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謙虚な使い魔 「おいィ、月が二つあるようなんだが。」 ルイズの部屋の窓からブロントは月を見上げていた。 空には青と赤の双月が浮かんでいた。 ヴァナ・ディールでは月の光る色や位置で曜日や時間を計り、そしてその満ち欠けによって様々な事柄が影響されている、 と信じられていたので野外で活動する事が多い冒険者とっては月の観測は大事な行動の一つだった。 最初はヴァナ・ディール内のどこか遠方に召喚されいたと思っていたのだが、 こうして窓の外にはっきりと双月がある所を見てしまうと、単純に遠方に来ただけでは無い様に思えてきた。 完全なる異世界に来たのであれば帰還の魔法『デジョン』で戻れなかった事もそれとなく納得がいった。 「平民を装うのは良いけど、いくら平民でもそこまでは馬鹿じゃないわよ。月なんていつも二つでしょ」 エルフの最大の特徴である先住魔法も使えず、平民として振舞うしかない使い魔に対する扱い方を考えていた最中に、 すっとぼけた事を言うブロントにルイズはイライラしていた。 部屋に戻る途中に出会った同級生の何人かにも、平民を召喚したという事でからかわられた。 ただでさえ皆に"ゼロ"と馬鹿にされてきたのだ、せめて自分の使い魔になめられる事だけは避けたかった。 少し不思議な道具などは持っているようだが、魔法も使えないエルフなど長耳が生えた程度の平民でしかない。 エルフとばれて問題が起きる可能性があるだけ、普通の平民よりも性質が悪いと言えた。 そのぶっきら棒な口を開かなければ見た目はいいので、やはりビシビシと躾けて行こうとルイズは思った。 「俺がいたところには月は一つしかないが?」 「何よそれ?ずっと東方からは月が一つしか見えないとでも言うの? 一体どれほど東にそのジュノ大公国とかというのはあるのよ。まさか本当にロバ・アル・カイリエの方にでもいたの?」 結局今回も双方の話がどこか噛み合わず、平行線のまま進歩しなかったので、この話題は取りあえず置いておく事にした。 「俺は使い魔となったようだが何をすればいいんだ?」 「まずは使い魔は主人の目となり、耳となる能力が与えられるわ」 「ほう、それは便利だな」 「でもあんたじゃ無理みたいな、何も見えないし聞こえないもん」 「なんだ『リんクパっル』みたいなものがあればいいのか」 と言ってブロントはかばんから一つの貝殻のようなものを取り出し、その貝の口から綺麗な真珠の様な物を取り出した。 『リンクパール』と呼ばれるそれは、ブロントがハルケギニアに召喚される前までその真珠を通して離れている仲間と会話をするために使っていた道具だった。 しかしハルケギニアに召喚された時から真珠からは、声がぱったりと途絶えていた。 『リンクパール』は同じ『リンクシェル』から作られたもの同士でしか通信できず、 本体であるリンクシェルに異常があると築き上げた通信の輪は断たれてしまうのであった。 ヴァナ・ディールにいる仲間の声が届かないのはリンクシェル自体に何か問題がある可能性もあったので、 その確認という事も含め取り出したリンクパールをルイズに渡した。 「これをもってちょっとまってろ」 といい部屋を出るブロントをキョトンとした顔でルイズを両手でリンクパールを持ったまま見つめていた。 そして数秒後― [――おいィ?聞こえるか?聞こえていたらパールにはなしかけてみるべき――] とパールからブロントの声が発せられた。 突然語りだしたパールにビックリしてルイズは軽く飛び上がった後 「き、聞こえたわよ!?」 と大声でパールに向かって叫んだ。 [――怒鳴らなくてもいい――] とパールが答えたと同時にブロントが再び部屋に入ってきた。 「さすがに見ているもの見えないがこれでなるだろ耳」 「驚いたわ、遠くてもこれを通して会話できるの?」 「俺は細かい事まではわからないんだが、海の向こうにいる奴とも会話できる」 ブロントはリンクシェル自体に何か問題があるわけではないと安心した反面、会話ができないほど仲間達から離れている事だと知り落胆もした。 「これ私貰っていいの?貴重なものじゃないの?」 「俺がいた所では店で売っててだれでも買えるんだが」 ほぇーと惚けるルイズの気を惹く様に手を振ったブロントが続いた。 「他に使い魔がする事はあるのか?」 「え?ええ。えーと・・・二つ目に、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね」 「秘薬?エリクサーとかパナケイアとかか?」 「そんな伝説上の霊薬なんて期待してないわよ。特定の魔法を使うときに使用する触媒よ。硫黄とかコケとか・・・でも流石にこれはあんたには――」 王宮に衛兵としてでも黙って立っているのが相応しいこの男が、 つるはしをもって掘っていたり、まさかりを担いで木を切り倒したり、草刈鎌で植物を集めるわけが―― 「丁度いい。色々あちこち見ておきたかったからな。そのついでに集めておこう」 「――見つけてこれ・・・ってええっ?できちゃうの?」 「ああ、俺は依頼でよくそういう類の物を集めていたんだが」 「依頼?」 「俺は冒険者なんだが、入手が難しい素材の入手や僻地への届け物などの仕事を良く引き受ける事となっていた」 「そ、そう。では何か必要となったら頼むわ。」 この使い魔に対する評価が今日一日で波を打って上下するので喜ぶべきなのか落胆するべきなのか困ってしまうルイズだった。 「他にはにいのか?」 「後は・・・使い魔としてこれが一番なんだけど、使い魔は主人を守る存在であるのよ!その能力で、主人を敵から守るのが一番の役目!」 「誰に話しかけていると思っているわけ?ナイトであるこの俺が『盾』として他の使い魔に遅れを取るはずがない」 「あんた、エルフなのに『シュヴァリエ』なの!?」 「エルヴァーンだ、そしてその『シュッばリエ』なんてものではない。だが仲間の『盾』となって守ってしまうのがナイト」 ルイズには半分もよく理解できなかったがブロントが言うナイトとは、貴族の称号として意味ではなく、一種の役割や生き方であるらしい。 確かにこのブロントは何かと戦っていた所で召喚されたと言っていた。先住魔法は使えないと言ってはいたが、 強力な防御魔法<カウンター>を持っているエルフ達を守る役割を担っていたのであれば、 少しは期待できるかもしれないと思った。 もっとも魔法が使えないのであれば平民の衛兵程度なのであろうとあまり期待はしていなかった。 「そ、そう、思っていたよりは色々できそうな使い魔ね。」 「それほどでもない。召喚される前に剣を落としてしまって武器がない。この盾だけでも守れなくも無いができれば剣の一つも持っておきたいのだが」 「ここは魔法学院だからそんなものは無いわね。ああ、それからアンタは私の使い魔なんだから雑用もしてもらうわよ。」 「雑用だと?」 「そうよ洗濯。洗濯。今は一応平民として振舞うんだから貴族であってあんたのご主人様である私に雑用任せるのは不自然でしょ?」 「あまりそういうのは得意ではないが仕方が無い」 冒険者として外出が多かったブロントは家の事は人間達にとっては珍しく友好的であった獣人のモーグリ達にまかせっきりであった。 外出中の野営の仕方や自分の身の回り事は自分の力でなんとかなったが、家の事となるとモーグリが勝手に済ませてしまうので 自分で掃除や洗濯をやった事はあまりなかった。 「じゃあそこにあるものを明日になったら洗濯しておいて」 とルイズは洋服が入った籠を指差した。 「わかったその依頼はやっておこう」 「全然わかってないわよ、報酬をだす依頼と違ってこれは使い魔としての義務なんだから。あんたがやって当然なの」 「ほう、まあ使い魔の役割は大体わかった。それ以外の時は自由にしてていいか?なるべく周りの事を調べておきたいんだが何かあればリんクパールで伝えてくれればいい」 「そうね、あんたどうもこの辺の常識がわかっていない所があるみたいだから私が恥をかかないためにも色々知っておくといいわね。 でもこれは絶対に約束してよ、アンタが起こす恥は主人である私の恥になるんだからくれぐれもヴァリエール家の恥となる事だけはしないでよ」 「ああ誓おう。ナイトである俺がそんなへまはしない」 「ならいいわ――それにしても今日は何かとっても精神的に疲れたわ。もう寝るからちょっと着替えるの手伝いなさい」 「勝手に着替えればいいだろう?」 「あんたねえ、一応貴族の従者なんだから主人が着替える時は手伝うのもさっき言った雑用の一つなの」 いつ野獣や獣人にに襲われるか判らない野営中でも重い甲冑を素早く着替える術を持っていたブロントには着替えを他人に手伝わせる意味がわからなかったが「そういうものなんだろう」と思い黙った。 そしてルイズが命じるままに洋服棚からネグリジェと下着を出して、 (なんだ防具的価値も無いただのお祭り装備か) とその手にもったネグリジェを鑑定してから服を脱ぎ始めたルイズを ブロントはルイズをじっとみつめた。 「ほう意外と凄いものだな」 「!!」 「思っていたよりもいい」 上半身が裸になり始めたところで突然思ってもいなかった事を口走る美形の使い魔にルイズは顔を真っ赤にして慌てた 「ば、ばば馬鹿!あんた一体主人である私を見て何考えて「いい素材を使った実に魔道士向けだなこの服」大体私のむ・・・え?」 「ただの布装備としては思ったよりある程度の耐久性はあるようだな。魔法が唱えやすそうな工夫もしてあるようだ」 「・・・そ、そうなんだこの制服・・・も、もちろんそっちのほうの話よね。・・・もう」 そうしてルイズはネグリジェ姿になり「私の胸だってそのうち・・・」とかぶつぶつ呟きながらベッドに入り始める 「俺はどこで寝ればいい?」 「あんたの寝床はそこの床、毛布ぐらいは貸してあげ「ここを使っていいんだな」」 とルイズがブロントに渡す毛布の一枚に手を伸ばし目を離した隙に「パカン!」と言う音がしてさっき寝床に使って良いと指した床の位置には ―実に寝心地よさそうな木製のベッドがあった。 「植木鉢も置いていい「まて」」 「何だ?植物は嫌い「まてまて」」 「世話は俺が「ちょっと!待ちなさいよ!」」 ルイズは自分のベッドから飛び上がり、突如現れたもう一つベッドを指差した。 「何よそれ!何よ!?」 「マホガニーベッドだが?お前知らないのか?」 ブロントは手を顎に当て首を傾げる。 「そういう事聞いてるんじゃないわよ!どっからそれ持ってきたの!?」 「かばんにはいっていたものだが?」 「一体どこの馬鹿がベッドを運んだまま歩き回るっていうの!」 「これはたまたま人に貸していたものを返して貰ってそのまま冒険にでていた事は稀によくある事」 「ないわよ!そもそもアンタのかばんにそんな大きなものが入るわけ無いでしょ!」 はビシッとブロントの腰に充ててある枕程度の大きさのかばんを指差した。 「少し入れ方を工夫すればいい。入れる順番を考えれば入る」 「そんな事で入るか!」 「何だやっぱり木製なのが嫌いか?何だったらブロンズベッドを―」 「そこ、さりげなく更に恐ろしい事言わない!確かに普通よりちょっと大きく見えるけれどそのかばんは一体どれだけはいるのよ!」 「かばんを大きくして貰った奴に『ゴウツバクリ』とかは言われたな。どれ位入っているのか中身だし―」 「それだけはやめなさい、いや、本当お願いだからやめて。何かこの部屋がとんでもない事になりそうだからやめて。」 「他にも植木鉢を一つだけ置いておきたいんだがそれぐらいはいいか?」 ルイズはハァーとため息を付いた 「・・・アンタねえ・・・その『でてしまった』ベッドと鉢植え一個だけなら特別に許すから本当にそれだけよ? 言っておくけどここは私の部屋なんだから!ご主人様である私の部屋なの!」 「わかった」 とブロントはそう言ってかばんから取り出す所を見る間も無くいつの間にか手にしていた植木鉢を窓の側に置いて、そしてその鉢に土がついていた夢幻花を丁寧に植えた。 その白い薔薇のような花は窓から風が吹き込むたびに何かとても落ち着く香りが部屋中に漂わせた。 「良い香りね、その花どうしたの?」 「俺が召喚される前に採ったものなんだが鉢に変えて置かなければこれはすぐに枯れてしまう。」 「へぇーアンタ見た目によらず花の事詳しいんだ?」 「それほどでもない俺はどちかというと花は全然わからない方だ。ただこの夢幻花だけは気に入ってる。」 「そう、良い夢がみれそうな花の名前ね」 と答えた後ルイズはしばらく自分のベッドの上からしばらくその白い花を眺めていたのかだんだん睡魔が本格的になってきたのを感じて 「・・・明日・・・朝起こしてよね・・・」 と、うつらうつらとした様子でベッドに潜り込み、寝息をすぅすぅと立て始めた。 その様子をしばらく見守っていたブロントは部屋の明かりを吹き消し、自分もまたルイズに続いて自分のベッドで眠りに落ちた。 第2話 「異界の使い魔」 / 各話一覧 / 第4話 「正しいあいさつ」
