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とあるメイドのお嬢様お世話日誌 第1790回 By旭ゆうひ トップ > SS置き場 とあるメイドのお嬢様お世話日誌 第1790回 本日の担当 小明戸 2020ねん11月01日 はれ AM 04:50 お嬢様を起こしに寝室へ向かう。 一昨日、本土から派遣されて来たばかりの私にとってこの時間はつらい。 なんてったって3時半起きだし……起きてシャワーを浴びて化粧して身だしなみを整える。 5時にお嬢様を起こそうと思ったらどうしてもこんな時間になる…… こんな大変な仕事だとは思わなかった。 大旦那様のお屋敷ではとても盛大にお祝いしてくれたし出世コースだと聞かされていたけれど……はぁ もう帰りたい。 あ、冗談です( _ ) 給料がいいのはありがたいけど、使う場所がなぁ……ユニバいきたい!ネズミー行きたい!宝塚で推しに貢ぎたい! 本物のお嬢様にお仕えするってことで志願したんだけどなぁ ヅカみたいなお嬢様を想像してたのになぁ…… 和服だし……子供だし……めっちゃ可愛いけども…… 初めてのお嬢様番、はじめてお嬢様を起こしに行く。 このお嬢様番って1日中お嬢様に付きっ切りでお世話するんですよね? 休憩って……それに、自室からお嬢様の部屋まで遠い!自転車導入希望! お嬢様のお部屋前 ドアの外からお嬢様へお声がけをする。 「お嬢様、起床のお時間です。湯浴みの支度も整っております」 …… 「お嬢様起床のお時間です!」 何度かお声かけしてみたけれど起きてくる気配もないので、つい大きな声出してしまった。 大名東さんに知られたら怒られちゃう。 けど、何時まで経っても起きてこないので失礼しますとドアを開ける。 人の気配はない。 それどころか部屋を使った様子もない、もしかして朝帰りでも? おもわずニヤケてしまったけれど、考えてみたらお嬢様はまだ13歳。 まぁ正直、めちゃくちゃかわいいから、めっちゃモテるよね。 ありうるかなぁ…… まぁ分からないときは先輩に聞いてみよう。 内線を使いメイドルームの先輩に聞いてみる。 「あのぉ、お嬢様のお姿見えなくって、朝帰りとかですかね?あはは」 すると電話の向こうは大騒ぎだ「お嬢様が朝帰りですって!?」 「あ、でも、お姿がみえないので詳しくは「朝帰りでお姿が見えないですって!?」 電話の向こうで叫ぶ声が聞こえる。 『警報!警報!第一種装備でお嬢様を保護せよ!繰り返す!第一種お嬢様を保護せよ!』 途端にけたたましい警報音が屋敷中に響き渡った。 なんだかとても大事になってしまった…… そういえば、第一種装備って何だっけ? 防弾ベストに自動小銃かぁ転職前を思い出すなぁ。 AM 7:30 結局お嬢様は工房にこもっておられただけだった。 大名東さんにめっちゃ怒られた。 寝室って工房の事かよ、最初っから言っててほしかったよ! 普通寝室って言えば寝室じゃん。 工房は工房だよ! 「何年メイドやってるの!」って、私まだ1か月なんですけど! 退官して葉車家へメイドとして入って一昨日此処へ来たんですけど! ……私、大名東さん苦手です。 今朝の献立は 【魚沼産コシヒカリ、国産大豆の自家製お味噌汁、北海道産バフンウニとイクラの小鉢、ホッケのみそ焼き】 朝から大変な仕事だったけど、この朝食で一日頑張れる。 この仕事についてよかった。 お嬢様は私たちと同じ卓で朝食をとられる。 同じものをお召し上がりになられる。 逆を言えば、お嬢様が召し上がるものを私たちも頂けてるということ。 葉車へ就職した時に不安になって 『給料から天引きとカですか?』ってきいたら 『家族なのだから同じものを食べるのは当たり前でしょう』と笑われたのを思い出しちゃった。 本当に、この仕事についてよかった。 AM 08:20 朝の騒ぎで湯浴みの時間が遅れてしまった。 朝からお風呂とは金持ちの家は凄いですね。 たしかにこの家のお風呂は総檜風呂で気持ちいいし 開閉式の壁を開けば日本庭園を一望できる露天風呂に早変わりする 何度も入りたくなる気持ちはわかる。 本土の実家がすっぽり入るくらいの浴室……もう、ここに住みたい。 お嬢様をお風呂に入れてさし上げる。 何でここまでするのかって初日に大名東さんへ聞いたら お嬢様ご自身にお任せしてしまうと、ずーっと工房にこもってお風呂に入らないかららしい。 めっちゃかわいいのにもったいない性格ですねっていったら、めっちゃ怒られたんだった。 しかたない、私が綺麗にしてあげましょう! AM :10:40 めっちゃ可愛い……なにこの生き物…… お風呂上りということもあって肌艶もよく、潤いのある長い髪…… 私が男だったらロリコンにめざめてしまうね。 世の男性諸君は大変だなぁ。 片や私はそんな、めっっちゃカワイイお嬢様と朝からお風呂に入ったなんて これはもう自慢していいのでは? お風呂上りに大名東さんからお嬢様宛の荷物が来てると知らされる。 受け取りに行くと、これまたデカイ。 冷蔵庫かってくらいデカイ。 運び入れてもらおうとしたら、業者が荷物を倒してしまった! なんてことを! これがいくらの物かわからないけど、お嬢様が発注したということは絶対めっちゃ高いやつ! しかも、中身の人形が飛び出しそうになってるじゃない! 私が強く抗議してるところで、お嬢様の視線に気が付いた。 お嬢様はふるふると首を振っておられる……どうやら抗議は必要ないと。 あのかわいいふるふるを見るために、もう少し抗議してもよかったけど 上司の機嫌を損ねるのはよろしくないってことは知ってる。 大人だからね。 PM 03:11 SSSの坂本さんが、お嬢様へお客人だと伝えてきた。 お客人はクラスメイトの、なんとか君。 お嬢様を前にしどろもどろ、真っ赤になって視線を合わすことができないでいる。 お嬢様を見ると「この人だれ?」って顔で私や大名東さんへ視線をやってる。 私は肩をすくめ、大名東さんはコッソリ耳打ちしていた。 お嬢様は得心が言ったようになんとか君へ視線を戻されたけど、 なんとか君はいまだにしどろもどろ。 「あんたさぁ!お嬢様はお忙しい中わざわざ、会ってくれてんだよ!?時間を無駄にするんじゃないよ!」おもわずイラッときて声を荒げてしまった。 大名東さんは呆れながらも、よく言ったという顔だ。 お嬢様はなんだかキラキラした顔を向けてこられてる。 え?なにこれ、めっちゃかわいいんですけど! 坂本さんから後で聞いたところ 結局、彼は一目惚れしたお嬢様へラブレターを渡したかったそうだ。 返事は後日でいいんだってさ。 だけど、お嬢様は彼の事を覚えてすらないので、結果は予想できるけどね。 PM 04:15 お嬢様は工房で午前中に届いた人形を観察・解体・組み立て・を繰り返していた。 工房の隅で椅子に座って本を読んでいた私はふと気になってラブレターの返事をどうするのかと聞いてみた。 するとお嬢様は意外なことに顔を真っ赤にしてごにょごにょとなにかをおっしゃったけどもその瞬間、人形が爆発した! すぐに火は消されて大事には至らなかったけども いや、普通は大事だけど先輩メイドたちのあの慣れた手つき…… どうやら今回が初めてじゃないみたい。 消火設備も充実してるし……金持ちってすごい。 お嬢様も私もチョット煤けた程度で済んだもの凄い。 大名東さんからお嬢様をお風呂へといわれたので、 本日2度目のお風呂。 やっぱり何度はいってもキモチイイ。 PM 07:00 夕食の献立 【お好み焼き定食】 えぇ……名家の晩御飯が庶民の味、お好み焼きって…… しかも、定食かぁ…… あらぁ お嬢様おいしそうにほおばっちゃって! 微笑ましいから良いんだけど、もっとこう、お嬢様にふさわしいコース料理とかあったんじゃないの?って…… 大名東さんからは、お嬢様のリクエストだときいたけども……お嬢様ぁ…… PM 11:20 3回目の入浴が終り後は寝るだけ…のはずなのに、お嬢様はまた工房に。 お嬢様が寝るまで私の番終らないんですけど…… まぁそれでも、日付が変われば交代が来るはずだし。 あともうすこし。 今日も一日大変だった。 こうやって日誌を書いていると一日の事が思い出される。 ほんっと大変だった。 大名東さんは、すぐ慣れるわなんていうけどホントかなぁ。 正直此処の仕事につけてラッキーだし、できれば長く続けていけたらと思う。 お嬢様は手がかからないし家のことだって苦にはならない。 ちょーっと広すぎるけどそれは人数いるしそれほど大変じゃない。 もともと、メイドというよりも護衛だしね。 お家の事はあまり担当しないことになってるし。 とりあえず、明日は休日だしどこかへ遊びに行こうと思う。 けどなぁ、本土に残してきた彼が遊びに来てくれる……なんてないよねぇ。 ここめっちゃ遠いもんね。 そういえば、昼間のあのラブレターの返事どうするんだろう? 気になったのでそれとなく聞いてみたら 爆発 本日4度目の入浴……うちのお嬢様、恋愛耐性なさ過ぎ。 将来悪い男に引っかからないか心配だわ。 入浴はさすがに4回目なのでさっとすませた。 お嬢様と工房へ向かう途中、大名東さんが葉車印のコーヒーやサンドイッチ等をもって出かけるところだった。 くぎを刺しに行くのだという。 何の事かわからなかったけど、いずれ説明してくれるというので 今日のところは良しとしよう。 日付が変わり、引継ぎをし、お嬢様へ挨拶をしてから、自室へ戻る。 はぁ疲れた。 ご飯がおいしいのと、カワイイお嬢様が救いの仕事。 なんとかやっていけそうな気がする。 以上 追記:先輩方のフォローにも大変感謝しています!
