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僕、ギーシュ・ド・グラモンは薔薇を自任する男だ。 しかし恥ずかしながら彼と出会うまで、僕は薔薇の本当の意味を知ってはいなかったのだろう。 そうルイズの使い魔である蝶々の妖精さんと出会うまでは。 ゼロの蝶々 ~発動編~ ルイズが蝶々の妖精さんを召喚した、という話は既に彼が召喚された当日に聞いていた。 しかし正直に言うとその時点では彼にはまるで興味を抱いていなかった。 確かに蝶々の妖精さんは凄いが聞いた話では男だという。 可憐な女の子だというのなら薔薇の名にかけてお近づきになりたいが男ではいくら蝶々の妖精さんでもお断りだ。 そんなわけで僕の方から彼に接触しようとはしなかったし、 ルイズとはクラスが違うし彼女はあまり彼を連れて歩かないので彼と出会うことのないまま数日が過ぎた。 だから僕は気づいていなかった、その時の僕が偽者の薔薇であることがばれ始めていることに。 最初はケティからだった。 「あのギーシュさま・・・ごめんなさい!」 「はい?」 その日はケティと一緒にお茶をする約束をしていたのだがやってきたケティは開口一番そう告げたのだ。 「ギーシュさまのことが嫌いになった訳じゃないんです。いえ、今でも好きなんです。 でも・・・今はそれ以上に蝶々の妖精さんが気になるんです!だから・・・さようなら!!」 確かにショックな出来事ではあったがその時はまだそれほど気にしてはいなかった。 ケティは確かに可愛いが数多くいるガールフレンドの一人でしかなかったし、何より僕の本命は他にいた。 だから僕は「ケティはどうやら薔薇の魅力がわからない可哀そうな女だったようだな」なんてのん気に考えていた。 それが始まりでしかないとも知らずに・・・ 「ごめんなさい」 「お別れしましょう」 「さようなら」 「すまない、ギーシュ・ド・グラモン」 「さよならは言ったはずだ、別れたはずだ」 さよならコールの連発だ。しかも理由は皆が皆「蝶々の妖精さんが気になる」。 そしてついに彼女が・・・モンモランシーが・・・ 「今度ばかりは悪いのはあなたじゃないわ。 あなたの浮気性をもうわたしは攻められない・・・ どうしてもあの蝶々の妖精さんが気になってしょうがないの、ごめんね。ギーシュ」 僕はしばらく呆然としていたが正気に返ると同時に走り出した。 蝶々の妖精さん、パピヨンを呼ぶ為だ。 彼の噂は放っておいても耳に入ってくるので知っている。 彼は高い所でその名を呼ぶと現れるらしい。 レビテーションで本塔の頂上まで上ると僕は叫んだ。 「パーピヨーン!!」 なかなか彼は現れず「噂は所詮噂だったか」と思い始めた頃、突然背後から声をかけられた。 「パピ(はあと)ヨン(はあと)、もっと愛をこめて!」 「来たな、パピヨン!僕の天使達と女神を奪った罪!今この場で償わせてやる!!」 そう杖を振りかざしながら僕は振り向いた。 最速で僕の得意とする青銅のゴーレムを作る錬金の魔法を使おうとしたが・・・ 僕には出来なかった。何故なら僕は目の前の存在に見惚れていたから。 彼はまさしく美しき蝶々の化身だった。 「負けた・・・天使達と女神を取られたのも当然だ、あなたは美し過ぎる。 何が薔薇だ!あなたに比べれば僕は造花の薔薇、いや、子供の薔薇の落書きのようなものだ」 その場で僕はOTLなポーズになった。 バランスのとり難い塔の頂上でやるには細心の注意が必要だったことは秘密だ。 「ふむ、詳しい事情はわからないが・・・お前はそこで諦めるのか?」 「え?」 「俺の美しさがわかる蝶サイコーなセンスを持ちながらこの高みを目指そうとはしないのか?」 僕の中にふつふつと闘志が燃え上がってきた。 そうだ、僕は薔薇だ。今はまだどれだけ本物の薔薇に劣ろうと僕は薔薇なんだ。 薔薇である以上、蝶のように翔ぶことは出来ない。 だが天を目指して咲き誇ることは出来る筈だ! 「いや!僕は諦めない!!決めたぞ!! 僕は未完成の今の僕を乗り越えて!あなたの高みを目指して咲く!!」 そうして僕は薔薇の本当の意味を知ったのさ。 その成果が今僕が着ているスーツという訳だ。パピヨンのスーツを基本に薔薇のテイストを組み込んだのさ。 パピヨンも「なかなかのものだ」と認めてくれた一品なんだぜ。 目下の悩みは彼に「蝶サイコー」と言わせるにはこれにどんな改造を施したらいいか?ということだね。 え?モンモランシー達はどうでもいいのかって? それは大丈夫、このスーツを着るようになったら「蝶々の妖精さんも素晴らしいけど今のあなたも素晴らしいわ!」と皆帰ってきてくれたよ。 それどころか以前以上に僕に女の子達が近づいてくるくらいさ。 全く美しさも過ぎれば罪だよね?
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前ページ次ページゼロの黒魔道士 「オォオォォオオォオオオォォオォオオオォォオ――」 「絶望を贈ろう……」 空気が、震える。 パイプオルガンの管の中にいるみたいだ。 全部の鍵盤が出鱈目に押されて、唸りを上げている。 地面の底から低い音、頭の高いてっぺんから高い音が、 ぐっちゃぐちゃに入り乱れてお腹の方まで来て……すごく気持ち悪い。 これだけでも、尻ごみしてしまいそうになる。 音だけじゃなくて、空気そのものを覆い尽くすようなクオンの迫力に、 ボクはほんの少しだけ、気圧されてしまっていたんだ。 「こ、断るぅぅう!!全身全力で受け取り拒否っ! 先手必勝!『錬金』っ!!」 ギーシュがすごいのは、こういうところだと思うんだ。 例えどんなに力の差があったとしても、 例えどんなに不利な状況だったとしても、 いつもどおりの自分で、立ち向かっていく…… ガシャンって音を立てながら走りだすギーシュの鎧姿が、 すごく頼もしく見えるんだ。 「正しいね。彼……僕も全力と行こうか!」 クジャが取りだしたのは……宝石? 多分、サファイアとムーンストーン、かな…… それを取りだして、顔に近づけた途端、 クジャの額のルーンが光り出した。 それに呼応するように、宝石がざわめくように光り出して、光がクジャを包んで…… 「クジャッ!?それ……」 血よりも赤く、炎よりも逆巻いて、クジャの姿が変わっていた。 銀色だった髪の毛までが、真っ赤に染まっている。 そして、溢れだす魔力。 テラを壊すだけの力を産み出した、あの魔力が、 全身からほとばしらせていた。 「月の輝きを受けて、より美しく輝くのさっ!! 刹那の煌めきを魅せてあげるよっ!!」 トランス……心の高ぶりが生み出す、奇跡の力…… それを、宝石の力で無理矢理引き出したってこと? 無茶するなぁ、って少しだけ呆れてしまう。 「愚か、ですね……」 でも、無茶をしてでも、だよね? 無茶でも良い、倒さなくちゃ、いけないんだ。 今の世界を壊してでも、新しい世界を作る? そんなこと、させるもんか! 「愚かかどうかは……避けてから言ったらどうだいっ!?」 「ワルキューレ部隊突撃っ!喰らえっ!『月・牙・天……』」 クジャと、ギーシュに続く。 誰かの攻撃避けようとしたなら、そこに隙ができる。 どこに当たっても良い。 そう思って走り出した……そう思っていたんだ。 「……トキヨ……」 小さく、クオンの体が震えたような、そんな気がしたんだ。 そうしたら……世界がぐるりと回っていた。 まるで本のページが抜け落ちたように……急に真っ逆さまになっていたんだ。 ~ゼロの黒魔道士~ 一瞬、って言葉よりも一瞬だった。 黒いエネルギーの塊が、矢のような形で浮かんでいる。 それが、何百本も、何万本も、ボク達を取り囲んで…… 避ける?全部を? それは雨粒を全部避けろって言うのと同じぐらい無茶な話だ。 「……この世界は、暗黒に包まれている……」 合図と共に、一声射撃がはじまる。 エネルギーの大雨。 後ろへ一歩。ルイズおねえちゃんの所へ。 避けれないなら、受ける! 一本一本を確実に! 「ルイズおねえちゃん伏せてっ!!」 「きゃあああ!?」 「うはっ!?きゅ、吸収しきれねぇっ!?」 矢じゃない、槍だ。そう感じさせるような重さだった。 もし、ガンダールヴの力が無かったら…… そう思うと、ゾッとする。 帽子のつばにできた穴で、そう思う。 綺麗にまん丸。 無駄を省いたように、真っ直ぐまん丸の穴。 もしこれがボク達の体に当たったら……ゾッとしてしまう。 「なっ!?」 「っ時間操作かっ!?」 おまけに、クオンの姿がさっきの場所に無かったようだ。 クジャが放ったエネルギー弾が、何も無いところで破裂して、ギーシュの剣が空を切っていた。 時間操作……? 『ストップ』や、『スロウ』を、全体にかけたってこと? なんて、とんでもない……そう思わずにはいられなかった。 一人にかけるのだって、とんでもなく集中しなくちゃいけないのに、全体にかけるなんて…… 「御明察。流石、死神と謳われただけはありますね……」 「……ミッシング・ゼロ……」 また、クオンの体が震える。 ボコボコと体の表面にまとわりついた顔の1つから、それが放たれた。 白と、黒がバチバチと混じり合うように弾ける、エネルギーの弾。 それが、ギーシュを追うように弾けていく。 まるで、意志を持つように、執拗に…… 「うわわわわっ!?来るな来るな来るなぁっ!?」 「そうれっ!!――っ!?」 このクオン、完全に魔法主体だ…… クジャが『ミッシング・ゼロ』とかいう技を相殺したのを横目で確認しながら、 ボクは走り出していた。 