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刑事課を尋ねて、廊下の向こうに彼女の姿を見つけたときは、心臓が跳ねた。 時間が、急速に巻き戻されたかのような錯覚。 懐かしさと、悔しさ。言いようのない、胸の痛み。 彼女が不審そうに足を止めたのを見て、御剣怜侍は反対側に歩き出す。 ちがう。 あれは、彼女ではない。 彼女と入れ替わりにこの国に帰ってきた、彼女の妹だ・・・。 翌日、検事局の廊下を足早に歩いていると、目の前で執務室のドアが開いた。 目立つ白衣を着た女性が飛び出してくる。 ぶつかりそうな距離で御剣に気づいた彼女は、あわてたようすで閉めたドアに張り付いた。 「きゃっ」 牙琉響也の執務室だった。 検事が検事局の中を歩いて、これほど驚かれるとは。 「ど、どうも、御剣検事」 数年ぶりではあったが、彼女は御剣を覚えていた。 「忘れられたのかと思っていた。宝月刑事」 やっぱり、昨日の人はそうだったんだ・・・と茜がつぶやく。 「いえ、あの。その節はお世話になりました。おかげさまで、今はこうして・・・」 語尾が弱々しく消える。 「そう思っているなら、例え気に入らない仕事でも真面目にやることだ」 つい、厳しい言葉が口をつく。 彼女が科学捜査課を希望していたことは、よく知っている。 だが、誰もが希望部署に配属されるとは限らない。 茜はカチンときたようだ。 「牙琉検事ですね?私のことを、あることないこと」 御剣は、ふっと微笑した。 やはり、性格はまるで違うのだな。 彼女は、こんなにあからさまに感情をむき出しにしたり、ましてやすねたりはしないだろう。 「私は、あることしか聞かない」 茜は絶句したように、肩からかけているカバンを手で押さえる。 おそらく、その中にはあの駄菓子が入っているのだろう。 あの子はね、小さいときから嫌なことがあると甘いものを欲しがるの。 きっと、そういうものを口にすることで、無意識のうちにストレスから逃げ出しているのね。 我慢強くて、人に優しい子だから。 そう言った彼女の笑顔が、目の前の茜に重なった。 ちょっと困ったようにそっぽを向いた横顔。 御剣くん。私を、困らせないで。 そう言ったときの、彼女の顔。 御剣はふっと表情を緩めると、両手を軽く広げた。 「時間があるか?お茶でもどうだろうか?」 検事局のカフェテリアで、コーヒーが出てくるのを待って、御剣は茜のカバンを指さした。 「入っているのだろう?そこに。駄菓子が」 「えっ」 コーヒーに砂糖をれようとしていた茜が、目を丸くする。 この刑事は今、いくつなのだろう。 あの事件のときに、まだ高校生だった。 その後、アメリカへ留学したようだが・・・、今は24、5といったところか。 私が初めて会った時の彼女と、同じくらいだ。 そうだ、彼女はもっとずっと大人びていた。 少なくとも、むやみにコーヒーシュガーをテーブルに撒き散らしたりしない程度には。 「食べたまえ。私と話をするのに、それほど緊張するなら」 ペーパーナプキンでこぼした砂糖をかき集めながら、茜は首を振る。 「い、いえ、別に、そんな」 「以前、宝月主席検事・・・キミのお姉さんに聞いたのだ。キミは緊張や不安を覚えると、駄菓子を食べるクセがある、と」 「お姉ちゃんが?」 茜がびっくりした顔を上げた。 「御剣検事・・・、お姉ちゃんとそんな話をしてたんですか・・・」 おずおずとカバンから出したかりんとうの袋を開ける。 さくさくさくさくさくさくさく・・・。 「それで、さくさくさくさく、あの、私になにか?さくさくさくさくさく」 「・・・ひとりで食べずに、私にも勧めたまえ」 げほ。 茜がかりんとうにむせた。 あわてて飲んだコーヒーはまだ熱かったらしく、喉が粉っぽいやら舌が熱いやらで、茜はあわてふためく。 ハンカチを差し出すと、それを受け取って口に当てた。 「げほげほ・・・あー、び、びっくりしました・・・」 「うム。だいじょうぶか」 落ち着くのを待って聞くと、茜は頷いて、かりんとうを差し出した。 「どうぞ」 今度は、御剣がとまどった。 「・・・・・いや、冗談のつもりだったのだが」 「はあ?!」 甲高い声が、カフェに響く。 「そんなに驚くと思わなかったが」 「冗談って、そんな真面目な顔で言うものじゃないですよ。それに御剣検事、冗談言う人にみえないです!」 さくさくさくさくさくさくさく・・・。 茜に手厳しく言われて、御剣はすこしひるんだ。 自分に冗談のセンスがないことぐらいわかっているのだ。 なのに、思わずこの刑事を前にして慣れないことを口走ってしまった。 …そして、ダメ出しされてしまった。 「それで」 コーヒーを冷ましながら、茜は上目遣いに御剣を見る。 「なにか、お話ですか。あたしに」 そう言われると、さほど改まった話があるわけでもなかった。 「ム、いや・・・、お姉さんはお元気だろうか」 茜は、コーヒーをすすった。 「はい。仕事もがんばってるそうです」 茜と入れ替わりに、姉はアメリカに渡った。検事を続けるわけには行かなかったからだ。 「そうか」 「お姉ちゃんのこと、聞きたかったんですか?」 御剣は、本当に手を伸ばしてかりんとうをつまんだ。 そうかもしれない。 シルエットだけで、彼女と見間違えるほどよく似た、妹。 あれから、ついに会うことのなかった女性。 顔かたちも立ち姿も、彼女の面影を色濃く受け継いで、性格のまるで違う茜を前に、御剣は「そうだ」とは言いにくかった。 「キミは・・・、今でも科学捜査の仕事をしたいのか」 さく。 「そりゃ、そうですけど」 さくさくさくさくさくさく。 「移動願いのほうは?」 さく。 「出してますけど、無理っぽいです」 さくさくさくさくさくさく。 「・・・・機会があったら、話を通しておこう。聞き入れられるかどうかはわからないが」 さく。 「いえ、けっこうです」 御剣が、手を止める。 「だって、御剣検事にお願いして移動させてもらったなんてことになったら、その先どんなにがんばったって認められません。あたし、実力でがんばりますから」 そう言い切った茜は、数年前に成歩堂の隣に居た少女ではなかった。 過去や今の辛さも全部受け止めて、自分の足で立っている、自分の力で生きている女性だった。 ああ。 やはり、彼女の妹だ。 「・・・余計なことを、言ったようだ」 茜ちゃんなら、大丈夫だよ。 そう言っていた成歩堂を思い出す。 茜を、お願い。 最後に、振り返ってそう言った彼女。 確かに、妹さんは大丈夫なようです・・・。 御剣は、伝票にサインをして立ち上がった。 「帰宅するなら、近くまで送っていこう」 道を聞きながら車を走らせると、少し慣れてきたのか、茜はぽつぽつと刑事課での仕事ぶりを話した。 遠慮がちに、牙琉検事へのグチもこぼす。 自宅の前まで行くつもりはなかったが、思いのほか人通りの少ない道が続き、途中で降ろすのがはばかられた。 「このへんでいいですよ、どうせいつも駅から歩くんだし」 「しかし・・・もう少し交通の便がいいところにしたらどうだろう。帰りが遅くなることもあるのだから」 「うーん。お姉ちゃんも、そう言ってたんですけどね」 茜は御剣の前でお姉ちゃん、と言う事にだんだんと抵抗を感じなくなってきているようだった。 その言葉を聞くたびに、御剣は胸が少し痛む。 誰よりも、彼女を救いたいと思ったのは自分だったのに。 結局は、彼女を追い詰める側に立たねばならなかった。 御剣くん。 最後に控え室で聞いた、あの声。 追いかけて、抱きしめたいと思ったのに。 どこにも、行かせたくはなかったのに。 結局は彼女は戻ってくることはなかった。 「あ、ここです」 茜の声でふと我に返る。 礼を言って茜が降りる。 ぼんやりとその背を見送ると、茜が入っていったアパートの窓のひとつに灯りがついた。 部屋を確かめてしまったようで、御剣は後ろめたさを感じて静かにアクセルを踏んだ。 それからしばらく、茜に会うことはなかった。 裁判の資料を読み込んでいた夕方、ノックもそこそこにドアを開け、茜が御剣の執務室に飛び込んできた。 