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「バビル2世」のバビル2世(山野浩一) 参考リンク:「バビル2世」のストーリーhttp //malon.my.land.to/babel2.htm ゼロのしもべ-元ネタ集(第三部23話まで、外伝も一部含む) ゼロのしもべ 第1部 誕生編~白昼の双月~ ゼロのしもべ1 ゼロのしもべ2 ゼロのしもべ3 ゼロのしもべ4 ゼロのしもべ5 ゼロのしもべ6 ゼロのしもべ7 ゼロのしもべ8 ゼロのしもべ9 ゼロのしもべ10 ゼロのしもべ11 ゼロのしもべ12 ゼロのしもべ13 ゼロのしもべ14 ゼロのしもべ15 ゼロのしもべ16 ゼロのしもべ17 ゼロのしもべ18 ゼロのしもべ19 ゼロのしもべ 第2部 動く大陸編 ゼロのしもべ第2部-1 ゼロのしもべ第2部-2 ゼロのしもべ第2部-3 ゼロのしもべ第2部-4 ゼロのしもべ第2部-5 ゼロのしもべ第2部-6 ゼロのしもべ第2部-7 ゼロのしもべ第2部-8 ゼロのしもべ第2部-9 ゼロのしもべ第2部-10 ゼロのしもべ第2部-11 ゼロのしもべ第2部-12 ゼロのしもべ第2部-13 ゼロのしもべ第2部-14 ゼロのしもべ第2部-15 ゼロのしもべ第2部-16 ゼロのしもべ第2部-17 ゼロのしもべ第2部-18 ゼロのしもべ第2部-19 ゼロのしもべ第2部-20 ゼロのしもべ第2部-21 ゼロのしもべ第2部-22 ■第3部 ドミノ作戦編~全てはビッグ・ファイアのために~ ゼロのしもべ第3部-1 ゼロのしもべ第3部-2 ゼロのしもべ第3部-3 ゼロのしもべ第3部-4 ゼロのしもべ第3部-5 ゼロのしもべ第3部-6 ゼロのしもべ第3部-7 ゼロのしもべ第3部-8 ゼロのしもべ第3部-9 ゼロのしもべ第3部-10 ゼロのしもべ第3部-11 ゼロのしもべ第3部-12 ゼロのしもべ第3部-13 ゼロのしもべ第3部-14 ゼロのしもべ第3部-15 ゼロのしもべ第3部-16 ゼロのしもべ第3部-17 ゼロのしもべ第3部-18 ゼロのしもべ第3部-19 ゼロのしもべ第3部-20 ゼロのしもべ第3部-21 ゼロのしもべ第3部-22 ゼロのしもべ第3部-23 ゼロのしもべ第3部-24 外伝 赤雪のタバサ ゼロのしもべ外伝-1 ゼロのしもべ外伝-2 ゼロのしもべ外伝-3 ゼロのしもべ外伝-4 ゼロのしもべ外伝-5
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前へ / トップへ / 次へ 振り返ると野望の塔は地響きを立て、氷山を引き裂きながら極寒の北極海へ沈み行くところであった。 宿命の戦いにとうとう決着がついたのだ。 「建物が沈んでいく。」 断末魔をあげ、消え行く建物を見送る少年。長年にわたり実質一人で行動しているせいか、 最近はついつい独り言を言うようになってしまっているのが悩みだ。 冬の北極にいるにもかかわらず、シャツの上に前を空けた学生服という自然を舐めきった服装。 燃えるような赤い瞳と髪。どう考えても不良である。 海に浮かぶ鉄のなにかに乗っている。何か金属製の巨大な物体が海中にいて、それが背中だけを 海上に晒しているようだ。姿かたちは鉄の巨人の背中といったところか。 「だれも近づく者のない北極の海底で静かに眠ろうというわけか。」 声に感慨と、どことない寂寥を感じる。まるで長年の親友を失ったような、恋人を失ったような。 半身を失ったような、と表現するのがこのさいベストだろう。 『長い戦いだった』 建物が沈んだ後も、いつまでも視線を残し続ける。鉄のなにかが動き出す。それでも視線を放さない。 思えば両親と別れ、チベットの山奥で出会って以来少年の半生はこの時のためにあったのだ。 世界を支配するのに充分な力としもべを与えられたにも関わらず、その力をただ悪の野望をくじくためだけに 使い続けた。およそ私利私欲というものは存在していなかった。両親とも、友人とも、想い人とも別れ、 地位を得ることにも、財産を築くためにも、支配者になるためにも一切その力を使わなかった。レーザーの ように悪を打ち破るという一点にのみ、その力を集中してきた。 だが、 「これからボクはなにをすればよいのだろうか」 少年は胸にぽっかりと穴が開いたような気分になっていた。 やっと宿敵を倒すことができたというのに、飛び上がって喜ぶことも、ガッツポーズもとれなかった。 無理もない、人生の目標を失ってしまったのだから。 少年はあまりにも純粋すぎた。 悪を倒すことにのみ人生を費やし、命を懸けてきた。結果将来はズタズタに引き裂かれた。 少年にも夢があった。 学生生活を満喫したかった。女の子と甘い時間を過ごしてみたかった。進路について悩んでみたかった。 だが、その全てを自ら否定して、戦い続けてきたのだ。自分の目標はこれしかないと信じて。 だからこそその戦いが終結したとき、少年は人生の目標を失ってしまった。 大学に行こうにもおそらく高校中退である。今更通いなおす気にも、大検を受ける気にもなれない。 両親の下に返るのは周囲を危険に晒す公算が高い。ヨミの残党はまだいるだろう。何より101と 呼ばれアメリカ政府と戦っていた時代のように政府そのものが牙を向いてくる可能性も高い。 「やはりバビルの塔に帰って、一生を過ごすしかないのか」 眼を閉じ、沈痛な面持ち。 人並みはずれた能力を有しながら、残りの人生を世捨て人として過ごすしかない。 逆だ。人並みはずれた力を持つからこそ、引きこもり外界に姿を晒すわけにはいけないのだ。 「こうなってはヨミの気持ちもわかる気がする。人並みはずれた力を持つゆえ、世を捨てるか、 あれしか道がなかったのかもしれない。」 鉄のなにかはどんどんスピードをあげていく。その速度およそ12、13ノット。 たちまち建物のあった場所も、氷山も見えなくなる。 だが、それでも少年は元の方向をジッと見つめていた。 『ご主人様_』 突然呼びかけられ、はっと振り返ると鉄のなにかの一部が盛り上がり、たちまり黒豹の姿へと変化する。 「ロデム、いたのか。」 『はい_せっかくの最終決戦ですのでついて来ていました_命令がなかったのでジッとしていましたけど_』 「いると知らなかったからな。」 ちょっとトゲのある黒豹、ロデムに対しもっと辛らつに答える少年。何気に酷いやつだ。 『ロプロスの行方は依然として不明です_通常なら自動修復システムがあるので、信号音をすぐに発し 出すのですが_』 ロデム――巨大な怪鳥の姿をした少年の有能なしもべのうちの一体である。 少年を守るため、自ら水爆ミサイルの犠牲となり北極海に消えたのであった。 「そうか。だがロプロスの仇はとった。近くの適当な陸地に上陸して、ポセイドンに探させればいい。」 爪先で、乗っている何かを叩く。おそらくこれがポセイドンというのだろう。 「だが各国の調査船が周辺に集結しているはずだ。いそがなければロプロスを先に発見されたら大変だ。 ここから最短でつく島はどこだ?」 『インマイエンという島があります―』 ポセイドンがその速度を上げる。 20ノット、21ノット、22ノット………。 海中を移動しているとはとても信じられないような速度。 だからこそ、それをよけることはできなかった。 「ん?ああ!」 気づいたときには進行方向に鏡のような光の円盤が出現していた。 油断していた。 見通しのよい海上である。敵が隠れるところはない。仮に海中にいたとしてもポセイドンがすぐに報告するはずだ。 そして、いつもの少年ならば楽によけられたろう。 だがこのとき少年は長年の宿敵との対決を終え疲弊していた。終えたことで油断があった。何より3つのしもべへの 信頼感があった。 「よけろ、ポセイドン!」 大声でしもべに命令を下す。だが、遅すぎた。 ポセイドンが速度を落とし、よけようとするが間に合わない。 覚悟を決めて両腕を顔の前で交差し防御する。 少年たちを飲み込むと、鏡は音一つ立てず消え去った。 その光景を見ているものはなく、また痕跡一つ残ることはなかった。 「あんた誰?」 突如現れた少女がそう問いかける。 この瞬間、少年――バビル2世の夢は、別の世界で叶えられることとなったのであった。 ゼロのしもべ ~使い魔2世~ 前へ / トップへ / 次へ
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前へ / トップへ / 次へ(第2部) 深夜、学院長室でオスマンは戻った4人の報告を聞いていた。 曖昧だった状態を無理矢理電気ショックで引き起こしている。よく死なないものだ。 「ふむ……では、ミス・ロングビルが土くれのフーケであり、あくまで単独犯。しかし、協力組織は存在していた、と?」 髭をもしゃもしゃ弄り、報告書に目を通すオールド・オスマン。 「美人だったのでなんの疑いもなく秘書に採用したのだが…惜しいことをした。」 「ちょっとは反省してください。で、いったいどこで採用されたんですか?」 隣に控えたコルベールが尋ねる。目が泣きどおしで真っ赤である。 「町の居酒屋でな、まあ色々と…ごにょごにょ…おっほん。まあ、深い詮索をするのはトリステインの人間としては恥ずべきことじゃ。」 「そういう風に言うと誤魔化しがものすごい高尚なことに感じるから不思議ですね。」 「今思えば、全て魔法学院に潜入するための罠じゃッたのか。つくづく惜しい…。罠と知りつつも男には行かねばならぬことがある。 つまりそういうことじゃな。うほっほん。」 全員の冷たい視線を振り払うように咳払いをする。そして厳しい顔つきをして、 「さてと。君たちはよくぞ『破壊の杖』を取り戻してくれた。心から感謝するぞ。」 しかし、4人とも、いやコルベールも含めて沈痛な雰囲気であった。 「……どうしたのかな?そういえば、わしはまだ破壊の杖の無事を確認しておらんかったな。コルベール君、どこにあるのじゃな?」 は、はあと恐る恐る箱を運んでくるコルベール。 「……これです。」とふたを開けるとそこには熱で溶けてつぶれ、ゆがみ、おまけに焦げた破壊の杖の姿が。 「………どったの、これ?」 「……見ての通り、破壊の杖です。」 「ははは、そうか。破壊の杖な。あはは、戻って来たのじゃな。わはははは。」 「あ、あは、あはははは」 「わはははは」 「あはははははは」 「ぬ、ぬふぅ…」 「う、うわぁ!学院長!」 気を失って頭から地面に落ちる学院長。おまけに気を取り戻してしばらく曖昧になって暴れまわり、正気を取り戻したのは2時間後の ことであった。 「ど、どうしたの?ねえ、どうしたの、これ。なんだかおかしくない?こんなに曲がってなかったよね?」 「が、学院長…落ち着いてください。」首を絞められて苦しそうにうめきながらコルベールが言う。 「お、落ち着けるか…わしの、わしの破壊の杖が……命を救ってもらった杖が……なんか鉄くずにかわっちゃってるじゃないですか? どゆこと?ねえ、どゆこと?」 