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月の光、うつつの夢 ◆S33wK..9RQ 「二度目、ってジョークにしちゃ笑えないな……。ご丁寧にも学ランも着せてくれてさ」 真っ暗な学校でそう独り言を呟く。 真夜中に明かりをつけてしまってはゲームに乗った奴らの格好の標的になる、とアイツから教えてもらったのを思い出す。 窓から漏れてくる月明かりが自分を照らす。この学校の周辺で明かりの代わりになるのは月ぐらいだろう。 肌に冷たい空気が突き刺す。もっと厚着をさせてくればいいのにな、畜生。 二度目、というのは自分が参加させられたクソッタレなゲームに殆どルールが同じだったからそう表現したのだ。 戦闘実験第六十八番プログラム。そう呼ばれていたものに自分は参加させられた。 政治に関して全体主義の体制をとる『大東亜共和国』の戦闘シミュレーション、だったか。あの時はクラスメイトと仲良く殺し合いだったな。あまり思い出したくない。しかし忘れるわけにはいかないのだ。 沢山の犠牲を払って、そして今、自分は生きている。友達を何人も失って。川田も、三村も、杉村も、そして、……桐山も。 やっとのことで脱出して、それで唯一の生き残り、中川典子と一緒にクソ政府にカウンターを喰らわせようと下準備を始めていた所である。 が、なんだこの状況は?殺し合い?また?おいおい、どうなっている? なんてタイミングの悪さだ。 「だけどなぁ、こんな事で挫けるオレじゃないんだぜ」 いいだろう。お前らのいうクソッタレプログラムにまた付き合ってやろうじゃないか。 だが、全員殺して暖かいお家に帰るより主催にカウンター食らわせて暖かいお家に帰る方を俺は選ぶ。 そのほうが気持ちが良いってもんだ。 ……しかしだ。今回は少し相手が違うらしい。あのよくわからない鏡だけの部屋からどうやってここの学校まで移動させたのだろうか? 前は神経ガスかなにかで眠らされてから拉致され、一人ずつ分校を出発したのを覚えている。 だが今回は違った。早くドアを出ろ、と急かされて、出たら学校の黒板にキスをした。(しかも忘れられない始まりの教室だ。畜生) そして後ろを振り返ると自分が出たはずのドアがないのだ。 ……ドラッグとかした覚えは無いし、幻覚とか見たことも無い。だが、急に移動をしたのは確かなのだ。まるで瞬間移動をしたみたいに。 ……細かい事を考えても仕方が無い。それにいま自分の考察をまとめるのは早すぎる。 先ずは自分の支給品を確認だ。 デイパックを開けるとでてきたのは見覚えのあるショットガンだった。 レミントンM870。川田が使っていたものと同等の物かはわからないが、俗に言う『当たり』を引いたのではないだろうか? 他は……おいおい、ショットガンと弾だけか?……寂しい装備だが贅沢は言ってられないか。 で、前回と同じ通り水と味の無いパン、時計に筆記用具、そして名簿。 そういえば、まだ名簿を確認していなかった。自分の知り合いが参加している事は無さそうだが…… しかし、名簿に載っている名前は予想以上に異常だった。 「……なっ!?三村!?杉村に相馬、桐山!?」 どうなってる。死人の名前が名簿に乗っているだと。 自分は他のファンタジー色溢れる名前より、その4つの名前に目が言ってしまう。 ミスプリント、にしては偶然すぎるだろう。同姓同名?……いや、それもありえない。 ではなんだこれは?……オレを混乱させる為のブラフか?いや、そんな事をして政府に何のメリットがあるんだ? では本当に?いや、それはありえない。死人が生き返るだなんて。 「……死人が生き返る?」 『……そして、死者を蘇らせたい者。 最後の一人になった者にはどんな願いでも叶えてやることを約束しよう。我々にはそれが可能だということを知っている者もいるだろう?』 先刻聞いたばかりの言葉を思い出す。 ……もしかしたらあの鏡の部屋のスクリーン(かなにか)に移った男は大東亜共和国の政府の人間ではないかもしれない。 ではなんだ?神様とでも? ヘッ、笑えるぜ。神が居たらオレはあんな殺し合いに巻き込まれなかっただろう。 しかし、これは仮定の話だ。馬鹿らしい仮定だが、奴が神だとしてそれで生き返らせたとして…… 「いや、この仮定はやめておくか……いつからオレは電波少年になっちまったんだ?」 考えるのをやめた。死人は生き返らない。神は居ない。それでいいじゃないか。名簿の名前は同姓同名ということにしておけばいい。 そう納得しなければ混乱で死にそうだ。 次にすべきことは情報収集と物資調達か?この首輪を外す方法、そして工具を探す。できれば仲間も。(同姓同名の奴がもし……いや、やめておこう) 先ずは、この学校をでることにしよう。 ポチャン ……なんの音だ?廊下から聞こえた。 デイパックを背負い、ショットガンを構えて廊下にでる。 ショットガンを強く握った手から汗が滲む。 殺し合いの序盤だ。音を出す行為は参加者にしては無用心すぎるだろう。(それともオレが二度目だから用心しすぎているのだろうか?) 音は女子トイレから聞こえる。 スコーン また音が鳴る。ゆっくりと脚を進め女子トイレのドアの前に立つ。人影は見えない。 真夜中だからそれはなおさら見えない。古い学校の女子トイレのドアは木目がよく浮かんでいる。中から光が漏れていた。この光はこのドアの向こうの窓から漏れる月明かりだろう。 そして、ドアをゆっくりと開ける。 目の前にはなにも無い。しかし、なんて汚いトイレなのだろうか。掃除がまったく行き渡っていないじゃないか。 こんなところで用は足したくない。酷い匂いが鼻を突く。こんなところに長居はしたくなった。 振り返りドアを開けようとした、そのときだった。 「……ん?」 掃除が行き渡っていない汚い床に、それはなんとも美しい、そして華やかに装飾された服、俗に言うゴシックロリータチックな服を着ていて、そして透き通る様な肌をしていて、いまにも動き出しそうな人形が落ちていた。 「……なんでこんなところに人形が?」 両手で持ち上げる。感触は柔らかく、肌は赤ん坊の様にきめ細かい。目は瞑っているものの睫毛は長く、音楽を奏でそうな細い指。 なんと美しいのだろうか。 「…まぁ、中川には劣るだろうか」 おいおい、唯の人形と最愛の人を比べるなんて馬鹿らしいじゃないか、と自分で突っ込む。 ……なんでこの人形は錆びたドアノブを持っているのだろうと疑問を持つ。 そのドアノブを取ろうとするが、完璧に掴んでいて中々離さない。 何故取れないのだろうか。おもいっきり引っ張ってみた。そのときだった。 ギョロン、と人形の目が開いた。 「なっ!?動いた!?」 「痛いわ。気安く触らないで頂戴」 バチン ☆ ☆ ☆ 「……酷い匂いね」 薔薇乙女第五ドール、真紅。彼女はあの扉から出てきたところは彼女にとってあまりにも汚いところだった。 女子トイレの個室であった。そこは暗く酷い匂いが鼻を突く。 前が見えない。 ポチャン。 「……最悪なのだわ」 暗くて見えないため、和式便所に片足を突っ込んでしまった。 本当に最悪だ。アンモニアの匂いがさらに鼻を突いた。 冷静に脚を引き上げた。中にも染みて不快である。匂いは…………。 この面倒な事が終わったらジュンに洗ってもらわなければ。 個室から出ると更に匂いが強まった。月明かりのお陰で少し視界がよくなったが。 「本当、酷い匂い…」 掃除はどうした。この館の執事はなにをやっているのだ。 とても埃っぽいし、ところどころ『物』っぽいものが見える。 不快だ。不快すぎる。 私はまずこのアリスゲームに良く似たこの催しについて考えることよりも、そして私をどうやって此処につれてきたのかより、早くここから出たいという気持ちの方が勝っていた。 しかし、出口のドアは閉まっていたし、ドアノブに背が届かない。 