕に力を込め、落とさぬようにと踏ん張るけれど、揺らがずにいることなど不可能だ。 意地でも落としてやるものかと必死の形相で耐えるアルトとは逆にちらりと覗いたシェリルの表情はすでに夢の中へと旅立ってしまった後だった。 言いようのない脱力感がアルトを襲う。 けれど、眠ってしまった相手に文句を言うわけにもいかず、アルトはそれらを飲み込むしかなかった。 寝室のベットの上にシェリルを降ろし、ご丁寧に枕までセットしてやった後で、自分の分の夜着をクローゼットから出してベットへと放る。 ベット脇にある小さな照明だけを点けて、眠るシェリルをしばらく見つめた後、アルトは仕方ないなと頭を掻いた。 すやすやと変わらぬ寝息を立てるシェリルは当分起きそうにない。 とりあえず、寝顔は苦しそうでなかったから服を着替えさせずに済みそうだと思った途端、残念なのか安堵なのか良く分からない感情が胸に渦巻いた。 そんなことを悶々と真剣に考える方がバカなのだろうが、あいにくその微妙な思考回路から数秒で抜け出すことは20年も生きていない少年には不可能だ。 未練がましくその後もたっぷり悩んだ後で、どうにかアルトは次の日シェリルに引っ叩かれる可能性の高い選択肢を切ることに成功した。 「アホくさ・・・」 自分で言っていて悲しくなるが、それが男の悲しい性だ。 目の前で好きな女に無防備に寝られ、その前段階で甘えられれば当然、心も身体も勝手に走り出してしまう。 そして、そんな衝動を押さえ込むのに、大変な時間と労力使い、さらには理性をフル稼働させることとなる。 光に柔らかく照らされたその寝顔をもう一度見つめ、軽く頬を小突いた後で、アルトは甲斐甲斐しくも眠り姫のために、酔い覚ましの薬と水を取りに台所へと向かった。 「・・・・・・起きたのか?」 たっぷり15分以上の時間をかけて薬を探した後で、寝室へと戻ったアルトから思わずそんな声が漏れた。 離れる前は掛け布団の上に転がしておいたはずのシェリルがきちんと布団に包まっており、ベットの近くには先ほどまで着てた服が脱ぎ散らかされている。 サイドボードの上には使用済みのメイク落とし用のコットンが置かれ、灯りが眩しかったのかその明るさが一番下のレベルまで下げられていた。 「ったく、起きたんなら呼べよな。」 小さくそう呟いても返ってくるのは穏やかな寝息だけだ。 アルトは盛大にため息を付くと、持っていた水と薬とサイドボードに置いたその後で使用済みのコットンをゴミ箱へと放り、脱ぎ捨てられた服をかき集めると部屋の隅に置かれている洗濯用のカゴの中へと入れる。 自身が描いていたような異性との同棲生活がいかに儚いものであったのかを噛み締めながら、アルトはゆっくりとベットへ戻った。 のろのろとベットの端まで歩き、先ほど自分が投げた夜着を探す。 けれど、ソレはベットのドコにも見当たらない。 不思議に思いながらベットの下も探したけれど、それは一向に見つからなかった。 「まさか・・・・」 そう呟くと同時にある予感がアルトの脳裏を過ぎる。 それを確認するべく掛け布団の端を掴むと、アルトは勢い良く引っぺがした。 「うぅ~ん。」 「・・・・・」 途端に悩ましげな声が上がった。 アルトの予想は当たったというべきか、外れたというべきか・・・・。 答えはあいまいなところだ。 きっと寝ぼけながらも着替えなければと思ったのだろう。 メイクを落とし、服を脱いだまでは良かったのだろうが、その後を壮絶にめんどくさく感じたに違いない。 確かに眠るシェリルはアルトの夜着を着ていた。 ただ、厳密に言えば着ていたのは上着だけだったし、さらに正確に言えば着ていたのではなく、羽織っていたという方が正しい。 そうまじまじと見るものではないだろうなと思いもしたのだけれど、目を放すことなどできなかった。 シーツの中で身体を丸めたシェリルは小さな子供のようにも見えるけれど、香る匂いと端々から覗く肢体は紛れもなく成人を迎えた女性のもの。 成熟しきっているわけではない、まだしなやかな印象が強い女の身体。 その肌は触れると温かく、吸い付くような弾力が返ってくる。 アルトの喉が知らず知らずのうちになった。 幾度か身体を重ねたことはあっても、ここまでじっくりと見たことはないのだ。 イケナイコトをしているのだという自覚はあった。 けれど、それを押し留めるだけの理性はもうどこをかき集めても残っていなかったし、元より好奇心は強いほうだ。 おそるおそる伸ばされる手を止めることはできなかった。 輪郭に沿って流れる柔らかなストロベリーブロンドが真っ白なシーツに散らばっている。 夜着は一番上のボタンだけしか留められていないから、他のかみ合っていない裾の端から肌が覗き、その胸元から零れた乳房が呼吸に合わせて僅かに揺れる。 その上で膨らむ桜色の蕾。 豊かな胸元とは逆にしまった腹部 折り曲げられた足は先に行くほどその細さを増してゆく。 見れば、見るほどキレイだと思った。 ミシェルに言ったらきっとバカにされるのだろうけれど、おとぎ話に出てくる 妖精 という言葉が本当にぴったりだと思った。 ゆっくりとベットに上がるとギシリと軋む音がした。 それがやけに生々しく思えて、アルトの頬が熱くなる。 眠るシェリルと向き合うようにして自身も寝そべり、布団を被りながら何を緊張しているんだと何度も何度も言い聞かせる。 それでも、ドクドクとなる心臓は静まらない。 どうしていいかも分からぬまま、アルトはゆっくりとシェリルに近づき、誘われるままに唇を重ねた。 僅かに開いていた唇を塞ぐと、温かい吐息が絡まる。 しっとりとした感触がアルトの記憶に刻まれ、同時に胸を焼く。 余韻は甘く、静かに広がっていった。 「ん・・・・」 耳に届いた小さな声に、アルトの身体がビクリッと震え、それがスプリングを通してベットを揺らす。 起こしたか?!と思って慌ててシェリルを見たけれど、穏やかな呼吸は変わっていなかった。 そのことに安堵しながら、アルトはそっとその頬に触れる。 優しくその輪郭をなぞるとシェリルが小さく身動きした。 触れるとピクッと身体が跳ね、逃げるように後ずさる。 でも、数秒後には弛緩した身体がいつもの位置へと戻って来る。 その様子が可愛らしくて、アルトは何度も優しくシェリルを擽った。 と、不意にイタズラ心が騒ぎだす。 頬を撫ぜた後で偶然を装い鎖骨の辺りまで手を滑らしてみた。 反応はなし。 そのまま、触ってみたかったのだけれど、ソレをアルトの夜着が阻んでいた。 恐る恐る手を伸ばし、そのボタンを外す。 支えを失ったソレは、さらりと肌蹴けアルトにその全てを見せてくれた。 静かに触れると、すべすべとした変わらぬ感触がする。 頬を寄せると温かい体温が伝わり、トク・トク・トクと音が聞こえる。 それは、軽やかに歩くシェリルの足音と同じくらいの速度で奏でられていた。 知らず、知らずの内にアルトが笑む。 そして、再び眠るシェリルを見つめると、アルトはそっとその額にキスを落とした。 一度だけ。そう思っていたはずなのに、もう一度っという衝動は止まらない。 額に口付けて、瞼に口付けて、頬に口付けた。 それから、鼻先を啄ばんで、顎の先。 軽く唇に触れて、喉元をゆっくりと下っていく。 触れるたび、枯渇していくような気がした。 もっと、もっとと衝動が強まる、麻薬のような誘惑。 歯止めはなかなかかからない。 鎖骨、肩、胸元 そして、乳房。 今までとは違う感触がした。 熱さも、柔らかさも違う。 自分にはない、シェリルが持つ柔らかさ。 アルトは一度唇を離した後で、もう一度触れた。 神聖な誓いの口付けをするように。 壊してしまわぬように。 優しく、触れた。 「んぁ・・・・・」 耳に心地よいその声にアルトが顔を上げると、うっすらとシェリルの瞳が開いていた。 「あ、ると?」 「なんでもない。寝てろ」 「ん。」 寝ぼけ眼のそう囁くと、再び瞼が下りてくる。 すやすやという穏やかな寝息が聞こえてくるのを待ちながら、アルトはシェリルを抱きしめ、何度も何度も頭を撫でてやった。 ふわふわと柔らかい桜色の髪を優しく弄んでいると、再び規則正しい寝息が聞こえてきた。 抱きしめていた身体を離してその表情を見ると、安心しきったような、無邪気な色が浮かんでいる。 そんな表情にアルトはくすりっと笑った。 閉じられた瞳を縁取るように生えた長い睫毛が頬に影を落とす。 薄く開いた唇からは、小さな呼吸音が聞こえる。 自分に全てを預けた姿は、何よりもアルトを嬉しくさせた。 「あっ・・・薬・・・」 寝顔をじっと見ていたアルトの脳裏に先ほど自分が運んできた存在が過ぎり、一瞬にして現実へと返らせる。 とは言うものの、肝心のお姫様はすでに夢の中だ。 何をやっているんだと心の内で一人愚痴た後で、アルトは息を吐き出した。 先ほどのことがあるとしても、緊張しすぎだと思う。 自身に対してもう一度短くため息をついた後、アルトは少しだけ身を起こした。 それからシェリルの頭の下に引いていた腕をそっと引き抜き、呼吸が乱れてないのを確認したアルトは優しくシェリルの身体を仰向けにする。 その際シェリルの着ていた夜着が肌蹴け、柔らかな膨らみが零れたけれど、今度は数秒でそこから目を反らす事ができた。 それでも、アルトの両頬は熱を上げる。 いつまでたっても慣れぬ自身に少し戸惑いを覚えながら、アルトは静かに自分が居るのと反対側におかれたサイドボードに手を伸ばした。 そして置いておいた薬の箱とミネラルウォーターを手に取る。 ひんやりと濡れた感触が伝わり心地いい。 結露を起こしていたそれは、アルトにわずかな余裕を与えてくれた。 「・・・・・・・まぁ、いいか。」 右手にミネラルウォーター。 足元に転がる酔い覚ましの薬箱。 そして、眠るシェリル。 3つを凝視した後で、アルトはそう呟いた。 ミネラルウォーターを片手に持ったまま、箱から薬の束を取り出し、カプセルを一つ押し出す。 パキッと音がして小さな錠剤が手の平へと転がり落ちてきた。 (これくらいの大きさなら、大丈夫だろう。) そう思ったアルトは一指し指を使って、それをシェリルの口へと放る。 自らはミネラルウォーターの水を口に含んだ。 そのまま、シェリルの顎と額を固定する。 そして、重ねた。 シェリルが驚いてしまわぬように、少量ずつ流し込んだ。 「・・・・うっ・・・ん・」 少しだけ不安そうな、くぐもった声が漏れる。 重ねた瞬間に閉じた目をおそるおそる開けるけれど、シェリルの瞳は閉じられたままだった。 同時に、コクリッと小さく音がなる。 その様子にアルトはほっと安堵した。 きっと眠ったせいだろう。 頬の赤みは和らぎ、もうほとんどいつもの色だ。 ただいつもと違うのは、先ほど重ねた唇が水を得て、キラキラと輝いていること。 誘われるように、アルトの指がシェリルの唇をなぞる。 指の腹に押されたその肉がふよふよとした柔らかい感触を伝えた。 その感触にアルトが優しく微笑する。 そして、もう一度そっと重ねた。 交わる甘い吐息に、頭のどこかがジンッと痺れる。 重ねるだけっと思っていたのに、気が付いた瞬間には口内へと舌が入り込んでいた。 いつもは、すぐに絡まる存在が今日は感じられない。 それをもどかしく思いながらアルトは2、3度擽る。 すぐにっとはいかなかったけれど、ゆっくりと動くそれはやがてアルトに触れた。 激しいというのとはまったく対極にあるようなキスだった。 眠っているというのに数度の経験で刻んだ記憶が動かせるのか、それを思い出すようにして優しく絡まりあう。 うっとりと余韻を引くような口付けにアルトの心臓がキュッと縮んだ。 一度身体を離すと銀糸が僅かに二人を繋ぎ、切れ、首筋に痕が落ちる。 そして、ゆっくりとEXギアの両翼が広がるような速度でアルトを求める両腕が伸びてきた。 この腕に捕まってしまうことが、育ち始めていた衝動を治めている箍を外す事になるだろうということは、アルトにも分かっていた。 シェリルに無理はさせたくない。 そう、思う気持ちはある。 シェリルの声を聞いてみたい。 そう、思う気持ちもある。 大切だから、壊したくなくて。 でも、大切だから、一番傍に居ることを感じたかった。 ゆっくりと伸びる手が、アルトの両肩に触れる。 そして、そのままゆっくりと腕に触れながら下へと落ちていく。 ただ触れられているだけなのに、再び身体のどこかがジンッと痺れる。 もっと、触れたい。 もっと、声を聞きたい。 もっと、熱を感じたい。 「ぁ、・・・・・・と?」 甘い声。 耳を擽る甘い声。 そして、呼ばれたのは自分の名前。 (あぁ、ダメ・・・・だ) 心の中に声が響くと同時に、アルトは苦笑し、白旗を降った。 自分の手首の辺りにまで降りてきていたシェリルの手を絡め取って左右の頬の横へ置き、シーツへと優しく縫い付ける。 そして、慌しく唇を重ね、割った。 起きて、起きてっと言うように何度も何度もシェリルを擽る。 絡めて、吸って、擽った。 「・・・・ん、っ・・・・」 耳に届くのは少し苦しそうな声。 でも、それはアルトの心を急かせるだけだ。 唇を離し、頬をシェリルの頬骨へと当て、触れる皮膚の全てにキスをしていく。 なだらかな首筋をなぞり、鎖骨を啄ばみ、先ほど零した唾液の痕を舐め取る。 そのままゆっくりと下へ降りていった。 乳房の谷間を辿ると、頬が埋まり良い肌の匂いがする。 その柔らかい感触を楽しみながら、左胸の付け根を軽く吸い上げたアルトは、捕らえていた シェリルの手を片方だけはずした。 身体のラインに沿ってその手を這わしつつ、アルトの唇はなおもシェリルの肌を滑る。 わき腹を啄ばみ、へそを擽った。 余すところなくキスを贈ると再び身体をゆっくりと起こす。 眼下に広がるのは、白いシーツの海に沈みつつも、無防備にその素肌を晒すシェリルだけだ。 陶器のように白い肌に一輪だけ咲く小さな花がとても鮮やかだった。 「・・・・・シェリル?」 小さく名前を呼んでみても返ってくる言葉はない。 そっと、その頬に触れてみる。 けれど、シェリルは穏やかに眠るばかりだ。 こちらの心臓は先ほどから痛いくらいに高鳴っているというのに、シェリルにはその素振りすらない。 そのことにアルトが苦笑した。 「なぁ、・・・少しは気付けよ」 アルトの声は優しい。 かといって、本当に起きてしまったらこちらが困ってしまうことになる。 『二律背反』―――そんな言葉がぴったりだと思った。 スーッ、スーッと規則正しく聞こえてくる呼吸音。 幸せそうな寝顔。 見ているだけでも心が何か温かいもので満たされる感覚。 それは確かで、嘘ではないはずなのに、心の中でその存在の大きさを主張するこの切なさは何なのだろう。 確かに同じベットの中に存在していて、 自分の身体の下にシェリルはいるというのに、 心の中で小さく渦巻く感情が、不意に昔の記憶と気持ちを呼び戻しそうに思えて、少し怖くなった。 ドキドキと打つ心音がうるさい。 こんな感情を持て余しているというのに熱い身体が情けない。 気持ち を抱いているのが自分一人のような気さえしてきた。 「シェリル?」 小さく呼んだ名前が少し震えていた。 なんで、泣きそうになっているんだろう? 理由は分からなかった。 頭がいっぱい過ぎて考えられなかっただけなのかもしれない。 でも、声が聞きたくて。 変な意味でなく、声が聞きたくて。 名前を呼んで欲しくて、 笑って欲しくて、 たまらなくなった。 「なぁ・・・・」 言葉の先は出てこない。 頭に浮かぶ言葉はあっても、それを音にすることができなかった。 頬にそっと右手で触れ、ゆっくりとその輪郭をなぞっていくと、先ほど刻んだ赤い刻印が目に映った。 白い肌に浮かぶ印。 胸元のちょうど真ん中当たりに咲く赤い花。 自身の所有の証。 静かに触れてみたけれど、アルトの望むような感情は浮かんできてはくれなかった。 浮かぶのは虚無の感情だけ。 それは、きっとアルト自身が知っているから感じるのだろう。 気持ちが伝わった嬉しさを。 気持ちが繋がった嬉しさを。 そして、互いが求め合うことで初めて満ちる感覚を。 身体だけでは意味がないのだ。 心が満たされなければ、意味がないのだ。 (起きて) 何度も喉元まででかかった言葉を、アルトはそれでも必死に飲み込んだ。 そして、その言葉に鍵をかけるように刻んだ印にそっと唇を重ねた。 再び香る、甘い匂い。 香水などでは表現することのできない、甘い、甘い、肌の香り。 そして、唇で感じる温かな体温がアルトの心をまた少し苦しくする。 そのまま、唇が肌の上を滑っていくのをアルトは止められなかった。 谷間をくだり、へそまで一直線に降りてゆく。 下着の際まで降りたところで、ようやく止まった。 止めなければと何度も何度も繰り返し思った。 ここで、止めなければと。 ここで、自らを制しなければと。 でも、その度にもう少しだけっという自分の欲望がそんな気持ちと覚悟を先へ先へと押してゆく。 おそる、おそるその端から伸びるヒモを指が摘んだ。 数センチ引くだけで、簡単に崩れ落ちてしまう砦。 頭の中は真っ白なくせに、訳も分からぬくらいの圧迫感が頭を支配していて、何も考えられなかった。 ピンッと張り詰めた空気がそこにあるだけだ。 新たに露になる肌に、アルトの喉が鳴る。 いや、ただ息を無理やり飲み込もうとしただけなのに、舌が上顎に張り付いたようになってうまくいかなかったのだ。 ドクン、ドクンという心臓の音がまた一際大きくなった。 「あ・・・っ・」 何をしているのだという声がする。 何をうろたえているのだという声がする。 火照る頬はどうしようもなくて、 爆発しそうな心音もどうしようもなかった。 ゆっくり、ゆっくりと顔を近づけ、そっと舌を這わす。 トロリとした液体と馴染みの味が口内へと広がる。 その感触にビクリッとアルトの身体が震えた。 「・・・濡れ、て・・る・・?」 何度キスを交わしたのかは覚えていない。 でも、施した愛撫はいつもより断然軽いものだ。 なのに、シェリルの秘部は静かに潤んでいた。 いつの間に、熱を宿していたのだろうか? キスで少しは ソウ なってくれていたのだろうか? 夢の中でもいいから、自分を求めてくれていたのだろうか? 「・・・・シェリル・・・感・・じ、た?」 切れ切れの問いかけに、返答は返って来ない。 それでも、アルトの心に嬉しさがじんわりと広がってゆく。 いきなりぎゅっと心臓が縮んだように、先ほどとは違う意味で胸が苦しくなった。 身体を起こし、少し上へと移動するとシェリルの頭を抱きしめる。 嬉しくて、嬉しくて、たまらなくなって、勢いよくその唇へと口付けた。 それから額を啄ばんで、頬を啄ばんで、何度も何度もシェリルへキスの雨を降らせる。 気持ちの済むまでキスを繰り返して、シェリルの肩口に顔を埋めていると、きゅっと抱きしめられた。 慌てて顔を上げると、シェリルの瞳が開いていた。 「きす、してくれた・・デショ?」 まだ半分夢の世界にいるのか、ぽやぽやとしたしゃべり方だ。 でも、先ほどとは違う。 アルトを見つめる瞳は、ひどく甘く、柔らかい。 「ねぇ?シてくれた?」 「・・・・・・」 「ふふふ。やぁっぱり、そうだった。」 強請るようにそう問うシェリルにどう答えたものかと考え込むアルトに、シェリルの楽しそうな声が届く。 見るとひどく嬉しそうな表情で、幸せそうに笑い、予感が当たったと言った。 視線で問うアルトに対し、シェリルは首をかしげるだけだ。 背中を抱いていた腕が解かれ、アルトの背中を上がり、やがて頬を包み込む。 「ねぇ、シて?」 