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刹那「00ガンダム…タブルオー…ガンダムDX、ZZガンダム…」キュピーン 真刹那「ガロード!ジュドー!」 ガロード「な、何?」 ジュドー「でかい声出さないでよね」 ガロード「うわ、目が金色になってんじゃん!」 ジュドー「ネーナさん!ネーナさん!」 真刹那「おまえ達はダブルでガンダムだ!!」 ガロード「意味わかんねぇよ!早くネーナさん呼んでこい!!」
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―りべる・ゆんくていお り ダンタリアンの書架 魔導書 魔導書? ダンタリアンの書架に登場。
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つながり(後編) ◆T4jDXqBeas BACK 電話は終わり、リンク達は再び部屋に戻ってきた。 インデックスは存分に食べると再び横になった。 もう放送まで間は無いが、どれだけ休んでも足りない程だ。 「ありがとう、ルビー。おかげで大事な話ができたよ」 『いえいえどういたしまして、えへん』 電話が鳴っているとルビーに起こされて目を覚まし、電話の使い方も彼女に教わった。 そのおかげで、アリサの仲間であるトマの無事を確認できた。 向こうでに仲間が一人増えているらしい。 その上、彼らは大変な手掛かりを得ていたのだ。 トリエラの宿題の解法。 ルビー曰く、トリエラの宿題とは『首輪の解除』と『島から脱出する方法』らしい。 その片方の解法が念話なのだという。 (希望が見えてきた気がする) 見える範囲での物事は良い方向に進んでいる。 向こうだけじゃなく、ここだってそうだ。 確かにインデックスは高い熱を出し、高町なのはは心身とも傷だらけになり、アリサだって疲れ果てている。 でも高町なのははここに居る。 それはきっと良いことのはずなのだ。 ただしそれには、見える範囲ではという注釈も付いていた。 例えば何処の話かも判らない、インデックスの語ったヤムィヤムィという名前の話には正直不安も有る。 インデックスもただの杞憂かもしれないんだよと(随分不安げな表情で)言っていたが、言ってみればそのくらい判らない。 勘違いや大した事の無い話なのか。 それとも……そうではないのか。 しかも見えない範囲に不安があるのはそう遠くの話だけではない。 リンクは確かめた。 「ルビー、はやてが死んだのは放送の直前なんだよね」 『ええ、そうですよ』 その事実がリンクの心に不安を残す。 ようやく気づいた一つの勘違いが、リンクの心を掻き乱す。 八神はやてが死亡したのは高町なのはが学校で三名を殺害した後である。 いや、それどころか彼女の移動経緯から考えてフェイトの死を知った事すら学校の事件の後かもしれない。 一度ヴィータの腕を破壊したそうだが、それだってもっと早い時期らしい。 それはつまり、どういう事なのか。 (なのはは、はやてを殺してしまったから、フェイトが殺されたからあんな道を選んだんじゃ、ない?) リンクは、なのはが自分の犯した罪を償うために、自分を捨て、罪を償おうとしているのだと考えていた。 その為にあんな無茶苦茶な進み方をしていたのだと。 つまり八神はやての殺害こそ全ての起点だと考えていたのだ。 その殺害を契機に自らの意思による選択を放棄して、ひたすらに殺し殺し殺し続けてきたのだと。 だがしかし、八神はやての殺害が最後であるなら何処かが歪む。 (なのはは、どうして人を殺したんだ?) 八神はやての殺害はその引き金として納得しえるものだった。 リンクは、なのはがかなり早い時期にはやてを殺してしまい道を誤ったのだと考えていた。 しかしそうではなく、高町なのはが自らの意思で学校の三人を殺したとするならば。 (なのはは、最初から人を殺せる人間だったのか?) 歪んだピースが嵌りこむ。 高町なのはという人格が“最初から”殺人を許容できる人格であったと考えれば、全て説明出来てしまう。 すぐにそんな馬鹿なと思う。 リンクは見た。 彼女の涙を。 弱々しく震える彼女の姿を。 その瞳の奥に湛えられた迷いと苦悩を。 リンクは聞いた。 彼女の言葉を。 虚勢を砕かれて曝け出した彼女の叫びを。 リンクの言葉が押し開けた、彼女のほんとうの想いを。 高町なのはは立ち直った。 それを疑えというのだろうか? (ありえないわけじゃ、ない) “白”。 高町なのはは偽名を使って電話に出て、トマを騙しきったらしい。 つまりアリサから多少話を聞いていた程度では見破れない偽りだ。 高町なのはは人を偽れる人間だ。 それならリンクはどうなのだろう。 高町なのはが嘘を吐いていたら、それを見破れるだろうか? (僕となのはの接点は、違いだ) それは触れ合わない接点だ。 リンクは、自分となのはの違いに気がついた。 なのはに、自ら行為を選んできた雰囲気が感じられない事に。 それはつまり、エヴァの言う通り何かに流されていたという事だ。 逆に言えばリンクが知っているのはその一点だけだ。 リンクは人の正体を見抜く力に欠けているのだろう。 かつて悪しきガノンの真の企みにも、善なるシークの正体にも気づけなかったように。 だけどそれを自覚したならば、考える事ができる。 確定しているのはなのはが何かに流されたという一点だけ。 なのはは何に流されて人を殺したのだろう? なのはに人を殺させた流れは何だろう? (この島の殺し合い……かな) 目の前で殺し合いが起きた。 だから選択するのでもなくただ流されそれに飛び込み多くの人を殺めた。 それはとても危険な事だ。 (だってそれは、ふとした拍子で人を殺してしまうという事じゃないか) もしそうだとすればなのはの改心にさえ意味が無い。 いや、そもそもあの改心の言葉さえ信じられない。 リンクの言葉には、言葉が届くための最低条件である“理解”に欠けていたのだから。 そんな言葉を受け止めてくれるわけがない。 にも関わらず改心したとすれば最早それは偽りに他ならない。 なのはは自分を偽ってリンク達に接している。 『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……』 なのはが俯き涙する姿を回想する。 もしかするとあの姿は、罪を犯した事ではなく未だ偽りを重ね続けている事を謝っていたのかもしれない。 (警戒しなきゃ) どんな事が有っても親友を信じ続けるであろうアリサでもなく。 熱を出してしまいまともに行動できないインデックスでもなく。 杖の精霊であり自ら動く事ができないカレイドルビーでもなく。 多くを乗り越えてきてここに立つリンクが警戒し続けなければならない。 新たな決意と共に眠る少女達を見据えて、リンクは朝を待つ。 時の勇者は朝を待つ。 * * * 電話を終えたベルカナは、持っていた受話器を元の場所に置いた。 それから傍らに佇むヤミヤミを振り返り、告げた。 「よく私を起こしてくれました。助かりましたわ」 「……うん。多分、こういうのはベルカナが得意だと思ったから」 ヤミヤミは少し俯いていたが、ベルカナにはそれに気づく余裕も無い。 睡眠時間は二時間取れたかどうか、その精神力は全快時の半分にも足りない程まで消耗していたのだ。 ベルカナはこの城で最も睡眠を必要としていたし、本当なら放送ギリギリまで起こされたくなかった。 少しでも密度の高い睡眠を取る事こそ自分に課せられた役目だと思っていた。 しかしヤミヤミに起こされた用件は、それに見合うほどに重要な事だった。 レベッカ宮本。 会話で探りを入れたところ完全に確定した。 彼女こそ橋で遭遇し、ベルカナに襲い掛かってきた吸血鬼に他ならない。 その言葉は一見すると冷静で理知的に感じられたが、信用できるはずもない。 実際に問答無用で襲い掛かってきたのだから。 (血に餓えていなければ大丈夫、ね。どこまで信用できるのやら) 大嘘で本性を偽っている可能性は大いにある。 むしろ、そうならばまだ良い。 もしレベッカが嘘を吐いているだけなら、ベルカナにはそれを見破る手段が有った。 虚言感知〈センス・ライ〉 三分間しか持続しないが、発言内容にある嘘を全て見破る事が出来る魔法だ。 これを電話口で使わなかったのは精神力の温存もあるが、なにより嘘発見では不完全である事だ。 虚言感知は嘘を見破る魔法でしかないのである。 嘘を言わずに話すことと隠し事をしない事はイコールで結べない。 何より喋っている者が真実を知らないのであれば嘘にはならない。 例えば「血に餓えてなければ大丈夫」と本人が信じていれば嘘にはならないのだ。 目の前に新鮮な血があれば我を忘れるのだとしても、当人が大丈夫だと信じていれば嘘にはならない。 例えば「アルルゥは大切な存在」だと思っていても、 もし吸血鬼への変化に伴って愛しい者の血ほど飲みたくなるような精神汚染が起きていたら意味は無い。 危険な存在になっているという認識が無ければ、襲ってきながらでも正直に好きだと言うだろう。 だからベルカナはしばらく時間を空ける事にした。 時間が経って、色々起きて、それでも嘘無く安全な身分証明が出来るなら、信じるに値するだろう。 実際には完璧に安全ではなかったとしても、少なくともすぐに爆発はしないと信じられる。 だけどまだ会わせるわけにはいかない。 今は会話させるだけの信用すら無い。 ベルカナが電話の応対を出来た事は幸運だと言って良かった。 見張りをしていたヤミヤミが電話の扱いを知っていて。 口下手なアルルゥや、熱のある木之本桜は別にしても、レックスではなくベルカナを起こしてくれた。 ベルカナとはツーカー錠で隠し事無く(ほんとは有るが)会話したが、レックスとも何か有って絆を深めたらしいし、 レックスではなくベルカナを起こしてくれたのは、本当に向き不向きの差なのだろう。 そのおかげでベルカナはアルルゥ達に情報を選択して伝える事ができる。 (放送で呼ばれるかにもよりますが……) 放送の存在がある以上、生存については知られてしまう可能性が高い。 ベルカナの知るヴァンパイアならアンデッド、死者なのだが、それでも動くとしてカウントされる恐れがある。 そもそもベルカナの知るヴァンパイアとはどうも性質が違う。 レベッカの血を吸ったと思しき吸血鬼、レミリア・スカーレットの話はアルルゥ達から聞いている。 しかし彼女の特性はベルカナの知るそれとは何もかもが違いすぎる。 見かけからして、吸血鬼に羽が生えてるなんて聞いてない。 正直別物だと言わざるをえない。 電話の情報により予測できる事は幾つかある。 レベッカは恐らくレミリアに襲われて吸血鬼と化したのだという事。 同じく確証は無いがレベッカとレミリアは行動を共にはしていないようである事。 レミリアは羽が生えていて自在に空を飛ぶがレベッカは飛べないようである事。 やはり吸血鬼は吸血鬼であり、餓えた従者は血の匂いに耐え切れず襲いかかってくる事。 その一方で血の匂いが無い場所では理性的らしい事? (何もかも推測ですわね。希望的観測かもしれません) それからヤミヤミの話によると、一緒にトマという男の子が居たらしい。 吸血鬼と一緒に人間が居られるのか、やはりそちらも吸血鬼なのかは判らない。 