魔法主体の相手なら、近づけばなんとかなる……そう思ったんだ…… 「クダケイ……!」 「くぅぅっ!?」 「ぅゎああっ!?」 手を地面に叩きつけられたら、吹き飛んでいた。 そうとしか、表現ができない。 本当に、それだけの、単純な動きだった。 魔力じゃなくて、単純な腕力、それもたった一振りを地面にぶつけただけ。 それだけで、地面が波打つように揺れて…… 「――そう言えば、紹介を忘れていましたか」 「くっ……」 ルイズおねえちゃんは……よし、無事だ。 衝撃が大きい範囲は、ごくごく狭いみたいだ。 とはいえ、これでうかつに踏み込めなくなってしまった…… 「『名すら憚られし使い魔』、そのチカラを……」 大きく手を広げて誘うような体勢を取るクオン。 でも……隙がまるで無い。 どの間合いに動いたとしても、攻撃の範囲だ。 思った以上に……きつい。 「『記憶』。それが彼のチカラなのです」 「『記憶』?」 記憶が……力?どういうこと……? 「彼は、他者の『記憶』を読み取り、それを具現化することができるんですよ……このように……」 「……ユビキタス・デル・ウィンデ」 聞き覚えのある呪文が、クオンの体の震えと共に唱えられる。 フォンっという軽く不気味な風の音。 ……おどろおどろしい気配が、背後に増える。 「これ――ワルドのっ!?」 「くっ!?」 「風ハ遍在スル……」 死んだ人の技が……使えるっていうことか!! 「――そして、ここは記憶が集う場所」 「ありとあらゆる絶望が、ありとあらゆる憎悪が」 「ありとあらゆる怨念が、ありとあらゆる苦痛が」 「想像できますか?」 「あらゆる世界の悲しみが」 「あらゆる宇宙の憎しみが」 「救いを求め、彼に巣食う様が……」 二重に広がる音の輪が、迫ってくる。 大きく、大きく、音が段々と迫ってくる。 「憎悪の輪廻に囚われし騎士」 「支配を目論む野心の皇帝」 「力に執着する狂気の魔導士」 「全てを否定する時の魔女」 「永遠の夢に眠る召喚士……」 「絶望と共に沈んだ彼らの力は、全て彼が引き継ぎました」 「「全ては、苦しみを解き放ち、新たなる再生のために!!」」 まるで、合唱のようだった。 深い、苦しみの中の、合唱。 耳を通じて、脳を揺さぶるような、いくつもの呻くような声。 体ごとひっくり返されそうな、不協和音。 耳を塞いでも、聞こえてくる…… 「ふんっ、能書きは聞きあきたよっ!終わりにしてあげようっ!!」 クジャが踊りあがった。 手を大きく上に振りかざして…… あれは……『アルテマ』!? テラを滅ぼした、とても強い魔法を、今ここで…… 「――『全て』彼が、と言ったはずですよ?」 「オワリニシテアゲヨウ――」 背後のクオンが見せた動きは、クジャと全く同じだった。 空をゆっくり仰ぎ見て、手を広げる。 ほぼ同時。 紫色に妖しく光る球体がぶつかり合って…… 「うわぁああ!?」 地面にたたきつけられそうな衝撃波。 それが何発も、何発も。 完全に同じエネルギー同士がぶつかって、弾け飛ぶ。 「もちろん、貴方の絶望も……己が運命に抗う儚き死神様?」 「ちいいっ!!」 クジャの力まで…… 「では、幕引きを……」 「では、拍手を……」 「ウチュウノホウソクガミダレル……」 「……グランドクロス……」 感じたのは、力が集まっていくということ。 反応が遅れたのは、少しだけ、諦めてしまっていたから…… 情けないけど…… 本当に、情けないんだけど…… 本当に、本当に……どうすればこんなの……どうやって倒せるってって…… そう思っちゃったから…… 「くっ!!」 「相棒ぉおおっ!!」 気がついたときには、何もかもが真っ白に…… ―― ―――― ―――――― 目を開けたときに、体が動くのが不思議だった。 ボクは、確か、逃げ遅れて…… だけど、目を開けて、少し見上げると…… 「……?……く……クジャっ!?」 「無様だね……くく……動けやしない…… 氷漬け、ときたもんだ……」 状態異常にも色々あるけれど、中でも厄介なのが、『フリーズ』だ。 行動不能になる上に、物理攻撃を少しでも当てられると…… 「まだ息がありますか……」 クオンの3つの目がクジャを見る。 直線状に、ボクがいる。 ボクとクオンの間に、クジャがいる。 つまり……まさか…… 「クジャ、まさか、ボクを……!」 ボクを、かばって……状態異常に…… 「勘違いしないで欲しいな…… 残したかっただけさ、『無限の可能性』ってヤツをね……」 もし、白魔法が使えたら。 もし、回復薬を持っていたら。 もしも、もしも。 世界全部が『スロウ』をかけられたようにゆっくりになっていく中、 ボクはずっと『もしも』を唱えてた気がする。 そう思うことで、何か変えられるわけはないのに、そう分かっているはずなのに…… 「そうだ、肝心なことを言い忘れてた……ビビ君、そのね……」 「ク……ジャ?」 もしも、もしも…… もしも、クジャを信じることができていたなら…… 「ありがとう。君が作れたことが、僕の――」 「ワンマンショーダ……!」 氷が、砕け散る。 クオンが放り投げた岩に押しつぶされるように…… 真っ赤な髪の毛が、薔薇の花弁のように、パリーンって砕け散った…… もしも、もしも…… もしも、ボクが…… 「クジャっ!?クジャ!?クジャぁあ!?」 もしも、ボクが、もっと強かったら…… こんな、こんな気持ちでいなかったのに…… ATE ~カウントダウン~ クジャが砕け散る数秒前。 鎧の少年に庇われるように倒れるは、桃色の少女。 動けることは、果たして神の救いか、 はたまた苦しみを永らえさせるという、悪魔の罠か。 「な、なんとか無事か……ルイズ、大丈夫か!?」 「え、えぇ……早くビビのところへ……!?ギーシュ、どうしたのその……頭の数字!?」 ギーシュの頭の上には、『7』という数字。 それがふわふわと、まとわりつくように浮かんでいる。 それはまるで、悪魔が人に取り憑くように。 「ん?あぁ……さっきから減っているところを見ると ……死んだりするのかな?これがゼロになったときにでも?」 「っ!?」 ギーシュとて、そこまで鈍感では無い。 最初に『10』という数字が浮かんだ時点でその存在には気付いた。 そして、その原因が敵の光であったことを考えれば……容易に想像がつく。 実際、その想像は当たっている。 クオンが放った魔法の名は『グランドクロス』と呼ばれるもの。 何らかの状態異常を周囲に及ぼす、不吉なる業。 そしてギーシュが侵されたのは、『死の宣告』と呼ばれる枷。 ギーシュの想像のまま、徐々に減る数字が『0』を迎えたとき、 対象の命は速やかに奪われるというゆるやかなる死。 どれだけ怯えても、どれだけ抗っても、死神がその首を狙うという、文字通りの『死の宣告』。 「さて……」 「ギーシュ、何をするつもりっ!?」 「まだ、ゼロじゃないからね……」 少年は、青銅の剣を閃かせ、その背をルイズに見せた。 鎧のあちらこちらが、先刻までの猛攻に耐えかね傷ついた、その背中を。 それでもなお、立ち向かうという意志を見せた、その背中を。 全てを覚悟の上向かうという覚悟を見せた、その背中を。 頭上の数字は、『6』に変わっていた。 「無茶よっ!?それでなくてもボロっかすじゃないっ!?」 「――『男なら、誰かの為に強くなれ』」 少年は、足を小刻みに揺らす。 少々、左足が痛むようだが、なんとか動く。 万全では無くとも問題は無い。少なくとも、彼の覚悟の中では。 「え?」 「『歯を食いしばって、思いっきり守り抜け』――っ!!!」 頭上の数字は、『5』。 まだ『0』ではない。 可能性も、また。 「ギーシュっ!?」 「『錬金』っ!!」 ただそれだけ、できれば――『英雄』さ! それが、彼の意地。彼の覚悟。 ギーシュは、クジャや、ルイズや、ビビほどに、辛い過去を背負っているわけではない。 だが、辛い過去を背負わねば、人は強くなれないものか? 否! 断じて否であるとギーシュは考える。 悲しみを背負わねばならぬ強さなら、そんなものはいらない! ただひたすら、『カッコよくなりたい』と願ったギーシュである。 誰かを悲しませることは、断じてカッコいいわけがない! 「――苦しまず死ねる身であるというのに、まだ足掻きますか?」 「ライバルとレディのいる前で、足掻かないのはヒーローらしくないだろっ!?」 数字は『4』。 一気につめた間合いに比して、充分すぎる値だ。 魔導アーマーと、自分の持てる全ての力を注ぎこんで、跳躍。 高く、どこまでも高く。 これで終わるとは思っていない。 クオンは今2体。この一撃でこいつを倒せたと楽観的に見たとて、 もう1体が残る。 それでもなお、彼は全力を尽くす。 せめて一太刀、浴びせずに散って何がヒーローか。何が英雄か。 「――英雄?愚かな。英雄など腐った世界が見せる幻想に過ぎぬのに……」 「うおぉおおおおおお!!!」 『3』。 重力の向く方へ、全てをつなぐため剣を突き出し…… 「――では、自称・英雄殿はかつて偽りの英雄となった者の技で――」 「……φ=WUγ+RUp+SUγUp W=-SUγφ AU=(GMeK^-2)^1/3 n=πr^2……」 『2』。 訳の分らぬ呪文が耳に聞こえる。 だがもう、止まらない。止まるつもりも無い。 「喰らえっ!!『超・級……』」 『1』。 捕えたのは、ギーシュの頭ほどもある緑色のその目。 これで、こいつだけでも倒す、そう願って…… 「……ヒザマヅケ……」 「っ!?」 横薙ぎに、まず感じたのは、熱。 ギーシュがクオンを捕えるよりも速く、ギーシュを捕えたのは燃える岩。 