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マクロスなのは 第3話『設立、機動六課』←この前の話 『マクロスなのは』第4話「模擬戦」 設立から1ヶ月。 スターズ分隊の3(スバル)、4(ティアナ)。そしてライトニング分隊の3(エリオ)、4(キャロ)。この4人の新人達、通称『フォワード4人組』に対する訓練は熾烈を極めていた。設立式の次の日から始まった訓練は、朝から日の暮れるまで続いた。 簡易ストレージデバイス(別名「手作りデバイス」)であったスバルとティアナのデバイスは、過酷な訓練によって3日でおシャカになってしまってしまい、ヴィータを初めとする教官達に 「そんなデバイスで戦場を生き残れると思っているのか!」 ときつくなじられた。 しかしそれは教官達には「装備は常に万全でなければならない」ということを体に教えるための予定だったようだ。なぜなら宿舎にトボトボ帰ってきた4人を出迎えたのはシャーリーと、新しいデバイスだったからだ。 ティアナには拳銃型のインテリジェントデバイスである『クロスミラージュ』。 スバルには、ローラースケート型のアームドデバイス(ミッドチルダ式に多い杖のようなものではなく、剣やハンマーなどその名の通り武器の延長のようなベルカ式のデバイス。ベルカ式カートリッジシステムがほとんどの場合で搭載される)『マッハキャリバー』。 ちなみに右腕の籠手(こて)型ストレージデバイス「リボルバーナックル」は、彼女の母の形見で、十分実戦に耐えるため共用となった。 一方フェイトの与えたデバイスを使っていたエリオとキャロも、それぞれ槍型のアームドデバイス『ストラーダ』と、グローブ型のインテリジェントデバイス『ケリュケイオン』をアップデートして継続使用することになった。 そしてそれらのデバイスには新機軸としてPPBS(ピン・ポイント・バリア・システム)が装備されたことは言うまでもない。 次の日の訓練は、ガジェットⅠ型のホログラムを相手に行われた。 スバルとエリオは近接戦闘を。ティアナは指揮と援護射撃を。キャロは3人の魔法の出力を上げるブーストの訓練だ。 しかし、教官側に誤算があった。 PPBSの存在である。 本来この訓練は、AMFを展開する敵機の恐ろしさを体感する目的で行われた。 魔力素を空中で結合して実体化させる物理的なシールドである魔力障壁は、AMFの影響を諸(もろ)に受けてしまう。しかしPPBSは、術者体内のリンカーコアで魔力素を結合して魔力エネルギーに変換、そのままデバイスに流し込んでさらにバリア用に時空エネルギーへ再変換する。そうした過程をたどるため、空気中での魔力素の結合に頼らないエネルギーシールドであるPPBSの効果は並のAMF中では全く揺らがない。 また、ベルカ式カートリッジ1発で数度の展開に耐えられ、強度も通常時展開の魔力障壁に匹敵するため、防御力も抜群であった。 特にスバルは打撃系のため、PPBパンチというおまけ以上の攻撃力を与えた。 なのは達が気づいた時には4人は完全にPPBSを使いこなし、ガジェット相手に無双を演じていた。残念ながらすぐさま禁止令が出て、本来の地獄を味わうことになったが・・・・・・ その後PPBSの存在の重要性は格段に上がり、遂には六課の実戦部隊全てのデバイスに標準装備されることになってしまった。 また、どんどんOTM(オーバー・テクノロジー・オブ・マクロス。主に初代マクロスから入手した技術)や、OT(オーバー・テクノロジー。人類がプロトカルチャーの遺跡やゼントラーディの艦などを研究して開発した後発的な技術)を解析してしまうシャーリーは、その後も慣性を抑制するOT『イナーシャ・ベクトルキャンセラー』など次々開発、採用していった。 つい1週間前には近接戦闘の多いスバルやエリオ。そして出力が大きい隊長や副隊長のデバイスのフレームに、VF-25でも使われる『アドバンスド・エネルギー転換装甲(ASWAG)』が採用されていた。 六課に少しずつオーバーテクノロジー系列の技術が採用されていく中、アルトとランカはそれら技術の漏洩については沈黙を守った。 アルトはこの1ヶ月、4人と一緒に訓練などをして過ごしていた。そのためEXギアを模したインテリジェントデバイス『メサイア』の扱いにも慣れ、なのはに習った魔力誘導弾『アクセル・シューター』を改良した『ハイマニューバ誘導弾』(バルキリーのミサイル同様、打ちっぱなし式。誘導はメサイアが担当。誘導中メサイアの処理容量の大半を持っていかれるが、デバイスとしての付与機能が封印されるのみであり、EXギアとしての機能に支障はない。)、そしてリニアライフルを自在に使いこなし、生身でも並みの空戦魔導士を優に越える技能を手に入れていた。 またランカも、隊長、新人問わずSAMF(スーパー・アンチ・マギリンク・フィールド。効果範囲内の全ての場所で魔力素の結合を、空気中では完全に、リンカーコア内でも99%不能にさせるAMF)下の訓練へ協力や広報で働き、金食い虫であったVF-25の改修をして余る程の資金を獲得するなどそれなりに成果を納めていた。そして――――― (*) 「みんな。今日の午前は、模擬戦を行います」 早朝のウォーミングアップと軽い基礎演習が終わった4人に、なのはは本日の訓練内容を告げた。フォワード4人組はいままでずっと基本練習だったため、自らの腕がうずくのを感じた。が、それは次の言葉で脆くも打ち砕かれた。 「相手は私とフェイト隊長、そしてアルト君の〝バルキリー〟で~す」 瞬間4人から笑みが消え、可哀想なほど全員の顔が青ざめる。 しかし隊長陣は不敵な笑みを浮かべていた。どうやらマジらしい。 バルキリーは前日改修が終了し、テストとしてヴィータ副隊長との模擬戦が行われていた。結果はバルキリーに軍配が上がっている。つまり、バルキリーはヴィータ副隊長より強い敵なのだ。 「私達の内、誰か1人に一撃を与えればあなた達の勝ち」 微笑を浮かべながら言うなのは。しかし4人には今、それは死神の笑顔だ。 だがアルトには事前に話されていなかったようだ。なのはに反論する。 「おい、なのは。さすがにそれは厳し過ぎるんじゃないか?」 「うん? じゃあ、アルト君1人でやる?」 「え!?」 「あぁ、やっぱり負けるのが怖いんだ?」 「怖かないさ!条件はなんだ!?」 「バルキリーの出力の8割カットと、MHMM(マイクロ・ハイ・マニューバ・ミサイル)の使用禁止。」 なのははさらっと言ったが、それはバルキリーの可変機構が使えず、PPBSもエネルギー転換装甲すら起動できない。かろうじてバトロイド形態で通常の戦闘機動をするのがやっとというレベルだろう。 ちなみにここで言うMHMMとは、純正のMHMMの改良型だ。これは特殊化学燃料ロケットモーターではなく、新開発した魔力推進ロケットモーターを装備している。 また、爆薬やMDE弾頭の代わりにベルカ式カートリッジシステムの大容量カートリッジ弾(直径15mm全長45mm。大出力を要するなのはなどが使用する)が8発封入されており、それを強制撃発させた魔力爆発となっている。さらに噴射ノズルに通常、魔力砲撃を行う時展開される偏向・集束バインド(環状魔法陣)を掛け、それをまた推力偏向ノズルとするので、機動性能も純正以上の優れ物だ。 このミサイルは現在六課の隊舎に整備される自動迎撃システムの一端を担うことになっている。また、六課隊舎を守るシールドを展開するために本格的な大型反応炉の敷設が計画されている。これが実現したとき、六課は完璧な要塞となるだろう。 ちなみに六課解体後は、時空管理局本部ビルから地上部隊司令部が独立して六課隊舎に移転することが予定されており、上層部もこの要塞化に乗り気だったようだ。 ここで話は戻るが、この魔力推進のマイクロミサイルは、はやての要請でミサイルランチャーと共に潤沢な予算を注ぎ込んで急遽開発、生産されたもので未だ先行試作量産型。配備数がまだ少ない。だから実戦用に取っておくつもりなのだろう。 どうやらなのははフォアード4人組と同時に、アルト自身の実力をも計るつもりのようだった。 「面白い・・・・・・その条件乗った!」 アルトは言い放つと、バルキリーの待つ格納庫へ飛翔していった。 これまでの話を見ていたティアナは内心歓喜していた。 (あんな大きな的にどうやって外すのよ) 大きくてのろくさい質量兵器1機の撃墜。それは容易いことに思えた。しかし、それが間違っている事が分かるのはすぐのことだった。 (*) 訓練場 そこは海上を埋め立てて作られた台地にあり、普段はまっさらな300メートル×300メートルの見た目コンクリート打ち付けの島だ。しかし、そこはホログラムによって市街地から森まで自由に再現できる訓練所だった。 ホログラムとは光子によって物質を擬似的に構成させるもので、設定の変更によってそれを触ったりできるようになる。 これはアルト達の世界(管理局では『第25未確認世界』と呼称されている)ではOTMによって初めて触ることが成し遂げられたが、この世界では独自で開発していた。これはミッドチルダの技術力が魔法だけでなく科学でも進んでいる事を示していた。 すでになのはのレイジングハートからデータを受け取ったコンクリート島は市街地となっている。なのはによると、そこは比較的開けた市街地で、撃墜されたら逃げ込む避難所以外は破壊可能な設定らしかった。 すでにアルトの操るバルキリーは、4人とは建物を挟んだところで準備はOKだと言う。 「みんな、相手はアルト先輩とはいえ、とろい大きな的よ。相手がこっちに来たら、まずわたしが先制の砲撃をかける。そしたらスバルとエリオは挟み撃ちで一気に白兵戦に持ち込んで。キャロは、私のところで全体の魔力ブーストをお願い」 「「了解!」」 3人の声が唱和した。 現在ティアナ達は公園のようなところに陣取っていて、ずいぶん開けており、彼女らの作戦のフィールドには最適だった。 「はーい、それではこれより模擬戦を開始します。アルト君の勝利条件は制限時間の10分が経つか、4人の撃破。フォワードの4人の勝利条件は指定した的5個の全撃破とします」 今回VF-25には胴体、両腕、両足にそれぞれ1個ずつ直径1メートルぐらいの的がついている。それらすべてにティアナなら魔力弾を。スバル、エリオなら直接攻撃を。キャロならば持ち竜『フリードリヒ』のファイヤーボールを当てることが撃破条件であった。 「・・・・・・それではよーい、始め!」 開始と同時に4人が動く。スバルとエリオは左右に、自分とキャロは後方の一軒家に。 典型的な待ち伏せ陣形だが、アルトに・・・・・・いや、ヒトに対して使うのは初めてだ。 果たしてアルトは来た。 丁度ティアナ達がいる一軒家とは公園を挟んで対面となるため遮蔽物がなく狙いやすい。 現在クロスミラージュからは赤外線など各種センサーを騙すためにジャミングが行われている。本来ならば全域にバルキリーの高性能な電子機器を騙すほどのジャミングなど無理な相談だが、キャロの魔力ブーストがそれを可能にしていた。 『(みんな、準備はいい?)』 全体に念話で呼び掛ける。 『(いつでも)』 右側のアルトから死角になった建物からスバルの声。 『(どこでも)』 今度は左側のこちらも死角になった草むらからエリオの声。 「どこへでも」 すぐ後ろからキャロの声。そして目の前には砲撃用の魔法陣。 「『(いくわよ!)』ファントム・・・・・・ブレイザー!」 放たれるオレンジ色をした砲撃。必中の思いを込めたそれは的のあるバルキリーの胴体にに吸い・・・・・・込まれなかった。 当たる直前にバルキリーが射軸から消えたのだ。よくみると、バルキリーは前のめりになっている。 (転倒?) 彼女はそれを見てそう思った。確かにその挙動から転倒にも思えるが、実は違う。 バトロイド形態のバルキリーは、ただ立っているだけで大きな位置エネルギーを持っている。そのためティアナの砲撃を普通の機動では避けられない。と判断したアルトは重力の加速を使ったのだ。 バルキリーはそのまま前転を繰り返し、前、つまりティアナ達のいる一軒家に急速に近づいていった。 最初の挙動を転倒と捉えたティアナ達の対応は遅れに遅れる。 気づくとそれは目の前にいた。 壁が破壊され、巨大な頭が現れる。そして顔に着いた緑のバイザーがこちらを向き、2対の頭部対空レーザー砲がこちらに向け───── とっさにキャロを巻き込んで左に跳ぶ。 すると、先ほどまで自分達の居た場所をレーザーが赤く染めた。 即座に次なる回避場所を探すが、残念ながら部屋に隠れられる場所はなかった。 (万事休す・・・・・・!) しかしバルキリーは次の攻撃をせず、横っ飛びに退避する。 「え?」 キャロがその行動に疑問の声を上げる。直後に聞こえる相棒の突撃する叫び声。どうやら足の速いスバルが間に合ったようだ。だがそれはすぐに悲鳴に変わった。 「わぁーーー!ティア援護ぉ~!!」 キャロと共にすぐに一軒家から出てスバルを探す。すると彼女はウイングロードを展開してバルキリーから必死に離脱をかけていた。後ろには魔力誘導弾(そのくせ青白い尾を引いている)が、親についていく子供のように大量についている。 どうやら誘導性を優先したため弾速の遅いその玉は、必死に離脱するスバルを嘲笑うようにつきまとう。 「キャロ、エリオとこの戦線の維持をお願い。私はスバルの援護に行くから!」 「はい!」 ティアナはスバルの援護に走った。しかし、それがアルトの狡猾な罠とは見抜けなかった。 (*) 3区画離れた場所(最初の場所から500メートル以上走った事になるが、訓練場から足を踏み外す事はない。理由は後述する)でスバルを捕まえ、迎撃を始める。 「遅い遅い・・・・・」 20秒ぐらいだろうか、その全てを簡単に叩き落とした。 礼を言う相棒を尻目に、エリオ達と合流するために念話を送る。しかし耳障りなノイズ音しかしなかった。 (しまった、ジャミングか!) つい最近まで念話を阻むものがなかったことが仇となる。 VF-25に装備されていたそれは、元々バジュラ達のフォールド通信を妨害するためのものだったが、フォールド波の応用である念話にも使う事ができた。 3区画離れた場所にバルキリーが現れた。それと同時に雑音が消える。 『(すみません・・・・・・)』 エリオの申し訳なさそうな声。そして報告を続ける。 ティアナとスバルの戦線離脱直後 「僕がアルト先輩の動きを封じるから、キャロはフリードで隙のある時に攻撃して!」 「うん!」 キャロが返事をするのを確認すると、自身は迷いなく突入する。なんてことはない。これまで彼女と重ねた訓練が信頼と、魔力ブースト以外の強力な力を与えていた。 彼はフェイト直伝の高速移動魔法とOT『イナーシャ・ベクトル・キャンセラー』の慣性制御を使って、まさにイナズマのような強烈な戦闘機動でハイマニューバ誘導弾の雨の中を突破。バルキリーへと肉薄する。 「ハァ!!」 踏み込みによって最終加速されたエリオはストラーダを突き出してバルキリーへ。しかしその渾身の一撃は紙一重で回避された。 「フリード!」 そこにキャロの命令が放たれる。バルキリーの死角で待機していたフリードリヒは鳴き声とともに火球を放つ。それは見事バルキリーの右肩に付けられていた的に着弾。真っ赤なペイントがそこを装飾した。 攻撃はそれにとどまらない。バルキリーの関心がフリードリヒに向いたと見るやエリオが再び突撃して左足の的をその槍で貫いた。 しかしバルキリーは脚部の推進エンジンを吹かして猛烈なバックステップを行い、同時にガンポッドが火を噴く。おかげで右足まで彼の攻撃は通らず、エリオ自身も緊急離脱を余儀なくされた。 しかしエリオもキャロもこの接敵で味を占めてしまっていた。 「自分たちだけでもアルト先輩に勝てる」と。 不意打ち、大いに結構だが、そのような戦術が何度も通じるわけがなかった。 もしもここにティアナがいたなら2人の増長を必ず防げただろう。 だがいなかった。 エリオは今度も一撃離脱を狙って高速で接近。ストラーダを突き出す。 フリードリヒも同様に死角へと隠れる・・・・・・つまり多少の機動の違いはあれど、まったく同じ作戦だった。 エリオはバルキリーが自身の攻撃を回避してくれることを疑っていなかった。だからそれが突然黒い煙を散布し始めたときには焦ってしまった。 どうやらスモークディスチャージャー(煙幕発生機)で文字通りこちらを煙に巻くつもりのようだ。 (煙に隠れられたら厄介だ・・・・・・!) 瞬時に判断を下すと、今までしていたジグザグの回避機動を捨ててバルキリーへと直線的に向かう。しかしバルキリーは突然こちらに向き直ると神業とも取れる精妙な動きでストラーダのみを掴み、こちらの攻撃を完全に止めた。 (は、嵌められた!) アルトは最初からこちらを煙に巻くつもりはなかったのだ。 (こっちが回避機動をやめて、機動が直線的になるのを待ってたんだ・・・・・・!) 煙幕のせいでフリードの支援も絶たれ、武装を封じられたエリオは手も足も出ず、即座にバルキリーのアサルトナイフで無力化された。 その後移動能力の低いキャロが撃墜されるのには時間はかからなかった。 その報告でようやくティアナは自分がアルトに嵌められたことに気づいた。 スバルをすぐに撃破しなかったのは、自分が彼女を助けるのを見抜いたため。確かに非常時には念話があると思って行動したが、それもお見通しだったのだ。 結果としてそれは戦力の分断と指揮系統の混乱という、戦いを統べる者なら誰もが学ぶ基本原則を成功させてしまった。しかもアルトはそれを数の劣位と出力ダウンという大きなハンデを背負った上で行ったのだ。なんというしたたかさ。そして計算高さだろうか。 ―――――読み飛ばし可――――― さて、少し話はそれるがここで問題となるのが発生する戦闘音であり、同時に訓練場の広さの問題だ。 前述した通り300メートル×300メートルの広さしか持たないこのコンクリート島からなぜ彼らは足を踏み外さないのだろうか。 それは結論を言ってしまえば〝ほとんどその場を動いていない〟からだ。 読者の皆さんはルームランナーをご存知だろうか? 幅のあるベルトの回るグラインダーのような台の上を、人間が走る機械の事だ。 これを使えば我々は無限に走ることができる。 だが無論そんなものがここに敷き詰められているわけではない。だが、もしあなたがこの訓練場に顕微鏡を持ち込んだのなら謎はすぐに解けるだろう。 そこに広がるは、外見から予想されるコンクリートの平面ではなく、たくさんのパチンコ玉が整然と並べられたような光景が広がっているはずだ。 本当はこれだけでは正常な走りは再現はできないのだが、このホログラム機構を語ることは本稿の主旨に合わないのでまたの機会に譲る。 つまるところ彼らはお互いに100メートル程しか離れていないのだ。 そしてティアナが実質100メートル先で行われていたエリオ達の戦闘に、気づかないほどの音の問題だが、そこは逆位相の音波の照射による相殺や遮音シールドなどで補っている。 ちなみにそれほどの広さを必要としない場合は、実測の建物等を普通にそのまま具現化する。 ―――――ここまで――――― ティアナはアルトの老獪な作戦に舌打ちした。しかし、まだ諦めるつもりはなかった。 「スバル、私が援護するからアイツに特攻かけて!」 「OK!」 ティアナの不屈の精神を感じ取ったスバルは親指を立ててウィンク。 「制限時間はあと3分。一気にカタをつけるわよ!」 「了解!」 スバルはアスファルトの地面を駆ける。その進攻を援護するためクロスミラージュを1挺にし、機関銃顔負けの連射でバルキリーの動きを抑える。 順調に突撃は進行していた。しかし、突撃開始からずっと小さな違和感に苛まれていた。 (なぜ攻撃してこない!?) いくら頭を抑えたといっても、近づくスバルに牽制ぐらいの反撃は出来るはずだ。しかし目の前のバルキリーは巨大なミッド式魔力障壁を展開したまま動かなかった。 『エネルギーコンデンサのチャージだろうか?』とも思ったが、反撃しなければジリ貧であるこの状況。それでも沈黙を守る理由・・・・・・そこでようやく気づいた。しかし、それはまたしても遅すぎた。 (*) 肉薄していたスバルは、バルキリーまであと5メートルほどのところで信じられない物を見ることになった。 突然バルキリーの姿が、バラバラになってかき消えたかと思えば、そこに浮かぶは先ほどと同じハイマニューバ誘導弾。 「ちょ!幻影!?」 実際はVF-25に装備されていたイベント用のホログラム投影機からの映像だったが、魔法のそれと同じ効果を発揮した。 数瞬後、容赦なく音速で突入してきたハイマニューバ誘導弾はあやまたずスバルに命中。ド派手な爆発が彼女を包んだ。 「ああ・・・・・・」 煙が晴れると、模擬弾が命中したことを示すホログラム製白ペイントが彼女のあちこちに付着していた。・・・・・・そのある意味扇情的な光景のなか、スバルはトボトボと近くの避難所に歩いていった。 (*) ティアナはスバルの撃墜直後にアルトからの奇襲を受けていた。 最初の攻撃はガンポッドの一斉射だったが、その攻撃を回避できたのは奇跡だった。目の前の青くペイントされたアスファルトを見て、背筋に悪寒が襲う。 しかしバルキリーはすぐに街頭から飛び出すと、間断なくホログラム弾による砲撃を浴びせかけてくる。 その砲撃は鉄筋コンクリートの壁をまるでベニアのように易々と貫通していった。 (これが質量兵器の力・・・・・・か!) 破壊によって吹き上がった粉塵の中滑り込んで瓦礫に隠れると、幻術を展開した。 対するバルキリーは、確認できる全ての敵へのマルチロックによる全力射撃で広域掃討。 その隙をついたティアナの狙撃に右肩の的が吹き飛ぶ。 応射としてガンポッドの砲弾が雨あられと降るが、ティアナはすでにその場から退避していた。 (*) 「予想以上だな・・・・・」 アルトは下界で孤軍奮闘する少女をそう評した。 まず基本がよくわかっている。射撃に関わる者の基本である「撃ったら逃げろ」というものだ。 ティアナはずっとヒット・アンド・アウェー(一撃離脱)戦法に徹している。 これはわかっていてもなかなかできるものではない。急ぎすぎるとまともに照準できない。しかし遅いと命取りになる。この場ではそうゆう繊細な戦術だった。 「さすがアイツが教導してるだけのことがあるな・・・・・・」 彼女を教導した栗色の長い髪した教導官に改めて感心した。 「う!?」 突然の揺れ。どうやら左足もやられたようだ。 「あと1枚か・・・・・・そろそろ本気にならないとダメだな・・・・・・」 アルトは機体のパワー配分をセンサーと機動につぎ込むと、ハイマニューバ誘導弾を生成した。 (*) 「あと1枚!」 