アルルゥ、レックス、さくらにリイン、みんなに聞けば誰か一人くらい知っている可能性は有るだろう。 問題はどの程度まで話すかだ。 (とりあえず放送の後に話が有るとでも言っておけばいいでしょうか。 放送でレベッカ宮本の名が呼ばれたならトマから電話が有ったと言って彼女の生存情報については様子を見る。 そして放送でレベッカ宮本の名前が呼ばれなければ、話す。 すぐに話さなかった理由はワンクッションを置くためと、放送で騙りでないか確認するためといったところです。 実際、彼女が騙りである可能性も無いとは言えませんわね。 どちらにせよ向こうに会いに行っても良いのですがそうなると予定が狂います。 東回りのルートに変更する手も有りますけど……そういえば南西にさくらの知り合いが行ったのですか。 これも放送の内容によっては考えなければならないでしょう。後は……) ベルカナは思考する。 思考に没頭する。 レベッカ宮本の存在はそれほどまでに大きな情報だった。 だから気づかない。 ヤミヤミが先に部屋に戻ると言っても、電話については私から話しますと釘を刺しただけで気にとめない。 彼女が何かに動揺している事も気づかない。 ヤミヤミは一人二階の執務室を出て、皆の眠る宿屋へと戻っていった。 * * * ヤミヤミは宿屋の薄闇の中に佇んでいた。 思考はぐるぐると意味の無い渦を巻き、形を成さない。 混乱と動揺。 それから、強い感情が胸の中を責め立てる。 ヤムィヤムィ。 アルルゥから貰った名前を正確に発音して、電話の向こうに伝えた。 そう生きる事を宣言した。 それから返ってきたのは奇妙な話。 とても悲しい言葉。 わからない。 どうしてなのか。 何故なのか。 何もかもがわからない。 『冷たい私と冷たい私達』 自らが背負った罪がどんなに重い物でも、背負わなければいけないと思っていた。 背負おうと、思えた。 レックスとアルルゥが赦してくれたから。 そのおかげで前に進もうという意思を抱けたのだ。 『だから僕は、君のことを許す』 確かに、レックスは赦してくれた。だけど。 『アルルゥ、てきならたたかう。だけど、ヤムィヤムィはてきじゃない』 『ん、ヤムィヤムィはなかま!』 アルルゥは、ほんとうに赦してくれていたのだろうか? もしかしたらアルルゥにとって、ヤミヤミは敵であって欲しいのではないだろうか。 敵であれば戦う。 敵であれば殺せる。 敵であれば……仇を討てる。 「ヤムィヤムィ、どうしたの?」 見ればアルルゥが寝ぼけ眼をこすってヤミヤミを見ていた。 ……恐かった。 全身を寒気が包みこみ、体も心も冷たくなっていくのを感じた。 でも、聞かなければいけない事だと思った。 ヤミヤミは、意を決して訊いた。 「アルルゥ。一つ、訊いてもいいですか?」 「なに?」 心臓が激しく脈を打つ。 どくどくという音が頭の中まで響くようだ。 こわい。さむい。 くるしい。 それでも言葉を続けて、 「私の名前の意味は、“冷たい私と冷たい私達”ですか」 訊いた。 アルルゥはそれを聞いて。 目を丸くした。 それから僅かに間をおいて。 「ん」 こくりと、小さく頷いた。 ヤミヤミは震える声で、もう一つだけ聞いた。 「それは、梨々さんが死んだからですか」 アルルゥの首は、 「ん」 小さく、縦に振られた。 耳鳴りがするほどの静寂の中で。 「名前をお返しします」 ヤミヤミは言った。 「ヤムィヤムィ?」 「イヴで良い。あるいはヤムィで良い。冷たい私で。 冷たいのは、私だけでいいんです」 ゆっくりと足を進める。 部屋の外へ。 宿の外へ。 ここ以外の何処かへと。 「待って、ヤミヤミ!」 ベッドからレックスが跳ね起きていた。 恐らくは彼も目を覚まし話を聞いていたのだろう。 ヤミは振り返り、二人を見つめて、 告げた。 「ありがとう。私に温もりをくれて。 ごめんなさい。あなた達から温もりを奪い続けて。 さようなら。アルルゥも、レックスも、ベルカナさんも……私はみんな好きでした」 走り出す。 レックスの制止が聞こえる。 アルルゥの声が聞こえる。 だけど想いは届かない。 そのまま階段を駆け上がり、壁際の窓へ向かって走って、走って、走って。 跳躍して。 (──トランス) 身体構造を変化させた。 下半身を魚に、呼吸形態を地上用から水中用に。 そして数秒後。 増水して濁流渦巻く川が、ヤミの全身を受け止めた。 (怨んでるわけじゃない。憎んでるわけじゃない) 着水の轟音はすぐさま濁流の音へと取って代わる。 流される。 何もかもが流されていく。 冷たい水に包まれて。 (でも、許せない) 冷たいのが自分だけなら、それで良かった。 だけどアルルゥ達の心まで冷たくし続ける事は耐えられなかった。 冷たい私と冷たい私達。 梨々が死んだ事により名づけられた名前。 それはきっと、怨嗟を篭められた名前ではないのだろう。 ただ、あまりにも悲しい名前に思えた。 とても冷たくて、悲しくて、切なくなる名前。 アルルゥはヤミヤミの名を呼ぶ度に自分も自分達も冷たいと言い続けていたのだ。 きっと、梨々が死んだのにその死に関わる者すら仲間と受け入れる自分を責め続けていたのだ。 (アルルゥ達を冷たくし続ける事が許せない) だから、ヤミは思った。 もし仇をも仲間として受け入れる事がアルルゥ達の心を傷つけるなら、自分はそこに居てはいけない。 アルルゥ達と一緒に居てはいけない。 とても短い間だったけれど、アルルゥ達と過ごした時間はヤミにとって人生の全てだったから。 もう、ほんとうに好きになり始めていたから。 (だから私は、居ないほうが良いんだ) 濁流に繋がれてヤミは流れゆく。 何処か、冷たい場所へと。 * * * 間に合わなかった。 ヤミヤミを追ったレックスとアルルゥの手は、あと少しのところで擦り抜けた。 彼女の体は人魚のような姿に変わり、遥か下方に見える川に呑まれた。 「どうしてあんな名前を付けたんだ、アルルゥ!?」 レックスは厳しく詰問する。 許せなかった。 まるで、裏切られたみたいに思えた。 この想いは間違っているものだと思う。 アルルゥにはヤミヤミを怨むだけの理由がある。 だけど、もしも彼女を怨んでいるならどうして教えてくれなかったのだろう。 その事が裏切られたみたいに思えて。 ぽろぽろと。 アルルゥの瞳から涙が零れ落ちていることに気づいた。 「アルルゥ?」 「…………つめたかったの」 アルルゥはつぶやくように言葉を紡ぎ始める。 誰に伝えるでもないかのように。 何処か、呆然となりながら。 「アルルゥ、つめたかった。とても、さむかった」 「……梨々が、死んだから?」 ん、とこくり頷いて、 「りりがいなくなったのに、なにもしてあげられなかった。かなしんであげられなかった」 胸の内を打ち明けた。 「悲しんであげられない?」 わからない。 アルルゥは梨々を想い、散々に泣いていたはずだ。 それなのにどうして? 「レックス、なかなかった」 「それは……」 「ベルカナも、なかなかった」 ……確かに、梨々のために泣いたのはアルルゥだけだ。 レックスもベルカナも泣かなかった。 いや、違う。 「みんな、なけなかった」 「………………」 そう、泣けなかった。 前に進まなければならないから。 あるいはもしかすると……別れ失う事に“慣れ始めて”しまったから? 「このしま、キライ。さむくなるから」 「それは、心が?」 「ん」 アルルゥは頷く。 「みんな、みんなあえなくなってく。 ジーニアスもベッキーもいなくなった。 プレセアおねーちゃんもころされた。 レミリアもわるくなった。 りりも……」 身を挺してアルルゥ達を護り。 戦いの中で散り。 変貌し。 誰もかもがアルルゥの側から居なくなっていく。 「アルルゥ、つめたくなってく。 みんな、つめたくなってく」 度重なる悲しみで胸の奥が冷めていく。 真冬の吹雪のように凍える寒気が心の温度を下げていく。 「だからあんな名前を付けたの?」 「ん」 アルルゥは頷いて。 そして。 レックスの手を握った。 「アルルゥ、こうしたいっておもったから」 「え…………」 アルルゥは言った。 「アルルゥもみんなもつめたくなってく。だから、こうする」 アルルゥの手は窓の外から吹き込む夜風で冷えはじめていた。 レックスの手も同じで、二人とも冷たい手を握り合わせているはずだ。 それなのに、しばらくすると体温が伝わってきた。 人の温もりが。 仲間の温もりが伝わってきた。 じんわりとした温もりが、手のひらから伝わってきた。 「ヤムィだけじゃ、ダメ。ヤムィヤムィじゃなきゃ、ダメ」 冷たい私だけでは凍えるだけだ。 だけど私だけではなく冷たい私達──仲間が居るのなら。 寒さに凍えていても、身を寄せ合って温かくなれる。 「でもアルルゥ、ヤムィヤムィをなかせた」 ぽろぽろと涙が零れ落ちていく。 温かなのに悲しい涙が止め処なく頬を濡らし続ける。 深い悲しみと後悔がアルルゥの心を傷つける。 「アルルゥ、いけないなまえつけた?」 「………………」 レックスは何も言わずに。 ちからいっぱい、アルルゥを抱きしめた。 そして、意識した。 ポケットの中に有る、一枚のカード。 『磁力』のカードを意識した。 一人でならタバサに会いに行く事もできるカードだ。 かつて意識した雛苺とさくらについて考える必要は最早無い。 しかし使ってしまえば、この城に居るアルルゥ達を放って行く事にもなる。 でも。 それなら。 どうすればいいのだろう? このつながりを護るためには。 【A-3/工場仮眠室/2日目/早朝】 【リンク(子供)@ゼルダの伝説 時のオカリナ】 [状態]:左太腿と右掌に裂傷、左肩に打撲、足に軽度の凍傷(治療済み) [装備]:勇者の拳@魔法陣グルグル、コキリの剣@ゼルダの伝説 [道具]:基本支給品一式×5(食料一人分-1、飲料水を少し消費)、クロウカード『希望』@CCさくら、 歩く教会の十字架@とある魔術の禁書目録、時限爆弾@ぱにぽに、エスパー錠とその鍵@絶対可憐チルドレン、 じゃんけん札@サザエさん、ふじおか@みなみけ(なんか汚れた)、5MeO-DIPT(24mg)、 祭具殿にあった武器1~3つ程、祭具殿の鍵、裂かれたアリサのスリップ(包帯を作った余り) [服装]:中世ファンタジーな布の服など。傷口に包帯。 [思考]:僕がやるべき事は…… 第一行動方針:なのは達を守る。 第二行動方針:なのはやインデックスと情報交換。 第三行動方針:なのはの精神状態を警戒する。 第四行動方針:もし桜を見つけたら保護する。 第五行動方針:ゲームに乗った人間は、説得する(無理なら……) 第六行動方針:死者蘇生の可能性を探す。 基本行動方針:ゲームを壊す。その後、絶対に梨花の世界へと赴き、梨花の知り合い達に謝罪したい。 参戦時期:エンディング後 [備考] リンクが所持している祭具殿にあった他の武器が何なのかは次以降の書き手さんに任せます。 (少なくとも剣ではないと思われます) 祭具殿の内部を詳しく調べていません。 カレイドルビーと情報交換しました。これまでのアリサの動向を知っています。 【インデックス@とある魔術の禁書目録】 [状態]:仮眠中、高熱、全身に軽度の凍傷、軽い貧血気味、 背中に大きな裂傷跡と火傷、足裏に擦過傷(共に応急手当て済み) [装備]:水の羽衣(背部が横に大きく裂けている)@ドラゴンクエストⅤ [道具]:支給品一式(食料-1日分、時計破損)、ビュティの首輪、鉄製の斧@ひぐらしのなく頃に(?) [服装]:私立聖祥大付属小学校の制服の下に水の羽衣。