なにかいいものはないか。 「ホーリエ、なにか踏み台になるものはないか探して頂戴。……バケツ?」 ホーリエがトイレをちょこまかと動く。そしてそう時間がかからないうちにホーリエはそれを発見した。 開けっ放しの用具室にバケツが置いてあった。ぐるぐるとバケツの回りをホーリエが回る。 ありがとう、と言いながらそれを運んでドアの前に置く。そしてそのバケツの上に乗る。 「さて、これでようやく……キャッ!?」 しかし、運が悪かった。ドアノブが外れる。 バケツの上に載ってもギリギリ届くぐらいのところにドアノブにあったので、自分の体勢は転ぶか転ばないかギリギリであった。 予想通り、真紅はドアノブを持ったまま倒れてしまった。 スコーン、と情けない音がでる。 「(あら?……意識が…)」 打ち所が悪かったようで意識が飛ぶ。 このままなら夢の中を彷徨うことになるだろう。 そして文字通り、夢の中にダイブした。 夢の中で体が浮く。なんとも心地よい気分だろうか。 まるでティータイムの後の御昼寝に似ている。 しかしだ。その心地よい空間に腕を強い力で引っ張られる。 なんだ?あぁそうか。私はドアノブを掴んだままね。 しかし、意識が起きても体は起きてくれなかった。一種の金縛りである。 早く起きないと腕がもぎ取れる。 そして…… 「なっ!?動いた!?」 「痛いわ。気安く触らないで頂戴」 やっと体が起きた。条件反射でツインテールでその少年を鞭の様に攻撃した。 本当危ない所である。本当に腕がもぎ取れるところであった。 目の前には顔が結構整っている少年が居た。しかしその顔は驚嘆に満ちていて、まるでお化けを見た様な表情をしていた。 数十秒の沈黙が続く。 少年は殴られたのにも関わらずまだ私の体を持っている。 「……レディが目の前に居るのに名を名乗ることもしないの?」 「え…あ、オレは七原、七原秋也……」 少年はまだ驚いている。この反応は私を始めて見たジュンのようである。 というよりか初対面の人はだいたいこの反応だ。 相手が名乗ったからにはこちらも名乗らない訳にはいかなかった。 「シュウヤというのね。では私も名乗りましょう。私は薔薇乙女第五ドール、真紅よ」 酷い匂いが充満するこの場所で、月明かりが二人を照らす。 このファーストコンタクトは最悪なものなのか、それとも…… 【G-4:分校(鎌石小中学校)、女子トイレ/1日目/深夜】 【七原秋也@バトルロワイアル】 [状態]:頬に痛み。 [装備]:レミントンM870(8/8) [道具]:基本支給品、レミントンM870(8/8)、レミントンM870の弾(30発) [思考・状況] 基本行動方針:プログラムの打倒 0:人形が動いただと? 1:脱出の為の情報収集、工具集め。 2:名簿の名前は…… ※本編終了後から参戦。 【真紅@ローゼンメイデン】 [状態]:健康。左足からアンモニア臭。 [装備]:錆びたドアノブ [道具]:基本支給品、ホーリエ、不明支給品(1~2) [思考・状況] 基本行動方針:まだ決めていない 0:早く此処から出たい。 1:此処から出たら何をするか決める。 ※参戦時期不明。名簿に目を通してません。 赤龍激突 投下順 今日より明日は 赤龍激突 時系列順 今日より明日は GAME START 七原秋也 銃の重さ、引き金の軽さ、理想の儚さ GAME START 真紅
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【登録タグ GUMI VOCALOID う ざわP 曲】 作詞:ざわP 作曲:ざわP 編曲:ざわP 唄:GUMI 曲紹介 7作目 エレキギターを全面に押しだした冬の雨歌 夏空Pが無償配布しているギター音源を使用 1作目「パラソル」以来の全自作PV 歌詞 暗く長い平穏の終わりに 情熱を砕きまぶすトースト どんな化学式よりもややこしい 憧れた金色(こんじき)の太陽 冬の海にぷかり浮いてた 差し伸べた二つの腕は キミのせいで迷子になった day after day 春を待ってる ボクのSOS今も聞こえる? 冗談混じりにそう呟いてみる ボクのSOSずっと無味無臭 …雨が降ってた day after day 冷たい雨 憧れた金色(こんじき)の太陽 冬の海にぷかり浮いてた 差し伸べた二つの腕は キミのせいでゆらゆらゆらら (作者ブログより転載) コメント 名前 コメント
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忍たま乱太郎 夢か!うつつか!? 【サイト名】NHKキャラクターゲームズ 【ジャンル】横スクロールSTG 【課金体系】従量210円 【容量】246KB 【通信機能】- 【簡易評価】あなたの評価点をクリック! plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. 2007/05/23 【使用機種】 W41CA 【プレイ時間】 難しい全キャラクリア 【評価・点数】 2.5/5 おなじみの乱太郎・きり丸・しんべヱ+隠しキャラが使用可能。 1〜4ステージに雑魚・ボス、ラスボスの5ステージは雑魚なし。 体力が無くなると1ミスで残機減る。 残機は最初から5機で、体力・残機の補給アイテムは無し。 通常攻撃は緑の巻物で威力・弾数がパワーアップし1〜4段階、赤の巻物で子機が2体まで。 子機性能もキャラによって違う。 良 ・背景に混じって懐かしキャラが点在 ・グラ細かく綺麗 ・ややパロディウスぽい挙動が可愛い ・キャラ毎にボスとのやり取りのセリフが若干変わる ・音量設定細かい。OFF・1〜5 微妙 ・難易度3種あるけど、結構ゆるい ・ボスでもタメ技の必要がない ・更にラスボスが弱い ・BGMが全ステージ同じ ・隠しキャラ何言ってんだw ・ステージ全般で、しんべヱの使いづらさには悪意すら感じる サイト別/あ行/NHKキャラクターゲームズ
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【登録タグ VY1 rulu ゆ 曲】 作詞:rulu・yuka 作曲:rulu 編曲:rulu 唄:VY1 曲紹介 「 在るべき今日に明かりを灯す───。」 rulu氏のVOCALOID曲4作目。 作詞はrulu氏とyuka氏の共作。 動画は実写となっている。出演:宮下由縁・嵯藤翔 撮影監督:蓮田一樹 助監督:嵯藤翔 監督・編集:平田義久 制作:summmit メーキング映像:ジョン・ゴリラ 作詞で参加しているyuka氏歌唱版がYouTubeにて公開されている。タイトルは「夢現」と漢字表記になっている。 歌詞 (PIAPROより転載) 碧く染まった木々とふわり揺れる遊覧船 寄せては返す雲を ただ見上げる 色の無い迷路のパズルを繋ぐ環状線 優しく過ぎる日々は春の泡沫 重ねたあの日 胸に誓った 約束は今もまだ 泣けない僕の心にそっと 息づいているから ゆらり ゆらゆらり 君は美しい 春の光に包まれて ひらり ひらひらり 花は咲乱れ 願えない想いを乗せて 忙しなく季節は巡り 吐く息は無色に染まる 降り注ぐ雪が綺麗だ 不意に懐かしい匂い 公園のベンチでひとり 君への想いを紡いだ ゆらり ゆらゆらり 君は夢現 冬の匂いに誘われて ひらり ひらひらり 雪は舞踊る 届かない想いはどこへ 燦燦と散る花 照らす斜陽 在るべき今日に明かりを灯す 点と線で繋いだ 夢の欠片を今離して ゆらり ゆらゆらり 君は美しい 春の光に包まれて ひらり ひらひらり 花は咲乱れ 願えない想いを乗せて ゆらり ゆらゆらり 花は歌い散る 春の空に駆けるように ひらり ひらひらり 僕と君の影は儚い想いと消えた コメント 名前 コメント