ティアナは自身の魔力弾が命中するのを確認すると、すぐにガンポッド、頭部対空レーザー、そしてハイマニューバ誘導弾の応射が来た。 「やっば!」 どうやら眠れる獅子を起してしまったようだ。これまでとは比較にならない攻撃が一挙に集中した。 クロスミラージュを含め六課の戦闘員全てのデバイスにはエリオと同じ重力制御で慣性を抑制するシステム、OT『イナーシャ・ベクトルキャンセラー』が装備されている。しかし機動が限界に達し、それで拾いきれない慣性が発生すれば、術者は制動を失う事になる。 ティアナがまさにそうだった。 この状況から脱しようと建物から建物への迅速な移動をしようと思い立ったティアナは、デバイスに内臓されたビームアンカーを対面のビルに固定、一気に乗り移った。 しかしそこで連続使用に耐えかねた搭載バッテリーが干上がり、来ないと思っていた横への慣性ベクトルが足元をすくいあげ、転倒させてしまった。 「しまっ―――――!」 アルトにはその一瞬で十分だった。ガンポッドの一斉射が彼女を襲う。咄嗟に展開したシールド型PPBと魔力障壁はその嵐のような猛攻によく耐えたが、続くハイマニューバ誘導弾を止めるには足りなかった。 (*) 5分後 そこには青(ガンポッド)、赤(頭部対空レーザー)、黄(アサルトナイフ)、そして白(ハイマニューバ誘導弾)に芸術的にペイントされた4人。そしてバルキリーから降りたアルトがなのはの前に集合していた。 ちなみに、フェイトとヴィータは模擬戦終了と同時に 「「アルト(君)に負けられるか(られない)!」」 と言って今は海上で演習中だ。 「今日は初めての対人模擬戦なのによく頑張りました。今日の訓練はここまで。4人は午後に今日の模擬戦についてのレポートを書き、提出してください。以上。では解散」 皆一様に疲れた様子でトボトボ歩き出す。 アルトは所々跳弾でペイントされた純白の愛機に向かうところをなのはに呼び止められた。 「ちょっと来て。」 手招きされるままにホログラム製の木の影に入る。 「・・・・・・どうだった、うちの新人は?」 「そうだな・・・・・・基本はよく訓練されている。指揮もしっかりしていれば、分隊として十分機能するだろうよ。」 なのはの問いにアルトは実感で答える。でなければ指揮系統の混乱など思いつかない。最初からそれほどにはティアナの実力を評価していた。 「わかった。でもあともう1つ。アルト君、最後まで手加減してたね?」 表面上は疑問形だが、その有無を言わさぬ迫力に少したじろいだ。 「〝FASTパック〟の使用許可は出したはずだよ。」 「いや、それは・・・・・・」 しかしアルトはすぐに持ち前の役者精神が復活。 「ただ、新装備で魔力消費を心配しただけだ」 と、強がった。 そんな2人を遠くから隠れて見る真っ白な1人の少女がいた。ティアナだ。 彼女には〝ふぁすとぱっく〟がなんのことかわからなかったが、手加減されたということへの悔しさたるや壮絶なものだった。そしてその事が、彼女に1つの決意の炎を灯した。 (次は絶対アルト先輩に勝ってみせる!) ティアナはそう心の中で誓うと、2人に見つからぬように宿舎に戻って行った。 (*) 模擬戦2週間前 クラナガン郊外の地下に作られた秘密基地では、ある科学者が狂気の笑みを浮かべていた。 「なにがそんなに面白いのかしら?」 そこに現れたのはグレイスだった。 「アぁ、君か。まったく君の世界の技術は素晴らしい。魔法に頼らず、ここまでできるとは、ハッハッハッ・・・」 狂気の天才科学者ジェイル・スカリエッティは額を押さえて笑う。彼の目の前には、ある機体の設計図があった。それはグレイスと手を組む時に渡されたものだった。 「そう・・・・・・とりあえずレリックのほう、お願いするわよ。」 「あぁ、わかっている。あれはこちらでも必要なものなのでね。」 彼はそう返すと、図面に向かい格闘を再開した。 OTやOTMに初めて触れて4ヶ月。もう適応してしまった彼はさすが天才であった。 彼の格闘する図面には前進翼と1基の三次元推力偏向ノズルを備えた機体が描かれている。しかしそこには戦闘機最大の弱点とよばれるシステム〝パイロット〟の乗るスペースがなかった。 今1つの世界を震撼させた幽霊の名を冠された先祖が、ここに復活しようとしていた。 次回予告 ひょんなことからVF-25を壊してしまうアルト。 それを修理するため地上部隊傘下の技術開発研究所に向かうことになるが――――― 次回マクロスなのは、第5話『よみがえる翼』 不死鳥は、紺碧の翼をもって再び空へ! シレンヤ氏 第5話へ(現在修正中)
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魔法少女フルメタなのは クロス元:フルメタル・パニック! 最終更新 08/02/01 第一話「世界からのシグナルロスト」 第二話「流れ着いた兵士達」 第三話「新たな生活」 第四話「wake from death」 第五話「邂逅、そして激突」 番外編その一「馬鹿騒ぎのレディーズ’バス」 番外編その二「回避不能なホームメイドディッシュ」 エリオと金色の獣 クロス元:うしおととら 最終更新:08/03/02 其の一「エリオととら、出会う」 其の二「とらと魔法と次元世界」 魔法忍者リリカル鴉 クロス元:忍道 戒 最終更新:08/05/02 第一話「鴉、来たる」 第二話「八神家」 第三話「ヴォルケンリッター」 第四話 前編 第四話 後編 第五話「嵐の前」 番外編「弁当とフラグ立て」 拍手感想レス :とらの身長は4メートルです! TOPページへ このページの先頭へ
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マクロスなのは 第21話『サジタリウス小隊の出張』←この前の話 『マクロスなのは』第22話「ティアナの疑心」 六課にサジタリウス小隊が来てから2週間。ティアナ・ランスターは不安に苛まれていた。 なのはの〝個人的都合〟がサジタリウス小隊のさくらに対するプライベート訓練であると知ったからだ。 無論彼女はそれだけで怒るような狭い心の持ち主ではない。 そしてさくらに対してもまた、敵意を持っているわけでもない。 それどころか戦法が似ているため、ティアナはさくらに「地上における射撃戦」を。逆にさくらは一撃必殺である「魔力砲撃による狙撃」を教えたり、果ては部屋に招待して泊まり会を開くほどに馬が合った。 そんなティアナが不安に思うこと、それはさくらの技量向上のスピードが異様に早いことだった。 年齢も階級も2つ~3つ上であることは確かだが、それ以上の何かがあるような気がしてならなかった。 そこでティアナは朝早く起き出し、訓練を覗くことにした。 (*) 0530時 宿舎 そこの玄関では、一通り身支度したティアナが訓練場に向かって走っていた。 (やっば・・・・・・30分も過ぎちゃってる・・・・・・) ティアナはその身の不覚を恨んだ。 朝起きると、すでにさくらから聞いていた開始時刻、5時を回っていたのだ。 そして彼女にはもう1つ不覚があった。それは───── 「ねぇティア、さくら先輩頑張ってるかな?」 背後を走る青い髪にハチマキを着けた相棒が聞いてきた。 彼女の相棒であるスバルは、今回朝が早いため起こさないつもりだった。しかし寝坊に慌てたティアナは、起き上がった際に頭を二段ベッドの上の段にぶつけ、そこで寝ていた彼女を起こしてしまっていた。 ティアナは走る速度が鈍らないようにしながら振り向く。 「たぶんね。でもいいの? あんた、昨日遅く寝てなかった?」 ティアナの脳裏に、家族に手紙を書くため机に向かっていたスバルの姿がフラッシュバックする。 しかしスバルはかぶりを振った。 「ううん。私の体は2~3日寝なくても通常行動には何の問題もないように〝できてる〟から全然大丈夫ぅ~。それに、ここまで来て引き返せないよ」 「ま、そうよね」 そうこうするうちに訓練場に到着した。しかしなのはにも、さくらにさえ見学しに行くことを言っていないため隠れて見ることになる。 茂みに隠れ、模擬戦をやっているらしいなのは逹を見つけたスバルが一言。 「実戦さながらだね・・・・・・」 彼女の言う通り、訓練場を超低空で浮かぶなのはとさくらの2人は、中距離で撃ち合い激戦を繰り広げていた。 ────────── さくらのカートリッジ弾がなのは目掛けて発砲される。 なのははそれを数発迎撃するが、数が多いため魔力障壁とシールド型PPBを併用して幾重にも張り巡らす。 そうして着弾したカートリッジは1番外側にあった魔力障壁に着弾し、そこで爆発した。 爆発は一瞬にして障壁を破り、内部のもう1枚を破るが、外から3枚目に展開されたシールド型PPBに完全にブロックされた。 いわゆる〝スペースド・アーマー〟の原理を応用したシールド展開術だ。 最近アップデートされたカートリッジ弾は、成形炸薬型と触発または遅発砲弾型、そして空中炸裂型の3種類のモードの選択が可能だ。 成形炸薬型は装甲を高温高圧のジェットで溶かし、内部の乗員(主に装甲車の)を殺傷する質量兵器の成形炸薬(HEAT)弾と同様に、炎熱変換のジェットでそれを行う。 〝スペースド・アーマー〟は、主に装甲車に使われる機構で、対成形炸薬装甲として有名だ。 高温高圧のジェットは最初の1枚目で最大の威力を発揮する。そのため1枚目と2枚目の間の空間を設けることにより、ジェットを減衰、無力化するのだ。 さくらの発射したのはホログラム弾だが、ホログラムによってこの現象が精密に再現されている。 しかし残念ながらこの現象は1秒に満たない間に起こるので、ティアナ逹にはなのはがシールドを2枚犠牲にして身を守ったとしか認識できなかった。 なのははシールドを解除すると、その機動力を生かしてローリングするように次弾を回避して同時に反撃に転じる。 放たれた10を超える大量の魔力誘導弾。1発1発に〝撃墜〟という揺るがぬ意思のこもった誘導弾は鋭い機動でさくらに迫る。 さくらはEXギアからチャフとフレア。ライフルからは魔力弾を連続発射して後方から迫るそれらを撃ち落とす。輝く光弾に数発の誘導弾が吸い寄せられ、無益に自爆した。 その間もなのはから次々と畳みこむように放たれる誘導弾。その数は最初から数えて40は超えているだろう。 さくらは迎撃を続けながらも健気に牽制射撃を織り混ぜ、ようやく空中炸裂設定のカートリッジ弾の弾幕で作った散弾でなのはに回避の時間を作らせることに成功する。 しかし稼げた時間はコンマ5秒に満たない。 それでもさくらはなのはから無理やりもぎ取った隙を突いて、したたかに生成していたらしいハイマニューバ誘導弾で応戦した。 ────────── ティアナはその模擬戦を見ながら息を飲んだ。 いつも自分達がやっている模擬戦のほとんどが、例え難しくともクリアが可能なように作られたゲームに感じられる程の息つかせぬ攻防。 これほど内容が密ならば、短い内に技量が格段に向上するのもわかる気がする。 しかし同時に、ある疑問が頭をもたげた。 (どうしてなのはさんは私達にゆっくりと基本ばかり教えるんだろう・・・・・・?) 確かに4人もいるため、多少ゆっくりになることがあるかもしれない。しかし最近では個々の訓練になって手が足りないというわけではないはずだ。 またなのはの教導は、ティアナのアカデミーの教官曰く、 「期間は短いが、テンポよく、スピーディー。内容がしっかりしており、エースの名に恥じぬ教導」 と絶賛していた。 つまりなのはは極めて短時間で新人を1人前まで叩き上げられるということになる。 しかし自分は教導が始まって5カ月が経ったというのに、強くなった〝実感が〟持てずにいた。 そしてそのことが、彼女は1つの結論を導き出させてしまった。 「なのはさんは・・・・・・私達に手を抜いてる・・・・・・」 「え?」 スバルがキョトンとした顔で振り返る。 そんな彼女にティアナは自分の結論を並びたてた。 スバルはそれを静かに聞いていたが、どうも懐疑的だったようだ。 しかしこちらの言い分も理解できると見え、折衷案を提案してきた。 「じゃあ、今度の定期模擬戦で、なのはさんに勝っちゃうってのはどうかな?」 スバルの言う定期模擬戦とは、数ある模擬戦の中で唯一日程の決まった模擬戦の事だ。 基本演習の合間に行われる模擬戦は〝抜き打ち〟が常道だが、普段忙しいフェイトが参加するため、やむを得ずスケジュールとして組み込まれていた。 この模擬戦は、今目前で行われている2人の模擬戦に負けず劣らずハードであり、形式は分隊ごとに分隊長vs新人2人で行われる。ちなみに新人の目標は隊長に一撃を与えることだ。 この5カ月で4度行われたが、スターズの2人は3度完璧に押さえ込まれ、4度目で初めて時間切れという引き分けに持ち込んでいた。 なのはによると、訓練の進度に応じて難度を上げているため、引き分けられれば十分合格だという。 確かにこれに勝てば、彼女の驚きは大であろう。 「面白そうね。でも訓練どうりやると引き分けちゃうから、何か秘策を考えなきゃ」 2人はその後、時間が許すまでその場で対策を考えた。 (*) 12時間後 ティアナとスバルの2人は通常の訓練を終え、宿舎の反対側にある雑木林に集まっていた。 「ティアは何か思いついた? 私は全然~」 早くも投げ出した相棒に不敵な笑顔を見せてみる。 「大丈夫、ばっちりよ」 サムズアップ(握った拳から親指を上に突き出す動作)して見せると、スバルは 「さっすがティア!」 と囃し立てた。 「じゃあ作戦を話すわよ。まず、通常のクロスシフトAを装うの」 クロスシフトとは、2人の戦術の名前だ。 ティアナの射撃で敵を釘付けし、スバルが接近戦で止めを刺す方法がA。その逆のBの2種類がある。 「私は最初にクロスファイアで誘導弾をばらまいて姿をくらますから、あんたはなのはさんを、まるでこっちが本命であるように見せかけて釘付けにして。そのあと私が砲撃する」 「え? ティア、砲撃はまだ時間がかかるから無理だって─────」 そう言うスバルのおでこを軽く指で弾く。 「バーカ、フェイク(幻影)に決まってるでしょ。第一、私の砲撃が歴戦のなのはさんの魔力障壁を貫けるわけない。引き分けならそれでも良いけど、私達は勝たなきゃいけないの。だから私は─────」 ティアナはカード型になったクロスミラージュを起動、2発ロードする。 果たしてそこには銃剣を着けた一丁拳銃の姿があった。 ティアナが接近戦という発想がなかったスバルが絶句する中、話を続ける。 「これならシールドを切り裂いて一撃を与えることぐらいは、できるはずよ」 スバルも驚くとうり、なのはも想定していないはずだ。訓練では射撃と指揮が主な内容で、接近戦など習ってない。 失敗すれば一網打尽だが、成功すれば見返りは大きい。 ティアナは作戦に確かな手応えを持って、特別訓練に臨んだ。 (*) その後1週間、通常の訓練の合間を縫ってスバルと新戦術〝クロスシフトC〟の訓練に明け暮れた。 内容は主にティアナの近接戦闘の訓練と、上空に止まるであろうなのはへの隠密接近である。 近接戦闘についてはスバルは臨時教官として適役であり問題はなかったが、接近方法に難があることがわかった。 空を飛べない2人はスバルのウィングロードが〝空〟への唯一の足場であり、スバル自身はマッハキャリバーのおかげで約90度の斜面を余裕で登る事ができる。 しかし己の足で走るしかないティアナにはスバルの使用する急斜面のウィングロードは使えない。 しかしティアナに合わせるという客観的に見て極めて特殊で無駄な機動はなのはに作戦が感ずかれる可能性があり、訓練は困難を極めた。 そこは結局 『どうせ1発勝負なんだから』 というティアナの一言により、なのはの上空を通るウィングロードを敷き、そこにクロスミラージュのアンカーを打ち込んで一気に上がる案が採用されることになった。 (*) 模擬戦前日の夜 2人は特訓による最終調整を終え、明日に備えての余念がなかった。 いつもはデバイスの自己修繕機能やクリーニングキットによる整備、1回で終わらせるところだが、今回はオーバーホールして1部品ごとに磨いていた。 2100時 オーバーホールを始めて1時間が経ったこの時、2人の部屋に訪問者がやってきた。 〝ピンポーン〟というインターホンに、ティアナはトリガープル(引き金)を磨く手を休め 「開いてますよ」 と訪問者に呼び掛けた。 「失礼します。うわ・・・・・・なんだか凄いことになってますね・・・・・・」 入ってきて目を白黒させたのは、さくらだった。 確かに部品数の比較的少ないティアナはともかく、可動部が多いため必然的に部品数も多いスバルのデバイスの部品が、床一面に広げられている光景は驚くに値するだろう。 「こんばんわ~さくら先輩」 マッハキャリバーのローラー部を組み立て、油を挿すスバルが手許から目を離さずに挨拶する。 「こんばんは。明日の準備ですか?」 さくらの質問にティアナが頷き、作業に戻る。 「そうですか・・・・・・じゃあ、邪魔しちゃ悪いですね。私の教導期間はもう終わりましたから、また明日にでも〝これ〟やりましょうね」 さくらはトランプをシャッフルする手真似をする。 「は~い。待ってますよぅ~」 スバルの返事を聞くと、さくらは出ていった。 さくらが持っていた冊子には、2人とも気づかなかった。 この時もし、もっとさくらと話を続けていたら、この先の未来は違ったかもしれない。 (*) さくらはロビーに着くと、ソファーに座り、何度も読み返したその冊子を再び開いた。 それは20ページほどで、訓練終了とともになのはから 「今後の参考に」 と貰ったものだった。 そこにはこの3週間の訓練記録や今後の「近・中距離機動砲撃戦術」の発展予想。短い今回の訓練期間で抜けきれなかったクセの解消方法や、この戦術のバルキリーへの転換に関するアイデアやアドバイスなどのあれこれが書いてある。 しかもこれらは全てなのはの経験に基づいて書かれており、とてもデータベース化して〝量産〟されたどこにでもあるような対策集とは違う、思いやりがあった。 なぜならどれも自分の特性に合わせてわざわざ新たに書いてくれたものらしく、彼女の砲撃のように正確に的を射ている。 そんな目から鱗の冊子の最後にはこう〝手書き〟で書かれていた。 ────────── 3週間の訓練ご苦労様 さくらちゃんはこの3週間よく頑張ったと思います。 戦術はテクニックさえ身につければできるものではなく、基本の習得が最低条件です。だから少し厳しかったかもしれないけど、よく着いてきてくれました。ありがとう。 でも1つ、謝らせてね。 演技でも意地悪な態度を取ってごめんなさい。本当はうちの4人みたいにゆっくり、優しく教えてあげたかったのだけど、出来なくてごめん。 これからも空を守る友達でいてね。 私はさくらちゃんと一緒に空を飛べる時を楽しみに待ってます。 高町なのは Dear my friend 工藤さくらちゃんへ ────────── さくらは読み返すうちに何度も込み上げる嬉しさに身震いした。 (やっぱりなのはさんはいい人だった!だってずっと私を見ていてくれたんだもの!) こうしてなのはの教導の卒業生から構成された俗に言う〝なのは軍団〟の名簿にまた1人、その名が加えられた。 そこに宿舎内に併設された大浴場から出てきたのか、マイ桶にタオル等を入れて持つ、アルトと天城が現れた。 「よう、さくらちゃん。どうだい、訓練の方は?」 なんにも知らない天城が聞く。彼はこの3週間、アルトとの模擬戦と小隊としての任務(スクランブル待機など)に徹していた。 そのためこの3週間で20数回あった敵出現の報の内、小規模だった15回は天城と基地航空隊のCAP任務部隊のみでケリをつけていた。 この働きのおかげで、六課の4人やさくらの訓練を中止しなくてもよくなり、大変感謝されていた。 「はい、今日終わりましたよ。とてもいい経験ができました。これも支えて下さった天城さんやアルト隊長のおかげです。本当にありがとうございました」 アルトは深々と頭を下げるさくらから、机に広げられている冊子に視線を移す。 「お、早速読んでるみたいだな」 さくらは顔を上げて 「はい!」 と頷くと、冊子を手に取り胸に抱く。 「もう感動しちゃって・・・・・・まさかここまで私のために考えてくれているなんて!」 「だから言っただろ。諦めずに頑張ることだって」 「はい!アルト隊長のお言葉があったればこそです!」 シンパシーで通じ合っている2人はともかく、天城にはなんのことかわからず首を捻るが、2人は構わず話を続けていった。 「それにしてもアルト隊長の言う通りですね。ティアナさん達が羨ましいです」 なんでもさくらは冊子を受け取った後、なのはから六課の4人の分を見せてもらったという。 なのはによると、4人の教導がちょうど半年になるため、明日の模擬戦終了時に渡すらしい。 「ページ数は同じ20ページぐらいだったんですけど、内容の密度がすごいんです!よく入ったなぁ~ってぐらい」 「・・・・・・そういえば、俺も20ページ前後だったな。何かこだわりがあるのか?」 「はい、なのはさんによると───── ────────── 2時間前 六課隊舎3階 中央オフィス ズラリとコンピューター端末が並ぶ中、さくらとなのはは通常勤務時間外で他には誰もいないこの部屋に来ていた。 なぜならなのはに明日4人に配ろうと思っているという冊子の添削の助言を求められたためだ。 さくらはまだ電子情報の文書をスクロールしていく。 「・・・・・・あの、なのはさん、どうして20ページに収めようとするんですか?この内容だと50ページぐらい使った方が無難だと思うんですが・・・・・・」 さくらは〝極めて〟よくまとまった文書を批評する。さくらの目には、この内容を記載するのに、A4用紙12枚(表紙、背表紙で2枚)は余りに少なく映った。 文字が小さくて多い、俗に言う〝マイクロフィルム〟のようだ。というわけではない。 図は効果的に使っているし、紙一面文字がびっしりというわけでも、文章の構成が下手というわけでもない。 たださくらには、行間からにじみ出る〝文字にならない声〟が聞こえて仕方ないのだ。 つまり、なのはの言いたいことがまだあるような気がしてならないのだ。 この寸評に、なのはは頭を掻いて 「う~ん、そうなんだけどね。今まで教導してきたみんなにこういうのをを渡してるんだけど、だいたいこれぐらいじゃないと実戦で活用しきれないんだよねぇ・・・・・・」 と困った顔。 どうやらこの20ページというのは経験則に基づいた数字らしい。 確かに貰った方も、多すぎて覚えきれなければ扱いきれないことになる。 ならばまとめた方が覚えやすいかもしれない。それに彼らにはまだ半年の教導期間があるのだ。 (覚える時間がそんなにないティアナさん逹にはちょうどいい分量なのかもしれないな) さくらは思い直し、文書に目を戻した。 ────────── 「なるほどな。あいつらしい理由だ」 思い返すと、アルトの冊子も確かに要点のよくまとまった構成で、重要事項を後で思い出すのに苦労した覚えがなかった。 「はい。それに時間が長かったせいか内容がよく練ってあって・・・・・・ちょっと、妬いちゃいますね」 さくらがいたずらっ子のような笑顔を作る。 「そうだな。あいつらに、なのはの優しさが伝わってるといいんだが・・・・・・」 アルトの呟きにさくらも 「そうですね・・・・・・」 としみじみ頷いた。 (*) ティアナが目を開けるといつもの天井が見えた。 〝二段ベッドの上の段〟という名の天井は、ティアナの現(うつつ)への帰還に気づいたのか、ガタガタ揺れる。 「おはよ~、ティ~ア~」 顔を横に向け、天井の端から伸びる逆さの相棒の顔を意識のはっきりしない頭で数十秒眺める。するとやっと脳の言語中枢がアクセス状態になり、相棒の言った言葉の意味が、頭の中で固まる。 「・・・・・・おはよう。あんた、顔真っ赤よ」 「それはティアがなかなか返事してくれないからぁ~!」 彼女はそう言って頭を上に引っ込めた。 ティアナは起き上がろうとして、自らの右手が枕の下に入っていることに気づいた。 「・・・・・・あれ?」 引っ張ってみたが抜けない。 だが彼女の朦朧とした頭は〝なぜか?〟という問いを考えることを放棄し、枕に乗った頭を浮かせて抜くことに専念した。 すると、ゆっくり動き出した。 〝スーッ〟というシーツと枕を摩擦する音と共に出てきたのは縛ってあるのではないか?と、疑いたくなる程しっかりと握られた拳銃形態のクロスミラージュだった。 確か昨日、ベッドの中で目視による最終点検をしていたうちにウトウトしてそのまま眠ってしまったらしい。 初陣でゴーストを前に、クロスミラージュを落としてしまったことに悔しい思いがあった。そのため寝ながらも体の一部のように握り続けていられたのはこれまでの訓練の賜物だろうか? ともかく、それを見て始めてティアナの意識は覚醒した。 (そうだ。今日はXデーだったわね) ティアナはムクリと起き上がると、頬を叩いて気合いを入れ直し、洗面台へと向かった。 (*) 「―――――はい、それでは今月の定期模擬戦、行ってみようか!」 「はい!」 市街地になった戦場(訓練場)は今、ティアナとスバル、そしてなのはしかいない。 ライトニング分隊とヴィータは遠方のビルから観戦していた。 「それでね、今日はEXギアのアルトくんが参加しま~す」 なのはの一言に唖然とする2人。それを尻目にアルトがなにくわぬ顔で参上した。 「よぅ、俺も混ぜてもらうぜ」 「何で、何でですか!?」 「安心しろ。俺は直接、戦闘には関与しない。ただ、今日はホログラムの調子が悪いだろ?」 頷く2人。今日はアルトの言う通り、静止物の具現化は問題ないのだが、ホログラム製の模擬弾などの高速移動物の映りが劣悪だった。 そのため午前、午後の訓練は共に予備の実弾(魔力が封入されている実戦用のカートリッジ弾)で行われていた。 「それでスバルが殴り合う分にはいつも通りなんだが、なのはもティアナも非殺傷設定で戦うことになる。だからもしもの時の保険だそうだ」 アルトはEXギアを着けながら器用に肩を竦めて見せた。 以前にも記述したように、非殺傷設定と言えどAランクを越えるリンカーコア保有者の砲撃は危険なのだ。 なのはの〝AA〟級の砲撃をもし、シールド等で減衰せず直撃を受けた場合、被弾場所には2度の魔力火傷を負うことになる。 魔力火傷は全身に3度で致死レベルなため、死にはしないが危険と言わざるをえない。 そこでアルトは負傷の場合の緊急搬送などの保険と言うことらしかった。 とりあえず彼の戦力外通知に安心した2人は 「バリアジャケットに着替えて」 というなのはの指示通りにすると、相棒とアイコンタクトした。 アルトが空中に飛び上がると全ての準備が整う。 ジリジリと夏の暑い日射しがホログラムのアスファルトを、建物を、そして生身のティアナ達を熱する。 「それではよーい、始め!」 (*) ヴィータやフェイト、ライトニングの2人にアルトのおまけとして来たさくらは、ビルの中から観戦していた。 ホログラムとは便利なもので、本物と同じように太陽からの赤外線を完全にシャットアウト。また冷房がつくためバリアジャケットをしていなくともずいぶん涼しかった。 そして今そこでは模擬戦の様子が手に取るようにわかった。 「・・・・・・お、クロスシフトだな」 ヴィータがホロディスプレイに映るティアナ達を見て呟く。 『クロスファイヤー、シュート!』 その名の通り両腕をクロスして放たれた大量の誘導弾は上空に居座るなのはへと殺到する。 「・・・・・なんだ? このへなちょこな機動は?」 「コントロールはいいみたいだけど・・・・・・」 ヴィータとフェイトが首を捻る。 それらは『とりあえず数だけでも揃えてみました』とでも言って、当たるかどうかを度外視して放たれているように思えた。 「たぶんなのはさんの回避行動を抑制するのが目的ではないでしょうか」 「・・・・・・まぁ、そうか」 さくらの推測は妥当だった。これがスバルが要のクロスシフトAであるなら、なのはの回避機動の制御は必須であり、納得できる。 しかし───── (こんな露骨な作戦をアイツがなのは相手にやるのか) ヴィータは引っ掛かるものを感じながらもなのはに対して本当に強行突破し、弾かれたスバルを眺める内、 (新人ならそんなもんか) と疑念を打ち切った。 (*) 「こらスバル、ダメだよ!そんな危ない機動!」 弾かれ飛んでいったスバルを、口で追い打ちする。 「すみません!でも、ちゃんと防ぎますから!」 彼女はそう返すと戦闘機動を再開した。 背後から風を切る音。それに任せて見もせずに後方から来た誘導弾をひょいと回避する。 そうして今まで存在を忘れていたもう1人の敵戦力を思い出した。 (ティアナは?) 首を回して周囲を見渡すと、左目の視界の一点が一瞬真っ赤に染まった。 残像による視界不良はすぐに回復し、ビルの屋上から伸びる赤い一条の光線が目に入った。 その先にはこちらをレーザー照準し、見慣れないターゲットゲージで狙うティアナの姿があった。 (砲撃!) 長距離スナイピングはさくらの十八番であり、彼女がそれを教えたかも・・・いや、教えるよう〝仕組んだ〟のだから使ってくるだろう。さくらの訓練を認めたのもその目的を達成するためでもあったからだ。 (ちょっと失敗だけど・・・・・・うん、まぁ合格かな) レーザー照準によるロックは正確だが、こちらに発見されるリスクを増やし、事実こちらが発見できたので失敗だ。 だがティアナなら通常のデバイス補正でも十分当たるだろうし、その場合不意討ちなので十分勝算がある。 ティアナ達は私のシールドを絶対破れない聖壁のように思っているようだが、実はそうじゃない。 2.5ランクダウンした私は、すでに成長したスバルの攻撃を受け止めるのに精一杯で、続く砲撃を受け止めるなんてとてもじゃないけどできない。 だから今回の模擬戦は自信が付くように〝普通に頑張れば十分自分に一撃を与えることができる〟ような戦力配分がなされていた。 そして絶妙なタイミングでスバルが再び迫る。 私はティアナを見なかったことにすると、スバルに相対した。 こちらが放つ誘導弾を、スバルは機動と迎撃で乗り切り殴りかかって来る。 「うぉりぁぁぁ!」 打たれたその腕は轟音とスパークと共にシールドに当たり、進攻を止めた。 (さぁ、今だよ!) なのはは待ったが、なかなか撃って来なかった。 (*) こうして、彼女の思いを他所に、ティアナ達の作戦が最終段階を迎えた。 (*) ティアナは幻影を連続続行にすると、自身に光学迷彩とクロスミラージュのOT『アクティブ・ステルス・システム』を作動。隠れていたビルの1階から出る。 あれほど 『ティアナ・ランスターここにあり!』 とわざわざレーザーポインターで示したのに、〝気づいてもらえない〟とは。 自分がここにいないという引き付けが十分でないかもしれないが、予想通りの場所でスバルと相対している今が好機だ。 ティアナはアンカーを2人の相対している上空のウィングロードに打ち込み、巻き上げて急速に上昇していく。 まもなく幻影は解除されるだろうが問題ない。何しろあの幻影に気づいていないのだから。 そしてついに2人を通り越して最高点へ。 ティアナは右手のアンカーを頼りに天井(ウィングロード)に足を着くと、左手のクロスミラージュを2発ロード。魔力刃を展開する。 激突した2人は1歩もその場を動かない。 ティアナは自らを言い聞かせるように呟く。 「バリアを抜いて、一撃!」 最終目標地点をロックオン! ティアナは意を決し、アンカーを解除すると同時に天井を蹴った。 この日、白い悪魔は確かに降臨したという・・・・・・ To be continue ・・・・・・ ―――――――――― 次回予告 「あら、もう完成させたの?」 グレイスは変更リストに載った『ユダ・システム』の一行にそう呟いた。 次回マクロスなのは第23話「ガジェットⅡ型改」 「幸運を」 ―――――――――― シレンヤ氏 第23話へ
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全てのジュエルシードをかけて全力で戦うなのはとフェイト。お互いの魔法を駆使した攻防は一進一退を続けていた。 周囲の苦言を受けながらも、『ジュエルシードを封印する』『フェイトとも和解する』の両方をやり抜く事を選んだなのははその心に秘めた『覚悟』によって、プレシアへの盲信で動き続けるフェイトと渡り合う。 そして、最後の瞬間の決め手となったのが、その受動的ではない自分自身を貫き続けたなのはの覚悟だった。 フェイトをバインドで捕える事に成功。抵抗するフェイトの魔法弾が全身を襲っても、なのははバインドを解除しなかった。 『いったん食らいついたら、腕や脚の一本や二本失おうとも決して『魔法』は解除しない―――』 幼い少女が胸に宿らせた鋼の信念は、襲い掛かるダメージを凌駕し、ついに最後の一撃によって雌雄は決したのだ。 激戦の果て。自らの敗北を受け入れたフェイトはなのはへジュエルシードを渡す事を決意したのだった。 スター・ライト・ブレイカーの直撃を受けたフェイトが束の間の眠りから目を覚ますと、体を支える暖かい腕の感触をまず感じた。 自分を容赦なく叩きのめした少女<高町なのは>の腕の中だった。 「……わたしの勝ちだね」 傷ついたフェイトを見下ろし、なのはが厳かに現実を突きつける。敗北した者に対する情けは、そこには無かった。 初めてなのはを見た時感じた儚さ、日常生活の中で偶然出会った時に見た柔らかな笑顔、それらの少女らしい雰囲気を一切削ぎ落とした戦士の顔がそこにある。 それはなのはの戦う時の顔だった。『やる』と決めた時、戦い抜く『覚悟』をした時、彼女はいつも変貌する。 自分は、その『覚悟』に負けたのだ―――フェイトは理解した。 「そう、みたいだね……」 敗北した僅かな失望感を抱き、フェイトは呟いた。 負けてしまった。母の為の戦いに敗北してしまった。これからどうなるのか、フェイト自身にも分からない。 しかし、不思議と不安や焦燥のようなものは感じていなかった。 何もかもなくしてしまったような消失感を感じながら、自分を抱く小さな少女の腕がとても暖かい事に奇妙な安らぎを感じる。 幾度も戦い、その容赦の無い戦い方に何度も戦慄した目の前の敵である少女に、今はもう全てを委ねてしまいたい気持ちすらあった。 戦いの中で、なのはは何度もフェイトを叱った。 敵から浴びせられる罵倒とも取れる叱責は、しかしプレシアがフェイトに叩きつける言葉とは全く違い、厳しさに隠された思いやりがあったのを、今の彼女は半ば悟っていたのだった。 『よし、なのは。ジュエルシードを確保して。それから彼女を―――』 クロノからの通信をなのはは無視した。 ただ、腕の中のフェイトを静かに見つめている。彼女が何かを言いたいのだと、なのはは分かっていた。 「……私は、これからどうなるんだろう?」 未だ茫然自失とした心のまま、フェイトは虚空を見上げたままポツリと呟く。 「アナタに負けて、ジュエルシードも全部失って……そして、母さんの願いも叶えられないまま、管理局に連れて行かれる……。私はこれからどこへ行くの?」 心の亀裂から漏れるように流れていくフェイトの呟きは徐々に震え始める。 現実感を取り戻してきた心が、滲んでくる黒い染みのように、不安を感じ始めていた。 「……フェイトちゃんがこれからどうなるのか? わたしの考えではたぶんこうだよ……。 まずフェイトちゃんのお母さんを捕まえる。裁判の流れによっては、罰も軽くなるかもしれない。そして、フェイトちゃんはそんなお母さんと一緒に罪を償いながら暮らしていく……。きっと遠い国で……少しずつ『普通の幸せ』を手にしながら暮らすんだよ……」 震えるフェイトになのはが紡いだ言葉が、静かに心に染み込んでいく。心に広がる黒い滲みを白く消していく。 不安に震える迷い子のような未来が、その言葉で明るく済んでゆくような錯覚をフェイトは感じた。 なのはが言った内容が、本当に現実となるのではないか―――そう信じてしまうような優しい響きが、なのはの淡々とした話の中にあった。 「……本当に、そうなるのかな? 私、本当に母さんと、そんな風に支え合って生きていけるのかな……?」 「そんな事を心配する親子はいないよ」 一見すると素っ気無いなのはの断言には、フェイトの不安をかき消す強さがあった。 「……そうだよね。その通りだよね……そんな事心配するなんて、おかしいよね……」 フェイトに小さな微笑みが浮かぶ。 全てが、なのはの言うとおりに進んでしまうような説得力。それがフェイトの心に安らかな気持ちを与えていた。 初めて出会った時から圧倒され続けていた、なのはの傲慢とも言える『貫く意志の強さ』 その強さが、こんなにも暖かくて心地良いものなのだと、フェイトは初めて理解したのだった。 フェイトの笑みに対して、なのはもようやく微笑みを浮かべる。 それが、本当に救いに思えた。 『Put out』 主の敗北を認めたバルディッシュが、収納していたジュエルシードを全て解放する。 全ての始まりだったジュエルシード―――それが今、ようやく終結に向かう。 なのはの手を離れ、向かい合う形になったフェイトは奇妙な清々しさの中ジュエルシードを渡そうと手を伸ばし―――。 次の瞬間、上空から巨大な魔力の雷がフェイトに飛来した。 「が……ぁ……っ!!」 「フェイト、ちゃん……?」 すでに魔力を使い果たしていたフェイトは、成す術も無く第三者の攻撃を受けるしかなかった。 不意の攻撃に呆然とするなのはの目の前で、フェイトが禍々しい雷光に包まれ、悶え苦しむ。主の代わりにダメージの大半を引き受けたバルディッシュが砕け、待機モードへ強制的に変化した。 「なにィィィィッ―――ッ!! フェイトちゃん!!!」 なのはは目の前の光景を理解し、湧き上がる驚愕と怒りの感情を爆発させた。 「まさかッ!」 この攻撃は、『誰』がしたものなのか。 「そんなッ! まさか―――ッ!」 この戦いを見ている可能性のある者の中で、こんな事をするのは、一体誰なのか! 考えたくはなかった。 高町なのはが生きていく上で、もっとも信じがたい現実が目の前にある事を認めたくはなかった。 家族とは守るもの。家族とは愛するもの。 優しい家庭で生まれ、育ったなのはにとって、それは最も度し難い許されざる事実! 有り得ない! 『母』が『娘』を手に掛けるなんてッ! 「プレシア・テスタロッサ―――ッ!!」 力尽き、落ちていくフェイトを慌てて抱き上げ、なのはは空を睨みながら呻くようにその名を口にした。 幸福に包まれた人間は、不幸な人間に言葉を掛けるべきではないのだろうか? 高町なのはには母親がいる。優しく、正しく、自分を生み出してくれた母親が。 苦しみの中で手にする力もあれば、優しさによって育まれる力もある。なのはの持つ力は、まさに後者であった。 彼女の目覚めは一人の少女との出会いだったが、彼女が正しい道を歩めるように教え導いてくれたのは、彼女の母であり家族であったのだ。 家族は、なのはをこの世のあらゆる残酷さから今日まで守ってくれていた。 ―――だから、今目の前で人生の全てを否定されたフェイトという少女に対して、自分はどんな慰めの言葉も掛ける資格はないのかもしれない。 目の前のモニターに映るプレシアから紡がれる言葉と、叩きつけられる現実。 それはおおよそ、誰も想像し得なかった最悪の現実だった。 『折角アリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない、私のお人形』 事故で亡くした実の娘<アリシア>の代わりとして作り出されたクローン<フェイト> 『作り物の命は所詮作り物……失ったものの代わりにはならないわ』 そのフェイトを娘として愛せないプレシア。 『いい事を教えてあげるわフェイト。アナタを作り出してからずぅっとね……私はアナタが、大嫌いだったのよッ!!』 「―――ッ!」 そして、決定的な一言が、フェイトを支える最後の柱をへし折った。 「フェイトちゃん!」 エイミィの叫びは悲鳴に近い。今、目の前の少女は心を深く刺されたのだ。 全てを失い、フェイトは気絶する。 倒れ込む彼女の体を、その場の誰よりも早く支える腕があった。 「……」 「なのは……」 高町なのはだった。 目の前で繰り広げれる悲壮な光景を、一番嘆き悲しむ筈の少女は、今の今まで無言を貫き、ただプレシアの映るモニターを見据えていた。 しかし、一見無表情に見えるなのはの内に燃え盛る業火を、誰よりも付き合いの長いユーノだけが正確に感じ取っていた。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 「―――吐き気を催す、『邪悪』とは」 「な、なのはさん……?」 これまでの行動から、逆上しかねないなのはを落ち着かせようとするリンディだったが、歴戦の彼女すらも今のなのはの静かな迫力には圧された。 力なく横たわるフェイトを抱き締めたまま、なのははモニター越しにプレシアを睨み据える。 「何も知らない無知なる者を利用する事なの……。自分の利益だけのために利用する事なの…………」 「なのは……お、落ち着いて!! 魔力が溢れ出してる、危険だ!」 彼女を中心に湧き上がる見えない圧力に誰もが押し黙る中、言葉は静かに紡がれていたが、なのはの変化は確実に現れていた。 フェイトとの戦いで疲弊した筈の体から、マグマのように吹き上がる攻撃的な魔力の奔流。 なのはの内なる怒りを現すように、その魔力は放出されるだけで艦内の電子機器に異常な反応を起こさせる。 「母親がなにも知らぬ『娘』を!! てめーだけの都合でッ! ゆるさないッ! あんたは今、再びッ! フェイトちゃんの心を『裏切った』ッ!!!」 なのはの中で、これまで感じた事の無い『怒り』が爆発した。 「なのは……」 『怒り』を言葉にした少女を誰もが見つめる中、それは誰が呟いたものか。 ただ、その場の誰もが高町なのはに圧倒されていた。誰もが時空の秩序を守る組織に属する『正義の執行者』を誇りながら、彼女のあまりにも純粋で強烈な『間違った事への怒り』に呑まれていたのだ。 なのはの怒りには『正義の心』へ向かう意志があった。全員が、それを理解出来た。 『……『何』を、そんなに怒っているのかしら? 理解できないわ』 念話越しにすら感じるなのはの怒りの魔力は、プレシアの意識すら引き付けた。ただ、彼女にはなのはの怒りの意味を理解出来なかったが。 「フェイトちゃんが目を醒ましたのなら―――母親なんて最初からいなかったと伝えておくよ……」 『……フェイトですって? フェイトがなんだというの? その人形の事はアナタには何の関係もない!』 「貴女にわたしの心は永遠にわからないのッ!!」 最悪を告げる鐘が鳴る。 九つのジュエルシードがその力を解放され、次元を歪ませるようなエネルギーが荒れ狂う。狂った願いは、幾つもの想いを呑み込んでいく。 その渦中で、狂気に支配された魔法使いが一人。 その渦中に、自ら飛び込む魔法使いが一人。 最後の戦いが、今始まろうとしていた―――。 バ―――――z______ン! リリカルなのは 第十一話、完! to be continued……> <次回予告> ジュエルシードが発動し、次元震のアラームが鳴り響く中、なのははクロノ達と共にプレシア・テスタロッサの根城へ突入する事を決意する。 慌しく動き始める事態の中で、全てを失い傷ついたフェイトは、戦いながらも自分を導いてもくれたなのはに縋るのだった。 「クロノ君は『逮捕』と言うけれど、わたしはこれが『命の遣り取り』になると思っているの。そして、プレシア・テスタロッサは必ず倒す! ……フェイトちゃん、あなたはどうするの?」 甘えを許さぬなのはの視線を受けながら、目の前に置かれた残酷な選択に苦悩するフェイト。 「わ、わたし……」 母親に捨てられた今、傷を抱えてただじっとしているのか、それともなのはと共に全ての決着を付けに行くのか。 「ど……どうしよう? 私? ねえ……私、どうすればいい? 行った方がいいと思う?」 全てを失った今、フェイトは『何か』が欲しかった。否定された自分を現実に繋ぎ止める為の何かが。 「怖い?」 「うん……す、すごく怖いよ。 で……でも『命令』してよ……。『いっしょに来い!』って命令してくれるのなら、そうすれば勇気が湧いてくる。母さんの時みたいに、アナタの命令なら何も怖くないんだ……!」 しかし、目の前の厳しい少女は、フェイトに無条件でそれを与えてはくれない。 「だめだよ……こればかりは『命令』できない! フェイトちゃんが決めるんだよ……。自分の『歩く道』は、自分が決めるんだ……」 「わ……わからない。私、もうわからないよォ……だって、だって私は……」 「だけど、忠告はするよ」 人間であるという人としての基盤さえ失ったフェイトに、あまりに過酷な選択肢を与えたなのはは、答えを聞く前に踵を返した。 「『来ないで』フェイトちゃん……。アナタには向いてない」 傷ついたフェイトを置いていく厳しさと、母親と思っていた相手と戦わなければならない場所へ連れて行かない優しさを合わせ持つなのはの言葉が、最後まで彼女の胸に残った……。 一個の石から始まった物語。 多くの出会い、多くの別れ、多くの悲しみ、多くの痛み―――全てがここの結集する! 「バルディッシュ、私達の全ては……まだ、始まってもいない!」 立ち上がれ、少女! 「『なのは』ァアアアア!! 行くよッ! 私も行くッ! 行くんだよォ―――ッ!!」 