「そ、それは、4人の話によると、ミスロングビルを殺害した連中の仕業だと…」 がっくりと肩を落とす学院長。完全に魂が抜け切っている。 「で、ですが、ご安心ください、学院長!」 コルベールが合図をすると、運び込まれてきたのは… 「ほ、ほら、破壊の杖がこんなにたくさん。このうち似たのを展示しておきましょう。ねえ?」 大量の自動小銃やバズーカ砲、ロケットランチャー…etcだった。 そして再びオスマンは気絶した。 「…一件落着でよいのかのう?」 大量に積まれた破壊の杖とその亜種の山を、どーすんのこれ、と言いたげに見つめるオスマン。頭に濡れタオルを乗せている。 「とりあえず君たち3名の『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。ま、ミス・タバサはすでに 爵位持ちゆえ今回は精霊勲章で我慢して欲しい。」 水を持ってきた職員が邪魔だな、これと言いたげに破壊の杖を見る。完全に邪魔者扱いである、なんと不憫な。 「……これだけあるなら盗まなくても、ミス・ロングビルに一本ぐらいあげてもよかったのぉ。」 名残惜しそうに言うオスマン。だめだこいつ。 「本当ですか?」 もっともルイズたちは見ちゃいなかった。頭の中は爵位で一杯だ。 「本当じゃ。いいのじゃ。君たちはそのぐらいのことをしたんじゃから。もっとも、この破壊の杖がなければもっとよかったんじゃが。」 粗大ゴミ扱いだ。 「さてと、今日の夜はフリッグの舞踏会の予定じゃッたが、特別に明日…いや今日か。すまん、もう日付がかわっておるな。 今日の夜の舞踏会は、昨日の予定を延期し、行うことになった。」 キュルケの顔がぱっと輝く。 「そうでしたわ!騒ぎで忘れておりました。」 と、ルイズがおずおずと前に進み出た。 「オールド・オスマン。ビッグ・ファイアが別に話があるそうなんです…。」 「ふむ、なにかな?」 突然のルイズの申し出に一瞬途惑うコルベール。いったい、ガンダールヴかもしれぬ男が何を?と警戒する。 3人は目で合図をすると、礼をしドアへ向かう。 後にはバビル2世だけが残った。 妙な緊張感が漂う。 「……なにか、その……そうじゃ、菓子でも食うかの?」 「いえ、けっこうです。」 空気を和ませようとするがあっさり拒絶される。 「なら、訊きたいことでもおありかな?できるだけ力になろう。君に爵位を授けれぬ、せめてものお礼じゃ。」 「では単刀直入に言います。」 コルベールに出て行けと促そうとするオスマンの動きが止まった。あわてて追い出す。このまま一気にいろいろ言いそうだからだ。 「あの破壊の杖…ぼくが元いた世界の武器です。」 「ふむ。元いた世界とは?」 説明が始まった。ヨミの事は隠したが、魔法がなく代わりに機械が活躍する世界のことを。 オスマンはうーむと腕を組んで思案しながら聞いていた。 「なるほど、それで合点が行った。これ、っちゅーかなんちゅーか、あれを私にくれたのは、私の命の恩人じゃ。」 「恩人?」 変わってオスマンが説明を始めた。ワイバーンに襲われたところを助けてくれた勇士のことを。だが死んでしまったことを。 「彼は『元の世界に帰りたい』とうわごとのように繰り返しておった。おそらく、君と同じ世界からきたのじゃろうな。」 そしてあらためて破壊の杖の一つを手にとって、 「しかし、なぜそれに似たものが、こんなにも……」 「気をつけてください。」 バビル2世がガンを宣告する医者のような表情で言う。 「ぼくが元いた世界から、こういった武器を持ち込み、この世界に戦争を仕掛けようとしている男がいます。」 「な、なんじゃと!?」 げえっ、と叫んでバビル2世と杖を交互に見る。 「こ、この杖の力を知っているからわかるのじゃが、こんなものを持ち込まれて戦いになれば、勝てる国などこのハルケギニアに 一つもない…。大惨事になるじゃろう。そ、それはまことの話なのか?」 バビル2世は頷く。気が抜けたように椅子にへたり込むオスマン。 「ガンダー、いやビッグ・ファイアよ…」 顔を上げてバビル2世を見る。 「わしはあまりに話が大きすぎるゆえ、真贋を見抜けぬ。しかし、この破壊の杖の山を見ると、嘘とも思えぬ。」 もし、おぬしが本当に神の盾と呼ばれる伝説の使い魔なのなら、この世界の盾となりその悪夢を止めてくれぬか。そう呟くオスマン。 「わしは今日は疲れたよ…少し一人にしてくれぬか?」 頭を下げ、出て行こうとするバビル2世。その背中に、 「これだけは言っておくよ。私はおぬしの味方じゃ。なに、いざとなれば嫁の1人2人ぐらい世話するぞ?」 最後のほうは聞かずに出て行った。 フリッグの舞踏会。 どうも文化祭や体育祭のような扱いなのだろうか?食堂上階の大ホールは、着飾った生徒や教師が人いきれするほど集合していた。 豪華な料理の周りで、楽しそうに歓談するみなの姿を、バルコニーの枠にもたれてバビル2世はぼんやりと見ていた。 あのあと、学院近くへ戻ってきた4名は、まずしもべをどうするかで大いにもめた。 「学院に連れて行きたい!」 と駄々を捏ねるルイズと、 「いや、駄目だろ、常識的に考えて…」 と渋る残り3名である。ルイズはどうも、 「わたしの使い魔のしもべなんだから、これはつまりわたしのしもべということ。人の使い魔を平民だのなんだのと最初にバカにして いた連中に目に物見せてやるわ!」 と考えていたようで、ようはまあ何一つ変わっていないということであった。あのとき空の上でひそかに誓っていたことはなんだった んだろう。やはり人間、そう簡単には変わらないということか。 まあ、バビル2世を実際に助けたことはたしかだ。その分、成長はしているはずだ。 結局、置き場所がないことと、使い魔が怯えてパニックになり今までのような惨事が起こらないと言い切れないため、ロデムのみを 学院内にいれることにした。なんだかけっこうルイズはロデムがお気に入りのようで、喉を撫で回している。 猫好きなのだろうか? そのロデムはルイズの部屋に入ることになった。 つまりロデムとルイズとバビル2世が一つの部屋に入ることになる。なるべくしもべは隠す必要があるし、しかたがない。 だが寝る場所がロデムはベッドの上で、ぼくは床の上というのはどういうことなんだろうか? 観察していると、ルイズの命令に対してロデムはどうもヨミとぼくが同時に命令を出したときと似たような反応をするときがある。 そういえばルイズたちをロデムは止めなかったようだし、ひょっとすると…の可能性があるのでしばらく様子を見るにも近くにいたほうが ちょうどよいか、などと思いほうっておくことにした。 そのロデムはバビル2世の傍にいる。観察力の鋭いものならば、バルコニーの柱が一本増えていることに気づいたはずだ。 手元にいくつかの料理がある。シエスタが気を利かせてもってきてくれたものだ。 デルフリンガーは足元に立てかけてある。よく耳を澄ますとぐるるるカチャカチャ音がしているので、ロデムとしゃべっているのだろうか。 さすがはインテリジェンスソード、よく会話できるものだ。 などと考えていると突然甲高い声が。 「ヴァルエーリ公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~り~~!」 相撲の呼び出しもかくやという感じで到着を告げる衛兵。 姿を現したのは、息を呑むような着飾った姿のルイズ。 ルイズは長い桃色がかった髪をバレッタにまとめ、ホワイトのパーティードレスに身を包んでいた。肘までの白い手袋がルイズの 高貴さをいやがおうにも引き出し、胸元の開いたドレスが造りの小さい顔を宝石のように輝かせている。 主役が全員揃った事を確認した楽士達が、小さく流れるように音楽を奏で始めた。 あっというまにその美貌に惹かれて男たちが群がり、ダンスを申し込んでいる。 黙っていれば素材はいいからな、とバビル2世は苦笑した。あの分じゃ全員と踊っていると朝までかかりそうだ。 ふと、空を見上げるとそこには月がかかっていた。 召喚されたときと同じ、双月だ。 バルコニーから飛び降り、少し月明かりの下を歩く。 背後には踊るルイズたち。ここにはまぎれもない平和がある。 だが、その平和を享受するためには倒さねばならぬ敵がいた。 自分がこの世界に呼ばれた理由、それはおそらくヨミを倒すため。 優雅な舞踏会を背に、バビル2世はいつまでもヨミのことを考えていた。 これから始まるであろう壮絶な戦いのことを。 ゼロのしもべ 第1部 誕生編~白昼の双月~ 完 …エピローグ… 「ヨミ。今度こそ決着をつけてやろう」 「ビッグ・ファイア…」 「む?」 声をかけられ、振り返るとルイズが立っていた。 「踊らないのかい?」 「相手がいないのよ」 すっと腕を差し出すルイズ。 「むむむ?」 「踊ってあげても、よくってよ。」 目を逸らし、ルイズはちょっと照れたように言った。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。」 バビル2世は学生服である。とてもではないがこの格好で踊れるものか。 「いいじゃないの。今日だけよ。」 ドレスの裾を両手で掴み、膝を曲げてルイズが恭しく一礼する。 「わたくしと一曲踊ってくださいませんこと。ジェントルマン。」 「ねえ、ビッグ・ファイア」踊りながらルイズが語りかけてくる。 「あなたの本当の名前はなんていうの?」 必死にルイズについてステップを踏んでいたバビル2世は目を瞬かせる。 「気づいてないとでも思ってたの?ビッグ・ファイアって名乗ったのに、あいつらはバビル2世って呼ぶじゃない。子供でも、本当の 名前が別にあるんじゃないか、ぐらい思うわよ。」 くすくすと笑うルイズ。その笑顔に、なぜか心臓がドキドキするバビル2世。 「浩一だよ。」 「コーイチ?」 「ああ、山野浩一。それがぼくの本当の名前だ。」 「コーイチ、ね。」 いい事を聞いたわ、と言わんばかりのルイズ。 「ねえ、コーイチ。もとの世界に帰りたい?」 「ああ。だが、ぼくはまだ帰るわけにいかない。」 それをどういう意味に受け取ったのか、ルイズの顔がなぜか一瞬で赤くなる。そして思い切ったように 「ありがとう」と呟いた。 「その……あんな連中を退治してくれたし、命も助けてもらったからよ。それ以外にないから。」 むしろそれ以外にない気がするが、強調するルイズ。 バビル2世は思った。自分も、今ぐらいは平和を楽しむのは悪くないんじゃないか、と。 「気にすることはない。」 「どうして?」 「ぼくは、きみの使い魔だ。」 楽士たちがテンポのいい音楽を奏でだした。なにかの曲のイントロのようだ。男が1人、前に進み出た。歌手らしい。 その男が燃えるような声で曲名を叫んだ。そして高らかに唄いだした。 砂の嵐に 隠された …… ♪ 「バビル2世よ…」 同じ月明かりの下、ヨミが呟く。 「おまえがこの世界の特性を知らぬ分、わしがまだ有利。いずれ直々に相手をしてやる。そうだ、今度こそ決着をつけてやる。」 そう言い、額から何かを剥がすヨミ。皮膚と同じ色をしたシールを貼っていたのだ。 その額でルーンが怪しい光を放っていた。 はるかなる異世界 人類は魔法の力を用いて 繁栄ある社会を築いていた。 だが その繁栄の陰に 暗躍する一つの影があった。 かつていくつもの組織を率い、世界を支配せんと目論んだ、ヨミ。 一方、3つのしもべを率いて、その野望に立ち向かう一人の少年がいた。 名をバビル2世。 前へ / トップへ / 次へ(第2部)
