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卵にベーコン、生クリーム。教科書に書いてある食材を一通り選んで戻ると、さゆみさんが「うふっ」と小首をかしげて笑いかけてきた。 「な、なんすか」 「それじゃあ、2つのグループにわかれましょう。さゆみと千聖ちゃんがカルボグループ、梨沙子ちゃんとマイマイちゃんがシーザー」 さゆみさんは当然のように千聖の腕を引っ張って、肩を抱き寄せた。 「は?何勝手に決めてんの。舞絶対嫌だからね」 「・・・・・・・りぃと2人は嫌?」 「あっいや違っそうじゃなくて」 ク゛スン スガヤさんがうつむいて鼻をすすりあげた。・・・ああもう!千聖といいなっきぃといい、どうして泣き虫が多いんだこの学校は! 「マイマイちゃん、わがまま言わないの。千聖ちゃんはさゆみの家族なんだから、さゆみと一緒に料理をするのが道理ってものなの。道重家に入ったら、道重家の慣わしに従うべきなの。」 道理だの慣わしだの、さゆみさんは今時渡鬼でしか聞いたことがないようなレトロな言葉を使いこなして攻撃してくる。負けるものか! 「ハッ。道重家に入ったらって、まだ結婚もしてないじゃん。千聖はさゆみさんの家族じゃないよ。千聖のパパとママと妹×2と弟と、わ・た・し・と寮のみんなの家族なの。」 「舞・・・」 どさくさで思いを告げると、千聖は少し嬉しそうな顔ではにかんだ。 「またりぃをのけものに・・・」 「はい、はい!わかった、もぉ軍団も千聖の家族!」 「えー、まだ家族ってほど親しくはないけど岡井さんと」 ―め、めんどくせえ!なんだこの女! 「ふーん、千聖ちゃんには家族って言えるほど大切な人がいっぱいいるんだ。それはいいことだと思うの。そして、その千聖ちゃんの大切な家族の中にさゆみも加わるのね。可愛い可愛い千聖ちゃんはみんなに愛されて、これからも家族が増えていくの」 「いや、そういう話じゃなくて」 「ウフフ、嬉しいです。さゆみさんは優しいですね」 「いい話だねー岡井さん」 だめだ、調子がくるいまくる。今まで口で人に負けたことなんてないのに、さゆみさんはそもそも論点がずれていて、ケンカにすらならない。しかも私以外全員天然とか! 「舞ったらそんな顔しないの。すぎゃさんと一緒が嫌なわけではないのよね?カルボナーラを作りたかったの?」 「・・・いいですわかった、わかりました!舞はスガヤさんとサラダやります!時間ないかさっさと作業しましゅよ!」 もはや説明するのもめんどくさくて、私は一人乱暴にレタスをバリバリ剥きはじめた。 「じゃありぃはトマト切るね。ドレッシングはあとで一緒にやろう」 「うん、そだね」 サラダなんて楽勝と思ってたけど、いざ取り掛かると意外にやることが多い。あんまり暇だと千聖たちのことが気になって作業がはかどらないから、返ってよかったのかもしれない。 「いい?千聖ちゃん、パスタはねー、アンデルセンっていう茹で方をするの」 「アンデルセンですか?メルヘンチックですね」 それ、アルデンテ。 「あと、お兄様は顔と同じで味も濃い目が好きだから。教科書どおりに作ってたらダメなの。特製サユボナーラにしましょうね。大丈夫、料理は未経験でもさゆみは美味しん(ry」 「・・・スガヤさん、多分喉渇くと思うから、飲み物たっぷり用意した方がいいかも。」 耳に入ってくる会話はたまらなく不安なものだけど、千聖の手料理を食べれるのは結構嬉しい。 えりかちゃんによると「お嬢様は手順とかめちゃくちゃだけど、美味しいもの作れるんだよ」ということらしいから、さゆみさんの暴走さえ止められれば大丈夫かもしれない。 「あら?あら、いやだわ私ったら。卵を入れるのを忘れていたみたい。うふふ、どうりで色が薄いと思った」 「後から入れれば大丈夫なの。それより、もっとチーズとコショウをたっぷり入れるの。サユボナーラは濃ければ濃いほどいいの」 いや、これはダメかもわからん。 「萩原さぁん、水切り終わった?りぃは野菜終わったよ。えへへ、ちょっとつぶれちゃったけど。」 「んーん、大丈夫だよ。それじゃドレッシング作ろう。千聖、チーズ余ってるでしょ?ちょうだい」 「あら、ごめんなさい。全部入れてしまったわ。」 ええっさっき結構持ってきたはずなのに!カルボナーラのソースをチラ見する。・・・・・すごい、色が濃い。っていうか 「何で黄土色?何入れたの?」 「調味料は全部倍の分量なの。食べてみる?」 道重さんからスプーンを受け取った私は、おそるおそるペロリと舐めとってみた。舌から脳天に電撃が走る。 「しょっぱ!!塩辛っ!」 「嘘ー?さゆも千聖ちゃんもいっぱい味見してるのよ?」 「味見はしすぎると麻痺しちゃうんだってば!もー、どうすんの?だから千聖と舞が一緒のほうがいいって」 思わず語気を強めると、さゆみさんはふらふらと調理台から離れていった。そのまま、水道の方へ向かう。 「え・・・ご、ごめんなさい。言い過ぎた・・かも」 さすがに罪悪感を感じて背後から声をかける。返事がない。 プチ・・・・プチ・・・・・・ さゆみさんの手元から、妙な音が聞こえてきた。不思議に思って覗き込むと、 「いいいいいい!何やってんの!ちょっと!!」 さゆみさんは虚ろな顔で、ピンセットを使って眉毛を抜いていた。 「・・・マイマイちゃん、さゆみが悪いの。どうせさゆみは可愛いだけがとりえの箱入り娘なの。この美貌が邪魔をしてみんながなんでもやってくれていたから、さゆみは何も出来ないただの美少女なの。千聖ちゃんは悪くないの、殴るならさゆみを殴って」 抑揚のない声でそう言いながら、淡々と手元は動いているのが恐ろしい。怖がりなえりかちゃんだったら、べそかいて退散してるところだろう。 「い、いや別に殴らないですし、そのほかにもいろいろ突っ込みどころはあるけどとにかく戻りましゅよ!あきらめたらそこで試合終了でしゅ!」 ピンセットを奪って強引に席に戻る。もうテーブルクロスは引いてあって、フォークもスプーンもセット済み。