「なんだろうか」 驚いたが、出てきたのは落ち着き払った言葉だった。 そこで茜は、立ち尽くしたままうつむく。 「宝月刑事?」 御剣が、茜の顔を覗き込むように体を屈める。 「なにか、あったのだろうか」 「・・・い、移動」 茜は顔を上げる。 「移動になるかもしれません。科学捜査課に」 ぼろぼろと、頬に涙がこぼれた。 「御剣検事、あなたなんですか?あなたが、口を利いて」 しゃくりあげる。 御剣がポケットからハンカチを出して、茜の涙をぬぐった。 ようやく、事の次第がわかったような気がした。 希望の部署への移動を、御剣が手を回したと思ったのだ。 「私はなにもしていない。だいじょうぶだ。キミ自身の、力だ」 だいじょうぶだ。 その言葉で、茜はその場にしゃがみこんだ。 御剣は、そんな茜の背中をそっと撫で続ける。 好きな勉強が出来るとはいえ、アメリカで暮らすのには心細いことも多かっただろう。 日本に帰ってきて、科学捜査官になろうと思ったのに、なれなかった。 一生懸命に捜査したけど、どうしてもうまくいかない。 かつて世話になった成歩堂は、弁護士ですらなくなっている。 かりんとうを食べる量だけが増えていく・・・。 何年もの間、張り詰めていた糸が切れたように茜は泣いた。 御剣のハンカチを握り締めて、ようやく茜の涙が止まったのは、それからどれほどたってからか。 「あ、あたし、なにしてるんだろう・・・」 そう言って、くしゃくしゃになった顔をハンカチでぬぐう。 ふいに、茜の頬に御剣の指が触れた。 気づくと、茜の唇に自分のそれを重ねていた。 「な、なにするんですかっ」 茜が飛び退る。 「うむ。失礼した」 御剣が手を離す。 「あ、謝らなくても、いいですけどっ」 茜はふりきるようにハンカチで、鼻をかんだ。 それから、はっとしたようにハンカチを見る。 「あの、ちゃんと新しいのを返しますから・・・。こ、この間お借りした分も」 「それには及ばないが」 「なんか、いい香りがするんですけど。もしかして、すっごく高級なハンカチだったりするんですか?鼻、かんじゃった・・・」 ふっと笑って御剣は、茜の手をとった。 「ひゃあっ」 脚をさらわれて茜の体が宙に浮く。 「みみみみつるぎけんじっ?!」 すとん、とソファに降ろす。 デスクの後ろにある棚から紅茶の缶を取り出す。 電気ポットがシュンシュンと音を立て、すぐに紅茶のいい香りが部屋中に満ちた。 「カモミールだ。気持ちが落ち着く」 茜の目の前に、ティーカップを置いた。 「ありがとうございます・・・」 隣に腰掛ける。 「な、なんですか・・・」 御剣が、茜をじっと観察すると、茜はわずかに頬を染めた。 目元と鼻、顎のラインが彼女によく似ている。 唇は、茜のほうが少し小ぶりだ。 御剣は、ちらりと時計を見た。 あいにく、これから出かけねばならない。 「では、今夜ハンカチを返してもらいに行こう」 狭いながらにきちんと片付いたワンルーム。 本棚の上段には、通販で買ったらしい怪しげな化学薬品が並んでいる。 小さなテーブルの上には、きちんと洗ってアイロンのかけられたハンカチが2枚。 そして、ベッドの上に、茜。 茜の上に、御剣。 「どうしてですか?」 シャワーの後の上気した体は、なにもつけていない。 「どうして、あたしに、こんな」 御剣はそれに答えず、自分自身を抱くようにしていた茜の腕をほどいた。 「嫌なら、断ればよかった。君には、それができた」 「・・・・・・」 茜が目をそらした。 「わかってます。あたし。・・・お姉ちゃんの代わりだってこと」 御剣が目を細め、茜の顎に手をかける。 「・・・では、私はなんだ。成歩堂の代わりか」 答えを聞く前に、口づけた。 かつて、彼女にそうしたように。 …私を、困らせないで。 目の前の『彼女』は、今度はそう言わなかった。 茜の体に手を滑らせる。 これは、彼女ではない。 彼女の体ではない。 胸も、腰も、脚も。 しだいに熱を帯びてくるそれは茜のもので、彼女ではありえなかった。 もし、彼女をこの腕に抱く機会があったなら。 今、自分にすがりついている茜のように反応しただろうか。 「・・・・あ」 この吐息のように、声を上げただろうか。 ほっそりとした腕が、背中に絡みつく。 彼女は、こんなふうに抱きしめてくれただろうか・・・・。 膝を割り、そこに手を差し入れる。 声にならない息遣いだけが、茜の反応だった。 丹念な指使いで、息を乱す。 御剣は、記憶の中の彼女を手に抱いているかのような錯覚を覚えた。 その名を呼んでしまいそうな、かつて、彼女を抱いたことがあったかのような、錯覚。 乳房を乱暴に揉みしだき、桃色の突起を舌で責め、腰を抱く反対の手で蜜壺をかきまわす。 敏感な芽を押しつぶし、中に入れた指を探るように動かすと、声が漏れた。 「ああっ・・・」 違う。 彼女の声ではない。 彼女の声は、もっと、胸を突くような響きで。 「ああ、あっ、や、あん・・・」 違う。 これは、彼女ではない。 一箇所に集まるような熱と、思いがかなえられない苛立ち。 御剣は、それを茜に押し込んだ。 振り切るように、動きに集中する。 喉を反らせて声を上げる『彼女』を組み敷いて突き上げる。 違う。 違うのだ。 望んでいたのは、こんなことではないのに。 「ああああっ」 強く締め上げられて、御剣は自分自身を引き抜いた。 茜の白い腹の上に、御剣の欲望が吐き出される。 後悔に似た感情。 体を細かく痙攣させた茜の目から、涙がこぼれる。 白濁した液体をぬぐったあとで、御剣はその目尻を指で拭いた。 「・・・すまない」 「あ、謝らないでください」 茜は、御剣の胸にそっと頬を寄せ、回した手に力をこめた。 「あたし・・・、アメリカから帰ってくるとき、お姉ちゃんと話したんです。お姉ちゃん、どうしても困ったことがあったら必ず御剣検事に相談しなさいって。」 「・・・・私に?」 「必ずあなたを助けてくれるから、って。そう、約束したから」 「約束・・・」 覚えがなかった。 ふと、自然と胸の中に抱く形になった茜の髪を撫でているのに気づいた。 茜を、おねがい。 彼女の声が聞こえた気がした。 私を、困らせないで・・・・。 御剣は、ふっと自嘲気味に笑う。 結局自分は、彼女を追いかけているつもりで、逃げられてばかりいたのだ。 すべては、彼女の思い通りに。 腕の中には、彼女の宝物が残っている。
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彼女の夢 「私は毎日あの人に会いに往くの 私以外には誰も来なくなったけどいいわ 私は貴方が好きなのだから…」 私達の楽園 → 其処は私達がいる世界 辺境の村には二人の恋人 → 其処には私達が 朝焼けが照らす道...朝日が私達を導く… 貴方の眠る場所...愛が私を焦れさせる… 「嗚呼...私の愛しい――」 僕達の楽園 → 其処は僕達がいる世界 辺境の村には二人の思い人 → 其処には僕達が 彼女の濡れた道...愛が僕達を導く… 君の眠る秘所...望が僕を焦らせる… 「嗚呼…僕の愛しい――」 「私は幸せよ...こんなにも優しい彼が一緒に居てくれるから… 嗚呼...私は彼ともっと一緒にいたい...どうすればいいのかしら… そうダ...彼はワタシノモノニナッテモラオウ…!」 私の楽園 → 其処は貴方がいる世界 荒れ果てた野には一つの石 → 其処には貴方が 夕焼けが照らす道...夕日が私を導く… 貴方の眠る墓所...腐臭が私を遠ざける… 「ネェ...貴方ハ変ワッテシマッタノ?」 私の楽園 → 其処はワタシのいない世界 辺境の村には一人の娘 → 其処にはワタシが 月光が照らす道...月が私を導く… 貴方の眠る墓所...思い出が私を急がせる… 「ネェ...私ハ変ワッテシマッタノ?」 「とある辺境の村でとても奇怪な出来事が起きた… それは一人の男に始まり...男の家族...友人...強いては村人ほぼ全員が殺されてしまったという… 我々は...その奇怪な事件の真相を知る為辺境の村へと出向いた…」 緋色に染まる道...血が我々を導く… 彼女のいる場所...危機が我々を急がせる… 世界の楽園 → 其処はワタシのいない世界 朽ち果てた大地にはたくさんの石 → 其処には私達が 「我々は...唯一生き残っていた『彼女』が村人を殺したのだと悟った… 彼女の眼は恐ろしく...数多の戦争を生き抜いた武士までもが恐怖した… 我々が到着した頃には既に...彼女は...コワレテいたのだ… 悲しげな表情(カオ)をした彼女は言った…」 「アナタタチモ――オナジナノ?」 「ワタシハマイニチアノヒトニアエルノ コナクナッタ人タチモそこにハイタワ 私はイマ...とても幸セよ……」