「・・・・・・」 「キース」 さっき何度もしたんだぞ? そう言ってやりたいけれど、口に出すことなどできない。 少しだけ逡巡した後で、アルトはぎこちなく唇を重ねた。 「もっと。」 「・・・・お前、酔ってるだろ。」 「ねぇ、もう一回!」 「・・・・」 甘い声がアルトを誘う。 重ねる度に、もっと、もっとと強請られた。 「・・・深く、シて」 「ん」 「もっ・・・・ん、・っ・・」 熱い吐息が心地いい。 絡まりあう感覚が全てを支配していく。 世界が遠くなっていくのを、アルトはぼんやりと感じていた。 片手で自身の体重を支え、もう片方でシェリルに触れる。 唇は離さず、息をする間も惜しむように夢中で求めあった。 それでも、耐え切れなくなってようやく唇を離す。 苦しさに頬をほんのりと染め、少しだけ潤んだ瞳で見上げられる様は何度経験してもいいものだ。 少し言葉を発するだけで触れ合ってしまいそうな距離。 視界に映るのは互いだけ。 感じる何もかもを共有できるのは二人だけだ。 アルトの唇にシェリルの指が触れ、ツーッとその輪郭をなぞったかと思えば、今度は優しい感触。 ゆっくりと塞がれ、再び呼吸が重なった。 「っ・・・ふぁ・」 「シェリ・・・・んっ・・・ま、て・・」 「ヤダ・・・ぁ、っ・・」 「・・先、・・進め・・・ない」 途切れがちな言葉でもアルトの言わんとしたことが伝わったのか、シェリルの身体がピクンと跳ねた。 ようやく離れたことに心内で嘆息しながらも、アルトは行為を進めていく。 組み敷いた白い裸体を軽く撫ぜると、シェリルの身体がわずかにこわばった。 大切なものを扱うような繊細さで、撫で上げ唇を這わす。 ところどころを舌先でくすぐった。 胸に触れ、下腹に触れ、その感触を楽しんでいく。 アルトの愛撫の一つ一つに反応が返ってくる様子が愛おしかった。 曲線に従い、下肢を彷徨っていた手が秘部へと触れる。 先ほどアルトが愛撫したせいもあって、そこはすでに十分に濡れていた。 触れた瞬間に滑った指の感触と鳴る水音がシェリルにその熱の高まり具合を知らせる。 一際大きく震えた際にシェリルの喉が鳴り、その動揺の大きさをアルトに伝えた。 「ア、ルト・・・」 「濡れてる・・。」 「っ・・・・・」 自分でも意地が悪いとは思うのだけど、美麗な顔が羞恥に染まる瞬間は男心を擽るのだ。 アルトは下肢に指を埋めたまま、ゆっくりとシェリルの肩口に顔を埋めた。 チロリとその首筋を舐め上げ、甘噛みをする。 そして、耳元へとその唇を寄せた。 「お前、自分で服脱いだの覚えてるか?」 「えっ?!」 「今日、俺脱がしてないぞ」 嘘は言っていない。 シェリルが一人で着替えようとしたのは真実だし、自分が脱がせたのはボタン1つだけだ。 5個あるうちの1つなのだから、数的に見てシェリルが脱いだといっても嘘ではない。 「あ、ると」 名前が呼ばれる名前が震えている。 着ているシャツの裾がそっと引かれる。 肌から伝わる体温がまた少し熱を上げた。 「淫ら、だな。」 艶を含ませてそう言ってやると、シェリルの身体がまた少しこわばる。 代わりに指に触れる愛液の量が増した。 中へと埋める指を1つ増やして掻き回す。 内壁を擦り、内を解して、ゆっくりとその狭さをとっていく。 漏れ聞こえる甘い嬌声が、アルトの熱をひっそりと上げていった。 「シェリル。」 煽ることを止めず、名を呼ぶと涙を浮かべた瞳と視線が交わる。 先ほどの言葉と内から生まれる熱に染まった頬には、滲んだ汗と零れ落ちた涙にその柔らかな髪が張り付いてしまっていた。 それを端へと寄せてやると、シーツをつかんでいた手がゆるゆるとアルトの方へと伸びてくる。 求められていると分かるその様子に、アルトの心がまた一つ満たされてゆく。 「・・・んっ・・・」 唇を重ねて、割り入った。 舌を絡めて、唾液を吸い上げ、口内を蹂躙する。 その間に左手でベルトを解き、ズボンと下着を寛げた。 入り口へ宛がうと、またシェリルの身体が跳ねた。 切っ先に愛液が触れ、自身が濡れる。 これから体中に巡るであろう波に、背筋が震える。 それでも、アルトは必死にその衝動を制した。 「アルト?」 いつまでも中へ入ってこないアルトをシェリルが呼ぶ。 それにも答えないアルトにその瞳が、ゆっくりと揺らめきだしていく。 「シェリル。」 「アッ――――」 不安に揺れる瞳に満足げに笑った後で優しく名前を呼び、押し入ると、その衝撃にシェリルの身体が軽く反る。 ぐちゅりという卑猥な音と共に伝わる埋まっていく感触がたまらなく心地よかった。 腰を動かす度に上がる声をもっと聞きたくて、 求めるときに呼ばれる自身の名前をもっと聞きたくて、 夢中で波の後を追いかける。 熱く絡み付いてくる感覚に、全てが蕩けてしまいそうでもあった。 太ももを抱え上げ、奥へ奥へと潜り込む。 揺らす度に豊かな乳房が震えていた。 もっと、もっとと膨れ上がる欲望はその限界を知らない。 熱に浮かされ、溺れ、次第に何も考えられなくなった。 覚えているのは、 その肌の熱 肌と髪の香 白磁の肌に残る赤い痕 注ぎ込んだ唾液の甘さ 濡れた二人分の息遣いと水音 集まっては霧散するその快楽の波あとに翻弄されながら、アルトは高みへと登ってゆく。 果てるなら一緒がよかった。 自然と手と手が絡まったのが嬉しかった。 閉じられていた瞳が開いて、そこに自分が映っていたことが嬉しかった。 名前を呼んだら、それに笑ってくれたのが嬉しかった。 感情のうねりとともに、シェリルの身体の奥底でアルトの熱塊が爆ぜる。 注がれるその熱さに、シェリルの思考が蕩けていった。 「・・・・っ」 耳元で感じる荒い息。 それでもシェリルを撫でる手は最初の頃と同じで優しい。 抱き込んでくれるアルトの何もかもが愛おしくて、シェリルはまだ力の抜けきったままの手をアルトへと伸ばした。 「あのね、大好き、よ?」 「なんで、疑問系なんだよ」 「・・・知ってるかなーって。」 「・・・・そうだな。知ってる」 いつの間にか互いに微笑んでいた。 優しく髪を梳く手が、シェリルを温かくて、幸せな夢の世界へと誘う。 ぼんやりと、まどろみながらシェリルはアルトの頬に触れた。 「ね、おやすみ。」 「あぁ、おやすみ」 白いシーツの波間に抱かれて眠るシェリルの額に、アルトはそっとキスをした。 「おやすみ、シェリル」 言葉を奏でる声は甘く、静かに部屋へと落ちた。
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ぱんだの気持ち このページ「ぱんだの気持ち」は「Team☆ぱんだ」の連合規約です。 明るくほんわか楽しく、とっても緩やかーな仲間ですが、この規約に反する場合は、最悪この連合から永久追放ということもあり得ます。 なので、既にメンバーの方も、時には読んでチェーーックしてね。 現在のバージョンは、公布前ぶろす案Ver.1.0.1です。 ので、まだ実際の効力はありません。 正式に内容が検討され、公布され、施行されて、はじめて効果を 発揮します。 ということで、みんなで、内容調整をしていきましょう。 よろー^^ ひとつめのぱんだの気持ち 『迷惑行為防止』クレクレ等の他人に迷惑のかかる行為等は一切なしとする! ふたつめのぱんだの気持ち 『楽しく』皆が何より楽しくLOSTをenjoyしよう♪ みっつめのぱんだの気持ち よっつめのぱんだの気持ち いつつめのぱんだの気持ち
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種族 キャスト 性別 男性 属性 氷 年齢 30 誕生日 9月3日 CV 諏訪部順一 「さぁ、どこを撃ち抜かれたい?」 「アークス教導部所属のアルトだ。よろしく頼む」 「私は不器用な男だな…」 アークス教導部で教官を務めるキャスト。アークス内部の体制変化により教導部に所属しているがやっていることは変わらない。ロウエルは彼の教え子であり教官としての後輩でもある。 またSTAR RISEの古株でもありマグナが入団するよりも前から所属していたため先代マスターとの面識もある。 マグナに取っては最もアークスとしての付き合いが長い人物であり互いに信頼を寄せる仲。そしてマグナが不在の際は代理でマスターを務めることもある。 10代20代といった若い世代が数を占めるSTAR RISEにおいて比較的年齢が高く、相応の落ち着きと経験から来る判断力を持ち合わせる。 しかし【巨躯】戦争以来激化し続けるダーカーとの戦いの為に若い頃から戦地へ赴く人生を歩んできた影響で30になっても異性との関係に非常に疎い一面も(あくまで関係、経験がないだけで性知識などは持ち合わせてはいる)。その為自らに想いを寄せるフィナンシェに対してどう答えるべきか悩んでいた。 幼い頃に夢を語り合った友人がいたが12年前の【若人】襲撃で帰らぬ人となる。それ以来市街地区の丘にある展望台で毎日の報告をするようになった。何故展望台なのかというと、昔夢を語り合った場所こそこの展望台であり友人との約束の場所だからである。なお現在は老朽化しており近寄る人は少ない。それでもかつて展望台として機能していた頃の景色は健在であり夜になれば満天の星空を仰ぐことも出来るため約束の場所ということを除いてもアルトのお気に入りの場所となっている。 なお幼い頃のアルトは学校の先生になる事が夢だった。現在はベクトルが違う方向で教える立場になっているのだからアルトとしても複雑なのだろう。 アークスの間で話題の種となっているアイドル フィナンシェから一方的に好意を寄せられているが前述の通り異性関係に疎いためハッキリとした返事は出来ておらず、その関係も曖昧なものとなっている。しかし勝手に危険な任務へ出たフィナンシェを叱りつけるなど決して気にしていないわけではない。因みにアルトがフィナンシェを気にかけている事についてはSTAR RISE内(主にヒスイとクラルスなどの女性陣)で度々ネタにされ冷やかされているがその反面マグナやロウエルといった男性陣からは理解のある対応をされている。 【固有武器】 L-0003SPW ズィーゲン=ラヴィーネ アルトが所有する大砲。折りたたみ式のフレームを採用しており中距離程度までの距離であれば折り畳んだままでも発砲することが可能。しかしその真骨頂は砲身を連結させて行う超長距離射撃でありアルトの狙撃能力も相まって驚異的な威力と命中精度を誇る。また超長距離射撃用の形態ではあるものの砲身を標的に突き刺してゼロ距離射撃をすることもある。
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死んだ先生 プロフィール 作品リスト 関連リンク
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2017年10月30日(月)~11月26日(日) 会場: 東京都 三軒茶屋 世田谷パブリックシアター 作: トム・ストッパード 翻訳・演出: 小川絵梨子 出演者: 生田斗真 菅田将暉 林遣都 半海一晃 安西慎太郎 松澤一之 立石涼子 小野武彦 ほか 料金: S席10,000円 A席8,000円 B席6,000円 公式サイト: http //www.siscompany.com/rosen/ シス・カンパニー公演 『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』 | 提携 | 世田谷パブリックシアター https //setagaya-pt.jp/performances/201710rosen-3-2.html SIS Company「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」10/30(月)~11/26(日)於:世田谷パブリックシアター CoRich舞台芸術!: https //stage.corich.jp/stage/86207 ■インタビュー記事: 生田斗真&菅田将暉 悲劇の脇役、漫才コンビのように 「ハムレット」から、一言で片付けられた2人の物語 生田斗真・菅田将暉:朝日新聞デジタル http //digital.asahi.com/articles/DA3S13199807.html?rm=150 菅田将暉 菅田将暉「僕、いままで芝居でちゃんとやれていたのかな」 | ananニュース - マガジンハウス http //ananweb.jp/news/137944/ 林遣都 観劇予報 『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』でハムレット役を演じる。林遣都インタビュー http //kangekiyoho.blog.jp/archives/52038543.html 林遣都/舞台「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」コメント動画 https //www.youtube.com/watch?v=KqLRqvIeVvY ■web記事: 2019.08.20 月9『監察医 朝顔』で話題のジュノンボーイ俳優「実はいじられキャラなんで(笑)」 https //bizspa.jp/post-197425/ 2018.02.05 松本享恭がタクフェス『笑う巨塔』でコメディに初挑戦! 人を笑わせる、楽しませることに向き合う今の心境とは? https //entertainmentstation.jp/171870 2017.12.27 松本潤に一問一答「最近ハマっているのは舞台鑑賞」 https //jisin.jp/serial/johnnys/johnnysinfo/32037 2017.11.26 菅田将暉x生田斗真x林遣都『ローゼンクランツ...』@三軒茶屋★★★★★ - In the eye of the beholder http //georgina96.blog94.fc2.com/blog-entry-1256.html 2017.11.24 【本編】尾上松也のエンタメ異文化交流録『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』 http //ent.living.jp/column/matsuya/79655/#more-79655 2017.11.20 【舞台】 ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ(2017) - SEVEN HEARTS http //blog.livedoor.jp/andyhouse777/archives/66266786.html 2017.11.17 【速報】尾上松也さんが『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』を観劇! http //ent.living.jp/column/matsuya/79621/ 2017.11.16 【行ってみた】生田斗真&菅田将暉の初共演舞台で、巧みな言葉遊びとユーモアを堪能! https //precious.jp/articles/-/2721 平埜生成『ローゼンクランツとギルデンスターンがきなり。』 https //ameblo.jp/hirano-kinari/entry-12328899324.html 平埜生成、興奮状態で菅田将暉と2ショット「また一緒に舞台に立ちたいのお」 - Ameba News [アメーバニュース] https //news.ameba.jp/entry/20171117-610/ 2017.11.15 戸田恵子『じろんですが。』 https //ameblo.jp/toda-keiko/entry-12328451966.html 2017.11.13 生田斗真が”絵になる”理由は顔立ちだけではない 『先生!』『ロズギル』で見せた柔らかなアプローチ | マイナビニュース http //news.mynavi.jp/articles/2017/11/13/ikutatoma/ (評・舞台)「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」 「外国の古典」に心底から共感:朝日新聞デジタル http //digital.asahi.com/articles/DA3S13226071.html?rm=149 2017.11.09 2017年11月9日 舞台「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」ゲネプロに潜入! 田川隼嗣 https //a.amob.jp/mob/pageShw.php?site=A ima=0031 aff=ROBO004 cd=genba_rosen1 2017.11.07 夕刊ベスト8 2017年11月7日(火)|5時に夢中!|バラエティ|TOKYO MX http //s.mxtv.jp/goji/best8.php?date=20171107 生田斗真くん菅田将暉くん初共演舞台『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』観劇 - 青嵐 Blue Storm 大野智くん Fan Blog http //fuhca.hateblo.jp/entry/2017/11/07/192940 2017.11.06 小川絵梨子訳・演出『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』@SEPT(2017年10月30日) 今日も劇場へ? 森岡実穂・劇場通いの記録/ウェブリブログ http //84679040.at.webry.info/201711/article_1.html 2017.11.04 生田斗真、菅田将暉の共演作 かつての名優超えるか https //www.nikkansports.com/entertainment/column/hayashi/news/201711040000371.html 【鑑賞眼】現代的視点で描く存在の不安 シス・カンパニー「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」 - 産経ニュース http //www.sankei.com/entertainments/news/171104/ent1711040012-n1.html http //www.sankei.com/entertainments/news/171104/ent1711040012-n2.html 2017.11.01 鈴木勝吾『sd-1062〜カンゲキ』 https //ameblo.jp/shogo-suzuki/entry-12324493540.html 開幕コメント(2017.10.30) 菅田将暉、生田斗真のボケ「たまらない」 『ロズ・ギル』開幕直前コメント | マイナビニュース http //news.mynavi.jp/news/2017/10/30/155/ 「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」開幕!