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老夫婦と天国の剣道部 「もしも、生まれ変わったら今度は何になりたいですか?」 「生まれ変わったらキリノと離れてしまうかもしれないからなあ…… あの世でずっといっしょにいるほうがいいな」 「あら、奇遇ですね。あたしもですよ」 「そんなふうに話していたのに、またあたしをおいていっちゃうんですね……」 縁側で、おばあちゃんがポツリと寂しそうに言葉をもらした。 その言葉を聞いて、あたしの胸が痛くなる。 コジローおじいちゃんが亡くなってから半年…… あんなに元気だったおばあちゃんは、急に老け込んだみたいだ。 久しぶりに、家で素振りをしたかと思うと蛍光灯を割っちゃったり、 中田さんのおばあちゃんは、とっくに亡くなってるのに 「タマちゃんにメンチカツを差し入れしないとね」とか言ってたり…… そんな、ある日。 おばあちゃんは、またポツリとよくわからないことをつぶやいた。 「そろそろ、あのときと同じくらい時間が経っちゃいますよ。 あたし、もう待つのは嫌っすよコジロー先生。」 そういえば、コジローおじいちゃんは先生だったっておばあちゃん言ってたっけ。 あのときっていうのが、何のことかわからないけど。 その翌日、しばらくしておばあちゃんは眠るように息を引き取った。 川に映る自分の姿は高校時代のアタシの姿。 ああ、アタシやっと死んだんだ……とキリノは思った。 でも……どこに行けばいいんだろう。辺りは霧に包まれてるし たぶん、この川が三途の川ってやつだからこれを渡ればいいのかな。 あの人が、迎えにきてくれてもいいのにとキリノは不満そうにつぶやく。 しばらく歩くと、橋が見えた。橋を渡って川の向こう岸に下りる。 もう、後戻りはできないんだろーな、とか考えていると遠くに建物が見えた。 その建物は、懐かしい匂いのする…… そこは、剣道場だった。室江高校剣道部のあの剣道場。 キリノは駆け出す。駆けて、駆けて、勢いよく扉を開いた。 「おかえり」 そこには、自分がであったころの優しい笑顔をしたコジローの姿があった。 そして、もう会えないと思っていた仲間たち──。 「おかえり、キリノ(先輩)」 みんなが語りかける。そして、コジローが走り出してキリノを抱きとめた。 「ただいま……」 キリノはもう、自分が泣いているのか笑っているのかさえもわからない。 「手首だけで振る癖、結局治んなかったよな」 「いいっすよ。時間はいくらでもありますから」 「すまなかったな。また半年も離れちまって……」 「いいんです。いいんですよ。これからはずっと一緒ですから」 剣道場の扉が閉じる。そこに漂っている幸福感に包まれて──。
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六作品目です。諸事情により遅くなりました。申し訳ないです。 前作品の続きです。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 老夫婦とまりさ5 1. 子まりさが老夫婦と生活してしばらく経った。 体も大きくなり成体になりつつある。 知能は日に日に高くなり、簡単な手伝いも出来るようになってきた。 その日はお爺さんと一緒に畑仕事をしていた。 口を使って器用に雑草を抜いている。 「この辺の草はもう全部抜けたんだぜ」 「ご苦労さん。こっちも終わった。それじゃ、もうそろそろ帰ろうか」 一人と一匹は帰路についた。 見慣れた道をいつものように横に並んで歩いている。 「おっと、草取り鎌を忘れてきた。お前は先に行っとれ。俺は取りに戻る」 「お爺さん、まりさが行ってくるんだぜ。お爺さんは腰が悪くなってきているんだぜ」 「何、まだまだ元気だ。お前に気を遣われるほどではない」 「お婆さんが心配してたんだぜ。お爺さんを手助けしてやって欲しいと頼まれているのぜ」 「…そうか。まあお前がやってくれると言っているんだからいいか」 「そういう訳なので行ってくるんだぜ」 「おぅ、じゃあ先に行ってるぞ」 まりさはお爺さんと分かれ、畑へと戻っていった。 その表情はにこやかなもので、お爺さんを手伝えることに喜びを感じているようであった。 「…ゆ?」 まりさの視界に飛び込んできたものはお爺さんの畑に忍び寄ろうとしているちぇんであった。 このちぇんは以前お爺さんに逃がされたちぇんであり、今回も懲りずに野菜を狙いに来たらしい。 「やめるんだぜ!」 大声で叫ぶとそのちぇんはまりさの方を見た。 そして一言呟くように話しかけた。 「もしかして、まりさ?」 「…ちぇん?」 群れのゆっくりとの再会であった。 このちぇんはまりさがいた群れに所属しているちぇんであり、まりさより先に生まれている。 群れの中でも強い方に入り、お爺さんの虐待に耐えられる程度のタフさを持っている。 二匹はお互いに近づき会話を始めた。 「ひさしぶりだねー」 「ちぇん!久しぶりなんだぜ」 「まりさがかえってこないからしんぱいしてたよー」 その言葉には偽りは無いようである。 心から心配していたようであり、安堵の表情をしている。 だが、それも長くは続かなかった。 「ごめんなさいだぜ。今は人間さんの家に住んでるんだぜ」 「ゆ?あのくそじじぃをどれいにしているんだねー。わかるよー」 ちぇんの中ではこのまりさが人間の家を乗っ取り人間を奴隷にしているという考えに至った。 お爺さんにこっぴどくやられたのにその様な妄想ができるのも餡子脳の成せる業であろう。 「…違うんだぜ。お爺さんの飼いゆっくりになってるんだぜ」 「まりさはにんげんのどれいになってるんだねー。ゆるせないよー」 「そうじゃないんだぜ!」 「そういうようにめいれいされているんだねー。わかるよー」 まりさは焦った。 ちぇんの眼は本気であり、からかいや冗談で言っていないということが分かったからである。 まりさは同種であるゆっくりに対し、その考え方を憐れに思っていた。 「だから違うんだぜ!まりさはお爺さんが好きなんだぜ!」 「…じゃあまりさはちぇんのてきなのかなー。わからないよー」 ちぇんのその表情は悲しみや諦めや怒りなどが入り交じった複雑な表情であった。 自分の仲間が人間の手に堕ちたということを信じたくないのであろう。 「ちぇん…」 「…まりさはまりさのすきにすればいいよー」 「分かったんだぜ…」 まりさはちぇんと決別した。 これ以上お互いが関わっても不幸になるだけだと判断したのだ。 住む世界と考えが異なる以上、衝突が起こるのは避けられない。 「じゃあこのおやさいさんはもらっていくねー」 「ゆ!?」 ちぇんは野菜を掘り出し始めた。 突然の発言と行動にまりさは困惑した。 仲間であったちぇんがまさかそんな発言をするとは思っていなかったのである。 「やめるんだぜ!」 「ちぇんはちぇんのすきにするよー。じゃましないでねー。わかったねー」 まりさはちぇんに体当たりをした。 体格差で劣るものの、横からの体当たりは相手のバランスを崩し、突き飛ばすことができた。 「ここはお爺さんとお婆さんの畑なんだぜ!絶対に守るんだぜ!」 「…わからないよー。おやさいさんはかってにはえてくるんだよー」 「野菜は心を込めて育てる大事なものなんだぜ!」 「しらないよー。…まりさはもうてきなんだねー。わかるよー」 そう言うが否や、ちぇんはまりさに飛びかかるように体当たりをした。 まりさがしたものより早さも威力も大きく勝っている。 「ゆ!?」 まりさは唐突な行動に反応しきれずにまともに体当たりを喰らってしまった。 餡子を口から吐きながら空を舞い、落ちた。 「あのにんげんのてしたならころすしかないねー。わかってねー」 ちぇんはお爺さんに痛めつけられたことを覚えていた。 その恨みの対象は目の前のかつての仲間に向けられることになった。 そして、体勢を立て直そうとしているまりさに向けて再度体当たりをした。 「ゆぐぁっ!」 まりさはまた餡子を飛び散らせながら吹っ飛び、鈍い音を立てながら落ちた。 力の差は歴然であり、殺すことを目的とするちぇんとの戦闘がこれ以上続くものなら死は避けられない。 そんな状況の中、まりさは近くに落ちていたお爺さんが忘れた草取り鎌に気がついた。 (これを使えば…でもそうするとちぇんが…) 決断を迫られた。 かつての仲間であるちぇんに刃をかざすかどうかの選択である。 仲間を殺すことは群れのタブーであった。 ちぇんはまりさを見限り敵と見なしているが、まりさにはまだ決心ができていなかった。 ただの餡子脳には容易である単純な判断ができず、 異常に発達した餡子脳が様々な要素でまりさを取り巻いていたのだ。 「うらぎりものはしんでもらうよー。わかってねー」 ちぇんは隣の一段高い畑からまりさを見下ろしていた。 弱ったまりさを真上から踏みつぶすつもりである。 「しねー!」 ちぇんは大きく飛び上がった。これはまりさにとっては好機であった。 空中からの攻撃は大きな隙を伴う。 移動方向は上か下へかに限られ、着地点も読みやすい。 着地点が読めるとなれば、反撃も容易である。 まりさにとっての最初で最後のチャンスであった。 「ゆがぁっ!?」 まりさは考えるより先に体が動いていた。動いてしまっていた。 残りの力を振り絞り、草取り鎌を口に咥え、ちぇんの着地点で構えていた。 ちぇんは着地と同時に体を鎌に貫かれた。 「ゆぐあぁあああぁぁ!!わがらないー!!わがらないぃぃぃいいぃぃぃいぃ!!!」 大きな叫び声が辺りに響き渡る。 その断末魔はまりさに最も強く響いた。 「あ……あ……」 まりさは鎌をこぼすように落とし、ちぇんを恐れるように見つめた。 「…っじねぇ!!うらぎりものばっ…じ…ねぇ!……じ……ね…………」 まりさは自分が取った行動と目の前の現実を認識した。 自分が群れの仲間であったちぇんを殺したということに戸惑っている。 頭の中で様々なことが思い返されて混乱する。 ちぇんに遊んで貰ったこと、他のゆっくりに苛められた時に助けて貰ったこと、 些細なことで喧嘩をしたこと、一緒に歌を歌ったこと。 そして、自分がそのちぇんを殺したこと。 「も………ゆっ……ぐ…………じだ…………がっ………………………」 そう呟くように息絶えた。 もう二度とちぇんが動くことはなかった。 「ああぁぁあぁああああぁぁああぁあああぁぁぁぁぁ!!」 悲痛な叫び声がまりさから放たれた。 その声はむなしく響くだけであった。 2. 気がつくと座布団の上にいた。 見渡すといつものお爺さんとお婆さんの家であることが分かった。 外はすでに真っ暗になっている。 「気がついたか。お婆さんがお前を夜遅くまで治してたんだぞ。後で礼を言っておけ」 後ろから声がして振り返るとお爺さんがいた。 その表情は心なしか申し訳なさそうだった。 「ゆ…お爺さん…」 「畑が騒がしいと思って、様子を見に行ったらお前が倒れていて驚いたぞ」 「ごめんなさいだぜ…」 「いや、謝ることはない。お前を一人にした俺が悪かった」 言葉の一つ一つが重く感じられた。 一言話すにも言葉がなかなか出てこない。 「ゆ…まりさは…」 「……分かっている。別に話す必要もないし、忘れた方がいいだろう」 まりさはお爺さんの気遣いに感謝をした。 かつての仲間を殺してしまったことを察してくれたことを嬉しく思った。 だが、その時のことが思い返され、溢れるようにまりさは言葉を涙ながらに吐き出し始めた。 「…っまりさはっ…!…仲間を殺して…殺してしまったんだぜっ……!!ちぇんはっ…とっても…とっても良いゆっ…くりでっ…! う…ぅっ……まりさの友達でっ…!仲間で…っ!……お兄さん…みたいな存在だったんだぜ…! それなのにまりさはっ…!まりさは…っ!殺してしまったんだぜっ…!仲間を…っ!殺して…しまったんだぜ…! 鎌で…っ!ちぇんが…ちぇんが……死ぬようにっ!殺そうとして…!殺したんだぜ……! もう……もうまりさはっ……!!仲間殺しのっ……最低な…!ゆっくりなんだぜ……!!!」 言い終わると、まりさは慟哭した。 人間とともに生活した故に苦しみ、異常に発達した餡子脳を持った故に苦しんだ。 ゆっくりでありながら人間の世界に馴染みすぎた結果である。 まりさには戻るべき群れを失い、そこにいる仲間も失ってしまった。 この日はまりさが孤立したことをまりさに突きつけた日となり、 まりさに新たな決意を芽生えさせる契機ともなった。 3. 「お爺さん。まりさはもっともっと頭も良くなりたいんだぜ。勉強の時間をもっと増やして欲しいんだぜ」 まりさは決意を固めていた。 普通のゆっくりとして生きることができなくなった以上、できる限り人間に近づこうと決めたのである。 「別に教えることはいいが…」 「何か問題でもあるんだぜ?」 「いや、これ以上ゆっくり離れしたらいつかのように仲間と争うことになると思ってな…」 お爺さんは顔を伏せながらそう言った。 「ゆ…いいんだぜ。まりさが戻る場所はもうここ以外ないんだぜ」 「…そうか」 お爺さんはまりさがゆっくりの仲間を失ったということを悟った。 自分の息子が孤立していたことを思い返し、お爺さんはその決意に答えることにした。 「分かった。できる限りのことはしてやろう。お婆さんにも手伝ってもらうように言っておく」 「ありがとうなんだぜ!よろしくお願いするんだぜ」 その日からまりさの教育はさらに熱を帯びたものになっていった。 お爺さんは時間がある時にはできる限りの教育をすることにしていた。 学べば学ぶだけ、まりさは賢くなっていった。 国語、算数は勿論のこと、理科や社会など他の教科までも手を広げていった。 決意がまりさの学習意欲を高め、目覚ましい知能の発達を見せた。 「64割る4は幾つ?」 「えーと、16だと思うんだぜ…います!」 「お、正解だねぇ。割り算の暗算ができるなんてまりさは賢くなったねぇ」 「お婆さんとお爺さんのお陰なんだぜ…です!」 「そいつはもう少数も分数もできるようになってるぞ。大したゆっくりだよ」 「照れるんだぜ…ます!」 「言葉遣いまでは難しいみたいだな」 「頑張るんだぜ…ます!」 お爺さんとお婆さんの教育はまりさの決意に応え、長く熱心に続けられることになった。 4. まりさが成体となった頃にはまりさは充分な会話能力を手にするまでになった。 老夫婦との生活にもすっかりと馴染んで、今日もいつものようにお爺さんとの畑仕事を終え、帰路につくことにした。 「さて、そろそろ帰るとするか」 「分かりました!」 普段と変わらない空気、普段と変わらない道を一人と一匹は通っていく。 だが、家には異変が起こっていた。 「ただいま」 「今帰りました」 返事はない。 家の中から聞こえるのは時計の音だけである。 「寝ているのかな」 「御婆様ももうお歳ですからね、そうかもしれませんね」 一人と一匹は寝床に向かった。 しかしそこにお婆さんの姿どころか布団すら敷いていなかった。 「おかしいな」 「どこかに出掛けているのかもしれませんね」 「ふむ。じゃあ俺は外を探してみる。お前は家の中を探してくれ」 「分かりました」 まりさは家の中を探し始めた。 お婆さんは台所で見つかったがどうにも様子がおかしい。 「御婆様!?」 お婆さんは俯せるように倒れていた。 まりさは声を掛けながらお婆さんを揺すった。 だが返事はなく、体からは暖かみが感じられなかった。 「御婆様…!御婆様…!」 そこからの展開は急だった。 まりさはお爺さんを急いで呼びにいった。 お爺さんは最寄りの病院に連絡し、救急車を待ちながら救命活動を行った。 介抱は無駄に終わり、お婆さんは息を引き取った。 今までの日常は何の予期もなく唐突に失われてしまった。 5. お婆さんの葬式はしめやかに行われた。 お爺さんの落胆ぶりは顕著であり、親族も声を掛けにくかった。 まりさは葬式の邪魔になるという親族の主張で自室にいるように言われた。 まりさもお婆さんが亡くなったことを嘆き悲しんでおり、明らかに意気消沈している。 自分の部屋で悲しんでいると部屋に一人の男が入ってきた。 「へぇ、これが叔父の飼いゆっくりか」 「あなたは誰ですか?」 「うわ、本当にこんな風に喋るのか…俺はお爺さんの甥の利昭だ」 利昭と名乗る男はまりさをろじろと見つめている。 どうやらまりさに興味を持っているようだ。 「あの、何か御用ですか?」 「ん、いやただお前がどんなゆっくりなのかな、と気になったから見に来ただけだよ。邪魔したな」 「はぁ…」 男はそれだけ告げると部屋を出て行った。 まりさには疑問が残ったが今はそれを気にしている状況ではなかった。 (通常種とはいえこれだけ知能の高いゆっくりなんだ。道楽人共を相手にすれば相当高く売れるだろうな…) 男はほくそ笑むと葬式の席へと向かった。 男の考えにまりさもお爺さんも気がつくことはなかった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今まで書いたもの ふたば系ゆっくりいじめ 1085 ゆっくり一家とゲスとお兄さん ふたば系ゆっくりいじめ 1101 老夫婦とまりさ1 ふたば系ゆっくりいじめ 1107 老夫婦とまりさ2 ふたば系ゆっくりいじめ 1114 老夫婦とまりさ3 ふたば系ゆっくりいじめ 1126 老夫婦とまりさ4