私が担当していたサラダも、スガヤさんが完成させてくれたみたいで、綺麗に盛り付けてあった。 「あ・・・、ね、ねぇ岡井さんが」 私の姿を発見したスガヤさんが、小声で話しかけながら千聖を指差した。千聖は神妙な表情で、いろんな調味料を手に、カルボナーラのソースの前で奮闘している。 「千聖、何してるの?」 「・・・」 「ち・さ・と!!」 集中モードに入ると、千聖は本当に人の声を遮断してしまう。わき腹をつっついたら「ひゃん!」と悲鳴を上げてやっとこちらに気付いた。 「何してるの?って聞いたんだけど」 「えと、味が濃すぎるから、調整を」 「調整、って。」 薄味を濃い味に変えることはできても、水で薄める以外逆は無理。 料理初心者の私でもそれぐらいはわかるのに、千聖はいたって真剣だ。 「もう無理だって。麺と和えたらそんなにしょっぱくないかもしれないし、いいよ千聖。」 「あら、大丈夫よ。少し味が薄くなってきたみたいだから。食べてみて」 そんなアホな、と思いつつ、本日二度目の試食に臨んでみる。 「・・・・・しょっぱく、ない、で、す」 「うふふ、そうでしょう?」 「千聖、いったい何を入れたの?」 「それがよくわからないの。いろいろ試したから。でも、うまくいってよかったわ。さゆみさん、もう大丈夫よ」 ――信じられない。千聖のアバウトクッキングは料理の範疇を超えている。もはや魔法だ。 「岡井さん、魔女だ・・・」 様子を見に来たスガヤさんの目が、なぜか怪しく光って、千聖がウフフと笑った。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「いいの?委員長さん半べそだったよ」 「大丈夫だよ、梨沙子。なかさきちゃんはチョベリバでチョバチョブだとすぐ泣いちゃうんだぜ。チェケラッチョ!悪そうな奴は大体友達!」 ――熊井ちゃんはギャルなのかB系なのかはっきりしてほしい。 「ウフフ。すぎゃさん、チョベリバというのは超ベリーバッドの省略語なのよ。チョバチョブというのは、超バッドで超ブルーという意味なの。大きな熊さんは物知りなのね。面白い言葉をたくさん覚えられて嬉しいわ」 「喜んでもらえてマジアムラーなんですけど」 「・・・それ、使い方ちがくない?」 えっへんと胸を張る熊井ちゃんに、ものすごい脱力感を覚える。 「っていうか、その格好とか言葉遣いって、何を参考にしたの?何か、・・・古いと思うんだけど」 岡井さんと熊井ちゃんは、雑誌やテレビでたまに見る、昔の女子高生の流行りを真似しているようだった。頭に咲いたでっかい花と、もっさもさのルーズソックスが痛々しい。 引き気味の私の態度も気にせず、熊井ちゃんはニヘッと笑ってカバンから少し色あせた雑誌を取り出した。 「これこれ、この雑誌を参考にしたの!」 うーわっ。 差し出された雑誌の表紙を見て、めまいを覚えた。 髪は金と茶と白のメッシュで、よくわかんないヒモが絡まっていて、メイクは熊井ちゃんと岡井さんのをさらに50倍ぐらい濃くしたような感じ・・・の男の人と女の人が、海ではしゃいでいるショット。正直、怖い! この雑誌自体は今でも本屋さんに並んでいるのを見た事があるけれど、一体いつの時代なんだろう。 「なんかねー、うちが赤ちゃんだった時に、お父さんが記念にいろんな雑誌を買って保存しておいたんだって。その頃どんなことが流行っていたのか、後で懐かしく思い出せるようにって。そのコレクションの中にこれがあったの。 普通に売ってる雑誌を参考にしてもよかったんだけどー、もっとオリジナルな感じにしたかったって感じー。みたいなー。ってゆうかー。」 「まあ、そういうことだったの。素敵なお父様ね。大きな熊さんがこうして過去の文化を受け継いでいらっしゃること、お父様もきっとチョベリグに思っていらっしゃるわ」 「いや、それ多分違・・・」 熊井ちゃんの発想は独創的すぎるし、岡井さんの解釈や審美眼もズレまくっていて、どこから突っ込んでいいのかわからない。というか、ついていけない。楽しそうな2人と私の温度差は、全く違っているようだった。 「でね、どうかな?わたくしたちのこの変身は。」 「すぎゃさん、どうかしら?千聖はとても満足しているわ。こんなに大人っぽくなれるなんて」 得意気に決めポーズを取る2人。身長差がすっごいあるから、まるでおませなチビッ子とギャルママの親子モデルみたいだ。 「イヒヒヒ」 「だめ?」 「んー。梨沙子はあんまり好みじゃないなあ」 2人とももともと自然な小麦色の肌で、それなら健康的だしいい感じだと思うけど、さらに不自然に黒く塗るっていうのはどうかと思う。きっちりアイメイクも梅田先輩みたいなセンスのいいやりかたならいいんだけど、何かもう2人のはラクガキの次元だ。瞼の上に目描いてるレベル。 「あら・・・それは残念だわ。チョベリブね」 「そっかぁ。梨沙子的には無しかぁ。せっかくみやも結構いいって言ってくれたんだけどなぁ」 「うん、だってそれ・・・・・・・・・・・ え?今なんて?」 委員長さんの指示通り、何とか説得を試みようとした時、私の耳に天女の名前がふわりと舞い降りてきた。 「え?だから、みやがそういうのも面白いって」 「あばばばばばばなんで呼び捨て?何つながり?夏焼先輩が何だって?一字一句間違えないで再現してみて!」 「え?そんな一気に言われても・・・んーと、今度の学園祭で、今年も愛理と桃子とみやがボーノっていうグループでステージ立つでしょ?うち、その時に裏方やるの。それで喋るようになったんだよ」 「な・・・なんだよー!仲良くなったんなら教えてよ!私が夏焼先輩のファンだってしってるくせにさぁ」 思わず詰問口調になるけれど、熊井ちゃんは「ごめーん、言い忘れてた」なんて全然悪びれないから、何か怒りもすぐしぼんでしまった。 「でね、私がこの雑誌を休憩中に読んでたらみやが隣来て、“いいねー、そういう格好も面白そう”って言ってくれたよ。今みやの中でレトロブームが来てるとかなんとかかんとか」 「・・・・岡井さんっ」 熊井ちゃんの言葉の最後の方は耳に入らず、私は岡井さんの肩をガシッと捕まえて、そのまつげバッサバサの目をジッとみた。 