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ハミイー(リングワールド/ラリー・ニーブン、ハヤカワSF)がルイズに召喚されたようです キャラクターイメージ(おそらく左側) ※注 本スレでの使用は禁止 * * + + + /^l * ,-‐-y'"゙"''゙゙"´ | + ヽ、,;' * ´ ∀ ` * ミ * * + ミ つ と ミ * + ミ ゙;; ハ,_,ハ + ';, ミ ,; ´∀`'; ` ; , ' d゙ c ミ * U"゙'''~"゙''∪ u''゙"J オレンジ色の使い魔-01 オレンジ色の使い魔-02 オレンジ色の使い魔-03 オレンジ色の使い魔-04 オレンジ色の使い魔-05 オレンジ色の使い魔-06
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次の日、ナナリーは激しい二日酔いに教われた。 ルイズが目をさますと、隣にナナリーがいた。 可愛いナナリーにほお擦りくらいしてみよう、そう思ったルイズだが…… 「臭っ、酒臭っ!」 昨夜、あれだけのワインを飲んだのだ。酒臭いのもしょうのない話だろう。 「ナナリー!起きなさいナナリー!」 ナナリーを揺さぶり起こす。 「ふぁ、もうあさ、痛い、頭が痛いです…」 「どうしたのナナリー?ものすごく酒臭いわよ」 ナナリーはそれを聞いて昨夜のことを思いだす。 たしか昨夜は、キュルケさんに誘われてお酒を飲んで…… その先が思いだせなかった。 「あなた、お酒を飲んだわね」 少し低い声でルイズは聞いた。 「……はい」 ナナリーは申し訳なさそうにこたえた。 ルイズは考える。 ナナリーが一人でお酒を飲めるはずがない。 必ず一緒に飲んだ人物がいるはずだ。 すぐさま、頭に一人の人物がうかんだ。 「つぇ~る~ぷ~す~と~!」 それはルイズの憎き宿敵の名前だ。 この世界にきたばかりのナナリーにはあまり他人との接点はない。 少ない知り合いでこんなことをするのはキュルケしかいないとルイズは思ったのだ。 「…す…すいません…あまり大声を出さないで下さい」 ルイズの声はナナリーの頭に響いた。 「あ…ごめんね?水とか飲む?」 「いただけたら嬉しいです」 今にも掻き消えそうな声だった。 その日、ナナリーは車椅子の上でぐったりとしていた。 ルイズは、今日一日ナナリーをベットに寝かせておこうかと思ったが、 ナナリーに何かあったときに対処できない、とこの選択肢をえらんだ。 ナナリーも、お酒をのんだのは自分の責任といい、その提案に賛同した。 「やっほー、元気?」 キュルケが話かけてくる。 ナナリーは少し青い顔のまま微笑んだ。 「大丈夫なわけないでしょ!ナナリーにお酒なんて飲ませて!」 ルイズはやはり怒っていた。 大切なナナリーがお酒を飲まされ。 そのせいで今二日酔いに苦しんでいるのだ。 「あの…ルイズさん…あまり大きな声は…」 ルイズの金切り声はナナリーの頭に直撃をくらわしていた。 ルイズの怒鳴り声が頭に響いたのか、ナナリーは呻いていた。 「もう、駄目ねルイズは」 もとはをたどれば、原因キュルケにある。 なのにキュルケはルイズを注意した。 「あんたのせいじゃない!」 そんなキュルケの態度にルイズは切れた。 ルイズの怒鳴り声を聞いたナナリーは、 頭を押さえてうずくまってしまった。 「あーほら、あんたの声でナナリーが苦しんんでるじゃない」 それを見てルイズはとっさに口を押さえた。 授業中、ナナリーはメイドにシエスタ預けられた。 急に気持ち悪くなったとき、授業中のルイズ達では対処できないからだ。 「すいません、シエスタさん」 「いいんですよ。私はお友達じゃないですか」 シエスタはナナリーを平民だと思っている。 たしかにこの世界の基準ではナナリーは平民に属するかもしれないが、 実は、ナナリーは大国のお姫様なのだ。 「お友達!?本当ですか!」 こちらの世界で知り合いの少ないナナリーはこのシエスタの言葉に歓喜した。 「あら?嫌でした?」 「そんな、とんでもないです。凄く嬉しいです」 喜ぶナナリーを見て、シエスタは微笑んだ。 正午を過ぎ、ナナリーの体調も徐々にに回復してきたのだろうか。 ナナリーはシエスタとの会話を楽しんでいた。 「あら?そうなんですか?」 「はい、本当にお兄様ったら」 話題は互いの兄弟のことだ。 「おーい、シエスタ」 そんな中、シエスタを呼ぶ声がした。 声の主は料理長のマルトー、 シエスタの上司にあたる人物だ。 「あ、ナナリーごめんなさい。 ちょっとだけ待ってて」 「いえ、気分もだいぶ良くなったのでもう大丈夫です」 ナナリーの顔色もだいぶ回復してきている。 これなら少しくらい目を離しても大丈夫だろうと思ったシエスタはマルトーのもとえ急いで駆けていった。 春の陽気は暖かく、ナナリーは徐々に眠くなってきていた。 「ふぁああ…お昼寝でもしましょうか」 一人になって隙をもてあましていたのもあり、 ナナリーは昼寝をすることにした。 間もなく、ナナリーはうとうとふねをこぎだす。 「キュイキュイ、今がチャンスかしら。 そうよね?違いないわ」 朧げな意識の中で、ナナリーには誰かの声が聞こえた。 驚くべきことに、その声は上から聞こえていた。 しかし既に眠気が限界までたっしていたナナリーは、 そのことをたいして気にせず夢の世界に旅だった。 そのとき、 ルイズは少し離れた場所にいた。 もちろんナナリーの様子をみるためにきたのだ。 ナナリーが寝ているのがここからでもわかる。 起こさないようにゆっくり音を立てないように近づく。 「キュイキュイ、キュイキュイ」 その途中、上から何かの泣き声がした。 上をむくと、竜が飛んでいた。 「あれは…たしかタバサの使い魔よね?」 タバサの使い魔、シルフィード。風竜という種類の竜だ。 「ふん、竜なんて何よ。ナナリーはお姫様よ」 周りに誰もいないというのに、ルイズは勝手に勝ち誇る。 ルイズが勝ち誇り、悦にひたっている間に、大変な事態がおこった。 キュイキュイ、と泣いていたシルフィードは、 ナナリーの目の前に降り立つ。 この時点ではルイズも、 タバサの使い魔というのもあり安心してその様子を見ていた。 シルフィードもナナリーの魅力にメロメロなのね。 なんて勝手な解釈までしてるくらいだ。 しかし、次の瞬間ルイズは凍りつく。 シルフィードがナナリーの上半身にかぶりついたのだ。 しばしのこうちゃく時間の後、ルイズは叫んだ。 「ギャァアアアアアアアアアアアア!」 それは天をも割りそうな叫び声だった。 ルイズの声に驚いたのか、シルフィードは飛び去っていく。 しかしナナリーをくわえたままだった。 ルイズは叫びながら後を追った。 ナナリーは、ルイズの声で目をさました。 「…あ…蒸し暑いですね」 ナナリーの第一声はそれだった。 ナナリーの上半身はシルフィードの口の中。 といってもシルフィードにナナリーを食べる気はない。 「キュイキュイ、起きたのね。ナナリー、起きたののね。 キュイキュイキュイキュイ」 口の中のナナリーは、その声に驚く。 そして、ようやく何物かの口の中にいることを気づいた。 「あ、そういえば忘れてたいたわ」 そう言いシルフィードはナナリーを自分の背中に吐き出した。 「あうっ…」 勢いよく吐き出されたナナリーはシルフィードの背中を転がり、 落ちそうになってしまった。 「あ、危ない!」 シルフィードは体を傾けナナリーが落ちるのを、なんとか防ぐ。 「ナナリー大丈夫? 目が見えないってのも大変なのね」 「あなたは誰なんですか?」 ナナリーはたずねた。 ナナリーにも相手が人間ではないくらいはわかる。 「私はシルフィード、ウィンドドラゴンよ。 シルフィードってのはお姉様につけてもらった名前なの」 「シルフィードさんですね」 このときナナリーは、ドラゴンは普通に喋るものなのだと考えた。 物語でしかドラゴンを知らないナナリーには仕方のないことかもしれない。 「シルフィードさんは、なんでこのようなことをしたんですか?」 眠っていたらいつの間にか口の中にいた。 ナナリーには現状がいまいち理解できない。 「ふふふ、知りたい?ナナリー知りたい?」 「はい、教えてください」 「いいわ、ナナリーには特別に教えてあげる。キュイキュイキュイキュイ」 「私はお空をとんで歌っていたの。 るーるーるーる、るーるーるーる」 「まぁ、素敵な歌ですね」 ナナリーは、素直ににそう思ったことを口にした。 「そうでしょ?そうでしょ? なのにお姉様はうるさいっていうのよ。」 「は…はぁ…」 「だから私はあえて歌ってやるの。 るーるーるーる、るーるーるーる…」 「あ…あの…シルフィードさん」 ナナリーの表情は少し困り顔だ。 「どうしたのナナリー?」 「なぜ私を連れてきたのですか?」 「それはね、キュイキュイ、キュイキュイ」 その後もシルフィードとの会話は脱線を続けた。 ナナリーが何回同じ質問をしたころだろうか、 シルフィードはようやく理由を話だした。 「お空を飛んでたらとても可愛い女の子を見つけたの。 それがナナリーだったわ」 「は…はぁ」 「そしたら、びっくり。そのナナリーがなんて言ったと思う? お姫様だっていうのよ?」 「…そうですか」 ナナリーは反応に困った。 びっくりとかどうとか言われても、 それはナナリー自身の話だからだ。 話の内容から推測すると、おそらくナナリーが召喚されたときのことだろう。 「だから私はナナリーをずっと見てたのよ、キュイキュイ、キュイキュイ。 そしたらね、キュイキュイ。 ナナリーがねキュイキュイ」 このシルフィードという竜はうれしくなると鳴き声をだすのだろう。 ナナリーはそう感じた。 「私がお空で一人で話してるのに気づいたのよ」 ナナリーは気づいた。 今まで、空から聞こえていた声の主は彼女なのだと。 「あなただったんですか」 「そうよ。でもナナリーは凄いわ。 だってずっと高く飛んでるのに私に気づくんですから」 「いえ、それほどでも…」 ナナリーは褒められたことにたいして照れた。 「だから、お友達になりたいと思ったのよ。 キュイキュイ、キュイキュイ」 「そんなことでしたら…」 ナナリーが何かを言いかけたとき、口笛の音が聞こえた。 「ま…まずいわ。お姉様が呼んでるわ。 きっとナナリーを勝手に連れていったことを怒られてしまうわ。 どうしましょう、どうしましょう」 シルフィードは慌ててくねくねと動きだした。 「し…シルフィードさん!落ち着いて! 私がシルフィードさんを許してもらえるようお願いしますから」 ナナリーは振り落とされないように必死にしがみついていた。 しかし、非力なナナリーの腕力ではあまり長くもたないだろう。 そのとき、シルフィードの動きが止まった。 「本当?本当にお願いしてくれる?」 「はい、本当です。だから、そのお姉様のところに戻りましょう」 「わかったわ。キュイキュイ。 ナナリー大好き。キュイキュイ、キュイキュイ」 シルフィードは徐々に高度を落としていった。
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謙虚な使い魔~アルビオンの幻影~ 翌朝・・・。 ニューカッスルの外れにある礼拝堂で、ウェールズは皇太子の礼服に身を包み、始祖ブリミルの像の前に立ち、 ブロントは式の立会人としてただ一人、列席に座って新郎と新婦の登場を待っていた。 皆、戦の準備に忙しく、その二人以外、他に人間はいない。 ウェールズも、速やかに式を済ませた後は、自分も戦の準備に駆けつけるつもりであった。 礼拝堂の扉が開き、ルイズとワルドが現れた。 ルイズは浮かない顔で俯いて立っている。ルイズは戸惑っていた。 今朝方はやく、いきなりワルドに起こされ、ここまで連れてこられたのだ。 突然の事でルイズは心の準備も出来ていなかったが、ワルドはそんなルイズに、「ウェールズ皇太子と使い魔のブロントが既に式の準備をしている」と言ったので、ルイズは半ばワルドに流されるままに、礼拝堂までやってきた。 純白の新婦の冠とマントをワルドに成されるがまま、着飾られている間もルイズはワルドに反応も見せず、考えを巡らせていた。 今日死に逝く運命のアルビオンの皇太子も、自分の使い魔も、こうしてルイズのために式を用意してくれているのだ、 皆が望む事なのであれば、このままワルドと結婚すれば、皆認めてくれるのだろうか?『ゼロ』でなくなるのだろうか? 「では、式を始める」 皇太子の声が、ルイズの耳に届くが、頭の中をぐるぐる巡る考えが邪魔をして、何を言っているのか理解できていなかった。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」 ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 「誓います」 ウェールズはにこりと笑って頷き、ルイズに視線を移し、誓いの詔を読み上げる。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか」 ルイズは思った。 確かにワルドは長年憧れた相手であったし、嫌いじゃない。どちらかと言えば好きなのであろう。 二人の父が交わした、結婚の約束ならば、ルイズの両親もこの場にいれば喜ぶ事であろう。 周りのルイズを見る目も大きく変わる事だろう。 しかし、周りからの評価が変わっても、ルイズ自身はどうなのか? “何か”すら成し遂げていない”ゼロ”のルイズのままではないのか? 今まで自分を見つめる目を気にしていたが、本当に自分が成したい事は何なのだろうか? この思いを理解し、支えてくれる人は・・・ 「新婦?」 ウェールズがこっちを見ている、ルイズは慌てて顔を上げた。 ルイズが上の空になっている間にも式は続いている。 ルイズは戸惑った。 どうすればいいんだろう?こんなときはどうすればいいんだろう? ふと列席に目を向けると、ブロントはルイズの目をじっと見つめていた事に気づいた。 「緊張しているのかい?仕方が無い。初めての時は、事がなんであれ、緊張するものだからね」 にっこりと笑って、ウェールズは続けた。 「まあ、これは簡単な儀礼にすぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。では繰り返そう。汝はブリミルの名に・・・」 『この俺がお前の側を離れる事を知らない』 ルイズはラ・ロシェールでそう誓ってくれた使い魔の言葉を思い起こして、そして気づいた。 ルイズが選んだ道であれば、ブロントは何も文句も言わずついてくるだろう。 しかし、進むべき道まではブロントは決めてくれない、 何故ならば、”ゼロ”から”何か”になるためには、 ルイズ自身が自分で進むべき道を決めねばならぬからだ。 大きく深呼吸をして、ルイズは決心した。 「ごめんなさい、ワルド」 「ル、ルイズ?どうしたね、気分でも悪いのかい?日が悪いのなら改めて・・・」 「そうじゃないの。ごめんなさい。ワルド、まだ何も成し遂げていない今のわたしでは、あなたとは結婚できない」 いきなりの展開にウェールズは首を傾げた。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「そのとおりでございます。おニ方には、大変失礼をいたす事になりますが、わたくしはこの結婚を望みません」 ワルドの顔に、さっと朱がさした。ウェールズは困ったように、首をかしげ、残念そうにワルドに告げた。 「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」 ワルドはルイズの手を取った。 「緊張しているだけだ。そうだろルイズ。きみが僕との結婚を拒むわけが無い」 「ごめんなさい。ワルド。昔は憧れていたわ。恋だったかも知れない。でも、今は違うわ。一人の男性としてのあなたをまだ良くも知らないのに、子供の頃の記憶だけを頼りに、いきなり結婚はできないわ」 するとワルドは、ルイズの肩を掴んだ。 その目はつり上がり、表情も氷のように冷たい。 熱っぽい口調でワルドは叫んだ。 「世界だルイズ!僕は世界を手に入れる!そのためにきみが必要なんだ!きみの能力が!きみの力が!」 豹変したワルドに怯えながら、ルイズは首を振った。 「わたしには、そんな力ないわ」 「きみには始祖ブリミルに劣らぬ才能が眠っているんだ!なぜそれに気づかない!世界をも手に入れる事ができる力を持っていることに!」 ルイズにあれ程優しかったワルドが、こんな顔をして叫ぶなんて、ルイズは夢にも思わなかった。ルイズは後ずさった。 「わたし、世界なんていらないわ!」 ルイズに対するワルドの剣幕を見かねたウェールズが、間に入って取り成そうとする。 「子爵、きみはフラれたのだ。いさぎよく・・・・・」 が、ワルドはその手を跳ね除ける。 「貴様は黙っておれ!」 ウェールズはワルドの言葉に驚き、顔をしかめて、立ち尽くした。 ワルドはルイズの手を握った。ワルドは優しそうに笑みを浮かべるが、その目は暗く、怪しく輝き、ルイズは背筋が凍るほどにとてつもなく嫌なものを感じた。 「さあ、ルイズ。考え直してくれ。きみの力を、僕に。そして世界を」 ルイズはワルドの手を振り解こうとするが、物凄い力で握られているため、振り解けない。 「そんな結婚、絶対死んでも嫌よ!あなたはわたしの事を愛しているんじゃない。