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元暗殺者とたまと優男 「…………」 日もだいぶ落ち、薄暗くなってきた森の中。そこに1人の男がいた。 男は終始無言で、ただ目の前の1本の木をじっと見つめていた。 周りから見れば、そんな男の様子は隙だらけに見えるだろう。しかし、男からはまったくといっていいほど隙を感じさせないオーラが発せられていた。 彼の名は葛木宗一郎(21番)。私立穂群原学園2年A組の担任教師で生徒会顧問。そして過去に一度要人の暗殺を行ったことがある元暗殺者である。 宗一郎はこの殺し合いに対して否定も肯定も考えていない。 なぜなら、彼は暗殺のために施された訓練により『感動する心』が欠落――つまり死んでいる。 ――ゆえに彼は戦おうと思えば、自分の教え子たちと殺し合うことになろうとも躊躇いなく戦えるのである。 それは、間違いなくこの狂気の島においてどんな支給品よりも最強の武器になる。 この島において一番重要な三大要素――それは、『自身の安全の確保』、『食料の確保』、そして『何事にも屈せず、かつ動じない強い精神力』である(宗一郎自身はそんなことあまり考えてはいないが……)。 自身の安全の確保。これは戦場という場において必ず最初に重要となる課題だ。 今回のように他の者たちがどのような武装を所持しているのか全く判らない場合は、むやみやたらに動き回るよりも迅速に自身の身を1箇所に留めて隠れているほうが少しは安全なのである。 食料の確保。これはヒトが動物として必要な要素だ。空腹になると身体能力の低下だけでなく、時に判断力を鈍らせる。 戦場においては一瞬の判断の遅れも即、死に繋がる。そのため食事は取れるうちに取っておいて腹を満たし、常に万全の状態で戦闘に備えておくのが好ましい。 そして最後。精神力。これが今回の殺し合いにおいて一番大事になるものだ。それも最初から最後までだ。 万物の霊長である人間というものは同種の命を他の何よりも尊重する存在だ。ゆえに、人は誰かが死ねば悲しむ。それが見知らぬ者であろうともだ。 ただ1人の命であっても、それを奪うということは軽いものではない――そう教え込まれ考えるのが人だ。 この島では最終的に60人以上の命が奪われる(少なくとも、すでに1人の命が言峰の手によって奪われている)。 そんな(少なくとも戦争というものを忘れつつある現代の平和ボケした日本人たちから見れば)地獄ともいえるこの島で普通に己の精神を維持し続けることが出来る者がはたしてどれほどいるであろうか? ――まずいない。宗一郎ならば(もちろん自身も含んで)そう結論するだろう。 情に流されるものは最終的に自滅する。戦場とはそういうものだ。それはお人好しな人間であっても、狂気に染まった人間であってもそうだ。 ――ゆえに、彼は心を捨てさせられたのだから。 「…………」 宗一郎は自身のスーツの胸ポケットからあるものを取り出した。 ゲームガイ。それも『バルジャーノン』のソフトがおまけで付いているという今時の学生ならば喜びそうな代物だ。 ……今が普段と変わらぬ日常で、ここが殺し合いが行われている島でなかったらの話だが………… 自身に支給されたソレは宗一郎にとっては別にどうでもいい代物であった。 当たりだろうがハズレだろうが、貰った以上はとりあえず持っておく。それが葛木宗一郎の考えだった。 「…………」 さて、とばかりにゲームガイをポケットにしまうと、宗一郎は拳をすっと構えた。 何故そのようなことをするのかと聞かれたら、その答えはひとつ。この島に張られている結界というものが自身の暗殺者としての身体技能をどれくらい制限しているのかを確かめるためである。 彼の暗殺術――『蛇』はその気になれば人間の1人や2人など簡単に殺せるほどの代物だ。 言峰は魔術師や魔法使いは力を制限されると言っていたが、そのような者ではない宗一郎もこの島に来てから自らの体に少し違和感を感じていた。 「……それはすなわち、私の身体能力にも一定の制限が加えられているということだ…………」 そう呟くと同時に、宗一郎は目の前の大木に勢いよく右の拳を叩き込んだ。 ――ドォンという激しい音と共に、木にひとつのへこみ――いや。『穴』が穿たれた。もちろんその穴を開けたのは宗一郎の拳である。その深さは約数センチといったところだろうか? (――やはり私の力も制限されている。全力でもこの程度か…………) 普通ならば軽く十センチは腕が木の中に沈み、穴もさらに大きなものが出来るはずだ。 それなのにこの程度……いや。普通の人間から見ればそれでもこれほどのものなのだからたいしたものなのだが、元暗殺者の宗一郎としてはどうも少し違和感があるようだ。 ――別に気にはしないだろうが………… がさっ。 「む?」 「あ……」 近くの茂みから音がしたので宗一郎が目を向けると、そこには1人の少女が立っていた。 偶然そこを通りかかった珠瀬壬姫(44番)だ。 「…………」 「あ……え、え~と……その…………」 ――なぜか壬姫は冷や汗を流しながらひきっつた笑顔を浮かべていた。 それもそうだろう。彼女の目の前で宗一郎は素手で木に穴をぶち開けたのだから、だれだって見れば驚く。 さらに状況が状況である。壬姫が考えついた結論はひとつだけだ。 「さ…さようならーーーーーーっ!」 壬姫はそう言うと同時にくるっときびすを返して早足でその場から去っていった。いや。こういう場合は『逃げていった』というのが正しい。 「――ふむ。いったい何だったのだ、あの娘は?」 そんな壬姫のことなどつい知らず、宗一郎はただじっと彼女が走り去っていった方向を見つめていた。 高溝八輔(42番)。通称・ハチは地図とコンパス、そして自身に支給されたソレを手に森を進んでいた。 「よぉし。もう少しで森を抜けて新都だな。待ってろよ~すももちゃん!」 彼の手に握られているもの、それは探知機だった。 参加者の体内(胃)に仕掛けられている爆弾の反応を探知・表示する機器である。 爆弾自体を感知するため、反応があってもその参加者が生存しているとは限らないし、その反応が誰の爆弾のものなのかという表示もされないため使い勝手は難しいが彼にとってこれほど便利な物はなかった。 現に彼はこれを使って自身の周辺を確認しつつ、ここまで安全な道を進んで来たのだ。 ――だが、そのせいで未だに誰1人として遭遇していないため、友人である雄真たちが今どこにいるのかということが判らないというドジもやらかしているが………… 彼が唯一居場所が特定しているのは雄真の妹のすもも、そしてすももの母の音羽だった。 スタート直前まで彼は2人と教会で会って話をしており、その時の話にだと2人は「島に町か村があったらそこに行くつもりだ」と話していた。 「地図には村が2箇所、新都が1箇所あるみたいだが、こういう場合は文明の利器が揃っているであろう新都にみんなが向かうのは一目瞭然! そうと決まれば、言われなくてもスタコラサッサってやつだぁ!」 そう言って彼いながら彼は新都を目指し森を進んでいく。 その時、突然彼の持つ探知機に反応があった。 「うおっ!? なんだ!?」 慌てて探知機の画面を確認するハチ。 そこには画面の中心に位置する自分の爆弾の反応であるひとつの光る点のほかに、もうひとつの点があった。 しかも、その点は真っ直ぐハチのいる方へと凄いスピードで近づいてくる。 「ま…まさか敵か!?」 大慌てでハチは近くに身を潜めようとするが、運悪く彼の周辺には人1人を隠してくれそうなほど充分な草木が生い茂っていなかった。 「げぇっ!? こんな時にまで発動するのか俺の不運はーーーーっ!?」 ならば逃げるしかないと急いで自身が目指す新都の方へと駆け出そうとした瞬間―― 「フォーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」 ――奇妙な声を発しながらハチの背後から1人の少女が突っ込んできた。 「HG? ちょっと古くない…………って、うおおおおおおおおおおおおッ!?」 「ああああああああああああああっ!?」 どーーーーーーーーーーーーーん!! 思わず振り返って突っ込みを入れてしまったハチはやって来た少女と見事に正面衝突をしてしまった。 「いてて…………いったいなんなんだ?」 「あ……ひっ!?」 少女と衝突して軽く吹っ飛んだハチが顔を上げると、それと同時に少女も自身のおでこを押さえながら顔を上げ、ハチから数歩後ずさる。 すると、少女は今度は後ろの木に後頭部をごつんとぶつけてしまった。 「あああ~~~……」 「…………」 後頭部と額を押さえる少女をハチは黙ってじっと見つめる。 ――どこか猫みたいな雰囲気をした小柄な少女。 見たところ自分よりも年下に見えるが、学生服を着ているから自分とたいして歳は離れていないだろう。すももや伊吹と同い年くらいか、などとハチは思った。 そして、そんな少女を見て…… (な……なんて可愛い子だろう!! その長い髪も。ぱっちりと開いた瞳も。全てがマスコットのような容姿とマッチして己の可愛さに磨きをかけているっ!!) と、すぐに惚れてしまうのがハチの悪い癖である。 「ごめんなさい。ごめんなさい! ほしい物なら可能な限りなんでも差し上げますから命だけはお助けください~~……」 後頭部と額を押さえ、瞳から涙を浮かべながらハチに何度もぺこぺこ頭を下げて命乞いをする少女、珠瀬壬姫。 そんな彼女にハチは…… 「ふっ…何をおっしゃるのですかお嬢さん。この高溝八輔は貴女様のようなか弱き乙女をお助けするためにこの世に生を受けた者ですよ?」 普段もよく使っている(そして直後に失敗に終わる)紳士――というより優男モードで壬姫にそっと右手を差し伸べた。 「この高溝八輔。命ある限り貴女様を護る騎士となりましょう!」 「は…はぁ……?」 状況が良く理解できず、頭にハテナを浮かべたまま壬姫はハチの手をしばらくの間じっと見つめていた。 【時間:1日目・午後5時】 【場所:森林地帯(新都方面)】 高溝八輔 【装備:探知機】 【所持品:支給品一式】 【状態:健康】 【思考・行動】 1)壬姫に一目惚れ。必ず俺がお護りいたします! 2)新都に行ってすももや知り合いを探す 珠瀬壬姫 【装備:なし】 【所持品:支給品一式(ランダムアイテム不明)】 【状態:健康】 【思考・行動】 1)え、え~と……何がなんだか……(少なくともハチが敵ではないことは認識しました) 2)武たちと合流したい 【備考】 ※葛木宗一郎(名前は知らない)は危険だと認識しました 【時間:1日目・午後4時30分】 【場所:森林地帯】 葛木宗一郎 【装備:なし】 【所持品:ゲームガイ、支給品一式】 【状態:健康】 【思考・行動】 1)ゲームに乗るつもりはないが、主催者を打倒しようとは思っていない 2)敵と遭遇した場合は容赦なく倒す 3)敵ではない者と遭遇した場合は助けが必要な場合は助ける(ただし本人の意思ではなく相手の意思を尊重する) 【支給品備考】 探知機 参加者の胃に仕掛けられている爆弾の反応を探知・表示する機器。 爆弾自体を感知するため、反応があってもその参加者が生存しているとは限らないし、その反応が誰の爆弾のものなのかという表示もされない。 使い方次第では最強の支給品。バッテリーは単三電池2本。電源を点けっ放しでも30時間は楽に稼動できる。 ゲームガイ 携帯ゲーム機。元ネタはマブラヴ。おまけとして『バルジャーノン』のソフトが付属している。 時系列順で読む 前話 Miss flying victory 次話 誕生! 魔法少女? 投下順で読む 前話 薄暮の惨劇 次話 ちっちゃな次期当主と大きなご令嬢 前登場 名前 次登場 GameStart 高溝八輔 黒き福音 GameStart 珠瀬壬姫 黒き福音 GameStart 葛木宗一郎 誰かのために出来ること 御剣冥夜編
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やさおとこつかさくんはゆうじゅうふだんすぎます 6【登録タグ じんたね や ライトノベル ラブコメ 小説 本】 優男司くんは優柔不断がすぎます(七) 著者:じんたね 本紹介 サンプル コメント 名前 コメント
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某氏の作品をここに保管する予定
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日付も変わろうかという頃になり、彼女は鏡から現れ出でた。 「ただいまー……」 「おかえり」 少女は今日も、ボロボロだった。 「いやー、やっぱりまだまだ修行不足ねー」 桃色の服は裂け汚れほつれ、太陽の様な明るい髪には、ところどころに土が混じっていた。 「ぼろぼろだね」 「うーん、またお姉さまに服直してもらわなくっちゃ」 少女はスカートを摘み上げ、頬に手を添え呟いた。 「金剛石は、どうしてそこまでするんだい」 優男は濡れタオルを少女に手渡し尋ねた。 「私は」 少女は、どこか遠くを見つめて答えた。 「私は、みんなに笑ってて欲しいから」 ◇ 暖かく穏やかな午後、空は薄暗く曇っていた。 少女は見た目からは想像できない、年を経た落ち着きを持っていた。 優男は少女の淹れたお茶を口に含み、自分が熱さも分からない程に焦っていることに気付いた。 「どうして彼女は闘うんですか」 少女は紅茶を飲み、一息ついてゆっくり答えた。 「彼女は、あなたに笑っていて欲しいんです」 優男は、納得しきれなかった。 「そんなことで、あそこまで汚れるほどに闘うんですか」 「そんなことだからこそ、彼女は立ち向かうんです」 一秒と空かずに返ってきた答えに、優男は口を噤んだ。 しかし、またすぐに疑問が浮かび、優男は質問を投げかけた。 「彼女は何と闘っているんですか。 どうしていつもボロボロになって帰ってくるんですか。」 少女はまた、紅茶を一口。 「あなたたちの敵であり味方であり、子供であり親である存在です。 概念的な存在ですから、人間と会うことはないですけどね。 ボロボロになって帰ってくるのは私がそういう風に指導したからだと思います」 「ペリドットさん!」 優男は立ち上がり叫んだ。 「ごめんなさい、とは言いません。 彼女は闘うと自分で決めました。私にはそれを止められませんでした。 だからせめて、ちゃんとした闘い方を教えました。その術を扱う心も育てたつもりです」 「じゃあ、金剛石があんなに痛々しい姿で帰ってくるのも彼女自身のせいだって言うんですか!」 優男は息を巻き、少女は茶器を机に置いた。 「彼女自身の責任です」 少女は答え、盆にカップを載せ始めた。 「今日の所は、これでお引き取りください」 優男は、少女の姿にそれ以上何も言う気になれず、館の外へと飛び出した。 空は更に曇り、今にも雨が降り出しそうだった。 ◇ 「そうじゃなくて、どうしてボロボロになるまで闘うの。どうしてすぐに諦めて帰ってきてくれないんだ。 怪我をしてからじゃ遅すぎるんだ。もう、汚れて帰ってくる金剛石は見たくないんだ……」 膝から崩れ落ちた優男を、少女は優しく抱き締めた。 「マスター、知ってる? 勝ち方を選べるのは強い者だけ。私たちのように儚い者は、必死になってもがかなきゃ勝てないんだ。 ううん、私なんてまだまだ未熟だから、どんなに頑張ったって勝てないかもしれない。 それでも、私は勝ちたいよ。勝って、みんなで笑うの。楽しい月曜日だなぁ、って。ステキでしょ?」 少女は腕を解き、優男の目を見つめた。 「きっと勝つから。だから、もうちょっと待っててね」 少女は優男の額に唇を寄せ、寝室へと向かった。 優男が窓から見た空には雲一つなく、大きな星が一つ、輝いていた。 jm1_2089.jpg