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老夫婦とまりさ5 11KB 虐待-普通 愛で 悲劇 同族殺し 自然界 現代 愛護人間 六作目です。遅れました。 六作品目です。諸事情により遅くなりました。申し訳ないです。 前作品の続きです。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 老夫婦とまりさ5 1. 子まりさが老夫婦と生活してしばらく経った。 体も大きくなり成体になりつつある。 知能は日に日に高くなり、簡単な手伝いも出来るようになってきた。 その日はお爺さんと一緒に畑仕事をしていた。 口を使って器用に雑草を抜いている。 「この辺の草はもう全部抜けたんだぜ」 「ご苦労さん。こっちも終わった。それじゃ、もうそろそろ帰ろうか」 一人と一匹は帰路についた。 見慣れた道をいつものように横に並んで歩いている。 「おっと、草取り鎌を忘れてきた。お前は先に行っとれ。俺は取りに戻る」 「お爺さん、まりさが行ってくるんだぜ。お爺さんは腰が悪くなってきているんだぜ」 「何、まだまだ元気だ。お前に気を遣われるほどではない」 「お婆さんが心配してたんだぜ。お爺さんを手助けしてやって欲しいと頼まれているのぜ」 「…そうか。まあお前がやってくれると言っているんだからいいか」 「そういう訳なので行ってくるんだぜ」 「おぅ、じゃあ先に行ってるぞ」 まりさはお爺さんと分かれ、畑へと戻っていった。 その表情はにこやかなもので、お爺さんを手伝えることに喜びを感じているようであった。 「…ゆ?」 まりさの視界に飛び込んできたものはお爺さんの畑に忍び寄ろうとしているちぇんであった。 このちぇんは以前お爺さんに逃がされたちぇんであり、今回も懲りずに野菜を狙いに来たらしい。 「やめるんだぜ!」 大声で叫ぶとそのちぇんはまりさの方を見た。 そして一言呟くように話しかけた。 「もしかして、まりさ?」 「…ちぇん?」 群れのゆっくりとの再会であった。 このちぇんはまりさがいた群れに所属しているちぇんであり、まりさより先に生まれている。 群れの中でも強い方に入り、お爺さんの虐待に耐えられる程度のタフさを持っている。 二匹はお互いに近づき会話を始めた。 「ひさしぶりだねー」 「ちぇん!久しぶりなんだぜ」 「まりさがかえってこないからしんぱいしてたよー」 その言葉には偽りは無いようである。 心から心配していたようであり、安堵の表情をしている。 だが、それも長くは続かなかった。 「ごめんなさいだぜ。今は人間さんの家に住んでるんだぜ」 「ゆ?あのくそじじぃをどれいにしているんだねー。わかるよー」 ちぇんの中ではこのまりさが人間の家を乗っ取り人間を奴隷にしているという考えに至った。 お爺さんにこっぴどくやられたのにその様な妄想ができるのも餡子脳の成せる業であろう。 「…違うんだぜ。お爺さんの飼いゆっくりになってるんだぜ」 「まりさはにんげんのどれいになってるんだねー。ゆるせないよー」 「そうじゃないんだぜ!」 「そういうようにめいれいされているんだねー。わかるよー」 まりさは焦った。 ちぇんの眼は本気であり、からかいや冗談で言っていないということが分かったからである。 まりさは同種であるゆっくりに対し、その考え方を憐れに思っていた。 「だから違うんだぜ!まりさはお爺さんが好きなんだぜ!」 「…じゃあまりさはちぇんのてきなのかなー。わからないよー」 ちぇんのその表情は悲しみや諦めや怒りなどが入り交じった複雑な表情であった。 自分の仲間が人間の手に堕ちたということを信じたくないのであろう。 「ちぇん…」 「…まりさはまりさのすきにすればいいよー」 「分かったんだぜ…」 まりさはちぇんと決別した。 これ以上お互いが関わっても不幸になるだけだと判断したのだ。 住む世界と考えが異なる以上、衝突が起こるのは避けられない。 「じゃあこのおやさいさんはもらっていくねー」 「ゆ!?」 ちぇんは野菜を掘り出し始めた。 突然の発言と行動にまりさは困惑した。 仲間であったちぇんがまさかそんな発言をするとは思っていなかったのである。 「やめるんだぜ!」 「ちぇんはちぇんのすきにするよー。じゃましないでねー。わかったねー」 まりさはちぇんに体当たりをした。 体格差で劣るものの、横からの体当たりは相手のバランスを崩し、突き飛ばすことができた。 「ここはお爺さんとお婆さんの畑なんだぜ!絶対に守るんだぜ!」 「…わからないよー。おやさいさんはかってにはえてくるんだよー」 「野菜は心を込めて育てる大事なものなんだぜ!」 「しらないよー。…まりさはもうてきなんだねー。わかるよー」 そう言うが否や、ちぇんはまりさに飛びかかるように体当たりをした。 まりさがしたものより早さも威力も大きく勝っている。 「ゆ!?」 まりさは唐突な行動に反応しきれずにまともに体当たりを喰らってしまった。 餡子を口から吐きながら空を舞い、落ちた。 「あのにんげんのてしたならころすしかないねー。わかってねー」 ちぇんはお爺さんに痛めつけられたことを覚えていた。 その恨みの対象は目の前のかつての仲間に向けられることになった。 そして、体勢を立て直そうとしているまりさに向けて再度体当たりをした。 「ゆぐぁっ!」 まりさはまた餡子を飛び散らせながら吹っ飛び、鈍い音を立てながら落ちた。 力の差は歴然であり、殺すことを目的とするちぇんとの戦闘がこれ以上続くものなら死は避けられない。 そんな状況の中、まりさは近くに落ちていたお爺さんが忘れた草取り鎌に気がついた。 (これを使えば…でもそうするとちぇんが…) 決断を迫られた。 かつての仲間であるちぇんに刃をかざすかどうかの選択である。 仲間を殺すことは群れのタブーであった。 ちぇんはまりさを見限り敵と見なしているが、まりさにはまだ決心ができていなかった。 ただの餡子脳には容易である単純な判断ができず、 異常に発達した餡子脳が様々な要素でまりさを取り巻いていたのだ。 「うらぎりものはしんでもらうよー。わかってねー」 ちぇんは隣の一段高い畑からまりさを見下ろしていた。 弱ったまりさを真上から踏みつぶすつもりである。 「しねー!」 ちぇんは大きく飛び上がった。これはまりさにとっては好機であった。 空中からの攻撃は大きな隙を伴う。 移動方向は上か下へかに限られ、着地点も読みやすい。 着地点が読めるとなれば、反撃も容易である。 まりさにとっての最初で最後のチャンスであった。 「ゆがぁっ!?」 まりさは考えるより先に体が動いていた。動いてしまっていた。 残りの力を振り絞り、草取り鎌を口に咥え、ちぇんの着地点で構えていた。 ちぇんは着地と同時に体を鎌に貫かれた。 「ゆぐあぁあああぁぁ!!わがらないー!!わがらないぃぃぃいいぃぃぃいぃ!!!」 大きな叫び声が辺りに響き渡る。 その断末魔はまりさに最も強く響いた。 「あ……あ……」 まりさは鎌をこぼすように落とし、ちぇんを恐れるように見つめた。 「…っじねぇ!!うらぎりものばっ…じ…ねぇ!……じ……ね…………」 まりさは自分が取った行動と目の前の現実を認識した。 自分が群れの仲間であったちぇんを殺したということに戸惑っている。 頭の中で様々なことが思い返されて混乱する。 ちぇんに遊んで貰ったこと、他のゆっくりに苛められた時に助けて貰ったこと、 些細なことで喧嘩をしたこと、一緒に歌を歌ったこと。 そして、自分がそのちぇんを殺したこと。 「も………ゆっ……ぐ…………じだ…………がっ………………………」 そう呟くように息絶えた。 もう二度とちぇんが動くことはなかった。 「ああぁぁあぁああああぁぁああぁあああぁぁぁぁぁ!!」 悲痛な叫び声がまりさから放たれた。 その声はむなしく響くだけであった。 2. 気がつくと座布団の上にいた。 見渡すといつものお爺さんとお婆さんの家であることが分かった。 外はすでに真っ暗になっている。 「気がついたか。お婆さんがお前を夜遅くまで治してたんだぞ。後で礼を言っておけ」 後ろから声がして振り返るとお爺さんがいた。 その表情は心なしか申し訳なさそうだった。 「ゆ…お爺さん…」 「畑が騒がしいと思って、様子を見に行ったらお前が倒れていて驚いたぞ」 「ごめんなさいだぜ…」 「いや、謝ることはない。お前を一人にした俺が悪かった」 言葉の一つ一つが重く感じられた。 一言話すにも言葉がなかなか出てこない。 「ゆ…まりさは…」 「……分かっている。別に話す必要もないし、忘れた方がいいだろう」 まりさはお爺さんの気遣いに感謝をした。 かつての仲間を殺してしまったことを察してくれたことを嬉しく思った。 だが、その時のことが思い返され、溢れるようにまりさは言葉を涙ながらに吐き出し始めた。 「…っまりさはっ…!…仲間を殺して…殺してしまったんだぜっ……!!ちぇんはっ…とっても…とっても良いゆっ…くりでっ…! う…ぅっ……まりさの友達でっ…!仲間で…っ!……お兄さん…みたいな存在だったんだぜ…! それなのにまりさはっ…!まりさは…っ!殺してしまったんだぜっ…!仲間を…っ!殺して…しまったんだぜ…! 鎌で…っ!ちぇんが…ちぇんが……死ぬようにっ!殺そうとして…!殺したんだぜ……! もう……もうまりさはっ……!!仲間殺しのっ……最低な…!ゆっくりなんだぜ……!!!」 言い終わると、まりさは慟哭した。 人間とともに生活した故に苦しみ、異常に発達した餡子脳を持った故に苦しんだ。 ゆっくりでありながら人間の世界に馴染みすぎた結果である。 まりさには戻るべき群れを失い、そこにいる仲間も失ってしまった。 この日はまりさが孤立したことをまりさに突きつけた日となり、 まりさに新たな決意を芽生えさせる契機ともなった。 3. 「お爺さん。まりさはもっともっと頭も良くなりたいんだぜ。勉強の時間をもっと増やして欲しいんだぜ」 まりさは決意を固めていた。 普通のゆっくりとして生きることができなくなった以上、できる限り人間に近づこうと決めたのである。 「別に教えることはいいが…」 「何か問題でもあるんだぜ?」 「いや、これ以上ゆっくり離れしたらいつかのように仲間と争うことになると思ってな…」 お爺さんは顔を伏せながらそう言った。 「ゆ…いいんだぜ。まりさが戻る場所はもうここ以外ないんだぜ」 「…そうか」 お爺さんはまりさがゆっくりの仲間を失ったということを悟った。 自分の息子が孤立していたことを思い返し、お爺さんはその決意に答えることにした。 「分かった。できる限りのことはしてやろう。お婆さんにも手伝ってもらうように言っておく」 「ありがとうなんだぜ!よろしくお願いするんだぜ」 その日からまりさの教育はさらに熱を帯びたものになっていった。 お爺さんは時間がある時にはできる限りの教育をすることにしていた。 学べば学ぶだけ、まりさは賢くなっていった。 国語、算数は勿論のこと、理科や社会など他の教科までも手を広げていった。 決意がまりさの学習意欲を高め、目覚ましい知能の発達を見せた。 「64割る4は幾つ?」 「えーと、16だと思うんだぜ…います!」 「お、正解だねぇ。割り算の暗算ができるなんてまりさは賢くなったねぇ」 「お婆さんとお爺さんのお陰なんだぜ…です!」 「そいつはもう少数も分数もできるようになってるぞ。大したゆっくりだよ」 「照れるんだぜ…ます!」 「言葉遣いまでは難しいみたいだな」 「頑張るんだぜ…ます!」 お爺さんとお婆さんの教育はまりさの決意に応え、長く熱心に続けられることになった。 4. まりさが成体となった頃にはまりさは充分な会話能力を手にするまでになった。 老夫婦との生活にもすっかりと馴染んで、今日もいつものようにお爺さんとの畑仕事を終え、帰路につくことにした。 「さて、そろそろ帰るとするか」 「分かりました!」 普段と変わらない空気、普段と変わらない道を一人と一匹は通っていく。 だが、家には異変が起こっていた。 「ただいま」 「今帰りました」 返事はない。 家の中から聞こえるのは時計の音だけである。 「寝ているのかな」 「御婆様ももうお歳ですからね、そうかもしれませんね」 一人と一匹は寝床に向かった。 しかしそこにお婆さんの姿どころか布団すら敷いていなかった。 「おかしいな」 「どこかに出掛けているのかもしれませんね」 「ふむ。じゃあ俺は外を探してみる。お前は家の中を探してくれ」 「分かりました」 まりさは家の中を探し始めた。 お婆さんは台所で見つかったがどうにも様子がおかしい。 「御婆様!?」 お婆さんは俯せるように倒れていた。 まりさは声を掛けながらお婆さんを揺すった。 だが返事はなく、体からは暖かみが感じられなかった。 「御婆様…!御婆様…!」 そこからの展開は急だった。 まりさはお爺さんを急いで呼びにいった。 お爺さんは最寄りの病院に連絡し、救急車を待ちながら救命活動を行った。 介抱は無駄に終わり、お婆さんは息を引き取った。 今までの日常は何の予期もなく唐突に失われてしまった。 5. お婆さんの葬式はしめやかに行われた。 お爺さんの落胆ぶりは顕著であり、親族も声を掛けにくかった。 まりさは葬式の邪魔になるという親族の主張で自室にいるように言われた。 まりさもお婆さんが亡くなったことを嘆き悲しんでおり、明らかに意気消沈している。 自分の部屋で悲しんでいると部屋に一人の男が入ってきた。 「へぇ、これが叔父の飼いゆっくりか」 「あなたは誰ですか?」 「うわ、本当にこんな風に喋るのか…俺はお爺さんの甥の利昭だ」 利昭と名乗る男はまりさをろじろと見つめている。 どうやらまりさに興味を持っているようだ。 「あの、何か御用ですか?」 「ん、いやただお前がどんなゆっくりなのかな、と気になったから見に来ただけだよ。邪魔したな」 「はぁ…」 男はそれだけ告げると部屋を出て行った。 まりさには疑問が残ったが今はそれを気にしている状況ではなかった。 (通常種とはいえこれだけ知能の高いゆっくりなんだ。道楽人共を相手にすれば相当高く売れるだろうな…) 男はほくそ笑むと葬式の席へと向かった。 男の考えにまりさもお爺さんも気がつくことはなかった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今まで書いたもの ふたば系ゆっくりいじめ 1085 ゆっくり一家とゲスとお兄さん ふたば系ゆっくりいじめ 1101 老夫婦とまりさ1 ふたば系ゆっくりいじめ 1107 老夫婦とまりさ2 ふたば系ゆっくりいじめ 1114 老夫婦とまりさ3 ふたば系ゆっくりいじめ 1126 老夫婦とまりさ4 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る こんなに知能が高くなっても、胴付きにはならないんだね? ちぇんは昔の仲間の言葉が信じられないなんて、ゆっくりとしてどうなんだ? まりさの両親のことも思い出すと、群れ全体がゲスなんだろうねww -- 2018-03-10 09 53 06 おじいさんの甥はゆっくりできないよ! -- 2014-06-15 13 54 16 これはゆっくり・・・なのか? -- 2013-07-12 05 46 38 う~んだぜ口調は残して欲しかったかな 漢字だけ増やしてさ -- 2013-06-24 17 20 02 敬語しか使わなくなるともう全然ゆっくりまりさらしくないな。悪い意味で。 -- 2011-01-09 03 30 05 ちぇんのしゃべり方はどうも緊張感に欠ける -- 2010-09-30 00 24 18 敬語しか使わないゆっくりって思った以上にきもいな -- 2010-08-11 21 37 27 あぁ、一作目との関連があったのか。気がつかなかった。 じじばば物はゆっくりできる。 まあ転に入って、ゆっくり出来なくなってきたようなきがしないでもないけど。 -- 2010-07-02 04 51 10
