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1:終幕:ふたりの時 2:回想:幸せな二人 始まりの思い出 四年目の何気ない休日 五年目のやきもち 六年目のわがまま 七年目の何気ない休日 八年目のやきもち 九年目のわがまま 十年目の何気ない休日 十一年目のやきもち 十二年目のわがまま 十三年目の日
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当主に当然旦那様を生き返らせられるな、という質問をした。 「は?」 そしてハトが豆鉄砲を喰らったような顔をした。なんて顔をしているんだ、ご当主は。どうして、そんなバカげたことを、というような顔をしているのだ。 まったく、自分が仕える人間がそんなあほ面を晒していたら私は切なくて死んでしまうかもしれない。 「は?ではないでしょう。イエスかはい、どちらなんですか」 「あ、あぁ――そうか。そうか。そうだ、その知恵遅れを殺してやれ」 なるほど、この人は生き返らせられないのか、まあいいか。別で探そう。 そう思い、拘束していた数人の男を掴み投げた。闇に浮かぶ大きな手で。私のものだけれど、私のものではない手で。 壁に激突したあとにこちらを向いて、初めて投げられた人間は状況を理解したらしかった。 当主は、もう少し早く理解したようだ。 私はあえて見たりしないけれども、私の背中に何があるのかはわかる。あるのは夜。闇。 夜は時に形をなし、私の思うがままにそれを奮う。定まらない実体。 「あぁ、これも嘘ですね。私、ただの使用人って言ってたのに。ただの使用人って、アームヘッド持ちませんよね」 エスカベッシュの一件以降、グラードにはアームヘッドの所有権がなかったために偽ったのだった。 「ね、使用人の性別も見抜けないような人だからこういうことも起こるでしょう」 私のアームヘッドは実体の有無を私が決定できる。だから正直、見抜くことなどできないのはわかっているのだけれど。 ひとしきり彼らの怯える様子を楽しんで、それから「あ」と言った。思い出した。 ごとん、と夜の大きな手からはみ出してきたものがテーブルに落ちる。なるほど、痩せていてもやはり人はそういう音になるのか、などと感心した。 「私はその辛さを知っていますから、せめて一緒に死なせてあげます。」 さっき拵えた女の死体とこれから死体になる当主。一緒にしてあげるなんてなんて慈悲深いのだろう。 私もそれならばこんなことせずに死んでよかったのに。 あぁ旦那様。 やっぱり旦那様は優しすぎです。だから、ごめんなさい。私が旦那様の分まで非情になります。 旦那様のために私、旦那様を殺した家を殺します。旦那様が優しすぎるのを厭った家には消えてもらいます。 ごめんなさい、家のことまで愛してらっしゃったのに。しかしその愛はもうそんなものに分けてはいけません。全部私に下さい。 旦那様のためにそこまで頑張ったら、全部の愛を私に下さいますよね、と自分のおなかを撫でた。自分の男の部分が固くなっていて興奮していることに気づいた。 「さあ、ヒドゥン・マインドボウ、やりましょう、旦那様のために」 聞きたいことは聞きつくした。もういい、とアームヘッドを完全に実体化させ、乗り込む。 闇を固めて鎌を成すとまずは当主を殺した。器用に手首を切り落とし、足首を切り落とし、それからあえて空ぶりをしたり、とにかくその生を弄んだ。 そしてさっきまで私を拘束していた、旦那様から頂いたお召し物を汚した人間たちはひとりひとりゆっくりと首を引きちぎってあげた。 それを終えて今度は屋敷を壊す。これはもうねちねちとせず、豪快に行った。 ガリア王国から出されている警備のヨツアシが今更何を守るのか私に襲い掛かってくるが、それらもすべて切り刻んだ。 結局、屋敷は物の数分で塵芥と化した。その理念こそが塵芥と呼ぶべきものだったのだからあるべき姿に戻ったといってもいいだろう。 最期に残ったのがこの子だった。 「――フレンラ・グラード」旦那様の代わりに当主となる運命だった子。けれど、彼女に特別な憎しみを抱いたりはしない。それは筋違いというものだ。 それにまだなにもわかっていないはず。だから、何もわからぬまま殺してあげるべきだ、と足元に落ちる闇からヒドゥン・マインドボウの腕を出した。 「あ、あの、ありがとうございます!」予想していなかった答えに狼狽えた。 「わたし、わたし、力の探求なんて、怖くって、それに、パパやご当主様はみんなああいうけど、グリークの民のみんなは、今幸せなのにって」 「つまり、グラードの家のその理念が理解できなかったと仰るのでしょうか」 「う、うん」 なるほど、と腕を闇に戻した。 「では、私と一緒に来てくれますか。グラードの人間として、グラードを否定してほしいのです」 「え、あっ、はい」 こうして、私の復讐にフレンラ・グラードが追加された。
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二週間ぶりに家に帰った。両親が大層喜んでくれた。 眼鏡は割れて、服もボロボロ。顎が変な感じ、けれど、生きている。なんとか生きていた。 それで、同じく生きていたラズベリィ・クロインと、うちに戻っていた。ネオ・グリーク軍に残った最後の戦力、シュガーリィ・ファイン・ナイトメアで、数日かけてうちに帰った。 だからネオ・グリーク軍はやはりまやかしだった。 ペスカトーレ・シウルは言っていた。 まずはティアーズを集めて、縷々姫を殺すのだと。だが、結局ティアーズなんてものをかき集めても、その姿を拝むこともできなかった。 なんというかあんな、昔何かがあった跡だという何もない場所であんな大それたことして、よくわからない二週間だった。 誰一人同じ方向なんて向いてない五人組だった。 ペスカさんは明らかにネオ・グリークじゃなくて、縷々姫を殺すことを目的に動いていた。機体が望むからそうしているんだと言っていた。自分は今に満足しているからと。 もう一人今に満足してる人がいた。あの人は、まぁ、多分もう、人として間違っていた。 王なんて呼ばれてたあの子だけが、ネオ・グリークを見ていたけれど、けれどやはり、ネオ・グリークじゃないところを見ていた。 もちろん、俺の隣の女はなにも考えちゃいなかった。ペスカさんから頭が悪いのは調和能力のせいだと聞いたが、今もそんなに大差ない。 結局、目的すら同じじゃない人間が集まってたんだ。まぁ、それでもちゃんと役割を果たしていれば目的は達成されたはずだが。 でも結局、俺も含めて、誰も、自分の役割を果たす気がある人はいなかった。 みんな、自分のしたいようにした。したいことがないバカは何もせずに負けた。 相手は、ひとつのしたいことがあって、そのために自分が何を出来るのか知っている人たちだった。