やっと、わかったわ、何であなたのわたしを見る目が、どこか遠くを見つめる様な目だったのは。わたしを、その自分勝手な野望のための、道具としてしか見ていなかったからよ!ひどいわ。そんな理由で結婚しようなんて」 ルイズは手を振り解こうと必死に暴れる。 「ルイズ、きみの事は愛しているさ」 ワルドのその言葉は誰が聞いても判るほどに嘘で塗り固められていた。 列席から飛び出したブロントが、ワルドの手首を掴みかかろうとした瞬間、ワルドは咄嗟に手を離しルイズから飛び退った。 ブロントはワルドを睨み付ける。 「そこまでだなお前のような欲望丸出しなやつはもう誰も相手にしない。今回のアワレな姿を晒したお前が必死顔になってそんな事を言っても念仏状態。今後そんな事言ってもここの皆はもうお前の事を知っているので人工的に淘汰されるのが目に見えている」 「ブロント!」 ルイズはすかさず、ワルドから隠れるようにブロントの後ろにすがりつく。 それを見てワルドは、両手を広げて笑う。冷たい笑い声が礼拝堂に響く。 「なるほど、やはりその使い魔のせいか。僕の婚約者でありながら自分の使い魔に恋慕するとはな」 「そんなのじゃないわ!あなたと違って、ブロントはどんな事があっても、わたしを守ってくれると誓ってくれた、わたしの事を理解してくれている、信頼できる大事な使い魔よ!」 ワルドは不敵な笑みを浮かべながら、ルイズからゆっくりと後ずさる。 「ハハハ、まさか伝説の使い魔『ガンダールヴ』に、こんな事まで邪魔されるとはな。まあいい、こうなっては仕方が無い。ならば目的の一つは諦めよう」 「目的?」 ルイズは首を傾げた。 「そうだ。この旅における僕の目的は三つあった。その二つが達成できるだけでも、よしとしなければな」 「達成?二つ?どういうこと?」 ルイズは心の中で、真実であって欲しくないある想像が急激に膨れ上がる。 ワルドは小さく後ずさりながら、右手を掲げると、人差し指を立てた。 「まず一つはきみだ。ルイズ。きみを手に入れることだ。しかし、これは果たせないようだ」 「当たり前じゃないの!」 次にワルドは、中指を立てた。 「二つ目の目的は、そこの使い魔に待たせている、アンリエッタの手紙だ」 ルイズははっとした。 「ワルド、あなたは・・・」 「そして、三つ目・・・!」 いつの間にか距離を詰め寄られ、ワルドの『アンリエッタの手紙』という言葉で、すべてを察したウェールズが、杖を構えた。 しかし、ワルドはその二つ名『閃光』と呼ばれる所以に違わず、素早く杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させた。 ワルドは、風のように身を翻らせ、青白く光る杖をウェールズに向けて、突き出す。 「・・・貴様の命だ!ウェールズ!」 「おい、やめろ馬鹿!」 ブロントは右手の平をワルドに向けて、素早く神聖魔法を詠唱する。 「<フラッシュ>!!」 ブロントの右手から眩い光が、ワルドに向かって矢のように飛んで行き、その目に纏わりつく。 ワルドはぐっ、と呻き声をあげながら、眩まされた目で、そのままウェールズの胸を杖で貫いた。 「き、貴様・・・・・・、レコン・・・」 ワルドが狙っていた心の臓をわずかに逸れ、肺を貫かれたウェールズの口から赤い鮮血が溢れでる。 ワルドはウェールズの胸から光る杖を引き抜くと、笛の音に似た、不吉な音を立てながらその胸から血とともに空気が噴出す。 ワルドは目を手で抑え、聞こえる音を頼りに杖をルイズ達の方向に向ける。 「『ガンダールヴ』め、余計な事を。下手に手を出さなければ、ウェールズも無駄に苦しまずにすんだものを」 呼吸を断たれたウェールズは苦しみにもがき、どくどくと血が胸と口から流れ出る。 「このワルドは早くも終了ですね」 ブロントは横飛びを混ぜながら一気にワルドに駆け寄ると、引き抜いたデルフリンガーで、ワルドを一刀の下に斬り捨てた。 しかし、引き裂かれたワルドは煙の様に手ごたえなく、霞となって消えた。 そしてブロントの背後にいたルイズが悲鳴をあげる。 「やはり、近寄らせると手ごわいようだな。さすがは伝説の使い魔『ガンダールヴ』と言ったところか」 ブロントは振り向くと、仮面を被ったマントの男がルイズの首に腕を巻きつかせて拘束していた。 そして礼拝堂の柱の影からワルドが三人飛び出し、ブロントから一定の距離を離して取り囲む。 「お前・・・幻影使えるのはずるい」 ブロントは仮面の男を指差し、鎧をガシャと乱暴に鳴らす。 「ただの『幻影』ではない。風のユビキタス(偏在)だ。風は偏在する。風の吹くところ、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する。貴様『ガンダールヴ』の力量を幾度となく計った所、一人で相手するのは少々骨が折れるのでね」 男は仮面を取り外すと、その下にはワルドの姿があった。 「仮面のメイジがあなただなんて、あなた、アルビオンの貴族派だったのね!ワルド!」 ルイズはワルドに締め付けられるようにその身を拘束されながらも、わななき、怒鳴った。 「そうとも。いかにも僕は、アルビオンの貴族派レコン・キスタの一員さ」 「どうして!トリステインの貴族であるあなたがどうして!?」 「我々は国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。そして我々の手でハルケギニアは一つとなり、始祖ブリミル所縁の『聖地』をエルフどもの手から取り戻すのだ」 「何が、何があなたを変えたの?昔はそんな風じゃなかったわ・・・ワルド・・・一体何が・・・」 「全てを話せば長くなるから語らぬが、ある時から僕の胸の中で囁く、己の声に従ったからだ。今まで己の声を信ずるままに行動したお陰で、魔法衛士隊隊長という力まで手に入った。そして、このままいつか世界すらも手に入るだろう。だから、だから共に世界を手に入れようと言ったのだ!」 ブロントは剣の切っ先をルイズを掴んで離さないワルドに向けた。 「婚約者を裏切って人質にとるとか恥知らずな風使いがいた!汚いなさすがワルドきたない」 ブロントがぎりりっと歯を噛み締める。 「俺はこれでワルドきらいになったなあもりにもひきょう過ぎるでしょう?ルイズの婚約者だから俺は中立の立場でみてきたけどやはりお前は汚いだけという事が判明した。ワルドはウソついてまでルイズの力を確保したいらしいがルイズに相手にされてない事くらいいい加減気づけよ。俺はお前よりも高みにいるからお前のイタズラにも笑顔だったがいい加減にしろよ」 ワルドはブロントの言葉を気にする風もなく、不敵に笑う。 「目的のためには、手段を選んでおれぬのでね。『ガンダールヴ』、そこまで言うのであれば、貴様の主人を離してもいいぞ。貴様が持っている手紙との交換でだ」 「だめよ!ブロント!姫さまの手紙を渡しちゃ!これは命令よ!」 ブロントは黙ったまま、しばらく何かを考えた。 そして、決心がついたのか、カバンから一枚の丸めた羊皮紙を取り出した。 「やはり使い魔なら主人の安否を優先するか!賢明な判断だな。よし、その手紙を床に置いて十歩下がれ。貴様の間合いはすでに把握している。十分間合いの外まででれば、ルイズを離してやる」 ブロントは言われたとおりに紙を床に置くと、ワルドをじっと睨み付けながら、じりじりと後ずさった。 ブロントが手紙から十分離れたのをみて、ワルドはルイズを手放し、手紙を拾った。 ワルドの束縛から解かれたルイズは一目散にブロントに向かって駆け出した。 懐に手紙を仕舞うと、ワルドは楽しそうに笑い、杖をルイズに向けた。 「そんなに、使い魔の所に行きたいのなら、送ってやろう!」 風の魔法が飛ぶ。<ウィンド・ブレイク>。ルイズを紙切れの様に吹き飛ばした。 「おいィ!?」 ブロントは咄嗟に強化魔法の<プロテス>を唱えルイズを光の壁で包んだ。 光の壁で多少衝撃は和らげたとは言え、ルイズは強く壁に叩きつけられ、うめき声をあげた。そしてその目から涙が零れる。 「貴様、剣技以外にも何かあるな。コモンマジックの<ライト>ではなく、光そのものを操る何かがあるようだな。もしや先住魔法か?それともマジックアイテムか?どちらにせよ、剣に頼るぐらいだ、くだらぬ小細工しか使えないようだな」 「・・・マジふざけんなよ」 ワルドがブロントに向けて杖を構えると、他の三体の偏在のワルド達もブロントに杖を向ける。 「言う事を聞かなくなった小鳥は、首を捻るしかないだろう?なぁ、そうだろ、ガンダールヴ」 その瞬間、ブロントの中で何かが弾けた。 その手はぶるぶると震え、両の目には憤怒の炎が燃え上がる。 礼拝堂中にその音が響くと思われるぐらいに心臓が鼓動し、 全身の血が一気に毛の先にまで流れんばかりに頭に昇る。 デルフリンガーを強く握った左手がバチバチと激しく電撃を迸る。 「お前らは一級使い魔のおれの足元にも及ばない貧弱一般人。その一般人どもが一級使い魔のおれに対してナメタ真似をすることでおれの怒りが有頂天になった。この怒りはしばらくおさまる事を知らない!」 「ほざけ!伝説といえども、所詮ただの使い魔だ!その思い上がりと共に、貴様の伝説もここで終わらせてやる!こい、ガンダールヴ!」 ワルドとその偏在達が同時に呪文を唱え、<ウィンド・ブレイク>を四重に重ねた魔法の豪風がブロントを襲う。 礼拝堂を吹き抜ける突風が甲冑を着たブロントを軽々と吹き飛ばした。 壁にぶち当たり、石造りの壁がバラバラと砕ける。 「どうした、ガンダールヴ?剣の間合いの外ではこの一般人に手も足もでないか?貴様の怒りとやらはそんなものか?」 ニタニタと残忍な笑みを浮かべながら、遠巻きにワルドが嘲笑する。 その時、デルフリンガーが叫んだ。 「この心の震え・・・懐かしい感じがすると思ったら!思い出したぜ!」 「うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り」 「いいから聞け!俺は昔、おめに握られてたぜ、ガンダールヴにな。あれから何年だ?五百年は経つか?懐かしいなあ」 ブロントは体勢を低くして、ワルドの偏在に突進するが、ワルドは一定の距離よりブロントが詰め寄るのを許さず、風の魔法で吹き飛ばす。 「幾つもの店を点々と渡り、こうしてガンダールヴが現れるのを待つこと五百年、長かったぜ!そうとわかりゃ、こんな格好している場合じゃねえな!」 叫ぶなり、デルフリンガーの刀身が光り出す。 ブロントの『光』の小細工を警戒していたワルドは、身を翻らせて距離をとり、 三体の偏在に任せ、ブロントをめがけて追い討ちの突風を送った。 「無駄だ!そんな目眩ましはもう通用せんよ!その剣もまとめてへし折ってやろう!」 ワルドが叫んだ。 また吹き飛ばされると思い、ブロントは身構えた。 だが次の瞬間、偏在が繰り出した風がデルフリンガーの刀身に吸い込まれる。 そして、デルフリンガーは濡れた刃の如く、鋭く、光り輝いた。 「デルフん、お前・・・」 「相棒!これが俺の本来の姿さ!すっかり忘れてたぜ!前の相棒に銅貨一枚で売られちまって、他の奴に買われる位なら、ってテメエの体を変えたんだった!何かの冗談で、またすぐ引き取りに来ると思って待ってたら、五百年経っちまったがよ!」 「確実にナイトは本来のデルフんを手に入れたら高確率で一番最強になる」 「おうよ!奴にそれを見せてやれ!」 ブロントは鋭く研ぎ澄まされた片刃のデルフリンガーの姿を見て、ヴァナ・ディールの東の国から伝来する凄まじい切れ味を誇る『刀』を連想した。 その刀を扱う、東方の武術を極めた『侍』を、ブロントは一時経験していた事があった。 昔封印したその時の経験が、左手のルーンからブロントの頭に流れ込んでくる。 ブロントはデルフリンガーを持ち直すと、切っ先を突き出して、星眼に構える。 頭の先まで煮えたぎるワルドに対する怒りを、静かに刀身に投影し、 高鳴る心の荒波を抑え、一点の曇りも無い、明鏡止水の境地に立った。 そして、目を閉じる。 「血迷ったか!戦いの場で目を瞑るなど!」 ワルドはブロントの隙を見逃さず、<エアー・カッター>を飛ばす。 しかし、ブロントは構えを崩さず、心の眼で見切ると、すっと体を少しだけ横に反らせ、髪一本程の距離をあけてワルドの風の刃を避ける。 そして、かっと目を見開くと、塞き止めた怒りが激流となり、ブロントの左手から激しい電撃がデルフリンガーに流れ込む。 「いいぞ、相棒!っしゃあ!きたきたきたきた!みなぎってきたぜ!伝説の使い魔の突き技!」 心の震えを三倍程までに蓄積したブロントはまるで稲妻となってワルドの偏在に突進した。 蒼く迸る雷撃をデルフリンガーに纏わせ、ワルドが反応すらできる間も与えずに、偏在一体の腹を貫く― 『<雷之太刀・轟天>!』 偏在がうめき声も立てずに消滅する。 「き、貴様・・・・・・!」 ワルドはすかさず数閃もの<エアー・カッター>をブロントに向けて唱える 「恥知らずなくだらねえ魔法は全部、俺が吸い込んでやるぜ!この『ガンダールヴ』の右・・・もとい左腕、デルフリンガーさまがな!」 ブロントはデルフリンガーを横薙ぎに振るって、ワルドの魔法をデルフリンガーで吸い込ませて、そのまま頭上高く振りかぶる。 「相棒!こいつに返してやれ!」 デルフリンガーが眩く光り、唐竹割りに振り下ろされて、切っ先から真空の刃が地走る。 『<風之太刀・回天>!!』 ワルドの偏在は唖然とした表情で、綺麗な縦一文字に引き裂かれる。 「くそっ!これほどの俊敏さを隠しもっていたとは!だが、何も貴様にあわせ、地に着いている必要はない!空こそが『風』の領域だ」 ワルドは残る一体の偏在に<レビテーション>をかけ、駆ける地がない空中からブロントを攻撃すれば、素早い動きを取れないと算段した。 が、それは間違いであった。 ブロントは、ぐぐっとしゃがみ込むと、床を蹴り、空高く飛ぶ偏在に向けて、光の羽根の様な軌跡を残しながら跳躍する。 デルフリンガーを偏在の股から切り上げ、返す刃で続けざまに二の太刀を肩口から浴びせた。 『<唯一無二之太刀・有頂天>!!!』 最後の偏在が雲散霧消となって散る。 ワルドは言葉も発せずにたじろぐ。 「おっととグーの音も出ないくらいに凹ませてしまった感。お前調子ぶっこき過ぎてた結果だよ?」 「クソ・・・この、『閃光』がよもや後れを取るとは・・・このまま貴様を討ち果たすのは難しいようだな」 「怒りのパワーの力が全快になったからおまえもう謝っても遅い」 ワルドが不気味ににやりとする。 「ならば、せめて貴様の主人に一太刀浴びせてやる!」 ワルドはその二つ名の如く素早さで、杖を抜き放ち、倒れているルイズに向け、呪文を詠唱する。 しかし、ワルドの『閃光』よりも一瞬早く、ブロントは魔法の詠唱を完成させ、ワルドの胸に目掛けて神速の光球を叩き込む。 「生半可なナイトでは扱えない<ホーリー>!」 光球がワルドにぶつかり、弾けると、ワルドの胸が服ごと焼け爛れる。 「く、ぐぉお・・・!」 「ヨミヨミですよ?お前の作戦は。恥知らずは死ねマジ死ね」 ワルドはシューシューと音をたてる胸を抑え、よろめきながら後ずさって、口笛を吹く。 するとワルドのグリフォンが礼拝堂の窓を打ち破って飛び入ってくる。 「おのれガンダールヴ。どうやら伝説の力を見くびっていたようだ。だが、当初の目的の二つは果たせたのだ、私がここで命を賭してまで貴様と戦う必要は無い。どのみちここは、今にも我がレコン・キスタの大群が押し寄せる。私が手を下さずとも貴様等はここで果てる運命よ!」 ワルドはグリフォンの背に身を預けると、グリフォンが羽ばたく。 その時、遠くで何かが爆発する音がした。 「どうやら城の方は片付いたようだな。流石の伝説も三百を蹂躙する軍に対して、どれほど相手になれるかが見れないのは残念だが、ガンダールヴ!貴様はここで愚かな主人ともども灰になるがいい!」 焼けた胸の痛みに顔を歪めながら、ワルドは飛び去った。 ブロントは飛び去るワルドの後を追いかける素振りも見せず、礼拝堂に倒れている二人の状態を確認した。 ルイズは所々、服が破け、擦り傷ができていたが、気絶しているだけで大事はなかったようだ。 しかし、血の海の中にいたウェールズは、呼吸も心臓の鼓動も止まり、顔も薄青紫色をした、絶望的な状態であった。 だが、その虚ろな目には、吹けば消えてしまいそうな程小さいものだが、命の灯火がまだ辛うじて残っていた。 そのとき、ルイズが横たわった隣の地面が盛り上がったと思ったら、ギーシュの巨大モグラが顔を出した。 ギーシュの使い魔はルイズを見つけると、モグモグと嬉しそうにルイズの手をまさぐった。 穴からギーシュが顔をだした 「ヴェルダンデ!一体どこまでお前は穴を掘るつもり・・・ってきみたち、ここにいたのかね!」 ブロントは何も言わず、ウェールズの前で祈る様な姿勢で膝をついている。 巨大モグラは、フガフガとルイズの指に光る『水のルビー』に鼻を押し付けている。 ギーシュはそれを見て、うんうんと頷く。 「なるほど、僕の可愛いヴェルダンデは貴重な宝石の香りも大好きだからね。その匂いを追ってここまで掘ったんだね。あれ?ブロントさん、盾はどうしたんだい?」 「お前はここに五万の軍勢がくるのに話したりする余裕があるのか?」 「え・・・ご、五万だって!?」 ブロントは立ち上がると、ルイズをまさぐる巨大モグラを押しのけて、ルイズを抱え上げて、ギーシュに預ける。 「ルイズを連れてここを早く去るべき」 ギーシュはルイズを背負い、ふと床に倒れているウェールズに目をやった。 