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五作品目です。 >小出し 今回から一作品ごとの文章量を増やしていけるように頑張ります。 前作品の続きです。 老夫婦の過去話中心で子まりさは殆ど出てきません。 また、子どもが苛められるシーンがあるのでご注意下さい。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 老夫婦とまりさ4 1. 老夫婦にはかつて息子がいた。 勉学は秀でており運動神経もよく、学校での成績も上位に入っていた。 しかし、その生活が幸せであったわけではなかった。 いじめの存在が彼を不幸にしていた。 それは小学校中学年ほどから顕著になり、毎日のように陰湿ないじめが発生していた。 (…またか) 登校してみると学校の学習机の中にゆっくりの死骸が詰め込まれていた。 いつものように少年は机の中身の掃除をし始めた。 その様子をにやにやと遠巻きに見つめる集団がいる。 ゆっくりの死骸を机に詰め込んだ当事者達である。 「…」 少年はその視線に気付いているものの相手にせず淡々と作業をしていた。 いじめが始まった頃には少年の味方をし、いじめ集団に対抗する同級生もいた。 しかし、それはすぐいなくなった。憐憫の情を見せるだけで、自分たちも標的にされることが分かったからだ。 少年と関わるだけで、同じようないじめを受けることとなったのである。 今では少年を避けようと視線を逸らすことが当たり前となっている。 「おはよう。朝の会やるぞー」 いじめが始まった原因は少年に対する嫉妬である。 成績が優秀であることから、目を付けられたのだ。 最初の頃はちょっとした遊び感覚のものであり、少年も笑って応じていた。 だが、それは次第に過激になっていき収まることはなかった。 少年は抵抗したものの、それは余計に相手を刺激するということが分かってから何もしなくなった。 教師に頼ったこともあったが、それは無駄に終わった。 いじめ集団の頭は村の有力者の子どもであり、幅をきかせていた。 聞けば校長とも私的な繋がりを持っており、その態度は横柄なものであった。 少年は学校においては孤立無援の状態であった。 「起立。礼。おはようございます」 「「「おはようございます」」」 少年は号令をかけ、形式的に朝の会を始める。 授業においても挙手や発言は消極的に行い、休み時間には机で俯せていた。 必要以上のことはせず、最低限のことだけをこなしていた。 いじめが嫉妬から来ることが分かっているため、極力目立たないようにしていたのである。 「何寝てんだよ」 「うぜーから学校に来んなよ」 昼休み。自分の席で少年が俯せていると椅子を蹴られた。 できるだけ相手にしないように無言でそのままの体勢を維持しようとしている。 「起きてんじゃん。さっさと帰れよ」 「お前にこんなもんはいらねーよ」 いじめ集団の一人が机を蹴り倒す。 机の中からすでにぼろぼろである教科書とノートを全て取り出し、窓から投げ捨てた。 一部は側溝に落ち、一部は校庭に落ちた。 いつものように少年は椅子に座ったままだった。 チャイムが鳴る。もうすぐ授業の時間となった。 少年は席から立ち上がり教科書とノートを取りに外へと向かった。 「…」 前日が雨であったために、教科書とノートはどろどろに汚れている。 少年は泥を軽く水で流し落とし始めた。 頭に感触を感じた。手で触ると妙に生ぬるく粘質がある。 見上げると窓からいじめ集団がにやにやこちらを見ていた。 少年の手についているのは唾であった。 「見てんじゃねーよカス」 「そのまま帰れ、帰れ」 少年は手を洗い、教室に戻った。 机と椅子は倒されており、筆箱はゴミ箱の中にあった。 だが、それはいつものことであり、いつものように元に戻し、いつものように、授業の号令をした。 少年は歳不相応に達観していた。 傍若無人な権力に対する自分の無力さを知っており、それに対抗する術もない。 対抗できたとしてもそれは自分をさらに苦しめるだけであり、耐えるしかないことを悟っていた。 授業が終わり、至福の時が訪れる。 机の中身を全て片付け、早々に学校を出て行く。 足取りは速く、逃げるように家へと帰っていった。 2. 「ただいま」 「おかえり、学校はどうだった」 「別に」 「…そう」 父も母もいじめの存在には気付いており、学校に訴えをしたこともあった。 しかし、それは徒労に終わっただけであった。 学校を牛耳られており、担任は操り人形そのものであった。 地元の警察にも行ったが、相手にされなかった。 小学校児童を罪に問えるわけでもなく、保護者同士でなんとかして下さいとのことであった。 せめて口頭注意でもと願い入れたが、逆恨みされいじめを助長させる結果となった。 他にも出来ることは全てしたが、結果は芳しくなかった。 少年の立場は悪くなるばかりで何も好転はしなかった。 「…はぁ」 少年は自分の部屋に入るとため息を漏らした。 慣れてしまったこととはいえ、精神的にはかなり辛かった。 ランドセルを投げ捨てるように置くと、学習机の一番下の引き出しを開けた。 その中には一匹のれいむがいた。 れいむは少年の姿に気がつくと怯えた目で震え上がった。 そのれいむは片眼をえぐり取られており、代わりにたわしを無理矢理に詰め込まれていた。 足は剣山に突き刺されており、すでに足としての機能は全て失われていた。 髪であったと思われる部分は焼かれ縮れていた。 口は縫いつけられ、声が出ないようにされていた。 少年はいじめでの苦しみをこのれいむにぶつけていたのである。 「さて…」 少年はテープで繋げられた鉛筆をれいむに突き刺していく。 れいむの悲鳴は口内のみで響き渡り、少年の部屋には響かない。 そのおかげで両親に悲鳴を聞かせることはなく、両親にも気付かれていないと少年は思っていた。 実際は少年がれいむを捕らえ、虐待していることを知っているが知らない振りをしていた。 不満の捌け口ができていることを肯定的に捉えたのだ。 虐待という歪んだ形であるものの、塞ぎ込まずにいるのはそのおかげだからである。 6本目を刺した時点でれいむは気を失った。 「今日は早いな」 つまらなそうにそう言うと机の引き出しを閉じ、その日の宿題を始めた。 宿題を終えると何をするのでもなく、新しい虐待方法について考えはじめた。 「ごはんですよー」 「はーい」 母に呼ばれて部屋を出て、夕飯を食べはじめる。 会話はなかった。学校について聞いても良い話が出てくるはずもない。 無理に話したとしてもそれは少年の心を傷つけるだけである。 ただ、少しずつ少年の心は荒んでいくだけで、誰も救うことはできなかった。 「ごちそうさま」 「…」 食事を終えると少年は部屋へと閉じこもった。 少年は必要な時以外は自分の部屋に戻り、虐待に関することか宿題のみを行っていた。 少年の生活と心は塞ぎ込んでいく一方であった。 「ただいま」 父が帰ってきた。 別の校区の教師をしている父は帰りも遅い。 言葉には力が感じられない。 部屋越しに聞こえてくる両親の話には、勤め先の学校でもいじめがあるという話もよくある。 自分と同じ立場の子どもがいるようで、父はそれを悩んでいるようである。 (…僕と同じような子がいるんだな) そう思うと心が多少楽になり、諦めもつきやすくなった。 その日はれいむに鉛筆をさらに3本刺すだけで眠りにつくことができた。 3. (俺は無力だな…) 学校で教師としての立場をしていてよく思うことである。 熱心に教育をし、保護者からの評判も良いがそれは自身の満足には直結しない。 いじめは保護者の見えないところでも進行しており、時には解決できないこともある。 そういった現実を目の当たりにしたその時、強く無力感を感じた。 「先生!助けてよ!」 いじめが進行している子の訴えである。息子と同じ学年だ。 息子と違い出来の悪い子であるが、素直で明るい子である。 いじめの原因はその出来の悪さからであり、原因は息子とは真っ向に反対している。 「何があったんだ?」 「あいつらが物をぶつけて来るんだ!」 泣きながら指さす方向にはいじめ集団がしまったといったような顔でこちらを見ている。 「おい!お前らそれは本当か!」 いじめ集団はその場から逃げ出し、姿をくらました。 良く言えば追い返した、悪く言えば逃がしたということになるが、とにかくその場でのいじめは終わった。 「先生、ありがとう!」 その子に笑顔が戻ってきた。 それに笑顔で返すがそれは仮の笑顔であった。 いじめが途切れたとしても、それは一時的なものであり根本的な解決となっていない。 同じようなことが以前もあり、今回もいじめがあったことを考えれば意味のないことであることが明白である。 いじめには根本的な解決が必要である。 職員会議においてこの子がいじめられているということに関して取り上げたが年老いた世代は消極的であった。 いじめが世間に露呈すると学校としての立場が悪いから大々的に取り組めない。 そもそもいじめ対策をするということはいじめの存在を認めていることになる。 そういったことを平気で言い放ち、いじめを黙認する姿勢を取っている。 若い世代はそれはいけないであろうと刃向かうも相手にされない。 (老害め…!) いじめは本来学校全体で取り組む課題であるのだが、前向きに結束することはなかった。 仕方が無く若い世代で協力的に取り組み、解決へと努力をすることにした。 この校区には村の有力者という者が介入するということなく、息子の校区とは違い段々と良い方向へと向かっていった。 だが、自分の息子に対するいじめを解決できるわけでないために、権力に対する無力感はさらに大きくなった。 (…くそっ!なんて俺は無力なんだ!息子一人助けられないのか!) 自分の校区の子どもは助けられるのに、自分の息子が助けられない苛立ちは自分の心を責め立てた。 4. 中学生になり少年は苛立ちを募らせ始めた。 それには幾つかの理由があった。 一つは、いじめのさらなる過激化である。 控えめであった暴力行為が激しくなり、体に生傷が絶えなくなってきた。 体の発育も伴いその痛みも次第に強くなり、苦しさも酷いものとなった。 また、いじめ集団も拡大し、少年を囲い込む人数はさらに増えていた。 一つは、虐待への慣れである。 引き出しに入れていたれいむはすでに死んでおり、新しくゆっくりを捕らえるもどれも長生きはせず、死んでいった。 いじめの激化に伴う虐待の残虐化が原因であるが、それに慣れてしまい生半可な虐待では満足できないようになったのである。 少年の荒んだ心を癒すためには相当な虐待が必要となってきたのである。 そして、もう一つは父の校区のいじめの改善である。 これが少年の心をさらに傷つけることとなった。 自分の父がいじめを改善しているということが分かり、自分と比べることで不満を募らせたのだ。 これまでに父は息子のために奔走していたが効果がなく、少年はありがたみを感じていない。 父は自分の職業の役割を真っ当に遂行にしているだけであったのだが、少年の眼にはそうは映らなかった。 ただ、自分を差し置いて他の子どもを優先する愚かな父親としか見ていなかった。 「おい、こんな時間にどこへ行くんだ!」 「うっせーこの糞親父!」 夜も遅い時間に、少年は家を飛び出した。 玄関を乱暴に閉めると少年は自転車に跨り、夜の闇に溶けていった。 何も見えない闇の中を父と母はむなしく見つめていた。 少年の向かった先はゆっくりの群れがいるという山である。 ここに来た目的は虐殺を通しての気晴らしである。 「…ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね!」 少年が一声かけると、愚かにも一匹のれいむがそれに反応してしまった。 近頃虐殺をする人間が出るというので注意するよう群れのリーダーから言われたばかりである。 「そこか」 少年は声のする方向に懐中電灯を向けてれいむを見つけ出した。 「ゆ!?」 「本当にお前らは馬鹿だな」 髪を掴むと懐中電灯を置き、持っていたライターでじりじりとあぶり出した。 れいむから悲鳴が発せられる。ライターの火は少年とれいむの顔を下から照らしている。 「やめでぇぇぇぇぇぇぇ!」 「やめるわけないじゃん」 いじめ集団と同じ台詞を吐き出し、れいむを少しずつ焼いていく。 その悲鳴は群れのゆっくりにも聞こえており、巣の中で震えている。 「なんでお前を助けに来ないんだろうなぁ」 「だれがだずげでぇぇぇぇぇぇぇぇ!どぼじでだずげでぐれないのぉぉぉぉぉぉ!」 助けに行かないのは当たり前である。少年にはその理由がよく分かっていた。 下手に手を出すと巻き添えを喰らうことは目に見えて明らかなのである。 勝てない相手に手を出すことは自分の死を早めるだけだ。 「みんなお前が嫌いなんだよ」 「そんなわげないでじょぉぉぉぉぉ!でいぶはみんなのあいどるなんだよぉぉぉぉぉ!」 「うぜぇよ」 少年は日々の不満をれいむのぶつける。 いじめ集団と同じように高圧的にれいむに声をかける。 ふと、少年は自嘲的に笑う。自分が嫌っているいじめ集団と自分が全く同じであるということを笑ったのだ。 最も嫌いであったいじめ集団と自分の姿を重ねて、自分の愚かさが滑稽に思えたのだ。 それでも少年はれいむをあぶり続けた。 それが楽しいからである。 愚かだからなんだというのだ。嫌いだからなんだというのだ。 今、この場で、弱い者をいじめることが何が悪いというのだ。 世間から嫌われ、迫害されるものを痛めつけることが何が悪い。 自分がそうされているのだからそれは当然だ。ゆっくりをいじめて何が悪いのだ。 「おりゃっ!」 「ゆぎゅぼぁっ!」 れいむのもみあげを持ち近くの石に叩き付ける。 頬からぶつかり、餡子が飛び散り、歯が数本宙に浮いて闇に消えた。 「汚ぇ顔だなぁ」 「ゆぎぃぃぃぃ…」 すでに原型を留めないれいむを足で踏みにじり、冷淡に言い放つ。 れいむの死は目前であった。 「お前、生きてる価値ないよ」 短い悲鳴と共にれいむは潰れた。 少年は満足そうな笑みを浮かべた。 「さて、次はお前だ」 「むきゅっ!?」 一匹のぱちゅりーが切り株の後ろにいた。 隠れているつもりだったのであろうが、丸見えであった。 自分が人間を見えていなければ、人間も自分も見えてないだろうと思っていたのだろうか。 「まっ…まってね!ぱちゅりーはこうしょうをしにきたのよ!」 「交渉だぁ?」 思いも寄らない発言に眉を歪ませた。 ゆっくりごときが交渉をするとは思ってはいなかった。 「にんげんさんはおかねさんがすきなんでしょ!これをあげるからかえってくれないかしら!」 ぱちゅりーが見せたのは100円玉であった。 このぱちゅりーはゆっくりにしては賢くお金の概念を多少は知っているようであった。 「へぇ、お金持ってるのか」 「むきゅ!これでかえってくれる?」 「さっさとよこせよ」 「かえってくれるとやくそくしてくれるかしら?」 「ああ帰ってやる」 少年はぱちゅりーから100円玉を受け取るとぱちゅりーを足で踏みにじり始めた。 帰るつもりなど毛頭なかった。 「足りねーよ。こんなんで帰るかよ」 「むぎゅぅぅぅぅ…でもさっきかえってやるって…」 「言ってねぇよ」 少年は落ちていた棒きれを持ちぱちゅりーの目玉をえぐった。 