立派な人たちだった。 俺のアームヘッドの足から味方をかばって死んだ人は、それはもう男として憧れない理由がなかった。 はなから数で勝てる相手ではなかったわけ。質が違いすぎた。 だから当然、その先にあったネオ・グリークという夢は虚のまま、いや、はっきりと打ち消された。 それでもよかった。 それでよかった。 俺も結局、俺の頭の良さが思うように評価されないことが嫌だっただけ。俺が暗いといって虐げられていたのが嫌だっただけ。 でも、そのあたり、あんまり気持ちは変わってない。 ただ、両親は俺の味方だとわかったから、ある程度満足していた。そういえば、いつも過保護な人たちだった。 ひとしきり抱きしめられて泣かれて、それから父が言った。 「マル、駆け落ちごっこはもうよしてくれ」 「そうよマル、私たち、子供の恋愛に口出ししたりはしないわ!」母が援護射撃を加えた。 「いや、違う。俺とこのバカはそんなんじゃない」 「なにが?」こちらの味方は既に負傷していた。バカはつづけた。 「あ、名乗り遅れました!ラズベリィ・ペッパーです!パパ、ママ、これからよろしくお願いします!」 まぁ、と両親が言った。俺は言葉を失っていた。 だがバカは止まらない。今度はこちらを向く。 「あ、そうでした。私、マレェドさんと結婚したいんです!いいですか!」 「は、はぁ?」 「結婚です!私、頭悪いから、呆れないでずっと相手してくれる人ってパパ以外で初めてで、だから、結婚するならこういう人だなって! お付き合いするならもっとわかりやすくカッコいい人がいいなって思うんですけど!結婚ってなるときっとこの人とだって思ったんです!だから、しましょう!」 「お前、ちゃんとアームキルされたんだよな」まだ違和感を切り捨てる調和能力とかいうのかかってるんじゃねえのか。 俺はこいつに呆れてなかったことがないし、少なくともあの三人も俺くらいはこいつに優しかった。ていうか、こいつ失礼じゃないか。 「はい!けど、私にとってはマレェドさんがベストなんです!だから!」 手で最後の言葉を遮った。なんていうか、こいつはやっぱり頭が悪い。よく顔を見なけりゃわからなかったが、すごく必死なんだ。可愛かった。 なんでか俺に。いや、なんで俺なんだ。気が付くと声になっていた。 「マレェドさん、優しいのに優しくなくて、意地悪のくせに嘘つけないでしょう。あとバカって呼んでくれるのが可愛くて好きです」 「お前の言ってること、最高に意味が分からん」 本当はちょっとわかってた。 帰り道で話してくれたことを思い出していた。両親が分かれたこと。わかれて、優しい嘘つきに引っかかって母親がおかしくなったこと。 「あのな、いいか」俺は最高に粋な返しを思いついた。 「俺みたいな日陰者がな、お前みたいな、か、かか、かわいい子と、なんて、そんな、ベストってか、ミラクル、みたいな……」渾身の返しは声にならない。 「えっと、日陰者ってなんですか?」それ以前の問題だった。仕方なく説明する。 それを両親が生暖かい目で見ている。自分の子供がこんなバカと結婚しようとしてるんだぞ、心配しろ。 まぁ、今更止められる方が困るか。 気合いを入れて、お付き合いするにもマレェドさんと言わせてやるようなプロポーズをする。 「なんかその、俺の方こそ、もったいないくらいなんで、卒業したら、結婚してください」
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◎The -6 Day Wonder◎ ◎まだ遠く未来の声 キミと唄うこの聲◎ ――どこまでも、青い空。果てしなく続く草原。 はるか向こうにうっすらと、僕らの住んでいる街が見える。 胸いっぱいに吸った空気は、どこか青臭い草の香りがして。 肌を優しく撫でるそよ風は、バスケットを提げるアリスのワンピースを、僅かに揺らした。 広い草原に、ただひとつ、ぽつんと大きな木が立っていた。 何十年も前から立っていたらしいその木の下で、僕らはため息と一緒に腰を下ろした。 お腹のすいていた僕は、アリスがバスケットを下ろして中身を取り出すのを、今か今かと待っていた。 くす、と吐息だけでアリスに笑われて、顔が熱くなった。 卵やハム、レタスにトマト入り。 アリス特製のサンドイッチの美味しさに、僕は思わず我を忘れてもくもくと食べた。 おいしい、と素直な感想をいうと、アリスは嬉しそうに微笑んでくれた。 ……不意に喉をつまらせて、側に置いてあったお茶を飲んだ。 「――あ」 思わず手にとって飲んでしまったのは、アリスの分のカップ。 どぎまぎして、横に座っているアリスのほうを見る。 すると、僕はよほどヘンテコな顔をしていたらしく、 アリスはちょっと我慢した様子を見せた後、ついに小さく吹き出してしまった。 どこか温かい日差しと、そよ風に頭を撫でられながら。 僕らは満腹になった満足感の中で、 手を繋いだまま、 ――微睡みに落ちた。 ◎◎◎ ――そんな微睡みから、瞼をあける。 正直なところ、まあそんなところだろうなと思った。 いくら僕だって、いい加減に慣れてきた。 あれは夢だ。 僕がきっと最後に見た、一番幸せな夢だ。 いつかの朝のように、僕は気怠そうに身体を起こした。 「……」 すぐ横で、セリアが倒れていた。 きっと、もう二度と目覚めることもない。 あの虚無を宿した黄金の瞳を湛える、機械のように丹精だった顔は、 今は微塵ほどの面影も残さずに、無数の肉片と骨片に成り果てていた。 銀色の髪はあちこちに皮膚ごと散らばって、血で赤く染まっていた。 僕の背丈が小さかったせいだろう。 あの時に地面と先に衝突したのがセリアの頭だったらしいことを、僕はやっと理解した。 最期まで他人を繋がろうとした女は、 自分で作り上げた楽園にすら置き去りにされて、独りで死んでいた。 出来過ぎた結末だ。笑えない事実に、僕は溜息をついた。 アラームは、まだ鳴り響いている。 僕は、止め方を知らない。 だからきっと、誰も永遠に止められない。 誰もいなくなったこの施設の片隅で、この場所は完全に停滞した。 もう、留まる理由もない。 アリスの巨躯が忽然と消えているのを確認すると、僕はよろよろと歩き出した。 ――ふと、通りすぎようとしたすぐ横の物体が目に入る。 それは沢山の金属のカプセルのようなものが配置された、訳のわからない装置だった。 手を伸ばして、そのうちひとつのカプセルを抜き取ってみる。 そこにはカードが貼られていて、「DNA sample Alice Atrest」の文字が入っていた。 ……僕は、それをボロボロになったジーンズのポケットにしまった。 どんな意図があったのかは解らない。 もしかしたら、かつてアリスだった確かなモノだけでも、せめて外に出してあげたかったのかもしれない。 硬い金属で出来たそれは、ちょっとの衝撃じゃ壊れない感じがした。 ……不意に、激痛で歩みが止まる。 いくら衝撃を逃せたとはいえ、やっぱり身体の節々が痛い。 でも、まあ我慢できない程度でもない。さっきの地獄に比べればまだマシだ。 僕はたった一週間の間に歩き慣れた記憶を頼りに、 施設の東側、出口に向かって歩き出した。 「……はは。あは、は」 倒れそうになる身体をとっさに壁で支えながら、僕は力なく笑った。 人間は本当にどうしようもなくなると笑いが出るというのを、初めて知った。 勝ったのはいい。 助かったのも拾い物だ。 でも、これからどうすればいい。 とりあえず外に出ようとしているだけで、その先は。 きっと扉を開けたその先は、文字通りこの世の果てが待っている。 じゃあ、どうすればいい。 僕は、なんのために戦ったのか。何を得ることができたのか。 ――僕は笑った。確かに笑った。 いじけてるとかじゃなくて、本当におかしくて仕方なかった。 「――はは」 笑いながら、まだ動くエレベーターに乗り込んだ。 笑いながら、地上に帰される、いや送り出されるのを待った。 笑いながら、扉があくのを見つめて、そして歩き出した。 ニューエイジテクノロジー社、地上一階。 ……そこは人間の抜け殻で溢れかえる、停滞の景色だった。 玄関を目指しながら、ふとフロントの端末が目に入る。 モニターの画面に『Welcome to World Nurve!』の文字が表示されていた。 そしてしきりに、アナログなタイミングで警告音が鳴った。 ……きっと現実に戻ろうとしているのだろう。でも僕には、もう彼らを救うことはできない。 「……ごめん、なさい」 あちこちで警告音を鳴らす端末達に、一度だけそう呟くと。 僕は重い玄関をなんとかこじ開けて、外に出た。 ……初めて浴びる、太陽の光。 ……初めての気なんかしない、外の空気。 ……初めてであってはならない、懐かしい感覚。 僕は、確かに世界に邂逅した。 ……端末を付けたまま、パントマイムのように微動だにしない無数の人達。 ひしゃげて燃え上がり、真っ黒い煙を上げ続ける無数の車。 無数の人間の抜け殻に囲まれて、安全装置ゆえに何処にも逃げられなくなった自動清掃車。 どこかもわからない大都市は、 僕の目の前で、その存在意義を喪失していた。 「――」 急激な脱力感。 全身が鉛になったかのような、圧倒的な無力感。 しばらく都市を徘徊してみた後、 僕は誰も永遠に見なくなった映画館の前で、コンクリートの地面にぺたんと座り込んだ。 完全に理解したのだ。 この世界は終わったのだと。 僕は、また置き去りにされたのだと。 「……はは……あは、あはは……! あはははははははははははははははははははははははは! ははは、ははははは!うわっはっはっはっは! いひひひひ、ひゃあっははははははは!はははははははははは!」 ――僕は、大笑いした。 それはそうだろう。こんな喜劇があるものか。 僕はついこの間まで、冴えない独りの男の子だったのだ。 それがどうしたことか、夢から覚めて現実に来てみれば、 今度は現実そのものが入れ替わりに僕を置いて行ったのだ。 これで笑うなというほうが、きっとどうかしている。 「――はは……ああ――ああ―― ――っぐ、ぐすっ――ぐ、……うっ…… う――うわあああああああああああああ! あああああああああああああああ!わあああああああああああ! ああああああああああああああああああああああああああああ!」 ――そして、今度は泣いた。泣き叫んだ。 誰も「いなくなった」世界の片隅で、誰にも届かない泣き声を上げた。 もうダメだった。完全に、いろんなものがとめどなく溢れだしてしまった。 僕は死んでいて、AIで、ずっと独りで、そして今度も独りになってしまったのだ。 『――違う。今度は違うよ、セント』 ――不意に、耳に馴染んだ声が響いた。 僕は思わず泣くことも忘れて、周囲を振り返った。 ……けど、何もいない。動く人は、誰もいない。 幻聴に全身の力が抜けて、地面に倒れ込もうとした、その瞬間だった。 『――私はここにいるよ。ずっと、セントのすぐ側にいる』 ――確かに、聞こえた。 いやそもそも、あの声を聞き間違えることなんかあり得ない。 あの声が、あの子こそが、僕の唯一つの真実だから。 僕は必死に周囲を見回しながら、枯れた声で叫んだ。 「……どこ?アリス、どこにいるの!?」 『……セントからは見えないだろうけど、本当にすぐ側。ちょうど左隣』 僕はすぐに、左を見た。 そこには、やっぱりというか、端末を見つめたまま倒れこんだ無数の人々がいる。 それでも僕は、ふるふると震える肩に力をこめて、 何もないような空間に、確かめるように両手を伸ばした。 『そう。ちょうど、私の頬と髪を触ってる』 ……アリスの声に、僕は、ぼろぼろと更に涙が零れた。 確かに、アリスはここにいる。そんな喜びの涙と、 それでもアリスの姿は見えない。そんな絶望の涙が、混ぜこぜになって溢れ出てきた。 「アリス……アリス……!」 『――セントと一緒にピクニックに行ってる夢を、私も見てたの。 ……本当に、幸せな夢だった。 あの一週間の中のどんな夢よりも、幸せだった。 だから、一緒に行こう。私についてきてって、約束してくれたじゃない。 ――私がずっと側にいる。だから、どうか泣かないで』 ――アリスの言葉と裏腹に、僕は今度こそ泣き止まなかった。 それがどんな感情だったのかは、正直なところわからない。 ただ本当に、いろんなことがないまぜになって、泣くことしかできなかったのだ。 ――そう。 僕は、確かに約束した。 ただそれだけが、僕に残った唯一つの答えだった。 ◎◎◎ ――人間がいなくなった世界に、もう法律なんて機能しない。 僕はあちこちのスーパーから持ちだした、必要だと思ったものを、 同じように無断で持ち出してきた、大きめのリュックの中に詰め込んだ。 そして、確かに覚えた道のりを戻って、とある廃墟の前まで来た。 それは、この都市のはずれで見かけた奇妙な廃墟だった。 ちょっと古いようにすら思える、洋館といった感じの作りの建物で、全体的に白い。 あちこちの白黒のタイルはひび割れと欠けだらけながら、 そこそこ裕福な家族とかが住んでいたらしい形跡が、確かに残っていた。 僕は三日前、そこで『それ』を発見した。 あの女の言った『トクイテン』とかいう感覚のせいかは解らないけど、 『それ』は確かに、ここじゃない『どこか』へと繋がっているらしいことが、僕には何故か明確に解った。 それでも普通は、『それ』に近づこうとは思わないだろう。 ……そう、普通なら。 この世界は、もうどこも普通じゃない。 なんならこの僕だって、普通の人間じゃない。 何もかもがおかしくなったこの世界で、もう普通なんて何処にもない。 それに、しばらくこの世界にいて、やっと冷静に理解できてきたのだ。 