飲み込まれる、焼きつくされる、そう感じることができなかったのは、幸せなのだろうか。 あるいは、一太刀を浴びせられなかったことは、不幸なのだろうか。 数字は、『0』。 岩よりも早く、彼の命は、死神に攫われた。 音も無く、静かに…… 「ギーシュぅっ!?」 少女の声が聞こえなかったのは、幸せだろうか、不幸だろうか? 愛する人に断らずにここに来てしまったのは、正しかったのだろうか? 自分は……果たして、英雄らしくあれたのだろうか? それを考える間も無いまま……少年は静かに、その命を散らした…… もしも、もしも…… なんだろう、この気持ち…… ねぇ、ボク、どう考えているの? どうしたいの? どう思っているの? ボク……ボク…… 「うぅ……」 「相棒……」 「デルフ……ボク……」 クジャと、もっと話がしたかったの? ボクは、ボクは……ボクを作ったクジャに、何にも…… ボクは……頭の中がぐっちゃぐちゃに…… 何もかもがぐるんぐるん回ってる。 目がチリチリして喉がカラカラだ。 ボクは……ボクは…… 「相棒、おれっちが言えんのぁ、単純な理屈よ。おれっちバカだからさ」 「……」 「吐きだしちまえ!言葉んする必要なんざ無ぇっ!全部、吐き出しちまうんだ!」 デルフの言葉が、心に入ってきた。 言葉じゃ表現できない、ボクのぐちゃぐちゃの心の中に、スッと。 鍵が、鍵穴に入ったみたいに……ボクは……ボクは! 「うぅぅうう……うわあああああああああああああああああああ!!!」 「そうよ!心を震わせんだっ!」 弾ける。色んな物が、溢れだす。涙も、汗も、何もかも、全部。 心の高ぶり、『トランス』。 ボクは、今ボク自身が、どういう気持ちでいるのか、うまく説明できない。 でも、ボクの心は……間違いなく、高ぶっていた。 これまでにないくらい。どうしようもないくらい。 「――デルフ、行くよ」 「おうっ!!」 後ろに足をけり出すように、一気に前へ。 ガンダールヴの左手を、これまで以上に輝かせて。 「――ビビっ!!」 「ルイズおねえちゃんっ!」 「……お願いっ!!」 「うんっ!!」 言葉なんて、いらない。 心が通じれば、それでも大丈夫。 ボクは、思いっきり跳んだ。 「――『エクスプロージョン』っ!!」 「はあああああああっ!!!!」 ルイズおねえちゃんの魔法と、ボクの剣が重なる。 一直線上に、2体のクオン。 仕留める。 クジャの……仇だっ!!! 「……120ぱーせんと……」 「とうりゃぁああっ!!」 「……ハドウホウ……」 ……絶望って、どういう時に感じるんだろうね? ……何をやっても、ダメだって分かってしまった時? それとも、もう何もできないって分かった時? ボクは……ボクの目の前で……ルイズおねえちゃんが…… そして、ボクが……デルフが…… 「全ては、『ゼロ』より生まれ『ゼロ』に還る…… そして、新たに生み出すのさ。すばらしき世界を……!!」 ……絶望って、どういう時に感じるんだろうね? ……ボクは……今……それを感じて…… 体がバラバラになりながら、それを感じていたんだ…… ボクは……もう、絶望を感じられないことに……絶望、を…… ~第七十七幕~ 闘いの結末 前ページ次ページゼロの黒魔道士
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前ページ次ページゼロの軌跡 第三話 杖とオーブメント まだ日は傾き始めていないにもかかわらず学院長室はひどく薄暗かった。 カーテンでも閉じているのかと思えばそうではない。部屋に入れない<パテル=マテル>が、まるで籠の中の小鳥を狙う大鷲のように窓の外に張り付いていたからだ。 わずかに差し込む細い光はコルベールの禿げ上がった頭、そこに浮く冷や汗を見せ付けるかのように照らし出していた。 白刃の上を素足で歩いているような緊張感を覚えるコルベールだったが、部屋の隅にいる彼はまだ立場的にも位置的にも気楽である。 レンと差し向かいで必死の交渉を行っているオスマンは既に胃が痛みを訴え始めていたし、秘書として同席しているロングビルはその視線を彼女の真正面の窓から外せずに固まっている。 「ふうん…ではこうしましょう。レンからの要求は三つ。 私と<パテル=マテル>の行動の自由と衣食住の提供。そして元の世界に送り返す方法を探すこと。 これを呑んでもらえれば、私から手を出すことはないと約束するわ」 「うむ…わかった。その条件を呑もう」 「うふふ、親切なお返事ありがとう。オールド・オスマン。 これからよろしくお願いするわね」 話は少し遡る。 ルイズが倒れた直後に飛んできたオスマンはその事態の容易ならぬことを見て取り、 おそらくは元凶であろうルイズに対して密かに悪態をつかずにはいられなかったが、ともかくも学院の責任者として事を収拾すべく行動を開始した。 <パテル=マテル>に吹き飛ばされながらもさしたる怪我もなく済んだコルベールがルイズの息があることを確認すると、オスマンはロングビルにルイズの介抱を指示。そして<パテル=マテル>を擁して彼らに得物の切っ先を向けるレンの説得に取り掛かる。 レンと<パテル=マテル>に何もしないと誓うのは容易いことだったが、武器を捨てろとの宣告には正直辟易した。 天下の魔法学院長を春先の草原で下着姿に剥ぐとはどういうつもりじゃ、と声を大にしたくはあったが、<パテル=マテル>が急かす様に蒸気を噴出すのを見ては口を噤まざるを得ない。 第一杖があった所で何かするわけでもない。正体不明の超兵器に対して一天地六、目の分からない賭けをする気にもなれず。ましてや掛けるチップが自分の命とこの学院とあっては是非もなかった。 まったく、なんという厄日か。 半裸で寒さに震える彼がレンをどうにか説得し学院長室に戻った頃には、心中で始祖ブリミルを罵る為の語彙もとうに尽き果てていた。 オスマンとの会談、いや一方的な要求を終えたレンは学院長室を辞した後に客室へと案内された。 レンならゆうに五人は寝られそうなの大きさのベッド。備え付けられている家具は例外なく高級品であったし、壁の鏡は曇り一つない。 窓や扉は言うに及ばず、ドアノブから櫛に至るまで精緻な装飾が施されていた。 おそらくは王族級の賓客の為に用意されている部屋なのだろう、とレンはあたりをつける。 この部屋だけでもこの学院の人間がレンをどう見ているか分かろうというものだ。 腫れ物。融通も利かなければ感情の制御も出来ない、まさに子供。 「<パテル=マテル>、いいお部屋ねー。あなたも入れれば良かったのに」 窓を開けて、庭に立つ<パテル=マテル>に話しかける。嬉しそうにたてられた駆動音を聞いてレンは幾らか溜飲を下げた。 しかし、レンにとってもこの状況は些か満足のいくものではなかった。いま少し正確に表現するなら、この世界の奇妙さというか、不可解さがどうにも気になるのだった。 オスマンとの会話の中で生まれた齟齬、不審に思って問いただせばそこに大口を開いて待っていた未知の絡繰。 「四つの系統魔法に伝説の虚無?」 オスマンからその言葉が出たとき、レンは思わず鸚鵡返しにそう問いかけていた。 もしや、ここの連中は邪教徒で夜な夜な危ない宗教儀式でも催しているのではなかろうか。 別に七耀教会に肩入れしてるわけでもないし、どこぞの不良神父のように外法の徒を狩る趣味もレンにはない。本来なら放っておいてもいいのだが、巻き込まれるのなら話は別だ。 なし崩しに外法認定されて、教会の守護騎士達に束になって追ってこられては堪らない。 レンの剣呑な雰囲気が伝わったのか、オスマンは慌てて実演する。フライといったコモンマジックから、偏在や錬金などの系統魔法。 それを見てレンは考え込まざるを得なかった。 レン達が日頃使っているオーバルアーツとは似ても似つかないものだったからだ。攻撃用の魔法ならともかくも、錬金などは今のオーブメントでは実装できそうにもない。 そもそもオーブメント理論云々どころの問題ではなく世界の根幹、物理法則を根底から揺るがすものだ。 それは既に神の御業。余程高位の古代竜などならやってのけるのかもしれないが、人間程度が行使できるものとは到底思えない。 その上、彼らはオーブメントを一切所持していなかった。 レン達がオーバルアーツと呼ぶ導力魔法は戦術オーブメントにクォーツ、七耀石の結晶回路をはめ込み、そこから現象として力を取り出すものだ。 オーブメントの精密さ、クォーツが内包している七系統の力とその組み合わせによって多種多様のアーツが使用可能になる。それなりの訓練を受ければ老若男女、身分も人種も問わず行使できる導力魔法。 それが彼らに言わせればどうだ。 やれ使える魔法は四系統だの、行使できるのは貴族だけだの、杖を使うだのと。 既に共通点を見つけるほうが難しい有様だった。 それに加えて胡散臭い始祖ブリミルの伝説、機械という概念すら発生していないことなどを考え合わせると、次第にレンの中で疑惑の雲が湧き上がってくるのだった。 この世界は<リベル=アーク>のアーティファクトが作り上げた虚構世界だとばかりレンは思っていた。 演算装置にバグでも起きてそこに取り込まれたのか、とその程度の認識だったのだ。 だからレンはこの世界に来たのだ。もしかしたらまたみんなに会えるかもしれない、エステル達と冒険できるかもしれないというそんな淡い期待を、頭では拒絶しながら心の奥底で抱いて。 それは、ただの自分に都合のいい願望に過ぎなかったのではないか。 この一見牧歌的な世界は、 空の女神エイドスの加護も、七耀の輝きも、 あのエステルやティータの手すらも届かない全く別の次元世界なのではないか。 自分のあまりの愚かさに思わずレンは歯噛みする。 己の見たい夢だけを見て、盲目的なマーチを歌ってしまった。 「これじゃあもう、エステルをおばかさんって笑えないわね」 苛立ちを冗談に変えて、レンは立ち上がった。 この世界がなんなのか、まだ明らかになってはいないのだ。 ならば、今の彼女がなすべきことはただ一つ。 「偵察に行きましょ、<パテル=マテル>。 この学院をお散歩するの!きっととっても気持ちがいいわ」 前ページ次ページゼロの軌跡