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前ページ謙虚な使い魔 第3話 「若きルイズの憂鬱」 「おいィ、月が二つあるようなんだが。」 ルイズの部屋の窓からブロントは月を見上げていた。 空には青と赤の双月が浮かんでいた。 ヴァナ・ディールでは月の光る色や位置で曜日や時間を計り、そしてその満ち欠けによって様々な事柄が影響されていると信じられていた月は野外で活動する事が多い冒険者とっては月の観測は大事な行動の一つであった。 最初はヴァナ・ディール内のどこか遠方に召喚されいたと思っていたのだが、こうして窓の外にはっきりと双月がある所を見てしまうと単純に遠方に来ただけでは無い様に思えてきた。 完全なる異世界に来たのであれば帰還の魔法『デジョン』で戻れなかった事もそれとなく納得がいった。 「平民を装うのは良いけど、いくら平民でもそこまでは馬鹿じゃないわよ。月なんていつも二つでしょ。」 エルフの最大の特徴である先住魔法も使えないというこの平民として振舞うしかない使い魔に対する扱い方を考えている途中にすっとぼけた事を言うブロントにルイズはイライラしていた。 部屋に戻る途中に出会った同級生の何人かにも平民を召喚したという事でからかわられた。 ただでさえ皆に"ゼロ"と馬鹿にされてきたのだ、せめて自分の使い魔になめられる事だけは避けたかった。 少し不思議な道具などは持っているようだが魔法も使えないエルフなど長耳が生えた程度の平民でしかない。 エルフとばれて問題が起きる可能性があるだけ、普通の平民よりも性質が悪いと言えた。 そのぶっきら棒な口を開かなければ見た目はいいので、やはりビシビシと躾けて行こうと思ったルイズであった。 「俺がいたところには月は一つしかないが?」 「何よそれ?ずっと東方からは月が一つしか見えないとでも言うの?一体どれほど東にそのジュノ大公国とかというのはあるのよ。まさか本当にロバ・アル・カイリエの方にでもいたの?」 結局今回も双方の話がどこか噛み合わずは平行線のまま進歩しなかったので、この話題は取りあえず置いておく事にした。 「俺は使い魔となったようだが何をすればいいんだ?」 「まずは使い魔は主人の目となり、耳となる能力が与えられるわ」 「ほうそれは便利だな」 「でもあんたじゃ無理みたいな、何も見えないし聞こえないもん!」 「なんだ『リんクパっル』みたいなものがあればいいのか」 と言ってブロントはかばんから一つの貝殻のようなものを取り出し、その貝の口から綺麗な真珠の様な物を取り出した。 『リンクパール』と呼ばれるそれはブロントがハルケギニアに召喚される前までその真珠を通して離れている仲間とも会話をするために使っていた物であった。 しかし召喚された瞬間から真珠からは声がぱったりと途絶えていた。 『リンクパール』は同じ『リンクシェル』から作られたもの同士でしか通信できず、本体であるリンクシェルに異常があると 築き上げた通信の輪は断たれてしまうのであった。ヴァナ・ディールにいる仲間の声が届かないのはリンクシェル自体に 何か問題がある可能性もあったのでその確認という事も含め取り出したリンクパールをルイズに渡した。 「これをもってちょっとまってろ」 といい部屋を出るブロントをキョトンとした顔でルイズを両手でリンクパールを持ったまま見つめていた。 そして数秒後― [――おいィ?聞こえるか?聞こえていたらパールにはなしかけろ――] とパールからブロントの声が発せられた。 突然語りだしたパールにビックリしてルイズは軽く飛び上がった後 「き、聞こえたわよ!?」 と大声でパールに向かって叫んだ。 [――怒鳴らなくてもいい――] とパールが答えたと同時にブロントが再び部屋に入ってきた。 「さすがに見ているもの見えないがこれでなるだろ耳」 「驚いたわ、遠くてもこれを通して会話できるの?」 「俺は細かい事まではわからないが海の向こうにいる奴とも会話できる」 ブロントはリンクシェル自体に何か問題があるわけではないと安心した反面、会話ができないほど仲間達から離れている事だと知り落胆もした。 「これ私貰っていいの?貴重なものじゃないの?」 「俺がいた所では店で売っててだれでも買えるんだが。」 ほぇーと惚けるルイズの気を惹く様に手を振ったブロントが続いた。 「他に使い魔がする事はあるのか?」 「え?ええ。えーと・・・二つ目に、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね」 「秘薬?エリクサーとかか?」 「そんな凄い物じゃないわよ。特定の魔法を使うときに使用する触媒よ。硫黄とかコケとか・・・でも流石にこれはあんたには――」 王宮に衛兵としてでも黙って立っているのが相応しいこの男がつるはしをもって掘っていたり、まさかりを担いで木を切り倒したり、草刈鎌で植物を集めるわけが―― 「丁度いい。色々あちこち見ておきたかったからな。そのついでに集めておこう」 「――見つけてこれ・・・ってええっ?できちゃうの?」 「ああ、俺は依頼でよくそういう類の物を集めていた」 「依頼?」 「俺は冒険者なんだが、入手が難しい素材の入手や僻地への届け物などの仕事を良く引き受けていた」 「そ、そう。では何か必要となったら頼むわ。」 この使い魔に対する評価が今日一日で波を打って上下するので喜ぶべきなのか落胆するべきなのか困ってしまうルイズだった。 「他にはにいのか?」 「後は使い魔としてこれが一番なんだけど使い魔は主人を守る存在であるのよ!その能力で、主人を敵から守るのが一番の役目!」 「誰に話しかけていると思っているわけ?ナイトであるこの俺が『盾』として他の使い魔に遅れを取るはずがない」 「あんた、エルフなのに『シュヴァリエ』なの!?」 「エルヴァーンだ、そしてその『シュッばリエ』なんてものではない。だが仲間の『盾』となって守ってしまうのがナイト。」 ルイズには半分もよく理解できなかったがブロントが言うナイトとは貴族の称号として意味ではなく、一種の役割や生き方であるらしい。 確かにこのブロントは何かと戦っていた所で召喚されたと言っていた。先住魔法は使えないと言ってはいたが、 強力な防御魔法<カウンター>を持っているエルフ達を守る役割を担っていたのであれば少しは期待できるかもしれないと思った。 もっとも魔法が使えないのであれば平民の衛兵程度なのであろうとあまり期待はしていなかった。 「そ、そう、思っていたよりは色々できそうな使い魔ね。」 「それほどでもない。召喚される前に剣を落としてしまって武器がない。この盾だけでも守れなくも無いができれば剣の一つも持っておきたいのだが」 「ここは魔法学院だからそんなものは無いわね。ああ、それからアンタは私の使い魔なんだから雑用もしてもらうわよ。」 「雑用だと?」 「そうよ洗濯。洗濯。今は一応平民として振舞うんだから貴族であってあんたのご主人様である私に雑用任せるのは不自然でしょ?」 「あまりそういうのは得意ではないが仕方が無いな。」 冒険者として外出が多かったブロントは家の事は人間達にとっては珍しく友好的であった獣人のモーグリ達にまかせっきりであった。 外出中の野営の仕方や自分の身の回り事は自分の力でなんとかなったが、家の事となるとモーグリが勝手に済ませてしまうので 自分で掃除や洗濯をやった事はあまりなかった。 「じゃあそこにあるものを明日になったら洗濯しておいて」 とルイズは洋服が入った籠を指差した。 「わかったその依頼はやっておこう。」 「全然わかってないわよ、報酬をだす依頼と違ってこれは使い魔としての義務なんだから。あんたがやって当然なの」 「ほう、まあ使い魔の役割は大体わかった。それ以外の時は自由にしてていいか?なるべく周りの事を調べておきたいんだが何かあればリんクパールで伝えてくれればいい」 「そうね、あんたどうもこの辺の常識がわかっていない所があるみたいだから私が恥をかかないためにも色々知っておくといいわね。 でもこれは絶対に約束してよ、アンタが起こす恥は主人である私の恥になるんだからくれぐれもヴァリエール家の恥となる事だけはしないでよ」 「ああ誓おう。ナイトである俺がそんなへまはしない」 「ならいいわ――それにしても今日は何かとっても精神的に疲れたわ。もう寝るからちょっと着替えるの手伝いなさい」 「勝手に着替えればいいだろう?」 「あんたねえ、一応貴族の従者なんだから主人が着替える時は手伝うのもさっき言った雑用の一つなの」 いつ野獣や獣人にに襲われるか判らない野営中でも重い甲冑を素早く着替える術を持っていたブロントには態々着替えを他人に手伝わせる意味がわからなかったが「そういうものなんだろう」と思い黙った。そしてルイズが命じるままに洋服棚からネグリジェと下着を出して、 (なんだ防具的価値も無いただのお祭り装備か) とその手にもったネグリジェを鑑定してから服を脱ぎ始めたルイズを ブロントはルイズをじっとみつめた。 「ほう意外と凄いものだな」 「!!」 「思っていたよりもいい」 上半身が裸になり始めたところで突然思ってもいなかった事を口走る美形の使い魔にルイズは顔を真っ赤にして慌てた 「ば、ばば馬鹿!あんた一体主人である私を見て何考えて「いい素材を使った実に魔道士向けだなこの服」大体私のむ・・・え?」 「ただの布装備としては思ったよりある程度の耐久性はあるようだな。魔法が唱えやすそうな工夫もしてあるようだ」 「・・・そ、そうなんだこの制服・・・も、もちろんそっちのほうの話よね。・・・もう」 そうしてルイズはネグリジェ姿になり「私の胸だってそのうち・・・」とかぶつぶつ呟きながらベッドに入り始める 「俺はどこで寝ればいい?」 「あんたの寝床はそこの床、毛布ぐらいは貸してあげ「ここを使っていいんだな」」 とルイズがブロントに渡す毛布の一枚に手を伸ばし目を離した隙に「パカン!」と言う音がしてさっき寝床に使って良いと指した床の位置には ―実に寝心地よさそうな木製のベッドがあった。 「植木鉢も置いていい「まて」」 「何だ?植物は嫌い「まてまて」」 「世話は俺が「ちょっと!待ちなさいよ!」」 ルイズは自分のベッドから飛び上がり、突如現れたもう一つベッドを指差した。 「何よそれ!何よ!?」 「マホガニーベッドだが?お前知らないのか?」 ブロントは手を顎に当て首を傾げる。 「そういう事聞いてるんじゃないわよ!どっからそれ持ってきたの!?」 「かばんにはいっていたものだが?」 「一体どこの馬鹿がベッドを運んだまま歩き回るっていうの!」 「これはたまたま人に貸していたものを返して貰ってそのまま冒険にでていた事は稀によくある事」 「ないわよ!そもそもアンタのかばんにそんな大きなものが入るわけ無いでしょ!」 はビシッとブロントの腰に充ててある枕程度の大きさのかばんを指差した。 「少し入れ方を工夫すればいい。入れる順番を考えれば入る」 「そんな事で入るか!」 「何だやっぱり木製なのが嫌いか?何だったらブロンズベッドを―」 「そこ、さりげなく更に恐ろしい事言わない!確かに普通よりちょっと大きく見えるけれどそのかばんは一体どれだけはいるのよ!」 「かばんを大きくして貰った奴に『ゴウツバクリ』とかは言われたな。どれ位入っているのか中身だし―」 「それだけはやめなさい、いや、本当お願いだからやめて。何かこの部屋がとんでもない事になりそうだからやめて。」 「他にも植木鉢を一つだけ置いておきたいんだがそれぐらいはいいか?」 ルイズはハァーとため息を付いた 「・・・アンタねえ・・・その『でてしまった』ベッドと鉢植え一個だけなら特別に許すから本当にそれだけよ?言っておくけどここは私の部屋なんだから!ご主人様である私の部屋なの!」 「わかった」 とブロントはそう言ってかばんから取り出す所を見る間も無くいつの間にか手にしていた植木鉢を窓の側に置いて、そしてその鉢に土がついていた夢幻花を丁寧に植えた。 その白い薔薇のような花は窓から風が吹き込むたびに何かとても落ち着く香りが部屋中に漂わせた。 「良い香りね、その花どうしたの?」 「俺が召喚される前に採ったものなんだが鉢に変えて置かなければこれはすぐに枯れてしまう。」 「へぇーアンタ見た目によらず花の事詳しいんだ?」 「それほどでもない俺はどちかというと花は全然わからない方だ。ただこの夢幻花だけは気に入ってる。」 「そう、良い夢がみれそうな花の名前ね」 と答えた後ルイズはしばらく自分のベッドの上からしばらくその白い花を眺めていたのかだんだん睡魔が本格的になってきたのを感じて 「・・・明日・・・朝起こしてよね・・・」 と、うつらうつらとした様子でベッドに潜り込み、寝息をすぅすぅと立て始めた。 その様子をしばらく見守っていたブロントは部屋の明かりを吹き消し、自分もまたルイズに続いて自分のベッドで眠りに落ちた。 前ページ謙虚な使い魔