生田&菅田、小川が意気込み - ステージナタリー http //natalie.mu/stage/news/254743 生田斗真と菅田将暉の初共演舞台『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』10/30開幕! コメント&舞台写真が到着 | SPICE - エンタメ特化型情報メ... http //spice.eplus.jp/articles/154497 生田斗真、菅田将暉のツッコミに「頼もしい」 『ロズ・ギル』開幕直前コメント|Abema TIMES https //abematimes.com/posts/3167330 10月30日(月)、いよいよ初日ステージ開幕!舞台「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ…」 http //www.astage-ent.com/stage-musical/rosen-2.html 生田斗真、菅田将暉のツッコミは「頼もしい」 初共演舞台が開幕直前 | ORICON NEWS https //www.oricon.co.jp/news/2099834/full/ 『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』開幕!生田斗真、菅田将暉との「普段の会話もロズとギルみたい」 | エンタステージ http //enterstage.jp/news/2017/10/008184.html 菅田将暉「斗真くんがあの顔立ちで“ボケ”る可愛げもたまらない」。生田斗真と初共演舞台開幕直前コメント到着-rockinon.com| https //rockinon.com/news/detail/168938 生田斗真「掛け合いの面白さが楽しめる」、菅田将暉「原点に立ち返ったよう」 小川絵梨子演出『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』開幕 - 2017年10月 - 演劇ニュース - 演劇ポータルサイト/シアターガイド http //www.theaterguide.co.jp/theater_news/2017/10/30_03.php 生田斗真&菅田将暉 初共演舞台「ロズ・ギル」開幕 - ウレぴあ総研 http //ure.pia.co.jp/articles/-/120513 生田斗真&菅田将暉 初共演舞台「ロズ・ギル」開幕|ぴあ http //ticket-news.pia.jp/pia/news.do?newsCd=201710310000 afid=P05 10/30(月)ついに開幕!「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」開幕直前の演出家、ロズ&ギル2人のコメントと舞台写真が到着! http //engekisengen.com/stage/message/rgd-3/ 2017.10.26 デビュー20年、異色ジャニーズ・生田斗真が「俳優でいく」決意をした瞬間 | ORICON NEWS https //www.oricon.co.jp/news/2099582/ 2017.10.22 ボケ役・生田斗真、菅田将暉に言われた“評価”とは?〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット) https //dot.asahi.com/aera/2017101900062.html https //dot.asahi.com/aera/2017101900062.html?page=2 https //dot.asahi.com/aera/2017101900062.html?page=3 2017.10.04 次世代を担うU-25俳優特集 『SODA PLUS Vol.4』(ぴあ)発売 ~ 表紙は竹内涼真 北村匠海、高杉真宙、志尊淳&小関裕太、葉山奨之、松尾太陽、竜星涼、岡山天音、田... https //prtimes.jp/main/html/rd/p/000000640.000011710.html 竹内涼真のモチベーションはファンイベント!高杉真宙が語る4年前からの意外な変化など、次世代を担う“U-25俳優”を特集 - music.jpニュース http //music-book.jp/book/news/news/160987 2017.09.11 作品情報:ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ | エンタステージ http //enterstage.jp/db-drama/2017/007373.html 2017.09.10 2017/10/30~11/26 石巻市出身俳優・半海一晃さん出演、舞台「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」@東京 https //ishinomaki.kahoku.co.jp/blog/blog/201709/36095 2017.08.31 「ハムレット のスピンオフ戯曲」として、興奮と熱狂を巻き起こした『ローゼンクランツと ギルデンスターンは死んだ』に生田斗真と菅田将暉が挑む! http //engekisengen.com/stage/news2/rgd-2/ 2017.08.19 【SPICE人気記事特集】RISING SUN、生田斗真・菅田将暉初共演、『テレ朝』フェス、紫吹淳の運命の人、CLAMP×『HiGH LOW』×NO MORE映... https //spice.eplus.jp/articles/142012 2017.07.22 モデルプレス - 【注目の人物】「オオカミくんには騙されない」の正統派美少年・田川隼嗣はアミューズ期待の新星 初舞台で生田斗真、菅田将暉らと共演へ https //mdpr.jp/news/detail/1701988 2017.06.23 生田斗真&菅田将暉「舞台初共演」を、ファンが悲観するワケ | 日刊大衆 https //taishu.jp/detail/28293/ 解禁(2017/06/16) 生田斗真と菅田将暉が初共演!今秋上演の舞台で世界的戯曲に挑む - シネマトゥデイ https //www.cinematoday.jp/news/N0092249 生田斗真&菅田将暉が初共演 舞台で新進気鋭演出家とタッグ | ORICON NEWS http //www.oricon.co.jp/news/2092506/full/ 生田斗真・菅田将暉が2017年秋、舞台『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』で初共演 | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス https //spice.eplus.jp/articles/129837 生田斗真と菅田将暉が初共演 『ハムレット』スピンオフ戯曲が秋に上演 https //www.cinra.net/news/20170616-rosencrantzguildenstern 生田斗真 菅田将暉が初共演!『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』|Abema TIMES https //abematimes.com/posts/2525800 生田斗真と菅田将暉が初共演!「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」 - ステージナタリー http //natalie.mu/stage/news/236825 イケメン初共演!生田斗真、菅田将暉との舞台に「気持ちよくやれそう!」 - SANSPO.COM http //www.sanspo.com/geino/news/20170616/joh17061605030001-n1.html http //www.sanspo.com/geino/news/20170616/joh17061605030001-n2.html http //www.sanspo.com/geino/news/20170616/joh17061605030001-n3.html 生田斗真、菅田将暉が初コンビ 舞台「ロズギル」 https //www.nikkansports.com/entertainment/news/1840802.html 生田斗真、菅田将暉が初共演 今秋舞台で丁々発止 https //www.nikkansports.com/entertainment/news/1840858.html 生田斗真×菅田将暉で舞台初タッグ 世界的戯曲コメディー、漫才ばり掛け合い /芸能/デイリースポーツ online https //www.daily.co.jp/gossip/2017/06/16/0010287295.shtml 生田斗真&菅田将暉が舞台で初共演「気持ちよくやれそう!」― スポニチ Sponichi Annex 芸能 http //www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2017/06/16/kiji/20170616s00041000055000c.html 生田斗真と菅田将暉「ハムレット」のスピンオフ舞台で初共演 スポーツ報知 http //www.hochi.co.jp/entertainment/20170615-OHT1T50268.html 生田斗真×菅田将暉が舞台で初共演! ハムレットスピンオフ名作に挑む | マイナビニュース http //news.mynavi.jp/news/2017/06/16/007/ 生田斗真&菅田将暉、初共演 『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』が上演決定 - 2017年6月 - 演劇ニュース - 演劇ポータルサイト/シアターガイド http //www.theaterguide.co.jp/theater_news/2017/06/16.php 生田斗真×菅田将暉が初タッグ!舞台『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』 - Ameba News [アメーバニュース] http //news.ameba.jp/20170616-288/ モデルプレス - 生田斗真&菅田将暉が初共演 世界的人気戯曲「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」<コメント> https //mdpr.jp/news/detail/1694240 生田斗真と菅田将暉の初共演舞台が今秋上演決定|ぴあ http //ticket-news.pia.jp/pia/news.do?newsCd=201706160002 生田斗真と菅田将暉が初共演!舞台『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』今秋、上演決定! http //www.astage-ent.com/stage-musical/rosen.html 生田斗真と菅田将暉が初共演!『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』上演決定 | エンタステージ http //enterstage.jp/news/2017/06/007368.html 【SPICE人気記事特集】エド・シーラン来日詳細、『Fate/Apocrypha』放送日、back numberツアーに幕、生田斗真・菅田将暉初共演、加藤和樹ツアーレポ、『XYZ TOUR 2017』第一弾、柴犬・まると添い寝 https //spice.eplus.jp/articles/130267 本多遼『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』 https //ameblo.jp/honda-ryo/entry-12285216743.html 【SPICE人気記事特集】MONDO GROSSO×満島ひかり/ジャック・スパロウ引退?/エド・シーラン来日詳細/生田斗真・菅田将暉初共演/Kalafinaレポ... https //spice.eplus.jp/articles/131640
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そして少女は死んだ -The Elfin Knight- (後編) ◆X5fSBupbmM E-3、ネットカフェ内。 スパイダープロテクターを着用した男の手には、朝倉のスカーフの切れ端で束ねた彼女の髪があった。 先ほど、日本刀で切り取ったものだ。 (すまない……あんたに、俺はこう言うことしかできない。 だが……せめて、せめてこの髪は長門に届けようと思う) 慰めにもならないだろうと、分かっている。偽善ですらない、それも分かっている。 だが、もう彼女とその伴侶にしてやれることはこれくらいしか思いつかなかった。 カリカリ、とパソコンがHDを読む音につかれて、Dボゥイはディスプレイを見た。 何かが画面に映っている。 乾いた血で画面の大部分は汚れていたが、それが無数のフォルダの群れであることは分かった。時々圧縮ファイルや、ワードデータのアイコンある。 「なん――ッ!?」 中身を確認しようとした時、ズン、と軽い振動が伝わってきた。 ネットカフェ自体が防音されているのか、音はBGMに遮られ聞こえなかった。 だが、ネットカフェの外、しかも近くで戦闘が行われていると悟った。 朝倉を殺した犯人によるものか。違うとしても、みなみが巻き込まれていないとも限らない。 どちらにしろ、ここに滞在する暇はなかった。 Dボゥイは、画面に映ったフォルダの群れをドライブに入れっぱなしだったCDに記録する。 容量が足りなかった分は、元からCDに記録されていたフォルダの内、容量の多い方を削除して補った 受付にあったノートパソコンとバッテリーを再生用に頂戴する。 なぜかノートパソコンは電源が入っていた。デスクトップではステンドグラスのような色彩の羽根をもった少女が得意げに笑っている。 スリープモードに移行させてデイパックに突っ込むと、Dボゥイはネットカフェを後にした。 外を見渡すと、市街の向こう、公道のあたりで黒煙をもくもくと昇らせている場所がある。 その反対側にも、煙が上がっている場所があった。 双方の距離は大差ない。 みなみと、朝倉殺害の犯人はどこにいるのだろうか。 (クソッ。……どうする?) Dボゥイはどこへ向かうか決めかね、心の中で悪態を吐いた。 ☆☆☆ 「禁止エリアになっちゃうけど、やっぱり放送局の方に行きたいな」 今、柊つかさはオレンジ色の柔らかなフリルとギャザーが施された服を着ている。 なぜ初めからこの服を着なかったとパピヨンが尋ねれば、スカートが短くて恥ずかしかったという。下着の替えは更衣室に置いてなかったそうだ。 ぶっちゃけると、パピヨンは彼女の羞恥心などどうでもよかった。 次の行き先を決めさせることが、あえて柊つかさを一人にした理由。 目的地だった放送局が、禁止エリアに指定されたためだ。 これからの行動について、パピヨン自身の考えもいくつかある。だが、彼女の思うようにさせてみたかった。 彼女がみせた決意と甘え、そのどちらが真実か見極めるために。 「ホウ、理由は?」 「放送局の近くには病院があるんだよね? ケガした人や道具が欲しい人が、たくさん集まると思うんだ」 彼女の言葉は正しいだろう。 そもそも、ただでさえ他者との接触が欲しい参加者が集まりやすい中心部に、 物資調達に便利な百貨店やホテルといった施設を集中させるこの配置が釣り餌だったのだ。 定時放送で禁止エリアにすることで集まった参加者を散らせ、接触する機会を増やす一方、橋を塞いで逃げ道を減らす。 たった二回の放送で周辺、またはそのものが塞がれた橋は3/5。 こうもあからさまに土地が分割されては、この辺か北東に人数が密集していると考えた方がいい。 地下鉄のような交通手段がないここでは、徒歩で動くしかない参加者も多い。スピードがない参加者の動きは、さぞ予測しやすいだろう。 ああまったく、参加者の移動を促すこのルールはよくできている。 「ゲームに乗った奴も、同じ考えで大勢来る可能性は考えたのか?」 「でも、人がたくさんくるのは同じだよね? だったら、お姉ちゃん達が近くにいるかもしれない、行こうっ」 パピヨンを見るつかさの眼差しは強い。手は僅かに震え、目も潤んでいるが。 だが、その手に仮面ライダーのカードデッキを握っていたことが、つかさの思いを明示していた。 そこまで決めて映画館を出たところで、柊つかさは慌て始めた。 人数の密集が何を意味するのかに気付いて、居てもたってもいられなくなったのだろうか。 「急ごう、遠いけど早くいかないと!」 「あ、そうそう。そのことについてだが……柊、車かバイクの運転免許は取ったか?」 彼女は、きょとんとした。 数秒後、ようやくパピヨンが何をいったのか理解して、慌てて首を振る。 「え、う、ううん……いつか取りたいなあとは思っているんだけど」 「そうか。まあ運転くらいぶっつけ本番でもなんとかなるだろう。問題は調達できるかどうかだな」 「えぇッ?」 西の公道から島を回って行くにしても、G-6を避けてF-6の橋を渡るにしても、放送局まで距離がある。 幸いデイパックの容量に制限はないため、車の類が通れない道になっても一旦デイパックにしまって持ち歩くことができる。 まあ都合のいい足が見つかったらの話だが。 「バイクはそれで大丈夫だった。足が見つかったなら、癪だが俺が運転してやろう」 「ふ、不安だよぉ……」 「経験もない、お前よりマシだ」 「どんだけー……。でも、やっぱり急いだほうがいいよね。 もしかしたら放送できるかもしれないし……ゆたかちゃんも、いるかもしれないし」 オプーナ女の正体も、柊つかさとの接触で判明した。 小早川ゆたか。元はただの人間だったという。 柊つかさが"オプーナ"という単語は聞いたことはないという点も踏まえると、やはりこれが小早川の力の源か。 彼女らの世界に錬金術は浸透していない。 やはり別世界の異能の類に浸食されたのだろう。それとも小早川自身が異世界の住人か。 何にせよ、"オプーナ"に関する情報はパピヨンも柊つかさも欲していた。 「俺がそいつと会ったのは一回目放送の前だ。今どこにいるのか、見当もつかんぞ」 「き、期待しちゃだめなのかな……」 「お前がどう思おうが構わんが、望みは薄いだろうな」 同じ理由で、ニアデスハピネスを所持する、でっていうも放置することにした。 一度目の放送で名前が呼ばれた奴の所持品の手がかりなど、簡単に見つかりそうにない。 歩きながら、つかさがおずおずと話しかけてきた。 「……あのさ、パピヨン。