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彼女の夢 「私は毎日あの人に会いに往くの 私以外には誰も来なくなったけどいいわ 私は貴方が好きなのだから…」 私達の楽園 → 其処は私達がいる世界 辺境の村には二人の恋人 → 其処には私達が 朝焼けが照らす道...朝日が私達を導く… 貴方の眠る場所...愛が私を焦れさせる… 「嗚呼...私の愛しい――」 僕達の楽園 → 其処は僕達がいる世界 辺境の村には二人の思い人 → 其処には僕達が 彼女の濡れた道...愛が僕達を導く… 君の眠る秘所...望が僕を焦らせる… 「嗚呼…僕の愛しい――」 「私は幸せよ...こんなにも優しい彼が一緒に居てくれるから… 嗚呼...私は彼ともっと一緒にいたい...どうすればいいのかしら… そうダ...彼はワタシノモノニナッテモラオウ…!」 私の楽園 → 其処は貴方がいる世界 荒れ果てた野には一つの石 → 其処には貴方が 夕焼けが照らす道...夕日が私を導く… 貴方の眠る墓所...腐臭が私を遠ざける… 「ネェ...貴方ハ変ワッテシマッタノ?」 私の楽園 → 其処はワタシのいない世界 辺境の村には一人の娘 → 其処にはワタシが 月光が照らす道...月が私を導く… 貴方の眠る墓所...思い出が私を急がせる… 「ネェ...私ハ変ワッテシマッタノ?」 「とある辺境の村でとても奇怪な出来事が起きた… それは一人の男に始まり...男の家族...友人...強いては村人ほぼ全員が殺されてしまったという… 我々は...その奇怪な事件の真相を知る為辺境の村へと出向いた…」 緋色に染まる道...血が我々を導く… 彼女のいる場所...危機が我々を急がせる… 世界の楽園 → 其処はワタシのいない世界 朽ち果てた大地にはたくさんの石 → 其処には私達が 「我々は...唯一生き残っていた『彼女』が村人を殺したのだと悟った… 彼女の眼は恐ろしく...数多の戦争を生き抜いた武士までもが恐怖した… 我々が到着した頃には既に...彼女は...コワレテいたのだ… 悲しげな表情(カオ)をした彼女は言った…」 「アナタタチモ――オナジナノ?」 「ワタシハマイニチアノヒトニアエルノ コナクナッタ人タチモそこにハイタワ 私はイマ...とても幸セよ……」
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彼女の箱 自分と彼は幼馴染だ。 いつから一緒だったとか、細かいところは覚えていない。ただ、気づいたときにはもう彼がいて、それが国立学校に通う今でも続いている。 彼は優しい。 自分が何をやっても彼はそれに付き合ってくれる。散々文句は言うけれど、最後は自分を見捨てない。このクラブがいい例だ。 友達との溜まり場を確保するためだけに、入学して即座に作った適当なクラブ。俺は発案だけして、煩雑な書類や手続きを彼に押し付けた。彼は特にクラブ発足を希望していたわけではないので、当然のことながらひどく怒った。しかし結局は折れて、今では部長兼庶務兼会計、もとい雑務担当である。その上三日に一回は部室に顔を出す。一応部長なのだから、と思っているらしい。自分がそんなことされたら確実にユウレイ部員決定だ。全く恐ろしいほど真面目でお人よしである。 そんな彼がもう一週間もクラブに来ない。 違和感を抱くには十分な理由だった。 授業が終わり、四角い空間に賑わいが訪れる。一つ前の席に座り転寝をしていた彼も、その賑わいに少しばかり眉根をよせ覚醒した。 「夢の国からお帰りカズサ、授業中に寝るなんて珍しいじゃん。」 「…ただいま。ノートはとって…るわけないよな、お前は。」 らしくない失敗を揶揄しながら前に立つと、彼は少し苦い顔をしてこっちを見上げる。 「決め付けるとかひっでー! とってないけど。」 「…。」 「そんな怒んなって!でも本当珍しいよなー、カズサが居眠りとか。」 「この頃忙しくて…。」 自分の居眠りは珍しくもなんとないが、彼が寝ているところを見るのは一年に一回あるかないか、いやない。真面目な彼が珍しいと思ったことを口に出すと、予想外の答えが返ってきた。 「最近クラブ来てないのに?」 「まぁいろいろあって…あっ今日もいけないから、クラブ。それじゃ、また後で。」 驚いて問いかけた疑問に煮え切らない返答をして彼は教室を去る。こうして彼は最近毎日どこかに出かけ、晩にはなんだか疲労して寮に戻ってくるのだ。 何度かさりげなく聞き出そうとしたが、いつもはっきりしない答えばかりが返ってくる。 そこで今日は強硬手段に出ることにした。 早足に廊下を歩く彼の後ろをこっそりついて回る。 長年一緒にいたせいか彼は俺の気配にすこぶる鋭い。気づかれないように、さりげなく慎重に道を進む。こうすれば彼がどこに出かけているのかを知ることが出来るはずである。声をかけようとする友達の口を5回目に塞いだとき、彼の足がピタッと停止した。 (図書館…?) 彼が止まった階段の先には落ち着いた佇まいの図書館が見える。 図書館で何か調べ物でもしていたのだろうかと思考を巡らせ目を離した瞬間、彼の姿が見えなくなった。焦って彼がいた場所に駆け寄るがもう人の気配はない。 (や ら れ た) もうすっかり手がかりはなくなってしまったが、諦めきれずに周辺を丹念に捜すと彼の代わりに薄汚れたドアを見つけた。建築上仕方なく出来てしまった何にも使えない小さな空間を無理やり倉庫にでもしたのだろう。ドアはこれでもかというほど見つけにくく、そして開けにくい場所にあった。 もしかしたらここにいるのかもしれない。少しの期待をもって錆びたノブを握り、一気にこじ開けた。 ――ゴミ? 目前に現れたのは期待していた人物ではなく、奇妙な形をした金属片の数々だった。 予想していたよりかなり広い空間には、なかなか立派なソファにちょっとしたテーブル、どこか見覚えのある椅子、大量に積まれた本、そして大小様々な大きさの珍妙な金属片が散乱している。相当汚い。 本の塔にぶつからないよう慎重に部屋の中心まで進むとテーブル上に少しほかと違う金属片があることに気がついた。部屋の中は小さな金属片が散らばっているのにこの金属片は欠片というよりも塊に近く、そして四角い箱のような形をしている。興味をひかれ手にとるとそれには見たこともないような模様の装飾がされていた。 何かの入れ物なのだろうか。そのわりに重く、妙な装飾がされている。その上開ける部分がなく代わりにクローバーを半分に切ったような突起物がついていた。明らかに理解の範疇を超えたものだ。 ひとしきり触って調べてみたが一向にそれが何なのかわからないので、とりあえずその箱のような物体をテーブルに戻そうと動きかけると、大きな足音が聞こえてくる。急いでテーブルの上を元の状態に戻すが、その足音はどんどんとこの部屋に近づく。何か悪いことをしたわけではないが思わず本の影に逃げ込んだ。 飛び込んだのは本の塔と栗色の髪の知らない少女。 「到着!!」 そう叫んだ後軽やかな足取りでずんずんと部屋に入りこみソファに座る彼女は一般課の制服を身にまとっている。見覚えがないはずである。 別に一般課の生徒と特別隔離されているわけではないが、授業が別でしかも異性とくれば当然知らない人間がでてくる。ましてや自分は入学して2年目である。いくら自分が情報通でも知らなくて無理はない。 納得して観察を終えるとやっと彼女の後ろに目をやった。本の塔が動いて部屋に慎重に入ってくる。どうやら人間らしい。