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学院の教室。一施設の設備としては広大な部類に入る。 そのまま教室に入ると一斉に視線を浴びる2人。 不思議に思い考え込む霧亥。周りをにらみ返すルイズ。 しばらくすると霧亥の興味は、見たことの無い生物に向けられる事になった。 中年の女性が教室に入ってくる。挨拶もそこそこに、彼女は使い魔について思うことを幾つか口にした。 その段になってまたルイズとクラスメートの諍いが起こる。近くの男によれば定番のやりとりらしい。 騒ぎが静まれば、今度はシュヴルーズ(中年の女性の名前だ)が魔法について講義を始めた。 霧亥にとってそれは幻想的な光景だった。もちろん余りに現実離れした、という意味で。 なにせこれだけの人間が一堂に会して、それなりに真面目に『魔法』なんてものについて語る。 ネットスフィアが混沌に沈む前までは残っていた、ありふれていた、現実だった筈の光景。 懐かしい、と思う自分がいることに気づいたのは、ルイズが壇上に立って現実を再認識した時だった。 「ミス・ヴァリエール。練金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 「はい先生。私、やります」 力場が不確定要素により変化して不純物の塊を置換。次に、別のエネルギーが空間と対象の物体に干渉する。 それを認識してから0.5秒後に霧亥は空を飛んでいた。つまりルイズが魔法を行使して、石を机ごと吹き飛ばしたのだ。 「先生が倒れているぞ!」 「だからゼロのルイズに魔法を使わせるなって!」 「メチャクチャだ…誰か手を貸してくれ!」 さながらセーフガードに襲撃された集落を眺めているかのようであった。 その辺の地面に転がっている石を持ち上げれば、似たような状況を昆虫に見ることが出来るかもしれない。 つまり、パニックだ。 霧亥は『魔法』の存在を疑うことはしなかった。要するに理解できない未知の技術だろう、と納得していた。 しかしそんな中でルイズには心理的動揺が見られないこと、本人のダメージが少ない事に対しては驚かされていた。 いくつか理屈をもっともらしい分析で飾り付ければ、確かに彼女の状況を説明することは出来るだろう。 だけどそんなことを誰もしなかった。当の彼女自身でさえ、そんな理屈は必要としていなかった。 彼女の魔法は常に失敗するのだ、と誰かがぼやく。彼女もそれを認め、少し失敗したわ、と呟いた。 別室で老人が美女に蹴り飛ばされている頃、霧亥とルイズは2人で黙々と瓦礫の片付けを続けていた。 幸いにも生命活動を停止した生物はいなかった。ただ、ほんの少しの失敗で盛大に部屋が壊れただけである。 「私、魔法が成功しないのよ。だからゼロって呼ばれてるの」 「そうか」 それ以上、霧亥は何も言わず、ただ黙々と作業は続く。 霧亥は超構造体に無数に存在した建設者のことを思い出していた。 あとは作業が終了するまでの時間を概算し、タスクを解決するだけ。 ルイズも手伝ってくれているので、少しは早く終わるだろうか。 「ねえ、霧亥の世界に魔法は無かったの?」 「お前たちのような技術は無い」 「じゃあどうやって暮らしているの?」 「場所によって違う」 「…そう」 無事な机は元の位置に戻され、戻しようの無いほど壊れた机は適当に部屋の隅へ放り投げられる。 割れたガラス片はずた袋の中に纏められ、新しい窓を運び込む。煤で汚れた卓上を拭いて、元の位置に戻す。 所要時間89分。タスク完了。 「私、やっぱりダメなのかしら。満足に『錬金』もできないなんて」 ガゴン、と最後の机が元に戻る音がした。霧亥は手を止めて、こう答える。 「魔法そのものが使えないわけじゃない」 「私だって努力したわ!だけど何をやっても魔法使いらしいことは何一つできないのよ!」 「俺を転送したのは魔法じゃないのか」 「信じられないかもしれないけど、あんたが最初の成功だったのよ?次はコントラクト・サーヴァント。やった、と思った…」 そこまで言ったルイズの瞳から涙が流れていた。 「変わったと思ったのに!やっと魔法が使えるようになったと思ったのに!結果はこれ?どうしてなのよ!」 煤だらけのボロ布が空しく地面に叩きつけられた。 霧亥はそれを拾い上げ、ルイズを真っ直ぐに見つめて言う。 「お前は一瞬だが魔法に成功していた」 「……失敗してたのはわかってる、わ。嘘なんて、つかないで。そう、わかってるの…もういい…」 「練金の直後、別のエネルギーが流れ込んでいた」 「だって……詠唱は完璧、だったのよ……」 嗚咽が言葉を途切れ途切れにするのを聞きながら、霧亥は自分の理解できる事象に置き換えて説明を試みる。 「聞け。さっき見た限り『練金』というのを、机の交換を行うようなものと考えろ」 廃棄された机を掴み新しい机の前に立つ。ルイズは話を聞くつもりらしく黙った。 「これを交換するのが『錬金』だ。だが、さっきのお前の『錬金』は…」 机の間に立ち、両方を突き飛ばした。 「今の俺みたいに別の何かが邪魔をしている。だから吹き飛んだんだ」 机を元の位置に戻した霧亥を、ルイズは呆けたような表情で見つめていた。 そして彼女の内臓が空腹を主張したことで正気に戻った。ほんのりと頬に朱がさしている。 「……い、行くわよ」 「わかった」 不安定なドライバで動くハードウェアのような彼女に頷くと、霧亥も食堂に向かって歩き出した。 ほんの1歩だけ彼女が距離を縮めた事には特に気づかずに…。
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キャラクター紹介 イメージAA / . . / .. . . . . / . / . .. . . \ . ヽ ヽ. / / . . ./ . \. . / . .{ l . . . . .. 、 . . . ヽ . }l . . . l l / . . / . . . . . . . X . . . ./l . .| . / . . 丶 . . . \. ヽ . . l . . l| . . . | | ハ . l . . . . . . . . | l \/ ! . .! . .! .ヽ . \ . ..} ヽ. ._ ヽ-‐| . . l| . . . ! | l l . . | . . . . . . . / l . .. l\|. . | . .l . .! .. . l. . . l イl . . | . . .| . . l| . . . l V l .! . | .i . . . . . . l ル≧ァz\l . . ', . . .jヽ. l∠j≦ .!. . ∧ . l . / ! . . . . ヽ ヒロインヒロイン /ヽ{ . .l .l . . . . . . . j彳 〃´¨ヾ\. . .ハ . . / ァ匕 j/ `ヾ`ミ<! .,' . . . lヽ . . . .. \ ヒロいーン! / . . .\i小 . . . . .l . l ヽ |l\__ /i`ヽ{ ヽ .. . 7´ |l \__ / i /ハ ./ . . . ,' . . \ . . . ... / . . . . . . . .\ l\ . .∨ 弋{ j.l j. / 代{ j ,' / j . . / . . . . . \ . .../ . . . . . . . . . . . . l `ヾハ vヘ三イソ '´ vヘ三イ/ / . . .∧ . . . . . . . \/ . . . . . . . . ./∨l . . . . ', '´ ``′ / . . ./ ヽ . . . . . . . . . . . . . . . . / l l . ヽ∧ ' ___ / . . . .l Y^ヽ . . . . . . . . . / i } . . ヽヘ ,,ィ´___ /`ヽ ,イ . . / . | / \ヽ . . . { ∨ . . .ヽ .\ 〃 } //. . ./ . . . l / ヾ . .} / . . . i . .ヽ>.、 ゞ _ノ イ . . . ,' . . . . .| } . j / . . . i . . . .} ヽ>`、 ー―‐ '´ィ< 〃 . . . ! . . . . . ! ./ . / ヽ / . . . . . l . . ./ \ \ ̄ / /{ . . . l . . . . . .ヽ ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール LV1 称号:ゼロ 【Louise the Zero】 種族:ヒューマン ♀ 歳:16歳 身長 153cm 体重:?? スリーサイズはB76/W53/H75 ジョブ:メイジ サポジョブ:? 本作【!!ヒロイン!!】 時空と次元の交差により本来の使い魔ではなく、ブロントさんを召喚した張本人。 ブロントさんへの適応能力は高い。使える魔法は【爆発】のみだが、本編では色々と活躍している? アイデンティティとも言えるツンデレ要素は薄め。 メイジとしての実力はドット以下のゼロ。使い魔ブロント。 好物:クックベリーパイ 趣味:編み物 特技:馬術、リアクション芸人 初期ステータス +... HP MP STR DEX VIT AGI INT MND CHR 短剣 片手剣 片手棍 両手棍 回避 受け流し コモン 火 水 風 土 虚無 F F F F G G E E D F F E E F F 0 0 0 0 0 E
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学院長室でオスマンとコルベールは、4人の報告を聞いていた。 「ふむ、つまり宝物は失ったが、そのお陰でフーケは捕らえることができたんじゃな」 霧亥は無言で頷いて、それを肯定する。秘薬とメイジの治療を受けたとはいえ、巻かれた包帯は痛々しいものだった。 「失った物は仕方が無い。フーケを捕らえ、なおかつ死人が出なかったことを幸いとしよう。 今回の君たちの勇敢な働きに応えるべく学院は君たち3人へ『精霊勲章』の推薦を行った。追って沙汰があるじゃろう」 3人の顔がぱぁっと輝いた。 「本当ですか?」 キュルケは驚いた声で言った。オスマンは静かにうなずく。 「……」 霧亥はオスマンを黙って見つめていた。オスマンに聞く事が、彼には存在した。 ルイズはそんな霧亥の視線を、少し勘違いしてはいるものの察することができた。 「オールド・オスマン。霧亥には何も無いんですか?」 「残念ながら彼は貴族ではないからの。使い魔である以上、彼の功績は自動的に主人である君に反映されるのじゃよ」 「そうですか……」 オスマンは思い出したかのように手を打つ。 「さて、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。トラブルはあったが外側だけでも宝は取り戻せたし、フーケも捕まった。 予定通りに執り行うとしよう。楽しむといいじゃろう」 キュルケの顔はぱっと輝いた。 「そうでしたわ!フーケの騒ぎですっかり忘れておりました!」 「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい着飾るのじゃぞ」 3人は礼をするとドアに向かった。だが霧亥は微動だにしない。 ルイズもキュルケもタバサも霧亥のことチラっと見つめて立ち止まった。 「先に行け。俺は聞くことがある」 切り替えが早いキュルケは笑顔で立ち去り、タバサが後に続く。最後のルイズも、頷いて出て行った。 「何かね?君は今回の最大の功労者じゃから、できる限りの力にはなろう」 「3つ聞きたいことがある」 「言ってみなさい」 コルベールは興味深げに、2人の会話に耳を傾けた。 「視界に文字が見える人間の話を聞いたことはあるか?」 オスマンは首を横に振った。 「あの『異界の板』は、いつ、どこで手に入れた?」 「ワシの命の恩人の遺品じゃよ。30年も前になるか…ワイバーンに襲われているところ、その者に助けられてのう」 「……助けた?」 「うむ、いきなり空に出現して落下してきたのでワシも驚いていたのじゃが、運悪くワイバーンも驚いてしまってな。 そのとき咄嗟に放った魔法は今でも忘れんよ。