もうこの世界に留まっていても、何も意味がないことを。 準備を整えた僕は、覚悟を決める意味もこめて、 改めて『それ』をまじまじと見つめた。 ――『それ』は、端的にいえば『穴』だった。 もう少し表現がないのかと自分でも思うけど、でもやっぱり『穴』としか表現しようがない。 まるで裂け目のような『穴』が、この廃墟の中庭に空いていたのだ。 『――本当に、いくの?』 「うん。もうこの世界は、本当に死んじゃったみたいだからね。それとも、怖い?」 『ううん、大丈夫。一緒なら、どんなところだって怖くない』 「ありがと。――僕もだ」 ――。 最後に、一度だけ、この世界を振り返る。 この洋館は立地の高い場所にあるせいで、遠くまで景色がよく見える。 それでも乱雑にビルの並ぶその向こうに、ほんの僅かに、水平線が見えた。 ここは、僕の知らない国だ。 あの向こうに、僕の故郷、僕が消えて久しい街と、家がある。 「――いってきます。ご飯とドーナツは、要らないから」 きっと、他のみんなと同じように。 もうとっくに動かなくなっただろうママとパパに向けて、僕は呟いた。 躊躇いなく『穴』に飛び込んだ僕の身体は、どこかへと流され、運ばれていった。 その流れの中で、僕はポケットからあの金属カプセルを取り出した。 ……そして、もう誰でもなくなった自分の代わりに。 そのカプセルを首元のスロットに嵌め込むと、そのまま中身を全部取り込んだ。 身体の基本設定の書き換えが、僅かに進むのが自分でも解った。 その感覚に安堵すると、僕はあとは流れのまま、光の濁流の先を見つめ続けた。 ――隣に確かに感じる、他の誰でもあり得ない、想い人の存在と一緒に。 ◎Hello, World! and Close the Dream...◎
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そして三度起こる、一対一の白と黒。 「もうネタ切れだが」 そういいながら、黒の蝶の後方に空間のひずみが発生する。ただし、微妙にその癖が違って見えた。 「悪い。ここからが本題だ、問答無用で付き合ってもらう」 現れるのは第六のティアーズ。ホロウ・スローン、だったもの。一度は俺とラズベリィが仕えた王の姿とは違う。 端的に言えば、はらわたに内から食い破られたような姿をしていた。 その体は長い長い旅を終えた老人の様に満足と疲労感を帯びていた。 それは、手を祈るようにしていた。 「おかえり。ヒドゥン・マインドボウ」ドロップ・ワールズマインがそれに話しかけた。 それに応えるように、あのティアーズが祈りをほどく。 手の中には何かが大事に抱かれていた。それを下へ。 優しく地面に置かれたのは、少女。王であった少女。口だけが声にならない声を吐き出していた。 「なあ、ヨワ。間違ったことをしたら負ける。間違ったことしたやつよりは多少なりとも正しいやつがとっちめてくれる、頼もしいことだ。 それをしてくれるのが俺にとっては最良の友の娘だったんだぜ。これ以上ない贅沢だよ」 黒の蝶だけが空のステージから降りた。地面につけた蝶から黒髪の男が出てきた。 そして、少女のそばに座った。 「その上さ、お前みたいなのが自分の業で苦しんでるのを見捨てず、悲しんで、あまつさえなにかしてやりたいって言ってくれる奴までいるんだ。 あの空間の中で、お前なんかをずっと探してくれてたんだぞ。その、お前が見捨てたティアーズはさ。 本当、お前みたいなのがそんな優しいやつに愛されちまうんだ。カヌレみたいないい奴には絶対永遠に生き続けるなんて耐えらんねえクソみたいな世界だよ。俺でよかった。 でもさ、やっぱ俺も、間違えきれちゃう奴だから、そんな世界でよかったって思えるんだ。 人が死ぬ悲しみすら背負えないお前を救ってやれる術が残ってるから。救ってやりたいって俺なんかが生きてられるから」 そこまで話し終えて、こちらの方を向いた。 「すまねえ、俺とそいつのわがままだったんだ。それに巻きこんじまったんだ、あんたらを。 でも、俺がわかって間違えに行く以上、俺の敵はカヌレの志を継いでくれる奴じゃなきゃいけなかったんだ。正しいやつじゃないといけなかったんだ」 「俺もラズベリィも、そんな立派じゃないですよ。ただ」 「ラズベリィっつうのか、あいつの娘。忘れちまってんな。はあ。そうか。いや、いい育ち方をしたんだな」 「……そうですね、素敵な女性です。俺にはもったいないくらい」 「お前もまぁいい男だと思うぞ。こいつよりは立派に男してる」そういって、ヨワ・アフォガードを指した。 「女の子じゃないですか」 「あ?あぁ、まぁいいや。それなら。なあ、なあ、頼みがあるんだ」 ――俺に最後の挨拶をして、その人は、黒い蝶に再び乗り込んだ。 黒い蝶が世界を割り、はらわたに食い破られたホロウ・スローンにいくつもの空間の境目を重ね、拘束した。 そして、いくつもの世界を横切って動きを封じられた王だったものは、一切の抵抗もせず、幸せの花嫁に真っ二つにされた。 はらわたの角も既に球体に戻った。 それを見届けて、ヨワ・アフォガードは、体中をバタバタとさせていた。声にならず、咽びながら、乾燥してヒビの入っていく体をバリバリとはがしていた。 固形の、血のようなものと皮膚の様なものがボロボロと落ちる。その痛みにまたのたうつ。 それを数十秒つづけた。あまりにおぞましく、あまりに不憫で、数十秒が数日にすら感じられた。 だがその数十秒を経ればもう、彼女はやはり、可憐でおとなしい少女に戻るのだった。 俺はあまり彼女のことを知らないけれど、きっと少しだけ独占欲とか依存心とかが強かっただけの普通の少女だったのだと思う。 その、本当の少女は、終わりを前に、笑顔で泣いていた。 それで、沈黙が辛くなってしまった。 「旦那様に、会えますよ」俺は、彼女のことをほとんど知らないけれど、それでも、きっとこれが最善の言葉だと思ったんだ。彼女は笑った。口元が砕ける。 「だんなさまに。うれしい。きっともう。それ、でも」途切れ途切れに、弱々しく。初めてその人の、本当の声を聞いた。 「大丈夫ですよ、きっと」 その言葉は、彼女の心にはまったくもって響かなかった。 旦那様という人のことも、彼女のことも、ほとんど知らない俺なんかの言葉は信じないという目で、しかしそれなのに笑顔で、彼女は息を引き取ったのだった。 彼女を看取るというドロップ・ワールズマインとの約束を果たした。 黒の蝶が消えたのを確認して、地に降り、コクピットから降りた俺の愛しい人が肩を叩いた。 「ラズベリィ。いいカフェを教えてもらったんだ。デート、しよう」