その人物はゆっくりと本を周辺に下ろすと体を上げる。 彼だ。 驚きについ声を上げそうになるが、ぐっとこらえ彼の行動を本の隙間から覗き見る。 彼はため息をつきながら今しがた持ってきた塔から一番上の本を手に取ると歩いて近くの椅子に座った。 「さぁパパっとやっちゃってセンパイ。」 「まだ本開いてもいないんだけど。っていうか全然敬ってもいないのにセンパイとかいうな。」 「でも呼び捨ても嫌でしょ。」 「当然。」 「我侭だねぇ。」 「だから、呼び方にあった待遇をしろって言ってんの!先輩に本運ばせるな!」 「レディファーストだよ、センパイ。」 ニコニコと綺麗に笑う彼女は、わりと可愛い。クラブサボって毎日ここで彼女と二人きりだったのかと思うとなんだか無性に前にうずたかく積まれた本を崩したくなった。 「大体ちゃんと動いているのも見ずに元通りにするなんて、無理に決まってる。」 「だからセンパイを呼んだんだよ。」 彼女はテーブルの上においてあったあの妙な箱を手に取り、愛しげにそれを撫ぜた。 「俺のは物の形を変えるだけ。中身まで再現することは出来ないって何度も言ってるだろ。」 「でも、折れたトコロの形を再現することは出来るでしょう。」 「そりゃあ出来るけど、あんたの記憶がはっきりしてないじゃないか。」 「だから、ホラ本読んで!」 「…毎日このやり取りすんの、飽きたんだけど…。」 何のことを話しているのかまったくわからないが、彼女が何かを再現したくて彼を呼んだことはわかった。彼の魔法は物の形を変えるというものだから。とりあえず彼女と彼がどうこうということではないことがわかり、何故か妙に安心した。 結局のところ、彼は時に彼女とたわいのない会話をしながら、時に本読みながら、箱には触れずに部屋を出て行った。彼女も本を読んだり、箱を眺めたり、彼が形を変えたであろう金属片で遊んだりして時間をつぶしていた。彼女は誰か、彼は何を読んでいるのか。そして何を再現しようとしているのか。 全くわからない。部屋から出て寮に戻った後も、その疑問はずっと頭に残った。 それから毎日、自分はその部屋に通うようになった。 盗み聞きは若干良心が痛むが致し方ない行動だった。というのも彼女のことがまったくわからなかったからである。 調べてわかったことといえば、 魔法がとてつもなく優れているということ でも授業はサボり気味であるということ そして彼女は謎が多いということ ぐらいである。 いつもならここで諦めるのが常だが、今回はどうしても諦め切れなかった。どうしてか、自分でもよくわからない行動だった。 毎日通った成果によると、どうやら彼女はあの珍妙な箱を元通りにしたいらしい。あの箱はもともと、箱に付いた突起物を回すと音がなるという世にも珍しい代物だったようだ。さらにその箱はなんと魔法で動くものではない。小さな金属片が複雑に絡まりあい、お互いに影響を与えながら動く『キカイ』というものらしいのだ。彼が読んでいたのはその『キカイ』というものについて書かれた学術書だったのである。 彼女は箱がまだ動いていた頃の話をとても嬉しそうに話した。 「この棒を回すだけですぐに音が流れてたんだよ。」 大切だったのだろう。『キカイ』について少ししか記述されていない小難しい学術書を集めて、彼を呼び出すほどに本当に。動かなくなった後でも彼女が箱を触るときはいつも優しい表情をしていた。 彼女は彼の手をとる。 「ここは確かこんな形だったと思う。」 人と、記憶やイメージを共有する魔法を、彼女は使えた。人のどこかに触れてその人の思考やイメージを読み取る、自分の記憶やイメージを相手に与える。彼女は自分の魔法で、箱の元の状態を彼に伝えていた。彼はそのイメージを頼りに金属片の形を変える。 「特別課、行けたんじゃないか。こんなことできるんだったら。」 ある日彼は唐突にそう尋ねた。彼女の魔法は確かに戦うには向いていないが、軍にとって有用だろうと自分も薄々感じていた。 「うん、行けたよ。でも断った。」 サラッと答えた言葉に一瞬呆然となる。軍人になって武勲を立てるということは誰もがうらやむエリート街道であり、その候補生が入る特別課は将来を約束されたことと同義である。彼もそのことをまくし立てると、彼女はまたもや軽くこう言った。 「だって、キョーミないし。おもしろくなさそう。」 彼女の興味は箱のみに向いているようだった。 またある日彼はこうも尋ねた。 「一生こんな箱のことだけを考えて過ごすつもりか。将来はどうするんだ。」 真面目な彼らしい台詞に噴出しそうになる。 「将来はきっとセージカとかになるんだろうね、きっと。」 「きっとって…何かなりたいものはないのかよ!」 「だって望んでもしょうがないでしょ。私はおイエのためにここにいるんだから。」 その言葉に納得しきれず、さらに言い募ろうとする彼に苦笑して彼女は言った。 「イロイロな事情があるんだよ、人には。」 どんな言葉にも明答を返してきた彼女が初めて濁した言葉に、彼の顔は複雑そうな表情を乗せた。 今まで彼がこんなに表情を変え、感情的になるのは自分の前だけだった。なんとも言えぬ彼の表情を見て何故か不快な気分に陥る。彼女と話している彼は自分の知る彼とまったくの別人のように感じられた。 彼がクラブに現れなくなってから一ヶ月がすぎた。 ほぼ毎日活動していたクラブは、部長である彼も、副部長である俺もいないのでめっきり活動は減り、久しぶりに廊下で会った後輩にこれじゃあクラブにならないと怒られた。 当初に持った疑問はすべて解決したし、箱の再現も一向に進まない。毎日毎日覗かいても何にもならないとは思うが、それでも足蹴なく通った。もはや部屋に行くのは何かの義務のようだった。 今日もクラブに行くと軽く声をかけて、彼より早く教室を出る。 いつものようにこっそりと部屋に入り、本の影に身を潜めるとちょうど足音が聞こえてきた。大凡彼女だろう。彼女が彼より遅く部屋に訪れたことは一度もない。 ドアが開く。栗色の長髪が見えると半ば信じ込んでいた自分は呆気にとられた。視界に入ったのは見慣れたブラウンの彼のくせ毛だったからだ。 彼自身も驚いたように部屋を見回し、釈然としない顔で椅子に腰掛けた。しばらくは本を読んで過ごしていたが、やはり落ち着かないようで。五分と立たずに席を立ち、何度も廊下を見に行く。彼が廊下を見るためにもう何度目かもわからないドアの開閉をすると、そこには彼が待ち望む彼女がいた。 「遅かったな。」 「…ちょっとね。」 いつも堂々と前を見据える彼女の瞳が微かに頼りない光を放つ。今日の彼女は本格的におかしい。 彼もそのことに気づいたようで少し心配そうにするが、彼女はそれ以上何も言わず彼の横を通り抜けテーブルの上にある『キカイ』を手に取った。 「センパイ、これ預かってくれない?」 思いがけない言葉に彼は呆然としながら言葉を紡ぐ。 「……なんで。」 「帰らなきゃいけないかもしれないの。」 「どこへ!」 「北に、おイエに。」 絶句して口を紡ぐ彼を見て、いつかのように苦笑しながら彼女はゆっくりと語り始めた。 「お爺ちゃんに育てられたんだ、私。 お爺ちゃんはなんでもよく知ってて、私にいろんなものを作ってくれた。これもそう。魔法は使えなかったけど、私の魔法使いはおじいちゃんだったの。 複雑な事情があるらしくて、お母さんにもお父さんにもあったことはなかったけどお爺ちゃんがいるから全然ヘーキだった。毎日が平和で穏やかだったんだ。 でも、死んじゃった。」 言いづらそうに彼は問いかける。 「…お爺さんが?」 小さく首を振って彼女はこう続けた。 「センパイも知らない?ウチの学校の先輩が北方軍部をふっ飛ばしちゃった話。」 「知ってる…確か黒髪の有名な先輩だったよな。」 それなら自分も知っている。漆黒の頭髪だけでかなり目立つが、貴血らしいという噂が実しやかにささやかれる、何かと話題に事欠かない先輩だった。 「そう。ウチは北の小さな一族らしいんだけど、それで死んじゃったんだって。跡継ぎさんたちが、全員。」 「らしいとかだってとか、自分の家じゃないのか?」 