パピヨンって車の免許とか知っていたんだね」 「俺は日本にいたんでな。地球の常識や生物の強さの尺度の知識はある」 「そうなんだー。ゲームや映画の世界の人と思ってたよ」 頭をかきながら、彼女は恥じた。なぜかパピヨンの格好をまじまじと見ている。 確かに、パピヨンは日本にいた。 だが彼女と話す際に念頭においている知識は、錬金戦団、L・X・E、ヴィクターらが存在する世界のものではない。 柊つかさがまだ語っていない、彼女が住むのほほんとした世界についての知識だった。 時刻は日中。 映画館にいた彼らは知らないが、放送局からの"放送事故"から十数分後にそれは起こった。 突然、ゴオン、と地震のようなものが伝わった。 次いで、爆音。パピヨンは柊つかさの頭を掴んで、伏せさせる。 「きゃっ!」 「チッ、……近いな」 震動が止み近くの物陰に二人は入った。 公道の先、映画館より北側でなにか"爆発"したようだ。もくもくと黒煙が立ち上っている。 パピヨンにとって、馴染んだ火薬の臭いがした。 (……まさか、ニアデスハピネスか?) 路地から路地へ走りぬける人影が、視界を掠めた。 一瞬捉えたそいつは葡萄酒を頭から被ったかのように、全身は赤黒い。そして、先ほどの火薬の臭いも漂わせている。 人影に気付いていない柊つかさは、きょろきょろと辺りを見回している。 そして急に、ベルトを握り締めて煙の元へ駆けだした。 「おい、柊っ。……?」 去った人物のスピードがぐん、と上がるのが、臭いが遠ざかる速さから分かった。 どちらを追うか少しだけ迷って……パピヨンは軽く舌打ちして、柊つかさを追った。 今からあのスピードの相手を追いかけるのは悪手だ。 道路の先、もくもくと煙が昇っている場所に赤いリボンを結んだ柊つかさの後姿があった。 狙撃するなら絶好の機会だ、と彼女の全身が主張しているような気の抜けた立ち方だ。 彼女の向こうの景色は、煙の黒が邪魔でよく見えない。 「柊、なにを勝手に……ッ、」 彼女の下に向かって話しかける途中、火薬とは違う、覚えのある異臭が鼻についた。 しかし、それくらいで蝶人パピヨンは言葉を詰まらせたりしない。 詰まらせた理由は、臭いをきっかけにある光景が脳裏に浮かんでしまったから。 そして、柊つかさの見ているものに気付いてしまったから。 ぽかん、と口を開けて彼女は黒煙の出所を見ていた。 左腕を押さえ、こちらを睨む相羽シンヤではない。 彼女の視線の向かう先は一つだけだ。 右脇腹から下を、先ほど羽織っていたマントよりも黒く焦がした、それを見ていた。 焼きが甘く、ぽっかりと開いたレアの傷口から腸を垂らしている、それを見ていた。 鉛筆と芯のように、肉色の左腿と炭となった膝をぽきりと折った、それを見ていた。 つかさと同じ色の頭髪を血で染めた、それだけを眺めていた。 柊かがみだけを、ぼんやりと見つめていた。 ☆☆☆ 今、自分はどこを走っているのだろう。みなみはそう思った。 あの場所から湖の反対方向に禁止エリアはなかったから、どう行っても安全だろうとは分かっていたけれども。 みなみの逃走速度が、飛躍的に上がったタネ。 それは、ふくらはぎに生えた漆黒の翼による低空滑空だった。 『早くこの場を去りたい』という思いを受けて、黒色火薬の武装錬金・ニアデスハピネスが鷲の羽型の加速装置を形成したのである。 奇しくもそれは、その武装錬金本来の使い手の飛行方法と似ていた。 みなみは自分の手首を見る。 酷い濃さの手形ができていた。武装錬金の展開の直前、シンヤに掴まれた一瞬に生じた痣だ。 あの力、尋常じゃない。 体育館にいたピエロやつかさに似た人も、変な力を使っていた。 喋るカエルなんてものも、いたような気がする。 そして、今しがた確認した武装錬金・ニアデスハピネスの威力。 みんな常識外の力を持っている。 ゾクリ、とみなみの背に冷たいものが走る。促されかのように、みなみの足が速まった。 (駄目、駄目だ駄目駄目だ駄目駄目駄目駄目駄目駄目……。 ゆたかを、こんな非常識に巻き込んではいけない……!) あの子は体が弱いのだ。高校での普通の日常を甘受することで満足しているし、それが精一杯であることも事実。 小さくて儚くて柔らかく笑うあの子が、こんな場所にいてはいけない。 だから、攻撃した。一刻も早く、ゆたかを見つけるために。 危険なものを排除するために。 得体の知れないかがみにそっくりな女と、人の皮を被った化物を。 朝倉を殺した時に、ゆたかを守るための手段を選ぶ必要なんてないと、決めたはずだった。 この手は血に染まっている。いくら罪を重ねても、赤黒い色は変わらないのだと。 けど一瞬だけ、迷ってしまった。これでいいのだろうか、という疑問が自分の中に渦巻いていたから。 惜しかったと思う。迷いさえしなければ、もっと爆破領域を広げられたのに。 爆発の瞬間、偽かがみがシンヤを突き飛ばしてかばおうとも、二人とも殺せていたのに。 奇襲が失敗したみなみが選んだのは、逃走。 使いたての武器で、真っ向から化け物を相手にするのは無理があると判断したためだ。 偽物のかがみとシンヤだけでなく、みなみは先ほどの放送の主にも憤っていた。 (先輩達が……私たちが、ゆたかが、"魔女"? "化物"? 嘘つき。他の人達の方が、ずっと……) 他の参加者の方が自分達よりおかしな化物ばかりではないか。 武装錬金の展開による疲労が、みなみを蝕む。スポーツに慣れた彼女の息がはずみ、徐々に上がっていく。 脳の酸素が不足した状態で進めた思考は短絡的に、視野は狭窄的になっていく。 (……ゆたか) 大丈夫だろうか、体調を崩していないだろうか。 あの子はどこかに隠れているとしても、誰かに守られているとしても、きっと怯えているのだろう。 あの優しい子は誰かの争いと関わる度に傷ついて、痛みを背負って涙を流すのだろう。 みなみは彼女が痛めつけられて憔悴して泣く顔なんて、見たくなかった。 守られているとしても、それは誰だろう。先輩達や黒井先生ならいいけれど、そう簡単に遭遇できるとは思えない。 やっぱり、この殺し合いで初めて会った人と共にいるのだろうか。 Dボゥイのような人に。 (守らないと) Dボゥイは自らのことについて、あまり話してくれなかった。 そして知った。姿は人間だけど、化け物。それが彼の正体。 みなみに教えてくれなかったのは、たぶん後ろ暗いことがあったのだろう。ゆたかのことについて。 あの人はゆたかのことを心配してくれていたと思う。助けてくれていたんだと思う。 けど、巻き込んだ。ゆたかを、自分の争いに巻き込んだのだ。 そして"彼と一緒にいたゆたか"は、Dボゥイの弱みとしてシンヤに利用された。 今回も同じ轍を踏むかもしれない。実際、シンヤはゆたかに興味を示していた。 Dボゥイではだめだ。 確かに彼は、殺すためにゆたかを捜しているわけではなかった。彼女を守るための力もある。 けれど、彼の周りの"争い"があの子に害を与えてしまう。 それにあの人も……シンヤみたいに殺意を露わにするかもしれない。 彼もテッカマンという、化物だから。 (守らないと) 朝倉涼子の件も、あれでよかったんだ。みゆきを殺した犯人が首輪解除の方法を見つけても、ゆたかが嬉しく思うはずがない。 首輪についての話も全部嘘だったかもしれない。殺すのは当然だったのだ。 信じられない。こんな場所で出会う人なんて、とても。 (私がっ、守らないと……!) 逃げ続けたみなみは、誰も周囲にいないことを確認すると路地裏に座り込んだ。 疲労、興奮、悪寒、いろんな要因が混ざって、汗がぶわりと湧き出した。 上気した頬を歪めながらも、武装を解除して核鉄を握り締める。 説明書にはこの状態で身につけていれば、傷を癒し体力を回復させるとあった。眉唾ものだが、ないよりマシだ。 「ハッ……ハッ、ハぁ……」 汗を拭うと、ピンク色の液体がべっちょりと手に付いた。 未だにこびり付いている、朝倉の血のせいだ。 汗と鉄臭さが混じった臭いがつん、と鼻腔を刺激する。ひどく不快に感じた。 (早く、着替えよう……) 気持ち悪いし、これから接触する相手に危機感を覚えさせるだろう。 変な放送のせいで陵桜の制服を着た人間は、あらぬ疑いを掛けられる可能性も出てきている。 何より、ゆたかは血だらけの人間なんて見たら、気分を悪くしてしまうだろう。 ふらつきながらも、目に爛々と決意の光を灯し、みなみは立ち上がる。 (私が守る。ゆたかを、守り抜いてみせる……) 彼女の心に浮かぶのは親友の優しい子と、もう一人。 (だから、だから……。……Dボゥイさん、) 彼がゆたかを保護していたということ、心配してくれていること、これは真実なのだろう。 そのせいかチクリと心のどこかが痛んだけれど。ゆたかのためだ、とみなみは決心する。 あなたはただの人間ではありません。危険な、とても害ある存在です。 だから、 (……死んで下さい……!!) 【F-2/南東端・市街/1日目-日中】 【岩崎みなみ@らき☆すた(原作)】 [状態]:ゆたかを思うあまり錯乱、人間不信、血まみれ、 疲労(中)、右手首に鬱血、核鉄により回復中 [装備]:スペツナズナイフ@現実、核鉄「ニアデスハピネス」@漫画ロワ [所持品]:基本支給品一式、長門画像CD@現地調達、鉈@現実、不明支給品(0~2) [思考・行動] 基本方針:小早川ゆたかを探し出して守る。 1:返り血を流して、着替えたい。 2:相羽兄弟の早急な殺害。 3:ゆたかを殺す可能性のある参加者を殺す。 4:ゆたかを見つけるために歩き回る。 5:三村の放送に対する怒り。 6:Dボゥイに対して……? [備考] ※人間不信に陥りましたが、ゆたかや知り合いは信用すると思われます。逆に、それ以外の者に対する敵愾心や疑いは強いです。 ※三村の放送を聞きました。アルフォンスの話についてはあまり理解していません。 ※シンヤからラダムとテッカマンに関する情報を得ました。『テッカマンは化け物』という印象を強く感じています。 ※つかさとパピヨンに気付いていません。 ※かがみの偽物(ロリスキー)を殺害したと思っています。 【E-3/市街・ネットカフェ前/1日目-日中】 【Dボゥイ@アニ2】 [状態]:左肩に被弾、疲労(弱)、スパイダープロテクター着用 [装備]:核鉄「ブレイズオブグローリー」@書き手ロワ2、スパイダーブレスレット@カオスロワ、日本刀@現実 [所持品]:基本支給品一式、朝倉涼子の髪@現地調達、長門画像+αCD@現地調達、ノートパソコンとバッテリー@現地調達 [思考・行動] 基本方針:殺し合いに乗らず、ゆたかを保護、シンヤとの決着をつける。 1:爆発(フラップラーの落下orニアデスハピネスによる爆発)の下へ向かい、状況の確認。みなみが巻き込まれているならば保護する。 2:近辺にいるかもしれないみなみと、朝倉殺害の犯人の捜索。 3:テッククリスタルを手に入れる。 4:ゆたかを保護する。 5:長門に朝倉の遺髪を届ける。 [備考] ※スパイダーブレスレットは、スパイダーマシンGP-7とマーベラーを呼ぶことができません。 他の制限については後の書き手に任せます。 ※三村とアルフォンスの放送を知りません。 ※CDの画像内容を知りません。また+α(朝倉が残したデータ)の内容については、後の書き手に任せます。 【朝倉涼子の髪@現地調達】 スカーフの切れ端で束ねられた、掌に収まる程度の量の朝倉涼子の遺髪。 彼女の血が少しこびりついている。 【長門画像+αCD@現地調達】 【長門画像CD@現地調達】 のバックアップCD。画像フォルダは「長門×朝倉」のみ。 画像の他に、朝倉涼子の一瞬の本気によって収穫された、なんらかのデータも記録されている。 【ノートパソコンとバッテリー@現地調達】 E-3ネットカフェにてDボゥイが調達した既製品。 パソコンのデスクトップは紅魔館の某妹様。 【E-3/路上/1日目-日中】 【相羽シンヤ@アニ2】 [状態]:左腕に火傷(中)、全身に負傷(特に両腕に痛み有り)-手当済 [装備]:RPG-7@現実(予備弾頭×0)、ブレードのテッククリスタル@アニ2、レッドアイズブラックドラゴンのカード(南夏奈)@カオスロワ [持物]:デイパック、基本支給品一式(食料無し)、首輪×3(6/氏(かがみ)、ジョセフ、やる夫、ヤクルト@ニコロワ、他食料 [方針/目的] 基本方針:Dボゥイとの決着をつける。 0:現状の対処。 1:近辺にいるDボゥイの捜索。 2:魅音の生存は確認したが、合流できそうにないので予定はやはり破棄。 3:人間に正体がばれないように行動。ばれたり邪魔だと感じたら殺す。首輪解除に役立つ人間がいるなら利用したい。 4:Dボゥイの分のテッククリスタルを探し出し手に入れる。 5:村雨とラッドを殺す。 6:もう少し冷静に行動することにする。 7:『柊かがみ』の名前と姿が、情報に多いことが気になる。 8:ゆたかと出会ったら……? [備考] ※参戦時期はアニ2、211話「The Incarnation of Devil」内でラッドに殺される前。 ※力の制限、特にボルテッカに関しては大きな制限が掛けられています(威力低下、疲労感と空腹感の増加など) ※南夏奈のカードはテラカオスに殺される直前から参戦。制限はニコロワ準拠で問題ないかと。 ※南夏奈のカードは24時間使用不能(二日目の午前7時から使用可能) ※鯖缶や他食品の残量は後の書き手さんに任せます。 ※アニ2 211話にて読んだ、高嶺清麿のメモ(簡易版)の内容を覚えていません。 【首輪@その他】×3 毎度おなじみ、バトロワの必須アイテム。各参加者の名前がカタカナで彫ってある。 【クールなロリスキー@書き手2】 [状態]:不死者、吸血鬼、意識混濁 背中に火傷と大裂傷、右手指・両足・右腹部焼失、左側頭部から出血、全て再生中 [装備]:綾崎ハヤテの女装時の服@漫画ロワ(損傷(大)) [持物]:なし [方針/行動] 基本方針:死にたい。 0:これで死ねたかな……? 1:三村が『かがみが魔女』と放送した? 誤解フラグ上等、さっさと殺しなさいよ。 [備考] ※登場時期は「238:trigger」の冒頭辺り。ウッカリデスが死亡するより前です。 ※つかさとパピヨンに気づいていません。 【柊つかさ@らき☆すた(原作)】 [状態]:顔面打撲、全身に鞭の痣、疲労(弱)、唖然 [装備]:カードデッキ(龍騎)@書き手ロワ、ランカのステージ衣装@現地調達 [持物]:ねこ缶@オールロワ [方針/目的] 基本方針:6/とやる夫の想いを無駄にしないためにも生きる ? 0:!? ……!!? 1:パピヨンと行動。 F-6を経由して放送局方面に向かいながら、こなたやかがみを探す ? 2:こなたやゆたか、かがみを助けたい ? 3:ぱんつを替えたいな…… ? 4:どうして変な夢ばっかり見るんだろう。またあんな夢を見れたらいいな…… ? [備考] ※龍騎のデッキの制限は書き手ロワ準拠です(ミラーモンスター⇒ドラグレッダーは1分間のみ出現) 、現在変身可能 ※三村とアルフォンスの放送を知りません。 【ランカのステージ衣装@現地調達】 E-3映画館にて柊つかさが調達した。 映画『劇場版マクロスF~イツワリノウタ ヒメ~』宣伝用の衣装。 リボンとハイソックス付のコスプレフルセット。 【パピヨン@漫画ロワ】 [状態]:腹に打撲 [装備]:なし [持物]:デイパック、基本支給品一式(食料なし)、グルメテーブルかけ(残り16回) @ニコロワ、ドライバーセット@現地調達、ひしゃげたキーボード@ニコロワ [方針/行動] 基本方針:主催のトップを倒して帝王として君臨s……技術だけ頂いておこう。ゆとりはいらん。 0:状況の把握。 1:柊つかさと行動。とりあえずF-6経由で北東を目指す。暇があったら戦闘についてでも教えてやるかな。 2:ニアデスハピネスを取り戻す。最悪の場合殺してでも奪い取る。 3:バイク、車などがあれば調達したい。 4:ゆたかの力を何とかして手に入れて、高みを目指して翔ぶ。 5:首輪のサンプルを手に入れ、解析をしたい。 6:機会と設備があれば龍騎のデッキの解析をしたい。 7:オプーナとは何か情報収集する。 [備考] ※漫画ロワ 242話の「襲来!蝶男の帝王舞」より参加。 ※いろいろあって冷静さを少し欠いてます。本人は気付いていないものと思われます。 ※朝倉涼子の名前をでっていうだと思っています。 ※柊つかさのこれまでの経緯を聞きました。 ※ロリスキーを柊かがみだと思っています。 ※三村とアルフォンスの放送を知りません。 【ドライバーセット@現地調達】 E-3映画館にてパピヨンが調達した、特殊ネジ対応ドライバーのセット。 これさえあれば携帯電話、PHS、無線機、パソコン、ゲーム機なんでもござれ。ただしネジに限る。 125:そして少女は死んだ -The Elfin Knight- 投下順 126:予定通りの非日常 125:そして少女は死んだ -The Elfin Knight- 時系列順 126:予定通りの非日常 125:そして少女は死んだ -The Elfin Knight- 柊つかさ : パピヨン : 相羽シンヤ : Dボゥイ : 岩崎みなみ : クールなロリスキー :