「なぁに?」 「梨沙子も、やる。」 「まあ、本当?嬉しいわ!」 「本当にー!!?超アゲアゲじゃん!フゥー!」 岡井さんと熊井ちゃんは左右にステップを踏みながら、手を縮めたり伸ばしたりするキモイダンスを踊りながら祝福してくれた(パラパラというらしい)。 ――ああ、ごめんなさい、委員長さん。夏焼先輩がそう言ってるんなら仕方ないと思うんです。夏焼が赤い物を指差して「これは青」って言ったら、私にとってももうそれは青なんです。だって、恋(?)ってそういうものでしょ? 「そうと決まったら、すぎゃさんもメイクをやまんばぎゃるにしましょう!ウフフ、ぎゃるさーのようで楽しいわ」 そう言って岡井さんは、部屋の隅っこにある大きなドレッサーをパカッと開けた。 「・・・・えー、何これ!!超すごいんだけど!!!」 そこにはメイクのアイテムや小物がぎっしり詰まっていた。今学園でもかなり流行っている、中高生向けコスメブランドのアイテム一式。私も大好きで、よくドラッグストアで見ているからわかる。これ、何から何まで全部揃ってる。ファンデも、岡井さんの肌の色から愛理の肌の色まで無駄にコンプリートしている。 よく見れば店頭で見た事もないようなデザインのコンパクトや限定品まで揃っている。金持ち、おそろしや! 「でもさでもさ、岡井さんは今まで全然メイクとかしてなかったのに、こんなに持ってたらもったいない気がするんだけどぉ」 「あら、私が買い揃えたわけではないのよ。メイクの練習をしたいって言ったら、お父様が一式贈ってくださって」 どうやら、このコスメブランドは、岡井さんのパパが副社長さんをやってる会社のお化粧品部門で手がけられているらしい。 たしかに、明らかに使わない黄緑色のマニキュアとか、ゴスロリちゃんでも難しい真っ黒口紅とか、いくらお金持ちでもそこまで揃えようとは思わないだろう。岡井さんはそういう贅沢をするタイプではなさそうだし。 「よかったわ、せっかくこういうものがあるのだから、活用したかったの。梨沙子さんはメイクも詳しそうだから、いろいろ教えて頂戴ね」 「うんうん、梨沙子ってセンスいいよね!何かもっとうちとお嬢様で直したほうがいいとこあったら教えて?」 いやいやそんな、と謙遜しつつ、こんなダイレクトに褒めてもらえるのは嬉しい。じゃなくて、チョベリグだっけ。イヒヒヒ 「えー、じゃあさじゃあさ、一回全部落として、すっぴんにしてから始めない?その方がやりやすいかも」 私の提案に一瞬エーッと口を尖らせるも、任せてほしいとばっかりに胸を張ると、2人は同意してくれた。 ――せっかく、夏焼先輩の目に止まるチャンスかもしれないんだもん。ガングロギャルメークなんてやったこともないけど、最大限かわゆい状態を見てほしい。 「やっばーい。これ、結構楽しいかも。イヒヒヒ・・・・」 真っ白な自分のほっぺが、茶色いファンデーションで別人みたいになっていく。まるでお芝居の準備みたいでワクワクが止まらなくって、私はすっかり、ダイニングルームで待っている人たちのことを忘れてしまっていた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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今日 - 合計 - 銀河お嬢様伝説ユナMika Akitaka Illust Worksの攻略ページ 目次 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 名前 コメント 選択肢 投票 役に立った (0) 2012年10月09日 (火) 15時22分30秒 [部分編集] ページごとのメニューの編集はこちらの部分編集から行ってください [部分編集] 編集に関して
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千聖のいない時間はつまらない。6時間目の理科の授業中、私はこっそりケータイを開いて、さっき千聖から聞きだしたスガヤさんのメールアドレスを呼び出した。 この時間、千聖とスガヤさんのクラスは体育だって言っていたから、おそらく返事は来ないだろう。 わかっていても、私は千聖のこととなると、平静ではいられなくなってしまう。なにかせずにはいられない。 体育の時間、さゆみさんはどうだった?千聖はどうだった?ちゃんと頼んだとおりにしてくれた?ホームルームまでの10分休み、会える? われながらうざったいメールだ、と思いながらも、とりあえず送信してケータイを閉じる。すると、待ち構えていたように、先生が私を指名した。 「はい、じゃあ次萩原さん答えなさい。まさか、答えられないってことはないですよね?天才ですものね?何だか楽しそうにニヤニヤしてましたけど。」 「・・・・・・」 私はこの先生が好きではない。何かむこうも私を何かと目の敵に・・・って今のは私が悪いんだけど。それはわかってるんだけど! 「・・・・・・お答えします。空気の密度の公式は、質量/体積。蛇足ですが、光の屈折率と空気の密度の関係についても申し上げましょうか。 常温常圧ならば空気密度の変化分とそれに対する光の屈折率は直線関係にあると想定できますので、屈折率の変化は密度の変化に比例し・・・」 「け、結構です。聞いていないことまで答えないように。」 すごーい、萩原さん!なんて声に包まれながら、私はポーカーフェイスで着席する。ダメダメ、こういうとこが子供なんだよね、本当に。 まあ、ほんのちょっとだけ申し訳ないと思うから、この後の時間は真面目に授業を聞いて差し上げましょう。 私は舞美ちゃんにイラストを描いてもらった理科のノートを取り出して、まずは黒板の内容と照会を始めた。 「もー、びっくりした!授業終わったら知らないアドレスからメール来てるし!聞いてくれれば直接教えたのにー!」 