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「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ・・・」 ああ、なんて甘美な響きなんだ・・・・・・。 君もそう思うだろう? しかし悲しいかな、そうした夢や理想を儚くしている現実がある。 そんな運命を仕向けるのは神か悪魔か、いや・・・・・・もしや天使でさえも? 玄関で向かい合う一組の男女。 それは仕事に赴く朝において、ごく日常的な風景である。 だが彼らは少し事情が違っていた。 女はその瞳に涙を溜める。 男は言った「必ず帰る」と。 女は言った「約束だよ」と。 愛を誓った二人は、しばしの別れを経て再会した後で、新たな旅立ちをしようと約束する。 ひととき、口づけを交わし、男は姿を消した。 「疾風の蒼燕」とは、ジルバート・ヒューリケンが戦闘機乗り時代に呼ばれていた愛称である。 それは、普段の彼が義理堅く、物腰も柔らかであるのに対し、 ひとたび愛機に乗り込むと、狂気じみた強さを見せる点が評価され、また恐れられてそう名づけられた。 彼に対する狂気とは、凶暴な性格に豹変してしまうなどといった意味ではない。 恐れられていたのは異常なまでの集中力だった。 相手に固執し一切逃がすことなく撃墜していくその姿、戦いの最中には一切の仲間の通信をも受け取らない。 これでもかというくらいに無口な暗殺者となり、大きな戦果を上げて帰ってくるのだ。 そんな彼に転機が訪れたのは、アラクネそしてアームヘッドへと兵器が進化し、 戦力の体勢が陸戦重視に移り変わってからの事であった。 戦闘機による爆撃などは依然として戦車や建物への攻撃として有効ではあるものの、 アームヘッドに対しては全く土俵が異なる上、対空攻撃が出来るアームヘッドが登場した場合には全く歯が立たなくなる。 そこでリズ連邦軍はアームヘッドによる空戦を見越しその準備を始めた。 まず優秀な戦闘機パイロットから、アームコア適性を持つ者を抜き出し、その一部をアームヘッドパイロットに転向させるのだ。 ジルバートは偶然にも、強く適合するコアを当てられた為、晴れてアームヘッド乗りとなった。 そして、彼の異常な集中力は、本能的に行われるアームヘッドの操縦にさえ強い適性を見せたのだ。 「疾風の蒼燕」は再びエースパイロットとして、数々の戦果を上げていった。 その功績が称えられ、今では将来の跡継ぎを養成する教官となり、空戦という面でリズを支える存在となったのである。 空は透き通るような快晴。 ジルバート・ヒューリケン教官率いる教育部隊”ブルースワローゲール”は講習の最中であった。 桔梗色といった色合いのヴァンデミエールを先頭に、橙に蛍光色のマーキングを施された同じくヴァンデミエールが立ち並ぶ。 「これよりフライトシステムを用いた実習訓練を行う。 皆シミュレーション通り、”確実”を留意して挑んでくれ」 軍学校から来たパイロットたちが規則正しくアームヘッドに乗り込む。 ジルバートはそれを見届けると空を見上げた。 「本当に良い天気だな」 ヴァンデミエールの群れが、編隊を組んで空中で円を書く。 「上手だぞ。これで君たちも立派な戦闘機乗りだ」 ジルバートは冗談を交えつつも、巧みに自分の真似をさせる事で編隊を組ませている。 各機は非常に安定して飛行していた。 ように見えた、その時だった。 「あ、やばい!」 若いパイロットの焦る声、バランスを失ったヴァンデミエールが、回りながら高度を下げていく。 このまま落ちては戦闘機同様ただでは済まない。 パイロットはどうやって脱出するか思案しようとするが、それも焦りが強まって叶わない。 もはや打つ手なし、同級生たちがそう目を瞑った。 だが、学生パイロットの機体は墜落する前に空中でぴたりと静止した。 一体何が? 驚いたパイロットたちが、教官の機体を見る。 青紫のヴァンデミエールのホーンが光り輝いていた。 「君たち、調和能力を見るのは初めてだったかな」 しばしの休憩の後、教育部隊は再び実習を始めた。 「次はいよいよ戦闘機動の演習をするぞ。 なに、難しく考えるものじゃない。そうだ、全員がかりで私を捕まえてみろ」 アームホーン以外の武器がオミットされた、橙のヴァンデミエールが縦横無尽に飛び回る。 教官の機体が、追尾されないようにランダムな軌道を描いているからである。 これは戦闘機ではしづらい、アームヘッドのフライトユニットならではの小回りだった。 やがて次第に慣れてきた学生パイロットが、息の合った動きで教官を追い詰めはじめる。 あと少しで手が届く、そう思ったときに桔梗色のヴァンデミエールが消えた。 教官が急加速したのと、自分達がそれ以上進めぬように、動きを制限されているからであった。 「と、このようにしてアームヘッド戦闘は従来の兵器とは全く一線を画している。 調和による特殊な力に対しては、性能に頼った正攻法が通じない場合が多い。 異変を感じた時、能力を使われたと判断できる時には、相手の能力が何であるか知り、 またそれを無効化あるいは打ち砕く為の発想が必要になってくる。 これを習得することは非常に難しい、だが覚悟を決めておくだけでもかなり違ってくるぞ」 ジルバートはそう言って調和による制御を解く。 生徒たちは教官の能力が何なのか思案しつつも迫る。 捕まる寸前に蒼いヴァンデミエールは動きを止めた。 「ここまでだ」 一機の敵性反応・・・・・・。 しかしレーダーは七つのアームコアを検出している。 まさかアイツか?噂には聞いていたが・・・・・・。 幸い、敵とはまだお互いに目視できていない位置にいる。 かなりの高度を飛んでいるようで、目標は我々でないとも考えられる。 しかし・・・・・・我々をアームヘッド部隊と誤認して、上空から奇襲をかけるつもりなら? 生徒の機体にはアームホーン以外の武装はない、いやあったとしても戦えるはずがない。 このまま遭遇したら、学生が全滅することも当然考えられる。それは何としても避けなければ。 奴は高速で接近してきている・・・・・・今から、逃げ切れるのか? ジルバート教官は考えた後、生徒に至急、退却するように告げた。 「とにかく高度を下げろ。それからまっすぐに基地へ帰れ。止まるなよ」 青紫のアームヘッドが舞い上がった。 足元には逃げていく学生のヴァンデミエール。 レーダーを見る。 敵の反応は頭の遥か上、直線上にあった。 そして急降下してくる。 ちっ!焦って一度に逃げ出したからこちらの動きに気づいたか! ならば・・・・・・ここで食い止める! 「疾風の蒼燕」ヴァンデミエールが急上昇を見せる。 稲妻のごとく降下してくる敵機。 バーチカル! 垂直に交差する、青紫の燕と、紅白の翼! 弾きあって態勢を立て直し向かい合う。 やはりこいつか、帝国の新型、セイントメシア! 紅白のアームヘッドは、眼下の学生ヴァンデミエールをちらと見たのち、スタッフを構える。 対してジルバートは、愛機のニーブレードを展開、急加速してメシアを掠め、逃げるように空へと向かう。 