「彼は・・・誰だい?何かその・・・死んでいるみたいなんだけど・・・」 「・・・俺のフレンドだ。とにかく早く行かないと後悔する事になる」 「わ、わかった。キュルケ!タバサ!聞いたかい?すぐにも逃げるよ!」 ギーシュのすぐ下にキュルケとタバサもいるのか、穴から「えー?折角アルビオンにきたばっかりなのに?」というキュルケの声がした。 ギーシュは倒れているウェールズの側に佇むブロントを見て気になった。 「おーい、ブロントさんも早く!」 ブロントは「後からいく」と素っ気無く答えたので、ギーシュはそそくさと穴に潜った。 礼拝堂に一人残ったブロントは両手の平を天に向け、気を集中し、呪文を唱えた。 アルタナの女神に祈り、その祝福を願い、慈悲を乞いた。 焦る気持ちを抑え、呪文を間違えぬよう、ゆっくりと、正確に魔法を詠唱する。 長々と魔法を唱えるブロントの全身から光が生じ、それは右手に集まる。 ブロントは全ての魔力をその手に集めると、それを虫の息のウェールズに向ける。 「・・・・<レイズ>・・・ッ!」 光の塊はブロントの手を離れ、ウェールズに降り注ぐ。 すると、ウェールズの胸の傷がみるみると塞がり、その顔の血色も良くなってゆく。 魔法の光がウェールズの体をふわりと持ち上げ、その足に立たせると、光は消えていった。 「がはっ、がはっ!」 息を吹き返したウェールズはよろめき、膝をつくと咳き込み、肺に溜まっていた血を吐き出した。 「ごほごほ、友よ、君がここにいると言う事は、私は・・・生きているのか?それとも、君もあの逆賊に討たれたのか?」 「黄金の鉄の塊で出来ているナイトが布装備のワルドに遅れをとるはずは無い」 「ふっ、そうだな。流石だな、我が友」 風のメイジであるウェールズは聞き耳を立てると、遠くから王党派を打ち破った貴族派の軍勢が迫ってくる音を聞き取った。 「そうか、我々はすでに負け、終わっていたのか・・・」 衰弱しきったウェールズは思わず床に崩れ落ち、大の字になって天井を見上げる。 「友よ、最後に君に会えてよかったよ。だが、早く逃げるといい。間も無く叛徒どもがこの礼拝堂にやってくるだろう。このアルビオン皇太子、ウェールズ・テューダはここで最後を飾らせてもらう」 「・・・何も聞こえないな。俺の耳にはウェールズの声が届いてこないようだが」 ウェールズ怪訝そうな顔をして、首を上げ、ブロントを見る。 ブロントはウェールズを掴み上げ、その腕を自分の肩にまわす。 「友よ、離してくれ。王家の血が流れる私はここで王国とともに果てなければいけない責務があるのだ」 「ウェールズはすでに死んでいるんだが?」 「だが、私は現にこうして・・・!」 「ウェールズ・テューダは汚いワルドに殺されてここにはただ一人ウェントゥスだけが残った」 「ウェン・・・トゥス?」 ブロントはにこりと微笑む。 「ちなみにこの話は実際にあった内容で俺の言葉でいうと『風』という意味」 ウェールズは戸惑った様子でブロントに聞く。 「この私が・・・ウェントゥスだと?」 ブロントは頷く。 「お前がただ一人の人間で、俺のフレンドのウェントゥスなのは確定的に明らか」 「だが・・・しかし・・・私は」 ウェールズは悩んで、俯く。 「『ただ一人の人間なら一人の女性を守り生き抜くのも悪くないと』と言ったの覚えていないのかよ?完全に論破して終了したのでこの話しは終了」 ブロントは強引にウェールズを引き摺られながら、ウェールズははっとした顔になった。 「まいったな、友の言葉はめちゃくちゃだ。だが、なぜかな、とても魅力的な言葉に聞こえるよ」 ウェールズはふぅとため息をついた。 ふと脳裏にアンリエッタ王女の笑顔が思い浮かんだのだ。 今まで気が付かなかったが、なぜかその笑顔が、自分が守ろうとしていた王家の誇りより何倍にも大事なものであると思えた。 ウェールズは決心したような面持ちで顔を上げ、 先程まで自分が倒れていた血に染まる床を見つめた。 「よかろう、私に流れる王家の血はここに全て流れ出た。これよりはただ一人の風のメイジ、そしてブロントの親友、ウェントゥスだ」 その言葉を聞いて、ブロントは頷き、カバンから何かを取り出した。 橙色のレンズがはめ込まれた防塵眼鏡を、ウェントゥスにかける。 「これは・・・?」 「お前の顔は死んだウェールズとまれによく同じ顔になったりする」 「そうか、そんなにアルビオン皇太子と似ているか!それは困ったものだな」 二人は楽しそうに笑うと、礼拝堂の外が何やら賑やかになる。 王党派を破った貴族派の一部隊が礼拝堂を取り囲んでいた。 「友よ!奴らが来たぞ!」 礼拝堂の扉が音を立てて打ち破られ、貴族派の兵士やメイジ達が飛び込んできた。 その頃、ルイズ達はギーシュの使い魔が掘った穴を伝い、大陸の真下でキュルケ達がアルビオンまで乗ってきたシルフィードとともにブロントがくるのを待っていた。 「ちょっと、本当に大丈夫なの?ブロントさん全然こないわよ」 タバサの使い魔シルフィードに跨ったキュルケは「五万の軍勢がやってくる」とギーシュから聞いてあせっていた。 「わからない。もしかするとぼくたちのために足止めになっているのかもしれない・・・」 ルイズはギーシュに運ばれている途中、意識を取り戻し、自分の足で立っていた。 何も声が聞こえてこないリンクパールをその手に握り締めて伝ってきた穴を見つめていた。 何度かパールに呼びかけたが、返事が返ってこない。 聞き耳を立てて警戒していたタバサがぽつりと呟く。 「来た」 「ブロントさん来たの?」 タバサは首を横に振る。 「違う、兵隊」 確かに耳を澄ますと、穴の奥から「ここに穴が開いてるぞ!」「この先に逃げたかもしれない、確かめろ」といった兵士達の怒号が聞こえてくる。 「ヴァリエール!早くシルフィードに乗りなさい!ここで犬死なんて洒落にならないわよ!」 キュルケは叫んだ。 ルイズは首を振る。 「そのまま!もう少し待って!」 「もう待てないわよ!」 穴の中からする貴族派の兵士達の声が次第に大きくなる。 今にも穴から兵士が飛び出てきそうなぐらいに、無数の足音が響き渡る。 「ヴァリエール!」 ルイズはブロントの事が気になっていた。命を捨てるような事をしないと約束してもらったばかりなのだ。それをこんな所で破るはずが無い。 必ずブロントは生きてやってくると、ルイズは信じていた。 穴からがらっと石が転げ落ちる。 「奴ら来たわよ!」 キュルケが杖を穴に向けて構える。 「遅れてすまにい」 どこからともなくブロントの声がすると思ったら、何もない空間からブロントと肩を貸した誰かが姿を現した。 ブロントは自分とウェントゥスにかけたプリズムパウダーを手で払っていた。 「ブロント!それに・・・そのお方はウェ・・・」 ブロントの肩にもたれかかる様に死んだはずの皇太子が、何やら色眼鏡をかけてそこに立っている。 ブロントは咄嗟にルイズの口を手で塞ぐ。 「俺のフレンドのウェントゥスなんだが?」 「でも、だって、ウェー・・・」 「誰かに似ているようだが、私はウェントゥスだ」 ブロントとウェントゥスは顔を見合わせて笑う。 「あんた達、話しは後にして、急いでここから離れるわよ!」 キュルケが叫ぶと、ルイズ達は急いでシルフィードに乗った。 「いいわよ、タバサ!」 六人を背中に乗せ、その口に巨大モグラを咥えたシルフィードが苦しそうに悲鳴を上げた。 「食べちゃダメ、トリステインまで頑張って」 タバサは自分の風竜にそう囁き、頭を撫でる。 シルフィードがアルビオンから飛び立つと、穴から続々と兵士達が流れ出る。 飛び去るルイズ達に向かって、何か罵声の様な言葉を飛ばし、矢を放つが、そのどちらも届かない距離へとルイズ達は遠ざかっていった。 風竜に乗り、アルビオンから吹きすさぶ風がルイズの頬に当たる。 後ろを振り返ると、アルビオン大陸が徐々に小さくなっていく。 思い起こせばアルビオンに一晩しか過ごしていないが、もう何月も滞在したような気持ちだった。 数々の命や思いが今まさにあの浮遊大陸で踏みにじられ、散り、消えていった。 あそこに残していたものは、ただの幻影となって人々から忘れ去られてしまうのだろうか? そう思うと、ルイズに何か寂しい気持ちが沸き起こった。 しかし、風竜に乗る自分の使い魔と仲間達の姿を見て、このままどんな場所にも、どんな困難にも、立ち向かえそうな勇気が湧いた。 そうして安心したルイズは、ブロントに寄りかかるようにして、意識を手放して、眠った。 第16話 「誓いの連鎖」 / 各話一覧 / 第18話 「風の行方は」
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キャラクター紹介 イメージAA ,. "´ ̄ ` 、 /`´ \ / 、 `ヽ、 / / !ヽ i i i | / / ,|/⌒、 | ハノ 舞台の飾りつけが出来上がったところで、 !`´ i 、\灯`|ノi / 主演女優の出番よ! 人,ノ! i ト、.\. | .i/ >`ー- 、_ / ∧i, |ヽ ̄ / ∨ ` ‐ 、`ー´ / .ハ\ k. フ/', `ー、 ;ヘ_,./ / i |\ トイ ! /ゝ、 ヽ; /! ヘ./ ./'ー.j |―\!v'⌒ヽ;/´ ` -、i / ./ i / / i ム ,ノ / ヽ r ´ / | .| /. |,.- ´  ̄`ヾ; / ∨ i | / i ,! ヘ、_ _ ,.-, / ノ 、 ,/ i / | .r" _`__ ∨イ.〉´ , く_/´ / / !/"ヽ ト、 _,.-y´//_ ,.- く,i `v、 / / ;/ ノ .人ゝ._,.ノ_,/ ' i ヽ、 iク / / / ー" '/ i ヾ´ / キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー LV33 称号:微熱 【Kirche the Slight Fever】 種族:ヒューマン ♀ 歳:18歳 身長 171cm 体重:?? スリーサイズはB94/W63/H95 ジョブ:メイジ サポジョブ:バード ルイズの級友で隣国ゲルマニアからの留学生。 ルイズの家とは先祖代々因縁があるが、そのわりにはコンビを組む事も多く、スペルチェーンの相性も良い。 「火」の系統のトライアングルメイジ。 お色気担当だが、ブロントさんが召喚された時点でその要素は薄くなった。 戦闘では意外と見せ場も多く、中堅的実力を持つ。 行動力は高い。使い魔はサラマンダーのフレイム。 好物:極楽鳥の蒸し焼き 趣味:ジグソーパズル 特技:ハープ 初期ステータス +... HP MP STR DEX VIT AGI INT MND CHR 短剣 片手剣 片手棍 両手棍 投擲 回避 受け流し 歌唱 弦楽器 管楽器 コモン 火 水 風 土 D C D D D F D D A C- D B- C+ D D D C A - B B - - -
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謙虚な使い魔~アンドバリの呪縛~ 休日の虚無の曜日、 ルイズは自室で一生懸命に『始祖の祈祷書』の白紙のページとにらめっこをして、姫の式に相応しい詔を考えていた。 しかし、何も書かれていない本を読んでもまったく参考にならず、一文も思いつかないでいた。 「こんなもので、一体皆どうやって詔なんて思いつくのかしら」 過去何百年と続いたこの伝統ならばこそ、この祈祷書のどこかに書き記した者がいたかもしれない、と思いルイズは全ページをくまなく探してみた事もあったが、印どころか染みすらもなかった。 うー、と小さく唸りながらルイズが悩んでいると、ドアのノックの音がした。 「開いているわ」 ドアがガチャリと音を立てて開くと、気障ったらしい格好をしたギーシュがいた。 「やあ、ルイズ。ブロントさんがどこか知らないかね?新しく作ったゴーレムの<レンジャー>型を彼に見てもらいたくてね……」 ルイズは一つ溜息を吐くと、白紙の祈祷書を閉じ、胸に下げたパールを通じてブロントと何かを会話した。 「アウストリの広場で待っている、ってよ」 「そうか!アウストリか。分かった、助かったよ」 ギーシュはブロントの居場所を聞き出すと、そのままそそくさと広場へと向かって行った。 「もう、ドアぐらい閉めて行きなさいよ……」 ルイズは椅子から立ち上がり、ギーシュが開けっ放しにしたドアを閉めた。 また落ち着いて始祖の祈祷書を眺めようと椅子に座った時、またノックの音がした。 「もう、今度は誰?開いてるわよ」 扉が開くと、今度はメイドのシエスタが訪ねてきた。 ブロントが連れてきたエルザと言う子と最近仲良くしている子らしいとルイズはブロントから聞いていた。 「あ、ミス・ヴァリエール。突然お邪魔してすみません。ブロントさんを探しているのですが、どこにいらっしゃるのかわからないでしょうか?ちょっと料理のレシピの事について意見を頂きたくて……」 ルイズはやれやれ、と首を振ると素っ気なく答えた。 「今ならアウストリ広場にいるわ」 「広場の方ですね!ありがとうございます。読書中の所、失礼いたしました!」 シエスタはぺこりとルイズに頭を下げて、去って行った。 「まったく、どいつもこいつも……開けたら閉めて行きなさいよ」 ルイズはめんどくさげにまた立ち上がり、部屋のドアを閉めると、今度こそ邪魔されまい、とドアの鍵をかけた。 再び椅子に座り、ルイズが祈祷書を開くと、またまたノックの音がした。 (今度は誰よ!もう!虚無の曜日だと言うのに忙しいわね) ルイズは居留守を決め込み、ノックの音を無視して本を見つめ続けて考え込んだ。 ノックがやむと、今度はドアノブがガチャガチャと回され、鍵がかけられたドアがガクガクと乱暴に震える。 (ノックして返事が無いのなら、勝手に入ろうとするな!鍵がかかっているんだから諦めなさいよ!) ルイズが心の中でそう叫んだとき、扉の鍵がカチリ、と音を立てて外れた。 バーンとドアを開け広げた先にはキュルケが立っていた。 「やっほー!ブロントさんいる?って、なんだヴァリエール、やっぱりあんたいたんじゃない。ノックが聞こえたのなら返事ぐらいしなさいよ。このあたしに居留守使うなんて、良い根性しているわ」 キュルケは飄々とした態度で、部屋を見渡してブロントの姿を探している。 一方ルイズはわなわなと震えていた。 「ちょっと!ツェルプスト―!何勝手に<アンロック>の魔法を使っているのよ!学院内で<アンロック>を使うのは禁止されているはずでしょ!あんたまさかわたしが居ない時もこうして勝手にはいってきているわけ?」 「やあね、ブロントさんに会うためか、あんたをからかうためじゃなかったら、こんな飾りっけの無い部屋にあたしがやってくるわけないでしょ。ドアの鍵も何かのはずみで外れたんじゃなくて?おほほほ」 キュルケは笑って誤魔化した。 ルイズは祈祷書を閉じると、不機嫌そうに声を荒げた。 「それで、今回は一体どっちの用事よ」 「残念ながらあんたをからかいに来たんじゃないわ。ブロントさんに少し頼みたい用事があるのだけど、彼は今どこにいるのかしら?」 「ブロントなら今アウストリ……ってツェルプスト―、あんたが一体ブロントに何の用事があるっていうのよ」 「アウストリ広場ね?そう、ありがと。じゃあまたね!ヴァリエール」 聞きたい事を聞き出せたキュルケは、満足気な顔で手をひらひらと振ると、<フライ>の魔法を使って部屋の窓から飛び降りた。 「ちょっと!ツェルプスト―!待ちなさいよ!あんたがブロントに用事なんてろくな事じゃないでしょ!」 ルイズはキュルケを追いかけよう窓に乗り出したが、<フライ>の魔法も使えないルイズが窓から飛び降りるには少し高すぎた。 肌身離さず持ち歩かなければいけない始祖の祈祷書を手に取ると、ルイズは部屋を飛び出してアウストリ広場へ向かって駆け出した。 一方そのころアウストリ広場、 平日の昼休み時なら生徒達などで賑わうのだが、休日になると広場も人気も寂しい場所となる。 広場にはブロント、ギーシュと数体の弓を携えたゴーレムの姿があった。 広場の一角にある木の枝から、板で作った的がぶら下がっており、矢が数本ほど的に刺さっていた。 「そいつが弓矢の適正距離って奴だ!近すぎず、離れすぎず。よく覚えておけよ!」 壁に立てかけられたデルフリンガーが、生き生きとギーシュに武器の扱いに関する意見をだしていた。 「でも、実際の戦闘でこの距離を維持するのは難しい問題だね」 ギーシュはうーんと考え込んだ。 そこに一部始終を見ていたブロントがやってきた。 「そこで敵をひきつけ抑え込む盾役の存在が必要不可欠」 「それだと仲間に矢を当ててしまう危険性があるじゃないか」 「それほどでもない」 「いや、そう簡単に言ってもだね……」 「相棒、ちょっとやってみせてやんな。にいちゃん、相棒の弓に軽くでいいから<固定化>をかけてやってくれ」 ブロントがどこからともなく自分の弓のローゼンボーゲンを取り出すとそれをギーシュに手渡した。 「僕はドットクラスだから、あまり長くは持つ<固定化>はできないよ」 ギーシュは造花の杖を振って、ブロントの弓に<固定化>の魔法をかけた。 弓は淡く光ったと思うと、次第に光が消え去り、また何ともないただの弓の姿に戻った。 「これで少しぐらい電撃にも耐えられるはずだよ。それにしても、その左手で武器を持つと、魔法がかかっていない武器を持つと壊れるだなんて。