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そして少女は死んだ -The Elfin Knight- (前編) ◆X5fSBupbmM 「戦闘があったことは確かなようだが……、誰もいないな」 『あちー』 放送後のF-4の一画。溶けた道路を中心に、未だ炎が上がっている。 炭化した街路樹を踏み砕き、そこに立つのは相羽シンヤ。 漂う熱気に眉一つ動かさないまま、目の前に横たわる白と赤の異形を見下ろす。 (こいつが燃えていないところをみると……、火を使った戦闘に巻き込まれた訳じゃあなさそうだな) 『あっちーー』 銃器が近くに転がっていたので確認したが、弾は入っていない。 これによる火災だろうか。銃器をデイパックにしまう。 役立ちそうにないが、最悪鈍器として使えばいい。 (武器か能力か……、道路を溶かすほどの炎を使う奴がいるのか。一応、警戒はしておいたほうがいいだろう) 『あっちーよーーー』 ジャケットのポケットから聞こえる、夏奈の声は無視する。 と、いうかお前ただの紙だろ。暑いとか寒いとか関係ないだろ。 『視覚嗅覚味覚触覚姉妹センサー、と完全装備ですがなにか? 今は真っ暗でなにも見えないけどな! つーか、お前さっきから何やってんだー? 蒸し暑くてたまらないぞ』 「黙ってろ」 なんで人の考えが分かる、とか、姉妹センサーってなんだ、とか五感一個足りてねえよ、とかとツッコむのは止めた。 こいつのおしゃべりに付き合っていてはきりが無い。 シンヤは足元の死体に目当てのものを見つけると、その場に屈んだ。 白い異形はやる夫、その傍に横たわっているのは、"お姉ちゃん人形"こと6/。 死体の格好から見て、柊つかさの話にあった涼宮ハルヒ主催のパーティ会場は、ここで間違いない。 名も知らない男の亡骸、動物か何かの骨があることと、炎が上がっている理由は掴めないが……。 (そんなことはどうでもいい) シンヤはそこまで理解した上で、なんの感慨も抱かずやる夫の頭部に手をかける。 潰れて中身を露出させたイチゴ饅頭のようなそれを、胴体からねじ切った。 銀色の輪を残して、邪魔になった饅頭は炎の中に投げ入れる。 女の頸椎を力任せに折り、首と胴が泣き別れしている男からは、そのまま首輪を抜き取りポン、と放った。 二回転がって、動きを止めた男の首。 何も見ていないはずのそいつの目は、骨と/6を凝視しているように見えた。 「……制限ってやつにうんざりしててね。これは貰っていくよ」 シンヤがつかさから聞いたこの場所に来た理由は、"一度目"の行動と同じ。 強いられた制限の解除、即ち首輪の解体のためだ。 「……おい。お前の姉妹や知り合いに、機械に強い奴はいるか?」 『ん? んー、海馬なら……ダメだ、この会場にはいない。……もしかして、首輪持っているのか?』 「ほう。それくらいは気付くか」 胸ポケットからカードを覗かせ、首輪の一つをかざす。 夏奈はここで初めて周囲の風景を視野に入れたらしく、急に騒ぎ出した。 『うっわー……って、かがみぃ? つーかなんだこの惨状!? シンヤ、このヤロっ! お前この短時間になんちゅーことを……!』 「死体の首を切っただけだ。殺しも火も俺じゃない。それに、柊かがみの名前は放送で呼ばれていないだろう」 『あ、6/って彫ってある。そーか、お前ここで……つかさが言ってたこと、本当だったんだなぁ。 十代も朝倉も、アカギの奴も死んじまったし……、アカギってなんで二人いるんだろう……?』 話聞けよ。……しかも、独り言が脱線しっぱなしだ。 夏奈は一旦放っておいて、手に入れた三つの首輪に目を移した。 遺体の損傷具合と関係ないかのように、傷ひとつもない。 "6/シ(カガミ)"、"ヤルオ"、"ジョセフ・ジョースター"。 それぞれに、先ほどの放送で呼ばれた名前が彫られていた。 夏奈は6/の名前を見て、首輪の主を柊かがみと勘違いしたのだろう。 "一度目"に使われていた首輪は外側に、名前が英語でプリントされていた。 "二度目"のこれの見た目は似ているが、やはり別物。 そこで、シンヤは前のゲームで解体を試みた人物がいたことを思い出す。 キヨマロ、とかいったか。 彼が書いたメモの内容と、解体された首輪について記憶から探りだす。 解体された首輪の部品は小さな丸い玉がいくつかと、ネームシール。精巧な他の部品と不釣り合いな程に大きくあからさまなネジが一本。 そして、メモに記された首輪の解除方法は――、 ――……今お前、こう思ったよなあ? 俺は最強の力を持っている! 俺がコイツに負けるはずがない!! 俺が首輪の情報を手に入れられるのは当然だ!! ……ってなあ、相羽シンヤくんよおー。―― …………あれ? いや、待て違う。思い出すべきはあの男の言葉じゃない。 シンヤは俯き、右手で目元を手で覆った。 その少し前だ。そう、キヨマロがあの診察室に入って来る前。机の上に見つけたメモの……、 ――おうおうおうおう、いい感じにブッチ切れてくれてるねぇ相羽シンヤくんよぉ。 屈辱かい、屈辱かぁい? そりゃあそうだよな、人間如きに腕一本ぶっ飛ばされたんだもんなあ!! いいねェ、もっともっと惨めに喚いて見せてみろよ、ヒャアハハハハハハハハハ!―― …………待て、ちょっと待ってくれ。 空いた左手で、シンヤは自らの髪をぐしぐしとかき乱す。 思い出せないのだ、重要なことが一つも。 もう一度、集中して情報を記憶から探り出そうとしたが、やはり有用な情報は出てきやしない。 あのメモには、それなりのことが書かれていた筈。 だというのに、薄汚い言葉と声に邪魔される。 ――テメエの前でテメエがいつまでたっても敵わない、大好きな大好きな立派でカッコいい兄貴を嬲り殺してやる! そのときお前はどんな顔を浮かべるんだろうなあ! オニイチャン、シナナイデーなんていって泣き喚くのかなあ、兄貴が死んだことを喜ぶのかなあ! それとも目標に永遠に届かないことが分かって空っぽになっちまうのかなあ! ヒャァハハハハハハハハハハハハハハッハハハッハハハハハッハハハハッハハハハッハハハハ!―― 忌々しいラッドの哄笑と嘲りが脳裏に映る。 (あ、の、や、ろ、う……!!) あまりのことに言葉も出なかった。 虫けらから受けた屈辱が、叩きつけられた言葉が耐えがたいものだった故に、貴重な情報よりも強く焼き付いてしまっていた。 シンヤは歯を噛み締め……笑った。憎悪のあまり、表情筋が勝手に笑みを形作った。 (次こそ、殺す……ッ!! 人間という矮小な存在であることを、下等生物がテッカマンに喧嘩を売ったことを、後悔させてやるよ。 その無駄に動く舌と手足を千切り引き裂いて、臓物をブチ撒かせ、今度こそ消し炭にッ……いや、 爪の欠片一つ残さず滅s『おーい、戻ってこーーいっ』) 「…………」 『なーに、黙りこくってんだ。こっちから気色悪い顔が丸見えだぞー?』 俯いたまま顔を覆っていた手を放すと、胸ポケットから覗いたカード――ドラゴンの赤い瞳と目があった。 ……ラッドといい、魅音といい、こいつといい。自分はセリフを遮られる呪いでもかかっているのだろうか。 死んだと思っていた園崎魅音は、放送で呼ばれなかった。 柊つかさの話通りならば、ゲームに乗った涼宮ハルヒと共にいるらしいが、何を考えての行動だろうか。 混乱していたつかさからの情報である為にその真意は測れないが、市民プールで合流という約束はやはり無効だろうと判断する。 その時、ラダムによって強化された聴覚がパンッ、という音を捉えた。続いて、ガラガラという音。どちらも小さい。 多少の距離があるようだが、近くに他の参加者がいるのだろう。 この場に留まるのも時間の無駄だと結論付けたシンヤは、そちらの方へ駆け出す。 兄や首輪について、他の参加者から聞き出したい情報はいくらでもあった。 『どーした?』 「銃声と崩壊音が聞こえた。誰かが争っている」 『あたしには聞こえなかったぞ?』 「お前と違って、僕の聴覚は鋭敏でね」 まあ、とにかく。首輪解除の手がかりは余力のある時でいいだろう。 最優先目的は、Dボゥイと決着をつけることなのだから。 価値のある情報持っている相手ならばいいのだが、と銃声と轟音の元へ足を速めた。 (しかし……) 先ほどの夏奈の間抜けな呼びかけ。あれで、冷静さをやや取り戻せた。 もしあれがなければ、苛立ちの為に銃声にも気付かなかっただろうな、とシンヤは少しだけ反省した。 「……そういえばお前、柊かがみを知っているのか?」 『おう、前のゲームの時の仲間だよ。変態だったけど』 「…………へんたい?」 『ガチレズでこなたにベッタリでなー。聞いた話じゃ、6/をおk』「いい、黙れ」 意味がわからない単語は無視し、セリフ遮りの仕返しも兼ねてカードをポケットにねじ込んだ。 遮る直前に、もっとおかしな単語が聞こえた気がしたが、「OK」と言ったということにしておこう。 ☆☆☆ E-3、映画館。今日、映画館といえば商業施設に付属した複合型映画館を連想しやすいだろう。 だが、会場に設置されたここはミニシアター。スクリーンが一つだけの小さな施設である。 その2階、従業員休憩室前の廊下。 「もういいかーい?」 「ま、まーだだよー♪」 するする、もぞもぞ。 コリコリ、パカッ。 「もういいかーい?」 「ま、まままだだよーっ♪」 コト、カチカチ。 もがもが、ごそごそ。……どてっ。 「もういいかーい?」 「痛たた……あっ。ま、まままだ! ちょっと待ってーっ」 調達したパイプ椅子に座ったパピヨンは、マイクロドライバーを手に龍騎のカードデッキの解体に勤しんでいた。 とはいえ工具の関係上、外装を外して内部を見る程度しかできないのだが。 この映画館、チケット売り場や事務室にコンピュータがなかったばかりか、工具類も古いドライバーしか見つからなかったのだ。 ミニシアターといえど受付や事務処理にパソコンが、映写機材の整備に工具が必須だろうに。 地図に記された場所に役立つ道具をたっぷり置いてやる程、主催は気が利いていないということだろうか。 パピヨンが支給品を確認している間、つかさは半日の間にズタボロになった服を着替えていた。 というより、彼らが未だ映画館に残っている理由がこれである。 鞭を打たれ、バルサミコ酢をぶっ掛けられて、裂け目と染みが散乱した制服の惨状に、つかさは気づかなかったのだ。 パピヨンがそのことを気にもせず、自然体で彼女に接していたのも一因である。 一旦劇場の外に出て第二回放送を確認した後にようやく、下着まで酢で赤黒く湿っていたことに彼女は気づいた。 そして顔を赤青紫色と変化させながら、ここに駆け込んだのだった。 ちなみに、パピヨンはつかさの承認を得て作業に着手している。 細工などされないと思っているのだろう。つくづく、甘い奴だ。 小細工なんてする気は毛頭ないけど。 (しかしこれは……外部からエネルギー源を取り入れているのか? そうなると、このカード自体が生物……まさかな) 一般人でも仮面ライダーに変身できるアイテム、龍騎のカードデッキ。 だがこれには変身により発せられる莫大な力、それに見合うエネルギー源らしきものが見当たらなかった。 あと強いているなら、後付されたような装置が気になった。 ピンク色の小さなボックス。これだけ、他の部品とは質が異なっている。 BADAN主催のゲームで、支給品となっていた核鉄のことをパピヨンは思い返す。 核鉄により形成される武装錬金というものは、使用者の潜在能力と闘争本能によって形成される唯一無二の武器である。 核鉄のシリアルナンバーが異なっても、使用者が同じならば武装錬金アナザータイプとしての具現が可能だ。逆に言えば、特定の武装錬金は本人にしか扱えない。 だがバトル・ロワイアルという環境において、これは通じなかった。 BADAN主催のゲームでは、複数の人間が早坂桜花のエンゼル御前を展開し、今回もでっていうという女がパピヨンのニアデスハピネスを発動さている。 前回の現象に関してはシリアルナンバーごとに核鉄を察知、変化させる『闘争心誤読装置』が首輪に設置されていた。 カードデッキのこのボックス、同じ類のものだろうか? (首輪の確認していない以上、断言はできない、か。 自分の首輪を解体するにせよ、支給品の解析をするにせよ、サンプルは必要だな) パピヨンはBADAN製の首輪の構造を知っている。『闘争心誤読装置』はその一つだ。 もろもろの事情で、監視装置が盗聴機能とGPSを用いた位置確認しかなかったことも、分かっている。 こうして首輪に関する知識を持つ者を参戦させている点と、第一回定時放送の"映像"流出を考えると、今回はBADAN製の首輪を用いている訳ではないだろう。 前回の核鉄のことを考えると、龍騎のベルトの解析には首輪の解析も必要になってくる。 (BADANの技術の応用か、新規のものかまだ分からないが……いずれその力、俺の手に収める。 ……ま、貴様ら組織の人材は要らないがな) パピヨンは二回目の定時放送を見て確信した。あの赤いナメクジはいらない。 それを御し切れていない道化も同様だ。 ふと、放送を聞いた直後に聞き出した、柊つかさの持つ情報を思い出す。 6/とやる夫の名前が呼ばれた時には目を伏せたが、彼女の友人が呼ばれなかったことに安堵していた。 尋ねれば、説明を共に聞いた友人もいたと言っていた。みんなこんなゲーム、知らないようだった、とも。 即ちそれは、"彼女"がやはりどこにも存在しないと証明になる訳で。 (……まあ、分かりきっていたことだ) 首を振って思考を半ば無理やり打ち止め、カードデッキを組み立て直す。 ドライバーを持った指の隙間から、掌のホムンクルスの口が見えた。 最後のネジを回し終えた時、「お待たせー」と篭もったつかさの声と共に扉が開いた。 そこから現れた彼女の姿は――。 「ごめんね、待たせちゃって。この服、動きづらくって……」 黒かった。 外套、靴、ズボン。その他全て、真っ黒だった。 動きづらいのは当たり前だろう。その衣装は成人男性用だ。 パピヨンは知らないが、彼女が着ているのはダースベイダーの衣装。 体格の良い男が着れば栄えるだろうが、華奢な女子高生が装備したことで、衣装本来の貫禄やら威圧感やらが見事にぶち壊れていた。 マントの裾はずるずると引きずられ、足元は覚束なく、今にも裾を踏んでひっくり返りそうだ。 篭もった声を発する顔も、少女の面影はない。これまた黒く、厳つい兜のような装飾品で覆われている。 あんまりだ、という感想がパピヨンの脳を支配した。 なんて、なんて華がない。 だというのに柊つかさは小さく頭を傾げ、こうのたまうのだ。 「えへへ、似合うかな……?」 普段の姿ならその仕草を可愛いと思う者もいるだろう。思い出したくもないが、川田章吾とか。 だが呼吸の度に兜のどこからか空気が漏れているのか、シュコー、シュコー、と音を響かせている。 そこを女子らしく傾けても、異様なだけだった。 パピヨンは馴染みの収納場所から、自らのマスクのスペアを取り出す。 なぜかつかさが小さな悲鳴を上げたが、無視して蝶マスクを兜に装着させた。 二歩ほど引いて、その姿をしばし眺める。 そして、一言。 「全く似合わん」 「え、えぇー……」 蝶でも矯正できないとは、なんて絶望的な姿だ。 ☆☆☆ 「岩崎みなみさん、無理にとは言わないわ。 だけど……もしできるのなら、そのナイフで私の心臓を貫いて」 E-3、地図に載っている公道ではなく、小さな店が並ぶ通り。その路上。 岩崎みなみは"柊かがみ"を前に、言葉を失って立ち尽くしていた。 普通の女の子である彼女が、人間と思えない程の力を振るった為に。 かがみは涙ぐむ。彼女を、妹を、親友を魔女と罵る放送を耳にしながら。 音声の出所は、道路沿いの電柱上部にあるスピーカーからだ。 みなみもその内容を理解する。 『柊かがみとその妹のつかさ、そしてこの二人と同じ赤い制服を着た連中…、こいつらは全員、この殺し合いに乗った魔女なんだ!』 (……嘘) でも、納得はできない。だって彼女達は、ただの女子高生ではないか。 そこで違和感を覚えたみなみは、かがみをもう一度見つめた。 (コンクリートを踏み砕くような力を持つ人が、ただの女子高生……?) スピーカーを通して、さっきとは違う甲高い声が喚いている。"かがみ"へ意識が集中したみなみは、その話を理解できない。 「せ、んぱい、どうしてそんなことを言うんですか……?」 「……私、もう疲れちゃったの。誤解されて巻き込まれてばっかりで。 何をやっても裏目に出ちゃって……無力だったの。この放送がいい証拠。 それにね……。あいつがいない世界なんて、考えられない。 生きていく、自信がない……。ううん、生きる意味がないのよ」 自嘲気味に笑む、かがみの青い瞳には光がない。 かがみは誰かの死に悲しんでいるのだろう。でも、誰のこと? 陵桜学園の人間の名は、二回目の放送で呼ばれていなかった。 みゆきの死に反応しているとしたら、遅すぎる。 それに彼女の言い分は、まるで恋人が死んだようではないか。そうなると、いよいよ誰のことか分からなくなってくる。 「あいつって、誰ですか……?」 「こなた」 「え?」 「私にとってのこなた……爆弾よ」 「……え?」 かがみが、こなたのことを好き? 爆弾ってなんだろう? そんな名前が、名簿にあったような気がする。支給品の説明書にもあったような気がする。 ……分からない。 みなみは混乱していく。目の前の"柊かがみ"が、得体の知れない何かに感じ始める。 ――『柊かがみは魔女だ』―― もう途切れた放送の内容が、さらにみなみを追い詰める。 違う、違う。この先輩はそんな人じゃない。 混乱していくみなみを見て、かがみは笑みを深めた。 「ごめん……無理だよね。私、あなたの格好を見て、早まっちゃったみたい」 「ッ!?」 自分が血を浴びた状態であることを失念していたみなみは、その言葉に動揺する。 だから、みなみは自分より後方を見据えたかがみの言葉を受けても、俊敏に反応できない。 「……ねえ。あんたは、私を殺してくれる?」 誰かのため息を聞いてようやく、みなみは自分の後方に他の人物が立っていたことに気付いた。 ビクリ、と体を震わせて……みなみはすぐにポケットのナイフを握った。 誰だろう、誰が先輩を殺すというのだろう。 誰が、自分達に……ゆたかに、危害を加えようとするのだろう? 恐れを抱きながらも、後ろへ振り向こうとするみなみ。しかしその動作は、後ろにいた彼を見た瞬間に停止してしまった。 (Dボゥイ、さん……?) ☆☆☆ 「……くそッ!」 E-3、インターネットカフェの個室スペース。 コンピュータのモーター音の中に悔しげな声とガツッ、と壁を叩く音が混ざった。 ここへ向かう途中、定時放送で朝倉の名前を聞いたDボゥイは愕然とした。 自分は人間ではない、と自信を込めた笑顔で別れた彼女が、別れた数時間後に死んで……いや、直後に死んだのだろうか。 安易な考えだったのか? 朝倉と別れたのは、よかれと思って彼女達と離れたのは、軽率な行動だったのか? 自責の念に雁字搦めになる寸前に、Dボゥイは疑念という網に掬われる。 (みなみは、どうなった?) 彼女の名前は呼ばれていない。だが、朝倉が死んだことから何かあったことは明白だ。 彼女達と別れたここへ戻ってみると、そこにいたのは事切れた遺体のみ。 念のためカフェ中を捜してみたが、誰も見つからなかった。 みなみを捜しに行かなくてはと考えたが、かといって、朝倉をこのまま放置するのはあまりにも……。 せめて寝かせてやろうと、Dボゥイは朝倉をパソコン前の椅子から抱え上げる。血が抜けたせいだろう、彼女は驚くほど軽かった。 触れた温度はスパイダーマンのスーツに遮られて、伝わらなかった。 だが、関節の柔らかさからまだ死後硬直が始まって間もないのは理解できた。 個室のベッドに仰向けに横たわらせる。 驚いたように見開かれた目の瞼を、そっと下ろす。それでも驚愕に凍りついた表情が和らぐことはなかった。 左頬、唇の上から鼻梁まで付着していた血液をシーツで拭ってやる。 出会った時も彼女は血だらけだった。 だが鼻血に塗れ頬を赤らめた彼女は、どこか幸せそうだった気がする。 そこで、みなみと良く似た声の少女を思い出した。彼女と朝倉との関係も。 「……」 Dボゥイは携えていた日本刀を抜く。 朝倉の首輪に反射した照明が、白銀の刃にも映りより鋭さを増した。 (朝倉、すまない。無茶な頼みをしてしまった。だが……) 軽く力を入れて、Dボゥイは日本刀を振った。この作業、ほんの小さな力でも十分な。 ザクリ。 葉物を刻んだような音が、響いた。 ☆☆☆ 「本物のお前が、自殺志願者だとはね……柊かがみ。妹のことはどうでもいいのか?」 一瞬だけDボゥイに見えた人物は、顔は良く似てはいたけど別人だった。 驚きの次にみなみが感じたのは、安堵。 いまDボゥイに会っても何を言えばいいのか、分からなかったから。 男の人の言葉を聞いたかがみが、苦々しげに笑う。 「あんたも……うん、まあいいか。最初に言っておくけど、私に妹なんていないわ」 「……どういうことだ?」 「そのままの意味よ……たぶん、だけどね。 私は、自分の家族も友だちも、覚えていないから。 ただ、これだけは言える。私はこれまでの人生で一度も、"柊つかさ"と会ったことも、口をきいたこともないわ」 (先輩……?) みなみの世界が壊れていく気がした。 みゆきが殺され、その犯人を自分の手で殺し、出逢えた知り合いは、自分の半身をどうでもいいと吐き棄てている。 堪えかねて、みなみは彼女に尋ねた。 「……あなたは、だれですか? 柊先輩じゃないのなら、一体何なんですか……?」 みなみはもう、彼女を柊かがみと認識することができなかった。 "かがみに似た人物"は目を細める。 「……どうでもいいじゃない、そんなこと」 「俺も聞きたいね、貴様はなんだ? 