「ふふ、ごめんね。何かスガヤさんに直接聞きそびれちゃったから。・・・それで、どうだった?」 「梨沙子でいいよ。・・・んーとね、とりあえずできる限りしておいたよ。妨害。」 「妨害って。・・あ、私も舞でいいよ。」 私のテリトリー、屋上の給水塔。 メールで呼び出したスガヤさんもといりぃちゃんは、こんなとこ来たことない!なんて言いながら、ハシゴをよじ登ってきてくれたのだった。 「ま、妨害ってほどの妨害はしてないけど。萩・・舞ちゃんが言ったように、ミチシゲさんと岡井さんがベタベタしないように見張っといた。」 そう、私がりぃちゃんに頼んだのは、“さゆみさんの千聖への過剰なスキンシップを阻止すること”だった。 独占欲の強い私が、あの恐ろしいスキンシップの嵐を放置しておけるわけがない(今朝の・・・千聖を抱き枕にしていたことは許さない。絶対にだ!!!) 栞菜のエロ攻撃もかなり許容しがたいけれど、さゆみさんはそれ以上に限度ってものがわかってない気がする。 大体、千聖がベタベタされるの嫌いって普通に気づかないわけ?それを、髪をいじったり乳触ろうとしたりよくもまあこの私の前でしゃあしゃあと 「ま、舞ちゃん?顔怖いよ」 「・・・ソーリーソーリー。じゃあ、続きを話して。」 「うん。5時間目はね、国語だったんだけど、ミチシゲさん岡井さんの椅子に無理矢理座って、後ろから抱っこして授業受けようとしてたの。 だから、何とか説得して、ミチシゲさんにはりぃの隣に座ってもらったよ。ミチシゲさんって本当にスキンシップ好きだよね。私もすごい触られたんだけど。イヒヒヒ」 ――そんなに体張って舞との約束を果たしてくれたんじゃ、報酬もはずまないとな。夏焼さんの写真、舞も個人的に入手しておかなきゃ・・・・徳永さんあたり、いいの持ってないかな? 「りぃちゃん乙です。そんで、6時間目は?」 「体育だったよ。3年生の熊井ちゃん・・・ってわかる?もぉ軍団の。熊井ちゃんのクラスと体育が合同だったのね。 そんで、バスケだったんだけど、さゆみさんまた岡井さんにベタベタして、“可愛いちぃちゃんが怪我するの!さゆがちぃちゃんを守るの!”とか言って、岡井さんに来たパス全部カットしちゃったのね。そのうちオウンゴールまでし始めちゃって。」 ――うぜぇ・・・・。 千聖はかなり運動神経がいいから、本来ならちょこまか動き回って対戦相手を翻弄する大活躍ができたはずだろうに。さゆみさんが内股走りで「キャー」とか叫びながらボールをカットして、千聖と一緒に床に倒れこむ光景が想像できる。ゆ、許せん! 「でさ、そのうちなぜか熊井ちゃんがプンプンしだして、“このままじゃお嬢様が可哀想!”とか言って、ミチシゲさんをブロックしながら岡井さんにパスを回し始めたのね。おかしーでしょ!敵チームなのに!」 よっぽどそれがツボに入ったのか、りぃちゃんは涙を浮かべながら笑っている。 「そんなんだから、誰もミチシゲさんと熊井ちゃんにボールを回さなくなったのに、端っこで2人でディフェンスとかオフェンスとかし合ってるんだよ。でもそのおかげで、後は岡井さん普通にゲームに参加できたの。得点もバンバン決めて、かっこよかった。 ちなみに熊井ちゃんとミチシゲさんは“なかなかやるわね、あなた。”“そっちこそ”とか言って友情を深めていましたとさ。めでたしめでたし。」 うまいことりぃちゃんがまとめたところで、ホームルームの予鈴が鳴った。 「ありがとね。」 「ん、夏焼先輩の写真期待してるからね。それじゃ」 給水塔の下でバイバイして、それぞれのホームルームの教室へ向かう。 りぃちゃんのおかげで、私の機嫌はかなり直った。 べつにさゆみさんにうらみがあるわけじゃないけど、私は千聖を私のものだってみんなにわかってもらうためにも、気に食わないことは自分でどうにかしなきゃいけないんだ。 身分の差を越えて千聖の隣にいつづけるには、戦いは免れないのである! 「あれ?桃ちゃん?」 「あっ!舞ちゃーん」 ちょっと早足で廊下を歩いていると、桃ちゃんが教室の手前の柱にもたれていた。何かそわそわしてる。 「舞ちゃんのこと待ってたんだ。ちょっと確認したいことがあってさ。一緒に来てくれる?」 「ん?舞?」 意外に力の強い桃ちゃんは、そのまま私の手を強く引っ張って教室の中へ入った。そのまま、千聖とさゆみさんが並んで座る机へ一直線に向かう。 「あら、ももちゃん。舞も」 「やほー」 千聖への挨拶もそこそこに、ももちゃんはさゆみさんをジーッと見つめだした。 「なぁに?」 ももちゃんは人と話すとき、顔の距離がすごく近い。私なんてのけぞってしまうくらいなのに、さゆみさんは負けじと顔を近づけ返した。 「さゆみの顔に、何かついてるかしら?」 「さゆ・・・・・・・やっぱり!さーちゃんでしょ!!」 ももちゃんはいきなり仰け反ると、思いっきりさゆみさんに抱きついた。 「やーん!さーちゃんださーちゃんださーちゃんだー!」 「ちょ、ちょっと・・・」 はしゃぐももちゃんとは対照的に、さゆみさんは固まっている。 いつもテンション高いキャラのももちゃんだけど、わりと演技っぽいことも多い。それが、今は何ていうか、100%素の状態状態で喜んでいるように見える。 「もぉのこと覚えてますかー?」 「さ・・・さぁ、わからないの・・・」 「ほらぁ、小学校の時登校班一緒だった・・・」 「と、登校班!?どういうことですか、さゆみさん、学校へは幼稚園の時からずっと車で通ってたってさっきおっしゃって・・・」 なっきぃが後ろから興奮した口調で声をかける。 「え、ないない。だってさーちゃんはもぉの元ご近所さんだよ?さーちゃん突然引っ越しちゃったみたいだけど。ね、そうだよね? 今朝からさ、何か誰かに似てるなって思ってはいたんだけど、なかなかわかんなかったよー。だってさーちゃんってもっと地味な」 「ひ、ひいいいいいいいいいいいいい」 「あっさゆみさん!どうなさったの?」 さゆみさんは白い顔をさらに青白くして、ももちゃんを突き飛ばすようにして教室から出て行ってしまった。 