見えない力がワイバーンの首を綺麗に刎ねた、あの光景はな」 「それからどうなった」 「いきなり彼は倒れてしまったよ。今思えば、あれは彼の最後の力ではなかったかと……そう思うこともある」 「そのときに『異界の板』を手に入れたのか」 「彼は奇妙な鎧に身を包んでいたがそれはどうやっても外せんかったし、杖は一緒に埋葬するべきだと思ったからのう」 オスマンは遠い目をしていた。 「その男の遺体はどこにある」 「うむ?」 「墓を調べる必要がある」 「待ちなさい、どういうことかね?」 「男は俺と同じ世界から来た可能性が高い」 「世界?つまり君は別の世界から来たということかね?」 「ほほう。興味深いのう」 これにはコルベールが反応した。オスマンの目も光る。 「今から、というわけにはいかないが、墓は近いうちに見せてあげることはできるじゃろう」 「よろしいのですか?」 「かまわんよミスタ・コルベール。彼の功労無くしてはこの一件、君も含めた教員を動かさねばならんところじゃった」 「……もうひとつ聞きたいのは、これだ。何か知っている事はあるか?」 霧亥は自身のルーンの事も伝えた。自分の力では制御できない未知の存在。優秀な補助機能だが干渉が強制的なのも確かだ。 ルーンに関する知識を持たない彼にとってこれは危険なデバイスという認識だった。 そちらの方はすぐに正確な解答を得られることができた。 ガンダールヴ。魔法の祖の使い魔。あらゆる武器を使いこなす存在。魔法の詠唱を行う主の防衛を目的とする。 大剣と長い槍を用いたとされるがその武器が現存するかは不明。その知名度を利用した贋作も多数存在。 「ルイズは伝説の魔法使いなのか?」 「わからん。彼女はむしろ魔法の実技に関して言えば最低レベルと言ってもいいじゃろう。しかしな…」 「彼女の失敗は通常の失敗とも違う。少なくともあんな失敗例は正直なところ、異常です」 「と、ミスタ・コルベールの言うとおり、少し気になる点があるのも事実じゃ」 「……」 とにかく、とオスマンは言った。 「君には感謝している。あまり力にはなれないかもしれないが、私もコルベールも君の味方じゃ、ガンダールヴ。 おぬしがどういう理屈でここにいるのか、似たような事例は無いのか、私なりにあたってみるとしよう。でも」 「……?」 「何も判らんでも恨まんでくれよ?なぁに、この世界も住めば都。何なら嫁さんも探してやろう。ふぉふぉふぉ」 「…………」 霧亥は話は終わりだと言わんばかりに、踵を返して部屋を出た。そしてデルフリンガーに話しかける。 「デルフリンガー」 「ダメだ、思い出せない」 「そうか」 「悪ぃな相棒……」 「気にするな」 アルヴィーズ食堂の上層が大きなホールになっていて、舞踏会はそこで行われていた。 なぜ人々が踊るのかを霧亥は知らない。だが特に行くあてが無いので、会場の隅にひっそりと立っていた。 キュルケは男たちに囲まれて笑っている。タバサは料理と格闘中だ。 「こんばんは、キリイさん。噂では大変な活躍をしたと伺いました。あ、肉料理はいかがですか?」 「……くれると助かる」 給仕をしていたシエスタが話しかけてくる。あちこちで忙しそうに人々が動き回っていた。 「お怪我はよろしいのですか?」 「ああ」 モグモグと動物性のたんぱく質を摂取する。シエスタは気を利かせて、ワインの瓶を渡してくれた。 「不純物が多い」 「それは澱(おり)って言うそうですよ。古くて良いワインには、そういうものがあるそうです」 「そうなのか」 「マルトーさんの受け売りですけどね……でもキリイさん、凄いですね。フーケを捕まえちゃうなんて」 「偶然だ。運が良かった」 このセリフはデルフリンガーの受け売りだ。どうせ何度か聞かれるだろうから、という彼の見込みは正解だった。 運というのは、この世界では確率よりも通りが良くて当たり障りの無い表現だ。 霧亥は特に反対する理由は無いので、こういう状況での言動はデルフリンガーの提案を採用することにした。 「でも、やっぱりすごいですよ」 「それが役割だ。俺にシエスタのような技術は無い」 「役割ですか」 「洗濯は苦手だ」 「……キリイさんって、実は面白い人ですね」 くすくすとシエスタが笑い出した。なぜ笑っているのか霧亥には理解できない。 「あ、私、そろそろ仕事に戻らなくちゃ。何か欲しいものがあったら言ってくださいね」 「わかった」 シエスタが去ってから暫くして、ホールの壮麗な門が開かれていった。 騎士と思しき兵装の男が、声高々にルイズの到着を告げる。 楽師達が音楽を奏で、多くの男たちが今まで小馬鹿にしていた美しい少女へとダンスの誘いへ向かっていく。 しかしルイズはそれらの誘いを全て断ると、霧亥の元へと真っ直ぐ歩いてきた。 「楽しんでる?」 「……」 無言で肉料理をルイズへ差し出す霧亥。ルイズはひとつそれを口に運ぶと、美味しい、と言った。 霧亥は近くにあったテーブルにトレイを戻すと、ふたたび壁に寄りかかる。 「おお。馬子にも衣装じゃねーか」 デルフリンガーもルイズに気づいたのか、そう言った。 「文句ある?」 ルイズはどこに持っていたのか、杖を取り出す。 「いえ、全然大丈夫です」 「踊らないのか」 霧亥はルイズに尋ねた。 「相手がいないの」 「あれは誘いじゃなかったのか?」 ルイズは無言で霧亥へ手を差し出した。 「どうした」 「お、踊ってさしあげても、よくってよ」 霧亥は首を横に振る。 「それは俺の役割じゃない。それに両腕が完治しないとあの動作は困難だろう」 「あ……そっか、腕……」 ルイズはしばらく無言だった。音楽だけが、静かに流れている。 「ねえ、霧亥。私、信じてあげるわ」 「……?」 「あなたが別の世界から来たってこと。あんな道具、私、見たこと無いもの」 「そうか」 「私の姉さまが王立魔法研究所の研究員だから、私も少しはマジックアイテムなんかには詳しいの。 それで、その道具がマジックアイテムかどうかを調べる魔法があるんだけど、その魔法では引っかからなかったみたいね」 「……」 ルイズは俯いた。 「ねえ。帰りたい?」 「戻って確認したいことがある。その為にも情報が必要だ」 そうよね、と彼女は呟いた。それから頬を赤らめると、思い切ったようにこういって来た。 「ありがとう。その、フーケに人質に取られたとき、助けてくれて」 「気にするな」 そう霧亥は答えた。 「俺は使い魔としての役割を果たしただけだ」 「おでれーた!」 静かにパーティを眺める2人の後ろでデルフリンガーが感嘆の声を漏らす。 「主に踊りを誘われる使い魔も見るのも、それを断る使い魔を見るのも、俺ァ初めてだぜ!」
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行きは2人だが帰りは4人となり、そのうち2人は喧嘩をしていた。ルイズとキュルケだ。 賑やかなのを通り越して煩くなったが、移動による疲れもあってじきに静かになった。 「やっと黙ったか?うるせー娘っ子達だ。ちったー慎みってのを覚えたほうがいいな」 「何ですって!? …って、あらダーリン。インテリジェンスソードなの?それ」 「……そうらしい」 「あえてそんな口の悪い錆びてる剣を選ぶなんて、やっぱり面白くて素敵だわダーリン♪」 「いつアンタのダーリンになったのよツェルプストー!」 「あら私の前じゃ…」 「「……」」 タバサが少しだけ眉をひそめていた。本が読みたいのだが捗らないらしく、黙って竜を操っている。 しかしそのまま喧嘩が再燃しそうなのをとうとう腹に据えかねたのか、おもむろに杖を振るった。 「うるさい」 「う、わ、悪かったわよ……ところで誰よアンタ。何でツェルプストーと一緒にいるの?」 「あたしの友達だからよ。この風竜は彼女の使い魔なの」 「タバサ」 「え、霧亥も知ってるの?」 「図書館で助けてもらった」 タバサが頷く。様々な視線が4人(主に霧亥を除いた3人)の間で交差する。 その後は誰も喋ることなく、夕食の時間になるころには学院に戻ることができた。 空に月がぼんやりと浮かびあがり大地を照らすころ、4人は外にいた。 結局タバサと霧亥は2人の喧嘩を止めることができなかった。 そして壁にヒビが入る。 「あたしの勝ちね、ヴァリエール」 「うう、屈辱…」 「帰るぞ」 霧亥が戻ろうとしたその時、地鳴りとともに地面が隆起して巨大な人の姿を形成していく。 「……素材が地面と同じもので構築されている。何だあれは」 「きゃあああああああああ!ゴーレム!?」 「盗賊!?ちょっと霧亥!なにボサっとしてるのよ!」 「行け」 「いいからこっちに「逃げるわよヴァリエール!」ちょっとツェルプストー!離してよ!」 「乗って」 霧亥はデルフリンガーに手をかけながら様子を伺うと、いつでも回避できるように構える。 一方で2人をレビテーションで浮かばせたタバサがそのまま風竜で2人を掴むと距離をとる。 ゴーレムは、ルイズとキュルゲがタバサの風竜で逃げ、霧亥がじっと眺めているのも意に介さない。 そのまま壁を破壊して中が見えると、黒いローブを身に纏った盗賊が宝物庫に侵入した。 しばらくして何かを持ち出してくる。それは長方形のプレートのようなものだった。 壁に何か文字を刻んで、悠々と立ち去っていく。誰も止めるものはいない。 「これが『異界の板』ね…いったい何なのか知らないけど、確かに2つとない宝だわ」 黒いローブの正体は『土くれ』のフーケという。 フーケはルイズ達の存在に気づいているが、この距離なら顔は見られないだろうと思っている。 顔さえ見られなければ、後はどうとでも誤魔化すことができる。それは事実だった。 霧亥はフーケの顔より手に持った道具に目を奪われた。 素材までは判別できなかった。だが見逃せない刻印があったのだ。 縦線と十字架を左右対称に刻んだ、その文様。 「セーフガード」 網膜の表示を確認した霧亥は、フーケの追跡を開始した。 2人が野を駆けている。一人は逃げて、一人はそれを追いかけている。 フーケが背後を振り返れば、夜の闇に紛れて竜が追いかけてくるのも見ることができた。 だが追跡してくる霧亥を確認して以来、フーケに振り返る余裕はない。 「(大剣を持ったままでなんてスピードだい?さっきから随分走ってるのにと、ちっとも疲れが感じられない…)」 このままでは霧亥に追いつかれるのは明らかであるのをフーケは認識する。 その追跡者を振り切るべく、3回同じ呪文を唱え、続いて別の呪文を1度唱えた。 「おでれーた!この速度なら追いつけるぜ相棒!」 「様子が変だ」 異変を察知した霧亥は、走りながらデルフリンガーに手をかける。 「エネルギーを計測…周囲の素材でまた何か生成している」 「ありゃゴーレムだ。魔力が小さい?ゴーレムにはもっと…けど数が11、12…まずい、まずい!」 「黙っていろ」 ルーンが起動し、霧亥が戦闘行動を開始する。 胴体を両断。縦に両断。胸に突き立てたデルフリンガーを抜く間に襲い掛かるゴーレムを殴って動きを止める。 だがその間に別のゴーレムが霧亥を思い切り殴りつけ、デルフリンガーごと霧亥の体が宙を舞う。 3メイルほど飛んだかと思うと、霧亥は口から血を流しながらデルフリンガーを支えに立ち上がった。 「やられたぜ相棒。他のゴーレムは単なる土人形か単なる土の造形で、本命はあいつだ」 「……」 鈍い音を立てて近寄ってくるそのゴーレムをデルフリンガーを振りぬいて破壊する。 ズン、と鈍い音を立てて全てのゴーレムは元の素材に戻った。 後には土くれの山が出来上がっただけである。 「なあ、ちょっといいかい」 「……」 学院に向かって歩いてかえる霧亥に、デルフリンガーが話しかけた。 「今ので思い出したことがあるんだ。俺の刀身で触れた攻撃魔法を吸収して動力に変換できる。 今のゴーレムは厳密には攻撃魔法じゃないから無理だが、役に立てそうかい」 「ああ」 「良かった。あともし何かあったとしても、一時的ならこっちで所有者の体を操作できる。ある程度の魔法を吸収してないとダメだけどな。 それに手に持ってくれないと無理だ」 「……」 霧亥は立ち止まってデルフリンガーをじっと眺めた。しばらくしてデルフリンガーが弁解する。 「待ってくれ!あくまでも緊急避難用だし動作優先権はそっちの方が上位だ!勝手に操ったりしねーって! まさかここに置いていこうなんて考えてないよな?」 霧亥は答えず、黙って歩く。風竜がこちらに接近してくる。 「なっ?せっかくいいコンビになれそうなんだ。俺ッちが機能を回復させれば探索も楽になるぜ。だから捨てないでくれよ相棒」 「……帰るぞ」 その後で心配する3人をよそに、霧亥は歩いて学院まで戻った。 翌朝になってもまだ、学院は『土くれ』のフーケについてで大騒ぎになっていた。 教員一同は詳しく現場を調べたり、生徒たちに事情を説明したりしていた。 