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前へ / トップへ / 次へ 「ふむ、珍しいルーンだな。」 差し出した左手を覗き込んで、コルベールという教師が呟く。 珍しいと聞いてさもあらんとその場にいた人間は頷いた。一方はバビル2世であり、仮にも宇宙人の血を引いている以上、 普通のものがでなくても『それほどおかしくはない』と考えた。もう一方はそれ以外の面々であり、『平民の使い魔だしな』 というものであった。もっとも後者は正確には『ルイズが呼び出せたんだしそうだよね』というものがほとんど混じっていた。 「コントラクト・サーヴァントはちゃんとできているし、安心しなさい。おめでとう。」 ありがとうございます、と謝辞を述べるルイズ。 「さて、じゃあみんな教室に戻るぞ」 促すと、コルベールはじめルイズ以外の全員がふわりと宙に浮かぶ。使い魔も例外ではない。 ルイズが飛べないことを口々に囃しながら飛ぶ面々。 『フライ、というのか。』 考えればぼくは空を飛べないな。 その面では魔法のほうが少なくとも上である。が、速度自体は自分が走ったほうが早い。高さもジャンプしたほうがより高く跳べる。それに良く考えれば 念動力(サイコネキシス)を使えば自分を浮かばせることができる。ただし、これは力を使うのであまり進められない。 今までの会話からも、テレパシーからもわかることだが、ルイズは当然飛べないようであった。しかたなくとぼとぼと歩き出す。 自分が抱えて走ればおそらくあっという間に着くだろう。だが、どこが教室か知らないし、能力は隠しておくべきだ。万が一だが、 ここがヨミのつくったなにかの罠である可能性は否定できないのだから。 『ロプロスがいればあっという間に着くんだろうがな。』 自分を助けるために囮となり、水爆で消滅した空のしもべを思い浮かべる。 『ロプロス、ぼくはここだ。ここにいるぞ。』 思わず呼びかけてしまう。世界が違う上、破壊されたロプロスがやってくるはずがないとわかっていながら。 『そういえば、ロデムとポセイドンはどこへいったんだろう?』 あの召喚魔法が人間にしか効かないのならば、しもべは2つとも元の世界にいるはずであろう。だが服はこの通り一緒にやってきている。しかし――― 「一緒に現れなかった以上、こちらには来ていないと考えるのが妥当か。」 「ちょっと」 「?」 ルイズがこちらを向いて、ジッと見ている。 「さっきから何をブツブツ言ってるのよ。何よ、ロデムだのロプロスだのポセイドンって」 どうやら声に出してしまっていたらしい。 「ぼくの頼もしい……仲間さ」 しもべ、と言おうとして仲間と言い直す。しもべ、と言うと身分制度があるらしいこの世界、なにか誤解されかねない。 「仲間ね。ビッグ・ファイアのいた田舎ってそんな変わった名前ばっかりだったの?」 じろじろとこちらをつま先から頭のてっぺんまで見てから 「変わった格好しているものね。よほどの田舎から来たのね。」 自己完結してうんうんと頷く。今は勝手に納得させておくほうがいいだろう。信用を経てから、事情を話したほうが 親身に協力してくれるはずだ。 「ええ、すごく遠いところから来ました……って、あれ?」 目の錯覚かと思った。 月が2つ、まだ明るい空に浮かんでいたのだ。しかもかなり大きい。 「月が……2つ?」 月は確か自身の公転で地球の自転とバランスを取り、地軸のふらつきを押さえていたはずだ。それが2つもあればこの世界、 気象は安定せず生物が住める環境ではないはずだ。 だが、現実として彼らはここにいる。 そして魔法がある。あの月がなにか関係している可能性も否定できない。 大きさの問題か。大きさがちょうど地軸の安定に役立っているのか。 「何よ。月が2つあるのは当たり前じゃない。まさか月が3つだったり、4つだったりする田舎から来たっていうの?」 「いや。そんなことはない。」 1つしかないのだから、どちらも間違いだ。 「ならいいじゃないの、早く帰るわよ!」 月が二つというのはある意味で衝撃だった。いくらヨミでも、わざわざ月を二つにするというディティールに凝るとは思えない。 いや、逆に異世界感を強める働きがあるのだから、やはりこれはヨミの罠なのか? もしヨミの罠だとすれば……まだ生きているというのだろうか。 バビル2世は不安と、同じくらいの喜びを感じていた。 一方そのころ、アルビオン大陸の雲に覆われた一角が大きく盛り上がったかと思うと、雲を蹴散らしなにかが飛び出していた。 飛び出した何かはあっという間に音速を超え、いずこへともなく飛び去った。 この謎の事件によって大陸全体を地震が襲い、地震になれないアルビオンの民が一種の恐慌状態に陥りかけたという。 前へ / トップへ / 次へ
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前へ / トップへ / 次へ フーケの前に立つバビル2世。 その背後には3つのしもべが控え、辺りを睥睨している。 「なぜお前はぼくの名前を知っていた。どこまで知っているんだ?」 「ど、どこまで……」 訊かれても、ほとんど知りはしない。 ただあの仮面の男に妙な絵と、名前を教えられただけなのだから。 「仮面の男とは誰だ?」 仮面の男といわれても、自分はただアルバイトを頼まれたに過ぎない。詳しいことは何も…。 と、ここまで来てフーケは気づく。自分はこの少年にバビル2世などと一言も言っていないし、今だって何一つしゃべっていないのに、 それに応えるように話しかけてくるではないか。まるで、心でも読んでいるように。 「そうだ、ぼくは心を読むことができる。だから隠してもムダだ。素直にしゃべったほうが身のためだぞ。」 なんということだ。ということはこの少年は初めから自分がフーケだと気づいていたのだ。 あの会議のときに私を重罪人に仕立て上げたのも、すべてこの少年の企みだったのだ。 身震いをするフーケ。 このまま黙っていてもただで済むはずがない。だが、この少年はあの仮面の男についてなにか知りたがっているようだ。 素直に話せば逃がしてくれるかもしれない。 「そ、それは…」 と、口を開きかけた瞬間、バビル2世がフーケ目がけ何かを放った。 昼間、武器屋で手に入れたリベットであった。リベットを指で弾いて、弾丸のように吹っ飛ばしたのだ。 「ひぃい!」 淑女とは思えぬ声を上げ、身を縮めるフーケ。 だが、リベットはフーケを掠め、その背後の木に突き刺さっていた。 木は突き刺さった箇所から血を流している。 「フッフフ…」 木がぐにゃりと動く。幹から、リベットを腕で受け止めて奇妙な格好の男が現れた。 「何者だ。」 「ジャキ…」 タバサが呟いた。 「ほほう、このわしを知っているのか。左様、わしの名前は不死身のジャキ。」 腰に刺した片刃の剣を抜く。 「その娘にしゃべられると不都合なのでな。始末させてもらった。」 なに!?とフーケを見ると、チアノーゼ特有の顔色になり、ぐったりと身を横たえている。 その首筋に、小さな針が刺さっていた。 「まるで忍者だな。」 「ははは。左様、わしは忍びよ。もっとも忍び殺しのジャキとしてのほうが有名だがな。今はメイジ殺しのジャキと言ったところ か。」 白刃が宙でゆらゆらとゆれる。 「こ、これは……」 「忍法、ナナフシ…」 ジャキの身体がぼやけていく。ぼやけた身体が闇に溶け、完全に姿を消す。 「くっ!ロデム!ロプロス!」 ロデムがルイズたちを捕まえてロプロスに飛び乗る。ロプロスが空中に逃げ出す。 「これで3人が狙われることはなくなった。」 精神を集中させ、辺りをうかがう。しかし一切、人の気配らしきものはない。 「ならばあぶりだすまでだ。」 ぐっと拳を握って、交差させる。左手の紋章が強く発光しはじめた。大地が揺れ始め、バリバリと表面がめくれ上がっていく。 精神動力、サイコネキシスだ。 木が引き抜かれ、岩が飛び、森が震える。 「ぐ、わわわ!?」 ナナフシの術とは、己を木と思い込み姿を消すという昆虫「ナナフシ」に見習って、己を岩や壁、土や木と思い込むことにより、他人 にも木石と思われ、気にされなくなる術である。 しかし、このときバビル2世により精神をかき乱され、己を木石と思い込めなくなり、結果姿を現したのであった。 「ええい!なんという力だ!さすがは我らボスの宿敵!」 くるくると回転しながら、広場の中央、小屋の残骸跡に着地するジャキ。 「こうなれば奥の手よ。」 懐からたすきよりも長い布を何十本も取り出す。それを四方八方に投げ、自分の周囲を布で覆ってしまう。 「ふっふっふっ、忍法、布砦。」 精神動力をやめたバビル2世がじっと眼を凝らす。 布はまるで生きているかのように徐々に伸び広がっている。 「いったい何を企んでいるんだ…む?」 気づくと足元にまで伸びていた布がバビル2世に絡み付いていた。 「こ、これは!?」 布はたちまち手足を包み、絡まり、縛っていく。バビル2世はどんどんミイラ男のような姿になっていく。 忍法布砦。 川を流れる布は、流れを邪魔する異物があればたちまち絡まりつく。 同じようにこの忍法は布の流れを邪魔する異物に触れると、たちまちまとわりつき、身体の自由を奪ってしまうのである。 すなわち中央にいる術者は、まさしく砦の主のごとく、布という防護壁に守られたも同然になるのだ。 「念には念を入れさせてもらおうか。」 絡み付いていない方向の布を手繰り寄せ、再び、今度はバビル2世めがけて投げつけた。 地面に落ちた布は空に伸び上がり、ジャキと 瓜二つの姿に変化する。投げ飛ばした布の数だけのジャキが誕生し、それが白刃を構え、悠々とバビル2世に歩を進めていく。こ うなってはもはやどれが本当のジャキであるかわからない。 「忍法布分身。」 これだけの刃を受ければさすがにバビル2世といえどもひとたまりもあるまい。ジャキたちが一斉に刃を振りかぶった。 「甘いな、ジャキ。」 布の中からバビル2世の声。たちまち布が燃え出し、灰に変わっていく。 「お前たちのボスからぼくのことを聞いているんじゃないのか?同じ能力を持っている、と。」 分身体が燃え出す。残されるはジャキただ一人。 「げえっ!火炎放射か!」 しまったとばかりに慌てて刃を振り下ろす。だが、一瞬早く、喉へとリベットが叩き込まれていた。 そして刃をかわし、眼にも留まらぬ速さでつかみかかる。 「エネルギー衝撃波を食らえ!」 ブワァッ、と身体が弾けたように電撃が走った。ジャキの全身が閃光を上げ、火花をふく。 まるで花火セットにマッチを投げ込んだようだ。 そしてそのまま倒れこむ。おそらく内臓がズタズタに引き裂かれたのだろう。