背中と足にシルクの包帯。 [思考]:食べて寝ちゃいけないんだよ……zzz…… 第一行動方針:なのは、アリサと話をする。 第二行動方針:ヴィータを捜し、説得する。 第三行動方針:ニケ達と合流する。 第四行動方針:紫穂の行方の手掛かりを探す。エヴァの説得も諦めていない。名前しか知らないヤムィヤムィが少し気になる。 第五行動方針:落ち着いたら、明るい所でじっくりビュティの首輪を調べたい。 基本行動方針:誰にも死んで欲しくない。状況を打破するため情報を集め、この空間から脱出する。 [備考] 拾った双葉の型紐が切れたランドセルに荷物まとめて入れています。 インデックス自身のランドセルは壊れているので内容物の質量と大きさを無視できません。 深夜12時の臨時放送を、完全に聞き逃しました。 【F-3/グランバニア城二階・執務室/2日目/早朝】 【ベルカナ=ライザナーザ@新ソードワールドリプレイ集NEXT】 [状態]:精神力半減 [装備]:ネギの杖、果物ナイフ@DQ5、ゴロンの服@ゼルダの伝説、レースのビスチェ@DQ5、 [道具]:支給品一式×4、懐中時計型航時機『カシオペア』@魔法先生ネギま!、黙陣の戦弓@サモンナイト3 テーザー銃@ひぐらしのなく頃に、爆弾石×2@ドラゴンクエスト5、魔晶石(15点分)@ソードワールド、 消毒薬や包帯等、ツーカー錠x3@ドラえもん、マジカントバット@MOTHER2、パワフルグラブ@ゼルダの伝説 [服装]:ゴロンの服。その下にレースのビスチェ [思考]:そういえば何やら騒がしいような……? 第一行動方針:電話の話についてどう伝えるか考える。 第二行動方針:朝の放送でイエローが無事だった場合、『交信』でイエローと連絡したい。 第三行動方針:イエローと合流し、丈からの依頼を果たせるよう努力はする(無理はしない) 第四行動方針:仲間を集めたい(イエローの友人の捜索。簡単には信用はしない) 第五行動方針:出来れば睡眠で精神力を回復させたいが。 基本行動方針:ジェダを倒してミッションクリア [備考]:葵が死んだことを知りません。 レベッカ宮本を『フォーセリアのレッサー・バンパイア』だと考えている? 【F-3/グランバニア城一階・宿屋/2日目/早朝】 【レックス@ドラゴンクエスト5】 [状態]:魔力中消費 [装備]:ドラゴンの杖@DQ5(ドラゴラム使用回数残り2回)、勇気ある者の盾@ソードワールド [道具]:基本支給品×2、GIのスペルカード『磁力』@HUNTER×HUNTER、飛翔の蝙也の爆薬(残十発)@るろうに剣心 ドラゴンころし@ベルセルク、バトルピック@テイルズオブシンフォニア、 爆弾石×2@ドラゴンクエスト5、魔力の尽きた凛のペンダント、小さなメダル@DQ5 [服装]:普段着 [思考]:どうすれば良い? 第一行動方針:ヤミヤミが気になる。アルルゥの涙を止めたい。 第二行動方針:仲間を守りつつ、レミリアとタバサを捜す。 第三行動方針:魔力が回復して余裕が出来たら、不明アイテムや水中の調査 基本行動方針:勇者としてタバサの兄として誇れるよう生きる。でも敵には容赦しない。 [備考]:エンディング後なので、呪文は一通り習得済み アルルゥや真紅はモンスターの一種だと思っています。 ベッキーは死亡したと考えています。 お城の地下に迷宮があるのを確認しましたが、重要なことだと思っていません 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:魔力消費(中)、右腕の手首から先が動かない。 [装備]:タマヒポ(サモナイト石・獣)、ワイヴァーン(サモナイト石・獣)@サモンナイト3 [道具]:基本支給品×2、クロウカード『泡』『駆』@カードキャプターさくら、 海底探検セット(深海クリーム、エア・チューブ、ヘッドランプ、ま水ストロー、深海クリームの残り、快速シューズ)@ドラえもん スタンガン@ひぐらしのなく頃に、アタッシュ・ウェポン・ケース@BLACK CAT [服装]:普段着である民族衣装風の着物(背中の部分が破れ、血で濡れている) [思考]:ヤムィヤムィ…… 第一行動方針:ヤムィヤムィが気になる。悲しい。 第二行動方針:レックスについていき、レミリアやイエローを捜したい。 基本行動方針:優勝以外の脱出の手段を捜す。敵は容赦しない。 参戦時期:ナ・トゥンク攻略直後 [備考]:アルルゥは獣属性の召喚術に限りAランクまで使用できます。 ゲームに乗らなくてもみんなで協力すれば脱出可能だと信じました。 サモナイト石で召喚された魔獣は、必ず攻撃動作を一回行ってから消えます。攻撃を止めることは不可能。 アリス・イン・ワンダーランドに対して嫌悪を覚えています。 ベッキーは死亡したと考えています。 【F-3/河川水中/2日目/早朝】 【ヤミ(イヴ)@BLACK CAT】 [状態]:疲労(中)、10歳前後の容姿、トランス〈人魚〉状態 [装備]:レミリアの服、エッチな下着@DQ5、返響器@ヴァンパイアセイヴァー [道具]:基本支給品×2、光子朗のノートパソコン@デジモンアドベンチャー、 フック付きロープ@DQ5、神楽の傘(弾0)@銀魂、エーテライト×1@MELTY BLOOD、 胡蝶夢丸セット@東方Project、ラグーン号操船マニュアル、病院服、ただの布切れ [服装]:レミリアの服、その下はエッチな下着 [思考]:アルルゥ達と一緒に居ちゃ、いけない。 第一行動方針:城から離れる。 第二行動方針:自分の過去を知りたい。そのために、ブルーや千秋から話を聞きたい。 基本行動方針:自分の過去を知りたい。そして罪と向き合いたい。 [備考]:記憶をすべて消し去りました。元世界の記憶、この島での記憶、共にありません。 自らヤムィ(ヤミ)に改名しました。 ≪272 なまえのないかいぶつ 時系列順に読む 274 目撃者と追跡者≫ ≪272 なまえのないかいぶつ 投下順に読む 274 目撃者と追跡者≫ ≪254 ワスレナグサ リンクの登場SSを読む 280 想いは百秒で砕け散る≫ インデックスの登場SSを読む ≪264 ギップリャアアアの謎 トマの登場SSを読む 282 第二回定時放送≫ ベッキーの登場SSを読む ≪269 優しい微笑みを浮かべて ベルカナの登場SSを読む 278 Sneak Attack!!(前編)≫ レックスの登場SSを読む 277 守るもの、奪うもの≫ アルルゥの登場SSを読む イヴの登場SSを読む
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「あーん……」 ソーダにアイスを一口。 「えへへ、あまーいっ」 で、どこかのコンビの片方と同じ反応。 でもソーダの方が可愛いし、こちらの方が見ていて気分がいい。 「何だかんだで、料理上手よねぇ」 爆弾岩さんが、ニヤニヤしながらこちらを見ている。 きっと結婚したらいい奥さんにとか思っているに違いない。 「一人暮らしですから。でもアイスは初めて作りました」 「ママー、もっとー」 「ママじゃなくてマスターだよ。はい、あーん」 爆弾岩さんの視線を感じながら、もう一口ソーダにアイスを――。 ピンポーン。 インターホンの音が、部屋に鳴り響く。 「真珠さんかな?」 「真ちゃんは今日来れないって言ってたわよ」 じゃあ誰かな。NHKの集金とかだったら嫌だな。 とりあえず玄関へ……。 「おでむかえー」 「こーら、ソーダはここで待ってるのよぉ」 後についていこうとしたソーダを、爆弾岩さんが抱き上げる。 まぁそれはそれとして、ドアの覗き窓から外を見てみる。 ……人影……この子は……。 「あれ、蛋白石ちゃん。いらっしゃい」 「こんにちはー」 普段はソーダが蛋白石ちゃんたちのところに遊びに行くのだが、今日は見ての通り。 珍しい来客だった。そもそも蛋白石ちゃんが来るのはおそらく初めてかな。 「ご主人様がソーダちゃんに、バレンタインデーのお返しです」 「そっかぁ。きっとソーダも喜ぶよ。さぁ、上がっていって」 「はい、おじゃましまーす」 蛋白石ちゃんから紙袋を受け取り、一緒にリビングへ向かう。 「ご主人様、自分で渡せなくてごめんなさいって言ってましたよ」 「確か大学生だっけ? 学校忙しいのかな」 「はい、毎日忙しい忙しいって、大変そうです」 なるほど……いいなぁ、青春真っ盛りって感じで。 って、そんなこと考えてたらあたしが年寄りみたいだよね。 「ソーダ、蛋白石ちゃんが来たよ」 「あーっ、おねーちゃんっ♪」 「こんにちは、ソーダちゃん……あ、爆姉様っ」 え、爆姉様……? そして気づいたら蛋白石ちゃん、爆弾岩さんに抱きついてるし。 「もぉー、相変わらず抱きつきたがりなんだからぁ」 「えへへー」 「ソーダもだっこするーっ」 「へぇ、じゃあ蛋白石ちゃんは爆弾岩さんと同じマスターのところにいたんだ」 「というか、蛋白と一緒にいることが義務づけられていたって言った方がいいのかな」 何でも、宝石乙女は必ず一度、つきっきりで妹の世話をすることが義務づけられているんだとか。 「今の私とお姉様みたいに、一緒にいた時期があったんですよ」 お姉様……確か蛋白石ちゃんの妹の電気石ちゃんのことだったと思う。 でも妹がどうしてお姉様? 「じゃあソーダも、いつかは一人のお姉さんがつきっきりで面倒を見るようになるんですか?」 「ええ、たぶん電ちゃんや天ちゃんが一人前になったらそうなるわねぇ」 「ソーダ、みんなといっしょー」 私の膝で、嬉しそうに手を挙げるソーダ。 「そうねぇ、みんなと一緒がいいわよねぇー」 それを考えると、ほとんどの子が近くにいる今の状態は理想的な状況なのかもしれない。 「爆姉様、私の面倒いっぱい見てくれて。私がドジしても、いっつも守ってくれました」 「ちょっと蛋白はドジ過ぎたけどねぇ。でもそこがまた可愛いのよぉ」 二人で抱き合う……なんというか、どっちも抱きつきたがり。 「ソーダもー♪」 って、いつの間にかソーダが二人の間に。 「ほーら、貴女もこっち来なさいよぉ」 「え、あたしもですか……」 「ママもー♪」 なんだかすでに強制されてる……というか四人で抱き合うってなんかものすごくシュールな光景にも……。 「あーもぉ、恥ずかしがってないでこっち来なさいっ。蛋白、連れて来ちゃって」 「はいっ。じゃあ失礼しますよー」 「え、ちょっ、強制連行っ!?」 蛋白石ちゃんのパワーに勝てるはずもなく、結局私も抱き合いに参加することに。 「ぎゅーっ」 ソーダが嬉しそうなのはいいんだけど……なんか、すごく暑い。うぅむ、宝石乙女の姉妹仲って、みんなこんなに強いのかな。
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最初の町、ピーチタウンから東に向かうと海がある。その海をずっと東に進んでいると、なぜかマップの逆側のパパイヤアイランドにつく、ということができるので、いきなりピーチタウンからパパイヤアイランドに行く人がいたらみんなもびっくりするだろう。全てノーマル装備でパパイヤアイランドに来たことを友達や家族に見せよう!!