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「げっ・・・」 校門の前に立つ“あの方々”の姿を確認して、私はサッと身を潜めた。 「ダメです、スカートが短い!」 「リボンはもっとしっかり結んでください!」 右腕の腕章が光る、サイドテールの中等部3年生が、特徴のある高い声でキャンキャンと檄を飛ばしている。 そう、我がもぉ軍団の目の上のナントカ、風紀部隊。 まあ、私は特に何か言われたことはないんだけど、桃なんて厳重注意の常連だ。最近は熊井ちゃんもなぜかはっちゃけ出して、元から明るめな色の髪をさらに染めて、おまけにおもしろパーマをかけてしまったもんだから、もう私達は完全にロックオンされている。 「ちょっと、友理奈ちゃん!その頭、直してきなさいって言ったじゃない!」 「えぇ~いいじゃん別にー!」 案の定、並木道をのんびり歩いてきた熊井ちゃんが、さっそく委員長さんに捕まった。 「もう、私は悲しいよ友理奈ちゃん!前のストレートの方が可愛かったよ、どうしてそんな派手派手になっちゃったの!スカートだって、そんなに短かったらおなか冷えちゃうんだからね!冷えは女性の大敵で云々」 「だってだって、パーマかけてみたかったんだもんー。そんな怒ることないじゃーん。別に、校則でパーマ禁止って書いてないでしょ?スカートの丈も指定ないでしょ?だからやってみただけだもーん。」 「た、確かにそうだけど、やっぱり節度ってものがあるでしょう!」 「でもでもー」 噛みあわない2人の議論を背に、私は一応最後の身だしなみチェックをした。ただでさえ目をつけられてる軍団の一員なんだし、突っ込まれないようにしなくちゃ! 制服、OK!ネクタイ・・危ない、ちょっと歪んでた。髪形・・・問題なし!いざ! 「おはようございまーす。」 「あー、おはよう菅谷さん。じゃあ、さっそく。」 熊井ちゃんに付きっ切りな委員長さんの横にいる、高等部の梅田先輩にピョコンと頭を下げて、風紀チェックをしてもらう。 梅田先輩はいつも風紀委員とは思えないほど派手派手なのに、こういう日はキッチリ第1ボタンまで閉めて、リボンも緩くしていない。スカートも膝丈。それが、なんていうか・・・全然似合わない。 「イヒヒヒ」 「ん?どうかした?」 「いえいえ、イヒヒ」 梅田先輩はチェックリストと私を見比べながら、「うん、問題ないかな。」と言ってにっこり笑ってくれた。 「良かった。それじゃ・・・」 「あ、やっぱちょっと待って。」 呼び止められて振り向くと、梅田先輩は私の顔をジーッと見つめていた。 「あれ、何か・・・ダメ?」 「ううん、全然・・・ダメじゃないよ。でも、ちょっとメイクが濃い目?」 うっそー!人のこと言えないじゃーん!なーんて、上級生相手にいえないけれど。ちょっと口を尖らせて「そぉですか?」と拗ねた感じで聞いてみる。 「全然、スッピンでもカワイイしもったいないよ。あんまりガッツリお化粧すると、肌荒れちゃうしね。ま、全然校則違反じゃないから、気にしないで。ウチの個人的な意見だから。」 梅田さんはそう言ってヒラヒラ手を振ると、また違う生徒を呼び止めて、風紀チェックに入ってしまった。 「梨沙子ー。」 校門に向かって歩いていると、やっと委員長さんから解放された熊井ちゃんが、後ろから追いかけてきた。 「もう、いっぱい文句言われちゃった!なかさきちゃん怒りんぼだ」 「・・ねえねえ、私のメイクって、濃いかな?」 「え?」 さっき言われたことが気になって、私は熊井ちゃんに顔を近づけてチェックしてもらった。 「んー、別にそんなことないと思うけどな。」 「だよねぇ」 実は、パパやママにもお化粧はまだ早い!なんて怒られちゃったりしてる。でも、私にはひそかに憧れてる美人な先輩がいて、その人みたくなりたいって思ってるから、ついついメイクに力が入ってしまうのだ。・・・一応、ギャルっぽくなりすぎないよう気をつけてるんだけどな。 「せっかくオシャレとか楽しみたいのに、ケチだよねー」 「だねー。」 そんな文句を言い合いながら、私達は昇降口でバイバイした。 「あら、すぎゃさんおはよう。」 「・・・・おはよー」 ローファーを脱いでると、ゲタ箱の所で岡井さんとバッタリ鉢合わせになった。だから、すぎゃじゃなくてす・が・・・・まあいいや別に。 「今日は何かあったのかしら?皆さん、校門の前で立ち止まっていらっしゃるみたいだけど」 「風紀委員さんのチェックだよ。岡井さん、受けなかったの?」 「私は車用の入り口から入るから・・・皆さん、大変なのね。」 ―あ、そうだった。岡井さんは車通学なんだ。まあ、別にチェックなんて受ける必要なさそうだけど・・・。 「ねえ、岡・・・」 「千聖、遅いー。先行っちゃうよ」 「あっ待って舞!すぎゃさん、また後でね。」 ぶー。何だよー。 せっかく話を広げてみようと思ったのに、岡井さんは1年生の萩原さんに呼ばれて、さっさと私を置いて行ってしまった。 2人はケンカ中って愛理から聞いてたけど、どうやらもう仲直りしたみたいだ。わざわざ2年のゲタ箱まで迎えに来て、何かラブラブだ。 最近ももとあんまり一緒にいないのは、萩原さんと復活したから?よく考えてみれば、萩原さんは授業が終わるたびに、うちのクラスへ来ては岡井さんを連れ出している。 もぉ軍団に団長が戻ってきたのは嬉しいけど、もも微妙に寂しそうなの、岡井さんわかってるの? 私だって熊井ちゃんやももと過ごすのは楽しいけど、他に友達がいないってわけじゃない。クラスの子とか、愛理とか、他にも大好きな人たちがいっぱいいる。 岡井さんも寮の生徒さんたちや、生徒会の人たちにいっぱいお世話になってるはずなのに、今は萩原さんだけしか見えてないって感じ。そんなんでいいのかな?何か・・・ 「うー・・」 何となく面白くなくて、私は顔をしかめたまま教室に向かう。岡井さんが悪い子じゃないっていうのはわかるんだけど、すっごい鈍感っていうか、天然っていうか、無神経っていうか・・・ みんなは“可愛らしい”とか“さすがお嬢様”とか言ってるそういうところが、私にはどうにも納得ができないのだった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ お嬢様は、名前をちさとさんというらしい。 この近くの林道の奥に住んでいて、パパが管理している寮に、ここの生徒さんが住んでいて、ほぼ一緒に暮らしている状態だとか。 「えっ、じゃあ、やっぱり家にすごいお庭とかあるの?(お嬢様だし)」 「お庭・・・そうね。庭師がきれいにしているお花の広場と、寮の皆さんと遊ぶ噴水前の広場と、寮とお屋敷の間にも・・・」 「すごい!じゃあ、メイドさんはいる?コックさんは?」 「ええ、どちらも。頼りになるスタッフが、いつも千聖の家を守ってくれているのよ」 「は~・・・」 すごい、すごすぎる。ありえない。 冗談半分で聞いた事が、ちさとさんにとっては全て当たり前のことらしく、淡々と、夢見たいな生活について語ってくれる。 「さき、ちさとさんみたいなおねーちゃんが欲しかったな」 会話の合間、ふとそんなことをつぶやいてみる。 別に、お金持ちそうだからっていうんじゃなくて、こんな素敵なお姉ちゃんがいたら、って単純に思うから。 自慢じゃないけど、私はいい人と悪い人を見分けるのがかなり得意。 もっと私のことを知ってほしいし、ちさとさんのことも知りたい。 「まあ、本当に?」 「うん・・・さき一人っ子だから。お姉ちゃんとかおにいちゃんとか憧れるな。・・・だから本当に、ちさとさんがおねーちゃんならいいのに」 そう言いながら、考えてみれば、私って年上の友達のほうが多いのかもと思った。 もしかしたら無意識に、甘えさせてくれる人を選んでいるのかもしれない。 「ウフフ。さきさんにそう言っていただけると、とても嬉しいわ」 「なんで?」 「実はね、私、ちょうど今朝、妹と喧嘩をしてしまったの。それで、落ち込んで此処に来て、神様にお話を」 「えーっ!ちさとさんでも、喧嘩なんてするの?」 こんなに穏やかそうで、大人しそうな人なのに、全然イメージができない。 私の大げさなリアクションが面白かったのか、ちさとさんはまた目を三日月にして話を続ける。 「あら、そんなに意外かしら? 私ね、結構頑固で子供じみたところがあるの。妹はとても大人びているから、私の融通の聞かない性格が嫌なのだと思うわ。 “もっと大人なお姉さまがほしかったわ!”なんて言われてしまってね。 だめね、私。ちゃんと周りを見れるようにならないと」 「えー、そんなことないと思うけど・・・」 ほぼ不審者状態の私に、ここまで親切に接してくれる人が、自分を卑下するみたいなことを言うのは何かやだ。 上手く言葉に出来ないから、手を握ると、ちさとさんはまた少し微笑んでくれた。 「さきさんはね、少し、私の妹と雰囲気が似ているみたい。だから、さっき初めてさきさんをお見かけしたとき、とても驚いてしまったのよ」 「んー、でもさ、妹さんは大人っぽいんでしょ?私は全然だよ。今日だって、バスではしゃいでたら “お前は小学生か!”なんて先生に怒られちゃった。 彩花・・・えっと、今日はいないんだけど、さきの友達で、生徒会に彩花って子がいて、いっつも私と騒いでるんだよ。すっごいウケるの。 あとね、花音っていう子は、うちらと一緒にふざけてるとなぜか一人だけ怒られたりして、運がないって感じ。すぐいじけるし。 で、憂佳って友達もいるんだけどね、パッと見おとなしい感じなんだけど、実は結構はっちゃけてて・・・」 いろいろ教えてもらったお礼に、私も大好きな友達のことを、モノマネつきで紹介してみる。 