感触は柔らかく、簡単に取れた。 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 少年は二つ目もえぐる。同じような悲鳴が響いた。 だが少年はそれをにやにやと見つめるだけであった。 「げんじゃなおめめさんをがえじてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 「他のゆっくりがどこにいるか教えたら教えてやるよ」 「ぢがぐにあるおおぎないわざんのじだにいまずぅぅぅぅぅぅ!」 他のゆっくりがどうなるか知れないのに即答した。 最初は群れのことを考えて交渉をしに来たようだが、自分に危機が迫れば身勝手なものである。 「へぇ、本当にいるのか」 少年が岩の下の窪みを覗くとありすが一匹寝ていた。 嘘を教えれば良かったものを正直に答えていた。 「お前は本当に独りよがりだなっ!」 「むぎゅっ!」 そう言うと同時にぱちゅりーを蹴り飛ばした。 岩に当たり、その体は破裂するように細かく飛び散った。 「さて」 少年はありすをいかに虐殺しようかと思案した。 結果、れいむとぱちゅりーの死骸を詰め込み、土で埋めるという方法にした。 寝言で「あまあまさんがいっぱいだぁ」と漏らすありすは滑稽であった。 土を被せようとした時にやっと起きたらしく、なにやら叫びが聞こえていた。 何を言っているかは分からなかったものの少年はそれで満足であった。 土を被せ終わると、声が聞こえなくなったのを確認すると少年はその場を立ち去った。 その一晩で群れから三匹のゆっくりが消えた。 夜中の虐殺は少年の不満が溜まる度に行われ、段々とその頻度も上がっていた。 皮肉なことにその行為がゆっくりによる畑の被害の減少に貢献していた。 5. 中学も三年になると家庭内での暴力は当たり前のものとなった。 息子が両親にことあるごとに喧嘩をふっかけた。母が暴力を受けると父がそれを懸命に押さえるということが多かった。 病院沙汰にはならなかったものの、それは酷い状況にはかわりなかった。 父は武道をやっていたこともあり、当初は息子の暴力を押さえることもできていた。 しかし、身体の衰えと心労、息子の成長により力関係は逆転していった。 家庭は乱れ、息子はついに刃物を手に両親を脅すことも辞さないようになってきた。 父が稼いだお金はほとんどが息子に吸い取られ、全てが虐待、暴力に注ぎ込まれていった。 そしてついにその日がやってきた。 「おい、お前!どこに行くんだ!学校は!」 「うっせーよ。こんな田舎から出て行くだけだ」 「何言ってるの!」 「殺すぞこの糞ばばあ!」 息子は母を突き飛ばした。 父は母を抱き支える。 「母さんになんてことをするんだ!」 「うぅ…」 「黙れこの糞じじいが!息子を息子と思わないような奴を親に持った覚えはねーよ!」 息子は両親に対して恨みを持っている。 自分をいじめから救ってくれなかったことが許せないのであった。 さらに父が自分を見捨てて他人を助けているように思っていた。 「何を言ってるんだ!俺はお前を助けようと…!」 「寝言は寝て言え!なんで他人の子どもを助けて俺を…!俺をっ…!」 少年は言葉の先を言えずに、目に涙を蓄えている。 ここに来て悲しみが溢れてきたのであろうか。 手はつよく拳を握り、体を大きく震わせている。 「糞っ…!じゃあな!」 少年はかつて育った家に背を向け走り出した。 両親はそれを追おうとしたが、やがて足は止まった。 道の真ん中で立ちつくし、寂しい気持ちに包まれ家へととぼとぼと戻っていった。 その日は警察に連絡をし、失意のまま翌朝を迎えた。 (…家、こんなに広かったんだな) 夫は妻より早く起きると家を見てまわり始めた。 家族の一人がいなくなった家は広く感じた。 酷い思いをさせられた息子でもいなくなれば悲しいものである。 息子の部屋を見る。 部屋に近づくだけで暴行されるのでこれまで近づいたことすらなかった場所である。 中は荒れており、少年の心がそのまま体現されたかのように思えた。 それでも賞状やトロフィーなどの過去の栄光を表すものはそのまま残っていた。 「…」 長く沈黙し、部屋を眺めて今までの思い出を巡らしてみた。 楽しかった時の息子を思い出し、何かがこみ上げてくるのを感じた。 逃げるように部屋を後にして縁側に向かった。 近くの柱に手を掛けるとそこには背比べの傷跡が残っていた。 傷跡は11歳の8月の記録で終わっていた。 それを見て、父はその場に崩れるように座り静かに泣いた。 6. 家から息子がいなくなってから長い月日経った。 夫は仕事を退職した。夫婦には白髪も増え、老夫婦と言えるような風貌になっていった。 時は少しずつ夫婦の心に残った傷を癒していったが治るわけではなかった。 息子のことを思い返す度に、悲しみが心を襲った。 そのためか、息子のことを話題に出すことはほとんどなくなっていった。 それでも息子がいつ帰ってきてもいいように、部屋はいつも綺麗にしていた。 息子がいなくなったことで暴行されることはなくなったが、幸せではない。 残った財産で土地を買い、畑仕事をして生活していくようになったのはこの頃からである。 「…お前は俺たちが悪かったと思うか?」 子まりさに息子のことについて話し終わるとお爺さんはそう聞いた。 その言葉はいつものような元気がなく、酷く思い詰めているように思えた。 「…まりさには難しくてよく分からないけどお爺ちゃんたちは頑張っていたと思うんだぜ」 子まりさが話を全て理解できていたかはどうかは分からないが、はっきりとした口調でそう答えた。 それは嘘偽りでなく、心からの言葉であった。 「…そうか」 老夫婦の顔にほんの少しの笑みが戻った。 子まりさにの一言は老夫婦の気持ちを多少なりとも和らげたのだろう。 「ほらほら、せっかくの料理が冷めちゃいますよ。もう食べましょうよ」 「お、そうだな」 夕食は明るい雰囲気を取り戻した。 その日は老夫婦にとっての記憶に残る一日となった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今まで書いたもの ふたば系ゆっくりいじめ 1085 ゆっくり一家とゲスとお兄さん ふたば系ゆっくりいじめ 1101 老夫婦とまりさ1 ふたば系ゆっくりいじめ 1107 老夫婦とまりさ2 ふたば系ゆっくりいじめ 1114 老夫婦とまりさ3
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七作品目です。 前作品の続きです。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 老夫婦とまりさ6 1. 葬式が終わってからの日々は暗いものであった。 お爺さんは日に日に元気を失っていくのが目に見えて明らかであった。 元々強がりな性格のために、会う人会う人に明るく接しようとしていたが、それが逆に心の内面の悲しさを引き立てていた。 まりさも同様に落ち込んでいたが、お爺さんの気力の減退振りをを見ていると落ち込んでばかりはいられないと思いを新たにした。 しかし、まりさはお爺さんを元気づけるにはどうしたら良いかが分からなかった。 大切な人は二度と戻ってこず、楽しかった日々は戻ってこないのだ。 何をしても元に戻すことができないと分かっている以上、慰めをしても無駄なばかりか逆効果にもなることも考えられる。 まりさは途方に暮れた。何も出来ない自分にやるせなさと腹立たしさを募らせるばかりであった。 広くなった家の中で一人と一匹は鬱屈とした毎日を過ごしていた。 そんな日々の中で転機となる電話の音が鳴り響いた。 お爺さんは弱々しくなったその手で受話器を取った。 「もしもし――はい。――…はい。―――――――それは本当ですか!?――――えっ…―――――― ――――――――…はい―――…はい――――――――…分かりました。―――――…ありがとうございました―――――」 「御爺様。何の電話でしたか?」 「…昭次が見つかった」 「!それは良かったですね!……御爺様?」 まりさはお爺さんの息子が見つかったことを心から喜んだ。 長年会えなかった息子に会えるというのだから、お爺さんも嬉しいに違いないと思ったのだ。 しかし、お爺さんの顔にはなにやら影がかかっているように見えた。 「……昭次は飼いゆっくり殺し……器物損壊で拘束されてるそうだ」 「…そう…ですか……」 一転して空気は沈黙した。 自分の息子が見つかった。だが何故こんな形で見つかったのだろうか。 以前からゆっくりを殺していたということは知っていたが、人様のものに手を出すとは思ってはいなかった。 しかも今は自分もまりさを飼っている身であるが故に、飼いゆっくり殺しというものがよく分かっていた。 荒んだ環境から脱して、昭次はよく成長しているのではないかと心の内で願っていたが何故こうなってしまったのだろうか。 まりさも悩んだ。お爺さんの息子が見つかったことを喜びたかったが、予想もしない結果に戸惑った。 お爺さんがゆっくりを殺しているということは知っているし、自分の両親も殺されたことも知っている。 しかしそれは人間の世界でのルール上仕方のないことであるということを学び、すでに納得をしている。 だが、飼いゆっくり殺しとは世間一般でも問題とされていることである。 お爺さんの息子がそんなことをして捕まったと聞いて恐れと不安を心に抱いた。 「…飼い主は示談で解決していいと申し出てくれたそうだ」 「そうですか…」 「…次の休みに俺は示談に行ってくるが、お前も来るか?」 「…いえ、やめておきます。飼い主さんに…面目ないですから…」 「そうか…そうだな。分かった。次の休みに留守番を頼めるか利昭に聞いておく」 「はい、分かりました」 話によると、昭次は飼い主と一緒に散歩中の飼いゆっくりをいきなり蹴り飛ばしたらしい。 その飼いゆっくりは身体が四散して即死であり、無惨な光景であったと言っていた。 いくら脆弱な生物であるとはいえ、きちんとした環境で育ったゆっくりがあそこまでなるのは初めて見たとのことである。 供述によると、その日暮らしの生活をしていて生活に不満を持ち、そのストレスを野良ゆっくりで解消していたが、 その飼いゆっくりが幸せそうで、自分より良い生活をしているように見えて衝動的に蹴り飛ばしたということだそうだ。 まりさはその話を聞き、お爺さんの心の内を察したがどう声を掛けていいか分からなかった。 その日は結局有耶無耶に終わってしまった。 2. 休みの日、利昭が家に来てお爺さんはお金を持って示談に行った。 お爺さんの乗った軽トラックが見えなくなると利昭は途端に機嫌の悪そうな顔になった。 「ちっ…馬鹿息子なんか放っておけばいいのに何考えてるんだ…お前もそう思うだろう?」 「えっ…?」 「お前のお爺さんは飼いゆっくりを殺すようなアホのために、わざわざ金を持って行ったんだぞ。 あれだけの金があれば結構なことができるのによ」 「…」 まりさは利昭の顔を見上げた。 汚い物を見るような目つきであり、利昭はさも意外そうな目で見返した。 「…なんか不満そうな顔してるな。何か問題でもあるのか?お前の仲間を殺したんだぞ。 …あぁ、お前の親もアイツに殺されたのに何もくれなかったからか?」 「違います…!お爺さんは息子さんを心配していました! だからお爺さんが息子さんを大切にしたいということが分かるんです!」 「…ふーん。まあ俺には関係のないことだからいいけどな。 もっと建設的な金や時間の使い方をした方が良いと俺は思うね」 「…」 「さて、お爺さんが帰ってくるまで留守番するわけだ。家に入れさせてもらうぞ」 「…はい」 一人と一匹は家に入った。 まりさはすぐさま自分の部屋へと戻り閉じこもった。 利昭と顔を合わせたくないというのも一つの理由だが、 お爺さんの息子が帰ってきたらどう迎えようかと落ち着いて考えるためであった。 考えは頭の中をぐるぐると駆けめぐり、落ち着きがなく固まることはなかった。 一方、利昭はまりさが見ていないのを良いことに、家の中をあさりだした。 何かを盗むためという訳ではなく、お爺さんが財産をどれだけ持っているかを調べるためである。 利昭は相続を前提に考えており、どれくらいの財産が自分の元へ回ってくるかを検討しようとしているのである。 (…おかしいな) ところが思うように金目の物は出て来ない。 しっかりと教員を定年まで続けたお爺さんのことである。それなりの財産があっても良いはずなのだ。 (隠しそうな場所は全て調べたはずなのに見当たらない…) 調べていないのはまりさがいる部屋のみであるが、以前来たときにはそこに金目のものは見当たらなかった。 利昭は再度探し回ったが成果は芳しくなかった。 (ちっ…あいつに探りを入れてみるか…) 利昭はまりさの部屋へ向かった。 やや乱暴に扉を開け、そのまままりさに問いただした。 「最近のお爺さんの生活振りはどうなんだ?」 「…お婆さんが亡くなってから気落ちした様子で元気がないようです」 「ふーん…で、たまには美味いモンとか食べてるのか?」 「…?…いえ、冷蔵庫にある物を食べているって感じですが…特に不自由は感じてはいません」 「そうか、まあいいや。たまには美味しいモンでも食べさせてもらえよ」 「はぁ…」 そう言い残すと利昭はすぐさま冷蔵庫へ向かった。 冷蔵庫を覗けばこの家の経済状況も分かるだろうと踏んだのである。 利昭は期待に胸を膨らませ冷蔵庫の扉を開いた。 (…なんだこれは) 冷蔵庫にあるものから分かったのは、この家の経済状況はそれほど良くないということである。 高価な食材は全くなく、安いものばかりであった。 ふとゴミ箱を覗いてみるとスーパーのレシートがある。 そのレシートを見てみても経済状況が良いとは言えないものであった。 (一体どこに金は消えたんだ…?) 利昭はその疑問を残し、まりさと共にお爺さんを迎えることとなった。 お金の消えた先が分かるのはお爺さんが帰ってきてからのことであった。 3. 「…ただいま」 家に弱々しく響いたのはお爺さんの声であった。 まりさと利昭が玄関に迎えに行くとそこには二人の姿があった。 一人はお爺さん。一人は昭次であった。 (この人が御爺様の息子さん…) (汚い奴だな…) 昭次の格好はお世辞にも評価することはできない格好であった。 体格は情けなく越えた豚のように弛んでおり、髭はだらしなく伸び、髪の毛も脂ぎっている。 服についても言うまでもなく、黄ばんでおり汚らしかった。 離れた位置にいる一人と一匹にもその臭いは鼻を突き、深いになった。 何よりも昭次という人間を決定付けていたのはその目つきであった。 (…) (クズの目つきだな…) 利己的な利昭でさえも呆れるような、酷い目つきである。 汚れた眼鏡の下のその目はどことなく濁っており、妙に鋭い。 いわゆる悪人の目つきというものより、低俗なものであると形容できた。 「…あ、おかえりなさいませ」 「…おかえりなさい」 玄関には重い沈黙が漂っていた。 おかえりなさいの一言もなかなかでないそんな雰囲気であった。 「…とりあえず上がろうか」 「…」 昭次は黙ったまま家に上がる。 残された靴は汚い上に靴底が破れており、何年もそのまま履き続けていたということが見てとれた。 靴は乱雑に放り出されそのまま放置されていた。 三人と一匹は机を取り囲んで座った。 だが、誰も話を始めようとはしない。 ただただ、時計の音だけが静かに規則的に時間が過ぎるのを告げるだけであった。 その静寂を破ったのは利昭だった。 「お爺さん。これからどうするんですか?」 曖昧模糊とした質問である。 だがこの場においては時を動かすには充分の、精一杯の発言であったと言えよう。 お爺さんは少しの沈黙の後、重い口を開いて言った。 「…昭次はここで俺たちと一緒に暮らすことにした。それでいいんだよな」 「…」 昭次はお爺さんが向けた視線から目を逸らし宙を見た。 お爺さんは肩を落とし、俯いた。 「…昭次が仕事を見つけるまでしばらく一緒に暮らすということになった。それだけは決まった」 「…そうですか」 その後、再び沈黙が空気を支配し始めた。 