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前ページ次ページゼロの魔獣 「もうやめてよ!! ギーシュ! こんなの一方的じゃない!!」 ルイズの悲痛な叫びが広場に響く。確かに眼前の光景は一方的なものだった。 ギーシュの呼び出した、7体のゴーレム━青銅のワルキューレを前に、真理阿は近づく事さえ叶わない。 ただひたすらに避け、逃げ惑い、攻撃をかろうじて剣で受け止めるだけである。 「そうはいかないよルイズ! グラモン家の名誉にかけて 当事者であるマリアが音を上げるまでは 攻撃の手を緩めるわけにはいかない」 そう言いながら、しかし、ギーシュはある違和感を感じていた。 平民相手にわざわざ魔法を見せたのは、別にメイジのプライドなどといった大層なものでは無い。 下手に剣を使って、女性に傷つけるのを恐れたのだ。 7体のワルキューレなら安全に相手を捕らえ、屈服させる事が出きる・・・ハズだった。 しかし、対手である真理阿は動きこそ素人そのものだが、 どういうわけか、たまたまワルキューレのいないスペースへと逃れていく・・・。 (まったく、実戦というのは難しいものだ) 目の前で起こっている現象を、ギーシュは自身の手加減のためと解釈した。 一方、真理阿は真理阿で、今後の対応を考えあぐねていた。 彼女の一族には、人の心を読んだり、未来を予知したりといった不思議な力がある。 真理阿自身の言葉で言えば『カンが鋭い』のだ。 かつてはその力をゆえにつけ狙われた事もある真理阿だったが、今の彼女は非力な少女ではない。 人形が何体いようと、繰り手であるギーシュの気配を読めば、回避は容易であった。 しかし、問題はそこから先である。 決着は、いかにして着けるべきだろうか? ただ負けてやるのは論外だ、かかっているのは主と友の名誉なのだ。 だが、負けないにしても遺恨が残らない形に持ち込みたかった。 (引き分け・・・) ワルキューレから逃げ惑ううちに、たまたまギーシュの懐に潜りこみ・・・相打ち。 それがベストなシナリオと考えたが、相手は7体である。機会は容易に回ってこない。 (甘いんだよ お前は 気にいらねえ奴は全部ブッ潰してしまえばいい) 不意に胸に沸いてきた凶暴な野性を、真理阿は心の中で打ち消した。 そんな真理阿の思考が届かないルイズは、最早気が気では無かった。 全てはロクに魔法も使えない自分が、決闘などと出しゃばった真似をしたからである。 心優しい真理阿は、その身代わりになろうとしたのだ。 何とか止めねばならない。 (私に・・・私に魔法が仕えたら ・・・魔法・・・?) そう、ルイズ自身はロクに魔法は使えない。だが失敗のとき、必ず爆発が巻き起こった。 あれをワルキューレにぶつけてやればいい。 決闘を邪魔されたギーシュは怒るだろうが、その時はその時だ。 謝るなり、改めて決闘を申し込むなりどうとでもできる。 (待ってて真理阿 今助けるわ) ルイズは杖を握りしめ、小声で詠唱を唱えた。 友を思い焦る余り、ルイズは大切な事を忘れていた。 魔法を使う練習は積んでいても、当てる練習はしていなかった、という事だ。 真理阿の方も、目の前の相手に集中する余り、ルイズの思考を汲み取れなかった。 戦場でのミスは甚大な被害を伴った・・・。 ルイズの魔法は、ワルキューレの前方ではなく、その後方で爆裂した。 1体のワルキューレがスクラップと化しながら飛び跳ね・・・ 真理阿の腹部に、深々と突き刺さった・・・。 「何!? 一体なにが起こったの!?」 パニックに陥る群集を尻目に、キュルケが叫ぶ。 広場の中央で突然爆発が起こり、青銅の破片が飛んできた。 だが、問題はその先だ。 フレイムが! 比類なき力を持つ炎の化身が怯えている!? 立ち込める爆煙の中に、何がいるというのか。 「タバサ!」 キュルケは、とっさに風の障壁で破片を防いでくれた友人の名を呼ぶ。 「獣臭」 青い瞳の少女は、いつに無く険しい表情で煙の先を見つめていた・・・。 黒煙の中、ギーシュは眼前の光景を呆然と見つめていた。 爆風はワルキューレの背後で起こったため、ギーシュ自身にダメージは無い。 だが、千切れ飛んだ戦乙女の上半身、その凶器と化した頭部は、確かに真理阿の脇腹を貫いたかに見えた。 その半身が、何故か真理阿の足元に転がっている。首から上を除いて・・・だ。 それは砕け散ったというよりも、何者かに食い破られたかのような痕跡だった。 真理阿はと言えば、服こそ破れているものの、腹部には傷跡ひとつない。 「危ねえじゃねえか、真理阿。俺じゃなきゃ死んでたぜ。」 真理阿の声がする。 だが、ギーシュの直感が告げている こ い つ は 真 理 阿 じ ゃ な い ! ! ギーシュは本能に身を任せ、急ぎ6体のワルキューレを集結させる。 「クズ鉄人形 文字通り 喰いでは無さそうだが・・・」 真理阿が指を鳴らす 「寝起きのウォーミングアップにゃあちょうど言いか!!」 風を巻いて、一匹の魔獣が走り出した―。 「うおおおおおおおっ!?」 ギーシュは絶叫した。目の前のコイツは、まさに魔獣そのものである。 最初の突撃で、たちまち3体のワルキューレが吹き飛ばされた。 遠目には、ただ、ワルキューレが力任せにブン殴られただけに見えた。 だが・・・最初にやられた一体は、鎧をカギ爪のような何かで引き裂かれていた。 別の一体は、巨大な牙で咬み砕かれたかのようだった。 そして最後の一体は、ハンマーで叩き潰されたかのように大きくひしゃげていた。 「くそ! クソッ! くそォッ! いけええェェェェッ! ワルキュゥゥゥレェェェッ!!」 このままでは自分が肉隗と化す。 ギーシュは勇気を振起し、全ワルキューレに命令を下す。 上から一体、下から二体の同時攻撃 魔法が使えない生物では、捌きようの無い攻撃である・・・がッ! 「腹くくるのが遅えんだよおぉッ!!」 凄まじい速度で真理阿が踏み込み、突き出した両手で人形の頭部を握り潰す。 「三匹目ェ!!」 二つの頭部を抱えたまま飛び上がり、上体にひねりを加え、突き下ろされた槍をくぐる。 そのまま喉元に噛み付き、一気に首を引きちぎった・・・。 「ひっ・・・」 ギーシュは思わず腰を抜かす。 蛇に睨まれた蛙の心境を、はからずも彼は理解した。 ペッ、と首を吐き捨てながら、真理阿がうそぶく 「悪いな ここん所負け戦続きでな 俺ァどうにもムシャクシャしてんだ それによ・・・」 言いながら、右手に持った首をギーシュに向けて振りかぶる 「俺は テメェみたいな偉そうなヤツが、大ッ嫌ぇなんだよおおおぉおおおぉぉっ!!」 ギーシュはとっさに目を閉じる。 ――が、 青銅の塊はあらぬ方向にスッポ抜け、真理阿はもんどりうって倒れこんだ。 見ると、右手甲のルーン文字━契約の証が、不思議な輝きを発している。 「チッ・・・ 真理阿のヤツめ・・・コイツが首輪代わりってかぁ・・・」 魔獣が呟く。 「わかってんだよ・・・今のオレには お前に逆らう力すら残ってねぇ・・・」 黒煙が払われると、ギャラリーの視線は広場の中央に集まった。 真理阿が地面に突っ伏している。 ワルキューレは、どれも無残な鉄隗と化している。 一方のギーシュは、情けない格好でへたり込んでいる。 ルイズは自分がしでかした事の大きさに耐えられず、腰を抜かしたまま立ち上がれないでいた。 と、ムクリと真理阿が起き上がり、何事も無かったかのように体のススを払いだした。 水を打ったような静けさの中、真理阿はいつもの柔らかい笑顔で言った。 「この勝負、私の負けです。主の魔法に助けられましたから。」 前ページ次ページゼロの魔獣