セイントメシアも翼を日光で輝かせながらそれを追う。 疾風の蒼燕は予測されないよう複雑な軌道を描きながら空を駆け抜けた。 血染の羽毛は翻弄されることなくぴったりと後ろをつけていた。 その様子はまさしく、現代のドッグファイト! しばらくしてメシアの刃が届く。 対しヴァンデミエールはニーブレードを振るい弾いた。 メシアの連撃、いなす蒼いヴァンデミエール。 次には血に染まった翼が迫っていた。 ジルバートはヴァンデミエールの長い頭を振り回し、一撃必殺の毒牙を弾き回避した。 しかし空中接近戦における反動というものはつくづく危険である。 無抵抗の状態からどれだけ早く立て直せるかが勝敗を握っているのだ。 その点では、血染の羽毛より疾風の蒼燕のほうが僅かながら抜き出ていた。 ヴァンデミエールの二振りのブレード、そしてアームホーンによる連撃が繰り出される。 セイントメシアは不安定な姿勢のまま、体を更に回転させる事でそれを弾き返した。 逆に反動を受けるヴァンデミエール、ブラッディフェザーは止めを刺すため追撃にかかる。 だがその時、セイントメシアの前進が止められた。 その隙に蒼燕のホーンが叩きつけられる、だがメシアも同じくホーンで返すことで避けた。 再び生じる反動、後退していくヴァンデミエールに対し、メシアはそこから動かなかった。 セイントメシアは自分の動きが左右に限定されている事に気づく。 一方ジルバートの機体はそれを尻目に、反動を利用したまま加速し撤退を始めた。 こいつは今の状況で、一人で戦える相手じゃない。 疾風の蒼燕は無謀だと判断した戦いを続ける事はしない性質だ。 桔梗色のアームヘッドは急激に高度を落とし、帰路につこうとする。 そこで異変に気づいた。 後方にまだ友軍反応が残っている。逃げ遅れの学生がいるのだ。 まだ間に合うか?ジルバートは向かった。 そこには横転している蛍光色のヴァンデミエールの姿が。 「大丈夫か?」 教官が急いでその機体を起こす。 学生は礼を言いながら素早く元のコースに戻る。 セイントメシアは、姿を消したのち高度を下げて戻ってきた敵機について、 撤退に見せかけて下方から奇襲を仕掛けるつもりだろうと、判断した。 ブラッディフェザーは刃を突き立てて垂直に降下する。 その目下には学生のヴァンデミエールが! そこで再び動きを止められた。 目の前に躍り出る「疾風の蒼燕」のヴァンデミエール。 しかしセイントメシアは左右に動けることを確認するなり、移動しつつもレーザーを放った。 ジルバートは、調和で足止めしたまま逃げることも不可能だと判断した。 そして次にメシアの左右前後移動が封じられた。 上下に移動するメシアの周りを旋回、蒼燕が切りかかる。 斬られた血染の羽毛であったが、急激に上昇して避けようとした。 するとがくんと上への移動が止められる。 当然だが斜め方向への複合的な移動さえも封じられている。 セイントメシアは次に自分が移動できる方向はどこか考えた。 敵の調和は少なからず、自分を近づけぬ為に方向を切り替えていることが分かる。 疾風の蒼燕は、調和を用いてどうやってこの敵から退避または撃破するか考えた。 ジルバートの調和は、標的の移動方向をある時点を基準にした縦・横・奥行きの3軸に捉え、 その内の2軸の方向への移動を封印する能力である。 つまり標的は少なくとも垂直または水平移動しか出来なくなる。 制限方向はジルバートが自由に切り替えられるので、敵を近づけないように動きを操ることが出来るのである。 蒼いヴァンデミエールは、メシアの制限移動の死角にあたる斜め方向からの斬撃を仕掛ける。 傷を負ったセイントメシアは武器を振り返す、ジルバートは一気に上昇をかけてかわす。 上移動が許されたメシアはそれを容赦なく追った。 ジルバートは学生の機体から離れた事を確認した。 ブラッディフェザーの上昇が無理矢理止められる。 その瞬間に背後からニーブレードが襲った。 間一髪、翼を用いて弾くセイントメシア。 メシアはそのまま右手に移動する。 素早く縦と横が制限された。 そこへヴァンデミエールの斜め斬りがコクピット表面を掠めた。 メシアは奥りへの移動でダメージを免れる。 直角移動に制限されているセイントメシアに対し、死角からの一撃離脱を繰り返す疾風の蒼燕。 メシアがレーザーで狙い撃つ、しかしその角度にも限界があった。 制限の下では機動力も本来の性能が発揮できず、ヴァンデミエールの方が速い有様だ。 無論それはジルバートの実力からもたらされる事実であった。 その時、セイントメシアが許された方向へ高速で移動した。 対し蒼燕もその方向を制限、メシアはその瞬間に行ける方向へと高速移動。 再びジルバートが調和で食い止める。同時にメシアのスピードは別方向へ向けられた。 こうしていれば調和の射程範囲から出る事は不可能ではないはずだった。 「疾風の蒼燕」は、かつて恐れられた異常な集中状態を取り戻していた。 メシアの逃げる方向を高速で予測し、食い気味に調和で方向を切り替える。 自機での追尾も忘れず、敵が隙を見せた時にはすれ違いざまに小攻撃を加える。 そうセイントメシアは袋の鼠となったのだ! 村井幸太郎はあくまで冷静だった。 自分は敵の調和によって押さえ込まれている。 だが、空間支配系調和による拘束を長時間持続できるのか?おそらく厳しいはずだ。 更にヴァンデミエールは射撃武器を持たない。 よって例え死角から攻めてくるといっても、必ずこちらに接近戦を仕掛けてくるのだ。 そしてセイントメシアは全身に可動アームホーンの毒牙を備える。当てることは決して難しくない。 そうヴァンデミエールは袋の鼠となったのだ。 空中で不自由を強いられるメシアと、その周りをジグザグと飛び回る蒼燕。 背後から接近するニーブレード、対し血染めのホーンが向けられた。 当たる前にジルバートがそれを避け、頭部のホーンを当てんとする。 メシアは平行移動でかわした。その移動も阻害されブレードが突き立った。 血染の羽毛は怯まない。あくまでもアームキルを狙った。 高機動でかわす疾風の蒼燕、突進するメシアが毒牙で裂いたが表面的な傷だ。 追撃するメシアの動きが止まる。加速したジルバートは敵の周囲を高速で巡った。 そうジルバートは調和による方向の切り替えを超高速で行う事によって、メシアの移動を完全に封じていた。 ヴァンデミエールはブレードとホーンを突き立てて、敵機の外周をまわりながら、恐るべき動体視力で関節部を狙う! 逃げられぬままに全身の関節を貫かれては、ブラッディフェザーとてひとたまりもない! その時、セイントメシアの瞳が輝きを放った。 調和、マタ・カノイズの発動だ。 メシアは赤い残像を残しながら空を駆け巡り、制限された移動の幅を広げていく。 それはかつて岩石のトーアが使用した、高速移動のカノイ「カカマ」の力だ! 