一旦動き始めた時は再度固まり、何も変わらぬまま時が過ぎていった。 「…寝る」 静寂を打ち破ったのは昭次の一言である。 無愛想で、乱暴に吐き出した物の言い方である。 昭次はのそりの立ち上がり、かつて自分の部屋であったまりさの部屋に向かいだした。 「…布団は隣の部屋に敷いてあるからそこで寝ようか」 利昭が口を挟む。 昭次はこちらを鬱陶しそうに睨んだ。 そしてのそのそと隣の部屋へ向かって行き、襖の向こうへ消えた。 襖の閉まる音と共にまたしても静寂が二人と一匹を包んだ。 だが、それが破られるのは遅くはなかった。 静寂を支配する原因であったものが消えた今、話をするのは容易かった。 「御爺様…昭次さんとはどんな話をしたんですか…?」 「…ろくなことじゃなかったよ」 お爺さんは少しずつ今日の出来事を話し始めた。 昭次とあった時には無念、悔恨、呆然といった複雑な感情が入り乱れたこと。 殺されたゆっくりの飼い主と示談で向き合って話したこと。 昭次が今までどう生きていたかを警察の人から聞いたこと。 昭次がなかなか自分のことを話してくれなくて嘆かわしかったこと。 自分の無力さと情けなさが不甲斐なく思うということ。 お爺さんの声が震えているということがまりさにも分かり、苦々しく感じた。 利昭も最初は面倒くさそうな顔をしていたが、話を聞く内にその表情を同情するものへと変えていった。 お爺さんが話し終わると少しの沈黙を挟み利昭に話しかけた。 「…利昭。今日は留守番させて悪かったな。」 「…いえ。それは別に構いません」 「…さて、今日はもう遅くなってしまったな。泊まっていきなさい」 「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて貰います」 「積もる話はまた明日しよう。まりさももう寝ようか…」 「…はい」 二人と一匹は床に就いた。 それぞれに思いを抱えながらの就寝であった。 お爺さんは今後の昭次のこと。まりさは昭次との暮らしのこと。利昭は財産の相続についてのことを考えた。 暗闇と疲れは眠気を誘い、二人と一匹を眠りに落とした。 音が無くなり、辺りに静寂が満ちた頃、その暗闇の中一人が立ち上がり家を出て行く影が一つあった。 それはかつての習慣のように山へと向かう昭次の姿であった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今まで書いたもの anko1206 ゆっくり一家とゲスとお兄さん anko1222 老夫婦とまりさ1 anko1228 老夫婦とまりさ2 anko1235 老夫婦とまりさ3 anko1247 老夫婦とまりさ4 anko1315 老夫婦とまりさ5
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四作品目です。 >賢くなった原因 注入+教育です。 >創作の経験 2ちゃんねるAA系列の板で少々あります。 最近ではツクールを少々。 前作品の続きです。 虐成分は薄く、時間が急速に流れています。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 老夫婦とまりさ3 1. 「帰ったぞ。こいつに何か食べさせてやってくれ」 家に帰ったお爺さんはお婆さんに食事の用意を頼んだ。 食卓にはすでに何も残っていない。 「あら、でも残っているものに口に合いそうなものは…」 「どうだ、何か食べられそうなものはあるか?」 「この赤いのは何なのぜ?」 子まりさが興味を示したのは鮭の塩焼きであった。 普通のゆっくりにとっては毒になるだろう。 「食べてみるか?美味いぞ」 「お爺さん、そんなものを食べさせちゃ…」 「いい臭いなのぜ。いただきますのぜ」 お婆さんが制止するも、まりさは鮭を食べてみた。 するとどうだろうか、美味しそうに食べ始めたのである。 「お婆さん、どうやらこいつは普通のゆっくりじゃなくなったらしい」 「どういうこと?」 「多分だが…」 「むーしゃむーしゃ」 お爺さんは美味しそうに鮭を食べる子まりさを尻目に子まりさに起こったであろう突然変異について話した。 最初は信じられないというような顔つきだったお婆さんも現実を見て納得をした。 それにしてもいい加減な生物である。 「美味しかったのぜ。ごちそうさまなのぜ」 結局子まりさは鮭を食べ終えてしまった。 だが食べカスはそこら中に飛び散っていた。 「あらあら、いっぱいこぼしちゃったのね」 「食事の仕方までも教えなくてはならないのか…」 「ゆ?」 「飛び散ってるぞ。さっさと片付けろ」 「ゆ…本当なのぜ。ちゃんと食べるのぜ」 子まりさは座敷机の上の食べかすを舐め取り始めた。勿論べったりと砂糖水が机につく。 手がないゆっくりには仕方がないことだが、これはマナー上よろしくない。 「食べ方を教えるしかないか…」 お爺さんは本当は今すぐ教えたかったが、今日はもう遅いのでやめることにした。 仕方がないので明日は食事について教えることを計画した。 「明日は食事のことについて教える」 「頑張ってね」 「分かったのぜ」 子まりさの大きな転換となった日はこれで終わった。 2. お爺さんの教育が始まってしばらく経った。 子まりさは人間と生活する上での最低限の知識を手に入れていた。 普通のゆっくりでは不可能な早さと言えるだろう。 「お婆ちゃんは何を読んでるのぜ?」 「新聞だよ。世の中のことが色々書いてあるんだよ」 子まりさは老夫婦がたまに見ている紙のことが気になった。 来たばかりは興味が沸かなかったが人間の暮らしが分かってくると様々なものに興味を持つようになった。 「ちょっと見せて欲しいのぜ」 「でもまりさに分かるかねぇ…」 子まりさは新聞を見せて貰ったが見ても全然分からなかった。 字とは全く縁のないゆっくりに分かるはずがなかった。 「これは…"高度な魔導書"なのぜ?」 「お婆ちゃんは魔導書なんてものは知らないけど多分違うと思うよ」 元いた群れの友人であるぱちゅりーがよく言っていたものと似ていたため、子まりさはそう思ったのである。 勿論それはチラシやら看板やらを適当に読んで適当なことを言っているだけである。 「そいつは文字だ。…知りたいなら教えてやってもいいぞ」 「ゆ!お爺ちゃんが教えてくれるのぜ?」 「途中で諦めないのならな」 「頑張るのぜ!」 子まりさの知能と向学心は日にちが経つにつれて上昇していた。 栄養のある様々な食べ物を摂取していたからであろうか、 お爺さんの教育の結果の賜物であろうか、とにかく成長していたのである。 諦めないという約束を取り付けたお爺さんは早速勉強の準備を始めた。 その顔は心なしか嬉しそうにも見える。 「じゃあちょっと待ってるんだ」 お爺さんは納戸へ行き、かつて教員であったころに使っていたプリントを持ち出してきた。 小学一年生用の国語の学習プリントである。 本来は書き順を覚えるためのものであるが充分な大きさなので利用することにした。 「まずは"あいうえお"からだが…」 お爺さんはあいうえおの文字が一つ一つ大きく書かれているプリントを子まりさに見せた。 まずは字の音と形を一致させる必要がある。 「この形の文字が"あ"だ」 「あ?」 「そうだ。覚えたか?」 「ちょっと難しい形なのぜ。ちょっと待って欲しいのぜ」 子まりさとプリントの睨めっこが始まった。 その時間は優に10分を越えていた。 (流石にゆっくりには難しいか…) 記号的なひらがなはゆっくりには理解が難しかったらしく時間がかかっている。 しかし残りの字については慣れてきたのか理解も早く、"いうえお"が終わったのは開始から30分ほど経った時のことである。 「多分覚えたのぜ!」 「よし、じゃあテストをするぞ。この文字はなんだ?」 お爺さんは"い"と書かれたプリントを子まりさの前に置いた。 「"い"なのぜ」 「よし、次だ。」 「"え"なのぜ」 「次だ」 「"う"なのぜ」 「よし、いいぞ。次だ」 お爺さんが置いたのは"あ"と書かれているプリントである。 "お"とも少し似ているためこれはどうだろうかと考えた。 案の定子まりさは答えをなかなか出せずにいる。 「どうした。分からないのか?」 「多分…"あ"なのぜ」 「正解だ。じゃあ最期にこれだ」 「"お"なのぜ!」 残り一枚は子まりさの前に置く前に答え始めていた。 どうやら二択で迷っていたらしい。 「全問正解だ。よくやった」 「これで"あいうえお"はマスターなのぜ!次を教えて欲しいのぜ!」 「悪いが畑仕事に行かないといかんのでな、お婆さんに教えて貰え」 「分かったのぜ」 ひらがなの学習の監督をお婆さんに交代し、お爺さんは畑仕事へ向かった。 3. お爺さんの畑は山に近いところにあり、ゆっくりによる被害も多い。 お爺さんのゆっくり嫌いはそこから来ていた。 そしてこの日も人間の道理を知らないゆっくりがやってきた。 今日の招かれざる客はちぇんであった。 「わがらないよぉぉぉぉぉ!」 尻尾を掴まれちぇんは宙づりにされていた。 顔はぼこぼこに殴られ、尻尾が千切れそうになっている。 「ここは俺の畑でここにあるのは俺の野菜だ」 「わがらないぃぃぃぃぃ!」 お爺さんは手に力を込めた。ちぇんは潰そうと思ったのだ。 しかし、その力は弱まった。いつかの子まりさの言葉を思い出したのである。 (こいつにも子どもがいるんだな…) 「…放してやる。だがもう二度とここには来るなよ」 返事もなしにちぇんは山へと逃げていった。 子まりさの気持ちを汲み取ってのことであったが、 このことが後に子まりさを苦しめることとなるとはお爺さんは思いもしなかった。 畑仕事は順調に進み、特に何事もなくその日の仕事を終えた。 4. お爺さんが家に帰ると子まりさが玄関に迎えに来ていた。 いつの間にか習慣となっている行為であった。 「おかえりなさいだぜ!」 「あぁ、ただいま」 「この子ひらがなもう全部覚えちゃったよ。凄いねぇ」 「頑張ったのぜ!」 「何。全部覚えたのか?」 「試してもいいのぜ!」 自信を持っているのか体を反って誇っている。 お爺さんはその姿を自分のかつての教え子と重ねて微笑ましく思った。 「よし、夕食の後に試してやろうか」 結果、全問正解であった。 "ぬ"と"め"の違いや"ね"と"れ"の違いは勿論のこと、"へ"と"え"の読み方、"は"と"わ"の読み方までも覚えていた。 「頑張ったんだな。偉いぞ」 お爺さんは子まりさを撫でてやった。 一瞬、子まりさはびくんとなったがすぐに気を許した。 おそらくは何かされるとでも思ったのだろう。 お爺さんは怖がられているということを体感的に知り、少し寂しく思った。 「じゃあ次はカタカナだな。また明日教えて貰うといい」 「ゆ!なんでもかかってこいなのぜ!」 子まりさの目は輝きで満ちており、今までで一番嬉しそうに見えた。 翌日のカタカナの学習は一日で終わってしまっていた。 正確には半日ほどであり、残り半分は簡単な足し算を勉強していた。 カタカナは全問正解であり、足し算も長考したものの殆ど正解することができていた。 お爺さんは子まりさの成長をお婆さんよりも喜び、正解するごとに褒めていた。 5. 「この部屋はお前が使って良いぞ」 「何か分からないことがあったら何でも聞いていいからね」 「ゆ!ありがとうなのぜ!」 翌日、子まりさは自分の部屋を与えられた。 かつて教育が始まった部屋であり、老夫婦の息子が使っていた部屋である。 部屋は整然としており、いつでも使える状況となっていた。 本棚には教科書を初めとする本があり、その他にも子まりさの興味を刺激するに充分なものが沢山あった。 「まずお前はこの本からだな」 お爺さんが本棚から取り出したのは一年生用の教科書である。 本は薄汚れて表紙はボロボロであるが各教科全て揃っている。 「頑張って読むのぜ!」 仮にぱちゅりーがこの場に居たとしたらこれらを全て"魔導書"として片付けてしまうだろう。 だが急速に知識を得てきた子まりさにとってはそれらが未知の世界を内包する素晴らしい物に見えていた。 「お婆ちゃん達は町まで買い物をしに行ってくるからよい子でお留守番してるんだよ」 「じゃ、行ってくる」 「行ってらっしゃいのぜー」 子まりさは老夫婦を見送ると、早速与えられた本を読み出した。 「漢字があるのぜ!読めないのぜ!」 子まりさはいきなり躓いたが、読めるところだけ読んでいった。 すると新出漢字のページを見つけることができた。 「凄いのぜ!この本さんは親切なのぜ!」 子まりさは新しく文字を学び、また読み返し始めた。 するとどうだろうか、今まで理解し得なかった世界が鮮明に思い描かれたのである。 「学校ってお爺ちゃんがいたところなのぜ!」 「クジラって何なのぜ…?雲さんなのぜ?」 「人間さんはそんなに高く跳べるのぜ!?」 「まりさも飛んでみたいのぜ…」 まりさは一つの物語を読み終えるとかつてない満足感を味わった。 新しい世界に触れることができるようにする文字がいかに凄いかがよく分かったようである。 「ふぅ…もう一回読むのぜ」 子まりさは飽きることなく物語を繰り返し読み続けた。 ある程度満足すると次の物語を読み始め、それはその本が終わるまで続いた。 そして最期のページに書かれていた綺麗な文字に気がついた。 「…しょうじって誰なのぜ?」 老夫婦の息子の名前であった。 6. 老夫婦が帰ってきたのは夕飯前ぐらいのことであった。 そのころには子まりさは国語を読み終え、算数と格闘をしている最中であった。 「お帰りなさいだぜ!」 「ただいま」 「あぁ、ただいま。どうだ本は面白かったか?」 「面白かったのぜ!でも分からないこともあるから教えて欲しいのぜ」 「よし、教えてやろう」 食卓を囲み子まりさは今日読んだ本のことについて興奮しながら話した。 クジラのこと、漢字の読み方のこと、引き算のことなどである。 お爺さんとお婆さんはそれに丁寧に答えていった。 しかしある質問で食卓の空気は一変した。 「あと"しょうじ"って誰なのぜ?」 「…」 「…」 お婆さんは顔を伏せ、お爺さんは何を言えばいいのかと顔を険しくした。 老夫婦の息子は飛び出すように都会へ行き、消息が知れない状態であるのだ。 「ゆ…?聞いちゃいけないことだったのぜ…?」 「…いや、いつかは話さないといけないことだったんだが、どうにも話しにくいことなんだ」 「どういうことなのぜ?」 「"しょうじ"は俺の息子だ」 お爺さんはぽつりぽつりと息子について語り始めた。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今まで書いたもの ふたば系ゆっくりいじめ 1085 ゆっくり一家とゲスとお兄さん ふたば系ゆっくりいじめ 1101 老夫婦とまりさ1 ふたば系ゆっくりいじめ 1107 老夫婦とまりさ2