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「君の使い魔…キュートなところが君にそっくりだよ……」 稚拙で甘ったるい言葉だな、聞いていて思わずゲロが出そうだぜ。だが、モンモランシーはまんざらでもない反応を示す。なるほど、この 姉ちゃんはこの優男を悪く思ってないんだな。そうじゃなきゃ、こんな言葉を聞いた瞬間拳が出てもおかしくないぜ。 「僕は、君の瞳に嘘はつかないよ」 冗談は顔だけにしてくれ、お前大嘘ついてるじゃねぇか。 「でも最近、一年生と付き合っていると言う噂を聞いたんだけど?」 「うっ!……馬鹿な事を……君への想いに裏表なんてないんだ……」 察しがいいな、昨日の借りもある。少々首を突っ込んでみるか……。 「そう言えば……昨日は暗かったから両方黒と思っていたが、あの姉ちゃんのマント茶色かったかな……学年ごとに色分けされているのか」 余計な一言で付け加えた俺の言葉で焦りの表情がうかがえる優男と、疑念を滲ませるモンモランシー。 「とっ…とっとと仕事に戻りたまえ……ああ!ゼロのルイズの……!!」 「昨日は後ろから襲って悪かったな、じゃあな」 にこやかに去る俺を見たモンモランシーは一層疑念に満ちた顔で優男に問い質す。 「ねぇギーシュ何の話よ?トニーの言った意味を説明してちょうだい」 この優男の名前はギーシュと言うのか。野郎、二股ばれそうになって焦ってやがるな。 「あっ……」 これはこれは……昨日優男と一緒に乳繰り合っていたガキじゃねぇか。反応から察するに、襲ったのが俺だと言うのに気が付いてやがるな。 そしてバスケットを持って優男探しているところを見ると……破綻も時間の問題か。 「あ…あの、ギーシュ様は……?」 「ああ、ギーシュ『様』なら、あちらのテーブルですよ」 腹から来る笑いを堪えながら何食わぬ顔をして対応すると、多少疑問に持ちつつもこのガキは優男の元に走っていく。自重しても、ニヤケた 顔を止める事は後半になって無理になった。いや、笑うだろ?コレは。 「ギーシュ様ぁ♪」 まずいな、笑いがとまらねぇ。この先の顛末を容易に予想できる辺り我慢出来ないな……。 「ケ…ケティ!?」 「探しておりましたわ、ギーシュ様ぁ♪」 普通ならば、状況が普通ならば普通の恋人に見えるのだが、横に居るモンモランシーが笑いを誘う。 「昨日話しておいた手作りのスフレ、今日のお茶会にと思いまして」 このガキの一言でモンモランシーの疑念が最高潮に達する。 「昨日の?」 「よかったじゃねぇか色男、お前昨日嬉しそうに話してたじゃねぇかよ」 そこで止めの一言を投げかけた。 「き…君!?」 「本当の事じゃねぇか」 「さっきから君は何を言ってるんだ!彼女たちに誤解を……」 「誤解か?俺は事実しか言ってないぜ……あのまま俺に襲われてなかったら、そのまま草むらか何処かに連れ込んで犯っちまう手筈だったんだろ?」 この一言に場が一気に緊張する。貴族は聞かないかもしれない下品な言い回しで攻め立てると、非常に苦し紛れだが優男は反論する。 「ヤるって何だ!?」 「知らないんかよ……そりゃ押し倒して××××××××しちまう事なんじゃねぇの?」 最後の下品極まりない一言に場は爆笑に包まれ、もう笑うしかない奴や、困惑する奴、赤くなる奴様々だった。モンモランシーとガキはこの一言が 止めとなり、全身全霊の平手打ちをこの優男に浴びせて背を翻していった。がっくりと肩を落としながらもしっかりと起き上がる。 「どうやら君は……貴族に対する礼を知らないようだな」 女二人に平手を浴びた優男の怒りは、はっきりと俺に向いた。 「知らねぇなそんな事は」 「よかろう」 しれっとした態度でこう言い返すと、優男は逆ににやけながら俺を見据えてきた。 「はぁ?決闘?」 優男は薔薇を此方に向けながら仰々しくこうのたまった。おいおい、二股掛けて破綻した自業自得だぞ? 「その通り君に決闘を申し込む、君は平民で、あまつさえ使い魔の分際でこの貴族であるこの僕を侮辱し、二人のレディーをも泣かした!」 格好よく決めたつもりなのだろうが、正確な状況を言い切ってやる事にする。 「泣くどころか、ブチ切れてたぞ」 そう言うと周囲は爆笑に包まれた。だが、それに怒りに油を注いだのかこの優男はやる気マンマンだ。 「決闘ねぇ……言い方は格好いいが、要は 殺 さ れ て も 文 句 は な い んだよな?」 真顔でこう言うと、一気に緊張する。さっき嬲ったデブなんか、奇声を上げて逃げていったぞ。 「かっ…覚悟はいいな!?広場で待っている!」
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※三作目です ※ゆっくりと畑と野菜(2)に続きます ※人間は直接手を下すのではなく、間接的に状況を作ります ※いじめ対象は個別のゆっくりではなく群れ全体です ※↑なので個別のゆっくりに対する描写は少なめです ※俺設定を含みます ※その他あれこれとあるかもしれません 『ゆっくりと畑と野菜』 ゆっくりの個体が脆弱であることは今さら言うまでもない。 ゆっくりには肉食の獣が持つような力強さはまるで存在しない。 草食の獣が持つような敏捷性も持たない。 力強さも敏捷性もない生き物、例えば人間が発揮するような知恵や器用さも無い。 腕力や脚力、知恵や器用さといった点から見れば、ゆっくりが脆弱であるという評価は揺るぎない。 しかし、種族として、集団としてのゆっくりは果たしてどうだろうか。 個体としては弱いゆっくりだが、種の保存と生存という点から見れば決して弱い生き物ではないのだ。 目の前に現れた間抜けなゴキブリを殺すことは簡単でも、 人の目の届かないところで増殖していくゴキブリを全て殺すのが不可能であるように、 一旦山や森に住み着いてしまったゆっくりを根絶やしにするのは決して簡単な仕事ではない。 力押しで、例えば目に付くゆっくりを手当たり次第に殺しても全滅させることは出来ない。 頭を働かせて、例えば毒入りのエサなど罠を仕掛けても全てのゆっくりが引っ掛かるわけではない。 そうして生き残ったゆっくり達は必ずまた増殖を始める。 ゆっくり達を群れごと破滅させるにはもっと別な方法が必要なのだ! そのためにはゆっくりが弱いという個体に対する固定観念に縛られていてはいけない! とある村の寄り合い場で優男がゆっくりについて熱弁をふるっている。 村人達は優男が語る言葉を、苦虫を噛み潰したような表情で聞いている。 村人達には優男の語る内容に大いに心当たりがあったからだ。 村近くの小さな山にゆっくりの群れが住み着いて以来、村人達は何とかゆっくりを排除しようと努力を重ねてきた。 しかし、時には山狩りを行い、時には罠を仕掛けてゆっくりの数を減らしても結局時間が経つと元通りになってしまう。 山菜や茸などの山の恵みや農作物の被害も一向に減らない。 こうした金と時間と労力の浪費を何度か繰り返した村人達は、 とうとう自分たちでゆっくりに対処することを諦めて外部の専門家を呼ぶことにした。 近頃はゆっくり被害の増加を一つの需要と捉えた、ゆっくり対策を専門とする団体が存在している。 そういった団体の一つに所属し、請われて村にやって来たのがこの優男だ。 そして、優男は村に着くなり寄り合い場に人を集めて、 本気でゆっくりを排除したいのならまずは考え方を根本から変えねばならないと宣言したのだった。 男の演説が一段落したのを見計らって、一人の若い村人が尋ねた。 「自分たちのこれまでのやり方、考え方が間違っていたのは分かった。 しかし、それなら一体どういう方法をとればいいんだ?」 その発言を聞いた村人達もそうだ、そうだと口にする。 どうやらこの優男によると、ゆっくりを群れごと排除するというのは辺り一帯の害虫を全滅させるようなものらしい。 自然豊かな村の住人として、日頃から害虫に接する機会の多い彼らにはそれがどんなに困難なことか容易に理解出来た。 害虫というのはどれだけ対策をしても、時期になれば殆ど湧き出るようにして現れるものなのだ。 内心の不安を反映するかのように、村人達の苦虫を噛み潰したような表情が益々きつくなる。 優男はその不安を見透かしたかのように穏やかで明るい声を出した。 「ええ、虫であれば不可能でしょう。しかしゆっくりを排除することは決して不可能ではありません。」 優男のその言葉の端々から伝わる自信に、村人達の表情も幾分和らいだ。 村人達は、なぜそう言えるんだ、説明してくれという声を上げる。 「虫たちは余計な欲望は持ちません。ただ本能に従い、種を維持するために生きます。 だから彼らは無闇に争ったりしませんし、必要もないのに命を落としたりはしません。 しかし、ゆっくりは違います。彼らはその個体としての能力に分不相応な大きな欲望を持ちます。 そして、その為に必要もないのに人間に喧嘩を売って命を落としたり、 場合によっては同族同士で進んで殺し合うことさえあります。 我々は虫にはなくてゆっくりにはあるもの。つまり、その大きな欲望を煽り、そこにつけ込むのです」 村人達が感嘆の声を漏らした。 先ほど優男に質問した若い村人も納得の表情を浮かべながら話を先に進める。 「具体的にはどうするんだ?」 優男が、足下に置いてあったカバンから資料らしき紙の束を取り出して答える。 「既に下調べは済んでいます。どうやらこの山のゆっくり達は、山菜・茸・野菜・果物など より満足出来る食料を集めることに執着しているようですので、それを利用します。 具体的には――」 次の日の午前中、ゆっくりの群れの中心地となっている少し開けた山中の広場に、 優男と若い村人と数人の屈強な男達の姿があった。 ゆっくり達は彼らを取り囲むようにして円の形を作っている。 円の中から周囲のゆっくりより二回り程大きなまりさが歩み出た。どうやらこの群れの長らしい。 幹部らしき何匹かのゆっくりもそれに続く。 「ゆっ!いつもまりさたちがゆっくりするのをじゃまするにんげんがなんのようなのぜ!?」 「おばかなにんげんさんはかえってね!」「ここはいなかものがくるばしょじゃないわ!」 ゆっくり達はいきなり喧嘩腰だ。 これまで何度も村人達に痛い目に遭わされてきた群れの指導者としては当然の態度だろう。 若い村人はカチンと来たようだったが、優男の方はゆっくりに罵倒されたことを気にした風もなく話し出す。 「僕らは村からの遣いだよ。実は、つい先日行われた村の話し合いで ゆっくりを虐めるのはもう止めようということになってね。それを伝えに来たのさ」 この言葉はゆっくり達にとって予想外のものだったらしい。 形作られた円からざわめきが広がった。長まりさも面食らった表情をしている。 代わりに長に続いて前に出た幹部の一員であるぱちゅりーが話し出した。 「むきゅ、つまりぱちゅりーたちとにんげんとでなかなおりをしましょうということ?」 「まあ、簡単に言ってしまえばそうだね」 一瞬置いて行かれそうになっていた長まりさが慌てて会話に割り込んでくる。 「なにをつごうのいいことをいってるのぜ!? いままでさんざんまりさたちをじゃましたくせにちょうしにのるんじゃないのぜ!」 「もちろんタダでとは言わないよ。 君たちが僕らを受け入れてくれるなら、今後山に村人は近づかないようにする。 そして、お詫びの印としてここに君たち専用の広い畑を作ってあげよう」 優男の言葉にゆっくり達から再びざわめきが起こる。 ゆっくりにとって野菜は一つの憧れだ。畑があればそれが危険を冒すことなくいつでも手に入る。 魅力的な提案に、喧嘩腰だった群れの指導者達の態度も緩んだ。 「ゆゆ~。まりささまにやさいさんをけんじょうしてゆるしをこうとは、 なかなかみどころがあるにんげんなのぜ!」 「れいむはおやさいさんだいすきだよ!いっぱいちょうだいね!」 「むきゅ、はたけさんがあればふゆのしょくりょうもあつめやすくなるわ」 「とかいはは、すぎさったことにはこだわらないものよね!」 ちょろいもんなんだな、若い村人は表情に出さずに内心だけで思った。 ゆっくりというのは、こんなにも簡単に目先の欲に釣られるものなのか。 今まで散々苦労しながら強引に何とかしようとしていたのが馬鹿みたいだ。 好感触を得た優男が笑みを浮かべながら続ける。 「じゃあ、そういうことでいいかな?」 「ゆっ!しょうがないからゆるしてあげるのぜ!だからさっさとはたけさんをつくるのぜ!」 長まりさはあっさりと頷いた。 それを聞いた優男が若い村人の方に向き直って言う。 「じゃあ、許してもらえるそうなので『畑』作りの指示をお願いします。 僕はゆっくりについては専門ですけど土いじりについては素人なので。 ……ああ、もちろん事前に伝えた通りに頼みますね。 僕も、事前の計画通りに調べをすすめますから……」 後半は蚊が鳴くような小さな声だった。ゆっくりたちには聞こえていないだろう。 「分かった。ここは任せてくれ」 優男は屈強な男達にも指示を出す。 