目醒めろ、戦士! 「私に『来るな』と命令しないで―――ッ! このまま終わるのなんて嫌だ! 本当の『自分』を始める為に、今までの『自分』を終わらせるんだ!!」 次回、魔法少女リリカルなのは 第十二話『宿命が閉じる時なの』 「『友達だ』なら使ってもいいッ!!」 リリカルマジカル燃え尽きるほどヒート! 魔法少女の最終決戦、ここに決着ゥ―――ッ!! 前へ 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第1話『フォールド事故、たどり着いたのは魔法の世界』←この前の話 『マクロスなのは』第2話「襲撃」 アルトは開けられない窓から下界を見渡す。 ここはあの高層ビル内部の待合室だ。ランカのライブ終了後すぐにフェイトによってここに連れて来られていた。 下界には今あまり人はいない。爆弾テロがあった現場を捜査する捜査員が十数人とカメラとリポートで報道をしているらしい報道スタッフが4,5人。そして下に置いてきたVF-25を守るガードマンが3,4人見えるだけだった。デモ隊も防衛隊もライブ終了と同時に解散していた。 「どうアルトくん?なにか見える?」 「いいや。10分前と代わり映えはしないな」 ソファに落ち着かない様子で座っているランカに、10分前と同じ言葉を返した。 ここに連れられ、退室する時フェイトは 「本局に確認してきますので、しばらく待っていてください」 と言っていた。しかしもうあれから30分が過ぎようとしていた。 また、久しぶりにランカに会えたと言えど、このような状況では和やかに談笑、というわけにもいかない。 アルトはそろそろ文句を言ってやるべきだろうかと思案していると、ようやく扉が開く音がした。 だがそこにいたのはフェイトではなく、同年代ぐらいの2人の少女だった。 2人には見覚えがある。たしか先ほどのテロ事件での救助作業で、それぞれが中心的な立場にあり、フェイトともよく行動していたと記憶している。 しかし彼女達は部屋に入って窓際でたたずんでいた自分を見るなり、「あれ?」という顔になった。そして視線をソファに座るランカに落とし、確認するように部屋を見渡して再びこちらに視線を戻すと、さらにその疑念の顔を強めた。 「ん?」 その不審な行動に顔を傾いで見せると、慌てて言い訳を始めた。 「あ、ごめんなさい。フェイト執務官からはランカさんと男性が1人って聞いてたのに、あなたしかいなかったから―――――」 「だ、誰が女だ!誰が!!」 反射的に怒鳴ってしまった。その声でようやくこちらが男であることが認識されたようだ。そして意図せず険悪になりかけている2人との間に絶妙なタイミングでランカが介入してきた。 「私もね、アルトくんに初めて会った時そう思ったんだ。『わぁ、なんて綺麗な人だろう・・・・・・』って」 「お、おいランカ・・・・・・!」 当時を思い出し思わず恥かしさがこみ上げて口を濁した。しかし当のランカは確信犯であったようで、振り返ると同時にいたずらっぽくペロッと舌を出して謝罪すると、再び2人に向き直って「一緒だね!」と屈託無く笑いかけた。 その笑みが伝染したのか2人の顔から緊張の色が抜け、微笑みがこぼれていた。そしてランカと一緒に「ごめんなさい」と謝られると、自然と毒気が抜かれて 「もう慣れてるよ・・・・・・」 と、ため息しか出なかった。 ここにランカの人心把握術の一端を見た気がした。一時、彼女のシンデレラ的な人気の急浮上を批判していた当時の批評家達が、彼女に会った途端に賛美に寝返るという現象が日常的に発生していた。 偽善のはびこる一種怪物のような芸能界で、彼女が歪みない素直でまっすぐな心を保っていけたのは、そんな本人には自覚のない非凡な才能のおかげなのだろうと、改めて納得した。 (*) 「改めましてこんにちは。私は時空管理局、地上部隊所属の八神はやて二等陸佐です」 「同じく、高町なのは一等空尉です」 「俺は惑星『フロンティア』の民間軍事プロバイダ『SMS』所属の早乙女アルト中尉だ」 ちょっとしたハプニングとランカのおかげでこんな状況における初対面の緊張感が抜けたようだ。口調は軍人のそれだが自然に挨拶が交わされた。 「・・・・・・それで、どうやってこの星に来たんですか?」 なのはの問いに、アルトは事の顛末を簡単に説明する。 自分の任務はランカを地球のマクロスシティまで送り届けることであった。しかし途中でフォールド機関が故障して、一番近くの不時着場所を探したらこの星だったということ。 「それじゃあの飛行機の燃料タンクを直して、燃料を入れなおせば自力で帰れますか?」 「いや。フォールドブースターを空間を抜けるときに無くしちまってな、さすがに何百光年も自力で帰ることはできそうにない。まぁここの銀河絶対標準座標を教えてもらえれば、地球に救難信号を送るつもりだ」 そのアルトのセリフによってはやてとなのはの間に、「やっぱり次元航行以前の文明みたいやね」とか「となるとフェイトちゃんの言う通り次元漂流者か・・・・・・」という憶測が飛び交う。 悪意はないんだろうが、なんかひそひそと話されてこちらの文明が劣っているとも聞こえる発言にアルトとランカはカチンときたが、彼らにとって今の問題はそこではなかった。 「次元航行?次元漂流者?いったい何の話だ?」 「えっと・・・・・・驚かないで聞いてな。この星は、太陽系、第3惑星『地球』なんよ」 アルトははやての言葉に、前振りに関わらず驚いてしまう。 「はぁ!?なにを言っている!衛星軌道上には防衛艦隊も防衛衛星もなかったし、呼びかけてもどこからも応答がなかったぞ!」 「多分2人とも、他の次元世界(パラレルワールド)から来たんだよ。」 はやてとなのははできる限りのことを話す。 この世界には次元世界(パラレルワールド)が存在していて、アルトとランカを乗せたVF-25は恐らくそのフォールド事故によって次元の壁を乗り越え、この世界に迷いこんでしまったこと。 自分達の所属する時空管理局の本局は、次元世界同士を繋ぐ次元宇宙の平和維持のために組織された軍・警察組織で、100年近く前からその職務を続けていること。 この世界には〝魔法〟文明が発達していること。 「ちょっと待て、魔法だと!?」 その単語のもつオカルト的な面に面食らったらしいアルトだったが、その魔法もデバイスなどのテクノロジーに支えられたものと知ったので、2人のカルチャーショックは軽かったようだ。なぜなら元より彼らはOTM(オーバー・テクノロジー・オブ・マクロス)という20世紀末の人が見たら十分魔法に見える技術を持っていたためであった。 (*) パラレルワールドの存在など早乙女アルトとしての18年の人生で積み上げてきた価値観の急な変わりように精神的に大きなダメージを負ったアルトだったが、なんとか踏みとどまる。 「・・・・・・とりあえず、ここは俺達の地球じゃないんだな?」 その確認になのはが頷く。 「じゃあ、お前達の地球はどうなんだ?」 「うーん・・・・・・私達の地球でもあんな足が生えるような飛行機はなかったなぁ・・・・・・」 この時空管理局本部ビルの置かれている第1管理世界ではなく、第97管理外世界出身というなのはが、外に駐機してあるVF-25を見ながら首をかしげる。隣に座るはやても覚えは無いようだ。 「バルキリーがないのか?それじゃあここや、そっちの地球の新・統合政府はどんな防衛政策を?」 「新・統合軍?聞き覚えないなぁ・・・・・・なのはちゃんは?」 はやてはなのはに振るが、彼女にも分からないらしく首を横に振った。 (おいおいマジで知らないのか!?) アルトの世界では新・統合政府や各移民船団の運営する新・統合軍なしではやっていけない。それは生きるためには物を食べなければならない。という真理にも近いものだった。 「1999年に落下したASS(エイリアンズ・スター・シップ)-01(後の初代マクロス)の技術を巡る戦争で、当時の世界各国が統合されてできた世界政府が地球統合政府だ。2009年に起こった第一次星間戦争で、ゼントラーディが加わって2010年に新・統合政府に改称したが・・・・・・」 こちらの説明に更に首を捻っていくはやて&なのは。 「えいえすえすわん?ぜんとらーでぃ?・・・・・・ん~私達の世界は今2009年だけど、私達の住んでた日本って国は64年間そんな大きな戦争はしてなかったよ」 なのはは答えるが、彼女の言ったある1つの単語がアルトの頭を真っ白にした。 「ニホン? ニホンってあの歌舞伎のある日本か!?それに2009年から64年前の戦争って太平洋戦争のことか!?」 「そっ、そうだけど・・・」 「なんや、日本を知っとるんかいな?」 たじろぐなのはの代わりにはやてが聞く。 「太平洋戦争は今なお語り継がれる伝説だ。」 2060年を生きる彼らからすれば太平洋戦争はすでに100年以上前の出来事。それらはもう歌舞伎の演目としての体を確立していた。例えば真珠湾奇襲を描いた『ニイタカヤマノボレ』や、硫黄島での玉砕を描いた『日本皇国に栄光を』などがある。しかし、残念ながらそれらは大幅に美化されていたりする。 自らの知る〝日本〟をアルトは熱を持って語りだす。それは、なのはの会った老夫婦やその筋の人が聞けば、「君のような若者があと百万人もいれば・・・」と涙するほどだろう。それほどに彼の知る日本は美化されていた。そしてそれゆえに、彼は地雷を踏んだ。 「2009年の日本はどうなってるんだ?やっぱりまだ経済成長が続いてるのか?」 (*) 少年の瞳は純粋だった。それゆえになのはもはやても口をつぐんだ。 アルトの世界では統合戦争によって前後の歴史が曖昧化している。そのため、日本については1990年代前のバブル経済から詳しいことはわかっていなかった。 そのため彼らの予想では、バブルの芽は中央銀行(日本銀行)の〝緩やかな〟公定歩合引き上げによって段階的な収束を迎え、マクロス落下の1999年まで持ち前の経済発展を続けたというのが定説だった。 無論第一次星間戦争を生き延びた日本人もおり、バブルが弾けて大不況に陥ったと主張したが誰もそれを信じなかった。 そんな〝バカなこと〟を器用な日本人がするわけがないと考えていたからだ。 しかし実際には中央銀行の急激な公定歩合引き上げにより市中銀行が企業への貸付をひかえ、次に資金を回収しようとした企業が一斉に土地や株式の売却に走り、地価及び株価は大幅に下落。こうして〝バカなこと〟は実際に起こり、バブルは崩壊した。 また、それに関連して経営の再構築などと称したリストラが進み、経済成長を支えた日本型終身雇用制度と年功序列制度も崩壊前夜だ。 その後第97管理外世界で〝失われた10年〟と言われるように、アルトの世界でも1999年にマクロスが降って来るまで変わらなかった。 これが真実だ。 それは2009年に到達した第97管理外世界の日本でも変わらない。 1度、期間面で「いざなぎ景気」を超えたなどという好景気が訪れたが、それは企業を潤すのみで、家計の収入を増やさない偽りのものであった。 また、アルトの知る日本人像はいわゆる〝古き良き時代の日本人像〟と酷似しており、最近増えてきた凶悪犯罪。助け合いの精神の低下。若者のモラルの低下等々。おそらく彼はこれらの事を知ったらさぞや失望するだろう。 しかし2人は彼の純粋な瞳を汚したくなかった。 そこではやては強引に話をねじ曲げる事にした。 「そんな事より! アルト君が日本を知っとる、ちゅうことはタイムスリップに近いけど、少しちゃうみたいやね」 「・・・そ、そうだね。多分うちに近い次元世界から来たんだ」 はやての機転になのはも乗る。おかげでアルトも論点を変えた。 「それじゃ結局、俺達の世界は見つかってないのか?」 そのアルトの質問に答えようとしたその時、部屋のドアが開いた。 そこには本局に連絡をしていたフェイトと、彼女の兄であるクロノ・ハラオウンがいた。彼の艦隊は確か一番近くの次元航行船受け入れ港で補給をしていて、報告のためにこの時空管理局本部ビルに来ていた。どうやら次元宇宙に浮かぶすべての世界にある程度精通している彼を連れて探す手間を省こうというのだろう。 もとより地上部隊である自分たちがランカ達に会いに来たのもフェイトが 「時間かかかりそうだからあの2人に事情を説明してきて」 という要請からだった。 (*) 「失礼、じゃましたかな?」 フェイトと共に登場した男がそう聞く。 「・・・あんたは?」 「私はクロノ・ハラオウンという者だ。この管理局では次元航行部隊の護衛艦隊(次元航行艦隊)、第3艦隊提督をしている」 そう言って彼は右手を差し出す。それを握り返すと、先ほどの質問を繰り返した。 「ああ、現在この宇宙座標に惑星『地球』の名を持つ世界はここを含めて確か83見つかっているが、どれも君達の世界とは違うようだ。・・・・・・こちらは助けてもらったのに、役に立てずすまない」 とクロノは頭を小さく下げた。 「マジかよ・・・」 そう呟きながら先ほどから楽しそうに話している4人娘を見る。 どうやら魔法に関する話で盛り上がっているようだ。 (あいつらもう打ち解けてるよ・・・・・・) それを見ると少し落ち着いた。まったく女性という人種のバイタリティーの高さには頭が上がらない。 「我々も全力で君達の世界を探す。だからどうか絶望せず、待っていてほしい。」 クロノが真摯な態度で言った。 「・・・・・・わかった。でもそれまで俺たちは―――――」 どうすればいい?と言おうとしたところ、話に夢中かと思っていたうちの1人、はやての口から突拍子のない提案が出た。 「もしよかったら、ウチらが新しく作る部隊に入ってけーへんか?」 「は、はやてあれは・・・・・・!」 と、その提案に口を濁すクロノ。 「実はランカちゃんからは超高濃度のAMFが展開されとったみたいなんよ」 聞き慣れない略語に、ランカは首を傾げ 「えーえむえふ?」 と繰り返す。 「そうや。『アンチ・マギリンク・フィールド』。略してAMFってのはな、空気中の魔力素の結合を阻害して魔法を弱体化する現象を作るフィールド魔法のことや。本当はクラスAAAのリンカーコア出力を持った熟練魔導士か、巨大なジェネレーターとか専用アンプがいるんやけど、これを見てみ」 そう言ってはやてはホロインターフェースを展開、操作する。すると部屋に比較的大型のホロディスプレイが出現し、何かの動画を再生する。よく見ると先ほどのライブの映像だった。 クロノは初めて見るらしく、 「なるほど・・・・・・これは威力絶大だ。特に〝キラッ☆〟というのが・・・・・・」 などと呟いている。 「なんやクロノくん、目移りか?」 「ば、バカ!そんなわけあるか!妻に謝れ!」 「はいはい♪」 クロノの赤面した反撃をサラリとはやてはかわすと、説明を続けた。 「それでこれを魔力素の結合を見えるようにするスペクトル・フィルターに掛けると―――――」 画面に何かが被せられる。すると全体的に薄暗くなったが、ランカを中心に背景がクリアな領域ができ、バルキリーのスピーカーがそれを増幅する様がみてとれた。 「この暗くなってるところが魔力素が自然に結合してるところで・・・・・・まぁつまり普通だと薄暗くなるはずなんや。・・・・・・こんな感じにな」 この部屋の監視カメラを呼び出したのか新たに浮かび上がったホロディスプレイに、この部屋の隅から映した映像が流れる。それは確かに薄暗い。試しになのはが魔力球を生成してみると、その桜色の球は画面では真っ黒になった。 「最初はあの飛行機のせいかと思ったんやけど、ランカちゃん自身も独自の発生源になっとるみたいやったし―――――」 ランカが独自に発生でき、バルキリーのあのスピーカーから出る普通と違うものは1つしかない。だからその原因はすぐにわかった。 「・・・・・・間違いなくフォールド波だな」 「え?」 集まった一同の視線に晒されながら淡々と理由を説明する。 「ランカはこっちの世界でもバジュラという異星生命体とフォールド波によってコンタクトできるんだ。VF-25・・・・・・バルキリーのスピーカーも宇宙空間で使えるようにフォールド波を振動媒介にして超光速で音を伝えるようにできてる」 (口で説明しても分かりづらいか) 皆の反応を見てそう思い、携帯端末のデータベースからフォールド波に関するデータを呼び出し、お互いの世界の共通部分である1999年代の第97管理外世界の規格に変換すると彼女のコンピューターに送った。 そうしてデータを元にコンピューター上でシュミレーションして原理を探るが、思ったような効果を発揮せず、またそれだけでは説明がつかないことに気づいた。 考えてみればランカは常に微弱なフォールド波を発しているが、救助活動中や今は妨害されていなかった。 つまり、フォールド波は関係ないか、他に要素があるのか。 そのヒントを発見したのはランカ自身だった。 「そういえば、私が歌い終わってから10秒ぐらいで暗くなっちゃうんだね」 芸の精進のためかデータ解析しながら試行錯誤していた自分達とは離れて、ライブ映像を見ていたランカがつぶやく。 「そうか!歌だ!」 「ああ!」 「「歌エネルギー!」」 ランカと声が唱和する。もちろん、クロノやはやてなど管理局勢は顔にハテナ(?)を浮かべていた。 歌エネルギー理論と呼ばれる理論は2045年にマクロス7の軍医であるDr.千葉の手によって提唱された。 これは人間が歌ったり、楽器を演奏したりすることで精神活動が活発化すると『サブ・ユニバース』と呼ばれる高次元エネルギー空間から我々の三次元宇宙に高次元エネルギーが流入、それが精神的・物理的作用を引き起こすというものだ。 その作用の具体例を出すと、人間の精神エネルギーであるスピリチアを回復させたり、物質の最小単位である量子を振動させて伝わるサウンドウェーブなどがある。 その理論は有名であったが、普通強力な歌エネルギーの発現者にそう出会うものではない。そのためほとんど省みられないが、ランカという少女は正真正銘の歌手であり、発現者だった。 そこで最も分かりやい科学的現象として量子の振動(サウンドウェーブ)を要素として加えてみることにした。 「ちょっと待って!歌にほんとにそんな力があるの?」 なのはが信じられないといった顔で聞いてくる。相当なカルチャーショックを受けたようだ。無理もない、ただの空気の振動、ただの言葉と変わらない。と考えていた歌にそのような力があるというのだから。 「・・・・・・じゃあランカ、ちょっと歌ってみてくれないか?」 ランカ自身も真相は気になるようで、こちらの要請に快く承諾するとデビュー曲「アイモ」をコーラスする。 『アイモ アイモ ネーデル ルーシェ―――――』 するとどうだろう。検証のためなのはの手のひらに生成されていた魔力球は彼女の驚きと共に瞬時に掻き消え、監視カメラの映像も一点の曇りないクリアな映像となった。 こうして歌が関係することは立証され、シュミレーションによる検証を続行する。 「ランカ、お前は何チバソングあるんだ?」 「え~と、確か平常値が6万、最高値が10万だってカナリアさんが・・・・・・あ!これ秘密だった・・・・・・」 ランカは口を塞ぐがもう遅い。反応兵器と同等、またはそれ以上の価値を持つ歌手という〝兵器〟の科学的スペックは秘密などという生易しいものではない。それは最高峰の軍事機密(TOP SECRET)の域にある。 そんな情報をコロッと出してしまうランカのうっかりさには呆れるほどだが、そんなところが彼女らしく、それがまた魅力であった。 「・・・・・・まぁ、必要なんだ。許せ。さて、仮に平常値の6万チバソングだとすると量子の振動数はサウンドウェーブに平行に―――――」 歌エネルギー理論の公式に当てはめて導き出した値を入力するはやてに伝える。 そうして開始されたシュミレーションは見事その能力を白日の下に晒した。 魔力素という素粒子の変換エネルギー体である魔力は、まず次元干渉を起すフォールド波によってエネルギー構成を乱され、バグ(穴)のようなものを作る。それだけなら問題はないのだが、そこに量子を振動させるサウンドウェーブが加わると一転、共振を起してバグから構造全体を崩壊させる。結果、制御不能に陥り、霧消するように魔力が消え、魔力素に戻ってしまうようだった。 「それで・・・・・・この原理を何に使うつもりだ?」 ランカの歌の予想を上回る威力に、周囲から彼女を庇うようにして立つ。 最低1万チバソングでなければこの現象は発動できないようだが、ランカ単体でもその効果範囲は半径500メートルに及ぶと計算結果に出ている。 彼女達の話によれば、この世界では軍事から民生に至るまで魔法に頼っているところが多いという。しかしランカの歌があれば戦術レベルでそれらすべてを無力化することなど造作もない。フォールドスピーカーを搭載したVF-25を併用すれば余裕で戦略兵器たり得た。 「さっきの話の続きやけど、今管理局システムは本局に重きをおいてミッドを守る戦力が乏しくなっとるんや。地球全体は各自治領にそれぞれ自衛組織があるし、次元宇宙レベルの凶悪な事件は起こらんけど、管理局の本部のあるミッドじゃそうはいかん。管理局の敵対組織からの攻撃に備えなきゃいけないんや。でも近年の地上部隊は、予算の減少による練度の低下に喘いでいて、しかも動かすコストが治安隊に比べて高いことが悪循環に繋がっとる」 (フロンティアでの新・統合軍のようだな) と、軍に籍を置いていた時期があり、同じような経験もしたためそれには深く同情した。 また、これと同時にはやての声に徐々に熱がこもっていくのを敏感に感じ取っていた。 「まぁ今日ランカちゃんのおかげでその問題も劇的に改善されそうなんやけど、全快するには少なくとも1年はかかるはずや。そこで所属は本局でも、ミッドを守るための部隊。それがウチの考える新しい部隊の構想や。艦船がないから本局でも通常の10分の1の予算しか出してけーへんけど、まだ陸士部隊みたいな地上部隊よりは多い。それで高ランクの魔導士を隊長にすえて、残った予算で未来の管理局を引っ張っていく人材を育てるんや」 「・・・・・・そこでランカの歌を何に使うんだ?」 「そう、重要なのはそこや。新しい部隊には当然ミッドの治安維持も任務に入っとる。そんでミッドで起こる大概の事件は魔法を使ったものや。だから、正面から行ったら大被害を被るような場面で、ランカちゃんが歌ってくれれば相手も改心してくれるかもしれんし、突入も容易になるやろ? それで安全無事に犯人確保。めでたくスピード解決って魂胆なんやけど・・・・・・どうやろか?」 「・・・・・・つまり、戦争や人殺しには使わないんだな?」 彼女が悪人には見えないし、悪意も感じなかったが、グレイスに騙されたフロンティアの二の舞は御免(ごめん)なため、これは外せない確認事項だった。 「もちろん!管理局は元々平和のために質量兵器を禁止したんや。今頃戦争なんてウチらがさせん!」 はやてはなのはとフェイトを脇に抱える。そしてクロノすら巻き込んで大見得をきった。 いつの間にかランカもそれに参加している。どうやら彼女はもう決めたようだ。 当事者のランカが乗り気ではもうどうにもならない。 「・・・・・・わ、わかったよ。はぁ、手伝ってやるさ・・・・・・手伝えばいいんだろう・・・・・・」 しぶしぶ答えると、4人娘の間に万歳の声が高らかに唱えられた。 シレンヤ氏 第2話 その2へ