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【おくれてきたものの続編です】 確か、こういうおもちゃ、あったよね。 樽の中に人形が入ってて――実際は上に挿してある、というほうが正しいんだけど――、樽に開いた穴に交代でナイフを挿していって、当りを引いて人形が飛び出すと負け、っていうの。 それがどんな名前だったのかは忘れちゃったんだけどね。 小さいころの私は、人形が樽から飛び出すのが面白くて、当らないかなーって思いながらナイフを挿していたの覚えている。 どうして人形が樽から飛び出すのかなんて、ぜんぜん考えてなかったのも覚えている。 でも、今ならわかるよ。当たり前のことだけど、ナイフを刺されて痛いから飛び出すんだよ。その痛みから逃げようとして、ね。 今の私なら、それがよくわかる。だって、今の私が丁度その人形なんだもん。次々刺さるナイフにおびえながら過ごすってこんな心境なんだって、今は小さいころ遊んでいたその人形に謝りたい気分。 だけどね、きっと私のほうがつらいかもなーなんて思ったりもするかな。小さいころのそれと今の私じゃ違うところが二つあるから。 一つ、どんなに痛くたって私は飛び出すことができない。――どんなに痛くても、逃げることができない。 二つ、樽に開いた穴は外れというものが存在しない。――痛くないものなんて、一つもない。 まあね、いくら刺されても死ぬことはないんだけどさ。 ただひたすらに痛くて、辛くて、苦しくて、切なくて――それを、延々と繰り返しているだけ。 それが、ここ最近の私だった。 助けて、なんて言えない。 言うつもりもないし、もしそれに資格が必要なのだとしたら、私にはそれはきっと無いだろうから。 だって、誰のせいでもないもん。もしそれを無理やりにでも誰かのってことにしようとしたら、それはきっと私ということになっちゃう。 そう、悪いのは全部、私。 遅かった、そう、きっと私は遅かったんだ。 何が、って言われればきっと全てが。 私はのんびりしてて、ぽやーっとしてて、ずっと周りに言われてて自分でもそれは気が付いていたことだけど、だけどそれでもいいやって思ってた。 それが私だよ、なんて半ば開き直ったりしながら無邪気に日々を過ごしていた。 気付いてってどこかで叫んでいた何かにずっと気が付かないまま――それが聞こえていることにも、気が付かないまま。ひょっとしたら、気づかないようにしようとしながら。 だから、悪いのは全部私なんだ。私がそんなんだったから、きっと今の私がある。 ねえ、だってさ。もう少し早く気付いていたら、違ったのかもしれないんだよ。 そうしていれば、私の手はあの子に届いていたのかもしれない。 その隣にいられたのかもしれない。 ぎゅっと胸に抱きしめられていたのかもしれない。 だけど、私は遅かった。本当にもう、泣いてしまいたくなるほどに。いくら泣いてもその距離が縮まることは無いってわかってはいるけど、それでも。 つまりは、その声がようやく私の鼓膜を揺らしたときには。私がようやくそれに気付いたときには。 それはもう――私が望んでいたものは全部、この手の届かないところに行ってしまっていた。 私の視線の先には、本当に楽しそうに笑う二人。 いっそ見なければいい、なんて思うけど。そういうわけにも行かないよね。 だってあからさまにそうしてしまえば、きっとその子は、二人は、そしてみんなは変に思っちゃうから。 だから、楽しそうに笑う二人に、私は不自然ではない位に眺めたり目を離したりを繰り返してる。 「先輩、やっぱりすごいです」 「そ、そうか?」 きらきらとその瞳を輝かせながら、私には一度も見せたことの無い笑顔を浮かべながら、彼女を見上げるあの子。 彼女は少し照れくさそうにしながら、優しい笑みをあの子に落としている。 いろんなものを抜きにしてしまえば、ううんきっとそれを合わせてみても、お似合いの二人。 そう、きっと私といるときよりもずっと、あの子はいい顔を見せているから。 「じゃあ、もう一回合わせてみるか」 「はい!」 奏で合い、響きあう音は心地よく私の耳に響いてくる。 ぴったりと息の合った、綺麗な音。それをどんなに否定しようとしても、私の耳はそれを的確に評価してしまってる。 あの二人だから奏でられる音なんだって。 小さく苦笑する。そもそも否定だなんて、そんなことできるはずが無い。 だって。 彼女は大事な友達だし。 あの子は大切な――後輩だし。 その二人が仲良く、楽しそうにしていることに、私が言えることなんて何もない。本当に、何もないんだ。 だから、ただ耳を塞ぐ。勿論実際にそうするわけじゃないけど。 自分の爪弾く音、それに没頭するように、意識をそっちに閉じ込める。その殻に閉じこもってしまう。 そういえば最近ずっとこうやって過ごしてる。何も部活時間だけじゃない。家に帰っても、それを考えなくてすむように私はずっとギー太と向き合ってる。 そうしていれば、少しだけ本当にほんの少しだけそれを忘れられるから。少しだけ楽になれるから。 ありがとね、ギー太。そしてごめんね、こんな私につき合わせちゃって。駄目な私でごめんなさい。 「唯先輩っ♪」 謝りながらまたピックを振り下ろそうとして、そんな明るい声に右手を止められた。 何も聞こえないくらいに没頭していたけど。だけどその声を聞かされたら、止まらざるを得ない。その声で私の名前を呼ばれたら、顔を上げざるを得ないから。 だって、それは私の大好きな――あの子の声だから。 「わっ、どうしたの、あずにゃん。びっくりしたよ~」 声に合わせた表情を作りながら、私は反応を返す。 不自然じゃなかったかと少しびくびくしたけど、だけどその子はそのあたりには何も気が付いていないようで、内心ほっとする。 「すみません、折角集中してたところに。でも――」 ――別に集中していたわけじゃないよ。ただ、逃げていただけだから。 「唯先輩、なんかすごく上達してませんか?」 「ふふーん、私もやるときはやるんだよっ。最近真面目に練習してるからね!」 ふんとちょっとおどけたように胸を張ってみせる。するとこの子は、私の予想通りに呆れたような笑みを私に返してくれた。 「もう、調子に乗らないでください。それが当たり前なんですから」 「えへへ、そうだっけ」 「そうですよ、もう」 苦笑して見せる私に、今度は優しく笑みを見せてくれる。それに、私はふわりと幸せな気持ちになる。 それは、そう。前と変わらない時間。私がそれと気付かず、ずっと当たり前にあるものだと、続くものだと思っていたもの。 そして、あの子と彼女の距離が変わった今でも、時々私に訪れてくれるもの。 いっそ、これが一切なくなってしまったら、ひょっとしたら私は楽になれるのかもしれない。 だけどあの子は、それでも昔と変わらない様子で、時々私の傍に来る。本当に、そこだけは昔と変わらない、そんな笑顔で。 きっと、あの子はそれを求めているんだと思う。それくらいの勘違いは、してもいいよね。 だから私は、どんなに胸が張り裂けそうでも、昔と変わらない笑顔であの子を迎えてあげる。 いつもの唯先輩だよーって顔をして、そんな仮面を貼り付けて、あの子と笑いあう。 だってそれはそれでも、私にとって何よりも幸せな瞬間だから。 だけど、そう。いってしまえばただそれだけのことなんだ。 それはただの瞬間で、それが過ぎてしまえばあっさりと無くなってしまう。 「おーい、梓。そろそろいいか?」 彼女の声が響く。すると、私に向けられていた笑顔は、ひょいっと本当にあっけなく、そちらに向いてしまう。 くるりとあのこの体が回って、その背中を私に向ける。 それはいつもの光景で、だけどいつになっても慣れない光景。 それはスパッと胸の辺りを切り裂いて、私はそこから溢れ出すたくさんのものを表に出さないようがんばらないといけない。 それはとても大変なことだけど―― 「そうだ」 不意にくるっとあの子が振り返って、またその笑顔を私に向けた。 「唯先輩もどうですか?最近みんなで合わせるとき以外は、ずっと一人じゃないですか。澪先輩と一緒に、三人で合わせてみませんか?」 それは本当に不意打ちで、思わず顔が歪みそうになってしまう。だけど、ぐっと我慢。 「ごめんね~まだちょっと気になるところあるんだ。また今度でいい?」 「そうなんですか?私でよければ教えますけど」 「大丈夫だよ~一人で何とかできるし。ほら、あずにゃんは自分の練習ねっ」 「……そうですか。それじゃ、また今度やりましょう」 少しだけ残念そうな笑顔。それを私に残して、あの子は彼女の元へ駆け寄っていく。 その顔を向けられたことに、少しだけ嬉しくなって。そして私はまた向かい合って笑う二人に目を向けた。 二人は相変わらず、本当に楽しそうに笑いあってる。 それは本当に幸せそう。彼女の位置にもし私がいられたら、それはどんなにすばらしいことだと思ってはしまうけど。 だけど、それはきっと私には無理なことだったから。 だから、私はここで眺める。それだけでいい。 だって彼女の隣で笑うあの子は、本当に幸せそうに見えるから。だから、あの子は彼女の隣にいるべきなんだろう。 だから、私は望まないよ。ううん、望んでしまうのは仕方が無いけれど、それを絶対に表に出したりはしない。 私は唯先輩で、ただの先輩で、だらしなくてほんわりしてるあの子の先輩で、ただそれだけ。 そのままで私はいようと思う。あの子が望む、私の形のままでね。 それだけがきっと、私がそれでもあの子の傍にい続けるための方法だから。 そして、あの子がそれで幸せなら、たとえそれが私の隣じゃなかったとしても、やっぱり私はそれを幸せと思うべきだから。 そうだよね。それでいいんだよね。 でも、結局そのときの私は、その意味を完全にはわかっていなかったんだと思う。 私が望むその位置に、彼女がいるということが一体どういうことだということかを。 それを、その形を目にしてしまったときに、私はそれをはっきりと思い知らされることになった。 それは、いつもどおりの放課後。 音楽室へと向かう廊下の一角。天気のいいときは陽だまりがいくつもできる私のお気に入りの場所のひとつ。 その、本当にいつもどおりの廊下に、まるで映画のワンシーンのように、寄り添いあう二人がいた。 窓から差し込む光は、まるでスポットのように二人を照らしてて。 あの子は少し体勢を崩したように彼女に寄りかかってて、彼女は整った顔立ちにりりしい表情を浮かべてそれを支えていた。 私のほうからはあの子の表情までは見えないけど、きっとうっとりとした表情を浮かべているんだろう。 傍観者の私からでもこんなに絵になって見えるんだもん。当事者のあの子が、そうじゃないはずが無い。 きっと私には絶対に見せることの無い表情を浮かべて、彼女の腕の中にいるんだろう。 私が立ちすくんでいた時間は、本当は短いものだったと思う。 だけど、それはまるで、とてもとても長い時間のように思えていた。