「じゃあ、皆さんは彼の指示に従って、『畑』作りの手伝いをお願いします。」 その日の夕方頃、大の男数人が一日中働いて、ようやく『畑』が完成した。 長まりさと幹部たちと一緒に群れのテリトリーを歩き回って、 熱心に何かをメモしていたいた優男もようやく戻ってきた。 長まりさと幹部達は、このゆっくりした群れを是非見学してみたいと優男に強く頼まれ、 得意満面な笑顔であちこちを案内していたのだった。 ゆっくり達が指導者の帰還に気付いてわらわらと集まってくる。 「ゆっくりしていってね!」 長まりさが若い村人と屈強な男達に挨拶した。 午前中からは信じられないほど友好的な態度だ。 「長。どうです?凄い『畑』でしょう? こんなに広い『畑』は村にもありませんよ?」 「ゆゆ~ん。とってもひろくてゆっくりしてるのぜ~」 「おやさいさんたのしみだよぉ」 「むきゅ、たしかにはたけさんね。にんげんさんのはたけさんにそっくりだわ」 「このとかいはなはたけさんからは、きっととかいはなおやさいさんがはえるわ!」 長まりさ達はこの『畑』に大満足のようだ。 若い村人に発作的な笑いの感情がこみ上げた。吹き出さないよう必死で耐えているのが見て分かる。 優男はそんな若い村人をちらりと横目で見て言った。 「じゃあ、今日のところは僕らはこれで引き上げます。何日かあとにまた様子を見に来ますね」 「ゆっくりしていってね!」「「「「「ゆっくりしていってね!!!!!」」」」」 長まりさとゆっくり達の大合唱に送られて優男達は帰途に着いた。 ゆっくり達のテリトリーを抜けた辺りで、周囲を確認してから優男が若い村人に話しかけた。 「どうやら第一段階は上手く行ったようですね。しかし、あの態度は困りますよ」 若い村人が笑いを堪えていた時のことを言っているのだ。 確かにあの態度は良くなかった。もしゆっくり達に不審がられれば作戦は台無しになる。 「ああ、すまない。あの見せかけだけの『畑』であれだけ喜ぶ連中が余りにも滑稽でな」 若い村人は素直に謝罪した。 そう、あの『畑』こそがゆっくり達を追い詰める作戦の肝なのだった。 実のところ、優男達は畑など作ってはいない。 ただ適当に場所を決めて地面を掘り返して、畑に似た体裁を整えただけだ。 村で農業に関わって暮らしている若い村人の指導のおかげで、 見た目だけはそれなりのものになっている。 だが、あの『畑』では石を取り除いたり肥料を与えて土を準備していない。 水はけの確認や水路の計算もしていない。 いや、それどころか種すら蒔いていない。 要するに、あの『畑』は徹頭徹尾見せかけだけで、野菜など生えてくるはずがないのだった。 そんな見せかけだけだったからこそ、たった一日で村のどの畑より広い面積を確保出来たのだ。 そしてその広さのおかげで、ゆっくり達は完全に優男を信用している。 数日後には野菜が生えてくるものと信じ切っている。 自分たちを排除する作戦を実行している人間達に、 完全に懐に入られてしまっている。 確かに滑稽そのものだった。 続く
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※三作目です ※ゆっくりと畑と野菜(2)?に続きます ※人間は直接手を下すのではなく、間接的に状況を作ります ※いじめ対象は個別のゆっくりではなく群れ全体です ※↑なので個別のゆっくりに対する描写は少なめです ※俺設定を含みます ※その他あれこれとあるかもしれません 『ゆっくりと畑と野菜』 ゆっくりの個体が脆弱であることは今さら言うまでもない。 ゆっくりには肉食の獣が持つような力強さはまるで存在しない。 草食の獣が持つような敏捷性も持たない。 力強さも敏捷性もない生き物、例えば人間が発揮するような知恵や器用さも無い。 腕力や脚力、知恵や器用さといった点から見れば、ゆっくりが脆弱であるという評価は揺るぎない。 しかし、種族として、集団としてのゆっくりは果たしてどうだろうか。 個体としては弱いゆっくりだが、種の保存と生存という点から見れば決して弱い生き物ではないのだ。 目の前に現れた間抜けなゴキブリを殺すことは簡単でも、 人の目の届かないところで増殖していくゴキブリを全て殺すのが不可能であるように、 一旦山や森に住み着いてしまったゆっくりを根絶やしにするのは決して簡単な仕事ではない。 力押しで、例えば目に付くゆっくりを手当たり次第に殺しても全滅させることは出来ない。 頭を働かせて、例えば毒入りのエサなど罠を仕掛けても全てのゆっくりが引っ掛かるわけではない。 そうして生き残ったゆっくり達は必ずまた増殖を始める。 ゆっくり達を群れごと破滅させるにはもっと別な方法が必要なのだ! そのためにはゆっくりが弱いという個体に対する固定観念に縛られていてはいけない! とある村の寄り合い場で優男がゆっくりについて熱弁をふるっている。 村人達は優男が語る言葉を、苦虫を噛み潰したような表情で聞いている。 村人達には優男の語る内容に大いに心当たりがあったからだ。 村近くの小さな山にゆっくりの群れが住み着いて以来、村人達は何とかゆっくりを排除しようと努力を重ねてきた。 しかし、時には山狩りを行い、時には罠を仕掛けてゆっくりの数を減らしても結局時間が経つと元通りになってしまう。 山菜や茸などの山の恵みや農作物の被害も一向に減らない。 こうした金と時間と労力の浪費を何度か繰り返した村人達は、 とうとう自分たちでゆっくりに対処することを諦めて外部の専門家を呼ぶことにした。 近頃はゆっくり被害の増加を一つの需要と捉えた、ゆっくり対策を専門とする団体が存在している。 そういった団体の一つに所属し、請われて村にやって来たのがこの優男だ。 そして、優男は村に着くなり寄り合い場に人を集めて、 本気でゆっくりを排除したいのならまずは考え方を根本から変えねばならないと宣言したのだった。 男の演説が一段落したのを見計らって、一人の若い村人が尋ねた。 「自分たちのこれまでのやり方、考え方が間違っていたのは分かった。 しかし、それなら一体どういう方法をとればいいんだ?」 その発言を聞いた村人達もそうだ、そうだと口にする。 どうやらこの優男によると、ゆっくりを群れごと排除するというのは辺り一帯の害虫を全滅させるようなものらしい。 自然豊かな村の住人として、日頃から害虫に接する機会の多い彼らにはそれがどんなに困難なことか容易に理解出来た。 害虫というのはどれだけ対策をしても、時期になれば殆ど湧き出るようにして現れるものなのだ。 内心の不安を反映するかのように、村人達の苦虫を噛み潰したような表情が益々きつくなる。 優男はその不安を見透かしたかのように穏やかで明るい声を出した。 「ええ、虫であれば不可能でしょう。しかしゆっくりを排除することは決して不可能ではありません。」 優男のその言葉の端々から伝わる自信に、村人達の表情も幾分和らいだ。 村人達は、なぜそう言えるんだ、説明してくれという声を上げる。 「虫たちは余計な欲望は持ちません。ただ本能に従い、種を維持するために生きます。 だから彼らは無闇に争ったりしませんし、必要もないのに命を落としたりはしません。 しかし、ゆっくりは違います。彼らはその個体としての能力に分不相応な大きな欲望を持ちます。 そして、その為に必要もないのに人間に喧嘩を売って命を落としたり、 場合によっては同族同士で進んで殺し合うことさえあります。 我々は虫にはなくてゆっくりにはあるもの。つまり、その大きな欲望を煽り、そこにつけ込むのです」 村人達が感嘆の声を漏らした。 先ほど優男に質問した若い村人も納得の表情を浮かべながら話を先に進める。 「具体的にはどうするんだ?」 優男が、足下に置いてあったカバンから資料らしき紙の束を取り出して答える。 「既に下調べは済んでいます。どうやらこの山のゆっくり達は、山菜・茸・野菜・果物など より満足出来る食料を集めることに執着しているようですので、それを利用します。 具体的には――」 次の日の午前中、ゆっくりの群れの中心地となっている少し開けた山中の広場に、 優男と若い村人と数人の屈強な男達の姿があった。 ゆっくり達は彼らを取り囲むようにして円の形を作っている。 円の中から周囲のゆっくりより二回り程大きなまりさが歩み出た。どうやらこの群れの長らしい。 幹部らしき何匹かのゆっくりもそれに続く。 「ゆっ!いつもまりさたちがゆっくりするのをじゃまするにんげんがなんのようなのぜ!?」 「おばかなにんげんさんはかえってね!」「ここはいなかものがくるばしょじゃないわ!」 ゆっくり達はいきなり喧嘩腰だ。 これまで何度も村人達に痛い目に遭わされてきた群れの指導者としては当然の態度だろう。 若い村人はカチンと来たようだったが、優男の方はゆっくりに罵倒されたことを気にした風もなく話し出す。 「僕らは村からの遣いだよ。実は、つい先日行われた村の話し合いで ゆっくりを虐めるのはもう止めようということになってね。それを伝えに来たのさ」 この言葉はゆっくり達にとって予想外のものだったらしい。 形作られた円からざわめきが広がった。長まりさも面食らった表情をしている。 代わりに長に続いて前に出た幹部の一員であるぱちゅりーが話し出した。 「むきゅ、つまりぱちゅりーたちとにんげんとでなかなおりをしましょうということ?」 「まあ、簡単に言ってしまえばそうだね」 一瞬置いて行かれそうになっていた長まりさが慌てて会話に割り込んでくる。 「なにをつごうのいいことをいってるのぜ!? いままでさんざんまりさたちをじゃましたくせにちょうしにのるんじゃないのぜ!」 「もちろんタダでとは言わないよ。 君たちが僕らを受け入れてくれるなら、今後山に村人は近づかないようにする。 そして、お詫びの印としてここに君たち専用の広い畑を作ってあげよう」 優男の言葉にゆっくり達から再びざわめきが起こる。 ゆっくりにとって野菜は一つの憧れだ。畑があればそれが危険を冒すことなくいつでも手に入る。 魅力的な提案に、喧嘩腰だった群れの指導者達の態度も緩んだ。 「ゆゆ~。まりささまにやさいさんをけんじょうしてゆるしをこうとは、 なかなかみどころがあるにんげんなのぜ!」 「れいむはおやさいさんだいすきだよ!いっぱいちょうだいね!」 「むきゅ、はたけさんがあればふゆのしょくりょうもあつめやすくなるわ」 「とかいはは、すぎさったことにはこだわらないものよね!」 ちょろいもんなんだな、若い村人は表情に出さずに内心だけで思った。 ゆっくりというのは、こんなにも簡単に目先の欲に釣られるものなのか。 今まで散々苦労しながら強引に何とかしようとしていたのが馬鹿みたいだ。 好感触を得た優男が笑みを浮かべながら続ける。 「じゃあ、そういうことでいいかな?」 「ゆっ!しょうがないからゆるしてあげるのぜ!だからさっさとはたけさんをつくるのぜ!」 長まりさはあっさりと頷いた。 それを聞いた優男が若い村人の方に向き直って言う。 「じゃあ、許してもらえるそうなので『畑』作りの指示をお願いします。 僕はゆっくりについては専門ですけど土いじりについては素人なので。 ……ああ、もちろん事前に伝えた通りに頼みますね。 僕も、事前の計画通りに調べをすすめますから……」 後半は蚊が鳴くような小さな声だった。ゆっくりたちには聞こえていないだろう。 「分かった。ここは任せてくれ」 優男は屈強な男達にも指示を出す。 「じゃあ、皆さんは彼の指示に従って、『畑』作りの手伝いをお願いします。」 その日の夕方頃、大の男数人が一日中働いて、ようやく『畑』が完成した。 長まりさと幹部たちと一緒に群れのテリトリーを歩き回って、 熱心に何かをメモしていたいた優男もようやく戻ってきた。 長まりさと幹部達は、このゆっくりした群れを是非見学してみたいと優男に強く頼まれ、 得意満面な笑顔であちこちを案内していたのだった。 ゆっくり達が指導者の帰還に気付いてわらわらと集まってくる。 「ゆっくりしていってね!」 長まりさが若い村人と屈強な男達に挨拶した。 午前中からは信じられないほど友好的な態度だ。 「長。どうです?凄い『畑』でしょう? こんなに広い『畑』は村にもありませんよ?」 「ゆゆ~ん。とってもひろくてゆっくりしてるのぜ~」 「おやさいさんたのしみだよぉ」 「むきゅ、たしかにはたけさんね。にんげんさんのはたけさんにそっくりだわ」 「このとかいはなはたけさんからは、きっととかいはなおやさいさんがはえるわ!」 長まりさ達はこの『畑』に大満足のようだ。 若い村人に発作的な笑いの感情がこみ上げた。吹き出さないよう必死で耐えているのが見て分かる。 優男はそんな若い村人をちらりと横目で見て言った。 「じゃあ、今日のところは僕らはこれで引き上げます。何日かあとにまた様子を見に来ますね」 「ゆっくりしていってね!」「「「「「ゆっくりしていってね!!!!!」」」」」 長まりさとゆっくり達の大合唱に送られて優男達は帰途に着いた。 ゆっくり達のテリトリーを抜けた辺りで、周囲を確認してから優男が若い村人に話しかけた。 「どうやら第一段階は上手く行ったようですね。しかし、あの態度は困りますよ」 若い村人が笑いを堪えていた時のことを言っているのだ。 確かにあの態度は良くなかった。もしゆっくり達に不審がられれば作戦は台無しになる。 「ああ、すまない。あの見せかけだけの『畑』であれだけ喜ぶ連中が余りにも滑稽でな」 若い村人は素直に謝罪した。 そう、あの『畑』こそがゆっくり達を追い詰める作戦の肝なのだった。 実のところ、優男達は畑など作ってはいない。 ただ適当に場所を決めて地面を掘り返して、畑に似た体裁を整えただけだ。 村で農業に関わって暮らしている若い村人の指導のおかげで、 見た目だけはそれなりのものになっている。 だが、あの『畑』では石を取り除いたり肥料を与えて土を準備していない。 水はけの確認や水路の計算もしていない。 いや、それどころか種すら蒔いていない。 要するに、あの『畑』は徹頭徹尾見せかけだけで、野菜など生えてくるはずがないのだった。 そんな見せかけだけだったからこそ、たった一日で村のどの畑より広い面積を確保出来たのだ。 そしてその広さのおかげで、ゆっくり達は完全に優男を信用している。 数日後には野菜が生えてくるものと信じ切っている。 自分たちを排除する作戦を実行している人間達に、 完全に懐に入られてしまっている。 確かに滑稽そのものだった。 続く?