するとちさとさんは「いやだわ、さきさんたら」なんて言いながら、声を上げて笑った。 嬉しくなって、彩香の宇宙人っぷりとかをいっぱい話してみると、そのたびにちさとさんは楽しそうに聞いてくれる。 そうしてひとしきり話が済んで、ちょっと間が空いた頃、ちさとさんはふっと真顔に戻った。 「さきさん、お友達の素敵なエピソードをたくさん教えてくださってありがとう。では・・・そろそろ、行きましょうか。時間が」 「ん?どこに?」 「あら、生徒会室よ。お礼に、私の大切な方たちも紹介してさしあげたいわ。 さきさん、今日は、生徒会の親睦会でいらしたのでしょう?あちらの学校の、生徒会の方なのよね?その、腕章・・・」 「・・・あーっ!!!」 ちさとさんの一言で、すっかり頭の中からすっぽぬけていたことがよみがえる。 ・・・私、別に校内見学に来たわけじゃなかったんだった。 “生徒会書記”と書かれた腕章が、急にズシッと重く腕に食い込んでくるようだった。 「どうしよう!花音がぁ」 「かのんさん?さっきのお話の?」 「だってね花音ってしっかりしてるけど結構ヘタレだし、打たれ弱いしシンデレ・・・あー、花音っていうのは、うちの会計でぇ・・・どうしよう、ちさとさん!」 自分が怒られるのは慣れっこだし、別にどうでもいいんだけど、花音が私のせいでクレームをつけられてしまったらと思うと、身がすくむ。 どうして私はこう、すぐに周りが見えなくなっちゃうんだろう。子供っぽいにもほどがある。 「落ち着いて、さきさん」 そんな半泣き状態の私を優しく宥めてくれるちさとさん。 「大丈夫よ。ちさとがいるから」 「でも」 食い下がる私の唇の前に、ちさとさんは指を立てて笑う。 深い茶色の目でじーっと見つめられると、また不思議と心が落ち着いた。 「これでも、生徒会の正規メンバーですから。私から御説明申し上げれば、皆さんだってわかってくださるはず」 「あ・・・そうなんだ。ちさとさんも生徒会入ってるんだ。お嬢様は、そういうのやらないのかと思ってた」 「ウフフ。いつもね、舞・・・友達からも、ぼんやりしてて危なっかしいと注意されてしまうけれど、頑張ってお勤めしています」 得意げに胸を張る仕草が子供っぽくて、ついにやにやしてしまった。やっぱりなんか可愛いな、ちさとさんって。 「此方の生徒会はね、親切で温かい方ばかりですから、さきさんのこともきっと・・・」 「ねえ、さきさんじゃなくって、さきって呼んで」 調子に乗ってそんなお願いをしてみたら、ちさとさんは目をまん丸にしてパチパチと瞬きをした。 「さき、まだ中等部だし、さんづけじゃなくていいから」 「そうね。せっかくお友達になれたのだから、」 「ううん、友達じゃなくて、妹。 ちさとさん、さきのおねえちゃんになって。お願い」 仲のいい花音たちには言えない、素直な言葉がぽんぽんと飛び出してくる。 「いいでしょ。・・・ちさとおねーちゃん。生徒会室いこ、一緒に。案内してくれるんでしょう?ね、行こう!」 「もう、さきさん・・・さきったら、ウフフ。そんなにひっぱらなくても、大丈夫よ」 腕を絡めてぐいぐいひっぱりながら、お姉ちゃんとともに廊下を進んでいくと、通り過ぎる生徒さんみんなが、ハッと顔色を変えて、私たち・・・いや、おねえちゃんに会釈をしている。 「ち、千聖様!ごごごきげんよう」 「ごきげんよう、部活動ですか?お励みになってくださいね」 「は、はい!ありがとうございます!」 ――ここで「おはげみ?おハゲ?ぷぷっ」とか思っちゃうところが、私とちさとおねーちゃんの差なんだろうな。 絶対口には出さないけど。 それにしても、やっぱりすごいんだ、ちさとお姉ちゃんって。学園の中では、きっとおトップクラスの有名人なんだろうな。 そんな人がおねーちゃんになってくれるなんて。後で花音たちにめちゃくちゃ自慢してやろっと。 “もっと大人なお姉さまがほしかったわ!” ふと、私に似ているらしい実の妹さんが言ったという、信じられない暴言が頭をよぎる。 思い出したらちょっとむかむかしてきて、顔も見たことないその子に、文句を言ってやりたい気持ちになってきてしまった。 「・・・いらないなら、さきにちょうだいよ」 「え?」 「なんでもなーい!!」 私なら、絶対にそんなこと言わないもん。 本当の妹さんより、ちさとおねーちゃんを大事に出来る自信がある。 コセキジョウ(?)ってやつでは無理かもしれないけど、私のほうがいい妹って思ってもらいたい。そのためにはもっともっと、私のことを知ってもらって、仲良くならないと。 ほしいものを我慢できない性格だなんて、言われ慣れてるけれど。 より強く“必要だ”って願って、競争に勝った人が目的のものを手に入れられるのって、当然のことじゃない?それがシホンシュギってやつでしょ?よくわかんないけど! そういうわけだから、負けないよ、ホンモノの妹さん! 「ちさとお姉ちゃんの家、遊びに行きたいな。そうだ、今度はさきの学校にも来てね。あとねー」 「ウフフ、さきはお話が好きなのね。あとでゆっくりお喋りしましょうね」 「はーい!」 思いがけない出会いで、とても可愛くて綺麗なおねーちゃんに出会えた私は、もうすっかり有頂天になっていた。 次へ TOP
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前へ 「でね、メールで千聖お姉ちゃんが・・・」 目のまえで紗季が、花音に向かってオーバーリアクションで岡井さんの話をしている。 「いいな~、千聖お嬢様とメールとか・・・ね、憂佳!」 「え?」 いきなり話を振られ、上手く対応できずに花音を見つめ返す。 「だからー、紗季、千聖お嬢様とメールしてるんだって!ありえなくない?」 「へへー、いいだろ。紗季のお姉ちゃんなんだから」 ――あれ?なんだろ。得意気な紗季を見ていたら、ちょっとモヤッとした。 生徒会で一緒に活動している紗季は、1ヶ月ぐらい前、姉妹校のある生徒さんと親しくなった。 一人っ子だから、もともと姉妹というものに強い憧れを持っていたらしい。あまり、私や他の年上生徒会メンバーにはそういう素振りは見せなかったんだけど・・・とにかく、その人にアプローチをかけ、妹として認めてもらえたということだ。 あまえんぼうの紗季に、心を許せる素敵な方がいるっていうのは、いいことなのだろう。 だけど、肝心のそのお相手のことを考えたら、私としては手放しに良かったねとは言えないのだった。 「・・・あんまりお姉ちゃんとか、みんなに言い過ぎないほうがいいと思う。紗季、それクラスの子にも、言ってるでしょ。」 軽く注意するつもりだっただけなのに、自分でも少しびっくりすぐぐらい、強い声が口を突いて出た。 生徒会室の空気がピリッと張り詰める。でも紗季は怯むことなく、いつもの負けず嫌いな口調で反論を繰り出してきた。 「なんで?いいじゃん、千聖お姉ちゃんが紗季のこと妹って認めてくれてるんだから」 「だから。それは2人の間だけの話でしょ?そういうことすると、岡井さんの迷惑になるんだからね」 「紗季、迷惑になるようなこと何にもしてないし。憂佳怖い。何怒ってるの」 「別に怒ってない」 だめだ。冷静にならないと。 そう思っても、一度頭に血が上った状態になるとそれは難しい。・・・紗季や花音みたいに、日頃から喜怒哀楽をはっきり表さないから、肝心なときにコントロールがきかないんだろう。 一体自分は、何にそんなに苛立っているのか。落ち着いて考えようとしても、うまくいかない。 「・・・憂佳ちゃん?」 そんな状況の中、心配そうに私の顔を覗き込む、彩花ちゃんの困った表情で我に返る。 すると、紗季に突然詰め寄った自分の態度が少しばかり客観視できてきて、顔が熱くなった。 こっちからすれば、それ相応の理由があるつもりなんだけど、みんなにとってはいきなりの半ギレゆうかなわけで・・・。 紗季は口をへの字にしてうつむいてるし、花音はオロオロしている。 いたたまれなくなって、私は席を立った。 「ごめんね、ちょっと頭冷やしてくる」 「あ・・・」 逃げるように外へ出て、歯を食いしばったまま早足で生徒会室を離れる。 廊下を踏み鳴らす自分の足音さえ、空気が読めていないような感じがして、何だか泣きそうな気分だ。 ――紗季に謝らなきゃいけない。そう思ってはみるものの、まさか自分がこんな酷い態度を取るとは自分自身でも予想できなかったから、まだ混乱していて、考えがまとまらない。 テレビドラマみたいに、屋上に駆け上るわけにもいかず(うちの学校の屋上は閉鎖されてるのだ。危ないから)、キョロキョロと挙動不審気味にうろついた後、結局トボトボと自分のクラスへと戻っていった。 ・・・誰もいないといいんだけど。 恐る恐る教室のドアを開けると、どういうわけか、私の席に誰かが座っていた。 「・・・憂佳ちゃん。エヘヘ」 「あ、れ・・・」 立ち尽くす私に手招きをしているのは、さっきまで生徒会室にいたはずの・・・ 「彩花ちゃん」 「よかった、ここじゃなかったらどうしようかと思った」 「あはは・・・うちの学校、狭いからあんまり行くとこないんだよね」 「彩も、前に青春ごっこしようと思って校舎走ったんだけどね、結局場所なくって教室戻ってきたの」 「・・・ふふ、青春ごっこって」 一瞬、足が凍りついたものの、彩花ちゃんがいつもどおりにしてくれたから、少しは気持ちが落ち着いてきた。 隣に着席して見つめる。彩花ちゃんの綺麗な横顔。見つめているだけで、不思議と心が安らいでいく。 居てくれてよかった。自分のゴチャゴチャに絡まった心を、何も言わなくても理解してくれる。彩花ちゃんにはそんな不思議な力がある。 「・・・でも、さっきね、少し笑いそうになってしまった」 「へ?」 唐突な彩花ちゃんの言葉。 声を裏返らせる私に構わず、八重歯をちょこんと見せたまま彩花ちゃんは話し続ける。 「紗季ちゃんには悪いんだけどね、憂佳ちゃんが急におっきい声出すから。 ほら、お笑いの人でもいるでしょ。キレ芸っていうの?思い出しちゃって。ははは」 「もう、何言ってるの、彩花ちゃん」 すごいな、と思う。 彩花ちゃんの思うが侭、とりとめなく話をしてくれれば、勝手に私が落ち着くってわかってるんだろう。 昔から“隠れ短気”な私のことを、さりげなーく諌めて、守ってくれる優しい親友。 「紗季に謝らなきゃ」 そうつぶやくと、彩花ちゃんは軽く目を細めた。 そして、唐突に「・・・私、憂佳ちゃんのこと好きだよ」とつぶやいた。 「彩花ちゃん」 「うん、やっぱり大好き。えへへ、だから大丈夫!」 何が“大丈夫”なのか、あんまりよくわからないけど・・・味方でいてくれるっていうメッセージなのだろう。 「あのね」 だから、私は話すことにした。 彩花ちゃんならいい、って思えたから。 「知ってるんだ、私。岡井さんのこと。紗季が知り合うよりずっとずっと前から」 彩花ちゃんの目が、少し見開かれた。 私は“あの出来事”を、脳裏に甦らせながら、ゆっくりと言葉を紡いでいく。 今から3年前、中学1年生の春。 私と岡井さんは、出会った。 次へ TOP