不便というか、何かこう冷たい感じがするというか」 ギーシュは弓をブロントに返し、数本の矢を渡した。 「よし、じゃあ、にいちゃん!的の前に敵をひきつける盾役だと思って一体ゴーレムを立たせな!」 ギーシュはデルフリンガーに言われたように、<パラディン>のゴーレムを生成すると、それを的の前に立ちはだかるように立たせた。 「こんな感じでいいのかい?的がまったく見えなくなってしまうが」 疑問に思うギーシュをよそに、ブロントは弓を横に倒した独特の構えで矢をゴーレムと的に向けた。 そこにデルフリンガーがギーシュに向けて解説をし始める。 「別に相棒の構えなんてしなくてもいいけどよ、あんな感じに的を狙ってだな……」 「的が見えないんじゃ、当たる訳ないじゃないか」 ブロントはさほど狙いを済ませた感じも見せず矢を射ると、いとも簡単に、立たせたゴーレムの向こうにある的にスコーンと矢を当てた。 「な?簡単だろ?」 さも当たり前な風に語るデルフリンガーにギーシュはつっこむ。 「できるか!」 「そうか?相棒は特に弓がうまいってわけじゃねえし、あいつのいた所じゃ仲間に当てないで矢を射るなんて初心者でもできるって言っていたぜ」 「いや普通できないから、そんな事」 「にいちゃんも修業が足りねえなあ」 デルフリンガーがカタカタと鍔をならして笑う。 「なんだと、剣のきみに何がわかる!」 「剣だからこそわかるんだよ。にいちゃんも外見ばっかり気にしてないで、中身もちったあ鍛えな」 「剣のくせに減らぬ口だな!」 ギーシュはデルフリンガーと口論し始めた。 その時、ブロントを探していたシエスタが広場にやってきた。 「あ!ブロントさん!探しましたよ」 ブロントは弓を下げて、どこかにしまい込んだ。 「何か用かな?」 「ええ!実はですね、エッちゃんになにかおいしい物を作ろうと思いまして、この前エッちゃんに何が好きか聞いたらなんか『真っ赤な物』が好きだと言っていたんですよ」 「ほう」 「それで私の村に伝わる名物料理の一つで、真っ赤なマリナーラソースを使う船乗り風ピザでも作ろうかと思いまして。それでそのソースを作ってエッちゃんに見せたのですけど……うまく作れなかったのか、エッちゃんがちょっと嫌そうな顔をしていたので……」 シエスタは自分で作った真っ赤なソースが入った瓶をブロントに見せてみた。 ブロントは少し考えて、なぜエルザが嫌がったかの理由すぐに思い浮かんだ。 「にんにくがいけないのが確定的に明らか」 「ええ!?エッちゃんってにんにくがダメなんですか?そうですか、そうなるとマリナーラは作れないなあ。あれはにんにくが決め手だから……」 シエスタはソースの瓶を手に持ったままがっくりとうなだれた。 ギーシュとデルフリンガーが何か言い争い、ブロントとシエスタが料理のレシピ談義をしていると、キュルケがタバサを連れて広場にやってきた。 「あらま、皆さんお揃いで。でも人手を集める手間が省けて丁度良かったわ」 キュルケは手に持った何枚もの羊皮紙のたばをブロントに手渡した。 「ほう地図か」 「聞いたわよ、ブロントさん。あなたって冒険者なんですってね。危険を承知で未開の地を冒険する男、ああ!あたしそういう困難に立ち向かっていく男の人に弱いの」 デルフリンガーを鞘に押し込めて、ようやく黙らせる事ができたギーシュがキュルケに問いかける。 「それとこの地図は何か関係あるのかね?」 「見ればわかると思うけど。それ全部、宝の地図よ。それで宝探しとかに詳しそうなブロントさんを誘いに来たわけ」 宝、と聞いてブロントの眉がぴくりと動く。 ギーシュは胡散臭げに地図を何枚か見比べる。 「なあキュルケ、言っては何だが。これらの地図、とても胡散臭いんだけど」 「そりゃ魔法屋、露天商、雑貨屋、情報屋……色々回ってかき集めたものですもの。ほとんどが外れかもしれないけど、中には本物が混じっているかもしれないじゃない」 うむむむ、とギーシュは顎に手をやって唸る。 地図の何枚かは危険なモンスターや凶暴な亜人が生息する場所を示している。 「なんかとっても危険な場所の地図もあるみたいなんだけど」 「簡単に取れる場所に宝なんて残っているわけないでしょ。危険な場所だからこそ本物があるかもしれないじゃない。それに、あんたには丁度いいんじゃない?そのゴーレムを使って経験積みたいんじゃなくて?」 経験、と聞いてブロントの眉がぴくぴくと動いた。 そこに話を聞いていたシエスタが会話に入ってきた。 「その宝探しはどの辺を探すのでしょうか?」 「場所?そうね、ここにある地図はトリステイン西部のものが殆どかしら」 それを聞いてシエスタはぽんと手を叩いてある案を切り出した。 「ちょうどわたしの故郷の村が西の方にあるんですよ!もしよろしかったらわたしの村にも寄ってください!田舎の村ですけど、色々と名物料理がある事でちょっと知られているんですよ。わたしも一緒に連れて行ってくれるのであれば、色々御馳走もできると思います!」 料理、と聞いてブロントは眉をぴくぴくぴくと動かした。 キュルケは溜め息を吐いた。 「ダメよ。あんた平民でしょ?平民なんか連れて行ったら足手まといになるわ」 「バカにしないでください!わ、わたしこう見えても……料理ができるんです!」 キュルケとギーシュがずっこけた。 「そりゃきみ……」 「料理ができてもねえ……」 キュルケとギーシュの反応を見てブロントが口を開いた。 「おいィ?お前らは馬鹿すぐる。良い食事が冒険者にとって重要なのは火を見るよりも明らかなのは確か。食事を馬鹿にする奴はそのまま骨になる」 ブロントの言葉にシエスタが続く。 「そ、そうですよ!食事は大事ですよ?宝探しって、野宿したりするんでしょう?保存食料だけじゃ、物足りないに決まってます。わたしがいれば、どこでもおいしいお料理が提供できますわ」 冒険のプロからそう言われたのであってはキュルケもぐぅの音もでなかった。 それに、キュルケもギーシュも貴族だったので、まずい食事には耐えられない。 「仕方ないわね。でもあなたお仕事あるんでしょう?勝手に休めるの?」 「コック長に『ブロントさんのお手伝いをする』って言えば、いつでもお暇はいただけますわ」 「わかったわ、勝手にしなさい。とにかくブロントさんが乗り気になってくれるのであれば誰がついてこようがいいわ」 キュルケは頷くと、一同を見まわした。 「さて、そうと決まったら早速出発よ!」 キュルケの言葉にタバサは頷くと、口笛を吹いてシルフィードを呼んだ。 しかし、空からシルフィードがやって来るより先に、広場の向こうからある人物が走ってきた。 「待ちなさあああい!」 ルイズが本を片手に物凄い速さで駆け寄って来る。 それを見てキュルケは自分の額を手でぴしゃりと叩く。 「あっちゃあ。ヴァリエールが来る前に出発したかったけど、無理みたいね」 「はあ、はあ、主人の……はあ、はあ、わたしを差し置いて、勝手に使い魔を、連れだそうと、はあ、はあ、してるんじゃないわよ、ツェルプスト―、はあ、はあ」 息を切らせたルイズは数回深呼吸をして息を落ち着かせてから続ける。 「わたしも、ついて行くわよその宝探しに。あの、その、自分の使い魔がどんな風に仕事をしているのか、ご主人様のわたしが知っておく義務があるから」 キュルケは鼻で笑った。 「ヴァリエールのものであるブロントさんを、ツェルプスト―であるあたしが奪い取ろうとしているんじゃないかって心配だからでしょ?」 「そんなんじゃないわ!使い魔の主人として……」 「まあ、いいわ。ヴァリエールの目の前から奪い取る、と言うのもあたしらツェルプスト―家のやり方らしくて一興だわ」 「やっぱり!そういう魂胆だったのね!」 そう言い争い続けながら、賑やかな一同はやってきたシルフィードに乗ると、そのまま宝探しへの旅へと飛び立った。 一同は数々の胡散臭い地図を頼りに、トリステイン各地を回った。 怪物が蔓延る洞穴の中、獰猛な獣がうろつく深き森、怪鳥が飛び交う岩場。 どこも宝が潜んでいそうな曰くつきの場所ではあったが、どこも必ず『危険』はあっても、肝心の宝はすでに取られた後であるか、精々銅貨数枚程度のものでしかなかった。 一同が最後に向かった地図の場所はその中でも特に危険とされた場所だった。 数十年前に打ち捨てられ、廃墟となったとある開拓村の寺院である。 ルイズ、キュルケ、ギーシュ、タバサの四人はその寺院から身を隠すように木の陰に隠れていた。 まもなく、ブロントがその寺院が打ち捨てられた理由を連れだしてくる手はずだった。 [――ここに十匹いるんだが――] リンクパールを通じて、寺院の中に忍び込んだブロントが中の様子をルイズに伝える。 ルイズはそれを聞いて、静かに他の皆に指で合図して数を伝える。 皆が静かに頷くと、寺院の方から豚の鳴き声のような咆哮があがる。 廃墟の扉を蹴り破ってブロントが飛び出し、一同の横を走り抜ける。 その後には十匹ほどの、身の丈は二メイルもある、でっぷりと太り、醜い顔をした、二本足で歩く豚のようなオーク鬼がブロントを追いかけていた。 オーク鬼一匹は人間の戦士五人に匹敵する力を持っていると言われている。 そして何よりも性質が悪いのは、このオーク鬼は人間の子供を好んで食べるため、こうして開拓村などの小さい村を襲って住み着くのだ。 ふごふごと鼻息荒くブロントを追いかけるオーク鬼達は横に通り過ぎたルイズ達に気づかず、そのまま森の中へとおびき寄せられる。 全てのオーク鬼が身を潜める四人の横を通り過ぎたあと、ギーシュが生成して木の上に潜めて置いた<レンジャー>のゴーレムで後列を走るオーク鬼に射かける。 オーク鬼の厚い皮と脂肪が鎧となって、ゴーレムの矢が刺さっても致命傷とはならなかった。 しかし、オーク鬼の注意を引くには十分で、ルイズ達が事前に打ち合わせ通りに四匹程のオーク鬼を引き抜く事に成功した。 「ぷぎぃいいい!」 オーク鬼の四人は怒りの咆哮をあげながら、ルイズ達に向かった。 まず先にタバサが二つの系統を絡み合わせた『水』、『風』、『風』のトライアングルスペル、<ウィンディ・アイシクル>を唱え、水を風で冷やし、作り上げた無数の氷柱の矢を迫りくるオーク鬼の二匹を串刺しにした。 ギーシュのゴーレムが放った矢と違い、その比でもない威力にて二匹のオーク鬼は一瞬にして絶命した。 四人がメイジだと言う事に気付いた残りの二匹は、鈍重そうな体に似合わず、敏捷な動きで木々の間を縫いながらルイズ達に迫った。 キュルケは慌てず騒がず、『炎』、『炎』、炎の二乗<フレイムボール>を放つ。 狙われたオークは木の幹を盾に炎の塊から身を隠す。 しかし炎の塊は意思を持ったかのように、木を避けて回り込むと、咆哮をあげる口の中に飛び込み、一瞬で頭を燃やし尽くした。 残る一匹は氷や炎を巧みに使うタバサとキュルケから遠のき、弱そうに見えるルイズとギーシュの方へと棍棒を振りながら襲いかかった。 そのとき、オーク鬼の前を阻むように、ふらりと陽炎が立ったかと思うと、青銅の巨漢なゴーレムが姿を現した。 オーク鬼と謙遜が無いほどに重量感があり、武器も持たず、まるで己が肉体こそ、最強の武器であり、盾である、と誇示するような姿をしたゴーレムであった。 ギーシュのゴーレムが体ごと、真正面からオーク鬼にぶつかると、物凄い衝撃音を響きわたらせ、オーク鬼の動きを抑え込むようにがっぷり四つを組んだ。 「あまり長くは持たない!ルイズ、やってくれたまえ!」 ギーシュがルイズにそう叫ぶと、ルイズは慎重に杖を引き抜き、ミリミリと音を立ててぶつかり合う金属と肉の塊に向けて狙い澄ましてルーンを唱える。 途端、ゴーレムごとオーク鬼は爆発し、金属片が辺りに舞い散らせながら、四匹目のオーク鬼も息絶える。 「使ってみるまではまさかと思ったけど意外といけたもんだね!ええと、なんて言ったけ<リュキシ>?いやそれは槍の方だな。<リィキシ>だったかな?ブロントさんも実際見た事は無いジョブだと言っていたから、うまく行くかは不安だったけど」 ギーシュは興奮して鼻息荒く語った。 「まだ気を抜く時じゃないわよギーシュ。ヴァリエール、ブロントさんに伝えて、引き抜いた分は終わったから残りを連れて来てって」 「あんたに言われなくてもわかっているわよ」 ルイズはリンクパールを通じてブロントに報告した。 「こっちの分は終わったから残り連れて来て」 [――一匹連れて行く――] リンクパールから返ってきた言葉にルイズは耳を疑った。 一匹?確か十匹いて、今ここでわたし達が倒したのは四匹。 と言う事はブロントを追いかけているのは六匹。 それが一匹とはどういう事か? ルイズが使い魔の言った言葉の意味を考えていると、森の奥からきぃきぃ、と弱弱しい豚の鳴き声が鳴った。 茂みの奥からはぼろぼろの姿になったオーク鬼が一匹だけ飛び出し、ルイズ達に一瞥もくれず逃げている様子だった。 その後を両手でデルフリンガーを構えるブロントが追いかけていた。 寺院を出る時とうってかわって、オーク鬼とブロントの立場が逆転していた。 オーク鬼が寺院の中へと逃げ込むと、ブロントも続いて寺院に突入した。 「ズタズタに引き裂いてやろうか!」 ドスの利いたブロントの声が寺院から響き渡ったかと思うと、ぎぃーー!と甲高いオーク鬼の断末魔がルイズ達の耳にもしっかり届いた。 しばらくの間辺り一面が静寂に包まれると、デルフリンガーを鞘に収めたブロントが涼しげな顔をして寺院から歩いてでてきた。 ルイズ達はお互いに顔を見合わせた。ブロントに聞きたい事もあったが、この雰囲気の中で切り出しにくかった事なので、誰か他にやって貰いたいと目で互いに懇願した。 タバサはもとより無関心だったので、本を取り出して読み始めている。 ギーシュはこういう役目は使い魔の主人だろう、とルイズに目を向けたが、ルイズはそのままギーシュににらみ返した。 ギーシュに一票、ルイズに一票。 どちらかを決める最後の一票のキュルケに目を向けると、キュルケはギーシュに目を向けていた。 仕方なく、ギーシュが渋々ブロントに皆の疑問を代表して聞いた。 「や、やあ……ブロントさん。他のオーク鬼はどうしたのかな?きみを追いかけていたのが六匹だと思ったんだけど」 ギーシュが強張った顔でブロントに尋ねる。 「練習相手にもならなかった」 「え?」 デルフリンガーが勝手に口をはさむ。 「全部俺様と相棒で倒しちまったってことさ」 「いやー……それは大変だったね。ところで、その、全ての災厄から守って来ると言う秘宝の<ブリーシンガメル>はあったのかね?」 ブロントはカバンから真鍮製の安物のネックレスを取り出すと、それをギーシュに投げ渡した。 「指にはめてぶん殴れば多分奥歯が揺れるくらいの威力はあるはず」 「幾ら安物でもそういう使い方するものじゃないと思うけど」 最後こそは、と思ったこの宝の地図も外れに終わったと知り、キュルケ達はつまらなそうな顔をした。 そのとき、物陰で震えていたシエスタが駆け寄ってきた。 「すごい!すごいです!あの凶暴のオーク鬼達が一瞬で!ブロントさんすごいですっ!」 「それほどでもない。俺が知っているオークと比べればここのは人工的に淘汰されるのが目に見えている」 「ブロントさんがいた所のオーク鬼は違うんですか?」 ルイズ達は全員この会話に耳を傾けた。 ブロントがいた国の話の方が、銅貨四枚が良い所の首飾りよりも何倍も興味をそそる話題だった。 ブロントは掻い摘んでヴァナ・ディールのオークの事を説明した。 ただ群れるオーク鬼と違って、帝国を築き、強大な軍まで持っている事。 そして数少ないがオークの中には魔法を使える者がいる事。これに関して皆がとても驚いた。 更に意外な事に、魔法が使えるメイジはオーク社会の中では腕力の劣る恥ずべき存在として、とても地位が低いというハルケギニアで言う所の貴族と平民の立場が逆転している事。 そんなオークがとある王国の城壁のすぐ傍に砦を築き上げて、城の外をねり歩き、虎視眈々と王国を攻め落とす機会を待っている事。 そんな状況でも、昔の大戦の頃と比べれば、至って平和な時代であるという事。 一通りブロントの話を聞いていた一同は、ルイズも含めて驚きを隠す事ができなかった。 「ブロントさんってどこか違う、と思っていたけれど。もうあたし達と住む世界が違うんじゃないかしら。修羅場をただの日常だと言える人なんてそうそういないわよ」 何気ないキュルケの一言にルイズはぎくり、とした。 「メイジのオーク鬼だなんて、考えたくもないね。しかも魔法を補ってもあり余る腕力だなんて」 そんな化け物を日々相手にしていたブロントに殴られても、まだこうして生きている事にギーシュは改めて始祖ブリミルに心の中で感謝した。 「結局宝探しはただの討伐の旅になったわね。こうして終わってみるとどっと疲れてきたわ」 事の発端人のキュルケがぼやいた。 シエスタが手を叩いて皆の注目を集めた。 「じゃ皆さん、この後はわたしの村に行きましょうよ!ラ・ロシェールの向こうにある広い海に面したタルブ村と言う小さな漁村ですけど、疲れを癒すのには良い場所ですよ!」 「そういう話だったけね。料理はいいけど他に何か見て回る名物とかは無いの?田舎の村で退屈するだけなんて嫌よ」 「ええと?そうです、美しい海があります!」 「海ね、そんな幾らでもあるものじゃなくて、こう村のありがたいお宝!と言った感じな物とかないの?そのタルブとかいう村に」 ルイズがキュルケにつっかかる。 「呆れた。ツェルプスト―、あんたこの期に及んでまだ宝探しするつもり?」 「あら、見るだけいいじゃない。それでもし手に入るようであればもっといいじゃない。良い宝も良い男も自分から進んで行かないと手に入らないわよ、ねえ?ヴァリエール」 シエスタは言いにくそうに言った。 「その、ある事には、あります……その村のお宝……」 キュルケが生き生きと目を輝かせる。 「ホント?それってどんな代物?」 「何百年も前から村の寺院に飾ってあるモノなんですが。『誓いの口』と言って、そのレリーフの口に手を入れて誓いを立てると、偽りの心を持っていた場合、手が抜けなくなる。と、まあどこにでもあるような子供騙しのモノですよ。村の結婚式とかに良く使われますけどね」 「へぇ、面白そうじゃない」 「でもわたしはちょっとその寺院は苦手なんですよね……」 「何?本当に手が抜けなくなった事があったの?」 キュルケが面白がってからかう。 「いえ、そうではないんですが……あの寺院、でるんです」 「でるって、何が?」 「その……笑わないでくださいよ?」 「いいから、いいから、言ってみなさい。ここまで言われたら気になってしょうがないじゃない」 キュルケが興味津々になってシエスタに聞く。 「子供の頃見たんです。幽霊がでるのを。血の様に赤いローブを着た女性の幽霊を」。 突然タバサが凍りつく。精巧に作られた石像の如く、微動だにしない。 「ちょっとちょっと、面白そうじゃない!幽霊だなんて、一度会ってみたいと思っていたのよ……あらタバサ、どうしたの?」 キュルケは固まったタバサを揺らす。 「行かない」 タバサが珍しく口を開いた。 「あら?あらあら?もしかしてタバサって……」 「行かない」 タバサは簡潔に、しかし強く否定の意思を表した。 「へぇ、オーク鬼も恐れないあのタバサにも、怖いものがあったんだ」 ちょっと悪戯心に芽生えたキュルケがタバサに抱きついてウリウリとなじる。 「大丈夫よ、ちょっと見るだけだから。それに田舎の幽霊なんて大した事ないわよ。それに、実際に会えばそれほど怖くないものだとわかるかもしれないわよ?」 タバサはひたすら首を横に振る。 「わかった、わかった。寺院にはタバサは着いてこなくてもいいから。でも村まではあなたのシルフィード使わせて頂戴。ここからタルブ村まで歩いて行くなんてまっぴらだからね」 タバサはしばらく考え込むと、キュルケの妥協案を呑んだのか、口笛を吹いてシルフィードを呼んだ。 そうして、一行は風竜に乗り、シエスタの案内のもとタルブ村へと羽ばたいた。 第19話 「なにゆえにその子は」 / 各話一覧 / 第21話 「時の輪の交わる処」