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マクロスなのは 第19話『ホテルアグスタ攻防戦 後編』←この前の話 『マクロスなのは』第20話「過去」 オークションが終わって隊長陣の警備任務が解けた頃、地上部隊の技研の調査隊がすでにガジェットの破片の調査を開始していた。 「・・・・・・えっと、報告は以上かな?現場の調査は技研の調査隊がやってくれてるけど、みんなも協力してあげてね。あとしばらく待機して何もないようなら撤退だから」 普段の動きやすい青白の教導官の制服に戻ったなのはが、フォワードの4人を前に告げる。 ティアナ達は返事をすると、きびきびと陸士部隊の土嚢の撤去や調査隊の手伝いに散っていった。 (*) ホテル内の喫茶店 そこには警備を終えて一息入れているフェイトとはやて、そしてオークションが終了して手持ち無沙汰になったユーノが仲良く談笑していた。しかし、そこで少し寂しい話題が提供された。 「そう・・・・・・ジュエルシードが・・・・・・」 「うん。局の保管庫から地方の施設に貸し出されてて、そこで盗まれちゃったみたい」 「そっか・・・・・・」 寂しそうな顔をするユーノ。仕方ないだろう。彼がその災悪の根源であるジュエルシードを掘り出した張本人なのだから。 「まぁ、もちろん次元の海は本局が目を光らせているし、地上も私たち六課が追っていく。だから必ず見つかるよ」 「・・・・・・うん。ありがとう」 そこに、この話題には沈黙を決め込んでいたはやてが話に介入してきた。 「・・・・・・実はまだ非公開なんやけどな、この前ガジェットについての報告書が回ってきたんや」 元々物理メディアだったらしい。ホロディスプレイに表示される報告書の表紙。提供は地上部隊・技術開発研究所。しかし表紙には『SECRET(シークレット)』の印が押されている。 「・・・・・・これって僕が見てもいいのかな?」 ユーノが戸惑いながらはやてに聞く。SECRET(機密)の印が押されている書類は規定では管理局の佐官以上でなければ閲覧すらできない。 フェイトですら一等海尉なのに、管理局員でもない民間人に見せていいものではないはずだった。 「大丈夫や、問題あらへん。どうせもうすぐ公開される。・・・・・・でや、まずこの動力機関なんやけど、どうやら簡易化されたジュエルシードみたいなんや」 「「!!」」 「どうやら泥棒さんはジュエルシードの簡易量産に成功したみたいやな」 ホロディスプレイに映し出されているバッテリーに相当する部分の中枢は、ジュエルシードに間違いなかった。 「でも悲観することはあらへん。これと同時にガジェットの製作者も判明した。それが現在、違法研究で広域指名手配されているこの男─────」 ホロディスプレイの画像が切り替わる。瞬間、フェイトの顔色が変わった。 「スカリエッティ!?」 「ん?フェイトは知ってるの?」 ユーノが問う。 「うん。なのはが次元航行部隊、機動課(ロストロギア探索を主な任務にする部隊)に協力していた5年前に。その時、なのはとヴィータ、それと私で彼の秘密基地を強襲したの───── ────────── フェイトは何十体目になるだろう魔導兵器をバルディシュで一閃のもとに葬ると、周囲を見渡す。 周りには太古の遺跡があり、岩でできた建造物が朽ちている。 またすでに魔導兵器の大半は撃破されて、雪の積もる大地に遺跡同様構成部品をさらしていた。 「ヴィータちゃん!」 「おうよ!」 「「これでラストォォ!!」」 上空からのヴィータの魔力球が敵を囲むように着弾。追い詰められて集まった敵を、続くなのはの砲撃で全て葬った。 「ナイスショット。2人とも!」 フェイトの掛け声に、なのはとヴィータはハイタッチした。 (*) 「さて、ここが入り口だね」 フェイトの撫でたその扉は鋼鉄製で、なのはの砲撃でもなかなか破れそうにない程に頑丈だった。 しかし押しても引いてもダメ。無論スライドさせることもできず、開けられなかった。当然だが鍵がかかっているようだ。 「『鍵開け』するから、2人は周りの警戒をお願い」 「うん、お願いね。フェイトちゃん」 「周りは任せときな」 ヴィータとなのははそれぞれ別方向に飛んでいった。フェイトはそれを見送ると高ランク魔法である『鍵開け』を実行する。 この魔法は電子ロックから物理的な鍵までほぼすべての鍵に有効だが、時間がかかるのが難点だった。 フェイトが動けないそんな時、それは起こった。 「なのは!後ろ!」 「え・・・・・・!?」 ヴィータの警告に振り返るなのは。彼女はその半透明の何かを見切ると間一髪で回避。空に退避する。 そしてそれはヴィータの放った鉄球によって大破、沈黙した。 しかし姿を晒したそれが足の付いた地上型だったことや、それが撃破された安心感でなのはは1つの可能性を見逃していた。 『地上型がいるなら、理論上より簡単に姿を消せる航空型がいるかもしれない』と言うことを。 寸前で気づいたなのはは、優秀の一言に尽きる。そして普通の状態であれば問題なく回避できたはずの攻撃。しかし溜まった疲労は彼女の回避行動を寸秒遅らせた。 「「なのはぁぁぁ!!」」 フェイトは確かに見た。空に浮かぶなのはの、小さな体を貫く刃を。 彼女の赤い鮮血によって目視出来るようになった鋭い刃はまるで悪意の塊が友人の体から〝生えた〟ように見えた。 それは人間ならば絶対傷ついてはならない器官の納まっている胸の真ん中から生えていた。 次の瞬間には彼女の体は5メートルほど落下。その衝撃は雪が受け止めるが、ドクドクと怖いほど流れ出る鮮血が雪を染めた。 力なく横たわる大親友の姿と半泣き顔になって彼女に駆け寄るヴィータの姿がぼやけていく。 目の前の光景に現実感が失せていき、いつの間にか視界はブラックアウトしていた。 ────────── 「そんなことがあったんだ・・・・・・」 ユーノが呟く。 この案件は『TOP SECRET(最高機密)』とされていて、彼女の経歴を見てもその事実は確認できず、半年近い入院期間は『持病の悪化に伴う病養』となっている。 そのため家族など極めて親しい者しかこの事実を知らなかった。 だがここで1つ疑問が浮かぶ。 『なぜたった1人の撃墜をそうまでして隠さねばならないか?』という疑問が。 実はすでに流星の如く突然現れ『エース・オブ・エース』という二つ名で呼ばれていたなのはは世間一般に知られ、ヒーローとして祭り上げられていた。 事実それだけの実績もあったし、実力もあった。クラスSのリンカーコアを有しているいわゆる超キャリア組でも、たった14歳で一等空尉に登り詰めるのは容易ではない。 その頃のフェイトやはやてですら、両名とも地上部隊で三尉相当の階級であったことが比較としては適当だろう。(しかし断じて2人が無能な訳ではない。フェイトの所属する本局は事件が少なく、1発が大きい。はやては上級士官を目指し、ミッドチルダ防衛アカデミーの学徒となっていたためだ) そんな出世街道まっしぐらで国民的人気を誇る彼女が撃墜され、瀕死の重傷を負ったのだ。 それがどんな理由であれ公表されれば、管理局全体の士気と信用に関わる。こうなると管理局としては隠さざるをえなかった。 「そう。なのはは今でこそ元気に振る舞ってるけど、一時は「二度と歩けないんじゃないか」って言われて・・・・・・」 俯くフェイト。その背中からは、なのはを撃墜したスカリエッティに対する負のオーラが立ち昇っていた。 「それにあいつは母さんの─────プレシア母さんの研究を続けているらしくて、それがわたしには許せないんだ」 フェイトの母であるプレシア・テスタロッサは、かつては管理局の大魔導士として日夜研究を続けていた。 しかしある日、彼女の実の娘であるアリシアを事故で亡くしてしまった。そこで悲しみに暮れた彼女が手を出したのが禁忌の技術として知られる全身のクローン技術と人造魔導士技術だった。 こうして誕生したアリシアのクローン、それが彼女『フェイト』だ。しかし結局プレシアには受け入れてもらえず、とても悲しい思いをしていた。 「・・・・・・まぁ、とりあえずガジェットの製作者はそのスカリエッティや。ゴーストは第25未確認世界の元の設計から反応エンジンを主機に据えた独自のものらしい。「使われてるオーバーテクノロジーと設計が管理局から漏れたのか?」って揉めてるみたいやけど、当面六課はスカリエッティの線で追っていく。だからユーノくんは無限書庫で関連しそうな情報を調べて欲しいんや」 (そうか。わざわざ機密を聞かせたのはそういうことか) ユーノは納得すると、その依頼を引き受けた。そこに1人の女性が喫茶店の入り口に現れた。 「あ、なのは・・・・・・」 「久しぶりぃ~ユーノくん、元気だった?」 その笑顔に一点の曇りなく、さっきのフェイトの話が嘘だ。という錯覚をおぼえた。 「あ、なのは丁度よかった。これから交代しに行こうと思ってたところなんだけど、交代できる?」 「うん。フォワードの4人は調査隊と陸士さん達の手伝いに行ってるから見てきてあげて」 「わかった。はやても行こう」 「了解や。じゃあお2人さん、〝ごゆっくり〟ぃ〜」 はやてはそう意味ありげに言って外に出ていった。 (はやてここでそのセリフじゃ気まずいよ~!) こころの中で涙声になってしまう。 2人っきりの現状でそのセリフを吐かれては、どうしても彼女を意識してしまうではないか! それについさっきまでその彼女の話をしていたのだ そうでなくとも相手は意中の女性であるというのに・・・・・・ その想いを本人はともかく、周囲に隠し果せているつもりの青年は 「いってらっしゃ~い」 と見送るなのはに視線を向ける。―――――と同時に彼女が振り返った。 「本当に久しぶりだね!ユーノくん!」 「う、うん・・・・・・」 (ダメだ!まともに顔見られない~!) しかしいつまでもこうしているわけにもいかない。相手がいつも通り接して来てくれている以上、こちらもそれに応えなくては嘘だ。 ユーノは何とか自分に言い聞かせながら顔を上げる。 するとどうだろう?なのはもこちらの事を直視しているなどということはなかった 彼女は少し視線を逸らしつつ、頬を赤らめて口を開く。 「えっと・・・・・・今日は偶然、なのかな?」 (か、可愛い・・・・・・) ユーノはそんな幼なじみの仕草に無意識のうちに胸を高鳴らせていた。だがお互いに意識し合っていたらしいことがわかって反対に落ち着くことができた。 「うん。そうだと思う。聖王教会の騎士カリムからの直々の依頼でね」 カリムによれば、どうやらはやてが 「考古学者さんを探しているんだけど、いい人紹介してくれない?」 というカリムに自分を紹介したらしかった。 「それにオークションの鑑定も本命の1つなんだけど、騎士カリムはこの玉の調査を「どうしても」ってお願いされたんだ」 ユーノの手にはさっきフェイトが落下から救った紫色の水晶が乗せられていた。 (*) 所変わってはやてとフェイトの2人は出入り口の玄関で2人の人物と鉢合わせしていた。 「お、アルトくんにさくらちゃんやないか」 「よぉ。やっと見つけたぜ」 「なんや? 探しとったんか?」 はやての問いに、さくらが答える。 「はい。ちょっと今回の敵がどうも妙だったので、そちらはどうだったのかな?と思いまして」 「そっか・・・・・・実はこっちも妙な報告が上がって来ててな。立ち話もなんやし、もっかい喫茶店に行こうか。フェイトちゃんは外の方をよろしく」 ことの成り行きに戸惑うフェイト。なぜなら今あそこは───── 「・・・・・・それはいいんだけど、今喫茶店に行くのはちょっと・・・・・・」 「あ、そうや。なのはちゃんが─────」 「お、なのはもいるのか。丁度いい。頼みたいことがあったんだ」 スタスタ・・・・・・ 喫茶店に向かって歩いていく2人。それを見たはやては人生でそうない大ポカをしたことを悟った。 5日前にカリムにユーノを紹介したのも実は伏線だった。 カリムにその日 「ある〝物品〟の調査ができそうな人と、ホテル『アグスタ』のオークションで鑑定してくれる人を探しているのだけど、いい人知らない?」 と問われたはやては、迷わずユーノの名を出していた。 能力面になんの問題もなかったし、なにより都合がよかった。ユーノはなのはの撃墜事件以降お互い顔を合わせた事がない。 それはなのはが 「こんな姿を(彼に)見せて心配させたくない」 と言ったことにある。 またユーノも、以前地上本部ビルで偶然会った時、仕事の都合でなのはと全く会えないと嘆いていた。 そこではやてはお節介かもしれないがこんな方法をとったのだった。しかし───── (どないしよう!?2人をくっ付けるなんて簡単やと思っとったのに!) そう、このままアルト達が行けばせっかくの2人きりの雰囲気が台無しになる。 はやての頭はフルドライブ。脳内緊急国会を召集、急いで審議が始まった。 第1案、今すぐ呼び止める。 しかし野党の 「何か言い訳はあるのか?」 という反論と牛歩戦術によってタイムオーバー。廃案。 第2案、なのは達を通信で呼び出す。 衆議(直感)院は通過。しかし有識者(理性)会である参議院が 「それでは本末転倒ではないか!」 という理由で否決。衆議院での再可決は見送られ廃案。 第3案、本当のことを話す。 内閣は衆議院解散(思考停止)を盾にごり押し、参議院を通過させる。しかし肝心の衆議院の大多数が 「なんか嫌な予感がする・・・・・・」 と独特の理由で難色を示し、否決。廃案となった。 それによって脳内人格八神はやて内閣総理大臣は伝家の宝刀を行使。衆議院を解散した。 こうして思考停止に陥った〝はやて〟は、『これだから人間は何にも決まらんのや!』と自らの脳内人格(政治家)達を批判する。そして───── (ええい!もう、なるようになれ!) 彼女はついに最終手段である神頼みに入った。 (どうかお願いします。神様、仏様、夜神月様─────あれ?) しかし天はご都合主義(クリスマスも祝うし、正月には神社・お寺に参拝に行くため)で基本的に無信教の彼女を見捨てていなかったようだ。 なんとアルト達が乗ろうとしていたエレベーターになのはとユーノの2人が乗っていたのだ。 「あれ?どうしたんだ?喫茶店にいるんじゃなかったのか?」 「ああ、うん。そうなんだけど人がいっぱい来ちゃって、席が足りないみたいだったから出てきたの」 なのはのセリフを聞いた時、はやては神の存在を信じたという。 自分達が席を離れた時、まだ客は自分達しかいなかった。でなければ、公衆の場で堂々と機密情報の漏洩などやれるはずがない。当に神のみわざといえるピンポイントさだった。 「そうですか・・・・・・どうしましょうアルト隊長?機密もありますし、ここはまずいと思いますが・・・・・・」 「う~ん・・・・・・」 頭をもたげるアルト。胸をなでおろしていたはやては彼らに他の場所を提案した。 「じゃあヴァイスくんのヘリに行こう。あそこなら機密も保てるし、この人数でも十分や」 この案は即採用され、新人たちの所へ行くフェイト以外はヘリに向かった。 (*) 「―――――で、お前は誰なんだ?」 ヘリに入るとアルトは単刀直入にユーノに問うた。 「彼はユーノくん。私達の幼なじみで、管理局の情報庫である無限書庫の司書長をしてるの」 「なるほど。俺はフロンティア基地航空隊の早乙女アルトだ。ついこの前まで六課で世話になってたんだが、異動になってな。よろしく」 「こちらこそよろしくお願いします。・・・・・・ところでそちらの方は?」 ユーノがフロンティア基地航空隊のフライトジャケットを着た黒髪の少女を示す。 「彼女は俺の小隊の2番機を務める工藤さくら三尉だ」 「はじめまして、真宮寺・・・・・・いえ!工藤さくらです」 なぜかは知らないが彼女がいつも使う偽名を名乗ろうとしたが、アルトが先に紹介してしまったことに気づいたのか軌道修正した。 一方ユーノはなぜか『なるほど』という顔になった。 「はじめまして。やはりあなたがあの〝工藤家〟の当主になられたさくらさんですね。騎士カリムからお話は伺っております」 ユーノがおずおずと頭を下げる。 「そんな、頭をお上げになってください。あたしそんなたいそうな者ではありません。ただ工藤家に生まれてきただけの小娘ですよ」 (工藤家?あいつの家そんなに有名なのか?) しかし周りを見ると六課のみんなも知っていたようだった。 そこでよく知っていそうなはやてに念話を送る。 『(すまん。水をさすようだが、工藤家ってなんだ?)』 『(・・・・・・なんや知らんかったんかいな。通りでさくらちゃんを普通に使ってると思った)』 すると彼女は懇切丁寧に説明してくれた。 工藤家とは100年前のミッドチルダ、ベルカ間の全面戦争を終わらせた者の末裔らしい。 元々聖王教会とはその彼らが作ったもので、伝承によれば今では主神として祭られている聖王の力を借りて戦争を終わらせた。 聖王は当時の核兵器や衛星軌道兵器、ベルカ側陣営による隕石の落下すら無力化し、この地に平和を呼び込んだという。 映像や写真すら残っていないが、小学校の教科書にすら載っているこの実績ある神を崇める者も少なくない。そのため聖王を使役した工藤家は代々神との対話役として大切にされていた。 そして工藤家は管理局の魔導士になることが伝統とされており、彼女をバルキリー隊へ推薦をしたのは聖王教会らしい。 さくらはこの工藤家の末裔で、両親が早くに事故で死んでしまっていた。 そのため聖王教会に所属する騎士カリムは工藤家最後の1人になってしまった彼女の身を案じているという寸法だったらしい。 また、あの偽名も工藤家という事を隠したかったのだろう。との事だった。 (育ちがいいとは思っていたが、まさか本物のお嬢様とはな・・・・・・) アルトは彼女のトレードマークである大きな赤いリボンで結わえた麗しい黒髪を見た。するとそれが右に流れていき、さっきまであった場所が少し赤く染まった肌色に変わった。彼女が振り返ったのだ。 「・・・・・・どうしました?」 「いや、なんでもない。それでな、はやて、こっちではゴーストの連中と交戦に入ったんだがいつもより動きが良かったんだ。ここまでは聞いてるか?」 「うん、シャマルから報告は受けとるよ。なんでも賢くなったとか」 「そうだ。それでうちの3番機が早まって特攻しやがった。そしたら奴らどう対応したと思う?」 アルトの問いかけになのはが 「普通に考えたら迎撃だと思うけど、違ったの?」 と問い返す。 「違うんだよ。アイツらギリギリまで逃げて、激突寸前に自爆しやがったんだ。お陰でバカなまねした3番機は無事だったんだが、どうも解せねぇ」 「なるほど・・・・・・」 はやては腕組みしながら自らの考えを更に補強した。 今回ガジェット達を操作した召喚士は、本気で人死(ひとじ)にが出ることを恐れているらしい。 でなければ無人機とはいえ〝タダ〟ではないはずだ。トチ狂った敵のために自爆など、そうそうできることではない。 「聞いた話によればそっちも何かあったみたいだが、何があったんだ?」 アルトの問いに、はやてはガジェットの非殺傷設定と戦闘員への選択的攻撃について話す。 「─────と、こういう訳で陸士部隊の被害が少ないのや」 はやてはヘリの窓から近くに設営されている野戦病院を指さす。 確かにそこにいる陸士達はいずれも軽傷で、陸士部隊の救急搬送用のドクターヘリも駐機したまま、飛び立つ様子はなかった。 「でもおかしいよ。目的がわからない。こっちの被害がないんじゃ『本気を出せばこんなんなんだ!』って言いたい訳じゃなさそうだし・・・・・・」 ユーノの言に、なのはも 「そうだよね・・・・・・」 と同意する。 「やっぱり、シグナムが言っとった車上あらしが怪しいんかな・・・・・・」 はやての呟きに視線が集まる。 「どんな車上あらしだったの?」 「うん、実はな、人間じゃなくて召喚獣や使い魔らしいんや」 はやてはシグナムからの報告を全て話した。手法から撤退まで。ちなみにトラック自体は盗難車であることがわかっていた。 「この流れで行くとその召喚獣が本命っぽいね」 「でも、何を盗んだのかわからないのが困りますね」 「「う~ん・・・・・・」」 一同頭を捻るが、そこまでだ。 ホテル側やシャマルとシグナム、そしてAWACSに聞いてもそれ以上の情報はなかった。 こうなると、今後は調査隊の報告を待つしかなさそうだった。 (*) 「ところでアルトくん、なんかなのはちゃんに頼みごとがあったんやなかったか?」 「え? アルトくんどうしたの?」 考え込んでいたなのはがアルトに向き直る。 「ああ。それなんだがな、さくらがお前のところで1週間でいいから戦技教導してくれって言うんだ」 えっ!?となるなのはにさくらが畳み掛ける。 「お願いします!今日アルト隊長や天城さん─────僚機を守りきれなくて・・・・・・あたし、もっと強くなりたいんです!やる気はありますから、どうかお願いします!」 深々と頭を下げるさくらになのはは困った顔をした。 「え~、う~ん・・・・・・アルトくんやミシェル君には教えてもらえないの?」 「いえ、アルト隊長にもミシェル隊長にもよくしてもらっています。・・・・・・ただミシェル隊長は長距離スナイピングしか教えてくれないし、アルト隊長も主戦術が高速機動による撹乱と誘導弾との連携攻撃なので、あたしの特性に合わないんです。・・・・・・あっ、アルト隊長、全く役に立たないなんて言ってませんからね!」 あたふたしながら否定するさくらに、アルトは 「仕方ないさ。人それぞれの特性があるんだから」 と流した。 「そっか・・・・・・でも私はうちの新人達の面倒を見てあげなきゃいけないからなぁ・・・・・・さくらちゃんは何がやりたいの?」 「近・中距離での機動砲撃戦です。今日の戦いで、長距離からの援護狙撃という戦術に限界を感じたんです」 長距離からの狙撃にはどうしてもタイムラグが出てしまう。そこがスナイパーの腕の見せどころだったりするが、彼女には今が限界だった。 さくらの言った戦術はなのはの十八番とも言える戦術で、彼女が魔法を手にしてから10年間磨いてきた戦術機動だった。 「だったら1週間、なんて中途半端な期間はダメだね。さくらちゃん、3週間でも頑張れるかな?」 「はい!もちろんです!!」 さくらが嬉々として応える。なのはは頷くと、人指し指と中指を立てていわゆる〝ピース〟の動作をすると続ける。 「でも条件が2つ。まず1つ目に、アルトくんがさくらちゃんの面倒をみてあげること。わたし、魔導士としてのスキルしか教えられないから、それをバルキリー用に転換してあげないと」 アルトは仕方ないな。と肩をすくめる。 「2つ目に、どうしてもうちの新人の教導がメインになっちゃうから、教導は早朝と夕方ぐらいしかできないんだけど、それでもいい?」 「はい、構いません!お願いします!」 「うん、いい返事。明日の早朝には始めたいから、部隊に帰ったら荷物をまとめて、アルトくんと一緒においで」 「はい!ありがとうございます!」 さくらは最敬礼して言った。 これが地獄への入り口であった。 To be continue・・・・・・ ―――――――――― 次回予告 試験駐屯を名目に機動六課に派遣されるサジタリウス小隊 しかし開始されたさくらの教導はあまりに――――― 次回マクロスなのは第21話「サジタリウス小隊の出張」 『なのはさんが、あんな人だったなんて・・・・・・』 ―――――――――― シレンヤ氏 第21話へ