柊かがみじゃないのか?」 「このッ、どうでもいいって言っているじゃないッなに、あんたもかがみに恨みでもあるの!?」 「フン、馬鹿かお前は。 さっきの放送を聞いて、柊かがみに関心がない方が変だろう? おまけにこっちは半日の間に、何度もお前の名前と顔を見聞きしたんだ。 気にするなという方が無理な話さ」 「……そう。あんた、私が"魔女"だったらどうする?」 「殺す」 間髪なく、なんの躊躇いもなくそう言った彼の赤い瞳は、嫌な光を湛えていた。 見覚えのある光だと感じたみなみは、やがてその正体に気付いてしまう。 血に濡れたネットカフェの床、とろりとした水面に映ったみなみの目と、同じ光だった。 紛れもない、殺意だった。 「"弱者を装って取り入る"なんて、いかにも兄さんが引っかかりそうな相手なんでね。 俺と兄さんの戦いの邪魔になるものは、全て排除させてもらうよ」 「……へえ」 かがみに似た人は虚ろにほほ笑んだ。 みなみは分かった。この人は魔女と名乗って殺される気だ、と。 「あのっ……」 それを制止するために、みなみは声を上げた。 彼女が"魔女・かがみ"として殺されてしまったら、この男の人はどう思うだろう。 さっきの放送を鵜呑みにしてしまうんじゃないだろうか。 彼女は"柊かがみ"であることを一度は否定したけれど、彼がそれを信じるとは限らない。 信用できない。彼の態度と目からは、危険なことしか感じられない。 彼はかがみ先輩に妹がいることを知っていた。 なら、陵桜学園の制服を知っているんじゃないだろうか。やがて、ゆたかを殺しにかかるのではないだろうか。 ぐるぐるとぐるぐるとみなみの思考は迷走していく。 本人に自覚はない。 信用した人物が自分の姉のような存在を殺していたという裏切りを受けて、みなみは人を信じられなくなっていた。 そんな状態で錯乱した柊かがみとそっくりな人物と、異様な雰囲気を漂わせるDボゥイに酷似した人物と遭遇したのだ。 まともな判断力は、彼らの話を聞くのに比例して失われていった。 「……何だい? 随分とおかしな格好をしているね」 不機嫌そうに男の人が振り向いた。みなみの姿を見て、尚更目つきを鋭くする。 彼に声をかけたのは、もう一つ理由があった。彼に確かめなくてはならないことがあった。 ――((Dボゥイさんは、ゆたかを保護するために探しているんですよね……。 決して『殺すために探している』わけではないんですよね……))―― みなみは自分が抱いた疑念を思い出して、ごくり、と喉を鳴らした。 まだあの人が、ゆたかにとって安全な存在か判明していない。 はっきりしているのは、"ゆたかを捜している"ということだけ。 Dボゥイは、信用できる……はずだ。だってあんなにゆたかを心配してくれていたんだもの。 それでも、この男の目に見た殺意にその期待が邪魔される。 ある人物を捜していると言ったDボゥイが見せた目の鋭さが、先ほどの彼と良く似ていたから。 それを、確かめられるかもしれない。 Dボゥイと似た顔。男の人が言った「兄さん」という言葉。そして、みなみの未知のDボゥイの知り合い。 そこから導き出された名前を言った。 「あなたは、相羽シンヤさんですよね……?」 「…………そうだが」 「私は……岩崎みなみといいます。……ゆたかの友人です」 「ッ!」 ゆたかの名前を聞いた、彼の表情が歪む。ああ、この人も知っていたんだ。 こんな危なそうな人まで、ゆたかのことを知っていたのか。 「桃色の髪の背の低い女の子です……知っていますよね」 「お前……、誰から聞いた」 「Dボゥイさんです」 そう答えた時、彼が少しだけ安心したように見えたのは気のせいだろうか。 みなみは言葉を続ける。あまり長く話すのは得意ではないのだけれども。 「前に、同じようなゲームに巻き込まれたと聞きました。 その時に、彼がゆたかと知り合ったことも……今、彼がどこにいるのかも、知っています」 たぶん、あのインターネットカフェの近くにいるのだろう。交渉材料はある。 「取引するつもりか? お前を痛めつけて吐かせるという手も……」 「……早く行かないと、あの人はどこかに移動してしまうと思います」 「……」 二、三秒して、男の人が舌打ちして肯いた。 かがみに似た人が、みなみをまじまじと眺めながら口を挟む。 「シンヤ、だっけ。あんたこの子の血を見て、何も疑わないの? お兄さんがこの子に殺された、とか」 「こんな虫けらが兄さんを殺す? ありえないね」 どうしてこの人は、こんなどす黒く人を見下す目をしているのだろう。 みなみは疑問に思った。同時に、彼と知り合いであるDボゥイへの不信感が募る。 「話を戻す……お前は、何が知りたいんだ?」 同時にゆたかを守るためには、彼らのことを知らないままではいけないという思いが、強くなった。 「教えて下さい……あなた達はどうして、ゆたかを捜しているんですか? あなた達は……何者なんですか?」 ☆☆☆ 現在位置は……さて、どこだろう。判断つかない。 分からないのは、地図も周りの風景も自分からは見られないからだ。決して、オツムが足りないからじゃない。 支給品・レッドアイズブラックドラゴンのカードこと南夏奈は、高らかに笑うシンヤのジャケットのポケットの中で、彼らの会話を聞いていた。 「っ、ハハ、ハハハッ! なんだ、"また"知らせてなかったのか、兄さん。 でも安心したよ。ゆたかのことを知っているなら、ここにいるのは俺の知っている兄さんだ。 ……感謝するよ、人間。 御礼に教えてやろうじゃないか。俺とタカヤ兄さん……Dボゥイの正体を」 「タカヤ……さん?」 静かな口調で話す、みなみという女の子。 彼女の声を聞いた時は、チアキが見つかった! と思ったが、喜びはすぐに収束した。 喋り方が千秋にしては大人びすぎているし、大人しすぎていたのだ。 なにより、姉妹センサーが作動していな……ん? あれは冗談だったっけ? さっきまで騒いでいたかがみは、黙ったままだ。シンヤの話にまるで興味ないらしい。 かがみの「つかさは妹じゃない」という言動が少し気になったが、夏奈は気にしないでおいた。 どうせこいつのことだ、「こなたも6/もつかさも私の嫁!」というつもりで言ったんだろう。肉欲的な意味で。 (それとも、悪口言われて拗ねてんのか?) さっきの流れた誰かの言い争いの内容が、ショックだったんだろうか。 いや、あれ以上にもっとひどいことを前のロワで言われていたし、それはないか。 シンヤは、嬉しそうに楽しそうに語っている。 そういえば、自分が話すばっかりでこいつのことはあまり知らなかったなあ、と夏奈は思った。 「そう、君がDボゥイと呼ぶあの人の本名は、相羽タカヤ。俺とは正真正銘血を分けた兄弟さ。 Dは……兄さんの気質を考えるとやっぱり、デンジャラスの略だろうね」 シンヤは語り続ける。 ラダムという宇宙生命体が、第二の故郷を求めていること。その場所を地球に定めたこと。 自分がラダムによって造り出された、地球を侵攻するための化け物、テッカマンであること。 「そうだ、兄さんはある支給品を探していなかったか? ……宝石のような奇妙な結晶とか」 「あ……」 「覚えがあるんだな。どうして、それを求めているか考えたかい? ……殺し合いの中で、金目のものに手を出すとは思わないだろう?」 (あたしなら出すなあ……) 「兄さんがその結晶――テッククリスタルを求めているのはね、"変身"に必要なものだからだ」 「黙ってろ」と言われた手前、沈黙している夏奈だったが、次第に落ち着かなくなってきた。 そんな夏奈をよそに、シンヤはみなみに告げた。 Dボゥイも同じラダムのテッカマン……化け物ということを。 ショックだったのか、みなみが息を飲む音が聞こえた。 ビーム打ち放題だったり遊戯王カードが実体化したりカード化されたりと、チートや変なもんが蔓延しているバトロワで、一体なにがショックだったのだろうか。 かがみのことといい、何かおかしい。 みなみの反応に気を良くしたのか、シンヤはより饒舌になる。 というか、首輪を回収した時のイライラを発散させているんじゃないだろうか、こいつ。 なーんか不機嫌みたいだったし。 「信じるか? 前のゲームじゃ、ある馬鹿が参加者の前で派手に変身してみせたから、ゆたかにも説明しやすかったんだが」 「あなたが、教えた……? Dボゥイさんは、ゆたかにそのことを言ってなかったんですか?」 「人間――お前ら虫けらに、兄さんは知られたくたんだろうね。 地球で保護された時も、記憶喪失を装っていたくらいだ。ゆたかは、俺と兄さんが殺し合いを始めた時は驚いていたよ」 「…………っ」 「あの時はクリスタルがなくて、勝負は保留にしたんだ。 ゆたかは……その時、兄さんが連れていたのを俺が預かった。それだけの関係さ。 そう、まだだ……。まだ俺は兄さんに勝っていない……、俺も兄さんも死んでいない……!」 こいつは、変なヤツだ。夏奈はない首を傾げた。 シンヤはDボゥイと戦って勝ちたいと言っていた。殺し合いが前提のゲームで、だ いま話していることを聞くと、バトロワに巻き込まれる前も、しつこく兄を狙っていたという。 こいつは兄弟――家族との殺し合いを望んでいる。それが理解できない。 (そりゃあ、あたしだってロワ中に千秋に襲い掛かったことはあったけれど……う、ごめんなさい忘れてくださいッ。 あの時はバイトをクビになって、むしゃくしゃしてたんだよぉ…………) なんにしろ、全てはバトルロワイアル法という馬鹿な法案が可決したことが原因だ。 あれはバトル・ロワイアルという、狂った環境が前提の事態だった。 家族っていうものは、好んで殺し合いをする相手じゃないと、夏奈は思う。 そりゃあ楽しみにしていたプリンを食べられたり、朝、強引に起こされたりといった些細なきっかけでの喧嘩くらいあるだろう。 養子に出された子どもがそれを決めた親と、親と共に安穏と暮らせる兄弟も憎む、なんて話もあるだろう。 けど、根底にある家族への愛情は変わらないはずだ。 仕返しや喧嘩にしても、梅雨に相手の傘を隠す程度だろう、常識的に考えて。 馬鹿な理由で妹に襲い掛かって、怒られて、許してもらって、嬉しくて泣きはらした夏奈は心底そう思う。 マムクートの一族とか、ラダムとか、平行世界の違いとか、そんなことは関係ないだろうに。 しかも双子だ。本気で嫌いあうはずなんてないだろう。 夏奈は次第に、そう言いたくなってきた。 「ゆたかは……ゆたかはどうなったんですか?」 「……、……さあね。 俺はあいつを連れている途中で、このゲームに参加させられたんだ。ゆたかが最終的にどうなったのかは知らない。 もしかしたら、僕らの知っているあいつがここに呼ばれているのかもしれないね。 ……今度こそ目の前でテッカマン同士の殺し合いを見れば、ゆたかの甘い考えも……」 ああ、もの凄くまどろっこしい。声だけしか聞こえないのが、またこそばゆい。 「……ラグ」と、かがみの小さな独り言が聞こえる。 こっちも口挟もうかな。「このブラコン野郎め」と、言ってやろうかな。 そう夏奈が思った時だった。 聞きなれないフレーズを唱える、妹と似た声が聞こえたのは。 124:Fuck you all niggaz wanna do! 投下順 125:そして少女は死んだ -The Elfin Knight- (後編) : 時系列順 125:そして少女は死んだ -The Elfin Knight- (後編) 100:魅音の不幸とラッキースターワンダーランド(前編) 柊つかさ 125:そして少女は死んだ -The Elfin Knight- (後編) パピヨン 108:true my heart(食べ物的な意味で) 相羽シンヤ 109:爆裂的に鎮火せよ! Dボゥイ 119:mind crash 岩崎みなみ クールなロリスキー
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死んだふり 題名:死んだふり 原題:Just Play Dead (1998) 作者:Dan Gordon 訳者:池田真紀子 発行:新潮文庫 2000.5.1 初版 価格:\514 最近はこういう作品が流行るだろうなといかにも想像されるところの少しカルト系のノワール。 男女三角関係の中で勃発する保険金殺人計画。三人それぞれがその計画を知っており、騙し騙されの物語……。三角関係と言えば映画『白いドレスの女』『デストラップ~死の罠~』、あるいはハイスミスの『太陽がいっぱい』等々、前例に事欠かない。 だれが死ぬのか、だれが生き残るのか、そういう状況をいかに楽しめるかという小説……(なのか?)、あるいはラストに用意されたどんでん返しのようなものをいかに味わえるか(なのかな?)の物語なのだと思う。 ということだが、結果的にぼくはパス……かな。最大の原因は、文章が読みにくいということ。それから心理ゲームそれ自体に、前述のようにいろいろな作品例を挙げるまでもなく新しさを感じないということ。どんでん返しも特にどうとでもできるだろう(つまり読んでいる身としてどう転んでも別に構わないという気分にさせられてしまった)というつまらなさを感じてしまったこと。ラストよりは駆け引きの過程に力を入れているのもわかる。ラストもひねってみているのもわかる。でも読みにくいんである。ただひたすらに。文章が。 この手の時間軸を若干狂わしたような小説作法って、最近では『ボビーZの気怠く優雅な人生』以来かなと思うけれど、あちらは活劇でプロットもそれなりに細かいので、文体はそもそも嫌いながらも結果的に読んで楽しかった。でもこの作品は物足りなさばかりが印象に残ってしまった。こちらの体調もあるのかな? ちょうど頭痛の最中で読んでいたという……。 映画のシナリオライターによる小説作品ということで、力が入り過ぎているということもあったかもしれない。正直言って、この作品はシナリオ形式の方がぼくは読みたい気がしている。でも、解説によれば既に映画化は決定し、アル・パシーノ、アントニオ・バンデラス、メラニー・グリフィスとキャスティングされているみたいだから、ぼくはこちらの方で、この癖のある物語をもっとちゃんと楽しめるのような気がするのだ。 奇しくも小太郎さということを書いていますね。小説は大なり小なり、読み手を選ぶというところがあるとは思うが、この作品の場合、それが極端かもしれない。 (2000.06.28)
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秘技・死んだフリ おでん奥義。 主に体力ゲージが真っ赤の時、地に伏した状態で発動。 でも戦国の世では死んだフリをしてもバレているため通用しない。
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死んだらおわり ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 石島土門がマシン番長を圧倒していたのは、本格的に戦闘が始まってから僅かな間に過ぎなかった。 というのも当初、マシン番長は相手の戦闘能力を完全に見誤っていたのだ。 彼の両目部分に設置されたカメラは、映ったものの外見だけでなく内部まで視ることができる。 それで読み取れた情報によって、土門の肉体がかなり鍛え抜かれたものだとは分かった。 常人の域を遥かに超えており、並の番長相手ならば対等に戦えるようであったが、あくまでそれだけだった。 マシン番長は、日本最強の番長である金剛猛の能力をベースに作られている。 二十三区計画最強との呼び声高い番長であり、事実あの金剛番長の殺害にさえ成功している。 ゆえにマシン番長は、戦闘開始時にはすでに冷静に計算を終えていた。 訊き出すべきことさえ訊き出して用済みになれば、石島土門を殺害するまでにかかる時間は――『十五秒未満』であると。 が、そうはいかなかった。 一つかねてから気になっていたことを尋ねている最中であった。 筋肉、骨格、体勢、損傷、それらを考慮してみれば確実にありえぬ速度で、土門は立ち上がるや否や距離を詰めて拳を浴びせて来たのだ。 百パーセント放てるはずのない一撃であり、反撃どころか回避することさえ叶わなかった。 この際、マシン番長は彼にしては珍しく混乱した。 改めて両の瞳で土門を眺めても、視覚情報から導き出される答えは同一である。 なおさら混乱するハメになった。 一度で十分であるはずの分析を二度も行い、まったく同じ結果が出た。 となればほぼ間違いなく、それで正しいはずである。 レーダーとは異なり、両瞳に埋め込まれたカメラとセンサーに異常は感じない。 となれば、土門がマシン番長の分析を越えるスピードやパワーを出せるはずがない。 にもかかわらずマシン番長の攻撃は当たらず、土門の攻撃を受けることになった。 直線状の電撃『ライオット・ピアサー』だけでなく、威力を落とした分命中範囲の広い放射状の電撃『パニッシュメント・ボルト』をすら回避して見せた。 分析から導き出される土門の身体能力と、実際に眼前にいる土門の身体能力。 その激しい誤差から、マシン番長は思わぬ苦戦を強いられることとなった。 土門がマシン番長の分析を上回る動きを発揮できたのは、彼が纏っているAM(アーマードマッスル)スーツのおかげである。 AMスーツは精神感応金属(オリハルコン)製であり、文字通り装着者の精神に呼応して身体能力を増幅させる。 しかしマシン番長の世界では精神感応金属の研究は進んでおらず、ゆえにその知識は内蔵されていない。 とはいえマシン番長に搭載されたコンピュータは、成人男性サイズのロボットに埋め込むだけでも奇跡と言って過言ではないほど最新鋭の技術が詰め込まれた代物だ。 ほんの――『三分足らず』。 たったそれだけの間あえて防戦に回ることで、実際に想定以上の動きを見せる石島土門の身体能力を分析完了。 筋力や骨格などから導き出される戦力と置き換えて、反撃に打って出ることにした。 そこでようやく、マシン番長は計算と現実の誤差に混乱することはなくなった。 以降は、ほとんど互角である。 一方が重い一撃を決めれば、即座にもう一方がやり返す。 合金製の肉体とAMスーツ、ともに衝撃耐久能力が高いため、その繰り返しになるばかりであった。 そうしているうちに―― どこからかキース・ブラックの声が響いて、土門の動きが止まる。 相手の手が緩んだいまこそ拮抗を崩す絶好の機会であったが、マシン番長は距離を取った。 土門が放送に耳を傾けるために止まったというのは、タイミングからして明白である。他の理由があるとは考えづらい。 ならば放送が終わるまでの間、ナノマシンによる身体の修復に費やしたほうが効率的であろう。 何せ、土門の身体能力を見誤っていた間、マシン番長はそれなりにダメージを受けてしまっている。 いかにマシン番長のボディが頑丈に作られているとはいえ、AMスーツから繰り出される打撃はとても無視し続けられるものではない。 それに現時点では戦況は拮抗しているとはいえ、相手が人間である以上必ず疲弊する。 先に受けたダメージや消耗したエネルギーを回復すれば、その分だけ持久戦において有利になるのは明らかである。 直立不動の姿勢を保ちつつ身体を修復させながらも、マシン番長は放送を聞き逃さない。 音源が特定できなかったが、レーダーのようになんらかの細工をされているとして片付ける。 