だってね、それはあまりにも―― 痛い。痛すぎて、痛いということがわからない。まるで閃光のようなそれは、一瞬で私を埋め尽くしてしまって、何もかもを真っ白に変えてしまってた。 まるで幾億もの鋭い針に、細胞の一つ一つを貫かれているみたい。そこまですれば、ひょっとしたら今の私の状態を再現できるのかもしれない。 私は本当に、何もわかっていなかったんだ。 そうするようになってから、自覚していたつもりだった。 あの子が彼女の横で笑う時間が増えてから、そう自覚できていたはずだった。 あの子が彼女と帰宅を共にするようになって――だから私はそんなときは一人で帰ることを選ぶようになって――から、私はもうこれ以上ないほどに自覚できていたはずだったのに。 私は、あの子のことが好き。 自分で思っているよりもずっと、私は―平沢唯は、あの子の――中野梓のことが、大好きで。 あの子の傍にいたい。 あの子に触れていたい。 あの子を好きでいたい。 あの子に、好きでいてもらいたい。 あの子の、特別に、なりたかった。 ――だけど、今あの子は――あずにゃんは私の隣にはいないんだ。 私が望んだ場所には私ではなく彼女がいて、あの子はそれで幸せでいられるんだ。 いつもそれを思い知らされていたはずなのに。 目の前の光景は、ただそれをより鮮明に、もうどうしようもないほどはっきりと私に示してくれただけなのに。 それでもあの子の傍にい続けるというのは、つまりそういう意味だったのに。 「……ぁ」 その感触で、私は我に帰返った。 つうっと私の頬を伝うもの。私の頬をぬらして、ぽたりと床に落ちる。 それは次から次へと私の目からあふれてきて、ふにゃりと私の視界を歪ませてた。 その先にある、いまだ寄り添う会う二人の姿まで。 ――行かなきゃ。 私はくるりと踵を返して、物音を立てないようにだけどすばやくその場を後にする。 今のところあの二人は――少なくともこちらに背を向けているあの子は――私のことに気がついてないから。 あんなシーンに私が出くわした、なんてことを知ればきっと気を遣わせてしまうかもしれないから。 それじゃ、折角何も変わらない振りをしているのが、意味がなくなってしまうから。 私は何も変わらない、何も知らない唯先輩のままでいなくちゃいけないから。 そう思いながら、私の足はだんだんその速度を速める。 そして、最後は駆け出すようにしながら、その場から逃げ出していた。 本当に私は馬鹿だよね。そんなになりながらも、結局そんな心配をしてるなんて。 こんなになってもまだ、あの子の傍にいられる算段を続けてるなんて、ね。 きっと私はこうなっていても、ひょっとしたら――なんてそう思っていたのかもしれない。 ひょっとしたらいつかあの子が――なんて、そんなはずなかったのにね。 そんなはず無いってわかってても私は期待し続けていて、そして今それがはっきりと幻想だって突きつけられて。 あの二人の間に私が入れる隙間なんて欠片だって無いんだって、思い知らされて。 本当に今更。 今更のことのはずなのに、涙が止まらない。 「うわあっ!」 「ひゃっ……!」 半ば目を瞑りながら走っていた私は、廊下の角、そんな悲鳴に急ブレーキをかけさせられることになった。 危うくぶつかりそうになったその悲鳴の主、その手前で何とかぎりぎり立ち止まる。 「あっぶねーなぁ……そんな勢いで廊下走んなよ……って、唯?」 「りっちゃん……?」 聞きなれた声。ああ、そういえばさっきの悲鳴も確かにりっちゃんだった。軽音部の部長で、ドラム担当。いつも元気いっぱいの、私の仲間。 だから私は慌てた。そう気付いた瞬間に逃げるべきだった。ううん、駄目だ。それも不自然すぎる。いつもの私の行動じゃないから、きっと不審に思わせちゃう。 私たちはいつも一緒だから、五人セットの私たちだから、りっちゃんにそれが伝わってしまうとあの子にも伝わってしまうかもしれないのに。 どうしよう。でも、どうしようもない。顔を上げれば私が泣いている事に気付かれちゃうし、逃げ出しても駄目。ここでこうしてりっちゃんに会った時点で、もう手詰まりなんだ。 でも、何とかしないと―― 「唯、おまえ……泣いてるのか」 先手を打たれて、私はびくっと顔を上げる。 「な、泣いてないよ!」 「嘘つけ。そんな顔で何言ってんだよ」 「あ……」 確かにそうだ。こうして向き合ってしまえば、私はどうしようもなく泣き顔のはずで、いくら取り繕おうとそれをごまかせるはずがない。 呆ける私の手を、りっちゃんはぎゅっと掴んだ。そのままぐいっと引っ張る。 「こっちこい」 そしてがらりと横にあった扉を開けると、そこに私を引き込む。 突然のその行動に、私は抗うことも、その隙もなく引かれるままにりっちゃんと一緒にそこに入る。 そこはどうやら空き教室のようで、放課後この時間ということもあって誰もいないようだった。 「り、りっちゃ…」 どうしてこんなところに、という私の言葉をさえぎるようにして、りっちゃんはぎゅっと私を抱きしめた。 「え?」 私はきょとんとさせられる。それは本当に、想像もしてなかったことで。だから私はどう反応すればいいかわからず、ただそうされるままにぽてりとその胸に頬を預けてしまう。 「泣いていいぞ」 そんな私に、そんな言葉が降ってきた。それもまた、予想外。 「理由は聞かない。どうせ言いたくないことだろ?」 「……うん」 小さく、頷いてみせる。ホントはもう、こんなところを見せた時点でもうアウトなんだけど、だけどそれでもはっきりとは言いたくない。 「だけどな、そんな唯を放って置けるほど私は冷たくはなれない。だから、胸を貸してやる」 「……りっちゃん」 ああ、そっか。これってそういうことだったんだ。 「泣き声を聞かれたくないんなら、私が全部抑えててやるからさ。だから、泣いていい。そんな顔してるときはな、泣くのが一番いいんだぞ」 だめだよりっちゃん。そんなに優しくされたら、私、本当に泣いちゃうから。 今も泣いちゃってるけど、だけど本当に泣いちゃう。 あのときからそれはしないようにって、ずっとそうせずにいられていたのに。 「……えぐっ……」 それでも我慢しようとしたのに、そんな私の頭を優しくなでてくれたりなんてするもんだから。 私は結局大声を上げて、子供みたいに泣き出していた。 同時にぎゅっとしてくれたおかげで、私の声は響かずにいてくれたようだけど。だけど、一度泣き出したらもうそんなこと気にもできなくなって、私はただひたすらに泣き続けていた。 そんな私を、りっちゃんはずっと、時々優しく頭をなでながら抱きしめてくれていた。 「ありがとう、りっちゃん、もう大丈夫だよ!」 「お、いつもの唯に戻ったな」 少しずつ小さくなっていった嗚咽がようやく収まって、私はりっちゃんの胸から顔を離すと、にこっと笑って見せた。 それを見たりっちゃんは、にまっと笑い返してくれたから、どうやら私はいつもの笑顔を取り戻せたみたい。 「うん!……ごめんね、迷惑かけちゃって」 「いいってことよ、私と唯の仲だろー」 「あはは、うん。ほんとにありがとね」 「おうー」 ぽんと胸を叩いて見せるりっちゃんに、私はいつもの調子で軽く、だけど心から感謝を送る。 あのままだときっと私はもうどうしようもなかったから。だけどりっちゃんがいたから、そんな私に優しくしてくれたから、私はまたいつもの私に戻ることができた。 「それじゃま、部活行こうぜ。また澪のやつが遅刻かーってうるさいからな」 「そだね……って、りっちゃんいかないの?」 その言葉どおりに私は教室を出て行こうとしたけど、なぜかりっちゃんは立ち止まったまま。私が行くのを見送るよって机に体を預けた姿勢で、こちらを眺めている。 そんな私の疑問に、りっちゃんは苦笑を浮かべながらくいっと親指で胸元を挿して見せた。 「ああ、お前が汚したこれ、何とかしてから行くよ」 「ああ!……そっか、ごめんね」 そういえば、さっき私が貸してもらったところは……うん、ちょっとべちょってしみになってる。 「だから気にすんなって、ほら、先行ってろよ。あ、澪には適当に言い訳しといてくれよな」 だけどりっちゃんはそれを気にしようとした私に明るく笑って見せたから。気にすんなって笑ってくれたから。 「うん、先に行ってるね」 こういう場合は、本当に気にしない振りをしたほうが、きっとりっちゃんは喜ぶ。 今度アイスでもおごって上げよう、それでお返しにしようって決めて、私は教室を出ようと扉に手をかけた。 「…なあ、唯」 そんな私の背中に、声がかかる。勿論それはりっちゃんの声で、だけど今までとはちょっと違った声色。 「ん?」 「いや、なんでもない。また後でな」 振り返ろうとした私に、その隙もなく声がかぶせられる。それはさっきまでの、いつものりっちゃんの声。 「うん、また後でね」 だから私は、結局振り返らないままその教室を後にした。 おそらくりっちゃんは気が付いているんだろうな。本当は今、それを確認しようとしたんだと思う。 普段は細かいことなんか気にしないぜなんてりっちゃんだけど、長い付き合いの中で実は結構繊細で敏感だってことを私は知っているから。 だからきっと、気付かれていたんだと思う。 それでも、りっちゃんはそれを聞かないでいてくれた。気付かない振りをしてくれた。 私の状況と私の望みを、りっちゃんはきっと知ってて、その上でそうしてくれたと思う。 それで、少しだけ私の心は軽くなった気がする。 いっぱい泣けたおかげ、というのも勿論あるよ。そこはりっちゃんの言うとおり。こういうときは泣くのが一番ってのは覚えておこうと思う。 だけど、それだけじゃない。 私のこの痛みを知ってるのは、私だけじゃない。そう思うだけで、こんなに楽になれるとは思わなかった。 りっちゃんは私の痛みを知ってる。そして、私を見守ってくれてる。それはなんだか、応援されているような気分だった。 勿論、楽になったってわけじゃない。棘はまだいっぱい私の胸に刺さっていて、その数はちっとも減る気配はない。 でも、元気は沸いてきた。うん、だから、私はまたがんばれそう。 うん、がんばるよ。 そうだよね。私があの子の特別じゃないなんて、もうずっとわかってたことだから。 ただその覚悟が足りてなかっただけ。 それでも、その傍にいたいと思ったのは私だもん。 それを何にも変えがたいものだと思っているのも、私だから。 そしてあの子もきっと、私にそれを望んでいるのだから。 だから、私はまだがんばるよ。がんばれる。 ありがとう、りっちゃん。私にその元気を分けてくれて。 本当に、ありがとう。 そして私は音楽室へ向かった。 いつものようにやっほーって挨拶して、遅れてきたりっちゃんも交えて、なぜかいつもよりにこにこの輝度の高いムギちゃんと、やはり一緒にいる二人と、その五人でいつもの時間を過ごす。 思ったよりもそれはずっとスムーズだった。 今日は澪ちゃんは来なかったから、あの子と二人きりの帰り道もうまくいった。 大丈夫、私はちゃんとそう振舞えている。 あの子の唯先輩でいられている。それが、ちょっと嬉しい。 辛いけど、嬉しい。 えへへ、それが強がりだってことはわかってはいるけど。それでもね。 私の望みは届かなくても、それでもやっぱり私の中にしっかりあるんだから。 だから、私はそれを抱えながら、その一番傍にはいけないけど、それでもあの子の傍で過ごして行こうって。 あの子がもう、それを望まなくなるまで。 そう、決めた。 今度はちゃんと、覚悟した上で決められた。 カレンダーはめくられていく。 そんな日々で、私はまた埋められていく。 二人を眺めて、時々あの子と一緒になって、そしてまた離れていくあの子を見送って。 私はにこにこと笑いながら、過ごしている。 痛みは積み重なっていくけど、想いも積み重なっていくけど、だけど私は笑ってる。 頑張れてる。もう泣いたりなんてしないよ。 だって、そんな必要は無いし。これが私の、当たり前の日々なんだから。 これを私は、幸せだとそう思うべきなんだから。 そう思っていた。 きっと、そう思ってしまっていた。 その2へ