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前ページ次ページゼロの軌跡 ゼロの軌跡 第十六話 タルブ村の死闘 前編 日が傾き始めていた。 赤く染まる野原の向こうから、黒い一団が長い列を作ってタルブ村へと進んでいた。 「レコン・キスタが来ました!大軍です!」 フライで偵察に出ていた生徒から報告を受ける。 臨時の司令部としてシエスタの家を使い、そこにはルイズ、レン、オスマン、コルベールらが鎮座していた。 「一気に勝負を決しようと総力戦を仕掛けてきたわね。どうやって防ごうかしら。…コルベール先生」 「並みの軍隊であれば、数割の被害を被って尚勝機が見えなければ撤退するでしょう。一千が打ち倒されてもこちらが健在であれば、おそらくは」 「かなり難しい計算じゃな。先ほどの八百を追い払ったときでさえも、あちらの被害は二百がせいぜいじゃろう。防御に徹して軍の増援を待つしかあるまい。夕暮れが多少の味方にはなるじゃろうな」 「それも、戦艦が出てこなければ、という仮定での話よ。もう<パテル=マテル>には殆どエネルギーが残ってないわ」 延々と議論を続けてもいられない。敵は間近に迫っており、早急に対策を立てなければならなかった。 ルイズは立ち上がって矢継ぎ早に指示を出した。 「オールド・オスマンとミス・ロングビルは八十人を率いて村の入り口を守ってください。コルベール先生は三十人を連れて森から来る敵を撃退してください。レンは遊撃隊としてレンの判断で動いて」 オスマンらは配置場所に着くために出て行ったが、レンは動かずにその場に残っていた。 機を見るに敏なレンらしくないその振る舞いに首を傾げてルイズは疑問を口にする。 「どうしたの、レン?」 「…これを持ってなさい」 差し出されたのは鉱石の結晶が幾つも填め込まれた小さな物体。それはレンがアーツを行使するために使っていたオーブメントだった。 「少し時間が経ったお陰で一回くらいなら使えるようになったから。ルイズ、あなたに託すわ」 そう言われて手渡されても、ルイズはアーツを使ったこともなければオーブメントの起動方法すら知らない。到底使いこなせるとは思えなかった。 ルイズが使うよりもレンの手元にあったほうが遥かに役に立つだろう。それに、これから来る敵を防ぐためには必要なものではないのか。 そう思い突き返そうとしたが、レンは受け取ろうとはしなかった。 「今のルイズなら大丈夫よ。自分を信じなさい」 レンはルイズの返答を待たずに扉を開けて出て行った。 しばし立ち尽くすルイズだったが、他ならぬレンの言葉だ。 意を決してオーブメントを首にかける。それだけの事なのに、すぐそばにレンがいてくれるような気がする。 クォーツは蛍のような儚い光を浮かべているだけだったが、その輝きは何よりもルイズの力になっていた。 ルイズは杖を握り締める。幼い頃からずっと愛用してきたそれ。 魔法学院を退学する際に他の杖は全て焼き捨てた。メイジとしての人生を捨てた彼女には既に必要のないものになっていたからだ。しかし、この杖だけは捨てられなかった。 彼女の人生の中でその杖が応えてくれたのはたった一度きり。 慈母も裸足で逃げ出さんばかりの愛情を注いだ結果が一夜の泡沫の夢かと、努力と祈りの結晶が何万回とも数え切れない爆発かと、ルイズを知らない者は笑うかもしれない。 しかし、その唯一の成功はルイズにかけがえのない出会いをもたらした。 たとえ百の偏在を生み出せても、街を覆いつくさんばかりの炎を巻き上げても、果てしなく広がる海を一瞬にして凍らせるような魔法でも、決してあのサモン・サーヴァントには及ばない。 人が人らしくあることがどれだけ難しく、そしてどれだけ簡単であることか。 ルイズはレンにそれを教えられた。レンはきっと自覚してはいないだろうけれど。 次は私がレンの力になる。レンに暖かい世界を贈るのだ。 だから私は、こんなところで死ぬわけにはいかない。 颯爽とマントをたなびかせ、ルイズは指揮を取るために外へと歩き出した。 「さて、ミスタ・ギーシュ。軍事の名門グラモン家の御曹司としてはどういう戦術でこの村の入り口を守るかね?」 オールド・オスマンは髭をしごきながらギーシュに問いかけた。 ギーシュはいきなり戦術論を問われたじろいだが、気を取り直してそれに答えた。実際の戦場に出ているという緊張感が、新兵の彼を歴戦の勇者のごとく鍛え上げているかのようだった。 「大軍で攻めるときは遊兵を如何に作らないかが指揮官の腕の見せ所です。おそらくレコン・キスタは部隊を幾つかに分けて同時に展開してくるでしょう。ならば、そこに付け込む隙が生まれます。」 父親に叩き込まれた教えが役に立つときが来たと、ギーシュは高揚に包まれながらも、冷静に現状を分析して見せた。 「この道は村の首根っこ。敵はここに最も兵力を集中させるでしょう。その分他に回す部隊は多少手薄になるはずです。ここを一定時間死守し、敵を追い返した他の味方が助けに来てくれるのを待ち挟撃します」 「はて、そう上手くいくかのう。幾つかに分けたとしても敵は大軍じゃぞ」 「あっちにはキュルケやコルベール先生ら手練が揃っています。それくらい期待してもバチは当たらないでしょう。幸いこちらには土メイジが多い。持久戦ならお手の物です」 「ふむ、ではそうするとしようか。団体さんのご到着のようじゃ」 濛々と土埃を上げて疾走してくる敵を見やり、オスマンは杖を手に取り立ち上がる。生徒達も闘志を隠そうともせずに前を睨みつけた。 「皆の者!トリステイン魔法学院の恐ろしさ、骨の髄まで叩き込んでやろうぞ!続け!」 「「「「「了解(ヤー)!」」」」」 「おや、あっちは始まったようですね。随分と派手なことだ。…人死にが出なければいいのだが」 コルベール率いる部隊は森に通じる林道で敵を待ち構えていた。 本道とは違い、狭く道も悪い上に、無数の木が太陽の光を遮って昼間でも視界はあまり良くない。既に夕方となった今では二、三十メイルの視界すら確保するのは難しかった。 「待ち伏せしてくださいっていってるような地形よね。モンモランシー、準備は出来た?」 「こっちは完了よ。…あなたも少しは働きなさい」 「その分これから働くわよ。パーティの仕度は万全。招待客もそろそろ姿を見せるかしら」 その言葉に対する返答というわけでもないだろうが、暗い森の奥から鎧を響かせ軍歌の足音が聞こえてくる。 ぬかるんだ地面が立てる曇った水音は森中に反響し、死人の群れが這いずるさまを連想させた。 実際、彼らは半分死人のようだったのかもしれない。 小さな辺境の村に何度も攻め入り、そこで目にしたのは彼らの知らない魔法を行使する少女と鉄のゴーレム。受けた被害は甚大で、こうして今、村一つ攻めるにしては常識に外れた人数を動員している。 この村には何があるのか、どんな恐ろしいことが待ち受けているかを想像すると、暗い森の中の行軍は墓所へ向かう葬列のようにさえ思われるのだった。 手にした松明は彼らに幾ばくかの勇気を与えてはいたが、生温い風が時折その火を揺らすと、それはまるで無数の死霊の瞳が怪しげな光をたたえて揺らめいているかのようだった。 怯える兵士を叱咤しながら進む指揮官が林道の終わり、村の手前で見たものは一人の女の姿だった。 扇情的な服を着て道に立っているその女性。年の頃は二十歳前後か。彼女の肢体と合わせて、その様子はひどく妖艶なものだった。 逃げ遅れた村の者かとも思い欲が鎌首をもたげたが、村人は既に全員逃げ出したとの知らせがあったのを思い出す。 敵だとしても、丸腰の女にいきなり撃ちかけるのは彼の道徳心が許さなかった。ともかくもと妥協点を探し、彼は誰何する。 「おい、女。そこで何をしている」 「遅かったわね、お客さん。パーティの始まりよ!」 言うが早いか、女は裾のスリットから杖を抜き出す。 やはり敵か、と指揮官は槍を構えて突進する。しかし彼女は杖を真上に向け、天に火球を打ち上げた。 予想外の行動に思わず彼も上を向く。しかし、鬱蒼と茂った葉しか目に入るものはない。 虚仮脅しかと彼が再び前に足を踏み出した瞬間、横合いから放たれた氷柱を胸に受け、彼は音もなく崩れ落ちた。 それを皮切りに、森のあちこちから魔法がレコン・キスタ兵目掛けて飛び交った。 草むらから、木立の影から、枝の上から。進軍速度を上げ、分断されるのを防ぐために部隊を密集させていたのが仇となった。外れる魔法は一発もない。 風は兵士たちをまとめて木に叩きつける。炎をその身に受けたものは暗闇にその姿を浮かび上がらせ、たちどころに他の魔法の餌食になる。 ゴーレムが敵中に潜り込めば、その一体は収拾のつかない同士討ちを引き起こした。 彼らを襲ったのは魔法だけではなかった。 カラスやふくろう、猫や猪といった使い魔にとって森は勝手知ったる庭のようなもの。 枝から飛び立った鳥の嘴は兵士の目を刺し貫き、またすぐに闇の中に溶け込んでいく。雑木の間から飛び出した獣は足に噛み付いて彼らを暗いところへと引き摺りこむ。 獣の雄たけびはそのまま死を告げる鐘の音になった。 レコン・キスタの敵は既に森そのものになっていたかのようだった。 反撃しようにも視界は悪く、遮蔽物は多い。出鱈目に撃つ矢は木の幹に当たって乾いた音を立てるばかり。姿の見えないメイジに狙いをつけることも出来ず、剣は空を切る。 潰乱状態に陥った彼らの前に再び先ほどの女メイジが姿を現した。 渇望していた標的を見つけ、武器を掲げ走り寄る兵士達に彼女は艶かしく囁いた。 「覚えておきなさい。私の二つ名は<微熱>。 でも、あなた達には少し熱すぎるかも知れないわね」 そして彼女は一粒の炎を地面に垂らす。ぬかるんだ土に落ちて消えるはずの火は道に沿って燃え広がる。 水はけが悪いのではなく油を撒いていたのだと、彼らが気づいたときには全てが遅く、赤色の蛇がレコン・キスタ兵を丸呑みにしていった。 ここでの役目は果たしたと判断し、コルベールは炎で合図を出す。 森に潜んでいたメイジ達は二手に分かれて再び闇の中へと消えていった。 前ページ次ページゼロの軌跡