昼前になるころには目撃者に対する聴取が行われていた。 この時に教員一同を集めてルイズ、キュルケ、タバサを召喚するべきだと提案した教員はコルベールという。 コルベールはかつて従軍していた経験もあって、こういう異常事態にも適応力を持つ人だ。 今回も慌てる教員や生徒たちに対して、冷静に沈静化を図るべく行動をしていた。 「申し訳ないが、君たちには事件について話してもらわなくてはならない」 こうして3人と使い魔である霧亥(トカゲ2匹は大きさと有効性が無いと判断されて放置された)は 教員一同と学院のトップに囲まれることになった。 「さあ、見たことを詳しく説明してくれたまえ」 進み出て語りだしたのはルイズだった。 「大きなゴーレムが壁を壊して、その肩に乗っていた黒いローブのメイジが何かを持ち出したんです」 「つまり、君たちが魔法の練習をしていたところに『土くれ』のフーケがゴーレムで現れたと」 そう尋ねるのはオスマン学院長。動揺よりも疲労感のほうが色濃い。 「それで?」 「城壁を越えてゴーレムは歩いてきました。そしたら私の使い魔がフーケを追いかけていって…」 「なんと!君の使い魔が『土くれ』のフーケを?」 これには多くの教員たちが驚いた。だがルイズの次の発言に、更に教師たちは驚かされる。 「それで、私たちは使い魔を追いかけたんです。とても危険なことだと思いました。 そうしたら霧亥…使い魔は、少し進んだ先で無数のゴーレムと戦って足止めされていました。 結局は逃げられてしまったようなのですが……」 「戦った?一生徒の使い魔が、あのフーケのゴーレムと?ならば無事なわけが」 「いやいやギトー先生、彼は以前、グラモン家の子息との血統で…」 「だけどあの黒い服は確かに怪しい……」 静粛に、というオスマンとコルベールの声により沈黙が取り戻される。 「君は…確かキリイという名前だったね。キリイくん。君はフーケについて何か知らないかね。どんな些細な事でもいい」 「俺が見た限りでは――」 霧亥が答えようとしたとき、遅れてミス・ロングビルが現れた。彼女はオスマンの秘書だ。 「……と、いうことで私が調べたフーケの報告は以上です」 「ふむ、この生徒たちの証言とも辻褄が合うな」 彼女は遅刻に対する非難の目を意に介さず、調べ上げたデータを報告した。 「ではフーケに対する捜索隊を編成する。我こそは、と思うものは杖を掲げよ」 コルベールの最初の提案は政治的な都合により却下され、捜索隊が編成されることになった。 だが志願する教員はいない。フーケの実力からして、下手をすれば戦闘になるからである。 そのまま無言で部屋を出て行こうとする霧亥と、それに気づいて杖を掲げるルイズ。 「行きます」 それに合わせてキュルケとタバサも杖を掲げた。 「しかしタバサが『シュヴァリエ』の称号を持ってるとはね」 彼女たちは馬車に揺られている。移動に疲労せず魔力を使わずに済むように、という配慮である。 御者を務めるのはロングビルである。戦力になり、道を知っている、というのが選出の理由だった。 「ところでミス・ロングビルは…」 「よしなさいよ」 「あら、いいじゃない」 霧亥はロングビルを何度か眺めるとじっとしている。 タバサは本と霧亥を交互に眺めてから、本を読むことに専念した。 そして一向は馬車を降りて森へと向かっていく―――… 一向は開けた場所に出た。森の中の空き地。広さはそこそこ。 真ん中に廃屋が1軒だけ存在している。 「わたくしの聞いた情報では、あの中にいるという話でした」 ミス・ロングビルは廃屋を指差してそういった。人が住んでいる気配は無い。 そんな気配よりも雄弁に語る情報を霧亥は見ていた。4人が相談をすべく集まるが、霧亥は歩いて小屋へ近づく。 「ちょっと霧亥!」 「あの中に有機…生き物は存在しない」 戸惑う4人を意に介さず、そのまま近づいてドアノブに手をかける。 鍵すらかかっていないドアは乾いた音を立てて開け放たれた。 「近くにフーケがいないかどうか、偵察に行ってきます」 そう言い残してミス・ロングビルは森の中に消える。 他の3人は、罠が無い事を確認すると小屋の中に入ってきた。 持ち去られた品物の奪還が、この捜索隊のひとつの目的だからである。 「異界の板」 発見したのはタバサだった。それはチェストの中に無造作に放り込まれていた。 「あっけないわね!」 キュルケがそう叫んだ。ルイズもそれに同意したようだ。 「携行型マルチデバイス。上位セーフガードの標準装備」 霧亥がそう口にする。 「え、どういうこと?」 3人の視線が霧亥に集中した。全員が興味津々といった様子だ。 「この世界の道具じゃない」 「あら、使い魔さんはこの道具の使い方をご存知なのですか?」 偵察を終えたミス・ロングビルが戻ってくる。霧亥はそれを手にとって操作してみた。 電源が生きている。そのまま幾つか操作してログを調べてみた。 「これに触れたことはあるか?」 ミス・ロングビルに尋ねる霧亥。彼女は首を横に振った。 「見たことはありますが、触るなんてとても」 「……持っててくれ」 ポケットを探りながらデバイスをミス・ロングビルに手渡す。 ミス・ロングビルは霧亥の手元が気になるのか、何の気なしにそれを受け取った。 「おい、相棒。俺を置いてどうしたんだい」 「待て」 地面に突き立てたデルフリンガーも理解できない、といった具合に尋ねている。 そのまま霧亥はミス・ロングビルからデバイスを返してもらうと、再び操作を開始した。 「……お前がフーケだ」 「何の冗談ですか?」 片手で構えたデルフリンガーをミス・ロングビルに突き付ける霧亥。 操作して生体反応のログを確認していたのである。 「これには触れた人間の記録が残る。フーケが持っていったときの記録とお前が一致した」 「……ちょっと油断しすぎたね。そんな面倒なマジックアイテムだと知ってたら触らなかったのに」 「ミス・ロングビル!?」 3人は目の前で起こった出来事が理解できないようだったが、じきにタバサは杖を構えていた。 「なぜこれを狙う」 「魔法学院の宝だからさ。だけどアタシにもそれが何なのか判らなかった。アンタ、知ってるみたいだね? 逃げも隠れもしないから教えてくれないかい?そりゃ、いったい何なんだい?」 「俺の世界の手帳のようなものだ。だがこれを持つ存在はかなり限られる」 フーケが笑ったような気がした。事実笑っていたのだが、それを認識する瞬間に部屋が煙に包まれた。 「煙――キャッ!?」 タバサがとっさに杖を振るい部屋の窓ごと煙を吹き飛ばしたが、そこで状況が変化していた。 ルイズが人質にとられてしまったのである。 「ミス・ロングビル!どうしてこんなことを!」 「簡単よ。1つはお金、もう1つは、私が貴族を嫌いだって事。さあ、その『異界の板』の使い方と中身を説明して渡しなさい。 下手に動けばこの娘の首を切り裂くわ」 「わかった」 「おい、相棒」 「別にいい」 そのまま操作して情報を調べ上げる。所有者は上位セーフガードの一人で、最後にアクセスしてから随分と長い時間が経過していた。 とある大規模な珪素生物との交戦の際に、時空隙に巻き込まれてしまったようだった。 「この『異界の板』にある機能を全て開放させるには、この板に持ち主を認識させる必要がある」 「続けな」 「お前がこの板の、この赤い四角の中に触れた後に特定の操作を行えば、その認識が可能だ」 「中身はどうだったんだい?」 「周囲の地形の情報を見ることができる。どんな形で、目立つような生き物がいるかどうか」 「そいつはいいねえ……さあ渡すんだ」 「ルイズを開放するのが先だ」 「立場ってもんが判ってないようだね?」 ミス・ロングビル……フーケは、そのまま長い呪文を詠唱すると、巨大なゴーレムを作り出す。 そこに乗っかると、ルイズとの交換だと言った。 「持って行け」 「霧亥!それを持って帰ってフーケを手配してもらって!私は死んでもいいから!」 「……」 放り投げられるデバイス。 フーケはそれを受け取るとルイズを突き飛ばし、手帳の赤い部分に指を押し付けた。 「へえ、綺麗な画面だね……ん?何か点滅して……キャアッ!?」 突然デバイスは稲妻のようなものを放つと、ボン、と音を立てて爆発した。 「お前、騙したね!」 激昂したフーケのゴーレムが、霧亥を軽々と殴り飛ばして樹木に叩きつける。 木の幹はそのまま真っ二つに折れた。フーケは次にキュルケとタバサに攻撃を加えようとした。 「無理よこんなの!」 すかさず杖を拾ったタバサとキュルケは魔法を打ち込むが有効打には成りえない。 ルイズも杖を拾ったとき、風竜が飛んできた。 「ヴァリエール!逃げるわよ!」 「退却」 だがルイズは動かない。彼女は怒りと恐怖で震えていた。 目の前で人が殴り飛ばされるのも、ナイフを突き付けられるのも初めてだ。 「このーっ!この!この!」 ルイズはファイアーボールを打ち込む。当然失敗して、そのままゴーレムの一部が抉れただけだった。 「ヴァリエール!ちょっと、ヴァリエール! ああもう、馬鹿ルイズ!」 「レビテーション」 「待って!霧亥が!」 「もう駄目よ!」 ルイズの体が浮遊したのをすかさず風竜が口に咥え、急いで飛び去る。 膨大な質量を持つ拳が彼女たちの存在する空間座標に攻撃を加えるが、ギリギリでの回避運動に成功していた。 「チッ、逃げたか!とんだ失態だよ…!」 飛び去る風竜を見送りながら、フーケはゴーレムを解除して逃げる算段に入る。 「(このまま森を抜けてゲルマニアの方面に逃げるか、あるいはアルビオン方…)」 そんな思考は、倒したはずだと思った使い魔の攻撃で中断された。 腹から飛び出している錆びた刃は血で濡れている。 「あ……」 理解する間もなく自分の腕が折られ、足が折られた時点で彼女は気を失った。 「相棒、容赦ねーな…って、相棒…おめーも腕が…」 「これは敵だ」 「まだ生きてるぜ」 「どちらも回収して帰る」 フーケの杖をへし折り、デルフリンガーを握りなおす霧亥。 「待った、殺すな相棒。上手くいけば賞金が手に入るぜ。確かこういうのは生きてた方が増えることが多いんだ」 「……」 無言でデルフリンガーを腰に固定し、爆発したデバイスの外側の残骸を回収する。 そのままフーケを抱えあげると、霧亥は再び歩き出した。 そして止めていた馬車を使って学院に戻る。 「フーケを捕らえ、不完全だがデバイスも回収した」 「霧亥?」 「ダーリン?」 「……生きてる?」 学院に戻ると、3人がそれぞれ驚きの余りに立ち尽くしていた。 しかしその後ですぐに駆け寄ってきて、抱擁を受ける。 その際に腕が折れているのに気がついた一同により、霧亥も治療を受けることができた。 ルイズは何を思ったのか、少し泣いていた。
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無数の超構造体を越えた先。いつかの未来。ネット端末遺伝子。 システムの正常化。暴走の停止。再起動。機能の正常化。 ――そして探索者は不要となり、解体屋が生成された。 これはその不要となった探索者が辿り着いた世界の話である。 Maybe on the earth. Meybe on the future. クエストクリア 一人の男が、端末から正常化していくネットスフィアを見つめていた。 彼の網膜に表示されるのは任務の成功を告げる文字であり解雇通知である。 この瞬間、人類は魔法のような能力を失う代わりに平穏な世界を手に入れた。 そして混沌の時代が終焉していく。その、始まりだった。 ギン、という金属的な音が聞こえてくる。 珪素生物たちの襲撃が始まったのだ。目的はこの端末だろう。 接続された少女と機械を交互に見て男は銃のようなものを握り、外へ出る。 やがて敵は倒れた。だが、彼は2度と端末のある部屋に戻る事は無かった。 『冷たく静かな大地が明るくなる頃、人影は丘の上に登った。 ……大地ってなんだ』 彼は、その大地に立つことになった。 Maybe on the ******. Maybe beyond the something. 至る所に、ぽかりと抉れた無数の穴が開いている。 魔法使い見習いの少女が、何回も何回も頑張って魔法を使い続けた成果だった。 そこから大して離れていない場所で、無数の生徒や教師たちが彼女を見守っている。 やがて魔法で呼び出されたのは一人の男だった。 男は、名前を尋ねる少女を見てこう言う。 「霧亥だ」 その後、彼女は彼に口付けるために顔を寄せてきた。 彼は動けなかった。痛みではない。もっと別の事実からだ。 「……感染の形跡が無い?だがネット端末遺伝子も持っていない」 「何ブツブツ言ってんのよ。いいから行くわよ」 フィールド……霧亥の用いる認識なら階層……は、彼にしてみれば酷い混沌に満ちていた。 無数の色、流動する大気。