口から吐いた血の泡が沸騰してこびりつき、身体のあ ちこちが破裂したようになり骨さえ見せていた。 「ロプロス。」 安全を確認したバビル2世がロプロスを呼ぶ。降り立ったロプロスからロデムが慎重に3人を降ろす。 3人とも、あのタバサでさえ怯えていた。 それもそのはずだ。大地を揺るがしたかと思うと風を起こし、炎で攻撃を弾き飛ばす。 最後は電撃でとうとう敵を絶命させてしまったのだ。水の系統以外の全ての魔法を使いこなし、しかもそのいずれも一流のメイジかそ れ以上、といった具合であった。 もはや誰もエルフであるということは信じていない。 「詳しいことは、帰って話そう。そんなことよりもフーケ…いや、ミス・ロングビルの遺体を…」 遺体が浮かび上がりバビル2世の元へ。 「ロプロス!」 「きゅる?」 いつのまにかロプロスのそばにタバサの使い魔がいた。もっともロプロスはロボットなので、黙して語らず。一切の反応はない。 「まあ、一緒に乗せていけばいいか。」 そう言って、3人にロプロスに再び乗るように促す。怯えていたため、すんなりと指示に従ってくれる。 ただ、タバサのみが違った。 タバサはすたすたと見るも無残なジャキに近寄り 「火を。」 と催促したのである。この場合、バビル2世にしたのかキュルケにしたのかは不明である。 「火葬にするの?いまそんなことしなくても…」 あのタバサが、と珍しく思うがそれ以上に怯えてキュルケが言う。色々な意味で物騒なのだ。なるべく離れたいに違いない。 「早く。」 催促するタバサ。だが、 「今はとりあえず、学院に破壊の杖とフーケの正体を知らせることが先決だ。」 と、しぶるタバサを無理矢理乗せる。だが普段から自己主張しないタイプなので、すぐに諦める。 その間に、瓦礫の山を掻き分けて破壊の杖を見つけ出したポセイドンが、バビル2世に杖を渡す。 そしてポセイドンはロプロスの足につかまり、ロデムが飛び乗り、大空へ3つのしもべが飛び上がった。 3時間後―― いつまでたっても戻らぬジャキを探しにやってきた白仮面が見たものは、瓦礫の山と、綺麗なジャキの死体であった。 あの恐るべき負傷は、軽いやけどの治りかけのように綺麗に消えているではないか。 そして白仮面の見ている前で心臓が動き出し、眼を開いて起き上がった。 「見ての通り、おまえの予測どおりだ。」 「この惨状、しもべが現れたのか。いくつか、しもべらしきものの噂を聞きつけ慌てていたのだが…」 「いずれにしろ、我らのボス――」 「「ヨミ様に急ぎお知らせする必要がありそうだな。」」 前へ / トップへ / 次へ
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前へ / トップへ / 次へ 妙に焦げ臭い。 良く嗅いだことのある匂いだ。爆発が起きた後、あたりにこういう匂いが漂う。 「あんた誰?」 突然現れた少女がそう問う。 薄桃色の光沢のかかったブロンドヘア。一瞬染めたのかと思うが、根元まで色が変わらないところを見ると どうやら自毛らしい。 黒いマント、杖。まるで 「魔法使い…?」 ゆっくりと腕を下ろす。視界に、周辺に立っていた若者たちが入る。ほぼ全員同年齢らしい少年少女は、 どれも皆この少女と同じように一律黒マントと手には杖である。 ただ、目の前の少女は成長が遅れている部類に入るだろう。主に胸の部分が、である。 「メイジよ!」 少女が呟きに反論する。どうもこだわりがあるらしい。 「明治?」 いや、magiだろうか。たしかMagicの元になった単語の。 「なによ、明治って。そんなことよりあんたは誰かって聞いてるのよ!名乗りなさい!」 近くには他に頭皮がかわいそうになっている男が一人。推測するに、この集団は学生で、 この男は教師と言ったところだろうか。 いったいあの光はなんだったのか。以前、ヨミの基地を攻撃したときに幻覚を見せられて、 破壊をしていない基地を破壊したつもりになって引き返したことがある。これも幻覚なのだろうか。 「ちょっと!平民の分際でシカトする気!?」 『なによこいつ。平民を呼び出しただけでも恥なのに、それが貴族の命令を無視するってどういうことよ! 恥に恥。二重の恥よ!……って何、こいつ!?眼が…』 『おいおい、ルイズのやつ呼び出した使い魔に無視されてるぜ』 『さすが、「ゼロ」の二つ名は伊達じゃないな』 『もうメイジになるのを諦めたほうがいいんじゃないか?』 精神を集中させる。 瞳が輝く。 相手の頭の中が流れ込んでくる。いわゆる読心(テレパシー)と呼ばれる超能力だ。 ルイズ、メイジ、使い魔、魔法、火、水、風、土、爆発、貴族、平民、キュルケ、タバサ、ヴァリエール、 ツェルプストー、コルベール、トリステイン魔法学院、授業、契約(コントラクト・サーヴァント)…… さまざまな情報が頭に流れ込んでくる。 『なるほど、この少女はルイズという名前なのか。』 ぐるっとあたり一帯の思考を読んでみたが、敵意や殺気は感じられない。いくら幻覚でも、思考までは 誤魔化せない。万が一ここにいる全員が催眠術にかかっているのだとすれば、そのときは周囲にこちらを伺って いる人間がいるはずだ。しかしそれはいない。また、周囲の人間の思考にブレや矛盾がない。とな るとこれは現実であり、演技ではない。 となると、あれはヨミの攻撃だったのか。しかしそれも違うようだ。 『どうやら、今、進級に必要な召喚の儀式とやらをやっていて、それでボクが召喚されたようだな。 おそらくあのときの光の円盤は使い魔を召喚する魔法だったのだろう。 問題はその召喚で連れてこられたのがどこかということだ。』 バビル2世は、使い魔と称される一段を横目で見る。 ドラゴン、サラマンダー、妙なカエル、大きなモグラ、etc、etc…… こんな生き物が現実に存在するなど聞いたことがない。ところが、心を読むと珍しい動物ではあるが、 普通に存在するもの、という意識を持っているのがわかる。 また少なくとも自分たちの世界に魔法が周知される形で存在はしていない。 なるほど、どうやらここは異世界(ファンタジー)と呼ぶべき世界らしい。 『ということは、ぼくは異世界へ召喚されたのだ。』 問題はこの世界へ、元の世界から往復できるのか、ということだ。もっといえば召喚したものを送還できるのか ということに搾られる。 ふと、以前戦った老人の操る謎の生命体を思い出した。 『ひょっとすれば、あれはこの世界にいた生き物で、元の世界へ移動していたのかもしれない。 となればここはひとつ話をあわせておいて、帰る方法があるかどうか聞き出すべきだろう。』 「あの……」 ルイズ、ルイズ、ダメルイズ、と囃し立てられ、身体がプルプル震えだしたルイズに話しかける。 「すいません、貴族様。急に目の前に見習いとは言えメイジの方々が現れたので、驚いて混乱していました。」 深々と頭を下げて謝罪する。 タイミングが絶妙だったため、囃し立てる言葉がぴったりと止む。 そろそろコントロールしやすくするために、叱り付けて威厳を見せようと足を一歩踏み出しかけたコルベールが ビクッと固まってしまった。 「そ、それなら仕方ないわね。たしかに平民がこんなところに現れれば混乱するのも仕方がないわね。」 「その平民を召喚したのは誰かしら~?」 落ち着きを取り戻したルイズがコホンとセキをして、威厳を整えて寛容に振舞う。しかし後方からの色っぽい声に よる冷やかしを受け、あっという間に皮がはげ、声の方向をにらみつける。『あの声はキュルケ・ツェルプストーか。ゲルマニア……。先祖代々仲が悪いのか。』 宿命って奴かな、と思い、ふとヨミの顔が脳裏に浮かぶ。しかし、すぐに「なかなかいい男じゃないの。早く使い魔 にしないと私が貰っちゃうわよ?」「あげないわよ!どうやったらそんな思考になるのよ!」などという言い争い で現実に引き戻される。 「そんなことより!」 振り返って、キッとバビル2世を睨み付ける。寛容な演技などどこかに消えてしまったようだ。 「さっきから聞いてるでしょ。名前は?」 「名前?」 どうすべきだろうか。ここは山野浩一と名乗るべきだろうか。しかし、魔法使いの国である。簡単に名前を教えて、 あとでとんでもない目にあわないとも限らない。 「ビッグ・ファイアです。」 「ビッグ・ファイア?変な名前ね。」 『変な名前ね。どういう発音するのよ。』 それは自分も思っている。今考えた名前だ。直訳すれば大火。日本風にすれば炎大か?漫画家にいそうだ。 『さ、早く契約を済ませないと。使い魔と……キスをするのよね。』 「ちょ、ちょっと待った。」 全身からどっと汗が噴出し、顔が熱をおびる。 口付け?キス?契約というのはキスが必要なのか? 意外や意外。バビル2世はまだキスは未体験であった。 無理もない。本来そういう体験をする齢に戦いの渦へと投げ出されたのだ。 バビル2世は今、ヨミとの戦い以上に緊張し、狼狽していた。 「なによ?まさか使い魔になるのが嫌だっていうの?平民の分際で!」 「こ、これは孔明の罠だ!」 「なにわけわからないこと言ってるのよ!コウメイって誰よ!」 『ファーストキスなんだから、こっちは緊張してるのよ!覚悟が鈍るじゃないの!』 心を読むと、少女のほうも初めてのようであった。 それを知ると、落ち着きが出る。少し腰をかがめ、キスしやすい位置へ顔を差し出す。 それを見て明らかにルイズは動揺する。心を読まなくてもわかるほどだ。 しかし、覚悟を決め、ついに契約のキスを交わした。 ジャーン ジャーン ジャーン 「ぐわあっ」 不意打ち的に左手を襲う焼きつくような激痛に思わず声を漏らす。 やはりヨミの罠だったのか!? 右手で左手の甲を押さえ、痛みに耐える。だがすぐに痛みは止み…… 「こ、これは……?」 左手に浮き出た妙な印をルイズに見せる。 「使い魔のルーン」『使い魔のルーン』 発言と思考が同時に響く。 地上最強の超能力少年、3つのしもべを操るバビル2世が、 史上最低のメイジと言われているルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールのしもべになった瞬間であった。 前へ / トップへ / 次へ