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出現式神:普通 困難 提灯お化け 提灯お化け 天邪鬼青 天邪鬼青 胡蝶の精 胡蝶の精 1 1 1 1 1 1 箒神 箒神 天邪鬼緑 天邪鬼緑 ぬりかべ ぬりかべ 3 3 3 3 1 1 天邪鬼赤 天邪鬼赤 2 2 三尾の狐 三尾の狐 1 1 ボス 蠱毒師 天邪鬼緑 3
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マップ名は仮に付けたものであり、正式名称ではありません。 7個 (Ver0.02) スクーター イカ ナイフ もぐら くろかみ ハリボテ サングラス スクーター 入手場所 +... span.plugin_treemenu3 ul{ list-style-type none; list-style-image none; } ul.treeline li not( last-child) before{ content ┣ ; } ul.treeline li last-child before{ content ┗ ; } span.cursor{ cursor pointer; text-decoration underline; font-weight bold; } ul.first_list{ padding 0; margin 0; } 扉部屋 道路標識の世界 高速道路 標識置き場 オレンジ色のスクーターから入手 効果 +... スクーターに乗る。倍速で移動できる。シフト効果でクラクションを鳴らす。 イカ 入手場所 +... span.plugin_treemenu3 ul{ list-style-type none; list-style-image none; } ul.treeline li not( last-child) before{ content ┣ ; } ul.treeline li last-child before{ content ┗ ; } span.cursor{ cursor pointer; text-decoration underline; font-weight bold; } ul.first_list{ padding 0; margin 0; } 扉部屋 目玉の世界 とある目玉の中にいるイカから入手 効果 +... イカになる。シフト効果で光り、暗い場所を明るく照らすことができる。 ナイフ 入手場所 +... span.plugin_treemenu3 ul{ list-style-type none; list-style-image none; } ul.treeline li not( last-child) before{ content ┣ ; } ul.treeline li last-child before{ content ┗ ; } span.cursor{ cursor pointer; text-decoration underline; font-weight bold; } ul.first_list{ padding 0; margin 0; } 扉部屋 花瓶族の世界 歪み道 足跡通路 マップの一番上に落ちているナイフから入手 効果 +... ナイフを持つ。決定キーを押すことで他のキャラを殺傷できる。シフト効果で前に構える。 もぐら 入手場所 +... span.plugin_treemenu3 ul{ list-style-type none; list-style-image none; } ul.treeline li not( last-child) before{ content ┣ ; } ul.treeline li last-child before{ content ┗ ; } span.cursor{ cursor pointer; text-decoration underline; font-weight bold; } ul.first_list{ padding 0; margin 0; } 扉部屋 花瓶族の世界 ゲルニカの間 茶色い塊から入手 効果 +... モグラになる。シフト効果で地面に穴を掘ってもぐり、扉部屋に帰還する。 くろかみ 入手場所 +... span.plugin_treemenu3 ul{ list-style-type none; list-style-image none; } ul.treeline li not( last-child) before{ content ┣ ; } ul.treeline li last-child before{ content ┗ ; } span.cursor{ cursor pointer; text-decoration underline; font-weight bold; } ul.first_list{ padding 0; margin 0; } 扉部屋 顔壁画の世界 ライト顔壁画世界 黒髪のキャラから入手 入手経路情報 +... 「ライト顔壁画世界」に通じるくずれた顔へはマップ右下から行けるが、気付きにくい道の奥にあるので注意! 効果 +... 髪の毛が黒くなる。効果は特になし。 ハリボテ 入手場所 +... span.plugin_treemenu3 ul{ list-style-type none; list-style-image none; } ul.treeline li not( last-child) before{ content ┣ ; } ul.treeline li last-child before{ content ┗ ; } span.cursor{ cursor pointer; text-decoration underline; font-weight bold; } ul.first_list{ padding 0; margin 0; } 扉部屋 顔壁画の世界 暗闇世界 置いてある看板から入手 効果 +... ハリボテになり、横向きに平べったくなる。シフト効果で縦向きに平べったくなる。 サングラス 入手場所 +... span.plugin_treemenu3 ul{ list-style-type none; list-style-image none; } ul.treeline li not( last-child) before{ content ┣ ; } ul.treeline li last-child before{ content ┗ ; } span.cursor{ cursor pointer; text-decoration underline; font-weight bold; } ul.first_list{ padding 0; margin 0; } 扉部屋 道路標識の世界 緑の人から入手 入手経路情報 +... 緑の人は低確率で出現する。マップ内を右上に向かって走り続け、「高速道路」につながる入り口のすぐ右下にある、黄色地に黒十字の看板にぶつかって止まる。 効果 +... サングラスをかける。画面が少し暗くなる。シフト効果でサングラスをちょっとずらす。