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ハヤテはお嬢様のためなら、鬼にも悪魔にもなれる ◆/mnV9HOTlc 「とうまぁ~ どこ行ったの~」 イギリス清教第零聖堂区「必要悪の教会(ネセサリウス)」に所属するシスターであるインデックス。 彼女が持っている完全記憶能力によって10万3000冊の魔道書の内容を記憶している少女である。 「こんな暗いところに一人は悲しいよ~。 それに修道服もないってどういうことなの? 本当に不幸だよ!」 彼女がいつも身につけている修道服、別名「歩く教会」は主催者によって没収されていた。 その結果、インデックスの今の格好は下着姿であった。 そのうえ、彼女が放り出された場所は湖の近く。 真夜中である以上、寒いのは当然のことであった。 暗闇の中に明かりを発見すると、彼女はその方へと向かった。 歩くこと数分、そこにはペンションが3つ建っていた。 さすがにインデックスも寒いとわかったので、しょうがなく入る事にした。 中ならまだあったかいだろうと思ったからだ。 彼女がドアを開けると、目の前にはテーブルがあった。 そこには、参加者である水色の髪をした少年が座っていた。 …どうやら、先客がいたようだった。 「あ…あなたは?」 「私の名前はインデックス。」 「一体何があったんですか? 誰かに服を奪われたんですか?」 「どうやら元からなかったみたい。」 「そうですか…」 彼の名前は綾崎ハヤテ。 三千院家という家で執事をやっている少年である。 どうやら、殺し合いには乗っていない様子であった。 「服は持ってないんですけど…せっかくなのでこのパンを食べてください。 おなかすいてるみたいですし…」 そういうと、ハヤテは袋を差し出した。 中にはメロンパンが3個入っていた。 「これなに?」 「メロンパンって言うものです。 甘くておいしいですよ。」 「これ全部食べていいの?」 「ええ。 好きなだけ食べてください。」 一気にパンを丸呑みする。 どうやら彼女はそんだけおなかがすいているようだった。 「おいしいですか?」 「おいしいよ! 始めてだけどおい…ウッ!」 いきなりインデックスは地面に倒れた。 倒れたと思うと、次の瞬間、彼女は吐き出した。 「インデックスさん!どうしたんですか!」 「痛い…頭が…」 「そりゃあそうですよ。 だって… そのメロンパンには毒が入ってるから。」 え? 今なんていったの? 確か毒が入っているって… 「悪いんですけどね。 僕はお嬢様のためなら、鬼にも悪魔にもなれるんですよ。 だからすいませんが、ここで死んでください。」 ここで死んじゃうの? 今すぐ助けにきてよ…とうまぁ… 【インデックス@とある魔術の禁書目録 死亡確認】 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「疑わずにすぐ食べてくれたのがラッキーでしたね。」 ハヤテが飛ばされたのはこのペンション。 すぐに彼は持っていたメロンパンのうち、一つに小さい穴を開け、その中に青酸カリを入れた。 もし疑われたら、自分が他のメロンパンを食べるという事になっていたが、彼女はすぐに彼を信じてしまった。 そこが、彼女のいけなかったところであった。 インデックスが動かなくなったのを確認すると、ハヤテは彼女のデイパックを持ち、ペンションから去った。 早くここから出なければ、彼女を殺したのは自分だと言われてしまうからだ。 だから彼は逃げた。 なるべく遠くへと。 【I-8 道/1日目・深夜】 【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:支給品一式、青酸カリ(2/3)@現実、不明支給品1~4 [思考・状況] 基本:お嬢様(ナギ)を探す。 1 お嬢様のために、人を殺す。 2 ペンションから離れる。 【備考】 ※インデックスの死体はI-8のペンション内に放置されています。 ※メロンパン(2/3)@灼眼のシャナはI-8のペンション内のテーブルに置かれています。 【メロンパン@灼眼のシャナ】 主人公であるシャナの大好物。 茶色の袋に3つ入っている。 【青酸カリ@現実】 正式名称はシアン化カリウム。 症状はめまい、嘔吐、激しい動悸と頭痛などの急速な全身症状に続いて、 アシドーシス(血液のpHが急低下する)による痙攣が起きる。致死量を超えている場合、適切な治療をしなければ15分以内に死亡する。 カプセル3つセットです。 03 Fate 時系列順 05 奈落の花 03 Fate 投下順 05 奈落の花 インデックス 死亡 綾崎ハヤテ [[]]
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前へ 病院の玄関にリムジンで乗り付けた僕に、顔見知りだった病院の人が驚いていた。 しかも、そのクルマから美女3人を従えて登場したんだ。 そりゃ驚くだろうな、と他ならぬ僕自身が思うよ。 待合室で待っている間もずっと、僕はとても居心地の悪い思いをしていた。 顔見知りの看護婦さんや職員さんたちが僕らのことを遠巻きに覗きにくるのだ。入れ替わり立ち代り。 診察室に呼ばれ、お嬢様とお姉ちゃんと熊井ちゃんの付き添いで主治医の院長先生から説明を受ける。 並んでいる美女3人と僕を見比べる院長先生。 何か言いたそうだ。 そりゃそうだよな、僕がこんな美女を3人も侍らせてやって来たんだ。 どういうことなのか、疑問に思うのも当然だろう。 「こちらの方たちはご家族の方?」 「いえ、この人たちは僕の友人です」 友人、でいいのかな。僭越な気分ではあるが、まぁここは友人と紹介しても違和感はない場面だろう。だからOKだ。 そう、僕とお嬢様がたの関係はもはや友人と呼んでも差し支えない仲(キリッ。友達は友達なんだ。 もう一度、美女3人と僕を見比べ、顔の端に意味ありげな笑みを浮かべる先生。 なんですか、その僕に対して何か含むところがあるような苦笑顔は。 そして、おもむろに先生は僕の膝を撮影したフィルムを手に取った。 診察台にフィルムを貼り付け、それを見ながら、先生が静かに言った。 「うん。これはもう手術だね。さっさとやっちゃおう」 外科医の先生って、何でいつもこんな軽い口調なんだろう。 僕はその口調には前から慣れていたし、手術の内容についてはケガした時から説明も受けて把握していたので、そんなことを思う余裕さえあった。 だが、その言葉にショックを受けてしまっている人がいた。 先生のその宣告を聞いたお嬢様が口許を手で覆う。 見開かれているその鳶色の瞳は潤んで来てしまっている。 「あぁ、もうどうしましょう。手術だなんて、そんな・・・」 いや、お嬢様、手術っていっても別に命に関わるようなそんな大手術ではないですから。 「お嬢様、そんなに心配しないで下さい。手術っていっても脳とか心臓の手術では無いんですから」 先生から渡された手術の概要を書いた紙。 それを熟読していた熊井ちゃんが僕に言う。 「でも全身麻酔をするんでしょ。この説明書きは読んだ?10万人に1人ぐらいはショックで死亡することもあるって書いてあるじゃん。死んじゃうんだよ!」 熊井ちゃんがそう言うと、しーんとした静寂な空気が場を包んだ。 「死んじゃうんだから・・・・・」 死んでしまう・・・ そう言われると怖くなってくる。 今まで自分の死というものを、そんな現実に感じたことなんか無かったから。 いま僕は死と隣り合わせの状況になっているというのか。 僕は死ぬかもしれないんだ・・・ あ、なんかすごく怖くなってきた。 そんな熊井ちゃんに、院長先生が苦笑しながら語りかける。 「あのね君。そんなことめったに無いから。っていうか、無いから。あまり患者の不安を煽らないでもらえるかな」 その言葉に、我に返ることができた僕。 そうだよ、お医者さんがそう言ってるんだから、僕としてはその言葉を信じるよ。 「でも、でも!!」 それでもまだ、感情が高ぶっている様子の熊井ちゃん。 これはレアだな。いつだって唯我独尊な彼女が珍しくちょっと取り乱している様子。 かわいいじゃないか、熊井。 いいものが見れた。と、僕はひそかにほくそ笑んだ。 