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前へ / トップへ / 次へ 「やや、これはすごい。」 久しぶりに横山作品っぽい台詞を口にして驚くバビル2世。 山野家が2、3軒入りそうな大広間に、同時に3桁単位で席につけそうな大きさのテーブルが3つ並べられている。 すでにテーブルにはローソクに火がつき、花がいけられ、果物の入った籠が置かれている。食事をしている生徒も多い。 それぞれの机に同じ色のマントを身につけた生徒同士、分かれて座っている。どうやらマントの色は学年を意味していて、 学年ごとに座るテーブルが決まっているようであった。 『そういえば、朝やってきた二人もルイズと同じ黒いマントを身につけていたな。』 黒マントの生徒は真ん中のテーブルについているところを見ると、ルイズたちは2学年であるようだ。 食べ終えた生徒の中には仲間で集まって騒いでいるものもいる。朝からテンションが高いのは、呼び出した使い魔について互いに 批評しあっているゆえらしかった。 『アルヴィーズの食堂』 将来のメイジを育成する学園の食堂といっても、そこに集まっている貴族の子弟はにきびも花盛りの子供である。 やっていることが元の世界の学生と変わらない事実にバビル2世は妙な安心感を覚えていた。 ルイズはそんな一団を避けて席に着く。 当然のようにバビル2世も席に着こうとする。 が、ルイズに手で制されてしまう。 「うん?」 制した手が床を指す。そこには皿が1枚。 透けてしまいそうな薄く小さな肉片入りスープ。皿の横に固そうなパン切れが2枚。 ルイズの前に置かれた料理がWiiとPS3だとするならば、それはバーチャルボーイといった感じである。 「あのね? ほんとは使い魔は、外。あんたはエルフだっていうし、私の特別な計らいで、床」 先ほどからなぜか機嫌が悪いままのルイズが目もあわせずに言う。 むむむ、と汗を流して皿を見るバビル2世。 始祖ブリミルと女王陛下にお祈りをしてから、ルイズは食事を始めた。 バビル2世はしかたがないので口に放り込むが、すぐになくなってしまう。当然少しも足りない。 やおらテーブルの足を指で叩いて拍子をとりながら、歌いだすバビル。 「長剣よ 帰ろうか 俺には 肉を 食わせない ♪」 「馮驩じゃないんだから…」 呆れたようにバビル2世を見るルイズ。 「するとルイズは孟嘗君ということになるな。孟嘗君は客人を決して粗末に扱わなかったと聞くが?」 「仕方ないわね。」 孟嘗君とか馮驩っていったい誰よ、とぶつぶつ言いながらほくほくと湯気をたてる鳥のソテーをナイフで解体していくルイズ。 そして、皮だけをバビル2世の皿に落とす。 「げえっ!これは皮だけで中身がないじゃないか。」 「癖になるから、肉は駄目。」 妙に意地になってつっけんどんに言うルイズ。 どうだ、ご主人様に逆らったら食事すらままならないのだ。自分の立場を思い知るがいいわ。 と本人はこの仕打ちの理由をそう思い込もうとしているが、実際のところはまったく別の感情がそうさせていることにも気づいていた。 だがプライドがその事実を押さえ込んで、『使い魔に対する躾』なのだと必死に自分を納得させようとしていた。 「………」 バビル2世が突然立ち上がる。忘れていたへそくりが出てきたような表情をしている。驚きと喜びが同時にやってきたような顔だ。 「な、なによ。」 嫌がらせに近い躾をしたのにそのような態度をされて怯えるルイズ。そういう趣味のエルフなのだろうかと、少し顔が赤くなる。 「ごめん、急用ができたんだ。またあとで」 慌てて出て行くバビル2世。呆然と見送るルイズ。 が、その様子は普通ではない。別の理由があるのだろうか。 「………何よ、あれ。後でお腹空いたって言っても何もあげないんだから」 妄想がエスカレートして茹でたこのようになっていたルイズであったが、それを打ち消すように頭を振り、あくまで平静を装う。 しかしその後、フォークから肉が急に逃げ出すようになり、おまけに「ぼくのパンが消えた!」と騒ぐギーシュのせいで満足に食事を 取れず、お腹をすかせて授業に臨む嵌めになってしまった。 食堂から見えた建物の角を曲がり、人気のない場所へと急ぐ。 裏手まで移動し誰もいないことを確認すると跳躍し、高い塀を飛び越える。 着地をしてあたりを見回す。 「ロデム!ロデム!」 周囲に己のしもべの名を呼びかけるバビル2世。 あの時バビル2世の見たもの、それは塀の上に立つ黒豹ロデムらしき姿であった。 だが、懸命に呼びかけてもその姿を見つけることはできない。姿を現すことはない。 喜びの表情はたちまち落胆へと変わる。 「……ぼくの気のせいだったか。」 悲しげに鳴る胃袋。喜びが消し去った空腹感が一気に襲ってくる。 「あのぶんじゃあ昼にもまともに食べられるかどうかわからないし、まいったな。」 思案しながら懐からパンを取り出して咥え、歩き出す。ここに来る途中で失敬したものだ。 「……な、なによ、あれ」 塀の上で呆然とする人影。 「フライも使わずにこの塀を飛び越えたっていうの……?いったい何者なの……?」 黒ずくめのローブを目深に、身にまとった緑髪の美女――バビル2世が一瞬ロデムと見間違えた女性は、目を白黒させながら、 バビル2世を目で追いかけていた。すなわち下見中の、ロングビルと名乗る、土くれのフーケその人であった。 2世が腹をすかせていなければ、すぐに見つかったであろう彼女の幸運に乾杯、である。 前へ / トップへ / 次へ
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前へ / トップへ / 次へ バビルの名を持つものは、異郷の地で故郷へ帰る日を夢見る運命にあるのか。 バビル1世は帰るために塔を作った。 だが塔は事故から消滅し、彼は異郷の土となった。 5000年後、バビル2世も同じく異郷にあった。 すくなくともバビル2世は故郷に帰りうる情報を手に入れた。 虚無の魔法使いと始祖の祈祷書―― 虚無の使い手はすぐ傍にいる。バビル2世の主となったメイジ、『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』である。 だが彼女はまだ未熟なメイジであった。まだ虚無の魔法を使いこなせてなどいなかった。 ゆえに、彼女を育て上げる手段が必要であった。 育て上げる手段、すなわち始祖の祈祷書である。 「始祖の祈祷書なら王室の宝物庫にも一つあったはずよ」 帰路、馬上でそれとなく尋ねると出てきたのは意外すぎる言葉であった。 「ちょっと待ってくれ。にも、というからには、まだあるのか?」 はあ、とため息をつくルイズ。 「あったり前でしょ?世界中にごろごろと『贋作』があるので有名な本じゃない。」 ルイズによると、世界中に散らばるその本は時の聖職者や魔術師が自分たちの教えに箔をつけるために作った書物であり、 自分たちに都合のよいように伝承等を解釈した内容が載っているだけのものばかりだという。口さがない連中は、この状況を かんがみて「始祖の祈祷書などもともと存在してなかったんじゃねーのか?」とさえ言っている。 「それで、王室所蔵のものというのは白紙なのかい?」 「らしいわよ。一ページもインク汚れ一つないらしいわ。ま、逆に本物ポイって言う連中もいるけどね。」 「奇天烈斎様が発明したインクを使っていて、特殊なレンズのメガネを嵌めないと読めないということはないのかい?」 「どこのキテレツ大百科よ!」 そーんな安易な落ちがあるわけないでしょ?やれやれと肩をすくめるルイズであった。 『土くれ』の二つ名で呼ばれ、トリステイン中の貴族を恐怖に貶めているメイジの盗賊がいる。土くれのフーケだ。 いちいち説明するのも面倒だが、その手口は大胆不敵にして繊細。風のように忍び込み、音もなく盗み出したかと思えば、 巨大なゴーレムで建築物を破壊したりもする。 手口に共通しているのは『錬金』を使うこと。 錬金で扉や壁を土くれにかえる。たとえ強力な固定化の魔法をかけていてもものともせずにである。 犯行現場に「秘蔵の○○、確かに領収いたしました。 土くれのフーケ」なるふざけたサインを残していくこと。 このせいで、「愉快犯ではないのか?」という推測もある。盗みであたふたする姿を見るのが目的なのではないか?と。 ただその主張には次の反論が寄せられる。そう、 「土くれのフーケはマジックアイテムばかり盗んでいるじゃないか」と。 「協力?」 「ああ。今、君は『破壊の杖』を狙っているのだろう?だが自分の力では外壁を破壊できない。だが我々のほこるロ………いや マジックアイテムならばあの程度の外壁、砂糖菓子のようなものだ。それを報告書のサービスにただでお貸ししようというのだ。」 白仮面の男が言う。日付はすでに虚無の曜日へ入っている。巨大な2つの月が学院を照らし出している。 「ただのサービスで、そんなものを貴方が貸すようには見えないけど?」 黒いローブを目深にかぶった女性が答える。土くれのフーケである。 「もちろん、条件がある。バビル2世をおびき寄せて、そいつでしとめて欲しいんだ。」 ピクと耳が反応する。表情一つ変えずに、 「なぜそのアイテムを使って、あなた自身で倒さないのかしら?」と問う。 もっともな疑問である。 「答えは明瞭だよ。そいつは土の魔法に反応するタイプでね。私では無理なんだ。」 もちろん、こいつに関しては別料金を払う、と続ける白仮面。じっと考えるフーケ。 「そんなに強力なアイテムだというのなら、わたしがそのまま失敬するという考えはなくて?」 「君が望むのなら、報酬とは別にそいつを譲ってもいいさ。」 好条件過ぎる。 たしかに白仮面は最初の約束どおり、あの程度の報告に対して前金あわせ金貨220という報酬を支払った。いったいあの少年は 何者だというか。 もっとも断る理由もない。話の内容に矛盾はないし、あの外壁を打ち破る手段を熨斗つきでくれるというのだ。見逃す手はない。 「………わかったわ。」 ただし、こちらの誘いにあの少年が乗らなかったときは諦めて頂戴。と続けるフーケ。かまわないよ、ということで商談は成立した。 「では、明日昼頃にお届けしよう。決行はいつでも良い。」 そう言って消える白仮面。 昼か。食後ならば、人間の本能として気が緩む。おまけに夜には警戒をしても昼は無防備になるのが人間だ。 うけとって、そのまま押し入るという手段はどうだろうか?そんなことを考えながらフーケはロングビルへと戻って、自室へと歩を進めた。 一陣の風が闇の中を疾っている。 わずかに身体は宙を浮いている。フライを使っているのだ。 ただフライ程度ではこんなスピードは出ない。大地を蹴って加速しているため、通常の3倍の速度が出ている。。 ただし、仮面は白かった。 白仮面である。黒いマントを羽織っているせいで仮面が宙に浮き、幽鬼のようである。 「む?」 前方に輝く怪しい光。 空中でぼうっと青白い光が燃えている。 急ブレーキをかける白仮面。近寄ると木の幹にたいまつが突き刺さっている。 「何者だ?」 警戒態勢をとって周囲を見回す白仮面。すると音もなく幹の上に人影が現れる。 「フッフフ」 現れたのは奇妙な格好をした男。見たこともない奇妙な服を着て、左の腰に方刃の剣を2本指している。 肩にかかるような黒い長髪。涼しげな口元に、糸目。 我々ならば、この男の身なりを見れば「まるで江戸時代の侍だ」と思うだろう。いや、間違いなくこの男の姿は侍であった。 「ジャキか。」 白仮面が警戒を解く。ジャキと呼ばれた男が地面に降りる。その間、一切物音がしない。 それは侍というよりは忍者のようであった。 「なぜ貴様がここにいる?」白仮面。 「それはわしのいう台詞だ。」ジャキ。 「トリスタニアにいるはずのお前がときおりいなくなっていれば、気にかかるのは当然だろう。つけてみれば行く先は魔法学校。 