慌てて追いかける千聖を、さらに私が追いかける。 「離して、ちぃちゃん!さゆは、さゆはもうここにいることはできないの!」 「さゆみさん、落ち着いてください、どうなさったの?千聖はわけがわからないわ」 ドアを開けると、あっというまに捕獲されたさゆみさんが、千聖の手を離そうともがいていた。 私の存在に気づくと、千聖は途方にくれた顔で助けを求めてきた。 「・・・とりあえず、ここは注目あびちゃうから。あっちで。」 私が促すと、千聖はかるくうなずいて、2人でさゆみさんを引きずりながら教室を離れた。 まさか、一日のうちに3回もここに来ることになるとは・・・ さっき降りたばかりの細いはしごを登って、給水塔の影にでんとあぐらをかく。私は深呼吸しながら、後から登ってくる2人を待った。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 日課になっている朝のジョギングに出かけようとしたら、エントランスのソファに えりとめぐが座っていた。私服のめぐが寮にいるのは珍しい。 「二人ともこんな朝早くにどうしたの?」 「舞美に相談したいことがあって待ち伏せしてた、とか言ってw」 とりあえず三人で食堂に行き席に着いた。 よく鈍感と言われるあたしの目から見ても今の二人が緊張しているのがわかる。 一体どんな相談なんだろ。あたしに力になれるのかな。 「突然で驚かせるかもしれないけどうち秋に転校することにしたの」 本当に突然だなぁ、でも事情とかをこれから説明してくれるんだろうな。 そう思っているとやや早口になってえりが続けた。 「舞美理由を聞かないの?」 「え? それをこれから説明してくれるんじゃないの?」 えりの体から力が抜けたのがわかった。 めぐが笑いながら「やっぱり舞美に相談したのは正解だったね」などと言っている。 それから詳しく説明してくれた。 「そっかー、えりは将来のことをちゃんと考えてるんだ。 あたしなんか、とりあえず系列の上の学校に行って、それから考えればいいやと 思ってたのに、えりの方がしっかりしてるね」 「舞美はえりの決断をどう思う? えりが急にいなくなるのはいや?」 めぐが矢継ぎ早に質問してくる。 「話を聞いたばかりだからどう思うかと言われても困るけど・・・。 でも寂しくなるかもしれないけど、少なくともいやじゃないよ。 学校が変わって会う機会が今より減るとしても、 どこにいいてもえりがあたしの大切な友達であるのには変わらないから」 「舞美ぃ」 「ちょ、ちょっとえり泣かないでよ」 「やっぱり舞美に相談してよかった。えりの決断を前向きに受け入れてくれると思ってた。 実はえりがお嬢様に転校のことを言ったの。そしたらえりが自分を捨てて 出ていくと思ってしまわれたようで、泣き出しちゃって。 お嬢様にどうしたら納得していただけるか、それを相談しに来たんだ」 「お嬢様にはきちんと説明した?」 「説明する前に泣き出しちゃった」 「だったらお嬢様が不安に思われている点をしっかり説明して差し上げればいいんじゃない? えりはなんでも難しく考えて抱え込み過ぎなんだよ。新聞部の騒動の後にさ、 『単刀直入に問題を解決した嗣永さんが羨ましい』って言ってたじゃん。 お嬢様がどんな風に考えて不安になっているかをめぐに探ってもらって、 その点をえり自身でもう一度ご説明すればいいと思う」 不足していることがあれば二人が補ってくれるだろうから、とりあえず自分が感じたことを言ってみた。 「直球型の舞美らしい意見だね。うちも舞美の言う通りな気がしてきた」 「変に周囲が力を入れずに、当事者同士で解決するのが一番かもしれないね」 「えっ、あたしの単純な考えで本当にいいの?」 「シンプルだけど効果的だと思うんだよ」 「舞美はバカみたいに単純だけど、だからこそ本質をつくんだよ、とか言って」 二人に褒められたあたしはつい調子にのった。 「こういうの、英語で take care of って言うんだよね」 「なにそれ?」 「take it easy じゃない?」 「そうそれそれ。めぐ凄いじゃん、とか言ってw」 ちょっと前が嘘のように三人で明るく笑いあった。 お嬢様も早くこの笑いの輪に入っていただけたらいいな。 そう思いながらあたしはジョギングに出かけることにした。 次へ TOP
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「いやだなぁ………ここは……別世界………大佐の声がするわけ………」 後ろも見ずにそう呟く……… てか、見たくない…… 「はは。では、これは私ジェイド・カーティスを懐かしむあまり、アニスの頭の中に生まれた幻覚というわけですね。いや~、参りましたね……。」 「………本当ですね~。アニスちゃん、ついに頭がおかしくなっちゃったのかな?………あ、きっと疲れて頭が機能してないんだ。もう寝よ。よい子は寝る時間だし~♪」 「おや?裸で寝ると風邪を引きますよ?」 「…………。ま、幻覚の大佐になら見られても~。てか本人に見られても別にいいし~。お金取るけど。」 「ええ。では、子守唄代わりにでも聞いてください。私は確かにオールドラントからこちらの世界にやってきました。 今回はアニスが飛ばされた様な奇跡的なルークの超振動の力ではなく、ディストが自分の研究施設で開発していた疑似的に超振動を引き起こす装置の力です。……やれやれ、あの馬鹿には今回の件で死にもの狂いに働いて貰いましたよ。おかげで5年も掛かってなんとか装置を100台作らせて、多くの超振動を一気に融合させました。」 「5年!!?……あたしは、まだ一週間しか………」 「私は超振動で次元に穴を開けて、後はルークがおこした時の次元の余波に一番近い磁場を追いました。」 「磁場………?」 「まあ、磁場とは言っても、理論上の命名です。次元空間にあるのですから、もっと特別な何かでしょう。」 「つまり、あたしは元の世界に帰れるんですね!?」 「ええ。