https://w.atwiki.jp/kirtar/pages/13.html
安っぽい民宿の一部屋 そこには旅路銀の少ない二人組の男女の姿があった 部屋の空気には何処か重苦しいものがあった 「……隣の街で何かあったようだね」 眼鏡のレンズを室内灯の光に照らしながら、その優男は沈んだ声で述べた 何が、とは言わなかったが、彼の声からしても余り良い出来事でないのが解る 部屋に一つしか無いベッドに腰掛けている少女はそう、と彼と同様の重い口調で返答した 「シュー、どうする?」 「どうするって……」 シューと呼ばれた、黒のセミロングの少女。 彼女は複雑な面持ちで優男の問いを思案する そんなシューの様子を眺めながら、優男は軽くため息をついた 「……魔獣が集まっているとの情報を得たとは言え、今、隣の街に行くのは危険すぎる」 「解ってるわよ! 解ってるけど……」 彼女、シューは腕利きの魔獣ハンターだ その実力たるや、魔獣を狩る事に関しては人類の中でも上位に位置するだろう だが、今は状況が状況である 隣の街で何があったのか、など大抵のところ予想が付く 魔獣が集結しているという情報で大規模な物だろうと予想こそしていたが 街一つ潰す魔獣の大群となれば、その予想以上の物である事に間違いない 「危険だ、シュー」 「でも、私はハンターよ? 魔獣を殺すのが仕事なの!」 「…俺は…心配なんだよ。シューを危険な目にはあわせられない…」 「子供扱いしないで!!」 心配するような表情を浮かべた優男に対し、シューが返したのは罵声に近い大声だった 直後、少女は怒鳴ってしまった事を悔いるように眉根を引き攣らせるが、謝罪の言葉を述べることは出来無かった 優男の方もそれ以上は何も言うことは無く、ただ顎を引き落とすだけだった 「ギル…、私…」 「いや、良いんだ。明日の朝早く、魔獣がまだ活動していない頃に向かおう」 「……うん」 そう述べると、ギルと呼ばれた優男は荷物を持って部屋に備え付けられた椅子へと向かった 彼はそこに腰掛けると、眼鏡を隣の机に置いて深く腰を沈める 「ギル、ベッド使わないの?」 「俺は良いよ。シューが使ってくれ」 「こ、子供扱いしないでってば!!」 「……そうかい? じゃあ、悪いけど遠慮無く」 「何よ!ベット独り占めする気!?」 「………どうしろと」 既にベットに寝転んだギルが問うと、彼女は顔を赤らめて恥ずかしそうに頬を掻く 長い沈黙の後、シューは戸惑いながらも 「い、一緒に寝れば良いんじゃないかな―……?」 と、どうにか微かな声で呟いた 「………」 「ほんの冗談よ! な、何本気にしちゃってんの!バカじゃないの!!」 「……zzz」 「…寝てるし……」 呆れたように呟くと、シューはゆっくりとベットに近付き、ギルが熟睡しているのを確認すると彼の隣に潜り込み目を瞑ったのだった… 結局彼女が朝方まで眠れなかったのは、また別のお話
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※ゆっくりと畑と野菜(1)からの続きです 数日後、優男と若い村人はあの『畑』のところに向かっていた。 成果の確認と次なる仕込みを施すためだ。若い村人はその為に使う材料を包んだ風呂敷を提げている。 二人は、ゆっくり達のテリトリー手前で立ち止まって周囲を確認した後、 これからの行動について確認した。 「さて、ここから別行動な訳ですが、やるべきことは分かっていますね?」 「勿論だ。ゆっくりには絶対に見つからないようにする」 「私の方でも、なるべくこちらに注意が集まるよう話を持って行きます。では、お願いします」 確認を済ませると、優男は堂々と山を進み、若い村人は隠れるようにして進んでいった。 優男が『畑』に到着した。 すると、まるで畑を見張るようにしていた長まりさと幹部達が優男に気付き、 ゆっくりらしからぬ素早さで駆け寄っていく。 「やあ、長。ゆっくりし――」 「ジジイ!どういうことなんだぜ!?」 優男の挨拶を遮るようにして長まりさが突っかかった。再びの喧嘩腰だ。 その一言で、作戦が上手く機能していることを見て取った優男が平然と続ける。 「そんなに興奮してどうしたんだい、長?」 「どうもこうもないのぜ!ジジイは嘘をついたのぜ!」 「むきゅう!あのはたけさんからは、おやさいさんがはえてこないのよ!」 「あのはたけはとんだいなかものだわ!」 興奮して優男をなじるばかりの長に代わって、ぱちゅりーとありすが説明する。 二匹の方も、長よりは冷静だが、それでも憤懣やるかたないといった空気を発している。 「つまり君たちは、あの『畑』から野菜を採れていないということかい?」 「さいしょからそういってるのぜ!!」 「ばかなじじいはれいむたちにあやまってね!」 頃合いだな、優男は内心で呟いた。 ゆっくり達は冷静さを失い、目先の野菜しか見えないようになっている。 作戦を次の段階に進める条件は揃っている。 「そうなのか……。でも、それはおかしいよ」 「ゆっ!?だからそういってるのぜ!はえてくるはずのやさいさんがはえてこないのぜ!」 「ああ、違う違う。そういう意味のおかしいじゃなくてね、 野菜が生えてこないはずがないっていうことだよ。だってそうじゃないか? 畑があるのに野菜が生えてこないなんてそんなゆっくりできないことはありえないだろう?」 その言葉に、ゆっくり達が一瞬返答に詰まったのを見逃さずに優男が畳み掛ける。 「ねえ、長。長だってあの『畑』をとってもゆっくりした畑だって認めてただろう?」 「ゆ。たしかにそういったのぜ」 「ぱちゅりーとありすも、人間の畑にそっくりだ、都会派だって喜んでたじゃないか」 「むきゅう」「とかいはなれでぃはうそはつかないわ」 「だったら、野菜が生えてこないはずがないだろう? これまで色んな畑と野菜を見てきたみんながお墨付きを与えた『畑』なのに」 優男のその言葉に、それでも納得できないように長まりさが反論する。 「で、でも、じっさいはたけさんにはやさいさんがないのぜ?」 「うん。だからね、考え方を変えなきゃいけないんだ。 あの畑から野菜が生えてこないはずがない。でも実際畑には野菜がない。 じゃあ、野菜が生えてこなかったんじゃなくて、誰かが生えてきた野菜をこっそり持って行ってしまった。 その可能性の方が高いんじゃないかい?」 優男が言っているのは無茶苦茶な理屈だった。 特に、あの見せかけだけの『畑』から野菜が生えるはずがないと知っている者にとっては。 しかし、『やさいさんはかってにはえてくるもの』と信じ込んでいるゆっくり達には効果覿面だった。 みんなで確認したとってもゆっくりした『畑』。そこに野菜が生えてこない訳がない。 でも、今、現実に畑には野菜がない。ならば、生えてきたはずの野菜はどうなったのか。 優男の言葉、その意味するところがゆっくり達の餡子に染み渡っていく。 「ゆうぅ~!?たいへんなのぜ!やさいどろぼうがいるのぜ!」 「れいむたちのはたけさんからおやさいさんをぬすむなんてゆっくりできないよ!」 「はんにんは、きっととんでもないいなかものね!」 「むきゅう、でもだれがそんなことを……。はんにんをつきとめなきゃいけないわ」 ぱちゅりーの言葉を燃料にしてゆっくり達の怒りが燃え上がった。 そうだ、犯人を捜さなきゃいけない。そして制裁してやる。 群れの宝に手を出したことを後悔させながら永遠にゆっくりさせてやる。 優男はゆっくり達のそんな内心の動きを的確に把握していた。 そして、その感情の矛先を都合のいいように操るべくゆっくり達に声を掛ける。 「じゃあ、一つずつ整理してみようか。 まず数日前に、僕らがここに来て人間とゆっくりの仲直りの証に『畑』を作った」 「むきゅ、そのとおりね」 「そして、『畑』作りを終えた僕らは山を下りた」 「ええ、とかいはなおみおくりをしたわ」 「それ以来、仲直りしたこともあって村人はゆっくりの山に近づいていない」 「ゆっ!たしかににんげんさんをみたってほうこくはされてないのぜ!」 「それなら、ここ数日間で畑に近寄れたのはゆっくりか動物か虫かっていうことになるね」 「ゆっくりりかいしたよ!」 「ところで、この山で主に野菜を食べるのは一体誰だい?」 「むきゅ、もちろんぱちゅりーたちよ」 「とかいはなおやさいさんは、とかいはなありすたちにこそふさわしいたべものだわ」 「どうぶつさんたちはおやさいさんなんてたべないよ!」 「ゆっ!ゆっくりしたやさいさんは、ゆっくりしたゆっくりにたべられるのがしあわせ~なのぜ!」 張り切って答えるゆっくり達を見ながら、男は若い村人のことを考えていた。 さて、どうやらこちらは上手く行きそうだ。ならば作戦の成功は彼が上手くやるかどうかに掛かってくる。 どうか頑張ってください。 優男は、ゆっくり達に見つからないよう慎重に慎重を重ねて 山を進んでいるはずの若い村人に内心でエールを送った。 そして、気分を切り替えると、満を持してゆっくり達に破滅の言葉を投げかける。 「と言うことは、野菜を盗んだのはゆっくりの誰かである可能性が高いということだね。 だってこの山には野菜を食べたがるのはゆっくり達しか居ないんだから」 「ゆっ!?」「ゆぅ?」「むきゅ?」「ゆゆゆ?」 ゆっくり達は混乱しているようだ。 ただそれでも、必死で今の会話を反芻して何とか優男の言葉を理解しようと努めている。 普段は、ぱちゅりーを除けば頭を使いたがらない傾向が強いゆっくりにここまでさせるとは。 食い物の恨みは恐ろしい。 「ゆ、ゆっくり、りかいしたの……ぜ?」 「むきゅう、たしかにおにいさんのいううとおりだわ」 「むれにそんないなかものがいるなんてゆるせないわね」 「そんなことするゆっくりがいるなんて、れいむはゆっくりりかいできないよ……。」 ゆっくり達は優男の言葉をそのまま受け入れた。 これには優男自身も驚いている。 優男としては、さすがに身内に犯人が居ると言えば抵抗されるだろうと想定して 気持ちと反論の準備をしていたのだった。 しかし、現実はこの有様。 どうやら、村のどの畑よりも広い『畑』を作って野菜を提供したというのが、 予想以上にゆっくり達の心を掴んでいたらしい。 優男も下調べの段階で掴んでいた情報ではあったが、ここまで食い意地の張った群れはさすがに珍しかった。 「なら、ここに群れのゆっくりを集めてみればいいのでは? もし集まることを嫌がる怪しいゆっくりが居ればそれが犯人かもしれないし、 みんな集まったら集まったで犯人捜しがやりやすくなるよ」 優男は気を取り直してゆっくり達を更に都合のいい方に誘導しようとする。 自分の方に注意を集めて若い村人を援護する為には、 群れのゆっくり全てに一カ所にまとまっていて貰った方がいい。 「ゆっ!?さすがはおにいさんなのぜ!そうするのぜ!れいむ、ありす、ぱちゅりー! むれにひとりのこらずあつまるようつたえるのぜ!こなかったゆっくりははんにんだとみなすのぜ!」 「ゆっくりりかいしたよ!」「とかいはなさくせんね」「むきゅ、けんめいなはんだんだわ」 長ともあろう者が、『さすがはお兄さん』と来た。 このゆっくり達はいまや完全に優男の掌の上に乗っていた。 しかも、本人達はそれに気付かず、むしろ『畑』を用意し、山から人間を遠ざけ、 野菜泥棒を捕まえる手助けをしてくれていると判断して全幅の信頼を寄せている。 その全てがここのゆっくり達を群れごと陥れるための仕込みだというのに! 先日、若い村人に注意をした身ではあるが、優男も笑い出したい衝動が湧き上がってくるのを感じていた。 必死で堪えて何でもない風を装っているおかげで表情や態度には変化がないが、 内心は狂ったように笑い出したいという気持ちで一杯だった。 掌の上で踊るゆっくり達の姿は、それほど哀れで惨めだった。 それからしばらく時間が経ち、群れの集合が完了した。 一人残らず集まるようにと厳命され、来なければ犯人と見なすと説明されているため、 本来ならまだ巣から出るべきでない赤ん坊から妊娠した大人まで様々なゆっくりが一堂に会している。 