あそこにお前のいいなずけがいるとは聞いていたが、逢引とは思えぬでな。」 ジャキの目がギラリと光る。この男、躊躇なく人を殺めるタイプの人間と同じ眼光を有している。 「ふふ。別に隠していたわけではない。」と白仮面。 「実はな、あそこにはバビル2世らしき男がいるのだ。」 一瞬で凍りつく空気。「バビル2世だと?」と訝しげに聞くジャキ。 「いまだに確証が持てないので、ボスへ報告をおこなっていないがな。確証を得る手段を打ってきたところだ。」 ジャキに今までの経緯を説明しだす白仮面。 「お前も知ってのとおり、あの学院には私のいいなずけがいる。お前は知っているかどうかわからぬが、どうも虚無系統の才能を 有しているようなのだ。そのため、普段から監視を部下にさせてきた。そしてある日……」 「バビル2世らしき人間を召喚した、というのか?」 その通りだ、と頷く白仮面。 「バビル2世がこちらへやってくるかどうかは、我々の長年の懸案であった。そのため、それらしきものが現れたという報告を 受けては右往左往し、組織が振り回されてきた。なにしろボスはそのころはまだ完全に回復していなかったからな。 ゆえに召喚された男が本当にバビル2世なのかどうか確かめてから報告をする必要があると思い、いままで秘密にしていたのだ。」 なるほど、とジャキ。説明に矛盾はない。 ただ、「いかなる手段をとったというのだ?」 「フフ、ゴーリキを使うのよ。」 「ゴーリキを!?」 「ああ、ゴーリキをあの学院に偶然いたフーケに使わせる。もし男がバビル2世ならば、3つのしもべを呼び寄せるはずだ。 なぜなら、バビル2世はゴーリキの攻撃をかわせても他の生徒には無理。となればバビル2世はしもべをあやつって、ほかの人間に 被害が出ぬように戦うはずだ。3つのしもべならゴーリキに引けを取らぬ大きさだからな。」 「ふむ。」 腕組みをして考えるジャキ。そして、 「一つ聞くが、フーケにはいかように話してあるのだ?バビル2世は心を強制的に読むことができるという。万が一でも警戒される ような情報をフーケに与えていれば、バビル2世はわれわれに気づくかもしれないのだぞ?」 はっとした表情になる白仮面。 「そういわれればそうだ。つい、フーケにはバビル2世という名前と、写真を渡してしまっている。」 「むむむ。」 脂汗を流し、見詰め合う二人。何分経ったのか。時が早く動くようにも、遅いようにも感じる。 「ならばわしが…」 と先に声を出したのはジャキであった。 「万一バビル2世であったらばフーケは捕らえられるだろう。そのときは心を読まれる前にわしがフーケを始末しよう。」 おぬしは急ぎゴーリキを運んでくるがいい。と言って消えるジャキ。炎はおろかたいまつ自体が一瞬にして消えうせた。 ジャキは現れたときから消えるまで、声以外に一切物音を立てなかった。 「不死身のジャキか。いつ私の行動に気づいたというのか。」 なんとなく虫の好かぬ男だ、と思う白仮面であった。 一撃で分厚い壁が粉々になった。 特に力を入れさせたわけではない。数発を叩き込んで破壊する気だったのだ。 「なにこれ……すごい!こんなのはじめて!」 OH!YES!と歓喜の声を上げたのはフーケである。まさかこれほどの力だとは。 最初にゴーレムのようなものを渡されたときはからかわれているのかと思った。 だが自分のゴーレムと融合させて使うといわれしぶしぶ試すと、現れたのは通常の3倍近い強さを誇るゴーレム。 おまけに拳を鉄に錬金する必要もなく、やすやすと壁を打ち抜くとは! 「ゴーリキだとかあの仮面は呼んでいたわね…。でも、この姿はあえて言うならビッグ・ゴールド!そうよ、無敵のゴーレム、 ビッグ・ゴールドよ!」 頭から飛び降り、すばやくレビテーションを唱えて、破壊した壁から宝物庫へ侵入するフーケ。 こうなっては逆に宝物庫にかけた固定化が、フーケを守る鎧となる。ゆうゆうと目的の破壊の杖を探すフーケ。 「な、なにこれ!」 「……。」 「あ、あれは!?」 「ゴーレム!?」 空中と地上でほぼ同時に叫ぶ4人。いや一人は叫んでいないけれども。 腕が魔法学院の本塔外壁を貫いている。あの場所は…… 「……宝物庫。」 そうだ、宝物庫だ。賊が進入したのか。 「なんだ、あれは!?」 「わかんないけど………。巨大な土ゴーレムね。」 ルイズは思い出していた。ゴーレムを使い白昼堂々盗みを働くという、噂の盗賊「土くれのフーケ」のことを。 穴から腕をつたって、人影がゴーレムに飛び乗った。何か筒状のモノを抱えている。 ゴーレムが動き出す。ちょうど4人のほうへ向かって、防壁を破壊し、木をへし折りながら悠然と進む。 「くうっ!」 怯える馬の手綱を操って、回避するバビル。 風竜が傍に降り立ち、タバサとキュルケが降りてくる。バビル2世も降りるが、ルイズのことを忘れてしまいほったらかしだ。 「あいつ、壁を破壊したようだがいったいなにを?」 ルイズに話しかけるバビル2世。だがいないことに気づき辺りを見回すと、馬の上から般若のような形相で睨むルイズの姿が。 慌ててエスコートするが、降りた途端弁慶の泣き所を思いっきり蹴られてしまう。 「宝物庫。」 再びタバサ。 「あの黒ローブ、出てきたとき何かを抱えていたわ」 「すると盗賊か?強盗っていうべきだろうか。」 草原の真ん中を歩いていた巨大なゴーレムは、突然ぐしゃりと崩れ落ちた。 土の山と化したゴーレムの中から、岩の塊らしきものが飛び上がり、空の彼方へ消えていく。 慌てて小山の元へ駆け寄るが、ボタ山以外に何もなく、黒ローブの姿も形も、遺留品の一つも残さず消えていた。 前へ / トップへ / 次へ
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前へ / トップへ / 次へ 17話 トリスタニアの南。 山の中にラ・ロシェールという港町がある。 こういうと奇妙に思うだろうが、これは浮遊大陸アルビオンの周期経路近くにある町ゆえ、そこに行き交う人々が自然と集まりだし、 往復連絡船等が就航し始めたことに由来する。 桟橋には多くの船が係留され、大陸の接近を今かと待ちかねている。 そのラ・ロシェールから北東に70リーグばかり行った土地に、最近奇妙な噂があった。 土地の人間や旅人、商人が神隠しにあうのである。 もともと何もない荒れ地で、一種天然の要害と言ってよい地形だった。 そのため近道をしようとする人間ぐらいしか寄るものは居なかったが、こんな噂が立てばますます人気が失われる。 あるいは眼がうつろな集団がその土地に向かって行ったというけったいな噂もあった。 今では誰もその土地に近づこうとしなくなってしまった。 領主であるメイジが退治をしてやろうと意気込んで出かけたが何も出ず、どうせ噂に過ぎぬだろうと放っておかれた。 が、その後も行方不明者は出つづけた。 なぜならばそこには確かに魔物がいたのだから。 それは一見洞穴が多いだけのただの山に見える。 だが、良く見れば洞穴は人工的に掘りぬかれた穴であり、中から熱光線の銃口が侵入者に備えているのがわかるだろう。 近くには赤外線監視装置が近づくものに眼を光らせ、ネコの子一匹寄らせぬ鉄の防衛壁を築いていた。 その要塞は、この時代の科学技術では想像もつかぬまさに化け物であった。 「ご報告いたします!」 その要塞の奥深く、指令センター。そこに急いで入ってきた二人の男が、メインモニターに映る人影に叫ぶように言う。 改めて二人並び、姿勢を正す。 「報告します!」 どうやらモニターを通して会議でもしていたらしい。メインモニター横にいくつもあるサブモニターらしきものに映る人々が、2人に気づき 視線を来る。 この基地からその会議に参加していたのだろう、司令官らしき額に刺青を入れた男が顔を向ける。 「いったいなんだ」 「我々はGR計画について会議中だ。」 「それを妨げてまで報告すべき内容なのだろうな。」 この基地の司令官らしき刺青男をはじめ、サブモニターに映る人間が口々に詰問を始める。だがそれは、 「よい。何事だ。」 というメインモニターからの一言で停止する。ただそれだけで、全ての画面に緊張感が張り詰める。 「はっ。」 白仮面が一歩前に出る。いやな汗が仮面の下に浮き出ているようだ。 「バビル2世がとうとう現れました。」 ごおおお、と全ての画面がゆれたような衝撃。一瞬でその言葉を聞いた人間から血の気が引き、顔が引きつった。 「ま、間違いないのか!?」 「またもや赤の他人ではないのか?」 「間違いありません。」ざわつく画面を制するように、告げる白仮面。刺青男はいつの間にか下に降りて、2人の傍に来ている。 「それらしき人物が現れたとの報告を受けて、今回内密に調査を行ってきました。 その人物が3つのしもべをあやつったことから、結果バビル2世に間違いないという結論に達しました。これが証拠です。」 和服の男――ジャキが懐から小型のスパイカメラを取り出し、刺青男に渡す。急いでコンピューターにセットすると、現れたのはまぎれもない バビル2世と3つのしもべ。 「とうとう、とうとう危惧していた日がやってきたか。」 メインモニターに映る男――長いあごひげを蓄え、ゆったりとした黒い服に身を包んだ男。顔の真ん中に×の字に傷があるものの、それは まごうことなくバビル2世の宿敵ヨミであった。 ことの詳細を受け、完全にバビル2世対策会議へと姿を変えた会議は、依然として続いていた。 ただ白仮面は詳細情報の報告のため急ぎヨミの元へ向かったため、ジャギと司令官が報告を続けていた。 「以上がバビル2世出現についてのことのあらましです。」 学院にとつじょ出現したこと、フーケにゴーリキを提供したがバビル2世と3つのしもべにより破壊されたこと、情報漏えいを防ぐためフーケを 始末したこと、そしてバビル2世の前に敗北したことを包み隠さず報告するジャキ。 「すると、バビル2世はすでにわしに気づいてしまったというのか。」 「はっ。おそらくは始末が間に合わず、フーケの思考を読みとられたかと。」 「ならば何も殺すこともなかったな。バビル2世の怒りに火を注いでしまったかもしれん。」 恐縮するジャキ。奇妙なことだがバビル2世に敗れたことを批難する意見は誰の口からも発せられない。 「勝敗は兵家の常。」という認識が周知徹底されているからだ。 もちろんそれ以外の部分は厳しく追求される。それはヨミが元の世界にいたころからのルールであった。 「バビル2世が現れたとなると計画の見直しが必要かもしれませんな。」 「すくなくともV2号計画は早期実戦配備の必要があるだろう。」 「いや、ここは先手を打ってトリステインを先制攻撃してはどうか。」 「バビル2世の手が光っていたというのは?」 「残る3人の少女というのも気になるな。」 「ところで一つ訊きたいのだが。」ヨミが口を開く。全員に鋭い緊張が走る。一言も聞き逃すまいとするように神経を集中している。 「この青髪の少女とやらが、最後に死体となったところで燃やすよう促したとあるが、なぜ無事だったのだ?」 「それは、バビル2世が早くロプロスに乗るように促したからです。」 