空には、多くの人類が永劫目にすることの無いと思われた雲まである。 何かハッキリしていることがあるとすれば、霧亥には理解できず、言語化できない状況だということ。 そして探索を終え、来たる脅威を退け、永木にわたる時代に終止符を打ち、用済みになったことだけだった。 彼らの装備は、霧亥から見れば原始的と言って差し支えないレベルのものだった。 基本的に探索のため、メンテナンス不要で人間とはそう変わらない構造のボディではある。 霧亥に自由は無い。この世界に迎合するか自壊するかのどちらかしかないだろう。 そこまで考えた彼が常に持っていた装備が無いことに気づくまで、そう時間はかからなかった。 ルイズとの会話には問題は生じなかった。だが、文字の認識には問題が発生していた。 認識についてもかなりの齟齬があり、彼女に理解できるレベルまで説明を簡易化するのには時間を要した。 彼女の認識はこうだ。 1.霧亥はこの世界とはまったく違う場所から来た。その世界のことはよくわからない。 2.どこかで働いていたがクビになった。だけど何とか最後の仕事はやりとげた。 3.武器を持っていたが失われてしまった。ここの文字は読めないけど会話は出来る。 つまりルイズは霧亥のことを、異世界の平民か兵隊で、今は無職なのだと認識していた。 さらに遠方の国家の人間のように、文字が読めないので教育の必要があるとも思っていた。 一方、霧亥はルイズの状況に関しては正確ではないものの、概ねの把握を行うことができた。 彼の蓄積されたデータと似たようなケースを照合した結果で、経験の勝利である。 たっぷりとした時間を使って、ようやく彼女は本題に入ることが出来た。 空には2つの月が昇り、きらきらと星が輝いている時間で、夢の世界へ行きたがる時間だ。 「で、貴方には使い魔になって欲しいのよ」と、ルイズは言う。 「使い魔って何だ」と霧亥は尋ねた。 珪素生物の発生源となった『教団』と呼ばれた連中の一部が、準独立型デバイスを指してそう言っていた。 彼のデータにあるのはそれくらいであり、行動が多岐にわたる程度にしか記録されていない。 「まず目となり、耳となってもらうわ」 「お前は接続端末を持っていない」 「何それ?っていうか、私のことはご主人様って呼びなさい。口の利き方がなってないわ」 「……他には何だ」 「特定の品を見つけてくることね。秘薬の材料である硫黄とかコケとか」 「わかった」 「知ってるの?」 「見たことは無いが、サンプルさえあれば可能だ」 「はぁ……それからこれが最優先事項なんだけど、主人を、その能力で敵から守ることよ」 「わかった」 「ホントにわかってんの?アンタ見た感じ、タダの顔色の悪い平民じゃない」 「……他には何だ」 「洗濯、掃除、その他雑用」 「わかった」 「………さっきから同じ言葉しか聞いてない気がするんだけど?」 「そうだな」 ルイズは呆れたようで、そのまま眠ることに決めたらしい。 霧亥はどうしたらいいのかわからないので部屋を出ることにした。 ここには珪素生物もいない。それほど睡眠も大切ではない。 敵でない相手の機嫌を損ねないようにするのが上策。 それが霧亥の探索行における原則であり、経験則であり、男女間に対する常識でもあった。 いくら時間が経とうとも変わらぬ本能の営みは、確かに人という種に残り続けたのだ。 「どこにいくの?」 「外だ」 「基本的に外出禁止だし、いくら学院近くでも外には狼や野犬がいるわ。ここで寝なさい」 「狼?ここには野生の生物がいるのか?」 「当たり前じゃない……ねえ霧亥、貴方のいた場所では、そんなに生き物が珍しいの?」 「俺のいた環境の有機生命体は数が乏しかった」 「ユーキ……生き物のこと?」 「そうだ」 「寂しい場所なのね……ここはたくさん生き物がいるわよ」 「興味があるな」 「私が許可するまで勝手にどこか行っちゃダメよ」 「……」 「おやすみ。アンタは床で寝なさい。あと洗濯物、そこに置いてあるから明日洗って。」 霧亥は答えなかったがそのまま横になる。そのうちルイズが眠ったのを確かめると、自分も寝た。 "使い魔"霧亥の新たなクエストが、今、始まる… 何時間か経過して外が薄っすらと光っていることに気づいた霧亥はそのまま起きて外に向かう。 洗濯をする場所を求めて1時間ほどさ迷い続けた結果、川と呼ばれた場所に向かい、手で洗うことになった。 シエスタと名乗るメイドと偶然出会い、そのまま案内してもらったのだ。 「噂には聞いています。平民の使い魔なんて聞いた事が無いって…あの、顔色が悪いですよ」 「元々だ」 「そっ、そうでしたか。失礼しました! ………あ、あの」 「?」 「そんなに強く洗うと破けちゃ…」 ビリ、という嫌な音が聞こえる。 「……。」 「……後はやっておきますか?」 「頼む」 こうして霧亥は下着と朝食を失う代わりに、協力者を一人得ることに成功した。 周囲の建材や人々をスキャニングをして、彼はここが全く異なる世界であることを認識していた。 ここは多くの有機物で溢れていた。まるで丁寧にデバッグしたプログラムのようだと霧亥は思った。 重金属や合金、合成製品の類は極めて微量であるか、全く存在していなかった。 太古の昔、超構造体が設計されるより、ネットワークが存在するよりも前の時代がこの風景だった。 ハルケギニア。素晴らしき有機物の楽園。珪素生物たちの言うカオスとは異なる、真の混沌の満ち溢れる世界。 光は程よく減衰して適切な温度を提供していた。強固な外装やシェルターのような設備など、ここには不要なのだ。 霧亥は自分が死者の国にいるか、あるいは自分の意識だけがシミュレータの中で動いているような錯覚を覚えた。 もちろんそんなことは無い、ということを彼の有機デバイスの方が教えてくれる。 自分はスタンドアローンである。その事実が自分自身に対する論理的な矛盾の解消を可能にしていた。 サナカンにより登録を抹消された時よりも前から、ずっとそれは変わることは無かった。 彼は人間と呼ぶには多くの部分で異なっている。だが、機械と呼ぶには余りにも人間的だった。 それが幸運なのか不運なのかは人によって判断が分かれる部分だろうが、とりあえず霧亥にとっては幸運なのかもしれない。 部屋に戻るとルイズはまだ寝ていた。放っておくのも問題だというのは想像することができる。 それに新しい情報が必要であった。ネットワークが滅んだ環境で活きてくるのは、原始的な方法である。 そういう点で不都合を出さないことが彼の長期間の、それなりに安定している探索を可能としていた。 霧亥はルイズを起こそうとしてみた。 体をゆすってみる。起きない。 声をかけてみる。返事はあるが、起きない。 両方同時に試みてみる。起きた。 「何…誰あんた」 「霧亥」 「使い魔…そっか、昨日召喚したんだっけ…」 もぞもぞと起き上がってくると、欠伸をして、ぶっきらぼうにこう言い放つ。 「服」 無言で近くにある洋服を手渡す。 「下着」 「どこだ」 「そこのクローゼットの一番下に入ってるわ」 確かに昨夜見た下着と同型のものが入っている。霧亥はそれを取り出すと、ルイズに手渡した。 「服」 違うのか、と尋ねると、どうやら着せて欲しいようだった。 「自分では装着できないタイプなのか?」 確かにナノスキンスーツのような形式のものは特殊な設備が必要だった筈だ、などと見当違いの解釈をする霧亥。 「時々変な言い回しを使うわね。そっか…異世界人だったっけ…。もう少し言葉を覚えた方がいいわよ。 ……私が言いたいのはね?霧亥。着せてくれる人がいるなら、わざわざ自分から着ないということ」 霧亥は頷いた。滅多に無いことだが、大規模な人間の集落で特定の人間に対してそういう事をさせる場合がある。 あまりいい気分では無かったが別に断る理由もないので、さっさと着せておくことにした。 部屋を出ると別の女と鉢合わせした。女性はキュルケと名乗り、何やらルイズとしゃべっている。 霧亥は名前を一言告げると背後の有機生命体に気づいた。どういう原理か、尻尾が燃えている。 「どうやって燃焼させているんだ?」 「知らないわよ、そんなの」 その後、キュルケと名乗る少女が食堂へ向かい、自分たちも続くことになった。 食堂は広大なもので、これほどの人数を収容するほどの集落を、霧亥はあまり見たことが無かった。 設備が残っていても肝心の人間が死滅しているケースは何度かあったが、両立しているのは稀だ。 「貴方の食事はそれよ」指差す先にあるのはスープとパン。 「少ないな」 「貰えるだけありがたく思いなさい」 「そこにあるのは食べられないのか」 霧亥は人間の食物や珪素生物のグリス、他には電力等のエネルギーを動力とすることができる。 効率では断然後者だが前者でも最低限の活動は可能であり、制御可能な範囲ではあるが食欲というのもある。 エネルギーが無いのに動ける訳は無いのだから、それを求めるのは当然の事だった。 最も、その「動ける」時間は人間よりも遥かに長いのだが。 食事が終わると彼女たちは再び移動を開始した。聞けば授業だと言う。 『学校は戦場だ』 「…?」 霧亥は何故かそんなフレーズを意識していた。
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「歩いていかないのか」 「城下町は遠いのよ。歩いていったら今日中には帰ってこれないわ。馬に乗るのよ」 「なんだこれは」 「だから、馬よ……まさか乗ったことが無いとか?」 「生きている」 「当たり前じゃない。死んでたら乗れないでしょ。私みたいに、そのまま跨ればいいのよ」 「……」 霧亥は始めて見る馬という生物に乗れ、と言われ冷や汗をかいていた。 そもそも制御できない意思を持った生命体に移動を依存するということが危険に思えてならなかった。 だが他に代替手段も無いと理解すると仕方なしに乗ることにした。時間を考えれば、手段は選べない。 「これが街か」 「そ、大きいでしょ!」 結局、馬に慣れるには幾らかの時間を要したが、何とか辿り着くまでには乗りこなせるようになっていた。 城下町も霧亥から見れば、狭く、うるさい。学院ですら雑多な環境に圧倒されていたが、ここは更に強烈な場所だった。 物売りが声を上げ、道端に食物が放置され、人々がそれを眺めたり取引を成立させたりしている。 急いでる人、のんびり歩いている人、老若男女、様々な人種がそこにひしめいていた。 「ブルドンネ街。この国で一番大きな通りよ。この先にトリスティンの宮殿があるわ」 「中央政府か」 「そういうことになるわね」 「そんなものがあるんだな」 「馬鹿ね。無ければどうやって国の事を決めていくのよ」 「企業が支配している場所があった」 「企業?わけわかんないわ……」 そのまま路地裏に向かって歩く。路地裏は更に不衛生で狭かった。 うずくまる人間、破砕された壁。悪臭の立ち込める溝。中ではゴミが腐敗している。 どうみても普通の人間――ましてやルイズが好き好んで寄り付くような場所ではなかった。 「おい」 「何よ」 「どこに行くつもりだ」 「武器屋よ。『守れ』っていうなら、それなりの道具は与えておかないといけないじゃない?」 「……」 「あ、ここよ。あったわ」 石段をあがり、羽扉を開け、店内に入る。中はランプが主な光源だからか、薄暗い。 そこには所狭しと武器や防具が並んで、奥には店主と思しき男がいた。 胡散臭げに、しかし値踏みするようにこちらを見つめる。 「旦那。何をしたかは聞きませんが、ウチは貴族のガキを売りに来る場所じゃありませんぜ。 そういうのを売りたけりゃ3軒隣の薬売りの婆さんに相談してみてくだせぇ。厄介ごとは御免ですよ」 「客よ」 ルイズがそう答えると武器屋の親父は2人を交互に見つめて首をかしげ、のそりと立ち上がった。 「こちらの旦那が剣を?失礼ですが、金は持ってるんでしょうね」 「これだけあれば足りる?」 懐から袋を取り出して何度か振ってみせる。中には少なからず金属の詰まっているような音が聞こえた。 親父は面倒くさそうにパイプを卓上に置いてと店の奥に入っていくと、小ぶりな剣を持って戻ってきた。 「こういうのを御所望で?」 「あら、綺麗な剣ね」 「昨今は宮廷貴族が下僕に武器を持たせるのが流行っているようでしてね。そういうとき選ぶのがこういうのですよ」 「下僕に剣を?どうして?」 「何でも貴族ばかりを狙った盗賊がいるようでしてね。『土くれ』のフーケというそうですよ」 盗賊には興味が無かったのか、ルイズが剣をじろじろと眺めている。 長さ1メートル。細身。手元を狙われにくくするためか、ハンドガードもついている。 「これでいいんじゃない?」 「すぐに折れる」 「そうなの?」 霧亥は周囲の武器に含まれる材質をいくつかスキャンしていた。 その結果、この剣では役不足だと判断したのだ。 