「だって今まで知らなかったんだもん。そんなこと。誰に聞いても教えてくれないけど、お母さんとお父さんのことで何かあったみたい。 とにかく私はお爺ちゃんとずっと二人きりで暮らしてきたの。でも、それで跡継ぎが必要になって今のおイエに連れてこられたんだ。もしかしたら女幻かもしれない、ってね。それで入学してきたんだよ、この学校に。 お母さんも魔法使いじゃなかったから、あんまり能力には期待されてなかったみたい。でも特別課蹴ったことがバレちゃって、北に戻って戦線に参加しろだって。まだ決定じゃないらしいけど、カッテだよね。」 日常会話のように普通に話す彼女を、彼のほうが辛そうに見つめる。 「だから、預かっててよセンパイ。あっちに持っていったら壊されちゃうかもしれないし。それに直すの進まないでしょ?」 彼女は彼の手をとり、箱をその上に乗せた。 次の瞬間、それに耐え切れなくなったように彼は彼女を抱きしめた。彼女は少し驚き身を強張らせたが、そのままじっとして小さく言葉を続けた。 「お爺ちゃんからもらったこれが壊れて、途方にくれた私にセンパイは希望をくれたの。全くわけがわからないはずなのに、見捨てないで、ずっと付き合ってくれて。全部を言葉にすることは出来ないけど、本当にありがとう。」 「会うのはこれで最後じゃないんだから、そんなこというな。お前はいつもみたいに傍若無人に振舞えばいいんだよ。」 「酷い、センパイ。私はいつもヒメウズのように生活してるのに。」 「…ヒメウズ?」 「しおらしいってこと。」 「…。」 「でもそうか、そうだよね。」 彼女は彼の背中に手を伸ばした。 「また会える。」 「うん。」 二人はずっと抱き合っていた。ずっと、ずっと。 その日彼らが帰った後、影から出てきた自分は彼女の『キカイ』を持ちだして学校の蓮池に捨てた。彼と彼女のつながり全てを消し去るために。 何故あの部屋に通い続けたのか、今ならわかる。自分は彼が自分の知らないところで変わっていくのが嫌だったのだ。誰よりも近くにいた彼が、自分以外の人によって少しずつ、でも確実に変貌していくのが堪らなく不快だった。彼に彼女と近づいてほしくなかった。それがただの幼馴染には到底抱くはずがない感情であっても。 彼女の大切な箱は濁った池の水に沈んでいく。 彼女と彼の関係もこんな風に消えていけばいい。静けさを取り戻す水面をじっと見つめながらそう思い続けた。 結局のところ彼女が本当に帰ったのか、まだこの学校にいるのか自分は知らない。 しかし彼はまたクラブに来るようになった。昔と変わらない、自分が望んだ日常だ。 だが自分は知っている。 彼が未だにあの本を、『キカイ』の本を持ち歩いていることを。 彼の机の奥底に、奇妙な鉄片が増え続けているということを。
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彼女の歌 歌手志望の咲が作中で披露する劇中歌・主題歌・ED曲。 日本語歌詞・英語詩版があり、システムコンフィグで選択が可能。 イベント・EDムービーはクリア後「彼女の歌」メニューで見ることが出来る。 プレイ中には、咲が鼻歌を歌う・咲に話しかけると歌を頼むことが出来るマップがあり、ST値が小~中回復される。 (鼻歌は咲の周囲にいれば徐々に回復していく仕様。咲は鼻歌を歌いながら歩き続けるがマップ進行手前で止まるため、とどまっていれば全快することも可能) 日本語詩Vo・作詞作曲 飯田舞 英詩版Vo ナディア・ギフォード 「キミの隣で…」 西中避難所ムービー、彩水ED、グロリア稲荷で選択可能 「忘れない」 舞津公園ムービー、グロリア稲荷で選択可能 CDも発売されている。
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――気がつくと、マリベルは不思議な場所にいた。 大地も天空もない、延々と続く白一色の世界。 そして。 『全く、何をやっておるのじゃ』 死んだはずの人間が、目の前に立っていた。 「グレーテ……」 呆然とするマリベルに、彼女――グレーテ姫は、矢継ぎ早に言葉を浴びせた。 『そなた、それでも我がマーディラスを救った英雄の一人か? 我が盟友が今のそなたの姿を見たら、何と思うであろうな』 「あんたに言われたくないわ。それに、参加してないあいつは関係ないでしょ!」 フィッシュベルの幼なじみの姿を思い浮かべ、マリベルは顔を真っ赤にして叫ぶ。 だが、グレーテは彼女の言葉を無視するように、言葉を続けた。 『だが、そなたしか頼める者はおらぬと来ている。 歯がゆいが、そなたの記憶と知識に頼るしか……じゃ……』 その声が、聞き取れないぐらいにかすれていく。 『かつて我…国を………うに、……友を…ってくれ…――』 グレーテの姿が、幻のように薄れていく。 「待って、待ってよ!」 マリベルは彼女に駆け寄った。 だが、その手がグレーテに触れる前に、彼女の姿は虚空に溶けて、消えていた。 ――……回復呪文はかけましたけど、大丈夫でしょうか? ――思いっきり、頭打ってたからなぁ。ま、息はしてるし、平気だろ。 近くで、誰かの声が聞こえる。 マリベルがゆっくり目を開けると、そこには二人の男が座っていた。 頼りなさげなヒマワリ頭の少年と、年齢不詳の長髪の男性…… 風景もマランダとは一変し、どこかの洞窟といった趣だ。 「おう、気がついたな」 長髪の男が、マリベルに微笑を向けた。その顔から、敵意は感じられない。 だが、彼らがセーラのような人間ではないという保証もない。 「ここはどこ? あんた達は誰?」 もしものために、気付かれないようにいかづちの杖を引き寄せながら聞いた。 「オレはラグナ、んでこっちはアーサー。 ここは『ロンダルキアへの洞窟』って言うらしい。良くは知らねーけど。 で、あんたはあそこらへんから落っこちて、今の今まで気を失ってた、と」 ラグナ、と名乗った長髪男は、天井の一角を指した。 「ロンダルキア?」 「ハーゴン率いる、邪教の総本山……雪と魔物が支配する、人外の地です。 まさか、またこの場所に来るハメになるなんて…… どうせなら、稲妻の剣も元通り置いておいてくれれば良かったのに」 ヒマワリ頭、もといアーサーがため息をつく。 口ぶりからするに、この場所にかなり詳しいようだが。 「ふーん……って、そういえばハーゴンって人、参加者にいなかったっけ?」 「ああ、いたな。そーいや」 「……え゛?」 アーサーはマヌケな声を上げた。 1番早い時期に出発していた彼は、今までハーゴンの存在に気付いていなかったのだ。 唖然とするアーサーに、ラグナはふくろから1冊の本を取り出し、見せた。 「ほら、ここにも乗ってるぜ」 『参加者リスト』と題された本―― そこには、各々の名前と顔写真・支給武器・簡単な経歴が記されていた。 「ホントだ……」 忘れもしない、大神官・ハーゴン。その写真を、アーサーは複雑な表情で睨みつける。 そんな彼の手元から本をひったくり、マリベルはページをめくった。 (いた!) 「エドガー・ロニ・フィガロ……この人が、どうかしたのか?」 後ろから覗きこんだラグナが、怪訝な表情でマリベルを見る。 (この二人は信用しても良さそうだけど……どうしよう) 少しだけ考え込んだ後、彼女はふくろからメモを取り出した。 そこにさらさらと文字を書き加え、二人に手渡す。 「………!!」 二人は驚きを隠しきれないまま、メモと彼女を何度も見返した。 彼女が書き加えたのは、たった1行。 "首輪を解く手掛かりは、もう掴んでる。" さっきの光景が、夢か幻かはたまた現実なのか……なんて、どうでもいい。 グレーテの言葉が、あの呪文を思い出させてくれた。それだけで十分。 (マジャスティス。……あの呪文さえあれば、脱出も不可能じゃないはず) 「私と手を組まない? 一緒に、この下らないゲームを抜けてやりましょうよ」 強い意思を湛えた瞳を向け、マリベルは手を差し出す。 二人はゆっくりと頷き、彼女の手を取った。 【マリベル 所持品:エルフィンボウ いかづちの杖 エドガーのメモ 基本行動方針:非好戦的、自衛はする 最終行動方針:首輪を外してゲームを抜ける】 【アーサー 所持品:ひのきの棒 最終行動方針:首輪を外してゲームを抜ける】 【ラグナ 所持品:参加者リスト 第一行動方針:マリベルが目を覚ますのを待つ 第二行動方針:スコールの捜索 最終行動方針:首輪を外してゲームを抜ける】 【現在位置:ロンダルキアへの洞窟6階、無限回廊手前】 ←PREV INDEX NEXT→ ←PREV ラグナ NEXT→ ←PREV アーサー NEXT→ ←PREV マリベル NEXT→