広い『畑』を作ってもまだそれなりに余裕のあった広場が埋まる程の数だった。 長まりさが少し高くなった斜面上にある切り株に乗り、幹部がその周りを固めた。 群れの集合では、幸か不幸か全てのゆっくりが集まって誰が怪しいか分からなかった。 そこで、これから犯人捜しを行うつもりなのだ。 「ゆっ!!みんなきくのぜ!!! まりさたちがてにいれたはたけさんに、やさいさんがないことにはみんなきづいてるとおもうのぜ!!! まりさたちがちょうさしたけっか、そのやさいさんはむれのだれかにぬすまれた かのうせいがたかいとはんめいしたんだぜ!!!」 集まったゆっくり達のあちこちから声が上がった。 自分は泥棒じゃないと主張する者、群れにそんなゆっくり出来ないゆっくりが居るなんてと怒る者、 野菜を楽しみにしていたのにと嘆く者。反応は様々だ。 幹部達が声を張り上げて、群れを宥める。 数分掛けてようやく静かになった。 長まりさが続ける。 「そこで、いまからはんにんさがしをおこなうのぜ!!! やさいさんをぬすんだゆっくりは、なのりでるのぜ!!! いまなら、ついほうだけでゆるしてあげるんだぜ!!!」 長まりさの言葉は勿論嘘だ。追放で許す気などあるはずがない。 野菜を盗んだゆっくりを永遠にゆっくりさせてやる気満々だった。 しかし、そう言ってしまえば名乗り出てこないだろうと考えて、 長まりさなりに知恵を働かせてああ言ったのだった。 しかし、当然誰も名乗りでない。 優男からすれば当たり前の結果だ。 そもそも、野菜泥棒どころか盗まれる野菜さえ存在しないのだから。 だが、長まりさは苛立った。 群れのゆっくり達が保身に走っていると考えた。 その感情の赴くままに更に続ける。 「あとになって、だまっていたことがばれたらひどいのぜ!!! いまのうちなんだぜ!!!」 群れのゆっくりも幹部達も誰も何も言わない。 沈黙が場を支配した。そのまま数分が経過する。 このままでは埒があかないと考えたのか、ぱちゅりーが長まりさに声を掛けた。 「むきゅう、だれもなのりでないわ。どうするの?」 「ゆゆっ」 長まりさは返答に詰まった。 そもそも、長まりさは優男に煽られた勢いのまま突っ走っていただけなのだ。 群れを集めて、犯人捜しをして、見つからなかったらどうするかなど考えているはずがない。 長まりさが助けを求めるように優男を見る。 優男はその時、自分の方に群れの注意を集めてから過ぎた時間を計算していた。 群れを集めるための時間、宥めるための時間、沈黙の時間。 充分だ。 若い村人が仕込みを行い、テリトリーから抜け出すのに充分な時間だ。 そう判断すると、にっこりと笑顔を作って、長まりさに助け船を出してやる。 ただし、その助け船の行き先は地獄であった。 「名乗りでないのであれば仕方がないね。 手当たり次第に家を捜索してみるのがいいかな。 あの広い『畑』から盗んだ大量の野菜を数日で食べきることは出来ないはず。 犯人の家には痕跡が残っているに違いないよ」 なるほど、長まりさは感心した。やっぱりお兄さんは頼りになる。 群れの方に向き直って宣言する。 「だれもなのりでないから、いまからみんなのいえにやさいさんがないかかくにんするのぜ!!! うらむならはんにんをうらむのぜ!!! れいむ、ありす、ぱちゅりー。そうさたいをけっせいするのぜ!」 長まりさの言葉の後半部分、自分たちへの指示を受け取った幹部達が動き出す。 自分に近しいゆっくりに声を掛けて、捜査隊として巣を改めに出かけていった。 長まりさがイライラと動き回っている。 捜査隊の出発から既に二十分ほど経っていた。 いつの間にか長まりさの相談役的な立場に納まった優男はそんな長まりさを宥めながら悠然と待っている。 作戦の成功を既に半ばまで確信していた。 そこへ一匹のゆっくりが口に何かをくわえて駆け込んできた。 幹部れいむと共に捜査隊として出てかけて行ったれいむだ。 捜査隊れいむが口にしていた何かを長まりさの前に置き、叫ぶようにして告げる。 「おさ、おうちからやさいさんのかけらがみつかったよ!」 「ゆぅ~!やっとみつかったのぜ!!だれのいえなのぜ!?」 「おおきなきさんのねもとにある、ちぇんとれいむいっかのすだよ!」 その言葉が発せられた瞬間、群れのゆっくりの一部がズザッという音を立てて動いた。 群れの中にぽっかりと空白ができたような状態になる。 その真ん中では成体のちぇんとれいむ、子供のちぇんとれいむ数匹が呆然としていた。 彼らがちぇんとれいむ一家であることは明白だ。 長まりさが目の前に置かれた何かを確認して言う。 「たしかにやさいさんのかけらなんだぜ! ちぇんとれいむいっか!!まえにでるのぜ!!」 長まりさが苛立ち混じりの声をぶつけるが、ちぇんとれいむ一家は動かない。いや、動けない。 嫌な空気に耐えながら早く犯人が見つかって欲しいと願っていたら、いきなり自分たちが犯人だと言われたのだ。 まともに物を考えられる状態ではとてもない。 しかし、そんな一家に周囲のゆっくり達は容赦しない。 最初はゆっくりと、徐々に激しく、罵声を浴びせる。 「どろぼういっかはゆっくりしないではやくまえにでてね!」 「このいなかものいっか!」 「みんなのおやさいをぬすむなんてわからないよー!」 そんな声に押し出されるようにして、ちぇんとれいむ一家はフラフラと長まりさの前に出た。 反論しようとしているのか、あり得ない状況に呼吸が乱れたのか、口をぱくぱくさせている。 そんな一家に長まりさは全く躊躇することなく告げた。 「おまえたちのいえからしょうこがでたのぜ! しかも、まりささまがなさけをかけてやったときになのりでなかったのぜ! ふたつのつみでおまえたちはしけいなんだぜ!ゆっくりしないでしぬんだぜ!」 そして、そのまま親ちぇんに飛び掛かる。 「わ、わからなべぇっ――」 無防備な状態で、通常の成体より二回り程大きな長まりさの体当たりを受けて、親ちぇんは吹っ飛んだ。 中身を盛大に漏らしながらピクピクと痙攣している。もう長くないだろう。 その光景にようやく我に返ったのか、親れいむが必死で弁解を始める。 「ま、まってね!れいむたちはおやさいさんをぬすんだりたべたりしていないよ!」 「じゃあどうして、いえからやさいさんのかけらがみつかったのぜ?」 「ゆ……。そ、それは……」 「それはなんなのぜ?」 「き、きっとちぇんがかってにやったんだよ!れいむとおちびちゃんたちはしらないよ!」 しかし、初めからこいつらが犯人だという結論ありきで裁いている長まりさは聞く耳を持たない。 「かたるにおちるとはこのことなんだぜ! いえのなかにやさいさんがもちこまれてきづかないはずないのぜ! どうせちぇんといっしょにたべたのぜ!」 親れいむの弁解を一蹴した長まりさが飛び掛かった。 そのまま何度も親れいむの上で跳ねて押しつぶす。 「しぬのぜ!しぬのぜ!」 「ゆげぇっ!やべでね゛!ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よ゛」 「おまえはゆっくりしないでいいのぜ!ゆっくりしないではやくしぬんだぜ!」 「も゛、も゛っどゆ゛っぐり゛じだがっだよ゛……」 親れいむが死んだ事を確認すると、長まりさは震えている子供達にも容赦なく飛び掛かる。 「わかないよー」 「たすけておかあさんんん」 「れいむたちどろぼうさんじゃな――」 「……」 そして、助けを求める子も泥棒じゃないと主張する子も呆然としていた子もまとめて潰された。 「ゆっ!あくはほろびたのぜ!」 長まりさは満足げだ。 だが、群れの悪夢はまだ終わらない。 今度は、幹部ありすと共に出てかけて行ったまりさが駆け込んできた。 捜索隊まりさは駆け込んだ勢いそのままに叫ぶ。 「ゆっ!おさ!がけのしたのどくしんありすのいえでやさいさんをみつけたよ!」 「ま、またなのぜ!?」 野菜泥棒をやっつけたぞと一仕事終えた顔をしていた長まりさはその報告に仰天した。 その様子を敏感に察知した優男が長まりさに釘を刺す。 「長、あれだけ広い『畑』から採れる野菜は一家族で食べきれる量じゃないはず。 残念だけど泥棒はまだまだ居るはずだよ」 「ゆぅ~。たしかにそのとおりなんだぜ。こうなったらてっていてきにやってやるのぜ! どくしんありす!!まえにでるのぜ!!」 今度は誰もその言葉に反応しない。 群の後ろの方で何かもめ事が起こっていて、そちらに注目が集まっている。 長まりさがヒートアップする。 「なにやってるのぜ!?しずかにするのぜ! どくしんありすははやくまえにでるのぜ!!」 すると、もめ事が起こっていた辺りから一匹のボロ雑巾のような有様のありすが運ばれてきた。 どうやらこれが独身ありすらしい。 独身ありすを運んできたゆっくり達に長まりさが尋ねる。 「なにがあったのぜ?」 「ゆ!このどろぼうはにげようとしたんだよ!」 「だからみんなでつかまえたんだね、わかるよー」 「ぁでぃずはちがぅぅ」 どうやらこの賢明な独身ありすは、さっきの一家を見ただけで 身に覚えがあろうと無かろうと前に出た時点で殺されると判断して逃げだそうとしたらしい。 しかし、あっさり捕まって袋だたきというわけだ。 優男がまたも長まりさの思考を誘導する。 「長、逃げるというのはやましいことがある証拠だ」 「おにいさんのいうとおりなんだぜ!このありすはしけいなんだぜ!」 広場は魔女裁判の様相を呈している。 前に出ればすぐに長まりさに殺され、逃げようとすれば袋だたきにされてから殺される。 死刑はすぐに執行された。 「ゆっくりせずにしぬのぜ!」 「ゅぅぅ」 既に虫の息だった、本当は無罪の独身ありすは 碌に弁解も出来ないまま永遠にゆっくりした。 独身ありすの死刑が終わった。 群れのゆっくり達は、誰が泥棒で誰が違うのかまともに判断出来なくなり疑心暗鬼に陥っている。 そんな全くゆっくり出来なくなってしまった群れに、三つの捜索隊がまとまって帰ってきた。 捜索隊の帰還に群れ全体が緊張している。 長まりさが捜索隊にねぎらいの声を掛けようとして戸惑って止めた。 捜索隊が妙に暗い雰囲気なのだ。 「どうしたのぜ?なんだかゆっくりしてないのぜ?」 「ゆぅ……。おさ、とかいはらしくおちついてきいてね……」 「むきゅう、じつはれいむのおうちからおやさいさんがでてきたの……」 「やめてね!そんなこといわないでね!れいむはなにもしてないよ!」 長まりさに衝撃が走った。群れのゆっくり達もざわめく。 よく見ると、三つの捜索隊のメンバーは単にまとまっているのではなく 幹部れいむを取り囲むように動いていることが分かる。 逃げられないようにするための措置だろう。 長まりさが衝撃の抜けきっていない、いつも以上に回らない頭で尋ねる。 「ど、どういうことなんだぜ?」 「むきゅ。ぱちゅりーが、おさの『みんなのいえをしらべる』っていうしじにしたがって ねんのためにれいむのおうちをしらべたら、かじりかけのおやさいさんがあったの」 「ゆぅ。そこにたまたまありすたちがとおりかかって、ぱちゅりーからそうだんされて、 とりあえずおさのところにれいむをつれてくることにしたの」 「れいぶなにもやっでな゛い゛い゛い゛!」 長まりさは困った。 野菜泥棒は許し難い。 でも、この群れの幹部はぱちゅりーもありすもれいむも 幼い頃から友達だった特別なゆっくり達だ。 殺したくはない。 許すべきか、許さざるべきか。 その時、群れのどこかから、やさいどろぼうはしけいだよ!と言う声が響いた。 それを皮切りに、これまで容赦なく犯人を死刑にしてきた長まりさが 幹部の時だけ躊躇っているのを見た群れのゆっくり達から死刑コールが起こった。 山中の広場にゆっくり達による死刑の大合唱が木霊する。 長まりさとぱちゅりー、ありすはもうどうすればいいのか分からないようだ。 先ほどからオロオロし続けている。 れいむは虚ろな目で、泣いているような、笑っているような不思議な顔になっている。 死刑コールを続ける群れの中程から数匹のゆっくりが押し出されてきた。 