眼を見開き血相の変わるヨミ。こころなしか顔が青ざめている。 「な、なんだと!?」 叫ぶヨミに、いっせいに疑問符を浮かべる一同。 「それは本当か!?」 「は、はっ。たしかに、「今は学院に破壊の杖とフーケの正体を知らせることが先決」と言い残して消え去りました。」 うむむむむ、と脂汗を浮かべるヨミ。 「今すぐその基地の警戒レベルをレベル4にあげろ!重要データはすぐに消滅できるようにし、いざというときは全員を避難させる準備をす るんだ!」 手を振り上げ司令官に指示をする。真意を掴み損ね、ぽかんとする司令官はじめ一同。 「ええい、わからぬか!」拳を握り締め立ち上がるヨミ。 「バビル2世がわざわざおまえに止めを刺さなかった意味を考えろ!」 「ま、まさか…」 「そのまさかだ!おそらくすでにバビル2世はその基地に侵入している――」 言うが終わるか否か、かき乱される画面。基地が大きく揺れ、爆発音が響き渡る。 異常を示すランプが点滅し、エマージェンシーコールが基地中に鳴り響く。 「動力系統に異常発生!」 「冷却装置が完全に破壊されています!」 「通路が落ちてきた瓦礫で塞がれています!何名か生き埋めになった模様!」 大混乱に陥る基地。あわてて指示を出す司令官。 「ま、まさか…。わしをあそこで殺さなかったのは…」 「そうだ。この基地まで案内をしてもらうためだ。」 そして爆発音と粉塵の中、バビル2世が姿を現したのであった。 「げぇっ!バビル2世!」 指令センターにいた人間の顔色が変わる。とっさに飛び掛った人間もいたが、あっという間に弾き飛ばされ気を失う。 「とうとう現れたな、バビル2世よ。」 長く登場を予感していたせいか、妙に落ち着き払って言う。 「まさかこの世界にまでキサマが現れるとはな。」 「それはこっちの言う台詞だ。」 「ふっふふ。どうやらワシときさまはどうあっても戦う運命にあるようだな。」 「この世界でもあいかわらず悪事をはたらいているようだな、ヨミ。」 すでに改造人間手術室は破壊させてもらった、と言いバビル2世はヨミを睨みつける。 「あのとき北極でおまえを信じて見逃してやったのがつくづく惜しまれる。そういえば、どうやったのか知らないが身体が元に戻ってい るな。」 北極で全ての力を使い果たしたときのヨミは、エネルギーを使い果たし髪も抜け皮膚もたるんだ白髪の老人であった。 今のヨミは顔の傷こそ残っているものの目も治り、すっかり全盛期の姿に戻っている。 「この姿に戻るのに5年を有したのだ。だがもう以前の力は完全に戻った。今ならキサマにひけはとらぬぞ、バビル!」 「ご、5年だって!?」 驚愕するバビル。あの北極での戦いからまだ1週間足らずしか経っていないはずだ。 そんなバビルを不思議そうに見ていたヨミだったが、はっとした表情で、 「そういえばあれから5年後にしては様子が…」 「ちょっとー!」 その瞬間、指令センターに入って来たのは破壊の杖を抱えたルイズであった。 「なによこれ!一回しか使えないの!?」 後ろを見るとタバサとキュルケの2人も揃っているようだ。体中埃まみれでときおりせきこんでいる。 「しめた!」 隙がないためバビル2世に飛び掛れないでいたジャキがルイズめがけて襲い掛かる。 あっというまにルイズを拘束すると、司令官が銃を構えてルイズに突きつけた。 「動くな、バビル2世!動けばこの娘の命はないぞ!」 おお、と声を挙げるヨミ一同。これで圧倒的に有利になった。 「よくやったぞ。さあ、バビル。これでこちらが有利になったな。大人しくつかまってもらおうか。」 ヨミが画面の向こうで椅子に座る。こころなしか笑みを浮かべているようですらある。 「な、なによこれ…」 突きつけられているものが何か良くわかっていないらしいルイズ。しかし本能的に武器だとはわかっているのだろう。声が震え、顔が青ざめ ている。 「そっちの2人も動くなよ。動けばこのお嬢さんの顔が吹っ飛ぶぞ。」 しかし、バビル2世は……笑っていた。 「な、何がおかしい!」 「ちょっと!なに笑ってるのよ、使い魔のくせに!ご主人様のピンチよ!」 だがバビル2世は余裕たっぷりに 「ヨミ、ぼくがなにも準備せずここに来たと思っているのか?」 「なんだと!?」画面の向こうで再びヨミが立ち上がる。 「さっきぼくは地下の部屋に、途中で見つけたおまえの部下を集めて閉じ込めておいた。そして途中でみつけた時限爆弾を、自爆装置に とりつけておいた。 ぼくが命じれば、ロデムは時限装置のスイッチを入れる。時間は30分しかないぞ。その間に部下を見つけて、救出しなければ間に合わない。」 くぅぅ…と歯軋りをするヨミ。顔はひきつり、脂汗を浮かべる。 「形勢逆転だな、ヨミ。あの3人の無事を保障しろ。そうすれば今すぐスイッチを入れるのはやめてやる。」 「よ、ヨミ様!」 青ざめた顔で叫ぶ司令官。 「構いません!どんな犠牲を払ってでもここでバビル2世をしとめるべきです!」 長い時間が経った。実際の時間はほんの数秒であったろう。 「く………、わ、わかった。無事を保障しよう。そして緊急脱出路を教える代わりに、部下を閉じ込めた場所を教えてくれ。」 うなだれて椅子に座るヨミ。 「ヨミ様!」 「ヨミ様!」 「さあ、ヨミはああ言ったぞ。早くルイズを解放しろ。」 苦渋に満ちた表情で銃を降ろす司令官。震えながらルイズを自由にするジャキ。 そしてルイズはバビル2世に近寄り、 「こ、この犬ー!」 ばちこーんと豪快に平手打ちをかました。 「な、なに人を取引材料に使ってんのよ!私はご主人様よ、ご主人様!何考えてんのよこの人でなし!犬!犬!」 どこから取り出したのか鞭でバビル2世を殴打するルイズ。頭を押さえて逃げるバビル。ぽかーんとそれを見つめるヨミ一同。 「………。それで、そろそろどこに部下を閉じ込めたか教えてくれないか?」 「あ、ああ。」 ルイズを手で制し、顔をヨミに向ける。 「地下の兵器製造所の隣、火薬類保管庫だの横の使っていない部屋だ。入り口に戦車やロボットの残骸を置いて閉じ込めてあるからすぐわか る。」 ヨミが「ゲイフ!」と叫ぶと、司令官が慌てて部下を連れてすっ飛んで行った。 「バビル2世。今日のところは部下とその娘の顔に免じて勝負は預けておこう。だが、次はないぞ。」 ジャキ、と命じるといつの間にかコンピューター近くに移動していたジャキがしぶしぶ前に進み、着いてこいと4人を促す。 4人が消えた後、メインを残し全てのモニターが消える。指令センターからはすでに人がいなくなり、無人となる。 「やはりきさまをたおさねばわしの野望は達成できぬようだな。いいだろう、バビル2世よ。おまえとこの世界で完全に決着をつけてやる。」 やがてメインモニターも消えた。あとには不気味に鳴動する音だけが残った。 「ここが脱出用エレベーターだ。」 案内された先の、大広間でジャキが言う。エレベーターが2基並んでいる。横には非常口マークつきの階段も用意されている。 「さあ、乗れ。約束は果たす。」 そしてルイズたちと、バビル2世の間に割って入る。 「なんの真似だ?」 バビル2世を睨みつけるジャキ。腰の刀の鯉口を切る。 「このままおまえを逃してはわしの気が済まぬ。さきほどこの基地の自爆スイッチを押させてもらった。残念だが、この基地もろとも わしと心中してもらう。」 片目を開き、刃を晒すジャキ。 「ちょ、ちょっと!」とルイズ。 「約束が違うわよ!」 「そうよ!」とキュルケ。 「さっきあのヨミってやつと約束していたじゃないの!アナタのボスに逆らうの!?」 「ヨミ様とお前たちが交わした約束は、3人の無事を保障するというものだった。バビル2世、お前は勘定に入っていない。」 「なるほど。」 バビル2世の左手が輝く。構えをとって間合いを取る。 「ビッグ・ファイア!」 ルイズが叫んだ。 「ルイズたちは脱出してくれ。ぼくはこの男と決着をつける。」 ルイズたちの目の前が盛り上がり、包み込んでエレベーターに突き入れる。ロデムであった。 ロデムは即座にスイッチを押して、エレベーターを起動させた。 「な、何考えてるのよ、バカ…」 ルイズの眼から水が一滴こぼれた。 前へ / トップへ / 次へ
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前へ / トップへ / 次へ まず目を覚ましたのは超人的な体力を持ち、1週間ぐらいなら場合によっては寝る必要のないバビル2世であった。 毛布に包まって床の上で寝たのだが、それでもほぼ体力はフルに回復し、ヨミとの戦いで減ったエネルギーも回復している。 「これはどういうことだろう」 自分の事ながら、訝しく思う。 あれだけの激戦を繰り広げたのである。おまけに数時間しか寝ていない。通常、エネルギーの回復には完全看護のバビルの塔 でさえ、あの消耗度なら1ヶ月はかかっておかしくないのだ。 それが、何事もなかったかのように全快していた。 適当な広場に生えている木を選び、それに念動力をかけてみる。 腕を交差させ、足を組んで中腰に座るポーズを行なうと、全身から光が放たれ、超能力が発現する。 見よ、木は浮かび上がり、捻じれ始めたではないか。 まるで絞った雑巾のように変形していく樹木。それを見てバビル2世は頷く。 「やはり完全に戻っている。どういうことだろうか。」 ひょっとするとこの世界にある、魔法を発現させている何かが影響を与えているのだろうか? あるいはただの偶然なのだろうか。 いずれにしろある程度の経過を見なければ判断はつかない。 「あにやってんのよ…」 ねじれた樹木を見ていたバビル2世に突然何者かが声をかけた。 「朝っぱらからどたどたするから目が覚めちゃったじゃないの。」 ふわぁ~、と大きなあくびをしてルイズがベッドから抜け出てくる。目は真っ赤に充血し、隈さえできている。いかにも眠そうだ。 が、どうやら念動力を使ったことはばれていないらしく、非常に不機嫌そうではあるが質問はしてこない。 「使い魔として主人より先に起きるのは当然だと思ってね。」 「それはそうだけど、主人の健康を妨げるのは感心しないわね。」 上手に言ってこの場をやり過ごそうとすると、仮にも初めて魔法に成功したのが嬉しいルイズは、ころっと騙され乗せられる。 声に隠し切れない嬉しさが混じっている。 「仕方ないわね。ビッグ・ファイアに使い魔としての心得を教えてあげるわ。」 感謝しなさい、と鼻高々にそっくり返るルイズ。後ろにこけてしまいそうだ。 「どの程度まで知ってるのか知らないから、使い魔についての全般的な説明からはじめるわよ。」 ルイズの説明をまとめて簡単に言えばこうなる。 使い魔というのは魔法で召喚されたしもべで、ほとんどがこの世界に生息する魔物や動物であるらしい。 キスは人間の出現を想定していなかったものであり、性的な意味はないこと。 「だからまだ私のファーストキスは残っているのよ!」 拳を握り締め力説するルイズ。残ってなどいない。 そして使い魔の主な役割は… 「まず一つ目に、使い魔は主人の目と耳になるの。