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無題 投稿者:まつもと 投稿日:2006/10/18(Wed) 22 47 今日はらだ筋トレしてたよ やってるけど書き込んでないんだろ 田林さんのレスとか見てると、書き込むことがこの部のためにできることの一つなのかなとかおれは思うんだけど。まあおれの独り言。 [1511へのレス] Re 無題 投稿者:はらだ 投稿日:2006/10/19(Thu) 19 34 おお。書き込みサボってすいません。 復活します。 昨日 筋トレwithけいすけ ベンチ スクワット 腹筋 今日 体幹 腹筋 [1511へのレス] Re 無題 投稿者:田林 投稿日:2006/10/19(Thu) 23 31 まつもと 見られてるってのは力づけになると思うんさ。 それに、俺の話になってしまうけど、俺はなかなか会えないなかでも、掲示板見て様子を知れて、もし道端で会ったらこれ話そう、とか考えると繋がりを感じられて嬉しく思うよ。 はらだ やってんな。ジャガさんも引きずり出してくれ back
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故人席、と書かれた看板がひょっこりと――堂々と立っているのは何か違うだろうし、かといってしょぼくれた看板になっていても 困る気がするのでこのくらいの立ち方でいいのだろう――立っている席で、イールギットはぶつぶつと知人――黒髪おさげで白衣を纏うと いう明らかに奇怪な格好の男相手に愚痴をつづっていた。 友人というほど親しくはなかったが、それでも顔見知りと呼べる程度には知っている相手ではある。 「……あーのラッツベインとかいう女の子、いったい母親は誰なのかしらね」 話しかけている相手はなにやら図面を広げてせっせと筆を走らせるのに夢中になって――体育祭のゲスト席で図面を広げるおさげの白衣男と あれば相当に目立つのだが、当の本人はまったく気づいていないらしい――おり、聞いているのか聞いていないのかは正直判断しかねた。 が、この際かまわずイールギットは続ける。 「これであのヒステリー女が母親だったりした日には……なんていうか、化けて枕元に立ってやるわ、わたし」 それを聞いて――ヒステリー女、と聞いて反応したのだろう、ようやく白衣の男――コミクロンが筆を止めて 顔をこちらに向けてきた。 重々しく腕組みなどしながら、ひどく深刻そうな声をあげる。 「うむ……これで母親がティッシだったりした日には……」 コミクロンはそこでためらうように一度深呼吸し――想像するのも嫌らしかった―― 「迅速にキリランシェロに制裁を加えねばなるまいな。この最先端テクノロジーによって!」 ばん、と図面を叩く。 「……さっきから書いてるそれ、一体なんなの?」 「うむ。とある武器屋の親父から発注された品のための図面だ。確かユーマ・カスール・ナンブとか言ったかな? 子供に自分の武器を譲ってしまったので代わりが欲しいらしい」 そこでコミクロンは一度言葉を切ると、妙に誇らしげな態度で言ってきた。 「こいつはすごいぞ。異世界の技術の詰まった画期的発明品だ!」 「へえ。それ、どんな武器なの?」 「刀だ」 きっぱりと即答してくる。 「………………なんかすごく原始的な武器に聞こえるけど」 疑問に思って聞いてみるが、あまりコミクロンは気にしなかったようで返事はなかった。 と――そこで気配を感じてふと顔を上げる。 女子生徒がすたすたとこちらに歩み寄ってきたことに気づいた。 黒装束の自分たちと違い、普通の学生服を着た長髪の少女だが――あまり 平穏とは言えない様な、なんとなく危なげな微笑がなんとなく周囲に溶け込むのを拒否しているかのように見える。 「どう?それ、出来上がりそう?」 彼女はコミクロンのほうを向いてそんなことを言ってきた。顔見知りであるらしい。 この子は誰?と視線で促すと、コミクロンはやはり重々しげな仕草で答えてくる。 「うむ。我が科学の持つ偉大なる技術に感服した俺の助手その2だ」 「朝倉。朝倉涼子よ」 彼女はコミクロンのあまりといえばあまりな紹介にも――助手その1は誰なのか気に ならないでもないが、今は関係ないだろう――特に表情を変えず、淡々と自己紹介してきた。 「あなたがこれを?」 コミクロンがせっせと筆を走らせていた図面を示して、イールギットは尋ねてみる。 「そ。同じ雑誌に載ってるよしみってことで特別に拝借してきたの……150ガーベラの設計図よ」 微妙にわけのわからない内容を含んでいる言葉に眉をしかめる。が―― 「まあ、本人に了承はとってないけどね」 「それって盗難って言うんだと思うけど」 さらに聞き捨てならない台詞が飛び出し、イールギットはそちらについ反射的に指摘を入れる。 だがその朝倉という少女は気にした様子もなく、やはり危険そうな笑みを浮かべながらー― 「いいのよ、面白そうだから。『気にするな、ジャンク屋脅威のメカニズムだ』……ってところかしらね」 「そういうことだ。これでキリランシェロに科学の尊さを改めてその身に刻み込んでくれる!」 「……いや、わたしとしてはどっちかっていうとあの女のほうにやってほしいんだけどね」 意気揚々とした二人の前に、イールギットはそんなことを言うのがせいいっぱいだった。 CAST 魔術士オーフェン イールギット コミクロン 涼宮ハルヒシリーズ 朝倉涼子 スクラップドプリンセス ユーマ・カスール・ナンブ
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「……み。起きてかがみ」 う~ん、こなた? 「おはようかがみ」 うん、おはよう。 まだまどろんでいる状態でぼやける視界はこなたの顔で埋め尽くされていた。驚かなかったのはもはや慣れだ。 身を起こすと何度見ても好きになれない美少女のフィギュアやポスターが。でも私の慣れ親しんだ部屋。 えっと、私はなんでこなたの部屋に、ベッドで寝ていたんだっけ。 「かがみ、今日は何日?」 こなたの言葉に何かのアニメのカレンダーに目をやる。が、それはとっくの昔に過ぎた日付になっていた。 カレンダーの意味がないじゃないのよ、とは何度か言っても無駄だったのを覚えている。 とにかく、自堕落な生活を送っているわけではなく平日は学校があるのですぐに脳内で計算された。 「7月7日?」 「そっ。誕生日おめでと、かがみ」 にこっと笑って祝福してくれた。そう、今日は私がこの子と会うべくして生を受けた日。 今までの17年間、一部は記憶にないけども、家族のみんなが最初にお祝いしてくれていた。 それも悪くないが、こうして恋人にいの一番に祝福してもらう喜びをおわかりいただけるだろうか。 「こなた」 幸せボケしているとか、バカップルだと言われてもいい。寝起きのこの嬉しさは隠す必要なんてあるだろうか。 たまらず愛しい人の名前を呼んだ。感謝と喜びを分かち合おうという気持ちを込めて。 「す、すとっぷ!」 そうするのが当然であるような自然な動作でこなたの肩を掴んで目をつむって顔を寄せたというのに。 毎日のように交わしてきた愛情表現にこなたは空気を読まずに制止をかけた。 仕方なく目を開けて見ると、確かに頬を染めているこなたがいたけれども。 「今日も学校あるから。すぐに着替えてね」 恨めしげな私の視線をさらりとかわすようにそう言ってこなたは部屋を出て行ってしまった。 物足りなさを覚える心に我慢のあとのそれは何よりも幸せなものだからと言い聞かせる。 とりあえず制服に着替えようと思うが、他人の部屋で着替えることに不思議な感覚を少し。 単純なお泊りとは違う日常生活と同じことをこうしてこなたの部屋で行うというのは、くすぐったさとそれ以上の幸福感がある。 一応言っておくが私はこなたと同棲しているわけではない。将来的にはもう決まりごとみたいなものだけど。 ただこの私の誕生日という特別なものにしたくて、半分私の願望と半分こなたのお祝いしたいという気持ちでこうしている。 こなたと私の付き合いも公的な立場からもに公認してもらえるほどに周知の事実。 それと付き合いだしてから初めての私の誕生日にどんなプレゼントがいいか悩むこなたに、こなたの時間がほしいとお願いした結果がこれ。 っと、状況を説明するのに時間をくうとこなたと過ごす時間が少なくなってしまう。 私の嫁であるこなたが作った朝食をいただこうと階上のリビングへと急いだ。 「おはようございます」 おじさん(お義父さんとはさすがに呼べない)とゆたかちゃんもすでに食卓を囲んでいた。 邪念の欠片もない爽やかな笑顔で二人が返してくれる。冗談で「かがみお義姉ちゃん」と言ってくれるあたりも素晴らしい。 そこに制服の上からエプロンをつけたこなたが朝ごはんを並べていく。 フリルのついたかわいらしいエプロンは私の誕生日プレゼントの一つ。この光景を夢見てたのよ。 ふとテーブルに並ぶ料理に目を向けると、なんと和風ではなく洋風の朝食が並んでいるではないか。 出勤(登校)前に新妻の作ったお味噌汁をすするのがデフォだというのに。 さすがに今から作り直せとは言えないけど完璧さに欠ける。あとで覚えておいてね、こなた。 「さっ、食べよう」 そんな私の心情を知ってか知らずか、直後に隣に腰掛けたこなたが言った。 おそらく食後の洗い物のためだろうまだエプロンをつけたままというのはポイントが高かったのでチャラにしとこう。 「いただきます」と四人声を揃えて食べ始めた。 たとえ期待していたものが出なくても味は疑いようがなく美味しい。 今二人きりなら、美味しいとこなたを褒め称えることも、食べさせてあげる食べさせてもらうという行為もできるというのだが。 恋人の父親の前で、純粋なゆたかちゃんの前で愛を交わすようなことはできない。 