成体まりさ一匹と赤ちゃんれいむ、赤ちゃんまりさが数匹。 幹部れいむのつがいと子供たちだ。 まりさが母親役を務める珍しいタイプの夫婦らしい。 押し出された家族達の顔には深い絶望が刻まれている。 死刑コールは鳴り止まない。 その大音声の中で、自分が計算して作り上げたこの状況に 満足感を抱きながら優男が長に話しかけた。 「長、この状況でれいむ一家だけを許せば酷いことになる。決断を」 長まりさとぱちゅりー、ありすがびくりと震えた。 三匹揃って優男の顔を見る。三匹揃って惨めさを感じさせる表情になっている。 「ど、どうにか、どうにかならないのぜ?……」 「どうにもならないよ、長。」 頼りにしている優男に一蹴された長まりさの顔に深い苦悩の色が浮かぶ。 目は潤んでいて、今にも泣き出しそうだ。 ただ、それでも気力を振り絞って顔を上げると、震える声で言った。 「れ、れいむいっかはやさいどろぼうなんだぜ……。 やさいどろぼうは、し、しし、しけ、しけいなの、ぜ……」 長まりさは、群れの長として私情を封印した。 群れのために己を殺すその姿は、とかくの問題はあるにせよ 長まりさが指導者に相応しいゆっくりである証明だと言えるだろう。 その決断には人々に感動を与える可能性さえあった。 ただし、今のこの状況の全てが優男によって仕込まれた茶番にも等しい舞台だと言うことを除けばの話だが。 長まりさがれいむの方を向いて、下を向きながらぼそぼそと喋って告げた。 「……これかられいむいっかをしけいにするのぜ……」 群れのゆっくり達から歓声が上がった。 自分が死刑にしてやる、いいや自分がと執行役に名乗りを上げる声まで聞こえてくる。 ゆっくりには、他のゆっくりに対して平気で暴力を行使する一面が元々存在している。 それは、ゆっくりの群れによくある『他のゆっくりを殺した者には罰を与える』と言う規則からも窺い知れる。 この手の規則は、それがなければそういう行為に手を染める者が居るからこそ作られるのだ。 もしも、ゆっくりがそんなことなど考えもしない純粋無垢な存在であれば初めからそんな規則は存在しない。 そして、ゆっくりにとってのそんな規則は、欲望を煽り立て、恐怖におびえさせ、 そうしても良いんだという大義名分を与えてやればあっという間に有名無実化するのだった。 極度の緊張状態の中で野菜泥棒は死刑だという正義をすり込まれたゆっくり達は、 少しでも怪しい存在が居ればもはや平気でそれを殺すだろう。 幼い頃からの親友を目の前にして、ようやく目に光が戻った幹部れいむが絶叫した。 「どぼじでぞんなごどい゛う゛の゛お゛お゛!!」 それに釣られて、いつの間にか捜査隊にがっちり囲まれていた幹部れいむの家族達も叫び出す。 「まりさたちはやさいさんなんてしらないよ!わなだよ!いんぼうだよ!」 「たしゅけてみゃみゃぁぴゃぴゃぁ」「ゆっくちできにゃいよぉぉぉ」 「ゆあああああああああんん」「れいみゅたちをいじめにゃいでえぇ」 「まりしゃにゃんにもしてにゃいのにいいいい」 幹部れいむ達の叫びをかき消すように、再び群れから死刑コールが起こった。 そして、それに突き動かされるかのように長まりさが跳躍した。 渾身の体当たりが幹部れいむに突き刺さる。 「ゆあああああああああああ!!」 「ゆっべ!どうじでばりざぁ!?どうじでぇ!?」 「ゆああああああああああああああああああああああああ!!」 「ゆぶぅ!ゆごっ!やべでっ!ぼっ!びゅっう!」 れいむの声を振り払うかのように長まりさは絶叫しながら体当たりを続けた。 長まりさが冷静さを少し取り戻した時、もう幹部れいむはどこにも居なかった。 ただ、元はれいむと呼ばれていた汚い餡子袋が転がっているだけだった。 捜索隊の方では、捕らえられていた幹部れいむ一家が今まさに死のうとしているところだった。 どうやら、群れの狂気にあてられた捜索隊ゆっくり達が徹底的に暴行を加えたらしい。 「ゆっへ、ゆひ、ゆひひひひ」 親友一家を殺して、精神のタガが少し緩んでしまったらしい長まりさを見て、優男は潮時を悟った。 今日はこのくらいにしておかないと長まりさが完全に壊れてしまう。 今なら少し時間をおけば正気に戻るだろう。 それにこれ以上は自分が仕向けなくとも、ゆっくり達自身が勝手に暴走して 坂を転がり落ちるように破滅への道を突き進んでくれるはずだ。 「ぱちゅりー、ありす。」 「ゆ?」「むきゅう?」 優男に声を掛けられたぱちゅりーとありすが虚ろな目つきで反応する。 茫然自失状態の二匹に活を入れるように続ける。 「しっかりして下さい! 長も消耗しているようだし、群れがこの状態で犯人捜しを続けるのは危険です。 今日は解散しましょう」 「え、ええ、そうね。そうだわ。そうしましょう、ぱちゅりー」 「む、むきゅ……」 体の弱いぱちゅりーは、中身こそ吐いていないものの まりさとれいむの有様を見るだけで相当酷い体調になっていた。 仕方なく、ありすと優男で群れを解散させる。 群れの興奮状態はなかなか治まらなかったが、日が暮れる頃になってようやく 広場からゆっくりが居なくなった。 「ありがとうお兄さん。ありすひとりじゃどうしようもなかったわ……」 「いえ、これくらい。」 「ねえ、これからどうしたらいいのかしら?」 「長とぱちゅりーは体調を崩しているし、れいむは、その、あれですし、 ありす一人ではどうしもうもないでしょうから、しばらく様子を見た方が良いのでは?」 嘘だ。あの狂気に感染した群れのゆっくり達をしばらく放っておくなんて自殺行為だ。 本当なら、今すぐ長まりさをひっぱたいてでも正気に戻らせて、 無理にでも対処しなければならない状態だった。 いや、今すぐ対処してももう手遅れかも知れない。 「そ、そうね。そうしましょう」 「ええ、僕も今日のところは帰りますが、また数日後に様子を見に来ますよ」 「おねがい、かならずきてね」 優男がありすと別れて山を下りていくと麓の辺りで若い村人が待っていた。 「どうなった?」 「ほぼ完璧です。あなたの野菜クズの仕込みも見事でしたよ」 「それは何よりだ」 存在しないはずの野菜を使って、存在しないはずの野菜泥棒を存在させたカラクリがこれだった。 優男がゆっくり達の注意を引きつける。 その隙に、優男が群れ見学の建前で調べ上げたゆっくり達の巣の配置図を若い村人が利用して、 村から持ってきた野菜クズを巣に仕込んでいく。 あとはそれをゆっくり達が発見するよう仕向ける。 別に難しいことをやったわけではない。 しかし、効果は絶大だった。 「今回生き残ったゆっくりどもはどうする?」 「僕らが直接手を下すまでもないですね。 疑心暗鬼と正義感と狂気とに炙られて、仲間同士で徹底的に殺し合うはずです。 まあ、一応数日後に確認に行きましょう」 そうなのだった。 今や群れのゆっくり達は、誰かは分からねど確実に群の中に野菜泥棒が存在し、 その野菜泥棒を殺すことこそが正義であり、殺すことで自分がゆっくり出来るという状態に置かれているのだった。 まず間違いなく近いうちに、ゆっくり達は、ほんの些細な行き違いや不安や疑いで憎しみ合い、 親兄弟や友人相手でも平気で殺し合い続けるようになるだろう。 身も心も傷ついた最後の一匹が勝者となり、 見せかけだけの『畑』と存在しない野菜を手に入れて、 誰も野菜泥棒ではなかったと気付くその時まで。 終 過去作 ゆっくりいじめ系2720 ゆっくりいじめ精神系 ゆっくりいじめ系2818 れいぱーありすはゆっくりできない このSSに感想をつける
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※ゆっくりと畑と野菜(1)からの続きです 数日後、優男と若い村人はあの『畑』のところに向かっていた。 成果の確認と次なる仕込みを施すためだ。若い村人はその為に使う材料を包んだ風呂敷を提げている。 二人は、ゆっくり達のテリトリー手前で立ち止まって周囲を確認した後、 これからの行動について確認した。 「さて、ここから別行動な訳ですが、やるべきことは分かっていますね?」 「勿論だ。ゆっくりには絶対に見つからないようにする」 「私の方でも、なるべくこちらに注意が集まるよう話を持って行きます。では、お願いします」 確認を済ませると、優男は堂々と山を進み、若い村人は隠れるようにして進んでいった。 優男が『畑』に到着した。 すると、まるで畑を見張るようにしていた長まりさと幹部達が優男に気付き、 ゆっくりらしからぬ素早さで駆け寄っていく。 「やあ、長。ゆっくりし――」 「ジジイ!どういうことなんだぜ!?」 優男の挨拶を遮るようにして長まりさが突っかかった。再びの喧嘩腰だ。 その一言で、作戦が上手く機能していることを見て取った優男が平然と続ける。 「そんなに興奮してどうしたんだい、長?」 「どうもこうもないのぜ!ジジイは嘘をついたのぜ!」 「むきゅう!あのはたけさんからは、おやさいさんがはえてこないのよ!」 「あのはたけはとんだいなかものだわ!」 興奮して優男をなじるばかりの長に代わって、ぱちゅりーとありすが説明する。 二匹の方も、長よりは冷静だが、それでも憤懣やるかたないといった空気を発している。 「つまり君たちは、あの『畑』から野菜を採れていないということかい?」 「さいしょからそういってるのぜ!!」 「ばかなじじいはれいむたちにあやまってね!」 頃合いだな、優男は内心で呟いた。 ゆっくり達は冷静さを失い、目先の野菜しか見えないようになっている。 作戦を次の段階に進める条件は揃っている。 「そうなのか……。でも、それはおかしいよ」 「ゆっ!?だからそういってるのぜ!はえてくるはずのやさいさんがはえてこないのぜ!」 「ああ、違う違う。そういう意味のおかしいじゃなくてね、 野菜が生えてこないはずがないっていうことだよ。だってそうじゃないか? 畑があるのに野菜が生えてこないなんてそんなゆっくりできないことはありえないだろう?」 その言葉に、ゆっくり達が一瞬返答に詰まったのを見逃さずに優男が畳み掛ける。 「ねえ、長。長だってあの『畑』をとってもゆっくりした畑だって認めてただろう?」 「ゆ。たしかにそういったのぜ」 「ぱちゅりーとありすも、人間の畑にそっくりだ、都会派だって喜んでたじゃないか」 「むきゅう」「とかいはなれでぃはうそはつかないわ」 「だったら、野菜が生えてこないはずがないだろう? これまで色んな畑と野菜を見てきたみんながお墨付きを与えた『畑』なのに」 優男のその言葉に、それでも納得できないように長まりさが反論する。 「で、でも、じっさいはたけさんにはやさいさんがないのぜ?」 「うん。だからね、考え方を変えなきゃいけないんだ。 あの畑から野菜が生えてこないはずがない。でも実際畑には野菜がない。 じゃあ、野菜が生えてこなかったんじゃなくて、誰かが生えてきた野菜をこっそり持って行ってしまった。 その可能性の方が高いんじゃないかい?」 優男が言っているのは無茶苦茶な理屈だった。 特に、あの見せかけだけの『畑』から野菜が生えるはずがないと知っている者にとっては。 しかし、『やさいさんはかってにはえてくるもの』と信じ込んでいるゆっくり達には効果覿面だった。 みんなで確認したとってもゆっくりした『畑』。そこに野菜が生えてこない訳がない。 でも、今、現実に畑には野菜がない。ならば、生えてきたはずの野菜はどうなったのか。 優男の言葉、その意味するところがゆっくり達の餡子に染み渡っていく。 「ゆうぅ~!?たいへんなのぜ!やさいどろぼうがいるのぜ!」 「れいむたちのはたけさんからおやさいさんをぬすむなんてゆっくりできないよ!」 「はんにんは、きっととんでもないいなかものね!」 「むきゅう、でもだれがそんなことを……。はんにんをつきとめなきゃいけないわ」 ぱちゅりーの言葉を燃料にしてゆっくり達の怒りが燃え上がった。 そうだ、犯人を捜さなきゃいけない。そして制裁してやる。 群れの宝に手を出したことを後悔させながら永遠にゆっくりさせてやる。 優男はゆっくり達のそんな内心の動きを的確に把握していた。 