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前ページ次ページゼロの大魔道士 その日、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはいつになく硬い表情をしていた。 サモン・サーヴァント。 それが本日行われるメインイベントにしてメイジの今後が決まるといっても過言ではない儀式だった。 召喚の魔法を唱え、ゲートから現れた生物を使い魔にする。 言葉にすれば僅かこれだけの作業である。 だが、たったそれだけの作業がルイズにとっては重大だった。 無能、落ちこぼれ、劣等生、そしてゼロ。 それがルイズの評価にして絶対の事実だった。 魔法が使えない。 ただその一点が彼女を苛み、心の奥底で淀みとなって沈殿し続けていたのである。 (絶対、絶対成功させて見せる!) メイジの力を見るにはその使い魔を見よと言う。 つまり、ここで絶大な能力を持った使い魔を召喚することが出来れば自分の評価はガラリと変わるのだ。 仮に平凡な能力しか持たない生物を召喚したとしても、召喚自体は成功なのだからそれはそれで自信の源にすることが出来る。 召喚される使い魔はどうあれ、まずは召喚そのものの成功。 自分はゼロではない、それを真実とするための一歩。 それがルイズの本日の、いや現時点における人生一番の目標だった。 (行くわよ!) 手を大きく振り上げる。 高らかに宣言するように伸び上がった腕は蒼天を貫き、ピンと垂直に静止する。 ルイズは召喚の詠唱を口にし、詠う。 己の全てと誇りを賭けて。 「――我が導きに応えなさい!」 振り下ろされる手。 次の瞬間、爆音と共にその場にいる全ての者は立ち込めた土煙に視界をふさがれた。 「けほっ、けほっ」 「あー、やっぱり失敗かよ。流石はゼロのルイズ!」 「ったく、失敗しかありえないんだからやるだけむ…だ?」 「ん、どうしたんだよ?」 「あ…あれ…」 煙が晴れていく。 一人、また一人と視界が蘇る中、ある生徒が最初に『ソレ』に気がついた。 彼の名はマリコルヌ・ド・グランドプレ。 風上の二つ名を持つぽっちゃり系の男子学生である。 「んなっ…ななななななな!?」 「ちょ、ちょっとまて、俺は目がおかしくなったのか!?」 「落ち着け、こういうときは素数を数えるんだと神父様から聞いた覚えがあるぞ!」 「っていうか、あれは…」 『り、竜ーっ!?』 一人の少女を除いて、その場にいた全ての人間の声がハモった。 彼らの目に映ったのは一匹の竜。 神々しい輝きを放ち、両手を隠すようにして鎮座するその竜はその場の人間の度肝を抜いた。 サモン・サーヴァントにおいて竜が召喚されることは少ない。 それは竜という種族自体の絶対数が少ないということもあるのだが、 何よりも彼らは生物の頂点に立っているといっても良いくらいの能力を持っているのだ。 故に、彼らを召喚するということは並大抵の能力ではおぼつかないのである。 今年度の儀式においては、唯一青髪の少女が風竜の召喚に成功しているが、それでさえ規格外といって差し支えはない。 にもかかわらずルイズも竜の召喚に成功した。 いや、竜としての格でいえば外見からしてタバサの風竜を上回っている。 メイジの力を見るにはその使い魔を見よ。 この言に従ってルイズを判断するならば、正に彼女は始祖ブリミル並。 下手すればそれすら超える空前絶後の才を持つメイジということになるのだ。 「あ、あは…あはははは…」 唯一声を上げなかった少女――ルイズが壊れた蓄音機のような声で笑いを上げる。 それは呆然と驚愕、そして歓喜が織り交ざった笑いだった。 マザードラゴン。 その竜の種族名をルイズが知る由もないが、詮索するまでもなく目の前の竜は最上級の生物であることは間違いない。 正直、彼女は召喚の成功すら半信半疑だった。 強く自分を信じていても、これまでがこれまでだったので、根の部分では「でも…」と言い続けていたのだ。 それが蓋を開けてみたらどうだろう。 なんと現れたのは竜、しかも物凄い神々しい。 (わ、私ってひょっとして凄い!?) 混乱する周囲と思考の中、ルイズは感涙にむせんでいた。 思えばつらい人生だった。 ゼロと蔑まれ、バカにされる日々。 だが、その苦難の人生は今この瞬間のためにあったのだ。 これからは輝ける栄光の未来が待っている。 今までは興味なんてなかったけど、今日から日記をつけよう。 記念すべき第一文目はこうだ。 『…傷つき迷える者たちへ… 敗北とは 傷つき倒れることではありません。そうした時に自分を見失った時のことを言うのです。 強く心を持ちなさい。あせらずにもう一度じっくりと自分の使命と力量を考えなおしてみなさい。 自分にできることはいくつもない。一人一人が持てる最善の力を尽くす時たとえ状況が絶望の淵でも必ずや勝利への光明が見えるでしょう…!』 なんと感動的で素晴らしい文なのだろう。 この文を読めば魔王に立ち向かうなんて無謀な挑戦をする人間ですら感涙にむせぶに違いない。 思わず自分の才能に酔ってしまいそうだ。 ルイズは人には見せられないほどのニヤけた表情でえへらえへらと妄想に耽っていた。 「ミ、ミス・ヴァリエール? 感動に打ち震える気持ちはよくわかりますが…」 恐る恐る、といった風体でルイズに近づいたのは教師のコルベールだった。 彼とて突然の竜召喚に狼狽しないでもなかったのだが、この場の責任者としての義務が彼を後押しする。 「ミス・ヴァリエール?」 「ふふふ…そして伝説へ……はっ!? な、なんでしょうか!?」 「いや、コントラクト・サーヴァントを行ってください」 「あ…」 今頃そのことに気がついたとばかりにハッとなるルイズ。 そうなのだ、召喚に成功すればそれで終わりというわけではない。 召喚した使い魔と契約――つまりコントラクト・サーヴァントをかわさなければならないのだ。 だが 「…届きません」 ルイズの声が虚しく場に響いた。 マザードラゴンは状況を把握するかのようにキョロキョロと周囲を見回している。 そのため、首は伸び上がり、口はルイズの身長ではとても届くような場所にはない。 コントラクト・サーヴァントにおいて必要な口付けを行うためにはいささか問題のある状況だった。 「ええと…」 未だ混乱する生徒たちを余所に、コルベールはでっかい汗を一つ頬に流した。 通常、サモン・サーヴァントによって呼び出された生物はゲートを潜った段階で九割方使い魔になっているといえる。 何故ならばゲートを潜るまでの段階でその生物は召喚したメイジ専用に自動的に教育、悪い言い方をすれば洗脳、改造されている。 ひらたく言えば、意思の疎通やある程度の忠誠心や友愛心。 そういった主人にとって都合がよいようなものが自動的に備え付けられるようになっているのである。 ぶっちゃけ、召喚される側からすれば非道極まりない魔法といえよう。 それはさておき。 本来ならば召喚魔法の効果でマザードラゴンもルイズに対してある程度の友愛を感じているはずである。 であるならば、ルイズの意図を汲んで首を下げるというのが自然というものだ。 にもかかわらず、目の前の竜は首を下げる様子はない。 というか、ルイズを無視すらしている。 (ま、まあそれだけ能力が高いということなんだろう) この段階でコルベールはきな臭いものを感じたのだが、言わぬが華とばかりに沈黙を保った。 仮に自分の推測が――実は洗脳効果が発揮されてないということが当たっていたら、下手すればこの場は大惨事になる。 となれば一番の解決法はとっととルイズとこの竜の間に契約を発生させることだ。 幸い、竜は関心こそ向けてこないが、同時に敵意も向けてきていないのだから。 「……え?」 仕方なく、コルベールがフライを唱えてルイズを口元まで運ぼうと考えたその時。 竜が、マザードラゴンが動いた。 大きく翼を広げ、雄々しさと神々しさを兼ね備えた動きでふわりと浮き上がったのである。 「ちょっ…きゃあああ!?」 「うわっ!?」 至近距離にいたルイズとコルベールが羽ばたきによって起こった風に吹っ飛ばされる。 が、ルイズはすぐに何かに引っかかりなんとか吹き飛ばされるのを耐えた。 ちなみに、コルベールは赤い髪のある生徒のボインな胸元に受け止められ、後にラッキースケベの異名を得ることになる。 「ま、待ちなさい! まだ契約が! コントラクト・サーヴァントが…!」 幸せの絶頂から一転。 ルイズは焦りと混乱の中手を伸ばす。 だが、既に空に舞い上がった竜にその手が届くことはない。 マザードラゴンはルイズを、厳密にはルイズの後ろを僅かに一瞥すると、そのまま飛び去っていた。 「ね、ねえ。これって…どうなるの? 私の栄光の未来は? 輝かしい英雄への道は?」 呆然と呟くルイズ。 普通に現実逃避だった。 それはそうだろう。 召喚した生物が逃げ出すなど前代未聞の出来事である。 はっきりいって、これならまだ召喚自体を失敗した方がマシ。 「あ、あは…あはははは…」 再び笑い声をあげるルイズ。 だがそれは最初の笑いとは違い、正真正銘壊れた笑いだった。 故に彼女は気がつかなかった。 自分のお尻にしかれている――少年の存在に。 前ページ次ページゼロの大魔道士
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魔法少女おりこ☆マギカ 外編 より 美国織莉子を召喚 ゼロのルイズとオラクルレイ 01 ゼロのルイズとオラクルレイ 02 ゼロのルイズとオラクルレイ 03