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まともに召喚させてもらえないルイズ 「宇宙の果ての何処かにいる私の僕よ!神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!」 少女、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールはトリステイン魔法学園の生徒。今日は進級試験の日、ルイズはその試験の課題である使い魔召喚の儀式の真っ最中です。 「私は求め訴えるわ!我が導きに答えなさい!」 ルイズは魔法が得意ではありません。今日もどうせ爆発で終わるんだろうなとルイズを含めたその場全員が思っていたのですが… 「あれ?何かいるわ…?まさか成功した?」 なんと召喚魔法は一発で成功。鏡からゆっくりと現れる緑色のフォルム。二本足で立ち、背中には黒い羽のような物がついている。 召喚されたのはどうやら亜人…?何はともあれルイズは喜び召喚したそれに話しかけます。 「アンタ亜人ね?この私に召喚されたんだから光栄に…」 「ここは…何処だ?…まぁそんな事はどうでも良い…まさか孫悟空が私と一緒に自爆するとは…な?」 緑の亜人はブツブツと何かを呟いています。ルイズは自分が無視されている事に気付き緑の亜人の側でぎゃーぎゃー喚きますが、亜人の耳には全く届いていない様子。 「ククク…だがおかけで新たな力が手に入った…待っていろ孫悟飯…このセルが…パーフェクトに貴様を消してやろうー…!」 亜人は人差し指と中指を額に押し付けます。次の瞬間、緑の亜人は姿形もすっかり無くなっていました。 「はぇ?あれ?」 辺りがシーンと静まります。召喚した本人はというと、一体何が起きたのかといった様子で事態が飲み込めていない様子。 数分後、事態を理解したルイズが儀式のやりなおしを教師のコルベールに申し出、再びルイズの使い魔召喚が行われました。 再召喚で現れたのは黄土色の鎧と鉄仮面を被った男だった。今度は成功したとルイズが鉄仮面に近づこうしたその時… 「ここは…神崎士郎の望む世界ではない。…修正が必要だ」 鉄仮面は腰の黒い箱から一枚の札を取りだし…! 『TIME VENT』 「え?」 チクタクチクタクチクタクチクタク… 「はっ!あれ?あいつは!?」 一瞬、何かが起きた後、黄土色の鎧の男はどこかへと消えていました。ルイズがコルベールに「アイツはどこへ行ったの!?」と問いかけましたが、コルベールは何の事やらさっぱりといった態度で接します。 いまいち納得のいかないルイズは再び召喚魔法「サモン・サーヴァント」を行います。今度は爆発が起こりました。召喚成功の手応えを感じたルイズでしたが、周りを見渡しても使い魔が見当たりません。 ふと足元に目をやると何かが浮かんでいました。文字です。ハルケギニアの言葉で「ここにいた」と書かれています。 おまけに矢印まであるではありませんか!ルイズが足を上げるとそこには体の潰れた自分の使い魔がいました。 やっぱり諦められないルイズはまたまたコルベールにやり直しを申し出、コルベールはこれを承認。四回目の召喚。 「やった!今度こそ成功よ!」 今回召喚されたのは、青い帽子を被った平民のようでした。しかし、それと一緒に見たこともない『魔物』が居ます。 これは当たりだとルイズが喜んでいるとどこからともなく青い毛に包まれた魔物が現れました。 「わたっ!わたっ!テリー、ここは異世界の扉で飛ばされた世界じゃないわた!ひとまず城に帰ろう!」 「そうなのか?じゃあ帰るかな!」 と平民の少年が言いました。ルイズの脳裏に嫌な予感が過ります。 「ちょ…ま…」 「わたわたわた~!」 取りつく島もなく少年は遥か空へと飛んでいってしまいました。 流石にストレスが溜まってきたルイズはコルベールに許可を取ることも忘れ召喚魔法を唱えます。 五回目に現れたのはおかしな帽子を被った少女、しかし背中には大きな羽が… 「よくも私を召喚してくれたな…人間。このレミリ…」 あるのを確認するところで日に当てられた少女は灰になった。 再再再再再再度召喚に挑むルイズ。現れたのは紅蓮の巨人! 「なめんじゃねぇ…異次元だろうが…多元宇宙だろうが…ハルケギニアだろうが関係ねぇ…俺を誰だと思っていやがる…穴堀りシモンだあぁ!」 紅蓮の巨人は気合い(螺旋力)で空間をねじ曲げ元の世界へ帰っていった。 それでもめげないルイズは渾身の力を込め召喚を行います。 「ドカ「ウボァァァ!」ァァン!」 断末魔の叫びと共に爆発が起こります。土煙が引くと底には黒こげになった鉄のゴーレムがいました。 ルイズが召喚した残骸が増える中、ルイズは藁にすがる思いで使い魔を召喚します。 召喚されたのは平民の少年とどう見ても人間には見えない異形の者。両者共に腕に何かを着けています。良く見ると少年の方は何かを手にしています。しらない文字書かれた緑色の札です。どうやら少年はその札で何かをするようです。 「俺のターン!魔法カード『超融合』を発動!…来い、ユベル!」 「十代…!」 すると二人は一つに重なり、眩い光となって空へと消えていった。 その後もルイズは召喚を続けました。 「あぅあぅ~…ここはカケラの世界じゃないのですよ…オヤシロワープ!」 …しかしいずれも 「はかせー、ここにはサルいないよー」 「ははは、悪かったなカケル君、今転送するぞい」 皆帰るなり死ぬなりして、 「エトナの奴こんなボトルの中に閉じ込めおって…おい、時空の渡し人!さっさと俺様をエトナのところへ飛ばせ!」 とうとう100回を超えたところでルイズの意識が 「キテレツー、ここどこナリ?」 途切れた。 次の日の朝、ルイズが起きると平民の少年が彼女の部屋にいました。何でも気を失う前にルイズが召喚したそうです。 その平民は「早く元の世界に帰せよ」等と馬鹿らしい事をほざいている。早く自分の力で帰れば良いのにと思いながら再びルイズは眠りについたそうな。 お し ま い 以上小ネタ ドラゴンボールよりセル 仮面ライダー龍騎より仮面ライダーオーディーン ぷよぷよよりのみ DQモンスターズ1よりテリー 東方プロジェクトよりレミリア・スカーレット 天元突破グレンラガンよりグレンラガン(シモン入) ボンバーマンよりボンバーマン 遊戯王GXより十代とユベル その他もろもろ… でした
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その日以来、ルイズはナナリーの側をべったりと離れない。 「ナナリーは私が守るんだから」 などと言い四六時中のそばにいる始末である。 本来、使い魔は主人を守る存在だ。 しかし、ナナリーとルイズの場合、これが逆転しているのである。 しかし、力の無いナナリーには、これも仕方のないことかもしれない。 ルイズは考えていた。 ナナリーは可愛い、だから狙われるのは仕方がない。 今回は良かったものの、次もそうだとは限らない。 かりに、自分がナナリーのそばにいても、 自分よりはるかに強大な敵が来た場合どうすればいいのだろうか? しばらく悩んだあげく、ルイズは貴族らしからぬ答えにたどり着いた。 「よし、武器を買おう!」 休日、ルイズは朝早くから起き、がさごそと何かをやっていた。 「ナナリー、行くわよ」 行くわよと言われてもナナリーには何のことだか見当がつかない。 「行くって…どこにですか?」 「街よ」 「街ですか?」 ナナリーは驚く。 ナナリーは車椅子に乗る生活をよぎなくされている。 だから遠出など自分には無理だと思っていたからだ。 「大丈夫、なにも無理に馬に乗せようなんて思ってないわ。 ちゃーんと考えてるから安心してね」 ナナリーは、馬車でも用意したのかと思った。 しかしその考えは一瞬で崩される。 「キュイキュイ」 シルフィードの鳴き声が聞こえる。 ナナリーは嫌な予感がしてきた。 「あ、来たわね」 「あの…ルイズさん…もしかして……」 「そうよ、シルフィードに乗っていくの」 正直なところナナリーはもうシルフィードには乗りたくなかった。 なぜなら、前回散々振り落とされそうになったからだ。 「あの…シルフィードさんも街までは大変だと思いますし…」 ナナリーはやんわりと断ろうとした。 「大丈夫」 しかしタバサに阻止された。 タバサは既にシルフィードの背中に乗っていたのだ。 「そうそう、タバサのシルフィードは、ちょっとやそっとじゃへばらないのよ」 背中には、なぜかキュルケまで乗っていた。 「キュルケがいることは気に食わないけどいいわ。 行きましょうナナリー」 「あの、あの…」 ナナリーは必死に何か理由をつけてシルフィードに乗るのを断ろうと考えた。 「そ、そうです!タバサさんもキュルケさんもせっかくの休みなんですから」 「私は面白そうだからついてきたのよ」 「このまえのお詫び、あなたには迷惑をかけた」 結局、ナナリーはレビテーションでシルフィードの背中に載せられた。 シルフィードは速い、とにかく速い。 今は馬の三倍近いスピードで飛んでいる。 目の見えないナナリーにも、肌に感じる風で速さがわかる。 「大丈夫よナナリー、私につかまってて」 そう言うとナナリーはがっしりとルイズにつかまった。 ナナリーは本当に恐怖を感じているのだが、 ルイズは自分に抱き着くナナリーが可愛くてしかたがない。 「なんか羨ましいわね。タバサ」 そんな様子を見ていたキュルケが愚痴をこぼす。 「別に」 タバサは我関せずといった感じだ。 「ねぇタバサ、私達も抱き合わない?」 「抱き合わない」 タバサはいたってクールだった。 そんなタバサが面白くなかったのか、キュルケはターゲットを変えた。 「ねぇナナリー、ルイズなんかじゃなくて私につかまりなさいよ」 耳の良いはずのナナリーだが、 よほど怖いのかキュルケの声が耳にはいっていない。 「あんたなんかより私のほうがいいみたいね」 恒例となったルイズの勝ち誇りである。 「なんですってぇ…」 それにはキュルケも黙っていられない。 「何よ。やるの?」 シルフィードの上でケンカが始まろうとしていた。 「やめて」 それを止めたのは意外な人物だった。 「タバサ…」 キュルケは驚く、普段ならタバサは人の争いごとには首をつっこまはずなのだ。 なのに今回は自分達のケンカを止めた。 つまり、これはタバサが他人に興味をもちはじめている、 ということではないだろうか? 「暴れたら落ちる」 キュルケの読みはハズレた。
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謙虚な使い魔~アルビオンの幻影~ ルイズ達を乗せた黒き軍艦『イーグル』号は、浮遊大陸アルビオンの空岸線に沿って、雲に隠れるようにして航海した。三時間ばかり進むと、大陸。 岬の突端には、目的のニューキャッスルの城がそびえている。 、『イル』号は真っ直ぐニューカッスルに向かわず、大にもぐりこむような針路をとった。 グル』号が大陸の影の一部となったとき、遠く離れた岬の突端の上から、ニューカッスルへと降下してくる巨大な軍艦をウェールズが指差した。 「叛徒どもの、艦だ」 全長は『イーグル』号の優に二倍はある。舷側からは無数の大砲が突き出て、その艦上には火竜に跨る竜騎兵が舞っている。 巨艦が空したかと思うと、スルの城をめがけて並んだ砲門を一斉に開いた。 どこどこどっこーん、と、斉射の振動がルイズ達まで伝わってくる。 砲弾の雨が城に着弾し、城壁の一部を砕き、小さな国艦隊旗艦、『ロイヤル・ソヴリン』号だ。叛徒どもが手中に収めてからは、『レキシントン』と名前を変えている。あの艦の反乱から、すべてが始まった因縁の艦手にできるわけもないので、こうして雲中を通り、大陸の下に設けられた、我々しか知らない秘密の港を使ってニューカッスルに向かっているのだ」 『イーグル』号が大陸の下に潜り込むといので、辺りは真っ暗になった。 「大陸に座礁する危険があるからと、空を知らぬ無粋な叛徒どもは大陸の下には絶対近寄ろうとしないが、なに、地形図と測量だけで航海する事は王立空軍の航海士にとっては造作もないことなのだが」 ウェールズの命令の下、暗闇の中でも『イーグル』号の水兵達はきびきびと動き、正確な位置で停船し、頭上にぽっかりと開いている穴に向かって、ゆるゆると上昇する。 『イーグル』号の航海士が乗り込んだ『マリー・ガラント』号が後に続く。 ワルドが頷いた。 「まるで空賊ですな。殿下」 「まさに空賊なのだよ。子爵」 艦はニューカッスル地下にある鍾乳洞に設けられた秘密の港に到着した。 鍾乳洞の岸壁の上に待ち構えていた大勢の港の者達が、『イーグル号』に向けて一斉にもやいの縄を投げた。 『イーグル』号の水兵たちは、要領よくそれを受け取ると艦にゆわいつけ、艦を岸壁へと引き寄せ入港をすませる。 ウェールズはルイズ達を促し、艦に取り付けられたタラップを降りた。 背の高い、年老いた老メイジが近寄ってきて、ウェールズの労をね、大した戦果ですな。殿下」 「喜べ、パリー。硫黄だ、硫黄!」 ウェールズがそう叫ぶと、集まった兵隊がうおぉーっと歓声をあげた。 「おお!硫黄ですと!火の秘薬ではござらぬか!これで我々の名誉も、守られれるというものですな!先の陛下よりお仕えして六十年・・・・・・こんな嬉しい日はありませぬぞ、殿下反乱がおこってからは、苦渋を舐めっぱなしでありましたが、なに、これだけの硫黄があれば・・・・・・」 にっこりとウェールズは笑った。 「王家の誇りと名誉を、叛徒どもに示しつつ、散ることができるだろう」 「栄光のある散り様を飾れますな!この老骨、武者震いがいたしますぞ!して、ご報告なのですが、叛徒どもは明日の正午に、攻城を開始するとの旨、伝えて参りました。まったく、殿下が間に合ってよかったですわい」 「してみると間一髪とはまさにこの事!戦に間に合わぬは、これ武人の恥だからな」 ウェールズとパリーと呼ばれた老メイジは二人して心底楽しそうに笑いあっている。 ルイズは二人の会話に、顔色を変えた。なぜ死ぬという事を、ここまで楽しそうに語れるのか? 「して、その方達は?」 老メイジが、ルイズ達を見て、ウェールズに尋ねる。 「トリステインからの大使殿だ。重要な用件で参られたのだ」 「これはこれは大使殿。殿下の侍従を仰せつかっておりまする。パリーでございます。このような時ですが、遠路はるばる、ようこそこのアルビオン王国へいらっしゃった。大したもてなしは出来ませぬが、今夜はささやかな祝宴が催されます。是非とも出席くださいませ」 ルイズ達は、ウェールズに付き従い、城内の彼の居室へと向かった。 ウェールズの部屋は、粗末なベッドに、机と椅子が一組の鍵穴にそれを差し込み、箱を開けた。 蓋の内側には、アンリエッタの肖像が描かれている。 小箱の中には一通の羊皮紙を丸めた手紙が入っていた。 それが王女からのものであるらしい。 