この状況でもそんなことを考えてしまうなんて、ちょっと不謹慎かな。 僕はいま緊張しすぎているんだろう。 だから、逆にそんなことを考えて無理にでも空元気を出そうとしているのかもしれない。 無意識のうちにそうやって精神のバランスを取っているのかも。 まぁ、そんな理屈はどうでもいいが、目の前のこの熊井ちゃんは、実際とてもかわいくて・・・ そんな不真面目な僕の横には、とても真面目な(元)生徒会長さん。 「内視鏡での手術になるんですね。時間は大体どのくらいを予定しているんですか」 お姉ちゃんが冷静に質問している。その質問に先生が丁寧に答える。 その論理的なやりとりを聞くと、僕の気持ちは少し落ち着いたものになった。 「リハビリもあるから手術のあと一週間は入院になるけど、何か予定とかあった?」 「いえ、今は夏休みなので学校も無いですし。月末近くには講習が始まりますけど」 「じゃあ、その前に終わらせよう。明日入院で明後日施術ね」 軽い口調の先生の提案により、手術の日程はあっさりと決まった。 * * * * 「今日は皆さん僕にお付き合い頂きありがとうございました。お陰様で、見通しが立ったからこれでスッキリしましたよ」 「何かお困りごとがあったら仰ってくださいね。うちには執事もいますし、出来るだけのことはさせて頂きますから」 「ありがとうございます、お嬢様。でも、大丈夫です。お気遣い無く」 それでもまだ心配そうなお顔のお嬢様。 もう、このお顔かわいすぎる。もうずっと見つめていたい。 しかも、僕のことをそんなに想って頂けるなんて・・・とかいってw 「いつかはやらなきゃならないことが、それが今になっただけですよ、お嬢様」 「でも・・・・」 「それに、入院になるんだから、今が夏休み期間中だったのは幸いです。学校を休まずに済みましたから」 「でもさ、入院中はちゃんと勉強とか出来るの?」 お嬢様と僕の会話に熊井ちゃんが割り込んでくる。 そんな彼女の鋭い指摘。 そうなんだ。こんな時期に入院してしまったりして、そのあいだ受験勉強が大分遅れてしまうだろう。 そのことだけが気がかりだ。だから、そのことを考えると少し憂鬱な気分になってしまう。 「何かお手伝いさせていただきたいけれど、千聖ではそのお力にはなれないわ」 そう言ったお嬢様が、お姉ちゃんに向き直った。 「舞美さん、お勉強を見ていただけないかしら。舞美さんなら、勉強もお教えして差し上げられるでしょうから」 「えっ、わたし? 受験の勉強なんてもう忘れちゃったけど・・・ でも、それでお返しができるなら。もう一度思い出してやってみます」 なんと、僕の勉強をお姉ちゃんが見てくれるのか! お姉ちゃんに勉強を見てもらえるなんて、そんな最強の家庭教師が僕に付いてくれるとは!! これはこの夏の勉強が一気に楽しみになったじゃないか。やる気も倍増だ。 災い転じて福と成す。これも僕の普段の行いの良さのお陰と言えるだろう。 しかも、お姉ちゃんとは2人っきりでの勉強になるんだよね。 なんということでしょう! 女子大生とのひと夏の個人授業!! ってことは・・・・・ 「この問題を解けたら、ご褒美に今度一日デートしてあげるね」みたいなことがあるかもしれない? それどころか、「ちゃんと成績が上がったら(自主規制)を(自主規制)してあ・げ・る」なんてこともムフフ これはひょっとして受験の勉強だけじゃなくて、他にもいろいろ教えてもらえたりして! ついに僕も大人の階段をのぼる日がry これは大変なことになった! グヒョヒョ・・・ 思わずそんなことを考えてしまったが、どこからとなく物凄い殺気を感じたのでそんな妄想はすぐにやめた。 それでもついお姉ちゃんを見つめてしまったのだが、そんな僕の顔はだらしなくニヤケていたかもしれない。 お姉ちゃんのその穢れの無い笑顔を見ると、そんな下品な妄想をしてしまったことに自己嫌悪。若干ちょっと反省する。 だが、お姉ちゃんとのそんな甘い夢のような話しが実現するなんてことは、もちろんあるわけがないのだ。 僕の耳に続けて入ってきたのは、僕を現実に引き戻そうとするこの人の声だった。 「舞美はそんなことしなくていいよ!!」 「「えっ?」」 せっかくのお姉ちゃんの申し出をキッパリと断る熊井ちゃん。(なんであなたが断るのか・・・) その熊井ちゃんの剣幕に、お嬢様とお姉ちゃんは驚いてしまっている。 そう、僕の甘い楽しみを打ち砕くのは、いつだってこの人なんだ。 「熊井ちゃーん、せっかくお姉ちゃんが勉強を教えてくれるって言ってくださってるのにそんな・・・」 「必要ないから。舞美はそんなことしなくていい!!」 なにムキになってるんだよ。なんでそんな強い口調なんだ。 「でも、実際勉強はちょっと何とかしないと取り返しがつかないよ・・・だから」 「うちがいるでしょ!」 えー・・・ お姉ちゃんとの勉強が良かったのに・・・テンション下がる・・・ 第一、僕らのレベルって同じぐらいなんだから、熊井ちゃんに勉強を見てもらってもあまり意味ないんじゃ・・・ と思うんだけど、なんか興奮している彼女を刺激しないように、とりあえず反論は控えておいた。 ここは病院なんだ。 この場所で熊井火山を噴火させるわけにはいかない。 なんか気が立ってる様子の熊井ちゃん。 何が気に障ったんだろう。ちょっと思い当たらないんだけど、とにかくこの場を何とか穏便にやり過ごさなくては・・・ 僕らのそのやり取りに、ちょっと困ったような表情のお姉ちゃん。 そんな状況のなか、話しの落としどころを提案するように語りかけてきたのは千聖お嬢様だった。 「そうよね、舞美さんだってお忙しいのだから・・・」 「でも、勉強が遅れてしまうのはやっぱり申し訳ないわ・・・大きな熊さんにもご迷惑をかけるわけにはいかないし・・・」 続けてその落ち着いた口調でお嬢様が言ったこと。 それは、僕にとって夢のような提案だった。 「それなら、舞に頼んでみるのはどうかしら」 次へ TOP
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「えっと、ペアシート。基本料金で。あとその堅焼きポテトください。」 少し歩き回って、私はカードを持ってる漫画喫茶のチェーン店を発見した。最悪デパートのトイレで・・・と考えていたから、これはかなりいい展開だ。 「えりがぢゃぁん・・・」 眉をへの字にしながらも、千聖は私が差し出したポテトチップスをしっかり抱えてついてくる。 「大丈夫だって。ウチのこと信じられない?」 「うん。」 ズコー 「・・・ま、またまたそんな岡井さんたら」 「だって・・・ほ、本当に千聖が嫌だって言ったらすぐやめてくれる?」 「もちろん。ほら、入って。」 指定された個室のドアを開けて、私は先に千聖を通した。 ここの漫画喫茶は完全個室タイプだけれど、最近は“風俗ナントカ法”というやつで、扉のないお店の方が多いらしい。・・・まあ、別にそんなに激しいことをするつもりもないんだけど、一応ラッキーだったのかもしれない。 「さて、と。ちさ・・・」 「ぅあっちょっちょっとまって!私飲み物持ってくるから!えりかちゃん何がいい?ロヤイヤロルミドゥクティ?わかった、ちょっと行ってくる!」 千聖は私が軽く肩に触れると、ピョンと飛び跳ねて慌てて部屋を出て行ってしまった。・・・よーし、ちょっと驚かしてやろう! 「お、お待たせー・・・ええっ!な、何なんで」 「あらぁん、遅かったじゃない、千聖ちゃぁん?ウフン」 しばらくして、両手に飲み物と漫画を抱えて千聖が戻ってきた・・・けれど、扉を開けたまま、ポカンと口をあけて立ちすくんでいる。 無理もない。私は千聖が戻ってくる前に、ブランケット3枚とおっきい枕を借りてきて、座敷の個室をベッドみたいに改造してしまったのだった。 「千聖ちゃぁん?来ないのぉん?」 「う、あう、う・・・・そ、も、もうちょっと詰めてえりかちゃん」 千聖はしばらくフガッてから、観念したように中に足を踏み入れてきた。両手で私をイモムシみたいに転がして、自分のスペースを作り出す。 「あのこれ、ミルクティー持って来たから。あとちょっと漫画読みたいから待ってて。」 「ええ??ちょっとぉ」 私が作った即席ダブルベッドの半分に横たわると、千聖は“アラレちゃん”を読み出した。な、何てムードのない! 「ちぃさぁとぉぅ・・・」 「ん・・・待ってってば」 オレンジジュースとポテトチップスを周りに置いて、すっかりリラックスムードだ。時折グフフと笑い声を上げながら、ゴロゴロ寝返りまで打ち始めている。 「むぉおおう、漫画はあ・と・で!」 「わああ!待ってジュースこぼれちゃう!」 10分、20分と待たされて、私はいい加減辛抱たまらなくなってしまった。後ろから千聖の二の腕をガシッと捕まえる。 「本当千聖、自由だよね。まったく、何でここ来たか忘れちゃった?」 「・・・ごめん。覚えてるけどさぁ・・何か・・・」 千聖はちょっと口を尖らせながら、慌てて私の方へ向き直った。ご機嫌を伺うように、上目遣いでじっと見つめてくる。 「大丈夫だから。本当にたいしたことしないって。じっとしてて。」 「うん・・・」 女の子同士で入ったとはいえ、あんまり不審な動きをしたら店員さんが飛んできてしまうだろう。 私は千聖にぴったりくっついて、背中に回した指で“大事なところ”を突っついた。片手は胸に添えて、唇で首筋を辿る。 「!!!えりっむぐっぐぐぐ」 「シーッ!大声ダメ!」 腕力では無理だから、少し圧し掛かるような体制で、私は暴れる千聖の口を手で塞いだ。 「ほ・・本当に、こんなことしてたの・・・?」 少し落ち着いてから、千聖は掠れた声で問いかけてきた。 