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―――――――――――――――――――― 夢を、見ているのだと思った。だってこれは――何度も見てきた、光景だっ たから。 ここに居る時の私は、自分の意思で動いているようでありがなら。その実、 もう既に『何かに囚われた』動きしか出来ない。 眼の前には、私がずっと好きだった……彼の姿。『今』の私は、彼の部屋の 中に居る。幼馴染の関係を続けてきて、いつも二人一緒であること自体が自然 だった。 そんな彼が。瑣末な問題(あくまでそれは、私から見ての意見として)により、 学校へ来なくなってしまった中学生時代。私も随分と拒絶されていたけれど、 彼が学校へ通えるようになった直前の時期などは、家に上がれるようになって いた。 「ねぇ、ジュン」 「――なに」 初めはドア越しに、そしてその内部屋に入り。眼は合わせていないけれど、今 私達は、同じ空間を共有している。 あなたが来ない学校は、何だかとても味気なかった。学校に行ってない時だっ て。紅茶を一人で淹れて飲んでみても、寂しいと感じてしまう。ひとえに、それ は。いつもそこにあった日常が、無かったから。あなたに紅茶を淹れて貰い、そ の感想を言うことも出来ない。 「特に無理を言っている訳でもないんだから。話くらい、相手になって頂戴」 「……」 彼は答えない。何も、答えない。 「ねぇ、ジュン。寂しいと思っているのは、私だけなのかもしれないけど」 知っている、わかっている、 「せめて……一緒に居て、頂戴」 彼は、 「わたし、……私は、あなたのことが。……好き、だから」 彼は、私の思いに、……応えない。 そんな、遠いあの日の夢を。今も私は、見続けている。 ―――――――――――――――――――――― 目覚めるとそこには、見慣れぬ天井。 「……痛、……」 そうだ、私は。昨日は水銀燈と呑みに行ったのだ。酒量が多かったのだろう、 どうやら二日酔いのような塩梅だ。 喉が、渇く。水が欲しい。 ベッドサイドを見やると。ペットボトルのミネラルウォーターと、紙切れが 置かれている。何か書いてあるようだ。 『ここは水銀燈の家よぉ。ゆっくり休んでて。そして水分をいっぱい摂ること!』 彼女が私を運んでくれたのだろう。……迷惑をかけてしまった。 心遣いに感謝しつつ、水を押下していく。 「ふぅ……」 とりあえず、一息つく。酔いつぶれてしまうだなんて……レディとして、なって ないのだわ。こうなってしまうと、もう嗜みも何もあったものでは無い。 風邪を引いている訳でもないのに体調が悪いのは、存外に心地良くないもの。 もう少し眠ったほうが良いかもしれない。 横になって。眼は瞑らず、天井を眺めていた。白を基調とした内装が、清潔感 抱かせる部屋だった。 このまま眠ってしまうと、また夢を見てしまうかもしれない。今でもたまに見 る、『あの日』の夢を。 私の想いは、残念と言うかなんと言うか。その日、砕かれてしまった。若い頃 の思い出と言うか、中学生の癖に告白だなんて、ませた子供だったかもしれない けれど。私はそれを、告げずにはいられなかった。それは、当時の彼の状態に対 する、同情でもなんでも無く。素直な私の気持ちとして。 水銀燈に、このことは伝えていない。密やかに、私の胸の中に閉まっておこう と思ったのだ。 『ごめん、そういう事とか……今は考えられないから』 申し訳なさそうに、彼は言った。彼の精神状態を鑑みるに、自身のメンタルを 調えるだけでも当時は精一杯だった筈。そんな彼に余計な気を遣わせてしまった と、それだけでかなり私は落ち込んだ。 私はそれからも、彼の家へ通い続けた。とは言っても、もう彼に恋愛感情とし ての想いを伝えることは無くて。黙って座っていたり、少し落ち着いている時な どは、話をしてみたり。勉強も一緒にしたりしていた。 そうやって私は、彼の"回復"に付き添っていた。想いは届かずとも、彼は大切 な友人。私にとって、無くてはならない存在だったから。 彼が学校へ通うことが出来るようになって。その事自体、私の功績などでは無 いと思っている。彼の"回復"は、彼自身の強さ故の話。私はただ、彼の傍に居た かっただけ。 その後。彼は家へ引き篭もってしまう前のように、私に接してくれた。それは 少し寂しいようで……また嬉しくもあったのだ。 だから、私も。同じように彼に接した。一緒の高校に行けるように、勉強も二 人で殊更頑張って。そうすれば、当面はまだ……近くに居られる。そう、思った。 「……」 なんだか眠い。お酒を呑んだ後の睡眠は、ほとんどその用を成さないせいだろ う。身体がまだ、休息を欲している。 私はまどろみながら、考えている。こういう夢を見てしまうのは、恐らく私が 未練がましいせい。現に、今も。私はジュンが――好きだ。 この想いは。きっと、振られたあともずっと続いている。 だが。それが一体、何だと言うのだろう。どうにかなる訳でもないのに。 横になりながら、ペットボトルに手を伸ばす。 ――水銀燈。あなたはジュンに、想いを伝えたの? 付き合っているような素 振りは見えなかったけど……今も、あなたの。想いは、続いているの? 『私達は、似た者同士なのかもしれない』だなんて。それが、ふたたび眠りに 落ちる前の、最後の思考だった。 ―――――――――――――――――――――――― 「~~♪……♪~~~~♪」 キュッ、と。鼻歌交じりでシャワーの蛇口を捻り、全身でお湯を浴びる。 お酒を呑んだ次の日は。別に身体にアルコールが残っている訳では無いが、起き てすぐにシャワーを浴びることにしている。勿論寝る前にも浴びるには浴びるの だが、なんとなく習慣というやつだった。 立ち昇る湯気の中、髪の毛も濡らし始めた。長い髪をしていると、洗うのが割 と面倒なのだけれど。今のところ、ばっさりと切ってしまう予定は無い。 髪を適当にピンで留めておき、タオルで巻く。それから、あらかじめ貯めてお いた湯船の中に、身を沈めた。 「ふー……」 朝風呂(とは言っても、既にお昼近い)が気持ちよいなどと言うと、随分親父く さいのかもしれない。かと言って『一日に二回はお風呂に入る』と表現すると、 それはそれで潔癖っぽい印象になってしまうだろうか。なんとか良さげな言い方 はないものかな。 「……む」 ちょっと、自分の胸に手をやってみた。最近、ブラのサイズがきつい様な…… まさかまた、大きくなってるんだろうか? 真紅に分けてあげたい、なんて事は。間違っても本人の前では言えない。後が 怖いから。 ―――――― 高校一年の時。修学旅行のお風呂場で一緒になった時、彼女の裸体を一度見て いる。女の身である私から見ても。本当に白く、美しい肌だと思った。確かに、 胸はちょっと控えめだったが…… 彼女の方はと言うと、何故かこちらにちらちら目線を向けつつ。顔だけはまっ かっかだった。そして自分の身体を見やっては、『はぁ……』と溜息をついてい るのだ。 そんなの、コンプレックスに感じることなんて無いのに。あなたは充分、魅力 的なのだから。 そう頭ではわかっていたものの。彼女の様子に、私の嗜虐心はくすぐられてし まったのだった。湯船につかりつつ、私は言う。 「ジュンは、どんなタイプの娘が好みなのかしらねぇ?」 この言葉に、はっとした表情を見せる真紅。 「例えば、身体的特徴で言ったりすると……」 「……」 何も返してこないので、改めて彼女の方を見やった。すると、顔はますます真っ 赤になって。眼はなんだかうるうるしている。 ちょっと慌ててしまった。確かに少しばかりいじってやろうと思ったけれど、 これは流石に様子がおかしい。 「……本」 「え?」 「この間、本があったのだわ。ジュンの部屋に。ベッドの下を探って見たら、 案の定あったのだわ!」 ああ……なるほど。彼も健全な青少年だからなあ。というか、声が大きいわ よ? 真紅。一応他の女子も居るのだから、彼の名誉は守ってあげないと。 「そこに載っていた女のひとが、なんていうか……その…… む、胸が、大きくて……」 きっと、そんな感じの女性が好みなのだわ。そう言って彼女は、ぶくぶくと湯船 に潜っていってしまったのだった。 「……ふぅ」 私は溜息をつく。それで私の身体をちらちら見ていたのだろうか? 