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老夫婦とまりさ4 17KB 虐待-凄惨 制裁 愛で 悲劇 理不尽 差別・格差 誤解・妬み 家族崩壊 家出 駆除 飼いゆ 野良ゆ 赤子・子供 自然界 現代 虐待人間 愛護人間 五作品目です。人間主体となっているのでご了承下さい 五作品目です。 >小出し 今回から一作品ごとの文章量を増やしていけるように頑張ります。 前作品の続きです。 老夫婦の過去話中心で子まりさは殆ど出てきません。 また、子どもが苛められるシーンがあるのでご注意下さい。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 老夫婦とまりさ4 1. 老夫婦にはかつて息子がいた。 勉学は秀でており運動神経もよく、学校での成績も上位に入っていた。 しかし、その生活が幸せであったわけではなかった。 いじめの存在が彼を不幸にしていた。 それは小学校中学年ほどから顕著になり、毎日のように陰湿ないじめが発生していた。 (…またか) 登校してみると学校の学習机の中にゆっくりの死骸が詰め込まれていた。 いつものように少年は机の中身の掃除をし始めた。 その様子をにやにやと遠巻きに見つめる集団がいる。 ゆっくりの死骸を机に詰め込んだ当事者達である。 「…」 少年はその視線に気付いているものの相手にせず淡々と作業をしていた。 いじめが始まった頃には少年の味方をし、いじめ集団に対抗する同級生もいた。 しかし、それはすぐいなくなった。憐憫の情を見せるだけで、自分たちも標的にされることが分かったからだ。 少年と関わるだけで、同じようないじめを受けることとなったのである。 今では少年を避けようと視線を逸らすことが当たり前となっている。 「おはよう。朝の会やるぞー」 いじめが始まった原因は少年に対する嫉妬である。 成績が優秀であることから、目を付けられたのだ。 最初の頃はちょっとした遊び感覚のものであり、少年も笑って応じていた。 だが、それは次第に過激になっていき収まることはなかった。 少年は抵抗したものの、それは余計に相手を刺激するということが分かってから何もしなくなった。 教師に頼ったこともあったが、それは無駄に終わった。 いじめ集団の頭は村の有力者の子どもであり、幅をきかせていた。 聞けば校長とも私的な繋がりを持っており、その態度は横柄なものであった。 少年は学校においては孤立無援の状態であった。 「起立。礼。おはようございます」 「「「おはようございます」」」 少年は号令をかけ、形式的に朝の会を始める。 授業においても挙手や発言は消極的に行い、休み時間には机で俯せていた。 必要以上のことはせず、最低限のことだけをこなしていた。 いじめが嫉妬から来ることが分かっているため、極力目立たないようにしていたのである。 「何寝てんだよ」 「うぜーから学校に来んなよ」 昼休み。自分の席で少年が俯せていると椅子を蹴られた。 できるだけ相手にしないように無言でそのままの体勢を維持しようとしている。 「起きてんじゃん。さっさと帰れよ」 「お前にこんなもんはいらねーよ」 いじめ集団の一人が机を蹴り倒す。 机の中からすでにぼろぼろである教科書とノートを全て取り出し、窓から投げ捨てた。 一部は側溝に落ち、一部は校庭に落ちた。 いつものように少年は椅子に座ったままだった。 チャイムが鳴る。もうすぐ授業の時間となった。 少年は席から立ち上がり教科書とノートを取りに外へと向かった。 「…」 前日が雨であったために、教科書とノートはどろどろに汚れている。 少年は泥を軽く水で流し落とし始めた。 頭に感触を感じた。手で触ると妙に生ぬるく粘質がある。 見上げると窓からいじめ集団がにやにやこちらを見ていた。 少年の手についているのは唾であった。 「見てんじゃねーよカス」 「そのまま帰れ、帰れ」 少年は手を洗い、教室に戻った。 机と椅子は倒されており、筆箱はゴミ箱の中にあった。 だが、それはいつものことであり、いつものように元に戻し、いつものように、授業の号令をした。 少年は歳不相応に達観していた。 傍若無人な権力に対する自分の無力さを知っており、それに対抗する術もない。 対抗できたとしてもそれは自分をさらに苦しめるだけであり、耐えるしかないことを悟っていた。 授業が終わり、至福の時が訪れる。 机の中身を全て片付け、早々に学校を出て行く。 足取りは速く、逃げるように家へと帰っていった。 2. 「ただいま」 「おかえり、学校はどうだった」 「別に」 「…そう」 父も母もいじめの存在には気付いており、学校に訴えをしたこともあった。 しかし、それは徒労に終わっただけであった。 学校を牛耳られており、担任は操り人形そのものであった。 地元の警察にも行ったが、相手にされなかった。 小学校児童を罪に問えるわけでもなく、保護者同士でなんとかして下さいとのことであった。 せめて口頭注意でもと願い入れたが、逆恨みされいじめを助長させる結果となった。 他にも出来ることは全てしたが、結果は芳しくなかった。 少年の立場は悪くなるばかりで何も好転はしなかった。 「…はぁ」 少年は自分の部屋に入るとため息を漏らした。 慣れてしまったこととはいえ、精神的にはかなり辛かった。 ランドセルを投げ捨てるように置くと、学習机の一番下の引き出しを開けた。 その中には一匹のれいむがいた。 れいむは少年の姿に気がつくと怯えた目で震え上がった。 そのれいむは片眼をえぐり取られており、代わりにたわしを無理矢理に詰め込まれていた。 足は剣山に突き刺されており、すでに足としての機能は全て失われていた。 髪であったと思われる部分は焼かれ縮れていた。 口は縫いつけられ、声が出ないようにされていた。 少年はいじめでの苦しみをこのれいむにぶつけていたのである。 「さて…」 少年はテープで繋げられた鉛筆をれいむに突き刺していく。 れいむの悲鳴は口内のみで響き渡り、少年の部屋には響かない。 そのおかげで両親に悲鳴を聞かせることはなく、両親にも気付かれていないと少年は思っていた。 実際は少年がれいむを捕らえ、虐待していることを知っているが知らない振りをしていた。 不満の捌け口ができていることを肯定的に捉えたのだ。 虐待という歪んだ形であるものの、塞ぎ込まずにいるのはそのおかげだからである。 6本目を刺した時点でれいむは気を失った。 「今日は早いな」 つまらなそうにそう言うと机の引き出しを閉じ、その日の宿題を始めた。 宿題を終えると何をするのでもなく、新しい虐待方法について考えはじめた。 「ごはんですよー」 「はーい」 母に呼ばれて部屋を出て、夕飯を食べはじめる。 会話はなかった。学校について聞いても良い話が出てくるはずもない。 無理に話したとしてもそれは少年の心を傷つけるだけである。 ただ、少しずつ少年の心は荒んでいくだけで、誰も救うことはできなかった。 「ごちそうさま」 「…」 食事を終えると少年は部屋へと閉じこもった。 少年は必要な時以外は自分の部屋に戻り、虐待に関することか宿題のみを行っていた。 少年の生活と心は塞ぎ込んでいく一方であった。 「ただいま」 父が帰ってきた。 別の校区の教師をしている父は帰りも遅い。 言葉には力が感じられない。 部屋越しに聞こえてくる両親の話には、勤め先の学校でもいじめがあるという話もよくある。 自分と同じ立場の子どもがいるようで、父はそれを悩んでいるようである。 (…僕と同じような子がいるんだな) そう思うと心が多少楽になり、諦めもつきやすくなった。 その日はれいむに鉛筆をさらに3本刺すだけで眠りにつくことができた。 3. (俺は無力だな…) 学校で教師としての立場をしていてよく思うことである。 熱心に教育をし、保護者からの評判も良いがそれは自身の満足には直結しない。 いじめは保護者の見えないところでも進行しており、時には解決できないこともある。 そういった現実を目の当たりにしたその時、強く無力感を感じた。 「先生!助けてよ!」 いじめが進行している子の訴えである。息子と同じ学年だ。 息子と違い出来の悪い子であるが、素直で明るい子である。 いじめの原因はその出来の悪さからであり、原因は息子とは真っ向に反対している。 「何があったんだ?」 「あいつらが物をぶつけて来るんだ!」 泣きながら指さす方向にはいじめ集団がしまったといったような顔でこちらを見ている。 「おい!お前らそれは本当か!」 いじめ集団はその場から逃げ出し、姿をくらました。 良く言えば追い返した、悪く言えば逃がしたということになるが、とにかくその場でのいじめは終わった。 「先生、ありがとう!」 その子に笑顔が戻ってきた。 それに笑顔で返すがそれは仮の笑顔であった。 いじめが途切れたとしても、それは一時的なものであり根本的な解決となっていない。 同じようなことが以前もあり、今回もいじめがあったことを考えれば意味のないことであることが明白である。 いじめには根本的な解決が必要である。 職員会議においてこの子がいじめられているということに関して取り上げたが年老いた世代は消極的であった。 いじめが世間に露呈すると学校としての立場が悪いから大々的に取り組めない。 そもそもいじめ対策をするということはいじめの存在を認めていることになる。 そういったことを平気で言い放ち、いじめを黙認する姿勢を取っている。 若い世代はそれはいけないであろうと刃向かうも相手にされない。 (老害め…!) いじめは本来学校全体で取り組む課題であるのだが、前向きに結束することはなかった。 仕方が無く若い世代で協力的に取り組み、解決へと努力をすることにした。 この校区には村の有力者という者が介入するということなく、息子の校区とは違い段々と良い方向へと向かっていった。 だが、自分の息子に対するいじめを解決できるわけでないために、権力に対する無力感はさらに大きくなった。 (…くそっ!なんて俺は無力なんだ!息子一人助けられないのか!) 自分の校区の子どもは助けられるのに、自分の息子が助けられない苛立ちは自分の心を責め立てた。 4. 中学生になり少年は苛立ちを募らせ始めた。 それには幾つかの理由があった。 一つは、いじめのさらなる過激化である。 控えめであった暴力行為が激しくなり、体に生傷が絶えなくなってきた。 体の発育も伴いその痛みも次第に強くなり、苦しさも酷いものとなった。 また、いじめ集団も拡大し、少年を囲い込む人数はさらに増えていた。 一つは、虐待への慣れである。 引き出しに入れていたれいむはすでに死んでおり、新しくゆっくりを捕らえるもどれも長生きはせず、死んでいった。 いじめの激化に伴う虐待の残虐化が原因であるが、それに慣れてしまい生半可な虐待では満足できないようになったのである。 少年の荒んだ心を癒すためには相当な虐待が必要となってきたのである。 そして、もう一つは父の校区のいじめの改善である。 これが少年の心をさらに傷つけることとなった。 自分の父がいじめを改善しているということが分かり、自分と比べることで不満を募らせたのだ。 これまでに父は息子のために奔走していたが効果がなく、少年はありがたみを感じていない。 父は自分の職業の役割を真っ当に遂行にしているだけであったのだが、少年の眼にはそうは映らなかった。 ただ、自分を差し置いて他の子どもを優先する愚かな父親としか見ていなかった。 「おい、こんな時間にどこへ行くんだ!」 「うっせーこの糞親父!」 夜も遅い時間に、少年は家を飛び出した。 玄関を乱暴に閉めると少年は自転車に跨り、夜の闇に溶けていった。 何も見えない闇の中を父と母はむなしく見つめていた。 少年の向かった先はゆっくりの群れがいるという山である。 ここに来た目的は虐殺を通しての気晴らしである。 「…ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね!」 少年が一声かけると、愚かにも一匹のれいむがそれに反応してしまった。 近頃虐殺をする人間が出るというので注意するよう群れのリーダーから言われたばかりである。 「そこか」 少年は声のする方向に懐中電灯を向けてれいむを見つけ出した。 「ゆ!?」 「本当にお前らは馬鹿だな」 髪を掴むと懐中電灯を置き、持っていたライターでじりじりとあぶり出した。 れいむから悲鳴が発せられる。ライターの火は少年とれいむの顔を下から照らしている。 「やめでぇぇぇぇぇぇぇ!」 「やめるわけないじゃん」 いじめ集団と同じ台詞を吐き出し、れいむを少しずつ焼いていく。 その悲鳴は群れのゆっくりにも聞こえており、巣の中で震えている。 「なんでお前を助けに来ないんだろうなぁ」 「だれがだずげでぇぇぇぇぇぇぇぇ!どぼじでだずげでぐれないのぉぉぉぉぉぉ!」 助けに行かないのは当たり前である。少年にはその理由がよく分かっていた。 下手に手を出すと巻き添えを喰らうことは目に見えて明らかなのである。 勝てない相手に手を出すことは自分の死を早めるだけだ。 「みんなお前が嫌いなんだよ」 「そんなわげないでじょぉぉぉぉぉ!でいぶはみんなのあいどるなんだよぉぉぉぉぉ!」 「うぜぇよ」 少年は日々の不満をれいむのぶつける。 いじめ集団と同じように高圧的にれいむに声をかける。 ふと、少年は自嘲的に笑う。自分が嫌っているいじめ集団と自分が全く同じであるということを笑ったのだ。 最も嫌いであったいじめ集団と自分の姿を重ねて、自分の愚かさが滑稽に思えたのだ。 それでも少年はれいむをあぶり続けた。 それが楽しいからである。 愚かだからなんだというのだ。嫌いだからなんだというのだ。 今、この場で、弱い者をいじめることが何が悪いというのだ。 世間から嫌われ、迫害されるものを痛めつけることが何が悪い。 自分がそうされているのだからそれは当然だ。ゆっくりをいじめて何が悪いのだ。 「おりゃっ!」 「ゆぎゅぼぁっ!」 れいむのもみあげを持ち近くの石に叩き付ける。 頬からぶつかり、餡子が飛び散り、歯が数本宙に浮いて闇に消えた。 「汚ぇ顔だなぁ」 「ゆぎぃぃぃぃ…」 すでに原型を留めないれいむを足で踏みにじり、冷淡に言い放つ。 れいむの死は目前であった。 「お前、生きてる価値ないよ」 短い悲鳴と共にれいむは潰れた。 少年は満足そうな笑みを浮かべた。 「さて、次はお前だ」 「むきゅっ!?」 一匹のぱちゅりーが切り株の後ろにいた。 隠れているつもりだったのであろうが、丸見えであった。 自分が人間を見えていなければ、人間も自分も見えてないだろうと思っていたのだろうか。 「まっ…まってね!ぱちゅりーはこうしょうをしにきたのよ!」 「交渉だぁ?」 思いも寄らない発言に眉を歪ませた。 ゆっくりごときが交渉をするとは思ってはいなかった。 「にんげんさんはおかねさんがすきなんでしょ!これをあげるからかえってくれないかしら!」 ぱちゅりーが見せたのは100円玉であった。 このぱちゅりーはゆっくりにしては賢くお金の概念を多少は知っているようであった。 「へぇ、お金持ってるのか」 「むきゅ!これでかえってくれる?」 「さっさとよこせよ」 「かえってくれるとやくそくしてくれるかしら?」 「ああ帰ってやる」 少年はぱちゅりーから100円玉を受け取るとぱちゅりーを足で踏みにじり始めた。 帰るつもりなど毛頭なかった。 「足りねーよ。こんなんで帰るかよ」 「むぎゅぅぅぅぅ…でもさっきかえってやるって…」 「言ってねぇよ」 少年は落ちていた棒きれを持ちぱちゅりーの目玉をえぐった。 感触は柔らかく、簡単に取れた。 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 少年は二つ目もえぐる。同じような悲鳴が響いた。 だが少年はそれをにやにやと見つめるだけであった。 「げんじゃなおめめさんをがえじてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 「他のゆっくりがどこにいるか教えたら教えてやるよ」 「ぢがぐにあるおおぎないわざんのじだにいまずぅぅぅぅぅぅ!」 他のゆっくりがどうなるか知れないのに即答した。 最初は群れのことを考えて交渉をしに来たようだが、自分に危機が迫れば身勝手なものである。 「へぇ、本当にいるのか」 少年が岩の下の窪みを覗くとありすが一匹寝ていた。 嘘を教えれば良かったものを正直に答えていた。 「お前は本当に独りよがりだなっ!」 「むぎゅっ!」 そう言うと同時にぱちゅりーを蹴り飛ばした。 岩に当たり、その体は破裂するように細かく飛び散った。 「さて」 少年はありすをいかに虐殺しようかと思案した。 結果、れいむとぱちゅりーの死骸を詰め込み、土で埋めるという方法にした。 寝言で「あまあまさんがいっぱいだぁ」と漏らすありすは滑稽であった。 土を被せようとした時にやっと起きたらしく、なにやら叫びが聞こえていた。 何を言っているかは分からなかったものの少年はそれで満足であった。 土を被せ終わると、声が聞こえなくなったのを確認すると少年はその場を立ち去った。 その一晩で群れから三匹のゆっくりが消えた。 夜中の虐殺は少年の不満が溜まる度に行われ、段々とその頻度も上がっていた。 皮肉なことにその行為がゆっくりによる畑の被害の減少に貢献していた。 5. 中学も三年になると家庭内での暴力は当たり前のものとなった。 息子が両親にことあるごとに喧嘩をふっかけた。