「かがみちゃんずいぶんご機嫌だね」 食事に関してよくこなたにからかわれるように、美味しいものを食べている時は自然と頬が緩んでしまう。 おじさんの言葉を否定できるはずもなく「誕生日をこんな風に過ごせて幸せですから」と感謝も込めて答えた。 ついでに大好きな人を抱きしめると笑いが沸き起こった。おじさんもゆたかちゃんもからかいでなく私たちの幸せぶりを感じ取ってくれたのだろう。 自分でもこうなるとは思っていなかった付き合いだしてからの積極性にこなたはなすがまま。 たっぷりと柔らかさやあたたかさを堪能している間、こなたは赤くなった顔を隠すように私の胸にうずめていた。 それを見て場が一段と盛り上がったのは、私の理性にひびが入ったのは言うまでもない。 食事を終えて私も洗い物を手伝うことにした。 待っている間が暇というのと、こういうちょっとした共同作業に幸せを感じるという理由で。 手際良く洗剤でこすられた食器類をこなたから受け取り水で綺麗に洗い落していく。 エプロンをつけているのはこなただけで二人とも制服だから私はスーツ姿でここに立っていたかったななんて。 すでにリビングには誰もおらず、おじさんは仕事部屋に、ゆたかちゃんは学校に行っている。 朝食の感想や少しだけ愛をささやいてみたり。全て洗い終えたあとには軽く口づけもした。 それだけでこれ以上ないくらい真っ赤になるこなたがすごくかわいかったけど、そろそろ家を出ないといけない時間だったので我慢することに。 ぱぱっと支度をして二人揃って「行ってきまーす」と元気よく飛び出した。 まだずいぶんと低い位置にいる太陽も眩しいくらいに照らしている。 素晴らしいくらいに快晴に恵まれたこの日、恋人と並び歩く朝。 私たちの繋がりは一生断ち切れることないと誓うようにしっかりと手を繋いでいた。 いつも利用するバス停のある駅の改札を通り抜け私の妹の姿を探した。ここまで来るのに特に大したことはなかったので割愛。 一応電車内のことを語ると、朝の通勤通学ラッシュはいつまで経っても慣れるものではないが、狭い車内で寄り添い合うように揺られていたことに少し感謝した。 少しずつ同じ学校に向かう生徒たちの数が多くなって見える。その見慣れた制服の人々の間に紫色の髪した私とそうたがわない背格好の後ろ姿を見つけた。 「つかさー、おはよう」 「あ、お姉ちゃん、こなちゃん、おはよう」 ほぼ毎日自宅で交わしてきたやりとりを、いつもこなたを待っていたこの場ですることに違和感を覚えないでもない。 っと、そういえば毎年繰り返してきたやりとりも忘れてしまうところだった。 「つかさ、誕生日おめでとう」 「えへへ、ありがと。お姉ちゃんもおめでとう」 お互いに一緒に育ってきた喜びを笑って示す。つかさのはにかむような笑顔はいつまでも変わらず可愛いと思う。 「ちょっと不思議だね。いつも家で言ってたから」 そう言うつかさの表情はどこか切なげで、いつも傍で過ごしてきた日々を思い浮かべる。 でもね、つかさ、いつかは私たちも離ればなれになってしまうのだから。 ……しかし柊こなたという夢が実現すれば今日みたいなことは少なくなるのか。うーん。 「二人とも、バス来たよ」 いっそのこと明日からこなたに柊家で過ごしてもらおうか。部屋は私と一緒なのは当然だし。 でもおじさんとゆたかちゃんの二人暮しに……おじさんの溺愛ぶりもさることながらゆたかちゃんの身の安全のためにも。 いやしかし、あの人はああ見えて人として尊敬できるところもたくさんあるし。いかなるものか。 「かがみ、かがみー?」 ふおっ!?顔が近い。 ……ああ、バスね。つい期待を寄せてしまったわ。今行くから。 幸い車内は最後尾に十分なスペースが空いていた。つかさ、私、こなたの順で腰を下ろす。 「つかさ、眠いの?」 座ることで体の力が抜けたのか、つかさは小さく欠伸を漏らした。 「うん、ちょっと」と答える妹は相変わらずの眠り少女。着いたら起こすと伝えるとすぐに夢の世界に行ってしまった。 反対側のこなたはいつもと違いしゃきっとしている。昨夜は日付が変わる前に寝たものね。 じゃあつかさも見てないし、と腰に手を回すとぴくっと体を緊張させた。 「か、かがみ……」 恥ずかしそうにもじもじと訴えてくるこなたのかわいさは異常だ。こんな状態でお願いなんてされたらひとたまりもないだろう。 それでも私が自重しないのはなんだかんだで最後には受け入れてくれると知っているからだ。 「これくらいならいいでしょ。誰も見てないわよ」 ちゃんと最低ラインの行動に留めるからと伝えると強張っていたのが解けていく。 こういう精神的な甘えを受けとめてくれるこなたの優しさにすがりついてしまう私。 今まで姉として生きてきた手前、誰にも甘えられなかったということをこなたは気づいている。 そういうこなたの人を見抜くとことか、精神面の強さに私は惹かれたんだ、と今一度自分の気持ちを見つめ直す。 自然と体を傾けてきたこなたと寄り添うようにしてバスの揺れに身を預けていた。 バスから降りるともうすぐこなたと離れなければいけないという事実が迫ってくる。 それまでにこなた分をしっかりと補給しておこうと、重なり合う手に力を込めた。 昇降口では靴を履きかえなければならない。そのちょっとの間離れることさえもどかしく感じた。 周りも友達と雑談しながらふらふらと前を見ずに歩く者が多い。他に4、5人が固まっていたり、慌ただしく駆けていく者もいる。 その中の野次馬のように見てくる者や、狭いスペースをかきわけるようにして突き進む。 誰にも私とこなたの恋に邪魔はさせない。そして別れが近づくほどに離れがたくなる気持ちにふたをして。 「またあとでね」 3年B組の教室の前。私は笑って別れを告げる。 「うん、また」 こなたも笑って返してくれる。 別れるその時から次に会う約束がなされる。寂しくなどないのだ。 そして1時間目が終わり短い休み時間。ほんのわずかな時間も惜しむように隣のクラスへ急ぐ。 そういえば朝のHR前に旧友から「おめでとう」と言ってもらったが他に大したこともなかった。 教室を覗くとこなた、つかさ、みゆきの3人が談笑していた。 「おっす」と片手を挙げて呼びかけると、自然と私もその輪に加わる。 「かがみさん、お誕生日おめでとうございます」 すでにつかさへのお祝いは済んだのだろう、みゆきはそう言って綺麗にラッピングされた箱を手渡してきた。 「さんきゅ、みゆき。開けていいかしら?」 このお嬢様はどんな素敵な物を用意してくれたのだろう、はやる気持ちを抑えつつ尋ねる。 にこっと微笑んで許可をもらったので、丁寧に包みを解いていった。 「ネックレス、こんな高価そうなのいいの?」 「大したものでもありませんよ。つかささんにもお揃いのものを」 気にしないでと笑みを浮かべるお嬢様を少し羨ましく思ったが口には出さずもう一度感謝の意を伝える。 ありがとう、みゆき。しかしつかさとお揃いじゃなかなかつける機会がないと思う。 1時間ぶりのこなたの肩を抱きながら心の中でこっそり毒づいていた。 次の休み時間にはこなたのほうからやってきた。 だいたい用件は見当がついている。気まずそうに、私にすがるようにこちらへ。 「かがみぃ、ちょっとお願いが」 泣きそうな声で私を呼ぶので抱きしめたくなる衝動と、少しのいたずら心が芽生える。 「次英語があるんだけど……」 「何?また宿題?」 突き放すように言ってみる。こなたがわずかに肩を震わせた。 「はぁ、私の誕生日くらい甘えてこないでちょうだい」 別に甘えられることは嫌じゃないけど、というか頼られる立場はいろいろと得だ。 だけどこなたのためにならないという大義名分を掲げて私はそれを突っぱねた。 しかしだんだんとちぢこまって、涙目で私を見てくるこなたのかわいさに決意が揺らいでいく。 「しゅ、宿題はちゃんとやったんだよ。でも、その教科書を家に置いてきちゃって」 なんかいつになく弱気で子どもをいじめているような気持ちになってきた。 好きな子ほどいじめたくなるというのもこなたの表情を見れば肯定できなくはないが、それでも一番好きなのはこの子の笑顔なんだ。 「ふふ、こなたもドジっ娘なのね」 あうっ、といつもと違って弄られる側のこなたは萌えという言葉がふさわしい。 なんて、精神まで逆の立場になったようで、でもちゃんと貸してあげた。 「ありがとう、かがみぃ。大好きっ」と抱きつかれた時は真っ赤になってしまって、やっぱりこなたにはかなわないんだなと思った。 休み時間には会えるのだがこの授業時間がもったいない。 なんで今日は平日なんだろうという、時間の規律にさえつっこみをいれたくなる気分だったが不毛なのでやめた。 優等生として自負できるくらいに成績、授業態度はしっかりとしてきたものだと思っている。 しかし今日くらいは授業が身に入らなくても仕方ないだろう、そう言い訳して携帯を取り出す。 笑顔のこなたの待ち受け画面に思わずにやけてしまった。我ながらベストショットだと思う。 それからメールボックスを開いて、そこはほとんど『泉こなた』の文字で埋め尽くされていて小さく溜め息。 悩み事以外、幸せすぎて出る溜め息はすごく贅沢なことだ。この幸せをこなたも感じてくれてるかな。 こなたが携帯を所持しているかわからないし、授業中というリスクもあったけどメールすることにした。 内容は一言『起きてる?』だけ。最近真面目になってきたし、携帯を携帯(シャレじゃなくて)するよう口すっぱく言ってきたから。 意を決して決定ボタンを押す。『送信完了』の文字にほっと一息ついた。 返信が来る可能性はそんなに高くないだろう、黒板のほうに意識を移す。 と、スカートのポケットで急かすように携帯が震えだした。 『起きてるよー。授業中だし当り前じゃん♪』 こなたらしいからかうような、元気印のような内容にくすっと笑いが漏れた。 『一年前はそんなこと言えなかったでしょ』 『うぐぅ。でも今は違うんだよっ』 『ここ、褒めるとこ?』 『そう!』 『いや、学生にとって当然のことだし』 テンポよく、まるで今この場で会話しているようにメールが飛び交う。 『……。まぁいいや。ところでどうしたの?』 はなから授業中にメールするなんて珍しいことだとわかってたのだろう、すぐに気づかれた。 ここで強がってなんでもないなんて言っても信用しないだろうし、それこそツンデレって言われる。 めったに言わないことだけど、文字にしてなら、面と向かって言うわけじゃないのなら大丈夫、と思ったままにメールを打った。 『私もだよ』 返ってきたのはたった一言で、文字にするとたったの4文字。それでもしっかりとココに届いた。 いつも飄々として、私の想いが強すぎるのかななんて思ったりしたのに。 純粋にこなたも同じ気持ちでいてくれているとわかって嬉しかった。私だけが弱いんじゃなかった。 ならばこの言葉に返すべきは一言だけ。慰め合いなんかじゃない、強くあるために。 