確かに私の 胸は大きいほうだけど。"そういう本"に載っている女性と、彼の好みを直結させ るのは。いささか短絡にすぎるのではないかと思う。……多分。 当時の私は、ジュンの存在が"意識"する様になりだした頃。明確に『好き』と いう感情を持ち合わせていたかと言うと、それは微妙だと思う。まあそれでも、 男の子の中では断トツに話す率は高かった訳で。もっと彼の事が知りたくて、話 がしたいと思ったりしていた時期だった。 真紅は本の内容にショックを受けているようだけど。そんなことよりも、私は。 彼女が平然と彼の部屋へ上がれている方が、すごいと思っていた。私は、彼の家 に行った事は無かったし。だから、むしろ真紅のほうが羨ましい。 「……あら?」 さっき湯船に潜行していった彼女が、浮上してこない。 「嘘!? ちょっと! 真紅ぅ!?」 完全に血を昇せてしまった真紅を迅速に救出し、服を着せて。廊下の長いす に寝かせながら、団扇で彼女の顔を扇いでいる私なのだった。 「ありがとう、水銀燈……」 「どういたしましてぇ」 苦笑気味に返す。本当、いたいけな娘なんだから。見てるこっちがはらはらし てしまう。 と、そこに通りかかる人影。 「……何やってんだ? 二人とも」 「あらぁ、ジュン。ちょっと真紅が昇せちゃったのよぅ」 「えー? 旅行だからってはしゃぎすぎだろ、真紅。……泳いでたのか?」 惜しい。彼女は沈んでいたの。……色んな意味で。 「なっ! そんなはしたない事はしないの、だわ……」 語尾が弱くなる。まだ本調子には戻らないだろう。さっきに比べると、大分顔 色は良くなってきているが。 「あー。ちょっと待ってて」 そう言って、ジュンは小走りで向こうへ行ってしまった。変わらず、私は団扇 で扇ぎ続けている。 「……ジュンは?」 額に当てていたタオルを外しながら真紅は言う。 「どっか行っちゃったわよお」 私の言葉に、『そう』と一言返して。今度は顔の上半分にタオルを乗せなおした。 「ねぇ、真紅……別にジュンは、なんというか……グラマーな娘が好み、とは 限らないじゃない」 「……そう、かしらね」 そうだ、気にしすぎだと思う。タオルで隠れているせいで、彼女の表情は読め なかった。 「お、いたいた。おーい」 ぱたぱたと走りながら、ジュンが戻ってきた。 「飲み物買ってきたぞ。風呂上りはやっぱこれだろ」 珈琲牛乳。王道ねぇ。流石に乳酸菌飲料は売ってないか。ちょっと残念。 「おい、真紅。どれがいい?」 「つめたい紅茶がいいわ」 「選択肢に御座いません。よってお前は飲み物なし」 「なっ」 慌てて彼女は身を起こした。ジュンも意地が悪い。初めから選択肢は無いんだ から。 「ペットボトルの紅茶なんて飲めたもんじゃないって。お前が言ったんだろ? いいからこれで我慢しろよ」 「……仕方無いのだわ。ありがとう、ジュン」 「水銀燈も、ほら」 「あら、ありがとぉ」 ―――――――― そんな、やりとり。軽口を叩きあっているだけのように見えるけど。ジュン と真紅は、本当に仲が良い。……あと彼女は、ちょっと素直じゃないなあ、な んて。そんな事を私は、その時考えていたのだった。 「……」 白崎に話してしまったせいだろうか、昔の事をよく思い出す。そろそろ身体も ふやてしまいそうだったから、お風呂をあがることにしよう。 着替えて部屋に戻ると、ベッドではまだ真紅が眠っていた。 ペットボトルの水が、減っている形跡がある。となると、一度は起きたとい うことだろうか。 起こすのも、なんだか悪い。まあ、そのうち目覚めるかしらねぇ。とりもあ えず私は、彼女が目覚めた時のために。軽めの朝食――や、昼食か――を、作 ることにする。 ―――――――――――――――――――― 「ん……」 眼が覚めた。時計を見ると、一時三十分とある。とりあえず上半身だけ起こし てみた。窓にかかっているカーテンから、陽の光が僅かに漏れている。どうや ら、今は深夜では無いらしい。 鼻腔をくすぐる匂い。そういえば、ちょっとお腹が空いたな…… 「あら真紅、おはよぉ」 水銀燈が、お膳に何かのせながら部屋に入ってきた。 「調子はどう? 頭痛くなってなぁい?」 頭痛はとれているようだった。それにしても、まるで母親のような口ぶりである。 「ごめんねぇ。もっと抑えて私も呑んでればよかったんだけど……」 「いえ、水銀燈。潰れてしまったのは私の責任なのだわ。 それにしてもありがとう。大変だったでしょう、運ぶの」 あなたの身体は軽いから全然平気よぉ、なんて言って。彼女は笑っている。 「お腹空いてるでしょ? ほら、どうぞ。呑みの次の日は、これが効くんだから」 膳に載っていたのは、和風の食事だった。少な目のご飯と、野菜の具が沢山入 れられているお味噌汁。脂っこいものが無いのが有難い。 「ありがたく頂くわ。……その前に、ちょっと顔を洗ってきても良いかしら?」 「いいわよぉ、タオルは適当にあるのを使って?」 示されて、私は小物が入っているポシェットを持ちつつ、部屋を出た。 化粧はもともとほとんどしていない。だけど、眠ってしまう前に洗顔出来な かったのが悔やまれる。まあ、昨日の状態ならしょうがないだろう。 とりあえず顔を洗って(メイク落としは水銀燈のものを少し拝借した)、さっ ぱり。ポシェットから色々取り出してみたものの、このまま直ぐにメイクして も"のり"が悪そうだと思ったので、顔を拭いてからそのまま部屋へ戻ることに した。……というか、殆ど変わらないし。 「いただきます」 お味噌汁が、良い香りを出している。すぐに戻ってきたので、まだ冷めてはい ないようだった。胃が食べ物を受け付けてくれるかどうかは少し不安だったも のの、それは杞憂に終わった。ほのかな塩味が食欲を掻き立てて、あっという 間に食べおわる。……ちょっと、行儀が悪かったかしら。 ご馳走様、と言う私に対し。『お粗末さまでしたぁ』と返す水銀燈。 シンプルな食卓だったが、美味しかった。水銀燈が料理が上手だということ は、私の知る所では無かったので少し驚いている。 対する私はと言うと、料理は得意では無い。一応、自炊を心がけつつ頑張っ てはいるのだけれど。ちょっと他人に食べさせる段階になると、どうにも自信 が無くなる。水銀燈が、羨ましい。 料理が出来るイコール、家庭的であるという方式は。短絡的に成り立たせる ものでは無いのだろうけど、あながち間違っても居ないと思う。最近では男の ひとも料理する場合が多い様だが。女性の手料理というものは、男性にしてみ ると結構嬉しいらしい……と、雑誌か何かで読んだような気もする。 一度、ジュンにクッキーを作ってあげた事があった。出来は……まあ。私の 頑張りほどには、反映されてくれなかった様で。彼の味に対する反応と言えば、 それはあまり良くないものだった。そういった所では、彼は自分の意見を忌憚 なく述べるタイプだから。 それでも、作ったクッキーは全部食べてくれて。律儀かどうかわからないけ れど、それも彼の『やさしさ』と言うか……良い所だな、とは思う。 「あら、真紅。何ぼんやりしてるのぉ? まだ調子悪い?」 食器を洗い終えたらしい水銀燈が戻ってきた。何かを思い出したり考えたり する時、周りの世界から意識が離れていってしまうのは、私の悪い癖だ。 「いえ、何でもないの。……それにしても。食事、美味しかったのだわ」 素直な感想を伝えておく。彼女はちょっとだけ、照れている様であった。 それから、暫く雑談をして。内容はと言うと、春物の服や化粧品がどうだと か言う日常的な事と、後は『トロイメント』についての話など。あの場所に 関しては、私が夜にひとりでお酒を呑みに行く事は無いだろう。彼女はその限 りでは無いだろうけど。ここは自分らしく、お昼の時間にまたゆっくりと紅茶 を頂きに行くとしよう。 ジュンの話は、……会話にはのぼらなかった。