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マクロスなのは 第17話『大宴会 後編』←この前の話 『マクロスなのは』第18話「ホテルアグスタ攻防戦 前編」 「みんな、今日の任務はホテル『アグスタ』の防衛任務です。まず─────」 なのはがフォワード4人組を前に説明する。 今なのは、フォワード4人組、シャマル、リィン、ザフィーラにフェイト、そしてはやてを乗せたヴァイスの大型ヘリは、そのホテルに向かっている最中だった。 1週間前にレジアスの公表したこの防衛任務は地上部隊初の陸士、空戦魔導士そしてバルキリー隊の正式な三位一体の合同作戦となるようセッティングされていた。 編成表によれば陸上戦力は何かと因縁が深い第256陸士部隊1個中隊(150人)。航空戦力は首都防空隊に名を連ねる第16、第78空戦魔導士部隊のAランク引き抜き(50人)部隊が展開する。 また特別戦力として機動六課(12人)、フロンティア基地からはスカル、サジタリウス両小隊(7人7機)が投入された。 ことに、陸上と航空戦力合わせて200人以上という、まさに壮観と言っていい防衛体制になっていた。 「─────このように私達は建物の警備の方に回るから、前線は昨日から守りについている副隊長達の指示に従ってね。あと地上には陸士部隊が1個中隊展開しているけど、気を抜かないように」 「「はい」」 前線の4人は応えるが、キャロは何か質問があったようだ。 「あのぅ・・・」 と手を挙げている。 「どうしたの?」 「はい。あの、さっきから気になってたんですけど、シャマル先生の持ってきた箱って何ですか?」 突然話を振られたシャマルは、足元に置かれた3つの箱に視線を送り 「ああ、これ?」 と確認すると、笑顔で言う。 「隊長達のお仕事着♪」 その口調はどこか楽しげであった。 (*) 11人を乗せた汎用大型輸送ヘリ『JF-704式』はそれから60分後、普段はこの空域の民間機を担当するアグスタ側の管制エリアに入った。 『こちら管制塔。貴機の所属を述べてください』 その通信にヴァイスが応じる。 「こちら時空管理局本局所属、機動六課のスターズ、ライトニング分隊です。AWACSとの認識番号は3128T(さんいちにいはちチャーリー)」 『・・・・・・確認しました。駐機はホテル側の駐機場が満員なので、臨時に作られたE-5エリアの駐機場にお願いします』 「了解。管制に感謝する。オーバー」 ヴァイスは通信を終えると、手元のパネルを操作して周辺のマップを確認する。 ホテル周囲は利便性から今日だけ管理局が東西南北3、5キロメートルに渡って500×500メートルで区切っている。それは 北から南に向かってアルファベット順に。西から東に向かって数字順になっていて、管制官の言っていたE-5エリアとは中央のDー4エリアにあるホテルから、南東に100メートルほど離れた所にある空き地のことだった。 「どう?ヴァイスくん、あとどれくらいで着くかな?」 後ろからなのはの声がする。 やはりとび職(少し違うか?)。閉鎖空間に1時間というのは苦痛なのだろう。 「あと5分ぐらいで着陸しますよ。もうちょい待ってくださいね」 後ろから 「「は~い!」」 という元気な声が聞こえる。なのはの声だけではない。乗客全員の声だ。 よほど自由を心待ちにしているらしい。 (まったく。まるで幼稚園の先生にでもなったみたいだぜ) 元気あふるる返事に肩が軽くなった思いのヴァイスは、レーダーに視線を落とした。 周囲には民間機、管理局の機体が入り乱れている。その内の1機がこちらに近づいてきた。このIFFは───── 『こちらフロンティア基地航空隊、サジタリウス小隊の早乙女アルト一尉だ。3128T、貴機の護衛に来た』 (*) 隣にヴァイスのヘリが見える。 ガウォーク形態なので、ヘリと同じ速度になることもお手のものだ。 (少し無理してヘリの護衛を志願した甲斐があるってもんだ) アルトは久しぶりに六課の面々に会えそうだ。と思い、笑みを溢した。 『こちら3128T、護衛に感謝する。あ、それとアルト、今度バックヤードの連中と飲み会があるんだがお前もどうだ?』 ヴァイスの軽口も聞いて久しいアルトはコックピット内で破顔して答える。 「バカ言うな。何度も言ったろ?俺はまだ未成年だって」 『ハハハ、そうだったな。ん・・・・・・あー、ちょっと待ってくれ』 どうやら向こうで何か受け答えしているようだ。モニターで拡大されたヘリのコックピットに、人影が現れた。 『─────なんかなのはさんがおまえに話があるんだってよ。今切り替える。・・・・・・上手くやれよ』 ヴァイスが小さな声で言った最後の一言が気になるが、応答する余地もなく『ブッ』という耳障りな音と共に相手の無線端末が切り替わった。 『あー、アルトくん?』 「あぁ、俺だ。どうかしたのか?」 なのははこちらのいつもの調子に安心したようだ。〝ふぅ〟という吐息が聞こえる。 『うん、ちょっとこの前のことでお礼を言いたくて・・・・・・』 「この前の?」 『その・・・・・・宴会の時の・・・・・・』 (ああ、それか) 宴会の騒動以降、まともな状態のなのはには会っていない。最後に見たのは基地に帰る際、休憩所に見舞いに行った時だ。 ちなみにその時のなのはは、気持ち良さそうにすやすや寝息をたてていた。 『あの、わたし、この前はとんでもない事を─────』 赤面するなのはの顔が浮かぶようだ。だが、残念ながら光の関係上、ヘリのコックピット内は見えなかった。 「確かにあれは凄かったな・・・・・・だが安心しろ、なのは」 『へ?』 「あの時メサイアに録画されてたガンカメラの映像は、一晩〝使った〟だけだから」 『え!?ちょっ、ちょっ、アルトくん!〝使った〟って・・・・・・あの、その、えっと・・・・・・なに言ってるの!!』 声がうわずっている。よほど動揺しているらしい。ひとしきりその反応を楽しんだアルトは『このぐらいにしておいてやるか』と切り上げる。 「すまん、ウソだ。安心しろ。そんなことに使ってない。メサイアのガンカメラの記録はすぐに消したよ」 そのセリフに落ち着いたなのはは 『そ、そうだよね。はぁ、びっくりした・・・・・・』 とため息をついた。しかしそれはなぜかほんの少し落胆して聞こえた。 『・・・・・・でもアルトくん、以外と下世話なんだね』 「あら、妖精は下世話なものよ・・・・・・ってこのセリフは役者が違ったな。まぁ気にするな」 アルトは笑うと、なのはもつられて笑った。 『─────ふふ、まぁ、とりあえず1つ言っとかなきゃね。ありがとう』 「ああ。お前を助けるために、こっちは命を張ったんだ。身体は無理せず大事に使えよ。お前に何かあった時、悲しむのはお前1人じゃないんだ。はやてやフェイト、もちろん俺だって。それをよく覚えておいてくれ」 『うん、りょうかい』 なのはの砕けた感じの声と共に無線は切られた。 (*) 「なんの話をしたの?」 キャビン(客室)に戻ってきたなのはにフェイトが問う。 「うん。ちょっと、宴会の時のお礼をね」 なのははそう言って微笑んだ。 (*) 「なのは~準備できた~?」 更衣室と化したJF-704式に向かってフェイトが呼びかける。 すでにフォワード陣や守護騎士陣はそれぞれ任務のために防衛部隊とホテルの警備員達への顔出しに散っている。 すでにここには護衛の一環と称してEXギアのままバルキリーから降りた自分。そしてヘリからの強制退去を命ぜられたヴァイスと、軽い化粧とドレスに身を包んで絶世の美女と化したはやてとフェイトだけだ。 しかし着替え始めて5分。早々に出てきた2人と違い、なのははまだヘリにひきこもったままだった。 『ほんとにこれを着なきゃダメなの~!』 「どうしたんや?サイズ合わんかったんか?」 「だから昨日『試着しておいた方がいいんじゃないかな?』って聞いたのに」 『そういう問題じゃないんだよ~!』 要領を得ない謎の応答に首をかしげる2人。 「様子見に行った方がいいんじゃないか?」 「そうだね。はやて、行ってみよっか」 「うん」 はやては頷くと、フェイトと共にヘリの中に消える。・・・・・・と内側から声が漏れてきた。 『あれ?準備できとるやんか』 『だってドレス着るなんて聞いてないもん~!』 『昨日あまり目立たない服で警備するって話したやんか』 『そうだよね・・・・・・こんな場所で普段着なわけなかったよね・・・・・・でもこんな服着たことないし―――――』 『大丈夫だよ。なのは、よく似合ってるから』 『ホントに!?』 『うん、よう似合っとる。でも改めて見るとフェイトちゃんもなのはちゃんもけしからん胸しとるの~』 『ちょ、ちょっとはやてちゃん!』 『ひひひ~揉ませや~!』 はやての奇声につづいて2人の悲鳴と、暴れたことによりヘリがガタガタ揺れる。 (ヤバい・・・・・・) 自分の中に潜むものが、意思とは関係なしに心臓を高ぶらせる。 もし自分を見るものがあれば顔を赤くしていることが丸見え――――― 「あ・・・・・・」 目の焦点が近くの木に背中を預ける人物に収束する。 「ふ、若いな・・・・・・」 「お前も顔赤くしてんじゃねぇか!」 そう年が離れていないヘリパイロットに言ってやると、いつの間にかヘリ中での騒動は終結したようで 「大丈夫、大丈夫。すごく似合ってるから」 などと説得されつつ2人に引きずられる形でなのはが出てきた。 「ア、アルトくん!?」 「俺がいるのがそんなに不思議か?さっきからいたぞ」 「ヴァイスくんの声だと思ったから・・・・・・」 「そうか。しかしお前、初舞台の時より色気があるんじゃないか?」 「初舞台?ってもう!その話題から離れてよ~!アルトくんの意地悪!」 本当に怒ってしまったのか、なのはは〝プイッ〟とそっぽを向いてしまった。 「意地悪は俺の性分らしくてな。・・・・・・そろそろ上空警戒に戻らないとミシェルに嫌味を言われそうだ。またな」 「アルトくんもがんばってな~」 「サンキューはやて。それとだな、なのは」 「うん?」 ヘルメットのバイザーを下して振り返ると、どうしても言っておきたかったセリフを具現化した。 「月並みだがよく似合ってるぞ。俺が保障してやる」 捨て台詞のように告げてバルキリーに搭乗すると、エンジンを起動する。 ちなみに顔が赤いのを隠すためにバイザーを下したというのは内緒だ。 多目的ディスプレイに「READY」の文字を確認すると、スラストレバーを押し出してガウォーク形態の機体を浮き上がらせる。 地上に吹き荒れる推進排気をものともせず手を振るはやて達にコックピットから敬礼して返事をすると、高度2000メートルの高みへと機体を飛翔させた。 (*) ホテル入り口では長蛇の列が出来ていた。 ガジェットにより治安の危機が叫ばれるこのご時世。便乗する次元海賊などのテロリストのテロ行為防止のため、ボディチェックや身元確認の作業は空港のそれとほぼ同等のレベルにまで引き上げられていた。 そしてその最初の関門たる身分証明書を確認する係の前に身分証のICカードが示された。 「こんにちは、機動六課です」 担当者は証明写真と目前に佇む実在を見比べて一瞬驚いた表情を見せるが、自らの本分を思い出したらしく咳払い一つで向き直る。 「いらっしゃいませ、遠いところありがとうございます。検査は4番ゲートでお願いします」 「わかりました。ありがとうございます」 着いてみると4番ゲートは一般客のものとは仕様が違った。 変身魔法対策のDNA検査、透視型スキャナーなど同じものも多いが、デバイスの認識と魔力周波数などを検査する機械も置かれていた。 といってもこれは端末機で個人を特定するのに必要な個別データは記録されていない。 実はそれら軍事機密の漏えいを防ぐために時空管理局のデータバンクに直接リンクして必要な情報を出力するようになっていた。 ブラックボックス化された貸出端末機は瞬時に3人とデバイスを本物と認め、他の検査共々彼女たちがそれであることを証明した。 (*) 入ってすぐなのはとはやてはフェイトと別行動をとることになった。 「じゃあ、わたしたちはまず会場に行ってみるね」 「うん。わたしは昨日から張ってくれてるシグナムさん達に会ってくる」 フェイトと別れた2人は、未だ客を入れていない会場に入場した。会場は500人程の収容力のある映画館のような階段状の客席だった。 「入り口はああしてチェックが徹底してるみたいやし、テロは大丈夫やな」 「外には陸士部隊に空戦魔導士部隊、そしてバルキリー隊。それにホテル内には防火用シャッターがあるし、まずガジェット達が入って来るのは無理そうだね」 2人の出した結論は、ホテル内はほぼ安全であるということだ。 もともと今回の投入戦力の量が異常なのだ。 今回の布陣は〝みんな仲良く一致団結〟という管理局の姿勢をアピールするために行われたと思われるが、少し政治が絡み過ぎている。レジアス中将も少し事を焦ったらしい。 だが少な過ぎるよりはましなので誰も批判はしないし 「安全を確保してくれるなら」 と、肯定的に捉える者が多かった。 ちなみに2人も肯定派だった。確かにあの演習レベルの数が奇襲してきた場合、これぐらいいたほうが安全だ。出現率の最も高いクラナガンも、残存するフロンティア基地航空隊とロングアーチスタッフ、そしてAWACS『ホークアイ』が目を光らせてくれている。 「とりあえずは、安心だね」 「でも気は抜かんようにせなあかんな」 2人は油断なく周りに気を配った。 (*) シグナムに会って彼女から地下駐車場に向かう旨を聞いたフェイトは、今度はヴィータの元へと歩を進めていた。 「バルディシュ、オークションまでの時間は?」 その問いにポーチに付けられたバルディシュが答える。 『1 hours and 7 minute.』 「ありがとう」 フェイトが礼を言った直後、彼女の後ろから何かが転がってきた。 それは拳大の丸い水晶だった。しかしただのガラス玉ではないようだ。不透明で紫っぽい。 どこかで見た気がしたが、その思考は後ろからの声にかき消される。 「誰かあの水晶を止めてくださぁぁい!」 その声に彼女はすぐに反応する。おかげでその水晶は間一髪、階段から落ちるすぐ手前でキャッチされた。 「あぁ、ごめんなさい。わざわざ拾っていただいて─────ってあれ? フェイト?」 フェイトが背後からの声に振り返ると、そこには懐かしい顔があった。 シレンヤ氏 第18話後半へ
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マクロスなのは 第9話『失踪』←この前の話 『マクロスなのは』第10話「預言」 アルトとなのはが技研から帰還した翌日。 2人は報告書を読んだはやてに呼び出されていた。その理由はバルキリー配備計画についてだ。 「─────つまり、レジアス中将がこの計画を立案したんか?」 2日前からよく寝たのか、はやての顔色はよく、しっかりしていた。しかし彼女の顔は今、苦悩に歪んでいる。 「うん、そうだよ。はやてちゃんも聞いてなかったの?」 「そうや、ウチは聞いとらん。管理局の殉職者が12人って報告は受けとったけど・・・・・・」 重たい沈黙 その時2人の背後のドアが開き、小人(こびと)が飛んできた。 「はやてちゃんそろそろ行く時間ですよぅ~」 リインは頭上をしばらく旋回飛行していたが、返り見ると、なのはの肩にどこかの〝竹を取る〟物語に出てくる小人のようにとても可愛らしい様子で座っていた。 「ああ、もうそんな時間か・・・・・・いきなりで悪いけど、これから2人ともちょっと付き合ってな」 はやてはイスに掛けられた上着に袖を通しながら告げる。2人は事態か読めず、顔を見合わせた。 そこに新たに部屋に入ってきた者がいた。 「はやて、車は用意したからいつでも行けるよ」 と、フェイト。どうやら彼女もこの件に1枚噛んでいるようだ。 「フェイトちゃん、どこ行くの?」 「あれ?まだはやてから聞いてなかった?昨日、聖王教会から連絡があってね。新しい預言が出て、ついでに『はやての友達に会いたい』って言われたんだって」 「ああ、なるほど。えっと・・・・・・カリムさんだっけ?」 「そうや、前々から会わせたいと思っとったんやけど、機会がなくてな。ほな行こか」 はやて達が部屋から出て行く中、アルトは話についていけず、ずっと頭を捻っていた。 (*) フェイトの私用車に乗ったフェイト、はやて、なのは、アルトの4人は一路、高速道路を北上する。 窓の外の景色が近代的な街並みから山と森へとシフトしていく。 しかし目的地にはまだ1時間ほど掛かるようだった。 そのためその間、3人から聖王教会に関する説明を受けることができた。 まず聖王教会とは、聖王を主神とする宗教団体で数多くの次元世界に影響力をもつ大規模な組織であること。 教会はミッドチルダ国の領内にありながら独立しており、税金などの面においても名実共に聖域であること。 財源は基本的には寄付で成り立っており、その額はミッドチルダの国家予算の半分程度という莫大な規模になっている。そのため教会自らが当時のミッドチルダ政府に設立を要請した時空管理局の、現在ですら予算の半分近くを握る最大のスポンサーであること。 このような歴史的事情から必然的に時空管理局と繋がりが強く、ロストロギアの管理、保管はそこが担当しているらしい。 しかし今は教会自体は関係なく、そこに所属しているはやての友人であるカリム・グラシアという人に用があるらしい。 なんでも彼女は『プロフィーテン・シュリフテン』という未来を予知する古代ベルカのレアスキルを持っているという。 「なんだそれ?未来がわかるなら最強じゃないか」 アルトはそう言ったが、そうでもないそうだ。 はやて曰く、カリムの預言はこの惑星を回る月の魔力の関係上、1年に1度しか使えず、表記も古代ベルカ語の、さらに解釈の難しいことで有名な詩文形式で書かれている。 また、期間も半年から数年後のことがランダムに書いてあるため、実質的な信頼性は『よく当たる占い程度』だという。 本局と教会はその内容を参考程度に確認するが、地上部隊は当たらないとして無視するらしい。 「そんな胡散臭いもの信用できるのかよ」 アルトも疑うが、はやては1歩も引かない。なのはやフェイトも『はやてが信用しているなら』と、まったく疑いはないようだ。 そうこうしているうちに、100キロ近い距離を走破した車はそこに到着した。 教会はその名に恥じぬ壮大な造りで一瞬アルトに中世の城をイメージさせたが、最新の科学技術と見事に調和したそれはよほど近代的だった。 車を駐車スペースに停めた4人に玄関から近づいてくる人影がある。 「お待ちしておりました」 彼女は一礼すると品よく笑顔を作った。 「おおきに、シスターシャッハ」 「はい。みなさんもお元気そうで・・・・・・あら?そちらの方は?」 「彼は次元漂流者の早乙女アルト君。今は六課の隊員をやってもらっとる」 はやての紹介にシャッハはプライスレスのスマイルを作り、 「聖王教会にようこそ」 と告げた。 (*) その後シャッハに連れられて教会に入り、いくつもの装飾品の並ぶ玄関を横切り、廊下を歩いていく。 (なんか鳥ばっかだな・・・・・・) 玄関に入ってすぐにあった床の塗装も鳥が大きく翼を伸ばした姿が描かれていたし、各種置物も翼を伸ばした鳥という案配(あんばい)だ。 後でわかったことだが、聖王教会では鳥がモチーフになったシンボルマークが使われており、よほど好きらしい。 (ん?・・・あいつら、なにやってんだ?) 続いてアルトが見たのは1組の男女。しかし男の方は前時代的な切断器具である〝ノコギリのように削られた1メートル程の木の棒〟を女性に突きつけていた。 それで女性が恐怖に怯えているなら話は簡単であり、アルトも助け出すことを躊躇しなかっただろう。 しかし女性の方は喜んでいたようだった。 そのことから特に危険なわけでもないようなので、別段考えもせずどんどん歩を進めるシャッハ達を追った。 (*) しばらく歩くとシャッハは1つのドアの前に立ち止まった。 こん、こん 広い廊下にノックの音が反響する。 『どうぞ』 内から聞こえる女性の声。シャッハはドアを開けると直立する。 「時空管理局の八神はやて様ご一行がいらっしゃいました」 『ありがとう』 シャッハは一礼すると、はやて達を部屋に招き入れ、自分は出ていった。 部屋はなかなか広くカリムという人の重要さを物語る。 しかし物見遊山している暇などなかった。なのはとフェイトは部屋に入ると突然直立不動となり敬礼する。アルトも慌てて続いた。 「便宜上やけどカリムは管理局の少将ぐらいの階級を持ってる〝お偉いさん〟なんよ」 と、先ほど何気も無くはやてが言っていたことを遅まきながら思い出す。 「失礼いたします。高町なのは一等空尉であります」 「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン一等海尉です」 「早乙女アルト准尉です」 すると奥から、長いストレートな金髪に紫のカチューシャを着けた25歳ほどの女性が現れた。 彼女は 「いらっしゃい」 と告げると、名乗った。 「初めまして。聖王教会、教会騎士団騎士、カリム・グラシアと申します。どうぞ、こちらへ」 カリムに周囲がガラス張りになったテラスへと誘導され、彼女とはやてはイスに腰を掛ける。 なのは以下3人は 「失礼します」 と一礼してイスに腰を掛けた。 するとカリムはこれまた品よく笑う。 「3人とも、そんなに固くならないで。