ウェールズはそれを取り出し、愛しそうに口づけた後、開いてゆっくりと読み返した。 そして、ウェールズは再びその手紙を丁寧に丸めると、ルイズに手渡した。 「これが姫から頂いた手紙だ。このとおり、確かに返却したぞ」 ルイズは深々と頭を下げると、その手紙を受け取った。 そして、その手紙をブロントに手渡す。 「ブロント、あんたのカバンの中が一番安全だから代わりにもっていて」 ブロントは手渡された手紙を厳重にカバンのだいじなものの所へと仕舞った。 ルイズは少し戸惑ったが、そのうちに決心したように口を開いた。 「あの、殿下・・・・・・。先程、栄光ある散り様とおっしゃっていましたが、王軍に勝ち目はないのですか?」 ルイズは躊躇うように問うたが、ウェールズは至極あっさりと答える。 「ないよ。我が軍は三百。敵軍は五万。万に一つの可能性もありえない。我々にできることは、はてさて、勇敢な死に様を連中に見せる事だけだ」 「殿下の、討ち死になさる様も、その中には含まれるのですか?」 「当然だ。王族として、私は真っ先に死ぬつもりだよ」 ルイズは深々と頭を垂れて、ウェールズに一礼した。言いたい事があるのだ。 「殿下・・・、失礼をお許しください。恐れながら申しあげたい事がございます」 「なんなりと、申してみよ」 「この任務をわたくしに仰せ付けられた際の姫さまのご様子、尋常ではございませんでした。そう、まるで、恋人を案じるような・・・。もしや、姫さまと、ウェールズ皇太子殿下は・・・」 ウェールズは微笑んだ。 「きみは、従妹のアンリエッタと、この私が恋仲であったと言。アンリエッタが重婚の罪を犯すことになる。そうだとわかればゲルマニアの皇室も婚約も取り消す事だろう。そして、同盟相成らず、トリステインは一国でここまで膨れ上がった恐るべき貴族派に立ち向かわなければなるまい」 「とにかく、姫さまは、殿下と恋仲であらせられたのですね?」 「・・・昔の話だ」 ルイズは熱っぽい口調で、ウェールズに言った。 「殿下、亡命なされませ!お願いでございます!わたし達とともにトリステインにいらしてくださいませ!」 ウェールズは首を振った。 「それはできんよ」 「殿下!これはわたくしの願いではございませぬ!姫さまの願いです!わたくしは幼き頃、恐れ多くも姫さまのお遊び相手を務めさせていただきました!わたくしは姫さまの気性はよく存じております!あの姫さまがご自分の愛した人を見捨てるはずがありません。姫さまは、たぶん手紙の末尾に亡命をお勧めになっているはずですわ!」 「・・・その様な事は一行も書かれていない」 「でも姫さまなら・・・!」 「仮に、もしそうだとして、私がトリステインに亡命をすれば、それこそ貴族派どもにトリステインを攻め入る格好の口実ができてしまうだろう。アンリエッタも王女としてそれは望まぬはずだ。私達は王族だ。王家に生まれたものは国のために生き、その運命を国と共にする義務があるのも彼女は理解しているはずだ。自分の都合を、国の大事に優先させるわけがない」 ウェールズはルイズの肩を叩いた。 「殿下・・・」 「きみは、正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。正直で、真っ直ぐで、いい目をしている。正直すぎて、大使は務まらないが・・・」 ウェールズはルイズに微笑んだ。魅力的な笑みだ。 「それ故にアンリエッタは、彼女の事を良く理解してくれているきみに、信頼を寄せているのだろう。今後も彼女の良き友人としイズは寂しそうに俯いた。 「さて、そろそろ祝宴の時間だ。きみたちは、我が王国が迎える最後の客だ。是非とも出席して欲しい」 ルイズ達は部屋の外にでた。ワルドは居残って、ウェールズに一礼した。 「まだ、何か御用がおありかな?子爵殿」 「恐れながら、殿下にお願いしたい議がございます」 「なんなりとうかがおう」 ワルドはウェールズに、自分のもめでたい話ではないか。喜んでそのお役目を引き受けよう」 祝宴は城のホールで行われた。簡易な玉座が置かれ、そこに年老いたアルビオンの王、ジェームズ一世が腰掛け、祝宴に集まった臣下達を目を細めて見守っていた。 明日には滅びてしまうというのに、とても豪勢な祝宴が催されていた。 つい先日まで攻城を受けていたと思えぬほどに、誰もが奇麗に着飾り、 テーブルの上にはこの日のために、とって置かれた、様々なご馳走が並んでいる。 ブロント達は会場の隅に立って、華やかな祝宴を見つめていた。 死を目前にして、明るく振舞う王党派の者達を見ていて、ルイズはその事が理解できず、憂鬱になっていた。 そこへ水兵姿をした痩せぎすの男と太った男がブロント達の元へとやってきた。 「よう!また会ったな、ブロント!」 痩せぎすの男が太った男の頭をパシンとはたいた。 「『よう!』じゃないだろ、ウェッジ。今は空賊ではないのだから、口の聞き方考えろ。トリステインの大使殿達を前にしてアルビオンの恥になるつもりか?大使殿、この度は我々が失礼を・・・」 「うるせえ、ビッグス。今夜の祝宴は平民の俺たち水兵も招いての無礼講だろ?堅苦しい事は無しにしようぜ」 ブロントが頷く。 「俺はそのまま話し易い方でもいいんだが?」 ウェッジが嬉しそうにブロントの背中を叩く。 「ほらな?ビッグス、てめえも慣れねえくせに無理に畏まるなよ、ガラじゃねえぜ。貴族には貴んだよ」 「まあ、それもそうだな・・・お前は作る飯はまずいくせに、言う事だけはたまに良い事言うな」 「うるせえ、俺が作る飯は関係ねえだろ!」 ビッグスはワインを運んでいた給仕を呼び寄せると、 盆からワインの杯を取り、ルイズ達に配る。 「大使殿もそんな辛気臭い顔しないで、今夜楽しんでいってくれよ。向こうのテーブルにはなかなかお目にかかれない料理がたくさんあるからさ。あの蜂蜜を塗った鳥とか結構うまかったぜ」 ルイズは何とか愛想笑いをして見せるが、ワインの杯に口もつけず、そのまま顔を俯かせる。 「でも、今日食った料理で一番うまかったのは、あの『石のスープ』だな。貴族の凝った料理もいいが、俺はやっぱりフネの皆で作ったあの味が忘れられねえ、またいつか食いてえな。おおっと、ようやく我らの『お頭』が来たようだ」 ホールにウェールズが現れると、貴婦人の間から、歓声がとんだ。 凛々しい若き皇太子はどこでも人気者のようだった。 彼は玉座に近づくと、父王に何か耳打ちをした。 ジェームズ一世は立ち上がろうとしたが、かなりの年であるらしく、よろけて倒れそうになった。 ウェールズがすかさず父王に寄り添うように立ち、体を支えた。 陛下がこほんと咳払いをすると、ホールの臣下達が一斉に直立した。 「諸君。忠勇なる臣下の諸君に告げる。いよいよ明日、このニューカッスルに立てこもった我らスタ』の総攻撃が行われる。この無能な王に、諸君らはよく従い、よく戦ってくれた。しかしながら、明日の戦いもう、戦いではない。おそらく一方的な虐殺となるであろう。朕は忠勇な諸君らが、傷つたがって、諸君らに暇を与える。明日の朝、『イーグル』号が女子供を乗せてここから離れる。諸君らも、この艦に乗り、この忌まわしき大陸を離れるが良い」 しかし、誰も返事をしない。一人の臣下が、大声で王に告げた。 「陛下!今宵、うまい酒の所為で、いささか耳が遠くなっております!『全軍前へ!全軍前へ!』、それ以外の命令が、耳に届きませぬ!」 集まった全員がその勇ましい言葉に頷いた。 「陛下!異国の言葉で命令されても、さっぱりなんのことやら!」 「耄碌するには早いですぞ!陛下!」 老王は、目頭をぬぐい、ばかものどもめ・・・、と短く呟くと、杖を掲げた。 「よかろう!しからば、この王に続くがよい!さて、諸君!今宵はよき日である!よく飲み、食べ、踊り、楽しもうではないか!」 王の言葉に、臣下達が一斉に祝杯を掲げ、アルビオン万歳!と叫ぶ。 会場の端でルイズ達と共にいたビッグスとウェッジも杯を掲げた後、 一気にワインをあおる。 「なあ、ウェッジ。お前はどうするんだ?陛下もああ言っているんだ、『イーグル』号に乗っていくのか?」 「別に料理番の俺がいなくたって、あのフネは動くだろ。ここで俺達アルビオン空軍兵の意地をみせねえでいつみせるんだ?俺はここアルビオンに残るぜ。ここで生まれ育ったんだ、死ぬ時もここだって決めてあるんだ」 「お前とはいつも言い争ってばかりいるが、結局考えている事は一緒だな」 「何だ、てめえもかよ。ま、空っぽの船倉で飛ぶフネに貨物番はいらねえのは確かだがな」 「なら俺とお前で、貴族派の連中に俺達アルビオン空軍兵の根性をみせつけてやろうじゃねえか」 貴族ですらない、ただの平民の兵士であるビッグスとウェッジの誇り高き覚悟を見せ付けられたルイズは、 これ以上この場の雰囲気に耐え切れず、外に出てしまった。 ワルドが棒立ちのまま、動かないのを見て、ブロあいうえおのお前は追いかけないのかよ?この辺の心配りがもてる秘訣」 ブロントに促され、ようやくワルドはルイズの後を追った。 ビッグスとウェッジは最後にブロントに向かってアルビオン万歳と叫び、去って行った。 一人祝宴に残ったブロントを見て、座の真ん中で歓談していたウェールズが近寄ってきた。 「やあ、使い魔のブロントだね。フネの中の時から思っていたが、きみは随分と色々な事を知っているようだね。まるで世界を見て回った事があるみたいに」 「それほどでもない」 ウェールズは屈託なく笑う。 「謙虚に隠さずとも、きみの凄さは分かるよ。たった一つの料理を通じて『イーグル』号のクルー達と打ち解けたんだ、それは並大抵の事じゃない証拠さ。きみのように皆の心をまとめる事ができたのであれば、この反乱も起きずに済んだのかもしれないな」 「俺は鍋に石をいれただけなんだが?」 「きっかけなどとは、そういう簡単な事から始まるものだ。だが、そんな簡単な事が中々思いつかないものなのかもしれんな」 二人して、ぼんやりと祝宴を眺めた。明日に死を控えた人たちを見て、ブロントはウェールズに語りらは馬鹿すぐる。死んでしまっては何も意味がないな」 「守るべきものがあるから、その為に死ぬ事は無意味ではなか た後、誰がその守るべきものを守るんだ?残されたものを考えてない浅はかさは愚かしい」 ブロントがそう言うと、ウェールズは笑った。 「我らは確かに馬鹿なのかもしれんな。守るべきものが大きすぎて、基本い。だが厄介な事に我らの愚かさは、死なないと治らない重い病みたいなものだ」 「お前それで良いのか?」 「このウェールズ・テューダは王家に生まれたのだ。私一人の我侭のために、我ら王家に従う皆を見捨てるわけには行かないよ。だが、もし私がただ一人の人間であったのであれば、きみの様に一人の女性を守り、生き抜くのも悪くないと思っている」 「おいィ?そんな事俺に言っていいのか?」 「ふふ、我ながら臣下の者に聞かれたくない事を言っているな。きみと話していると不思議と心の内が曝け出てしまうようだ」 ウェールズは深い溜め息をついた。 「ここほんの数日の間で、私が長年信頼し、友人だと思っていた者達は軒並み貴族派に旗を変えていった。だが、今日会ったばかりのきみと話しているとまるで長年の知己と語り合っている感覚すら覚える。何とも皮肉だな。もっと昔にきみと出会っていれば、良き友になれたのかもしれないと思うと、悔やまれる」 「フレンドになるのは今からでも遅くにいのは確定的に明らか」 ブロントは右手をすっとウェールズに差し出す。 「『友』か。そうだな、友情の深さに時間は関係ないな。こうして最後に良き友人に出会えた事を、始祖ブリミルに感謝せねばいけないな」 ウェールズは差し出されたブロントの手を握ると、固く握手を交わした。 「さあ、友よ!夜は短い、今宵は語り明かそうでは無いか!友の武勇伝を是非聞かせてくれ!」 そうして、二人は宴の間、とりとめも無い事を語り合い、友好を深めていった。 その様子を遠く玉座から見守っていた老王は傍らにいたウェールズの侍従のパリー仕えしておりますが、陛下とはもう六十年以上の付き合いになりますでしょうか」 ジェームズ一世はパリーに手招きをする。 「・・・朕からそなたに最後に一つ頼み事がある」 パリーはジェームズ一世の耳元まで近寄る。 「陛下、何でございましょうか?」 「あの『イーグル』号に乗る者で、アルビオン王家をそなた程長年知る者はおらぬ。そして朕はここに集まる勇士達の事が語られる事もなく、忘れ去られてしまう事には耐え切れぬ」 「陛下・・・」 「パリーよ、ここに残りたいのだろうが、頼む、『イーグル』号に乗り、我らアルビオンの風が潰えぬよう、周りに伝え聞かせ、見届けてはくれまいか」 「陛下、これは王からの勅命ですかな?それならば、先程陛下から直々に暇を与えられたのですから、このける義務はありませんぞ?」 ジェームズ一世はパリーの手を握る。 「いや、六十数年共にしてきた友人としての頼みだ」 「・・・陛下は実に残酷な方ですな。それでは断れぬではないですか」 「すまぬな、パリー。我がアルビオン王家はそなたに世話になってばかりだ」 パリーは微笑む。 「では陛下、事が終わり、この老骨の体が朽ち果てた時は、長年溜まった恨み言を含めて後から陛下に報告に参りますぞ」 「それでよい。風の行方の良き報告、待って居るぞ」 祝宴が終わり、夜も更け、明日のために部屋に休みに行ったウェールズを見送った後、ブロントも割り当てられた部屋に向かうと、後ろから肩を叩かれた。 振り向くとワルドが立って、ブロントをじっと見つめている。 「きみに言って置かねばならぬ事がある」 ワルドは冷たい声で言った。 「お前そこにいたのか・・・」 「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」 「おいィ?何いきなり予定しているわけ?」 「是非とも、僕達の婚姻の媒酌を、あの勇敢な皇太子にお願いしたくなってね。皇太子も、快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕達は式を挙げる。きみにも是非出席して貰いたいのだが」 ブロントは少し考え、そして黙って頷く。 「三人であれば私のグリフォンでも、滑空するだけなら、問題なく帰れるだろう」 伝える事だけを伝えるとワルドは自分の部屋に戻っていった。 ブロントは静かな廊下にガチャガチャと鎧を響かせて歩いていた。 廊下の途中に、窓が開いていて、月が見えた。月を見て、一人涙ぐんでいる少女がいた。 月明かりに照らされる桃色がかった髪、そして白い頬には涙が伝っていた。 ブロントが鳴らす鎧の音に気が付いたのか、ルイズは目頭をぬぐって、振り向いた。 だがブロントの顔を見ると、ルイズの顔は再びふにゃっと崩れた。 「・・・何いきなり泣いているわけ」 ブロントはその大きな手ですっぽりとルイズの小さな頭に乗せると、優しく撫でて慰める。 「どうして、どうして、ここの人たちは皆死を選ぶの?わけわかんない。貴族も、貴族で無い人も、誰しか考えてない、お馬鹿さんでいっぱい。あの王子さまもそうよ。残される人たちのことなんて、どうでもいいんだわ」 ブロントはそうではない、と言い返そたが言い返す言葉が出なかった。 ただ黙って泣きじゃくるルイズの頭を撫でた。 ルイズコートに顔をふふふふの体を抱きしめる。 「ブロント、わたしと約束して。何があっても自分から死ぬような事を選ばないって。あんたはわたしの使い魔なんだから、どんな事があっても生きてわたしを守ってもらうわよ」 「圧倒的な生命維持能力をント」 第15話 「スヴェルの空に向かう船」 / 各話一覧 / 第17話 「貴き血流れて」