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「……この樹が……私の墓標です……」 言って、彼は大きく息を吐く。 オリジナルを越えようとしたコピーが、この世界で最後に見た物は、 彼の中の悪意を吸出し、青々と茂る『神聖樹』だった。 「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!!!」 それとは異なる世界ハルケギニア 声が響き渡った場所は、貴族の子供たちが集い、魔法を習得するための学び舎。 その名をトリステイン魔法学院と言い、今は使い魔召喚の儀式の真っ最中である。 1人の少女の目の前、其処で“本来”起こる筈の無い爆発。 「……また……駄目だったの?」 この少女は、生徒たちの中で未だに召喚の成功しない、唯一の生徒であった。 「諦めろよルイズwww」 「ゼロは、何回やってもゼロww」 生徒うちの何人かが、冷やかし始める。 ルイズの顔が見る見る赤くなる、穴があったら入りたかった。 その内に先ほどの、爆発で起きた土煙が晴れ始める。 其処には、赤い闇がわだかまっていた。 「エリ……シエル……?」 (……私は……何故……オリジナルを越えようとしたのか?) 『レゾ』は急にそんな事を疑問に思い始めた、 そして、考えているうちに“余にも”死んでしまうのが遅いことに気が付いた。 「私は、生きているのですか?」 気が付いたら声を上げていた。 もう誰も居るはずは無いのに…… また妙なことに気が付く。 彼の手には、壊れたはずの錫杖が握られており、「しゃん」と、涼しげな音を響かせていた。 消えたと思った、魔族の成分も感じられる。 「一体…何が?」 眼を開いてみる。 徐々に晴れていく土煙の中、桃色の髪の少女が此方を見ている。 「エリ……シエル……?」 この二人の出会いは、後に世界を揺るがす出来事となる。
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前ページ次ページゼロの使い魔人 …授業が行われる教室の構造は、大学の講義室と凡そ変わりない。 半分に切った擦り鉢の様な石作りの部屋に、階段状にしつらえられた机と椅子が並んでいる。 ルイズと共に龍麻が入室するや、あちこちで笑い声が上る。 笑い声の元を睨みつけつつ、ルイズは席の一つに着くが、龍麻は部屋の最後部の壁際…、部屋全体を見回す位置に立つ。 龍麻が見た限り、生徒連中は全員が大なり小なり、使い魔らしき生物を引き連れていた。 ――まあ猫や鴉、大蛇や梟とかはまだしも、例のキュルケが連れていた火トカゲに始まり、コンピューターRPGや 幻想小説にのみ存在し得た筈のクリーチャーが当たり前の様にいる光景には、それなりに 『経験値』を蓄えている龍麻といえど、感心や呆れとは無縁で居られなかった。 (よくもまあ…。此処は本気で何でもアリというか、とんだお化け屋敷だな……) 内心で呟いていると、扉が開き紫色のローブと同色の帽子を被った、教師と思しき中年の女性が現れた。 その際、真意は兎も角シュヴルーズと名乗ったその教師が放った一言が引き金で、 教室中の生徒連中が笑い出し、ルイズと近くにいた男生徒が口喧嘩を初めたが、 彼女は魔法で黙らせると授業に入る。 (…一体、何をやらかしたかは分からんが、俺を召喚び出した事も含めて、露骨に見下されているな、あいつは……) そのやり取りを見た龍麻は疑問を抱きつつも、手にした情報端末に素早く授業の内容を打ち込んでいく。 ――曰く、『火』『水』『土』『風』、そして喪われたとされる『虚無』という、五つに系統される魔法。 『土』の魔法だと、建築や鉱業、農業の殆どが魔法とその成果により、支えられている等……。 (成る程。別段『土』にとどまらず、「こっち」は科学に替わり、社会生活の何もかもが魔法とそれを扱う魔術師に 依存、って事か…。「向こう」とは比較する事自体が間違いだろうが、えらく歪な世界だな…) そうして、龍麻や生徒連中の前でシュヴルーズ教諭は『土』の魔法の基本という、『錬金』で いとも簡単そうに教卓の上に置かれた石を、金属へと変えてみせる。 「ゴゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」 「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金出来るのは『スクウェア』クラスのメイジ だけです。私はただの…『トライアングル』ですから……』 キュルケとシュヴルーズ教諭の会話を聞きながら、龍麻は驚きを声に出していた。 「話の内容から、「有り」かもとは思ってたが、まさか真物の錬金術にお目に掛かれるとは…! あいつが見たら驚喜するだろうな、多分……」 『トライアングル』やら『スクウェア』の意味も含め、今夜にでも煩がられない程度に雇い主に質問してみるかと、龍麻が考えている所に。 「それでは、おさらいも兼ねて…ミス・ヴァリエール。あなたにやってもらいましょう」 「え? わたしですか?」 「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」 ――瞬間。 ざわ…ざわ……。 室内の雰囲気が変わった事を龍麻は気付かされ、その強張った空気の中、キュルケが口を開いた。 「先生。それは、止めといた方がいいと思いますけど……」 「どうしてですか?」 「危険です」 その発言に教室中の生徒が頷いてみせるが、シュヴルーズ教諭は取り合わず、 ルイズに『錬金』を使うよう促し、彼女も真剣な面持ちで教卓の前に立つ。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 杖を構え、呪文の詠唱に掛かるべく目を閉じ、精神を集中させるルイズ。 一方で、他の生徒連中は姿勢を低くして机の陰へと入ったり、耳を塞いで足早に後ろの席へと下がる…と、いった行動を取っている。 「――もしかしなくても、ヤバそうだな…」 流れと雰囲気から、事の剣呑さを感じた龍麻も用心の為、近くの机を盾にしつつ、ルイズの様子を見守る。 ――詠唱が終わり、杖を振り下ろした瞬間。 拳大の石ころの表面が一瞬輝き…轟然たる爆発を引き起こした。 教卓は爆砕し、至近にいたルイズらは爆風で吹き飛び、黒板に叩きつけられたり、床に這う。 部屋を満たす煙と破片。悪罵混じりの悲鳴に窓硝子の割れる音。更には部屋にいた使い魔達が好き勝手に暴れ出すわと、収拾が付かない有様である。 生徒達の学び舎は、さながら爆弾テロの現場も同様の惨状を呈していた。 「……。此処はボスニアの南か、北アイルランドやヨハネスブルグなのか…?」 唖然とする龍麻。一方で、 「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」 「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」 等と、一斉に上がる糾弾の声。 事の当事者たる二名…、床に倒れ伏したシュヴワーズ教諭を余所に、ルイズが立ち上がる。 外傷こそ無いが、髪や服に外套は所々が裂け汚れて、全身埃塗れに煤塗れ。 火事で焼け出された難民もかくやな格好である。 「――無事だったか。柔弱(やわ)そうで案外、タフな奴だな」 龍麻が呟く中、ルイズは顔や服の汚れを払いつつ、普段と変わらぬ声で言う。 「ちょっと失敗みたいね」 「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」 「いつだって成功確率、殆どゼロじゃないかよ!」 「いい加減にしろよな! ほんとに!」 「反省がないぞ、反省が!!」 が、言い終わるが早いが、声量・数共に、数倍する生徒らのブーイングの前に掻き消される事になる。 (――成る程。『ゼロ』ってのはそう言う意味だったのか。しかし…この件の後始末は俺ら、なんだろうな……) ――程無くして、騒ぎを聞き付けて来た他の教師達により、シュヴワーズ教諭は医務室へと担ぎ込まれ、 他の生徒達には昼迄の自習が言い渡された。 そして、騒ぎの張本人たるルイズ本人には、ペナルティとして魔法を使わず(元々使えないが)に、部屋の後始末と修繕が命じられる事となる。 恨みがましい視線と罵声にイヤミを投げ付けながら、生徒連中と教師達が教室を後にすると、 残った二人…は荒れた室内を見回すと、それぞれの表情で溜め息をついたり、以後の段取りを立てたりする。 「…取り合えずは、だ。着替えて来たらどうだ? で、帰りにバケツに水を汲んで持って来てくれたら、その分早く終わるんだけどな」 ちら、とルイズの格好を見やって龍麻はそう声を掛けると、早速仕事に取り掛かる。 ――割れた硝子を掃き集め、元教卓な破片や壊れた机に椅子等と纏めて室外に出す。 暫くして、着替えを済まし戻って来たルイズが(以外にも)バケツを持って来てくれた事に礼を言うと、また次の作業に移る。 元来、龍麻は嫌な事から先に片付ける主義であり、本質的には勤勉を尊び、怠惰や手抜きを嫌う。 ルイズから場所を聞くと、倉庫から予備の机や教卓を運び入れ、所定の位置へと据え付けていく。 「…もう、わかったでしょ」 かたや、嫌々といった動きと表情で、机の汚れを拭くルイズがふと口を開いた。 「話は後だ。口より手を動かさないと、終わらないぞ」 「うるさいわね! 今だって、何にも考えてないような顔して、あんたも内心じゃわたしをバカにしてるんでしょう…!? ええ、そうよ。あんたが気にして、キュルケや他のクラスメイトが言った通り、わたしは魔法が使えない、成功しない、『ゼロ』のルイズよ!!」 突然の癇癪にも、手を止めず、振り向かずに応じる。 「勝手に決め付けるない」 「ふんだ! 口では何とだって言えるわよ!」 床か机を蹴り付けたらしき音と同時に、憎まれ口が飛んでくる。 「そう思うのは勝手だが…、大体、何を根拠に俺もそうだと、決め付けて掛かるんだ?」 言った所で水掛け論にしかならんと思いつつも、応じる。 「また、白々しい事を! いつも、誰も彼もそうだったわよ!! みんな、わたしのした事を見た後で、 白い目で見て笑うのよ! 