母が暴力を受けると父がそれを懸命に押さえるということが多かった。 病院沙汰にはならなかったものの、それは酷い状況にはかわりなかった。 父は武道をやっていたこともあり、当初は息子の暴力を押さえることもできていた。 しかし、身体の衰えと心労、息子の成長により力関係は逆転していった。 家庭は乱れ、息子はついに刃物を手に両親を脅すことも辞さないようになってきた。 父が稼いだお金はほとんどが息子に吸い取られ、全てが虐待、暴力に注ぎ込まれていった。 そしてついにその日がやってきた。 「おい、お前!どこに行くんだ!学校は!」 「うっせーよ。こんな田舎から出て行くだけだ」 「何言ってるの!」 「殺すぞこの糞ばばあ!」 息子は母を突き飛ばした。 父は母を抱き支える。 「母さんになんてことをするんだ!」 「うぅ…」 「黙れこの糞じじいが!息子を息子と思わないような奴を親に持った覚えはねーよ!」 息子は両親に対して恨みを持っている。 自分をいじめから救ってくれなかったことが許せないのであった。 さらに父が自分を見捨てて他人を助けているように思っていた。 「何を言ってるんだ!俺はお前を助けようと…!」 「寝言は寝て言え!なんで他人の子どもを助けて俺を…!俺をっ…!」 少年は言葉の先を言えずに、目に涙を蓄えている。 ここに来て悲しみが溢れてきたのであろうか。 手はつよく拳を握り、体を大きく震わせている。 「糞っ…!じゃあな!」 少年はかつて育った家に背を向け走り出した。 両親はそれを追おうとしたが、やがて足は止まった。 道の真ん中で立ちつくし、寂しい気持ちに包まれ家へととぼとぼと戻っていった。 その日は警察に連絡をし、失意のまま翌朝を迎えた。 (…家、こんなに広かったんだな) 夫は妻より早く起きると家を見てまわり始めた。 家族の一人がいなくなった家は広く感じた。 酷い思いをさせられた息子でもいなくなれば悲しいものである。 息子の部屋を見る。 部屋に近づくだけで暴行されるのでこれまで近づいたことすらなかった場所である。 中は荒れており、少年の心がそのまま体現されたかのように思えた。 それでも賞状やトロフィーなどの過去の栄光を表すものはそのまま残っていた。 「…」 長く沈黙し、部屋を眺めて今までの思い出を巡らしてみた。 楽しかった時の息子を思い出し、何かがこみ上げてくるのを感じた。 逃げるように部屋を後にして縁側に向かった。 近くの柱に手を掛けるとそこには背比べの傷跡が残っていた。 傷跡は11歳の8月の記録で終わっていた。 それを見て、父はその場に崩れるように座り静かに泣いた。 6. 家から息子がいなくなってから長い月日経った。 夫は仕事を退職した。夫婦には白髪も増え、老夫婦と言えるような風貌になっていった。 時は少しずつ夫婦の心に残った傷を癒していったが治るわけではなかった。 息子のことを思い返す度に、悲しみが心を襲った。 そのためか、息子のことを話題に出すことはほとんどなくなっていった。 それでも息子がいつ帰ってきてもいいように、部屋はいつも綺麗にしていた。 息子がいなくなったことで暴行されることはなくなったが、幸せではない。 残った財産で土地を買い、畑仕事をして生活していくようになったのはこの頃からである。 「…お前は俺たちが悪かったと思うか?」 子まりさに息子のことについて話し終わるとお爺さんはそう聞いた。 その言葉はいつものような元気がなく、酷く思い詰めているように思えた。 「…まりさには難しくてよく分からないけどお爺ちゃんたちは頑張っていたと思うんだぜ」 子まりさが話を全て理解できていたかはどうかは分からないが、はっきりとした口調でそう答えた。 それは嘘偽りでなく、心からの言葉であった。 「…そうか」 老夫婦の顔にほんの少しの笑みが戻った。 子まりさにの一言は老夫婦の気持ちを多少なりとも和らげたのだろう。 「ほらほら、せっかくの料理が冷めちゃいますよ。もう食べましょうよ」 「お、そうだな」 夕食は明るい雰囲気を取り戻した。 その日は老夫婦にとっての記憶に残る一日となった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今まで書いたもの ふたば系ゆっくりいじめ 1085 ゆっくり一家とゲスとお兄さん ふたば系ゆっくりいじめ 1101 老夫婦とまりさ1 ふたば系ゆっくりいじめ 1107 老夫婦とまりさ2 ふたば系ゆっくりいじめ 1114 老夫婦とまりさ3 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る 今なら小学校でも、いじめは立派な犯罪と認知され始めてる。 (遅ぇーよ!!) モノが無くなれば窃盗だし、痣が残れば傷害。 (まぁ、証拠を残さない方法に進化しただけだがな!!) 今は、PTAも警察も動き始めている。 (日記など記録がなければ動かないがな!!) いじめられている皆、きっと今も頑張っているだろう。 あとは「私を助けて!!」って言うだけだ!! (結局示談になって心の篭ってない「ごめんなさい」⇒「お咎め無し」だがな!!!怒) -- 2018-03-09 06 46 26 おじいさんのむすこさんをや味゚る奴らはゆっくりしね! -- 2014-06-15 13 47 30 あれだ 饅頭どうにかするより腐った人間どうにかしたほうが先だな -- 2013-07-12 05 41 34 やはりまんじゅうをつぶすのはただげんじつからめをそらしてるだけなんだよ・・・ おにーさんはいじめっこというにんげんのげすどもをせいっさいすることにしたよ・・・ -- 2012-10-04 00 36 20 漢字を喋るゆっくり・・・だと!? -- 2011-09-14 18 37 58 そりゃ親なら「自分を殺せるわけない」って思ってるからだろ。いじめっ子には何されるかわからんだろし。 -- 2010-12-17 22 45 41 親に刃物を振るえる癖に、いじめっ子相手には何もできないんだなー -- 2010-12-17 22 02 56
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┏━━━━┳┯┯┯┯┓┃ ┠┼┼┼┼┨┃∩ ∩∩_∩┼┼┼┼┨ (*´∀`)´ー`) ┼┼┼┨┃つ )⊃ 0┴┴┴┴┨┗━━━━┻━━━━┛ 名前:? 職業:? 性別:おじいさんとおばあさん 年齢:?歳 種族:丸耳モナー族 初登場:Recipe 2 アマカケル 本編 262 たまに登場したりする老夫婦。 ボケ役がじいさんだったり、はたまた両方ともボケていたり、高齢化社会の実態を描く。 人物相関 キャラ キャラとの関係 初遭遇 キャラ名 関係 Recipe 番号 タイトル 登場作品 Recipe 2 └アマカケル Recipe 14 ├名無しの警察官の歌
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七作品目です。 前作品の続きです。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 老夫婦とまりさ6 1. 葬式が終わってからの日々は暗いものであった。 お爺さんは日に日に元気を失っていくのが目に見えて明らかであった。 元々強がりな性格のために、会う人会う人に明るく接しようとしていたが、それが逆に心の内面の悲しさを引き立てていた。 まりさも同様に落ち込んでいたが、お爺さんの気力の減退振りをを見ていると落ち込んでばかりはいられないと思いを新たにした。 しかし、まりさはお爺さんを元気づけるにはどうしたら良いかが分からなかった。 大切な人は二度と戻ってこず、楽しかった日々は戻ってこないのだ。 何をしても元に戻すことができないと分かっている以上、慰めをしても無駄なばかりか逆効果にもなることも考えられる。 まりさは途方に暮れた。何も出来ない自分にやるせなさと腹立たしさを募らせるばかりであった。 広くなった家の中で一人と一匹は鬱屈とした毎日を過ごしていた。 そんな日々の中で転機となる電話の音が鳴り響いた。 お爺さんは弱々しくなったその手で受話器を取った。 「もしもし――はい。――…はい。―――――――それは本当ですか!?――――えっ…―――――― ――――――――…はい―――…はい――――――――…分かりました。―――――…ありがとうございました―――――」 「御爺様。何の電話でしたか?」 「…昭次が見つかった」 「!それは良かったですね!……御爺様?」 まりさはお爺さんの息子が見つかったことを心から喜んだ。 長年会えなかった息子に会えるというのだから、お爺さんも嬉しいに違いないと思ったのだ。 しかし、お爺さんの顔にはなにやら影がかかっているように見えた。 「……昭次は飼いゆっくり殺し……器物損壊で拘束されてるそうだ」 「…そう…ですか……」 一転して空気は沈黙した。 自分の息子が見つかった。だが何故こんな形で見つかったのだろうか。 以前からゆっくりを殺していたということは知っていたが、人様のものに手を出すとは思ってはいなかった。 しかも今は自分もまりさを飼っている身であるが故に、飼いゆっくり殺しというものがよく分かっていた。 荒んだ環境から脱して、昭次はよく成長しているのではないかと心の内で願っていたが何故こうなってしまったのだろうか。 まりさも悩んだ。お爺さんの息子が見つかったことを喜びたかったが、予想もしない結果に戸惑った。 お爺さんがゆっくりを殺しているということは知っているし、自分の両親も殺されたことも知っている。 しかしそれは人間の世界でのルール上仕方のないことであるということを学び、すでに納得をしている。 だが、飼いゆっくり殺しとは世間一般でも問題とされていることである。 お爺さんの息子がそんなことをして捕まったと聞いて恐れと不安を心に抱いた。 「…飼い主は示談で解決していいと申し出てくれたそうだ」 「そうですか…」 「…次の休みに俺は示談に行ってくるが、お前も来るか?」 「…いえ、やめておきます。飼い主さんに…面目ないですから…」 「そうか…そうだな。分かった。次の休みに留守番を頼めるか利昭に聞いておく」 「はい、分かりました」 話によると、昭次は飼い主と一緒に散歩中の飼いゆっくりをいきなり蹴り飛ばしたらしい。 その飼いゆっくりは身体が四散して即死であり、無惨な光景であったと言っていた。 いくら脆弱な生物であるとはいえ、きちんとした環境で育ったゆっくりがあそこまでなるのは初めて見たとのことである。 供述によると、その日暮らしの生活をしていて生活に不満を持ち、そのストレスを野良ゆっくりで解消していたが、 その飼いゆっくりが幸せそうで、自分より良い生活をしているように見えて衝動的に蹴り飛ばしたということだそうだ。 まりさはその話を聞き、お爺さんの心の内を察したがどう声を掛けていいか分からなかった。 その日は結局有耶無耶に終わってしまった。 2. 休みの日、利昭が家に来てお爺さんはお金を持って示談に行った。 お爺さんの乗った軽トラックが見えなくなると利昭は途端に機嫌の悪そうな顔になった。 「ちっ…馬鹿息子なんか放っておけばいいのに何考えてるんだ…お前もそう思うだろう?」 「えっ…?」 「お前のお爺さんは飼いゆっくりを殺すようなアホのために、わざわざ金を持って行ったんだぞ。 あれだけの金があれば結構なことができるのによ」 「…」 まりさは利昭の顔を見上げた。 汚い物を見るような目つきであり、利昭はさも意外そうな目で見返した。 「…なんか不満そうな顔してるな。何か問題でもあるのか?お前の仲間を殺したんだぞ。 …あぁ、お前の親もアイツに殺されたのに何もくれなかったからか?」 「違います…!お爺さんは息子さんを心配していました! だからお爺さんが息子さんを大切にしたいということが分かるんです!」 「…ふーん。まあ俺には関係のないことだからいいけどな。 もっと建設的な金や時間の使い方をした方が良いと俺は思うね」 「…」 「さて、お爺さんが帰ってくるまで留守番するわけだ。家に入れさせてもらうぞ」 「…はい」 一人と一匹は家に入った。 まりさはすぐさま自分の部屋へと戻り閉じこもった。 利昭と顔を合わせたくないというのも一つの理由だが、 お爺さんの息子が帰ってきたらどう迎えようかと落ち着いて考えるためであった。 考えは頭の中をぐるぐると駆けめぐり、落ち着きがなく固まることはなかった。 一方、利昭はまりさが見ていないのを良いことに、家の中をあさりだした。 何かを盗むためという訳ではなく、お爺さんが財産をどれだけ持っているかを調べるためである。 利昭は相続を前提に考えており、どれくらいの財産が自分の元へ回ってくるかを検討しようとしているのである。 (…おかしいな) ところが思うように金目の物は出て来ない。 しっかりと教員を定年まで続けたお爺さんのことである。それなりの財産があっても良いはずなのだ。 (隠しそうな場所は全て調べたはずなのに見当たらない…) 調べていないのはまりさがいる部屋のみであるが、以前来たときにはそこに金目のものは見当たらなかった。 利昭は再度探し回ったが成果は芳しくなかった。 (ちっ…あいつに探りを入れてみるか…) 利昭はまりさの部屋へ向かった。 やや乱暴に扉を開け、そのまままりさに問いただした。 「最近のお爺さんの生活振りはどうなんだ?」 「…お婆さんが亡くなってから気落ちした様子で元気がないようです」 「ふーん…で、たまには美味いモンとか食べてるのか?」 「…?…いえ、冷蔵庫にある物を食べているって感じですが…特に不自由は感じてはいません」 「そうか、まあいいや。たまには美味しいモンでも食べさせてもらえよ」 「はぁ…」 そう言い残すと利昭はすぐさま冷蔵庫へ向かった。 冷蔵庫を覗けばこの家の経済状況も分かるだろうと踏んだのである。 利昭は期待に胸を膨らませ冷蔵庫の扉を開いた。 (…なんだこれは) 冷蔵庫にあるものから分かったのは、この家の経済状況はそれほど良くないということである。 高価な食材は全くなく、安いものばかりであった。 ふとゴミ箱を覗いてみるとスーパーのレシートがある。 そのレシートを見てみても経済状況が良いとは言えないものであった。 (一体どこに金は消えたんだ…?) 利昭はその疑問を残し、まりさと共にお爺さんを迎えることとなった。 お金の消えた先が分かるのはお爺さんが帰ってきてからのことであった。 3. 「…ただいま」 家に弱々しく響いたのはお爺さんの声であった。 まりさと利昭が玄関に迎えに行くとそこには二人の姿があった。 一人はお爺さん。一人は昭次であった。 (この人が御爺様の息子さん…) (汚い奴だな…) 昭次の格好はお世辞にも評価することはできない格好であった。 体格は情けなく越えた豚のように弛んでおり、髭はだらしなく伸び、髪の毛も脂ぎっている。 服についても言うまでもなく、黄ばんでおり汚らしかった。 離れた位置にいる一人と一匹にもその臭いは鼻を突き、深いになった。 何よりも昭次という人間を決定付けていたのはその目つきであった。 (…) (クズの目つきだな…) 利己的な利昭でさえも呆れるような、酷い目つきである。 汚れた眼鏡の下のその目はどことなく濁っており、妙に鋭い。 いわゆる悪人の目つきというものより、低俗なものであると形容できた。 「…あ、おかえりなさいませ」 「…おかえりなさい」 玄関には重い沈黙が漂っていた。 おかえりなさいの一言もなかなかでないそんな雰囲気であった。 「…とりあえず上がろうか」 「…」 昭次は黙ったまま家に上がる。 残された靴は汚い上に靴底が破れており、何年もそのまま履き続けていたということが見てとれた。 靴は乱雑に放り出されそのまま放置されていた。 三人と一匹は机を取り囲んで座った。 だが、誰も話を始めようとはしない。 ただただ、時計の音だけが静かに規則的に時間が過ぎるのを告げるだけであった。 その静寂を破ったのは利昭だった。 「お爺さん。これからどうするんですか?」 曖昧模糊とした質問である。 だがこの場においては時を動かすには充分の、精一杯の発言であったと言えよう。 