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438 :ぽけもん 黒 長老の頭が一番フラッシュ ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/12/06(土) 23 01 37 ID 9YLzBs9Y 食事を終えた僕たちは、部屋に荷物を取りに戻るとそのまま桔梗町に向けて出発した。 三十番道路はお使いのときに一度通ったということもあり、実に順調な行軍だった。ただ、そこまで早く進めているわけでもない。完全に僕が足を引っ張っていて、全体の速度を落としている。ただの人間である僕には、二人の速さにはとても合わせる事が出来ない。 それと、以前のようにトレーナーを避けるのが難しくなってきたというのもある。今までは向こうも戦いに消極的だったっていうのもあるけど、全国の旅となれば当然、各地区にいるジムリーダーと戦っていかなくてはならなくなる。 トレーナーとパートナーを相手にした戦闘はジムでの戦いに向けた絶好の予行演習になる。それに、ここまでの旅で野生のポケモンとの戦闘に慣れて、自信がついてきたというのもあるんだろう。 すれ違うトレーナーは皆バトルに積極的だ。相手に見つかったら、問答無用でバトルを申し込まれてしまう。 ……まあ香草さんの相手にもならなかったんだけどね。ポポに空から降りてきてもらう必要も無く、僕が一切手出しを行う必要が無いくらい、瞬時に相手を戦闘不能まで持っていってしまう。 今まで野生のポケモンとしか戦ってなかったから香草さんの強さは半信半疑だったんだけど、香草さん自身が言うとおり彼女はまさに無敵という言葉がふさわしいような強さだった。 バトルに負けた相手は勝った相手に所持金の半分を差し出さなくてはならないと決まっているので経済的にはおいしいんだけど、なんだか罪悪感が積もる。 それでも日没までに三十番道路の終わりのほうまで進むことが出来た。ポケギアのGPSによる判断だから、実際に残りの道がきつい上り坂だったりすると、全然終わりのほうと言えないんだけどさ。 香草さんとポポはまだ進めると言ったが、ポポは相変わらず夜目が利かないため、やはりここで止まることにした。 若葉町から吉野町までの行軍で前よりも大部進むペースが速くなっているから、すべての食事を木の実に頼らず乗り切れるということに気がついた。でも、やはり食料を節約するに越したことはないので、以前のように朝食だけは木の実で賄うことにした。 いつものように香草さんとポポに挟まれ、夜を明かすと、また桔梗市へ向けて進む。その途中で、生垣に突き当たった。 両脇や周りは太い木が群生していて、下手に入ると危なそうだけど、ここだけ木の向こうは獣道のようになっていて迷わないようになっているから、この生垣を何とかできればかなりのショートカットが出来そうだ。 「こういう場所で居合い切りを使うのかな」 「居合い切りって?」 足を止めて考えていた僕に、香草さんが問いかけてくる。 「剣の達人とかさ、これくらいの藪とか細い木とかスパーンって斬っちゃえるんだって。シルフカンパニーが秘伝マシンを開発したらしくて、ポケモンは簡単に覚えられるみたいだよ。もちろん、覚えられないポケモンもいるらしいけどさ」 でも僕は居合い切りの秘伝マシンなんて持っていない。というか技マシンの一つも持っていない。僕の小遣いで買えるような安価なもので、特に必要のある技マシンがなかったというものある。 「あら、そんなものいらないわよ。見てなさい」 香草さんはそう言うと、両袖からそれぞれ数本ずつ蔦を伸ばし、それを束ねた。そのまま両腕を胸の前に交差し、強く左右に薙いだ。 一閃。――いや、二つの束だから二閃なのかな、まあそんなことはどうでもいい――彼女は一瞬の内に幅数メートル、奥行き数メートルの生垣を一掃した。 ……こういうのって、ありなのかなあ。 僕はただただ、彼女の破壊力の高さと非常識な発想に呆れるしかない。 「どうしたの、間抜けな顔して。早く通らないとまずいわよ、コレ」 香草さんに言われてみてみれば、薙ぎ倒された木々の切り口からはすでに木の芽が生え始めており、全体が急速に再生しつつあった。 そもそも、居合い切りで切れるような木というものは一部の人間の通行だけを許す自然の扉なのだから、こうでもならないと使われたりしないだろう。しかしそれが分かっていても、映像として目の当たりにすると驚かされてしまう。 僕は先を行く香草さんの後に続いて、慌ててその道を抜けた。ポポはそもそも空を飛んでいるから地上の木々など問題なく飛び越せる。 439 :ぽけもん 黒 長老の頭が一番フラッシュ ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/12/06(土) 23 02 35 ID 9YLzBs9Y でも、このお陰で大きくショートカットに成功したのは事実だ。タウンマップによると、この道を通っていくと「暗闇の洞穴」を素通りしてしまうのだけど、 そこは真っ暗で、秘伝マシンの「フラッシュ」を使用されたポケモンがいないと何も見えないほどの暗さだということだし、そもそも最短ルートからは外れているからもともと立ち寄らないつもりだったので問題は無い。 僕らはそのまま三十一番道路を走破し、日没前に桔梗市へとたどり着いた。出来るだけ二人のペースに合わせていたから、疲労で足が折れそうだ。 この町を回るのは明日にすることにして、すぐさまポケモンセンターに行って手続きを終えると、その日はそれ以上のことはしなかった。ちなみに、ポケモンセンターの内装は全国すべて共通のようだ。 というのも、このポケモンセンターの内装が吉野町のものとまったく変わらなかったからだ。 初めてでも迷う心配が無いので便利というか安心というか、そういう意味で言えばそのとおりなんだけど、まったく違う場所なのにまったく同じ施設を建てる、というのも無駄な気がしなくもない。 外と変わらず、僕らは一つのベッドに三人で固まって寝ている。正直言って狭い。でも二人がこうじゃなきゃ嫌だというから、しょうがなく妥協している。 翌日は早朝から市内を巡ってみることにした。ここ桔梗市はさすが古都と言われるだけあって、町並みも建物も中々に趣がある。ポポは町並みにはあまり興味が無いみたいだったけど、香草さんは目を輝かせていた。 尋ねたら「ロマンチックで素敵」ということだ。確かにいい街なんだけど、いつまでもブラブラしているわけにもいかない。そもそも、市内探索だって半ば日が高くなって香草さんが本調子になるまでの時間潰しみたいなものだし。 この街には、「マダツボミの塔」と呼ばれる、古い塔がある。風もないのに大黒柱がゆっくりとだけどユラユラと揺れるとても不思議な塔で、この街の一番の名所になっている。一説によると、巨大なマダツボミが塔の柱になったから揺れているのだとか。 この塔はもともと修行のために建てられたということで、現在も多くの僧が修行に励んでいる。 僕がこの塔に来た目的は観光でも――観光という意味も少しはある――修行でもなく――そもそも僕らは僧侶じゃないしね――、この塔の最上階まで行くと秘伝マシンの一つ『フラッシュ』がもらえることになっているからだ。 秘伝マシンは戦闘に役立つものは少ないが、先に進むには無くてはならないものが多いため、是非とも手に入れたい。 というわけで、僕たちはマダツボミの塔へと乗り込んだ。 入り口から真正面にその例の大黒柱はあった。