私は意識的にその話をしよう とはしなかったし。彼女は彼女で、彼について言及することも無く。 今は『時期』では無いと思う。しかし、そんなことを考えながら。もう何年 も経ってしまい、今話題の本人は日本に居すらしない。 逃げている訳で無い……と思いたい、私のこころ。だが、彼女の気持ちを確 かめるのが、怖い。私は既に一度、この恋に破れてしまっているから。 水銀燈は、魅力的な女性だ。ジュンは、彼女のような母性溢れるタイプが好 きなんだろうか。料理も上手だし。 そう。こんな思考に至って、いつも私は形の無い不安に包まれてしまうから。 彼についての話題を避けてきた。今まで、ずっと。私は……卑怯だ。 きっと私の気持ちについて、彼女は気付いているに違いない。そこまで半ば 確信していながら。私はそれを、水銀燈に対し言葉として形にしていない。 『私も、ジュンが好きなの』。 その、あと一押しすれば出せる筈の言葉は。私のこころの中で、小さな小さ な棘のようなものに串刺しにされ、何処かで引っかかってしまっている。水銀 燈の恋を、応援するのだと。当時複雑ながらも本心であった筈の言葉を、一 度口にしてしまったあの時から。 「そろそろ帰るのだわ。お邪魔したわね」 「いえいえ。今度は真紅の家に遊びに行くわねぇ」 ひらひらと手を振って、見送られる。帰り間際、昨日の酒代の事について気に なったので尋ねてみたが、『おごりにしとくわぁ』と返されてしまったので。 その好意を受け取っておいた。 外へ出ると。自分が思っていたほど、空は晴れていない様であった。油断す ると、一雨やってきそうな感じ。 「……」 生憎、傘は持ち合わせていない。急いで帰らなければ、いつ気まぐれで空が泣 き出すかわからない。 だけど何故だか、急いで家路につこうとは思わなかった。 ゆっくりと歩き始める。空を見上げると、一瞬雲の切れ間から陽の光が零れた 様な気がした。でも、それはすぐに消えてしまった。 そしてまた、日常は流れていく。日々のかたちは、その時だけのものだ。私が 生きているこの瞬間だけが確かなもの。そんな風に考えるのは、儚いことだろう か? あるいは、寂しいことだろうか? 夜に私は『あの日』の夢を見て、今はこうやって目覚めている。 ゆめは、うつつか。うつつは、ゆめか。 どちらでも良いなと、最近私は考えている。そもそも、それらを分ける基準など 曖昧なもので、詰まるところ各々の意識の問題だから。 今の生活を、それなりに楽しく送っている私。 それを、何処か遠いところでぽつんと独り立ち尽くしながら、眺めている私。 そのふたつの存在の、どちらかが本物で。どちらかが偽物であるということは、 有り得るのだろうか。
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§エピローグ 冬は、全てが眠りにつく季節だと思う。ついこの間まであんなに美しい彩り を見せていた樹々の葉が、いつの間にか枯れ木になり。今はその枝を冬風に揺 らしている。 きっと春になればまた新緑は芽吹き、穏やかな風が吹くだろう。今はその為 の準備期間。たとえ眠っていても、時間はこうやって進んでいるから。 街はひかりで彩られ、賑わいを見せている。その理由は簡単で、もう少しで クリスマスがやってくるから。 大きな通りに、ツリーが飾られている。イルミネーションの電飾が、きらき らと輝いていて美しい。人々は何処かうきうきとした様子で歩いている。 この季節だけ見ることの出来る、一瞬の景色。 冬に眠りについた人々が見ている、束の間の夢。 そんな中で独り、私は歩いている。細い小道に入ると、煌びやかだった電飾 は幾分ささやかなものになり、道を照らしていた。 店に辿り着き、いつものように重めの扉を開く。 「いらっしゃいませぇ」 いつもと違った感じで出迎えられる『トロイメント』は、割と盛況のようだ。 「あら、真紅じゃなぁい。珍しいわね、この時間帯にくるの」 「あなたの様子を見にきたのだわ。ちゃんと働いてるかどうか」 「随分ねぇ。ちゃんとやってるわよね? 白崎さん」 「仕事中に呑まなければもっと良いのですが……」 水銀燈は、ここ『トロイメント』のバーテンダーとしてバイトを始めた。 お酒がもともと好きで、調理も淡々とこなせる彼女にはどうやら天職のようで。 『なにやら美人で気さくなバーテンダーが居る』。そんな評判が広がって、彼 女がシフトで店内に居るときは明らかに客が増えたように思う。普段の静かな 雰囲気とは大違いだった。 「商売冥利に尽きるんじゃないかしら?」 「いやはやなんとも……複雑な心境ですねえ」 彼は私の言葉に対して、何だか微妙な笑いを浮かべるのだった。 新たに扉が開けられて、風が入り込んでくる。 「うお……なんだこの客の数は。ほんとに盛況なんだな」 「ジュン、遅いのだわ。あまりレディを待たせるものでは無いわよ」 「はいはい、悪かったよ」 「『はい』は一回でしょ」 「はいはいはいはい」 頭を掻きながら、彼は私の隣の席につく。 「ジュンも来たのねぇ。ひょっとして二人で冷やかしにきたのぉ?」 「いや。お前が真面目に働いているかどうか確認しにきた」 「真紅と同じこと言わないでよお……」 おばかさぁん、と言いながら。料理の準備をするとか言って、彼女は奥に引っ こんでしまった。そんな様子を見て、白崎さんを含めた私達三人は、お互い顔 を見合わせて苦笑いである。 ジュンが日本に帰ってきてから、私は。丁度彼と二人きりになった時に、自 分の思いを伝えようとした。でも、彼はそんな私を制止して。 「……ちょっと。ちょっとの間、待っててくれないか。真紅」 そんな言葉を、発した。 私がまた不安になってしまっているところを、水銀燈が励ましてくれて。 「待つのはいっつも、女の方よねぇ」 と言いつつも、私の方へ向ける視線は穏やかだった。 『きっと、大丈夫だから』 本当に小さな声で呟かれた言葉だったけど、それが私のこころの中に響いてい た。 彼は彼で服飾学校の方に入学しなおし、また勉強を続けることにして。私と 水銀燈、そしてジュンとの三人によって紡がれる時間が、また戻ってきた。 そして。彼が日本のデザインコンクールで入賞してから。彼の方から、改めて 告白をしてくれたのだった。 『……やっと、ひとつ区切りがついたと思う。あと』 『ずっと前の……返事をしてなかったんだ。本当にごめん』 『僕はそんなに強くないけど……今は言える。これからも宜しく、真紅』 そうやって私達は恋人同士になって。私はまた、泣いてしまった。 一番に水銀燈に報告して。彼女は私を抱きしめながら、『おめでとう』という 言葉をくれて。……もう、その日だけで、私はどれほど泣いたのかわからない。 その夜は、『トロイメント』で宴会騒ぎとなった。水銀燈はその時『ここで働 かせてぇ?』と言い出して。流れも流れで、それがまかり通ってしまったのだった。 ちまちまと呑んでいる私。 際限なく呑み続ける水銀燈と、それに絡まれて呑まされるジュン。 忙しくお酒を作り続ける白崎さん。 思わず笑ってしまった。私の眼は、きっと真っ赤だったろうけど。 だって、本当に楽しかったから。 「出来たわよぉ。水銀燈特製スープになりまぁす」 満面の笑みを浮かべながら水銀燈が奥から出てきた。 「おおっ、美味そうだな」 「もちろんよぉ」 私達はそれに舌鼓をうつ。野菜が沢山入っていて、それでいて深い味わい。 身体が温まる。 「水銀燈さん。今日はもう上がりで良いですよ。あとはこちらでなんとかします」 「ほんとですかぁ? じゃ、ちょっと着替えてきまぁす」 また奥に引っ込む水銀燈。 「いいの? 白崎さん。まだお客は沢山いるようだけど」 「大丈夫ですよ。彼ら全員の注文量は、水銀燈さんひとりに及びませんからね」 はぁ……と溜息をつきながら彼が言う。ま、確かに。 