アニスが、この世界に執着していてなければの話ですが……」 「……はい?つまり、どういう事ですか?」 「帰ったら二度とこちらへは戻って来れない、と言う事です。」 「………え?それって……」 「アニス。あなたはオールドラントに帰りたいですか?それとも、そこのお嬢さんとこの世界で………結婚ですか?………いやぁ~、アニスの玉の輿計画も、まさかそこまで熱心な物だったとは………」 「いえ……この結婚はあたしの心の底からの物です!」 「そうですか。それなら、なおさら帰りたいと思ってるんですか? 実感は湧かないでしょうが、装置でこじ開けた次元の穴はもう数時間ももちません。穴自体を保持している装置そのものがそこまで保ち堪えれないでしょう。多分、帰る頃には壊れています。向こうが閉じれば、この世界に開けたものも閉じます。 その装置というのもまだ未完成な上に、掘り起こされた物であるらしく創成暦時代の失われた技術。私やディストが生涯を掛けて手を尽くしても解明するのは不可能です。」 「……装置はそうでも、ルーク様の超振動が……」 「いえ、あれも。どうやら、ヴァンやアッシュが近くに居たらしく、ヴァンの中にいたローレライが超振動に影響した……と考えられます。それで、超振動の中心にいたあなたとアリエッタだけが次元の彼方に飛ばされてしまいました。 ローレライが解放された今、彼にもう一度その時の様な超振動を手伝って貰えればいいのかもしれませんが、それでも難しいです。 それに、私が今この世界に、あなたが生きている時間に立っているのも奇跡的。たとえこの世界に来れていたとしても、あなたがこの世界にやってくる1000年前、あるいは100000年後の世界だったかもしれません。」 「うはっ………。じゃあ、今こうやって大佐と会話できるのも……」 「はい。まさに奇跡です。恐らく、一度次元の穴が閉まってもう一度穴を作ったところで、次にあなたに出会う確率は0でしょうね。あなたを探す為にあらゆる世界のあらゆる時間に行きましたから、そろそろ装置もガタが来ていますし。 ただ、私は色んな世界に行けて楽しめました。それぞれの世界には数時間しか居れませんでしたが、いい思い出も沢山あります。私としては、この世界の思い出として、アニスの婚約の一報をルーク達に持って帰るのもそれでいいかと。」 「………。あたし、残ってもいいんですか?それとも、もうオールドラントにもうあたしの居場所はないんですか?」 「いえいえ。オールドラントは今、私達によってヴァンも倒され、モースも死に、トリトハイムやあなたのご両親を中心とする新生ローレライ教団やキムラスカやマルクトを中心に新たな時代を迎えています。つまり、あなたが無理をして帰るような状況ではありません。」 「…そ、そうなんですか………」 「そうですね~。一応、ルーク達やご両親にはあなたの幸せそうな写真でも渡しておきましょうか。」 カシャッ 「いや~、この世界には便利な物がありますね。しかしこちらの世界で“現像”しとかないといけませんね。多分、オールドラントにはまだその様な技術ないでしょうから。」 「はぅ~。大佐はまだ来て数時間なのに、どうしてそんなにこの世界に馴染み掛けてるんですか~?」 「はは。あなたこそ。私は数時間で世界を去る事には慣れました。名残は惜しいですがね。 あなたはどうします?」 「私は………帰りたいです。………けど………約束したんです!この子と……紬お嬢様と。ずっと近くに居て見ててあげるって!」 「はい。なら、ここに残りなさい。他の皆さんはさぞ悲しむでしょうが、アニスが決める事ですから。私は、死ぬ前に再びこうしてアニスの幸せ~な顔が見れて満足ですし。」 「大佐………私は……」 「私はこの屋敷をもう少し拝見させてもらいますね。そして、次元の穴がある屋敷の庭には一時間ぐらいしたら向かいます。 もしオールドラントに帰りたいと思うなら、その時そこにいてください。では………」 「あ、大佐……」 「そうそう。別にお土産を持って帰りたいなら構いませんよ?例えば……豪邸のベッドに寝ていたお嬢様を1人……とか。」 大佐はいつも通り、涼しい口調だった…… 私は……… 「……アニスさん……」 「え!?あ、お嬢様!!いや、ムギちゃん!」 ……起きていた!?……聞かれてたの……? 「…………私……その……」 「ムギちゃん!大丈夫だから!あたし………」 「アニスさんの世界に行きたい!」 「…………え……?」 「行きましょうよ!一緒に!そしたら、アニスさんは帰れるし、私は約束を守って貰える!!」 「ダメだよ………ムギちゃん………」 「え?なんで?どうしてですか……?」 「泣いてる。ムギちゃん、笑いながらまた涙ながしてる。」 「……これは……そんな……」 「知ってる。私、リビングにある写真立て。あの写真に写る、ピアノを弾いてたムギちゃん。幸せそう。あの周りの4人の人達のおかげでしょ?」 「……………」 「ムギちゃんにだって、あるじゃん。この世界に大切な物が………だから、ダメだよ……」 「そんな!!私、嫌!アニスさんと離れたくない!」 「あたしだって………嫌だよ……でも……」 ――― エンディング A B C D E EXTRA ※ENDグロ注意 ※あとがきはEXTRAの最後にあります。