自分自身の偽りない心をありったけの感謝と希望をこの手紙に乗せて。 『 』 それから放課後までこなたと会わなかった。まぁ会える時間自体10分しかなかったけど。 毎時間惜しむように会っていたけど、私は会いに行かない。こなたも来ない。 だって会わなくてもわかってるから。想いをちゃんと伝えたんだから。 「かがみ、帰ろう」 HRが終わって教室に人が少なくなってきた頃、待ちわびた様子もなくこなたはやってきた。 先ほどまでぼーっと腰掛けていた椅子から立ち上がる。傍に来たこなたが私の鞄を差し出してくれた。 「ありがとう」 それを受け取り、半歩前のこなたが手を差し伸べてきて。 朝と同じように、こなたのほうから手を繋ごうって思ってくれたんだと空いている手を伸ばすも。 こなたはその手のひらじゃなくて腕を掴んでぐっと引き寄せた。自然体が前方へ傾く。 あっ…… たった一言発する間もなく、私とこなたの距離は0になった。 驚き見開かれた視界には目をつむったこなたの顔が。整ったまつ毛がよく見えるほどに近くて。 ほのかに色づいた頬や左目の下の泣きボクロに、好きな人の顔を間近で見ている間に、重なり合っていた唇は離れた。 名残惜しみながらも体を離す。顔にせり上がる、全身を駆け巡る熱は抑えようもなくて。 そこにある満足感をひしと抱いて、今度こそ小さなその手が包み込むように私の手のひらに重ねられる。 寄り添い合うように重なった影が離れて、その手だけがしっかりと繋がれていた。 「今日も家に寄ってく?」 「当然。今日一日私といてくれるんでしょ?」 ずっと一緒にいてください、なんてプロポーズじゃないけど。いや、それは私の、私たちの願いだけど。 この私の誕生日という特別な日に幸せを体験させてもらうのも悪くない。 もし幸せに限りがあるとしても、先取りしてしまうと言うのだとしても、私の希望は変わらない。 優しく微笑んでくれる彼女がいるから。幸せは己の手で掴むもの、二人で感じていくものでしょ? ……なんて理想論だけではどうにもできない感情もあったりするけどね。 「ただいまー」 こなたと声を揃えて泉家に『帰宅』した。毎週のように、時には数日間続けて来たりするんだから間違ってないだろう。 というか本来つっこみ役の私がそうなると誰も何も言わない。だいたいおじさんとこなたが先に言いだしたことなんだから。 とまぁ勝手知ったる泉家。こなた(と私)の部屋に荷物を置き着替える。 他人の部屋で着替える違和感も主であるこなたがいると感じることはない。 なぜならこなたのほうが恥じらうからだ。体育とか普通に人前で着替えるというのにね。 「いつになったら慣れるのよ?」 それ以上恥ずかしいことしてるじゃないとは言わない。意識すると逃げてしまうから。 私は家族に見られることも当り前のようにあって、つかさとは気にしたら負けってくらい自然と過ごしてきた。 だからこうして手間取っているこなたが不思議で、でもかわいくて視線を外せない。 「だってかがみは好きな人だもん」 うぐっ……待て、落ち着け。こらえるんだ。 目の前に愛しい人が下着姿で目を潤ませて見上げてくるなんて最終兵器、これに耐えることができたらギネスモノじゃないのか。 そうだ、視覚にとらわれないためには別の感覚を働かせればいい。 さっき、私が好きだからと言ったな?好き……スキ…… っと危ない。好きって言葉で捉えるからダメなんだ。 好きな人、つまり私限定。じゃあ昔から一緒だったおじさんは?もしかしなくても見たことあるのか……? 「か、かがみ?どうしたの、怖い顔して」 こなたの言葉に我に返るとそこにはすでにTシャツ短パンのこなたが。どこぞの虫取り小僧だっていう。 こんなことならもっと目に焼き付けておけばよかった。いや、その前に自我が崩壊していただろうか。 「こなた」 「な、なに?」 私の呼びかけにこなたの声は震えていた。そういえばさっきから怯えた顔してるけど、そんなに怖い顔してるのか。 本能のほうが強く働いているらしい、いつもの冷静さを取り戻さねば。 「おじさんがたまに覗いて来たり、なんてことないわよね?」 「い、いや。でも鍵がかかってるわけじゃないから100%は……」 確かにゆたかちゃんに危ういところを見られたりくらいはよくある話。 しかし同じ要領で、偶然だとか言われても信用できるだろうか。いや、できない。 そのまま事件を起こしてしまいそうだった私をこなたが抱きついてくれることで踏みとどまった、というのはただの噂話。 こなたと一緒に階段を上がる。もはや恒例のことのようだが挨拶は欠かさずにしておきたい。 少し学校で暇を潰したからゆたかちゃんもすでに帰ってきているみたい。部屋にはいなかったのでおじさんと一緒かな。 先を行くこなたの背中を見つめる。たいていこっちで過ごすけどこなた的にはどうなんだろう。 そりゃ柊家は人数が多く誰かしら家にいるのが常だし。でも迷惑だったりしないのかな。 なんて考えたところで一緒に過ごせるのが何よりも重要だし、二人きりの時間がほしい。 そんなことを一人自問自答してるとこなたが扉の手前で立ち止まった。 「どうしたの?」 尋ねてみるけどどうぞとジェスチャーするだけで何も言ってくれない。 全く何がしたいのか、何のために私が開けなければならないのか。疑問に持ちつつも引き戸に手をかけた。 パンッパンッ 銃声なんかではなく、でもそれ相応にうるさい音。わずかに2発だけだが。 しかし狙い澄ましたように紙テープが降りかかり、疑問に思う前に。 「誕生日おめでとう」 と、おじさん、ゆたかちゃんの両名に祝福された。こなたはこれを知ってて? 「いやぁ、これはこなたの誕生日のやつでな。その日は主役不在で肩透かしを食らったんだよ」 おそらくきょとんと抜けた表情をしてるだろう私におじさんが説明する。そういえば誕生日翌日に怒られたとかなんとか。 「ケーキも手作りのやつあるから。改めて誕生日おめでとう、かがみ」 十分すぎるプレゼントをもらっているというのに、それでも粋なことをしてくれるこなたを感謝を込めて抱きしめた。 あ、テープ乗っけたままだ。それにおじさんもできない口笛を無理にしないでください。 とは頭の隅で浮かんだけれど、本来であれば身内が祝福してくれる代わりに、こうして泉家の人に家族同然に祝ってもらえる喜びを噛み締めた。 その後は即日でできるレベルじゃないご馳走をいただいたり。調子に乗ってしまったのか、人一倍食べていた。 ノリノリなこなたがメイド服まで披露して尽くしてくれたり。おじさんが写真撮ったり、私の理性に結構な刺激を与えてくれたりしたけど。 たまたま遊びに来ただけと言う成美さんにも祝福してもらったり。勢いに気圧されたけど活力と根気をもらった気がする。 ケーキなんてつかさが作るのと遜色ないくらい、いやそれ以上にも思える出来栄えで。 「お父さんも凝り性だし」と、この父娘には不思議なパワーがあると思う。趣味の情熱がすさまじいのは周知のこと。 18本きれいに突き立てられたろうそく、『HAPPY BIRTHDAY かがみ』と書かれたチョコプレートを見て熱いものが込み上げた。 それも体重とか気にせずに美味しくいただいて。かすかな塩気に甘さがちょうどよかった。 いくら感謝してもしきれないほどの誕生日会に終焉をつげたのは10時をとうに過ぎたころ。 祝い事は盛大なほどよいと成美さんがアルコールに手を出したので今はおじさんが送りに行っている。 少しお疲れの様子のゆたかちゃんはこなたが先に休ませて、今は二人で後片付け。 とはいえ紙くずが飛び散ったとかの掃除は必要なく、大量の洗い物をしている。 騒いだのは主に私とこなたの慣れ初め話。とても恥ずかしいものではあったが私以上にこなたが困っていた。 まぁ身内に話すのが一番きついだろう、余計なことまで聞いてくる大人二人には私もはぐらかすのに必死だった。 それ以外にはゲームをしたというわけではなく、普段のこなたの話を聞かせてもらったり。 会話のほとんどの間赤面していたこなたがかわいくて、途中で泣きついてきたのをなんとかなだめたりと幸福な時間を。 「家族と思ってくれていい」とのおじさんの言葉は素敵なプレゼントだった。 「まさかここまでしてもらえるとは思ってなかったわ」 朝と同じポジションで食器の汚れを落としているこなたに話しかけた。 そもそも誕生日を丸一日他人の家で過ごすのもあれだけど、こなたがお祝いしてくれる気持ちで十分だと思っていた。 「念のためっていうか、一日全てかがみのための日にしようとは考えてたから」 「でも普通家族にお祝いしてもらいたいもんじゃない?」 「それでもかがみは私を選んだんじゃん」 そうだ、こなたの言うとおり。というかこなたも伴侶だから家族よね。 なんとなく止まってしまった手。こなたも同様に、私を見上げる視線とぶつかった。 物音をたてないようにそっと、食器を離し水をはらって、どちらともなく身を寄せて唇を重ねた。 「もうすぐ誕生日が終わっちゃうね」 電気の消えた部屋の中、淡く光る時計の長針と短針が重なり合おうとしている。 弱く、うっすらと差し込む月の光では互いの表情をはっきりとは映し出してくれない。 「そうね。今日は忘れられない一日になりそうだわ。ありがとうこなた」 こなたとこの家で暮らす人に感謝を。私の誕生日は柊家だけのものではなかった。これから二人の、二人の家族と関わり合っていく。 私の言葉にこなたは笑った。細部なんて見えるはずないけどとても綺麗な笑顔だった。 「魔法も解けちゃうね」 泉こなたと過ごしたいという願いをかなえてくれた24時間が終わる。でも、 「あんたは逃げないわよね?」 「逃げはしないよ。それにね、かがみ」 ──かがみが望むなら私はいつだってかがみのものだよ ──あんたも私が欲しいってわけね ──そう。かがみが私を欲するようにね 日付が変わる。重なり合う二つの影は決して離れることのない…… コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b 感動して泣いている事を"かすかな塩気に甘さがちょうどよかった"と表現するのが素敵でした! -- 名無しさん (2023-08-06 23 59 03) 読んでると情景が浮かんで幸せそうで和む -- 名無し (2009-12-18 22 02 10) 最高だぜぇひゃっはあ! -- 名無しさん (2009-12-18 15 04 33) しあわせそうでいいな -- 名無しさん (2009-07-09 22 42 16) なんか…こう、上手い感想が書けません… ただ一言、素晴らしい作品を有り難う御座います。 -- こなかがは正義ッ! (2009-07-07 23 23 49) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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