キース・ブラックの言葉を信じるとすれば、居合番長と念仏番長の二人がとうに脱落したのだという。 才賀勝のような二十三区外の番長がいる以上、残る番長の数は不明である。 とはいえ、標的が少なくとも二つ減ったというのは確かだ。 マシン番長が冷徹に現状を認識していると、不意に声を浴びせられる。 放送を聞くべく攻撃の手を止めた石島土門のものだった。 「……もう、十六人も死んだんだってよ」 「ソノヨウダナ」 マシン番長にとって、土門は排除すべき番長の一人でしかない。 ゆえに言葉を交わす必要などありはしないが、時間を稼げば稼いだ分だけ身体を修復できる。 マシン番長が返事をしたのは、そんな計算あってのことだった。 土門の浮かべる苦々しい表情なぞ、判断材料にすらなっていない。 「俺の仲間はよ、二人も呼ばれちまった」 「ソウカ」 「お前の知ってる名前はあったかよ」 「二人イタナ」 「……なにも思わねえのかよ」 「排除スベキ存在ガ死ンダトイウノナラバ、任務遂行ニ一歩前進シタコトトナルナ」 「…………」 歯を噛み締めながら、土門は拳を固く握る。 その目元からは、無色透明の液体が溢れていた。 土門は太い指で拭うが、またすぐに溢れ出してくる。 これまで、土門はマシン番長のことをひたすら殴り続けていた。 相手がなにも知らない機械だというのなら、分かるまで殴ってやるつもりだった。 壊れる寸前になれば、たとえ機械でも死を理解できると思っていたのだ。 それなのに、マシン番長はどんなに殴られても眉一つ動かさない。 いくら機械であろうと、壊れないはずがない。 死んでしまわないはずがない。 にもかかわらずいくら攻撃を受けても、涼しい顔をキープし続けたのだ。 どうすればいいのか分かりかねていたときに、仲間の死を告げる放送が流れた。 花菱烈火だけでなく、水鏡凍季也までもが死んだのだという。 もしも烈火の最期を目の当たりにしていなければ、きっと信じていなかっただろう。 しかし、見てしまった。 あの、殺しても死なないと思っていた烈火でさえ――死んだのだ。 だからであろうか、水鏡の死をも受け入れてしまった。 信じたくなんてないのに、いつの間にか自然に。 そのことに気付いた瞬間、土門は一気に喪失感に駆られた。 一緒に笑うことも、言葉を交わすことも、顔を見ることさえ、もう二度と叶わないのだ。 これが死んでしまうということなのかと、理解できた気がした。 だというのに、マシン番長はやはり顔色を変えない。 機械であるから顔色は変わらないのかもしれないが、動じた素振り一つ見せない。 知っている名前が二つ呼ばれたらしいのに、だ。 そのことが気に喰わず、土門は声を張り上げた。 「これで……こんなに死んじまってッ! お前の言う月美っていう子は笑うのかよ!! 俺はそいつをこれっぽっちも知らねえよ! でもよ! その子は、お前が誰かを殺して笑うのかよッ!?」 ここでようやく、マシン番長は少しばかり沈黙した。 僅かに間を置いてから、変わらぬ冷淡な口調で告げる。 「……笑ワナイナ」 目を丸くして、土門は一瞬言葉を失う。 予想外の返答であったが、むしろ期待通りではあった。 それが理解できているのならば、話は早いはずだ。分かってくれるはずなのだ。 そんな土門の思いに反して、マシン番長は言葉を続ける。 「ダカラ、殺シテカラ『仲直リ』ヲスル」 「…………は?」 「人ガ死ネバ『幽霊』ニナルノナラバ、殺シテカラ『仲直リ』スレバイイダケダ」 今度こそ本当に、土門は言葉を失った。 マシン番長は、幽霊などというものを信じているらしい。 そんな相手をどうやって説得すればよいのか。 土門は決して優秀とは言えない脳ミソを回転させるが、答えは出てこない。 「喧嘩ヲシテモ『仲直リ』スレバヨイト、月美ハ教エテクレタ」 ただ―― 依然として答えなど出ないが、マシン番長のこの言葉が土門に火を点けた。 「あ゛?」 自然に零れた声は、土門自身が思っていたよりずっと低かった。 「あのな、お前……! 幽霊なんてもんがいるのかどうかなんて、知ったこっちゃねえよ。 なんなら、俺らは悪霊とかそんなんなら何度か見てるからな。 でも、いまはそんなもんどうでもいい。ああいう悪霊以外に、フツーに喋ったりできるヤツがいるのかは関係ねえ」 自慢のモヒカン頭を掻き毟りながら、土門は言葉を続ける。 説得する方法を考えるとか、そういうのはもうやめた。 頭がよくないのに、言葉を選んでどうするのか。 元より、土門にできるのは思い付いた端から言ってやるだけだった。 「幽霊なんてもんがいたら、仲直りできるかもしんねえよ! けどな! もう二度と喧嘩なんかできねえだろうが! 身体がねえんだからな! 考えてみろ! その子の言う仲直りは、本当に単に許してもらうってだけなのかよ! 違えだろ! 少なくとも俺は違うと思うぜ! また一緒に、放課後までダベったり、帰りにブラついたり、一緒に遊びに行ったり、ちょくちょく殴り合ったり―― そのための仲直りなんだろうがッ! 喧嘩をしても仲直りすればいいんじゃねえ! また喧嘩するために仲直りするんだろうがッ!!」 二人の少年の姿が、土門の脳裏を掠める。 ツンツン頭の炎術士に、いつでも涼しい顔の水の剣士。 もう二度と会うことはないだろうが、もし仮に幽霊として会うことができたとしよう。 だとしても、それでいいのだろうか。 二十四時間ほど話し続ければ、そりゃあ仲直りの一つや二つできるだろう。 だとしても、それだけだ。 幽霊なんてものがいたところで、話せるだけではないか。 それで、誰が満足できるのか。 そんなものに、なんの意味があるというのか。 「死んじまったら――もう終わりなんだよ!!」 これまで以上の絶叫が、住宅街に響き渡る。 それに対する返答はなく、辺りに静寂が広がっていく。 マシン番長は口も開かず、月美という少女とのやり取りを思い返していた。 喧嘩をしてしまったのならば、また仲直りをすればいい。 そう教えてくれた少女だ。 彼女がマシン番長に教えてくれたのは、それだけではなかった。 人は死ねばもう二度と戻って来れないと、いま土門が言ったのと同じことを言っていた。 だがマシン番長はこの殺し合いの舞台で、おキヌという名の幽霊と遭遇した。 そして、判断したのだ。 まだ幼い月美が知らなかっただけで、幽霊というものは存在するのだと。 たしかに目の当たりにして、実際に攻撃が通り抜けたのだ。 幽霊という存在を認めるのに十分であった。 しかしながら、だ。 月美は、このように言っていたではないか。 喧嘩したあと仲直りして、もう一度友達になる際には―― 『また一緒に遊ぼうね』 そう言って微笑むのだ――と。 おキヌとともにいたのは短い間だったが、彼女の肉体は物体をすり抜けてしまう。 それでは、遊べないのではないか。 であるのならば、つまりはたしてどういうことなのか。 マシン番長のコンピュータが、時間をかけて一つの答えを導き出す。 「ヤハリ……『仲直リ』トハ、対象ヲ殺害スレバ不可能ナ行為ナノカ……?」 思わず零れた言葉に、土門が喰いついた。 「だから、そう言ってんだろうが! 月美っていう子を笑わせてえんなら、人殺しなんかしてんじゃねえよ!」 安堵した様子の土門だったが、マシン番長はまたしても無言になる。 黙って、これより取るべき行動を導こうとする。 殺害してはいけないのならば、この場でどう立ち回るべきなのか。 殺し合いに呼ばれている番長だけならば、殺さずに再起不能にできるだろう。 月美曰く『喧嘩は本気でやれ(と彼女の姉が言っていたらしい)』とのことだが、難易度こそ高いが不可能ではない。 問題は、このプログラムに無関係の番長である。 それらを殲滅するには、殺し合いの舞台から脱出せねばならない。 はたして、それは『誰も殺さずに』可能なのだろうか。 答えは――出ない。 この場所も、キース・ブラックがどれだけの戦力を有しているのかも、まったく不明なのだ。 あまりにも情報が足りない。 いかにマシン番長のコンピュータが優れていようと、情報が足りなければなにかを導き出すことなどできない。 「……で、結局どうすんだよお前は」 痺れを切らしたらしく、土門が尋ねてくる。 しかし訊かれたところで、ありもしない答えを話せるはずもない。 ただたしかなのは、殺さないだけで番長を倒すのは変わらないということだ。 少し離れた場所にいる土門に、マシン番長は右手を向ける。 「『ライトニング・フィスト』」 無感情に告げると、マシン番長の右拳だけがロケットのような速度で飛んで行く。 土門は両手で腹を庇ったがガードごと吹き飛ばされ、民家の壁に背中がぶつかることでようやく止まる。 だが、手とは決して殴るためだけにあるのではない。 マシン番長の拳が解かれ、土門の右腕を掴んだ状態で付属しているワイヤーが巻き取られる。 踏ん張る土門だったが、少しずつ引き寄せられていく。 「テメェ……! もう殺しはしねえんじゃねえのかよ!?」 マシン番長には、土門が激昂している理由が分からなかった。 「アア、殺シハシナイ。ダガ、『再起不能』ニハスル」 またしても、土門がマシン番長の言葉に呆気に取られることとなった。 最後の一人になって、望みを叶えた上で生還する。 この場で殺し合いに乗るのは、そういうタイプであるはずだ。 木蓮のように人を嬲り殺すのが趣味という輩もいるだろうが、マシン番長がそういうタイプには見えなかった。 だから土門は、マシン番長も最後の一人になるべく人を殺そうとしているのだと思っていた。 だというのに『殺さずに再起不能にする』などと言われれば、困惑を禁じ得ない。 「なんでだよ!? なんで、テメェはそんなことするんだよ!?」 ずるずると引っ張られながら、土門は疑問をそのまま口にした。 それに対し、マシン番長は当たり前のように言い放つ。 「スベテノ『番長』ヲ倒スノガ、Dr.鍵宮ニ与エラレタ使命ダカラダ」 ここに至って、土門はやっとマシン番長が戦う理由を知った。 てっきりキース・ブラックにでも参加者を殺すよう命令されたのかと思っていたが、それは勘違いであったらしい。 「……そのドクターなんとかってのは、月美って子のことかよ?」 「違ウ。別人ダ」 「…………だろうな」 そう吐き捨てて、土門は引っ張られている方向へと飛んだ。 そのまま空中で回転して飛び蹴りの体勢になるが、マシン番長は横に飛んで危なげなく回避する。 右手は土門の腕を手放しており、とうにワイヤーを引き寄せて収納済みだ。 「何度も言ってるけど、俺はその月美って子を知らねえよ。 でもな、その子が望んでねえのはきっと殺しだけじゃねえ! 再起不能にするなんてことも望んじゃいねえよ! 分かんねえのか!」 着地したと同時に、土門は地面を蹴った。 先ほどまでいた地点に飛び散る電撃をしり目に、マシン番長へと殴り掛かる。 すると受けることもできただろうに、マシン番長は足裏のバーニアを噴射して遠ざかっていく。 「……分カッテイル。 月美ハ、俺ガ戦ウコトヲ望ンデイナイ……」 土門の読み通り、平時のマシン番長ならば距離を取るまでもなく対応可能だった。 にもかかわらず、唐突に記憶が蘇ったのだ。 番長抹殺プログラムに従って指示された場所に向かう際、月美は寂しげな顔をしていた。 そんなメモリーがフラッシュバックしたせいで、反応が遅れてしまったのだ。 「ダガ!」 声を荒げながら、マシン番長がバーニアの出力を上げる。 戦闘や会話などの行動にリソースを割くことで、強引に思考を遅らせようとする。 そのような行為が無意味なことは、超高性能コンピュータを内蔵されているマシン番長自信が分かっているというのに。 「『番長抹殺プログラム』ヲ放棄スルコトハデキナイ! 命令ヲ放棄シタ機械ハ不要トサレ廃棄ノ対象トナル! ソウナッテシマエバ、俺ハ月美ト一緒ニイラレナクナル!」 言いながら、マシン番長は空中を飛び回る。 見る見る加速していき、その勢いを乗せた体当たりを見舞う。 再びバーニアを噴射させ、吹き飛んでいく土門を追い抜く。 体勢を立て直す暇すら与えず、拳の乱打(ラッシュ)『アサルト・フィスト』を浴びせる。 合計二百発にも及ぶ乱打は一際大振りのアッパーで締めくくられ、土門はまた異なるほうへと吹き飛ぶ。 民家三軒分壁を突き破った土門を掴んだのは、マシン番長の両手であった。 またしても、手首から先を射出したのだ。 「『ライオット・ホールド』」 マシン番長の体内を流れる高圧電流が、付属するワイヤーを伝って掌へと流れていく。 その先にあるのは――土門の身体だ。 「ぐがあああああああ!?」 土門が全身を激しく震わせながら、絶叫を漏らす。 マシン番長は、勝利を確信する。 最初に電撃を浴びせた際は、訊かねばならぬことがあったために手加減をした。 以降、ずっと回避され続けたが、こうして掴んでいれば避けることもできない。 いまとなっては、土門に訊き出すことなど残っていない。 むしろ話せば話すだけ、過去のメモリーがフラッシュバックして思考がおかしくなるばかりだった。 一切の手加減などしてはならないと、マシン番長は電撃の出力を限界まで上げる。 このまま、感電死を待つだけだ。 いかに想定以上の身体能力を誇る相手だろうと変わらない。 これだけの電撃を浴びせられ続ければ、生物は死ぬのだから。 殺しさえすれば、もうマシン番長のコンピュータが乱されることもないだろう そんなマシン番長の計算は――またしても覆されることになる。 痙攣する身体を押さえ付けて、土門が立ち上がったのだ。 自信を掴むマシン番長の手を握って、強引に払い除ける。 「薄っぺらいなァ、お前。ぺらっぺらじゃねえか」 唖然とするマシン番長の前で、土門は言い放つ。 AMスーツの耐久限界を超えた電流を浴びたというのに、まるでなんでもないかのように。 身体から立ち上る黒い煙など目に入らないかのように。 へたり込んでしまった髪に手を伸ばして、自慢のモヒカン頭をセットし直す。 「俺はよォ、らしくもなく考えてたんだぜ。 小金井のヤツがサイボーグと戦ったとか言ってやがったけど、俺は知らねーからな。 いったいどんな感じなのかとか、話は分かるのかとかよォ」 首の関節を鳴らす。 口内に溜まった血を吐き捨てる。 両拳の関節を鳴らして、拳を固く握り締める。 「話してみた感じ、どーも俺が思ってたより人間っぽいなと思ってたんだけど……全然違え。 やれっつわれたからやるなんざ、それこそ単なる機械じゃねえか」 「……俺ハ機械(マシン)ダ」 ふう――と。 大きく息を吐いて、土門は思い切り声を張り上げた。 「ざッけんじゃねえぞ、このクソバカ野郎がッ!! テメェ、自分で考えられるんだろうが! 月美とかいう子に言われたこと気になったりしてんだろうがッ! じゃあなんだ!? さっき言ってた『月美と一緒にいてえ』ってのも命令か!? どうなんだ!? 答えろッ!!」 「…………違ウ」 「だったらよ……簡単じゃねえか! テメェは、その子といてえんだよ! それがテメェの気持ちなんだろうがッ!! なのになんでただの機械みてえに、ドクターなんちゃらの言いなりになってやがんだ! いったいどうしてえのか、考えれるなら考えろよ! 俺でもない頭絞って考えてたんだ! スーパーロボット様にできねえなんて言わせねえ!」 マシン番長は目を見開いたまま、なにも言わない。 ただその沈黙があまりに雄弁で、余計に土門を苛立たせた。 「『言われたから』じゃねえ! テメェの意思で! テメェの頭で! テメェのやりてえことくらい選べ! このバカチンがッ!!」 言い終えて、土門は再セットが完了したモヒカン頭を擦ろうとした。 伸ばそうとした手が髪に触れるより早く、マシン番長に叩き付けられた。 追いやられた床下で土門は追撃を待つが、一向に来ない。 ただ、自問自答する声が聞こえるばかりだ。 「俺ハ! 俺ハ……! 俺ハ……ッ!? 機械(マシン)ダッ! 『番長』ヲ倒スタメニ造ラレタ! タダノ……機械! 俺ノ『意思』ハ! 俺ノ『意思』ハ……! 俺ノ『意思』ハ……ッ!? 月美ノ側ニ……ッ! 否……ッ、機械ニ『意思』ナド存在シナイ……ッ!! Dr.鍵宮ノ命令ハ絶対……ッ! 月美ハ……命令ニ従ウ俺ヲ望ンデイナイ……! 優先スベキハ! 優先スベキハ……! 優先、スベキハ……ッ!? 『番長、抹殺プログラム』、『仲直、リ』……ッ! スベテノ……『番長』ノ殺害……! 俺、ハ…………人、デハ、ナイ!!」 頭を抱えて呻いていたマシン番長が、急に背筋を伸ばす。 その口調は先ほどまでと異なり、はっきりとしたものだった。 「俺ハ――戦闘機械(マシン)ダッ!!」 言い切って、マシン番長は土門を見据える。 その白目部分まで真っ赤に染まった瞳を見て、土門はしばし唖然としてから――口角を吊り上げた。 「そうかよそうかよ、それがテメェの出した答えかよ」 床下から飛び出そうと力を籠めると、そのまま天井を二回突き破って屋根の上に飛び出す。 AMスーツが先ほどまで以上に能力を発揮している証だった。 「いいぜ。最初に言っただろうが! 何度だって何度だって、俺はお前を救ってやるってな!!」 ◇ ◇ ◇ 土門とマシン番長が戦うエリアC-3北東部の地下に、霧沢風子、高嶺清麿、横島忠夫の三人はいた。 彼らは自動人形(オートマータ)・ドットーレから逃亡する経路に、下水道を選択したのである。 ある理由から横島に『制裁』を加え、ちょうど情報交換でも行おうかというときであった。 「……なあ」 切り出したのは風子であったが、彼女が言わんとすることは他の二人にも容易に分かった。 土門とマシン番長の戦闘音が、地下にまで響いてきていたのだ。 それがいったい誰が出しているのかはともかくとして、戦闘音であるのは明白であった。 「どうするよ」 風子が短く尋ねる。 考え込む清麿の横で、白々しく口を開いたのは横島だ。 「ええー!? どうするって、いったいなんのことなんだろー!? 俺にはまったくなんにもこれっぽっちも、なんかドンパチやってる音とか聞こえねえんだけど!? もしかして風子ちゃん、ちょっと意識失ってたから体調悪いんじゃ!? ちょっと落ち着いていったほうがいい。 ここで! この誰も来ないだろう下水道で! ここから一歩も外に出ないで! しばらくゆっくりするのがいいと思う! なっ、なっ?」 横島、必死の形相で清麿に視線を飛ばす。 アイコンタクトなんて言葉じゃ生温いほど。 なんていうか、とにかく、分かりやすかった。 それを、清麿は当然のごとくスルーするのだった。 「これだけ地下に音を響かせるってことは、相当のヤツなんだと思う。 まだ定かじゃないけど、警戒の意味もこめてさっきのドットーレ以上で見るべきだ」 殺意丸出しの横島の視線を受け流して、清麿は続ける。 「……はっきり言って、いまの戦力じゃ顔を出すのは危ない。 何人が戦っているのかは分からないけど、もしかしたら全員殺し合いに乗ってるかもしれない。 つまり、助けるべき相手なんかいないかもしれないんだ。 ただでさえ戦力が充実してない以上、放っとくのが一番いい……と思う」 横島、満面の笑みになる。 さっきまでの態度からして、掌返しにもほどがある。 そんな横島には誰一人として触れない。 もしかしたら、見てすらいないのかもしれない。 「ってことは、見捨てろってか? 助けなきゃいけねーヤツかもしんねーのに、こっちが戦えねーからってあっさりと」 「……とは、いかないだろ。 いるかどうか分からなくても助けるべき相手かもしれない以上、放ってなんかおけるか」 横島、またしても掌を返す。 二人、傍らから溢れ出す殺意に一向に触れない。