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前へ 翌日。 膝の具合は、昨日よりひどくなっているということは無かった。 悪化しないところを見ると、うーん、まぁ大丈夫なのかな。 熊井ちゃんと待ち合わせてお嬢様のお屋敷に向かう。 やっぱり海夕音ちゃんには是非とも会いたいからね。 (決してプールで寮生の皆さんの水着姿を見たいからじゃないですよ) 熊井ちゃんが、会うなり僕に聞いてきた。 「膝の具合はどう?」 「うん、変わりないね。今は落ち着いてるみたいだけど」 「そう」 真っ先に聞いてくるなんて、心配してくれてたのかな。 だとしたら、なんかとても嬉しいな。 僕の返事を聞いて頷いた熊井ちゃん。拳を突き上げて気勢を上げた。 「それじゃあ、張り切ってお屋敷に行くよ! レッツゴー!!」 テンションの高い熊井ちゃん。 その勢いについていけなかった僕を彼女が見下ろして、大きい声を繰り返す。 「元気が無い! さぁ、お屋敷に行くよ!!」 「お、、おーーー!!」 「よし!」 張り切ってるなあ。 元気のいい熊井ちゃんを見ていると、例え嫌な事があってもそれを忘れさせてくれる。 こういうとき、彼女の存在をありがたいと思うんだ。 いま熊井ちゃんがここまで張り切ってるのは、プールが楽しみってのもあるけど、海夕音ちゃんに会うのがとても楽しみなんだろう。 海夕音ちゃんのこと本当に好きだもんな、熊井ちゃん。 でも、僕まで一緒のテンションになってはしゃいではダメだ。 冷静さを保ってないと。 だって、海夕音ちゃんに会いにお屋敷に行くんだから。 お屋敷で熊井ちゃんが何かしでかさないように注意するのは僕の役目だ。 それに、まず千聖お嬢様とお会いすることになるだろうから、そこでは舞ちゃんから授かってる任務だって忘れないようにしないとな。 そこで何か失態があれば、僕の首が飛ぶ。だから万全の態勢で今日は臨まないと。 熊井ちゃんのストッパー役なんだから、僕は。 そんな心配のタネもあるが、それでもやっぱり楽しみだ。 だって、お屋敷のプール、当然そこには水着姿のみなさんがムフフフ お屋敷に続く林道を熊井ちゃんと歩いてゆく。 横を歩いている彼女が僕に尋ねてきた。 「受験勉強、ちゃんとしてる?」 「してるよ、もちろん。二学期になる前にはまた講習もあるし」 「学校で講習をしてくれるなんて、いいよねー。うちも受けに行こうかなー」 本当に来たりしそうだから怖い・・・・ うちの高校に来るなとは言わないから、とりあえず殴り込みのようなマネだけは絶対にやめて下さいね、熊井ちゃん。 「熊井ちゃんのほうこそ、ちゃんと勉強やってるの?」 「もちろん!! うちはなかさきちゃんと競い合いながらやってるから。やっぱりライバルがいると力も入るよね」 なかさきちゃんと競い合うって、熊井ちゃんが? あの優等生がライバルって、そんなに上のレベルになってるというのか! いつの間にそんなに伸びてたんだ!? 信じがたいことではあるが、なかさきちゃんや栞菜ちゃんという優秀な人達に囲まれてたら、そりゃあ影響もされるのかもしれないな。 ああ見えてなかさきちゃんは熊井ちゃんの面倒見がいいからなあ。彼女がついているのは心強いよな。 そういう環境に恵まれてるってことは、熊井ちゃんのアドバンテージだろう、確かに。 そんな彼女に置いて行かれるわけにはいかない。僕ももっと頑張らないとダメじゃないか。 まぁ、もうすぐ講習もあるわけだし、僕は自分を信じてコツコツとやっていこう。 でも熊井ちゃん、ライバルがなかさきちゃんとか、それは絶対ウソだろ。熊井ちゃんがそこまでのレベルのわけがない。 だって、なかさきちゃんと言えば超難関大学を目指しているような人だぞ。 まともに勉強してるそぶりなんか見たことも無い熊井ちゃんがそのレベルとは到底信じられない。 まぁ、ライバルと自分で思い込む分には御自由ですけど。 本当のところはどうなんだろう。熊井ちゃん、ちゃんと勉強してるんだろうね。 なかさきちゃんと競い合って勉強してるって? それも絶対ウソだ。 だって、このあいだ僕は先日なかさきちゃんにこう言われてるんだぞ。 『あなた方が変な事に誘惑するからゆりなちゃんが集中できないんでしょ!いい加減にして下さい!!受験生の夏休みなのに』 でも、そのセリフは僕じゃなくて、熊井ちゃんの方に是非言っていただきたいよ、なかさきちゃん。 そう、それを言うべきなのは、受験生たる僕の集中を乱すことばかりしてくるもぉ軍団とその団体の自称リーダーの方だろう。 彼女を見ていると、本当に受験生としての自覚があるんだろうかと思ってしまうことの連続で。 どっちかといえば、そのゆりなちゃんの方こそ僕をやるべきことに集中させてくれないんじゃないか。あとは桃ry そんな会話をしながら歩いている間もずっと、僕は膝の状態を注意して観察していた。 どうしても気になって、しょうがない。 そうやって不自然に意識しながら歩くものだから、神経も疲れてしまいそうで。 今はとにかくお屋敷につくまでは負担かけないように気をつけて行こう。お屋敷に着いて少し休めばまた余裕もできるだろう。 お屋敷の門のところまで来ると、門の前には人影が見えた。 そこにいたのは、千聖お嬢様だった。 お嬢様自らお出迎えをしてくださるとは、なんという光栄でしょう。 「お嬢様、こんにちは!今日も暑いですねー!」 「ごきげんよう大きな熊さん。ウフフフ。大きな熊さんがいらっしゃると聞いたから、落ち着かなくてお出迎えしに来ちゃいました」 お出迎えは熊井ちゃんの為でしたか。まぁ、そりゃそうですね。 お嬢様の抱いたそのお気持ち、よく分かります。彼女が来ると聞いてたら、そりゃ落ち着かなくなりますよね。 またメイドさんと一悶着するようなことがあったりしては面倒でしょうし。 「海夕音ちゃんはもう来てますか?」 「えぇ、もう来ています。今はお昼寝してるのよ。でも、もうすぐ起きる時間だから。 大きな熊さんのお姿を見たらきっと喜びますわ。海夕音ね、大きな熊さんのことが大好きみたいなの」 門の前の木陰でしばし雑談をする、お嬢様がた。 そのとき僕は、ずっと感じていた膝の違和感がいよいよ気になっていた。その違和感はもう疑いようも無かった。 お嬢様と熊井ちゃんの話しを聞き流してしまっていたぐらい。 やっぱりおかしい。間違いない。 ここまで歩いてきたが、痛みが出てきたりはしていない。 だけど、感覚が鈍くなってきているのが分かる。さっきから、そのことがずっと気にかかっていた。 この膝の状態が気になって、目の前のことにすら集中が保てない。 僕はもはやお嬢様たちのお話しでさえ耳に入ってこないぐらいになっていた。 だから、僕は全く気付いていなかった。 背後からその人が楽しそうな笑顔で近づいてきていることに。 