疾風の蒼燕は、その超スピードを高速で制限し押さえ込もうと集中を強める。 もはやお互いに調和を酷使したゴリ押し勝負であった。 突如セイントメシアが手足を広げる。飛行形態へと簡易変形した。 カカマによる加速に更に拍車がかかり、もはやジルバートの制限方向の切り替え速度を超えていた。 蒼燕は超高速で移動する相手を把握しようと必死だ。だがこれ以上は人間の認識を超えたレベルのものである。 音速以上のものを正確に認識しろなどと!? 一方セイントメシアは速度が上がるにつれ、状況の把握をそれに適応させていた。 それは異常な集中力がなければ成しえない事、疾風の蒼燕のように。 いまや立場は逆転していた。メシアの高速移動に合わせてジルバートが方向を切り替えることを強いられている。 制御を解いた時・・・・・・ブラッディフェザーは一直線にすれ違い一瞬で勝負を着けるだろう。 ならばその前に、こちらから仕掛ける! 蒼いヴァンデミエールが急加速して迫る。 セイントメシアは音速のごとく定められた方向を縦横無尽に飛びまわる。 ジルバートは超高速制限を再び始めた。 集中しろ!もっと集中を!集中! メシアの移動の振れ幅が縮小していく! 救世主の背後、一直線に迫ったヴァンデミエールはホーンを突き刺した! だが同時、背を向けていたはずのセイントメシアは変形を解いており、 その血に染まった翼で、正確に疾風の蒼燕のフライトユニットを斬り飛ばしていた。 まさか!私は集中しすぎていたというのか? そしてジルバートの集中は途切れた。 高速で落下する疾風の蒼燕のヴァンデミエール。 巨大な地上が迫ってくる。 レーダーを見やる。 制限を解かれたセイントメシアは、上空から垂直にこちらへと降ってきていた。 スタッフの刃を向けながら! ”確実”だな、セイントメシア。 ジルバートは、これ以上調和で抵抗をしても逃げられはしないと思った。 ああ私はこのまま死ぬのだ。 頭をよぎるのはこれまで自分が撃墜してきた数々の敵の姿。 戦闘では極度の集中状態で、感情を一切伴わずに、惨たらしく敵を殺してきた。 この結末は因果応報なのだ・・・・・・。 しかし集中が途切れ感情を持った今、そんな風に達観して事実を受け止めることなど出来ない。 死ぬのは嫌だ。 「カトリーナ!!」 唯一の思い残しである恋人の名を叫ぶ。 彼は戦いの中で初めて言葉を発したのであった。 そして自分の仕留めてきた敵、いや人間たちの心境を知った。 お前も同じ道を辿るのか・・・・・・セイントメシア! 「疾風の蒼燕」のヴァンデミエールは、上空から来たメシアの刃に背から胴の中心を貫かれ、血しぶきを上げた。 セイントメシアは地面に接触する直前、スタッフを引き抜き、一気に上昇。 そのまま変形し、本来の任務へと赴いて行った―。 地上には、血に染まった桔梗色の残骸が散らばっていた。 カトリーナは、婚約者の訃報を受け、愕然としていた。 そして泣き続け、泣き腫らしたあと、次には怒りと狂気が襲った。 カトリーナは、鋏を片手に、金切り声を上げながら、幾度も枕を突き刺した。 いつしかそれは、彼女の手も掠め、血を流させた。 ばらばらに引き裂かれた、枕と彼女の心。 部屋には、血に染まった羽毛が舞い散っていた。 結婚は、少なくとも二人を幸せにするだろう。 だが、戦争は、誰を幸せにするだろうか? 悲しいかな、それに答えられなくとも、人間はその過ちを繰り返さずにいられないんだな。 ・・・・・・さて、次の話にいこうか? 次はだね・・・・・・。 名前 コメント 戻
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清々しく、新鮮な気持ちでその日を迎えた。 ああ、あの子の久しぶりの完全な休日。 本当に、新鮮で、初々しい朝を迎えようとしていた。そんな七年目。 早朝、自分の鏡台でアクセサリーに悩む私は今日もかわいかった。 流体金属型アームヘッドを並べて悩む。ふたつは指輪。あと三つ。 ホットドッグを食べに行くだけ、でもかわいい私は常に全力でないと、なんて思った。 けれどすぐに考えるのが面倒になって、イヤリングと舌のピアスにした。 それからベッドのほうを見て、一糸まとわぬ姿で寝るメリーをべしべしとたたき起こそうかと思った。 思ったけれど、やめた。なんだか、それはいけない気がして。 けれど穏やかに起こして起きる子でもないので、鼻をつまんで口をふさいだ。鼻をつまんでキスをした。 するとうーんという声を出すものだから、起きたかな、と目を開こうとすると、この子は首に腕を回して舌をにゅるりと入れてきた。 「お姉さまったら」とろけるような目でこちらを見ていた。私は目を逸らした。 「なによ」 「支度しますね!」 「ええ」 「お姉さまかわいい。お姉さまはカリカリしたものが好きだから、今日はたくあんドッグを食べたいんでしょ」 「ええ、そうね」 「お姉さまのことは全部わかります」 多分私は切ない顔をした。 全部、そう、全部。全部わかってくれていたのなら。分かってくれていたのなら。だけど――。 「ええ、そうね。もう行けるの」 「あ、支度しますね。待っててください」 彼女はそういって、顔を洗いにぱたぱたと跳ねるように洗面所に行った。 不自然なほどに新鮮な七年目だった。 「ねえ、やっぱりごめん。買ってきてもらえないかしら。家で食べたい」
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ジョホォの珍妙な暴犬 第三部 カードダスと・レインディアーズ 空条「・・・・・・手袋が浮いている」 ブレ様「お い」 空条「どうやらオレは悪霊にとりつかれちまったみてーだ・・・」 ブレ様( アイリーン「彼方ー?いるんでしょー?」 空条「やかましい!うっおとしいぞこのアマッ!!」 アイリーン「あん?」 空条「サーセン」 アイリーン「いったいどうしたの最近荒れてるわよ?」 空条「前々から目の調子がおかしいと思ってはいたが・・・ いよいよ妙な手袋が見えてくるようになっちまったぜ・・・」 ブレ様「それはオレだぜ」 アイリーン「そりゃ気の毒ね」 ブレ様( ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ アイリーン(……私はその悪霊の正体を知っている…… だが口で説明するより自身が体験すれば理解できるじゃろーて) アイリーン「ステトゥル・・・君の出番だ」 ステトゥル「アイリーンさん・・・少々手荒になりますがよろしいですか」 アイリーン「かまわんよ」 ステトゥル「私の悪霊の名は……『魔術師の儲』”マジシャンズ・ガッポ”!!」 空条「う・・・うぐぐ、金、金だ!オレの金が巻き上げられる! い、いったい悪霊とは?」 アイリーン「ついに姿を現すか・・・空条の『幽波絞』”スタンド”!」 