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謙虚な使い魔~アルビオンの幻影~ ルイズ達が乗り込んだフネは双月の重なる夜空に向けて航行していた。 先程三人が息を切らすまで駆け巡ったラ・ロシェールの明かりが、 闇夜に吸い込まれて行く様に遠ざかっていた。 甲板の上でブロントは篭手を外して自分の左手を興味深げに眺めていた。 それをルイズは心配そうに見つめる。 「ねえブロント、傷は大丈夫?」 ルイズが近寄り、ブロントの左手に手を伸ばした。 「触らない方がいい」 ブロントは咄嗟にルイズの手を右手で撥ね除けた。 「な、何よ!心配してあげてるのに!」 自分の使い魔が意外な行動を取ったので、ルイズは頭にくるよりか、内心驚いていた。 「落ち着けって。相棒は別に悪気があった訳じゃねーんだ。実際、今の相棒の左手を迂闊に触らない方がいいぜ」 デルフリンガーはカタカタと鍔を鳴らす。 ルイズはいまいち飲み込めていない様子で首を傾げた。 「ま、見せた方が早いだろな。相棒、ちょっとやってみせろよ」 ブロントはカバンから金貨を一枚取り出すとそれを左手に乗せた。 「こっからよく見とけよ?」 ブロントは鍔を鳴らすデルフリンガーを右手で引き抜いた。 武器を手に持ったことで、ブロントの左手のルーンが反応して光を放つ。 その時、ブロントの左手の金貨がパチン!と音を立てて小さな電流が迸る。 そしてバチバチ!と火花を放つと同時に金貨が真っ二つに割れた。 「と、まあなんだ?使い魔のルーンに雷属性も付いちまった、てとこか?」 ブロントはデルフリンガーを鞘におさめると、手のルーンが消えると共に、 左手から流れ出す雷も収まった。 「何で金貨が割れちゃったの?」 「相棒の雷はさっき打たれた魔法のものよりは弱いんだが、持ったものを分解しちまう。<固定化>の魔法がかかっているものか、俺みたいに『伝説』の域に入る武具じゃないと耐えられねだろな」 ブロントは解説をよく得意気に語るデルフリンガーに任せると、黙って篭手を付け直した。 「それにしてもよ、その雷に耐えられる相棒の篭手はすごいもんだぜ。俺を作った奴みたいにきっとすげえ名工が作ったんだな」 「それほどでもない」 「おい・・・相棒そこは謙虚に行くところじゃないぜ。それじゃまるで俺が―」 デルフリンガーが言葉を言い切る前にブロントが鞘に押し込める。 そんなやり取りをしている二人に船長と話していたワルドが寄ってくる。 「明日の昼過ぎには、スカボローの港に到着するそうだ。それと、船長の話では、ニューカッスル付近に陣を配置した王軍は攻囲されて苦戦中のようだ」 ルイズがはっとした顔になった。 「ウェールズ皇太子は?」 「わからない、まだ死んだと言う噂は聞いてないが」 「とすると、ニューキャッスルの王党派に何とかして接触しないといけないかしら」 「そうだな。反乱軍の包囲を抜けての陣中突破しかあるまいな。まあ、反乱軍も公然とトリステインの貴族に手出しはできんだろう。夜の闇には気をつけないといけないがな」 ルイズは緊張した顔で頷いた。 「そういえば、ワルド。あなたのグリフォンは?」 ワルドは微笑み、口笛を吹くと、フネの下からグリフォンの羽音が聞こえてきた。 そのまま甲板に着陸して、船員達を驚かせた。 そして捕食者の様な目をしたブロントに三回見つめられて、ワルドのグリフォンは背筋に何か冷たいものをひしひしと感じていた。 「おい、どうした?あまり暴れるな」 ワルドはソワソワと動き回る自分のグリフォンを押さえ付けた。 ブロントは舷側に祈る様な形座りこんで、目を深く閉じる。 そこへルイズがやって来て、隣に座る。 「今のうちに休んでおくわ、着いたら起こして」 そう言って、ルイズはすーすーと寝てしまった。 慌しい船員達の声と眩しい光で、ブロントは目を開けて立ち上がる。ブロントに寄りかかって眠っていたルイズが「うあ」と言って倒れる。 「アルビオンが見えたぞ!」 鐘楼の上に立った見張りの船員が、大声を上げた。 「おいィ!?」 ブロントは上を見上げると息をのんで、驚いた。 上空の雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。 ブロントはヴァナ・ディールで、上空に浮かぶ人工島のトゥー・リアを訪れた事はあったが、 ヴァナ・ディールのクォン大陸とミンダルシア大陸の両大陸を合わせた程の大きさを誇る浮遊大陸は見た事がなかった。 「あれが浮遊大陸アルビオンよ」 ルイズはぶつけた頭をさすりながらブロントに言った。 「ああやって、空中を浮遊して、主に大洋の上をさ迷っているわ。でも、こうして月に何度か、ハルケギニアの上にやってくる。大きさはトリステインの国土ほどもあるわ。大陸の下半分がいつも白い雲で覆われているから通称『白の国』とも」 その時、鐘楼に上った見張りの船員が、大声をあげた。 「右舷上方の雲中より、フネが接近します!」 ブロントは言われた方を向いた。舷側に開いた穴から大砲が突き出ている黒くタールで塗られたフネが一隻近づいてくる。 ルイズは眉をひそめる。 「いやだわ。反乱勢・・・、貴族派の軍艦かしら」 後甲板で、風の魔法でフネを支えるワルドと並んで操船の指揮をとっていた船長は、船員に怒鳴る。 「おい!あれは一体どこのフネだ!?」 そこへ副長が駆け寄ってきて、青ざめた顔で船長に告げる。 「あの船は旗を掲げておりません!」 船長の顔も、みるみるうちに青ざめる。 「空賊か!」 「間違いありません!内乱の混乱に乗じて、活動が活発になっていると聞き及びますから」 「逃げろ!取り舵いっぱい!」 船長はフネを大きく傾けて、空賊から遠ざけようとした。しかし、機動力に勝る空賊の黒船がぴったりと併走し、脅しの一発を、ルイズ達が乗り込んだフネの針路めがけて放った。 放たれた砲弾はフネの前面擦れ擦れを通り過ぎると、そのまま雲の彼方へ消えていく。 黒船のマストに、停船を求める旗信号があがる。 船長は助けを求めるように、隣に立ったワルドを見つめる。 「魔法はこのフネを浮かべるために打ち止めだよ。あのフネに従うんだな」 船長は苦虫を噛み潰したような顔をして命令した。 「裏帆を打て。停船だ」 ルイズ達が乗るフネの横にぴったりと幅を寄せた空賊のフネの舷側には弓や銃を持った男達が並び、こちらに狙いを定めた。 鉤のついたロープが放たれ、ルイズ達の乗ったフネの舷縁に引っかかる。 手に斧や曲刀などの得物を持った屈強な男達がロープを伝ってやってくる。 ブロントはルイズの前に立ちはだかり、剣に手をかけた状態でじっとその場を見守っていた。 乗り込んできた水兵達だけが相手ならブロント難なく打ちのめせる自信はブロントにあったが、逃げ場の無い上空で何門もの大砲に狙われていては迂闊に手を出す事はできなかった。 それに先程襲ってきた仮面のメイジがいるかもしれない。 それらを相手にしながらルイズを守り通す事は少しばかり難しそうだった。 「ブロント・・・」 ブロントの背中に寄り添うルイズが不安そうに呟く。 乗り込んできた空賊達の中に、派手な格好の空賊が一人いた。 元は白かったらしいが、汗と油で汚れて真っ黒になったシャツの胸をはだけ、 そこから日焼けした胸が覗いている。 ぼさぼさの長い黒髪は、赤い布で乱雑にまとめられ、顔中に無精ひげが生えている。 その左目には黒い眼帯が巻いてあった。 その堂々たる風貌や、周りの空賊の態度から察するにその男が空賊の頭らしい。 「船長はどこでえ」 荒々しい仕草と口調で、辺りを見回す。 「わたしだが」 震えながら、それでも乗組員と乗客の命を預かる船長は己の責務を全うするため手をあげる。 頭はどすどすと船長に歩みより、その頬にぴたぴたと抜いた曲刀で叩く。 「フネの名前と、積荷は?」 「トリステインの『マリー・ガラント』号。積荷は硫黄だ」 空賊たちの間から歓声があがると、頭はにやっと笑い、船長の帽子を取り上げ、自分が被った。 「フネごと全部買った!料金はてめえらの命だ!」 船長が屈辱で震える。それから頭は、甲板に佇むメイジのマントを羽織ったルイズとワルドに気づいた。 「おや、貴族の客まで乗せているのか」 ルイズに近づいた所、二メイルはある白い甲冑をきた大柄の男が間に割り入った。 「こりゃあまた立派な従者だな。だが、もったいないな。お前のかわいい主人には高い身代金がつきそうだが、お前じゃ払うって奴もいねえだろ。どうだ、おれのフネで働かねえか?もっとも向こう五年は甲板磨きだがな!」 空賊の男達は下卑た笑い声をあげた。 ブロントは鼻で笑うと手のひらを広げて首を振った。 「はっ!こいつは驚いた。こんな状況だってのに肝が据わってるぜ。ま、仲間になりたくねえって言うのなら無理にはいわねえさ。せいぜいお前の主人ともに買い取ってくれる殊勝な奴が現れる事を祈っておくんだな!」 頭は大声で笑った。そしてルイズ達を指差して言った。 「てめえら。こいつらも運びな。身代金がたんまり貰えるだろうぜ」 空賊のフネに捕らえられたルイズ達は、船倉に閉じ込められた。 ブロントはデルフリンガーを取り上げられ、ワルドとルイズは杖を取り上げられた。 杖がなくては簡単な魔法すら唱えられないので、鍵をかけられただけでワルドとルイズは手足が出なくなってしまった。 もっとも、ブロントなら扉を素手で打ち壊せるのかもしれないが、 その先逃げ道の無い空を浮かぶ空賊のフネの中で暴れても仕方がなかったので、 ブロントは陸地に着くまでは大人しくしているつもりらしい。 閉じ込められた船倉は弾薬庫として使われているのか、火薬樽やら束ねた火縄やら、酒樽に詰まった火打石が雑然と置かれている。 重そうな砲弾が、部屋の隅にうず高く積まれている。 ルイズは船倉の隅に腰掛けた時、ついふとした気の緩みからか、お腹をかわいく、くーと鳴らした。 「・・・ッ!いや、これは・・・その!」 ルイズがあたふたと慌てる。 「そういえば、ラ・ロシェールからろくに何も食べて無いな。贅沢は言わないが、連中が人質に食事をだすぐらいの常識を持ち合わせてくれている事を願いたいな」 ワルドも一晩中フネを魔法で支える事に精神力を使い果たし、空腹感を感じていた。 「こういう時の食事は塩漬けの干し肉を戻しただけの水に近いスープと相場は決まっているがね」 ワルドは苦笑いをする。 その二人の様子を見ていたブロントは、何か思いついたのか、 船倉の酒樽から火打石を拾いあげて、一つ一つ手にとって見る。 ブロントは形が比較的均等で丸いものを見つけると、軽く指で擦って磨き 船倉の扉を叩いた。 「なんだ?」 扉の向こうから看守が尋ねてくる。 ワルドとルイズはじっとブロントの様子を黙って見つめている 「水と鍋を貸して欲しいのだが。あと火があれば『石のスープ』作るんだが」 「腹が減ったんで石でも煮て食うってか?こいつはまた変わった貴族様を捕まえちまったようだな!心配すんな、そのうちスープの一杯でもでるだろうよ」 ガハハハと扉の向こうから看守の笑い声が響く。 「お前、水で煮るだけでうまいスープが作れるという石を知らないのかよ?」 「そんなマジックアイテム、聞いた事無いね」 「俺のいたロバん・アカイエの料理なんだが。その味を知らないなんて、勿体無い実にもったいないな」 「何!?ロバ・アル・カリイエからのマジックアイテムだと!?」 煮るだけでスープを作れるマジックアイテムと聞き、好奇心がむくむくと湧いたのか、看守が話しに食いついてくる。 「・・・・・・今日の担当は飯がまずいウェッジの野郎だったけな。奴のスープ飲まされるぐらいなら・・・ちょっと待ってろ」 仲間に相談しに言ったのか、看守はその場を離れた。 「ブロント、一体?変な事するつもりじゃないでしょうね?」 ルイズが不安そうに尋ねる。 「俺はただスープを作りたいだけなんだが」 「そ、そう」 数分後、船倉の扉の前で複数の足音がばたばたとして、扉が開く。 そこには曲刀をぎらつかせた男達が立っていた。 バンダナを目深に被った痩せぎすの男がブロントを指差す。 「火薬が置かれているそこに火を持って来ることはできねえ。だからそこの男、そのマジックアイテムを持って俺らについてきな。変な真似したら切り刻んで空から投げ捨てるからな」 そうしてブロントは空賊の男達にフネの厨房まで連れて行かれる。 再び扉の鍵を閉められて船倉に残されたルイズとワルドは顔を見合わせる。 「君の使い魔、大丈夫かな」 「え、ええ。大丈夫よ・・・多分」 ルイズは胸に下げたリンクパールを指でさする。 フネの厨房は狭く、三、四人も入れば身動きが出来ないほどの大きさだった。 そこには小さな釜戸が設けられていて、換気用の小さな窓が取り付けられているが、 中は蒸すように暑い。 棚の上には大鍋やら皿が乱雑に積んである。 「おい、ウェッジ!連れてきたぜ、こいつに『石のスープ』とやら作らせな!」 痩せぎすの看守の男はブロントの背中をバンバンと叩くと、他の仲間とともに厨房の外でまった。 「煮るだけでスープが作れる石がそれか?見た目はただの石みてえだな。おもしれえ、この鍋に水を沸かせてあるからやってみな」 厨房の中で汗を流している太った男がブロントに大鍋の前の場所をゆずった。 ブロントは手にした火打石を大鍋にぼちゃんと落とすと、そのままぐつぐつと煮立てた。 ブロントはゆっくりと鍋をかき回して、水のスープを匙で掬ってみせる。 「そろそろいい頃なんだが。味を見るべき」 「おい、その石が毒かもしれねえだろ。てめえで味をみな」 そう言われてブロントは自分でそれを煤って味見してみせる。 「これで中々うまいんだが。少し塩を入れるともっと旨くなるのは確定的明らか」 「塩か?ああ、サン・マロンの輸送船からとったものがまだ確かここらに少しあったな・・・」 太った男が厨房の棚を漁ると、そこから岩塩の一欠けらを取り出しブロントに渡した。 ブロントは岩塩を鍋に落とすと、ゆっくりとかき混ぜた。 「どうだ? 良くなったか?」 太った男は興味津々に鍋の中を覗き込む。 ブロントはまた匙で味を見ると、考え込むように首を傾げる。 「かなりマシになったが。隠し味が足りにい。オニオンかポポトが少しあればもっといいんだが・・・」 太った男は厨房の扉を開けて、痩せぎすの男に詰め寄った。 「おい、ビッグス。おめえたしか以前にオニオンの袋をくすねてたよな。そいつもってこい」 「おい、何でお前がそれ知っているんだよ。あれはお前が担当の日の不味い飯を我慢して食うために取っておいてあるんだぜ」 太った男は痩せぎすの男を指差した。 「いいから、とっととオニオンを数個もってこい、じゃなきゃお頭にお前が食いもんがめてたってバラすぞ。あとよ、隠し味に何かイモみてえなもんがあると味がよくなるらしい、誰かが持ってるだろうから探してこい」 痩せぎすの男は舌打ちしながらその場を離れると、オニオンを数個と他の仲間が隠し持っていたジャガイモを持ってきた。 『石のスープ』を作っていると聞いて興味を持った他の空賊も何人か厨房前に集まって扉を開いて覗いている。 「これらも入れて、どうだ?石のスープって一体どんな味なんだろうな・・・」 太った男はくんくんと嗅ぎながら鍋の中を覗く。 ブロントが匙でスープの味を見る。 「かなりいい出来なんだが。ガーリック一片とソーセージ数切れ手に入れたら高確率で一番最強のスープになる。小麦粉もあると最高なんだが・・・」 「そうか。おい、てめえらもただ見物してねえで探してこい」 そんな調子で船中から少しずつ集めた野菜、肉、香料が鍋の中でぐつぐつと煮えて、とても旨そうな匂いが漂ってきた。 厨房の前に人だかりが出来ていた。誰も行った事が無い、遠く東方のロバ・アル・カリイエからのマジックアイテムで作られたスープと聞いて、面白いものが見れると思い、互いに押し合いながら見物している。 「てめえら、何かこそこそしていると聞いてみれば、こんなとこで何やってんだ?」 「あっ!お、お頭!?」 何と空賊の頭は船員達が不振な動きをしていると副長から聞き、それを自ら確かめにきた。 事の発端となった痩せぎすの男をその場にいた空賊の仲間達がお頭の方へと押し出す。 痩せぎすの男は萎縮した態度で頭に説明する。 「いや、お頭。それがですね、先程捕まえたこの男がロバ・アル・カリイエからのマジックアイテムを持っていまして。何でもその石を煮るだけで旨いスープができるってんで。今日はウェッジが担当の日でしたから、どうせならと・・・」 「確かにあの臭いスープを飲むぐらいなら、マンティコアの小便のがまだマシに思えるな!」 男達は一斉に笑う。 厨房から木匙が飛んできて、痩せぎすの男の頭に当たる。男達は更にどっと笑う。 頭が厨房の中にはいってみると、そこには色々な具材が入った、確かに旨そうなスープぐつぐつと音を立てて煮えていた。 「こいつが、石を煮ただけでできた『石のスープ』ってか?確かにすげえマジックアイテムみたいだな。悪いが、その石はいただくぜ」 頭はにやりとして手をだしてブロントに催促する。その時周りの男達の目も鋭く変わり、各々が武器に手をかける。 「これはもう『石のスープ』じゃにい―」 ブロントは鍋から匙で石を掬いだして、厨房に転がっていた布巾で軽く石をふき取ると。 空賊の頭の手に石を置いた。 「―ただの『知恵のスープ』なんだが」 ブロントはとんとんと自分の頭を指で叩く。 頭は渡された石を確かめて見ると、それがただの火打石だとすぐわかった。 男達が船をこそこそと動き回っていた事を考え直してみれば、 何が起こったのか、大体想像がついた。 「おい、てめえら、こいつにしてやられたな!皆が大事に取って置いて隠してたものをこんな方法で引っ張り出すなんざ、確かにこいつは『知恵のスープ』だな!」 頭は手に湿った火打石を持ったまま、愉快そうに笑った。 「気に入ったぜ!おい、ウェッジ、俺の部屋にこのスープを四人分用意しておきな。ビッグス、おめえは貴族の二人を俺の部屋に連れてこい」 船倉にいた二人は男達に空賊の船長室まで連れられた。 痩せぎすの男が船長室の扉を開くと、そこには豪華なディナーテーブルがあり、一番上座に頭が座って、その周りにガラの悪い空賊の連中がニヤニヤと笑っている。 そしてテーブルの向かいにブロントは何事もない、といった態度で座っている。 ルイズが思わず叫ぶ。 「ブロント!無事だったの?」 ブロントは何も言わずに頷く。 「ま、そこに座れ。取り合えず貴族らしくテーブルで飯は食わせてやるよ」 頭はそう促しながら大きな水晶がはめられた杖をいじっている、どうやらメイジらしかった。 ブロントの隣の席を見てみると、確かに皿に入ったスープらしいものがルイズとワルドのためにも用意されているのがわかった。 言われたままルイズとワルドはテーブルの席に付くが、二人とも食事には手を出さない。 「安心しな、それはそいつが作ったもんだ。質問は食いながらといこうじゃないか」 そういって頭がスープに口を付けると同時にブロントも口を付ける。 毒が入ってないとわかったルイズはそれを見て色々な具が入ってるスープに匙をつけた。 ごちゃごちゃにモノがはいってどの味が主役なのかはわからなかったが、 各具材が持つクセをうまく互いに消しあって、混ざり合った香料が肉や野菜の味を最大限に引き立てていた。 具の一つ一つが何かと食べながら考えるのも少し楽しかった。 