「あれ、水銀燈に気を遣ったんでしょう? 彼女、すぐに客モードに切り替わっ ちゃいますよ」 「心配には及びませんよ、ジュン君」 口では何事も無いような感じであったが、微かに彼の顔に冷や汗が浮かんでい るような気がする…… 「お待たせぇ。さて、何呑もうかしらぁ」 うきうきとした感じで水銀燈が戻ってきた。そしてすぐさまカウンター席につく。 あからさまに『しまった』という表情を浮かべる白崎さん。……結構抜けてる んだろうか? 彼女がここで働くようになってから、リズムを崩したりしてる のかも。 「そうね……久しぶりにお願いしようかしら。ジュン、紅茶を淹れて頂戴」 なっ、といった感じでこちらを向く彼。 「何言ってるんだ、今は僕は客で――」 「あら、いいわねぇ。私も紅茶が飲みたいわぁ」 「ふむ、良いですね。淹れ方の腕が訛ってないか、僕も確かめてみましょう」 私に加えた、二人の賛同。『なんなんだよ全く……』と言いつつも、しぶしぶ 彼はカウンターの裏へ回る。 彼はお湯をわかし、湯をティーポットとカップに入れて温め始めた。 カップの数は、三つ。 私達はその様子を、静かに見つめている。 懐かしい。昔からこうやって、よく紅茶を淹れてもらった。 店の中の喧騒から、私達の空間だけが切り取られたような、静謐。 ふと水銀燈の方を見ると、彼女は穏やかな表情を浮かべていた。 眼があって、お互いに微笑み合う。 水銀燈。あなたともずっと、一緒に居られるわよね? まあ、喧嘩をすることもあるだろうけど。 それもひとつの、私達の在り方。 ゆめか、うつつか。 私達三人の関係は、少し変わったようで。 それでいて、全然変わっていないようにも思えるの。 昔から、ずっと楽しくて。これから先のことは、勿論わからないけど…… 時間はあまりにもゆるやかに、 そしてあまりにも確実に流れていって。 それでも、私達は生き続ける。 人生という名前の旋律を、奏でながら。 もう"やさしい嘘"をつかなくても、きっと。 静かに、静かに。音を紡いでいければ良いと思う。 そう、この現実の中で。 その旋律は――夢見るように。
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§4 ――――――――― 『トロイメント』は、相変らず私以外に客が居ない。 毎週決まった曜日と時間帯にここへ訪れる私は、もはや常連になっていると 言って何の差支えも無いと思う。今日はアッサムティーを注文して。多めのミル クを入れてから口をつける。 「それにしても。本当にお客が少ないのね、ここは」 たまに声に出てしまうのも失礼なのかもしれなかったのだが、どうにも事実な ので致し方ないと思う。 白崎さんとも大分親しくなり、私は大概のひとに接するときと同じような口調 で彼と話をするようになっていた。それに対する彼の話し方と言えば、相変らず なのだった。 「火曜は日が悪いようですね、真紅さん。まあもともとこの店は。 よく来て頂ける常連さんによって成り立っているようなものですから」 『例えば、あなたのような』。そんなことを話す彼の表情はいつも通り穏やかだ。 「ここは、ずっとひとりでやっているの?」 「ええ、ここは一応僕が開いた念願の店でして……基本的にひとりですが、 たまにバイトの子を雇ったりしたこともあったのですよ」 そうなのか。こんなに客が少ないのに、そのバイトをやっていたひとは暇をもて あますことは無かったのだろうか。 「まぁ、真紅さんが思っている以上にお客様は来られます」 訝しげな私の表情を読まれたのだろうか。こころを覗かれているような気分。 だが、それは案外と不快では無かった。 「『地理的なものが良くないんじゃないか』と他のお客様に言われましてね。 ただ、何故かここは。時々迷い込んでくるように、ぽつぽつと新顔の方々が やってきます。そしてそういった方々は、大体またここへ来て頂く機会が 多いのです」 「リピーターが多いのは、良いお店の証拠ね」 「光栄で御座います」 他愛の無いやりとりも、日常をかたち作る大事な要素。会話とは、別に何か 目的を持って話さなければならないという物では無いと思う。 無論、目的を持ちつつ会話を進めていくことはあるのだ。ただ、全てがその 限りでは無いということ。 少なくともたった今私達が紡いでいる会話は、『会話する』という行為その ものに目的や意味があるような。半ば実存的な存在になっているような気もす る。あらかじめ定められた目的へ到達するための手段では無く。ただ、日常の ピースを埋める為だけに、ここにあるもの。 「ここでなら、私もバイトしてみたいのだわ」 本心である。他にもお客が居るのなら、ここは雰囲気が良いから。さぞ心地良 く働けるだろうと思った。 「おや。残念ですが、昼間の時間帯では今のところ募集は無いのです。夜の部 は、たまに人手が足りないと感じることもあるのですがね」 「あら、それは残念」 以前水銀燈と来たときは、私達しか居なかった筈だけど。火曜日は、夜も客が 少ないんだろうか。 そして、唐突に。ある話が始まったことによって、私の時間が一瞬止まった。 「ええ、申し訳ございません。前に入っていた男の子は、昼の担当でしたけどね。 随分と紅茶を淹れるのが上手でした。 本当に、上手だったんですよ。僕もたじたじでしたから。理由を聞くと、 『昔からよく紅茶を淹れさせられていた』と言うんです…… 彼がバイトを辞めた理由は、海外へ服飾の勉強をするのに旅立つ時が 来たからでした。 ――真紅さん。ここからは僕の独り言です。夜の僕はバーテンダーで、 バーテンダーはお客様に問われなければ語らない存在です。ですが今の 僕は、しがない喫茶店のマスター。だからこれは。他愛の無い、世間話です」 彼が、私の眼を見つめて言う。 「そろそろ、講義のお時間では? ……如何致しますか」 私は、どう返してよいのかわからなかった。 もっと言うと、彼が言っていることを理解するのに時間がかかった。 だから黙って聞いていたのだ。何の言葉も返さずに。 ただ、ここで取り乱してはならず。また驚いた風になってはいけないと言う ことだけ、なんとなく思った。 時計を見る。あと二十分もすれば、午後の講義が始まってしまう。 水銀燈は、今日授業に出るだろうか。それはわからない。 『他愛の無い』と。私が思い、また彼が口にしていたこの会話が、実存を超 えたところで意味を持ち始める。だが、その行き着く先が見当たらない。 本当に? 私は、本当にその先を見つけることが、出来なかったのか。 私は静かに答える。 「紅茶のおかわりを、頂けるかしら?」 ―――――――――――――――――――――― 「ほほぅ、デザイナーですか」 「はい、人形の洋服なんか作るの得意なんですけど。ひとの為の服っていう のも、ちゃんと勉強してみたくて」 カップを磨きながら、彼は答えた。 春先からここで働き始めた彼がやってきてから、時は流れ。季節はもう秋に なっていた。青々とした生命の色を失い始めた外の樹々は、紅や黄色といっ た彩りを持ち始めている。 彼はここの他にも、学校には内緒で多くのバイトを入れている。ここで働き始 めたきっかけは、学校帰りらしい彼がここへふらりとやって来たことだった。 外を吹き付ける風も、大分涼やかなものになってきていて。まだ冬の訪れを 感じるには早すぎたが、街を染めている色が何処かしら寂しさのようなものを 彷彿とさせる。重めのドアの向こう側についているプレートが揺れていた。 「本当、ありがとうございます。働かせてもらってる上に、色々とお世話になっ てしまって……」 相変らず、いつものようにカップを磨きながら彼は言う。 「礼ならば、彼に言って下さい。あと、こういうチャンスを掴めるのも、ひとつの 才能だと思いますよ」 この店の常連に、僕の知り合いでもある男が居る。