私たちは個人的にも友人だから、いつも通りで平気ですよ」 「・・・・・・と、カリムが言うてるし、いつもと同じで平気やで」 カリムとはやての許可に、なのはとフェイトは即座に友人モードにスイッチングし、普段通りの口調に戻った。 「改めてこんにちは、私のことは〝なのは〟って呼んでください」 「はい、なのはさんですね。ハラオウンさんと早乙女さんはなんとお呼びすれば?」 「私はみんなからフェイトと呼ばれています」 「俺は、アルト─────」 「〝姫〟やろ?」 「ど、どうしてお前がそれを知って─────!」 「なのはちゃんの報告書に書いてあったで」 なのはに向き直る。すると彼女は少し面白そうに両手を合わせ 「ごめ~ん!あんまりにもぴったりな表現だったから・・・・・・」 と謝罪した。 続いて 「こんないいセンス持ったお友達ならウチともいい友達になれそうやわ~」 とはやて。 (いかん・・・・・・遊ばれるモードに入っている・・・・・・) しかしアルトは怒って否定するまねはしなかった。彼は〝大人〟になろうと努力していたし、彼の望む大人像には短気は入っていなかった。 「・・・・・・なるほどな。確かにチビダヌキって愛称を持つお前ならアイツともいい友達になれそうだな」 反撃に転じたつもりだったが彼のマニューバ(空戦機動)は稚拙すぎ、老獪なはやてには無力だった。 「やろ~タヌキってキツネよりもユーモラスやし、チビってのが愛嬌あるみたいで結構気に入っとるんよ~」 (しまった、上手くかわされた・・・・・・!) 青年は己の経験不足を嘆くしかなかった。 「えっと・・・・・・とりあえず、なのはさんにフェイトさん、それにアルトひめ―――――」 ジロリ アルトの敗者の哀愁を漂わせる視線にカリムは空気を読んだ。 「―――――コホン、アルトさん。これからもよろしくお願いしますね。・・・・・・それから私のことはどうぞカリムと呼んでください」 全員の自己紹介が終わったところで、はやてが仕切り直す。 「それじゃあいい機会だから改めて話そうか。機動六課の設立目的の裏表。そして、今後の事をや」 極めて真面目な顔をして言い放った。 (*) 周囲のカーテンが閉め切られ、先ほどとはうってかわって密会の雰囲気が出たテラスではやては説明を始める。 「六課設立の表向きの目的は、対応が遅く、練度の低くなった地上部隊の支援と治安維持。そして時代の変遷によって不具合が出てきた管理局の非効率なシステムの刷新や」 はやてが端末を操作し、ホロディスプレイを立ち上げていく。 「知っての通り、設立の後見人は騎士カリムとフェイトのお母さんのリンディ・ハラオウン総務統括官。そして、お兄さんのクロノ・ハラオウン提督や」 アルトは隣のフェイトに念話で耳打ちする。 『(この前本部ビルにいたクロノって、お前の兄さんだったのか)』 『(うん)』 『(へぇ・・・・・・、あんまり似てないんだな)』 そこで少しフェイトに陰が落ちる。 『(・・・・・・リンディ統括官もクロノ提督も義理のお母さんとお兄ちゃんなんだ)』 『(え、あぁ・・・・・・すまない・・・・・・)』 ただならぬ雰囲気を感じたアルトはそれ以上詮索しなかった。 「―――――あと非公式にレジアス中将も初期の頃から設立に賛成して、協力を約束してくれとる」 (はぁ?中将は地上部隊の指揮官じゃなかったか?なんでまた本局所属の六課なんかに?) 同じ疑問が浮かんだらしく、なのはとフェイトの顔にも〝?〟マークが浮かんでいた。 今でこそガジェットの度重なる出現で六課の重要度は増すばかりだが、それより前から賛成していたというのは理解できなかった。 普通なら地上のことなのだから、身内(地上部隊)で解決しようとするはずだ。 こちらの疑問に察しがついたのだろう、カリムがはやての説明を継ぐ。 「レジアス中将が設立に賛成したのには理由があります。それは私の能力と関係あるんです」 カリムの説明によると、彼は優秀な部下として可愛がっているはやての勧めで、地上部隊最高司令官として預言に耳を傾けているらしい。 しかしそれだけではまだ六課の味方をする理由がわからない。 そこで立ち上がり儀式魔法を展開。準備を始めるカリムに、はやてが補足する。 「実は最近のカリムの預言に、1つの事件の事が徐々に書き出されとるんや」 どうやら準備ができたらしい。カリムが浮いていた紙の内1枚を手に取り読み始める。 『赤い結晶と無限の欲求が集い、かの翼が蘇る 閃光と共に戦乙女達の翼は折れ、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ちる それを先駆けに善なる心を持つ者、聖地より鳥を呼び覚まし、数多(あまた)の海を守る法の船も砕き落とすだろう』 その預言が聞く限り悪いことのオンパレードであることに、初めて聞いた3人が絶句する中、はやてが更に補足する。 「ウチらはこれをロストロギア『レリック』によって始まる時空管理局地上部隊の壊滅と、管理局システムの崩壊だと解釈しとる。レジアス中将もそれを鑑みて、比較的自由度と拡張性の高い、六課の設立に賛成してくれたんや」 その説明に3人は納得した。しかしはやての顔が優れない。 ここは喜ぶところではないとは思うが、失望したような表情をするところでもないはずだ。 そんなカリムを含めた4人の心配が伝わったのだろう。はやてが訥々と、理由を口に出し始める。 「・・・・・・レジアス中将には、わかってもらえたと思ったんやけど・・・・・・なぁアルト君、なのはちゃん、あの配備計画は本当なん?」 突然話をふられた2人は (ここでこの話が来る?) と驚きつつも頷く。 「すみません、あの配備計画ってなんでしょうか?」 カリムとフェイトが話についていけないので、なのはが速成で説明する。 「昨日レジアス中将が話してくれた計画で、『バルキリーを量産、低ランク空戦魔導士に配備して被撃墜率を下げよう』って計画です」 その話を聞いていなかった2人は 「レジアス中将ならやりそうなちょっと強引な計画だ」 と納得した。 「確かにちょっとギリギリな計画だとは思う。・・・・・・んだが撃墜率は減るだろうし、悪い計画じゃないんじゃないか。どうしてお前はそんなに嫌がるんだ?」 そう言うアルトをはやては見つめると、1つの事を聞いた。 「アルト君、あなたの飛行機の通称は?」 「?なに言ってるんだ。バルキリーに決まって・・・・・・あっ!」 言いながらアルトは気づいた。 〝バルキリー〟この読み方は英語式の〝ヴァルキリー〟に端を発し、日本語では〝ワルキューレ〟と呼ばれる。 意味は昔の地球の北欧神話に出てくる半神の名で、戦乙女という意味だ。 確かアルトの調べた限りこの世界にも偶然か、はたまた必然なのか、その呼び名を持つ同じような神話があった。 それではやての悩みは理解できた。預言の戦乙女の記述が、心配なのだろう。しかし――――― 「バルキリーは戦乙女という意味だ」 アルトの言にカリム、フェイトが驚愕する。しかしなのははわかった風に静かだ。どうやら彼女も自分と同じ考えに行き着いたらしい。 「どうして2人は冷静でいられるん!?レジアス中将は戦乙女=バルキリーなんてわかってるはずやのに!?」 はやてが珍しく語気を荒げる。 「はやて、」 「はやてちゃん、」 2人の声が見事にハモる。なのははジェスチャーで『お先にどうぞ』と送りだした。 「お前はどうして六課があるか忘れてるんじゃないか?・・・・・・いや、俺たちの報告書がマズかったかもしれないな。〝つまらん例外〟以外あれは客観的事実しか書いてなかったはずだ」 その〝つまらん例外〟を書いた本人であるなのはは、投げられたアルトの視線に『テヘへ』と頭を掻いた。 アルトは続ける。 「だがあの時中将は俺達に、『ミッドチルダをよろしく頼む』って言ったんだ。今ならわかる。あの重さが!」 アルトに変わり、なのはがその先を継ぐ。 「レジアス中将は私達に期待してくれてるんだよ。『きっと六課が、預言を阻止してくれる!』って。・・・・・・それにね、戦乙女って六課とも取れるんだよ」 そう、どちらかと言えばそちらの方が可能性としては高い。 昨日見た設計段階のバルキリーは、反応エンジン、航法システムなど武器以外は魔法や魔力結合に頼らぬほぼ純正のものを踏襲していた。 そのためバルキリーはランカレベルの超AMF下でも十分飛行と戦闘が可能だった。 またその他の要因にしても、魔導士にあってバルキリーにない機構などほとんどない。逆に優秀なものならいくらでもある。 大規模センサーなど電子機器しかり、魔力の回復の早い小型魔力炉しかり、圧倒的な馬力や装甲しかり・・・・・・ はっきり言って脆弱ななのは達魔導士方が簡単に、預言の文句と同じく〝翼は折れ〟た状況になるだろう。 「・・・・・・その時、誰が私達を助けに来てくれるのかな?」 なのはの決め台詞はこれだった。 とりあえず現状の魔導士部隊には不可能だ。しかし、バルキリー隊なら?またこれは逆に、バルキリー隊が危険なら六課は?とも言える。 両方無力化されるとは考えにくい。しかし、どちらかが機能すれば預言を阻止できる可能性は失われず、助け合える。 レジアスの言っていた『君達1部隊に地上の命運を任せる訳にはいかない』とはこの意味があったのだ。 「じゃあ、レジアス中将はウチらの心配もしてくれてたんか・・・・・・」 自らを犠牲にしてでも預言を阻止しようと決意していたはやては、感極まった様子で俯き、声に出さず呟く。 『ありがとうございますレジアスおじさん。言ってくれないだけで、ずっとウチらの事も心配してくれとったんだね・・・』 はやてが再び顔を上げた時、一同は暖かい笑顔を彼女に向けていた。 (*) 「さて、実は新しい預言が出た話だけど─────」 カリムの一言に、彼女を除く全員が 「「「あっ!」」」 と声を上げた。 「・・・・・・そういえばそのために来たんだったね」 「にゃはは~完全に忘れてたのですぅ~」 フェイトとなのはの会話が驚いた人達の気持ちを最も端的に表しているだろう。 「でもカリム、預言は1年に1回じゃなかったんか?」 はやての質問にカリムも困った顔をする。 「それが月とは関係ない、別の力が作用したみたいなの」 彼女は言いつつ預言書を出し、読み上げる。 『月と大地の交わる所運命(さだめ)の矢が放たれる』 顔を上げたカリムが、どういう意味がわかる?と一同を見渡す。 「運命の矢ってのは攻撃かな?」 と、なのは。 「月と大地ってことは、宇宙か空だよね。・・・・・・まさか衛星軌道兵器なんてことは─────」 と、フェイト。 「どうやろう・・・・・・戦時中の軍事衛星は耐久年度を超えてるか叩き落とされとる。それに軌道付近なら管理局のパトロール艇が監視しとるはずや。この場合、まず悪いことなんかがわからんな・・・・・・」 腕組みしながらはやてが言う。 「なんかどこかで聞いたような文句だな・・・・・・」 とアルト。 その後議論を1時間近く続けたが結論は出ず、カリムの用事のためそのままお開きになった。 (*) 聖王教会から帰るとすでに日は落ち、ヴィータ教官率いるフォワード4人組も既に訓練を終え、宿舎に引っ込んでいた。 「ほんならなのはちゃん、フェイトちゃん、それにアルト君、わかってもらえたかな?」 自らの声が広い空間を波紋する。 ここは六課の隊舎の玄関前にあるロビーだ。ここからは私室のある部隊長室と、なのは達の宿舎とは反対方向となるのでお別れとなる。 「うん」 「情報は十分。大丈夫だよ」 2人は 「じゃあ」 と言って一時の別れを告げると、宿舎へと続く渡り廊下を歩いていく。 しかし、ラフに壁にもたれたアルトは動かなかった。 「・・・・・・どうしたん?」 「いや、『何か言いたそうだなぁ~』って思ったから待ってるのさ。なのは達行っちまうぜ、いいのか?」 はやては去っていく2人の後ろ姿を見て少し逡巡したが、すぐ首を 「うん」 と力強く縦に振る。 「・・・・・・いや、ありがとうな。本当は言おうと思ったんやけど、よく考えてみれば2人には言わなくてもわかってくれとると思う。」 2人を見送るその横顔は確信に満ちていた。 「そうか」 「でも、アルト君には確認しておきたい」 「なんだ?」 アルトはもたれた壁から離れると、腰に手をあてがい聞き耳をたてる。 「六課が、これからどんな展開と結末を迎えるかわかれへん。だけどこのまま六課で戦ってほしいんやけど、ダメ・・・・・・かな?」 「・・・・・・そうだなぁ、六課設立の目的が最初聞いた時と圧倒的に違うからな。実は『壊滅するかもしれない?』『単なるテスト部隊でなく管理局の切り札だった?』と来たもんだ。おまえの覚悟は立派だし、その気持ちには同情する・・・・・・だが、こんな〝危険〟なとこに俺らを引き込んだのか?」 アルトの口から出る痛烈な言葉にはやてはシュンとなる。 「・・・・・・やっぱり、いやなんか?」 「ああ、嫌だね」 アルトはにのべなく切り捨てた。 「危険なのは俺だけじゃないんだ。ランカだって関わってる。もしアイツに何かあったら、アイツの〝兄さんズ〟に反応弾(物質・反物質対消滅弾頭)か重量子ビームでスペースデブリ(宇宙の塵)にされちまうんだ。本当のことを知らされないで、そのことへ覚悟がないのに危ないのは御免被る。」 アルトの言葉にはやてはどんどん肩落とし、泣き出さんとまでになってきた。 「ごめん・・・・・・アルト君がそんなに嫌がってるなんて知らへんかった。気づけなくてごめんな。なんなら今すぐランカちゃんと一緒に─────」 部隊長室へ歩き出そうとしたはやてだったが、アルトの手が肩に触れて立ち止まり、彼を振り返った。 (*) アルトは「やりすぎたか・・・」と胸の内で呟いた。こちらを見上げる小さな少女の目には大粒の涙が溜まっていたからだ。 「あぁ・・・・・・俺はそういう事を言ってるんじゃないんだ・・・・・・。つまりだな、危険な事でも下手(したて)に出て「ダメか?」とか頼むようじゃ人は着いてこない。たとえ俺たちのような〝友達〟でもな。そう言ってるんだ」 ここではやてはアルトの真意に初めて気づいたようだった。 「いじわるやね、アルト君・・・・・・」 アルトは破顔一笑。 「ほんとにな。よく言われるよ」 するとはやては涙をさっと拭うと、大仰に決めていい放つ。 「じゃあ、アルト〝くん〟とランカちゃんに〝どうしても〟手伝ってもらいたいんや!いいんやろ?」 「仕方ない、付き合ってやるか。・・・・・・お前もいいんだろ?」 アルトは壁に話しかける。そこはロビーに隣接するように作られている自販機コーナーの入り口のドアだ。 気づけば、さっきアルトがもたれるのをやめた時、彼は何気なくそのドアを少し開けていた。 はやてがその行為にタヌキ・・・いやキツネに摘ままれたような顔をしていると、緑の髪した少女が「てへへ」と笑いながら出てきた。どうやら偶然最初からいたようだった。 「うん。もちろん。私、このみんなのいる街を守りたいの!」 彼女の赤い瞳には強力な意志の力がみなぎっている。 「こんな2人だが、これからもよろしくな。」 アルトとランカが手を出す。 はやては2人の手を掴み「ウチこそ!」と、100万W(ワット)の笑顔で応えた。 シレンヤ氏 第10話 その2へ
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マクロスなのは 第20話『過去』←この前の話 『マクロスなのは』第21話「サジタリウス小隊の出張」 1700時まで準警戒態勢を維持していた防衛部隊だが、結局ホテルでは異常は見られず、1800時をもって全ての部隊が帰投を開始した。 その内六課は陸路ではなくヘリで帰投したため、隊舎には1930時ごろ到着した。 機動六課の隊舎屋上に設けられたヘリポートには到着した輸送ヘリと、隊長達の話に傾注するフォワード陣の姿があった。 「みんなお疲れ様。私は現場にいなかったけど、みんなの頑張りは陸士部隊の人達から聞きました。『今すぐにでもうちの部隊にに欲しいぐらいだ!』だって」 それを冗談と受け取った前線の4人は顔を見合わせて笑った。 実はある小隊の隊長が言っていた本当のことだったりするが、そこは大して重要なことではないのでスルーし、フェイトが続ける。 「今日は明日に備えてご飯食べて、お風呂にでも入って、ゆっくりしてね」 「はい!」 直後の解散の命令と共に前線の4人は、宿舎へとワイワイ騒ぎながら引っ込んで行った。 そこに空から爆音が轟いて来た。 「バルキリー隊・・・・・・かな?でもこんな遅くに低空飛行なんて・・・・・・」 バルキリー隊は6時以降市街地では5000メートル以下の飛行は、騒音による苦情が多発するので敬遠されていた。 「レイジングハート、どこの機体かわかる?」 『They are the Sagittarius platoon to Frontier air base.(彼らはフロンティア航空基地のサジタリウス小隊です)』 それを聞いたフェイトはさらに首を傾げる。 「サジタリウス小隊?アルトくんの小隊がどうして?」 「ああ、フェイトちゃんにはまだ話してなかったね。明日から3週間、私がさくらちゃんの戦技教導をやることになったの」 「・・・・・・そうなんだ。でもなのは、少しハードワーク気味じゃないかな?大丈夫?」 「うん、朝が少し早くなるだけだけだから」 なのはは言うと、ロングアーチスタッフに通信を入れ、眼下に見える滑走路の夜間発着灯を点けさせた。 (*) アルト以下サジタリウス小隊の3機は夜間発着灯に従ってファイターで着陸した。3人は機体から荷物を降ろすが入場の許可がまだ降りないため、その場で待機する。 「やっと休める・・・・・・」 天城が機体の近くで大きなボストンバックに腰を降ろし、これまた大きく伸びをしている。 8時間に及ぶ警備任務からフロンティア航空基地に帰還。即座に荷造りして六課に飛ぶという離れ業をしたのだ。疲れるのも無理はないと言えた。 アルトは自らの愛機を振り返る。今は近所迷惑なためエンジンを止めてしまっているが、荷造りの間に簡単な点検・整備は行ったため、エンジンから空調まで正常に動作していた。 「しかしやっぱり暑いな・・・・・・」 気付くと手をヒラヒラしながら服をパタパタ。天城やさくらも同じようなことをやっていた。 8月であるここクラナガンでは、日中最高気温38度という酷暑日が続いていた。 バルキリー内部では冷房がついていたし、ホテルのある軽井沢は涼しく適度な気温が保たれていた。 しかし今、クラナガンは暑い。 また、警備任務で消耗した魔力の回復を早めるために温度調節機能も付いた厚さコンマ数ミリのインナースーツ型バリアジャケットを着用していないのだ。 そんなこんなでバテバテになった3人に連続した爆音と共に、空から声がかかった。 『おーい、アルトく~ん!』 ・・・・・・本人に自覚はないようだが、ランカ用の大型フォールドスピーカーで大きくなったなのはの声はヘリの飛行音なんかに負けないぐらいの超大音量だ。フォールドスピーカーなのでヘタをすれば周囲4、5キロに響き渡ったかもしれない。 ヴァイスのヘリはそのまま降下。なのはを後部ハッチから降ろし、格納庫へそのまま滑るように入っていった。 どうやらヘリをヘリポートから格納庫に移動するついでになのはを送って来たらしかった。 「アルトくん達早いね。私達はさっき着いたばっかりなのに」 「まぁ、ヘリじゃ仕方ないだろ」 ヴァイスの『JF-704式・汎用大型輸送ヘリ』はノーター式で、ローターが1基しかないが、最大積載時でも巡航速度が時速150キロメートルというそこそこ優秀な機体だ。これは2カ月前にエンジンが熱核タービンに換装されたためで、デフォルトの内燃型エンジンだと速度を維持できない。 しかし超音速巡航できるバルキリーは今回の片道行程にして360キロという距離でもマッハ2で10分弱しか掛からなかった。 「許可は貰ってきたから入っていいよ。それと機体の方は、明日にはこの格納庫の受け入れ準備が終わると思うから、それまでここに停めておいてね」 なのはが先程ヘリが入った格納庫とは別の、明かりの灯っている格納庫を示す。 今回のサジタリウス小隊の六課での合宿は表向きにはバルキリー隊の六課への出張ということになっている。 クラナガンから200キロ以上離れたフロンティア航空基地(我々の世界で言うと静岡県の浜松にある)は部隊が緊急スクランブル発進しても到着が六課と数分遅くなる。 またCAP任務(武装して上空待機。有事の際は即座に迎撃する役どころ)に就く小隊も、今後経験の浅い2期生が多くなる。そこで六課にサジタリウス小隊を無期限で試験的に置き、その防衛力を計るという名目だった。 そのために明日には各種武装と小隊付きの数名の整備員が陸路でやってくる予定だ。バルキリーや彼らのためにも格納庫は空けなければならなかった。 「わかった。・・・・・・よいしょっと。さくらに天城、行くぞ」 振り返ると天城が 「うぃーす」 などと返事を返しながら荷物を持ち上げており、さくらも重たい荷物にフラフラしながらやってきた。 「世話になるな」 続いて後ろからも 「よろしくお願いします!」 という2人の声が聞こえる。なのははそんな3人に笑顔を作ると、 「うん。六課にようこそ」 と迎えた。 (*) その日は軽く部隊員達に挨拶してまわると、各自にあてがわれた部屋で死んだように熟睡した。 (*) 次の日 アルトはメサイアのアラームで目を覚ました。 午前5時。 空はほんのり明るく、〝チュン、チュン〟という鳥のさえずりも心地よい。 彼は身支度を済ますと、昨日さくらと約束した集合場所、ロビーへと向かう。 「おはようございます。アルト隊長」 すでに待っていたさくらが敬礼する。 聞くと(アルトに比べて)あまり寝てなかったという。だが 「あこがれのなのはさんの教導が受けられるなんて・・・・・・」 と、その顔は天にも登らんと輝いていた。 しかしなのはから教導されていた時期のあるアルトは一言 「まぁ・・・・・・頑張れよ」 とだけ言った。 (*) 外に出ると昨日は暗くてわからなかったが、六課の施設には変化が数多くあった。 例えば、地面には芝生で偽装された大きな装甲シャッターがいくつか埋設されていた。 「なんでしょうか?」 さくらが怪訝な様子でシャッターを指さす。 「避難用のシェルター・・・・・・は違うな」 軽く見回してみると同じようなシャッターが5つほど視界に飛び込んでくる。 こんな狭い範囲にシェルターを集中させるのはナンセンスだし、それを本気で偽装するつもりがないようで、ちょっと注意すれば上空からでも簡単に見つけることが出来るだろう。 (敵に見つかっても構わない施設なのか?) 結局その場では分からず終いであった。しかし訓練場への道すがら、1つのシャッターが建造中だったために、その恐ろしい正体がわかった。 