入っている食材はどれもがほんの少量で、それ単体で食すには足りないが、 こうして一つのスープとなって見ると、どの食材も欠かすことが出来ない味となっていた。 乱雑な作りのように見えたが、実に隙が無い、完成された料理だった。 「こいつあ、うめえぜ。このフネにあるもんでこんなもんできるなんてよ。おい、お前本当に俺の仲間にならねえか?ウェッジの代わりに厨房勤めてくれるのなら文句言う奴はいねえぜ?」 ブロントは首を横に振る。 「だろうな。言ってみただけさ」 頭が笑うと、周りの男達も釣られて楽しそうに笑う。 「さてと、ここから本題だ。トリステインの貴族様方、名乗りな」 「大使としての扱いを要求するわ」 ルイズは匙を置くと、毅然とした態度で言った。 「大使?そういや、お前の従者が厨房で面白い事やっている間、俺の部下に聞かせたところ、王党派だとか言ったらしいな」 「ええ、言ったわ」 「何しに行くんだ?あいつらは明日にでも消えちまうぜ」 「あんたらに言う事じゃないわ」 頭は、歌うような楽しげな声でルイズに言った。 「貴族派につく気はないか?あいつらは、メイジを欲しがっている。たんまり礼金を弾んでくれるだろうさ。もちろん紹介した俺の懐にもな」 「死んでもイヤよ」 頭は顔を曇らせ、杖を握り締める。 ルイズが震えているのにブロントは気づき、そっと肩に手をやる。 すると不思議とルイズの震えは止まり、キッと男の目を真っ直ぐに睨み返す。 「もう一度言う、貴族派につく気は無いか?」 ルイズは腕を腰に当て、胸を張って言った。 「くどいわ、その杖を振るのなら振ってみなさいよ。でもわたしとわたしの使い魔は首だけになってもあんたに噛み付いてやるわ」 頭は笑った、大声で笑った。 「トリステインの貴族は、気ばかり強くって、どうしようもないな。まあ、どこぞの国の恥知らずどもより、何百倍もマシだがね」 頭はナプキンで丁寧に口元を拭き、しゃんと背筋を伸ばして立ち上がった。 「失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはな」 周りにいた空賊達もニヤニヤ笑いをおさめ、一斉に直立した。 頭はぼさぼさの黒髪をはいだ。なんとそれはカツラであった。 眼帯を取り外し、作り物のひげもべりべりとはがした。 そこに現れたのは、凛々しい金髪の若者であった。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令官・・・といっても、すでに本艦の『イーグル』号しか残っていない名ばかりの艦隊だがね。その肩書きよりもこちらを名乗った方がいいか」 若者は居住まいをただし、威風堂々名乗った。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 ルイズは口をあんぐり開けた。 ブロントは相手が敵ではないとわかり一人堂々と食事に戻る。 ワルドは興味深そうに、皇太子を見つめた。 ウェールズは、にっこりと笑みを浮かべる。 「アルビオン王国へようこそ。大使殿。さて、御用の向きをうかがおうか」 あまりの事にルイズは口がきけなかった。ぼけっと。呆けたように立ち尽くす。 「その顔は、どうして空賊風情に身をやつしているのだ?といった顔だね。いや、金持ちの反乱軍には続々と補給物資が各方面から送り込まれる。敵の補給路を断つのは戦の基本。しかしながら、堂々と王軍の軍艦旗を掲げたのでは、あっという間に反乱軍のフネに囲まれてしまうだろう。ささやかながらの抵抗を行うにも、空賊を装うのも、いたしかたない」 ウェールズはイタズラっぽく笑って、言った。 「大使殿には、誠に失礼をした。この状況で外国に我々の味方をしてくれる王党派の貴族がいるなどとは、夢にも思わなくてね。きみたちを試すような真似をしてすまない」 目的の皇太子が目の前だというのに、心の準備が出来ていなかったルイズはぽかんと口を開くばかり。 「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」 ワルドがルイズに代わる様に、頭を下げて言った。 「ふむ、姫殿下とな。きみは?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」 ワルドは続けてルイズ達を紹介した。 「そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔・・・」 「ブロントだ」 ブロントは口を拭きながら立ち上がる。 「面白い人物だとは思っていたが、まさか君が使い魔だったとは驚いたな。時間が許す限り色々話を聞きたい所だが・・・おっとすまない、話がそれたな。して、その密書とやらは?」 ルイズは慌てて、『一番安全だろう』という事でブロントに預けてあった手紙をカバンから出してもらった。 その手紙を持ってルイズは恭しくウェールズに近づいたが、途中で立ち止まる。それから、ちょっと躊躇うように、聞いた。 「そ、その、失礼ですが、ほんとに皇太子さま?」 ウェールズは笑った。 「まあ、さっきまでの事を考えれば無理はない。こちらもきみたちを疑ったのだから、そちらも私を疑って当然だな。よろしい、証拠をお見せしよう」 ウェールズは、ルイズの指に光る、水のルビーを見つめていった。 自分の薬指に光る指輪を外すと、ルイズの水のルビーに近づけた。 二つの宝石は、共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。 「この指輪は、アルビオン王家に伝わる、風のルビーだ。きみが嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた、水のルビーだ。そうだね?」 ルイズは頷いた。 「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」 「大変、失礼をば致しました」 ルイズは一礼して、手紙をウェールズに手渡す。 ウェールズは、愛しそうに手紙を見つめると、花押に接吻した。それから慎重に封蝋をはがし、丸めた羊皮紙をひろげた。 真剣な顔で読んでいたが、そのうちに顔を上げた。 「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い・・・・・・、従妹は」 ワルドは無言で頭を下げ、肯定の意を表した。 ウェールズは再び手紙に視線を落とす、最後の一行をまで読むと、微笑んだ。 「了解した。姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な、姫から貰った手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう」 ルイズの顔が輝いた。 「しかしながら、今、手元にはない。ニューカッスルの城にあるんだ。この空賊船に持ち込むわけにはいかぬのでね。多少、面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい」 第14話 「夜に隠れて」 / 各話一覧 / 第16話 「誓いの連鎖」
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ノックの音が聞こえた。 「はい、鍵はあいてますよ」 ルイズはすでに寝てしまっているのでナナリーがこたえた。 「はーい、あ、ルイズは寝てるのね」 ドアが開くと、そこにいたのはキュルケだった。 「なんでしょうか?このとおりルイズさんは眠ってますよ」 「ルイズになんてようはないわ」 キュルケはふふんと笑った。 「では、私でしょうか?」 「せーかい!」 そう言うと、キュルケはレビテーションでナナリーを浮かす。 「え?え?」 急な浮遊感に驚くナナリー、 やはり宙に浮くという感覚は簡単に馴れるものではない。 「今日は飲みましょう」 そのままナナリーはキュルケの部屋まで連れていかれた。 移動途中、ネグリジェ姿のナナリーは 必死に着替えがしたいことをキュルケに伝えた。 しかしキュルケは、 「いいじゃない、面倒くさいし。」 そういう彼女はベビードール姿、 そんな姿で部屋から部屋までの通路を歩いてきたのだった。 やはりこの世界の感覚はずれている。 そう思うナナリーであった。 部屋につくと、ナナリーはテーブルの前の椅子におろされた。 「あ…あの、キュルケさん?私に用って……」 「だから飲みましょって言ってるじゃない」 そう言うと、キュルケはテーブルにワインとグラスを並べ始めた。 「あの…私は未成年で…お酒はその…」 「私はナナリーくらいのころには普通に飲んでたけど」 この世界に、未成年は飲酒してはいけないという決まりはない。 キュルケには目論みがあった。 ルイズとナナリーには何か秘密がある。 ルイズが口を割らない以上ナナリーに聞くしかない。 しかしナナリーはナナリーで口は堅そうだ。 そこでナナリーを酔わせるこてにしたのだ。 「ささっ飲んで飲んで」 キュルケがグラスにワインを注ぐ。 その時、窓をノックする音が聞こえた。 そこにはハンサムな男がいた。 「ぺ…ペリッソン…」 キュルケは彼のことを知っていたようだ。 「君が待ち合わせの時間にこないから迎えにきた」 会話の内容からキュルケの付き合い人だということが簡単にわかる。 「キュルケさん、そういうことなら行ったほうがいいですよ」 ナナリーはここぞとばかりに彼と行くことを進めた。 キュルケは悩んだすえにこたえた。 「二時間後に」 今のキュルケにとってはナナリーの秘密を暴くことのほうが重要事項だ。 「話がちがう!」 ナナリーはこととき気づいたのだが、 ここは3階のはずだ。 おそらくペリッソンというかたは、魔法で飛んできたのだろう。 キュルケは欝陶しそうに胸元から杖をとりだし杖をふるう。 部屋にあったランプの火が大蛇のように伸び、 窓ごとペリッソンを吹き飛ばした。 ナナリーには何がおこったのかわからない。 ただ何かが壊れる音が聞こえただけだ。 「あ…あの?何がおこったんですか?」 心配そうな顔でナナリーが訪ねる。 「んーん、何もおこってないわ」 キュルケは笑顔でこたえた。 「さぁナナリー、飲みましょう」 「あのぉ…さっきのかたはどうされたんですか?」 「帰ったみたい」 ナナリーはその言葉を素直に信じることができなかった。 すると今度は壁を叩く音が聞こえた。 キュルケが窓を吹き飛ばしてしまったからだ。 「キュルケ、今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか! ん…その可愛い女の子はだれだ?」 「スティックス!?…ええっと、4時間後にね」 「話がちがう!」 スティックが部屋に入ってこようとしたので、 キュルケは再び杖をふった。 ランプから再び太い炎が伸びる。 その後、キュルケは何事もなかったかのようにワインを注ごうとした。 「あの…今の人はどこに?」 「帰ったわ、それより早く飲みましょ。 夜があけてしまうわ」 すると、こんどは窓だった穴から、三人の男が同時にした。 「キュルケ!この二人の男は誰なんだ!」 「マニカン!エイジャックス!ギムリ!」 ナナリーは次々に出てくる男の名に目を回しそうになった。盲目だが。 「えっと…それぞれ6時間後に」 「朝だよ!」 三人の男は仲良く絶叫した。 ナナリーは朝うんぬんより、三人とどうやって会うかというところが気になった。 「フレイム」 キュルケの声に反応したフレイムが、キュルキュルと泣き声をあげ 窓だった穴の前まではってきた。 「な…なにをするんですか…」 ナナリーは何がおこっているのかわからず。 不安そうな顔をしていた。 キュルケは微笑みながら優しそうな声でかえした。 「ゴミ掃除よ」 その瞬間、フレイムは三人にむかって炎をはいた。 三人は仲良く落ちていった。 ナナリーは怖くなってきた。 この部屋では確実に何かがおきている。 しかし、魔法などを使っている場面に、 ほとんど立ち会ったことの無いナナリーには、 今の状況を把握することはできないでいた。 「ささっ、ナナリー、飲んで飲んで」 「うう…ルイズさん…助けて下さい…」 そのころルイズはというと。 「う~ん…ナナリー、その草は食べられたないわよ…むにゃむにゃ…」 熟睡していた。 しかも、ナナリーにたいしてかなり失礼な夢をみていた。 ナナリーは仕方なくワインを飲んだ。 美味しくない、それがナナリー感想だった。 お酒を飲んだことのないナナリーには仕方のないことかもしれない。 「あら?お口にあわなかったかしら?」 ナナリーは失礼だと思ったが、この場から逃れるためだと思い、 首を縦にふった。 「そう、じゃあもうちょっと高いワインにするわね」 「そうよねぇ、ナナリーには安物なんて似合わないもの」 「あっ……」 ナナリーが先程がんばってあけたグラスに新たなワインを注ぐキュルケ。 「どうかした?」 「いえ…なんでも……」 一杯のワインでも、 すでにナナリーの顔は赤みをおびていた。 お兄様ごめんなさい…ナナリーはお酒を飲んでしまいました… ナナリーは心の中で兄に謝罪をした。 「はいどうぞ」 キュルケはナナリーの口もとまでグラスをもっていく。 「…いただきます」 仕方なくナナリーはそれを飲んだ。 一杯だけ、一杯だけのんだら今度は断ろう。 そう思うナナリーだが、 飲み干した直後にキュルケにワインを注がれてしまう。 ナナリーは泣きそうになった。 ナナリーとキュルケのやりとりが何回か過ぎたころ。 ナナリーは顔を真っ赤にしてテーブルに倒れこんでいた。 「…やりすぎたかしら」 キュルケは少しナナリーのことが心配になった。 「ナナリー、ねぇナナリー」 ナナリーは動かない。 急性アルコール中毒にでもなったのかもしれない。 キュルケの心配は強いものとなった。 「ナナリー!起きて!もう飲ませたりしないから!」 ナナリーのからだを揺すりながら呼びかけた。 「…う…朝ですか?」 ナナリーが目をさます。キュルケは胸をなでおろした。 「あ、キュルケさん」 「よかった。無事なようね」 「ところで…私は何をしていたのでしょうか?」 「お酒を飲んでいたのよ。そしたらナナリーが…」 「そうでした。ではお酒を下さい」 「はい?」 ナナリーはグラスに残っていたワインを一気に飲み干しグラスをテーブルにおいた。 「あ…あのね…もう飲まないほうがいいわよ」 ナナリーの様子が明らかにおかしい。 キュルケはこれ以上のませるのはマズイと感じた。 「いいからお酒を下さい」 ナナリーの上体はふらふらと揺れていた。 「だから、もう飲まないほうが…」 「皇女命令です!」 「は、はい!」 キュルケはナナリーの迫力におされ思わずワインを注いでしまった。 その後、何かおかしなことを聞いたことに気づいた。 「あ…あれ?ナナリー、今なんて言ったの?」 「お酒を下さいと言いました」 そういいながら、ナナリーは注いでもらったワインに口をつける。 「違う、その後よ」 「皇女命令です、ですか?」 「そう!それ!」 皇女、つまりは皇族。 帝政国家であるゲルマニア出身のキュルケには聞き慣れた言葉だった。 「あの…ナナリー… 皇女ってだれのこと?」 「私です」 ナナリーはえっへんとでも言いそうなくらいに胸をはった。 「…そういうことだったのね」 ルイズとナナリーが隠してたこと、 それはナナリーが皇族であるということだ。 キュルケはそれに気づいてしまった。 「ナナリー、つまり、ルイズはナナリーが お姫様だったってことを隠してたわけね」 「キュルケさんお酒」 ナナリーはすでにグラスのワインを飲み干していた。 「あの、だからルイズが隠してたこと……」 キュルケの声を遮る。 「お・さ・け!」 キュルケはしぶしぶワインを注いだ。 「おいしいれふね。お酒」 すでに呂律がまわっていない。 キュルケは再度質問した。 「ナナリーはお姫様ってことで…」 そして再度質問が遮られる。 「おかわりをくらはい」 ナナリーの飲むペースがあがっていた。 結局、核心に触れる前にナナリーは寝てしまった。 「でも、ナナリーがお姫様ってことは多分間違いないわよね。 平民って感じには見えなかったもの」 キュルケの目標は達成された、ナナリーの思わぬ酔いっぷりは予想だにしてなかったことだが。 「皇族ってことはゲルマニアよね? でも聞いたことないし……」 自国のお姫様を知らないはずがない。 「あ、でも、今の皇帝が親族をむんな幽閉しちゃったって噂だし…… ナナリーもその一人かも」 国民に知られる間もなく幽閉された皇族が一人くらいいるかもしれない。 キュルケはそう思った。 「なら出れてラッキーね。 それなら秘密にしていた理由にもなるわ」 もしそれが周りに広まったとしたら、 皇帝の耳に入ったら。 ナナリーは無事ではすまないだろう。 キュルケの中ではひとつの物語ができていた。 「じゃあ私も秘密にしてあげないとね」 実際は、異なる世界のブリタニアという国のお姫様だ ということは夢にも思わないキュルケだった。 その後、キュルケはナナリーをルイズの部屋まで運んだ。 途中できちんとトイレにもより、アフターケアも完璧だ。 キュルケは、こんないたれりつくせりでナナリーも満足だろう、と自己満足にひたっていた。 ナナリーをベットに降ろすと、お兄さまー!と叫びルイズに抱き着いていた。 キュルケは、別れた兄が恋しいのであろうと、少し涙腺がゆるんだ。 ルイズは酒臭さにうなされていた。