そして、その感情の矛先を都合のいいように操るべくゆっくり達に声を掛ける。 「じゃあ、一つずつ整理してみようか。 まず数日前に、僕らがここに来て人間とゆっくりの仲直りの証に『畑』を作った」 「むきゅ、そのとおりね」 「そして、『畑』作りを終えた僕らは山を下りた」 「ええ、とかいはなおみおくりをしたわ」 「それ以来、仲直りしたこともあって村人はゆっくりの山に近づいていない」 「ゆっ!たしかににんげんさんをみたってほうこくはされてないのぜ!」 「それなら、ここ数日間で畑に近寄れたのはゆっくりか動物か虫かっていうことになるね」 「ゆっくりりかいしたよ!」 「ところで、この山で主に野菜を食べるのは一体誰だい?」 「むきゅ、もちろんぱちゅりーたちよ」 「とかいはなおやさいさんは、とかいはなありすたちにこそふさわしいたべものだわ」 「どうぶつさんたちはおやさいさんなんてたべないよ!」 「ゆっ!ゆっくりしたやさいさんは、ゆっくりしたゆっくりにたべられるのがしあわせ~なのぜ!」 張り切って答えるゆっくり達を見ながら、男は若い村人のことを考えていた。 さて、どうやらこちらは上手く行きそうだ。ならば作戦の成功は彼が上手くやるかどうかに掛かってくる。 どうか頑張ってください。 優男は、ゆっくり達に見つからないよう慎重に慎重を重ねて 山を進んでいるはずの若い村人に内心でエールを送った。 そして、気分を切り替えると、満を持してゆっくり達に破滅の言葉を投げかける。 「と言うことは、野菜を盗んだのはゆっくりの誰かである可能性が高いということだね。 だってこの山には野菜を食べたがるのはゆっくり達しか居ないんだから」 「ゆっ!?」「ゆぅ?」「むきゅ?」「ゆゆゆ?」 ゆっくり達は混乱しているようだ。 ただそれでも、必死で今の会話を反芻して何とか優男の言葉を理解しようと努めている。 普段は、ぱちゅりーを除けば頭を使いたがらない傾向が強いゆっくりにここまでさせるとは。 食い物の恨みは恐ろしい。 「ゆ、ゆっくり、りかいしたの……ぜ?」 「むきゅう、たしかにおにいさんのいううとおりだわ」 「むれにそんないなかものがいるなんてゆるせないわね」 「そんなことするゆっくりがいるなんて、れいむはゆっくりりかいできないよ……。」 ゆっくり達は優男の言葉をそのまま受け入れた。 これには優男自身も驚いている。 優男としては、さすがに身内に犯人が居ると言えば抵抗されるだろうと想定して 気持ちと反論の準備をしていたのだった。 しかし、現実はこの有様。 どうやら、村のどの畑よりも広い『畑』を作って野菜を提供したというのが、 予想以上にゆっくり達の心を掴んでいたらしい。 優男も下調べの段階で掴んでいた情報ではあったが、ここまで食い意地の張った群れはさすがに珍しかった。 「なら、ここに群れのゆっくりを集めてみればいいのでは? もし集まることを嫌がる怪しいゆっくりが居ればそれが犯人かもしれないし、 みんな集まったら集まったで犯人捜しがやりやすくなるよ」 優男は気を取り直してゆっくり達を更に都合のいい方に誘導しようとする。 自分の方に注意を集めて若い村人を援護する為には、 群れのゆっくり全てに一カ所にまとまっていて貰った方がいい。 「ゆっ!?さすがはおにいさんなのぜ!そうするのぜ!れいむ、ありす、ぱちゅりー! むれにひとりのこらずあつまるようつたえるのぜ!こなかったゆっくりははんにんだとみなすのぜ!」 「ゆっくりりかいしたよ!」「とかいはなさくせんね」「むきゅ、けんめいなはんだんだわ」 長ともあろう者が、『さすがはお兄さん』と来た。 このゆっくり達はいまや完全に優男の掌の上に乗っていた。 しかも、本人達はそれに気付かず、むしろ『畑』を用意し、山から人間を遠ざけ、 野菜泥棒を捕まえる手助けをしてくれていると判断して全幅の信頼を寄せている。 その全てがここのゆっくり達を群れごと陥れるための仕込みだというのに! 先日、若い村人に注意をした身ではあるが、優男も笑い出したい衝動が湧き上がってくるのを感じていた。 必死で堪えて何でもない風を装っているおかげで表情や態度には変化がないが、 内心は狂ったように笑い出したいという気持ちで一杯だった。 掌の上で踊るゆっくり達の姿は、それほど哀れで惨めだった。 それからしばらく時間が経ち、群れの集合が完了した。 一人残らず集まるようにと厳命され、来なければ犯人と見なすと説明されているため、 本来ならまだ巣から出るべきでない赤ん坊から妊娠した大人まで様々なゆっくりが一堂に会している。 広い『畑』を作ってもまだそれなりに余裕のあった広場が埋まる程の数だった。 長まりさが少し高くなった斜面上にある切り株に乗り、幹部がその周りを固めた。 群れの集合では、幸か不幸か全てのゆっくりが集まって誰が怪しいか分からなかった。 そこで、これから犯人捜しを行うつもりなのだ。 「ゆっ!!みんなきくのぜ!!! まりさたちがてにいれたはたけさんに、やさいさんがないことにはみんなきづいてるとおもうのぜ!!! まりさたちがちょうさしたけっか、そのやさいさんはむれのだれかにぬすまれた かのうせいがたかいとはんめいしたんだぜ!!!」 集まったゆっくり達のあちこちから声が上がった。 自分は泥棒じゃないと主張する者、群れにそんなゆっくり出来ないゆっくりが居るなんてと怒る者、 野菜を楽しみにしていたのにと嘆く者。反応は様々だ。 幹部達が声を張り上げて、群れを宥める。 数分掛けてようやく静かになった。 長まりさが続ける。 「そこで、いまからはんにんさがしをおこなうのぜ!!! やさいさんをぬすんだゆっくりは、なのりでるのぜ!!! いまなら、ついほうだけでゆるしてあげるんだぜ!!!」 長まりさの言葉は勿論嘘だ。追放で許す気などあるはずがない。 野菜を盗んだゆっくりを永遠にゆっくりさせてやる気満々だった。 しかし、そう言ってしまえば名乗り出てこないだろうと考えて、 長まりさなりに知恵を働かせてああ言ったのだった。 しかし、当然誰も名乗りでない。 優男からすれば当たり前の結果だ。 そもそも、野菜泥棒どころか盗まれる野菜さえ存在しないのだから。 だが、長まりさは苛立った。 群れのゆっくり達が保身に走っていると考えた。 その感情の赴くままに更に続ける。 「あとになって、だまっていたことがばれたらひどいのぜ!!! いまのうちなんだぜ!!!」 群れのゆっくりも幹部達も誰も何も言わない。 沈黙が場を支配した。そのまま数分が経過する。 このままでは埒があかないと考えたのか、ぱちゅりーが長まりさに声を掛けた。 「むきゅう、だれもなのりでないわ。どうするの?」 「ゆゆっ」 長まりさは返答に詰まった。 そもそも、長まりさは優男に煽られた勢いのまま突っ走っていただけなのだ。 群れを集めて、犯人捜しをして、見つからなかったらどうするかなど考えているはずがない。 長まりさが助けを求めるように優男を見る。 優男はその時、自分の方に群れの注意を集めてから過ぎた時間を計算していた。 群れを集めるための時間、宥めるための時間、沈黙の時間。 充分だ。 若い村人が仕込みを行い、テリトリーから抜け出すのに充分な時間だ。 そう判断すると、にっこりと笑顔を作って、長まりさに助け船を出してやる。 ただし、その助け船の行き先は地獄であった。 「名乗りでないのであれば仕方がないね。 手当たり次第に家を捜索してみるのがいいかな。 あの広い『畑』から盗んだ大量の野菜を数日で食べきることは出来ないはず。 犯人の家には痕跡が残っているに違いないよ」 なるほど、長まりさは感心した。やっぱりお兄さんは頼りになる。 群れの方に向き直って宣言する。 「だれもなのりでないから、いまからみんなのいえにやさいさんがないかかくにんするのぜ!!! うらむならはんにんをうらむのぜ!!! れいむ、ありす、ぱちゅりー。そうさたいをけっせいするのぜ!」 長まりさの言葉の後半部分、自分たちへの指示を受け取った幹部達が動き出す。 自分に近しいゆっくりに声を掛けて、捜査隊として巣を改めに出かけていった。 長まりさがイライラと動き回っている。 捜査隊の出発から既に二十分ほど経っていた。 いつの間にか長まりさの相談役的な立場に納まった優男はそんな長まりさを宥めながら悠然と待っている。 作戦の成功を既に半ばまで確信していた。 そこへ一匹のゆっくりが口に何かをくわえて駆け込んできた。 幹部れいむと共に捜査隊として出てかけて行ったれいむだ。 捜査隊れいむが口にしていた何かを長まりさの前に置き、叫ぶようにして告げる。 「おさ、おうちからやさいさんのかけらがみつかったよ!」 「ゆぅ~!やっとみつかったのぜ!!だれのいえなのぜ!?」 「おおきなきさんのねもとにある、ちぇんとれいむいっかのすだよ!」 その言葉が発せられた瞬間、群れのゆっくりの一部がズザッという音を立てて動いた。 群れの中にぽっかりと空白ができたような状態になる。 その真ん中では成体のちぇんとれいむ、子供のちぇんとれいむ数匹が呆然としていた。 彼らがちぇんとれいむ一家であることは明白だ。 長まりさが目の前に置かれた何かを確認して言う。 「たしかにやさいさんのかけらなんだぜ! ちぇんとれいむいっか!!まえにでるのぜ!!」 長まりさが苛立ち混じりの声をぶつけるが、ちぇんとれいむ一家は動かない。いや、動けない。 嫌な空気に耐えながら早く犯人が見つかって欲しいと願っていたら、いきなり自分たちが犯人だと言われたのだ。 まともに物を考えられる状態ではとてもない。 しかし、そんな一家に周囲のゆっくり達は容赦しない。 最初はゆっくりと、徐々に激しく、罵声を浴びせる。 「どろぼういっかはゆっくりしないではやくまえにでてね!」 「このいなかものいっか!」 「みんなのおやさいをぬすむなんてわからないよー!」 そんな声に押し出されるようにして、ちぇんとれいむ一家はフラフラと長まりさの前に出た。 反論しようとしているのか、あり得ない状況に呼吸が乱れたのか、口をぱくぱくさせている。 そんな一家に長まりさは全く躊躇することなく告げた。 「おまえたちのいえからしょうこがでたのぜ! しかも、まりささまがなさけをかけてやったときになのりでなかったのぜ! ふたつのつみでおまえたちはしけいなんだぜ!ゆっくりしないでしぬんだぜ!」 そして、そのまま親ちぇんに飛び掛かる。 「わ、わからなべぇっ――」 無防備な状態で、通常の成体より二回り程大きな長まりさの体当たりを受けて、親ちぇんは吹っ飛んだ。 中身を盛大に漏らしながらピクピクと痙攣している。もう長くないだろう。 その光景にようやく我に返ったのか、親れいむが必死で弁解を始める。 「ま、まってね!れいむたちはおやさいさんをぬすんだりたべたりしていないよ!」 「じゃあどうして、いえからやさいさんのかけらがみつかったのぜ?」 「ゆ……。そ、それは……」 「それはなんなのぜ?」 「き、きっとちぇんがかってにやったんだよ!れいむとおちびちゃんたちはしらないよ!」 しかし、初めからこいつらが犯人だという結論ありきで裁いている長まりさは聞く耳を持たない。 「かたるにおちるとはこのことなんだぜ! いえのなかにやさいさんがもちこまれてきづかないはずないのぜ! どうせちぇんといっしょにたべたのぜ!」 親れいむの弁解を一蹴した長まりさが飛び掛かった。 そのまま何度も親れいむの上で跳ねて押しつぶす。 「しぬのぜ!しぬのぜ!」 「ゆげぇっ!やべでね゛!ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛よ゛」 「おまえはゆっくりしないでいいのぜ!ゆっくりしないではやくしぬんだぜ!」 「も゛、も゛っどゆ゛っぐり゛じだがっだよ゛……」 親れいむが死んだ事を確認すると、長まりさは震えている子供達にも容赦なく飛び掛かる。 「わかないよー」 「たすけておかあさんんん」 「れいむたちどろぼうさんじゃな――」 「……」 そして、助けを求める子も泥棒じゃないと主張する子も呆然としていた子もまとめて潰された。 