貴族なのに、メイジなら誰でも出来る事、初歩のコモン・マジックさえ出来ない、半端者の『ゼロ』だって! わたしだって…、わたしだって好きで爆発させてる訳でも無いし、失敗したい訳じゃないわ…!!」 「なら尚の事、一緒にするな。失敗したといっても、まだ取返しが利かん事は無いだろ。捨て鉢に成るのはまだ早い。 俺はお前が何者だろうが、含む様な所は無いし、他人を下に見て、自分が優れてると思いたがってる輩なぞほっとけばいい」 そう言っても、まだ棘の有る視線が無形の針となってこちらに突き立てられるのを感じ、龍麻はルイズの方へと振り向く。 両者の身長差は30cm以上あるのだが、ルイズは両手を固く握り締め、 唇を一文字に引き絞った、険の有り過ぎる表情で睨み上げて来る。 「…何よ。言いたい事があるなら、言ってごらんなさいよ! 使い魔風情が何をさえずるか、聞いてあげようじゃない」 「俺は魔術師じゃ無いし、この世界の事はまるで分からん。だからお前の抱えた問題だって解決は元より、 助言一つ出来んが…経験上、これだけは断言出来る。《力》の有無で、人間の有り様や値打ちは決まりはしない、ってな」 ルイズの顔を真っ正面から見据え、言い切る。 「…『信じろ』なんぞと、図々しい事は言わない。俺は、原因や理由次第では失敗した奴に怒りはするが、 それを盾にして相手を一方的に謗り、辱める様な真似はしない。この一件にしても、怒る様な事では無いし 『ゼロ』だ何だの、俺には関係無い。お前が、俺の中の仁義や良心に背いたり、どう考えても間違った事を手を染めない限り、 此処にいる間はお前の手伝いと外敵が現れた時はそれを追い払うのが仕事だし、今はそれをこなすだけだ」 一息に吐き出した後、背を向けて掃除を再開する。 「…悪い。随分勝手というか只、一方的に言いたてただけだったな。聞き流してくれていい」 ――何の《力》を持たずとも、己の信じる所を貫き徹して、理不尽や現実に立ち向かった者がいた。 酷い逆境や業を抱え、あるいは自分の無力を嘆く事はあっても尚、『護りたい』と いう想いを一心に抱いて、前を見続けて歩く事を諦めなかった者も、男女問わずいた。 (いや、特別な《力》で無くたっていい。小さくとも他人からの吹聴や外圧を撥ね除けるだけの、 『何か』を自分自身の裡から見出だせりゃ、こいつも変わっていけるとは思うんだが…。こればっかりは、 他人がどうこう出来る訳でも無いしなあ…) 再び、床や壁の汚れを雑巾で拭き清めながら、龍麻は思案する。 「………」 龍麻からルイズの表情は窺えないし、黙り込んだままだが、それでも彼女が先程迄振り撒いていた癇気が僅かながらも、下がったのが感じられた。 …駄菓子菓子。会ったばかり、しかも第一印象とそこからのやり取りも加え、両者の関係は確認する迄も無く最悪に近い訳で。 そんな人間から何か言われた所で、古くは物心付いた頃からだろう鬱積した澱みや、激情等が抑まる筈も無く。 「…取り敢えず、あんたの言い分はわかったわ。随分と言いたい放題、無礼勝手な駄犬だけど、 ご主人様を立てるって事ぐらいは弁えているようね」 そんな、不機嫌さに満ちた声が背後から響いて来る。 「…で、何が言いたいんだお前?」 「簡単よ。残った場所の掃除、全部あんたがやりなさい。わたしの手伝いをするのが、あんたの仕事でしょ? 何か間違ってる?」 当然の様に言い放ち、雑巾を放り出すと、ルイズは出入り口へと足早に向かう。 「って、お前は何処へ行くんだ?」 「食堂よ。そろそろお昼の時間だし、午後からの授業の用意もあるもの。 …いい? わたしがいないからって、さぼるんじゃないわよ?」 等と、腰に手を当てながら念入りに釘を刺す。 「あっそ。行くならどうぞ。この程度なら、一人でも手は回るしな」 「ええ。そうさせて貰うわ。終わったら、知らせに来なさい。終わる迄、ご飯ぬきね」 (…言うと思った) 踵を返し、教室を出て行くルイズを見送ると、龍麻はバケツに汚れた雑巾を浸す。 そこから暫し、時は流れ……。 「ふう…」 昼を告げる鐘の音が室内に谺するのを聴きつつ、教室内を見回す龍麻。 床や壁、黒板に机迄もが輝く程に…とはいかないが、ルイズかやらかした爆発事故直前に近い状態にはなっていた。 「この待遇も、“積悪の報い”って奴かもなぁ……」 慨嘆を洩らしながら、掃除用具一式を元の場所に戻し終えて、龍麻は事の次第を報告すべく、教室を後にした。 前ページ次ページゼロの使い魔人
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「くっ、まさかこんな事になろうとは....」 オルステッドは大量の洗濯物を抱え、広大な学園の中をうろうろしていた。 話は昨日まで遡る。 「あ~、これ洗濯よろしく」 「・・・・・!これは......こんな物を洗濯しろと....?」 「何よ....着た物を洗濯するのは当然でしょ?」 「いや、そういう訳じゃないんだが....私は一応男だぞ....?」 「何よ....アンタは私の使い魔でしょ?私の命令だから大人しく聞きなさいよ」 「はぁ......分かった....痛っ、急に腕の付け根が......」 「私は怪我人に甘くないわよ?」 「・・・・・・・・」 数日前までは魔王と言われた男がこんな事をするはめになるとはな..... 立ち止まり、冷静に考えていると、 「あら?そこのお方?」 突然後ろから声を掛けられる、振り返ると大きな洗濯籠を抱えたメイドが立っていた 「ふぅ、何でも世話になってすまないな....」 満腹になった腹をさすりながら私は彼女に礼を言う 「気にしないでください、私が好きで勝手にやっているだけですから」 シエスタは顔を赤らめながら答える。 「そういえば、一つ聞きたい事があるんですが....」 「?」 「オルステッドさんは何故、そんな酷い怪我をされていたんですか?」 「・・・・・すまない....この事は....誰にも話したくないんでね.....」 「!、すいません......私、無神経で....」 失礼な事を聞いてしまったと思ったのか、急いで頭を下げるシエスタ 「気にする事は無いさ....、そんな事より、なんでも世話をかけっぱなしというのは なんだかスッキリしないな....手伝って欲しい事はないか?遠慮せずに言ってくれ」 そんな彼女の健気さに思わず微笑みながら、私は答える。 「う~ん、そうですね....もうすぐ学生さん達のお昼御飯の時間なので お食事を運ぶのを手伝ってくれませんか?」 「あぁ、分かった、喜んで引き受けさせて貰おう.....」 「ふぅ....これで終わりか.......」 全てのデザートを配り終えて、食堂の隅に座り込む。 「ふふふ....人の役に立つのも....悪くないな....」 そう呟きながら一休みしていると、いつの間にか人垣が出来ているのが見えた。 (・・・・何かあったのか....?) 少し興味をそそられ、見物しに行くと、そこには、顔を赤く張らせた男と、 恐怖で顔を引き吊らせるシエスタの姿があった。 「どうした?シエスタ!?」 人混みをかき分け、シエスタの元に駆け寄る。 「ん?おやおや、君はゼロのルイズが喚びだした、死に損ないの平民じゃないか? 君には関係無い話だ、これから僕がそのメイドに貴族に対する正しい礼儀を教えて上げよう としてる所だ、邪魔物は引っ込んでいたまえ。」 後ろで喋り続ける男を無視し、シエスタに事情を聞く 「何があったんだ?」 「・・・私が香水の瓶を拾って渡そうとしたら、女学生の方が二人、 あの方に詰めよって叩いて走っていったと思ったら、私、私、私....」 軽くパニックになっているらしく、所々分かりにくかったが、簡単な話は読み込めた。 「・・・・ふん、貴様の愚行が引き起こした、自業自得の事じゃないか.... それで彼女に八つ当たりするのか?貴様には貴族として、いや男としてのプライドが無いのか....?」 この言葉に相手の男が激高する 「平民がごときが貴族に向かって・・・!もういい!! 君には身を持って貴族の恐ろしさを知って貰う必要があるようだな!!」 「ふん....というと?」 「簡単な事だ....決闘だ!!....といいたい所だが、どうせ怪我を理由に断るんだろう?この臆病も......」 「・・・いいだろう」 この言葉に周りを取り囲んでいた群衆が急に黙り込む。 「ちょっとアンタ待ちなさいよ!!!」 様子を見ていたのか、人混みをかき分け、ルイズが抗議の声を上げながら近づいて来る。 「何考えてるのよ!!平民がメイジに勝てる訳無いじゃない!!」 ルイズの話を無視し、話を進める。 「ハハハッ!ルイズ!君の使い魔は随分聞き分けがいいじゃないか! 場所はヴェストリの広場だ、逃げるなよ!」 そして男はその場から去って行った。 「オルステッド、今からでも遅くないわ、謝って来なさい」 「・・・ここまでしておいて逃げろと?」 「そういう訳じゃない!それにアンタ、怪我治ってないじゃない!!」 「・・・リハビリ程度には丁度いい小物だ」 「・・・・こんだけ忠告したからね!!もう知らない!!!」 業を煮やしたのか、ルイズは怒りながら、走り去って行った。 突然、シエスタに手を握られる 「オルステッドさん......私のせいで....」 「・・・・気にするな....貴方のせいじゃない....それに心配しないでくれ.... 私はあの程度の男にやられはしないから.....」 そう言い、オルステッドはシエスタの手を放し、広場に向かった。 決闘が始まると聞き、野次馬が大勢広場に向かった。 この後、目を覆いたくなる惨劇が起こると誰も知らずに....