その人とは、お姉ちゃんだった。 お姉ちゃんは今ランニングから帰ってきたところだったようだ。 暑い中を走ってきたことで、いい感じでテンションが上がっているらしかった。 そんなお姉ちゃんは、そのとき自分に背を向けてぼーっと突っ立っている僕のことを格好の標的と認めたんだろう。 そして、僕の背後に忍び寄ってきて・・・ 熊井ちゃんは真っ先にそれに気付いたんだそうだ。 僕の背後から静かに突進してくるお姉ちゃんが口パクでこう言っていることに。 (必殺!膝カックンーーーー!!) 突然、熊井ちゃんが叫んだ。 「だめーーーーっ!!」 僕の背後から接近して来たお姉ちゃんを、僕の斜め前にいた熊井ちゃんが止めようとしたらしい。 でも、僕の視点からはその事情は分からないわけで。 その事情が分からない僕の目からそれを見ると、大きな熊さんが絶叫とともに僕に襲い掛かってくるように見えたわけで。 それがあまりにも怖かったものだから、僕は反射的に横っ飛びで熊井ちゃんから逃れようとしてしまった。 だって、本当に恐ろしかったんだもん。 それが、まずかった。 横方向の負荷、これは痛めている膝に一番負担がかかる動作なんだ。 しかも切り返しで踏ん張ったとき、そこに全体重を乗せてしまった。 それだけはしないように、いつもいつも気を付けていたのに。 膝に、衝撃が、走った。 次へ TOP
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発売日 2017年6月23日 ブランド ensemble タグ 2017年6月ゲーム 2017年ゲーム ensemble キャスト 柳ひとみ(緋神久遠),遥そら(柊木恵梨香),橘まお(壬生なつき),風音(神宮寺美紅),小鳥居夕花(近衛六花),清水浅葱(支倉若葉),かわしまりの(近衛薫),海原エレナ(緋神瑠衣),春乃まい(天代雪那),長月和泉(上月遥流) スタッフ 原画:鳴瀬ひろふみ,町村こもり,八島タカヒロ,の歯,武藤此史 サブ原画:了藤誠仁,蟹屋しく SD原画:ひづき夜宵 シナリオ:水瀬拓未,甲二 CG:氷室響,コチット,あつろう,ひぐちのりえ,よっしー,みう,まさのしん,雁歌,青谷鴬,ヲジャハ丸,ともぴょん,ゆんてぃ,もみじ(有限会社アフェス「無月庭」),カヤ(有限会社アフェス「無月庭」),菓子之助(Loop-LLC) っ背景:(有)獏プロダクション,倉田憲一,飯田和昭,吉田和矢,bcd,K.TAKA プログラム:Aftermath,鶏さん BGM製作:ミリオンバンブー 録音スタジオ:AM-STUDIO,スタヂヲトモ 音響監督:市山貴士 録音エンジニア:仲子朋宏,奈良原光枝 音響制作:AiAddction OP・EDムービー制作:KIZAWA studio スクリプト:ハセボ,ゲロイカ,五棒(iMel株式会社),時枝ゆーと(iMel株式会社),アダムス(iMel株式会社) デザイン:井上,夕凪デザイン,ももれん,やよ 広報:丼 スペシャルサンクス:和哉,十五夜 ディレクター:真田昌樹 プロデューサー:夏月 制作・販売:株式会社ウィルプラス OP1テーマ 「内緒のホント」 歌:Duca 作詞:Duca 作曲:chokix 編曲:chokix Piano, Other instruments:chokix Recording Engineer:蓬莱つむぎ Mixing Engineer:土井潤一 Recorded at MB-ONE studio Mixed at MB-ONE studio Director:三原典子 Sound Producer:土井潤一 OP2テーマ 「Blooming」 歌:Duca 作詞:Duca 作曲:ANZIE 編曲:ANZIE Guitar:東タカゴー Piano, Other instruments:ANZIE Recording Engineer:蓬莱つむぎ Mixing Engineer:土井潤一 Recorded at MB-ONE studio Mixed at MB-ONE studio Director:三原典子 Sound Producer:土井潤一 EDテーマ 「想いの花束」 歌:Duca 作詞:Duca 作曲:chokix 編曲:chokix Guitar:東タカゴー Piano, Other instruments:chokix Recording Engineer:蓬莱つむぎ Mixing Engineer:土井潤一 Recorded at MB-ONE studio Mixed at MB-ONE studio Director:三原典子 Sound Producer:土井潤一
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"南陽学院"おしとやかなお嬢様「孫権仲謀」 読み:"なんようがくいん"おしとやかなおじょうさま「そんけんちゅうぼう」 カテゴリー:Chara/女性 作品:一騎当千 Great Guardians 属性:水 ATK:2(+2) DEF:2(+3) [自動]このキャラがバトルによるダメージで【裏】になった場合、バトル相手のフレンドを【裏】にしてもよい。そうした場合、このキャラを【リバース】にする。この能力は【裏】でも発動する。 R:お忘れですの? 伯符お姉様 SR:お顔が赤いですわ。お熱でもあるのでは? illust: IT-010 R SR 収録:ブースターパック 「OS:一騎当千 1.00」
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【ゲーム】お嬢様特急(SS) 【作者名】タケ 【完成度】完結(08/04/06~08/06/07) 【動画数】33 【part1へのリンク】 【マイリストへのリンク】http //www.nicovideo.jp/mylist/6045598 【備考】前身 名前 コメント