「うん、してた。ていうか、裸でしたこともあるんだよ。」 「嘘、嘘・・・信じらんない・・・・嘘だぁ」 千聖は私の手から逃れようと身をよじる。うっすら涙目になっているのが可哀想で、私はそっと髪を撫でて、できるだけ優しく聞いた。 「・・・もうやめとく?最初に言ったでしょ、千聖が嫌って思ったらすぐ終わりにするから。漫画読んで、帰るんでもいいよ。ウチはね、本当にウチと千聖がこういうことしてたっていうの信じて欲しかっただけだから。怖いなら、無理することないよ。」 「う・・・」 ブランケットの中で胸に触れる私の手を掴んだまま、硬直する。千聖は嫌なら嫌だとはっきり言えるタイプだから、今は悩んでいるのかもしれない。 長い睫毛を揺らして少し押し黙った後、千聖はまた瞳に強い意志を宿らせて、私を見つめてきた。 「もう少し、続けてみて。あんま暴れないようにする。」 「ん、わかった。」 正面を向いてると、私の行動がいちいち目に入って怖いだろうし、後ろを向かせてそっと寄り添う。・・・まあ、この体勢の方が触りやすいっていうのもあるんだけど。 お嬢様の千聖の好きなパターン、耳を甘噛みしながら胸の谷間をこしょこしょくすぐるというのをやってみると、千聖は首をすくめて丸まった。 「ぅ・・・ほ、本当に・・・?信じらんない・・・」 まだそんなことをつぶやきながらも、もう逃げる様子はない。足を割って、鎖骨のあたりにカプッと噛み付く。 「っ!」 びくんと全身が跳ねた。と思ったら、硬くなっていた体から、だんだん力が失われていく。あれ・・・これは・・・ 「千聖?」 「・・・・」 背中越しに見た瞳は、あの“一人ぼっちの世界”の時のものだった。と、いうことは 「・・・・・・えりかさん」 「へ、へい。」 しばらくの沈黙の後、再び顔を上げた千聖は、バッチリお嬢様に戻っていたのだった。 「・・あ、あれだね。要は、本格的に気持ちよくなり出すと、人格が変わるってことみたいだね。」 「ええ、そうみたいですね。」 「じゃあ、切り替わるスイッチもわかったことだし、そろそろ・・・」 「あら、えりかさん。」 ブランケットから這い出しかけた私を、千聖の小さな手が捕まえた。 「もう終わりになさるの?もう少し・・・・だめかしら?」 う、うおおおおお嬢様ハァーン!/(^o^)\ナンテコッタイ! 明るい千聖が清純派(?)になった代わりに、お嬢様の方はERO-EROに?どちらもいただけるなんて、梅田、感無量です! 「えりかさん?」 「はっ!・・・あ、わかった、じゃあ、もう少しだけ、ね。」 「うふふふ」 ―暗 転― 「・・・・というわけなんだよ、愛理。ぐふぇふぇふぇ」 「へー・・・。」 少コミ乙、と言わんばかりに、愛理は微妙な表情で私の説明を聞いてくれた。 「まあそれで、いろいろ試した結果、まだお嬢様の方の千聖が人格のベースになってるみたい。ずっと明るいほうではいられないっぽいの。それでも、こうやってスイッチが見つかったのは収穫じゃない?」 「うん、そだね。でもえりかちゃん、それみんなにどうやって説明するの?・・・なっきぃとか。」 うぐっ! 「・・・そこらへんはうまくぼかしぼかしで。」 「その方がいいだろうねぇ」 目の前で、明るい方の千聖とジャレるなっきぃを見つめながら、私は密かにため息をついたのだった。 戻る TOP コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 千聖に連れられて18歳の最初の日に訪れたのは、隠れ家的なロケーションに建つフォーマルな感じのレストラン。 その大人びた雰囲気、舞にはとても新鮮で刺激的だった。 そしてそれは、もう自分がそういう大人といえる歳になりつつあるということを実感させてくれるものでもあった。 お嬢様の千聖にとっては慣れたものみたいで、上品な仕草で舞のことをエスコートしてくれる。 寮生の前での子供っぽい姿のちしゃととは全く違う、落ち着いた大人の女性を感じるその立ち居振る舞い。 千聖って、(あんなんだけど)やっぱりお嬢様なんだな。その伴侶となるマイもこういう世界に早く慣れていかなくちゃ。 一皿ずつ出てくる料理は、舞には馴染みのないようなものばかりだったけれど、どれもとても美味しかった。 なんといっても、最愛の人を前にしているのだ。それこそが最高の調味料(ry 千聖との素晴らしい時間を満喫した私は、千聖と一緒に車で屋敷へと帰る途中だった。 「楽しかったわね、舞」 「うん。本当に」 時刻は20時55分。 そのとき、車は駅前を通りがかる。 瞬間的に意識の中で何かが引っかかった。 何か気になることが浮かんだような気がしたんだ。 ん? 何だろ? 駅前? あ・・・・・ すっかり忘れてた。いっけね。 ・・・・思い出したよ。 そういえば、駅前で会う約束をしていたんだった。 ・・・・・・・ でも、さ、、、、しょうがない、よね。 そうだよ! しょうがないじゃん!! 千聖からあんなお誘いがあったんだから。 そこはさ、やっぱりプライオリティーが違いすぎるでしょ。 しょうがないじゃん、、、 急に黙ってしまったマイの様子に、千聖が声をかけてくる。 「どうなさったの? 舞?」 「ちしゃと、ちょっと駅前に寄ってくれる?」 「駅前に? いいけれど、何か?」 「いや、ちょっとね。用事を思い出して。大したことじゃないんだけどさ」 千聖が運転手さんに駅前に車を寄せるように伝えている。 「ごめん、先に帰ってて、ちしゃと」 そう言い残して、ひとり車を降りた。 駅前のデッキへと階段を上っていく。 約束してたのは5時前なんだ。 もういるわけがないに決まってるんだけど、でもまぁ一応、ね。 そこはやっぱり、ちょっと悪かったかなぁとは思うわけで。 遅れたけれど、ちゃんと顔は出しましたよって事にしておこーかなーと。 でもさ、、、この舞様との約束なんだから、舞が少しぐらい遅れたからって、それぐらいは待ってるべきじゃない? だいたい、マイはちょっと遅れただけじゃん。現にこうやってちゃんと来たんだからさ。 そうだよ、普通は待ってるもんでしょ。女の子がやって来るまで。それぐらいは男だったらさ、当然でしょ。 うん。そうだ。マイが悪いんじゃない。 階段を上ってデッキに出ると、そのテラスの上の光景が目の前に広がる。 もういないよね、いくらなんでも。 そう思いながら、そこをぐるりと見渡すと・・・ 「いた・・・・」 ----------------- ぼうっとしながら僕は眼下のイルミネーションを眺めていた。 もう何時間、僕は一人でこの幻想的なイルミネーションを眺めているんだろう。 次々と色調が変化していき、見ていても飽きることはない。 綺麗だなー。 特に寒色系の色合いになったとき、その色味は今の僕の心情に染み入るようだよ。 もうすぐ21時になる。 終了の時間だ。 ここのイルミネーションは、毎時00分から5分間、幻想的な光によるページェントが行われる。 もうすぐ21時からの5分間が、本日最後のそのショータイムなのだ。 そして、それを最後にイルミネーションの営業時間は終わりとなり消灯されてしまう。 もう終わりの時間か。 いいかげん諦めて帰ろう。 体もすっかり冷え切ってしまったし。 冷えて感覚の鈍くなってきたその手で持っている小箱をじっと見つめる。 これ、渡せなかったな。 さて、もう踏ん切りをつけて帰ろうと、うつむいていた視線を上げた。 そのとき、白い息の向こうから僕の目に飛び込んできたもの。 それは・・・・ 舞ちゃん!!! あまりの寒さに僕はついに幻覚を見るようになってしまったのだろうか・・・ いや、違う。違うよ! 本物の舞ちゃんだ!! 舞ちゃんが来てくれたんだ!! 「やっぱり舞ちゃん!! 来てくれたんだ・・・ ありがとう、舞ちゃん!!」 「舞のこと、待っていたんでしゅか? 今までずっと?」 「だって、舞ちゃんが約束してくれたんだもん。そりゃあ、いつまでも待つよ」 黙って僕をじっと見つめる舞ちゃん。 そんな舞ちゃんが何かを僕に言おうとしたこと、それに気付くことが出来ないぐらい僕の心は一気に高まってしまった。 「あ、あのさ、、、ゴ、ゴメn 「舞ちゃん! 18歳の誕生日おめでとう!!」 だから、結果的に彼女の言葉を遮る形になってしまったけれど、僕は高ぶった気分のままにその言葉を勢い良く口にした。 だって、舞ちゃんが来てくれたことが嬉しくて! とにかく、いま僕は舞ちゃんに自分のこの気持ちを急いで伝えたかったから。 そんな僕の言った言葉に、舞ちゃんは一瞬ちょっと照れたような表情を浮かべてから、こう言ってくれた。 「あーがとごじゃいましゅ」 「こ、これ! 舞ちゃんに誕生プレゼント!!」 「舞に?」 そのぶっきらぼうな反応がもうたまらない! あぁ、プレゼントを無事に渡すことが出来て本当に嬉しいよ。 舞ちゃんにプレゼントを渡したそのとき、時刻は21時になった。 その瞬間、目の前に広がるイルミネーションが一斉に瞬き始めた。次々と変化していくその色合い。 ダイナミックな7色の輝き。まるで光の渦に包まれたかのようだ。 「キレイ・・・・」 幻想的な雰囲気を前に、舞ちゃんが呟いた。 珍しいな。舞ちゃんがそんな素直な感想を述べるなんて。 きっと、舞ちゃんの心に届くぐらい、そのぐらい目の前のこの光景は綺麗なものなのだろう。 でも・・・ 僕はそんな舞ちゃんを見つめる。 ま、舞ちゃんの方がキレイだよ・・・・ 僕がそう言おうとしたとき、舞ちゃんと目が合った。 その大きな瞳。一瞬にして僕はその瞳に捕らわれてしまう。 メイクのせいなのかな。今日の舞ちゃんはとても大人っぽく見えて。 舞ちゃんのその可愛いお顔を間近で見ていると、もう今にも意識が飛びそうだ。 