確かに、ゆっくりと揺れている。その大黒柱を囲うように座禅を組んだ修行侶が数人座っていて、なにやら物々しい雰囲気を醸し出している。 その修行僧さんの集団と目を合わせないようにしつつ、どんどん階段を上っていく。すると途中で修行僧さんに声をかけられ数回戦闘になった。 修行さん僧のパートナーのポケモンはみな揃ってマダツボミばかりだ。相性の問題を考え、全戦ポポで戦ったが、香草さんは自分でも楽勝なのに、と道中不満げだった。 そしてあっという間に最上階。そもそも五階建ての塔だから、上るのにそんなに時間はかからなかった。 その階の一番奥に、「長老」と呼ばれる老僧がいた。彼の後ろには箱が山積みにされている。アレがフラッシュの秘伝マシンなのだろう。 「よくここまで着ましたな。では、あなたが秘伝マシンにふさわしい人間か、テストをさせて頂きます」 長老さんは威厳のある、渋い声でそう言うと一歩後ろに下がる。すると脇に控えていたマダツボミが前に出た。精悍な顔つきをした、たくましい男だ。 「彼と戦って、三十秒以上気絶せずに耐えることができたら合格です。三十秒以内に気絶した場合は不合格ですよ」 その長老の言葉に合わせるように、マダツボミは大胸筋をピクピクと震わせた。 これは油断できないかもしれないな。 441 :ぽけもん 黒 長老の頭が一番フラッシュ ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/12/06(土) 23 03 29 ID 9YLzBs9Y 油断する間も無かった。 念のため、戦闘を行っておらず体力が温存できている香草さんに戦ってもらったのだが――ポポは当然ごねたけど、いつものように宥めた――、秒殺、いや、瞬殺であった。 足元に放たれた蔦の一閃を避けた敵に突き刺さる容赦のないボディーブロー、そしてそれによって生じた一瞬の隙をついて蔦で上空へ放りなげる香草さん。 相手は一切の防御も反撃も取る間もなく、空中という飛行能力を持つ生物以外には回避不可能な領域で、蔦による情け容赦の無い無数の突きを加えられた。彼が地上と再会した頃には、もうすでに彼の意識は無かった。 落下してきたマダツボミによって巻き上げられた粉塵が引いてくると、そこから赤く輝く鋭い双眸が浮かび上がる。 長老さんは完全に引いている。えらいもん見ちまった……みたいな顔をしている。 「三十秒もたなかったみたいだけど、どうなの?」 香草さんの、研ぎ澄まされた刃物のような言葉を向けられて、長老はビクリとその身を震わせる。 「ご、合格です、おめでとう。これが約束の秘伝マシンだから……」 しかしさすがは年の功、と言ったところか。香草さんの睨みを意にも介さず……というのはさすがに無理なようだが、それでも自分に割り当てられた使命を果たそうとしている。僕だったら怖くて声もかけられないだろう。 「ど、どうも」 香草さんにこのまま荷物を受け取らせるのはなにやら危険な気がしたので、僕は自分から進み出て長老からダンボールの小包を受け取った。 「どうゴールド! 見た!?」 香草さんは先ほどの気迫はどこへやら、嬉々として僕に尋ねてくる。 「う、うん、すごかったよ」 一部速過ぎて見えなかったけどね……。 「当然でしょ! 私、ゴールドを相手にするときはいっつも手加減してるんだからね!」 彼女は誇らしげに胸を張ってそう言った。 確かに、蔦の速度といい、容赦の無さといい、僕に向けられるそれの比ではなかった。一応、乱暴ではあるものの、彼女なりにパートナーである僕を気遣っていたのだろう。 つい先日のことが思い出されてゾクリとする。あの状況で彼女にも僕にもなんの怪我もなく逃げ切れるなんてとんだ思い上がりだった。僕の持っている、出来れば使いたくは無い道具すら総動員しても、 彼女の初手に対応できない限り一切の活路はない。そういう意味では、あそこでおとなしく香草さんが引き下がってくれて本当によかった。きっとあの状況だと、香草さんがその気になれば僕は今頃五体満足ではなかっただろう。 尤も、ポケモンセンターの中でそんな大きな騒ぎを起こした時点で彼女の負けなのだが。 「坊や、少しばかりお話よろしいかな?」 帰ろうと振り向いたとき、後ろから長老さんにそう声をかけられた。穏やかな口調だ。もうすっかり冷静さを取り戻しているようだ。 再び振り向いた僕は、彼の様子から「二人きりで話したい」ということを感じ取った。 「香草さん、ポポ、先に降りててくれるかな。もう修行僧さんは皆倒したし、一本道だから大丈夫だよね?」 僕は二人にそう声をかける。 「どうして?」 香草さんは怪訝そうだ。 「長老さんと、二人きりで話したいんだ」 「話だけなら、私がいたっていいじゃない」 「ホホホ、お嬢ちゃん、男には女性に聞かれたくない話というものがあるのですよ。君がこの少年を好きなのは分かるがの」 長老さんは冗談交じりにそう言った。 「べ、別にそんなんじゃないわよ! ただパートナーとして気になっただけよ! いくわよ! ポポ」 香草さんは慌てて、ポポを引きずって階段を降りて行った。 たとえ事実でも、そこまで強く否定しなくても……。 若干へこんでいた僕に、長老さんは急にまじめな顔になって話を切り出す。 「さて、本題ですが……あの嬢や、只人ではないでしょう。あんな恐ろしい目は、そうそう見るものではありませんからの」 「目?」 想像だにしていなかった言葉に、僕は思わず鸚鵡返しに聞き返す。 「そうです。あの目に宿った影。あれはいずれ彼女自身を傷つけ、そして、君にも被害を及ぼすでしょう。あの影は、いつか無実の人を殺す」 442 :ぽけもん 黒 長老の頭が一番フラッシュ ◆wzYAo8XQT. [sage] :2008/12/06(土) 23 04 10 ID 9YLzBs9Y 殺す、という物騒な単語に僕は驚いた。 長老さんが何を言わんとしているか、いまいち飲み込めない。目とか影とか被害を及ぼすとか……香草さんは確かに乱暴なところはあるけど……。 「彼女は決して悪い人間ではありません。彼女の強さでそう思ったのなら、それは見当違いです。彼女の強さとか、決意には理由があるんです」 「ゴールドさん、と言いましたかの? 今はまだ正気を保っていても、誰があの嬢やが変わらない保障できるのです? その力が、その目的以外に振るわれぬ保障など、誰も出来はしないのですよ」 何なんだ一体。香草さんを侮辱したいのか? 一方的に自分のパートナーが倒された腹いせか? 僕はだんだんいらいらしてきて、つい語気が荒くなる。 「長老さん、あなた、さっきから何が言いたいんですか! そんなに彼女を悪者にしたいんですか!」 「私は見てのとおり、老いさらばえておりますが、まだ耄碌してはおりませぬ。私は今まで無数の人を見てきた。 老いてこそ身につく能力というものもあります。ゴールドさん、あなたは彼女をしっかりと見守ってあげなくてはなりません。彼女を止めれるのは、一番近くにいるあなたに他ならないですからの」 長老さんは、僕に無礼な態度をとられたというのに、あくまで冷静だった。なにやら達観しているような、淀みの無さを感じる。 僕は無言で彼を睨む。しかし彼はそれをまったく意に介していないように続けた。 「ただ、あの嬢やの傍にいてあげるだけでいいのです。ゴールドさん、この老いぼれの言葉、努々忘れてはなりませんぞ」 「……ご高説どうも。では、僕はもう行きますので」 「待ちなさい。最後に一つだけ、これを持って行きなさい」 長老はそう言うと、懐から鈍色の、人差し指をふた周りくらい大きくしたような筒を取り出し、僕に差し出した。 「……なんですか、これは」 僕はそれを一瞥すると、それを受け取りもせず、長老を睨む。 「これが何か、は時が来ればおのずと分かりましょう。これを肌身離さず持っていなされ。きっと、ゴールドさんの助けになるでしょう」 そう言う彼の表情は真剣そのものだった。 あれだけのことを言われておいて、彼から何かを受け取るのは癪な気もするけど、彼が懐から取り出したということはおそらく持ち主に害を及ぼすものの類ではないだろう。