「別のはあるかしら?」 「少々お待ちを」 今度は布で拭きながら、大きな剣を持ってくる。 柄は長く、随所に宝石が散りばめられ、刀身は光り輝いていた。 「すごい…」 「この店一番の業物、ゲルマニアの錬金術師、シュペー卿の作でさぁ。 なんでも魔法がかかってるらしく、鉄でも切れるんじゃないかって言われてますぜ」 「おいくら?」 ルイズは気に入ったようだった。1番、という言葉のもたらす魔力なのかもしれない。 一方、霧亥の視線は違った。魔法がどうかは計測できないが、材質だけ見れば単なる銅と錫の合金である。 「新金貨なら3000、エキューなら2000」 「立派な家と森付の庭が買えるじゃない」 「良い剣は城に匹敵することもありますぜ」 「ルイズ」 「だからって……何よ、霧亥」 「これは駄目だ。宝石は本物だが、刀身はさっきの剣のほうが硬い」 「わかるの?」 「ああ」 ルイズが驚いた表情で霧亥を見つめている。一方の店主も、面倒くさそうな表情とパイプの火を消した 腰を伸ばして霧亥をまっすぐ見つめると、ハッキリとした声でこう言ってきた。 「……たまげたね。モノを知らない貴族だと思って馬鹿にしていたが、旦那は大した目をお持ちだ。 確かにこいつは飾るほうの武器で、戦う為のモンじゃありやせん。いますぐ真っ当なモン持ってきやす」 「だはははは!おめぇの負けだな親父。素直に本物のシュペー卿の作品でも持ってくるしかねえなあ、こりゃ!」 「うるせぇデル公!目の節穴な貴族ばっかり相手にしてりゃ嫌気もさすってもんだ!ああ、そうだよ!俺の負け、大負けよ!」 「ここいらが年貢の納め時だな、親父よう!」 店の奥ではなくカウンターの下から箱を取り出したかと思うと、1本の長い剣と鞘を出してきた。 霧亥とルイズは声の主を探しているが、じきに霧亥が堆積した剣の奥から剣を引きずり出す。 錆の浮いた刀身は、その剣が長きに渡って使われずに放置されていることを示していた。 ガチガチと鍔のあたりが動き、そこから声を発しているように見えた。 「お、おお?なんだテメー、俺をどうするつもりだ?」 「お客さんすいません!そいつはデルフリンガーってインテリジェンスソードでさぁ。 口は悪いわ客に喧嘩は売るわで手を焼いてるんです。ウチが売るのは装備だけで十分だってのに」 「ケッ、何も知らずに武器について偉そうにしている連中が悪いのよう」 大剣と呼ぶには刀身が細いが、長さは遜色が無い。そのまま霧亥はデルフリンガーを片手で手にとって眺める。 「自我を持っているのか?素材も他のとは随分違う。さっきの2つよりも硬い」 「…おでれーた。こりゃ親父を笑えんね。しかも、てめ『使い手』か」 「『使い手』って何だ」 「フン、何だ。おめ、自分の実力もしらねーのか」 「……スロットついているか?」 「あン?なんだそりゃ」 「これは理解できるか?」 「ちょっと霧亥!なにやってるのよ!」 ルイズの言葉は耳に入らないかのように、店主やルイズに聞きなれない言語――音と言ってもいい――を口にする。 0100101011010101110―― 『ッハァ!?何だテメーは!なんで俺ッチの始祖の言語を知ってやがる!60世紀ぶりに聞いたぜ!』 『お前はどこから来た。』 『ワリーが今すぐには思い出せねえ。てめ、マジで何モンだ?始祖ブリミルだってこの言葉は知らないはずだぜ』 『情報が欲しい。』 『いいぜ。だが俺の記憶は上代みたくはいかねえ。素材の魔力的侵食と精神構造からか、もう随分と欠落しちまって治せないんだ。 人間たちの言葉なら「忘れた」っていえばわかってもらえるか?それと、俺はこの世界で作られたから細かいことは…』 『お前を買うように伝える。思い出したら言え』 「キリ、イ?」 「お、おい、デル公?ブッ壊れちまったのか?」 不安そうに見つめる2人に、霧亥は平然と答えた。 机の上にある『本物』のシュペー卿の剣が輝いている。 「これを買う」 「買ってもらうぜ」 「へ、へえ、そう言うなら勿論お売りいたしやすが…こっちはどうしやす?紛れも無い本物ですが」 「どうなの?霧亥。私にもこれはさっきの2本より良いってわかるわ……」 明らかに魔力が付与された剣だった。素材、形状は申し分がない。 「買えるのか?」 「そうだ、お値段…」 「新金貨なら600、エキューなら400ですよ。随分と良心的な値段だとは思いますがね」 「んー…これなら納得できるんだけど…生憎と200しかないのよ。諦めるわ」 「んじゃデル公をお買い上げで?あいよ。ついでに、この鞘と短剣もお付けしまっさ」 「短剣?」 「へい、何でも旅の職人が愛用してた『三得包丁』って品でして。武器には物騒ですが、1本あると便利ですぜ」 「貰えるなら貰っておくわ」 ルイズが袋の中身を何枚か出している間に、霧亥は店長に尋ねる。 「他にこういうのは無いのか?」 「このデル公は黒衣の商人から買ったんですがね、来歴はサッパリわからねーんでさぁ。 それに元々、インテリジェンスソードってのは数が少ないんで、もうウチにはありやせんね」 「わかった」 「こら!ご主人様を置いていくな!」 外に出ると見慣れた2人が物陰に隠れているのを霧亥は探知した。片方はキュルケ、片方はタバサである。 「ツェルプストー!なんでこんな場所にいるのよ!」 「あら、私のことはよくご存知でなくて?」 「あ、アンタまさか…!」 「プレゼントで先手を打ったつもりでしょうけど……」 「「……」」 2人が喧嘩を始めるのを、霧亥は剣を2本、タバサは本を1冊抱えて、黙って眺めていた。
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前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 01.夢と現の境界(*1) 「へぇ、東方、終わるんだ」(*2) 自室で修理から戻ってきたノートパソコンを起動し、久しぶりにインターネットを見ていた 平賀才人は、そんな記事を目にしていた。 東方プロジェクト――同人にあまり興味のない彼でも知っているそれは、シューティング ゲームを中心に音楽、漫画等に展開する一連の作品群であり、ゲームに関しては『神主』と 呼ばれる一人の人間の手により全てが創られていることは、あまりにも有名である。 彼が見たのはその『神主』が数ヶ月ぶりに更新したブログで、これ以降東方プロジェクトを 冠する作品は創らないと宣言した、という記事だった。 「やっぱ、へんな動画とか作られたからかな?」(*3) 彼が東方を知ったのも動画共有サイトにあげられた、通称マッドムービーからである。 とはいっても知っているのはそれぐらいだ。ゲーム自体を遊んだことがあるわけでもない。 思い入れもない。彼にとってそれは、多くの中の一つでしかないのだ。 「おっ、返事が来てるじゃん……えっ、明日!?」 出会い系からのメールが来ていることに気がつき、才人は急いで立ち上がった。 明日の準備をしなければ。 「才人、なにやってるの? もうご飯よ」 「はーい」 母親の呼び声に、ノートパソコンを閉じる。そういえば今日の夕飯は好物のハンバーグ だっけ。自室の扉を閉める頃にはもう頭の中は、夕飯のハンバーグと、明日会う女の子の ことで一杯になっていた。(*4) こうしてまた一人、東方プロジェクトを――幻想郷を気にとめる人がいなくなった。こうして 幻想郷は世の人から忘れられていくのだろう。 さて、幻想郷は世界の非常識が集まる場所。世の中から忘れられたものが集うところ。 ならば、幻想郷自体が世間から忘れられたとしたら―― *1 タイトルは音楽アルバム「夢違科学世紀」内の曲名より借用 *2 このお話はフィクションです。妄想です。或る意味、夢です、タイトル的に。 *3 バーのマスターになる準備が整ったとか、酒に関係する理由である可能性の方が高い。神主的に。 *4 きっと頭の中の妄想彼女は、ロリ系ツンデレ少女。本来的に。 *5 脚注も必要だと思った。求聞史紀的に。 前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
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ルイズは学園長室にいた。 もちろん、ナナリーのことで呼びだされたのだが。 「彼女の様子はどうかね?」 「あ…はい、いたって問題はありません。」 何故かルイズは先程よりソワソワしていた。 これにはオスマンも、そばにいたコルベールも不信に思う。 「あー…ミスヴァリエール、どうしたのかね?」 ついにオスマンがルイズにそのこと訪ねた。 「あ…、はい、中庭に残したナナリーが心配で…その…」 オスマンはその言葉を聞いておもわす、頬を緩めた。 そして思った。 この娘なら、あの異世界の少女を預けても大丈夫だろうと。 「そうじゃ、ミス・ヴァリエール。 君と、ミス・ランペルージにプレゼントがあるんじゃ」 オスマンがそういうとコルベールが何かをとりだしてきた。 それは車椅子だった。 「ミスタ・コルベールに聞いた話なのじゃが、 ミス・ランペルージの車椅子はあの…なんじゃっけ…」 みかねたコルベールが後を続ける。 「この世界ではありえない技術力で作られたものなんです。 ですから、なるべくあの車椅子は使わないほうが良い、そうですね。」 「お、おう、そうじゃ。 それで急いで手配させたのじゃ。 この車椅子、なかなかのものじゃよ。軽い、丈夫、あと組み立て式になっておるので 外に出るときも安心じゃ。」 ルイズは車椅子の説明をほとんど聞いていなかった。 それほどナナリーが心配だったのだろう。 オスマンはその様子をみるや、 本当はまだ話すことがあったのだが、ルイズをすぐに帰すことに決めた。 ルイズが戻ってきた。 何かを押している。 もちろん車椅子なのだが、 ナナリーにはそれが何かまではわからないだろう。 「ナナリー、いいものもらったわよ。」 ルイズもすこし嬉しそうだった。 「はい?なんですか?」 ルイズは何も言わずナナリーを持ち上げる。 「ひゃ…え?え?」 急に持ち上げられたナナリーも困惑している。 ルイズはナナリーをゆっくり、もらってきた車椅子に降ろす。 「あ…あれ…これは?」 ナナリーも坐り心地で自分の車椅子ではないことがわかった。 「うん、なんでもナナリーの車椅子は……」 コルベールから聞いたことをなんとか思い出しながら説明する。 「ああ、そういうことですか、 わざわざ車椅子まで用意していただいて…」 「私は何もしてないのよ。お礼ならオールド・オスマンに言うべきね」 「はい、そうですね。」 なんやかんやで、もう午前の授業は終わっていた。 この日の授業は「錬金」の実技だった。 ルイズは授業に出なくてよかったことに少し喜んだ。 もうお昼の時間だ。 キュルケがフレイムを迎えにやってきた。 「どうだった、フレイムのボディーガードは?」 「はい、とってもしっかりと私を守ってくれました。」 しっかりしすぎて、ナナリーは暇で仕方がなかったのだが。 「それはよかったわ。 じゃあナナリー、一緒にご飯いきましょ。」 ルイズは自分を無視してナナリーと話をするキュルケに腹がたってきた。 しかし、キュルケには私がいない間ナナリーを守ってもらった恩がある。 ルイズはみけんにアオスジでも浮かびそうなくらいの表情で堪えていた。 昼休みも過ぎ、午後のひと時、 トリステイン魔法学園の生徒たちはお茶を楽しんでいた。 そしてルイズたちもこの中にいた。 「でね、ナナリー。」 ルイズの話題が尽きることはなく、ナナリーにずっと話しかけている。 そんななか、ルイズたちのもとへ、ケーキが運ばれてきた。 「あれ?ナナリー?」 運んできたのはシエスタというメイドだった。 「あ、シエスタさん」 ナナリーもシエスタの声に気づく、 「知り合いなの?」 ルイズが尋ねる。 「はい、シエスタさんとは先程、」 ルイズのいない間に知り合った二人。 ルイズはそれが少しおもしろくない。 ナナリーとシエスタの会話は思いの外はずんでいた。 ナナリーはメイドさんというところに、 シエスタは平民だというところに、 互いに話しやすさを感じていたからだ。 ルイズはやはり面白くない。 このままではナナリーをこのメイドに取られてしまう。そう思った。 「あー…シエスタ」 「はい、なんでしょうかミス・ヴァリエール。」 「あなた、ケーキを運んでいた途中じゃなかったの? こんなところで油を売っていていいのかしら?」 だから二人の会話の邪魔をした。 「あ、そうでした!ナナリー、そういうことだからごめんね。」 「仕方ありませんね…」 ルイズは心の中でガッツポーズをした。 「あ、では、私もいきます。」 ルイズは耳を疑った。今ナナリーは何と言ったのだろうか? 