使い魔の見聞きした事は主人も見聞きできるはず…」 が、もしそんなことができるなら心を読んでいたことは即座にばれていたはずである。よって 「できないようだね。」 「そうね、無理みたいね…。」 これはダウト。 「そのあたりは、初めてのケースらしいぼくでは、普通の使い魔と勝手が違うのかもしれない。あまり先入観にとらわれない ほうがいいんじゃないかな?」 「そうね。」 素直に頷くルイズ。このルイズという少女は貴族ゆえのプライドの高さと、魔法が使えないというコンプレックスの間で もがいているせいか、今回の召喚がまがりなりにも成功したことがよほど嬉しいらしい。 そういうこともあってか失敗を否定するようなことをほのめかすとほいほい乗ってくる傾向があるようだ。 「二つ目は秘薬の材料を探してくれる…んだけど、どう?」 「残念だが、無理だね」 エルフのくせに無理なの?と呆れるルイズ。だがエルフではないのだからしかたがない。 今のところはエルフということにしておいたほうが無難だと思い、肯定も否定もしていないが、いずればれることである。 機会を見て告白するしかないだろう。 「おそらく、契約のときの副作用でそういった能力は制限、もしくは消滅したんじゃないかな?」 喜びそうなことを適当に語り、なにぶん例外的なことなんだろう?と言うと「ええそうね。仕方ないわね。」と素直に賛同してくる。 「最後にご主人様を守る。ある意味これが一番大事よね」 心が読めるんなら相手の動きも察知できるでしょうし、護衛役は充分できそうね。と一人合点するルイズ。 たしかに護衛役は充分務まるだろうが、バビル2世としてはできるだけ能力を隠しておきたい以上、あまり気の進むことではなかった。 本気を出せば護衛ではなくつい過剰に攻撃してしまう可能性のほうがはるかに高い。 仮にするとなれば能力をできるだけセーブして戦わざるを得ないだろう。 「ま、当面は小間使いとして働いてもらうわ。それぐらいなら勤まるでしょう?」 滅多にないタイプの使い魔だから何ができるのか見極めないといけないわよね、と非常に上機嫌になったルイズ。 睡眠を邪魔されたことなど頭の中からどこかへ行ってしまったらしい。 「じゃあ小間使いに命令するわ着替え、お願い。」 両手を横に広げて、後ろを向いて立つルイズ。着替え?まさか、服を脱がせて着せろというのか? 「どうしたのよ?着替えもできないの?」 あきれ返った表情で振り向くルイズ。顔には落胆の様子がありありと見える。 「小間使いとしても使えないなんて……エルフってみんなそうなの?」 「なにぶん例外的だからね」 むすっとした表情のルイズ。 「もう、例外的は聞き飽きたわ!ご飯抜きを取り消そうと思ってたけど、やっぱりやめたわ!」 プリプリ怒るルイズ。仕方なく着せるが、女のこの服など手にするのははじめてである上、微妙にもとの世界と違う構造なため、 着せ替えるのに四苦八苦する。 「もうっ!もっとテキパキできないのっ!」 「これでも精一杯やってるんだ」 ネグリジェを脱がし、なんとか着替えさせたのは、4,5分も経ってからであった。 当然ルイズの機嫌は治っておらず、朝食抜きこそ言い出さないものの、これ以上下手なことをすれば蒸し返しかねない。 『しょうがない。すこし大人しくしておくか』 そんなバビル2世の耳に、ミシミシと床のきしむ音。 『ん?』 明らかに異なる足音が3つ。1つは宙にでも浮いているようにほとんど音がない、もう1つは自らを誇示するように高く靴を鳴らしながら。 そしてその後ろをのしのし歩く巨大トカゲ。もしバビル2世でなければ足音に気づいたとしても近づいてくるのは1人+αとしか 思わないはずである。 『何者だろうか?』 目が輝くと、壁がガラスになったように透けていく。いわゆる透視能力である。 『この2人は、たしかぼくがルイズに召喚されたときにいた』 1人はハリウッドの女優のような赤髪の美少女。たしか名前はキュルケと言ったはずだ。 もう1人は子供のような青髪の美少女で、メガネをかけている。こちらは……なんという名前だろう? いずれにしろ危害を加えてきそうな相手ではない。それにわざわざ朝早くやってきたのだ、急用なのかもしれない。 「どうやらお客さんのようだよ」 まだドアがノックもされていないのにそう言うとルイズが訝しげな顔を一瞬する。が、すぐに元に戻る すなわち 「あら?」 ドアを開け、まだルイズが寝ていると思っていたキュルケが意外そうな声を上げたからである。 「ヴァリエールのくせにもう起きてたの?珍しいこともあるのね。」 「うっさいわね。いつもいつも寝坊してるわけじゃないわよ。」 憎まれ口に憎まれ口で返すルイズ。 どうやらキュルケと青髪の少女は、ルイズを起こしに来てくれたようだ。 『友達、か。』 そんな二人のやり取りを見て、バビル2世として目覚める前の自分を思い起こす。 思えば、ヨミとの戦い以来出会った級友はただ一人である。五十嵐局長や伊賀野さんは友達というよりは仕事上の知人である。 伊賀野さんとは友情のようなものがあることはあるが、それでもその態度には「協力者」としての面のほうが大きく出ている。 3つのしもべはもちろん友人ではないし、あえて友人というべきは……。 『ヨミぐらいのものだな。』 妙な話だが、ヨミとはお互い友情のようなものが芽生えていた節がある。もっとも強敵と書いて、の「とも」であるし、腐れ縁と いったほうが正しいかもしれない。 そんなキュルケの背後から巨大なトカゲが現れる。 「私はキュルケ。そしてこの子が私の使い魔、フレイムよ。」 トカゲは尻尾に火を灯している。御伽噺で聞く、サラマンダーそっくりだ。 「で、これがヴァリエールの呼び出した使い魔ね。名前は?」 「バビ……ッグ・ファイアです。」「ビッグ・ファイアよ!」 ほぼ同時に2人で答える。一瞬バビルと言いそうになったが、上手くごまかした。と本人では思っていた。 その場にいた中ではただ1人、タバサのみが『………バビ……』と聞き逃していなかった。 「ビッグ・ファイアね。へー、いいじゃないの、ゼロらしく平民ってのはお似合いだと思う」 どうやら目的の半分はぼくにあるらしい。ルイズの召喚した使い魔を、起こすのにかこつけて見物しに来た、と言ったところか。 態度にどことなくバカにした雰囲気があるが……バビル2世を通してルイズをからかっているのだろう。 平民、と言われてルイズはムッとするが、すぐに自慢げにふふんと鼻で笑い、 「平民じゃないわよ。ビッグ・ファイアはエルフなのよ、エルフ。」 「ゑルフぅ!?」 「………?」 ようやく青髪の少女に反応が見られた。キュルケのほうも目を点にしている。 が、すぐにその目は哀れみをたたえたものに変化し、 「ルイズ……いくらなんでも平民をエルフだなんていう逃避をするのは止めなさい。」 「………。」 ルイズの肩に手を回し、子をあやすように言い聞かせようとするキュルケ。頷く青髪の少女。 事実としてバビル2世は平民ではなく、ルイズがそう誤解しているだけなので、この指摘はある意味正しいのだが、 「ふっふ~ん。ところが!ビッグ・ファイアは先住魔法を使えるのよ!」 自信満々に答えるルイズ。バビル2世の超能力と、この世界にあるものが共通してるということが誤解の元であるため、 容易には晴れそうにない。 「そう思い込みたいのはわかるけど、しっかりと現実を見るべきだと思うわ」 もっともなことを言うキュルケ。ニートを諭すカウンセラーのようである。 「嘘は言ってないわ!杖を使わずに、わたしの考えを読んだのよ!」 「へえ?」 明らかに信じていない様子の2人。 「でも、いくら言われても証拠がない以上はねぇ」 「なんならここで証拠を見せてあげてもいいわよ!」 「なら見せてもらいましょうかしら」 いつの間にか話はぼくが能力を見せることになってしまっていた。 能力をなるべく秘密にしておきたいと考えていたのにこれとは。何か陰謀を感じる。孔明の罠だろうか? ということでまだ名前を言っていない青髪の少女の二つ名と名前、魔法の系統、出身などを当てることになってしまった。 拒否したかったが、左手の紋章のせいでしかたがなく、である。 改めて青髪の少女の前に立つと、小柄なこと以上に形容しがたい何かに驚く。意志の強さというか、決意というか、覚悟とでも 言うべきものを感じる。この年齢の少女が持つには異様過ぎるなにごとかであった。 『これは、はたしてテレパシーを使ってよいのだろうか』 読むことによって少女を傷つけてしまうのではないか、という確信があった。 だが、紋章はよほど強力なものらしい。バビル2世の意思に反するように意思を読み始めた。 「………!」 「?」 「?」 突然、背中を氷の腕で撫でられたような反応をした少女にクエスチョンマークを浮かべるルイズとキュルケ。 ややたって向き合っていたバビル2世と少女がほっと息をついて緊張を解く。 そして 「わかりました。彼女の名前はタバサ、雪風のタバサ。風の魔法の使い手で、使い魔は風竜「シルフィード」……」 「どうやら本当にエルフらしいわね」 すらすらとタバサのプロフィールを答えるバビル2世に納得した様子のキュルケと、「見たか」と言いたげなルイズ。 そしてなぜかボーっとバビル2世を見るタバサ。そんなタバサを見て 「ひょっとして、ネンネのタバサにも春が来たかしら」 とからかうキュルケと、急に不機嫌になるルイズ。いつの間にかバビル2世の足元に身体をこすり付けているフレイム。 ルイズの機嫌は 「ビッグ・ファイアってなんだかんだでいい男よね。」 というキュルケの一言により沸点に達したのだった。 キュルケとタバサを追い出したルイズは貴族とは思えぬというか年頃の女の子とは思えない大蟹股歩きでドスドス進んでいく。 おそらく漫画なら額に怒りを示す十字の漫符が浮かんでいることだろう。 おかげでテレパシー時のタバサの挙動理由を詮索されなかったことは、バビル2世にとっては幸運であった。 あの時、強制的にテレパシーを開始したバビル2世は、タバサの10代の少女とは思えない復讐心と覚悟、そして怒りを感じ、 『このまま読み込むのはたやすいが、人としてしてはいけないだろう』 と、タバサに対してテレパシーで交信を開始したのである。 曰く 『実は読み取ることができるのは表面的な部分だけ』 『だから質問に心で答えてくれれば嬉しい』 タバサは一瞬驚いたようであったが、すぐに『本当に心だけで会話をしているのだ』と納得し、簡単な質問に答えてくれた。 普通の人間なら驚き声を上げ、戸惑うだろうが、あの程度で済ませたところにバビル2世はタバサの判断力や知性の高さを感じると 同時に、これまで経てきた修羅場の数について寒気を感じた。 悪に対しては容赦なくバンバン皆殺しにしてきたバビル2世であったが、さすがに他人のグロにはなれていなかった。 なお、タバサが本当に『表面的にしか読み取れない』という言を信じたかどうかは怪しい。 そういう風に演技をしてくれたのではないか、という疑惑をバビル2世は捨てることができなかった。 前へ / トップへ / 次へ