「み、ミサイルファランクスVLS(垂直発射機)・・・」 そこにはずん、とまさに地面に埋設されんとするミサイルランチャーがクレーンの先に居座っていた。 ミサイルCIWSシステム(ミサイル型の近接防衛火器システム。多数の誘導弾を斉射して物量で敵を迎撃するシステム)だとすると、大きさから考えて瞬間発射能力は10を下らないだろう。また格納式のため再装填も自在だろうと思われる。 それがここから確認出来るだけでも5基あった。 どうやら自分のいた頃に計画された自動迎撃システム計画は現在も進んでいるらしい。 敷地の端には全方位バリアであるリパーシブ・シールド発生用の中継機も確認できる。 また逆に昔はあった電線が今確認できないため、大型反応炉もすでに埋設されているかもしれない。 一定レベルの自活自営機能を備え、強力な自衛装備を施した基地。人はそれを───── 「六課ってすごい〝要塞〟なんですね・・・・・・」 アルトは、さくらのセリフに苦笑いするしかことしかできなかった。 (*) 「おはよう。2人とも」 訓練場に着くと、朝早くにも関わらず教導官の制服を着て訓練の準備に勤しんでいたらしいなのはが迎えた。 「おはようございます!高町教官!」 さくらが〝ビシッ〟っと敬礼する。 「うん、おはよう。でもさくらちゃん、表向きには私はあなたの教官じゃないし、いつも通り〝なのはさん〟って呼んでいいよ」 「は、はい。なのはさん」 言い直すさくらを横目に、端末の操作をやめたなのはに尋ねる。 「それで訓練は何をするんだ? バルキリーを使うなら持って来なきゃいかんが・・・・・・」 「私の教導にはバルキリーは使わないよ。さくらちゃんは十分使いこなしてるみたいだから教える事はないし、第一、こんな朝早くにエンジンを回したら近所の人に怒られちゃうよ」 六課の隊舎のある場所は開発が進んだ埋立地から1kmの連絡橋を隔てた海上に位置する。そしてその埋め立て地は立地条件がいいため、民家が多くなっていた。 「それもそうだが・・・・・・ならどうするんだ?」 「うん。わたしね、アルトくんのところのシミュレーターを何回かやってわかったの」 なのははこの3カ月、技研と基地にお忍びでやって来て、シミュレーターで遊び─────もとい、研究していた。 「このシステムの凄さが」 彼女は言うと、首に掛けた宝石に願う。 「レイジングハート、セットアップ」 『OK,set up.』 辺りに一瞬桜色の光が包み、2人は目が眩む。そして光が収まったとき、そこにはいつものなのははいなかった。 身長は2メートル以上になり、その鋼鉄の掌(てのひら)は人の頭ほどもある。 人を熊と対等以上に戦わせることができ、飛行することも可能なパワードスーツ、EXギアがあった。 それはヘッドギアを〝ひょい〟と上に上げると、着た者の顔をのぞかせた。 あれからよほど練習したらしい。その挙動に無駄やためらいはなかった。 「EXギア、すごいよね。これさえあればバトロイドなんてへっちゃらなんだから」 EXギアシステムは2050年頃開発され、最近になってやっと制式化されてきた技術体型だ。 これはVFとのインターフェイスの改良及び標準装備化による脱出時のサバイバビリティ(生存性)の向上を主眼に開発された。 空を最大時速500キロで飛び、地上でも舗装されていれば時速55キロで走行できる。 また、もっとも特徴的なのがガウォーク・バトロイド形態の時のインターフェイス機能だ。これによって操縦者はバルキリーを〝着ている〟感覚で操縦できる。 つまりEXギアでダンスが踊れるならば、まったく同じことがバルキリーでもほとんど練習なしでできるのだ。 「私が教えるのは魔導士の機動法。つまり人型の機動法。だからこのEXギアで練習してできるならバルキリーでもそのままできるはず。さすがに可変を加えるとどうなるかわからないけど、そこは─────」 なのはは2人にウィンクする。 「なんとか自分逹で昇華してね」 「はい!頑張ります!」 さくらは再び敬礼した。 (*) 「さて、早速始めようか。まずEXギアに着替えてみて」 なのはに促され、さくらは首から提げたペンダントを取り出す。 それの先には聖王教会で腐るほど見た大きく翼を広げた鳥が象られており、それが彼女のデバイスだった。 さくらはそれを掲げると同時に宣言した。 「『アスカ』セット、アップ!」 すると彼女をなのはより白に近い桜色の光が包む。これが彼女の本来の魔力光だ。 普段バルキリーや陸士によく見られる青白い魔力光は、MMリアクター(疑似リンカーコア)や量産型カートリッジ弾などに封入される人工的に作る魔力の共通の魔力光だった。(本当に青白い魔力光を持つのはバルキリー隊ではアルトだけ) なお封入される魔力はその99、999%ほどが魔力炉より抽出されたものだが、必ず人のリンカーコアで作られた本物の魔力が混ぜられている。人工の魔力だけでは物理的に何が足りないのかわかってはいないが、魔法を発動できないのだ。 おかげで現在人間を介さずに機械だけで完璧な魔力を生成する技術は開発されていなかった。 さて、眩い桜吹雪が晴れた時、そこには長大なライフルを両腕でしっかり保持したさくらのEXギア姿があった。 このライフルは第97管理外世界の『M82 バーレット』と呼ばれるアンチ・マテリアル(対物)ライフルを元にしていて、EXギアに合わせるために寸法がすべて約1、5倍に拡大されている。この改修によって全長が1メートルを越え、口径が15mmになったので大容量カートリッジ弾をそのまま撃つという〝怪〟物ライフルに変貌していた。 無論その重みは元が12キロなので想像を絶する重さ(約3倍程度)になっているが、EXギア用の兵器としてはは普通の重さと言えた。 「それじゃまずはさくらちゃんの実力が知りたいから、これを撃ち落としてみて」 なのはは直径10センチ程の魔力球を生成して見せ、海上へと誘導する。 「・・・・・・あ、そうそう、デバイスの補助は受けちゃダメだからね」 さくらは少し苦い顔をしたが、黙ってマーキングされた射撃位置につく。そうしてテストが始まった。 まずは止まった目標。距離は500メートル。 さくらは少し拙かったが、コッキングハンドルでライフルの初弾をマガジンからチャンバー(薬室)に送り込む。そしてライフルの銃床をEXギアの肩部装甲板にあてると、空中に浮いた魔力球を狙いすまし、引き金を引いた。 重い発砲音とともにマズルブレーキから飛び出た空の大容量カートリッジ弾は彼女の思い描いた通りの軌跡を描き、見事500メートル先の魔力球を貫いた。 「うん。さすがフェイトちゃんを追いつめただけのことはある」 なのはが感想を述べる。EXギアはその大きさから、通常操縦者の1.2倍ほどの動きをトレース(真似)するため、生身の人間よりはるかに精密作業に向かない。 しかし狙撃という作業は、ほんの数ミクロのブレですら着弾位置が余裕でセンチやメートル単位でずれてしまう。 さくらはこの最悪の組み合わせであれに当てたのだ。まさに天性の素質と言えよう。 「じゃあ次はちょっと近くなるけど、横に動く目標」 なのはの説明通り、魔力球が先ほどより近い位置に静止した。 彼女の手元に浮かんだホロディスプレイの数字によれば100メートル程らしい。 そのまま秒読みに入る。 「3、2、1・・・・・・!」 ゆっくりと右に動き出す魔力球。追う銃口。しかし満を持し、発砲されたはずのカートリッジ弾は外れてしまった。 「!?」 さくらが声にならない叫びを放つ。 「あれ、どうしたのかなぁ?」 「す、すみません・・・・・・もう一度お願いします」 なのはは頷くと再び秒読みする。 さくらは『次は外せない!』と地面に片膝をつけ、より安定した狙撃モードに入った。 そして動き出した魔力球に、彼女の必中の願いを込めたカートリッジ弾が放たれる。しかしそれは先ほどの再現映像でも見ているように掠りもしなかった。 「的が・・・・・・そんなはずは!」 納得できないさくらは等速直線運動を続けるそれに第2、第3射を放つが結果は同じだった。 目の前の光景にさくらは茫然としてしまう。 アルトも直感的に何か違うものを感じていた。初回もふくめてすべての弾道は正確だったはずだ。 (なのに全部外れただと?) その時なのはが堪え切れなくなったように笑いだし、その理由を告げた。 「さくらちゃん、避けないとは言ってないよ。狙撃専門のくせにそんなことも気付かなかったの?」 「え・・・・・・だってなのはさんそんなこと・・・・・・」 「さくらちゃんはまっすぐなんだねぇ。私がそんな風に実力と真面目さだけでこの地位まで登ってきたって思ってるの?」 「ち、違うんですか?」 そんなさくらの様子になのはは彼女を〝嘲笑〟するように笑った。 普段の彼女のイメージからかけ離れたその姿に、さくらはやはり茫然としていた。 (*) その早朝訓練では 「こんなこともできないの?これでよく今までやって来れたね」 などとボロくそに〝いびられた〟さくらはついに魔力球に当てることができないまま終了した。 午前は予定どうり陸上輸送隊からバルキリーの武装を受け取って格納庫に移送したり、整備員の受け入れ作業に終始した。 そして午後、スクランブル待機するアルトとさくらはロビーにいた。 さくらは自販機コーナーからコーヒーを2杯持ってきて、片方をベンチに座るこちらに差し出す。 「サンキュー」 「いえ・・・・・・」 彼女はそう返事すると力なく隣に座り込む。横目で確認してみると、その顔には今朝の元気はなかった。 『憧れのなのはさんが、あんな〝意地悪〟な人だったなんて・・・・・・』 と相当ショックを受けているらしい。 前回自分がその渦中にいたが、今回外部から見るその威力。アルトは内心 (やっぱりアイツの十八番が来たか・・・・・・!) と戦(おのの)いていた。 これは彼女の上級教導術だ。こうして教官自身が卑怯で意地悪な行動をすることで 「教導官は正しい。正義だ」 と思っている狂信者に幻滅感を持たせる。 また、狂信者でなくともモラルを持った人間は 「あんな奴なんかに負けるか!見返して見せる!!」 と自発的になったり事情を知る誰かから知らぬ間に誘導されて更に真剣に取り組むようになり、成長が早くなるのだ。 普段と違いすぎるためすぐに演技と見破れそうなものだが、訓練期間の異常な精神状態ではそれがマヒしてしまう。そのためさくらなどの素人だけでなく、演技を本職としたアルトでさえその期間はまったく感知できなくなってしまうのだ。 これは彼女が短期間で優秀な人材を育てるために編み出した教導のノウハウであり、自らの『優しいいい人』という社会的知名度を逆手にとった彼女の最重要機密だった。 彼女の教導を受けた者のほとんどはこの洗礼を受けており、自分も例に洩れず最初の1カ月間にこれを浴びていた。 また、彼女の教導を絶賛する者は大抵この洗礼を受けきった者逹だ。この教導の素晴らしいところは、最後には誤解が解け、共に歩んで行こうという気持ちになれることだった。 そのため卒業生はみんながみんな彼女を慕い、なのはが一声かければ仕事を放り出してでも集まって来てくれるだろう。(俗に〝なのは軍団〟という卒業生から構成された非公式の団体が存在したりする) ちなみに、六課の前線メンバーの4人には行われていないらしい。 なのはが言うには 「4人は他の生徒と違って若すぎる。それに1年間たっぷり時間があるから、絶対無理しないでいいように、ゆっくりで丁寧に教えてあげたい」 のだそうだ。 (まったく、アイツらが羨ましいぜ・・・・・・) さくらの元気が無いという重い雰囲気の中そんなことを思っていると、点いていたロビーのテレビのニュース放送が速報の電子音を鳴らした。 ────────── 『─────速報です。第6管理外世界において発生した恒星間戦争は開戦から今日で2ヶ月目に入りました。第6管理外世界は時空管理局・本局が次元航行船の造船を全面委任している世界で、管理局では対応が協議されていました。 それが今日、どうやらなんらかの動きがあったようです。今、時空管理局・本局支部の伊藤記者と中継が繋がっています。・・・・・・伊藤さん?』 キャスターの呼びかけにカメラが跳び、急いで中継を繋げたのだろう。荒い画質の人影を映し出した。彼の後ろには大中小多数の艦艇がひしめき合っている。 『─────はい、こちらは本局が艦隊拠点を置く次元空間内の停泊場です』 「こちらから見た所これと言って変化はないようですが・・・・・・何があったかわかりますか?」 『─────はい。実はつい1時間前にそこに・・・・・・あー、映せますか?・・・・・・はい。えーと、〝あそこ〟に接舷されていた廃艦予定だったL級巡察艦と、他9隻の高速艇が艦隊を組んで第6管理外世界へのホットラインルートに乗ったことが確認されました』 「理由はわかりますか?」 『─────いえ。本局は未だ出撃の理由は明らかにしていません。しかしそのL級巡察艦には〝アルカンシェル〟を積み込んだ形跡はなく、高速艇にも本格的な宙間戦闘ができるような武装を装備する設備は存在しません』 「?それはつまり、武装はしていないということですか?」 『─────確定はできませんが、極めて破壊的な装備はなかったものと思われます』 「なるほど、わかりました。また新たな情報が入り次第伝えてください」 『─────はい』 その一言を最後にカメラがスタジオに戻った。 「このニュースは続報が入り次第速報としてお伝えします。・・・・・・次に内閣支持率が20か月連続で60%を超えている現、浜本内閣について─────」 ────────── 実はこの本局の動きにはアルトや六課も一枚噛んでいた。 なんと言っても本局の要請と〝彼女〟本人の自由意思により、いやいやながらも送り出したのは彼らなのだから。 「元気で帰って来いよ」 アルトはその友人へ想いを乗せて呟いた。 時を同じくして第6管理外世界への直通ルートに乗ったL級巡察艦内で、緑の髪をした少女が可愛くくしゃみをしたとかなんとか。 「どうしました?」 どうやらさくらに聞こえてしまったらしい。 「何でもない」 と返すと、少し冷えてしまったコーヒーで喉を潤した。 すると不意に俯いていた彼女がこちらに向き直る。 「アルト隊長・・・・・・私ってなのはさんに嫌われてるんでしょうか?突然頼んでしまいましたし、やっぱり怒ってるんでしょうか・・・・・・私はどうしたら・・・・・・!」 さくらの問いに無表情を保っていたが、内心 (来た来た!) と叫んでいた。 実はこれとほぼ同じ問いをアルトもしたことがあった。相手は当時同僚だったヴァイスだ。 その時彼の答えはこうだった。 「さぁな。俺になのはさんの好き嫌いなんてわかんねぇよ。んだがな、嫌いなら訓練なんてやってくれたりしねぇって。それに1つだけ言えることがある。『諦めないで頑張ること』だ。俺達も全力でバックアップしてやる。きっと上手くいくから、いつもみたいに最後まで飛んでみせな!」 そのヴァイスのセリフと押してくれた背中にどれだけの活力をもらった事か・・・・・・ 推測するところでは、聞かれたらそのような要点のセリフを答えることが彼女の教導の伝統なのだろう。 そして世代は自分へ。 アルトはその時輝いて見えたヴァイスの姿を脳裏に思い出しつつ、満を持してそのセリフを吐いた。 「さぁな、俺にはわかんねぇよ。だがなさくら、嫌いなら訓練なんてやってくれたりしないだろうよ。それに俺も、天城だってついてる。諦めないで頑張ればきっと上手くいくと思うぜ」 (ちょっとキザだったかな?) 言ってからちょっと後悔して自らのセリフを省みたが、さくらの表情には生気が戻っていく。 「そうですね・・・・・・はい!頑張ってみます!」 その顔にはもう暗いオーラはなかった。 (*) その日はスクランブルもなく、六課のフォワード4人組に対する訓練は中断されることなく続いた。 (*) 1645時 訓練場 その時刻になると、なのはは笛を鳴らした。 「みんな集合~!」 なのはの呼び掛けに、それぞれの訓練に散っていた4人が彼女の元に集まる。 ティアナはなのはとの訓練のため、ほとんど動かなくて済んだが、他は違う。 スバルは〝フロントアタッカー〟と呼ばれるポジションの訓練のためにヴィータと組んでおり、エリオとキャロもフェイトと訓練に取り組んでいた。 そしてなのはは集まった4人に告げる。 「はい、みんなお疲れ様。今日の訓練はここまでとし、このまま解散します」 そのセリフを聞いた4人に戸惑いが走る。 しかしその事に関しての説明がないようなので、ティアナは4人の代表として手を挙げた。 「どうしたの?」 「はい。みんな疑問に思ってると思うんですけど、まだ6時じゃないですよね?」 六課の訓練は原則夕方6時までとなっており、延びたことはあってもいままで(出動以外で)早く終わったことはなかった。 「うん、それはね、私の〝個人的都合〟で1時間繰り上げることになったの。・・・・・・ああ、でも心配しないで。その分午前の訓練時間を伸ばすから。今後この時間割が3週間ぐらい続くから、そのつもりでね」 周囲の教官逹も了解している所をみると、どうやらなのはの〝個人的都合〟とやらはよほど重要であるらしい。ティアナ達はそれ以上詮索せず、言われた通りに解散した。 (*) 4人がいなくなってすぐ、さくらとアルトがやってきた。 「こんにちは。さくらちゃん、さっきは泣きそうだったのによく来る気になったね?」 笑顔を保ちながら言うと、彼女の表情が少し陰った。 自分で編み出しておいて何なんだが、正直この方法が好きではなかった。 周囲がいくら〝十八番〟と絶賛しようと、そして後で和解できるとしても、人の痛みを知っている自分としては人を傷つけたり貶(けな)すような言動はしたくないと考えていた。 しかし信念を曲げてまでも自分には彼ら生徒を育てる義務があった。 (はぁ・・・・・・「悪魔」って呼ばれてもいいけど、きっと「嫌な人」って軽蔑されてるんだろうなぁ・・・・・・) なのはは内心気落ちする。しかし気づくと、さくらの目は真っ直ぐこちらを見据えていた。そして彼女は言い放つ。 「なのはさん。私、負けません。きっとあなたと同じ高みに登ってみせます!」 その言葉のどこにも迷いはなかった。 「うん、やる気があることはいい事だよ。でも、これを落としてから言おうね」 手のひらに魔力球を生成して、手のひらで弄(もてあそ)んでみせる。 「はい!頑張ります!」 こちらの嫌みったらしい口調にもさくらは気落ちした様子を見せず、テキパキとEXギアに換装して位置についた。 なのはは初めての反応に驚いていた。この訓練ノウハウを確立、採用してから3年。今までいろんな生徒を見てきた。そのなかにはさくらのような者もいた。 分類としては〝挫けず頑張れる〟という生徒だ。しかしこのような生徒も大抵立ち直るのに1日はかかる。それに〝尊敬している〟というスパイスが効いているさくらなら2~3日は立ち直れないはずだ。 無論なのははその期間を無駄にせず、必要不可欠な基本練習をやればいいと考えていた。 (・・・・・・さすがアルトくんってことなのかな?) 聞けば有名な歌舞伎の跡取りというし、その演技力もすごいものだとフェイトやはやてから伝え聞いている。 今回さくらの心理誘導を彼に頼んだ覚えはない。しかし内心そうしてもらおうと考えていたので、鋭敏な彼の「望まれている自分センサー」に引っ掛かってそう演じさせてしまったのかもしれない。 なのはにも周囲に望まれている自分を演じるという経験が無いわけではなかったので、演技が本職の彼ならなおさらである事は容易に想像出来た。 「さすがアルトくん・・・・・・侮れない・・・・・・」 「?」 実は自分がされてカッコよかったことを真似したかっただけというしょーもない真相はともかく、訓練が開始された。 「・・・・・・それじゃ、今朝のテストの続きだね。あの魔力球を撃ち落として」 「了か─────」 さくらの返事が終わるか終わらないうちに魔力球を動き出させる。しかし彼女は慌てなかった。 前回と違って今度は流れるように初弾を装填すると、ライフルを肩に当てる。どうやら昼の間にそれなりの自主練を積んでいたらしい。 (うん、基本はまぁまぁかな。やる気は申し分なし。でもごめんね。この魔力球は落とさせないよ) 教導する時はまずある程度生徒の自信を打ち砕いてしまった方が染めやすい。このテストはそういう意味合いを持った重要な通過儀礼であった。 目前で狙いすますさくらはセミオートという機構を生かして立て続けに3発のカートリッジ弾を撃ち出す。 しかしそれが魔力球に当たる事はなかった。 それは魔力球が避けたのではない。さくらがそのカートリッジ弾に託した任務が違ったらしいのだ。 まず1発目が魔力球の行く手の海面に着弾。水飛沫をあげた。海水は魔力素の結合を脆くしてしまうため、レイジングハートに自動操縦された魔力球は反対側に退避しようとする。 しかし更にその行く手に2発目が着弾し、またも水飛沫が阻む。 3発目も同じ手だろうと判断したレイジングハートは、水飛沫など届かないぐらいに上昇をかけた。 だがさくらのカートリッジ弾は予想に反して魔力球の上を通り過ぎていく。 これをレイジングハートは人間によくある「未来位置予測の失敗」と判断して通常の機動に戻ろうとした時、カートリッジ弾が〝自爆〟した。 「実弾(魔力が封入されたカートリッジ弾のこと)!?」 その間も大容量カートリッジ弾という縛りから解き放たれた魔力が爆発的に炎熱変換され、火球を形成。魔力球を襲う。 レイジングハートは爆心から最短の離脱コースを設定する。しかしそれは爆心の反対側、つまり自分逹の方だった。 その魔力球の機動はさくらにはただの点に見える機動だっただろう。 唸るライフル 次の瞬間には魔力球の中心をカートリッジ弾が見事射抜いていた。 (*) 『Mission complete.(作戦完了)』 首に掛かったレイジングハートはそう告げると、さくらの足下にあった射撃ポイントのマーキングを消した。 彼女は精密照準器付きのヘッドギアを外すと、こちらを窺ってくる。 (面白くなってきそうだね・・・・・・・) 気付くとそんなさくらに素の笑顔を見せてしまっていた。 ―――――――――― 次回予告 教導により飛躍的に技量が伸びていくさくら しかしそれはある少女を不安にさせていく・・・・・・ 次回マクロスなのは第22話「ティアナの疑心」 「なのはさんは・・・・・・私達に手を抜いてる・・・・・・」 ―――――――――― シレンヤ氏 第22話へ
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メビウス×なのは氏の手がけた作品 No. タイトル 005 反逆の探偵 TOPページへ バトロワまとめへ このページの先頭へ