お爺さんは少しの沈黙の後、重い口を開いて言った。 「…昭次はここで俺たちと一緒に暮らすことにした。それでいいんだよな」 「…」 昭次はお爺さんが向けた視線から目を逸らし宙を見た。 お爺さんは肩を落とし、俯いた。 「…昭次が仕事を見つけるまでしばらく一緒に暮らすということになった。それだけは決まった」 「…そうですか」 その後、再び沈黙が空気を支配し始めた。 一旦動き始めた時は再度固まり、何も変わらぬまま時が過ぎていった。 「…寝る」 静寂を打ち破ったのは昭次の一言である。 無愛想で、乱暴に吐き出した物の言い方である。 昭次はのそりの立ち上がり、かつて自分の部屋であったまりさの部屋に向かいだした。 「…布団は隣の部屋に敷いてあるからそこで寝ようか」 利昭が口を挟む。 昭次はこちらを鬱陶しそうに睨んだ。 そしてのそのそと隣の部屋へ向かって行き、襖の向こうへ消えた。 襖の閉まる音と共にまたしても静寂が二人と一匹を包んだ。 だが、それが破られるのは遅くはなかった。 静寂を支配する原因であったものが消えた今、話をするのは容易かった。 「御爺様…昭次さんとはどんな話をしたんですか…?」 「…ろくなことじゃなかったよ」 お爺さんは少しずつ今日の出来事を話し始めた。 昭次とあった時には無念、悔恨、呆然といった複雑な感情が入り乱れたこと。 殺されたゆっくりの飼い主と示談で向き合って話したこと。 昭次が今までどう生きていたかを警察の人から聞いたこと。 昭次がなかなか自分のことを話してくれなくて嘆かわしかったこと。 自分の無力さと情けなさが不甲斐なく思うということ。 お爺さんの声が震えているということがまりさにも分かり、苦々しく感じた。 利昭も最初は面倒くさそうな顔をしていたが、話を聞く内にその表情を同情するものへと変えていった。 お爺さんが話し終わると少しの沈黙を挟み利昭に話しかけた。 「…利昭。今日は留守番させて悪かったな。」 「…いえ。それは別に構いません」 「…さて、今日はもう遅くなってしまったな。泊まっていきなさい」 「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて貰います」 「積もる話はまた明日しよう。まりさももう寝ようか…」 「…はい」 二人と一匹は床に就いた。 それぞれに思いを抱えながらの就寝であった。 お爺さんは今後の昭次のこと。まりさは昭次との暮らしのこと。利昭は財産の相続についてのことを考えた。 暗闇と疲れは眠気を誘い、二人と一匹を眠りに落とした。 音が無くなり、辺りに静寂が満ちた頃、その暗闇の中一人が立ち上がり家を出て行く影が一つあった。 それはかつての習慣のように山へと向かう昭次の姿であった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今まで書いたもの ふたば系ゆっくりいじめ 1085 ゆっくり一家とゲスとお兄さん ふたば系ゆっくりいじめ 1101 老夫婦とまりさ1 ふたば系ゆっくりいじめ 1107 老夫婦とまりさ2 ふたば系ゆっくりいじめ 1114 老夫婦とまりさ3 ふたば系ゆっくりいじめ 1126 老夫婦とまりさ4 ふたば系ゆっくりいじめ 1193 老夫婦とまりさ5 このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 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老夫婦とまりさ3 9KB 虐待-普通 制裁 愛で 自業自得 駆除 飼いゆ 野良ゆ 赤子・子供 現代 虐待人間 愛護人間 四作品目です 四作品目です。 >賢くなった原因 注入+教育です。 >創作の経験 2ちゃんねるAA系列の板で少々あります。 最近ではツクールを少々。 前作品の続きです。 虐成分は薄く、時間が急速に流れています。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 老夫婦とまりさ3 1. 「帰ったぞ。こいつに何か食べさせてやってくれ」 家に帰ったお爺さんはお婆さんに食事の用意を頼んだ。 食卓にはすでに何も残っていない。 「あら、でも残っているものに口に合いそうなものは…」 「どうだ、何か食べられそうなものはあるか?」 「この赤いのは何なのぜ?」 子まりさが興味を示したのは鮭の塩焼きであった。 普通のゆっくりにとっては毒になるだろう。 「食べてみるか?美味いぞ」 「お爺さん、そんなものを食べさせちゃ…」 「いい臭いなのぜ。いただきますのぜ」 お婆さんが制止するも、まりさは鮭を食べてみた。 するとどうだろうか、美味しそうに食べ始めたのである。 「お婆さん、どうやらこいつは普通のゆっくりじゃなくなったらしい」 「どういうこと?」 「多分だが…」 「むーしゃむーしゃ」 お爺さんは美味しそうに鮭を食べる子まりさを尻目に子まりさに起こったであろう突然変異について話した。 最初は信じられないというような顔つきだったお婆さんも現実を見て納得をした。 それにしてもいい加減な生物である。 「美味しかったのぜ。ごちそうさまなのぜ」 結局子まりさは鮭を食べ終えてしまった。 だが食べカスはそこら中に飛び散っていた。 「あらあら、いっぱいこぼしちゃったのね」 「食事の仕方までも教えなくてはならないのか…」 「ゆ?」 「飛び散ってるぞ。さっさと片付けろ」 「ゆ…本当なのぜ。ちゃんと食べるのぜ」 子まりさは座敷机の上の食べかすを舐め取り始めた。勿論べったりと砂糖水が机につく。 手がないゆっくりには仕方がないことだが、これはマナー上よろしくない。 「食べ方を教えるしかないか…」 お爺さんは本当は今すぐ教えたかったが、今日はもう遅いのでやめることにした。 仕方がないので明日は食事について教えることを計画した。 「明日は食事のことについて教える」 「頑張ってね」 「分かったのぜ」 子まりさの大きな転換となった日はこれで終わった。 2. お爺さんの教育が始まってしばらく経った。 子まりさは人間と生活する上での最低限の知識を手に入れていた。 普通のゆっくりでは不可能な早さと言えるだろう。 「お婆ちゃんは何を読んでるのぜ?」 「新聞だよ。世の中のことが色々書いてあるんだよ」 子まりさは老夫婦がたまに見ている紙のことが気になった。 来たばかりは興味が沸かなかったが人間の暮らしが分かってくると様々なものに興味を持つようになった。 「ちょっと見せて欲しいのぜ」 「でもまりさに分かるかねぇ…」 子まりさは新聞を見せて貰ったが見ても全然分からなかった。 字とは全く縁のないゆっくりに分かるはずがなかった。 「これは…"高度な魔導書"なのぜ?」 「お婆ちゃんは魔導書なんてものは知らないけど多分違うと思うよ」 元いた群れの友人であるぱちゅりーがよく言っていたものと似ていたため、子まりさはそう思ったのである。 勿論それはチラシやら看板やらを適当に読んで適当なことを言っているだけである。 「そいつは文字だ。…知りたいなら教えてやってもいいぞ」 「ゆ!お爺ちゃんが教えてくれるのぜ?」 「途中で諦めないのならな」 「頑張るのぜ!」 子まりさの知能と向学心は日にちが経つにつれて上昇していた。 栄養のある様々な食べ物を摂取していたからであろうか、 お爺さんの教育の結果の賜物であろうか、とにかく成長していたのである。 諦めないという約束を取り付けたお爺さんは早速勉強の準備を始めた。 その顔は心なしか嬉しそうにも見える。 「じゃあちょっと待ってるんだ」 お爺さんは納戸へ行き、かつて教員であったころに使っていたプリントを持ち出してきた。 小学一年生用の国語の学習プリントである。 本来は書き順を覚えるためのものであるが充分な大きさなので利用することにした。 「まずは"あいうえお"からだが…」 お爺さんはあいうえおの文字が一つ一つ大きく書かれているプリントを子まりさに見せた。 まずは字の音と形を一致させる必要がある。 「この形の文字が"あ"だ」 「あ?」 「そうだ。覚えたか?」 「ちょっと難しい形なのぜ。ちょっと待って欲しいのぜ」 子まりさとプリントの睨めっこが始まった。 その時間は優に10分を越えていた。 (流石にゆっくりには難しいか…) 記号的なひらがなはゆっくりには理解が難しかったらしく時間がかかっている。 しかし残りの字については慣れてきたのか理解も早く、"いうえお"が終わったのは開始から30分ほど経った時のことである。 「多分覚えたのぜ!」 「よし、じゃあテストをするぞ。この文字はなんだ?」 お爺さんは"い"と書かれたプリントを子まりさの前に置いた。 「"い"なのぜ」 「よし、次だ。」 「"え"なのぜ」 「次だ」 「"う"なのぜ」 「よし、いいぞ。次だ」 お爺さんが置いたのは"あ"と書かれているプリントである。 "お"とも少し似ているためこれはどうだろうかと考えた。 案の定子まりさは答えをなかなか出せずにいる。 「どうした。分からないのか?」 「多分…"あ"なのぜ」 「正解だ。じゃあ最期にこれだ」 「"お"なのぜ!」 残り一枚は子まりさの前に置く前に答え始めていた。 どうやら二択で迷っていたらしい。 「全問正解だ。よくやった」 「これで"あいうえお"はマスターなのぜ!次を教えて欲しいのぜ!」 「悪いが畑仕事に行かないといかんのでな、お婆さんに教えて貰え」 「分かったのぜ」 ひらがなの学習の監督をお婆さんに交代し、お爺さんは畑仕事へ向かった。 3. お爺さんの畑は山に近いところにあり、ゆっくりによる被害も多い。 お爺さんのゆっくり嫌いはそこから来ていた。 そしてこの日も人間の道理を知らないゆっくりがやってきた。 今日の招かれざる客はちぇんであった。 「わがらないよぉぉぉぉぉ!」 尻尾を掴まれちぇんは宙づりにされていた。 顔はぼこぼこに殴られ、尻尾が千切れそうになっている。 「ここは俺の畑でここにあるのは俺の野菜だ」 「わがらないぃぃぃぃぃ!」 お爺さんは手に力を込めた。ちぇんは潰そうと思ったのだ。 しかし、その力は弱まった。いつかの子まりさの言葉を思い出したのである。 (こいつにも子どもがいるんだな…) 「…放してやる。だがもう二度とここには来るなよ」 返事もなしにちぇんは山へと逃げていった。 子まりさの気持ちを汲み取ってのことであったが、 このことが後に子まりさを苦しめることとなるとはお爺さんは思いもしなかった。 畑仕事は順調に進み、特に何事もなくその日の仕事を終えた。 4. お爺さんが家に帰ると子まりさが玄関に迎えに来ていた。 いつの間にか習慣となっている行為であった。 「おかえりなさいだぜ!」 「あぁ、ただいま」 「この子ひらがなもう全部覚えちゃったよ。凄いねぇ」 「頑張ったのぜ!」 「何。全部覚えたのか?」 「試してもいいのぜ!」 自信を持っているのか体を反って誇っている。 お爺さんはその姿を自分のかつての教え子と重ねて微笑ましく思った。 「よし、夕食の後に試してやろうか」 結果、全問正解であった。 "ぬ"と"め"の違いや"ね"と"れ"の違いは勿論のこと、"へ"と"え"の読み方、"は"と"わ"の読み方までも覚えていた。 「頑張ったんだな。偉いぞ」 お爺さんは子まりさを撫でてやった。 一瞬、子まりさはびくんとなったがすぐに気を許した。 おそらくは何かされるとでも思ったのだろう。 お爺さんは怖がられているということを体感的に知り、少し寂しく思った。 「じゃあ次はカタカナだな。また明日教えて貰うといい」 「ゆ!なんでもかかってこいなのぜ!」 子まりさの目は輝きで満ちており、今までで一番嬉しそうに見えた。 翌日のカタカナの学習は一日で終わってしまっていた。 正確には半日ほどであり、残り半分は簡単な足し算を勉強していた。 カタカナは全問正解であり、足し算も長考したものの殆ど正解することができていた。 お爺さんは子まりさの成長をお婆さんよりも喜び、正解するごとに褒めていた。 5. 「この部屋はお前が使って良いぞ」 「何か分からないことがあったら何でも聞いていいからね」 「ゆ!ありがとうなのぜ!」 翌日、子まりさは自分の部屋を与えられた。 かつて教育が始まった部屋であり、老夫婦の息子が使っていた部屋である。 部屋は整然としており、いつでも使える状況となっていた。 本棚には教科書を初めとする本があり、その他にも子まりさの興味を刺激するに充分なものが沢山あった。 「まずお前はこの本からだな」 お爺さんが本棚から取り出したのは一年生用の教科書である。 本は薄汚れて表紙はボロボロであるが各教科全て揃っている。 「頑張って読むのぜ!」 仮にぱちゅりーがこの場に居たとしたらこれらを全て"魔導書"として片付けてしまうだろう。 だが急速に知識を得てきた子まりさにとってはそれらが未知の世界を内包する素晴らしい物に見えていた。 「お婆ちゃん達は町まで買い物をしに行ってくるからよい子でお留守番してるんだよ」 「じゃ、行ってくる」 「行ってらっしゃいのぜー」 子まりさは老夫婦を見送ると、早速与えられた本を読み出した。 「漢字があるのぜ!読めないのぜ!」 子まりさはいきなり躓いたが、読めるところだけ読んでいった。 すると新出漢字のページを見つけることができた。 「凄いのぜ!この本さんは親切なのぜ!」 子まりさは新しく文字を学び、また読み返し始めた。 するとどうだろうか、今まで理解し得なかった世界が鮮明に思い描かれたのである。 「学校ってお爺ちゃんがいたところなのぜ!」 「クジラって何なのぜ…?雲さんなのぜ?」 「人間さんはそんなに高く跳べるのぜ!?」 「まりさも飛んでみたいのぜ…」 まりさは一つの物語を読み終えるとかつてない満足感を味わった。 新しい世界に触れることができるようにする文字がいかに凄いかがよく分かったようである。 「ふぅ…もう一回読むのぜ」 子まりさは飽きることなく物語を繰り返し読み続けた。 ある程度満足すると次の物語を読み始め、それはその本が終わるまで続いた。 そして最期のページに書かれていた綺麗な文字に気がついた。 「…しょうじって誰なのぜ?」 老夫婦の息子の名前であった。 6. 老夫婦が帰ってきたのは夕飯前ぐらいのことであった。 そのころには子まりさは国語を読み終え、算数と格闘をしている最中であった。 「お帰りなさいだぜ!」 「ただいま」 「あぁ、ただいま。どうだ本は面白かったか?」 「面白かったのぜ!でも分からないこともあるから教えて欲しいのぜ」 「よし、教えてやろう」 食卓を囲み子まりさは今日読んだ本のことについて興奮しながら話した。 クジラのこと、漢字の読み方のこと、引き算のことなどである。 お爺さんとお婆さんはそれに丁寧に答えていった。 しかしある質問で食卓の空気は一変した。 「あと"しょうじ"って誰なのぜ?」 「…」 「…」 お婆さんは顔を伏せ、お爺さんは何を言えばいいのかと顔を険しくした。 老夫婦の息子は飛び出すように都会へ行き、消息が知れない状態であるのだ。 「ゆ…?聞いちゃいけないことだったのぜ…?」 「…いや、いつかは話さないといけないことだったんだが、どうにも話しにくいことなんだ」 「どういうことなのぜ?」 「"しょうじ"は俺の息子だ」 お爺さんはぽつりぽつりと息子について語り始めた。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今まで書いたもの ふたば系ゆっくりいじめ 1085 ゆっくり一家とゲスとお兄さん ふたば系ゆっくりいじめ 1101 老夫婦とまりさ1 ふたば系ゆっくりいじめ 1107 老夫婦とまりさ2 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る 「くじらぐも」懐かしいwww 今の教科書にも残ってるのかな? ※ゆっくりがみんなこのレベルだったら、人間も共存を考えただろうに。 -- 2018-03-09 06 25 49 もっとたかく!もっとたかく! -- 2010-09-30 00 10 23 くじらぐもはゆっくりできるよ! -- 2010-08-19 21 11 32