もらっておいても損はないはずだ。 僕は無言でそれを受け取り、胸ポケットに収めた。 あなたの旅の息災を祈っております。その長老の祝福を背に、僕は階段を降りた。 外の明るさに、目を細める。 「早かったわね」 僕がものをちゃんと見えるようになるより前に、香草さんに声をかけられた。穏やかな笑顔をしている。これが、人を殺す者の顔であるはずがない。 「うん、大した話じゃなかったんだ」 「……で、結局どういう話だったの? あ、別に女の子には言えないような話が何か気になるとか、別にそういうんじゃないわよ!」 今も慌てて頬を染めて否定している香草さんが、悪い人間なわけが無いじゃないか。 「別に、旅の無事を祈る、みたいなくだらない話さ」 僕は半ば笑い飛ばしながら言う。 そう、くだらない話だ。 「そう、ならいいけど」 「……」 「どうしたの?」 「いや、疑わないのかな、って」 以前の香草さんなら、そんなの嘘でしょ! 馬鹿にしてんの!? くらいは言ってきただろうに。 「だって、もう私に嘘はつかないって約束したでしょ?」 香草さんはキョトンとして僕に尋ね返した。 「……そんな約束したっけ?」 そういえば、この間、もう私に嘘はつかないで、みたいなことを言われた記憶はあるけど、あれはあの場限りの話だと思ってた。 「したわよ」 煮え切らない口調の僕の迷いをぶった切るように、香草さんははっきりと言い切った。 「……したかもね」 「もし嘘ついたりしたら……酷いんだからね」 そう言って彼女は意地悪げに口の端を吊り上げる。もし彼女が蛇で僕が蛙なら、今頃恐怖で悲鳴すら上げられなくなっているだろう。 「はい、よおく覚えておきます。絶対に嘘をついたりはしません」 「よろしい」 僕の大仰な返事を受けて、彼女はにへーっと笑った。 「ゴールドと香草サンばっか楽しそうにしててずるいですー! ポポ寂しいですー!」 と、いきなり今までまったく話に加わっていなかったポポに飛び掛られた。 「ご、ごめんね」 僕はポポの頭を撫でながら謝る。しかし、今度は香草さんから鋭い視線を感じる。 う……こっちを立てればあっちが立たずだ。香草さんは一体何が気に入らないんだろう。 僕はただ、苦悩させられるばかりである。
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『…ぐわっ…ひどいなこれ』 『気持ち悪ィ…』 ハヤトたちの意識が浮上し、ゆっくりと覚醒した先には 肉片と化した死体たちが辺りに散乱した荒廃した大地 そして、赤い空 異様な空間 『…ぐぅっ』 『由衣、無理すんなよ』 『へーき。ハヤト。それよりここは…』 『ここは彼女の意識であり過去の空間。今彼女はこのどこかにいるの』 『こんな…広いとこのどこかに…?』 エダは辺りを見回してため息をつく。 見渡す限りの死体の山とたちこめる硝煙 見つかる気がしない。本当にこんな場所にスイネがいるのだろうか 『うだってても始まらないわ。探しましょう』 リエがうなだれるエダの背中を支えてあるきだす ふみしめる土の感触はなんとも気色悪く 由衣には刺激が強いようで常に口許を押さえていた 『さみしい…場所だな』 『シスイもそう思うのか』 玉置はシスイの言葉に同調するように空を仰ぐ 何かに阻まれることなく広がる空なのに、 なぜか自由がないような空 『…?』 見つめていた空の上から、何かが落下してくる ゴミ?鳥?いや、違うあれは 『ケイイー…!?』 ドサッと死体の山に降り立ったケイイチに皆が目を丸くする どういうことだというようなケイイチの瞳に玉置が答えた 『見たのか』 『スイネ…虫の息だった』 『ここがどこだかはわかるか?』 『前にも一度スイネの意識に入ったことはある。 …こんな場所ではなかったけど』 『なら話は早いね。…急ぐよ?時間もあんまりないしね~』 春美はにっこりと笑って先陣を切る その後ろ姿に見覚えのないケイイチは首を傾げたが、今はそれどころではない 歩き進めるうちに、死体の数は増していく アースセイバーに所属する手前、抗争に巻き込まれたり 駆り出されたりすることは多々あるが あまりにもグロテスクな光景にとうとう由衣が嘔吐した 『ぐぅ…ええっ…』 『由衣…』 『なんなんだよこれ…こんなの…こんなとこいられるかよ…気が狂いそうだ…っ』 『ケイイチ。なにかわからないのか』 ハヤトが問うと、ケイイチは神妙な顔つきで答えた 『見覚えがある…この場所』 『よかった。君が覚えててくれて。これで再生できるよ』 『…?』 春美が天高く腕を振り上げてなにか呟くと、誰かが走ってくるような土を蹴る音が響く そこには、少年―――幼い頃のケイイチが、長い青色の髪をはためかせる少女の腕を引いて、何かから逃げるように走ってきた 。 『スイネ…?!』 『そうだよシスイくん。あれはスイネ…彼女にとってはみんなに隠したがった過去だけど、…しっかりみてあげて』 「ここまできたらもう大丈夫かな…?!いま応援を呼ぶから…」 「けいいち…」 「どうしたんですか?どこか痛みますか?」 「ねえ、わたしいいのかな、こんなのなんだか、 わたしはホウオウ様のものなのに…」 「あなたは物なんかじゃない!!…あなたは一人の人間だ!」 『このときの言葉は、彼女にとっては救いの言葉だった』 『なんでこんなにケイイチは逼迫してるんだ?』 『………』 玉置のその問いかけに俯いたケイイチ ハヤトはケイイチの顔を覗き込むと唇を噛んでいた 震える拳を握りしめるその姿に 『ケイイチ?どうしたんだよ』 『……やめて、くれよ』 『ケイイチ?』 「でも、ホウオウ様はわたししか愛せないって、抱けないって、わたしはホウオウ様に抱かれるために産まれたってきいたのに」 『?!』 シスイが驚愕に目を見開く どういうことだ、【抱かれる】…?! 『やめろ!!スイネの一番知られたくない部分を見せるな!!見るな!!』 取り乱したように錯乱するケイイチ その目は殺意さえ帯びていて、リエは怯んだ こんなケイイチは、ホウオウと対峙していたあの時以来だ こころが、ふるえる 『落ち着いて、ケイイチ君、君が取り乱してどうするの』 『…お前が…!?』 『まるで、母親の悪口を言われたこどもみたいな怒り方だね』 『……っ?!』 『おとなしく見ていて』 「あなたはあなただ!」 「わたしは、わたし?」 「あなたがしたいようにしなくちゃ…でなきゃ、なんのために産まれたんだよ!」 「…!」 ぐっと景色が歪む そこは、先ほどの荒廃した大地とはまた違い 廃ビルの立ち並ぶ無機質な町 そこに対峙する二人の女 『こんどはなんだ?!』 「…もどってきなさい、ファスネイ」 「そんな馬鹿げた話に私が乗るとでも思ってるの?」 女は、いまのスイネと、どうやらホウオウ側に産み出されたであろう人工神であった スイネは強く神をにらみ 神はいとおしげに、そして悲しげに 彼女を見つめていた 『この記憶は…?』 『…スイネがアースセイバーに入ってからの記憶だ』 『ってことはあれは』 『スイネの母親にあたる、人工神だ』 スイネは意識を研ぎ澄まし、巨大な鎌を召喚し、対峙する その瞳はひどく殺意の籠ったもので、皆が戦慄するほどだった 「ファスネイ…わたしの愛しい子」 「黙りなさい!…わたしは、わたしはケイイチのもの。ほかの誰のものでもないわ!」 その言葉にシスイはケイイチに振り返る ケイイチは、苦虫を潰したような、そんな表情で唇を噛んでいた 触れられたくないであろうことであるのは明白であるが、今疑問を残したまま行動するのは無謀だ 『お前ら付き合ってんの?』 『…まさか。こっちがマナさんのこと好きなの知ってるだろ』 『…じゃあなんだよこれ』 『………』 『一方的に彼女がケイイチを愛しているだけだよ』 『え…』 シスイは目を丸くして、幻影のスイネを見つめる スイネがケイイチを…? いや、ありえない話ではない 彼女を闇から救いだしたのは他ならないケイイチだ ましてや、ひとりの人間として彼女に接したのは彼だけなのだから 彼女の海 (もうすこしだ) ※加筆修正有り(2013/06/15)