「ゆっ!あくはほろびたのぜ!」 長まりさは満足げだ。 だが、群れの悪夢はまだ終わらない。 今度は、幹部ありすと共に出てかけて行ったまりさが駆け込んできた。 捜索隊まりさは駆け込んだ勢いそのままに叫ぶ。 「ゆっ!おさ!がけのしたのどくしんありすのいえでやさいさんをみつけたよ!」 「ま、またなのぜ!?」 野菜泥棒をやっつけたぞと一仕事終えた顔をしていた長まりさはその報告に仰天した。 その様子を敏感に察知した優男が長まりさに釘を刺す。 「長、あれだけ広い『畑』から採れる野菜は一家族で食べきれる量じゃないはず。 残念だけど泥棒はまだまだ居るはずだよ」 「ゆぅ~。たしかにそのとおりなんだぜ。こうなったらてっていてきにやってやるのぜ! どくしんありす!!まえにでるのぜ!!」 今度は誰もその言葉に反応しない。 群の後ろの方で何かもめ事が起こっていて、そちらに注目が集まっている。 長まりさがヒートアップする。 「なにやってるのぜ!?しずかにするのぜ! どくしんありすははやくまえにでるのぜ!!」 すると、もめ事が起こっていた辺りから一匹のボロ雑巾のような有様のありすが運ばれてきた。 どうやらこれが独身ありすらしい。 独身ありすを運んできたゆっくり達に長まりさが尋ねる。 「なにがあったのぜ?」 「ゆ!このどろぼうはにげようとしたんだよ!」 「だからみんなでつかまえたんだね、わかるよー」 「ぁでぃずはちがぅぅ」 どうやらこの賢明な独身ありすは、さっきの一家を見ただけで 身に覚えがあろうと無かろうと前に出た時点で殺されると判断して逃げだそうとしたらしい。 しかし、あっさり捕まって袋だたきというわけだ。 優男がまたも長まりさの思考を誘導する。 「長、逃げるというのはやましいことがある証拠だ」 「おにいさんのいうとおりなんだぜ!このありすはしけいなんだぜ!」 広場は魔女裁判の様相を呈している。 前に出ればすぐに長まりさに殺され、逃げようとすれば袋だたきにされてから殺される。 死刑はすぐに執行された。 「ゆっくりせずにしぬのぜ!」 「ゅぅぅ」 既に虫の息だった、本当は無罪の独身ありすは 碌に弁解も出来ないまま永遠にゆっくりした。 独身ありすの死刑が終わった。 群れのゆっくり達は、誰が泥棒で誰が違うのかまともに判断出来なくなり疑心暗鬼に陥っている。 そんな全くゆっくり出来なくなってしまった群れに、三つの捜索隊がまとまって帰ってきた。 捜索隊の帰還に群れ全体が緊張している。 長まりさが捜索隊にねぎらいの声を掛けようとして戸惑って止めた。 捜索隊が妙に暗い雰囲気なのだ。 「どうしたのぜ?なんだかゆっくりしてないのぜ?」 「ゆぅ……。おさ、とかいはらしくおちついてきいてね……」 「むきゅう、じつはれいむのおうちからおやさいさんがでてきたの……」 「やめてね!そんなこといわないでね!れいむはなにもしてないよ!」 長まりさに衝撃が走った。群れのゆっくり達もざわめく。 よく見ると、三つの捜索隊のメンバーは単にまとまっているのではなく 幹部れいむを取り囲むように動いていることが分かる。 逃げられないようにするための措置だろう。 長まりさが衝撃の抜けきっていない、いつも以上に回らない頭で尋ねる。 「ど、どういうことなんだぜ?」 「むきゅ。ぱちゅりーが、おさの『みんなのいえをしらべる』っていうしじにしたがって ねんのためにれいむのおうちをしらべたら、かじりかけのおやさいさんがあったの」 「ゆぅ。そこにたまたまありすたちがとおりかかって、ぱちゅりーからそうだんされて、 とりあえずおさのところにれいむをつれてくることにしたの」 「れいぶなにもやっでな゛い゛い゛い゛!」 長まりさは困った。 野菜泥棒は許し難い。 でも、この群れの幹部はぱちゅりーもありすもれいむも 幼い頃から友達だった特別なゆっくり達だ。 殺したくはない。 許すべきか、許さざるべきか。 その時、群れのどこかから、やさいどろぼうはしけいだよ!と言う声が響いた。 それを皮切りに、これまで容赦なく犯人を死刑にしてきた長まりさが 幹部の時だけ躊躇っているのを見た群れのゆっくり達から死刑コールが起こった。 山中の広場にゆっくり達による死刑の大合唱が木霊する。 長まりさとぱちゅりー、ありすはもうどうすればいいのか分からないようだ。 先ほどからオロオロし続けている。 れいむは虚ろな目で、泣いているような、笑っているような不思議な顔になっている。 死刑コールを続ける群れの中程から数匹のゆっくりが押し出されてきた。 成体まりさ一匹と赤ちゃんれいむ、赤ちゃんまりさが数匹。 幹部れいむのつがいと子供たちだ。 まりさが母親役を務める珍しいタイプの夫婦らしい。 押し出された家族達の顔には深い絶望が刻まれている。 死刑コールは鳴り止まない。 その大音声の中で、自分が計算して作り上げたこの状況に 満足感を抱きながら優男が長に話しかけた。 「長、この状況でれいむ一家だけを許せば酷いことになる。決断を」 長まりさとぱちゅりー、ありすがびくりと震えた。 三匹揃って優男の顔を見る。三匹揃って惨めさを感じさせる表情になっている。 「ど、どうにか、どうにかならないのぜ?……」 「どうにもならないよ、長。」 頼りにしている優男に一蹴された長まりさの顔に深い苦悩の色が浮かぶ。 目は潤んでいて、今にも泣き出しそうだ。 ただ、それでも気力を振り絞って顔を上げると、震える声で言った。 「れ、れいむいっかはやさいどろぼうなんだぜ……。 やさいどろぼうは、し、しし、しけ、しけいなの、ぜ……」 長まりさは、群れの長として私情を封印した。 群れのために己を殺すその姿は、とかくの問題はあるにせよ 長まりさが指導者に相応しいゆっくりである証明だと言えるだろう。 その決断には人々に感動を与える可能性さえあった。 ただし、今のこの状況の全てが優男によって仕込まれた茶番にも等しい舞台だと言うことを除けばの話だが。 長まりさがれいむの方を向いて、下を向きながらぼそぼそと喋って告げた。 「……これかられいむいっかをしけいにするのぜ……」 群れのゆっくり達から歓声が上がった。 自分が死刑にしてやる、いいや自分がと執行役に名乗りを上げる声まで聞こえてくる。 ゆっくりには、他のゆっくりに対して平気で暴力を行使する一面が元々存在している。 それは、ゆっくりの群れによくある『他のゆっくりを殺した者には罰を与える』と言う規則からも窺い知れる。 この手の規則は、それがなければそういう行為に手を染める者が居るからこそ作られるのだ。 もしも、ゆっくりがそんなことなど考えもしない純粋無垢な存在であれば初めからそんな規則は存在しない。 そして、ゆっくりにとってのそんな規則は、欲望を煽り立て、恐怖におびえさせ、 そうしても良いんだという大義名分を与えてやればあっという間に有名無実化するのだった。 極度の緊張状態の中で野菜泥棒は死刑だという正義をすり込まれたゆっくり達は、 少しでも怪しい存在が居ればもはや平気でそれを殺すだろう。 幼い頃からの親友を目の前にして、ようやく目に光が戻った幹部れいむが絶叫した。 「どぼじでぞんなごどい゛う゛の゛お゛お゛!!」 それに釣られて、いつの間にか捜査隊にがっちり囲まれていた幹部れいむの家族達も叫び出す。 「まりさたちはやさいさんなんてしらないよ!わなだよ!いんぼうだよ!」 「たしゅけてみゃみゃぁぴゃぴゃぁ」「ゆっくちできにゃいよぉぉぉ」 「ゆあああああああああんん」「れいみゅたちをいじめにゃいでえぇ」 「まりしゃにゃんにもしてにゃいのにいいいい」 幹部れいむ達の叫びをかき消すように、再び群れから死刑コールが起こった。 そして、それに突き動かされるかのように長まりさが跳躍した。 渾身の体当たりが幹部れいむに突き刺さる。 「ゆあああああああああああ!!」 「ゆっべ!どうじでばりざぁ!?どうじでぇ!?」 「ゆああああああああああああああああああああああああ!!」 「ゆぶぅ!ゆごっ!やべでっ!ぼっ!びゅっう!」 れいむの声を振り払うかのように長まりさは絶叫しながら体当たりを続けた。 長まりさが冷静さを少し取り戻した時、もう幹部れいむはどこにも居なかった。 ただ、元はれいむと呼ばれていた汚い餡子袋が転がっているだけだった。 捜索隊の方では、捕らえられていた幹部れいむ一家が今まさに死のうとしているところだった。 どうやら、群れの狂気にあてられた捜索隊ゆっくり達が徹底的に暴行を加えたらしい。 「ゆっへ、ゆひ、ゆひひひひ」 親友一家を殺して、精神のタガが少し緩んでしまったらしい長まりさを見て、優男は潮時を悟った。 今日はこのくらいにしておかないと長まりさが完全に壊れてしまう。 今なら少し時間をおけば正気に戻るだろう。 それにこれ以上は自分が仕向けなくとも、ゆっくり達自身が勝手に暴走して 坂を転がり落ちるように破滅への道を突き進んでくれるはずだ。 「ぱちゅりー、ありす。」 「ゆ?」「むきゅう?」 優男に声を掛けられたぱちゅりーとありすが虚ろな目つきで反応する。 茫然自失状態の二匹に活を入れるように続ける。 「しっかりして下さい! 長も消耗しているようだし、群れがこの状態で犯人捜しを続けるのは危険です。 今日は解散しましょう」 「え、ええ、そうね。そうだわ。そうしましょう、ぱちゅりー」 「む、むきゅ……」 体の弱いぱちゅりーは、中身こそ吐いていないものの まりさとれいむの有様を見るだけで相当酷い体調になっていた。 仕方なく、ありすと優男で群れを解散させる。 群れの興奮状態はなかなか治まらなかったが、日が暮れる頃になってようやく 広場からゆっくりが居なくなった。 「ありがとうお兄さん。ありすひとりじゃどうしようもなかったわ……」 「いえ、これくらい。」 「ねえ、これからどうしたらいいのかしら?」 「長とぱちゅりーは体調を崩しているし、れいむは、その、あれですし、 ありす一人ではどうしもうもないでしょうから、しばらく様子を見た方が良いのでは?」 嘘だ。あの狂気に感染した群れのゆっくり達をしばらく放っておくなんて自殺行為だ。 本当なら、今すぐ長まりさをひっぱたいてでも正気に戻らせて、 無理にでも対処しなければならない状態だった。 いや、今すぐ対処してももう手遅れかも知れない。 「そ、そうね。そうしましょう」 「ええ、僕も今日のところは帰りますが、また数日後に様子を見に来ますよ」 「おねがい、かならずきてね」 優男がありすと別れて山を下りていくと麓の辺りで若い村人が待っていた。 「どうなった?」 「ほぼ完璧です。あなたの野菜クズの仕込みも見事でしたよ」 「それは何よりだ」 存在しないはずの野菜を使って、存在しないはずの野菜泥棒を存在させたカラクリがこれだった。 優男がゆっくり達の注意を引きつける。 その隙に、優男が群れ見学の建前で調べ上げたゆっくり達の巣の配置図を若い村人が利用して、 村から持ってきた野菜クズを巣に仕込んでいく。 あとはそれをゆっくり達が発見するよう仕向ける。 別に難しいことをやったわけではない。 しかし、効果は絶大だった。 「今回生き残ったゆっくりどもはどうする?」 「僕らが直接手を下すまでもないですね。 疑心暗鬼と正義感と狂気とに炙られて、仲間同士で徹底的に殺し合うはずです。 まあ、一応数日後に確認に行きましょう」 そうなのだった。 今や群れのゆっくり達は、誰かは分からねど確実に群の中に野菜泥棒が存在し、 その野菜泥棒を殺すことこそが正義であり、殺すことで自分がゆっくり出来るという状態に置かれているのだった。 まず間違いなく近いうちに、ゆっくり達は、ほんの些細な行き違いや不安や疑いで憎しみ合い、 親兄弟や友人相手でも平気で殺し合い続けるようになるだろう。 身も心も傷ついた最後の一匹が勝者となり、 見せかけだけの『畑』と存在しない野菜を手に入れて、 誰も野菜泥棒ではなかったと気付くその時まで。 終 過去作 ゆっくりいじめ系2720 ゆっくりいじめ精神系 ゆっくりいじめ系2818 れいぱーありすはゆっくりできない このSSに感想をつける