『槐』という植物の名を 持つ彼と自分は、自分が学生の頃から旧知の仲だった。 槐は、その道では結構名のある人形師である。そんな彼は、この狭い小道 にアンティークドールの店を構えているわけだが、気まぐれにこの店へよく顔 を出す。 寡黙な男で、多くを語らない。しかしながら、行動力は結構大胆なところが あり、ふらりと『修行だ』と言っては海外へ出て行ってしまう。よって、彼の店 が開いていることはあんまり無い。 修行と言っても。彼の名前は割と有名なようだから、外国でもその繋がりは 結構多く、仕事をこなしながら向こうでの生活を送っているようだった。 「運……ですか。それも悪いものじゃないかもしれませんね」 全くである。その時もたまたま店にやってきた槐に、『彼も人形の服をつくる んだよ』と紹介してあげた。 そこから、彼がデザイナーを志していること。海外で本格的に修行したいと いうこと。そしてその為に、一生懸命働いていることを話した。 「……しばらく、拠点を移して僕も人形を作ることにしようと思っている。向こう で暮らしている姪っ子の頼みが断れなくてね。住み込みで良かったら、君も ついてくるかい」 彼にとっては、降って湧いたような幸運だったことだろう。最初は遠慮がちで あったが、『それは良い、こういう機会は活かさないと損ですよ』と僕が強く勧 めた甲斐もあってか、彼はその誘いを受け入れた。 こうして彼の夢のかたちは、確かなものに成りはじめていった。 「海外に行くと言っても。君には待ち人か何か、『良いひと』は居ないの ですか?」 仕事の合間に、ちょっと下世話な質問をしてみた。まあ、彼は客じゃないか ら。プライベートな話をする分にも問題は無いだろう。 「え、恋人ってことですか? ……残念ながら居ませんけど」 ただ、学校には。本当に仲の良い女友達が二人ほど居るのだと言った。そ の二人と、自分を加えた三人で居るのは、とても心地が良いと。それを話す ときの彼は、何か照れくさいような、恥ずかしそうな素振りを見せていた。 「随分と助けてもらってるんです、精神的にも。彼女達が居なかったら、今の 自分は有り得ないんじゃないかというくらい。 まあ、それを今更伝えるのは恥ずかしいですから。……だけど」 「だけど?」 「居心地の良さ、だけでは駄目だと思うんです。昔、彼女達の内のひとりと、 ちょっと仲がぎくしゃくしそうになったことがあって。……完全に僕が悪いん ですけど。その後は割と話せるようになったんです。 けど、何処か僕の中の『しこり』みたいなのが出来て。それがどうしても、と れなかった」 「しこり、ですか」 「そう、しこりです。けど、そこにもう一人の女の子が加わって、その彼女と僕 達は。ウマが合う、って言うんですかね。とにかく波長が合ってる気がしまし た。そして三人で居ると、気兼ねなく話せるようになったんです。 何かこう……うまく表現できないんですけど、歯車がうまく噛みあっている 感じ、って言うんですかね」 「……だが君は、それを何処か『怖い』とでも思った?」 「……はい。『怖さ』って言うと少し違う気もしますけど。確かに楽しかった んですが、自分の中にあるしこりを、やさしく隠している感じなんです。 それが痛みを持たないように――やさしい嘘を、ついている」 やさしい嘘、という言葉が印象に残った。恐らく彼は、心底本音で彼女達と 接しており、嘘などついているのでは無いのだろう。 けれど。こころの中の微かな違和感、ほんの僅かな痛みを覆い隠してしまお うという、無意識の精神的防衛。それを彼は、やさしい嘘と言っているのだ。 「昔、家に引き篭もったりしてたことがあって、他人と関わらない、独りの時 間を過ごしてました。その時は、その女の子に助けてもらって――」 「僕は、もう一度。また自分を見つめなおしてみたいんです。今は本当に楽し くて。けれど僕は彼女達が居なければ、何も出来ないんじゃないかって考え てしまいそうになる」 「日本に居ると、結局また助けてもらっちゃうことになりそうだから。 ――勿論、これが僕が海外へ行こうと思う理由の全てではないですけどね」 そんな話を。言い終えたあとの彼の表情は、穏やかだった。 ―――――――――――――― 「そうして彼は。彼の出発の二ヶ月程前に海外へ行った槐を追って、旅立って いきました」 新たな紅茶の注がれていた眼の前のカップに触れもせず、私は話を聞いていた。 口を付けてみると、すっかりそれはぬるくなってしまっている。これでは風味 も何も楽しめたものでは無い。 「その――バイトの男の子は。彼女達と一緒に居るのが、どこか辛かったのか しらね」 声が震えないように、言う。気を抜くと、涙が零れてしまいそうだった。 「いえ。彼は言っていました、『本当に楽しかった』と」 「でも。……じゃあ。彼を引き篭もった状態から"助けた"という女の子のした ことは、意味が無かったのかしら」 「意味が無い、とは。なかなかに異なことを仰るのですね。生憎世の中には、 意味の無いことなど無い」 「でも、彼は結局、彼女達から離れていったのでしょう? そして彼は何より、自分の力で立ち直ったに違いないと思うのだけど。 それほど強い意志を抱けるのであれば」 「確かにそうかもしれません。ですが、彼女が彼を救ったと言う事実そのもの は変わらないでしょう。あとから加わったもう一人の彼女も、また彼を救った。 そして、重ねて申し上げます通り……彼は彼女達に、深い感謝をしていたのですよ」 私は、何も答えない。暫くの沈黙のあと、彼はまた口を開いた。 「お話しは変わりますが。生きているということそのものの流れは、楽譜に記さ れている旋律のようなものに思います」 「……旋律?」 「左様で御座います。僕達は楽譜に旋律を刻みながら生きているのです。音符の ひとつひとつがハーモニーを織り成し、刻まれた旋律は消えることは無い」 「詩人ね、白崎さん」 「恐縮です。……そして。時には、重なり合う音が不協の調べを奏でてしまう こともあるでしょう。そういったものを、やさしく滑らかに繋いでいくもの が。彼の言っていた、やさしい嘘なのではないでしょうか。やさしいのです、 それは。 確かに、隠すことが出来るものと言えば、きっと小さな音ずれの程度なので しょう。けれど、今を生きる上で、旋律を夢見るようなものに変えてくれる」 「やさしい嘘に包まれて。彼女達は、夢を見ていたのかしらね」 「夢が現(うつつ)か、現が夢か……それはわかりません。ただ、彼は。言うな れば、正しく彼の旋律を紡ぐために旅立ったのでしょう。この現で、夢のよ うな旋律を奏でるために」 話の最後に、彼は私にあるメモを渡してくれた。 「バイトをしていた彼の、住所が書かれています。興味が湧いたなら、お手紙 でも書いてみては如何です? 良きペンフレンドになれるかもしれません」 舞台裏が全て見えている上で、それでなおタネ明かしはしなかった。彼はや はり役者だ。ただ、今のやりとりで。彼の認識に、詩人という役割も加えてお くことにしようと思った。 「ありがとう。良いお話を聴かせてもらったのだわ」 礼を言って、私は店を出た。 この瞬間の"今"は、もう少しで夏にさしかかろうというところ。 夏の陽射しが照り付けてきて、とても眩しい。 講義は、もうとっくに終わってしまっている時間帯だった。 私は携帯を取り出して、水銀燈にメールを送る。 『今日、私の家に遊びにこない?』 話したかった。色々な話がしたかった。きっと彼女は来てくれるに違いない。 だって、なんと言っても今日は火曜日で。明日は講義の予定が、無いのだから。
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最高ぉぉおおお!!! -- (名無しさん) 2010-09-18 14 09 11