「私もお手伝いします。」 ナナリーはシエスタのケーキを運ぶ仕事を手伝うといっていた。 「あ、ナナリー!シエスタの仕事の邪魔しちゃだめよ。」 このままでは、ナナリーがいってしまう。 だから少しキツイ言い方になるがこう言うしかなかった。 「いえ、むしろ助かります。 では、ケーキのトレイを持っていただけますか?」 ナナリーは仕事の手伝いができるということで、嬉しそうだった。 だからルイズもそれを止めることはできない。 ナナリーの望むようにさせてあげたい。 それがルイズの想いだ。 さいわい、ここから目の届く範囲での作業だ。 ルイズは彼女達を見守ることにきめた。 シエスタがナナリーの車椅子を押し、 テーブルをまわっていく。 テーブルにつくと、シエスタがケーキを配る。 ナナリーはケーキのトレイを持ってるだけなのだが、 それも立派な仕事だ。 ナナリーは頑張ってトレイを水平に保った。 何個かのテーブルをまわっていると、 何かが落ちる音が聞こえた。 シエスタには聞こえない。 ナナリーだからこそ聞こえた音だ。 だからナナリーは音のしたほうを向き、 「何か落としましたよ。」 親切に教えた。 ギーシュ・ド・グラモン。グラモン家の末っ子。 彼は今冷や汗をかいていた。 ケティとモンモランシーという二人の女の子に、 二股真っ最中の今、ケティの目の前でモンモランシーからもらった香水の小瓶を落としてしまったのだ。 だがそこはナイスな判断で、すかさず自分の陰に隠し難をのがれた…… 逃れたはずなのに…ケティにすら気づかれないようにしたはずなのに。 何故か車椅子の女生徒、つまりナナリーに気づかれてしまったのだ。 ギーシュは必死にハンドジェスチャーでナナリーにどこか行くように合図をした。 しかしナナリーにそんなことが伝わるわずもない。 ナナリーはギーシュが女生徒と会話をしているので自分の呼びかけが聞こえないのだと思った。 だからシエスタにケーキののったトレイを預け、ギーシュの方へ車椅子を移動させていく。 ナナリーが小瓶の落ちたところまでたどり着く。 小瓶を拾い、ギーシュにわたした。 「落としましたよ。」 ケティにもハッキリと見えるかたちで。 だが、ギーシュもそれを認めるわけにはいかない。 「これは僕のじゃないな。」 しかし、ナナリーはギーシュの懐から小瓶が落ちるまでをキチンと確認していた。 目は見えなくとも、他の感覚は常人のそれよりも上なのだ。 ナナリーは足音だけでその人物が誰かわかる。 これくらいは朝飯前なのだ。 「これは確かに貴方の落としたものですよ。 確認してみて下さい。」 確認するまでもなく、ギーシュにはこれが自分のものだとわかるのだが。 ここでついにケティが気づいてしまった。 「ギーシュ様…それはまさか、ミス・モンモランシの香水では…」 「あ、これは…」 テンパるギーシュ、もうどうにもならない。 「酷い…他にお付き合いしている女性がいたなんて…」 ケティは涙を流しながら去っていった。 だがギーシュの不幸はまだ続く。 香水のきみ、モンモランシーがこの騒ぎに気づいてかけつけてきたのである。 「ぎぃ~しゅ~」 モンモランシーの顔は真っ赤に茹で上がっていた。 怒りによるものだ。 「あ…あのだね、モンモランシー」 モンモランシーの怒りのボルテージはあがっていく。 「これは…ははっ…違うんだ。」 さらにあがっていく。 「これは間違いなんだよ。」 「なにがどう間違うのよっ!」 モンモランシーの平手打ち。 ギーシュは吹き飛んだ。 一部始終を聞いていたナナリーはオロオロとしていた。 自分のせいでこのようなことがおきてしまった。 ナナリーはそう思っている。 実際は、二股をかけていたギーシュが悪いのだが。 だがナナリーは、責任があると思ってしまう。 そこがナナリーの良いところでもあるのだが、 「…すいません。私のせいでこんなことになって」 ナナリーはまず謝罪することにした。 ギーシュは思わぬ謝罪に戸惑っていた。 ギーシュの性格上、今回のことは小瓶を拾った者のせいにするはずなのだが…… 拾った人物が人物だ。 グラモン家の家訓は女性に優しくすることだ。 彼女をせめるわけにはいかない。 これで相手が平民の男でもあったら。 決闘をふっかけてボコボコにしてやるのだが。 おそらくギーシュでなくともナナリーを責めることはできないだろう。 彼女は自分に否があると思い、素直に謝罪しているのだ。 こんな子をたたいたらたちまち悪役になってしまう。 「いや…いいんだ…えー…ミス…」 「ナナリーです。ナナリー・ランペルージといいます。」 「ミス・ランペルージ。今回の件は僕に否がある。 君は悪くないんだ。」 そのとき、ギーシュは彼女の目が不自由なことに気づいた。 だからあの時のハンドジェスチャーに気づかなかったんだろう。 そう思った。 これで完全に彼女に否はない。 「あ、そうだ。僕の自己紹介がまだだったね。 僕はギーシュ・ド・グラモンだ。」 「ギーシュさんですね。よろしくお願いします。」 「あ、ああ、よろしく。」 ギーシュは思った。 いくら相手が貴族でも、 いつもの僕はここまで穏やかでないはずだ。 これはおそらく、彼女の穏やかな気性のおかげではないだろうか。 「はぁ…彼女たちに謝ってこないと…」 ギーシュは本来ならやるべきことに気づくことができた。 彼は本来こんなことはしない。 決闘や人のせいにするだけで、自分の罪を認めようとしないのだ。 「あの、ギーシュさん。」 そんなギーシュにナナリーが話しかける。 「なんだい?」 「恋人は一人にしぼることをお勧めします。 あまり女性を悲しませないで下さいね。」 ナナリーの言葉はギーシュの胸に響いた。 彼は女性を喜ばすために多くの女性と付き合っていた。 だが、今回、二人の女性をそれ以上に悲しませているではないか。 「そうだね…一輪の花は一人の女性の胸にのみ飾られるべきだ。」 「……は、はい?」 ギーシュの例えばナナリーにはわかりづらかった。 「ところでミス・ランペルージ。」 「なんでしょうか。」 「二人に謝罪が終わったら、一緒にお茶でもどうだい?」 残念なことにギーシュに懲りるという言葉は存在しなかった。 「はい、わかりました。」 ナナリーは、ギーシュに下心はないものだと思っていた。 ナナリーが思ったよりもギーシュ・ド・グラモンという男はしぶとい。 ギーシュは意外にも早く帰ってきた。 二人に謝罪するとなると、それなりの時間はかかりそうだが。 「ケティとは…別れてきたよ…彼女には済まないことにした。」 「では、もう一人の方を選ばれたのですね。」 「ああ、僕が一番愛しているのはモンモランシーさ。」 ギーシュは恥ずかしげもなくこんな台詞を言うことができる、 あるいみそこがギーシュの凄いところだ。 「その、モンモランシーさんには許してもらえたんですか?」 ナナリーは心配そうに訪ねる。別に彼女の気にするようなことでもないのだが。 「あははっ、この頬をみてくれ。」 ギーシュは先程叩かれた。その逆の頬をみせた。 見事な手形だった。 「ケティと別れたことを言ったよ。 そしたらこれだけで許してくれた。 …彼女に感謝したよ。」 ルイズは、ナナリーの帰りがあまりにも遅いことに違和感を覚えた。 辺りを見回してみる。 シエスタはすぐに見つけることができたがナナリーはいない。 シエスタに問い詰める。 「ナナリーはどうしたの?」 ナナリーがいないことにより少し不機嫌なルイズだった。 「えっと…ナナリーなら…」 シエスタはこたえずらそうにどもっていた。 「どこなの!」 ルイズの語調が強くなる。 シエスタは申し訳なさそうにナナリーのいる方向を指差した。 「あ…あれは…」 ナナリーと一緒にいたのは女ったらしで有名なギーシュ・ド・グラモンだった。 「あれ?ルイズさん?」 ナナリーがルイズに気づく。 昨日から共に行動していたため、足音はすでに覚えている。 「ぎ…ぎぃ~しゅ~。」 ルイズの裏返っていた。 ルイズは元々、ギーシュのことは知っていた。 だれかれ構わず女の子に声をかけるいけ好かないやつ。 だが、自分には関わりのない相手なので放っておいた。 しかし、今の状況は別だ。 ルイズの大切なナナリー… 「こ…この…盛りのついた雄犬は…… ま…まさか…ナナリーに手をだすなんてね…」 ギーシュにはなぜルイズが怒っているのかわからない。 「ルイズ…なんで君は怒っているんだい…」 ルイズにはその台詞は白々しく聞こえた。 「なんでですってぇ~」 ナナリーは自分のせいでルイズが怒っているということに気づき、 このままではギーシュに迷惑をかけてしまうのではないかと心配した。 「あ…あの…ルイズさん。 ギーシュさんとはお話をしていただけなんです。」 「それが駄目なのよ!」 ギーシュと関わるということ自体がルイズには気に入らない。 「なぜですか?」 「だって…ギーシュは女たらしなのよ!」 「でも、今の彼は違います。」 実際のところ微妙なところなのだが、 確かに今のギーシュは女性関係はきちんと清算している。 「…そ…そうなの?」 それらをルイズは知らなかった。 「そうなの?」 ギーシュに向き直り話しかける。 「あ…ああ…今はモンモランシー一筋さ、証拠はこれかな」 ギーシュは両頬の平手跡を見せた。 「で、でででも、じゃあナナリーと…」 「私達はただのお友達です。そうですよね、ギーシュさん。」 「あ…ああ…」 ナナリーにたいするギーシュの反応からして、 ギーシュはそのつもりでは無かっただろうが。 いまいちギーシュは信用ならない。 だが、ナナリーを信じないわけにはいかない。 「わかったわ。ナナリーに免じて今回は許してあげる」 何を許してるのかは不明だ。 「ところでルイズ、ミス・ランペルージとは…」 「ナナリーで結構ですよ。」 「あ、うん、ナナリーは君の友達なのかい?」 「…使い魔よ」 使い魔 それは魔法使いの生涯のパートナーである。 いずれもハルケギニアの生き物である。ナナリーは何故か異なる世界召喚されたわけだが… 「使い魔だってぇえええ!」 ギーシュが驚くのも仕方がない。 今までナナリーを生徒だと思っていたからだ。 「た…たしかに君の使い魔は人間だと聞いていたけど…… 平民だって噂だったんだぞ!」 「平民よ、ね。ナナリー」 「はい」 実際のところは皇族だ。 「…えっと、本当に使い魔なのかい?」 「はい、昨日から。」 ナナリーは左手のルーンを見せた。 これこそ使い魔だという唯一にして絶対のあかしだ。 ギーシュは目眩がしてきた。 「じぁあ、本当に平民なのか?」 「はい、魔法は使えませんよ。」 ギーシュは正直そのことを信じられないでいた。 それほど、ナナリーの姿や動作が貴族のそれそのものだったからだ。 「でもルーンがある以上信じないわけにはいかないなぁ…」 「そうよ、平民なんだからギーシュも、もうナナリーには近づかないでね」 ルイズもナナリーに悪い虫を近づかせないために、なりふり構わなくなってきていた。 この世界での貴族と平民は 日本でのブリタニア人と日本人の関係に似ていた。 「じゃ…じゃあ、私とはお友達になっていただけないんですか?」 ナナリーは悲しそうな表情をしていた。 ギーシュはそれを見ていたたまれない気持ちになる。 「いや、もう僕とナナリー既に友達じゃないか。 友達なら貴族も平民も関係ないだろ?」 「ギーシュさん…」 なんだか良い雰囲気になっている二人にたいし、何かたいルイズなのだが 先程のナナリーの表情を思い出し何も言えない状態だった。 友達だちくらい選びなさいよねぇ~ ルイズは心の中で愚痴をこぼした。 ブリタニア人のナナリーには、日本人がどのような境遇か、 完全にわかることはできない。 この世界にきて、日本人に似た境遇になったことで 少しだけ、ほんの少しだけそれがわかった気がした。 (スザクさんもこんな気持ちだったんでしょうか。 ブリタニア人かそうでないか、 貴族か平民か、 たったそれだけのことで差別される世界。 この世界も…優しい世界でありますように。) いつかしたお願いと、同じことを再び願った。 「ところで、ギーシュさんの使い魔って何なんですか?」 ナナリーがそう訪ねた瞬間ギーシュの目が輝いた。 「よくぞ聞いてくれた!ヴェルダンディ!」 すると、地面から大きなモグラが這い出してきた。 人間くらいの大きさはある。 「…じゃ…ジャイアントモール」 ジャイアントモール(アニメではビックモール) まさに大きなモグラである。 「モグラさんですか。」 ヴェルダンディが鼻をヒクヒクさせながらナナリーに近づいていく。 「だ、駄目!食べられちゃう!」 ルイズの過保護っぷりは徐々に過敏なものになっていく。 「大丈夫だよ。ビックモールは人を食べない。 ヴェルダンディなら尚更さ。」 ちなみにモグラの主食は地中の生物、主にミミズである。