一本一本まで見えるその美しい髪。 ふっくらと柔らかそうなほっぺた。 そして、その艶やかな、く、く、くちびる・・・・ ま、舞ちゃん・・・・!! 反射的に、吸い込まれるように顔が近づいていきそうに・・・ そのとき、僕の耳にある声が聞こえてきたんだ。 それは、あの甲高いアニメ声、ではなく、ほぇーっとしたクマクマ声でもなく、フワフワとした耳に心地いいお声だった。 「まぁ、なんて綺麗なイルミネーションなのかしら!」 「ちしゃと!」 「お嬢様!」 現れた千聖お嬢様、目を輝かせてイルミネーションを食い入るように見つめている。 千聖お嬢様がどうしてここに!? 僕はこの状況がどういうことなのか把握できず、思わず頭の中が混乱してしまった。 パニクった僕ほどではないが、舞ちゃんも現れたお嬢様を見て少なからず驚いているようだ。 そんな舞ちゃんを、穏かな微笑みを浮かべて見つめた千聖お嬢様。 舞ちゃんに続いて、この僕のことも見てくれた。 「ごきげんよう、ももちゃんさん」 「お、お、お嬢様! こ、こんばんは!!」 思いがけず現れたお嬢様が僕に対して微笑みかけてくれたりしたんだ。 その姿に僕が平穏でなどいられるはずもなく。お嬢様に見つめられた瞬間ちょっと記憶が飛んだ。 僕に微笑んでくれたあと、お嬢様は再び舞ちゃんに向き直る。 「ここにいたのね、舞」 「先に帰っててって言ったのに・・」 「舞の誕生日ですもの、舞とずっと一緒にいたいじゃない?」 お嬢様が天使のような微笑で舞ちゃんを見つめた。 「ちしゃと・・・」 舞ちゃんもお嬢様を見つめ返す。 ひょっとして、お嬢様の魔法がかかっているのかもしれない舞ちゃんのその表情。 「ウフフフ、見て、舞。本当にキレイなイルミネーションね」 「ち、ちしゃとの方がずっとキレイでしゅよ」 「あら、ありがとう舞。こんな素晴らしい景色を舞と一緒に見ることができるなんて嬉しいわ」 いま僕が見ている目の前のこの光景。 お嬢様と舞ちゃんのふたり。それは神聖にして不可侵なもの。 その光景に、僕はそっと後ろに下がる。 2人に気付かれないように、それぐらい、静かに、そーっと。 ふたりの絆が目に見えるようなこの光景を見れば、誰だってそう感じてきっと僕と同じようにするに違いない。 「21時を過ぎたわ。でも、今日からはもう、この時間でも大丈夫なのよね、舞」 「うん、舞ももう18だからね」 「色々な新しいことが多くなりそうなこの一年、舞にとって素晴らしい経験になるのでしょうね、きっと」 「そうなのかなー。ま、どこに行っても舞は舞のまま変わらないけどね」 「舞?」 「ん、なに?ちしゃと?」 「私、そんな舞が大好きよ。ずっと千聖のそばにいてくれて、本当に良かったわ」 「・・・・ちしゃと」 「なに、舞?」 「ちしゃと、、、、舞も、ちしゃとのことが、ダ、ダイスk・・・・ 「・・・え?なんて仰ったの舞?」 「・・・・・・・」 「いま言いかけたのは何だったのかしら?」 「な、なんでもないでしゅよ!!11」 「嘘! なにか言いかけたじゃない。舞、ちゃんと最後まで仰いなさい。命令よ!」 イルミネーションを眺めている2人の後ろ姿。 仲睦まじい2人のその姿は、見ているだけで僕を幸せな気持ちにさせてくれるようなものだった。 このままずっとずっとそんな2人を見ていたい。 見ていたいけれど、でも、それはあまりにも無粋ってもの。 だから次の瞬間キッパリと、2人の背中を見送るように僕はそっとその場を後にしたんだ。 こんな形で舞ちゃんの前を去ることは予想外だったから複雑な気分だったけれど、それでも確かに僕の心の中はいま何か暖かく満ち足りていた。 だって、舞ちゃんのあんな穏かな笑顔。めったに見ることが出来ないその笑顔を見ることができたんだから。 僕は舞ちゃんのことが本当に好きだ。大好きなんだ!! 僕が一番に願っていること、それは舞ちゃんが幸せでいてくれること。 だから、だからこそ・・・ 舞ちゃんが千聖お嬢様のことを想う気持ち。 僕が大好きな舞ちゃんのその気持ちなんだ。僕にそれが分からないはずがない。 舞ちゃんの隠し切れないその本心を知ってしまっている以上、僕のすることはただ一つ。 舞ちゃんのその気持ちが変わるまでは、今の舞ちゃんのその気持ちこそ大事にしてあげたいということ。 僕は本当に心からそう思っている。 舞ちゃんの気持ちが果たして今後どうなるのか、将来のことは分からないけれど・・・(ぼ、僕は何年でも待つから!) 少なくとも今はこれで正解。なんだ。きっと。 ・・・・・そうですよね、チンプイさん?(←) 帰り道、僕の心の中は不思議なほどすっきりとした気持ちだった。 舞ちゃんの誕生日、このあとも舞ちゃんにとってきっと素敵な時間となるはず。 今日という日が舞ちゃんにとってこれ以上ないぐらい素晴らしい一日となりますように。 あらためて、18歳の誕生日おめでとう、舞ちゃん! 次へ TOP
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前へ 先日、舞ちゃんと会ったお屋敷のそばのあの公園。 あの公園に行くのは久し振りだったんだが、そのとき思い出したことがあるんだ。 あぁ、そういえば、この公園でお嬢様とサッカー談義をしたことあったっけな、と。 思い出すと、急にまたサッカーボールを蹴りたくなった。 だから、いま僕はその公園に向かっている。 そこに行けば、またお嬢様に会えたりもするかな。 なーんて、そんな下心もちょっとはあったりしたのは内緒だが。 そんなことを思いながら公園のサッカーグラウンドへとやってきたのだが、今日はそこには先客がいた。 そこは既に一人の男の子によって場所を取られていたのだ。 ありゃ、先客がいたか。 そこにはボールを蹴っている一人の少年。 少年、だよな。 中学生ぐらいのこの子、男の子で間違い無いと思う。だけど・・・ その子は、なんというか、とても可愛らしい顔立ちをしていた。 女の子と言われても不思議ではないような、本当にそんな可愛らしい顔をしてるんだ。 思わず見とれてしまう。 かわいい子だな・・・ なんて、そんなこと思っている自分にちょっと引いてしまう。 男の子にそんな感情を抱いてしまうなんて、僕はひょっとしてそっちの気があるのだろうか。 前にテレビで見た学園ドラマを思い出した。 男子校の学生寮。 そこに入寮してきた転校生に好意を抱いてしまい、自分が変態ではないかと苦悩する男子生徒。 実はその転校生はなんと女の子だったんだけど、というお話し。 まぁ、テレビのドラマだけに非現実的な設定だ。 でも、いま僕はその男子生徒の気持ちがよくわかる。 男の子に好意を抱いてしまうと、こんな気持ちになるんだな。 男の子相手にそんな想いを抱くなんて、僕はおかしくなっちゃったのか。 いや、でもそれはちょっと違う。何かが違う。 僕の気を引きつけたのは・・・ そうか、そのドラマの設定と同じ状況なのかもしれない。 この子、本当は女の子なんじゃないか? だって、いくらなんでもこの子かわいすぎるだろ。 女の子が男の子の格好をしているんじゃ・・・ でも、そんなこと本当にあるんだな。ドラマの世界でもないのに。 なんて、そんな妄想をしてしまうぐらい、この子の外見は女の子のようにかわいらしかった。 ま、そんなわけはないのだろう。確かに本物の男の子なんだろうけど。 でも、でも。 はっきりいって、そこら辺の女子なんかよりよっぽどかわいい。 こういうの、なんて言ったっけ、男の娘?? そんな混乱した思いを抱きながら、僕はしばらくの間その子の姿を目で追っていた。 その男の子はシュート練習をしているようだ。 何回も何回もシュートを蹴りこんで、ゴールネットを揺らしている。 僕はそれをタッチライン側で見ていたのだが、そのときだった。 その男の子が、シュートを打つと見せかけて、いきなりノールックで僕に強烈なボールを蹴り込んで来たのだ。 真っ直ぐに僕へと向かってくる強烈なボール。 おっと!! いきなり飛んできたそのボールをインサイドでピタリと止めてやった。見事なトラップが決まった。我ながらカッコイイな! ・・・というイメージを思い描いていたのだが、そのライナーの威力は意外と強烈で、あわててトラップしたその跳ね返りを思いっきり顎にくらう。 痛いっつうの・・ 顎を押さえていると、その男の子が僕に近づいてきた。 近くで見ると、本当に可愛らしいお顔だとますます感じてしまう。 どこか子犬っぽさを感じるその顔。その頭をナデナデしたい衝動にかられる。 その美少年は僕に向かって、こう言った。 「さっきから、なに見てるんだよ」 その声は確かに男の子のそれだ。やっぱり男の子で間違いない。 続けて僕の耳に入ってきたのは、そのかわいらしい顔には全く似つかわしくない言葉だった。 「キメーんだよ。全く、男からじっと見られることほど嫌なものは無いね」 その上から見下すような、人を小馬鹿にした口調。 かわいい子だな、なんて思ったことを後悔した。 な、なんなんだ、こいつは。 「君、見かけない顔だけど、近所の子?」 「関係ないだろ。お前こそ、どこの奴だよ」 口を開くまでは、その女の子みたいな風貌も相まって、とても素直そうな可愛らしい子だったのに。 この子に抱いていたイメージが音を立てて崩れていく。 ま、僕が勝手に思い抱いてたイメージなんだけど。 この子、全っ然かわいくないじゃないか。 見た目と中身のギャップが大きすぎる。 これには頭が混乱した。僕に向けられている言葉遣いも相まって、軽くパニックに陥りそう。 しかし、すごいデカい態度をとってくるな、この子は。 かわいい顔してるくせに、なんて口の悪いガキなんだ。 