ブレ様「あのう、ぼく、さっきからいるんですけどお」 空条「だから手袋しか見えないって」 ブレ様( ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド 空条「オレのスタンドは『犬の手袋』”カマーブレジナ”!」 ブレ様「えっ」 アイリーン「わしとステトゥルは悪霊の元凶の行方を追っておる!」 ステトゥル「そいつは好色の化身、名はTEO!! そいつは9時間の昼寝から目覚めた男、 我々はその男と戦わなければいけない宿命にあるッ!!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 空条「ここが・・・TEOの館・・・」 ブレ様「一階に降りただけだぜ」 TEO「よくぞ来たなアイリーンの差し金よ。 だが私のお昼寝休憩時間を支配(ワールド・ルーラー)できる者など存在しない・・・・・・ 『スクラップウォッチ』!時よ止まれッ!!」 アイリーン「時間を止めてお昼寝の体感時間を長くしているだと・・・・・・なんてスタンドじゃ!」 テルナレフ「何を言っているか(ry マキータ「このドーナッ畜生がッ!」 ステ(ガオン!)トゥル「」 テルナレフ「イギィィィィーッ!!」 ブ(ガオン!)レ(ガオン!)様「オレかよwww」 テルナレフ「ありのまま(ry TEO「低反発まーくらーだッ!!」 空条「おれが施設内の時計を止めた・・・お昼休みの時点でな・・・ そしてお昼寝できた・・・やれやれだぜ・・・」 TEO「このTEOにあるのはたったひとつ! 『飯食って昼寝する』!それだけが満足感よ! 任務や・・・・・・!辞令など・・・・・・!どうでもよいのだァーッ!」 空条「テラテラテラテラテラテラテラテラ」 TEO「ムニムニムニムニムニムニムニムニ」 空条「テラァッ!!」 TEO「ば、ばかな・・・このTEOがァーーッ!?」zzzzz 空条「てめーの敗因は・・・たったひとつだぜ・・・TEO・・・ 『てめーは おれを起こさせた』」zzzzz アイリーン「ニ京院! 犬! ステトゥル! テルナレフ! 終わったよ・・・・・・」zzzzz ユッキー「お前ら仕事しろ」
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◎The Fifth Day Wonder◎ 「か、開発研究所……?ここが?」 セリアさんの話を聞きながら、僕はココアを啜った。 僕が手をつけない意図を察したのか、セリアさんは納得したような表情をすると、 入ったカップを自分で手に取り、一口飲んで見せてくれたのだ。 僕が失礼を詫びると、セリアさんは気にしないで、と言った。 「ええ。ワールド・ナーブというネットワークシステムを耳にしたことはありませんか?」 僕は思考が混乱した。 ここが何かの研究所で、僕は気付いたら寝ていて、ここでワールド・ナーブ? 僕が怪訝な表情をしていると、セリアさんがすぐに回答をくれた。 「あれを開発したのが、私達なのです」 「えっ……じゃあ、ここは……」 「はい。ナーブシステムを提供させて頂いている、ニューエイジテクノロジー社の総合研究所です」 「じゃ、じゃあ、セリアさんはその研究所の、所長……」 「……ええ、恥ずかしながら。力不足なのは承知していますが、それでも全身全霊を以って務めさせて頂いています」 「あの……そんな大企業のそんな立場の人が、僕に一体何の……」 「そんなに謙遜しないでください。私たちはあくまで勝手に貴方をお招きしたのです。不躾極まる方法を取らせて頂いたのも、勝手ながら理由があります」 僕はそこで、目覚める前の記憶を思い出した。 ――アリスさんは。 「あの、すいません、アリスさんは……?」 「ええ、貴方とは別室でお休みになっています。そろそろ目覚める頃合いかもしれません」 僕の問に、セリアさんの表情は特に変わらないのを確認して、僕は少し安堵した。 「元々、アリスさんはこの研究所の人間でしたから」 「――えっ?」 僕の思考は、そこで完全にフリーズした。何が何だか解らない。 アリスさんは、僕がワールド・ナーブで出会って、そしてリアルミーティングをしただけの女の子の筈だ。 何がどうして、ニューエイジテクノロジーの研究所の人だというのか。 「……人間、習うより慣れろと言いますし、少し外に出ましょうか」 セリアさんが立ち上がり、手を差し伸べてくる。 僕は他にどうすることもできないまま、導かれるようにセリアさんの手を握って、立ち上がった。 ……この期に及んで、情けない。足元がふらついて、転びかけて、セリアさんに受け止めてもらった。 「最初に、私達がどうして貴方をお連れしたのかを話さなければなりませんね。 それにはまず、ワールド・ナーブがそもそも“どういったものなのか”を理解して頂かなければなりません」 セリアさんはそう言うと、僕の手を引いて、静かに部屋のドアを開けた。 そこに広がっていたのは……複雑な機械が壁面を構成する、薄暗い廊下。 「世界中の誰とでも繋がることのできるコミュニケーションシステム。 世界中のありとあらゆる情報を閲覧できるインフォメーションシステム。 世間ではそのように運用されていますし、貴方もきっとそのような認識でしょう。 ――お見せいたします。ワールド・ナーブの、本当の姿を」 セリアさんはそう言うと、僕の手を離し、左手首に付けていた小さな腕時計のようなものを操作した。 そして僕の左手首をそっと手に取ると、いつの間にか付けられていた、やはり同じような腕時計を、同じように操作した。 「――“Ready to Dive. Section 07 City Area.”」 セリアさんの呟きと同時に、二人の腕時計からピピピピピ、と小気味良い電子音が鳴り出す。 僕が見ている前で、セリアさんは腕時計を口元にまで持って行き、目を瞑った。 「――“Hello, World Nerve.”」 セリアさんの、ネイティブ特有の繋がった発音が空間に広がった直後。 僕の視界は暗転し……混乱する間もなく、またすぐに戻った。 ただし、そこに広がっていたのは――。 「――。」 多くの人でごった返している、ネオンが輝く夜の大都市。 まるで映画でしか見たことのないような、やたら耳に障るクラクションの鳴る車の奔流。 あちこちでポップコーンを零しながら食べ歩きする人々が犇めく、良くも悪くも夢のような、光の渦。 「夢、というのも間違いではありませんし、その逆もまた然りです」 セリアさんの声に我に帰る。それでも呆然としたまま、僕は隣に立つ彼女の顔を見上げた。 そこには、まるで我が子を旅行にでも連れてきたかのような、どこか嬉しそうな微笑みが浮かんでいた。 「――ようこそ、“ワールド・ナーブ”へ。とりあえず、ポップコーンでもいかがですか?」 ◎High Fever◎