反応すらしない。 「へー。意外に熱いじゃん」 「ていうか放置するなんて言おうもんなら、一人で行ってるだろ。なおさらそんな選択できるか」 「ははっ、分かってんじゃん」 横島、顔面蒼白になる。 単に軽口を叩きあっているだけなのだが、彼には『いい雰囲気』に見えたらしい。 何せ、異性と付き合った経験がないのだ。どうにか許してあげて欲しい。 「都合がいいことに、俺たちがいるのは下水道だ。 こっそり顔出して状況確認、まずければそのまま逃げるなんてこともできる」 「そんときにバレちまったらどうしようもねえから、そこんとこは気ぃつけなきゃな」 「ああ。一応、爆弾や銃はあるが……正直使ったこともないから、頼りにはしないでくれ」 「おいおい、俺の銃の腕前はお前よく知って――」 「お前に武器なんか渡すワケないだろ」 横島、頑張って会話に飛び込もうとするも、冷たくあしらわれる。 「ちきしょー! 一回だけの過ちやないかー! 笑って許してくれや―!」とのたまうが、これに返事はない。 「もしものときは、風神剣で私が時間稼いでやるよ」 柄に玉が埋め込まれた剣を手に取って、風子が小さな旋風を起こす。 ここに至ってようやく、横島が真剣な表情になる。 「いや待って。風子ちゃん、それはダメだ」 言いながら、横島が風子の肩を掴み――エルボーを浴びた。 「触んじゃねえ!」 当然といえば当然。 残念でもないし当然。 随分と嫌われてしまったらしい。 さすがの横島も自分が伝えても無理だと判断し、清麿に小声で話しかける。 「あの剣、たぶん妖刀とかそういう類のヤツだぜ。 お前も見たろ、さっき風子ちゃんが暴走してたの。 ああなっちまわないように、手放させたほうがいい。 アレの力が必要ってんなら、ほんとはイヤだけど俺が使ってやるから」 本来、横島としては清麿の力など借りたくない。 なんといっても清麿は顔がいいし、清潔感があるし、頭はよさそうだし、スタイルもいいし、さらに中身までいいヤツと来ている。 すべての面で横島の正反対。 完全にモテる男の典型例である。 こんな状況でなければ、大人げなく痛い目に遭わせてやっているところだ。 にもかかわらず、横島は清麿の手を借りることにした。 これは横島にしては珍しく、下心抜きに風子を気付かってのことだ。 だというのに――嗚呼、これまでの積み重ねである。 「……いや、それは通らないだろ」 やたら冷たい視線を向けながら、清麿は一言で横島の提案を切り捨てた。 風子が暴走していたのをたしかに目撃しているが、それを風神剣が原因とまでは認識していない。 その状態で、横島が『風神剣を自分に渡せ』と言ってきたのだ。 一度風神剣で清麿を殺しにかかってきた横島が、である。 そんなもの、受け入れるはずがない。 妖刀などと言われても、適当な誤魔化しとしか思えない。 実は横島には清麿が生存させる算段があったなど、清麿が信じるはずもない。 「バッカ、お前! クソッ! いいヤツぶってるクセに! 俺みたいな童貞には冷たく当たっても、世間は許すのか!? ちきしょー、この童貞差別! 童貞差別野郎、高嶺清麿!!」 横島の叫びが下水道内を反響する。 この期に及んで、自分ではなく相手を悪いと本気で思っているのだった。 ◇ ◇ ◇ マシン番長の足裏に付属するバーニアが火を噴き、土門への距離を瞬く間に詰める。 その勢いそのままに膝蹴りを浴びせると、AMスーツの奥にある土門の肉体が軋みを上げた。 瞳が真紅に染まって以降、マシン番長のパワーはAMスーツの耐久限界を凌駕している。 電撃くらいしかまともにダメージを与えられなかったこれまでとは異なり、打撃の一発一発がたしかに土門の肉体に突き刺さる。 しかしながら、それは土門のほうも同じだった。 AMスーツは土門の昂る感情に応えてかつてないほどの性能を発揮し、そこから繰り出される攻撃はことごとくマシン番長のボディを凹ませた。 その衝撃は内部にまで及んでおり、ナノマシンによる修復など間に合うはずがない。 右脚に受けたダメージが大きく、マシン番長が僅かに体勢を崩す。 土門のほうも足は痛んでいたが、その隙を逃すワケにはいかなかった。 ほんの一跳びで距離を詰めて、射抜くような軌道の右ストレートを顔面に叩き込む。 そこから小刻みな左のジャブを同じく顔面に数回浴びせ、一気に拳の速度を加速していく。 「うらうらうらうぅるァァァーーーーッ!!」 そこからは両方の拳を交え、ひたすらに殴る。 もはや最初の数撃とは異なり、狙いなどない。 ただ、目の前に立っている相手をひたすら殴るだけである。 これこそ、かつて不良界隈を震撼させた『殺人ラッシュ』。 異なっているのは、かつてより土門が身体を鍛え、経験を積み、AMスーツを着込んでいるという点。 もはや、土門の腕は常人ではいったいいくつあるのかすら分からないだろう。 腕を伸ばしてから戻して畳むまでのモーションが、視認できる限界を超えるほどに速いのだ。 それほどの攻撃を浴び続けながら、マシン番長は涼しい顔で自身の攻撃のモーションに移る。 ダメージがないのではない。 無視できぬほどのダメージを受けながら、その上で無視しているのだ。 「『W(ダブル)ライトニング・フィスト』」 両手を組んだ状態で、手首から先を射出する。 単独発射よりも速度の上がった質量二倍の拳は、もはやロケットではなく隕石。 殺人ラッシュの最中であったのもあり、土門は完全にカウンターを受けた形となる。 さらに受けた場所が顎というのも悪かった。 サイボーグであるマシン番長と異なり、人間である土門にとって顎は急所である。 ほんの一瞬だが、土門の意識が飛んだ。 これを見逃すマシン番長ではない。 飛ばした両手で土門の肩を掴むと、足裏のバーニアを全開にして一気にワイヤーを引き戻す。 「『クライシス・キャノン』」 先ほど以上の勢いで、マシン番長の両膝が土門の腹にめり込む。 その衝撃と内臓が抉られる音で、土門は覚醒した。 最初の知覚が口内に胃液が込み上げてくる酸味という、最悪の目覚めだった。 依然としてマシン番長の足裏のバーニアは火を噴いており、着地できていない。 そう認識するでもなく、土門は反射的にマシン番長に拳を叩き付けた。 土門は膝蹴りの勢いそのままに、横合いから殴り飛ばされたマシン番長があらぬ方向に、彼方へと吹き飛んで行く。 お互いに民家を丸ごと一軒瓦礫にし、そのなかから這い出てくる。 土門は肩で息をしており、マシン番長は全身の損傷で左右に揺れている。 もはや、両者ともに次の一撃を避ける余裕はない。 ――次が決め手になる。 お互いに、そう理解していた。 「『ソリッド・スクリュー』」 仕掛けたのは、マシン番長であった。 その右手首から先が高速で回転し、傍目にはドリルのような外見になる。 金剛番長をすら殺害した必殺の一撃だ。 これで相手の心臓を貫くには、まず相手の動きを止めねばならない。 彼に内蔵されたコンピュータがそう認識していたからこそ温存していたが、もはやその必要はない。 あのような状態では避けられるはずがないのだから。 「おおるぅァァァァッ!!」 土門が繰り出したカウンターの右ストレートを受けた上で、マシン番長は高速回転する右手を土門に突き刺した。 さながら、鉱物でも削っているような。 そんな衣服を削っているとは思えぬ音を立てて、AMスーツが抉られていく。 ほどなくして、ついにAMスーツは貫ぬかれてしまう。 マシン番長の右手に、人体に突き刺さる感触。 あとは、ほんの少しだけ押してやるだけだ。 「オ前ヲ処理スル……!」 勝利を確信し、マシン番長は右手に力を籠める。 ドリルじみた右手が、さらに奥へと進んで――いかない。 マシン番長が眉根を寄せて顔を上げると、土門の顔面が鉛色に染まっていた。 額の中心部には、それまで書かれていなかったはずの漢字が一つ記されていた。 ――『鉄』。 ゆっくりと、その漢字が近付いてきている。 そう認識したマシン番長は距離を取ろうとして、両肩を土門に掴まれていることに気付いた。 足裏のバーニアを起動させるが、その腕に籠められた力はあまりに強く――そして『重い』。 接近してくる漢字を眺めるしかできないマシン番長の両瞳は、土門の身体が額の文字通りに鉄化している事実を読み取る。 しかし、だとすれば。 たかだか硬度四程度の鉄だというのならば――! 「バカナッ! 鉄ゴトキ『ソリッド・スクリュー』ガ貫ケヌハズガ――!?」 言い終えるより早く、冷たく硬く重いヘッドバットが叩き付けられた。 仰向けに倒れ込むマシン番長に、同じく仰向けに倒れ込みながら土門が断言する。 「ただの鉄じゃねえ。俺が気合籠めて発動させたんだ。 言われたことやるだけのテメェより柔らけえワケねーだろ」 土門の肉体が鋼鉄化したのは、体内にある魔道具『鉄丸』の効力である。 使用者の適正、慣れ、精神状態によって、魔道具の性能は飛躍的に上昇する。 そんな事実にまったく触れない、なんの理屈にもなっていない答え。 だというのに、マシン番長は不思議と合点がいった気がした。 「ソウカ」 そう返したのと同じくして、全体が真紅に染まっていた瞳が本来の色に戻る。 地面の冷たさを知覚し、青い空を視認し、躯体損傷率を認識して―― そこまで来て、マシン番長は自分が敗北したという事実を悟った。 「Dr.鍵宮ニ下サレタ任務ヲ完遂スルコトガデキナカッタ。 俺ハ……廃棄サレル。月美…………」 命令を遂行できぬ機械に、存在価値はない。 もはや、廃棄されるだけだ。 そうなってしまえば、月美と再会することもできない。 マシン番長がその事実を受け入れようとしていると、土門が仰向けのまま顔だけを上げる。 「ふざけんな、バカ野郎。黙って捨てられていいのかよ。 一回本気出して命令守ろうとしたんだろ。だったら、今度は好きに生きりゃいいじゃねえか」 「俺ハ機械(マシン)ダ。生キテナドイナイ」 「はん、生物の定義とか知らねえよ。考えてるヤツァみんな生きてるでいいだろ、そんなもん」 「…………ダガ」 「ああもううるせえな! 知らねえよ、んなこたァ! テメェがどうしてえかって話だよ!」 「…………」 マシン番長は、青空の彼方にあの少女の姿が見た気がした。 躯体損傷が激しいゆえに、メモリーから過去の映像が漏れ出たのかもしれない。 機械であるのならば、そう考えるのが正しいのだろう。 だが、もしも。 『意思』というものが、あるのであれば。 それを持ち合わせているゆえに、記憶が蘇ってきたのだとすれば―― 「俺ハ……月美ニ笑ッテイテ欲シイ」 少し間を置いて、土門が大声で笑いだす。 一しきり笑ってから、落ち着いた口調で切り出した。 「じゃあお前、『火影』に入れよ。 どうせ、そのドクターなんとかんとこには戻れねえんだろ」 「『火影』……?」 マシン番長が首を傾げる。 現存する番長同士の『組』の知識は網羅しているはずだが、その名称は初耳だった。 「えーと、なんつーか……まあ俺らのいるチームだよ。 ……リーダーは死んじまったんだけどな。はッ、あのヤローいなくなったら俺がリーダー確定だな。あの世で羨ましがってやがれ、バーカ」 しばらく毒づいてから、土門は上体を上げる。 いつの間にか、その眼差しは真剣なものに変わっていた。 「火影に細かいルールはねえけど、たった一つ『殺しはNG』だ。 これだけは守ってもらうぜ……死んだり殺したりしたら――もう終わりなんだからよ」 マシン番長が思い返すのは、自分に『死』について教えてくれた月美の姿だ。 幼いのもあり拙い説明であったが、彼女が死を恐れていることは分かった。 自身のだけでなく、すべての他者の――である。 「……アア、都合ガイイ」 損傷が激しく、エネルギーを消耗しているからだろうか。 平常時ならば直視しても問題ないはずの太陽が、マシン番長にはやけに明るく見えた。 ◇ ◇ ◇ 「終わったみたいだね」 「そうだな。どっちも死んじまったのか?」 「どうだろう……少し待ってみよう」 「ああっ、どっちも生きてるみてえだ! 考えが読める」 「ふむ。どちらかがどちらかを殺して終わると思っていたけど…… でも両方とも疲弊しているのなら、やっぱり待った甲斐はあったね。 あんなの相手に正面から戦ってちゃあ、とても最後の一人になんてなれないよ」 「へへへ。やっぱりバロウは頭いいなァ」 「……さとりさんと話してみて、ちょっと僕の常識じゃ計り知れない相手がいるかもと思っていたからね」 「へへ。よく分からねえけど、面倒なヤツらがいるってことだろ?」 「うん、そんな感じ。じゃあ手筈通りに行こう」 「ああ。ところで、『生き残ったほう』を狙う計画だったけど、この場合いったいどうするんだ?」 「それは、もちろん――」 ◇ ◇ ◇ 恐る恐るマンホールから顔を出した風子は、戦場に転がる人影を見て拍子抜けしてしまった。 地下を移動しているうちにあんなに激しかった戦闘音が止み、間に合わなかったのかと焦っていたのだ。 もどかしい思いを抱きつつ外を覗き込んでみれば、戦場に横たわっているうち一人はよく知った男であった。 しかもその表情を見るに、なんていうか『いつもの喧嘩』をしたあとのようだった。 張り詰めていたものが一気に切れたような感覚を覚えた。 彼の姿を見て安堵した自分にも風子は気付いており、それがなんとも腹立たしかった。 「私の知り合いだったわ。ちょっとちょっかいかけてくる」 後ろをついてくる二人にそう告げて、風子はゆっくりと土門に歩み寄っていく。 無駄に心配かけさせてくれたのだ。驚かしてやっても罰は当たらないはずだ。 こっそり後ろに回って不意に声をかけてやれば、きっとマヌケな声を上げることだろう。 石島土門という男は、あの巨体や強面に反して意外に臆病な一面もあるのだ。 風子がそのように計画を立てていると、横たわっていた土門に巨大な弾丸が命中した。 「……は?」 意図せず呆けた声を漏らす風子の眼前で、土門が宙に投げ出される。 直径一メートルほどの玉が勢いよく命中したのだから、当たり前だ。 そんなふうに、風子はどこか他人事のように思ってしまっていた。 土門を発見して気が緩んだせいか、目の前で広がる事態に思考が追いつかない。 上空に投げ出された土門がある一点で静止する。 その瞬間を狙い澄ましたかのように、土門の腹を三日月状の刃が斬りつけた。 「…………は?」 再び、呆けた声が漏れる。 土門の腹から血が噴き出す。 そのまま落下し、地面に叩き付けられる。 どう見ても、致命傷だった。 どう見ても、凶器は魔道具『海月』だった。 どう見ても、風子が一度遭遇した相手が所持していた代物だった。 ――殺せ。 ――――殺せ! ――――――殺せ!! 静かになったはずの剣が、風子の手のなかでやたらとやかましかった。 こんなにうるさいというのに、この声は他の誰かに聞こえないのだろうか。 誰一人として指摘してくれないので、風子は剣にこう返すことにした。 「殺す」 思っていたより大きな声が出ていたらしい。 周囲の何名かが視線を浴びせてきたが、風子は反応を返すことすらしない。 三日月状の刃が戻っていった方向を見据えて、風神剣の刃をそちらにかざす。 びゅおう――と。 住宅街を吹き抜けた風が、風子にはやけに心地よかった。 ◇ ◇ ◇ マシン番長は茫然とした表情で、重力に引き寄せられる土門を眺めていた。 躯体損傷率が激しいとは認識していたが、レーダーが完全に利かなくなっているとは気付いていなかった。 そのせいで、本来ならば容易に勘付いたはずの奇襲に反応できなかった。 落下してきた土門は、傷痕から血液だけでなく臓器まで垂れ流している。 腹から背にかけて切断されており、もはや身体が二分割されていないのが奇跡と言えるだろう。 臓器も、胸骨も、背骨も、根こそぎ切断されているのは明白だ。 マシン番長には人体に関する知識があるものの、その知識を総動員しても助かるめどはない。 優れたコンピュータを持っているからこそ、希望的観測すらできない。 『命は、みんな一つずつしか持ってないんだよ』 『大切な人がいなくなるのは悲しいことなんだよ』 月美の声がフラッシュバックし、そして。 次に、いましがた土門に浴びせられた言葉が蘇る。 死んだら――おわり。 【C-3 北西部路上/一日目 午前】 【石島土門】 [時間軸]:SODOM突入前 [状態]:全身にダメージ、腹から背にかけて斬りつけられたような傷(致命傷) [装備]:御神苗優のAMスーツ@スプリガン [道具]:基本支給品一式×2、支給品1~5(0~2:本人確認済み、使えるものと使えないもの? 1~3:烈火確認済み、花火以外) [基本方針]:―――――――― ※御神苗優のAMスーツ@スプリガンは、胸部を抉られ、胴部を突き破られてます。 【マシン番長】 [時間軸]:雷鳴高校襲撃直前 [状態]:全身ダメージ極大、エネルギー消費大、自己修復&エネルギー回復中 [装備]:無し [道具]:ランダム支給品1~3、基本支給品一式 [基本方針]:月美を笑顔にするために動く。誰も殺さない。 ※番長関係者しか狙いませんが、一定以上の戦闘力があるとみなした人物は番長であると判断します。 ※対象の“人間”の殺害を躊躇しません。 ※レーダーは制限されています。範囲は不明。 【高嶺清麿】 [時間軸]:最終回後 [状態]:健康 [装備]:式紙@烈火の炎 [道具]:基本支給品一式×2、声玉@烈火の炎、テオゴーチェの爆弾ボール@からくりサーカス、コピー用紙百枚程度@現地調達、AK-47@現実 醤油差し@現実、わさび@現実 [基本方針]:このゲームからの脱出。ガッシュに会いたい。いずれアリスとコンタクトを取る。横島を監視しつつ風子と同行する。落ち着いたら情報交換しないと。 【霧沢風子】 [時間軸]:SODOM突入前。 [状態]:??? [装備]:風神剣@YAIBA [道具]:基本支給品一式、謎の玉@不明、ハンディカラオケ@現実、風子のリュック(基本支給品一式、支給品0~2(風子確認済み)、水一本消費) [基本方針]:―――――――― 【横島忠夫】 [時間軸]:文珠を出せる時期。 [状態]:ボッコボコ(=いつも通り)、文珠×2、電撃なごーもんにより流石に動きが鈍る。 [装備]:なし [道具]: [基本方針]:死にたくない。忠夫ちんぴんちっ。 【さとり】 [時間軸]:紫暮&うしお戦直後 [状態]:万全 [装備]:海月@烈火の炎 [道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1~5 [基本方針]:優勝し、ミノルの目を治して人間となり一緒に暮らす。 【バロウ・エシャロット】 [時間軸]:三次選考開始後、植木チーム戦以前。 [状態]:健康 [装備]:H K MARK23(8/12)@現実 [道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、月の石×4@金色のガッシュ、RPG-7(グレネード弾×5)@現実、支給品0~3(確認済み) [基本方針]:人間になるため、最後の一人となる。 ※名簿に書かれたロベルト=アノンと認識しています。 投下順で読む 前へ:さよなら旧い自分 戻る 次へ:高鳴り 時系列順で読む 前へ:さよなら旧い自分 戻る 次へ:能力者CO/価値観の不一致 キャラを追って読む 076:横島忠夫、清麿と出会う(前編) 霧沢風子 :貫くということ 横島忠夫 高嶺清麿 066:ばかやろう節(1) 石島土門 マシン番長 058:疎通――少年さとり バロウ・エシャロット さとり ▲