初対面の人間に対して、そのとてつもなく偉そうな態度は何なんだ。 どうすればいきなりこんな態度を取ってくるような人間になるんだろう。 ・・・なってないな、礼儀が。 僕は体育会育ちだから、こういう上下関係のディシプリンに欠けているやつは基本的に嫌いだ。 まぁいい。 相手はまだガキなんだ。 おいおい教育していってやろう。 ふん、全く。 僕が優しい人間で良かったな。 「君、名前は?」 「バカだろお前。人の名前を聞くときは、まず自分から名乗るんだよ」 とことん偉そうなその態度。 あくまでも、その態度を崩さないつもりなんだな。 まぁ、でも彼の言うことはその通りなので、僕は自らの名前を彼に告げた。 「オレはツバサ。空に翼って書くんだ」 へぇ、カッコいい名前だな。 その字面のイメージ、“千聖”と書いて“ちさと”と読むお嬢様を連想した。 「空翼、か。カッコいい名前だね。その読み方も」 「なに呼び捨てしてんだよ。お前さぁ、自分の立場を考えてモノ言えよ?」 何だ、その口のききかたは。 全く、減らず口ばかり叩きやがって、このガキ。 温厚な僕も、そろそろ顔が引きつってきたのを自覚する。 このクソガキ、もとい、つばさ君は中学1年生だそうだ。 黙っているときはもっと幼く見えたんだけど。 いま憎たらしい口をきき始めた彼は、歳相応に見える。ふん、厨房のクソガキが。 つばさ君、この春からこの辺に引っ越して来たそうだ。 ってことは、この辺の中学校の生徒? どこの中学なんだろ。 「見てたけど、つばさ君けっこう上手いじゃん」 「お前に褒められても全然嬉しくねーし」 「サッカーはどこでやってたの」 「どこってことはないね。オヤジの仕事の関係で転校が多かったから、あちこちの学校でやってた」 「ふーん。つばさ君なのに岬君なんだね」 「は?何言ってんの?意味わかんねーよ、お前」 「お前とは何だよ。僕の方が年上なんだから敬語使えよ」 「何でオレがお前なんかに敬語を使わなきゃなんねーの? どっちの方が偉いと思ってるんだよ」 彼のその表情。 自分の方が偉いのは当然と言わんばかりの、人を見下すようなとてもいやーな表情をしている。 こういう表情、つい最近もどっかで見たことあるな、と思った。 すぐに思い出しました。 あれだ。つい先日お会いしたもぉ軍団自称リーダーさんの表情と全く同じなんだ。 次へ TOP
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「さて、ではさゆみさん。」 私は咳払いを一つして、こんな高いとこ登ったことないの!とわめくさゆみさんに向き合った。 「一体、どういうことですか?さゆみさんはおうちにコックさんがいるとか、基本移動は車だとか、お兄様は家業を継ぐために忙しいのとか、さゆみは生まれながらのセレブなのとかおっしゃってたじゃないですか。昨日はドレスを着てたらしいですし。 それが、それがどうしてももちゃんと同じ小学校で登校班が一緒なんですか!」 なるべく穏やかに話そうと思っていても、知らないうちに語気が強くなってしまう。だって、これは私の大事な千聖の未来に関わることだから。 「舞ったら、そんな怖い顔しないで。さゆみさんが怯えてらっしゃるわ。」 「だって・・・」 「・・・・嘘じゃないの。」 その時、うつむいていたさゆみさんがポツリと言葉を漏らした。 「だって、さゆみのおうちは駅から遠いし、買い物しようにも住宅ばかりで何もないから、基本的に移動は車・・・バスなの。 それに、お兄様・・お兄ちゃんは確かに家業を継ぐの。・・・ちっちゃなペットショップだけど。大型店の台頭で、経営がなかなか厳しいの。 それでお兄ちゃんは勉強会や、珍しい動物たちをうちに連れてくるのにあっちこっち飛び回って忙しいの。 桃子ちゃんのことは、さっき抱きつかれて思い出したの。さゆみのお父さんが脱サラして引っ越すまで、同じ地区に住んでいたの。さゆみのこともっと地味だったって言ってたけど、それはお互い様だとおもうの。桃子ちゃんだって。だから気付かなかったわけだし。」 「っ・・・そ、それじゃ、コックさんていうのは?ドレスは?セレブって??」 「ドレスはレンタルなの。セレブは名乗るだけなら自由ってマリエがテレビで言ってたの。 コックっていうのは、・・・お母さんのこと。ちょっと見え張って言ってみただけ。ちぃちゃん、お母さんには内緒よ。さゆぶっとばされちゃう。」 「ええ、内緒にしますわ。ウフフ」 「な、何がウフフだバカちしゃと!」 思わずほっぺたを両側からむいっと摘み上げると、千聖はウーウーうなりながら首を振った。 「・・・千聖、知ってたの?」 「え?」 「結婚する相手が、千聖のパパみたいな大きい会社の人じゃなくて、ごく一般的な庶民だって・・・ああ、っていうか、何で結婚することになったわけ?別に政略結婚ってわけでもないんでしょ?」 いきなり明らかになった真実に、私は柄にもなく混乱して、矢継ぎ早に千聖に質問をぶつける。 「舞ったら、落ち着いて頂戴。さゆみさんのお家がペットショップを営んでいらっしゃるのはもちろん存じていたわ。リップとパインもそちらでご縁があって、うちで飼うことになったのよ。 結婚については、何でと言われても・・・えと・・・私が物心ついたときには、もうそういうお話になっていましたから。」 「あ、それはねちぃちゃん、ちぃちゃんのパパとうちのお父さんが古くからのお友達だからなの。お互い子供が産まれたら、結婚させようってノリで。」 「な、何それ。ありえないんだけど。ノリって。子供の人生なんだと思ってるわけ!」 大企業の副社長様ともあろうお方が、そんなつまらない理由で可愛い千聖を一般庶民のおうちに嫁がせようとしてるのか!けしからん!そんなんならいっそ舞が(ry 「まあ、そうは言っても、お父様もお母様も・・お兄様自身も、本気にはしてないと思うの。というよりも、下手したらそんな約束忘れてるかもしれないわ。お兄様の写真だって、さゆみが勝手に送ってただけだし。」 な、何だってー! 「でもね、もうすぐちぃちゃんも中学3年生でしょ?いつまでも絵空事の婚約ごっこを続けるわけにもいかないと思って。」 「ていうかあんたのせいじゃん!」 「・・まあ、細けぇことはいいの。お兄ちゃんもね、最近それとなくちぃちゃんの送ってくれる写真見せたら“千聖ちゃんおいしそうに実ってきたねフヒヒヒ”とか言ってチョーキモイの。男って最低ね。 これで改めて婚約の話なんかしたら、ちぃちゃんがどんな目に合わされるかわかったもんじゃないの。」 な、何なのほんとうに。この人。話題がどんどんとっ散らかって、一体なにを言いたいのか全然わからない。 「それでね、こっからが本題なんだけど、そもそもさゆみがなぜここに来たのかっていうと、お兄ちゃんはともかく、千聖ちゃんは本当にうちにお嫁に来る意思があるのか確認したかったの。 それと、お兄ちゃんはどうでもいいんだけど、さゆみとうまくやっていけるかどうか。意地悪小姑だなんて思われたらさゆみも困っちゃうから。 でもちぃちゃんいい子だから、きっとうまくやっていけるはず。ね、そうよね?」 「待ってよ。1000兆歩譲って兄重殿と千聖が結婚するとして、千聖がそっちに行くわけ?そりゃあ千聖には弟がいるから、千聖のパパの会社は弟くんが継げばいいのかもしれないけど。でもさ、その・・・経済的に考えたって」 「おっと、そいつは心外なの。さゆみの家だって、経営が厳しいとはいえお嫁さん1人増えたぐらいでがたつくようなヤワな家じゃないの。」 ――いや、千聖の前にあんたが結婚(ry といいたいところだけれど。もう、こんなに話が通じない人は初めてだ。実はこの機会に、婚約も白紙にさせてやろうと企んでいたのに、舞の言葉は完全にさゆみさんの耳をトンネルのように通り抜けている。 「・・・千聖。千聖はどうなの?ペットショップで働くの?今みたいに、みんなが何もかもやってくれる生活じゃないんだよ。お店をやるって大変なんだからね。 ペットの世話から接客、レジ、現金管理に業者との交渉。千聖にできるの?動物が好きなだけじゃ、この業界やっていけないんだからね。大体、千聖は舞がいないと何にもできないんだから」 私は就職コンサルタントか。夢中になって喋り続けていると、千聖の顔が真っ赤になって、もともとぷくぷくしてるほっぺたがさらに膨らんだ。 「舞の意地悪!千聖だって、立派に自立して生きていけるわ。さゆみさん、私、さゆみさんのお家に嫁ぎます。道重千聖になります!」 「うーれーしーいー!そうと決まったら、今週末はさゆみのおうちにいらっしゃいね?キモイお兄ちゃんからは、さゆみが守ってあげるから。」 ああああああああやってもーたー! 千聖は一度ヘソを曲げるとかなり厄介だ。こうやって、とんでもないことを勢いで決めたりする。 何も出来ないお嬢様扱いされるのが嫌いだって、わかってたはーずーなーのーにー!舞のアホー! 「ちょ、ちょっと・・・・」 「ふんっ行きましょうさゆみさん。ももちゃんも、きっと待っていらっしゃるわ」 「はぁい。舞ちゃんも、早く降りてらっしゃい。」 まさかの展開すぎて、言葉が出ない。 私ともあろうものが、こんな痛恨のミスをするとは!!!何とか千聖にさっきの発言を撤回させようと頭をひねるも、不測の事態にちっとも頭が働いてくれない。「みちしげちさとって、言いにくいよ!」とか、そんなバカなことしか。 「ちしゃとおおおおぉおおうおおお」 私の叫びは風に乗って、屋上のはるか高い空へ飛んでいってしまった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -